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2013年10レズ・百合萌え381: リリカルなのはクロスssで百合萌え(燃え) (179)
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リリカルなのはクロスssで百合萌え(燃え)
- 1 :2009/02/12 〜 最終レス :2013/06/18
- ◆公式サイト
ttp://www.nanoha.com/
◆NanohaWiki
ttp://nanoha.julynet.jp/
◆関連スレ
リリカルなのはで百合萌え(燃え)24ch甘甘生活
http://babiru.bbspink.com/test/read.cgi/lesbian/1227869139/
- 2 :
- 2げと
- 3 :
- で、ここはどうするの?
・落とす
・なのはクロス百合スレとして使う
・オールジャンル百合クロススレとして使う
- 4 :
- オールジャンル百合クロススレにしたほうがいいんじゃね
なのはだけじゃスレ過疎るだろ
- 5 :
- 百合のクロスで面白いのは読んだことないな
設定が中途半端になるし
たいがいどこかにある学園物になるわ、オリキャラみたいになるわだし
- 6 :
- それはまあ、未だ見ぬ名作家に期待と言う事でw
盛り上がらなければ消えるだろうし、利用するならだけど
- 7 :
- 行動が早いなww
百合クロス…盛り上がる事を祈ってる!
取りあえずなのはと神無月のクロスに期待ww
- 8 :
- 昔クロススレに百合が入っているなら百合板に池と言われ・・・
クロスならクロススレに池と言われた俺のSSについに日の目が・・・!
でもデータどっか行っちゃったんだよな・・・orz
- 9 :
- >>8
迷える職人ウェルカムww
記憶を頼りに頼む!正座して待ってるぜ!
- 10 :
- 注意書きさえすれば普通に百合スレに投下でおkだと思うんだが・・・・
- 11 :
- + +
∧_∧ +
(0゚・∀・) ワクワクテカテカ
(0゚∪ ∪ +
と__)__) +
- 12 :
- >>10
それは認識が甘すぎる
- 13 :
- >>10
作品スレに投入する場合どの作品のスレにするのか、とか色々問題は有るからね
クロスされた作品全てに全員が好意的とは限らないし
作品スレで嫌いな別作品と絡まれれば嫌に思う人がいても不思議じゃないしなぁ
それでも立つ前なら自分も立てるほどでは、と思ったかもしれないけど
まあ立って有効に活用出来るならそれはそれでいいんじゃない?
てか利用するなら何かルールの様な物を決めた方が良いんだろうか
- 14 :
- >>13
ルールはどの作品スレでも最低限のものは決めるべきじゃね?
ただでさえクロスオーバーっていう荒れやすいジャンルなんだし、実際クロススレでも大きな問題起こったし
で、そのルールだけど、やっぱりクロスSSスレのルールを模範にした方がいいのかね?
ここは百合板だからそこはちょっとだけ百合仕様に改編して
- 15 :
- なんかクロスssスレテンプレに追放とか書いてあったぞwwなんだよあれww
- 16 :
- >>15
前に他スレの作品から盗作したアホが居たんだよ・・・
- 17 :
- なのはクロススレのテンプレ見てきた
ルールは大体アレに順規でいいかな?
修正点はオールジャンルでやるなら投稿先分ける必要が無いのとオリキャラの扱いをどうするかくらいかな?
個人的にはオリキャラは穴埋め程度に留めた方が良いと思うけど
その辺りは人によって考え違うだろうし
- 18 :
- 俺は百合でなのはが関わった作品ならどんなでもいいよ
なのは以外もOKらしいけどぶっちゃけ百合ならなんでもいいよ
大事なのは投下があるのか無いのかじゃね?w
- 19 :
- 過疎ってるな
やっぱりなのは限定じゃ汎用性なさすぎたか
- 20 :
- 立て直そうか?それとも続ける?
- 21 :
- やはり需要ダケではだめか…最後の望みをかけて立て直すのも有りかな。
- 22 :
- スレルール決めないと建て直しても過疎るだけだろうな。
とりあえず暫定スレルールを確認するけど
・基本はクロススレに合わせる
・カプ制限なし、百合ん百合んならおkkk
で、
・オリキャラどーすんだ?
がある訳だが。ssスレで自己厨荒ししたヴァカが居たから確認しときたいんだが。
- 23 :
- >>22
オリキャラ中心or話の本筋で絡むならアウトでいいんじゃね
- 24 :
- 俺はクロスしてて百合が中心の話ならオリキャラ目立ってもいいと思ってる
なのはを期待してるけど別になのはじゃなくてもいい
下種だけど今は職人を集めることから始めて徐々に
ルールを決めていくしかないんじゃね
- 25 :
- オールジャンルクロスだし、俺は元世界だけしっかり予告投下してくれれば
オリキャラ大活躍でもいいんだがね。
予告無しだと読んでても意味不だし
- 26 :
- とりあえず投下作品の予告として
・大元の作品×クロスする作品
・オリキャラがいる場合はそれを明記およびどれくらい登場するのかなどを簡単に説明
は必須になりますかね?
- 27 :
- >>26
事前に明記しとく方が安全と思う
- 28 :
- そんなとこかな
特にオリキャラは好き嫌い分かれると思うから前もって宣言しておかないとややこしいのに絡まれたりしそうだし
まあ百合スレだけにどっかの同人みたいな俺様主人公X女性キャラになり難そうなのはまだ救いだけど
関係ないけど>>22が何故か見えなくて悩んでたらkx3がNGになってたw
- 29 :
- まあこのスレタイじゃあれだし
百合作品でクロスSSとか無難な感じで改めて誰かスレ立ててよ
- 30 :
- 立て直してまで、とも思うんだけど、確かにこのままのスレタイだと
流れてくる人が総合OKって判りにくいか…
せめて立て直す前にテンプレだけでも纏めたほうがいいかな?とは思うが
- 31 :
- とりあえずテンプレ作りに役に立つと思うから、クロススレのテンプレを転載しとく
これを元に百合仕様にできればいいんじゃない?
【書き手の方々ヘ】
・作品投下時はコテトリ推奨。トリップは「名前#任意の文字列」で付きます。
・レスは60行、1行につき全角128文字まで。
・一度に書き込めるのは4096Byts、全角だと2048文字分。
・先頭行が改行だけで22行を超えると、投下した文章がエラー無しに削除されます。空白だけでも入れて下さい。
・専用ブラウザなら文字数、行数表示機能付きです。推奨。
・専用ブラウザはこちらのリンクからどうぞ
・ギコナビ(フリーソフト)
ttp://gikonavi.sourceforge.jp/top.html
・Jane Style(フリーソフト)
ttp://janestyle.s11.xrea.com/
・投下時以外のコテトリでの発言は自己責任で、当局は一切の関与を致しません 。
・投下の際には予約を確認してダブルブッキングなどの問題が無いかどうかを前もって確認する事。
・作品の投下は前の投下作品の感想レスが一通り終わった後にしてください。
前の作品投下終了から30分以上が目安です。
【読み手の方々ヘ】
・リアルタイム投下に遭遇したら、支援レスで援護しよう。
・投下直後以外の感想は応援スレ、もしくはまとめwikiのweb拍手へどうぞ。
・気に入らない作品・職人はスルーしよう。そのためのNG機能です。
・度を過ぎた展開予測・要望レスは控えましょう。
・過度の本編叩きはご法度なの。口で言って分からない人は悪魔らしいやり方で分かってもらうの。
【注意】
・運営に関する案が出た場合皆積極的に議論に参加しましょう。雑談で流すのはもってのほか。
議論が起こった際には必ず誘導があり、意見がまとまったらその旨の告知があるので、
皆さま是非ご参加ください。
・書き込みの際、とくにコテハンを付けての発言の際には、この場が衆目の前に在ることを自覚しましょう。
・youtubeやニコ動に代表される動画投稿サイトに嫌悪感を持つ方は多数いらっしゃいます。
著作権を侵害する動画もあり、スレが荒れる元になるのでリンクは止めましょう。
・盗作は卑劣な犯罪行為であり。物書きとして当然超えてはならぬ一線です。一切を固く禁じます。
いかなるソースからであっても、文章を無断でそのままコピーすることは盗作に当たります。
・盗作者は言わずもがな、盗作を助長・許容する類の発言もまた、断固としてこれを禁じます。
・盗作ではないかと証拠もなく無責任に疑う発言は、盗作と同じく罪深い行為です。
追及する際は必ず該当部分を併記して、誰もが納得する発言を心掛けてください。
- 32 :
- そこまで大仰なのは必要ないと思う
【書き手の方々ヘ】
コテトリ推奨。トリップは「名前#任意の文字列」で。
作品投下の際には他の書き手の予約がないか確認し、
投下は前の投下作品の感想レスが一通り終わった後にしてください。
【読み手の方々ヘ】
リアルタイム投下に遭遇したら、支援レスで援護しましょう。
必要なのって結局このぐらいじゃない?
あとは百合であることとか、クロスSSというもの自体に関する諸注意。
- 33 :
- 確かにまだ出来たばっかりのスレだからここまでのものは必要ないとしても、
やっぱり盗作うんぬんの諸注意は絶対に入れておくべき項目だと思う
実際盗作が判明したら盗作元に謝罪とかいろいろと問題が出てくるし、スレの雰囲気も一気に悪くなるし
そういうのを考慮すると最低でも必要な項目は
【書き手の方々ヘ】
・作品投下時はコテトリ推奨。トリップは「名前#任意の文字列」で付きます。
・レスは60行、1行につき全角128文字まで。
・一度に書き込めるのは4096Byts、全角だと2048文字分。
・専用ブラウザなら文字数、行数表示機能付きです。推奨。
・作品の投下は前の投下作品の感想レスが一通り終わった後にしてください。
前の作品投下終了から30分以上が目安です。
【読み手の方々ヘ】
・リアルタイム投下に遭遇したら、支援レスで援護しよう。
・気に入らない作品・職人はスルーしよう。そのためのNG機能です。
・度を過ぎた展開予測・要望レスは控えましょう。
【注意】
・盗作は卑劣な犯罪行為であり。物書きとして当然超えてはならぬ一線です。一切を固く禁じます。
いかなるソースからであっても、文章を無断でそのままコピーすることは盗作に当たります。
・盗作者は言わずもがな、盗作を助長・許容する類の発言もまた、断固としてこれを禁じます。
・盗作ではないかと証拠もなく無責任に疑う発言は、盗作と同じく罪深い行為です。
追及する際は必ず該当部分を併記して、誰もが納得する発言を心掛けてください。
こんなところかな
まぁほとんど入ってるような気もしないでもないけど、荒れを抑えるためには少ないくらいだと思う
備えあれば憂いなし
あとはこれの注意欄に
・大元の作品×クロスする作品は予め記入しましょう
・オリキャラがいる場合はそれを明記およびどれくらい登場するのかなどを簡単に説明しましょう
・このスレは百合がメインです。メイン・サブでの男女・薔薇は自重しましょう
この3点を加えれば大方大丈夫だと俺は思う
何か追加・修正案があったら頼む
- 34 :
- 百合作品でのクロスオーバーSSを投下するスレです。
そういうのが苦手な方はお帰りください。
sage推奨。メール欄に「sage」と入れれば下がります。
荒らし、煽り等はスルーしましょう。
【書き手の方々ヘ】
大元の作品×クロスする作品は予め記入してください。
また、オリキャラがいる場合はそれを明記し、どれくらい登場するのかなども簡単に説明してください。
コテトリ推奨。トリップは「名前#任意の文字列」で。
作品投下の際には他の書き手の予約がないか確認し、
投下は前の投下作品の感想レスが一通り終わった後にしてください。
盗作はいかなる場合でも禁止。犯罪です。
【読み手の方々ヘ】
リアルタイム投下に遭遇したら支援レスで援護しましょう。
こんなもんじゃね
まあ俺はこれでも多いと思うけど
つーかそこまで本気でやるんだったら自分でSSの1つでも投下してから言えと
- 35 :
- フィギュア17の二人が中学卒業後に機動六課に配属される事になって
そこでつばさとフェイトが仲良くなってしまいなのはとヒカルが嫉妬してしまうって所まで
妄想した
- 36 :
- とらハキャラとなのはキャラが競演する場合クロスになるんだろうか?
ぶっちゃけ淫獣の代わりにくーちゃんを(ry
- 37 :
- >>36
くーちゃんと入れ替えだとユーノが消えて、くーちゃんが久遠・スクライアとかw?
- 38 :
- >>37
それやると容姿的にフェイトがかなり食われそうだね
- 39 :
- くおんがユーノの代わりに淫獣呼ばわりされたりと叩かれるだけかと
- 40 :
- >>39
フェイなのの邪魔なるとかなら、くおんはアルフと百合らせとけばよくね?
- 41 :
- 過疎ってるけどだからこそ好都合!
こっそり投下しまつ。
■東方×なのは
■百合にはする予定なんだが、かなりヌルメ。
■クロスはクロスなんだが、
それぞれのクロス元作品内での百合CPになると思う。
- 42 :
- ―本の匂い。
八神はやてが初めてこの世界に来て認識したものがそれだった。
少しかび臭いような埃っぽいような、紙独特の匂い。
―…図書館?
冷たい床の上で横たわっている自分を闇が包んでいる。
視界は薄暗く、辺りを認識する事が出来ない。
はやては強く瞬きを繰り返した。
暗闇にぼんやりと慣れてきた目に映るのは本の海だった。
正確には、本棚と、本の海だろうか。
はやての背丈の4、5倍…いや、それ以上はあるであろう大きさの本棚が、
規則正しく延々と並んでいる。
暗くて認識は出来ないが、恐らく天井があるのだろう。
床はタイルのようなもので敷き詰められている。
ということは、ここは室内だろうが
しかし並び行く本棚の先に、壁らしいものを見る事が出来ない。
余程広い空間なのだろう。
そこで辺りを見回そうとして初めて、もっと重要な事実に気付く。
- 43 :
-
―リンクが。
10年以上も前に、繋がってから一度も離れた事の無いもの。
それから2年ほど経って新たに一つ増えたもの。
最近は薄れつつはあったが、はやてが常に感じて忘れた事の無かったもの。
―…リィンフォース?
―シグナム…、シャマル…!ヴィータ!!…ザフィーラ!!!
説明し難い、強い喪失感を感じながら、はやては素早く周りを見回した。
しかし、辺りに見知った守護騎士たちの姿は見え無い。
"…リィン。リィンフォース!"
良く分からない場所で急に立ち上がるのはあまり安全な策とは言えないが、
もはやそんな事は、はやてには関係が無かった。
はやてはいつものように普通に立ち上がろうとし。
"っ…な、"
そのまま崩れ落ちた。
- 44 :
- ―足が。
動かなかった。力を伝える事が出来ない。
はやてにはこの感覚は初めてではなかった。
まるで腰から先に重い丸太がついているかのような感触。
"足が麻痺しとる…"
10年以上前の昔、はやてが毎日馴染んでいた、あの忌まわしい感覚だった。
そしてはやては自分の足を見ようとして、初めて自身の体の違和感に気付いた。
"小さくなって…"
体が小さくなっていた。
はやては慌てて自分の手を見つめてみた。
やはり、幼子のそれだった。
"若返っと…る?"
- 45 :
-
鏡が無いので自分の顔を確認する事は出来なかったが、恐らくはそういうことだろう。
はやては冷や汗がドッと自身の背中を伝うのを感じた。
どうやら体が若返っていて、歩く事が出来ず、
守護騎士たちとのリンクも切れている上に、此処が何処かが全く分からない。
相当危機的な状況であるが、そもそも何が起こって、
自分がこの様な状況に置かれているのかが、理解出来ない。
するとこつこつとした足音と共に、
灯りが徐々に近付いてくるのをはやては感じた。
驚きと共に、はやてはそちらに視線を移した。
"…、…新しい鼠発見ですかね"
灯りが角を曲がってこちらを向いて急に一際明るくなったと思ったら、
いつの間にかメイド姿の少女が、はやての上に跨り、はやての頬にナイフを突きつけていた。
はやては一瞬の出来事に驚いてびくりと肩を震わせたが、
メイドはふぅん、と呟いて不躾にじろじろとはやてを眺めていた。
- 46 :
-
"あの"
"あら、喋りましたね"
"ここは"
"図書館です"
"はぁ…それは分かります。え、えぇっと何処の…"
"知らない場所で寝転んでいるとはこれいかに。紅魔館です"
"紅魔館…"
聞き覚えの無い単語に、はやては眉をひそめた。
はやての頭はパニックを通り過ぎ、冷静になりつつあった。
メイドにナイフを突きつけられてはいるが、気は感じない。
此処が未だに何処かは良く分からないが、人もいるし、言葉も通じる。
ナイフをいきなり突きつけられたが、傷つけられそうな感じはしない。
"私、八神はやてと言います。お姉さんは"
"これは寝転がったままご丁寧に。十六夜咲夜と申します。紅魔館のメイド長ですわ"
"咲夜さん…よろしくお願いします。
すいません、私が寝転がったままなのは、実は起き上がれなくて"
"ご丁寧にどうも。あら?その年でぎっくり腰ですか?"
"いえ、実は足が不自由で…"
咲夜は若干驚いた顔を見せたが、ナイフをしまうと、
あのスキマが場所を少し間違えたのかな?と小さく呟いた。
- 47 :
- 今回の投下は以上です。
こんな感じで今度こっそり投下させてもらおうと思ってまつ。
では。
- 48 :
- 寸・止め・だ・・・と・・・?
ええいっ!全裸で正座してればいいんだなっ!
- 49 :
- こっそり。
二晩かけてお邪魔するッス。
今からしばらくスレお借りします。
- 50 :
-
"っ…!"
はやては若干目を丸くしたが、先ほどのように大きく驚く事はしなかった。
咲夜がはやてをそっと抱き上げたかと思うと、
気付くとはやては少し開けた広間のような場所にいて、
目の前には大きなテーブルと小さなランプがあり、
そこには寝巻きを着た少女が座っていた。
辺りにはやはり本棚があるので、
場所としては先ほどのところからそう遠くは無いのだろう。
―空間転移の類やろうか。
そんな事を考えながら、
頭の中で目まぐるしく分析を続けているはやてを抱いたまま
咲夜が寝巻きの少女に話しかけた。
"パチュリー様。図書館で見つけたのですが"
"…鼠?"
少女は本を読んだままで、視線を上げようとはせずに小さく返事をした。
- 51 :
-
"いえ、最初はそうかと思ったのですが…。どうやら餌(え)ではないかと。"
"あれが放り込む場所を間違えたという事?ここを倉庫か何かと勘違いしたと?"
"初めての事ではありますが。…ここも倉庫とそう変わりありませんし"
"…否定はしないけど、覚えてなさいね。
……しかし、それでは厳密には契約を破る事になる。
そんな愚かな事をあれがするかしら"
ぶつぶつとそう呟くと、パチュリーと呼ばれた少女はようやく顔をあげ、
じっとはやてを見つめた。
はやては咲夜の中でぺこりと頭を下げて挨拶をした。
"初めましてパチュリーさん。私は八神はやてと言います"
"…へぇ。喋ったわね"
"えぇ。さっきは床に転がったまま喋っていましたわ"
"ふむ、足が不自由なのかしら?"
"、のようですね…ですから"
"しかし餌にしては"
そう言うと、パチュリーは手をこまねいた。
すると咲夜と、腕の中のはやては一瞬にして、パチュリーの目の前に移動していた。
- 52 :
-
"むきゅ…。近過ぎるわよ。もう少し離れなさい"
"失礼しました"
"ん。…貴女も感じてると思うけど、餌にしてはなんて言うか…"
"元気ですね"
"そうね、足が動かないにしても。何だか元気ね。
だって話しかけられてもいないのに、喋るなんて。それに…魔力を感じるわね"
"じゃあ外の人間ではないと?どうやら紅魔館についても良く分かっていないようですが…"
"うーん…、どうかしら。でも多分…、
ん…何か混じっているようね。
でもハーフや半獣の感じとも違う…"
パチュリーは、無遠慮にぺたぺたとはやての頬を触ると、
そのままはやての瞳を覗き込んだ。
"もしかしてその足もただの病気じゃなくて呪い(カース)の類かもしれない"
"呪いですか。"
"…あの"
はやては思わず口を開いた。
咲夜とパチュリーの2人は黙ってはやてに続きを促す。
"そのう…私、何が起こったか全く覚えてえぇへんのです。
ここが紅魔館というのは先ほど咲夜さんに教えてもらいましたが心当たりがあらへんのです…
で、えぇっと…その、ここは一体何処でしょうか?"
"…ふむ。記憶喪失ね。
ここが紅魔館と言う事を知っていて更にここが何処かを聞く、という事は…場所を知りたいのかしら?
でもこの辺の場所に名前なんて無いわよ。
強いて言えば…そうね。ここは幻想郷。全ての失われた幻想が集う所。
貴女が聞きたいのはそういうこと?"
"…幻想郷"
"聞き覚えある?"
はやては首を横に振った。
特に心当たりのある名前では無かった。
- 53 :
-
"じゃあやっぱり外の人間ですかね"
"…そうかもしれないし、違うかも知れない。
貴女は自分が何処から来たかは覚えてる?"
"えぇっと……、"
はやては、口を開きかけたが、また閉じた。
何処まで説明すればいいのかが、分からなかった。
この世界が管理世界なのか、管理外世界なのか、それすらはやてには分からなかったが、
今はまだ迂闊にぺらぺらと管理局の話をするべき状況ではなさそうだった。
この短い会合の中で、2人がはやてに対して悪意のようなものを
持っていないようなのは確かではあったが
はやて自身、この世界の事を何も把握していないのだ。
幻想郷というのはこの周辺の場所の名前なのか、
それとも世界全体の名前なのか。
幻想郷が一つの世界なのだとしたら、管理局ではどう分類されている世界なのか。
そしてはやては何故ここにいるのか?
何故若返ってしまったのか?
何故守護騎士達とリンクが外れているのか?
捜査で来ていたのか、何かの事故に巻き込まれたのか、
それとも他に何か理由があったのか。
はやてにはそれら全てが分からなかった。
先ほどからその辺りを思い出そうと、考えてはいるが全く思い出せなかった。
- 54 :
-
"…本格的な記憶喪失なようね。名前だけでも覚えていたのは僥倖ね。"
"いかがします?"
"そうねぇ…。ちょっと気になるし、しばらくそのまま置いておいて。
レミィの事だから、どうせ餌も消費しきれないでまだ残ってるんでしょ?
一人分くらい足りなくてもどうって事無いだろうし"
"…いいですけど、世話は誰がするんですか?
歩けないというのは中々大変ですよ"
"…適当にお願い。ダメなら小悪魔にやらせるけど"
"はぁ…"
咲夜は一瞬呆れるような表情を見せたが、やがて腕の中のはやてを見下ろし、
そして慈しむような表情を見せた。
"こんな子供の世話を小悪魔にやらせる訳にもいかないか"
- 55 :
- 今回は以上です。
お付き合いありがとうございます。
2chにss投稿するの久しぶりなので何かやらかしてたら言ってやって下しあ…
ではまた。
>>48
今日は暑かったから良かったけど、
全裸だと偶に風邪を引くから、素人は気をつけたほうが良い
って藍様が言ってた。
- 56 :
- >>55
よし、更に正座してるぜ!
・・・ぱんつだけは穿いておくよ
- 57 :
- お邪魔します、投下します。
長々ダラダラしてて申し訳ない。
結構長くなる予定ですが、マイペースに行くつもりです。
あと注意事項で書き忘れてたんですが
■かなりのオリ設定満載
■半オリキャラみたいのも出てくる
■割と鬱展開
かもしれないのでそういうの苦手な方はスルーして下さい。
ではしばらくスレお借りします。
- 58 :
-
―あぁ、そうか。これは空間だけに干渉しているのではなくて、ひょっとしたら
時間軸にも干渉しているのかもしれへんな、
とはやては心で呟いた。
咲夜に抱かれたまま、はやてが3度目に突然移動した先は、大きな寝室だった。
はやてはいつの間にか大きなベッドの真ん中に横たわっており、
ベッドの脇には咲夜が、
まるではやての為にあつらえたようなサイズの着替えを持ち、立っていた。
ただの空間転移でこのような芸当が出来る筈が無い。
しかし、だとしたらそれは驚異的な事実だ。
時間に干渉する魔法など、文献ではいくつか読んだ事があるが
はやて自身は実際に見た事が無いし、見たという人間に会った事も無い。
管理局が次元を超えて多世界を渡航する技術を持ってる以上、
大掛かりな装置を使用すれば理論的には不可能ではないのだが、
一個人がデバイスも詠唱も無しで使用出来る類の魔法ではないのだ。
無数にある世界には、管理局の魔法通念、概念、
論理が全く意味を成さない世界があるとは聞いていたが
もしかしたらこの世界はそう言った世界の一つなのかも知れない。
しかし、裏を返せばそれは。
―もしかしたらかなり厄介な世界に紛れ込んだかもしれへん…
はやてはうっすらとした絶望に包まれるのを感じた。
管理局の持つ理論で魔法体系が成形されていない世界と言うのは
つまりは管理局がそもそも観測出来ない、認識出来ない世界、という場合が非常に多い。
管理局は多次元の世界の渡航を可能とし、それらを個別に分類して管理しているが、
それは無限の次元体から見れば、
いくつかの有限の次元の面の上を移動しているに過ぎない。
管理局が観測しえない、そういった世界、というのはそもそも存在すら曖昧だし、
一体どんな世界が、どれくらいの規模で存在するのかすら分かっていない。
ただ、そういう世界はあるだろう、としか予測出来ない。
管理局側からは存在すら曖昧な世界に行く事など、当然出来はしない。
- 59 :
-
しかし、稀に。
極稀に、奇跡的に並列に並び、次元が重なり合った横の世界同士の繋がりで。
通常ならば、それらの、管理局が識別すら出来ない世界へと
管理局員やその世界の住人が飛ばされる事がある。
まるで"神隠し"にあったように。
そういった時に、そうなった人物が戻ってくる可能性は極めて低い。
記録上、戻ってきた、という人物もいるので不可能ではない。
が、行く事も出来ない世界から当然戻ってくるすべもある筈が無く。
大抵の人間は戻ってこれない。
この世界は、言葉も通じるし、人は人らしい格好をしているが。
はやてはここがそういった世界の一つでは無いか、
という確信をぼんやりと持ちつつあった。
"緊張してるの?"
"ほえ、いやぁ…"
"そう?さっきよりちょっと静かね"
"そういうわけでも無いですけど…"
はやては苦笑を漏らした。
すると咲夜もまた柔らかく微笑んだ。
"この館の主であるレミリアお嬢様は今お休みだから。
ご挨拶はまた後でね"
"はい"
"あまり憶測で楽観的な事は言えないけど…貴女なら多分何とかなるわよ"
"え?"
"そう。餌(え)の話"
"あ、その餌って言うのは…"
"あぁ…つまりうちのお嬢様って吸血鬼なんだけど…その、"
"え、えぇええ!?"
"随分と驚くわね"
"そりゃ…"
"貴女のいた場所にはそういうのいなかった?"
はやては半笑いを浮かべ、無言で首を横に振った。
咲夜は思案気に、自身の手を頬に添えた。
- 60 :
-
"やっぱりそうなんだ…じゃあ貴女は外の人間なのかしら"
"外って"
"まぁ詳しい事はまた明日話すから。
今日はもう遅いし休むといいわ。"
"は、はぁ…"
はやてはただただ困惑して、どう返したらいいものか迷っていた。
意味の分からない状況にあって、見知らぬ場所に自分がいると思ったら
いきなり自分がいるのが吸血鬼の館だと言われ、
しかも自分がその餌(えさ)かもしれないと聞かされて
全く動じずにいられるはずも無い。
しかし咲夜があまりにも淡々としているので、
何だかどう反応していいか困ってしまう。
"やっぱり"
"?何です?"
"餌(え)らしくないわね"
"…?"
"ちゃんと話を聞いた上で、冷静というか…
普通はこっちの話を聞いてすらいない感じに無反応か、
激しく取り乱すかのどちらかなんだけど"
"はぁ…"
そう言われましても。
はやては心の中で突っ込みを遠慮なく入れてみたが、
実際には曖昧な相槌を返した。
咲夜はすると、優しい手つきではやての頭に手を置き、
励ますようにはやての頭を撫でた。
- 61 :
-
"一人で着替えられる?"
"えぇ…大丈夫です。慣れてるんで"
"そう?…お風呂は大丈夫?"
"いや、…そんなに汗もかいてへんですし、今日は別に"
"遠慮する必要なら無いわよ?"
"や、本当に!"
"そう"
咲夜は頷いて、そのまま着替えをはやてに手渡した。
"この部屋は客室だから、好きに使っていいわよ。
と言っても、貴女の足じゃベッドの上しか使えないかも知れないけれど…。
今日はもう言ってるうちに朝になるけど、そしたら朝ごはんを運んでくるから。
多分自分が思ってる以上に疲れてると思うから、
少しは休んだ方がいいわよ。
トイレとか…他にも何か用事があればそこの鈴を鳴らしてくれればすぐに来るから"
"はい…。ありがとうございます"
"気にしなくていいわよ、私はこれが仕事だから"
"はい…"
それじゃあ、と言うと咲夜は辺りの灯りを落とした。
元々全体的に薄暗い館ではあったが、
部屋は、ベッド脇の灯りのみに照らされ、さらに暗くなった。
- 62 :
-
"あの、おやすみなさい"
"…おやすみなさい"
はやてが挨拶をすると、咲夜は若干間を空けて、
少し笑みを含んだ声で挨拶を返した。
そして扉を開閉する音をさせることなく、咲夜の気配のみが唐突に消え去った。
はやては小さく溜息をつくと着替えを済ませ、横になった。
今の状況を考えれば眠れる筈も無いし、
状況の整理と今後の計画を立てないとあかん、
とはやては冷静に思っていたが、直に瞼が重くなってきた。
それ所じゃないやろう八神はやて!と自分自身を叱咤し、突っ込みをいれる一方で、
抗いがたい眠気は徐々に強くなっていき。
はやてはそのまま眠りについた。
そしてまた一つ、八神はやては大事な事を忘れた。
- 63 :
- という感じで今回の投下は以上です。
お付き合いありがとうございます。
>>56
褌ならこーりんて言う所だけど、とりあえず何となく、ザッフィー乙!
そんな君に残念なお知らせだ。
ザフィーラは多分殆ど登場しない。
- 64 :
- 問題ないっっっ!!!
- 65 :
- しばらくお借りします。
- 66 :
-
館の何処かの部屋で、誰かが何度か苦しそうに咳を繰り返した。
その音でレミリアは目が覚めた。
そこまで大きな音だったわけではないが、
人間の非ではない身体能力を持つレミリアには
充分に聞える大きさの音だった。
喘息持ちの親友が発する、聞き慣れた慢性的な咳の音ではなかった。
レミリアには、その咳をした者が誰かが良く分かっていたし
その咳が何を意味するかも理解していた。
彼女はベッドに横たわったままその音をじっと聞いていたが
やがてその音が唐突に消えると、実に忌々しげな表情をして
母国語で幾つかの呪いの言葉を吐いた。
そして考え込むようにまた目を瞑った。
―ことを急ぎすぎてしまったかもしれない…
苦々しい気持ちでそう呟く。
- 67 :
- 運命という奴はいつだって複雑に絡まりあった糸のように
お互いがお互いに干渉しあう。
レミリアは運命を操る事が出来るが、
本当に自分の思う通りにそれを変えたいと思うのならば
本来は余程慎重に様々な未来を見通し、
それぞれの絡み合いを考えながら、
じっくりとゆっくりと、欲しい運命を手繰り寄せなくてはいけなかった。
運命を繰る、というのはそういう事だった。
レミリアは、ある一つの大きな運命を何とかしたくて
必になっていたが、それは始めから既に思わぬ展開になり始めていた。
彼女が欲しかったものは、
今、客室のベッドで横たわっている足の不自由な少女ではなかった。
恐らく柄にも無く、焦りすぎたのだ。
レミリアはそう思った。
―しかし残された時間もあまり無い…
じりじりとした焦燥感だけが、そこにあった。
あの少女が、せめて、招かれざる客では無いといいけど。
柄にも無くそう祈りたい気分だった。
- 68 :
- 今回は以上です。
かなり短めで申し訳ない。
キリがイイ所で一旦区切りたく。
>>65 それは良かっっった!!!
- 69 :
- 今晩は。お邪魔します。
しばらくお借りします。
- 70 :
-
ガラスの向こうで、フェイトが大きな声で何かを叫んでいた。生憎と何を言って
いるかは聞えなかった。2人を隔てるガラスはそれだけ分厚かったし、頑丈だっ
た。しかし彼女はそんなガラスなどものともしないように、必にこちらへと手
を伸ばそうとしていた。ガラスに手が伸びれば、恐らくそれを破壊してでもこち
らへ来ようとする勢いだった。フェイトの端整な顔は、涙でぐちゃぐちゃになっ
ていたが、しかしそんな様子ですらも、フェイトのそれは一つの絵画のようだ。
はやてはそんな事を他人事のように思う。
そしてなのはが、フェイトを必に制止していた。なのはもまた泣いていた。普
段のフェイトなら。なのはを大事に大事にしているフェイトなら、そこで暴れる
のを止めただろう。しかしフェイトはまるでそれを無理やり振り切るように、何
度もなのはの腕を払おうとした。
(そんな風に泣いて欲しかったわけじゃないんやけどなぁ)
ぼんやりとした意識の中で、はやての心がじわりと痛んだ。なのはにも最後の最
後に辛い役割を押し付けてしまった。2人のことだ、しばらくすれば仲直りする
だろうが、あの様子ではもしかしたらしばらくはシコリが残るかも知れない。そ
れはあまり楽しくない想像だった。はやての中の2人は、いつも一緒に笑ってい
て欲しかった。はやては2人の諍いの原因を作る事になりそうな今の状況を憂い
た。しかし、こうするしか他に方法が無かったのだ。フェイトだけでなく、なの
はだってクロノだってカリムだって皆大反対する事がわかっていた。だから、は
やてはこれを誰にも相談することなく、黙って受け入れる事にした。なのに結局
なのはとフェイトには隠しきれなかった。2人を過小評価していたつもりは無い
が、はやてのツメが甘かった。その結果が、この、楽しくも無い情景を2人に見
せる事となってしまった。
(あぁ…ごめんなぁフェイトちゃん。ごめんなぁなのはちゃん)
はやては出来ればそう謝りたかったが、それももう叶わなかった。今のはやては
念話の使用すら出来なかった。せめてフェイトやなのはを安心させるように笑い
かけられれば良かったが、はやては全身に力が入れられず、ちゃんと微笑めたか
どうかが自分では良く分からなかった。先ほどまでは、腕や体を固定する拘束具
の感覚もあったが、その感覚さえ…いや、はやてには既に体の感覚が無かった。
走る激痛で思わず体が動いてしまうかもしれない、という理由で拘束具をつけら
れたのだが、この様子では痛みらしい痛みは感じられそうになかった。
そう思ううちにも、ぼんやり、ぼんやりと意識が拡散していく。初めてのはずな
のに、何処か懐かしいその感覚に、はやては少し安堵を覚えた。納得はしていた
が、はやて自身が、やはり何処かに恐怖を感じていた。はじめる前、はやての腕
が震えていたのを、拘束具を取り付けた局員は確かに感じていただろう。しかし
その局員の手もまた震えていたし、彼女の手は汗でしっとりと濡れていた。はや
てはそれでまるで今から自分に起こる事が他人事のように感じられ、少し可笑し
くなってしまって、震えが止まったのだった。
- 71 :
-
事が終った後に、フェイトちゃんが局員たちに乱暴をしなければいいんやけど、
とはやてはふと思った。今回の事は誰が悪い訳でもなく。強いて言えばはやて自
身が昔払わなかったツケを今払う事になった、ただそれだけの話なのだ。しかし
あれでフェイトは意外と短気で激情型なのだ。友人達からは、好戦的で砲撃魔の
ような呼び方をされるなのはだが、なのはの方が余程冷静で、周りをいつも良く
見れている。しかし今はそんななのはの腕から逃れでたら最後、フェイトは落ち
着くまで何をするか分からない。それが分かっているからこそ、なのはも必で
フェイトを食い止めようとしているのだろうが。
ガラスの向こうでは、フェイトが未だ激しく泣き叫んでいた。はやての意識はど
んどんと虚ろになっていったが、そんな中でもはやての胸はじくじくと痛んだ。
出来ればいつかのように、フェイトの元へ駆けつけ、その涙を拭い、抱きしめて
あげたかった。
しかしそれももう叶わない。
それは、もう未来永劫叶わない。
(あぁ…、痛い、な)
胸が切り裂けるように痛い。
これが事前に説明された、激痛なのだろうか。
痛くて痛くて仕方無い。
痛い、痛い、 痛い、、 痛い、、、
既に意識は殆ど朦朧としていたが、
もう痛みの事しか考えられないくらい痛い。
(あぁ…ご、めんな…フェイトちゃん)
そして八神はやての意識は激痛の中で闇に落ちていく。
- 72 :
-
「っ…!」
はやては突然目を覚ました。目覚めは唐突で、意識は急に浮上した。あまり気持
ちの良くない夢を見た気がしたが、内容は覚えていなかった。寝汗を掻いた様
で、若干気持ち悪い。しかし起きたばかりだが、はやての意識ははっきりしてい
る。今自分が何処にいるかも分かっている。そう、紅魔館の客室だ。昨晩案内さ
れて、すぐに眠ってしまったらしい。はやては時間らしいものが確認出来無いだ
ろうか、と上体を起こそうとし、
「目が覚めた?」
「うあっ!」
いきなり目前に咲夜の顔が現れ、驚いて大声を上げた。いくらはやてが咲夜の時
間を切り離したようなアクションに慣れてきたとはいえ、起きたばかりでいきな
り顔を覗き込まれたら、それは驚く。
咲夜は気にする風でもなく、おはよう、と言ったので、はやてもおはようござい
ます、と小さく返した。
(マイペースな人やね…)
未だにはやての心臓は少しどきどきしていた。元々がはっきりとした目覚めでは
あったが、はやては今ので完全に目が覚めた気がした。そんな事を考えている間
に、ベッド脇のテーブルの上にはいつの間にか水を張った洗面器が現れ、咲夜が
それにタオルをつけた。咲夜は手馴れた様子でそれを絞った。
「顔を拭きなさい。体はその後拭いてあげるから」
「え…はい、ありがとうございます。でも体は別に」
「寝汗掻いてると思うから。慣れてるし大丈夫よ」
「えっと…」
「まぁまずは顔を拭いて」
「はい…」
体を拭いてもらうのは確かにありがたい。出来れば風呂に入りたいところだが、
この際贅沢は言っていられない。昔体が不自由な頃は確かにヘルパーにそうやっ
て簡易的に体を綺麗にしてもらった事もある。だが今のはやては体が子供の頃に
戻っているとはいえ、精神的には大人なのだ。素っ裸になって、他人に体を拭い
てもらうのは、いくら同性とは言えかなり抵抗がある。
- 73 :
-
しかし、そんなはやての戸惑いなど関係ないように、咲夜ははやてにタオルを手
渡した。はやては促されるように、顔をタオルに埋めた。洗面器に入っていたの
は水ではなく、お湯だったらしい。熱いタオルで顔を拭くと、はやては心地好さ
にほっと安堵の溜息をついた。咲夜は黙ったままそれを見守っていた。
咲夜は、はやてが目覚める直前まで静かに、ただ静かに涙しながら眠っていたの
を知っていたが、それを特に指摘するような事はしなかった。はやては自分が泣
いていた事には気付いていなかった。
「あの、自分で出来るんで」
「貴女のその足じゃ時間かかるでしょ」
「でも別に大丈夫ですって」
「大丈夫、一瞬で終るから」
「いやぁそういう問題じゃ」
「…?じゃあどういう問題?」
「いや、つまり…、ちょお恥ずかしいと言うか…」
「子供が何を恥ずかしがってるの?」
咲夜は実に不思議そうに首を傾げた。涼しげな美人は何をやっても様になる。
顔のつくりは、端整な北欧系とでも言うのだろうか。そういった造作はフェイト
に若干似ているが、咲夜とフェイトでは全く立ち振る舞いが違っていた。
(うぅ…あんまり周りにいなかった人種や……)
はやては頭を抱えたくなった。友人達は皆その辺の空気を読む機微には実に長け
ていたし、寧ろはやての周りはどちらかというとそういう事に必要以上に恥じら
いを持ちそうな者が多かった。シグナムやフェイトなどはその典型だろう。はや
ては、そういう人に必要以上のスキンシップをし、恥ずかしがる相手をからかっ
て楽しむ側だったというのにどう言う事だろう。小さくなったせいもあるのかも
知れないが、思えばこちらに来てからずっとペースを乱されてばかりである。
「はい、終わった」
「って嘘!」
いつの間にか終っていたらしい。着替えまで済ませられていたはやては、確かに
体がすっきりとしているのを感じた。
(下着まで替えられた様な気が…いや、替えられたんやろうな…うぅ……)
はやては羞恥心で顔を赤く染めたが、咲夜はそんなことは何処吹く風といった様
子だった。
- 74 :
- 今回は以上です。
お付き合いありがとうございます。
文章が長くなったので、文体を少し変えましたが
深い意味はないので、あまり気にしないでいただけると。
行き当たりばったりでサーセン。
では。
- 75 :
- よしまた正座して待ってるよ。
- 76 :
- 正座して待つこと1ヵ月半か・・・
- 77 :
- ご無沙汰してます、しばらくお邪魔します
- 78 :
-
「…やっぱり呪(カース)で間違いないと思う」
「カース?」
「呪いって事。貴女の足が動かないのは何らかの呪いの力が作用しているのよ。
小悪魔はどう思う?」
「うーん…確信は持てませんが、僅かにそれとなく匂う気はしますね…」
小悪魔と呼ばれた少女が、ひくひくと鼻を鳴らした。同時に頭の上の羽根もぱたぱと
動く。小悪魔、という名前と、図書館の司書をやっている、と紹介された。位置づけ
的にはパチュリーの使い魔の一種だろうとはやては考えていた。が、それにしても変
わった姿をしている。はやては猫耳の塚今も犬耳の使い魔も知っているが、翼耳の使
い魔に遭遇した事は無かった。
パチュリーは、その小悪魔の同意に、うん、と小さく呟きながら、体を起こした。
「…しかし問題は何の呪いかって事ね…、見たことの無いパターンのようだし」
「そうですねぇ…」
「まぁいいわ。
呪なんて種類は星の数ほどあるし、見たことの無いものの方が多いのだから。
まぁ時間はあるし、じっくり調べましょう。
ただ本格的に調べる前に、一度永遠亭の薬師にも診せた方が良いでしょう。
連れて行くのは…大変そうだから。
咲夜に言って、一度招いてもらえる?」
「はい」
「で、貴女…はやて。1日経って少しは記憶が鮮明になったかしら?」
「…えぇ。まぁ…」
はやては曖昧に微笑んだ。あれからしばらくして、またはやてはこの図書館に連れて来
られた。パチュリーは挨拶もそこそこにまた唐突にはやての体を調べ始めたが、とりあ
えずは満足したらしい。
「何処に住んでたかは覚えてる?どうやってここへ来たかも」
「んと。…。…"海鳴市"、言うとこに住んでたんですけど…
ここに来た経緯は全く…気付いたらここに…」
「海鳴市…日本ね。…じゃあやっぱり外の世界の住民で間違いないのかしら……。
足はいつから?」
パチュリーは机にある書物を無造作に取るとそれをぱらぱらと確認した。はやてが少し
驚いた事に、それは良く見ると日本地図のようだった。とすると、外の世界とは、ミッ
ドチルダなどではなく、はやての最初の故郷、地球の事だろうか、とはやては推測する。
- 79 :
-
「足は物心付いた頃からです。
え、えぇと私からも質問なんですが、外の世界とは…?」
「…そうね、…外の世界は外の世界としか言いようが無いけれど。
つまり貴女の住んでた所、って事。
近代化が進み、"自動車"が地を這い、"飛行機"とかいうものが空を飛んでいる世界。
…私も昔はそこの住民だったのだけど、大分昔の事だから今はどうなってるのかは、
本の知識からしか分からないわ。
ここは幻想郷という場所だ、というのは昨日説明したわよね?
幻想郷は博麗大結界によって外から遮断された閉ざされた世界なの。
ここには外の世界で幻想となったあらゆるものが集う」
「幻想…魔女とか、吸血鬼、とか悪魔、とかですか…?」
「理解が早くてよろしい。そういうこと。妖怪もいればモンスターもいる。
人里もあるから、そっちへ行けば普通の人間もいるけど。普通じゃないのも多少はい
るわね。
…足がずっと動かなかったと言う事は寝たきり…?どうやって生活してたの?」
「車椅子があったので。
私は物心ついた頃から親はいなくて一人で生活してました。
…最近は親戚の家族と一緒に住んでたんですけど。
咲夜さんの、時間を止めたりしてるっぽいあれも魔法ですか?」
「咲夜のは単なる能力で、魔法じゃないわ。
咲夜は"時を操る程度の能力"を持つ。あれで彼女、人間よ。
ただの人間にあんなのをほいほい簡単に魔法として使われたら、
私や他の魔女達が長い歴史をかけて構築してきた魔法理念は完全に崩れてしまうわ」
「ははぁ…」
外には魔女がいない、ということはそこには魔法の概念が無いと言う事だ。やはり外の世
界は最初のはやての生まれ故郷、とみて良いようだ、とはやては考える。懸命に理解を進
めようとしているはやての表情を見て、パチュリーは満足そうに微笑んだ。しかし、その
後すぐに小さく咳をし。やがて、その咳が止まらず大きくなった。小悪魔が慌てたように
背を撫で、水を渡す。
「パチュリー様はこれで喘息もちなんです…すいません。
ちょっと張り切りすぎたんでしょう。
久しぶりに色々お話できて楽し」
「小悪魔」
回復したパチュリーが小悪魔をじとりと睨みつけ、言葉を制した。すると小悪魔は愉快そ
うに肩を竦める。その様子がおかしくてはやてはついつい笑みを漏らした。
- 80 :
-
「…単刀直入に聞くけど。貴女は魔法とか、霊力。もしくは超能力のようなものを使える?」
「いえ」
「そう…」
気を取り直したパチュリーがはやての目を真っ直ぐ見て質問をする。はやても目を見つめた
まま答えた。未だに少し混乱していたが、だからこそはやては当分は管理局や自身が魔道師
である事は黙っていようと決めていた。管理局についての認識があるような世界には思えな
かったが、無駄に警戒をされたくなかったのだ。
(我ながら嘘を吐くのが上手くなったもんやね…)
はやては心の中で自嘲を漏らした。小さい姿になっても、嘘は大人のように吐けるらしい。
パチュリーも咲夜も、そして小悪魔も。今まではやてが出会った紅魔館の住民は皆変わって
はいるが、はやてに対しておおむね好意的だった。しかしはやてはそれを裏切る行動をして
いる。
はやてが嘘を吐いたのは初めてではない。管理局の仕事上、指揮官、捜査官という立場上は
やてが嘘を吐かなくてはいけないことは少なくなかった。はやてはいつも一つ嘘を言うたび
に身が重くなるような錯覚を覚える。そして親友のなのはやフェイトが、潔癖で誠実な彼女
達がそれを知ったらどう思うだろう、と心の片隅でそっと考える。その疑問に結論が出た事
は無い。
パチュリーは、はやてをじっと見つめていたが、また口を開いた。
「貴女は微弱ながら魔力があるし、普通の人間ではない何かが混じっているように感じる。
そしてその足は多分呪いにかかっている。
心当たりは何も無い?全く?」
「…はい」
「そう…」
パチュリーはしばし考えこむように、右手を頬に当てたまま、またはやてをじっと見つめた。
小悪魔は目を細め、その隣に黙ったまま佇んでいる。はやては静かな威圧感を感じたが、し
かし、そのままパチュリーをまっすぐ見つめ返した。
やがてパチュリーはまぁいいっか、とぼそりと呟いた。
- 81 :
-
「しばらく色々と調べさせてもらうわ。
でも少し時間がかかるかもね。…貴女本は読む?」
「え、えぇ…一人だとそれくらいしかする事あらへんですし…」
「じゃあ暇な時はこの図書館は好きに使っていいから。
貴女が読めるような本は小悪魔に言えばいくらでも持ってきてくれる筈。
その足じゃそうそう移動も出来ないだろうけど、
咲夜を呼べば館内は好きに移動できると思うから気兼ねなく呼びなさい」
「…はい。でも、あの」
「……」
言いよどんだはやてをパチュリーは無言で目を細め、先を促す。
はやては目を反らさずにそれに答えた。
「私は、外の世界に戻りたいです。」
「…そう。そう言うと思った」
「お世話になっておいて…すいません」
パチュリーはふぅと小さく溜息をついた。
小悪魔は微動せずににやにやと微笑んでいる。
「別に謝られる言われは無いわ。
ただ残念ながらこの世界に来た人間はそう簡単に外に戻る事は出来ない。…不可能ではないけ
れどね。それにここはそう悪くない場所よ。昔は危険も多かったけれど、今はルールがあって
人間も安全を保証されてるし。
外の世界は便利にはなったけれど、その分人同士の繋がりが薄まったと聞く…貴女のその足な
ら色々と不愉快な思いもしたんじゃないかしら?私は外の人間がどういう生き物か知っている
つもりよ。ここではそんな思いはしなくて住む。
レミィの許可が下りればここにずっと住んでも構わないし、人里の方に紹介する事も出来る。
幻想郷に迷い込む人間は貴女が初めてでは無いけど、大抵がここに住む事に満足する。
それでも帰りたい?」
「はい。…家族が待っているので」
「家族、ね。さっき言ってた親戚の?」
「はい」
はやては真剣に頷いた。大切な、大切なはやての家族。リンクは未だに途切れたままだが、はや
ては彼女達が自分の帰りを待っていると信じていた。はやての人生は彼女達と一緒に生きていく
為にあると言っても過言ではない。10年以上前はやては、彼女達と一緒に人生を歩んでいく、そ
の為に一緒に罪を背負っていく、と選択したのだ。そしてまだその罪は償いきれていない。はや
てはこんな所で立ち止まっている場合ではないのだ。
- 82 :
-
「…分かったわ。じゃあはやてが戻れるように、協力しましょう。
でも私は貴女の体と、その呪いに興味がある。だから貴女が帰れるまでは出来るだけ貴女の事
を調べたい。その為には色々協力もしてもらう。良い?」
「…えぇっと」
「うん?」
「……はい、お願いします」
「うん。じゃあ今日はとりあえずこの辺にしましょうか。
どっちにしろ一度あの薬師に詳しく診てもらった方が良いし」
「あ、はい」
パチュリーはそう言うと手元の本を取った。話は終わり、と言う事らしい。はやてはパチュリーを
騙している罪悪感でまた少し胸を痛め、思わず視線を床に落とした。パチュリーはそんなはやてを
しばらく本を開きながら横からそっと見てたが、何も言わずに、咲夜を呼ぶた
めに、手元の鈴を鳴らした。
- 83 :
-
「…随分とお気に召したようですね」
「何が?」
「パチュリー様がはやてさんを、ですよ」
「別に」
昼食へと咲夜がはやてを連れ出した後に、小悪魔がそう言うと、パチュリーは本から視線を外さず
にそう答えた。
「確かに見たことの無い呪い(カース)でしたけど、呪いはパチュリー様の研究内容からすると専門外
でしょうに」
「…まぁ、そうだけど」
「でも匂いましたね彼女」
「……」
パチュリーは黙したまま答えない。本がパラりと捲られた。
「魔の匂いがぷんぷんしました。あれは魔法を使えますね。きっと魔法使いですよ」
「……」
「でも…とても古くて、嗅いだ事の無い魔の匂いでした。どんな魔法を使うんでしょうか?それにあ
の子は人間だとは思うけど…人間の…普通の魔法使いじゃない。かと言って、種族魔法使いでも無
い……何かもっと別の」
小悪魔は考え込んで、頭上の翼をぱたぱたとはためかせた。
パチュリーは五月蠅そうな表情を見せたが、小悪魔には答えずそのまま読書を続けた。小悪魔は主の
その様子に肩を竦めると、そろそろ仕事でもしますかね、と呟き、宙に浮いた。この膨大な広さと、
蔵書量を持つ図書館は、どれだけ整理した所で、それが終る兆しが見えた事は無い。
小悪魔が去った後にパチュリーは読んでいた本をぱたりと閉じ、小さく、ごく小さく呟いた。
「恐らくもっともっと興味をそそられるモノよ、彼女は」
- 84 :
- 今回の投下は以上です。
お付き合いありがとうございます。
話が中々進展せずに申し訳ない。
じっくりお付き合い下さると有難い。
>>75,76
長い間ごめんよ。正座のし過ぎで痺れただろう。
今度は寝っころがって、ポテチでも食いながら期待せずに待って貰えると。
一応次からは更新は1ヶ月以上は空かないように気をつける。
でも頻繁な更新は難しいかもしれんので、適当に待っててくれると嬉しいよ。
- 85 :
- 正座には慣れてるから問題ないw
東方物でもこれは面白いしな。
- 86 :
- 結局ここはクロスしてないなのは百合投下してもいいのか?なのはで百合スレがここしかないんだが
- 87 :
- リリカルなのはで百合萌え(燃え) 手を27(繋)いで
http://babiru.bbspink.com/test/read.cgi/lesbian/1247582358/l50
いや普通に現役だけど
- 88 :
- あれ…?
すまない、見落としていたようだ
- 89 :
- しばらくお借りします
- 90 :
- 四季映姫・ヤマザナドゥは長い溜息を吐くと、若干イラついたように、とんとんと机を叩い
た。隣に控えていた事務官はそれに内心驚いた。映姫がこうして不機嫌を隠さないのは珍し
い事だった。
映姫は元は地蔵菩薩、仏の眷属だ。地蔵菩薩は仏の中でも最も慈悲深い存在の一つである。
実は彼女も本来は、優しく、子供好きの穏やかな性格をしている。今は閻魔としての職務を
優先しているので、必要ならば厳しい判決を下すし、聞いた者の耳には痛い説教をして幻想
郷を回る。だから幻想郷に住む多くの人妖からは恐れられ、敬遠されている。だが、それは、
彼らがぬまでにその罪を少しでも軽くする為、そして後の魂が迷わずに輪廻の道を行く
為には止むを得ない事だ。映姫は心を鬼にして、真面目に閻魔としての職務を全うしている
に過ぎない。
近くで働いている事務官や、部下の小野塚小町などはそれを良く知っている。だから映姫が
このように、イライラとした心情を見せるのは滅多に無い事だ、と事務官は驚いたのだ。本
質が優しくて穏やかな映姫が物に当たったり、理不尽に他人に不愉快な心情を見せる事は殆
ど無い。
「やはり時間が足りません…延ばせたとして、せいぜい…半年か。
しかし、よしんば時間があった所で…」
映姫はそこで黙り込むと、また机をとんとん、と叩いた。事務官はそれをじっと見つめなが
ら、内心首を傾げた。映姫を悩ませている事が何かは知らないが、よほど重大な事が起こり
つつあるようだった。
- 91 :
-
部屋で昼食を終えた後、ベッドに押し込むとはやてはほどなくして眠ってしまった。良く眠
る娘である。咲夜はそんな感想を抱くと思わず微笑んだ。
今朝はやてが起きたのは、10時も回ろうか、という時間であった。昨晩は深夜をとうに過ぎ
ていたし、疲れからそれくらいぐっすり眠っても仕方無い。しかし、またこんなにあっさり
と眠ってしまうとは…ひょっとしたら足だけではなく、体自体が弱いのかもしれない。この
脆弱な雰囲気は、何となくだが、稗田阿求に通じるものがある。
(パチュリー様は呪いだ、と仰っていたっけ…)
咲夜ははやての足元の布団をそっと上げると、彼女の足を見てみたが、咲夜の目ではそれっ
ぽいものは見当たらない。当然といえば当然かも知れない。咲夜は"ちょっと特別な力が使
えるただの人間"であって、魔法を行使する魔法使いではないからだ。
(魔力か妖力ぐらいなら感じられるかも知れないと思ったんだけれど…)
あの魔女として優秀なパチュリーが、僅かにしか感じられないといっていたのだから、咲夜
には魔力の欠片すら見分けられないのも道理か。咲夜は納得すると布団を被せなおした。
咲夜は脇の椅子に腰掛けると、静かにはやてを眺めた。
幼い表情と外見―外見の特徴はレミリアよりは年上のようだが、パチュリーよりかはやや年
下と言った所だろうか、礼儀正しく落ち着いた態度、そして静かな警戒心と動かない足、変
わったイントネーションの言葉遣い、…外から来た人間。
その辺りが八神はやてを形容する端的なフレーズだろう。
- 92 :
-
(でも…)
はやては外から来たただの普通の人間にしては落ち着きすぎている。それが咲夜が―、恐ら
くはパチュリーも抱いている印象である。もし本当に彼女が外見相応の年齢なのならば、彼
女の陥った状況を考えれば、落ち着いている方がおかしい。
それにはやては、態度自体は礼儀正しいが、随分と辺りを警戒している。咲夜はこういった
気配には特に敏感だから分かる。はやては常に周りを冷静に観察して、何かを色々と考えて
いる。
(見た目はただの子供なのに)
見た目相応の年でない者が多くいる幻想郷なので、それに関してはあまり違和感は無いが。
咲夜はそっとはやての頬を撫でてみた。ぷにぷにと柔らかい感覚に思わず笑みがこぼれる。
かつては咲夜もまた外の世界の住人であった。しかし咲夜はその頃の記憶をおぼろげにしか
覚えていない。何故だろうか、それについてぼんやりと考えてみた事もあるが、答えが出た
ことは無いし、あまり重要にも思えない。咲夜にとって大切な事は、レミリアを満足させる
従者として、彼女自身が完璧に仕えていく事だ。それ以外の事など些細な事に過ぎない。レ
ミリアが満足して笑ってくれれば咲夜はそれだけで満たされた。
(けど何だか気になるのよね…この子)
咲夜はまたそろりとはやての頬を撫でた。はやてをじっと見ていると、何かがこみ上げてく
る気がしてならない。懐かしいような、愛しいような、それでいて苦しいような。それは咲
夜が今まで経験した事の無い、不思議な感覚だった。しかし色々な感情が複雑に絡まったよ
うなその感覚は、実際にはとてもぼんやりとしていて、咲夜にも、自身の気持ちとは言え、
今一把握しきれなかった。
咲夜はしばしはやてを見つめていたが、無言で一人首を振ると立ち上がった。はやてのこと
は気になるが、咲夜は実に忙しいのだ。
- 93 :
- 短めですが今回の投下は以上で。
お付き合いありがとうございます。
>>85
そう言ってもらえると有難いよ。
どっちも好きな作品だから頑張るよ。
- 94 :
- >>93
乙〜♪
ゆ〜っくり待ってるからキニシナーイw
- 95 :
- age
- 96 :
- お久しぶりです、お邪魔します。
- 97 :
- 「呪い(カース)に関する本ばっかりだな。誰か呪うつもりなのか?陰気だな」
呑気な声が静謐な図書館に響き、パチュリーは気だるげに視線を本から上げ、またすぐに下
ろした。
「そうね…白黒の鼠に効くような呪いがあれば試してみるのもいいかもしれない」
「ははは、それは面白い。でも人を呪えば穴二つって言うぜ?」
「魔法の基本は等価交換、大きな術を使えばそれなりのリスクがあるのは当然のこと。要はそ
のリスクを回避出来れば問題は無い」
「ふむ…」
パチュリーは本に視線を落としたまま顔をあげなかったが、魔理沙はそれを気にする風でもな
く、側の椅子に腰掛け、箒を横に立てかけると考え込むように頬杖をついた。
「…で、そのリスクの回避方法は?」
「自分で考えなさい、普通の魔法使い」
「ふむ。人生は厳しいな。挫折にぶち当たったぜ。挫折にぶち当たった所で私は、そろそろヒン
トが欲しい」
「……」
「無視か」
「……」
「パチュリーさぁーん」
「……」
「…やれやれ、つれないヤツだぜ」
返事の無いパチュリーに、呆れたように溜息をつくと、魔理沙は机の上に無造作に置いてある本
の一つを手に取った。そしてぱらぱらとその中身を見ながら、ふぅんとうめいた。一見がさつだ
が、勉強熱心な魔理沙は、魔法に関することならとりあえずどんな事にでも興味を示す。呪いな
ど、魔理沙の興味からはかけ離れた分野だろうが、こうして機会があるのなら、基礎理論だけで
も少しは目を通してみようとでも思ったのだろう。
そのまま魔理沙は大人しく本を読むことに決め込んだようだった。パチュリーの為に小悪魔が集
めた本を許可無く何冊か自分の脇に置くと、魔理沙はそれらを吟味するようにぱらりと開いた。
そして魔理沙とパチュリーが、時折紙をめくる音だけが、静かな図書館にしばし響いた。魔理沙
はそうやってしばらく何冊かの中身を順番に眺めていたが、やがて、ははぁ、と溜息のような呟
きを吐いた。
- 98 :
-
「地味だぜ」
「…」
「それにやっぱり陰気だ」
「…魔法なんてそんなものよ」
まぁそうかもしれないが、そんな魔法は信条に反するぜ。そんな事を魔理沙は言ったが、それは
まるで己に言い聞かせるような、小さな独り言のような、そんな呟きだったので、パチュリーは
それを聞えなかった事にした。パチュリーは生まれてからずっと、100年以上もの間様々な魔法
に関する知識を蓄えてきたが、未だに魔法に対する信条などと言えるものはない。知識の魔女と
しての矜持、のようなものがないわけではないが、魔法がこうあるべきだ、という指針は何一つ
持っていないし、これからも持つことは無いように思われた。だからこそ知識の魔女はこうして
今日も本を読むのだ。知識を蓄え世界の仕組みを知り、そこにある様々な魔法の形を観察しなが
ら。パチュリーは、魔理沙のものの言い方はまるでパチュリーの魔法に対する生き方を否定する
かのような言い方だ、と時々思う。
魔理沙はそのままつまらなそうに、読んでいた本をパチュリーの方へ押しやると、また頬杖をつ
いた。
「さて。ひと段落着いたところで」
「ティータイムでもいかがですか?」
突如、メイドがそう言ってティーセットの載ったお盆と共に現れた。パチュリーは五月蠅そうに
顔をしかめ、魔理沙は愉快そうに微笑んだ。
「相変わらずだな、咲夜は」
「メイドですから」
「いつも思うが、最近のメイドは進んでるのな」
「メイドですから」
咲夜の涼しげな答えに、魔理沙は面白そうにへっへっへと笑いを漏らした。パチュリーは呆れた
ように溜息をつき本を閉じた。するとお茶請けのクッキーが目前に置かれた。読書家なら誰だっ
て、本をクッキーのカスで汚したくは無い。
- 99 :
-
紅くて透明な液体が、ポッドから静かにカップに注がれる。魔理沙はそれをぼんやりと眺めなが
ら、そういえば、と呟いた。パチュリーも何とも無しに咲夜の所作を見ていたが、その声で胡乱
気な表情で魔理沙をちらりと見た。
レミリアは、咲夜の紅茶を入れる所作を見るのを気にいっており、咲夜が紅茶を入れる時に時間
を止めて全てをいきなり終らせてしまうのを好しとしない。だから咲夜はお茶を入れる時は準備
までは普通に時間を止めて行ってしまうが、お湯を注いでカップに注ぐまではこうして人前で入
れる。レミリアが気に入っているだけあって、咲夜のそれは実に様になっている。
「アリスが面白いものを拾ったらしいぜ」
「面白いもの?」
「子犬、らしい」
「子犬…あの未熟者らしいわね」
パチュリーはそう言って若干眉を潜めた。猫ならまだ分かるが、魔法使いが犬とは。大方情にほ
だされて拾ったのだろう。
「何か酷く弱ってる所を森で拾ったんだと」
「ははぁ…」
パチュリーは今度は呆れたように深く溜息をついた。まさに想像通りである。
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