2013年10エロパロ368: 女装SS総合スレ 第9話 (280) TOP カテ一覧 スレ一覧 Pink元 削除依頼

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女装SS総合スレ 第9話


1 :2013/03/30 〜 最終レス :2013/09/17
ここは既存スレに該当しない女装関連のSSを総合的に取り扱うスレです。
無理やり女装させて、嫌がったり、恥ずかしがったりするのをニヨニヨするのもよし、
自分の意思で女装させ、女よりも女らしい子を目指すのもよし、全ては書き手の自由です。
女装っ子を愛でながらまったりと盛り上げていきましょう。
※次スレは>>980または、485KBになったら立てて下さい
(直近に投下予定のある方は、投下作品の容量に応じて前倒し願います)
※age・sageについては各々の判断でお願いします
【前スレ】
女装SS総合スレ 第8話
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1350803150/
関連スレは>>2-

2 :
【既存の女装関連スレ】
強制女装少年エネマ調教 ネオ×7
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1255107219/
ニューハーフ・シーメールでエロパロ6
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1336219403/
↑のシチュに該当するSSはこちらのスレでお願いします。

【隣接ジャンル】
女にお尻を犯される男の子8
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1287824025/
強制女性化小説ない?Part47
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1346641476/
男装少女萌え【11】
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1296266561/
【女体化】TS系小説総合スレ【男体化】8話目
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1338195162/
立場だけの交換・変化6交換目
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1352137904/
男の娘でエロパロ!
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1272566973/

3 :
容量オーバーぎりぎりだったのか。次スレ案内すら貼れないとは。

4 :
>>1
それから、前スレ最後の作品に つC

5 :
485だと残り15なので少なすぎでは?
確か1レス最大2なので15だと連投7〜8レスで打ち止めになりますよ
450〜470くらいで次スレにしたほうが好いのでは?

6 :
投稿されないときが長かったから、遅めになってるんだよな

7 :
まあその辺は適宜判断するということで
作品投下中なら足りないだろうが、雑談のみ継続中なら余りすぎる

8 :
お礼参りができないのは、楽しくないですよ。
それくらいの余裕は欲しいと思います。

9 :
前スレ投下時、512KBまで書き込めるものと勘違いしていたせいで、多大な迷惑をおかけして申し訳ありません。
テンプレ的には、自分のようなポカ野郎がいない限り、充分現状でよいと思います。
9話目最初の投下ですが、すいません今回は(このシリーズ初の)エッチシーンなしです。
おまけに「3連作」と言いつつ4話目という。

このスレから読み始める人のためのプロフィール(2013年4月時点)
●瀬野雅明 性別男。身長172cm。大学2年
 『俺』。この話の主人公。ごく平凡な男キャラ……だったはずなのだが、
「10歳のときに“女の子”になるよう調教された経験あり」との設定が加わって以降、頻繁
に女の子の格好をさせられるハメになった。
 女装時には、「アキちゃん」と呼ばれ、そのモードでは一人称が『あたし』に変わる。
●瀬野悠里 性別女。身長167cm。大学2年。B=83(C) W=59 H=85
 雅明の義理の姉(再婚相手の連れ子)。昨年6月に告白して以来、恋人同士でもある。
 高校時代から読者モデルとして活動。現在駆け出しタレントとして活躍の幅を広げ中。
 「アキ」からは「お姉さま」と呼ばれる。
●瀬野俊也 性別男。身長167cm。高校3年。
 瀬野悠里の実の弟。外見的には悠里とそっくりで、彼女のふりをしたら雅明にも見分けが
つかなくなる(キスやお尻の手触りなどで判別は可能)。
 モデルの仕事にも代理で参加することも多々あり。
 「アキ」からは「悠里お姉さま」と呼ばれる。
●春美(仮)・冬子(仮)
 雅明が10歳のころ、彼に女装調教を施した近所のお姉さん(♂)とそのセフレ。
 名前を憶えていなかった雅明が、説明のときに適当につけた名前。春美の本名は今回判明。
●北村 性別男。身長192cm。大学1年
 元バスケ部エースでハンサムな医学部生。「アキ」にべた惚れしている。

10 :
『瀬野家の人々』 雅明くんの春休みD 1/10
「うん、いい感じいい感じ。そんな感じで続けてちょうだい」
 悠里と俊也の行きつけの美容院。
 何故か本日臨時休店の、他に人気のないその店内で、眼鏡をかけた店長のおば……お姉さ
んにレクチャーを受けながら、俺は化粧の練習なんてシロモノをしている。
「貴方、メイクの才能があるのね。もっとしっかり勉強と練習を重ねて欲しいな」
 なんだか最近、女装関係でばかり褒められてる気がする。
 そんな考えが顔に出てたのだろうか。少し楽しそうな声で、店長さんが続ける。
「男性のメイクさんは多いし、貴方のその才能を伸ばしてみるのも手かもしれないわよ? 
悠里ちゃんの傍にずっといたいなら、メイク兼マネージャーって方法もあるかもしれないし」
 ……そっか。自分の女装関係なしに、メイクを習うこと自体に損はないのか。
 俺の中にあったわだかまりが、少し溶けた気がする。
 いっそ、ということで化粧の落とし方まできちんと教えてもらい、最初からメイクを行う。
 余分な工程は避け、可能な限り薄化粧に見えるよう、でもしっかりと可愛らしくなるよう。
 家で自分だけでやった数回より、さっきの1度目より、ずっと上達してきたように思う。
「貴方って飲み込みよくって教え甲斐があるわぁ。……でも本当、羨ましい肌してるわね」
「それ、正直よくわかんないんですよね。悠里のほうが絶対肌綺麗ですし」
「あの子たちは素材もいいし、自分を磨くために凄い努力もしてる」
 ──それはこの半月の間、俺が特に痛感させられことだった。
「でも特にお肌に関して言えば、あなたの素質も悪くないとお姉さんは思ってるんだけどな。
なんだか底が知れないっていうか。……貴方のお肌、大切にしてね」
 返答に困りながら、化粧を続行。リップを自然になるように注意しながら塗り、グロスを
厚くならないように置いて艶やかさ出す。フェイスパウダーをはたいて完成。
 悠里のテクに及ばないものの、先程までと違って“可愛い女の子”レベルにできたと思う。
 それを楽しく思ってる自分、もっと上手くなりたいと思ってる自分──それも“アキ”で
はなくて“雅明”──に気がついて少し困惑するけれど。
「『魅力的な女の子』になるためにはね、普通はとっても努力と積み重ねが必要なの。
 ──でも、貴方は違う。その積み重ねをパスして、いきなり『魅力的な女の子』という結
果だけを手に入れてしまった……そんな感じがする。
 そのアンバランスさも貴方の魅力なんだけど、充分注意してね。貴方ガード甘いから」
 そんな言葉に送られつつ店を裏口から出て、電車に乗って一駅分の移動。
 この時点で“アキ”に意識を切り替えてるつもりだったのに、何故か“雅明”のままだ。
 以前はどうやって切り替えたのかも、もう思い浮かばなくなってる。
『アキに成り切れば、女装姿で外出しても恥ずかしくない……ハズ』
 という目論見が見事に外れ、羞恥心が半端ない。
 ショートカットの少女のような髪に結んだリボンも。揺れるパッドの重みも。食い込むブ
ラジャーの紐も。くびれさせたウェストも。ショーツのぴったり感も。カーディガンのピン
ク色も。花柄のブラウスの生地の柔らかさも。スカートの裾を揺らす風も。むき出しの脚を
見る視線も。全部が羞恥心を煽って、墓穴があったら入ってそのまま埋葬されたい気分だ。

11 :
『瀬野家の人々』 雅明くんの春休みD 2/10
「ねえ、君、大丈夫?」
 ついつい俯きがちになって歩く俺に、駅の構内を出たあたりでそんな声がかけられた。
「え? えぇっと、あの……あたしですか?」
「うん、そう。なんか具合悪そうに見えたからさ。余計なお世話だったらごめん」
「特になんともないですよ。大丈夫です。気を使わせてすいません」
「ああ、良かった。……ところで君さ、どこに行くの?」
「どこ、って、買い物ですけど……」
「へえ、そうなんだ。あ、オレ灰村って言うんだけど、君の名前は?」
「いや……ナンパするのは勝手だけど、俺、男なんですけど?」
「またまたぁ。断るために嘘つくにしても、もうちょっとマトモなのにしようよ」
 男声に戻して言ったつもりだったのに、それでも信じてもらえなかったらしい。
 どうしたものかと悩んでいるところに、「オレの愛しい恋人にちょっかいをかけるのは、
それくらいにしてもらえるかな?」と、どこかで聞き覚えのある声がした。
 助け舟かな? と、思いつつ、その声の方向を見ると……
「うげ。デンパナンパ男」
 半月ほど前、最初に女装外出したときにしつこくナンパしてきた電波男だった。
「“恋人”どころか、以前彼女をナンパしたことがあるってだけの、一方的な関係っぽいな」
 ナンパ君第一号にも、しっかり見破られて分析されてるし。
「君も疑うなんて酷いな。オレたちは運命で結ばれた前世からの恋人同士なのに。さ、こん
な奴ほっておいてデートはじめようよ」
 こいつは一体、俺を俺と分かってるのか、会う女の子全員に『運命』って言っているのか。
 この事態をどう収拾つけたものかと困っていると、見逃しようのない長身が目に入る。
「北村さーん、へるぷ・みーです」
 ぱたぱたと手を振って呼び寄せる。さすがのナンパ男×2も、身長190cm超のスポーツマ
ンの存在感には敵わないと退散してくれた。
「お役に立てて良かった……のかな? えーっと……」
「すいません、本当に助かりました。ありがとうございます。あぁ、あたしです。アキです」
「ああ! すぐに分からなくて、本当にごめん。私服も素敵で、すっかり見違えたよ……制
服のときとは、随分感じが違うんだね」
 それはもう、前回とは『中の人が違う』状態だから。誤魔化す言葉を、少し捜す。
「そうかな? ……どっちのあたしが好きですか?」
「うーん、どっちも魅力的だけど、今の私服のほうが、一緒にいて気が楽ってのはあるかな」
 『女としての魅力』で“アキ”に勝てたと、優越感を覚える俺が既にやばかった。
「さっきは何だったの?」
「ナンパがしつこくて困ってたの。……あたし、そんなにナンパのカモって感じなのかなぁ」
 店長さんが言ってた、『ガードが甘い』って、こういうことなんだろうか。
「それは、アキちゃんが魅力的すぎるからしょうがないよ」
 そういえば、こいつもまたナンパ男の一人だったか。

12 :
『瀬野家の人々』 雅明くんの春休みD 3/10
「今日も彼氏さんはお仕事?」
「うん、7時に待ち合わせ。それまであたしは、お姉ちゃんのお遣いとか……北村さんは?」
「僕のほうは、特に用事はないかな」
「もしよければ、お買い物付き合ってくれないかなぁ」
「彼氏さんに悪くない?」
「それはぜんぜん大丈夫」
「なら、喜んで」
 2人で恋人同士のように、並んで街を歩く。思ったとおり、ナンパよけとして最適の相手
だった。背の高さの関係で、『のっぽ女?』という視線が減るのも気が楽でいい。
 彼は基本無口なので、喋ってボロが出る機会が減るのもありがたかった。
 少し歩いて、最初の目的地のランジェリーショップに到着。
 悠里の依頼で買い物に来るのもこれで何回目かになるけど、その度に居心地の悪い思いを
してきたお店のひとつ。
 いっそ女装して、『アキモード』で来れば恥ずかしくないんじゃ? と思ったのが、今日
の女装外出の理由である。『雅明モード』のままなのが、ひどく計算外なわけだが。
 北村氏はすごく恥ずかしそうな感じで俺について来ている。
 前回までの俺の居心地の悪さを押し付けているようで、意地の悪い楽しみを覚えてしまう。
 リストに従い、補正下着とか色々購入。思い出せば、俺が付けさせられた下着はこうして
自分で購入したものだった。
 買った時点では、自分でつけるとは夢にも思ってなかったわけだけど。
「……荷物、持ってあげるよ」
 店を出て少し歩いたところで、そんなことを言われる。
「いや、そこまでは流石に悪いですよ」
「家に帰っても筋トレくらいしかすることないから、ウェイト代わりってことで。……それ
になんだか、女の子に荷物持たせてると視線が痛いんだ」
 そっか。周りから見れば今は俺が『彼女』で、こいつが『彼氏』な状態なのだった。
「……そういうことなら……うん、ごめんなさい。お願いします」

 そんな感じで、寄り道を交えつつ店を回っている街中。ふと足を止める。
 店頭に並ぶ、特大サイズのポスター。その中で悠里が微笑んでいる。
 複雑な気持ちが心に渦巻く。
 誇らしさと、手が届かないところに彼女が行ってしまうような寂しさを同時に覚える。
「……どうしたの?」
「いえ……えーっと、瀬野悠里ってモデルの人、知ってます?」
「僕、テレビとかあんまり見ないし……そういうの疎くて。ごめん」
「一般的な知名度としては、そんなものかな。あたし、彼女のこと前からずっと憧れで」
「それがこのポスターの人? 確かに美人だね……でも僕には、アキちゃんのほうがもっと
もっと魅力的に見えるよ」

13 :
『瀬野家の人々』 雅明くんの春休みD 4/10
 なぜだか不意に、彼の唇の感触を思い出す。
 肩に回された腕の力強さを思い出す。
 ……自分が“アキ”でいるときならともかく、“雅明”でいるにも関わらず。
 たまらないほど恥ずかしい気分がしてきて、彼にくるりと背中を向ける。
 流れる沈黙に耐えられなくなったのは、自分のほうが先だった。
「……北村さん、あたしのことなんか忘れて、早く彼女作ったほうがいいですよ。大学に入
れば、きっと素敵な彼女が出来ると思います」
「それは無理だと思う。……アキちゃんが、彼氏さんのことを本当に大切に思ってるのは分
かるから、奪おうとは思わないけど……
 でも、僕がアキちゃんのことを忘れることはできないし、世界中のどこを探しても、アキ
ちゃんよりも素敵な女の子を見つけることもできないと思う」
 なんでこいつはこんな低く響く声で、真剣な声で、こんな女しの台詞を言えるんだろう。
 そしてなんで俺は、こんな『女し』の台詞に、胸がぎゅっと苦しくなっているんだろう。
 荷物さえ彼に渡してなければ、今からこの場をダッシュで逃げ出してしまえるのに。
 ポスターの中から、営業用の笑顔で見つめる悠里の視線が痛かった。
「……ごめん、こんな困らせるようなこと言うべきじゃなかったね。忘れてくれると嬉しい」
「こちらこそ、ごめんなさい。ちゃんと応えることができなくて」
 深呼吸をして、無理に笑顔を作って再度彼に向き直る。
 たぶんそれは、泣き笑いみたいな顔に見えたはず。
 彼も、どこか辛さを押し隠したような笑顔で応えてくれる。
 ──もし自分が本当に女の子だったなら、いや、男のままでも悠里と先に恋人になってな
かったら。今この時、恋に落ちてどうしようもなくなっていただろう。そんな瞬間。
 ふたりどちらからともなく手を……恋人つなぎではないけれど……繋いで、再び道を歩き
始める。それだけで、なんだか胸のドキドキが止まらない。
 “アキ”じゃないのに、“雅明”のままなのに、自分のことを自然に女の子のように考え
てしまっている。そして、そんな自分をたまらないほど愛おしく感じてしまっている。
 あんなに恥ずかしかったスカートが、少女めいた外見が、何故だか今は誇らしく思える。
 ……“俺”は本当に、大丈夫なんだろうか?
「今日は、本当にどうもありがとう。北村さん力持ちで、ほんと助かりました」
 すっかり暮れた街並み。買い物リストを最後まで終えて、駅へと到着。荷物をロッカーへ。
「いや、僕もすごく楽しかったよ。……彼氏さんに謝らないといけないけど」
「大丈夫。許してくれると思う……これは、今日つきあってもらったご褒美」
 精一杯背伸びをして、彼のほっぺにキスをしてみる。
 すごく驚いたした顔で俺──あたし──の顔を見つめたあと、崩れそうな笑みを浮かべて、
「うん、……ありがとう。……じゃあ、彼氏さんと最高の夜を過ごしてね」
「ありがと。じゃあ、おやすみなさい」
 そう言って手を振って別れ、姿が見えなくなるまで見守る。もしここで強引に迫られてい
たら、きっと落ちていただろう。そうでなかったことを、寂しく思う自分がいた。

14 :
『瀬野家の人々』 雅明くんの春休みD 5/10
 寄ってきたナンパ男たちを半分上の空でスルーしつつ、待ち合わせの場所に到着。
「あれ、アキちゃん?」
 意外そうな声に迎えられる。
 デニムのスカートにGジャンをあわせた、珍しくカジュアルなスタイル。
 頭にはウェーブのかかった茶髪のカツラ。すらりと伸びた黒ストの脚が目に眩しい。
 不意の衝動に襲われ、その姿に思いっきり抱きついてキスをする。これがもし俊也の女装
姿だったらという不安が背筋を走るけど、それでも止まらない。
 でも良かった、これは悠里だった。
 やっぱり俺、男なんだ。女の子が好きなんだ。さっきの一幕はただの気の迷い。
 落ち着いて、冷静になって、自分を取り戻して。
 落ち着いた。冷静になった。自分を取り戻した。
「ぎにゃー」
 思わず大声で叫びをあげそうになって、飛び離れて自分の口を押さえる。
「なんというか……その……ごめんなさい」
「うわっレズかよ」「だいたーん」「すっげえ美人同士なのにもったいねェ」「眼福眼福」
 周囲の呟きが一気に耳に入ってきて、頭をかかえてしゃがみたくなる。
「……さすがに移動したほうがいいかな、これ」
 冷静な悠里がありがたかった。
「けど、あなたがアキで来るのは流石に意外すぎたなぁ」
 少し移動してガードパイプに腰を預け、2人並んで化粧直し。馴染んでしまってる自分が
少し嫌になる。手早くそれを終わらせたくらいに、悠里の携帯が着信音を奏でる。
「……うん、ごめんね。ちょっと事情があって移動しなきゃならなくなって。そこからその
まま、高島屋のほうに来て……うん、……うん、……あ、見えた。こっちこっち」
 手を振る方向を見ると……ずんずんずんと、お袋登場。
「悠里ちゃん、お待たせしてしまってごめんなさい。……そちらの方は?」
 俺を見て、首をかしげながら尋ねてくる。……俺が俺だと気付いてないんだろうか。
「モデルの後輩のコでね、アキちゃんって言うの」
「なるほどモデルさんかあ。道理ですっごい美人だと思った」
「ありがとうございます。えぇと、はじめまして、アキです。……悠里さん、こちらの方は?」
「ああ、ごめんなさい。悠里の母親で、純子と申します」
 本気で気付いてないのか、気付かないフリをしてるだけなのか。
 判断つかないけど、とりあえずこっちとしては、お袋の前で『駆け出しモデルのアキ』に
成り切って対応するしかない。
 心臓を裏側から、ごりごりと削られていくような感覚だった。
「お母様ですか。随分とお若いんですね。お姉さんかと思いました」
「生みの親じゃなくて、うちのパパの再婚相手だけどね」
「といっても、悠里ちゃんと同じ齢の実の息子もいるから、年齢としては変わらないけど」
「へぇ、意外です」

15 :
『瀬野家の人々』 雅明くんの春休みD 6/10
「って、あんまりお邪魔してもいけないですね。悠里さん、今日はお疲れ様でした」
 白々しい会話をこれ以上続けるのもアレだし、顔を合わせるのも辛いので逃亡に挑戦。
「アキさん、待って。これからお時間ある?」
「えぇと、あたし門限があるので」
「嘘おっしゃいな。さっきまで『夕食どこにするかな』とか言ってたくせに」
 我ながらナイス言い訳だと思ったのに、即座に悠里に逃げ道を塞がれてしまう。
「ああ、そうなんだ。じゃあいい機会だし、ご一緒に食事でもなさらない?」

「そういえば、雅明はどうしたの?」
 前にも来た、悠里お奨めの定食屋の席に腰掛けながら、そんな会話。
 結局、逃げ出すのに失敗したのがひどく辛かった。母親相手に女のフリ。悪夢に見そうだ。
「急に用事が出来て、今日は来れなくなったって」
「そうなんだ。楽しみにしてたのにな」
「雅明さん、ってどなたですか?」
「ああ、さっき言った、わたしの息子」
「そ。で、ついでに私の彼氏」
「んー……え? ってことは、姉弟同士で恋人なんですか?」
「まあ、連れ子だから血が繋がってないし、戸籍上は一応姉弟でも、普通に結婚できるしね」
 他人事として改めて聞くと、やっぱり少し不思議な感じのする自分達の関係だった。
 雅明の話題がそれから暫く続き、モデルのお仕事上での体験談、美容や化粧、ファッショ
ンの話に会話が転がっていく。
 俺の話題からそれたときは心底ほっとしたけど、でも美容や化粧の話に気楽に普通に参加
できたのはどうなんだろうなあ。

 そんなこんなで、まあ和やかに食事も終わりかけたころ。
「ところで、雅明」
「うん?」
 お袋にいきなり名前で呼ばれて、つい返事してしまって、気付いて硬直。
「あの……お母様。いつから気付いていらっしゃいました?」
「背のすっごく高い、ハンサムな男の子と一緒に歩いているときからかな」
 ムセタ。
 最初っからですらなく、合流するはるかに前からだったとか。
「え? 何それ?」
「えーっとね。なんでか知らないけど俺、やたらにナンパにあってね。しょうがないから通
りすがりの北村っていう、前言ったバスケの人にナンパ避け目的で同行してもらったんだ」
「そんな雰囲気じゃなかったけどなあ。手なんて繋いで、本当に初々しいカップルのデート、
って感じで。キスなんてしてたし」
「わーわーわーわーわー」

16 :
『瀬野家の人々』 雅明くんの春休みD 7/10
「へぇ。……私の仕事中に男と浮気? これはお仕置きが必要かな」
 『それはぜんぜん大丈夫』、どころじゃありませんでした。
 目以外は笑顔なのが、逆にとっても怖いです。
「キスって言っても、ほっぺただよ? 荷物持ってもらったし、何かご褒美あげないとまず
いかなあ、って思ってごめんなさい申し訳ありません俺が悪かったですもうしません」
「ま、詳しいことはまたあとで」
「でも、ナンパにあうのは分かるかな。なんというかスキだらけで、『あたしと一緒に居て
ください』って感じで、目を離せない、ほっとけない感じがすごくするもの。
 援助交際とかで変な病気でもらわないようにしてね?」
「息子が女装で歩いてて、まず気にするところはそこなんだ」
「キモい女装趣味なら嫌だけど……すごく似合ってて違和感ないし、美人だし、声も女声だ
し。……あなた、あれなの? 性なんとか障碍、だっけ?」
「別に俺、そういうのじゃないよ。心は男だし、女が好きだし、女の体になりたいわけでも
ないし。女装だって強制されなければするつもりはないし」
「でも、今日は別に誰からも女装を強制されてないよね?」
「女物の下着とか女性誌とか買い物するのに、こっちのほうが気楽かなあ、って。前、男の
格好で買ったらすごく恥ずかしくて、ならいっそ、って。……大失敗だったわけだけど」
「ま、趣味のレベルで続けるならわたしも気にしないし、化粧やお洒落のアドバイスくらい
なら出来ると思う。
 悠里ちゃんのベッドの下の奥にある、あなたの女装道具、もう別に隠す必要もないわよ」
 こんなとき、どんな顔すればいいかわからないの。笑えばいいと思うよ。そうなのか。
「あとは恋人に愛想を尽かされないようにしないとね。……こんな息子でごめんなさいね」
「いえ、むしろ息子さんを女装趣味にしてしまって、こちらこそごめんなさい」
「あら。そういう経緯。……でもそれは関係なかったと思うな。この子って昔も一時期女装
に嵌っていたころがあってね。ほっておいても、いずれまたやってたと思う」
「冬子さん……でしたっけ?」
「いや、確か篠原……うん、篠原睦さん。あれ? わたしが知ってるのと別口がまだあるの?」
「ああ、そっか睦さんだ。言われてやっと思い出した。春美(仮)さんって言ってた人、確
か本当はそんな名前だった。……前説明したとき、名前思い出せなくて、適当につけたんだ」
「そんなことまで話してたんだ。少し意外」
「でも、あんまり詳しいとこまで聞けなかったから、教えてもらえると嬉しいかな」
「あ、うちに帰ったらその時の写真あるわよ? 見てみる?」
 ……神様。俺は前世で、どんな重い犯罪をやらかしていたのでしょうか。
 そろそろ店を出ようかと、お袋がお手洗いに行くのを見送って。
「……悠里さ、今日のお袋のことは仕組んでたの?」
「いや全然。ママから一緒に食事したいって話が来て、あなたに電話かけても繋がらなくて、
それでアキちゃんの格好で来たからびっくりしたもん。その分だとメールも見てないよね?」
「あー。つまり全部俺の自業自得なわけか」

17 :
『瀬野家の人々』 雅明くんの春休みD 8/10
 ……でも、今日は悪いことばかりじゃなかった、ような気もする。
 悪戯や演技や冗談でいつも誤魔化されてばかりいる悠里の本心。
 本当は俺の片想いで、空回りしてるような気もしてきただけに、ふと見せてくれた嫉妬が
なんだかとても心地よかった。もう2度と見ないよう、俺がしっかりしないといけないけど。
「……雅明、なんか変なこと考えてない?」
「いや、悠里とエッチしたいなあ、って。……こんなことばっかり考えててごめんね」
「むぅ。どうしよっかな。……そっか、『お仕置き』の内容決めてなかったね。じゃあ今日
いっぱい、私に『駄目』とか『嫌』とか言うの禁止で。全部OKで答えてね」
「それ、どんな酷いことされるか怖いんだけど……」
「あら? そんなこと言える身分と思ってるのかな?」
「……そうでしたごめんなさい」
「で、今日はエッチはお預けで」
「分かりました従います。……こんな感じ?」
「ん。OK。……こんなことなければ、今日はするつもりだったんだけどね。残念でした」
 半分魂が抜けてるところにお袋が戻ってきて、店を出る。
「あ、そだ。これからアキちゃんの服買ってあげたいんだけど、ママはどうする?」
「わたしも一緒に行っていいの? なら喜んで」
 『そんなの嫌だって』……と喉元まで出かけた言葉を、どうにか飲み込む。
 それからの時間は、拷問に近かった。
 お袋と店員さんの前で女の子のフリをして、露出度が高かったり、露出度が低くても可愛
すぎる系の衣装を、店を回っては次々に試着させられて。しかも嫌とは言えなくて。
 結局4組くらい購入して、今はそのうち1着に着替えて、夜でもなお明るい街を歩く。
 以前、悠里と女子制服擬似レズしたときに比べると多少はマシな、でもそれがちっとも慰
めにならない白地に赤の花柄で超ミニのフリルスカート。
 少しオフショルダー気味で襟ぐりの大きく開いた、同じ柄のトップス。
 羽織ったカーディガンの長い裾がお尻方面を隠しているのが、まだしも救いだけど。
 本当の女の子でも、こんなの着たら恥ずかしいに違いない。ほとんど露出狂だ。
 カーディガンの前はあけてるから、いつ膨らんだ股間が見られてばれるか不安すぎる。
 風が吹くたびに、金玉にほぼダイレクトに外気が当たって恐怖が走る。今日はタックとや
らをしてないから尚更だ。森ガールごときで恥ずかしがってた昼間の俺を殴りたい。
「この身長で9号が入るとか羨ましい。脚もすっごく綺麗だし、隠しちゃ勿体無いわね」
「まあ、どうしてもヒップのラインとか男だし、昼間にこの格好はきついかなあ……」
 いや悠里様。夜でも充分きついです。
「でも似合ってて可愛いよ。もっと自信を持って、背筋をしゃんと伸ばしなさい」
 こんな時と場合だというのに、勃起しかける自分の身体が恨めしい。
 人の気も知らないで、何人も何人も鬱陶しいくらいナンパの声をかけられるし。駅でロッ
カーから荷物を取り出し、家に到着した時点で、撃沈しそうな思いだった。
 ……しかし息をつく暇もなく、まだまだ試練の夜は続くのでありました。

18 :
『瀬野家の人々』 雅明くんの春休みD 9/10
        <<俊也視点>>
「ただいまー」
 久々に友人たちと夜遅くまで遊び倒し、やっと帰宅。
 奥からパタパタとスリッパを鳴らして、メイドさんが登場した。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
 日常が、一気に非日常に変化したような違和感に硬直する。
 見覚えのある可愛らしいメイド衣装に身を包んだ少女が、微かに媚びを含んだ仕草で綺麗
におじぎをしてお出迎えしてくれている。
 背が高いのが難だけど、そこらのメイド喫茶なら一気にトップに登りつめそうな美少女だ。
「……どうしたの、お義兄ちゃん」
「うん、バツゲーム」
 凄くげんなりした顔だった。一体何があったのだろう。
「おかえり、俊也。早くこっち来てー。すっごく面白いよー」
 うがい手洗いを済ませて、声のした居間に移動。
 お義母さんとお姉ちゃんが、興味津々といった体でPC画面を覗いている。
「俊也、お帰りなさい」
「……なんか今日、色々とすごいことがあったみたいだね」
「そりゃもう。ま、それはあとで話すけど、まずはこれを見て」
 シックな色合いの豪奢なドレスに身を包んだ、精巧なアンティークドール?の写真だった。
 金色の巻き毛、水色の瞳、長い睫毛、愛くるしくもどこかにコケティッシュさを含んだ顔
のつくり、滑らかすぎるほどに滑らかな肌。やや幼い、美しい少女を模した人形だ。
「まるで生きてるみたいな綺麗な人形だね。……これ、何?」
「いいコメント。じゃあ、もっとめくっていくよ」
 ピンクやブルーの色鮮やかな、あるいはゴスロリ風の衣装に包んだお人形の画像が現れる。
 髪や瞳の色が違うけど、これ全部同じ人形なのか。
 不思議なくらいに魅惑的で目が離せない。息をするのも忘れて現れる画像に見入る。
 しばらくしてようやく、どこかで見たことがある面差しだな、と思う。……ってこれ、人
形じゃなくて、映っているのは人間の女の子なんだ。
 いや、“女の子”ですらない。
「……これ、“アキちゃん”なのか」
「ピンポーン。雅明の10歳の写真集。……というか、分かるまで意外に時間かかったわね」
「前聞いたとき、これほどまでとは思ってなかった。……随分と控えめな表現だったんだね」
「この時の面白い話はまだまだあるわよ? さっきの話の続きだけど……」

 玄関のチャイムが鳴り、しばらくして鍵を開ける音がした。お父さんの癖だ。
「あ、パパ帰ってきたわね……アキちゃん、ゴー」
 天井を仰いで、玄関に向かう偽メイド少女。散々自分でも弄んでおいてあれだけど、今日
ばかりは流石に同情する。

19 :
『瀬野家の人々』 雅明くんの春休みD 10/10
「えーっと、どちらさまでしょうか?」
 玄関からうろたえる声がした。そりゃそうだろう。普通うちに美少女メイドさんはいない。
「そうか、雅明くんなんだ……」
「こんな格好で、本当すいません」
 色々説明が入って、ようやく落ち着く。
「あっ、もうこんな時間か。じゃあ私寝るけど、雅明は12時まではその格好でいてね」
「はいはい」
 散々かき回しておいて、嵐のように自室に向かうお姉ちゃん。今日はいつもよりなんだか
更に度を越してた感じがしなくもない。
「雅明くん、娘が迷惑かけてすまないね。その服脱いでもいいよ? 口裏合わせとくから」
「いや、これでも悠里との約束なんで、12時まできっちり守りますよ」
「あなた、いつもの通り熱燗でいい?」
「うん、お願い。……そっか。じゃあ君の意思を尊重する。あと、そんなに恐縮する必要も
ないよ。……もう全部説明してしまったほうがいいか。あれ、ある意味血筋なんだ」
「……血筋???」
「悠里の母親も、何故か男に女装させるのが大好きでね。僕も昔は随分被害にあったもんだ。
だから雅明くんがそうしてると、なんだか戦友めいた気分になるね」
 笑うしかない、という感じの引きつった笑いをひとしきり。
「今でもスリムでハンサムだし、さぞ似合ったんだろうなあ」
「僕なんて全然だよ。雅明くんみたいに、女性に見間違えるようなことは絶対なかった。あ
と、俊也も小学校入るまではほとんどずっと悠里のお下がり着せられてたっけ」
「はい、どうぞ……雅明、どうせだからお父さんにお酒注いであげなさいな」
「美人メイドの酌で呑む熱燗か……なんだか少しシュールかも」
「ワインかブランデーあたりが良かったかしら? ごめんなさい、わたし気が利かなくて」
「いや、別にいいよ。雅明くん、注ぐのうまいね。君も一緒に呑むかい?」
「いやまだ俺、19歳ですし」
「そんな固くならないでいいと思うけど、まあもうすぐだし楽しみに待つことにするよ」
 そんなこんなで、いつになく会話も弾んで。12時をすぎて、「よっしゃ、やっと男に戻れ
るー」と、大きく背伸びをしながら洗面所に向かう背中に、お父さんが声をかける。
「雅明くん、その、女装が嫌なら、僕のほうから悠里に言っておこうか?」
「いや、大丈夫です。悠里って、俺が本当に嫌がることは絶対にやらないですから」
「じゃああなた、今日のミニスカとかも嫌じゃなかったの?」
「うーん、あれ自体はとても嫌なんだけど……でも悠里が俺に妬いてくれた証ってことで、
あの罰に見合うだけの悪いことをしたと思ってくれてる、ってことなら、悪くないかなって」
「まあ、その心理なら僕にも分かる気がする……あんな娘で悪いけど、よろしく頼むよ」
「悠里は、俺には本当に勿体無い、最高に素敵な女の子ですよ。俺が今、恋人を名乗れるこ
と自体が奇跡に思えるくらい」
 振り向いて笑顔で答えた顔は、服や化粧にも拘らず、ひどく男らしく見えた。

20 :
つC

21 :
おかあさん、おとうさん、公認になったのですね。
おかあさん、良く保存していましたね。写真。

22 :
両親公認とくれば次はモデルデビューしかないな(笑
いっそのこと三姉妹モデルで売り込んでみたらどうか

23 :
>>20、IDがPINK2だw

24 :
まとめほしいな

25 :
欲しいなら作りなさいよ。
皆さんの意見を聞きながら。
しかし、なかなか、御家族の了解や公認は難しいですよ。
特に、再婚とかだと。
こうなったら

26 :
間違いの書き込み。ごめんなさい
欲しいなら作りなさいよ。
皆さんの意見を聞きながら。

しかし、なかなか、御家族の了解や公認は難しいですよ。
特に、再婚とかだと。
こうなったら女よりも女な男の娘になって男だけどかわいいママ、そして、かわいいおばあちゃんを目指すのが良いのかも。

27 :
他所の某スレではある住人の「まとめ作る」の発言でその頃投下していた
作者達が一斉に反発して消えたからなあ
どうか悪い影響の無いようにしてくれよ

28 :
私としては、是非まとめサイトが欲しいところです。
というか、他に誰も作らなかったら自分で立ち上げるかと、第一話から過去ログあさって纏めていた
ところだったり。

29 :
wiki、アーカイブからも消えて見られなくなってたわクソ

30 :
>>28
自己流でまとめたテキストファイル必要なら
ttp://www1.axfc.net/uploader/so/2865888
パスはjosou

31 :
>>30
おお、素晴らしい!
相原⇒相川とか、自分のやらかしてたポカミスも色々修正済みで素敵です。
これ利用して、まとめwiki作成する方向に動いてしまってもよろしいでしょうか?
@wikiで大丈夫なんかな……

32 :
任せた

33 :
作者じゃない自分がおk出していいのか知らないけど、自分としては使ってもらって結構ですよ。
これまで投下された作者さん全員の中で、「自分のは使ってくれるな」という方がおられたら
(今でもここを見ておられたら)そういう方は拒否の意思表示をお願いいたします。

34 :
ちなみに自分はこれらのファイルのうちいくつかをMyKindleに送信して、iPadの
Kindleアプリで読んでたりします。

35 :
今回は ◆fYihcWFZ.c 様の作品だけまとめに載せれば良いのでは?
他の作者様のは、作者様が希望したら転記すれば良いでそ?

36 :
自分の作品だけなら、それこそブログ作ってそこに貼り付ければいいだけなんで、「まとめ」としては
正直いらないよな、って感覚です。
それこそ『偽装彼女』とか、それ以外の作品を読めるようにしたい、っていうのが思いですので。
今更過去作の作者が出てくる展開はないでしょうし。
(いらっしゃれば歓喜しますが)

37 :
前の保管庫みたいに男×女とか書いてくれると嬉しい
http://megalodon.jp/2010-0517-1806-12/mywiki.jp/josouthread/%E5%A5%B3%E8%A3%85SS%20%E4%BF%9D%E7%AE%A1%E5%BA%AB/

38 :
>>30
昔に投稿したのがあった
懐かしいなぁ・・・・・・

39 :
作者降臨

40 :
少し話題を遮る形になりますが、第8話に投下し損ねた、『Symbolon』§21.5です。
良く分からないかたは、
「女装すると30代そこそこの美人に見える、実際には40代の2児の父親が、実の妻と娘から上下の口を
ペニバンで雌のように犯されるシーン」
 ということだけ了解していただければOKです。そういうのが苦手なかたは回避推奨。
あとSM色が強いので、そっちが苦手な方は読み飛ばしお願いします。

41 :
『Symbolon』 §21.5・朝島慶子 1/4 2007/04/17(火)
 思いも寄らぬことになってしまった。
 奨められて女の格好になった時点で、今夜あたり、みちると久々にエッチできることは内
心期待していたけど、まさか実の娘も参戦(それも真昼から)することになるとは。
 使い込まれたと分かるペニバンを装着した娘が、怪しい瞳で私をじっと見つめている。
「……パパには、ひとつ恨みがあるの」
「こんな“父親”でごめんなさいね。いえ、今まで黙って隠していたことかしら。心当たり
がありすぎて、ひとつって言っても、どれか分からないの」
「そんなことじゃないの。……玲雄の肌って、父親譲りなのね。今まで真剣に見たことなかっ
たけど、これ絶対四十男の肌じゃないでしょ。どうして私にこの美肌遺伝子くれなかったの」
 流石に返答に困る私のお尻に、すっと指を差し伸べて当てがう。
 途端、視線ががくんと下がってびっくりする。
 一瞬後、腰が抜けたように脚から支える力がなくなり、お尻が床についたことを理解する。
 そしてそのあと、ようやく頭が、たった今自分のお尻に与えられた快楽を把握する。
「パパ、すっごい感度いいお尻持ってるのね」
「……慶子さん、そんなに気持ちよかったの?」
 返事しようとしても、ただ「あぅあぅ」という音にしかならない。
「あらあら。パパって随分可愛いのね。……“パパ”って感じじゃないな。慶子、って呼ん
であげる。私のことは、お姉さまって呼んでもいいわよ」
「お姉さまぁ」
 ようやく口が動き、そんな言葉を発する。自分でも信じられないくらい、甘えた声だった。
「慶子さん、やって欲しいことがあるなら、ちゃんと言ってみなさい?」
「お姉さまぁ。……もっと私のいやらしいお尻をいじめてください」
「……たったひと撫でで、慶子さん取られちゃったのね。なんて恐ろしい子なの」
 呆れるような、面白がるような、妬むような、からかうような口調でみちるが言う。
「そうね。この子をしゃぶってくれたら考えてあげる」
 そう言って目の前に突き出された擬似肉棒を、口に含む。でもそれはすでにご褒美だった。
 懐かしい感覚が蘇る。
 そっとそれを舌で嘗め回す。
「あら、意外に下手糞なのね。……まるで処女の女の子みたい。それじゃご褒美は無理よ?」
 嘲るような声の調子。フェラチオはそれなりに自信があるつもりだったのに、この子は一
体、どこでどんな経験を積んできたのだろう。
「わたしとやってる時には、いつもこんな感じだったんだけどね?」
「そっか、別にじらしているわけでもないんだ。……じゃあ、こっちからいくわね」
 かぶったウィッグごと頭をぐいっと掴み、力強く前後にゆすり始める。
 いきなり喉奥までぐいっとねじ込まれた硬い擬似亀頭に、ついえずきそうになる。嗚咽と
涙が止まらない。
 その惨めさに、久々に穿いた女物の下着の中、(不本意ながら)自分についている器官が
むくむくと自己主張し始めるのが分かる。

42 :
『Symbolon』 §21.5・朝島慶子 2/4 2007/04/17(火)
「……口のほうはあんまり面白くないなあ。やっぱりお尻か。……慶子、立てる?」
 その言葉に、ベッドに手をつきながらよろよろと立ち上がる。
「さて。おしゃぶりの下手な慶子には、何か罰を考えてあげないとね。……そうだ。ママ、
アイマスクとか持ってる?」
「面白いこと考えるのね。んー。ちょっとないかな」
「じゃあ、テープでいいわ。持ってきて」
「はいはい。すぐに持ってくるわね」
 ペニバンをつけた全裸のみちるが部屋を退出し、すぐに布テープをもって戻ってくる。
「そのままベッドに上がって、膝をついて四つんばいになって。スカートをめくって」
 実の娘に命じられるまま、ワンピースの裾をたくしあげて自分のお尻を妻と娘の前にさら
け出す。その屈辱感に、鼓動が早まる。
「じゃあ、まずはペナルティその1。私の期待に添えないなら、次は口をふさいじゃうから」
 両目をふさぐ形で、布テープが化粧を済ませた顔に貼り付けられる。
 視覚を失い、回りが把握できない不安感に、全身の汗がにじんでくるのを感じる。
 女物の衣装を着て、きれいに化粧をして、ウィッグもつけてきちんと髪型をセットして、
そして実の娘に手荒に扱われる。
 ──その事実に、そう。私の身体はかつてないほどに性的な興奮を覚えていた。
 無言のまま、何の前触れもなく、私の下着が引き摺り下ろされる。
 私のお尻が、なぶるように撫でまわされるのを感じる。熱い吐息とともに、喘ぎ声が零れ
るのを止めることができない。
「慶子、きれいなお尻してるわね」
 しなやかな指先が、谷間の穴に再度触れる。先ほどとは違い、遮るものが何もない接触。
「あ、ぁ、あぁぁぁんっ!」
 そのあまりの快感に、背中が弓なりにしなる。腰がうねりはじめるのを止めようもない。
「やっぱりお尻は感度高いなあ。いやらしいお尻」
「でしょー? でも、あなたのテクニック凄いのねえ。わたしじゃ絶対こんなにならない」
 母と娘の、仲むつまじい茶飲み話のような会話。
 その話題の対象になっているのが自分であるという羞恥心に、全身がうずく。
「反応が丸分かりで面白いのね。慶子って随分マゾっ娘なんだ。苛められて喜ぶ娘なんだ」
「いやぁぁぁぁっ!」
 ぐりぐりぐりぐりと、私のあそこをこねくり回す指の力が強くなっていく。
「ほらほら、やって欲しいことがあればちゃんと言ってみてちょうだい?」
「おねがいしますぅぅっ! 私のはしたないケツマンコに、お姉さまのおちん○んをいれて
くださいぃぃぃぃっ!!」
「……あらあら。びっくり」
 あざけるような、呆れるような声の調子。
「でもね、いきなり最後のご褒美をねだるなんて、駄目すぎるわね。はい、ペナルティ2」
 口紅を塗った唇を覆って、布テープが貼られる。もう「ふごふご」としか声が出せない。

43 :
『Symbolon』 §21.5・朝島慶子 3/4 2007/04/17(火)
「次のペナルティは……そうね、手首を縛ろうかしら」
「あなたどれだけ女王様なの。SMで食べていくつもり?」
「どこからも内定取れなかったらそうしよっかな。……ま、大丈夫だと思うけど」
 そんな会話を行いながらも、指を私のお尻の中に潜り込ませてくる。
「そういえば玲雄とやったときは、最後まで挿入を拒んでたんだけど、慶子はあっさり堕ち
たわね。どういう違いなんだろ」
「へぇ、あなた玲雄ともやったことあるの」
「うん……あれは……あんなつまらないことやらなきゃよかった」
「そうなの? 綺麗な身体してて、感度もよくって、良さそうに見えたけど」
 実の母と姉の会話として、それはどうななの……と思うけど、今はそんな言葉も発せない。
「プレイ中は最高だったんだけどね。今まで相手してきた中で、最高の『美少女』だったし。
でもそのあとの件まで含めると、色々トラウマ」
「そうなんだ」
「肌がつるっつるっでね、唇なんかプルプルでね、匂いもいいし、反応も可愛いし、顔も声
も仕草も女の子そのもので……それが今は俊彰といちゃついてるんだもんなあ」
「玲雄と、俊彰さん。あなたはどちらに嫉妬してるの?」
「もちろん、両方によ」
 声にわずかに、いらつきの響きが混じる。
 会話中ずっと私の体内を弄り回していた指先に力がこもり、前立腺を的確に責め立てる。
思わず『ところてん』状態で、私のアレの先から白い粘つく液体が零れる。
「ちょっと、早漏すぎ。ペナルティ3ね。次は……ママ、耳栓ってある?」
 娘の命令に従い、ベッドの上に座る。着ていたレディスのジャケットを脱がされて、ワン
ピースの袖を捲り上げられ、後ろ手に布テープでぐるぐると手首を巻かれる。
「色白いし、細いし、綺麗な手。……手タレだって出来そうね。羨ましい」
 そのまま上半身を押し倒され、顎から肩がベッドについた状態にされる。
「菜々華、ローションなんてつけずにそのまま突っ込んでしまって大丈夫よ?」
「へ?」
「触ってみて何も感じなかった? 慶子さん、もう濡れてるはずだけど」
 再度、私のお尻に指が押し当てられる。
「これは不覚。ウンコする穴なのに、確かにぬれてる。でもちょっと不安。滑りが悪いかも」
「そのくらい手荒に扱っても大丈夫よ。むしろこの人、そのほうが喜ぶから」
 菜々華のサディスティックな面がみちるにも感染し始めているような台詞。……いや、今
までセーブ側に回っていただけで、みちるは昔からこんな感じだった。
 ──私を立派なマゾ牝奴隷に堕としてしまうくらいには。
「ぅ、ふぐぅうううううっ?!」
 声にならない悲鳴が部屋に響く。いきなり奥深くまで、ペニバンの竿の部分をねじ込まれ
たからだ。
 数年間の間ご無沙汰していた痛み。でもそれが私の興奮を誘う。腰の動きが止まらない。

44 :
『Symbolon』 §21.5・朝島慶子 4/4 2007/04/17(火)
 口で息が出来ない息苦しさも、今は悦びの一部でしかない。
 パン、パン、パンという音とともに私の直腸に、硬いまがいものの肉棒が打ちつけられる。
「慶子さん、なんだか不満そう。本物のお○んちんじゃないと満足できないの?」
 そんなこと微塵も考えていないのに、からかう声を投げられる。
「そっか。あなた、俊彰さんの立派なものを見て、物欲しそうにしてたもんね」
 そんなことしてない。いやいやと首を振るけど、この体勢だとそれも難しい。
「『違う』なら『違う』って言ってね。慶子さん、玲雄と俊彰さんの結婚を許可するの渋っ
てたけど、それは自分が俊彰さんと結婚したいなあ、って思ってたからでしょう」
「ひ……ひがっ」
 “違う”と言いたかったのに、もちろん、それは言葉にならない。
「『違う』って言わなかったわね。じゃあ図星なんだ」
「ママもなかなかやるわね……」
「菜々華、どうなの? 俊彰さんのお○んちんってどんな感じだった?」
「知らないわよ。あの人、私相手だと勃たなかったし。……今考えると、『女としての魅力』
で私、結局玲雄に惨敗だった、って意味なのか」
「クス……でも、それ正解かも」
「本当、失礼な話よね。それはそうと、息子の彼氏に色目使おうとした父親には──凄い話
ね──もちろん、ペナルティ4実行で。……次のペナルティはどうしよっかな」
「次は鼻ふさいじゃったら?」
「それ、息ができないんじゃ?」
「ここまでわたしたちの意志に反してしまうんだもの。それもしょうがないわよ」
「ふぐぅっ、ふぐぅっ」
 抗議の声も、当然言葉にならない。
「ほら、慶子さんだって同意してる」
「そっか、なら仕方ないわね。次は鼻をふさぐから注意してね」
 ぞくぞくするような冷たい響きに、思わず絶頂を迎えてしまう。
 ひくついている私の耳に、しっかりと耳栓がはめられる。ご丁寧に上から貼られる布テー
プ。視界は真っ暗で、耳には自分のこもった喘ぎ声と鼻での荒い息しか聞こえない。
 時間の感覚が曖昧になる。
 どれだけの時間、その状態でひたすら突かれていたのだろう。途中、挿入役をみちるに交
代したりもして、それでも挿入が続く。明日無事に仕事できるのだろうか?
 耳栓で音が聞こえないせいでどんな会話が交わされたのか知る由もないけど、突然腕のテー
プがはがされ、四つんばいにさせられる。続いてはがされる、口のテープ。
 ぜいぜいと息をする暇もなく、その口にペニバンが突っ込まれる。
 目隠しの下を涙で完全にぐしょぐしょにしつつ、上と下の口を突かれ続ける。
 実の妻と娘に牝の性奴隷のように扱われる。
 今後も、こういうプレイが続けばいいのになと思いつつ、快感と幸福感に包まれながら、
いつの間にか私の意識は途絶えていた。

45 :
自分が暴走してもしょうがないので、「まとめ」について何か意見があれば是非にお願いします。
作ることになったとしても、実際に動けるのはGWだと思いますし。
>>38
おお(狂喜乱舞)。まさか本当にいらっしゃるとは。
「まとめ」については、どんなもんなのでしょう。
作るのに反対/どっちでも別に/作るのは賛成だけど、自分の作品は載せないで/普通に賛成
 あたりで言えばどのあたりになるのか、とか、何かご意見いただけると幸いです。

46 :
おお、ついにアレが来ましたか。眼福眼福
いいもん読ませてもらいました。GJ!

47 :
みんな喜ぶと思うよ。
なかなかスキルがないから応援しかできないけど

48 :
>>45
ざっとチェックした感じ、19と42かな?>投下作品
見落としはあるかもしれない
というか、「女にお尻を犯される男の子」の方に投下したのか
それともこっちに投下したか覚えてないものも多く
「立場交換スレ」建ててからは、基本的にあっちにしか投下してないからわかるんだけど

それはそれとしてGJであります!
やっぱり女装が似合うパパは娘に犯されてこそ、ですね!

49 :
>やっぱり女装が似合うパパは娘に犯されてこそ、ですね!
中年男性が強制的に全身整形を受けさせられて、(性器以外は)完全な美女になって息子に犯されるとか、
巨漢の息子に女装させられ、無理やり犯される小柄な父親。それが徐々に本当の愛情に変わっていくとか、
女装すると娘そっくりになる父親が、娘の彼氏と身代わりデート。いつしか互いに惹かれあってラブラブHとか、
厳格な父親が、振袖の美少女の姿で女中に犯されているシーンを偶然覗き見て、ドキドキしている娘とか、
そういうのは駄目でしょうか。

50 :
というか、肝心なこと書いてなかった
自分のはもちろん掲載OKであります
>>49
もちろんそれらもステキに決まっております

51 :
コメント次第にどこに転がっていくのか作者でもまったく不明なこのシリーズ、>>22
拾わせていただきつつ、新エピソード開始です。今回も前・後編に分割。
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々A-1 1/5
        <<俊也視点>>
「瀬野君、ちょっといいかな?」
 土曜ホームルーム終了後。帰宅しようとしたところに、クラスの女子達が押しかけてきた。
「これから僕、用事があるから、時間かからない話ならいいよ」
「あ、それならすぐに終わると思う。……これ、瀬野君でいいの?」
 差し出されたスマホの画面上で、動画が流れ出す。
 タキシード姿の少年と、その少年に似たブルーのイヴニングドレス姿の少女が交互に登場
し、色々なポーズを取っているCM画像。
「ああ、これもうオンエアされたんだ」
「じゃあ? じゃあ?!」
「おっと、瀬野。それ少し職員室でも話題になってたんだ。うちの学校、バイト禁止だぞ」
 いつの間にか担任や他の生徒もやってきて、ちょっとした人垣になっている。
「タキシードの子が僕じゃないか、って話ですよね? これ、僕の姉が男装してるんです」
「えぇ──っ? こんなにそっくりなのに?!」
「確か使用法が2つある商品の宣伝ってことで、タキシードの男装とドレス姿の2通りで撮
影した、って言ってたかな。……だからその人は、僕じゃないです」
「へぇ──そうなんだぁ。でもお姉ちゃんがCM出るなんて凄いよね。名前なんての?」
「瀬野悠里。何年か前から雑誌のモデルやってて、最近はテレビにも出てるみたい」
「あの人ってやっぱり瀬野君のお姉ちゃんなんだ。そうじゃないかって前から思ってたけど」
「聞かれたときには答えてたんだけどね。別に言って回ることじゃないし」
「何か、証明できるものはあるかな」
「姉の卒業アルバムを持ってきますよ。一応証拠になりますよね?」
「でもさ、お姉ちゃんが男装すると瀬野君そっくりってことは、瀬野君が女装すると、お姉
ちゃんそっくりになるってこと? あの人すっっっっっっっごい、美人だね?」
「うん、なるのかもね。女装してって言われても、する気はないけど」
「えぇ──もったいなーいー!!」「見てみたい見てみたい」「一度でいいから女装してー」
「駄目、駄目……じゃあ、僕、帰るよ」
 お姉ちゃんのサインをもらってくる約束とかさせられつつ、教室を後にする。
「……それはそうと、スマホの持ち込みも禁止だから、お前それ没収な」
「えっ? えぇ──っ?! おーぼーだぁ──っ!!」
 帰宅しながら、頭の中で自分の台詞を反芻。うん、嘘は言っていない。
 ──ドレス姿の“少女”が実は僕ということを、説明してないというだけで。
 2日がかりの撮影日、一日目の男装での撮影後。裸で制服姿のお義兄ちゃんと抱き合って、
ドレスでむき出しになる肩から腕に跡をつけて、結局僕が“悠里”として参加した二日目。
 モデルとしてはあるまじき行為なわけだけど、プロのメイクさんに本格的にしてもらった
化粧、綺麗な付け爪をしてもらった指先の優美さ、纏ったサテンシルクのドレスの滑らかさ、
高価なアクセサリの輝き、出来上がった映像上の『悠里』の姿の美しさ愛らしさ。
 結果的に僕が得られた『役得』を思い出すと、今でも鼓動が高まるのを止められない。

52 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々A-1 2/5
「ただいまー」
「あ、俊也さん、おかえりなさい」「俊也、お帰り」
 家に戻ると、ややハスキーな甘い声と、甘ったるい匂いとが迎えてくれた。
 手早く着替えを済ませてダイニングに向かうと、可愛いエプロンをつけた“アキちゃん”
がにっこり微笑んで、改めて「おかえりなさい」と言ってくれる。
 食卓につき、出された昼食を食べる。
 今日はお父さんとお姉ちゃんが仕事で不在だから、母と兄と僕の、この3人で全員だ。
「あれ、2人とも、もう昼飯は食べたの?」
「うん。俊也さんが食べたらすぐに出発できるように、って、メイクの前に」
 撮影用ということで、いつもと違って濃い目の化粧。
 といってもケバい系でなく、アキちゃんの愛らしさを絶妙に引き出した可愛い系のメイク。
 前々から化粧栄えのする人だとは思っていたけど、ここまでとは思ってなかった。
「そのメイク、どうしたの?」
「んーとね」と、お姉ちゃんと僕が懇意にしている美容院の名前を挙げて、「そこの店長さ
んにやってもらったの」
「ああ、あの人プロのメイクで食べてける腕してるよね。流石に上手いなあ」
「だよね。だよね。あたしも早く、あの人の腕に追いつけるといいんだけどなぁ」
 ここ1ヶ月の間、何気に誰よりも『美の追求』に熱心な義兄だった。
 もともとうちの一家では最も余裕のあった時間を、メイクの練習や美容に注ぎ込み続けて
いる。女装に消極的なふりをして、自分を可愛く磨くことに余念がないのが面白い。
 特にメイクの腕は、『甘い点はまだ多いけど、私たちが抜かれる日もそんなに遠くないか
なぁ』と、お姉ちゃんが嬉しそうな表情で語っていたのを思い出す。
 ほんの2ヶ月前。最初にメイド服を着せたときにちらほらと見え隠れしていた違和感も、
今では余程注意してないと見つけることすら困難だ。
 昔僕がやらされたみたいに、自分が誰も男だと思ってない女の子たちに囲まれて、24時間
ずっと少女として1週間ほど過ごす生活を送らせてみたいなとも考えてみる。
 そのくらい、ごく自然に女の子している2つ年上の義理の兄。モデル業で美人/美少女に
接することの多い僕でも、表情がくるくる変わるたびについつい見蕩れてしまう。
「俊也さん、今日のあたしどうかな? おかしな所とかない?」
 僕の視線に気付いたのか、少し恥ずかしそうな表情でそんなことを聞いてくる。
「いや、アキちゃんとっても可愛いから、すっかり見蕩れてただけだよ。どこも変じゃない」
「うわあっ、ありがとう!!」
 無垢で無邪気で無防備な笑顔を満面に浮かべて、僕の言葉に凄く喜んでくれる。
 見ている僕も、なんだかつられて笑みが零れる。そんな素敵な笑顔だった。
 目の前で繰り広げられる、『息子』2人のそんな会話。
「そうそう、アキはわたしに似て美人なんだから、不安になることはないのよ?」
 世をはかなんで辞世の句でも詠みたくなる人もいそうな状況なのに、ニコニコしながら会
話に加わる、この義理の母親の動じなさに一種尊敬の念すら覚えてしまう。

53 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々A-1 3/5
「じゃあ、2人とも頑張ってね……俊也、アキをお願いします」
 食事と支度を終えて、アキちゃんがお義母さんから包みを受け取って、2人で家を出る。
「アキちゃん、その包みは?」
「野菜たっぷりで、美容にも健康にもいいマフィンだって。今日、ちょっと時間が余ってね。
ママに教えてもらいながら作ってみたの」
 なるほど、帰宅したとき感じた甘い匂いの正体はこれなのか。
「あたしまともにお菓子作りしたのって初めてだから、美味しくできたか不安だけど。撮影
終わったら食べたいなぁ、って」
 しかしお姉ちゃん、お義兄ちゃんに女子力でもう完敗してるような気がしなくもない。
「僕にも食べさせてくれるかな?」
「もちろん! ……あ、まずあたしが食べてみて、それで美味しくなかったらバツで」
 指で小さく×印を作りながら、はにかんだ表情で言う。中身は大学2年の男だというのに、
仕草や表情がいちいち少女めいて可愛すぎた。
 フリルやレースの一杯ついたワンピースに、フリル付きのカーディガンの、ピンク一色の
装い。スカート丈は膝が覗く程度で、足首の締まった綺麗な生足がそこから伸びている。
 僕の学校の校則もあって、そんなに髪を長く伸ばせない僕たち姉弟。それよりもう長くなっ
た髪を、ショートカットの女性に見える感じにセットしてある。
 義母もそうなんだけど、アルビノが少し入っているんだろう。
 高校時代は黒く染めていた髪も今は蜂蜜色がかった茶色で、肌は陶磁器を思わせるほどの
滑らかな白さを帯び始めている。琥珀色にきらめく瞳の色が、すごく印象的だ。
 “女としては”彫りが深い顔立ちもあって、ハーフか、いっそ外国人の美少女のようだ。
 電車の車内でも、そんな可憐な姿は注目を集めまくっていた。
 純粋な容姿やスタイルならお姉ちゃんのほうが上なんだけど、それでも人を惹きつける雰
囲気は天成のものがある。
「今日のモデル、ってどんな感じでやればいいのかな」
「お姉ちゃんの撮影風景は何度も見学して知ってるよね? あんな感じ。まあ気楽にしてれ
ばいいよ。いつもの素敵なアキちゃんをみんなに見せてあげてね」
 今日はそもそも、お姉ちゃんに来た仕事だった。
 中華街でチャイナドレスのレンタルをやってる店の、広告用の写真のモデル。
 お姉ちゃんがやるには日程的に折り合いがつかなくて、“アキちゃん”が代理でモデル役
をやることになったという流れ。
 約10年前の“アキちゃん”時代、『彼女』はかなりモデルとしても経験を積まされていた
のだろう、というのというのがお姉ちゃんと僕の見解。
 最初にネコミミメイドの衣装を着せてみたときから、立ち方にも、動作にも、その名残が
強く残っていた。
 僕達が『モデルやらない?』と2人で何度も誘っていたのは、実はそういう要素も大きい。
 ようやくこれからその姿が見れると思うとかなり興味深かった。

54 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々A-1 4/5
 土曜昼過ぎだけあって観光客で賑わう中華街を通り、目的のお店へ。
「あらまあ! すっごい美人さんたちだこと。代理、ってことでちょっと不安だったんだけ
ど、これなら十分以上に合格点。1人って話だったけど、2人なのね?」
 外見は貫禄たっぷりだけど、おネェの混じった中年男性の店長さんが歓迎してくれる。
 「僕はただの付き添いで、ついでに男です」と言うと、凄いがっかりしていたけれど。
 店長さんから撮影方針とか聞き出しながら、今日着る衣装などを選んでいく。
 服を替える度に、顔を輝かせて喜ぶアキちゃんの笑顔が眩しい。
 補正下着がはみ出したり、ラインが見えたりしない衣装を選ぶのは少し骨だったけど。
 少し遅れていたカメラさんも到着して、撮影開始。
「体を入り口に向けて、右手を腰に当てて、視線をこっちに向けて。──いい感じ、いい感
じ! アキちゃん。ここに今、一番好きな人がいると思って、最高の笑顔をちょうだい!」
 アキちゃんがカメラさんの声に従ってポーズを取り、喜びの表情を浮かべる。
 その瞬間、部屋の空気の色自体が変わったような気がした。
 カメラさんも見蕩れたのか少しの間静止したあと、シャッターを鳴らし始める。
 引き出しが多い。一つ一つの表情が魅力的だ。部屋の隅で見学しているだけなのに、すご
くワクワクしている自分を覚える。
 天衣無縫で無邪気な愛くるしさに、体の芯をぞくぞくさせるような妖艶さが混じる。
 その不思議なアンバランスさから目を離せない。
 今着ているピンク色で超ミニのチャイナドレスにそんな雰囲気が良く似合って、まるでア
キちゃんのためにあつらえたオーダーメイド品のように見えた。
 僕が学校に行ったあと、お姉ちゃんが補正下着とお義兄ちゃんの体を使って『女性の体』
を再現すべく、散々遊んだのだろうか。
 ここ一ヶ月の本人の美容の努力の賜物もあわさって、とてもこの薄いドレスの下に男の体
が隠れているとは思えない、見事な曲線美が形作られている。
 接着剤で胸に直接貼り付けた、乳首まである超リアルなBカップのフェイクバスト。アン
ダーバストの差があるから、衣装の上からだとDくらいあるように見える。
 今着てるドレスは胸の部分がちょっと小さくて、本来そこにない双つの丘が窮屈そうに納
まっているのも余計に色っぽい。
 コルセットで絞った、高い位置できゅっと括れたウエストのラインと、ヒップアップガー
ドルにパッドを入れて作った腰つきまでの、流れるようなラインがセクシーだ。
 下着が見えないぎりぎりの丈のスカートから覗く、引き締まった長い生足もなまめかしい。
 カメラさんの指示に従い、扇を持った腕を水平に指し伸ばす。
 肩からむき出しの、人形のパーツめいたすらりとして白い腕。指がそんなに華奢じゃない
のが残念だけど、女の手と言われて違和感を覚えるほどでもない。
 ドレスの色にぴったり合う、マニキュアの施されたピンク色の爪が綺麗だった。
 ちょっと条件が変わっていれば、この花のように可憐な美少女めいた義理の兄の代わりに、
僕がこのドレスを纏えていたのにと、嫉妬心が微かにうずくけれど。

55 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々A-1 5/5
 赤い足首丈のドレス、黒くて長袖のドレス、短い袖付きで膝丈までの青いドレス、緑色の
アオザイ、中国の古典衣装、赤と金も眩しい中国の婚礼衣装etc.etc.
 準備していた衣装に次々と着替え、途中化粧直しを挟むくらいで息を付く間もなく撮影を
進めていく。
 ラスト、僕の提案で入れることになった、私服に戻って店内で衣装選びをしているシーン
まで終えて撮影を終える。
「アキちゃん、良かった!! 凄かった!! 可愛かった!!」
「本当?! ありがとう!!」
 思わず歓声を上げた僕の胸に笑顔で飛び込んできて、受け止めるのに一苦労。
 なんだか小さな女の子みたいな印象だったけど、中身は僕より重い男性なのだ。
 撤収作業をしているカメラさんを眺めながら腰掛け、休憩に入る。
「アキちゃん、本当におつかれさま」
 お店の人に出された冷えた烏龍茶をチューチュー飲む。そんな仕草さえ凄く女の子らしい。
「さて、作ってきたマフィンの出来はどうかな?」
 ぽむ、と掌をたたき、いそいそと包みを広げて一口サイズのマフィンをかじる。
「どう? おいしい? 僕も分けてもらえそう?」
「これなら……うん。なんとか大丈夫、かな?」
 少し不安の残る表情で、おずおずと差し出してくる。
 受け取って頬張ると、控えめな甘さが口の中でとろける。『お菓子作りが得意』って言っ
てるクラスの女子が作るのと、同じくらいの出来栄えだろうか。
 初めてでこれなら充分以上だろう。将来が楽しみになる味だった。
「うん、すごく美味しいよ。きめが細かくて、しっとりしてて。甘さもいい感じ」
「本当? 良かったぁ」
「もう一つ頂戴。……ありがとう。じゃあ、アキちゃん初仕事お疲れ様でした。あーんして」
 一瞬きょとん、としたあと、ピンク色に輝く艶やかな唇をあけて目をつぶってくれる。
 無邪気な姿に悪戯心が動いて、他のもの(僕の舌とか)を入れたくなったけど自制。
 渡してもらったマフィンを半分に割ってその口に入れ、残りを自分で食べる。
「本当なら僕が用意してたご褒美をあげるシーンだけど、そこまで気が回らなくてごめんね」
「ううん、すっごく嬉しい。……俊也さん、ありがと」
 そう言って返してくれた笑顔は、抱きしめて本当に唇を合わせたくなるくらい素敵だった。
「そういえば聞いてなかったけど、君たち恋人同士?」
 撮影終了直後から席を外していた店長さんが戻ってきて、僕たちに声をかけてきた。
「いえ、兄弟ですよ」
「へえ兄妹かあ。うちの子たち、顔を合わせるたびに喧嘩しかしてないから羨ましいわねェ」
 何か漢字が違っていたような気がしなくもない。
「あ、あたし今日、マフィンを作ってきたんです。よければみなさんもお一つどうでしょう?」
 皆で集まって、マフィンを食す。凄い好評で、僕もなんだか嬉しい気分になる。

56 :
>>26
シリアス方面は避けるように試行錯誤してるところです。おかげで変態一家が量産されてる気もしますがご容赦を。
ママさんは『Symbolon』でやってしまったので、方向は変えるべきか悩むところです。
>>48 >>50
個人的お気に入りの一つ19の作者さん、更に「立場交換スレ」の設立者でしたか。
着替え風景を丹念に描き切る手法は見習いたいと思いつつ、§24レベルになってしまう筆力不足が恨めしい。
用鍛錬です。
(そして§24が2回あったことに今更気付く)
使用許可、ありがとうございます。

57 :
新作キター
何気ない一言を書き込んだ者として、非常に嬉しいのであります。

58 :
後半部投下ということで。
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々A-2 1/6
 そのあと、スタッフ用のPCで撮影画像を確認する作業を少し見学させてもらう。
「わあっ!! これがあたしなんですね。こんな可愛く撮っていただけるなんて、ありがと
うございます! ドレスもすごい素敵で良かったです!!」
 ぴょんぴょんと飛び跳ねて喜ぶ様子が、なんだかとても可愛らしかった。
 報酬を受け取り、普段用にメイクを直したりしたあと、店を出て傘をさす。
「アキちゃん、今日はすごい良かったよ。百点満点で二百点あげて、ついでに花丸つけたく
なるくらい。どうかな。もっと本格的にモデルやる気はない?」
 僕の言葉に、考え込む様子のアキちゃん。
「ま、すぐに決める必要は全然ないから、気が向いたら声かけてよ。……で、どうしよっか。
このまま帰る? それとも遊んでいく?」
「俊也さんは、どうしたいの?」
「僕はね……うん決めた。これからアキちゃんとデートする!」
 少しぱらつく雨の中、相合傘で中華街を回りはじめる。
 昔はよく来ていた、でもここ暫く来ることのなかった懐かしい街並み。
(地元育ちなのに)ここに来るのは初めてというアキちゃんを案内しつつ、色々歩いてみる。
 ローズピンクのワンピースと、クリームピンクのカーディガンというピンクずくしの少女
らしい衣装と面差しは、この中華街だと少し浮いていたかもしれない。
 それが身長の高い、見事なスタイルの持ち主であるという不釣合いさもあって尚更に。
 身長172cmで60cmを切ってる今のウエストは、強く抱けば折れそうな印象を見る人に与える。
 僕と違って素の状態のヒップのラインは男のものだけど、そのウエストとの対比があると
“引き締まった美尻”に見える。
 巨乳というほどではないけど、充分豊かで形の綺麗な胸との対比もいい感じだ。
 いつもお姉ちゃんや僕自身が浴びるのとは少し種類の違う視線に、楽しい気分になる。

「あなた達、ちょっと良いかな?」
 そんな声に呼び止められたのは、小さな水族館を出たくらいだった。スカウトだろうか?
 デート中に声をかけるとは無粋な、と思いつつ声の主の顔を見て驚く。
「弓月摩耶、さん?」
「その名前で呼ばれるのも随分久しぶり。それも男の子で知ってる人がいるなんて」
 背が高くてスタイルがいいスーツ姿のその美人に誘われるまま、すぐ近くのカフェに入る。
「俊也さん、知ってるヒトなんですか?」
「えーっとね。……お姉ちゃんがモデルやってる雑誌で、昔読者モデルやってた人」
「よく知ってるのね。もう覚えてる人誰もいないと思ってた」
「もちろんですよ。弓月さんに憧れて、読者モデルに応募したんですから……えっと、僕の
姉の話なんですが」
 本当は、彼女に憧れて読者モデルに応募したのは、僕だったりするわけだけど。
 あのころはまだそんなに慣れてなかった女装をして、写真を撮って姉の名前で書類を作成。
書類選考を通ったらお姉ちゃんに面接に行ってもらう。今思えばかなり無茶をしたものだ。

59 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々A-2 2/6
「あっ、あなたひょっとして瀬野悠里さんの弟さん?」
「はいそうです。瀬野俊也、っていいます」
「なるほど、道理でそっくり。なんで今まで気付かなかったんだろ、ってくらい」
「弓月さんって今、何をされてるんですか?」
「そうそう。それを忘れちゃお仕舞いよね。今はわたし、こんな感じ」
 渡された名刺を受け取って眺めてみる。
 
 ──『芸能プロダクション ○○事務所 山田瞳』
「山田瞳っていうのは?」
「それがわたしの本名。……わたし、モデルとして結局芽が出なくて、それでもこの業界に
いたくて、後進を育てたいなあ、ってお仕事」
「なるほど、そうなんですか。弓月さん、もっと活躍してるところ見たかったんですが」
「それよりわたし、あなた達が活躍しているところを見たいな。……どうかな。是非芸能界
入りして活躍して欲しい。わたし達がそのお手伝いできるなら嬉しいし」
 結局その場での回答は保留させてもらって、3人分の名刺をもらって別れる。
 正直僕自身の気分はかなり傾いていた。憧れだった人と一緒に働けるというのも大きいし、
初見で僕のことをきちんと男と認識して誘ってくれたのも、個人的にポイントが高かった。
「……あ、やっと思い出した。あの人一度だけ、会ったことがあるんだ」
「へえ、どこで?」
「甘ロリの格好で初めて外出して、初めて女子トイレに入ったとき、入り口で一緒になって」
 『袖振り合うも多生の縁』、だったか。そんな偶然。

 それからまた遊んで、少し早めの夕食まで食べて。中華街を出て駅へと歩く。
「今日はいっぱい遊んだね──このまま帰る? それともタワー登ってみる? それとも」
 通りすがりに見える建物に、つい意識を取られてしまう。
 僕の視線を追って、赤面するアキちゃん。
「ん。……お願いします」
 スルーして通りすぎそうになったとき、そんな呟きが聞こえた。
 少し戻って『御休憩』の看板の出た、その建物に入る。
 アキちゃんに先にシャワーを済ませてもらって、そのあと僕も浴室へ。
 ──ここから『僕』は、『私』になる。
 アキちゃんに恋しているのは『俊也』もなのに、その状態だと愛してもらえなくて、
『悠里お姉さま』でないといけない。それがなんだか、少し寂しい。
 体を拭いて、バスタオルを胸で巻いて外に出る。
 可愛い私の“妹”は、チャイナドレスに着替えて化粧をしているところだった。
「あっ、お帰りなさい悠里お姉さま」
 そう言って微笑んだ顔は、今日見たどの表情よりも素敵だった。
 思わずその身体を抱きしめ、ルージュを塗っている途中の唇に私の唇を重ね合わせる。

60 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々A-2 3/6
「はむ……くちゅ……ちゅる……」
 ほんの1ヶ月前までは、ざらざらと乾燥して荒れ放題だった唇。それが今はとても滑らか
で柔らかで甘い感触に生まれ変わっている。
 その心地よさを、存分に楽しむ。
「悠里お姉さまぁ。……いきなりすぎますよぅ」
 とろけるような顔で、とろけた瞳で、とろけきった声色で、抗議するアキちゃん。
「アキちゃんが可愛すぎるからしょうがないでしょ。今日一日、私が我慢するのがどれだけ
大変だったか分かる?」
 そのまま続行したかったけど、もう一度我慢を重ねて身体を離し、荷物を漁る。
 ブラジャーをつけ、パッドを入れ、チャイナドレスを身に纏う。
 今日の仕事の報酬の一環としてもらった、レンタル落ちの衣装たち。
 俊也と父用のメンズチャイナ、母用のアオザイ、アキちゃんと私用のチャイナドレス。
 アキちゃんはそれ以外に、モデルのときに最初に着たピンクのチャイナドレスも店長さん
から特別にプレゼントしてもらって、今はそれを着ている。
 これはレンタル落ちでない、多分ほとんど新品のアイテム。
 他の服もそんなに状態は悪くない。真面目に購入した場合の値段と拘束時間を考えると、
破格と言っていい報酬かも。
 段取りもスムーズなほうだったし、カメラさんの腕もお店の人からの待遇も良かったし、
『いつもこんな感じだったら良かったのにな』と思わせるお仕事。
 花の刺繍入りの赤い超ミニのそのドレスを着て、アキちゃんに向き直る。
 完全に勃起状態の股間の先端が、裏地でこすれるのが変な気分だけど。
「悠里お姉さま、お化粧させてもらっていいですか?」
「うん、お願い♪」
 椅子に腰掛け、アキちゃんに自分の顔を委ねる。
 他人の操るパフや筆が幾度も撫でて、存在を塗り替えていく感覚が私は好きだ。
 メイクや衣装にあわせて、表情や仕草をどういう風に変えていくか、考えるのは楽しい。
 それで、相手の対応が変わるのを見るのも楽しい。
 他人にメイクを施すのは慣れてない……というかひょっとしたら初めてなのかも。
 決して上手とはいえない、たどたどしい手つきで、でも真剣な表情で、丁寧にメイクを進
めていくアキちゃん。
 そんな顔もまた、思わず抱きしめたくなるくらい愛らしかった。
 最後にグロスをルージュの上にさして、化粧の完成。
 どきりとするほど色っぽい、“女の色香”が漂う顔が鏡の中から見返してくる。
 まだまだ隙の多いメイクだけど、それもこれからの成長の余地を示していると思えば悪く
ない。
 でもそーか。アキちゃんは今、こういう相手をお望みなのか。
「どう……ですか?」
「とっても素敵ね。なんだか自分でもドキドキしてる」

61 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々A-2 4/6
「お姉さま達には、全然敵いませんけどね」
「そりゃそうよ♪ これまでの経験が全然違うもの。
 アキちゃんも私達に追いつけるよう、もっと努力して、素敵な女の子になってね。
 ──私も簡単に追いつかれないよう、その上をいけるよう、もっともっとがんばるから♪」
 キラキラと輝く琥珀色の瞳で私を見つめる身体を抱き寄せ、ピンクの薔薇の蕾のような可
憐な唇に、真紅の薔薇の花のような私の唇を、再び重ね合わせる。
 口付けしたままベッドに上がり、ルージュとおそろいのチャイナドレスの色に包んだ身体
同士をぴったりと密着させて、しっかりと抱きあったままベッドの上二人ぐるぐると転がる。
 やがて私が上位の体制でストップ。互いの舌を絡ませあう、濃厚なキスを続ける。
 回した指の先で、シルクのドレスに包まれたアキちゃんの背中をくすぐるように弄ぶ。
 そのたびに、敏感に身もだえして応えてくれる可憐な少女。
 腰のうねりが大きくなり始める。その度に、チャイナドレスの下の私のおちん○んが、私
とアキちゃんのお腹に挟まれて刺激されて、大変な状態になってるのを覚える。
 複雑に絡ませあった脚が暴れだす。腰はもう、痙攣していると言っていい動き。
 綺麗にマスカラを塗った両目から、とめどなく涙が溢れ出ている。
 やがて、全身の筋肉が硬直したあと、だらりと力が抜ける。
 『アキちゃんはキスだけでイクから』と聞いてはいたけど、実際に目にすると圧巻だった。
 まだ呆けたような表情で喘ぎを漏らし続けているその顔に、首に、むき出しになった肩に、
二の腕に、キスの嵐を浴びせていく。
 全身紅潮し、チャイナドレスに負けず劣らず綺麗なピンク色になった、アキちゃんの白す
ぎるほどに白い肌。それを私の真紅のルージュで染め上げていくように。
「はぁっ、ぁぁぁあん! はぁぁんっ!」
 さっきイったばっかりなのに、また身もだえを始める。
 まるで、全身が性感帯と化したような反応。
 あまりの愛らしさにぎゅっと抱きしめると、その感触だけでまた絶頂を迎えてくれる。
「本当、アキちゃんってなんでこんなに可愛らしいのかしら」
 思わずこぼした言葉。私の作り物の胸に顔をうずめて、わんわんと泣いてそれに応える。
「ゆ、悠里お姉さまぁ。お姉さまぁ……悠里お姉さまぁ……」
「はいはい、アキちゃん♪ ……私の、とってもとっても大事な大事なアキちゃん」
 しばらくその状態を続けたあと身体を下に移動させ、チャイナドレスをめくってアキちゃ
んの、陰毛のないつるりとした股間に顔をうずめる。
 タックで作成した、まがいものの割れ目が面前にある。その割れ目に向かって、たっぷり
と唾液を含ませた舌を伸ばし、ちろちろと舐めあげる。
 ここは感じやすい神経の集中する場所なだけに、反応は今までの比じゃなかった。
 もう絶叫としかいいようがない嬌声が部屋に満ち溢れる。
 腰や脚があばれまくって、腕もなんだか痙攣するような動きを繰り返して、体勢を保つだ
けでやっとの状態。
 今アキちゃんの脳内はどんな状態なのだろう? 私はこんなにイけないだけに嫉妬が疼く。

62 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々A-2 5/6
 指先でそっと、アキちゃんのすぼまりをなであげる。
 愛液が溢れ出すお○んこのように、腸液でぬちゃぬちゃ状態のその穴。
 軽く力を入れたつもりすらないのに、私の指先はその秘孔にずぶずぶと飲み込まれていく。
 中は火傷しそうなくらい熱くて、トロトロの柔らかい肉が複雑に指先に絡みついてくる。
 括約筋でぎゅっと絞られた指が、折れそうなくらいの圧迫感を感じてあわてて抜きさる。
「ゆ……悠里お姉さまぁっ。ぬい、抜いちゃ嫌ですぅ。もっと奥にぃ」
 息も絶え絶え、という様子なのに、涙目のままそんな懇願をしてくる。
「ごめんね。……でも指はこれ以上は無理かな。締め付けがきつすぎて、折れちゃいそう」
「そっ、そんなぁっ?!」
「だ・か・ら、本物を入れてあげる♪ アキちゃんが、今日一日可愛かったご褒美♪」
「ゆーりおねえさまぁっ!!」
 ピンクのチャイナドレスに包まれた肢体全部を使って、熱烈にハグしてきたりする。
「ちょっ! アキちゃん力緩めて! これじゃ挿入できない!」
 私よりずっと力が強くて、痣にならないか不安になるほど。身動きすらできない状態で、
体勢を整えることもできない。
 力を緩めてくれた隙を縫って、正常位に持ち込む。
「アキちゃん、挿れるわよ?」
 という私の呼びかけに、歓喜に満ち溢れた表情でコクコクとうなずきを返してくれる。
「アキちゃんって、本当にお○んちんが好きなのね?」
「うん、だぁい好き……やっぱりエッチな子はダメなの? ……あたし、嫌われちゃうの?」
「大丈夫。私、そんなアキちゃんが、大好きで大好きでたまらないのっ!」
「アキ、こんなにインランで、いけない子なのに?」
「淫乱でエッチな娘“だから”いいのっ! そんなアキちゃん“だから”大好きなのっ!!」
 今はコルセットをつけてないけど、その状態でもこのチャイナドレスがなんとか着れるま
でくびれが出てきたウエスト。
 そのウエストを両手で掴み、今日一日溜め込んだ本心を大声で吐き出しながら一気に挿入
する。
「はぁぁああああぁあんっっ!!」
 身体を大きく弓なりにしならせて、そんな悲鳴とも絶叫ともつかない嬌声をあげる。
 比較対象の知識に乏しいから良く分からないけど、これまで世界で一番気持ちいいと思っ
てきた、“もう一人の悠里”のおマ○コの数千倍もの快感が襲い掛かる。
「くうっ……かはっ……アキっ、アキちゃん気持ちよすぎっ!」
 ぎゅいぎゅいと、物凄い力で圧迫がかかる。
 ぬめりを帯びた、腸内の熱い肉壁と粘膜と襞々とが、複雑に絡み付き、吸い付いてくる。
 最初に結ばれて以来、オナニーの度にこれしか思い浮かばなってしまっている、まるで麻
薬のような快感。
 アキちゃん以外のお尻は私は知らないけど、たぶん普通のアナルセックスではありえない
そんな快感に、まだ身体を動かしてもないのに一瞬で放出してしまう。

63 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々A-2 6/6
(やっちゃった……)
 幾らなんでも早漏すぎるだろうと、私自身に呆れる。
 アキちゃんと、萎えてしまった私のモノに内心謝りつつ、引き抜……こうとしたけれども、
いつの間にか私の身体に絡みつくように回されていた、アキちゃんの脚が許してくれない。
 意識的なものか、無意識によるものか分からない、その脚と腰の動きに導かれるままに私
自身、腰を振る。
 萎えた状態でも、括約筋だけではない、直腸全体から締め付けられるような感覚は減って
いない。どんな素質があれば、どんな鍛錬を重ねれば、こんな魔性が生まれるのだろう。
 真下を見る。
 赤いチャイナドレスに包まれた、偽物の双丘が激しく上下しているのが見えるだけで、接
合部の状態は見えない。
 この部屋に大きな鏡がなくて、今の自分の姿が見れないことを残念に思う。
 世界で一番好きだった、今でも世界で二番目に好きな『瀬野悠里』の美しい姿。
 他の有名なモデルや芸能人と並んでも少しも見劣りすることのない、(ちょっと大げさに
言えば)絶世の美少女。そんな少女と自分が“一緒”になれるという陶酔感、高揚感。
 “アキちゃん”が愛しているのは、その『瀬野悠里』ただ一人。
 それでも『僕』が『私』でいる間は、『悠里お姉さま』として愛してもらえる。
 そしてこの絶妙なる名器を味わえるのは、世界でただ一人、『私』だけの特権。そう思え
ば、今までとは異なる高揚感が押し寄せてくるのを覚える。
 アキちゃんのその穴の中に納まり続けていた私のモノも、いつしか力を取り戻してきた。
 いつの間にか剥けた状態になっていた私の亀頭に、まるでミミズのような襞々がからみつ
いてきつく締め上げてくる。
 精液と腸液が交じり合った液体でぬめぬめの直腸全体が、私の竿の部分全体を絞りこむ。
 「もう離さない」とばかりに、私のモノが奥に奥にと吸い込まれていくような感覚。
 気を抜けば一瞬で再度の射精に至りそうな快感に逆らって、大きく腰を振り始める。
 そのたびに嬌声で応えてくれる、ピンク色のチャイナドレスの美少女。
 どのくらいの時間そうしたのだろう。
 私の射精と同時に、ひときわ大きな嬌声をあげて、すべての力が全身から消滅した。

 ぐったりと意識を失い、ベッドで静かに息を立てるアキちゃんの髪を撫でつつ思う。
 『失神にいたるほどの快感』というのは、一体どういうものなのだろう?
 あまりの快感に脳内で処理しきれなくなって、頭のヒューズが飛んでしまってシャットダ
ウンされるような状況。それほどの快楽。
 いつか自分もそれを味わってみたいと思ったところに、フロントから電話がかかってくる。
『御休憩』を『御宿泊』に変えてもらって、次はお姉ちゃんに電話を入れる。
 お姉ちゃんがここに到着するか、アキちゃんが目を覚ましたら第二ラウンドだ。
 どんなプレイにしようかと考えつつベッドに横になり、この愛しい愛しい存在を後ろから
抱っこする。それまではこのまま、しばしの休息を楽しもう。

64 :
いいねいいねー

65 :
ぐはぁ!最高だぁ!!
三姉妹(?)でブライダルファッションショーの花嫁モデルでウェディングドレス姿とかあったら、
間違いなくねる(爆

66 :
弟君の学校の学園祭で、姉と義姉(♂)の舞台を行うのはいかがでしょ?
服の選び方とか化粧とかファッションショーとか
同じ組の皆さんはお姉さんの学校アルバムで説明できますが、他の、全教職員、そして、全校生徒の前で姉と美少女義兄を紹介してしまえば、卒業まてモデルのアルバイトを疑われなくなると思います。

お姉ちゃんの花婿さんに義兄・弟の花嫁さん、とかを披露するもよし。
和服と洋服で。
ついでに秘密に一部の女生徒だけを集めて、初夜ごっこを披露するとか?

67 :
まだまだ作業途中ですがまとめwiki 立ち上げました
http://www55.atwiki.jp/jososs/
まとめのないorなくなった他スレの女装SSとかもフォローしたいな、と考えて広くとってみましたが。
ご意見・誤り指摘・要望等ありましたら、是非に。

68 :
乙です

69 :
>>65
ブライダルファッションショー、いいですねえ。
ただあの手のショーの裏側調べてみると、下着丸出しで着替えまくる戦場みたいな状況っぽいので、
どういうシチュにするか悩んでみたりするところです。
>>66
そのシチュエーションなのですが、「三姉妹モデル」ってことですので意味が薄くなってしまうのかなあ、
とBパートほぼ書き上げた状況で困ってみたりしております。
魅惑的なご提案なので、なんとか取り込みたいとは思いますが。

70 :
wiki乙です。
ここまで分類されてると実に捜しやすいなあと実感。

71 :
>>69
wiki乙であります
自分でも書いたことを忘れてたやつをちゃんと分類してもらってたのにはびっくりしてます

72 :
まとめ乙
wiki連絡用メールアドレスって無いの?

73 :
ようやく掲載がひと段落しました。手間取って申し訳ないです。
30氏には多大なる感謝を。思いっきり助けられました。
>>72
右上の「ログイン」から、ユーザ名「joso」パスワード「joso」でログインして編集可能になりますので、
何かおかしな箇所を見つけられたかたは、直接修正頂ければ幸いです。
もちろん、ここに書いていただかれば可能な限り対応します。
左上の「ツール」の「このウィキの管理者に連絡」で、私宛てのメール送付が可能みたいです。
ただ、毎日50件くらいスパムが届くため見落としてしまう可能性がありますので、非公開にしたい
話でなければ、このスレに書き込んでいただくのが確実かなと思います。
自分のサイトで投稿文章を掲載されているお二方(【】の人と、KCA氏)の扱いはこれでよいかどうか。
追って確認いたします。

74 :
【】の人って女装SS総合と立場交換スレでは示す人が違うのか
はじめて知った

75 :
『とりかへばや?』の作者を“【】の人”としたのはご本人のサイトの記載に従ったのですが、
立場交換スレでの“【】の人”とは確かに別の方ですねえ。
言われて確認してみて、びっくりしてしまいました。
注釈追加してみたのですが、こんな感じでも大丈夫でしょうか。

76 :
まとめwiki乙です。
別項目に挙げられてますが、以下も実は私の書いたものです。
ヒメガミ(非・女神)
誰が為の幸せ
禍福は糾える縄の如し
影武者姫
あと「信じて送り出した可愛い弟が、リア充男の娘になって恋人(♂)と共に帰宅した件」もですが……これは、まぁ小ネタのところでよいかな。

77 :
わざわざご丁寧に痛み入ります。訂正しておきました。

78 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々A-3(おまけ) 1/4
        <<柊朋美視点>>
「……うわぁ」
 妹の久美が、店の入り口を見つめたまま、うっとりした表情で賛嘆の声をもらした。
 店内の他のお客さんも、かなりの割合で同じ感じだ。
 わたしも釣られて、同じように入り口のほうを向いてみる。
 何かのロケなのだろうか?
 ため息をつきたくなるような美男美女5人連れがお店に入ってきて──そしてウェイトレ
スさんに案内されるまま、何の導きなのかわたし達のすぐ隣の席にやってくる。
 座る動作すらとっても優雅で、思わず見惚れてしまう。
 うち2人はたぶん双子なのだろう。ガーネットと黒曜石のような色彩の、色と柄だけが違
う同じデザインのチャイナドレスに身を包んだ、瓜二つの究極美少女たち。
 ドレスの裾は足首までだけど、腰まで入ったスリットから見事な脚線美を描く生足が覗い
ている。
 ノースリーブの肩からむき出しになった腕も、余分な肉が一切付いてなくてすごく綺麗。
 手足がびっくりするほど長い。身長の半分より股下のほうが長そうだ。
 ほっそりとして、頭もありえないくらい小さい。目測9頭身美人。
 1人でもアトラクティブなそんな美少女が、2人もいるのだ。目を引かないわけがない。
「こりゃ、やっぱり目立っちゃってるねえ」
 たぶん彼女たちの父親なのだろう。
 一行の黒一点の、アメシストの色のメンズチャイナを着た男性が飄々と面白そうに言う。
 スマートで背が高く、少し童顔の入ったハンサムな顔には、確かに彼女たちの面影がある。
「わたしだけ、なんか浮いてる感じで嫌かも」
 サファイアのような色合いのアオザイを着た女性が、笑顔でそんなことを言っている。
 一行では一番小柄な、女優だと言われたら納得しそうな美人。
 茶色の髪をシニョンでまとめた、色白で灰瑪瑙の瞳をした大人の女性。
 肌も綺麗で、多分20代半ばか、いって後半くらいだろうか。
 あからさまに見蕩れすぎていたわたしに向かって、最後の1人がはにかんだ笑顔を向ける。
 とたんにドキリと高鳴るわたしの心臓。
 その瞬間から、あれだけ魅力的だった双子? も意識から離れて、彼女の姿から目をそら
せなくなる。
 超ミニでピンク色の、珊瑚を削って作ったみたいなチャイナドレスに身を包んだ少女だ。
 アラバスターのような、白くてつややかな手足がドレスからすんなりと伸びている。
 中に内臓が入ってるのか疑問に思うくらい細いウエストと、ドレスのヒップが余り気味な
小ぶりなお尻。それなのに豊かな胸が、窮屈そうに自己主張している。
 スタイルも見事で背も高いし顔立ちも整ってるのに、表情や仕草を見ていると、妙にあど
けない感じがする、そんな不思議な、人形めいた美少女。
 アオザイの女性のたぶん妹なのだろう。顔立ちが似ている。
 ハーフなのか色素の薄い大きな瞳が、琥珀の色で輝いているのがとても印象的だった。

79 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々A-3(おまけ) 2/4
「ね、ね、お姉ちゃん──ねえってば」
 ほっぺたをプニプニと突っつかれる感覚に、やっと我に返る。
「うん、ごめん。久美。何?」
「お姉ちゃん、ぼけっとしすぎ。……あれ、ひょっとして瀬野悠里って人?」
 瀬野悠里。
 言われてみればその通りだ。
 クラスメイトの瀬野君の、姉というモデルさん。
 以前クラスで話題になってからチェックし始めて、今ではすっかりファンになってた人。
 赤と黒、どっちか分からないけど、双子? のうち片方は悠里さんに違いなさそう。
「……そっか。そうだね。言われないと気付かないのは不覚だったけど」
「どうする? 声かけてサインもらっちゃう?」
「そんな、悪いよ」
 それにもし、これが何かの撮影中だったりしたら目も当てられないし。
 でも。あれ?
 その時のクラスでの会話を思い出す。ひょっとして、悠里さんとそっくりなもう1人は、
実は瀬野君の女装だったりするのだろうか。
 もう一度まじまじと2人を見直してみるけど、とてもそうは思えない。
 身体のラインから美貌まで、どこからどう見ても超美少女以外のなにものでもない。
「瀬野君?」
 少し勇気を出して、小声で呟いてみる。
 反応したのは、でも推定双子のどちらでもなくて、メンズチャイナの男の人だった。
「うん。僕は瀬野だけど……呼んだかな?」
 人の緊張を溶かすような柔らかな声。
「あっ、いいえ。そうじゃなくて。……そうじゃなくて、わたしのクラスメイトに似た人が
いたので」
 いつの間にか会話を止めて、わたしのほうを見ているご一行様。
 今すぐ消え去りたいような気分。
「あっ、ひょっとしてあなた、俊也のクラスのかた?」
 アオザイのお姉さんが手を叩いて、嬉しそうにそんなことを言う。
 瀬野俊也……うん、確かに瀬野君のフルネームはそうだったはず。
「はい、わたし瀬野君のクラスメイトで……柊朋美っていいます。こちらが妹の久美」
「なるほどね。俊也も来てれば良かったのに」
「そうよねー。……朋美さんごめんなさい、今日は俊也はいないの」
 赤と黒の美少女2人が、煙水晶のような瞳で見つめて、代わる代わるわたしに言ってくる。
 実は片方が女装した瀬野君というショックな状況じゃなかったと、内心ほっとしてみる。
「そういえばさっき、お姉さまの名前呼んでましたよね?」
 ピンクのチャイナドレスの女の子が、少し低めの甘い声で久美に聞いてくる。
 もっと高い声の持ち主だと思っていただけに少し意外だけど、でもいつまでも聞いていた
くなるような、一種癖になりそうな不思議な声色だった。

80 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々A-3(おまけ) 3/4
「お姉さま、って?」
「瀬野悠里」
 怪訝な顔で聞き返す妹に、女の子が笑いながらその名前を呼ぶ。
「あっ、聞こえてたんですか。ごめんなさい。お姉ちゃんがファンなもんなんで」
「ありがとー。一応、私が悠里です。どう? サインか何か書こっか。今、書くもの何も持っ
てきてないけど」
 黒いチャイナドレスの美少女が、笑顔でそんなことを聞いてくる。
 慌てて手帳とペンを差し出すと、わたしと妹の分のサインをさらさらと書いてくれる。
「あと私が瀬野愛里ね。悠里の双子の妹で、──聞いてるかどうか知らないけど、私たち、
俊也の実の姉です。……俊也の女装とか、そんなことはないのよ?」
「あうあうあう……ごめんなさい」
 顔から火が吹き出そうな気分。
「あの、皆さんどういう繋がりなんでしょう?」
 妹の物怖じしない性格が羨ましい。
「私と悠里が双子の姉妹。この子がアキちゃん。血は繋がってないけど、私たちの可愛い可
愛い大切な妹」
 その言葉に目を細め、くすぐったそうに幸せそうに微笑むピンクの少女──“アキちゃん”。
 確かに可愛い。可愛すぎだ。
「これが哲也パパ。私達の実の父親。そしてラスト、その再婚相手の純子ママって一家です」
 とすると、アキちゃんと純子さんは姉妹じゃなくて母娘なのか。少し意外。
「今日は珍しくみんなの休日があってね。中華街でゆっくりしようって来てみたんだけど」
「この前、たまたまチャイナ服を全員分手に入れる機会があってね。で、ついでだからそ
れをみんなで着てみよう、って話になって」
「わたし、何かのロケかと思いました。どこにカメラがあるの? って、探しちゃったし」
 色々話してる最中、ウェイトレスさんが瀬野君一家のところに料理を運んできた。
 久美はまだ話したそうにしてたけど、流石に悪いと自分達の昼食に戻ることにする。
「──朋美さん。俊也のことを今後ともよろしくお願いするね」
 それぞれの食事に戻る前、柔らかな声色で、目を細めて、そうわたしに言ってくるパパ氏。
「あっ! はいっ! こちらこそよろしくお願いしますっ!」
 思わず大声で返事して、店のお客さんの注目を浴びて赤面してみたりしたけれども。
 二人もくもくと食事を終えて、店を出たところで同時にため息をつく。
「あんな美形一家っているもんなんだねえ。お父さんもすっごいイケメンでファンになりそ。
お姉ちゃんのクラスメイトって人も、あんな感じなの?」
「瀬野君はパパさんじゃなくって、悠里さんそっくり……かな。多分お化粧すれば見分けつ
かないくらいだと思う。男の子にこの言葉使うのは変かもだけど、綺麗な人だよ……」
 今でも目を閉じるとありありと思い出せる、ジュエリーボックスの中の宝石のような一家。
 でもわたしの胸に一番印象に残ったのは、悠里さん達ではなく、アキちゃんの笑顔だった。
 まるで恋に落ちたかのように、いつまでもドキドキが続いていた。

81 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々A-3(おまけ) 4/4
        <<雅明視点>>
(──雅明、おつかれさま)
 着替えに使わせてもらった、例のチャイナドレスレンタルショップの更衣スペース。
 そこにどうにかこうにかたどり着いた俺の脳内に、面白がるような声が形作られる。
「せ……いっそ一思いにしてくれ……」傍から見てれば独り言の、そんな呟きを漏らす。
 いつかやられるんじゃないかと怖れていた、
『アキモードで可愛い女装したあと、雅明モードに意識を切り替えさせられる』羞恥プレイ。
 今日、こんな形でさせられるとは。
 ありえないくらい露出度の高い、ピンクのチャイナドレスを着て人の多い中華街を回る。
 俊也のクラスメイトだけならともかく、俺の知り合いに遭遇したときは心臓が止まるかと
思った。気付かれなかったようなのは助かったけど。
 今まで押し隠してきた羞恥心が一気にぶり返し、このまま自しようかとすら思えてくる。
(せめて、チャイナドレスから着替えたあとにしたほうがいいよ?)
 うるさい。
(でも、雅明喜んでたしなあ。本当はあたしが遊びたかったのに譲ってあげたんだからね?)
「……」
 無心にして、回答を与えないようにしてみる。
 所詮は同じ人物、互いの心は手に取るように分かってる。無意味な努力なんだけど。
 19歳の男なのに、可愛いチャイナドレスを着て、女の子のふりをして喜んでいる。
 認めてしまったら人生終わりな気がひしひしとした。
「アキちゃん、大丈夫?」
「ちょうどいいや……コルセットの紐緩めて……」
 カーテンをあけて、黒いチャイナドレスの姿のままの俊也が入ってきた。
「緩めるだけでいいの? 外したほうがよくない?」
 そんなことを言いながら紐を緩めてくれる。やっと呼吸が楽になる。
「まあ、この状態ならそんなに素と変わりないし、外すと持ち歩くのに邪魔だから」
「コルセットが苦しいのは私も思い知ってるから、きついときは遠慮なく言ってね」
 その言葉をありがたくもらいつつ、着替えを取り出す。これまたまっピンクなブラウスに、
白いミニのチュールスカートのセット。ため息をつきつつ袖を通し、鏡を見て自分を確認。
 うん、可愛い☆
(……って。おい、アキ。思考に割り込まないで)
(言いがかりだー。ぶーぶー。自分が可愛いと思ったのは雅明のくせにー)
 無心無心。
 化粧スペースでチークと口紅とグロスを付け直して、鏡の中の自分にウィンク。
 チャイナドレスよりは露出の低い衣装に、少し落ち着いた気分になる。
 ……なんだか順調に、俺の女装調教が進んでいる気がするのが怖かった。

82 :
わーい更新があった♪
Wiki作成で忙しくてこの週末(まあ1日過ぎてますけど、連休だから無問題)の
更新は無いかと思ってたので非常にうれしいです。
いや、アキちゃんが順調に染まっているようでなにより(爆

83 :
>>81
wikiの更新、そしてSS投下GJであります
そうか、自分ってこの鳥使ってたのか、と

84 :
>>69
ブライダルファッションショーのとき、下着丸出しで胸が出てしまうのが問題なら、
これでいいんでは?
ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm6542400
もしくはこっちか。
ttp://www7a.biglobe.ne.jp/~love-breast/index.html

85 :
ドキッ!男の子だらけのウェディングドレスショー
という電波を受信した
受信しただけだが

86 :
>>85
作文出来るように、少し詳しく書いて。
その書き方だと、
見学者が若年層の男
と言う意味に読める。

87 :
捕捉
若年層の男の人が
結婚相手の女の人に着せる
ウェディング・ドレス
の展示
と言う意味に受け取れる
と言うことですよ。
『男の子』ですから。

88 :
>>86-87
>>85じゃないんだけど、自分自身でこのスレ向けの補正をかけて読む事ってできない?
俺は>>85の書き込みで充分男の娘モデルで一杯のブライダルファッションショーと解釈できたけど。

89 :
いやむしろ、「男の娘」じゃなくてあえて「男の子」と表記することで、
「本当は女装なんてまっぴら、ウェディングドレスなんて着たくもない。それなのにウェディングドレスを着て、
自分が男だとばれないように振舞って、女の子として扱われなければいけない少年達によるドレスショー」
まで意図してると読み取ったが。

90 :
>>89
深読みし過ぎ
それもまた妄想力のなせる業か

91 :
妄想したっていいじゃない!
普段から女装している男の娘がウェディングドレス着るよりも、
普通の男の子が着る方がなんとなく背徳感があって萌える

92 :
妄想、深読み、などから短文、作文、SS、などを書いて欲しいです。
どうして、そう言う会場に誘拐されたのか
とか、
着たら、どういう風に代わったか
とか

93 :
2013年06月25日発売予定のわぁい表紙が、男の子がウェディング・ドレスを着ている絵ですよ。
わぁい!

94 :
男の娘だったりショタが女装するのは世間的にかなり受け入れられているけど
おじさんが女装する話になると特殊な腐女子向けジャンルに思えてくるのは気のせいか
よくカップリングで新郎新婦コスでおじさんキャラがウェディングドレス着てるの見かける

95 :
>>94
40過ぎのおじさんが好きで好きでたまらない16歳ぐらいの女の子(腐女子)が
結婚式で「腐女子の夢」をかなえるため
自分がタキシードを着ておじさんにウェディングドレスを着させて挙式
という電波がどこからともなく

96 :
青年でもショタでも、「似合わない女装」に萌える、ってのはBLだと結構あるよね。
下手すると、「似合う女装」に萌える人より多いんじゃないか。
女性向けの女装アンソロジー見て、男女の感性の違いに戸惑うところ。
リアルの文化祭の女装喫茶で、女子からは、洒落にならないくらい似合ってる人はスルーされて、
“微妙に似合う”レベルの人のほうがちやほやされる、って話があって納得してしまった記憶がある。
一般化していい話かどうかは知らないけど。

97 :
文化祭など?
女の子にとっては、素で女の子よりもかわいい男の子は敵でしょ?
いじれる位、オモチャに出来るくらい、明らかな無理やり女装の男の子のほうがよいですよ。

98 :
短編投下しますです

99 :
【その1】
「おい、晩飯はまだなのか?」
「うるさいわね! だったら手伝ってくれてもいいじゃない!」
今日も今日とて、高山家には健一と由希子の口げんかが響き渡る。
結婚してから早5年。
子供ができれば変わるのだろうが、ここ2年ぐらいはセックスレスでそのような兆候もあるはずない。
今でもお互い憎からず思っているのは確かなのだが、健一も由希子も積もったストレスが原因でついつい相手に文句を言ってしまう。
一度は別居も考えたのだが、心のどこかで「ちゃんと仲直りしたい」という思いも強く、
ここでもし別居してしまったら二度と修復できないのでは? という恐れから踏み切ることもできない。
今日も向かい合いながらお互い一言も発せず晩御飯のカルボナーラを食べ、
バラバラに寝るまでの時間をつぶし、そしておやすみの挨拶もせずにベッドへと入る。
こんな状況になっても寝室ではシングルベッドを2つくっつけているのは、
どちらにとっても、ここが「関係を繋ぐ最後の場所」という意識があるからだろうか。

100 :
【その2】
休日、もう昼といっても差し支えない時間に目覚めた健一は、
テーブルの上に一枚の置手紙があることに気がついた。
一瞬「まさか!」と思ったが、ただ単に「買い物に行ってくる」というメモだった。
ふうと一つ安堵の息を吐き、買い置きのバターロールをコーヒーで流し込む。
そして顔を洗い、電気髭剃りと安全カミソリの2つを使い、丁寧に髭を剃っていく。
続いて寝間着替わりのスウェットやTシャツからトランクスに至るまで、着ていたものをすべて脱ぎ捨てると、
寝室の隅にうずたかく積まれたクリーニング屋に出す前の洗濯物を漁りだした。
黒い膝丈までのベアトップタイプのドレス。
ドレスにあわせる白いボレロ。
先週、由希子が友人の結婚式に出席した時に着ていたものだ。
あまり几帳面とはいえない由希子らしく、ドレスにあわせるための高級下着や緻密なレース状の加工が施されたストッキングなど、
ドレス以外のこまごまとしたものも一緒に出てきた。
それらの収穫物をベッドの上にきちんと並べると、健一はにんまりと笑った。
健一は学生時代から女装が趣味だった。
どことなく線の細い健一は、学園祭の余興をきっかけにすっかり女装にハマっていた。
結婚前はワンピースやドレス、ロリィタ服から水着やバニースーツに至るまで
いろいろな衣装を持っていたのだが、結婚を機にすべて捨て去ってしまった。
しかし、ストレスがたまるとどうにも女装熱が昂って、時折女装サロンで女装を楽しんでいたのだ。
普段ならばそのように慎み深く楽しんでいたのだが、
先週、ドレスアップした由希子を見てどうにも止まらなくなってしまっていたのだ。
あのドレスを自分が着たら、どんなにステキに変身できるだろうか……
彼女が日常的に着ているもので女装するのは明らかにバレるだろうが、
あとはクリーニングに出すだけのものを身に着けたとしても少しの違和感程度でスルーされるだろう。
そういう考えもあり、この一週間、時々由希子と喧嘩しつつもこの日を待ちわびていた。

101 :
【その3】
まずはノンストラップのビスチェを身に着けていく。
男と女ではウェストの位置や骨格の関係でそのまま着るのは難しいと言われる女性用補正下着だが、
そこは昔取った杵柄、少々手間取ったもののなんとか体を通すことができた。
余った肉を強引に引き寄せ持ち上げ、ささやかながらバストを生み出すと、
背中のホックを止めて女性らしいラインを作り上げる。
そして揃いのショーツに脚を通し、その上からストッキングを履く。
まるでイタリア辺りから輸入した高級品のような緻密なデザインに傷がつかないよう、
慎重に丸めて、つま先の方から伸ばすように慎重に引き上げていく。
するりするりとストッキングが足を覆っていくたび伝わるなんとも言えない締めつけ感が、
いやが上でも健一の心を高ぶらせていく。
クローゼットを開け、大きな姿見で今現在の様子を映してみる健一。
首から上こそ男だが、その肢体はしなやかな曲線を描き、シルエットだけならば女性そのもの。
そのような美しい姿に生まれ変わったにもかかわらず、股間がしきりに男性を主張し、
それが逆に倒錯のエロティシズムを演出している。
逸る気持ちを抑えながら、ドレスに体を通す。
カップの部分をしっかり合わせ、後ろ手でゆっくりファスナーを上げていく。
ファスナーをしっかりと引き上げ、一番上についたホックも留める。
そして最後に残ったボレロを軽く羽織ればドレスアップ終了だ。
だが……どこか物足りない。
これだけでは、ただ「女物のドレスを着た変態男」どまりだ。
画竜点睛は欠きたくない。
そう思った健一は、由希子のドレッサーに腰かけるのだった。

102 :
【その4】
髪の毛がかからないように数か所ピンで留め、チューブを絞りクリームファンデーションを少量手に取る。
肌色に近いベース化粧品を手のひらでなでつけ、最後はパフで細かいところを調整する。
すると少しくすんでいた男っぽい皮膚が、ぱっと明かりがさしたように女性の肌へ変貌する。
続いて、ライナーでくどくならない程度にアイラインを引き、目元から受ける印象を女性のものへと作り変える。
ビューラーで根元からしっかりまつ毛を立ち上げ、アイラインと同じ色のマスカラを塗り重ねる。
いい感じにまつ毛がボリュームアップさせ、2、3回ほど瞬きをする健一は、
眼だけならばモデルにも負けないぐらい美人に仕上がったのを確認すると、満足そうに微笑んだ。
妻と暮らしている以上眉毛を女性的にいじれないのは残念でならないが、
今日は諦めるしかないと割り切り、口紅を手に取る。
直接口紅につけてもいいのだけれども、由希子が使っているように筆を使って唇を描き出していく。
本来よりもわずかに小さく描かれた桜色のリップをグロスで仕上げると、
ぷるんとしたなんともかわいらしい唇が生まれ、
自分のものであるはずなのに健一は思わずキスしたくなる衝動に駆られるほどだった。
「ウィッグがあればなぁ……」
このドレスには、由希子のようにゆるやかに巻いたロングヘアのほうが似合うのだが、
ここは諦めるしかない。
短めの髪の毛はいじりようがないため、ワックスで分け目を消してベリーショートの女性風になんとかセットする。
これで全身コーディネート完成と、ドレスアップした姿を鏡に映して悦に浸る健一。
傍から見るとベリーショートのキュートな女性がポーズをつけているようにしか見えないが、
女性にはありえない器官がドレスの下から自己主張しているのがわずかながら見て取れる。

103 :
【その5】
数分間ポーズをつけてうっとりしていた健一だったが、
ずっと感じていた「物足りなさ」の原因に思い至り、慌てて玄関のほうへ走り出す。
全身コーディネートしているのにも関わらず、足元を飾るヒールがないことに気がついたのだ。
男にしては小さい足のサイズは、こういうとき便利だ。
そう思いながら玄関へ行くと、ふと外から聞きなれた自動車の音が響いてくる。
出かけたはずの由希子が乗る軽自動車のエンジン音だ。
買い物に出かけたら夕方まで帰らないはずの由希子が、すぐそばまで来ている。
この姿を見られたらどうしよう!
そう思った瞬間、健一は玄関にある自分の靴を抱え上げると、
寝室とつながったウォーキングクローゼットへとその身を隠すのだった。

104 :
【その6】
「もう、財布忘れちゃうなんてどうかしてるわ。
 ……あら、アレは出かけてるのかしら?」
玄関に健一の靴がないことに気がついた由希子は、にんまりと笑い寝室の方へ小走りに駆けて行った。
寝室へとやってきた由希子は身に着けているものを乱雑に脱ぎ捨てたあと、
また寝室から出て行った。
しばらくしてタオルで顔を拭いながら、手にしていた布きれをベッドの上に乱雑に放り投げた。
洗濯したてのランニングシャツとアイロンがよくかかったワイシャツがばさりとベッドの上に広がるのも気にせずに、
由希子は手に残ったビニール袋を破り捨て、中から出てきたトランクスに迷わず履くと、
ランニングシャツやワイシャツに袖を通していく。
そして壁にかかった健一のスーツのうち1着を手に取ると、これまた慣れた様子で身に着けていく。
するすると自らの首にネクタイを巻きつけ、
続いてゆるやかなウェーブがかかったロングヘアに健一のヘアワックスを撫でつけてオールバックにすると、
前髪以外をすべてまとめてゴムで縛りあげた。
「うん、やっぱり『俺』はカッコいいな!」
あれよあれよという間に健一の服をまとった由希子は、まるでどこかのお笑い芸人のように胸を張ると、
普段の女性らしい表情とは違う男らしい笑顔を浮かべていた。
「やっぱり、無理言ってアイツにこのスーツ買わせて正解だったな」
半年前、量販店で既製品のスーツを買う際どちらにするか悩んでいた健一の背中を押し、
このスーツを買うように強く推した理由は、由希子自身が着てみたいという願望からだった。
そう、健一も知らなかったが、由希子には男装趣味があったのだ。
自ら「理想の男性」になりきり、スラックスの上から自らを慰める由希子。
その様子をウォーキングクローゼットの扉の隙間から眺めるしかない健一。
ふと由希子の手が止まり、ゆっくりウォーキングクローゼットのほうへと歩き始めた。
「やっぱりこのスーツにこのネクタイは合わないな」
アイツはセンスが悪いからな……などとつぶやきながらウォーキングクローゼットの扉を開ける由希子。
「や、やあ……」
扉が開いた瞬間、健一は何ともばつの悪い笑顔を浮かべるしか方法がなかった。

105 :
【その7】
「おーい、晩御飯はまだー」
リビングでバラエティ番組を見ながら、ベストにポロシャツ、スラックスといった姿でくつろぐ夫が、
腹ペコのあまりキッチンに向けて声をかける。
「ごめんね、もう少しで出来るから。
 あ、ちょっとお皿出してもらえる?」
ゆったりとしたデニムのワンピースに桜色のエプロンをつけた妻が、甘い声で返事する。
仕方ないな……とつぶやきながら、夫は手際よく食卓に皿を並べていく。
あれから健一と由希子はすっかり仲直りし、いまでは新婚当時のようなラブラブの夫婦へと生まれ変わった。
ただ一つ違うところと言えば……
「ねえ健ちゃん、お皿はこれでいい?」
「うん、バッチリ。ありがと由希くん」
お互いの男装姿、女装姿に燃え上がって濃厚なセックスをかわした2人は、
家の中では健一が女装して、由希子は男装して過ごすことになったのだ。
その日からまったく喧嘩せず、お互いを思いやるように暮らせるようになり、
そしてストレスも溜めずに過ごせるようになった。
もちろん夜の生活でも……。
「えっとね、実は今日バニースーツ買っちゃったんだ……」
恥ずかしそうに上目使いで由希子を見る健一。
「じゃあ今夜は寝かせないぞ」
バニースーツ姿で誘惑する健一の姿を想像しながら、由希子は健一お手製のスタミナ料理を舌鼓を打つのだった。

106 :
おしまい
某所で「妻のいない間にドレスで女装を楽しんでいたら・・・・・・」という
ショートムービーを見かけ、勢いで書いてしまいましたとさ
途中でIDかわるのは再接続したからです
申し訳ない

107 :
GJ!

108 :
似た者夫婦ですね
どういう馴れ初めなんだろう?
御子様を授かるまでお楽しみ下さいませ。

109 :
 同じ日に被ってしまって申し訳ないのですが、本日分の投下になります。
※なおこの話はフィクションです。実在の人物、会社、芸能事務所、お祭りとは無関係ですのでご了承ください。ということで。
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々B 1/13
「やっと巡りあえたね! 我が愛しき運命の人よ!!」
 眺めているフリをしていたスマホから目を上げると、そこにデンパナンパ男がいた。
「ね。あなたひょっとして、会う人会う人全員に『運命の人』って声をかけて回ってるの?」
 前から少し疑問だったことを聞いてみる。
 最初に会ったとき、俺は甘ロリでギャル系メイクで茶髪のカツラをつけた姿だった。
 2回目は確か、森ガールでナチュラル系メイクで地毛だったはず。
 3回目になる今は、赤のチェック柄ワンピースに黒のテーラードジャケットを合わせて、
OL風のメイクに黒髪ストレートのカツラをつけた、“大人カワイイ”を目指した格好。
 よほどの知り合いじゃなければ、まず別人と認識しそうな取り合わせだと思うのに。
「君と会うのも3回目だけど、やっと普通に返事してくれたね。なんだかすごく嬉しいよ。
 ……けど何のこと? オレは君以外、他の誰にも声をかけたことなんてないのにさ」
 やや怪訝そうな顔で、平然そう聞き返してくる。
 意外に鋭い男だった。どうせならその鋭さを、俺が男と見抜くのに使って欲しかったけど。
 少なくとも他のナンパ男が寄って来るのは防げるだろうし、悠里たちと合流する少しの間、
つきあってみることにするか。そんな気まぐれを起こしてみたりする。
「そうそう。今度会ったら君に渡したいって、プレゼントを用意してきたんだ」
 そう言って、上着のポケットから小箱を取り出す。前回までは男物の服なんて興味がなかっ
たから気付かなかったけど、仕立てのいい、多分ブランド品のジャケットだ。……って。
「ごめんなさい。あたし、あなたからプレゼントもらう気はないんです」
 何か嫌な予感がして両手を振って押し返す。
 意外にあっさり引っ込めてくれて、ほっとしてみたり。
 彼との会話は意外に楽しかった。思い込みが激しいのが難だけど、ユーモアがあって話題
豊富で、白いスーツ姿の悠里(?)の姿が見えて別れるのが少し残念になるくらい。
「じゃあ、待ち合わせの人が来たから、あたしはこれで」
「……やっぱり、オレの恋人になってもらうのは無理なのかな?」
「うん、何があっても100%無理。それは断言するから希望は絶対に持たないで──バイバイ」
 期待を持たせたら可哀そうだしと、冷たく言って悠里(?)に向かって足早に歩く。
「おつかれさま……えっと、悠里?」
「アキちゃんもお疲れ様。一応、私は愛里ね」
 前々から所属する芸能事務所を探していた悠里。瞳さんの事務所の話をした翌日に見学に
行って、その場で契約をしてきた。相変わらず即断即決な行動力が、俺には眩しい。
 その数日後に、俊也も同じ事務所に契約。
 ただ彼の場合バイト類が禁止な校則があるので、高校生の間は『瀬野愛里という名前の、
瀬野悠里の双子の妹』という名義で活動することになってるのだそう。
 色んな意味で、よく許してもらえたものだと思うが。
 そして俺はというと……未だに迷ったまま保留状態。
 この姉弟と違って、やるともやらないとも決められないままだ。

110 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々B 2/13
「さっきの誰? 知り合い? 随分と楽しそうだったけど」
「名前も知らないナンパ男なんだけどね。時間つぶしで付き合ってみたの」
 今日は悠里のお願いもあって、悠里の雑誌で読者モデルをやってきた帰り。
 仕事中は『アキモード』だったから余り気にもならなかったけど、顔見知りのスタッフが
大勢いる中で女の子のフリをして撮影するのは、思い出すと恥ずかしい経験すぎた。
 その後帰りの電車で色々あって『雅明モード』に戻って、今はすっかり女装男状態だ。
 相変わらずやたらと人目を引くらしい、俺と俊也の女装姿。
 アキのときは快感な道行く人の視線も、今はただただ、恥ずかしい。
 もっとも、今一番注目を集めているのは、愛里(=俊也)の白いタイトなミニスカートか
ら伸びた長い生脚っぽいけど。
 俺自身、相手が男と分かっていても、悠里そっくりの美脚につい目が行ってしまうのを止
められないのが悲しい。
「うん? 私の足になにか付いてる?」
 悠里を待つ会話の途中、俺の視線に気付いたのか、俊也が面白そうな顔で聞いてくる。
「いや、そのスカート似合ってるなぁ、って。あたし絶対着れないし」
 そんな流れでファッションについて話してる最中、「おまたせー」と悠里がやってきた。
 “愛里”と対になる、黒のスーツの上下。俺の着ている黒いレディスのジャケットが、悠
里とペアルックっぽい……って、喜んでしまってよいものかどうか謎だけど。
 今日の目的地は、隣の市で毎年やってる祭りの説明会。
 その祭り出し物の一つである花魁役を、悠里と俊也と、あと同じ事務所のもう1人の3人
でやるのだとか。
 部外者のはずの俺がなぜ同行させられてるか不明だけど、悠里のお願いは断れない。
「ところでアキちゃん、そのポッケの中身何?」
 スカートを翻しつつ3人で会場に向かう途中、悠里がそんなことを聞いてきた。
 見ると俺の上着のポケットが妙に膨らんでいる。何か入れた記憶もないのに。
 探ってみると、まず小さな紙切れが2枚出てくる。
 1枚目は『株式会社△△△△ 代表取締役 桧垣晃司』という名刺。
 2枚目は『運命の君よ! 個人携帯は0xx-xxxx-xxxxいつでもかけてきてくれ』他いくつ
かメッセージが書かれたピンク色の名刺大のカード。
「げっ。デンパナンパ男かぁ。プレゼントは断ったはずなのに、いつの間に入れたのかな」
「それ、合流の前一緒にいた人? 若いイケメンに見えたけど、見かけによらないもんだね」
 残りの小箱をポケットから取り出し、蓋を開く。
「うわぁ……婚約指輪! どうするこれ。多分すごく高いよ。社長夫人目指してみる?」
 中身を見て、思わず、と言った感じで賛嘆の声を漏らす悠里。
「ご丁寧に宛先教えてくれたんだから、こんなのはもちろん送り返すけど……」
 でも──そうか。婚約指輪か……

111 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々B 3/13
 えっと、ここまでがだいたい半月くらい前の話。
 ここからの今日のイベント当日については、あたし、アキがお伝えします、ということで。
「よろしくお願いします」
 これからお世話になるメイクさん──確か「顔師」って呼んでと言われたっけ──にちょ
こんとお辞儀して、指示されたとおりに腰掛ける。
 お姉さま達はどこなのかな、と、居場所を探して、少しきょろきょろ。
「ごめんね。ちょっと、じっとしてもらえないかな」
 顔師さんが苦笑しながら言ってくる。いけない、これじゃあたし悪い子だ。
「ごめんなさい……じっとしてますね」
 幸い、じっとしているのは得意なほうだ。瞼を閉じて動かないことに専念してみる。
「うん、ありがとう。じゃあ私からも宜しくお願いするわね」
 目を瞑っているから詳しく分からないけど、まずは顔全体にぬめぬめした液体……オイル
なのかな? が塗られていく。
 そのあと、あたしの眉と瞼に、指先で丹念に化粧が塗り込められる。
 あたしがモデルになるのを散々渋っていた雅明がついに折れて、お姉さま達と一緒の事務
所に入るのを許してくれたのが、例の説明会からの帰り道のこと。
 それから話がとんとん拍子に進み、“事務所のもう1人”と入れ替わりで、『瀬野三姉妹』
でこの祭りの華である、花魁道中の花魁役をすることになったのだ。
 あたしが事務所に入って仕事はいくつかあったけど、お姉さま達と一緒の仕事はこれが初。
 耳を澄ませば、顔師さん達と楽しそうに会話しているお姉さま達の声が耳に届く。
 それだけでもう、心が躍るのを止められない。
 顔全体を撫で回すハケの感触。たぶん水白粉であたしの顔が白く塗られているのだろう。
 冷やりとする感覚に首がすくみそうになるけど、がまん、がまん。
 タンクトップを着た胸元から背中、首、顎から耳の中まで、ハケが走る。
 そんな中じっとするのを保つのは、さすがのあたしでも大変だったけど。
「そっちはどう? どんな感じ?」
「すごいよー、この子。さっきからピクリとも動いてないの。本当にお人形みたい」
 あたし担当の顔師さんと、誰か知らない声が会話してる。
 パフで水白粉を馴染ませ、もう一度水白粉をハケで塗られ、更に再度パフを当てられる。
 いつまで続くかと思ったら、ようやく目のあたりの化粧に入る。
 小さな筆とかも使って、丁寧に丁寧に。
 眉を引き、頬と口とに紅をさす。
 “化粧”というのは、いつだって感動的な体験だ。
 今までの自分とは違う、別の自分に出会う。
 でもそれは確かに自分であって。今まで気付かなかった、見落としていただけの自分自身
の新しい側面で。愛しい自分の領域が増える、広がる。
 ──昔々、『雅明』が出会った、『アキ』という少女のように。

112 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々B 4/13
「次は、足に白粉塗るから足を前に出してね──ありがとう。本当に白くて綺麗な足ねえ。
これだと白粉なんか塗らなくてもいいかも」
 そんなことを言いながら、でもハケを走らせてあたしの足に白粉を塗っていく顔師さん。
 初めての経験に少しびっくりしたけど、足を見せて歩くのでこんな化粧が必須なのだそう。
 それが終わったら、今度は腕にも、指先にも。
 化粧が終わり立ち上がって振り向くと、お姉さま達は眉を描いているくらいだった。
 あたしと違って、顔師さん達とすっごく楽しそうに会話しながら進んでいく。
 いらない緊張とは無縁な、リラックスした世界。見習わないと。
 あたしの担当が、顔師さんから着付師さんにバトンタッチする。
 タンクトップとホットパンツの上から、どんどんと布の山を重ねられていく。
 赤い襦袢と、目にも鮮やかな花柄の着物。完成形だとほとんど見えないはずだけど、こん
なところから気を使っているものなのかと感心しちゃう。
 すごく幅広の帯をぐるぐると巻かれて、前帯を取り付ける。金色の糸で細かな刺繍がして
あって、とっても綺麗。この上から更に、これまた煌びやかな着物を羽織る。
 ずれないように針と糸で縫い付けたりして、脱ぐのも大変そうだけど。
 日本髪に高く結われた、豪奢なかんざしが一杯ついたかつらを被る。
 これで一応の完成形だ。
(これから更に下駄つけて、総重量30kg以上になるんだっけ。洒落になってないよなあ)
 あら、雅明いたんだ。
(まあいつでも居るけどさ。これ、俺ならもうギブアップしてるわ)
 思ってたより重さも感じないし、動きやすいと思うけどな。雅明って、忍耐力なさすぎ。
 鏡の中を覗き見ると、豪華絢爛な衣装を身に纏った花魁さんが見返してくる。
 ──これが、今日初めて出会う、『新しい自分』。
 “可愛い”って感じではなくて、すっごく“色っぽい”感じに仕上がっているのが自分で
も不思議だった。“妖艶な花魁さん”として、今、ここにいるあたし。
「これだけ綺麗な花魁さんって初めて見る」「こうしてると、本当に京人形みたい」「いや、
すごく色っぽいねえ。見ててぞくぞくする」「『傾国』『傾城』って、本当にそんな感じ」
 笑顔を作ってみたり、流し目をしてみたり。
 そのたびにどよめきに似た声があがるのが楽しい。
 そうこうするうちに、お姉さま達も完成したみたい。
「うわぁっ、アキちゃんすっごく綺麗!」
「お姉さま達も、とっても綺麗ですよぉ」
 あたしと同じく、花魁衣装に身を包んだ二人のお姉さま達がそこにいる。
 お姉さまも、愛里お姉さまも本当に綺麗──というか少し意外だけど、あたしとは逆に、と
ても“可愛い”感じで仕上がってる。
 顔の小ささで目の大きさが引き立って、そんな印象がする。笑顔になると、もっと可愛い。
 頭の髷の大きさとの対比が、喉仏のない、すっきり伸びた首の細さと長さを際立たせる。

113 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々B 5/13
 これだけの化粧だ。元の顔がどうこうなんて関係ないんじゃ? と思ってたのが恥ずかしい。
 いざ自分達でしてみると、骨格の形の良さとかが丸分かりで、美人かそうでないかがありあ
りと良く分かる。
 そして今あたしは、お姉さま達の姿にすっかり魅了されていた。
(でも、花魁の格好でここにいる3人のうち、2人は男なんだよなあ……)
 雅明、そんなどうでも良いことは、気にしなくていいから。
 それから暫く待機の時間が流れて、あたしたちの出番がやってきた。
 お姉さま達から少し間をあけて、あたしを含むご一行がいざ出陣。
 一応練習を重ねたとはいえ、花魁衣装を着てするのは初めての、外八文字とかいう歩き方。
 気はせくけれども、ゆっくりとゆっくりと歩みを重ねていく。
 今のあたしは花魁さん。
 皆をあたしの魅力で魅了してしまえるように笑顔を作る──いや、心からの笑みを皆に送る。
「おおぉぉ──────っ!」「きっれ──────っ!!」「すてき──────っ!!」
 途端に鳴り響く、歓声とシャッター音。それがとても気持ちいい。
 天気予報にはやきもきさせられたけど、今日は見事に晴れていい天気。
 その太陽の下、歩いているうちに段々とコツも掴めてきた。
 最初は歩くだけでいっぱいいっぱいだったけど、細かい声とかも拾えるようになってくる。
「いや今年すっごくレベル高いねえ」「プロのモデルさんなのかな?」「笑顔がとっても素敵」
「花魁ってさ、一晩寝るのに何百万ってかかったんだって。でもこれなら納得しちゃう」
「さっきの2人も良かったけど、この子は雰囲気あるよね。見ててぞくぞくする」
 煌びやかな衣装を纏って、皆の注目を浴びて賞賛を受ける。本当に癖になりそうな快感。
「アキちゃーん!」
 途中、聞き覚えのある声がした。目を向けると、ママがぶんぶんと片手を振っている。
 そのママと手を繋いで隣に立ち、あたしに優しい視線で頷きかけてくれるパパ。
 片方は血は繋がってないけれども、でも最高のあたしの両親。
 何故か涙が出そうになるのをぐっと押さえて、笑顔であたしの感謝を伝える。
 年甲斐もなく、ぴょんぴょんと飛び跳ねて喜んでくれるママ。
 口許にどうしても、今までとは違う笑みがあふれてくるのを止められなかった。

「──3人とも、お疲れ様でした」
 道中を無事終えて、取材攻勢とかも乗り越えて、瞳さんと一緒に電車で帰る。
「まあ、今日は確かにほんっとーに疲れたわ」
 お姉さまの言葉に、無言でコクコク頷く愛里お姉さま。
「でもみんな、凄い評判良かったわよ。会長さんからも、来年もお願いしたい、って」
「じゃあ、もっと上手く歩けるよう、今からでも練習しなくちゃですね」
「アキちゃん、元気でいいなあ」
(……同感)
 頭の中で、雅明がぼそりと呟いた。

114 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々B 6/13
 途中事務所に立ち寄ってそこで瞳さんと別れ、家へと帰還。
 今日これからエッチできないかって言ったら、「体力的に無理!」「明日学校あるしねえ」
と全力で拒否されたのが悲しい。
 でも、お姉さまが何か思いついたようで、にこにこしてたのは期待が持てた……かも?
「やっぱりアキちゃんが一番目立ってたかー」
 ようやく寛げる家の中、県のローカルニュースの録画を繰り返し見ながら、いつもより豪
華な食事を皆で取る。こんな感じの、一家5人の家での団欒は久々かも。
「お姉さま達のほうが、ずっとずっと綺麗だったと思うんですけど……」
 祭りの中の1イベントということで、花魁道中のニュースでの扱いはそんなに長くない。
 画面に映るのは愛里お姉さまが少しと、あたしが大半だった。
「いやでも、この扱いは私でも納得いくな。アキちゃん、なんというか華とか色気が全然違
うもの♪ 今日はアキちゃんがいてくれて、本当に良かった」
「そういえば、あたしをあの説明会に誘ったのって、最初から狙ってたんですか?」
「まあ、そうなればいいなあ程度、かな? 最初入る予定だった事務所の先輩、わりと嫌がっ
てたしね。『アキちゃんにお礼言っといて』、って言われてたっけ」
「あたしも、あんな体験できるなんて夢のようで、替わってくれた先輩にお礼しなきゃです」
 食後は美容体操とかマッサージとか交えつつ、最近なかったゆっくりした時間が流れて。
「そろそろお風呂入ろっか。……今日は、アキちゃんと愛里も一緒に入ろ」
        <<純子視点>>
「雅明くんの女装は最初から気にしてないけど、“アキちゃん”には慣れそうにないなあ」
 3人一緒にお風呂に入るのを見送って、哲也さんがしみじみと呟いた。
「わたしだって、最初はかなり悩んだんだからね。……でも受け入れてあげないと、って」
 最初の夫が失踪して、後始末で大変なところに残された息子が女装して『アキ』と名乗り
始めて。
 睦さんとも最初大喧嘩したし、どの方法で心中するか真剣に悩んだ時期もあった。
 でも結局、わたしの心を解いてくれたのは、“アキちゃん”の無垢な愛らしさだった。
「アキちゃんいい子だしね。雅明なんて絶対家事手伝わないけど、さっきも何も言わなくて
も食事の片付け手伝ってくれたし」
「いやいや、雅明くんだって十分いい子だと思うよ?」
「わたしは“愛里ちゃん”に慣れられないかな。俊也が時々悠里ちゃんのふりをしてたって
のも、このあいだ聞いてびっくりしたし。……あなた、知ってたの?」
「そりゃあね。子どもの見分けもつかない親はいないさ。……まあお互い、段々と慣れてい
けばいいのかな。よそからみれば、すごく変な一家なんだろうけど」
「よそから見たなら、美人3姉妹でいいじゃないの」
「人に聞いたら、美人4姉妹に見えるみたいだけどね。純子が長女で、僕だけオヤジ」
『あんっ……』
 そこまで話したとき、風呂場からやたら色っぽい声が届いてきた。2人で顔を見合わせる。

115 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々B 7/13
「あの子達、水道管通してご近所さんに声が丸聞こえって、忘れてなきゃいいんだけど」
「一応、そこらへんは気は使ってるみたいだね。……うん、僕らもしちゃおう」
「え? ……ええっ?」
 いきなりわたしを軽々とお姫様抱っこで抱えあげて、ソファにそのまま座ってフレンチキ
スをしてくる哲也さん。
 今でもわたしも『女』ということか。年甲斐もないトキメキが胸の中に訪れる。
 散々ためらったけど、再婚してよかったなと改めて思う。
 これまでも色々あったけど、これから色々大変そうだけど。
 でもよろしくおねがいします。哲也さん。
        <<アキ視点>>
 1人で入るならゆっくりできる、2人だと狭い我が家のお風呂。
 そこに3人で入るのだ。はっきり言ってぎゅうぎゅう詰め状態。
 愛里お姉さまが最初に湯船に浸かり、あたしはお姉さまに身体を洗ってもらってる。
「本当、綺麗なお肌。私も頑張ってきたけど、もう抜かれちゃったかなあ」
「まだまだだと思いますよぅ。少なくともあたしは、お姉さまの肌のほうがずっと好き」
「まあ、アキちゃん。ありがと♪」
 そんなことを言って、背中からぎゅっと抱きついてくる。
 むにゅっと押し当てられる、二つのすべすべして柔らかで温かな感触と、その先端の感触。
「私はアキちゃんの肌のほうがずうっと好きだけどね。このピンク色した乳首もだぁい好き」
 そう言っていきなり、あたしの小さな乳首を、指先でいじり始める。
「あんっ……」
 思わずそんな声が、自分の唇から零れるのを止められない。
「感度もいいし、反応も可愛いし、本当最高。……でもね、アキちゃん。うちのお風呂、他
の部屋のお風呂に音が筒抜けって、忘れちゃ駄目よ?」
「もぅ、お姉さまの意地悪ぅ……」
「うん、そう。私って意地悪な女なんだ。……アキちゃん、そんな私は嫌い?」
「お姉さまって、ほんと意地悪。聞かなくてもわかってるくせにぃ」
「それでもちゃんと、アキちゃんの口から聞きたいな」
「……アキはお姉さまが大好きです。意地悪なとこまで含めて好きで好きでしょうがないの」
「うんうん。相思相愛で良い事だ♪ アキちゃん、こっち向いて」
 言いつけどおりに振り向くと、唇を重ねてくれる。
 柔らかくて気持ちのいい、心やすらぐなお姉さまの唇。大好きな唇。
 今はあっさりと離して、ピンクの舌でぺろりと自らの唇を舐めるところまでを眺める。
「うん、アキちゃんの唇、すっごく美味しい♪」
「本当、甘くて美味しいよねえ♪ ……アキちゃん、あとで私にも分けてちょうだいね?」
 この2人に褒められると、頑張ってきた甲斐があったとニンマリしちゃう。

116 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々B 8/13
 細い指先で優しくマッサージするように、頭を洗ってくれる。
 一番最初にも髪の手入れの仕方は教えてもらってはいたけど、色々自分でも調べたあとだ
と一つ一つの手順の意味が良く分かる。
 きちんとあたしの髪の状態にも合わせてくれて。勉強になると改めて感心しちゃう。
「アキちゃんの髪、伸びてきたわねえ。細くて柔らかいし、これからが本当楽しみ♪」
「お姉さまももう髪を伸ばしてもいいんじゃないですか? まだ入れ替わりは続けます?」
「私宛に男役のオファーも結構きてるし、それにまだまだ入れ替わりは続けたいかな。雅明
は未だに見分け付かないんでしょ?」
「付かないですねぇ。2人ともこんなに違うのに、一体どこを見てるのか不思議なくらい」
「それをアキちゃんが言うのも面白いよね♪」
 そんな言葉に笑いあいながら髪の手入れを終えて、綺麗に泡も流し終えて。
「じゃあ、アキちゃん立ち上がってこっち向いて」
 というお姉さまの声に従って、狭いお風呂場の中お姉さまと向かい合う。
 指先でそっと、あたしの身体をなぞるお姉さま。声をあげないようにするのに一苦労。
「うん。おへそも縦長だし、くびれもいい感じだし、本当きれいなライン」
「目標まで、あと一息ってとこです」
「その目標は楽しみだよね♪」
「目標? それは初耳かも。愛里、私に隠し事はなしよ?」
「アキちゃん私達のスカートを穿きたいんだって。余程きつくなきゃ、もう入るんだけどね」
「上はどうしても無理だけど、下はあと2cmでぴったり一緒になる……はずなのです」
「そうすると、アキちゃんのスカートを私も穿けるようになるのかー。服のバリエーション
も増えるし、確かにそれいいわね♪」
「でも前はウェストニッパーが必要なくなるのが目標って言ってたし、次はコルセットが必
要なくなるようにとか言い出さないかちょっと心配」
「あのコルセット、フルクローズで56cmだっけ? 確かにそこまで行くとバランス悪いわね。
うん、アキちゃん、私達と同じサイズってのを最終目標にしてね」
 次はあたしが浴槽に浸かり、お姉さまの身体を愛里お姉さまが洗う。
 貧乳と美乳という差はあるけど、その姿は仲の良い双子の姉妹そのもので、眺めていて本
当うっとりしちゃう。
 入浴剤の、ジャスミンの香りに包まれながらそんな様子を鑑賞する。天国みたいな気分。
(『……という設定』が増えすぎて、何が本当やら頭がこんがらがってきた)
 雅明は、余計なこと考えすぎ。
 そんなのだから、お姉さま達の見分けも付かないんだ。
(どうせお前と義父とあと何人かしか区別つかないんだから、それが普通でいいじゃないか)
 そんな対話を脳内で繰り広げてるうちに洗うのも終わり、さっきのあたし達と同じように、
まるで鏡がそこにあるかのように、お姉さま達が向かい合って立つ。
 そのまま互いに、身体のラインをなぞって確認する2人。
 それはなんだかとても神秘的なくらい綺麗で、どきどきする光景だった。

117 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々B 9/13
「お姉さま達が2人でシャワー浴びてるときって、こんなことしてたんですね」
「うん。互いの身体のラインが違ってないか、時々チェックしないとずれてきちゃうから」
「ほっておくと、愛里はすぐ痩せすぎちゃうしね」
「次は、あたしが愛里お姉さまの身体を洗う番ですよね?」
「ちょっと待って。……手順ミスったかな。愛里、アキちゃん、向かい合って立って」
 お姉さまとあたしの場所を交代し、言われたとおりに狭い風呂場の中向かい合う。
「うんうん、じゃあ私の言うとおりに続けてね。……そのまま身体を密着させて抱き合って」
 至近距離に、愛里お姉さまの綺麗な顔が見える。
 洗う直前の身体から漂う、なんだかドキドキする匂い。小さな頭、長い睫毛、滑らかな肌。
しっとりとした肌の感触。愛里お姉さまの心臓の鼓動。
 強く抱きしめたら壊れそうなくらい細いその身体を、両腕でそっと抱きしめる。あたしの
体とは違って柔らかで、触れる指先が沈んでいくような感触が心地いい。
「愛里、さっきアキちゃんとキスしたいって言ってたよね。ここで思う存分してちょうだい」
 少し戸惑ったけれども、その言葉に従って唇を重ねる。
「腰をもっと近づけて、脚を絡ませちゃう感じで」
 風呂に入る直前に、リムーバーでタックを解除していた2人の股間。それがぴったりとくっ
つく。にゅるにゅるした液体が混じりあう、腰がくだけそうなくらい気持ちの良い感触。
「天国のママ、見てますか? 肌もスタイルも顔も、全部が完璧な美少女2人の兜あわせ。
 ……私、生きててよかったぁ」
 お姉さまの、すごく陶然とした声が耳に届いてくる。
 お姉さまが嬉しいなら、あたしも嬉しい。
 愛里お姉さまが微かに首を上に向けて、あたしが微かに下を向いて。
 互いに唾液を交換しあう、そんな優しいキスに時間を忘れる。
「じゃあキスはそのくらいで……ここで1回ずつ互いに抜いてね」
 うん、それなら得意だ。しゃがみこんで、愛里お姉さまの愛らしい器官を口に含む。
「いつ見ても、アキちゃんフェラうまいなあ。……でも今日はあんまりじらすのはやめてね。
あとできればお口じゃなくて、精液を全身に浴びてるアキちゃんが見てみたいな」
 いつになく、注文の多いお姉さま。
 でも、アキの名前にかけて、お姉さまの愛情にかけて、その全部をこなしてあげるんだ。
「……っ!!」
 口を引き絞り、なんとか声をもらすまいとする愛里お姉さま。
 登りつめる瞬間に唇を離し、それでも根元を握る手は緩めずに。
 顔に、胸に、肩に、おなかに、太腿に、腕に、飛び散る熱い液体を受け止めていく。相変
わらずの量と濃厚さの愛里お姉さまの液体。特に顔はパックでもしたかのような状態だ。
 演技でなく、その感触の心地よさを心から愉しむ。
「……ごめん私も今イきかけた。なんてセクシーなの。アキちゃん最高。大好き。愛してる」
 お姉さまが喜んでくれるなら、あたしも喜ぶ。

118 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々B 10/13
 今度は愛里お姉さまが、あたしのクリちゃんを口に含んでくれる。
 お姉さまの擬似肉棒だけで練習したからだろう。思い返すと愛里お姉さまには、見当違い
の箇所を一生懸命刺激しようとする、変な癖がちょこっとあった。
 でも今は、きちんとあたしのツボとかも把握して、的確に刺激してくれる。
 あたしが愛里お姉さまに対してやったテクも、すごく上手にマスターして、そのままあた
しの身体にプレゼントしてくれてる。あたしの考えたことのない工夫まで入れて。
 今度の機会にお返ししてあげたいと思う。
 人を愛することはあった。人に愛されることはあった。
 でも、愛し愛され、互いに高めあう。この関係のなんと稀有なことか。
 すごく陶然とした、ふわふわした感覚につつまれたまま、さっきの愛里お姉さまと同様に、
その全身に白いはしたない液体を振りまいた。

「あなた達、随分と長くかかったのね」
 随分とツヤツヤした顔で、パパとママが風呂上りのあたし達を迎えてくれた。
 あたし達も、同じくらいツヤツヤした顔。ツヤツヤ一家で良い事だ。思わず笑みが零れる。
 パパとママも、なんだか2人で一緒にお風呂場に向かってるし。
「私達がなにやってたか、パパとママには匂いで気付かれちゃうかなあ……」
「匂いがなくても、バレバレだと思うな」
 キャミ姿の3人でお肌の手入れをしながら、お姉さまのそんな言葉に笑いあう。
 顔に同じようにピールオフタイプのパックを塗って。唇にはちみつでパックもしたりして。
 お姉さま達とあたしとでは肌のタイプが違うから、それぞれ別の化粧水を手足に塗る。
 あたしの白くてさらさらの肌をお姉さま達は素敵と褒めてくれるけど、あたしにとってお
姉さま達の健康的な色で、しっとりとして柔らかなお肌が、永遠の憧れの対象だ。
 以前は部屋で隠れるようにすることの多かった手入れ。
 リビングでおおっぴらにできるようになったのは密かに嬉しい。
「相変わらず3人とも、お肌綺麗で羨ましいわねえ。わたしも混ぜて?」
 風呂上りのママが入ってきて一緒に手入れを始めたり。これもすっかり、いつもの光景。
「うーん、やっぱり僕には、この光景刺激的すぎるや」
 手入れの最中、いつもは所在なげに居間の片隅で本を読んでることの多いパパが、お酒の
瓶とグラスを持って書斎部屋に向かうのは珍しいかもだけど。
「あ、パパ……今日はどうもありがと。道中のとき、優しく頷いてくれて。あれ物凄い心強
かったの。本当、パパの娘になってよかったなあ、って思っちゃった」
 あたしの言葉に、しばらく視線を泳がせていたけパパ。
 でもやがて、あたしの目をまっすぐ見つめてにっこり笑って、
「うん。今日はアキちゃん、よくがんばったね。僕もいい娘を持てて幸せだよ」
 と指の長い手で、あたしの頭を撫でてくれた。
「ね、どうせならパパも一緒に肌のお手入れしない?」
 とお姉さまが言ったら、一目散に退散したけれど。

119 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々B 11/13
 お肌の手入れの後、言いつけに従ってお姉さまの部屋に集まり、ベビードールに着替える。
 可愛らしいけど色っぽいデザインの、心地よい肌触りの卸したてのピンクのベビードール。
 完全に3人とも同じもので、サイズだけが違う。
「今日はこれからどうするんです?」
「今日はもう、寝るだけよ。……このベッドに3人一緒に」
「ベッドが小さすぎじゃないかなあ?」
「だからいいんじゃない♪ 身体寄せ合って、ぎゅうぎゅう詰めで」
 お風呂場といい、ぎゅーぎゅーが今日のお姉さまのブームらしい。
 お姉さま達と肌を寄せ合うのは、とても気持ちいいから嬉しいけれど。
「じゃ、寝よっか。あたし最初に入るから、次アキちゃんで。愛里はその後ろに入ってね」
「「はーい」」
 お姉さまと抱き合う形でベッドに入る。
 豆電球だけが照らす室内。
 そのあたしを、後ろから抱きしめる形で愛里お姉さまがベッドに入る。
 やっぱり狭いけれども、でも愛と幸せとに包まれるそんな空間。
「はふぅ……」
「ん? どうしたのアキちゃん」
「いや、あたしこんなに幸せでいいのかなぁ、って。これ気持ちよすぎですよぅ」
「まだまだ、これがスタートなんだからね?」
 ニヤリ、とお姉さまが笑った気配。
 そのまま回した手であたしの身体を撫で始める。
「ひゃぅうっ!」
「アキちゃん、声出しちゃだめよ。今日はパパとママがいるんだから」
 涙目のまま、こくこくと頷く。
 愛里お姉さまも加わって、前と後ろからあたしの体をその繊細な指先でそっと責め続ける。
 声も出せない、身もだえもできない。
 身も心も蕩かす、快楽という名の拷問の時間。素敵な素敵な、天国のような地獄の時間。
「……アキちゃん寝ちゃった?」
「いえ、起きてますよぅ」
「ちっとも反応ないから、てっきり寝ちゃったのかと」
「お姉さま達の意地悪ぅ。アキ、一生懸命、一生懸命がまんしてるのにぃ」
「そうなんだ? ……それはそれで凄いわね。じゃあ、どこまで我慢できるのかな」
 こうなるともう、意地の張り合いだ。
 お姉さま達の絶妙な指使いが、前と後ろからあたしの全身のビンカンな部分を弄び続ける。
 一瞬でも気を抜けば大声をあげて暴れそうな身体を、なんとか押しとどめる。
「あっ、アキちゃん今イっちゃった?」
「一瞬だけピクンってなったね……でもこれだけ密着してないと、イったことすら分からな
かったかも」

120 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々B 12/13
「他の子なら、『マグロなのかな?』で済むけど、“あの”アキちゃんなのにねえ」
「……が……がんばりましたぁ……」
「そういえば、今日の花魁のお化粧の最中、1ミリも動かずにずっといたんだって?」
「……じっとしてね、って言われたから……」
「いくら言われたからって、私そんなの絶対無理! あれ、けっこうムズムズしたよね」
「何もせずに座ってるだけならできるけど、ぴくりとも動かないって大変だよね」
「アキちゃんの新しい特技発見……かな。絵のモデルとかに便利そう」
「人間マネキンとかにも良さそうだよね。色々できて羨ましい」
「お仕事の幅が広くなるって、凄い良いことだよね」
 あんまり自覚なかったけど、それってそんなに凄いことなんだろうか?
 密着させあった身体の前後、すぐ近くからお姉さま達の代わる代わるの賞賛を受けている
と、なんだか不思議な満足感めいたものが浮かんでくる。
「私もちょっと真似してみるかな。アキちゃん、愛里、ちょっと私の身体撫でてみて」
 2人して、思う存分ベビードールの上からお姉さまの身体を愛撫してみる。
「……15秒くらいもったのかな?」
「え、たったそれだけ? これ、本当にきっついわ。感心した。アキちゃんやっぱり凄すぎ」
「この流れだと次やらされそうだけど、私もう降参。今のでもう無理って分かっちゃった」
「愛里、はやっ。……まあ、今はそこまで我慢する必要なくてね、外に声が漏れなければい
いんだから。ゆっくりお願い」
 柔らかい灯りの照らすベッドの中、3人でゆっくりと互いの身体を愛撫しあう。
 気持ちいい場所、気持ちいタッチがあったらすぐに真似したりしてみて。
 お互いどんなことが気持ちいいのか丸分かりの、恥ずかしくも嬉しくもある状況。
「本当、アキちゃんの肌って気持ちいい……」
 両脚を複雑に絡ませながら、お姉さまがうっとりと言ってくる。
 その脚の感触が、なんと気持ちよいことか。
 そっと掌をその太腿に当てて、その柔らかい感触を存分に楽しむ。
「ふっ……んっ……ぁっ……」
 誰が漏らしたのかもう分からない、抑え目の喘ぎ声と優しい吐息が混じりあう。
 そんな優しい時間がゆっくりと流れる。
 目を閉じて、残りの四感でお姉さま達の存在を受け止める。
 呼吸するたびに感じる、お姉さま達の匂い。
 どんな香水よりも素敵な素敵な匂い。
 舌先を伸ばして、お姉さまの顔を味わう。
 微かにぬめりを帯びたお姉さまの、汗の味わい。きめの細かい肌の舌触り。
「……お姉さま。アキはお姉さまを愛してます。好きで好きでどうしようもないくらい」
「私も大好きだよ、アキちゃん。私、あなたに会えて良かった」
「私だって、アキちゃんを愛してるんだからね?」
「もちろん、愛里お姉さまもだぁい好き。……あたし、生まれてきて良かった」

121 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々B 13/13
 開始から随分たって、多分お姉さまがいつもは眠る時刻。
 このまま眠りに入るのかな……と思っていたら、お姉さまが、
「ん……いい感じかな。愛里ごめん、ちょっと立って待ってて」
 そんなことを言い出した。
 言いつけに従うまま、正常位の形であたしのクリちゃんをお姉さまのあそこに挿入して、
伸展位になって、またベッドに横になる。
 身体をぴったり合わせているから分かっていたけど、先ほどから蜜が流れっぱなしの状
態になっていた場所だ。
 雅明のときの感触は記憶にあるけど、あたし自身が味わうのは初めての、柔らかい感触。
 雅明が夢中になるのも分かる、気持ちい感触。
 あたしのおマ○コも、他の人にこれくらい気持ちいいと思ってもらえてるのだろうか?
 ねっとりと絡み付いてくる温かな感触に、確かな快感を覚える。
 あえて力を抜いて、締め付けないようにしているのが分かる。
 そうでなければ、あたしはもう射精していただろう。
 お風呂場のことといい、お姉さまの配慮には頭が下がるばかりだ。
「うん、いい感じ……気持ちいいや……じゃあ、アキちゃん、力を抜いて。愛里、お願い」
 愛里お姉さまがまたベッドに入ってきて、ぴったりあたしの背後から抱きついて、あた
しのお尻にクリちゃんを挿れてくる。
「……アキちゃん、相変わらず気持ちよすぎ……」
 お姉さまの言葉通り、余計な力を身体から抜いていく。
 意識しないと、愛里お姉さまに到したがるあたしの身体をなんとかなだめて。
 でも今までになく、“結ばれている!”ことを強く感じる、そんな体験。
 3人の体温が同じ温度になってる。心も体も同じ温度。それがこんなに気持ちいなんて。
(ポリネシアンセックスって言うんだっけ? 俺、調べたことないけど)
 だっけ? 違う気もするけど、名前や分類やセオリーなんてどうでもいいや。
 なんだかあたし自身が溶けて、形を失って3人混じり合っていきそうな、心地よい感覚。
 それさえあれば、もう充分。
「うん……すごく気持ちいい……アキちゃん、そのままゆっくり私を撫でててね……」
「……それでお姉さま、このあとは?」
「どうもしない……寝る……お休みなさい……」
 今日一日のお仕事の疲れもあるのだろう。すぐに優しく寝息を立て始めるお姉さま達。
 お姉さまのお肉にあたしのクリちゃんが優しく包まれて、愛里お姉さまのクリちゃんをあ
たしのお肉が包みこむ。
 前も後ろも、時折ピクッ、ピクッとうごめく感触も気持ちいい。
 ベビードールに包まれたあたしの身体を、お姉さま達にしっかりと抱きしめられて。
 それとおそろいのベビードールに包まれた、お姉さまの身体をしっかりと抱きしめて。
((本当、気持ちいい……))
 珍しく、あたしと雅明の呟きが一致したところで、睡魔があたし達の意識を飲み込んだ。

122 :
ドレス談義まっさかりのところに、和風?の内容を突っ込んでしまって申し訳ありません。
自分でも色々考えてはいるところですが、他のかたの作品・プロット・作品案などあれば嬉しいところです。
>>106
素敵な作品ありがとうございます。
途中までてっきり、女装した旦那さんが浮気相手と勘違いされて修羅場に発展……と思い込んでしまった
のは自分の心が汚れすぎなせいなのか。
まとめwikiの掲載場所は「9話099」のところでよろしいでしょうか?
「属性」の項目で、ちょっとネタバレしすぎたかなと悩みつつ。

123 :
>>122
ステキなのキテタ!
これから読ませていただきますです
まとめの位置はバッチリであります
ありがとうございます

124 :
GJ!
本日2回目のGJ(何
今日はいい日だ…今週は全力でがんばれそうだ

125 :
放課後
晶「帰んのかよー、どうせ暇だろ健介ww」
健介「まぁ…」
晶「ちょっとこっち来いよ」
健介「勘弁してください」
晶「おっし、ここは滅多に誰も来ねーからさw」ヌギヌギ
健介「体育倉庫…いや、なんで脱いでるんですか」
晶「あー、勝負下着じゃねーけどお前だからいいだろww」
健介「意味が…」
晶「いーじゃねーかおめーも期待してたんだろwwwほれほれ、興奮してんだろ童貞ww」
健介「説明を…」

126 :
実在とは関係ありません
ですか?
でしたら場所を描く場合、思い切り離れた場所を混ぜたらいかがでしょうか。
ゲームのKanonの場合
大阪府守口市の駅
神奈川県横浜市の商店街。元町中華街の駅近く
東京都は八王子駅からさらに山梨県の方にある公園
を雪国に置いています。
あなたの場合、横浜市のみなとみらい地区、元町中華街地区みたいな描写ですが、
例えば、兵庫県神戸市辺りのGoogleストリート情報を混ぜても良いかと思います。
より、実在しない土地らしさを描く場合、
例えば、兵庫県と神奈川県は喫煙、禁煙に対してヨーロッパ並みに制限されています。
例えば条例で
受動喫煙防止
分煙化の徹底
歩行禁煙の徹底
などが規定されています。
そういう事も含めると良いかと思います。

127 :
まとめwikiありがとう
職人さん達もありがとう

128 :
>>126
作者に何をさせたいのか意味不明。余計なお世話。
作者潰しが目的なら出て行け。

129 :
ぶっちゃけて言うと、今回『実在の〜』と注意書きをつけたのは、実際の中原街道時代まつりとは
関係ないですよ、というだけの意図です。
『親バレしたからには次はデビューしかあるまい』とか、『本名出せないから偽名で』の前フリのつ
もりだけだった校則の件といい、思ってもみなかった裏読みを受けるのは正直楽しい限りです。
そういうものから発展したネタが、特に『瀬野家の人々』には満載なので、今後とも色々いただける
とありがたいと思っています。

ただ、逆に出来る限り『場所』と『時』に関していえば、実在のものをベースに書くスタイルを作者の
わがままとして今後も続けたいと思っているので、ご了承いただけると幸いです。
(例えば今回の投下分も、5/12当日に雨が降ったりしないか冷や冷やしっぱなしでしたが)

130 :
外国の女装小説に多い「強制女装でオバカなギャルにさせられる」系が書きたい熱がたまってきた
女児女装モノもいいなぁ・・・・・・
むりやり小学校中学年ぐらいに入れられるの

131 :
ほぅ?
成人した小柄の男の人に私立小学校の制服をきせるのか?

132 :
その手の話は恥辱庵に多いな

133 :
幼児化させておしっこ漏らす小説には興味ない
ていうか、最近更新する気全然ないでしょあそこは

134 :
うふ〜ん

135 :
>>133
何気にディスると空気悪くなるからほどほどにな

136 :
133はディスっているんじゃなくて、自分の性癖を告白してるだけでは。

137 :
多分2行目の事を指しているんじゃない?
そのサイトでも掲示板で少しだけ話題になっていたし
趣味ではないと言いつつ更新をチェックしてるのは実は>>133はそのサイト好きで
更新ないからすねているだけなのかもね
と邪推してみる

あ、今、すねると言うワードで
少し違和感のある女装をさせられた少年を可愛い可愛いと騒ぐ女子に
自分の方が可愛いのにとすねる女装が似合う男の娘と言う萌えを受信した

138 :
中2病をこじらす感じで男の娘を気取って女装をしだし
自分はそこら辺の女子より可愛いと思い込み
回りの男子は自分の事が好きだと信じ込んだ挙げ句
自分は可愛いアピールしまくり
ちやほやされるのが当然と考えている
そんなウザイ系のならリアルで居たらしいと何処かで聞いた事がある
ここ向けにSSにするなら女子に反感買って
先輩の男とかを使ってその勘違い男の娘を犯させるとか
アピールし過ぎでクラスのタガが外れた男子達にまわさらるとかかな

139 :
>>138
貴方の知識や好みが標準では有りません。
出来具合どうであってもSSを投下して下さる人が必要なんです。

140 :
なに突っ掛って変な流れにしてんの?

141 :
>>139
忘れ物ですよ。
つ 『だから俺が、今からそれをもとにSSを書いてやる!』

142 :
>>141
私のシュミとセイヘキ全開で良ければ。
書いちゃいますよ。

143 :
>>142
期待してますですよ

144 :
お題
男子は2人
・女装 させられている男子
・女装 している男子
女子の人数は不明
・女装 させている女子
背景
・場所、日時、状況、男女の関係性、など
不明

で、良いのですね?

145 :
よくありません、回れ右して巣にお帰りください
さようなら

146 :
趣味に合わないならスルーだろ?
どうも荒らしをしたくて仕方が無いのが居るな

147 :
>>146
釣られてどうするよ。
>>144
まあそんな感じ……かな?
自分の書きやすいように条件は適当に変えてしまったり付け加えたりしても問題ないし。
男女逆転喫茶にするとか。

148 :
なぜネタ出しした人ではない人が答えてるんだろう?
ただのネタだから好きに書いてもらっていいんだけどね

149 :
かなり書き慣れてる人でもない限りは
リビドーの赴くがままに書き殴ってくれる方がこっちとしても
ハァハァしながら読めるから自由にしてください

150 :
一々レス欲しがらないで書くなら書けよとしか言えんな

151 :
保守

152 :
「夜は娼婦」って単語が浮かんだ

153 :
夜は。
娼婦。
昼間は何なの?。

154 :
こんな素晴らしいスレがあったとは
アキちゃん可愛すぎて憧れるわ

155 :
昼は詰襟を着た学生なのか、あるいはバリバリのサラリーマンか
ちょっとだけ夢が膨らむ>夜は娼婦

156 :
お嬢様学園に通う、品行方正で知られる優等生(実は性別♂)というのもなかなか。<夜は娼婦

157 :
>>152-153 >>156 こげな感じでしょうか。
『夜は娼婦。昼は……?』 1/2
「遠藤……先生?」
「僕もびっくりしたよ。君がこんなことしてただなんてね……久住百合香さん」
 自分の勤めるお嬢様学園。その制服を一分の隙もなく校則通りに着こなした清純な美少女。
 その瞳が驚愕に見開かれる。
「大丈夫だよ。今日は僕は客として来たんだ。誰にも口外したりしない。──きちんと誠心
誠意、サービスをしてくれるならね。さあ、こっちへ来て」
 学内では常に控えめで目立とうとしないけど、品行方正の優等生として知られ、良家の子
女に相応しい佇まいと容姿を備えた彼女は、少なからず一目置かれる存在ではあった。
 白いセーラー服を着た、ほっそりとした身体のその少女が、おずおずと僕の隣に腰掛ける。
「うん。それでいい。……まずは持ち物検査しようか」
 僕はそう言って、校則通りの丈の、彼女の履いたプリーツスカートを左手でめくり上げた。
 肉付きの薄いほっそりとした両脚の付け根に、飾りのない白いショーツが見える。
 その様子は可憐な少女そのままで(やっぱり担がれたのかな?)という考えが脳裏を過る。
「先生、駄目です……」
 首を振ると、首筋までの長さできちんと切り揃えた艶やかな黒髪から、甘い芳香が漂う。
 柔らかな産毛の生えた滑らかな白い頬が、だんだんと羞恥に赤く染まる様子に見とれる。
「『先生』なんて呼ばないで。……そうだね。隆志さん”って呼んでくれると嬉しい」
「隆志さん、やめてください……」
 生娘の反応そのままに、恥ずかしがる様子。これは演技なのだろうか?
 判断がつかないまま、彼女が身に着けるショーツを右手で引き下ろす。
「やあ、びっくりしたよ。まさかあの久住さんが、こんな秘密を隠しているだなんてね」
「い、いやあああぁぁっ!」
 そこにあるのは、うちの生徒には決してないはずの器官。同じ年頃の少年と比べるとひど
く小さくて形も可愛らしく、『大きめのクリトリスなんです』といえば通りそうな存在。
 女の子のショーツに、窮屈そうに収まっていたそれは、空気に直接さらされた解放感から
か、内心の興奮を反映してか、むくむくと大きさを増していく。
 ──それでも、僕の通常時よりもずっと小さなものだったけれども。
「指でスカートを摘み上げていてね」
 と、『彼女』にお願いしてベッドを降り、可憐なその蕾を咥える。
 いい加減見慣れすぎて食傷気味だったセーラー服。でもそれを纏っているのが少年だと認
識したとたんに、こうも興奮を覚える自分の性癖に内心苦笑する。
 最大サイズでも口の中でなお余りのある小さな器官。舌を伸ばし、竿の根本から玉袋まで
を丹念に丹念になぞる。
 そのたびに少女そのままの姿で身体をくねらせ、少女そのままの声で喘ぎ声をあげる。
 登り詰めそうになったら緩め、落ち着いてきたら強め。
 そんな時間をたっぷり楽しんだのち、彼女の発したたっぷりの精液を口の中に含んだまま、
ほっそりとした身体をベッドの上に押し倒し接吻をする。
 本気で抵抗しかけた手足を押さえつけ、半ば無理やり彼の体液と自分の唾液とを流し込む。

158 :
『夜は娼婦。昼は……?』 2/2
 深く唇同士を重ね合わせたまま、至近距離から顔を観察する。
 長く濃い睫毛が、皮膚の薄そうな白い頬に影を落とす。
 ニキビのない、同じ年齢の少女たちと比べてもずっと滑らかな肌。あどけなさを残した、
上品な端正な顔立ち。
 その美少女の股間にある器官が、さっきあれほどまでに放出したにも拘わらず、スカート
を押し上げて硬直しているのを微かに感じる。
 キャミソールを引き出し、セーラー服の隙間から腕を潜り込ませる。ブラに直接取り付け
たパッドが作る控えめな胸。でも実際には膨らみの兆しもない平らな胸。
 その筋肉を感じさせないすべすべした平原の上、左手の指を走らせて、小さな小さな乳首
の周辺をそっと丁寧になぞる。
 同時にプリーツスカートを捲りあげる形でお尻の割れ目を執拗に責める。
 唇と乳首とアヌスの3点責め。
 股間のものが刺激を求めてひくつくけれど、そこには決して刺激を与えないように注意し
ながら、穢れを知らない清楚で可憐な美少女以外には決して見えない少年の心と体に、『女
としての快楽』を教え込んでいく。
 長いキスを終え、今度は自分のペニスを黒髪のセーラー少年に咥えさせる。
 そこで漸く、確信に至る。
 恥ずかしがっているふり、慣れていないふりを演出しているけれども、この子は恐ろしい
ほどの訓練と実践を重ねた存在なのだ。
 良家の子女が通うことで有名なお嬢様学園である、自分の勤め先。
 その学園の中でも、優れた容姿と優しい物腰、折り目正しい楚々とした仕草で、密かな尊
敬を同級生の少女たちや教師たちからも集める、セーラー服の美しい少女。
 それが実は少年だというのも驚きなのに、夜な夜な身体を男たちにひさぐ娼婦なのだ。
 自分でも可笑しいくらいに、容易く心と体が快楽に支配される。
 キスの味すら知らないような可憐な唇が、器用に動く長い舌が、ありえないくらいの精度
で雄としての自分を覚醒させる。
 気が付いたときにはもう、彼女の細い体を後ろから一心不乱に突き上げていた。
 『年端もいかない少女を犯している』『教え子を犯している』『同性の少年を犯している』
3つのタブーを同時に犯す背徳感が自分の興奮を否が応でも煽り立てる。
 アヌスの具合も抜群にいい。入口だけでなく、奥まで自分の分身を締め上げてくる。
 その晩、僕はこの『少女』の身体に、それから4回の精液を注ぎ込んで果てたのだった。

「ごめんなさいね。あなた」
「……しょうがないことは分かってるんだ。百合香。気をつけてね」
 土曜夕方の玄関先、清楚なワンピースに身を包んだ愛しい妻”にキスをして見送る。
 あの『初めての晩』から3年後、『彼女』が高校を出るなり僕たちは結婚式を挙げた。
 昼の間は若々しく貞淑な新妻”として近所でも評判な彼女だけど、一週間に一度の夜に
は未だにこうして娼婦を続けている。それが少し、僕をやるせない気持ちにさせるのだった。

159 :
GJ! もっとも、何で未だに街角に立つのが気になりますが・・・

160 :
欲を満たすためだよ
彼女の中に巣食う淫獣のね

161 :
それ以前に先生はどこから情報を仕入れたのか気になるw
「担がれたのか」ってことはどっちの秘密も聞いてきたわけだろうし
しかし毎度毎度、氏の速筆とボリュームには恐れ入る
リアル女装に目覚めたらどうしてくれるのか

162 :
GJ!
このところ更新が無くて淋しかった

163 :
随分久々

164 :
>>157
GJ!
ところでwikiなんだけど、登録済みのヤツに更新が入ってるときあるのはなんで?
ちょっとだけ気になったので

165 :
誤字訂正とかやってんじゃね

166 :
アキちゃん話の次がなかなか難産で、筆が進まない自分に困ってるところだったりします。
来週末投下予定分の完成が間に合うかどうか……
>>160
採用。
>>164
上のメニューの「表示」>「最新版変更点(差分)」で変えたところは見れます。
最初突貫工事で作成したので、体裁が変になっているところとか、紹介がおかしなことになっている
箇所が多々あり、修正をぼちぼちやっているところだったりします。

167 :
数日後になっても、より、読みやすい作品をお願いします。
作文、難しいです。私には。

168 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々C-1 1/6
 ──いよいよ、“この日”がやって来たのだ。
 自分の目の前には、一輪の花のような可憐な花嫁がいる。
 よく見慣れた面差しのはずなのに、丁寧なメイクを施された顔は別人のように華やかだ。
 ピンクのオーガンジーで出来た、軽やかな打掛を天の羽衣のように着こなした美しい少女。
 これは新和装、って言うんだっけ。
 白無垢をベースにしつつ、洋風のドレスのテイストをあわせた可愛らしい花嫁衣裳。
 髪もメイクも洋風で、薄紫の桔梗の生花をあしらった髪飾りが良く似合ってる。
 その少女に笑いかけると、少しはにかんだ、でもあでやかな笑顔を返してくれる。
 胸の中が、なんだかとても温かなもので満たされていくような、そんな笑顔だった。
 少女はそのまま袖の裾を持って、ひらり、ふわり、軽やかに衣装の様子を確かめ始める。
 その天女の舞いのような姿に、すっかり陶然としてしまう。
「アキちゃん、準備できた? ……うわぁっ。凄く綺麗!」
 鏡の中に映る自分の姿から目を離し、あたしは世界一愛しい、その声の主に笑顔を向ける。
 ──そうだ。あたしは今日、このピンクの打掛の婚礼衣装で、お姉さまの花嫁になるのだ。
(気分出してるとこ悪いけど、お前の結婚式じゃなくてお仕事だからね? これ)
 ……雅明って本当、無粋なんだから。
 ということで、今日はお姉さま達と一緒に、ブライダルフェアの中のウェディングドレス
ファッションショーのお仕事なのです。
 新郎役2人と新婦役6人。相場は知らないけど、この手のショーとしては大規模だとか。
(実際には男4人、女4人だけどなー)
 はい雅明、お約束の突っ込みありがとう。でも、それをいうなら男5人、女3人だよ?
(……うそっ。ってことは俺と俊也以外に女装して花嫁やってる人がいるの? 誰?!)
 悩む雅明をほっておいて、お姉さまの姿に見蕩れる。
 古典的で豪奢な黒打掛に身を包んだ、あたしと違って純日本風の打掛姿の花嫁さんだ。
 肩幅が狭く頭が小さくて首が細くて長いお姉さまのこと、そんな姿もとても良く似合う。
「でもやっぱり、打掛って重くて動きにくくて大変。アキちゃんは大丈夫?」
 すごく軽やかで優美な動きのまま、優しくあたしを気遣ってくれる。
「この打掛、軽くて動きやすくていいですよ?」
「アキちゃん、花魁のときもそんなこと言ってたから、油断できないよね♪」
 これも豪華な赤い打掛姿の愛里お姉さまが、くすくす笑いながら言ってくる。
「でも、衣装合わせで何度も見たけど、メイクするとまた格別。言葉に出来ないくらい綺麗」
「お姉さまがたも、本当に綺麗ですよぅ。もう、感動で涙が出てきちゃいそうなくらい」
「あらあら。せっかくのメイクが崩れちゃうから、それはもうちょっと待ってね?」
「メイクって厄介よね。それがなければ、今でもアキちゃん抱きしめてキスできるのに♪」
(でもさ、アキ。俺と悠里の結婚式やるとしたら、やっぱり俺がドレス着るのか……?)
 どんなドレスがいいかなぁ。今日着る3着目のドレス、あれなんか素敵だよねっ!
(いや、俺は普通に結婚式をあげたいし、ドレスなんて着たくないんだけど)
 ……雅明。あたしに嘘ついても無意味ってこと、ちゃんと学習しないとダメよ?

169 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々C-1 2/6
 ブライダルフェアの裏側。あたし達の出番が来るまで、しばらく待機。
 イベントのモデルの時に毎回ある、緊張と興奮とでドキドキしちゃう時間だ。
 今日は最初は全員和装スタートで、そのあと急いでドレスに着替え。
 特にお姉さま達はお客さんの前で、『5分で色打掛からドレスに早着替え』を実演するそ
うで……最前列でかぶりつきで見たかったなぁ、と正直ちょっぴり残念。
 でも一緒にウェディングドレスで競演できる喜びも捨てがたく、迷ってしまう乙女心。
 お姉さま達が一番綺麗なのは当然として、ほかの3人の花嫁さんたちも本当に綺麗。
 1人は身長180cm以上ありそうな、すらりと背の高い女の人。このショーのチーフプロデュー
サーも兼ねているという、才色兼備の美人さん。今は白無垢に身を包んでいる。
 白無垢の人はもう1人。なんだか天使を思わせる、少し不思議な人だった。お姉さま達と
並んで容姿とスタイルで見劣りしない人を、モニタ越し以外で見るのは初めてかも。
 最後の一人は黒引き振袖を着た妖艶な美人さん。今は隠れてるけどたぶんGカップくらい
の綺麗なおっぱいと、あたしが少し見上げるくらいの身長の持ち主だ。
 花婿役さんたちも、すらり背が高くて本当に美形。
 今は紋付袴姿で、長く伸ばした髪を後ろで纏めた、細身で中性的なハンサムさんと、タキ
シード姿で筋肉質の、ちょっとワイルド系のイケメンさんの2人。
「今日はすっごい、モデルのレベル高いわね」
 お姉さま達とチーフさんが、早着替えの最後の打ち合わせ中。
 1人ぽつんと待機状態のあたしに向かって、黒引き振袖の妖艶さんが話しかけてきた。
「そうなんですか? あたしこの手のショー、初参加だから分からないことが多くて」
「やっぱり。なんだかそんな感じがしたもの」
「そうなの? リハでもウォーキングとかうまくて、慣れてるなあ、って感心してたのに」
 白無垢姿の天使さんが、驚いた様子で会話に参加してくる。
「あなたのほうは、初めてじゃないのよね?」
「私なら大学のとき2回バイトで参加したくらいですね。本業モデルさんにはとてもとても」
「あれ? ということはモデルさんじゃないんですか? こんなに素敵なのに」
「私、そういうのは全部お断りしてて。今日はいろいろあって仕方なく」
 びっくりするくらい綺麗な肌が印象的なこの人にも、色々事情があるんだろうか。
「アキちゃん……だっけ? さっき悠里さんのことお姉さまって言ってたけど、どんな関係?」
 タキシードのワイルドさんも、会話に参戦。
「えっと。親同士が再婚したので、血は繋がってないけど、お姉さま達の妹です」
「へぇ。なるほどね! 瀬野姉妹の秘蔵妹か! やっぱりモデルになるんだ?」
「はいっ! お姉さま達に一歩でも近づけるように、日々修行中なのです」
「やっぱりか。きっとビッグになれるよ。今日、ショーが終わったあとサインもらっていい? 
将来自慢できるようにさ」
 紋付袴さんのハンサムまでそう言って参加してききて、会場に聞こえないよう小声で会話。
 そんな和やかな雰囲気の中、いよいよショーが始まった。

170 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々C-1 3/6
 あたしの出番は4番目。
 5番目の愛里お姉さま、6番目のお姉さまに引き継ぐ、露払いのお役目だ。
 1番手のチーフさんが舞台袖に戻ってくるのを合図にして、会場に脚を踏み入れる。
 とたんに溢れる、あたしとその衣装を称える声とフラッシュ。
 一度体験してしまうと止められない、エクスタシーに似た快感が全身を包みこむ。
 さっきの会話で、いい感じに緊張感も取れてくれた。妖艶さん達に感謝だ。
 大きく袖を広げ、西洋の貴婦人の礼をイメージしながらお客さんたちに一礼する。
「うわぁぁっ。綺麗ー」「可愛ぃー」「華やかでいいねぇ」
「あら、こんなのも可愛らしくていいわね」「私はもっと普通なのがいいかな」
 会場から、乗り気な母親を年頃の娘さんがたしなめる声が届く。それがなんだか楽しい。
 他の人は純粋な和装で、歩く姿もしずしずとした雅な姿。
 でもあたしには新和装の軽やかさを演出するように、むしろ華やかにと指示を受けている。
 足を止めて投げキッスしたり、小さな女の子相手に、少し屈んで笑顔で握手してみたり。
 その度に生まれるお客さんとの一体感。なんだかとても嬉しい気分になる。
 『ブライダルファッションショー』と聞いて、何か舞台の上でやるファッションショーを
最初思い浮かべてたんだけど、今日はそんな感じじゃない。
 ホテルの会議場2部屋分を繋げて使った会場。
 手前に並べた椅子には主に母娘連れが座り、男の人とかが後ろに凄い密度で立っている。
 あたしたちが歩く場所は、中央に敷かれた赤いじゅうたんの上。
 手を伸ばせばお客さんたちとも触れ合える、そんな距離感がとても楽しい。
「きっ、れ──」「……ええっ?! 瀬野悠里さん?!」「本当だぁ。こんなところで見れ
るなんて思ってなかった!!」「悠里さーん!」
 背後から、そんな声が上がってきた。
 ポーズをとる振りをして後ろを向き、苦笑している愛里お姉さまとアイコンタクト。
 悠里・愛里の双子姉妹として何度かテレビにも出てるとはいえ、まだまだ知名度にはお姉
さまには劣る愛里お姉さま。
 お姉さまの、これまでの地道な積み重ねの重要さを実感する。
 2部屋目で折り返して、丁度愛里お姉さまとすれ違う頃合、今度は本物のお姉さまが登場。
「あれっ? また悠里さん?」「……ああっ分かった! 今度は愛里ちゃんか?!」
 一部で混乱している様子に、吹き出しそうになるのをぐっと堪える。
 それにしても、お姉さま達は本当に優美だ。
 なんだかお決まりのようになってる、赤の衣装の愛里お姉さまと、黒の衣装のお姉さま。
 お姉さま達にいつも感心させられるのは、ちゃんと衣装の良さを引き出しているところだ。
 自分がモデルをやってみて、その凄さが特に実感できる。
『もうお気づきの方もいらっしゃるようですが、黒の打掛の方がモデルの瀬野悠里さん。赤
い打掛の方がその双子の妹の瀬野愛里さん。そしてもう1人、ピンクの打掛の人が、お二方
の妹の瀬野アキさんです』
 アナウンスの人がいきなりアドリブで、あたし達の紹介をしてくれる。

171 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々C-1 4/6
「ああっ、なるほど!」「悠里さーん!」「さっき、間違えちゃってごめんなさいっ!」
「アキちゃんって言うんだ。かぁいーっ!」「愛里さーん!」「アキちゃーん!」
 突如“ブライダルファッションショー”ではなくなってしまった空間と、知らない人から
こんな風に名前を呼ばれる初めての体験。
 そしてリハーサルにない無茶振りに内心戸惑いつつ、3人笑顔でお辞儀する。
「うわぁ。本当、綺麗」「息もぴったり。練習してたのかぁ」「美人三姉妹でいいなあ」
 お客さん達が喜んでくれたようで、ほっと安心する。
 そのあとあたしだけ進んで退場、お姉さま達は部屋に1人ずつ立って早着替え実演開始。
 さて、これからが戦場だ。
 本来20分くらいかかるという和装からドレスへの着替えを、9分以内に終えるのだ。
 舞台裏に入った瞬間、横から伸びた手に髪飾りを外され、打掛をするりと脱ぎ去る。帯を
取って脱いで、下着だけの姿になってパニエを装着。
 大慌てで白いドレスを纏って、メイクと髪型を調整する。鏡の中の、可愛らしい花嫁とし
ての自分の姿。それをじっくりと鑑賞する間もなく、次の出番に入る。
「アキちゃん、可愛いよ♪」「リラックスして頑張ってね」
 自分達も着替えで忙しいのに、笑顔で声をかけてくれるお姉さま達の存在が愛おしい。
 バレエ衣装を思わせる、チュールスカートがふんわりと膨らんだ、膝丈までのミニドレス。
 肩胸背中が大きく開いた胴部のデザインは身体にそったシンプルなものだけど、その分ス
カートには花飾りとか散らされていてとっても可愛い。
「これ、軽くて動きやすそうでいいなぁ」「式で着るにはちょっとはしたないんじゃ?」
 「アキちゃーん」と呼ばれるたびに笑顔で手を振って、さっき握手した女の子の前でくる
りと一回転したりして。そんな折り返し地点、またお姉さま達の姿が見える。
 オプションの付け方でがらりと印象の変わる4wayのウェディングドレス。ホルターネック
に見える飾りをつけた愛里お姉さまと、それを外してベアトップ状態のお姉さま。
 2人で仲良く手を繋いで優雅に歩く姿につい見蕩れそうになって、慌てて意識を引き戻す。
 あたしが退場する間際、くるりと一礼すると、お姉さま達がスカートを外してミニドレス
に変化する様子が見えた。ギミック満載なのが羨ましくもあり大変そうでもあり。
 3分間で着替えを済ませて次の出番。
 これはあたしには珍しく少し大人びたドレスで、密かなお気に入りなのだ。
 前は小さく、お尻側を大きく膨らませたバロックスタイルのウェディングドレス。
 胸元と背中が大きくむき出しで、長袖になった腕と胴部にびっしりとフェイクパールと刺
繍が付けられている。お尻につけられた大きなリボンが可愛らしさを演出する。
 ラインが綺麗で、ウェストがすごく細く見えるのもお気に入りの理由の一つだ。
「これ凄くいいね! 気に入った」「でも、あなたじゃウェスト入らないんじゃ……」
 前回までとは打って変わって、優雅に歩きを進める。
 できればこの姿で、いつかお姉さまと一緒にヴァージンロードを歩くその時を夢見ながら。
 先ほどまで華やかな声をかけてくれていた女の人達が、うっとりとため息をついている。
 そんな様子が誇らしい。

172 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々C-1 5/6
 ターンすると、一足先にカラードレスになったお姉さま達が見える。
 赤と黒の、スレンダーなイヴニングドレスに身を包んだ綺麗な姿。
 愛里お姉さまのTVデビュー時、ドレス姿の少女がお姉さまじゃなくて愛里お姉さまとい
ことを自ら暴露してちょっと騒ぎになった、いわくつきのCM。
 そのCMで愛里お姉さまが纏っていたのと同じデザインで色違いの、優美なドレスだ。
(スポンサーさんは結局、いい宣伝になったと大喜びだったそうだけど)
 お客さん達でも気付いた人がいたらしく、「これ、CMのドレスだね」「実物だと、もっ
と綺麗だなあ」「いいなあ。あたしも着れるかな?」とか言い合ってる声が耳に届く。
 そのあとあたしはスカイブルーのミニのドレスに着替えて再登場し、更に最後の、豪奢な
ピンクと白の、童話のお姫様風のドレスに着替える。
 大きく膨らんだプリンセスラインのスカート。広がるパコダスリーブの袖口。
 金髪巻き毛のウィッグの上に、ティアラが燦然と輝いている。
 コスプレっぽい気もするけど、披露宴でこういうのも人気だとか。
 最初に握手した女の子の前で、今度はスカートを摘み上げて貴婦人の礼。
「アキさん、ありがとう! お人形さんみたいで本当に綺麗!」
 一緒にいたお母さんともども大喜びしてくれて、何よりと思う。
 真紅のスタンダードなAラインドレスのチーフさん。漆黒の色っぽいマーメードラインの
ドレスの妖艶さん。背中の大きなリボンが妖精の翅を思わせる、桜色のミニドレスを着た天
使さんの前を通り過ぎ、モスグリーンとマリーゴールドの、色違いで同じデザインのベルラ
インドレスのお姉さま達。それに花婿さん達の横に並び、最後に大きくみんなで一礼。
 途端に鳴り響く、大きな拍手。
 準備も含めて確かに色々大変ではあったけど、それが報われたと思う瞬間だ。
 皆そのままの衣装で着替えることもなく、髪やメイクのセットをきちんとしなおしたりし
て、ブライダルフェアを終えたお客さん達を見送る。
 お姉さま達の周りが人だかりになるのは当然なんだけど、あたしの周りに出来るこの人だ
かりは意外だった。
 すっかりお馴染みになった女の子を抱っこして写真を撮ると、他に何人かいた女の子達も
我先に抱っこをねだってくる。
『ブライダルフェアの主役はお客様』ってチーフさんの言葉を思い出しつつ、握手をしたり、
一緒に写真を撮ったりして、ようやく人がはけたのは割と時間ぎりぎりになってしまった。
 ここまでが1回目のショーで、最初のピンクの打掛に着替え次のショーに備える。
 ここまでが1セットで、これが今日は残り3回。
 意外に工夫しどころがあって、面白い。
 同じドレスでも、自分の動き方を変えるだけでお客さんの反応が随分変わってくるとか。
 3分間での着替えも、最初ぎりぎりだったのが、段々と余裕が出るようになってくる。
 もっともっと続けたい。
 そうは思っても、やっぱり終わりの時間がやってくる。それがちょっと寂しかった。

173 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々C-1 6/6
「アキちゃん、また腕をあげたね♪ サクサクしてるのに、口の中でとろけてる」
「この甘さに癒されるわあ。ほっぺた落ちそう」
「いつもながら美味しいわね……アキちゃん、愛い奴、愛い奴」
「ん。なんだか少し、不思議な食感がする……これ、ひじき入りかな? あとはおから?」
「当てられるとは思ってなかったです。ミネラルと植物繊維たっぷりにしてみました」
「なるほど、体にもいいんだ。それでこれだけ美味しいし。今度私も試してみよ」
 今日のショーもすべて終わって、普段着に戻って化粧直しして。
 撤収作業その他で忙しいチーフさん以外の、今日の花嫁モデルさん5人で少し休憩。
 昨日のうちに作って持ってきたチョコクッキーを皆で食べる。
 お姉さま達と3人で食べるつもりだったけど、色々意見を聞けるのはやっぱり嬉しい。
(ところでアキ、俺ら以外に女装してる1人って結局誰なの? やっぱりチーフさん?)
 ん? あたし、そんなこと言ってないよ?
 持ってる情報は一緒なのに、やたらと男と女とかどうでも良いことに拘るくせに、相手
が男か女かも分からない雅明がなんだか不思議だった。
 スタッフの皆さんとも挨拶をして、会場を出る。
 下着の上はショーのときから変えてないから、今日は胸元を見せる服が着れる。
 ということで衿が大きく開いた、白地に赤い小花を散らしたトップスの上に、ピンクの
長袖シャツを前を開けて羽織り、空色のマキシスカートを合わせた衣装。
 その服で事務所に立ち寄って、今日はあとは帰宅だけだ。
「いい一日だったねー♪ 素敵なドレス一杯着れたし」
「やっぱりドレスは女の子の憧れですよねぇ……すてきなお仕事でした」
「あなた達はそうかも知れないけど、私は流石に疲れたわ」
 今日をうっとり回想する愛里お姉さまとあたしに、お姉さまが突っ込みを入れる。
「まあでも、可愛いアキちゃんがいーっぱい見れたから、今日は私も大満足かな♪」
「アキちゃん凄かったなぁ♪ 舞台の最中でも、どんどん上手くなっていくんだもの」
「お姉さま達を見て本当に凄いな、って思って。一歩でも近づけるように、って頑張って」
「やっぱりアキちゃん偉いなぁ。……私も負けてられないな。このあと、事務所のトレー
ニングルーム使わせてもらえないか、聞いてみよ」
 と言って携帯を取り出すお姉さまに、大慌てで「あたしもお願いします」と頭を下げる。
「2人とも元気だなぁ……あ、お姉ちゃん、私の分もお願いしてね」

 それにしても、今日は素敵な一日だった。あんなに綺麗なドレスをいっぱい着れて。
(男なのに、せっかくの日曜を女物のドレスを着せられて潰して。酷い一日だった……)
 ……なんだか雅明、今日はやけにつかっかってくるのね。
 それじゃあ来週もブライダル関係のお仕事だし、せっかくだから雅明にお任せしちゃおう。
(本当に勘弁してよ。俺、ドレスなんて着たくないんだって)
 あの素敵なドレスを“あたし”が着れないのは本当に残念だけど、雅明のことを思って譲っ
てあげるんだからね。感謝しなさいよ?

174 :
>>65
のアイデアをありがたく頂戴しつつ、今回分の投下です。
他いくつか頂いていたりしますが、それは次回投下分にて。
なおこの話は実在の某歌手兼モデルさんおよびブライダルショーとは無関係です、と一応注釈を。

175 :
GJ!!!!!!!!
素晴らしい!!!
なんか今週一週間無敵状態で戦えそうな気がしてきた(違
アイデア採用していただき、ありがとうございました!

176 :
毎度のことだがファッション知識すげーな
種類が多すぎて情景が想像しきれないぜ、まぁ調べるのも楽しいが
女装な方(天使さん?)が新たに出てきたってことは、
この方も巻き込んで秘密のイベントあったりするのかな

177 :
天使さんは新キャラじゃなくて旧キャラな気がした。

178 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々C-2 1/13
「うん。アキちゃん、やっぱりおっぱい綺麗でいいなあ♪」
 俺の胸を指先でぷにぷにと突きながら、悠里が実にニコヤカな笑顔で言う。
 見下ろすと見える、たった今出来上がったばかりの谷間が、下着の合間から『コンニチワ!』
している光景。
 別に豊胸したわけでなく、上半身の肉を胸のところにかき集めてそれらしくして、ヌーブ
ラで持ち上げて下着で固定して作った、即席でまがいものの谷間もどきである。
 着替えやドレス合わせに何度か参加しても、(多分)一度も俺が男だとばれなかった優れ
もの。……貧乳・上げ底というのは、わりとバレまくりだったけど。
 俺が今着ているのは、純白のウェディングドレス用の下着(ビスチェとか呼んでいたっけ)。
 コルセットと胸のカップが一体になったもので肩ひもがなく、背中側は大きく開いている。
 最初のころ息が止まるかと思った締め付けには段々と慣れてきたけど、マシュマロや悠里
の素肌のような肌触りのよさには未だに慣れられそうにない。
 アキでいるときは大喜びしていたそんな姿も、今はただ、げんなりさせる材料だった。
「悠里、毎度だけど胸作る手助けありがとな。……あとズボン貸してくれない?」
「どうぞどうぞ。……私もそろそろ準備に入らなきゃ、かな」
 時計を見上げて風呂場に向かう悠里。その背中を見送ってクローゼットを開く。
 『彼女のクローゼットを開いて物色して、その服を着る彼氏』というのもまた異様な話だ
けど、俺たちの間では最近普通になってきた。なんだか感覚が麻痺してきてまずい。
 黒のジーンズを適当に選んで部屋に戻り、二ヶ月前に部屋に増えた自分の衣装棚を開く。
 フリル・レース沢山、ピンク系多数の、頭がくらくらするような眺めと匂いだ。
 今日はホテルでの撮影。ロビーで場違いにならぬよう、シックに大人らしくなるように。
 頭をひねってお洒落するのは楽しい……と思っている自分に気付いて落ち込むけれど。
 まずレースのついたクリーム色のショーツに穿き替えて、胸元に小さなリボン飾り付きの
白のキャミソールを羽織る。アキで慣れて、もう感想も浮かばなくなってるのがやばい。
 その上から俺用の、男物の無染色のリネンの長袖シャツを着て、先ほどのジーンズを穿く。
 脚の長さは殆ど一緒で、腿回りは少し余るくらい。いつも着ている男物よりよほどフィッ
トするという事実が、俺の男としてのプライドをいい塩梅で潰してくれる。
 ウェストがぶかぶか過ぎるのは、ベルトをきつめに締めてカバー。
 タックで股間に回したペニスが、ショーツの生地とジーンズの股下部分に常に刺激されて
かなり気持ちの良い事態になってるけど、それは我慢しつつ自分の姿を鏡に映して確認。
 お尻が寂しいので、ジーンズの上に、白地に赤い花柄のスカートを着用してみる。
 女物とはいえジーンズと、男物のシャツの取り合わせ。
 マニッシュ方面を目指したつもりだったはずなのに、下着に取り付けたパッドのせいで突
き出た胸と、括れたウェストが強調されて、逆に非常に女らしくなっていた。
 お洒落って難しい。
 髪をとかして、最小限のメイクをして、女物のベージュの薄いジャケットを羽織ればもう、
“可愛くて発育の良い女子中学生”の出来上がりだ。
 ……『シックに大人らしくなるように』は、どこに行ってしまったんだろう?

179 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々C-2 2/13
 モデルの仕事がある日はいつも勝手に登場している“アキ”なのに、今日は呼んでも何し
てもやってこない。
 前の日曜、今日は俺に任せるとか言ってた記憶があるけど、本気なのだろうか?
 案内された控え室でマニキュア・ペディキュアを塗られながらも、既に違和感が半端ない。
 靴や手袋で隠れるのに、いちいち塗らなくても良いだろうに、とも思うのだけど、今日は
本格的な花嫁姿で撮影するのがクライアントの意向とかで仕方がないらしい。
 男そのものである俺が、『本格的な花嫁』! ……どんな酷い冗談なのかと。
 手術済みとか、心は女とか、せめて女装が趣味というならまだ理解可能な世界なんだが。
 だけど冗談でもなんでもなく、俺は徐々に徐々に花嫁にされていく。
 ベースの化粧だけで、種類を替え、場所を替え、色を替え。
 睫毛も一本一本持ち上げていくように。
「今日は随分可愛らしいモデルさんなのね。お肌も本当に若々しくて……何歳になるの?」
「もうすぐ18歳なんですよぅ」
「ええっ?! もっと若いと思った。私も何回か16歳の子のメイクしたことあるけど、そ
れよりずっと若い感じ……白人さんでも、こんなに肌が白くて綺麗な人いないし」
 やたらと話しかけてくる、中年女性のメイクさんだった。
 そのたびに“17歳の現役女子高生モデルの瀬野アキ”として回答しないといけないのが
いちいち羞恥心を煽る。2歳サバを読んで、まだ幼く見えるのってどんなのだろう。
 ただこのメイクさんの腕は確かで、その指の動きについつい見とれてしまう。
 メイクさんも俺のそんな視線に気づいて、少しの会話ののちメイクの説明を事細かにして
くれるようになった。面白いテクも多くて参考になる。
 写真栄えするぎりぎり最小限の色遣いでとどめて、モデルでは意外と欠点になりがちな色
の白さを魅力に置き換えている。
 化粧も終わって次はヘアメイク。アップ風に纏めて、ゆったりとしたウェーブのかかった
髪と同色のエクステをつけて背中に垂らす。
 そのくすぐったい感覚が心地よいと、不覚にも思ってしまった。
 ひとまず完成した、鏡の中の自分を見つめる。
 いつもの自分の幼さは、瑞々しく若々しい可憐さに変えられている。代わりに占めるのは、
ヨーロッパの社交界にでも出せそうな気品と上品さと、新雪のような透明感。
 メイクってやっぱり奥が深くて面白い。自分の女装姿に落ち込みつつ、改めてそう思う。
 下半身の下着を替えたあと、ボリュームを出すためのパニエを身に2重に着ける。
 そしてスタッフが何人がかりかで持ち込んできた、本日1着目のドレスと対面。
 衣装合わせのときも思ったけれども、本当に俺が着てよいものかどうか不安になるような
ドレス。1日間のレンタル料だけで百万円を軽く越えそうだ。
 本当に俺が──というより人間が着れるのか不安になるほどほっそりした上半身。
 びっしりと細やかな刺繍と、本物の真珠らしい輝きと、布地そのものの煌きがそれを彩る。
 スカート部を埋める花を模した飾りが、まるで花畑のよう。
 ドレスというより、布で作った芸術作品という印象すら与える存在だった。

180 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々C-2 3/13
 その“芸術作品”のパーツの1つに、俺はこれからされてしまうのだ。
 そう考えた瞬間、なんだかよく分からない感慨めいた何かが背中じゅうを駆け回るような
感じがした。
 化粧を衣装につけないよう、慎重に慎重にドレスを上から被らせてもらう。
 パニエの上を滑らせたスカートを合わせるふりをして、生地に指をそっと這わせる。
 “シルク”と一言で言っても、ここまで差があるとは思わなかった。
 手触りが違う。煌きが違う。
 初めてシルクのチャイナドレス(正確にはシルク混紡だそうだけど)を着たときも、男物
の服にはない気持ちよさにびっくりしたものだけど、それとすらレベルが完璧に違う。
 ボディの部分を慎重に合わせて、コルセットみたいに背中の紐を編み上げられる。
 肘上までの、これまたシルクのグローブを慎重に引き上げてもらう。
 自分の手であることが信じられない、細くて優美な姿。手を開いたり閉じたりして確認す
るけど、それでも現実感がしてこない。
 スカートの中に潜り込んだスタッフの手助けをもらって、ヒール付きのパンプスを履く。
 大きな真珠のついたチョーカーを首に巻き、ダイヤとプラチナの輝きも眩しい上品で重い
イヤリングを耳につけ、頭に豪奢なティアラとヴェールをつけ、ブーケを受け取る。
 少し髪と化粧の手直しが入って、何か肌に粉を振りかけられて、これで漸く完成形。
 改めて鏡を見なおしてみる。
 オフショルダーでプリンセスラインのウェディングドレス。肩から胸、背中にかけて大き
く開いていて、白くて柔らかそうな胸の谷間が微かに覗いている。
 先ほど振りかけられた粉のお陰か、肌が形容でなく本当にキラキラと光り輝いている。
 大きく大きく膨らませたスカートが、上半身の細さと優美さを強調する。
 一歩間違うと装飾過多でごてごてした感じになりそうなのに、洗練されたデザインのおか
げでむしろすっきりした印象になっている。
 振り向くと見える、5m以上ありそうな長いトレーンと腰より長いヴェール。
 恐らく本当の女性でも、多分一握りの令嬢にしか袖を通すことが許されない高貴なドレス。
 それを建前的にも女子高生モデルで、実際には女装男子大学生の俺が着ている……その事
実に、なんとも言えない複雑な気分になる。
「凄い綺麗……このドレス、こんなに着こなせる人は多分、世界中探しても他にいないわね。
アキちゃんのために作られたみたい」
 いつの間にか入ってきていた瞳さんが、うっとりとした声で言うのを聞いて我に返る。
「あ、瞳さんおはようございます」
「アキちゃん、おはよう。……けど本当にアキちゃんて、綺麗なドレス着るのが好きなのね。
今もわたしに気付かないくらい、嬉しそうな笑顔ですっかり自分に見蕩れきっちゃって」
 ……俺、そんな顔してたんだろうか。
 瞳さん含め、ここにいる全員が俺を女性と信じて口々に賞賛してくるのを、嬉しく感じる。
 せめて自分だけでも俺は男であると認識していたいのに、それすら揺らいできそうだった。

181 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々C-2 4/13
「俺は男だ!」「女装なんて真っ平だ!」「ウェディングドレスを着るなんて絶対嫌だ!」
 そんなことを叫びたい誘惑に駆られる。男なのに矯正下着でウェストを絞り上げ、手術も
ホルモンもなしで胸元に谷間を作り、女装趣味でもなんでもないのに唇を紅く塗った姿で。
 でもそんな俺の内心の葛藤は完全に無視された状態のまま、撮影場所に移動する。
 女物の衣装って、ふわふわとして柔らかくて肌触りがいいのが多いけれど、特にこれは飛
び切りだ。
 そして女の衣装って、重くて動きにくいのも多いけど、これはそっち方面でも飛び切りだ。
 下手に動くと破けて高い弁償を払わされそうで、ついつい動きが制限される。
 姿勢を固定された挙句に普段使わない筋肉を使わされて、正直かなりきつい。
 『動きが優美だ』と口々に言われるけれど、そんなの慰めにもならない。
 顔が引きつりそうだけど、それさえも許されないのだ。
 スタッフ達に導かれるままについたのは、こんな機会でなければ足を踏み入れることもな
かっただろう、立派なチャペル風の式場。それも改装オープンを目前にした真新しい空間だ。
 黒のテールコートを着た、長身の新郎役の男性がびっくりした表情で自分を見ている。
 どこかで見たような、と思ったら先週アキが“ワイルドさん”と呼んでた男モデルだった。
「うーん、こんな綺麗な花嫁、初めて見た……アキちゃん、でいいんだよね。見違えたよ」
 少しの間のあと、そう言う彼。改めて見ると、顔立ちの整いぶりが半端でない。
 元々宝塚の男役のような美形に、鍛えられた逞しさが精悍さを加味する。俊也や義父、そ
れに北村と知人に割に多いハンサム連中の中でも、トップクラスだろう。
 その彼と挨拶と多少の会話をして、撮影に入る……寸前に。
「アキちゃん、愛してるよ」
 囁くように、そんなことを言われてしまう。
 途端、全身に鳥肌が立つのを覚える。
 土曜の休日を潰して、可愛い美人の恋人と遊びに出かけもせずに、男なのにウェディング
ドレスを着て化粧して、よりによって男から愛を囁かれる!!
 これが悪夢だったらどんなに良かっただろう。でも、これは現実なのであって。
 見返すと、真顔で、真剣な眼差しでこちらを見つめる“ワイルドさん”の顔がある。
 とても演技とは思えない迫真さ。中途半端な自分が嫌になり、プライドを捨てようと決心
する。瞼を閉じ、衣装の許す限り最大限の深呼吸。先の鏡の中の自分に意識を合わせる。
「……ええ、あなた。あたしもです」
 自分の左胸、心臓と柔らかい胸のある場所に手を当てて、にっこりと微笑む。
 ──これからの時間、あたしはこの世界で最高の男性を夫に迎える、世界で最高の花嫁。
 それ以外の自分は、すべてひとまず封印だ。……そう、自分に言い聞かせる。
 そしてその陶然とした、ふわふわとした心のまま、撮影を進行させていくのに任せる。
 祭壇の前で指輪を交換し、結婚証明書への署名をし、2人で誓いのキスをする。
「いや、それはフリだけでいいんだってば!」「メイクさん、手直しお願い!」
 大慌てするスタッフさんの声に、顔を見合わせて同時に吹き出す。
 温かくて力強くて優しい唇の感触が、まだ残っていた。

182 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々C-2 5/13
 最初の衣装での撮影を終え、白無垢と赤い打掛の悠里と俊也、それに初めて見る花婿役の
男性モデル氏にバトンタッチして、お色直しのために控え室へ。
 メイクを一旦完全に落とし、下着姿に戻る。
 そこにいるのは、一人の恋する乙女。
 新しい化粧を済ませ、ドレスを再び纏ったあとに現れるのは、愛する男性との結婚を迎え、
人生の絶頂に眩いばかりに輝く一人の美しい女性。
 先ほどとは打って変わり、飾りは少ないけどその分デザインの優美さが際立つドレス。
 足首までの長さのAライン、ホルターネックタイプでわりと動きやすい。
 そんな姿で次の移動。
 タキシードに着替えた彼が、あたしの姿を目にするとニッコリと微笑む。
 ドレスのアクセントである大きなリボンの下にある心臓が、恐ろしいほど早く強くバクバ
ク言って、下手につついたら弾けて破裂しそうな気さえしてくる。
 そのままぴたり2人で寄り添って、ホテル内のブライダル施設を順に巡りながら撮影を重
ねていく。トレーンはないけど、代わりに足元まで届くマリアヴェールを翻しながら。
 通りすがるホテルのお客さん達から、口々に祝福を受ける。
 くすぐったくもあり嬉しい感覚。
 特に指示もないのに、お姫さま抱っこで抱えあげられてみる。
 体重とドレス、足して60kg近くあるのに、不安定さを微塵も感じさせない確かな足取り。
 自分の胸を、幸福感が埋めていくのを感じる。
 包まれている、守られている、愛されている、そんな実感をひしひしと感じる。
 その後、再びのお色直しのため、愛しの彼とまた別れて控え室へ。
(……雅明ってさ、時々あたしよりずうっと乙女ちっくになるよね)
 頭の中で、アキが感心するように言うのを聞いて、思いっきり我に返る。
 冷や水を浴びた気分。……俺は一体、今まで何をやらかしてたんだ?
(アキ。今までどこに行ってた?)
(あたしはどこにも行けないよ? それは雅明が一番良く知ってると思うけどなぁ)
(良くわからないけど、まあいいや。せめて次のシーンでいいから交代してよ)
(嫌よ。あたしはお姉さま達に一筋なの。雅明みたいに、『愛してる』って囁かれただけで、
すぐ転ぶような尻軽じゃないもの。他の人の花嫁役なんて、まっぴら)
 ……なんだか凄い誹謗中傷を受けた気がする。
 次に着替えさせられた衣装は、漆黒のイブニングドレス。
 生地が薄く、軽く、滑らかで、まるで何も纏っていないかのような落ち着かなさを覚える。
男物の服には絶対ない、でも女物の服でおなじみになってしまった、裸のときより裸な感覚。
 装飾が殆どない分、布の黒と肌の白との対比が恐ろしいくらい目を惹く。
 裾はわずかに引きずる長さだけど前にスリットが入っていて、動くたび右脚全部が見える。
 下着の許す限り大きく露出したビスチェタイプのデザインで、背中も恐ろしく開いている。
 後ろは被った黒のストレートロングのカツラが隠しているけど前は丸見えで、覗いている
白い谷間に、これが自分のものと分かっていながら魅入りそうになる。

183 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々C-2 6/13
 化粧も一度完全に落とされて、また自分の存在が別人であるかのように書き換えられる。
 ご丁寧に目にも黒のカラコンを入れて、今の俺はエキゾチックでセクシーな美女な状態。
 たださっきのキラキラ状態から一気に落ち込んだので、色々心配されてしまったけれども。
 歩くたびに脚にまとわり付く、薄い布の感触がつらい。露出狂の気はまったくないのに、
大きく開きまくった肌がきつい。耳元で揺れるイヤリングの重みが堪らない。
 特に男性からの視線が視姦されているようで、鳥肌が立ちそうだ。
 撮影場所に到着してみると、悠里たちの撮影がまだ続いていた。
 “ワイルド氏”は事情があって少し遅れているとの話で、少しほっとする。
 とにかくどんな顔をして会えばよいのか分からない。こんなんで撮影できるのかも不明だ。
 心を落ち着けるために、今は唯一のよすがになる俺の恋人を見つめていたかった。
(アキ、どっちが悠里か分かる?)
 今撮影しているのは純和風の赤い裾を引きずる振袖と、それとうって変わって和風の生地
をドレスに仕上げた衣装の2人。だけど悲しいかな、俺だとどちらがどちらか分からない。
(振袖のほうだよ)
 良かった、意外にあっさり教えてくれた。
 赤い百合のような、悠里のほっそりした佇まいに見蕩れる。
 大きく結った日本髪のカツラとの対比のせいで、すんなりと伸びる首の細さが一層強調さ
れて折れてしまいそうにすら見える。
 小さな頭、狭いなで肩によく映える和装。
 後ろを向いたときの、うなじの優美さは驚くほどだ。
 赤の地に白で大輪の花々を描いた鮮やかな衣装と、それに負けないくらい華やかな笑顔。
 振袖って、こんなに綺麗な衣装だったのかと感動すら覚える。
 やっぱり悠里は凄い。
 ただ立ってるだけのように見えるのに、それだけで他の花嫁とは格が違っている。
 一見なにげない仕草の中に、『いかに自分を、衣装を美しく見せるか』の超絶技巧がどれ
だけ含まれているのか。改めて惚れ直している自分を感じた。
(ごめん雅明、間違えた。ドレスのほうがお姉さまで、引き振袖は愛里お姉さまだった)
(……)
 悶絶しそうになるのをなんとか抑える。
 ──こいつ、分かっててやりやがったな?
 そうこうしているうちに、白いタキシードに着替えたワイルド氏も到着。
 その笑顔を見た瞬間に、先ほどよりは少し大人びた、ゆったりとした愛情が胸を満たして
いくのを覚える。多少の会話を交えたあと、悠里たちと交代する形で撮影開始。
 慣れない“色っぽい”衣装に合わせるのに苦労して、少し駄目出しを受けてしまったけど。
 でも、彼の視線に見守られながら、時にアドバイスを受けながら、形にしていく。
 最後はスタッフたちから賞賛まで受けて、なんとも誇らしい気分になりながら控え室へ。
 今日最後の衣装は、衣装合わせのとき一目見て「かーわいぃっ!」と思わず叫んだ、ペパー
ミントグリーンのプリンセスラインのドレスだ。

184 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々C-2 7/13
 細身で大きく開いた上半身。チュール製の花々が胸元を飾る。
 右足の付け根までくし上げたスカートような飾りが付いていて、その下に花の刺繍入りス
カートが覗いている。そんなドレス。
 メイクもそれに合わせて、非常に可愛らしい雰囲気に変更。髪も地毛を結い上げた感じ。
 うん、自分はやっぱりこっちのほうが演じやすい。
 ドレスと同じ色の大きな帽子に、やっぱり同じ色のチュールのショールを羽織り、悠里た
ちの撮影真っ最中の場所に移動する。
 純白と真紅。色違いで同じデザインのスレンダーなドレスを纏った悠里と俊也。
 やっぱり悠里は綺麗だ。……どっちが悠里か分からないのが残念だけど。
 さっきのようにもっと眺めていたかったのに、自分が到着したのと殆ど同じタイミングで
撮影が完了してしまって少し残念。
「そのドレス、本当に可愛いね。まるで花の妖精のようだ」
「あら、可愛いのはドレスだけ?」
「もちろん、アキちゃんも妖精みたいに可愛いよ」
 そんな会話をしながら、銀系統のセレモニースーツの相方と一緒に自分達の撮影を開始。
 途中からピンクとブルーのミニのドレスに着替えてきた悠里達と合流し、ソファに並ん
で座ったりしながら、ややゆったりした気分で撮影を続ける。
 ドレス姿の3人で抱っこしたりされたり、抱き合ったり、膝枕したりさせてもらったり、
自分が真ん中で両側からキスするフリをされてみたり。
 傍から見てると『美少女同士の戯れ』に見えるのだろう、そんな光景。
 最後、花婿2人も加わって合計5人のショットも撮り、本日の撮影が完了した。

「お疲れ様……3人とも凄く良かったわよ」
「綺麗なドレス沢山着れて、いいお仕事でした♪ でもお腹すいちゃったね」
 あまりにノリノリに『恋する乙女』を演じてしまったせいで、なんともいえない自己嫌悪
と心身の疲労困憊を抱えながら、瞳さんとも一緒の4人での帰り道。
 撮影場所だったホテル、そのロビーに差し掛かる……と。
「アキちゃん、ちょっといいかな?」
 ソファに座っていたワイルド氏が立ち上がり、俺に声をかけてきた。
 背が高く、身体も厚い。トラッドなファッションが良く似合う。
 俺もこんな体格なら、女装なんてさせられることもなかったのに、と少し羨望してしまう。
 自分の心を探ってみる。
 撮影中の『乙女心』は、ありがたいことに憑き物がとれたように霧散していた。
 あるのはわずかな羨望と、『何であんなことをやらかしたんだろう』という大きな羞恥心。
「ええと、なんでしょう」
「どこから切り出すか迷うけど……アキちゃんって、彼氏いたりするのかな」
「いいえ」と首を横に振る。彼氏なんていてたまるか。俺にいるのは、愛しい彼女だけだ。
 その答えに、「良かった……」と、少し考え込む様子の彼。

185 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々C-2 8/13
 そういえば、と思い出す。
 今日の撮影の直前、演技とも思えない迫真さで『愛してるよ』と囁いてくれて、それに応
えようと努力することで、何とか今日の仕事を終えたんだった。
 あのきっかけがなければ、きっとグダグダのまま進んでいただろう。その礼を言ってない。
 そう考えて彼の瞳をまっすぐ見返すと──あのときよりも更に熱っぽい視線が返ってきた。
 不意に、撮影中の『誓いのキス』の感触を思い出しそうになる。
 ぶんぶんと頭を振ってその記憶を頭から追い出す。
 でもどう答えたものか。「俺は男だから、男と付き合う気はない」と本当は言いたいけど。
「……今日の撮影、どうもありがとうございました。新郎の演技、とても上手くて尊敬しま
した。あたしも、少しはそれに応える演技が出来ていたら嬉しいんですけど」
 お辞儀をして、『演技』というところを故意に強調しつつ言ってみる。
「俺は演技じゃないよ。最初から最後まで、偽りない本心だ。先週から好意を感じてたけど、
今日また会って確信した。いつか仕事じゃなくて、本当にアキちゃんと式を挙げたいって」
 何が悲しくて恋人の目の前で、同性から求婚を受けなきゃいけないのか。
 人の往来も多い土曜夜のホテルのロビー。無茶苦茶目立ってて恥ずかしくて逃げ出したい。
「あたし、凄くいい演技をする人って、ずっと感心してたんですけど……」
「アキちゃんこそ、あれが演技とか信じられない。演技だったことにしたいだけとか?」
 なんとか当たり障りなく別れたいと言葉を交わしてみるけど、どうもうまくいかない。
(ああ、もう見てらんない。ごめん、雅明)
 しばらくの会話のあと、突然“アキ”が頭の中でそう言って、俺の主導権を奪う。
 そのまま彼の耳元に口を近寄せて、小声で囁く。
「ごめんなさい。あたしやっぱり、女の人と付き合う趣味はないんです」
 俺自身、びっくりな一言だ。でも彼? の狼狽もまた凄かった。
「今日はありがとうございました。次ご一緒する機会があれば、またお願いします」
 その隙を縫って距離を取り、にっこりと笑顔のまま一礼して別れる。
(……あいつが女って、アキはいつ気付いたの?)
(あれ? 先週の最初に言わなかったっけ? 花婿役が全員女の人で、花嫁役のうち1人を
除いた全員が男の人。あわせて男5人に女3人、って。お姉さまだけがなぜか例外で)
 あれ、そういう意味だったのか。今のを見ても信じられないし、正直わけが分からない。
「ごめんなさい、お待たせちゃいました」
「アキちゃん、モテモテだね♪ 食事くらい一緒に行ってあげたら良かったのに」
「お姉さま、そんな意地悪言わないでくださいよぉ」
「ところであの人になんて言ったの?」
「んと……それは秘密です」
「それでこれからどうするの? また事務所のトレーニングルーム使うなら、わたしもアド
ヴァイスするけど」
 帰りの地下鉄の車内。瞳さんの質問に、俺は少し考えて、頼み込むことにしてみる。
「えっと、それなんですけど……」

186 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々C-2 9/13
        <<悠里視点>>
「くちゅ……ちゅぷ……ちゅぱ……」「ぬちゅ……ちゅる……ちゅぴ……」
 静かな部屋の中、キスの音だけが伝わる。
 地下鉄の中で瞳さんと俊也と別れ、そのまま臨海地区で雅明と2人でデートして。
 そのあとホテルの部屋に入るなり、荷物を足元におとしただけで、熱烈なキスを交わす。
 ぷっくりとして、柔らかくて滑らかな、女の子として極上の唇。
 蜂蜜パックを続けているせいか、ほのかに甘い味がする。
 形もよくて、艶めいて。見てても思わずキスしたくなるようなそんな唇。
 それが『自分のもの』であるということに、なんとも言えない満足感を覚える。
 アキちゃんがつけてる花の香水の匂いと、息にも気を使っているから甘やかな吐息の香り
が私を興奮に誘う。雅明が『雅明』でいる頃には、正直なかった興奮だ。
 デート前に、スカートとジャケットと下着を脱いで化粧を落として、一応は女装を解いて。
 それでもその後ナンパされまくった、可憐で庇護欲を誘う、飛び切りの『美少女』。
 そんな私の恋人との間に作った唾液の糸が、長く空中に留まって落ちるまでを見送る。
「このまま、いい……?」
「それよりお風呂入りたいかな。2人一緒に」
 私の提案にすんなり従って、脱衣場に入る。浴室へは先に入ってもらったあと、さっきま
で雅明が履いていたスキニーデニムを手に取ってみる。
 購入するとき、ぴったりサイズあうがないか、それなりに探して回った私用のパンツ。
 それを『彼氏』が普通に履きこなしてしまう現状に、大きな達成感を覚える。
 “スタイルに自負のある女の子”としてのプライドが、ちょっとめげそうでもあるけれど。
 ……ウェストとか太腿とか、コルセットなしでもちょい余るくらいだったもんなあ。
 感慨にふけるのもそこそこに浴室に入ると、一輪の白百合の花がいた。
 そんな錯覚を覚えるほど、色が白くてほっそりした可憐な姿。
 たった今タックを外し、解放された股間のものが覗いている。それが唯一の男の証。
「今日も一日お疲れ様……やっぱ悠里は綺麗でいいなあ。この眺め、最高のご褒美って感じ」
「雅明も凄く綺麗で素敵だよ♪ 見ててうっとりしちゃう。……ね、身体洗わせて」
 一瞬だけの戸惑いのあと、「よろしく」と言う雅明。
 保とうとしている無表情を透かして、無防備な笑顔が垣間見えるのが可愛い。
 備え付けのボディソープを手に取り泡立てて、その身体を撫でるように洗っていく。
 女装を本格的に始めさせてから3ヶ月くらい。
 女性ホルモンを投与しても、この期間だとここまでは変化しないんじゃないか。
 元々の素質、本人の意思、適切な技術。
 3ヶ月前までは普通の男の子だったはずなのに、この3つが合わさって、今はモデル仲間
でもなかなかいないくらい綺麗な『女体美』がここにある。
 でも一番凄いのは、まだまだ綺麗になっている途中だということだろう。
 半月前の雅明より、今の雅明のほうがもっと綺麗。半月後は、たぶんきっともっと綺麗。

187 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々C-2 10/13
 色が本当に白くて白くて、シミもなくて、きめ細やかで、さらさらと手触りが良くて、脂
肪の柔らかさとしなやかな筋肉の弾力を兼ね備えた肌。
 毎週のようにエステに通っているおかげもあって、ムダ毛も吹き出物もないツルツルお肌。
 両手の掌で、その身体をくまなく洗っていく。
 美容体操の効果か、スタイルもいい。括れたウェストも綺麗だし、お尻の形も素敵。
 下着や水着のモデルは厳しいかもだけど、バニーガールのお仕事くらいは楽に出来そう。
 私としては、女性モデルとして丁度いい感じに張った肩のラインが羨ましい。私たちの狭
い肩は、和服のモデル向きではあっても、今日みたいなドレスは微妙に似合わないのだ。
「悠里の手って、やっぱり気持ちいいな……」
「雅明の肌も、すっごく気持ちいい♪」
 綺麗に身体を洗い終えて、私の身体も洗ってもらって。
 浴槽にも二人ぴったり身体をくっつけあって入る。すべすべの肌が気持ちいい。
「もっと広いお風呂に一緒に入れるといいんだけどねえ」
「うち狭いもんね。……一緒に女湯に行ってみる? 雅明なら大丈夫だと思うよ♪」
「無理無理! 確実に男だってばれるし、犯罪者になりたくない」
「そうかなあ。疑われるどころか、たぶん羨望の眼差しで見られると思うけど」

 お風呂をあがって、軽くマッサージをしながら身体を冷まして乾かして。
 ふと興味が湧いて、雅明が昼間につけていたビスチェを取り出して手に取ってみる。
「ね、雅明。ホック閉じてくれないかな?」
「今日はドレス用の下着でのプレイ? ……いいね」
 そんなことを言いながら、下から順にホックを締めていく雅明。……って。
「ごめん、ギブ、ギブアップ! 私これ無理! 外して、お願い!」
「昼間は大丈夫だったのに?」
 雅明の怪訝な声が聞こえるけど気にしてる余裕がない。完全に外してもらって一息つく。
「……ありがと。これ、雅明がつけてたほうなんだけどね。私だと苦しすぎて無理だった」
 そう説明したあとの雅明の顔の変化は、一種見ものだった。
 そんなことに面白さを感じる自分もあれだけど。
「やっぱり、私は大人しく自分の下着にしよ。雅明もそれちゃんと着けてね?」
「……ええ?」
「それ、ちゃんと着てね?」
 ぶつくさ言いながら、でも結局(私は着れなかった!)ビスチェを身につけてくれる雅明。
 ま、股間の反応で、彼が内心喜んでるのはまる分かりなんだけど。
 鞄の中からロンググローブと短いヴェールを取り出して、これまた2人で装着する。
 上半身は純白に包まれた状態。でも下半身には何もつけてないから、陰毛のないつるりと
した股間から、『花嫁にはあるはずのないもの』がいきり立って見える。
 でもそのインバランス感がそそる、清楚で官能的で無垢で淫乱で可憐でエッチな、私のた
めの美少女花嫁さん(※性別:男)の出来上がりだ。

188 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々C-2 11/13
「うんうん、アキちゃん。すっごく綺麗♪」
「……なんでこんなアイテムの準備を? 今日エッチする予定まったくなかったよね?」
「実は結構前から仕込んではいたんだ。今日やっと実行に移せたけど」
「……今日は俺、自分が男なことを確認したくて誘ったんだけどなあ」
「うん、いいよ♪ 私の身体に、雅明が男である証拠をいっぱい注ぎ込んでね!」
 白くてレースが控えめに飾る、お揃いのブライダルインナーに身を包んだ2人。
 ベッドの上で身体を密着させて抱き合い、キスを重ねあう。
 回された腕が、サテンの感触で愛撫してくれる様がなんとも新鮮で気持ちいい。
 付き合い始めた最初に比べ、雅明の愛撫も随分上手くなった。
 特に女装でのプレイを初めて以降の上達ぶりは目を見張るようだ。
 彼に女の格好をさせるのは私の困った性癖だけど、それで性的な興奮を覚えてしまうのは
本当に困った私の性癖だけど、それ抜きでも女装を始めさせた甲斐があったと思ってしまう。
「今日、私感動しちゃった……そのくらい、今日のアキちゃん凄かった……ぁん」
「俺は本当に一杯一杯で、何とか形になって良かったけど、本当にきつかった。……ゃっ…
…悠里がどれだけ凄いか改めて確認して、改めて尊敬した……ぁあん」
「でも私、あんなに見事に『幸せの絶頂にいる新郎新婦』に成り切ること出来ないもの……
んっ! ……成り切る、ってレベルじゃないな。なんというか、新郎新婦そのもの、だった」
「やめてよ。あれ、一生懸命忘れようとしてるのに……あっ、ぁっ、あぁん!」
「もったいないよ。あれ絶対に武器だよ……っ! ゃん!……」
「嫉妬とかしなかった? ……はぁふ……」
「うん、した。アキちゃんは本当に凄いなあ、って。……んぅっ!」
「彼氏が男と新郎新婦やってることは……あぁぁん……気にしなかったんだ」
「そんな事、軽く吹っ飛んじゃった。モデルなら必要って分かってるしね……あんっ」
 会話の部分は努めて男声を保とうとしてるのに、嬌声の部分は私なんかよりずっと可憐な、
少女の声色。2人だけなのに、3Pしてると錯覚しそうな変な状況に心が躍る。
 ふと思いついて、そんな音を奏でる、彼の喉のラインに舌を這わせてみる。
 俊也ほどじゃないけど傍から見て膨らみが判然としない、すっきりした頸。
 でもこうやってみると、男の子の徴が確かにある。不思議にそれが愛おしい。
 そのまま頭を少し上げ、舌を顎の下のラインに沿って往復させる。
 丁寧な手入れの賜物で、毛根の跡すら判然としない滑らかな肌。
 将来女装をやめたとしても、この手入れは続けて欲しいなと思う。
 更に上げて、ぷにぷにと柔らかい頬っぺたの味を楽しむ。
「これだと……ぁん!……なんだか……ゃん!……俺のほうが女の子みたいだ」
 私の舌先による愛撫を浴びて、散々可愛らしい嬌声を上げ続けていた雅明が、息も絶え絶
えに抗議してくる。拗ねるような、甘えるような声色だけど。
「こんなの嫌かな? 気持ち悪い?」
「いやそんなことない……とっても気持ちいい……」

189 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々C-2 12/13
 許しを得たこともあり、舌先による愛撫をより激しくする。
 与えられる快感に酔うように目を閉じて、睫毛を震わせる雅明。
 光の当たり加減によっては金色に見える、よく手入れされた長くて濃い睫毛だ。
 頭にはヴェールを付けたそんな姿。
 化粧気のない今でも、この至近距離から見ても、その顔は美少女そのもの。
 この日のために守り抜いた純潔を、愛しの花婿に捧げようとする麗しい花嫁そのもの。
 お揃いの純白のビスチェを身体に纏って、傍から見ればたぶんレズ行為に見えるだろう、
2人の世界。
 下半身を隠したまま、『この2人のどちらかは女装した男性です。それはどちら?』と質
問したら、十人中九人が、たぶん私のほうを男だと答えるんじゃないか。
 そこまで考えて、ふと下半身を責めてみたくなる。
 肘より長いロンググローブに包まれた指先で、今私の腕の中に敏感に身もだえしている可
憐な花嫁さんの男の証を弄ぶ。
 色白の肌を、全身ピンクに更に紅潮させていく様子がなんとも色っぽい。
「あっ、あっ! あぁぁん! ひっ、イク、イっちゃう────────っっっ!!」
 雅明はわりと耐えて我慢していたようだけど、執拗な責めに結局屈服して、少女のような
絶頂の嬌声をあげて、私の白い手袋と下着とに、白い精液を解き放った。
 少しの休息を挟んで、攻守交替。
 私がベッドに腰掛け、床に座った状態の雅明が指と舌とで私の股間を責め上げる。
 ぺたんと女の子座りになっているのは、意識しての仕草なのかどうか。
 純白のインナー、純白の手袋、純白のヴェール。そんな姿の花嫁さんが、私の股間に一生
懸命ご奉仕してくれる。途中、上目遣いで私を見上げる花嫁少女と視線が交差する。
「うん、アキちゃん綺麗。凄いいい眺め」「悠里、綺麗だよ。とってもいい眺め」
 ふたりぴったり同時にそんなことを言葉にして、一緒に吹き出してもみる。
 テクもかなり上手い。というか、この3ヶ月で飛躍的に上手くなった。
 教え尽くした、新たに開発された弱点を的確に責めたてられ、快感が全身を駆け巡る。
 アキちゃんのように派手に大きな興奮というのは、私にはやって来ない。
 けれども多分、それに近い状態を、最近は垣間見ることが出来るようになってきた。
 心が体が、徐々に千々に乱れていく。
 正常に制御しようとすればできるけど、今はただ、その大きな流れに身を委ねる。
 サテンの手袋に包まれた、雅明の器用な指先が私の腿の内側の敏感な部分に触れるたび、
電流のような感覚がビリビリと伝わっていく。
 前まではこんなことなかったんだけど、変わったのは私の側か、彼の側か、両方か。
 クンニだけでいったん絶頂を迎えた私の身体を、今度は立ち上がってベッドの外から正常
位で突き上げてくる。
 激しい動きのせいで、既にヴェールは髪になんとか引っかかっただけの状態。
 純白のビスチェは汗だくで、そんな花嫁さんが一心不乱に突き上げてくる。

190 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々C-2 13/13
 下着の胸のカップ部には最初からパッドが入ってるから、この状態だと普通に胸があるよ
うに見える。脱いでも見事なウェストの括れが強調されて、優美で女らしいラインを作る。
 首を振るたびに、さらさらの髪が乱れる。喉からこぼれでる嬌声は相変わらず女の子のよ
うで、でもそれなのに男らしく私の身体を責め続けてくる。
 鏡に映る自分たちの姿は完全にレズ行為のようで、そうでないことは私の膣内の雅明の分
身が激しく主張していて。
 雅明の熱さを感じる。雅明の脈動を感じる。雅明を感じる。
 今日の撮影の光景を思い出す。
 すべての女性が憧れそうな、まるで芸術品のような煌めきを放つ豪奢な純白のドレス。
 その衣装に少しも負けることのない、むしろドレスの美しさをますます高めあっている、
若々しく気品あふれる美しい女性。
 最愛の新郎を見つめるその視線は、本物の新婦よりずっとずっと新婦そのもので。
 優雅さと優艶さを兼ね備えたその姿は、本物の女性よりずっとずっと女性そのもので。
 綺麗に化粧されたその美しい花嫁の顔と、今の雅明のすっぴんの顔がぴったりと重なる。
 いつの間にか私は、そのドレスを纏った花嫁に抱かれているような錯覚に陥っていた。
 びっしりと施された細かな刺繍と真珠の飾りと、最上級の絹だけが持つ生地の煌めき。
 耳元で揺れるイヤリングと、頭を飾るティアラの輝き。
 そして内側から光を放っているかのような、純白の無垢な素肌の眩さ。
 錯覚だと頭では理解してるのに、質量さえ伴うかのようなそんな幻覚。
 その光り輝く乙女に今、私はしっかりと貫かれている。
 朦朧とする意識の中、私の絶頂と同時に、美貌の花嫁は私の胎内に精子を振りまいた。
 幻想が解ける。
 豪奢なドレスを纏った王女のような花嫁は、錯覚がなおったあともやっぱり可憐な花嫁で。
 そのほっそりした姿を、思わず全身を使って思いっきり抱きしめる。
 華奢だけどしっかりとした筋肉を秘めた身体。
 シルクに負けないくらい肌触りの良い肌。
 花の香水の匂いに混じる、嗅ぎなれた体臭の匂い。
 極上の美少女であると同時に、しっかりと男でもある不思議な私の花嫁。
 そんな存在と巡り合えた、自分の手で生み出せた幸福感に、私は包まれていた。

191 :
ということで、
>>84 の上側と、>>85 のアイデアを頂いていたことを白状しつつ、今回分の投下です。
ファッション知識は、常時「教えて! グーグル先生!」状態なので、変なことを書いてないかいつも
ハラハラ状態だったり。
なお「天使さん」は手ごろな女装キャラということで、拙作Symbolon から篠原玲央を登場させてみました。
>>177 さん、鋭いです。……というか、もう少し分かりやすくしとくべきだったかと反省です。
こっち方面で新展開とかは予定していませんので、悪しからずご了承くださいませ。

192 :
更新キテター!!!!!!!
ホントに「男だらけの〜」だったとは(喜
超逆転ブライダルショー、最高です!!!!

193 :
>>177見てピンと来たがやっぱり乙女ちゃんだったのか
しかし実態はそれ以上www

194 :
昔投稿したのがwikiに保管されてた
これは嬉しい

195 :
作者さんキター

196 :
wiki&本スレを久々に覗いてみたけど、相変わらずこのスレに投稿されるSSはレベル高いなぁ・・などと思ってたり。
※過去に自分が投稿したSSを除く・・orz

197 :
「夜は娼婦」ネタや「強制ビッチギャル化」の電波を少しだけ受信
増幅作業に入る

198 :
wktk

199 :
「強制ビッチギャル化」の逆で、不良というかチーマーというかツッパってるタイプの中高生が、やむを得ない事情で女装させられて、躾というか演技指導の結果、清楚可憐系の男の娘化するのを見たいと願う自分は異端なのか。
……あ、好きな相手の前でなら、「夜は娼婦」でも無問題っす。

200 :
たとえばこんなの?
ttp://www.muvc.net/fantasydate/kuso2000/ayano14.html

201 :
>200
おお、割とイメージに近いですね。
こういうのが書ければ(もしくはどなたかが書いてくだされば)いいのですが……。

202 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々C-3(おまけ) 1/4
        <<伊賀真治視点>>
「ね、ね、前こんな看板なかったよね? きれーなモデルさんねぇ」
「いいなぁ、わたしもこんな美人になって、こんなイケメン捕まえて結婚したいなぁ」
「んー、あんたなら、一回んで生まれ変わらないと無理かな」
「ひどっ?!」
 前を歩いていた女性2人連れの会話が耳に入る。
 今まで気にしたこともなかったけど、確かにこの看板は見覚えがない。
 ホテルの結婚式場のものだろう、美男美女のカップルが、『リア充爆発しろ!!』と叫び
たくなるくらい幸せそうに『誓いのキス』を交わしている様子が写っている。
 大学への通り道だから、毎日朝晩に見かけるその看板。
 なぜだか次第に、ウェディングドレス姿のその花嫁が非常に気になっている自分を覚えた。

「あー、今日は愛里ちゃん一緒じゃないのかぁ」
 そんなある日。最近では少し珍しく、アネキとお袋の3人で一緒の晩飯どきの話。
「あらあなた、ちょっと前まで『悠里ちゃん』『悠里ちゃん』って言ってたのに?」
「悠里ちゃんもいいけど、どっちかと言えば愛里ちゃんかなぁ、って」
 テレビのバラエティ番組に片割れが出演してる、双子モデルの会話が姦しい。
 つられて何となく、画面の中に注目してみる。確かに顔もスタイルも無茶苦茶いい美人だ。
「って、あ────っ!!」
「何? 真治、突然」
 食事を中断して部屋に戻り、しまっていたものを探し出して食卓に急ぐ。
 怪訝な表情のアネキをスルーして、見つけたプリクラとテレビに並べてみる。多分そうだ。
「うわっ、何これ凄い。悠里ちゃん? 愛里ちゃん? どっち? 超レアもんじゃん。
 ……で、なんであなたがこんなもの持ってるの。てかなんで一緒に写ってるのよ」
 マシンガンなアネキの質問をかいくぐり、事情を説明する。
 といっても、高校卒業後の春休み、北村と一緒にゲーセンで遊んでいたときに出会って、
偶々ナンパしてプリクラを撮っただけなので、あんまり説明できることもないんだけど。
「いいなぁ、いいなぁ。ナマ悠里ちゃんかぁ。……なんで今まで黙ってたのさ」
「いやぁ、てっきり別人だと思ってたし。髪型もメイクも全然違うし、むしろ良く気付いた
って褒めて欲しいくらい。……名前も確か、瀬野悠里って言ってなかったし」
「そりゃあんたアレでしょ。芸名」
 あの時のことを思い出そうと努力してみる。
 “悠里ちゃん”は確かに凄い美人だと思ったけど、彼女一人だけなら声をかける気にもな
れなかっただろう。おれが惹かれたのは、“アキちゃん”のほうだ。
 まあ、じゃんけんに負けたせいもあって、あの娘は北村に譲る羽目にはなったけど。
 そこまで考えたとき、番組がCMタイムになる。
「あっ、これアレよね。駅前のホテルの看板の。やっぱすごい美人だなあ。憧れちゃうなぁ」
 こういうのには疎いおれでも分かる、例の看板の結婚式場のCM。

203 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々C-3(おまけ) 2/4
「あ────っ! そっか────っ!!」
「真治、近所迷惑よ。あんた声でかいんだから」
 ようやく、今更ながら、『あの看板』の花嫁が気になっていた原因に気づく。
 印象が変わりすぎて分からなったけど、たぶん、あれアキちゃんなんだ。
 ということで夕食後、久々に(彼女のプリクラを持ってる)北村に電話をかけてみる。
「よぅ、北村、久しぶり。あのな……」

 土曜昼過ぎに北村と待ち合わせて、例の看板のところに行ってみる。
 人だかりというほどではないけど、人が看板近くのショーウィンドー前にたむろっている。
 看板の確認もそこそこに、なんとなくその場所に行ってみる。
「これ、人間なのかな?」「私さっきから見てるけど、ピクリとも動いてないし、瞬きもし
てないしマネキンでいいと思う」「そうなんだぁ。けど凄いリアルねぇ。動き出しそう」
「看板の花嫁さんそっくりだよね。やっぱ美人よねえ」「ウェストほっそいよねえ。原寸?」
「間近で見るとこれ、ドレスも凄いなぁ。どんなセレブなら着れるんだろ。憧れだなぁ」
 そんなことを言ってるギャラリー連中の上から、自分達の身長に感謝しつつ覗き込む。
 確かにやたらに精巧なマネキン?が置いてあった。
 ドレスの区別なんかつかないおれだけど、多分看板やCMと同じ衣装を着たマネキンだ。
 顔もモデル本人から直接型取りしたに違いない。それくらい似てる。
 けど一緒に覗いた北村は、「アキちゃんっ!」と叫んで、皆の注目を集めてしまった。
 マネキンは当然、反応がない。何も映らない無機物の瞳で、どこかを見つめているだけだ。
「北村、やっぱりあの看板の花嫁、アキちゃんでいいの?」
「……そうだけど、そうじゃない。今あそこでマネキンのふりをしてるのが、アキちゃんだ」
 なぜか確信した感じで言われても、おれには少しぴんと来ない。
 その時ちょうど、1時の時報の音楽が街中に鳴った。
 自分の目で直接見てなかったら、きっと何かのSFXだと思っただろう。
 時報を合図にするかのように、今まで命を持たない花嫁人形そのものだったマネキンが、
急に生き生きとした生命を持つ花嫁に生まれ変わる。
 これまで微動もしなかった身体は滑らかで優雅極まりない動きに、作り物の笑顔を貼り付
けていた顔は柔らかで華やかな笑みに、ガラス玉のようだった瞳は愛する相手を迎える花嫁
そのものの夢見る瞳に。
 周囲で起きた悲鳴と歓声を、おれはひどく遠くで起きたことのように感じていた。
 まわりを見回しながら手を振ったりしていたアキちゃん。
 観客の一員であるおれ達には、特にすてきな笑顔とウィンクまでプレゼントだ。
 そんなこんなで時が進み、時報の音楽が止まる。
 その瞬間に、今までが嘘だったかのように、最初とは別のポーズでぴたり静止する。
 そうなるともう、本当にマネキンにしか見えない。
「すごいな……」
 正直、ため息しか出なかった。

204 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々C-3(おまけ) 3/4
 予めホテルの人から聞いていた終了時刻である6時の、その少し前。
 戻ってきてみると、けっこうな人だかりができていた。
「これ、本当に人間なの?」「本当だって。もうちょっと待ってて。そろそろ動くはず」
 時報の音楽が鳴り始める。1時の時とは違い、最初は機械的に2、3度瞬きしただけだ。
 それでも、一度見て頭の中で理解していたはずなのに、『動かないはずのマネキンが命を
もって動き出す』という非現実的な光景に、強いショックを受ける。
 人形めいた動きで身体を動かし始める。機械仕掛けの人形と言われたら納得しそうな動き。
 それが徐々に滑らかに、人間らしい動きと表情を取り戻し、優美さを備え始める。
 ドレスのスカートを両手で摘み上げ、背筋をきちんと伸ばして礼をした状態で音楽が終わ
り、そのまま静止してこの短い公演が終わりを告げた。

「アキちゃん、本当におつかれさま」
 それから1時間くらいあと。ホテルの中から出てきた少女に、北村が声をかけた。
 フリルのついた薄手の白いブラウス、少し透ける黒い長いスカート、細い黒いリボンタイ、
つばの広い大きな白い帽子。“深窓の令嬢”という言葉が似合う綺麗な少女だ。
「待ってて頂けたんですか。ありがとうございます。北村さん伊賀さん、お久しぶりです」
 あわてて帽子を取り、にっこりと笑いながら、ぺこりと頭を下げる彼女。
「……お疲れ様、本当凄かったよ。おれのこと、覚えてくれてたんだ。嬉しいな」
 おれの知ってるアキちゃんは、どこかボーイッシュなところなところのある、『わりと可
愛い』レベルの女の子だった。
 それが今は、アネキやお袋、いやおれの知ってる女性全員とすら比較にならないくらい女
らしい、綺麗で上品で可憐で可愛らしい、飛び切りの美少女になっていた。
 よく彼女がアキちゃんだと一目でわかったもんだと、北村に内心で感心しつつおれも挨拶。
「アキちゃん、このあとどういう予定? やっぱり彼氏さんとデート?」
「いえ、事務所に行って、明日のイベントの打合せです」
「うわ、頑張ってるんだなあ。凄いよ。尊敬する」
「ありがとうございます。色んな仕事ができて、毎日充実中、って感じですね」
 今からの予定をいろいろ聞き出し、結局事務所まで一緒に行かせてもらうことにする。
 あの大仕事のあとだというのに疲れを見せない、背筋をぴんと張った流れるような足取り。
 細くて艶やかな髪を今はアップで纏めてるのでよく見える、透明感溢れる白い首筋。
 『笑顔』だけで幾つ表情を持っているのだろう。先ほど無表情なマネキンの演技をしてい
たとは信じられないくらい、くるくる変わる表情に、おれは見とれる。
「アキちゃん結局、モデルになったんだね」
「はいっ。あれから色々ありまして。でも、あの時の伊賀さんの後押しがなかったら、なら
なかったかも。あの時のお礼もまだでしたね。ありがとうございます」
「あの式場、ちょうど大学の行き道にあるから、毎日看板見て、綺麗だな、って思ってた」
「うわっ、なんだかちょっと恥ずかしいですね」
 平日は毎日使っている地下鉄を、大学とは反対方向の便に乗る。
 揺られること10分強、そこから歩いて数分。『事務所』と聞いて都心に行くのか思って
いたら、意外なくらいに近場だった。

205 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々C-3(おまけ) 4/4
 前回は比較対象が悠里ちゃんだったから目立たなかったけど、この子も頭が小さくて腰の
位置が高い場所にある、スタイル的にも満点な美少女ぶりだ。
 北村と並んで違和感がないくらい背がすらりと高く、胸とウェストの対比も見事。
 何よりも滑らかな白い肌が、周囲の乗客の注目を集めまくっている。
 でも最初は外見の変化に気を取られていたけども、それより大きく変わっていたのは、彼
女の内面のほうだと、道中話しているうちに気づく。
 以前あったときは、何かこう、自分を包む殻をおっかなびっくり内側からつついている、
孵化寸前の雛ような印象のあったアキちゃん。
 それから4ケ月も経ってないのに、もう自分の翼で大空を飛び始めている。そんな印象。
 一体、これから彼女がどこまで飛んでいくのか、楽しみにすらなってくる。
「アキちゃん本当にすごい変わったよね。おれだけなら分からなかったかも。素敵になった」
「ありがとうございます。以前のあたし知ってる人と会うのはやっぱり恥ずかしいですね。
……あたしもう、自分に嘘をつくのやめたんです。可愛くなっていいんだ、って」
 人って、こんなにも変われるもんなんだ。
 そんな感動すら覚えているおれの鼻に、彼女の匂いが届く。
 お気に入りの香水なのだろうか。前会ったときと同じ、花のような微かな香り。
 大きく変わった彼女の中の、変わらない点──それに何故か余計にドキドキしてくる。
 そんな楽しい時間は、あっという間に終わる。
 『こんな場所に芸能事務所があったのか』と驚くような、大きくはない雑居ビルの前。
「そうそう、忘れるところだった。アキちゃん、これ」
「へっ? え? え? え? かっ、かぁいぃーっ!! やっぱかぁいぃーなぁ、もぅっ」
 北村が手渡した白い仔猫のぬいぐるみ。それを見て、大きな目を更に大きく丸くしてる。
「これってあれですよね。最初お会いしたときの」
「うん。アキちゃんが狙ってた、クレーンゲームのぬいぐるみ。今日一日、がんばったね、
って、僕たちからのプレゼント」
「いいんですか? ありがとうございます。ありがとうございますっ。やったぁ!」
 原価でたぶん500円もしないアイテムを両手で抱えて、ぴょんぴょん飛び跳ねたりし
てるアキちゃん。
 今日、6時のアキちゃんの仕事の終了を待つ間に探して何度も挑戦して、最後は店員さ
んにお情けで開けてもらったシロモノだけど、この喜びようだけで十分な気がしてしまう。
「本当にありがとうございます。うわっ、今日はいい日だ。かーいぃよう」
 そう言うアキちゃんのほうがずっと可愛く見える。
 柔らかそうな胸の間にぬいぐるみをむぎゅっと抱きしめて、何度もお礼するアキちゃん。
 おいお前、場所変われ。
 別れの言葉を繰り返してビルの中に入る姿とその残り香を見送って、北村に声をかける。
「で、北村。これからどうする? 何か飲みに行くか?」

206 :
七夕イベント参加で、浴衣姿のアキ&愛里を書くつもりだったのですが、間に合いそうにないので
その前段部分のみで投下です。
『瀬野家の人々』 雅明くんの春休みCで登場した元バスケ部2人組ですが、覚えてない人も多そう。
色々案も出てるので、次は色々な作家さんが書いていただけると嬉しいなあ。とか思ってみます。

207 :
おお、今度は人間マネキンですね。
またもいいものを頂きました。眼福眼福♪

208 :
1ヶ月書き込みがないとかどんだけ過疎化

209 :
夏 ですから、ね。
過疎化 ではなくて。
書き込み規制とか、書き込み規制とか、書き込み規制など、原因ですね。

210 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々D 1/12
 目を覚まして、時計を見る。うん、目覚まし時計が鳴る2分前。
「ましろん、ふーみん、ゆっちん、おはよっ☆」
 ベッドの上のぬいぐるみさんたちに小声で挨拶して、2段ベッドの下を覗く。
 愛里お姉さまはまだ、柔らかな寝息を立てているところだった。
 目覚ましが鳴らなかったことに感謝しつつ、音を立てないようにそうっとベッドを降り、
着ていたネグリジェから花柄ピンクのルームウェアに着替え、部屋を出る。
 最近部屋替えして相部屋になった、あたしと愛里お姉さま。
 昔の俊也さんの部屋が、今は雅明と俊也さんの相部屋ということになっている。
 あたし的には、この部屋替えで可愛い小物を遠慮なく置けるようになったのが嬉しい。
 匂いも素敵だし、人も遠慮なく呼べるようになったし、なんでもっと早くこうしなかった
のかと思ってみたり。
 朝の新鮮な空気を深呼吸して洗面所に。
 鏡の前でもうすっかり日課になった、笑顔の練習だ。
「うんうん。あたし、とっても可愛い☆」
 今日も素敵な一日になるように、素敵な笑顔でがんばろう。
 朝のスキンケアを手早く済ませて、キッチンに入ってエプロンをつける。
 ピンクでフリル付き、黒猫に白猫が寄り添ってるプリント付きの、最近のお気に入り。
 今日は麦とろごはん、ワカメの味噌汁に焼きシシャモの和風メニューだ。
 平行してお昼のお弁当も。カロリー控えめで、スタミナがあって、美容によくて、栄養バ
ランスがよくて、美味しい食事。工夫のしがいがあって、なかなか面白い。
「相変わらず美味しそうな匂いね。アキちゃん、おはよう」
「おはよっ、ママ」
 あたしの頭をなでなでして、一緒にお料理してくれる。相変わらず、見とれちゃうくらい
の腕前だ。
 楽しい会話を母娘でしつつ、楽しいお料理。こんな時間をちょっと前まで持てなかっただ
なんて、なんてもったいないことをしてたのだろう。
「うん、あとはよそうだけだから、アキちゃん、みんなを起こしてきて」
「はーい、ママ」
 まずはあたしたちの部屋に戻り、部屋の明かりを灯す。
 愛らしく寝息を立てている愛里お姉さま。まるで天使のようだ。
 長い睫毛とすべすべのほっぺ、額の描く曲線美、形のいい唇に見とれる。
 思わずその唇に、自分の唇を重ねてしまう。
 ほんの一瞬、軽いキスだけのつもりだったのに、愛里お姉さまが抱き付いてきて、いきな
りディープキスに。
「?!っ ……んっ? ぅんっ……!」
 思わず脚から力が抜けて、思いっきり抱き合う形でベッドに重なり合う。
「んーふ♪ 朝のアキちゃんキスげっとー♪ おーはよっ♪」
 身体を起こして、唇に指をあてた愛里お姉さまの、爽やかな笑顔が眩しかった。

211 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々D 2/12
 ドキドキしてる胸がちっとも静まらないのに困惑しつつ、次はお姉さまの部屋。
 ノックをして「どうぞー」と言われたので開けてみると、お姉さまは既に起きていて、全
裸で鏡の前で身体のラインとか確認しているところだった。
 その美しい姿に、思わず息を呑む。
「おはよっ♪ アキちゃん」
 振り返りながら笑いかけるその顔に、ぴょこんと心臓が飛び跳ねる感触がする。
「お姉さま、おはようございます。朝食の準備が出来てるので、来てくださいね」
 最後にパパを起こしてあげて、一家みんなが食卓に並ぶ。素敵な光景。
(──おはよ、雅明)
(おはよ♪ アキ)
 頭の中で、眠たげに挨拶してきたアキに対しても挨拶。
 ……ってちょっと待った。“あたし”……じゃない、“俺”は雅明なのか?
(なぁに、雅明。なんでそんな変なこと言ってるの?)
 大学が夏季休暇に入って以来、ずっと女装しっぱなし、タックしっぱなしで男姿に戻った
ことがないとはいえ、なんで俺はここまで『女の子』に順応してるのか。
 ──俺はもう、駄目かもしれん。

 準備と最低限の家事を済ませて、家を出る。
「アキちゃん、おはよう。こないだのキャロットケーキありがとう。おいしかったわぁ」
「坂本さん、おはようございます。お口にあって何よりです」
「うちの亮、普段人参食べないくせに『美味しい、美味しい』って。人参のケーキってばら
したらウゲって顔したけど、アキちゃんの手作りって教えたら『もっとないの?』、だって」
「あはははは。でも、嬉しいです」
「こんな可愛いし、性格いいし、料理もお菓子も上手だし、本当、いいお嫁さんになるわぁ」
 雅明のときには黙って頭を下げて通り過ぎるだけの、近所の住人たち。
 それが“アキ”になったとたんに、親しく言葉を交わす知人・友人たちになる。
 20年くらい実際に生きてきた実在の男性『雅明』より、半年前には影も形もなかった非
実在の少女『アキ』のほうが、もう知り合いの数が多いんじゃないのか。
 改めてそのことを実感させられて、なんとも不思議な気分に包まれる。
 唇や顔を覆うヌメヌメ感、妙な匂い。耳たぶの圧迫感、耳元で揺れる重み。風になびく髪、
その度に届くシャンプーの香り。呼吸のたびに緩やかに上下する胸。
 ピンクの可愛らしい日傘、日除けの白いショール、長手袋。足首丈の淡いブルーのサマー
ドレスの裾が、脛毛のない脚に絡む感触。『慣れるため』と履かされているハイヒールの不
安定感、締め付け感と、コンクリートを叩くコツコツという音。
 おかしな気分だ。
 とっくに慣れたはずの『女らしい』色々なことが、なぜか妙に気になる。
 一歩間違えればただのキモい変態の、女装した男。それなのに『背の高い可愛い女の子』
として疑いもなく受け入れられる、見られる、扱われる、振る舞うことを要求される。
 とても奇妙な、自分でもよくわからない、ふわふわした気分がした。

212 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々D 3/12
「瞳さん、おはようございまーすっ」
「おはよう、アキちゃん。……何かいいことあったの? なんだかいつもより嬉しそう」
 そんなこんなで事務所到着。……俺が“嬉しそう”? そうなんだろうか?
「あたしはいつも通りだと思いますよ? お姉さまたちはもう出ちゃいました?」
「2人はここは少し立ち寄っただけね。ちょっと早いけど、わたしたちも出発しましょうか」
 8月に入ってからずっと、悠里と俊也はドラマの撮影にかかりきり。
 女優になるのが夢と悠里は言っていたから応援したいけれども、せっかくの夏休みに土日
以外ほとんど顔を合わせる間もないのが悲しい。せめて仕事場が一緒なら良かったのに。
(これはまあ、昔、俺がファンだった某男優が主演のドラマの撮影という理由もあるけど)
 たしか、大正時代を舞台にした探偵もの。。
 大正の女学生スタイルは可愛くていいけれど、時代考証のしっかりしたドレスは重くて動
きにくくて大変、と悠里がぼやいていたことを思い出す。
 ……まあ俺も今、その『時代考証のしっかりしたドレス』を着ているわけだが。

「本当、綺麗ねぇ」「お姫様そのものって感じ」「フランス人形みたい」「身体細いのねえ」
 スタッフさんたちの賞賛を、素直に喜びそうになっている自分が嫌だった。
 コルセットをこれでもかというくらいに締め上げ、スカートを鳥かごみたいなモノで思いっ
きり膨らませた“ヨーロッパのお姫様”みたいな、淡いピンクの生地に花柄のドレス。
 衣装合わせの時に、ロココ朝のドレスを完全再現って言われたっけ。よく覚えてないけど。
 一応自分の身体に合わせてもらったけど、それでもドレスは男が着る衣装じゃない。そん
なことをしみじみ実感させられる、きついドレスだった。
 今日のお仕事は、とある企業の新製品のCMの撮影。
 朝から相方の俳優相手に普段着でリハを繰り返し、このレトロなドレスが本番用の衣装。
 ……ただ、この『とある企業』というのが少し問題で、『あいつ』の会社なのだ。
 今のところ顔も見てないけど、撮影後食事に、とかあるんだろうか? と思ってたら。
「──実に懐かしいよ。昔を思い出す。アキさん、綺麗だ」
 かけられた声の主を見て、思いっきり吹き出す。そうきたか。
 視線の先には、『あいつ』=『このCMのスポンサーの会社の社長』=『デンパナンパ男』
が、王子様の出で立ちで立っていた。美形ではあるし、似合ってはいる……のだけれど。
 リハで相手した俳優氏はダミーだったのか。流石にひきつった笑みしか出てこない。
「本当はリハーサルから一緒に居たかったんだけど、どうしても都合がつけられなくてね」
「それはいいんですが……『昔』、って何のことでしょう?」
 ひょっとしてこいつ、10年前の“アキ”の知人だったのか? 少し身構えて質問する。
「ごめん……そうだよね。君には前世の記憶なんてないんだよね」
「すいません、この社長さんって、いつもこんな感じなんでしょうか」
 思わず、このCMの担当役をしてくれていた中年男性の社員さんに聞いてしまう。
「いえ、こんな社長は初めて見ました。基本、生真面目なかたですし」
 しかしどうしよう。突っ込みどころが多すぎて困った。

213 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々D 4/12
 何か言いたげな瞳さんとか、話したいことは色々あるけれど、でも撮影を開始しないと。
 頭の中で流れを確認する。
 最初は昔のヨーロッパ貴族の衣装で2人で登場。その後商品紹介が入り、現代のスーツ姿
で2人、職場で働いているシーンで終了という、まあ単純なストーリーのCMだ。

 撮影は、意外なくらいスムーズに終わった。
 始めしどもどして怪演していたデンパナンパ男が、すぐに気を取り戻したように役に入り
きって快演で応えてくれたのが大きいのかも。
 終了後、2人で着替えもせずに、撮影に使った職場の隅に退避して、撤収作業を見守る。
 スーツの上下にネクタイを締めたビシっとした姿のデンパナンパ男。前に会ったときのカ
ジュアルな服よりずっと板について格好いい。
 これでやり手な若手社長なのだから(たとえ極度のデンパ男でも)もてそうなのに、先ほ
どの中年男性氏によれば、今まで浮いた話がないというのが意外だった。
 ちなみに自分もレディスだけどスーツ姿。(ヒップパッド入りの)体のラインがきっちり
出るタイトスカートに肌色のストッキング。パッドが盛り上げるブラウスに、スーツの上着。
 瞳さんを見ていいなと思っていた衣装を、自分が着ているという事実が妙に恥ずかしい。
「……『何をしてるのですか? あなた。時代はもう変わったのに』」
 それまで沈黙していたデンパナンパ男が、ふとCMの中の俺の台詞を呟く。
「……アキさん。この言葉を聞いて、何も思い出したりしないかな?」
「すいません。あたし、あなたが何を言ってるのか分からないです」
「そうなんだよね。『時代はもう変わったのに』……200年も前に言われたのに、オレは
今でも昔に拘ってる。前のキミは、今のキミじゃないのに。いい加減、吹っ切らないと」
 なんかいきなり自己完結してるし。いや本当に吹っ切ってくれるならありがたいけど。
「ところでアキさん、今高校3年だっけ。どう? 卒業後はうちの会社に来ない?」
 それは少し心が揺らぐ申し出だったけど、色んな意味で無理な話だった。
 けどさっきのは、『新しい関係を始めよう』って宣言なのか。ゲンナリしてみる。

 もとのサマードレスに着替え、瞳さんに付き添う形で悠里たちの撮影現場へ。
 スタジオに入ると、丁度悠里と俊也が2人向かい合って熱演している最中だった。
 桜色の小袖に海老茶色の女袴。ハーフアップの髪を大きなリボンで留めた大正の女学生姿。
そんな格好も似合っていて、無茶苦茶可愛い。
 まるで鏡のように、外見がぴったり一緒の2人。そんな美少女が2人もいるのだ。なかな
か良い眺め……じゃない。片方が実は男だと知ってる俺にとっては、微妙な眺めだった。
 悠里が演じるのは探偵の助手の少年で、俊也が演じているのはその助手にそっくりの華族
の令嬢。今は探偵助手が令嬢に変装しているシーンなのだろう。
 中身を知ってる俺からすれば、逆の配役が良さそうに思える変な状況。
 素直に自分の恋人の姿に見とれたいのに、それも出来ずにもどかしいと思う俺に向かって、
ドラマのスタッフと色々話していた瞳さんが相談をかけてきた。

214 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々D 5/12
 鏡の中に映る、一人の女学生の姿。
 紫の矢絣の小袖、濃紺の女袴。ドーランを塗ってそばかすを描いて黒い三つ編みのかつら
を被って目立たないようにした、でも隠せない愛らしさを持った少女。
 自分は男なのに、また変なコスプレ女装させられて全国にその姿を晒される。
 ──そのことを嫌だと思う自分と、可愛い衣装にウキウキしてる自分。
 鏡の中の“少女”の表情を見ているだけで、どっちが本当の自分か丸分かりで辛かった。
「相変わらずアキちゃん可愛いわねえ。……それに引き換えわたしはこの齢で、恥ずかしい」
「いぇ、瞳さん、十分可愛くて綺麗でいけてますよっ。美人で憧れちゃいます」
 事情は知らないけど、2人抜けたエキストラのピンチヒッター。名前も台詞もない、画面
に映るかも分からない本当の端役。それでも悠里との共演は心が躍る。
 『女装に戸惑う男の子』の役を演じる女の子の後ろに、女装した男が普通の少女の役で存
在する。そんな皮肉な構図には、内心笑いが出てしまうけれども。
 『瞳さんが目立ちすぎ』という理由で、一度NGくらったくらいで、そのシーンは結局ス
ムーズに終了。俺はまたなんとなく女袴のまま、ドラマの撮影を見学させてもらっていた。
 間近で見る男優氏の演技もやっぱり凄いけど、初出演なのにそれを食う勢いの熱演ぶり。
 悠里は凄い……いつも思うことを、改めて実感する俺だった。

「もうっ! アキちゃんってば可愛すぎっ!」
 撮影が終わって、退出した2人を追う形で楽屋に入った俺に、悠里がほとんど飛びつくよ
うな形で抱き付いてくる。何とかドアを閉め、二人で深いキスを交わす。
 俺が女袴の女装姿、悠里が少年役の男装姿。キスもなんとなく自分が受け側気味だ。
 もう慣れて感覚が麻痺しかけてるのがまずい、倒錯した関係。でもこの温もりが愛しい。
 いつまでもこうしていたかったけど、ドアのノックの音で、慌てて飛び離れる。
 入ってきた瞳さんにバレてなきゃ良いけれど。
「瞳さんもあの衣装のままだったら良かったのに。すっごく綺麗だったよ♪」
「愛里ちゃんもそんなこと言わないでよ。わたし、恥ずかしかったのに」
 大正時代の令嬢らしい、少し時代錯誤的な洋服姿の俊也と、スーツ姿の瞳さんによるそん
な会話。俺的には、ドレスや女袴よりスーツのほうが恥ずかしかったんだけど。

 明日のスケジュールを確認して瞳さんと別れ、そのあと何故かドラマ陣に混じって夕食。
 その後ホテルに入り、先に風呂に入る2人を見送って、ベッドに倒れこむ。
 今日はCM撮影やエキストラも大変だったけど、最後の夕食の席が一番疲れたかも。
 くだんの男優氏との会話は楽しかったけど、後半酒が回ると俺を口説き始めてくるし。
 俺が本当に女なら、今頃は別のホテルの別の部屋で寝ていたかもしれなかった。
 悠里たちと交替で風呂に入り、弁当箱も洗って外に出ると、悠里たちは寝息を立てていた。
 無乳と美乳の違いだけで、双子の美少女にしか見えない裸姿でピタリ抱き合って。
 久しぶりにエッチできると思っていたのに、肩透かしを食らった気分。
 彼女たちを起こさないよう、俺も静かにベッドに横になると、すぐに睡魔が襲ってきた。

215 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々D 6/12
 目を覚まして、目覚ましが時計どこにあるのか探して少しキョロキョロする。
 いつもと違う光景。そっか、あたしは昨日ホテルに泊まったんだった。
 そして目に入る、あたしの身体の左右に寄り添うお姉さまたちの姿。
 今日はお昼すぎまで、姉妹3人でゆっくり休みという素敵な一日。
「ふにゃあ」
 思わず満足の鳴き声(?)が喉からこぼれてしまう。
 一糸まとわぬ姿でぴったり抱き付いてくる2人の、肌のぬくもり、柔らかさ、いい匂い。
 瞼を閉じて、それを存分に堪能しよう。そう思ったのに……いつの間にか寝てたみたい。

 ……唇の柔らかい感触に、意識が引き戻される。
 王子様ならぬお姫様のキスによる目覚めだ。うっとりした気分。
「おはよう、アキちゃん♪」
「お姉さま、おはようございます……って、あっ! あぁぁんっ! ……ふぐっ!」
 まだ寝惚け眼のあたしに向かって、上の口と下の口に対するキスの嵐。
 唇をお姉さまが、(タックで作った)割れ目ちゃんを愛里お姉さまが、それぞれ慣れ親し
んだ絶妙なテクニックで舌先による愛撫を繰り返す。
 あまりの快感に、身体がうねるように飛び跳ねる。素敵だけど、でも大変な朝の目覚め。
 結局3回も絶頂を繰り返したあとで、ようやく開放された。
「ふぁにゃあああぁぁぁ」
 なんだか猫のような声しか出てこない。まだ目がとろんとしているのが、自分でもわかる。
「アキちゃん、本当気持ちよさそうな表情でいいよね♪」
 そう言う愛里お姉さまは、水着を纏った格好。それも紐メインで布の面積の小さい、かな
りきわどいビキニだ。
 胸はないけど、惜しげなく晒された長い脚の滑らかな曲線美、きゅっと上を向いたお尻の
丸み、高い位置のウェストのくびれは、それだけで芸術作品と言えそうなくらいに綺麗。
 お姉さまも、それとお揃いのビキニを着用。相変わらずの赤と黒の色違いだ。
「……今日は、水着なんですか?」
「うん♪ ……本当はいろいろ考えたんだよ? 今日の夕方のイベントの浴衣とか、昨日の
袴姿で出来ないかとか」
「袴でのプレイが出来なかったのは残念だよね……まあ、あれエッチしにくそうだけど」
「で、まあ夏の盛りだし、結局水着で。……ほらアキちゃんも」
 あたしの知らない場所で、何か色々あったみたい。
 立ち上がって、お姉さまたちに水着の紐を結んでもらう。
 触られただけで感じちゃう状態なだけに、いぢられまくって大変な状態になってましたが。
 お尻を覆う布の面積は小さく、つるりとしたお股を覆う面積はそれよりも小さく。
 毛とかきちんと手入れしてなかったら、みっともない状態になっていたところだ。
 ぺたりとした胸だって、乳首とあと僅かな面積を隠すくらいで、ほとんど解放状態。
 ピンク色の、そんな衣装とも呼べぬ衣装。裸よりも裸な気分にさせる露出度が恥ずかしい。

216 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々D 7/12
「うわぁっ、きれーっ」
「色が白いって、やっぱり『力』だなあ。水着なのに、なんだか雪の妖精みたい」
「みんなに見せてあげたい気分もするけど、でも今は私たちだけでアキちゃん独り占めなん
だよね……すっごい優越感がする」
 そんなお姉さまたちの賞賛を気恥ずかしく思いながら、鏡に全身を映してみる。
 部屋に差し込む朝日を浴びて、それぬ負けぬ光を内側から放つかのようなきらきらした姿。
 膨らみのない胸、曲線にやや欠ける体つき。そんな思春期前の少女のようなあどけない肢
体が、露出度の高すぎる水着によって逆に危険な色っぽさをもたらしている。
 それが自分の姿であることを忘れ、しばらくその姿に見とれる。
 そしてそれが、あたし自身の姿であることに、誇らしい気分を抱く。
 肩をふわっと隠す長さまで伸びてきた髪が、今は寝癖つきまくりなのが、少し微妙だけど。
 お姉さまたちもそれに気づいたのか、ブラシを取り出して丁寧にブラッシングしてくれる。
「髪が柔らかくて素直だから、寝癖すぐ直るんだね。びっくり」
「このダークブロンドの髪の色とか髪の質ってって、女の人がお金使って、気を使って目指
す理想の状態なのに、それが天然で『こう』なんだもんね。本当反則」
 ブラッシングを終えたあとは、3人でプチ水着ファッションショー。
 3人ともプロのモデルなのだ。身内だけのお遊びとはいえ真剣に、でも笑顔を振りまいて。
 ほとんど自分の身体だけで、衣装の魅力を伝える久々の体験。いかにあたしが最近服に頼っ
てきたかを思い知らされて──モデルの持つ、新しい奥深さにワクワクしちゃう。

「お姉さまたち、ほんっとーに素敵でしたぁ」
 結局1時間近くショーを続けて、心地よい疲労感に包まれながらベッドに腰掛ける。
「アキちゃんこそ、本当凄かったわよ。……グングン吸収していくんだもんなぁ」
「……アキちゃん、ちょっといいかな?」
「なんでしょう? 愛里お姉さま」
「もう、アキちゃんってばセクシーすぎ! ここまで我慢した私を褒めてっ!」
 返事の前に、あたしの唇が愛里お姉さまによって完全に塞がれる。そのままベッドに押し
倒されて、侵入してくる舌にあたしの舌を絡ませあう。
 胸があまりに強く激しくドキドキしまくって、張り裂けてしまいそう。
「あー、愛里抜け駆けずるーい!」
 そういって、水着の上をちょっとずらして、あたしの乳首を舌で責め始めるお姉さま。
 ほんの一瞬で、絶頂の波が押し寄せてきてしまう。あたしが男なら早漏レベル。
「あん! やん! あぁぁああんっ!! ひゃんっ!」
 愛里お姉さまは唇を離して、お姉さまと反対側の乳首を、同じように責め始める。
 左右同時の乳首責めに、絶叫のような嬌声が止まらなくなる。腰が、身体がいやらしくう
ねるのが止まらなくなる。
 乳首を甘噛みされて、乳首の周囲を舌で丁寧にペロペロされて。片方でもいきそうなそん
な刺激が、左右同時に! あまりの快感に、心が、体が、完全に翻弄される。

217 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々D 8/12
 乳首責めだけで、何度イってしまったのだろう。
 ふと気づくと、お姉さまが立ち上がって鞄のところでごそごそしていた。
「あはっ、おちんちんだぁ☆」
 朦朧した頭、少し霞んだ瞳に映るのは、ペニバン姿のお姉さま。
「アキちゃんって本当におちんちんが好きなのね」
「うんっ! だぁいすきぃっ!」
「うふ。……本物のペニ○じゃなくてなくてごめんね」
「んっ、アキいい子だから、がまんする!」
 雅明のものより、もう一回りくらい多分大きな、お姉さまの疑似おちんちん。
 愛里お姉さまと一緒になって左右から同時にお口でご奉仕を始める。
 息がかかるくらいすぐ近くにある、整った顔立ち、滑らかな頬、長い睫毛。
 目があうと、にっこりと微笑んでくれる。そのたびにもうドッキドキだ。
 そんな時間がしばらく流れたあと、ベッドの上に上がって四つん這いになり、お姉さまの
おちんちんを受け入れる体制に入る。繊細な指先が、そっとビキニをずらす。
 あたしと愛里お姉さまの唾液でぬとぬとになった、微かに温かい疑似肉棒があたしの穴に
押し当てられる。それだけでイってしまいそうな興奮があたしの全身を襲う。
 あたしのお尻が、お姉さまのおちんちんをずぶずぶと受け入れる。
「ぁあぁっ……! はぁっ……! っぁぁぁぁっ!!!」
 堅い物体が、あたしの中に入り込んでくる。快感が全身を貫く。ぽたぽたと汗が滴る。
「アキちゃん、すごいすごい。本当にこれ最後まで飲み込んじゃったんだ」
 感心するようにお姉さまは言ったあと、腰を力強く振り始めた。
 張り出したカリ首が、あたしの体内をえぐるように動く。竿の部分が、何度も何度も門の
部分を往復する。深く突き当てるたび、先端があたしの一番奥深い部分を叩く。
 そのどれもが気持ちいい。
 もう、四つん這いの形を保ててるのが不思議なくらいに身体が暴れまわる。
 何度イったのか、数える気にもなれないくらい絶頂が絶間ない波として襲い掛かってくる。
 途中から、双頭ディルドー装備の愛里お姉さまとタッチして、今度は正常位でエッチだ。
 細いし、短いし、力強くもない。でも繊細なテクニックがそれを埋めてなお余りある。
 全身くたくたなのに、それでもまだ貪欲に快楽を求めるあたしの躰。
 ビリビリした電流めいた快感が指先まで走り抜け、支配する。なんて素敵な朝だろう。
「お姉さま、愛里お姉さま、愛してますうっ!」
 思わず口から出てきた言葉に、2人一瞬顔を見合わせたあと、完璧にハモりながら。
「「ありがと! 私もアキちゃん大好き!!」」
 とても素敵な笑顔でそう、答えてくれた。
 ……そのあと流石に少し休憩を挟んで、その間にリムーバーで股の接着をはがされる。
 久々に見る『雅明』の姿に、凄い違和感。
 昔お風呂でしたように、愛里お姉さまとぴったりと抱き合って、ビキニから完全にはみ出
た股間同士を重ね合わせつつ、ディープにキスをする。

218 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々D 9/12
 なんだか身体の芯の部分からこみ上げてくるような感覚がして、それだけで何もしていな
いのに、盛大に白いものが噴き出してしまう。
 愛里お姉さまとあたしから同時に出た熱い液体が、混じり合いながら2人の身体を染め上
げていく。それは初めて味わうような、深く長い発射感。
「キスだけでイク……こんな感覚なんだね。なんだかとても不思議な気分」
 2人で床の上に崩れるように座り込んで。目を閉じて、深い真理でも語るような調子で、
愛里お姉さまが言う。
「世界が変わりますよねぇ。空気そのものが光り輝いて……」
 しばらく2人で呆けた次は、3人身体を重ね合わせる。
 あたしのクリちゃんを、その……お姉さまのアヌスに慎重に入れて、あたしの穴に今度は
愛里お姉さまのクリちゃんを迎え入れて。お姉さまのペニバンより3回りは小さい、でもま
がい物では決してありえない熱さに興奮が高まる。
「あっ、やっ、ひゃうぅぅんっ! アキっ、アキちゃんやっぱり気持ちよすぎっ!!!」
 腰を振り始める前にいきなり、あたしの体内に迸る熱い液体の感触。
 さっきイったばかりだというのに、その元気さが羨ましい。おまけに抜くこともなく、そ
のまま一心不乱に腰を大きく振ってくれる。
 さっき出したばかりの白い液体があたしの身体を前後に包んで、ぬちゃぬちゃと音を立て
る、ヌメヌメと感触がする。でもそれすら愛しくて気持ちいい。
 3人ともほとんど全裸な水着姿で、でもこれはしっかりとした衣装で。
 いつかあたしも、こんな水着で被写体になる日が来るんだろうか?
 お姉さまのあそこはキツキツで、愛里お姉さまのあそこはまた堅さを取り戻し、前と後ろ
から火傷しそうな熱さであたしを責め立ててくる。
 もう誰が何度絶頂を迎えたかも分からない。ただただ嬌声がこだまする。前後の性器だけ
じゃない。もう全身が性感帯になって、至る所でもはや爆発のような快感を繰り返す。
 ──殆ど意識が飛んだ状態で、ふと気になる。今の“あたし”はどっちなんだろう?
(……もう、いいところなんで気にするの。どっちでもいいじゃない? “アキちゃん”)
 そっかあたしはアキなんだ……じゃない。“俺”は雅明だったのか。たぶん起きた時から。
(ちえ。分かっちゃったか。でも、アキと雅明は同じ人物なんだよ? 区別いらないって)
 『アキと雅明は同じ人物』……何度も繰り返されてきたフレーズ。でも、昨日と今日の朝
を経て、初めてその言葉がストンと落ちてくる。
 露出度が高いけど可愛い女ものの水着を着て喜んで、後ろから同じく女ものの水着を着た
俊也から貫かれて悦んでいる。そんな“雅明”でいいやと思えてしまう。
 最初は波のように襲ってきた快感が、完全に絶え間ないものになる。
 今までより強く、今までにないくらいに3人……いやアキも含めた4人の心と体が結ばれ
ているのを感じる。
 身体はまだまだ貪欲に快楽を求めている。でも、もうとっくに脳がその大きすぎる快楽を
処理しきれなくなっている状態。
 その快楽が目の前で大きな爆発をして、その白い閃光に飲まれる形で意識が途絶えた。

219 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々D 10/12
「アキちゃん、おはよう」
 唇に感じる温かい感触に目を覚ます。仕立ての良い男物のシャツ、すらりと伸びたスラッ
クス。一部の隙もなく男服を着こなした美少年の姿。見た目的には俊也だけど、でも。
「おはよう、悠里」
「2人同時に気絶しちゃったときは、どうしようかと思っちゃった。アキちゃん、愛里を起
こしてあげて」
 ベッドの上で寝息を立てる、(胸と股間以外は)完璧な美少女。言われた通り、その柔ら
かい唇に自分の唇を押し当てる。
「やっぱり起こすのはキスなんだ」
 そういえば、「起こして」と言われただけで「キスしろ」とは言われてないんだっけ。
「……アキちゃん、おはよ……そっか、私、快感で失神しちゃったんだ」
 身体をきちんと洗い流し、タックをしてショーツとブラジャーを身に着ける。
 その状態で鏡の前でポーズ。うん、今日もあたしはとっても可愛い……だけじゃなくて、
なんだか今までより『綺麗』に見える。
 今日は淡いグリーンのサマードレスを着て、ショールその他は昨日のままで。
 日焼け対策で、どうしても普段着れる服に制限が出るのがつらかった。あたしもキャミと
ミニで涼しげに可愛くなりたい……そんなことを思っている自分に驚いてみる。
 俊也は黒いロングのウィッグをつけて、白いワンピースのお嬢様姿。
 これで悠里と並んでいると、本当にセレブの兄妹か似合いの超美男美女カップルって感じ。
 移動途中もずっと人目を引いてるし……って、これは俺?あたし?も含めてだけど。
 惹かれるような、憧れるような、恋するような視線で自分たちの姿を追う多くの人たち。
 本当の性別が分かる人が何人いるのだろう。なんだか不思議なおかしさがこみ上げる。
 ごく自然に、女の子に、アキになりきって、この視線を楽しんでいる“あたし”がいた。

 少し遅めになってしまった昼食のあとに、今日のお仕事のイベント会場入り。
 リハーサルのあと、瞳さんが持ってきた浴衣に着替える。
 悠里が濃紺地に白の、俊也が白地に薄青の、朝顔の柄の浴衣。あたしはピンク色に金魚の
浴衣だ。あたしだけ、レースつきまくりでミニで太腿まで露出した可愛らしいタイプ。
「やん! やん! やんっ! やっぱりアキちゃんかわいいっ!」
 着替え終わった控え室、俺が悠里に見とれている隙に、俊也がそう言って飛びついてくる。
 柔らかい身体、細い首が覗く襟足、そこから立ち上る体臭と香水の混じった匂い。
 ……って“俺”はなんでこうドキドキしてるんだろう。
 実際には女装男同士でいちゃついてるシーンなのに、『仲の良い美少女姉妹の戯れ』だと
他の人たちから見られているのが複雑な気分。
 コルセットで圧迫されるのはもう慣れたとはいえ、帯の圧迫感はまた別物。タオルや腰紐
やら伊達締めやらでぐるぐる巻きにされて結構たいへん。
 それでも鏡に映る3人の美少女たちの姿に、思わず満足げな笑みがこぼれてしまうあたし
なのだった。

220 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々D 11/12
 司会の合図に従って入った会場は、凄い熱気だった。
「悠里さーん!!」「愛里さーん!!」「アキちゃーん!!」
 女性客メインのイベント会場。メディア露出が少ないだけに『あんた誰?』扱いされるこ
とを予想してたのに、少ないもののあたしへの声援もあってびっくり。
 中でも一番大きな声のしたほうを見ると、元バスケ部の2人組、北村さんと伊賀さんが少
し居心地悪そうにしながら手を振っている。
 一瞬吹き出しそうになったのをこらえて、笑顔で小さく手を振り返す。伊賀さんの隣の女
の人は恋人なのだろうか。
 紹介を経て3人でトーク。そして浴衣でのウォーキングなどを披露してたりもする。
 司会さんがうまい人で、後半ほとんどイベントということも忘れて会話を楽しんでいただ
けの気もするけど、お客さんも一緒に楽しめてる感じで多分オーライなのだろう。
 始まる前は務まるかドキドキだったけど、終わってみると一瞬で少し寂しい感じだった。

 花火の光が唯一の灯りの、暗い道。
 今から自分がやろうとすることに胸をドキマキさせつつ、“俺”はそこを歩いていた。
 鞄から服を取り出して、イベント会場からここまで着てきた女もののピンクの浴衣を脱ぐ。
 他にひとけがないから良いけれど、いたら完全に痴女だなと苦笑してみたりもする。
 10分後に来るようにお願いしていた悠里がここに着く前に済むよう、急いで着替えを。
 久々に着た男物のスラックスとシャツは何だかゴワゴワして肌触りが悪くて、ついつい着
慣れた女ものの服が恋しくなる。
 メイクは落とせてないし髪は後ろで縛っただけだから、傍から見たら多分『男装の女の子』
に見えるんだろうけど、これからやることはせめて自分の意識としては男姿でやりたかった。
(──おめでとう、雅明。とうとう、これで目標達成なんだね)
(ありがとう。長かったような、短かったような。『アキ』にも色々迷惑かけてごめんね)
 モデル経験で早着替えが板についてたせいか、時間が余ってしまったたので、花火の音が
鳴り響く下、話しかけてきたアキと脳内で会話してみる。
(モデルを始めた理由はこれでなくなるわけだけど、これからどうするのかな?)
 少しからかうようなアキの言葉。それに俺は、少し考えたあと返事を作る。
(もちろん、モデルを続けるよ……こんなワクワクすること、辞められそうにないや)
(うん、知ってた。……これからもよろしくね。もう一人の“あたし”)
 そこまでの対話を終えたあと、夜道に鳴る足音に振り返る。
「ここ、いいとこだね」
「……うん。花火がよく見えて、人が来ない穴場なんだ」
 イベントと同じ、濃紺に白い朝顔を咲かせた正統派の浴衣。ほっそりとしつつきちんと肉
のついた、スタイルが良すぎるほどに良い肢体。
 素敵な笑顔で優美に歩いてくる、そんな姿に思わず見惚れる。
 少しぼけっとしていた俺だけど、我に返ってポケットから小さな箱を取り出す。
 喉がカラカラして、心臓がバクバクいっている。
 自分の動きがぎくしゃくしているのが分かる。

221 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々D 12/12
「俺からのプレゼントなんだけど、受け取ってくれるかな」
「……ありがとう。嬉しい。……ね、つけてくれるかな」
 微かに戸惑ったあと、小箱を開け、うっとりとした表情で呟く悠里。
 その華奢な指先を取り、慎重に左手薬指に“それ”を嵌めていく。
 もう随分昔に思える。デンパナンパ男に婚約指輪をもらった時に思いついたアイデア。
 自分で稼いで買った指輪で、悠里にプロポーズしたいと。
 ようやく目標にしていた金額が溜まって、今それがここにある。
 悠里に自分の分もつけてもらって、並べてみる。
 あの時もらった指輪よりずっとずっと安物だけど、それでも誇らしい気分だった。
 もう言葉も要らない。
 浴衣姿の悠里の身体を引き寄せて、唇同士を重ねあう────ぶっ。
「お前か俊也────────────────っ!!!」
「あははははっ、やっと気付いたんだ。でもこの話には、やっぱりこれがないとね♪」
「お前なあ、俺がぬ気で告白したのに、茶化しやがって……」
「……別に、茶化したわけじゃないよ。婚約指輪、嬉しかったもの。……本当に嬉しかった」
 きらきらと光る瞳に、蠱惑されたように動けなくなる。目の前に存在するのが男とは頭で
は理解していても、でも外見は最愛の女の子と同じ姿の浴衣美少女なのだ。
「ふーん、雅明って私より愛里のほうがいいんだ」
「ゆ……悠里サマ、申し訳ありませんでしたっ」
 暗がりから現れた、白い浴衣姿の(今度は本物の)悠里に向かって土下座してみたり。
「ごめん、私たちもちょっとおふざけが過ぎたかな。……ほら、雅明立って」
 促されるまま立ち上がる。一生一度の告白の不発もあって、まともに悠里の顔が見れない。
「ほら、雅明、こっち見て。……私からもプレゼントがあるの」
 差し出されたのは、たった今俺が悠里(と思い込んでいた俊也)に渡したのと同じ小箱。
 開けてみると、そっくり同じデザインの指輪が入っている。
 そっと取り上げて、俺の薬指に嵌めてくれる。
「ありがとう。……なんてのかな、凄い嬉しいよ」
 もう一つの指輪を受け取り、悠里の指に嵌める。
「うん……これ、意外なくらいに嬉しいね」
 左手を目の前に掲げて、うっとりと眺める悠里。指がすんなり伸びたその小さな手に、自
分の手を合わせる。左手を掲げ、俊也もその手を重ねてくる。
 白い浴衣が鮮やかな浴衣姿の、愛しくて可愛い俺の婚約者にして義理の姉、悠里。
 それと瓜二つの、双子の姉妹の美少女にしか見えない、でも義理の弟、俊也。
 指先までそっくりな2つの手、その薬指に1つずつ輝く指輪。
 そして男でもあり女でもあるような、中途半端な格好をした俺の薬指で輝く2つの指輪。
 花火が頭上で大輪の花を開かせる。ひときわ大きな音が鳴り響いてくる。
 その光に照らされて、夜闇の中光る4つの指輪。
 それは少し奇妙なようでいて、でも俺たちの関係をうまく表すもののように思えた。

222 :
本当は一昨日アップの予定だったのですが、遅れて申し訳ありません。
8/9(金)から8/10(土)にかけてのお話です。
 「アキのモデル修行な日々」はこれにて終了なので、色々伏線とか回収しまくってたら
イベント多くなりすぎて、その分描写が薄くなってしまったのは、本当に申し訳ないです。
 女もののタイトスカートをはいて、性的に興奮しているところとか、色々描写したかっ
たのですが。あとは皆さまの妄想力におすがりするしか。

223 :
キター!!!!!
すごい盛りだくさんで最高でした!!!
なんか雅明とアキが混濁してきているようで、今後どうなるのか興味津々だったり。
三姉妹モデル(爆)の今後の活躍も楽しみです。

224 :
夏祭りネタで絶対来てくれると思ってたよGJ!!
アキちゃんイヤリングまでしてるのか、どこまでも可愛すぎる方だほんとに
一人称の細かい書き分け含めて氏の文章力すげーと思うんだが、
女装に限らず他にもSS経験ある方なのでしょうか?サイトとかあるなら読みたいです

225 :
SS書いて投稿したいんだけど
女装スレと男の娘スレの境界線が分かんないんだけど
とりあえず女装描写があったらここで投下していいってこと?

226 :
そこら辺の境界は、深く考えるだけ無意味になるから心の赴くままに投下すればよいのではないでしょうか。
是非に是非に投下お願いします。

227 :
>とりあえず女装描写があったらここで投下していいってこと?
スレタイを真っ正直に読むとそうなるね。
逆に男の娘モノでも女装が無かったらダメそうな気がするが。

228 :
女装がない男の娘モノって想像できんのだが
俺の知らない男の娘の定義があるのであれば教えてくれ

229 :
「男の娘」定義論争はマジ勘弁。どこに行っても必ず荒れる。

230 :
すまん
好奇心から聞いただけで、定義の議論とか全く求めてないので俺のレスは忘れてくれ

231 :
世間には女装無いのに「男の娘もの」を標榜している作品が存在するんじゃよ

232 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々C-3’ 2013/07/06(土) 1/11
(ね、ね。雅明。見て見て)
(言われなくても、同じもの見てるってば)
(綺麗に撮れてるよねえ。あたしより、雅明のほうが実はモデルに向いてるんじゃ?)
(そりゃないよ。この時も勢いで誤魔化したけど、色々ギリギリだったのは分かってるだろ?)
 俺たちの視線の先にあるのは、一枚の大きな看板。
 豪華な純白のウェディングドレス姿の花嫁が、黒のテールコート姿の花婿と、幸せそうに
“誓いの接吻”をしている。そんな大きな写真。
 その下には『2013年7月1日リニューアルオープン!!』の文字が躍っている。
(なんでよりによってこの写真を使うかな? ……というか、この時撮影してたんだ)
(いい写真じゃない。あたしだって、これ見てたら結婚したくなるもの)
(けどこれ、ドレス女装男と男装女のキスなわけだろ? 教育上まずくないか?)
 そう。この看板の『花嫁』は以前撮影した、女装した俺なのだ。
 最近、量産体制に入っている気がしなくもない俺の黒歴史。
 その中でも最大級のシロモノが、新幹線駅も近いこんな人目につく場所に置かれている。
 俺自身があまり来る場所じゃないのが、まだ救いなのかどうか。

(それ、何?)
 今日についての打合せのあと、メイクその他を済ませて入った従業員用の女子トイレ。
 鞄から“ソレ”を取り出したアキに、俺は尋ねる。
(何、ってナプキンだけど?)
(俺、男なんだけどな。どうしてそれが必要なのか、って聞いてるの)
(あれ? 雅明は自覚ないの? 用心しといたほうがいいと思うんだけどな)
 どういう意味だろう。聞いてみたほうがいいような、聞きたくないような。
 これからの7時間(準備撤収含めれば+1時間)、トイレ休憩もないから用を足したくなっ
ても我慢するしかない。一応昨日の昼から飲み物は取ってないけど大丈夫かどうか。
 その最後のトイレということで、最後の一滴まで用を足して丁寧に拭き取る。
 そして俺には本来無縁のはずのその物体を、ショーツの上に慎重に置く。
 ゆっくりと下着ごと引き上げて、ぴったりセット。奇妙な柔らかな感触が、お尻のほうに
こっそり覗いた○ンコの先端ごと股の部分を包み込む。
 きちんと装着するために指を前後に走らせるたびに、快感めいた何かが背筋を駆け抜ける。
 男なら一生涯の間、決して知るはずのない感触。
 ……でもそういえばこの前、俊也がナプキンのCM(!)に出演したって言ってたっけ。
(そ。試用に、って渡されたものをもらって来たの。これお姉さまたちにも好評だったし)
 そういえば前、俊也とそんな会話してた気がする。……酷い話だ。
(薄いし、ガサガサしないし、蒸れないし、べとつかないし、それで吸収力抜群なんだって)
 そんなことを言われても、俺は“普通のナプキン”が分からないから比較できない。
 今まさに股間を覆う、慣れないなんか変なくっつく感覚に戸惑うだけだ。
 勃起しかける自分の息子に戸惑いながら、スカートを整えなおして外に出る。

233 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々C-3’ 2013/07/06(土) 2/11
 トイレに入ってきた女性が、悲鳴を上げる寸前、って顔でこちらを見たのが印象的だった。
(あの人の表情、ちょっと失礼じゃない?)
(しょうがないと思うよ。自分の顔、見てみなよ)
 仕立ての良い白いフリル付きブラウス、ハイウェストで足首丈の透ける黒いスカート。
 そんな首から下は良いとしても、マネキン風に化粧した首から上が鏡の中から見返す。
『トイレの中で、動くマネキンに会う』……そんな怪談に出てきそうなシチュエーション。
 本当に悲鳴を上げられなかっただけまだマシなのかも。

(まさか、このドレスを3回も着る羽目になるとはねえ)
 最初はチラシや雑誌向けの写真の撮影で。2回目それから数日後、CM撮影で。
 CMは元々別のモデルさんがやる予定だったのに、そのモデルさんが出演できない事態に
なって、『すぐにドレスを準備できる』花嫁モデルの自分にお鉢が回ってきた。
 大学を自主休講して、平日にCMの撮影。『見栄えがいいから』ということでこの豪華だ
けど重いドレスをまた着せられて、15秒と30秒バージョンを一気に撮り切る。
 ちなみにそのCMはもう放送中で、恐ろしいことに県内のテレビ画面には俺のドレス女装
姿が映りまくってたりもする。どんな羞恥プレイなのかと。
 その撮影の後は“高校の考査の期間”ということで、しばらくは仕事をあけてもらって。
『次の仕事の七夕イベントまでのんびりできる』と喜んでいたのに、急遽入った本日の仕事。
 事務所の仕事欄に、『絵画モデル・人間マネキンも可』と書き加えられたのが恨めしい。
 これは女装した男で、それも俺自身なのだ。
 頭ではそう理解していても、それでも花嫁姿の美女にしか見えない、鏡の中の人物。
 チョーカーで首が、手袋で手先が、スカートでお尻が。意図的なのか俺の体で比較的『男』
を残している箇所が隠されているせいで、余計にそう見える。
 ウェスト部ではほとんど水平になるくらいに大きく大きく膨らんだスカート。狭い展示ス
ペースに本当に入りきるのか不安になる。
 その下半身部の対比から更に細く見える、コルセットで作った細いウェスト。
 そこから続く背中の弓なりのラインが、なんだかとても女らしい印象を与える。
 通常でも大きな目が、今は化粧のせいで更に一回り大きく見える。
 重い付け睫毛に縁どられた目は、言われ慣れた言い回しだけど本当に『お人形みたい』だ。
 日本人にしては色素が薄く、少し大きめな瞳がその印象をより強める。
 オフショルダーでほぼむき出しになった、陶器めいた質感の白い肩、白い二の腕。
 例によって光る粉末をかけられたせいで、なんだか肌自体がキラキラして見える。
 毎度のテクで作った偽物の谷間が、ドレスの胸の部分からチラリ覗いているのも女らしい。
 けど何より“女らしい”のは、綺麗なドレスにうっとりとする乙女そのものの表情だろう。
(こら、雅明。あたしのおっぱい見て鼻の下伸ばしてないで。お仕事行くわよ)
 そう言って移動を始めるアキ。
(……って、もう。雅明、邪魔しないでよ)
 抗議されてしまったけど、俺のほうは対応する余裕がなかった。

234 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々C-3’ 2013/07/06(土) 3/11
 付け慣れないナプキンが覆った状態で、後ろ側に回された俺のペニス。
 歩くたびに太腿の間で挟まれて揉まれて、絶妙な刺激がやってくる。
 トイレから控え室に戻る間はまだ我慢できるレベルだったのに、何の加減か今は一歩歩く
たびに一発で昇天しそうな快感に変わってしまっている。
 アキはそんな俺をからかうためか、まるでこの場が舞台の上であるかのように大きく腰を
振って、スカートを揺らしながら歩いてるし。
 普段オナニーしているときよりも強いエクスタシーが、脚を動かすごとにやってくる。
 展示スペースにつくまでの間に射精に至らなかったのを、自分でも褒めたくなるくらいだ。
 そんな俺のことは完全に無視して、アキはカーテンの降ろされたその狭い空間の中央に陣
取り、ポーズを取る。
 街中に鳴る11時の時報の音楽、それを合図にするかのようにカーテンが上げられる。
 これから7時間に及ぶ長丁場。俺とアキの1人による舞台の始まりだ。
 道行く人が、驚いた表情、憧れるような表情、怪訝な表情、様々な表情でこちらを見てる。
 自分が『瀬野雅明』であることを否定され、19歳の男であることを否定され、今度は人
間であること、どころか有機物であることすら否定されている。
 胸の奥で、“ジン”という不思議な感触がした。
「これマネキン? 人間? あの看板のドレスだよね」「んー。マネキンじゃないの? あ
の看板、修正しまくりだったけどそれに合わせて作ってる」「修正しまくり、って?」
 なんとなく、どこかで聞いたことがあるような女性2人の声。
「あー。あれウェストとか肌とか、どう見ても画像修正してたじゃない」「そうなの? よ
くわかんないけど、広告用の写真って今時そんなもんか」
 苦しい思いをして絞ったウェストとか、気を使いまくっている肌とか、そんな風に思われ
ていたのか。ショックでもあり面白くもあり。
「もーしもーし。人間さんですかー? モデルさんですかー?」
 視線のある方向に回り込んで、その記憶にある声の主が、俺に向かって手とか振ってる。
 どこかで見たような、太めの女性……凄い昔、“甘ロリ女装した雅明”として一緒に夕食
を食べた女性2人組なのだとようやく気付く。
(アキ、手くらい振り返してあげたら?)
 そう言っても、返答は何も帰ってこない。
 最初にカーテンが開いた瞬間、(『これ』はマネキン。店頭に置いてある、人型の展示物)
と脳内で呟いたあと、何も思考が浮かんでこない状態のままだ。
「ねー。やっぱりマネキンでしょ」「そっか。けど凄いリアルよねー。今にも動き出しそう」
 それからしばらく俺の前で立ち話したあと、彼女たちはそのまま立ち去る。
 女装した俺を見ていた相手に、よく俺だとバレなかったものだと、内心ほっとする。
「このドレス、こうして近くで見ると本当素敵よねえ。私も着たいなあ」「こういうのが良
いんだ。確かにこれ着たエミ、俺も見てみたいけど」「でも、すっごく高いんだろうなあ」
 それからほどなく、カップルの男女がガラス越しに俺のことを見ながら会話している。
 俺のことをただのマネキンだと信じきった、そんな感じの会話。

235 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々C-3’ 2013/07/06(土) 4/11
 人通りの多い道。通り過ぎるだけの人、立ち止まる人、興味深そうに見ている人々。
 誰もが俺のことを、精巧だけど意識のない、ただのマネキンだと信じている。
 そのことを意識するたびに、身体の芯からじわじわと性的な興奮がこみ上げてくる。
 タックしていなかったら完全に勃起していただろう。先走り液がにじみ出るのが分かる。
 隠れていじって自分を慰めて収めることもできない。ピクリと動くこともできない状態。
 衆人環視の中、なんとも切ない性欲を、俺はただ持て余していた。
 そういえば、とふと思い当たる。
 このお仕事、『人間マネキン』という説明と条件(開始終了と休憩)を確認しただけで、
肝心かなめの、『客が人間マネキンに何を求めるか』が聞けてない。
 このまま動かないならマネキンを置いてるのと変わらないわけで、それでいいんだろうか。
 そういう疑問を脳内で伝えてみるけど、アキからはやっぱりなしのツブテだ。
 もの凄い長い時間が過ぎたような気がするけれど、でも時報の音楽はまだ1回しか耳にし
ていない。するとあと5時間以上この状態でいないといけないのか。
 改めてこの仕事のヘビィさにうんざりしてしまう。
「看板の花嫁さんそっくりだよね。やっぱ美人よねえ」「ウェスト細いよねえ。原寸?」
「間近で見るとこれ、ドレスも凄いなぁ。どんなセレブなら着れるんだろ。憧れだなぁ」
 それでも(本人がもろに聞いてるとも知らずに)自分の容姿やドレスを褒める言葉を聞く
と、嬉しい感情が心の奥から湧いてくるのを止められない。
 そんなことを考えつつ、でも表面的には感情を持たないマネキンを演じているとき、唐突
に「アキちゃんっ!」と聞き覚えのある声で叫ばれてしまう。
 意識を占めているのが、俺でなくてアキでなくて良かった、と思う。俺なら凄い勢いで反
応していたところだ。……そもそも俺なら、始まって3分も耐えられなかったとも思うけど。
(この声、北村さんか。随分久しぶりね)
 何故か唐突に戻ってきたアキの言葉に思い出す。昔俺たちがナンパされた、元バスケ部2
人の片割れか。なんでこんなところにいるのやら。
(そうそう、その北村さん。雅明がキュンキュンしてた相手ね)
(なんだ、アキ。変な言い掛かりして。俺はホモじゃなくてノーマルだっての)
(男なのに土曜の昼間から街中でウェディングドレスを着て女装して、知らない人に自分の
姿を鑑賞されてハァハァ言ってるのは、じゅーぶんアブノーマルだと思うけどな)
 内心自覚があるだけに、アキの言葉がグサグサと心に突き刺さってくる。
 北村と……確か伊賀だったっけ、2人はまだ何か言い合っているようだけど、喧騒に紛れ
て半分も聞き取れない。
 ただ北村が、なぜか俺がマネキンでなく“アキ”本人と確信してることは、途切れ途切れ
の中伝わってくる。
(なんでこいつ、俺がマネキンじゃないって分かるんだろ。他は大体誤魔化せたのに)
(ほら、やっぱりあれじゃない? ラヴの力)
(やめてくれよなあ)
 北村と“誓いのキス”をしている花嫁姿の俺を、一瞬想像してしまってげんなりする。

236 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々C-3’ 2013/07/06(土) 5/11
(そうだ、アキ。このままだと普通のマネキンと変わらなし、少しくらいは動いたほうがい
いんじゃない? でないと『人間マネキン』のメリットがないし)
(そっか、雅明は北村さんに挨拶したい、と。うん、分かった)
(違うって、そういう話じゃなくてな……)
 その時ちょうど、図ったかのように1時の時報の音楽が街中に鳴り始める。
(じゃ雅明、やってみるね)
 実に2時間ぶりの瞬きをして、これまで自分を生命のないマネキンだと信じ切っていたギャ
ラリー相手に笑顔を振りまき始める。北村相手にはウィンクまでするサービスぶり。
 周りに湧き起こる、驚きの悲鳴と感嘆の声。
 なんとも不思議な快感が背筋を駆け抜け、軽くイってしまう。それでも表面上は平然と、
周囲に愛想を振りまいて、時報の音楽が鳴り終わると同時にピタリと静止する。
 やばい、周りの反応が楽しすぎる。ドヤ顔のアキの表情が目に浮かぶようだ。
(じゃあ、またマネキンになるわね)
 そう言って、再び無機物の無思考に戻るアキ。
 アキが狙ってやったのか分からないけど、ウェディングドレスを着てマネキンのふりをし
ている俺を見つめる、北村の熱い視線がもろに視界に入っている。
 パニエとスカートの何重もの布の塊に覆われ、女ものの下着類とナプキンで隠され、後ろ
に回された挙句に接着剤で止められて。
 そんな状態なせいで、外からは絶対に充血しているとはばれないはずだけど、実はずっと
俺の息子は興奮状態だった。
 でも、北村の視線を意識するたびに、そことは別の場所──下腹部のあたりがジンジンと
熱くなるような、不思議な興奮を感じる。
 ──アキと雅明。この感情は一体どちらのものなのだろう?
 失敗したかな? と、北村たちがその場を離れたあと、少し後悔する。
 さっき動いたせいで、俺のことをただのマネキンだと思ってくれる人がかなり減ったのだ。
「近くで見ると、このドレスこんなになってるんだ」「刺繍とか真珠とか本当にびっしり」
「スカートもトレーンも迫力あるなあ」「この人って、CMに出てたモデルさん本人よね?
なんだかすごいなあ」「本当に美人よねえ。手足長いし、スタイルすごい良くて羨ましい」
 そんな意見には内心湧き上がってくる喜びを隠せないし、
「えーっ?! 本当にこれ生きてるモデルさんなの? 信じらんないっ! だってだって、
お肌とか人間にしてはツルツルしすぎてるし、お目々もありえないくらい大きいじゃん」
「ツイッターにそう書かれてたけど、自分じゃ確認してないからなあ。なんか自信なくなっ
てきた。瞬きもしてないし……瞼の上に目を書いてるわけじゃないよね?」
 という会話には内心ニンマリしてしまうけど、でも『意識を持たないただのマネキン人形』
だと信じ込まれて、自分がそこにいないように鑑賞されて会話される、それを自覚した時に
感じる性的な興奮にはやっぱり勝てない。
 ……いや、俺がそんなことに興奮する超絶変態だったとか、知りたくなかったんだが。

237 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々C-3’ 2013/07/06(土) 6/11
 それはともかく、この仕事で大変なのは、時間の経過がやたらと遅く感じることだ。
 もう何日間もここでじっとしている気がする。
 今後の一生マネキンにされてしまって、もう二度と解放されることがない気がしてしまう。
 それでも時間は過ぎて、待ちわびていた時報の音楽が街に鳴り響く。
 自分がマネキンではなく人間であって、身体が動くものだと理解するまでしばらくかかる。
動きがぎこちないのが自分でも分かる。
 体も心も、本当に機械仕掛けの花嫁人形になってしまっていたような錯覚がする。
 それでも徐々に、もとの動きを取り戻していく。反応を見るに、幸いに最初のぎくしゃく
さも演技の一部に思われたような印象でほっと少し安心。
 周囲を見回しているうちに、何故かまた来ていた北村と視線がピタリとあってしまう。
 心臓がぴょこんと飛び跳ねたような感触。仕事中というのにドキドキが止まらない。
 彼の目には、自分の存在はどう映っているのだろう。
 この素敵なウェディングドレスに、見合った花嫁に見えていれば良いのだけれど。
 もう聞き慣れた音楽に合わせて最後の公演を済ませ、最後にスカートを摘み上げて一礼。
カーテンが降りるまでの時間がいやに長く感じた。

 ドレスを脱いで従業員用女子トイレに駆け込み、個室で付けていたナプキンを取り外す。
 赤いオリモノならぬ、白い精液がついていてにたくなる思いだ。
(ね、雅明。ナプキン付けてて良かったでしょ?)
(あー。うん、認める。万一ドレスに精液ついたら洒落になってなかった)
 匂いが広がらないうちに慌ててビニールに入れて鞄につっこんだあと、いつものように便
座に腰掛けてほぼ8時間ぶりの用を足す。ほっと一息。
 ……って何か変だ。いつの間にやら意識の主導権がアキでなく雅明に切り替わっている。
 ごく自然に女子トイレに入ったのは、アキだったのか雅明だったのか。
(んー。あたしにも良く分かんない。最後の時報の前から雅明だった気もするけど)
 アキの言葉に困惑しつつ控室に戻って、少しの休憩のあと普段用のメイクをする。
 白いブラウスと黒いスカートをきちんと着て、黒いリボンタイを結びイヤリングをつける。
 もう少しお洒落したい気分がして、髪をアップに纏めて香水を振る。
 10年前、一番初めに女装をしたときの衣装によく似た服。その少女が美しく可憐に成長
を遂げたかのような姿に、これが自分だと分かっていてもトキメキを感じる。
 さすがに少し疲労の陰が見えたけど、気を引き締めなおして心からの笑顔で吹き飛ばす。
 仕事の後始末まで終えてホテルを出る。
「アキちゃん、本当におつかれさま」
 横からかけられた声を、俺は予想(あるいは期待)していたのだろうか?
「待ってて頂けたんですか。ありがとうございます。北村さん伊賀さん、お久しぶりです」
 帽子を脱いで、声の主である北村とその隣の伊賀にぺこりとお辞儀をする。
 モデルをやっていて、自分より背の高い女性や、自分と釣り合う背丈の男性は割と見慣れ
た存在になってきていた。それでもこの2人の身体の大きさはやっぱり別格だ。

238 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々C-3’ 2013/07/06(土) 7/11
 なんだか意識が、10年前の小さな少女である自分に引き戻される感覚がしてしまう。
 偽物の胸の丘が、呼吸のたびに緩やかに上下しているところが、当時とは異なるけれど。
 伊賀とか、視線がついつい胸元に行くのを止められてないし。
 本人はこっそりやってるつもりだろうけど、分かってるんだゾ。
「アキちゃん、このあとどういう予定? やっぱり彼氏さんとデート?」
「いえ、事務所に行って、明日のイベントの打合せです」
「うわ、頑張ってるんだなあ。凄いよ。尊敬する」
 18歳になりたての女の子、“アキ”に成り切って、色々会話。
 いつも内心気恥ずかしい思いをしてて、終わったあとに自したい症状に駆られるなりき
りプレイ。でも今は別の種類の気恥ずかしさが胸の奥にこみ上げてくる。
(まるで、初恋の先輩の前で平常心を装って普通に振る舞おうとする、健気な恋する乙女み
たいだねっ☆ とってもとっても可愛いよ)
 アキはあんまり俺の心をえぐらないでくれると嬉しい。
 早く別れたかったのに(アキ:本当に?)、3人一緒に事務所の前まで行くことに。
「あたしもう、自分に嘘をつくのやめたんです。可愛くなっていいんだ、って」
 色々互いの近況を確認する会話をして。その中でつい自分の口から飛び出た言葉に戸惑う。
 雅明は男の本当の自分で、アキは女装の気恥ずかしさを誤魔化すために生んだ仮想の女の
自分──にしてはきっちり自我を持ちすぎてる気もするけど──そう認識してたけど、ひょっ
とするとそれは勘違いだったのかもしれない。
 自分に嘘をついてるのが雅明で、ついてない素直な本当の自分がアキ。そういう差。
(ようやく今更気づいたんだ? 『女装なんて嫌だ』『可愛いくなりたくない』──それに、
『目立ちたくない』『平凡でいたい』。そんな【嘘】をやめたのがあたしなの)
(今、会話してるんだから、割り込んでこないでよ)
 それは少なからずショックな話。間違いや勘違いならいいんだけど。
 気が付くともう事務所前。マネキンを演じていた時とは違って、時間の経つのが早いこと。
 別れようとする自分に、北村さんが鞄から何かアイテムを取り出す。差し出した掌の上に、
「プレゼントだから」とちょこんと置かれた、白い仔猫のぬいぐるみとご対面。
 何だか記憶に引っかかる……って、“アキ”として最初に外出した時、欲しかったクレー
ンゲームの景品か。これ、わざわざ取ってきてくれたんだ。
 あの時も可愛いと思ったけど、目の前で見ると本当に可愛い。
 気が付くとアキと2人でピョンピョン飛び跳ねて、場所も考えずに大喜びしていた。
 冷静に考えると20歳近い男が貰って喜ぶものでもないんだけど、でも何故か止まらない。
「本当にありがとうございます。うわっ、今日はいい日だ。……可愛いよう」
 何度もお礼して、そのまま別れてビルに入り、ひとけのない階段を上る。
 結局、北村さんはあたしを『お持ち帰り』する度胸はなかったんだ。
 紳士的なのはいいけど、時にはもっと積極的にならないとね……それともあたしって、そ
こまで魅力的な女の子じゃないのかなあ。
 そんなことをナチュラルに考えている自分にふと気が付いて、とても怖くなった。

239 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々C-3’ 2013/07/06(土) 8/11
「おはようございまーっす」
 深呼吸して気を取り直し、元気に事務所のドアを開ける。そこかしこから返ってくる返事。
お姉さまたちがいると教えてもらった部屋に入る。
「お姉さまがた、おはようございます。……遅れちゃってごめんなさい」
「アキちゃん、おはよ。お仕事すごかったんだってね」「……むぅ」
 いつもは明るく返事を返してくれる悠里が、女装した俺の顔を見た瞬間むすっとしてる。
「……お、お姉さま、なんでしょう?」
「──浮気の気配がする」
 いつもは俺が男と抱き合おうがキスしようが気にしない悠里なのに、なんだか雲行きが怪
しい。今までこんなことはなかったはず……って、そういえば一度あったのを思い出す。
 確か以前、北村とデート──じゃない、北村に買い物の同行をお願いした時に、こんな
瞳で俺を見たことがあった。あのとき、二度とこんな顔させまいと誓ったはずなのに。
「お姉さまっ、申し訳ありませんでしたっ」
「……釈明を聞きましょうか」
「その、仕事帰りに北村さんたちがやってきてですね、事務所まで送りたいっていうから断
れなくて、一緒にここまで来ただけです。キスもハグも手繋いだりもしてないです」
 土曜の夜。ブラウスにスカートを着て、下着まで女ものを身に着けて胸を膨らませて、長
くなった地毛の髪を女らしくアップに纏めて化粧もイヤリングもした完璧な女装姿の俺。
 そんな格好で、愛しの彼女から【男】相手の浮気を疑われるという、きつい状態。
 でも一番きついのは、自分でも完全にそれを否定しきれないところだろう。

 そのあと入ってきた瞳さんから明日の説明を受けて、事務所を出て俊也と別れて、閉店間
際のショップに飛び込んで、料金悠里持ちで何故か2人分の浴衣を購入。
 それを包んでもらって店を出て、遅めの夕食を悠里と2人で取る。
「……やっぱりアキちゃんって、本当に可愛いなあ」
 ここまでずっと、まともに悠里の顔も見れない状態。
 そんな俺をじっと見つめて、悠里が感心するかのようにしみじみと呟く。
「顔も性格も可愛いし、男だったら誰でも惚れてしまうのも分かるな」
 俺は返事に困って、「……それはお姉さまもですよね?」というのがやっとだった。
「私? 私はあんまり男からは好かれないのよね。その分、女性からの好感度が高い、って
分析結果を今日、事務所の人に見せてもらって、なんだかすごい納得しちゃった」
 すらりとしてスタイルが無茶苦茶良くて、目鼻立ちのきっちりした美人で、自己がしっか
りしてて、頭が良くて、(家事以外は)何でもテキパキとこなして。
 俺が恋人を名乗っているのもおこがましいくらいの、男なら誰でも憧れる存在だと思って
いたけどそうでもないんだろうか。
「愛里も私と同じ感じ。ただ男受けは私より随分いいかな。で、アキちゃんは中高年と子供
が好感度高めで、男受けが無茶苦茶良くて、逆に若い女性層からの好感度が案外イマイチ」
「──そんなのが出ちゃうんですね。でもなんだか変な感じ」

240 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々C-3’ 2013/07/06(土) 9/11
「でまあ話を戻して。……何を言いたかったかというと、ごめんなさい、ってこと」
「へ?」
「私も忙しさにかまけて、最近あんまり構ってられなかったなあ、って反省してるの。これ
じゃあ、恋人をほかの男に寝取られても仕方ないのかな、って。
 このデートも、さっきの浴衣のプレゼントも、私からのお詫びのつもりなんだから」
「……怒ってるんじゃないんですか?」
「そりゃ、怒ってますよ。でも私にも悪いとこあるんだから、そこは改めていかないとね。
これからますます忙しくなるし。……ほら、アキちゃん。こっちを見て。はい、あーん」
 視線を上げると、豆腐ハンバーグをつまんだ悠里の箸先がある。
 少し戸惑って、それをパクリと口に入れる。狐につつまれたような、でも甘酸っぱい気分。
「ありがとう、お姉さま。あたしからも、あーん」
 ちょっと調子に乗って、自分も同じように一つまみして食べさせてみるバカップル状態。
 でも傍からは、『仲の良い女の子同士の微笑ましい戯れ』に見えるんだろうなあ。
「そういえば、ますます忙しくなるって、もうすぐ夏休みですよね?」
「その前に前期末があるし、8月にドラマの撮影が入ったから、それにほとんど時間が取ら
れちゃう。だから隙を作ってイチャイチャしないと」
「おめでとうございますっ。ついに女優デビューですね。……どんな役なんです?」
 正直寂しいしツラい。でも彼女の夢は応援するのが彼氏としての努めだろう。これがア
キならどんな反応をしたのだろう? 北村と別れたくらいから何も言ってこないけど。
「大正時代を舞台にした探偵ものでね。○○さんが主演の探偵役で、私がその少年助手役。
ついでに愛里が、華族の令嬢役だっけ」
「あら女優じゃなくて男優デビューなんですね。……でも、○○さんかあ。懐かしいなあ。
あたし昔大ファンで、あの人の主演の映画は何回も見に行ってました」
 その後映画を見に行くどころかテレビも家にない生活が始まって、興味も薄れていた。
 ……そう思っていたのに、彼と共演できる悠里と俊也を、羨ましいと思う自分がいた。

 食事処を出て、ホテルに入って、お風呂に2人でゆっくり入って。
 その間中、ほとんどずっと2人で話っぱなし状態。悠里と2人だけでこれだけ色々と会話
するのもずいぶんと久々な気がする。
 それだけの言葉を重ねて、改めて俺はやっぱり悠里が好きだと思う。
 外見だけじゃなくて、自分の夢を実現させるため、努力を重ねる内面が好きだ。
 もちろん外見も好きだ。小さな顔、細い首、薄い肩。さっき買ったばかりの正統派な浴衣
が良く似合っている。湯上りの肌が、朝顔の花咲く濃紺の衣装によく映える。
 まあ、俺を女装させておもちゃにして楽しむ部分は困ったものだけど。
 ──いや。今日アキが言っていたことがもし本当なら、その部分すらひっくるめて、俺は
彼女のことが好きなのだろう。
「悠里……愛してる。惚れ直しちゃうな。凄く綺麗だ」
「あらあら、ありがとう。“アキちゃん”も凄く可愛いよ。惚れ直しちゃう」

241 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々C-3’ 2013/07/06(土) 10/11
 鏡の中に視線を移す。
 ピンク色の生地に赤い金魚が泳ぐ。襟元袖元には白いフリル満載で、ミニ丈の裾から白く
てすべすべの脚が覗いてる、そんな浴衣姿の可憐な美少女……いや女装男。
 いかにもアキが好きそうなデザインの衣装。心なしか俺の顔も嬉しそうに緩んで見える。
 もう殆ど意識しなくても、日常の中でもいつの間にかするようになっていた姿勢を、より
意識的にポーズしてみる。背筋をピンと張って肩甲骨を互いに引き寄せ、胸を張る。
 右肩を下へ落とし、ヒップを上に思いっきり持ち上げる。
 頭の中に浮かべた『S』の字に、全身のラインを合わせるイメージで。
 こうすると身体の曲線美が強調されて、本当は男のはずの自分の身体が、いっそ蠱惑的と
言いたくなるくらいに『女』の魅力を放つ。
 両手を胸の前で軽く組み、小首を傾げて鏡の中の自分に微笑んでみる。
「もう、アキちゃんってば、ほんっとーに可愛すぎっ!」
 いきなり抱き付いてこられて、帯が潰れるのも構わずベッドの上に押し倒されてしまう。
「やんっ! お姉さまっ、いきなりすぎっ……はぐっ!」
 抗議の言葉も悠里の唇でふさがれ、身体の芯から突き上げる快感の衝撃に、身体が弓なり
にしなってしまう。意識と関係なくビクン! ビクン! と身体が反応する。
 まだキスだけというのに、目の前で火花が散り、飛びそうになる意識を留めるのがやっと。
「あぁっっ……っ! はぁぁあぁんっ! ゃっ! お姉さまっ、お姉さまあっ!」
 何度絶頂を迎えたかも分からない長いキスが終わり、そのまま2人の唾液が混じり合った
舌先で俺の頬や顎を舐め始める。そのたびにいやらしい声が溢れるのを止められない。
 最近の悠里のお気に入りなのか、舌先で喉を丹念に何度もくすぐってくる。
 そんな場所まで性感帯になっていて、その度に快感が身体の芯で弾ける。
 そっか。今日は7時間耐久で寸止めしてたようなものだから、余計に感じてしまうのか。
完全に朦朧とした頭に、そんな考えがふわりと浮いて消える。
「なぁんでアキちゃんって、こんなにも可愛いのかなあ」
「ふにゅ?」
 ピンクの浴衣姿で喘ぐ俺の上にまたがって、少し攻め手をやめていた悠里が、不思議そう
に呟く。涙目の俺の瞳に映る濃紺の浴衣姿が、ありえないくらいに綺麗。
「──触れれば溶けそうな粉雪みたいな肌がいいのかな。端正なのに愛くるしい顔がいいの
かな。無垢で純粋な笑顔がいいのかな。思わず守りたくなるような、儚げで危うげな感じが
いいのかな。それでいて頑張り屋で、家事が上手いのがいいのかな。
 キスも知らない清純な印象なのに、このエッチで感度のいい躰がいいのかな」
 これは何だろう。どれもとっても、“俺”には程遠いように感じる言葉の数々。
 でもそれらを自分のこととして素直に受け取って、喜びを覚えている“あたし”もいて。
「──私もアキちゃん見習って、もっと女らしくなって、男受け良くしたほうがいいのかな?」
「あ……あたしは、お姉さまのことが大好きですよっ? それでいいんじゃないですか?」
「──そっか。──そうだね。アキちゃんありがとっ。もう二度と浮気なんてしないでね」
 今までの狼藉ではだけ始めた襟元に、そう言って再び舌先による責めを始める悠里。

242 :
『瀬野家の人々』 アキのモデル修行な日々C-3’ 2013/07/06(土) 11/11
 「浮気なんてしてない」って言いたかったのに、それは自分の口から飛び出す声にかき消
される。
 ピンク色した女ものの可愛らしい浴衣に包まれた身体が、いやらしく震え、くねり、暴れ
まわる。そのたびに結んでいた帯が緩み、露わになる面積が大きくなっていく。
 鎖骨を舐められて思わず身体をよじり、そのせいで更に露わになった胸元まで舌が下がり、
とうとう乳首まで到達する。
 2人とも下着をつけずに素肌の上に直接浴衣を着たから、ブラジャーもなくて何も隠すも
のがない状態。その乳首から来る快感に、心と体が大きく弾ける。
 同じようにはだけまくった裾の部分から、露わになった股の部分が見える。
 お姉さまの言いつけに従って脱毛して、一本の毛すらなくパイパン状態の一筋の割れ目。
(俊也にリムーバーをもらいそこねて……タックはずせなかったから……)
 まともに考えることもできない脳裏にそんな考えがよぎるけど、もう意味も理解できない。
 ただただ、そのスリットの奥からこみ上げてくる快感に翻弄されるだけだ。
 ふと、密着していた身体が離される。
「アキちゃんって、本当にピンクが似合うのね。浴衣もそうだけど、ほてった肌が凄く綺麗」
 浴衣の帯を緩めつつそう言うお姉さま。でも呼吸を荒くするだけで答えることもできない。
「このツルツルの割れ目ちゃんも、とっても素敵……色々、ありがとうね」
 お姉さまに褒められて、その誇らしさにもう胸いっぱいになる。
 あたしの脚を持ち上げ、松葉崩しのような体位。さっき褒められたあたしの割れ目に、露
わなったお姉さまの割れ目をぎゅっと合わせてくる。
 気持ちいい! 気持ちいいっ!! 気持ちいいいいいっっ!!!
 今までの快感すらただのさざ波にしか思えない、圧倒的な感覚が爆発する。
 肉体はそれをまだ快感だと把握できているようだけど、脳が完璧に追いついてない。
 快感というより、むしろもう【白】とでも名付けたくなるような炸裂感。
 今の一瞬で失神しなかったのは上出来だと思う。
 いつからあたしは、こんなエッチな女の子になってしまったのだろう?
(ある意味、生まれつきだと思うよ? 雅明がこんなに淫乱なのは)
 ……あたしを『雅明』と呼ぶこの声は誰なのだろう? あたしはアキって名前なのに。
(うーん、それならそれでいいやっ☆ いや、それもひとつの正解なんだし)
「アキちゃん、とってもエッチで可愛いっ!」(アキちゃん、とってもエッチで可愛いよっ)
 お姉さまの、半分叫びのような声と、脳内の不思議な声がきれいにハモる。
「お姉さま、お姉さまっ、おねえさまああっっ!」
 弓なりにしなるあたしの躰から、自然とそんな甲高い絶叫が溢れ出る。
 濃紺の浴衣と、ピンク色の浴衣。もうほとんどはだけてその下の肌が覗いた状態。
 そんな美少女2人が、複雑に身体を絡ませあっているシーンが目に飛び込んでくる。
 一瞬その奇跡のような美しさ見とれたあと、ようやくそれが鏡の中の自分たちだと気付く。
 もう限界はとっくに超えていたのだ。それを理解した瞬間に訪れた高揚感と陶酔感と【白】
とに全身を包まれながら、あたしの意識はぷつりと途絶えた。

243 :
>>202-205 の雅明サイドでのお話の投下になります。
もっとさらりと書くつもりだったのに、なぜこんなに長くなった……
>>224
ご過褒に預かり恐悦です。小説やSSをアップしたのは、ほかのスレッドに2、3したのが
ある程度で、女装スレ8・9話に投下した分が殆ど全部になります。
そんなことでご了承頂ければ。
>>225
ぜひに、ぜひに、投稿お願いします。

244 :
また新作キターーーー!!!!!
某社のエロゲによくあるAnother Sideが大好きなんで、こういうのもすごく嬉しいです。
いやあ、まさかあの人間マネキンのAnother Sideが読めるとは思ってなかった。
お盆休みの〆に最高です。これで今週1週間戦える!

245 :
2時間(5時間?)瞬き無しって人間にできることなのか
アキちゃんもはや超人じゃないですか!
1個だけ誤字見つけたのでご報告
アキちゃんが狐に包まれちゃってます

246 :
>>225の者だけど、ちょっと書き始めた。
こういうの初めてなんだけど、結構難しいな、これ

247 :
一話二話にわかれてるんだけどさ、一話は女装なしで2話にぶっこもうと思うんだけど
これはありなの?なしなの?

248 :
事前に注意書きがあって、かつ1話と2話の投下にあまり間が開かないようなら俺は許容する

249 :
この総合スレ最初の長編IMITATION-GIRLがそんな感じだったし、問題はまったくないと思った。
ただ「物語の構成」として、
「女装中のシーンを少し描写」→「回想的にそれに至る経緯を書く」→「女装のメイン」
になってるほうが、個人的には読むときのモチベーションを保ちやすいかな。
まあ気楽に、深く考えずに、勢いでやってしまったほうが楽。

250 :
とりあえず途中までできたんで投下します。
お手柔らかに!

251 :
俺の親友――松崎 智也(ともや)――智也が事故に遭ったと聞いて、俺は急いで病院へ駆けつけた
「よう、智也、元気か?」
 夕方、智也は近所のスーパーへ買い出しに行っていたらしい、その時急に車道に突っ込んできた車があった。
智也を狙ったのか、他の車を避けようとして、車道側へ寄ったのかは知らない。
 だが、警察は運転手からアルコールが検出された事から、よっぱらい運転が招いた事故として取り扱っているらしい。
幸い、智也は生きていた。足や腕は折れている物の、なんとか、生きてくれて居た。
 だが、彼の開口一番で、俺はひどく傷ついた。まるで、刑宣告を目の前でされた気分だった。
「お兄さん、誰ですか?」
「え?……と、智也?俺の事、覚えてるよな?」
智也は、申し訳なさそうに首を横に振った。
それが俺には痛く、耐えられなかった。
「お、俺だよ、真司(しんじ)。加藤真司。ほら、ちっさい頃からよく遊んだだろ?」
「加藤…真司…?」
「そ、そう!加藤真司!お前と同じ歳の幼馴染、お前と同じ高校1年生の加藤真治!」
「あ、真司じゃなくてさ!いつもみたいに真ちゃんって呼んでくれよ、そっちの方が俺はさ」
「すいません……。そんな名前の人、知らないです……。」
「第一、僕達が顔を合わせる事自体今回が初めてですし……。」
 この時、俺の世界は真っ白に染まった。今まで積み上げてきた、友情、信頼、努力。
全てがぶち壊された。
 この時は、智也は記憶喪失で、智也に関わった全員を忘れたのだと思った。いや、そう思いたかった。
 だが、智也の両親はこう言ったのだ。「そんなはずはない。確かに頭には打撃はあったが、何も異常はないと医師に言われた。」と。
確かに智也の両親が言った事は本当だった。俺の他に智也のクラスのクラスメートがお見舞いに来た時は、まったく問題なかった。
他愛ないクラスの現状を話あったり、テレビの話を言い合ったり、その時の智也は、事故の前の智也だった……。
 ただ、俺一人の記憶がすっぽり智也から抜けたのだ……。それが、俺にはとても耐えられなかった。
 そして、意識がある時はずっと智也の事だけを考えていた。今日はどうやって思い出して貰おうとか
何か、智也が俺を思い出してくれるくらいの智也と俺の思い出は無かったか、とか。
 だが、どれも無駄だった、結局何も通用しなかった。何も
――だから、俺は――智也と新しい関係を築く事にした――
「あ、真司くん、いらっしゃい!」

252 :
智也は笑顔で俺を迎えた。だが、智也が迎えるのは、「真ちゃん」としての昔の俺じゃない。
「真司くん」、つまり、今の俺だ。
コイツにとって俺は彼氏、そして智也は俺の、義理の「彼女」という事になっている。
もちろん、智也は男だ。中学の頃はサッカー部のエースだったくらいに運動ができた。
 だが、智也は童顔で、優しくて、肌は白くて……まるで、女の子の様なのだ。
証拠に、俺の目には、今、智也はショートヘアーの女の子に見える。俺に優しく微笑んでくれる女の子。
「おう、智美(ともみ)、リハビリはどうなんだ?順調か?」
「うん、大分うまくいってるよ、最近ではね、ぼく、自分で着替えができるようになったんだ」
――智美。智也と俺で二人だけの時に名乗らせてる名前だ。
設定としては、智也は本当は女の子で、智美という名前を持っていた。
 だけど事故の影響で彼女は記憶喪失になり、智也として記憶をすり替えられ、恋人である俺の記憶をなくした。
という感じである。我ながら、痛々しいのは分かってる。これが自分の傷口を広げる行動だと言う事も分かってる。
でも、俺は………。
「そうか、智美。これさ、入院お見舞い、はい。」
「え?真司くんがぼくに?ははっ、なんだか珍しいね。」
「あぁ、ちょっと見てみてくれ。」
元の智也なら、恐らく、俺は変態と罵られ、縁を切られていただろう、それほどにひどい物を俺はお見舞いの品に選んだ。
「うわぁ!綺麗なワンピース!これ、僕にくれるの!?」
俺が見舞いに選んだのは、白のワンピース。智也の綺麗な肌に合う、白色だ。
「なぁ、智美。このワンピース、ここで着てみないか?」
「い、今ここで……?ちょっと恥ずかしいかな……。」
「ぼく、下着とか男物のだし……。真司くん、ぼくの事嫌いになっちゃうよ……。」
「ははっ、そんな事心配してたのかよ。」
「そ、そんな事ってなんだよ!ぼ…ぼくにとっては大事な事なの……。」
「大丈夫、ちゃんと女性用の下着も入れておいた。ほら、見てみろよ」
「あ……本当だ!真司くん、ありがとう!」
「ははっ、気にすんなよ。」
「それより、着て、見せてくれないか?お前のワンピース姿」

253 :
とりあえず今回はここまでです。
ここに投下するのは初めてなので、感想とか書いて貰えると嬉しいです。
というか、他の人は大体何行ぐらいできたら投下してるんですかね?

254 :
ミス訂正します
車道に突っ込んできたx
歩道に突っ込んできた○

255 :
イイヨイイヨー
続き出来たら投下よろしく♪

256 :
>>253
書き上げてから投下する

257 :
「親友」ではなく「恋人」として、関係を再構築しようとしている理由とか
「彼女」としてどんな風に染められていくのとか、すごく気になります。
続き期待です!

258 :
>>253
続きまってますよ

259 :
だいぶ間が開いてしまい申し訳ないのですが、男の娘スレ投下分とあわせてまとめスレにアップさせていただきました。
不具合等ございましたら言っていただくか、直接修正お願いします。ユーザ名/パスワード:joso/josoでログインできます。
>>253
1レス49行といのは私の場合もう固定になってるんで、6〜7レス分まとまった状態で投下したいと心がけて
はいるのですが、つい12〜14レス分になってしまって「なげーよ!」と自分自身に突っ込みを入れまくって
いる昨今です。

260 :
まとめスレちゃうわ。まとめwiki
http://www55.atwiki.jp/jososs/
です。

261 :
あげ

262 :
ほっしゅ

263 :
【その1】
「松井、今日飲みに行かないか?」
「ゴメン。無理だ。今日は約束があってさ」
「しっかたねぇなぁ……また今度な!」
珍しく定時に終わった週末、同僚の高橋の誘いを断りつつ机の上の物を鞄に詰め込む。
「お? 彼女のところか?」
「ま、そんなとこだ」
時計を何度も見直しつつ慌てて帰り支度をする俺の姿を見ながら、
同僚はデートの約束だと思ってくれたようだ。
これはこれでありがたい。
挨拶もそこそこに会社を飛び出し、電車に乗って繁華街へと向かう。
車窓の向こうに輝くネオンの輝きがどうにもまぶしく、
これから待つめくるめく官能の時間を髣髴させて気分を高ぶらせていく。
自分ではわからないが、恐らく俺の鼻息は相当荒かったに違いない。
ゆっくり開く電車のドアから転がり落ちるようにして出ると、
心拍数が上がりすぎないようリズミカルに呼吸をしながら早足で目的の店を目指す。
そのまま数分の間、競歩状態で歩き続けた結果、
うっすらと額ににじんだ汗をハンドタオルで拭き取り、すっと視線を上にあげる。
コンクリート打ちっぱなしの外装に武骨な鉄の扉と、
ネオンや看板で彩られた周囲の華やかな店とは一線を画した店構えが目に飛び込んでくる。
プラスチックの白い板にマジックで『クラブ アップサイドダウン 通用口』と書かれているだけの看板を見て、
俺はにんまりとほほ笑み、そしてゆっくりと扉を開けた。

264 :
【その2】
扉の向こうにはパリッとした、それでいて水商売には見えない
しっかりとしたスーツを着込んだ男が立っていた。
ぎろりと睨むように目線を投げる男に対して
「お疲れ様です」
とお辞儀すると、
向こうも「出勤お疲れ様です」
と返してきた。
そう、このやりとりは、ここアップサイドダウン独特の『合言葉』みたいなものなのだ。
このやりとりができない――つまり何も知らないで入ってきた通りすがりの客――は、
ここで追い返されるシステムとなっている。
「今日はどの部門を担当しますか?」
「んーっと……今週のWコースの制服ってどうなってるの? まだセーラー服なの?」
「セーラー服は先週までで、今週はバニーガールとなっています」
男が淡々と説明する状況を聞きつつ、いろいろと思いをはせる。
「ではHコースを担当します」
数秒悩み、俺は当初の予定通りHコースを担当することにした。
「当店での出勤は初めてでしょうか?」
「いえ、何度か出勤してます」
財布から1枚のカードを取りだし、男に提示した。
それを見た男はなにもかも了解したような顔で頷いて、俺をロッカールームへと案内する。
「それではヘアメイクをご利用の際は内線でお願いします」
パタンとロッカールームの扉が閉まり、俺はひとつ大きく息を吐き出す。
そしてこれまた無数に並ぶロッカーから目的の番号を探しだし、
会員証代わりになっているカードキーをロッカーに通す。
ピピピ……とわずかな電子音の後、かちゃりと音を立てて鍵が外されたロッカーを開くと、
どことなく甘いにおいがむわりとたちこめ、脳をくらくらさせる。
「まずはこいつをどうにかしないとな」
誰に聞かせるでもなくそうつぶやくと、俺は大急ぎでスーツを脱ぎだした。

265 :
【その3】
ワイシャツ。スラックス。黒い靴下。そしてトランクス。
すべてを脱ぎ捨て生まれたての姿となった俺は、
ロッカーにしまいこんだ紙袋から一枚の布きれを取り出す。
シルク独特の怪しい光沢を放つ、豪奢なレースに彩られた女性用のショーツ。
普通の女性ならば「勝負下着」として準備しているであろうそれに脚を通してするりと引き上げ、
股間にある男性のシンボルを小さくまとめるように納める。
続いてショーツと同じ素材で出来たチューブトップのブラを取りだして胸に当てると、
後ろ手でホックを止める。もちろん、止めた後に周囲の肉をかき集めて
パッドが収まったブラのカップ内に押し込むのも忘れない。
それからサポートストッキングを履きやすいように小さくまとめ、
つま先、かかと、ふくらはぎ、ふともも、ヒップの順に引き上げていく。
強烈な引き締め効果で有名なこのサポートストッキングは、
脚線だけでなくヒップラインを美しくするためにパッドが入っているのもうれしい。
サポートストッキングを履いた後は、今度はレース編みで幾何学模様がデザインされた
柄ストッキングを同じように履いていく。
一部ストッキング愛好者からは『カバコ』とか揶揄されるストッキング重ね履きだが、
俺にとってはこれが一番脚線美を発揮できる方法なので仕方がない。
一通り下着をつけた後はいよいよドレスアップ。
いろいろ迷ったものの、今日はHコースということでスーツを選ぶことに。
スーツと言っても、もちろんさっきまで着ていた男性用スーツとは違う。
まず大きな衿がついたストライプのノースリーブシャツとベストが一体化したような
トップスを着込み、幅が太いネクタイを結ぶ。
もちろんネクタイはしっかり結ばず、胸元を開けるような感じでゆったりめに仕上げる。
続いて大きく入ったスリットがセクシーなロングタイトスカートを履き、
太いエナメルのベルトを締める。
最後にシャンパンゴールドに輝くヒールの高いパンプスを履くと、
視線がぐっと高くなり背筋がしゃんと伸びた。
大きな姿見の前で軽くポーズをつけると、
首から下だけはまるで高級クラブのホステスのようだった。

266 :
【その4】
しかし、ただ着替えただけで終わりではない。これからメイクが待っているのだ。
メイク台の前に座り、手早く髪をピンでとめてから電動髭剃りを取り出し、
ただでさえ薄い髭を入念に剃りあげてからコンシーラーで痕を隠し、
ついでに眉毛もコンシーラーで丁寧に隠していく。
次にリキッドファンデーションをスポンジの上に取りだし、頬になじませていく。
目の下からこめかみ、鼻の下から耳の上、小鼻から耳に、
唇の端から耳の下へと、数回に分け、丁寧に丁寧に伸ばしていく。
仕上げに目の周りやひたい、口の周りなどにもファンデーションをつけていくと、
男っぽい毛穴が目立つ皮膚が女性らしいきめ細やかな肌に変化した。
間髪入れずにフェイスパウダーをパフを滑らせるように肌へと乗せると、
ファンデーションを塗った直後独特の質感だった肌に透明感のある輝きが宿された。
続いて指先に細かくパールが入っているブラックのアイシャドウを取り、
まぶたの上になじませていく。その上にキラキラ感の強いシルバーのなじませ、
目頭から目じりに向かって微妙なニュアンスをつけるように丁寧に塗っていく。
そしてペンシルタイプのアイライナーで、
目頭から目じりへとまつげの生え際を沿うように少しずつラインを引いていく。
しっかりラインを引き終わったらビューラーでまつげを根元から立たせ、
マスカラでしっかり立ったまつげをキープする。
大きさは変わっていないはずなのに、
目が大きくなったような錯覚すら覚えるアイメイクにうっとりしつつ
使い捨てのカラーコンタクトを装着すると、
本来のものからグレーに変化した瞳がきらきらと輝く。
最後にブロウペンシルで丁寧に1本ずつ描くように、アーチ状の眉毛を仕上げていく。
もともとの眉毛を剃るなり抜くなりして整えるほうが綺麗に仕上がるのだが、
普段は会社勤めをしている身なのでそんな無理はできない。
まばたきするたびにバサバサはばたく音が聞こえてきそうなほど長いまつげと、
目元を際立たせるアイライン。
そして、派手ではないが自己主張はしっかりしているアイメイクと、弧を描くようなまゆげ。
完璧に作り上げられたアイメイクが、俺の目を女性の色っぽい視線へと生まれ変わらせた。
それから目の覚めるような、それでいてどことなく落ち着いた感じのする赤い口紅を取りだし、
筆で唇を描き出していく。
仕上げにつややかなグロスを塗ると、ぷるぷると震えるような色っぽい唇が完成した。

267 :
【その5】
これでフェイスメイクは完璧なものとなったが、
逆に貧相なままのサラリーマンヘアがなんとも言えない違和感をかもしだしていた。
その違和感を何とかしようと、ヘアメイク呼ぶための内線電話を取る。
数言のやり取りの後受話器を置いて2分ほどすると、
スリーピースのスーツを着たヘアメイクアーティストがやってきた。
「どのようにしますか?」
「ゴージャスな感じのふんわりしたロングでお願い。前髪はぱっつんで」
「色はどうします?」
「ん……スモーキーアッシュで」
「かしこまりました」
ヘアメイクアーティストは恭しくお辞儀すると一旦ロッカールームから立ち去り、
しばらくしてウィッグを持ってきた。
そして手早く俺にヘアネットをかぶせたあとウィッグを仮装着して頭へのなじみ具合を確認し、
アジャスターを調整してから再びウィッグをかぶせて頭に固定する。
固定したあとにブラッシングや手櫛で髪型を整えていくと、
最初はどこからみてもウィッグにしか見えなかったものが、
まるで本物の髪が整えられたかのような躍動感と美しさが与えられていく。
「完成いたしました」
「ありがとう」
そっとチップを握らせながらお礼を言うと、
またも恭しくお辞儀をしてヘアメイクアーティストは去っていった。
フェイスメイク、ヘアメイクが終わったら今度はハンドメイク。
ラインストーンで装飾が施されたパールに輝くスクエアタイプのネイルチップを、
爪の根元に合わせ両面テープで張り付けていく。
あらかじめ家で形を整えてきただけあって、
まるで本物の自分の爪にネイルアートを施したような出来栄えとなり、眺めているだけでうっとりしてくる。

268 :
【その6】
しかし、時間を浪費している暇はない。備え付けの名札を1つとり、
利き手ではない方で『あすか』と源氏名を書いていく。
ただでさえネイルチップをつけているためペンが握りにくいのに利き手と逆で書いた文字は、
絶妙なゆがみと丸みを帯びて知的さを一切感じさせないものとなった。
さらに名前の隅にハートマークを描き加えると、バカっぽさはさらに上がっていく。
これを腰の部分につけて、仕上げにお気に入りの香水をうなじと足首に
ほんの少しだけつけてから姿見に自分を映すと、
ゴージャスなウェーブヘアをたたえドレス風スーツを着込んだ女性が、
どこか虚ろな瞳を輝かせ口角をあげた微笑みを返してきた。
「よし、上出来♪」
『全身をキメキメにしているけれども、頭の中はからっぽな商売女』という
俺のなかで理想の女装スタイルの完成に満足した俺は、
ポーチを手にヒールでつまづかないようにゆっくりとホール目指して歩き出した。
そう、この瞬間から俺はサラリーマンではなく、高級ホステスなのだ。
内側から湧き上がる自信を胸にホールに踏み出すと、
入り口そばにいた店員が名札をちらりと見てから
「あすかちゃん出勤いたしました〜」
と、備え付けのマイクで店内に一斉放送をかけた。
「じゃ、4番テーブル入ってね」
そう耳打ちされた指示に従って4番テーブルに向かう俺。
間接照明が多用された店内は薄暗いが、
どのテーブルからもよく見える位置にあるステージでは、
ラメブルーのビキニトップに股上が浅くおしりが見えてしまうほどのホットパンツを身に着けた黒ギャルが、
プラチナアッシュのロングヘアをなびかせながら煽情的なポールダンスを披露している。
通路にはエナメルのバニーコートを着たバニーガールたちが、
バックシームのラインがセクシーな網タイツの脚線美を披露しながら
テーブルにお酒やおつまみを運び、ときには客からおしりやふとももを撫でられて嬌声をあげる。
そして各テーブルでは高級そうなスーツを着た男たちが、
スーツやドレス姿の嬢に接客されながら楽しそうに酒を飲んでいる。
このような、どこにでもある『水商売のお店』の様子を横目に見ながら、
俺は指定された4番テーブルへと到着した。
「よろしくお願いします〜♪ あすかで〜す」
必に訓練して出せるようになった、鼻にかかったような甘い女の子のような声で軽くおじぎをする俺。
「よう、あすかちゃん。ひさしぶり」
ソファーにゆったりと腰かけた高級そうなスーツの男が、片手を上げて挨拶を返してくる。
かっちり決めた髪型と綺麗にトリミングされたあごひげ、そしてスーツから覗くカラーシャツが、
いかにも遊び慣れている雰囲気を漂わせている。

269 :
【その7】
「お久しぶりです、ユージさま」
「かたっくるしい挨拶はヌキでさ、はやく座ってよ」
ポンポンとソファーの横を叩き、俺の着席を促してくる。
「失礼します」
促されるまま席に座ると、ユージは無言で煙草を取り出そうとした。
その予兆を素早く察知した俺は、ポーチからライターを出して一度手許で火をつけ、
そしてゆっくりとユージが咥える煙草へと近づける。
ぼんやりと明るく照らされるユージの整った顔。
しかし、トリミングされたあごひげは、どこか作り物のような感じが見て取れた。
ゆっくり視線をユージの手許に移すと、そこには男性らしくないしなやかな指があった。
そう、ユージは女性なのだ。
彼だけではない。このフロアで酒やキャバ嬢との談笑を楽しんでいるホスト風の男も、
セクハラまがいのスキンシップをするバーコードヘアの男も、
眼鏡をかけた真面目そうなサラリーマンも、すべて女性であるという。
逆に、先ほどステージでポールダンスを披露していたギャルも、お酒を運んでいたバニーガールも、
そして各テーブルにいてかいがいしく酒を作ったり談笑している嬢たちも、全員が男性なのだ。
では、ここがオナベ専用のニューハーフパブかと言われたら、決してそうではない。
この『クラブ アップサイドダウン』は、男性客が思い思いの水商売風女装をしてキャバクラの接客を体験し、
逆に女性フロアスタッフは『よくキャバクラに来る男性客』っぽい格好をして
にわかキャバクラ嬢のおもてなしを受けるという、ちょっと変わった店なのだ。
ちなみに、この店で一番人気の『お客様』(つまり、女性スタッフ)は、
ハタチそこそこなのにわざわざ毛抜きで髪を抜いてバーコードヘアにセットしている『敬一郎』だという。
どちらかといえばアイドル系の顔立ちなのにわざわざオヤジくさい格好をして、
さらにセクハラまがいのボディタッチまでする積極性が人気の秘訣なのだとか。
一方、ユージは人気ランクでは3番目ぐらいだが、
どことなく宝塚のトップスターを髣髴させる整った顔立ちと、
キザで遊び慣れたような立ち振る舞いが俺のお気に入りで、
可能な限り彼を『担当』することにしているのだ。

270 :
【その8】
そのお気に入りのユージが煙草をくゆらせている間に、
通りがかったバニーガールにそっと声をかけ、水割りセットを用意してもらう。
「じゃあ、そろそろお酒でも作ってよ」
吸いかけの煙草を灰皿で揉み消しながらユージがお酒の催促をしてきたのとほぼ同時に、
バニーガールが水割りセットを持ってきた。
露骨なまでに前かがみになって、高級な女装用ブレストフォームを使っているのか
女性のものと区別つかないほど豊かなバストを誇示するバニーガールに内心苦笑しつつ、
小道具として挟み込んだライターが自己主張する胸の谷間は俺ですらドキッとさせられ、
今度バニーガールをすることになったら真似してみようと思わせるほどであった。
間接照明で艶やかに光るヒップを振りながら去っていくバニーガールを横目に、
グラスに氷を入れて軽くマドラーでかき回してグラスを冷やし、
続いてウィスキーをグラスの底から指一本分のところまで入れる。
そしてミネラルウォーターをグラスの7分目ぐらいまで注ぎ、マドラーで上の方を軽く混ぜる。
最後にトーションでグラスについた水滴を拭い、グラスの下の方を両手で持ってユージの前にそっと置く。
「あすかちゃんも飲みなよ」
とユージが勧めてきてから、改めて自分用の水割りを手早く作る。
「それじゃ、乾杯」
「乾杯」
両手でグラスを掲げてユージのグラスの底のほうに当てるように乾杯をする。
女の子らしくちびちびといただきながら、ユージと他愛のない話をしつつ、
水割りを作ったり煙草に火をつけたり灰皿を交換したりと、嬢の仕事をこなす。
時折、スリットから覗く脚を触られたり、肩を抱かれたりと、
積極的なスキンシップに頬を染めていると、
ふとした瞬間にユージと瞳が重なり、なんとも言えない切ない沈黙が訪れた。
「……いいかい?」
無言で目を伏せる俺。
そっと触れるような、初々しい中学生のようなキス。
ユージとのファーストキス。
恐らく時間にして3秒ほどの永遠が過ぎ、ゆっくりと瞳を開けるとユージの顔が遠ざかっていく。
彼の顔がまともに見れないほど、心臓がどきどきと高鳴っている。
火照った顔をどうしようかと思っていると、追いうちのようにユージが耳元でささやいてくる。
「今日、アフターできるかな?」
すっかり舞い上がってしまった俺は、無言で頷いた。
もしかしたら、何度もブンブンと首を振ってしまったのかもしれない。
それから『あがり』になる1時間ぐらいの間、何をしていたのか忘れるほどに、
俺は浮かれた気持ちで『接客』を続けていた。

271 :
【その9】
既定の時間が終わってロッカールームに戻り、
本来ならば着替えて料金を精算するのが常だが、
この格好のまま帰ることをロッカールームつきの係員に告げる。
そして時間経過や飲食で崩れた化粧を直し、
来る時に着ていたスーツをレンタルしたスーツキャリーへと詰め込む。
そして店の横に用意されているコインロッカーに荷物を投げ入れて、
大きな荷物を持ち歩かないで済む状態にした。
かなり手早く身支度をしたつもりだけれども、
それでも『あがり』の時間から30分以上経過してしまい、
ユージを待たせてしまう形になってしまった。
待ち合わせ場所の場所に慌てて向かうと、ユージは所在無げに煙草をふかしていた。
「ごめんなさい! 遅くなっちゃいました」
「大丈夫、そんなに待ってないよ」
深々とお辞儀をしてユージに謝ると、彼は優しく頭を撫でてくれた。
その手がやけに温かく、さらに自分の顔がほてっていくのがわかる。
「じゃあ、行こうか」
すっとユージが腕を差し出してきたので、それにすがるように抱きつく。
ちょっと高めのヒールを履いているにもかかわらず彼は自分よりも頭一つ高く、
本当に男の人の腕にもたれかかっているような気分になってくる。
そのままデート気分で繁華街を歩いていると、
前方から見慣れた人物がやってくるのが見えた。
高橋だ。
飲み会の帰りなのか、別の課の人間と一緒に大声で騒ぎながら歩いている。
すれ違った瞬間、高橋がちらりと俺の方を見たのに気づく。
恐らく、彼の方に開いていた脚のスリットに惹かれたのだろう、
一緒にいた奴らに「今すれ違った娘、脚がすげー綺麗だった!」と
興奮気味に語ってはたしなめられていた。
そうか、アイツから見ても俺はかなり魅力的なのか。心のなかで軽くガッツポーズをする。
ウキウキ気分のままユージに導かれるまま歩いていると、
繁華街とは反対の方に向かっていることに気がついた。
この方向は……ホテル街だ。
まさかと思ってユージの方を見上げると、
「……あすかは、嫌かい?」
とびっきりの笑顔をみせるユージ。
断れるわけがない。
無言で目を伏せ、ぎゅっと抱きつく。
ユージに導かれるまま、俺はホテルの入り口をくぐった。

272 :
【その10】
ホテルは間接照明と壁紙の色合いのせいか、どことなく淫靡な雰囲気が漂い、
これから起きるであろう出来事への期待感が高まっていく。
「ねぇ……シャワー浴びてきていい?」
もう深夜といっても差し支えない時間。このままユージに抱かれるとなると、
汗のにおいなども気になってしまう。
だが、ユージは俺をベッドに押し倒し
「だってシャワーを浴びちゃったら、あすかにかかった『魔法』が解けちゃうだろ?」
とささやいて俺の唇を自分のものでふさいだ。
口腔内を溶かしつくされるような濃厚なキスで脳がしびれている。
この瞬間、俺は――ワタシは本当に魔法にかかり、ユージの『女』になった。
唇に、首に、脇の下に、何度も何度もキスをするユージ。
そのたびに自分の中の『女』がどんどん大きくなっていく。
やがてユージの手がスリットの間からスカートの中に差しこまれ、
ワタシの大事なところを執拗に愛撫する。
ストッキング越し独特のなんともいえない感触にどんどん昂り、吐息が唇から洩れてしまう。
「そろそろいいかな?」
手慣れた感じでスカートをはずされ、ストッキングのみの姿にされてしまう。
なんか急に恥ずかしくなってきて、ユージの方を見られない。
「そろそろいいかな?」
ユージはワタシのストッキングも下ろし、大事な部分を一気に露出させた。
瞬間、はじけるようにワタシの『モノ』がピンと屹立し、激しく自己主張をはじめた。
ユージの前では『女』でいたかったのに、ここで男を見せてしまったことが恥ずかしくなってしまい、
彼の顔がまともに見られない。
「大丈夫、あすかは誰よりも『女の子』だよ」
ヒクヒクと脈打つワタシ自身に軽くキスをし、そして口に含んだ。
「ああんっ」
ユージの口の中は温かく、そして蕩けるような気持ちよさで、すぐに絶頂に達してしまった。

273 :
【その11】
ワタシが出したものを嫌な顔せずに飲み込むと、
ユージはスラックスを脱ぎ捨ててなにやらごそごそやりはじめた。
「じゃ、今度は俺のものを気持ちよくしてもらおうかな?」
ユージの股間には、黒く光る『男性自身』が装着されていた。
ワタシはそれを咥えこみ、舌や唇を使って全力でフェラチオしはじめた。
カリの裏を舐め、ディープなストロークでサオ全体を撫でる。
ジュルジュルと自分がたてる粘液音が響き渡り、それがさらに興奮を加速させる。
「舌だけじゃなく、もっと頬やのどを使えよ」
「こ、こうでひゅか?」
上目使いでユージの様子を見つつ、より強くペニスを吸引しながら唇や頬を使いペニス全体を愛撫する。
たぶん、ユージから見える自分の顔は、まるでひょっとこのようにおかしなものになっているに違いない。
しかし、自分でも自覚できるほど情けない姿も、すべてユージのため。
「……んんっ!」
ユージのものを愛している。フェラチオしている。
そう思っているだけでどんどん高みへと上り詰め、ついに触らずに絶頂へと達してしまう。
「……フェラチオだけでだけでイっちゃったのか。あすかは本当にエッチな娘なんだな」
あざけるような、あわれむような、ドSな視線でワタシを見つめるユージ。
「……ふぁい、あしゅかはえっちなこでしゅ……」
そのまなざしに蕩けながらも、フェラチオする口は休めない。
「さて、そろそろかな?」
まるで引きはがすようにワタシの唇から抜くと、ユージは四つん這いになるように促してきた。
言われるがまま、ユージに大事なところをすべて晒す。
少しの間が開き、なにか冷たいものがワタシのおしりにかけられた。
「ちゃんと濡らしてあげないとな……」
どうやらかけられたものはローションだったようだ。
図らずも一瞬にして濡れたワタシの股間は、ユージのものを全力で受け入れる体勢になった。
おしりを両手でつかみ、大事なところに一気に突き入れるユージ。
最初はゆっくり、ゆっくり……そしてだんだんとストロークが速く激しくなっていく。
ぱぁん! ぱぁん! と激しく腰を打ちつける音が響き渡り、
そのたびにケモノのようにあえぐ声が唇から洩れてしまう。
「あ、あぁんっ!」
「いいか! 俺のがいいのか!」
「ユージが! ユージのがいいのぉ!」
「あすかは俺のだからな! 俺のオンナだからな!」
「ひゃい! あすかはユージのものでひゅ!」
ゆっくり。はげしく。やさしく。つよく。
貫かれるたびユージへの思いが全身に詰め込まれていく。
そして何度目かわからない絶頂を迎え、ワタシは静かに微睡の中へと沈んでいった。

274 :
【その12】
「目、覚めたか?」
どのぐらい気を失っていたのだろうか、
ワタシはユージの胸の中に抱かれるようにして眠っていたことに気がついた。
少しだけジンジンするおしりは処女をユージに捧げた証拠なので、痛さも少し心地いい。
「もう少し、休んでいくか?」
煙草をくゆらせながら、ぶっきらぼうにつぶやくユージに無言で答える。
「ところでさ。あすかは専業でキャバとかやったりしないのか?」
「……勤めもあるし、なによりアレは趣味にしておきたいし……」
「そうか、残念だな。今度、俺がオーナーで新しい店を出すんだけどさ、
 あすかにそこの店で働いてもらいたいって思ってたんだけどな」
残念、残念と、何度も自分を納得させるように頷くユージ。
頭の中で会社に勤めながら女装を趣味とする人生と、
ユージの傍らでかいがいしく働くあすかの姿を天秤にかける。
もちろん会社勤めに大きく傾きはじめた瞬間、
「あすかとは、これでおしまいかもしれないなぁ……」
そのユージのつぶやきを聞いた瞬間、天秤の支柱は大きく音を立てて折れてしまった。
もう、ワタシにはユージなしの人生は考えられない。
「……やめます」
「ん?」
「会社、やめます! ユージのお店で働きます!」
会社勤めの安定した人生も、男としての一生も、ユージと比べたらゴミのようなもの。
ワタシはユージについていくことを決意した。
「イイ子だな、あすかは」
いとおしいものをあやすかのように、ワタシをやさしく撫でてくれるユージ。
これだけで、宣言をした価値はある。
しかし、ワタシがユージについていくと言った瞬間に見せた、
あの邪悪な笑顔はなんだったのだろうか。
「じゃ、続きシようか」
そう言ってユージはワタシに覆いかぶさってきた。
一瞬浮かんだ嫌な想像は、ユージのキスでどこかに吹っ飛んでしまった。
頭の片隅で泥沼にはまってしまったことを自覚しつつ、
それを振り払うかのようにワタシはユージとの愛欲におぼれていくのだった。

275 :
おしまい
途中でID変わっているけど同一です
「客が女装して店員をもてなす擬似キャバクラ」というのが
アイデアの出発点だったのにどうしてこうなった

276 :
GJ!
今後予想されるあすかの転落人生(何)もよろしく

277 :
>>275
ありがとうございます
楽しく読ませてもらいました

278 :
女に変わるシーンはいつ見てもいいものだ
楽しかったです

279 :
このシチュは思いつかなかった、GJでした!
もしかして、男装女×女装男結婚式の作者様ですか?

280 :2013/09/17
読んでいただきありがとうです
>>276
続きは多分ない・・・・・・はず
アイデアがぼんやりと浮かんでは消えてるような感じではありますが
>>279
ですよ
やっぱり男装女×女装男が好きなようです
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