2013年10エロパロ374: 【ドラマ】美男ですねでエロパロ7 (258) TOP カテ一覧 スレ一覧 Pink元 削除依頼

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【ドラマ】美男ですねでエロパロ7


1 :2012/08/20 〜 最終レス :2013/09/29
ここは2011夏ドラマ(金曜夜10時TBS系放送)のドラマ「美男ですね」のエロパロスレです
以下注意事項
☆スレ要領が500KBに行くまでに(480KBぐらいから)、次スレ立てについてご検討下さい
・誹謗中傷厳禁
・荒らしはスルー
・名前欄にタイトル&連番を記入
・カプ名 ●●×○○
・内容についての注意書き (続編・BL・エロあり・エロなし等)
・以前投下した作品の続編の場合は、 >> で以前の作品に安価
・投下終了したら、今日はここまで等の終了宣言
・他の職人が作品投下中は、自分の作品を投下しない (被せ投下禁止)
・ある程度書き溜めて投下 (書きながら投下は禁止)
・sage進行 (メール欄に半角で「sage」と入れる)
・レスする前には必ずリロード
・スレ立ては必ず宣言してから行く。無断で行くのは控えること
・前スレの容量が中途半端に残った場合は書き手読み手にかかわらず埋めること
☆過去スレ
【ドラマ】美男ですねでエロパロ
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1315748694/
【ドラマ】美男ですねでエロパロ2
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1317418250/
【ドラマ】美男ですねでエロパロ3
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1319539579/
【ドラマ】美男ですねでエロパロ4
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1321544487/
【ドラマ】美男ですねでエロパロ5
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1324654237/
☆前スレ
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1328953174/
★エロパロまとめスレ
http://w.livedoor.jp/ikemen-desune

2 :

('仄')パイパイ


3 :
落ちそうなので上げておきます

4 :
保守

5 :
NANAのananのグラビアエロくて妄想が膨らむ
パンチラドラマといい素晴らしい
ドラマ出る度にひんぬーを触られる美男もけしからん

6 :
前スレ無事に埋まったようですね。
久しく書いてないけど新スレになったから、がんばってみます!

7 :
新スレ立ててくれた方ありがとう。
前スレ埋めてくれたみんなありがとう。
>>6
嬉しいっす!待ってます!

8 :
前スレ、ちょっとだけ埋めるのやりましたw
でも意外と埋まらず…他の皆さんありがとー!
>>6
楽しみにしてますw

9 :
前スレ埋め作業微力ながらお手伝い出来て良かったw
で、ついでと言ってはなんですが、一つ投下させてください
廉美子エロ無しです

10 :

「あれ?」
駐車場に車を止めた廉は、家の灯りが付いていないのを見て首を傾げた。
(あいつ、もう寝たのか?)
手探りで家の中に入り、廊下の灯りを点けた。
「美子ー。もう寝たのかー?」
キッチンにもリビングにも気配がないので、真っ直ぐに寝室に向かう。
「え?」
ベッドは朝メイクされたままになっており、美子の姿はどこにもなかった。
時計を見ると日付が変わっている。
「こんな時間までどこ行ってんだ!」
すぐさま携帯を取り出して美子にかけた。
今朝、仕事の関係者との会食があるから、晩ご飯はいらないと言った廉に
「それじゃあ、NANAさんとご飯食べに行ってもいいですか?」
と美子は顔を輝かせた。
(もちろん、それくらいの事で目くじら立てる俺じゃない)
快く許可を出し、それぞれの仕事場に向かった。
女の子二人だし、NANAも有名人だからあまり変な所には行かないだろうという安心もあった。
それなのに真夜中過ぎても帰らないなんて、何かあったんじゃないかと廉の不安が募る。
呼び出し音が鳴り続けるものの、気が付かないのか、無視しているのか、美子は出ない。
いよいよ廉は焦り始めた。
部屋の中をウロウロと歩き回りながら、美子へ電話をかけ続ける。
一時間近く電話をし続け、ようやく美子に繋がった。
「もしもぉ〜し、廉さんですか〜?」
間の抜けた声が聞こえて、廉はへたり込みそうになった。
「お前、酔ってるな?」
「全然酔ってませんよ〜、エヘヘ」
「今どこだ?」
「え〜っと、NANAさんのお家です。なう」
電話の向こうからケラケラと笑う声が響いた。
(なう…って、今時。あー、イライラするっ)
「ちょっとNANAと替われ」
「は〜い!……NANAさん、廉さんからです」
「廉?どうしたの?」
(どうしたの?じゃねえ!)と怒鳴りつけたいのを我慢して、廉は言った。
「美子を迎えに行くから、住所教えろ」
「えー、今から?泊まっていってもいいのに」
「ダメだっ!早く教えろ!」
「わかったわよ。えっと、東京都…」
「東京はわかってるっ!!!」
廉の大声で耳がキーンとなったNANAは、顔をしかめて携帯を離した。
「もうっ、大きな声出さないでよ!じゃ、言うわよ。港区……」

11 :

ピンポーン ピンポーン
ピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピンポーン
チャイムが連打され、NANAは慌てて玄関に向かった。
「そんなに鳴らさないでよっ!近所迷惑d……ヒッ!」
文句を言いながらドアを開けたNANAは、思わず息を呑んだ。
真っ白な額に青筋を立てて鬼のような形相の廉がいた。
心なしか髪の毛も少し逆立っているように見える。
「あいつは?」
「え…あの、リビングに…」
NANAは廉の迫力に気圧されて、素直に答えた。
ソファで眠り込んでいる美子の姿に、廉は目を見張った。
ロックTシャツにショートパンツ。自分は見たことのない恰好だった。
「こんな恰好で…」
「あ…あのね、廉。それ、あたしがプレゼントしたの…」
ギロリと睨まれて、NANAが首を竦める。
美子を抱き上げ、腕にはバッグと洋服の入った紙袋を下げて廉が立ち上がった。
「邪魔したな」
一言だけ残して玄関に向かう。
「廉、ごめんね。あの…美子を叱らないであげて」
廉はチラリとNANAを見遣ってそのまま帰って行った。
ドアが閉まるとNANAはぺたんと座り込んだ。
「はぁ〜、ちょっと怖かった。美子大丈夫かな…」
「う〜…ん、ふあぁ〜…」
大きく伸びをしながら、美子があくびをした。
「ん?あれ…お家だ。いつのまに…」
深く考えずにもう一度布団に潜り込もうとした時、頭上から冷ややかな声が聞こえた。
「おい、起きろ」
ギョッとして振り返ると、腕を組み仁王立ちした廉が美子を見下ろしていた。
「廉さん、おはようございます」
呑気に朝の挨拶をすると、廉のこめかみがピクピクと痙攣した。
廉は美子の二の腕を掴み、有無を言わさずにリビングまで連行した。

12 :

「あの〜、廉さん怒ってます…よね?」
恐る恐る廉の顔を窺うと、「当たり前だ」と睨まれた。
「お前、昨夜の事覚えてるか?」
「はい、なんとなく」
「なんとなくっ?」
「いえっ、あの…大体は覚えてます」
「じゃ、昨夜あったことを全部言ってみろ」
「はい…」
美子は首を傾げて思い出し始めた。
その様子が愛らしくて思わず微笑みそうになる廉だったが、ここは心を鬼にしてニヤけるのを抑えた。
「えっと、まず、8時にNANAさんと待ち合わせして…」
「8時っ?そもそも待ち合わせの時間が遅いだろうが!」
「しょうがないです。NANAさんも忙しい人ですから。そのあと恵比寿の和食屋さんに行きました。
美味しかったなー。今度廉さんとも、一緒に行きたいです」
「そうか…あ、いや、今はそういう事を聞いてるんじゃない。お前そこで何飲んだ?」
「確か『トリアエズビール』っていうのを飲みました。NANAさんが『トリアエズビール』くださいって言うから
私も同じものを頼んで…。ビールって初めて飲みましたけど、美味しいんですね!」
廉はぷっと吹き出した。が、すぐに険しい表情を作る。
「その後は?」
「あの廉さん、これ何ですか?」
質問攻めにあいながら、美子はイマイチこの状況がわかっていない。
「これは、あー、事情聴取だ」
「じ、事情聴取?」
美子は目を丸くして廉を見た。
「別にお前を疑ってるわけじゃないが、お前は無防備すぎるからな。
何か大変な事に巻き込まれたりしてないか確認のためだ。で、その後は?」
なんか釈然としないが、美子は話を続けた。
「その後は、カラオケ屋さんに行きました。A.N.JELLの歌ばっかり歌いましたよ。
『alone』を歌った時は泣いちゃいました。エヘヘ」
その時の事を思い出したのか、美子は微かに涙ぐんだ。
廉も一瞬しんみりして、うんうんと頷いた。
「あっ、その時NANAさんからプレゼント貰ったんですよ。今着てるTシャツとショートパンツです。
ちょっと恥ずかしかったけど、そこで着替えてクラブに行きました」
「はっ?クラブ?」
しんみりした気持ちが、あっという間に引いて行った。
「クラブってお前、どこのクラブだ?」
「どこだったかな〜、六本木?かな…」
「お前、その時点で記憶がないのか?」
廉の頭に血が上っていく。
「記憶がないわけじゃないんですけど、繁華街のことってよくわからなくて…」
「繁華街って、お前…」
廉はガックリと肩を落として、ため息をついた。
「クラブではVIPルームに通されて…すごかったなぁ、あのお店。
NANAさんって顔が広くて、いろんな人が声を掛けてきましたよ」
「ふーん…、ん?」
廉は何かを思いついたように美子を見た。
「おい、お前、ちょっと携帯貸せ」
「…はい?」
美子は素直に携帯を廉に渡した。
しばらく美子の携帯を操作していた廉が、あっと声を上げた。
データフォルダに知らない男の写真が入っていた。
アドレス帳にも見覚えのない男の名前が…。
「これ誰だ!お前、男とアドレスの交換したのかよっ!」
眼前に突き付けられた携帯を見て、美子は首を傾げる。
「あれ?本当だ。いつのまに写真なんか撮ったんだろう?」
「お前〜、何やってんだっ!!許さねえ」
(人の気も知らないで、呑気にクラブだ?あげくによその男とアドレス交換まで、ありえんっ!)
廉は急いで写真データを消し、男のアドレスは着信拒否の設定をしたうえで、消去した。

13 :

「美子、頼むからもっと警戒してくれ」
廉は美子を強く抱きしめた。
「俺、お前を縛り付けたくない。
でも、こんなんじゃ、お前を自由にさせてあげられない。俺の言ってる事わかるか?」
美子は大きく頷いた。
「ごめんなさい。私、女の子同士で夜遊びなんて初めてだったから、少し浮かれてました。
修道院時代の友達とも疎遠になって…昨日NANAさんに誘ってもらえて、すごく嬉しかった。
でも、廉さんにこんなに心配かけてしまって、反省してます」
うな垂れた美子は、膝の上にぽたぽたと涙をこぼした。
「ごめんなさい、ごめんなさい。
でも…NANAさんの事は責めないでください。お願いします」
「お前は…ほんと、しょうがないな」
呆れたようなため息混じりの廉の言葉を聞いて、美子はぎゅっと身を縮めた。
「美子、よく聞け。今までお前の周りはいい人達ばかりだったろ?施設でも、修道院でも」
廉の顔を見上げた美子は、コクンと頷いた。
「でもな、世の中には悪意を持った人間もいるんだ、悲しい事だけどな。
そんな奴らに関わらないで済むならそれに越したことはないけど、そんな甘くないんだよ、世間って」
廉は美子の頬に流れる涙を、親指で拭って微笑んだ。
「もちろんお前は俺が守る。それは、ずっと心に決めてる。だけど…」
美子は何度も頷いた。
わかってる。
いつも一緒にいられるわけじゃない事。
一方的に廉さんに寄りかかって生きていく訳にはいかないって事。
お互いが自立していなければ、支え合うなんて出来ない事。
私はなんて子供なんだろう。
周りの人達が優しいのをいいことに、甘えてばかりだった。
美子は自分の不甲斐なさ、情けなさに涙が止まらなかった。
そしてこんな自分を、それでも見守ろうとしてくれる廉の大きさを改めて感じた。
「廉さん、私、頑張ります。
自分の目で世の中を見て、ちゃんと見極められるように、大人になります」
美子の言葉を聞いて、廉の心がチクリと痛んだ。
(お前に汚いものなんか本当は見せたくない。疑う事を知らない綺麗な心を持つお前。
知らないで済むならその方がいいのに…)
でも廉は心の声を押しして、美子の顔を覗き込んだ。
「そうか…よし!事情聴取はここまでだ。シャワー浴びてこいっ!」
「は、はいっ!」
美子は勢いよく立ち上がり、バスルームへと走っていく。
「美子!」
美子が振り向いた。
「それ、似合ってるぞ。Tシャツとショートパンツ」
「ありがとうございます!」
美子はニコッと微笑んだ。
「でも、着るのは俺の前だけにしろよ」
「はい、そうします!」

14 :

リビングに一人残った廉は、美子の携帯からNANAに電話を掛けた。
「もしもし、美子?ごめんね、廉に怒られた?」
「あ…悪い、俺だ」
「廉?」
「ああ。昨夜は世話になったな。よかったら、また誘ってやってくれ」
「いいの?」
「まあ、酒は程々にしてほしいけどな。でも、あいつも経験しなきゃわからないこともあるから」
「ふふっ、無理しちゃって。でも、わかった。また今度誘うわね、お酒抜きで!」
「ああ、じゃな」
「はーーーっ」
廉はソファに体を投げ出して大きく息を吐いた。
俺は一生の伴侶を得たはずなのに、まるで子を持った親のようにハラハラ、ドキドキしっぱなしだ。
心配の種は尽きないけれど、それが楽しくもある。
これからも美子を叱ったり、宥めたり、諭したりすることもあるだろう。
でも、あいつの綺麗な心を守るために、俺が頑張らなきゃな。
先が思いやられながらも、美子を見守る喜びを感じた廉は、
微笑みを浮かべながら、彼女がシャワーから戻るのを待った。

15 :
以上です
「一生の伴侶」とありますが、同居しているだけでまだ結婚はしていません
紛らわしい表現だったかなと思ったので追記させていただきました
他の職人様の作品も心待ちにしています
お邪魔しました

16 :
>>15
GJです!
リアタイで読めてうれし〜 早速ありがとうございますw
「なう」に噴きました…
廉さん過保護すぎるww それも全部自分のせいって反省する美子かわいいです

17 :
>>15
GJ!世間知らずな美子を心配する廉さん…そりゃ心配だよねぇw
あんなに可愛くて天然って…他の男はほっとかないだろうし。
でも廉さん焦りすぎwチャイム押しすぎw

18 :
>>15
遅ればせながらGJです!
こうして見ると、美子はやっぱり末っ子体質で可愛いな〜w
廉さんが年上っぽく、過保護で素敵ですね!かなりの独占欲発揮しちゃってますが…インターホンの押し方怖いww
美子は末っ子で、廉さんはしっかり育った一人っ子。柊さんと勇気はどうなんだろう?
個人的に柊さんは長男で下に妹とか弟が居て、勇気は末っ子、もしくは一人っ子だと思う。

19 :
遅くなりましたが>>1乙です!ありがとうございます!
>>15
GJ!
みんな書いてるけど廉さんチャイム押しすぎw こわいおwww
廉さんからは意識的に俺が守ってやる!的な強い愛情を感じるし、
美子からは無意識の包み込むような愛情を感じるし、いいバランスですね

これから短いのを投下します
勇気×美子でエロなしです

20 :

「ねぇ勇気さん…僕じゃダメ?」
「美男…。本気、なのか…?」
魅惑的な視線とともにゆっくりと近づいてくるその唇。
潤いをたたえて艶めいて、まるで女の子のそれみたいに柔らかそうで。
なにかを語るような甘えた瞳。
目を合わせたが最後、逸らすことができなくなった。
こいつ、こんなに可愛かったっけ…?
初めて会った時から女の子みたいで可愛いとは思ってたけど、今日の美男はいつもと雰囲気が違う。
いつになく色っぽいっていうか…見ててドキドキするっていうか…。
触ってもいい、かな…。
ふんわりと紅をさすなめらかな頬に手を添える。
耳元から髪に指を優しく差し入れると、美男は少しくすぐったそうに目を細めた。
指先で首筋をなぞり、そのまま手を肩に回す。
なんて華奢な身体なんだろう。
このまま抱きしめて……
いやちょっと待て。美男は男だぞ?!
そうだよ、美男は男。そんなの知ってるけど、でも…。
上目づかいに俺を見つめる美男の可愛らしさは理性を易々と破壊していく。
なんだっけ、こういうの。
えっと…小悪魔?
そう、それ!今の美男は小悪魔そのもの!
心の奥でペロリと舌を出して、尖った尻尾で俺のハートをチクチクと刺激するんだ。
「ねぇ…」
ダメだ美男、そんな目で見るな!
これ以上心をくすぐられたら俺、もう耐えられなくなる。
「本当に、俺でいいのか?」
ああほら、もう口が勝手に動いちゃったじゃないか。
こんなこと言うつもりなんか全然ないんだ。
越えちゃダメだ。俺あっちの世界には興味ないんだってば!

21 :

「俺で、じゃないよ。勇気さんがいいの」

    ばきゅーーーん……

ステレオタイプな銃声が脳内に響き渡る。
ああ、やられた。完璧にココロ撃ち抜かれた。
もう俺どうかしてる。本当にどうかしてる。
でもさ、目の前で気になる子に言い寄られて断れる男なんているのか?
無理。無理無理そんなの絶対ムリ!
もうなるようになれってんだ!
「美男!好きだっ…!」
勢いに任せて美男の身体をギュッと抱きしめた。
なんか細くて折れちゃいそう。本当に女の子みたい。
「うれしい…」
美男の腕がおずおずと俺の背中に回る。
大胆に誘ってきたのは美男の方なのに、いざこうなると恥じらうなんて。
くそっ、可愛すぎるっつーの。
キス…したい。する。します!もうするしかない!
顎に手を添えて軽く持ち上げると、美男はうっとりと目を閉じた。
力の抜けた、ふっくらした唇。
好きだ美男。もう、俺だけのものだ…!
はぁ…やべぇ、ちょー気持ちいい…。
理性も何もかも吹き飛ばして、ついにたどり着いた美男の唇。
想像以上に柔らかくて、フカフカしてて…。
………ん?フカフカ?
あれ?そんなのあり…?



22 :

「…き、ゅうき…」
「…ぅん……みぉ…」
「おい、勇気!」
「……ほぇ?」
…あれ?しゅ…さん…?
ここどこ…?なんか見覚えあるような…リビン……リビング?!
「うわぁっ!」
「わっ…!」
急激に目が覚めて飛び起きたら、目の前に少しびっくりした様子の柊さんがいた。
「驚いたな…。急に起き上がるなよ」
「あ…、ごめん…。あれ?俺なんで…?美男は…?」
いまいち状況が掴めなくて、あたりをキョロキョロ見回してみる。
どんなに見てもここは合宿所のリビング。で、目の前には美男じゃなくて、柊さん…。
「まだ寝ぼけてるのか?ほら、もう昼寝は終わり。そろそろ支度しないと収録に遅刻するぞ」
「え?収録って…うわっ、やっべ!」
夕方からの仕事を思い出し、大慌てで立ち上がった俺を見て柊さんの頬が少し引きつる。
それから柊さんはすぐに肩を小刻みに震わせてクスクスと笑いはじめた。
「どしたの?」
「いや…。大事そうにクッション抱えてどんな夢見てたのかなと思ってさ」
「は?」
「元気でなによりだよ。ほら、早く着替えておいで」
元気でなにより…?
必に笑いをこらえる柊さんを怪訝に思いながらふとうつむく。
そして俺は視界に飛び込んできたものを見て、盛大に赤面した。


23 :
以上です
アホな話ですいませんw

24 :
>>23
GJ!
勇気美子って久しぶりで新鮮でうれしい〜
やっぱり勇気はかわいいなぁw
そして柊さんの冷静な指摘に笑いました これでこそ柊さんだw

25 :
>>23
GJ!
妄想勇気大好きなので嬉しいww
勇気の脳内美男、エロいよね

26 :
わあ、新スレちゃんと見ない間に素敵な話が!
>>15
GJGJ!!です!
初読のときに「とりあえずビール」に気がつかなかったのが悔しいw
トリアエズビールっていうのがあるのかと思った…美子と一緒だww
美子かわいすぎるー。ほんとに天使!
廉さんもかわいいなあ。
鬼の形相でチャイム押しまくる廉さんと、絶句するNANAが目に浮かぶようだぜw
>>23
きた!勇気美子!GJGJ!
ドラマでありそう、脳内再生余裕だったわ。
無駄に色っぽい美子と押される勇気と、柊さんの笑いを含んだ目…
…あったな、これは。
勇気がかわいくて、ほんとうにごちそうさまでした。

27 :
>>23
勇気かわいいーー!!GJ!!
健康な21歳男子、結構じゃないですかw
勇気の妄想、もっとドラマでも見たかったな〜。

28 :
前回更新からまたも1ヶ月以上空いてしまって申し訳ありません。
廉×美子長編『君に贈るセレナーデ』の続きを今から投下します。
今回エロありです。これまでのシリアス展開はどうした?と
自己ツッコミしてしまうほど廉さん暴走ww
閲覧時は背後に充分ご注意下さい。
まとめサイトの管理人様、お手数ですが今回のみ“エロあり”に修正お願いします。

前回までの更新分
前々スレ
458-472
前スレ
422-432
472-486
529-542

29 :

―――


「え〜、では皆様。我らが廉さんの復帰を祝しまして…乾杯!!」
「「カンパーイ!!!」」

廉が退院してからの一週間は、目まぐるしい速さで過ぎた。

彼に付きっきりで看病していた美子は青空学園での勤務に戻り、子供たちの世話に追われ。
一方、A.N.JELLは記者会見や関係各所への挨拶回り、スケジュール変更を余儀無くされた
新作アルバムのレコーディングなどで慌ただしく駆け回り。
ようやく全員が揃った今夜、合宿所のリビングで内々だけの復帰パーティーが和やかに始まった。


「…乾杯がコレじゃあな…」
「ダメですよ!廉さんはまだ退院したばっかりなんですから」
「お前こそ、酒なんか飲むなよ。また吐いちまうぞ」
「……う゛…分かってますよっ」

勇気による乾杯の音頭を皮切りに、安藤社長が用意してくれたシャンパンを楽しむ。
無論、病み上がりの廉と酒に滅法弱い美子はお茶で我慢しなければならず、
パーティーの主役ながら周囲との温度差に二人は溜め息を漏らした。

「まぁ、そう言うな。料理は美味いんだし…楽しもうぜ」
「社長と馬淵さんに感謝だね。何だかんだで、全員のオフを合わせてくれたみたいだよ」

美男と柊のさりげないフォローで廉は渋々納得し、テーブル上に並ぶ
様々な酒の肴へ手を伸ばす。
美子はすっかり彼の扱いに慣れた兄と柊を見てクスッと小さく笑みを零し、
チーズと生ハムが載ったクラッカーを口に運んだ。
こうしてA.N.JELLにNANAと自分を加えた6人のみのパーティーは、
皆ラフな普段着でリラックスした雰囲気の中、進行していく。


「…はぁ〜、でもホントに良かった!廉さんが無事で…」
「勇気さん、空き時間は必ずお見舞いに来てくれましたよね」
「そりゃ当たり前だよ。すげぇ心配だったもん……とにかく申し訳無くて…」

ピザを食べ、グラス半分ほどのシャンパンを一気飲みした勇気は、染々と呟き
廉の無事を心から喜びながらも、居心地が悪そうに肩を落とし語尾を弱める。
意識が戻った日の夜、新米マネージャーの芳井と一緒に、何度も頭を下げて
栄養ドリンクの件を謝っていたのを思い出した。

「もういいっつったろ?成分を確かめなかった俺が悪かったんだ」
「うん…ごめんね、廉さん」
「…次謝ったらその口、縫い合わせてやるからな」
「げっ!…そ、それはちょっと…」


30 :
半ば脅しにしか聞こえない一言で勇気の責任を請け負った廉は、ソファの定位置で
ふんぞり返ってお茶を飲む。
その不遜な態度が引っ掛かったのか、柊の隣で機嫌良く飲んでいたNANAが割り込んだ。

「そうよ、人騒がせなのは廉なんだから。勇気さんが気にする必要無いわ」
「はぁ?何でお前にそんな事言われなきゃ…」
「あ〜ら、誰のお陰で助かったと思ってるの?私と柊が居なかったら、
あなたんでたかも知れないのよ」
「……チッ…何回目だよ、その話…」
適度にアルコールが入ったNANAは早くも頬を桜色に染め、酔っているのは明白。
廉に対する風当たりが一層冷たくなり、美子はあたふたと手を動かし仲裁に入る隙を窺う。
彼女も彼の事を心配していたが、如何せん柊と過ごす貴重な休日を邪魔された際に溜まった
鬱憤が、酔った勢いで爆発したようだ。
絡み酒という非常に面倒なNANAの酒癖を前に、廉は眉間へ皺を寄せ外方を向いて無視を決め込む。

「ちょっと〜、聞いてるの!?あなたのせいで貴重なオフが台無しに…」
「はいはい、もうその辺にしておいてやってくれ。
…今日の主役に絡むのは止そう、な?」
「柊……うん、分かった…」

何杯目かも定かでないシャンパンのお代わりを自分で注ぎながら、廉へ詰め寄るNANA。
そのグラスを横からヒョイッと取り上げた柊が、ひとたび穏やかに微笑むと。
瞳を潤ませウットリ見上げた彼女は恋する乙女と化し、すぐさま大人しく頷いて柊の隣に座り直し、
肩へ頭を乗せて甘え始めた。

「…ねぇ、今日も泊まっていいでしょ?」
「ん、もちろん。こんな可愛いNANAを一人で帰す訳にはいかないよ」
「ふふっ…優し〜い。やっぱり柊が一番素敵だわ…」

最早周りが全く見えていないのか、甘ったるいオーラを放ちながらソファでイチャイチャする二人。
勇気は敢えて知らん振りをする方針らしく、静かにグラスを傾ける美男の肩を掴み、あれこれ料理を勧める。
素面の美子は、斜め向かいで繰り広げられる恋人同士のやり取りに耐え兼ね、気恥ずかしそうに顔を背けた。
…と、疲労感を滲ませゲンナリした様子の廉と目線がぶつかる。

「…NANAさんもお酒に弱いみたいですね」
「……傍迷惑な女だ、ったく…」

バカップル丸出しな二人を横目に、彼は皿に盛られた柿の種を鷲掴み口の中へ放り込んだ。
不機嫌なその食べっぷりが気に掛かり、声を潜めて耳打ちする。

「…あの、NANAさんを悪く思わないであげて下さいね?
…廉さんが入院してる間、ずっと私を励ましてくれてたんですから」
「……へぇ、アイツが…」
「年が近い女の子のお友達ってほとんど居ないから…
仲良くなれて、すごく嬉しいんです」

31 :

NANAはマスコミの目を避け入院した日以降は見舞いに来なかったが、病室に籠り切りで
青い顔をしていた美子を、電話やメールで元気付けようとしてくれた。
彼女の優しい一面を語り廉の顔色を見遣れば、吊り上がった凛々しい眉が少しだけ和らぐ。

「変わったのか、嘘つき妖精も…」
「…昔は色々あったけど……ここに居る皆さんは、私にとって大切な仲間です。
廉さんも、私も…皆さんに支えられて生きてるんですよね…」

兄の身代わりとしてA.N.JELLに加入しなければ、決して出会うはずの無かった彼ら。
皆の暖かさに助けられ、今回も大変な事態を収集する事が出来た。

「…幸せって、こういうモンなんだろうな」
「え…?今、何て……」

感謝の気持ちで胸がいっぱいになり感慨深げに彼らを眺めていると、
廉は聞き取れないほどの小声で何か呟き、美子の髪に触れながら頬を緩ませる。

「…俺も…変わろうと思う」

耳元でそう囁いた彼は、各々自由にパーティーを満喫する面々へ向き直り、
ソファから立ち上がって真摯な声を発した。

「…みんな、ちょっと聞いてくれ」

「へ?ど、どしたの廉さん、そんな改まって…」
「いきなり何よ〜…演説でも始めるつもり?」

急に仁王立ちの体勢でリビングを見渡す廉は並々ならぬ威圧感を放っており、酔った勇気とNANAが
茶々を入れつつ少々たじろぐ。
美男はグラスをテーブルへ置き、柊も黙って姿勢を正す。
固唾を飲んで彼らを見守る美子の目に、俄に信じ難い状況が飛び込んで来た。


「……悪かった…色々、迷惑掛けちまって…」


あの、プライドの塊のような男が、深々と頭を下げて皆に謝ったのである。
衝撃が走り、目を大きく見開いて固まる5人。
構わず、廉はそのまま言葉を続ける。

「…俺は、お前らを信じる。だから…
…これからも、俺を信じて…付いて来て欲しい」

今まで、メンバーにすら何処か一線を引いていた彼が吐露したのは、嘘偽りの無い真っ直ぐな思い。
ゆっくり顔を上げた廉に対し、A.N.JELLの3人は互いに頷き合い、満面の笑みを覗かせた。

32 :

「廉さん…超〜感動だよ!!俺、一生廉さんに付いてくから!」
「勇気…」
「…あぁ、俺も。廉の作った曲しか弾けないし、弾く気にもなれない」
「…柊…」

感激屋の勇気はとうとう涙を流し、廉の右腕に抱き着いて。
柊はうっすら赤らんだ双眸を隠す事なく、彼へと向ける。

「…言われなくても、俺らはとっくにお前を信じてるっつうの。お前が居たから、
バラバラな俺たちもここまでやって来れたんだ。…A.N.JELLのリーダーは、桂木廉にしか務まらねぇ」

相変わらず自信たっぷりに言ってのけた美男が、爪先へ力を込めて懸命に背伸びをし、
自分より背の高い廉の頭をクシャクシャッと撫で回した。

「…お前ら……」

廉は下唇を噛み拳を握り締め、込み上げる熱いものを堪えているようだ。
そんな顔を見せる事も無かったこれまでと、明らかに何かが違う。
彼を取り巻く見えない壁が、いつの間にか消え失せたような…。


「……ね、美子。廉ったら何だか別人みたいじゃない?」
「あ、はい…そうですね…」

盛り上がる男たちの中へ入って行けず、美子は隣に寄って来たNANAと内緒話をする声音で喋り出した。

「きっと、あなたの力ね。やっぱり廉には美子が必要なのよ」
「NANAさん…」
「…私じゃダメだった理由…やっと分かった気がする」

零れ落ちた呟きにハッとする。
今でこそ彼女は柊と付き合っているが、以前は廉に執着していたのだ。
視線を泳がせ動揺を露にする美子に気付いたのか、NANAは慌てて首を横に振った。

「やだ、勘違いしないでね?私、今は柊一筋よ」
「…は、はい…すみません……」
「って言うか、誰もあなたたちの間に入れる訳無いんだから、心配要らないわ」
「そう、でしょうか…」
「自信持ちなさいって!美子、前より綺麗になったし。
…もしかして…毎晩愛されてたりする?」
「!?」

可愛らしくウィンクして見せたNANAは、顔を赤らめ口が開いたままになった美子の耳元で、
更に羞恥を煽る。

「でも、退院してからは時間無かったでしょ。
…私が上手くやるから、二人っきりで楽しんじゃえばいいのよ」
「いいい、いえ、あの…」
「任せて!女優の腕の見せ所ね」

端からこちらの意見を聞くつもりは無いらしく、勝手に意気込んだ彼女はいきなり
美子の膝に頭を乗せ、ゴロンとソファに横たわった。

「な、NANAさん!?」
「ん〜……もう眠い…おやすみなさ〜い」

33 :

突然声を上げた己を、A.N.JELLの4人が一斉に振り返る。
膝枕で気持ち良さそうに微睡むNANAに気付いた柊が、いち早く美子の前まで歩み寄った。

「柊さ…」
「ごめんな、美子。NANAはあんまり酒に強くなくて…」

至極優しい眼差しでNANAを見つめる柊は、軽々とその身体を抱え上げて皆に会釈する。

「…じゃ、俺はお姫様を寝かし付けて来るよ」

恥ずかしげも無く王子様めいた一言を残し、彼はNANAと共に自室へ消えて行った。

「ヒュ〜♪柊さん、さっすがだな〜…俺もあんな風に格好付けてみたい!」
「だったら早く相手を見付けるんだな」
「何だよ、美男だって彼女居ないくせに。
…よ〜し、こうなったら俺たちでフリー同盟でも組んじゃおうよ!」
「ちょ、コラ…どこ触ってんだ!」

酔いが回り出来上がった勇気は、柊とNANAのピンクな雰囲気に当てられ、
寂しさを紛らわせる為に美男へ絡み出す。
ただ男同士でじゃれているだけだが、彼らを見る廉の横顔は苦々しく“気持ち悪い”と
書かれているようで、美子は吹き出しそうになるのを我慢した。

「美男〜、花火やろうよ、花火!」
「分かった、分かったからあんまりくっつくな。暑苦しいんだよお前は…」

さほど酔っていないらしい兄は、犬と変わらぬ様子で騒ぐ勇気に連れられ、そのまま広い庭へ向かう。
取り残された美子と廉は、打って変わって静まり返ったリビングで暫し立ち尽くした。

「…アイツら結局、後片付けを押し付けて逃げたんじゃねぇか」

幸せが逃げるほど大きな溜め息と共に愚痴った廉が、散らかったテーブル上を一瞥し額に青筋を浮かべる。
彼の機嫌を台無しにしてしまった発端は自分にある気がして、美子は努めて笑顔のまま
空いた食器などから順番に片付けを開始した。


34 :

「仕方ないですよ!皆さん酔ってましたし…
私がやりますから、廉さんはお風呂でも…」

ビール缶やシャンパンの空き瓶をまとめていると、キッチンから
ゴミ袋を持って現れた廉の手が美子の手首を掴み、制止する。

「いいよ。たまにはお前が先に休め」
「けど…廉さんの復帰パーティーなのに」
「…俺が好きでやってんだ。文句あるか?」
「い、いえ…」

有無を言わせぬ態度の彼へ口答えするのは不可能だと判断し、
美子は厚意を受け入れペコッと頭を垂れた。

「…ありがとうございます。じゃあ私、先にお風呂入っちゃいますね」
「あぁ。…俺もすぐ行く」
「えぇっ!!?」

ゴミ袋をいくつか用意し、キチンと分別を考えながら仕分けする彼が何気なく
付け足した言葉に、我が耳を疑う。
…まさか、一緒に入るつもりなのだろうか。

「あ、あ、あの…廉さ…」
「…ふ、冗談だ。さっさと入って来い」
「…は、はい……」

さも愉しげに笑んで軽口を叩く廉から底知れぬ余裕めいたものを感じ、
熱くなった頬を俯き加減で誤魔化し、急いで部屋まで着替えを取りに向かった。


35 :


「…あんなこと言うなんて…」

浴室に駆け込んだ直後、頭から熱めのシャワーを被った美子は、両手で顔を覆い独り言を漏らした。
この一週間でグッと大人びた表情を見せるようになった廉に、胸の高鳴りを抑え切れなくなる。

「私…またドキドキしてる……」

交際を始めてすぐ遠距離恋愛に突入し、逢えない時間の方が長かった所為か、日本に帰国してからは
彼の仕草や言葉に一喜一憂し、日ごと愛情は増すばかり。

NANAが察した通り、廉は仕事で家を空ける場合を除いてほぼ毎晩、美子を求めた。
お互い初めての相手だった最初は手探りでスタートしたそれも経験を積む事で、
より濃厚なものに変わりつつある。
シャンプーの泡だらけになった髪を洗いながら、美子は内腿をモジモジと擦り合わせた。

「…どうしよう、思い出しちゃった…」

綺麗な白い指先で己の肌を撫で、少し鼻に掛かった低く甘い声が鼓膜を震わせ。
やがて高みへと誘ってくれる、猛々しい彼の、あの…。

「…っ……!…私ったら、何考えてるの……」

美子は淫らな想像に耽る脳内をどうにか理性で切り替え、身体の泡を洗い流す。
情事の際、羞恥心に耐え兼ねて目を閉じるのが常だが、時折垣間見る廉の
裸体の美しさが目蓋の裏に焼き付いて離れない。
抱かれる度、愛しくて堪らなくなるのだ。

「………」

彼が入院した夜、柊に言われた言葉が過る。
素直に想いを打ち明けてもらわねば、男は不安になると。
求められるまま、身を委ねるだけでは己の愛情は伝わっていなかった。

「……よしっ!」

全身くまなく洗い終えた美子は、鼻の頭を思い切り指先で押し上げて気合いを入れた。

…今夜こそ、自分から廉を誘ってみよう。




36 :

―――


口から心臓が出てしまうのではないかと錯覚するほど、異様な緊張感。

入れ替わりで浴室へ行った廉を待つ間、どんどん早くなる鼓動は静寂を保つ
薄暗い部屋の隅にまで届きそうだ。

「…これ、ホントに大丈夫なのかな…?」

以前NANAとRINAから聞かされた、男性をその気にさせるテクニックを反芻する。
二人が太鼓判を押すコスチュームとして、男物の白いYシャツをクローゼットから拝借し、
袖を通してみたものの。
本当に、こんなブカブカの服一枚で色気など増すのだろうか。
勝手にシャツを借りた事を怒られる可能性も否定出来ず、美子は彼のベッドにちょこんと座り
眉をしかめて悩み続けた。

「…廉さんの匂いがする」

身に纏う肌触りの良い生地から、ふわりと漂う爽やかで微かに甘い香りに気付き、自然と頬が緩む。
普段は身だしなみ程度に微量の香水を使用しているようだが、それだけではなく廉自身から匂い立つ
香りも相まって、心が掻き乱されそうだ。


「まだ起きてたのか?」

「…っ!廉さん…」

不意に声がし扉の方を振り向くと、モカベージュのバスローブを着た廉が現れ、鼓動が一気に跳ね上がる。
乾かしたばかりのサラサラとした前髪に幾分幼さを感じるが、こちらへ大股に近付く視線の鋭さは変わらず、
逃れるよう俯いた。

「…ったく、先に休んでていいっつったのに」
「すみません……最近廉さんと話せる時間、あんまり無かったなぁって思って…」
「ま…別にいいけど」

邪な考えはさておき、少しでも一緒に居たいという本音を正直に話すと、彼は満更でも無さそうに
口端を吊り上げ美子の頭を軽く撫でる。
が、すぐさま端正な顔立ちが怪訝に歪んだ。

「おい、まだ濡れてんじゃねぇか」
「…えへへ、乾かすの忘れてました」
「…はー…お前はホントに…ちょっと待ってろ」

至極呆れた様子で溜め息を吐いた廉は元来た道を引き返し、数分経たぬ内にドライヤーを持って戻った。

「乾かしてやるからココに座れ」
「は、はい!」

ベッドから降りて床に敷いてあるクッションへ腰を下ろすと、美子の真後ろに移動した廉は
電源プラグをコンセントに差し、ドライヤーのスイッチを入れる。
温風が熱過ぎないか手の平で確かめてから湿った髪に当ててくれる、彼の優しさが身に染みた。

37 :

「…美子の髪は柔らかいなー…」
「そうですか?」
「あぁ、ずっと触ってても飽きない」

男装の為に短くした髪も肩まで伸びて、すっかり女性らしさを取り戻し。
本人以上にそれが嬉しいのか、廉はこうしてよく美子の髪に触れるようになった。

「廉さんの真っ直ぐな黒髪の方が、素敵だと思いますよ」
「…ふーん、お前は黒髪が好みか」
「んー…けど、金髪にしても似合いそうですよね。どんな髪型にしても私は大好きです」

意思の強そうな黒髪に男らしい眉がトレードマークな廉の外見を、脳内で勇気と同じく
派手な金髪姿に変換してみる。
それはそれで、また違った魅力が生まれる予感がし、ドライヤーの音に掻き消されまいと大きめの声で伝えた。

「終わったぞ」
「あ、ありがとうござ…」

温風が止まり、振り返ろうとした美子の身体に長い腕が巻き付き、強く抱き締められた。

「…そんなに俺が好きなんだな」

背後から物凄く上機嫌な、弾んだ声音が響くと同時に首筋へ吐息が掛かり、全身が硬直する。
“男物シャツの効果は絶大よ。廉もイチコロね!”と宣う、NANA&RINAの高笑いが聞こえた気がした。

「えっと…あの…」
「……そうだ、今日も星は出てるか?」
「へっ?!……は、はい…綺麗な星空ですね」
「よし、決まりだ」

突然の抱擁にドギマギする美子に構わず、廉はあっさり身体を離すとクローゼットの奥へ消える。

訳が解らず首を傾げ、多少拍子抜けしながら見守る事、数分後。
真新しい天体望遠鏡を抱えた彼は、一旦部屋の照明を点けて視界を確保してから、
いそいそと窓際にそれを設置し始めた。

「…あっ!望遠鏡ですか!?」
「前に買ったまま、まだ一回も使ってなかったんだ。
…星を見ながらのファンミーティング、リベンジしたくねぇか?」

得意顔で言い放ち、天体観察をしやすいよう室内の明かりを再び落とす廉。
薄暗い中、手探りで窓際まで移動した彼にスキップする勢いで駆け寄り、
そのまま抱き付いてピョンピョン飛び跳ねた。


38 :

「嬉しいです!!廉さん、覚えててくれたんですね!」
「当然だろ。…あの時はゴタゴタして中止になっちまったからな。
コイツも満を持しての登場だ」

促され、床へ膝を突いた美子は開放した窓の外で輝く満天の星空にレンズを合わせ、望遠鏡を覗いた。
肉眼では決して見れない星たちの詳細な姿が視界に広がり、わっと声を上げる。

「スゴい!!こんな形だったのね……」

修道院に居た頃から、高価な天体望遠鏡は正に憧れの存在。
学校で習う天体の授業や、図鑑に掲載された星の写真に思いを馳せるのが精一杯だった己にとって、
遥か彼方で煌めく星を間近に見られる喜びはひとしおで、次第にのめり込んでいく。

「よく見えるだろ?」
「はい!あの一番大きな星の形まで、ハッキリ分かりました」
「…お前の母親代わりだった星、か…」
「……お母さんはきっと、本当にあそこに居るんだと思うんです。
お父さんと二人で、今も私とお兄ちゃんを見守ってくれてるって…信じてます」

悪夢に囚われた廉を救う力は、尊敬する院長や、亡き両親から授かったものだと美子は信じて疑わない。
彼もその話を茶化そうとはせず、ただ黙って肩を抱いてくれた。

隣を窺うと、月明かりに照らされた横顔が神々しく、無意識に息を飲む。
何かを決意したような強い眼差しは、一直線にあの星へと向かって…。


「……お父さん、お母さん。俺は一生を賭けて、あなたたちの大切なお嬢さんを…必ず幸せにします」


目線の先を決して外さず、迷い無き廉の声は続く。


「…美子さんと共に生きる事を、どうか…許可して下さい」


背筋を伸ばした美しい姿勢で星に一礼する彼を、美子は何処か夢見心地で眺めた。

「あ……」

顔を上げてこちらに向き直った廉が、己の左手薬指へ光るものを取り付ける。

いつの間に用意していたのだろう。
それは、淡い月光すらキラキラ反射する、星形にカッティングされたダイヤモンドがあしらわれたプラチナリングだった。
美子の鼻の奥が、ツンと痛む。

「これからもずっと…二人で星見るぞ」
「廉、さん…」

かつて、悲しい思い出へ繋がってしまった台詞。
再び同じ言葉を紡いだ廉の面差しには、覚悟のようなものが表れていた。


「……結婚しよう」


39 :

じっと己を見つめる瞳に吸い込まれ、息をするのも忘れるほど胸が熱くときめく。

…想い焦がれ続けた彼が、自分を人生の伴侶として選んでくれるなんて。

エンゲージリングを貰った辺りから滲み始めていた涙がとうとう零れ、
下唇を噛み締めながら力一杯頷いた。

「…はい……よろしく、お願いしま…っ…!」

返事を聞くや否や、廉は勢い良く美子の細い肩と腰を抱き寄せ、安堵の表れなのか大きく息を吐いた。

「……美子…」
「…廉さん…」

広い背中に腕を回し、抱き締め合いながら想いを込めて名を呼ぶ。
自己中心的で威圧感のある物言いの裏に、繊細で優しい本心を秘めたこの男性(ひと)を、生涯愛し続けたい。

「…廉さんは……私の夢なんです」
「え…?」

少し身体を離して顔を覗き込む廉から目を逸らさず、美子は頷いた。

「A.N.JELLの歌を聴いたファンの方たちは、皆さん笑顔になるでしょう?兄の代わりに美男として
ステージに立った時、たくさんの人を幸せにするお手伝いが出来た気がして…すごく嬉しかった。
私…役に立たないかも知れないけど、人に夢を与えて生きる廉さんを…ずっと傍で支えていきたいです」

比類無き才能を持ちながらも、努力を惜しまぬ不屈の精神で突き進む彼から幸せを受け取ったファンが…
この世には多数存在する。
“迷える人々を苦悩から救い、幸せへ導く”という生き方を育ての親である院長から学び、
自身もそうでありたいと願う気持ちに、今も変わりはない。
廉の歌には、それを容易く叶える力が籠められているのだ。

流れる涙を指先で拭い、はにかんだ笑顔で包み隠さず思いの丈を打ち明けると、彼の白い肌が
首筋まで赤く染まっていく。

「………反則だ、それ…」
「え?……きゃっ!?」

突如襲った浮遊感に声を上げて目を瞑れば、背中に柔らかな衝撃が走った。
そっと瞼を開いた美子を見下ろす、切なげな面持ち。
ベッドに押し倒されたのだと気付いた時にはもう、彼の右手はシャツを捲り上げ、滑らかな太股を撫でていた。

「廉さ…」
「……我慢出来ねぇ…お前が欲しい」

耳元で興奮気味に言い放った廉の、熱くなったそれが内腿に押し当てられ下半身が甘く疼く。
美子は顔から火が出そうなほどの羞恥心を耐え忍び、彼の胸元にしがみ付いた。

「……抱いて下さい…」


ゴクリ。
廉が唾を飲み込む音が、確かに耳に届いた。



40 :

―――


暗闇では無力な己の瞳を理由に点した室内照明の下、恥じらう美子を目の当たりにしただけで、
飢えた獣のように獰猛な衝動が湧き起こる。
アフリカから帰国したその日に初めて結ばれて以来、幾度抱いても尚、彼女への欲望は尽きる事は無かった。

「…んっ、ふ…ぁ…」

可憐な唇を塞ぎ、戸惑う舌先を捕らえて絡ませながら指先に全神経を集中させ、
シャツの裾から覗く華奢な脚を踝からツウッと撫で上げると、きめ細かな肌が粟立つ。
これは美子の性的興奮を表すサインだと、行為を重ねていく内に知った。

「…なぁ、何で俺の服を着たんだ?」

唇を解放し顔を寄せて問い掛け、赤らんだ耳朶を軽く甘噛みする。
口を噤む彼女の肩が小刻みに震え、内腿を擦り合わせる仕草を見せた。
恐らく、まだ見ぬ下着の中心部は既に湿り気を帯びているのだろう。

「誘うつもりだったのか?お前もイヤらしくなったよな…」
「…ちがっ…」
「嘘吐くな。…じゃあ、何で下しか穿いてねぇんだよ」
「それは…っや…!」

返答を待たず、白いシャツの上からこじんまりとした二つの膨らみを鷲掴み、揉みしだく。
棘のある口調で美子を責めるが、もちろん本気で苛立っている訳ではない。
色々と試行錯誤する中、このような趣向が一番彼女の理性を奪えると学んだからだ。
事実、羞恥に顔を歪ませながらも見上げる円らな瞳は欲に濡れ、何とも艶めいている。

「…答えないって事は、肯定してんのと同じだ」
「ぁっ…!廉さ…」

プロポーズに成功した夜くらい優しく抱きたいが…ここはやはり、
愛しい女の期待に応えてやるのが男というもの。
廉は心を鬼にし、敢えてサディスティックな振る舞いに徹すると決めた。

鎖骨が覗く襟元へ両手を掛け、ボタンを引き千切りながらシャツを肌蹴させ胸元を外気に晒し、
二つの頂を指先で摘まんでクリクリと弄る。

「あ、…んっ…」

膨らみへ唇を寄せ、硬くなった突起を口に含み舌で転がしてみた。
美子の乳房は、大きな廉の手にすっぽり収まるサイズながら感度は抜群で、発する声が更に甘くなる。
交互に胸の頂を吸い上げ意識を上半身へ向けさせつつ、隙を見て右手を足の付け根まで持っていき、
下着の上から秘部を撫でた。
指先に、しっとり濡れた感触が伝わり思わずほくそ笑む。

41 :

「…濡れてる…」
「……っ…言わない、で…下さい…」

満足げに呟きシャツの裾を捲ると、誰に勧められたのか清楚な美子には似つかわしくない、
妖艶なパープルの下着が全貌を現した。
所々に黒いレースが使われ、勝負下着です!と主張しているようだ。
廉は面食らい、一瞬ベッドからずり落ちそうになるのを堪え、咳払いを零す。

「いつ買ったんだよ、これ…」
「……NANAさんとRINAさんが、プレゼントしてくれて…」
「……やっぱりそうか」

小悪魔二人組が腹を抱えて笑う姿を容易に想像出来た己の思考回路を遮断すると、気を取り直して
下方に身体をずらし、彼女の脚の間に割って入った。

「だったら、別にこんなモンどうなったっていいよな?」
「え?…ひゃっ!…やぁっ、廉さ…ダメッ…」

柔らかな内腿に手を添え脚を開かせ、濃い紫に変色した中心部へ舌を這わせ、下着越しにむしゃぶりつく。
ふにゅ、と両足を閉じようとした美子の太股に顔を挟まれるが、止めるつもりは毛頭なく薄い生地が
びしょ濡れになるまで執拗に、舐めたり啜ったりを繰り返す。

「や、だぁ…パンツが、ぁっ…汚れちゃいます…ッ…」

首を左右に振って拒絶の意思を示す彼女だが、身体は素直で増えた愛液が洪水よろしく染み出し、
下着の色もすっかり変わってしまった。
濡れて秘部に貼り付いた薄布の上部、ぷくりと膨れたそこを尖らせた舌先で押し、強く吸う。

「…ひっ…ぁあ!!」

瞬間、美子の両脚が快感に戦慄き、一際甲高い声が上がった。
シーツを手繰り寄せていた両手は廉の頭に置かれ、制止したいのか、
或いはもっと刺激してくれとの訴えなのか、髪を掴んで震えている。

「…どうした、そんなに嫌ならもう終わりにするぞ?」

意地の悪い問い掛けに黙り込んだ彼女の股関節から内腿へ順に吸い付き、
いくつも赤い華を咲かせていく。
本当はどうして欲しいのか重々承知だ。
しかし、美子が快楽に崩落する様を思うと背筋がゾクゾクし、責める手を緩められなくなる。

42 :

「…は…ぁん、廉さ…」
「何だ」
「……お願い、します…」
「それじゃ何が言いたいのか分からねぇよ」

簡単に他人へ素肌を見せられなくする為、下半身に無数の所有印を刻んでいた所で、
ようやく観念したらしく腰を微かにくねらせながら、小さな声を発した美子。

「…パンツ、脱がせて下さい…」
「それだけ?」
「………さっきの、もう一回……して…」

今にも消え入りそうな懇願と、耳朶まで真っ赤に染まった顔を見遣ると流石に少々可哀想になり、
廉はそれ以上の無理強いはせずに頷いた。

「…ま、いいだろ」

目の中に入れても痛くないほど、可愛い彼女の頼みである。
要求を飲み、下着へ手を掛け一気に引き下ろして素早く脱がせ、愛液でトロトロに蕩けた花弁を凝視した。
己の股関が更に熱を持ち、今すぐにでも欲を開放したい衝動に駆られるのを堪え、生唾を飲み込む。

「…恥ずかしい、です……」
「じゃあ、やっぱり止めるか?」
「……いやっ…やめないで…廉さん、お願い……」

焦らされるだけ大胆になる美子を上手く煽って自ら足を開くよう仕向け、口元を笑みの形に歪ませた廉は
濡れそぼったそこへ顔を埋め、充血し膨らんだ花芯を遠慮なく口に含み、チュウッと音を立てて吸い上げた。

「ぁあっ…!」

待ち侘びたであろう刺激に彼女の腰は浮き、溢れた愛液がシーツに滴り落ちる。
空いた右手で陰唇をなぞり指先に蜜を絡ませ充分な潤いを保ってから、熱く熟れた膣内へ
人差し指と中指をゆるゆると挿入し、締め付けのキツい内壁を擦りながら奥まで掻き分けていく。

「はぁっ…ん、ぅ…ッ」

とても耳触りの良い喘ぎにやる気も上昇し、このまま美子を高みへ導くべく、くの字に曲げた指を
激しく出し入れしつつ陰核を舌で弄り、舐め擦った。

「…も、ダメッ…何か、来る…やだぁあっ!」
「…!?」

行き場を無くした両手で廉の髪をクシャッと握り締め。
下肢を震わせながら限界を迎えた彼女の秘部から大量の愛液が迸り、顔面に飛び散る。
咄嗟に目を瞑ったお陰で視界を奪われずに済んだが…これが所謂、“潮吹き”というものか。
また新たな経験値を獲得した気分になり、驚きと喜びを覚えた。


43 :

「はぁ、…はぁ…」
「……すげぇな、初めて見た…」

膣内から指を引き抜き、己の頬や額に付着した蜜を掬い取る。
ぼんやり余韻に浸る美子の前で、さも美味そうにそれを啜って妖しく笑んでやった。

「…甘い」

本当は味など無いに等しいが、彼女の身体から出たものだと思うと自然と
甘く感じるから不思議だ。

「……廉さん…わたし…」
「ん?…っ、お前…!」

ただ頬を朱に染め己の動作を見守るだけだった美子が、いきなり足をM字型に開いて
自身の秘部を触り始め、ギョッと目を見張る。
更に彼女は、達したばかりでヒクつく陰唇を廉へ見せ付けるよう、両手で拡げ始めた。

「……廉さん…来て…」
「……!!」
「はやく…」

ブチッ…脳内で理性の糸が切れた音がする。
こんな風に美子から求められたのは、初めてだった。

「美子…っ…!」

羽織っていたバスローブを脱ぎ捨てると華奢な身体へ覆い被さり、下腹に付くほど怒張した性器を
膣口へ押し当て、避妊具も装着しないまま一気に奥まで貫く。

「…ッぁあ!!」
「…っく……キツ…!」

強烈な締め付けが廉を襲い、眉根を寄せ歯を食い縛って射精感に耐えた。
今日は一段と内壁のうねり、温かさを感じて下半身が痺れる。

「動くぞ…っ…」
「ん、ぅ…っはぁ、あっ…あ、ひぁッ…」

互いの息が整う間も無く腰を打ち付け、熱くて狭い中を何度も突き上げた。
廉の動きに合わせ、絶えず啼き声を漏らす美子の目尻から、生理的な涙が伝う。

「美子……愛してる…」

律動の激しさとは裏腹に、優しく頬へキスをし雫を吸い取り、吐息混じりに耳元で囁いた。
すると、普段なら黙って頷くのみだった彼女が、瞳に涙を溜めたまま己を見上げ照れ臭そうに微笑む。

「私、も…愛してる……廉さん……」

行為の真っ最中、美子が言葉で愛情表現に応えてくれたのも初めてで、感激のあまり廉まで泣きそうになった。
…やっと、心から一つになれた悦び。

44 :

抑え切れず、デレッとだらしなく頬を緩ませ彼女の顔中に口付ける。
その間にも、頭上のクッションを一つ取って細い腰下へ敷き、尻の位置を高くした。

「…?」
「……いい子だ、ブタウサギ。めちゃくちゃ気持ち良くしてやる」

未だ試した事のない性感帯の開発。
今夜なら出来るかも知れない。

急に動きを止められ首を傾げている美子の両足を、己の肩へ掛けて思い切り開脚させる。
クッションが支えとなり下肢が浮いた状態のまま、より深く挿入可能になったのを確認し、
最奥を目指しつつ円を描くように腰を揺らめかせた。

「…あ、ぁっ…や、ぁあ!?」

膣内の奥深く、恐らく子宮口付近のコリッとした部分に亀頭が到達した刹那、
美子が発する喘ぎの質が変わる。
彼女の為、秘かに掻き集めた性知識が正しければ…間違いなくここは、
女性が一番感じるとされる箇所だ。

「ここか…」

獲物を見付けた肉食獣の如く双眸を光らせた廉は、角度を考えながら硬い性器をそこへ擦り付け、ベッドの
スプリングが軋むのも構わず夢中で突く。

「いやぁっ!!ぁ、あ…っん、…おかしく、なるぅ…ッぁ、ああっ!」

よがり狂った美子は廉の二の腕や背中に爪を立て、髪を振り乱して啼き叫ぶ。
結合部からとめどなく愛液が流れ、肉棒を出し入れする度にグチュグチュと卑猥な水音が
部屋中に木霊した。

「…ッ、おかしく、なっちまえよ……!」
「ひぁあ!…いっ…く……イッちゃう……ッぁああ!!」

喉を反らし全身を痙攣させながら、彼女が絶頂に昇り詰める。
悦楽の波は廉を銜え込んで離さない内壁にまで伝わり、キューッとキツく締まった膣内の
肉襞が絡み付き、堪らず子宮口まで挿入したまま精液を放った。

「…う、ぁ……っ…!」

全てを搾り取ろうとでも言うのか、貪欲なまでに収縮を繰り返す膣壁に促され、
何度か突き上げ一滴残らず美子の中へと注ぐ。

45 :

「…はぁ、はぁ……」

額に滲んだ汗が、真下で紅潮する二つの膨らみへと垂れる。
全力で坂道を駆け抜けたような倦怠感が訪れ、肩で息をしながら彼女の上に崩れ落ちた。

「……美子、大丈夫か…?」

呼吸が落ち着き始めた所で美子の様子を気遣い、再度身体を起こして
体勢を整えながら顔を上げると。
強過ぎた快感の所為だろう、彼女は意識を失い目を閉じた状態で沈黙を守っていた。

「…気絶してる………」

我ながら、かなりハードなセックスをしてしまった事に反省を覚え、苦笑を漏らす。
だが、後悔の念など微塵もない。

先程刻まれた、二の腕と背中の傷がヒリヒリと痛み始めたが、廉は清々しい思いで口角を吊り上げた。
…結婚したら、もっともっと愛してやるつもりなのだが。


「…これじゃ、先が思いやられるな?」

彼女の左手を取り、薬指に光るエンゲージリングへ恭しくキスをする。
幸せな夢でも見ているのか、ムニャムニャと口元を動かす呑気な美子。
穏やかなその寝顔を眺め続ける廉が、とろけるような微笑みを湛えていると自覚して赤面するのは、
もうしばらく後のこと。



46 :

―――


熟睡する彼女が居ては、散々たる様子のベッド上をそっくり片付ける訳にもいかず。
廉は仕方なくシーツの交換を諦めて出来る限りの後始末と、美子の身体を清拭する作業に励み、
自身も二度目のシャワーを簡単に済ませた。

水を飲みに、濡れた髪を拭きながらキッチンへ向かうと、そこには先客が。


「美男…?」
「ちょっと眠れなくてな。…ほらよ」
「あぁ、サンキュ」

冷蔵庫の前でミネラルウォーターを飲んでいた寝間着姿の美男から、
同じ銘柄の新品を受け取り封を開けて喉の渇きを潤す。
数時間前まで彼と一緒に はしゃいでいた勇気の姿が何処にも無く、
静まり返った薄暗いリビングを見渡した。

「勇気は?」
「もうとっくに寝たよ。“A.N.JELL最高!”とか言いながら寝る寸前まで絡んで来やがって…
よっぽど廉の言葉が嬉しかったみたいだ」
「…そうか」

酔っ払いの相手は大変だったと言いたげに肩を竦め、空になったペットボトルを捨てる美男の顔は
妙に楽しそうで、廉も口端を引き上げ笑みを零す。

「お前こそ、こんな時間に風呂なんて…早く休んだんじゃねぇの?」
「え?…あ、いや……」

日付変更線をとうに過ぎた今、風呂上がり丸出しの不自然な格好について指摘され、
ギクリと上半身が強張ってしまった。
愛しい彼女と瓜二つ、こちらを窺う澄んだ瞳は何もかも見透かしていそうで、非常に気まずい。
答えに詰まり、必に言い訳を考えながら再び水を飲み掛けた時、美男は無表情のまま呟いた。

「…もしかして、美子にプロポーズでもしたか」
「…っぶ!!…ゲホッ、ゴホッ……」


47 :

不意に核心を突く単語が飛び出し盛大に噎せた廉は暫し咳き込み、
飲み掛けのペットボトルをシンク付近に置いた。
息苦しさから若干潤んだ目を彼へ移すと、勝ち誇ったようにニヤリと
不敵な笑みが返る。

「へぇ、図星かよ」
「お、おお、お前、何で……」
「俺らは双子だぜ?お互いの思いまで分かる時もあるんだ。
…やっぱり、眠れない原因は廉にあったっつう訳か…」
「え?」

腕を組んだ美男は、動揺を露にする廉と対照的に冷静な様子で、窓の外を眺めながら息を吐いた。

「アイツが悲しい時は俺も意味無く落ち込むし、反対に楽しい時は勝手にテンションが上がる」
「……?」
「…だから、眠れねぇくらい気持ちが高ぶって落ち着かなかったのは、よっぽど美子に何か…
嬉しいサプライズでも起きたんだと思ってさ」

一人っ子の己には知る由の無い、双子の奇妙な縁。
美子と美男の絆の深さを改めて悟り、感嘆の声を上げる。

「…面白いな、双子って…」
「離れて暮らしてた時より、今の方がよく分かるかもな。
…美子は本当にお前を好きなんだって、毎日感じてるよ」

窓際まで移動した美男の頬を青白く照らす月光。
とにかくよく似た兄妹だが、ぼやけた視界に映る彼は些か寂しげな、
それでいてとても優しい男の表情で佇んでいた。
何と声を掛けて良いものか戸惑う廉へ真っ直ぐ向き直った美男が、
一際輝くあの星を背に口を開く。

「廉……もう二度と美子を泣かせるな。
…アイツを傷付ける奴は、誰であろうとこの俺が許さねぇ」

堂々たる態度でキッパリ告げられた一言。
以前、沖縄で柊から受けた忠告とほぼ同じだったが、最も美子と近しい彼から言われた事で
更なる重みが加わり、廉の身が引き締まる。

大切にして来た妹を、己へ託すつもりなのだ。
その決意がひしひしと伝わり、背筋を正して首を縦に振った。

48 :

「…あぁ。絶対に美子を悲しませたりしない。
…いや、でも泣かせちまう時はあるかも知れねぇな」
「何だと?」
「……だって、人は嬉しい時も泣くモンだろ?」

顎をしゃくり、したり顔で自信満々に言い放つと、呆けて目を丸くしていた美男が軽く吹き出す。

「この先、美子が流すのは嬉し涙だけってか……ふふ、上等だ。
今の言葉…忘れんじゃねぇぞ」

彼女に負けじと愛らしい、しかし精悍さを持った魅力溢れる笑顔で、眼前へ拳を突き出す美男。
廉は握った己のそれをしっかり彼と合わせ、男同士の堅い約束を交わす。

「忘れねぇよ、一生な」

突き合わせた拳から、妹を思う情熱が受け継がれたようで、言い表せぬ高揚感が身体を駆け巡った。

「…よし、じゃあもうすぐ義理の兄貴になる俺から、可愛げのねぇ弟に一つプレゼントがある」
「……その言い方やめろ」

ふと思い立ったのか、美男はやけに機嫌の良い声で冗談を言いながら、ゆったりしたズボンの大きなポケットに
手を突っ込み、長方形の茶封筒を取って見せた。
渡されたその中の、白い紙に記された内容を確認した廉は驚愕し、目を見開く。

「これ……!」
「俺に出来るのはそれくらいだ。…使い方はお前に任せる」

その紙の正体は、とあるコンサートホールの貸し切り許可証だった。
忘れもしない、約20年前…ピアノコンクールが開催された、あの会場である。
更に驚くべきは、貸し切りの日時だ。

「……母さんの、誕生日…」

記憶の隅に引っ掛かっていた、母が生まれた日。
これまでまともに祝う事も出来ぬまま、長い年月が過ぎていた。

49 :

「…あの人も、ずっと廉を心配しててな。見舞いにも来たがってたけど、俺が来ないでくれって頼んだんだ。
…あんな状況じゃ確実にマスコミのターゲットにされるだろ」
「…そう、だったのか……」

病室で読んだ、原稿用紙の最後の一文がまた脳裏に浮かび…廉の胸中は切なく、苦しくなる。

「…今度こそ思いっきり、言いたい放題言っちまえ。お前らは…親子なんだから」

目を細め柔和に頬を緩ませた美男にやんわり肩を叩かれ、唇を引き結び素直に頷いた。
保留した切りになっていた母との和解を、必ず成功させると胸に誓って。


「……ありがとう、美男」
「お義兄様と呼べ、お義兄様と」
「うっせぇ、調子に乗んな」

歯を見せ悪戯っぽく笑む美男の背中を小突き、廉も声を上げて笑う。


美子を愛して、本当に良かった。
こんなに優しくて、暖かい男と…家族になれるのだから。







50 :
今回はここまでです。
大量更新、しかも間違ってageてしまってすみません。
馬淵さんが言ってた美男の評価があまりに高かったので、気付けば
かなり男前で、粋な男になってたww
エロは今回限りで終わりですが、お話はまだ続きます。
こんなに長く続けていいものか…よろしければもうしばらくお付き合い
下さい。

51 :
GJ!
いやーーーー、凄かった!
廉さん、ほぼ毎晩なのね(エッチ)
「おかしく、なっちまえよ」で絶叫!(心の中で)
シリアスからエロまで、どんだけオールマイティなんですか。
投下しようかなと思って覗いてみたら大作来てて度胆抜かれました。
続き楽しみにしてます。

52 :
>>50
GJ!
廉さんすげー!
ってゆーか…病み上がりじゃなかったのか?アンタ…
双子の不思議でいろいろ察した美男、終始かっこいいw
さらに続きも読めるとのこと、楽しみ〜!
でもできるなら少しだけ…らぶりー廉美子なイメージのエロも見てみたいw
>>51
投下の予定ありですか?
うれしい〜待ってます〜

53 :
>>50
超〜GJ!!いつもステキなお話ありがとうございます!
廉さん、元気になりすぎだーwwプロポーズかっこよかったよ。
潮吹きとかすげぇ!!いつの間にか童貞から、テクニシャンへ…!
この美男、確かにイイ男すぎるわ〜早く彼女できますように。
続きも、もちろん待っています。楽しみです!

54 :
月刊セレナーデさんキテたーーーー!
どの作品も数少ないエロが超ド級のディープで感動ですw
今回のスゴさでひょっとしたらお子が出来てしまうんじゃないか?
それはそれで、このお話の続きをいつまでも読み続けていたい…
長期連載期待してます。心から。
落ち着いたら51様の作品も楽しみにしています!

55 :
51です
廉美子エロもありますが、どちらかと言うとA.N.JELL全員かな
自分でもカテゴライズがよく分からないけど、とりあえず投下します

56 :

テーブルの上に並んだたくさんの料理を見て、美子は満足げに頷いた。
「完璧!なんてね」
そろそろみんながやって来る時間だ。ウキウキしながら時計を見た時、ピンポーンとチャイムが鳴った。
急いで玄関に行くと、A.N.JELLのみんながどやどやと入って来た。
「いらっしゃい。お疲れさまでした」
「美子!おじゃま〜」
勇気を先頭に、みんな勝手知ったるという気安さでリビングに入って行く。
最後になった廉が、美子を軽くハグするのももはや珍しいシーンでもなく、日常の一場面となっている。
「これ全部美子が作ったの?驚いたな」
料理の数々を見渡して、感心したように柊が呟いた。
「エヘヘ、ちょっと頑張っちゃいました。今、スープも温めてるので皆さん座っててください」
美子がキッチンに戻ると、きれいに切り分けられたローストビーフを一切れ口に入れた美男が勇気に小突かれた。
「お前、行儀悪いぞ〜。ちょっと待ってろよ」
肩をすくめながらも、勇気のお小言などどこ吹く風と、美男は涼しい顔をしている。
「お鍋持っていくから、よけてくださーい」
熱々のスープの入った保温鍋を持った美子がやってきて、鍋をテーブルの中央に置いた。
「今日はミネストローネですよ」
鍋の蓋を開けると、美味しそうな匂いが部屋中に広がった。
「うっ、うぷっ…」
突然美子が口元を抑えて洗面所に駆け込んだ。
驚いた柊と勇気が顔を見合わせる。
「どうしたんだ…?」
ぼそっと呟いた廉に柊が声を掛けた。
「廉…もしかして…おめでたじゃないのか?」
「え?おめでたって…えっっ?」
あまりの驚きに目を見開いた廉だったが、次の瞬間には頬をポーッと染めて、こみ上げる喜びを抑えきれずに口元が緩みだす。
廉はそのまま美子の後を追って洗面所へと駆け出した。
その後ろ姿を微笑んで見つめる柊の肩を、勇気がつんつんとつついた。
「こっちにもお花畑の人がいるみたいだよ」
振り返ると美男もまた頬を染めて、だらしなく口元を緩め夢見るように微笑んでいる。
「美男、大丈夫か…?」
「へ?ああ、うん。おめでたかぁ。へへっ。俺たちの新しい家族かぁ。でへへへ」
「いや、まだはっきりしたわけじゃないし…」
勇気が冷静に言ってみても一切耳に入らない様子で、いつまでもニマニマしている美男。
(ダメだこりゃ…)
頭の中がお花畑全開の美男はほっといて、とりあえず美子と廉が戻るのを待った。

57 :

少し青ざめた顔の美子の肩を抱いて、廉が戻ってきた。
ゆっくりと美子を椅子に座らせ、みんなの顔を見回す。
「とりあえず月曜日になったら病院に行かなきゃな。そうだ、社長に連絡していい病院を探さないと」
そう言うと、おまえら先に食べてろ、と言い残して美子を連れて寝室に向かった。
美子をベッドに寝かせて、パソコンを立ち上げ産婦人科の検索を始める。
いつの間にかやって来た美男も真剣な眼差しでモニターを見つめている。
「実績があって、評判の病院は…と」
「廉、大事な事忘れてるぞ。絶対女医じゃないとダメだからな」
廉も思わず膝を打った。
(そうか…そうだよな。美子の大事な所をよその男なんかに見せられないからな…)
コンコンとノックの音がして、柊が顔を覗かせた。
「廉、勝手にキッチン借りたけど、美子におかゆを作ったから少し食べた方がいいんじゃないか?」
「おお、悪いな柊」
おかゆを載せたお盆を持って柊が入ってくる。
廉は美子の体を起してサイドテーブルにお盆を置いた。
「ところでさぁ、廉さんが病院についてくの?」
勇気の言葉にみんなハタっと顔を見合わせた。
「月曜日は朝から取材が入ってたな…」
「大丈夫ですよ。一人で行けますから」
美子の一言にみんな、とんでもないと首を横に振った。
「あ、それじゃ、シゲ子おばさんに頼むか」
今は何故か安藤夫人となったシゲ子にお願いすることにして、廉は社長に電話を掛けた。
「…と言う訳でおばさんにお願いしたいんだけど…」
廉の言葉に社長はムッとして大声を上げた。
「おばさんって…うちのハニーをおばさん呼ばわりするのは許さん!シゲ子さんと呼べっ!」
心の中でハイハイ、と思いながら機嫌を損ねると美子の事を頼めなくなるので、
「シゲ子さんに頼んで下さい。お願いします」
と珍しく下手に出た廉だった。
翌日、朝早く朝食の準備をしている美子を見て、廉は血相を変えた。
「何やってんだ?そんな事しなくていいから休んでろって!」
慌てて美子に駆け寄り、椅子に座らせる。
「大丈夫ですよ。病気じゃないし、まだはっきりしてないですし…」
「いいから!朝飯くらい俺が作るから」
キッチンからはガチャガチャと大きな音や、時おり「あちーっ」という廉の悲鳴も聞こえてくる。
美子はハラハラしながらも、おとなしく待っていた。
しばらくキッチンで格闘していた廉が、朝食を作り終えたのは1時間後だった。
黄身が壊れてぐちゃぐちゃの目玉焼きと、片面が真っ黒に焦げたトースト。
レタスを適当にちぎった上に、四等分しただけのトマトが乗ったサラダ。
コーヒーだけはコーヒーメーカーが作ってくれるので、まあまあの出来だった。
「お前はジュースだ。さあ、食え」
ドヤ顔で食えと言われても、あまりの惨状に美子は笑いを堪えるのに精一杯だった。
へたが付いたままのトマトを一切れフォークで刺してかじってみた。
(大きい。ふふっ、料理なんてした事ないんだろうなぁ)
ニコニコしている美子を見て、廉は満足気にコーヒーを飲んでいる。
「廉さんて、きっといいパパになりますね」
「!!!パパ?」
見る見るうちに廉の顔が赤くなった。
(パパか…。照れるな。はーっ、どうしよう)
まだ見ぬ我が子に思いを馳せて、廉の想像の翼が広がる。
そうこうしているうちに、仕事に行く時間になってしまった。
「今日は掃除も洗濯もしなくていいから。ゆっくり休んでるんだぞ」
しっかりと美子に言い聞かせて、廉は出かけて行った。

58 :

週が明けて月曜日。
朝から雑誌の取材や撮影などで忙しくしていたA.N.JELLだったが、廉だけはソワソワと落ち着かなかった。
何度も時計を見てはため息をつき、携帯の着信を確認する。
「廉さん、落ち着きなよ。こっちが慌ててもしょうがないんだからさ」
見かねた勇気が声を掛けるが、上の空の廉にその声は届いていない。
その時廉の携帯が鳴った。
「もしもしっ!」
頬を上気させて電話に聞き入っていた廉が、次第にうな垂れて行った。
「そうか…違ったのか。うん…じゃあ後でな」
ふぅ、と息を吐いて椅子に座り込む。
「廉さん、妊娠じゃなかったの?」
廉は勇気の問いかけに、こくんと頷いた。
「でもさっ、出来ちゃった婚になるより良かったんじゃない?あんまりイメージ良くないしさ…」
慰めるつもりで言ったみたが、廉の落ち込み様に言葉も尻すぼみになって行く。
「元気出してよ、廉さん」
「ああ。悪かったな。気を使わせちまって」
勇気にニコッと笑いかけて、廉は部屋を出て行った。
廉の後ろ姿を見送った柊は、困ったような顔で呟く。
「おめでたじゃないかなんて、軽々しく言うんじゃなかったな。廉に悪いことしたな」
帰宅した廉は真っ直ぐ寝室へ向かう。
ベッドに腰かけ、落ち込んだ気分を奮い立たせるように自分を鼓舞する。
(ガッカリした気持ちを美子に悟られちゃいけない)
そう自分に言い聞かせてリビングへ向かった。
「ただいま、美子」
「あっ、廉さん。お帰りなさい」
美子は小走りで廉に駆け寄り抱きついた。
「ごめんなさい、廉さん」
「お前、なんで謝ってんだよ。むしろ良かったんだって。子供を持つのは、まだ早いんだよ、俺達」
美子の髪を撫でて、囁いた。
(そうだ、まだ早すぎるんだ)
美子に言った言葉を何度も心の中で繰り返し、廉は自分を納得させた。
その夜、すっかり寝静まった頃、廉の微かなうめき声で美子は目を覚ました。
廉は額に汗を浮かべて苦しげに呻いている。
「廉さん、どうしたんですか?」
廉の肩を軽く揺すってみた。
「ぅ…お…かあさん、行かない…で…」
美子はハッとして廉を見つめた。眉を寄せ微かに首を振る廉の目尻から、一筋の涙がこぼれた。
廉の体を抱きしめ、ゆっくり頭を撫でると、廉はふぅっと息を吐き、また静かに深い眠りに落ちたようだった。
美子は廉を抱きしめながら、改めて廉の孤独を思い知った。
今は母水沢麗子とも良好な関係を築いている。しかし、子供の頃に受けた傷は、簡単には癒えないのだろう。
そして自分の家族が持てるかもしれないと期待した廉の落胆は、美子の想像以上に大きかったのではないかと思った。
美子の胸に頬を寄せて眠る廉を見つめながら、美子もまた静かに涙を流した。

59 :

「廉さんまだかなー。大事な話って何だろうね?」
合宿所のリビングでそれぞれ寛ぎながら廉を待つ、柊と勇気。
「まあまあ、もうすぐ来るだろうから、待ってようよ」
何故か余裕の表情を浮かべた柊を、勇気は怪訝な顔で見つめた。
「柊さん、何か知ってるの?」
「いや、知らないけど、多分…」
ここ数日、廉が難しい顔をして何度か社長と話し合っているのに気付いていた。
(仕事の事なら俺達にも話すはずだから、という事はきっと…)
その時玄関が開く音がして、廉と美男、そして美子の三人が入ってきた。
「なんだ、みんな一緒だったの?美子、どうしたの?顔が赤いよ」
美子はパチパチと瞬きを繰り返して廉の顔を見上げた。
「実はみんなに報告がある。俺達、籍を入れることにした」
一瞬シーンとした後、柊と勇気から祝福の声が上がった。
「やっぱり!おめでとう!美子、廉!」
「ホントに?ホントに?おめでとー!やったね!」
柊はそんな事だろうと思って、あらかじめ冷やしておいたシャンパンを持ってきた。
「みんなで乾杯しよう!」
グラスを並べてシャンパンを注いでいると、「ちょっと待ったー!」と美男の声が響いた。
「肝心な事忘れてるぞ、廉」
廉と美子は顔を見合わせて首を傾げた。
「何だ?」
「だ・か・らっ!『お嬢さんを、僕にください』ってのをやってないだろ?」
「は?」
「ぷーっ!いやいや…美男。そんなの今さらいいじゃん。お前美子の親じゃないんだしさ」
吹き出しながら美男の肩をポンポンと叩いた勇気の手を、パシッと払った美男はあくまでも真面目に言っているらしい。
あれっ?っとずっこけた勇気と柊も事の成り行きを見守っている。
「わ、わかったよっ。やればいいんだろ?」
ソファには美男と美子が並んで腰かける。
隣には立会人の柊と勇気が控えている。
廉は神妙な顔をして、美男の前に座った。
「美男、美子と結婚させてくれ」
「やり直し」
「何でだよっ?」
真っ赤になった廉が、美男にくってかかる。こんな所を柊と勇気に見られているのも、更に羞恥心を煽った。
「俺は美子の兄だぞ。なんでそんな上から目線なんだよ?」
「そうそう、廉さん。これが美子のお父さんだったらって思ったら、もっと言い方があるでしょ?」
(くそっ、お前ら面白がりやがって…)
ニヤニヤする柊と勇気を睨みながら、廉は気持ちを落ち着かせようと深呼吸をした。
「お、お兄さん、美子さんとの結婚を許してください」
耳を赤く染めて言い終わると、廉は美男に深々と頭を下げた。
「まあまあだな。美子、本当にこいつでいいのか?」
顔を真っ赤にした美子は、こくこくと何度も頷いた。
「やったね、廉さん!」
「さあ、それじゃ乾杯しようよ」
柊と勇気も自分の事のように喜んで、その夜は遅くまで二人の幸せを祈念する乾杯が続いた。

60 :

翌週、A.J.エンターテインメントから、桂木廉の結婚を報告するメールがマスコミ各社に送られた。
相手は廉の母親の古い友人の娘であり桜庭美男の妹である事、近日中に結婚式を挙げる事、
また現在妊娠はしていない事など綴られた後に、後日記者会見を開く予定である事が書かれていた。
このビッグニュースで日本中が湧きかえっているその時、A.N.JELLは某国のリゾートに来ていた。
白い砂浜が広がる海辺の小さな教会で、結婚式が始まろうとしていた。
パイプオルガンの音が響く中、白いスーツに身を固めた美男と、ウエディングドレス姿の美子が腕を組んでバージンロードを進む。
オーガンジーを幾重にも重ねたふんわりしたドレスは、美子を一層可憐に演出している。
ベールの上にはティアラの代わりに、生花で編んだ冠を載せ、まるで天使のように愛らしかった。
緊張でカチコチになった美男は、一人でずんずん歩いてしまい、「お兄ちゃん、早すぎる」と美子に言われる始末。
祭壇の前で待つ廉に、美子を引き渡した美男は微かに目を潤ませ、廉と強く頷き合った。
大役を終えた美男は参列者席の一番前で、NANAの隣に落ち着いた。
「お疲れ様。素敵だったよ、美男」
小さな声で囁くNANAに微笑み返して、美男は額の汗を拭った。
神父様のお話に続いて誓いの言葉を交わす。
『健やかなる時も、病める時も
喜びの時も、悲しみの時も
富める時も、貧しい時も
が二人を分かつまで、愛し慈しむことを誓います』
美子はポロポロと涙をこぼしながら廉を見つめ、廉は微笑みながら美子に頷いた。
そして指輪の交換と続き、いよいよ誓いのキス。
廉は美子のベールを上げて、軽く唇を重ねた。
潤んだ瞳で見つめ合い、ニッコリと微笑んだ所で神父様が咳払いをして言った。
「もっとちゃんとキスしなさい」
「え?あの…?」
廉は真っ赤になって神父様の顔を見た。
参列者席からドッと笑いが起きる。
「廉、もっと心を込めてキスしなきゃ」
「そうだよ廉ちゃん。なんたって、誓いのキスだもんね」
口々にはやし立てるみんなを軽く睨みつけてから、廉は美子の腰に手を回した。
驚いて目を丸くする美子を抱き寄せ、深く口づける。
「ヒューッ!」
口笛や歓声が上がる中、長い時間唇を合わせる二人。
やっと唇を離した時、神父様は頷いて「二人を夫婦と認める」と宣言した。
ホテルの中庭で、ささやかなウエディングパーティーが始まった。
水沢麗子は晴れて夫婦になった二人に、歩み寄った。
「廉、美子さん、おめでとう。…美子さん、廉の事、頼みますね」
「はい、ありがとうございます。…お義母さん」
麗子は思いがけない美子の言葉に、一瞬言葉を詰まらせ、目頭をハンカチで押さえながら何度も
「ありがとう、ありがとう」と繰り返した。
みんな幸せな気持ちで二人を祝福し、程よくお酒も回ったところで、安藤夫妻、馬淵とRINA、美男とNANA、
柊と沢木、そして水沢麗子と秘書の橘がなんとなくペアになり話に花を咲かせている。
(あれ?俺だけ一人ぼっち?)
勇気がきょろきょろとあたりを見渡すと、背後から聞き覚えのある声が。
「ゆーうきクン!ボクとお話ししよっ」
「ひぃっ!ト、トオル?」
NANAのヘアメイクをするために同行していたトオルが、いつの間にか隣に座っていた。
「素敵な結婚式だったねー。ボクもいつかあんな結婚式挙げたいな(はあと)」
勇気に腕を絡ませて、うっとりとしたトオルが言った。
「そ、そう?頑張ってね…」
必にトオルの腕を振りほどきながら、勇気が返す。
その時安藤社長が立ち上がったのを見て、「ほらほら、社長が何か言うみたい」と話を逸らした。

61 :

「えー、レディースエンドジェントルメン、宴もたけなわではございますが、新郎新婦にはこの後
大っ事な用がありますので、この辺でお開きにしたいと思います。退場する二人に大きな拍手を!イエ〜イ!!」
全員が苦笑しながら拍手する中、廉は真っ赤になって立ち上がった。
「ななな、何言ってんだよ、社長。お前らも、拍手なんかすんなって!」
それでも一向に拍手がやまないので、廉も覚悟を決めたのか、隣の美子をいきなり抱き上げた。
「きゃあ!廉さんっ」
「いいから、行くぞ!」
冷やかしの声を背中で受けて、廉は美子を抱えたままホテルに戻った。
ロビーを横切ってエレベーターまで行く間、ホテルのスタッフや居合わせた客から「Congratulation!」の声が掛かる。
美子は恥ずかしすぎて、廉の首にしがみついたまま真っ赤になった顔を伏せた。
スイートルームに入り、ドアを開けてくれたボーイにチップを渡すと、ドアノブに「Don’t Disturb」の札を掛けて二人は寝室に消えた。
ピンクのバラの花びらが散らされたベッドには、天蓋から白いチュールが垂れ下がりロマンチックに設えられていた。
廉はベッドの中央にそっと美子を下ろす。
空気を含んで膨らんだドレスの真ん中に美子が鎮座した。
花冠を頭に載せて、頬を紅潮させながら、廉を見上げる美子。
「ふふっ、お前…親指姫みたいだな」
「それって、褒めてくれたんですよ…ね?」
「ああ」
廉は微笑みながら、四つん這いになって美子に迫った。
ボウタイをほどきながら美子のドレスの中に潜り込む廉。
「きゃっ、ダメですっ!」
美子は慌ててドレスを抑えた。
「ああっ!何だこれっ?」
「えっ?えっ?何ですか?」
「お前、こんなやらしいもの着けてんのか?」
ドレスを捲り上げると、白いレースのガーターベルトとそれに吊られた白いストッキング。
「それはっ、ドレスと一緒にRINAさんに渡されたから…」
焦って言い訳をする美子を、廉はニヤニヤしながら見つめる。
(ったく、RINAのやつ。でも、今回ばかりはGJだな)
一度美子を立たせて、オフショルダーから覗く肩にキスをしながら、背中のファスナーを下ろした。
ストンとドレスが滑り落ち、下着姿の美子が現れる。
「ちょっと待ってろ」
廉は美子をベッドに横たえ、ドレスと花冠をソファにふわりと乗せた。
上着を脱ぎ、シャツを脱ぎ、下着一枚になると、美子に覆いかぶさる。
チュッ、チュッ、と小さなキスを重ねながら、改めて美子に誓いを立てる。
「俺、約束する。一生お前だけを見てるって。お前だけを愛し続ける。永遠に」
「嬉しい。それ、Promise…ですね」
「そうだな…ふふっ」
照れくさそうに笑った後、廉は美子に深く口づけた。

62 :

パンティの横紐をするりとほどいて、美子の中心に指を埋め込んだ。
溢れる蜜が廉の指を濡らしていく。
結婚して初めての行為に、廉は余裕をなくして性急に事を進めていく。
いつもの癖で取り出した避妊具の袋を破りかけて、廉はふとその手を止めた。
「これ、使わなくてもいいか?俺、子供が欲しい」
美子は微笑んで頷いた。
廉は前戯もそこそこに、美子の中心に突き立てた。
「ああっ、廉さん…」
「…っ、はぁっ…美子」
二人は何一つ隔てるもののない、お互いの感触を味わった。
「すごい…美子」
燃えるように熱い美子の中で、廉のそれは一層質量を増した。
廉が腰を動かすと、先端の反り返った部分で抉られ、美子はビクビクと痙攣した。
堪えきれなくなった廉がスピードを上げる。
「廉っ…さん、ああっ!ああっ!」
のけ反る美子の首筋に顔を埋めて、廉は美子の最奥に精を放った。
落ち着いた二人は、涙を浮かべて見つめ合う。
初めて子供を持とうと意識した営みは、快感以上に感動があった。
「美子…」
「…はい」
顔を上げて廉を見ると、潤んだ瞳の廉が美子を見下ろしている。
「もしも、いつか子供を授かったら…」
「はい…授かったら?」
「…その子を、一番に愛してあげてくれな」
廉は唇を震わせながら美子に言った。
美子の瞳に涙が溢れてきた。
「はい…はい、必ず一番に愛します。廉さんへの愛も、一生変わりません」
ふふっと微笑みあいながら、言葉もなく見つめ合う二人。
その頬にはいく筋もの涙が伝っている。
「泣くなって…」
「廉さんこそ…」
互いの頬に流れる涙を手のひらで拭い合うと、廉はもう一度美子に深く口づけた。
廉は泣いてしまったのが恥ずかしいのか、目尻の涙を拭うと美子から体を離した。
そして改めて美子の姿を見てニヤリと笑った。
「それにしてもお前、すごいエロいな」
ガーターベルトとストッキングだけを身に付けて、パンティは片方の太ももに巻きついたまま。
しどけなく開かれた足の付け根からは、廉が放った白濁が溢れて零れ落ちている。
「きゃっ、だめっ!」
とっさにシーツで体を隠そうとする美子を、廉が押さえつけて抱きしめる。
「愛してる、美子。可愛いお前も、いやらしいお前も…全部」
少しの間抵抗していた美子も、小さく笑って廉を抱きしめかえした。
「私も愛してます。これからもずっと…」
二人は強く抱きしめ合い、結婚して初めての夜が更けていった。

63 :

翌日、主役抜きで遅くまで盛り上がった面々がホテルの庭にあるカフェに集まった。
少し二日酔い気味ながら昨日の余韻を引きずって、朝からシャンパンを飲んでいる不届き者もいる。
「美男、お前いいご身分だなー。シャンパンなんか飲んじゃってさ」
「迎え酒だよ。いいじゃんか。めでたい日なんだからさ」
「いいけどさ…。また昨夜みたいに泣くなよ。『美子ぉ〜』って涙ポロポロ零しちゃってさ。忘れたとは言わせないからな」
勇気の言葉に美男は顔を真っ赤にして黙り込んだ。
段々肩が震えだし、俯いた美男の姿に、勇気は慌てふためく。
「ご、ごめん。いや、あの…」
慌てて美男の顔を覗き込み謝ると、美男は何事も無かったように笑い出した。
「ハハッ。泣くわけないだろ。つーか、二人には絶対言うなよ」
可愛い顔で凄んで見せる美男に、柊と勇気は苦笑する。
「言わないよ。それより、ほら…二人が散歩してるよ」
柊の言葉に振り返ると、遠くの砂浜を歩く廉と美子の姿があった。
時折立ち止まり、何度もキスする様子を見て三人はため息をつく。
「あ〜あ、廉さんたらデレデレだね。でも、よかった。俺もようやく吹っ切れるかも…」
美男は勇気の呟きを聞き咎めた。
「それ、どういう事?勇気も美子の事好きだったの?」
「ああー、まあね。でも多分俺だけじゃないと思うよ」
そう言って柊の横顔をちらりと窺う。
「えっ、まさか柊も?」
「あ…うん」
照れくさそうに頷く柊を見て、美男は呆然とする。
「そうだったのか…。なんか、すまなかったな」
「美男が謝ることないよ。今は本当に二人を祝福してるし、心から良かったと思ってるよ」
「そうそう。それに美子を身近に知ったら、好きにならない人なんていないと思うよ」
二人の優しい言葉を聞いて、美男の目に涙が滲んできた。
「また泣く〜。泣き虫なとこはやっぱり美子と同じだね、美男ちゃん」
「うるせー。泣いてなんかないってば」
三人が賑やかに笑い合っていると、廉と美子がやって来た。
「楽しそうだな、何話してんだ?」
美子の椅子を引きながら廉が加わる。
「こっちの話。それより帰国したら、大仕事が待ってるね」
「ああ、記者会見か」
「廉、どこまで話すつもり?」
柊の問いかけに、廉はきっぱりと言った。
「正直に話すつもりだ。美男と入れ替わった事はさすがに社長に止められたけど、それ以外は全部」
「えっ、柊さんとの記事の事も?」
勇気は心配そうに顔を曇らせる。
「ああ。美子を守るためにしたことだからな。またお前らには迷惑かけるかもしれないけど、許して欲しい」
真摯な眼差しでメンバーを見渡すと、みんな強く頷いた。
「いいよ、廉。美子も含めて、俺達みんな仲間だから、ね」
柊は全員の気持ちを代弁するように言った。
爽やかな風が吹く南の島。
誰もが屈託のない笑顔を浮かべている。
廉と美子を中心にしたA.N.JELLの絆は一層深まり、これからも物語は続いて行く。

64 :
以上です
何か月もほったらかしにしていたものに、少しずつ書き足していたら
こんなお話になってしまいました。
お邪魔しました。

65 :
>>64
超GJ!!すっごくよかったです!ありがとうございます!!
美男キャスト総出も嬉しかった〜
幸せなみんなと一緒に涙ぐみながら読ませてもらいました
今度こそ廉さんがパパになれたらいいな...
イケメンおじさん3人組も二人の赤ちゃん心待ちにしてると思うw

66 :
>>64
GJです! 幸せMAXなお話感動しました〜w
落胆した廉さんの気持ちを慮って涙する美子…
の3番目のお話の後に、もう結婚が決まっている、ということは
もしかして、美子からプロポーズしちゃったんでしょうか?ドキドキw
廉さんのにわか主夫ぶりがかわいいですね〜うん、ちょっと落ち着こうね、廉さんw

67 :
>>64
幸せな結婚式GJ!!
キャスト総出でうれしかったです〜
兄貴面した美男がかわいい
もしドラマがこんな展開になってたら絶対廉さんに挨拶させてたよねw
苦虫を噛み潰したような廉さんの顔が目に浮かぶwww

68 :
ほしゅ

69 :
保守しておきます。

70 :
最近過疎ってますね…寂しい
誰か見てる人がいるかな。
投下します
廉美子エロありです

71 :

微かな気配を感じて美子は目を覚ました。
ぼんやりと霞む頭を巡らせると、既に身支度を整えた廉が立っている。
「廉さん…」
「あ、起きたのか?俺、もう仕事行くけど、お前はもう少し寝てろ」
「え、もうですか?今、何時ですか?」
そう言いながらベッドサイドの時計に目を向ける。
「え…っと、8時……、えっ!8時過ぎてるっ?!」
慌てて飛び起きようとして、自分が何も身に付けていない事に気付き、もう一度ベッドに潜り込んだ。
「いいから、寝てろって。昨夜、無理させたみたいだからな」
廉はベッドに腰かけて、美子の髪にキスしながら言った。
(昨夜…無理させた…?)
ぼーっとした美子の頭の中に、昨夜の事が少しずつ蘇ってきた。
途端に美子の顔がぶわっと赤くなる。
真っ赤になって固まった美子を見て、クスッと笑った廉は「じゃあ、行って来る」と部屋を出て行った。
確かに昨夜の廉は執拗だった。
美子の体の一番敏感な所を、一晩中と言ってもいいくらい愛撫し倒した。
何度も何度も高みに押し上げられ、途中で美子の意識が飛んでしまうくらいに。
そのせいで、結局最終的な行為に及ぶことなく、美子は深い眠りに落ちた。
廉が出かけた後、美子も重い体を引きずるように起き上がり、いつものように家事を始める。
が、美子は自分の体に小さな違和感を覚えていた。
掃除をしていても、時おり小さなため息が漏れる。
(どうしちゃったんだろう?なんか、変なの…)
ただ歩いているだけなのに、下着が擦れて体の中心がジンジンするというか…。
快感の残り火がまだ、くすぶっている感じ。
気を取り直して掃除を続けるが、少しすると立ち止まって俯く美子。
誰もいないのに、部屋の中で一人顔を赤らめている。

72 :

午後になって夕食作りの前のひと休み。
ソファに座ってお茶を飲んでいても、美子は落ち着かない。
座れば座ったで圧迫されて余計にムズムズする。
(なんだろ?朝からずーっと変な感じ。やっぱり、昨夜の…廉さんの…せい?)
どうしてもその事ばかり考えてしまい、美子はブルブルと頭を振った。
「そんな事よりっ、ご飯作らなきゃ」
美子は早々におやつタイムを切り上げて、夕食の準備に取り掛かった。
「廉さんっ、お帰りなさいっ」
美子は帰って来た廉に飛びつくと、力一杯抱きついた。
「うおっ」
美子の体を抱きとめて、廉は思わず声を出す。
「ただいま。どうした、何かあったか?」
美子は首を横に振るが、しがみついたまま離そうとしない。
それどころか、「廉さん…ん〜〜…、はぁ」とため息を漏らした。
「おい、ホントにどうした?」
廉が顔を覗き込もうとすると、美子は赤くなった顔を逸らして
「何でもないですよ。さっ、ご飯にしましょう!」
とキッチンへ行ってしまった。
仕事をするから先に寝ているように言われた美子は、ベッドの中で一人寝返りを打っていた。
「廉さん、まだかな…」
何故か今夜は一人で眠るのが寂しくて、思わずため息が漏れる。
ようやくウトウトと眠りかけた頃、廉が寝室に入って来た。
美子は寝たふりをして廉の様子を窺う。
廉は美子の隣に滑り込むと、背後から美子の肩をはむっと甘噛みし、「おやすみ」と囁いた。
静まり返る部屋の中で、廉の呼吸音が微かに聞こえる。
美子は布団の中でそっと手を伸ばして、廉のパジャマの裾をつんつんと引っ張った。
何の反応もない廉。
(もう寝ちゃったのかな?)
もう一度引っ張ってみる。
つんつんつんっ
微動だにしない廉を不思議に思って、そっと首を動かし後ろを見てみた。
「!!!」
寝ていると思った廉が、枕に肘を付いて美子を見つめて笑っていた。
「起きてたんですか?」
慌てて背中を向けようとしたが、廉が美子の肩を掴んで自分に向かせる。
「何か俺に用があるんだろ?何だ?」
「べっ、別に用はありませんっ」
「ったく、素直じゃないな、お前は」
そう言いながら、廉は美子のパジャマの中に手のひらを滑らせる。

73 :

体に触れられただけで、美子はぴくっと震えた。
布団の中で器用に美子のパジャマを脱がせた廉は、下着の中に指を這わせる。
「お前…どうしてこんなになってんだよ?」
美子のそこはすっかり潤っている。
「んっ、どうしてって…そんなことわかりません。…だって、朝から一日中変なんです」
「朝から…?なんだそれ?」
「廉さんのせいです、きっと。昨夜…私に、何したんですか?」
廉は指を動かしながら、昨夜の記憶をたどる。
「何って…お前のここを、」
「やっ、やっぱり言わなくていいですっ。言わないでくださいっ」
美子は慌てて廉の口を手で塞いだ。
「お前、それで一日中感じてたのか?」
「違いますっ」
「だってそういう事だろ?やらしい奴…」
「…違います」
すっかり泣きそうになった美子は、赤くなった顔を背けた。
「廉さんの、意地悪…」
俯いて呟く美子が可愛くて、廉は微笑んだ。
「じゃあ、どうして欲しいんだ?今夜はお前がして欲しい通りにしてやる」
「…………」
そんな事言えるはずもなく、美子は口をつぐんだままだ。
「なあ、もっと言っていいんだぞ。なんか、いつも俺ばっかり欲しがってるみたいじゃないか」
「だって、そんな事…言えません」
「ほら、言えって。誰にも言わないから」
「あ、当たり前ですっ!」
「ぷっ」
廉はすっかりこの状況を楽しんでいる。
「じゃあ、今夜はやめとくか?」
「…………」
一日中続いた疼きに加えて、今も廉から愛撫を受けていた美子は、自分から廉にしがみついた。
「廉さん…」
俯いた美子の顔を上向かせる。
「欲しいのか?」
美子が頷く。
「今すぐ?」
もう一度頷く。
「わかった」

74 :

美子の体を組み敷いて、広げた足の付け根にあてがう。
ゆっくり挿入すると、既に中は軽く痙攣していた。
「美子、もうピクピクしてる。すげえな…」
「やだっ、言わないで…」
廉は挿入したまま美子に口づける。
そのまま激しく唇だけを貪る廉に、じれったくなった美子が声を上げた。
「んっ…廉さん」
「ん?」
気付かないふりをして舌を絡める廉。
「あの…」
「何?」
唇を合わせたまま囁き、美子の望みをあくまでも無視する。
美子は膝を曲げて、廉の腰を挟みつけた。
「お願い……。もっと…」
恥ずかしさを押ししてようやく言葉にすると、廉はニヤッと笑って美子の片足を肩に担いだ。
「はっきり言えばいいだろ。何恥ずかしがってんだか…」
「だって…」
顔を赤くした美子を抱きしめて、廉が動き始める。
本当は廉もわかっている。
美子が直接的な言葉を言えるはずがない事を。
そんな風に恥ずかしがる美子が可愛くて仕方ない事も。
それでも時には意地悪をして、美子に言わせてみたい。
廉が欲しいと。
抱いて欲しいと。
そんな事を思いながら腰を動かし続けるうちに、廉の頭の中も真っ白になっていく。
目の前に迫る快感を追い求めるのに夢中になって、何も考えられない。
「美子っ、はぁっ、あぁっ、あっ…くっ」
廉の首にしがみついていた美子も、動きに合わせながら昇りつめていく。
「ああっ、んっ…やっ…廉っさん」
同じタイミングで絶頂を迎えた二人は、お互いを抱きしめたまま動きを止めた。
美子は満たされて深い眠りに落ちている。
「まったく…。おい、ブタウサギ。いい気なもんだな。満足したら一人で寝ちゃうのか?」
廉が美子の鼻のてっぺんを指で押し上げた。
その表情は幸せに溢れていて、廉もまた満たされているのがわかる。
「俺をこんなに夢中にさせて、満足だろ?」
すうすうと寝息を立てる美子を抱き寄せて、廉もまた深い眠りに落ちて行った。

75 :
以上です
タイトルは特に意味はないです
何も思い浮かばなかったので、すみません
お邪魔しました

76 :
>>75
GJです!
パジャマの裾をひっぱる美子かわいい〜
廉さんがいろいろしたくなる気持ちがよくわかりますw
最近はここ静かですね
まとめスレと一緒に頻繁に覗きには来てるんですが…
自分でも何かお話書けるといいんですが、今浮かばないww
ゆっくりペースでもいろいろぜひお待ちしていますw

77 :
>>75
GJ!
最近過疎り気味だけど、新作投下されてるとテンションあがるわ〜

78 :
>>75
GJ!
ごく最近ドラマにハマって、萌えをどう処理したらいいかわからず
過去スレ読みあさってた最中だったので、リアルタイムに投下されてて嬉しいです
ごちそうさまでしたw

79 :
>>75
GJ!投下うれしいです!
廉さんの意地悪〜
そのおかげでおねだりしちゃう美子が可愛いからいいんですけどねw

80 :
>>75
タイトルが凄く可愛い、「みこみこ」是非続けて下さい。
次は「みおみお」でもいいけどw

美子、何か媚薬盛られてるのかと思ったらノーマルだったんですね、
廉さんは柊さんの趣味ではなかったねw

81 :
投下します
エロはありません
美子ちゃんがちょっと危機に陥る話です

82 :
A.N.JELLの合宿所に久しぶりに廉がやって来た。その後ろには美子もいる。
「廉さん、珍しいね?あれっ美子も一緒?久しぶり〜元気だった〜?」
「勇気さん、お久しぶりです」
美子はニコッと笑って勇気に挨拶するが、なんだか少し元気がない。
ソファには柊と美男が座っていて、「いらっしゃい、美子」「よお、どうした?」とそれぞれ声をかける。
「お前、美男の部屋に行ってろ」
廉に言われて美子は一人で美男の部屋に行ってしまった。
「柊、悪いがハーブティをいれて、美子に持って行ってくれないか」
「いいけど、なんかあったのか?」
みんなも怪訝な顔で廉を見ている。
「ああ。あとで話すから」
カモミールティーを人数分いれた柊は、そのうちの一つを美子の所へ持って行った。
リビングに戻った柊がソファに座ると、廉が話し始めた。
「実は…美子が襲われた」
「襲われたっ?」
三人同時に叫ぶ。
次の瞬間美男が立ち上がり、美子のもとへ走って行った。
柊と勇気は思わず美男の姿を目で追ったが、廉はそのまま話し始めた。
最初は無言電話だった。
一日に何度も電話が鳴り、出ると切れるということがあった。
始めのうちは単なる間違い電話かと思ったが、毎日続くと美子も不審に思うようになった。
そのうち買い物に行くと、誰かに後をつけられているような気がした。
でもそれは自分の気のせいだと深く考えないようにしていた。
そして今日、歩いていると後ろから声をかけられ、振り向いた途端真っ赤な液体をかけられた。
血液のように見えたそれに動揺した美子は、相手の顔も背格好も見る余裕がなかった。
どうやらトマトジュースか何からしいと分かった時には、相手の姿はとっくに消えていた。
「警察に連絡したのか?」
柊が聞く。
「いや…」
「どうしてっ」
「社長に止められた。あまり大事にしないで、様子を見ようって。もしかしたら、その…俺らのファンかもしれないし。
あの…スキャンダルのせいで。それに…」
「それに何だよ」
柊は怒りを隠さず廉を睨みつける。
「美子が警察沙汰にしないでくれって。そもそも俺は今日初めて知ったんだ。無言電話のことも、
後をつけられたことも。あいつ隠してて…」
廉がうな垂れる。
「廉さんに心配かけたくなかったんだね…」
勇気がしんみりと言った。
「それで、これからどうするんだ?」
柊の言葉に廉は反射的に顔を上げるが、その顔にいつもの自信満々な面影は無く、
愛する女を傷つけられてうろたえている男の顔をしていた。
「どう…したら…」
廉は頭を抱えた。
あの家には一人で置いておけない。
いつものホテルは?でも一日中ホテルの部屋で、ただ俺の帰りを待つのか?
遅くなる日も、まして帰れない日もあるのに。
リビングが重苦しい沈黙に包まれる。

83 :
「一緒に連れてったらいいだろ?」
三人は声のする方に一斉に振り返った。いつの間にかソファの後ろに美男が立っていた。
「一緒に…?」
「一緒にって、現場に連れて行くってことか?そんなこと出来るわけないだろう。
美子が美男の妹だってことはみんな知ってるし、俺と付き合ってることも。公私混同も甚だしすぎる」
廉は美男の提案を直ちに却下した。
「いや、ちょっと待って。何も現場に連れて行かなくても、事務所に連れてくのはどうだ?」
柊が少し考えながら言った。
「事務所のスタッフはみんな今までの経緯を知ってるし、必ず誰かいるから一人になることもない。
沢木さんの手伝いとか、こまごました仕事をしながらだったら時間を持て余すこともないだろ?」
「柊さん、それいいね〜。ナイスアイデア」
勇気ものりのりだ。
「事務所か…」
廉は少し考え込んでいる。
「わかった、社長に電話してみる」
廉は席を立った。
廉は元の自室に、美子は美男の部屋に泊まることになった。
柊と勇気に対する気兼ねもあるし、それに兄がいるところで美子と一緒に寝るのも憚られる。
住んでいた時のまま変わりない部屋で寝る用意をしていると、ノックが鳴り、美子が入ってきた。
「廉さん」
美子はぎゅっと廉に抱きついた。
「明日からまた忙しくなるぞ。事務所にはいくらでもやることがあるからな」
廉は美子を抱きしめ背中を撫でながら、ことさらに明るく言った。
「はいっ」
美子も明るく返事をする。
内心不安があるだろうに、心配かけまいとする様子がいじらしい。
廉はそっと口づける。
お前は何も心配するな、そんな気持ちを込めて優しく美子の唇を吸った。
もう戻りますね、と言って美子が離れていく。
美子の指先をいつまでも離さないで、「もう、行っちゃうのか?」と廉は拗ねたふりをする。
ふふっ、と笑って美子が言う。
「おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
廉も笑って言った。

84 :
「ウエルカ〜ム、美子。元気だったか?」
安藤社長が満面の笑みで美子を迎えた。
「社長、ご無沙汰してます。いつも兄がお世話になってます。今回の事はご迷惑をおかけして…」
長々と挨拶をする美子を遮って社長が明るく言った。
「ノープロブレ〜ム。そんな堅苦しい挨拶はいいから。アルバイトのつもりで気楽にやってくれればいいよ」
「アルバイトだなんてそんな。兄がお世話になってるのに。なんでもやりますのでどんどん言いつけてください」
「まあ、少しずつ覚えてくれればいいよ。沢木、仕事の内容教えてやって」
「はい、じゃ美子さん、こちらへ」
秘書の沢木が美子を連れて部屋を出ていく。
二人が出ていくと、社長は真顔になりメンバーに向き合った。
「それで、だ。日中はこれでいいとして、夜はどうするんだ?当分合宿所にいるのはいいが、
おまえらだって泊まりの仕事もあるし、来週は沖縄でのPV撮影もあるぞ」
「だから、連れて行けばいいだろ」
美男がまた昨夜と同じことを言う。
「それは駄目だ」
ぴしゃりと社長が言った。
「せっかく例の騒ぎも収まってきたのに…あんまりファンを刺激するようなことは…」
廉の顔をちらっと見ながら、言いにくそうに社長は言葉を濁した。
「合宿所にいる分には安全じゃないかな?場所は非公開だし、事務所のスタッフしか知らないしね」
柊が口をはさんだ。
「事務所と合宿所の行き帰りは必ずタクシーを使って、買い物も宅配サービスを使えばあまり外に出なくてすむから、
しばらくそうしてみたら?」
自分の女の事なのに俺は…色々とアイデアを出す柊を見て、廉は自己嫌悪に陥った。
沢木に言われてファンクラブの会報の梱包作業をしていた美子は、手を止めて今朝の社長室での光景を思い出していた。
にこやかに応対してくれた安藤社長やA.N.JELLのみんなが、美子が部屋を出た途端険しい表情になって話していた。
自分の事を心配して善後策を相談していたのだろうと容易に想像できた。
(また私は迷惑をかけてる。
今度は廉さんだけじゃない。A.N.JELLのみんな、安藤社長、スタッフの皆さんにまで)
美子は悲しい気持になった。
(私はここにいちゃいけないのかな?廉さんのそばにいちゃ…)

85 :
4人が合宿所に戻ったのは11時を回った頃だった。
美子はテレビを見るでもなく、静かなリビングのソファにぽつんと座っていた。
その寂しげな様子を見た4人はハッと胸を衝かれた。
「ただいま、美子。何か変わった事はなかったか?」
廉は優しく抱きしめて美子に聞いた。
みんなの前で抱きしめられたのが恥ずかしいのか、美子は顔を赤らめた。
「おかえりなさい。何もなかったですよ」
すると美男が廉を押しのけて、同じように美子を抱きしめる。
そこに、空気を和らげようと思ったのか、勇気が割り込んで、わざとらしい渋い声で言う。
「タダ〜イマ、美子」
外国人みたいな大げさなジェスチャー付きのせりふに、美子は吹き出した。
柊も美子の頭をぽんぽんとしながら、「ただいま、美子」と微笑んだ。
みんなの心遣いが嬉しかった。だからこそ尚更、申し訳ない気持ちが強くなった。
そう思った瞬間、美子は口に出してしまっていた。
「わたしのせいで、みんなに迷惑かけてばかりです。わたし、一人でどこかに…」
「何言ってんだ、お前は!」
美子が言い終わらないうちに廉が怒鳴った。
「どこに行くって言うんだ!また俺の手の届かない所に行くつもりか?そんな事絶対許さないからなっ。
お前がいなくなったら、俺は…」
美子の肩をつかんで、揺さぶりながら睨みつける廉は涙ぐんでいた。
「廉、落ち着け。美子もそんな馬鹿な事言わないで」
柊が二人をなだめる。その柊も勇気も美男も瞳を潤ませていた。
「廉さん…」
部屋に入ると、廉はベッドに腰かけていた。
美子が歩み寄ると、廉は美子の腰に手を回して強く抱きしめた。
美子のお腹に頭を擦りつけて震える声で囁く。
「あんなこと、もう、二度と言うな…」
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
廉の頭を抱きしめる美子の瞳から、涙がこぼれた。
その日は廉のベッドで一緒に寝た。
廉は夜中に何度も目を覚まし、美子が寝息を立てているのを確認して安心する。
自分の手の中から美子が消えてしまわないように、一晩中強く抱きしめて眠った。
翌朝、PVの撮影のため、3日間の予定でA.N.JELLは沖縄に向かった。
留守中は特に戸締りや事務所の行き帰りに気を付けるようにきつく言い渡された。
「大丈夫ですよ。必ずタクシーを使いますから」
みんなに心配を掛けないように、美子は笑顔で送り出した。

86 :
事務所で細々とした雑用に追われていると、あっという間に時間が過ぎ、嫌な事や心配事を考えずに済むのがありがたかった。
それにまたA.N.JELLに関わる仕事ができるのが、楽しくて仕方がない。
以前のように表舞台ではないけれど、メンバーの支えになっている実感があり、美子は充実感を覚えていた。
「美子さん、少し早いけど今日はもう上がっていいですよ」
秘書の沢木が後ろから声を掛けてきた。
「え、まだ4時ですよ。いいんですか?」
「ええ。美子さん仕事が早いし、それに明日メンバーが帰って来るから色々準備があるんじゃない?」
実は明日帰るみんなのためにご馳走を用意しようと密かに思っていた美子は、恥ずかしそうに笑って沢木に礼を言った。
「ありがとうございます。それじゃお言葉に甘えて上がらせていただきます」
だいぶ日が短くなったとはいえ、まだ充分に明るいうちに外に出ると、久しぶりに大きな解放感を感じた。
美子は自宅に戻ってみることにした。
ほとんど着の身着のままのように合宿所にやって来たため、着替えもあまりないし、
まだ日も出ているから大丈夫だろうと思った。
玄関のカギを開けて中に入ると、たった数日留守にしただけで何となく違和感を感じる。
「ふふっ、考えすぎかな?」
大きな声で独り言を言った後、寝室に向かった。
クローゼットの中から大きな旅行鞄を出して、廉と自分の着替えを詰め始める。
その時玄関のチャイムが鳴った。
「誰だろ?」
小走りでインターフォンのモニターまで行ってみると、見覚えのない妙齢の女性が微笑んで立っていた。
「どちら様ですか?」
インターフォン越しに用件を尋ねると、その女性は郵便物を見せながらにこやかに言った。
「隣の家の者ですけど、間違えて家に手紙が来てたので持ってきたんです」
美子は慌てて鍵を開けた。
「すみませんでした。わざわざありがとうございます」
受け取った手紙はデパートからのダイレクトメールだった。
(あれ?このデパート行ったことあったかな?)
首を傾げながら宛名を見ると、聞いたこともない名前が書いてある。
(え?これうち宛じゃない。あ…。家は表札も出してないし、郵便物は事務所宛に来るんだった…)
頭の中でぐるぐると考えているうちに、美子の全身に鳥肌が立った。
急に恐怖を感じて、じりじりと後ずさりながら、なんとか声を絞り出す。
「あの…これ、うち宛じゃありません。あの…」
顔を上げて女性を見ると、口角を吊り上げて微笑むその目は、笑っていなかった。

87 :
シュッッ!
目の前で何かが光った瞬間、とっさに右手で顔をかばった。
手首に鋭い痛みを感じ、見ると鮮血が吹き出していた。
「やめてっ!誰なんですかっ?」
女は土足でずかずかと上がり込み、美子に向かってナイフを振り下ろす。
「キャーーー!やめてっ!」
部屋の中を逃げ惑う美子を執拗に追い続ける女の顔は、とても正気とは思えなかった。
「この泥棒猫がっ!お前なんかこうしてやるっ!」
追いつめられた美子に向かって、女はナイフを振りかざした。
(もうだめっ!されるっ!)
美子が観念してギュッと目をつぶった時、振り上げた女の腕を、背後からつかんだ者がいた。
「沢木さんっ!警察に電話してっ!早くっ!」
手のひらで顔を覆っていた美子が指の間から見たものは、女を羽交い絞めにして取り押さえた
事務所の若いスタッフと、警察に連絡する沢木の姿だった。
沖縄のホテルの中庭でPVの撮影は順調に進んでいた。
この調子だと案外早い時間に撮り終えるかもと、馬淵もご機嫌で見守っている。
突然胸ポケットに入れた携帯がブルブル震えるのを感じて見てみると、社長からの着信だった。
「はいはいっ!社長ーっ!お疲れ様でございますっ。撮影は順調に進んでおりますですっ!…はい?」
馬淵が急に声を潜めた。
「え…美子が?ええっ!怪我って…あっ」
一区切りついて戻ってきた廉が、馬淵の声を聞き咎めて携帯を奪った。
「美子が怪我ってどういう事だよっ!」
廉の大声を聞きつけて他のメンバーも集まってきた。
「廉、落ち着け。怪我は大したことない。今、沢木が付き添ってるから。とにかくお前らは最後まで撮影に集中しろ」
安藤社長は重々しい声で言うと電話を切った。
携帯を握ったまま呆然とする廉に、メンバーたちは口々にどういう事かと詰め寄った。
「俺、帰る…」
ふらふらと歩き始めた廉の腕を柊がつかんだ。
「待てよ、廉。気持ちは分かるけど、まだ撮影が…」
「そんな事どうでもいいっ!俺は帰るっ!」
柊の腕を振り払って睨みつける。勇気はオロオロして廉と柊の顔を見ている。
「何言ってるんだよ!俺達プロだろ?何があっても仕事を優先しなきゃいけないんじゃないのか?」
「だけど…美子が…」
廉は顔をゆがめて泣きそうになりながら小さな声で言った。
青い顔をしてそれまで黙っていた美男が廉と柊に向き合った。
「あとは個人パートの撮影だけだから、廉を先に撮ってもらおう。廉はそれが終わったら帰れ」
そう言うと美男は監督の元に駆け出して、撮影の順番を変えてもらうように頼み込んだ。

88 :
急遽一人だけ帰京した廉は、美子が入院している病院に駆け付けた。
特別室のドアを開けるとベッドに横たわる美子と、そばに座って見守っている沢木がいた。
「美子っ!」
大きな声で呼びかけると、沢木が唇に人差し指をあてて、静かに、と囁いた。
「美子さん、パニックを起こして、鎮静剤を打って寝ています」
「一体何があったんだ?」
廉は険しい表情で沢木を問い詰める。
「実は廉さんたちの家に以前住んでいた男性の元愛人が、美子さんの事を新しい愛人だと勘違いして
襲ってきたそうです。どうやら以前から嫌がらせもしていたみたいで…」
廉の脳裏に無言電話の件や後を付けられたことが浮かんだ。
あの時に警察に知らせていれば、こんな事にはならなかった…。全部俺のせいだ。
「念のため一晩入院してもらうそうです。廉さんもここに泊まりますよね?簡易ベッドもありますから」
沢木は宿泊に必要な物を入れた袋を廉に手渡して、私はこれで…と部屋を出て行った。
ベッド脇の椅子に座って美子の手を握った。
手首には包帯が巻かれていて、頬には逃げる時についたのか、小さな擦り傷があった。
「美子…」
頬の傷を親指でそっと撫でた。
「廉…さん?」
うっすらと目を開けた美子が廉の名を呼んだ。
「気が付いたのか?美子、まだ痛いか?」
美子は両手を伸ばして廉の首にしがみついた。嗚咽を漏らし、廉さん、と何度も繰り返した。
「ごめんな…俺、そばにいてやれなくて…」
美子を抱きしめながら謝る廉に、美子は首を横に振った。
「ごめんなさい…気を付けろって言われたのに…。心配かけて、ごめんさない」
廉の顔を見て気が緩んだのか、美子はいつまでも涙が止まらなかった。

89 :
翌朝一番の便で東京に帰ったメンバーに、合宿所で待っていた沢木は事の顛末を語った。
美子の忘れ物を届けに事務所の若いスタッフと一緒に合宿所に来たが、
いくら待っても美子が帰らないため、もしかしたらと思い廉の家に行ってみた事。
そして事件の現場に居合わせ、すんでのところで美子を助けた事。
その女はかつての愛人の妻に対しても、嫌がらせを続けていた事などを聞いてみんな息を呑んだ。
「本当に危ない所でした。美子さんが忘れ物をしなかったら、どうなっていたかと思うと…」
「それで、美子は?」
震える声で問う美男に、沢木は微笑んで答える。
「大丈夫です。お昼前には退院すると思います」
沢木の言葉を聞いて、一同はホッと胸を撫で下ろした。
沢木が届けた美子の忘れ物は、宅配サービスで取り寄せた各種食材だった。
柊はそれを眺めて小さなため息を漏らす。
「俺達のために準備しようとしてくれたんだな、きっと。二人が帰るまでに食事を作っておこうか?」
「そうだね、柊さん。俺も手伝うよ」
三人は沖縄帰りの疲れも見せずに、美子と廉のために早速作業に取り掛かった。
「ただいま」
廉の声を聴いてみんな一斉に玄関に到した。
美子の手首に巻かれた包帯を見て一瞬言葉を失うが、気を取り直して笑顔で出迎える。
「お帰り、美子」
「皆さん、ご心配をおかけしてすみませんでした」
頭を下げて謝る美子を、美男が抱きしめる。
「もういいから。それより腹へっただろ?すげーご馳走作ったからみんなで食べようぜ」
「お前何もやってないだろ、美男。邪魔ばっかりしたくせに…」
「まあまあ、美男もそれなりに手伝ってくれたんだから。さあ、早くテーブルについて」
柊が中心になって作ってくれた料理は、どれも疲れた体に優しい味だった。
「なあ、廉。落ち着くまでしばらく、また二人共合宿所に住んだらどうだ?」
柊の提案に、廉と美子は顔を見合わせた。
「お前、どう思う?あの家に一人でいたくないだろ?」
美子は一瞬俯き、顔を上げるとみんなに尋ねた。
「迷惑じゃありませんか?」
「迷惑なわけないだろ?」
美男が怒ったような顔で、美子に応える。
「そうだよ、美子。なんなら美子だけでもいいよ!」
はしゃいだ勇気がつい口走り、廉が目を見開く。
「ぷっ、冗談だよ、廉ちゃん。すーぐ本気にするんだから」
みんながドッと笑ったところで、美子が立ちあがって頭を下げた。
「ありがとうございます。また、お世話になります。どうぞよろしくお願いしますっ」
うんうんと頷いていたみんなが、廉の顔を見る。
「何だ?」
「廉は?挨拶ないの?」
「は?」
「は?じゃねーよ。これから一緒に暮らすんだから、廉も挨拶しろっつーの」
美男に言われて廉は渋々立ち上がった。
「ま、しばらく世話になる。よろしく」
そう言ってペコッと頭を下げる廉に、全員爆笑した。
「すげー、美男!廉さんに頭下げさせた。俺初めて見たよー!」
勇気の言葉に得意そうに胸を張る美男と、真っ赤になって憮然とする廉。
でもいつしか可笑しくなって、廉も一緒に笑い出した。
(こいつらといると、きっと美子も早く立ち直れるだろう。やっぱり仲間ってありがたいな)
隣に座って笑っている美子を見て、廉も改めて仲間っていいもんだな、と思ったのだった。

90 :
以上です
お邪魔しました

91 :
>>90
GJ!
ちょっとドキドキのサスペンスも入ってますね。
ムードメーカーの勇気さんと、仕切りの美男兄ちゃん大活躍の巻ですね。
柊さんが、すごいことやらかすかとハラハラしてしまいました、何期待してたんだろうw
美男は、廉さんのお兄ちゃんですね、廉さんに「お兄さん」と呼ばれる日もあるんだろうか?!

92 :
>>90
A.N.JELLのストーカー?ってドキドキしました!
美子無事で良かった〜周りの人たち全員GJですw
でも廉さん美子の家の元住人の愛人とか…
なんだかちょっと縁起悪い家…?
物騒だし、新しい家見つけるか、合宿所に一緒に住んじゃいなよw

93 :
>>90
GJです!
美子、怪我をしたとはいえ無事でよかった〜
大切な人を遠く離れた場所に置いていかないといけないのって心配だよね
気になることがある時は合宿所に泊まればいいよ
でもって美男が自分の部屋にしか泊めさせないって言い張って2人の邪魔すればいいよw

94 :
>>50です。
以前ご感想下さった皆様、ありがとうございました!
本当に月刊ペースですみません。
エロで飛ばし過ぎてどうなるかと思いましたがww
暖かいお言葉を頂き、光栄です。
これから廉×美子長編の続きを投下します。
エロなしです。
前回までの更新分
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458-472
前スレ
422-432
472-486
529-542
現行スレ
>>29-49

95 :
―――


「わぁ…!あれ、撮り直したんだ…」


建物上部から垂れた四つの大きな幕を見上げ、美子は溜め息混じりに呟いた。

帰国してから一度も訪れる機会がなかった、A.J.エンターテインメント社屋を車中から窓越しに眺める。

ファンが多数たむろする正面玄関の光景はお馴染みだが、特徴的なA.N.JELLメンバー垂れ幕の写真が
最新ビジュアルに変わっていた。
黒を基調としたダークカラーの衣裳を着こなす、四人の大人っぽい様相に好印象を持った女性陣から、
黄色い声が響く。
兄のそれも、ちゃんと本人の写真が使用されており…美子が身代わりで加入していた形跡は、綺麗に
塗り替えられたようである。

「どうだ、こうして見ると皆イケメン揃いだろ〜!」
「はい!…何だか本当に信じられないですね、私があの中に居たなんて…」

よく見える位置で一旦停車し、運転席から誇らしげに吠える馬淵に同調し何度も首を縦に振る。
今日も皆と朝食を囲んだが、ひとたびカメラを前にした彼らは普段とは別人で。
スターとしての華々しいオーラが漂うあの垂れ幕を見ると、今でも己が同じステージに
立っていた事を恐れ多く思う。

「な〜に言ってんだ、美子の歌声は素晴らしかったぞ。なんせ、あの廉が初めて認めたくらいだ」
「そんな……」
「美男の歌には無い繊細さっつうか…同じ声でも男女の差が出るのかもな?
よく聴き比べてみると微妙に違うらしい。まぁ、よっぽどコアなファンじゃなきゃ気付かないだろう」

再び車を発進させ、ファンの目につかない裏口へ回り込みながら、馬淵は美子と美男の歌声の違いについて語った。

「え、じゃあ馬淵さんには分かったんですか?」
「いんや、サーッパリ!俺も社長も…多分柊と勇気も気付いてねぇだろうなぁ。
違いが分かるって言い出したのは、廉だけだよ」
「廉さんがそんな話を…」
「昨日、美男のソロ曲のレコーディングを聴きながら…独り言みたいにブツブツ言ってたな。
難しい顔して、何か考え込んでたみたいだったけど」

饒舌に話しながらも正確な運転を続ける馬淵は、裏口側の警備員に社員証を示し、開かれた
地下駐車場へのゲートを抜けてビル内に入る。
エレベーター付近に駐車した所で、美子も彼と同じタイミングで車を降りた。

「それ…今日私が呼ばれた事と、何か関係があるんでしょうか?」

お気に入りの濃紺のワンピースの裾を翻し、控え目なヒールが可愛い黒のパンプスで
ちょこちょこと、先を行く馬淵に付いて歩く間も不安と緊張を隠せない。

「さぁ…俺も詳しく聞いてないんだよな。ただ美子を迎えに行ってくれとしか…」

今朝、廉は家を出る直前に“時間が空いたらちょっと来てくれ。馬淵に迎えに行かせる”
と美子に告げ、仕事へ向かった。
一体何の用があるのか気になり、資格試験の勉強と家事を手早くこなしてから来てみたものの、
誰にも事情を話していないようでますます疑問が募る。

96 :
「そんな考え込まなくても大丈夫だろ!…っと、ちょっと待ってくれよ」

来月発売予定のA.N.JELLオリジナルアルバム宣伝ポスターが目立つ長い通路を進んでいると、
不意に馬淵の携帯が鳴った。
話を中断し電話に出た彼は、相手の声を聞いた瞬間雷に打たれたように固まる。

「しゃ、社長!お疲れ様です!!…はい、はい……えぇ、すぐに向かいますんで、はい!」

誰もいない空間に向かってペコペコ頭を下げ、焦りを全面に滲ませた青い顔で通話を終えた馬淵が、
美子を振り返り両手を合わせた。

「すまん!社長からの呼び出しだ…すぐに行かなきゃお魚さんの餌にされちまう…
…廉は多分、レッスン室に居るはずだから探してみてくれ!」
「えぇっ!?ちょ、馬淵さ…」
「あばよ!!」

余程慌てているのか、彼はこちらの声に耳を傾けようともせず、懐から取り出した
何かを押し付け走り去って行く。

「…はぁ……行っちゃった…」

あっという間に遠ざかる馬淵を呆れ顔で見送り、そのまま手の中にある物を確認した。
“Special Guest”と記載された、A.J.エンターテインメントの入構証。
付属の赤いネックストラップの長さを調節し、首から提げて仕方無く辺りを見回した。

「…レッスン室って確か…こっちだったよね……」

己がA.N.JELLの一員として事務所に出入りしていた時期から二年以上経過し、
風化しつつある記憶を頼りに歩みを再開する。


「おい、聞いたか?あの廉さんがダンスレッスンに参加してるらしいぞ!」
「えーっ、マジかよ!?」
「マジマジ!!しかもこれから柊さんとシンメで踊るんだってよ!」
「うわっ、超見てぇ!急ごうぜ!!」

時折すれ違う社員やタレントらと会釈を交わしレッスン室を目指していると、曲がり角で出くわした
10代半ばくらいの少年二人組が、興奮気味に喋りつつ小走りで横を通り過ぎた。

「…廉さんが、踊る…?」

彼らの話に廉の名前が登場した事を聞き漏らさなかった美子も、急いで後を追う。

97 :
ようやく辿り着いたレッスン室。
在籍していた当初と変わらぬ分厚い防音扉を開くと、軽快な音楽とざわめきが押し寄せる。

「……!」

広い室内に入ってすぐ、美子は言葉を失った。

新人タレントとおぼしき若い男性らが大勢取り囲んで見守る中。
ロック調の激しいビートに合わせて長い手足を駆使し、光る汗を飛ばしながらピッタリ
息の合ったダンスを披露する廉と柊が居たのだ。

二人とも“A.N.JELL”と赤いロゴが入った黒のスタッフTシャツに、動きやすそうなジャージ素材の
白いパンツを穿いただけ、といった簡素な服装ながら、真剣に踊る様は眩しいくらいに輝いて…
頭の中で星が飛び交う。

「…ステキ〜……」

胸の前で手を組み、格好良く踊る廉と柊に見惚れる美子の肩を、トンッと何者かが叩いた。
不思議に思って振り向けば、人好きする笑みを浮かべたRINAの姿。

「やっぱり、美子じゃない!」
「RINAさん!」
「アンタがココに来るなんて珍しいわね〜!…で、どうよ?彼氏のダンスは」

馬淵と似たようなハイテンションで、ニヤニヤ含み笑いのまま詰め寄って来る彼女に
恥ずかしくなり、頬を赤らめて俯く。

「……すごくカッコいいです…。でも、廉さんが踊る所なんて初めて見ました」
「もうすぐアルバムを引っ提げて全国ツアーに回るから、体力作りしろって
言われみたいよ。…にしても、社長の言い付けを素直に守るなんて珍しいわ〜」
「そうなんですか…」

複雑なステップを正確に踏み、周囲の注目を一心に浴びても臆する事なくダンスを続ける廉を見遣り、
きっと心境の変化があったのだろうと確信した。

「…そろそろ終わりそうね。よし、美子!これ廉に渡してやんなさい」
「へっ?」

流れる音楽が終盤を迎える頃合いを見計らったRINAは、手にしていたタオルを美子にバトンタッチする。
直後、見物していたギャラリーから歓声と拍手が沸き起こり、二人のダンスは完璧に決まった。

「柊には私が渡すから、ほらっ、早く!」
「は、はい!」

RINAに背中を押されタオルを持ったまま一歩前へ出ると、輪の中心で柊とハイタッチを交わした廉も近付いて来る。
今まで踊る事だけに全神経を集中させていたのか、こちらに気付いた彼は汗だくになった顔を上げ、パッと華やいだ表情を見せた。

「美子!早かったな」
「…お疲れ様です。…あの、これ…」
「おぅ、サンキュ」

早々に呼吸を整え、美子が差し出したタオルを受け取った廉は至極上機嫌で、額から流れる汗を
拭きながら目を細め、己へ微笑み掛ける。
他人にも自分にも厳しい男が人前で柔和に頬を緩めるのは稀で、周りの視線が痛いほどに突き刺さり、
肩身が狭くなった。

「廉さん、私に用事って…」
「あぁ、ここじゃちょっと…すぐシャワー浴びて来るから、
先にBスタジオで待っててくれ」
「あ、はい。分かりました」

98 :
さすがに衆人環視の中でこれ以上話すのは憚れたらしく。
彼は暑い…と呟いてタオルを頭に巻くと、汗で貼り付いたTシャツの首元を掴んで動かし
自身へ風を送ったり、短い袖を捲り上げ逞しい二の腕を晒しながら、シャワー室へ向かって踵を返す。
しかし、白い肌にくっきり残る引っ掻き傷を目敏く見付けたRINAが、柊との談笑を早々に切り上げ
素早く廉に駆け寄った。

「ちょっと廉、怪我してるじゃない!」
「え?…いや、これは……」

腕を掴んで擦過傷を凝視するRINAの迫力に気圧され、若干たじろぐ彼。
やり取りを傍観していた美子の中で一気に、先日プロポーズを受けた熱い夜の
思い出が蘇り、顔が火照る。

「あ、ああ、あの、RINAさ…」
「…あら美子、何でアンタが慌てんの?」
「え、えっと……」

咄嗟に身を乗り出し二人の間に割って入ったが、狼狽える己の様子に何かを
感じ取ったのか、彼女の口角が不気味に釣り上がった。

「…ふぅ〜ん、そういうこと…」

掴んでいた廉の腕をパッと放し、自分たちを交互に見遣るRINA。
その追及から逃れるよう美子が俯くと、彼は非難をされた訳でも無いのに
上擦った声で反論し始めた。

「なっ、何だよその顔!」
「べっつに〜?」
「こ、これはウサギに引っ掻かれただけだからな!」
「へぇ〜…ウサギねぇ。随分凶暴なウサギも居るのね〜」
「知らねぇのか?ウサギに噛まれると超痛ぇんだぞ!」

でもそれ引っ掻き傷じゃない?…と、最後にRINAの的確なツッコミが
クリーンヒットし、言葉に詰まった廉は思い切り顔をしかめる。

「…あ〜!…ったく、暑いなー!!」

独り言とは言い難い大声で半ばヤケクソ気味に吐き捨てると、彼はRINAを一睨みし
無理矢理話を切り上げ、足早にレッスン室を後にした。

「分かりやすいわね、アンタたち」
「…う……」
「ふふ、また今度詳しく聞かせなさいよ!」

悪巧みしているのが丸見えな彼女の微笑に得も言われぬ威圧感を覚え、
廉に悪いと思いつつ美子は頷く事しか出来なかった。

99 :
―――


美男名義のソロ曲“alone”を収録した、思い出深いAスタジオに隣接する、広さと設備が整った
レコーディングスタジオ。
廉に指定された通り中へ入れば、分厚いガラス越しに見える奥のブース内に立派なグランドピアノが鎮座していた。

「…ピアノかぁ……次のアルバムはバラードが多いのかな?」

誰も居ない音響スペースの空いた椅子に座り、所在無げに周囲を窺いつつ呟く。

“Miss you”が発売されて以降、A.N.JELLの曲にもっとバラードを増やして欲しいという声が増えた。
ファンを大切にする彼のこと、きっと新作アルバムにはそんなリクエストが生かされているのだろう。
表立って愛想を振り撒くファンサービスは少なくとも、仕事できちんと要望に応えるのが廉らしい。

「…これ……」

操作が難しそうな音響機器の上に無造作に置かれた譜面を発見し、好奇心を駆り立てられ手に取ってみる。
タイトル部分は廉の筆跡で“Serenade”と書かれていた。

「…何て読むんだろ?…ん〜…」


「…セレナーデ」

「!?」

初めて接する単語に眉を寄せ考えを絞っていた所、シャワーを終えた廉が音も立てずいきなり背後に現れ、
美子はお化けを見るような顔で振り返る。

「廉さん!…はぁ〜、またビックリさせられちゃいました…
何でいつも気配が無いんですか?」
「お前の反応が面白いからな。それより、聞いた事ねぇか?
セレナーデって言えば、シューベルトの名曲にもなってんのに」

ダンス時の軽装とは打って変わって黒のデザインジャケットを羽織り、ボトムには同じ素材の
スラックス、インナーにブランド製の白いVネックのシャツを合わせ、髪型もバッチリないつもの彼。
どうやら己を驚かせる為にわざと気配を消しているらしいが、その件を突っ込む隙は与えて貰えず
違う話題にすり替えられ、少々不満を残しつつ頭を横に振った。

「すみません、クラッシックはあんまり詳しくなくて…」
「そうか…じゃあ聴かせてやる。付いて来い」

手を引かれるまま椅子から立ち上がり、一緒にレコーディングブースへ続く扉を潜る。
しん、と静まり返った室内の真ん中にあるピアノの前まで来ると、美子の手を離した廉は
そのまま椅子に腰掛け鍵盤を覆うカバーを開いた。

「廉さんが弾いてくれるんですか?」
「あぁ。そこに座ってていいぞ」

合宿所の自室にあるキーボードを使い、保育士試験を控えた美子の為にピアノレッスンを
してくれてはいるが、本格的なクラッシックの曲を弾く様は見た事がない。
期待に胸を膨らませ、弾んだ足取りでブースの隅に置かれた二人掛けソファの右端に座った。

100 :
「……人前でちゃんと弾くのは20年振り、か…」
「え?」
「いや、何でもない」

ごく小さな呟きを零し、やや緊張した面持ちの廉は深呼吸を一度行ってから、鍵盤に指を滑らせる。

すぐさま、少し物悲しくも美しい旋律が美子の鼓膜を震わせた。
目を閉じ楽譜を見ずに曲を奏でる彼の背には哀愁と、形容し難い色気が漂う。
初耳となるその曲が、どういったコンセプトで作られたものか知る由も無いが、直感的に
切ない恋のメロディーだと思った。

廉の指が最後の白鍵をそっと沈ませ、再び静寂がブース内に訪れる。
暫し呆けていた美子は勢い良く立ち上がり、割れんばかりに手を叩いた。

「……っスゴい!すっごくすっごく、素敵でした!!」
「…ま、感覚鈍ってた割にはマシな出来だったか」
「私、感動しちゃいました!あんなに難しそうな曲を楽譜無しでスラスラ弾けるなんて……」

興奮気味に思い付く限りの賞賛を送る己を振り返る、些か照れ臭そうな廉の面持ちが至極可愛らしく、
鼓動が高鳴って言葉に詰まる。

「どうした?」
「い、いえ……何でもありません」

こちらを窺う視線から目を逸らし、美子は大人しくソファに座り直した。
年齢以上に大人びた上品な振る舞いはもちろん、時々垣間見える少年っぽい一面も彼の魅力だろう。
結婚した後も毎日ドキドキさせられそうで、自分の心臓が保つか少々不安になった。

「……?…変なヤツだな」
「えへへ…あ、今日私を呼んだのって、これを聞かせてくれる為ですか?」

誤魔化すよう不意に質問を投げ掛けると、廉の強い眼差しが微かに揺れる。
美子からピアノへと上体を向け、何処か遠くを見つめながら小さく息を吐いた。

「……さっきのは前座みたいなモンで…昔、コンクールで弾いたのと同じ曲だ」
「それ、水沢さんの手記に書いてた…?」
「…あの日からずっと、一度も弾けなかった。けど…
お前のお陰で、また弾けるようになったよ」

そう言って目を細め、嬉しそうに微笑む穏やかな横顔。
過去に苦しみ続けた彼を救えた事を実感し、美子は改めて心から安堵した。

「…だからこの際、やり残してる事をやろうと思ってる」
「……?」
「俺が初めて作曲した歌……“Serenade”を、美子と二人で完成させたいんだ」

101 :
何か尋ねる前に、廉はまた鍵盤へ指を置き、同じタイトルながら全く別の曲を弾き始めた。

先程と違い、今度は聴く者を包み込む優美なメロディーラインに、彼の甘い歌声が加わる。
その歌詞はラブソングと言うより、仲間との絆や親子愛など、千差万別な愛のかたちのどれにも
当てはまる、壮大な愛情について語っているようだった。


「……美子…?」

歌が止み、締め括りの演奏を終了させた廉がこちらを見遣り、目を丸くする。
美子はようやくその時、己の頬を伝う涙に気付いた。

「…それが、初めて作った曲なんですね」
「あ、あぁ……歌詞は最近書き換えたけど」
「廉さんは、本当に優しくて素敵な人です…
…こんなにも愛に溢れた歌を作れるんですから…」

感激のあまり泣いてしまった美子の隣に移動した廉は、
頬へ口付けチュッと音を立てて流れる雫を吸った。

「大袈裟だな…」
「…すみません、私…」
「そんなんじゃ、今から歌ってくれとは言いにくいだろ」
「………え!?」

思わず涙が止まる。
これでもかと言わんばかりに目を見開いて固まった己を抱き締め、彼は耳元で囁いた。

「……もう一度、俺の歌を歌ってみないか?」

予想もしていなかった展開に返答出来ず、パチパチと瞬きを繰り返す。
たった今聴かされた素晴らしいあの歌を、本当に歌えと言うのか…?

「…本気、ですか?」
「言ったろ、二人でやりたいって。…もちろん、お前は一般人だし、公に発表はしねぇよ」
「は、はい…」
「この曲はまだ未完成なんだ。……元々、母親に作った曲だから…」
「…水沢さんの為に?」

そっと美子から離れ、ソファの背凭れに背中を預けた廉が自嘲的な笑みを漏らし、頷く。

「俺も…どっかで信じてたんだろうな。作曲家として、桜庭拓海を超えられたら…
…いつか、戻って来てくれるんじゃねぇかって」

零れた本音に、胸が締め付けられた。
美子が幼い頃から信じたように、彼もいつかは母親が振り向いてくれると信じ、生きて来たのだ。
自ら作詞作曲にこだわる理由の根源は、そこにあったのかも知れない。

102 :
「廉さん…」
「もっと早く渡せば良かったって後悔しても……あの人はもう二度と歌えない。
…だったら、俺が一番好きな美子の声で…この歌を生かしてやって欲しい」

長い年月を経て和解した母へ楽曲を提供しようにも、喉を患い静養中の彼女には
無駄な贈り物となってしまう。
素晴らしい歌が、誰にも知られず闇に消えたら…考えただけで、耐え難い苦しみが美子を襲った。

「……分かりました。私で良ければ、喜んでお手伝いします。
…この声を廉さんの為に、役立てて下さい!」

思い入れの詰まった曲を披露する気になった、廉の心境を尊重したい。
ソファから降りて礼儀正しくお辞儀をした美子の頭を、同じく立ち上がった彼が軽く撫でる。

「……ありがとな」

顔を上げれば喜色満面、屈託無く笑う廉と目が合い焦った美子は、自身の鼻っ面を
人差し指で強く押し上げた。

「…まだそれやんのかよ、ブタウサギ」
「だって……」
「ボヤボヤしてる暇ねぇぞ、今から歌の特訓だ!」
「はっ、はいぃ…!」

彼は呆れつつも楽しくて仕方ないといった様子で、眉と口角を吊り上げ己の髪をグシャグシャと撫で回し、
ピアノの前に置かれた椅子まで移動する。
仕事モードに切り替わった、凛々しくも厳しいオーラを放つ廉の傍に立ち、美子は久々の緊張感を覚えた。

「ブランクがあるし、まずは発声練習だ。なまっちょろい歌なんか歌ったら承知しねぇからな」
「はい!頑張ります!」




.

103 :
―――



『明後日の18時、ドレスアップして待っていて下さい。迎えを寄越します』


復帰会見から休む暇無くニューアルバムのPR活動を終え、ファン待望の全国ツアーを間近に控えた息子から、
こんな唐突過ぎるメールが届いたのはつい一昨日の夜。
あまりの簡潔さに訳が分からなかったが、麗子はとりあえず従ってみる事にした。

ベロア素材にシフォンの裾フリルをあしらった黒のロングドレスと、スエードの黒いピンヒール。
めっきり夜は冷える季節となったこの頃、防寒とお洒落の役割を兼ね備えたシルバーフォックスの
ファーショールを羽織った。
現役歌手時代からヘアメイク担当だった女性を自宅へ呼び、ロングヘアを丁寧に巻いてもらい
全身のコーディネートを整えて、数十分後。
約束の時間ピッタリにインターホンが鳴った。


「…美男くん…」
「よっ、迎えに来たぜ」

扉を開くと、ダークブラウンのスーツを着た美男が現れる。
淡いベージュの光沢あるシルク製ストールがパーティー仕様を物語っており、麗子は眉尻を下げた。

「ふふ、一体何があるのかしら?」
「いいじゃねぇか細かい事は。着いてからのお楽しみだ」

多くを語ろうとはしない美男を問い質しても無意味だ。
彼が差し出した手に己の右手を乗せ、エスコートされるまま駐車場へ向かう。


「…まぁ…!」
「お待ちしてました。どうぞ、中でお寛ぎ下さい」

待ち構えていた、大きな黒のリムジン。
麗子の姿を見付けるとすぐ、助手席から降りた柊が後部座席のドアを開いてくれた。
彼もまた、チャコールグレーを基調に襟だけ白のバイカラーという流行を取り入れた細身スーツに、
シルバーのネクタイを締めたフォーマルな装い。

年齢を重ねても、女は女である。
まるでお姫様のお出迎えさながらな二人の出で立ちに、麗子は否応無く胸の高鳴りを覚えた。

「ありがとう、柊くん」
「……今日の主役は貴女です。心行くまで楽しんで下さいね」

柊の微笑みと、美男のスマートな動きに従いリムジンへ乗り込む。
広く快適な車内は高級感に満ち溢れ、麗子は少女のように瞳を輝かせた。

「あの子ったら…」

今日は、己の誕生日だ。

廉からの呼び出しがあった時点で気付いていたが、まさかこんな趣向を凝らした方法で
祝ってもらえるとは思わず、早くも目頭が熱くなる。

「おいおい、泣くのはまだ早いんじゃねぇか?」
「そうですよ、これからが本番ですから」
.

104 :
隣に座った美男は、麗子が泣きそうになっていると察知し軽い口調で突っ込んだ。
助手席に乗車した柊からも指摘を受け、どうにか衝動を堪え笑みを返す。

「そうね、せっかくのお化粧が台無しになるわ」

気丈に言い放ち、流れる窓の外の景色を眺める事、暫し。
目的地に到着したらしいリムジンが停まったのは。


「…ここ………」
「本日の会場です。こちらのチケットをお持ち下さい」

再びドアを開けてくれた柊から、ゴールドのラメが輝く一枚のチケットを手渡される。
麗子は面食らいつつ、美男のエスコートで車を降りると、少し古びたコンサートホールの
エントランスに足を踏み入れた。

…と、ドア付近に佇む鮮やかな金髪の青年から、ニコニコと愛想良い笑顔の会釈を受け、
驚きに歩みを止める。

「こんばんは、水沢さん!我らがリーダー、桂木廉のプライベートスペシャルライブへようこそ!」
「…勇気くん!?」
「チケットのご提示をお願いしまーす」

明るく手を差し出した勇気は一風変わったドレスアップをしており、赤と黒のストライプ柄のスーツに
ボルドー色のシャツとリボンタイ、足元はスタッズが目を引く派手な黒のスニーカーだ。
すぐ傍に立つ美男と柊の視線に促され、さっき貰ったチケットを彼に預けると、点線の切れ目が入った
部分を綺麗に切り取られ、半券の返却があった。

「さぁ、もうすぐ開演ですよ!チケットの指定席にご案内します」

今をときめくA.N.JELLが勢揃いし、自分の誕生日にこんな催しをしてくれるとは。
麗子はますます嬉しくなり、顔を綻ばせ三人を見渡す。

美男からエスコート役をバトンタッチされた勇気に右手を預け、重厚な扉の向こうにある
薄暗いホールの中心部へ進んだ。

「こっちです。足元に気を付けて下さいね」

案内されるがまま、チケットの表記通りステージを正面ど真ん中から見渡せる、
特等席と言うべき場所に腰を下ろす。

「じゃ、僕はこれで…」
「え?あ、ちょっと……」

てっきり一緒に座るものだと思っていた勇気が笑顔で離れた矢先、非常灯以外の
照明が全て落とされ辺りは闇に包まれた。
やがてステージにだけ煌々としたスポットライトが当たり、麗子は息を飲む。
.

105 :
「廉………」

白い蝶ネクタイを締め、格式高い黒の燕尾服…男性の最上礼服に身を包んだ廉が、
舞台中央で一際存在感を放つグランドピアノの前に立っていた。
ヘッドセット型マイクを頭に装着しているが、声を発する事はせず真っ直ぐこちらを見据え、
我が子ながら惚れ惚れする美しい所作で一礼した後、静かにピアノ前の椅子を引いて腰掛ける。

廉が鍵盤に指先を置いた刹那、切なく叙情的な旋律がホール内へ響き渡り、麗子の鼓膜を震わせた。
薄らいだ思い出の中でたゆたう、ある一曲が鮮明に浮かび上がる。

「あの時の………」

昔、家でも一生懸命練習を重ねていたのを確かに見掛けた。
コンクールで優勝を収めた名曲、“セレナーデ”。

クラッシックの世界から遠ざかって随分経つはずだが、耳へ届く心地好いメロディーに
何ら不遜は無く、素晴らしいの一言に尽きる。

20年前、聴いてやろうともしなかった自分が憎らしく、恥ずかしい。
そう思える程の完璧な音色が止んだと同時に、麗子は立ち上がって大きな拍手を送った。

舞台上の廉も椅子から降り、体の正面を己へ向けて再び礼をする。
晴れ晴れとしたその顔付きに、指揮者として勇ましくタクトを振るう元夫の面影が重なって…
親子の繋がりを改めて実感した。

『…来てくれたんですね』
「ふふ…お陰で楽しませてもらったわ。こんな贅沢な誕生日、滅多に無いもの」

微かに照れ臭そうな表情で話す廉。

息子の誕生日すら忘れ、屈折した想いに固執し続けたこの母を、赦してくれるつもりなのだろうか。
期待と不安が交錯する、筆舌に尽くしがたい複雑な感情を微笑みの下へ隠し、
客席の離れた位置から彼を窺う。

『これからもう一曲、彼女と演奏します』

廉が左手を上げたのを合図に、二つ目のスポットライトがステージの上手側を照らした。

「美子さん……!?」

舞台袖から現れたのは、夜空の星を思わせるシャンパンイエローのビスチェドレスを纏った美子だった。
膝丈の裾広がりなスカート部分や、ドレスと同じ色のパンプスには細かいクリスタルがちりばめてあるようで、
ライトを反射し可憐に煌めく。
セミロングの髪は豪華なアップスタイルに纏まっており、首元で光る星形のネックレスがより一層映えて見えた。

『こんばんは、水沢さん。驚かせてしまってすみません…』
「…いえ……どうして、美子さんまで…」
『私も、廉さんと一緒にお祝いしたかったんです。あなたのお誕生日を…』
.

106 :
マイク片手に、真摯な瞳で己を見つめる彼女から嘘は感じられず、大人しく元の位置に座り直す。
それを確認した廉はまたピアノへ向かい合い、一言告げた。

『…それでは聴いて下さい……“Serenade”』

先程聴いたものと同じタイトルに怪訝な顔をした麗子だったが、いざ流れ始めたピアノの伴奏は
全く異なるメロディーで、真剣に耳を傾ける。

向かってピアノの右側に立つ美子は、マイクを構え厳かな雰囲気を漂わせながら、歌い始めた。


♪〜〜〜


優しく穏やかな曲調に乗せて、美子の澄んだ歌声が会場を満たしていく。
単純なラブソングなどではない、もっと深く強い絆を思わせる、愛のうた。

サビ部分で廉の歌声も加わり、絶妙な二人のハモリが己に語り掛けて来る。


…もう、とっくに赦しているよ。

だから、前を向いて?


ひとりじゃない……と。


『…水沢さん……?』

歌い終えた美子が、壇上から心配そうに声を掛けた。
曲が止んだ直後、己の頭上へピンスポットライトが照らされた為に、顔を覆い隠して
嗚咽を漏らす様を見られてしまったようだ。

昔、路上で桜庭拓海の演奏を聴いて以来だった。
誰かの歌に、涙が止まらなくなるのは…。


『……この“Serenade”は、俺が一番最初に作った曲です。
…いつか、あなたに歌って欲しいって……』

不安げに揺れた、緊張の伝わる声音で廉の本心が打ち明けられる。
麗子は濡れた顔を上げ、ピアノから離れてじっとこちらを見つめる息子を凝視した。

「わたし、に……?」

目が合った瞬間、和らいだ表情で小さく頷く。
それが合図とばかりに、会場全ての照明が点灯した。

廉はヒラリと燕尾の裾を翻し舞台から颯爽と飛び降りると、一直線に麗子の眼前までやって来る。

107 :
.
『……原稿、読んだよ。…あれは記事にしなくていいから……』
「そ…そんな、ダメよ……私があなたにした事を謝罪するためにも、息子だと世間に公表しなくちゃ…」
『…俺には、あの…最後の言葉だけで充分だよ……』

壁を感じる敬語とは違う、砕けた物言いで呟く廉に反論しようと立ち上がるも、至近距離まで迫った端正な
面差しを目の当たりにし、麗子は押し黙った。
…こんなにも優しい顔をした息子を、未だかつて見た覚えがない。

『…今まで俺は…人間なんて所詮、独りで生きて行くモンだと思ってたけど……美子に出逢えて、
愛される幸せとか…どうやって人を愛せばいいのか、教えてもらったんだ』
「……………」
『愛し方なんて、知らなかったから……あなたも、ずっとそうだったんだね…』

二の句が告げず棒立ちになる己を、しっかりと包み込む逞しい腕。
…麗子は、廉に抱擁されていた。


『…誕生日、おめでとう……
…俺を産んでくれて、ありがとう……母さん…』


半分、涙混じりの声。
背中へ回った二本のそれに、力が籠る。

浅はかな憎しみと執念の中、本当に大切にすべきものを見失って。
酷い仕打ちを繰り返したはずの母親なのに。
心から誕生日を祝福しようという、廉の健気な想いが伝わり、全身が熱く震えた。

「……廉……っ…!」

麗子は躊躇わず、我が子をキツく抱き締め返し、大声で泣き喚いた。

最後に抱いてやったのは、いつだったのか。

幼い頃の頼り無げな雰囲気など消え去った広い背中は、立派な男へと成長した事実を物語っており。
その過程を見守ってやれなかった後悔と、無事に育ってくれた安堵感が一遍に押し寄せる。

「……ごめん、なさい………ありがとう………」


失われた親子の時間を埋めるよう、二人は互いの腕が痺れるまで抱き合った。







.

108 :
.
―――


「…お疲れ様、美子。よく頑張ったね」
「…柊さん…」

そっと静かに舞台袖へ捌けると、頑張って歌い切った美子を労うよう、柊と勇気、美男が出迎えた。

「美子の歌、すっげー良かった!…廉さんのお母さんも、喜んでくれたみたいだよね」
「ありがとうございます。ホントは緊張で倒れそうだったんですけど、最後まで歌えてホッとしました」

勇気はプレッシャーに負けず本番を成功させた美子の手を握り、明るく褒め讃える。
柊も柔和な笑みで、やんわりと頭を撫でてくれた。

「……出来るなら…俺らもあんな風に………」
「え?お兄ちゃん、何か言った?」
「いや……何でもねぇよ。とにかくサプライズが上手く行って良かったぜ」
「うん…そうだね……」

和解した二人の様子に目を細め、美男は何か言い掛けたようだったが、結局はぐらかされる。

だが、美子には何となく分かってしまった。

もしかしたら兄は、廉と麗子に自分たちの姿を重ね、夢見ていたのかも知れない。
決して叶わぬ、両親との再会を。


「いや〜でも、こんな時にあのバイトが役立つとは思わなかったよ」
「あ…そうでした、勇気さんとお兄ちゃんが照明を担当してくれたんですよね?」
「そうそう。やってて良かった、照明係!」

今回のプライベートライブの立役者は、A.N.JELLメンバーに他ならない。
下積み時代、勇気と美男は舞台照明、柊には劇場の音響アシスタントというアルバイト経験があり、
今夜の演出をドラマチックに仕上げたのである。

廉から事情を聞いた三人が一致団結し、見事なサプライズを披露出来た。
皆のスケジュールが空くよう調整してくれた、馬淵と芳井…
そして安藤社長にも、礼を言わなければならない。

「でも、せっかくこ〜んなにオシャレしたんだから…
…このまま縁の下の力持ちで終わるのは…ね、柊さん?」
「確かに。ちょうど、舞台にはギターとドラム…
おっ、キーボードもある事だし……な、美男?」
「あぁ…廉一人にいい格好、させられるかよ!」
「へっ?ちょ、ちょっと…どうしたんですか!?」
.

109 :
急に、示し合わせたかのような悪戯顔になった三人は、美子の手を引きステージへと躍り出た。
スポットライトだけでは暗くて分からなかった場所に、何故か設置してあるギター、ドラム、キーボード…。
まさか、最初からそのつもりだったのか?と、美子が問うより早く、いつの間にかヘッドセットマイクを付けた美男が叫ぶ。

『こら、廉!まだライブの途中だぞ!!…お前また、客席に降りたままかよ!』

いきなりの大声にギョッとして振り向いた廉は、メンバーに母親との抱擁シーンを目撃された事を今更自覚したらしく、
首筋まで真っ赤になって麗子から離れた。

『な、なな、何だよお前ら!?』
『ごめんな、廉。A.N.JELLが全員揃ってるのに、
手ぶらで帰る訳にはいかないと思ったんだ』
『そうだよ、水沢さんだって俺らのライブ、見たいよね!?』

素早く自分たちの担当楽器の位置に着き、備え付けのマイク越しに廉を宥めようとする柊と、
驚いて固まる麗子へ話し掛けた勇気。

美子もしばらくは唖然と舞台中央に突っ立っていたものの、段々とこの状況が楽しくなり、
笑顔で客席に向かって手招きする。

『廉さん、早く来て下さい!廉さんが居ないとライブが出来ませんから!』

眉を顰め、不機嫌を露にする廉だったが…美子にまで壇上へ呼ばれ、思い切り大袈裟な溜め息を吐いた。

『ったく…美子まで……』

頭を抱えた彼に、麗子が何かを話し掛けている。
声は聞き取れなかったが、きっと背中を押すような一言を告げたに違いない。
廉は大人しくステージへ戻り、美男が差し出したギターを受け取った。

『…よし。お前ら、やるからには失敗は許さねぇからな!』
『あったりまえじゃん!』
「あ、あの、廉さん、私は……」
『全国ツアーと同じ……いや、それ以上に本気で行くぞ!』
『『オーーッ!!!』』


廉に肩を組まれ、逃げ出せなくなった美子はそのままA.N.JELLの円陣に加わり、大ヒット曲の
“promise”、“ふたり”を共に熱唱する羽目となった。

客席をちらりと窺うと、涙ですっかりメイクの崩れた麗子が、手拍子をしながら楽しんでいるのが
分かり、喩えようの無い嬉しさが込み上げる。

彼女もまた、廉の歌に救われたのだ。



こうして、たった一人の観客の為に開催されたA.N.JELLスペシャルライブは、
大盛り上がりで幕を閉じた。

がらんとした会場には歓声こそ響かないが…代わりに、
大きな愛で溢れていたのは間違いないだろう。


.

110 :
今回はここまでです。
廉さんにやってもらいたかった事を詰め込みつつ、ドラマ本編最終回と
少しだけ、演出をリンクさせてみましたww
改行が上手くいかず変な記号入っちゃてる部分があるので、まとめサイト
の管理人様にはお手数お掛けしてしまうかも…申し訳ありません。
次回、いよいよ最終回(の予定)です。
年内には終わらせようと考えています。
もう少しだけ、お付き合い下さい。

111 :
そろそろ来るかなーと思ってたら、来てたーーーww
廉さん良かったね、水沢さんと和解出来て
4人のビジュアルを想像したらカッコよすぎて萌えましたw
最終回も楽しみにしてます(ずっと続けて欲しい気もするけど)

112 :
>>110
GJ!!!
いつも素敵なお話ありがとうございます
ああ、水沢さんがうらやましい
こんなに最高の誕生日を過ごせるなんて!
幸せで、きっと天にも昇る気持ちなんだろうなあ…
次回も楽しみにしています!

113 :
>>110
GJです!皆幸せで最高〜
廉さん柊さんのダンス…ドレスアップ…廉美子の歌…
いろいろ妄想してたら全部実写で観たくなりましたwww
ダンスに関しては中の人のGで見られるんですけど…
ああ…続編があれば…
終わってしまうのが寂しいんですが、続きも待ってますw

114 :
保守します〜w

115 :
最近職人さん減っちゃいましたね
寂しいけど、気長に待ってます
廉美子エロありです

116 :
午後の光が差し込むリビングで、廉は外国のミュージシャンのDVDを鑑賞している。
(やっぱり敵わねえなぁ)
楽曲、歌唱力、パフォーマンス、全て自分はまだまだだな、と軽く落ち込みため息を漏らす。
「廉さん」
隣に美子が座り込み、ぴったりと体を寄せてしな垂れかかってきた。
(お、珍しいな…自分から)
「どうした?」
美子の肩に腕を回して抱き寄せる。
「…なんでもないの」
美子は廉に体重を預けて画面に見入っている。
廉は足をひらいて、その間に美子を座らせ、後ろからすっぽりと包み込んだ。
美子の肩に顎を乗せ、腕を前に回して軽く抱きしめながらDVDの続きを鑑賞する。
「カッコいいですねぇ」
「だろ?俺達ももっと頑張らないとな…」
「でも、私にとって一番カッコいいのは、廉さんですよ。エヘヘ」
ストレートに褒められて頬が緩むが、表情を見られていないのをいいことに、廉は偉そうに言った。
「ま、まーな。当然だ。俺はお前には勿体ないくらいだからな」
「ひどーい!そんな事言うなら…えと、どうしようかな?」
意地悪な廉に対抗しようとして、美子は首を捻って考えた。
「どうすんだよ?ん?」
廉はニヤニヤ笑いながら、美子の肩に手を回してギュッと抱きしめた。
「あっ、そうだ!そんな事言うなら、お触り禁止ですっ!」
「はあ?お触りって…」
「こういう事ですっ!」
自分の肩に巻きついた廉の腕を外しながら、美子はきっぱりと宣言した。
「えっ?おいっ!嘘だろ?」
ソファからすっくと立ち上がった美子は、「私、出掛けてきます」と言うと、すたすたとリビングを出て行ってしまった。

117 :
美子が出て行ってから数時間経ち、すでに外は暗くなっている。
何度となく携帯に連絡したが、一切美子は出なかった。イライラしながら時間ばかりが過ぎていく。
合宿所に行ってるのかと思い、さりげなく美男に電話してみた。
「廉?何?」
愛想の無い美男に若干ムッとするが、ここは美男しか心当たりがないから仕方ない。
「おう、今日はみんないるのか?合宿所に…」
「は?何で?」
(なんだよ、イラつくな。黙って聞かれたことに答えろよ)
「いや、何でって、どうしてんのかな、と思って…」
「何言ってんの?毎日会ってんじゃん」
「あーっ、わかったよ、もういいっ」
結局美子の美の字も言えなかった。美子を探してるなんて言ったら、美男が激怒するのはわかりきってるし、
その原因の下らない喧嘩の事も言わなけりゃならない。
「美子、早く帰ってこいよ…」
一人ぼっちのリビングで廉はぽつんと呟いた。
家の外で車のドアが閉まる音がした。
慌てて外に出ると、走り去る車に美子が手を振っていた。
「あ、廉さん、ただいま」
沢山の買い物袋を持って美子が振り返る。
「誰かに送ってもらったのか?」
美子から荷物を受け取りながら、廉はさり気なく聞いた。
「はい、柊さんに送ってもらいました。お茶でも飲んで行ってくださいって言ったんですけど…」
(えっ…柊が?)
「買い物してたら柊さんと偶然会って、ちょっと付き合ってもらっちゃいました」
「へ、へぇ〜…。ていうか、お前に何回も電話したんだぞ。どうして出ないんだよ」
「えっ?」と言って美子はバッグの中を探したが、携帯は入っていないようだった。
「おうちに忘れたみたいです…」
(なんだよ…俺ばかみてぇ)
どっと疲れた廉は美子から受け取った荷物を持って、リビングまで行った。
リビングのテーブルで買ってきた物を広げる美子。
「これは廉さんのシャツで、これは手袋とマフラーです。あと下着と、パジャマはお揃いです、エヘッ」
結局廉の物ばかり買ってきているのを見て、廉は胸が熱くなった。
「お前の物は買ってこなかったのか?」
「買いましたよ、うふっ。柊さんにも買ってもらっちゃった」
「柊に?何を?」
内緒です、と笑いながら、美子は買ったものを片付け始めた。

118 :
夕食を作る美子の後ろに立って、「今日は何?」と覗き込みながら美子の肩を抱いた。
くるっと振り返った美子は、「お触り禁止です!」と言いながら包丁をキラリと光らせる。
「は、はい。ごめ…ん」
ギョッとした廉は背筋を伸ばして後ずさった。
(まだ怒ってんのかよ。はぁ〜、まずい事言っちまったな〜)
食事中は何の変りもなく、にこやかに時間が過ぎていくが、ふと廉の手が触れそうになると、
美子はさっと体をかわして接触を避けている。
その度に心が折れそうになる廉だったが、美子は無頓着な様子でニコニコしている。
そんな美子を見ていると、わざと避けているのか、たまたまなのか、図りかねて廉の困惑は深まっていった。
廉は胸の中にモヤモヤを抱えたままベッドに入った。
近くにあった雑誌を見ながら美子を待っていた廉は、遅れて寝室に入ってきた美子を見て目を見張った。
つるつるでテロテロのゴールドのキャミソールと揃いのパンティを穿いた美子がベッドの上に乗ってきた。
少し顔を赤らめて廉と目を合わせないところを見ると、美子もちょっと恥ずかしいんだろう。
ベッドに腹ばいになって雑誌を見ながら、膝を折り曲げて足をぷらぷらさせている。
(初めて見るぞ、こんな下着。もしかして、柊に買ってもらった物って、これか?いやいや、まさか…)
廉の頭の中には美子と柊が楽しそうに下着を選ぶ姿が浮かび、慌てて頭を振ってその想像を打ち消した。
美子は雑誌をベッドサイドのテーブルに置いて、ころんと仰向けになった。
体をくねらせながら「う〜ん」と伸びをして目を閉じる。
「おい、布団掛けないと風邪ひくぞ」
廉は口調だけは冷静に、しかし目は美子の体を上から下まで舐めるように見つめている。
「う…ん、お風呂上りだから、体が火照って…暑いんです」
微かに身じろぐたびにキャミソールの胸元から、美子の乳房が見え隠れする。
(お前、絶対わざと見せつけてるだろ?ああっ、あんな事言うんじゃなかった…)
美子は本気で眠りに落ちそうな様子で、軽く寝返りを打ち、顔だけ横に向けてうつ伏せになった。
キャミソールの細いストラップが腕の方まで下がり、肩から背中まで何も遮るものがない素肌が露わになっている。
背中からウエストまでなだらかなカーブが続き、そこから小振りながら形のいいお尻が盛り上がっている。
そのお尻を包む小さなパンティは金色に輝き、廉は誘われるように手を伸ばした。

119 :
(柔らかい…)
夢中で美子のお尻を撫でまわしていたら、美子が小さく吐息を漏らして、また体をくねらせる。
「う…ん…」
意識的なのか無意識なのか、廉を挑発するように蠢く美子に、廉の欲望が止めようもなく高まっていった。
(……っざけんなよ、我慢できる訳ないだろっ)
廉は体を倒して美子の背中に舌を這わせた。時々強く吸い、赤いしるしが付いたのを確認して、満足げに頷く。
「ん…廉さん」
眠っていると思っていた美子が、声を上げた。一瞬ギョッとした廉だったが、構わず愛撫を続ける。
美子の体を仰向けにして足を開くと、パンティのクロッチ部分が微かに濡れている。
下着の上からそこをペロペロと舐めた。舌先に力を入れ、中に差し込まんばかりに探り続ける。
美子はもどかしそうに腰をくねらせ始めた。廉はその機に乗じて美子のパンティの横紐をするりとほどいた。
「廉さん…いや…」
「ダメだ。さんざん俺を焦らしたんだからな。覚悟しとけよ」
美子の足を広げて、中心に顔を埋める。仕返しをするため、あえて敏感な部分を避けて単調に舐め始めた。
入り口の周りにゆっくりと舌を這わせ、美子を焦らす。
「はぁ…ん…あ…ん、廉さん…お願い」
じれったくなった美子のおねだりを聞いて、廉はニヤッと笑った。聞こえない振りをしてゆっくり舌を動かす。
「お願い…もっと…そこじゃなくて…」
廉は美子に顔を近づけ、軽く睨みつける。
「じゃあ、もう、お触り禁止なんて言わないか?」
「は…い、言いません。だから…」
美子は何度も首を縦に振りながら、潤んだ瞳で廉を見つめた。
「わかった」
再び美子の中心に舌を伸ばし、美子の望みの敏感な場所に愛撫を始める。
刺激しすぎないように、単調すぎないように、舌先でそっと触れたりぐりぐり回転させたりを繰り返した。
「はぁっ…んぁっ…やっ!やっ!あああっ」
あっという間に絶頂に達し、美子の体は大きく弾んだ。
廉は美子の脇に腕を差し込み体を持ち上げると、座った自分の上に跨らせ、後ろ向きに美子の内部に侵入した。
「あっ…んんっ…」
「自分で動いて」
耳元で囁くと前に手を回してキャミソールの上から胸を揉みしだき、接合部分に指をあてがった。
美子は廉の胸に背中をもたせ掛け、腰を動かし始めるが、廉の指先で与えられる快感に夢中になり、動きが疎かになる。
「美子、腰がお留守になってる」
「ん…でも…あぁっ…んっ」
美子が動けそうにないので、体勢を入れ替えいつものように廉が上になった。
唇を塞ぎ強く舌を絡めながら、腰を動かし始める。
「んっんっんっ…ぅ…んんっ」
塞がれた美子の唇の端から吐息が漏れ、目じりからは涙がこぼれている。
「美子…一緒にっ」
美子の背中に手を回してしっかり抱きしめたまま、めちゃくちゃに突き上げた。
「あっん…やぁっ…ああっ!」
廉にしがみついて必に動きを合わせていた美子が叫んだ。
体の中心から広がった快感が徐々に落ち着いていき、二人はそのまま静かに眠りについた。

120 :
翌日仕事から帰って玄関を開けた廉は、見覚えのあるものを目にした。
上り框にちょこんと並んだそれは、どうみてもブタウサギだ。
寝室に飾ってあるものより二回りほど小さくて、二つ並んで廉の方を向いている。
「廉さん、お帰りなさーい」
「ああ、ただいま。これ…なんだ?」
「室内履きですよ。足元が冷えないようにって、柊さんが買ってくれたんです」
見ると美子も同じものを履いている。確かにモコモコで暖かそうだ。
ブタウサギを履いてリビングまで歩いた。なんだか少し可哀想な気もしたが、ぽかぽかで快適だ。
ソファに腰かけ片方を脱いでまじまじと眺める。
「ブタウサギの室内履きなんて、よく売ってたな…」
すると美子は少し顔を赤らめて照れ笑いを浮かべた。
「それ本当はウサギだったんです。でも廉さんがしてくれたみたいに、鼻だけ付け替えてブタウサギにしちゃいました」
そう言う美子の左手の指には絆創膏が張られている。きっと針を刺したんだなと思うと、美子がいじらしかった。
「そうか…。いい子だっ」
廉に褒められて弾けるような笑みを浮かべた美子を、廉は思い切り抱きしめた。
寝息を立てる美子を抱き寄せてふとベッドの脇を見ると、小さなブタウサギが4匹仲良く並んでいる。
ベッドサイドのテーブルには大きなブタウサギが子供たちを見守るようにお座りしている。
美子との将来の姿を想像して、廉の口元が綻んだ。
(いつか俺達の所にも、小さな俺と小さな美子がやって来てくれるといいな)
そんな事を思いながら、廉も静かに目を閉じた。

121 :
以上です
最後無理やりブタウサギ出てきましたw
他の職人様ーーー、待ってまーす

122 :
>>121
GJです!
お預けくらった廉さんが露出多めの美子にモヤモヤさせられててかわいいw
ブタウサギ手作りしちゃう美子も健気でいいですね〜
以前は話書けてたんですが、最近妄想が浮かばない…
妄想の元になるような新しい何かないかな〜思いついたらがんばってみますw

123 :
ごめんなさい…ageてしまいました…気をつけます

124 :
>>121
GJ!
ま〜、美子ちゃんたらいつの間に焦らすことを覚えたんでしょうw
こんな無防備な姿をさらされたら廉さんも我慢できないよね
まったくけしからんwww

125 :
美男×NANA投下します
日常の1コマっぽいことをつらつらと書いてみたけど
エロまでたどり着けなかった…

126 :
仕事帰りにマンションの外から見えた部屋の明かり。
(あ…美男が来てる!)
恋人に会える喜びに胸を弾ませてエレベーターに乗り、自室へ急いだ。

「ただいま〜。来てたの?」
「ああ、今日は思ったより早くリハが終わったから」
2人掛けのソファに寝転がりながら退屈そうに雑誌を眺めていた美男。
肘掛けの上に行儀悪く伸ばしていた足を降ろし、身体を起こして伸びをする。
「遅くまでお疲れ。今日は何してたの?」
「雑誌の撮影。あと帰りにネイルサロンに行ってきたの。見て見て!可愛いでしょ?!」
1秒でも早く見せたくて、バッグを放り出すほどの勢いで美男のいるソファに向かい、足元に座った。
目の前に手の甲をパッと差し出し、どう?と小首を傾げてみせる。
つややかな薄いピンク色に彩られた爪には小さなラインストーンが散りばめられ、時折キラリと光を放つ。
形良く整えられた自慢の指先。
気に入ってくれるかな…とドキドキしながら返事を待った。
「へぇ〜、いいね。すごく可愛いよ」
「でしょう?!私も気に入ってるの!」
(うれしいな…。『すごく可愛いよ』だって…)
指先をもう一度眺めながら美男の褒め言葉を頭の中で繰り返すと、頬が勝手に緩んでくる。
しかしそんな幸せに浸っていたのも束の間。
「あ、いけない!着替えてくるからちょっと待ってて」
まだ自分がコートも脱がずにいることにふと気付き、あわててベッドルームに飛び込んだ。

127 :
ゆったりとした部屋着に着替え、2人分のハーブティーを淹れた。
リラックスできるよ、と柊に教えてもらってから、気に入って飲んでいるブレンドだ。
色違いのマグカップを美男に差し出し、隣に座る。
「帰るの遅くなってごめんね。待ちくたびれたでしょ?」
「大丈夫、そんなことないよ」
美男は熱いハーブティーを軽くすすり、一息ついてから話し始めた。
「でもNANAって仕事以外にもいろいろ忙しいよな。ネイルサロンにエステにヨガだろ?
家でもマッサージとかストレッチしたり、スキンケアとかも面倒くさそうだし…。
さっきその雑誌読みながら思ったけど、女の子って大変なんだな」
テーブルの上には、一冊の美容系雑誌。
俺には真似できねぇ、と美男が半ば呆れて肩をすくめる。
「そう?まあ確かに時間は取られるけど…。
でも、綺麗になるのってすっごく楽しいんだから」
「そういうものかな?」
「そういうもの。それにね、女の子は誰かのために綺麗になりたいって思うの」
「誰かのため…?」
「だって、その誰かにはいつでも可愛いって思ってて欲しいじゃない…」
すぐそばにいる『誰か』にちらっと目を向ける。
その視線は美男のまっすぐな眼差しと1ミリの狂いもなくぶつかった。
瞬間、心臓がドキンと跳ね上がる。
(やだ、どうしよう。顔が熱い…)
なんだか急に恥ずかしくなって、あわてて目を逸らした。
「ふーん、なるほどね。そういうことか…」
そわそわと落ち着かない私に目ざとく気付いた美男が、ニヤッと口角を上げた。

128 :
「じゃあ、NANAが綺麗になりたいって思うのはさ…?」
ワクワクした顔で目を輝かせて訊いてくる。
美男が期待している答えはただ1つ。
あまりにも分かりやすいその態度が、なんだかムカツク。
「そんなの決まってるじゃない…」
「うん、そうだよな」
「ファンのためよ」
「……は?」
くやしくて、素直に認められない。
悪い癖だと思ってるけど、どうしても直せない。
「だって私のことを可愛いとか、綺麗って言ってくれるファンがたくさんいるんだもん。
楽したり、手を抜いてみんなをがっかりさせたくない。
これでもアイドルなのよ。
どんな時でも自信を持って笑顔でいたいから、綺麗になろうって頑張るの」
ポカンと口を開ける美男を前に、ついムキになって言い訳を続けてしまう。
やっぱり止められない、私の悪い癖。
「俺のために、じゃないのかよ…」
いつもより低い声でぼそっと呟いた美男は私に背を向けて座り直し、再び雑誌をめくり始めた。
「…機嫌悪いのね」
「別に」
「悪いよ。声が怒ってる」
「んなことねーって」
「もう…」

129 :
私の方を向こうともしない美男。
(ファンに嫉妬してどうするのよ…。まったく、子供みたいなんだから!)
つまらない意地を張った自分の子供っぽさを棚に上げて、軽いため息を吐く。
でも…。
(こんなことで拗ねちゃうなんて、ちょっと可愛いかも…)
少しひねくれた美男の愛情と、軽い独占欲に気付いて胸がキュンとなる。
まだそっぽを向いたままの美男を振り向かせるにはどうしたらいいか、しばらく頭を巡らせた。
「ねぇ、美男」
「なんだよ…」
背中越しに耳元に口を寄せて囁くと、美男の左肩がぴくりと反応する。
「私が頑張って綺麗になるのはファンのためだけど…。
でも綺麗になった私をいつもベッドで独り占めしてるのは、どこの誰かなぁ、桜庭美男くん?」
「えっ?」
驚いた美男がくるっと振り向いた。
「それじゃ不満なの?」
「いや…」
ぷーっと頬を膨らませて詰め寄ると、不機嫌だった美男も勢いに押され、ついには軽く吹き出した。
「まいったな、返す言葉がない」
「ふふっ。よかった、機嫌直してくれて」
笑顔にほっと安心したところで美男の腕が背中に回り、優しく抱きしめられた。
「今夜も独り占めしてもいいかな、NANAのこと…」
耳元で響く美男の声に、こくんと頷く。
「でもその代わりに…」
「ん?」
「いっぱい言ってね、『綺麗』って」
「そんなの言われなくても口が勝手に動くさ」

飽きるほど聞かせてあげる。
そんな甘い囁きから始まる優しい口づけと、2人だけの長い夜。

130 :
以上です
職人さーーーん!お待ちしていますーーー!

131 :
キターーーーー!!!
素直じゃないNANAちゃんと意地っ張りの美男くん、カワユスw
そんな二人を見てるとこっちもヤキモキするよね
続きお待ちしてまーす

132 :
>>129
あまーい☆
ご馳走様、美味しく頂きました。
NANAちゃん、策士ですねー、美男君は掌で転がされてる感じw
NANA美男・廉美子のWデートもまたやって欲しいな。
NANAと廉さん、恋愛面の気苦労で意気投合しそうだよねw

133 :
>>129
GJ〜!
美男NANAかわいすぎるw
いちゃいちゃおうちデート、覗いてみたい〜見てるだけで癒されそうw
日常の1コマ良かったです!またお願いします!

134 :
投下します
廉美子エロ無し+美男です

135 :
「あ〜、疲れた。あれ?美子来てたの?」
合宿所のリビングに入って来た勇気が、美子に気付いて声を上げた。
「はい。お疲れ様です、勇気さん」
「廉さんならまだ事務所に残ってたけど」
「はい、聞いてます。少し遅くなるから合宿所で待ってるように言われたんです」
「そっかー。でも、きっともうすぐ帰って来るよ」
勇気の言葉に美子はニコッと微笑んだ。
「ただいま、美子。久しぶりだね」
「柊さん、お帰りなさい。今お茶入れますから、柊さんも勇気さんも座っててください」
美子がキッチンに立ちお茶の準備を始めると、遅れて入って来た美男がソファにどさっと腰かけた。
「あ〜、だり〜。美子ー、俺にもお茶ー」
美子はチラッと振り返り、美男を軽く睨みつけた。
そんな事には気付かない美男は、スマートフォンを取り出しメールのチェックを始める。
「はい、どうぞ。熱いから気を付けてくださいね」
美子はテーブルに柊と勇気の分のお茶を置いた。
「あれ?俺の分は?」
美男が顔を上げると、美子は不自然な笑顔のまま美男の腕を掴んで立ち上がった。
「痛ってぇ、何すんだよ?」
「いいから、ちょっと来て!」
怪訝な顔の美男を、美子は美男の部屋まで引きずって行った。
美男は部屋の中を見渡して目を丸くする。
「あれー、お前掃除してくれたの?すげー助かる、サンキュー」
いつもは散らかしっぱなしの美男の部屋は、きれいに整頓されすっきりと片付いていた。
しかし呑気に喜んでいる美男を後目に、美子は少し怒ったような顔をしている。
「お兄ちゃん、少しは片付けなきゃだめだよ。会社からお借りしてる部屋なんだから」
「はいはい、わかったわかった。今度からちゃんとやる」
適当な返事をする美男にイラついたのか、美子はため息をついた。
「それから…こっちの方が本題なんだけど…」
「ん?」
美子は微かに顔を赤らめてもじもじしている。
「なあに?美子ちゃん」
露骨にご機嫌取りの優しい言い方にムッとしたのか、美子はベッドの下からある物を取り出した。

136 :
「あっ!」
それは、所謂、エッチ系の雑誌やDVDの数々。
美男はダッシュでその上に覆いかぶさり、急いでベッドの下に押し込んだ。
「おまっ、お前っ、何してんだよ。人の物勝手に触んなっ」
真っ赤になって美子を叱るが、説得力は全くない。
「お兄ちゃん、こういう、い…いやらしい物は良くないと思うよ」
「いやらしいって、お前、中見たのかよ」
実は雑誌をペラッとめくって少し見てしまったのだが、美子は勢いよく首を横に振った。
「見てないけどっ、見てないけど、なんとなくわかるもん」
俯く美子の様子で、美男は真相を理解した。
「は〜、あのな、美子。確かにお前が嫌悪感を抱くのもわかるけど、男だったらこれ位普通だぞ」
「だって、お兄ちゃんにはNANAさんがいるのにっ」
「そうだけどさー。なんつったらいいのかなー。それとこれとは別って言うか…」
「ひどいっ、お兄ちゃん。不潔っ」
「不潔って…」
美男もさすがにムッとする。
「あのな、健康な男なら当たり前なのっ!誰でもこれくらい持ってんのっ!」
美男の迫力に一瞬たじろぐが、美子も負けじと言い返す。
「そんな事ないっ。廉さんは、こんなの持ってないもんっ!」
すると美男がニヤッと笑った。
「まあ、確かに廉は持ってないかもな、今は。でもな、廉だって健康な男子なんだから興味ないわけないだろ」
「今は」の所だけ強調して美男が言う。
「そんな、廉さんに限って…」
「お前な、少しは男の体を理解しろよ。女にはいつか子供を産むための体の仕組みがあるだろ?
それと同じように男には男の体の仕組みがあるんだよ」
「どんな仕組み?」
美子は真面目な顔で美男を見上げる。
「それは…。それは、廉に聞けよ」
美男は素早くドアを開けてリビングに向かった。
「お兄ちゃん、待って。教えてったら」
美男の後を追ってリビングまで走ると、ちょうど廉が帰って来たところだった。
「あ、廉。良かった。美子が聞きたい事があるってよ」
「もうっ、お兄ちゃんたらっ!」
廉も柊と勇気も何事かと美男を見る。
「廉ちゃん、美子ちゃんにちゃーんと教えてあげてね。んじゃ俺、約束あるから。じゃーね」
訳がわからずキョトンとする廉の肩をポンと叩いて、美男は出て行った。

137 :
「で?俺に聞きたい事って?」
自宅に戻った廉と美子は、寝る準備を終えて寝室に入った。
「それは…あの〜、なんて言うか…」
「何だよ?何でも答えるぞ」
「はい。あの〜…」
「何だよ、じれったいんだよ。早く言えっ」
廉はイライラして美子を急かした。
「はい。じゃあ言います。あの、男の人の体の仕組みって…何ですか?」
「はい?」
思いもよらない質問に面食らって、廉は素っ頓狂な声を出した。
「あの、お兄ちゃんが言うには、廉さんも男だから、その、エッチな本とか興味があるって言うんですけど…」
「はああ?」
廉の眉毛が吊り上る。
「ごめんなさいっ!今日お兄ちゃんの部屋を片付けてたら、あの、エッチな本とかDVDとかがあって…。
恋人がいても、それとこれは別だって。
それでその、健康な男の人だったら当たり前だって言われて、それで廉さんもそうなのかなって…」
美子は申し訳なさそうに廉を見上げた。
「はぁ〜…」
(あのヤロー、また下らない事を美子に吹き込みやがって)
廉は美男に対する怒りが沸々と湧いてきたが、とりあえず表情に出さないように我慢した。
「あのな、美子。美男はどうか知らないが、俺は違うぞ。そんな物に一切興味はない」
美子の顔がパッと明るくなった。
「本当ですか?」
「ああ、本当だ」
「じゃあ、今まで一度も見た事ないんですか?」
「う…」
廉は一瞬言い淀んだ。
「…見た事あるんですね、廉さんも」
美子がジト目で廉を見上げる。
「いやっ、それはっ、見たって言ってもチラッと見ただけだぞ、チラッと」
「もういいです」
そう言うと美子は布団をかぶって廉に背中を向けた。

138 :
なかなか寝付けない二人は、背中合わせになったまま何度もため息を漏らした。
廉はこれからどうしたもんかと、あれこれ考えている。
美子は美男の部屋で見てしまった雑誌の、グラマラスなモデルの写真を思い出していた。
(は〜、男の人ってやっぱりああいう女の人にそそられるのかな)
「廉さん…」
突然呼びかけられて、廉はビクッとした。
「何だ?」
「廉さんも、ああいうの見て興奮しますか?」
「は?」
「本当はああいう、む、胸の大きい人の方が好きですか?」
廉は急いで振り返り、美子の肩を掴んで自分に向かせた。
「あのなぁ、そんな下らない事聞くな」
「だって、私子供みたいな体だし、男の人ってやっぱりグラマーな人の方が、」
「怒るぞ。俺はお前が好きなんだから、それでいいだろ?」
美子は涙目で廉を見上げて訴えた。
「でも、もしも、私に変わって欲しい所があったら、言ってください」
廉は美子を叱りつけようとして口を開いたが、その瞬間何か閃いたようにニヤリと笑った。
「そこまで言うなら、俺も言わせてもらうが…」
「や、やっぱり、整形ですかっ?」
「は?何言ってんだ、お前。そうじゃなくて、俺が変わって欲しいと思うのは…」
美子がゴクリと固唾を飲んだ。
「お前からも誘って欲しい」
「へ?誘うって?」
「決まってんだろ?アレだ、アレ。いつも俺からだからな」
廉が美子の目を覗き込むと、美子は真っ赤になって俯いた。
「無理ですっ、そんな事」
「はあ?変わって欲しい所があったら言えって言ったのはお前だぞ。それから、」
「まだあるんですかっ?」
「勿論。どこをどういう風にしてほしいとか、ちゃんと言って欲しい」
「そんな…」
「まだあるぞ」
「えっ?」
「これはちょっとハードルが高いかもしれないが、ちゃんと目を見て愛し合いたい」
美子は目を大きく見開いたまま固まってしまった。
心の中で(無理です、無理です…)とループしているのが手に取るようにわかる。
廉は吹き出しそうになりながらも、真面目な顔で言った。
「以上が俺の希望だ。わかっていただけましたか、美・子・さん?」
「はい?あっ、いえっ、あのっ…」
「いいお返事でした。そうか、わかってくれたか」
満足げにうんうんと頷く廉に、美子は大慌てで否定する。
「違いますっ!今の『はい』は、そういう意味じゃなくてっ」
あたふたする美子を抱きしめて、その唇を塞ぐ。
「いいから、もう黙れ。今夜は俺から誘ってやる。そのかわり、次はお前が誘えよ。
あ、それから、男の体の仕組みなんて覚えなくていい。俺の体の仕組みだけ覚えとけ」
そう言うと美子の返事を待たずに、もう一度唇を重ねた。

139 :
翌日、上機嫌でスタジオに入った廉は、美男の姿を見つけると途端に顔をしかめた。
「おい、美男」
人指し指をクイクイッと曲げて、美男を呼びつける。
「なあに、廉」
「なあに、じゃねえんだよ。お前な、下らない事を美子に吹き込むな」
「あっ、てことは?美子ちゃんに教えてあげた?男の体の仕組みの事」
「ばっ、デカい声出すなっ」
振り返った柊と勇気の視線を気にして、廉が声を潜める。
「なんでー?いいじゃん、真面目なお話なんだからさ。で?」
「で?って?」
「だ・か・ら!美子ちゃんは理解できたのかな?男はみーんなエッチだって」
「お前はっ…。もういいっ!」
真っ赤になった廉は、ドカドカとスタジオを出て行く。
その姿を見送った勇気が「なになに?何の話?」と美男に近づいた。
「実はさ…」
美男は事の顛末を語り、柊と勇気はそれを聞いて苦笑いした。
「美男、あんまり廉をからかうなよ」
柊が軽く笑いながら美男をたしなめる。
「そうだよ。まーた廉さん機嫌悪くなっちゃったじゃん」
勇気はこれから始まるリハーサルでの廉の様子を心配して、美男を肘で小突いた。
「だーってさ、あの二人面白いんだもん。あとで美子に電話して、昨夜の事聞いちゃおーっと!」
ため息をこぼす二人をよそに、美男はウキウキとした様子でリハーサルの準備を始めたのだった。

140 :
以上です
なんか廉美子というより、やんちゃな美男の方が目立ってる気もする
お邪魔しました

141 :
>>140さん、
スーパーGJ!
ありがとうございます。すごい感激。
廉さんのセリフ
>「以上が俺の希望だ。わかっていただけましたか、美・子・さん?」
美・子・さん、これはやや棒でいいんでしょうか。
可愛くて萌えぬw
美男、絶好調ですね、廉・美子を翻弄してる。
もしお時間あったら、この話を聞きつけた、NANAたんにエロビデオのことで
問い詰められてお灸据えられて欲しいw 

142 :
>>140
GJです!
えらいぞ、よくやった美男!やっぱりこれくらいのことはしてくれないとねw
翌日上機嫌だったんだから、廉さんは美男に感謝すべきだと思うよ〜
「美・子・さん?」は自分も棒なアレで受信しましたww

143 :
140です
GJありがとうございます
141さんの>この話を聞きつけた、NANAたんにエロビデオのことで
問い詰められてお灸据えられて欲しいw
というので「おお、面白いw」と思い書いてみました
お灸を据えられたかどうか微妙ですが、投下します

144 :
今日は休日。
美男は前日の夜からNANAの部屋に入り浸り、甘いひと時を過ごしていた。
昼近くまでベッドの中でゴロゴロして、お腹が空いたというNANAのためにブランチを準備中。
「NANA、サラダのドレッシングはどれにする?」
ピンクのエプロンを付けた美男がキッチンから顔を覗かせた。
「うーん、最近少し太っちゃったからノンカロリーの和風ドレッシングがいいな」
「オッケー!」
ニコニコ顔でキッチンに戻る美男があまりに可愛くて、NANAの口元に微笑が浮かぶ。
(ふふっ。A.N.JELLの美男をこき使ったりしたら、ファンの子に怒られるかしら。
でも、美男ったら私に何もさせてくれないんだもの)
NANAは美男に愛されているんだなぁと、くすぐったい気持になる。
基本美男は、NANAのいう事は何でも聞く。
会いたいと言えば都合の付く限り、何時でもやって来るし、どこかに出掛けてもいつでもNANA優先。
NANAはどこに行きたい?
NANAは何が食べたい?
NANAはどれが欲しい?
いつでもNANA、NANA、NANA。
そんな美男の様子を見ているメンバーは、彼の事を「忠犬美男」と呼ぶ。
テレビ局やスタジオでたまたまA.N.JELLとNANAが遭遇すると、喜び勇んでNANAの元に駆け寄る美男。
「あいつの尻にはパタパタ振ってる尻尾が見えるようだぜ」
廉はそう言って美男を笑う。

145 :
ブランチが済んで食後のお茶を飲んでいると、NANAの携帯が鳴った。
「美子からだわ。もしもし、美子?」
NANAは美男をほったらかして美子とお喋りを始めた。
(ちぇっ、美子の奴。二人きりの貴重な時間に電話なんかして)
しょうがないので美男はその辺にあったファッション雑誌をめくり始める。
「えー、そんな事あったの?うふふっ、その時の廉の顔が見たかったわ」
(何の話してんだろ?早く電話切らないかな)
雑誌に視線を落としながら、美男はNANAの声に耳をそばだてる。
「えっ。それ本当?」
NANAの声のトーンが微妙に変わった。
美男はちらりとNANAを見たが、彼女はそれに気付くと美男に背を向けて声を潜めた。
「うん、うん、わかった。教えてくれてありがとう。じゃあ、またね」
ようやく美子との通話が終わり、NANAは美男の隣に座り直して寄りかかってきた。
「美子、何だって?」
「ううん、別に。ただの世間話よ」
そう言ってNANAは美男が見ていた雑誌を手に取った。
「あ、この人知ってる?ハリウッドスターのジョージ・クルーニー」
NANAが示したページを見ると、アメリカの有名俳優がビシッとスーツを着こなしてポーズしていた。
「うん。名前くらいは知ってる」
「素敵よねー、ジョージって。大人の男って感じで」
「う、うん…」
「アメリカのアンケートでは『抱かれたい男1』なんですって!」
「へ、へぇ…そうなんだ」
「もしジョージに誘われたら、あたしも付いて行っちゃうかも。きゃー」
NANAは両頬を押さえて顔を赤らめた。
「NANAっ」
美男は慌ててNANAの両肩を掴んだ。
「なあに?痛いよ、美男」
「あ、ごめん。でも、付いて行ったりしないよね、ホントは」
「えー?どうかな?」
「だってNANAには俺がいるでしょ?」
美男は必に自分の存在をアピールする。
「美男ったら何真剣になってるの?ただのスターの話じゃない。恋人がいてもそれとこれは別なんでしょ?」
「えっ?」
なんだか嫌な予感がした。
「あのさ、さっき美子と何話してたの?」
「何って、ただの世間話よ。さっきそう言ったじゃない」
NANAは美男から視線を逸らしてそう言った。
(違う。きっとあの事だ。美子のやつ〜。NANAに何て事言うんだよ)
美男の脳裏では美子がペロリと舌を出して、GJポーズをとった。

146 :
美男は立ち上がるとNANAの手を掴んで寝室まで引っ張って行った。
有無を言わさずベッドに押し倒し、がむしゃらに唇を重ねる。
「待ってよ…美男。一体どうしたの?」
NANAは美男の唇をかわして、美男に問いただした。
「絶対誰にも渡さない。NANAは俺だけのNANAだ。よそ見するなんて許さないから」
いつもと違って強引に事を進める美男に、NANAは微笑みかけた。
「ねえ、美男。これからどうするの?」
「決まってるだろ?NANAに…」
「教えてくれるの?男の体の仕組みを」
美男の動きが止まった。
顔を上げてNANAを見ると、微笑の中でキラリとNANAの目が光った。
「あ、えーっと、あの…」
美男はベッドの上で正座して、しょぼんとした目でNANAを見た。
「あの、あのね、NANA。違うんだ。何て言うか…その…」
忠犬美男は尻尾を丸めて耳が垂れている状態だ。
恥ずかしさとNANAへの申し訳なさと、少しだけ美子への恨みがこもった視線をNANAに向ける。
「ぷっ!あはははっ!可笑しい、美男」
突然笑い出したNANAに唖然として、美男はポカンと口を開けている。
「ごめんね。ちょっとやりすぎちゃったかな?」
何が何だか訳がわからずNANAを見つめる美男を、NANAが抱きしめる。
「大丈夫だよ、美男。あたしは美子ほど潔癖じゃないから、男の人のそういう事は少しは理解してるつもり」
「へ?」
間の抜けた美男の声に、NANAがもう一度吹き出した。
「でもね、女の子の正直な気持ちとしては、やっぱり少し嫌かな」
「NANA…」
「毎日会えるわけじゃないから、美男がそういう物で発散するのも頭ではわかるけど。
でも、出来れば…あの、何て言うか…あたしでして欲しいな、なんて…」
「えええっ!」
NANAの言ってることがすぐには理解出来なかった。
(あたしでして欲しいって?する?何を?……えっ?まさかの…?)
美男の頭の中はスーパーコンピューター並みに回転し始めた。
グルグルと考え続け、脳がショートしそうになった美男は恐る恐るNANAに尋ねる。
「あの…さ。今のってどういう意味?」
顔を真っ赤にしたNANAは口を開きかけるが、やっぱり恥ずかしくて言えないらしい。
「……、知らないっ!美男のバカっ!」
そう言ってNANAは布団をかぶってしまった。

147 :
美男は布団をめくってNANAを抱きしめる。
「NANA、ごめんね。恥ずかしい事言わせちゃって」
NANAの両頬にキスしながら美男が囁く。
そして手のひらで頬を包んでNANAの目を真っ直ぐに見た。
「あのさ、本当に好きな子でそういう事するのって、なんか、悪い事してる気になるんだ。
NANAを汚しちゃうような気がして。
でもさ、恋人じゃない女の子で、そういう事するのもおかしな話だよね。俺、全部処分するよ」
NANAの髪を撫でながら美男は優しく言った。
「本当に?無理しなくていいのよ?」
「無理じゃないよ。だって俺が好きなのはNANAだけだもん。キスしたいのも、抱きたいのもNANAだけ」
ちゅっ、ちゅっと小さなキスを重ねながら囁くと、NANAはうっとりと目を細めた。
「嬉しい、美男。あたしも本当は、美男だけだよ」
「知ってる」
二人はふふっと笑い合った。
NANAはブラウスのボタンを外して、真っ白な体を見せつけた。
「美男。あたしを見て。あたしの姿を目に焼き付けて」
続けてブラを外して二つの豊かなふくらみを露わにした。
「NANA…きれいだ」
「会えない時は、この姿を思い出してね」
潤んだ瞳で美男を見上げるその姿に、理性が吹き飛んでいく。
美男はNANAを強く抱きしめ、二人はもう一度甘い世界に入って行った。

148 :
合宿所に戻った美男は、自分の部屋を見渡した。
「うんっ!」と頷くと、ベッドの下から問題の雑誌とDVDを取り出して段ボール箱に詰め始める。
ずっしりと重くなった段ボール箱を抱えて、2階に上がると勇気の部屋をノックした。
「なーに?美男」
顔を覗かせた勇気に「よいしょ」っと声を掛け、箱を押し付ける。
「これ勇気にやるよ。大事にしろよー、お宝揃いだからな」
「えっ、えっ、何これ?」
「今夜は勇気君のお楽しみタイムを邪魔しないように、静かにしてるからさ」
美男は軽くウインクすると、意気揚々と階下に戻って行った。
「お楽しみタイム?なーに言ってんだか」
勇気は段ボール箱を開けて、一番上に乗っていたDVDを取り出した。
「なになに?『ハレンチ学園!あの娘とドッキリ!!』
って!何これーーー!!!」
廊下で絶叫する勇気の声で、隣の柊が顔を覗かせた。
「どうした、勇気?」
「あっ、柊さん!美男からこれ貰ったんだけど、良かったら柊さんも持ってく?」
柊は箱の中身をチラッと見て(ああ、なるほど)と納得すると、ニコッと笑って勇気の頭をくしゃくしゃ撫でた。
「俺は遠慮しとくよ。せっかくの美男からのプレゼントなんだから、有り難く貰っておけ」
そう言うと柊は笑いを噛みして、部屋に戻って行った。
「そんな〜、柊さ〜ん」
とかなんとか言いつつも、その日勇気の部屋からは遅くまで灯りが漏れていたらしい。
時折「おお〜」とか、「すげぇ…」と漏れる勇気の声。
階下の美男は「うんうん。勇気、頑張れ〜」と寝言を言いながらNANAとのラブラブな夢を見ていたのだった。

149 :
以上です
忠犬…いいんでしょうか
もし気を悪くされたらごめんなさい
お邪魔しました

150 :
連投スマソ
IDがorzみたいだったから…それだけ

151 :
>>149
素晴らしいタイトル<忠犬美男 
(・∀・)
ナナの男前ぶりにやられました。
美男は掌で転がされてるぽいw
ゆうきくん、プレゼント貰えてよかったねー。

152 :
>>149
GJ!
続きが読めてうれしい〜
NANAがステキですね〜惚れましたw
大量にもらった勇気より、チラッと見て遠慮した柊さんが気になります…
もっとすごいの持ってるとか…もっとすごいことしてるとか…
>>140
「次はお前が誘えよ。」って言ったけど
(無理です、無理です…)な美子がどうしても次を誘えなくて
結局お預け状態の廉さん…にならないか心配していますww

153 :
>>149
GJ!!! NANA恰好よすぎ、いい大人の女ですな。
柊さん、我慢して見栄はって、AV貰わなかったけど、本当は本当は欲しかったのでは?!
あとから、勇気の棚からこっそり拝借する気満々と思うw

154 :
柊さん(今時AVとかwwネットでいくらでもダウンロードできるのに…)
こうだろう

155 :
うふ〜ん

156 :
>>154
そんな柊さんちょっと嫌だけど、超リアルに想像できたwww

157 :
こんばんは
暮れも押し詰まってきましたが、投下させてください
廉×美男兄です
ちょっと長いですが、お付き合いいただけると嬉しいです

158 :
深夜、自室で新曲の構想を練っている廉。
ふと時計を見ると、もう1時を回っている。
「もうこんな時間か…」
軽く伸びをし、キッチンへと向かう。
冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、一口飲んだ所で微かな歌声に気付いた。
リビングの掃き出し窓から外を覗くと、芝生の上に座り込んだ美男がいた。
When you wish upon a star
Make no difference who you are
Anything your heart desires
Will come to you
小さな声で「星に願いを」を歌っているのが聞こえる。
美子にそっくりな声。
軽くビブラートをきかせた、美しいボーイソプラノ。
「風邪ひくぞ」
廉が声を掛けると、ビクッと肩を震わせた美男が振り向いた。
一瞬だけ廉の目を見て、すぐに俯く美男。
「眠れないのか?」
「…別に」
廉の問いに無愛想に一言だけ返し、
美男はそのまま廉の横をすり抜けて部屋に戻って行った。
「はぁ…」
廉は思わずため息をこぼした。
美子がアフリカに旅立ってから2週間。
美男は一向に廉に打ち解けてくれなかった。
あのセンセーショナルなライブでの告白後、マスコミへの対応に追われてゆっくり話す時間もなかった。
柊や勇気とはそれなりに仲良くしているのを見ると、人見知りなわけでもないらしい。
「やっぱり俺の母親の事で怒ってるんだろうな…」
折を見て美男と話がしたかったが、はっきりと避けられているのを感じる。
廉は夜空を見上げて、自分には見えない星の輝きに目を凝らした。
「美子、俺…どうしたらいいんだ?」

159 :
「美男っ、この後何もないだろ?一緒に遊びに行こうぜ!」
勇気に誘われて、美男の瞳が輝いた。
「うんっ!行くっ!柊も行くよね?」
「いいよ。どこ行こうか?」
三人でわいわい話していると、廉がやって来た。
「なんだ、楽しそうだな。遊びの相談か?」
廉が会話に加わると、美男の顔から笑みが消えた。
「廉さんも行く?ご飯食べてから、どっか行こうかって話してたんだけど…」
勇気の言葉を聞いて、美男が俯き表情がみるみる曇っていくのがわかった。
「俺、やっぱ行かない」
ぼそりと美男が呟いた。
「え、どうして…」
勇気が怪訝な顔で言い、柊と顔を見合わせる。
廉と美男の間の微妙な空気に、勇気と柊が戸惑っている。
廉は取り繕うように急いで言った。
「あ…いや、俺はまだ仕事があるから、皆で行ってこい」
「そ、そっか、じゃあ行って来るね。ほら、美男行こうぜ」
勇気に続いて美男が部屋を出て行った。
最後になった柊が何か言いたげに口を開いたが、結局そのまま何も言わずに二人の後を追った。
さすがに心が折れそうだった。
愛する美子の双子の兄、美男にここまで嫌われているとは。
覚悟はしていたつもりだが、柊達の前で露骨に態度に出されると廉と言えども心穏やかでいられなかった。
(でも、美子だって最初から納得できたわけじゃない。時間はあるんだ。
急がずにゆっくり距離を縮めて行こう。美男もいつかはわかってくれる)

160 :
事務所近くのレストランでたらふく食べた三人は、渋谷のクラブに繰り出した。
勇気の行きつけのクラブには顔馴染みの客が何人もいて、次々に声を掛けてくる。
「勇気、久しぶりじゃん。あれ?そっちの彼は噂の新人君?」
「そうそう、うちのニューフェイスの美男。どうだ、可愛いだろ」
友達に紹介された美男は、恥ずかしそうに挨拶をした。
「あ、あの、桜庭美男です。こんばんは」
「こんばんは、だってーっ!初々しー!可愛い後輩が出来たな、勇気」
「まあね。新生A.N.JELLをよろしくってことで!」
フロアに出て踊りだした勇気を置いて、柊と美男はVIPルームに落ち着いた。
美男はストローでコーラを飲みながら、店内をきょろきょろと眺めている。
「美男はこういう所は初めてか?」
「えっ、あ、うん。俺、施設を出てから一人暮らしだったから、バイトばっかしてて遊ぶ余裕なんてなかったもん」
「そうか。美男も踊ってくればいいのに」
「恥ずかしいよ。俺、踊れないし」
美男は照れくさそうに答えて、また店内に目を向ける。
ガラス窓の向こう側を最新ファッションに身を包んだ女の子達が通る。
彼女達を見て「かわいー…」と呟く美男に柊が吹き出した。
「やっぱり、男なんだな、美男は」
美男が柊をチラッと見て、グラスをテーブルに置いた。
「当たり前だろ。顔は美子とそっくりだけど、ちゃんと男だぞ」
「ごめん。そういう意味じゃないけど…。でも、廉も大変だろうな、こんなに美子そっくりな美男がそばにいたら」
「…………」
廉の話題が出た途端、美男は俯いて黙り込んでしまった。
「美男は廉と美子の事、反対なのか?」
「別に…俺は関係ないし…」
「なあ、美男。前から気になってたんだけど、廉の事、嫌いなのか?」
「嫌いだ」
即答されて、柊は面食らう。
「どうして?」
「言いたくない」
「そうか…。じゃ無理には聞かないよ。廉は確かに誤解されやすいけど、本当はすごくいい奴だ。
俺が色々言うより、付き合っていくうちに美男もきっとわかるよ。
だけど一つだけ言わせてくれ。
どうして廉を嫌ってるのか知らないけど、その理由は廉が悪いからなのか?
もしそうじゃないなら、廉の事、曇りのない目で見てやってくれないか?」
優しい眼差しで見つめられて、美男は思わず柊から目を逸らしてしまった。
横を向いたまま「…わかったよ」と小さな声で呟くと、柊はニッコリ笑って、美男の頭をくしゃっと撫でた。

161 :
数日後、テレビ局の廊下をメンバー全員で歩いていると、向こうからディレクターがやって来た。
「よおーエンジェルさん、最近調子どうよ?今日もよろしく頼むよ」
みんな口々に挨拶する中、美男がペコッと頭を下げた。
「あ、初めまして、美男です。今日はよろしくお願いします」
「え?初めましてって…前に番組に出てもらったじゃない?」
一瞬、空気が固まった。
「いや、あの、こいつ加入してからハードスケジュールだったから、あまり覚えてないみたいなんですよ。
な、美男?」
廉が美男の頭をぐしゃぐしゃっと撫でながら、言い訳をした。
「は、はい。すみません」
「なんだ、そっかー。でも忙しいのはいいことだよ。ま、今日もよろしくね」
そう言ってディレクターは去って行った。
控室に入った途端、全員はーっとため息をつく。
「危ないとこだったね。廉さん、ナイスフォロー!」
すると美男が廉の前に歩み出た。
「あの…リーダー、すみませんでした」
「ぷぷっ!美男、リーダーって…。名前で呼べばいいじゃん」
廉も顔をしかめて美男を見つめている。
「えと、じゃあ、桂木さん…」
「それも他人行儀すぎるんじゃないか?」
柊も呆れた顔で見ている。
「それじゃ、廉…さん?」
瞬時に廉の顔が赤くなる。
「その呼び方はやめろ。さん、は付けなくていい」
美子と同じ顔で「廉さん」と呼ばれると、ムズムズするというか、照れるというか、なんか落ち着かない。
「いいなー、美男。廉さんから呼び捨ての許可が出たよ。俺も呼び捨てしちゃおっかなー」
「お前は10年早い」
勇気と廉のボケツッコミのようなやり取りで、その場の空気が和んだ。
皆と一緒になって笑う美男の顔を見て、廉も安堵のため息をついた。

162 :
名前で呼ぶようになって、二人の距離は少しだけ縮まった。
仕事の場では遠慮なく言い合ったり、誰かの冗談で笑い合ったりと打ち解けてきたのがわかる。
そんなある日、美男の加入から半年ほどたった頃だった。
郊外にある父拓海の墓にお参りに行った美男は、墓前にいる人物に気付いて身を隠した。
その人物は、お墓に花を供え、線香に火を点けると、長い間手を合わせていた。
(どうして廉がここに…?)
美男が見ているのにも気付かず、廉は墓石を見つめて話しかけている。
何を言っているのかまではわからないが、真摯な気持ちで向き合っているのは美男にもわかった。
廉が立ち上がり、一礼して振り返った。
とっさに木の陰に隠れた美男は、遠ざかっていく廉の後ろ姿を見送った。
廉が立ち去った後、美男は拓海の墓の前に立った。
拓海の墓はきれいに拭き清められ、美しい白百合の花が供えてあった。
美男はその前に屈みこんで父に話しかけた。
「父さん。俺、廉が悪くない事はわかってるんだ。でも、どうしても胸のつかえが取れないんだよ。
父さんは許したの?俺、どうすればいいと思う?」
墓の前で美男は、いくら考えても出ない答えを求めるように父に問いかけた。
するとその時、供えられた白い百合の花が、風に吹かれてふわりと揺れた。
美子から久しぶりにエアメールが届いた。
大きめの封筒の中に、メンバー全員分の小さな封筒が入っていて、それぞれに手渡される。
「やったーーー!久しぶりだよね、美子からの手紙。ちょー嬉しいよ!」
「お前、それ後で俺にも見せろよ」
手渡した廉が勇気に言うと、「じゃあ、廉さん宛のも俺に見せてよね」と、勇気。
「ばっ、見せられる訳ないだろっ」
真っ赤になった廉が反論する。
「じゃあ、俺のも見ーせない、っと」
嬉しそうに封を切る勇気を横目に、廉が舌打ちをする。
「ったく。…これは柊宛、美男、これはお前に」
「サンキュ、廉」
柊も嬉しそうだ。
美男は手紙を取り出し静かに読んでいたが、少しするとリビングを出て自室に行ってしまった。

163 :
「お兄ちゃん、お元気ですか?
お兄ちゃんがA.N.JELLに合流して、半年以上経ちましたね。
お兄ちゃんのことだから、皆さんに迷惑をかけているんじゃないかと少し心配しています。
皆さんとてもいい人だから、困ったことがあったらきっと助けてくれるよ。
私も失敗ばかりだったけど、そんな時はいつも柊さんが励ましてくれました。
それから落ち込んだ時は、勇気さんが遊びに連れて行ってくれました。
そんな柊さんや勇気さんのおかげで、私もお兄ちゃんの代わりを務めた3ヶ月間頑張ることが出来たんだよ。
歌手になりたいというお兄ちゃんの夢が、A.N.JELLという最高のバンドで叶ったことが本当に嬉しいです。
これからも周りの人達への感謝の心を忘れず、一生懸命頑張ってね。
それから廉さんの事です…」
美男は最後まで手紙を読んで、顔を覆って泣きじゃくった。
その日の夜、全員自室に引き上げた深夜、廉の部屋にノックの音が響いた。
「誰だ?」
立ち上がってドアを開けると、美男が俯いて立っていた。
「どうした?」
怪訝な顔の廉に、美男は何も言わずに美子からの手紙を差し出した。
「何だ?お前宛の手紙だろ、これ」
美男は無言で廉の手にグイグイと手紙を押し付け、そのまま部屋に戻ってしまった。
廉はドアを閉めると、「お兄ちゃんへ」と書かれた封筒を見つめる。
「俺に読めって事か、美男?」
しばらく躊躇っていた廉だが、大きな深呼吸を一つして手紙を読み始めた。

164 :
「それから廉さんの事です。
お兄ちゃん。
私達の両親が別れた理由を聞いて、水沢さんの事恨んでいるでしょうね。
私もそうでした。
廉さんの事が大好きだけど、どうしても水沢さんの事が許せなかった。
でもね、お兄ちゃん。
お父さんとお母さんが別れてしまったのは水沢さんだけのせいなのかな。
私も事実を知った時、あまりにも辛くてお母さんと同じ決断をしました。
廉さんと別れることにしたんです。
もしも廉さんと結ばれたら、お父さんやお母さんの事を裏切ってしまうような気がしたから。
だけど廉さんと別れた後、辛くて悲しくて毎日泣いてばかりいました。
その後、お兄ちゃんも知ってるように、廉さんが私に告白してくれました。
その時思ったの。
お父さんもお母さんも、お互い誤解したまま別れてしまったんだって。
お母さんはお父さんと水沢さんの仲を誤解し、お父さんはお母さんが許してくれないと誤解した。
本当はお父さんを許していたのに、本当はお母さんに会いたかったのに。
二人共勇気が出せなくて、永遠にお互いを失ってしまった。
廉さんが大勢のファンの皆さんの前で、勇気を出して私に告白してくれた時、わかったの。
愛する人を失いたくなかったら、正直にならなきゃいけないって。
もしもあのまま廉さんを失っていたら、私もお母さんと同じ道を歩んでいたと思います。
愛しているのに、本当はそばにいたいのに、勇気を出せなかった自分を一生悔やんだと思う。
お兄ちゃん、どうか水沢さんを許してあげてください。
これは水沢さんの為でも、廉さんの為でもなく、お兄ちゃんの為に言います。
人を憎みながら生きていくことは、とても苦しい事だから。
お兄ちゃん。
廉さんって優しい人でしょ。
半年もそばにいたら、きっとお兄ちゃんもわかっているよね。
廉さんがどんなにいい人かって。
水沢さんの事で、もしも廉さんの事まで恨んでいるなら、それは違うと思うよ。
廉さんも大人の事情に振り回されて、寂しく生きてきた人です。
私にはお兄ちゃんが、お兄ちゃんには私がいました。
施設の院長様も、私達の事を本当の子供のように可愛がってくれました。
でも、廉さんは一人でした。
もしかしたら私達より孤独な人生だったかもしれません。
お兄ちゃん、私思うの。
私達3人は、きっと誰よりも理解し合えるはずだって。
だって、同じような寂しさを味わってきた3人だから。
私はいつか3人で、心から笑い合える日が来ることを願っています。
それでは、体に気を付けて、お仕事頑張って下さい。
遠いアフリカから、お兄ちゃんとA.N.JELLの活躍と、皆さんの健康を祈ってます。
                                              美子」
美子からの長い手紙を読み終えて、廉は奥歯を噛みしめ顔を上に向けた。
そうしていないと、今にも涙が零れ落ちそうだった。
「美子…ありがとな。…本当に…ありがとう」
廉は折りたたんだ手紙を胸に抱きしめて、堪えきれずに嗚咽を漏らした。

165 :
翌日美男は相変わらず廉に対してそっけない態度をとっていた。
でもそれは、以前のように露骨に無視するというより、どんな顔をしていいのかわからず照れているようにも見える。
二人の間の空気が、微妙に和らいだのを感じた柊は、仕事の後みんなに提案した。
「明日全員休みだし、今夜は思いっきり飲まないか?」
柊の提案に勇気は大乗りで答える。
「いいね、柊さん。最近美男も仕事に慣れてきたみたいだし、ここらでひとつ、親睦会といきますか!」
廉も美男も異存はなく、みんなでわいわい言いながら準備を始めた。
少し酔った廉がキッチンに向かうと、芝生の上で座り込んでいる美男に気付いた。
いつかのように小さな声で「星に願いを」を歌っている。
廉は静かに美男の隣に座った。
美男はちらりと廉を見たが、そのまま歌い続ける。
目を閉じて聞いていると、まるで美子が歌っているのかと思うほど二人の声は似ていた。
歌が終わっても二人はじっとそのまま夜空を見上げていた。
「廉って、暗いと見えないんだろ?」
沈黙を破って美男が尋ねる。
「ああ。美子に聞いたのか?」
「うん」
手元の芝生をむしりながら美男が答える。
「さっきの歌さ、小さい頃よく父さんが歌ってくれたんだ。美子と俺と3人で星を見ながらいつも歌ってた」
「そうか。あ、あの、美男…」
「廉。こないだの手紙読んでどう思った?」
いきなり話が核心に迫って廉は緊張した。
「…感謝した。
俺の母親のせいでお前達の両親は引き裂かれたのに、美子がああいう風に思ってくれてるなんて考えもしなかった」
「そっか…」
それきり黙り込んだ美男の横顔は、不思議と穏やかだった。
「美男。俺からも謝らせてくれ。
本当にすまなかった。謝って済むことじゃないのはわかってる。でも…でも、」
「もういいよ、廉」
廉は驚いて顔を上げた。
「廉だって子供だったんだし、そんな事知るわけないもんな」
「だけど、俺は…いわばお前達の親の仇の息子だぞ」
「ぷっ!仇って、時代劇かよ」
今まで見たこともないほど、心を開いて砕けた様子の美男がいた。
廉は美男の変化に戸惑いを覚えて、その横顔を見つめる。
「俺、もう止めたんだ。いつまでも憎んでてもしょうがない。
俺達の両親も、俺達も、廉も、廉のお袋さんも、誰一人として幸せじゃなかった。
そんなのって余りにも不毛だろ。美子はそれに気付いた。どうしてだと思う?」
「え?」
「廉と出会って人を愛する事を知ったからだよ。
人の心には憎しみとか、妬みとか、嫌な感情も沢山あるけど、美子はそういう物を全部廉への愛に昇華してる。
自分の妹だけど、すげえなって思うよ」
「美男…」
「廉はさっき、自分は仇の息子だって言ったけど、美子にそういう事を気付かせてくれた恩人でもある。
だからさ、だから…もう止めようぜ。親の間であった事で、子供達まで不幸になることない。
俺達は未来を生きるんだからさ」
「美男…」
見つめ合った二人の目には、うっすらと涙が滲んでいる。
すると美男はニッと笑って右手を差し出した。
「本当ならここで感動の抱擁といきたいとこだけど、男同士だとキモイんで握手って事で!」
「お前…」
美男の変わり様に唖然とした廉だったが、思わず苦笑して美男の手を握った。
「これでこの話はおしまいだ。いいだろ?廉」
「ああ。美男、ありがとな」
二人は固い握手を交わして微笑みあうと、またリビングに戻って行った。

166 :
真夜中まで飲んだエンジェル達は、すっかり酔いつぶれてソファに寝そべっている。
だらしない事が嫌いな廉も、今夜だけは皆と一緒にうたた寝していた。
早朝、ぼんやりと意識が戻った廉が、ソファの上で寝返りを打つと、目の前に愛しい人の顔があった。
「美子…帰って来てたのか?たく、お前は…連絡くらいしろ…」
そう言ってその人を抱きしめる。
懐かしいその感触。
廉は優しく抱きしめて、その人に頬ずりをした。
「………あの、違うんだけど…」
「何が?」
廉の腕の中のその人は、体を強張らせた。
「だから、俺、美男だけど…」
しばらく沈黙が続いた。
朦朧としていた廉の意識が、覚醒し始める。
目を開けて自分が抱きしめているその人を確認する。
「!!!えっ?なっ、何でお前が!!!離れろっ!!!」
美男を抱きしめていたことに気付いた廉は、驚きのあまりソファから転げ落ちた。
「痛てーっ!お、お前っ!何でっ!!!」
「何でって、抱きしめてきたのはそっちだし…」
「しーっ!デカい声出すな!つうか、紛らわしいんだよっ、美子と同じ顔しやがって!」
「は?双子なんだから当たり前じゃん。あー、やだやだ、きもーい」
廉は顔を真っ赤にして、美男の変わりように目を白黒させた。
「ぷっ」
「クククククッ」
テーブルの向こう側から小さな笑い声が聞こえて、廉が目を向ける。
と、柊と勇気がこちらを見て笑っていた。
「お、お前らっ、見てたのかっ?」
「は〜い、バッチリ見ちゃいましたよ。ねー、柊さん」
「うん。丁度起きたとこだったし。それ以上進むようだったら、止めなきゃと思って」
「柊っ!やめろっ、それ以上進むって何だ!」
「それは…やっぱり、キスとか?」
「キッ!!ば、バカ言うな!!」
「おえー、柊勘弁して。想像しただけで鳥肌立つ〜」
大げさに体をブルブル震わせる美男に、廉が噛みついた。
「はっ?誰がお前なんかにっ!つうか、何だよその態度!今までネコかぶってやがったなっ!!」
「廉さん、廉さん。美男は最初からこんなんだよ。廉さんが知らなかっただけ。
それよりさ〜、この事美子に教えてやらなきゃ。いや〜美子、驚くだろうなあ」
「勇気!!!」
合宿所中を逃げ回る勇気を、真っ赤になった廉が追いかけ回す。
柊と美男はその様子を見て、お腹を抱えて笑い転げた。

167 :
それからしばらくして、遠いアフリカにいる美子の元に一つの小包が届いた。
「皆、元気にしてるかな?」
ドキドキしながら小包を開くと、廉の写真とメンバー全員で撮った写真、そしてそれぞれからの手紙が入っていた。
勇気からの手紙には、例の件は書かれていなかった。
「あの事書いたらどうなるか、わかってるんだろうな?」
と廉に釘を刺されて、「プライバシーの侵害だー、検閲反対!!」と抵抗した勇気だったが、
結局は折れて、その事には触れない事にした。
が、柊の手紙にちゃっかりと詳細が記されていた。
廉から何も言われなかったのをいい事に、寝ぼけた廉が美男を抱きしめた事、それを切っ掛けにして廉と美男が
急速に仲良くなった事が書かれていて、美子は思わず微笑んだ。
「廉さんたら…ふふっ。でも、よかった」
美子は真っ青なアフリカの空を見上げて、日本にいる懐かしい人達に思いを馳せた。
「おい、そろそろ音合わせ始めるぞ」
リハーサル室に廉の声が響く。
「おうっ」
美男が元気に返事をする。
柊と勇気がクスクス笑い、廉も軽く苦笑いした。
「お前、返事はいいんだけどな。本番で間違うなよ、美男」
「わかってるって。任せとけ、廉」
美男は思い切り背伸びして、ポンポンと胸を叩いた。
時々ミスもするけど、確かに最近美男は調子よさそうだ。なにより、演奏を楽しんでいるのがわかる。
廉と美男のわだかまりが解けて、A.N.JELLはますますその絆が強まった。
ギターを弾きながらふと振り返って美男を見ると、美男がニコッと笑いかけてくる。
廉は心の中で美子に話しかける。
(美子。俺達元気でやってるぞ。柊と勇気もあいかわらずだ。
それから…美男とも打ち解けられた。全部お前のおかげだ、ありがとな。
きっとこれからも美男と仲良くやって行けると思う。
ただあいつのやんちゃな性格には、少し不安があるけどな)
廉はクスッと笑って、エンディングを合わせるためにメンバー1人1人と目を合わせた。
柊が、勇気が、そして美男が最後の一音を合わせようと廉を見た。
廉がジャンプした。そして…
ジャジャーーーーン、ジャン!!!
廉の着地と同時にエンディングが決まった。

168 :
以上です
最近投下が少なってきましたけど、来年も細々と続けていきたいな〜なんて思ってます
それでは皆さん良いお年を!

169 :
>>169
年末素敵投下ありがとうございます。
廉さん、素敵なお兄さん、あれ、義弟ですね。
美男との禁断のツーショットもよかった。
柊さんも勇気君もいい役まわりで、感動の年越しになりました。大感謝です。
あれから1年半って信じられない。
いまだに美男ですねより好きなラブストはないですわ。

170 :
>>168
GJです!
絶対あの2年の間にこんな経緯あったと思う!
実際はほんの少ししか登場してないけど、美男の性格も廉さんとの葛藤もリアルに想像できる…
そして美子と間違えて美男に抱きつく廉さん…もあると思うww
すてきな話ありがとうございました〜
自分も好きなドラマはいくつもあっても「美男ですね」を超えてないものばかり
ここでずっと続編が続いてるようでうれしい限りです!
来年もよろしくお願いいたしますw 皆さま良いお年をお迎えくださいw

171 :
>>168超超GJです!!
素敵なお話と共に年越し出来て幸せだ〜…
美子の手紙に、思わず貰い泣きしました。
廉さんと美男の微妙な関係から、打ち解けるまでの心の動きが丁寧に描かれていて、
本編の脚本と言っても良いくらい、素晴らしいです。
柊さんと勇気もリアルに脳内再生出来る感じで、最後はニヤニヤしちゃいましたww
またの投下もお待ちしております!
自分が連載中の廉美子長編、年内に終わらせるつもりでしたが、まさかのPC故障により
断念せざるを得ず…
年明けに新しいPCを我が家に迎えてからの投下になります。
最終回を待って下さっている方には申し訳ないです…
まだまだ美男ですね熱は冷めてませんので、来年もちょくちょく投下予定です。
よろしくお願いします。
皆様、良いお年を!

172 :
>>171
もしかして月刊セレナーデさんですか?
続きの投下お待ちしてましたが、PC故障とは残念!
でも気長にお待ちしてますので、どうぞご自分のペースで投下お願いします。
では、皆様良いお年をお迎えください。

173 :
>>171
月刊セレナーデさんw
最終回も新しい話も楽しみです〜ゆっくり待ってますw

174 :
みなさま明けましておめでとうございます
今年も愛に溢れた素敵な作品に出逢えることを楽しみにしています
自分でもいくつか書ければいいな
脳内に神が降りてくるのを期待w
>>168
GJ!!!
美子の手紙、ものすごく感動的でした
読みながらウルウルきたぁ…
ソファから落ちる廉さんには笑わせてもらいました
きっと胸元まで真っ赤になってたんだろうなw
美男も柊さんも勇気も、出てくるみんなとても素敵でした!
>>171
わー!続き楽しみにしています!

175 :
久しぶりにDVD見て懐かしくなって覗かせて貰いました
素敵な作品と共にスレが続いててすごく嬉しかったです
まだまだ楽しませて下さい

176 :
美男×NANA投下します
ちょっとだけエロあり
オリキャラ出るのでお嫌な方はスルーしてください

177 :
「好きだよ…NANA…」
「美男…」
10日ぶりに迎えた2人だけの夜。
NANAの瞳を見つめたまま、その身体をゆっくりとベッドに横たえる。
上に覆い被さって優しいキスを繰り返しながらブラウスのボタンを1つ、2つと外していくと、
繊細なレースに彩られた淡いピンクのブラジャーが少しずつ露わになる。
なめらかな白い肌と、柔らかそうな胸の深い谷間。
すぐにでもそこにたどり着きたい衝動を抑えながら首筋まで唇を下ろしていく。
「ふふ…くすぐったい…」
少し鼻にかかった小さな声で甘えるNANAがたまらなく好きだ。
可愛らしさの中に漂う色香に心を乱され、ずるずると深みにはまっていく。
下着の上から右手で優しく胸を包み込み、やんわりと揉みしだく。
「ぁ…みぉ…」
繰り返すキスの合間に口の端から軽く漏れる喘ぎ。
NANAの指先が俺の髪に絡みつく。
「もっと、気持ちよくなろ…」
「うん…」
大きな瞳が熱を帯び始めたのを確認して、ブラジャーのホックに手を掛けたその時、
NANAの携帯が突然震え出して甘い気分が中断された。
「誰…?こんな時間に」
「いいよ、そんなのほっとけって」
「ん…でも仕事のことだったら困るし…」
NANAが身体を起こして携帯を手に取り、画面を見て「え?」と意外な顔をする。
「誰?マネージャー?」
「ううん、ママから」
何かあったのかな…とNANAが不安げな表情で電話に出た。

178 :
「はい、もしもし…」
『あ、NANA〜?良かった〜出てくれて!ねえねえ、今夜泊めてくれない?』
「えっ?な、なんで?!そんなこと急に言われても…」
『いーじゃな〜い!娘の所に泊まるのに急もへったくれもないでしょぉ〜!』
電話口から甲高い音が漏れ聞こえてくる。
内容は不明だが、相手のテンションがやけに高そうなことだけはわかる。
「ちょっとママ、酔ってるの?」
『はいはい、それじゃもうすぐ着くからよろしくね〜!』
「えっ?待ってママ!ねぇ!ちょっ………と…」
通話は一方的に切られたらしい。
NANAは耳元から携帯を離し、一旦画面を見つめてから顔を上げ、俺に困惑した目を向けた。
「どうしたの?」
「どうしよう…ママが来るって」
「えっ?!」
「なんかよくわかんないんだけど、もうすぐここに着くからって!」
「うそ!おっ、俺どうしたらいい?」
突然の出来事に、一瞬頭の中が真っ白になった。
NANAとの交際にやましいところなど何一つないが、彼女の両親にはまだ話していないだけに、
大事な娘の家に男が泊まってるなんて知ったら飛び上がるほど驚くに違いない。
このシチュエーションはかなりまずい。初対面からおかしな印象を持たれるに決まってる!
そんなことばかりぐるぐると考えて慌てふためく俺を見て、NANAが決断した。

179 :
「お願い美男!今だけ美子になって!」
「……は?」
「『…は?』じゃなくて!ママが来る前になんとかするの。いいからこれ着て!」
「わ、わかったっ」
NANAに渡されたのはピンク色の可愛らしい部屋着。
しばらく着るのを躊躇していると「早くして!」とNANAに急かされ、大慌てで着替えた。
ブカブカな部屋着が身体のラインを隠し、確かにこれなら胸がなくてもごまかせそうだ。
「そうだ美男、脱いだ服と靴とバッグはここに隠して」
「あっ、はい」
「それ終わったらこっち来て!」
「はいっっ」
NANAの指示通りにバタバタと荷物を片付けて、ドレッサーの前に座った。
ファッションショーの楽屋さながらのスピードで、NANAがメイクを施していく。
顔全体にパウダーを叩き、ふんわりと控えめにチークをのせて、ビューラーでまつげを持ち上げ、
唇にはリップグロスでツヤを与える。
たったこれだけでも少し女の子っぽくなるから不思議だ。
「とりあえずこれで大丈夫かな…」
俺の姿を上から下まで一通り眺めた後、NANAが厳しい顔で口を開いた。
「いい?美男。今夜は美子が遊びに来たってことにするからね。
うちのママ、怒ると恐いの。協力して!」
「お、おう。わかった…」
「言葉も美子っぽくしてね!」
「はいっ!」
(怒ると恐いのは遺伝なのか…)
NANAの迫力に気圧されながら、美男は心の中でそう呟いた。
ほどなくして玄関のチャイムが鳴る。
NANAは俺と顔を見合わせ、一度頷いてから玄関へ向かった。

180 :
「NANAちゃーん、久しぶりね〜。元気だった〜?」
「しーっ!ちょっとママ、うるさいってば!近所迷惑だから静かにしてよ」
騒がしい会話が徐々にリビングに近づき、ついに部屋のドアが開いた。
現れたのは、NANAにしなだれかかった女性の姿。
そのふわふわとした足取りを見るに、明らかに酔っている。
さすがはNANAの母親、パッと目を惹く美人だ。目元がNANAに似ているだろうか。
若々しくてスタイルも良く、こんなに大きな娘がいるなんてすぐには信じがたいくらいだ。
彼女は俺に気付いて「あらぁ〜、NANAのお友達?」と声を掛けてきた。
「こ、こんばんは。桜庭…美子です」
男とバレないようにおどおどしながら美子の真似をすると、彼女はパッと顔を輝かせた。
「まぁ、可愛い子ね〜!いつもNANAと仲良くしてくれてありがとね〜。
でもこの子とつき合うの大変でしょー?
もうね、一人娘だからって甘やかしたらこーんなワガママ娘に育っちゃって、ホントごめんなさいね〜」
「もう、やめてよママったら!」
勢いよくしゃべり続ける母親をNANAが恥ずかしがって制止する。
「それより今日はどうしたの?」
「実は同窓会で久しぶりに東京に出てきたんだけどね〜、楽しくってつい夜遊びしちゃったのよ。
もう終電ないんだから泊めてよ〜。いいでしょ?」
「まったくもう…パパには連絡したの?きっと心配してるよ」
「もちろん電話しといたわよ〜!あ、パパがね、NANAによろしくって」
「はいはい、もうわかったから…」
一向に止まらない母娘の会話。
聞きながら、出来るだけ目立たないようにおとなしくしていたのだが、
「ねぇあなた!」と再びNANAの母親にマークされた。

181 :
「美子ちゃんて言ったわよね?前にどこかで会ったことないかなぁ?なーんか見覚えあるのよね〜」
いちばん触れて欲しくなかったことを指摘されて心臓が縮みあがった。
母親の背後にいるNANAに目配せすると、彼女は俺に向かって手を合わせ、
「お願い!」というジェスチャーを見せる。
この場をうまく切り抜けられるだろうか…。
緊張感をごまかすためにゴクリとつばを飲み込んだ。
「あの…それは兄のことかもしれません」
「お兄さん?」
「A.N.JELLの美男はご存知ですか?私の双子の兄なんです」
思い切ってそう告げると、母親は俺に近づき、まじまじと顔を眺めた。
(まずい、バレる!)
そう覚悟してギュッと目を閉じたその瞬間。
「ああ!そうよ!A.N.JELLの美男くんだわ!」
彼女は胸の前でパチンと手を叩き、納得してくれたようだった。
「まー、双子ちゃんなのね?道理でお兄さんと良く似てる。
私A.N.JELLの中ならあの子がいちばん好きだわぁ。歌が上手だし、すっごくイケメンだし!
私があと20歳若かったらきっと恋に落ちてるに違いないわー!」
「ちょっとママ、はしゃぎすぎよ!せっかく美子が遊びに来てくれたのに邪魔しないで!」
すっかり興奮して話が止まらなくなった母親をNANAがいさめると、彼女もようやく観念したらしく、
つまらなそうに唇を尖らせた。
「はいはい、わかったわよ。美子ちゃんごめんなさいね〜、この子ホントにうるさくて」
「ママっ!」
「はーい、もうおとなしく寝るわよ〜。それじゃ洗面所借りるわね」
勝手知ったる娘の部屋、とばかりにスタスタとバスルームに行き洗顔を済ませた母親は、
「いつものお布団借りるからね〜。おやすみ〜」と一言伝えベッドルームに消えた。

182 :
「はあぁ〜〜〜」
ベッドルームから物音がしなくなるのを確認して、NANAと2人で深いため息を吐いた。
「なんか…圧倒された…」
「うん…ごめんね。普段はもっと落ち着いてるんだけど、お酒が入ると人が変わっちゃうの」
「そうなのか…。まぁ、とりあえずバレなかったみたいで良かったけど」
「そうね…」とNANAがもう一度溜め息を吐く。
「なんだか疲れちゃった。もう私たちも寝ない?」
「ああ。じゃあ俺はここで寝るよ」
そう言ってソファを指す。
「え?2人でベッドで寝ればいいじゃない」
「だって部屋にお母さんいるし…。一緒に寝ててその…したくなったらどーすんの?」
「ばっ…!こっ、今夜は無理よ!」
顔を真っ赤にして否定するNANAの可愛らしさに思わず笑みがこぼれる。
「なーんて、冗談だよ。我慢する」
「そうよね…。ごめんね、美男。せっかくひさしぶりに会えたのに」
「NANAが謝ることないよ。…それに、謝るのは俺の方だ」
「え?」
申し訳なさそうなNANAの言葉に首を振り、キョトンとした彼女に言葉を継ぐ。
「本当はもっと早くNANAの両親に会って、俺のことを知っててもらうべきだったんだ。
そしたらこんなに慌てる必要もなかったし…。
言い訳にしか聞こえないと思うけど、俺さ、親いないだろ?
だから彼女を紹介したりされたりって発想が浮かばなかったんだ。
俺の家族は美子だけだし、まあメンバーも家族みたいなもんだけど、みんなNANAのことは
知ってるからそれに甘えてたっていうか…。
とにかく今日は嘘つかせてごめん!」
「美男…」
深々と頭を下げて、NANAに今までの非礼を詫びる。
もしかしたらそこまでするほど重要なことではないのかもしれない。
けれど、大切な家族まで騙さなければいけない関係なんてもう嫌だと思った。

183 :
「その…NANAのことは大切に思ってるし、本気で幸せにしたいって思ってるから…。
つまりその…俺はNANAと…け、けっこ……」
「ダメっ!」
「わっ!」
自分の正直な気持ちを伝えることに必だった俺に、NANAが突然抱きついてきた。
「な…NANA?」
「それ以上言っちゃダメ」
「え?」
NANAが戸惑う俺の唇を塞ぐ。
その口づけは永遠にも感じるほど長く、そして愛おしい想いに溢れていた。
やがてゆっくりと唇を離したNANAは俺の目をまっすぐに見つめながら
「美男のばか…」と拗ねてみせた。
「な、なんで…?」
「一生に一度なのよ?その続きはもっと素敵な場所で聞かせて」
「……あっ!そう…だった。ごめん、俺全然気が利かなくて」
「ううん、いいの。本当はね、美男の気持ちすごくうれしかったよ」
今日はなんだか謝ってばかりの俺だけど、NANAは首を横に振って微笑んでくれた。
「ねぇそれよりもうこんな時間!そろそろ寝なくちゃ」
「うん、そうだね」
寝室のドアをそっと開ける。
静かに眠る母親を起こさないようにベッドに潜り込み、軽くおやすみのキスを交わして目を閉じた。

184 :
翌朝。
「美男、起きて」
「ぅん…ああ、NANA。おはよ…」
「ママ、寝てる間に帰っちゃったみたいなの。でね、これ…」
NANAの手から差し出された1枚のメモ。
美しい文字で書かれたそれを眠い目をこすりながら読み始めたのだが…。
*****
NANAちゃんへ
昨日は突然ごめんなさい。助かりました。
朝ご飯の用意ができてます。お味噌汁は温めて飲んでください。
身体に気を付けて、しっかりお仕事してください。
周りの方への感謝を忘れずにね。
P.S. あなたの幸せそうな寝顔を見て安心しました。
美男くんの手、絶対に離しちゃ駄目よ!
*****
「『美男くん』って…。ママ、気付いてたんだね…」
「俺のこと、認めてくれたんだな」
「うん…」
うれしくて何度もメモを読み返していると、隣からぐすっと鼻をすする音が聞こえてきた。
「泣いてんの?」
「だって…」
「…そうだね。本当に良かった」
NANAを抱き寄せて、しばらく胸を貸す。
胸に染み込むその涙は、心を満たす想いと同じくらい温かかった。

185 :
以上です
久々に書き上げられてよかった…
美男がカッコいいような悪いようなw

186 :
>>185
朝から幸せな気持になったよ。
ありがとん!
美男、恰好いいって思ったよ、でも、よく考えると
彼女の母が来て女装で出迎えて、バレてるって恰好悪いねvv
NANAママが男前でGJでしたv

187 :
>>185
GJです〜美男NANAはいつもかわいいw
将来もずっとこんな感じで仲良しなんだろうなぁw
素敵な場所でのプロポーズシーンもぜひ読んでみたいです
酔っ払ったNANAママが見抜いちゃうほど美男の女装はイケてなかったのか…
そこが気になります…

188 :
>>185
美男とNANAの関係も着々と進んでますねー、GJ!
NANAママの登場にびっくり、ドキドキw
ステキなプロポーズも期待して待ってます。

189 :
先週から再放送が始まった
結末知ってるのにワクワクが止まらない
一日一話がもどかしい

190 :
どーも、お久しぶりです。
まとめサイトの管理人です。
ちょっとネットのない環境で生活していたもので、久しぶりにまとめサイト更新しました。
とりあえず、早めに最新辺りまで追いつけるようにします。
全然更新ないのに、連日1000PVは超えてるのにビックリしました。

191 :
>>190
いつもお世話になってます〜ありがとうございますw
自分もかなりの頻度で行ってます
ちょっとずつ読み直してるw
これからもよろしくお願いします〜

192 :
>>190
まとめさんおひさしぶりです!
自分もちょこちょこお邪魔しに行ってます
これからもよろしくお願いします
そろそろ新しいのを書きたいな〜とは思っているけど
なかなかいい話が浮かばないですねぇ
書き手さん来ないかな
お待ちしています

193 :
>>190
自分もいつもお世話になってます。これからもよろしくお願いしまーす
ドラマが終わった後は中の人を好きになってしまいました
特に廉×美子と柊×NANAを何度も何度も見てしまいます><
今年は2013年、美子がアフリカから帰ってきますねw

194 :
保守します!

195 :
age

196 :
保守

197 :
こんな時間に失礼します。
廉美子エロ無しです。

198 :
廊下を歩く足音で美子は目覚めた。
(あ、廉さん帰って来た)
起き上がってドアが開くのを待っていたが、なかなか廉がやって来ない。
不思議に思ってベッドから降り、ドアを開けてみると…。
「廉さんっ、どうしたんですか?」
寝室に辿り着けずにうずくまる廉の姿。
慌てて駆け寄り顔を覗き込むと、廉が美子に抱きついてきた。
「美子〜、帰ったぞ〜」
夜中なのに大声を出す廉。どうやらベロベロに酔っているようだ。
「廉さ〜ん、声大きいです。立てますか?」
「ん?立てます…よっ」
よっ、で勢いを付けて美子の肩につかまり、なんとか立ち上がった廉。
(う〜、廉さん、重いです)
酔っ払って体の力が抜けた廉は、遠慮なく美子に寄りかかりベッドに辿り着いた。
新しいアルバムの制作作業がようやく終わり、今夜はスタッフ全員で打ち上げがあった。
普段はこんなに飲まない廉も、今日はよほど嬉しかったのか今までにないほど酔っ払っていた。
「廉さん、上着脱げますか?」
美子は廉に声を掛けながらジャケットのボタンを外した。
「だ〜いじょぶ、だいじょぶ」
と言いながら廉は枕に顔を埋めてすっかり寝る体勢に入っている。
「もう〜、大丈夫じゃないです」
美子はなんとか廉の上着を脱がせて、ネクタイを解いた。
続けてベルトを緩め、ズボンのジッパーを下ろす。すると
「何すんだよ、エッチ」
廉はそう言って股間を押さえて体をよじる。
「エッチって!違います!そのままだと苦しいから…」
「嘘つくな。俺に何する気だ?」
赤い顔でニヤリと笑いながら廉が言う。
美子は呆れて大きく息を吐いた。
「違いますったら!もう」
それ以上服を脱がすことを諦めて、美子は体を起こそうとした。

199 :
すると廉が美子の手首を掴み、ぐいっと引き寄せる。
「美子?」
「はい?」
美子が廉を見上げる。
と、廉は美子を抱きしめ、ウエストをぷにっと掴んだ。
「廉さん、くすぐったいです。やめて下さい」
廉の腕から逃れようと美子が体を左右に揺すると、ますます強い力で抱きしめられる。
「ふ、ふふふふふっ」
廉が笑いながら美子のウエストをつまむ。
「何で笑うんですかっ?」
「何でって…ぷにぷにだから?」
(ひどい〜廉さん。そんなにぷにぷになんですか、私)
美子は恥ずかしくなって廉の腕の中でくるっと向きを変え背を向けた。
すると廉は後ろから美子を抱き直すと、ため息を一つついた。
「美子?」
「なんですか?」
臍を曲げた美子はつっけんどんに返事をする。
「美子、俺…幸せだ。すごく…」
「えっ?」
思いもかけない廉の言葉に、美子は驚きの声を上げる。
「今、何て?」
「幸せだって言ったんだ」
「廉さん…」
美子の心の中がほんわりと暖かくなる。
「俺、お前に会えなかったら…どうなってただろうな?なんか…想像もしたくない。
お前に会えて…良かった。本当に…ほん…とに…」
廉の声が途切れ途切れになり、最後には小さな呟きになった。
「廉さん…」
美子の目にみるみる涙が溢れてくる。
気が付くと廉は微かな寝息をたてて眠りに落ちている。
美子はもう一度体の向きを変えて、廉に向き合った。
廉の額にかかった前髪をかきあげて、愛しい人の寝顔を見つめる。
「廉さん。私も廉さんに会えて本当によかったです。廉さんのいない人生なんてもう考えられません。
好きです…廉さんが大好きです。心から愛してます」
そう言うと美子は廉の頬にそっと口づけた。

200 :
翌日お昼近くになってようやく廉が起きてきた。
ボサボサの頭、シャツのボタンは全開で、ジッパーが降りてるためズボンを引きずったまま現れた廉。
美子は廉に気付くと急いで駆け寄りその胸に飛び込んだ。
「びっくりした!朝から元気だな、お前」
「はい!えへへ」
廉は少し照れながら美子の髪を撫でた。
「ほら。シャワー浴びるから、もう離せ」
「はい」
そう言いながら美子は廉のシャツの裾を掴んだまま浴室まで付いて行った。
服を脱ごうにも美子がいつまでも脱衣所から出て行かないので不思議に思った廉。
「どうした?もしかして一緒に入りたいのか?」
冗談めかして廉が言うと、美子は焦って否定する。
「ち、違いますっ。そんな訳ないじゃないですか」
「じゃあ何だよ?」
廉の問いに一瞬俯いた美子はもじもじしながら顔を上げる。
「あの…廉さん……大好きですっ」
そう言うと美子は急いで脱衣所から出て行った。
「何だよ、朝っぱらから。不意打ち過ぎんだろ」
突然の告白に面食らいながらも、廉の顔は真っ赤になっていた。
(廉さん、きっと昨夜の事覚えてないんですね。でもいいんです。ちゃんと私のここに届きましたから)
そう言って美子は自分の胸にそっと手を当てる。
本人も覚えていない心の奥にある本音。
廉の言葉は美子の大切な宝物になった。

201 :
以上です。
短くてすみません。

202 :
>>197
素敵!ステキ!
ありがとうございますっ
やっぱり廉美子いいわ

203 :
廉美子、心があったまりました〜
まだまだここで新作が読めるなんて嬉しい!
再放送でハマった人もいるみたいだし、
このスレものんびり続くといいな

204 :
>>201
GJ!
廉美子に幸せのおすそ分けをもらった気分
春の訪れにぴったりで心がほんわかしました

205 :
>>201
GJです!
廉さんはお酒強いイメージあるけど、とことん酔っ払うと壊れ気味…
ああでも!自分も美子をぷにぷにしたいw
脱衣所までついてくるかわいい美子…いいわ〜
ずっとずっと仲良しでいてほしいw

206 :
>>171です。
廉×美子長編、君に贈るセレナーデの最終回(エピローグ)を投下します。
長らく期間が空いてしまい、申し訳ありませんでした。
年始にようやくネット環境が整いましたが、なかなか書き上げる時間が
なく、悶々としておりました。
では、もうしばらくお付き合い下さい。
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>>95-109

207 :
A.N.JELLのリーダー、桂木廉の電撃結婚が明らかにされたのは、初秋から始まった全国ツアーのファイナルでのこと。
ドームに集まった5万人のファンと共にカウントダウンを経て、新年を迎えた直後の発表だった。
皆 驚きの声を上げつつも、どこかでこんな日が来るのを予想していたのか、会場は祝福ムードで大いに盛り上がった。
入籍は済ませたものの、挙式は仕事が落ち着く春頃になる見込みで、現在調整中。一般人である相手女性・・・
美子の情報はもちろん非公開だ。
騒がしい世間では、ライブ中に廉から情熱的な愛の告白を受けた女性に違いないと、まことしやかに囁かれたが・・・。
過熱しつつあるその結婚報道にストップを掛けたのは、事務所の社長、安藤だった。
自身の結婚報告に加え、ハワイで行う予定のド派手な結婚式への招待状をマスコミ各社へ送り付け、
あっという間に連日のワイドショーの話題をさらってしまったのだ。
社長夫人の座を射止めた美子の叔母、シゲ子が記者会見の席で零れんばかりの笑みを浮かべ、立派なダイヤモンドの指輪を
マスコミらへアピールしているのをリビングのテレビ画面越しに見た勇気は、ソファへ横たわり目を細めた。
「シゲ子さん、幸せそう・・・。いいなぁ、俺もそろそろ彼女が欲しいよ・・・」
多忙なA.N.JELLの正月休みなど微々たるもので、実家へ2〜3日帰省しただけで合宿所に戻ったのだが。
独り身にはキツ過ぎるラブラブ会見に大袈裟な溜め息を漏らすと、向かいの席で
ハーブの本を読んでいた柊が小さく微笑む。
「早く見付かるといいな。・・・まぁ、廉も結婚したばかりで、バレないように付き合うのは大変だろうけど・・・」
「そっか、柊さんもNANAちゃんとの仲、怪しまれないようにしてるんだったね」
「あぁ。お互い個人CMがあるし、NANAも今じゃうちの看板女優だから・・・
認めてもらうにはまだまだ時間が掛かると思う」
有名人同士の恋愛に付き物な気苦労を聞いた勇気は、心底彼が不憫になり己の不用意な発言を恥じた。
重苦しくなった雰囲気を塗り替えるよう、八重歯が覗くキュートな笑顔で声を弾ませる。
「そ、そう言えば不思議じゃない?何で社長はアッサリ廉さんの結婚を認めたのかな」
勇気の気遣いを敏感に悟ったのか、柊はまたいつもの優しい眼差しで応えた。
「それが、そんな簡単じゃなかったみたいだよ。社長から“結婚式を挙げるまで絶対逆らうな。
どんな仕事も引き受ける事!!”って、条件を突き付けられたらしい」
「げげっ・・・それは廉さんにとったら、かな〜り厳しかったんじゃ・・・」
「アイツが合同ダンスレッスンに参加したり、CMで女装までやるなんて、
何かおかしいと思ったんだ。・・・全部、美子と結婚する為だったんだね」
仕事にもこだわりが強く、納得がいかないと平気で社長とも衝突するような男が、
愛する彼女との結婚を認めさせるべく必に努力したのだと知り、二人は納得顔で頷き合う。
「めちゃくちゃ頑張んなきゃ、恋は成就しないんだ・・・俺にも出来んのかな〜・・・」
「・・・大丈夫。本気で人を愛したら、何だって出来るよ」
柊の返事に戸惑いは一切無く、NANAの晴れ姿が見られる日も、そう遠くはないのかも・・・と、勇気は予感した。

208 :
.
正月休みも今日で最後。
廉は美子を愛車の助手席に乗せ、己の実家へと向かっていた。
安藤社長に見込まれて芸能界に入る際、家出同然に飛び出したきり・・・もう何年になるだろう。
海外を転々とする父が、あの“がらんどう”の家をまだ手離していなかった事も驚きだが、
たまには帰って来いなどと突然連絡を寄越して来た真意が分からず、新年早々ドッキリ企画でも
仕組まれたのかと、昨夜は隠しカメラ探しで合宿所内を徘徊する羽目になった。
「結局、カメラ見付かりませんでしたね」
「あぁ・・・でも、有り得ない。今までこんな事、一度も無かったぞ」
「お義父さん、テレビで結婚の事を知ったんでしょうか?
・・・やっぱり、直接言って欲しかったのかも・・・」
正直、母が出て行ってからの父は、より一層厳しかった記憶しか無く、廉にとって畏怖する存在に変わりない。
嫌でも緊張を強いられる父との会話・・・今まで避けて来たが、結婚の報告くらいは流石に自身の口から述べるべきか。
美子に同調し、廉は苦虫を噛み潰したような面持ちで頷いた。
「・・・そうだな、ちゃんと言うから安心しろ」
「はいっ!」
「・・・にしても、お前やけに楽しそうだな。昨夜からずっとニヤニヤして・・・」
赤信号で一旦停止し隣を見遣ると、頬を緩めっ放しの彼女が居て、訝しげに尋ねる。
「だって、廉さんが生まれたお家にお邪魔出来るなんて、何だかワクワクするじゃないですか!」
「そうか?別に面白くも何ともねぇと思うけど」
「いいんです。私にとっては面白いものが、きっといっぱいあるはずですから」
「ふーん・・・変なヤツ」
口では気のない素振りを見せつつ、廉は自分に興味深々な美子のはしゃぎっぷりを可愛く感じ、
微かに口角を吊り上げ、信号が切り替わったタイミングで再び車を発進させた。

閑静な高級住宅街の一角、まさに豪邸と呼ぶに相応しい屋敷。
立派な門扉や広い庭は、今も手入れが行き届いていると見受けられる。
「すごい・・・素敵なお家ですね〜!」
瞳を輝かせる美子とは対照的に、廉の表情は少し暗い。
「・・・父さんがここまで、この家を保ってたなんて・・・」
父の思惑に首を傾げながらも、ひとまず車庫に駐車し、車を降りた二人は玄関ドアの前まで移動した。
鍵も持たずに出て行って以来の帰省の為、呼び鈴を鳴らして反応を待つ事、暫し。
「・・・おかえりなさい、廉。美子さんも・・・」
「母さん!?何で・・・」
「とにかく入って。皆に見せたいものがあるの」
出迎えてくれたのは、かつて家を捨てたはずの母だった。
面食らう廉と美子の手を引く彼女に促され玄関に入ると、見覚えのある黒のスニーカーが一足置いてある。
「え・・・、これ、お兄ちゃんの?」
「美男くんも中でお待ちかねよ。・・・さぁ、どうぞ」
一体どういう訳か、今日は美男まで参加するらしい。
麗子の笑みには何処か有無を言わせぬ迫力があり、二人は大人しく用意された
スリッパに履き替え、リビングへ足を踏み入れた。

209 :
大きな窓は雨戸とカーテンで堅く閉ざされ、昼間だというのに薄暗い室内。
その中で一際目立つ、黒い革張りのソファにちょこんと座る美男を見付け、美子はあっと声を上げる。
「お兄ちゃん!」
「・・・ったく、遅ぇよ!いつまで待たせんだっつうの」
「あのな、俺らはお前が居るなんて聞いてなかったんだから、仕方ねぇだろ」
まるで自分たちが遅刻したとでも言いたげな彼の物言いに突っ込むが、我関せず美男は立ち上がると
麗子の方へ体を向け、偉そうに腕を組み軽く顎をしゃくった。
「・・・で、見せたいものって何なんだ?勿体ぶってないで、いい加減教えてくれよ」
サプライズを“仕掛けられる側”は苦手なのか、妙にソワソワする美男に急かされ、
麗子は「すぐ取って来るわ」と言い残し退室してしまった。
「お兄ちゃんはどうしてここに?」
「あの人に呼び出されたんだよ。・・・はぁ、お前らの結婚話に俺まで入って、
ややこしくなんねぇのか?」
珍しく困惑気味に頭を掻く彼も、本当に麗子の意図を知らないようで、三人は顔を見合わせた。

「お待たせ。今日は急にごめんなさいね?貴方たちに早くこれを見せなきゃ、と思って・・・」
数分後、手に何かを抱えて戻った麗子は、目を丸くする廉たちを尻目にテレビと
DVDデッキの電源を入れ、セッティングし始める。
「何が始まるんだ?・・・それ、DVD?」
「元々ビデオテープだったから、結構映像も劣化してたんだけど・・・知り合いに頼んで出来る限りの復元と、
DVDへのダビングもやってもらったの。・・・見れば分かるわ」
頭上に疑問符を浮かべる三人は、彼女の言葉で渋々テレビ画面に注目した。

210 :
.
程なくして映し出された、狭い室内・・・これは、どこかのスタジオだろうか?
マイクやスピーカーが整然と並ぶそこに、小柄で華奢な女性が立っている。
最初はピントがぼやけて顔がハッキリ見えなかったが、徐々に映像が鮮明になるにつれ、
廉の傍に立つ美子と美男は、思わず息を飲んだ。
「「・・・お母さん・・・!」」
一度だけ、写真で見た記憶があるその人。
画面の中央で艶やかな黒髪を揺らし、にこやかに笑うこの女性は・・・
双子の母、桐嶋沙織に間違いない。
『え〜、では、今から二人っきりの秘密のレッスンを行いたいと思いまーす!』
『もう、沙織ったら真面目にやりなさいよ。デビューまでにもっと
実力を付けておかなきゃダメなんだから』
『はーい。麗子さん、頼りにしてますね!』
どうやらカメラを構えているのは、若き日の麗子本人のようだ。
双子の面差しにそっくりな沙織と、仲良く談笑している。
『じゃあとりあえず、あの課題曲から・・・』
『あ、待って下さい。その前に、麗子さんに聴いて欲しい曲があって・・・』
『え?』
『私が子供の頃から、一番好きな歌なんです』
そう言うと、沙織は胸の前で両手を組み合わせ、透き通るように澄んだ声音で歌い始めた。
――刹那、廉の全身がぶわっと粟立つ。
・・・あの、讃美歌だ。
「・・・・・・これが・・・お母さんの、歌・・・」
「同じ声、だったんだな・・・」
美子は堪え切れずその場に崩れ落ち、涙を流しながらも懸命に亡き母の歌声に耳を傾けた。
同じく膝を折り、彼女の肩をそっと抱く廉の目頭まで熱くなる。
「この間の、素敵なライブのお礼に・・・私も何か出来ないか考えていたら、このビデオの事を思い出したの。
・・・あの人、私が残した荷物を捨てずに置いてくれてたみたいで、本当に良かったわ」

211 :
.
やがて、沙織の歌声が止んだ。
画面の中から麗子の拍手音が響く中、これまで沈黙を守っていた美男が口を開く。
「・・・母さんはこんな人だったのか・・・ふふ、美子にそっくりじゃん・・・」
目を真っ赤に充血させて呟くと、彼はソファに腰掛けティッシュを数枚取って美子に渡し、
涙でドロドロになった自身の顔も乱暴に拭った。
生まれて初めて見聞きする、母の動画と肉声に感動を覚え、互いに微笑み合う双子たち。
だが、映像はまだ終わっていなかった。沙織の声がすると反射的に顔を上げ、再び視線をテレビへ戻す。
『えへへ、聴いてくれてありがとうございます』
『いい歌だったわ〜、讃美歌よね?』
『はい。昔住んでた家の近くに教会があって、
そこから聞こえるこの歌が大好きになったんです』
『不思議ね・・・心が洗われるような気持ちになるもの』
『・・・もし将来、結婚して子供が生まれたら・・・
この歌を子守唄に、毎日歌ってあげたいなって思います』
まだ見ぬ未来へ思いを馳せ、夢を語る沙織の姿に、美子と美男はまた感極まって
ティッシュを目元に押し当てた。
『ふふ、それもいいわね。・・・でも、まずはデビューして、たくさんの人に沙織の事を
知ってもらわなきゃ。聴いてくれた全ての人が幸せになれるような歌を歌いたいって・・・
あなたの夢なんでしょ?』
『はいっ!頑張ります!!』
沙織と麗子の会話もまとまり、二人がいよいよ本格的にレッスンを始める・・・
という所で、映像は終了しタイトル画面に切り替わった。
.

212 :
.
「・・・あの日、ステージに立って廉の歌を歌う美子さんを見た時・・・沙織さんが蘇ったみたいで、
すごく嬉しかったの。彼女の夢も優しさも、美男くんと美子さんにそれぞれ受け継がれて・・・
たとえ傍に居なくても、目に見えなくても、愛は絆を繋いでいくものなんだって実感したわ」
麗子の穏やかな語り口調が、双子の心に深く染み渡ったようだ。
廉は、ぐずぐずと鼻を啜る美子を床から立たせてやり、美男の隣の席に座らせると、
二人の手を取り真摯な態度で宣言する。
「・・・亡くなったご両親の分まで、俺がお前たちの夢を叶えるからな・・・絶対」
愛する人と共に生き、家族を持ち。
そして・・・これからもずっと、人々に夢を与えられるような歌手になる。
双子の両親が成し遂げられなかった想いを背負い、廉は己に出来た大切な家族を守る決意を、
改めて胸に誓った。
美子は夢中で何度も頷き、美男も珍しく満面の笑みで廉の手を強く握り返す。
「廉・・・その気持ち、いつまでも忘れないで?・・・って、私がこんなこと言える立場じゃないけど・・・」
「・・・母さん」
「・・・・・・これ、あの人からの結婚祝いだそうよ。はい」
「え?」
いつの間に用意していたのか、A4サイズの白い封筒を麗子から手渡され、訝しげに眉を顰めつつ
中を確認した廉は、目を見開きワナワナと両手を震わせた。
「な、何で権利書なんか・・・!」
「美子さんとの結婚祝いとして、この家を二人に譲りたいんですって。・・・まったく、別れた女房に
久し振りに連絡して来たと思ったら、いきなりそれを押し付けるんだもの。相変わらず強引な人だわ」
「だからって、いきなり家なんか貰っても困るだろ!?」
「いいじゃない。父親の厚意なんだし、素直に受け取っておきなさい。ね?」
呆気に取られている己へそう言い放った麗子は、これ以上詰め寄られては御免だとばかりに、
お茶を淹れにキッチンへと引っ込んだ。
.

213 :
.
「廉さん・・・それ・・・」
「あぁ、この家と土地の権利書だ。・・・ご丁寧に、司法書士の名刺まで付いてる」
不動産の贈与登記手続きも、権利書と一緒にクリップ留めされている名刺の司法書士に
依頼すれば良い、という父の意図が窺える。
確かに、まだ新居探しは終わっていなかったし、正直この家の広さがあれば美子と、
これから増えるであろう家族とも伸び伸びと暮らしていけるだろう。
しかし如何せん、唐突で大き過ぎるプレゼントに、戸惑いを隠せないのも事実である。
「良かったじゃねぇか。貰えるモンは何でも貰っとけよ」
「・・・俺は別に・・・美子はどうしたい?」
「私は嬉しいです!廉さんが生まれ育ったお家に住めるなんて、思ってもみませんでしたし・・・
あっ、でも、良いんでしょうか?ご厚意に甘えてしまって・・・」
「・・・お前が気に入ったんなら、俺もここで構わねぇよ」
遠慮しつつも、我が実家に対する美子の印象はすこぶる良好のようで、
廉は盛大な諦めの溜め息を吐くと、思いがけない結婚祝いを素直に受け取る事にした。
本音を言えば、忙しい仕事の合間を縫って新妻と二人、のんびり新居探しをする・・・
という、ささやかな楽しみが立ち消え、少々残念ではあるのだが。
肩を落としながらも封筒の中を再度確認すると、権利書と名刺に加えて同封されていた、
小さなメッセージカードを見付ける。
懐中時計の写真がプリントしてある粋なデザインのそれを開くと、無骨且つ意思の強そうな文字で、
こう綴られていた。
『この家の止まった時間を、若い二人でもう一度進めて欲しい。
どうか、いつまでもお幸せに』
愛情表現に不器用で、仕事に没頭するあまり家庭を顧みなかった父からの、
せめてもの償いの気持ち・・・なのかも知れない。
「・・・ありがとう、父さん」
「・・・・・?今、何か言いました?」
「いや、別に」
二人に聞こえない程の小声で父への感謝を述べると、廉は清々しい気持ちで権利書をソファの上に
置いてからカーテンを開けていき、雨戸も全開にして薄暗かったリビング内へ光を取り込む。
子供の頃は、独りで過ごすのが苦痛で仕方ない程、どんより物寂しい空間だったのに。
家族が居るだけでこんなにも明るく、優しいものに感じられるのだから、愛の力は偉大である。
.

214 :
.
「ほらほら、皆座って?お茶にしましょう」
キッチンから、ティーポットとカップを載せたトレーを持って現れた麗子に気付いた美子は、
慌てて彼女へ駆け寄りそれを受け取った。
「すみません、お、お、お義母さん・・・私もお手伝いしますっ!」
「ふふ、無理に呼び方を変えなくてもいいのよ?」
「いえっ、そういう訳にはいきませんから!」
麗子を“お義母さん”と呼ぶ際の、不自然に上擦った美子の声を聞き、
廉と美男は思わず吹き出しそうになるのを堪える。
まだ挙式もしていないというのに、律儀な彼女は早くも“嫁”としての
振る舞いを心掛けているらしい。
「俺も一応、土産にコレ買って来てたんだ。皆で食おうぜ」
「あら美男くん、気が利くわね〜。お皿用意しなくちゃ」
「お、お義母さん、私も・・・!」
ソファの脇に置いていた紙袋から、美味しいと評判のバームクーヘンの箱を
取り出し意気揚々と封を開ける美男に、慌しくキッチンへ向かう母と美子。
まさかこのリビングで、こんな微笑ましい光景を見れるなんて・・・
以前の自分には想像もつかなかった。

父からのメッセージを思い浮かべ、廉は先程まで沙織の姿を映していた
テレビ画面を振り返り、深々と頭を下げる。

・・・あなたの忘れ形見、必ず幸せにしてみせます。

閉じた目蓋の奥、穏やかに微笑む沙織の姿が・・・過ぎった気がした。


fin.

215 :
・・・以上で、“君に贈るセレナーデ”はおしまいです。
最後まで読んで下さった皆様、そして、いつも暖かいお言葉を下さった皆様、
本当に本当に、ありがとうございました!!
前作よりも悩みに悩んだこの作品。
まさか、1年以上も連載することになるとは思いませんでしたw
ここまで続けられたのも、感想を下さった皆様のお陰です。
この二人の物語はまだまだ続きそうな気配ですが、次に投下するのは
続編になるか、それとも新作になるか・・・いつになるかもまだ未定です。
また機会があれば、お目に掛かりたいと思います。
ありがとうこざいました!!

216 :
>>215
感動しました!まだその先が読みたいくらいです。

217 :
>>215
セレナーデさん、長期の連載お疲れ様でした!
美男美子のお母さんが出て来るとは思わなかったー。
過去に色々あったけど大団円という感じでよかったです。
幸せな廉美子のこれからもずっと見続けていきたいくらい感動しました。
次作も期待して待ってます。

218 :
>>215
長期連載お疲れさまでした&ありがとうございました!
ゆっくり、じっくり堪能させていただきました
本当に良かった、と心の中からじんわりと込み上げてくるものがあって…
いや〜、超超GJです!
また新しい作品が読める日を楽しみに待っています!

219 :
>>215
全てGJです!
今までのも全部読み返してきました〜感動w
新作もですが続きも読みたい…
ゆっくりペースで大丈夫ですので、またよろしくお願いします

220 :
留守ですか〜

221 :
いますよ〜

222 :
いるよ〜

223 :
>>215です。皆様、ご感想ありがとうございました!
保守ついでに、まとめサイトの管理人様、最終回だけ
エロなしの表記が漏れていた事をお詫び致します。
時間が出来次第、次作をのんびり書いていきたいと
思っています。今度はあんまり長くないやつでww
職人さん、素敵な作品の投下、お待ちしてます〜!

224 :
妄想は色々あれど、なかなか形にならないのよね

225 :
読んでみたい話はあっても全く文才が無くって…書けたらいいのに…

226 :
>>225
こんなの読んでみたいってダメもとで書いてみたら?
誰か反応してくれるかも
過疎ってるから無理かな

227 :
いつでも投下待ってますよ

228 :
age

229 :
保守

230 :
hoshu

231 :
廉さ〜ん

232 :
呼んだか?

233 :
誰もいなそうだけど、投下します
廉美子エロ無しです
タイトルは「初めての女」女と書いて「ひと」と読みます

234 :
行きつけのフレンチレストラン。
久しぶりのデートで二人の気持ちは弾んでいる
「今日は何食べようかな。楽しみです〜」
「何でもいいけど、あんまり食べ過ぎるなよ」
手を繋いで席まで案内される間、廉と美子は小さな声でお喋りをする。
「そんなこと言ったら、まるでいつも食べ過ぎてるみたいじゃないですか」
「まるでも何も、本当の事だろ?」
くすっと笑った廉が美子を見た。
「もう〜、そんな事ありません。いつも腹八分でやめてます」
「どうだか」
そんな事を言いながら予約していた個室に着いた。
ドアを開けて中に入ろうとした時、背後から女性の声がした。
「廉?」
振り向いた廉が目を見張る。
そこにいたのは30代のスラリとした美人。
シンプルな黒のスーツを身にまとい、微笑んで廉を見ていた。
「あ…」
「久しぶりね。元気だった?」
「ああ…まあ…」
「そちらが例の…?」
その女性は廉の後ろにいた美子をチラリと見た。
美子はハッとして会釈をする。
「こんばんは。私、桜庭…」
「いいから」
自己紹介しようとした美子を、廉が抑えて自分の後ろに隠した。
「容子、知り合いかい?」
女性の後ろからロマンスグレーの男性が現れた。
「あなた。ええ、昔の知り合いよ。久しぶりに会ったから懐かしくて」
容子と呼ばれたその女性は夫と腕を組んだ。
「もう行くわ。それじゃね、廉」
夫婦は廉と美子に目礼して去って行く。
廉も軽く頭を下げ、それを見た美子は慌ててペコリとお辞儀をした。

235 :
食事の間中、廉はどこか上の空だった。
美味しそうに料理を平らげる美子を見て時折微笑みを浮かべるが、自分はあまり食が進まないようだ。
「廉さん、どこか具合でも悪いんですか?」
「いや。何でそんな事聞くんだ?」
「だって、何か元気ないからどうしたのかなって思って」
「そんな事ないぞ。お前の気のせいだ」
「なら、いいんですけど。あっ、そう言えばさっきの人、どういう知り合いなんですか?」
「えっ?」
「綺麗な人でしたね〜。スラーッとして、長い髪も綺麗に巻かれてて。
それに、どことなく水沢さんに似てましたね」
その言葉に廉は衝撃を受けた。
(母さんに似てる?でも、そう言われてみれば…)
一瞬押し黙った廉は、美子の視線に気付いて急いで否定する。
「そうか?全然似てねえけどな」
「そうかな〜、似てると思ったけどな〜」
美子が首を傾げていると、ドアが開いてデザートが運ばれてきた。
「ほら、デザートが来たぞ。俺の分もやるから食え」
「え、いいんですか?嬉しい〜。あっ、でもこれで太ったら廉さんのせいですからね」
ニコニコ顔でデザートを頬張る美子を眺めながら、廉の意識はデビュー前のある時期に遡って行った。

236 :
容子に出会ったのは10代最後の年だった。
10歳も年上の女なんか、いや、それどころか女全般に興味がなかった廉。
興味がないと言うより、女に対して憎悪に近い感情を持っていた。
それなのに些細な切っ掛けで知り合った彼女と、いとも簡単に関係を持った。
愛していたわけじゃない、と思う。
でも求める気持ちに嘘はなかった。
会うたびにお互いの体を貪るだけの関係。
そんな関係に嫌悪感を持ちながらも、またフラフラと彼女の部屋を訪れてしまう。
一体どういうつもりで自分を受け入れるのか、彼女の真意が掴めず廉は混乱した。
そんなある日、いつものように互いの体を堪能してベッドに仰向けに寝そべる廉。
荒い息を整えながら、隣にいる容子を見遣った。
「なあ。あんたさ、何で10才も年下のガキとこんな事してるわけ?」
容子は気だるげに振り返って廉を見た。
「何でって…。好きだからに決まってるでしょう。
……女はね、好きでもない人とこんな事しないのよ」
容子の答えを聞いて、廉は鼻で笑う。
それでも…。
「好きだからに決まってるでしょう」と言う容子の言葉が、何度も胸にこだました。
信じようか。信じたい。でも…。
容子と会えない時間、廉はぐるぐると自問自答した。
自分の人生に影を落とした両親との関係。
普通なら無条件で受けられる親の愛を、廉は今まで知らずに生きてきた。
だからこそ「好き」だと言う容子に縋りたかった。
そのくせ、信じきれない自分にいら立ちが募った。
そして。
明確な答えの出ないまま逢瀬を重ね、廉は完全に容子に依存していった。

237 :
だが、別れは突然に訪れる。
容子の部屋でいつものように抱きしめようとした廉を、彼女はスルッとかわした。
「廉。もう終わりにしましょう、私達」
「廉さん。廉さん…?」
美子の声にハッと我に返る。
心配そうに自分を見ている美子に、務めて明るい声で言った。
「ん?どうした?」
首を横に振った美子は、寂しそうに微笑んだ。
「何でもないです。もう帰りましょうか?」
それだけ言って美子は俯いた。
帰りの車の中で、二人は一言も発しなかった。
過去の思い出に引きずられ、美子に優しく出来なかった廉。
窓の外を眺める美子の、その表情は窺い知れなかった。
二人は無言のまま自宅に戻った。
廉はシャワーを浴び、パジャマに着替えると一人ベッドに潜り込んだ。
そのまま美子を待つが、彼女は一向にやって来ない。
不思議に思ってリビングに行くと、美子はソファに座って俯いていた。
「何してんだ?もう寝るぞ」
廉の問いかけに美子は答えない。
「おい、どうしたんだよ」
手を引っ張ってこちらに向かせようとすると、美子は頑なに体をよじった。
「いや…」
顔を背けるその姿は微かに震えていた。
「どうした?」
「何でもないです…」
その声は明らかに涙を含んでいた。

238 :
廉はため息をついて美子を抱きしめる。
「何で泣いてんだよ、お前は」
「廉さん」
「ん?」
「好き…。大好き」
美子はそう言うと廉にしがみついた。
「廉さんの事が好きです。大好き。好き…好き…」
嗚咽を漏らしながら美子が言い続けた。
「わかったから。俺だって、お前の事が好きだ」
震える背中をトントンと叩くと、美子が顔を上げた。
「でも…私と出会う前は、他の人が好きだったんですよね?」
「え?」
「今日会ったあの人と…付き合ってたんですよね?」
(やっぱり気が付いてたのか…)
廉が唇を噛む。だが、美子の顔を見て言った。
「ああ、確かに付き合ってた。でも昔の事だ。今はお前の事が好きなんだから、それでいいだろ?」
「でも…。でも、あの人の事好きだったのに、今は好きじゃなくなったんでしょう?
そしたら、私の事もいつか、好きじゃなくなるんですか?」
美子は大粒の涙を零しながら、泣きじゃくった。
「それは絶対にない。断言できる。確かにさっきの彼女と付き合ってた。それは事実だ」
廉は美子の体を離して、その目をじっと見つめる。
「お前さっき言ったよな。彼女が母さんに似てるって。それ聞いて初めて気付いた」
「気付いたって、何にですか?」
「俺さ。多分、彼女に母親を求めてたんだと思う」
そう言うと廉は恥ずかしそうに目を伏せた。
「お前に言われるまで気が付かなかったけど、確かに彼女は母さんに似てた。
見た目だけじゃなくて、性格も、考え方も。
俺、彼女と付き合う事で母さんの事知りたかったんだって、今更だけど思ったんだ」
「廉さん…」
「ガキだったからな、俺も。
でもな、ある日突然振られた。母さんの時みたいに、前触れなく捨てられた」

239 :
別れを告げられた廉は、訳が分からず呆然と立ち尽くした。
「結婚する事にしたの。だから、今日でおしまい」
まるで世間話でもするようにあっさりと言われて、話についていけない。
「ケッコン…て、何?」
言葉を覚えたての幼児のようにたどたどしく尋ねる廉。
容子は廉を抱きしめて囁いた。
「大好きだったわ、廉。今までありがとう。本当に楽しかった」
あんなに何度も体を重ねたのに、そんな事などなかったように晴れやかなその笑顔が理解できなかった。
俺の事好きだって言っただろ?それも嘘だったのかよ。
仮初めの愛を与えて、やっぱり母さんみたいに俺を捨てるのかよ。
もう二度と女なんか信じない。俺は一生一人で生きていく。
廉は母親を呪い、初めて出来た恋人を呪い、そして人生を呪った。
「それから社長に出会ってデビューする事になった。
柊や勇気とも始めはなかなか打ち解けなかったけど、音楽で繋がってるから信頼する事が出来た」
美子はじっと廉を見つめている。
「そして…お前に出会った。それで俺の人生は変わったんだ。
もう誰かを好きになることなんてないと思ってた。だけど、いつの間にかお前の事好きになってた」
廉は美子の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「廉さん…」
「美子。お前が俺を変えてくれたんだぞ。わかってんのか?
俺はお前を絶対に離さない、絶対にだ」
美子が廉の首にしがみついた。
「ごめんなさい、廉さん。
私と出会う前の事なんて、どうしようもないのに…何か悲しかったの。
私、廉さんの初めての彼女になりたかった。そんなの無理だってわかってるのに…」
廉は美子を強く抱きしめた。
「ごめんな、美子」
「謝らないでください。私が我儘言ってるだけなんですから」
廉が美子の頬を押さえて口づけた。
優しく、甘いキス。
そして唇をそっと離して囁く。
「美子、愛してる。俺の初めてをあげられなかったけど、これからは一生お前だけのものだ」
美子はコクンと頷くと、連の胸に頬を寄せた。
「さ、もうベッドに戻るぞ」
二人は仲良く手を繋いで、寝室に戻って行った。

240 :
ベッドに並んで横たわり、腕枕をして美子を抱き寄せる。
柔らかな髪を指で梳き、小さなキスを美子の頬に落とした。
「俺、お前の初めてを全部貰っちゃったんだな…」
「廉さん、くすぐったいです」
美子が首を竦めてイヤイヤをする。
「初めてのキスも、初めての夜も…。
だから責任を取って一生そばにいるからな。って言っても責任だけでお前のそばにいる訳じゃないけどな」
「あっ!」
「な、なんだよ」
廉は驚いて美子から顔を離した。
「初めてのキスは、廉さんじゃない…かも…です」
「えっ?」
廉の顔がみるみる険しくなっていく。
「どういう事だ?一体誰としたんだよ」
「それは〜昔の事ですから。ちなみに、いち、にい…あ、廉さんは三人目です」
美子はキスをした人数を指折り数えた。
「さ、三人目っ?いいから言えっ。誰としたんだ?」
「そんなに気になりますか?」
「べべべ、別に気にしてるわけじゃない。つーか、お前が言いだしたんだろうが!」
血相を変える廉を見て、美子がふふっと笑った。
「じゃあ、言います。一人目は…」
廉が美子を睨みつける。
「…お父さんです」
「は?」
一気に廉の顔が紅潮する。
「そして二人目は…」
「いい、もう言うな。わかった」
「わかっちゃいましたか?」
「…美男だろ?」
「当たりですっ!」
廉は深ーいため息を吐いて肩を落とした。
「あんまりビックリさせんな。てっきり付き合った男がいたのかと思っただろうが」
「えへへ、ごめんなさい。でも嫌じゃないですか?廉さん三人目ですよ?」
「三人目って言うな。まあ、親父さんは仕方ない。でも、美男は後できっちり締めとく」
廉はそう言うと美子を両手で閉じ込めて口づけた。
「これからはお前の唇は俺だけの物だからな」
「はい。勿論です」
触れ合うキスを何度も重ね、だんだんと深くなっていく。
そして甘い愛の時間が始まろうとしていた。

241 :
以上です。
うー、緊張した。
最後の「廉さんは三人目」のくだりを書きたかったのに
途中すごく重い話になっちゃって無理やり話を転換したのでちょっと変かも。
廉さんの過去を勝手にねつ造しちゃってすみません。

242 :
廉さんがDTじゃなかったなんてw
久々の新作ごちそうさまでした。

243 :
おお〜新作来てた!!
上で廉を呼んだからか?
じゃ、試しに次の奴呼んでみる
『柊さ〜ん』

244 :
連投スマソ
肝心の事書き忘れた
美子はやっぱり可愛すぎ
相変わらずメロメロ廉さんだし
ドラマ終わって2年近く経つのに新作が読めて嬉しいよ
作家さんありがとね

245 :
  _           _
           \   r‐┐ /
         ___ .>‐i!Oi!‐<  ____
           | ! _i kl〔, --、〕k.│ l| |  あーもうーみんな消し飛べ
           | |__|,|l. ll_|_|_ll |,l!_| l! |
     _,.、__〉 l|__|l iL`旦´_iL.l|___.L_,.、
     i.EiUミ-l/ / ] i_ 目 _l [¨ヘ -f-fUiヨ!
     l モヒ_l_7_フ [.l二|0|二l.] ∨l、.Lヒシ!
       ̄ ̄¨   _∧ ハ ∧_  ¨ ̄ ̄
            「亘L i! i!」「亘〕
          |\厂L_ ロ  〔 l_厂l.lノ|
          L〔__l_,≧’‘≦_l__〕」

246 :
ドラマの再放送が始まったね。
久しぶりに見て、こちらにもお邪魔してみました。
書き手さまの久しぶりの新作、楽しみにしております!

247 :
美男ですね シーズンII
なんてあったらいいのにね。
今思いだしても、やっぱり柊さんはインパクト大きい。
切ないけど、突拍子もなさすぎて。
あんなに最強の当て馬って未だかつていただろうか?!

248 :
>>247
いいなぁ
それ見たい
本気で期待してたんだけどね

249 :
オリジナルでは柊さんポジの人はただ突っ立ってるだけだったからなー
(ファンの人ごめんね)
廉美子のイチャイチャシーンをちりばめつつ、柊さんのスピンオフなんてどうかな、TBSさん!

250 :
>>247
最強の当て馬www
廉さん中の人の新ドラマが美男3部作?みたいになってるし、再放送始まったし〜
ぜひ柊さんスピンオフが欲しいw
エロさちょい増しで、深夜枠もいいなあ
…これドラマ本スレでTBSにお願いした方がいいのか?

251 :
>>250
2013年冬放映予定 柊さんスピンオフ
 「柊さんですね?!」
舞台
・廉さん衝撃の告白コンサート1日後
・柊さんが階段から落っこちて記憶喪失
・美男のゲロ・ママン号泣場面以降の記憶なし
・美男にふられた記憶もないので再ラブ
テーマ
・廉さん・勇気・ナナが3人がかりで、柊さんが美男にふられた記憶を思い出させることが出来るか?!
 (柊さんって都合よくポジティブだったよねww)

252 :
柊さんの中の人がオールヌードらしい<anan
参ったなw

253 :
もしA.N.JELLにananからオファーあったら…
廉「そんな話、雑誌でできるか!(怒)」←本人却下
美男(美子)「ヌードなんて…女だってバレちゃいます(泣)」←事情により却下
勇気「うん、いいよぉ〜やるよ〜」←ノリが良いがイメージ違いでanan側が遠慮
やっぱり柊さんが適役じゃないかしらw
ananを読んで柊さんの話を妄想してもらえる書き手さん、いませんか?

254 :
久しぶりにお邪魔しました。新作投下ありがとうございます。
柊さんの中の人のananとNANAの中の人のanan持ってますv
両方を並べて見て柊×NANAを連想してしまいましたw

255 :
おお…ついに、ついに規制がとけた!
新作が待ち遠しい今日この頃です
自分も書こうと思ってるけど形にするのって難しいね
職人さん、お待ちしております

256 :
>>254
柊さんのヌード写真、どうだったんでしょう?
イメージ的に痩せててもお腹ぽっこりなんですがw
人生初の失恋でやけくそになってヌードで心機一転ですかねー(^v^)

257 :
あげ

258 :2013/09/29
ほしゅ
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