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2013年10レズ・百合萌え334: 【職人さん】こーださん×寶兒タソ2【いらっしゃい】 (569)
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【職人さん】こーださん×寶兒タソ2【いらっしゃい】
- 1 :2007/03/21 〜 最終レス :2013/06/13
- 例のアレの二本目です。
前スレ落としてゴメナサイorz
※図々しいお願い※
sage推奨でお願いいたします。
- 2 :
- 仕事は無事にこなせた。
でも泣いた後だったから、今日の取材の写真は相当ブサイクに違いない。
「なんでこんなにブサイクやねんな〜!」
きっと“彼女”はそれを見て、そうからかうに違いない。
私は一応、ポーズで怒って拗ねてみせる。
そして“彼女”は必に私のご機嫌をとる。
私は様子を窺いながら、とびきりの笑顔で“彼女”を許す。
こんなこと、もう二度とできないんだ・・・。
携帯の液晶画面に小さなアイコンが点滅しているのに気付く。
留守電のメッセージが届いてる知らせ。
―新しい メッセージは ありません この メッセージは 保存期間が 過ぎています―
冷たいアナウンスの後に、懐かしい声が流れた。
『もしもーし!くうちゃんでーす んーと・・・お仕事中ですか?・・・』
本当に最後に残っていた“彼女”の声だった。
「ごめんなさい!どうしても寄りたい場所があるの!ここで降ろして!」
運転席のマネージャーに声をかける。
驚いた顔をしながらも、すぐに車を停めてくれた。
「おつかれさま!」
挨拶だけしてドアを閉める。
気付くと私は走りだしていた。
あの思い出の場所に。
次の角を曲がれば見えてくるはず・・・。
- 3 :
-
私の目に飛び込んできたのは、何もない更地だった。
がらんとした空き地に、そこにあったはずの喫茶店はなく
『売り地』と書かれた看板だけが無情に立っていた。
「どうして・・・」
ぼうぜんと立ちすくむ。
近所の住人らしき女性が通りかかって、私は思わず呼び止めた。
「・・・あの、ここの喫茶店って・・・」
「ああ・・・少し前にそこのおばあちゃん亡くなってねぇ・・・」
「・・・亡くなった?」
「ええ なんだか身寄りがないとかで、お店継ぐひとがいなかったんですって
雰囲気のあるお店だったからなにも取り壊さなくても・・・ねぇ・・・」
「ええ・・・そうですね・・・」
軽く会釈をして、その女性は去っていった。
私は彼女とここで過ごした時間を思い出していた。
雨に打たれた 思ったよりもコーヒーが熱くて舌を火傷した
クッキーをおまけしてもらった ペーパーナプキンに落書きして遊んだ
生クリーム鼻につけて笑った 人目を忍んでこっそりキスをした・・・
数え切れないほどあったはずの思い出が、私の目の前から無くなっていた。
いつの間にか降り出した雪が跡地にうっすら白布を掛ける。
春先に降る雪。なごり雪。
「お願い・・・やめて・・・」
降り積もる雪が私の目の前から全てを消そうとしてるように思えて、私は空に向かって泣いた。
- 4 :
- 「ただいま・・・」
そこからどう自宅まで戻ったのかは憶えていなかった。
玄関を開けると、彼女がパタパタと走ってくる。
「おかえりー!急に雪降って大変だったでしょ?ご飯できてるよ」
「うん・・・ありがと」
部屋の奥から漂ってくる匂いと温かい空気に、何故だか泣きそうになる。
「今日の晩御飯はクリームシチューですよ」
テーブルにつくと、スープ皿とパン、人参のサラダが並んでいた。
「いただきます」
「どうぞ!」
手を合わせて、シチューを一口流し込む。
その温かさが心に痛いくらいに沁みた。
ぽたりとシチューに何かが落ちる。
自分の涙だった。
ぽたりぽたり。次から次へと雫が落ちる。
「・・・ボアちゃん?」
彼女が心配そうにこちらを窺ってるのがわかる。
「あの・・・コレ・・・美味しくて・・・」
ぐしゃぐしゃの笑顔で嘘をついて笑ってみせた。
「・・・おかわりなら・・・あるからね」
優しく微笑んで、彼女はそれ以上何も言わなかった。
お皿が空になるころには、シチューはだいぶしょっぱくなっていた。
- 5 :
- 「じゃあ、明後日の件は明日また連絡するから!」
「うん、お疲れ様!」
突然の雪で、帰りの道はかなり混雑していた。
あたしを下ろした車が、小さなクラクションとともに走り出す。
小さくなるまで見送ってから回れ右。
エントランスの植え込みに、誰かがこっちに背を向けて座っていた。
「なーにやーってーんのー?」
声をかけると、その背中が振り向いた。
「あ・・・おかえり」
「ただいま っつかさ、頭、雪積もってるよ」
あたしが指摘すると、彼は笑いながらニットキャップを手で払う。
「いやさ、雪降ってるからクミ困ってるんじゃないかと思ってさ」
「そう思ってるなら会社まで迎えにきてよ」
「だって俺、クミの会社の場所知らないもん」
ポケットに手を突っ込んで肩をすくめる姿がなんだかかわいかった。
「じゃ、部屋戻るか 暖房入ってるし、お湯も沸いてるし・・・」
先導するように彼が歩き出す。
「ねぇ!」
- 6 :
- 「ん?」
“彼女”に祝福されてから、ずっと考えていた。
スタッフと打ち合わせをしながら、ずっと考えていた。
車の中から雪が舞い落ちるのを見ながら、ずっと考えていた。
「あたしのこと・・・幸せにしてくれんの?」
振り返った彼が、わざとらしく目を丸くしてみせる。
「・・・幸せになりたい?」
「・・・うん」
願って不幸になりたがる人間なんていないと思うけど・・・
「じゃ、俺がんばるわ」
そう一言言うと、くるりと前を向いて彼はすたすた歩き出す。
「ちょ・・・ちょっとぉ!」
普通、こういうのってもっとドラマチックでロマンティックなもんじゃないの?
でもそういうところが彼らしくて嬉しかった。
じゃれるように背中に飛びつく。
ちょっぴりよろめきながらも、あたしをぶら下げたまま彼は歩く。
「あ・・・忘れてた・・・」
「ん?」
「もう、俺に牛乳噴きかけないでね?」
あたしは笑いながら、まわした腕に力を込めた。
遠くでシャッター音が鳴ってたなんて
全然気付かなかったんだ。
続く
- 7 :
- 前スレ突然消えててびっくりしましたw
またスレ立って良かったです。頑張ってください!
- 8 :
- 次スレたってた(゚∀゚)
前スレ落ちたの見たとき泣きそうになったよ(ノД`)無事次スレたっててよかった
中身さん超GJ!!!!
- 9 :
- 中身さんGJ♪ホンマ安心したょ
安心と感動をありがと〜(^∇^)人(>∀<)ノ
- 10 :
- おつかれさまです
超ドラマチック(;´Д`)
中身さん、やってくれるね〜!
このドキドキ感‥ありがとうございます
- 11 :
- ところで前スレのログとってたシトいませんか?
blogとかないですか…
あうぅ(つ_;)
- 12 :
- 中身さ〜ん!あすこにうpして下さい(ノω・、)
- 13 :
- 中身さん『あすこ』にうーぷ
私からもお願いします(ー人ー)
- 14 :
- 中身さん忙しい中『あすこ』にうpありがとうございます!
嗚呼…読み返して益々続きが楽しみです。・゚・(ノД`)・゚・。
- 15 :
- 『あすこ』ってどこなんですか?
教えて下さい(´・ω・`)
- 16 :
- >>15
つttp://k.excite.co.jp/hp/u/imakan
- 17 :
- >>16
親切にありがとうございます。
見れました。゜(゜´Д`゜)゜。
- 18 :
- 中身さんありがと〜♪
ヽ( "∀")人(>∀< )ノ
- 19 :
- あたしと彼のツーショットが週刊誌に掲載されるらしい。
あたしの目の前にはいわゆる「倖田組」がずらり。
うそ、マネージメント関係のスタッフ数名のみ。
校了待ちっぽい原稿のコピーが、会議室のテーブルの上に置かれた。
「コレ・・・本当のことなんだよね?」
「・・・はい」
写真の人間は、間違いなくあたしと彼。
記事にはご丁寧に彼の略歴まで書いてある。
カメラマンとはいえ、彼はまだほぼ無名だ。
目線の入れられた犯罪者みたいな写真を、少し申し訳なく思う。
「まぁ、あなたの場合は『恋愛体質』が売りでもあるからね・・・」
彼女が笑いながら記事を指先で叩いた。
「結婚は・・・どうすんの?するの?」
「あくまでも・・・電撃、目指します・・・」
あたしの答えに小さな笑いがおきる。
その雑誌は予定を変更することなく、3日後に発行された。
- 20 :
- 会社の廊下でぱかーんといきなり後頭部を叩かれた。
「痛っ!・・・誰やねんな!」
怒り心頭で振り向くと、そこには丸めた雑誌を手にそれを振りぬいた友人の姿。
「伴ちゃ・・・っていうかいきなり何?!」
実のところそんなに痛くはないんだけれど、わざと顔を顰めてみせる。
無言の彼女に襟首を掴まれて、あたしは放り込まれるように誰もいない会議室に入った。
彼女は無表情であたしにその雑誌を投げてよこす。
あたしと彼のツーショットがばっちり掲載された週刊誌。
「浮気してんの?二股なんて信じられない!」
「はぁ?」
「ボアちゃん、どした?コレ見てなんて言った?」
「いや・・・別に何も・・・」
コレ撮られたのは別れた後だから、“彼女”の知ったことじゃない。
「ほぉ、愛想尽かされて捨てられた?それとも捨てた?」
吐き捨てるような彼女の口調にあたしは段々苛立ちを感じる。
「彼女には関係ないよ」
「なんで!」
「別れたから」
あたしの一言で彼女が黙った。
自分で決めたはずの“結果”なのに、言葉にした途端、何故だか胸がズキンとした。
- 21 :
- 「・・・コレが・・・原因?」
「ううん それの少し前に喧嘩別れしたの」
「・・・なんで?」
「なんでって・・・別に伴ちゃんに関係ないじゃん」
今まで散々恋愛相談に付き合ってもらっておきながら失礼な話だと思ったけれど、
これは彼女とあたし、そしてあたし自身の問題で、伴ちゃんには全く関係ない。
「そう・・・ね 関係ないね・・・」
少しだけ悲しそうな彼女の顔は見ないふりをした。
「結婚・・・するの?」
「一応極秘ってことで・・・」
「そう・・・」
「じゃ、そういうコトだから」
あれ・・・なんで笑顔で報告できないんだろう?
その理由を探ろうとしたら、また胸が痛んだ。
なんだかそれに耐えられなくて、あたしは彼女に背を向けた。
「・・・あのさぁ」
踵を返してドアノブを握ったあたしの背中に声がかかる。
「あんた、無理してない?」
「はは・・・別に?何が?」
肩をすくめて笑ってみせた。
「・・・何でもない 式場決まったら教えてよ、花くらい贈らせて」
「うん、じゃぁ・・・」
幸せなはずなのに、胸がチクリチクリと痛むのは何故なんだろう。
- 22 :
- 非常階段を上がったいつもの場所で、私は煙草に火を点けた。
ちりちりと音を立てて巻紙と葉が赤く燃える。
「関係ない・・・か」
確かに私には関係ないことだ。
彼女らが誰と別れようが、結ばれようが。
でもなんでだろ、私は彼女らを放っておけない。
背後でギィと扉の開く音がした。
「おつかれさーん!」
仕事終わりなのか、それとも仕事を抜けてきたのか、彼女は少し疲れた顔をしていた。
「・・・おつかれさまです」
私の横に並んで、彼女も煙草に火を点ける。
「とみちゃんさぁ・・・」
「はい」
「何か悩んでるでしょ?」
「えっ?」
「ココ、皺寄ってる」
彼女の人差し指が、私の眉間を突付いた。
- 23 :
- 「ちょっと・・・ 友達関係で・・・」
「ふーん・・・」
「なんっていうか・・・どうしても放って置けない友達がいるんですけどね
ちょっとそのこが悩んでるみたいなんですよ・・・」
彼女から言い放たれた『関係ない』の一言が、私の胸に風穴を開ける。
「相談とか・・・今まで色々乗ってやったのに、『関係ない』って・・・」
自分でその言葉を口にしたら、もっと寂しくなった。
「別に・・・そんな恩着せがましく思ってるとかそんなんじゃないんですけど・・・
それに、本当にそれはそのこ自身の問題だから私は本当に関係なくて・・・
ていうか、『悩んでるみたい』ってのも単なる憶測でしかなくて・・・
私の思い過ごしかもしれないし、ものすごいお節介なのかもしれない・・・」
涙が出てきた。ぽろぽろ落ちた雫がコンクリートに染みを作る。
今まで彼女の前で感情的に泣いたこと、一度もなかったのに・・・。
「なんで・・・こんなに悲しいんでしょうね・・・全然関係ないのに・・・」
「うーん・・・きっとねぇ、とみちゃん、そのお友達のことが大好きなんだと思う」
彼女がそっと涙を拭ってくれた。
「そのコが大好きで大切だから、助けてあげたくて仕方ないんだよ
ほんのちょっとの変化でも気になって気になって仕方ないんだよ」
「でも、今回は本当に関係ないことで・・・」
「じゃあ・・・助けてはあげないんだね?」
「・・・そのつもりです 関係ないんで・・・」
私は求められてる役者ではない。舞台上に登場する必要はない。
余計なおせっかいならしない方がいい。
「そうだなぁ・・・あ、賭けしようか!」
「・・・は?」
私を元気付けようとしているのか、彼女がおかしなことを言い出した。
- 24 :
- 「えっとねぇ・・・もし、とみちゃんが今回そのコを助けなかったら・・・アレ買ってあげる!」
「・・・何です?」
「んーと、なんて名前だっけ・・・欲しがってたなんとかってバイク」
「・・・メグロ?」
「そう、それ!買ってあげる!」
「・・・はっ?!」
「いいよ、買ったげる!約束する!」
にっこり笑って、強引に小指を繋ぐ。
「なんでまた・・・」
「私自信あるんだもん とみちゃんは絶対、そのコを助けると思う」
そう言って私の頭をくしゃくしゃと撫でまわす。
「あなたのそういうトコ、好きになったんだもん」
照れくさいのを、鼻をすすって誤魔化した。
「じゃあ、バイク欲しいから絶っっっっ対に助け舟出しません!」
「さぁ、どうかな〜?」
涙を拭うように頬に触れた唇がくすぐったくて笑った。
それから程なくして式の日取りのみのそっけないメールが届いた。
「なんだよ・・・急だなぁ・・・」
当日まで二週間もなかった。
続く
- 25 :
- 過疎
- 26 :
- 中身さんGJ!
ひさしぶりにあの方登場で嬉しいww
- 27 :
- 新曲のBUTのテーマは同性愛なんだって
- 28 :
- くぅちゃんのLIVEDVD買ったんだけど、お客さんの女の子とハグとかチュウとかしてた〜
うらやま(´□`;)
- 29 :
- くぅちゃんってテレビ出演時の態度改めたんですか?
- 30 :
- 中身さんGJですた♪
そろそろクライマックスぽいねε=(@ω@*)
くぅちゃんの『YOU』の歌詞がよぎった
- 31 :
- 待ちきれない!(^ω^)
- 32 :
- んだ。
- 33 :
- フレー!フレー!
な〜か〜みっ!!
- 34 :
- プロポーズを受けてから挙式の予定が完全に固まるまで、さほど時間はかからなかった。
『電撃』を目指すため、誰にも口外しないでいるのはちょっとつらい。
まぁ、伴ちゃんには教えちゃったんだけど。
まず二人だけで教会にて挙式、写真撮影。
その後婚姻届を役所に提出して、挙式時の写真と入籍したことをマスコミに報告。
これで夢の『電撃結婚』の完成!
親に報告しないのは少し心苦しいけれど、肉親からバレてしまうこともけっこうあるらしい。
念には念を入れ・・・だ。
サロンの鏡の前に、純白のドレスに身を包んだあたしが映る。
ドレスに袖を通して心が弾むのを感じると、自分が女の子であることを改めて認識する。
やっぱり女の子なら一度は憧れるもんなんですね・・・。
ニヤニヤしながら鏡の前でポージング。
くるっと360度まわってみたら鏡越しに彼と目が合った。
笑いをこらえているのか、口元に手の甲を押し当てて肩を揺らしていた。
「・・・なにみてんの?」
「・・・フィッティングしたいから付き合えって言ったの誰だよ」
完全に口元が緩んでる。
嬉しそうなその笑顔に、こっちも思わず微笑んでしまう。
「えへへ・・・似合う?」
裾を少し持ち上げてポーズをとったら、彼は笑いながら小さく頷いた。
再び鏡に向き直る。
幸せな気持ちの中に、一瞬だけ違う顔がよぎる。
ほんの一瞬、ほんの一瞬だけ、彼女のことを思った。
彼女なら、この姿を見て何て言ってくれるかな・・・。
- 35 :
- 「あ、ついでに何か甘いもの買ってきて!」
「はいはい」
コーヒーを飲もうと思ったら、ミルクが丁度きれていた。
私はブラック派だから全然問題ないのだけれど、彼女はほんの少し甘めの方が好きらしい。
コンビニへ行こうと靴を履く私の背中に彼女の声がかかる。
甘いもの・・・ねぇ・・・
チョコレートで問題ないかな?
もう季節はすっかり春らしくなってきていて、
夜の外出も薄手のジャケット一枚羽織っていればほぼ問題ない。
とはいえ夜風はまだ少し冷たい。
ポケットに手を突っ込んで、コンビ二までの道のりを早足で辿る。
煌々と不健康そうな蛍光灯の光に照らされた店内。
有線で自分の歌がかかっていた。
嬉しさと気恥ずかしさが入り混じった気持ちで店内を歩く。
入り口近くの雑誌コーナーは、用がなくてもつい立ち寄ってしまう。
きっちり並んだ表紙の中に、彼女が笑顔を振りまいているものを見つけた。
男性向けのストリート誌。
みんなが夢中になるこの笑顔を、今私が独り占めしていることを考えて少しにやけた。
以前、彼女が表紙の雑誌を購入して帰ったことがある。
「もう!恥ずかしいからやめてよ〜!」
袋から取り出して、これみよがしに読んでみせたら彼女は顔を赤くして言った。
その恥ずかしそうな笑顔が見たくて、私は何度か同じことをしてみせる。
一度だけ、恥ずかしいのを我慢して水着姿の彼女が表紙の漫画雑誌を買って帰ったら
さすがにそれは怒られてしまった。
「これなら怒られないよね・・・」
あの笑顔を思い浮かべながら籠に入れる。
籠の中で笑う彼女に微笑みかけてから、再び雑誌の列に目を戻した。
視界の隅に、どうしても忘れられない文字が映る。
- 36 :
- ―倖田 來未―
漢字が苦手な私でも、この四文字はすぐ読める。
ゴシップ記事の多い写真週刊誌。
逃げようと目を伏せる心とは裏腹に、私の手はその雑誌をラックから引き抜く。
薄い紙をパラパラめくると、モノクロ写真が目に飛び込んできた。
―倖田 來未(25)半同棲の彼と深夜の抱擁―
白抜きの角ゴシックがものすごく下品に見える。
写真は若干逆光ぎみで、表情が分かりづらいけれど、
この横顔は絶対に見間違えない自信がある。
間違いなく“彼女”だ。
“彼女”は背の高い男性の背中に抱きついていた。
多少画像が荒いものの、幸せそうな笑顔ははっきりわかる。
そっか・・・ 私がいなくてもこんないい顔で笑えるんだ・・・
それとも・・・私がいないから笑えてるのかな
記事の方は漢字は苦手だからと自分に言い聞かせ、読まずにラックに戻した。
狼狽してるのか苛立っているのか、段々落ち着きがなくなってくる。
目的だったミルクを籠の中に放り込んでさっさと会計を済ませた。
- 37 :
- 「おかえり! 遅いから心配してたんだよ?」
心配そうな顔で出迎えてくれた彼女を無理やり抱き寄せた。
指先から、雑誌とミルクの入ったレジ袋が滑り落ちて音を立てる。
「ちょっと・・・どうしたの?」
慌てたような彼女の問いには答えずに唇を塞ぐ。
こじ入れた舌先を、彼女は拒まずに受け入れる。
リビングへもつれるようにしてなだれ込む。
ソファーに押し倒した。
服を剥いで彼女を空気に晒す。
舌を這わせると、彼女が鼻にかかった声を上げた。
唇の柔らかさも
キスの仕方も
肌の質感も
喘ぎ声も
“彼女”とは全然違う。
それでも私は彼女を貪る。
涙が止まらなかった。
続く
- 38 :
- 中身タソお久しぶりです。今回もGJ!!くぅチャンもBoAチャンも最近髪ばっさり切ったみたいで(´∀`*)妄想は膨らむばかり・・・
- 39 :
- 中身さんお疲れです
いつもネ申SSをありがとう
2人とも早く気付けばいいのに‥
自分の本当の気持ち(・_ゝ・)
手遅れなんてないよね?
2番目に好きな人との無難な幸せより
痛くても苦しくても1番好きな人を想っていたい
これからその道を選択するのはすごく難しいし
色々な人を傷つけることになるけど
幸せは必ず誰かの犠牲や不幸の上に成り立つものだし‥
お互い別の人と愛し合った身体を許せるかも難しいけど
どうか、どうか報われますように‥
- 40 :
- >>38
一昨日コンサート行ったけどBoAちゃんは髪切ってなかったですょ☆
- 41 :
- ボア×純に萌えている自分がイル…
- 42 :
- なんでやねん..(;-д-)
- 43 :
- 昨日のHEYHEY!で見たけどBoAタソはカツラでショートカットなんですね◎
- 44 :
- うんうん(´▽`)
えがったー!安心した
ヘイのOPでロングやったからホッとした♪
新曲PVでマイケルみたく踊るBoA子は
変態チックで好きやわ〜
- 45 :
- PVいいですね!
なんかカコイイ色気が・・・(*´◇`*)
- 46 :
- 続きどーんと希望
- 47 :
- 福山をはさんで両サイドに座るくぅ×BoA..
Mステにて
- 48 :
- Mステ2人ともショートで出てきたと思ったら、後半では2人ともロングになってましたね。仲良しだな(´∀`*)
- 49 :
- 昨日のMステといえば、一瞬だけどBoAチャン&くぅチャンのツーショット見れたしね♪
- 50 :
- 夜中に目が覚める。
隣で私に背を向けて眠る彼女の肩がゆっくりと上下していた。
首にかかる細い髪の毛をそっと指先で払って
暗闇に浮かぶような白さのうなじに、私は唇を寄せる。
強引に自分から求めた日から、私は“彼女”の記憶を彼女で埋めていく。
「ん…」
小さく彼女の肩が震えた。
「あ…ごめん 起こしちゃった…?」
「うん… 起きた…」
眠そうなふにゃふにゃした声が可愛くて、私は華奢な背中を抱き寄せる。
首筋に顔を埋めて深呼吸すると、自分と同じシャンプーの香り。
今はこれが一番落ち着く。
再びじゃれるようにキスをすると、くすぐったいのか彼女はクスクス笑った。
「ねぇ…」
「ん?」
「前につきあってたヒトと…なんで別れちゃったんだっけ?」
「…えっ?」
唐突な質問に私は思わず固まってしまう。
- 51 :
- 「前に…話さなかったっけ?」
「喧嘩別れってとこまでは聞いたよ 私が知りたいのはその理由」
でも、今となっては過去のこと。気兼ねなく話せる。
「うーん… 色んなものが積み重なっちゃったからかな」
「色んなもの?」
「うん 我慢したり、相手を信じられなくなったり…素直に…なれなかったり…」
「…素直になれなかったんだ?」
「…うん」
「…なんで?」
幼い子供のように質問を繰り返す彼女を強く抱きしめる。
「…素直になるのが怖いくらい好きだった…のかもしれない」
「なにが怖かったの?」
「…素直になりすぎて嫌われるのが…怖かったの…かな…?」
「そんなに好きだったんだね…そのヒトのこと…」
「…多分ね」
「私の前だと驚くくらい素直なのにね…」
少しだけ棘のある言い方にギクリとなる。
- 52 :
- 「はは… まぁ、もう…昔のことだし…」
誤魔化そうとしているのか、彼女は小さくアクビをした。
「昔のことなんかじゃない…」
「えっ?」
もう耐えられなかった
「今でも…そのヒトのこと好きなんじゃないの?」
心の底から好きになってもらえないことも
「素直になるのが怖いくらい…好きなんじゃないの?」
自分が彼女に無理を強いていることも
今、私を抱きしめている温もりでさえ
辛くて耐えられなかった。
彼女は答えない。でも、その無言が答えになる。
「気付いてないかもしれないけどさ、ボアちゃんたまに私の顔見てガッカリしてるんだよ」
朝目覚めたとき、隣にいるのが私だと気付いた瞬間の顔。
キスをして、唇が離れた後の顔。
抱きしめる瞬間の顔。
「そんなにガッカリするんだったらさ、私なんかといなけりゃいいじゃん」
ここまで言っても、彼女は黙ったままで否定すらしなかった。
涙腺のあたりがじわじわ熱くなってくる。
「明日から少しあっちに戻るんだよね?疲れたらかわいそうだから今日は泊めてあげる
でも…帰ってきたらもう…二度と来ないでね…」
ベッドが軋んで、私を包んでいた温度が引いた。
しばらくの間、背後で衣擦れの音がする。
衣擦れの音が止んで、再びベッドが軋む。
彼女の手のひらが私の肩に置かれた。
「…ごめんね」
正直、一番聞きたくない言葉だった。
ドアの閉まる音と同時に涙が溢れてきた。
- 53 :
- あのこの挙式当日は、お日柄もよくなんとやらだった。
約束どおり花を贈る手配をするため、愛車にまたがって都心を走る。
走りながら考えていた。私はどうするべきなのかを。
結婚するという報告を素直に喜べないでいる自分。
祝福してあげたいという気持ちのある自分。
本当に幸せになって欲しいという願いをもってる自分。
『伴ちゃんには関係ないじゃん』
彼女の言葉が再び胸をつく。
赤信号で車を止める。
「そうだよ…関係ないことだもん…」
自分に言い聞かせるように呟いた。
彼女が幸せだと言うなら、それで問題ないじゃないか。
だけど…
寂しそうな顔をして笑う彼女の顔を見るのは辛い。
彼女の笑顔の扉を開くための“鍵”を私は知っている。
とは言っても、あくまでも自分の推測なんだけれど…。
でもそれはほぼ間違っていない…と、思う。
信号が青になった。
自分がいる反対の車線を行けば、その“鍵”にたどり着ける。
思い切り車体を倒して旋回した。
アクセルターン。
突然の行為に対して鳴らされた騒がしいクラクションは無視する。
「ちぇっ…バイク買ってもらおうと思ったのに…」
誰に言ったわけでもない文句は風にかき消された。
- 54 :
- 空港の駐車場からターミナルへ向かう道を歩く。
あと2時間程度で私はまた日本から離れる。
もう日本には「行ってきます」も「ただいま」も言う相手がいなくなってしまった。
それを少しだけ寂しく思う。
でも全部自業自得。自らが招いた結果、自分が導いた結果・・・。
とぼとぼと歩く私の横に、一台のバイクが並走した。
「ボアちゃん」
聞き覚えのある声。私と彼女の共通の友人で先輩で・・・昔、二人を繋いでくれたひと。
「久しぶり!」
「・・・とみこさん!」
「おいっす!」
彼女はにっこり笑って片手を挙げた。相変わらず笑顔がかっこいい。
「どうしたんですか?」
「うん、お見送りでもしようかと思って」
「ふふふ、ありがとうございます」
「おみやげのリクエストもしておかなきゃ」
「それが本当の目的?」
「ははは、正解!」
冗談混じりの会話に、ほんの少しだけ気分が明るくなる。
「あと、報告しとかなきゃいけないことがあるんだ」
うって変わって急に彼女が真顔になった。
「なんですか?」
「くう、あのコ結婚するってね」
「ええ・・・そうみたいですね・・・」
忘れようとしていた出来事をむしかえされて、心がぐらりと揺れる。
私は必にポーカーフェイスを気取る。
「ちゃんと、彼女から報告は受けてます 私も心から祝福しています」
最後の言葉が少し震えた。
続く
- 55 :
- 面白かったです!続き楽しみにしてます♪
- 56 :
- あたいは切なかった..
今回BoAタン目線が多くて嬉しかった
純と切れてホッとしたし伴ちゃんカッコえ〜し♪なんか回りだしたー!てかんじ━(゚∀゚)━━!!
中身さんはgenius!
- 57 :
- くうぼあが好きなんだけど…
好きなんだけど…
純ちゃん切ない(´Д`)
中身サンさいこーだよ
- 58 :
- やばい…
自分もぼあ純に萌えてしまった…
夏川さんが個人的にすきだからかなw
しかしくぅぼあ以外でこんなに萌えさせる中身さんはやっぱりすごい!
- 59 :
- スレ通り私はやっぱくーぼあ好きだ
腹黒い夏川あっちいけだ!せいせいした
中身さんありがとう
- 60 :
- 子供か
- 61 :
- 毎日続きが恐ろしく気になる。。
- 62 :
- まだか‥orz
- 63 :
- 「式、今日だって」
「へぇ・・・」
「教会で、本当に極秘にやるんだって」
「ふぅん・・・」
無関心を装うけれど、彼女の言葉が心の波紋をどんどんかき乱す。
「変なこと聞くけどさ、ボアちゃんはそれでいいの?」
「何言ってるんですか・・・ もう彼女とはなんでもないんですよ?
別れたのだって、ちゃんと話し合って二人で決めた結果なんですから」
「じゃあ一緒にお祝いしに行こうよ」
ぐっと彼女が私の手を引いた。
「いやです!」
思わずその手を払いのけてしまう。
我ながら『心から祝福してます』なんて、よく言えたものだ。
“彼女”の幸せを願っているのは確かだけれど、そんなこと…できるはずない。
そんな私を見て彼女が笑った。
「本当に…あんたら素直じゃないよね」
「…そんなことないです」
「変なところばっかそっくりでさ、見てるこっちは楽しくてしょうがないんだよ」
「そんなこと…」
「ある! たくさんある ポーカーフェイスがヘタクソなところとかさ、
弱いところ隠そうとして必に強がっちゃうところとかさ…
面白いくらい、あんたら似てるんだよ」
「だとしても…とみこさんには全く関係ないじゃないですか…」
「それ…あのこにも同じこと言われたよ」
やれやれといった顔で、彼女は肩をすくめてみせる。
「第三者に痛いところ突かれるの、苦手でしょ?」
その一言で、私は何も言えなくなる。
図星だ。
- 64 :
- 「だからつい『関係ない』って言っちゃうんだよね…
確かに私は関係ないよ 二人があーなろうが、こーなろうが知ったこっちゃないよ
でもさぁ、赤の他人の全く関係ない私から見てさ、二人ともめちゃめちゃ無理してんだもん
お互いのこと大好きで心配でどうしようもないのに、必にそれを押し隠してさ…
お互いのウソを一生懸命信じ込んでその気もないのに祝福してさ、
なんっつーか…ボクシングとか格闘技みたいな攻防戦じゃなくて
まんま幼稚園児同士の喧嘩みたいになってきてるんだもん
何の駆け引きもない、ただの殴り合いだよ、それ 後には何も残らないよ…
どれくらいの期間、二人が距離を置いたのかは知らないけれど、
もし今素直になれなかったら、そのつらい時期が単なる暗い記憶で終わっちゃうよ
きっと彼女を好きになったことさえ後悔しちゃうと思う
誰かを好きになるって素晴らしいことなのに、それを悔やむのなんて悲しすぎると思わない?
悪いけど…私はそれを見て見ぬふりはできないよ…」
彼女が大きなため息を一つついた。
「悪いね、好き放題言っちゃって」
「いえ…別に…」
恐ろしいくらい、彼女は私達を見ている。
自分が認めたくない…いや、認めようとしなかった部分まで。
彼女の存在の大きさを知ったとき、なんであんなに泣いたのか。
どうして彼女の代わりに誰かを愛せなかったのか。
結婚の話を聞かされたとき、なんであんなに胸が詰まったのか。
自分が女であることを、なんであんなに後悔したのか。
思い出の場所が消えて、なんであんなに寂しかったのか。
週刊誌の下品な見出しに、なんであんなに苛立ったのか。
なんで必に彼女を忘れようとしたのか。
私 彼女のこと 好きなんだ
- 65 :
- 認めるしかない、揺ぎ無いたったひとつの答え。
「じゃ、私伝えることは全部伝えたから…帰るね」
彼女がスロットルを回した。軽快な音がコンクリートに響く。
「…とみこさん!」
走り出そうとした彼女の背中に叫ぶ。
「ん?」
「これから…どうするんですか?」
「花屋行って、あのこに贈る花注文しに行く予定」
「あの…」
「…だからなに?」
じれったそうに答える。
きっともう、彼女は私がどういう行動に出たがってるか分かってる。
「そのお花の代わりに…私の素直な気持ちを届けてもらえませんか?」
「…そうこなくっちゃ!」
かっこいい笑顔のまま、彼女がヘルメットを投げてよこした。
- 66 :
- 「とみこさん!」
「んー?」
背後から私を呼ぶ彼女の声。
エンジン音が少し邪魔で、ちょっとだけ大声で喋る。
「なんで、私達のコト、応援してくれるんですか?」
「なんだっていいでしょ!」
「なんだっていいことなのに、空港まで来てバイク飛ばしてるんですか?」
「・・・あんた達が大好きだからだよ」
照れくさくて大声では言えなかった。
「なんですか?」
「なんでもない ほら、もう少しで到着するよ!」
いつか二人に恩着せがましく言ってやるんだ!なんて。
信号が青になる。
車の間を擦り抜けるように走る。
立ち並ぶ住宅の隙間から目的地がちらちら見え始めた。
もう少し、もう少しだ!
一気に土地が開けて、目的地の敷地にさしかかる。
焦燥感からか、猫が通りに飛び出してきたことに私は気付かなかった。
黒猫だった。金色の目がギラリと光る。
不吉の象徴・・・
- 67 :
- 「危ないっ!!!!!」
「・・・っ!!」
耳を劈くブレーキ音と、体が宙に投げ出される感覚。
世界がスローモーションで回転する。
雪崩のように、自分がこの世に生まれてから今日までの記憶が脳裏に浮かぶ。
これが走馬灯ってやつか・・・
ああ、とんでもないコトにとみこさん巻き込んじゃったなぁ・・・
パパ、ママ、先立つ不幸をお許しください・・・
もう一度、彼女と会いたかったなぁ・・・
この世に飛び出して、初めて立って、歩いて、喋って・・・
歌うお仕事するようになって、彼女と出会って、笑って、抱き合って、キスして・・・
最後に頭に浮かんだのは彼女の泣き顔だった。
ごめんね・・・泣かせちゃってごめんね・・・
ごめん・・・
遂に私の体が地面と接触した。
- 68 :
- リノリウムの床を、耳障りな音を立てて通るストレッチャー
慌しく頭上を行き来する難しい言葉
金属製の器具が立てる鋭い音
不規則なリズムの電子音
息苦しさの中で
意識が朦朧と
私もう
駄
続く
- 69 :
- んー、とりあえず続き早急に希望
話がつ●んなくなってきて・・ないよね
応援してます
- 70 :
- やべー続き超気になる!
- 71 :
- 早くぅ〜(;´Д`)
気になってしょうがない…BoAタソの想いはくうちゃんに届くの…?
- 72 :
- 中身さんGJです♪ほんまにヨカター!
BoAタンが自分の気持ちに気付けてやれやれ
伴ちゃんサマサマって奴ですな(´∀`)
ぬなよぉ2人とも〜
ほんで中身さんムリせんよ〜にね(ー人ー)
- 73 :
- むうぅ…息が詰まるくらい真剣に読んでしまう!
中身タン、GJ!!
- 74 :
- 中身さんGJです!
続きが気になるわー
- 75 :
- ペースどんどん遅くなってきた?
中身さん大丈夫?
今の状況じゃ新しい職人いても投下しづらいだろうし
まー新しい職人いないだろうけど(T_T)
更新無くても顔出してほしいな
ファンとしては心配だよ!
- 76 :
- 中身さ〜ん(゚∀゚)
そろそろ…。。。
- 77 :
- ・・・アちゃん、ボアちゃん・・・
誰かが私の名前を呼ぶ。
きっと天国と地獄の門の番人だ。なんかの本で読んだことがある。
そこで私はにかけられて、天国行きか地獄行きか裁かれるんだ。
はたして私は善人であっただろうか。
重大な犯罪は犯してないけれど、たくさん彼女を泣かせてきた。
「地獄・・・かな?」
そう思った瞬間、むなぐらを掴まれて強引に上半身を起こされた。
ぺちぺちと頬を叩かれる。
ボアちゃんってば!
乱暴な扱い。地獄へ行く人間の扱いなんてこんなものか。
「おい!こら!起きろ!」
ぱしん!刺すような頬の痛みと、怒鳴り声でやっと目が覚めた。
「あ・・・れ・・・?」
「叩いてごめん、生きてる?」
「・・・とみこ・・・さん?」
脳震盪でもおこしてたら、彼女どうするつもりだったんだろう?目の前がものすごく眩しい。
「これ何本?」
現状をあまり把握できてない私の目の前に、彼女が指を突き出す。
「んっと・・・3本?」
「これは?」
「・・・5本」
「よしっ!」
ぐいとそのまま引かれて立ち上がる。
幸か不幸か、着陸(?)したのは柔らかい芝生の上で、
奇跡的に手のひらを擦りむいただけで私は生きていた。
とみこさんは植え込みに突っ込んだらしく、体のあちこちに葉っぱをくっつけていたけれど
私と同じように擦り傷だけで済んだみたい。
- 78 :
-
「・・・神の御加護ってやつかもね」
私越しに後ろを見る。
振り返ると、決して大きくはないけれど威厳たっぷりの教会が聳え立っていた。
「そこだよ くうが居るの」
彼女が顎でしゃくる。
「今しがた神様に助けられたとこなんだけどさ、その恩を仇で返す勇気はあるよね?」
そう言ってニヤリと笑った。
「花嫁奪還、しにきたんでしょ?」
「・・・はい!」
「ほら、早く行かないと 彼女神様に誓っちゃうよ!」
「はい!あの・・・ありがとうございます!行ってきます!」
「うん!」
ぱんと彼女が背中を押した。
私は教会に向けて一直線に歩き出す。
「そうだ!ボアちゃん!コレ、帰りの足!!」
その声に振り向くと彼女が私に向けて何かを投げた。
「ここに用意しとくから!」
それは放物線を描いて見事に私の掌に収まる。
何かの鍵?
「しっかりやんなよ!!」
私がそれを受け取ったことを確認するように彼女が叫んだ。
バイクを起こして跨り、スターターを思い切り踏み込む。
ついさきほどのアクシデントもなんのその、エンジンが轟音を立てた。
- 79 :
- 「えっ・・・とみこさん・・・帰っちゃうんですか?!」
「当たり前じゃん もう私いらないでしょ?私の出番はおしまい」
「でも・・・」
急に心細くなる。ここまで来る決心がついたのは彼女がいてくれたからだ。
「もし・・・断られたら・・・」
かけたエンジンを一旦切って、彼女がこちらへ戻ってくる。
「ボアちゃん ちょっと後ろ向いてて」
「はぁ… !!! いっ…たぁっ!!!!!」
後ろを向いた途端、お尻を思い切り蹴飛ばされた。
「いいからとっとと行ってきな!」
初めて聞く彼女の怒鳴り声。
「あんたがものすごいバカタレだってのは知ってるけれど、こっからは自分で歩くの!!!
ここまで来て何やってんの!素直な気持ち伝えにきたんでしょ!
今まで何度それ躊躇って失敗してきた?もういいかげんにしなよ!」
でも、叱咤の中に深い愛情が込められてるのが分かる。
「『後悔先に立たず』って言葉くらい、いいかげん覚えな!あんた頭いいんだから!バカ!!!」
乱暴な言葉の嵐が嬉しかった。思わず泣きそうになった。
「ありがとうございます!」
「いいから!早く行っておいで!」
「・・・はい!」
彼女にお辞儀をして入り口へ続く階段を駆け上った。
- 80 :
- 入り口の木造扉を開くと白系統の色で統一されたエントランスホールが広がる。
奥に見える扉がどうやら礼拝堂らしい。
さして長くもない距離を、私はゆっくり歩く。
これから自分がしようとしていることを考えると、緊張で足がなかなか進まなかった。
喉もカラカラで、心臓が口から飛び出しそうだ。
ゆっくり歩きながら、私はある映画のワンシーンを思い出していた。
入り口のドアを恋人の名前を呼びながら叩く主人公。
それに気付き振り向く恋人と、彼を阻止しようとする恋人の親族。
それを振り切って、手に手を取って二人は教会を飛び出す・・・。
果たしてその主人公みたいに自分は彼女を連れ出せるのだろうか。
入り口から見えた小さな扉は、目の前にしたら意外と大きく見えた。
扉の手摺を握って深呼吸。
きれいな木目越しに、賛美歌が聞こえてくる。
手摺を握る手に力を込める。
扉は想像してたよりも重く、めいっぱい押してもほんのわずか隙間が開くくらいだった。
その隙間をじりじりと広げるように体重をかける。
扉に全体重をかけた瞬間だった。
入り口の扉を開けたときに内圧の差でも生じたのか、扉がバタリと大きな音を立てて開いた。
それに体を預けていた私は、引っ張られるようにして中に入る。
足がもつれて、敷居のわずかな段差に躓いた。
「わぁっ!!!!!」
咄嗟に手を突くことができなくて、私は思いっきりバージンロードとキスをする。
ものすごく格好悪い登場の仕方。
・・・最悪。
- 81 :
- 「うっ・・・ いたたたた・・・」
鼻っ柱をしたたかに床に打ち付けたせいで、鼻の奥がジンジン痺れてる。
痛いときは反射的に涙が出るもので、目じりから雫が何滴か搾り出された。
鼻血は出なかったけれど、口の中に薄く鉄の味が広がる。唇が少し切れたみたい。
痛みに顔を顰めながらなんとか立ち上がる。
「あ・・・!」
目をまんまるに見開いて、驚いた顔をした彼女と目が合った。
全身の血液がサーッと一気に足元に流れ落ちる。
それと同時に顔が熱くなるのがわかる。
そんな私を神父さんが笑顔で手招く。
気付けば参列席には誰もいなくて、礼拝堂の中には神父さん、聖歌隊、
そして夫婦になろうとしてる二人だけしかいなかった。
神父さんは私を参列者だと思っているらしい。
「どうぞこちらへ・・・」
その誘いに私は首を横に振ってみせた。
「ごめんなさい!彼女にどうしても伝えたいことがあるんです」
少し戸惑ったような表情を見せて、神父さんが咳払いを一つした。
「・・・あの・・・その・・・」
あまりにも喉が渇いたせいか、声が少しかれていた。
私も咳払いを一つ。
「くうちゃんの淹れるコーヒー…あまり美味しくないんだよね・・・」
自分の口から出た言葉に自分で驚いた。
- 82 :
- あれだけ頭の中で何度もシミュレーションしたのに
「悪いけどさ、私アメリカンの方が好きなんだ」
私の口から出る言葉は
「あと、くうちゃんの作る肉じゃが、少し甘すぎない?」
愛の言葉でもなんでもなくて
「それに私が作った料理、首傾げながら食べないで 正直ムカつく」
今まで鬱積していた『文句』だった。
「使ってる香水も、正直私の好みじゃない あ、カーコロンもそう 好きじゃない
運転の仕方荒すぎ あれじゃぁ酔っちゃう っていうか何度か酔ってるし」
素直になるってこういうことじゃなかったのに・・・
「お風呂の入浴剤だって・・・たまには私に選ばせて それに歯磨き粉、あの味はもう飽きました」
言いたいことはもっと違うことなのに・・・
「くうちゃんが好きなあの俳優、ずっと黙ってたけど、私大ッ嫌いなのね」
こんな状況に置かれても、素直になれない私。
「たまには私の見たい映画…見せてよ・・・」
そんな自分が情けなくて、自然と涙が零れ始める。
- 83 :
- 「嫌いなところも・・・《いっぱい》あるけど・・・」
どんどん零れる涙が、私の言葉のあちこちに歯止めをかける。
思考に日本語の語学力が追いつかなくなってくる。
「《本当》に時々《頭》に・・・《くる》んだけど・・・」
言いたいことが日本語にうまく変換できなくて、私はちゃんぽんで喋り続ける。
「《私》・・・のこと・・・全然《頼って》くれないけど・・・」
普段使ってる単語ですら出てきにくくなってきていた。
「本当は・・・もっと頼って《欲しいん》だ・・・」
滲んだ瞳の向こう側に移る彼女は、私に背中を向けていた。
純白のヴェールが邪魔して、横顔すらうかがえない。
もう、きっと・・・多分・・・、こっちを向いてくれることはないんだろうな。
そう思ったら、もっと涙がぼろぼろ零れた。
抑えようとしていた泣き声が喉から漏れる。
今まで伝えられなかった愛しい思いが心の器をどんどん満たしては
容量に収まらない分がどんどん溢れて滴る。
こんなに好きなのに・・・
なんで私・・・
どうして私・・・
とめどなく涙を流しながら、私は『後悔先に立たず』という言葉を身をもって学んだ。
- 84 :
- 「《き・・・嫌いなところばかり・・・だけど・・・》」
もっと前から素直でいたら
「《それでも・・・私は・・・ くうちゃんのことを・・・》」
彼女は今も隣にいてくれたのかな・・・
「《心の底から・・・愛してます・・・》」
最後のほうは日本語すら出てこなかった。
横隔膜に変な癖がついて、私はリズムの狂った呼吸を繰り返す。
彼女はこちらを見向きもせずに、俯いたままだった。
もう・・・私の顔を見るのも嫌なのかな・・・
そうだよね・・・ 結婚式、横槍いれちゃったんだもんね・・・。
謝罪と、とりあえず気持ちを吐露させてくれた感謝の気持ちを込めて
彼女の背中に向けて深くお辞儀をした。
回れ右をして、入り口に向かう。
「・・・ごめんね」
私の背後で彼女の謝る声が聞こえた。
こっちこそ・・・ごめんね。
すっと横を通り過ぎた風が、私の腕を掴んで引っ張った。
最終話へ続く
- 85 :
- あれ、おかしいな…
目から液体が出てくるよ。・゚・(ノД`)・゚・。
中身さんGJです!
ついに最終話。楽しみに待っています!
- 86 :
- いやーBoA子!よく頑張った(´∀`)ノ
中身さんもGJですた♪とみこバンバンもご苦労さん
続きwktkで待ってます
やっぱ中身さんはネ申〜
- 87 :
- GJ!
だけど前レスでは病院に運ばれたっぽかったけどいきなり式場?あたしの解読力が足りないのな…
兎に角、続き気になる!
- 88 :
- >>68は
たぶんBoA子の妄想。
病院?病院?と見せ掛けて
草の上
みたいな。
ダトオモウ、よ?
- 89 :
- 「・・・・・!」
肌触りの良いシルクの手袋 背中が大きく開いたウエディングドレス
純白のヴェールが風になびいて私の頬をかすめる。
彼女だった。
「く・・・くうちゃん?!」
呆気にとられている私をよそに、彼女は手を引いたままどんどん走る。
「ちょっと・・・あの・・・結婚式は?!」
私の質問を完全に無視して、そのまま教会の入り口を飛び出る。
さっき登ってきた階段を転がるように駆け下りたところで、ようやく彼女は止まった。
「あの・・・」
「・・・いんだよ・・・もう」
ぜえぜえと肩で息を切らしながら、彼女が何か呟いた。
「・・・なに?」
「・・・そいの・・・んとに・・・」
荒い息にかき消されて、よく聞き取れなかった。
「ごめん・・・もう一度・・・」
「遅いの!遅すぎるの!ホントにもう!!!」
彼女がキッと私のほうを向いた。
「あたし・・・結婚しちゃうところだったじゃんか!!あほっ!!!」
「・・・はぁ?!」
とんちんかんなことを言われて、私は思わず変な声を出してしまった。
「しちゃうとこって・・・えぇっ?!する気なかったの?!」
「バリバリする気だったけどさぁ、ボアちゃんの言葉でなんか・・・あー・・・もう!!!
久しぶりに顔見ちゃったしさぁ、ていうかなんか遅くない?ていうか何しに来たの?!」
興奮してるんだか逆上してるんだか、まくしたてるように喋る。
- 90 :
- 「あの・・・」
「もー、ほんとにもう・・・!!!」
どん!
「痛っ!ちょっと・・・」
彼女が俯いたまま、私の肩を手のひらで押す。さっきのさっきで少し痛む。
「アホっ!!!」
どん!
今度は両手で胸元を押された。たまらず後ろへひっくり返りそうになる。
「くうちゃん?!」
「言いたい放題言い過ぎ!!!」
怒りを露にした顔で彼女が怒鳴る。
どん!!
体当たりをするように胸に飛び込んでくる。
私はよろめきながら彼女を受け止めた。
「・・・なんで…もっと早く言ってくれなかったの?」
「・・・ごめん」
か細い声に胸が詰まる。また私は謝ってしまう。
「なによ!いつもごめん、ごめんって…」
私を睨む、しっかりとアイメイクの施された瞳から大粒の涙がぽろりと落ちた。
地面に落ちた音が聞こえそうなくらい大きな雫。
「謝る…くらいなら…」
その雫がどんどん数を増す。
「あほぉっ!!!!」
彼女が手を大きく振りかぶった。
- 91 :
- バチンと大きな音がして、私の頭に星が散る。
頬に走るのは痛みというか、熱さというか…
こんな風に私の頬を叩いたのは今までで彼女だけ。
両親にだってここまで叩かれたこと・・・ない。
「い…ったいな!!!!何よ!!何で叩かれなきゃいけないの?!」
突然叩かれて怒らない人間なんていないと思う。
もちろん私もそんなことされたら当然怒る。
っていうか、今日は何回痛い目を見たんだろう。
ヒリヒリする頬を押さえながら思わず怒鳴った。
怒り心頭の私とは裏腹に、彼女はものすごい顔でぼろぼろ涙を零す。
正直、コレはファン減っちゃうなぁ…って顔。
懸命に涙をこらえているのか目をぎゅっとつぶって
唇をきっと噛みしめて、への字に曲げて
恐らくウォータープルーフであろうマスカラは
無残にも彼女をパンダ目にして…
押ししたような声が唇から漏れ始める。
一つ深呼吸をして、彼女は子供のように大声をあげて泣き始めた。
うえーん!!!冗談ではなく、本当に彼女はそう泣いていた。
「本当に…本当に…会いたかった…」
うわーん!!しゃくりあげながら途切れ途切れに喋ると、再び大声をあげて泣く。
その泣き顔があまりにも、ありえないくらいブサイクすぎて…
可愛くて、なによりも愛しいと思った。
- 92 :
- もう、嬉しいんだか悲しいんだか楽しいんだか・・・
あたしはワケが分からなくなるまで泣いて泣いて泣きまくった。
涙って枯れないんだなぁと思いながら泣いた。
どんどん溢れる雫を拭う手を、温もりが包む。
ずっとずっと、一番感じたかった彼女の温度。
「あーあ びしょびしょじゃん」
笑いながら涙に濡れた手袋をあたしの手から抜く。
顔をあげると、滲んで見える彼女の笑顔。
それを見たらもっと余計に涙が出てきた。
「あらららら・・・」
彼女は少しだけ困った笑顔で頬を伝う雫を拭ってくれる。
「こんなに泣いておかしいんだ 子供みたい」
「うっさい!!」
さっきボアちゃんだって泣いてたの、知ってるんだから。
「言っとくけど、今すっごくブサイクな顔してるよ」
「・・・ほっといて!」
「でもさ・・・」
ぎゅうっと抱きしめられた。
痛いくらいの抱擁が、すごく嬉しい。
「私にとっては可愛いし、綺麗だし・・・とても愛しい」
その言葉にまた涙が零れる。
「・・・すっごいブサイクだけどね」
「もう!」
付け加えられた余計な一言に、あたしは彼女の胸を叩いた。
「いって〜!」
舌を出していたずらっ子のように笑う。
大好きなその笑顔に、あたしはまたまた涙を流した。
「クミ!」
大声で名前を呼ばれて振り向く。
白いタキシードを着た彼が、ゆっくり階段をおりてきた。
- 93 :
- ポケットに手を突っ込んで、ゆっくりゆっくり・・・
靴底を鳴らすようにして、ゆっくりゆっくり・・・
下唇を突き出すのは、怒ってるときのサイン。
「『ごめんね』って・・・何だよ・・・」
あたしが彼に酷いことをしてるっていうのは充分分かってる。
彼が怒るのも仕方なかった。
「っつーかさ、何その顔?俺の前でそんな顔したこと一度もねーじゃん・・・」
悔しそうに呟いて、彼は地面を蹴る。
「俺さ、今モーレツに頭きてるし、めちゃめちゃ妬いてるんだけどさ・・・」
深いため息をつく。
「そんな顔してるの見せつけられたら・・・何も言えねえよ・・・」
自嘲的に笑う姿に、ちょっぴり胸が痛んだ。
「なんかしんねーけどさ、クミの隣にそのコがいるの、俺、違和感感じてないんだわ
そんなにいい笑顔で・・・しかも思いっきりわんわん泣いてるし・・・
ホントはスゲー悔しいよ、マジで でもやっぱ・・・いい顔してんな・・・」
彼は再び深いため息をつく。
「なんか・・・わかんねーけど・・・
他の男がきても負ける気はしねーんだけど・・・そのコには俺、勝てない気がする」
「えっ・・・?」
「クミにそんな顔させるヤツだぜ?」
あたしの横で彼女が恥ずかしそうに俯いた。
長い沈黙の後、彼が彼女に声をかける。
「なぁ!」
「あ・・・はい・・・」
突然呼ばれて驚いたのか、彼女は『きをつけ』の体勢をとる。
「クミのこと・・・好き?」
- 94 :
- 「はい!」
即答だった。またちょっと泣きそうになった。
「んーと・・・今日のは仕方ないとして・・・二度とそんなふうに泣かさないって誓える?」
「誓うことはできないけれど・・・精一杯努力します」
「そっか・・・んじゃ、俺神父さんに挨拶してくるわ・・・」
くるりと回れ右をして彼が歩き出す。
「ちょ・・・ちょっとぉ!」
こんなときまで彼は彼らしくて、決してドラマチックじゃなかった。
めんどくさそうに彼が振り向く。
「最後くらいかっこつけさせろ!」
そう言ってニヤリと笑った。
「クミのこと、よろしくな!」
「はい!!」
彼女の手が、あたしの手をしっかり繋ぐ。
それを確認するように見届けてから、再び彼は歩き出す。
「ありがとう!」
その背中に大きな声でお礼を言う。
あたしたちに背中を向けたまま、彼はひらひらと手を振った。
「・・・くうちゃん」
「ん?」
照れたように頬を赤く染めた彼女。
「『花嫁奪還』の続き・・・してもいい?」
手を繋いだまま、あたしたちは走り出した。
- 95 :
- 「えっ・・・『足』って・・・コレ?」
目の前には前にかごの付いた自転車。
俗に言う“ママチャリ”が一台、植え込みの脇に停められていた。
ずっと握り締めたままだった鍵に目を落とす。
受け取ったときは確認すらしなかったけれど、これはどうみても自転車の鍵だ。
格好よくスポーツカーで花嫁を奪取!の絵がガラガラと音を立てて崩れていった。
「・・・・・・どうしよっか」
唖然として肩を落とす私を見て、彼女が笑った。
「いいんじゃない?」
そう言って彼女がリアに座る。
「ほら、あたしを奪いに来たんじゃなかったの?」
「・・・自転車で?」
「仕方ないじゃん!これしかないんでしょ?早く!」
即されるがままに自転車に跨ると、彼女の腕が私の腰にまわった。
「じゃあ・・・行きます」
「うん!」
思い切りペダルを踏み込む。
途端、耳障りな音が背後から響いた。
「えっ!何?!」
ぎょっとして二人で振り向くと、なんと空き缶を括りつけた紐が幾本も自転車に結ばれていた。
上手い具合に植え込みの影に隠されていたらしい。
コレって・・・ハリウッド映画でよく見る“アレ”だよねぇ?
してやったりの顔で笑っている“仕掛け人”の顔が頭に浮かんで、私は苦笑した。
「・・・どうしよっか」
「いいんじゃないの?」
ものすごい迷惑な悪戯に、彼女は満足そうに微笑んでいた。
「ま・・・いっか!」
「うん!」
彼女の笑顔に、私もつられて笑った。
- 96 :
- 再度ペダルを踏み込む。
頬に当たる風が心地よい。
「ねぇ 香水変えた?」
「別れた直後あたりにね・・・ あれ、ボアちゃん、この香り嫌い?」
「ちょっと嫌いかな・・・」
「前に使ってた大不評のやつと比べたら、まだ好みに近いと思うんだけど・・・」
「前の方が全然いい!」
「・・・なんで?」
「好みじゃないけど好きな香りだから」
「あのね、私、このあとまた韓国に戻っちゃうんだけどさ、1週間後には帰ってくるのね」
「うん」
「帰ってきたらさぁ・・・ またドレス着てくれる?」
「・・・なんで?そんなに似合ってる?」
「それもそうなんだけどね・・・」
「ん?」
「あのね・・・ 写真・・・撮りたいんだ くうちゃんと・・・」
「あたしと?」
「うん あのヒトみたいに上手くは撮れないだろうけど・・・」
「んじゃぁ・・・ ボアちゃんタキシード着るの?」
「何で?! やだ! 私もドレス着る!」
「それじゃどっちが花嫁かわかんないじゃん」
「でもタキシードはやだ!」
「いいじゃん きっと似合うよ」
「やーだー!」
- 97 :
- 少し重いペダルも、騒々しい空き缶の音も、腰に回された彼女の腕も
全てに幸せが満ちているような気がして嬉しくて、私は立ちこぎをする。
後ろで彼女が小さな悲鳴を上げてしがみつく。
思わずバランスを崩しそうになって、フラフラ走る。
二人で笑いながら悲鳴を上げた。
「くうちゃん!」
「んー?」
「後でちゃんと、誓いのキスしようね」
「うん!」
二人分の幸せを乗っけて、私はぐんぐんペダルをこいだ。
fin
- 98 :
- 「うわ・・・タンクべっこべこ・・・」
バイクをパーキングに停めた時点で、私はダメージの大きさを始めて知った。
ビシッとかっこよく去り際をきめたくて全然見向きもしなかったけれど、
私の愛車はなんだかかわいそうなことになっていた。
ウインカーとミラーは変な方向向いちゃってるし、タンクもへこんでる。
カウルもなんか・・・あれ、ヒビが・・・。
それに折れてはいないと思うけれど、思い切り打った腰がかなり痛い。
「かっこつけすぎたかなぁ・・・」
別にそのときはそんなこと考えもしなかったけれど、
自分がとった行動を思い返すとなんだか恥ずかしい。
えーと、花嫁奪還をそそのかして、2ケツしてバイク飛ばして(横転したけど)、
歯の浮くような台詞で説教して・・・なにやってるんだ、私は。
ため息をついてわしわし頭をかくと、私をからかうように木の葉がちらちら舞い落ちた。
そんな私を誰かが背後から抱きしめる。
「・・・おかえり」
「うん・・・ただいま」
彼女だった。私の肩に顎を乗せる。
「・・・助けてあげたんだね?」
私は無言で頷いてみせた。
「やっぱり!とみちゃんいいこ〜」
わしわしと私の頭を子供にするみたいに撫でる。
「なんか惚れ直しちゃった・・・」
「・・・なんです?」
「・・・聞こえてるでしょ?」
「聞こえてません」
照れの二乗でそっけなく返事してみせた。
途端、ぐいっと耳朶を引っ張られる感覚。彼女の顔が更に近づく。
うっ、まさか大声で叫んだりしないよね・・・?
耳元で彼女が深呼吸をした。思わずぎゅうと目を閉じる。
- 99 :
- 次の瞬間、私の頬に暖かいものが押し当てられた。
押し当てるというか、押し付けるというか・・・彼女の唇だった。
「ご褒美っ!」
満足そうな笑顔が、ひしゃげたミラー越しに見える。
漫画で見るような立派なキスマークが頬に残っていた。
私も思わず笑う。
「ありがとうございます」
「あれ・・・これでいいの?」
ぺこりと頭を下げたら彼女が拍子抜けした声を上げた。
「・・・こんなんじゃなくて、バイクよこせー!とか言われると思ってた」
「そう言ってほしかったんですか?」
「そうじゃないけど・・・」
「じゃあ・・・一つお願いがあります」
「バイクは買わないよ?」
・・・即答ですか。結局買う気はなかったんですね・・・買ってもらう気もないけど。
「あと、このコの修理代も出さないよ?」
愛車を指差す。だからそんなことさせませんってば・・・。
彼女の方に向き直る。
「今さっきのコレを・・・」
頬に残されたキスマークを指で突付く。
「・・・こっちにも」
その指で自分の唇を指差した。
「・・・どういう風の吹き回し?」
彼女が怪訝そうな顔をする。
「いや・・・他人にばかり『素直になれ!』って言うのもどうかと思って」
あんな大見得切った本人がへそ曲りじゃあカッコつかないし。
ちょっと飛び出せたのは彼女達のおかげかな?なんて。
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