2013年10エロパロ181: 【田村・とらドラ!】竹宮ゆゆこ 37皿目【ゴールデンタイム】 (389) TOP カテ一覧 スレ一覧 Pink元 削除依頼

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【田村・とらドラ!】竹宮ゆゆこ 37皿目【ゴールデンタイム】


1 :2012/10/08 〜 最終レス :2013/10/05
竹宮ゆゆこ作品のエロパロ小説のスレです。
◆エロパロスレなので18歳未満の方は速やかにスレを閉じてください。
◆ネタバレはライトノベル板のローカルルールに準じて発売日翌日の0時から。
◆480KBに近づいたら、次スレの準備を。
まとめサイト3
ttp://wiki.livedoor.jp/text_filing/
まとめサイト2
ttp://yuyupo.dousetsu.com/index.htm
まとめサイト1 (閉鎖)
ttp://yuyupo.web.fc2.com/index.html
エロパロ&文章創作板ガイド
ttp://www9.atwiki.jp/eroparo/
前スレ
【田村くん】竹宮ゆゆこ 36皿目【とらドラ!】
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1340886420/
過去スレ
[田村くん]竹宮ゆゆこ総合スレ[とらドラ]
http://sakuratan.ddo.jp/uploader/source/date70578.htm
竹宮ゆゆこ作品でエロパロ 2皿目
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1180631467/
3皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1205076914/
4皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1225801455/
5皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1227622336/
6皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1229178334/
7皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1230800781/
8皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1232123432/
9皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1232901605/
10皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1234467038/
11皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1235805194/
12皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1236667320/
13皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1238275938/
14皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1239456129/
15皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1241402077/
16皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1242571375/
17皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1243145281/
18皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1244548067/
19皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1246284729/
20皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1247779543/
21皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1249303889/
22皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1250612425/
23皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1253544282/
24皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1255043678/
25皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1257220313/
26皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1259513408/
27皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1260805784/
28皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1263136144/
29皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1266155715/
30皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1268646327/
31皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1270109423/
32皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1274222739/
33皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1285397615/
34皿目http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1295782102/
35皿目http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1313928691/

2 :
Q投下したSSは基本的に保管庫に転載されるの?
A「基本的にはそうだな。無論、自己申告があれば転載はしない手筈になってるな」
Q次スレのタイミングは?
A「470KBを越えたあたりで一度聞け。投下中なら切りのいいところまでとりあえず投下して、続きは次スレだ」
Q新刊ネタはいつから書いていい?
A「最低でも公式発売日の24時まで待て。私はネタばれが蛇とタマのちいせぇ男の次に嫌いなんだ」
Q1レスあたりに投稿できる容量の最大と目安は?
A「容量は4096Bytes、一行字数は全角で最大120字くらい、最大60行だそうだ。心して書き込みやがれ」
Q見たいキャラのSSが無いんだけど…
A「あぁん? てめぇは自分から書くって事は考えねぇのか?」
Q続き希望orリクエストしていい?
A「節度をもってな。節度の意味が分からん馬鹿は義務教育からやり直して来い」
QこのQ&A普通すぎません?
A「うるせぇ! だいたい北村、テメェ人にこんな役押し付けといて、その言い草は何だ?」
Qいやぁ、こんな役会長にしか任せられません
A「オチもねぇじゃねぇか、てめぇ後で覚えてやがれ・・・」

3 :
813 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2009/01/14(水) 20:10:38 ID:CvZf8rTv
荒れないためにその1
本当はもっと書きたいんだがとりあえず基本だけ箇条書きにしてみた
※以下はそうするのが好ましいというだけで、決して強制するものではありません
・読む人
書き込む前にリロード
過剰な催促はしない
好みに合わない場合は叩く前にスルー
変なのは相手しないでスルー マジレスカッコワルイ
噛み付く前にあぼーん
特定の作品(作者)をマンセーしない
特に理由がなければsageる
・書く人
書きながら投下しない (一度メモ帳などに書いてからコピペするとよい)
連載形式の場合は一区切り分まとめて投下する
投下前に投下宣言、投下後に終了宣言
誘い受けしない (○○って需要ある?的なレスは避ける)
初心者を言い訳にしない
内容が一般的ではないと思われる場合には注意書きを付ける (NGワードを指定して名前欄やメ欄入れておくのもあり)
感想に対してレスを返さない
投下時以外はコテを外す
あまり自分語りしない
特に理由がなければsageる

4 :
前スレが落ちてたっぽいので立てました
スレタイにゴールデンタイムいれてみたら文字数ギリギリでこうなった…
あと>>1の行数もこれで制限いっぱいなので次スレ立てる人は気を付けてください

5 :
スレ立て乙
盛り上がりの無さからいつか落ちると予想できたけどね
ちなみにななこい6が作者のサイトで更新されてたよ(ここが落ちてたからw)

6 :
37か
思えば遠くへ来たもんだ

7 :
おお、ななこいの続編が出ていたとは
4から途切れていたからすっかり気がつかなかった
ここで言うのもなんだけど、作者様GJです!

8 :
乙だっつーの

9 :
>>5
作者様のサイト探しきれないんだが検索のヒント教えて貰えないだろうか

10 :
グーグル先生でタイトル名だけで検索かけたら
普通に1ページ目に出るのだが?

11 :
発見したありがと

12 :
香椎奈々子
でググッても最上位に出てくるw

13 :
1乙&保守

14 :
すいません、質問なんですが
どなたか、保管庫の補完庫にあるリンクの
竜児×亜美スレ96氏のイラスト置き場のパスワードを知ってる方か
当時、その話が出ていたスレ名をご存知の方は居らっしゃいませんでしょうか?
見てみたくて、いくつかの過去スレ掘り返してみたのですが
竜児×亜美スレは既に存在しないし、わからなかったので
こちらで質問させていただきました
ヒントでも構わないです


15 :
保守

16 :
保守

17 :
なんか保守しても意味なくないか・・・?
もう3週間経ってるけどSSの投下が無いからさ

18 :
見事な過疎っぷり
ゴールデンタイムが最終巻までいくか、アニメ化でもしない限りはこんなもんでない
圧縮こない限りは落ちる事も無いだろうし、連載してる人もいるみたいだから
特に気にする必要もないと思うが

19 :
変に荒れて悲惨になるよりは過疎ってるほうがいいかな

20 :
アニメ見てはまってゲーム買って
最近やっと小説を読み始めました。小説の方が竜虎のフラグが多いね

21 :
誰もゆゆこの書く文書に、リアルな学生生活なんて求めてないだろうに…
とらドラも基本はコメディで、そんなもん無かったじゃん

22 :
失礼、誤爆

23 :
ななこい7話があがってましたね。174氏やななどら、ちわどらの作者の皆さんお元気ですか?
こちらのスレにも書き込んでもらえないかなぁ

24 :
短編ならともかく、保管庫が機能してない時点でここに上げても意味が薄いと思われる
前の話とか遡れないからね
174氏も最終投下から二ヶ月経つし、辞めたのかもしれないね

25 :
dat落ちとかしちまったしな

26 :
ななこいが見つからんのだが、誰か助けてくれ

27 :
ななこいでググれ

28 :
見切られちゃったんだろうな〜
まあ、見に行けば読める分だけマシなんだろうけど

29 :
仕方ない
続きを読めるだけ感謝するよ

30 :
ななこい最新話おもしろかった
しかも次回が楽しみな引きだ

31 :
ゴールデンタイムまた外伝ですか
迷走して方向性でも探ってんのかな…

32 :
ヒロインがじょしこおせえじゃないから人気が出ない

33 :
先生には悪いが、俺のとらドラ熱でさえ
原作<アニメ< 出来のいいSS だからなあ、ゆゆぽの文体は癖あるし
GTも買ってるけど発行日じゃなく本屋とかBOOKOFF行ってあったら買う程度

34 :
pixivでもゆゆこ関連のSS書いてるのなんて
今となっては片手で数えられる程度だしなー

35 :
pixiv で SS ?

36 :
マイナーであまり知られてないが、pixivは小説の類も扱ってるよ

37 :
あなたは腐海を何もわかっていない。
そこは人間の住む場所じゃないわ。

38 :
>>32
やっぱり、ラノベでメインキャラ・レギュラーメンバーは中高生じゃないと無理だわな

39 :
腐海でも何でも面白けりゃいいです
ここだって似た様なもんだし

40 :
通じなかった……
シブは腐女子のすくつだから止めとけと言いたかったのをナウシカのセリフにからめたのに

41 :
39だけど、そんな事は百も承知です
ランキング上位50なんぞ、黒バスしかないという事もね
単に面白い作品ありゃ何処でも見に行くって比喩として言っただけ
ご心配はしてくれたという事でしたら、ありがとう

42 :
pixivにも萌えられるssあるけどな
ちゃんと避けて使えばpixivもいいところだよ

43 :
おれの予想ではそろそろ神作家達が動き出すはずなんだが...なかなか投稿されんな;;

44 :
ローマの人まだかなあ。

45 :
来週で最後にSSが投下されてから二ヶ月が経つな
前スレ程とは言わないまでもこの過疎っぷりは寂寥感にあふれるものが…

98VMさんも最後の近況報告から丁度1年半か

46 :
98VMさんはFUKUSHIMAの腐海の底に沈んでしまったのかな(´・ω・`)

47 :
>>46
表現がマズいですよw
でも98VMさんの復活を心待ちにしてます!

48 :
保守

49 :
寒い…

50 :
>427 ◆/8XdRnPcqA sage 2011/05/20(金) 00:26:15.48 ID:snJKrI5L0
>
> 例によって地下鉄を乗り継いで、バルベリーニ駅からシスティナ通りを通ってスペイン階段を降りる。
> 平日の昼前だというのに、スペイン広場の噴水前は混雑していた。
> 「あっちでしょ?」「おう。」
> どうやら、バヴィーノ通りの入り口までは道案内は不要なようだ。
> 横切るのは思い出のスペイン広場。
> しかし、そんな感慨はつゆほど見せず、ずいずいと押し渡っていく亜美。
> 過去のロマンを振り返りがちな男と違って、女は常に前向きで現実的だ。
> とはいっても、亜美は女性としては一番ウェットな部類の性格なんじゃないかと思うわけだが。
> などと考えている間に…… ほら、やっぱり立ち止まった。
> 振り返った顔は… 嗚呼、またよからぬことを考えているな、コイツ。
>
>
> こんな感じでゆっくりと復元中。もうちょっとね、もうちょっと。
>
>
> 428 名無しさん@お腹いっぱい。 sage 2011/05/20(金) 01:01:01.92 ID:oXnRHwCDO
> >427
> ウワァァァァァン(´Д`)
> 待つぞ、頑張って待つぞ、頑張れVMさん!
>
>
> 429 名無しさん@お腹いっぱい。 sage 2011/05/20(金) 01:27:05.98 ID:qYpM4M270
> >427
> キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
>
> 今から全裸で待つと大変かな(´;ω;`)
>
429の人?
既に一年半も全裸で待ち続けているのか・・・

51 :
保守

52 :
保守

53 :
保守

54 :
保守

55 :
イタリアの旅番組を見る度に妄想してしまうな

56 :
あるあるw

57 :
保守

58 :
みんなどこへいった〜 二度と〜かえることもなく〜 つ〜ば〜めよ〜...

59 :
本格過疎状態になって、はや三ヶ月
みんなモルグに落ちていったんだよ…
あの二人まで消えるとは予想外だった
保管庫機能してないし、しゃーないともいえる

60 :
>>59
あの2人?

61 :
保守

62 :
保守

63 :
ほっしゅ

64 :
ゴールデンタイムが完結するか、望み薄のアニメ化まで冬眠してくる(`_´)ゞ
終わったら起こして

65 :
保守

66 :
保守

67 :
みんなが帰ってくるまでの低コストSS投下
注意
古本屋でみつけたゲームブック?みたいな昔の文庫本の話をヒントにアレンジ。反則スレスレ
なので、無駄にポイントとか出てきますが、気にしなくてもどうにでもなるかと
選択肢があって、結末部分が分岐します。
そのあたりが気に触る方は申し訳ありませんが、スルー下さい。
題名 : 借家暮らし
方向性 :大河と亜美、ダブルヒロインの低コストSS
主な登場キャラ:竜児、大河、亜美
作中の時期:高校3年 夏休み
前提:
とらドラP 亜美ルート100点End後の世界
夏休み中、亜美は高須家に居候

68 :
シーン1 いつもの喧騒?
「……こ〜の〜、ばかちーのくせに、今日という今日はもう勘弁しないわ」
今週に入って何度目かの罵声が高須家を貫いた。大河は仁王立ちでちゃぶ台をはさんで亜美に向き直る。
「聞き飽きたての、逢坂さんって本当、ボキャブラリーが自分の胸みたいに貧しいよね」
「ぬぬぬ、貧乳って言うな!」
「えー、貧乳とか言って無いのに? でも、自覚はあるんだ。
 亜美ちゃんが思ってたより、ちびトラって頭いいんだね、びっくり。語彙はないけど」
「ふん、言葉知らない訳じゃないもん。バカチーのあれみたいにモジャモジャして面倒臭くないだけだもん」
「言ったな! 馬鹿トラ!」
夕食中だったので、竜児と泰子も同席しており、
……食後のお茶を飲んでいた。
いつものことなのだ。泰子はニコニコと両方を応援していた。
所詮は子犬と子猫(科肉食獣)のじゃれあいな事は学習済みだ。だが、限度はある。
「お前ら、いいかげんにしとけ。近所迷惑だろ」
数日前、1Fの大家さんから、注意されたばかりだった。
その時、大家に平謝りする竜児をみている。
二人は竜児に隠れ、もう喧嘩をするのはやめようと約束しあったはずだった。
だから、二人は目を合わせると、それでも、「フン!」とそっぽをあさっての方向に向け、無理やり停戦した。

そして、次の朝。朝食に亜美は姿を現さなかった……
亜美の寝室となっている奥部屋へ様子を見に行こうとする。竜児はもしかして昨日の喧嘩が原因ですねているのかと思ったからだ。
当事者である大河へも声をかける。すると
「やだね。ばかちーの事なんかほっとけばいいんだ。2、3食抜いた方がダイエットになるからデブチーには丁度いんじゃない?」
とあっさりと拒絶。大河は大河で昨日の事で意地になってるようだった。しょうがないので、一人で様子を見に行く。
「川嶋、どうした? 調子悪いのか」
「え、うん、ちょっとなんだけど、少しお腹痛くて、少し休めば大丈夫だと思うから。ごめんね。朝ごはん作ってくれたのに」
川嶋は意外と考えすぎるところがある。もしかしたら昨日の事が原因なのかと考えながら、竜児は居間に戻った。
そこで竜児は
@ 亜美に無理をさせないよう、今日の夕食の食事当番(本来は亜美)をなんとかする。
  一人だと時間がないので大河にも手伝わせよう。
A 今後の人生教育を兼ねて、大河に亜美を見舞う事を強く諭す。
B 余計なお節介をしてもどうしようもない。一応、大河には亜美の病状だけは伝えよう。

69 :
今日の夕飯当番は亜美だった。さすがに亜美にさせる訳にはいかない。だが、あいつは責任感が強いとこがある。
  それを阻止する為に、先に用意してしまおう。弁財天に出勤する前に済ませる必要があるから、人手がいる。
 「なぁ、大河。夕飯作るの手伝えよ」
 「はぁ?。料理出来ない私になにを手伝えって言ってるのよ」
 「なに、簡単なことでいいんだ。それでもすげー助かる」
 「それでもイヤ。面倒だもん」
 「たのむ。そうでもしねーと、川嶋が無理しそうな気がする」
 「ばかちーが? そんな調子悪いの?」
 「いや、本人は少し休めば直ると思うが、あいつ、変なところで責任感強いだろ」
  
  大河は少し考え込んで、小さく頷くと
 「ばかちーだものね。……わかった。わたしに手伝える事があったら言って」
 「おう。助かる」
 それから小一時間、台所は大騒ぎだった。
 大河と竜児は忙しくも、楽しい時間を過ごした。
 その晩、亜美と泰子は大河の手料理に、大きく驚きつつも、賛辞し、明るい晩餐となった。

 大河、亜美との「えにし」が「+1ポイント」

70 :
竜児は亜美の腹痛の原因はストレスだと判断した。亜美はあれで意外と考えすぎる性質だ。
いくら、何でも口に出来る友達の仲といえど、親しい仲にも礼儀ありだという事を大河に教えないといけない。
きっと、それが大河のためだ。
「大河、川嶋、本当に腹痛みたいだぞ」
「え、本当だったの!、けっこう酷いの?」
「本人は少し休めば大丈夫だと思うが、けどな、友達だからって、毎日、喧嘩してるからこうなるんだぞ」
「……どういう意味」
大河は声を落とし、目を伏せて聞き返す。
亜美の病状の原因など、医者でもない竜児には本当のところなど解らない。だが、そういう事を言いたいのではない。
大河に思いやりを学んでもらういい機会だ。
「あいつが調子悪いのはお前にも少しは原因があるんじゃねえのかって事だ」
「なんで、わたしだけが悪い側で、バカチーは被害者なの?」
「そうは言って無い。だが実際、川嶋は腹痛なんだ、だから川嶋の見舞いぐらいしたらどうだ?」
「腹痛になった方が偉くて、可愛そうなの?、だったら、あたしだって腹痛になってやる」
「大河!、そういう意味じゃないだろ。もっと思いやりってものをだな……」
「後で様子見ぐらい行こうと思ったけど、あんたがそんな事言うなら、絶対行くもんか」
大河は自分の家へと戻っていき、昼食にも、夕食にもあらわれず、亜美が説得に行き、
やっと高須家に顔を出した。

大河の「好意」、「えにし」 共に 「-1ポイント」

71 :
竜児は亜美の腹痛の原因はストレスだと判断した。亜美はあれで意外と考えすぎる性質だ。
「なぁ、大河、川嶋、腹痛くて少し横になるだと」
「……それで、あんた、わたしになにしろって言うのよ」
「いや、なにをしろとも言ってない。ただ昼から俺は弁財天だから、なにかあったらお前を頼るかもしれん」
「そう……」
竜児は心なしか、大河が暗くなった気がしたが、あえて声を掛けることをしなかった。
彼女が不器用なだけで、心優しい女の子である事を知っているし、信じている。
彼女に必要なのは、ほんの僅かな考える時間だけだ。
「……ねぇ、竜児。玉子酒の造り方教えてくれる?」
竜児はクスリと笑う。きっと、この言葉を聴いたら川嶋もすぐに元気になるに違いないと確信する。
「なんだ、川嶋に作ってやるのか?」
「違うわよ! ただ、急に飲みたくなったの。あまったら、ばかちーに分けてやってもいいけど……」
竜児は思わず、大河の頭に手をのせるとクシャリと撫でた。
「大河、やっぱりお前はいいやつだな。そういうところ好きだぞ。
 二人分作ってやるから、川嶋のところ、持って行ってやれよ」
「な、な、なぁ、す、好き!?」
熱の上がった大河と、腹痛の亜美は、竜児特性の玉子酒で余計に元気になった。

大河の「好意」が「+2ポイント」、「えにし」が「+1ポイント」

72 :
新年あけおめ
ゲームブックとは懐かしい物を…
とにかく乙でした
十分に面白そうな物を書ける余地がありそうなので、あえて
本編のCに続く
を選ぶばせてもらおう

73 :
あけおめ
14へ.

74 :
笑える程に人来なくなったなw
まったりとしつつ、ゆゆぽに頑張って貰いますか

75 :
保守

76 :
保守

77 :
今更ながら保管庫にあった某アフターストーリーを読んだ
いい話をありがとうあけおめ

78 :
ゴールデンタイムも何気に7冊出たんだな・・・

79 :
外伝書いてたりする余裕があるって事はアニメの企画はまだ動いてないっぽいよな…
とらドラ!の時は四巻の時点でアニメ企画スタートしてたらしいが

80 :
1日遅れましたが、成人の日記念に。
・前提
保管庫に収録されている356FLGR様の「きすして」シリーズに(勝手に)則っとりつつ
プラス勝手なキャラ補正つきです。
竜児×大河(結婚済み)
祐作×麻耶(付き合ってる)
素人の書いた拙い文章ですが、お楽しみいただけたら幸いです。
10レス程の予定

81 :
「大河ー、まだかよ時間マジでやばいぞー」
「うるっさいわねぇ!女の子は時間がかかるのよ!」
「きゃあ〜〜〜、大河ちゃん動かないでぇ〜〜〜」
はぁ、と小さくため息を吐いて、でも竜児の顔には小さな笑みがこぼれた。
3年前に出会ったときは、こんな未来は予想していなかった。幸せな日々どころか、命の危険すら感じたものだ。
2年前に離ればなれになったときは、ふたりは特別な絆で結ばれていると信じていても辛かった。
なにもできない子供の自分が歯がゆくて。そして再会したふたりは、ふたりのやりかたで大人になった。そして大人と戦った。
ふたりの、そしてふたりのまわりの人たち全員の幸せのために。どうしても避けられない悲しみもあったけど、
それでも竜児と大河はきっと最善のやりかたで、一番の幸せを掴んだ。そしてその幸せを継続させるために努力もしている。
ふたりの未来はまだ、はじまったばかり。
「できたー!竜児、おまたせ!どう!?」
勢いよく襖を開いて現れたのは、この日のために特別に着付けてもらった大河。小柄で愛らしくて、誰よりも大切な竜児の嫁。
身長はあのときから1ミリたりとも伸び縮みしていない。
髪を綺麗にまとめ、化粧は大人っぽく。ほのかに香る香水は泰子のものだろうか。とにかく。
「……めちゃめちゃかわいいよ。」
自分の語彙のなさを恨ましく思うほどの可憐な美貌。大好きな竜児に褒められてくしゃっとなる笑顔もまたひとしお。
ふたりは今日、名実ともに大人になる。

--成人の日--

82 :
 
電車にのって小一時間、久々に大橋の町へ帰った。
大学進学以来、矢のように過ぎていく日々に忙されていた。
ふたりとも大学での勉強はもちろん、竜児はそれとは別に税理士としての資格をとるための勉強、祖父の仕事の手伝い、大河がこなせない分の家事の手伝い。
しかし家事手伝いがなによりのリフレッシュだというのは竜児の談。
大河も大河で、竜児ほどに勉強はしていなくとも妻として、家事の勉強はもちろん最近ではアルバイトも始めた。彼女曰く
「竜児が勉強もして仕事もしているのに、私はなにもしないなんて!」
らしい。竜児はこれまでの大河のことを思うと無理に働く必要はないんじゃないか?と思ったが、それでも自分のことを思って社会に飛び出そうとしている彼女を
止めることはできなかった。そして、自分の助けになろうとしてくれている彼女の気持ちが心の底から嬉しく思った。
そんなこんなで、無事に大学を1年、2年と進み今は2年の冬。もう数週で期末考査が始まろうかという時期。
そして、ふたりの人生にとっては大事な、特別な日。
周りの人たちより駆け足で大人になったふたりには、本当は関係ないのかもしれないのだけれども。
それでもふたりでこの日を迎えられることを、ふたりは心の底から喜んだし、大河の母も竜児の母も、居候させてくれている祖母も祖父も喜んだ。
他人と比べてあまりに激動の10代を過ごしたふたりにとっては、やはり特別な日なのだ。
「ちょっと竜児!ちゃんと場所わかってるの!?」
「おぅ、こっちだこっち。」
実は大河は大橋の地理にはそんなに詳しくない。高校の3年間しか住んでなかったから当然といえば当然なのだが、それでもそこは大河にとっては特別な町だったし、
物心ついたころから住んでいた竜児にとっては思い出の故郷だ。そんな場所での成人式に出席したいというふたりの願いは当然のものだろう。
本当は現在住んでいるところの役所からそこでの式に出席するようにとの連絡が届いていたのだが、わざわざ頼み込んでこちらで出席させてもらうことにしたのだ。
役所に頼む、という行為はなんだか頭の固いおっちゃんにいやな顔をされるんじゃないかみたいな漠然とした不安を感じさせたが、
実際に頼んでみたところすんなりとその要求は通り、ふたりは大橋での出席を許されたのだった。

83 :
 
「たいぐわぁ〜〜〜〜!!!」
「みのり〜〜〜ん!!」
熱い抱擁が交わされる。せっかく整えた髪や着付けが崩れることもお構いなしに。
もちろん再会は竜児にとっても嬉しいことなのだが、お前あとで遺憾なことになるぞこれはと思いつつ、黙っておく優しさを持った男なのだ。
「やっほ、タイガー、高須くん。久しぶり!」
「おぅ。」
櫛枝実乃梨を筆頭に、懐かしい面子が勢ぞろう。川島、香椎、木原、能登、春田。
「あれ、北村は?」
「祐作はね!ふふ、すぐ会えると思うよ!」
そう笑顔で教えてくれた木原麻耶は相変わらずの明るい髪色だが、ちぐはぐにならないような色の着物をかわいく着こなしている。
そういやこいつらもそれなりの美少女として通ってたんだっけなぁと竜児は記憶の糸を手繰りよせる。今となってはすべて懐かしい思い出だ。
式はつつがなく行われた。
昨今話題になるような荒れた成人式になることもなく(竜児が見た目で勝手にビビられたという事実は除いて)、市長の話だの新成人代表の宣誓だのという
定番であろうイベントを消化し、記念品をもらって終わり。終わりなのだけれども。
「いやー…、すごかったな。」
「すごかったね、北村君かっこよかった。」
「でしょでしょ!?」
「そうか?あれでも控えめだったんだがな。」
興奮する木原が抱き着いているのは、おかげさまで絶賛恋愛中の彼氏、北村祐作。
新成人代表として彼が登場したとき、竜児と大河は本当に驚いたが(何万人の中から選ばれたんだ!)、
しかし実際にスピーチさせてみたらそれはもう納得のいく素晴らしい内容だった。
生徒会長をつとめ、卒業式の答辞でも素晴らしいスピーチを行った彼だ。当然といえば当然なのだろう。
ちなみに控えめでないほうの予定では、スピーチのあとに脱ぐという内容があったそうだが、それは愛しの彼女に全力で止められて断念したらしい。
木原曰く「もう大人なんだから」ということらしいが、「大人とかそういう問題なのか…?」というのが竜児の素直な疑問だった。

84 :
 
「ほいではみなさん!行きますかー!」
実乃梨が号令する。そのよく通る聞きなれた、でもどこか懐かしい声で。
久々にそろった懐かしい面子で、新成人らしく飲みに行こうというのが今日の予定だ。
場所は大河の希望で泰子の働くお好み焼き屋。泰子に相談したら「サービスしちゃうよぉ〜〜」という話だった。

「大河、無茶するなよ」
「わ、わかってるわよ!」
「なになに?タイガーはお酒飲めないの?か〜わ〜い〜い〜」
「そ、そんなことないわよ!」
アホの春田にからかわれてきっと睨みつける。睨みつけられた春田は「その目もなつかしい〜」と勝手に盛り上がっている。
「日本酒じゃなければ大丈夫よ!」
成人の日に先立ち二十歳を迎えた大河は、誕生日に義理の祖父である清児に日本酒を振る舞われていた。
が、そのおちょこ一杯でものの見事に酔いつぶれ一晩中竜児ではなく洗面器とともに過ごしたのは記憶に新しい。いやそのそばにも竜児はつきそったのだが。
「お、じゃあ大河はこっちのサワー系かな?」
実乃梨が勧めるメニューの中には、女性向けのカクテル、サワー類が並ぶ。カシスオレンジ、カルアミルク、カルピスサワー…etc。
「そうね、オレンジにしようかな。」
といって大河はメニューの中の一つを指さす。
「ふぅ〜!大河かわいいね〜!でもあたしは生で!」
「あ、俺も。」
「わたしも〜。」
と一同続く。
結局大河と奈々子の二人以外はビールで(麻耶は祐作が飲むなら!と変な意気込みを見せていたが)、一同を代表して実乃梨が注文を通した。

85 :
「りゅうひぃ〜〜〜〜」
「大河っ!?」
案の定だった。
ドリンクをグラスの半分も受けないうちに大河の顔面は真っ赤で、目はとろんとしている。呂律もだいぶ怪しい。
「りゅうひぃ〜〜〜、どこおぉ〜〜〜〜」
「俺ならここだ!大河、しっかりしろ!」
「あ〜、りゅうひだ〜〜だいしゅき〜〜」
えへへと真っ赤な笑顔全開で竜二の胸に飛び込む。この日のために特別に用意してもらった大河の頭にかわいく飾られている簪もここでは立派な凶器。
竜児は怪我をしないようにさせないように優しく抱き留める。それをみて
「ひょー!あついねあついねー!」
実乃梨が盛り上がれば、唐突に
「ゆうさくー!どこなのー!」
と、まだそこまで酔っぱらってもいない麻耶が叫びだして一同は笑う。北村も
「俺はここだぞー!」
と、妙な乗り気だ。
この光景をみて、亜美の瞳が怪しく光る。賢いチワワは今日も他人をいじめて楽しむつもりだ。
「りゅうひぃ〜、いつもみたくぎゅってしてぇ〜」
周りの目などお構いなしにデレデレモードの大河。きっと素面の自分が今の自分をみたら遺憾だわとつぶやくだけではすまされず、木刀でそのままノックアウトするところ
までもっていくことだろう。まだまだ冷静な竜児はこの半ば予想されていた事態にしかし困惑しつつ、優しく大河を抱き締める。その光景を見た亜美が
「なになに〜?高須くんはいつもどうやって抱きしめてくれるの〜?」
とおちょくるように大河に尋ねる。しかし大河は最高にご機嫌のデレデレモードで
「りゅうひはねぇ、こうやってぎゅってしてね、で、やさしくきすしてくれるの〜」
などと恥ずかしげもなくしゃべっている。
「おい大河おちつけ!お前かなり遺憾なことになってるぞ!」
「ふぇ、いかん?なにがぁ?」

86 :
 
今の大河には竜児の思いは届かないようだ。普段どれだけのリミッターをかけて生活しているのだろう。
大河はあまりにも竜児のことを愛しすぎている。しかし酒の力も加わった一同はその状況を楽しんでいて、
「高須くんはやさしくキスしてくれるんだー!どんな感じなの〜?」
亜美の黒い笑顔から繰り出されるきわどい質問。しかし大河はノリノリで、
「それはねぇ、ふふ、ねぇりゅうじ?」
竜児のほうを見つめて目を潤ませる。
この目はだめだ。とアルコールと込み上げる衝動というふたりの悪魔の前に屈服しつつある竜児の脳が必に警告する。
いくらなんでも人目がある。下手したら泰子にも見られかねんぞ。
「ねぇりゅうじ、いつもみたいにきすして?」
大河がそう囁いて目を閉じる。竜児の理性が必に警鐘を鳴らす。
「おー!あついねー!」
「ひゃ〜〜タイガーえろいよ〜〜」
「ねぇ祐作、わたしたちも〜」
一同勝手なことをがやがや叫ぶが、
「だー!お前ら落ち着けこんなとこでキスなんてできるか!」
竜児が頭を振って大河のおねだりを拒否した。
「えー!高須くんそんなのないよー!自分のお嫁さんのおねだりきいてあげられないの!?」
「高須くんさいてー!」
一同がまた勝手なことをいって盛り上がる。その空気にあてられて大河までもが
「りゅうじがわたしのこときらいになっちゃったぁあ〜〜!ふぇぇぇ」
と泣き出す始末。そしてそのまま残っていたドリンクをぐっと飲み干す。1秒前まで泣いてたくせにぷはーなんて親父くさいおまけつきで。
「おい大河おまえほんとに大丈夫か?無理するとまたぶっ倒れるぞ」
「なによりゅうひのばかぁ、あたしはぜんぜんだいじょうぶなんらから!このアホ犬!」

87 :
 
呂律のまわってない舌で毒づく。迫力はないしまったくもって可愛いのだが。と、そこに亜美が
「ねぇタイガー、高須くんに不満とかないの?」
「おまっ!なにきいてんだよ!」
大河を焚き付け、竜児をあわてさせる。が、
「お、いいねぇ結婚2年目の夫婦の悩み!知りたいねぇ〜」
ビールを煽る実乃梨までもがのっかってくる。彼女もだいぶ顔を赤くしている。
「ふまん?…、不満ねぇ、あるわよそりゃ!」
唐突に叫んで大河はガッと立ち上がる。これは隣に座っていた竜児にも予想外。
一同どころか、店中の視線が小さく着飾った酔いどれに集まる。その状況に竜児も含め一同が唖然とするが、
「りゅうじはねぇ!りゅうじはねぇ・・・!えっちがうますぎるのよ!」
誰も何も言えなかった。ただそう叫んだ大河はそのまま竜児の飲んでたビールジョッキをつかみ残りをまたぐっと飲み干す。あ、俺のビール・・・。
そして。
「きゃー!」
実乃梨が叫んだ。
ノックアウト。大河はそのまま崩れるように倒れ、しかしそこは咄嗟に竜児がささえる。
顔を真っ赤にした大河をその腕の中に優しく包み込み、おい大丈夫かと大河のほほを叩いてみるが、大河はう〜ん、といったきり眠りこんでしまったようだ。
しかしそんなことを叫ばれた後では。
「高須君、えっちうまいんだ・・・」
「まぁでも、優しそうだしなんかすごそうだよね高須くん・・・」
「たかっちゃ〜〜ん、どうしたらうまくなれるのおしえて〜〜」
知るか!俺はべつにうまくねぇ!とアホに全力でつっこみつつ、怪しい空気が場を包んだ。その空気を作りだした犯人は今はもう幸せな夢の中。
カウンターの裏で泰子が人知れず涙していたのを目撃したアルバイトは、どうすればいいのかと本気で困惑したらしい。が、それはまた別のお話。

88 :
 
「はれ?ここど…、気持ち悪い、、」
「気付いたか」
大河が目を覚ますと飲み会は終わっていて、頭上には星が瞬いていて、自分は竜児の背に負ぶわれていた。
なかなか強烈な頭痛と吐き気がする。すぐに理解した。またやっちゃったのか…。
「もうすぐで泰子んちつくから、じっとしてろよ。吐き気とかないか?」
「気持ち悪い、けど、大丈夫…。」
そう答えながら自分の記憶をたどる。状況からして自分は酔いつぶれてしまったんだろう、えーっと、やっちゃんのお好み焼き屋で乾杯してそれから……?
「ならいいけどよ、吐きそうになったらすぐいえよ。」
「うんごめん、ありがと」
ダウナーな気分は人を素直にさせる。今の大河は竜児にだって素直に謝れる。いや普段からそうあるべきではあるのだけれども。
「ねぇ竜児、ごめんねせっかくの飲み会だったのに。私一人で酔いつぶれちゃったみたい」
「……」
返事がない。怒っているのだろうか?
「…竜児、怒ってる?」
「…怒っちゃいねぇよ、けど、お前やっぱなんも覚えてないのか」
「え?」
覚えてないのか?と聞かれても。そもそも乾杯以降の記憶がなかった。もしやなにかやらかした?

89 :
 
「え、もしかして私なんか変なこといっちゃったの?」
「…はー。大丈夫だよ、そんな変なことはいっちゃいねぇから」
「うそ!やっぱりなんか言ったんだ!ねぇ!なんて言ってたの私!教えなさいよ!」
「あー、大丈夫だ。そんな遺憾なことはいってねぇから。」
優しさ。竜児にとっては、穴があってもはいらずそのままどこかへ消え去りたいほど恥ずかしかったのだが、わざわざそれを大河に教えてやる必要はない。
まぁ、今後ちょっと自重してもらえれば。百歩譲って身内で飲む分にはまだしも、あまり知らない人と飲もうなんて時にはほんと気を付けてもらわないとな…。
背負われた大河がもぞもぞと動く。おそらく竜児の優しさを見抜いているんだろう。いつもそうだ。そういう人間なんだ。
大河は誰よりもそれを知っている。
「お前が…。」
竜児がふと口にする。
「お前が、俺のことを好きだとか、そんなことだよ」
嘘ではない。デレデレ全開ご機嫌モードの大河はなんども竜児に愛の告白をしたし、それだけでも竜児的には十分恥ずかしかったのだから。
「みんなの前でそんなこと言ってたの私…。」
「おぅ。そりゃあもう何度もな」
「遺憾だわ…」
やはりそれだけでも大河的にも十分遺憾だったらしい。その先のことは永遠に秘密だ。
背中の大河のもぞもぞ動きがとまる。

90 :
 
「降ろして」
「ん」
竜児は腰をかがめ、大河はそこからぴょんと飛び降りた。
竜児に向き合い、だいぶ元の色に戻りつつある顔で言う。
「竜児、ごめんね、恥ずかしかったよね…。でもそれは私のほんとの気持ちだと、思うから。だから…。」
竜二の顔に、ふっと笑みがこぼれる。そんなことは知ってるって。どれだけの時間をいっしょにすごしていると思ってるんだこいつは。
「わかってるよ。」
そういって竜児の顔が大河にぐっと近づく。ふたりの間に言葉は必要ない。きすして、なんてわざわざ言わなくても。
唇と唇が優しく触れ合う。お互いの息を感じあう。ほんの一瞬のできごと、温もり。しかし。
「竜児、あたし…。」
「おま、酒くさ…」
「…吐きそう」
「え」
そういって大河はおもむろにそばにあった電柱にむかってオロロロッロロロロ
「おい大河!大丈夫か!」
「うぇえぇ、きもちわるい・・・」
優しく背中をさすってやる竜児の目が、ふと電柱に向かった。あれこの電柱なんか歪んでね…?
しかし状況はそれどころではなく。
「おぇぇぇえ、りゅうじぃ、たすけてぇ〜〜」
「しっかりしろ!水あるからのめ!」

空にはいつか眺めた星が今日も瞬いている。
ふたりの大人ははじまったばかり。ふたりの幸せも、はじまったばかり。
ふたりの苦難もまだ、はじまったばかり。

--------------------------------------------------

91 :
以上です。非エロ乱文失礼しました。
竜児と大河は永遠にしあわせであれ(`・ω・´)

92 :
GJ 原作の雰囲気出てます!

93 :
おお
GJっ

94 :
ふむふむ、続きはあるのか

95 :
>>91
GJ
面白かったよ

96 :
次はエロも頑張ってくれい

97 :
保守

98 :
いまさらアニメ見返して原作買ってはまってしまってつらいです。
今回は(申し訳程度ですが、、)えっちもいれました。いろんなSS見てたらばんばんえっちしてて
でもなるほどどれもいいなぁと思って。
竜児×大河
二人の会話と営み
原作数年後、結婚しててふたり暮らし(やっちゃんは実家帰ったのかなぁ)
子供はまだいません
予定通り投下できれば10レスの予定。

99 :
空気が冷たすぎたから。
月が綺麗すぎたから。
二人の距離が遠すぎたから。

理由なんて、ほんとはなんでもよくて。


――凍えそうな季節の夜に――

100 :
風呂からあがった竜児が見たのは、ベランダで一人夜空を眺める大河だった。
相も変わらずふわふわで長い粟栗色の髪は、まだ数分前に浸かっていた湯船の残り香に湿っていて、冷たい夜風に曝されている。
着込んだネグリジェはフリルのついた可愛らしいそれでいて気品のあふれる出で立ち。
遠目に眺めたその後姿は、まるでいつか読んだ儚い御伽噺に登場するお姫様のようで。
このどこまでも真っ暗な夜空に吸い込まれていきそうで。
「…っ!竜児?びっくりした」
気付いたら竜児は大河を後ろからそっと抱きしめていた。
ちゃんと乾かしきれていない髪は、夜風に曝されたわずかな間にすっかり冷え切っていて、竜児の顔を、腕を、体を拒む。
それでも。
「どうしたの竜児、苦しいよ」
竜児は抱きしめた大河の華奢な身体を離そうとはしない。
今離してしまうと、大河がどこか遠くへ消えてしまいそうな気がして。
自分のいる世界ではないどこかへ行ってしまうような気がして。
「…ごめん。」
「どうしたの、なんで謝るの」
大河がどこかへ消えてしまうのが怖くて、なんて言えない。
そんなことはありえないんだから。これは御伽噺でもなんでもない、現実。
竜児と大河は堂々と戦って、堂々と二人の幸せを、二人を取り巻く世界の幸せを勝ち取った。
時間が経過しても事実はかわらない。傷は癒え、記憶は忘却の彼方へ少しずつ消え去っていくけれども、連続した時間軸上に存在する事実は揺るがない。
竜児と大河がお互いを認め合い、お互いの人生を共有するようになってから数年の月日が流れていた。
楽しいことも、辛いこと(主に竜児が)もあった。悲しいことはまだない。二人で過ごせるだけで、日々に喜びが満ちる。
二人が出会うまでにそれぞれが出会った悲しいことも辛いことも、二人がいっしょになるために必要なものだとしたら、その全てを許せた。
それぐらい、幸せな日々。
それでも。
それでも竜児は、ふと漠然とした不安を感じることがあった。
このかわいいお姫様は、いつか目の前から突然消えてしまうのではないか。
今目の前にある当たり前の幸せは、いつか消えてしまうのではないか。
なんの確証もないのだけれども。

101 :
「…髪乾かしてこいよ、風邪ひくぞ。」
大河の身体を自由にしてやった。いつまでもこうしてると、本当に風邪をひいてしまう。
「うん。」
素直に従って、大河は部屋に戻る。
かつて世界に向けて牙を剥いていた少女は、少年の優しさに触れ、自分の居場所を見つけることによりその牙を収める術を手に入れた。
「うるっさいわねぇ!このバカ犬!」とも、「いちいち指図するんじゃないわよ!」とも毒づくことはなく。
かつての手乗りタイガーも形無しだな、と竜児は思う。
もちろん、起こそうとしただけなのに寝呆けられて強烈な一撃をお見舞いされるのはもう懲り懲りだが、なくなってしまえばそれはまた寂しいもので。
でもま、成長だよな、と自分の中で勝手に結論付ける。
ふと空を見上げた。
真冬の空には、いつかみた星が今日も瞬いている。そして大きな月。
刺すような温度にまで冷え切った冬の空気は、風呂で温められた身体を一気に冷やしていく。吐く息は白く、つかまる手すりも冷たく凍てついている。
いったいこんなとこで、大河は何を見ていたんだろう。
と、そのとき
「竜児」
今度は大河の番だった。
うしろからぎゅっと抱きしめる。
身体の小さな大河が精一杯腕を伸ばして、竜児のへそのあたりで手をつなぐ。
その手に、竜児はやさしく自分の手を重ねる。小さな手だ。
爪は綺麗に切りそろえられ、指はすらっと長い。華奢で、ちょっと力を込めれば簡単に折れてしまいそうで、でも本当はものすごく力強い大河の手。
この拳に何度泣かされたことか。
よく見ると、利き手の中指にはペンだこができている。竜児の仕事の手伝いの事務作業のせいだろう。
かつてのわがままお姫様もいまではすっかり仕事になれ、竜児の手がまわらない細々とした作業を進んで行ってくれる。
それを見て、また愛しさがこみ上げる。部屋の片付けはおろか、ろくに自炊もできずともすればにかけていたような人間なのに。

102 :
「なぁ大河。」
優しく名前を呼ぶ。たいが。
大河は、かつて自分で自分の名前は好きじゃないと言っていた。
自分を不幸のどん底に陥れた両親のつけた名前。母親とは和解しているものの、結局自分は捨てられているし、父親については言わずもがな。
それでも、「竜児に大河って呼ばれるのは、好きなんだ」と照れながら告白してくれたこともあった。
大河は、竜児のために全てを許したのだ。
「月が綺麗だな。」
竜児の顔は空に向けられているけど、その言葉の行先は自分の背中に顔を埋めるように抱きつく大河で。
背中に感じる大河の呼吸。大河はいまここで生きている。消えたりはしない。
「…私も思ってた。」
消え入りそうな声で大河がつぶやく。
何度お互いの愛を確かめても、大河がそれに慣れるなんてことはなかった。
小さな身体を痙攣させ、顔を紅潮させ、幾度となく竜児の優しさに触れても。
その度に大河は愛と幸せの海に溺れ、そして竜児のもとに再び流れ着く。
二人はそういう運命なのだ。
「部屋、はいろう。」
「うん。」
大河が竜児を離す。もちろん竜児だって消えたりはしない。今大河が感じた質量は、高須竜児という人間が存在する限り続く。
この世界には、魔法だって呪いだって存在はしないのだ。

103 :
ガラス窓をひく。
ガラガラ、ピシャッと音がして、窓がしまる。
二人っきりの世界で、石油ストーブ以外に音をたてる存在はいない。
高須の実家をでたときにもらった石油ストーブは、今でも二人の不必要に冷えた身体を温めるべく元気に稼働中である。
そして敷かれた二組の布団。
今の生活を始めるにあたり、竜児は大河に「ベッドのほうがいいんじゃねぇか?」と確認をしたが、「あんたが布団なら、私も布団」と言いはり、
結局二人とも和室に布団を敷いて寝ている。
かつて巨大な天蓋つきのベッドで一人ぼっちで丸くなり眠っていた大河。
その光景は竜児にとって、まるで別の世界の身分違いの存在のようで。
それが今では仲良く二人ならんで布団で寝ているのだ。最初こそ違和感は拭えなかったものの、慣れてしまえば案外布団だって悪くはない。
結局、大河にとっても竜児にとっても、二人いっしょであればなんでもよかったのだ。
「電気、消すぞ。」
「うん。」
大河が布団に入り込んだのを確認してから、尋ねる。
大河はその小さな身体を頭まで掛け布団に包みこみ、顔だけを竜児に見せて答える。
電灯の紐を引く。カチカチと、2回ひいて豆電球の淡い光。竜児も布団に潜り込む。
布団は冷えていて、身体も冷えていて、おもわず身震いする。冬の布団は暖かくなるまで辛いな、と思う。
「ね、竜児。」
「ん?」
隣の布団にいる大河が顔をこちらに向け話しかけてきた。
「なんでさっき謝ったの?」
豆電球の淡い光の下で、大河の二つの瞳がこちらを見つめている。
手乗りタイガーなんて呼ばれてても大河はヒトなので、その目が夜に光るなんてことはないのだけれども。
竜児にははっきりとその視線がわかる。
大河の長い髪はその居場所を求めるように流れ、額にかかっている。
竜児は布団から腕だけを出し、大河の額にかかった髪を頭のほうへ流す。額を冷えた空気に曝された大河は寒そうに目を閉じるが、すぐにまた開いて、
「ねぇ。」
短く答えを要求する。
「お前が、消えちゃうんじゃないかと思って」
自分でも何を言ってるんだろうと思う。でもそう思ったんだから仕方ない。
大河はそんな竜児を訝しむように見つめる。
いつかの大河なら、「は?なにいってんのヒトがいきなり消えたりするわけないじゃんばかねー」なんて軽くあしらわれそうなものだが。
「わたしは。」
大河が答える。
「わたしは、どこへも消えたりはしないわよ。」
竜児を見つめる。まっすぐに、ただひたすらまっすぐに。
わたしはどこへもきえたりはしないわよ
あんたのそばだけがわたしのいばしょなんだから

104 :
「そうだな。」
短く竜児が答える。そうだな。当たり前だ。お前の居場所は俺んとこだけなんだから。
お前がこの世界から消えそうになったって、どこかへ攫われそうになったって、絶対俺は離さない。
お前が生きていられる場所は、俺のすぐそばだけなんだから。
見つめる大河に微笑む。心からの安らぎ、信頼。
竜児の顔を見て、大河も困ったように微笑む。
「わたしがどこかへ消えそうになっても。」
大河の小さな唇が言葉を紡ぐ。
「絶対離さないでよね。」
小声で囁かれた言葉は、竜児の感覚に直接訴える。皮膚だとか、粘膜だとか、そういうものを素通りして。
心の奥、一番深いところへ響く。
俺はこいつを愛している。
竜児の心の奥深くで、大河への想いが満ちる。
満ちた想いはやがて溢れ出し、物理的な行動になって大河へのメッセージとなる。
俺はお前を愛している。どうしてもその想いを伝えたくて。
憐みとか、慰みとかそういうものではない。竜児と大河の、二人の世界を支配する想い。
その想いは行動へと移される。

105 :
「大河。」
「ん。」
「こっちこい。」
「……うん。」
一瞬戸惑って、でも逆らうなんてことはなく。
だって二人は夫婦なんだからこんなことは当たり前で。
もういくら回数を重ねたかなんてわからないぐらいなのに。
それでもやっぱり特別なことだ。
昼間、忙しく働いている間にだってなにかの拍子でぐっと近づくことはあっても、夜、世界が寝静まるこの瞬間に。
二人の間を遮るものは本当になにもなくなって。
大河の小さな身体は、竜児の身体に包み込まれる。
大河の心も、竜児の心に包み込まれ、二つの心は溶けて混ざりそしてお互いの距離を、想いを、愛を確かめあう。
竜児の唇が大河の唇にそっと触れる。啄むようなキス。
優しいキスは次第にお互いの脳を蕩けさせていく。
人間だったはずの二人は、やがて動物のようになり、優しさの保護膜は剥がされ、次第に竜児は獰猛に大河を求める。
大河の小さな咥内へと自らの舌を押し込み、大河の舌と激しく絡めあう。大河もそれに応える。
目を閉じて、何も見えなくても。感覚がお互いの存在を認め合う。
やがて、二人は再び理性を取り戻す。
「大河。」
重ねた唇を離し、竜児が優しく呼びかける。
誰でもない、大河を呼ぶときだけに使う特別な優しい声色。
その声をきくだけで、大河は全身が切なくなり、そして竜児を求める。
重ねすぎた身体のせいでも、不幸過ぎた境遇のせいでもない。
運命がそうさせたのだ。

106 :
全身を強張らせ、竜児を受け入れる。
大河には、竜児以外の経験はない。竜児にも大河以外の経験はない。
だって、その必要がないんだから。
たまにテレビなんか見ていると、年季の入ったカップルがマンネリに悩みだの、一定の年齢をすぎた夫婦の夜の悩みだのを見ることもあったが、
今のところ二人にそういった問題が発生する様子はなかった。
「あ…、竜児、おっきい…」
「くっ…、」
最初はゆっくり、しかし徐々に激しく。
身体を重ねる度に理解していくお互いの特徴。共有されていく秘密。
竜児は大河の弱いところへと押し進む。大河はそれを敏感に察知し、本能で抵抗しようとする。
しかし身体はいうことを聞かず、愛する男に自らの弱点を執拗に責め立てられる。
「りゅう、じ…。そこは…」
しかし再び竜児は大河の唇を塞ぐ。文句はいわせない。
竜児に全てを委ねる大河に、絶頂の波が押し寄せる。愛に溺れる。潮が満ちる。
体内に押し込まれた竜児の温もりを感じながら果てる。言葉なんて発せない。だって溺れてるんだから。
竜児は、大河が自分の腕の中で大きく痙攣し、自らをひどく締め付けるのを感じる。
「大河、イったのか…?」
「ごめ、ひゅうじ、あたし、ひとりで…」
喘ぎ喘ぎ、大河が言葉を紡ぐ。一人で果てたことに罪悪感を感じる必要なんてないのに。だって俺がそうさせたんだから。
「次は、俺の番だな…」
「あっ!いまだめっ!」
果てたばかりで敏感になった性器に、さらに激しい力が加わる。
再び絶頂の波を感じる。意識を手放しそうになる。何も考えられない。
「俺も、いくぞ…!大河…!」
そして大河の中で竜児が果てる。
2回、3回と、大きく躍動する。その度に大河は意識が遠のき、そして下腹部に竜児を感じる。受け止める。
獣のようにお互いを貪りあう二人の夜は更けていく……。

107 :
「ねぇ竜児。」
「なんだ?」
行為を終え、竜児の布団の中で、竜児の腕に包まれた大河が言う。
「いつかきっとさ、私たちにも子供ができるんだよね。」
「ま、そ、そりゃそうだな」
今つくろうとしてたとこだしな…。そりゃいつかはできるよな…。
冷静になってちょっと竜児は恥ずかしくなる。
そんな竜児には気づかず。
「生まれてくる私たちの子供はさ、きっとさ…」
きっと。
「きっとさ、幸せだよね。」
大河がつぶやく。それはほとんど独り言のようで。
竜児に向かって発せられているはずなのに、その言葉は竜児よりも大河自身に向かっているようで。
大河の不安を竜児は知っている。
両親の暴力の道具に用いられた過去。揺るぎない事実。
許したとはいっても、いくら時間がたったとしても、消えない傷もある。
竜児は大河の髪に触れ、うなじに触れ、耳に触れ、鼻に触れ、額に触れ、そして顔を自分に向けさせる。そして、
「幸せだ」
断言する。
「俺たちの子供は、俺たちの元に生まれて俺たちのテーブルに加わるんだ。
そのテーブルには、俺がいて、お前がいて、泰子がいて、じいちゃんがいてばあちゃんがいて。
お前の母親と、旦那さんと、お前の弟もいて。それ以外にもこれまで俺たちが出会った全員がいて。
それで、そこに加わるんだ。幸せじゃないわけがねぇだろ?」
竜児が捲し立てる。いつか見た夢。捨てられたという事実を突きつけられたときに求めたもの。
自分の愛する、自分を愛するすべての人たちとテーブルを囲み、食器を並べ、そして美味しそうな料理が並ぶ。
料理をつくっているのも給仕しているのも自分で、全員お客さんなんだけど、全員が幸せそうで。
竜児は力強く頷く。誰にも俺の、俺たちの食卓を邪魔させはしねぇ。しかし。

108 :
「…ぷっ、なによそれ」
大河は小さく吹き出す。
「テーブルってなによ、あんた急にどうしちゃったの」
大河にとっては竜児の真面目な発言が妙なつぼにはまったらしく。くっくっくと肩を揺らして笑っている。
「なっ、笑うなよ!俺は真剣だ!」
「なんで…!テーブルって!」
大河の笑いがとまらない。もはやほとんど爆笑といったところだ。
竜児が小さくはぁっとため息をつく。ちくしょう真面目に言ったのに。
ひとしきり笑った大河が、
「そうね、あんたがそういうならきっと幸せね。」
そうつぶやいて、瞼を閉じた。竜児には見えないように、でも微笑みは隠しきれず。
その言葉をきいて、竜児も瞼を閉じる。小さく、おやすみと呟き、大河もおやすみと応える。

二人の眠る部屋では、石油ストーブだけが音をたてている。
数時間もすれば再び竜児は目を覚まし、やがて大河も目を覚まし、またいつもの一日が始まる。
そしてきっと数年もすれば二人の食卓には新たな仲間が加わり、幸せの連鎖は続く。
二人の運命は、そういうふうに、できている。

109 :
以上です。
また気が向いたら勝手に投下しにきますお目汚し失礼しました。
1だけ名前欄入れ忘れちゃったけどきにしない

110 :
(・∀・)イイヨイイヨー

111 :
>>109
GJ!
甘くていいすなぁ

112 :
乙でした、気がむいたら是非に

113 :
oh GJ

114 :
保守

115 :
保守

116 :
こんばんは。2週間ぶりです。
気が向いたらなんて思わせぶりなこといってますがずっと気は向いてるし書いてます。
たぶんまだしばらく書きます。リアルの都合なんて爆発しろ。うそです爆発しないで。
というわけで投下。

竜児×大河
原作アフター 高校3年 夏前(5〜6月ぐらい)
二人の初体験
つまりえっちあり
あまめ
若干のオリジナル設定あり
予定通り投下できれば15レスの予定

117 :
 

「ねぇ竜ちゃん」
「ん?」
「竜ちゃんはさ、もうさ・・・」


―――オレンジ 君の光を浴びて―――

***

今日の高須竜児は集中力がなかった。
それは竜児自身も自覚していたし、そばの席にすわる北村祐作の目から見ても明らかだった。
授業中だというのに突然モゾモゾしだしたり、唐突に頭を抱え込んだり、先生に名前を呼ばれても全然それに気づいていなかったり。これはなかなか珍しいことだった。
高須竜児は優等生である。2年生のときは様々な問題を引き起こしたこともあったが、それは彼の素行が原因ではなかった。
3年の、しかも学年の中から一握りの人間だけが進める理系特進クラスへと進学して彼の成績はさらに磨きがかかり、先生たちの評判も上々だった。
その特徴的な眼つきから問題児なのではと疑われたなんてのも昔の話。
今は誰もが認める優等生であり、生徒として学校を代表する生徒会会長の職を務める北村祐作の親友でもある。
そんなわけで、今日の高須竜児はどこかおかしい、というのが普段彼を目にしている人間たちの総意であった。
もちろんそれには理由がある。
高須竜児18才。思春期。いろんなことに興味を持つ年頃であり、肉体的にはある意味で絶頂の時期。
そしてかわいい彼女の存在。
そう竜児には誰にも負けないぐらいかわいい彼女がいる。その名は逢坂大河。竜児と同い年にして見た目はまるでフランス人形、年齢のわりに小さすぎる体躯が一部のマニアの間でやたら評判がいいというのは本人には言えない秘密。
そして竜児が2年生のときに起こした問題のほぼすべてに絡んだ人間であり、その元凶である。つまり竜児が起こしたのではなく、大河の起こしたことに竜児が巻き込まれた、というほうが正しい。
もちろん彼女だって不良なわけではない。不良などころか、クリスマスには恵まれない子供たちに匿名でプレゼントを贈るような人間だ。
それは彼女自身の境遇が彼女にそうさせていたものであるが、つまり一般的に言われるところの根はいいやつなのだ。
多少暴力的であったり、多少言葉づかいが荒かったり、多少自己主張が激しかったりと、火なんかつけなくてもすぐに爆発してしまう火薬のような存在であったことは事実だが、それも昔の話。
竜児という彼女にとっての初めての自身の居場所を手に入れてからは、だいぶおとなしくなった。というのが彼女の過去を知る人間の談。
つまり、年頃の二人は相思相愛の関係にあったのだ。

118 :
 
「竜児、お待たせ」
「お、おぅ。」
先に校門で待っていた竜児のもとにかわいいお姫様が現れる。
華奢な体躯、フワフワの粟栗色の髪の毛、大きな瞳、スラっとのびた腕、よく似合うカーマインのブレザー、ひらひらのスカートのプリーツ。
そんな大河の姿を捉えて竜児の三白眼が不穏な動きを見せる。
「?どうしたの?あたしなんか変?」
「い、いやべつに。」
「あやしい…」
大河が目を細めて訝しむ。
たしかに竜児の反応は普段とはちょっと違った。二人が正式に付き合いだして2ヶ月ほど。
朝待ち合わせて一緒に登校して、夕方一緒に下校する。
学校があれば毎日顔を合わせ、夕食を一緒に食べ、休日も毎日ではないにしろ一緒に過ごすことが多い。
最初こそ変な緊張はあったものの(これまで1年近くずっと一緒にいたにもかかわらず!)、それも次第に慣れ、お互いに素直になれてきたというのに。
今日の竜児はヘンだ。
「ねぇ竜児、私になにか隠し事してる?」
「へ?」
間の抜けた返事。普段の竜児であれば、何もやましいことがないならしてねぇよと一蹴するであろう質問。
高須竜児は、嘘をつくのもそれを隠すのも下手だ。手先はやたら器用なくせに、こういうところは不器用な人間。
「い、いやなにもしてねぇよ隠し事なんて?」
「ふーん…」
大河に怪しまれている。実際に今日の竜児は怪しいのだから当然だし、それは竜児にも自覚していることなのだが。しかし。
「ま、なんでもいいけどね。」
大河はあえて問い詰めはしない。
そういってくるっと向きを変え、スタスタと歩きだす。スカートのプリーツがひらりと風に舞い、乳白色の腿が一瞬だけ竜児の地獄の三白眼に飛び込む。
通常時でさえ見るものを怯えさせるだけの迫力をもつその眼が無意識に血走る。
何も知らない人がその眼をみたら腰を抜かして逃げ出すこと間違いなしといったところだが。
「お、おい!ちょっと待てって!」
「ほらはやくいくよー、今日の夕食はなんだろな〜」
お肉かなー、お魚かなー、そんなことを鼻歌交じりに歌いながら大河はどんどんその歩みを進め、竜児はそれを必に追いかける。

***
 

119 :
 
ふー、食べた食べた。
お前それおっさんくさいからやめろよいいじゃないのよーおいしかったんだから。
竜児が大河の住まう家の大きなキッチンで洗い物をしながらお小言をいうが、大河の耳には念仏も同然だ。
竜児が洗い物をしている間、大河は弟の面倒を見てる。
ちなみに、大河も母親もいない昼間の時間帯はベビーシッターに頼んで面倒を見てもらっている。大河の帰宅に合わせてその人は帰宅するわけだ。
生まれたときはあんなにちっちゃかった弟も今では生後半年を超え、無事にすくすくと成長している。
もう1時間か2時間か、そんなもんで母親は帰宅するだろう。
この短い時間、弟の面倒を見るのは大河の仕事だ。面倒を見るといっても、だいたいにして寝ているだけなのでほとんどやることはないのだが。
必要に応じてオムツを替えたり、ミルクを飲ませたり、あやしたり。最初は竜児もびくびくしながら見守っていたが、
いざやらせてみたら自分のことは何一つできなかった超がつくドジの大河でも案外そつなくこなせたのは驚きだった。
どうよ?ちょろいもんでしょなんて得意になる大河を眺めながら、竜児は密かに女は強しなんて思ったものだ。
二人での夕食が済むと、そのまま竜児は洗い物も済ませ、さらに翌朝の朝食の支度をしておく。
3年にあがって大河が近所に戻ってきてからの生活の中で、竜児は大河とともに夕食をとり、大河とその母親の朝食の支度をし、
それから自分と泰子の住むアパートに帰り寝て、起きたらまた自分と泰子の朝食の支度をして、自分と大河の弁当を用意してと、料理まみれの生活だ。
しかしそこは元来一度やるときめたらやる人間、そもそも料理をはじめとする炊事洗濯家事全般は趣味の領域。
大河の母親も最初はさすがにそこまでやらせるのは申し訳ないのではと遠慮しようとしたが、実際に竜児のつくる朝食を大河と口にして、そのまま任せっきりになっていた。
そうやって竜児は大河とその母親のための仕事をこなし、だいたい21時ごろには家に帰る。
これは具体的に話し合った末に決まったことではなかったが、竜児なりのケジメらしい。つまり若い男女が遅くまでいっしょにいてはいけないという。
 
 

120 :
 
「大河ー、明日の朝の分ここにおいとくからなー」
「はーいはいはい。」
はいは一回でいい、なんていう小言を言う気力もなく。
お茶を淹れて大河の元へ戻る。
大河はベビーベッドの中ですうすうと眠る弟を眺めている。大河、お茶淹れたぞ、と竜児がその背中に呼びかける。
「ねぇ竜児、こっちきてよ」
「ん?」
竜児は手にした湯呑をテーブルの上に置いて、大河のほうへ向かう。
広いリビングを5歩6歩と横断、小さな命が安らかに眠るベビーベッドの脇、大河の横に無事着陸。
「見て、かわいいでしょ、私の弟なんだよ」
おう、知ってるぞ。と竜児は返す。今更なにを言ってるんだこいつは。
竜児は大河と並んでベビーベッドを覗き込んだ。何も知らずにすやすやと眠る無垢なる魂。
生後半年もたてば、その面影にも特徴が見て取れる。この目はあの母親似かなぁ。
そんな竜児の横で大河は、眠る赤ん坊を眺める竜児の横顔をちらっと盗み見る。
そんなにかっこよくはないな、と思う。こないだばかちーがちらっとでてたドラマに出てきた男の子はイケメンだったなぁ、とか。
目は怖いし、前髪はなんか変だし、背はそこそこ高いかな?
料理が上手で、掃除洗濯も得意で、手先はやたら器用で、よくわかんないけど優しい。
竜児が自分を見つめる大河の視線に気づいて、ちらっと見る。
「なんだ?俺の顔になんかついてるか?」
「うううん、なーんにも!」
そういって、大河はくるっとまわってテーブルのほうへ戻る。
置いてあった湯呑をとり、くいっとお茶を飲む。いやー食後のお茶はたまらんね、とかなんとかまたおっさんくさいことを。
竜児もテーブルのほうに戻り、お茶を啜る。うん、今日もいい具合だ。葉っぱもいいものだ、きっとウン万円とかするのをどこかから戴いたんだろう。急須もいいものだ、暖かみを感じる意匠。当然淹れる人間の気合もはいるってものだ。
チラッと見た時計の時刻は20時半を回ったというところ。テレビにはくだらないバラエティ番組が映っていて、有名な芸能人がゲラゲラと手をたたきながら笑っている。
あと30分もすれば竜児は帰ってしまう。さみしいな、と大河は心の底で思う。
「ね、竜児。」
「なんだ?」
「ヘンなの、治ったじゃない。」
「!」
大河が唐突に切り出した。そうだ今日の俺は変だった。すっかり忘れてた。
「お、おう俺は今日そんなに変だったか?」
「ヘンだったわよ、朝から。なにいっても上の空だし、落ち着きないし、かと思ったら急に私のことじーっとみつめるしさ。」
「そ、そうか…。」
竜児はまたしどろもどろになる。ちくしょうこんなはずじゃなかったのに。料理してる間はすっかり忘れてたのになぁ…。
大河は自分のポケットからかわいくデコレーションされたピンクのケータイをがさごそと取り出す。
「あんたね、あんたが思ってる以上にみんな心配してるんだからね!」
そういって、大河はケータイの画面を竜児につきつけた。
 

121 :
 
差出人:北村祐作
件名:高須が変なんだ!
本文:逢坂も気づいてるかもしれないが、
 なんだか高須の様子が変なんだ。
 可能だったら、動向を見張って、
 それとなく原因を聞きだしてくれないか?

「北村…」
がっくしと竜児はうなだれる。そんな心配を俺はお前にかけてたのかというか別にそこまで心配してくれなくても…。
「まったく北村くんにまで心配かけて!しっかりしなさいよね!」
「はい…。」
竜児は力なく答える。
「ま、でも!」
大河がくいっとお茶を飲み干して、続ける。
「今日のところは不問にしといてあげる!どう?優しいでしょ!」
腰に手を当て鼻は高く、フフンとなぜかやたらに偉そうな態度で大河は踏ん反り返る。
しかし今の竜児にとってそれは都合のいいことだったので。
「……、おぅ、すまん。確かに今日の俺は変だった。悪かったよ。」
「なーによ今更しおらしくなっちゃって。私が不問にしてあげるっていってるんだからあんたは気にする必要ないのよ!」
えらくご機嫌な大河は、冷蔵庫の扉を開けヨーグルトなんかを取り出している。食後のデザートとしゃれ込むつもりなんだろう。
竜児はちらりと時計を見る。時刻は21時前。そろそろ帰宅の時間だ。
「大河、俺そろそろ。」
「ん。」
ヨーグルトのフタをぺりぺりとはがしながら大河も時計を見る。もうそんな時間か。
リビングの隅におかれたカバンを拾い、持ち込まれた荷物をまとめ、竜児は帰り支度をする。大河は一度はがしたフタをもどし、ヨーグルトをいったん冷蔵庫にしまう。
玄関で竜児は靴を履く。大河は履かない。ここは大河の家で、竜児はここから自分と泰子の住む家に帰っていくのだから。
「じゃあ大河…。」
「竜児、」
別れ際。大河の瞳が潤む。睫毛が揺れる。これは今生の別れなんかじゃない。
また明日の朝になれば、竜児のつくっておいてくれた朝ごはんを食べて、いつもの場所で待ち合わせして、そして一緒に学校に行くのだ。
ほんの数時間の別れ。
それでも。
「ね、今日のわたしは優しかったでしょ?だから…」
大河が小さな声で甘える。要求する。別にそんな特別な条件なんかいらないのに、と竜児は思って、小さく笑う。
「また明日な。」
そう言う竜児の唇が優しく大河の唇に触れる。
触れ合うだけの優しいキス。幾度となく交わされてきた二人の間だけの秘密。
そっと唇を離す。
大河の顔ははっきりわかるぐらい赤くなっているが、竜児は気づかないふりをして、玄関をあけその隙間をすり抜け、そしてそっと閉める。
バタン、と扉が閉まる音がして、革靴のコツッコツッという音が響き、そして遠ざかっていく。
大河は玄関で動けないまま、愛の余韻に浸っている。
しかしいつまでもそうしてはいられない。やっとの思いで体を奮い立たせ、自分の部屋へ戻りベッドに飛び込み丸くなる。

122 :
 
なんて幸せなんだろう。
自分の唇に軽く触れてみる。この私の唇に、竜児の唇が触れた。たったそれだけのことなのに。なんでこんなにも幸せで切ないんだろう。
初めて、雪の降る凍えるような寒空の下でしたときも。
高須のおじいちゃんとおばあちゃんの家で、眠っているはずの竜児としたときも。
いまも。
こんな素敵なことがこの世の中にあっていいのだろうか。大河にはそれが未だに信じられないのと同時に、しかし大河はその次のことを考えていた。
もっと深い絆が欲しい。竜児ともっと深く繋がりたい。
求めるものはすべて壊れてしまう大河の世界ではじめて壊れなかった高須竜児という一人の男。
もはや大河にとって竜児は体の一部といっていいほど離せない存在。大河の人生には竜児はいなくてはならない存在。
だからこそ、たしかな絆がほしい。わたしに彼の所有物であるという証拠がほしい。
自らの唇に触れる。小さく、瑞々しく潤う大河の唇。
竜児のくちびる、ガサガサだったな。ひび割れて、不毛の大地で、でもとても熱かった。
体温は同じぐらいなはずなのに、なんでかな、と思う。そして今日の竜児のことを思い出す。
今日一日どうにも挙動不審だった竜児。
じつは大河はそのわけを知っていた。知っていたというよりも、実はその原因を作った張本人は大河で。しかし竜児はそれを知らなくて。
ふふふ、と大河は笑う。竜児はあそこまでテンパっちゃうのか、わたしがもっとしっかりしないとな、と勝手に意気込む。
それと同時に、そんな竜児を愛おしく思う。竜児がそうなってしまうのは、彼がわたしを大事に思ってくれているからで。
その事実がまたうれしくて、大河はひとりで小さく笑う。自分で自分を抱きしめる。なんて幸せなんだろう。こんな幸せなことがあるんだろうか。
そのとき玄関のドアが開く音がした。母親の帰宅だ。

竜児は走っていた。別に走る必要はまったくなかったのだが。
走って家に帰ったところで誰もいないし(相も変わらず痙攣しながら必の形相でギリギリな単語を叫ぶインコちゃんはいるが)、別段やることもない。
いつも通り今日の復習をして、明日の予習をして、風呂にはいって泰子が帰ってくるのを待って、寝るだけだ。
でも竜児は走っていた。無性に走りたくてしょうがなかったのだ。
走りながら、学ランのポケットに手を突っ込んだ。そこには一つの小さな紙製の箱がはいっていた。
そして、箱の中身は。
ラテックスでできた厚さ0.02ミリのフィルム。すなわちコンドーム。
もちろんどういうものかは知っているし、どういうときに必要なものかも知っている。しかし、現物をこの手に持ち、所有したのは初めてだ。
しかもそれを実の母親からプレゼントされたとなれば、動揺しないわけがない。
高須竜児、18才、童貞。将来を誓い合ったかわいい彼女あり。そしていざというときの準備もできている。
準備はできているのだけれども。

***
 

123 :
 
「竜ちゃんはさ、もうさ、大河ちゃんとえっちした?」
「な、な、なにをいきなり聞くんだ」
「ねぇ、教えて。したの?」
「……、してねぇよ」
「そっか、そうだよね。」
朝方、家をでるときに突然母親から受けた質問。彼女とセックスをしたか?だと?
してねぇよ。してぇよ。
だがそんなことを正直に答えられるような人間でもなく。
「…なんでそんなこと聞くんだよ。」
「あのね、竜ちゃんはもうこんなこといわなくてもわかってると思うけどね…。」
泰子が急にしゅんとして、ぽろぽろと言葉を紡ぐ。
それは母親である泰子がまるで己自身を責めているかのようで、竜児にはとても聞くに耐えないようなことで。
自分がどういう経緯で生まれてきたのかをもちろん竜児は知っている。それが、周囲に望まれないようなカタチであったことも。
軽いノリでやってしまったことが、どれだけの人間の人生を狂わせたかを竜児はいやというほど知っている。だから。
「だから、竜ちゃん。これ。」
泰子がなにかを差し出した。竜児は受け取って、その目を疑う。そう来たか…。
しかし受け取らないわけにもいかず。
「わかったよ…。」
それをうけとって、ポケットにしまった。いざというときはちゃんと使うでヤンスよ!急に勘違いした若者言葉に戻る泰子に突っ込む気力はなく。
「行ってくるよ…」
竜児は家をでた。今日もがんばるでヤンスよー!泰子の声が遠くに響く。
そしていつもの待ち合わせ場所で大河と会う。ちょっと竜児遅いわよ!遅刻しちゃうじゃない!お、おぅすまんすまん。
しかし竜児の脳みそは、遅刻どころの騒ぎではなかったのだ。

***
 

124 :
 

「はー。」
風呂にはいり、ベッドに寝転ぶ。
まだ今日の復習は済んでいない。済んでいないどころか、今日何をやったのかさえよく覚えていない。
結局紙製の箱は学ランのポケットにつっこんだままだ。だってしかたないじゃないか。いきなりそんなものわたされても、どうしろと?
大河の家は無理だ。母親が帰ってくるんだから。弟だっているし。まぁ弟はわからないだろうけど、もし最中に泣き出されたりしたら…。
かといってウチか?ウチだって、夜中には泰子が帰ってくる。堂々とお泊りなんて。こんなもの渡されたからって、そんなホイホイとできるもんか。
しかし。いったい。
泰子はなにを考えているんだ。いや考えていることはわかる。
自分が身を以て失敗してるんだから、同じ轍を踏ませたくないという気持ちは痛いほどわかる。
だけど。
「はぁ〜〜…」
また一つ大きくため息をつく。
大河とセックス、か。竜児は思い描く。
そういや一度胸を触ったことあったな、まぁあれは事故みたいなもんか…。あいつの胸へこむんだよな、ちゃんと見たらどうなってるんだろうな。
胸だけじゃない。すらっとした足。長い指。きっときれいに括れてるであろう胴。ぷくっとした唇。
竜児は自分の唇に触れてみる。ほんの小一時間前に大河のそれと触れ合った自分の唇。触ってみて、我ながら不毛の大地だなと思う。ちゃんとリップ塗ろう…。
そして大河の一番大切なところ。もちろん竜児だって、年頃の男子であるのでそういうものを見たことはある。
一人でしたこともあるし、どういうことものなのかは頭では理解しているつもりではいる。それでも。
どうなってんだろうな…。
大河のもの、となると特別だ。自分の彼女。テレビ画面にうつされるような、使い古された人間のもの(失礼)ではない。
自分に向かい、自分のためだけに露になる彼女のそこは。
「あーちくしょう!」
泰子が帰ってくるまでまだ時間はある。
竜児は、普段はあけない自分の机の引き出しの奥の部分に乱暴に手を突っ込んだ。久しく使ってなかったけどまたお世話になるか…。

結局、その日竜児は復習も予習もできなかった。
***
 

125 :
 
 
翌日。
昨日とは打って変わって竜児は落ち着きを取り戻していた。
ちゃんと自分と泰子の朝食を作り、二人で朝食を食べ、自分と大河のお弁当をつくり、二人で登校して、授業を真面目に受け、放課後。
いつもの待ち合わせ場所である校門に向かう。
今日は金曜日。週末。明日は学校が休みだ。
時刻は16時前。グラウンドからは運動部の掛け声が聞こえる。何を言っているのかわからない特徴的な掛け声。
運動部の3年生は夏の大会で引退する。あと数ヶ月もすれば。
「櫛枝も引退か…」
口を吐いて言葉がでる。特に深い意味はないのだけれども。くしえだもいんたいか。
男女ソフト部を纏める部長として、バイトをいくつも掛け持ちする労働者として、体育大学への合格を目指す受験生として。
彼女は必だ。必に自分の意地を貫き通そうとしている。それは竜児にとってのある種の憧れを感じさせるものだった。
幽霊なんか見えなくても、彼女は立派な人間だ。だからこそ好きだったんだ。そんなことをふと思う。
「竜児。」
気付いたら大河がそばにいた。りゅうじ、と優しく呼びかけて注意を引く。
「おまたせ。」
「おう。」
二人は歩き出す。今日は金曜日。明日は学校は休み。特に予定もない週末。
「なぁ大河。」
「なにかしら?この大河様にお願い事?安くなくってよ?」
帰る道すがら。大河の頭の中は既に今日の(竜児に作らせる)夕食の献立をあれこれめぐらせている。
フフフン、と腕を組みやたら偉そうな大河。今日も楽しいやつだなこいつは。
「そうだ、お願いだ。実はちょっと寄り道したいんだ。」
「寄り道?」
これは大河も予想外。寄り道?どこへ?
きょとんとする大河に竜児は続ける。
「そうだ、ついてきてくれないか。買い物はそのあとだ。」
そういって竜児は歩き出す。なにも言わず大河もそれに続く。

「えっ、ここ登るの?」
「そうだ…。」
川沿いをしばらく歩き、おもむろにわき道にそれた先。
二人の目の前には、100段以上はあろうかという石段。あたりはそろそろ夕焼けに包まれようとしている。
竜児もここにきたのは久しぶりだった。自分が小さかったころ、泰子に連れてきもらった場所。
この階段を登った先には小さな神社がある。そしてそこからは。
「いくぞ。」
「はぁ…。」
嫌そうなため息を吐いて、でも大河は竜児についていく。今日の夕食にはプリンとヨーグルトどっちもつけてもらうからね、なんてことをぶつぶつ呟きながら。
 

126 :
 
「おおお…」
「どうだ、すげぇだろ?」
その景色に、大河は目を見開く。
登った先にあったのは、やっぱりしなびたちいちゃな神社、というのもおこがましいほどに鳥居と祠がちょこんとあるだけで。
申し訳程度に賽銭箱なんておいてあるがそれもぼろぼろに朽ちている。
こんなのを見せたかったの?なんて一瞬本気でガッカリしてしまった大河が振り返って見たのは。
夕焼けに染まる大橋の街並み。太陽はそろそろ地平線に触れようとするところ。
何度も使った大橋の駅と、その周囲だけで発展する駅前ビル群、商店街。
いつか二人で飛び込んだ川とそこにかかる橋。高台の上にちょこんと置かれた二人の通う高校。
あっちには誰の家があって、こっちには誰の家があって。あっちのほうにわたしたちの家があるね。
「きれいだろ?」
「うん…」
それは大河にとって新鮮な驚きだった。
親の都合に振り回され、転々と転校や引っ越しを繰り返し。大河には故郷と呼べるような街はない。自分の帰りを待っている友達もいない。
でも。
大橋にきてからの2年間とちょっとで、大河は自分の居場所を手に入れた。これまで望んだものはすべて壊れたのに、はじめて壊れなかった。
そんな奇跡を、自分にとっての奇跡を象徴する街並み。風景。
ただの一地方都市なのに。社会の授業にでてくるドーナツ化現象の煽りを受けただけの街なのに。
そこは、たったの2年間ですっかり大河の故郷になっていた。
「……竜児、ありがとう。私この景色、忘れない。」
「…」
竜児はなにも言わなかった。言う必要もなかった。この景色は自分にとっても特別なものだ。
まだ幼かったころに見た、泰子と見た風景。
自分でも久しぶりだったけど、その風景のもつ威力は相変わらずで、竜児と大河に新鮮な感動を齎すものだった。
大河に理解してもらえたのが、竜児には嬉しくて。大河に見せたかった、お前の居場所。そう、この街が俺たちの故郷で、俺のそばがお前の居場所なんだ。
「大河。」
「ん?」
景色に見とれていた大河に呼びかける。
「明日、やすみ、だよな?」
「え?そう、だけど」
竜児の頬が心なし紅くなっているのは、夕焼けのせいだけではない。竜児は照れているし、緊張している。
「きょうはさ、ウチで晩飯食わないか?」
「え」
一瞬、大河は竜児の言うことが理解できなかった。なにを唐突に?
「あーだから、つまり。その、だな。」
竜児が口ごもる。
「つまり、ウチで飯くって、そのままウチに、泊まってけよ!」
もごもごいいながら、一気に言い切る。
「……泰子は朝まで帰ってこねぇ」
さらに補足情報。それで大河にもどうやら伝わったらしく、大河も目を見開いて口をあわあわしている。
「あ、あんたなにいってんのそれって…。」
「あーバカ!それ以上いうな俺たちは飯くって風呂入って寝るだけだぞ!」
竜児が何かを否定するように手をぶんぶんと振る。そして、
「ダメ、か…?」
小さく、つぶやく。
竜児は、奥手だ。好きな子に、どうやって話しかけたらいいのか、話しかけられてもどうやって返事をすればいいのかまったくわからずといった具合の心の清い(自称)青少年だ。
そんな竜児が勇気を振り絞って。自分の彼女に。ウチに泊まりに来い、親は帰ってこねぇ、だなんて。
そんなことを、精一杯がんばって想いを伝えて小さくなる竜児を見て大河は。
「は〜、しょうがないわねぇ。ま、万年発情犬の面倒を見てやるのも飼い主の仕事だしねぇ。」
そういって、大河はまたフフンと偉そうに鼻を鳴らす。強がっている大河の頬も耳もじつは紅く染まっているのだが、夕焼けはそれをきれいに隠してくれた。

***

127 :
 
竜児は一人でスーパーに寄って、夕食の献立を考えながら買い物を済ませ帰路についた。
大河は一旦家に帰って、お泊りの準備をしてくると。ベビーシッターさんに延長お願いしないといけないしね。
家に帰って竜児はまず気合いをいれて掃除をした。といっても普段から綺麗な高須家にいまさら綺麗にすべき場所なんてないのだけれども。
自分の部屋をホコリ一つ残さずきれいにして。風呂場洗面所もピカピカに。
キッチンももちろん、居間ももちろん。泰子の部屋は、まぁいっか。
それから夕食を作る。
今日の夕食はハンバーグ。大河のリクエストで、肉の中の肉料理だ。誰もが喜ぶハンバーグ。
レタスとプチトマトのサラダも付けて、彩も鮮やかに。あとはいつものお味噌汁。高須家の質素でいて豪勢な夕食のできあがり。
そうやって夕食の支度をしていると、外階段を昇ってくるカンカンカンという音がして、ピンポーンとチャイムが鳴った。
誰が来たのかは、当然わかっている。借金取りではない。
だってウチに来いって誘ったんだから。それでも竜児は緊張して、急いで手を洗い、わざわざ
「はーい」
なんてチャイムに返事をしながらドアをゆっくりあける。あけるとそこには。
「へへへ、きちゃった。」
かわいい彼女。
別れた時に来ていた学校の制服を脱いで、お気に入りのかわいらしいグリーンのワンピースにカーディガン。
そして手には大きくなったエコバッグを携えて。
「お、おう。大荷物だな」
「女の子の外泊は大変なのよ。はい。」
といって、手荷物を竜児にぐいっと押しつける。渡された竜児はヘイヘイと適当な返事をしながら、大河の荷物を居間に運ぶ。
「この家に来るのもなんだか久しぶりね〜。」
なんて勝手なことを言いながら、大河は靴を脱いで、脱いだ靴は竜児がきちんとそろえて、居間へとあがる。
台所からは、フライパンに載せられたハンバーグの焼けるいい匂い。その傍で炊飯器がくつくつと湯気を吐いている。
「あ〜、いい匂い。おなか減っちゃったわ。あら?」
居間にしかれた座布団の上にどっかと座った大河の視線の先には。
「イイイ、イイ、イイ…」
「あらやだあんたまだいたのブサコ」
高須家のペットこと、インコちゃん。
久しぶりにあったその鳥のような異形の生物は、目はピクピク、舌はだらん、よだれたらたらの相変わらずの様相で。
「イイイ、イイ…イ…、インド!」
なにかを必に訴えようとしているが、その想いが伝わることはなくて。
「はーあんたも成長しないわねぇ、ほらもうちょっとがんばってみなさいよ。」
「おい大河インコちゃんをあんまり虐めんなよ」
台所にたつ竜児の注意がとぶ。
「いじめてなんかないわよ!」
失礼ね、と言わんばかりに大河も返す。実際虐めてなんかいない。ただちょっと眺めてただけだ。
もちろん竜児だって大河がそんなことをしているとは思ってもいないのだが。
 
「おし、炊けた」
炊飯器のピーピーという音がして、竜児の調理タイムは終了した。すべてが計算通り。
使い古されたちゃぶ台の上に、皿が並ぶ。大河の好きなもの。大河の好きな竜児の手料理。
こうやって大河とウチで飯を食うのって、いつ以来だろうなぁ、と竜児はふと考える。
大河がこっちに戻ってきてからは、ずっとあっちで夕飯食ってたし、2年のときはずっとウチで3人で食ってたけど、いつまでだったっけ…。
ふと考えをめぐらせて思い出した。そうか、櫛枝にフラれた時までか。あのあと大河は自立すると言い放ってウチにこなくなったんだったな。
ずずずーっと、大河が味噌汁を啜る音が響く。
 

128 :
 
食事を終えて、竜児は台所で洗い物。大河は竜児に用意させたプリンを一人でいただいている。
手伝うわ!と意気込んでくれたのには素直に感謝しておいたが、残念ながら竜児一人でやったほうが時間も手間もかからないのはお互いに認めるところだった。
「大河」
洗い物をしながら竜児が呼びかける。
「なに?」
「その、なんだ。先に、風呂使えよ。沸いてるから。」
「…」
竜児が背中越しに大河に呼びかける。大河は言われて硬直する。
目はテレビの画面を見つめているのだけれども、その内容はぜんぜん頭の中にはいってきはしない。
ご飯を食べて、お風呂にはいったら、あとは寝るだけ。そう、寝るだけなのだ。竜児はそういっていた。風呂が終われば、寝るだけ。
ぴょこん!と大河は勢いよく立ち上がり、不自然な動作で自分のもってきたバッグを手繰り寄せながら
「そ、そうね。あんたの後なんてなんか汚そうだし先に使わせてもらうわ!」
なんて必に毒づくが、その声は上ずっている。竜児もいちいちそれに反論したりはしない。
お互いの間に妙な空気と壁を感じる。なんでだろう、さっきご飯を食べてたときはあんなにも自然だったのに。
ごそごそと大河は自分のもってきたバッグから着替えと自分用のボディソープなんかを取り出してそそくさと脱衣所へ向かう。
その気配を竜児は背中で感じるが、わざわざ振り返ってそんな大河を見るなんてことなんてできない。
竜児も激しく緊張しているのだ。それでも竜児の手は無意識下で食器類についた油汚れを綺麗に落としていく。

竜児が風呂からあがると、大河は自分でもってきたネグリジェに着替えて、また居間に敷かれた自分の座布団にちょこんと座り、テレビの画面を見つめていた。
竜児がすぐ横に腰をおろしても、そちらを見ることも、気づくこともなく。
「…お、おい大河?」
「ひゃい!?」
大河がびくんと大げさな反応をした。どうしたんだこいつは…。
「大丈夫か…?」
「あ、あ、ああたしは大丈夫よなによとつぜん」
「突然って…。」
どう見ても大河の挙動がおかしい。具体的なことは何も言っていないのに、なんでこいつはこんなに緊張しているのだろう。
それが竜児にはなんだかおかしくて。昨日の自分はきっとこんな感じだったんだろうな。竜児はくっくっと笑いだす。
「なな、なによあんたなにがおかしいの」
笑う竜児に大河がかみつく。
その大きな瞳を見開いて、じっと竜児を睨め付ける。その頬は紅く染まり、ぐっと握られた拳はぷるぷると震えている。
「いやだって、」
竜児の笑いが止まらない。
「昨日の俺はきっと今のお前みたいだったんだろうなと思うと、なんかおかしくて。」
そういわれて、大河の顔がかーっと紅くなる。
昨日のあんた?昨日のあんたはそりゃ変だったし、変だった理由はそうよ、きっと今のあたしといっしょよちくしょうなによあんたにやにやしてんじゃないわよ!!この、この…!
「ばか!」
そういって大河は座ったままの姿勢から竜児の鳩尾に渾身の右ストレートを繰り出す。
そして、竜児が息つく暇もなくその胸に飛び込む。恥ずかしくて、自分の考えていることを知られたくなくて。
でもほんとは知ってほしくて。
油断していた竜児はぐぼぁっと声にならない声をあげ、飛び込んできた大河を優しく迎え入れる。
自分のへそのあたりにそのふわふわの頭頂部をぐりぐりと押し付ける大河の背中を優しく抱き、その温もりを掌に受け止める。
シャンプーの香りがふわっと漂う。さっき風呂にはいったときにもこの匂いがしたな。
普段めったに嗅ぐことのない、女の子の匂い。泰子のものとは違う匂い。大河の匂い。
その匂いを迸らせている大河の長いふわふわの髪を優しく梳く。大河は竜児の胸に身を預け、おとなしくなっている。
そして。
「やさしく、してよね」
小さくつぶやいた。
大河も、覚悟はできている。

***

129 :
 
薄暗い部屋。豆電球の淡い光に抱かれて、二人は1枚の布団を共にする。
布団のそばには、さっきまで二人を包んでいた寝巻きが乱雑に脱ぎ捨てられている。普段の竜児ならなによりもさきにそれにしわがつかないようにきれいに畳んでいただろうが、今日は事情が違った。
脱ぎ捨てられた服になんて目もくれず、二人は布団の中で愛を確かめ合う。
優しいキス。
竜児のキスは、いつだって優しい。唇はがさがさで、さっき食べたハンバーグの匂いが残ってて、息はなんだかちょっと暖かくて、そして優しい。
大河は、竜児にキスされると、何も考えられなくなる。幸せの波がどっと押し寄せて、あっという間にそれに捕まえられて沖まで流される。
泳げないのでもがいているとそこに竜児がやってきて、そっと抱きしめて救いあげてくれる。
そうして竜児の腕に抱かれた大河は、身も心も竜児に奪われてなにもできなくなってしまうのだ。
「大河」
唇を離し、優しく呼びかける。暗くてよく見えないけど、大河は竜児の呼びかけに応じて頷く素振りを見せる。
どうしたらいいのかなんて、二人ともわからないけれども。
どうしたいのかは、はっきりしている。
竜児はまだ大河の身体を守っている下着に手をかける。
抱きしめた大河の背中側に手を伸ばし、その密やかな胸を守るブラをはずしにかかる。
自分の持つわずかな知識を頼りに、ホックのかかっているであろう場所に手をはわせ、そして見つけたそれをはずそうとする。が。
「ちょ、ちょっとまって竜児」
大河が抵抗する。
「す、すまんまだ早かったか?」
あわてて竜児が手を引っ込める。あせりすぎたのだろうか、それとも。
「いや、そうじゃなくて、くすぐったい。」
大河がもどかしそうに身体を起こす。
普段は器用なくせに、こういうところはへたくそなんだ。大河にとってはそれもまた面白い出来事で。
「お、おぅ。すまん。」
なんでか竜児は謝ってしまうのだけれども、大河は気にせず微笑んでいる。
「まったくしょうがないわね。」
そういいながら、自らの手で自らの哀れとまで蔑まれた胸を晒す。部屋は薄暗いのでもちろんよく見えはしないのだけれども、大河は外したそれをわきに捨てられている寝巻きの上に放る。
そして、
「ね、竜児、どうかな。」
竜児のほうを向く。ふわふわの髪が肩越しにかかっていて、よく見えない大河の胸を竜児は唖然として見つめている。大河の言葉にも反応できないぐらいに。
「・・・そんなじろじろ見ないでよ。恥ずかしい」
「おっ、わ、わりぃ、つい。」
自分から見せといてなんだそれはなんて思うこともなくて、竜児はただ唖然とするばかりで。
今目の前にいる大河は、あまりにも無防備で、それでいて妖艶で。
なにが哀れなものか。その肢体はあまりにも美しく、あまりにも危険な毒を孕んでいる。
竜児の生唾を飲み込む音が響く。
そして。
「大河、。」
竜児が優しく大河を包み込む。唇で唇をふさぎながら、露になった胸に手を這わせ、やさしく愛撫する。
へこむなんて自分で蔑視していたそこにはたしかな膨らみが存在し、そしてその先端は硬くとがっている。竜児の指がそこに触れる。
「ひぁっ、りゅう、じ、、」
竜児の唇から逃れた大河の口から、甘い声が漏れる。そんな触り方されると。
だがぎらつく竜児の三白眼は大河を捉えて離さない。
甘美な刺激から逃れようと大河は竜児の腕の中でもがく。しかし逃げられない。身体はこんなに抵抗しているのに、心がそれを許さない。
竜児が大河の胸を弄ぶ手を引っ込める。
すこし手を伸ばして、すこし身体に触れただけなのに。二人は息も絶え絶えで、これから二人が進もうとしている先には一体どんなものが待ち受けているのか。
そんな思案をめぐらす余裕もなく。

130 :
 
「大河、俺もう我慢できねぇ。」
竜児の手が伸びる。露になっている胸ではなく、大河の一番大切なところ。
未だショーツに守られていながらも既に湿り気を帯びている秘部へと。
「…!」
大河がぎゅっと目をつぶる。声もでない。恥ずかしいのだろう。
未だかつて自分以外の誰もが触ったことのない場所。自分自身だってこんな触り方をしたことはない。
竜児のごつごつした手が指が、大河のそこに優しく触れる。触れられただけで大河は全身に電流が流れたかのような刺激を受ける。
自分の愛撫に悶え、必に耐える大河を見て、竜児の中で何かが弾ける。
もっと触りたい。大河をめちゃくちゃにしたい。俺の、俺だけのかわいい大河。
表面から触れていた竜児の指が、ショーツと肌の隙間から中へと侵入する。
驚きと戸惑いが大河を襲い、身悶えさせる。しかし竜児はその手を止めはしない。
「大河、足。」
そういって、竜児は広げられた大河の綺麗な足をそろえさせる。脱がせやすくするために。
「…うん。」
大河は素直に従う。足をそろえられ、竜児の指が下着をひっかけ、そして一気に降ろす。これで。
大河は完全に生まれたままの姿になった。その身を覆うものはなにもなく。竜児のためだけに、大河は全てを脱ぎ去った。
「大河……、綺麗だ。」
「…ばか。」
そういって竜児はまた優しく大河を抱きしめる。髪に、顔に、肌に、胸に触れ、そしてふたたび股間へと。
そのまま一気に大河の湿り気を帯びた秘部へ、顔をうずめ、舌を這わす。
未だかつてこんなことをしたことなんてないのに。そうするもんだと竜児の本能が身体を突き動かす。
「ひぁっ!りゅうじ、そんなとこ…」
「そんなとこが、なんだ?」
意地悪く竜児が聞き返す。大河は全身をぶるぶると振るわせ、顔を逸らす。何も言えない。
竜児があたしのアソコ舐めてるなんて、いったいなにごとなの。
「大河、すげぇよ。溢れてる。」
ぴちゃぴちゃと艶めかしい音を立てながら竜児が言う。
わざわざ言われなくてもわかってる。もうすっかりあたしのあそこはびしょびしょで、あんたを迎え入れるための準備はできている。
「う〜…」
手で顔を覆って悶えていた大河が、反撃にでる。
自分の股に突っ込まれている竜児の頭を捕まえ、そこから引き離す。
そして。
「…あんたばっかり楽しんでんじゃないわよ。」
大河の精一杯の反撃。竜児はきょとんとして。
「お、おうすまん。」
膝立ちで身を起こす。竜児の身を纏っているのは履きなれたボクサーパンツ1枚。
大河も正座になって身を起こし、竜児に向かい合う。
こうやって向かいあうと、大河の目の前には竜児のふくらんだそこが目の前にきていて、再び大河に緊張が走る。

131 :
 
「あたしだって、できるんだから…」
そういっておもむろに竜児の最後の1枚を脱がしにかかる。
「お、おい大河そんなひっぱるなって」
「うるさい!」
そういって大河はぐっとそれを一気におろす。するとでてきたのは。
竜児の立派な一人息子。手乗りドラゴンとでも呼べばいいのだろうか。
大河の小さすぎる手には収まりきらないサイズのそれが、どろり。
「ひっ…」
思わず小さな悲鳴が漏れる。ななな、なによこれどういうことなのなんなのこれは。
まだ中途半端に血液が集まっただけのそれは、大河の想像の遥か斜め上をいくもので。
なにこれ、こんなの、どうやっていれるの…。というのが大河の正直な気持ち。だが。
「あ、あの。あんまりじろじろ見ないでもらえませんかね…。」
竜児が恥ずかしそうに申し出る。
「あ、ご、ごめん。」
予想外の事態に軽いパニックに陥った大河は思わず謝ってしまうのだが。
「いや、謝られても…。」
さっきまでの雰囲気はどこへやら。二人とも恥ずかしいやらなんやらで、再び緊張の渦の中へ。
「…これは、もう準備できているの?」
大河が恐る恐る聞く。これ扱いかよ、ひでぇな、と竜児は思うが口には出さず。
「いや、まだだ。大河、どうすればいいかわかるか?」
どうすれば、と言われても。
なんとなくわかってはいるのだけれども。しかしいざ目の前に持ってこられるとどうしたらなんてとてもとても。
えいっ、と大河がその小さな手で掴んでみる。優しく、傷つけないように。
「おぅっ!」
しかし思った以上に竜児にはその刺激が強かったようで。大河のひやりとした手の感覚が竜児の手乗りドラゴンを包み込む。
「うわ、なんか、ぶにぶにしてる。え、これが、その、硬くなるの?」
「そう、だよ。頼むから丁寧に扱ってくれよ…。」
竜児の脳裏に不安がよぎる。ここ最近はすっかりおとなしくなったといっても、手乗りタイガーの異名は伊達じゃない。
愛用する木刀を握るかの如く扱われたら、竜児の大切な手乗りドラゴンはあっという間に絶命してしまうだろう。かよわい絶滅危惧種なのだ。
「わかってるわよ…」
大河は両の手でそれをそっと包み込む。むやみやたらに握りこむことはせず、やさしく、やさしく。そして。
口もとを近づけ、匂いを嗅いでみる。変なにおいはしないわね…。そういうもんなのかしら。
もちろんそれは竜児が直前に風呂で念入りに綺麗にしておいたおかげでもあるのだが。自分の最大の急所を握りこまれてしかも嗅がれるなんて状況はとてつもない屈辱で。
「あ、あの大河さん…。無理そうなら無理にしなくても…」
竜児がおずおずと、なぜか今更大河にさんを付けて。それぐらい危機的な状況。
「大丈夫よ!わかってるんだから!」
そして、その先端を大河はぱくっとまるで嫌いな野菜を口に放り込むかのごとく。咥えこんだ。
「お、おぉっ!?」
その瞬間竜児も悶える。確かに感じる、自分の大事なさきっぽを包み込むぬめりとした感触。温かな大河の口の中。
先っぽを舌でなめまわされている。大河が顔を真っ赤にして、あまつさえその美しい瞳に涙まで湛え、自分の一人息子を咥えこんでいる。
「んちゅっ、ん…」
大河は必至だ。どうしたらいいのかなんてわからないけど、きっとこうするのが正解、なはず。なけなしの知識がそう教えてくれている。
そしてその行動が正解であったことを大河は身をもって知る。咥えこんだそれは徐々に硬さを増し、あっという間にガチガチになってしまう。
「くぁっ、大河…、おまえ…」
「んん…、ぷはぁっ!」
別に息を止める必要なんてないのに。必な大河は呼吸をすることすら忘れているほどで。
はぁはぁと肩で息をしながら、自分の口から放したそれを見つめている。そして。
「どうよ!完璧でしょ!」
なぜかしたり顔で。いやまぁ結果だけを見れば完璧っちゃあ完璧なんだけど、なんだろう、そういうことじゃなくて…。
「お、おぅ。」
しかしギンギンになってしまったのは事実で。
それは大河のテクニックがどうとかそういう話ではなくて、単にかわいい大河が自分のために必になって咥えてくれたという事実が、竜児の手乗りドラゴンをいきり立たせたというだけの話なんだけど。
まぁ初めてなんだし、これでもいっか、というのが竜児の素直なところであり、正直これ以上させてると何が起きるかわからんというのもまた一考。
やってやったぜと言わんばかりの大河の鼻を挫くこともないか、ということで。

132 :
 
「大河、いくぞ…。」
「…うん、きて」
自分の大きくなったそれに母親にプレゼントされたフィルムを被せ、そして一糸まとわぬ大河の上に覆いかぶさるようになり竜児が囁く。
装着するのに手間取って、1枚2枚と無駄にしてしまったのを大河に目撃されてかなり恥ずかしかったが、ようやくうまくいったそれを大河の湿り気を帯びた秘部に押し当てる。
初体験。そんな単語が脳裏に浮かぶ。
俺はこれから、大河の初めてを奪う。大河はこれから、俺に初めてを捧げる。
高校2年生になって、初めて同じクラスになったこいつにいきなり廊下でぶん殴られて、放課後に鞄を取りに教室に戻ったらこいつが掃除用具入れから転がりでてきて、かばんを引きちぎられそうになって俺はこいつがぐちゃぐちゃにした教室を掃除して、
そんで夜中にいきなり襲撃されて襖に穴を開けられて、チャーハンを食わせて、開けられた穴にはかわいいピンクの補修をして、そして俺たちは秘密を共有しあって。
いろんなことがあったな、と思う。
これまでいきてきた18年弱の中で、こいつといっしょにいたのはわずか1年ちょっとなのに。
今では竜児の全てが大河に向けられていて、それは大河も同じ事で。辛かったことも、楽しかったことも、悲しかったことも、全部ひっくるめてここまでたどり着くためのもので。
腕の中の大河が震えている。怖いのだろう。きっとそうだ。俺だって怖い。でも。
「…大河、好きだ。」
「…あたしも。」
そして、竜児は大河の中に挿入っていった。溢れんばかりの甘い蜜に浸されている入り口は、そのサイズに対してあまりにも大きすぎる竜児のそれを、必になって拒もうとする。
しかし、竜児は優しさでもってそこをゆっくりと、しかし確実に突き進んでいく。
「あっ!りゅう、じぃ…。」
大河の唇から甘い声が漏れる。名前を呼ぶ。心だけではなく、肉体でつながる感覚を覚える。
そしてすぐに、ひとつの障壁へとぶつかる。
「大河、これ…」
「…いいから、きて…」
大河は息も絶え絶えになっている。瞳は大きく開かれ、腕はものすごい力で竜児の背中を締め付ける。そして。
「ひぁっ!あっ!」
竜児が腰を深く沈めた。ずん、という深い衝撃が大河に加わり、同時にじんわりとした痛みが広がる。
「くっ、大河、大丈夫か…?」
大河の瞳が潤んでいる。その眼差しはきっと竜児を捕らえ、
「だい、じょうぶな、わけが、ない、でしょ…!」
必に言葉をつなぐ。どうやら大丈夫ではないらしい。
「す、すまん!」
あわてて竜児が腰を引こうとするが、しかし大河がその脚でもって竜児を掴んで離さない。
腕と脚とをつかって、まるで抱え込むかのように竜児にしがみつく大河は、それでも
「いいから、続けて…」
懇願する。竜児も必だ。痛くさせまいとしようにも、どうしたらいいのか。誰もそんなことは教えてくれない。いったい何のための学校なのか。親なのか。
しかし、現状を打破するには自分でどうにかするしかなくて。
「…ゆっくり動かすから、痛かったら言えよ。」
そう優しく囁く。ふるふると大河が振るえ、こくんと頷く。そして、少しずつ腰を浮かせ、再び沈める。
竜児の背中に纏わりつく大河の脚が離れ、空を彷徨い、再び土踏まずが布団の上に着地する。
膝を折り、日常の中では想像もつかないような煽情的な恰好で。
竜児のゆっくりとしたピストン運動にあわせ、大河の全身はぴくぴくと震えている。
大河の腕を優しくほどく。布団に仰向けにされた大河は、局部で竜児と繋がったまま、無防備に肢体を露にしている。
竜児が腰を落とす。大河が震える。腰を浮かす。大河が震える。あっ、あっ、と声にならない声が漏れる。
どれだけの時間がたっただろう。拙い二人の初体験は、お世辞にも上手とは言えない竜児の優しさをもって終局を迎えようとしていた。
「くっ、大河…!」
竜児のそこはすでにはちきれんばかり。限界は目の前だ。
「いく、ぞ…!」
「あっ、りゅうじ…!」
大河もそれに応える。下半身に感じる違和感は、痛みの波を通り越し別の感覚へと変わっていた。
自分の初めてを捧げられた。自分のことを大切に想ってくれる人に、自分の初めてを奪ってもらえた。それがうれしくて。
痛いし、しんどいけど、でも幸せで。そして。
「くっ…!」
どくどくと、大河の中の竜児が躍動する。吐き出されたものは大河に直接ふれることはないのだけれども、大河はその感覚を薄いフィルム越しに確かに感じる。
2回、3回と大きく跳ねて、そして落ち着きを取り戻す。
竜児が大きく息をはいて、大河に突刺した自らを引き抜き、後始末をする。引き抜かれた大河はその様子を眺めている。

133 :
 
手早く自分の手乗りドラゴンを保護しているフィルムをはずし、くるくるっとまるめ、そばにあったティッシュを2枚3枚と引き抜き包む。
包まれたそれをそのままゴミ箱に捨てようとして一瞬躊躇う、これは袋に包んでどうにかもっとこう見えない形にとかなんとか。
「りゅうじ…。」
「お、おう?」
別にそんなにあせることないのに、なぜかそそくさと後始末を済まそうとする竜児に向かって大河が呼びかける。
ねぇ、そばにいて。
大河の切なる願い。今は竜児と離れたくないの。
その言葉を聞いて、竜児は己の愚かさを後悔する。なにをしているんだ俺は。こんなことはあとでだってできる。今は大河のそばにいてやるべきなんじゃないのか。
「大河、すまん」
「もう、いいから。ね、ぎゅってして。」
竜児は大河を抱きしめる。強く、強く。大河もそれに応える。歪で、不器用で、お世辞にも良かったなんて言えないけれども。
二人の間にまた一つ、秘密が生まれた。一生のこる証として。
望んだものは全て壊れる世界で、新たに生まれた壊れない絆。
「ね、竜児。」
「なんだ?」
「…ありがとう。」
なにに対しての感謝なのかはわからないけれども。いやほんとうはわかっているのだけれども。
大河の言葉を受け取り、竜児はその言葉をかみ締める。
お礼を言いたいのは俺のほうだ。ありがとう、ここにいてくれて。
言葉に出す代わりに、大河の頭を撫でる。じとっと汗ばんだふわふわの髪は、竜児の手に揉まれくしゃっとその形を変える。
竜児に抱かれ、されるがままになる大河は何も言わず、そのままに。
二人だけの夜は静かに更けてゆく。

***

134 :
  
「わぁ〜竜ちゃん今日の朝ごはんはなにかな〜。」
「アジの干物と、卵焼き。ま、いつもどおりだな。」
「はぁ〜、やっちゃんはぁ、いつもどおりが一番いいと思うでヤンスよ〜。」
久しぶりの朝帰りだというのにそれでも元気な泰子はいつもどおり幸せそうだ。
「ね、大河ちゃんもそう思うよね〜」
大河に話しかける。
目覚めた瞬間の大河は、髪はぼさぼさでぼけっとしたままだったけど、すぐにいつものベッドにいないことに気付き、そして昨晩のことを思い出してはわわなんて一人で動揺していたけれども。
「大河、メシだぞ。」
竜児の一声ですっかり覚醒した。
そういえば、こうやって高須家で3人で朝ごはんを食べるのもいつ以来だろう。
私とやっちゃんと竜児の3人で、竜児の作ってくれた朝ごはん。ブサ鳥のやつはまだ寝てるのかしら、私より寝ぼすけなんていい根性してるわね。
3人で囲む食卓は、せっせと給仕する竜児とおいしそうにぱくつく二人に分かれるのだけど、幸せな食卓。いつもの食卓。
しかしそんな暖かいはずの食卓に不意に暗雲が立ち込める。
「ね〜、そういえば竜ちゃんと大河ちゃん。」
「「?」」
ふたりの頭に同時にハテナが浮かぶ。
「昨日の夜はどうだったのかな〜、やっちゃん気になるよ〜☆」
「「!?」」
ぶぼっと口の中のものを勢いよく噴出す竜児。咽てげほげほ咳き込む大河。お、お茶頂戴!
ぐいぐいぐい、と一息にお茶を飲み込んで、その様子を泰子はあらあら大丈夫〜?なんてかわいくしているけれども。
「おま、なんで!いやまぁなんでもなにも、いや、そうだな…。」
竜児の返事はあまりにも曖昧模糊だった。何を言いたいのか、竜児自身にもまったくわからずつらつらと言葉が並ぶ。
大河は何かを思い出し耳まで真っ赤にさせて、黙り込んでいる。私は竜児としたんだ私は竜児としたんだ私は竜児と……
「ふふふ、ごめんね?」
泰子がほにゃほにゃと謝る。
「やっちゃんは、竜ちゃんと大河ちゃんのことを心配してたんだけど、その様子なら何も心配することないみたいだね〜、よかったね〜大河ちゃん」
「…やっちゃん、ありがと」
「いえいえ、これからも困ったことがあったらガンガンやっちゃんたちを頼るでガスよ!」
どん、と胸に手を当て、泰子が答えた。
「うん。」
そして大河は朝食の続きを始める。味噌汁をずずずーと啜る音が響く。しかし釈然としないのは竜児で。
「え、泰子を頼るって…?」
「ふふふ、竜ちゃんは、かわいい女の子たちに囲まれて大変でヤンスね〜☆」
泰子がふわふわ笑うが、竜児にはその意図がつかめず。
「え、なんだ?どういうことだ?」
困惑する竜児は自分の朝食そっちのけであたふたと。しかしその状況を良しとしないのは何故か頬を紅潮させた大河で、
「うっさいわねぇ!あんたはあたしのご飯を盛ることだけを考えてればいいのよ!ほら!はやく!」
そういって、空になった自分の茶碗をずいと突き出す。
お、おうといってそれを受け取ってご飯を盛るが、なにやら自分の知らないところで大河と泰子がつながっているようで、しかし詳しいことはなにもわからない。
「ほらよ」
「ふん、あんたにしては上出来じゃない。」
盛ってもらっておきながらえらそうに、なんてことは口には出さず。
結論から言うと、大河が自分の母親に相談したのがそもそもの始まりだった。ふと吐いた弱音。数ヶ月前までは信頼なんてものから程遠いところにいたはずなのに、母と娘はそれだけの絆を取り戻しつつあった。
そんな娘の相談事を具体的に解決するために母親がとった策は、相手方の母親へ相談すること。つまり泰子に話がいった。
あとは推して知るべし。泰子の行動が竜児を急きたて、結果竜児はおかしくなっていたのだが、竜児がそんな女の子(誓って女の子)ネットワークに囲まれていたなんてことはもちろん知る由もなく。
なにも知らない竜児は、晴れ渡る休日の空を眺め今日は洗濯物がよく乾きそうだな〜なんてことを一人考えているのだった。

135 :
ぜんぜん予定通り投下できなかったかなしい
途中でGが2個あるの気づいたし俺のバカ
というわけで。
今回は以上です。
そいで、続きます。たぶん。
どう続くのかというのはとりあえず秘密なんですが、今回が@でたぶんEまであります(予定です)。
過疎なんかに負けないんだから(震え声)


補足
超絶どうでもいい情報ですがサ○ミオリジナル002はラテックス(ゴム)じゃないんですね調べて初めて知った
まぁ、そこらへんは適当で。

136 :
いい仕事しますなぁ
アニメ見始めた頃のほくほくとした暖かい気持ちを思い出したよ
gjです!

137 :
乙乙
また、このスレをチェックする日々が始まったか

138 :
GJ!続きを待ってます!

139 :
乙ー
荒らしも居なくなったしええ流れや

140 :
おつ

141 :
今更ながら乙!
竜虎はやはりいいものだ

142 :
俺は竜虎以外のネタも常時受け付けてるぜ
かも〜ん

143 :
保守

144 :
保守

145 :
保守

146 :
こんばんは。2週間ぶりです。
今更ながらスピンオフ1〜3も買って読みました。まだ3の途中ですが。面白かったです。感想おわり。
予告通り前回の続きです。といっても前回はあれで一応完結している体なので続きというほどの続きでもないのですが。今回以降はちゃんと続きます。
ほいで、注意事項というほどのものでもないですが、この手の二次創作にはやはり向きにより好き嫌いがあるので以下の内容に目を通した上で読んでいただけると幸いです。
★シリーズ通して
カップリングは大河×竜児のみ 揺れる二人の恋心
全体的にシリアス、暗め ふわふわ甘い文章を期待されている方には申し訳ないですが、ちと重い内容です
特に全体的に実乃梨(と大河)が辛めです、これは別に僕が実乃梨を嫌ってるからそうしてるわけではないですあくまで演出のためのものなので、そこに関してはご容赦の程を
実乃梨が辛いのが許せないという方はスルー推奨
若干のオリジナル設定あり、一部キャラは僕のフィルターを通ってるので性格へんくねって言われても困る
えっち描写はちょいちょいいれるつもりですが、あんま重要じゃないので気持ち程度になると思います
お前エロパロ板になにしにきてんのって言われたら詰む

★今回の分
大河×竜児、実乃梨、北村(モブ)
原作アフター高校3年生 7月末〜8月頭ぐらい
えっちしーんあり、短め
予定通り投下できれば12レスの予定
↓↓↓

147 :
ごめん一個目から長すぎてだめぽっていわれたからちょっと直しまう、、

148 :
 
高須竜児は模範的な優等生だ。
それは日頃の振る舞いでもあるし、その人あたりの良さ(見た目は怖いが喋らせてみればいい子なのだ)でもあるし、そして成績でもある。
学年トップとは言わないまでも、3年生に進学してからは最初の中間テストで学年10位代、調子が良かった科目については一桁代にも食い込むほど。
特に得意な数学では、上位3名に名を連ねたほどであり、親友の北村祐作との切磋琢磨もありその頭脳には磨きがかかっていく一方だ。
それなのに。
どうして。
手元に返された答案用紙に記入された点数を見て、竜児の顔が歪む。
地獄の三白眼からは人光線が発せられ、横の席に座る未だに竜児のその顔面凶器に慣れることのできない哀れな同級生がひっと怯えそのまま絶命してしまうなんてことはないのだが、
その血走った眼は見るものにかなりの衝撃を与える。
こんなはずではという言葉が脳裏に浮かぶ反面、当然かという現実を受け入れる気持ちが浮かぶ。
予想はしていた。たしかに甘かった。油断していたとも言える。もちろん油断していたつもりがあったわけではないが、この結果がなによりの証拠だ。
最近は、予習はおろか復習すら疎かになっていた。決して内容についていけてないわけではない。
授業はもちろん真面目に聞いている。しかしここは特進クラス。それだけでは不十分なのだ。
授業内容を自分なりに理解し、かみ砕いた上で飲み込み、それに応用を効かせられるレベルまで持っていかねば、上位に食い込むなんてのは到底不可能な話なのだ。
高須竜児には夢がある。夢といっても、スポーツ選手やアーティストなんていう夢のまた夢というようなものではない。
現実的になりたい職業があり、将来自分がどうありたいかという目標がある。
そのためには、現在この成績ではまずい。大学受験を控えたこの年に、この為体ではたいへんまずいのだ。
「おい高須。」
震えながら答案用紙を見つめる竜児に声をかけるものがいた。
二人の間柄を知らない人間が見れば、恐ろしい面構えの不良になにもしらない小動物系メガネ君がうっかり近づいてしまって骨の1本や2本へし折られるのではないか、
というような不安がよぎる場面だがもちろんそんなことはない。
「お、おぅ、なんだ北村」
「テスト、どうだったんだ?」
声の主は1年生のときからの級友にして、最も近い同性の友である北村祐作。優等生。生徒会長。失恋大明神。
そして勉学における最大のライバル。
中間では、得意の数学こそギリギリ勝利を収めたものの、それ以外ではすべて敗北だった。もちろん竜児だって決して悪い点数ではなかったが、
単に北村がそれの上をいく成績を収めていたというだけの話。
もともと優等生の北村に、ただの一科目でも勝利できたのは、竜児にとってそれはそれは嬉しいことだったのだ。
しかし。それなのに。

149 :
 
「お、おまえはどうだったんだ?」
竜児の顔が引きつる。この顔、この雰囲気を見ればまともな人なら察しがつくであろうものの、そういうところは人一倍鈍い北村祐作。
「ん、俺か?まぁ、ケアレスミスがなぁ…。」
といって自らの答案用紙を恥ずかしげもなく晒す。
そこには、96点、94点、97点…、と90点台のオンパレード。さすがはブレない優等生、この点数なら中間からの連続学年総合1位も十分にありえるだろう。
「こことかなぁ、ちょっと気を付けてれば満点とれたんだがなぁ。」
などと冷静に自己分析を行っているが、竜児にはもはや直視するのもつらいほど。
顔面に手をあて机に立て肘をつき、ふふふと今際の笑い声のようなものをあげている。 
「笑えよ。」
そういって、竜児が北村に見せた答案用紙には。
得意の数学だけかろうじて80点台なものの、それ以外は70、ひどいものは60台のものまで。
答案用紙を覗けば安易な計算ミスだったり、ちょっとした勘違いだったりと十分気を付けていれば防げていそうなミスが散見される。
「どうしたんだ、体調でも悪かったのか?」
北村が心配そうに問う。
果たして自分は体調が悪かったんだろうか?
「そうかも、しれねぇな」
そう小さく答え、そしてまたふふふと暗い笑いが零れる。
体調がわるかった?もちろんそんなことはない。肉体的には健康そのものだった。
しかし、精神的にはどうだろう?
自分が勉強に、テストに集中する妨げとなるものが存在したのではないのか?
そう、存在した。間違いなく。
だが悪いのはそれではない。存在したって、それを完璧に無視などせずとも、十分に一人の時間はとれていたはずだし、勉強の時間もあったはずだ。
しかしできなかった。しなかった。自分は間違いなくそれに気を取られ勉強を疎かにした。それを言い訳にして、復習予習を怠った。
結果がこのザマだ。なんとわかりやすいんだろう。
唯一の救いが、これが1学期の期末テストであったこと。もし大学受験本番でこんな無様な結果を晒したら。
竜児の胸の奥には、反省と自戒と自己嫌悪とそのほかいろいろな自分を責める感情が渦巻いていた。
それのせいにするな。それは悪くない。悪いのは俺だ。だから
「ちゃんと復習しよう…。」
本音。
「おう、わからないことあったら聞けよ、手伝うぞ。」
親友の優しさが身に染みる気怠い初夏の午後だった。


―――オレンジA  夢や理想は膨らむばかり―――

150 :
 
都心から電車で小一時間ほどに位置する大橋の町。
いわゆるベッドタウン的な地方都市であるこの町に存在する唯一の公立図書館の自習スペースの一角に、一組の若い男女が向かい合って座っていた。
男のほうは高須竜児。おおよそ平和的な図書館には似つかわしくない凶器のような顔面の持ち主ながら、
その実は心優しく必要以上に所帯じみた健全なる男子高校生にして受験生。
ノートに参考書にとあまり広くない共同勉強机のスペースをギリギリまで使って左から右へとシャーペンを走らせる。
広げた参考書には化学式。無機化学における金属元素の燃焼反応。今回のテストで最も点の悪かったところ。
ノートの上で鉄原子が二価になろうが三価になろうがおそらく今後の竜児の人生に影響を及ぼすことはまったくないだろう。
それでも覚えねばならないのだ。その色も含めて。
対して向かいに座るのは逢坂大河。その精緻な美貌と長く質量のある髪の毛、夏休みだからといって手抜きをすることのないふりふりのかわいいワンピースを着こんだ小さなお姫様は、
西洋的な内装の図書館と一見マッチして見え、なんでこんなところにこんな美しい人形がというような錯覚を覚えるがその実こちらは心底不機嫌顔。
せっかくの夏休みだというのに、なんで朝っぱらからこんなところでこんな面白くもないことしなきゃなんないのよという感情を声には出さずとも表情からはありありと見て取れる。
手元にはやはりノートと参考書。彼女も受験生なのだから当然なのだが、その量は竜児より圧倒的に少ない。
広げられた参考書には三角関数の公式がずらり。サインコサインタンジェントと見たくもない記号と数字の羅列が、大河を小馬鹿にするかのように紙面上で踊っている。
せっかくの夏休み。竜児に予定を尋ねたら「図書館で勉強だ」と即答されてしまい、仕方なくそれに付き合っている。
そもそも大河は勉強が苦手なわけではない。成績だって悪くない。得意な英語は、普通クラスにしてはかなりできるほうだし、それ以外の科目も概ね悪くはない。数学がやや苦手な程度だ。
「図書館なんてつまんない」
なんてダダをこねてみても竜児の意思が曲げられることはなく、
「どうせだからいっしょに行こう、数学見てやるから」
という言葉に言いくるめられ数学一式を持ってきてはみたものの、そもそも図書館の自習スペースは私語厳禁。会話ができないのにどう見てやるのかという思いに加え、竜児は向かいの席で別の科目。
話がちがうじゃないのよというのが大河の心境。そういうわけで、逢坂大河はとても現状に不満を感じていたのだ。
持ってきた参考書を覗き込む。するとそこには、【最重要】のマークがつけられた三角関数の加法定理なるものが記されている。
さいんこさいんこさいんさいん、こさいんこさいんさいんさいん…。
仕方なしにノートにそれを綴ってみる。綴られた文字はかわいい乱暴者という意味を込められた手乗りタイガーの異名をもつ腕っぷしの強いはずの大河からは想像もできないほど細くかわいらしい文字で、ノートの上におとなしく収まっている。
いったいこの作業になんの意味があるのかしら。大河は疑問に思う。
向かいの竜児をちらりと見やる。一心不乱になにかをノートに書き綴っているが、こちらの視線に気づく様子はない。

151 :
 
竜児は大学を目指している。竜児は将来を考えている。竜児と大河、二人の将来を。
初めて二人が身体を重ねた夜から数えて幾度目かの逢瀬の後に、それを告白してくれた。
祖父である清児に倣い、税理士になること。資格をとり職と収入を得て、お前を養えるようにする。そして二人で生きていく。
その話をされた時、大河は心の底から嬉しかった。二人で駆け落ちしようなんて夢みたいな話ではなくて、現実と向き合い、戦い、そして切り拓く。
その為に今竜児は勉強をして、大学に行けるだけの学力を養う必要がある。
「キリキリ働いて、私に楽させなさいよね」
なんて強がってみても、大河は喜びを禁じえず恥ずかしさ隠しのためにまた竜児に渾身の右ストレートをお見舞いすることしかできなかった。
つまり、こうやって勉強するのはいいことなのだ。二人の将来のために。
それはわかっている。竜児が私のために、今がんばっていること。それは認めなければなるまい。しかし。
竜児はがんばっていても、私は?私はどうすればいいんだろう。
大河は別に大学にいってまでしたいことがあるわけではなかった。これまで自分の将来についてなんて考えたことなんてなかった。
愛情代わりに振り込まれるクソ親父からの大金だけを頼りに世間に睨みを利かせながら生きてきた大河にとって、将来なんてのはこれまでの苦しみがひたすら続くだけのものだと思われていた。しかしその世界は変わった。
竜児との出会いによって破壊された大河のジンクス。そして母親との和解。
真っ暗な過去の延長でしかないと思われた将来に、明るい希望が見えた。
でもその未来の中で、私は、何をしているんだろう。
きっとそばには竜児がいてくれる。ママもやっちゃんもいる。みのりんや北村君だっていてくれる。もしかしたらばかちーだって。ほかにもきっと、たくさん。もしかしたら私たちの子供もいるかもしれない。
でもその中で、私はなにをしているんだろう。
竜児のお嫁さん?それはそうかもしれない。竜児が働いている間、家事をして、育児をして。
ちょっと想像しにくいな、と思う。現状二人でいたって家事をしているのは専ら竜児だ。それは竜児自身がそう望んでいるからでもある。
じゃあ私も働いているのかな?どういう仕事をしているんだろう。前やったバイトみたく、お店の前にたって道行く人に声をかけ何かを売っているとか?
それもないな、と思う。あのバイトだって状況がそうさせただけで、そうでなかったら自分から進んでやろうと思いはしなかっただろう。
売上がよかったのはたまたまそばを通りかかったばかちーのおかげだ。私の力じゃない。
結局大河には将来やりたいこともわからないし、大学に進みたい理由もないし、したがって今勉強に精を出さねばならない理由も見当たらなかった。

152 :
 
ノートの上にはさっき書き綴った加法定理が相変わらず規則正しく収められている。
参考書に書かれている正しいものと見比べてみて、間違っていることに気づく。プラスとマイナス逆じゃん…。
はぁ、と小さくため息を吐き、プラスチックの消しゴムを使って書かれた文字をこすって消す。
間違った記憶よさようなら、君たちのことは永遠に忘れるよ。
そうして無駄に消費されて生まれた消しカスを指先で弄んでいると、それはねちょねちょとした不快な感触を持つ塊となって、大河のその細く美しい指先にまとわりついてくる。
親指と人差し指の腹でそれをつまみ、ぐねぐねっと丸めて、そんな大河には目もくれず一心不乱に金属元素の炎色反応の暗記に精を出す竜児に向かって投げつける。えいっ。
投げつけられた小さな塊は、竜児のだらしなく伸びた前髪あたりに触れ、ぽとっとノートの上に落ちた。
思った以上にいいところにいってしまったのを見て、大河はあわてて再びシャーペンを持ち勉強しているフリ。
目の前に急に変なものが現れたのを見つけた竜児は、それをつまみ顔をあげる。
大河はそらぞらしい態度でさいんこさいんなんて呟きながらノートにそれを書き綴っている。
ふぅ、と小さく溜息を吐いてその小さな塊をわきに追いやり、再びノートに向かう。Li赤、Na黄、K紫、…。
ちらっと大河は上目使いに竜児のほうを見る。相変わらず竜児はノートに夢中。
投げつけられた消しカスは机の隅っこのほうで竜児のだした消しカスといっしょにおとなしくしていて、きっとあとでいっしょにまとめて捨てられるのであろう運命を悟ったかのような姿。
なによなによなによ。大河の中にふつふつと怒りが込み上げる。
そりゃ勉強が大事なのはわかっているけど!私がこんなことに腹を立てるのが間違っているのもわかってるけど!けど!
込み上げた怒りはどこかへ放出されることなく、爆発することもなく。そのまま虚しさへと形を変える。
私がこんなことに腹を立てるのはおかしい。竜児はがんばっているんだから、それを認めなければならない。
それでも。

気付いてよ、ねぇ。

無論竜児だってなにもわかっていないわけではない。
大河が現状に不満をもっていることは重々承知している。それでも自分がここで怠けることは許されないのだ。
自分の大学進学を相談したら、快く協力を申し出てくれた高須の実家のためにも。母親のためにも。
そして誰よりも、大河のためにも。
竜児だって、遊びたい盛りの18歳。こんなかわいい彼女がいて、そして一度っきりの高3の夏休み。
二人でどこか海へでも出かけて甘い思い出のひとつやふたつ作りたいのが本音だ。
しかし鉄の意志をもって、それを自戒している。あんな期末テストの点でそんなことが許されるものか。
しかも理系クラスの竜児の志望は文系の学科だ。税理士になろうと思ったら文系の学部に行く必要がある。
その事実を知った時は本気で文転も考えたが、さらによく調べてみると自分の志望する国立大学の文系学部には、数学や理科などの理系科目も必要なことがわかった。もとよりセンター試験では5教科7科目必須。
それならば理系クラスにいようが文系クラスにいようがあんまり関係ないというのが教員の弁。
それよりも得意なことを伸ばしてそこで差をつけられるようにしたほうがいいという話でそのまま理系クラスに残ることになったのだった。

153 :
 
そんなこんなで竜児はこの期末テストで盛大にすべった化学と物理の理系科目をおさらいしつつ、大河はやりたくもない数式と格闘しつつ時間は無作為に流れていった。そうして数時間が経過したころ。
本を貸出すときにバーコードリーダーが発するピッという音とたまに子供の笑い声が響くだけの静かな図書館に、スピーカーを通したアナウンスが響いた。閉館時間のお知らせだ。その後を追って流れる蛍の光。
竜児がぽんとシャーペンをノートにおき、大きく伸びをした。午前中から途中お昼に休憩をはさんだ以外はぶっつづけだ。
いい具合に疲労した頭に優しいメロディが染み渡る。
大河はとっくに勉強に飽きていて、ノートに適当な絵を描いている。描きたくもない絵を、時間つぶしのためだけに。
「大河、終わったか?」
竜児がおもむろに話しかけた。
「…なにも始まっちゃいないわよ」
ノートに乱暴に線を引いている大河の返事は無愛想で、不機嫌だ。この夏の日、最愛の彼氏と何時間もいっしょにいて得たのは間違った加法定理のみ。
さよならしたはずの間違った記憶を再びノートに書き綴っていて、途中でそれに気づいてもうあきらめてしまったのだ。そもそも正しいものを覚えていたところでなんの役に立つのかもわからない。
「そうか。」
それに対する竜児の反応もそっけないもので、自分の荷物を纏めて帰り支度をはじめる。
それをみて大河も落書きをやめて、ノートを閉じる。やっとこのつまらない時間が終わる。
二人は連れ添って図書館の受付で利用を終えるためのカードを切り、自動ドアをくぐって外へ出た。
長いはずの夏の日はすっかり暮れかけていて、今日という一日が終わったことを実感させる。
しかし気温はまだまだ高く、このひと夏に生命のすべてをかけるアブラゼミの声が響きわたる。飛び出した屋外は冷房の効いた屋内とはあまりに温度差があり、すぐにじわりと汗が滲んでくる。
途中でスーパーに寄って夕食の買い物をして帰ろう、という竜児の提案に大河も乗り(もとよりそのつもりだったのだが)、二人はうだるような暑さの中を歩き出す。

***
 

154 :
 
わざわざ川沿いの道を通る必要はなかったのだが、大河が「ねぇ竜児、あっち歩こ」と言ってきたのでそれに連れられて歩く。
いつもの道。何度も通った道。学校の帰り、昼のお出かけ、夜の散歩。
夕暮れ時の川はその陽を照り返しキラキラと輝く。人工的な河川敷に囲まれた川でも、それは美しいものだと感じる。
大河はわざわざ舗装されていない土手まで降りて、土を踏みしめ草をかき分け歩く。竜児もそれに付き合う。
二人ともなにも言わなかった。ただちょっと前を歩く大河の後ろに竜児が続く。
大河はあっちへふらふら、こっちへふらふら、うしろから見ていて危なかっしい動きをしている。
石に躓いたらそっと手を差し伸べて支えてやろう、ほれ今に転ぶぞ転ぶぞと竜児は見てて思うが間一髪、大河は小石に躓くことなくその歩みを進めていく。
竜児は、大河に話しかけることができなかった。今日一日大河の機嫌が悪かったことは重々承知しているし、その原因が自分にあることもわかっている。そして自分も大河も悪くないこともわかっている。
だから大河も表立ってそこに文句をつけるようなことはしない。しかしそれはとても居心地の悪い空気だった。どうせならいっそのことぎゃあぎゃあ文句をいってほしかった。
結局自分は大河に我慢をさせているのだ。それが歯がゆくて、この状況をなんとかせねば、と思い、
「…な、なぁ大河」
意を決して声をかける。
「今日は何が食いたい?なんでも作ってやるぞ」
少し前を歩く大河の動きがとまり、こちらを振り返る。
その細い両の手を後ろ手に組み、腰をまげ、顔を傾げ。
夕陽を背にしてこちらを見つめる大河の瞳には、喜びでも悲しみでもない、空虚さのようなものを湛えている、ような気がする。
「…そうねぇ、」
しかしそれは気のせいだった。大河はいつも通り。さっきまではちょっと機嫌は悪かったかもしれないが、今はいつも通りの天真爛漫お姫様だ。
竜児の不安も風前の灯よろしく、腕を組み真剣に悩む大河が答えを導き出す。
「肉ね、一日勉強して疲れたし、今日は肉が必要だわ。」
「そうだなー、豚肉なんかはビタミンB群が豊富で頭にもいいっていうしなぁ」
などと、どこかの情報番組で得た主婦のような知識を披露するがそんなことはどうでもいい。
なんとなく二人の間を流れていた気まずい空気は一瞬でどこかへ消え去った。そのことが嬉しくて、竜児の頬が緩む。大河もふわっと笑う。
「そうと決まったら早くいくわよ!豚肉売り切れちゃう!」
大河が竜児の腕をつかんでひっぱる。力強い大河の手。小さくてもしっかり捕まえて離さない。
「お、おうそんなひっぱるなって!」
「早く行くわよ!この勉強犬!」
よくわからない罵りを受けるが、それすらも竜児を安心させる。

155 :
 
そうしてまた歩きだす二人を遠くから眺めている者がいた。
特徴的な赤みを帯びたセミロングの髪と、運動部の必須アイテムであるエナメルバッグを肩にかけて、夏休みだというのにちゃんと制服を着て学校へ行く男女ソフトボール部を纏める頼りになるようでならないようでなる部長。
たまたま部活の帰り道に二人を見つけただけなのだが、久しぶりに発見した二匹の獲物に思わずテンションもうなぎ上り。日々のトレーニングで鍛え抜かれた大腿筋が全力疾走で大きく躍動する。
「たーいーがー!!」
「!?」
一瞬なにが起きたのか理解できない大河が、声の主である櫛枝実乃梨の腕の中でもがく。実乃梨はとらえた大河の頭をわしゃわしゃと撫でまわし、わははははと謎の大笑い。
「みのりんー!」
大河が叫んで抱き着くが、そのままのハイテンションで実乃梨は大河を持ち上げ筋トレを始める。お、こりゃいいダンベルだ!いっちにーいっちにー!
「お、おい櫛枝、はなしてやれよ」
引きつった顔の竜児が実乃梨に話しかける。
「ヘイヘイ高須くん、うらやましいねーこんなところでイチャコラしちゃって!今日は二人でデートかい?うん?」
実乃梨が捲し立てる。その爆弾のような愛情表現から解放された大河は地面をふらふらと漂い、竜児にしがみつく。
「デートなんかじゃないわよう。二人でお勉強してたの!図書館で!」
大河がずん!と言い張る。
「おおう、こりゃあ失敬失敬!そうかーお二人は受験生だもんね!て、わたしもか!ひーこりゃいったいどういうこっちゃ!」
一人で会話する実乃梨が両手を頬にあて、どこかの有名な絵画のような顔をする。
「櫛枝は、部活か?」
「あたぼうよー!こちとら夏の大会直前の鬼トレ真っ最中でさぁ!もう監督がきびしいってのなんのですよ!ていうか!」
実乃梨は一度言葉を区切り、さらに続ける。
「高須くん!なんだかお久しぶりだねぇ!どうなのあいかわらずいちゃいちゃしてんの?え?」
実乃梨が竜児に話しかけながらぐりぐりと大河を小突く。
「い、いちゃいちゃなんてしてないわよ!みのりんのばか!」
大河は恥ずかしそうに顔を赤らめ否定する。今まさにいちゃいちゃしていたようなところなのだが、そんなことは関係ない。
「ひゅー!照れちゃって!愛いやつらめうらやましい限りですわ!でもいいのあたしにはこのグローブとボールがあれば!我が青春はここにあり!」
そうしてなぜか夕陽に向かって敬礼する実乃梨。
「みのりんの青春…、てかみのりん大会なんだ。応援とか行けないのかな」
大河の言葉に実乃梨ははっと我に返って答える。
「お!応援きてくれちゃうの!大河と高須くんが来てくれたらそりゃもう百人力ですわ!次の試合は明後日日曜日、場所は大橋競技場!来てくれちゃってもいいYO!」
「へ〜、競技場でやるんだ!ね、竜児、みのりんの応援いこうよ!」
「え、俺も?……、まぁいいか、ていうか勝手に行ってもいいものなのかそれって」
竜児が尋ねる。
「いいよいいよー!ほかの学校からも来るし大丈夫さ!」
実乃梨の目がキラキラと輝く。
「行く行く!時間は?」
大河が詳しい予定を実乃梨から聞き出して、メモをとる。じゃあその時間に、なにか差し入れとかもっていったほうがいいかな?いやーお気遣いなくなどときゃあきゃあ盛り上がっている。
竜児も別に実乃梨の応援に行きたくないわけではない。勉強のことがちらっと頭を掠めたが、しかし今の大河を見ていると、まぁ1日くらいなら、と思う。毎日根をつめてもな。結局流されているだけのような気もしたが、そこは再び目を瞑ることにした。
大河は実乃梨の応援に行きたいと思っている。これは本心だ。だが本音ではない。
本当は竜児と二人で出かけたかったのだ。息のつまる図書館なんかではなくて。そんなわがままいってはいけないことはわかってるけど、だってたった一度きりの夏休みなんだから。

156 :
 
その夜二人は毎週恒例になった高須家での夕食をとった。
あいかわらずおいしい竜児の手料理と、できる範囲で手伝う大河。傍目にはちょっとした新婚に見えなくもない。
スーパーで安売りしていた豚肉を生姜焼きにして、キャベツの千切りを添える。プチトマトも添えて、彩も鮮やかに。
竜児お手製の糠床からきゅうりを一本とりだして切り、よくしみた糠漬けを噛みしめる。味噌汁もいい塩梅。
そうして夕食が済めば別々に風呂に入り、ちょっとだらだらして、そしてなんとなく。一緒の布団に収まる。
一枚の布団の中で、竜児が大河を優しく抱きしめると、大河もそれに応えるように甘い声を出す。
最初の数回こそおっかなびっくりだったものの、要は慣れだ。
竜児は優しく大河のネグリジェを脱がし、その肢体を露にする。
唇を重ね、その大きな手で優しく愛撫されればこんどは大河が竜児を求め、竜児もそれに応える。
初めて身体を重ねあった夜、わけもわからず咥えこむことしかできなかった大河も、慣れた手つきで竜児の手乗りドラゴンを優しく愛撫するようになった。小さな手で優しく撫で、揉み、そして舌を這わす。
どこをどうすれば竜児が悶えるのかを理解した大河には、それが愛おしくしかし面白く、竜児の弱いところを執拗に責める。
「たいが…、おまえ、どこでそんなこと…」
「ふふ、何回もやってりゃわかるわよ。」
不適に笑う大河はすっかり慣れた手つきで竜児を絶頂へと導く。くぁっと竜児が声にならない声をあげ、大河の口の中で果てる。
「んっ、んくっ…、」
口の中で竜児の精液を受け止めた大河は、んー、とそれを口に含んだまま竜児に渋い顔を見せて、それを手に吐き出す。
吐き出されたそれはどろりと大河の小さな手の平に纏わりつき、用意されていたティッシュを何枚も使って拭き取られる。
「こればっかりは、慣れる気がしないわ…」
どうやら大河はその味も食感もあまりお気に召さないらしい。恐れ多い竜児は飲んでくれなんてアホなお願いはしないのだが、その渋い顔をする大河を見てなにをさせているんだろうと思う。
「いいのよあんたは私にまかせておけば。」
それでも大河は強気だ。
果てたばかりの竜児の手乗りドラゴンを再び手につかみ、今度はそこに薄いフィルムを被せていく。
竜児が初めて自分でやったときはあんなに苦戦したのに、大河がやらせてとねだるのでやらせてみたらいとも簡単にうまくいって竜児はまた軽く凹んだのだが、それはまた別のお話。
そうして再び二人は唇を重ねあい、舌を絡ませ、そして下半身で結合する。大河の華奢な体躯には大きすぎる竜児のミニチュアドラゴンが、大河の中で躍動する。
あんなに強気だった大河が竜児に組み伏せられ、声にならない声をあげて竜児に甘える。一度なんかでは収まらない竜児の若い迸りが大河を快楽の渦へと導き、溺れさせていく。
弱点を知っているのは大河だけではない、竜児も同じこと。どこをどうすれば大河が喜ぶかを理解し、それを実践していく。
そうして新たな発見が得られればそれは二人の間の秘密として共有され、二人の絆はより深まっていく。
竜児が大河の中で大きく躍動し、果てる。それにあわせ大河もひときわ大きく痙攣する。
今だけは、この時だけは二人の間にはなんの不安もなくなるのだ。
週に一度の、夜のこの数時間の間だけは。

***
 

157 :
 
高校女子ソフトボール部、地区予選決勝大会は大橋競技場で開かれた。
女子ソフトボールといえば、近年注目を浴びる競技の一つである。オリンピックで日本の選手団が輝かしい功績を残し、次期エースの到来を感じさせればマスメディアがこぞって取材に訪れるほど。
大橋という地方都市でもそれは例外ではなかった。地区予選の決勝でもあり、勝ったほうが関東大会へと進む。
地元ローカルテレビの取材もきており、応援にも女子スポーツにしてはそこそこの数の人がはいっている。
そんな中竜児と大河は3塁側の応援席に二人で座り、強すぎる直射日光を浴びながら試合を見守った。
大河は真っ白なワンピースにつばの広い帽子をかぶり、日焼け止めもばっちり。
竜児もいつものデニムにポロシャツ、大きめの水筒に冷やした麦茶を入れ、気分は散歩ついでに訪れたおばあちゃんのような感じ。
外部からの差し入れは禁止されているということで今日は観戦のみ。どこかであいさつするチャンスがあればしようぐらいのスタンスでいた。
試合は拮抗していた。元気すぎる初夏の太陽が醸し出す炎天下、エース櫛枝は奮闘を続ける。
時折ランナーを出しながらも要所を締めるピッチングで、スコアボードには0が並ぶ。
しかしそれは相手も同じこと。相手チームの投手もなかなかのもので、大橋高校も点をとれずにいた。
「あぁもう!なんであんな球に手を出すのかしらね!?」
観戦モードの大河がイライラしながら、竜児が注いでくれた麦茶をぐいっと飲み込む。コップ代わりの水筒のふたを竜児にずいっと突き返し、竜児はそれを受け取り自分が飲むために新たに麦茶を注ぐ。
大河と対照的に、竜児は驚いていた。あんな速い球、手を出すどころかバットを振ることすらできなさそうだ。
もしかしたらびびってバッターボックスで腰を抜かすかも、ぐらいの気持ちだ。
ランニングやキャッチボールをする姿を見たことはあっても、全力投球は初めて見た。すごい世界だな、と思う。
これが櫛枝のいっていた意地なのか。なるほどこれはすごい、という驚きを隠しきれなかった。
「あぁ、すげぇな…。」
大河の言葉に対する竜児の反応は、支離滅裂なものだった。大河も試合に夢中でそこに気づくことはなかったのだが。
そんなこんなで試合は最終回である7回裏へ突入。大橋高校は守りの番。
この回で点が入らなければ、タイブレーカーといういわゆる延長ルールに突入する。
実乃梨はまだまだ元気そうだった。この酷暑の中でも日々の体力づくりの成果がでているのだろう。
しっかり水分も補給しているし体力的にはまだ投げられそうだ。ベンチで監督となにか話をしているが、その表情には余裕が見て取れる。
対して相手の投手はかなりきつそうに見えた。というよりそれが普通だろう。ここまで投げ抜いただけでも十分賞賛に値するほどだ。
つまり、この回を守りきれば大橋高校の勝利はぐっと近づく、というのが試合を観戦していたものたちの推測だった。
最初のバッターを三振に仕留め1アウト。続くバッターを外野フライで打ち取り2アウト。
この回3人目のバッターが打席に立つ。エース櫛枝はここでも全力だが、しかし打者も粘る。実乃梨の剛速球に必に食らいつく。
しかし最終7回裏、2アウト2ストライク。あと1球でこの回も終わり。
逆にバッターは必至だ。なんとしても出塁して、次に繋げなければ。次の回を守り切れる自信はない。
実乃梨がキャッチャーのサインに対し、2度首を振る。そして頷く。その美しいウインドミル投法から繰り出されるのは渾身のストレート。
球はキャッチャーの要求通り、ストライクゾーン内角低めの嫌なところをつく。
バッターは必にあわせにいく。短くもったバットを振りぬき、快音が響く。そして。

158 :
 
何が起こった?

竜児はその目を疑った。
実乃梨が腕を抑え、マウンドに蹲っている。バッターランナーは必に走り、1塁へと滑り込む。
マウンドで膝をつく実乃梨が必に目の前を転がるボールをつかみ、1塁へと送球する。が、その球にはまったく力がこもっておらず、目標地点まで届かない。
それを見て、ランナーはさらに2塁へと駆ける。あわててファーストが実乃梨のほうへ走り寄り、ボールを拾いセカンドへ。ランナーはそこで止まってセーフの宣告を受ける。
しかしチームはそれどころではない。内野のチームメイトが実乃梨のもとへ駆け寄る。監督がタイムを叫ぶ。
状況を見た審判も試合を一時中断させた。そして。
「みのりん!」
大河も駆け出す。グラウンドへは行けないが、せめてもっと近くに。何が起きたのか知りたい。
実乃梨は腕を抑えたまま、起き上がれずにいる。
***
 
ピッチャー返しを肘に受け痛めた、というのが診断結果だった。
病院に緊急搬送された実乃梨はそのままそこで診察を受け、その腕を包帯でぐるぐる巻きに固定されていた。
しかしそれ以上に重大なことが起きていた。医師の診断によると、痛めた肘は日常生活に問題はない程度に回復はするだろうが、再びボールを投げるられるような状態に戻るかどうかは怪しいというものだった。
損傷は見た目以上にひどく、話す医師の顔も深刻なものだった。
大事な大事な夏の大会。自分の夢、意地のために是が非でも結果を残したい試合。その決勝戦、もうちょっとで勝利できて、そしたら関東大会に進んで、実力を示して注目も浴びて。その夢は、無残な形で閉ざされた。
結局実乃梨が投げられなくなったチームはそのまま敗北した。大河と竜児は実乃梨が座るベッドのそばで、何も言えずにいた。
女子ソフトボール部にいた別の知り合いの口利きで、二人は実乃梨に付き添うことが許された。しかし。
今の彼女になんて声をかけたらいいんだろう。慰め?励まし?
どちらも無意味だ。
竜児は実乃梨の夢を、意地を知っている。そのために何を犠牲にしたかまでも。
自分の貫きたい意地のために、目の前の幽霊に目を瞑り戦いへと身を投じた彼女の覚悟を現実はいともたやすく踏みにじった。
病院にはピッチャー返しを放った相手高校のバッターも訪れた。彼女も泣きながら必に謝った。
こんなつもりじゃなかった、ただ夢中で、打ち返すことだけに精一杯で。もちろん誰も彼女を責めることはしない。
スポーツのルールに則り、正々堂々と戦った上の事故なのだから。
泣きながら謝る少女は、監督に付き添われ帰路についた。それでも彼女はまだバットを握れる。戦える。
しかし実乃梨はもうグラウンドへは戻れない。

159 :
 
チームは敗れ、あとには動かせない肘と青春の全てを失った自分だけがベッドの上に残った。
日常生活に支障をきたすことはないだろうが、ピッチャーとして再起するのは厳しいだろうという診断結果と共に。
病室にはさっきまでチームメイトや監督がいたが、学校へと戻っていった。残されたのは、ベッドの上の実乃梨とチームとは関係ない大河と竜児。
どうしてこんなことになってしまったんだろう。そんな問いがぐるぐるとそれぞれの頭の中をめぐるが、誰もが答えを導き出せずにいる。
そんなことはどの科目の参考書にも書いてなかった。
「みのりん…。」
大河が囁くように呼びかける。実乃梨は答えない。顔には暗い影がかかり、いつもの太陽のような明るさは鳴りをひそめている。
「元気、出して…。」
そんな呼びかけが今の実乃梨に届かないことは大河も知っている。しかし何も言わずに突っ立っているだけなんて。
私は彼女の親友なんだ。ここで彼女を励ましてやれないで、なにが親友か。
「大河…。」
実乃梨が顔をあげずに呟く。その目は落ちくぼみ、涙は枯れ果てている。
「ごめん…、いまは一人にしてくれないかな…。」
実乃梨が消え入るような声で呟く。大河でも無理だ。彼女の心の傷は体の傷と比べ物にならないほど大きい。
これまで人生のすべてを投じてきたといっても過言でないものが、失われてしまったのだから。
「また、お見舞いくるから…」
そう言葉を残して、大河は病室をあとにした。あとに残された竜児もはっと我に返りそれに続こうとする。その間際に
「高須、くん」
「なんだ?」
実乃梨が竜児に呼びかけた。顔をあげこちらを見ている。その日に焼けた顔には涙の跡が見て取れる。竜児は実乃梨を見つめる。
「…ごめん、なんでもない。大河のとこいってあげて。」
そう言って、先にでていった大河についていくように促す。
「…おう。」
と小さく答えて、ドアノブに手をかける。そして、
「俺も、見舞いくるから。」
と実乃梨のほうに向かって言葉を残し、部屋から出て行った。
そして病室に一人っきりになった実乃梨は声も上げずに泣いた。感覚を失った利き腕と、どうしようもない虚しさに包まれて、瞳から溢れる涙を拭うこともできずに。
『俺も、見舞いくるから。』
去り際に残された優しい一言を頭の中で反芻しながら、やがて実乃梨は泣き疲れ泥のような眠りについた。

***

160 :
 
その夜、大河と竜児は大河のマンションで大河の母親と一緒に夕食をとった。
メニューはシンプルな肉野菜炒め。味付けも市販の味噌だれをかけただけのもので、細かいところにこだわりを見せる竜児にしては極めて珍しいメニューだ。
竜児の手の込んだ料理に慣れっこの大河ならなんで手を抜くのなんて文句をいいそうなものだが、大河もなにも言わず黙ってそれを食べている。
母親からしてみれば、別にいつも凝った料理を作れなんて要求をしているわけではないのだが、密かに竜児のつくる料理を楽しみにしていただけにこれはどうしたんだろうといった状況。
これはどうしたんだろうどころか、この娘とその彼氏にはいつものような会話がまったくない。それでいて険悪なわけでもない。
喧嘩をしたならそもそも一緒に夕食をとるなんてことはしないだろう。しかしこの空気はただ事ではない。
一言でいえば、どちらもひどく落ち込んでいるように見えた。
「あなたたち、なにかあったの?」
母親がそれとなく尋ねる。その質問を受け、味噌汁を啜っていた大河がその動きを止め、お椀をテーブルの上にことりと置く。
「友達が、怪我したの。」
大河が小さく答えた。
「みのりんていう、私の一番大切な友達がね、今日部活の試合で怪我しちゃったの。それも大怪我。もうスポーツ選手としてはダメかもしれないって。
みのりんは私の大切な友達だから、なんとかしてあげたいって思ったの。でも、できなかった。なんて声をかければいいかわからなかった。
あんなみのりん見たくないのに、どうすることもできなかった。私はなんのためにあそこにいたんだろう…。」
大河が消え入るように呟く。静かな部屋に、小さな声が響く。竜児も何も言わない。
「それで、あなたたちの元気がなかったのね。」
母親は合点がいったように答えた。ここまで元気のない大河は初めて見た。
と、同時にそんな大切な友達がいる大橋から一時でも娘を引き離した自分を恨めしく思い、心が痛む。
「それは、私たちにはどうすることもできないわね。せめてお見舞いにいってあげましょう。」
母親が自分の考えを述べる。至極まっとうな大人の意見。
「うん。」
大河も頷いて、食事を再開する。しかしその日の3人の夕食は、いつになく鎮痛なものだった。

161 :
 
いつも通り夕食を終えて、洗い物をして、テレビを見てお茶を啜って、竜児は自宅へと帰って行った。
行動はいつも通りなのに、しかし気分はまったくいつも通りではなかった。さよならのキスもなかった。どちらも何もいわず、じゃあと一言言って別れた。
いつも通り風呂に入り、いつもよりちょっと早めにベッドに潜り込む。大きなベッドもふわふわの掛け布団もいつも通りなのに。
枕元のチビとらもいつも通りなのに。
大河は眠れなかった。今日は一日外に出て、日差しもたっぷり浴びて、体も疲れているはずなのに。
ベッドで何度も寝返りを打ち、ケータイをカチカチと弄り、いっそのこと今から竜児に電話しようかなと思い、でも時間を考えてやめてそして悩んでから再び起きだす。
戻ったリビングにはまだ電気がついていて冷房もきいている。その中で母親が小さな命が眠るベビーベッドのそばでソファに腰かけ、本を読んでいた。
傍に置いてあるローテーブルには切子のグラスが置いてあり、そこにはウィスキーがロックで注がれている。
「ねぇ、ママ」
「どうしたの。」
寝るといって自室に引っ込んだ娘が30分もしないうちに戻ってきたことに気づき、母親はその顔をあげる。
「眠れないの。」
大河の表情は暗い。彼女のショックが大きいことはさっきまでの様子を見ていれば十分承知していたが。
「そう、お友達のことが気になるの?」
「うん、それもあるんだけどね…。」
「こっちいらっしゃい」
母親が手招く。自分の据わっているソファの隣部分を手でぽんぽんとたたき、そこに座るように促す。
大河は呼ばれるままにそこに腰を落ち着ける。それと入れ替わるように母親が立ち上がり、キッチンへと向かう。
「ホットミルクでいいかしら?」
母親が尋ねる。眠れないときのおまじない、竜児くんほど上手くはないけどね、なんておどけて見せる。
「ありがとう」
大河に手渡されたのは優しく湯気をあげる暖められたミルク。熱すぎず、ぬるすぎず、ほどよく。
ソファの上に膝を抱えるようにして座っている大河が口もとに白いマグカップをあて、ずず、と音を立ててそれを口に含む。
外は夜になってもまだまだ蒸し暑いこの季節でも、冷房で温度が調整された部屋の中にいる今の大河にとってちょうどよいものだった。
「友達のことは、しかたないわね。事故だったんでしょう。またお見舞いにいけばいいじゃない。」
「うん、そうなんだけどね…。」
大河が口をつけたマグカップをそばにあったローテーブルに置いて答える。そしてまたはぁ、と小さく溜息。
「あなたどうしたの?竜児くんと喧嘩した、とかではなさそうだけど。」
大河の様子を見て、どうやらこの傷心気味の娘が眠れない原因は友達のことだけではないと気づく。
長い粟栗色の髪の毛のさきっぽを大河はくるくると手で弄んでいるが、その様子は心ここに在らず。

162 :
 
いつも通り夕食を終えて、洗い物をして、テレビを見てお茶を啜って、竜児は自宅へと帰って行った。
行動はいつも通りなのに、しかし気分はまったくいつも通りではなかった。さよならのキスもなかった。どちらも何もいわず、じゃあと一言言って別れた。
いつも通り風呂に入り、いつもよりちょっと早めにベッドに潜り込む。大きなベッドもふわふわの掛け布団もいつも通りなのに。
枕元のチビとらもいつも通りなのに。
大河は眠れなかった。今日は一日外に出て、日差しもたっぷり浴びて、体も疲れているはずなのに。
ベッドで何度も寝返りを打ち、ケータイをカチカチと弄り、いっそのこと今から竜児に電話しようかなと思い、でも時間を考えてやめてそして悩んでから再び起きだす。
戻ったリビングにはまだ電気がついていて冷房もきいている。その中で母親が小さな命が眠るベビーベッドのそばでソファに腰かけ、本を読んでいた。
傍に置いてあるローテーブルには切子のグラスが置いてあり、そこにはウィスキーがロックで注がれている。
「ねぇ、ママ」
「どうしたの。」
寝るといって自室に引っ込んだ娘が30分もしないうちに戻ってきたことに気づき、母親はその顔をあげる。
「眠れないの。」
大河の表情は暗い。彼女のショックが大きいことはさっきまでの様子を見ていれば十分承知していたが。
「そう、お友達のことが気になるの?」
「うん、それもあるんだけどね…。」
「こっちいらっしゃい」
母親が手招く。自分の据わっているソファの隣部分を手でぽんぽんとたたき、そこに座るように促す。
大河は呼ばれるままにそこに腰を落ち着ける。それと入れ替わるように母親が立ち上がり、キッチンへと向かう。
「ホットミルクでいいかしら?」
母親が尋ねる。眠れないときのおまじない、竜児くんほど上手くはないけどね、なんておどけて見せる。
「ありがとう」
大河に手渡されたのは優しく湯気をあげる暖められたミルク。熱すぎず、ぬるすぎず、ほどよく。
ソファの上に膝を抱えるようにして座っている大河が口もとに白いマグカップをあて、ずず、と音を立ててそれを口に含む。
外は夜になってもまだまだ蒸し暑いこの季節でも、冷房で温度が調整された部屋の中にいる今の大河にとってちょうどよいものだった。
「友達のことは、しかたないわね。事故だったんでしょう。またお見舞いにいけばいいじゃない。」
「うん、そうなんだけどね…。」
大河が口をつけたマグカップをそばにあったローテーブルに置いて答える。そしてまたはぁ、と小さく溜息。
「あなたどうしたの?竜児くんと喧嘩した、とかではなさそうだけど。」
大河の様子を見て、どうやらこの傷心気味の娘が眠れない原因は友達のことだけではないと気づく。
長い粟栗色の髪の毛のさきっぽを大河はくるくると手で弄んでいるが、その様子は心ここに在らず。

163 :
 
「あのね。」
ややあって大河が口を開く。
「私は、なにができるんだろう。」
大河の小さな唇が、まるで何かを恐れているかのようにゆっくりと言葉を紡ぐ。
「竜児は私のために優しくしてくれて、私との将来のことを考えてくれている。でも私は竜児になにもしてあげられないの。
なにができるのかもわからない。ねぇ、私はどうしたらいいんだろう?」
大河の告白。母親はそれにじっと耳を傾ける。
17歳の娘の悩み。将来を誓い合った男のために、自分はなにができるんだろう、何をすべきなんだろう。
思春期にしては重過ぎる告白の内容に、いや思春期だからなのだろう、母親はちょっと考えて優しく答える。
「あのね大河。あなたはまだ17でしょ。将来なんてこの先何年も、何十年も続くのよ。
そんなこと今からわかるわけないし、決めたって思いどおりになんていかないのよ。私を見ればわかるでしょ?」
あっけらかんと。さらに続ける。
「あなたと竜児くんの関係に今更口を出すつもりなんてないし、あなたにはあの子が必要なこともわかるわ。あなたが一緒にいたいという気持ちもわかる。
きっと彼もあなたといっしょにいたい。だからね、今はそれを大事にしなさい。将来のことなんて今から焦る必要ないの。
もちろん将来焦らないために今準備をしておくのはいいことだけれども、それはそんな深刻に悩むことじゃないのよ。」
母親が優しく諭すように話す。
この母親だって苦労人なのだ。大河もそれをもちろん知っていた。だからこそ悩みを打ち明けられたということもある。
「気持ちはわかるけどね。」
そして母親は自分のグラスを手に持ち、その薄茶色の中身を口に含む。グラスの中の氷がカラン、と小さな音を立てる。
傍のベビーベッドでは小さな命がすうすうと寝息を立てている。
「まぁそれでもどうしても眠れないというのなら。」
こっちはあなたにはまだ早いからと、グラスを差し出すことはなく立ち上がり、そばにあった小さな棚の上から2段目の引き出しを開け、その中から一つの小さな紙袋を取り出した。
「一錠、は多すぎるだろうから半分で十分かしらね。」
錠剤。いわゆる睡眠導入剤というやつだ。一時期母親はかなりそれに頼っていたという話を聞いたことがあった。今はほとんど使っていないそうだが。
「あまり薬に頼るのはよくないけれど、黙って飲んでぐっすり寝なさい。あまり将来のことをクヨクヨ悩んでもだめよ。それよりも、竜児くんとの楽しい未来を考えなさい。」
そう言い優しく微笑み、小さく割った錠剤を娘に手渡した。
母親からのアドバイスは予想以上の効果を大河にもたらしたようだった。
うん、ありがとうとつぶやき、うがいをして口の中を漱いでからもらった薬を水で飲み込む。
その成分はすぐに効果を発揮し、大河を夢を見ることもない泥沼のような眠りへとみるみる引きずり込んでいった。

164 :
 
「…おい、大河!」
遠くで声が響く。誰かが私を呼んでいる。
夢の中の出来事のようで意識が朦朧としている一方、まるで側頭部を拷問器具で締め付けられているかのような痛みを感じる。
はっきりしない意識の中、自分を呼ぶ声に答える。
「ひゃによぉ…。」
「おい、大河!気付いたか?大丈夫か?」
「大丈夫じゃないわよぉ…、いったいなんなのよぉ…。」
「大丈夫じゃねぇのかよ!どっか痛むのか?」
ボヤけた視界の中、必に焦点を合わせるとそこには見慣れた三白眼と変な前髪。
気が付くと目の前に竜児がいた。ひゃっと小さく声をあげて、しかし頭を押さえて蹲る。
頭の奥でガンガンと誰かが鐘を叩いているような、痛みのような重さがある。なんなのよこれは。
「今、何時…」
声を絞りながら枕元に放られた携帯を見て驚いた。時刻はそろそろ昼の12時を回ろうとしている。
そして竜児からの着信。着信。着信。
「大丈夫か大河、お前めっちゃ目元腫れてるぞ」
「うそっ、やだなにこれどうしたの私」
まったくすっきりしない頭とすっきりしない顔を竜児に見られたなんてのは今更すぎる話だが、その発声も歯切れが悪く。
寝起きであることを鑑みても、いつもより遥かに頭の中はモヤモヤしている。
「風邪でもひいたのか?朝もこねーし、電話してもでないから心配で見に来たんだよ。どっか具合悪いのか?」
竜児が心配してくれている。自分でも自分になにが起きたのかわからず、昨晩のことを思い出してみる。
いつもより早く寝ようとしたんだけれども、眠れなくて。それで、ママとちょっとお喋りして、それから。
「だいじょうぶだけど、頭痛い…。薬のせいかな。」
「薬?」
そして大河は昨日母親に処方された薬のことを説明した。眠れなかったので、母親にもらった睡眠薬を半錠飲んだことを。
それを聞いて竜児が怪訝そうな顔をする。
「それは、あんまよくねぇな。そういうのって、ちゃんと医者に処方してもらわないといけないもんだろ。お前薬アレルギーあるし。」
「たしかによく眠れたけど、寝起きの気分がここまでサイテーならもういらないわ…。あ、それより。」
大河が別のことを気にしていた。今日も図書館に行って勉強する予定だったはずなのだが。
夏休みの図書館の自習スペースは、午前中にいかなければだいたい席がうまってしまう。
その場合は席が空くのを待つしかなくなってしまうのだが、利用者の多いこの時期待ち時間がどれくらいになるかはわからない。今からでも間に合うだろうか。
「あー、図書館なら今日はもういいよ。どうせもう席ないだろうしな。それに外見てみろよ。」
言われてベッドの上から遠目に窓の外を眺めた。空は黒雲に包まれていて、雨が降り出すのは時間の問題のようだ。
「今日はもう外出なしだ。家で勉強しよう。とりあえず、なんか食うか?つくってやるよ。」
「うん…、お願い。軽めで。。」
そういわれて、竜児は大河の部屋をあとにした、キッチンで蛇口をひねる音がする。勝手知ったる他人の台所。
大河はまったく収まる気配のないひどい頭痛に顔をしかめていた。時間がたてば治まるだろうが、それにしてもすごい効き目だ。
薬を飲んでベッドに飛び込んでからの記憶はまったくなかった。いや、ベッドに無事にたどり着いたかどうかも怪しい。
まぁちゃんとベッドで寝ていたんだからたどり着けたんだろうけど、それにしてもこんなに効くものなのか。空恐ろしさすら感じる。
ズキズキ痛む頭とはっきりしない意識でベッドから這い出す。自室の窓に向かい、外に向かって開けてみる。
むわっという蒸し暑い不快な空気が部屋の中になだれ込んできて、一層頭痛に拍車をかける。
空にかかる黒雲は、そんな大河の気分を映し出すかのようにどんどんとその暗さを増していくのであった。

165 :
まるで予定通りにいかないどころか行数全然数えられてなくてにたい
L続きなんか2回放ってるし。。

えー。。
今回の分は以上です。Bへと続きます(予定)。
ソフトボールのルール全然知らなくて一応調べて書いたんですがもし間違ってたら適当にスルーお願いします、野球は好きなんだけど。
ではでは。。

166 :
うぜっ

167 :
まってたよ。GJGJでした

168 :
乙〜
楽しく読んでるよ〜♪

169 :

楽しみに待ってます

170 :
>>165
(,,゚Д゚) ガンガレ!

171 :
保守

172 :
保守

173 :
あぶね
保守

174 :
こんばんは、2週間ぶりです。
前回の続きでございます。一応諸注意>>146
予定通りいけば8レスの予定。今回はちょと少なめ。えっちしーんもなし。
そいでは
↓↓

175 :
 
「あんた、高須竜児だろ。」
「?」
お見舞いの帰り際。
古くなった冷房の空気と薬品の入り混じった独特の臭いを放つロビーから一転して蒸し暑い外へ出たところで、年下の少年にいきなり生意気な口を聞かれた。からといって竜児はいきなりキレて刺すような最近の若者ではない。
むしろ驚いていた。その生まれ持った凶悪な面構えのせいで人に話しかけられることなんて滅多にないどころか、話しかけようとしていきなり財布を差し出されて逃げられるなんてことはいくらでもあったぐらいなのだから。
そんな竜児に果敢にも呼びかけてきた少年は見るからにスポーツ小僧といった感じで、丸刈りの頭と日焼けした顔が好印象だ。
その話しかけかたも決してこちらを侮蔑しているようなものではなく、思春期の少年に特有のどういう風に他人に接したらいいかわからず、仕方なしにぶっきらぼうになってしまうといった感じ。
しかし。
「なによあんた」
隣にいた大河が凄む。セミの鳴く声がうるさい病院からの帰り道、厳しい暑さの中一刻も早く涼しい部屋に戻りたいのに足を止められて不愉快そうだ。
その声に少年はびくっとなる。無理もない、手乗りタイガーだってヤンキー高須に負けず劣らずの迫力の持ち主だ。
こんなにも暑いのにその髪の量は丸坊主の少年とはまるで正反対。その長く美しい髪を揺らし、フランス人形の如き精緻な美貌を湛えた顔が、凄む。
だが、少年はそれに屈せずぐっと言葉を放つ。
「俺、弟だ。櫛枝実乃梨の。」
「櫛枝の…!」
それで合点がいった。なるほどこいつが櫛枝の弟の野球少年。姉の見舞いに病院を訪れたのだろうか?
その言葉を聞いてはっと大河も黙る。迂闊なことは言えないと思ったのだろう。誰にでも噛み付く手乗りタイガーも成長したものだ。睨み付けることをやめはしないが。
「ねーちゃんは。」
少年は拳をぎゅっと握り締め、言葉を続ける。
「よくあんたの話をしてくれる。」
少年曰く、姉は2年のときに同じクラスに高須竜児っていうのがいて、そいつは見た目はものすごく怖いんだけど話してみるとなかなかまじめで純情なやつで、私の親友の支えになれるすごいやつで、そして…。
「俺からこんなこと頼むのも変な話なんだけど。」
少年は恥ずかしそうに頭をボリボリとかいて。
「ちょくちょく、お見舞いきてやってくれないか。ねーちゃんはあんたの話をするときが一番楽しそうなんだ。」
「わ、わかった。」
「俺がこんなこと頼んだも、内緒で頼む!」
そういって、 少年は病院のほうへ駆けてった。
巨大な白い建物の入り口に吸い込まれていく後姿を見送って、竜児はふっと笑って言った。
「姉想いのいい弟じゃねぇか、ちょっと態度わりーけど。」
しかし。
「そう、ね…」
大河の心はここに非ず。じめっとした暑さが、二人の肌に粘っこい汗を垂らす。


----------------オレンジB 私の未来、知りたくなくて----------------------

176 :
 
夏休みもそろそろ終盤。
うだるような暑さが続く中、大河と竜児の二人は長い時間を図書館の自習スペースで過ごした。
受付のお姉さん(別に似てるわけではないが、竜児はなぜか彼女を見かける度に2年のときの担任の恋ヶ窪を思い出していた)とも顔見知りになり、二人は午前中からお決まりの席を向かい合ってキープするようになっていた。
当初はいやいやだった大河の態度にも変化が見られていた。
具体的に志望校がきまったわけではないが、それでも勉強をせねばなるまいという危機感が芽生えたのだろうか。
あれだけ苦手意識を持っていた数学にも積極的に取り組み、図書館にいない時間でも竜児に勉強について尋ねるようになっていた。
竜児はもちろんまじめに自分の分をこなし、余裕があれば大河にも教える。その上で3人あるいは4人分の食事を作り、家事をこなしていた。
いや、それだけではない。
今年の夏休みは、二人には重大な習慣が加わっていた。
夏初めに肘を壊して入院している櫛枝実乃梨のお見舞いだ。
彼女のお見舞いには、大勢の人がかけつけた。同じソフトボールの士である北村祐作やチームメイトをはじめ、かつて同じクラスだった香椎木原川島の3人組。さらには春田や能登まで。
春田は、実乃梨の腕に装着されたギプスを興味本位で触ろうとして北村に本気で怒られしょげていたが、そんな様子を見た実乃梨が笑ったのを見てまた彼も笑っていた。
そして櫛枝は誰よりも大河と竜児の二人の来院を喜んだ。
竜児が「病院なんだから静かにしろよ」と注意すると「わかってるわよ」と答える大河は、最初こそ傷を負った実乃梨にどう接していいものかわからずおどおどしていたものの、
実乃梨に「大河がそんなんだと元気でないよ〜」とちゃかされ、結局普通に戻っていた。
実乃梨の退院の日はもう近い。腕のギプスはまだまだとれないが、2学期からはそれなりに不自由しながらも学校に通える見通しだった。
つまり、実乃梨は元気を取り戻しつつあった。少なくとも表面的には。人と接している時だけは。

「はー、あたしも勉強しなきゃなぁ。」
「そうだよー、みのりんも受験生なんだから。」
他愛無い会話。スポーツ推薦を狙っていたもののそうもいかなくなってしまった実乃梨も一躍竜児や大河と同じ受験生の仲間入りだ。
「いやー、勉強ってどうやってすればいいんですかねぇ、これまでてきとーにしかやってこなかったからいざやらなきゃとなってもちんぷんかんぷんですわ」
ははは、と困ったような顔で頭頂部に自由に動かせるほうの手を当て実乃梨は笑う。
さすにが受験生のこの時期を病院でだらだら過ごすのはいけないと感じ、受験生らしく勉強もし始めたらしい。
家族に頼んで勉強道具を運んできてもらい、ギプスで固定された腕で鉛筆を握りながら。
「手はつかえるからね〜」
と得意げに鉛筆を持ち、ノートに字を書いて見せる。なるほど、ちょっとしんどいかもしれないがしかし勉強する分には困らなそうだった。
でも勉強しようとするとなんかかゆくなるんだよねーなんでだろうねー病気かねぇなどとしょうもないことをいっておどけて見せる実乃梨に、大河と竜児はまた優しく笑うのだった。

177 :
 
「そうだ。みのりんも竜児に勉強教えてもらえばいいじゃん!」
思いついたように大河が提案する。まるで、とても簡単なことのように。
そうすれば実乃梨が元気を取り戻せると信じている大河の優しい提案。だが。
「ええ、ええーそれは悪いよだめだよ高須くん私なんかにかまってる場合じゃないでしょ!」
実乃梨がぶんぶんと頭をふり全力で拒否をする。気持ちだけ受け取っとくよーにゃははとまた笑う。
「…俺は別にかまわねぇけど。」
竜児もちらっと乗っかって見せるが、実乃梨はありがとうと言って断る。お見舞いに来てもらってまで勉強見てもらうのもなんだかね、と付け足して。
「そう?いいと思ったんだけどなぁ、竜児教えるのうまいし」
そういう大河は心底残念そうだった。一つ作戦が失敗した。作戦、というほどのものでもないただの思いつきなのだが、大河にとってはこれでも名案だと思われたのだ。
「あーあ、私なんだか喉かわいちゃった。ジュース買ってこようかな。」
「お、俺もいくよ。」
「あんたはいいの、みのりん、なんかいる?」
「ん、じゃあポカリ頼んでいい?わるいね〜」
「あいあい」
そういって大河は病室を出て行った。ぱたぱたと、軽い足音が病室の外に響き遠ざかっていく。
あとに残されたのはベッドの上の実乃梨と、傍に置かれた椅子に座る竜児。
「なんだよ大河のやつ、一人でさっさと行っちまいやがって。」
「ははは、そうとう喉乾いてたんじゃない?」
実乃梨が笑う。
竜児は大河の真意を知っている。つまり、大河は竜児を実乃梨と二人っきりにさせようとしているのだ。
たとえ自分の彼氏であっても、親友を元気づけられるのが竜児だけなら、ちょっとぐらい。それぐらいの優しさ私にだって、みのりんのためなら。
大河の出て行った部屋に実乃梨と竜児の乾いた笑いが響き、そして沈黙が訪れた。
ははは、とひとしきり笑った実乃梨はふぅと小さく息を吐き、窓の外を眺めている。外では今もセミがうるさく喚いていて、空調のために窓を締め切られた部屋の中にも遠くその音が聞こえてくる。
沈黙。せっかく大河が気を利かせてたのだからなにかしゃべらなければ、という想いが竜児に募る。
「あ、あのさ。」
なにも考えずに話し出す竜児。呼びかけてどうするんだ俺?
その声に、実乃梨がこちらを振り返る。なぁに?といった表情で。
「えと、弟に会ったよ。」
咄嗟に口を吐いて出たのは、偶然なのか狙ったものかわからなかった邂逅。
実乃梨を見舞った帰りに、向こうから声をかけられたという話。
それを聞いて、実乃梨の顔が一瞬紅潮する。え、という焦ったような顔。
「えええ、あいつなんかへんなこといってなかった!?うわーやだやだ」
急にあわてる実乃梨に、逆に竜児は面食らう。実乃梨はベッドの上で不自由な腕をぶんぶんと振る。
「いやべつにそんなへんなことは。ていうか櫛枝のことすげー心配してた。」
「そ、そっか。。」
そして押し黙る。ややあって、再び実乃梨が口を開いた。
「…いままでそんなことなかったのに、私が怪我してソフト続けられなくなってってことを知ってから急に優しくなってさ。なんていうか、なんなんだろね。」
ギプスで固定された腕を優しく撫でる。日常生活には問題ないだろう、ただし今後ボールを投げられるまでに回復するかどうかは怪しいというその腕を。
「なんかさ。」
実乃梨が言葉を続ける。
「すごい不思議な気分なんだよね。今までさ、ずっと部活してバイトして一応勉強もして、ものすごく自分なりにはがんばってたの。
でもそういうのを全部取り上げられて、こうやってベッドの上で一日中ぼーっとしてるとさ、すごいいろいろ考えちゃうんだよね。」
竜児は何も言わない。相槌を打つこともなく、淡々と話す実乃梨を見つめる。
「ね、幽霊の話したじゃん。覚えてる?」
「あ、あぁ。覚えてるよ。もう1年ぐらい前だな。」
「そうだよね、高須くんはそういうこと忘れないもんね。」
言って、へへと小さく笑う。1年前、みんなで行った亜美の別荘での出来事。
世の中には、幽霊が見える人と見えない人がいて、きっと自分は見えない人間なんだ。
それはものの例えで、その実は恋愛の話。つまり、櫛枝実乃梨には恋というものがどういうものなのかわからないのだ、という告白だった。
「ほんとにさ、くだらない話なんだけどさ…。」

178 :
 
病室の外では、自分のためのオレンジジュースと、実乃梨のための清涼飲料水、そして竜児のための缶コーヒーを手に持った大河が部屋の中に入れずにいた。
別に聞き耳を立てていたわけではない。ただ、入ろうとして、一瞬戸惑って、そしたら中から会話が聞こえてきただけ。
会話とともに、二人の笑い声が響いてくる。みのりん元気でたかな、とちらっと思う。
私は竜児が好き。私も竜児が好き。みのりんだって竜児が好き。竜児はみのりんが好きだった。
数多くの勘違いと行き違いと不運と幸運が重なって、今の私たちがいる。
たしかに私には竜児が必要。竜児のいない人生なんて、これからの一生なんて、そんなのありえない。でも。
でも、竜児は本当に私が必要なの?毎日ご飯を食べさせて、勉強を教えて、だらだらひっつかれて。
そんな私が、竜児には必要なんだろうか?
そんな自問自答が続く。ママが言っていた。高須くんとの楽しい未来を考えなさい。
でも、今の私に、竜児との楽しい未来なんてくるの?こんな、甘えることしかできない私に?なにも与えることのできない人間に?
そうやってぐるぐる頭の中で自問を繰り返していると、大河にはだんだんなにが本当でなにが嘘なのかわからなくなってくる。
私はなんで竜児のことが好きなの?なんで竜児は私のことが好きなの?
手をつないだ。キスをした。エッチをした。駆け落ちはしなかった。
友達?恋人?二人の心も。
雪の降る寒い夜に、想いを告げた。その想いは真実だった?わからない。そんなことが頭の中を駆け巡る。と、その時。
「お、なんだ戻ってきたのか。遅いから心配したぞ。」
病室の扉が開いて中からぬっと竜児がでてきた。
時間がたっても戻ってこない自分を心配して探しに行こうとしてくれてたんだろう。ばかなひと。あんたはみのりんのためにそばにいてあげればいいのに。
でも、そんな言葉は口に出さず。
「…何買おうか迷ってたの。」
「おう、俺のも買ってきてくれたのか、ありがとな。」
そういって、竜児は大河の手から自分の分の缶コーヒーと、実乃梨のための清涼飲料水を受け取った。
そして部屋の中に戻り、ベッドの上の実乃梨にそれを渡す。大河の買ってきたペットボトルを。竜児が実乃梨に。
これは望ましいことなんだ、と自分に言い聞かせる。実乃梨が、お、大河さんきゅ!と言って感謝を伝える。
これは、いいことなんだ。みのりんは喜んでいる。

***

179 :
 
暗い部屋で、自分一人には大きすぎるベッドの上で頭まですっぽりと布団をかぶる。
眠れない夜。小さくこぼれる一人分の溜息。カチカチと弄るケータイに燈る淡い光。
アドレス帳に表示された個人情報をじっと眺めて、過去に送られてきたメールをひとつひとつ見て、そして親指が発信ボタンの上へ移動して、でも押せず。そんな押し問答を一人で何度も繰り返していた。
自分一人しかいないベッドの上で、私はひとりぼっち。誰にも必要とされず、小さく丸まり震えている。
せめて、こんな私の不安を、気持ちを少しでも理解してくれる人間がいてくれたら。
いや、いるではないか。あの男が。
目つきの悪いあの男は、こんな私のことを好きだと言ってくれた。不器用で、どうしようもなく鈍くさくて、でも誰よりもまっすぐに。
もう一度アドレス帳の画面を呼び出す。
高須竜児、080・・・・・・
えい、っと発信ボタンを押す。なぜだろう。いままでだって何度も喋っているのに。二人っきりで長い時間を過ごしているはずなのに。
不思議と胸が高鳴る。本当の私は一体。

寝る前のわずかな時間も竜児は勉強をしていた。こういう時間こそ一番大切なのだ。今日一日のおさらいをやって、寝ている間に定着させる。
なにかの本で読んだ勉強法をすぐに取り入れ実践する竜児は、この夜もお気に入りのバンドのアルバムをMDプレーヤーから聴き流しながらノートに数式を書き綴っていた。
勉強は順調だった。1学期の期末の悪夢は既に忘れ去りつつあった。夏休み中に大河と二人で受けに行った予備校の全国模試も、悪くない手ごたえだった。結果はまだだが、それなりの点数はとれているだろう。
すべては順調。今日もあと少しで終わり。もう少ししたら泰子も仕事から帰ってくるだろう。それを確認してから、眠りにつこう。
明日もまた、朝から大河と二人で図書館だな。夏休みも残りわずか、ラストスパートだと意気込み、ノートに向かう。
と、そのとき、聞き流していたアルバムの曲と曲との間の静寂で、あることに気づいた。
ヴーヴー、というケータイの震える音だ。着信を知らせる光が燈っている。
こんな時間に誰だろうととりあげてパカっと開く。そこにあった名前は。
『櫛枝実乃梨』
あわてて通話ボタンを押した。プッと小さく音がなって通話が開始される。
「もしもし?」
「あっ。」
もしもし、と呼びかけた声に対する反応は、驚きを交えた小さな声だった。自分からかけてきておきながら。
「あってなんだ、あって。こんな時間に電話していいのか?」
「…いいの、こそっとだから。」
そんなもんだっけかと竜児は幼いころの記憶を手繰り寄せる。
竜児も小さいころは体が弱く病院の世話になったことがあった。しかし結局そんなことを考えてみてもこの時間にケータイがどうこうはわからなかった。
当時そんなものは、存在しててもほとんどの人がもってなかったのだから。
「で、どうしたんだ?」
「…あのね、」
実乃梨の想いが電話の小さなスピーカーを通じて溢れてくる。一人ぼっちの夜は寂しくて、なにもできない自分が歯がゆくて、見えないはずのものまで見えてしまう。
いくら消し去ろうとしても、忘れようとしてもそれは一層影を色濃くし、脳裏にやきついて離れない。
ぽつぽつと囁かれる言葉に竜児は揺れる。
「高須くん、私はさ。きみのことが好きだった。でもそれは本当だけど、本当じゃないの。」
「え、えっと、」
「好きだった、じゃなくて好きなの。今でも。」
「!」
竜児は何も言えなかった。思いがけない告白。かつて自分が好きで、自分を振った女からの告白。
「でもね、きみには大河っていうかわいい彼女がいるんだ。だから…
実乃梨が言葉をつづけようとしたところで、ププッというキャッチホンを知らせる音がなった。
あわてて耳元にくっつけていたケータイをはなし、ディスプレイを覗き込む。その発信元は。

180 :
 
『逢坂大河』
ディスプレイを覗き込んでいる間も小さなスピーカーからは実乃梨の声が流れ続ける。耳元から話してしまうとその声はよく聞こえない。あわてて耳元に寄せ直す。
「わ、わるいちょっとまってくれ。」
「え?」
「いや、今キャッチがきて、えっとそれでちょっと今聞いてなかった、ごめん。」
「…そっか、誰から?」
「……大河。」
スピーカーの向こうで沈黙が流れる。
きっと実乃梨一人しかいない部屋は今は真っ暗で、なんの物音もなくて、そこで彼女は一人っきりで震えているのだろう。
ププッ、という音がまた鳴る。
「そっか、でなよ。大河、待ってるよ」
「お、おう終わったらまたかけるから!」
「うん。ありがと。」
そう言って実乃梨との通話を一旦終えた。大河との通話が終わったら掛けなおそうと思いながら、あわてて再び通話ボタンを押す。
「もしもし!」
「…竜児?」
「お、おうなんだどうしたこんな時間に」
「うん、ねぇ今なにしてたの?出るの遅かったけど。」
「あ、えと音楽聞きながら勉強してたからさ。それで、ちょっと気づくの遅れちまった。わりぃ。」
「…そう。」
嘘ではない。けど真実でもない。
手先はやたら器用なくせに、こういうとき竜児は不器用な人間だ。
心配かけまいと、人に気を使わせまいとするときほどその言動は不審になる。大河はもちろんそれを知っている。
知っていて、あえて問い詰めはしない。その先には大河の知りたくない未来があるから。きっと。
「…ちょっと声が聴きたくなっただけ。邪魔してごめんね。」
スピーカーの向こうで大河がいつになくしおらしく。
「い、いやべつに。俺の声が聴きたいならいくらでも喋ってやるよ。なんだろう、なんの話がいい?」
「いや、もう大丈夫だから。ごめんね、ありがとう。また明日。」
そういって通話はぷっと切れた。
プープーと通話が終了したことを知らせる音。あるいは誰ともつながらない時になる音。
なんだろう、この感情は。大河はどうしたんだろう。
確かにこの夏休みは勉強ばっかりであんまり付き合ってるぽいことはしてやれなかったし、やっぱりちょっと気になるなと思う。
その一方で。実乃梨の言葉が脳裏に焼き付いて離れない。好きなの、今でも。
自分には大河がいて、でも自分はかつて櫛枝が好きで、その櫛枝は今でも俺のことが好きで?大河は俺のこと好きなんだよな?俺はじゃあ?
ぐるぐると思考が巡る。なんだこれなんだこれなにがどうなってんだ。
MDプレーヤーに繋げられたイヤホンからはさっきまで聴いていたバンドのアルバムが再生され続けている。
now I see the real meanings of your words...
竜児にもわかる簡単な英語の歌詞。今ではあなたの言葉の真意がわかる、と声を高らかに歌われる詩は、今の竜児にはまったく響かなかった。

181 :
 
ぷつっと切った電話をぽいっと寝っころがった姿勢のまま投げ捨てた。
床にはカーペットが敷かれているので壊れるようなことはないのだけれども、それでもごつっという鈍い音が響く。
もしかしたらかわいくデコられた一部がとれたかも。
しかし今はそんなことはどうでもよかった。
もしかして、と淡い期待をしてかけた電話は、自分の不安を解消してくれはしなかった。それどころか。
募るばかりの不安に押しつぶされそうになる。電話にでた男は自分のことをわかってくれていたはずの人間なのに。
こんな気持ちはどこかへ消し去ってしまいたい。そう思った大河は、ごそごそとベッドの中で動き回り、そして起き上がる。
すっぽりとかぶっていた布団を足元へとはねのけ、カーペットの上に足を下ろす。
自室のドアを開けると、空調の効いていない廊下の空気はむわっと暑く、大河の気持ちを逆なでするかのように涼しい部屋の中に入り込んでくる。
短い廊下を通り抜け、リビングへ。ベビーベッドで寝ていた弟は、今は母親といっしょに母親の部屋で眠っている。
その脇にある小さな棚の、上から2段目の引き出し。取り出されたのはかつて半錠飲んで痛く後悔した睡眠薬。
これを飲めば、すべてを忘れて深い眠りにつける。寝起きの気分はサイテーでも、今のこの気分を消してくれるなら。
一瞬躊躇する。たしかにこれを飲めば眠れるだろうけど、でもそれは一時的なもので。不安が消え去るものではない。それでも。
今のこの気分を、一時的にでも忘れさせてくれるのならば。そう思い1錠をつまみ、ごくりと水で流し込む。
小さな錠剤はたちまちその効き目をあらわし、大河を深い眠りへと誘う。

やはり目覚めの気分はサイテーだった。
いつにもまして湿度は高く、髪はくるくるとウェーブしている。下手な湿度計よりよっぽど頼りになる髪だ。今日は雨が降るだろう。
しかし、そんな気分でも大河はちゃんと起きて、竜児の用意してくれた朝食を食べた。前よりはひどくない。
頭も痛いけど、そんなでもない。今日もちゃんと図書館にいって勉強できる。竜児といっしょに。
今は不安だけど、それはみのりんだっていっしょだ。怪我してるんだから。私はまだ我慢ができると自分に言い聞かせ、傘を持ち外へ飛び出した。
竜児の家にいって、やっちゃんにあいさつして、それで竜児といっしょに図書館に行こう。そうすればきっと元気がでる。そんなことを考えながら。
私は竜児が好き。竜児も私が好き。誰にも邪魔されない二人だけの世界。みのりんならちょっとだけ邪魔してもいいけど。
えへへ、と表情が綻ぶ。
そして、大河はいつもならちゃんと立ち止まるはずの赤信号に気づかなかった。
青信号の交差点に入ってくる直進車の急ブレーキの音を聴いたときには、時すでに遅し。眼前に迫るフロントガラス。そして。
大河の世界はそこで一度途切れた。


****

182 :
 
「大河!!!」「大河ちゃん!!」
びしょ濡れの竜児と泰子が病室に駆け込んだ時、小さな大河はベッドの上で点滴を受けながら眠りについてた。
腕に包帯が巻かれ、頬にはガーゼが宛がわれている。
「大河!おい!」
「ちょ、ちょっと落ち着いて!」
傍にいた看護師が竜児を落ち着かせようと肩をつかむ。しかし竜児の鼻息は荒く、看護師の静止をふりきって大河の眠るベッドへと駆けよる。濡れた髪から水滴が迸る。
泰子はうしろで泣き崩れている。その泰子の肩に、傍にいた大河の母親が優しく手を置く。
「大河!おい!しっかりしろよ!」
「落ち着きなさい!これ以上騒ぐとここから追い出しますよ!」
医者の檄が飛んだ。それを聞いて、竜児はこんどはそちらに詰め寄る。
「大河は!大丈夫なんですか!?」
「説明するから、とりあえず落ち着きなさい。命に別状はありません。」
それを聞いて、竜児は、その場にへなへなとへたり込む。目の前で目を閉じている小さなお姫様は、命に別状もなくただ眠っているだけだと。
「そ、そうか、それならよかった…。」
それを聞いて泰子もうわ〜んと泣きだす。医者が言葉を続ける。
「擦り傷や打撲以外に、目だった外傷はありません。骨や内臓にも異常はないようです。今はショックで気を失っているだけで、じきに目を覚ますでしょう。」
竜児が医者のほうを向く。その三白眼は真っ赤に充血しているが、医者はそれにビビるようなことはなく毅然とした態度をとり続けていた。
「そうですか…、すいません騒いだりして。」
「仕方のないことです。」
「ごめんね、高須くん。来てくれてありがとう。あの子、ぼけっとしてたらしくて赤信号なのに横断歩道に飛び出したみたいなの。
それで、車にぶつかったっていうんだけど、その割には全然怪我とかしてないみたい。驚かせてごめんね。」
「いえ、俺は…。いや、すいませんこちらこそ勝手に大騒ぎしちゃったみたいで。」
「あなたがそうやって取り乱してくれたことを知ったら、きっとあの子は喜ぶでしょうね。」
「そうですか…。」
医者と看護師は、なにかあったらそちらのナースコールのボタンを押して呼んでくださいねと言葉を残し、部屋から出て行った。
あとには眠る大河を囲むように大河の母親と竜児と、未だにぐずり続ける泰子だけが残された。
「おい泰子、もう泣くなよ。ほら。」
といって、竜児はポケットからハンカチを取り出す。それを受け取って涙を拭い、鼻をずーっとかむ。
「うん、ごめんね。やっちゃん、大河ちゃんが車にぶつかったなんていうから、んじゃったのかと思って…。」
「んでねーよ、ぬわけねーだろ大河が。」
「うん、そうだね、ごめんね。」
そして、泰子はえへへと笑う。化粧のしていない顔には、永遠の23歳を保つために刻まれた努力の跡がくっきりと浮かんでいる。
大河はベッドの上で眠っていたが、いずれ目を覚ますだろう。おそらく検査のために多少の入院も必要になるかもしれない。
櫛枝がやっと退院だってのに、入れ替わりでまたお見舞い生活が始まるな、と頭の中で考える。
外には夏の嵐が到来していた。つまり、傘を持ち出した大河の判断は正しかった。その傘は使われることなくぽっきりと折れてしまっていたが。
今日はセミの声も聞こえてこない。ただ、大粒の雨が病室の窓を叩く音だけが、大河の眠る病室に響くのだった。

183 :
連投規制やばかった。。

今回分は以上です、前回、前々回とちょと文章量多かったから手抜きに見えるかもだけど、そんなことは、ない、はず。。
続きはまた次回です。では。

184 :
おつおつ

185 :
乙です!
楽しみにまってます!

186 :
>>183

なにやら不穏な展開に…

187 :
インコちゃんも禿げるくらいの修羅場だな

188 :
おつ
竜児の血走った眼光に怯まない医者つええw

189 :
手抜きなんておもいませんよ〜
お話つくるの大変でしょうが、続き楽しみに待ってます

190 :
乙です
文の骨がしっかりしてるというか、上手ですね
自分もなにか投稿してみようかな……

191 :
ガンガレ

192 :
保守

193 :
ゴールデンタイムアニメ化ですか
このスレ的にはどうなる事やら

194 :
そんなに人気ある?

195 :
人気云々以前に各巻冒頭に紹介があるキャラクタの人物がまるで固まっていないのがチラホラいるのがなあ。
とらドラヒロイン3人のハイブリッドみたいな超音波(GT本編メインヒロイン談)なんてあと2、3巻は掘り下げないといけなさそうだよね、今のペースじゃ。
多分本編重視(番外エピソードはほぼ無視)でいくだろうから、二次元に逃避した男(笑)は本編ではその気配出さなきゃ済むだけだけどさ。

196 :
こんばんは、例のごとく2週間ぶりです。あやしいとこからこそこそ投稿してます。。
前回の続きです。一応諸注意>>146
予定通りいけば12レスの予定。えっちしーんなし。

↓↓

197 :
 
「逢坂が入院!?」
電話の向こうで驚いた声が響く。無理もない、かつてのクラスメイトが事故に遭い怪我をして入院したなんて聞かされれば、当然だろう。
それも、連続して。
「いや、怪我とかはそれほどでもないみたいなんだ。ちょっとした打撲とか、その程度で。ただそれよりも…。」
「とにかく、すぐにいくよ。どこの病院だ?」
「いや、今日はもう遅いから、また明日で頼む。」
「そうか…、わかった。じゃあまた明日連絡するよ。」
ぴっと音がなって通話を修了する。
二つ折りのそれをカチャっと畳んで、ノートが広げられた机の隅に置いた。
外側のディスプレイにはしばらく明るい光が灯っているが、それもじきに消えた。
きっと北村なら、大丈夫なはず。だって北村は……。
竜児の胸を駆け巡る不安はなかなか消えてはくれない。


-----------------オレンジC 好きだから、泣けるよ------------------------------------------------


竜児が大河の母親から連絡を受けた時、泰子は仕事でいなかった。つまり、竜児は家に一人だった。
一人の夕食を済ませ、一人で勉強。外では雨が降り続いていた。
台風というわけではないが、季節を先取りした秋の長雨といったところだろうか。
しとしと降り続くそれは、冷房をいれる習慣のない高須家に窓をあけることを許さず、使い古された扇風機にじとっとした蒸し暑い空気を虚しくかき回させる。
大河の母親は、夕方までは病室にいたらしい。しかし、医者にも目を覚ましたら病院から連絡するのでと言われ結局一旦帰宅することにした。
そうして彼女も家で自分の夕食を済ませ、不安に苛まれながらもノートパソコンに向かい仕事の一部を片付けていた時に、電話が鳴った。
時刻は夜9時を回ったころだった。普段はどこからかかってきたものなのかをいちいちチェックしてから取る電話も、この時ばかりは間髪いれずに通話を開始した。
電話は果たして病院からのもので、大河が目を覚ましたとのこと。これから簡単な問診を行い、明日詳しく検査を行って問題がなければ明後日には退院してもいいだろうということ。
その電話を受け、母親は竜児に連絡し、それからタクシーに乗り病院に向かった。
竜児も同様だった。連絡を受け、泰子への書置きを残し病院へ。もしかしたら、今夜は帰れない、もしくは帰らないかも。意思によるもか、必然によるものかはともかくとして。
降りしきる雨の中、必で自転車をこいだ。雨のせいもあり、人気のなくなった繁華街を通り抜ける。
実乃梨のお見舞いですっかり行きなれた市内の大きな病院。昼間使う正面の入り口とは異なる夜間用の入り口から中へ入り、大河のいる病室へと向かう。
エレベーターを待つのもまだるっこしく、階段を2段とばしでとんとんと大河のいる3階へ。
踊り場を駆け抜け角を曲がり、病室のある廊下にでた竜児の目に飛び込んできたのは。

198 :
 
「でてってよ!」

怒号と共に外に追い出される大河の母親。
医者に静止されながらも、大河は全身で拒絶の意思を示し、母親を病室の外へ追い出そうとしている。
それに抗えず、部屋を追い出された大河の母親には困惑の表情が見て取れた。
大河を抑えようとしながら、白衣を纏った医者が大河の母親にあくまで冷静に話す。
「興奮しているようなので、いったん外へお願いします。」
「なにがあったんですか?大河はどうしたんですか?」
状況のわからない竜児が母親に駆け寄り尋ねる。
「わからない…、けどあの娘、私を昔みたく…。」
バン!と強烈な力で扉が閉められ、廊下には竜児と大河の母親だけが残された。
静かな夜の病院では、無機質なリノリウムの床が昼間以上に存在感を増している。まるで、この世界に自分たち以外の誰もいないかのようだ。
部屋の中では、なにやら大河が喚いている声が聞こえる。が、ややあってそれもおとなしくなったようだ。
外でそっと聞き耳を立てていると、どうやら大河は多少興奮しているものの、意識ははっきりしているようだった。だが、釈然としないのは先ほどの母親への態度。
一体大河に何が起きたんだ、と思う気持ちが逸るが、しかし医者に止められている以上勝手に扉をあけて中にはいるわけにもいかない。
なにもできずに無為に時が流れた。二人の間に会話はなく、ただ消毒液の入り混じった独特の臭いのする病院の空気が廊下を流れていく。
どれくらい経っただろうか。状況が読めない竜児が苛立ちを募らせ、いい加減部屋に入ろうかと本気で考え出したころ、扉が開いて先ほどの医者がでてた。
廊下で待っていた二人を医者は認めると、なにから説明したものか、という表情を作りそして口を開いた。
「お二人とも、とりあえずはいってください。」
医者が扉を開き、二人を中に招き入れる。
連れられて入った病室には、パジャマを着てベッドに寝た姿勢で、天井を見つめている大河。二人が入ってくると、顔だけこちらに向ける。
頬にはまだ大きなガーゼが宛がわれている。
その瞳は鋭く母親を睨みつけているが、襲いかかるようなことはしない。
「大河さん、あなたのお母さんですよ、わかりますか?」
「……知ってるわよ。」
「大河!どうしたんだよお前みんな心配してんだぞ!」
竜児が叫ぶと大河の大きな瞳がこっちを向いた。そして。

199 :
 
「…あんた、だれ?」
「!?」
怒りと疑問を交えた表情から飛び出した台詞は。あんた、だれ?
「大河…」
その言葉を聞いて母親がおろおろと泣き出す。
「あなた、竜児くんがわからないの、一体どうしてしまったの…」
泣き崩れる母親と茫然と立ち尽くす竜児。状況が読めないものの母親に対する怒りが収まらない大河はそれでも睨みつけることをやめない。
状況を重く見た医者がとりあえず竜児と母親に部屋を出るように促した。興奮はよくないので、とりあえず安静のためにも一旦外へと。
結局医者の判断により、その夜二人がそれ以上大河と面会することは許されなかった。
竜児と母親が人気のない病院のロビーの椅子で項垂れていると、そこへ再び医者がやってきて、状況を説明してくれた。
「どうやら。」
医者が重い口を開き、慎重に言葉を選ぶ。
「事故に遭った際に頭を打ったようで、記憶障害のようなものが発生しているようです。
大河さんは、意識もはっきりしているし、受け答えもしっかりしています。もちろん自分のこともちゃんと覚えている。
そしてお母さんのことも覚えているには覚えているようですが、しかしひどく嫌っておられるようです。なにか心当たりはありませんか?」
心当たりもなにも。ほんの1年前までは絶交状態だったのだ。
去年の修学旅行でいったスキーで事故に遭い入院することになった大河を迎えにいったときの反応に近いものを感じた。
そう説明すると、医者は口元に手を当て、ふーむと唸って見せる。
「いずれにせよ。」
医者が続ける。
「この手の事故における一過性の記憶障害というのは、ままあることです。おそらく時間がたてば解決するでしょう。
現状はできるだけ興奮をさせないように、そしてゆっくり記憶を取り戻すようにしていけば、おそらく時間はかかるでしょうが最終的にはなんの問題も残らないでしょう。
今後他に何か障害が起きていないか細かいチェックの必要がありますので、検査のためにも入院の手続きをお願いします。」
はい、と母親は力なく項垂れ、そして手続きのための書類を受け取った。
竜児には何も聞こえていなかった。ただ、大河に言われた言葉を頭の中でぐるぐると反芻させるだけで。『あんた、だれ?』

***

200 :
 
どうやって家に帰ったのかはまったく記憶になかった。
ふと気付けばいつも通りアパートの階段を昇り、ドアに鍵をさしこんでがちゃりと開錠し、そして部屋にはいった。
部屋には誰もいなかった。泰子はまだ仕事から帰っていないのだろう。出ていくときにおいた書置きもそのままだった。
大河が意識を取り戻したので病院へ行く、今日は帰らないかも知れないという内容のそれを手に取り、くしゃっと丸めてゴミ箱へ投げ捨てた。
何も手につかない竜児は電気をつけることもせず、そのまま居間に置かれた座布団にどさっと座る。なんとなくテレビをつけてみる。
ぱっとついたテレビの画面には深夜のスポーツニュースが映し出されている。今日のプロ野球の試合結果、海外で活躍する日本人選手の情報。
しかしそんなことはどうでもよくて。
ただ一人っきりのこの部屋があまりにもさびしくて。
一人っきりなんてこれまでも何度もあったし、むしろずっとそうだったはず。
母親である泰子は仕事の都合で長いこと家を空けているし、それにだって慣れっこなはず。それでも。
竜児の心にぽっかりと空いた穴は、単なる寂しさが原因ではなかった。
大河の記憶から自分が消し去られた。その事実が竜児の胸を締め付ける。
いくら交通事故だからといったって。そんな都合よく自分のことをわからなくなるものだろうか?しかもよりによって、自分を。
虎の横に並び立つ竜だ、と宣言した自分を大河は。忘れてしまったのだ。
その悲しい事実が、電気もつけず暗い居間で一人佇む竜児を締め付ける。
ははは、なんなんだろな大河にとっての俺って。俺にとっての大河って。
あんなにいろんなことがあって、怒涛のように時が流れて、それで結局付き合うようになって、体も重ねて。
18年間生きてきたうちのたかが1年ちょっとの出来事は。もろくも崩れ去ってしまったのだろうか。
大きな滴が一粒、ぽたっと卓袱台の上に落ちた。
一粒零してしまうとあとはもう堤防が決壊するかの如く、次から次へととめどなくそれは溢れる。
そして竜児は両手で顔を覆い、泣いた。
大河、大河と声にならない声で愛しい人の名前を呼びながら。
そしてひとしきり涙を流すと、誰もいないはずの居間でがさごそと音がすることに気が付いた。その音は、部屋の隅から聞こえてくる。
音のするほうへ目をやるとそこにあったのは。

201 :
 
そうだ、忘れていた。今日はまだインコちゃんにご飯をあげてないじゃないか。いくら自分が悲しい目にあったからって、
インコちゃんを空腹で苦しめていい理由にはならない。
そう思い、部屋の隅に置かれた鳥かごのカバーをそっとあけてみた。
そこにいたのは、高須家のペットにして竜児のかわいがる果たして鳥なのかどうかも怪しいペットのインコちゃん。
ギョロギョロと両の目は明後日の方向を向き、嘴からは涎がたれ、そしてイイイ…、と相変わらず苦しそうに息を吐いている。
「…インコちゃんごめんな、すぐにごはんあげるから。」
そう言い、竜児はキッチンにしまわれたインコちゃん用の餌を取りに行く。インコちゃんは相変わらず声にならない声をあげている。
「はいはい、ごめんな。いま出すよ。」
「イイイ、イイン…、イイ…」
「お、どうしたインコちゃん今日こそはちゃんと自分の名前がいえそうなのか?」
さっきまで泣いていたくせに、最愛のペットの必の姿に竜児はちょっとした元気をもらう。
「イイ、イイイ………、イガ!」
「なんだそりゃ」
そしてずっこける。なんだイガって。イガグリかなんかか?
小さくカットされたインコちゃん用の小松菜をエサ入れに突っ込んだ。しかし、いつもならがっついてそれを頬張るのに今日はそうしない。
むしろさらに言葉をつづけようとしている。
「イイ、イガ!イイイ……、」
「なんだどうしたインコちゃん、栗でも食べたいのか?栗にはまだ季節ははやいぞ。」
「イイイ、タイ……、タイガ!」
「え」
そして愕然とした。インコちゃんが、なんだって?しかしインコちゃんは間違いなくその言葉を繰り返す。
「タイガ!タイ……ガ!」
「なんで、インコちゃんどうして…今までそんなこと一度も……。」
そして再び竜児の胸に悲しみが込み上げる。
そして理解する。
インコちゃんは竜児の大切な家族だ。
そしてもちろん大河も。泰子が言っていた。大河ちゃんはもううちの家族なんだから。
それはお互いの親の公認するところであり、つまりは本人たちも認めるところであり。それゆえ。
インコちゃんと大河だって家族なのだ。
いったいインコちゃんがわずか1グラムしかないその脳みそで何を考えたのかは竜児には皆目見当もつかない。
しかし、動物的な本能だろうか、それともそれ以外のなにかだろうか。でもそんなことはどうでもよくて。
インコちゃんはいなくなった大河を呼んでいるのだ。ブサコと罵られても、インコちゃんにとっても大河は大切な家族なのだ。
「大河……。」
竜児は強く想う。
「俺はお前を、失いたくはねぇ…、」
一人と一匹の暗い夜が更けていく。


***

202 :
 
それから数日後。
再び竜児に大河の母親から連絡がきた。
大河の症状が落ち着いてきたので、お見舞いに来てあげて欲しいとの話だった。そして、できれば大河と仲の良かった友達を連れて、という話。
竜児はちょっと考えて、北村を呼ぶことにした。
北村は、大河にとって特別な人間だ。いや、特別だった、というほうが正しいのかもしれないが。
それでも大切な友人の一人には代わりないだろう。それから。実乃梨に連絡をしようとして、躊躇った。
実乃梨とは、夜中に電話がかかってきて以来話をしていなかった。
あの時竜児は、大河からかかってきた電話をとってしまったので、話をすべて聞いていたわけではなかったし、しかもそれに対して返事をしたわけでもなかった。
あの時は、後で掛けなおすつもりだったが、しかしそれも有耶無耶になったままだ。つまり。
実乃梨には非常に連絡が取りづらかったのだ。

「…俺一人でいいのか?」
電話越しに北村が聞く。
「せっかくだから、櫛枝や亜美も呼べばいいんじゃないか?そのほうが逢坂も嬉しいだろ。」
優しいお節介。俺の悩みがもっとストレートにこいつに伝われば、と思うが人間はそううまくできてはいない。
「うーん、それもそうかもしれねぇけど、あんまり騒がしいのもよくないみたいで…、とりあえずお前ひとりで頼むよ。」
「そうか、わかった。とりあえず行くよ。」
そういって電話は切れた。
これから北村がウチに来る。そして二人で大河のお見舞い。
途中で何かお見舞いの品を買っていこう。
やはり、今の自分にはそれが一番いいような気がした。

203 :
 
「あぁ竜児くん、来てくれたのね。あら、あなたはえっと。」
「あ、北村です。逢坂さんとは2年のとき同じクラスで、それで。」
「あぁ思い出したわ。その節はいろいろお世話になったわね。」
「…えぇ。」
病室の前で、北村が大河の母親にぺこりと会釈する。
かつて大河と竜児が駆け落ちしようとしたときに、大河の母親は同じクラスだった北村の家を訪ねていたので、なんとなく顔を覚えていたのだろう。
あの時とまったく状況は違うし、それは十分にわかっているのだけれども、それでもなんとなく緊張して態度が強張る。
「それで、逢坂、えっと大河さんの具合はどうなんですか?」
「どうもこうも…。」
はぁ、と小さく溜息。
結局医者の説得と説明により、大河が興奮して母親につかみかかるようなことは収まったけれども、それでも敵意は剥きだしのままだった。
病室においそれと入ることも許されない。竜児はその現状を察し、また胸が苦しくなる。
どうやって北村に今の状況を説明したらいいんだろう、もし北村が入っても同じ反応だったらいよいよどうすれば、という思いが巡る。
しかし。
「逢坂ー、入るぞー。」
大事なところで空気が読めない鈍感男が扉をがちゃっと開いて中へはいっていく。ノックをしたところで相手の反応を待たないのであれば、ノックの意味もなかろうに。
入った病室の中では大河がベッドの上で上体を起こした姿勢のまま、まためんどくさいのが来たのか、という憮然とした表情を見せていたが、しかし。
「……!き、きたむらくん!?」
その反応は半分予想外、そして半分予想通りのものだった。
北村が自分の見舞いにやってきたことに気づいた途端頬を赤らめ、テンパりだす。
わわわどうしよう髪ぐしゃぐしゃだっていうかこんな恰好いやいや見ないでと急に女の子ぶる大河に、北村の後ろで見ていた竜児が唖然とする。
しかしそんな竜児にかまうことなく。
「なんだ、事故に遭ったって聞いたけど案外元気そうじゃないか。どこか痛んだりしないのか?」
「いやうん全然大丈夫なの!ほら私頑丈だから!てててていうかなんで北村くんが!?」
「高須に聞いてさ、いっしょにお見舞いきたんだよ。ほら。」
といって、北村は手に持っていたお見舞い用のフルーツ盛り合わせを掲げて見せる。

204 :
  
来る途中に寄った果物屋で、二人で折半して買った割と値の張る品物だ。そしてそのうしろには竜児。
その竜児を見て、また大河は困惑した表情を見せる。
『あんた、だれ?』
大河の目がそう言っている。口にはださずとも、竜児にははっきりと聞こえた。
大河は北村のことがわかる。というよりもこの反応の仕方はまるでかつての大河のようで。
そして、母親に対しても、かつての大河のようで。そして自分はわからない。これではまるで。まるで。

2年生に上がる前のことのようではないか。
 
そのことを理解した竜児はそのまま病室から出て行った。部屋に大河と北村だけを残して。
北村を見てにへらにへらと笑う大河と、大河が思ったより元気そうなのに安心した北村。
この場はきっとかみ合わないであろう二人の会話にまかせておけばいい。
そして病室の外で竜児は。
「…大河は、大河の記憶は2年に上がる前に戻ってるみたい、です。俺と同じクラスになって、出会う前に。」
「…そう。」
「北村に対する態度を見れば、おそらくそこらへんでしょう。…なんでこんなことになってしまったのかはわからないけれども。でも。」
もしかしたら、大河がそう望んだのかもしれない。という言葉はぐっとこらえて。
そんな馬鹿な話があるものか。大河が俺のことを忘れたがっていたなんて。いくらなんでもそんなこと。
母親は口を噤んだままだ。

 
***
 

205 :
 
それから数日して、夏休みが明け、高3の2学期が始まった。
竜児は一人で学校へ。大河は混乱しながらも、結局自分は今高校3年生であることと、母親と自分の弟といっしょに生活しているという現実を認め、退院してそこに帰った。
竜児のことは思い出せないままに。そして。大河は実乃梨と共に学校へ通う。1年生のときにそうしていたように。
結局大河が入院したことは実乃梨にも話が伝わり、自分も利き腕を肩から吊った状態のままお見舞いにきて、そして状況を把握したらしい。
竜児は北村と大河の見舞いに行って以来、大河を訪ねはしなかった。自分のことがわからない人間に、自分が会いにいってなんの役に立つ?
実乃梨は実乃梨で、まるで何事もなかったかのように大河のことを気遣い、大河に気遣われ登校していた。
夏休み前とかわらないクラス。3年理系特進クラスの二人はいつも通りに授業をこなし、いつも通りに昼飯を食べ、いつも通りに清掃をして、下校する。
1学期は大河とわざわざ校門で待ち合わせをしていた竜児だったが、今は一人でそそくさと帰るようになった。
学校が終われば早めに帰り夕食を済ませ、その分勉強に時間をとれる。予習も復習も、十分にこなせる余裕がある。
その事実が。竜児には切なくて。
大河の不在が竜児にその存在をより色濃くさせる。しかし竜児にはなにをどうすることもできなかった。
ただ、これまで通り、刻一刻と迫る受験の日に向けて勉強を進めることだけしか。

夏休みが明けて数日したある日の放課後。
「高須、呼んでるぞ」
「ん?」
帰りのホームルームも済み、特に用もないのでいつも通りさっさと帰ろうかというタイミングで、後ろの席に座っているクラスメイトに声をかけられた。
自分のことを呼んでいる人がいると。
「誰が?」
「天使」
はぁ?という顔をしてみせる。が、すぐにその正体がわかった。
教室の後ろの出入り口で自分を待ち構えていたのは。
「やっほー高須くん。久しぶり。」
かつての級友。親友北村祐作の幼馴染にして校内はおろか、日本全国探したってなかなかいないレベルの美少女こと川嶋亜美だった。
「…何の用だ?」
「あ〜らやだ久しぶりだってのに冷たいね〜、そんな男は、モ・テ・ナ・イ・ゾ♪」
とかわいくウィンクしながら、人差し指をちょんと竜児の額に当ててみる。懐かしいキャラだな、と思う。
竜児の反応があまりにも薄いので亜美はそのキャラを止めて、はぁっとひとつ溜息をついてから普通に喋り出す。
「ね、高須君。亜美ちゃんちょっと高須くんにお話があるんだ。いいかな。」
「……だめだっていってもどうせ連れてかれるんだろ。」
「なんだ、わかってるじゃん。じゃ、ちょっとついてきて」
そういって亜美は不適に笑い、竜児を引っ張っていった。
そんな光景を教室からは羨望の眼差しで見るものもいたが、しかしどう考えてもこれから彼らの予想しているような楽しいことが起こるわけではない。
竜児にはそれがわかっている。

206 :
 
二人連れたって廊下を歩き、そして引っ張られた先にいたのは。
「…やぁ。」
櫛枝実乃梨。二人が来るまで窓から外を眺めていたのだろう。そして、こちらを振り向いたときの表情に物寂しさが見える。
まだまだ暑い午後の西日が差し込む放課後の空き教室。
外からは運動部のよくわからない掛け声が聞こえてくる。かつては彼女もそこにいたはずだ。しかし今は。
名実ともに運動部を引退した上に、怪我でバイトをすることもできなくなった彼女はこの放課後の時間を持て余していた。
「さてさて、役者もそろったところで。」
亜美が教室の外に人がいないことを確認してから扉を閉める。
「じゃ、みのりちゃんから始めようか。」
「うん、ありがとあーみん。このお礼はまたこんど。」
ヘイヘイ、と手をぷらぷらさせて亜美は実乃梨にその場を譲る。
「さて高須くん。今日はキミに言いたいことがあってあーみんに頼んで呼び出させてもらいました。ごめんね。」
「…おう。」
例の電話の一件以来、なんとなく距離をとっていた櫛枝との邂逅。それもわざわざこんなカタチで。
話の内容もおおよその検討がつく。
「話ってのは、大きく二つあって。ひとつは私のこと、こないだの続き。で、もう一つはさらにその続きで、大河のこと。聞いてくれる?」
「…あぁ。」
そして実乃梨がすーっと一度大きく深呼吸してから、ぽつぽつと話し始めた。
「こないだの電話で話したこと。あれは本当のこと。私は高須くんのことが好きだったし、今でも好き。
こうやって怪我して、いろんなことができなくなってやっと気付いたの。意地を張ることになんの意味があるんだろうって考えたときにね。
だからね、それは今日を、電話じゃなくてちゃんと伝えたいの。で、それで終わりにする。」
「…終わりって。」
「終わりは、早すぎるかな?へへ。まだ私にも望みがないわけじゃないもんね。でもね。」
一呼吸おいて。
「選ぶのは高須くん、キミなんだ。だから私は、伝えるだけ。
高須くん。私はキミが好き。今でも好き。一度は見えないフリをしたけど、そんなの、無理だった。
それをいまキミにちゃんと伝えたい。電話なんかじゃなくて。これが私のこと。」
「櫛枝……、俺は…。」
「ごめん、もうちょっとだけしゃべらせて。」
実乃梨が言葉を続ける。
「でもね高須くん。キミは大河のことが好きなんだ。いろいろあったけど、結局キミは大河のとなりにたつことを選んだ。
私が選ばせた。それは私が意地を張ったせいでもあるし、私が余計なお節介をしたせいでもある。
だからね、私はそこに関しての責任をとらなきゃいけないの。大河には、高須くん、キミが必要なんだ。
今の大河は、とても苦しそうで見てられない。だって、そんなにも大好きなキミのことを思い出せずにいるんだから。」
最後に、聞いてくれてありがとと小さくお礼を言って、実乃梨は口を噤んだ。
「さて高須君。次は君の番かな。」
川嶋が竜児に発言を促す。

207 :
 
ちょっと間をおいてから、慎重に言葉を選ぶように、竜児が話し始めた。
「俺は…、俺は櫛枝のことが好きだった…。でもそれは本当は好きとは違って、なんていうか、憧れみたいなもので…。
でも、大河といっしょにいるうちに、大河のことをほっておけなくなって、それでだんだん大河のことも好きになっていって…。
好きってなんなんだろうな、俺にはよくわかんねぇよ…。」
「高須くんは実乃梨ちゃんとどうなりたいの?タイガーとはどうなりたいの?きみは二人についてどう考えているの?」
亜美が言葉を挟み、竜児の告白の手助けをする。
「櫛枝は…、櫛枝には夢を叶えて欲しい、いや欲しかった、か…。だってもう無理なんだよな…。大河は…、大河には悲しんで欲しくない。
もちろんあいつのことをかわいそうだと思ったこともあるし、実際かわいそうだと思うけど、それだけじゃなくて、あいつは、なんていうか…。
あいつの泣くところは見たくないんだ。あいつに、悲しかったり辛いことがあって、あいつは必に耐えて泣くまいとするんだけど、
でもそうやって一人ぼっちで耐えてるあいつを見ると、俺はどうしようもなく切なくて、俺がそばにいるんだから、俺の胸でなけって、あいつの居場所になってやりたい。
好きとかよくわかんねぇけど、あいつが悲しむところは見たくないし、どうしても悲しいならその悲しみを一緒に背負ってやりたいんだ。」
「それは実乃梨ちゃんへの想いとは違うの?」
「櫛枝は…。もちろん櫛枝が悲しんでる姿を見るのはつらいし、泣きたいなら俺の胸で泣いてもらっても全然かまわない…。
けど、大河に対するものとは違う、気がする…。櫛枝は、櫛枝だって、ほんとはつらいことがたくさんあって、
でもあいつはそういうのを全部ひっくるめて自分の楽しみにしちまうことができて、だから幽霊なんか見えなくたって平気なんだ。
いや平気な風を装ってるだけなのか…。ただでも、大河をほっとけないっていうのとは、その度合いが違う、のかな…。
なんかすげぇ軽薄なこと言ってる気がするけど…。」
「好きってのはさ、たぶんそういうことなんじゃない?」
亜美が優しく語りかける。
「高須くんは優しい人間だから、誰に対しても優しく接してあげたいと思う。
きっと私が辛くて泣いてても助けてくれるでしょ。でもタイガーだけは違う。タイガーへの想いはそういう当たり前の優しさを超えたところにある。
きっと好きってのはそういう気持ちのことなんじゃないかな?」
「そう、なのかな…」
「ね、高須くん。誰にでも優しいってのは、誰にも優しくないのと同じなんだよ。」
「……。」
「もう、いいよ高須くん」
実乃梨が再び口を開いた。
「私は高須君が好きだった。でもそれは高須くんの大河への想いみたいな好きとは違うの。
私は、私の弱さを知って助けてくれる男の子に甘えたかっただけ。だって私女の子だもん。泣きたいときだってあるの。
そんなときに、高須くんは私のことを理解してくれて、私に優しくしてくれる唯一の男の子だった。
だからそれに甘えちゃった。幽霊も見ちゃった。でも幽霊が見えたと思ったら、それ以外のものもいっぱい見えてきたの。
高須くんの見ている幽霊も、大河の見ている幽霊も見えてきたの。だから、傷つきたくない私は逃げてた。でもそしたら光は射してはくれないの。
だから私は逃げない。私の弱さを受け入れて、甘えることをやめる。だから、高須君。きみのことはあきらめる。
君は、君が見ているものに全力で向かっていって。」
「櫛枝…」

208 :
 
再び沈黙が場を包む。外では相変わらず運動部の掛け声が響いている。
一体あの何を言っているかわからない掛け声に、どんな意味があるんだろう。
きっと竜児には一生縁のないことだけれども、今はその声が遠く虚しく響いている。
そして。
「…櫛枝、川島、ありがとう。俺はやっぱり大河が好きだ。大河に俺のことを思い出してもらいたい。」
竜児が前を向く。その表情に明るい光が燈る。
大河はやっぱり苦しいんだ、俺がなんとかしてやらなきゃならないんだ。
それは、憐みとか、義務とかそういうのではなくて。
大河に苦しい思いをさせたくないから。大河に辛い思いをさせたくないから。
なによりも、大河のことが好きだから。
そのことを改めて自覚する。俺たちはもう、家族なんだ。切っても切り離せない関係なんだ。そして俺はこの関係を失いたくないんだ。
一度手放してみてわかった大事なこと。取り戻したら、もう二度と離さないという決意。
その想いが竜児を奮い立たせる。光の射す方へと。
「そうこなくっちゃね。」
「ね、高須くん。なにか、大河の記憶を取り戻せるような手がかりとかないかな。なんでもいいけれど、キミと大河の二人だけの秘密、とかさ。」
「秘密…」
秘密、といわれても。咄嗟に思い浮かんだのは、体を重ねたこと。しかしそれもずいぶん昔のことのように思えた。
しかし今の大河にそれをどう伝えれば、というか自分のことをわかっていない大河とそんなことをどう伝えれば、という疑問が沸く。
次いで思いついたのは。
「……もしかしたら。」
「なにかあるの?」
二人だけの秘密、というわけではないけれども。
竜児の脳裏に浮かんだものは……。
まだまだ残暑の厳しい屋外は、午後の明るい陽射しがそろそろ西に傾きつつある時間に差しかかろうとしていた。

209 :
今回分は以上です。
続きはまた次回。そろそろ大詰め。
コメント等々ありがとうございます完全に趣味でやってることですが
紳士のみなさんの紳士的な対応には目から汗のようなものを吹きそうになりますもうちょいがんばる
>>190
是非!書きましょう!
僕はリアルタイムにこのアニメを見なかったこととこのスレに来なかったことをとても後悔しています;w;

210 :
乙乙

211 :

しかし何処もかしこもアニメ化の所為でか荒れ気味だなー

212 :
乙乙乙

213 :
腹が決まりましたので、投稿してみます
――が、とらドラではなく、GTの方、しかも続き物だったり
今回は6〜7レスほど

214 :
「私の何を知っているの?」
苛立った声をあげながら、舞佳(まいか)はオレに向き直った。
細い肩を怒らせ、こちらを睨みつける顔は、右の眉だけやや深くつり上がった、アンバランスな憤怒に歪んでいて――ただの癇癪を超えて、どこか敵意さえ感じられる。
「言ってみなさい。私の何を知っているというの」
言葉は、もう質問の体をなしていなかった。声は石つぶてのように硬く、耳をかすめ、胸を打つ。
息をのんだ。
とっさの返事が出てこない。
舞佳からこんな表情を――不快な他人を見るような目を向けられた事に、思った以上に動揺していた。
「言えないでしょう。ただ遠巻きに私を見て、分かったようなつもりになっていただけのクセに」
「オ、オレは――」
「気休めなんか言わないでよ!」
鋭い一喝に、今度こそ完全に黙らされる。
舞佳がこちらに一歩踏み出してくる。桃色の唇を歪め、刺々しい言葉をねじり出そうと、大きく息を吸い込む。
――その刹那、怒りに沸き立つ瞳が、何故だか少し潤んで見えて――
「私に踏み込んでくる覚悟も無いくせに!」

・ ・ ・ ・
「う〜む」
ノートパソコンの画面に見入りながら、佐藤隆哉はガリガリと頭を掻いた。
「ちと重すぎる、よなぁ……」
ズブズブと、ビニール張りのソファーに沈みながら、1人呻く。
――と、呟きが聞こえたのか、近くを通りかかったウェイトレスのお姉さんが、チラッと視線を向けてきた。
慌てて姿勢を直しながら、隆哉は画面のテキストエディタに目を戻した。
いつものファミレスは、今日も今日とて、ほどほどに人が入り、かつ適度に空いている。
飲み会帰りらしい、赤ら顔のサラリーマン。夜遊びの最中と思しき、制服の男女グループ。ヒマを持て余してるらしい、ヤングなママさん達――お外も暗い時間に、子連れでファミレスとか、どうなんだ。
様々なグループが割拠する中、ぽつ、ぽつ、と、空きテーブルがいくつか散っている。
幸い、今日は大声で騒ぐグループもいなかった。よその話声が、少しは耳に入ってくるけれど、適当に混ざり合ってて、こちらから耳をそばだてない限り、煩わされるほどでもない。
隆哉にとっては、ちょうど良い環境だ。
うるさくない程度に他人の声がある所は、不思議と1人きりの時より執筆に集中できる。
実際、そういうタイミングを狙って来てもいた。
3ヶ月も通い続ければ、どの日のどの時間帯が混むか、おおよその周期も掴めてくる。
金曜の夜ともなれば、こんなふうに少しは混むものの、近場で大きなイベントも無ければ、平日と大差無いのだった。
「う〜む」
ジッ、ジッとマウスのホイールを回し、画面を上下にスクロールさせながら、隆哉は再びうなった。
物語は今まさに、中盤の山場というべき所に差し掛かっている。
――それまで単なるクラスメートで、会話すらロクに交わした事が無かった、主人公とヒロイン。
けれど学校行事の準備を一緒に進めるうちに、距離が近づいていって、いつしか互いに、異性として意識し始めるように。
なのに実は、2人には、それぞれ他人とのふれあいを恐れるだけの理由があって……!
新作の、大ざっぱな粗筋である。
なんだかんだとあったが、結局隆哉は、失われた『鉄血ガールズ』を、もう一度ゼロから書き起こす気にはなれなかった。
気分を変えて、いっそのこと全然違うテイストに挑戦してみようと、今度は異能もバトルも出てこない、青春学園恋愛モノに挑戦してみる事にした――のだが。

215 :
「重い……」
同じ呟きを繰り返しつつ、隆哉は傍らのコーヒーに手を伸ばす。
あえてミルクもシロップも入れてない、ブラックのままのアイスコーヒーを一口あおると、ほろ苦い風味が口の中を洗っていく。
傾いたグラスの中で、カランッと氷が音を立てた。
恋愛モノで、シリアスな展開をやる――とくれば、当然ハナシは重くなる。
まあ、そこまではいい。
そこまでは当然、予定の内なのだ。
問題は――
「……さて、こっからどうすっかなぁ」
たわむれに、↓キーを押しっぱなしに。
カーソルが「私に踏み込んでくる覚悟も無いくせに!」という、ヒロインの魂の叫びを――このファイルの最後の文章を――通り過ぎて、白々とした沈黙の海へと迷い込む。
やがてページの最果てに行き当たると、カーソルはそこで、無意味な点滅を繰り返し始めた。
――続きが書けない。
問題は、言ってしまえばそれだけの、至極単純なものだ。
この先のプロットが無い、というのとは違う。多分。
なんとなく、最初にイメージしていた流れはあるのだ。……あるのだが、それを自分の中で、うまく形に出来ない。
展開の重さに、作者である自分が引きずられて、この先を形にするのが困難になってきている。
――どうやって、こっからハッピーエンドに持っていけばいい?
こっから立ち直らせるの、ヤバい。かなり難しい。
……って、作家の世界では、まさにこういうのを「プロットの不足」というのだったっけか?
「どっちにしろダメじゃん……」
憂鬱な調子でひとりごちながら、隆哉はもう一度アイスコーヒーのグラスに手を伸ばし――「ありゃ」
カラカラと氷が鳴るグラスの中は、もうカラだ。
いまの一口で飲み尽くしてしまったか――そんな事にすら、気付いていなかったとは。
『それだけ集中が深かった、という事だ。良い事ではないか』
脳裡に、涼やかな声が弾けた。
白銀の髪をなびかせ、エメラルドに輝く瞳を細めて笑う、美しい少女。
VJ――ブリジット・ジェオミア。
佐藤隆哉によって命を吹き込まれ、佐藤隆哉のために生き、佐藤隆哉だけを愛し続ける、永遠の花嫁。
――あえて俗な表現をするならば、『脳内彼女』というヤツだ。
『隆哉、時計を見てみろ』
楽しそうな微笑を口元に浮かべ、VJはささやく(むろん脳内で)。
言われて、現実の三次元の、我が左手に目を落とせば、
「うぉ、もうすぐ10時!? 2時間以上たってたか……」
腕時計のデジタル表示に、目を丸くする。
フルーツサンデーとドリンクバーを注文して、この席についたのが夕方7時前だから……そろそろ3時間になるのか。
その間、ちょっとづつ言葉を絞って続きを書き出し、だが見返しては消して、あるいはこれまでの部分を手直ししたりして――結果、全然先に進めていないわけだが。
『だが、この僅かな期間で、それだけの集中力を身に付けるとはな。そこだけは、もうイッパシの作家と遜色ないではないか』
朗らかなVJの言葉に、隆哉は自嘲を浮かべる。
いやいや、ダメだよVJ。原稿はゼンゼンだ。
これは本格的に、スランプという奴かもしれない。
何がいけないのだろう。
やっぱり、この前のケンカでムシャクシャして、当てつけでヒロインに鬼姉の名前を流用したのがまずかったか? ――関係ないか。ここまでは来れたんだし。
『まあ、なにはともあれ、ここらでちゃんと休憩しろ。これ以上は目を悪くする。また眼鏡の度が足りなくなるぞ』
2次元のクセに、やたらと現実的なVJの指摘に、うっと言葉に詰まる。
母親からは、次に眼鏡が合わなくなったら、今度は自分の金で買えと言われていた。
眼科で処方箋を書いてもらって、レンズから新調するとなると、2万から3万。
なかなか痛い出費だ。当然、避けれるものなら避けたい。
『とりあえず、何か飲んで、ひと心地つくと良い。私の特性ミックスジュースなんてどうだ?』

216 :
――お? と隆哉は眉を上げた。
ミックスジュース? VJが料理?
そんな設定――あっただろうか。
異界のプリンセスで、生粋の軍人で、あやしの妖刀を武器に、魔を狩る者で――ええと、他には何があったか。
でも……「料理上手」とか、「料理が好き」なんて設定、俺作ったっけ?
『ほら隆哉、どうだ? 今度の新作、ミルクスプライトバヤリース!』
なにその、お前の必技みたいな名前。
間違っても、ドリンクの名前なんかじゃないだろ。
『さあ、飲んでみろ、隆哉。飲んでみてよ、隆哉――タカヤ――タカヤ先輩』
せん、ぱい……?
「せ、ん、ぱーい。起きてます? 起きて下さいよー」
いつの間にか。
VJの日本人離れした容貌が、別の姿にすり替わっていた。
長く伸ばした髪はそのままに――しかし色は、冬の山嶺を思わせる白銀から、夜を溶かし込んだような漆黒へ。
燃え立つようだった翠の瞳も、黒々と澄み渡って、夕空の一番星みたいな、静かな光へと落ち着いている。
白い肌は変わらず、雪のように汚れを知らず。
肉付きの薄い体は、息が詰まるほど繊細で、まるで精緻な人形のようで――けれど確かに、呼吸のたびに脈動する命を宿していて。
――何もかもが、蟲惑的だった。
彼女はいまだに、その姿を見せるだけで、一瞬、隆哉の意識を奪い取ってしまう。
魔性の、後輩。
「せ、ん、ぱ、い?」
「お、おうっ、なに? ――秋ちゃん」
秋は向かいの席に座っていた。
テーブルに身を乗り出し、パソコンのモニターの脇から頭を出して、隆哉を見上げている。
何か面白くない事があったのか、桜色の唇をブスッと尖らせ、ジットリとこちらを睨んで――
「やっと気付いたァ。さっきからセンパイって呼んでるのに、ちっとも反応しないんだもん」
「あぁ――や、その……」
不満げな秋の口調に、隆哉はしどろもどろになった。
本当に、いつ来たのか分からなかった。
うかつだ。ちょっと飛び過ぎ。
「またあの、”ぴーじぇい”とかいうヒロインのこと考えてたんですか?」
「んなっ!? ちち、違うって! 今書いてるヤツはほら、前言った通り、青春恋愛モノだから!」
必で言うのが、かえって怪しく映るのか、秋は目を細めながら、へー、ふーん、と隆哉を見る。
「ま、いいですけど……」
あの監禁騒ぎから、はや2ヶ月ちかくになる。
一連のゴタゴタが終わってから、秋はガラリと生活態度を改めた。
それまでの、有象無象の男付合いをスッパリと断ち、進学を目指して、地道に勉強を始めている。
だが、もともと勉強好きでもなかったうえ、これまでの遊蕩三昧が祟って、スタートは偏差値40以下から。
少子化の時勢とはいえ、多くの大学では、まだまだちゃんとした入学試験を課すのが一般的だ。
厳しい状況なのは本人も自覚していて、こうしてファミレスで自習に励み、執筆の合間を捕まえては、隆哉に分からない所を訊きにくる。
隆哉も、憎からず思っている後輩に頼られて、嬉しくないわけが無く、可能な限り応えてやっている。
が、時々面倒な事にもなるわけで――。

217 :
「なんか疲れてるみたいだから、休憩にしませんかって、誘いに来たのに……」
まだ不機嫌を引きずった口調で、秋がボソボソ呟く。
この流れは……良くない。
一緒に過ごすようになって気付いたのだが、この魔性の後輩は、その容姿に似合わず、構ってやらないとすぐにムクれてしまう、子供のようなところがあった。
「秋が呼んでも気付かないし、『俺はそんな設定を〜』とか、意味の分かんないコト、ブツブツ言ってたし……」
「あぁーっ、うん! ちょ、ちょっと煮詰まっててさ。ノド乾いてきたし、そろそろ休もうかなって思ってたから、ホント、グッドタイミングだった!」
ハハ、ハハハと、ぎこちなく笑いながら、隆哉はまくしたてる。
秋が不機嫌になると、色々と都合が悪い。
第一に、美人というのは、その場にいるだけで存在感がある。
秋の白い顔が不機嫌に歪むと――美しく整っているだけになお一層――場の重力がどこか偏ってしまったような、妙に重苦しい空気を生み出す。
あれは、よくない。
あんな風に、頬を膨らませされ睨まれたら、執筆どころでは無くなる。
――が。
「へぇ〜、ノド乾いてたんですか。ちょうど良かったです」
それまでの不機嫌顔が一転。
秋は急に、白い頬を緩めて、天女のような笑みを浮かべた。
そして、テーブルの隅の、ストローの刺さったグラスに手をかけ、
「はい、先輩」
ズイッと、両手で押し出してくる。
カラフルなジュースだった。
さわやかな薄緑、鮮烈なオレンジ、まろやかな純白――。
1つ1つはキレイな色なのに、混ざり合った途端、どうしてこうも混沌としてくるのか。
まるで前衛絵画にでも出てきそうな、色彩の渦巻き。タイトルは『虹色の悪夢』とかだろうか。
隆哉の脳裏に、先ほどの妄想の中のVJが、フラッシュバックする。
「飲んでみて?」
……はめられた。
いや、逃げ損ねた。
――いつぞや、一緒にこのファミレスに来てた男に対しても、秋がやっていた事だ。
ドリンクバーを使って、おぞましいミックスブレンドを作り出し――それを他人に飲ませる。
単に退屈だから、あんな事をしてるのかと思ったが、わりと本気で趣味にしてるらしい。はた迷惑極まりなかった。
「ね、先輩?」
ニコニコと笑いながら、魔性のドリンクアーティストが、『虹色の悪夢』を押し付けてくる。
いつもなら言い逃れを試みるところだが、今は自分から「喉が渇いた」などと口走った直後だ。
せめてもの抵抗に、
「その……秋ちゃん、味見、してみた?」訊いてみるが、
「はい。楽しいですよ」
――『美味しいですよ』じゃなく、『楽しいですよ』ときたか。
本当に、心底から楽しそうな秋の笑顔に抗しきれず、隆哉の手が、ついに押し付けられるグラスを受け取ってしまう。
「ハハ、あ、ありがとう。……いただきます」
ままよ、とストローを口に咥えれば――「オプッ!?」
最初に来たのは、ラムネ風のさわやかなテイストと、炭酸の弾けるような舌ざわりだった。
それが駆け抜けた後で、オレンジジュース(果汁0%)の、人工的な甘ったるい後味が、ベタベタと口内に染みてくる。
最後に、低脂肪乳のまろやかな風味が、喉の奥をデロッと撫でてから、胃袋へ滑り落ちていく。
――総じていえば、感想は、
「……甘めぇぇー。ゲロ甘ぇぇ」
ゲンナリしながら、隆哉はそうこぼした。
秋は満面の笑顔を崩しもせず、言った。
「カンセツですから。きっと、秋の味ですね」
――ブフォッ! と、隆哉の口から、虹色の飛沫が飛び散った。

218 :
キャッと、秋が楽しそうに悲鳴を上げる。
「きったなぁ〜い。なにしてるんですかぁ、せんぱぁい」
「こ、ここ、か、かか――」
こんなところで、不用意に『間接』とか言うなよ!
魔性だ。
やはり、こいつは魔性の女だ。
「じょ、冗談もそれくらいにしとけよ! つーか、オレをからかって遊ぶ暇あるんなら、勉強しなよ!」
「すぐ、そーやって誤魔化すぅ。先輩、カッコわるーい」
ケラケラと笑いながら、秋はひょいと、隆哉の前のグラスを取り上げ、
「ぇ――?」
「ン――っ、ふふ、オレンジジュース風味とラムネ風味と、牛乳の匂いが混ざってて――やっぱり楽しいですよ?」
一口啜りあげて、小さな舌で、桜色の唇をぺろりと、見せつけるように舐めてみせる。
濡れた唇が、ツヤツヤと誘うような光沢を発し、隆哉の目を釘付けにする。
笑みの形にゆるんだ口が、微かに開いて――奥にチラチラ覗いてるのは、今見た、あの可愛らしい舌だろうか。
喉の奥に、唾が溜まる。
今、隆哉が秋と一緒にいるのは、彼女の事を守ってあげたいから。
もう彼女が傷つかないように、傍に付いててやりたいから。
なのに、その筈なのに――。
想像せずにいられない。
もし――
もし、あの唇に、キスしてみたら――
自分の唇で吸いついて、舌を絡ませて、好きなだけ啜りあげて――
「ふふっ」
「――っ!」
動揺する隆哉の内心を見透かしたように、秋は蠱惑的な微笑を浮かべる。
黒目がちの大きな瞳が、心の底まで探る様に、隆哉の目を覗きこむ。
小首をかしげ、長い髪をテーブルに這わせてこちらを窺う姿は、無邪気なウサギのようだけど――同時に、何か、獲物をじっと窺うクモのようでもあって。
「先輩の味って、意外に爽やかですね。まるでスプライトみたい」
「っ! か、からかわんといてぇ!」
いっぱいいっぱいになって、知らない方言が飛び出した。
風船が弾けるように、直前までの、ちょっと変な空気が霧散する。
なんで関西弁〜と、秋が腹を抱えて爆笑した。
頬が熱くなるのを感じ――けれど、どこかホッとしながら――隆哉は唾を飛ばしてがなりたてる。
「あ、あのねっ、俺をバカにするだけなら、もう帰るよっ!」
勢いで、そう口にする。
が、言葉に出してみると、実際それが良いような気がしてきた。
もういい時間だったし、これだけ頑張って行き詰まったままなら、今日はもう進展はないだろう。
それに、ファミレスのボックス席で、こんな美少女とギャアギャア騒いでいるのは目立つようで――ほら、さっきからこっちにチラチラ視線が飛んできてる。
特に、夜遊び学生グループの男子から。
「えー? もうちょっと秋と遊んでくださいよぉ」
甘えるように秋がせがむが、
「うんにゃ、ダメ。ていうか、秋ちゃんもそろそろ帰らないと。こんな時間だし」
さっきまでのお返しだ、とばかり、先輩風を吹かしてやる。
むぅ〜と、唇を尖らせながら、秋は目線を明後日に逸らした。
「ツマンないなぁ」
今日はまだ、先輩と全然しゃべってないのに。
呟いて、頬杖をつきながらストローを咥え直し、ズズーッ、とグラスの中身を一息に飲み干して――
「――ぅぷっ」
柳眉をクシャッと歪ませ、片手で口元を押さえる秋を見て、隆哉はへへんっと笑った。
「いわんこっちゃない。あんなの一気飲みとか」
「……いいんです。楽しかったから」
ムキになったように言い張る秋がちょっと微笑ましくて、隆哉は微苦笑に切り替えて、「まぁまぁ」と宥めにかかった。
「また付き合うからさ、今日はもう帰ろ? チャリで良ければ、俺、送るから」
「ん……」

219 :
少し考え込むように俯く。
だが、いつもここで、もう少しゴネるのが秋だ。
特に今日は、執筆が進まなかったせいもあって、あんまり構ってやらなかったし、もう少し掛かるよなーと――「分かりました」
「え? あ、そ、そう?」
「はい、遅いのは本当だし、帰ります。送ってくれるんですよね?」
妙に素直で、静かな言葉に、隆哉の警戒本能が、ムクリと身をもたげる。
そんな隆哉を迎え撃つように、顔を上げた秋が、まっすぐ目を向けてきた。
ふざけた様子の無い、素の表情。
別に怒ってるわけでも、不機嫌なわけでもない。なのに、何か透明な圧迫感のようなものがあって……
「あ、うん……」
隆哉は呆けたように、そう答えて――否、答えさせられていた。
「じゃ、荷物取って来ます。レジの前で待ち合わせでいいですよね?」
「う、うん。俺も準備するから」
――なんだ、今の。
内心、首をひねりながら、隆哉はノートパソコンの電源を落としにかかった。
* * *
「先月の『あの事』、覚えてますか? 私が、迷惑をかけちゃった……」
駐輪場から自転車を引っ張り出している時、背後で秋が、だしぬけにそう言った。
一瞬、生ぬるい夏の夜に、ひんやりと真冬の冷気が迷い込んできたような錯覚を覚えて、隆哉はあらゆる動作を忘れて固まる。
「その、『あれ』だよな。……忘れるわけ、ないよ」
何を問われているかは、訊くまでも無かった。
秋の、監禁事件。
あれから、1ヶ月――いや2ヶ月か? まだ、たったそれだけしか経っていない。
あの時は、本当に怖かった。
秋が、自分の手の届かない所で――閉じ込められ、悪意に晒されて、痛い思いや、怖い目に遭っているのかと思って。
その想像だけで、隆哉は震えあがり、怒り、興奮して、ついには血まで吹いた。
「あの時、私を捕まえてた、あの人……ですけど」
隆哉自身は、結局その監禁犯と対面する事はなかった。
鬼姉・舞や、旦那のキング達が見せた報復の動きにビビって、男は先んじて秋を解放したのだ。
その後も、秋が無事だった事に喜んだり、けれどいい加減な態度に怒ったりと、隆哉は右往左往。
そんなこんなで、男の事は忘れてしまい――今この瞬間まで、頭から消えていた。
まあ、舞やキングが、「お咎めなし」なんて甘い処分を下したとも思えないのだが……。
「あの人が……」
「ど、どうしたの? まさか――また、なんかちょっかい出してきたとか?」
口にしながら、まさか、と思う。
今になってそんなこと、あるわけない。あっていいわけが――
隆哉のそんな願いを裏切る様に、秋は無言のまま、けれどコクっと、微かに頷いてみせた。
「なにかの間違いかもしれないけど……昨日、家の近くで、あの人を見かけて……」
「えっ!?」
マジか。
「だ、だいじょぶなの!? また家に押しかけてきたりとか? け、警察に連絡とか、舞ちゃんに相談とかは?」
「いえ……まだ」
「ど、どうして?」
「何度も続けてってワケじゃないですから。あの後、舞先輩たちがいっぱい脅かしてたみたいですし。偶然かもしれないから、ちょっと様子みようかなって……」
そう言いながらも、秋は右手で、自分の左腕を、そっと握りしめる。
平気なわけがない。
解放された当初こそ、へらへら笑っていたが、その後の号泣を、隆哉はまだ覚えている。

220 :
――『ずっと、助けを……誰かが、秋をここから助けてくれるのを、待ってた……!』
どれだけ怖い思いをしただろう。
監禁なんて。
一方的な都合で、閉じ込められるなんて。
それはつまり、相手を人間として扱わないこと、だ。
寒気を覚えるほどの、冷え冷えとしたエゴイズム。
男の隆哉ですら、想像しただけで震えが来る。実際そんなものに晒された秋のダメージは、いか程だったのか。
「だから――その、何もないと思うんですけど――今日は先輩に、送ってもらいたくて」
「も、もちろんだよっ! そんな話聞いた後じゃ、とても夜道を1人でなんて、帰せないよ」
勢い込んでそう言うと、秋は微かに、はにかんだように笑った。
「あはっ――それじゃ、もしもの時は、よろしくお願いしますね、先輩」
「う、うぉっしゃーっ!」
声だけは勇ましく張り上げながら、隆哉はそっと、親指を拳に握りこんだ。
あー、やべ。
なんか心臓、けっこうドキドキいってる。
ケンカなんて、当然隆哉は、まるで強くない。殴り合いなど、ほとんどやったことも無い。
前の時だって、キングとその仲間に助けて貰ったのだ。今1人で、何が出来るというのだろう。
でも。
秋は今ここにいて、他ならぬ隆哉を頼ってくれた。
彼女が自分から――多分初めて――隆哉を頼ってくれたのだ。
秋のためなら、きっと幾らでも頑張れる。
――俺はいくら傷ついてもいい。どんなにボロボロになってもいい。秋ちゃんが、そこで笑ってくれるなら。
決意を新たに、隆哉は拳を握りこむ。
――VJ、どうか俺に力を!
脳内嫁の返事はなかったが、きっと無言で微笑んでくれるているのだろうと、隆哉は思った。

……その決意が、根底から間違ったものだったという事を、隆哉はまだ、夢にも思っていなかった。
〈続く〉

221 :
今回はここまでとなります
H要素は次回以降で
不穏な引きですが、ダークな展開や暴力表現はない――予定です(汗)
ちょっと暗めの描写あるかもしれませんが、鬱はありません
秋ちゃんのキャラは結構勝手に作ってるところがありますが、
外伝本編での露出が少ないので、どうしても想像で補ってしまうところが…
諸兄におかれましては、寛大な心でお許しいただければ幸いです
それでは、また近いうちに

222 :
>>221
おつかれさまです。普段 SS はほとんど読まないのですが、
これはすごく楽しく読めました。文章表現も巧みだと感じます。
待望のゴールデンタイムの SS で、
しかも二次元くんと秋ちゃんの話でとても嬉しいです。ぜひ続きを!

223 :
何気にGTのSSは初じゃないか?
それにしても秋ちゃん可愛いよ秋ちゃん

224 :
保守

225 :
徒然さんはさすがにもう来ないか…

226 :
いい加減しつこすぎ

227 :
>>221
まだー?

228 :
過疎スレでしつこいもなにもねーべw

229 :
保守

230 :
こんばんは。2週間ぶりです。前回(>>197->>208)の続きです。
予定通りいけば11レスの予定。えっちしーんは匂いだけ。

↓↓

231 :
 
一人ぼっちの部屋。冷たい空気。淡く光るキャンドル。
先ほどまでの幸せは、外へ逃げて行った。
いや、逃げたのではない。追い出したのだ。自分で。それが、彼のためになると信じて。
そして、その決意は自分を苦しめることになった。圧倒的な喪失感。
それにようやく気づき、走り出す。むき出しの素足のまま。
階段を3段飛ばしで一気に駆け下り、エントランスを走り抜け、凍えるような真冬の空の下へ。
「――!――――――!」
名前を叫ぶ。声が枯れても、喉が裂けても、届かないと知っていても。
私はバカだ。大バカだ。人のことを何と言っていても、一番バカなのは結局自分だったのだ。
本当は知っていたのに。認めたくなくて、蓋をして、締め出した。自分で自分に嘘をついて、傷つけて。
大きなくしゃみをひとつ。こんな寒空のもと、肩を大きく露出したインナー1枚では当然だ。風邪をひいてしまう。
結局どうしようもない気持ちのまま、小さいくせにやたら重たい身体を引きずり部屋へと戻っていく。誰もいない、一人ぼっちの部屋に。
あと何度、私の人生にはこんなことがあるんだろうと独り言ちる。今まで生きてきた十数年間、こんなことばっかり。
どこにいても、私のことを認めてくれる人なんていなくて、でもそれは当たり前で、だって私が私を認められていないんだから。
零れる溜息と自嘲気味の苦笑い。頬を伝う涙。静かすぎる部屋の中で大河は一人、暗い海の底へ沈んでいった。
小さな身体には大きすぎる喪失感と共に。


----------オレンジD あの日見た夕焼け---------------

 

232 :
 
夢を見ていた、と思う。そうこれは夢なんだ。うだるような暑さの中での転寝が招いたたちの悪い悪夢。
だって私が今いるのは学校の教室で、季節は夏で、外では午後のお日様がまだまだ元気に活動中なんだから。
それでも夢の衝撃は強烈だった。とても大切ななにかを失ってしまったかのような感覚はすさまじく、そして涙を流していた。いくらか頭が痛む。
ちょっと用があるから、すぐ済ませてくるからいっしょに帰ろう、教室で待っててねと実乃梨に言われ、誰もいない放課後の教室に一人きり。
誰もいない、という点では同じだったかも知れない。しかし、時間がたてば実乃梨が戻ってくる。私は一人じゃない、と大河は思う。
それにしてもどれくらい時間かかるんだろ、聞いとけばよかったなと思いながら暇を持て余した大河は鞄から参考書とノートをなんとなく取り出す。
受験生なんだし、こういう時間も有効に使わなきゃ。広げた参考書には数学の練習問題がずらり。
あんなに苦手だった数学は、今ではすっかり得意科目になっていた。
相変わらず記号や公式の示す意味はわからないけれども、それでも問題文を見ればこうすれば解けるなというのがすぐ頭に思い浮かぶ。
要は組み合わせの問題だ。
必要な公式や定理があって、問題文には暗にアレとアレを使えよということが示されていて、あとは数値を必要な公式に当てはめるだけ。
ケアレスミスにさえ気を付ければほら簡単。すらすらっと答えは導かれるのだ。
そうやって参考書に示された例題を解いてみて、ひとつ溜息をつく。
なんでこんなことやってるんだろ、なんの役に立つわけでもないのに。
いい大学に行ったって。それが何になるというのだ。
シャーペンをノートの上におき、立ち上がる。なんとなく窓辺に寄ってみて、そして窓を開ける。
まだまだ蒸し暑い9月の空気がむわっと教室の中にはいりこんでくる。
外からは放課後の部活動に勤しむ下級生たちの声。楽しそうだな、と思う。
部活動なんて興味なかった。運動は好きだけれども、人と協調するのは苦手。
結局私には向いてないんだろうなと思い、ちょっと寂しい気持ちになる。
その時。
「大河ー!お待たせ!」
突然教室の後ろの扉が開いた。そこに現れたのは大河をここに待たせた張本人、櫛枝実乃梨。
ギプスのとれていない利き腕を首にかけた包帯から吊り下げ、待たせて申し訳ないという表情。
「お帰りみのりん。用は済んだの?」
「えっとねー、それがね。」
そして実乃梨は自由に動くほうの手を自分の顔の前に立てて見せる。謝罪、もしくは感謝のポーズ。
「待たせて申し訳ないんだけど、これからちょっと大河に付き合ってほしいところがあるんだ!」
「?」
きょとんとした顔。
「べつにいいけど、どこかに行くの?」
「それはねー、ちょっと秘密なんだ。来てくれればわかる、と、思う。たぶん。」
だいぶあやふやな説明だが、しかし実乃梨は真剣だ。別に急ぐ用があるわけでもないし、大河は実乃梨についていくことにした。

通い慣れたはずの、川沿いの道。そろそろ夕刻に差し掛かろうとする午後の日差しが水面に反射してきらきらと輝いている。
長い夏の午後は冬に向けてようやく短くなろうとしている。今頃商店街のほうは、夕飯のための買い物客でにぎわっていることだろう。
ズキズキと、頭の奥の方で鈍い痛みを感じる。
医者には、事故の後遺症で偏頭痛を覚えるかもしれないという話をされていた。実際、たまに頭の奥のほうで痛みを感じるときがあった。
それはたとえば、学校へ行く途中であったり、授業中であったり、夜寝る前だったり。
今のような時間であったり。
痛みが響くたびに、頭の奥にモヤがかかるような感覚を覚える。はっきりしない記憶。
道すがら、実乃梨に話しかけられてもその返事は話半分で、実乃梨が「ここ、登るよ」と言われたときに初めてそれが目の前に近づいているのに気付いた。
100段以上はあろうかという石段。頂上は、はるか天空にあるかのように見える。しかしそんな大河の意には介さず、実乃梨はせっせと登り始める。
ついてきた手前、ここで帰るとも言い出せずに大河は実乃梨についてその階段を登り始めた。

233 :
 
登った先にいたのは。
どこかで見たことのある目つきの悪い男と、青味を佩びた長い髪が印象的な女。
女は大河や実乃梨と同じカーマインのブレザーに膝上のプリーツスカート。男は学ラン。つまり、同じ高校の生徒。
そしてその後ろにはしなびたちいちゃな神社があった。それを見て、また頭がズキズキと痛む。
「高須くん、お待たせ。」
「おう、悪かったな櫛枝。こんなこと頼んじまって。」
「いいってことよ! ほかならぬ、キミの頼みなんだから。」
「そうか。」
実乃梨が男と喋っている。知り合いだろうか?いやきっとそうだろう、そうじゃなければこんな会話はしない。
実乃梨の用とは、この二人のこと?
「じゃ、高須くん。あとはキミに任せたよ。」
「あぁ。」
そして男がこっちへと歩み寄る。
「大河。」
男が私の名前を呼ぶ。大河。その声を聞くと、なにかがフラッシュバックする。しかしそれは、モヤに包まれていてはっきりとは見えない。
「久しぶりだな。」
「あんたは……」
なにかが引っ掛かっている。とても大事なこと、な気がする。
そうだ、この男は。私がまだ病院にいた時に、母親といっしょにやってきた男だ。それで見覚えがあったのか。
その時、男は突然
「すまなかった!」
頭を下げた。その姿勢のまま捲くし立てる。
「お前に寂しい想いをさせちまった!絶対離さないって誓ったのに、こんなことになっちまった!お前は今いろんなことを忘れちまってて、
俺が何をしゃべってるのかよくわからないかもしれねーけど、すまなかった!」
そして顔をあげる。両の拳はぎゅっと握られていて、その目には力が込められている。
「大河、聞いてくれ。俺はお前に俺のことを思い出してほしい。その為に、ここに来てもらったんだ。」
ズキズキと頭の奥のほうで鈍い痛みが広がる。思考にモヤがかかる。そのモヤの向こうで、何かが見える。
 

234 :
 
人通りのない夜の道路。空に瞬く北極星。傾いた電柱。誰かがそれに対して猛烈に腹を立てていて、そして電柱に思いっきり蹴りをいれる。
刹那、その景色はカタチを変えてこんどは昼間、明るい太陽の下。誰かの声が聞こえる。
その声は涙に濡れていて、そして必になにかを訴えている。
『―――、誰も触るんじゃなぁぁぁぁぁーーーーーいっ!』
頭の痛みに目を閉じる。すると再びなにかの風景が瞼の裏に映し出される。
あれは、そう。私を今ここまで連れてきてくれた実乃梨。それと手をつないでこっちに向かって走ってくる目つきの悪い男。
男と実乃梨はこちらへとさらに歩み寄る。そして、私の頭に何かを載せて、私は幸せに包まれる。
瞼の裏の風景はさらにぐるぐるとその形を変える。声が響く。
『ああ……現実、なんだね!夢が現実になったんだ……!』
そう、これは現実。忘れられた夢ではない、まぎれもない現実。
幸せな私は幸せに包まれて、聖なる夜を祝う。
しかし私の幸せはそこでその形を喪失する。
再び夢のような感覚が広がる。
『なんで、あんたは、』
『私のそばにいてくれるんだろ……?』
雪の降る寒い夜。何かから懸命に逃げて、逃げて。でも行く場所はなくて、行ける場所もなくて。
世界に二人っきりで、私たちにはそれに抗う術もなくて。それでも。
私のそばに。そう私のそばには誰かがいてくれた。
肉親でもない、親友でもない、憧れの人でもない、誰かが。それは。
「大河。」
男が私の前に立つ。私はその声に呼び戻され、はっと目を開く。
迫力のある三白眼が私を見つめる。
「振り返って、向こうを見てくれないか。」
恐る恐る、自分の背後を振り返る。そこに見えたものは。

235 :
 
夕焼けに染まる大橋の街並み。太陽はそろそろ地平線に触れようとするところ。
何度も使った大橋の駅と、その周囲だけで発展する駅前ビル群。いつか二人で飛び込んだ川とそこにかかる橋。
高台の上にちょこんと置かれた二人の通う高校。
あっちには誰の家があって、こっちには誰の家があって。あっちのほうにわたしたちの家があるね。
再び声が頭の中で響く。
『……竜児、ありがとう。私この景色、忘れない。』
大河はもう気づいていた。この声の主は。
私自身だ。これは、私が言ったことだ。そしてそれを私に思い出させてくれたのは。
目の前のこの男。高須竜児。いつも私のそばにいてくれて、困ったときは助けてくれて、泣きたいときは慰めてくれて、お腹が減ったときはご飯をつくってくれて、私の想いをまっすぐに受け止めてくれた人。
竜児が大河の横に並び立つ。
『俺は、竜だ。おまえは、虎だ。――虎と並び立つものは、昔から竜だと決まってる。だから、俺は竜になる。おまえの傍らに居続ける。』

その様子を後ろで眺めていた亜美と実乃梨は、その光景に全てを悟った。
夕焼けを浴びて伸びる二人の長い影。その影と影が、手をつないで一つになる。
大河の小さな手が竜児の腕へと延びる。まるで、赤ん坊が目の前に差し出された玩具に手を伸ばすみたいに。
「大河…!」
竜児が名前を呼ぶ。
「竜児……、そう、あんたは、竜児。」
大河が小さくつぶやく。いまや、頭の中にかかっていたモヤはほとんど吹き飛ばされていた。
この男が。この男こそが。
そして、竜児の腕をつかんだ右手がそこから一度離れ、ギリギリと音をたてて握りこまれる。
「……いってぇえええ!」
渾身の右ストレートが竜児の下腹部へ放たれる。そして。
「竜児のばか!ばかばかばか!ばか犬!ブタミソ!」
大河が竜児の胸へと飛び込んだ。その勢いに竜児は尻餅をつく。
「おい大河!ちょっと待てって!」
「待たない!あんたのせいで私は!」
大河の言葉が一瞬途切れる。
「どんだけ寂しかったと思ってるのよ……!」
大河は竜児の学ランに顔を埋め、静かに涙を流していた。
竜児はなにもいわず、ただ黙って涙を流す大河を抱き留める。もう二度と離さないと誓う。
夕焼けが、二人を照らす。長い影が伸びる。
夏の夕暮れは終わりを告げようとしていた。


***

236 :
 
不安というものは、いつになっても消えないものだ。
人間は生きている限りというものからは逃れられない。若い人間にはある意味で現実味のない話でもあるので、ともすれば忘れかけていることはあっても、
それでもそのに近いところにある病気や怪我というものは常に意識のどこかにある。
そして、そういう状況に陥る人間が自分以外だったとしても、そこに人間は不安を感じるものだ。
例えば、自分の娘が交通事故に遭い怪我をしたとしたら。
怪我をしただけでは済まなくて、もし後遺症を抱えてしまったら。それが、大切なことを忘れてしまうようなことだったら。
母親として、何がしてやれるのだろう。何をしてやるべきなのだろう。
大河が事故に遭って以来、大河の母親はほぼすべての仕事をキャンセルした。
新たに息子が産まれても止めなかった仕事を、信頼できる数名の部下にすべて分担させ、そのチェックを行うだけという形にして、自分は家で娘の帰りを待ちながら育児に専念するという生活に切り替えた。
もちろん家事はできる。炊事だって洗濯だって、やろうと思えばわけはない。ただ、自分がやる必要がなかっただけで、自分にはもっと他にすべきことがあったからそういうことは他人に任せていたというだけの話。
ちゃっちゃと済ませてしまえば、当然やることのない時間が増えていく。
読む本の量が増えたのは間違いない。テレビは元来ほとんど見ない人間なので変わらない。酒は、晩酌を軽くする程度なのでこれも変わらない。
考える時間は増えた。自分のこと。新たに生まれた息子のこと。その父親のこと。そして、事故にあった娘のこと。
彼女と彼女の本当の父親の間にあったことは、まるでドラマの中の出来事のようで、とても聞くに堪えないような内容で。
こうさせてしまった責任は当然私にもある。だから、せめて、罪滅ぼしではないけれども、娘にはこれからの人生彼女の思うようにさせ、彼女の手で幸せをつかみ取ってもらいたい。
そしてそれはきっとうまくいきかけていた。その矢先の事故。つかみかけた幸せは、儚くもその掌から零れて行った。
なんでうまくいかないのかしら。私はこれまで勉強だってがんばって、仕事もがんばって、恋愛もそれなりにして、子供を授かることができて。
でもその子供に幸せを分け与えることができなかった。一体どこで私は道を間違えたのだろう。
そんなことばかり考えているとどんどん暗い気持ちになってくる。そんな時に、都合よくまだ生後幼い息子が鳴き声をあげ現実に引き戻してくれる。
せめてこの子は。大河と同じような境遇にはさせてならない。この子が得られる幸せまでを奪うようなことはしてはいけない。
大河には本当に申し訳ないと思っている。でも、あなたにはもうどうしてあげたらいいのか。
そんなことばかり考えてしまう長い午後が今日も終わろうとしていたとき。
「ただいまー!」
勢いよく玄関が開けられる音と、元気のよい声。一瞬驚き、誰か家を間違えたのかしらと訝しむ。
しかしその声は間違いなく自分の娘のもの。大河の声だ。
あわてて玄関に出迎えに行く。
「どうしたの大河、今日は……」
大河といっしょに玄関にいた人物を見て、言葉につまる。そこにいたのは。
「あ、どうも…。お久しぶりです。」
「竜児くん……。」
娘が忘れてしまったはずの、最愛の人間だった。つまり、大河は思い出したということだった。
「大河……、大河……、よかった…。」
「ママ、心配かけてごめんね。でももう大丈夫だから。」
あなたがそういうのなら大丈夫でしょう。きっとこれから先もずっと。二人は大丈夫。
その夜大河と大河の母親と竜児で、久々に夕食をとった。竜児の手料理はいつになく気合いの入ったもので、大河も母親もすっかり大満足だった。
ちょっと前までは当たり前だった3人での夕食。一度それを失ってみて初めてわかった竜児の存在の大切さ。
おいしいご飯を作れるとか、そういう次元の話ではない。大河とその母親にとっても、竜児は大切な家族の一員なのだ。
暖かな団欒のひと時は、あっという間に過ぎてゆく。

237 :
  
「いいわ。今日は特別。泰子さんにもよろしくね。」
「ありがとうママ!」
「すいません、ちゃんと後で送り届けますので。」
そういい竜児がぺこりと頭をさげる。それを見て、大河の母親は小さく笑う。
「いいわよ、別に送らなくても。あなたたちのことは、信頼しているから。」
その言葉に竜児と、次いで大河が思わず頬を赤らめる。
「ちょっとママ!何言ってるの、別に私たちそんなこと……」
「あらあら私は何も言ってないわよ。何か照れるようなことがあったのかしら?」
竜児は言葉もでない。もとより、こんな大人になんて言い返せばいいのかわかるほど器用な立ち回りができる人間でもない。
「もういい竜児行こ!今日はあんたんち泊まってくからね!」
「おい大河いいのかよ、明日も学校あるんだぞ?」
「いいのよママもああ言ってるんだから!さ、行くわよ!」
「ふふふ、いってらっしゃい、ちゃんと学校には行くのよー。明日病院に行くのも忘れないでね。」
はーいという声と、バタンとドアがやや乱暴に閉められる音。母親はその閉められたドアの内側で、マンション中に響く革靴の足音が聞こえなくなるまで立ち尽くしていた。
その頬にも光るものが一筋。自分の娘が再び幸せに向かって歩き始めることができたことに、かつてない感動と喜びを覚えてその場で動けないでいるのだった。

***

「ね、竜児。」
高須家へ向かう道すがら。使い慣れた生活道路はぽつぽつと立ち並ぶ街灯に照らされ、夜でも道を見失うことはない。
自然と繋がれた手と手。歩きながら大河が絡めてきた手のひらに、思わず赤面しながら竜児は握り返したものの緊張の色は隠しきれていなかった。
そんな竜児を見て大河は小さく笑う。いったいいつになったら、もっと自然に振る舞えるようになるんだろ。でも、今のこの感じもいいよね。
そんな手と手がまた自然と離れ、大河が小さく前に走る。そこに立っているのは、どこにでもあるごく普通の一本の電信柱。
近所の家庭に電気を供給するために日夜を問わず立ち尽くすそれは、ここだけではない日本全国津々浦々にその仲間がきっと何千本、何万本といて、別段珍しくもない一本。
でもそれは、二人にとってはとても大切な思い出。
「…あぁ。」
「私ね、事故にあってからずっと頭の中にモヤがかかったみたいに感じてたの。自分のことは覚えていても、それ以外のいろんなことがはっきりしなくて、
でも忘れたわけじゃない、ただなにか大事なことがいろんなところで引っ掛かって、うまく取り出せない、みたいな感じ。」
電信柱のそばにたつ大河に竜児が歩み寄る。
「でもね、今日竜児の声を聞いて、夕焼けに染まる街の景色を見てやっとそのモヤがどっかにとんでいった。そしたら、そのモヤの向こうにあったいろんなものが一気に見えてきて、
その中には大事な思い出がいっぱいあって、たくさんの嬉しいことや、ちょっぴり悲しかったこともあって。」
大河が電信柱を撫でる。野ざらしのそれはきっと砂埃に塗れていて、衛生的な行為とはいえないであろう。が、そんなことは意に介さず。
「これも、その大事な思い出の一つなの。だから。」
蹴ってごめんね、と大河は電信柱に向かって謝った。もちろんそんなことをしたって電信柱が許してくれるとか、何らかの反応を示してくれるとかそういうことはないのだけれども。
「さ、行こ!」
再び大河が竜児と手をつなぐ。その手はちょっぴり汚れてしまっているけれども、竜児は気にしないことにした。

***
 

238 :
  
ガチャ、と音をたてて古くなったアパートの扉を開ける。
ただいまー、と声を出してみても、それに答える人間はいない。泰子は仕事だ。帰るのは日付を回るころだろう。つまりあと数時間。
居間へつながる台所兼廊下の電気を付け、中に入る。勝手知ったるといった顔で、大河も靴を脱ぎそれに続く。
居間におかれた卓袱台の上には、カバーをかけられた鳥かご。高須家のアイドルにして大事な大事な家族の一員のインコちゃん。
そっとカバーを開けてみる。すると、今夜もその目は血走っていて、嘴からはだらりと涎を垂らし、こちらのことを見ているのか見ていないのか、
そもそも意識はあるのかといった具合。しかし、その目がぎょろっと動き、大河を捉える。
「うわブサコがこっち見た。」
若干大河がイヤそうな顔をして見せる。思わず竜児は
「こら大河なんだインコちゃんに対してその態度は。インコちゃんはだなぁ…。」
といって、口ごもる。
インコちゃんが大河の名前を呼んだこと。それを聞いて思わず泣いてしまったこと。それを知られるのは、ちょっと気恥ずかしい。
「なによブサコがなんだっていうのよ。」
大河がツンとした態度で竜児に詰め寄る。うっ、と竜児は返事に困る。その時。
「イイ…、イイイ…」
インコちゃんが意識を取り戻したのか、いつものように何かを発声しようとしている。
「あ!イ、インコちゃん悪い起こしちまったか!?寝てたのにごめんなぁ。」
竜児が大河の視線を避け鳥かごの中の異形の生物に話しかける。鳥かごの中のインコちゃんはなにやらモゾモゾしたあと、嘴をカタカタと震わせる。
そして。
「イイ…、タイイイ………、タイガ!」
インコちゃんが叫んだ。大河の名を。それを聞いて大河は、驚いた顔を見せる。しかしすぐに。
「……アパカ!」
聞いたことのない言葉が続いた。そして、どうやら言いたいことを言い終えたらしいインコちゃんはそれっきりぐったりしてしまった。
結局再び鳥かごにカバーを掛け、それは部屋の隅の定位置に。
はー、相変わらずブサコはブサコね、ちょっぴり驚いたけど。ま、久々に会えた私に興奮しちゃったってことかしらね。
呑気にそんなことを言っている大河を横目に、竜児は安堵に胸を撫で下ろすのだった。
 

239 :
 
日付をまわって、しばらくたったころ。泰子はまだ帰ってこない。
既に竜児は入浴も済ませ、寝る準備は整っていた。
大河も家から持ってきたお気に入りのネグリジェに着替え、二人してもうあとは布団に潜り込むだけという状況。
しかし、いつもならそろそろ帰ってきててもいいはずなのにと竜児は少し心配になる。もしかしたら泰子まで、なんて縁起でもないことを。
その時、大河のケータイが震えた。メールの着信を知らせる振動。パカっと開いて、その内容を確認する。するとそこには。
「……竜児、やっちゃん帰ってこないって。」
「え?」
泰子が帰ってこないというのは、どういうことだ、というかなんでそんな連絡がお前のケータイに?俺じゃなくて?
「そりゃ一体どういうことだ、泰子になにかあったのか?」
状況が読めない竜児を後目に、大河はケータイを操作している。カチカチカチとキーを操作する音をたてながらメールを打ち、送信完了。
仕事を終えたかわいいピンクのケータイは、再び折りたたまれて大河の鞄にしまわれる。そして。
「ふふふ、いいのよ竜児は何も知らなくて。」
不敵に笑う大河。
そう、竜児は知らないのだ。彼の知らないところで、二人の母親と大河が密かなネットワークで繋がっていることを。
大河が記憶を取り戻し竜児と二人で高須家へ行ったことは、大河の母親から竜児の母親へと即座に伝わり、泰子は大河の家へ。
つまり、竜児の知らないところで竜児は大河と朝まで二人っきりにされたわけだった。本人がこのことを知るのは、きっとずっと先の未来のことだろう。
しかしそれは今はどうでもいいことで。
 
「やっちゃん朝まで帰ってこないみたいだし、もう寝よ。」
そういいながら、大河は勝手に竜児の布団にもぞもぞと潜り込む。
「お、おい待てお前そこは俺の布団…」
「はー、あんたってほんと細かいわよねいちいち。何型?」
「…俺はおうし座だ。」
そのやりとりに、大河は小さくぷっと吹き出す。昨日まであんなにモヤモヤしていたのに、なんて晴れやかな気持ちなんだろう。
「明日学校なんだから、さっさと寝るわよ。まったくほんとどうしようもないエロ犬なんだから。」
「ちくしょううるせえ男なんてみんなエロ犬だ。」
そういいながら竜児は大河の占拠する布団に乗り込んでいく。
竜児の布団は、例えば大河が普段寝ているようなベッドのサイズではないので当然二人が入るにはせますぎて、
9月とはいえ冷房の入っていない高須家はまだまだ暑くて、でも暑いのは布団がせまいせいだけではなくて。
「ね、竜児。」
大河が小さくつぶやく。
「キス、して…。」
何も言わず、竜児はそれに答える。
空白の時間を取り戻すように、これからの未来への一歩を踏み出すように、恋人達の夜は更けてゆく。

240 :
 
寝ぼけ眼の大河が居間に現れたのを見て、泰子は何も言えず泣き出してしまった。
竜ちゃん、竜ちゃんほんとよかったね、大河ちゃんも、よかった。本当によかったよやっちゃんは本当に嬉しいよと子供みたいに泣きじゃくる泰子に、
大河はありがとうやっちゃんごめんねと顔を覆い泣きじゃくる泰子を抱きしめて、逆にその豊満な胸に抱きしめられて窒息寸前のところを竜児に助けられたのだった。
感動の再会のあとの朝食は至ってシンプルなもので、でもそれはいつも通りの幸せなもので。
凝ったメニューなんかなくても竜児の料理は十分おいしい。炊き立てのご飯、作りたての味噌汁。焼き立ての焼き魚と卵焼き。丹精こめて漬けられた糠漬け。
そんな当たり前のメニューを朝からお腹いっぱいに詰め込んで、今日も竜児と大河は連れだって学校へ向かう。
この夏が終われば、いよいよ本格的に受験シーズン。これからの未来のためにも、竜児は一層勉強の手を緩めるわけにはいかない。
大河との関係をちゃんと両立するために、努力を怠らない覚悟は当然ある。これまでだってあったし、これからも。二人の未来のために。
しかし、そこには大河の協力も必要なのだ。そして、大河はそれを知っている。だから。
「竜児。私決めたことがあるの。」
「なんだ?」
学校へ向かう道すがら。
大河が竜児に向かって、その瞳を大きく開き、告げる。
「私もちゃんと勉強して大学行く。竜児と同じ大学に。でも学部は商学部にする。竜児は経済だから、学部は違うけど大学はいっしょに行けるでしょ。」
「え、お前なんで…。」
「だって、竜児が勉強して資格とって税理士になって、ほんとに事務所を構えるんだったら、そのお手伝いをしたいの。その為の資格をとるには、それがいいなって思って。ね、だから、これからも勉強教えて。」
「お前……。」
竜児はちょっと立ち止まって、でも大河がちゃんと自分との未来を、現実を見つめて考えてくれていることが嬉しくて、微笑みを零しながら。
「勉強、大変だぞ。」
「わかってる。」
「数学とかも、ちゃんとやんなきゃだぞ。」
「わかってる。ていうかね。」
今度は大河が立ち止まって言う。
「私、覚えてたの。」
「覚えてたって、なにが?」
「数学。なんでか知らないけど、あんなに嫌いだったのに、竜児のことがわからないときでも数学はすらすらできるようになってた。
夏休み中に勉強に使ってたノートを見返したら、いろんな公式とか練習問題を解いた跡とかがあって、でもあるページに変な落書きがしてあったの。」
竜児はきょとんとした顔をする。落書きとは?
「その落書きってのはね、目つきの悪い男の絵が描いてあってね、そこに大きくばかって描いてあったの。子供みたいだよね。私、竜児にかまってもらえなくてそんな落書きしてたの。」
夏休み中。図書館での出来事。二人っきりのはずなのに、デートでもなんでもない時間。かまってもらえない時間を持て余した大河の行動。
「でもね、その絵をみてたらね、なんでか知らないけどその時勉強してたことがすらすらと頭に浮かんでくるようになったの。
公式とか、そういうのがね。そしたら数学できるようになっちゃった。なんでだろ、不思議だよね。」
案外記憶ってテキトーなもんよね、忘れたくないことは忘れちゃっても、覚えていたくないことは覚えてたり。
数学が好きになったわけではないけども、問題は解けるんだから受験だってへっちゃらよ!なんて大河はふんぞり返っている。
はぁ、と竜児は腑に落ちない表情だが、しかし大河がやる気になったのは喜ばしいことだ。自分の勉強もきっと捗るだろう。
「だから、竜児。勉強がんばろ!で大学行ってちゃんと資格とって、せいぜい稼いで私においしいご飯食べさせなさいよね!」
そう言い大河は竜児の背中をばしんとたたき、横断歩道を走って渡る。信号はちゃんと青。そしてその走る先には、赤みを佩びた髪の大河の親友。
みーのりーん!と飛びつく大河とそれを受け止める実乃梨。そして自分を見つけ、手を振る実乃梨とそれに照れながら答える竜児。
これまでの日常と何にもかわらないはずなのに、その風景はとても幸せに満ちたもので。
これからもきっと続く幸せな日常を手放さないために、竜児は今日も学校へと向かうのだった。
雲一つなく晴れ渡る空。季節は、夏からいよいよ秋へと移り変わろうとしていた。

***
 

241 :
 
少々時間は遡り。大河と竜児が大河の家で母親を交え夕食をとっていたころ。
すっかり日の暮れた商店街の一角では、閉店間際でも常連客で賑わう地元民一押しのコーヒーショップの須藤バックスこと通称スドバが今日も元気に営業中。
そこに、地元の高校の制服をきた少女が二人、注文したコーヒーは手つかずのまま近寄りがたい空気を発していた。
それもそのはずでその片方は
「あああああみーーーんんんん、、私、フラれちゃったようううううううううう」
号泣。
おいおいおいとオーバーに泣き続ける実乃梨を亜美ははいはいよしよし辛かったね切なかったねはやく忘れちゃおうねと宥めるが、
「忘れらんないよおおおおおだって私だって大好きだったのにーーーーー」
取りつく島もないが、無理もない。正面からぶつかって玉砕したのだから。
友情のために譲ったのでもなければ、物語を演出するために身を引いたわけでもなく。恋に破れた乙女には癒しが必要なのだ。
話を聞いてやることはできても、亜美にはそこまでの器量はないし、今はただ彼女のそばにいてやることしか。
しかし、彼女もいずれは立ち直るだろう。そういう強さを秘めた乙女なのだから。だから、今はせめて涙が枯れるまで。
散々泣いて、一晩寝たら結局ケロっと表向きには復活してしまうのだが、そんなことは亜美は露程も知らず。
そんな実乃梨を慰める傍ら、亜美もこっちだって泣きてーよなんてことを思っていたりもしたのだが、それはここではまた別のお話。
いずれ彼女たちにも素敵な出会いがあるだろう。不幸なバッドエンドなんて訪れない。
簡単には手に入らなくても、いずれはきっと見つけることができるのだ。
そういう風に、世界はできているのだから。

***
 

242 :
今回分は以上です。
で、僕のとらドラ!アフター、オレンジシリーズも一応これで終わりです。
もう一つオマケのEを書くつもりだけど、それはまた後日。
拙い素人の創作でしたが、ここまでお付き合いくださった紳士のみなさんありがとうございました。

>>221
乙!続き期待してます!

243 :
おつおつ。
みのり関連が綺麗に纏まってて良かった。
オマケ6も楽しみにしてるぜ!

244 :
>>242
乙!
大河にも目標が出来てよかったよかった。支え合って生きてほしいね
おまけも楽しみにしてます

245 :
秋ちゃんの SS まだ?

246 :
保守

247 :
ご無沙汰しておりました
H要素は次回以降とか書きましたが、なんか長くなってしまったたので、
今回はその前までという事で。9レスほどお借りいたします

248 :
通された部屋は、広くはないものの、綺麗に片付いて、すっきりとした印象だった。
白地に花柄があしらわれた壁紙。
入って左の壁際には、スチールブラックの本棚が鈍く光る。ぱっと見た感じ、収まっているのは、ほとんどが漫画かファッション関係の雑誌のようだ。
正面の窓には、パールピンクのカーテン。窓に面した机は、木肌の暖かみを活かしたホワイトイエローで、室内の雰囲気を、優しげなものにしている。
インテリアの類は、鳥をあしらったボード状の壁掛け時計や、どこかのバンドのポスターなど。目につくのは数点だけで、そう大した数もない。
意外にも、あまり「女の子、女の子」していない部屋。
カーテンの色と、あとは――部屋の右手にあるベッドの、淡いピンクのシーツが、女の子らしさを示す証と言えるだろうか。
そんな部屋の中で、隆哉は、そわそわと落ち着かなげに辺りを見回し、かと思えば、急に俯いて固まったりと、不審な動きを続けている。
秋の方は、素知らぬ顔で、部屋の隅から折り畳み式の小テーブルを取り出し、立ち上げていた。
家に上げて貰うのは、これが初めてになる。
したがって当然のように、秋の部屋に入るのも、これが初めての事だった。
「座ってて下さい。いまお茶持ってきますから」
「ぁー、うん。お、お構いなく……」
大人しく待ってて下さいね、と言い残して、秋が部屋を出る。
緊張から解き放たれて、隆哉は大きく息を吐いた。
そして、吸入――。
……鼻から息を吸うと、なにか、独特の芳香が、鼻孔いっぱいにフワンと満ちる。
ほのかに甘い、イイ匂い。
お菓子の匂いとかではない。どこか「生き物」っぽい生々しさ。
花の香りに似ているような気もするが、この部屋に花は無いし、こんな――嗅いでるだけでドキドキしたり、胸の奥がムズムズくるような気持になったりはしない、だろう。
つまりこれは、
「あぁ……ああぁぁっ」
呻きながら、隆哉はクネクネと、シャクトリ虫がのたうつように体を揺する。
――俺は、俺はいま――女の子の、秋ちゃんの部屋にいる!
まさに、一世一代の事件。
リアル女子の部屋に、この佐藤隆哉が、『二次元に魂を売った男』が、こんな時間にお邪魔している!
もはや天文学的な事件と言っても過言ではない。
叫びたい。
そこの窓を開けて、「俺は秋ちゃんの部屋にいるんだ―!」とかやったら、きっとすごく気持ちいいだろう。やらないけど。
……だが一方で、なぜか、本当になぜだか。
『今すぐここから逃げてしまいたい』という気持ちも、顔をのぞかせる。
いったい、どうしたことか? 
――いや、分かってる。どっちも本当の気持ちだ。
「あぅぅ、突然過ぎる……」

249 :
結論からいえば、帰りの夜道は、とくに何事も起きなかった。
道中、路地裏の暗がりや、道の向こうからくる車に注意を払いながら進んだが、怪しい人影も、あの特徴的な赤い外車も、ついぞ影も形も見せなかった。
秋の家の前までたどり着いた時は、ほっとしたような、自分だけが興奮して空回りしていたような、ちょっと複雑な気分を覚えもして。
けれど、これでもう――少なくとも今日のところは安心できると、隆哉は笑って、別れを告げようとした。
「よし、それじゃ秋ちゃん――」
「……あの」
「うん?」
「じつは今日……親、夜勤でいなくて」
秋、1人だけなんです。
あんな局面で、断れるわけがない。
1人だけなんです、と告げた時の、秋の表情。
緊張で強張った顔の中、上目遣いでこちらを見る瞳には、どこか縋るような光が揺れていて――。
あんなのを拒絶できるわけがない。
まして、男なら。
好きな女の子の、ためなら。
いや、そうだ。忘れてはいけない。そもそも、なぜ自分はここに来た?
あの監禁男――顔も名前も分からないけど――『あの男』から、秋を守るためではないか。
前回あの男は、口車で玄関先から秋を連れ出し、そのまま自宅に閉じ込めた。
さすがに今度も同じ手でくるとは思えない。――もしまた秋を連れ出そうとするなら、もっと強引に来るかもしれない。
ゴクリと、無意識のうちに隆哉の喉が鳴る。
何も起きてないうちから、不安と興奮で、勝手に手が震えそうになる。
今この家には、秋ちゃんと俺の、2人だけ。
でも、あの男が狙ってるのだとしたら、やましい事なんか考えてる余裕はない。
たとえ秋ちゃんの部屋が、イイ匂いに満ちていても。
ピンクのベッドカバーが、さっきから視界の隅でやたらと気になっても。
この家に上がりこんでから、秋ちゃんが急に、いつも以上に可愛く見えてドキドキしていても。
そんなことは――まっったく! 関係ない!
俺が、やるんだ。
秋ちゃんを、守るんだ。
――コンコンッ
と、隆哉の荒い息が収まるのを待っていたようなタイミングで、ドアがノックされる。
「は、はいっ」
「お待たせしました、先輩」
お盆にグラスを載せて、秋が入ってくる。
表情は穏やか、足取りもしっかりしているのを確認して、隆哉はホッと息を吐いた。
家に入ってからは落ち着いたもので、さっき玄関前で見せたような、心細げな表情はナリを潜めている。
ヒョロヒョロと貧弱な隆哉でも、傍にいて、少しは安心を与えられているのだろうか。
「紅茶、買い置きの奴ですけど」
「いや、ありがとう。頂くよ」

250 :
味はロクに分からなかったが、冷たい喉越しに、頭の奥で滾っていた神経も、少し鎮まったような気がした。
「ふぃー、ありがとう。落ち着いた」
「ふふ、さっきまでファミレスで、たくさん飲んでたのに」
「ていうか、あの最後のヤツのせいで、喉がネバネバしてたよ……」
ぼやくように隆哉が言うと、秋は「あははっ」と、鈴を転がすような笑い声を立てた。
「秋の味はしつこかったですか、先輩?」
「いや、だからそういう言い方……」
ファミレスの時から、どうも煽るような言動が目立った秋だが、今なら分かる気がした。
昨日から不安だったのだ。緊張の反動で、安心できる相手といると、テンションがおかしくなってくるのだろう。
だが、今はあくまで非常時。
たとえ秋から変なモーションがあっても、流されはしまいと、隆哉は強く自戒を念じる。
「そういえば、小説、どんなです? なんか煮詰まってるみたいですけど」
「んー、まあねぇ……」
進まない筆に思いを巡らせれば、意識は自然とそちらに向かう。
「やっぱ、恋愛って難しいなぁ、と」
「あはははっ! なにそれ、中学生のコイバナみたいですよ」
「いや、マジにストーリーとか考えてると、そう思えてくるんだよ。キャラ動かすのも、なかなか一筋縄ではいかないというか……」
「先輩が書くお話なのに? いくらでも、好きなように出来るじゃないですか?」
秋の無邪気な問いに、隆哉は「いやあ」と頬を掻く。
「それが自然な流れじゃないと、やっぱり変だよ」
「そんなものですか」
「うん。人と人って、お互いに踏み込みづらい部分もあるだろうし、相手の全部を受け入れるのが難しい事もあるだろうから、そういった
すれ違いから、どうやって距離を詰めるものなのかなぁ、って」
――そこまで口にして、はたと気付く。
なんだか……これじゃまるで、リアルの恋愛相談みたいだ。
しかも、『すれ違いからどうやって関係を回復するか』とかいう内容を――よりによって秋相手に、言ってしまうとは。
秋は……ただ、ニッコリ笑っている。
何も気にしていないのか、平静な調子で会話を続ける。
「やっぱり、そこは本音でぶつかるのが鉄板ていうか? 少女マンガとかでも、ケンカして『雨降って地固まる』系が多いし」
「だ、だよな、うん。下手な小細工を弄する場面じゃないよな」
きまりの悪い思いをせずに済んだと、隆哉は胸をなでおろしかけ――「ああ、でも」
心なしか――
「もっとストレートなのも、ありますよね」
声に、濡れたような気配が満ちて
「――カンケイ、結んじゃうとか」

251 :
今度はむせなかった。
その点では、自分に70点は付けてやりたい。
が、潤したはずの喉が、再び急速に乾いていくのを止めることは出来なかった。
「そ、そりゃ、過激っていうか――」
「少女マンガだと、珍しくもないですね。カラダで関係結んじゃって、迷いとか遠慮とか、一気にバッサリいっちゃうの」
まただ。
ファミレスで絡んできた時と同じ。秋の目に、なにか不可思議な光が灯る。
魅惑的で、けれどどこか危うい輝き。食虫花の蜜が、花弁の奥で揺らめくような。
不穏な意思が見え隠れするのに、見つめていると、こちらの瞳に絡みついてきて、引き込まれそうになる。
エアコンが利いている室内なのに、なんだか暑い。
甘い匂いが、強くなったような気がした。
秋の、匂い。
秋から放射される香りが、より強く、濃く。
改めて、思い知る。
ここは他人の部屋だ。秋の領域だ。
隆哉は1人で、秋の気配に包まれ、飲み込まれ始めている。
――内心で頭を振る。
今はそんなこと、気にするべきじゃない。俺がしっかりしないと。
空気を変えよう。仕切り直し。
「あ、あのさ、確認しておきたいんだけど」
「はい?」
「そ、その男、どんな様子だったの?」
「え?」
「だ、だから、例の男、昨日来た時、どんなだった? この家を探ってたりとか?」
勢い込んで尋ねると、秋は静かに、蜜を滴らせるような微笑を咲かせて、言った。
「それ、ウソです」
「――へ?」
「だから、あの人がまた来るようになったっていうの、ウソですから」

252 :
言葉を失った。
足元がすぽっと抜けた感覚――それも、自分を頼ってくれたハズの女の子に、引っこ抜かれた。
なにこれ。
何だろう――『実はヒロインが黒幕で、主人公は騙されてた』系の、衝、撃?
「な――なんでっ!?」
動揺に掠れた隆哉の叫びに、しかし秋は、まるで取り合わず、ニコニコ笑顔を浮かべたまま、
「だって、先輩、ちっとも遊びに来てくれないんだもん」
「あ、あそ――っ!」
眉間に、キュッと白く熱いものが集まった。
喉の奥で、怒りが膨れる。
両の手は、振り上げられこそしないが、石のように固く握られ――。
「先輩」
――叫んだわけではない。
睨まれたわけでもない。
ただ、秋の顔から、ふっと微笑が消えた。
それだけで――たったそれだけのことで、隆哉の怒りは、瞬時に吹き消されてしまう。
美しくて、儚げで、危うくて――
ちくしょう、と、隆哉は内心で、諦めと共に呟いた。
かなわない。
太刀打ちできない。踏み込めない。なのに、無視することもできない。
どこまで行っても、俺は秋ちゃんに翻弄されてる。
「先輩がこの部屋に来たの、初めてですよね」
「あ、うん」
「あれから、何回か秋、誘いましたよね。外で会った時に、今日はウチへ寄っていきませんかって」
それは……そうだった。
確かにそうだった。
ファミレスで、執筆と勉強に各々の時間を過ごして――その帰りがけに。
『先輩――せっかくだから、今日はウチへ寄っていきませんか?』
『先輩、ちょっと前に話題になった、あの映画のDVD……借りてきたんですけど』
『先輩、明日は土曜だし、一緒に遊びません? 帰るの面倒なら、泊っていってもいいですよ? ――なんて、あはっ』
「どうして、来てくれなかったんですか?」
「それは……」
弱気の虫が、胸の奥から顔を見せる。
どうしてか? ――考えるまでも無い事だった。
両親が留守にしてる日に、女の子の家に上がり込むなんて――そんなことが、この佐藤隆哉に出来る筈がない。
それくらい、臆病だから。
だから、
だから秋――と、魔性の後輩は、髪を掻き上げながら呟く。
「先輩の事、試しちゃいました」

253 :
こぼれる髪が、光を吸い込んで、漆黒に濡れて――やっぱり秋ちゃんには黒髪が似合うなぁ、と、隆哉は一瞬、状況の全てを忘れて、思う。
「先輩……秋のこと、キライになりました?」
「そんなこと――ない、けど」
けど――――どうなんだ?
分からない。
騙されて、しかも『試した』とか言われて、確かに腹立たしいというか、残念というか、思う所が無いわけじゃないけど。
でもそれは――言われてみれば、隆哉がとった態度にも問題があるように思えてくる。
というか、そんなにも隆哉を呼びたがった理由って――
「先輩、もしかして秋、勘違いしてましたか?」
「か、勘違い?」
「先輩は、秋のこと、守りたいって言ってくれましたよね。けど秋は、舞さんの妹分で、先輩にとっても妹で、だから……『それだけの関係』だったのかなって」
「ちっ、違うよ! そんなこと」
勢い込んで言う隆哉を、秋はただ、静かに見つめる。
星の無い夜を思わせる、深い瞳が、隆哉の口にしようとした言葉を全て吸い込んで、隆哉はただ、喘ぐような呼吸をするしかなかった。
秋の視線は、雄弁だ。
『それじゃあ、私たち、どういう関係なんです?』
思い出すのは、あの夜の、涙と鼻血にまみれた告白劇。
『秋ちゃんを守るためになら俺はどんなに汚れても傷ついてもいいから……っ! なんならもういい、俺と結婚、してくれよぉぉ!』
勢い任せだったとはいえ――いや、ならばこそ――あれは限りなく、隆哉の本音だった。
そして、それに対して、秋は
『付き合ってもいないのに、すごい。結婚だって。秋と……結婚したいんだ』
――あはは、あははは、うける、超笑える。
記憶をなぞるように、目の前の秋が、クスッと、可愛らしい笑い声を立てた。
「ごめんなさい。秋、イジワルですよね」
あの時と同じ。触れれば砕けてしまいそうな、危うい笑顔。
改めて思う。
自分は、秋とどうなりたいのだろう。
好きだし、守ってあげたい。それは本当だ。
それはつまり、ファミレスで執筆の合間に勉強を見てやったり、変なドリンクを飲ませ合ったり、いきなり結婚を申し込んだり、といったような事で。
――でも、まだドライブには誘えていない。
部屋に上がるのだって、こうして、向こうから誘い込むまで、来れなかった。
”付き合ってる”とも……多分、言えないだろう。この状態は。
あまりにも中途半端。
理由は――まあ、分かってる。というか、そろそろ認めなければならない。
俺は、ビビってる。
監禁騒ぎの時に、自分のグズっぷりを、あれだけ後悔したというのに。

254 :
言い分はある。
中学の卒業式に、隆哉と秋の関係は、一度切れた。そして、そのまま3年以上の時間を逃してしまった。
開いてしまった空隙は、ゆっくりと埋めていく他に方法はない。いきなり飛び越えようとしても、まず失敗するだろうと思えた。
だから、自分の全てが逃げだったというつもりはないけれど。
「やっぱ、ウザいです? 秋」
そう言った秋の笑顔は、まるで自分の心を刃物で刻んでいるようにも見えた。
「そんなわけないって! 秋ちゃんは大切な人だよ」
「でも、先輩は今、なんてゆーか……充実してるんですよね。見れば分かります。なのに秋、勉強で面倒かけたり、イタズラの相手してもらったり」
「それだって、俺にとってもいい息抜きだし」
かぶせるような言葉を無視して、秋は真っ直ぐに、隆哉を見据えて、言った。
「わたし……」
……本当は、ちょっと離れてた方が、いいですか?

『先輩と離れ離れになるとか、そんなのびっくりだし、なかなか慣れることなんかできないと思う』
『――そう? すぐ慣れるんじゃね?』
「――っ、違うよ、そんなこと、全然ない」
胸の奥に走った、鋭い痛みを飲み下す。
4年前、隆哉が秋に向けた拒絶。秋を傷つけ、そして隆哉自身を傷つけた、あの言葉。
嫌だ。もう、あんなのは嫌だ。
もうあんなふうに、逃げたくはない。
「俺は、秋ちゃんと一緒にいたいよ」
感情の読みずらい、秋の白い顔を見据えながら、隆哉は必に言葉を探す。
思い浮かぶ文句は、どれもこれもありふれたもの。どこかで聞いたようなものばかり。
情けなくなる。小説を書こうなんて、よくもこんな体たらくで考えたものだ。
でも。
始めなければゼロだ。動かなければ、ゼロだ。
ありふれた言葉でも、手垢が付いた言葉でも、構うものか。
「いま俺が秋ちゃんといるのは、義理とか義務とかじゃなくて――俺が、そうしたかったからだよ」
一期一会。
いまこの時、この場所に自分がいるのは、そのためだ。
どんなにありふれた言葉も、決して巻き戻せない時間の中なら、その一瞬、特別な一言になる。
そう、信じる。

255 :
「俺は、秋ちゃんと一緒にいたい。秋ちゃんを守りたい。……だって俺、あき、秋ちゃん、が――す、す」
唇の筋肉が、急に重くなった。
バカ野郎! と、内心で自分への罵倒を炸裂させる。
言うぞ。
言うぞ言うぞ、いうぞ!
いま言わずに、いつ言う!
根性見せろ、ビーストモード!
「――す、キッ だからぁっ!!」
イントネーションが外れた、どっか外国の、方言みたいな発声。
秋は――――無表情、のまま。
あぁ――と、隆哉は思わず嘆息しそうになり、けれど寸前で、どうにか飲み込む。
外したか。
苦い色に染まりかかる心を、なんとか押し込め、持ちなおそうとして、
夜露が落ちたように、秋の眼差しが揺れた。
新月の夜を思わせる瞳に、微かな星明りが戻る。
先輩、と唇が動いた
「先輩って――」
「う、うん……」
「――クサいですね。『守りたい』とか、いまどきドラマのプロポーズでも言いませんよ?」
目尻に涙の粒を光らせて、ケラケラと秋が笑い声をたて始めた。
――別のスイッチ、押した?
とりあえず、『クサい』という評価は、わりとダメージがあったが。
「ぐっ、そ、そこは――放っといてよ」
「だからって、あは、あはははっ」
ごしごし目元を擦りながら、秋は笑い続ける。
お腹をよじり、いっそ苦しそうなくらい、笑い続ける。
つーか、笑い過ぎだろこのヤロ。人の渾身の告白を。
それでも、こんな時まで、秋は魔性の女なのだ。
ほろり、ほろり。
白い笑顔に、光の尾を引きながら、涙の粒が流れていく。
大きな瞳が、瞬きのたびに、雫を散らす。
流れ星。
地上に降りれば、本物の雨に変わってしまいそうな、静かな降り方。
ぽろぽろ、さらさら。
ぽろぽろ、さらさら。
「秋……ちゃん?」
「うふ、あはは、は――クチュ、ズズ――は」

256 :
ボロボロと、決壊した天の川よろしく、秋は涙を溢れさせていた。
感極まったのか、鼻水もグズグズに溢れさせて、こうなるとさすがに、魔性の後輩といえど台無しだ。
隆哉は慌てて、近くの箱ティッシュを引き寄せる。
「か、かんで、鼻! ほら早く、垂れる垂れる、服に!」
「んくっ」
ズビビーッと鼻をかんだティッシュで、ついでに秋は目元をぬぐう。
ちょっと目元のメイクが流れたけど、それがかえってあだっぽい色香に感じられて、隆哉の心臓は不穏な鼓動を刻み始めた。
「だ、だいじょぶ? 俺、そんな、その――」
泣かせるような事を、言ったのだろうか。
グスグス鼻を鳴らしながら、泣き笑いの顔で、秋が拗ねたような声を出す。
「初めて、ですよ?」
「え?」
「こ、く、は、く。先輩がちゃんと『好き』って言ってくれたの、今のが初めてですよ?」
「え? あ?」
そう――だっけ?
「付き合ってもいないのに、いきなり『結婚してくれ』とか言って、でも、肝心な事はなんにも言ってくれなくて」
ばーか、と秋が囃す。
ばーかばーか。秋のこと、守るとか言っといて、大切な事はなんにも云わないとか。
「先輩って、ほんとダメダメですね。だいっきらい」
そして次の瞬間――視界いっぱいに、黒い、艶やかな髪がひるがえった。
花に似た香りが、急に強くなり、隆哉の体を包む。
いや、香りだけじゃなくて。
背中には華奢な腕がまわされ、胸板には、柔らかな体が押し付けられて――
「あき……ちゃん…」
急速に、カラカラに干上がっていく口内を震わせて、隆哉はそれだけを絞り出した。
秋の顔は……見えない。
だけど、聞こえた声は、とても――とても近かった。
「守ってくれるっていうの、とっても嬉しいです。でもね、先輩」
耳元に弾ける吐息が、ひどく、熱い。
「逆に、秋を傷つける覚悟は、ありますか?」

257 :
「え?」
思ってもいなかった問いに、心が波立つ。
「あるなら、秋に見せて」
懇願するような囁き。
頷く事も、返事をする事も出来なかった。
代わりに、体の奥から、煮えたぎるような衝動が、凄い勢いで膨れ上がってくる。
頭は混乱の極みに在るのに、体の方は、まるでここからの全てが分かっているみたいに、真っ直ぐな衝動で隆哉を突き上げる。
心臓が苦しい程の鼓動を刻む。体の芯からは、どこか甘い、むず痒いような熱が染みだし、それに身を任せて――
「あっ……せん、ぱい」
動揺に震えた、けれど隠しきれない喜色に満ちた、秋の声。
抱きしめた秋の体は、華奢で細くて、けれど、柔らかくて暖かかった。
生まれたての仔鹿のように、小さく頼りないくせに、内側に若々しい生命力を溢れさせていて――それが両手を、密着した胸を通って、隆哉にも伝わってくる。
グッと、腕の中に抱き寄せる。秋が喉の奥で、「んンッ」と、甘い呻きを上げる。
――いいんだろうか
微かに残された理性から、そんな声が届く。
俺は――秋ちゃんが好き。
秋ちゃんも――きっと、俺が好き。
好き同士。
なら、何も問題はない――の、か?
「いい、の?」
「いい、です」
熱い囁きが、至近距離から隆哉を撫で上げる。
ブワッと、体中の毛穴が開いて、汗と一緒に、ドロドロした感情が、外に噴き出してくる。
不純だけど、純粋。
シンプルで、真っ直ぐな欲望。
自分の中の『それ』を、拒む理由を――隆哉はもう、見つけられない。
「俺、秋ちゃんが……欲しい」
頭の横で、秋がこくんと、首を縦に振った気配がした。
とんっと、肩に乗せられる顎の感触。
弾かれたように、隆哉はもっと深く、秋を抱きしめた。

258 :
ものすごい中途半端ですが、連投規制も警戒して、今回はここまでで、一旦引いておこうかと思います
諸兄におかれましては、どうかご容赦のほどを
明日の夜あたり、最後まで投稿しようかと思っています。よろしければもう少々お付き合いください
それでは、お目汚し失礼しました

259 :
キター! 明日の休日の楽しみができたわ。サンクス!

260 :
あー。最高でした。
>>213 から読み直しましたが、前回もおもしろいし
今回も最高に良かったです。
とりあえず全裸待機してエッチシーンを待つので
引き続きよろしくお願いします m(_ _)m

261 :
こんばんは
予告通り、続きの投稿となります
今回も9レス程度になるでしょうか
もう少しだけ、この場をお借りさせてください

262 :
間近で見る秋の瞳は、やっぱり大きくて、澄んでいて、星の欠片のようだ。
長い睫毛が、綺麗に目の周りを縁どって、艶めかしい。
せん、ぱい。
言葉に出さず、けれど唇だけが動いて、隆哉に何かをねだる。
半開きに開かれた奥に、白い歯と、赤い舌が、チロッと覗いた。
蠱惑的で、物欲しげな角度。
それが隆哉の最後の自制心を――いや『怯み』を、断ちきった。
吸い込まれるように、隆哉は顔を近づけながら、目をつむる。
期待に濡れた秋の吐息が、微かに頬の産毛をくすぐった。リップクリームの香料だろうか、イチゴに似た甘い香りが、鼻孔に満ち――
熱く、決して忘れられないような――柔らかで瑞々しい感触が、隆哉を飲み込んだ。
「ん――っ、んン!」
「ン――チュ、ク」
ウソみたいに――柔らかい。
妖精めいた外見のとおり、秋の体は、触感さえもが、甘美だった。
けれど当然、秋も生きた生身の人間で、だから――
「っ、ん――っっ」
秋の口が、意外なほどの強さで、隆哉を吸った。
鋭い吸着音を立てて、桜色の唇が、隆哉の唇をこじ開けようと襲いかかる。
反射的に、隆哉も目を閉じたまま、口を蠢かし、抵抗し――そのまま、思いっきり秋を求めていた。
唾液が弾ける、粘っこい水音を散らしながら、2人、猛然と貪りあう。
タガが外れたような、感情の爆発。
――この美しい女を、思いのままに奪い尽くし、所有し、溢れるくらいに自分で満たしてやって――大切にしてやりたい。
矛盾する思いを、そのままぶつける。
互いの唇が溶けて、癒合するかと思われるほどに激しい音を、2人で一緒にたてる。
そのうちに、スルリと、秋が隆哉の中に入ってきた。
隆哉にとって、未知の感触。
柔らかくて、熱くて、ちょっとザラッとして――すごく、淫ら。
あの可愛らしい舌が、こんなエロいモノだったなんて――何かの嘘じゃないのだろうか?
「じゅ、ん、んんん!?」
隆哉の口を味わうように、秋の舌が歯茎をなぞり、そのまま隆哉に絡みつく。
舌と舌を情熱的に絡め、粘膜を交わらせて、泡立つ体液を流し込んでくる。
熱く、生々しく、舌の上でトロリと粘る、女の子の唾液。
溶けたリップクリームの香りが、ほのかに甘い。
喉を動かし、必に嚥下。と思えばその矢先に、秋が攻め方を変える。
注入から反転、吸入へ。根元からしっかりと、けれど優しく隆哉を絡め取って、啜りあげる。
蝶が蜜を吸うような、繊細で、けれど深い結合。
隆哉の意識は、ほとんど全て、刈り取られる。
ただ、ただ、秋に溺れる。
秋を飲み、秋に飲まれて、佐藤隆哉を吸い取られていく。

263 :
「ん、く、――ぷあっ!」
トロッと唾液の糸を吐きながら、ようやく2人の唇が離れる。
茫洋とした隆哉の目を覗きこみながら、秋は熱っぽく微笑んだ。
「ポウッとなっちゃって。そんなに激しかったですか?」
――知らない。
誰だ、これは。
目の前の女の子が、急に隆哉の知っていた後輩とは、違う人間みたいに思えてくる。
『魔性の後輩』とか呼んでいた今までが、なにかこう――子供の『お遊戯』だったみたいだ。
隆哉の表情に、一抹の不安を見つけたのだろうか。秋がクスッと笑った。
「大丈夫ですよ。秋は秋です。目の前の私だけを、信じて」
言いながら、秋は両手で、隆哉の手を取る。
しなやかで心地のいい指が、隆哉の手を絡め取り――自らの胸へと導いていく。
「っ、あ、秋ちゃ――」
「ふふっ、先輩、かわいい」
タンクトップの裾に、隆哉の手が飲み込まれ、汗で湿った柔肌が、待ちかねていたかのように、隆哉を迎え入れた。
「っ! ぁ」
「えへへ」
――ブラ、さっき外してたんですよ?
イタズラを告白するように、秋が言った。
秋は、豊満、という呼び方が似合うスタイルではない。
けれど、決して貧相でもなかった。
隆哉を呑み込む、柔らかな脂肪の丘。食虫花が蜜で獲物を絡め取るように、甘い手触りが、指先を虜にする。
掌を閉じれば、ひとり占め出来てしまいそうな、形と大きさ。
そして、この柔らかさ。
なにもかもが想像以上で、隆哉は感動すら覚える。
「す、ご――」
「ふふ、分かります? 秋のドキドキ」
白い頬を朱に染めて、秋が言う。
――あぁ、たしかに、速い。
地球を何周も出来そうな、とてつもないスピードの中に、いま秋はいる。
でも隆哉だって、さっきから胸の中で、心臓が馬みたいに跳ねている。
「先輩も、ドキドキしてる?」
「うん、あ、あたりまえ、だよ」
「うふふ、おそろいですね」
ニッコリと、秋が笑った。
その笑顔が愛おしくて、胸が溢れるようで。
「秋ちゃん――!」
ついに、隆哉は自分から動いた。
もう一つの手も、服の裾からねじ込んで、両手で秋の女性を独占。
広げた十指で、なるべく優しくと念じながら、その双丘を捕まえる。
「んっ、ぁ――だめ、先輩、ちょっと、つよ――」
やめなかった。
拒絶の言葉の中にも、甘やかな『誘い』の気配。
秋が両手を肩に回し、ギュッとシャツ越しに爪を立てる。火のような吐息が、隆哉の眼鏡を曇らせる。
悶えるように身をよじる秋は、けれど所有されることを喜ぶように、潤んだ瞳に喜色を灯し、クシャクシャの口元に、えくぼを浮かべている。

264 :
「や、あっ、んっ」
「秋ちゃん――あきちゃんっ」
指を蠢かすたび、秋の乳房は熱く燃え、粘度を増して、隆哉の指に絡みついて来る。
思うがままの蹂躙。
――けれど、きっと本当に所有されているのは、隆哉の方だ。
味わう程に、秋に溺れ、ハマり込んで、抜け出せなくなっていく。それを頭のどこかで自覚している。
そして――そんな自分が、もう嫌じゃない。
中学の時、冷たく拒絶してしまう程に、『こういう事』が嫌いだった筈なのに。
「ひ、ん!」
指の腹で、硬くしこった先端をしごくと、秋が可愛い悲鳴をあげて、跳ねた。
隆哉の下半身にも、甘痒いうずきが満ちる。
男としての昂ぶりが頂点に達して、自然と頃合いを悟る。
「秋、ちゃん……」
呼びかけると、秋はコクンと、無言で頷いた。
胸元から引き抜かれた隆哉の手を取ると、指を絡めながら手を引いて、自分のベッドへと誘い寄せる。
と、
「先輩……アレ、持ってます?」
あっと、声を出しそうになった。
――無い。
『そんな物』を必要とする機会なんて、ついぞなかった。想像すらしなかった。
『脱二次元』を標榜して、合コンに明け暮れていた時でさえ、だ。
もちろん、行きずりの相手と、なんて考えもしなかったけど……今にして思えば、なんと不用意で危なっかしい態度だったことか。
首筋を赤らめた隆哉を見て、なぜか、秋は嬉しそうに笑った。
「そーゆーのだと思いました、先輩は」
それから――ちょっとだけ、憂うように目元を伏せて――机の引き出しを開ける。
「これ……どうぞ」
ビニール包装された、フィルム。
実物を目にするのが初めてとはいえ、隆哉にも、それが何なのかはすぐに分かった。
秋が、『それ』を自室に持っているという事の、意味。
全身の熱が、その一瞬だけ、フッと逃げ失せていく。
……いや。
いや、当り前だろ。
秋ちゃんが、男と付き合っていたのは知っていた。
1人だけじゃない。何人もと付き合っていたのも、知っていた。
そして秋ちゃんくらい、綺麗で可愛いコと付き合えたんなら、男が考えることなんて、1つしかない。
だったら、これは当然、予想できていた事。いやむしろ、覚悟してなきゃいけなかった事。だから――

265 :
「隆哉、先輩」
祈るような囁き。
情欲と喜悦の涙に濡れていたはずの目は、なんだか――実りそうにない告白の行方を見届けようとする、せつなげな乙女の眼差しになっていて。
迷うまでも、ない。
さっき見つけた答えを、もう一度、いや何度でも、繰り返せばいい。
「好きだよ、秋ちゃん――俺、秋ちゃんのこと、大好きだから」
自分自身を諭すように、そう口にすると、秋は淡く、どこか儚げに微笑んだ。
「秋も、大好きです、せんぱい」
幸い、と言っていいのかどうか。
心に比べれば、体は単純で、どこまでも正直だった。
トランクスを脱いでみれば、隆哉の先端は既に、先走りでドロドロ。
ゴムの引き攣れるような感触に、どうにも違和感を覚えながらも、フィルムの装着を完了する。
そこで、いいですよ、と背中越しに声を掛けられ、振り返った。
眩しかった。
秋の白い裸体は、もうこの世のものとも思えず、存在自体が夢の続きのようでさえあった。
乳白の肌に、乱れた黒髪が絡みつく姿は、淡いピンクのシーツの中で、なお一層、映えている。
「せん、ぱい」
きっと、『こういう事』は初めてではない筈だ。
けれど、頬を染めた秋は、恐る恐るといったふうに口を開いて、蚊の鳴くような声で問いかける。
「へん、じゃないですか?」
変といえば、これほどの『変』も、無い。
「うん――ありえないくらい、綺麗」
2人分の体重を受け止めて、ベッドのスプリングが軋む。
秋から立ち上る、女性の匂い。
ベッドに染みついた、汗の残り香。
一時後退していた隆哉の興奮は、ここにきて、再び頂上を目指し始める。
顔と顔を寄せ――もう一度。
「んっ」
「ふ、チュッ」
今度は激しいものではなく、安心させるような、優しいタッチ。
と、秋の手が伸びてきて、ひょいと、隆哉の眼鏡を取り上げる。
「あ、」
「えへへ……こんな時くらい、素顔の先輩を見せて」
眼鏡を取り上げられて、秋の顔が、少し遠くなる。
かつてないくらい近付いている筈なのに、ちょっとだけ、その表情が霞む。
「やっぱり、先輩、カッコいいですね」
「え、そ、そう?」

266 :
そういえば、合コンの時コンタクトに変えたのは、江別の勧めだったかと思いだす。
女を漁る事に関してだけは、鋭い直感を持つ、あの男の指図である。
とすれば、もしかしたら、本当に――俺ってば、実は素顔は、けっこうイケてる?
「だから、先輩はこれからも眼鏡じゃなきゃダメですよ」
なにが『だから』なんだ。
理不尽な命令をしてくる後輩へのお仕置きを、隆哉は決意。
キスを再会しながら、左手を乳房に。そして右手は――綺麗な腰のラインをそっと撫でながら、下半身の茂みへと這わせていく。
指先で和毛を掻きわけ、卑裂をなぞると、秋の腰が大きくうねった。
鼻にかかった、甘い呻き声。手から眼鏡がこぼれたのか、カタッという音が、ベッド下から聞こえる。
「す、ご――秋ちゃんのココ、すげー熱い」
「や――ヘンタイっぽいこと――っ、いわないで、ください――」
何度も指で擦りあげると、下の唇もぷっくりと膨れていき、やがて物欲しげに濡れ始める。
ニチャニチャと水飴をこねるような音。指の腹には、透明な蜜糸が粘るように後を引く。
不意に、悪戯心が湧いた。
予告なしに、秋の敏感そうなところ――卑裂のうえ、勃起した肉珠に当たりを付けて、甘めの力加減でつねりあげる。
甲高い声で鳴きながら、秋が隆哉の首に齧りついた。
「あだっ!?」
「――っ! しんじらんなぁいっ――せんぱいのばかぁ」
羞恥に染まった声で、秋がまくしたてる。
甘えるような調子だけど――なんか、怒ってるっぽい?
「いきなりそんなトコいじるとか、気遣いなさすぎっ」
「わ、わり」
「だめ、ゆるさないから。ん、あむンッ――!」
「!? ぐ、ちゅ、っッッ」
抗議するように、秋が隆哉の鼻を、モギュッと摘まむ。
唇を唇でふさいで、呼吸を完封。声も吐息も、全て隆哉の中に吐き出すような、猛烈なキスを見舞ってくる。
3度目の接吻は、文字通り、窒息ものだった。素晴らしく官能的で、けれど着実に脳と肺を痛めつけるような、キツイ拷問。
繋がった口の中で、2人の唾液が1つに混ざり合い、互いの口の端から、ボタボタこぼれ落ちる。
「チュ、ッッ――ぷぁっ……せんぱい、なんか、慣れてる?」
なぜか、疑わしげで不安げな秋に、隆哉は息も絶え絶えに言った。
「カ、ハ――そ、んな、――ハ、ハァッ――け、ないっ、て」
余裕なんか、全くありゃしない。実質、さっきから秋にリードされてばかりの気がする。
これが、当り前なのか。
自分がいて、彼女がいて、2人で一緒に進める。
予定調和なんかない。いま噛みつかれたみたいに、怒らせてしまう事もある。
つまり、つまり――これはどこまでも、三次元だ。

267 :
「その、俺、慣れてなくて……ていうか、ほんとこれが、はじめて、で……チョーシ、のっちゃってました」
後半が、消え入りそうな声になる。
秋の、『こういう経験』を責めるつもりなんか、さらさら無い。
けれどそうなると、今度は自分の『未熟さ』が、なんだか悪い事のようにも思えてきてしまう。
バカな事だと思う。
こんな意識に捕らわれる事が嫌で、二次元の世界に逃避し、江別との合コンに逃避し、さんざん他人に迷惑をかけた揚句、
ようやっと自分の原点に立ち返ったのではなかったか。
――でも、しかし、けれど
恋人であるなら――『こういう事』で満足させられないのは、罪、なんじゃないだろうか。
「……いいですよ」
まだちょっと、不機嫌そうな声音で、秋が言う。ほっそりした指先で口元を拭い、チュパと、可愛らしい唇の中に含む。
「先輩が童貞なのは、しょうがないし。ていうか、それはホント、どうでもよくて」
そこでようやく、苦笑するように目元をゆるめて、隆哉を見上げる。
「秋を、見てくれるだけで――こうして一緒にいて、目の前の私を見てくれるだけで、秋、じゅうぶんですから」
「秋、ちゃん……」
「怒ったり、すねたりするのも、秋、楽しいんです。だから先輩と、その、もっと……」
その先は、言わせなかった。
キスも、そろそろ何度目になるか、分からなくなってくる。
言葉を封じながら脚を開かせ、自身の両足は、ベッドの上でしっかり突っ張る。
「――いく、よ」
「うん。ここ……こっち、だから」
秋の手に導かれて、局部を合わせる。
いよいよの緊張で、頭の中が真っ白になる。でもこれは、ゴールじゃない。
きっと、始まりだ。
「っ、ぁ」
過敏になった先端が、下の唇に接触すると、隆哉の口から声が漏れた。
口元を引き締め、ぐっと押し進める。桃色の霞のなかに、股間が飲み込まれていく。
――包み込むような、秋の体温。
神経と意識が、秋のるつぼに融かされ、沸騰する。
「うぁ、ぁぁぁ」
「ん――だいじょぶ、きてる、先輩、きてる――」
抵抗らしい抵抗は無かった。
ぶくっと膨れた陰唇が、しゃぶり付くように隆哉を咥え、飲み込む。
細い腰が、内側でギュッと締まれば、肉襞が愛しげに絡み付いて、隆哉の分身を抱きしめる。
まさに、まさに――――魔性。
「ひ、うっ――あき、ちゃん――く、あっ!」
「ん、ふふ、キモチいい、ですか?」
脳髄が蒸発するような混乱に、隆哉はそれ以上の言葉も出ない。
魔女の釜の中で煮えたつ媚薬みたいに、ドロドロにたぎった瞳が、隆哉を覗きこむ。
「秋は、だいじょぶですから。だから――もっと動いても、いいですよ?」
「っ、――ぁ!」

268 :
力の加減とか、女性なんだから優しくとか、そんな事は、すぐに考えられなくなった。
引き抜くくらいの勢いで、思い切り腰を引く。
カリのふちが膣壁を擦って、電流じみた快感が、下半身を駆け抜ける。
ようやく余裕をなくした秋が、白い喉を震わせて声をあげ、それが一層、隆哉の意識を白熱させる。
肩を抱き寄せるようにして、もう一度、深々と挿入。
水音が弾ける。
襞をしごく感触が裏筋に弾けて、秋の声が、1オクターヴほど跳ねあがる。
瞳の光は、せつなげな哀願へと変わり、隆哉の瞳に絡みつく。
――その願いに、応える。
勢いをさず、そのまま、ひたすらに腰を前後。
稚拙で、少し乱暴な抽送に、それでも秋は激しく鳴きとおし、隆哉の首に爪を立てて、身を白蛇のようにくねらせる。
――んじゃう、と思った。
寒気を覚えるほどの、圧倒的な快感。
このまま、この魔性の後輩に絡め取られ、吸収されて、消えてしまうのではないか――。
幸い、それよりも早く、限界がきた。
「――っ! あきちゃ――もう、もう――!」
「ぁ、ぁ、だめ、まだ、まだぁ――せんぱい、もうちょ、もうちょっとぉ!」
必に取りすがる秋に申し訳なくなるものの、今度ばかりは聞いてやれそうにない。
それもこれも、秋があまりに美しくて、可愛くて、キモチよすぎるから。
「ぐ――で、る!」
貯め込んだ熱が、限界を切る。
暴発じみた放出が、秋の中で巻き起こった。噴き出た精が跳ねて、秋の性器を焼いていく。――もちろん、ゴム越しではあるけれど。
かつてない絶頂と、深い虚脱。荒い呼吸を繰り返しながら、隆哉はしばし、部屋の虚空に視線をさ迷わせる。
「――っ、せんぱい、キモチ、よかった?」
上気した頬を、淫蕩な微笑に歪めて、秋が尋ねた。
もちろん、と答えようとして、隆哉は気付く。
肌を桃色に染めた秋には、どこか落ち着きがない。
これはつまり――『まだ』だ。
途端に、情けなさに、隆哉は縮こまる。
「あきちゃん――その、ごめん。まだだったよね……」
「謝ることなんて」
「でも――」
出来るなら、もう1度、といきたいところだが、激しい射精に、今は隆哉の分身も、すっかり脱力してしまっている。
すぐは無理だ。
でも、秋に最後までしてやるなら、今すぐしかない。
なにをやっているのかと、暗澹とした気持ちになる。
「せんぱい――それじゃ、もうちょっとだけ、手伝って」
気を利かせたのか、秋がそう言って、腰を引いた。
恥じらいながら、モノが引き抜かれた下口を、隆哉の眼前に晒す。
「どうやってもいいんで――その、最後まで、してくれますか?」

269 :
夢見心地で、隆哉は秋の股間にうずくまった。
生い茂った茂みは若々しく、濡れそぼった陰唇は、丁寧に磨きあげた皮細工のような、艶のある褐色。
その奥に覗く肉の壺は、南国の果実のような鮮やかなピンクに色付いて、口を付けられるのを、今か今かと待っているように見えた。
衝動のまま、最初の一口を齧る。
蕩けたような嬌声。
性交の時ほど激しい声ではないけれど、理性が融解したような、動物じみた歓喜が、隆哉の耳を酔わせる。
したたる蜜は、唾液よりももっと生臭くて、どこか熱帯の匂いがする。
直前の虚脱感を忘れて、隆哉は奮起した。
舌を立てて花弁の奥を啜りあげ、唇を尖らせて果肉をむしり取る。
バスン、バスッと、埃を舞わせながら、秋の両足が盛んにベッドを蹴った。
「や、あ、せんぱいっ、そんな、そん、っっ! ぁーー!」
経験も知識も、何も無い。
そんな拙いはずの隆哉の愛撫は、けれど秋を、着実に絶頂へと導く。
今なら。
今なら、『いきなり』にはならないだろうか。
――ジャガイモの芽みたいにピンと勃っている肉珠を、思いきって、はむ、と口に含んだ。
白い喉をのけ反らせて、秋が絶叫した。
細い体が硬直し、しばし、細かに震える。
やがて強張りが解けて、弛緩した秋は、ぐったりと体を投げ出した。
乱れた黒髪を頬にはり付けたまま、右手で目を覆って、深々と濡れたような溜息を吐く。
そして、まだ夢の中にいるような、蕩けた笑みを浮かべた。
「せんぱいとの初めて……口で、いかされちゃった」
* * *
後始末を終えて、交代でシャワーを浴びる事にした。
待っている間、隆哉はぼんやりと考える。
すごかった。
男女が傷を与えあう、という事が、どれほど官能的であったことか。
けれど――これで、より近付けたのだろうか。
素晴らしい快感と充足感に満たされた一方で、疲労と倦怠、そして不満足を訴える感情の残滓が、体の奥の方に、静かに溜まっている。
もっと、上手くやれたのではないか。
秋ちゃんをうまく導いて、満足させられたんじゃないか。
次こそは、もっと上手くやれるだろうか。
でもそもそも、果たして次があるんだろうか。
そしてなにより。
これからも、エッチする度に、こんな事を考えなきゃならないんだろうか。
「ムズい……」
セックスは、特別な事だと思っていた。
いや実際、特別で大切な繋がり方だと思う。
でもこれも――――どこまでも三次元だ。

270 :
完結も完成もない。ある意味、絶望的な、連続した時間の中での繋がりに過ぎない。
『――そうして2人は、幸せに、末長く暮らしました。めでたし、めでたし。』
そんな都合のいい締め方は、ここでは通用しない。
「――締め方か。そういや、どうすっかな、原稿の続き」
別の事を考えたくなって、隆哉はそちらに思考を向ける。
ワケあり高校生の恋愛劇とか、つくづく大胆な題材を選んだものだ。
どうやって、うまい事まとめたものか。作者はリアルでも、こんな有様だというのに。
物語と現実は違う。不確実で未完成な世界なんか、読者は物語に求めない。
けれど、単に都合のいい世界を語っても……少なくとも今の隆哉は、もうそこに魅力を感じにくくなっている。
――ああ、そうか。
この間からの空回りの原因が、なんとなく分かった。
思えば、なんとか主人公達をハッピーエンドに向かわせようとして、そこに誘導する事にばかり意識が行っていた気がする。
当然といえば当然だ。バッドエンドとかサッドエンドとか、どこのラノベで需要があるのか、という話だ。
でも――
『もっと、私たちの未来を信じてみる気はないか?』
白銀の髪を持つ、もう1人の愛しい少女が、優しく囁いた。
『隆哉、お前は幾つもの試練を乗り越えて、ここまで来れた。お前も私も、そしてお前の子供達も、こんなにも計り知れない力を秘めているのだと、そう信じることは出来ないか?』
力、ね。
以前に比べて、本当に自分がマシになってるのか、隆哉には自信が無い。
自分が弱くて情けない人間だという事実は変わらない。ただ、それを自覚して――それでも、どんなに弱くて無様でも、諦めたくないものがあるって、気付いただけで。
……ただ、その『気付き』のお陰で、ほんの少し、自分の事が好きになれたかもしれない。
劇的な結果を出したわけじゃない。ただ日々の過程に、少し変化が生まれたという程度。
生きるという事は、結局はそうした些細な事の集まりかもしれないけれど。
「先輩、お待たせ」
物思いの時間を破って、秋が部屋に戻ってくる。
濡れた黒髪に、ほのかに色付いた肌。
湯上りの清潔な香りに、危うく、男の本能がまた立ち上がりそうになって、隆哉は慌てて、ベッドから立ち上がった。
「あ、ありがと。そんじゃ失礼して、シャワー借りるね」
いそいそと出ていこうとする。と。
「あ、先輩」
何気ない調子で呼び止められ、振り返る。
ニヘッと、イタズラっぽい笑顔。
「今日のリベンジ。次、もっとスゴイ事してあげますから、期待してて下さいね」
思わず生唾を飲んだ。
過程を繋ぐ。
1つ1つの、『今』を積み重ねる
未来を引き寄せるというのは、つまりそういう事だ。
だから。
「だから――その、予約、みたいなもので。……もう一回、言ってもらってもいいですか」
「へ?」
「だ、だからぁ……秋、先輩が好きです。先輩となら、どんな事でも……先輩、は?」
「ああ――」
苦笑しながら、今の答えを。
「俺も、秋ちゃんが好き。大好き。これからも、一緒にいたい」
自分の『今』を認める事さえできれば――始める事を諦めなければ――きっと、なんとかなる筈だ。

「――そ、それでさ、す、スゴイ事って……ど、どのくらい?」
「な・い・しょ。次回までの、お楽しみです」
〈終わり〉

271 :
投稿は以上となります
やはり、えちぃシーンというのは難しいものですね。私ではこんなところが精一杯
GT外伝を読んで、自分なりに秋ちゃんと二次元くんのイメージを掘り下げてみたいという欲求で始めた話でしたが、少しでもお楽しみ頂けたなら幸いです
佐藤隆哉…奴はしょせん、二次元に背を向けた裏切り者…
最後、続くかのように結ばれていますが、これについては漠然としたイメージしかないため、
全くの未定です。いつかまた、発表の場を頂ければ幸いですが
それでは、長々とお付き合い頂き、ありがとうございました

272 :
おつかれさまでした!
本編 6 巻ともども本当に最高でした。
二次元くんは裏切り者かもしれませんが、
そうでもないと夢がないですよ(笑)。
続きはもちろんあると思って待っています。
もっとすごいことがあるみたいなので(笑)。
ありがとうございました。m(_ _)m

273 :
>>271
乙!面白かったです、秋ちゃんの特徴がうまく出ていて可愛さを再確認
続編も出来れば是非
本編でも秋ちゃん出てこないかな

274 :
秋ちゃん可愛いよ秋ちゃん
しかしエロシーンで実は処女でしたとかなくて安心?したww
二次元君が事故ったと聞いた秋ちゃんがどんな反応示した気になる

275 :
それ気になるな。
秋ちゃん、また笑いながら泣き出しちゃうかも

276 :
保守

277 :
こんばんは。オマケのEです。
大河と竜児と聖なる夜と、ちょっとしたオマケ。
8レスの予定です。
↓↓↓

278 :
「あぁん、動いちゃだめぇ…。」
「そんなこと、言っても…。」
薄暗く、埃っぽい部屋。めったに人の入ることのない倉庫に、男女の艶めかしい声が響く。
「もう、ちょっとだから…。」
「くっ…、」
おおよそ健全な青少年の通う高校の、放課後とはいえ一室にはあまりにも似つかわしくない声と会話。
「僕、もう限界…!」
「あぁんん、もうちょ……、届いた!」
「あぁっ!」
ドサドサ、っという人が倒れる音。ついでに何かが落下してきて、倒れた幸太の頭にぶつかる。
「痛い!」
「きゃあごめん!幸太くん大丈夫!?」
その崩れた幸太の上にどしんと落ちたのは、かつて生徒会長としてこの学校を統治(?)しながら卒業を目前にアメリカ留学というカタチで退学した
誰もが恐れる前々生徒会長狩野すみれの妹にして、姉とはまったく似ても似つかない天然系エロオーラ丸出しの妹こと、狩野さくら。
そんな彼女は、現生徒会副会長でもある。そして彼女が不本意ながらその尻に敷いてしまったのが、なんと現生徒会長の冨家幸太。
すみれの部下である北村祐作の下で生徒会役員としての仕事をはじめ、二人にこき使われながら気が付けば北村の会長職引退と共に会長選に立候補、
そのまま見事当選を果たしてしまったのである(誰も競う相手がいなかっただけという説もあるが、それはここでは別のお話)。
そんな彼らの生徒会として初めての主催イベントが、目前に迫っていた。
前生徒会長の北村が考案したイベントであり、受験に向かう先輩たちを労う意味もこめられたこのイベントは、2学期の終業式後に開かれるクリスマスパーティ。
体育館に、現3年生にして既に推薦入試で大学進学を決めた川嶋亜美が寄付した巨大なクリスマスツリーを飾り、盛大なパーティを開くのだ。
そしてそのクリスマスツリーの天辺に飾られるのは。
幸太とさくら、二人にとってはいろんな意味で思い出深い人間であり、それはほかの後輩たちにも同様で、
伝説として語り継がれている「幸福の手乗りタイガー」こと逢坂大河の寄付した、クリスタルでできた星のオーナメント。
詳しい事情は知らなかったが、一度バラバラに砕かれながらも見事に復活を遂げたそれは、新たな伝説として大橋高校に語り継がれていた。
曰く、その星に願えば、一度はダメになった関係を再びやり直すチャンスが巡ってくる、と。
そしてその星に願えるのは年にただ一度きり、このクリスマスパーティなのである。
「いててて…、あぁ、僕は大丈夫だよ、それより。」
倒れた幸太が、頭にあたって床に落ちた箱に手を伸ばす。
もしかしたら今の衝撃で割れてしまったかも?暗い不安が胸をちらりとよぎる。
恐る恐る箱をあけてみると、果たしてそこにはいっていたのは、たしかに一度は割れたのであろう星を模ったクリスタルのオーナメント。
しかしそれは薄暗い倉庫に差し込む夕日を反射し、きらきらと輝いている。よかった、割れているわけではないようだ。
むしろこれはこの状態が正解なんだろう、とほっとする。いくら不幸体質でも、こんな大事なものを破壊してしまうわけにはいかない。
安心した自分をみて、さくらもほっとしていたようだ。
わざわざ幸太を足蹴にしてまで高い棚の奥深くにしまわれたそれに必に手を伸ばした意味がなくなってしまう。
「よかった、さくらちゃんこっちも無事みたい。さ、準備もどろ」
「うん。」
二人はあまり役に立たなかった古くなった電球の灯りを消して、準備を行っている体育館へと戻っていた。
戻った先で生徒会の後輩に、「先輩たち遅かったっすねー倉庫でなにしてたんすか」みたいな茶化されかたをするのは、もうすっかり慣れっこだ。
二人だって、正式に付き合ってることを公にしているのだから。

---------オレンジE  ホーリーナイト ---------------

279 :
 
鮮やかに彩られた紙飾りと、カラフルに輝くイルミネーション。
いつか俺も作ったなーと思わせる紙でできた飾りはちゃちいものではるけれども、雰囲気を盛り上げるには十分な効果を発揮していた。
今年も協賛は狩野商店。妹の、あの姉と比較されては不憫で仕方のない妹の初仕事とあって、去年以上に張り切っているようだった。
高校のイベントなのでもちろんアルコールの類は一切ないが、様々な種類のジュースにお菓子、
ちょっとした軽食をはじめすっかりおなじみとなったフルーツパンチ(という名のただのフルーツ盛り合わせ)まで揃っている。
多くの人間はいったん家に帰ってからそれぞれおめかしして出直しているようで、それは今年は完全にゲストとして参加した竜児と大河もいっしょだった。
どうやら動員人数は去年より多いらしい。
本来なら受験生であるこの時期にこんな浮かれたイベントに参加していいはずはないのだが、実は大河を誘い出したのは竜児のほうだった。
夏の一件以来、二人の勉強はすこぶる順調だった。もとより成績のよい竜児はもちろん、その竜児の傍らで勉強する大河もみるみる成果をあげ、
ほぼすべての成績で普通クラスの上位に食い込むほどにまでなっていた。得意の英語に至っては特進クラスの面子にも負けないほど。
その結果は冬前に受けた模試にも反映されていて、二人の目標とする国立大学は十分に狙えるところにまで来ていた。
もちろんだからといって油断していいわけではない、むしろ今が一番大事な時期であることは紛れもない事実なのだが、今日この一日くらいというのは竜児の弁。
誰よりもクリスマスを愛し、大切にする大河になにかプレゼントをしたいと考えるのはそんな彼女を愛する彼氏としては当然の心理だろう。
そんな提案を「あんた本気で言ってんの?浮かれてていい時期なわけ」なんて無下に断る素振りをみせながら、
でも断りきれず結局精一杯おめかししてパーティに出席している大河は、やはりここでも注目の的だった。
幸福の手乗りタイガー伝説の異名は伊達ではない。実際にその恩恵に与かった者もいれば、この機会になんとかお零れを頂戴しようとする輩もいる。
多少は丸くなったとはいえ、手乗りタイガーは手乗りタイガー。獰猛な危険生物であることに違いはないのだ。

280 :
 
「逢坂先輩!」
そんなことを考えているそばから、また生贄が一人。
見たことのない後輩は、おそらくこの日のために精一杯おしゃれしてきたのだろう、イマイチ似合っていない黒のジャケットに着られている感じが否めない。
しかし、そんなことはお構いなしに。
「なによ?」
大河がけっと、汚いものを見るかのようにその不届きな輩を睨みつける。
ふわふわの長い髪を綺麗に頭の上でまとめ、全身を覆うのは大人の色香を漂わせる上品なドレス。唇にはうすく口紅を塗り、ほのかに漂うのは泰子に借りた大人の香水。
その精緻な美貌と相まって、いつも以上の迫力を演出する。しかし、それでもその男は引き下がらない。
「俺!告白したい相手がいるんです!勇気をください!」
一体どこでそんなことになっているんだろう。
いつのまにか、大河に触れると幸せになれるという幸福の手乗りタイガー伝説はあっちで尾ひれがついてこっちでは話が広がり、
本人たちにもすっかりよくわからないことになっていた。とりあえず、大河はまるで恋愛成就の神かなにかのような存在になったようである。
「おい大河…。」
しかし、大河はその言葉を聞いてニヤリと笑う。うっ、と竜児は後ずさる。この笑顔は、なにかよからぬことを企んでいる顔だ。
「しかたないわね…。」
大河がその黒い笑顔のまま、手を握りコキコキと骨を鳴らす。それをみて、男はひぃっと小さく悲鳴をあげるが。
「歯ぁ食いしばれぇー!!!」
男は咄嗟に目を閉じる。そして。
ばしん!
強烈なビンタがお見舞いされた。そのあまりの威力に、男は尻から床に倒れる。
「お、おい大丈夫か!?」
あわてて竜児がかけよって、肩を抱き起こしてやるが、しかし。
「あ…、ありがとうございました!行ってきます!」
「行ってこい!お前は無敵だ!」
「はい!」
男はそのままパーティ会場から駆け出て行った。
「なんだったんだ…?」
「闘魂を注入してやったのよ。この大河様特性のね。」
「はぁ…。」
竜児はなんだか腑に落ちない感じだったが、本人たちが納得しているんだからきっといいんだろう。まぁあいつがいいならいっか、うまくいくかどうかは知らねーけど…。
そして、その現場を目撃した後輩たちから俺にも俺にもと頼まれて、結局その日のうちに大河は途中でキレて関係ないの(含む竜児)にも
ビンタを複数発お見舞いすることになるのだった。
かくして幸福の手乗りタイガー伝説は、聖なる夜に繰り広げられた幸福の闘魂注入伝説へと昇華されていったのであった。

***

281 :
 
「はー、もうなんなのよ!」
「お前が最初にやりだしたんだろ…。」
そうだけどさぁ!と大河は不機嫌そうだった。
せっかくの綺麗なドレスも化粧も、次から次へとビンタをかましているうちにいつのまにか崩れてしまっていた。
パーティは楽しかった、といえば楽しかった。今年はみのりんも来てくれたし、ばかちーがまた変なことやってるの見られたし、北村くんとも喋れたし。
竜児とこうして二人でいられたし。
頼りない街灯に照らされた暗い帰り道。吐く息が白い。雪は降っていない。
雪が降ればいいのに、と大河が小さく口をとがらせた。
雪なんか降ったって、お前がすべ…、と途中まで言いかけて、そこから先は受験生には禁句。転ぶだけだろ、と言いなおす。
どっちにしろあまりよくない言葉だと言ってから思ったが、大河はそれについてはなにも言わなかった。
ただ立ち止まって、
「あんたってほんとロマンの欠片もないわよねー」
と一言。それにあわせて竜児は「へいへいロマンの欠片もなくて悪かったですねー」と言い返してから、
おもむろに大河の左手をぎゅっとつかんで、自分のコートの右ポケットに突っ込んだ。
雪なんか降らなくても。十分寒いんだからこうすりゃいいだろ、と言ってそのまま歩き出す。それに引っ張られて大河も歩き出す。
二人とも何も言わなかった。
大河は竜児から奪ったお気に入りの赤いマフラーに口元まで埋め、真っ赤でどうしようもない笑顔を見られないようにうつむいて、
寄り道しようという竜児にただ黙ってついていった。

二人がやってきたのは、こんなにも寒いのに凍りつく気配はまるでない冬の川。の真上。
つまりおよそ10ヶ月に二人がぎゃーぎゃー騒ぎながら雪の降るバレンタインデーに水浴びをすることになった大橋その場所だった。
あの時と同じ寒さで、あの時と同じように街灯がぼんやりとついていて、あの時と違うのは雪が降っていないこと。
誰からも逃げていないこと。二人には帰る場所があること。
そんなことをふと考えている大河に、竜児が話しかける。
「去年のクリスマスのこと、覚えているか?」
覚えているか?もちろん覚えているわよ。

282 :
あんなこと、忘れたくったって忘れられない。自分の記憶が吹っ飛んでた間だって、あの時のことは感覚として覚えていた。
竜児への気持ちを自覚した瞬間。同時にそれを失ったことへの気づき。
裸足で、砂埃にまみれてバカみたく涙と鼻水を垂れ流して、大きなくしゃみをして、そして一人ぼっちで眠りについた夜。
そして目が覚めたらあんたはみのりんフラれてて、インフルエンザこじらせて入院して、私は、私は…
「笑ってた。とても悲しいはずなのに、あんたはとても辛いはずなのに、私は笑ってた。マスクの下で」
竜児を見つめる大河の目は真剣だった。
夜の河川敷はしんと静まり返っていて、そよそよと流れる水面の音以外に聞こえてくる物音はない。
冷たい空気に晒されている竜児の耳は真っ赤だ。同じく大河の鼻も真っ赤。
「クリスマスもそうだし、あのときの私は、本当に…」
大河がさらに言葉をつづけようとするが、それを竜児が阻止する。暖かい抱擁で。
「ちょっ、あんたなにをいきなり!」
「もう、いいんだ。」
竜児の言葉は優しかった。もう、いいんだ。
あの時は俺も必で、お前も必で、どっちも本当に大事なことを見失いかけてて、迷子になってた。
二人でいっしょに目指していたはずのゴールはほんとのゴールじゃなくて、いやそれはそれで正しいことなのかもしれないけど、
結局俺たちはそのあとさらに時間をかけて、二人でいっしょに行ける道を探したんだ。それで、今ようやくここまでこれたんだ。だからあの時のことは、もういいんだ。
竜児の腕に抱かれて、大河は小さく頷く。すっかり型崩れしたふわふわの髪の毛が揺れる。
「大河。」
竜児が大河の肩をつかみ、自分の顔を向けさせる。大河が竜児の顔を見る。視線が交わる。二人の間に緊張が走る。
大河が空気を察して目を閉じる。これでも二人は付き合ってもうすぐ1年。やることだってやってる。
これがどういう空気なのか、大河には十分わかっているつもりだったけれども。
しかしそのまま待てども待てども事態が進展することはなく。
「……大河、悪いんだけれども、目を開けてくれないか。」
竜児がそう言った。キス、じゃないの。と一瞬大河は不満に感じるが。
目の前に差し出されていたのは。
「え、これって…。」
いつのまにか自分の肩から離された竜児の手にあったのは。
小さな箱。黒い外見の高級そうな小箱は、おおよそ普段の竜児からは想像もつかないもので。
「開けてみてくれないか。」
こくん、と小さくうなずき、大河がその小箱に手をかける。
二つ折りの箱を恭しく開くと、そこにあったのは、大河の思った通り。
「こんなの…、もらってもいいの?」
「当たり前だ。お前のために用意したものなんだから。」
決して安くはないだろうシンプルなシルバーのリング。見つめる大河の瞳が輝く。
「エンゲージ、ってわけじゃないけど。去年のクリスマスのお返しだ。どう」
言葉を言い切る前に竜児の胸にまた大河が飛び込んでいた。
こういちいち飛びかかられてるとといつかほんとに怪我するなー、と橋から突き落とされたことを竜児はちらりと考えながら、自分の腕の中で震える大河を抱き留めていた。
空にはいつか見たオリオンが輝く。赤く輝くベテルギウスと青く輝くリゲル。誰かと誰かを連想させる星々。ふとそんなことを考える。
ホワイトクリスマスじゃなくたって、こんなにも素敵なことは起こり得るのだ。
去年はクマサンタに扮した竜児がきてくれた。それだけで、ものすごく救われた。
今年はきっと本物のサンタさんが私に竜児をくれたんだ。私の願いを叶えてくれた。
人生は、きっと素敵なことで満ちているんだ。例えば夜空に輝く星のように。左手の薬指に輝くリングのように。
世界が隠した優しくとても甘いものを、二人は見つけたのだ。

***

283 :
「竜児、いいよ。」
「おう。」
久しぶりだった。
それは勉強に多くの時間を割くようになったせいでもあるし、意図的にセーブしていたせいでもあるし、意思とは関係なく月に一回やってくる女の子の事情のせいでもあった。
それでも。
「ね、竜児、ぎゅってして。」
何も言わず、竜児は大河を抱きしめる。一糸纏わぬ生まれたままの姿で、大河は竜児に抱きしめられ、首筋に甘いキスを受ける。
くすぐったさと快感が入り混じり、大河の思考は徐々に溶けていく。
しかしそんな惚けた大河の頭でも、竜児のその大きな手が自分の大切な場所に触れれば、感覚を取り戻し小さく声をあげる。
「ばか、そんなとこ…。」
「ばかで結構。」
竜児はその手を止めはしない。剥き出しの秘部に優しく触れるとそこはじわっと湿り気を帯び、大河がまた一段と高い声を出す。
膝立ちの姿勢がくずれ、竜児は背中から倒れこんだ大河の上に覆いかぶさる。口で大河の耳を優しく噛み、左手を背中に回したまま右手は愛撫を続ける。
大河は目を閉じ、されるがままで悶えている。華奢な身体が小さく躍動し、快感を覚えていることを竜児に伝える。
「りゅう、じ…。」
大河の潤んだ瞳が竜児を見つめる。竜児も顔をあげ、その黒目の少ない瞳で大河を見つめる。数秒の間の後、二人の唇が重なる。
最初は優しく、しかし徐々に激しく竜児の舌は大河を求め、大河もそれに応える。
艶めかしく響く音。薄暗い部屋ではカーテンの隙間から入り込む街灯の光だけが唯一の明かりで、二人は目ではよく見えないものをお互いに求め、感じあう。
長く激しいキス。
初めてキスをしたときの衝撃はすごかった。誰しもがそこかしこでやっているようなことのはずなのに、
二人にとっての初めてのそれはとても衝撃的で甘美で、忘れられない思い出となった。ただ、唇と唇が触れただけなのに。
今でもキスは、特別なことだと思う。頭の中で、気持ちの上で、愛を確認する作業であるとわかっていても、
実際にこうやって触れ合ってみるとそんなことはどうでもよくて。
ただ、お互いに愛おしいという気持ちが溢れてくる。
「大河。」
唇と唇が離され、竜児が名前を呼ぶ。大河。呼ばれた大河はこくんと頷いて答える。
覆いかぶさった態勢から竜児は再び状態を起こし、大河も身体を起こす。
今度は竜児が尻をついて、足を広げる。大河がそこに顔をうずめる。
大河はそこにまず手で触れ、そして顔を近づけ、そして舌を這わす。ぴくん、と小さな反応を見て、さらに唾液を垂らし、そして咥えこむ。
ぴちゃぴちゃと、液体が粘膜に弄ばれる音が響く。竜児はその快感に小さく声をあげ、掌で大河の頭に触れたまま、天を仰ぐ。
ちょっとした違和感。なにか冷たいものが、竜児の手乗りドラゴンに触れる。

284 :
 
「……、大河。」
「ふぁひ?」
咥えたまま上目使いで喋られると、一層刺激が強い。それだけでも十分な快感なのだが。
「やっぱり、はずしてくれないか…。」
竜児が言ったのは、大河の左手の薬指にはめられているリング。どうしてもそれが触れるのが気になる。
大河は咥えこんでいた口を外し、答えた。
「そんなに気になるの?」
「おお、というか正直そいつが俺のアレに触れてると思うと、やっぱりちょっと…。」
「そっか。」
そういって、大河は薬指からそれを抜き取り、立ち上がって近くの机の上に置いた。
そばには自分のケータイや貴重品もいっしょにある。ここならなくすこともないだろう。
「はい。とったよ。」
「おう、わりぃな。せっかく着けてくれてるのに。」
「いいよ、竜児が気になるんなら外しとく。やっぱり最初にとっとけばよかったね。」
そういって、大河は再び竜児の横に潜り込んだ。その手には、買い置きされた薄さ0.02ミリのフィルム。
再び竜児の手乗りドラゴンに向き合い、大河はするするっとそれを装着する。
どうしてあんなに不器用な人間なのに、こういうとこだけはこんなにもうまいんだろうかと竜児は関心する。
すぐ転ぶ。砂糖と塩は間違える。包丁で手を切りそうになる。飲み物は零す。朝っぱらから告白してフラれて、しかもそれを俺に聞かれる。
ドジったエピソードをあげれば枚挙に暇はない。それでも。
「竜児。」
「おう。」
優しく呼びかけ、それに応える。
竜児が再び大河の上に覆いかぶさり、そして竜児の手乗りドラゴンが大河の中へと侵入していく。
0.02ミリのフィルム越しに伝わる温もり。快感。最初はゆっくりと。しかし徐々に激しく。
シーツの擦れる音が、二人きりの部屋に響く。
大河は小さく声にならない声をあげ、竜児も呻くように大河に小さく言葉をかける。
その内容は大河にとってはもうだいぶ聞きなれたはずのものなのに、いちいち頭の奥のほうまで響く。好きだとか、かわいいよとか。
竜児は腰を動かしながら、口と舌で大河に触れ、手で小さな胸に触れ、そして力強く抱きしめる。
竜児に全身を啄まれた大河は、その身を固くし、竜児のすべてを受け入れる。頭ではもう何も考えられない。ただ今は、受け止めるのに必で。
やがて0.02ミリのフィルム越しに竜児の愛が吐き出され、大河は絶頂と疲労に包まれて行為が終わったことを知り、そして再び意識を取り戻す。

285 :
 
「ねぇ竜児。」
「ん?」
眠りにつく前のわずかな時間。
今日はいろんなことがあった。2学期が終わって、終業式があって、クリスマスパーティがあって、大河は大勢の後輩に闘魂を注入して。
大河の薬指にはシルバーのリングが輝いていて。
「……なんでもない。」
「なんだそりゃ。」
竜児が間抜けな顔をする。自分から呼びかけておきながらなんでもないって、なんだそりゃ。
その顔をみて、ふふと大河は小さく笑う。言葉にするのは簡単だ。だけど、私たちはこの一言が言えなくて、ずっと、ずっと彷徨っていたんだ。
でも今ではこんなにも近くにいる。空に瞬く星々より、もっとずっと近いところに。
立ちはだかる障害を乗り越えて、二人の将来を切り拓いていける。
だから今、言葉を紡ぐ。
「ねぇ竜児。」
「はいはいなんですか?」
大河は一呼吸おいてから、その想いを言葉にする。

『好きだよ』

***

余談だが、初開催の前年度はごちゃごちゃと文句をつけながらパーティに出席しなかった独神こと恋ヶ窪ゆりに、新たな彼氏ができたらしい。
本人曰く、「逢坂さんの星に願ったおかげ!」らしいが、その詳細および因果関係は不明。
ただ一つ言えることは、これからも大橋高校には誰よりも不幸のどん底にいながら誰よりも大きな幸福をその手にし、
さらに余った幸福(と闘魂)を振りまいて卒業していった小さな可愛らしい女の子がいた伝説が語り継がれていくことだろう。
その幸せを享受した人間たちによって。あるいは幸せを得ようとした人間たちによって。
二人と、二人を取り巻く幸せな物語は、これからも続く。
そういうふうに、できている。

286 :
大河の『好きだよ』をもって、(予定されてた)本シリーズは一応終わりになります。いい曲だった。
>>116から2ヶ月とちょっと、長々とお付き合いありがとうございました。
また気が向いたら何か書きにきます。GTもいずれ!
それでは。

287 :
お疲れさまでした
文面から、原作への温かな愛情が溢れてくるような、いい作品でした
読んでいて、やはり2次創作の原点は、作品への愛にこそあると、再認識させられた次第です
いつかGT作品にも挑戦されるとの事ですので、その時を楽しみにしています
ありがとうございました

288 :
おつ

289 :
やはり最後はイチャラブですな。乙乙
久しぶりに竜虎長編が読めて嬉しかったです、ありがとう!
ゆりちゃんもおめでとうw
同じくGTも期待してます

290 :
もっとゴールデンタイムの SS を読みたい

291 :
自分のブラウザはここを隠すのがうまいです。ブックマークシマス
久々に投稿したいと思います。
今回はあみドラです。久々すぎてキャラ掴めなかったかも…。
題名:自販機〜その鉄壁の守り〜

292 :
どこから、間違っていたんだろう。
あたしは、あたしの出来ることを、ただ精一杯やってきたつもりだった。
これで良くなる。きっと、もっと先が見えてくる。
そう思ってやってきた。
だけど……あたしは、今大きな問題にぶつかった。
どうにかしよう、どうにかしようと足掻いて、もがいて―――結局、あたしの力じゃどうにもできなかった。
一人で何とかしなければいけないことなのに、彼は狙ったかのように、あたしの前に姿を現す。
こんな恰好悪い姿、彼にだけは見られたくなかったのに、何の気なしに彼は話しかけてくる。
「相変わらず、川嶋は自販機の間に挟まってるんだな」
やめてよ、今だけは放っておいてよ。あたしに、そんな優しく話しかけないでよ。
「いいでしょ、別に。ここはあたしの隙間って、前に言ったじゃん」
お願いだから……すぐにここからいなくなってよ。
「おぅ…なんか、急に機嫌が悪くなったな。どうしたんだ?」
「…べっつに〜。亜美ちゃん、機嫌なんて全然悪くないよ。高須くんの勘違いじゃないのぉ?
 ていうか、高須くんもよくここに来るよね〜。何、あたしに会えるからかなぁ?」
「喉が渇いたから、飲み物買いに来ただけだ。てか、一番近い自販機がここなんだから、
 ここに来るに決まってるだろ」
いつもの軽口。普段の高須くんなら、さっさと飲み物を買って教室に戻るはず。
なのに、今日だけは妙にしつこかった。
「……なぁ、本当にどうしたんだよ。さっきの昼飯の時は、機嫌よかったじゃねぇか」
「………」
「俺でなんかでよけりゃ、愚痴でもなんでも聞くぞ。お前は少しため込みすぎるきらいがあるし。
 吐いて楽になるなら、何でも言ってくれよ」
やめて。それ以上優しい声で、気にかけないで。
お願いだから、少しは空気読んでよ…高須くん……。


―――自販機に尻がつっかえたとか言えるわけねぇっつーの!!

293 :
「なぁ、川嶋。俺に、話せないようなことなのか?」
「…」
再度聞いても、亜美は俯いたまま話そうとしない。余程、思いつめているのだろうか。
竜児の心配が徐々に大きくなっていったとき、ふと竜児は違和感を感じた。
(…あれ?川嶋、何か変じゃねぇか…?)
竜児は、亜美の不自然な体勢に気付いてしまった。よく見れば、亜美は地面から少し浮いているように見える。
それはつまり、亜美の『何か』が『何か』に引っ掛かっていることになる。
そして、今の状況でその『何か』に当たる部分は非常に限られてくる。
――まさか…川嶋のやつ。自販機の間に、ケツが…?
「…何その目。言いたいことあるなら、言えばいいじゃん!!」
「おぅ…あ、いや…何でもねぇよ」
亜美を見る竜児の三白眼が、ギラリと鋭くなる。『俺の仕掛けた罠に、野兎が一匹捕まったか。さて、煮て食おうか
焼いて食おうか…』なんてことは、もちろん考えていない。
竜児は、すでに亜美がどういう状況になっているか、気付いている。しかし、それでいて亜美の自尊心を
傷付けることなく現状を打破する、良い言い回しはないだろうか…。
不器用な頭をフル回転させるが、なかなかいい言葉がみつからない。
(『川嶋のケツ、はまってるのか?』なんてストレートに聞いたら、間違いなくキレるよな…)
当たり前だ。
「…あ〜〜もう!!」
亜美は竜児のいらぬお節介に苛立ち、細長く綺麗な髪に少し乱暴な手櫛を行って、竜児に向かって腕を伸ばす。
その手の先を大きく広げ、口をとがらせ拗ねたように竜児に言った。
「高須くん、もう気付いてるんでしょ?助けてよ。こうなりゃ恥も何もねぇし。あーそーですよー。
 亜美ちゃん、ケツが自販機に挟まって動けねーのー。助けて下さいー」
「お前、女がケツとか言うなよ…。じゃあ、手掴むぞ」
そう言って、竜児は伸ばされた手を掴む。スラリと長い指は、竜児の手をしっかり握り返した。
川嶋の手、こんな小さいんだな。ふと、竜児は思った。

294 :
モデル業と学業を両立させ、その為に亜美が途方もない努力をしていることは、想像できる。
形の良い爪先も、大河とは違いしっかりケアがされているのが見えた。
家事や掃除で少し荒れた、自分の手とは全く違うその手は、だけど頼りなく見えた。
男女の違いもあるのだろうが、えもして力を込めれば簡単に壊れてしまいそうなほど、儚い。
亜美の『綺麗過ぎる』その手は、竜児にとっては一種の芸術品にも感じられた。
「…高須く〜ん?なぁに、そんなに亜美ちゃんの手見つめちゃって。もしかして〜、この亜美ちゃんの
 超綺麗な手にく・ぎ・づ・け?いや〜ん、手一つでメロメロにしちゃうなんて、まじで亜美ちゃん、
 自分が怖〜い☆」
亜美に気付かれるほど、手をまじまじと見てしまっていたらしい竜児は、若干顔を赤くして否定する。
「な、ん、んなわけねぇだろ!…いいから、引っ張るぞ」
「はいは〜い☆…しっかり、掴んでるから」
竜児は足を踏ん張れるように軽く開く。亜美も、その手を離すまいとまた強く握る。
そして、亜美が何だかんだ頑張っていた甲斐があったのだろうか。竜児が少し力を入れて引っ張り――
「うぉ!?」
「きゃあ!?」
亜美は、あっさりと自販機の間から抜けた。しかし、引っ張った勢いが止まることはなく、
「いっ…!てぇ…ぇ?」
「…!!」
竜児の上に、被さる様な形で亜美が倒れこむ。その反動で、竜児の胸の上に亜美の我儘ボディが
余すことなく押し付けられる。
亜美のそれがまるでマシュマロのように弾み、自分の胸の上で形を変える様が、竜児には
スローモーションを見るが如くはっきりと見え、明確に感じられた。
(か、かわ、川嶋の、む、胸がぁ!?)
今までも、わざと腕に抱きついてきた時に当てられたり、などはあった。
しかし今回は完全に事故であり、また亜美が上に覆い被さるような状況であったため、重力により一層
ダイレクトに伝わっていた。
(それに、何だよこの甘い匂い…なんか、くらくらする…)
竜児の目には、亜美の形の良い耳がはっきり映るほど、二人の顔は近かった。
川嶋亜美という少女の匂いが、竜児の鼻孔を強く刺激する。
突発的な事故により、今までにない形で接近した二人。
それは竜児はもちろん、亜美も例外ではなく、
(あ、あたし今高須くんに抱きついてる…?!や、やべぇ、絶対あたし今顔真っ赤だ!ど、どどどどうする!?
 どうすんのあたし!?高須くんの匂いが強くて頭回らない〜!?スンスン)
絶賛大混乱中である。亜美に至っては混乱しすぎて嗅いでいた。
(見た目)静かな二人の間には、どこかの喧騒が小さく流れてくるだけだった。

295 :
しかし、それも数瞬の出来ごと。はっ、と。いち早く正気に戻った竜児は、今の状態は非常によろしくない
とすぐに察した。
もし大河にでも見られたら、川嶋もろとも自販機の間に逆戻りになる可能性もある。
その情景が妙に生々しく浮かんだ竜児は、若干青ざめながらも亜美の肩を軽く叩く。
「か、川嶋。と、とりあえずだ、上からどいてくれねぇか」
「ふぇ…あ!?そ、そそそそうだよね。ご、ごっめーん☆今すぐどけ―――ウボァ」
「か、川嶋ぁ!?」
亜美がどけようと体を後ろに引いた瞬間、花の高校生モデルにあるまじき声音が発せられる。
また竜児の胸に飛び込むような形で倒れ、再度亜美の体が竜児の上に被さった。
「ど、どうした川嶋!!大丈夫「ごめん、高須くん」…か…?」
自分の首元に顔をうずめている亜美が、一言つぶやいた。
表情こそ見えないが、その雰囲気が先ほどとは全く違うことに竜児は気付く。
「お、おい、川嶋…?」
その亜美の雰囲気に、竜児は思わず喉を鳴らす。
今までも、何度かこういうシチュエーションはあった。その度、亜美の行動にドギマギさせられていた
竜児だが、だからといって慣れるものでもなかった。
そして、亜美はゆっくりとその顔を上げる。
――目元を潤ませ、頬は紅色に染め、少し湿った艶やかな唇を向ける、美少女がいた。

296 :
などと、決して甘いようなものではなく、
「足痺れて立てない。いやまじで」
「……え」
涙目で頬を引き攣らせ、痺れに耐えるために口元をへの字に食いしばる美少女(笑)だった。
無理な体勢で長時間いたせいだろう。亜美の両脚は完全に痺れており、感覚の無い両足を支えるために
ただただ竜児に覆い被さるしかなかった。
「そ、そりゃ、あんな体勢で動けなくなれば痺れるだろうけどよ…。誰か呼べばよかったんじゃねぇか?」
「はあああああああ!?この可愛い可愛い亜美ちゃんに、誰ともわかんねぇ奴に向かって
 『ケツつっかえました。助けて』
 って言えってーの!?んなこと出来るわけねーじゃん、ぶゎああ゙あ゙ぁぁぁ…かぁ…」
威勢が良かったのも、最後まで続かなかった。叫んだ衝撃が、足に伝わって痺れたのだろう。
若干涙目になりながらも、気丈な態度を崩さないところ、竜児は感心した。
「一歩も動けねぇのか?」
「…無理」
「どうすんだよ…。授業始まるまであんま時間ねぇぞ?」
一つ、竜児はため息をつく。
実は、亜美は一つの方法が思い浮かんでいた。というよりも、自分の足が痺れていた時には、
少しだけ考えていたことでもあった。
はたして、これをお願いすれば、教室でちょっとした騒ぎになる。そして、自分も多少なりとも
恥ずかしい思いをすることは間違いないだろう。
間違いないが――亜美にとっては、それは非常に魅力的な事案であったことも間違いない。
その二つを両天秤にかけた時、亜美にとって恥ずかしさよりその『事案』のほうが重きに傾いた。
亜美は口をきゅっと結び、覚悟を決めて口を開いた。
「…んぶ」
「ん?…何か言ったか、川嶋?」
「…っ!」
聞き逃してんじゃねぇよ、この顔面犯罪者の家政夫!!と心で悪態をつき、もう一度。
今度は顔を上げ、深呼吸をしたのちしっかりと竜児を見据えながらお願いをした。
その時、頬に熱を持っているように感じたのは、多分気のせいではなかっただろう。

「…おんぶ、して?」

297 :
「んで、竜児?くわし〜く、こまか〜く、鮮明に、隠すことなく、教えてくれるかしら?
 飲み物を買いに行ったはずのあんたが、な・ん・で!ばかちーを背負って教室に帰ってきたのか。
 なに?自販機の当たりでも引いた?」
「あーみんを背中に乗っけてたってことは…高須くんは、あの我儘ぼでーを堪能しちまったんだね。
 いやー、そりゃもう高須くんの鼻の下も伸びちゃうってもんだね。ね」
「く、櫛枝…!?お、俺は別に鼻の下なんて伸ばしてなんか…てか抑揚無くて怖ぇ!?
 ついでに突っ込んでおくけど、当たりで川嶋が出てくるわけねぇだろ!」
「ん?高須、シャツの襟に何かついているぞ?」
「あ?…なんだこれ?」

(高須くんの首真っ赤だったけど、やっぱりあたしとくっ付いてたから…?
 あたしの心臓、すっごいドキドキ鳴ってたけど、ま、まさか気付かれてないよね!?)
「…ねぇ、奈々子。高須くんのシャツの紅い跡って…あれ」
「多分…そうだと思う」
((あんなところに付くって事は、まさか…))
「…ん?ど、どうしたの?二人とも。ニヤニヤして」
修羅場は、更に加速する。

298 :
以上です。あーみん書こう書こう言って、ようやく書けました。
自分で書いておきながら、コレジャナイ感が結構してます。
あーみんは、今度リベンジしたいと思います。
ああ、次は奈々子だ…。
次回の作品も、よろしくお願い致します。

299 :
>>298

自分もこれくらいライトな文体の方がサッと読めて好きだわ
次回も期待

300 :
>>298
じゅうぶんにちわドラ感を堪能できたGJ

301 :
保守

302 :
バカ話をおひとつー。

303 :
「……なぁ、能登、俺はどうしたらいいと思う?」
「いきなりそれじゃわからないよ、高須。とりあえず何があったんだ?」
「大河が許してくれねえんだ」
「逢坂が怒るのはいつもの事じゃんか。むしろ平常運転だろ」
「それがな、今回はかなりマジなんだ。俺の特製手作りプリンでも機嫌が取れないなんて初めてだ」
「おいおい、何やってそこまで怒らせたんだよ」
「何って……大した事はしてねえぞ。ただ、大河に絡んで来たヤツを掴まえて鼻にネギ突っ込んで額に『にく』って書いてから、公園の木に吊るして『芸人修行中。邪魔しないでネ』って張り紙して来ただけだ」
「やりすぎだろ!? お前がやりすぎだから、逢坂が怒ったんだろ」
「違う、俺は悪くない! 悪いのはアイツなんだ! 会った途端、いきなり大河に抱きつきやがった!」
「逢坂に!?」
「しかも、ベタベタ顔やら頭やら触りまくったんだぞ!? 腕やら足やら腰やら触りたい放題だ!」
「セ、セクハラか!? あの逢坂に!? そりゃ蛮勇っつーか、無謀なヤツも居たもんだな」
「挙句には『大河、愛してるぜ〜』だとか言い出して!」
「くくくく口説いたのか!? 逢坂を!? お前の見てる前で!?」
「最後には根負けした大河とデートの約束なんか取り付けてやがったんだよ!!」
「そ、それはお前がキレるのも無理はないかも知れないな……」
「そうだろう! ちくしょう…………櫛枝めっっ!!!」
「やっぱ悪いのお前じゃんッ!!」
「なんでだよ! ヤツは大河と遊園地に行こうなんて企てる極悪人だぞ!!」
「友達同士で遊びに行く計画立ててただけだろ!!」
「ま、まぁ、見方によってはそうとも言えないかも知れないが」
「そうとしか言えないよ! お前、櫛枝に謝って来い!」
「いや、櫛枝にはもう謝ったんだ。大河に命令されて、渋々」
「心から謝るべき所だろ、そこは……つーかお前って、ちょっと前までは櫛枝に惚れてたんじゃなかったのかよ」
「人は過去に囚われちゃいけないんだ。常に未来を見るべきなんだよ」
「なんか俺良い事言いましたって顔するな。たまには振り返る事も大切だろ。それで、櫛枝は許してくれたのか?」
「それが、『大河への愛ゆえに犯した罪ならば許そうじゃないか!』ってな」
「心が広いなぁ、櫛枝」
「『ただし、損害賠償として櫛枝は熱いベーゼを要求するぜ。じゅってーむ♪』って続いたけどな」
「恋愛より夢を取ったんじゃなかったのか櫛枝ァッ!?」
「『恥ずかしいならオイラの部屋に来るが良いさ! 今日は誰も居ないし、布団も干したばっかりだぜ!』って言われた所で逃げて来たんだ」
「押し倒す気満々だよ!? 何があったんだ櫛枝!?」
「なんでも本格的にソフトの世界を見据えてみたら、試合と練習に打ち込み過ぎて気がつけば三十、四十代独身っておねーさま方がゴロゴロ居たとかでな……」
「……まんま櫛枝の未来像って感じだな。そりゃ、焦りたくもなるか」
「大体、俺は大河とつきあうようになってからすっかり好みが変わったんだ。だから今さら迫られても、な」
「へぇー、愛だなぁ。あれか、巨乳より貧乳、みたいな?」
「おぅ、今じゃ大河を抜かせば、小学生より上にはピクリとも反応しねえぜ!」
「…………おい」

304 :
クスッとした


305 :
竜児がぶっとんでるのも珍しいw
面白かったです。乙乙

306 :
これは酷いwwww
いや、乙
また書いてよw

307 :
ほしゅ

308 :
保守

309 :
秋ちゃんの SS まだー

310 :
アニメ、今更見たんですが
みのりんは、大河が自分の気持ちを抑えて竜児とみのりんをくっつけようとしたことに怒ってましたが
みのりんだって全く同じですよね?
自分だって好きなのに竜児には大河がお似合いなんだー、みたいな…
みのりんの気持ちが複雑過ぎてよく分かりませんでした…誰か解説お願いします。

311 :
竜児と大河が両想いだと気付いていたから向き合うことを恐れ一線を引いていた
静観態勢ではあったがくっつけようとはしていない
ここはエロパロスレ

312 :
超小ネタSS投下
「まざこん! 〜ちょっとだけその後〜」

313 :
仏頂面というべきか、渋面というべきか。
配られたレポート用紙を握り締め、目を皿のようにして読み上げていく彼女たちの表情は、とにかく皆一様に険しさを増すばかりであった。
「ちょっと、これはさ……」
「いくらなんでも、ね……」
特にショックを隠しきれていないのが実乃梨と亜美の二人である。
二人は互いの顔を見遣りあうと、そっと大河に目線を移す。
燃え尽きる寸前、まさしく意気消沈といった大河はそんな二人にはこれっぽっちも気づかない様子で、先ほどからひたすら膝を抱えての貧乏揺すりを繰り返していた。
あまりにも追い込まれた感じでアレな様子の大河に、実乃梨は正視に耐えない。
なにもここまでする必要があるのかと傍らの亜美を肘で小突くが、亜美は亜美で、想像の上を行く報告に軽く戦慄すら覚えていた。
「えーっと、あの、なんていうか……ごめんね。ここまでなんて、さすがの亜美ちゃんも想定外だったっていうか」
珍しく素直に頭を下げる亜美を、先ほどから黙して語らずの大河は虚ろな眼差しで一瞬だけ見つめ、それだけに留まった。
いつもならば悪態の一つや二つ返しそうなもので、場合によっては皮肉りあいの応酬も繰り広げられてもおかしくないというのに。
尋常ならざる大河の塞ぎこみ具合にいよいよ実乃梨と、乗りかかった船から降りるタイミングを見失った麻耶と奈々子も弱りきってしまう。
亜美に至ってはもう頭を抱えたい衝動にさえ駆られていて、なんでこうなるのよ、と胸中で際限なく愚痴っている始末だ。
先日の一件で露見した竜児のマザコン疑惑、もとい泰子──母親側による竜児へのそこはかとなくただよらない疑惑。
あの逢坂大河を失神させるまでに至らしめ、続き半狂乱にさせた事件から数日。
あれからというもの、大河の暴露によって高須家の危険? な日常を知ってしまった2-C内、とりわけ実乃梨たち四人は竜児と微妙に距離を置いてしまうようになっていた。
悪気は一切ないのだが、だからといって、あんなことを聞かされて普段どおりに接しろというのもまた難しい。
今のところ、竜児本人は別段よそよそしさを感じていそうな節はないのだが、この調子ではそれも時間の問題だろう。
そうなったらを考えると、悪気がないだけに一層実乃梨たちだって後味が悪いし、悪いといえばここ数日、そのせいで変に気を遣ってしまいおさまりが悪い。
声をかけ辛かったり、不意に目線が合うと思わず逸らしてしまう等の些細なことだが、そんな些細なことがイヤなのだ。
具体的にどうしてイヤなのか、とは実乃梨にしろ亜美にしろ説明できないので、繊細な乙女心の表れとか、まあそういうことだということにしておこう。
追求するとあながち乙女心が関わってないとも言えないが、それよりなにより、今はよからぬ疑いをどうにかするほうが先決なのだ。
これ以上モンモンとしているのは精神衛生上よろしくないうえ、竜児の前以外では明らかに心ここにあらずといった大河を見ているのも忍びない。
そう思って、改めて大河に逐一竜児の様子を窺ってくるよう言ったのが数日前。
ちょっと行き過ぎた程度の、別段訝しがるものでもない親子のスキンシップを大河がたまたま立て続けに目撃してしまい、過敏に反応してしまっている可能性だって捨てきれないはずだ。
そんなような御託を並べ立て、渋り嫌がる大河に強引に竜児を監視させてみた。
その結果がこの有様である。
完全に裏目に出た作戦に、提案者であるところの亜美の頬は痙攣を起こしたようにヒクついていた。

314 :
「ああもうこれ細かすぎっ! 端から端までビッシリ書きこまれてて何がなんだかわかんないし」
「殴り書きでちょっと読めない部分もあるけど……うん……タイガーが必に我慢してたのだけはよく伝わってくるかな」
A4用紙を埋め尽くす文字の羅列は一見すると適当に鉛筆を走らせただけのように見えるが、目を凝らして凝視すると以下のような内容が綴られていた。
「竜児がやっちゃんの肩を揉んであげてた。なんかいやらしい。しかも私にはしてくれない。差別よ、おっぱいなんて無くても私だって肩くらい凝るのに」
「竜児がやっちゃんの背中を掻いてあげてた。なんていやらしい。私にはマゴノテとかいう棒っきれを投げてきた。こんなのより私も竜児の手がいいのに。なんなら竜児の棒でもいい。棒ってなに?」
「竜児がやっちゃんの下着を手洗いしてるとこを目撃した。何が何でもいやらしい。今度から私の分もお願いしようとしたらやんわり断られた。きっと照れてるのね、可愛いんだから」
「竜児とやっちゃんが寄り添ってテレビを見てるのがもういやらしい。そこは私のだから取っちゃダメなんだから」
奈々子の言うようにただでさえ乱筆なうえ、ところどころ芯が折れたような跡があるせいで、麻耶でなくても全部を読み解くのは無理そうである。
しかも箇条書きで覆いつくされた紙面にはなにやら水で滲んだような部分がポツポツ見受けられ、文字通り涙ぐましい大河の努力の賜物と言えよう。
が、正直そんなものも吹き飛ぶほど、じわじわ危険度を増していく、呪詛よろしくの嫉妬の言葉で埋められたこの報告書は、彼女たちに衝撃を与えていた。
「私さ、他はまだしもこれは絶対ムリかなあって」
と、ぽつりと呟いたのは実乃梨だった。
麻耶と奈々子、それに亜美が視線を送ると、もはや泣き笑い寸前の苦笑いで、またもぽつり。
「ここの『竜児の家に行くと、やっちゃんが竜児の布団で寝てた。裸で。いや裸同然なのはいつものことだけどとにかく羨ま違ういやらしい私だって私だって私だって』──とか」
一部不穏な箇所を読み飛ばした実乃梨と、そこには触れずにいようと決めた亜美たち三人も頷き返す。
「いくら親子だからって、高校生男子の布団でって、ねえ?」
「普通はっていうか普通にありえないよねー」
「ええ、ないわね。まあ、それがありえちゃってるから問題なんだけど」
揃ってうんうん首肯しながら納得している三人に、同意を得られた実乃梨も幾分表情に安堵が戻る。
「だよね、そうだよね。私だったらこんなことされたら引いちゃうなんてもんじゃあすまないよ。それもマッパとか、正直もう逃げるね」
「あーわかる。亜美ちゃんもさすがに貞操の危機感じて逃げちゃうなぁ」
「あたしもあたしもー」
「少なくとも、それまでと同じように暮らせる自信ないな、あたしは」
腐っても、一応彼女たちも女子高生の端くれである。
内容的には女子高生らしさの欠片もないが、連帯感を共有できそうな話題には食いつきが良い。
しかし、やや場の空気が持ち直しかけた、その瞬間。
「ちなみにね、それ、今朝の話だから」
ピシリとその場の空気にヒビが入る音を、大河以外の四人は確かに聞いた気がした。
                              〜おわり〜

315 :
おしまい

316 :
>>311
すみません、スレ間違えました…

317 :
ぬぬ、174さんまだ書いてくれるんですね。うれしい
GJです

318 :
174さん有難うございます!
やっちゃんもつくづく罪な女……

319 :
GJですな

320 :
保守

321 :
保守

322 :
ななこい8

323 :
ななどら。も続いて出てくれないかなぁ……

324 :
GT まだー

325 :
保守

326 :
「えへへ……」
 シーツに顔を半分埋めた亜美は、何やら幸せそうな表情で呟いた。
「ねえ、気持ち良かった?」
「すごくよかったよ」
 竜児が指先で柔らかい髪を撫でると、ベッドに体を埋めた彼女はますます相好を崩した。
「幸せ」
「ああ、今日も長居しちまったな」
 竜児が空を見上げると、亜美は何やら慌てた様子で半身を起した。
「え? 何? どうしたの?」
「遅くなったから、そろそろ帰ろうかと――」
「嫌よ!」
 彼は組みついた亜美に、ベッドの中に引き戻された。
「行かせない!」
 うろたえる竜児の胸に亜美は顔を押し付けた。
「どうしたの? ねえ、私気持ち良くできなかった?」
「川嶋?」
「あ、そっ、そうよ。高須くん、まだ口でしてあげたことなかったよね」
 亜美は何やら自分に言い聞かせるような口調で言った。
「あはは、亜美ちゃん大失敗。駄目だよね、私、高須くんの彼女なのに。今からするから」
「川嶋」
 亜美は竜児の言葉を無視し、青ざめた顔を彼の下腹部へ傾けた。彼女のおどけた口調は、全くおどけた調子に聞こえなかった。
すんません誰か別の奴お願いします

327 :
保守

328 :
保守

329 :
保守

330 :
保守

331 :
保守

332 :
「ねぇ竜児」
「ん?なんだ?」
「『保守』ってなに?」
「あぁ、保守ってのはな、今人がいなくてもきっとまた誰かがSSなりなんなりを投下してくれることを期待して、スレッドを落とさないようにするためのもんだ。
まぁ俺たちのことを見たいと思ってくれてる人がまだこのスレにはいるってことだな。」
「ふ〜ん、そっか。まだ私たちのことを気にしてくれてる人がいるんだね。」
「そうだな、原作もアニメも終わって何年もたつのに、ありがたいことだな。」
「そうだね、じゃあ私も保守しとくよ。」
「おう、しとけしとけ。」
「・・・ね、いっしょにしよ?」
「お、おう。なんかいっしょってのはちょっと照れるな。」
「ふふ、じゃあいっしょにね。せーの。」
「「保守」」

333 :
そこは「合体」だろjk

334 :
いいよいいよ
竜虎成分のいい補給になったわ乙

335 :
保守

336 :
保守

337 :
保守

338 :
保守

339 :
保守

340 :
♪濡れた髪を初めて見せた夜〜
(私は“初めて”じゃなかった… 竜児は初めてだったみたいだけどガッカリしてないよね)
(そんな不安の方が肌を重ねた悦びよりも、少しだけ自分の心を責める)
♪心が泣いた 抱かれていながらさみしくて〜
「ねぇ竜児ホントに私とやり直しで良かったの?」
「お、おう。 というか俺みたいな目つき悪くて掃除や料理しか取り柄のない奴で良かったのか?」
(答え返す代わりに唇を塞ぐ 舌で唇の周囲を舐める 歯を舐める 強引にこじ開けた隙間から舌を挿し入れ絡め合う)
(初めてじゃなかった代わりに私がオンナを教えてあげる 私の色んな顔を見せてあげる)
♪あなたの腕に狂いながら壊れてしまいたくなる どこまで好きになればイイの?
「ねぇ竜児 オンナには奥があるのよ」
(彼のすこしゴツい人差し指を私の濡れそぼった秘所に導く 舞台でいう濡れ場ってこういう事だったのね)
「あなたの悦ぶ事ならなんでもするわ だから…もう一度 しよ?」 ため息混じりで囁く 熱いものが頬を伝う
♪涙に終わりはないの   ……なぜ

341 :
保守

342 :
保守

343 :
保守

344 :
亜美ちゃんもう疲れたよ…

345 :
すっごい久々に見に来たら保管庫1なくなってた…
軽くショック

346 :
GT放映始まったら少しは盛り返すんだろうか…

347 :
保守

348 :
デブ男ねデブ男ねデブ男ねデブ男ねデブ男ねデブ男ねデブ男ね
デブ男ねデブ男ねデブ男ねデブ男ねデブ男ねデブ男ねデブ男ね
デブ男ねデブ男ねデブ男ねデブ男ねデブ男ねデブ男ねデブ男ね
デブ男ねデブ男ねデブ男ねデブ男ねデブ男ねデブ男ねデブ男ね
デブ男ねデブ男ねデブ男ねデブ男ねデブ男ねデブ男ねデブ男ね
デブ男ねデブ男ねデブ男ねデブ男ねデブ男ねデブ男ねデブ男ね

349 :
「みのりん、この人どうしちゃったんだろう…」
「さぁな…、あっしにはわからんぜよ」

350 :
スルーしようにもネタがない

351 :
保守

352 :
保守

353 :
>>315ってなんかの続き物かなにか?

354 :
保守

355 :
ゴールデンタイムアニメ化記念。
メインヒロインは堀っさんか・・・

356 :
保守

357 :
日記、徒然に。。。続きこないかなあ

358 :
さすがにもう諦めろとしかいいようがないだろw

359 :
久しぶりにバカ話もひとつー。

360 :
「……なぁ、能登、俺はどうしたらいいと思う?」
「とりあえず、何かある度に俺に絡んでくるなよ。鬱陶しいぞ」
「頼む。お前にしか相談出来ねえんだ」
「はぁ、わかったよ。それでどうしたのさ」
「大河が、ヤベェんだ」
「逢坂が……? おい、一体何があったんだよ?」
「アイツの目、見たか?」
「目?」
「ああ、ヤベェぞ。かなりな」
「どういうことさ?」
「大河の目……あの透き通るような光を湛えた、飴色の宝石……」
「………で?」
「わかんねえのか?」
「何が」
「あの甘い瞳に映されると意識とか理性とか色々吹っ飛ぶ。マジでヤベェ……!」
「ヤバイのはお前の頭だ!!」
「失敬な。俺ほどの常識人はそうそういねえぞ」
「お前が逢坂と付き合い出すまでは、俺もそう思ってたよ」
「あぁ、確かに大河の可愛さは常識を越えてるからな」
「ああ、もういい。いいから、お前もう埋まれ。土に色々還して来い」
「本当にあぶねえんだぞ、大河の可愛さは! ありゃもう凶器だ凶器! 犯罪だ!」
「高須、鏡見て来なよ。犯罪者映ってるから」
「お前は分かっちゃいねえ!」
「分かりたくないよ!」
「この間の事だ。買い物の帰りに大河が『あのお店のプリンが食べたい』と言い出した」
「逢坂が言いそうな事だな」
「それもとある人気店の一日10食限定プリンを希望していた。並んで買おうと思えば開店3時間前には並ばないといけないって代物だ」
「買いに行かされたのか?」
「いや、正確には『竜児、あそこのプリンおいしいんだって。今度一緒に食べようね』って言われたんだ」
「へぇ、逢坂も丸くなったじゃない」
「で、それを聞いた瞬間から記憶がねえ」
「……記憶が、ない?」
「気がついたら1時間経っていて、プリンを手に持っていた」
「並んだのか」
「その時間だと既に店は開店した後で、その時並んでも買えない筈なんだ。なのに持ってるんだ」
「……何でさ?」
「わからねえ……ただ、手は血塗れで、近くに血を流して倒れている櫛枝が……」
「強奪してんじゃんかァッ!」
「無意識下でオレは一体何を……!?」
「だから強奪してんだよ! 過酷な戦場を生きるダイエットソルジャーが己に許したわずかな甘味を強奪したんだろーがぁっ!」
「ミステリーだろ?」
「むしろ謎がまるでないよ!」

361 :
「いや、謎ならあるぞ。櫛枝が流した血をシーツに着けて『これを既成事実の証拠品として、大河と泰子さんに見せれば……』と謎な行動を」
「櫛枝まだ諦めてなかったの!?」 
「もちろん速攻で洗濯して綺麗にしてやったが」
「それはそれで酷いなお前」
「俺の前でわざわざ洗濯物を作る方が酷い。血の染みは落ちにくいんだぞ」
「いや、そういう意味じゃ……まぁ、いいや」
「それをきっかけによくよく注意していれば、他にもオカルトな現象が沢山起きていてな」
「………どんな?」
「これは大河のフィアンセRさんの話なんだが…」
「いや、お前の事だろ」
「Rさんが、大河と一緒に映画館へ出向いた時の事だ」
「だからお前の……まぁ、いいよ。それで?」
「大人料金で入ろうとする大河にチケット係が待ったをかけてな。お嬢ちゃん、背伸びせずに子供料金でお入り、と」
「うわぁ……」
「いかにも子供扱い的な雰囲気に大河がキレかけて、Rさんがちょいと席を外してコーヒーを飲みに行った時」
「おいぃぃぃ! 完全に揉め事避けてバッくれてるじゃないかRさん!!」
「恐ろしいのはこれからだぞ。5分ほどしてRさんが戻ってきた時、何故かその相手は床に仰向けになって、『どうぞ、踏んでください……大河様……』と、目を潤ませて……」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 怖ええええええええええ!!!」
「どうだ、怖いだろう」
「怖いよ! その空白の5分間に一体何があったのさ!?」
「実はRさんもちょっと踏んで欲しかったんだが」
「高須、お前……いやでも確かに怖い話だけど、それがどうしたんだよ」
「まだわかんねえのか? つまり、大河の瞳には魔力があるって話だろーが!」
「いつそんな話になったァッ!?」
「それは恋の魔力……見つめられると媚薬のように心が麻痺して、心酔してしまう……おぅ、我が婚約者ながら何て恐ろしい! どうか俺だけを見つめてくれマイエンジェル……!!」
「お前がまんまと掛かってるじゃんか!! 落ち着けッ!」
「あ、そう言えば、他にも似たような体験したヤツが居るんだ」
「いきなり落ち着きすぎだろ。つーか、他のヤツって誰よ?」
「北村なんだが、アイツこの間いきなり一週間くらい休んだろ」
「まさか、祟りにでも遇ってたのか?」
「北村はアニキ前会長からのメールで『こっちはぬほど暑い。毎日水着みたいな恰好で生活してる』って言うのを読んだ後に記憶が飛んで、気がついたらアメリカ行きのチケットを握り締めて空港にいたらしい」
「それはオカルトじゃない! 単なるエロ魂だ!!」
「怖いだろう」
「ある意味ホントに怖いわっ!!」
「後、チケット持っている手が血塗れだったらしい」
「やっぱり強奪かよ!? でも、そりゃそうだよな。国際線のチケットが即日でそう簡単に取れるはずないし」
「まぁ、被害者が陸っくんだったから、大事にはならなかったんだが」
「誰だよ、陸っくんて」
「愛人と高跳びしようとしてた大河の親父」
「世間狭ッ!? あれ、でもそれだと一日で話は終わってるよね? なんで北村のヤツは一週間も休んだんだ?」
「それが正気に戻った後も、夢遊病者のように『俺はアメリカに……会長のあんな姿やこんな格好が……!』って繰り返すもんだから、家の人に監禁されてたそうでな」
「正気に戻ってないだろ!? どんだけ思春期なのさ!!」
「それでまぁ、説得するように俺が頼まれたんだよ」
「行ったのか」
「行ったよ。大事な親友だからな、北村は」
「まぁ、そうだよな。で、なんとかなったの?」
「とりあえず、空腹状態の大河に木刀持たせて放り込んだら一発だったぞ」
「北村の命も大事にしてやれよ!!」
「だが、これにもオチがあってな」
「……スゲェ嫌な予感しかしない」
「後日、怪我が治って登校して来た北村が『どうぞ踏んでください、大河さ……』」
「オチ同じじゃねえか!! つーか、なんなんだよ逢坂は!? M男製造機か!?」
「どうだ、ヤベェだろう」
「色んな意味で確かにヤバいよ!!」

362 :
GJ
こういうボケキャラの竜児は日記以来だな

363 :
つまんね…

364 :
おつです楽しめました

365 :
GTアニメ化でにぎわうだろうか

366 :
そもそも今現在ここをチェックしてる人がどれだけ居るのやら

このスレ立ってからそろそろ一年経つのう…

367 :
エロパロの過疎が深刻勢い高くて2桁前半とか

368 :
漏洩騒動でますます人が減っているだろうしな

369 :
エロパロ板は2ちゃんとは正確には別じゃ無かったか?

370 :
いつの間にか絶叫の漫画版が発売されていた
まだ続いてたんだな

371 :
保守

372 :
大河の魔改造フィギュア、エロいな
でも六万はさすがに……

373 :
ごめ、誤爆

374 :
詳しく聞かせてもらおうか

375 :
>>374
ほい、エロ注意ね
ttp://erofigures.blog.fc2.com/blog-entry-441.html

376 :
この大河……ヤリ過ぎて開いとる……直立してるのに……
竜児ってそんなに絶倫なのか

377 :
発情してると思われる

378 :
すれ違いだけど、これもすげえw
ttp://blog-imgs-58.fc2.com/e/r/o/erofigures/20130826-007.jpg

379 :
>>375のフィギュア、パッケージみたく頬も塗ってほしかった

380 :
保守

381 :
保守

382 :
保守

383 :
GTもう来週から放送か
HPもやっとそれっぽくなったな
でもNANA先輩こえぇよ

384 :
保守

385 :
保守

386 :
GTみたぞー
なんかもうOPもEDもこーここーここーこだったな、こーこのこーこによるこーこのためのアニメ
1話見た限り、やっぱとらドラみたく感動狙うよりもゆるい大学生活+甘い恋愛でいく感じなのかなー

387 :
エロ要素はありそうですか?
冗談はともかく、アニメでやる時点で原作もセックスまで踏み込んだ関係には踏み込みそうも無いなー

388 :
GTアニメ化したから少しは賑わっているかと覗いてみればorz

389 :2013/10/05
エロってか、アダルトな要素はないだろうなぁ。
あっても凱旋門でごまかす感じとかになりそう
ヤナのバイト先もネタ要素になるだけじゃないかなぁ、

1話見る限りでは万里とヤナのホモホモしい展開を勝手に期待する層もいそうだけど。。w
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