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小説 愛の蹉跌


1 :2012/10/07 〜 最終レス :2013/08/26
立ち上げます

2 :
<主な登場人物>
岡野芙美江(吉原ソープ「エンペラー」やよい)
黒澤和正(吉原ソープ「エンペラー社長)
佐山治(山菱組系闇金業者、渋谷デリヘル「東京BIG」店長)
安羅木一郎(吉原ソープ「エンペラー」マネージャー)
大崎努(警視庁品川湾岸警察署警部)
高原雅浩(埼玉県警秩父東警察署警部)
西田美幸(鶯谷デリヘル「美乱妻」ともみ)
小松佳子(鶯谷デリヘル「美乱妻」店長)


3 :
【小説】「愛の蹉跌」=第1回=伊勢湾を臨む風光明媚な田舎町・・三重県朝日町。
小さな民家が並ぶ平和な町を夏の夕刻、1人の少年がかけぬける。
「あら!治(おさむ)ちゃん!転んで怪我せんようにな!気をつけれ!」
『うん!』コロコロ太った坊主頭の少年が元気よく挨拶する。
「治ちゃんのお母さん今日留守中なんやてな!叔母ちゃんが家に来とるねん。」
近所の老婆が治少年に話しかける。『ほんと?!佳代叔母ちゃんや!』
治の父方の叔母が遊びに来てる!叔母は夏にスイカを持ってきてくれるんだ。嬉しい!
・・少年の名は佐山治。父、佐山清三郎、母、佐山多恵子の間に生まれた長男である。
父母及び父方の祖父である佐山清二と同居している。
佐山家は、漁業関連工具の販売店を細々と経営していた。・・・・
『ただいま!父ちゃん帰ったよ!佳代叔母ちゃんきとる?!』
・・・ガラガラと玄関の扉を開いた治。しかし、返事がない。ん?誰もいないのであろうか?
いや、そんなことはない。お爺ちゃん、父ちゃん、そして佳代叔母ちゃんがいるはずや。
玄関から台所まで狭く長い廊下がある。台所で水をがぶがぶ飲む治。

4 :
〜あ〜ん!〜女性の呻き声が聞こえる。ドスンドスンと天井が響く。
2階に叔母ちゃん来てるんだ!治は、大きなおしりをプリプリさせながら、
急階段を上っていった。2階和室の扉が少しだけ開いている。
ちょっと覗いてみよう!治は、2cmほど開いた隙間から和室内に視線をうつした。
そしてそのとき。治の首から後頭部にかけて激震が走る。異常な光景が治の目に
映り繰り広げられていた・・・・祖父 清二。父 清三郎。そして父方の叔母 佳代(清二の娘)。
3人が全裸になっている。和室内に布団が数枚敷かれており、清二はパイプタバコをくわえたまま、
1枚の布団を占拠している。もう1枚の布団に佳代が横たわり、その上に清三郎が覆いかぶさる
(清二)「おい清三郎!もっと腰をふらんとあかん。ん、そうやそうや!ワシが若かった頃のぉ、
軍隊時代、唯一楽しみにしておった中国大連の従軍慰安所通いを思い出すわい〜
佳代は、慰安所の朝鮮女によぉ似とる!ワシのオキニやったんや(笑)」

5 :
「おい佳代!お前は清三郎の子を産め!それとも、ワシの子を産むか?よーしワシが代わろう。
清三郎は離れとれ!」・・・清二は、そういうと佳代の膣に正常位で男性器を挿入する
・・・「佳代よ(笑)ワシのチンポと清三郎のチンポどっちが気持ちいか言いてみや!」・・・
その日、佐山家では近親相姦が行われていたのである。当時5歳だった佐山治。
彼のその後の暗黒人生を決定付けた瞬間である。隣家のテレビ音声がショックで腰を抜かした
治の耳をつく。それは、当時人気番組であった「仮面ライダー」。そのオープニング音楽であった。
昭和47年(1972年)8月のことであった・・・・・・・・・(次回に続く)

6 :
【小説】「愛の蹉跌」=第2回= ・・・・・それから38年後。2010年5月初旬のある日、東京吉原。
高級ソープランド‘エンペラー’の待合室にマネージャーの安羅木(やすらぎ)一郎の姿があった。
午後11時45分。その日仕事を終えた姫達の手取り精算作業に追われる。この日の出勤は14名、
ラストまでのシフトは計9名だ。ゴールデンウィーク最終日の来客数は35。悪くない数字である。
エンペラーの社長は黒澤和正といい、故郷の広島に2店、吉原に1店のソープランドを所有する。
雇われではないオーナー社長である。先代の創業者である父が急逝したのが6年前。
以後、和正が二代目オーナーとして経営に当たってきた。といえば聞こえはいい。実は、
彼はソープランドはおろか、風俗店従業員として働いた経験は皆無。なので、現場の実務経験はゼロ、
したがってソープ店経営のイロハなど何も分からない素人社長であった。ソープランド以外に、広島と神戸、
さらに横浜や東京に商業ビルを所有。毎月相当額のテナント賃料が入る。

7 :
さらに、大阪でお好み焼き店、東京では回転寿司店をも経営。そこの売上も日々吸い上げる。
要は、典型的な世間知らず、苦労知らずのボンボン二代目 であった。エンペラーには週に3日ほど顔を出す。
だいたい1時間ほどで店をあとにする。旅行にゴルフ、マリンスポーツ、骨董品やら高級絵画集めと趣味は幅広い。
エンペラーの内装は、ペルシャの大理石で覆われており、入り口玄関の正面に巨大なペルシャ製花瓶が目に入る。
そこに、その季節に相応しい花が生けられる。これは黒澤社長のアイデアである。彼が旅行で訪れた中東イラン国。
そこでペルシャ芸術に魅せられたのがきっかけであった。エンペラーには、前年末まで横尾というベテラン店長が稼働していた。
しかし、彼は黒澤を好かず飛んでしまったのだ。「素人の馬鹿社長の下で働いてられるかよっ!安い給料で!
ふざけんじゃねっていうんだっ!」・・・これが横尾の口癖であった。その後、店長の補充は無し。
そして、マネージャーの安羅木が事実上の責任者として店を切り盛りしてきた。
安羅木の店長昇格は?・・・まだである。黒澤オーナーからそれに関する話は一切ない。

8 :
「マネージャー、社長から電話っすよ!」 ボーイの平野田が待合室にいる安羅木に声をかける。
ニキビ跡であろうか、顔がボツボツ。イボ蛙みたい。中年ボーイであるが、髪はボサボサの茶髪。風体はよろしくない。
安羅木は、フロントに向かい電話をとる。『はいお待たせ致しました。安羅木です。社長お疲れ様でございます。』
(黒澤社長)「ん。今日の本数は?まだ聞いてないよ。早く報告しなきゃダメだろ!何をやってるんだ君は!」
(安羅木)『こ、これは大変申し訳ございません。社長。遅くなりました。35です。』
(黒澤社長)「ん〜。伸びがいまいちだなぁ。50はいくかと思ってたよ。」
・・(これには安羅木はカチンとくる)・・

9 :
「君の店舗運営のやり方に問題があるんじゃないの?35で甘んじているようじゃ、君のビジネス感覚を僕は疑うよ。
明日からはきちんと早めに連絡をくれ。いいな?そんじゃ。」ガチャン・・・
しょせんは金持ちの世間知らずのクセに。この不景気のさなか、それも総額6万5000円の高級店で
日に30本いれることがどれだけ大変でしんどいことか。知りもしないくせに。安羅木は怒りからしばし無言のまま
受話器を握ったままであった。・・・・・・・・(続きは次回)

10 :
【小説】「愛の蹉跌」=第3回= ある日曜日の午後、吉原高級ソープ店‘エンペラー’の玄関入り口。
ボーイの平野田が携帯ラジオを片手に煙草をふかしていた。そう、競馬である。
・・・‘さあ残り100M、スイングエルマンが逃げ切るか!おっゴダイロッソだ!ゴダイロッソ!
ゴダイロッソが抜いたぁ!優勝はゴダイロッソ!ゴダイロッソが安野記念を制しました!’・・
「ち、ちくしょう!また負けちまった!んだよっ、ついてねえな。」「ああ、ちくしょちくしょちくしょっ!」
平野田は、ハズレ馬券を指で小さく切り刻み、その場にパラパラと捨てる。煙草もポィ捨てだ。
そこにちょうど安羅木(やすらぎ)一郎が休憩から戻った。
(安羅木)『お疲れ!ああ負けたんだね(笑)。顔に書いてあるよ。』
(平野田)「あっマネお疲れっす!ほんとっすよっ!ぜーんぶハズレ馬券です。」

11 :
(安羅木)『おいおい。ここに馬券捨てるなよ。煙草も。後で掃除しとけ!それはそうと、
最近、賭け金多くなったんじゃないの?(笑)経済的に余裕が出てきて何よりだ。』
(平野田)「え?ええ、まあ(笑)。マネージャー勘弁してくださいよっ。嫌味いわないでくださいよっ!
困りますよそんな!」意味ありげな安羅木の指摘に苦笑いする平野田であった。・・・
今日の来客数は現時点でたったの1名である。吉原は、村全体がひっそりと静まり返っている。
予約はおろか、問い合わせの電話すら鳴らない。このままでは、お茶をひく出勤嬢が続出する。
また、あの素人社長からネチネチと怒られるだろう。一体どうすればいいのか?
フロントに座った安羅木の口から思わず溜め息がもれる。予約表をチェックする。
頼みは、エンペラーNO1の弥生(やよい)姫。ラストまですべて予約は完売だ。さすがである。

12 :
他の出勤姫は7名だが、予約はすべて合算してもたったの3本。昨日入店した新人は、客をもっていない。
なので全くあてに出来ない。今日も出勤しているが、今のままだとお茶引き確定だ。
安羅木は、携帯を取り出し、エンペラーの馴染み客、常連太客に営業をかけることにした。・・・・
それからしばらくして、2号室からフロントに内線コールが入る。(安羅木)『はい。お疲れ様です。』
(弥生)「やよいです。お客様上がられます。」(安羅木)『了解です。お疲れ様でした。次、続きます。』
(弥生)「はい。」・・・その後、弥生姫は常連指名客と手をつなぎ1階に降りてきた。お礼と挨拶を終え、
常連指名客は上がり部屋へ。弥生姫は、すぐさま階段を駆け上がり、2号室に戻る。
それを見計らった安羅木は、2号室に内線コールをした。
(弥生)「はい?」(安羅木)『休憩無しで本当にごめん。次の客来てるから、急いでお願いします。
セットは1人で大丈夫ですか?』(弥生)「ありがとう。1人で大丈夫ですよ。

13 :
あ、あと...今晩、いつもの場所で...会えますか?不安で...話したくて...」
(安羅木)『・・・・・・ん。いいよ。夜中1時過ぎ頃になると思うけどね。』
(弥生)「ありがとう。楽しみにしてます。絶対ですよ?!いつもの場所で。」
内線を切ると、弥生は大急ぎで部屋のセットに取りかかる。
エンペラーのナンバー1弥生。本名は、岡野芙美江。吉原年齢は23歳だが、実年齢は35歳。
目鼻立ちが整った美人タイプで、身長164cm、3サイズは上から85、57、86である。
スレンダーで、一生懸命なサービスと礼儀正しい接客姿勢。業界歴は8年ほどである。
数多くの指名常連客をもち、昨今の厳しい景況の吉原にあって、安定して稼いでいる数少ない姫の1人である。
いったい弥生と安羅木。2人はどのような関係なのか?・・・・・(続きは次回)

14 :
【小説】「愛の蹉跌」=第4回= 『じゃみんなお疲れさん。先に失礼するよ。』
安羅木は午前1時少し前にエンペラーを後にした。朝9時前から深夜1時頃までの長時間勤務。
休憩時間はあるものの、楽な仕事ではない。建て前としては公休は週1日。
しかし、これも実際は休みなど取れないのが現実だ。店長が飛んでからというもの、
安羅木の休暇は半年にたった2〜3日だったのではないか?吉原ソープに限らない。
これが、風俗業界で今もなお当然視されるスタッフの過酷な労働実態なのだ。・・・・
『そうだ、芙美江(エンペラーNO1弥生の本名)にお茶を買っていってあげよう。』
安羅木は、吉原ソープ街にあるコンビニ ‘サンクトマート’に立ち寄ることにした。
「あら安羅木さん!久しぶり!」 背後から呼び止められる安羅木。
ふと、振り向くと、以前、別店で共に働いていた姫の姿があった。西田美幸(本名)である。

15 :
(安羅木)『おお、久しぶりだね。元気でやってる?』(美幸)「店が暇だからね。吉原離れたのよ...。
もう40歳オーバーだしね。ちょうどいいかなと思って。いま鶯谷にいるの。良かったら遊びにきて。」
美幸はバッグから名刺を取り出し安羅木に手渡した。・・・鶯谷デリバリーヘルス美乱妻 ともみ・・・
(安羅木)『へえー鶯谷デリにいるんだ。景気はどう?』
(美幸)「まあまあ。吉原時代のお客さんが指名してくれるから...。手取安いけど我慢だね。」
(安羅木)『そうか。ん。身体に気をつけてね。頑張って。』
(美幸)「ありがと。」(安羅木)『ん。それじゃ。また。』安羅木は、早く芙美江に会いたいのもあり、
早々と切り上げようとする。ところが、である。(美幸)「ねえ!安羅木さん。く、車なに乗ってる?」
思いがけない質問に困惑する安羅木。
(美幸)「あらっゴメンなさい!何でもないわ。ゴメンね。気にしないで!」 そういい残し、

16 :
美幸は、さっさと台東病院方面へと足早に消えていった。いったい何だ?車って?変なの。
安羅木には美幸の質問の意図が皆目分からない。まあ、いい。早く芙美江に会いたい。それだけだ。・・・・・・・
『ひさご通りに行ってください。』安羅木はタクシーをつかまえ、芙美江と会うべく急いでいた。
吉原から千束通りに入り、浅草方面へ。すると、言問通りにぶつかる。ここで安羅木は下車した。
信号を歩いて横断し、ひさご通り商店街へ。真夜中だ。営業している店などほとんどない。
そして、左の狭い路地へと足を踏み入れると、右手にラブホテル「ラ・カルチェ」が見える。
そう、ここが芙美江との「密会場所」だ。芙美江と密会を始めて1年位になるか。
ラ・カルチェのすぐ近くに有名な「浅草花やしき」がある。週末ともなれば、家族連れや観光客で大いに賑わう。
安羅木は、芙美江の携帯に連絡を入れた。(芙美江)「お疲れ。いまどこ?」(安羅木)『ラ・カルチェの真ん前だよ。』
(芙美江)「203号室ね。」・・・・・この周辺には、ラ・カルチェをはじめ数軒のラブホテルが点在するが、

17 :
目立たないロケーションに立地するゆえ、密会には最適の穴場といえる。
これが、西浅草や鶯谷のラブホテル街となると、誰に見られるか分かったもんではない。
実際、先ほど久々の再会となった美幸は鶯谷デリに在籍している。吉原関係者や出身者がウジャウジャいる鶯谷。
そこのラブホテルを利用するなどというのは危険きわまりない行為である。・・・・
安羅木はエレベーターで2階に上がり、先に入室していた芙美江がいる203号室へと廊下を歩く。
そして、ドア横にあるチャイムを鳴らした。『僕だけど。』 芙美江は、ドアを開け、安羅木を迎えた。
安羅木は、すぐさま芙美江を強く抱きしめ、2人は濃厚なキスを交わす。業界で風紀と言われる。まさにそれである。
しかし、当の2人には罪悪感などまるでない。《夜の砂漠》で生きる孤独な男女愛。
その光景しか見えないのである・・・・・・・(次回に続く)

18 :
【小説】「愛の蹉跌」=第5回= 浅草ラブホテル「ラ・カルチェ」203号室。
安羅木(やすらぎ)一郎は、芙美江〔吉原エンペラー弥生(やよい)〕をそのままベッドに押し倒し、2人は愛欲に溺れていく。
桑田佳祐の曲‘祭りのあと’のBGMが流れる室内であった。・・・・・その後、芙美江が不安を安羅木に打ち明けた。
(芙美江)「あれから時間がたったけど....本当に大丈夫なの?不安だわ。」
(安羅木)『ちょうど4か月か。大丈夫だ。心配いらないよ。』
(芙美江)「・・・・・・・・・・」
(安羅木)『体はまず発見されない。見つかっても3年後、いやそれ以降かも知れないな。それまで時間稼ぎが出来る。
だいいち、あの現場に僕が体を遺棄したことは誰にも見られていない。大丈夫大丈夫。』
(芙美江)「憎い奴の敵をうってくれて本当に感謝してるわ。でもね、ぜんぶ貴方にお願いしてしまって。
すまない気持ちで一杯なの。わたしは何一つ手を汚さないなんてズルい女。そう思わない?」

19 :
(安羅木)『いや、僕自身が考え決めたこと。そして、僕自身が実行したことだ。いいんだよ。すべては僕がやったことさ。
芙美には、1日も早く業界をあがって欲しい。忌まわしい過去のこと、奴のことなんて早く忘れることだ。
奴はもうこの世にいないんだからね。あいつに泣かされ、人生をめちゃくちゃにされた被害者は大勢いる。
天罰が下ったんだよ。そう思えばいいさ。』
(芙美江)「あなたもお店辞めて、一緒に田舎かどこかに行こう。ね?早く一緒になりたいわ。」
(安羅木)『ああ。そうしよう。 信じていいんだね?芙美。愛してるよ。』
(芙美江)「わたしも。ねぇ、もっと抱いて!お願い!」・・・・・・2010年6月。ある静かな夜の出来事であった。・・・・・・・・
それから1年半後。2011年の師走。安羅木は、公休中の芙美江から話があると言われ、荒川区東日暮里のファミレスに呼ばれた。
(安羅木)『ごめん!遅くなって。今夜、珍しく社長が店に抜き打ちチェックに来てさ。やれ、ここが悪い、あそこが悪い。
売上がああだこうだ。参ったよ。』 時刻は午前1時半をまわっていた。

20 :
(安羅木)『で?話って何かな?』(芙美江)「実は....年内でお店を辞めたいの。」
(安羅木)『えっ?!』(芙美江)「あなたにはとてもお世話になって。将来を誓いあって。前向きに生きたい。
それはそうなんだけどね...あいつに母をされて25年が過ぎました。最近、毎晩、お母さんが夢に出てくるの。
ずっとわたしを見つめて、優しい笑顔で。ずっとね。それでスっーと消えていくの。」 芙美江は突然、涙を流す。
(安羅木)『・・・・・・・・・・・』
(芙美江)「最近ずっとなのなんでかなぁ。それで、精神的に限界かなって。」
(安羅木)『・・・そうだったのか。・・・・』(芙美江)「ごめんなさい、いきなり泣いちゃったりして。それでね、しばらく母の供養をしに、
富山県で過ごそうと思うの。」(安羅木)『お母さんのふるさとだね?』
(芙美江)「そう。母が子供時代をすごした富山でゆったりと。静かに。しばらく過ごしたいのよ。ごめんね、勝手なこと言って。」

21 :
(安羅木)『いや、いいんだよ。わかった!君の望むようにしたらいいよ。富山でゆっくり休んできなよ。』
(芙美江)「ほんと?有難う。ほんとに有難う。しばらく会えないけど、時々ちゃんと連絡します。そして、東京に戻ったら...
結婚してほしい....いい?」
(安羅木)『ん。分かった。それまで、僕もこれからの人生ね、身の振りかたを考えとくよ。僕も45歳過ぎてもう若くないから。
真剣に考えます。あの村(吉原)を離れて生きていく術を。』・・・・・
エンペラーNO1姫‘弥生’こと岡野芙美江は、2011年12月30日をもって退店。エース姫が不在となった高級ソープ店エンペラー。
そして、事実上の経営責任者である安羅木一郎。本来は、芙美江が不在となったエンペラーの危機をどう乗り越えるか。
これに大いに悩まされるところだ。しかし、実際は逆であった。芙美江のためなら、それが一番なのだ。芙美江の幸せのためなら.....
愛する女のため、どんな泥でも喜んでかぶってやる。どんな犠牲でも払ってやる。
安羅木は、決意を新たにしたのであった。・・・・・・・・(次回に続く)

22 :
【小説】「愛の蹉跌」=第6回= その翌年、2012年4月。本格的な桜シーズンを迎え、各行楽地は賑わいをみせていた。
ナンバー1姫「弥生」(本名:岡野芙美江)が突如退店し、吉原エンペラーであったが、期待の新人が数名入店し、
また暖かくなってから店の売上は上昇基調をみせている。
マネージャーの安羅木(やすらぎ)一郎は、富山県にいる芙美江と週に1、2度連絡を取り合っていた。
・・・・・「へいっ!いらっしゃい!あっ、いつもお世話になります!」
安羅木は、休憩をとり、吉原近くの蕎麦屋 ‘前田屋’の暖簾をくぐる。いつものザル蕎麦を注文した。
店内は狭いが、吉原とその周辺に贔屓客が多く、むしろ混んでいることが多い人気の老舗蕎麦屋だ。
女将が、テレビのスィッチを入れる。おなじみの ‘生島ヒロタ’が司会を務めるワイドショーだ。
(生島ヒロタ)「はい、ではですね、最新のニュースを浜本アナウンサーに伝えてもらいましょう。浜本くん!」


23 :
その後、先月の年度末でテレビ関東を退職し、独立しフリーになったイケメンの浜本正樹アナウンサーが画面に登場。
Kinki Kidsの堂本光一に似た長身。女性に大人気のアナウンサーだ。安羅木は、ただ々モクモクと蕎麦を食っている。
(浜本アナウンサー)「こんにちは。それでは最新のニュースをお伝えいたします。
埼玉県秩父市大野原にあるマンホールから腐乱白骨体が発見されました。」
・・・・・安羅木の箸(はし)の動きがピタリと止まる。・・・・
「秩父東警察署は、事件・事故両面から捜査に着手しました。
調べによると、発見された遺体は男性と見られ、後1〜2年は経過しているとのことです。」....
「発見現場のマンホールは、埼玉県が管理する大野原地下貯水タンクに連結しており、マンホールは
重さ数10キログラムのフタで常時密閉されているため、何者かが、そのフタを開けて遺体を遺棄した
可能性が高いということです。それでは、次のニュースです。税と社会保障一体改革の審議が......」
安羅木は、怯えた目でテレビ画面を凝視していた。

24 :
とうとう遺体が発見されたか。予想より早かった。安羅木は蕎麦を食べ残し、急ぎ前田屋を後にする。
居ても立ってもいられなかったのだ。そして、徒歩で1、2分の距離にある「樋口一葉記念館」正面の公園へと向かった。
ベンチに腰かけ、芙美江の携帯に連絡を入れる。あの体の青白い顔、そして、あの現場の光景が安羅木の脳裏に蘇生する。
恐怖から汗がどくどくと吹き出てくる・・・
(芙美江)「はい。元気?」
(安羅木)『芙美、ニュースでやってた。い、い、遺体が見つかった。』
(芙美江)「・・・・・・・」 安羅木は、明日以降、マスコミ報道を注視するが、とりあえずは事態を見守る方針
でいくことを芙美江に伝えた。
・・・・・それから数日後・・・・・・ 安羅木は、仕事を終え、深夜、寮への帰途につく。寮は、台東区竜泉にある粗末なアパートだ。
吉原から目の鼻の先にある。4月中旬だが、深夜はまだ寒い。思わずジャンパーの襟を立てて寮へと急ぐ。

25 :
「あ〜安羅木さんだぁ!」 スナックの前を通り過ぎた時、泥酔した1人の女が安羅木に話しかけてきた。
西田美幸。そう、元吉原姫で、現在、鶯谷デリで働く女性である。
(安羅木)『あー、美幸さん!久しぶりだね。今も鶯谷デリにいるの?』
(美幸)「そ、そうだよーん♪」
(安羅木)『おやおや(笑)だいぶ酔ってるね。じゃ、また。今日はこれで失礼するよ。』
ところが、である。(美幸)「おい!待てよッ!てめぇ!」 豹変した美幸に安羅木はビクっとする。
(美幸)「体あがったねぇ〜♪ やっぱ、あの日の夜、クルマ運転してたのお前だったんだぁ!へへへ♪」
(安羅木)『な、何をいってるんだよ。体?意味わからないね。変な言いがかりつけるなよ。』
安羅木はその場を離れようとするが、美幸はさらに恫喝する。
(美幸)「逃げられね〜よ!あのクルマのナンバーちゃ〜んとひかえてあるしー♪へへ。
デジカメにあのクルマとテメぇの姿ちゃ〜んと写ってるもんねぇ!」

26 :
(安羅木)『・・・・・・・』
(美幸)「口止め料は後日ね相談しまひょ♪へへへ。鶯谷のホテルでエッチしながら相談しちゃおうかな〜♪へへへ」
安羅木は、美幸と別れてから、しばしの間、スナックの斜め向かいにある駐車場に身を潜めていた。それから30分後。
美幸が千鳥足でスナックを出る。1人だ。....安羅木は、美幸のあとをつける。
そして、美幸は千束3丁目、台東病院至近にあるマンションに吸いこまれた。それから3階の部屋の明かりが点灯。
『あの部屋か....』 安羅木は、ジャンパーのポケットからマイルドセブンを取り出し、煙草に火をつける。
安羅木の脳裏に‘悪魔’がささやいた瞬間であった。・・・(続きは次回)

27 :
【小説】「愛の蹉跌」=第7回= それから1週間後のことである。『お電話有難うございます。エンペラーでございます。』
安羅木(やすらぎ)一郎は、フロントで電話をとる。「あ・た・し♪へへ。誰だかわかるよね?フフフ♪」 西田美幸だ、やっぱり来たか・・・。
安羅木は全身から血の気が引くのを感じる。(美幸)「ねえねえ明日会いましょうよ♪へへへ。」
安羅木は、周囲に気付かれないよう小声で応対する。(安羅木)『何を言ってるんだ。明日は出勤だ。会えないね。』
(美幸)「あんたさぁ〜誰にむかって口聞いてんのさ!秩父の体、ったのお前だろ!お・ま・え。あたい写真もってるんだからね!
クルマのナンバーも。察に言っちゃうよ!いいのかなぁ〜へへへ♪」「あたい明日14時から出勤なのchu☆ 店に電話して予約いれてよ。
14時から22時受まで全コマ貸切り!最近さぁ暇すぎだから助かっちゃうわ!フフフ」
(安羅木)『な、なんだと?そんなことできるわけないだろ!』 思わず声を荒げる安羅木。

28 :
フロント近くで立っているボーイ2人が何事かと安羅木を見つめている。...ヤバイ....
(安羅木)『了解いたしました。私のほうから、お客様に後ほど折り返し連絡を差し上げます。こちらの番号でよろしいですよね?
では失礼します。』 そういい残し、安羅木は一方的に電話を切ったのであった。
・・・・・・・(翌日)・・・・・
安羅木は、鶯谷デリヘル‘美乱妻’に電話を入れた。確認電話である。
なんと美幸は、太客が出来たといって、姫予約で既に店に貸切りを伝えていた。全コマ貸切りだと総額15万円近くにもなる。
それプラス、美幸は、鶯谷エリアでは豪華と評されるラブホテル‘インペリアルスクエア’を指定してきた。ここじゃないと嫌だという。
早速、安羅木を脅し・ゆすりにかかってきた格好だ。・・・・・安羅木は、急な体調不良と嘘をつき、店を欠勤。
インペリアルスクエアの507号室に入る。それから15分位の後、‘美乱妻’ともみ姫こと、西田美幸が到着した。

29 :
(美幸)「おっはよ♪ご指名頂きありがとねchu☆」(安羅木)『ふざけんなよ。』 美幸は、ホテルフロントに内線コールを入れ、
シャンペーン、日本酒、ワインを注文。すべて有料サービスだ。(美幸)「とりあえずね、月に20万円あたいにちょうだい!
口止め料ね!へへへ♪毎月20万♪助かっちゃうわ!」(安羅木)『君がいうとおり、あの事件の犯人は僕だ。』 美幸は反応がない。
『したのも、遺体を捨てたのも僕だ。そう、すべて僕がやったんだよ。』
(美幸)「フフフ♪どこで誰に見られてるかぁ分からないわよね〜安羅木さん運が悪かったのよ!へへへ♪察には黙っててやるから!
毎月20万円くれればネ!先々ね金額↑お願いするかも♪フフフ」・・・・このままでは、ずっとこの魔性の女にゆすられるだろう。
いつまでも、どこまでも追いかけてくるに違いない。・・・・安羅木は、遠く富山にいる芙美江の顔を思い浮かべていた。
会いたい。助けてくれ芙美!・・・・

30 :
美幸の話によれば、こうである。安羅木は、害した被害者の遺体をクルマのトランクに入れ、
北へとクルマを走らせた。2010年2月のある深夜のことである。途中、東京西北に位置する清瀬市のファミレスに立ち寄った。
実はここに偶然にも美幸がいたのだ。美幸は安羅木を目撃する。もちろん安羅木は、美幸に気付きもしなかった。
バイクが趣味の美幸。何かにとりつかれたような怖い形相の安羅木が気になり、安羅木が運転するクルマを尾行。
クルマは、清瀬から埼玉県に入り、所沢、入間をぬけ飯能へ。そして国道299号線をひた走った。
その後、140号線へと進入し、さらに北上を続けた。それから、間もなく、クルマは狭い路地を通り抜け、空き地に。
周囲は草木が生い茂り、唯一、白光を放つ巨大な鉄塔が背後にそびえ立つのみである。安羅木は、クルマから下りる。

31 :
そして、空き地中央部に移動し、大きな鉄製に見えるフタを持ち上げた。・・・・・美幸が目撃した場面はここまでであった。
遺体遺棄を見られていないとはいえ、もはやどうにもならない。警察にチクられたら、万事休すであろう。
美幸は、ひたすら酒をあおり、さらにカラオケを歌いだす始末。安羅木の脳裏で再び悪魔がささやいた。
・・・・・・・・(次回に続く)

32 :
【小説】「愛の蹉跌」=第8回= 「お客様。コーヒーのおかわりは?」『えっ?あ、ありがとう。』
吉原近くの ‘デリーズ’東浅草店。左奥の喫煙席に安羅木(やすらぎ)一郎の姿があった。午前2時。
エンペラー閉店後、遅い夕飯をとった。そして、彼は、全国紙、夕刊紙、スポーツ紙など10数種類の新聞を持ち込み、
各紙の三面記事に釘付けになっていた。そう、秩父大野原で発見されてしまった遺体。安羅木の予想はなぜ外れたのか?
なぜ予想外に早く遺体が発見されたのか?・・・
当然他人様に聞くわけにはいかず、しょうがない。マスコミ報道に頼るしかなかったのだ。
さらに、彼はいわゆる前科前歴がない。むかし駐車違反で交通違反切符を切られたが、
あれは道路交通法の特則である「反則金制度」と呼ばれるもの。前科にはならない。
彼個人は、いわゆる犯罪組織とも関わりはない。なので、これまで縁がなかった警察の動きは五里霧中だったのだ。
しかし、警察の対応の素早さは彼の想像を遥かに超えていた。
安羅木の認識が甘かったのである。

33 :
日刊‘ゲンダイジン’平成24年(2012年)4月2x日....
「埼玉県警捜査1課及び秩父東警察署捜査本部は、2x日、被害者(男性)の似顔絵を公開した。」 ......
発見された被害者の頭蓋骨に粘土細工を施し、骨格や歯型から、被害者の生前の顔を復元する作業。
捜査本部は、早速この作業を終了し、被害者似顔絵の全国公開に踏み切ったのだ。言うまでもない。市民からの情報を募り、
被害者の身元を特定するためだ。
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これが、公開された被害男性の似顔絵である。

34 :
安羅木は、とっさに目をそむける。害した場面と、
体遺棄をしたシーンを想起し、思わずコーヒーを吐き出しそうになった。日刊‘ゲンダイジン’に、
さらに次のくだりがある。......
「埼玉県条例の規定により、3年に一度の水質検査が実施されてきた関係上、事件現場のマンホールも、
3年に一度開閉されるのみであった。しかし、昨年から、近隣住民より、‘あのマンホールから異臭がする’
’飼い犬がマンホール付近を通ると執拗に吠える’との情報が大野原駐在所に複数よせられていた。」
「そこで秩父東警察署の署員がマンホール蓋を開けたところ、白骨化した遺体がみつかったものである。」.......
「腐乱の進み具合は尋常ではなく、マンホール内から取り出そうとした際に、胴体と首がちぎれてしまうほどであったという。」
安羅木に急なめまいが襲う。彼は、立ち上がり、急ぎトイレへと駆けこんだ。便器内に少し前に食した物をおう吐する。

35 :

『警察に自首しようか?』『いや、芙美江のためにここまで来たんだ。あと少しの辛抱だ。』
『次はあの女さえ始末すれば』『いやいやそれはいけない』芙美江の笑顔が浮かぶ。
『ぉ、お、オェーッ!』安羅木は、おう吐を繰り返していた。そして、目から涙が溢れ号泣した。
・・・・・・・(続きは次回)

36 :

【小説】「愛の蹉跌」=第9回= 澄み切った青空のもと、近くに険山脈が連なる小さな町。
秩父東警察署はこの町の中心部に位置する。2階の刑事1係に大野原で発見された白骨腐乱体、
通称‘マンホール事件’の捜査本部がおかれている。警察の始業時刻は朝8時半だが、主任刑事の高原雅浩(警部)は、
今朝6時に登庁。鑑識係及び埼玉県警科学捜査研が作成した報告資料、被害男性の粘土復元を施した骸骨写真とにらめっこする。
頭蓋骨の損傷具合から、被害男性は、頭部を殴打されたことが判明。これが致命傷となったと思われる
。しかし、人事件とは未だ公表できないでいる。また、遺体発見現場及びその周辺の写真、さらに、埼玉全域、群馬、山梨、長野、
そして東京から秩父への侵入経路を電子地図でくまなく調査する。しかしである...被害男性の似顔絵を全国にマスコミ報道させてから
既に1か月。有力情報が全くない。もちろん、全国の失踪行方不明者リストとも照合した。

37 :
しかし手がかりがないのである。‘これは一体なぜなのか?’....捜査本部詰の捜査員らは想定外の難局に直面し、
途方に暮れ始めていた。ベテラン刑事(デカ)の高原は、被害男性像について、1つの推測をたてていた。
・・・「被害者は、暴力団関係者。あるいは何らかの犯罪に手を染めていたウラ街道の人物ではないか?」・・・
アウトローの場合、内輪もめなどで、組織に害され闇に葬られるケースは珍しくない。仮に家族がいても、家庭崩壊などで、
家族に関心をもたれず忘れ去られてしまっていることが多いものだ。結果、情報提供はまず期待できないで終わる。・・・
他方、別の可能性として、被害者が韓国人や中国人等である。この可能性もあるだろう。.......
1981年(昭和56年)の始めから春頃にかけて新宿歌舞伎町のラブホテルで3名の女性が相次いで絞されるという
痛ましい事件があった(通称‘新宿ラブホテル連続人事件’)。それぞれ別のホテルで事件は起きた。

38 :

そして、ラブホテル従業員の目撃証言から、3名の女性とチェックインしたのは、いずれもスーツを着たサラリーマン風の中高年男。
同一犯の可能性が極めて高い。しかし、残念ながら犯人は特定されず事件は迷宮入りしてしまう。
とっくの昔に公訴時効を迎え、捜査は打ち切られてしまった。捜査にあたった警視庁と新宿警察署は、
なぜ犯人を検挙できなかったのか?...その理由の1つとして、3名の被害女性のうち、1名の身元が最後の最後まで
判明しなかったことにある。この1名は全裸体で発見され、 さらに衣服や所持品が全て無くなっていた。
そう、犯人がラブホテルから逃走する際に持ち去ったのである。この被害女性は、歯が悪く、多数の治療痕が残存していた。
そこで、警察は、歯科大学、歯科医院など全国の歯科治療施設に被害女性の治療痕データを照会し、身元を割り出そうとした。

39 :
ところがである。一致する該当者が出なかったのだ。この捜査に多大な労力を削がれてしまったことが警察の、いや、
良好で平和な治安を願う我々市民の敗北の引き金となった。
「おそらく被害女性は、韓国や台湾などから来日したアジア系外国人だったのではないか?」...事件が起きた81年。
30年超も前の大昔だが、当時すでに新宿歌舞伎町や隣の大久保では、アジア系外国人女性がホステスや風俗姫として多数働いていた。
彼女達の1人が、犯人に声をかけられ誘われたのではないか?そして、犯人と一緒にラブホテルに入り被害に遭った。.......
今回のマンホール事件の捜査責任者である高原雅浩。彼は、当然、上記の新宿ラブホテル連続人を知っている。
被害者の身元特定作業でコケると、もはやお手上げ状態。迷宮入りする可能性がグッと高まってしまう。
「いや、絶対にそうさせん!必ず身元を割り出してやる!必ずだ!」
短髪で色黒。がっちりした体格の‘熱血’刑事は、不安を打ち消しながら捜査に没頭していく。・・・・・

40 :

その頃、安羅木(やすらぎ)一郎は、未だ布団の中にいた。あれから2年数ヶ月が経過したが、心休まる日など1日たりとてない。
いくら愛する女のためとはいえ、とんでもないことをやってしまった。 自責と後悔の念が入り混じり不眠症に悩まされる日々である。
今日も眠りについたのは明け方5時頃だったであろうか?...安羅木は、夢の中で、暗い夜道をひたすら1人で走っている。ずっと1人だ。
そして、目の前に白光を放つ巨大な鉄塔が突如現れた。そう、あの「現場」で見た鉄塔だ。恐怖で足が動かなくなった安羅木。
そして、後ろを振り向くと.....

41 :

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『あッあ〜ッ助けてくれぇ!』安羅木は大声で叫び、布団から飛び起きた。夢か....。思わず頭をかかえこむ。もう8時だ。
起きて仕事に行かなくては。登校途中の小学生達の声が聞こえてくる。純粋で、穢れていない子供達の無邪気な声が
安羅木の耳に吸い込まれていく・・・・・・・(続きは次回)

42 :
【小説】「愛の蹉跌」=第10回= 安羅木(やすらぎ)一郎は、
鶯谷デリ姫の西田美幸に深夜呼び出しを受けた。
6月上旬のことである。(美幸)「お・ま・た・せ♪ウフフ!
いいクルマ乗ってるのね?あ、店の送迎車ね!」
鶯谷駅北口ラブホテル街の端に駐車場がある。安羅木は、
そこで美幸と待ち合わせたのだ。
美幸は左の助手席に乗り込んできた。香水臭がきつい。
......(美幸)「たしかに20万円ね。ありがとchu☆。毎月大変だわね。

43 :
でもさ〜察にタレこまれてムショ行くよりずっといいもんね♪
口止め料としちゃ安いもんよね。」「秩父の白骨体みもと割れないわね(笑)。
あれ誰なの?」(安羅木)『誰だっていいだろう。お前には関係ないさ。』
(美幸)「そっねっ!知らぬが仏っていうもんね!♪」「あとね、来月7月から月30万円ちょうだい。
10万円アップ也ぃ!」 ....口止め料アップの通告である。とんでもない悪女だ。
しかし、安羅木は、なぜか寡黙のまま。これに美幸は拍子抜けする。
(美幸)「ねえぇ聞いてる?」
(安羅木)『ははは(笑)』
(美幸)「・・・・・」

44 :
(安羅木)『お前は、今ここでぬんだよ!』 と、次の瞬間、安羅木は、美幸の髪をわし掴みにし、
彼が座る運転席に引っ張り倒した。「キャーっ!」 そして、安羅木は、上着の右ポケットから、針金を取り出し、
美幸の首に巻きつけたのだ。力を振り絞り針金で美幸の首を絞める。身長150センチほど、
小柄で細身の美幸は、抵抗むなしく安羅木の膝の上で窒息寸前であった。白目に変わる美幸。舌を噛んだのか、
美幸の口から血が溢れでてきた。
『貴様に恐喝され続けてたまるか!この馬鹿女!地獄に行け!クソ女!』
安羅木は、最後の力を振り絞り針金をギュッと絞める。それから間もなく美幸は絶命した。・・・・・
安羅木は、すぐさまクルマのエンジンをかける。そして、言問通りを浅草方面に進み、国道4号線を右折した。
そう、首都高速にのるためだ。美幸の遺体遺棄場はすでに決めてある。美幸が所持していたバッグは後部座席に移した。
後で必要だからだ。ラジオをつけると、エレファントカシマシの《今宵の月のように》が流れる。

45 :
97年に大ヒットした曲だ。安羅木の目は血走り、今や人鬼そのものの形相であった。
・・・・・(そしてその翌日)・・・・・
「はい、捜査本部。」 秩父東警察署の刑事、高原雅浩が電話をとる。『ああ〜デカ長さんいるけ?』
(高原)「私ですが?何か?」『情報提供してやるよ。秩父マンホールの白骨体の件だ。』
(高原)「匿名ですか?」(情報提供者)『あったりめえだろ!アホか?おめえは。』
情報提供者の口のきき方から、やはり、仏さんは普通の人間じゃない。
高原はすぐに察知した。(高原)「これは大変申し訳ありません。御協力感謝します。話して頂けますか?」
高原の部下達が一斉に高原を取り囲み固唾を呑んで見守っている。

46 :
うち、1人の刑事は、すでに情報提供者の通話元の逆探知手配を終えている。
公衆電話なのは間違いない。
(情報提供者)『ただで教えてやるんだからな!感謝しろよオメぇ。仏さんの名前は佐山治。
さ・や・ま・お・さ・む・。だ。渋谷で風俗店‘東京BIG’ちゅう本番デリヘルを経営してる。』
高原はペンを走らせメモを取る。『それにだ、仏さんは、ヤミ金もやってたんだ。借り手は、
その日ぐらしの風俗従業員や、風俗嬢だな。ヤミ金の元締めは山菱組。あとはテメえで調べるんだな。
そんじゃ。』 〜ガチャン〜。

47 :
「前(前科前歴)を調べるんだ。早く!」 高原は、部下に即座に指示を出した。
それから間もなく佐山治の前科記録データが高原のパソコン画面上に表示される。
彼の顔写真を見て、してやったり。
頭蓋骨に粘土復元した彼の似顔絵とピタリと一致する。

48 :
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間違いない。マンホール白骨体は、佐山治である。そして、情報提供者は、
東京港区西麻布の公衆電話を使用したことが判明した。
〜秩父大野原、マンホール白骨体の身元が判明!
〜その日の夕方のニュースでマスコミ各社は報道した。

49 :
情報提供が寄せられなかった理由。それは、被害者・佐山治がヤミ金業者だったから。
これが大きいであろう。彼から金を借りて返済に苦しんでいた債務者達、いや、それだけでなく、
元締めのヤミ金主も佐山治の身元が判明しないほうが好都合だったのだ。・・・・・・・(続きは次回)

50 :
【小説】「愛の蹉跌」=第11回= それからしばらく後・・・・東京六本木にある雑居ビル3階に
小包をかかえた宅配スタッフの男が現れた。‘二光エステート金融株式会社’ドア横のチャイムを押す。
〜ピンポン〜「はい」『あ、東濃急便でーす!荷物をお届けに参りました。』「はい」
事務員とおぼしき女性がドアを開ける。スタッフは小包を女性に手渡す。
ところがである。軽い。何だこれは?カラ箱ではないか?....
)と次の瞬間、宅配スタッフの男性と入れ替わり、スーツ姿の男性が次々とドカドカ事務所内に入ってくるではないか。
10名近くの男達が二光エステート金融に無言で押しかけてきた。「な、なんなの?!あなたたちは!」
『埼玉県警だ。おたくの会社を貸金業規正法違反並びに出資法違反容疑で家宅捜索する。責任者をだしなさい。』

51 :

角刈り頭の刑事が家宅捜索令状を女性に示す。そして、奥から北大路欣也風の年配男性が姿をあらわした。
紫色のスーツを着ている。「私が社長だが?何の騒ぎですかな?いったい。」
角刈り頭刑事の令状に目を通した社長。「うちは、まっとうな金融業と不動産取引業を営む会社ですぞ。
法に触れることはいっさいしとらん。」『嘘つけ!ヤミ金の元締めだろうが。』
....
二光エステート金融は、暴力団山菱組系のフロント企業である。大阪を拠点とする山菱組傘下組織が経営する。
主に不動産競売物件の取引、並びにヤミ金融の大手元締めとしてウラ社会で知られてきた。
近年は、オレオレ詐欺の関与も疑われている問題企業である。

52 :

(角刈り刑事)『お宅の資料をぜんぶ押収するからね。直接の容疑は、埼玉県所沢市在住の主婦に法定金利を
大幅に上回る暴利で貸付けた出資法違反。ヤミ金のパシリがぜんぶゲロしたんだよ。』
なんと角刈り刑事の隣には、秩父東警察署の高原雅浩が同席している。そう、秩父マンホール体遺棄事件の
主任刑事だ。高原が口を開く。(高原)『ところで社長さん。この男知ってるよね?』
白骨腐乱体で発見された佐山
治の顔写真を差し出す。(社長)「(一瞬ビクっとする)・・・さあ、知りませんな。誰ですかこのデブ男は?」
(高原)『何者かに害され、白骨体で発見された男。4月にね。』 高原は、遺体発見現場のマンホール周辺の写真、
白骨写真、粘土細工を施した頭蓋骨写真を次から次へと机に並べていく。


53 :
(社長)「や、やめたまえ!何を考えておるんだ君は!佐山なんて知らん!」
(高原)『おや?あんた、この男を知らないとさっき言ったばかりだよ。』(社長)「・・・・・・・・・」
(高原)『何者か知らないのに、なぜ、この男の名前を知っている?」
マスコミは、身元が判明したと報道しただけ。被害者の氏名は今も公表していないんだよ。
おかしいじゃないか。え?答えろ!』 高原はガンっと机を叩く。
(角刈り刑事)『まあまあ・・・。ねえ社長さん。あなた、娘さんの結婚式もうすぐだよね?なんなら、あんたを人と
体遺棄容疑で逮捕状とってもいいんだぞ。そしたら、娘の花嫁姿みれないね。』

54 :

(社長)「わ、わ、わかった。わかったよ。全部答えますわ。佐山治。知っておる。うちの下で働いておった。
ん。刑事さんがいうヤミ金。営業部隊の1人だった。」「佐山は、渋谷で風俗店を経営しとった。でも、経営難で金がないと。
そんで知り合いの紹介でうちにきたんだ。紹介者は、渋谷の住田会系の893組員だ。」
「一昨年の2月頃やったな。急に連絡がとれなくなってしもうた。音信不通や。それいらい奴とは会っておらん。」
(高原)『本当か?お前がったんじゃないのか?!』
(社長)「ち、ちがう。わしは知らん。やってない!本当だよ!信じてくれ」
(角刈り刑事)『佐山治が貸付けていた顧客リスト。ありますか?行方不明になる以前のものだ。』(社長)「ああ。ある。」
(角刈り刑事)『さっきも言ったけど、おたくの会社の資料を全部押収する。佐山治の顧客リストはその1つというわけだ。
別件逮捕だなんだ後で騒ぐんじゃねーぞ!おい!分かったか?!お前!』
二光エステート金融の社長は、ただただ頭を下げ頷いていた。・・・・・・・・・(続きは次回)

55 :
【小説】「愛の蹉跌」=第12回= 「マネージャー」・・・・「マネージャー!!」フロントに座っていた
安羅木(やすらぎ)一郎はハッと我にかえり見上げる。吉原高級ソープランド‘エンペラー’在籍の由里華(ユリカ)が
目の前に立っていた。「帰っていいですか?」『え?どうして?なにかあったの?』「ん〜ちゃっと・・・体調が悪いから。
帰らしてください。」仏丁面のユリカが答える。『あ、ああ。いいですよ。お大事にね。ごめんね、お客さんつけられなくて....』
体調が悪いなんて嘘だろう。暇で客がつかないからな。このまま店で待機しても時間の無駄。仕方あるまい。
もしかしたら、デリヘルとかけもちしているのだろう・・・エンペラーは、社長の黒澤の方針で他風俗との掛け持ちは厳禁である。
しかし、彼女達にも生活があるのだ。こう吉原が暇で、客数が激減している状況ではどうにもならない。

56 :
安羅木も、内心気付いてはいる。しかし、彼女達のデリヘル掛け持ちを黙認しているのが現実であった。
店としても、客を集められない以上は、姫達に強く出れないのだ。そして、姫の管理がますます難しくなる。・・・・
今日のエンペラーは、19時現在で来客数はたったの3。この後の予約数が1。明日の予約はガラガラだ。
フロントの傍に突っ立っているボーイはスマホン携帯をいじりっぱなし。もう1人のボーイは、腰が痛いといって、
さっきからずっとしゃがみこんでいる。安羅木の直属の部下である平野田主任。彼はどこだ....?
なんと広い待合室を1人で占領し、来客用のビールを何缶も空けた。すでに酔っ払っている。「ぎゃははは!!」
「がハハハ!!」 待合室の大型テレビを観ては笑い転げる始末だ。バラエティー番組である。

57 :
モチベーション低下どころではない。吉原の‘一流全国ブランド’。そんなものは、今や過去の遺物であろう。
激烈な風俗業界の客獲得競争。それに無残にも敗れ去り、客の支持も失い、将来の展望もない。
末期的かつ伐とした崩壊絵が安羅木の目の前に繰り広げられていた。・・・・・で、当の安羅木はというと?
彼も、これまた仕事の意欲などとっくに喪失した。ヤミ金(兼)風俗経営者の佐山治。そして、鶯谷デリ姫の西田美幸。
2名の命を奪った人鬼である。彼は、いかに逮捕から逃れるか。それで頭が一杯で、
考えていることはこの1点だけである。事件を闇に葬り、現在は富山県で暮らす岡野芙美江(エンペラー元NO1姫)と結婚し、
幸せになるためである。もはやエンペラーの運営などどうでもよくなっていた。小姑のようにやかましくウザイ黒澤社長。


58 :
あの素人社長に何を言われようが、怒鳴られようが馬耳東風。てめえの店だろ?俺が辞めたら、
てめえ1人で運営すればいい。そう開き直る安羅木であった。フロントの机上に全国紙の三面記事がある。・・・
〜ヤミ金大手元締め逮捕〜・・・‘埼玉県警察本部捜査4課は、○○日、東京都港区六本木「二光エステート金融」社長○○○○
を組織犯罪処罰法違反で逮捕した。’・・・・・安羅木は、この社長と面識があった。
そう、佐山治と一緒にエンペラーに来店したことがあったからだ。三面記事に掲載されている社長の顔写真を再度みる。
ん。間違いない。この顔は見覚えがある。佐山治のボスが捕まったか。しかし、なぜ埼玉県警なのだ?
秩父の白骨腐乱体の身元が割れた。佐山治だと警察は気付いたに違いない。そう考えるべきでだろう。

59 :
   ;ヾ、,.、,、.、rツ ッッシ、:':' r':' _,、-'゙_,  や 公 帰 そ
 ,、,、,ミッン、,._        _,、-'゙_,、-'゙.   っ 園. り ん
 、ィッ ,:、 ゙''ゞ=ミ、~.: _,、-'゙_,、-'゙  __,  て の 道 な
 }; ヾ ゙' {!li;:,. _,、-'゙_,、-'゙ _,、-'゙,::|_|  来  ト に わ
 ゞァ''゙ぐ _,、-'゙_,、-'゙ _,、-'゙,、-''" .|_   た イ  あ け
 ,ヘ:'_,、-'゙_,、-'゙..::「┴_,エ ┴  ''"_|_|  の. レ る で
  └i'゙-ニ,ニエ,.:|ニ「 _エ ┴  ''"_|_   だ に
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60 :
安羅木の額から汗が吹き出てくる。急に胸騒ぎがしてくる。西田美幸の体はいまだ発見されずだ。
しかし、こちらも時間の問題である。西田美幸が所持し、安羅木に対する恐喝に使っていたあの写真だ。
そう、あの写真をみつけ回収するのだ!それしかない。それが出来れば犯人が自分だとバレることは永久にないはずだ。
真相は闇に消える。ん。あともう少しだ。・・・しかしだ...安羅木は、西田美幸のバッグに入っていたマンションの鍵を使い、
千束3丁目の彼女のマンションに2度侵入し、室内をくまなく探したのに。写真は出てこなかった。
パソコンと携帯にもデータは存在しなかった。美幸のマンション室内は、さしずめ‘水族館’のよう。熱帯魚が好きだったのか、
室内はいくつもの大型水槽で覆われていた。おかげで、灯りをともさなくても、十分。助かった。これから、
再度、美幸のマンションに行ってみようか。安羅木は、ボーイに声をかける。『おい!』「は、マネージャー。何でございましょうか?」

61 :
『僕は、これからちょっと外出するわ。2時間ほどで戻るよ。平野田君にいい加減にしろと。フロントに座るよう伝えておいてくれ。』
「はい。」・・・・安羅木はエンペラーから徒歩で美幸のマンションへと向かう。10分もかからない。
美幸を車内で絞したときのおぞましい光景が脳裏に浮かぶ。ここまで来たのだ。あと少しの辛抱だ。
美幸のマンションが目の前に現れた。が、次の瞬間、安羅木の背筋が凍りつき、全身の血の気が引いていった。
なんと、美幸の部屋に灯りがともっている。誰かいる・・・。いったい誰なのだ?・・・・・・・・・・・・(続きは次回)

62 :
【小説】「愛の蹉跌」=第13回= 安羅木(やすらぎ)一郎が害した鶯谷デリ姫の西田美幸。彼女のマンション室内に灯りが・・・・。
度肝を抜かれた安羅木は、とりあえずマンション入り口へと急ぐ。すると、中年で太めの女性が入り口に立っていた。見覚えがある顔だ。
「あら!安羅木さん?そうだ安羅木さんだ!久しぶりです!」 彼女の名は、小松佳子(本名)。安羅
木が以前在職していた吉原ソープ
‘サテンドーレ’で一緒だった元姫である。当時の彼女の源氏名はマロンであった。『ああ!マロンさん!ご無沙汰しています。あれ?このマンションにお住いなのですか?』
(小松佳子)「いや、違うのよ。あ、そう、私ね、いま鶯谷にいるのよ。安羅木さん、遊びにきてー」 佳子は、安羅木に名刺を差し出した。
それをみた彼は、驚愕し顔面が蒼白になる。〜鶯谷デリバリーヘルス 美乱妻 店長 小松マロン〜

63 :
なんと、西田美幸が在籍していた鶯谷デリ店ではないか!(小松佳子)「どうしたの?安羅木さん・・・・・」
(安羅木)『や、や、いや何でもありません。すいません。へぇ、鶯谷デリの店長さんですか。ママさん?ですか?』(小松佳子)「うん。一応ね。経営者よ。」
(安羅木)『へー社長さんかあ。すごいですね。』(小松佳子)「ぜんぜん。暇で大変なのよ。あ、実はね、うちの店の子が行方不明なのよ。」(安羅木)『・・・・・・・・』
(小松佳子)「ずっと連絡がなくてね。携帯も通じないし。どうしちゃったのかと心配で。それでね、マンション管理人さんに連絡して、部屋に入ってもらってるのよ。」
「警察にもさっき連絡したわ。あっ!きたきた!」吉原交番の警察官だろうか、自転車で2名の巡査がマン ション前に到着した。・・・・
(巡査)「いつ頃から連絡がとれなくなりましたか?」・・・・・・


64 :
(安羅木)『じ、じゃ、マロンさん。僕、休憩中なもんで。これで失礼します。姫、早く見つかるといいですね。』(小松佳子)「ありがとう。それじゃ。お互い頑張りましょうね。」
安羅木は、花園通りを越えた先にある小さな公園のベンチに腰かける。そして、岡野芙美江(エンペラー元NO1姫)に連絡する。安羅木は、秩父白骨体が佐山治だと警察は察知したこと、
そして、安羅木をゆすっていた西田美幸の体も、もうすぐ発見され身元が割れるであろうこと。しかし、安羅木の一連の犯行とバレる可能性は低いであろうこと。
堰から吹き出る滝水のごとく矢継ぎ早に芙美江に伝えた。涙が溢れる安羅木に気付いたのであろう、芙美江が語りかける。
(芙美江)「ごめんね本当に。私のために辛い思いをさせてしまって。」(安羅木)『いや、いいんだよ。』


65 :
(芙美江)「私ね、富山に来て母のことを思い出してね。母の生前の楽しい思い出をたくさん。もう十分です。」(安羅木)『えっ?どういうこと?』
(芙美江)「もし、警察があなたの犯行だと察知したときは、一緒ににましょう。ね?」(安羅木)『・・・・・・・・・・・』(芙美江)「あなたと一緒にこの世を去る。思い残すことなんて何もないわ。」
孤独な2人に通じ合う愛のひと時であった。・・・・・・その翌日。東京湾に浮かぶ平和島。ここは、東京の物流「動脈」というべき一大備蓄拠点である。数多くの倉庫会社、物流会社が密集する。
大手商社‘住菱商事’グループの‘住菱商冷蔵’の物流センターも平和島の一角にある。スタッフ達が忙しく貨物の仕分け作業に追われていた。上空は、至近の羽田空港に着陸する旅客機の轟音が絶え間なく響きわたる。
耳栓をしないと、耳がやられてしまう。現場を仕切る責任者が、若い男に大声で指示を出す。「今日は忙しいぞ!福岡と沖縄からのがもうすぐ羽田に着く。
それもあるからなあ!」


66 :

「あ、そうそう、修理に出してた業務用冷蔵庫が隅っこにあるだろ?あれ、フォークリフトでこっちに持って来い!」
「分かりました!」若い男は、フォークリフトに乗り、物流センター端へと急ぐ。広大な物流センター敷地内。フォークリストで移動に10分弱かかった。「よし、これだな。」
若い男は、業務用冷蔵庫に近付く。ん?扉が開いている。なぜだ?若い男は、冷蔵庫の扉を開いた。
と、次の瞬間、大きな物体が若い男に覆いかぶさる形で冷蔵庫内から崩落した。それは、女性の全裸体であった。「あ、あっあ〜ヒェっ!!!!!!」
ショックのあまり若い男は、その場でしりもちをつく。・・・・・・・・・(続きは次回)

67 :
【小説】「愛の蹉跌」=第14回= 平和島で発見された女性の全裸体。所轄の品川湾岸警察署が捜査本部を設置した。捜査員及び鑑識が現場及びその周辺から収集した物品の解析を進めるとともに、
物流センター付近の関係者らに聞き込みを行う。捜査の指揮を執るのは、大崎努(警部)刑事だ。被害女性の遺体解剖の結果、被害者は、目と鼻、さらに胸部に整形手術を施したこと、さらに精神安定剤を日常的に服用していたことが判明している。
すでに、行方不明者リストと照合を行っている最中だ。大崎刑事が着目したのは、遺体発見現場から10メートルほどのフェンス下で発見された小さな紙片だ。フェンスの扉鍵は破損していた。おそらく犯人は、このフェンス扉から物流センター内に侵入。
業務用冷蔵庫に遺体を遺棄したに違いない。遺体は後2週間ほど経過している。小さな紙片・・・・。これは何だろうか?先日の雨により皺になっているが、解析は可能だ。
もし、犯人が履いていた靴裏に付着していたものだとしたら?

68 :
それが、剥がれて現場に残された。もし、これが犯人のものだとすると、犯人の指紋が付着しているかも知れない......。1.5センチ四方ほどの小さな紙片である。
が、指紋の一部でも採取できれば、現在は、指紋全体を割り出すこと。これが可能なのだ。捜査現場においても、最近の技術革命は目ざましいものがある。「この紙片の解析。あと、指紋採取を鑑識に頼んでくれ。至急でお願いしますとね。」
大崎は、部下に指示を出した。・・・・・・その頃、埼玉秩父の秩父東警察署。・・・マンホールで白骨腐乱体で発見された佐山治の捜査を高原警部以下、捜査員らは全力で捜査を継続していた。
先日摘発した東京六本木のヤミ金元締め(二光エステート金融)から、佐山治が貸し付けていた顧客債務者リストを1人1人あたる。しかし、手がかりがない。佐山治が経営する渋谷の本番デリヘル‘東京BIG’。ホームページは現在も生きてはいる。
しかし、もう前から営業を中止している。したがって、佐山治にとっては、ヤミ金が唯一の収入源だったのは確かなのだ。


69 :
佐山治が居住していた渋谷区神泉のマンション、ならびに彼が所有していた外車BMWの登録も当然調査をした。
しかし、佐山が行方不明になり、マンション賃料ならびにマンション敷地内の駐車場料未払いがかさんだ。そのため、マンション大家は、佐山治に対して家賃及び駐車場料支払いを求め民事を起こしたのだ。
訴える相手が居所不明であってもは可能だ。この場合、‘公示送達’という所の手続きを利用する(民事法110条以下)。
結果は、マンション大家側の勝訴となり、賃貸契約は解除。彼が居住していた部屋は原状回復された。未払家賃・駐車場料を回収するため、大家側は、部屋に放置されていた佐山治所有の家具・電化製品、そして車BMWを全て差し押さえ、競売にかけた。
BMWは第3者が落札した。ところがである。この第3者は、BMWを最近廃車にしてしまったのだ。なので、陸運局の自動車登録は抹消されている。......以上が経緯である。

70 :
が、見逃せないのは、秩父東警察の捜査で、佐山治が行方知らずとなった当時から、BMWはマンション駐車場にずっと駐車されたままであったという事実である。
これは、先日逮捕したヤミ金元締めの社長もそう証言している。もし、犯人が、佐山治を害後、彼の体を佐山のBMWで秩父まで運んだとしたら?・・・BMW車内に犯人検挙につながる有力証拠が残されていたかも知れない。
残念だ。だが、仕方がない。今は、佐山治のヤミ金貸付リスト。これを1人1人つぶしていく他あるまい。気が遠くなる作業である。高原警部は、念のため、佐山治の事件に関し、警視庁や千葉県警など関東周辺の警察本部に対し、秩父マンホール事件の概要、
そして、ヤミ金貸付リスト、さらに彼が所有していたBMWの自動車登録(ナンバーなど)の情報を提供し、協力を呼びかけることにした。・・・7月に入った。早朝から既に蒸し暑い。ある日の午前5時過ぎ。
安羅木(やすらぎ)一郎は、浅草花やしき近くのラブホテル「ラ・カルチェ」にチェックインする。

71 :
そう、岡野芙美江(吉原エンペラー元NO1姫)との密会に利用していたホテルである。この日は、安羅木は久々の公休だ。夕方5時までサービスタイム。つまり、
追加料金無しで夕方までホテルに滞在できる。もう疲れた。本当に疲れた。せめて、芙美江との思い出深いこのホテルで短い休息をとりたい。それが安羅木の偽りない本音であった。広いベッドに横たわる安羅木。
個室の天井は、ガラス張りになっている。自分の顔を見つめる。そして、そのとき、前から頭の片隅にあったある「疑念」が安羅木の脳内に再来した。...
『佐山治は、27年前に芙美江の母親を害し逮捕された。埼玉県警は、佐山治の前科前歴をとっくに調べたはず。となると、怨恨の線から、被害者遺族の芙美江を疑うのが普通ではないだろうか?』
『芙美江から警察が聞き込みに来たという話は一切聞いていない。富山にいるから?そんなのは、警察捜査の障害にならないだろう。彼女の母の実家を調べれば一発でわかるだろう。』



72 :

『なぜ、埼玉県警は、芙美江を捜査対象にしないのだろう?おかしい.....』・・・
『いや、そんなことはどうでもいいだろう。ったのはこの俺なんだから。何を今さらだよなあ。』
安羅木は、睡魔に襲われ、いつの間にか夢のなかへと消えていった。・・・・・・・(続きは次回)

73 :
【小説】「愛の蹉跌」=第15回= それから数日後・・・・・台東区千束3丁目の西田美幸が居住していたマンションに1人の老人男性に続き、2人の男性が入っていく。
老人はマンション管理会社の嘱託従業員。そして、2名は、品川湾岸警察署の捜査員である。そう、平和島で発見された全裸女性体。身元が判明したのだ。決め手は、西田美幸が施した豊胸手術であった。
最新の医療技術で、この手術に対応できる形成外科医院が都内、いや関東でも限られていたためだ。複数の形成外科クリニックをあたったところ、すぐに西田美幸が浮上した。
彼女が在籍していた鶯谷デリヘル‘美乱妻’店長の小松佳子は、美幸の捜索願いを警察に出していた。そのため、警察の事情聴取を受けた。
しかし、品川湾岸警察署捜査本部は、被害者の身元判明の件はいまだマスコミに公表していない。犯人をおびき寄せる目的である。
しかし、西田美幸を(あや)めた安羅木(やすらぎ)一郎。彼は、とっくに警察の動きを察知していた。


74 :
というのも、そう、小松佳子に連絡をしていたからだ。小松佳子は、まさか、吉原時代から旧知の仲である安羅木が犯人とは露ほども思っていない。
なので、西田美幸の遺体が平和島で発見された時の様子、警察で受けた事情聴取の内容などをペラペラと彼に話したのだ。しかし、安羅木が気がかりなのは、あの写真である。
彼が、佐山治の体を秩父に運んだ日に、あの現場で撮られた写真だ。何とかして、美幸のマンションに再度侵入し、探せないものか。
今日も、安羅木は、エンペラーのフロントでそればかりを考えている。西田美幸の部屋に入った捜査員2名。
前に侵入した安羅木と同じく、怪しげな青光を部屋全体に照らす熱帯魚の大型水槽に面を食らう。
主任刑事である大崎努。背が低く細身の体で、眼光が鋭い禿げ頭。1975年(昭和50年)に警視庁に入庁。現場一筋であった。数々の難事件を解決してきた大崎の捜査手腕は、
警察内部で高く評価されている。室内をグルっと一瞥し、見渡す大崎。居間〜キッチン〜浴室を一通りチェックする。

75 :
そして、鋭い目が光る。(大崎)「星(犯人)は、この部屋に来てるね。」「見ろ。あの大型テレビの上に積まれているファッション雑誌。
一番上の雑誌だけ埃がついていないだろ?」「被害者は几帳面な性格だと、鶯谷デリの女店長が証言していた。
なのに、浴室隣の洗濯機横に積まれたタオル。くしゃくしゃだぞ。衣類もそう。几帳面な女が畳んだように見えない。」
すると、まだ20代か?若い刑事が大崎に問いかける。『犯人は、現金を盗む目的だったのでしょうか?』(大崎)「ん〜。違うだろ。金を探すのに、
いちいちタオルまで広げて見る奴がいるか!?被害者のバッグやカバン、財布類がこの部屋にない。犯人が持ち去ったんだろ。
金目的なら、被害者のキャッシュカードやクレジットカードにとっくに手をつけてるはずだ。しかし、被害者のカードで、現金が引き出された形跡はないだろう。」
「となると....星(犯人)は、世間様に見られたら困る何かを探していたんだ。それを被害者が所持しているのを知っていた。...」


76 :
「女店長が、被害者は最近、金まわりが良くなっていたと。そう言ってたよな?」
(若刑事)『はい。』(大崎)「もしかすると、被害者は、星(犯人)をゆすっていたんじゃないか?.....
それで、逆に被害者は消されてしまった。わからんよ。あくまでも俺の邪推だよ邪推(笑)。」 現場で捜査経験を積み重ねてきたベテラン刑事。
さすがという他はない。(大崎)「今日のところは、これで引き上げる。明日また来よう。」(若刑事)『はい。』
(大崎)「ち、ちょっと待て!あれは何だ?!』
大崎は、大水槽に指をさす。若刑事は、大水槽に目を移すが、ただ、カラフルな熱帯魚群しか目に入らない。
しかし、大崎は何かを見つけたようだ。・・(次回に続く)

77 :
【小説】「愛の蹉跌」=第16回= ここは、埼玉県さいたま市浦和区にある埼玉県警察本部。
そこの職員食堂に秩父東警察署の高原雅浩刑事の姿があった。日替わり定食500円。14時。遅い昼食をとる。
高原は、県警本部近くにある‘さいたま拘置支所’を訪れるため、秩父から足を運んできたのだ。ヤミ金大手元締めの「二光エステート金融」社長が勾留されている。
彼に面会を申し入れ、話を聞いてきた。・・・(高原刑事)「害されたお前の元部下、佐山治だが、ヤミ金以外に何か商売をやっていたとか。そういう話。聞いたことある?」
(社長)『んーそれは知らんわ。住田会系893組員の紹介でうちにきたんが2007年の暮れやったかな?ボロ服着とって、汚いなりしてたわ。
もともとワキガでな。よけい臭いんや。もうたまらん臭さだったの、よぉ覚えとるさかい。』『ま、刑事さんが言うてはる通りでね、
うちの稼ぎだけで渋谷のマンション住んで、BMW乗り回す。不可能やな。』



78 :
(高原)「つまり、他に収入源があったと?」(社長)『そうやな。俺だってさ、山菱組竹見組の若衆だった昔な、いろいろやってきたんや。
刑事さんとっくに俺の過去しっとるやろ?』(高原)「ああ。」(社長)『大阪で暴れまわってね。自分で金の匂い嗅ぎつけ、自分で稼ぐ。組織のおこぼれ当てにしとうたらあかんやろ。』・・・
「やはり、佐山は、ヤミ金以外の何かで儲けていた。いったい何をやっていたんだろ。それが分かれば一気に突破口が開けるのに...クソ!」
高原は、日替わり定食のメンチカツを箸で突き刺した。・・・・・・それから数日後、・・・・・・・・
東京都墨田区の曳船駅近くの古びたアパート2階から、1人の男が下りて来た。午前8時半。ちょうど仕事にでかける時刻だ。
男は、競馬雑誌「ジャロップ」と競馬新聞を手にもっていた。アパート前に駐車してあるスクーターに乗ったそのとき、
3名の男性がスクーターの脇に駆け寄ってくる。「んだよおめえら!!」『久しぶりだな(笑)平野田!』「えっ、あ、大崎さん....」

79 :
吉原ソープ‘エンペラー’の「あの」平野田である・・・・(大崎)『申し訳ないが、品川湾岸警察まで任意同行してもらいたい。』
(平野田)「えっ!な、なんでですか?俺はこれから仕事だし、なにも悪いことしてないっすよ。いまはちゃんと働いてますよ。」
(大崎)『いいからちょっとだけ来いよ。話を聞くだけだ。』 すると、2名の刑事が平野田の両腕を掴み、覆面パトカーへと移動させようとする。(平野田)「おらッ!おめえ離せよ!ぜんぜん任意じゃねーじゃんか!」
平野田は、有無を言わされず覆面パトカーの後部座席に乗せられ、車はそのまま走り去った。・・・・・・・その頃、秩父東警察署・・・・・
高原刑事のデスク。1本の電話が鳴った。「はい。」『へへ(笑)。この前のデカ長さんけ?』あっ!あのときの!公衆電話から佐山治について情報提供した匿名男だ。
(高原)「ああ、あのときの。御協力ありがとうございました。助かりましたよ。」


80 :
(匿名男)『いいんだよ。人類みな兄弟。協力しあわないとね。』(高原)「ありがとうございました。それで?今日は何か(匿名男)『佐山治について、気になる話を耳にしたんだ。』
(高原)「・・・・・・・」(匿名男)『俺の知り合いが、数年前、新宿歌舞伎町のキャバクラで佐山を見かけたんだってさ。隣のテーブルに佐山がいた。ついた複数のキャバ嬢たちに、
‘大物スポンサーを見つけた’って佐山は自慢げに話してたそうだ。近いうち大金が入る。これからもずっと金が入るってハイになってたとよ。
んじゃ、今日はこれぐらいで(笑)。あとはテメエで調べろ。んじゃ!』(高原)「ちょっと待って!頼むから。その歌舞伎町のキャバクラは何て店ですか?」
(匿名)『しょうがねーなあ。社会貢献。ただで教えてやる。‘ディアレード’だ。じゃあな。頑張れや!(笑)』 ガチャン!今回も公衆電話からの情報提供だ。

81 :
誰か分からない。が、助かる。高原は、早速、外出の支度にかかる。「タレこみがあった。新宿のキャバクラに聞き込みに行くぞ!」
高原は、勢いよく部下に声をかけた。そして、高原が捜査本部から出ようとしたそのとき、
また高原のデスク上の電話が鳴り響いた(高原)「はい!捜査本部」『こちら、警視庁品川湾岸警察署、刑事1係です。
私、警部の大崎努といいます。高原警部殿はいらっしゃいますか?』・・・・・・(続きは次回)

82 :
【小説】「愛の蹉跌」=第17 回= (高原)「はい。私が高原ですが?」(大崎)『初めまして。先日、警察庁関東管区警察局経由で、
秩父の....えーっと、マンホール事件ですか。情報提供を呼びかけられましたよね?』(高原)「はい!何か分かりましたか?」(大崎)『実は、別件の捜査で、重要参考人を先ほど確保。
これから取調べを開始するところなんです。』(高原)「はい。」(大崎)『彼が本星(犯人)かどうかは...断言できませんが、別件の捜査で、有力な証拠を手に入れました。
秩父で害された、あーさ、佐山、お、治に関する証拠です。とりあえず、後ほど結果を御知らせする時に、添付してお送りしますよ。』
(高原)「有難うございます!では、後ほど御連絡お待ちしております。」 やっと、視界が開けてきたぞ。
あと、もう一息だ。高原は、高揚する充実感・達成感を抑えられずにいた。・・・・・・品川湾岸警察署の取調室では?
・・・・・(大崎)「おお、平野田。久しいなあ。」(平野田)『なんっすか!さっきから言ってるけど、俺は何も悪いことしてませんよ!』

83 :
(大崎)「最後に貴様と会ったのは?....ああ、お前が傷害事件起こした時だったね。」(平野田)『だからなんだっていうんっすか!
ちゃんと罪つぐなってシャバに出たんすよ!』大崎は、平和島で発見された西田美幸の遺体写真数枚を平野田の面前に置いた。(平野田)『ひ、ひ、ひィーーーーー!!!!!』
(大崎)「どうした平野田?絞された女だ。知っているだろ?」(平野田)『し、知るわけないじゃないっすか!誰っすかこの人?』
(大崎)「知らないだと?では、なんで、お前は、平和島の住菱商物流センターに行ったのだ?」(平野田)
『な、なんすか?それ?俺は平和島なんて行ってないっすよ!信じてくださいよ!』 大崎は小さなビニール袋を平野田に示した。
じっと凝視する平野田。(大崎)「いいか平野田。この袋に小さな紙片が入っているだろ?」(平野田)『はい。』
(大崎)「これは、馬券の片だ。ここにお前の指紋がついてるんだよ。この紙片は、遺体発見現場の近くに残存していたものだ。まだしらを切るつもりか?え?平野田!」

84 :
(平野田)『ち、ちっと待ってくださいよ!俺、ほんとに何も知らねえんだよ(泣)!信じてくださいよ!(泣)俺じゃないよ!(泣)
ああ〜(泣)ええ〜ん(泣)!』 平野田は、その場で泣き崩れる。(大崎)「な、平野田。被害者のこの女は、鶯谷デリヘルに在籍していた風俗姫だ。しかも、
この女は、お前が働いている吉原ソープ店に複数回電話を入れている。女の携帯から、通話記録が出たんだ。通話した相手は、平野田。
お前じゃないのか?」(平野田)『違う違う違う!!!!俺じゃねーよ(泣)俺じゃない!ああ〜(泣)えええ〜ん!!(泣)』 すぐにカッとなる性格であるが、
実は小心者の平野田。こいつは、星(犯人)ではない。大崎は、そう確信する。が、念のため。(大崎)「おい平野田。正直に何もかも話したらどうだ?ん?それともう一つ。
この男知ってるだろ。な?」 大崎は、佐山治の顔
写真を平野田に見せる。(大崎)「なあ平野田。お前、佐山から金を借りていたろ?ヤミ金だ。」
(平野田)『ああ。それは認めるよ。佐山治。吉原じゃ奴から金を借りていたボーイや嬢は結構いた。


85 :
俺だけじゃないっすよ!吉原の店にもよく遊びに来てました。有名人っすよ。奴がどっかの山奥で、白骨体で見つかったって。ニュースでみて、
ざまあみろと。俺、俺そう思いました。本当っすよ!』『こいつへの返済分がなくなったんで、んで競馬に使う金が増えたんです。』・・・
間違いない。平野田はシロだ。大崎は、次に、3枚の別の写真を平野田に見せる。(大崎)「じゃ、こいつは誰だ?分かるか?」 「被害者の女の自宅マンション。
そこの熱帯魚水槽の中にあったものだよ。ビニール袋で何重にも覆われていた。」西田美幸は、実は、「あの」写真を大型水槽の中に隠していたのである。・・・・・
いずれも夜間に撮影されたのか、背景が暗い写真だ。1枚目は、中肉中背の男が外車だろうか、左運転席に乗り込む姿。車のナンバーは判別できる。
2枚目は、その外車から降りた直後らしき姿。3枚目は、車の横で、難やら大きな蓋を持ち上げている姿。(平野田)『薄暗くてよく見えないっすね!
これBMWっすよね?.....あ、あ!あッ!』(大崎)「どうした?平野田。誰だ?誰なんだこの男は!え?答えろ平野田!」 大崎は大声で平野田に怒鳴る。

86 :
・・・吉原‘エンペラー’では、安羅木(やすらぎ)一郎がいつもの通り、フロントに座っていた。平野田が来ない。
無断欠勤か?いや、奴は仕事は適当でいい加減だが、出勤だけはちゃんとしている男だ。
平野田の自宅に電話したが、留守である。平野田は、携帯料金未払いを繰り返し、携帯契約を解約された身だ。
なので、携帯電話は現在所持していない。曳船の自宅アパートを出て、スクーターで店に来るまでに事故ったか?......
いや、まさか.......安羅木は、何か不吉な予感がした。・・・(続きは次回)

87 :
【小説】「愛の蹉跌」=第18 回= その日の午後、安羅木(やすらぎ)一郎は、店の並びにある駐車場で、岡野芙美江(エンペラー元NO1姫)の
携帯に電話を入れる。しかし、何度コールしても彼女は出ないのだ。なぜだろう。ま、いいや。夜にまた連絡しよう。店のフロントに戻ると、
1本の電話が鳴る。店員及び姫しか利用しない内部関係者用の電話。公衆電話からだ。もしかすると平野田かも。安羅木(やすらぎ)一郎は、さっそく電話をとる。
「マネージャーっすか?」(安羅木)『おお!平野田くん!心配してたぞ。どうした?』(平野田)「すいませんっす。朝スクーターで自損事故やっちまいました。
足ケガして病院に行き、これから店に出ますっよ!」(安羅木)『おいおい、無理しないでいいよ。今日はそのまま自宅に帰っていいんだぞ。』
(平野田)「そうっすか。じゃお言葉に甘えて。明日からでまっすよ!」(安羅木)『ん。じゃお大事にな。連絡ありがとう。』・・・(平野田)「これでいいっすか?」

88 :
平野田は、取調べを受けていた品川湾岸警察署3階廊下にある公衆電話から安羅木に連絡を入れたのだ。平野田の両脇に刑事1名ずつが密着していた。
後ろにいた主任刑事の大崎。満面の笑みを浮かべている。(大崎)『ああ。それでいい。上等だ。不自然な感じは無かった。よく出来たな。礼を言うぞ!平野田!』
その後、大崎は、吉原(台東区千束4丁目)を所轄する浅草中央警察署に応援を要請。大崎らが、現場に到着するまで、被疑者・安羅木一郎が逃亡せぬよう処置を施す
依頼をした。万が一のことがあっては厄介だからだ。捜査は、最後の最後まで油断は禁物。詰めに詰めること。長年の刑事(デカ)人生で大崎が失敗から学んだ教訓である。
安羅木は、そのままフロントに座り、芙美江との将来のこと。自分が犯した2件の人事件。その逮捕からいかに逃れるか。考えることは今日もそればかり。すっかり、
平野田の‘猿芝居’に騙された安羅木。ボーとフロントに座り、午後出勤組の姫が店に到着しても、ろくに挨拶もせずであった。

89 :
それから15分後・・・2名のスーツ姿の男性が訪れた。安羅木は、ハッとする。(安羅木)『すみません。いらっしゃいませ。女の子たくさん出勤していますよ(嘘)。
口開けでご案内可能な子、いい子が選べます!待合室へどうぞ!』 し かしである、彼らは入り口で突っ立っている。(男性)「安羅木マネージャーさん?」(安羅木)『はい。私ですが?
あのぉ....?何のご用件でしょうか?』そして、別の1人が上着ポケットから何かを取り出し、安羅木に提示する。安羅木は、みるみる顔が青ざめていく。警察手帳だ。
(刑事)「浅草中央警察署のものです。ここじゃなんですから、ちょっと待合室で話をきかせてもらおうか。簡単にね。言っておくが、店のことではない。君のことだよ。」
(安羅木)『・・・・・・・』 その後、間をおかずに吉原交番の制服警察官2名が自転車でエンペラーに到着。2名は、そのまま店内へ。
さらに、自動車警ら隊のパトカー2台が、先ほど安羅木が芙美江に電話をかけていた駐車場に停車。


90 :
制服警官4名が同じくエンペラーに吸い込まれていく。そして、それを見ていた周囲の同業他店のボーイ達がさっそくチョコチョコ動き出す。
《エンペラーに警察が入ったぞ!ガサかな?!》 《エンペラーが潰されるぞ!》あっという間に、エンペラーに警察が入ったニュースが吉原「村」をかけ巡る。
さらに、ほんの数時間でご近所の鶯谷。さらに大塚や池袋にまでニュースは、尾ヒレがついて、あるいは歪曲された形で伝ぱしていくのだ。・・・
それからしばらくの後、品川湾岸警察署の大崎及び他3名の捜査員がエンペラーに到着した。エンペラー待合室で、無表情の安羅木。
借りてきた猫のように背中を丸め、呆然とソファに身を沈めている。室内には、8名もの警察官がすでに安羅木を包囲していた。(大崎)「品川湾岸の大崎です。お疲れ様です。
御協力ありがとうございます。」 大崎と部下達は、深々と彼らに頭を下げる。(大崎)「安羅木一郎だね?」(安羅木)『はい。』(大崎)「なぜ警察に囲まれているか。
分かってるよな?」(安羅木)『・・・・・』


91 :
(大崎)「西田美幸に対する人及び体遺棄容疑で話を聞きたい。あと、埼玉秩父で発見された白骨腐乱体の件もだ。署まで任意同行してほしい。いいな?」 安羅木は、抜け殻のように脱力し、歩くのがやっとである。
大崎とともに覆面パトカー後部座席に乗車する。〜平和島女性体遺棄事件。40代後半の風俗店員を重要参考人として任意同行。〜その日の夕方、テレビ画面に報道テロップが流れた。それをジッと見つめていたカップルがいる。渋谷広尾の超高級マンションの大型リビングルーム。
女性の微笑に男もまた微笑む。そして、2人は抱き合い濃厚なキスを交わす。・・・・・(続きは次回)

92 :
【小説】「愛の蹉跌」=第19 回= 品川湾岸警察署に連行された安羅木(やすらぎ)一郎。
3階の取調室で無言のまま着席している。入り口ドアの横に、大崎の部下だろうか、40代とおぼしき刑事が座っている。
書記係のようだ。室内にいるのは2人だけだ。外では、テレビ局、新聞社などの報道陣が詰めかけている。それはそうだろう。
平和島の女性全裸体遺棄事件、そらに埼玉秩父で発見された腐乱白骨体遺棄事件が同一犯による犯行だというのだから。
どうせ害もその犯人がやったのだろう。早くも世間は、そう断定していた。世間のイメージの前には、
『被疑者・被告人の無罪推定原則(憲法31条)』など存在しないに等しい。そんなものは、社会では通用しないのだ。
治安悪化が懸念される昨今の日本ではあるが、近年稀にみる凶悪犯罪なのは言うまでもない。
マスコミの餌食になるのは必然というものだろう。当然、安羅木が稼働してきた吉原ソープ‘エンペラー’にも報道記者達が押しかけた。
が、エンペラーは既にシャッターが閉まり、営業自粛となった。


93 :
在籍する姫達は、即日全員退店。在職するボーイ達は、即日解雇が社長の黒澤より電話で言い渡される。
店のホームページも即削除された。老舗有名店のエンペラー。営業再開は困難という他あるまい。
現役マネージャーの逮捕という不祥事により、あえなく廃業してしまったエンペラーである。・・・それからほどなくして、
主任刑事の大崎が入室し、安羅木に対面し机に腰かける。険しい目つきだ。とっさに目をそむける安羅木。
(大崎)「あのな、安羅木。君に対する逮捕状が所より発行された。口頭で読み上げる。よく聞いてろ。いいな。」....
もう何もかも終わった。すべてが終わったのだ。俺の完敗だ。2人もしたんだ。刑判決は免れないだろう。
芙美江は面会に来てくれるだろう。会いたい。.....安羅木は、大崎の話など上の空だ。...(大崎)「おいッ!安羅木!聞いてるのかお前は!」
(安羅木)『は?はい。』(大崎)「今何時だ?」(安羅木)『19時、19時にじゅう......』
(大崎)「ん。19時22分。西田美幸及び佐山治の人及び体遺棄容疑で、君を逮捕する。」(安羅木)『・・・』

94 :
それから1時間ばかり後だろうか、佐山治が白骨腐乱体で発見された通称‘マンホール事件’
の捜査本部が設置されている埼玉県警秩父東警察署の高原に大崎から電話が入る。
(大崎)「先ほど被疑者 安羅木一郎を逮捕しました。被害者 西田美幸のマンション室内より押収された写真3枚の画像をすぐ添付メールで送信します。
被害者 佐山治が所有していたBMW及び登録ナンバーが写っています。もちろん安羅木の姿もバッチリです。
彼が大きな蓋を持ち上げている様子が3枚目の画像にあります。これは、おそらく秩父の遺体発見現場である
マンホール蓋であろうと思われます。ご確認ください。」(高原)『了解いたしました。ご協力ありがとうございます。
で、佐山治はどこで害されたのでしょうか?』(大崎)「安羅木一郎は、佐山治を安羅木が働いていた吉原ソープ店の
店内で害したと。そう自供しています。そして、佐山治の車で遺体を秩父まで運んだそうです。」(高原)『そうですか。』
(大崎)「取調べは先ほど始まったばかりですが、


95 :
東京地検の捜査担当検事からは、佐山治の事件も品川湾岸が捜査するようにと。すでに指示が出ています。
秩父東署さんのほうにも、さいたま地検ですか?検事さんから連絡があるはずです。」
(高原)『では、こちらは捜査本部解散ですね?』(大崎)「そうなると思います。いやぁ、秩父東署さんは、一生懸命やってくれて、
こちらも助かりましたよ。資料もたくさん送って頂いて。あなたとは話が合いそうですな。こんど一杯どうです?(笑)」
(高原)『ですね(笑)。こちらこそ近いうちに。お願いします。』(高原)『ところで、その安羅木何とかという
被疑者逮捕の決め手は何だったのですか?』(大崎)「平和島の女遺体発見現場。そこの近くに落ちていた馬券の紙片です。
そこから前科持ちの指紋が検出された。私がよく知ってる奴で、なんと佐山治からヤミ金で金を借りていた男です。」
(高原)『ほお。』(大崎)「そいつが働いていたのが被疑者と同じ吉原のソープ店だった。奴に、例の3枚の写真を見せたんです。
そしたら、写真に写っている男が安羅木だと判明した。」

96 :
(高原)『指紋の奴が破り捨てた馬券の紙片が、たまたま被疑者の靴底に付着していた。
それが、現場で剥がれ遺留されたと。そういうことですか?』(大崎)「おっしゃる通りです。この馬券が無ければ、
安羅木一郎は浮上しなかったでしょうな。ラッキーでした。」 ・・・そう、ボーイの平野田が、よく店の入り口で
破り捨てていたハズレ馬券。その小さな紙片が、安羅木の靴底に付着してたのだ。
これが安羅木逮捕の有力証拠になろうとは。この紙片が、安羅木の命取りとなったのである。
他方、害された佐山治。彼は、ヤミ金以外に何か大きな収入源があった。それは一体何か?
もちろん、大崎にその話はとっくに伝えてある。しかし、秩父東警察署の捜査本部解散が決まった以上は、
あとは大崎の裁量で、必要ならば継続捜査をやってもらうしかない。事件は自分の手を離れたのだから。・・・
大崎が戻った取調室。再び空気に緊張が走る。(大崎)「なあ安羅木。西田美幸の大まかな話はさっき聞いた。
佐山治の害を知られ、ゆすられていたと。俺の推測通りだ。


97 :
次に、佐山治害の件を話してもらおうか。奴といつ出会ったのか?なぜ害するに至ったのか?
どうやって害したか?遺体を秩父で捨てるまでの経緯を話せ。
おい!聞いているのか?安羅木!佐山治の件は、こちらも情報不足なもんでね。」
数分間の沈黙があっただろうか、ようやく安羅木は、重い口を開き、佐山治害の【真相】を語りだす。
・・・(続きは次回)

98 :
【小説】「愛の蹉跌」=第20回= 品川湾岸警察署3階の取調室。逮捕された安羅木(やすらぎ)一郎は、
秩父にて腐乱白骨体で発見された佐山治との出会いを大崎刑事に話し始める。
(安羅木)「私が勤務していた吉原エンペラーに佐山が初めて来店したのは、2009年2月でした。それ以前も、
彼は頻繁に吉原に足を運んでいましたので、顔は知っていました。彼がヤミ金のパシリであることもです。
当時、上司の横尾という店長がエンペラーにおり、彼と佐山は親しそうでした。」・・・(横尾)「ああ、佐山さん!
いらっしゃいませ。当店初のご利用ですね。有難うございます。」(佐山)『おお!横尾君ご苦労!!
せやな、初めて遊びに来たで!!ええ娘が仰山おる聞いとったさかい、来てみたんや!』(横尾)「有難うございます。
是非当店自慢のコンパニオンとお遊び下さい。安羅木く〜ん!佐山さんを待合室にご案内して!」・・・


99 :
(安羅木)「いらっしゃいませ。飲み物は何がよろしいでしょうか?」
(佐山)『せやな、おッ電話や。おまえちっと待っとれや!』『おらッ!借りたもんキチンと返さんかい!
返済できへんやと?待てるわけあらへんがな!ふざけんなッコラ!なに考えとんじゃい!われ!』
エンペラー待合室に佐山の怒声が響き渡る。ヤミ金債務者に怒鳴りつける佐山。ピンク色のスーツに身を包みサングラス。
身長165cmほどで、体重は100キロはあるだろう。ズボンのベルトが腹肉に隠れて見えないほどの太りようだ。
佐山の怒声に周囲の待客達は仰天する。 ・・・(安羅木)「その後、佐山はたまに来店してました。
が、その年の5月だったか、佐山は、なんと毎週来店するようになったのです。多いときは週に2日、
いや3日来店することもありました。」(大崎刑事)『ふん。それはなんでだ?』

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