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【新垣戸田】コード・ブルーで百合2【りょう比嘉】


1 :2009/12/05 〜 最終レス :2013/09/21
白石(新垣)×緋山(戸田)
緋山×白石
三井(りょう)×緋山
冴島(比嘉)×白石
あると思います。

2 :
>>1
2期も決まったしここも盛り上がるといいな

3 :
あれ?
前スレ落ちた?

4 :
2期、仲良しフィルター期待しすぎるとまずいかなと思いつつ期待しちゃう自分w
ドラマとしてもまた素敵なものを作ってほしいな。

5 :
ちょっと趣向を変えたSSを書いてみました。

6 :
『ドクターヘリ、エンジンスタート』
轟木の乾いた声が急かす。白石は書きかけのサマリーを閉じて、ヘリポートに向かって走った。
ヘリの要請は少し離れた郊外のショッピングセンター。
そこで事件があり、銃で撃たれた警察官がいるらしい。
「ねえ、撃ったのって犯人だよね、もう近くにいないんだよね。」もう一人のヘリ担当、森本が確認する。
『犯人は車で逃走したそうです。現在ショッピングセンター及びその周辺の道路は封鎖されて、内部の安全確認は
終了しています。』
「銃創ですか…。」
白石にとっては初めての経験だ。
「うん、日本じゃあんまり経験できないよね。僕も1回しか見たことないな。あの時は、猟友会の人が間違って
仲間を撃ってね、散弾銃の球が100個ぐらい体内に入っちゃっててさ、全部取り出すのに3回もオペすることに
なって、大変だったんだよ。」
「そうなんですか。」
白石は上の空で返事をしながら、過去に読んだ文献の銃創にまつわる箇所を思い出していた。
「必要な処置は、止血、輸血、外科的な施術のほかにペインコントロールと抗生物質の投与ですね。」
「そうだね、でも傷の状態を見てみないと何とも言えないね。銃の種類や口径、弾丸の種類やあたりどころに
よって全然違うからね。何にしても相当痛いらしいよ。」
ヘリがショッピングセンターの駐車場に降りた。近くにブルーシートでさえぎられた一角がある。
急いで駆けつけ、ブルーシートをめくると、救急隊員に場所を譲られて患者の脇に膝をついた。
驚きで一瞬息を飲んだ。
そこに横たわっていたのは、まだ女の子と呼んでもいいような若い女性だった。同様に驚いた森本と顔を
見合わせたところに、救急隊員が急かすように言う。

7 :
「撃たれたのは、キモトマミ巡査、38口径の拳銃で腹部を撃たれています。血圧86の42。先ほどまでは
呼びかけに反応していましたが、意識レベル低下しています。」
「弾は?貫通してる?」森本が慌てて聞く。
「いえ、体内です。」
「とりあえず傷口を見てみよう。白石、脈触れる?」
「はい、弱いですが触れています。」
救急隊員が止血していた傷口のガーゼを森本がそっと持ち上げる。見た目にはごく小さな傷にしか見えない。
出血もほとんど見られない。
「背中も見るよ。手を貸して。」
2人ほどの隊員が手を貸し、体を横に向ける。
射出口は見えない。どこに弾丸が残っているのか、そこからは判断がつかない。
一旦体位を戻すと森本が言う。「バイタルが安定しているうちに急いで病院に運ぼう。一刻も早く開腹して弾を
取り出す必要がある。すぐに用意して。」
「はい。」
現場から病院までヘリでおよそ12分、白石には木元の様子を見守る以外、何もすることはできなかった。
幸い急変することなく病院に着いた。
銃創なんて珍しい症例なので、藍沢と緋山はもちろん真っ先に飛び出してきた。藤川もそれに続き、森本と
フェロー全員で患者を囲み、そのまま初療室で開腹手術が始まった。
表面の傷とは裏腹に、内部の損傷は相当なのものだ。腹腔内を洗浄し、傷ついた臓器を確認しながら弾丸を探す。
背中に近いあたりにひしゃげた弾丸が見つかった。
続いて傷ついた腸管を縫合する。火傷のように変色した部分を切除し、一か所づつ丁寧に縫合する。
2時間におよんだオペは無事終了した。
傷ついた箇所が多く、縫合にだいぶ手間取ったものの、幸い大きな血管も神経も傷つけていなかったので、
これなら後遺症は残らずに済むかも知れない。
ICUのベッドで眠る木元巡査は、やはりどう見ても警察官には見えなかった。
痩せた体、細い手足、青白い顔。この姿で本当に拳銃を持った凶悪犯に対峙したというのだろうか。
白石は担当することになったこの患者の様子をじっと見つめた。
今は鎮痛剤が効いて眠っているが、銃創は痛みと熱が続くらしい。看護士に抗生物質の投与を指示して
ナースステーションに戻った。

8 :
「白石、今日はもう帰れる?」
緋山が奥の部屋から声を掛けてきた。
気付くともう時刻は夜の9時を過ぎていた。急に疲れを感じながら緋山の隣に腰を下ろす。
「ごめん、今夜は木元さんの様子が心配だから、ちょっと残る。」
「そっか。」緋山があからさまに残念そうな顔をする。
「木元さんってさ、ああ見えて捜査一課の刑事なんだって。私服刑事。」
「へえ、そうなんだ。じゃあやっぱり、間違って撃たれたとかじゃないんだ。」
「なんかさ、上司が撃たれそうになったのをかばったらしいよ。」
「緋山さん、なんでそんなに詳しいの?」
「さっき警察の人が手続きで来てて、森本先生に色々話して行ったの。それを森本先生が教えてくれた。」
「ふーん、それってそのかばわれた上司の人?」
「違うと思うよ。ただの事務の担当って感じだったし。」
「自分のせいで部下がケガしても、付添いにも来ないんだね。」
現場にもそれらしい人はいなかった。その場にいたのは、制服を着た警察官と救急隊員だけだった。
「冷たいんだね、警察の人たちって。なんだか木元さんが気の毒になって来ちゃった。」
緋山はなおも白石の近くでだらだらしていた。
「ねえ、今日は徹夜で木元さんについてるつもり?」
「そうじゃないけど、あと2時間ぐらいで鎮痛剤が切れるから、それで落ち着いてたら帰るかも知れない。」
「うーん、2時間か…。」
「待たないで帰っていいよ。明日はヘリ担当でしょ。」
「そうだけどさ、最近忙しくてゆっくり話してないな、と思って。」
「うん、そうだね。今度泊まりに行くよ。来週一緒に休める日あるでしょ。」
「まあね、あーあ、それまでお預けか。」
「ちょっと、こんな所で。」
「大丈夫、誰も聞いてないよ。」緋山が笑いながら周りを窺う。
そして素早く白石の唇にキスを一つ残して、立ちあがった。「じゃあ、今日はこれで帰るね。また明日。」
「もう、緋山さんったら…。」頬を赤らめた白石は、それでも緋山に向かって手を振った。「おつかれさま。」

9 :
1時間ほど書類に向かってから、病室を一回りしようと立ち上がった。
消灯後のICUは低い機械の音が規則正しく鳴っていた。静かな中にかすかにうめき声が聞こえる。
声に向かって行くと、それは木元の口から発せられていた。もう鎮痛剤が切れかけているみたいだ。
体温は39℃。呼吸が荒く、うなされながら時おり身体を強張らせる。
急いで看護士を呼び、処置をしている最中、いきなり意味のある言葉が発せられた。
「エリコさん…ダメです。」
声をかけてみるが意識は混濁したまま。熱に浮かされたうわごと。あとは意味をなさないうめき声ばかりだった。
やがて薬が効いてくると、ようやく木元の様子も落ち着き、体温も下がってきた。規則正しい呼吸と穏やかな表情。
それでもいつまた急変するかと心配で、結局その日は病院で待機していることにした。
エリコさんって誰なんだろう。なにがダメなんだろう。白石はなんとなく気になったままだった。

翌朝、木元は目を覚ました。
白石が駆け付けると呆然とまだ状況がつかめていない、といった表情でじっと見つめてきた。
「大丈夫ですか木元さん。ここがどこかわかりますか?」
「あ…、びょういん…ですか?」
「そうです。木元さんは昨日銃で撃たれてここに運ばれてきたんですよ。わかりますか?」
「ああそうだ、あの時、坂崎が銃を構えてボスを狙って…。ボスは無事ですか?」
「ボス?あなたがかばった上司の方ですか?ケガをしたのは木元さんだけです。他にケガ人はいません。」
「そうですか、良かった。」
木元はほっとした様子だった。自分が動けないのに上司の心配をするなんて。

10 :
「木元さん痛みはありますか?」
「いえ、特に…っつ。」
「あ、ダメですよ、まだ動いちゃ。」白石が肩を押さえる。
木元は身体を起こそうとしたところで脇腹の強烈な痛みに襲われ、うめき声も出せずに固まる。
「木元さんは右のわき腹を38口径の銃で撃たれていました。弾丸は昨日の手術で取り除いてありますが、
腸管の一部を傷つけていたので、その縫合も同時に行いました。なので1週間は起き上がったり、
物を食べたりは禁止です。」
「1週間もですか。」
「おとなしくしていてくださいね。」
しかし一度痛みに気づいてしまうと、それは尚更意識されてしまう。身体の奥から湧き上がる痛みの波に、
起き上がる気力も失われていく。痛み止めの注射を打たれると、そのまま眠りに落ちた。
しかしもう熱は下がり、表情も穏やかだ。白石はようやく安心して木元のそばを離れられるようになった。
結局、木元はそのあと丸二日眠り続けた。
ようやく目を覚ました木元の様子は、目に見えて回復していた。顔色にも血の気が戻ってる。
警察官だけあって、見かけによらず体力はあるのかも知れない。
「先生。」
「なんですか。」
「退屈なんで、何か読むものを貸してもらえませんか?」
「え、でも病院にある本なんて、医学書とか論文とかばっかりですよ。あ、それとも下の売店で何か雑誌でも
買ってきて貰いましょうか。」
「いえ、できれば専門書とかそっちの本が読みたいんです。」
「木元さんって、刑事さんですよね。」
「そうですけど、私は元々は科学捜査研究所にいたんです。だから科学とか理系の読み物の方がいいんです。」
「そうだったんですか。あ、それだったら、病院の資料室から何か借りられるかもしれません。」
資料室で迷った末、2冊の本を木元のところに持って行った。
「科学捜査に関連しそうなところで、病理関係の本を借りてみたんですけど。」
「ありがとうございます。」
本が読みやすいように、少しベッドを起こしてあげてから、そこを離れた。

11 :
ナースステーションを通りかかると、見慣れない男がカウンターに寄りかかっていた。
「たまにはさ、異業種交流もするべきだよ。医者も確かにエリートかもしれないけど、警察官には医者にはない
ワイルドな魅力ってのもあるからさ。」
何人かのナースが笑いながら相手をしている。
長身に細身のスーツを着こなし、きれいに手入れされたヒゲをたくわえたキザな感じの男。
警察官という単語が聞こえたところを見ると、木元の関係者だろうか。
「あ、白石先生、こちら木元さんに面会の方です。」
「はい。」やっぱり、と思いながら白石はその男に近づいた。「木元さんの担当の白石です。」
「これはこれは、こんなに若い美人がお医者さんなんて、神様は不公平ですね。」
やっぱりキザだ。
「あの、本当に警察の方ですか?」
「ええ、本当に、マジ、大マジです。あ、バッジを見せましょう。」
「え、いえ別にいいですけど。」
「まあそう言わずに。」男は内ポケットから出した警察バッジを見せた。革張りのホルダーの内側に大きな警察の
シンボルマーク。でも白石はそのバッジを見たことがないので、本物かどうかなんてわかるわけもない。
ちょっとひいていると、さらに男がポケットから何かを出した。
「ついでに名刺も渡しときます。」
「いえ、あの…」
「まあまあ、交通違反とかした時に、役に立ちますよ。」
渡された名刺には、警視庁参事官補佐、野立伸次郎とある。それがどんな役職なのか白石にはよくわからないので、
ともかく受取ってポケットに入れ、ちょっと首をかしげながらICUに野立を案内することにした。
木元に会わせれば、本物かどうかはわかることだし。
「あの、野立さんが木元さんがかばったっていう上司の方ですか。」
「いえ、違います。あんなのと一緒にしないで頂きたい。」
「あんなの、ですか?」
「そう、あんなのです。」もう少し聞こうとしたところで、野立は白石を追い越してベッドに近づいて行った。

12 :
「真実ちゃーん。」
木元が目を丸くしている。
「野立さん、何しに来たんですか。」
「お見舞いに決まっているだろう。本当はすぐに飛んできたかったんだけど、遅くなってごめんね。
さみしかったかい。」
「そんなこと、ありえませんから。」
木元の素っ気ない態度に、白石は少しほっとした。あんな軽い男に媚びるような人じゃ困る。
「そんなことより、坂崎はつかまったんですか?」
「いや、まだだ、検問が突破されて逃げられた。いま大澤たちが必で追いかけてるよ。」
「そうですか。」
「それにしても、なんで真実ちゃんが大澤をかばうんだよ。」
「それは…、夢中で…。」
「大澤なんて弾丸の2発や3発受けさせときゃいいんだよ。奴はそんなことじゃびくともしないさ。」
「そんな訳ないじゃないですか。ケガしたのが私で良かったんです。もしボスだったら…、
捜査に影響がでるじゃないですか。」
「ふうん、捜査ねえ。」野立が意味ありげにニヤニヤ笑いながら繰り返す。
ともかく、この軽そうなキザ男が、本当に警察関係者なのは間違いなさそうだった。白石はその場をそっと
立ち去り、自分の仕事に戻っていった。

13 :
翌日には木元はベッドをHCUに移動した。
容態の落ち着いた木元は、そこでもずっと差し入れた本を熱心に読んでいた。
「木元さん、具合どうですか?」
「あ、はい、まあまあです。」
「そうですか。ちょっと失礼します。」木元の額に手を当てて、熱を計る。平熱だ問題なさそう。
「あれ、少し顔が赤いですね?大丈夫ですか?」
「あ、いえ、大丈夫です。あの、人に触られるのは、あんまり慣れていなくて…。」
照れる木元は、なんだかかわいらしくて、ますます少女のように見える。
「そうなんですか。」思わず笑みが漏れてしまう。
「あの、それより、少し質問があるんですけど。」
「はい、なんでしょうか。」
木元の質問は、読んでいる本の内容についてだった。的確でユニークな質問が次々に投げかけられる。
さすがに同じ理系でも医者とでは視点が全く違っていて面白い。
白石はベッドサイドの椅子に座りなおし、その質問に一つ一つ答えながら、一度読んだことのある本で
良かったと内心ちょっとほっとしていた。
「じゃあ、今度はそれについて書かれた本も探しておきますね。」
「ありがとうございます。先生と話していると、とても勉強になります。」
木元が嬉しそうに笑う。
「木元さんは本当に仕事熱心なんですね。」
「こんな時じゃないと勉強する時間がないんで…。」
「それに自分の身体のことよりも先に上司のことを心配するなんて。」
「そんなんじゃないんです。ただ、ボスが…、いえ、あのチームが好きなだけです。」
「チームですか。」

14 :
「ええ、今のチーム、特別犯罪捜査班というんですけど、みんな個性的で面白くて、でもとても有能で。
私はそこで初めて警察官になって良かった、って思ったんです。誰かの役に立ちたいって。」
「すごいですね。それでボスって言うのは、そのチームのリーダーなんですね。」
「そうです。」
「木元さんはそのボスをかばったんですね。」
「いいんです。もし怪我をしたのがボスだったら、それこそ大変なことになりますから。」
「そうなんですか。」
木元は本気でそう思っているみたいだった。

「でもさ、それなのにそのチームの人たちが誰もお見舞いにも来ないなんて、おかしいよね。」
食堂で遅い昼食を摂りながら、白石は同じテーブル挟む藤川に向かって言った。本人の前では言えないけれど、ずっと疑問に思っていた。
「だって、そのチームの人たちは、木元さんを撃った犯人を追ってるんだろう。忙しいんじゃないの。」
「忙しいって、そりゃ、命に別条はなかったけど、あんなケガ人を放っておくなんて、信じられない。
現場にも誰も付いてなかったんだよ。」
「珍しいな、白石がそんなに熱くなるなんて。」
「そんなんじゃないけど、一生懸命にチームの人たちをかばってる木元さんを見てると、何か辛くなって
くるんだよね、自分に言い聞かせてるみたいで、我慢してるのかなって。」
「そうかもしれないけど、いろいろ事情とか、業界の習慣とかあるんじゃない?」
「何それ。」
「知らないけど、要はそんなことまで関わるな、ってこと。医者の管轄じゃないだろう。」
頭ではわかっていても、全然納得出来ない。
約束した本を持って木元のベッドに向かいながらも理不尽な思いが拭えない。
ベッドでは木元が2冊目の本を読み、それについての質問を次々に繰り出してくる。
医学生のような熱心さは、白石のかつての姿をほうふつとさせる。

15 :
ナースステーションのあたりが騒々しくなった。顔をあげてそちらを窺うと、妙に目立つ集団が
受付に固まっているのが見える。
「ちょっと失礼します。」木元に断わりを入れて、白石はそちらに向かう。
近づきながらよく見ると、4人の男性と背の高い女性。スーツ、革ジャン、ジャージと服装もバラバラで、
見事なまでに個性的な集団だった。
看護士長の大原が白石を呼んだ。
「あ、白石先生、こちら木元さんのお見舞いですって。」
もしかしてこの人たちが、木元の言っていたチームなんだろうか。
背の高い女性が一歩前に出る。
「木元の上司の大澤です。木元がお世話になっています。」
「あぁ、あなたが大澤さんですか。女性だったんだ。」後の方は、聞こえないように小さく口の中でつぶやいた。
「えっ、何ですか?」
「いいえ、なんでもないです。木元さんはこちらです。まだ安静が必要ですので、あまり騒がしくしないでくださいね。」
白石は先に立って歩き出した。いろいろな靴の足音が後ろに付いてくる。
「木元さん」声を掛けながらカーテンの陰から声をかける。
こちらを見た木元の顔が、何か言いかけてほころび、そして白石の後ろを見つめて固まった。
「ボス…。」

16 :
「なんだ、思ったより元気そうじゃないですか。」
「ホンマや、もっとにかけてるかと思ったよ。」
「お前を撃った坂崎は、きっちり捕まえといたからな。」
「手錠を掛ける前、みんなで一回づつ殴っといたんですよ。」
「そうそう、木元さんのケガのお礼っていって一発づつ。ボスの一発は特にきつくて、坂崎、気絶しちゃいました。」
「ホントですよね、一瞬しちゃったかと思って、びっくりしました。」
「余計なことは言わなくていいから。」
いきなりベッドの周りがにぎやかになった。やけにテンションの高い集団だ。
しかもよく見てみると、みんな埃まみれで、ずいぶんくたびれた格好をしている。これは早めにお引き取り
願った方がよさそうだ、そう判断した白石は間もなくチームの面々を外に連れ出した。
木元のベッドには、大澤だけが残った。
「遅くなってごめんね。思ったより坂崎の逮捕に手間取っちゃって。」
「いいんです。ボスならきっと、ちゃんと逮捕してから来てくれるって、信じてましたから。」
気丈に答える木元の頬を大澤がやさしくなでる。
「思ったより元気そうで本当に良かった。あなたのご両親も心配してたわ、この病院だとちょっと遠いし、
動けるようになったら、早めに都内の警察病院に移れるようにするから。」
「そう…ですか。」
「そうすれば、ご両親もお見舞いに来られるし、私もそばにいられる。」
木元が大澤の感触を確かめるように手を重ねる。大澤はその手を両手で包み、祈るように、額に押し当てた。
うつむいた大澤は、泣いているようにも見えた。
「そばに居させて下さい。ずっとボスのそばに。」
「わかってる。」大澤は大きくうなずく。「でも、もう私をかばってケガするなんてやめてね。」
「無理ですよ。同じことがあったら、私は何度でもボスの前に立ちます。でもそれは多分、他のみんなも
同じだと思いますけど。」
「しょうがないわね。」
「これでも刑事ですから、一応。」

17 :
大澤は早速白石を呼び、転院の許可を取ろうとした。
「木元さんの術後の容態は、非常に安定しています。感染症などの症状も今のところ出ていませんし、
あと7日ほど様子を見てから、転院の許可は出せると思います。」
「もう少し早く移ることは出来ませんか。」
「木元さんの場合、内臓の縫合も行ってますので、流動食を始めてみて、その様子をみてからの方がいいと
思います。」
「そうですか…、わかりました。では、それまでよろしくお願いいたします。」
大澤は白石に深々と頭を下げた。
あと7日間。
患者さんが健康を回復して、病院を後にすることは喜ばしいことのはずだった。
木元も順調に回復しているし、この病院にいたとしても、そう遠くないうちにHCUから一般病棟に移るのは
当然だった。
でも何でなのか、今回は嬉しさの中に別の感情が、澱のように溜まっている。
それが何なのか、自分でもよくわからない。
自販機の温かい紅茶を飲みながら、考え込んでいると、緋山が隣に腰かけた。
「ねえ、さっきの集団。木元さんのところだよね。」緋山がワクワクしていたような様子で白石に話しかける。
「そう。やっと犯人を捕まえて、駆け付けたんだって。」
「へえ、良かったじゃん。あの人たちみんな何日も寝てない、って感じだったよ。きっと必で追いかけてたんだろうね。」
「そうだね。」
「ねえ、あの背の高い女の人が木元さんがかばったっていう上司なんでしょう。」
「そうだよ。」
「そうだよね。」緋山がうっとりと遠くを見るように言う。「あの人も相当疲れてるみたいだったけど、
でもすっとしてて、格好よかったな。」
「緋山さん。」白石が少し眉をひそめる。「もしかして、ああいう人、好きなの?」
「えっ…、やだな、そんなんじゃないよ。一般論として仕事のできる女って感じでカッコよかった、ってだけだよ。」
「ふーん。」
「何、何か不満なの?やっと仲間がお見舞いに来て、木元さんも喜んでるんじゃないの?」
「喜んでるよ。で、動かせるようになったら、都内の病院に転院するって。」
「そう、木元さんの様子だと、あと1週間ってとこかな。」
「うん、それぐらいだと思う。」

18 :
木元のもとには、それからは毎日のようにお見舞いが来た。
野立や対策室のメンバーたちが入れ替わり訪れ、木元の両親も大澤に伴われて来た。
相変わらずまめにナースに声をかけている野立と共に、やけに色っぽい女性が現れた時には、森本と藤川が
嬉しそうにその姿を眺めていた。
その合間にも木元は、白石の差し入れた本を読んで、白石に質問を投げかけて来た。
それは白石にとって、とても楽しい時間になっていた。
次には何の本を持って行こうか、考えながら資料室の本棚に向かっていると、棚の向こうから三井先生が声を掛けてきた。
「お疲れさま。」
「お疲れ様です。」
「何を探しているの?」
「ちょっと、血液についての本を探してて…。」
「あなたが読むの?」
「いえ、木元さんが読みたいっていうので。」
「ああどおりで、デートの準備でもしてるみたいな顔してると思った。」
それがどういうことなのか、答えることなく三井は笑って去って行ってしまった。

19 :
「木元さんのところのお見舞いは、みんな派手な人ばっかりだよね。」
「一人地味な人がいるよ。」
「ああ、あのヤマムーって呼ばれてる禿げたおじさんね。でもある意味あの人もすごい目立ってるよ。」
「ふふ、そうだね。」
緋山と白石がようやく二人で過ごすことの出来る夜。病院から緋山の家に一緒に向かう帰り道。
でも会話の内容はどうしても仕事がらみになってしまう。
「そろそろ流動食にするの。」
「うん、明日からの予定。」
「じゃあ、順調にいけば、あと2〜3日だね。何か、毎日お見舞いに来る人たちがおもしろかったから、
ちょっと残念かな。」
緋山は無邪気に面白がっている。
白石は木元の回復を喜ぶ反面、その底に淀む感情にひっかかったままだった。
「この前の色っぽい女の人見た?」
「うん、あの人は科学捜査研究所の鑑識官だって。」
「へえ、じゃああの人も理系なんだ、話しとけばよかったな。あんな人たちばっかりなら、警察の仕事も
面白そうだよね。」
「緋山さん、やらしい。」
「は?なに言ってんの。それを言うなら白石だって、木元さんと随分楽しそうに話してるじゃない。」
「本のこと話してるだけだよ。」
「知ってる。この前ちょっと小耳に挟んだけど、すっごいオタク同士の会話って感じだった。ちょっとひいた。」
「…ひどい…。」

20 :
白石が本気で傷ついた顔をしたので、緋山が慌てて言った。
「あ、じゃあさ、転院しても連絡取れるようにメアドでも交換しておいたら?せっかく気の合う友だちを
見つけたんだから。」
「友だち?」白石は一瞬、驚いたように緋山を見つめた。「あ、そうか、友だちになればいいんだ。」
「は?」
「そうすれば、木元さんが患者じゃなくなっても、大丈夫なんだ。なんだそうか。」
「なに言ってるの。はじめての友だちってわけでもないでしょ。」
「そりゃ、そうだけど。これまでとは何だかちょっと違うような気がして…。」
「ちょっとやめてよ、友だち以上の気持ち、とか言うの。」
緋山が少しだけ不満そうな様子を見せる。
「もしそうなったら、どうする?」白石がいたずらっぽく笑う。
「もし、そんなこと言ったら…」白石が本気じゃないことはわかっているけど、緋山の気持ちが一瞬、
不安に締め付けられる。「そんなこと言ったら、あたし泣くよ。」
「緋山さん…。」今度は白石の心が締め付けられる番だった。脅しにもならない子供じみたセリフに、
緋山の本音が垣間見える。「ごめんね。そんなこと絶対にないから。」
「当たり前でしょ。」
白石が緋山の手を握る。緋山が指をからめてきて、より深く握りあう。
触れ合う肌のぬくもりは、言葉をいくつ重ねるよりもお互いの気持ちを素直に伝える。
あとはもう、二人だけの時間。
玄関の扉が閉まり、ようやく人目がなくなると、靴を脱ぐよりも先に抱き合った。
いつもより熱くて、いつもより甘えてくる緋山に白石も応えて、そのまま朝までずっと触れ合っていた。

21 :
結局、木元は急変することもなく、無事転院の日を迎えた。
迎えにきた大澤と共に救急車に乗り込み、去っていく後姿を見送ると、心にぽかりと穴が開いたような気がした。
でも次の瞬間にはPHSが鳴り、心の隙間を埋めるように忙しい日常が流れ込んでくる。
その夜、白石が自動販売機で紅茶を買って、一息ついているところに緋山がやってきた。
「おつかれ。」
「お疲れ様。」
「木元さんのメアド聞けた?」
「退院して時間があったらまた本の話をしましょう、って言って私のメアドを教えておいた。」
「ふーん、そうなんだ。」
緋山がポケットから名刺を取り出して眺めながら言う。
「そういえば、お見舞いの人たちからもらった名刺には、みんなメアドが入ってたけど。警察の人って、
みんなそうなのかな。それともただのナンパかな。」
「そうなの?」そう言われて白石も自分がもらった何枚かの名刺を取り出した。「あ、ホントだ。みんなアドレスが
書いてある。」
「あ、白石ったら3枚ももらってる。」
「緋山さん何枚?」
「2枚、キザなスーツと禿げたおじさん。あんたは?」
「私も同じ人、それと片桐さんってもう一人のスーツの人。」
「ああ、あの一番かっこいい人ね。」
緋山が一瞬、嬉しそうに笑うのを見て、白石が眉をひそめる。
「ふーん、そうなの?じゃあ、あげようか、この名刺。」
「違うって、ナースたちがそう言ってたの。全然そんなんじゃないから。」

22 :
冴島と藍沢が近づいてきたので、緋山が慌てて話を振る。
「ねえ、冴島はあの警察官たちから、名刺とかもらった?」
「もらいましたよ。4枚ほど。」
「ちっ、ナースの方がモテるのか。」
緋山が悔しそうに言うのをみながら、白石は苦笑した。そんなところにまで、負けず嫌いな性格が顔を出す。
「そういえば俺も1枚もらったな。」
藍沢が胸のポケットから名刺を取り出した。
「えっ」三人が声を揃えた。
「誰からもらったの?」めずらしく白石が真っ先に喰いついた。
「岩井善治…だって、革ジャンを着たマッチョ。」
「メアド、書いてある?」
「ある。でもこれ…、いらないな。」
藍沢はそうつぶやくと名刺をゴミ箱に捨て、さっさと立ち去ってしまった。
「相変わらず失礼なヤツ。」緋山があきれたようにつぶやく。
「あれも、ナンパなのかな。」
「そうなんじゃないですか。」
「そういうのもあるんだ…。」白石が呆然と藍沢を見送った。
冴島に続いて緋山と白石もドリンクを飲み終わると、そそくさと仕事にもどっていった。

23 :
「わかった。」帰りの用意をしながらロッカーに向かっていた白石が独り言のようにつぶやく。
「あの人、緋山さんに似てたんだ。」
「誰が?」緋山がブラウスのボタンを留める手を休めて白石の方を見つめる。
「木元さん。緋山さんに似てる人が、他のひとの名前を呼んでたから気になってたのかも。」
「誰の名前を呼んでたの?」
「『エリコさん』って、たぶんあの大澤さんの名前だよ。木元さんは夢の中でもずっとあの人をかばってたんだ。」
「ふーん、あたしも木元さんと会ってみたいな。白石が会うときは、一緒に行くから。」
「いいけど。」
「その時は、大澤さんにも一緒に来てもらって、4人で会うのもいいね。」
「なんで?」
「いや、別に…。ちょっとあの人とも話してみたいと思っただけ。」
「なんかヤダな。」白石が手を止めて、緋山に歩みよる。
「どうしたの?」
「緋山さんやらしいから。」
「はぁ?」
白石はいきなり緋山のブラウスのボタンをはずし、鎖骨の辺りに口づけた。
そこに白石の口紅と同じ色の花が咲く。
「あ、こら、キスマークつけた。」
「ふふ、私の印。緋山さんは私のもの、他の誰にも渡さないから。」
白石は緋山の頬を大事そうに包み、そっと口づけた。甘くて優しくて、長い長いキスだった。

24 :
以上です。
白石と木元を絡ませてみたくて書いたのですが、
他にも色々入れたくなって、長くなってしまいました。

25 :
わー!
すごいですキャラ両方わかるからすごく読み入ってしまいましたww
そして両方のカプとキャラが大好きなのでとってもおいしいssでした!
素敵な作品ありがとうございますww

26 :
放送日が1月11日に決定したようですね。
楽しみ(^^)

27 :
>>24
GJ!!です
楽しく読ませていただきました。
一粒で二度おいしいみたいなw
こういう異業種交流?もおもしろいですね。

28 :
≫24
GJっす!!!
ステキなコラボっすね!!!!
緋山と白石もいいですけど、冴島受けの小説も読みたいかな・・・。
どなたか書いてくださいませんか!?
待ってます!

29 :
ttp://areya.tv/up/200912/21/02/091221-2218080686.jpg
ttp://areya.tv/up/200912/21/02/091221-2218130281.jpg


30 :
>>29
やっぱりこの二人似てるかも、髪型が一緒だと一瞬見分けがつかない

31 :
ttp://mainichi.jp/enta/mantan/entama/graph/20091221_4/index.html

32 :
緋山がちょっと大人っぽくなってる。
白石は若干顔が丸くなったかな?

33 :
まさかの木元!
楽しく読ませていただきました
ああBOSS懐かしい…

34 :
>>25,27,28,33
ありがとうございます。
スレ違いと言われるかと思って、
ここに書き込むかどうか、悩んだんですが、
暖かいコメントがもらえてうれしいです。

35 :
長女:新垣結衣
次女:戸田恵梨香
三女:比嘉愛未
三人が三姉妹だとしたら、こんな感じだそうだ。
しっかり者の白石、自由人の緋山は何となくわかるけど、
冴島の中の人は、意外と甘えん坊?

36 :
いいともの最後でみんなが並ぶ時に
戸田ちゃんから比嘉ちゃんに腕組みにいったのに萌えた
戸田ちゃん藤川にも組んでたけど。
その後に比嘉ちゃんとガッキーも腕組んでまた萌えた

37 :
人いないな…
白石冴島があきらかに前シーズンよりも親密になってたな
それと緋山の心配をしまくる白石に萌えたw

38 :
あれだけの内容だけに、もう少し展開が見えないと書きにくいかも・・・
でも、期待

39 :
公式HPの2話の予告の写真が白石と緋山の2ショットだったな

40 :
公式HP見てきました。教えてくれてありがと
もうこの二人が一緒にいるだけでニヤニヤしてしまいます
それと、格好良い白石がギャルサーのナギサさんに見えてしまいました(笑)
白緋大好きですが、ナギサキも忘れられません

41 :
緋山のヒロイン度が増してるよね
1話からこれだから今後にも期待できそう

42 :
2話が待ち遠しいな

43 :
いいとも増刊号でまた3人娘を見れた。かわいすぎるw

44 :
いいともでの3人良かったねw
3人もだけど5人とも普通に仲良さそうで好感持てた
明日だけど早く2話が観たい!

45 :
>>43
>>44
見そこねた・・・
三人どんな感じだったの?

46 :
結構重い内容で真面目に見ているのに、所々でニヤニヤしちゃって困る
白石と緋山とか冴島と白石とか三井せんせーと緋山とか…
盛りだくさんでお腹いっぱい
早く来週にならないかなーw

47 :
>>46
それ分かるw
顔が勝手にニヤけるんだよな
最後らへんの白石が緋山の腕を掴むシーンは特にニヤけたwww

48 :
>>46
>>47
同じくw
テーマとか生き方とか真面目に考えさせられてるはずなのに、
どこかにそーいう要素があるとそっちを考えてしまう。
2ndは絡みが多くていいなw
最後のシーンは、自分もニヤけたw

49 :
前スレだったか前々スレだったかに誰かがまとめサイト作りましたよね
あれのパスワード知ってる人教えてくれないかしら

50 :
>>49
ssをまとめたやつ?

51 :
>>49
codeblue
yurimoe

52 :
サイトの予告が白石と冴島の2ショットでめっちゃ萌える!!!

53 :
今日のVS嵐途中からしか観れなかったorz
戸田ちゃんの動く姿を見るだけで、明日も頑張れます。

54 :
ガッキーまさかのまなみ呼び

55 :
>>54
自分もそこ反応したwドキッとしちゃったよ。
服がボーダーで同じだったね、ガッキーと戸田ちゃんw

56 :
今日の戸田ちゃん、表情豊かですごく可愛かった。
こんな妹がほしいよ(*´д`*)
そしてガッキーは比嘉ちゃんによく懐いてるよね。
わりとあっさりした子ってイメージで見てたから、あの甘え具合が可愛いw

57 :
今日の第3話も楽しみだ
特にガッキーとトッティー

58 :
某テレビ誌に主要女の子3人で載ってる!
仲良さげだし並んでるだけで癒されるw

59 :
最後の2人きりのシーンがよかった

60 :
>>59
あのシーンいいよな
1のときに比べてだいぶ親密になってきてるのが分かるし

61 :
緋山に褒められて、目をキョロキョロさせて動揺する白石が可愛かった。
あと、緋山は今度は患者とフラグか?と思ってしまった。

62 :
>>61
あそこ白石完全に動揺してたね!
そして緋山は担当患者が女性率高すぎてていいww

63 :
確かに緋山は女性の患者さんによく当たるよねぇ
ズバッとものを言うけど優しいから無意識に患者さんたちにモテてそうだw

64 :
また公式の次回予告の写真が白石と緋山の2ショット

65 :
今シーズンの緋山は弱いところ優しいところを見せてくれてほんとに可愛い
白石はどんどん凛々しくなってくし
たまらんです

66 :
だねwww

67 :
>>49のやつのurl誰かのっけてください

68 :
>>67
ttp://codeblue2gl.web.fc2.com/

69 :
>>68ありがとうございます

70 :
お初ですが、SS投下しても大丈夫です?

71 :
>>70
大丈夫ですよ!

72 :
ではお言葉に甘えて。
結構なボリュームですが…

73 :

 不意に誰かの声が聞こえたような気がして、私はゆっくりと目を開けた。
 だが、薄暗い部屋の中には誰の姿もなく、ただ時計の音だけが響いている。
 気のせいだろうか。
 テーブルの上に置かれている目覚まし時計に視線を向ければ、まだ三時前。眠りに就いてから一時間も経っていなかった。
「……最悪……」
 小さく毒づいて、もう一度ぎゅっと目蓋を閉じる。けれど、そんなことをしても一度覚醒された私の脳が再び眠りの波へと意識を手放さないことは、私が一番よく知っていた。
 今日の当直は私と森本先生だった。
『緋山、最近あまり寝てないんだろう。今日は状態も安定しているし、ゆっくり寝て来い』
 普段なら休憩などあってないようなものでゆっくり仮眠を取るなど有り得ないことだったが、私の肩を叩いて胸ポケットからPHSを抜いていく彼の言葉と笑顔に、不眠と疲労が溜まっていたことも事実だった私は、素直に「はい」と頷いていた。
 それなのに。
 上司に厚意で与えてもらった時間でさえ有効に使えない自分の無能さに溜息が零れると、昼間のことが鮮明に思い出された。
 不摂生が祟ったのか急に目の前が白濁し、ミスを犯したのだ。それも、初歩の初歩。縫合中に鉗子を取り落とすなどという、くだらない、学生でもしないミスだった。
 意識が遠退いたことは誰にも言わなかった。それはミスに対するただの言い訳にしかならない。
 あの後から白石や冴島が何か含んだ視線を寄越していたがそれすら取り合わずに、私は二人と別れていた。
「シャワーでも浴びて来よう」
 いつまでも自己嫌悪に苛まれていても仕方がない。重い腰を上げて、私は更衣室へと向かった。

74 :

 *
 更衣室の扉を開けると驚くべきことに、そこには日勤で帰ったはずの白石の姿があった。
「なっ……」
 私は思わず絶句して一歩引いていた。当たり前だ。とっくの昔に仕事を終えて帰宅していると思っていた人物がそこにいたのだから。
「あ、緋山さん。お疲れ様」
 長椅子に座ってカップコーヒーを手にしていた白石は、無邪気に笑みを見せる。
 ふわりとした柔らかなその微笑みに、不覚にも私の心臓は大きく跳ねた。
「緋山さん?」
 普段から思っていたのだ――白石は可愛い、と。
「どうかした? 気分悪いの? 顔赤いよ?」
 一言も言葉を発さない私に何を勘違いしたのか、カップを置いた白石は綺麗に整った眉をひそめて立ち上がった。
「……別に。ただ寝起きで暑いだけ。てか『お疲れ様』じゃないでしょ! 今、何時だと思ってんの? 三時よ!?」
 動揺していたことを勘ぐられたくなくて、今の自分に近づいてほしくなくて、思わずきつい言い方をしてしまう。
「ん……、ちょっと気になる人がいて様子見てたんだけど、気がついたらこんな時間だった」
 白石は一瞬探るような目で私を見たが、すぐに視線を外すと長椅子に置いてあったファイルを掲げて自主残業をアピールした。
「はぁ!? あんた馬鹿なんじゃないのっ? 明日――……ってかもう今日だけど。あんた西条先生とオペ入ってるんでしょうっ!?」
「うん、そうなんだけど……なんか気になっちゃって」
「信じらんない……ワーカーホリックにも程があるんじゃない」
 また、酷い言葉。本当はこんなことを言いたい訳じゃないのに。
「ほんと……自分でもそう思う」
 白石は目を細めて軽く苦笑いする。傷つけてしまっただろうか。そう思うと胸に苦いものが広がる。
「白石ってさ……いつもこんなことやってんの?」
 今度こそはと、なるべくきつい言い方にならないよう慎重に言葉を運ぶ。

75 :

「うーん……いつもって訳じゃないけど、たまに。とりあえず、座ろっか」
 ファイルを脇に押しやって二人並んで長椅子に腰掛ける。
 胸の高鳴りが止んだ訳ではない。むしろ先程よりも更にペースを上げて疾走しているくらいだ。それを悟られないよう、私は全神経を会話に集中させた。
「緋山さんは? 休憩?」
「うん。でもすぐに目覚めたんだよね」
「どうして?」
「なんか仮眠室に誰か来たような気がして……でも気のせいだったんだけど」
 ちゃんと会話ができていることに心の中で安堵する。乱れていた脈も漸く落ち着きを取り戻したようで、正常にリズムを刻んでいた。
「ふーん」
 妙に素っ気ない白石の反応が気になり、有り得もしないことをつい尋ねてしまう。
「まさか、あんたじゃないでしょうね?」
「まさか。私、仮眠室なんて行ってないよ。カルテのチェックしながら医局とHCUを往復してたし」
「……だよね」
 予想はしていたが、やはりその通りの間髪を入れない白石の答えに私は肩を竦めてみせた。
 別に期待していた訳ではない。ただ、ほんの少し。白石が来たのなら良かったのにと思っただけだった。そうすれば、不眠もほんの少しは解消されたかもしれないのに。
 何故なら、この不眠は白石がもたらしたものなのだから。
 白石は無防備すぎる。
 藍沢や藤川、シニアドクター、ナース、患者――そして、冴島。
 白石は誰にでも笑顔を見せる。快く優しさを振りまく。それが白石の性格であるのは知っているけれど。でも、私はそれが嫌で堪らなかった。
 彼女は気づいていないのだ。自分がどれだけ魅力的な人間なのか。その愛らしい笑顔の前では、ライバル関係や上司と部下、主治医と患者という垣根など何の意味も持たないのだ。
 当然、それは同性同士にも当てはまる。現に私は同性である彼女に想いを寄せているのだ。冴島がそうであってもおかしくはない。

76 :

 それなのに。当の白石ときたら、ここ最近何の危機感も持たずに冴島とのツーショットがやけに多いのだ。彼女が冴島に笑顔を向ける頻度も高い。
 それが面白くなくて夜が眠れない。寝ようと目を閉じると、冴島に笑い掛ける彼女の姿が頭を過る。
 わかっている。これはただの嫉妬だ。お門違いの醜い感情なのだ。
 だが、頭では理解していても心がついてこない。納得できないものがある。どす黒い気持ちを抑えきれない。
 なんて醜悪なのだろう。
 でも。それでも。
 思わずにはいられない。
 私にだけ笑って。
「緋山さん?」
 急に口を噤んだ私を訝しんだのか白石は私の名前を呼ぶ。けれど、私は黙ったまま返事をしなかった。
「……ごめん、嘘」
 どのくらい時間が経っただろうか。それまで私に合わせて沈黙を守っていた白石が、唐突に口を開いた。
「え?」
「ごめんね、緋山さん」
 私の顔を見て、白石は真顔でもう一度「ごめん」と呟いた。
「ちょっと、何? いきなり『ごめん』とか言われても訳わかんないって」
「嘘なの」
「……白石?」
 私は困惑していた。「ごめん」とか「嘘」とか、白石が一体何のことを言っているのか全くわからない。
「さっき仮眠室に誰か来たって言ってたよね? あれ、私なの」
「え? だって、あんたカルテのチェックしてたって――」
「だから、それが嘘なの。本当は医局で森本先生に緋山さんが休憩入ってるって聞いて……緋山さんの顔見たくて仮眠室にいた」
 私の言葉を遮った白石の告白に、私は目をむいた。
「ちょ……、待って! 白石、あんた確か担当患者が気になって残ってたんでしょ!? 何で私に――」
「うーん……当たらずといえども遠からず?」
 白石は再び私を遮り、首を傾げながらまたも理解に苦しむことを言う。

77 :

 そして、
「ていうか、担当患者って誰のこと?」
 そんな衝撃発言をしてくれる。
「はぁ!? だって、気になる患者がいるってさっき……」
「そんなこと言ったっけ?」
「言ったって!」
 頭が痛くなってくる。少しはわかったつもりでいたが、相変わらず白石は読めない性格をしている。
「……ああ、あれか」
 少し考えて漸く思い出したらしい白石の顔は、何故だか酷くご満悦そうだった。
「思い出した? で、誰よ? HCUだと……長堀さん? 秋山さん? それとも――」
「緋山さん」
 私は自身の耳を疑った。
「……は?」
「だから、緋山さん」
 白石の顔をまじまじと見てしまう。その白石は満面の笑みを浮かべて私を見返した。
「……ねぇ、白石。今、私の名前が聞こえたんだけど?」
「当たり前じゃない。私は緋山さんって言ったんだから」
 そろそろ、白石の思考回路を理解するのにも限界が近づいているのだろうか。それとも、彼女の言葉は私の言語中枢が持っているボキャブラリーのレベルを遥かに越えているのだろうか。
「……いつから私はあんたの患者になった訳?」
「何言ってるの?」
 私の嫌味に本気で首を傾げた白石は、直後、「ああ、確かにそうかもしれない」とくすくす笑いだした。
「――っ! いい加減にしてよ! さっきから一体何なのっ!」
「私が気になってたのは患者さんじゃなくて緋山さんなの」
「だから、それが意味――」
 わかんない、そう言おうとして私の言葉はまたしても遮られた。

78 :

「最初から緋山さんって意味だったの。気になってたのは患者さんじゃなくて緋山美帆子その人」
 その言葉に私は思わず動きを止めていた。白石はふっと目を細めて続ける。
「緋山さんさ、昼間のミス……あれ、本当は意識飛んだんでしょ?」
 驚いた。まさか白石が気づいているとは思わなかった。白石はそんな風に固まっている私には構わず、更に、
「最近夜も眠れていない」
「な、何で……」
「わからないとでも思った? 緋山さんのことで私にわからないことなんてないよ」
 白石は笑顔を浮かべる。優しい微笑み。
「心配だったの。私にとって緋山さんは大切な人だから。無理して身体壊して、倒れてほしくないから」
「白石……」
「だから気になってずっと待ってた」
 白石は両手で私の右手を包み込む。白石の手は細くて華奢でとても温かかった。
「……冴島さんもさっきまで待ってたんだけどね。私の粘り勝ち」
「冴島が? まさか」
 確かに冴島がいい奴で本当は優しいことも思いやりがあることも知ってはいるが、そうは言っても相手はこの私だ。有り得ない。
「つーか、粘り勝ちって何よ? 冴島と何か勝負してたの?」
「……やっぱり緋山さんって鈍い」
「ちょっと、何それ。聞き捨てならないんだけど」
「だって鈍すぎなんだもん。……まぁその方がいいんだけど」
「はぁ!? てか何なの! マジでムカつくんだけど!」
 私は白石の手を振り払った。
 そこそこいい雰囲気になっていたのに、そこに目下恋敵である冴島の名前を出され、挙げ句の果てには鈍い発言。
 私の中の理性という壁は完全に崩壊していた。何も考えず勢いに任せて言葉を吐き出す。
「だいたい私の睡眠不足の原因はあんたなんだっての!! 人の気も知んないで何が――」
 そこまで言って、はっとする。白石が大きく目を見開いて私を凝視していた。

79 :

「それ、どういう意味?」
「……別に。何でもない」
 今更言葉を濁したところで、先程自身が口走ったことが取り消せるだなんて思っていない。
「緋山さん」
 ほら。白石は私に逃げることなど許してはくれないのだから。
「あんたが、笑うから……」
 私は戦慄く唇を開いた。
「白石が誰にでも笑い掛けるから。藍沢とか……冴島とかっ!」
 左手で右手を掴む。そこに先程までの白石の温もりを探すかのように、私はきつく握りしめた。
「悔しいけど、腹立つけど、あんたは全然わかってないと思うけど……あんたの笑った顔、すっげー可愛いの! すっげーいい顔してんの!
だから、あんたのいい顔を知ってていいのは私だけなの! なのにあんたは誰にでもヘラヘラ笑い掛けるじゃん……っ、それがムカつくんだって!」
 言い切って、私は白石から顔を背ける。羞恥が込み上げてとてもではないが正視に耐えられなかったのだ。
 頬が熱い。耳まで赤くなっていることは自分でも容易に想像できた。
 恥ずかしい。何が「あんたのいい顔を知ってていいのは私だけ」だ。何が「ムカつく」だ。そんなもの、ただの幼稚な独占欲ではないか。
 その劣情を刺激するかのように、白石が、
「それって……もしかして焼きもち?」
 図星を指され、思わず私は白石を振り返った。
「なっ……、ふざけないでよねっ! 誰が焼きもちなんか――」
「でもそうでしょう? 私が他の人に笑い掛けるのが嫌なんでしょ?」
「――っ!」
 自分で言ったことだったが白石本人から改めて聞かされた自身の本音に、私は言葉に詰まった。

80 :

「緋山さんは、私に、緋山さんだけを見ていてほしいんでしょ?」
 的確を通り越して残酷なまでに鋭い指摘。こんなことでまでその優秀さを発揮しなくてもいいのに。
「……そうだよ」
 小さく呟き私は白石を見据えた。
 彼女がどれだけ卓越した腕を持っているか、私は毎日毎日、嫌という程この目で見ているのだ。
「焼きもちだよ……あんたが誰かに笑い掛けるのが嫌なの。あんたが誰かを見てるのが嫌なの。あんたが誰かを想うのが嫌なの。あんたが誰かのものになるのが嫌なの!
こんなの……子供じみた、ただのくだらない嫉妬だって!」
 半ば叫ぶように張り上げた声はがらんとした更衣室に響き渡った。
 白石は何も言わない。きっと呆れられているのだろう。いや、嫌悪感を抱かれているのかもしれない。
 好きだとはっきり言葉にした訳ではないが私のそれは告白したのと同義で。聡明な彼女のことだ。すぐに理解するだろう。
 暫くして、一つ大きく息を吸った彼女は言った。
「……じゃあ、もう他の人に笑い掛けたりしない」
「……え?」
「緋山さん以外の誰かを見たりしない。緋山さん以外の誰かを想ったりしない。緋山さん以外の誰かのものになったりしない」
 呆然と白石の顔を見ている私に、彼女は、
「緋山さんにだけ」
 ふわりと、柔らかく微笑んだ。
Fin

81 :
以上です。
ここまでの長文お付き合い頂きまして、ありがとうございました!

82 :
>>81
GJです!
緋山かわいい!

83 :
>>82
どもです。いや〜SSなんて普段マリ〇てしか書かないもので、キャラを掴むのに苦労しました。
若干キャラ違い気味ではあるかと思いますが、そこはご容赦くださいm(__)m

84 :
>>82
凄く萌える白緋をありがとうございます!
ちょっと強気な白石先生が好きです^^

85 :
↑すいません間違えました。
正しくは>>81でした(汗

86 :
規制解除キタ━━━(゚∀゚)━━━!!!!
そしてSSキタ━━━(゚∀゚)━━━!!!!
>>81
萌えをありがとうございます!!
途中(*´Д`*)ハァハァしながら読ませてもらいました←

87 :
皆ありがとう
調子に乗って『おまけ』載っけます。
てか、おまけって言うより蛇足として切った部分ですが

88 :

『緋山さんにだけ』
 そう言った白石は私の右手を掴み、私が何か言う前に引き寄せた。
「え? あ……、えっ? あのっ……し、しらいしっ?」
「やっぱり鈍いなぁ、緋山さんは」
 状況が飲めずに上擦った声を上げればくすくすと笑いが漏れる――私の耳元で。
 抱きしめられている。
 鈍い私は、こうなって初めて理解した。理解して一気に鼓動が走る。
 そんな私を知ってか知らずか、
「私ね、緋山さんのこと……すっごく、すっっっごく大好き!」
 白石は私を抱く手に一層力を込めた。
「緋山さんは?」
「そっ、そんなこと、聞かなくてもっ」
「私は緋山さんの気持ちが聞きたいなぁ……それとも緋山さんは嫌? 私の気持ち」
「そんな訳ないじゃん!」
 私は反射的に白石から身体を離し睨みつけていた。
「じゃあ、いいでしょ」
 してやったり――彼女はそんな言葉がぴったりな意地の悪そうな表情を浮かべて鮮やかに笑った。
「そ、それとこれとは話が――」
「……ダメ?」
 ただ、それだけ。
 白石が口にしたのは、たったそれだけ。

89 :

 でも。
「――――っ!」
 私にはそれで十分だった。
 けれど、それは反則ではないだろうか。
 そんな上目遣いで。そんな可愛い声で。「ダメ?」なんて。
 そんな風に言われたら。
「ダメ……じゃ、ない」
 私には、もう、拒絶できない。
「私も……す、好きっ……だから」
 私の言葉に白石が嬉しそうに笑って――。
「それだけ?」
 浮かべた笑顔と口にした言葉が反比例する。
 私は改めて思った。
「……白石って性格悪過ぎ」
「そうかな?」
 笑顔のままそう返す辺り、その歪んだ性格がありありと滲み出ている。
 その時、白石の表情が一変した。
「緋山さん」
 ねだるような甘い視線。
「言って?」
 少し鼻に掛かった甘い声。
「……やっぱり反則だって」
 どうやら、私に逃げ道はないらしい。
「白石のこと……すっごく、すっっっごく、大好き」
Fin

90 :
萌尽きたorz
白緋は永遠です本当にありがとうございました

91 :
ヽ(゜∀゜)ノ
すばらしい白緋すぎて生きるのがつらいww
よかったらまた書いてください
萌えをありがとう

92 :
>>68のまとめサイト、>>51のIDとパスで入れない…なんでだ

93 :
白石×緋山を書いたやつです
>>90
個人的に白石は天然腹黒+天然ホストだと思いま(笑)
もち緋山はツンデレ\(^O^)/
>>91
あんな駄文で良ければ、また時間があれば書かせて頂きます。
正直マ〇みてよりこっちにハマってるw

94 :
>>92携帯かな?
PC変換通してだとパス効くやつと効かないやつがあるみたいよ。
mobazillaで多分見れると思う。
パソだったらごめん。

95 :
>>94
みれたよ!ありがとう!

96 :
第4話も白石と緋山の絡みが多そうで楽しみ

97 :
ここまでコードグリーン(三人娘)の話題なし

98 :
>>51
質問しっぱなしですいません
おかげさまでチャンと入れました
ありがとうございます

99 :
今日ですね
女子三人組全員いいなぁ…
女だけど覚醒白石に攻められたいですwwwwwww

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