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2013年10エロパロ425: 煩悩の十二国記*十四冊目 (661) TOP カテ一覧 スレ一覧 Pink元 削除依頼

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煩悩の十二国記*十四冊目


1 :2011/02/02 〜 最終レス :2013/09/13
●お約束●
1 投下の際は、カップリング(A×B)と特殊な場合は傾向(レイープ、鬼畜など)を事前申告のこと.
  見やすいところに『続く』『終わり』等の区切りを入れることを推奨。
  基本はsage進行で。
2 エロなしSSはスレ違いです。直接行為がなくてもエロい雰囲気であれば可。
3 カップリングや作風など、自分の趣味嗜好に合わないSSに対して、
 文句を言うのは止めましょう。
4 鯖に優しい2ch専用ブラウザ導入推奨。人大杉でも閲覧可。
絡みや煽り、荒らしにはスルーの精神で、マターリ
関連スレは >>2-3あたり

2 :
●前スレ●
煩悩の十二国記*十三冊目
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1263636688/
●過去スレ●
煩悩の十二国記*十二冊目
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1206630340/
煩悩の十二国記*十一冊目
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1173104903/
煩悩の十二国記*十冊目
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1142685190/
煩悩の十二国記*九冊目
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1115651592/
煩悩の十二国記 *八冊目*
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1095702589/
煩悩の十二国記*七冊目*
http://idol.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1083500601  html化待ち
煩悩の十二国記*六冊目*
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1070237472  html化待ち
煩悩の十二国記*五冊目*
http://www2.bbspink.com/eroparo/kako/1064/10641/1064166623.html
煩悩の十二国記*四冊目*
http://www2.bbspink.com/eroparo/kako/1060/10605/1060548574.html
煩悩の十二国記*三冊目*
http://www2.bbspink.com/eroparo/kako/1054/10548/1054895757.html
煩悩の十二国記*二冊目*
http://www2.bbspink.com/eroparo/kako/1041/10419/1041946583.html
煩悩の十二国記
http://www2.bbspink.com/eroparo/kako/1029/10295/1029553806.html
●SS書庫●
元祖 ttp://red.ribbon.to/~giraffe/
第二 ttp://2ch.12kokuki.net/eroparo/

3 :
●関連スレ●
・2ch・小野不由美関連まとめサイト
http://12ch.w-site.jp/
・エロパロ板過去ログ(まとめサイト内、ただしTOPからはリンクしてません)
http://12ch.w-site.jp/kako/log_eroparo.html
・801十二国記8冊目
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/801/1194615302/
・【王様】801十二国記【麒麟】 別館
http://jbbs.shitaraba.com/otaku/32/
上記以外の関連スレは、まとめサイトを参照のこと。

4 :
書けなくなってたので立てました。
前スレの1にあった「エロくない作品はこのスレに」は10+で最後だと思うけど
落ちてるようなので、スレ立てを優先してとりあえず記載を省きました。
前スレの関連スレにあったお絵かき掲示板、十二国記用語辞典も
今はなくなっているので削除しました。
訂正があったらよろしく。

5 :
お疲れ様です!


6 :
今確認したら801板の別館はこれですね。
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/32/
転送されるので支障はないみたいですが、
次スレ立てる時は修正お願いします。

7 :
ぉぉ! 
>>1乙 
(゚◇゚)ソクイ! 
であります
あわせてカメですが前スレID:uY5VNqTw
大量連続投下、感謝多謝であります

8 :
前スレで、書き込みできず驚いた。
500KBでスレストするの知らなかったか。

9 :
枕元に枝を置いて寝る。きっと良い夢がみられるばすだ…
節分の豆を、ひたすら李斎にぶつけられる夢でもかまわない…
それを力づくで止める泰麒…
だれか…たのむ…


10 :
>>8
スレ容量は500KBまでなんだよね。
エラーメッセージは「512kを超えているので書けません」だけど。

11 :


12 :
朝ご飯の時間です
書き込めるのか…
浩瀚×祥瓊
やや、浩瀚が、鬼畜?
でも、愛はたんまり
10落とします

13 :
避けられている。浩瀚は小さく溜め息を吐いた。自室の寝台の上でゆっくりと目を閉じる。祥瓊は夏以来…この寝室に来る事はなかった。
暦では秋に入る。身体を触れ合わす事が許されなくなって…約二か月たっていた。
直接的な原因と言えば…祥瓊が主上と台輔の寝間を覗いてしまった事だろう…。ひどく怯えた様子で、震えていた。刺激が過ぎたかと…あの時は苦笑いしたが…。
なにか…間違えたのだろうか…。手が勝手に寝台の枕元を探っているのに気がつき、下ろした。煙管は範の件があってから止めた。
嫌われたか?…そう考えてみる。政務の合間に主上の傍らでなにかを話したり、笑ったりして…視線が合うと、ふっと逸らされる。…だが…その頬に走るのは…決して嫌悪の表情ではない…と思う…。どこを見たらいいのか、わからない…そんな表情だ。
主上の寝間を見て怯えたのが恥ずかしかったのだろうと、始めの頃は微笑ましく見ていたのだが…。
気がつかないうちに、唇を撫でていた。…口付けすら…していない。煙管もない、口付けもない…口寂しいな…そう小さく笑った。
ゆっくりと眠りに身体を委ねながら瞼の裏にあの青い髪を思い浮かべる。
いろんな表情を見た。泣いたり、笑ったり…驚いたり…そして、華がこぼれるように微笑む。
…蕾に戻りたがってるのかもしれない。
浩瀚が華を散らして、腕の中で新たに咲いた。無垢な華から艶やかな華になろうとしていた。…いや…私がそうしようとしていた。
寝台の上で艶やかに舞う色香漂う華に…。
…蕾に戻るか…。
深く息を吐く。四十年…咲く事を知らなかった華だ。なにかのきっかけで…また蕾に戻る事もあるのだろう…。
焦ったつもりでは、無かったが…祥瓊の辛い時期に付け込んだとの思いもある。
…蕾に戻りたがるなら…戻らせてやらねばなるまい…。
結局は…惚れた者の弱味なのだと…苦く笑った。
「しばらく、寂しいな。浩瀚」
陽子がお茶を口にしながらそう言った。浩瀚が頷く。
「すぐ戻って参りますよ」
秋の収穫が始まり、年貢の納める時期が来た。今年はなにも天候被害がなかったとは聞いている。だが…収穫高を低く見積もり、私欲を肥やそうとする役人は未だに多い。
苦しむのは下々だということを、陽子が嫌った。
そこで、浩瀚が現場視察という名目で、抜き打ちにあちらこちらの州を見て回ることになっていた。

14 :
「冢宰自ら…」
景麒が困惑したように呟く。陽子が肩を竦めた。
「本気だと分からせるためだ。」
不正は許さん…だが、悔しい事にその裏をかく役人は必ずいるのだ。だから、見張る。あらゆる所に目をやるために。だが…陽子の指が湯飲みの縁をなぞる。
「…なかなか、人がいないな…」
信頼できる官…。その思いは皆同じなので、無言になった。
今日はもう上がれと言い残し、陽子と景麒は部屋を出て行った。頭を下げてそれを見送り…浩瀚は、部屋で茶器を下げている祥瓊の後ろ姿を見た。
…気を使われたのか…そんな気もしたが…知らないはずだと首を振る。
「…祥瓊…」
名を読んで、ああ名を呼ぶ事すら久しぶりだと思った。祥瓊の肩が一瞬揺れ、何事もないように、なんでしょうと声がする。…振り返る事もしなくなったか…。
「…こちらを向いてくれ」
浩瀚の声に、ようやく祥瓊が身体を向けた。視線が彷徨う。
「…ずいぶん、話をしていない気がする」
祥瓊は俯いたままなにも口にしなかった。
「…なにかあったか?」
しばらくして祥瓊の首が横に振られる。
「…なら…私がなにかしたか?」
祥瓊がなにも言えないまま…俯いた。
「…黙ったままでは、わからない」
浩瀚の言葉に叱られた様に肩を竦める。その姿を見て…浩瀚は溜め息を吐いた。
「…明日、発つ。もし、なにか言いたい事があれば私の部屋においで」
浩瀚はそれだけ伝えると部屋を出た。
そして…その夜、祥瓊は姿を現さなかった。
夏、自分の友達であり主上である陽子の寝間を聞いてしまった。あまりの悲鳴と乱暴な音に折檻なのかと怯え、浩瀚の元に走って震えた。
だが…次の日、景麒が困ったように祥瓊を呼びに来て、主上を頼むと言って消えた。恐る恐る寝室に入り…籠った生々しい寝間の香りに顔がほてった。
慌てて、空気を入れ替えている最中に目を覚ました陽子が祥瓊を見て、照れたように笑って見せた。
「…好き勝手やられた」
手首に付いた紐の跡を見て、青くなった。足首にも…。一瞬、再び夕べの恐怖感が蘇りかけたが…陽子が大きく笑ったのを見て呆気に取られた。
「あー悔しい…くそ…あの馬鹿…噛む所変えやがった…」
肩にくっきり残る歯形。
「…怖くなかったの…?」
あの悲鳴と括られた手足…そして身体のあちこちにある噛んだ跡…。

15 :
そう聞いた祥瓊に陽子はきょとんとし、そして今までに見た事のない艶やかな顔をして笑った。
「…好きな奴のすることだ。なんでもかまわないさ…」
いろんな仲直りの仕方がある。浩瀚はそう言い方を変えたけど…祥瓊はようやく分かった。
いろんな愛し方があるのだと。
そう思ったら…もう駄目だった。いろんな愛し方がある。浩瀚は?いつも優しいだけの愛撫をくれるあの人も…あんな…激しい愛し方をすることがあるのだろうか…。
そう思ったら、顔を見れなくなった。声を聞くだけで、身体が逃げてしまう。なんで逃げるのか自分でもわからないまま、浩瀚が視察に行ってしまう事になった。…部屋においでと言われて…いけなかった。
自分がなにを言いたいのか…わからなかったから。
そして…浩瀚が金波宮を出て半月の事だった。朝議が終わり、陽子と景麒にお茶を淹れていた時。転ぶようにして下官が駆け込んで来た。表情を険しくした陽子が立ち上がる。その下官が叫んだ。
‐冢宰襲撃‐
陽子が部屋を飛び出し、景麒が後を追う。祥瓊は自分が茶器を床に落としたことも…気がつかなかった。
陽子達が飛び出して行った後、知らせを受けた桓碓が飛び込んで来る。
部屋を見回し、赤い髪がいないと見て取り、入れ違ったかと舌打ちした。再び部屋を飛び出ようとして…部屋の片隅で震える祥瓊を視界が捉えた。
「祥瓊っ!…祥瓊っ」
肩を揺さぶる。桓碓が揺さぶるまま祥瓊の身体ががくがくと揺れる。
「しっかりしろっ!おいっ!」
怒鳴られて、祥瓊の唇が震えながら開いた。
「…浩…瀚は…ぬの…?」
祥瓊の言葉に桓碓が舌打ちする。
「ぬかっ!馬鹿っ!」
血の気を無くした祥瓊の指が縋るように桓碓の手にかかる。爪の先からも血の気が失せて細かく震えている。
「…浩…瀚…」
桓碓の手が祥瓊の顔を無理矢理挟み自分に向ける。
「祥瓊っ!俺を見ろっ!祥瓊っ!」
視線を合わそうとしても祥瓊の青い瞳は焦点を無くしたように桓碓の顔をただ走るだけで…桓碓は、手の平を翻した。
「…っ…」
頬を張られ、ようやく祥瓊が我を取り戻す。自分の前にいるのが桓碓だということにもようやく気がついた。
「…俺がわかるな?」
震える顎で頷く。祥瓊の指が桓碓の袖にかかった。
「…浩…瀚は…」
「ぬかっ!」
祥瓊の言葉をぶったぎるように怒鳴る。んでたまるかっ!あの人がっ…!

16 :
「麦州侯だぞ…冢宰だぞっ…あの人がんでたまるかっ!」
桓碓の怒鳴り声のような悲鳴を聞いて…祥瓊の瞳から初めて涙が零れた。
油断があった。次々飛び込んで来る知らせに陽子は苦い思いをしていた。景麒も使令を走らせより詳しい現場を見ては知らせて来る。
…抜き打ちという形が、逆手に取られた。最少人数で移動していたのを尾行けられ襲われた。襲ったのは盗賊。だが…役人と結託していなかったとも言えない。
なぜなら、襲撃した盗賊たちが、逃げた先で矢に射ぬかれてんでいるのが見つかっている。
…陽子は表情を無くしたまま指を組んで次々入って来る知らせを聞いていた。その横でやはり顔色を無くした景麒が使令の言葉を聞いている。
「主上…」
景麒が陽子に声をかけた。陽子が目線だけで促す。
「…冢宰は目を覚ましたようです」
「怪我は」
再び、景麒が影に聞く。
「…肩を貫かれたようですが…衝撃で意識を無くされただけだと…」
陽子が静かに息を吐いた。
「命には別状はないんだな」
確認するように景麒に聞く。景麒が頷いた。
「ご無事です。青将軍が到着なされました」
ゆっくりと身体に入っていた力を抜く。
「徹底的に調べさせろ。なにもかもひっくり返して調べて来いと伝えろ」
陽子の言葉に影がゆらりと揺れた。
浩瀚が金波宮に戻ったのはそれからさらに半月たってからだった。肩を貫いた矢に毒が塗ってあったらしい。しばし、寝台から起き上がれなかった。毒抜きがうまくいき、肩の傷が塞がりかけてようやく移動する許可が出た。
初めて浩瀚の住む建物に足を踏み入れて、陽子が目を丸くした。なんだこの書籍の山は…。祥瓊が初めて訪れた時と同じ感想を持ったのだろう。軽く頭を振った。
「…このような所に…」
やつれた風の浩瀚が、寝台から身体を起こそうとする。それを慌てて陽子が止めた。
「構わん。気にするな。」
そして、苦い顔をして詫びる。
「…すまなかった。わたしが出した案だったな…」
抜き打ちの視察。浩瀚も苦く笑った。
「ですが、私が乗りました…確かに手っ取り早かったと思いましたし」
ただ…いまだ、ここまでして利権を守ろうとする役人がいることを軽んじた。だが…移動する人間を増やすと抜き打ちの意味が無くなる。
「…難しい所だな…」
そう呟いて、陽子は立ち上がった。
「ここには人がいないのか…」

17 :
人気が無い事を驚いたように回りを見回す。
「祥瓊を置いて行くから」
そのつもりで祥瓊と共にここに来ていた。陽子の言葉にほっとした顔をした祥瓊は、首を横に振った浩瀚を見て再び表情を曇らせた。
「女史の手間はいりません」
浩瀚が陽子に話す。
「先程、虎嘯が見舞いに来てくれました。桂桂をよこすよう頼んでます。…女史は主上のおそばに」
はっきりとした言葉にそうか…と頷くしかできなかった。なにか…違和感…陽子が眉を潜める。
祥瓊と共に建物を出て…気がついた。
浩瀚は一度も祥瓊を見なかった。
季節が変わる。浩瀚がたまに顔をしかめながらも朝議にでれるようになったのは、風が冷たくなるころだった。
冢宰襲撃はそれなりに全土に衝撃を走らせた。さらに、禁軍の青将軍が動いた。緊張させるのには充分で、つつがなく年貢は納められた。
怪我のなんたらだったなとからかわれ、浩瀚は苦笑いした。
何事もなかったかのようにまた日々が動き出す。浩瀚は自分の居るべき場所…そこに戻れた事をさすがに天に感謝した。
風が冷たくなった。窓が風で震える。浩瀚はゆっくりと窓に寄った。そして…木の影に立つ影を見つめる。
気がついたのは、何日か前だった。夜更けふと手洗いに起きた時、外にいるのに気がついた。
いつから立っていたのか…いつまで立っているのか…。
秋から冬に向かう樹々の間で、青い髪はとても寒々しく心細そうに見えた。
「戻りなさい」
扉からそう言った。ただ一言だけ告げて、部屋に戻った。建物に入れる気は無かった。しばらくうなだれて、樹々の間に消えていく。
それが、毎夜続いた。窓から祥瓊を見つめる。…蕾に戻るなら…戻ればいい…。そう思っていた。…なにも知らないことにはできないが…あの華なら、蕾に戻ってもまた、美しい華を咲かすだろう。自分の手じゃなくても。
そう思い、苦いものが上がる。あの華を手折ったのは自分で、しかもいまだ、ひどく魅かれていることを自覚しているのだ。
なにか話す事があったら来いと伝えた。でも、その夜来なかった。…避けられて…話す事もできず…そして離れた。
ふと…思った。もし、自分がんでいたら…あの娘はどうしただろうか…。外に立つ事もせず…ただ蕾にもどったのだろうか…。そう考えて自虐的に笑った。悲しんだり泣いたりして欲しいのかと…ひどく自分が浅ましく感じられた。

18 :
なにを思って立っているのだろう。そうぼんやりと外を眺めていた浩瀚の視界に白い物がかすめた。
雪?
小さく細かい雪がゆっくりと舞い出した。…もう、初雪が来る時期だったのか…。時の流れの早さに軽く頭を振る。浩瀚は架けておいた上着を手に取ると、外に向かうために寝室を出た。
扉が開く。
祥瓊はゆっくりと顔を上げた。扉に凭れるようにして浩瀚が立っている。毎夜の事だ。戻りなさいと言われて…扉に消える。
わたしは…なんでここにいるんだろう…気がつけばここにいた。始めは立っている場所がどこかもわからなかった。
浩瀚がこの建物に戻り、祥瓊をいらないと陽子に言った。それから…気がつけば、部屋の灯が消えるまでここにいた。
灯が消えるのを待って…ああ、あそこにいるんだと安心して自分の部屋に戻った。
そんな夜が続いて…部屋の灯が消えた後だった。扉を開けた浩瀚が、戻りなさいと一言だけ言った。…入れてもらえないんだと…わかった。でも…またここにいる。
わたしは…なにをしているの…。
扉に凭れて祥瓊を見ていた浩瀚が深い溜め息を吐いた。一歩前に出て来る。いつもと違う…ただそう思った。
ゆっくりと祥瓊の前に立ち、手にしていた上着を渡す。
「…戻りなさい」
ようやく…手の届く場所まで来てくれたのに…。祥瓊に上着を渡すと浩瀚はゆっくりと建物に向かって歩き出した。
気がつけば…その背中を追っていた。浩瀚の歩く歩幅に合わせて歩いた。建物の入口で…浩瀚が振り返った。
「戻るんだ。祥瓊」
聞いた事のない声だった。冷たくて…もう…なにもかも…自分に対する感情もなくしたような…。足が竦んだ。
浩瀚が扉を開け…中に入る。その後を…祥瓊は扉を開けて入った。
「…祥瓊。戻るんだ」
柱に寄り掛かり、浩瀚が扉を開けた祥瓊を睨んでいた。
蕾に返してやろうとしているのに…。
祥瓊が一歩、足を踏み入れる。
「…祥瓊、ここは男の部屋だ。帰りなさい」
わかっている。指で触って確かめた。女と違う身体。その背中の広さ。…自分を貫く物…。
また一歩、祥瓊が浩瀚に近付く。
「話があるのなら、来いと言った時、来なかったのは祥瓊だろう!」
これ以上近寄るな…覚悟が崩れる。
苦い表情しか浮かばない。早く出て行ってくれ。私が手を伸ばさないうちに!
祥瓊がゆっくりと浩瀚の前に立った。

19 :
「…私は怪我をして、気が立ってる。なにをするか…わからんぞ…」
浩瀚の瞳が見た事のない光を帯びた。いつもの穏やかさが消え、ただの男だと…。祥瓊の指が浩瀚の胸に伸ばされた。
思わず、祥瓊の手首を絡めとり睨み付けていた。祥瓊の身体が大きく揺れ、留めていた髪が解けて空を舞う。
「いいかげんにしろっ!祥瓊っ!」
私に構うな!私にお前を傷つけるような事をさせるなっ!
祥瓊が顔を振り仰いだ。
「あなたになら、なにをされても構わないからよっ!」
青い瞳が揺れる。その瞳が浩瀚を睨んで放さなかった。
「…あなたが…いろんな、仲直りがあると…言ったじゃない…。」
いろんな愛し方があると…。浩瀚の顔に驚いて…そして、苦渋の表情が浮かぶ。
「…なにを言っているのか…わかっているのか…」
「わかったから…ここに来たのよ…」
そう…ようやく分かった。なにが伝えたかったのか…ずっと考えていた。
浩瀚の指がためらうように祥瓊の手首を放す。…ほら…こんな時でも…やっぱり優しい…祥瓊の手が、浩瀚の胸に添えられた。
「…あなたが…好きにしていい…」
浩瀚が祥瓊から目を逸す。…ねぇ…逃げないで…
「…逃がしてやろうと思ったのに」
絞り出される言葉に笑う。やっぱり…優しい。
「…手加減…できるか知らんぞ…」
また笑う。手加減なんていらない…だから…。
「いろんな愛し方を…教えて…」
あぁ…やっと伝えられた。嬉しくて…涙が頬を伝った。
まるで嵐のような口付けだった。顎を捉えられ、肩で固定される。息ができず苦しかった。だけど、浩瀚の方が苦しそうだった。
浩瀚の喉が低く唸る。啄む口付けもなく…ただ口のなかを蹂躙された。大きく喘ぐように口を開いたまま…塞がれる。浩瀚の舌が絡み、祥瓊の舌を吸い上げる。祥瓊の喉が混ざった唾液を堪え切れず嚥下した。
胸元に手が差し込まれる。強く目を閉じた。指先が突起に当たる。
「んっ…」
爪先で摘まれ、捩じり上げられた。鈍い痛みが熱いものに変わる。
「…立ってられないのか…」
そう言われ、膝が震えている事に気がついた。指だけで浩瀚の身体にすがりついてる。そして…思い出した。
「…誰かが来たら…見られてしまうな…」
浩瀚の言葉が耳を犯す。

20 :
いや…だめよ…うわ言のように呟いたのを咎めるように再び、突起を捩じられた。
「…っあん…っ」
浩瀚が祥瓊を柱に押しつける。ようやく背中に安定したものを感じ、祥瓊はほっと息を吐いた。
「…立って…」
言われて頷く。足の間が辛い。既に興奮し、雫が太股を伝っている。知られたくない…そう思い、身体を捩った。
「ちゃんと…立つ」
小さく頷く。浩瀚が唇を首に這わす。あぁと甘い息が漏れた。気持ちいい…。襟足に顔が潜り込み、甘噛みした。
「…もっと…」
景麒のように…歯跡をつけて…。
「ひっ?!」
服の上から、乳首を両方捩じり上げられた。思わず悲鳴が上がる。
「…なにを考えた…」
なんで分かるの…この人は…。浩瀚の瞳が鋭く光る。
「言わないと…」
指先に力が込められ、乳首の形が潰れる。思わず叫んだ。
「噛んでっ…お願いっ…噛んでっ…」
首筋に当たる浩瀚の唇と熱い息と…そして、固い…歯…。
強く噛まれた所から、我慢できないほどの快感が走り抜け、祥瓊は浩瀚の頭を抱いたまま、大きくのけ反った。
浩瀚が祥瓊の身体を支え、祥瓊の息が落ち着くまで抱き締めていた。
祥瓊の片足が浩瀚の足に回され、擦り付ける動きをする。その足を叩いた。
「立って」
青い髪が揺れる。震える足をもとに戻し、大きく息を吐いた。
ふと、目線を上げたら…先程開けた扉が見えた。わたし…こんな所で…。
顔が羞恥に染まる。浩瀚は気がつかぬように乱暴な手つきで袷をはいでいく。前だけはだけた格好は…とても祥瓊を心細くさせた。
「…あなたも…」
浩瀚がなにも言わず、身体を屈めて行く。あぁ…本当に…こんなところで…?
浩瀚の手の平が祥瓊の柔らかい乳房を揉み、先程いじめた乳首を口に含む。形が変わるほど揉まれ、口のなかで遊ばれた。
「…浩…瀚…」
頭を掻き抱くようにして名前を呼ぶ。浩瀚の唇が離れ、可愛らしい臍に舌を入れる。祥瓊の身体が揺れる。
お願い…見ないで…知らぬ間に身体が前屈みになっていた。浩瀚の肩に手をかけ自分から放そうとしている。浩瀚が祥瓊の顔を見た。
「…なんで邪魔をする…」
祥瓊の唇が震えた。
「…だめ…見ないで…」
太股に幾筋の涙が零れてる。浩瀚がそこに指を這わせながら、祥瓊の顔から視線を放さなかった。
「…なにを見て欲しくない?」


21 :
あぁと祥瓊が身体を捩った。ひどいわ…言わないで…
浩瀚の指が、祥瓊の秘部をまさぐり濡れた指先で、祥瓊の唇を押さえた。
「…言うんだ…祥瓊…」
いや…と首を振ると、また浩瀚の指が秘部をまさぐる。そして今度は雫を掬うようにして、祥瓊の唇を濡らした。
「…こんなに…なってる」
霞みがかった瞳をした祥瓊が、舌先を伸ばした。ちろ…と浩瀚の指を舐める。猫の様な舌の動きに魅入られるように浩瀚は祥瓊を見つめた。
祥瓊を支えていた腕を放す。ずるずると祥瓊は自分の着物の上に座り込んだ。ぼんやりと浩瀚を見る。浩瀚はゆっくりと身体を祥瓊から起こし自分で着ているものを脱いだ。
ぼんやりと見ているうちに、祥瓊の前に浩瀚が立っていた。
「祥瓊…」
浩瀚の手が今夜初めて優しく祥瓊に触れた。その優しさに涙がでそうになる。
「…やれるか?」
少し迷うような言葉に逆に突き動かされるように…祥瓊は目の前にそそりたつものに、舌先を伸ばした。
浩瀚はゆっくりと祥瓊の頭を撫でていた。指を添える事も知らないのだろう。床に手をついたまま、舌先だけ固くして浩瀚の肉茎をなぞっている。拙い舌技だった。それでも、愛しかった。
祥瓊の身体が少し伸び上がった。肉茎の先端に舌先を伸ばして、つつく。
さすがに、響いた。思わず、祥瓊の頭を押さえてしまう。だが、逆に祥瓊はそこが良いらしいと本能的に察した。一度、祥瓊の舌が唇の中に戻る。小さく唇を舐めて…桜貝の様な唇を開いた。
「…っく…」
唇が、先端に吸い付く。浩瀚が呻いた。唇が軽く動き、チロチロと舌が動く。
「駄目だっ!祥瓊っ」
思わず叫んだのと、頭を引き離したのと同時だった。
「きゃっ…?」
突き飛ばされ、尻餅をつく。何かと目を開けようとした瞬間、なにかが熱く顔にかかった。
「…すまないっ…」
やや呆然としている祥瓊が、自分の顔にかかったものを指で掬う。白濁した…もの…。
「やめっ…」
浩瀚が驚いたように、祥瓊の手を取る前に…舐めてた。
「…ん?」
変な顔をして、祥瓊が浩瀚を見る。しばしして、祥瓊が顔をしかめた。
「…なんか…へん…」
慌てて浩瀚が、自分の着ていた寝間着で祥瓊の顔を拭った。
「…すまない…」
丁寧に拭かれて…ようやく…浩瀚が、身体の力を抜いて祥瓊の前に座り込んだ。
「…浩…瀚?」
浩瀚の腕が祥瓊を引き寄せられる。

22 :
もう…荒れてないのかと、恐る恐る祥瓊も浩瀚の背中に腕を回した。
「…なにを言って…いいんだか…」
深く溜め息を吐かれ、浩瀚の身体が祥瓊に凭れかかる。温かい…。その温もりと重さが嬉しかった。
浩瀚の手が無心に祥瓊の髪を撫でる。手の平の大きさに安心する。
「…おかえり…なさい」
ようやく…自分の所に戻って来た…そう感じて嬉しかった。祥瓊の閉じられた瞼から涙が零れる。
浩瀚の背中を撫でていた祥瓊の指が、引きつれたような痕に触れた。
「…ここ?」
「ああ…もう、わかりにくいな…」
白く引きつれたような傷。刺し貫かれた矢の痕。祥瓊の唇がそこに当てられ軽く吸い上げた。浩瀚の顔がしかめられる。
「…なにをしている…」
なにをと言えば…わからないんだけど…。
「…早く良くなれば良いと思って…」
なんとなく視線が絡んで…浩瀚の口元にようやくいつもの笑みが浮かんだ。祥瓊も小さく笑う。
やれやれと、浩瀚が立ち上がった。祥瓊を立たして寝室に向かう。
「着物が…」
「明日、取りに来ればいい」
扉の前に二人の着物が散らばっている。なにをしてたかなんて、一目瞭然で。
祥瓊の顔が赤くなった。浩瀚が、それとも…と足を止める。
「…あの場所で…してみるか?」
祥瓊は慌てて寝室に飛び込んで行った。
おわる

23 :
初の…お口ででしたな…
新しいスレでの初投下
お目汚ししつれい
この話の陽子のエロは前のスレにあります

24 :
>>8>>10
次スレでは一応テンプレに入れといた方がいいんじゃないか?
容量制限は500kって事と
その付近になったら次スレが立つまで自重するとか

25 :
いやぁ〜最近の職人さんのガンバリには頭が下がります。乙であります
ちなみに2ちゃんの512k制限は昔からあり有名、AAスレがよく引っ掛かっていた

26 :
きもっ

27 :
なかなか、日常に帰れません。
仕事中、頭だけあーだから、こーしてと考えているうちに、無表情になったと笑われました。
前スレでも、書きましたが、気をつける事があったら教えてください。
おやすみなさい

28 :
頻繁に投下って幸せだな。職人様ありがとう。
今から風呂で図南の翼よんでくる。

29 :
>>27
いつも乙
スレを使い切る前に
次スレを立ててURLを書いておいて貰えると
他の人が路頭に迷わないで済むのでいいと思います

30 :
本当に、縛りを知らず申し訳ない。
1000スレ縛りは知っていたんだけど…512KM縛りは知らなくて。
迷わないようにして下さいと、祈る気持ちしかないです。
自分も迷子になるかと思った。


31 :
さて、お昼ご飯の時間です
珍しく、短編。
浩瀚…祥瓊
ていうか、祥瓊
こういう夜もあるわなと。
2落とします。


32 :
…冢宰…
影の声に寝台から身を起こした。
…主上がお呼びです…気配が消える。
浩瀚は、寝台から立ち上がりながら、身を固くして様子を伺っていた祥瓊になんでもない、と笑いかけた。
「寝てなさい」
そう言い残し、着替えをし部屋を出て行った浩瀚の後ろ姿を見送り…祥瓊はゆっくりと寝台に身体を伸ばした。
…静かだわ…片腕に頭を乗せるようにして、先程まで隣りにいた浩瀚の温もりを指で確かめる。敷布の温もりは、しばらくすると冷たくなった。
主上の呼び出し…こんな夜中に…。なんかあったのかしら…。一介の女史と冢宰では、知らされる国の事情に雲泥の差がある。分かっている分、なにもできない事に深く息を吐いた。
帰って来るか…わからないわね…。そのまま朝議ということもある。伸ばした腕で何気なくない枕元を探って、身体を起こした。
「…煙管が…ないわ」
そういえば、浩瀚の身体から紫煙の香りがしなくなっていた。いつからかしら…気がつかなかった…。夏から冬に入る前まで自分が避け、そして浩瀚が避けた。擦れ違いがあったことが今思うと、胸に痛い。
避けられて、辛かった。そして…避けられていた事が辛かったと浩瀚に告げられた。同じぐらい…痛かったのだろうか…。
「…ん…」
再び寝そべり、浩瀚が消えた扉を見る。今夜…帰ってこないかな…。気がつかないうちに唇に触れてた。口付けだけでも…できたらよかったのに…。
そう考えたら、止まらなかった。自分の指先に、小さく歯を立てる。ツンとした痛みが…身体を走る。指先が…結びついてる…そう笑ったのは浩瀚だ。
どの指が一番辛いか試されて、そのうち麻痺した。口付けと、舌と…歯と。でも、一番身を捩らせたのは指と指が触れ合うか触れ合わないかの加減の愛撫だった。
もどかしくて、辛い。でも熱くて痺れた。幾度も喘いだ。でも…やめてと言えなかった。「…っん…」
寝間着の上からも、胸の突起が尖るように形を変えた。布に擦る感覚がする。…だけど…ここはまだだな…浩瀚の声が聞こえる気がした。
…指の方が気持ちいいね…頷いて、目を閉じる。寝間着の合わせから、指を潜り込ませる。
…だめ…自分の部屋じゃない…
心のどこかで声がした。
そう…浩瀚の部屋よ…
ゆっくりと息を吸い込んだら…微かに…寝台に染み込んだ紫煙の香りがしたような気がした。

33 :
…浩…瀚…
指が合わされた太股の間に触れる。
…だめ…ここでは…だめよ…
知らぬ間に歯が軽く下唇を噛んでいた。
…大丈夫…帰って来ないわ…
どこからか、甘く優しい声もする。
誘惑に負けた気がした。
…ごめんなさい…
何に謝ったのだろう…わからないまま、指先に心を任せた。
指先が思っていたより濡れている事に驚いたように離れた。でも、ゆっくりと…撫でるようにして差込まれて行く。
「…うっ…」
直接…芽に触れるのはまだ辛い。…刺激に弱いから…痛みが来るかな…浩瀚の指先が当てられた時にそう呟かれ、頷いた。…直接触ると…痺れたように痛い…。指先の脇で回りに触れるぐらいが…ちょうどよかった。
「…ん…ふ…」
鼻から甘い声が漏れる。大丈夫…気持ち…いい…。繰り返し指を走らせて…太股を伝う涙に困ったように腰を捩らせた。…これは…いや…。濡れる感覚が好きになれない…だが浩瀚は、苦笑いして…どうにかしてくれる。
…拭いてくれたり…浩瀚が…口で拭ってくれたり…
「…だ…め…」
身体が大きく捩れた。いや…濡れる。
「…浩…瀚…」
名前を呼ばれ、苦笑いした。寝てしまったかと、静かに戻ってしまったのが良かったんだか、悪かったんだか…
暗い部屋の寝台の布団の中で祥瓊が小さく喘いでいた。肩が竦められ、たまに小さく身動ぎする。甘い吐息が聞こえ、たまに堪えきれないように、自分で制止の声を出してる。
…なんと言ったものか…。扉に身体を預けるようにして寝台を見ていた。
布団の隙間から青い髪が揺れる。潜り込みそうな姿勢で…苦しそうに喘いで…。違うな…我慢できずに喘いでいる。
拙い自慰…多分、指先を自分の中に入れる事ができないのだろう。怖いのと、こういう事に対しての罪悪感で。…まだ教えてなかったな…。
「…こ…ぅか…」
甘く呼ばれ諦めた。どうせこんな状態じゃ、自分も辛い。ゆっくりと寝台に近付き布団の隙間から覗いている頭に口付けた。
驚いたように顔を上げて、赤くなり、青くなる。その耳に唇を押し当てる。
「…服を脱ぐまで…続けて」
見開いた目が、咎めない?と聞いている気がして。安心させるように口付ける。
「…続けて…」
「ふっ…ん…っ」
驚きで固まった身体が次第に弛緩していく。こういう事をしても…怒られない…。それが少し嬉しくて、ゆっくり目を閉じた。

おわる

34 :
珍しく、エロのみ?の気分。
時間がなかったので、ここまで。
お目汚ししつれい

35 :
いい加減、浩瀚×祥瓊ウッゼ
自分語りもウッゼ

36 :
GJ!毎日、投下を楽しみにしてます。

37 :
前書きや後書きは一切書かず、SS『だけ』投下すればいいんでない?少なくとも、この職人さんは

38 :
事前報告
景麒×陽子
普通
…6落とします

39 :
「…物凄い…本だな」
感心したように陽子が部屋の中を覗き込んでる。
「掃除が行き届いておりませんで…」
浩瀚の建物のあらゆる部屋を探検気分のように巡りながら、たまに絵のついた書籍を引っ張り出して見る。
「主上!貴重なものですよ」
「わかってる」
声だけ聞えて、景麒が呆れたように溜め息をついた。
「休んでおられたのではないか?」
風景な浩瀚の私室の円卓に座りながら、景麒が申し訳ないという表情をする。浩瀚が苦笑いして首を振った。
「とんでもない。もともとこの建物も、主上のものです」
今朝の朝議が終わり、役所に向かおうとしていたときだった。陽子から呼び止められ、遊びに行っても構わないかと聞かれた。
…なにもありませんが…とやや困惑しながら答えると、あの本が見たいと言われたのだ。
「なんであれ…学ぶという気持ちがお強いのは、私にとって嬉しい事です」
そう言われ、ようやく景麒の表情も和らぐ。
「浩瀚ー。絵本みたいなの、ないか?子供むけみたいな」
そこからか…と、景麒が微妙な顔をする。浩瀚は考えながら立ち上がった。
「…子供向け…ですか」
どの部屋に潜り込んだのか一つ一つ部屋を確かめていながら陽子を探していると、景麒が迷う事無く二階に上がって行った。
「こんな所に…」
浩瀚が景麒の後ろから覗き込んで苦笑いする。陽子は埃まみれも気がつかない様子で追って来た二人を見上げた。
「この部屋は、民族風習みたいなものですね」
「民族、風習?」
そう言って、陽子が自分が手にしていた書籍を捲る。その指先が、とても大切に紙を扱うのをみて浩瀚は嬉しくなった。この主上は、本が好きなのか…。
「…本がお好きですか?」
浩瀚の言葉に、陽子が頷く。
「…こちらの言葉は…分かるけど読めないから…ちょっと辛い。」
不思議そうな顔をする景麒に苦笑いした。
「結構、本読んでたんだ…向こうでな…」
親しい友達がいたわけでもなく…傍らにはいつも時間潰しと孤独さを紛らわす為に本を置いてた。いまとなっては…懐かしむ事の一つでしかない。
「あちらでは、子供でも本が読めたのですか?」
違う事に驚いた様子の浩瀚に陽子が首を傾げる。
「…いや…こちらでは、書籍は貴重なものですから…」
そう言われて気がついた。この国…こちらの書籍は全て人が書いてる。

40 :
一冊を誰かが書き上げ、古くなる前に誰かがまたそれを写す。その繰り返しで今の手元にある本ができる。
「…確かに…貴重だな…」
きっとあちらの国でも印刷が無い時代はそうだったのだろう…。おいそれと子供が触れるものじゃない。
「…子供向けかは分かりませんが…」
浩瀚が、棚の中から一冊の書籍を引っ張り出す。
「…地方の言い伝え…あちらこちらで言葉だけで伝えられて来た話をまとめたものです」
紙をやはり丁寧に捲って見せる。墨一色だが、見開きにたまに絵がかいてある。
「…妖魔?」
景麒も興味深そうに覗き込んだ。
「…武勇伝みたいなものか?」
浩瀚が笑いながら頷く。こちらの言い伝えは、こういう武勇伝系が多い。
「これなら、かなも多いですし…」
絵も多いと言いかけて止めた。さすがに主上に対して失礼だと思ったのだが、陽子は嬉しそうに笑った。
「持って行っていいか?」
頷いて。ふと、一階で誰かの気配がして景麒とともに振り返った。
「…あのーっ…どこにいらっしゃいます?」
誰の姿も見えず困ったように祥瓊が声を上げる。
「…お茶にいたしませんか?」
景麒が頷く。浩瀚がそれを見て先に部屋を出た。
「すぐ行く。あとなんか一冊…」
陽子の手が棚を探すのを見て景麒は苦笑いして軽く頭を下げ部屋を出た。
あと…なんかないかな…陽子の指先が背表紙を撫でて行き…ふと、止まった。
本棚の片隅にこっそりと立っていた本。墨一色が多いなかで、色が抜けて来ているが珍しく墨以外の彩色が施されている。手に取ると、女性が煙管を吸っている絵が書いてあるが…古い。
「…主上」
下から景麒に呼ばれ慌ててその本も脇に抱えて部屋を飛び出した。
寝台で布団に潜り込みながら、そぅっと紙を捲る。
煙管を口にする女性…
袖をたくしあげる素振りをする女性…
陽子は小さく笑った。学校で習った浮世絵みたいだ…丁寧に襟に細かい模様まで書かれ込んでいる。
簪を後ろ手で様子を見ながら刺す女性。
道端で女性二人が立ち話をしている様子。その足元には小さな獣もいる。
軒下で雨宿りをする女性…
つぎの紙を捲って…ちょっと驚いた。
…なにが…どうなってこうなってる?
ひっくり返った枕と、複雑に膨らんだ着物。枕を蹴飛ばしたのはこの足だろうと思われるのが、右の頁に…そして、なぜか左の頁にも…足。
絡繰り絵か?しばし悩んで、次の頁に…

41 :
「…お…」
おっと…そうか…なるほど…。見る間に顔が赤くなるのがわかった。
膝に乗せられた女性の肩に男の顔。着物は纏ったままだが…なにをしようとしているのか、もしくは、その…。
小さく笑った。やはりあるのか…こういう本は…こちらにも。
だが…この本には…よくわからないが愛嬌があった。どことなく…愛らしくて可愛らしい。
作者の絵筆に込められた愛情が、本から溢れ出して来るようだ。絵を書くことが好きで、女性を書くことが好きで…。
丁寧な筆で細かい部分まで色付けしてある。乱れた裾…柔らかく重なった手の爪…。残念ながら…古い本なのだろう…色が掠れてしまっている。
「勿体ないな…」
つぎの頁は、女が寝そべった後ろから男が覗いている絵だった。男の手が女の胸元に差し込まれている。
頬に一筋の髪がかかっている。その表情が…愛らしい…。
「…なにをお読みですか」
頭の上から降って来た思い切り不機嫌な声に度肝を抜かれ、陽子は腹ばいのまま飛び上がった。
「…このような…」
景麒の手がやや乱暴に伸び、はっとして陽子の手がその手首を捕らえた。
「乱暴に扱うな…古い本なんだ」
その口調に景麒が手を止める。いかがわしい物だと思っていたが…陽子の目には違う物が見えている気がした。
「…古い本なんだ…多分…それ一冊だけなんだ」
文字ならば写して行くことはできる。だが…この絵を写し取る事はできない。
陽子の言い含めるような口調にまだ、眉をしかめたまま…景麒は寝台に腰を下ろした。
「…どうした?」
片肘を寝台につき、身体を景麒に向ける。もう寝てると思っていた。なにか急務かと思ったが、景麒が寝間着の上に寒さ避けの上着を着ているだけだったので、違うと判断する。
景麒がしばらく考えて、口を開いた。
「昼間…もう一冊の方を…読んで差し上げようと思いましたが…」
武勇伝の方を。そう言われ、小さく笑った。ばつが悪いのだろう。景麒が表情を崩さない。
「寒いから、入れ」
布団を持ち上げて景麒を促した。しばらく考える素振りをして、着ていた上着を脱ぎ、陽子の横に滑り込んだ。
布団の中で景麒の足が陽子に触れ、その冷たさに顔をしかめた。
「…冷たい…」
景麒の足が、陽子の足で暖を取るように絡まされる。
「…冷たいって」
文句を言う陽子も、別に本気なわけでは無く景麒に足を取られたまま笑う。

42 :
「…春画ですか?」
景麒が陽子の肩から覗き込むようにして本を見た。
「それは知らないが…」
表紙からもう一度捲っていく。
「…春画っていうのか?」
逆に聞かれ、景麒が困った顔をした。
「以前…延王が、台輔が向こうから持って来た物を…春画と…」
相変わらずの御仁だ。嫌な顔をして、陽子が本に意識を向ける。
「向こうで…美人画って呼ばれていたのに似ている」
さすがに、男女二人がこうなったような絵は教科書には無かった。
「見返り美人…だとか…びいどろを吹く女とか…」
目を閉じると、独特な昔の顔つきをした女性たちの絵が浮かぶ。少ししもぶくれの細い鼻の…口元はおちょこで…思わず笑った。美人画ねぇ…。でも、確かに美人画なのだろう…やはりあの表情も…愛嬌があり、可愛かった。
ぱら…と紙が捲れる音がした。手を止めてしまった陽子の変わりに景麒が捲っている。静かな寝室に紙が捲れる音だけが響いた。
「…主上…」
「…ん…」
半分眠りかけていたのだろう、呼ばれうっすらと目を開ける。
「…なんだ…?」
景麒が小さく笑って本を指差した。
最後の頁だった。金色の聖獣を半裸の女性が柔らかい腕で愛しげに抱いている。
「…不敬だと…思うか?」
陽子の言葉に首を横に振った。景麒の口元が笑っている。
聖獣を胸に抱く女の表情は、優しげで…でもどこか悲しげだった。その絵から溢れて来る愛しいという思い…。
国の行く末を憂いているのか…静かに達観しているのか…。
景麒が本を閉じ、大切に脇に避けた。本に物が当たらないように。
再び目を閉じてしまった陽子を見て…しばらく考える。どうしようかと迷っていたら、半分眠りかけながら陽子が笑った。
「途中でわたしが寝ても怒るなよ…」
陽子の腕がゆっくり景麒の首にかかり引き寄せた。
夢心地の中なのだろう…身体がいつもより柔らかく動く。細く締まった腕が、寝台に投げ出されまた、顔を覆うようにゆっくりと動く。
その腕内に顔を近寄せ、軽く口付ける。んっ…と陽子が息を詰めた。そのまま、舌先で肘の当たりまでくすぐるように走らせる。
「…やめ…景麒…」
くすぐったいというように、柔らかく微笑んで、また腕が寝台に投げ出される。
腕で遊ぶのをやめて、顔を陽子の身体の側面に埋めた。柔らかいというよりは張りがある乳房に顔を一度押し当てて、乳房の下から括れた腰に唇を走らすように移動する。

43 :
脇腹を掠めた時、陽子の身体がひくん、と揺れた。もう一度…今度は場所を確かめるようにゆっくり唇を当てる。
「んっ…」
目を閉じたまま、陽子が眉を潜めた。だが…その唇は柔らかく開いている。
脇腹から薄い腹に回り、窪みに舌先をいれくすぐる。陽子の背中が軽く弾んだ。
「へんな…とこ…」
臍をくすぐられた感覚に、目が覚めたように笑った。腹の上でいたずらっぽく伺う景麒と視線を合わせ苦笑いする。
「…寝ても構いませんでしたが…」
憎まれ口にまた笑う。陽子は目を閉じて、軽く景麒の頭に手を置いた。
「…気持ちいい…続けてくれ…」
御意とばかりに、再び臍に唇が落とされた。
景麒の身体が陽子の太股の間に滑り込む。一瞬太股に力が入ったが、景麒の手が宥めるように膝を撫でるとゆっくりと力を抜いた。
「…あんまり…」
陽子が呟く。以前、そこばかり責められた事を思い出すと辛かった。景麒も思い出して、苦笑いする。
「…心配めさるな…」
その言葉に陽子の腰から力が抜ける。これから止まらなくなるであろう甘い悲鳴を出来るだけ押しとどめようと、唇を手の甲で押さえた。
景麒の指が宝珠を扱うように丁寧に押し開く。しっとりと蜜に濡れた箇所は、景麒の指に最初冷たく感じた。そして、熱を伝える。
赤い茂みの先が雫で濡れていた。そこから下に指を走らす。
「ん…んっ…」
指先に捉えた芽が陽子の身体を震わせた。相変わらず…ここが弱いらしい…景麒が愛しげにそこを指先で撫でる。
「…っ…ふぁっ…」
指先が動く合間に陽子が苦しそうに喘ぐ。
「…そこ…辛い…」
そう言われたが…すぐその下の秘壺からトロリとした蜜が溢れた。
「嫌では…ないようですが…」
確認するように聞くと、困った顔をして真っ赤になって寝台に顔を擦り付ける。
「…主上?」
「聞くなっ!馬鹿っ」
怒鳴られて、笑う。嫌じゃないらしい。顔を伏せる。息が当たり、陽子の太股が間の景麒の身体を強く挟んだ。
…口でされる…
口を押さえていた手がいつの間にか布団に皺を寄せる。指先に力が入るのに…腰から下は捩る事も出来なくなった。
景麒の舌先が…走る。走るだけで身体がのけ反る。
指先だと辛かった芽が唇で撫でられると、悲鳴が上がった。自分の身体から蜜が溢れる。それを布団に零さぬよう景麒が拭う。
なにも…かもが…目茶苦茶になる…

44 :
「…景…麒…」
名前を呼ぶ声に我慢しきれず涙声が混じった。
「…辛い…」
景麒が陽子の様子を見、名残惜しそうにもう一度そこに唇を寄せる。しばらく唇を当てていたが…思い切って、秘壺に舌先をねじ込ませた。その瞬間、甘い大きな悲鳴があがり…陽子の身体が大きく跳ね、足の間の景麒をきつく締め上げた。
…しばらくして、うっすらと汗ばんだ足から力が抜けていく。その間から景麒はするりと身体を起こした。
「…締めすおつもりか…」
肩で喘ぐ陽子が返事ができない様子で身体を震わす。閉じられた瞼が小さく震えていた。
「…お前が…す気かと…思った…」
悲鳴を上げたのが恥ずかしかったのか、口を隠そうとする腕が、快楽の深い余韻で震えている。
「…すごい…落ちた気がする…」
歯の根が合わない。その様子に景麒が宥めるように軽く抱き締め頭を撫でた。
「…大丈夫か?」
景麒の声に震えたまま苦笑いした。こんなにしたのは誰だ。大きく息を吐く事で身体の力を抜き…陽子は景麒の背中に腕を回した。
「…来い」
金髪を掻き揚げて、形のよい耳に囁く。景麒が嬉しそうに軽く陽子の肩に口付けた。
「…この本…どう致しますか…」
身体の始末をし、衝立の向こうから戻って来た陽子が首を傾げる。
「…中身を見たら、やはりお前みたいに卑猥だという奴もいるだろうしな…」
言われて心外だという顔をする。だが…陽子がこの本を捲っていた時に浮かんだ感情は確かにそうだったので…景麒は渋い顔をして俯いた。
「…明日、浩瀚に返すよ…」
とても可愛らしく…愛嬌のある本だったと。
「こっちの紙って…どうやって作ってるんだろう…」
和紙の原料は…なにかの根っこ…か…木の皮だったか?景麒が温めていてくれた布団に潜り込む。
「…紙が高級品だと…教科書も作れないよな…」
景麒の胸に背中を預ける。景麒が軽く腕を陽子の腰に回した。背中が温かい…抱き込まれる感覚にゆっくり眠気がおそってくる。
「…この国は…いろんなものが…ないな」
…紙…小学校…美術館…図書館…やらねばならないことが多い…。
「…忙しくなる…」
「…おやすみください、主上…」
寝ながら考えそうな陽子に苦笑いしながら景麒が軽く身体を揺する。せめて…夢の中だけでも…安らかに…
「…おやすみ…景…麒…」
陽子の身体から力が抜けた。それを確かめて景麒も目を閉じた
おわる

45 :
>>37
SS書庫にも前書きが一部入っちゃってるんだよなあ
注意事項みたいなのが入ってるレスだけのようだけど


46 :
>>38
これってレス数が分かってるんだから
名前欄のタイトルに連番ふるだけでいいと思うよ
今回のなら一発目は1/6、最後は6/6にしとけば
特殊嗜好がない以上、悪いけど前書きのレスはいらない
逆に言うと、提示カプ以外のカプがあるなら
そっちをきっちり書いてほしい
例えば話は景麒×陽子だけど、浩瀚×祥瓊が入ってるなら
「浩瀚×祥瓊前提」とかそういう注意書き
読む方はレス数なんかより取り扱いカプのほうがずっと大事だから

47 :
前から思ってたけど、地の文に…多用し過ぎ。
…の必要はないと思う部分が多い。
後、最低でも一日寝かせて、読み返して推敲して欲しい。
初心者が思いのままに書きなぐるのも良いけど、何度も投下するなら向上心持とうや。

48 :
いや、向上心まではいらないだろ
しょせん2ちゃんで、しかもエロパロなんだから
そこまで職人さんに求めるのはやりすぎ
47自身が投下する時に心掛けるならいいと思うけど
そもそも原作だって台詞冒頭に「――」多発だし
自分は注意書きの類さえしっかり書いて貰えればいい
上に書いたのと、今回は続き物らしいから
どの話の続きかって言うのさえ明確になってれば
読むかどうか判断つけられるから
例えば桓魋×祥瓊な人はもちろん浩瀚×祥瓊を避けるだろうけど
浩瀚×祥瓊前提の景麒×陽子だって避けたいはずだ

49 :
景麒っていつも寸止めなのか?
大変だな。偶には入れさせてやれよw
>>47
厳しい意見だな。
推敲できないくらい萌が凄いんじゃないか?
できた勢いのままアップしてるとか?

50 :
>できた勢いのままアップしてるとか?
それで十分だと思う
過疎ってた所にせっかく投下してくれたのに
作品内容にケチをつける事はない
好みでないなら以後はスルーすればいいんだから

51 :
>ID:tKndkLDb
完全に妖魔認定
人の投下を貶す暇があれば、自分で書いて落とせ
これが過去からのこのスレの鉄則だ
そしてもう一つ、この禁を犯したバカは
スレに不要どころか有害な存在だ。カス

52 :
>ID:QgYoNmEB いやぁ〜連続投下 乙であります。GJ!であります
>>47みたいなアホは無視してこれからもよろしくお願いであります
>>47のようなレスは迷惑です。職人さんがヤル気をなくします。さっさと>>47はんでください

53 :
46さん、ルールありがとうございます。知らないルールは、教えてもらえたら助かります。前提が、必要というのは納得しました。確かにです。
ありがとうございました。
いつも、お邪魔させてもらいありがとうございます。
また来ます。失礼しました。

54 :
乙乙
いつも楽しみにしてる
向上心とか、阿呆の言うことは気にしない方がいいよ
>>47は車裂きされるべき

55 :
>>47の発言は失礼だと思うが、
>>52のねとかもやめてほしい。
ねとか使うと荒れる。

56 :
そも他人を罵倒する言葉を使ってる時点で
説得力もなくなる品

57 :
>>55>>47かな、レス時間の近さから考えると
>>55=>>56の可能性もあるとしてレスしておくが
>>47
>初心者が思いのままに書きなぐるのも良いけど、何度も投下するなら向上心持とうや。
職人さんに上目線でレスする事自体が間違いだ。このスレの暗黙のルールを知らないなら
もう一度書いておくが、投下作品、職人批判はご法度だ。そうでないと職人がいなくなる
というかもう職人は激減している。キモに命じておけ

58 :
一応、どうでもいいかもしれんが
>>55だが>>47>>56も自分じゃない。取り敢えず…
こうやって荒れて職人さんが来なくなるのは嫌だなと思ったから発言しただけ。
気分を害したなら申し訳ない。

59 :
>>57
自分>>56でID:TMrvpyt2だけど
>>47でも>>55でもないぞ
そうやって思い込みで認定する事に意味があるのか?
>>55
>ねとかもやめてほしい
に同意だったから素直にそう書いたんだが
同じ注意するにしても言い方って物があるだろう

60 :
【スルー検定発動中】

61 :
既に9時間かきこみがないのに
ばかじゃね?


62 :
「…なにしてんの」
窓を叩かれて、珠晶は声にならない声を上げて頑丘の襟元を締め上げた。頑丘が慌てて、珠晶の頭を押さえる。
「良く見ろっ!利広だろうがっ!」
悲鳴を上げなかった事は大した物だが、珠晶の怯え方は半端ではない。頑丘の首を締めた際に自分の息も止めたらしい。
頑丘に背中を叩かれてようやく咳き込みながら呼吸をした。窓越しに涙目で睨まれ、利広がやばいかな…という表情をする。
「いつも、いつも…あんたって人はっ!」
「待てっ!珠晶!靴を投げるなっ!」
うっわ、荒れてる。思わず騎獣の首を捻らす。
「窓が割れたら、騎獣が怪我するだろうが!」
大概誰も優しくない。利広は苦笑いした。
頑丘が、露台のある部屋に利広を呼ぶ。ふわりとそこに下りて、やれやれと腰を伸ばした。頑丘が嬉しそうに騎獣に手を伸ばす。
「…相変わらず、騎獣好きだね」
ほっとけと、がらりと表情が変わった。
「その何分の一が、人間に向けられたら、珠晶に首締められなくていいと…」
「それ以上言ったら、壷投げるわよっ!」
部屋の中から怒鳴られて、首を竦めた。
「なんで、あんなに荒れてるの」
頑丘の後を追って来たらしい。珍しい事だった。登極してから珠晶が自分を出迎えた事など記憶にすらない。
「…お出迎えありがとうございます、って言えない?」
腰に手を当て、下から睨み上げられ…利広は首を竦めて身体を返した。騎獣に向かう。
「なんか、機嫌が悪いから帰る。頑丘、飲みに行かないか?」
いきなり腕を取られ、頑丘が目を見開く。利広と珠晶を見比べて…珠晶が身体を震わせて全身に怒りを溜めるのと、利広が軽く片目を閉じたのを見て溜め息を吐いた。
「…怪談?って怪談?」
聞いた端から、利広が震え出す。怖くてじゃない。完全に面白がってる。その前で、頑丘の前に座った珠晶が顔を赤らめてそっぽを向く。
「なんか見間違いでしょ」
あっさり言われ、頑丘がほら見ろと珠晶を見る。
「分かってるわよっ!妖獣か、なんかの呪いか、ただの噂か!なんてぐらいっ」
噛み付いて、またそっぽを向く。
「怖いの?」
そう聞かれ、珠晶は怒りの表情を利広に向けた。
「怖くないっ!」
「じゃあ、俺は下がるぞ」
「駄目っ!」
間髪いれない返事に、利広は爆笑し頑丘は天井を見上げた。

63 :
「怪談の中身は?」
利広が頑丘に聞く。頑丘がくだらなさそうに答える。
「夜な夜な、声がするんだと。ここ、ここだと」
「それだけじゃないのよ…」
後を引継ぎ、珠晶が身を乗り出す。
「夜中になると、仁重殿の窓から…誰かを探すような女が…っ?!」
ガタン、と利広の足元で音がした。その瞬間に、珠晶が頑丘に飛び付く。いきなり腰に抱き付かれ体勢を崩しかけた頑丘が利広を睨んだ。
「おい」
「あ、ごめん」
初めて気がついたように足元にひっくり返った剣をちゃんと机に寄り掛からせた。
机から顔を上げる時、頑丘を見てしてやったりの顔をする。わざとやりやがったな?目で威嚇すると軽く舌を出して見せた。
始めの頃は、ただまことしやかに流れてるだけで、珠晶の耳にも入らなかった。だが日が経つにつれ…というより、あちらこちらで見たと始まり、ただの噂ですまなくなった。
露台から身を投げた女だとか、いや、この宮のどこかに閉じ込められんだ女の無念だなど。
利広が手を上げた。
「なんで、女?」
そう言われ、珠晶もきょとんとする。そう言えばなんで女?
「知らんぞ俺は」
見上げられ、渋い顔をする。
「この話を俺にしたのはお前だろうが」
「…あたしは、誰から聞いたの?」
利広がにやりと笑った。
「噂なんてそんなもんだよ」
夜も遅かった。頑丘が珠晶を部屋まで送り、女官に任す。利広が待つ部屋に帰ってきた時はぐたぐたに疲れていた。
「なに落ち着いてんの」
一息吐こうとして、利広が剣を手に立ち上がる。
「なんだよ」
「行くよ」
まじめな顔で部屋を出た利広に、頑丘も表情を変えた。
闇に包まれ、人の気配がしない王宮は恐ろしい程暗く重い。利広はさりげなく闇に隠れながら追従する頑丘に話した。
「ただの噂なら、いいんだけどね」
「なんだ」
「いや、私も見た」
そう言われ、ぎょっとする。
「なにをだ?」
「声落として」
慌てて声を潜める。
「なんかが居たんだよ」
その時は気に掛けなかった。ただ女官が露台から中を見ているのだと思ったからだ。
だが、珠晶の靴と窓の破片を避けようと騎獣の首を逸らした時、女官の姿は無かった。
「…女官だったんじゃないか?」
「ここには、私の姿を見て隠れてしまう程恥ずかしがり屋はいない」

64 :
「じゃあ、なんだ?」
そう聞き掛けて…向かう方向に眉を潜める。
「こっちは、珠晶の私室だぞ」
「ここさえ違えば、問題ない」
あっさり言い退けて、歩みを進めた。
…眠れない…。
何度目かの寝返りをうって大きく溜め息を吐いた。天蓋の透かし彫を眺めても眠れない。供麒の使令でも借りれば良かったわ。頑丘なんか、あのほら見た事かと言わんばかりの顔…。思い出しても…。
「腹が立つ!」
柔らかい寝具から飛び起きたのと、窓を軽く叩かれたのは同時だった。
肩を大きく震わせ、寝具の端を引き寄せる。手の平が汗ばむ。利広じゃない…利広はもう、あの部屋にいる。
「…ここ…」
「ひいっ…?!」
喉が悲鳴を押しす。再び窓が叩かれる。震える頭で窓を見ると…視界の端に、なにか部屋を覗き込むもの。
「…ここ…」
窓から一番遠い所から寝台を下りる。寝ずの番が居るはず…。部屋の壁に身体を押しつけながら摺り足で歩く。なるべく見ないように…視線を合わさないように。
「ここ!」
「頑丘っ!!」
叫んだ時には、部屋に誰かが駆け込んでいた。一人が迷う事なく、珠晶の身体を掬い上げ、身体に抱き込む。窓に向かったのは利広だった。
大きな音を立て、窓を開け放ち…。
がたがた震える手で胸に抱き込んだ丸い物に爪を立てる。
「おい…おいっ!」
丸い物が、大きく揺れる。
「やめろっ!珠晶っ!爪を立てるなっ!」
怒鳴られて、恐る恐る固く閉じていた目を開けた。目を開けて飛び込んできたのは…目茶苦茶に掻き回された頭。
「…あ?」
「あ?じゃない。あ?じゃ」
震える腕を伸ばすと、ようやく息ができたとばかりに、頑丘が大きく息を吐いた。
「畜生、お前、首がりがりしやがって」
獣かと、痛い顔をする。
「頑丘…」
「なんだよ」
「なんなの、いったい」
片腕で抱き上げられたまま、顔を見合わせ、ここに至った経緯を思い出しさすがに珠晶も度肝を抜かれた。
「窓よっ!窓に誰かっ?!」
改めて、首根っこにしがみつかれ頑丘が顔をしかめる。
「痛いって!」
「だからっ!窓にっ…窓に?」
窓を開け放った利広が、大きく笑った。
利広を出迎えた部屋に改めて集まり、小さくうなだれたのは供麒だった。頬には赤い紅葉が貼ってある。
「あんた…本当に、あんたは」
怒りで同じ言葉しか出てこない。
「自分で出した使令の始末ぐらいちゃんとしなさいよっ!」

65 :
笑いが止まらない利広と、首筋を濡らした手拭いで冷やしている二人にも、供麒が申し訳なさそうに頭を下げる。
「気持ち良さげに舞ってましたので…」
青い空に薄い桃色の羽が映え美しかった。
「後で呼べばよいと思い…」
さすがにその先が言えない。なまじっか、ただ飛ぶだけの鳥の様な妖獣だった。言葉も少ない。それが夜な夜な窓を覗き込んでいたともなると…
「すいません」
頭を下げるしかない。ようやく遁甲した妖獣は落ち着いたように影に隠れた。
供麒を部屋に戻し、深々と溜め息を吐く。
「私の騎獣を見て怯えて消えたんだね」
利広が自分でお茶を淹れながら笑った。珠晶の前に湯飲みを置き、苦笑いする。
「災難だったね」
「俺がだ。」
首筋から手拭いを外し、頑丘が顔をしかめた。
「一番、ひどい目にあったのは俺だろうが」
手拭いに赤い筋が出来てる。供麒を下がらせたのもこのせいだ。
「…頑丘が一番、役得だと思うな。私は」
「どこがだ!」
散々首筋を引っ掛かれ、頭をかきむしられた。押さえようとして、膝で胸を蹴られた。挙句の果てには、頭ごと抱え込まれ…。
「なんだかな」
利広がお茶を含みながら呟く。
二人で珠晶を探した。砂地の黄海で。あの人妖と対峙した時は、二人の間には差がなかったはずだ。
珠晶は、頭を割られそうになった瞬間でも誰の名も呼ばなかった。二人に助けられても、その場に蹲って泣いた。
その珠晶が、頑丘の名を呼んだ。自分もいたのに。
「なんだよ」
「やきもち」
一言で答え、自分の口から出た言葉に自分で驚く。
珍しい感情だった。やきもちって、私は。
「今日はここで寝るわよ」
珠晶が立ち上がった。露台に向かい、そこで寝そべっていた騎獣を部屋の中に招き入れる。
「おい」
さすがに女官に叱られると言いかけて、黙る。やはり一番怖い思いをしたのは珠晶だ。
珠晶の手が一度強く騎獣を抱き、寝そべらせた。
「利広、こっち。頑丘、こっち」
利広が呼ばれ嬉しそうに珠晶に駆け寄り、珠晶の横で床に寝そべった。珠晶が柔らかく呼吸する騎獣の腹に頭を乗せて目を閉じる。
こうやって寝たわね。あの長い道程。今考えると短くてとても深いものだった。
「頑丘」
「わかった。今行くからちょっと待て」
1人分の毛布をどこからか持って来て、珠晶の上に掛ける。
「私のは?」
「ない」
頭の上のやり取りが嬉しくて、小さく笑った

66 :
おわる

67 :
乙乙
騎獣のお腹枕は永遠の夢

68 :
つかエロ無しSSはスレチなんだが

69 :
エロ無しだとどこに書き込めばいいんだ?

70 :
自分のサイトで書けばいいのに

71 :
そんな事言い出したらエロパロ板とかSS系自体の存在意義が(ry

72 :
>>62-66
>>1を嫁
>2 エロなしSSはスレ違いです。直接行為がなくてもエロい雰囲気であれば可。

73 :
頑丘×利広×珠晶
初夜です。
14落とします。
基本は頑丘×珠晶ですが、利広も混ぜました。
痛みに弱い方は避けてください。
あと、ロリが嫌だと言う方も避けてください。
身体が成長しないという設定は辛いな。書いててそう思いました。

74 :
「おめでとう。幸せにね」
平伏した女官が、うっすらと涙を浮かべ部屋を出て行く。それを見送っていた珠晶を利広は机に肘をついて眺めていた。
「宮仕えを捨てて下界に降りるなんて珍しいね」
珠晶が書状に筆を走らせながら、首を傾げる。
「そう?蓬山の女仙だって好きな人ができたら下山するじゃない」
そうなんだけどさ…利広が、滑らかな筆運びをする珠晶の手を見る。十二歳で成長を止めた手。
「間違えてる?」
利広の視線に気がつき、筆を止めた。奏から支援の申し出を有り難く受ける旨の内容だ。
「ごめん。やり直すわ」
利広が笑って押しとどめる。
「綺麗な字だから見惚れていた」
珠晶が馬鹿みたいという顔をして、奏からの書状を利広に差し出す。
「こういう字を、美しいというのよ」
「伝えとく」
そう言われて、いいわよと再び書に向かう。もし、その奏からの書を書いたのが自分だと言ったら。この女王はどんな顔するだろうか。
「そう言えば、利広の字って見た事ないわね」
そう言われ、笑った。
「荒事ばかりに夢中でね。物凄い悪筆」
「嘘っぽいから、なんか嫌だわ」
そう言われ、また笑った。再び、筆を走らせ始めた珠晶になんとなく聞いた。
「珠晶は、幾つになった?」
「十二よ」
いや、そう言えばそうなんだけど。
「あたし達が歳を数えても仕方がない事は、あなたが一番知ってるでしょ」
「そうだけど」
なんと言っていいのか。聞きたい事はそう言う事ではない。
「…五年経ったわ」
登極してから数えたら。まだそれだけかと思うし、もうそんなに時間が過ぎたかとも思う。仙にとっては時間の流れは大まかな単位でしか捉えにくい。
「じゃあ、十七?」
「来月で十八よ」
珠晶が筆を止める。朱を溶いたものを用意し、御璽を書状に押す。ようやく書状ができ、軽く息を吐きながら身体を起こした。
「なにが言いたいの?」
「…子供だなと思って」
びんたが飛んで来るかと思ったが、飛んで来なかった。珠晶が一瞬目を丸くして、表情を消す。
「そうね。子供よ?中身はどんどん歳を取って行くだけのね」
「ごめんなさい」
素直に頭を下げた。傷つけるつもりで言ったわけじゃない。
「自分もそうでした」
机に擦りつけんばかりに謝られ、しばらくその肩を眺めていたが、珠晶は小さく肩を竦めた。

75 :
「…王だもの。仙で無くなる時はぬ時よ」
「もう、ひたすらに謝る。ごめん」
珠晶の言葉だけ聞いていると不思議な気になる。もともと大人ぶった理屈を滔々と話す子供だった。だが、やはり年月は珠晶に影響を与えるらしい。
話す内容に重きが出てきた。言葉だけ聞いていれば、十七、十八のいや、文姫より大人だ。そして多分、自分よりもだ。
「顔上げてもいいかな?」
「どうぞ」
許されて、顔を上げる。やはり、目の前に座るのは子供だ。
「なんか、損したなとか思う時とかない?」
利広に聞かれ顔をしかめる。
「あたしがいない事の方が、この国の大損害だわ」
そうじゃなくて、と口を噤む。なにが言いたいんだ私は。黙ってしまった利広をしばらく眺めて、珠晶が小さく笑った。
「…人生で、でしょ?」
利広がそう、と目で頷く。普通にただの人であるなら、順当に歳を取りその年齢に応じた身体となる。想像はつかないが、珠晶も大人になり、恋をして、…まあどこかに嫁いだであろう。そして、里木に子供を願う。
想像し、それが結構難しかったので利広は唸った。
「想像できない」
「あたしも出来ないもの」
軽く笑われ、利広がうーんと呻いた。
「なによ」
「いや、頑丘…」
再び珠晶の顔から表情が消える。
「…頑丘がなに」
利広は、口を噤み手で押さえた。
「いや、今のは無しだ」
部屋に沈黙が流れる。今の流れで頑丘の名前を出したのは利広の僣越だった。余計なお世話だ。本当に。
頑丘のあの性格の事だ。もし本当に惚れた女ができたら、ここには何も未練は残さないだろう。すっぱり全部振り捨てて、下に降りて行く。多分振り返る事も思い返すこともない。だが…
「珠…む」
口を開きかけた瞬間、いきなり口元に濡れた感覚を覚え口を閉じた。視線だけ下に向けると赤い筆先が揺れていた。
「似合うわね」
利広の口に朱でばってんを書き、珠晶はにっこり笑って見せた。顎を伝う朱墨の感覚に慌てて利広が手拭いを取り出し顔を拭った。
「こんな事されたのは、初めてだよ」
「あら、長く生きててもそういうこともあるのね」
珠晶の手が、墨が渇いた書状を巻く。やれやれと利広は立ち上がった。顔を洗って来ようと扉を開けた時、呼び止められた。
「利広」
「んー?」
口を開けて返事が出来ず、首だけ振り向く。

76 :
珠晶は机を向いたまま、なにか考えているようだったが…しばらくして、なんでもないように言葉を続けた。
「今夜、あたしの部屋に来て」
机の上に置かれた手が震えてる。利広は何も言わず部屋から出て行った。
部屋の回りの寝ずの番もいなかった。利広はすたすたと歩き、珠晶の寝室の扉を指先で叩く。
「入って」
短く言われ、するりと扉から中に入った。
部屋の灯は消してあった。窓から入って来る月明りのみ、珠晶の身体を照らす。いつもは上げてある髪が下ろされ、腰辺りまで流れていた。
「そこで止まりなさい」
部屋に一歩踏み出そうとして止められる。月明りが逆光になり珠晶の表情は見えにくい。だが珠晶から利広はよく見えた。
「…待った方がいい?」
窓辺に立ち竦んでいるように見え、柔らかく微笑む。
「…なんで来たの」
「なんで呼んだの」
聞いて聞き返す。そして、利広が笑う。
「女性の誘いを断るような無粋はしないんだ」
身体を扉に凭れさせ、珠晶を見ていた。小さな手が開いたり閉じたりしている。なにか、悩んでいる。そしてそれを誰にも相談できない。供麒にも、頑丘にもだ。
「…女性じゃないわ」
珠晶の声が震える。
「…子供よ」
利広が苦い顔をした。天帝の采配が苦しいと感じる時だ。なんで、この子供を。なぜ、この歳で。
王にしなければならなかった。
一度王になれば、仙にならざるを得ない。王の子供ならば、ある程度成長するまで様子を見て仙籍に入れられる。だが、王はただ生きる事のみを望まれる。王が玉座にいるそれが、国だからだ。だが…苦しい。
「…質問するから、答えて」
「私に答えられる事ならば」
利広の静かな声に珠晶は、窓に指を当てしばらく口を閉じた。質問の仕方を考えているようだった。
「…王は人を好きになってはならない?」
「その論理だと、うちの父を宗麟が迎えに来るはずがない」
子供の目から見ても、仲の良い夫婦だった。いや、いま王と后妃となってもその二人の間は変わる事が無い。互いに互いを思う、優しい夫婦だ。
だが、その質問で、珠晶が切羽詰まっている事も分かった。この明晰な子供がわざわざ聞くような質問ではない。自分の事で無ければ肩を竦めて笑う事だ。
「…王が人を好きということは…天網に外れないのね?」
「外れない」

77 :
珠晶の目が閉じられる。
いろんな事に見切りばかりつけてきた。自分の望んだ片方の人生を捨てた。親にも見切りをつけた。
なにもかも捨てて、横に立っていたのは人の顔色ばかり伺う麒麟だった。はっきりものを言う事に慣れず、怒鳴ればすぐに涙ぐむ。この麒麟は、こういう性質だと諦めた。
自分が王であればいい。そう思った。
だが…身体は成長しないのに、心が成長してしまう。
くだらない事だと、言い切れなくなった自分に気がついた。なにか事情があるのか、ないのか。落とし所は何処だと探している自分を見つけて、血が引いた。
あたしは、供麒が選んだ供王のままだろうか。
その時、心が成長したのだと気がついた。身体は変わらぬままなのに!
「…あたしは、成長してはならない?」
今度は無言だった。珠晶も愚問だと内心で笑った。麒麟に聞くべき事だ。利広に聞くべき事ではない。珠晶は、震える唇から息を吐いた。
「…好きな人がいるの」
自分を見下ろす視線。なんかの拍子にたまに頭に乗せられる大きな手。騎獣を見る優しい目。人当たりはとても、悪いくせに獣にだけ優しい。たまに見せてくれる口元を上げて笑う顔。
自分を守る背中。
「その人が…好き」
珠晶のまだあどけなさを残した頬に涙が伝った。
「…頑丘は、好きな人がいる?」
「答えられない」
頑丘ではないから。静かに言われ、聞き方を変える。
「頑丘に好きな人がいると、聞いた事はある?」
「ない」
だけど、二人共知っている。頑丘は、そういう事は口にしない。あの男は、本音を語る事を良しとしない。背中が近くて、遠い。
「利広…」
名前を呼ばれ床を眺めていた利広は顔を上げた。
珠晶の指が寝間着の帯を解く。上等の絹が滑り落ちるように床にたまる。
月明りに浮かぶ、白い幼い身体。淡く浮き上がり脆い。
「あたしの身体は、あの人に愛される事ができない?」
顎から水滴が続け様に落ちた。
利広がゆっくりと近付く。珠晶は逃げなかった。珠晶の目の前に立ち、俯いてしまった珠晶のつむじを見下ろす。
こんなにも、儚く、脆い。あの一人の男のせいで。
利広が珠晶の前に跪いた。床に落とされた寝間着を拾い上げ珠晶の腕を通させる。珠晶は我慢できずにしゃくり上げながら、絹の袖に手を入れた。利広の手が袷を合わせる。帯を締め、手を止めた。

78 :
「それに答えるのは、私ではないね」
珠晶の喉が嗚咽を上げる。
「…ごめん…利広」
顔をくしゃくしゃにして泣かれ、困ったように笑った。
「私は、珠晶のおにいさんだからね」
軽く腕を拡げる。おいでと言われ、我慢できずに珠晶はその胸に飛び込んだ。
黒髪が、月光を纏い跳ねて揺れた。飛び込んできた身体の軽さに苦いものしか上がって来ない。軽い…。
この身体に、十八の心
珠晶の細かい指が利広の着物に皺を寄せる。誰にも打ち明けられなかった。身体と心が引き裂かれると思った。でも、自分にも、利広にも答えが出せる話では無い。
辛くて、怖かった。

「おい」
次の日の朝、珠晶の寝室から出て来た所を、今一番会いたくない男に呼び止められた。
「なんだ。早いな」
「寝ずの番がいなくてね」
そう言われ回りを見渡す。確かにいない。だが、利広がいれば問題なかっただろう。連れ立つように歩き始めた。
「何で珠晶を怒らせた」
そう言われ、片眉を上げる。泣きじゃくる珠晶を落ち着かせ、寝台に寝かしつけるまでそばにいたら、朝だったという笑えない話だ。寝て無いし、とても疲れた。
「お前、昨日口の回りに墨塗られたんだとあちこちで言われてるぞ」
昨夜、珠晶の寝室に夜這いをかけたという噂なら、この男はどうするだろう。
「どうした」
何も答えない利広に頑丘が不思議そうな顔をする。その顔を思いっきり、殴りたくなった。殴ったら自分はすっきりするだろうか。
「珠晶が、頑丘を好きだって」
言葉はするりと、唇から零れてた。頑丘が一瞬、ぽかんとし…徐々に物凄い不機嫌な顔になる。
「なんだ、それは」
笑えない冗談かと言われ、止まらなかった。
「国が傾くんじゃないかって心配するほど、頑丘が好きだと一晩中泣いた!あんな小さな身体に、大人の心だっ!恭が滅んだら、頑丘のせいだからなっ!」
言いたい事だけ、怒鳴り利広は与えられている私室に走って行った。
そして、私室で一寝入りして誰にも会いたくない気分のまま、厩舎に行った。騎獣に手をかけ…額を柔らかい毛に押しつける。最低だ…私は…。
ふと、隣りの房が空っぽなのに気がついた。珍しい。供王の趣味は騎獣だ。星彩を始め何頭か飼われている。
なにがいた?ここには…ぼんやりする頭で考えて…次第に目が覚めて血の気が引いた。
駮…
頑丘の騎獣がいなかった。

79 :
頑丘がいない。さすがに昨日の今日だ。利広から知らないかと言われ、珠晶は爪跡がつくほど柔らかい手の平を握り締めた。
「なにを…言ったの」
珠晶の唇が血の気を引いて震える。
「なにを頑丘に言ったのっ!」
怒鳴られて、利広がきつく唇を噛んだ。自分が悪い。絶対に自分が悪い。
「…珠晶が、頑丘を好きだと」
珠晶の手がしなった。利広の頬の下に赤い紅葉が出来る。
「利広っ!あたしは一度も頑丘が好きだとは言ってないわっ!」
こうなるのが怖くて、あの人と伝えた。あの人が、頑丘だと一言も言ってない!居なくなってしまう、それが怖かったから!
「あの人が知ったら…きっと、居なくなるって…分かっていたから…分かっていたからっ!」
言葉が悲鳴に変わる。震える手で口を押さえた。悲鳴をあげては駄目。誰かが飛んで来てしまう。王よ。醜態を晒してはならない。
ひっぱたかれた頬をそのまま、俯いた利広としばらく立ち竦んだ。
「…下がって、利広」
利広が軽く頭を下げる。珠晶は長椅子に倒れ込むようにしてきつく身体を抱き締めた。
「…探さないでいいわよ。どうせ、頑丘が本気出したら…見つかりっこないもの」
市井に降りて探そうと思っていた事を先に止められ、扉で立ち尽くす。
「…ごめん」
謝罪を背中で受け止め珠晶は身体を震わせた。だけど…と利広が呟く。
「珠晶…頑丘が好きなんだろ?」
「好きよ。…答えたわ。下がりなさい」
扉の閉まる音を背中で聞いた。
頑丘が消え、十日が経った。珠晶は、始めから頑丘など居なかったように振る舞い、王宮もただの杖身が一人消えた事を気にする事もなかった。
自分のやった事とはいえ、あまりにもひどく捩じれた状況に利広は恭を発つ事ができずにいた。だが…あのびんたを頬に受けて以来、珠晶は利広を避けた。
そして避けられて当然だと…夕暮れの迫る厩舎で騎獣に身体を凭れさせ、深い溜め息を吐いた。
やはり、市井にいない。暦を考える。まだ、黄海が開く月でない事に溜め息を吐く。黄海に隠れられたら…自分には打つ手はない。乾まで足を延ばすか。
深い溜め息を吐いた時、荒い獣の呼吸と宥めるような声を聞き、厩舎を飛び出した。
「頑丘っ!」
「なにしてる、お前…っ?!」
訝しげな顔をして振り返った瞬間、利広の右腕が頑丘を殴り飛ばしていた。

80 :
珠晶の寝室に珍しく供麒が呼ばれた。軽く頭を下げて入ると、椅子に座り込んだ珠晶と、左頬を派手に殴られた痕の頑丘と、左頬に赤い紅葉をつけた利広が居た。
「…何事ですか…」
利広の紅葉はともかく、頑丘の頬を見て青くなる。
「知っていたの?」
珠晶の声に、供麒が首を傾げる。三人とも仏頂面だ。
「なにを…」
「俺が蓬山に行った事だ」
はぁと、供麒が頑丘を見て頷く。
「それが、なにか…」
「なんで言わないのっ?!」
怒鳴られて反射で身を竦ませる。この小さな女王は供麒にはたまに怖い。
「聞かれなかったもので…」
そう答えられ、三人が低く呻いた。
「今、お帰りでしたか」
頑丘が苦い顔をしながら頷く。
「玄君はお元気でしたか?」
「つつがなく、だと」
ぱあっと嬉しそうな顔をした供麒を見て、頑丘は苦笑いした。
あの日、利広から国が傾くと怒鳴られ、一番に供麒を探した。
いきなり腕を取られぽかんとした供麒に、畳み込むように聞いた。失道したのかと。その一言を聞いただけで、ひっくり返りそうになった供麒を無理矢理起こして怒鳴った。なんか、身体おかしい所あるのかと。
おかしな所と言われ、慌てて自分の身体を叩いて確かめていたが、どこもと答えた。
失道は体験したことはないが、ひどく苦しいものだと聞いている。なにも、悪くありません、そう答えられ頑丘は深い息を吐いた。
何事ですか?と聞かれ、頑丘がしばし顎に手を当て考える。餅は餅屋か…。玄君に会いたいんだが、俺でも会えるか?と聞かれ改めて、驚いた。
「ですから、まず私が使令に書状を持たせました」
「使令の方が早いからな。先触れしてもらったんだ。俺は駮で後を追った」
喋ったら、痛かったのだろう頑丘が顔をしかめる。そして、改めて、珠晶と利広を睨み付けた。
「俺が殴られなきゃならんことをなんかしたかっ?!」
頑丘の剣幕に怯えた供麒を珠晶は下がらせた。部屋に変な沈黙が流れる。
動けないし、話せない。でも…利広は深く頭を下げた。
「申し訳ない。…なんかいろいろと…ごめん」
二人に向かって頭を下げる。だが、珠晶は手摺に身体を凭れさせ、組んだ腕に小さな頭を伏せて動かなかった。
「…なんで、玄君なんて」
着物に声が絡み聞き取りにくい。だが、頑丘は首を軽く竦めた。

81 :
「王と麒麟の事はあそこが一番詳しいだろ」
そう言われて、利広が唸った。確かに、自分が答える事より確実な答えが得られる。しかも、玄君の御墨付きでだ。
「…珠晶は」
「なんも、悪い事はしてねぇよ」
そう言って、未だに伏せたままの珠晶の傍らに立つ。椅子ごと抱え上げられる大きさ。
「…お前、馬鹿だな」
ひくんと肩が揺れた。
その黒くまとめ上げられた頭に手を置こうとしてあまりにもがさつな手で自分が迷う。
「俺は、お前が誰を好きになろうとかまわなかったんだぞ」
珠晶の口から堪え切れず嗚咽が上がる。その肩を見ながら、頑丘は心配そうな利広を見る。誰が見たって、こちらの男の方が珠晶には相応しい。
珠晶の隣りで優しげに語らう姿は、微笑ましかった。自分では、怒らす事はできるが笑わせるなど至難の業だ。
「…馬鹿だな、お前」
繰り返し馬鹿と言われ、さすがに頭を上げた。馬鹿だということは、もう充分思い知った。こんなに、惨めで苦しい思いをした。なにもかも捨てて行ける男だと思っていたから、消えた時、自分を捨てたと思った。
叫び出したくても、叫べなかった。ただの女じゃない。王だからだ!
頑丘はようやく顔を上げた珠晶と目線を合わした。
「…この小さい頭でぐるぐるしてんだろうが、分からん事があったら知ってる奴に聞け」
そして、利広を指差す。
「あれから、国が傾くだとか、一晩中泣いただとか、大人の心だとか、恭が無くなったら俺のせいだとか…」
頑丘の言葉に、珠晶が次第にぽかんとした表情をする。逆に身の置き場が無くなったのは利広だ。
「…利、利広」
「ごめん、本当にごめん」
珠晶に怒りを孕んだ声で名を呼ばれ、利広は素直に謝った。だが、ちらりと頑丘を見た一個抜けてる。
「おら、こっちを向け」
苦笑いして、顔を赤くしながら利広を睨み付けてる珠晶の顔に手をかけて自分と目線を合わす。頑丘の片手の手の平に収まる頭だ。小さいな…。この身体に、大人の心…
「…お前が、俺の雇主だろうが」
そんな言葉が聞きたいんじゃない。
「だが、俺は元が猟尸師でな。」
待っていたら、聞きたい言葉が聞けるだろうか。
「お前が雇主じゃなきゃ、誰がこんな退屈な所にいるかよ」
分かりにくい。利広が人事ながら額に指を当てた。
「あたしの為にいるのね?」
分からないことは、分かる奴に聞け。そう頑丘は言った。

82 :
「頑丘は、あたしが好きなの?」
珠晶の言葉に頑丘が苦笑いする。子供なんだか、大人なんだか。
「だから、玄君に会って来たんだろう」
「ちゃんと、答えてやりなよ」
焦れったくて、口を挟み、利広は慌てて口を塞いだ。じろりと頑丘に睨まれる。
「ごめん」
なんか、いろいろ今回はひどい役回りだ。部屋を出て行こうとして、頑丘が止めた。
「待て。もう少し、付き合え」
なんにだよ…利広が深く溜め息を吐く。
「殴ったのちゃらにしてやるから、そこにいてくれ」
そう言われると、どうしようもない。利広がもとの位置に戻ったのを見て頑丘は珠晶の前に跪いた。
「お前の、好きという範囲がわからん」
ただの好き嫌いの話なのか、なにか親や兄弟に求めるような親愛なのか。この区切りをちゃんとしないと、傷つくのは珠晶だ。
珠晶は、言葉にしたくて、でも出来ず再びしゃくり上げた。
ただの十八の娘なら、簡単だったと思う。ためらわずに、口にした。あなたが好きと。あなたに愛して欲しいと。だけど…。
「…ちゃんと、口にできるか?」
涙で頑丘が滲んでぼやける。苦しくて、苦しくて。辛い。
部屋の片隅で利広が目を逸らす。
月明りに浮かんだ子供と少女の間のような白い身体。利広には晒し出せたのに、頑丘には言葉にすることもこんなに勇気がいるのだと。
「…辛…いのっ!辛い…のっ!」
頑丘を思って泣く事が。頑丘に嫌われると思う事が。頑丘がいなくなってしまうと思う事が。そして…この身体では、頑丘が愛してくれないと思う事が。
「…珠晶、俺は一人の男だぞ」
がくがくと頭を振る。知っている。そんな事知っている。だから、子供だと相手にされない。頑丘には、相応しい女がいい。でも、それにはなれない。この身体はこれ以上成長しない。
「…お前、俺に…」
しばし言葉を探すように視線を巡らせ、利広を見た。滅多に見せない真剣な表情に…あと押しされた。
ふうっ、と息を吐く。頑丘の手がいきなり珠晶を抱き上げる。
「泣くな!馬鹿っ!これからもっと泣くんだぞっ」
いきなり視界がぶれ、気がつけば寝台に放り込まれていた。
「がっ…頑っ、頑丘っ?!」
頑丘が、ごそごそと懐から壷みたいなのを取り出す。
「利広、これ…わかるか?」
「利っ…利広っ?」
いきなり呼ばれ、利広も面食らったように頑丘のそばに寄る。頑丘の手の中の綺麗な模様を施してある壷を見る。

83 :
「薬?」
蓋を開けて、小指の先で掬って舐める。苦くて、痺れる。しばらくすると、感覚が鈍った。
「…なにこれ」
「多分、なんか身体の痛みを麻痺させる薬だ」
「まずい…」
だが…確かに舌先の感覚は消えた。
「喋るなよ。俺も舐めた後歯で噛んでえらい目にあった」
分かったと頷く。だが…なんで今、ちろりと頑丘の目線が珠晶に向けられる。珠晶は怯えたような怒ったような顔で、二人を見上げている。
「珠晶、女は初めてが辛いというのは知っているか?」
そう言われ、きょとんとした。知らなかったな。頑丘は珠晶の横に腰を下ろした。利広は寝台の前に立つ。
「なんで」
「身体が引き裂かれるからだ」
その言葉にぎょっとし、思わず利広を見上げる。
「本当なの?利広」
喋れないから頷くしか出来ない。ただ、引き裂かれるというのは、大袈裟だと思うが…だが、珠晶の身体を考えたらそれぐらい覚悟していた方がいいかもしれない。
「…信じられないわ」
呆然と珠晶が呟く。畳み掛けるように頑丘が話を続ける。
「痛いのは最初だけだ。あとは…」
言い淀む。
「あとは…なによ」
聞き返され、頑丘が渋い顔をした。
「男の腕次第で、気持ち良くなれる」
利広が吹き出した。頑丘に睨まれる。
「…頑丘の腕は?」
珠晶に真っ直ぐ聞かれて、答えに詰まった。知るか、んなもんっ!と怒鳴りそうになり…珠晶の真剣な目に諦めた。
「…努力するでいいか?」
利広の身体が揺れる。頑丘の足が軽く利広の足を蹴飛ばした。
「…お前、分かってるのか?」
なんか、あの頃と似ている。珠晶が登極すると乾で出会ってから、幾度も引き返せと言い含めた頃に。結局、あの娘が、王になった。言い出したら聞かない。それだけは身に染みている。
「…じゃあ、辛いのは最初だけなのね」
確かめるように聞かれ、頷く。珠晶の瞳に次第にいつもの気の強さが戻る。
「…引き裂かれる、ということは、まさか血もでるの?」
利広が頷く。もう一度、珠晶が驚いた顔をする。
「信じらんない…」
世の中の女は、そうやって恋人と結ばれるのか。軽く頭を振って身体の力を抜いた。
「…痛み止めとかないわよね」
頑丘が手の平に乗せていた壷を差し出す。
「玄君に渡された。お前が不憫だと」
玄君と言われ、利広も珠晶も驚いた。

84 :
「…貴重なものらしい。小さな身体で辛いだろうと言われた」
元は、麒麟の為の物らしい。詳しい事はよくわからないが、人間が使っても害はないと自分で試した。感覚が戻る時、少し痒くなる程度だ。
「…世の中には、変なものがあるのね」
しみじみと言われ、頑丘と利広は苦笑いした。
「…優しくはする。だが、絶対にお前が辛い。というか、ひどい目にあう」
そりゃそうだ。痛み止めがあったって、身を引き裂かれるのは、相当な事だろう。
「止めるか?」
頑丘に伺うように聞かれて…ふと、気がついた。
「…あんた、あたしを愛せるの?」
爆笑したのは利広だ。頑丘は、しばし唖然とし真っ赤になってそっぽを向いた。
「そのつもりがなきゃ、蓬山まで行くかっ!」
怒鳴られて…横を向いてしまった頑丘と、腹を抱えて笑っている利広を見上げる。
そうか…なんだ。珠晶は少し嬉しくなって、笑った。胸の奥からなにか温かい物が溢れて来る。温かくって、なんか甘い。
そうか…この感覚が…愛しい…というものなのだろう。
珠晶は見たこともない柔らかい笑みを浮かべた。
「…頑丘、好きよ」
答えはない。横を向いたまま、手で口をふさいでいる。
「…言わんでいい」
そう言われ、珠晶が笑って利広を見た。頑丘が照れてる。利広がようやくいつものように優しく笑った。
珠晶の手が利広の手を握る。その手に勇気をもらう。
「頑丘…あなたが、好き」
舌打ちされたのと、いきなり身体を掬い取られたのが同時だった。珠晶の手に握られたまま、利広が体勢を崩し、寝台に倒れ込む。
利広の引き倒された身体の上に珠晶がいた。珠晶の身体が小さく震えながら頑丘に抱き締められている。その小さな唇から、荒れた唇を離し…頑丘は深く息を吐き出した。
「…あまり、そういう顔をするな」
抑えが利かなくなる。
「…利広にいてもらっていい?」
ぎょっとしたように、利広が目を見開いた。慌てて、身体を起こそうとするが珠晶の身体で押さえ込まれる。そして繋いだ手が震えている。
「…怖いの」
身を引き裂かれる。血が出るほど。どれだけの痛みだろうか。妖魔に引き裂かれた動物を思い出す。頑丘がすることだから、絶対に心配ないと思うが…怖かった。
「利広に、いてもらってもいい?」
利広が、頑丘に素早く視線を送る。冗談じゃないという思いと、繋がれた手から伝わる珠晶の恐怖感。

85 :
「…利広、後ろから押さえておいてくれ」
頑丘に言われ、目を剥いた。
「殴ったのはこれでちゃらだ…」
珠晶が握り締めた手に力を入れる。その汗ばんだ手の平と、身体の震えに利広はしばらく考えたが…深く溜め息を吐いた。
片手で安心させるように、珠晶の手を叩く。手を外させ苦笑いした。あらんかぎりの力で握り締めたのだろう。指の跡が赤く浮かんでいる。
利広が寝台に背中を預け、立てた膝の間に珠晶の身体を入れ、その頭を自分の胸に預けさせた。
「…ごめん」
つむじで謝られ、そのつむじに手を乗せ、安心させるように撫でた。そして、珠晶の手に自分の手を預ける。
準備はいいよと、視線で頑丘を見、利広は固く目をつぶって壁を向いた。
珠晶の身を纏っていた着物が右、左と解けて行く。
「…めんどくさいな」
悪態を吐く頑丘になんでこんな男なんだろうと、溜め息を吐きたくなる。頑丘から顔を大きく逸らし、固く目を閉じると、利広の手が宥めるように力を入れた。
頑丘だから。そう言われた気がして、顎をあげ後ろの利広を見る。固く目を閉じ、壁を向いてる横顔は無表情だ。
この間…、誰よりも先に裸を晒してしまった相手。おにいさんだからね。まさか、こんな目に遭うとは思ってなかっただろうし、自分でも思わなかった。
あれから、十日で…なにも心配することなく、頑丘と一緒になれる。そう考えると、不思議だった。この人は、恩人になるんだろうか。
「…余所見するな」
顎取られ、素直に前を向く。小さな唇を啄まれ、苦笑いした。
「小さな口だな」
「…ずっと…このままよ」
王ていることを止める気はない。思わず力が入った手を利広の手が宥める。
「確認してるだけだ」
もう一度啄まれた。ふっと力が抜けた手に利広も力を緩める。なるほど…これは、大変な役どころだ。利広の額に汗が浮かぶ。
珠晶は頑丘にも弱みを見せたくないらしい。その弱みを全て利広に預ける気なのだろう。握った手で。
「噛むなよ」
そう言って、再び唇が合わさる。珠晶の身体が跳ねた。慌てて、その手を優しく握る。握り返される手が震えている。
しばらくして、ようやく珠晶の身体から力が抜け始めた。強張ってた身体がゆっくりと利広に預けられる。
繋いでいた手からもようやく力が抜けた。手の平が汗で濡れている。思わず利広も深い溜め息を吐いた。
「…大丈夫か?」

86 :
どちらに聞いたんだか…。頑丘の言葉に苦笑いを浮かべ、利広は壁を向いたまま小さく頷いた。
頑丘の大きな手が、まるで貴重な騎獣に触れるように珠晶を扱う。指先で触れようとして、自分の手を見た。固く、荒れた指だ。手綱を握り締めていた日が続いた為、所々傷になっている。
この指で触れることにためらった。多分珠晶の柔らかい肌に傷をつける。大事な物に傷をつける気はなかった。手を珠晶の腰に回し唇を当てて行く。
小さな喉、肩の窪み、小さな膨らみ、薄い腹。始めは強張っていた珠晶の身体がゆっくりと頑丘が起こす波に身を委ねて行く。
軽く身を捩り、利広の手に頭を擦り付けた。だいぶ…慣れたな。頑丘が玄君から預かった薬を指先に掬い取る。それを珠晶の秘部に差し入れた。
「冷たいっ?!」
「大丈夫、…さっきの薬だから」
口をきいて驚いた。痺れが取れたらしい。なるほど、そんなに長く効くものじゃない。だが…なんか、熱くてぴりぴりする。
頑丘がゆっくりと珠晶の顔を伺いながら塗り込んで行く。珠晶が強く目を閉じ、利広の腕にしがみつくようにして熱い息を吐いた。
「痛いか?」
「きつい…けど、なんか、痛い」
痛いというより、熱い。熱くて痺れる。
珠晶の身体に汗が浮かぶ。利広が顔を背けたまま、その頭を宥めるように撫でる。
「熱いわ…頑丘…」
うわ言のように繰り返し同じ言葉を呟くようになったころ、頑丘は懐からなにかを出した。
「いやあああっ?!」
いきなり暴れ出した珠晶に驚き反射で利広がその身体を押さえ込む。思わず頑丘を見た利広に頑丘が辛い顔をした。
「押さえ込んどいてくれ…」
頑丘の手が、ゆっくりとなにかを珠晶の身体から抜いて行く。利広は慌てて目を逸らした。赤く濡れた物が見えた。多分、破爪の血。
押さえ込んだ身体が跳ねるようにもがき…ゆっくりと力を無くした。利広がそれを確認してゆるゆると身体の力を抜く。
珠晶の身体がそのまま寝台に沈んだ。気を失っている。利広が壁に凭れ深く息を吐いた。汗が顎からしたたり落ちてる。
「おい、下りろ」
頑丘に言われ、寝台から下りようとして足に力が入らず崩れた。頑丘が珠晶の寝間着を整えて、腰辺り染になっていく血に手拭いを重ねて置く。丁寧に処置をして、布団をかけた。涙で汚れた顔に軽く唇を当てる。
寝台から下りようとして床に崩れ落ちてる利広を見て、その横に座り込んだ。

87 :
「…大丈夫か?」
膝に顔を埋めたまま、利広が聞くなと手を振る。頑丘は最初から押さえといてくれと言った。最初からこのつもりだったのだ。
「…なんか、いろいろしんどい」
鼻の奥がつんとした。この何日かですごく疲れた。自分ではなにもできることはない。分かっているけど、辛かった。
「…お前が残っていてくれて、助かった」
言うな馬鹿。なにもできなかった。なにもかも捩じらせて、珠晶を泣かした。頑丘を殴った。そして…ふと、手を見る。紫色に変色している。強く握り締められて内出血を起こしたのだろう。
「玄君の入れ知恵?」
頑丘も疲れたように、膝を抱え頭を伏せ頷いた。
「…始めからできるわけがない」
深い溜め息を吐く。薬と、道具と。揃えられた物に目を剥いた。
だが…麒麟は成獣になった段階で成長を止める。雁の延麒がそうだ。子供のまま大人になる。…そういうこともあるのだろう。
「…ちゃんと、してやれよ」
利広に言われ、頑丘がしばらく考えて呟いた。
「…そのうちな」
ひどいことをしたという自覚が大きすぎた。嫌われても仕方がない。だが、それだけの事をした。
「珠晶は、あんたが好きだよ」
「言うな、馬鹿」
ゆっくりと、睡魔が襲って来る。さすがに蓬山と恭を往復し、その後の事も堪えた。
利広も朝から市井に下り頑丘を探し回っている。膝に頭を伏せた状態で二人ともいつしか眠っていた。
先に目が覚めたのは利広だった。身体に布団がかけられている。なんでこうなってる…ぼんやり考えてここがどこか思い出した。
横に小さな身体を感じ恐る恐る見下ろす。珠晶が小さな寝息を立てていた。頑丘に凭れて。頑丘の頭も珠晶に凭れている。
夜中、目が覚めたのだろう。二人が寝台の下で蹲って寝ているのを見て、布団を持って下りて来たのだ。
利広は小さく笑って起こさないように布団から出た。
静かに部屋から出て、まだ暗い朝焼けに向かい、大きく伸びをする。久しぶりによく寝た気がした。疲れはあったが、なんかすっきりした。
「さて、帰るか」
軽い足取りで歩き始めた。
おわる

88 :
番号、打ち間違えました。

89 :
すごい!
GJ

90 :
これって頑丘×利広が入ってるって事?
BL苦手なので
読んだ人教えて

91 :
エロパロなので、頑丘と利広はしてません。
頑丘×珠晶に利広がお手伝い…?
名前の所にどう書いたらいいのか分かりませんでした。

92 :
じゃあ普通に利口+頑丘×珠晶かな
前スレに女体化とかもあったし
これも読むのに躊躇してしまった

93 :
もうこの職人さんに付き合うのウンザリ

94 :
いつのまに新しいスレが立ってたんだw
専ブラだったんで気づかなかった

95 :
2ちゃん慣れしてないのと同人慣れしてないのと
両方なんだろうとは思うんだけどさ
スレ使い切っても次スレ立てないんだし
最低限カップリングくらい
きちんとわかるように書いてほしいわ

96 :
投下が増えるとgdgd言う人が出てくるよないつもw
スレは気づいた人が立てるって形だったしそんな書き方してると
職人さん寄り付かなくなる
また過疎化させるつもりかね

97 :
投下自体は歓迎してるよ
ちゃんとルールに則ってやってくれればね
好みのカプじゃないから中身読んではいないけど


98 :
じゃあ書き方もうちょっと考えようよ
なんか一言多い気がするし、そもそも読んでもないのにあーだーこーだ言うのも
ナンセンスだわ

99 :
散々他スレで宣伝しやがったあげく連日投下でスレ占領してんじゃねえよ
一番古参に迷惑かけてんの自分だろ

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