2013年05月エロパロ83: おむつ的妄想8枚目 (256) TOP カテ一覧 スレ一覧 Pink元 削除依頼

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おむつ的妄想8枚目


1 :2013/01/12 〜 最終レス :2013/04/26
おむつが登場するなら、オリジナルでもパロディでも、どっちでも良し。
おむつが登場するなら、甘々でも鬼畜でも、どっちでもどんとこい。

おむつ好きなあなた、実はどんなことを されて みたいと思ってる?
おむつ好きなあなた、実はどんなことを し  て みたいと思ってる?

大好きなあのキャラに、「おむつを穿かせたい」と思いませんか?
大好きなあのキャラから、「おむつを穿かせられたい」とは思いませんか?

あなたの妄想を、小説にするもよし。
あなたの妄想を、職人さんに委ねるもよし。

あなたのおむつにまつわる世界をお待ちしております。
= お約束 =
 苦手な人にも気遣いを。なるべくsage進行で。(メール欄に半角でsageと記載)
 職人様はカミサマです。出たものは全て美味しくいただきましょう。
 あなたにとって、不得手なものは無言でスルーを。
 荒らし・煽りには放置を推奨。構ったあなたも荒らしのになってしまいます。
 ご意見・感想・苦言には感謝を。
 明日の職人さまはあなたかもしれません。
 書きたいものができたら躊躇や遠慮はせずに、是非投稿してみてください。

過去スレ
パロ】 おむつ的妄想 【オリ
ttp://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1088698882/
おむつ的妄想 2枚目
ttp://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1144159275/
オムツ的妄想 3枚目
ttp://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1199418979/
おむつ的妄想 4枚目
ttp://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1235061049/
おむつ的妄想 5枚目
ttp://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1253680167/
おむつ的妄想 6枚目
ttp://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1294925926/
おむつ的妄想 7枚目
ttp://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1345210980/
関連スレ
【パンツよりも】おむつ5枚目【恥ずかしいオムツ】
ttp://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/ascii2d/1269125902/
【スカトロ】排泄系妄想廃棄所12【汚物】
ttp://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1350224147/

2 :
新スレか、ありがたい

3 :
「まとめサイト」も忘れずに
ttp://w.livedoor.jp/paperdiapereloparo/

4 :
いちおつ

5 :
>>1
このスレも良作に恵まれるといいね

6 :
>>5
パンツじゃないから投下しても恥ずかしくないもん!
というわけで言い出しっぺの法則

7 :
構想5分、書出し30分の乱雑なあれで恐縮ですが……
・・・・・・
睦月ユキカはこの夜、奇妙な胸の高鳴りが抑えられなかった。
(本当に……買っちゃった……)
ベッド上に薬局の紙袋から取り出した……明らかにサイズの大きな紙おむつを置き
「やってしまった……」などと半分後悔していた。
なんでこんなものを……と考えると耳まで熱くなってきたので窓を開け雪が積もっている外界の冷たい空気に触れ
頭を冷やした。
雪国なのにかなりのミニスカJKというのがネット以外でも時折耳にするが、当の本人とてそれを貫くのが結構辛かったりする。
ユキカの場合は雪の降る季節は冷えてやっぱりトイレが近くなると如実に感じている。
……別に『失敗』するほどのものではないが、二―ハイソックスとかで防寒を試みるのだがやはり寒いものは寒い。
ちなみに、スカートを長くする選択肢は存在しない。それは周囲から馬鹿にされないためでもある。
……となるとパンツの上に重ね着する必要があるのだがジャージとかハーパンとかは「中学生がやること」で
「ダサく」見えてしまう。
……そんな中、「紙オムツ」という手法があるという話を耳にした。
正確に言うと女性特有のアレの用品なのだが、中には「重い人」用にまんま「紙オムツ」のようなものもあって
それが普通の下着より暖かいという話なのだ。
……なので早速買い求めようとしたのだが近所のドラックストアでは見当たらず泣く泣く紙オムツを買ってきたというのが
本日の経緯なのである。
(漏らさなきゃ大丈夫、漏らさなきゃ大丈夫、漏らさなきゃ大丈夫……)
念仏を唱えるように明日から身に着けてみるという事実に不安を覚えながらなんとか就寝するのだった。
・・・・・・
さて翌日、その日はやってきた。朝食を食べ身支度を整えるとショーツだけ
脱ぎ昨日買ってきた紙オムツを身に着けてみる。
「とりあえず厚手なもの」と適当に買ったらテープ式のもので独りで身に着けるのに一苦労したが
なんとかずり落ちないように留めることができた。
(なんか……お尻がいつもよりふっくらしている気がする……)
ブレザーの制服を身に着けてみてスカートもいつも通りに腰の部分をクルクルと巻いて短くしてみたが
紙オムツの影響で普段の感覚でやってみると普段より際どくなったような錯覚がしてしまう。
もうちょっと長めにしてみようかと考えているともう登校しなければいけない時間になっていて
コートとマフラーを身に着け手早く自宅を後にした。

8 :
(あー……見せパンを重ね履きすれば良かった……)
「紙オムツ」を身に着けているせいか、意識がそちらに回って通学風景がいつもより味気なく感じ、
気が付けば教室という状態だった。
幸い、着替えるような時間割は無く、友達と休み時間で雑談しながら何気なく過ごせる……筈だった。
(あっ、ショーツ持ってくるの忘れた!)
さて、別に紙オムツ本来の機能を使うつもりはないので尿意を感じて日常通りトイレに向かって本日最大のミスに気付いた。
替えのショーツを持ってきていなかったのである。
おまけに身に着けているのはテープ式で再び粘着力を発揮する保障はどこにもない。
なんとか脱げないか試すがピッタリと隙間なく装着された紙オムツをズラすことすら不可能だった。
(……そんな)
ユキカの顔がみるみると青ざめていった。
・・・・・・
(なんとか……持ちこたえた……)
ユキカの脳裏に『失禁』というシナリオが過ぎっていたが幸い本日の授業は少ない日で下校時間まで持ちこたえたのは
奇跡だった。
乱雑にカバンに教科書を入れて小走りで下校すると駅前のコンビニに急いだ。
ユキカのシナリオではコンビニでショーツを買い、駅のトイレで用を済ませて履き替える……というパーフェクトなものだった。
「スゥ、ハァ、スゥ、ハァ」(コンビニ、コンビニ、コンビニ……)
時々猛烈な尿意に苛まれながら雪道で転倒しないように気を付けながらもいつもより
早歩きでコンビニを目指す。
そういえば、コンビニにもトイレがあった筈だからそこでもいい……というショートカットを考えていた。
「キャッ!」
目の前にコンビニが現れた直後だった。
早く……!という想いとゴールを目の前にした気の緩みなどが重なったかもしれない……
あれだけ踏破してきた筈の雪で凍った道の窪みに足を掬われ……思いっきり尻もちをついた。
……それも鈍い痛みが下半身に走るくらいの重い一撃である。
(えっ、えっ、えー!?)
立ち上がろうとしたら下半身……特に股間がドンドン暖かくなっていく。
最初は気づきにくく分からなかったが次第に温かいものが下着状に広がっていって嫌でも気づいてしまった。
(そ、そんな……)
ゴールを目の前にして「紙オムツ」本来の用途で使うという失態を犯してしまった日になった……

9 :
これで雑とか小一時間(ry
乙です

10 :
新スレ&新作乙!

11 :
新スレ乙。
職人様GJ!
がしかし、1はある一文が抜けていて、初代1としては気になるる。

双子姉妹のこもごもを妄想したが、携帯だとやはり文章まとめては難しいなorz

12 :
無機質なビル群の街を、疲れた体を引き摺るようにして歩く男がいた。名前は日向義郎。大手流通企業で営業をし、毎日を取引先との折衝で気をすり減らせる日々を送っている冴えない青年だ。
「明日はK商事の増田さんとの飲み会かぁ……はぁ……」
溜息が出るのも無理はない。彼が手に持つメモ帳には来週も再来週も予定がぴっちり詰まっていて、とてもじゃないが晴れやかな気分にはなれなかった。
「俺、んじゃうんかなぁ……ただいまぁ…」
都内にある鉄筋コンクリート製の安アパート。それが彼の住む部屋だ。それほど広くもない、2DKの一室。そんな雑然とした部屋の中で、小さく動くものがあった。
遠目で見れば、それは紫と黒の塊のように見えるだろう。その姿を見つけると、義郎の顔に笑顔が戻った。
「おかえりなさい、ヨシロウっ!」
「…ただいま。カゲツちゃん」
少女はニコニコしながら少し散らかった部屋の中を、飛び石を飛ぶように動き回る。その姿はまるで猫のようだった。華麗なステップで着地すると、褒めてとばかりに頭を差し出した。
恥ずかしそうに頬を掻きながら義郎は、その少女の長い黒髪が生える頭にそっと手を置き、少しばかり乱雑に撫でた。
「うひゃーっ!」
かわいい悲鳴を上げながら、少女は顔を赤らめた。喜びに体を震わせ、満足そうな笑顔で義郎を見つめる。その姿は、とても普通の子供のように思えないものだった。
紫の和装に紅の帯。和装から漏れ出る肢体は白樺の若木のように細く、白かった。全体的な細身の体の上に乗る頭は、体と対比すると少しばかり大きく見えた。
丸くて柔らかそうな頬に、薔薇の花のような赤い瞳。漆黒の艶やかな長髪は顔の周りをくっきり残す形で切り揃えられ、その容姿はともすれば日本人形のように見える。
カゲツという名のこの少女は、義郎の子ではなかった。そもそも、人間の子でもない。
かつて人は彼女のことをこう呼んだ。幸せを運ぶ妖怪、「座敷童子」と……

13 :
実家の寒村からの帰り道で道端にさみしそうに蹲っていた幼い少女に声をかけ、おにぎりをご馳走してあげたのが縁で、義郎とカゲツは共に暮らすことになった。
それが半年ほど前の出来事だ。
以来カゲツは義郎の家に住み着き、こうして彼の癒しの存在となっている。
「ヨシロウ。お腹すいた」
「はいはい。今作るから」
カゲツはパタパタと足を動かし、ご飯の催促をする。まるで幼い少女そのままの姿だが、これでも生きている年月は義郎よりもずっと長い。
「ヨシロウ!はんばぐ食べたい。はんばぐっ!」
「ハンバーグな。確か冷蔵庫にこの前買った……」
義郎は記憶を頼りにお酒やつまみがぶち込まれている冷蔵庫を捜索する。
カゲツが来る前は風景だった冷蔵庫は、今は彼女が好む料理やジュース、そしていつの間にか親のような心で用意された野菜類などで埋め尽くされていた。
「は〜や〜くぅ〜!!はうっ……」
カゲツの催促する声が途絶え、困惑するような声に変化した。数秒の沈黙。そのあとに響く、流れ出る水音。
一分ほど響くその小さな滝のような音は、声のないこの空間を支配して高らかに響く。
そしてそれが何を意味するのかを、義郎はよく知っていた。
「…………漏らしちゃったのか?」
「――――」
彼の問いに口を閉ざし、俯くカゲツ。目の前に広がる粗相の後は、彼女が義郎の言うとおりのことをしてしまった事実を証明していた。
「我慢、できなかったのか?」
優しい言葉にもカゲツは反応を示さない。何も語らず、何も示さず。ただ黙る彼女に戸惑いながらも、まずは後始末を……と雑巾を探しだした。

14 :
「ほらカゲツちゃん。別に怒ってないからさ、まずは服、脱いじゃいなよ。気持ち悪いだろ?」
慰めの言葉を掛けつつ床の水溜りをふき取り、バケツの中で絞る。疲れに体が軋みを上げるが、さすがに放っとく訳もいかなかった。
一通り床も吹き終え、いよいよカゲツの座る椅子の番という時に、堰を切ったように泣き出した。
「ふぇぇぇえぇっぇぇぇぇんっっ………」
「失敗しちゃって、悔しいんだよな」
カゲツは整った顔をぐしゃぐしゃに歪めて、感情のままに泣き叫んだ。
悔しさを滲ませる彼女の頭を撫で、義郎は優しい声色で話しかける。
穏やかなリズム。
なるべく落ち着かせるように、義郎は無意識に体を、心を動かす。
「このままだと、気持ち悪いだろ?だから服を脱いで、シャワー浴びよう。俺がその間に、ハンバーグ、作っとくからさ」
義郎の言葉に、少女の頭が縦に動いた。波が引いていくように、嗚咽の勢いが明らかに弱まっていく。
――あともう少し……
心の中で確かな手ごたえを感じつつ、義郎はカゲツが落ち着くのを待った。
数回のしゃっくりの後、彼女はようやく元の整った丸い顔に戻った。目を涙で少し腫らしながら、彼女は義郎に問う。
「おこって、ない?」
怯えるような震えた声。彼女の泣いている理由の中には、それも含まれていたのだろう。義郎は硝子玉のようなその瞳を見つめ、問い返す。
「怒ってなんかないさ。ほら、俺の目が怒っているように見えるか?」

15 :
「ほんとう?」
「ああ」
カゲツは義郎の言葉を信じ、食い入るように彼の瞳を覗きこんだ。
お互いの視点が交差する。まるでにらめっこのような態勢。
真剣に相手の目を見て、最後にカゲツは首を横に振った。
「うん。嘘ついてない……と思う。カゲツ、ヨシロウを信じる」
強い視線でそういったのは、彼女の意思の表れだろう。
対する義郎は上目遣いで覗き込むカゲツにちょっと顔を赤らめつつ、もう一度頭を撫でた。
「だから泣くのはやめてくれ。俺もどうすればいいか、わからなくなっちまうからさ」
「…………うん。ごめんなさい、ヨシロウ」
ぺこりとお辞儀をして、幼い少女のような妖怪はお風呂場へと向かう。
テトテトと走る彼女を見送った後、義郎は彼女の最近の「粗相」具合について考えていた。

16 :
どうにも粗相の頻度が増えていると、義郎は感じていた。
最初、カゲツを連れてきたときは粗相なんてしなかったのに、今では七割方粗相をしているような気がする。
日に日に悪化するのは、自分が彼女をこんな薄汚いところに置いて行ってしまうせいだろうか。
無理をさせているのかもしれない。
不安になった彼は、少女のために行動を開始した。

17 :
それは、あれから数日たった後の日のことだった。
「ただいまー」
「おかえりなさい。どうしたの、そんな元気な声出して」
珍しく元気良い掛け声で帰ってきた義郎に、カゲツは不思議そうに尋ねた。
いつもは疲れた表情なのに、今日はそれを吹き飛ばすような爽やかさだ。
そのことに小首を傾げる彼女に、義郎はあるものを取り出す。
「はいこれ、お土産」
「えっ?これって……」
カゲツは出されたものを見て驚愕した。そこに広げられているものは、彼女も一度は目にしたことのあるもので、そして彼女にとって意外なものだった。
「おむつだよね。これ……カゲツに?」
いくつものカラフルなカバーに、かわいい絵柄が描かれた白い布おむつ。
いくらカゲツが幼く見えるからと言っても、とても年齢に見合った服装ではない。
それは彼女自身も感じたようで、不満なのか頬を膨らませ、文句を言った。
「カゲツは……そんな、赤ちゃんじゃないっ!」
強く握った握りこぶしが、彼女の不満の度合いを物語る。
それをちらと見やり、しかし毅然とした態度で、義郎は指摘した。
「でも、最近おもらしすることが多くなっているだろ。このまえだって我慢できていなかったみたいだし。流石にこのままというわけにはいかないよ」
「むぅ……でも、カゲツはっ、んぁっ」
文句を言っていたカゲツの言葉が、短い悲鳴とともに止まる。
話している最中に決壊したのか、おしっこが彼女の体から流れ出た。
最初は着物の下に染みを作り、そして着物の端から雨粒のように滴り落ちて、大きな水たまりを作っていく。

18 :
ほぼラグタイムすらない失禁に、義郎もカゲツも驚きで身を固まらせた。
最後に体を震わしておしっこを出し切ると、つぅと柔らかそうな頬を涙が伝う。
呆然とした表情のまま固まり、そしてゆっくりと顔を下ろして自らの粗相の後を確認する。
涙の雫が、大きな黄色の水溜りに波紋を作った。
「カゲツ、その、な」
「うわあぁぁぁぁぁん……っ」
宥めようとする義郎の前で彼女は口を大きく開け、叫ぶように泣いた。
甲高い声は部屋中に反響し、大粒の涙がリズムを刻むように水たまりに波紋を作っていく。
手が付けられないほどの大泣きに、義郎は困惑するしかない。
ただ、さっきまでの言葉と態度を思い返し、彼女のことをもっと考えてあげられなかったのかと、義郎は一人、心の中で自分を責めた。

19 :
あの出来事から、二人の生活は劇的に変化した。
「ただいま」
「おかえりなさいー。ヨシロウ」
普段通りのお出迎えだが、最近はそのあとにする約束事ができていた。
義郎は徐にしゃがみこむと、着物の隙間から手を差し込み、その下にくるまれたカゲツのおむつをまさぐる。
「く、くすぐったいよぅ……」
「ちょっとじっとしててくれ……結構濡れてるな。外から触ってもパンパンだ」
「うん、いっぱいもらしちゃった……ごめんなさい」
「謝ることはないよ。カゲツがおもらししちゃうのは、しょうがないことなんだから。俺が着替え終わったたら、おむつ換えようか」
「うんっ」
元気いっぱいの受け答えは、カゲツがおむつに慣れていることを示していた。
「ありがと。じゃ、もうちょいだけ我慢してくれ」
軽い言葉を掛けて義郎は身を包むスーツを脱ぎ、カジュアルな普段着へと着替える。
「もぅ…早く早く〜っ」
着替えが終わると同時に、カゲツの急かす声が耳に届く。
義郎はそんな彼女のもとへと笑顔で近寄り、すぐさまおむつ替えの準備を始めた。
「横になって、カゲツ」
「うん」
いつのまにか部屋は整然としていた。
とても少し前までの、足の踏み場もなさそうな部屋と同じとは思えない。そ
の真ん中に敷かれた吸水シーツの上に仰向けに寝転がり、カゲツは少しだけ顔を赤らめながら、義郎を見つめる。
その顔は、緊張をしていても、はにかんだような笑顔であった。
「ヨシロウ、お願い。おむつ、換えて」

20 :
カゲツは懇願の言葉を口にするとともに、しゅるりと帯を取って紺色の紬を肌蹴させ、その肢体を外気に触れさせた。
「あ……」
鋭敏な感覚が、彼女の体を電撃のごとく駆け巡る。
外気の冷めた空気が熱を持った体を冷やし、カゲツは体を大きく震わせた。
柔い肌はうっすらと朱色を帯び、胸は少しばかり荒く上下動を繰り返す。
これから起きることを期待しているのか、彼女の鼓動は速さを増し始めていた。
「おむつ、開けるよ?」
気を使う義郎の言葉に、カゲツは小さな頷きで返す。
潤んだ大きな瞳は、興奮を表すかのように怪しく輝いている。
宝石にも似たその輝きは、義郎の心の中にある性的本能を揺さぶった。
――何を考えているんだ、俺は。
自らの内に出た疾しい心に、義郎は冷静に突っ込んだ。
相手は妖怪とはいえ、見た目は年端もいかない子供だ。
そんな相手に対して劣情を抱くというのは、いささか犯罪臭がすると自己分析する。
しかし、同時に彼は思う。
このまま彼女に自らの欲望をぶつけられたら、どれほど素晴らしいか……と。
「ヨシロウ?」
心配するようなカゲツの声に、義郎は理性を呼び覚まされる。
自らの欲望を押さえつけ、ゆっくりと彼女のおむつカバーへと手を伸ばした。
ごくと生唾を飲み込む音が、緊張した空気の中で耳に響いた。
欲望と緊張を表すようなその音は、自分が出したものか、それとも彼女が出したものか。
本能と理性に頭をぐちゃまぜにされている彼には、その真相はわからなかった。
乾いたマジックテープの音が、部屋の中にこだまする。
両羽を広げてから前あてを開くと、封じられたおむつが露わになった。
「いっぱい出てるね。おむつがぐっしょりだ」
「やぁ……、言わないでよぉ……」

21 :
ずっしりとしたおむつを持った男の感想に、少女はいやいやと首を振りながら反応する。
羞恥を煽るような表現は、いつの間にか出るようになっていた。
その言葉を受けたカゲツは、真っ赤になりながら恥ずかしがるように手で顔を覆う。
しかしその口の端は、微かに笑っているような気がした。
「おむつ換えるから、腰、上げて」
義郎の言葉に導かれるように、カゲツは素直に腰を上げる。
体を湿らせていたおむつが取り払われ、おしっこによって汚れた秘所だけになる。
「おまたを綺麗にしましょうねーっと」
「…………えっち」
義郎がからかい半分で言った言葉に対して、カゲツは辛辣な指摘で返した。
顔を覆っていた手をどけると、そのままだらんと両腕を広げるように置いた。
それは本当の赤ん坊のような態勢でもあり、「降参」のポーズにも似ているものだった。
彼女は自らの意思を放棄し、義郎に総てを委ねる。
「お願い、ヨシロウ。カゲツのあそこ、きれいにして」
その声は緊張と興奮で震えていた。体を強張らせ、警戒する小動物のような、そんな印象。
義郎はそんな彼女のおでこを優しく撫でると、囁くような声で彼女に言った。
「大丈夫、力を抜いて。怖くないから…」
その上に軽くキスをすると、すぐさまウェットティッシュで秘所を拭き始める。
それは、彼女がおむつを穿くようになってからの、日常の一部となっている行為だった。

22 :
「ふあぁっ…」
外気に触れて敏感になった秘所に、濡れた紙のの冷たい感覚が染み渡る。
瞬間に走る電撃にも似た衝動。
カゲツの体は、地上に打ち上げられた魚のように跳ねあがった。
思わず出る悲鳴は、彼女の体にもたらされた快楽の証そのものだ。
「や、そこ、そこがいいのっ、あっ、んっ、んあっ」
今度は言葉で甘え始めると、義郎はすぐさま彼女の指定したところを拭いた。
そこは膣の入り口、外陰部の周りだ。丁寧に優しく、それでいて焦らすような手つきで苛めると、カゲツは喘ぎ声を上げながら、求めるように腰を動かす。
「しゅごい、の…からだが、ふわって…あつくて…」
とろけるような瞳で義郎を見つめ、呟く。そこには子供らしい顔とは裏腹の、淫靡な女としての本性が見え隠れする。
より自分が気持ちよくなりたいという、幼い外見からは考えられないほどの貪欲さ。
義郎もわかっているのか、彼女の求めるがまま、膣口を中心にまんべんなく責めた。
「もっと、ちょうだいっ…あひゅっ、きもちいいの、そこっ、苛めて、やぁあっ!きもちいいのぉっ、いっぱい……いっぱいっ!」
快楽に溺れる声は、妖艶な詩を奏でる。拭いているはずなのに溢れ出る、透明な粘着性の液体。ぐじゅぐじゅと隠微な音を立てる愛液は、彼女の心が至福に満たされつつあることを示していた。
「ヨシロウっ、カゲツ、頭がっ、おかひく、なっちゃうよぉっ!」
自分の中にある衝動に耐えきれないのか、カゲツは悲鳴を上げるように叫び、シーツを力強く握った。
まるで体の中にある獣を押さえつけるように、快楽の波に耐えながら、時折苦悶の表情を浮かべる。
しかし、それもいつの間にか腑抜けたような笑顔に変わり、最後は恍惚に満ちた表情となる。

23 :
とめどない波が、彼女の内側を満たしていく。なすがままに愛撫されて口から涎をたらし、その身を快楽に浸らせる。
「きゅうっって、ふあっ、そこいいお……すごく、あんっ、もっとやさしくぅ……そう、それ、キモチいいのぉ……」
呂律のまわらない言葉。鋭敏な感覚は興奮によりさらに先鋭化し、羞恥を煽る自らの悲鳴とともに簡単な刺激さえも何倍もの快楽へと変貌させていった。
「らめっ、もう、らめになっちゃうっ……きちゃうの、すごいの、きちゃ、ああっあああああああああああっっ」
甘えた声で喘ぐカゲツに合わせ、義郎の責めも苛烈さを増した。クリトリスを弄り、外陰を擦り、そして膣の中を引っ掻く。蜜壺を刺激し、尿道口を責め、そして全てを丁寧に愛撫した。
彼女が求める快楽を、義郎はすべて与えてあげた。それは義郎の望みでもあった。
彼女のためにできることは何でもしたい。責任感にも似た保護欲が彼の中で芽生えていたからだ。それが今の関係を生み出し、そして、彼もまたそのことで満たされていた。
幼い少女を守りたいという父性、そしてカゲツを淫乱な女に変えたという支配欲。誰かに頼られているという安心感。無意識の中で混じったそれらは、一つの幸せを見つけた。
「イく、カゲツ、もう、げんかいなのっ、ひぃああぁぁっっ!!」
最大限の叫びとともに、カゲツは絶頂へと達した。白い液体がウェットティッシュ上に放たれ、受け止めきれずに義郎の手を汚す。
カゲツは力尽きたかのように脱力し、事後痙攣で震える。その開かれた割れ目から、ゆっくりとおしっこが漏れ始める。
「おおっと」
それに気づいた義郎は、近くに置いてあった新しいおむつをカゲツの腰の下に置いた。
ちょろちょろと力なく流れ出るおしっこは、膣横を伝いおむつの中に染み渡る。目をトロンとさせて微睡むカゲツに、義郎は声をかけた。
「疲れたろ?あとはやっとくから、寝ても大丈夫だよ」
「……うん。おやす……すぅ」

24 :
大きなその瞳を閉じ、すぐさま寝息を立てるカ彼女の頭を、義郎そっと撫でた。そのまま髪に手を通し、その感触を確かめる。
その行為は今ある夢のような幸せが、現実の存在なのかと怖くなったからだった。
――大丈夫。ここに、カゲツはいる。
思わず抱きしめたくなる衝動を抑えて、彼はカゲツが安心して眠れるように、おむつ換えを再開する。
手早く新たに汚したおむつを取り払い、しっかりと拭いてから換わりのおむつをセットする。
もう何回もやって慣れたせいか、先ほどの行為の時間の半分もかからないうちに、おむつ換えを終えた。
「かわいいよ、カゲツ……」
お姫様抱っこでベッドに彼女を移し、もう一度その体に触れ、呟く。
眩いばかりの白い体躯に、新たな薄紅色の着物を着させる。
最後に合わせをすると、浅く上下する胸が目の前に露わになる。
子供特有の柔らかい肉質の胸に指が触れ、思わず手を引っ込めて、目をそらした。
その先にあったのは、これまた柔らかそうな唇だった。満足そうに口の端を曲げているそこが、徐にむにゃむにゃと動き、開いた。
「ヨシロウ、だぁいすき」
紡がれた言葉は、彼の顔を真っ赤にさせるには十分だった。数秒固まって目を泳がせた義郎は、意を決したように彼女の耳元に近づき、宣言する。
「俺もさ、カゲツちゃん。俺もカゲツちゃんのこと、この世で一番愛しているさ」
言い終わると同時に聞こえる、水のせせらぎ。くぐもった音がおむつから聞こえ、見る見るうちに固くなっていく。
それでも気づいていないのか、カゲツは穏やかな寝顔のまま、すぅすぅと寝息を立てる。
「安心しきって寝ちゃって。仕方ないな、もう」
義郎は彼女のおねしょを見届け、おでこにキスをしてからお風呂の準備に取り掛かった。
起きた後のかわいい反応を思い浮かべ、幸せに顔を緩ませながら。

25 :

座敷童たん(*´д`*)ハァハァ

26 :
これは続きが読みたい

27 :
人外好きにはたまらん展開だな…
この前がエルフで今度が座敷わらしか

28 :
うますぎだろ
こんなに悶えさせられるのは久々だ。
良い絵師もいればいいんだがなー

29 :
このペースで2作か、幸先いいな。良作多めでどんどん頼む

30 :
本の森を、私は歩く。私の背丈を凌駕する本棚には、本が整然と並べられていた。手に持つランプの明かりだけが、ここの光源だった。歩くたびに埃が舞う。
ここに眠る本は、決して誰にも読まれることのない書物ばかりである。存在する意味すら希薄な、書物とさえ呼べない代物。
 私はそこから、1冊の本を取り出す。
 古ぼけた表紙には、題名すら刻まれていなかった。読まれることのない物語。そのため、題名すらいらない。
今、私の手にあるのは、ただあるだけの、本だ。私は静かに目を閉じる。
声が聞こえる。
本たちの声が聞こえる。
読まれたいと。存在したいと。
本たちの嘆く声が聞こえる。
そして、手に持つ本は囁いた。君が来るのを待っていたと……
再び目を開ける。静寂が、ここを支配していた。私はランプを机に置き、その本を捲った。題名のない物語。今、その扉が開かれて……

31 :
揺れる車内の中で、俺は外を眺めた。田舎じみた風景が、次々と通り過ぎていく。やがて、目印を確認し、仕事に戻った。
「次は萌葱ヶ原―。萌葱ヶ原―。お出口、左側です」
アナウンスを言ったところで、何も変わるわけはない。閑散とした車内の中には、椅子に深々と腰掛けた老人が1人いるだけだ。眠っているのか、ぴくりとも動かない。
ガクンと激しく揺れ、電車が減速する。老人は意も介さず、揺れた時に落ちた杖を拾い上げ、先程と同じポーズをとった。また、石の如く動かなくなる。
荒っぽい動きで電車はホームへと滑りこんだ。停止したのを確認し、ドアを開く。誰もいないホーム。開いた所で空気の入れ替えしかできない。
すぐさま笛を吹き、ドアを閉めた。ガタンと大きな音がして、ドアが閉まる。全てのドアが閉まったのを確認するのと同時に、電車が発車した。
老人はそこで、先程の駅が、自身が降りる予定の駅であることを思い出した。

32 :
俺の名前は緒方 紅雪。今年で20歳になる。
勤め先は橋渡鉄道という、地方の私鉄企業だ。
そこで車掌として採用され、日々を過ごしている。
地方の鉄道会社といっても、本業は不動産業であり、こちらは社名にもなっているのに、おまけ扱いの部署だ。
赤字と黒字の間を行ったり来たりしてる程度で、朝夕は忙しいが、昼間は極端に人がいないという、典型的な田舎の鉄道の様子を呈している。
今日もまた、昼間の運用に配備され、車掌として乗り込む。始発駅はこの地方の中心都市であり、大手鉄道会社も乗り入れる駅である。
その隅っこに、小さな2両編成の電車が、佇んでいた。すぐさま引き継ぎを行い、車掌としての準備に取り掛かる。乗っている人数は十数人ほど。これでも多いくらいだ。
モーター音がうるさい。旧式の、大手鉄道の払下げという車両は、所々に古い電車特有の錆が見られた。確認を終え、時計を確認する。もう少しで発車時刻だった。
他の鉄道会社とをつなぐ連絡橋から、何人かが歩いてくる。外でタバコを吹かした初老の男性が、たばこをポイ捨てし、電車に乗り込み、3人がけの席を占有した。それでも席は余りあり、立っている乗客など、一人もいなかった。
時間だ。発車ベルを鳴らした後笛を吹き、発射を知らせる。駆け込み乗車など、この時間帯では一度も起こり得なかった。
ドアを閉め、窓から顔を出す。誰もいないホーム。電車は大きく揺れ、動き始める。鈍重そうな車体を引きずり、電車は始発駅を後にした。

33 :
始発駅から10駅目。すでに車内は閑散としていた。多くの乗客は1つ前の駅で降りてしまい、列車に残っている人物は、わずか3名だった。
「次は栗原団地―。栗原団地―。お出口、右側です」
電車がつくと同時に、その3名が別々のドアから降りた。乗ってくる客などいない。
笛を吹き、ドアを閉める作業。今この電車にいる人間は2人だ。運転士の園部先輩と、車掌の俺。客を乗せなくても、ダイヤ通りには動かなければならない。電車は空気を乗せ、次の駅に向けて走り始めた。
3駅。誰も乗らずに停車した。ドアを開ける素ぶりだけして、実際は何もしなかった。運転士も分かっているため、お咎めなどない。きっと次の駅でもそうだ。
アナウンスさえ放棄し、次の駅を眺めた。ホームに人影はない。電車は荒い減速運動を繰り返して、桜台駅に到着する。俺はドアを開ける振りだけしようとして、ベンチに子どもがいることを確認した。
その女の子は、安穏に満たされた表情で、眠っていた。山吹色のカチューシャ。赤味かかった茶髪。長く伸ばされたそれは、艶やかさを誇り、風が吹くたび羽衣のように揺れる。すぅすぅという寝息。
天使のような顔立ちと言っても、差し支えないほどに可愛らしい。肌は、最高級シルクを肌にしたという感じで、触れることさえおこがましく感じた。白の、キャミソール型ワンピースを身に纏い、佇む姿は、西洋の名画を切り取ったかのようだ。
俺は時計を確認する。…ここは交換駅で、向かい側からくる上り電車を待たなくてはならない。発車時刻まで、数分あった。ドアを開け、乗務員室から出る。その音にも、彼女は動じなかった。俺は静かに近づく。
まるで禁断の花園を覗くかのような仕草に、自身でも笑いが込み上げた。

34 :
近くで見て思う。やはり、この子はかわいい。起こすために手を伸ばす。寝息を聞いて、一瞬、躊躇ってしまった。
鼓動が速くなるのがわかる。
興奮しているのか?
いや、きっと恐れているんだ。この空間をぶち壊すことに。
「お嬢ちゃん」
その手が、彼女のむき出しの肩に、触れた。
滑らかな触感だった。もちとした子供特有の感触。それでも掴む手が滑り落ちてしまうのではないかと勘ぐるほど、きめ細やかな肌だった。
「ん……ん?」
その、大きな瞳が開かれ、俺を見つめた。
燃えるようなオレンジ。その瞳の色は、夕焼けに似ていた。
「ふぁー…おはようございま、ひゅ?」
大きな伸びをした後、彼女は可憐な声で、目覚めの挨拶をする。聞いただけで、心が溶けるような声。辺りを見回し、俺を見て、彼女は大きな瞳をさらに大きく見開き、
「えっと…駅員さんですか?その、あたし、電車待ってる間に寝ちゃって…」
と弁明を始める。俺はその様子がおかしく、思わず吹き出した。
「プッ…アハハハハハ!」
少女はその様子が気に入らなかったのか頬をぷくぅと膨らまし、
「いきなり笑い出すなんてレディに失礼かと思いますけどー!」
と口を尖らせ言った。俺は帽子を取り頭を下げ、
「すいませんお嬢様。お嬢様が健やかにお眠りになられている間に、電車、発車しますけれど?」
最後は時計を見ながら脅した。反対側の電車が発車し、こちらも発車時刻が迫っていた。少女はそこでハッとし、
「ああ!乗るから待ってー!」
そばに置いてあったうさぎ型のリュックを背負い、駆け出す。俺はそれを見送ると乗務員室に戻り、笛を吹いた。ドアを閉める。数秒後、1人の少女を乗せ、電車が再び動き出した。

35 :
少女は座らず、ドア前に立ちながら景色を眺めていた。車内が揺れるたびにふらつきそうになるが、決して転ぶことはなかった。
次の駅についても、少女は下りず、ドア前に立っているだけだ。すぐに作業を済まし、発車する。流れていく風景はひどく田舎で、のどかだった。大きな道路の下を抜け、電車は加速する。ガタンと、一際激しく揺れた。
「うわわっ!」
さすがに耐えきれなかったのか、少女は大きく転んだ。尻餅をつき、腰をさする。涙目になっていた。この位置からだと向かい合うような感じになる。俺は努めて見ないようにしていたが、やはりそこは男で、ちらちらと様子を窺っていた。
その時、何か変なものを、見た気がした。
 ついそれを確かめたくて、俺は少女をまじまじと見てしまう。それに少女が気付くと、あかんべぇをしてそっぽを向いた。今度は背中のうさぎと目が合った。
流石に見ているのも馬鹿らしくなって、景色のほうに目を移す。電車は数少ない住宅地の中を、滑るように走り抜ける。時折高台を通り、街を眼下に見渡せた。
ぽつんぽつんと家がある、田舎の町。俺の地元。一度たりとも、離れたことがない。あんなことがあった後の今でも。
「次は、雲雀山―。雲雀山。お出口、左側です。ホームと電車の間に、隙間がございます。足元にご注意ください」
アナウンスをして、一度車内を見た。少女は相変わらず立ったままで、遠くを眺めていた。これもこれで絵になるなと思いつつ、俺は仕事に戻る。踏切の音が、ドップラー効果で過ぎていった。電車がホームに滑り込み、もう一度大きく揺れて止まった。
「わひゃぁあ!」
少女は転びそうになるのを、席を掴んで防ぐ。そうなるなら座ればいいのに。俺の思いとは裏腹に、少女は座ることはなかった。誰も降りることなく、電車は発車する。いよいよ電車は平野部を抜け、山間部へと向かっていった。

36 :
電車の揺れが激しさを増した。大きなカーブを通るたび、激しい横揺れが襲う。それでも少女は立ち続ける。
転びそうになっても、ドアに頭をぶつけそうになっても、彼女は決して座ることはなかった。
というより、座ることをひどく恐れているようだ。
渓谷に架かる橋を渡る。轟音を立て、電車は進む。揺れは、最高潮に達していた。少女はついに耐えかね、すぐそばのシートに腰かけた。
座り方を気にしつつ、そして俺の位置を確認しつつ、彼女はシートに深々と腰掛けた。そこは女の子だ。やはり気にしているのだろう。先程のこともあったし。
「まもなくー夕顔―。夕顔。お出口、右側です」
アナウンスを聞き、少女はぴょんと立ち上がる。すぐさまドアの前に立った。どうやら、この駅が彼女の降りる駅のようだ。うきうきしながら、彼女はドアから景色を眺める。
そのとき、ポイント通過のため、電車が大きく揺れた。
「あうっ!」
少女は不意を突かれ、さっきのように尻餅をついた。ワンピースのスカート部が乱れ、その中の下着が、ちらと顔を覗かせた。
見慣れない、ふっくらとしたフォルムだった。
 薄ピンク地の部分が、少しだけ黄色くなっている。よく見ると、布というより紙のような質感だ。
「…っ!」
少女は俺の視線にすぐさま気付き、スカートを押さえ、下着を隠す。顔が、ほんのりとした朱に染まる。責める視線。俺は罪の意識で目をそらした。電車が止まる。すぐさまドアを開く。
少女は脇目も振らず、ドアから飛び出し、改札へとつながる階段へと消えていった。小高い丘の上に作られた駅。眼下にはニュータウンとして造成された、整然とした無機質な街並みが広がる。
無駄に長いホームの中央に、不釣り合いな2両編成の電車が停まる。朝夕はここから大手鉄道へ乗り入れる直通電車が発車するから、ホームは長めに作られていた。ダイヤの調整で、一服できるほど停車する。
煙草が半分まで来たところで、発車時刻になった。もったいないと思いつつ、その煙草を携帯灰皿の中にいれ、笛を吹いた。吹き終わった後、むせてしまう。この仕事に就いてから、煙草が苦手になった。
夕顔駅を離れ、電車は加速を始める。また無人になった車内は、電車の奏でる雑音だけが響いていた。終点まで4駅。きっと、誰も乗っては来ないだろう。丘を進み、トンネルに入る。車内を電灯の光が、煌々と照らしている。
誰もいない車内の中で、彼女の姿を幻視した。先程の光景が目の奥に焼き付いている。それほどに、インパクトがでかかった。
彼女の下着。
別に見ようとして見た訳ではない。彼女を眼で追っていたら、つい見てしまった。だが、それも驚いた原因の一つだ。
あの質感。あれは俺の記憶の奥底に残っているものと一致した。やはりあれは…
無駄な考えはやめよう。見間違いだったかもしれないし。
長いトンネルを抜ける。県境はこのトンネルの中にあり、もう違う県に入っている。この県でナンバー2の地方都市。そこまでつながるレール。
しかし、この電車はそこまで至らない。それは、俺の人生のようだった。大きなものを得る前に、立ち止まり、終わってしまう。そんな人生の象徴。
電車はもうすぐ、次の駅に到着しようとしていた。

37 :
本を捲る音が、森に響き渡る。古ぼけたランプの明かりでは、文字が少しだけ読みにくい。自然とゆったりとしたスピードで読み進めることになる。
もちろん、私の力を以てすれば、強い光を生み出すことは容易なことだ。しかし、そんなことをすれば、ここにある、存在の薄い本はすべて消滅してしまう。
逆に闇がここを支配すると、今度は存在の薄い本が融け、曖昧な形になる。このぐらいが、ちょうどいいのだ。
無駄話をしすぎたわね。さあ、続きを読もうか。

38 :
同じ運用に就いたのが3日後だった。いつも通りの作業を済ませ、電車に乗り込む。この前よりも乗客は少なく、10人を切っていた。結局、その人数は変わらず、電車は動き出した。
駅に着くたび、1人1人と消えていき、彼女が乗るであろう、桜台駅に着く前に、また空気だけを運ぶ状況になる。
桜台駅のホームが見える距離まで来た。小さな人影が見える。俺はそれだけで誰だかがわかった。電車は大きく揺れながら減速し、ホームに着く。ドアを開けると、あの少女が勢いよく乗ってきた。
今日の恰好は、薄オレンジ色のフリルドレスだった。風でフリルが揺れ、今にも飛んでしまいそうな雰囲気を醸し出す。柄にもなく、メルヘンな感想だなと、一人思った。背中には、前回と同じウサギのリュックサックがいた。
少女はまた座らず、ドア横で立ち、外を眺めている。俺は彼女に声をかけず、見守るだけにした。少女はちらちらとこちらを見る。やはり俺が気になるようだ。俺は「ドア、閉まります。ご注意ください」とアナウンスしたあと笛を吹き、ドアを閉めた。
「はわわっ!」
電車が発車した時に生ずる揺れに、彼女は踏鞴を踏んだ。ドア横のポールにしがみつき、じっと耐えている。
その時、スカートにお尻がぴったりとくっつく。妙に膨らんだフォルム。それは彼女のボディラインから少しばかり逸脱している感じだった。やはりそうか。長い間あった頭のもやもや感が、吹っ飛んだ気がする。
 俺は彼女のあることに気づいていても、それをおくびにも出さないようにした。

39 :
その出来事が起きたのは、2つ目の駅を出発した直後ぐらいだった。
少女の様子がおかしい。
急に慌てふためき、助けを求めるような視線を俺に送る。俺も気になって、乗務員室から出て、彼女の元へ行った。
「お客様。どうかなさいました?」
極めて事務的に、彼女に聞く。彼女は焦りながらスカートを指さし、
「は、挟まっちゃったの!」
と叫んだ。ドアの隙間には、彼女のスカートの裾が、見事なまでに挟まっていた。俺はそこで拍子抜けし、
「大丈夫ですよお客様。次の駅も、こちら側のドアが開きますから」
と宥め、踵を返した。別にこれといって騒ぐ問題ではない。そう思っていたのだが…
彼女に強く袖を引張られた。
電車の揺れと合わせ、つんのめりそうになる。敢えて動いてバランスを取った。気を落ち着かせる。少女はそんな俺などお構いなしに、
「は、早くしてよー!あたし、その、だ…だめなの!」
と懇願する。俺は彼女を注意深く観察した。強く閉じられた太腿。両の手はいつの間にか股間を押さえるような仕草になり、目には薄らと涙を浮かべていた。俺はそこで彼女の行動の意図を読み取った。
「まだ、大丈夫か?」
先ほどまでの他人行儀な口調を止め、馴れ馴れしいような口調で聞いた。少女はその変化にすら気づけないほど切羽詰まり、
「ひ…あ…ぁ…だ、だめぇ…」
と最後の言葉を述べた。汗が一粒、床に落ちた。数秒の空白後、それは始まった。
くぐもった水の音が聞こえる。少女はみるみる顔を赤くし、自身の行動を恥じていた。押さえているスカートから、水に濡れたようなシミが出てきた。
「あ、ああ…ああー…」
呆けたようにその言葉を繰り返す少女。シミはだんだんと大きくなっていく。よく見ると、シミの色は、レモン色だった。電車が大きく揺れる。少女はバランスを崩しへたり込んだ。
ぴちゃという水の音。この電車には、クーラーなどという装備は持ち合わせていない。ましてや、水が滴る状態などもほとんどなかった。
「………」
一瞬の静寂。電車の出す雑音が、耳にこだまする。
「ふぇっ、ひっぐ…ふぇぇぇぇぇぇんっ」
堰を切ったように、少女が泣き出した。そこで俺は我に返る。なんかこの状態、変な勘違いされそうだ。
「お、おい!?そんな大声で泣くなって!」
俺は必になって少女を宥めるも、少女は聞く耳持たず。ただただ泣き叫ぶだけだ。いつの間にか、俺の足本までに広がった黄色い水たまり。
「ひっぐ…だってぇ…だってぇ…」
電車が減速を始めていた。俺はひとまず彼女を抱きかかえた。
「うひゃあっ!」
少女は突然の行動に目を丸くする。制服の袖が濡れる。
後で洗濯しなければと思いつつ、彼女をトイレに連れて行った。ここだけ新規に改造したからか、電車とは不釣り合いに洋式便所。そこに彼女を座らせる。
彼女は不思議そうに俺を見つめている。俺は帽子を意識して被り直し、
「少し待ってろよ」
と言いつけた。少女は無言で頷く。俺は急いで乗務員室に戻り、車掌としての作業を行う。
電車はホームに滑り込んだ。ドアを開ける。誰も乗ってこなかった。笛を吹き、ドアを閉める。すぐさま電車は発車した。俺は制服を脱いで彼女の元へ戻る。
時計を確認する。次の駅まで、5分あった。

40 :
トイレの中でうつむく少女は、俺が入ってきた途端、顔をあげた。それが俺だとわかり、大きく安堵する。
「あ、あの…」
少女は何か言いたげな目で、こちらを見ていた。しかし、肝心の言葉は、いつまで経っても出やしなかった。
俺は彼女の言葉を待つより先に、やることを済ますため、
「後でいいから。まずは服、どうする?」
と聞いた。少女はそこで自身の姿を眺める。スカートは全体的に水を吸い、びちょぬれだった。
下着の様子を確認するため、捲るように指示する。最初は嫌がっていたが、流石に自身の現状を把握したのか、渋々スカートをたくし上げる。
彼女の下半身を包んでいたのは、ピンク地の、かわいらしい紙おむつだった。本来ならおしっこを受け止めるはずのそれから、おしっこがあふれ出てしまったのだ。
「ひっぐっ…ひっぐっ…」
少女はまた、泣き出してしまう。顔を紅くし、大粒の涙を流し、彼女は泣いた。俺はどう言葉をかけていいのか、わからなかった。時計を確認する。
…大丈夫。まだ駅には着かないはずだ。彼女を落ち着かせ、おむつをはずさせる。横をビリリと破いた。懐かしい音だった。
「うおっ…」
予想以上の重さについ声を出してしまう。少女はびくっとその声に反応した。怯える目つき。怒られると思っているのだろうか。
おむつは内側の部分をすべて黄色に染められ、水たまりも存在していた。少女を立たせ、水たまりを便器の中に流し、丸めてからゴミ箱に放り込んだ。一度手を洗い、彼女のリュックサックを貸してもらう。俺の予想が正しければ…
「やっぱり」
リュックには、替えの紙おむつがいくつか入っていた。
俺はその中から1つ取り出し、穿かせる。
彼女はその隙に自身の処理をある程度していたようで、俺がおむつを渡すとすんなりと穿いてくれた。問題はスカートの方だ。さすがに手持ちに替えの洋服などなかった。このまま放っておくわけにはいかないし……
おれが頭を抱えたそのとき、ピリリという音が彼女のバッグから聞こえた。俺は瞬時に反応し、それを見つける。
携帯電話。
渡りに船とはこのことだった。すぐさまそれを少女に手渡す。少女は受け取ると慣れた手つきで会話を始める。俺は邪魔にならないように、外に出た。
電車はもうすぐ、夕顔駅に着こうとしていた。

41 :
揺れが収まり、電車が止まる。ホームには1人の女性が、待っていた。ドアを開ける。トイレから顔を出した少女がこそこそと周囲を確認し、一目散に女性の元へと走っていく。
下に向かう階段に少女は隠れ、女性はその横で少女の話を聞いていた。やがてこちらに向き直り、頭を下げる。俺は少しだけ恥ずかしくなって、手で答えた後、反対側の窓の方へ逃げた。
眼下に街並みを眺める。
ここは俺が生まれた町。そして、もう戻らないと決めた町でもあった。俺には戻る資格がない。そう思っている場所だ。
発車時刻が近づいた。もう一度ホームを眺めると、すでに人影は消えていた。笛を吹き、ドアを閉める。と同時に階段から人影。
気になってしまい見てみると、そこには青いプリーツスカートと薄緑のボーダーシャツを着た、あの少女が息を切らして上がってきたところだった。
彼女は俺を認識すると、大きく手を振り、
「ありがとー!お兄ちゃんー!」
と笑顔で言った。俺も、あんまり悪い気はしなかったので、そのまま手を振って返す。
 そのとき、風がひゅぅと吹いた。
ものの見事に、スカートが捲られる。中の、俺が渡したおむつが、丸見えだった。少女はすぐにそれに気づき、手でスカートを押さえた。
そして何か大声で言っていたが、すでに電車はそれが何かを聴き取れる範囲から脱していた。
「気をつけろよ。もう…」
だから、この独り言も、あいつには聞こえないだろう。俺は自身の顔が少しだけ熱くなっているのを知っている。だから、ここまでで止めといた。これ以上何かを考えると、変な気分になりそうだった。
電車はトンネルに突入した。考える時間は、悠々あったから。
 仕事を終え、大事なことを忘れていたことを思い出す。彼女の名前を、聞くのを忘れていたことを。

42 :
本に栞を挟んで閉じる。さすがに目が疲れた。この明かりの乏しい空間では、目の負担は大きすぎる。少しばかり休ませよう…そう決め、本を読むのを止めた。本を机に置き、ランプを置いたまま、暗闇へと躍り出る。
本の森は常に姿を変える。ここは読まれることのない本たちの墓場だ。常に変化し、増えていく蔵書。迷路のように入り組み、高層階層を構築し、摩天楼のように聳え立つ。
こうやって一歩歩むだけで、私は地の底に向かって落ち、そして一回ジャンプしただけで、大空を舞う。
重力すら関係ない、異空間。その中で唯一ここの本を減らせる存在が、私…いや、私たちだ。まあ、他の連中は本を読む気があるとは思えないので、実質私だけだろう。
さて、まずは迷い込んだ子猫を探しに行きましょうか。それまで、その本、読んでいてもいいよ。栞は、そのままでね。

43 :
久方ぶりの休みに、俺は親父の墓参りに行くことにした。
命日や彼岸はとっくに過ぎているが、まあ、その辺はスケジュールが合わなかったのだ。仕方ない。
いつもは車掌として乗る電車に、今日は客として乗り込む。
相も変わらずスカスカの車内。車掌は先輩の扇さんで、俺の姿を見つけると、手で挨拶してくれる。
俺は会釈し、手短な席に座った。電車はいつも通り、激しい揺れとともに動きだした。
窓の外は雲一つない青空となっていた。風が吹いていて、電車の近くの木々が、少しばかり揺れている。
目的地は夕顔町。
駅にして3つ。
待ち遠しいような、後ろめたいような気持ちが、体を駆け巡る。電車は、警笛を鳴らし、橋を渡った。

44 :
新作ktkr!

45 :
「まもなく夕顔。夕顔〜。お出口、左側です」
声と共に立ち上がり、ドア前に立つ。電車がガクンと揺れ、減速した。そこで、この前の少女のことを思い出す。あの後、少女に会うことはなかった。
あれだけのことがあったのだ。俺を見つけると逃げてしまうかもしれない。
ただ、彼女はそんな雰囲気はなかったし、また同じ運用をやれば、会えるのだろうか。
ドアが開き、俺は電車を降りた。ホームには、俺以外誰もいなかった。電車の中には数人の乗客が残っていたが、誰一人動じず、ただ発車を待っていた。
その電車を背にし、階段を降りる。改札を抜け、駅を出た。綺麗にまとめられた、こじんまりとしたロータリーには、バスが一台、タクシーが4台止まっているだけだった。
俺は数秒考え、歩いていくことにした。それほど遠くないし、無駄に金を使う必要もない。時間に余裕だってある。それらのことを考え、足はひとりでに動き出していた。
遠くでカラスの鳴き声が聞こえた。

46 :
親父の墓は、町を見渡す丘に作られた駅よりも上、その後ろに聳え立つ山の中腹の寺に存在する。世界的に有名なアルピニストだったらしい親父の要望で、その寺の一番見晴らしの良い場所に、墓があるのだ。
らしいというのは、俺が親父に関する記憶があいまいなせいだ。親父は俺が5歳の時に山で雪崩にあってんだ。体は運がよくて見つかった。そう、運がよくて。
どうせなら、もっと強運で、生きて帰って来れたらよかったのに。
親父の亡骸を前に、お袋がわんわん泣いていたのだけは未だに覚えている。対する俺はその光景がジョークやショーにしか見えなくて、泣くことすらできなかった。葬式をやって、数日してようやく、俺は親父がんだことを認識した。
それでも、涙は流さなかった。代わりに、おねしょが再発した。その日から3年間。俺のおねしょは治らなかった。きっと、涙を流さないために、おしっこをしていたのだろう。子供のころは、そう思うしかなかった。
 少しだけ息を切らし、寺に到着する。年季の入った山門をくぐり抜け、その先の墓所へと向かう。急に空気が冷たくなった。この寺の雰囲気だろう。厭に静かで、妖怪でもでるんじゃないかと勘繰ってしまう寺。
昔は本当に出たという話も、ガキの頃に聞いた。桶に水を入れ、柄杓と花を持ち、線香とライターをポケットにいれ、その場所を目指す。墓地の端。そこまで石畳を歩き続ける。遠くで、電車が走る音がした。

47 :
ようやく、親父の墓に着く。生けてある花は萎れ、墓は所々が汚れていた。俺はそれを掃除し、花の水を替えて、自分の持ってきた花を生ける。線香を点け墓前に置いた。
合掌。
親父の墓からみた町の景色は盛観だった。駅も、街を一望できるがここはそれよりさらに高い。遠くに流れる川まで、見渡せた。
人などとても見えるものではなく、車さえ、確認できるか怪しい。ただ、街並みだけでも絵になる。そんな光景だった。
「紅雪…君?」
呆けたように景色を見ていた俺に、その声は届いた。声のするほうを振り向くと、そこには見慣れた人間が、そこにいた。
「なんだ。真夏か」
俺に真夏と呼ばれた少女は、ぺこりと一礼した。瀬尾 真夏。俺の幼馴染の少女、いや女性だ。童顔のせいか未だに15、16歳くらいにしか見えないが、年齢は俺と同じ20歳だ。
「珍しいね。紅雪君がここに来るなんて」
真夏は桶を置き、俺の横に立つ。背の低い真夏は、俺を上目使いで見たあと、そう言った。俺は年甲斐もなく、どきりとしてしまう。
真夏は世間一般からみれば美人の範疇にはいるだろう。漆黒の髪をおかっぱに切り揃え、声はハスキーボイス。胸のあいたブラウスを着ており、下にはキュロットを穿いている。立ち振る舞いを含め、日本人形的な雰囲気を持つ。
「やっと時間がとれたんだよ。そういうお前はどうしてここにきてんだよ」
俺の質問に真夏は一度振り返り、
「毬子さん忙しいから、1ヶ月に1回、私が乱眞さんの墓、掃除したり、お花交換したりしてるんだ」
と教えてくれた。毬子とはお袋のことであり、乱磨とは親父のことだ。どちらも久しぶりに、名前を聞いた。
「そうか。ありがとな」
俺は素直に感謝の言葉を述べる。真夏は「どういたしまして」と応え、
「でも、もう紅雪君が全部やっちゃったんでしょ?なら、私はこのお花だけ生けて、帰るよ」
と言った。彼女は花を墓前に生けると、俺に一礼し、立ち去ろうとする。俺はそれを引き留めた。
「……?」
真夏は不思議そうにこちらを見ている。俺は一度頭を掻いたあと、切り出した。
「久しぶりに会ったんだしよ。どこかで飯食おーぜ」
少しだけ、恥ずかしかった。真夏は少しだけ驚いた様子でいたが、すぐに「うん。どっか、行こうか」と承諾した。荷物を片付け、先に山門で待つ。すぐさま真夏は追いつき、2人で山を下る。
ちょうどお腹が空いてきたころ。
駅前には新興住宅特有の、大きなレストラン街を備えた大型複合商業施設がある。そこまでの間、何を食べようかと、2人で話し合う。そのやり取りがまるで子供のころのようだと、懐かしむ自分がいる。もう、この街には戻れないと知っている癖に。

48 :
大型複合商業施設、有体に言えばショッピングモールの中で昼食のパスタを食べ終えた後、俺らはそのまま買い物に移行する。
ちょうど真夏がほしい服や物があったらしくて、俺はその荷物持ちという扱いだ。別段苦労するものではないし、付き合ってあげることにした。
その考えが甘かった。
彼女は欲しいものを手当たり次第買った。どうやらいつもは荷物が重くなるから控えていたらしい。しかし、今日は俺という荷物持ちがいる。彼女の限界が、突破した。
「今日はありがとう。欲しいものは、大体買っちゃった」
真夏はうきうきとした声で俺に言った。対する俺は両手いっぱいにビニール袋や紙袋を提げ、見事なまでの召使っぷりだった。
「…満足したか?」
情けないなと思いつつ、疲れた声を出してしまう。真夏はきょとんとした顔をした後、
「満足も満足。大満足ね」
とにこにこしながら答えた。その笑顔は、名前の通り、真夏の太陽のようだった。俺も悪い気分はしなかった。こんな笑顔を見れるのならば、これぐらいの苦労、どうってことはないのだ。
ただ、その気持ちも長くは続かなかった。
帰るために1階に降りて、外に出るときだった。前から、3人組の男共がこの施設に入ろうとしていた。それに俺は気づいていたが、真夏は俺と話すことに夢中で、気づいてはいない。
奴らもまた、俺らには気づいていないようだった。そして、自動ドアのところで、事件は起きた。
「あたっ」

49 :
真夏は盛大にその男共の1人、アロハシャツを着たロン毛の男にぶつかった。
そいつはそこで「チッ」と舌打ちしたあと、少しだけニヤついた。それで俺の嫌な予感は倍増する。
「ご、ごめんなさい。前、見てませんでした」
真夏が誠意をもって謝る。しかし、男達は満足しないのか、
「ハァ?俺にぶつかってきてそんだけぇ?舐めてんの?」
と横柄な態度で言う。真夏はさらに困惑し、次の言葉が出ない。
「なぁさ。黙ってないで、何とか言ったらどう?」
横にいた、ピアスをジャラジャラ付けたツンツン頭の男が脅す。
「まあ、まずは土下座だよな。土下座」
さらに反対側にいた、スキンヘッドにサングラスの、流行り歌手をダメにした感じの男が言った。そこで俺はカチンときて、真夏をかばいつつ反論する。
「お前らなんだよ。謝ったんだし、そっちも不注意だっただろうが」
「うっせーよ。てめぇには聞いてねーし」
アロハシャツの男が語調を上げて言った。お前は邪魔だと言わんばかりの態度。今度は横のピアス男が、
「お前彼女の何なの?彼氏?」
と挑発する。そこでなぜか真夏の顔が赤くなった。俺はそれを見なかったことにし、
「別に友達だよ。で、もういいだろ?」
「よかねーよ!さっきからうざいんだよ!」
アロハシャツの男がいきり立った。ピアス男は真夏に近づき、
「なあさ。こんな奴ほっといて俺たちとお茶しよーぜ。嫌とは、言わねぇよな?」
と半強制的なナンパをしてくる。今度はスキンヘッドの男も加勢し、
「彼女ちょい小さいけど、かわいいじゃん。俺にもヤラセてくれるだろ?」
と卑猥な言葉を口にした。そこで俺は堪忍袋の緒が切れ、
「いい加減うざいんだよ…屑が!」
と、どすの利いた声を出した。そこでへらへらしてた横の2人も、こちらを向く。数秒の沈黙。
「…おい。今なんつった?」
先に口を開いたのはアロハシャツの男だった。こちらもかなりキレているようで、ぴくぴくとこめかみが動いている。
「聞こえなかったのかよ。屑っていたんだよ!ク・ズってなぁっ!」
大声での挑発。それを無視できるほど、こいつらは賢くなかった。
「…おい」
アロハシャツの男の合図に、他の2人が頷く。そして親指を立て、外を指差した。どうやら表出ろということらしい。
「……紅雪君」
真夏が俺の腕を掴んだ。震える手。俺はその手を反対の手で上から抑え、
「大丈夫だよ。俺が何とかするから」
と余裕をもって答えた。彼女は俺から離れず、寄り添いながら歩き出した。
 向かった先は、この施設横にある、人気のない路地裏だった。

50 :
ひんやりとした空間が、そこに広がっていた。寺とは違い、肌にまとわりつく、じめとした感覚。気持ち悪さが体に染み付く、そんな空気だった。そこに着いた途端、アロハシャツの男が殴りかかってきた。
不意討ちを狙ってのことだろう。
しかし、俺には効かない。そのまま鼻っ柱に拳をめり込めさせる。おそらく鼻の骨を折っただろう。悶絶し、後退するその男に代わって、今度はどこからか拾ってきたのか、鉄パイプを持ったピアス男が、大きくそれを振りかぶってきた。
「紅雪君!」
真夏を瞬時に後ろに庇い、その攻撃をよける。体幹がなってないのか、男は勢いだけでふらついた。それでも男は、更に横ふりで攻撃する。それをひらりとかわし、勢いを利用して回し蹴りを横腹に見舞う。
男はパイプを落とし、腹を抱える。その隙を、俺は逃さなかった。追撃のひざ蹴りを顔にぶち込む。
ぶちゅりとし感覚が、足に届いた。
男は顔を崩され、そのまま後ろに倒れこんだ。最後に、スキンヘッドの男だが、すでに逃げ腰だった。だが、ここにいる以上、倒させてもらう。俺が突進すると、そいつは蛇に睨まれた蛙のように動かなくなる。
恐怖に体を竦ませて、顔が大きく引き攣っていた。
そこでラリアットを首に叩き込む。スキンヘッドの男は背中、続いて後頭部からアスファルトに叩きつけられる。おそらく脳震盪ぐらいは起こしているだろう。まったく動かなくなった。
この間。わずか30秒の出来事。後は最初の男の後始末だ。そう思ったとき、
「きゃああああっ!!」
悲鳴が路地にこだました。最初の男はいつの間にか真夏を羽交い絞めにし、手にはナイフをチラつかせていた。鼻から大量の出血をしてる姿は、非常に見っともなかった。
「ぼい!これ以上やっだら、どうなるかわがってんだろなぁ…?」
所々が濁点になった言葉。おそらく脅しのつもりなんだろうが締まらない。しかし、ここは従っておくのが得策だ。
俺が両手を上にあげると、すぐさま後ろからその腕をつかまれる。ピアス男が復帰し、俺を羽交い絞めにした。アロハシャツの男はそこで満悦した笑みを浮かべ、
「びい気味だぜ」
と笑おうとしていたが、口に血が入り噎せていた。真夏を放すと、俺に近づき、顔を殴り始める。

51 :
「ヒャビャヒャビャヒャッ!気持ちいいぜぇ!」
どうやらドSのようだ。俺を殴ることでかなり気持ちが昂っているアロハシャツ。俺は少しだけやられるふりをした後、
ピアス男の足の甲を、思いっきり踏んづけた。
「―――――っ!」
悶絶。ピアス男は声にならない悲鳴を発し、腕の力を緩める。俺は瞬時に抜け出し、しゃがんだ。
アロハシャツの拳が、見事なまでにピアス男に刺さった。
マンガみたいに飛ばされるピアス男。そのままスキンヘッドの近くまで飛ばされ、こちらも動かなくなった。
「バァ?」
アロハシャツはその光景に唖然とし、動きが数秒止まる。俺はそこでハイキックをかまし、こめかみにヒットさせる。アロハシャツは呆けた表情のまま横に跳び、壁にぶつかり、動かなくなる。
全員動かなくなったのを確認すると、真夏の元に駆け寄る。真夏はへなへなと座り込んでしまう。そして、
しゃあぁぁぁぁぁ……
水の流れる音がした。薄暗くて色は分からないが、それがなんであるかぐらい、容易に判別できた。仄かに漂うアンモニア臭。放心した真夏は、自身が恥ずかしい行為をしているという認識すらなかった。
「真夏。しっかりしろ」
俺は彼女の肩を揺らし、正気に戻させる。真夏はそこでハッとし、
「あ、あれ私……」
そこでようやく、真夏は自分がおもらししていることに気がついた。自身のスカートを見る。お尻を見、また前を見て一言。
「おもらしなんて…中学校以来だよ…」
とあんまり覚えてもいない過去のことを話した。ひどく落ち込んでいるようだが、さすがにこのままにはしておけない。まずは、こいつらから離れなければ。
「立てるか?」
俺の問いに真夏は、
「えっと、なんとか…」
案外楽々と立ち上がる。俺はそこで一息吐いたあと、
「まずはその身なり、何とかしないとな……この先、確か児童公園があったよな。そこで着替えよう」
幸い、先程買った商品にはスカートもTシャツもあった。俺の提案に、真夏は「わかった」と素直に従う。
俺は彼女の手を掴む。彼女が驚いて俺の顔を見る。俺は動揺してる心臓を抑えつつ、
「走るぞ」
とぶっきらぼうに言った。きっと、顔は赤くなっているだろう。対する真夏も顔を赤くし、
「うん。なんとかついてく」
と少しだけ自信なさげに言った。
そこでのびてるゴロツキ3人を放置し、俺らは街を走り抜ける。周りの人は迷惑そうに、不思議そうに、驚いて、面白そうに俺らを眺める。瞬時に通り過ぎているから、彼女のおもらし跡もばれないだろう。というか、そう信じたかった。
児童公園は、目と鼻の先にあった。

52 :
児童公園は平日とあって閑散としていた。まあ、そのほうが好都合である。彼女の、真夏の今の姿を見られずに済むから。
公衆トイレを見つける。運よくここまで、誰にも見られずに済んだ。俺は悪いとわかっていても、女子トイレを覗いた。……誰もいないようだ。
「ほら」
俺は持ってる紙袋の1つとビニール袋の1つを手渡す。真夏は受け取ると女子トイレの中に消えていった。俺が外で待っていると、女子トイレから反響した声が聞こえる。
「紅雪君―。聞こえるー?」
俺は「何だよー」と返した。数秒後、彼女が切り出す。
「そう言えばさー、私が小学4年生の時もー、こうしてくれたよねー」
俺はその言葉で自身の記憶を探る。…あった。確かに、俺と真夏は小学4年生の時、似たようなことを経験していた。別に、喧嘩はしていない。ただ、真夏がおもらしをし、その介抱をした。
真夏は小学校の帰り道、よくおもらしした。幼馴染の俺は、その世話を、よくしたものだ。大泣きする真夏を連れ、家路を急いだあの日。まだ家が温かいものと思っていた頃。
 数十分後、真夏は新しい、ベージュのフリルスカートに、白い、胸にポップな文字がイラストされたTシャツを着て出てきた。
上まで着替えなくてもよかったが、どうやら新しい服を出すということで、気分を紛らわせたらしい。聞きたくもないのに、
「やっぱノーパンだしスースーするね」
とか呑気に口走っていた。俺は呆れた表情で真夏を見たが、真夏はそんな俺を見つめ返し、そして、
「……紅雪君。口から、血。出てるよ」
と指摘した。俺はそれを拭うが、真夏はさらに俺を凝視し、
「ここにも。ここにも。ここにも傷がある」
と様々な個所の傷を指摘した。正直、族時代の怪我に比べれば屁でもないのだが、
「さっきの喧嘩で?……うん。決めた」
いつの間にか真夏が何かを決めていた。徐に携帯電話を取り出し、誰かと話している。会話内容は聞き取れないが、真夏が敬語を使うとは、珍しいことだった。
「話が進んでるけど、どうなったんだ?」
俺の問いに、彼女は「私の仕事場まで連れて行って手当てをする」という内容のことを答えた。
正確には、「私の勤めているお屋敷の相方兼先輩に頼み込んでこっそり忍び込み。手当てをしてからこそこそと抜け出す」というものだ。
「おいおい。いいのかよ」
俺は世間一般常識的観点から、苦言を呈す。対する真夏は、
「大丈夫。あのお家、ほとんど私の勢力下だから」
と自信満々に答えた。それ、間違ってるだろという突っ込みは、心の中に仕舞っといた。

53 :
電話をしてからわずか5分。児童公園に1台の車が到着する。大型のワンボックスカー。真夏は大きく手を振り、車は俺たちの前で停まる。運転席には、奇怪な存在が乗っていた。
「すみませんプレシア先輩。奏音様は、お車の中に?」
真夏がその奇怪な存在に話しかける。
「ええ。お嬢様はお休みよ。あんまり、うるさくしないようにね」
プレシアは穏やかな表情で話す。吸い込まれるような、アクアブルーの瞳。不思議な雰囲気を醸し出す、白髪のウェーブヘア。なにより……
出で立ちが、メイド服だった。
その世間離れした光景を唖然として眺める俺。対して平然とし、
「早くしないとおいてくよー」
と声をかける真夏。さっさと助手席に座る彼女を恨みつつ、俺は後部座席のドアを開ける。
そのとき、俺の物語の歯車が動き出した気がした。
座席の奥で、毛布にくるまり、すやすやと眠る奏音と呼ばれた少女。その姿、顔。見間違えようもない。電車の中の記憶が鮮明に蘇る。
あのおむつ少女が、そこにいた。

54 :
さてさて、私がいないうちに、どこまで読んだのかしら?
あら、それほど読んでいないのね。ならそこで待ってなさい。すぐに追いつくから。
この世界の、本の森の外が気になる人も多いだろうから、掻い摘んで説明しよう。この世界はあなたが思っているような簡単な場所ではない。
最初に、この世界に到達できる存在は限られてくる。無論、決していないわけではないが、普通の、「人間」では不可能だろう。そんな、限られた存在のみが許される、秘密の場所。
次に、この世界は一体何なのかを説明しよう。この場所はすべての物語が集結する場所だ。ここに存在しない物語はない。勿論、ここの本の多くは読まれることのない誰かの物語だ。世間一般に読まれている本は、こんなところに迷い込んだりしないから。
最後に、この世界の外について説明しよう。この世界の外は、極楽浄土から無間地獄のすべてが存在する、一定した状態にならない、永遠に終わらない世界だ。うん。言ってる私があまり理解していないように見える。
だが、断じてそれは否定しよう。この世界は終わってはいけないのだ。この世界の終りは、すべての終結を意味するから。
さて、続きが気になるだろうし、先に進もう。

55 :
俺はその家の光景を見て、唖然とさせられた。
まず、門から家が見えない。
わかるのは石畳がくねくねと続いていること、木々が森の如く生い茂っていること、お金持ちらしい、ヨーロッパ調の塀が続いていることだ。
その石畳をワンボックスカーで進む。不規則な揺れが体を襲った。電車と車、その揺れの本質は全く違う。電車は縦揺れが少なく、横揺れが多い。
に対し、車は縦揺れの方が多い。だからこの揺れは、すごく体に響いた。
「もうすぐでお屋敷です」
そんな俺の様子をミラーで見つつ、プレシアはハンドルを右に切った。車がゆっくりと右折する。そして、石畳のカーブが無くなった。
正面に、今まで見たこともない豪勢な邸宅が、現れた。
どこかの有名ホテルかと見紛う位の大きさ。3階建ての建物で、壁は白で統一され、屋根は西洋風の、こげ茶色だ。
窓はすべてに木製の雨戸がつき、入口にはライオンが彫られている。車はその豪勢な入り口を逸れ、すぐ横の駐車場に停車した。
「着きましたよ。…真夏。先に彼を送って差し上げなさい。私はお嬢様をお運びいたしますから」
「わかりました」
真夏はプレシアの言うとおりにし、俺を降ろして家の中へ連れ込む。入ることすらおこがましいその雰囲気に、俺は自然とたじろいでしまう。
「早くしないと、これ、オートロックだから!」
真夏に言われ、俺は小声で「失礼します」と断ってから、豪邸の中へ侵入した。
 絢爛豪華。その言葉に相応しい室内だった。
まず玄関は吹き抜けになっていて、3階の屋根まで見渡せた。高い。室内かどうかすら疑いそうなぐらいの高さ。
木目調の室内は、気品と静寂さを兼ね備え、そしてすべてが高い代物だと感じずにはいられなかった。
「今、旦那様は書斎に籠られている時間帯だから大丈夫だけど…今のうちにこっちに、静かにね」
俺は真夏の指示に従うだけで、精一杯だった。俺とは無縁な世界。そんな中での立振舞い方なんて、分かるはずもなかった。そして、俺はリビングに、案内された。

56 :
真夏は慣れた手つきで俺の傷を見つけだし、治療する。俺はそんな自分にこそばゆさを感じ、抵抗しようと試みるが、すぐさま真夏の、
「おとなしくしてくれないと、私が困るよぅ…」
という泣きそうな声で、それを諦めた。やがて体中に絆創膏を貼り付けられた俺は、
「今、紅茶をいれてくるから…」
という言葉に甘え、1人おとなしく部屋で待つことになった。やっと落ち着いて、リビングを眺める。広い。豪邸のリビングにふさわしい、広々とした室内。
3人掛けソファが3方に並び、それぞれにレースの飾りがかけられている。傷一つないフローリングの上に、オリエンタルな模様の、高級そうな絨毯が敷かれている。
「うおぉっ…」
思わず声が出てしまうほど、豪勢な空間。
「はしたないですよ。お客様」
後ろから声をかけられる。俺が振り返る前に、その声の主はすぐさま回り込み、俺の様子を見る。
「……ふむ。大丈夫そうですね」
「…プレシアさん」
プレシアはソファの1つに腰かけ、メイド服の裾を整えると、こちらに向き直り、きつい視線を俺に浴びせた。
「あなた、お嬢様の何?」
単刀直入な質問を、投げかけてきた。
「いや、その…」
言葉にしづらい関係だ。名前さえ、さっきまで知らなかった。「かのん」だっけ?どんな漢字を書くんだろうか。
「プレシア先輩。違いますよ。その人は悪い人じゃない…とは言えないけど、少なくとも、私の信用のおける人です」
紅茶を持って、真夏が帰ってきた。真夏はいつの間にかメイド服に着替え、ヘッドレストとリボンで髪をまとめ、西洋的な様相の姿は、彼女の雰囲気をがらりと変える。
その彼女は俺の過去を知っているから、含みのある言い方をした。
「そう…真夏がそういうのなら…」
プレシアはまだ、探るような視線を俺に向けていたが、そんなことお構いなしに真夏は紅茶を置くと、俺の隣に座る。
「一応自己紹介します。紅雪君です」
俺が一礼すると、プレシアは軽く一礼し、
「初めまして…というのも変ですけど、紅雪さんですね。プレシアです。よろしくお願いしますわ」
と挨拶する。そして、紅茶を1口啜ると、プレシアは早速切り出す。
「真夏。旦那様に気づかれないように、紅雪さんを送って差し上げなさい」
拒絶。はっきりと認識できる拒絶だった。
「そんな冷たいですよ…プレシア先輩」
真夏が批難をするが、プレシアは気にも留めずに、
「お嬢様の教育上よろしくありません。本当ならすぐに出ていってもらいたいぐらいです」
と辛辣な言葉を浴びせる。まあ、こんなことは慣れっこだ。俺はすぐさま紅茶を飲み干し、立ち上がる。
「ありがとな真夏。頼むけど、送ってもらえないかな?」
「紅雪君…」
真夏は数秒俺を責めるような、悲しそうな曖昧な表情で見つめたが、プレシアの「賢明な判断です」の言葉を受け、ゆっくりと立ち上がる。
「わかりました。……すみません紅雪君」
最後の声は、俺にしか聞こえない小さな声だった。俺はジェスチャーで「いいよ」と示し、2人でリビングを後にした。

57 :
廊下を進む。余所の家だったら部屋ほどもあるぐらい、広々とした廊下。端には手すりが備え付けられている。
「今日は、ありがとうね。…本当に」
真夏の感謝の言葉。俺は「いいって」と返す。香水をつけているからか、ほんのり花の香がした。おそらく、おしっこの匂いをごまかすためだろう。
その時、微かであるが、ピアノの音がした。
「ん?」
俺はその音に機敏に反応し、導かれるように廊下を逸れ、その音がする方へ歩いて行く。真夏はそんな俺を咎めず、逆に嬉しそうな表情で後ろをついてくる。
どんどんと大きくなるピアノの音。
最初は穏やかだったピアノの音は、だんだんと激しくなっていくが、それでも滑らかに奏でられていた。やがて、ピアノの音がすぐそばまで聞こえる場所に来た。
「……ここか?」
外から見たら只の扉。俺はそこから漏れるピアノ音に、吸い寄せられ、静かに開く。
そこには、天使がいた。
穏やかな、それでいて嬉しそうな表情を浮かべ、「かのん」はピアノを軽やかに弾いていた。羽が舞うよな、そんな幻視さえ見えてしまう姿。奏でる響きは天使の囁き。
「かのん」は俺の知らない曲を、体に溶け込ませる感じ。…そうか「かのん」って「奏音」って書くのか。そう直感した。
突然、その指が止まった。

58 :
彼女はピアノを弾くのをやめ、こちらを見る。しまった。彼女の空間に入り込んでしまったか。
「あれ?見たことない人…誰?」
奏音は俺らを眺め、尋ねる。さすがに制服を着ていないとあの時の車掌だと気付いてもらえないか。そう思っていたが、少し様子が違った。
「初めまして奏音ちゃん。今日からここで働くことになった真夏です」
真夏は俺の前に出て、わざわざ自己紹介した。俺はその行為に不信感を覚えたが、真夏は俺を割り込ませなどしなかった。
「まな…つ?」
「はい。真夏です」
幼児のように名前を繰り返し、反芻する奏音。真夏はにこやかに、保母さんのような対応をした。奏音は一通り名前を繰り返すと、今度はその夕焼け色の双眸を、こちらに向けた。
「お兄ちゃんは?誰?」
その声は、まるで今ここに生まれてきたかのような、純粋無垢な音色だった。
「俺の名前は紅雪だ。よろしくな」
俺の自己紹介を受け、彼女は答えようとし、
「あたしの名前は、名前は…」
止まった。ビデオを見るような感覚。すべてが制止し、音すらなくなる。開いたままの口を動かさない奏音。返答がこず、どうしようか思いと動けない俺。そして、真夏が悲しそうな眼で、奏音を見つめていた。
「名前…なんだったっけ?」
静寂を打ち破ったのは、奏音の無邪気な声だった。どこまでも透き通るような声で、彼女は、自身のことを尋ねた。俺はその光景が理解できなくて、呆けてしまう。それに対し、真夏は迅速に対応した。
「お忘れですか?奏音様。あなたは華村 奏音様です。この華村家のお子様ですよ?」
ニコニコとした表情を崩さない真夏。しかし、その表情に一瞬、陰りが見えた。
「うーん…覚えてないかも。真夏は、あたしを、知ってるの?」
「はい!私はこの華村家で、ハウスキーパーをさせていただいております」
きょとんとした眼。その眼が、さっきと同じように、俺に向けられた。
「じゃあさ、紅雪はあたしのこと、知ってる?」
無邪気な、本当に無邪気な質問。その質問に俺は、答えられなかった。

59 :
奏音は俺の顔を食入るように覗く。俺の回答を待ちわびているようだった。だけど、俺は軽はずみに答えることなど、できなかった。またも時間が止まる。しかし、今度のそれは、一瞬で終わった。
「あ…」
小さな、それでいて確かな声。奏音は股間に手をやると、強く押さえる仕草をする。顔がみるみる赤く染まる。真夏はすぐさましゃがみ、奏音と同じ目線になるよう腰を下ろした。
数十秒その行為が続き、やがて体を震わせると、「ふぅ…」と大きく肩で息をした。
「おしっこ、でちゃいました?」
穏やかな声。奏音は静かに頷いた。真夏が手を差し伸べると、奏音はその手を自然に、受け取った。
「あれ?…なんだか、懐かしいかも」
奏音の言葉に、真夏はにこりと微笑み、
「きっと、お体は覚えているのですよ」
と答えた。そして、ピアノの部屋を後にし、俺らは奏音の部屋へと向かう。
部屋に入ると、真っ先に目についたのは、どでかい熊の縫いぐるみだった。
ファンシーな空間。ところどころに縫いぐるみが置かれ、ベッドもメルヘン調に彩られている。壁に備え付けられた木目調の低い箪笥の上には、額縁に収められた表彰状やトロフィーが飾られている。
反対側の壁にはキーボードが置かれ、その上には楽譜が広げられていた。楽譜には様々な書き込みがされていて、題名はこの位置では読み取れないものの、とても人間が引ける量の音符の数ではなかった。

60 :
玄関の外まで連れ出された俺は、そのまま車の近くまで連れて行かれ、
「あなた。お嬢様の秘密、どのくらい御存じなの?」
と詰め寄られた。俺は虚を突かれ、茫然自失に一瞬陥ったが、すぐさま意識を回復すると、
「どのくらいって…まぁ…あの子が、おむつをしてること…ぐらいかなぁ?」
正直、俺は彼女のことをほとんど知らない。電車で会ったことなど数回だけだし、名前だって今日知ったのだ。そんな少女の秘密をどれだけしているのかと聞かれても、答えようがなかった。
「そう…しらばっくれるのねぇ?」
プレシアはやけに低い声で脅したあと、メイド服の懐から黒光りするものを取り出した。
それは、誰がどう見ようと、拳銃だった。
実物かはわからない。ただ、その重厚なフォルムと、雰囲気が、それが本物であることを物語っていた。
「これを突き付けられても、NOと言えるのかしら?」
彼女は妖艶な表情を浮かべながら、胸に銃口を突き付ける。サディスティックで退廃的な光景。しばらく離れていた、俺の居場所。昔のことが、走馬灯のように思い出される。
「……ああ、言えるさ」
そうさ。言える。この程度のピンチ、ざらじゃない。
「ふぅん?」
強く押しあてられる銃口。引き金を握る手が、ぴくりと動いた。
「俺は何ら疾しい心なんてない。ただ真夏に連れられて、ここに来ただけさ」
プレシアは俺の瞳を見つめ、真意を探る。数秒の空白。風の音が大きく聞こえた。
「まあ、今日はここまでね」
プレシアは銃を胸元に戻し、離れる。俺がほっと一息つくと、玄関から真夏と奏音が現れた。
「お話の方、終わりました。送って差し上げなさい真夏」
「………」
真夏はだんまりを決めて、プレシアを見る。プレシアもさすがにこの行為にいぶかしみ、真夏に問う。
「真夏。どうしたのですか?車のカギでしたらあなたも持っているはず…」
「奏音様がっ!」
そこでプレシアの声は遮られた。プレシアは一瞬驚いた表情をしたが、またいつもの冷静な表情で、
「お嬢様が…どうなされたのです?」
と聞き返す。その声は、冷徹だった。聞いただけで背筋が伸び、体が硬直し、動かせなくなる、そんな声だった。
しっかりと2人に向き直るプレシア。もう、表情の様子などは分からない。

61 :
「奏音様が、紅雪君に、話したいことがあるようです」
言い終わる前に、奏音は俺の元へ駆け寄ってきた。プレシアは、動かなかった。奏音は俺に抱きつくと、上目づかいで俺を見上げ、
「あのね、紅雪。紅雪って、あの、車掌さんでしょ?」
と聞いた。俺は突然の行為にどぎまぎしたが、
「ああ。どうして、気づいた?」
と聞く。奏音はその回答に喜び、心底嬉しそうな笑顔で、
「わかる…わかるよ!だって、声。同じだもん」
と言った。そこでプレシアがハッと振り返る。真夏も驚いた表情で俺を見た。
「あのね…あたし。時々、忘れちゃうんだ。いろいろなこと。自分のこと。みんなのこと。大切なこと…でもね。ここには…」
そうして彼女は自身の胸の前で手を組み、
「ここにはそんな、忘れちゃうはずだったものが少しだけ、残るの。音とか。感じとか。でね、声だけ。車掌さんの温かい声だけ、ここにあったの」
穏やかな表情。俺はというと、照れくさくて、まともに顔を合わせられなかった。奥の2人は、静かに、こちらに歩み寄った。
「でね。でねっ!あたし、ずっと…ずっと言いたかったんだ…ありがとうって!……あなたに」
一筋の涙が、流れ落ちる。やがてそれは雨となり、地面へと降り注いだ。
「忘れちゃう…とこだったよぉ…あたし…あん…なにぃ…思って…たのに…」
涙とともに出る、掠れた声。それは、彼女の心の叫びだった。
「お嬢様。もういいのです」
プレシアは彼女を抱き寄せる。視線では、「もう行ってくれ」と言わんばかりだった。後ろで、車のドアが開く音。見ると真夏が運転席に座り、エンジンをかけた所だった。真夏が無言で頷く。俺はそこで奏音から離れ、車に乗ろうとし、
裾を、掴まれた。
赤ん坊のように。強く握られた手。俺は一度向き直り、優しくその握り拳を解かせ、言った。
「大丈夫だよ。また、会いに来るから」
泣き顔で彼女は、聞く。
「本当?」
「ああ、本当さ」
俺は強がるような、自信ありげに言った。プレシアは「余計な事を」と言いたげだったが、彼女の人となりからして、奏音の要望は、断らないだろう。
「じゃあ、また来てくれる?約束、守れる?」
その艶やかな、触るだけで天にも昇る気持ちになる髪の毛を撫で、
「守るよ。……絶対」
と宣言した。
奏音とプレシアに見送られ、華村家を出たのは、その5分後だった。
今日はここまで

62 :
お疲れ〜
続き待っとるよー

63 :
流れる街並みを眺め、俺は駅まで送ってもらった。真夏は、終始楽しげに会話をしていたが、奏音のことは一度も話題にはしなかった。ホームに立ち、夕焼けに染まる街並みを眺めた。遠
くはもう電灯がつき、夜景と化し始めていた。もうすぐ夕方のラッシュだ。きっと降りる人でこのホームはごった返すだろう。ここは多くの人が帰る場所と決めている場所。ベッドタウンと呼ばれる場所の1つ。
だがここにはもう1つの、荒んだ歴史がある。ここは数年前まで、治安がいいと呼べる街ではなかった。町にはヤクザや不良が蔓延り、夜に1人で出歩いてはいけない町と呼ばれた。数年前まで。
数年前。ある事件を皮切りに、警察が本格的にここいら一帯の取り締まりを強化した。それにより、ここは以前とは違った、クリーンなイメージを取り戻すことができたのである。
しかし、今でもところどころに傷痕は残っている。この駅の近くのガードは、そんな記憶を色濃く残す現場だ。無数の落書き。血の跡。まだこの町がすさんでいたころの名残。
町にも記憶がある。人だってそうだ。この町の人間の多くは、未だに夜は単独行動をしない。昔の記憶は、易々と消えない。
だが、彼女は違う。彼女はいとも簡単にすべてを忘れてしまう。
それは、幸福なのだろうか。はたまた、不幸なのだろうか。
大手私鉄直通の、長大編成の電車が、ホームに入ってきた。中のぎゅうぎゅう詰めにされた親父やOLが、早くドアが開いてほしい願っていた。
ドアが開く。
それと同時に雪崩のように降り、ホームを埋め尽くす人だかり。その中で俺は、1人唇を噛みしめていた。
 彼女の苦しみを知りもしないで、そんなことを考えてしまった自身を恨みながら。

64 :
さてさて。あなたたちも随分とこの世界のことが分かってもらえたようだし、少しばかり難しいお話をしようか。なに、気楽に流してくれてもかまわないよ。
あなたは本を読む?
どんな本でも構わない。漫画でも、小説でも、雑誌でも、実用書でもなんでもありだ。
どれか1つは読んでいる?だろうねぇ。
まあ、生きているうちに本に触れず生きるのは不可能なことだ。誰だって教科書を読んで勉強するし、絵本だって読む。
ただし、それは先進国と呼ばれている連中に限るが。
あなたが手に持つその本には、さまざまな文字がつづられている。それは意味のある言葉として、あなたの中に残っていく。意味があるものであろうとなかろうと。
そしてあなたは紡ぐのだ。人生という物語の中に、数々の文字を使って。
では、それができない人々はどうなるのか。
記憶を持てない人は?
文字を持てない人は?
あなたは今、幸せの中にいることを実感したほうがいい。そのためにもあなたは、この物語を読んで、不幸について考え直したほうがいいだろう。
さて、他人の不幸の話の続きが始まるよ?

65 :
あれからしばらくの間、時折俺は奏音の家に訪問しては、彼女の遊び相手となった。
彼女はいつも朝早くに治療のために病院に出かけてしまうため、遊ぶのはもっぱら彼女が返ってくる16時以降となる。
「紅雪?今日はね…歌、聞いてほしいの」
「歌?」
「うん…このまえ、真夏がきいていた、歌」
珍しい。奏音は主に弾くほうで、俺はすでに3回ぐらい奏音の素晴らしいピアノテクニックを拝んでいる。
彼女は本当に巧くて、そんじょそこらの人間では、その巧さがうまく言葉にできないぐらいだ。
「えっと…設定は…」
奏音はキーボードを弄り始める。どうやらすでに下準備として伴奏を入力しておいたらしい。
自身が入力したデータを必に探す姿は、とても愛らしい。
「あ、あった。再生っと…」
彼女が再生ボタンを押すと、曲がピアノの独奏から、始まる。奏音はそれで自身が選んだ曲か間違いないかを確認し、キーボードから離れた。

66 :
全自動で流れる伴奏は、静かな曲調から始まった。和的なメロディ。やがて、楽器が重なり、音が壮大になっていく。そして、さららという金属製楽器の流れる音を機に、奏音が歌い始める。
「嗚呼、足元で爽やかに夏の足音♪ 空は青く高く♪…」
静かな曲調。落ち着いたメロディ。奏音の声がしっかりと聞こえる。その声はまるで天使の囁きのように軽やかでかつ伸びがあるものだった。曲はAメロを進み、サビヘ突入する。
 瞬間、世界が開ける感じがした。
広がる楽器の音。どこまでも突き抜ける感じ。夏の青空を彷彿とさせる爽やかさ。俺の目の前に、それが広がった。その中心で、日傘を差し、歩く奏音の姿を幻視する。
奏音は伸びのある歌声で、俺をその世界へと誘った。
「太陽よりも眩しい笑顔の花♪ 今こそ此処に咲かせましょう。♪」
そこでサビが終わり、またAメロへと戻る。落ち着いたメロディに映える声。電子音は記憶を呼び覚ます音。いつのまにか、俺はこの歌に引き込まれていた。
「また今年も廻り廻る恋の季節♪ 心に芽生えた恋の花♪」
再びのサビ。夏の景色そのものを見るような感覚。ひまわり畑。数本のひまわりを抱える少女。麦藁帽子を被った、奏音の姿。どこまでも広がる青と黄色。2色のコントラストに映える白い少女。
……うん。それはすごく、美しい光景だ。
曲はサビを終え、感想を挟み、B,メロへと入る。俺はもう、その曲、ひいては奏音の歌声の虜になっていた。
「いつかは終わりの来るその生命(いのち)♪ 少しでも永くそばにいて♪ 心に大粒の雨が降った日は♪ 抱きしめてキスをして涙をそっと拭いてあげるから♪」
徐々に大きくなる声量。昂る心と思い。全ては恋のなせる業。そして一度落ち着き、サビに入る。前2つのサビを繰り返し、曲は和風なメロディを残し、消え入るように終了した。

67 :
数秒間、静寂が流れた。
俺は彼女の歌声に息を呑まれ、言葉を忘れてしまった。彼女は歌い疲れ、少しだけ息を荒くしていたが、少しだけ不安そうな表情を、俺に向けていた。俺はやっと言葉を取り戻し、
「……すごい。これしか言えないけど、奏音は、めちゃくちゃすごい」
俺の言葉の意味を図りかねていた奏音は、恐る恐る聞く。
「下手、だったかなぁ?」
俺はその言葉を即座に否定し、
「そんなことない!というか絶対に奏音はその辺のアイドルなんかよりは絶対うまいよ!」
と力説する。奏音はそれ聞いて安心し、気が抜けたのかぺたりと座り込む。その座り方で、オムツを露わにしてしまった奏音。前よりも膨らみ、レモン色に染まっているのがありありと分かった。
「おもらし、しちゃったのか?」
俺の問いにこくりと頷いた。そして、オムツを確認し、
「さっき思いっきり大声出しちゃったからかな?」
と朗らかに笑いながら言った。あんまり危機感がなさそうな顔。前はおもらしであんなに泣いていたのに。やっぱり、記憶を失うというのは、心も失うということなのだろうか。
「じゃあ、真夏を呼んでくるよ」
俺が離れようとした瞬間、服の端をがしと掴まれた。振り返ると、右手で服の端を掴み、左手の中指をしゃぶりながら、奏音が俺を上目遣いで見ている。
「行っちゃ…ダメ…」
急に寂しそうな表情になり、声も涙声に変わる。
「1人にしないで…あたし…あたし…」
そこから先の言葉は、出てこなかった。泣きそうになる彼女を抱きあげて、手で涙を拭いて、言ってあげる。
「わかったよ。離れない。一緒に、真夏の所、行こっか」
「うん!」
瞬時に笑顔に戻る奏音。大輪の向日葵のような、晴れ晴れとした笑顔。それを見ただけで、俺の顔は、沸騰した。
「?紅雪?顔、どしたの?赤いよ?」
不思議そうに眺める奏音の視線でハッとなり、俺はそっぽを向いて、ぶっきらぼうに言った。
「な、なんでもねー!さ、早く行こうぜ」
2人で奏音の部屋を出て、真夏のもとへ行った。

68 :
真夏はエプロンドレスを身に纏い、キッチンで夕食の準備をしていた。俺が呼びかけると、スリッパをトテトテと鳴らして、やってくる。
「あれ紅雪君に奏音様?抱っこされて嬉しそうですけどどうしたんです?」
奏音はそれを指摘され、急に慌てふためいた。バランスを崩しかけ、危うく落としそうになる。数秒落ち着いて、事情を説明する。
「はいはーい。奏音様は本当に紅雪君のことが好きですねぇ」
少しばかり茶化した様子だが、奏音は本気にし、大きく否定しながら、
「ち、違うもん。あ、あたし…そ、そんなんじゃ…ないもん…」
と顔を赤くしながら、満更でもない様子だった。俺もあんまり、悪い気がしない。
「じゃあ、紅雪君。私は行ってきますから、少し待っていてくださいね」
真夏に連れられ、奏音はまた自身の部屋へと戻る。俺は1人残され、キッチンを見まわす。
純白に統一された、清潔感のある室内。オール電化のシステムキッチンは、整理整頓され輝いていた。
「すごいなぁ…」
思わず声に出てしまう気持ち。お金持ちの概念は違う。そう感じさせる室内だった。
その時、蝶番がキィと音を立てて、ドアが開かれた。俺は真夏が返ってきたのかと思い、微笑み顔で振り返った。
 そこには、髭を蓄えた、細身の中年男性がいた。
 固まる。2人同時に固まる。お互い初対面。探るように交わされる視線。
 先に口を開いたのは、中年男性の方だった。
「君はあれか…奏音のもとに来るという男か」
「…えっと、はい」
俺はまだ緊張で固まっていて、片言のような感じでしか返せない。
様子を注意深く観察する中年男性。しかし、それを諦めると、男性は慣れた手つきでコーヒーを入れ始める。俺はそれをただ見てるだけだった。
「……コーヒーはキリマンジャロだと思うのだが、君はどう思うかね?」
「コーヒー…ですか?」
缶コーヒーが限界の俺に、コーヒーの味の差など、わかるはずはなかった。
「………つまらない男だな」
男性は俺をそう酷評すると、もう興味が失せたのか、話しかけることはなくなった。
やがてコーヒーを入れ終わると、俺を一瞥し、キッチンから出ようとする。と同時に、2人が帰ってきた。
 鉢合わせ。真夏が「しまった」という顔をしている。奏音はきょとんとした表情で男性を眺めていた。男性は2人を眺めた後、
「真夏君。あとで私にサンドイッチを作って持ってきてくれ」
「は、はい。誠一郎様」
「それと…」
誠一郎と呼ばれた中年男性はこちらを振り返り、
「あまり娘に悪影響を与えるようなやつを家に引き込ませないでおくれ。いくら君の頼みとはいえ、私も怒るぞ」
と忠告する。真夏は俺をチラ見した後、
「申し訳…ございません」
と深々と謝る。俺は自分がどういう風に見られていたかを察し、言い返そうとしたとき、今まで黙っていた奏音が、口を開いた。
「おじちゃん?誰?」

69 :
な!?なんか廚二臭いすごいのが!盛大に支援!

70 :
空気の流れが、止まった。
誠一郎を不思議そうに眺めながら、繰り返し、「初めてみるよ?おじちゃん、どこから来たの?」と質問攻めをする。
すぐに対応したのは真夏だ。真夏は後ろから奏音を抱くと、耳元で明るく囁く。
「お忘れですか?奏音様のパパ様ですよ?」
真夏の言葉を聞き、大きな瞳を一際見開いて、誠一郎を見る。
「あたしの…パパ?」
その言葉も、初めて聞いたかのように…事実初めてだったのだろう。意味を探るように繰り返していた。誠一郎は一部始終を見た後、
「……じゃあ、真夏君。後は頼んだ」
と真夏には言葉を残し、奏音に言葉も残さず去って行った。俺はその様子を茫然と眺めていたが、我に帰り憤る。
「おい!今の人っ…」
「はい。奏音様のパパ様である、誠一郎様。だからまずは落ち着こ?」
真夏は先手を打ち、俺を鎮静化させるためにミルクを俺の前に出した。俺はそれを受け取りがぶ飲みする。
コップのミルクが空になった時には、少しは頭に上った血も下がったみたいだ。
「紅雪。口にミルクでひげできてるよ」
奏音は俺の顔を指差し、言った。俺は慌ててハンカチを取り出し、拭く。奏音はクスクスと笑いながら、
「もう、焦って飲んだりするからだよ紅雪。おもしろーいっ!」
こちらに近づき、真夏にミルクを要求する。真夏は先ほどと同じようにミルクを出そうとしたが、奏音は首を横に振り、

71 :
「あたし、真夏のミルクが飲みたいの」
と爆弾発言した。
またもや、世界が停止した。
「えっ…?ええっ!?」
流石の真夏も動揺を隠しきれなかったのか、牛乳を手から離した。牛乳はキッチンの上に垂直に落ち、そのまま直立する。
少しだけ漏れたミルクが、床や真夏のエプロンを汚した。顔を真っ赤にし、あわわと動く姿は、小動物のようだった。
「真夏、ミルク、出るんでしょ?」
そんなことも気にせず、奏音はさらに近づいた。やばい。俺は顔を熱くし、否応なしに真夏の乳房を凝視してしまう。
少しだけ膨らんだ、ふくよかで張りのある乳。母性的とはいえないものの、ちんまり主張するそれは、女性の証だった。
「もう、紅雪君までどこ見てるんですかぁっ!」
耳まで赤くし、真夏は胸の前に腕を置き、俺らの視線から逃れようとする。俺もその言葉で咄嗟にそっぽを向いた。そしてそこで、強い視線に気づく。
ドア横に、悪鬼が立っていた。
正確にはなぜか嫉妬の瞳を向けたプレシアさんなのだが、あれはどう形容しようにも悪鬼だった。ぎらついた視線。今にもレーザー光線が出そうだ。
口元にはハンカチが添えられ、それを漫画のように噛みしめ、引っ張る。ああ、あれ。マジでやる奴いたんだ…と場違いな感想が頭を過った。
「え、だめ。そんなっ…私っ」
後ろではもう切羽詰まったかのような真夏の声。やばい。マジでやばい。今後ろを振り返ると、金輪際剥がせないレッテルを付けられそうだ。
俺はロボットのようなぎこちなさで動き、ドア元にいたプレシアさんに助けを求めた。プレシアさんは最初俺を射さんとする視線で見ていたが、すぐにいつもの冷ややかな視線に戻り、
「……わかりました。そちらは何とかしましょう。しかし、今日はもう遅いですし、お帰りになられたら、どうでしょうか?」
と暗に「帰れ」と脅してきた。まあ、こうなってしまった以上仕方のないことだろう。俺は素直に従い、プレシアに奏音を任せ、廊下を歩きだした。

72 :
家を出ようとしたところで、真夏が俺に追いついた。息を荒くし、顔はまだほんのり赤かったが、どうやら冷静さは取り戻したようだ。
真夏は、今、奏音はプレシアが面倒を見ていること、俺を駅まで送って行くように言われたことを説明した。俺は別にいいと断ったが、どうやら俺に対する用事はオマケで、そのあとの用事が本命のようだ。
俺はそれを聞き、少しばかり落胆したが、真夏と2人きりになるいい機会だということもあってか、その誘いを承諾した。
車は石畳を出て、公道に出る。最初はお互い無言だったが、ぽつりぽつりと会話が始まった。
「誠一郎様…きっと辛いんじゃないかな…」
真夏は低いトーンで、切り出した。俺は無言を貫き、先を促す。
「だって、誠一郎様、毎回ああやって忘れられちゃうんだよ?……私もまだあそこで働き始めて1年足らずだけど、辛いよ。忘れられると」
少しばかり、声に潤みが増した。俺は「けど、覚えている時もあるんじゃないのか?」と聞くが、真夏は軽く首を横に振り、
「あの子が…奏音様が一度忘れたことを思い出すのは、紅雪君のことで3回目なんだ。1回目はピアノのこと。2回目はお母様である彩音様のこと。……たったそれだけ」
さらに声は潤みを増し、涙声へと変わる。
「それ以外は、奏音様はどんなことも忘れてしまう…もちろん、基本的な言葉とか習慣は大丈夫だけど…思い出とか…大切なこととか…あの子はどんなに覚えていたいと思っても忘れちゃうんだよ?」
そこで一区切りした。ミラー越しに見た真夏は、大粒の涙を流していた。
「それって…悲しすぎない?」
真夏の言葉に、俺は「そう…だな…」としか返せなかった。記憶を失うことが、どういうものか知らない俺にとって、奏音を取り巻く全てのことを理解することは不可能だし、理解しちゃいけないと思った。
深い悲しみを理解したつもりになるのは、そいつの傲慢でしかないからだ。
「だからきっと、誠一郎様はもう疲れちゃったんだよ…そんな日々に。だから今では、私達…ハウスキーパーにしか、お会いにならないもの」
父親として、わが子に忘れられるとはどういう気持ちなのだろうか。想像もできないほどの悲しみ、絶望……それが克服できないものであるという怒り……俺の想像力程度では、簡単には形容できないものだろう。
それは、マリアナ海溝のように深いものだ。人間レベルでは、到底到達できないほどの。

73 :
俺は真夏の話を聞いて思う。奏音はその悲しい事実を気づいていないだろう。だって、そんなことすべても忘れてしまうから。だから、その悲しみを、周りにいる人物が背負う。そして、それが伝わり、彼女も悲しみを追う。巡り廻る悲しみの輪廻。
車はいつの間にか駅に到着していた。ロータリーを回り、入口の前に止める。そこには既に「本命」の人物が1人、佇んでいた。
幽霊みたいだな…それが第一印象だった。
一点の曇りがないほどの白い、純白のワンピースに身を包み、華奢で長い、肌色の薄い手足が見える姿は、柳の下の幽霊を想起した。スラリとした長身。美人画の幽霊がそのまま出てきたかのような姿で、奏音とも真夏とも違う、幽冥の美しさを感じさせる顔。
その顔に不釣り合いのサングラスをかけ、彼女の傍らには無骨なアタッシュケースが置かれ、反対側の手には、金属製のステッキが握られていた。漆黒の長い髪が、風になびきカーテンのように落ちていった。
「着きましたよ?紅雪君」
真夏の言葉に促され、俺は車から降りる。と同時に、真夏はその女性の横に立ち、アタッシュケースを左手で持ち、右手で彼女の左手を握った。彼女はそこでようやく真夏の方を向き、頷く。
「じゃあ、歩きますよ?」
真夏の言葉に頷き、女性はゆっくりと歩き出した。それに真夏が合わせる。杖をこまめに動かし、顔は微動だにしていない。そこで俺はこの女性の状態に気づく。
 この人は、目が見えていない。
 真夏に連れられた女性は、俺の横に来る。俺は邪魔にならないように避けた。女性は俺のことなど気付かない様子で車に乗る。真夏は「ここに置いときますね」と断ってから、彼女の横にアタッシュケースを置き、ドアを閉める。そして俺に向き直ると、
「今日もありがとう…でね、これは内緒ね」
そう言いながら、ポケットの中にメモ帳を切ったような小さな紙を入れた。そして、すぐさま運転席に戻り、車を発進させる。俺がその紙を確認する前に、真夏と女性を乗せた車は、視界から消え失せていた。
紙には、11桁の番号が3−4−4に分けられ、書かれている。見たことのない番号。俺は頭を傾げながら、駅の中に入った。

74 :
家に着いた俺は、その番号とにらめっこを続けていたが、あほらしくなって、思い切って掛けてみることにした。番号を入力し、発信ボタンを押す。手に汗を掻いてしまっていた。
妙な緊張感。コール音がそれを煽る。
――もしもし?
4回目のコール音の後、その声は聞こえた。俺は静かに「もしもし」と返す。そこで相手方は俺の声に気付いたようで、
――紅雪?
と名前を聞いて来た。俺はそこで合点がいき、相手の名前を言った。
「なんだ。奏音の電話番号か」
奏音は「なんだというのは失礼かも」と非難してから、嬉々として会話を始める。
――誰からあたしの電話番号知ったの?
「真夏だよ。あいつがこっそり教えてくれたんだ」
――真夏か…うん、うん。ありがとって後で言わなきゃ。
「ああ言ってやれ。きっと今日みたいに顔を赤くするぞ」
――あれも面白かったよね!思い出しただけで笑っちゃうかも。
「お前…わざとだったのか?」
――ううん。おっぱい飲みたかったのは本当。あたし、その記憶もないから…どんなのかなって。
 言葉の節々が、少しだけ痛かった。彼女はそれを苦に感じないだろうが、俺からすれば重い十字架を担いでいるように思える。
――そういえばさ。紅雪帰っちゃったから、1つ聞き忘れたことがあるの。
「なんだ?」
――紅雪は、次は…いつ暇なの?
「次?…えーっと…」
メモ帳を確認する。次の休暇は来週の土曜だった。俺はそのことを伝えると、電話越しで華やかな声が広がる。
――やったぁっ!それならあたしも大丈夫かもっ!
「大丈夫って…何が?」
――外出許可。プレシアから取るのきついけど、土曜だったらお医者様行かないし、うまくいくかもって思ったの。
「外出許可って…で、どうしてその日外に出るんだ?」
――買い物に、付き合ってほしいの。
「買い物?」
オウム返ししてしまった。俺はそのワードを心の中で輪唱する。買い物。それも女の子と。これって…
「デートか?」
半ば冗談も含めて言ったが、対する奏音の反応は予想を超えるものだった。
――デート?……確かにそうかも。けど、紅雪だったらいい…かな?
 俺の頭が、沸騰した。
「で、でで、ででで…」
――紅雪?どうしたの「で」ばっか繰り返して…壊れちゃった?
「デートってお前っ…」
――?…そんなに変なことかな?真夏は前、紅雪とデートしたことあるって言ってたよ?
 二重に爆発。心の中で真夏にドきつい突っ込みをたたき込んだ後、深呼吸して自身を落ち着かせる。
「……買い物、行きたいのか?」
まずは意思を確認しよう。
――行きたい。
「俺でいいのか?」
次は許可だ。
――うん。……紅雪が、今一番いい。
「じゃあ、約束だ」
最後は、同意。
――うん。約束するし、忘れないよ!
「メモしておけよ。本当に忘れないように」
――わかったよ。じゃあ、土曜日に会おうね。
「ああ。集まる場所は駅前でいいか?」
――うん。いいよ。またね。
「またな」
電話を切った。余韻に浸りながら、俺はメモ帳に消えないようにしっかりとした字体で書く。
 奏音とデート、と……

75 :
たまには外に出ようと思って、本を置き、「世界」の外へ。
見渡すばかりの草原地帯が、広がっていた。扉は消え、私は1人、ここに佇む。総ての世界の終着点足る場所であるから、ここには総ての世界の在りようが現れる。
こうも美しい景色ならいいが、基本は違う。「世界」は常に不幸で満ち溢れている。なぜなら、幸福の総量は決まっているが、不幸の総量は決まっていないからだ。
幸福には限りがある。それは運の廻り合わせ。誰かが幸福を得れば、どこかで誰かか不幸になる。そして、不幸は連鎖する。幸福が生まれずとも、不幸は自然に増殖する。
だから、人界は地獄と化す。私はそんな「世界」を幾度もなく見てきた。見るだけ。それが仕事であり、私の存在意義だからだ。
私は「世界」を「安定」させるのが仕事だ。だから、「世界」の中で何が起ころうと、それが「世界」の根幹に関わることでなければ、私が干渉する必要はない。
 しかし、これから先に行うのは、はっきり言って仕事外の、「余計なこと」だ。私の力を以てすれば、運命を変えることなど容易い。しかし、それが世界を壊すかもしれない。
その危険性を孕んでいても、私はやらなければならない。それが、彼女からここを預かった私の意志であり、恩返しだからである。
 総ては、主なきこの世界を再生するために。

76 :
土曜日は、雲1つない快晴だった。俺は久しぶりにカジュアルなワイシャツに袖を通す。この服は、概ね特別な、こういうデートの時にしか着ない服だ。少しばかりこそばゆい。
ネクタイを巻き、半ズボンを履いた。色は黒。上と合わせて、白黒だ。電車に乗り、夕顔駅に向かう。今日は同僚の秋山が車掌を担当していた。顔がにやけている。俺は眼でそれを黙らせ、空いてる席に座る。
子ども相手だというのに、緊張している自分がいる。まだ、始まってさえいないのに、手には汗がべとついていた。う〜ん…俺ってこんなに初心だったか?
あっという間に時間は過ぎ、電車を降りた。風が心地よい。気合いを入れるというわけではないが、小さく深呼吸をして、体を落ち着かせる。ゆっくりと階段を降り、駅を出た。
ロータリーは土曜日ということもあってか、人気は少なかった。
タクシーが2台止まっていて、運転手が他愛ない世間話をしているのを端で見ながら、駅唯一のモニュメント、月の像の前に立つ。
なんでも、この町出身の芸術家がデザインしたもので、2重の螺旋階段が月まで届くさまをイメージしているとのこと。なんとも不思議なテーマだが、目立つものが少ないこの町では、いい待ち合わせ場所になっている。
像の台座に寄りかかり、奏音を待った。待ち合わせ時間まで、あと20分近くある。早すぎたとも感じたが、あの子を待たせたくなかったから、この時間に来た。
待つことには慣れている。小さいころから散々、いろんな時に待たされた。親父がんだあとは、お袋が働きに出た。
幸い、お袋は稼げる職業だったため、苦労はしなかった。しかし、寂しい幼少期を過ごしたとは思う。家にいないお袋。1人で食べる食事。
その寂しさがおねしょとして結実していた。お袋が家にいないときは、自分で処理をした。こっそりおむつを持ってきて、履いたことすらある。
真夏のおもらしをバカにしなかったのも、俺が一番お子様だという自覚があったからだ。
―――妙なこと、思い出しちまったな。
先程までの考えをすべて消し去り、俺は空を眺めながら、待ち続けた。

77 :
見覚えのあるワンボックスカーがロータリーを回る。俺はすぐさま立ち上がり、近づいていった。それは俺の目の前に止まると、エンジンを切った。
運転席から降りてきたのはプレシアだ。彼女は俺を一睨みした後、後部座席ドアの左側に立つ。そして、助手席から真夏が降り、俺ににこりと微笑んだ後、後部座席ドア右側に立った。そのとき、窓から奏音が、顔を出す。
「おはよっ!紅雪っ!」
元気な声が、俺に届いた。子供なので化粧はしていないと思ったが、ほんのりと化粧をしているのがわかる。きっと、奏音自体は化粧の技術とかなさそうなので、横の2人がしたのだろう。
奏音の化粧は、彼女の良さを損なわないように控え目だったが、それでも、一流のレディ…とはいえないが美しさを彩るには十分だった。
その美麗さに言葉を失いかけたが、なんとか踏みとどまり、俺は「おはよう」と返した。そのあと車を降りるよう促すも、奏音は動かない。やがてぼそぼそ声で、ドア端にいる2人に話しかける。
俺はその一部始終を呆れつつ眺めていたが、急にそれが止み、プレシアが意を決してドアを開けた。
 プリンセスが、そこにいた。
彼女は某王国のプリンセスで、お忍びでこの国に来ました…というニュースが流れていても不思議ではない姿。メルヘン調のワンピースドレス。ティアラ状の髪飾り。上品なブルーのリボン。
その全てが彼女を姫だという証に見えた。背中には、あのウサギ上のバックがいて、余計にメルヘンさが増す。
「変…かな?」
珍しく自信なさげな声。顔を赤らめ、もじもじとしている様は、本当の恋人のようだ。俺はその美しさに見とれ、感想を言おうとして言葉が出なかった。
愛らしさ。美しさ。可憐さ…どのランクでもTOP3は入るだろう姿。これを言い表せる語彙など、俺の中には存在しなかった。
「……すごい」
感想を心待ちにしていた奏音は、俺が何も言わないので不安を倍増させていたが、やっと出た言葉がそれだったので、ぷくぅと頬を膨らませ、言った。
「むぅ…気の利いた言葉1つぐらいでないのかなぁ?」
どうやら知識はある程度回復しているようだ。真夏から聞いた話では、やはり記憶を失った後は子供っぽくなるそうだが、数週間後にはいつもの調子に戻るらしい。今の奏音は出会った時の状態に近かった。
「いや、それは全面的に俺が悪いけど……うん。言う」
俺の言葉に、奏音は背をしゃきと伸ばし、居直る。表面上は大人しいが、体の端々からうずうずとした内面が漏れ出ている。俺は敢えてタメを作った後、言った。
「正直、見とれちまって言葉が出なかった。そんぐらい、綺麗で、可愛くて…」

78 :
「うん。許す」
言い終わる前に、奏音が抱きついてきた。熱くなる体。速くなる鼓動。頭の中が沸騰しそうなぐらい、その行為には驚いた。
「か、かか、奏音!?」
俺のどぎまぎ声を楽しみつつ、奏音はにこりとした笑顔で、言った。
「早く行こっ!今日はいーっぱい紅雪に甘えさせてもらうんだ」
メルトダウン。心がチョコレートのように溶ける。俺もつい笑顔になって、
「じゃあ、今日は俺も奏音を精一杯、可愛がるからなっ!」
と宣言する。傍から見れば恥ずかしい行為だが、今の俺達には関係ない。無敵の存在と化した俺たちに、そんな視線など通じない。
「じゃあ、何かあったら連絡、下さいね」
真夏はすぐさま助手席に戻る。その顔は穏やかで、にこやかだった。対するプレシアは冷淡な顔をして、
「精々お嬢様に粗相のないようにな。……お嬢様。何かあったらいつでもお電話ください。私か駆けつけて、すべて、滞りなく解決いたします」
後半部を強調して、運転席へと戻った。そのままエンジンをかけ、車を発進させる。心なしか、運転が荒いように見えた。視界からワンボックスカーが消えると、奏音が呟く。
「本当に、行っちゃったね」
俺は奏音の手をつかみ、
「そうだな。これで、デートができるな」
と強調した。奏音は顔をトマトのように赤くし、
「そういうこと言わないでよぉ…恥ずかしいなぁ…。……うん。デート…しようか」
満点の笑顔で、俺を見てくれた。俺はそれだけで、すごく嬉しかった。そして少しばかり恥ずかしくなって、あることを聞いた。
「おむつ、大丈夫か?」
奏音は口をつんと尖らせて、
「大丈夫だもん…ちょっと。おもらししちゃってるけど……」
最後のほうは、すごく小さい声で言った。俺はそれを聞き逃さず、まずは行く先はトイレだなと決めた。
 まだまだ午前中。遊ぶ時間は、いっぱいあった。

79 :
真夏と来た、大型複合商業施設。そこがデートの場所だった。というより、街の中において買い物でこの場所の右に出る所はない。幸い、ピンからキリまで商品があるこの場所は、奏音にとって新鮮そのもので、目をぱちくりさせながら興味深そうに眺めていた。
俺はよそ見をしている彼女を、うまくトイレまで誘導する。
「まずは、おむつ替えな」
ぼそりと俺は耳打ちした。奏音はかぁーっと顔を赤くし、それでも静かにこくりと、頷いた。
「うん。いい子だ」
頭を撫でてあげる。絹のような髪は、とても心地よい肌ざわりだった。ほんのりいい香りもする。奏音はというと、とても嬉しそうに―まるで天まで昇るような穏やかな顔立ちで―笑っていた。
多目的トイレに入り、鍵を閉める。広々とした空間の中心で、もじもじとしている奏音。きっと落ち着く場所がないからだろう。俺はおむつ換え台を見て、さすがにそれはないなと自己否定する。座る場所もないし、仕方ない。
「奏音。スカートたくし上げて」
俺の言葉に、奏音は動揺し、
「ふぇっ?…え…ええっ!?」
と驚きの声を連呼した。俺は彼女に座る場所がないことを説明し、さらに服が汚れてはまずいことも説明した。そこまで説明すれば、彼女も納得したようだ。
しかし、理性で納得しても、感情は納得しない。やはり、たくし上げるという行為には抵抗があるようだ。
「やっぱり…」
ここで一呼吸開け、唾を飲んでから、
「やらなきゃ…ダメ?」
と恥ずかしながら懇願する。
 その可愛さで、俺の理性が少しばかり吹きとんだ。
 上目遣いの視線。哀願する声。赤くなった顔。その全てが俺のリピドーを刺激する。そこで残った理性を総動員し、何とか踏みとどまらせる。さすがに嫌われたくはない。俺も分別の一つぐらい、持ち合わせている。
「ダメだよ。奏音だっていつまでもおむつが汚れてるのは、嫌だろ?」
こくり。
「なら、言うこと聞いてくれ」
………こくり。
「よし、いい子だ」
頭を撫でてやると、向日葵のような笑顔を向けてくれた。どうやら、気持ちを決めたようだ。ゆっくりとスカートを上げる。その隙に、俺は彼女の背負っているバッグから替えの紙おむつと、ウェットティッシュ、ベビーパウダーを取り出す。
しっかりとそろっているところは、さすがあの2人といったところだろう。
準備し終え再度、奏音を見る。彼女は顔を真っ赤にし、目を閉じ、静かに待っていた。とても恥ずかしいのか、体が震えている。
「大丈夫だよ」
耳元で囁く。俺は心配させまいと素早く、それでいて的確に行動できるようイメージを固める。…大丈夫。悪くない。

80 :
「じゃあ、おむつ、とるぞ」
目を閉じたまま、こくりと頷く奏音。俺はそれを確認すると、おむつの外側を破り始める。ビリリという紙特有の音。両側を外し、おむつをうまくとる。
股の部分はほんのりと黄色く染まっていた。ズシリとした重みは、彼女のおしっこをしっかり受け止めた証しだ。
俺はそれをテープでまとめ、ゴミ箱に捨てる。すぐさまウェットティッシュを取り出した。
「次、おしっこ出るところ。拭くぞ?」
口で「え」という形を作ったが、彼女にはスカートをたくし上げるという行為をしているため、両手は塞がっていた。
「大人しくしろよ…」
おずおずといった感じで頷く奏音。俺は慎重に彼女の秘書を拭く。
「ひゃっ…」
唐突な感触に、思わず声が出たようだ。それを無視し、丁寧にお尻やお股を拭いていく。耳まで赤くする奏音。俺もいつの間にか、顔が熱くなってしまっていた。
次にパウダーを塗す。おむつかぶれが起きないよう、念入りに行う。ようやく終わらせ、新しいおむつを履かせてあげる。しっかりとおへその下までゴムを届かせる。終わると同時に、スカートを下ろすよう指示した。
 ゆっくりとスカートを下ろす奏音。おむつの位置を鏡で気にしていたが、どうやら大丈夫なようで、にこりとした笑顔で俺に抱きつく。
「うん。すごく気持ちいい…ありがと。紅雪」
「どういたしまして。お嬢様」
俺は少しだけ、ふざけて返した。奏音はその言葉に目を真ん丸と見開いて、俺を見た。夕焼けのようなオレンジ。その向こう側を、俺は食入る様に見つめてしまう。
「なんか…変な感じ。前にも、こんなこと、あったのかなぁ?」
俺は奏音との出会い時交わした会話のことを黙っておくことにした。今こうして隣にいる。それだけで十分なのだから。
 やがて訪れる運命を、この時の俺は知らなかった。

81 :
奏音に連れられ、俺は様々な店に立ち寄る。全てが新鮮なのか、寄る店の商品を興味深そうに眺め、時折手に取り、そして別の店へ。
忙しかったけど、楽しかった。何より、あれだけ楽しそうで、幸せそうな奏音の笑顔は、一緒にいるこっちも楽しませてくれる。
「絵の具?」
「うん。油絵の絵の具」
奏音の口から出たその言葉は、彼女には全く無縁のものに思えた。彼女は音楽の人だ。美術に関しては疎くて、きっと水彩画と油絵の違いも分からないだろう。
「どうして、それが欲しいんだ?」
だから、理由が気になって、聞く。奏音は言おうかどうか悩んでいる様子だったが、意を決して話してくれる。
「あのね…約束。したの」
それはいつになく、真剣な表情だった。俺は気を引き締めて、話を聞く。
「病院にいる…健太お兄ちゃんとの約束…なんだ」
「そうか…じゃあ、買ってやらないとな」
どういう事情かは大方分かった時点で、俺は行動する。これ以上は、俺が割って入るべきことではないだろう。それに……
少しだけ、羨ましかった。
だから、俺は話をこれ以上聞きたくなかったのかもしれない。
絵の具を買った後、俺らは昼食をとるため、レストラン街へ。
レストラン街で俺らは洋食チェーン店が営むファミレスに入る。初めてファミレスに来たという奏音は、俺にひっついて離れなかった。
店員に案内され、窓際の席に座る。同時にメニューを広げた。ファミレスだけあって、和・洋・中のある程度は揃っていた。俺はその中でハンバーグセットを、奏音はオムライスを頼んだ。
頼んだ商品が来るまで、2人で他愛のない、世間話を始める。
「この前真夏と一緒に、ゲームしたんだ」
嬉々として話す奏音。最近知ったことだが、真夏はゲーマーでさらにオタクとのことだった。俺の知らないうちにどこをどう踏み外したのか、さっぱりわからなかった。
「どんなゲーム?」
「シューティング。真夏は『だんまくげー』って言ってた」
おそらくは『弾幕ゲー』こういう風に書くんだろう。ということは、弾数が多いのか?それってシューティングとしてやりづらくないか?
「へぇ…。それで、どうなったんだ?」
「あたしがイージーで、真夏がね『るなてぃっく』ていう難易度でやったの。あたしは3面で失敗しちゃったけど、真夏はクリアしたよ?」
正直、シューティングのことなどよくはわからないが、真夏がとんでもないのはわかった。
「けど、3面まで行ったんだろ?すごいじゃないか」
「えへへ。3面のアリスが、どうしても倒せないんだ…紅雪はシューティングするの?」
「うんにゃ。俺はゲームは高校で卒業したんだ」
むしろ俺は単車とか、車とか、本当に男の子じみた趣味に傾倒していった。それが高じて、ああなった訳だが。
 なんか今日は、昔のことばかり思い出すな…。
この町に来るようになったからか、俺は日に日に昔のことを思い出す機会が増えていている気がする。
もう捨て去ったはずの、苦い思い出。
それが今、深い記憶の海の底から、ゆらりゆらりと上がってくる気がするのだ。
実は記憶を失いたいのは、自分なのかもしれない。
そんな不謹慎な考えが、頭から離れなかった。

82 :
料理が来たのは、会話が一度終息しかけていたところだった。
「お待たせしました。こちらオムライスになります」
店員さんが奏音の前にオムライスを置く。奏音は目をキラキラさせて、手をうずうずさせながら、オムライスを見ている。
「こちらハンバーグセットのハンバーグと、ライスになります」
俺の目の間に、ハンバーグと皿に盛ったライスが置かれた。
「ご注文の品は以上でよろしいでしょうか?」
俺が頷くと、店員は伝票を置いて、別のテーブルへと向かっていった。
俺はもう今にも食べたいというオーラを撒き散らした奏音を抑え、食べる前の挨拶をするように言う。こういうとき、どんな人間でも素直になる。
「「いただきます」」
同時に挨拶して、それぞれの料理を食べ始める。ハンバーグはというと、まあ、庶民の味といった感じだ。
別段まずいわけではないが、真夏が作る料理には劣る。まあ、そこそこという感想が妥当だろう。奏音はというと、お腹が空いていたせいか、オムライスをぱくついていた。
時折頬にケチャップがつく。その度に紙ナプキンで拭いてあげる。その行為を3回繰り返し、俺はふと思い、言った。
「なんだか、奏音って今、本当の赤ちゃんみたいだな」
奏音はその言葉を聞いて恥ずかしそうに俯いた後、
「ち、違うもん。あたし、あ、赤ちゃんじゃないもん」
と拗ねるような口調で言った。流石に地雷だったか…と悔み、慰めようとした時、先に奏音が顔を上げ、俺に言う。
「おしっこ…でちゃった…」
俺はそこで出かかった言葉を飲み込む。涙目になり、今に泣きそうな奏音。俺は咄嗟にトイレに連れて行った。どうやら、さっき俺がからかったこと。
そしてその後おもらししちゃったことが追い打ちになったようで、トイレに着いた途端、奏音はわんわんと泣き始めた。
楽しいはずの空気を、俺はぶち壊してしまった。へたり込み、大声で泣く奏音。俺は「ごめん」を繰り返すばかりで、対応できていない。
外では、中の様子を探る野次馬が数人、ガラス越しにいるようだった。
このままではまずいと直感した。しかし、どうしようか分からず混乱して、俺は奏音に抱きついた。奏音はそこで急に泣きやむ。
どうやら、俺の行動に吃驚したらしい。しゃっくりを繰り返しながら、様子を探っている。俺は彼女を抱いたまま、静かに、口を開いた。
「ごめん。…別にカラカウつもりは、あんまりなかったんだ。ただ本当に、可愛くて、そんなこと言っちゃったんだ。でも、それが奏音を傷つけたなら、ごめんな」
奏音は少しばかりの涙声で「いいよ」と俺を許し、そして
「おむつ汚れちゃったから、換えてほしいな」
と懇願する。俺は再び、奏音を見た。
そこには、穏やかな笑顔があった。
これぞ聖母といった感じの笑顔。それは、彼女が見せた初めての「母性」だった。俺は気を取り直し、彼女に相応しい王子様となるべく、まずはおむつを交換してあげる。そう決めた。
せっかくのエスコート。このまま悪い気分で帰らせたくは、なかった。
その野次馬の中に、あいつがいたことを、俺は気付けなかった。

83 :
おむつを換え、昼食を食べ終えた後、俺らは買い物を続行する。終始笑顔の奏音と、それにつられ、喜怒哀楽を見せる俺。周りからは滑稽に思われても気にしないぐらいの、バカップルっぷりだった。
流石に荷物も置くなり、俺の疲れが見えたところで、1度俺は、商業施設を出ることを提案する。奏音も快諾してくれた。
思えばこれが、運命の分かれ道だったのかもしれない。
出口を出た途端、数人の男たちに囲まれた。俺はすぐさま奏音を庇う。見知らぬ男たちばかりで、その半分ほどが俺くらいにあほそうな奴ばかりだ。にへにへと下品な笑みを浮かべ、徒党を組むしか能のない連中。
俺はそういうやつをよく虫に例える。いや、虫は規則正しい行動をするが、こいつらにはそれが皆無だ。
だからこいつら虫以下、寧ろ未満といった所か。その時、後ろで奏音が動いた。服をぎゅと握る感触。その手が震えていることさえ、筒抜けだった。
「おーっす…俺のこと?覚えてるぅ?」
囲んでいた一角が開け、そこから見覚えある3人がやってくる。
「なんだこれ…お前の差し金か?」
いつぞやの、アロハシャツと、ピアス男と、スキンヘッドだった。そいつらはもう勝ち誇った笑みを浮かべ、こっちを見下しながら答える。
「ピンポーン♪この前のこと話したらさぁ…俺の友達同情してくてねぇ。あ、そうそう。俺、友達めちゃいっからさ。みんなしてお前、殴りたいて言うから探してたんだよねぇ」
饒舌に語るアロハシャツ。周りの男たちは余計顔をニヤつかせた。
「あれ?あれれぇ〜?この前と彼女違うじゃ〜んっ!お前アレなの?振られたの?それもその子ちっこいしさぁ…もしかして、ロリコン?」
俺は何も言わず、ただ睨むだけだ。ただ、その行為だけで、アロハシャツは腰を引かせた。しかし、虚勢を張ると、さらに煽ってくる。
「まじキメーなぁっ!お前ぇ〜!……ま、いっか。お前どうせ暇っしょ?面、貸してくんない?」
アロハシャツはある方角を指差した。そこは、この町で随一の危険地帯。夕顔駅横のガード下だった。あそこはこういう、無法地帯野郎どもの巣窟だった。
「俺はいいが…この子は関係ないだろ。悪いがこの子を巻き込まないでくれ」
あんなところは、この純粋無垢な少女とは無縁なところだ。あそこに行けば、彼女は永遠に残る傷を作ることになるだろう。たとえ、自身が忘れても、周りは忘れてはくれないのだ。
だから奏音だけは、こんな場所に、いちゃいけないんだと思った。しかし、
「ダメ〜ェ。お前に決定権なんて無ぇ〜んだよ!」
横から、ボディ。俺は不意打ちのせいで、体を屈ませる。そこを以前俺がやったように、誰かの膝が飛んできた。とっさに首をずらし、避ける。耳元で髪がチッと音を立てて消し飛んだ。
問題はそこではない。俺がこいつらに気を取られている隙に、別の男が奏音を担いで行ってしまった。そいつらに続いていく虫未満の男ども。
「一名様。鬼畜ルートごあんなぁい。ケヒヒッ!」

84 :
ピアス男がおちゃらけて言った。笑い方が気持ち悪い。しまったと思うももう遅い。残った連中8人で作られた輪は直ちに塞がれ、もう奏音の姿は見えなかった。
「嫌っ!…やだ…やだよ…助けてっ!紅雪っ!」
悲痛な声だけが、俺の耳に届く。それが、俺の中のストッパーを外す合図だった。周りの男どもは勝利を確信していた。物量で押せばこんな奴、訳ないと……。だが、そんなことで屈する俺ではない。寧ろ、余裕さえあった。
この程度の戦力で、俺を潰せるものか…と。
奴らが爆ぜるよりも早く、俺が動き出す。まずは目の前のデブにローキックをかます。こういうタイプは、足にダメージを負うと即座に響くからだ。案の定、デブはひざから崩れ落ちた。それを皮切りに向かってくる残りの男ども。
俺は脚を軸に反転し、真後ろのひょろ男の顔面に、ストレートを見舞う。
顔がつぶれる感触。
そいつの状況を確認する前に、俺はステップで後退する。その時うまくデブの足の甲を踏むようにした。デブは続けてくるダメージに悶絶する。
そして交差した雑魚どもは、お互いの攻撃で絡み合い、数名が転んで頭を打つなりして自滅した。こういう輩は、相手の行動を考えないから、こうして自滅を促すに限る。そして後退をした後大きくジャンプし、間合いを取る。
これでいい。ちょうどあいつらと1メートルほどの間合いを作ると…
勢いよくガードのあるほうへダッシュした。
虚を突かれ動きが止まる雑魚連中。あいつらは忘れている。あいつらの目的は足止めのはずだ。しかし、包囲網を崩され、数名再起不能になった時点で、あいつらの負けは決まっているのだ。
「しまった…追えっ!」
もう遅い。俺とあいつらとはすでに3メートルの差が広がっている。そして、こういう奴らの体力は、非常に低いと相場が決まっていた。
「待ってろ奏音…すぐ助けに行くぞ…」
俺は逸る気持ちを抑え、彼女を助けにひた走る。

85 :
超大作支援age

86 :
ガード下に着いたのは同時だった。俺は有無を言わさず奏音を掴んでるやつをタックルで倒し、奏音を救い出す。顔を歪め、涙目なその表情は、彼女の恐怖を表していた。
「怖かったよぉ…紅雪ぅ!」
抱きつかれ、大泣きする奏音。泣きじゃくる彼女の肩を抱く。小さい。こんなに弱くて、可愛くて、小さくて、華奢で…そんな彼女を泣かせた存在がいると知っただけで…
俺はついに、堪忍袋の緒が切れた。
「奏音。君はここから走って逃げて、プレシアさんを呼べ」
ぼそりとした言葉で、しかし確実な声で、奏音に指示を出す。
「で、でもそしたら紅雪が…」
「いいからっ!」
この子が俺を心配する必要はない、こんなことに巻き込んだのは、俺なのだから。俺の大声にびくついた奏音。俺は静かに、やさしく、穏やかに、言った。
「…俺は大丈夫だから。だから、俺の言うこと聞いて、いい子にしてくれ…なっ?」
こくりと頷く奏音。俺は彼女の頭を撫でてやる。優しく、丁寧に…丁寧に…
これが、最後になるかもしれないから。
奏音は身を震わせると、もう一度頷き、走り出した。今まで俺たちの様子を窺っていたアロハシャツは、友達というか手下にすぐさま追うよう指示する。手下数名は、走り出そうとして、
「行かせるかよっ!」
俺の飛び膝蹴りを食らった。まずはそれで1人ノックアウト。続けて、反則級の後頭部に対する肘打ちで、2人ダウン。そこまで見れば、手下は走るのをやめ、アロハシャツのところに戻っていた。
「ビビってんのか?あぁんっ!?」
俺の、どすの利いた声だけで、数名がたじろぐ。しかし、奴らには数という絶対有利な条件がある。見ただけで20名はいる。流石の俺もこれを同時に相手することはできない。さらに、ここまで全速力で来たせいか、体力もかなり消耗しているのだ。

87 :
正直言って、こちらの分が悪かった。
「舐めてんのはどっちだ…あぁんっ!?」
奴らは一斉にこちらに襲い掛かってくる。俺はすぐさま防戦できるように、壁を背にした。こうすれば最低、後ろから刺されるなんてことはないはずだ。まず1人目を、しゃがんでやり過ごし、そのまま回し蹴りを見舞う。見事にすっ転ぶが、もう次が来ている。
俺は手を地面に置き、逆立ちの要領で勢いをつけ立ち上がる。そのまま勢いをさずに、右ストレートを鼻にぶち込み、さらに追撃でミドルキック。後ろに控えていた次のやつがそいつにドミノ倒しの要領で倒される。俺はすぐさま後退し、壁に背を預ける。
「チッ…」
ピアス男は舌打ちし、首で後ろの連中に指示を出す。すると、ピアス男はいつぞやの時のパイプを取り出し、さらに舎弟にもそれを持たせていた。こいつらに清々堂々などない。
あるのは己が欲求をセーブ出来ない理性だけだ。
「オラッ行くぞッ!」
鉄パイプの応酬。流石の俺も捌ききるのがやっとだった。ステップと体を使い、何とかギリギリでかわす。
しかし、足元にいた伏兵を、俺は忘れていた。
後ろからの鉄パイプ。ステップでかわそうとし、
足首をがしと掴まれた。虚を突かれ、動きが止まる。そこへ、鉄パイプが襲ってきた。咄嗟に急所は腕でガードする。
鈍い痛みが、全身を駆け巡った。やがて鋭さを増すそれは、出血の証だった。額が切れて、血が流れる。おそらくほかのところも外出血か内出血ぐらいしているだろう。足を掴んだ奴を凝視する。
最初に襲い掛かってきた、男だった。俺は思いっきり背中を踏みつけ、そいつの拘束から離脱し、間合いを取る。血が流れた跡がある。あれは、俺の血だ。意識が薄らとしてきた。片目は血のせいで使えなくなっている。
満身創痍だった。

88 :
木偶人形となった俺を、あいつらは容赦なく痛めつけた。腹を殴られ、ひざから崩れ、倒れこむ。うつ伏せに倒れた俺を、空き缶を蹴るように蹴り上げ、仰向けにさせた。
腹の上に、足が振り下ろされる。
「がはっ…」
先ほど食べたものを、吐くかと思った。薄ら眼で見たのは、優越感に浸り、悪逆の限りを尽すアロハシャツ。アロハシャツは同じ行為を続けながら、恨み辛みを吐く。
「この前はぼこぼこにしてくれてど〜もぉ」
ガシッ!
「おかげで彼女に振られるわさぁ、笑い物にされるわさぁ。散々だったんだよねぇ〜」
グシャッ!
「どう落とし前付けてくれんだァ?」
ドスッ!
「答えたらどうなんだよォッ!あぁんッ!?」
グシッ!
その時、スキンヘッドの舎弟が、あることを言った。俺はそれは聞こえなかったが、どうやらそれは俺に関することのようだ。
それを聞いたアロハシャツは顔を笑いで引き攣らせ、高々と言う。
「お前ェあれなんだってぇ?ここいら仕切ってた族、『ブラックゲイル』の頭だったんだってなァ?」
それは、俺を一番縛り付けていた、過去だった。
「アレだよなァ?『ブラックゲイル』っていやァこの辺を仕切ってたくせに、いざとなったら頭が逃げ出して、全員補導されたっていう、あの情けない族のことだろォ?」
ピアス男が笑いながら言った。……ああ、そういうことになっているのか。まあ、大方事実だが。
「だせェー。超ダセェ。これ以上笑かすなよォ。お前」
アロハシャツは恥ずかしいほどの高笑いで笑う。周りの舎弟も、大笑いしていた。
「なんだァ。お前、腰抜けかよォ。情けねェなァ…クククククヒヒヒヒフハハハハハハハ」
ピアス男は頭と腹を抱えて大笑い。どうやらつぼにはまったらしい。ひくひくと痙攣させながらも、それでも笑い続ける。
「じゃ、いい加減飽きたしよォ…」
笑い疲れたのか、アロハシャツは俺を足蹴にし、あるものをちらつかせる。銀色に輝くそれは、刃渡り10センチほどの、ナイフだった。
「ねヨ。とっとと」
それが振り下ろされ…
 別の「何か」に、弾き飛ばされた。
霞む視界では、もうそれが何かは判別できなかった。ただ、大きな背中と、銀色の髪が、印象残った。
「なんだァ?てめェッ?」
もう意識すらも霞んでいく。朦朧とする中で、俺は、確かにその言葉を聞いた…気がした。
「しがない雇われ稼業の者ですよ…探偵という名の、ね」
そして、俺の意識は寸断された。
今日もここまで

89 :
おつかれさまー
超期待!

90 :
なんか最近他所で読んだのが上がってるけど
同一作者の転載か?

91 :
>>90
いいじゃんそんなこと。余所回って探すより楽に読めるし。
どっちにしろ乙!

92 :
流石に作者と関係ねー奴が転載するのはアウトだろ?

93 :
同一作者でもアウトだろ
転載で容量潰すのはどうかと
誘導すりゃいいだけだし誘導したくないなら他だけで活動するべき

94 :
ここ過疎ること多いから容量とか関係なくね?

95 :
ぱっと検索してみたけど同じやつはなかったな
>>90はどこで見た?

96 :
俺も検索したけど出なかったな

97 :
ただで読ませてくれるんならそれでいい
どのみち書き手が少ないから、変に叩くと逃げられるし

98 :
ピ◯シブで読んだことあるが別人なら作者に対するネガキャンだと思うね。

99 :
とりあえず大作

100 :
 声がする。
 誰かが呼ぶ声がする。
 私を呼ぶ声?
 それとも、他の、大切な誰かを呼ぶ声?
「私は行かなければね」
それがどちらにしろ、私は行かなければならない。
「ここまで声が届いた…それは私に会う権利を持つ者である証…」
あなたはここにいなさい。ここから先は、私の『領域』よ。
「では、始めましょう…『世界』に住まう『命』たちよ…」
私は本を宙に浮かべる。足元には幾何学模様を描いた魔法陣。両の腕に付いた輪から、6つの宝玉が滞空する。
世界を構成する2つの側面と、4つの力。
それの結晶たる宝玉が、まるで生き物の心蔵のように拍動し、妖しく輝く。
「…交点接続…パス解放…」
本がバサバサと荒々しく開かれ、あるページで止まる。
私は首から下げた鍵型のアクセサリーに魔術をかけた。アクセサリーはそれに従い肥大化。杖となった。
下は鍵を模しているが、上は一定の形状にならず、さまざまな形に変化しては、最初の球状になるのを繰り返している。
「…存在認証…介入開始…」
杖の鍵をその本に刺す。本の中に溶け込んだそれを、私は廻す。
かちゃり。
 それが、私の仕事始めだ。
6つの宝玉が等間隔に魔法陣の上に並ぶ。魔法陣は連動し、輝きを増す。
「では、ごきげんよう」
私は本の中へ吸い込まれ……
世界は、あなただけになった。

101 :
…ここはどこだ…俺はどこにいる…
仄暗い、本当に一寸先も見えぬ闇の中で、俺は一人浮かんでいた。どこだかもわからない。
なぜ、どうやってここに来たのかもわからない。
気づいたら、「ここ」にいた。
俺は、どうやってここまで来たかを探るため、記憶を掘り返す。あのとき、殴り合いがあって、銀色の髪の男性に助けられて、気を失って……
だめだ。全然繋がりがない。
そこで思い出すのをやめ、俺は漂うだけの存在になる。痛みがない。傷もない。まるで夢心地。気持ちよささえ感じる。
そのとき、強い光に包まれた。
訳が分からないまま、俺はそれに飲み込まれる。光が強すぎて、目を閉じた。数秒の後、光が弱くなったのを感じ、目を開ける。
そこには、懐かしい光景が広がっていた。
遠い記憶。懐郷の世界。セピア色で、単一色の世界。どこか古ぼけた街並み。その街並みの中に、中睦まじい親子連れがいた。
あそこで両親に手をつながれている3歳ぐらいの少年を、俺は知っている。
あれは、昔の俺だ。まだ親父が生きていた頃の、俺の記憶。
―――おとうさん。きょうはどんなごはんにするの?
―――そうだな…母さんは何がいいと思う?
―――あら?紅雪から聞かれたのはあなたじゃないの。私に振らなくても、あなたが決めてかまわないわよ?
―――うーむ…山暮らしは食事を考えずに済むしな…
―――おとうさんはやまのぼりするとき、なにをたべてるの?
―――基本はラーメンさ。それもカップの。
―――あら?元医者として、その不健康な食事は反対よ
―――うぐっ!…しかし、手間と効率性を考えるとだな…
―――今度簡単な山登りをするときは、私に言ってくださいね。とびきりのお弁当、作りますから。
―――あー!おとうさんだけずるーい!
―――じゃあ、今度はみんなでピクニックに行こうか!
―――あら?いい考えね。そしたらお母さん。紅雪の好きな鮭おにぎり、いっぱい作るからね
―――わーい!やったぁっ!
幸せな、光景だった。どこにでもある、幸せな家庭風景。もう届かない、懐かしい空間。俺は親父に声を掛けたくて仕方なかった。
しかし、それはできない。
こんな姿の俺を、親父には見せられないからだ。親子連れが近づいてくる。俺はとっさに踵を返し…
また光に包まれた。強烈な光に目が眩み、手で影を作ってしまう。次に広がる光景は…
親父がんだときだった。親父の亡骸には、白い布がかけられていた。泣き崩れるお袋。茫然としている俺。周りの親戚がお悔やみを言い、部屋から出て行くところだ。残ったのは俺とお袋だけ。
お袋はずっと「あなたぁ…あなたぁ…」と繰り返すばかりだ。俺はそんなお袋を、慰めようと背中を摩っていた。俺が大べそ掻いたとき、お袋がしてくれたように。やがて俺とお袋も部屋を出る。
俺は続けて扉を出た。さすがは記憶の世界。扉は俺の体をすり抜け、閉まる。お袋に連れられ、歩かされる俺。その時俺は、何度か親父がいる霊安室を振り返っていた。
3回目に振り返った時、表情に変化があった。
その前の2回はすぐに前を向きなおしたが、3回目だけはずっと振り返ったままだ。俺はそこで何を見たのか、思い出せなかった。俺は幼い俺がしたように振り返り…
新たな記憶へ飛んだ。

102 :
今度は小学生の頃、真夏と一緒に帰るところだ。真夏は俺に手をひかれつつ、足をもじもじさせていた。記憶の中を探る。こういうときは大抵…
―――あっ。
小さな、切な声の後、
しゅわわわわわわ……
水の音とともに、真夏のスカートが濡れていく。俺は音で気づき、足を止めた。真夏は必に抑えようとしていたが、無駄だった。結局、道の上に大きな水たまりができるまで、真夏はおもらしを続けた。そしてその後は決まって、大泣きをするのだ。
―――ひっ、ひっぐ、うえぇぇぇぇん……
俺がそんな真夏を引張り、家路を急ぐ。「大丈夫だよ」とか、「もうすぐだから」と慰めの言葉をかけた。真夏はそれを聞き、徐々に泣き止んだ。お互い、恥ずかしさを募らせながら、短いようで長い帰り道を歩き続ける。それを見終わったとき、次の記憶へと飛ぶ。
今度は暴走族時代のものだ。
ちょうど、俺が族を結成して、間もないころのものだ。あの頃は怖いもの知らずで、よく近くの山道へ繰り出しては、甲高い音を鳴らして走り回ったものだ。
もちろん、今考えてみれば、あまり褒められた行為ではないだろう。
それでもあの頃は、これに青春賭けてしまっても、いいとさえ思ったのだ。そして、記憶が飛んだ。次の記憶は…
その暴走族が、終焉した日の記憶だった。
一番思い出したくない記憶。この記憶こそ、俺の今を作り出しているといっても、過言ではない。
その日、俺らはいつものように公道を走り、山道へと向かう途中だった。ざわついた街並み。満月が照らす夜道。煌々と光るナトリウム灯。その中を、何台という単車が、跋扈していた。エンジンの唸る音が、静寂を揺さぶる。
―――そこの前のバイクたち、止まりなさい!
いつものように、パトカーがやってきて、制止させようとする。俺は周りの皆に頷く。皆も同様に頷いた。そして、次の大きな分かれ道。Y字型になった国道との交差道路で、俺らは散開する。
パトカーは真っ先に俺がいるほうを狙う。なぜなら俺の単車が一番派手で、俺がこの族の頭だったからだ。他のバイクは上手く脇道にそれていく。最終的に俺が囮となり、他の皆を逃がす作戦だ。
俺には捕まらない自信があった。
俺のバイクテクはそこらの警察には負けない自信もあったし、バイクはそれ相応のスピードが出るように改造さえしていた。
案の定、俺は逃げ切ることに成功した。後は皆がいるはずの、いつもの場所へ集合すればいいだけだ。俺は意気揚々とその場所へとバイクを走らし……
誰もいない場所へと、辿り着いた。
その時の俺は、我が目を疑ったと思う。
普段なら勝利のハイタッチを交わし、山へと走りに出かける仲間は、1人もいなかった。寂しげに風が吹く。俺はバイクを降りることさえできないまま、そこで立ちつくした。
さらに俺を驚かしたのは、次の日の新聞だった。

103 :
地方新聞の3面記事に大きく、『暴走族 一斉検挙』の文字が、高々と躍り出ていたのだ。俺はその新聞を買い、熟読する。そこに書かれていたのは、昨日の、俺が知りえない真実だった。
あの時警察は俺を捕まえることをあきらめ、最初から包囲網を敷き、俺らをあえて散開させるように誘導した。そうとも知らず俺は散開し、まんまと罠にかかった仲間を、1人残らず補導、逮捕したのだ。
幸い、俺は仲間には厳しい人物だったので、逮捕の内容も道交法違反や、公務執行妨害ぐらいで済んだらしい。しかし、この事実は俺に、あることを突きつけた。
それは、仲間を見捨て、自分だけ逃げたということだ。どういうことがあるにしろ、結果がそうなのだ。それは、言い逃れのできない事実となった。俺は新聞紙をぐしゃぐしゃになるほど強く握りしめ、悔しさに嗚咽を漏らした。
その日を境に、俺は族を止めた。
どうしてこんなことを思い出したのだろう。さっきから昔の記憶が順々と……そうか、これが走馬灯のようにってやつか。俺は、ぬのか。
まあ、それもいいのかもしれない。
俺は彼女を、奏音を、危険に晒してしまった。俺という存在に出会わなければ、あんな思い、させずに済んだのだ。そう思うと、また悔しさがこみ上げてくる。俺は一体、なんなんだろうか。
親父に小さいころ言われたことがある。「男なら、誰かを守れるようになれ」と。
結局、俺は誰も守れずに、ぬのか。
悔しい。本当に悔しい。自分が不甲斐無くて。情けなくて……
お願いだ。俺はにたくない。まだ、にたくない。だから、俺の、命以外の総てを、奉げてもいい。神様。俺に最後でいいから、チャンスを下さい。
俺は再び、眠りについた。

104 :
――あなた、私を呼んだの?
声がする。
誰かが呼ぶ声がする。
俺を読んだのか。
他の誰かを呼んだのか。
――起きなさい。そして、答えなさい。
重い瞼を開く。曖昧な視界。目の前に、誰かいる。誰だ…誰…
「しっかりなさい。緒方 紅雪」
その声で、俺はようやく覚醒する。視界がはっきりした。見渡すばかりの、青紫の空。それは夜明けの空。
「私のこと、認識できる?」
目の前に、少女が浮かんでいた。仰向けに寝る俺と、うつ伏せに浮かぶ少女。向き合った俺たち。交わす視線。
「ああ。わかる…ここは、どこで、お前は、誰だ?」
少女はそこでふわり舞うように動き、今度は俺を見下すように、起き上がる。
「あら?あなたは分かってて、ここにいるのかと思ったのだけれど」
彼女の視線が、俺に降り注ぐ。俺はその言葉と態度に、イラッと来て、ぶっきらぼうに答えた。
「知るわけねーだろ。気づいたらここにいたんだぜ?」
少女はそれで、俺の心を見透かしたのか、どこか小馬鹿にするような目つきで、
「まずはあなたも起き上がってはどう?そんな姿勢で話を聞こうとするほうが失礼よ」
と指摘する。俺は更に苛々を募らせたが、渋々それに従い、起き上がる。地面がないのに、すんなりと起き上がることに成功した。
俺の眼の前に立つ少女は、それでようやく対等だと言わんばかりの態度で、
「なるほど…あなたは、何も、知らないのね?」
と聞いてきた。ジトリとした眼を、俺に向ける。俺の苛々は容易く頂点に達し、
「もったいぶってんじゃねぇよ!」
と怒鳴った。彼女はそんな俺に憐れみの視線を向ける。
そこで初めて、彼女の目の異変さに気付いた。金と銀。違う色の目をした少女。
それは、人間ではない、そんな雰囲気さえ漂わせる眼だった。
「仕方がないわね…説明してあげるから、大人しく聞きなさい?」
俺はそこで自制し、素直に彼女の説明を聞き始める。少女は透き通るほど白い、腰まで届く長い髪の毛を揺らすと、反転し、背を向ける。
「ここはすべての人間の底の底。無意識下の世界よ」
少女はそのまま、朝日のほうを指差した。朝日は今にも昇りそうだったが、一向に動く気配がなかった。
「あちらが意識の世界」
少女は俺のほうを向き、
「そしてこっちがすべての中心点。まあ、『源』とか『コア』とか『無』とか言うわね」
俺の後ろのほうを指差す。俺は振り向くと、そこには夜の闇とは違う、全く光の届かない闇が存在した。
形容するならブラックホール。そのまま放っておけば、今にも飲み込まれそうだ。
「そしてここが、無意識の世界」
彼女は自身の立場所を指差す。俺も釣られてそこを見た。海と夜明け空。それだけが広がる世界。
「まずは自分のいる場所、理解したかしら?」

105 :
俺は頷くしかなかった。少女はまるで見透かしたような口ぶりで、
「まあ、いきなり理解しろと言っても無理か。まずはこんな場所程度に覚えておけばいいわ」
と言った。俺は反抗せず、従った。今、ここの場所を完全に理解しているのはこの少女のみだ。この少女から離れたら、俺はきっと戻れなくなる。そう直感していた。
「次にあなたが知りたいのは私の名前ね?」
「あ、ああ」
彼女は見た目相応の、子供っぽい笑顔を俺に向けた。身長から見て、9歳ぐらいだろうか?黒いドレスを身に纏い、両の腕には腕輪。
その腕輪は等間隔に色のついた玉―宝石だろうか―が付いていて、それぞれ3つずつ、右に白・赤・黄、左に黒・緑・青といった感じだ。
胸には鍵型のアクセサリーがついたネックレスが首から掛けられ、人懐っこい顔は、奏音を想起させた。
「あなたと会うのはこれで2度目ね。名前は、そうねぇ……アンネでいいわ」
その言葉に、驚愕する。
俺はこの少女に、1度逢っているらしい。
 どこであろうか?俺の記憶に、彼女と会った記憶はない。こんな独特の容姿をした子を、忘れるはずはないだろうし、忘れていてもすぐさま思い出せるはずだ。
「私のこと、思い出そうとしているでしょ?」
俺は少女の言葉に震える。この少女―アンネは、逐一こちらの考えを読んだ発言をする。
「まあ、忘れてもしょうがないか。ずっと前の話だしね」
どういうことだろうか?
「じゃあ、あなたの記憶。解き放つわよ?」
彼女は胸のアクセサリーを左手に持つと、額に持っていき、祈るような仕種をした。
「…術式…解放…」
静かな、それでいて強い声だった。
アクセサリーはすぐさま大きくなり、彼女はそれを握り、剣のように一振りする。先端部がカギで、持ち手の後ろが、不規則に形状変化する杖。それを彼女は左手に持ち、唱える。
「我が声に従え…『世界』よ…」
空間が、震えた気がした。
「この者の奥底に眠る記憶。解き放ち、我の前に示せ」
鍵を地面?めがけて振り下ろす。鍵は虚空の中に溶け込んだ。アンネはそれを確認すると、誰もがやるように廻す。
かちゃり。
それが、始まりだった。

106 :
周りの世界が吹きすさぶように変わり、光に満たされる。俺は目を手で覆い、光から守った。光の気配が消え、手をどかす。
また、あの記憶だった。
親父がんだ時の記憶。さっきと同じ。泣き崩れるお袋。お悔やみを言う親戚。変わらない。さっきと何も変わらない。隣にいるアンネはその光景を、黙って見ていた。俺は堪らなくなり、怒鳴る。
「これが…どうしたんだって言うんだ!」
アンネはそんな俺を冷ややかに見ながら、
「あなたが私と会った時の記憶の再現よ?」
と言いのけた。俺はそこで周囲を見渡す。俺の記憶の中では、ここでアンネと会った覚えはなかった。案の定、部屋の中にアンネはいない。
俺はさらに言おうとしたが、アンネは口元に人差し指を置き、静かにしろとジェスチャーした。
俺はそこで渋々従い、成り行きを見守る。やがて子供の頃の俺とお袋も、外に出た。アンネはそれに合わせ、外に出る。俺もそれに続いた。
俺がお袋に引かれ、歩いている。廊下は蛍光灯の光が照らしているものの、そこはかとなく暗かった。俺は1度振り返る。お袋に言われ、すぐさま前を向きなおした。もう1度振り返る。
俺とアンネは、それをドアの入り口の前で見守った。
子供の俺はまた、前へと向きなおった。そして3回目。またもや振り返る。
そのときドアが開く音がした。俺は驚いてドアのほうへ向きなおる。そこには…
神が、鎌を携えて立っていた。
ステレオタイプな神だった。鎌を持ち、骸骨で、宙に浮いている。その神が部屋から出てきたのだ。俺は驚いて腰を抜かした。そのまま床に尻餅をつく。
神はそんな俺のことを見もしないで…当然か。ここは俺の記憶の世界だ。
この記憶の中に、俺らはいないのだ。小さな頃の俺を見る。小さい俺は目を見開いた。きっと俺にはそれが、なんなのかは理解できなかっただろう。
神は鎌を構え、突進する。標的は小さい俺。俺は思わず「逃げろ!」と叫んでしまう。アンネはそんな俺を見ながら、
「何を興奮してるのです。ここはあなたの記憶の中。あなたがここにいる以上、助かるのは決まっているじゃないですか」
と身も蓋もないことを言う。俺はそこで拍子抜けし、立ち上がった。と同時に、俺らをすり抜け、1つの「影」が飛んで行った。

107 :
それは神さえも恐れる存在だった。
神はその「影」を見ると、俺を襲うのを止め、一目散に逃げようとする。
しかし、「影」のほうが早かった。
「影」は神を捕まえると、左手に持つ剣で、神を一太刀に断ち切る。
神はそこで絶命し、霧散した。その霧散した神の『魂』を、「影」が吸っている。「影」はそこで実体化した。
白い髪が、翼のように靡いた。
金色と銀色の瞳を俺に向け、「影」は佇む。俺はその幻想的な光景に、ただただ見入っていた。
剣は元の白い宝玉に戻り、彼女の右手の腕輪に収まる。
―――私のこと、見えるの?
「影」は、俺にそう聞いた。
―――うん。
俺は素直に答える。「影」は少しばかり驚いた表情をすると、
―――すごいわね。あなたは将来、大成するわ。
と妙な事を言っている。俺はその意味が分からず、頭に?を浮かべた。「影」はそこで振り返り背を向け、
―――私は、行かなければならないの。あなた、名は?
と聞いてきた。俺はお袋に気付かれないように小声で、
―――紅雪。緒方 紅雪だよ
と答えた。「影」が少しだけ、微笑んだ気がした。
―――じゃあね紅雪。また、逢いましょう…
それで「影」は、消えた。

108 :
俺らは再び、夜明け空の世界、無意識下の世界に戻る。俺はずっとアンネを気にしていた。この少女があの『影』なのは、間違いないだろう。
では、あの少女が行っていた、『魂』を吸うという行為は一体、何だったんだろうか。
「これで納得いったかしら?」
アンネは俺に問うた。俺は「ああ」と答える。アンネはそれでいいのか、その先を聞くことはなかった。そしてもう話は終わりと言うことなのか、次の話題に切り替わる。
「あなたはどうしてここに来たのか分からない…と言ったわね」
俺はその言葉に同意した。アンネはそれを確認すると、杖を元のアクセサリーに戻した。
「単刀直入に言うわ。あなたは今、出血多量でにかけの状態よ」
やはり、そうだったのか。アンネは続ける。
「人間はにかけるとね、一度はこの無意識下の空間に行くのよ。俗に言う三途の川ね。で、あっちの意識の世界に戻れたら生還。で、あっちの『源』に触れたらぬというわけ」
つまりここは、生の狭間というわけか。アンネは俺がそれを納得したのを感じ取り、さらに続けた。
「まあ、普段は自力でここの存在を感じ取ったら脱出できて、できないとぬのだけれど、稀にあなたみたいに、ここに私を呼んでしまう人間もいるのよ」
アンネは俺のことを指差す。俺はアンネがここに連れてきたとばかり思っていたが、真相は逆のようだった。
「アンネを呼ぶということは、どうなるんだ?」
俺の素朴な疑問に、彼女は自慢げに言った。その仕草が、すごく子供っぽくて、可愛いと思ってしまった。
「私を呼び出すということは、それだけで価値のあることよ。あなたは私を呼び出した。つまりあなたは、私に声を届かせたということになる。それはあなたが、上位世界への扉を開いたのと同意義よ」
意味が分からない。上位世界って何だ?
「そうか、あなたは知らないわよね…そうねぇ…あなたは、運命を信じる?」
唐突な質問。数秒悩んだ後、俺はそれにYESと答えた。アンネはふむふむと頷き、俺に問う。
「それが、誰かの勝手で動かされてるとしたら、あなたはどう思う?」

109 :
彼女の難題に俺は頭を抱えた。運命が誰かの勝手で動かされる?確かに憤るが、運命なんてそう簡単に変えられるのだろうか?そもそも、運命を決めているのは、誰なんだ?神様か?
「悩むわよね。実際。それが普通なのよ。運命なんてものわね、言葉のまやかしに過ぎない。私は、いえ、あなたより上位の存在が単にこう動けと命じてるだけ」
回りくどいような言い方。理解に苦しむ。
「簡単に言うなら、本の文章を塗りつぶし、そこに新たな物語を創作するようなもの。下位世界が本で、上位世界が読み手ね。
読み手は物語が気に入らないからといって、本の文章を塗りつぶし、物語を改変する事が出来る。それによって世界は分化され、並行世界が存在する。それが横縦と積み重なったのが、現在の『世界』の構造よ」
ようやく分かってきた。アンネはさらに言った。
「そして、私はあなたより上位の世界にいる。あなたの物語を改変する事が出来る。そしてあなたもまた、その権利を手に入れたことになる。まあ、声を届かせた程度じゃ、一段上ぐらいが精一杯だろうけど」
そこでようやく、合点がいった。アンネは俺に、ある事を選ばせようととしているのだ。
「あら、理解してくれたかしら。時間も惜しいし、単刀直入に言うわ。あなたの選択肢は3つ。
1つ目は、自力であの意識の世界に向かい、生存するか。
2つ目は、このまま身を委ね、か植物状態のまま、生き続ける状態になるか。
3つ目は、私とともに上位世界に行くか。
1つ目を選ぶと、過酷なことが待ってるし、確実とは言えない。もしかしたら途中で力尽き、ぬかもしれない。それでも、あの世界で生きたいと願うのなら、そうしなさい。
2つ目を選べば、あとはあなたのなるようになるわ。後の世界も、なかなか乙な物よ?
3つめを選べば、あなたは神様…とはいかないけど、それ相応の力は手にすることはできる。だけどあなた自身は二度と、この「世界」には戻れない。
もちろん行くことはできる。しかし、あなたは「世界」の外の人間になり、二度とこの世界で一生を終えることはできなくなる。
……これで説明は以上よ。あとはあなたが、選びなさい。私はいくらでも、待ってあげるわ」
アンネはすべて説明し終わると、俺から離れ、世界を飛び回り始める。俺を1人にしてくれたのだろう。俺はゆっくりと考え始めた。どれがいいか。俺にとってどれがいいものなのか。
……いくつもの思いが体を廻る。
俺の心の中で、様々な意見が飛び交った。
纏まらない。
意見ばっかり出てくるせいで、一向に纏まらなかった。
そのまま頭を抱え、考え続ける。
 その時、奏音の声を幻聴した。
「へっ?」
思わず、声を出してしまった。どうしてここで、奏音のことを考えたんだろう。記憶を探る。それと同時に、奏音の声が、姿が、仕草が、思いが、徐々に蘇っていく。そして、気づいた。
………なんだ。簡単なことじゃないか。
とうの昔に、答えは、決まっていたんだ。
俺は…

110 :
俺の回答を聞くと、アンネはやっぱりという顔をした。
「まああなたなら、それを選ぶでしょうね」
俺はずっと、アンネに心を見透かされっぱなしだ。アンネは俺を見ながら、最後の言葉をかける。
「あとは総て、あなたがやることよ。私も関与しないし、個人の意思まで関与はできない。この無意識下の世界では、誰よりも個人が勝るもの。外の意識ではなく、無意識下でこそ、個人というものが大きくなるの」
ここで一息入れ、
「神様としては、私は何もしない。けど、私個人としては、あなたのこと、応援してるから」
と思いがけない言葉をかけてくれた。俺はそれだけで奮起する。最後にフフフ…と笑い、アンネはこの無意識下の世界から飛び去った。髪の毛が翼のように踊るのを見届け、俺は目の前の朝日を見据える。
さて、帰ろうか。
心の中で誰ともなしに呟いた。
皆が待つ、俺の居場所へ。
大きく、1歩を、踏み出す。
朝日は、とても遠かった。歩いていける距離であるのかもわからない。それでも俺は、歩き続ける。待ってる人がいる。心配してる人がいる。頼ってくれる人がいる。なら俺は、今度こそ、それに応えなければならない。
そして、暖かい光に、包まれた……

111 :
痛みによって俺は覚醒した。見られぬ天井。白基調の室内は、ここがどこだかを容易に判別できた。
「起きたか。阿呆が」
久し振りに聞いた、懐かしい声。聞こえたほうに振り向くと、皺を寄せ、白衣を着た初老の女性がパイプ椅子に座り、俺を見下ろしていた。
「…お袋…」
俺は自然と、その言葉が出ていた。しかし、相手は露骨に嫌な顔を作り、
「あんたにそんな呼ばれ方、されたくないね。わたしゃあんたを勘当したんだ。もう赤の他人だよ。強いて言うなら、医者と患者さね」
と指摘する。俺は少しだけ気に入らなかったが、まあそれが事実だ。ゆっくりと体を起こす。頭からズキとした痛みが襲った。思わず手を置くと、包帯の感触があった。体を見渡す。右腕は三角巾で吊るされ、ギブスが嵌められている。
「頭の傷は皮膚を切っただけだ。6針で縫っといた。右腕は全治2週間の捻挫だ。あといくつか内出血跡があったが、その程度は自分で治せるだろ?…とまあ、医者としての説明は以上だ。質問は、あるかい?」
矢継ぎ早に出る言葉に面食らったが、まずは起き上った時からある思いをぶつける。
「……どうしてお袋が、俺を治療したんだ?」
お袋はいきなりの質問にさらに顔を顰めた。しかし、それでも質問には答える。
「奏音ちゃんの頼みさね。わたしゃあの子の家のかかりつけ医。頼みとあらば、嫌な相手でも仕事はする。それがプロというものだよ」
意外なところで、俺と奏音は繋がっていた。もしかしたら、真夏は知っていたのかもしれない。俺が悩んでいると、お袋はふぅと溜息をつき、
「普通さ…今いつだとか、奏音はどうなったとか、そういうことを聞いてくるもんじゃないのかい?」
と呆れたといった素振りで言った。俺はそれを聞き、ようやく頭に血を巡らす。そうだ。何のためにここにいるのだろう。俺は何のために、アンネの誘いを蹴ったのだろうか。
「か、奏音は!?…イっ!つぅ…」
強引に動いたから、体中に激痛が走った。そのまま、ベッドの上で蹲るような姿勢になる。冷ややかな視線を向け、お袋は言った。
「ふんっ!大丈夫さね。あんたがあの子を逃がしたおかげで、あの子には傷1つついてなかったさ。事の顛末はドアの外にいる、プレシアにでも聞くんだね」
そこでお袋は立ち上がる。そのままドアのほうへ歩いて行くが、一度立ち止まり、振り返らずに言った。
「あの子を、守ったんだってね」

112 :
「あ、ああ」
1秒の間。
「あんたも少しは、誰かを守れるように、なったのかい」
「それは…」
「まあ、そうなら、天国のあの人も、喜んでくれるはずだわ」
それだけ言うと、俺の言葉を待たずに、立ち去った。
「お、おいっ!」
声をかけたが、お袋が止まることはなった。ガラガラというドアの開く音がした。数秒後、入れ替わりにプレシアが入ってくる。
「この度はお嬢様を守っていただき、ありがとうございました」
深々と礼をするプレシア。俺は逆に体を固くしてしまう。本当なら、俺はプレシアにされると思っていたのだ。なんせ、あの子を巻き込んだのは、俺のせいだから。
「すまん俺こそ……そうだ、俺が倒れた後、どうなったんだ?」
俺の質問に、プレシアは俺をしっかりと見据え、話し始める。
「私の伝手であなたを調査していた探偵に、あなたを助けさせました。お嬢様から連絡を受け、すぐさま私が手配したのでございます」
いくつか、聞き捨てならない言葉があったが、プレシアはお構いなしに先に進む。
「あなたが倒れた後の処理は、私とその方でやっておきました。おそらく2度とこちらに関わることはないでしょう。そのあとお嬢様の指示通り、あなたをここへ搬入し、治療を依頼したのです。今日はあの日から、3日目になりますよ」
多くの情報が出てきて、頭の中が整理しきれなかった。数秒考え込んで整理し、まず、彼女に一番聞きたい事を聞く。
「奏音は!?俺はもう一度、あの子に会えるのか?」
プレシアはすぅと、どこか遠くを見る目をした後、
「それは私としてはお勧めしません。もちろん、旦那様からは何も言われておりませんが、今は会わないほうがよろしいかと思われます」
と忠告する。俺はその言葉が気になって、痛む体を引きずり、ベッドから降りた。
「今、ここにいるのか?」
大きく目を見開いたプレシア。アクアブルーの瞳が、一際輝いた。
「案内、してくれ」
俺の言葉に、「ですが…」と一度断ろうとし、目を泳がせる。しかし、俺の熱い視線を浴び、我慢できなくなったのか、
「どうなっても、知りませんからね」
と渋々承諾した。俺はプレシアの肩を借りつつ、病室から出た。

113 :
連れて行かれたのは、病院の屋上だった。雲1つない青空。風が強い。白いシーツの波が、バサバサと揺れる。その先に、1人の少女が、いた。少女は手すりに体を預けつつ、外を眺めている。
 俺は駆け出そうとして、激痛に顔を引き攣らせた。隣のプレシアは呆れつつも、俺を支える。俺はゆっくりゆっくりと前進し始めた。本当は、一刻も早く、彼女のもとに行きたかった。しかし、体が言うことを聞かない。逸る気持ちだけが、募っていった。
「お嬢様」
穏やか、声だった。プレシアはいつも、奏音には甘いのだ。
「なぁに?プレシア」
奏音は無邪気に、こちらを振り向いた。夕焼け色の相貌が、最初プレシアに、そして俺に向けられる。天使のような美しい顔。赤味がかった茶髪。の淵で、会いたいと思った存在。それが今、目の前にいる。
奏音は不思議そうな顔で俺を見る。二、三度パチクリと瞬きした後、彼女は言った。
「プレシア。その人、誰?」
俺の耳が、悪いのだろうか。今、とんでもないことを聞いた気がする。俺は彼女の名を呼んだ。
「奏音。俺のこと、覚えてる?」
奏音は、無邪気な笑顔で、首を傾げると、
「いいえ。私はお兄さんとは、初めて会いました。……人違いでは、ないですか?」
と断言した。
その時、俺の中の何かが壊れた。
俺はそこから先の言葉を、失った。伸ばしかけた手を引っ込め、プレシアに、病室に戻るよう頼んだ。プレシアは、憐れんだ表情で俺を見ていたが、俺の言う通り、引き返す。奏音は、新底不思議そうな顔をし、
「あのっ!」
と引き留めた。俺とプレシアは、そこで立ち止まる。
「名前、まだ、聞いてません」
彼女は俺に向けて、そう言った。俺は静かにそれを聞き入れ、返す。
「…緒方 紅雪だ…」
奏音は「こーせつ」と繰り返し呟いていたが、それをやめて、悲しそうな表情を浮かべ、
「やっぱり、私、あなたのこと、覚えてません…ごめんなさい…」
と謝る。俺は、できるだけ静かで、穏やかな声で言った。
「誤ることもないよ。もう、俺はいいんだ。俺は、奏音のことが見れて、それで十分なんだ。だから…」
その言葉。それは、俺自身をす言葉。
「俺のことなんて、覚えてなくていいんだよ」
それだけを言い残し、俺は屋上を後にした。

114 :
病室に戻り、ベッドの中に収まる。
「紅雪様…」
悲しそうな、憐れんでいる声。プレシアは俺のことを心配そうに見つめている。俺は一気に年を取ったかのように、狼狽していた。そうか、こんなにもダメージがでかいのか。忘れられるって。それをずっと、プレシアも、真夏も経験していたのか。
いつの間にか、涙が出ていた。
俺は、あの子に会いたくて、ここまで来たのに。あの子は俺のこと、忘れてしまったのか。もちろん、あの子が悪いわけじゃない。ただ、こんなにも思っている自分が滑稽で、情けなくて…
笑いが、込み上げてきた。
一度来た笑いは、体中を駆け巡った。滑稽で、滑稽で仕方がない。
「フ、フフ…」
最初は、噛みしたかのような笑い。
「ハハハハハ…」
プレシアは、その声に、とても驚いていた。気が狂ったのかと、疑いの目を向ける。俺はそんなことすら気付けずに、笑い続けていた。
「アーッハハハハハハハ……」
腹を抱え、笑い続ける。乾いた笑い。涙を流しながら、俺は嗤う。自分自身を、滑稽に嘲笑う。やがて、笑いが治まると同時に、涙だけ流し続けた。ベッドに左手の拳を埋め込み、叫んだ。
「ちくしょぉぉぉぉぉうっ!」
空虚な響きが、病室に木霊した。

115 :
それからの数日間は、虚脱感に襲われながら、日々を過ごした。
まず、次の日には真夏がお見舞いに来てくれた。真夏はプレシアから事情を聞いていたようで、俺を慰めてくれた。自分も辛いはずなのに。真夏は元気を取り繕って、俺を励ます。
その姿が、とても痛かった。
だから俺は、もう見たくなくて、無下に扱ってしまった。それでも嫌な顔せずに、最後は笑顔で、去って行った。湧いてくる後悔。唇を噛み締め、口の中を血で潤すような状態になっても、俺は悔しさに打ちひしがれていた。
退院は、その2日後だった。碌な挨拶もされずに、病室から追い出された。お袋は眼を鋭くさせながら、
「あんたみたいなやつを病室に置くより、金持ちの爺さんでも置いておいたほうがましさね」
と碌でもないことを言い放つ。相変わらず守銭奴というか、金に五月蠅い人間だと思った。
それが唯一つの、俺の心を潤す出来事だった。バス、電車と乗り継ぎ、会社に挨拶に行くと決めた。携帯電話は、あの喧嘩の時に破壊され、使い物にならなくなっていた。なので、直接出向くことにしたのだ。
駅につき、時刻表を確認する。少しばかり待ち時間があるようだ。俺は切符を購入し、ホームへと出た。駅名、桜台。俺と奏音が初めて出会った場所。
そして、俺はあのベンチに腰かけた。彼女が眠っていたベンチ。野晒しのため、所々が錆び、腐りかけているベンチ。座るとキィ…と、少しばかり頼りない音が鳴った。そのまま背もたれに体を預け、空を見る。
どんよりとした雲が、空一面中を埋め尽くしていた。雲の色は暗く、雨が降りそうな気配だ。それは今の俺の心のようだった。今にも泣きたいのに泣けない、俺の有様そのものだ。
終点まで乗り、さらにそこから歩いて、ようやく会社に着いた。不動産業で成り上がったこの会社は、昔ながらの鉄筋コンクリート製の旧社屋と、近代的な、ガラス張りの新社屋の2つがある。
もちろん、前者が鉄道部門などの、いわゆる「オマケ」の部署が押し入れられ、メインとなった不動産業や、儲かりどころ、人事などが新社屋に悠々としたスペースを陣取っていた。
旧社屋に入り、2階に行く。そこが俺の職場の総本山だ。オフィスなんてものはあまり要らない鉄道部門では、この2階だけが名ばかりのオフィスだった。
中にいたのは事務系の同僚や、今日は書類整理をしている先輩、そいて一番大きなデスクで新聞を読みふけっている課長だ。

116 :
俺は私服のまま、課長のもとへ行く。課長名折れの姿を見て怪訝そうな表情を浮かべると、開口一番、
「君。明日から来なくていいからね」
とやる気のないような口振りで言った。俺はその言葉の意味をすぐさま理解し、そして、素直にロッカーを片づけ、会社を出た。同僚や先輩が、ヒソヒソ話をしているのが聞こえる。
解雇理由は、やはりあの事件だった。
あの中の1人が、会社にタレコミしたらしい。まあ、最後の嫌がらせということだろう。
別にもうどうでもよかった。
あの子に拒絶されてからというもの、俺はどんなことでも呆けるような状態で聞いていた。心、ここに在らずだった。
タクシーに乗り、自宅へ向かう。もうあの電車には乗りたくなかった。きっと俺がクビになったことも、あいつらは知っているだろう。顔を合わせたくは、なかった。
タクシーに乗るとき、頭に水滴が落ちた気がした。俺が乗ると同時に、運転手が発進させる。ぽつりぽつりと、窓に雨が当たる。
タクシーのおじさんが、気さくに話しかけてきた。俺はそれにうまく話を合わせた。あんまり、話したくはなかった。今は本当に、1人になりたかったのだ。
家に着く頃には、雨は土砂降りに変わっていた。傘などは持ち合わせていないため、濡れるのを承知で、外に出た。タクシーは久しぶりの上客に、財布をホクホクさせることができただろう。
俺は疲れた体を引きずって、家の中に入った。そのまま、怪我を気をつけつつ、何も食わずに、寝た。このまま起きていると、いろんなことを考えそうだった。俺は考えるという行為が苦手だ。
余計な事を考えて、いつも苦しい思いをする。
暗い室内で、俺は1人眠りに就く。雨で濡れた体も拭かず、敷いてあるカーペット汚しながら、俺は横になった。拭きたくは、なかった。いま拭いてしまったら、顔を濡らす別の水滴が、ばれてしまいそうだから。
静かな嗚咽が、暗闇に響いていた。

117 :
次の日、空は雲1つない快晴だった。重たくなった体をむくりと動かし、シャワーを浴び、適当に着替える。無職となった俺は、時間を持て余していた。いつもなら仕事のために慌ただしく動くのだが、そんな日々はもう過去の存在だった。
「……久し振りに、行くか!」
俺は無理にでも元気な状態を自分で作る。うだうだしても仕方ない。だから今日は踏ん切りも兼ねて、親父の墓参りに行こうと思った。家を出て、鍵をかける。そのまま歩いて駅に行き、電車に乗った。車掌は、同僚の―いや、同僚だった…か―秋山だ。
冷やかな、蔑む視線をこちらに送る。俺は無視して、椅子に腰かけた。
目的の駅まで、車窓を見る。どこまでも田舎な、田園風景。農耕機械が轟音を立て、畑を耕していた。時折大きな道路が近付き、離れるを繰り返す。通行量は疎らで、渋滞など起こりそうもない。
遠くに見える山辺は、緑が燦々と生い茂っていた。……本当に、のどかな風景だ。誰もが持つ、懐郷の念を刺激するほどの。
夕顔駅に降り立ち、目的の山寺へと向かう。あのガード下は、まだ血痕が残っているようだった。それでも薄れていたその痕跡は、時間が進んだ証しだ。町は何事もなかったかのように時を刻み続けている。俺だけはまだ、時が止まったままだ。
 時刻は、午前を過ぎた頃だった。

118 :
親父の墓には、真新しい花が活けてあった。墓も綺麗に磨かれ、美しさを誇っている。誰が来たのかを推測したが、墓前に置いてある日本酒とコップを見て、ピンときた。
あれは、4歳の頃だったか。
親父が飲んでる酒を勝手に飲んで、倒れたことがあった。俺はお袋のこっぴどく叱られたが、親父は豪胆に笑うと、
―――どうだ。おいしかったか?
と聞いてきた。俺は首を横に振ると、
―――ううん。すっごいからくて、いやっ!
と感想を言った。親父はさらに大口を開け、
―――ハッハッハッ……さすがに紅雪にはまだ大人の味だったな!
と言いながら、俺の頭を荒々しく撫でた。俺はそれが堪らなく嬉しくて、親父に言う。
―――じゃあさ、じゃあさ。おれがおとなになったら、あじが、わかるの?
親父は酒をクイッと飲んで、
―――分かるようになるさ。じゃあ、約束だな。お前が大人になったら、俺はこの酒と同じやつを買ってくるから、一緒に飲み明かそうな!
その時の俺はきっと、誰よりも明るい笑顔で、
―――うん!やくそくするっ!
と答えたはずだ。その様子をずっと見ていたのはただ1人、お袋だけだった。俺はコップを洗った後、日本酒の栓を開け、注ぐ。そして、親父の墓に、酒を掛けてやった。俺も1口、飲んだ。
 その味はやっぱり辛くて、しかしそれこそが日本酒のうまみだとわからせる味だった。
「親父…」
俺はちびちびとコップの酒を飲みつつ、言う。
「俺、やっと好きなやつが、できたんだ」
今度は親父に、酒を掛けた。
「そいつは俺よりもずっと幼いんだけど、可愛くて、放っておけなくて、綺麗で、泣き虫で…」
自然と出てくる言葉。涙は、出なかった。
「俺は、そいつを守ろうとして、けど出来なくて…」
コップの酒が、空になった。それでも、次の酒を注ぐ気にはならない。
「悔しくて、餓鬼みたいに泣いて、何もかも失って…」
そして、俺は、最後の酒を親父の墓にかけると、コップと瓶を墓前に置いた。そのまま振り返る。
 どこまでも広がる視界。街を一望できるということが、こんなにも寂しいことだと、初めて知った。俺はあの街とは離れたところにいる。それが今の俺の立ち位置だ。
俺をこの町に縛り付ける物は、何一つ消えさった。
「親父…俺…」
「紅雪…君?」
その声は、驚きをもって俺に齎された。なんという奇遇。なんという運命。
「…真夏…」
静かに彼女の名前を呟いた。彼女はいつも通りの墓参りセットをもって、こちらも驚愕の表情で俺を見ていた。
「なんでお前が…」
この酒を見る限り、お袋はここに来たということになる。なら、どうして真夏がここに来たのだろうか。
「それはこっちのセリフだよ。…毬子さんに言われて、来ただけだよ?」
どうやら、お袋の差し金のようだ。俺は荷物を置くよう促す。真夏は墓の横に墓参りセットを置くと、俺の右隣に立つ。
あの日の再来。見渡す景色は、あの日のように素晴らしかった。ただ、お互いの心は、大きく変わってしまっている。
「紅雪君。あのね…」
珍しく、真夏が早口で俺に切り出した。普段と違う行動。変わった心。変わった立場。
最後のピースが、埋まろうとしていた。

119 :
次の日、俺は華村家へと足を運んでいた。昨日、親父の墓前で、真夏に今日来るように言われたのだ。断ってもよかったが、何やら重要な話があるということなので、奏音に会わないことを条件に承諾した。
門前にはプレシアが立っていたが、俺の姿を見た途端、大きなため息をつくのがわかった。
「失礼じゃないのか?人を見るなりため息なんかついて」
彼女にそのことをぶつけると、
「別にあなたに対してため息をついたわけではありません。私はまた、真夏に騙されたことに対して、ため息をついているのです」
といった答えが返ってきた。真夏はプレシアに何を言ったのか気になるが、プレシアはそれ以上は頑として話さなかった。2人きりで、数分立ちつくす。お互い会話する内容もないので、黙って立っていた。
その静寂を破ったのは、もちろん真夏だった。真夏は門の内側から歩いてやってくると、
「プレシア先輩。ボディガードさん来ました?」
と俺のことを見ず、声をかける。プレシアは真夏を睨むと、
「それが、彼なのですか?」
と俺のことを指をさして、言う。真夏は俺を見ると、大きく頷いた。
「はい!新しいボディガードさんですよ?」
俺は、話の筋がよくつかめなかった。ボディガードとは、どういうことだろうか。プレシアは真夏の回答に怪訝そうな顔をし、
「私は腕利きのボディガードを連れて来い…とあなたに言ったわよね?」
と確認する。真夏はそんな彼女の追及を、
「腕利きですよ?私も守ってもらいましたし」
と言ってかわした。プレシアはわざと、大きなため息を吐いた。
「でも、お嬢様を守るには力不足ね。それはあの人の姿が証明してるじゃない」
「いい加減。当事者をほっとくのはやめてくれ」
そこでようやっと、俺は話に割り込む。プレシアは腕組みをし、冷たい眼光で、
「当事者?いえ、あなたにそんな権利はありません」
と一蹴する。しかし、真夏がそれに反論した。
「弱いと仰るのなら、強くなればいいんです。こんなこともあろうかと、師匠もお呼びしてありますから」
その言葉に合わせて、タクシーがこちらにやってきた。真夏は待ってましたと言わんばかりに大きく手を振る。プレシアは一礼した。タクシーは門の前に止まり、1人の男性を下した。その男性は「待たなくても、大丈夫ですよ」と運転手に声をかける。
運転手は一礼し、男性が離れたのを確認してから、ドアを閉め、走り出した。俺らは、ここに来たその男性に注目した。

120 :
一瞬、タレントかと見間違えた。
 銀色の髪を短く切り揃え、纏められている。すらりと伸びた体は、180cmはありそうだ。穏やかな表情は、優男といった印象を与える。何より目を引くのは、優しさの中に鋭さを持った紅い瞳だ。
男性は俺を見、そしてプレシアを見た。プレシアは現れた男性に戸惑いを見せた。俺も頭の中に、何か、引っかかりを感じた。
「お待ちしてましたよ。銀之助様!」
真夏が一礼して、言った。銀之助と呼ばれた男性は物腰柔らかに「お呼びに与り光栄です」と礼をした。動きすべてが完璧で、思わず見惚れてしまう。
男から見てもかっこいい。
そんな印象を持った。
俺の視線が気になったのか、銀之助さんはにこりとこちらを向き、
「怪我は軽かったようですね。よかったです」
と俺の姿を見て、言った。そこでようやく、頭の引っかかりが取れた。
「あ、ああ。あなたは、あの時のっ!」
「そう。あなたを調査した探偵ですよ。紅雪様」
言葉にならない俺に代わり、プレシアが先を言った。そう、この人物は俺の記憶に色濃く残った「銀色の髪」の人物だったのである。
「で、どうしたいのよ。真夏」
プレシアが訝しげに真夏を見た。どうやら現状を理解したうえで、聞いたようだ。
「どうしたい…ですか?……私は奏音様のボディガードは紅雪君しかいないと思ってます。力が足りなかったら付ければいい。そのための師匠を、銀之助さんに要請しました」
最初は悩んだような表情で、その後は真剣な顔で、答えた。プレシアはやれやれといった顔をして、
「どうせ…そんなところだと思いました。それを私が認めると思いますか?」
と脅す。真夏は一歩も引かず、言った。
「認めさせます!私は、そのためなら先輩だって、敵にします!」
空気が静寂に包まれた。気まずい雰囲気。銀之助さんは空気を読んで、一歩下がった。俺はどちらが先に喋るまで、黙ろうと決め込んでいる。
「……わかったわ。仮にあなたの言うことを認めるとしましょう。しかし、『彼』は、どうなのです?」
先に沈黙を破ったプレシアが、俺を見つつ言った。真夏の顔に、焦りの表情が浮かんだ。それを見逃さず、プレシアは追及する。
「どうせあなたのことです。紅雪様に真実など話していないのでしょう。そして今、話の概要を知った彼が、これを受け入れると思いますか。奏音様に忘れられ、すべてを失った彼が!」
「でもっ!」
「先程の意見も、あなたの1人善がりではなくて!」
「…っ!」
言葉を詰まらせる真夏。心なしか、勝ち誇った顔のプレシア。一部始終を落ち着いた表情で見る銀之助さん。やがて3人は俺を見つめた。総ての決定権は今、俺に委ねられた状態だ。
「俺は…」
静かな、本当に落ち着いた声で、話し始めた。

121 :
「俺は、あいつの隣にいる…資格なんて、ない…」
俺の言葉に真っ先に反応したのは、真夏だった。
「そんなっ!そんなことないですっ!」
俺の言葉を、否定する言葉。必に叫ぶそれは、おそらく彼女の立場を象徴する言葉だろう。余裕を持った笑みで、プレシアは言い放つ。
「これで決まりましたね。真夏」
まるで首元にナイフでも突きつけたような言葉だった。
真夏は「ひゅん」といった感じで黙り込み、それ以上は言葉が出なかった。
そこで大勢が決定したのか、プレシアが銀之助さんに近寄り、
「では、私から改めてあなたに、お嬢様のボディガードを依頼しますわ。この旅はご足労をお掛けして、申しわけございません」
と挨拶する。銀之助さんは俺をちらと見ると、
「残念ながら、お断りします」
丁重に断った。プレシアは予想外だったのか、動揺が表情に出てしまっている。

122 :
皆が驚きながら、その声のするほうを見る。そこには、大きなピンクのリボンで髪を束ねた、奏音が腰に手を当て、仁王立ちしていた。
「あっ…」
奏音は俺の姿を見ると、何か言いたげに口を動かすが、言葉にできないみたいだ。俺は、静かに近づき、視点を合わせるためしゃがむ。
「こーせつ…さん」
奏音は俺の名を呟く。俺は「そうだよ」と、自身が「こーせつ」であると認めた。奏音は目をいろんな所へ向け、俺と視線を合わせないようにしている。
しかし、俺の視線は奏音からずれない。奏音はついに観念して深々と頭を下げ、
「ごめんなさい!やっぱり私、こーせつ…さんのこと思い出せません…」
泣きそうな顔。俺は穏やかな顔で、言った。
「いいよ。奏音は悪くないんだから。あと、俺のことさん付け呼びは、止めてほしいな」
奏音はこくりと、頷いた。俺はそれを確認すると、
「じゃあ、また初めましてからだね…俺の名前は、緒方 紅雪だ」
と自己紹介する。奏音は最初戸惑っていたが、俺を見つめると、自己紹介を始める。
「私の名前は、華村 奏音です。よろしくお願いします」
「ああ。これから、よろしくな」
その時、奏音の頬に、一滴の涙が流れた。
「あれ?おかしいな…涙なんて…」
それを拭いながら、奏音が言う。涙はいくら拭っても止まらない。やがて大粒の雨になって、地面に降り注ぐ。そんな奏音を、真夏は抱き締める。そして、まるで本当の親子のような、教えるような感じで、言った。
「奏音様。きっと、お体は覚えているのですよ。奏音様が、紅雪君を好きだったことを」
目をまん丸くさせ、真夏の言葉を聞き入る奏音。真夏は奏音から離れ、その手を握る。
「じゃあ、まずは紅茶を入れなおしですね」
「うん…」
そして、真夏は目でこちらに指示を出す。ついて来いということか。
「じゃあ、詳しい話は中で、ですね」
銀之助さんが先陣を切った。俺らもそれに続く。
 そして門が閉められ、俺は華村家の一員になった。

123 :
あれから、2週間が過ぎた。
 ようやくギブスも外せるようになり、体も自由に動かせるようになった。しかし、今でも生傷は絶えない。なぜなら…
「ほら。これでチェックメイトですよ?」
「ごふっ!」
容赦のない、銀之助さんの一撃が、体に刺さる。俺はそれで地面へと倒れ込んだ。怪我が完治すると同時に、俺は銀之助さんから稽古をつけてもらっていた。
見た目に寄らず、この人、めちゃくちゃ強かった。俺の攻撃が当たるのはまぐれレベルで、いつも手玉に取られ、こうして打ちのめされるのだった。
稽古の場所は、森のように生い茂る、華村家の庭だった。柔らかい芝生の上。
ここなら怪我もあまりしないだろうという配慮だ。
今俺は、その芝生の上でうつ伏せになり、参ったの状態だった。
なんとか体を動かし、仰向けになる。少しだけ、雲が広がる空。
ボロボロの体で見る空は、とても遠くに感じた。
「大丈夫ですか?」
「こーせつ!しっかりっ!」
真夏と奏音が俺に駆け寄る。横にいる銀之助さんは汗一つ掻かず、平然としている。俺の様子を注意深く見た後、
「今日はここまでです。私は、失礼しますね」
と、稽古の終了を言うと、足早に去っていく。スーツをびしっと決めた姿は、まさしく大人の男を感じさせた。俺はというと、女の子2人に介抱され、情けない姿を晒していた。銀之助さんは、そんな俺を見つつ微笑みながら、
「しかし。君はとても面白い人です。私の攻撃をここまで耐える人物は、そうはいませんからね」
と褒めてくれた。そして再度俺に近づき、
「ふむ。私も君に興味が湧きました。以後は、その生態、観察させてもらいますね」
とにこやかに宣言して、帰って行った。俺はその言葉の意味深さに震えながら、何とか自力で立ち上がる。
2人は先に広げたレジャーシートの上に戻り、2つあるバスケットの内、小さいほうの中身を出し始める。クラブサンドや玉子サンド、さらにたこさんウィンナーなど、可愛らしいお弁当が、目の前に広がった。
それを見ただけで、俺のお腹は素直に、ぐぅという悲鳴を上げる。
和やかな昼食タイムが始まった。
がつがつと、荒々しく食べる俺。
ちびちびと、リスのように食べる真夏。
そして、上品に、本当のお嬢様のように食べる奏音。
その姿も本当に可愛くて、抱きしめたくなった。
すると、こちらの視線を感じた奏音は、満面の笑みを浮かべる。
本当に、幸せだと言わんばかりに。

124 :
「ほっぺた。ついてるぞ」
俺に指摘され、慌てて頬を探る奏音。右頬に付いた卵を掬うと、ひょいぱくと食べてしまった。そして顔を赤くし、体をもじもじさせる。どうやら、すごく恥ずかしかったらしい。俺が頭を撫でてあげると、奏音はまたあの、幸せそうな顔に戻った。
 最後のサンドイッチを食べ終わる直前、奏音の動きが止まる。体を震わせ、恥ずかしそうに俯いた。それだけで俺と真夏は、何が起きたのかを感じ取った。
「おしっこ、出ちゃったのか?」
奏音は小さくこくりと、頷いた。真夏は大きいバスケットの中身を出し、準備に取り掛かる。大きいバスケットに入っていたのは、おむつ替えセットだ。
おむつ替え用のマットをレジャーシートの上に敷き、奏音をそこに座らせる。テープ式のおむつだから、座らせた方が、効率がいいのだ。
「は、恥ずかしいよぉ。真夏ぅ」
おむつ替えの時だけ、舌足らずになる奏音。真夏はあやす様な言い方で、
「じっとしてくだちゃいね〜」
とにこにこしながら言った。アリスドレスの裾をたくし上げ、奏音は潤んだオレンジの瞳で俺を見る。
恥ずかしさから顔をトマトのように真っ赤にしていた。俺は努めて真夏の手伝いをするため、横にいる。奏音から汚れたおむつが外された。
お尻の方まで黄色く染まり、ぐっしょりと濡れたおむつを真夏は手早く纏めた。その隙に俺が、真夏の秘所やお尻をウェットティッシュで丁寧に拭く。それが終わると真夏が、パウダーをまんべんなく塗すのだ。流石に2週間も経てばこの連携も板についていた。
新しいおむつの様子を確認する奏音。どうやら、大丈夫なようだ。新しいおむつが気持ちいいのか、上機嫌になっている。それを見た真夏は、
「じゃあ、これ、片づけておきますから、ごゆっくり…」
と妙な気を利かせ、去って行った。
俺と奏音。2人が庭に残った。

125 :
2人だけだとなんでかわからないが恥ずかしくなり、うまく会話ができなくなった。
それは奏音も同じで、いつもは人懐っこく話してくれる彼女も、俺と2人きりだとまごまごした話し方になってしまう。
「こーせつ」
奏音は俺の体をなぞる。そこには先程の稽古でできた傷が残っていた。
「痛い?」
純粋に、心配する声。俺は首を横に振り、否定する。
「大丈夫さ。俺は、強いからな」
そう。俺は、奏音のためなら、いくらでも強くなれる。
「ねぇこーせつ」
そんな俺を見ながら、奏音はまた話しかける。俺が振り向くと、彼女は少しだけ手をもじもじさせたが、俺を上目遣いで見つめ、言った。
「キスしよ」
びっくりして、一瞬、呼吸が止まった。
「えっ…ちょ…」
俺が動揺で言葉にならない声を出すと、奏音は人差し指を唇につけ、
「私、こーせつと、キス、したい」
と甘える。俺は顔を熱くさせてはいたが、覚悟を決めた。俺よりもずっと小さいこの子からのお誘いだ。断ることなんて、できはしない。
「じゃあ、目、瞑って」
奏音は従い、目を瞑り、唇を出す。
 その姿は、お伽噺に出るお姫様そのものだ。
俺は少しだけ目を泳がせたが、意を決して、その唇に、自分の唇を重ねる。
2秒間のキス。それが、世界が一周するくらい長く感じた。
「んっ…ぷはっ」
息が苦しくなり、2人同時に唇を離す。見つめ合う状態になると、急に恥ずかしさが込み上げてきた。すぐさまお互い目を逸らし、自身を落ち着かせる。
数十秒後、俺らは屋敷に戻ることを決め、レジャーシートを片づけた。それを奏音に持たせると、俺は彼女を、あの時のようにお姫様抱っこした。
「わひゃぁっ!」
驚きの声を上げる奏音。体の所々が軋むが、まぁ大丈夫だろう。ゆっくりとお屋敷に向かって歩き始める。
「…おかしいな。なんだか、すごく懐かしくて…温かい…」
俺の中で小さくなる奏音。俺は、真夏の受け売りを言った。
「それはきっと、体が覚えてるんだよ」
俺の言葉に驚いて、奏音は俺を見る。
「前にも、こんなこと…したの?」
俺は素直に、「そうだよ」と頷いた。奏音の顔が、暗いものに変わる。
「私また、忘れちゃったの…」
俺はそんな彼女に、言った。
「俺の手、握ってくれる?」
俺は彼女の体を抱いている手を動かす。彼女はそれに気付き、小さな手で、握ってくれた。
「温かいだろ?」
こくり。
「これから何回でも忘れても、この温もりだけは、忘れないでほしい。だから、体に、それを覚えさせるよ。そしたら、奏音も安心だろ?」
こくり。
「じゃあ、そんな顔するのは、止めてほしいな」
奏音はそれを聞いて、雲なんか吹き飛ばすぐらいの笑顔を、俺に向けてくれる。俺はそれを嬉しく思いつつ、同時に心にある決意を浮かばせていた。
それは、彼女の小さい手を握った時、思ったことだ。
こんなにも小さい手。けど、必に、皆を不安にさせまいと頑張る、小さな体。
それが愛おしくて堪らないから、俺は、この命に代えても、守ると決めたのだ。
絶対に、この手を離さず、どんな地獄からでも、救い出してやる。
それが、俺に与えられた、神様からの使命なのだから。

126 :
本から飛び出た私は、彼の話を読み終えると同時に、一息ついた。彼の話は一旦、これで終わる。しかし、本はまだ終わっていない。まだ1/3も、読み終えてはいないのだ。
「まだ、この物語は終わらない」
あなたにそれを確認する。あなたはきょとんとしていた。どうやら、まだ最後まで読んでいないようね。
じゃあ、生憎様。今しばらくは、休憩としましょうか。
栞を挟み、本を閉じる。ランプの明かりを消すと、本の森は闇に包まれた。私はそこに、微かな光だけをばらまき、本に囲まれ、一時の眠りに就く。
彼らの幸せを願い、私は夢の世界へと落ちて行った……
END

127 :
お疲れ様!
面白かったよ

128 :
>>121-122
あいだにこれが抜けてた
「な、なぜです!?」
声が荒立っているのが、すぐにわかった。銀之助さんはそんなプレシアではなく、俺のほうを見て、言った。
「誰かの隣にいるのに、資格がいるのですか?
誰かと共にいるのに、力がいるのですか?
私はそうは思いませんし、そう思うのなら、それを満たすために努力をすればいいではないですか。
それに…」
銀之助さんは穏やかな表情で、けどしっかりとした視線で俺を見ながら、先を言う。
「私は、あなたはその程度であきらめてしまうほど、弱くはないはずです。あのとき、あの不良どもに囲まれたあなたは、ずっと凛々しく、強く見えましたよ?ねぇ?真夏さん」
振られた真夏は、一瞬目を泳がせどぎまぎしていたが、ゆっくりとした口調で話し始める。
「私、私も、そんな…そんな紅雪君。見たくないです…私の知ってる紅雪君は、強くて、凛々しくて、我慢強くて、諦めも悪くて、優しくて…」
顔を赤くし、思い出すようにいろんな言葉出てくる真夏。やがてしっかりとした口調で、こう言った。
「私は、そんな紅雪君が、大好きです…大好きでした。でも…」
俺は、驚きで目を丸くする。真夏は恥ずかしそうに体をもじもじさせながら、言葉を紡ぎ続ける。
「でも、紅雪君は奏音様のことが、好きなんですよね…」
俺はいとも簡単に、自分の心を言い当てられた。プレシアは目も口も開いて、俺を見る。真夏は、俺の言葉を待っているようだ。俺は少しだけ戸惑ったが、
「ああ。俺はあいつのことが、奏音のことが、好きだ」
素直に、奏音が好きなことを、認めた。真夏は頷き、そして寂しそうに、言った。
「私、2人のこと応援します。だって、私、好きなんです。紅雪君のことも。奏音様のことも」
「………わかったわよ」
今まで黙っていたプレシアが、口を開いた。それにより、プレシアに3人の視線が集中した。プレシアはその迫力に一瞬体を引いたものの、強い視線で俺らを見返し、
「わかったと言ったのです。あなたたちのことも。その心も。だからもう、私は何も言いません。……いいでしょう。認めます。紅雪様の採用を」
真夏の顔が、快晴の空のように晴れ渡る。
「ただし!」
大声で、プレシアは俺に詰めよりながら言う。
「まず、お嬢様第一に考えてください。次に、泣き言や弱音は許しません。最後に命は捨てた物と思ってください。あなたはお嬢様の盾となり、鉾となるのですから……いいですね?」
最後の確認の言葉に、俺は同意した。プレシアはそれで下がり、さっきの場所に戻る。
「じゃあ、詳しいことを説明しますね」
真夏がそう口を開いた途端…
「真夏遅―い!紅茶冷めちゃったよー!」
門の向こう側から、少女の声がした。

129 :
乙ー
厨二臭さ半端ねぇ

130 :
長かった!おつ!おもしろかった!
しかし戦闘シーンが長くて少し蛇足感あったなー

131 :
一応乙
作品としては微妙、、、

132 :
GJ!
ファンタジーな世界観は苦手だけど、
こーいう不思議チックなのは好きだ。
何処か現世離れしたような炉チックなヒロインも好み。
ストーリーも楽しめた。
もっと“おむつ萌え”成分の増量を!

133 :
読んでないけど乙
これだけ長く書けるのは普通に凄いと思うわ

134 :
急に静かになったな。いつも通りと言えばいつも通りだが

135 :
最近は保管庫の昔の読んでる。
学園強制おむつモノとか沢山あるのな。
ほとんど未完ばかりなのが残念だが

136 :
学園ものか・・・久しく見てないな

137 :
なんか保管庫でおすすめある?

138 :
学園モノは設定が似るのと長編になりやすくモチベが続かないのがネック

139 :
>>138
確かに、おむつを着けなければならない設定の学園なり施設で
幾つかシーンを書くのは比較的たやすくても(それでも
実際は大変なんだろうけど)、それだけでスタートした
物語をきちんと完結させるのは大変だよね。
だから途中で自然消滅しちゃうんだろうな。
それだけに7枚目の7氏さん(メイド達の排泄管理)の
幕引きは見事だった。
2,4枚目のダイパーエンジェルも作者さんが
ストーリーとか考えられている感じがするので、
完結まで読んでみたかった。

140 :
少し前に出てたけど、今回の作者はヴィジュアル意識した書き方してるし、流れの絵師とかこないかなー

141 :
くだらねえ催促してんじゃねえよハゲ
お前が描け

142 :
新作こないかなー

143 :
またもや構想5分で書いてみた。一応続き&完結。
―――――
ユキカは今日も雪道を登校していた。
太ももを一段と冷えた空気が撫でる。
「ひゃー、今日も冷える〜」
今年は寒波すごくミニスカートでいるのがツライ。
それでも乙女の意地で睦月ユキカは今日もギリギリまでチャレンジしていた。
ただ、あの「事件」で強力な「武器」を手に入れた。
(……無いから仕方ないよね?)
周囲を見回してトイレが無いことを確認すると立ち止まり少し頬を朱に染めた。
(じょろ……じょろ……)
音は漏れていない筈だが、ついつい周囲に聞こえないか不安になり
カバンの取っ手をユキカはギュッと握りしめてしまう。
あまりほめられた行為でもないので恥ずかしさがまだ勝るからだ。
しかし、慣れとは怖いもので最初はなかなか出なかったものの今では寒いと無意識に出してしまいそうになる。
(あったか〜い……)
今回は量が少ないが学校までは持つだろう。
当然ながらおしっこは体の中にあるので温度も体温と同等で
それをおむつに染み込ませば即席のカイロになることをあの事件で発見していまったのだ。
(うん、よし。)
そしてスカートの裾を触りおむつが露呈していないか確認する。
量が多いとぽっこり膨らみ折角短くしたスカートを長くしないといけないからだ。
もちろん、周りにバレたら恥ずかしい思いをするというのもある。
「おはよー、今日も寒いね〜」
その直後、クラスメイトがやってきて他愛もない雑談に興じる。
「寒くてスカートを長くしたいわ〜、ユキカは寒くない?」
「うん、まぁ……」
『実はおむつをしているんだ』と言いたい気持ちがぎゅっと堪え学校へと到着する。
テレビのニュースではしばらく寒い時期が続くようでユキカもおむつとしばらくお世話になりそうである。
(完)

144 :
超乙!短い時間とは思えぬクオリティですな!

145 :
んっんー、実に良いッ

146 :
投下キテタ━━(Д゚(○=(゚∀゚)=○)Д゚)━━!!!!

147 :
焦らしタイム

148 :
支援保守

149 :
 今日のみさき保育園も、こどもたちの元気な声でいっぱいです。
 ちっちゃな背丈のおともだちが、園のお庭やお部屋を走り回っています。
「たっち! つぎはあーちゃんがおにねー!」
「みゆはねえ、おかあさんやるからね、なおちゃんがおとうさんね!」
 そんな中、楽しそうなはしゃぎ声をかき分けて、ひときわ大きな声が響きました。
「せんせー! かなちゃんがまたおもらししてるー!」
 遊びに夢中だった園児の視線が、声の上がった方に向かって1点に集まります。
 2才や3才の園児たちが輪になって囲んだその真ん中には。
「言わないでって言ったのに……やだよ、先生に言っちゃ、やだぁ……」
 みんなと同じ園児服を着ているのに、おっきな背丈がひときわ目立つ女の子。
 真っ赤なお顔で泣きべそをかいた、『かよちゃん』が、そこにいました。
「もう、ちっちでたらちゃんとおしえてくれないとだめなんだよ?」
「またおまるにしーできなかったんだ? あはは、やっぱりかよはあかちゃんだよねー」
 口々に浴びせられたのは、どれも世話の焼ける妹の面倒を見るような、『おにいちゃん』や『おねえちゃん』気取りの言葉ばかり。
 そんなもの、『幼児のごっこあそび』だと思えば、気にも留めずに済んだはずでした。
 けれど。
「やめてよう……できるもんっ、かよ、ひとりでできるってばあ……!」
 かよちゃんは、目に涙を溜めながら、ふるふると弱々しく首をふるばかりです。
 自分の腰ほどしかない背丈の園児たちは、遠慮なくかなちゃんに触れてきます。
「ほら、おもらしサインがでてるじゃん! もらしてないって、うそついたらおしりぺんぺんだよー!」
「あーあ、いつまでたってもかよってちーがいえないよなー。おれのいもうとだってちゃんとおしえてくれるぜー?」
「だって……えぐっ、ぐずっ、こ、こんなの……おかしいよ、ひっく、えう、うえええん……」
 心配する子も、いじわるする子も、みんなかよちゃんの背丈や歳にえんりょなんかしません。
 それもそのはず。みんな、自分たちがかよちゃんより『おにいちゃん』や『おねえちゃん』だって知っているからです。
 りんごみたいにほっぺを赤くして、下を向いてもじもじしていたかよちゃんも、スカートのすそをぎゅっと握って泣き出してしまいました。
 でも、そんな泣き虫さんにも、みさき保育園の園児のみんなはお構いなしです。
「またすぐなくし。そんなんだからおもらしなおんないだぜっ、ほらっ!」
 そんな男の子の一人が、かよちゃんのスカートに手を伸ばしました。
「ひゃうっ!」
 その瞬く間の速さに、かよちゃんも驚いて、後ろにこてんと尻餅をつきました。
 ふわり、とはためいたスカートもお腹の上までめくり上げられ、隠れていた下着もみんなの前に出てきてしまいます。
 腰まで覆ったふわふわの生地に、かわいいうさぎさんの絵が踊る下着は、細い両脚の間だけがぷっくりとふくれ、黄色く染まっていました。
 それは――おもらしに濡れた、赤ちゃん用の紙おむつでした。
「えう……やだ、見ちゃ、やだあぁ……かよのおむつ、見ちゃやだああぁ……! うあああああんっ!」
 そう、大粒の涙をぽろぽろとこぼすかよちゃんは、みさき保育園の中でただ一人の『おむつの卒業できない園児』なのです。
 おもらしが治るまで――そう決められた卒園のゴールを、かよちゃんは17才になってもまだ乗り越えることが出来ずにいました。

150 :
「はいはい、みんなちょっとどいてー。かよちゃんのおむつ替えするからねえ」
 園児の波をかき分けて、かよちゃんの元に来たのはエプロン姿のお姉さん先生、すぎうら先生です。
 『ちいさなおともだち』も『おおきなおともだち』にも、ずるっこせずにかわいがってくれる先生は、園の人気者です。
 手には換えの新しい紙おむつ――こんどはネコさんの絵がついた、ピンク色の女の子らしい紙おむつです。
「じ、じぶんで、できるもん……せんせぇ、かよね、じぶんでおむつするからぁ……」
「はいはい、気にしなくて大丈夫だよ。かよちゃんはまだ、しーしーの言えない『あかちゃん』なんだから」
「あ、あかちゃんじゃないもんっ! かよ、ちがうもんっ!」
「はいはい、おねえちゃんだよね。おねえちゃんはわがままいわないんだよー」
 かよちゃんも、いっしょうけんめい先生におねがいするのですが、おむつ替えの時のせんせいは、かよちゃんのわがままもしらんぷりです。
 泣き虫かよちゃんの手を引いて、教室の隅に敷いた『おむつ替えマット』の所へ、うむを言わさず連れてきてしまいました。
「ほら、ごろんってしようねー。おもらしおむつで気持ち悪かったでしょ? きれいきれいにしてまた遊ぼうねえ」
「やだ……おむつ、やだぁ……あかちゃんになっちゃうもん……かよ、あかちゃんやだぁ……!」
「そんなこと言って、おむつ替えたらにこにこさんになっちゃうくせに」
 床にごろんと寝かされたかよちゃんに見えるように、先生は紙おむつを広げてみせました。
 赤ちゃんみたいに扱われる情けなさに泣きべそをかいていたかよちゃんの顔に、これからおむつをあてられる恥ずかしさの熱が宿ります。
 心密かに大人になりたいと願うのに、新しいおむつをあてられる度に自分がどんどん赤ちゃんになっていく気がしてしまうのです。
 だから、精一杯「やだ」を伝えようとするのですが――。
「もう、かよちゃんのやだやださんは治らないねえ。これじゃいつになったらぱんつのおねえちゃんになるかわからないかなぁ」
「や、そんなの、やぁ……ぱんつがいい、おねえちゃんぱんつがいいのっ!」
「うんうん、おねえちゃんぱんつはしーしーが言えるようになったらね」
 すぎうらせんせいはいつまでもかよちゃんを赤ちゃんあつかいしてきました。
 せめてもの抵抗に、かよちゃんもきゅっと足を閉じて紙おむつが外されるのを邪魔しようとします。
 だけど、そんな努力も先生の前では敵いません。

151 :
「あら、かよちゃん、そんなにおもらしおむつのまんまがいいんだ?」
「そ、そんなわけないっ! わ、わたしは、じゅうななさいの、おねえちゃんだもんっ!」
 自分を『おねえちゃん』だと呼ぶかよちゃんの言葉も、悲しいことにみさき保育園では通用しません。
 みんな、ゆびをさしてかよちゃんを笑うのです。
「またかよちゃんがおねえちゃんだって! おむつのおねえちゃんなんていないのにねー」
「じぶんでといれにいってからいえよー、おもらしかよちゃんっ」
 そうして、笑い声に包まれたかよちゃんは、もっとぐずってしまいます。
「おねえちゃん、だもん……じゅうななさい、だもんっ……」
「うんうん、だからトイトレもがんばろうねえ。きっとかよちゃんならかわいいおねえちゃんになれるよ」
 先生は泣き虫なかよちゃんをなぐさめながら、手際よくおむつを開いていきました。
 中は黄色いおもらしの海、たぷたぷと吸収しきれなかったおしっこであふれています。
「もう、量だけはおねえちゃんなんだけどなー。おしっこのがまんは、まだまだちっちゃい子のまんまかな」
「せんせい、言わないでよおぉ……」
 真っ赤なお顔を両手でかくして、恥ずかしいおむつ替えから目を背けたかよちゃんを、周りを囲む園児たちが見守ります。
「わー、しーしーいっぱいでたねぇ。えらいえらい」
「こんなにおもらしするんだから、やっぱりかよはおむつじゃなきゃだめだよねー」
 いくら目を閉じても、声は次々に降ってきますから、かよちゃんの顔も耳まで真っ赤になってしまいます。
「もう、やだぁ……ひ、ひぐっ……うえええん……!」
「ほらほら泣かない泣かない、新しいおむつしたら、またみんなと遊ぼうねえ」
 濡れたおむつをお尻の下から引き出され、新しいおむつが代わりにかよちゃんにあてられていきます。
 テープ止めでぴったりとフィットした紙おむつは、スカートを下ろせばすっかりかくれてしまいました。
「はい、おしまいっ。じゃあ、もう遊んできていいよ」
 せんせいは寝転がったかよちゃんを床に立たせ、おしりをぽんと叩いて送り出します。
 柔らかい感触と、ぽふんと鳴った鈍い音が、かよちゃんがおむつをしている証拠なのです。
「あたらしいおむつしてよかったね、かよちゃん!」
「……あ、あうぅっ」
 ちっちゃな女の子にそう言われても、かよちゃんは何も言い返すことができません。
 ただ、おむつの恥ずかしさに、立ちすくむしかありませんでした。

152 :
保守がてらお目汚し失礼しました
引き続き職人様の投下お待ちしてます

153 :
投下キタ━━(Д゚(○=(゚∀゚)=○)Д゚)━━!!

154 :
乙!温まって参りました!

155 :
投下キテタァーほのぼの系で萌え
もっと書いてくれー

156 :
今日の空は、どこまでも見渡せそうなぐらいに、くっきりと透き通っている。
学校帰りの電車の窓から外を眺め、僕――能登和希は確信した。
下のほうへ目を向けると、窓の外に広がる畑は、真っ白に染め上げられた一面の銀世界だ。
すっかりと冬化粧した街は、遠くから来るスキーなどのレジャー客のおかげか、いつもと違った賑わいを見せていた。
「……これを見るのもあと少しか」
数人しか乗っていない閑散とした車内で、誰にも聞かれないように呟いた。
その言葉は静かに電車内の温かい空気に溶け、飴玉のように跡形もなくなる。
確認するようにちらと隣を見ると、歓談している友人たちは、入試についての情報を交換していた。
世間は入試シーズン。友人からも感じるピリピリとしたムードに、少しだけ気後れしてしまう。
推薦で進む学校が決まって以来、この手の話は蚊帳の外だ。友達も僕の立場が分かっているのか、無理に話を振ることはなかった。
一人いたたまれなくなって、もう一度景色を眺める。
こうやっていられるのも、いつまでだろうか。
いつもと同じ――そう思っていられるのも。
「なあ、カズ。お前、彼女どうすんだよ」
「や、その、まだ……」
いつの間にか情報収集が終わっていたようで、外を見ていた僕のことを察してか、僕についての話題となった。僕は突然の振りに戸惑い、うまく言葉が出せない。
友人は「彼女」のことを、僕の彼女だと思ってくれているらしい。いや、それはそれで嬉しいけど、「彼女」はちょっと違うような気がする。
なんだろう、気が置けない相手と言うか、幼馴染と言うか、なんとも表しづらい存在だった。
「まだ…ってもしかして伝えてないのか?お前が県を出るの」
「マジで!?お前それ拙くね?だってお前の彼女、年下っしょ?」
友人たちの言葉にしどろもどろになりながら、心の奥底で今決めたことを確認するように刻んだ。
――今日、「彼女」にこのことを話そう……と

157 :
夜になると、光源が減って空が星で賑やかになる。
澄んだ空気のおかげか、今日は細かい星々までくっきり見え、絶好の観測日和だ。
自宅の二階からこっそり抜け出して、屋根伝いにわたって裏の梯子を降りる。
雪降ろしのために冬の間は大体、屋根まで梯子が掛けてあるのは、家族全員の周知の事実だ。
そして、僕がこっそりと抜け出してすぐそばの山にある神社で天体観測をしていることは、僕と弟の大人(たいと)、そして妹の柚理(ゆり)だけの秘密だった。
「ふぅ……親にばれたら大目玉だもんなぁ……寒っ」
雪で滑らないように気をつけながら神社へと向かう。
振り返って家を確認してみると、誰もいない一階は真っ暗で、三つ並んだそれぞれの子供部屋は、真ん中の一つ――大人の部屋だけ明かりが点っていた。
――柚理はもう、寝てしまったのか。
僕の部屋とは正反対にある子供部屋。そこにいるはずの妹のことを思う。
体が弱くて家にいることの多い柚理の面倒は、僕と大人、そして小さい頃は祖父母で看ていた。
両親とも学者で家にいないことが多かったから、何かあったら祖父母、そして祖父母がいないときは僕が責任を以て面倒を看ていたのだ。
しかし去年に祖父が、そしてこの前祖母が亡くなってしまった。
葬式も終えて四十九日は一昨日のことだ。
両親とも流石に放っておけないのか、お互いが交互に家にいて、柚理の面倒を看てくれている。だが二人とも忙しいから、肝心な時は僕任せになっていた。
だからこそ早めに推薦で学校を決めて、僕が学校に行かなくてもいいような状況にしたのだ。そしてこの冬を最後に、僕と柚理は新天地へと旅立つことになる。

158 :
連載始まったか?支援

159 :
「……久しぶりだし、いるかな?」
歩いて二十分ほどの先にある山に、その神社はあった。
この周辺の土地神様を祀る神社で、名前は豊郷神社。
本殿があるのは山頂で、中腹に拝殿があり、そこまで急な階段が参道として続いている。
参道は木によって常に日陰になるせいか、雪が凍りついており、いささか危ない感じだ
地元に親しまれているおかげか、僕以外の参拝客はそれなりにいるようで、いくつかの足跡が階段に刻まれている。
けど今は誰もいないことを表すかのように、しんとした音一つない静寂が辺りを支配していた。
「二十二時四十五分…いい時間帯だな」
コートのポケットに手を突っ込み、冷たい金属のものを探り当て、目の前に持ってきて開く。
さんが僕にくれた分厚い懐中時計。
銀色に輝くそれはかなり値のするものらしく、十年に一回のメンテナンスだけで、遅れることなどほとんどなかった。
信頼できる、天体観測をするときの必需品。
そして僕と「彼女」を引き合わせてくれた、魔法のアイテム。
ざくっざくっという雪の軋む音をBGMに階段を上り切ると、そこは開けた境内の入口だ。
月明かりに照らされてぽわっとした雰囲気の幻想的な境内の中、拝殿のお賽銭箱の後ろに体育座りで蹲る少女がいる。
眠っているのだろうか。
泣いているのだろうか。
遠くからは窺えないがその子は僕の知っている子で、ゆっくりと近づきながら彼女の姿を確認する。
髪の毛はこの白銀の世界に映えるような漆黒。長さは腰を超えお尻に届くほどまであり、俯いていると黒いボールのように見えるほどだった。
さらりとした質感で、背中を撫でるように覆っている。
「待った?」
僕の声に、少女は顔を上げた。
驚いているような、嬉しそうな、それでいて怒っているような、そんな雰囲気を漂わせて僕のことを見つめている。
紅の大きな双眸。
ぱちりとした濃いその色は、鬼灯の色に似ていた。その瞳が眦を落とし柔らかく微笑む。
ふっくらとした肌の白さが、雪の白さに同化してしまうのではと見紛うほどだ。
幼い顔立ちだがそれは美しいと形容でき、そして可愛いとも言いかえることができるものだった。
「うん。最近、ご無沙汰だったから」
素直な応答は、「彼女」のいつもの調子だ。僕が微笑みかけると、寒いせいか朱に染まった「彼女」の頬がより一段と紅に染まる。
なんだろう、変な笑いだったのかな。
そんな不安を覚えて戸惑う僕の横に、「彼女」はふわりと賽銭箱を飛び超え、軽やかな調子で着地した。
ぎしっと言う雪を踏みしめる音が響く。
少しばかりバランスを崩す「彼女」を支えながら、その華奢さを改めて感じる。
身長は僕より二周りぐらい小さい。厚手のコートに身を包み、その姿はまるで小動物のようだ。
「危ないよ。そんなことしたら」
「いいの。だってかずきが受け止めてくれるって思ったから」
心をくすぐるような小悪魔的な言い方。それだけで僕は彼女のことを怒ることもできなくなっていた。
小さくて細い指を僕の手に絡ませて、二人で街を見下ろせる高台へと向かう。
こんな日々も、あともう少し。
そう思うと、なんだか切なくて。
高台へと向かう途中、噛みしめるように僕は「彼女」のことを、昔のことを思い返していた。

160 :
彼女との出会いは、数年前に遡る。
当時の僕は両親に甘えたいという心の弱さと、家族のみんなを守るのは僕なんだという使命感に板挟みになり、疲弊していた――と思う。
無理をしてでも手伝いをし、自分の遊ぶ時間を惜しんで生きてきていた。
勿論、友達もいなかった。
誰もが僕を避けていたように感じていた。
だからか余計に焦って、お手伝いに没頭していたんだろう。
そんな僕の唯一の息抜きが、天体観測だった。
両親が学者だったせいか、誕生日プレゼントはあの時計を除いて、みんな学問に関連するものばかりだった。
天体観測用の望遠鏡も、その一つだった。
僕はそれに熱中した。家を離れることがあまりできなかった僕にとって、家で見ることのできる天体観測は、最高の娯楽となった。
そして子供特有の好奇心と、後先考えない思考が先走った。
こっそりと家を抜け出して、普段から目をつけていたこの神社まで重い観測用具を持ってやって来たのだ。
それも何日かかけて、拝殿の中に観測用具を隠しながら。
きっと僕は、飢えていたんだと思う。
誰とも遊べない現実に晒されて、怒られることを承知で、いけないことをするというスリルと、好奇心に。
何よりこの星たちが、あの時の僕の唯一の友達だったから。
その友達と近くにいたい――そう思ったんだと思う。
いよいよ高台での、初めての観測決行日。
その日は皆既月食と言うこともあって、日本中が騒いでいた。僕も浮かれていて、大事な時計を持ってここで観測を始めた。
まだかなと逸る気持ちを抑えようとして、あの懐中時計を見たときだった。
「彼女」が、僕の前に現れたのは。
――珍しい、時計だね。
――……え、誰?
――ああっ、ごめんね。私の名前は……

161 :
「もう、準備できてるよ」
「彼女」の言葉によって、僕は現実へと引き戻される。
高台の一番先っぽ。そこにはもう、天体観測の一式が用意してあった。
あの日以来ここの拝殿の中は、僕と「彼女」の秘密基地となっていた。
そこに観測機器一式を隠してあり、僕が来る前に「彼女」がセットするのが「決まり」――それが日常だった。
「うん。……いつもありがと」
「どうしたの?改まっちゃって。へんなかずき」
僕の言葉に「彼女」は軽やかに微笑んで、はにかむように返した。その微笑みは天使のようで、僕の心に強く突き刺さる。
「かずき。見てっ」
「彼女」は興奮した様子で望遠鏡をのぞいていた。今日は久しぶりの皆既月食の日。
もう始まりかけているのか、ぼんやりとした月は少しばかり欠けていた。
「うん。なんか、こうやってまじまじ見るのも久しぶりだ」
僕も「彼女」に呼ばれるがまま、望遠鏡を覗く。肉眼で見るよりも鮮明になった月が、欠けている様子をまじまじと観測する。
――ああ、懐かしいな。あの時も、こうやって二人で見たんだな。
あの時は僕がすごく興奮していて、「彼女」はそんな僕のことを優しく見つめていた。
今とは全く逆の構図だ。
そしてもうこの構図は、二度と来なくなるかもしれない。
そのことをこれから「彼女」にどうやって伝えようか。
一度望遠鏡から目を離し、隣にいる「彼女」を確認する。
彼女は寒そうに体を震わせ、僕に寄り添ってくる。ちょっとだけ恥ずかしそうに頬を染めながら、「彼女」は頭を僕に預け、上目遣いで見つめる。
心臓が、ドキリと高鳴った。
可愛いな、もう。
仕草も、表情も。雰囲気も。何もかも。
愛おしむように「彼女」のことを見つめる僕と、僕のことを見る彼女の視線が重なった
にらめっこみたいな構図。
数秒の沈黙。
「ぷぅ」
「ぷっ、ハハハハッ…」
お互いが笑いだすのは同時だった。腹を抱えて笑う僕と、恥ずかしそうに、でも隠さないで笑う「彼女」。
しかし、その「彼女」の動きが、ピタッと制止した。
両の手を股にあて、押さえつけるように体を屈ませる。
顔が耳まで真っ赤に染まり、小柄な体が小刻みに震えていた。
顔を紅くしながら力む姿は、本当の幼子のようだ。
微かに聞こえる水音は、「彼女」から発しているようだった。
それなのに、どこにも水痕は存在しない。
震えが収まり大きく白い息を吐くと、「彼女」は無言で僕の服の袖をギュッと握った。
まるで幼い子供が離れることが怖くて親にすがるように、その華奢な腕から想像できないほど強く握り、顔を俯かせている。
それは恥ずかしさからきているのだと、僕は知っていた。
「じゃ、一回下に行こうか」
拝殿の方へと歩くとさっきまでの快活さが嘘のようで、借りてきた猫のように大人しく、僕の後ろについてくる。
ぎしっぎしっという雪の音に混じり、何かが掠れるようなかさかさといた音が耳に届いた。

162 :
支援?

163 :
拝殿横には使われなくなった社務所がある。
使われなくなったと言っても定期的に整備されていて、畳はまだ青みが残る新品だった。
そこの奥、押し入れの中にある布団を取り出し、さらに吸水マットレスやタオルなどを取り出す。
全てここの神社が持っているもので、同時に「彼女」の所有物だ。
月に数回ほどここで賽銭泥棒などを監視するために宮司さんが泊まるらしい。
火も電気も通っていて、僕はすぐさま暖房と給湯器に火を入れて、お湯を洗面台の中に汲んだ。
「かずき……あの……」
「彼女」は自分の居場所なのに、所在なさげに立ち尽くしていた。
コートは脱いであり傍に置かれている。
ブラウン地の厚手のセーターと、リボンがついたオレンジのプリーツスカート。
黒いニーハイソックスを穿いた姿は、どこにでもいそうな美少女の姿。
しかし、「彼女」の秘密はその奥の、花園の先にある。
「用意できたよ。――おいで」
僕に言われるがまま、「彼女」は布団とマットレスが敷かれた場所の上に、腰を下ろして寝転がる。
汚れないようにスカートを外すと、「彼女」はそこで観念したのか、両の腕を体の横においた。
その仕草はこれからやろうとする事にぴったりで、僕は内心で笑みを浮かべてしまった。
「あぅ……あんまりみないで」
「大丈夫、すごく、可愛いよ」
必な懇願は当然だった。「彼女」の体、大事なところを覆うそれは、彼女の歳とは不釣り合いのものだったからだ。
ぷっくりと膨らんだフォルムは、言いようには可愛く、そして不恰好にも見える。
その中心は黄色く染められ、その膨らみをさらに増させていた。
白地に描かれたイラストは、どことなく幼稚なもの。
それもそのはず。これは本当だったら、もっと幼い――幼児が履いているに相応しいものだったから。
それは一般的に市販されている、紙おむつと呼ばれているものだった。

164 :
「彼女」がどうして紙おむつを穿いているのか。それは、「彼女」の正体にも通じている。
「彼女」の名前は天豊郷女命。つまりここに祀られている神様が、「彼女」だった
そして「彼女」の体は、柚理の身体と「共存」している。正確に言うと「共存在」らしい。
「彼女」が言うには神様というのは本来、曖昧な存在らしい。
単体ではこちら側にいることすらままならないとか。
だからかこちら側に働きかけるときに、「巫女」と呼ばれる存在を仲介するのが一般的……なんだそうな。
「彼女」もまたそうで、「巫女」の体を一時的に借りて、今までこちら側にやってきていたらしい。
そして数年に一回の祭のとき、「彼女」の「巫女」として柚理が選ばれた。
ちょうどそれは、僕が「彼女」と出会う数日前のことだったと思う。
その時、「彼女」と柚理は波長が近かったからか、お互いを意識してしまったそうだ。
それが、いけなかったそうだ。
普段なら体を借りるだけだったのに、柚理の存在があったせいで、「彼女」は別のものとして、この世界に「誕生」した。
それも妹に共鳴してその生命力を分かち合う、いわば僕のもう一人の「妹」となって。

165 :
「だから『さとみ』は、おむつなんだよね」
僕の言葉に、「彼女」――さとみは顔を赤くした。妹が病弱なのは、さとみと命を共有しているから。
そしてさとみもまた、命の共有により柚理の影響が出ている。そう、柚理もおむつの世話になっているのだ。
「や、恥ずかしいこと、言わないでよ……」
尻すぼみに勢いを無くし、声は冷たい空気の中で霧散した。
マジックテープの乾いた音が響く。
テンポの良い音に合わせて、さとみの白い肌が全体的に紅に変化する。
それを見ただけで慣れている作業のはずなのに、体の硬直と緊張の度合いが増した気がした。
心臓がバクついている。今にもこの胸から飛び出しそうなくらい、激しく動き回っている。
「前、開くよ…」
「うん」
短い確認を言うにも、声が震えてしまいそうだった。
ゆっくりと前あてを開く。
おしっこを出したばっかりのおむつは、ほんのりと湯気を出していた。
甘酸っぱい匂いが、冷めた空気に色を付ける。
おむつの内側は黄色く染まっているものの、外に漏れ出ているという様子はない。
普段はさらさらとしたポリマーが、今は吸い込んで膨らんでいる。
その上にある幼いままの秘所は、僕にとっては見慣れたものだ。
まだ湿り気を残している割れ目は、黄桃のように瑞々しく見えた。
そこから醸し出す色気に、頭がクラクラになりそうになる。頭が熱っぽく感じる。
――風邪でも引いたかな?
「あ、あんまり、じっと、見ないでよ……」
彼女の言葉にはっとして、僕は邪念を吹き飛ばしながらおむつを交換することに集中する。
汚れたおむつを取り去り、秘所周りを拭く。
妹相手にも、そしてさとみ相手にも慣れたものだ。
そう思って温タオルが彼女に触れた瞬間、彼女の微かな声が耳に届く。
「あひゅ……」
その声に合わせて、彼女の体が強張った。
艶やかな声に、また頭が揺さぶられた。
――可愛い。それでいて、なんかこう……いや、集中集中!
できることなら頭を振って、邪念を振り払いたい気分だ。
何とか理性で抑え込んで、タオルが触れるときに一声かけるべきだったと後悔しながら、彼女の身体を念入りに拭いていく。
つるんとした割れ目も。その上の毛が生えてもいない丘も。弾力のあるお尻も。何もかも。
弾けるような肌は、肉付きがよくない割に柔らかい。
ずっと触っていたいと思えるほど、触り心地のいいものだった。
――かぶれたりしないと、いいけどな。
本来ならこの後かぶれ防止のためにパウダーを塗したりするのだが、そんな上等なものはここにはなかった。

166 :
3度支援?

167 :
「……んっ、くぅん――」
突然の喘ぎ声で動きを止める。
秘所周りを入念に拭いていたが、なんかさとみの様子が変だ。
体を固くし、ぎゅっとおまたを閉じようとしている感じ。
注意深く見てみると、秘所の一部分、割れ目の奥にある、おしっこが出る所がひくついているのが分かった。
「もしかして、まだ出そう?」
彼女に聞くと、ビクッと体を震わせたが、首は縦に動いていた。
「いいよ、出しちゃっても」
僕はすかさず、新しいおむつを彼女の下に敷いた。
彼女はお尻の下に敷かれたおむつの感触に身を震わせたが、今度は首を横に振って、緊張したように震えた。
「で、でも……できない、よぉ……」
「我慢するのも体に悪いし、出せるときには出しちゃった方がいいよ。
それにずっと、僕はさとみのおもらしも、おしっこも、見てきてるんだよ?
今更言ったってしょうがないよ。それに……僕は見たいな。さとみがおしっこする所」
「なっ……ばか、えっち」
逡巡するさとみに少しばかり意地悪で、卑猥なことを返してみる。
するとさとみはそっぽを向き、不満そうに口を尖らせた。
ちょっとばっかしデリカシーに欠けたかなと不安になるが、彼女は今一度首を縦に振り、柔らかく微笑んだ。
「……うん。じゃ、おしっこ、出すね…」
さとみの体が震える。緊張を解いているのか、全体的に見て脱力している感じだ。おしっこの穴がひくひくと動いた。
今にも出そうで、なかなか出ない。
そんなもどかしさを感じながら、その一部始終を追っていた。
「あぅ……あと、ちょっとなのに……う、まく、いかない……の」
さとみはなかなか出ないことに焦りながら、緊張と弛緩を繰り返す。それでも、肝心のものはなかなか出てこない。
うまくいかなくて戸惑っているのか、顔は少しばかり苦悶していた。
「手伝ってあげる」
「ふぇ……?ひゃっぁ!?」
見かねた僕が彼女の割れ目の周りを優しく、念入りに撫でた。
吸い付くような触り心地に、自然と胸が高鳴る。
彼女は上ずった声を上げ、反射的に仰け反った。
「やぁ……かずき、そこ、らめ……」
「ここがいいの?こう?」
「や、やめてよぉ……あたま、変になる……」
「でそう?」
「バカ……そんなんじゃ、あっ」
その時、ぷしゃと、割れ目から最初の一搾りが飛び出した。
それはおむつに飛び散って微かな染みを描き、白を黄色へと変えた。
「あ、ああっ、出ちゃうよ!おしっこ、きちゃうのっ!」
一度開いた門は、もう閉まらなかった。勢いのあるおしっこが、放物線を描きながらおむつに注がれる。
弾け飛んだ飛沫は外のマットに染みを作り、おむつは見る見るうちに鮮やかな黄色に染まっていった。
「出てるっ、熱いの、いっぱいぃ…」
瞳を閉じながらも、口で実況を止めない彼女の言葉に乗るように、おしっこはなかなか勢いが収まらなかった。
「かずき、かずきっ、見てるの?あたしの、その、全部、見てるのっ?」
変に興奮した言い方で、さとみは問いかける。僕もその姿に小さな興奮を覚えながら、優しい声色で返した。
「ああ、見てるよ。だから、全部出しちゃっていいよ」
「うんっ。かずきっ、あたし、全部、ぜーんぶだしちゃうよっ……!」
「いいよ。ほら、さとみ……見てあげるから、全部、見てるからね」
さとみのおもらしは、そのあと三十秒ほど続いた。
最後はおむつに一つの線を作り、おしっこは湯気を残しながらすべておむつへと吸収されていく。
出したばかりのおしっこの新しい香りが、部屋中に広がった。
それをいっぱい吸い込んで、さとみの全てを味わっていく。
もう後悔はないように。
さとみの全てを、心に刻み込む。
肩で大きく息を吐いて、彼女はこちらを見た。
その表情は安堵したような、満足したような、そんな表情だ。
「お疲れ、よくがんばったね。――ありがとう」
「うん、あたし、がんばった。――ありがとうだなんて、へんなかずき」
お互いクスクスと笑いあいながら、汚れたおむつをどけて、もう一度タオルで彼女の秘所を拭き始める。
その中に、おしっことは違う色の染みを見つけて、僕はちょっとだけ顔を赤くした。

168 :
新しいおむつを穿かせて、もう一度高台へと向かう。
月明かりは一気になくなり、薄暗闇だけが辺りを支配していた。妙に怖くなってしまい、お互いが寄り添うようにして上へと向かう。
「あのね、かずき」
さとみの声が、下の方から聞こえる。
「何?」
「あたし、知ってるよ?かずきがもう、ここに来れなくなるって」
「――――」
「だってあたしは、あたしたちは、繋がっているから」
それは、一緒に行く柚理のことだろう。
「だからね、知ってるの。知ってるんだ。もう、会えなくなるって」
「……そんなこと」
ない、とは言えなかった。ギュッと握る彼女の手が、とても強くて、儚かったから。
「――大丈夫だよ、あたしは。かずきの方が、心配」
「僕も、大丈夫さ」
彼女の声に、涙が混じる。僕も同じように、強がった。
「なら、あたしと今日で、お別れ?」
「うん。……そういうことになると思う」
彼女の悪戯な質問に、僕はまるで他人事のように言った。
数秒の沈黙。
重い空気が、二人を包む。
彼女の様子を窺う勇気は、僕にはなかった。
「時計、見せて、かずきとあたしの、時計」
無邪気な声に促され、僕はポケットの中の時計を取り出した。彼女に見やすいように掌に広げて開く。文字盤は、もうすぐで零時を指すところだった。
「ありがと、かずき。――本当に、ありがとう。……バイバイ」
後ろにいたはずの彼女の気配が、忽然と消える。
「……!?さとみ?どこにいったの?さとみ!?」
慌てて振り返るも、そこにはもう、誰もいなかった。温もりも消え、寒い世界の中に、僕だけが取り残される。
かちり。
文字盤は、零時ちょうどを、指していた。

169 :
度々支援

170 :
雪はまだ残っているが、うららかな陽気は春の到来を予感させる。
風も冷たいものから暖かいものへと、だんだんと変わりつつあった。
卒業式を終えた僕と、終業式を終えて転校手続きを済ませた柚理は、電車の中で向かい合って腰かけていた。
重たい荷物は先に送り、僕らは電車でそれを追い掛ける手はずになっている。
「柚理ちゃん、私のこと忘れないでねっ」
「向こうについてもお手紙よろしくね、柚理」
対岸に座る柚理は寄せ書きに書かれた文字を呟きながら、優しい笑みを浮かべている。
僕はこの前友人と合格祈念パーティをして、別れをしたばっかりだ。見送りはいなくても、その気持ちは確かに心に届いている。
「さとみ……」
遠くの、雪の残る山を見ながら僕は呟く。あの山の中腹辺りに、豊郷神社がある。
あの日以来、さとみには会っていない。神社に行っても、さとみと出会うようなことはなかった。
秘密基地にしていた拝殿の中にも誰もいない。
社務所の中にも誰もいない。
誰も、誰も、誰も――
その事実に寂しさを覚えて、色んな道具を回収して、すべて新しい住まいへと送った。
もうあの神社に僕と彼女が一緒にいた証拠となるものは、残っていなかった。
「おにぃちゃん?」
乳白色の肌をした妹が、心配して話しかけてくる。
最近は体調もいいようで、学校に行く回数も増えていた。
そのことが、さとみが消えたことに関係するのかは、僕にはわからない。
「あのね、おにぃちゃん。私ね……」
何か言いにくそうに、柚理がまごつく。僕はその少女っぽい、可愛らしい仕草を見つめながら、やんわりと微笑んだ。妹の顔が、ひゅんと赤くなる。
「隣、空いてる?」
通路側からの声に、僕は無意識のうちに頷き、ハッとした。
声の主は僕の横に腰かけると、すっと僕の腕に自分の腕を絡ました。
さらりと揺れる黒髪が視界に入り込み、端の方で喜んだ柚理の顔が映る。
しかし、視界のほとんどは、彼女の顔に注がれている。
僕の知っているその顔は、悪戯そうに微笑むと柔らかい唇で、僕の名を呼んだ。
「かずき、ただいま」
「さとみ、どうして……」
目の前にいる少女は、僕が愛していた、あの神様だった。
「わ、私が、頼んだのっ」
横から、もじもじと動く柚理が割り込む。僕とさとみの視点が彼女へと集まり、ビクッと小動物のように震えた。
怯えたように瞳を震わすが、こくんと頷き、畳みかけるように説明を始める。
「だっておにぃちゃん、いつも大変そうだったから。私、迷惑かけたくないし、それでね、あのね、おにぃちゃんが学校行ってる間に、豊郷神社にお参りしたの。
おにぃちゃんを、守ってって。そしたらね」
「いいよ。……ありがと、柚理」
妹の臙脂色の髪を撫でながら、感謝の言葉を告げる。柚理は安心したように微笑み、瞳を閉じていった。
数分も経たないうちに、彼女は眠りの世界へと落ちる。
すぅすぅという寝息が、とても愛らしい。

171 :
「と、いうわけだよ。かずき」
彼女の小悪魔っぽい表情で言われたら、僕は納得するしかない。トンネルに入り、轟音が車内に響く。
「そ――ね……あたし、かず――こと、――だから」
彼女の言葉がトンネルの轟音に遮られ、うまく聞こえない。
けど口の動きで、僕は彼女の言葉を理解できた。
「うん。僕もだ」
その返事に彼女は、喜び、そして体を寄せてくる。
柔らかい体が、僕の体に触れる。
紛れもない実感覚で、彼女はそこにいる。
その時、カーブで大きく電車が揺れた。
「ひゃっ!?」
彼女と僕の顔が、数センチの所まで近づいた。お互いの息がかかる。近すぎて思考は正常に戻らない。それどころか、彼女が自らこちらに近づき……
その唇を、僕のものへと重ねた。
想像以上に柔らかいそれは、僕の心を洗っていく。
恋人同士の優しいキス。
僕にその体を預け、彼女は触れることが愛しいようにキスを続けた。
電車がトンネルを抜けると同時に、お互いが体を離し、恥ずかしそうに縮こまった。
思い出すように唇を撫でる僕と、顔を紅に染めて俯いてしまうさとみ。
愛も変わらず可愛い彼女に、ちょっとばっかりの意地悪をする。
さっき体が重なった時に気づいたことを、そっと耳打ちした。
「いゃあっ!」
驚いたのか大きく仰け反り、こちらに体を向けた。
今日は暖色系のカーディガンにチュールスカートという落ち着いた出で立ちだ。
そんな彼女は頬を染めながら、周りには見えないようにスカートを僕の方へ捲る。
そこには、少しばかり膨らんで下の方が黄色く染まった、紙おむつがあった。
「おもらし、しちゃったから、また、換えてくれる?」
「もちろん、だよ。僕も、さとみのおむつを換えたいから」
「このバカ。でも、すごく、うれしいよ。これからも、迷惑かけちゃうけど、いい?」
「大丈夫。今更一人増えたって変わらないしね」
「もう、あとで柚理に言いつけてやるんだから」
甘えた彼女の声に、満面の笑みで応えた。拗ねたような口調も、その中には喜びの感情が混ざってる。
それは、僕も同じだ。
外の世界は雪化粧から抜け出して、春のうららかな田園風景が広がっている。
ポケットに入った思い出の懐中時計を、彼女と一緒に見る。
かちり。
時刻は、十二時を刻み、そして、過ぎていった。
これからの僕たちのように、時計の針は止まることはなかった。
おしまい

172 :
おつー

173 :
ハッピーエンドでよかった
お疲れ様〜

174 :
なんだか既視感が……。前にもここで連載してた?

175 :
「どっこいしょ……っと、ふぅ」
戸が閉まったのを確認してから、彩夏は大きく息を吐いた。
戸に体を預け、荒れた息を整える。
ここに来るまで、誰にも見られてはいない。
そのことがわかっていても、緊張と羞恥で喉はひりつき、胸は高鳴る。
その中には、期待も入り混じってはいたが。
「買っちゃった……買っちゃったんだ」
噛みしめるように呟く彼女の前には、黒いビニール袋に包まれた或るモノがあった。
それを慎重に、音を立てないように取り出し、ベッドの横に置く。
ビニール製のパッケージに描かれた、可愛らしい女の子の姿。
その下には、かつて自分が世話になったものの名前が書かれている。
「本当に、あたし、買っちゃったんだ……えへへ」
学校帰りの制服姿でドラッグストアに寄ったのは、今から十分ほど前のことだった。

176 :
「あ、あった……」
学校から帰る途中にあるドラッグストア、その奥にある「あるコーナー」の前で、彩夏は立ちつくしていた。
学校帰りの時間ではあるが、帰宅部がそんなに多くないことと、このドラッグストアが奥まったところにあるせいか、人通りは少ない。
ましてや今日は、学校は文化祭の準備で忙しく、帰宅部のほとんどが学校に残っていた。
そのことを知った彼女は、かねてからの計画を実行に移したのだ。
しかしいざその場所に来て、彼女は戸惑ってしまった。
本当に、あたしはこれがほしいんだろうか。
もし誰かに見られたら、どうなってしまうんだろうか。
後ろ指差されて、過ごすことになるのだろうか。
色んな悪い事が頭をよぎり、最後の勇気が出せなくなる。
目の前にあるのに――その手を伸ばすことが、できない。
「どうかしたの、お嬢ちゃん」
突然の声に、彩夏はびくりと震えた。
恐る恐る声に振り替えると、そこには品のよさそうなおばさんが、ニコニコ顔でこちらを見ているところだった。
着ている服の上から着ているエプロンには、このドラッグストアのロゴがついていた。
「もしかして、おつかい?」
「え?――え、あ、まあ……」
おばさん店員の質問に、彩夏はどもるように答えてしまう。
怪しまれただろうか。
もしかして、ばれてしまったのだろうか。
さっきまでの想像が、一気に現実へと変わる気がした。
けど、まだ何とかやり直せる。
そう心に言い聞かせて、怯えながらも無理矢理笑顔を作る。
おばさん店員は、そんな彩夏と店の棚を何度も見て、言った。
「あ、もしかして、これがほしいの?」
「あっ――」
おばさん店員の手にあるのは、確かに彼女が欲しいと思ったものだった。
見透かされてる。
彩夏はそのことに気づいてはいたが、どう答えればいいか、わからなかった。
否定したい気持ちはある。世間体的には、ありえないこと。
でも、あたしはあれが欲しいんだ。
二つの心がせめぎあいをしているうちに、おばさん店員はそれをもってレジに向かってしまった。
引き留めるなら、今しかない。
「あ、あのっ!」
「あら?」
そんな気がして思わず声をかけたが、その先が続かない。
おばさん店員も、何も言わない彩夏のことを訝しげに見ている。
体が一際震えだした。
怖い。
なんて思われているのだろうか。
それともやっぱり、あたしがおかしいのだろうか。
このことがこの人の口から漏れて、噂になったりしたら――
渦巻く気持ちが喉を閉じさせ、声を出せなくさせる。
何か言いたいのに、何も言えない。
情けない自分と、もどかしい気持ち。
涙が出そうになるその直前に、おばさん店員は目線を合わせ、諭すように言った。
「大丈夫。あなたぐらいの年頃なら、こういうときもあるわ。私も内緒にしとくから、あんまり深く考えちゃだめよ?」
「え、あ、はい――ありがとう、ございます」
「ほら泣かないで。すぐお会計しますからね。――辛いけど、がんばるのよ?」
その後、慣れた手つきで会計を終え、おばさん店員に見送られて、彩夏は家へと帰ってきた。
その道中ずっと、顔を紅くしながら。

177 :
「かわいいなぁ……」
パッケージを破って中のものを取りだし、愛おしむように眺める。
シンプルでも可愛らしいイラストは、彩夏の心を捕えて離さない。
パッケージによればこんな可愛らしいイラストが、あと五種類あるらしい。
それを知っただけで、彩夏にとって袋の中は宝石の詰まった宝箱に変わる。
「穿けるかな……大丈夫だよ、ね?」
うっとりとした目で呟きながら、スカートの中に手を伸ばす。
レースのついた薄生地のショーツをゆっくりと降ろし、ベッドの上に投げ捨てた。
早く穿きたいという気持ちが走り、落ち着いた息がまた激しくなる。
かさりとした感触が足を撫で、緊張と興奮が体を駆け巡る。
ゆっくりと上げる手は震え、熱があるかのように頭がクラクラする。
それでも、彩夏は止まらなかった。
「ちょっときつめだけど、だい、じょう、ぶ」
すっぽりとお尻を覆うものの感触をかみしめながら、おぼつかない足取りで姿見へと向かう。
鏡に映る姿は朱の入った頬以外、いつもの自分と変わらない。
ぴらり。
そんな自分に魔法をかけると、途端に可愛らしく見えてしまう。
頬の朱色が顔全体に広がって。
なによりその姿すごく不自然で。
でも可愛らしくて、素敵だった。
姿見に映る自分はスカートを捲っていた。
自らの下着を見せる行為というだけで、ちょっと恥ずかしいのに、今はもっと恥ずかしいことをしている。
「……紙おむつ、穿いちゃった。あたし、赤ちゃんじゃないのに――」
ショーツの代わりにつけた紙製の下着。
それは赤ん坊が付けるモノ――「紙おむつ」だった。

178 :
「どうしようかな……」
彩夏は姿見から離れ、時計を見る。
時刻は午後三時半。
親は当分帰ってこないし、宿題も特にない。
好きなことができる。
そう思うだけでドキドキしてくる。
彩夏は軽く身だしなみを整えると、至福におむつのままで外へ出た。
近くの児童公園までの散歩。
彼女が選んだのは、あえて危険の伴うことだった。
ばれちゃうかもしれない……
風が吹いただけで、ちょっと転んだだけで、あるいは階段を上り下りしただけで。
そんなリスクにさらされながら、彼女は歩みを止めなかった。
いつもは無意識に進める足も、今は一歩一歩が気になってしまう。
かさりかさり。
股とおむつの擦れる音が聞こえる度に、ちらとあたりを窺ってしまう。
歩くたびに翻るスカートが、ちょっとだけ恨めしい。
でもそれが、たまらなく胸を高鳴らせてくれた。
公園には学校終わりの子どもたちが集まり、各々のグループとなって遊んでいた。
その合間を縫いながら、公園端のベンチに腰掛ける。
いつもと違うお尻の感触に、体が強張る。
思わず胸の前で祈るように手を組んでしまい、慌ててそれをスカートの上に置いた。
近くを通る子供たちの無邪気な笑い声。
その声が彩夏の大好きな音だった。
小さい子ってかわいい。
その小さい子が恥ずかしがる姿は、もっとかわいい。
無邪気な子が恥ずかしいこと言っちゃうのも、すごくかわいい。
おむつを穿いたのも、そんな彼らに憧れたから。
彼らと同じようになりたい――そう思ったからだった。
騒がしくも心地良い響きに耳を傾けながら、彩夏はその時を待った。
体の奥が、熱くなった気がした。

179 :
「そろそろ……かな」
下腹部からくる感触に、彩夏の体が緊張した。
キンとはったお腹の中で、ちゃぷちゃぷと水が躍る。
重たさを伴う大波に、彼女の胸は飲まれていく。
「おむつ……してるから、へい、き、なはずっ……」
小さな声で呟きながら、息を詰め、吐くのを繰り返す。
でも思ったように、おしっこは出てはくれなかった。
変に体が硬くなってしまい、うまくコントロールできない。
背筋を伝う、ひんやりとした汗。
長引けば長引くほど、周りの視線が気になりだす。
「や、出したい、のに……」
「おねえちゃん、どうしたの・」
声に驚いて振り向くと、そこには二歳ぐらいの女の子が、心配そうに見つめる姿があった。
彩夏は女の子を見ると落ち着かせるように息を吐いて、微笑みながら答える。
「大丈夫……心配してくれてありがとう。――優しいね」
「どういたしましてー……おねえちゃん、かおあかいよ?おしっこがまん?」
「――っ!?そ、そんなことない、よ」
「そうなの?有紗はね、まだおむつしてるから、がまんうまくできないの」
図星を突かれてあたふたする彩夏に、無邪気におむつを見せる女の子――有紗。
その姿に触発されたのか、彩夏は周りを確認しながら、スカートに置く手を離した。
「あのね、お姉ちゃんね、有紗ちゃんと同じなの」
「おなじ?」
「うん――おんなじだよ」
彼女にだけ見えるように体を向き直し、静かにスカートを捲る。
有紗の視線が、スカートの中に注がれる。
「ほんとだー!おねえちゃんもお――」
「しーっ1お姉ちゃんの秘密なの。だから、内緒にして、ね?」
「ないしょ?」
「うん、皆に話したら駄目なの。めー、よ?」
「はなしたら、めー?」
「そう、めー。約束、だよ?できる?」

180 :
「やくそく、するっ!有紗できるもんっ!」
「うん、やく、そ――あっ」
言い終わる前に体の緊張も取れて、おむつの中に熱い水が迸る。
それは入り江に入り込む波のようでもあった。
跳ね返るように割れ目を撫で、おむつの中に吸収されていく。
強い勢いがあるせいか、水流の音も大きい。
じゅわわぁぁぁぁぁぁ……
響かせるような音に、彩夏の興奮が上乗せされていく。
「おもらし、しちゃったの?」
「うん、我慢、できなかったの」
「うん――有紗と、おんなじ」
「そう、おんなじ」
おもらしをまじまじと見つめる有紗の姿が、彩夏の体をどんどんと昂ぶらせていく。
おしっこを全部出しきると、彩夏は大きく肩で息を吐いた。
その間ずっとおむつを見ていた有紗も、彩夏の顔に目を移す。
一際赤くなった彩夏の顔を見て、有紗は頷きながら言う。
「うん、おもらししたあとの、有紗とおなじ」
無邪気な笑顔を向けられ、彩夏の中に一抹の罪悪感が残った。でも、それよりも、有紗のその言葉が、嬉しかった。
「おむつ、ぶよぶよだぁ」
「あ、有紗ちゃ、ぁんっ」
おもらししたばっかりのおむつを、有紗が面白がって突く。
そのたびに吸収したばっかりの熱いおしっこが逆流して、敏感な割れ目を刺激した。
背筋を走る電撃。
始めて感じたそれに、彩夏は早速虜になった。
抵抗もせず、有紗にされるがままになる。
もっとやって。
このままが続いて。
無邪気なまま快楽を求める心は、歪な赤ん坊そのものだった。
でもその終わりは、あっさりやってくる。
「有紗ちゃーん、帰るわよーっ」
「あっ、ママが呼んでるっ」
「あっ――、そう、じゃ、またね、有紗ちゃん」
「うん、ばいばいおねえちゃん」
小さな手を振りながら、彩夏から離れる有紗。
その姿を見送りながら、彩夏は名残惜しそうに呟いた。
「また、お姉ちゃんと、遊んでね」
と。

181 :
有紗がいなくなった後、重くなったお尻を気にしながら、彩夏は散歩を再開させていた。
おむつはまだ温もりを保ち、お尻や割れ目を温かく包んでくれる。
歩くたびにちょっとだけ逆流することも、気持ちのいいことになりつつあった。
「次は、どんなことしよーかなー」
意気揚々とした声で呟く彩夏。
うきうきした心は、当分の間収まらないだろう。
最初の不安はどこへやら。
今、頭の中を埋めるのは、もう次の遊びのことだった。
スカートの端からおむつを見え隠れさせながら、彼女は街の雑踏の中へと消えていく。
その顔には、満面の笑みを浮かべながら。
END

182 :
gj

183 :
朝からいいもん見れたわ!GJ!

184 :
あーりん再降臨!

185 :
いいね〜

186 :
ちょっと見ぬ間に一気に作品きたな
じっくり読ませて貰うぜ

187 :
GJすなあ

188 :
初登校なので見苦しい点もあると思いますが
ご意見や要望など頂けたらと思います。

「おねーちゃん、おしっこ!」
「うんちは?」
「んっとね…」
少し無言になって力む
「おしっこだけ!」
「そう、それじゃまだ頭を洗ってるからそのまましちゃっていいよ」
シャンプーハットをつけた頭がこくりと頷く
「出たー」
「後で体も綺麗にしようね」
「はーい」
体を拭いておむつをはかせてドライヤーで髪を乾かす
その間、さくらは哺乳瓶でコーヒー牛乳を飲む
それからパジャマを着せて同じ布団に入る
しばらくするとさくらはもぞもぞと動いて
私のおっぱいを吸い始める
その仕草がたまらなくかわいくて頭をなでながら私も眠りに付く

189 :
ピピピッ!
「もう朝か。さくらちゃんのおむつ替えてあげないと」
さくらはまだ私のおっぱいをちゅうちゅうすっていた
おしゃぶりを咥えさせておねしょで濡れているおむつのサイドを破って広げる
「今日は少ない方かな、まだしーしーないかなー?」
濡れたおむつを敷いたままおしり拭き越しにおしっこの穴を刺激する
おむつ替えの間に間に漏らしてしまうことも多いため
おむつ替えのときは必ずおしっこの穴を刺激してあげて
おしっこを出し切るようにしている
「んんっ…」
少し顔がこわばったので、急いで先ほどのおむつをあてがう
すぐに愛らしい寝顔に戻ると同時におむつ越しにおしっこをしているのが感じ取れた

190 :
まだ眠らせてあげたいけど、今日は月曜日
悠長なことはしていられない
「さくらちゃん、朝ですよー」
おしりを拭きながら大きい声で呼びかける
「………。」
呼びかけで目を覚ましたものの朝が弱いさくらはボーっとしていた
おむつを丸めて下半身裸のままのさくらを抱きかかえて風呂場まで連れて行く
「はーい、キレイキレイしますよー」
シャワーで軽く洗い流してボディースープを手のひらで泡立たせて
そのままお尻や股を洗っていく
「はい、おしまい!」
シャワーを止めてわきの下に手を入れて
さくらを持ち上げ足拭きマットの上に立たせる
「それじゃさくらちゃん、今日は月曜日だからパンツ履こうねー、あんよ上げてー」
私の声に促されまだ少し眠そうなさくらは白いショーツに足を通す
両足を通したらおねしょパットを貼り付けて、ギャザーを立ててからパンツを引上げる
バンザイさせたりして用事に服を着せるようにしていく
着替え終えたさくらはおむつが必要とは思えない小学生くらいのお姉ちゃんに見える

191 :
「今日は五限までだからさくらちゃんの方が遅いね」
「うん!おねーちゃんの方が先にただいまだよ!」
朝ごはんを食べながら今日の"講義"の予定を確認する
「それじゃさくらちゃん。行ってきますの前にトイレ行こうか。」
ご馳走様をしてすぐにトイレを促す
「はーい!」
トイレに駆けていきそのままパンツを脱ぎ捨て前向きに便器に座る
チー…
おしっこの音が聞こえてきた
おしっこを終えてさくらは自分でおしっこをふき取る
「できたー!」
トイレトレーニング中の幼児のそれと同じように誇らしげである
「まだ、終わってないでしょ?パンツもちゃんと履こうね
「今するもん!」
少し膨れた顔をしてパンツをはく
「よく出来ましたー」
頭を名でほめるとさくらは嬉しそうに微笑んだ
「パットのギャザーだけおねえちゃんに確かめさせてね…うん、これなら大丈夫ね!」
それぞれの荷物をまとめて私は会社へ、さくらは大学へと向かう

192 :
プロローグがここまで
25歳の美紀と18歳のさくらの百合幼児物にしていくつもりです。
書き溜めしているわけじゃないから遅いと思うけど
暇なときに目を通して意見をしてくれると嬉しいです。
構想であるのが
退行願望の理由付けの描写
二人の生活のきっかけの描写
退行過程の描写
トイレトレーニングの描写
妄想中なのが
大学でのおしっこ事情
休日の過ごし方室内編
休日の過ごし方外出編

これが見たいってのがあればそこから手をつけていきます
幼児プレイよりも退行願望の描写に近いのと
センスが無いので性的な描写は無いと思います。

193 :
>>188
小説というより、脚本っぽい
もうちょい本読んでその辺修正した方がいいよ

194 :
>>193
意見ありがとう。
言われて見れば足し管脚本っぽい。
それを踏まえて書いてみた。
あたしとさくらちゃんは従姉妹の関係に当たる。
叔父も叔母も共働きで平日はうちに泊まりに来ていた。
そのため、あたしの部屋にはさくらのためのおむつが買い置きされていた。
一緒にお風呂に入り、おむつをあててやり一緒に寝る。
小さいうちはそれはごく普通のことだった。
結局、私が大学に進学して一人暮らしを始めるまでその生活は続いた。
大学へ上がって最初の夏休み、さくらちゃんが遊びに来る事になった。
まだたまにおねしょしちゃうっておばさんが言ってたけど
もうすぐ中学生だからおむつをはかせるのもかわいそうだよね。
「もうすぐ、さくらも中学生になるからパンツで寝ようか?」
「失敗してお姉ちゃんのベッド濡らしても怒らないから、ね?」

「おむつがいい。」
だけどさくらちゃんはパンツではなくおむつで寝ると言って来た。

195 :
「うーん、でも買い置きがないし。」
「今はおうちではパンツで寝てるんでしょ?」
たぶん、あたしに迷惑をかけたくないんだなってこのときは思ってた。
「やだ、おむつがいい!無いなら買いに行く!」
「まだお店開いてるから買いに行く!」
普段は聞き分けのいいさくらちゃんたけどこの時はすごくはっきりと言っていたっけ
お店に着いてすぐにあたしたちはおねしょパットを見つける。
「おむつじゃなくてパンツに貼るやつなんだって」
「これならおねしょしても大丈夫だしパンツで寝れるからこれにしようか、ね?」
おねしょパットの説明を見ながら問いかけたけどさくらちゃんは首を横に振って
「それじゃやだ、これにする!」
と言ってさくらちゃんはテープ式の紙おむつを持ってきた。
言い争いをしてもしょうがない、ここはさくらちゃんの言うとおりにしよう。
結局さくらちゃんの持ってきたテープ式の紙おむつを買った。

196 :
お風呂から上がってくつろいでいたところに
さくらちゃんがさっき買ったおむつを持ってくる。
「美紀おねーちゃん、おむつお願い!」
さくらちゃんはおむつが恥ずかしいそぶりも無く
むしろ嬉しそうにおむつを持ってきた。
布団が濡れなくても、おねしょしちゃうとかわいそうだから
寝る前にトイレに連れて行ってあげよう
「それじゃ、トイレに行っておしっこしてからおむつしようか」
「おしっこしたくない」
「早くおむつして」
あたしの提案はばっさりと拒否された
おむつの事もそうだけどしばらく会わない内に反抗期か何かになっちゃったんだろうか
その日はおむつを充ててそのまま一緒の布団で眠った。

197 :
翌朝目が覚めてあたしはすぐにさくらちゃんのおむつの状態を確かめた。
「濡れてないみたい?やっぱりおねしょ治ってきてるんだ」
ずっとおねしょが直らなかったさくらちゃんのことを心配していたあたしにとっては
すごく嬉しいことだった。
「さくらちゃん、おきておねしょしてなかったよ、偉いね!」
さくらちゃんを起こしておねしょしなかったことをほめてあげた。
「うん、ありがと…」
だけど、さくらちゃん自身はすこし残念そうな表情だった、寝起きだからかな?
「それじゃ着替えて今日は何処か行こうか!お姉ちゃんバイトもしてるからお金持ちだぞ!」
「面白いって話題の映画でも見ようか?それともお洋服でも見に行こうか!」
「いらない」
うん、なんだろう。
やっぱり元気が無い。
あれ、おねしょしちゃってたかな?
「と、とりあえず着替えよっか。おむつも外してあげるね」
「やだ!」
おむつに手を伸ばしたあたしからさくらちゃんは逃げるように離れた
「あれ、やっぱりおねしょしちゃってた?」
ちゃんと確認してなかったからな、あたし無神経すぎるよ。
「……」
無言だよ、これ地雷踏んだかな〜。
なんであたしもちゃんと確認せずに、ぽいってだけで喜んじゃったかな。

198 :
「ごめんね、おねしょしちゃってたかな?」
もう謝るしかないと思った。
「おねしょ…してない」
気まずそうにさくらちゃんがつぶやいた。
「あれ、ほんと?それじゃ良かった」
「お姉ちゃんてっきり間違えちゃってたのかと思ったよ」
良かった、おねしょしちゃった濃におねしょしてないねなんて言ったら
すごいひどいこと言っちゃってるもんね。
いや、ホント良かった。

199 :
きっと自分でおむつ脱げるから子ども扱いされたのが嫌だったのかな。
「じゃあおむつ脱ごうか」
「やだ、さくらおむつでいい」
あれ?やっぱり反抗期か何かなのかな?
なんだかよく分からなくなってきた
「あれー?さくらちゃん赤ちゃんじゃないのにおむつなの?」
反抗期ならこう言えばいいのかな?
「さくら、赤ちゃんでいいもん」
反抗期甘くみてました。
「えっとその…」
もうどうすればいいのかあたしには分かりません。
あたしがだらしなく混乱しているうちにさくらちゃんが口を開いた
「ママもね、もうおむつだめだって言うの」
「おねしょしないからパンツにしなさいって言うの」
「でも、さくらパンツじゃなくておむつがいいの」
「ママはおむつ買ってくれないからおねえちゃんにお願いしたの」
「お姉ちゃんもおむつだめ?」
大粒の涙をこぼしながらさくらちゃんはあたしに必に伝えようとしていた。

200 :
なんだ、そういうことか。これなら辻褄が合うじゃない
「ううん、いいよ。お姉ちゃんといる時はおむつでいいよ」
その言葉を聞いてさくらちゃんはあたしの胸で大声で泣いた。
さくらちゃんがおむつを欲しがったのはあたしに迷惑をかけたくないって気持ちでも
反抗期でも無かったんだ。
叔父さんや叔母さんがほとんど家にいないから甘えた記憶もあまり無い。
でも、おねしょをしていたからおむつの世話をしてもらえることで少しだけ甘えることが出来てた。
そのおねしょが治りはじめておむつが使えなくなった。
他の甘え方を知らないさくらちゃんはずっと苦しんでいたんだ。
叔母さんに甘えることが出来なく案って最後に頼ってきてくれたのがあたしなら
それはつまりあたしを姉のように慕ってくれているって事なんだろう。
だったらあたしはこの子のためにしてあげられることをしてあげたい。
妹のように接してきた子のことだもん、これくらい気づいてあげなきゃ!
それから夏休みと冬休みには必ずあたしの部屋に泊まりに来て
思いっきり甘えていくという生活が続いた。

201 :
そして気がつけばあたしは社会人、さくらちゃんも大学生になった。
相変わらずさくらちゃんの甘え癖は卒業の兆しも見えていなかった
それどころかあたしもさくらちゃんを可愛がる事が癖になり
気がつけば相互に必要な存在となっていた。
赤ちゃんになって甘えたいさくらちゃんと
赤ちゃんのお世話をしたくてたまらないあたし
この春からあたしたちの同居生活がスタートする。

こういう書き方のほうがいいんだろうか。
やっぱり暇なときにでも目を通して意見がもらえるとうれしい

202 :
お義姉さんさくらちゃんを僕にください

203 :
gj!
こういうの結構好きだな〜

204 :
私はもうちょい小説っぽいのが好き

205 :
>>188
描写不足で?な場面が結構あった
195のさくらの「まだ店開いてるから・・・」って台詞
時間の描写があると印象違うよ

206 :
最近まとめwiki動いてないな
なんかあったのか

207 :
編集する人がいない気がする。

208 :
そろそろまとめて欲しいよな
こんだけあると特に

209 :
編集者いなくなった場合に備えて誰でも編集できるwikiでも建てるか?

210 :
wiki管理人です。最近離れていて申し訳ありません。
それならば解放するかどなたかに委譲したいと思います。

211 :
>>210
何かあったんですか?

212 :
>>210
意欲の問題でしょうか?
まとめるほどの時間が割けなくなってしまいまして……
さきほど編集者権限を開放しましたので活用してください。

213 :
おつ

214 :
そろそろ新作欲しい

215 :
http://www.dmm.co.jp/digital/doujin/-/detail/=/cid=d_056506/

216 :
今日も、お嬢様と一緒に眠る夜が来る。
ぽぅとした月明かりが照らす廊下の先にある離れ。
そこには、一人の少女が棲んでいる。
名前は、王寺咲楽。
私――山野飛鳥が働いているる王寺家の、「箱入り娘」。
「お嬢様、失礼します」
静かに戸を開くと、目に痛くなるような蛍光灯の明かりの下で、彼女は待っていた。
黒く輝くその長髪を揺らしながらこちらに振り向くと、アンニュイとした表情が無邪気な笑顔に変わった。
彼女は私を待っていたと言うと、身に纏う寝間着代わりのベビードールを捲り、自らの下着を見せつける。
そこにあるのは、布でできた色っぽいショーツではない。
ましてや、そもそも布でできてすらいない。
紙製の、股や尻の部分が膨らんだ不恰好なフォルム。
でもそれは、この下着特有の機能のためだった。
彼女が身に着けているのは、可愛らしい絵柄のついた、幼児用の紙おむつ、そのものだった。

217 :
股の部分が青色に変わっていたおむつを手早く取り替えて、新しいおむつを穿かせると、お嬢様は確かめるようにおむつを触り、そして私にせがんでくる。
出したんだから、ご飯が食べたいということだろう。
私は用意しておいた哺乳瓶を取りだし、彼女の口に宛がう。
ちゅうちゅうちゅう。
勢いよく吸い始める彼女の頭を撫でながら、私は彼女の幾末を案じていた。
「箱入り娘」。
それは王寺家の暗部そのもの。
一族の娘を一人、外界から隔離してなるべく穢れから離して育てる。
そしてその娘が十五歳になると、神の供物として奉げる。
狂ってるような、本当の話。
そして目の前の少女は、今年で十五歳になる。

218 :
お腹一杯になったお嬢様は、眠たげに眼を擦り始めた。
確かに、もう夜も遅い時間だ。
布団を敷いてあげると、彼女はすぐさま横になってしまった。
もちろん、彼女の添い寝をするのも私の仕事。
同じ布団の中で、体を寄せ合いながら、床に就く。
あどけない寝顔。
無邪気に微笑むそんな顔が、一瞬だけ曇った。
そっと彼女のおむつに触れると、掌に水の当たる感触が広がった。
ホカホカと温まっていくおむつ。
食べてすぐおもらしというのも、赤ちゃんそのもの様な気がした。
せめて、夢だけは幸せを。
そう思いながら彼女を胸に抱き、私も目を閉じる。
その温もりが、何よりも愛おしかったから。
一応終わり

219 :
gj

220 :
飛鳥って男でも女でもいるよね

221 :
GJ

222 :
「ううん……」

窓から夏の日差しが差し込む、個人の部屋としてはかなり大きな部類に入るであろう一室で、小柄な少女が眠たげな声を漏らした。彼女の名は香坂美鈴。世界を股に掛ける貿易会社を営む父と、翻訳家である母との間に生まれた、いわゆるお嬢様である。

(……あれ?)

そんな、恵まれた環境で何不自由なく生きてきた彼女だったが、今、初めてとなる不自由を感じていた。環境面や精神面の話ではなく、主に肉体面での不自由を。

(なんか、身体が重たいな)

先程から、立ち上がろうと腕や足に力を込めているのだが、なかなか思った通りに身体が動いてくれないのだ。一瞬病気か何かに掛かったのかとも考えたが、意識ははっきりしているし、それが原因ではない気がした。

「な、な、な……」

しかし動けないほど身体が思いわけではないので、何とか美鈴は上半身を起こした。そんな彼女の目に、思いもしない光景が飛び込んでくる。

「なによこりぇえ!!」

異様な光景だった。いや、ある意味では、統一感に溢れた光景なのかもしれない。
壁紙やカーテンはベビーピンクで、太陽の光を緩やかに反射している。そして床には柔らかそうな素材の、カラフルなフロアマットが敷き詰められていて、壁際にはぬいぐるみや人形の入った箱が置かれていた。
その他のクローゼットや本棚、机といった調度品も全てが、まるで小さな子供が喜びそうな色・デザインに仕上げられていた。
そう、ここがまだ小学校にも上がっていないような、幼い女の子の部屋ならば、何もおかしなことはないだろう。

「……」

けれど、この部屋の主はベッドの上で呆然としている少女ーー幼女ではなく、れっきとした高校生である美鈴なのだ。

223 :
とりあえずさわりだけ……
これから書くので、投稿はいつになるやら

224 :
さわりはOK!   続きをお待ちいたします

225 :
これは期待!

226 :
コンコン、と軽やかにドアがノックされた。視線を彷徨わせていた美鈴はその音でハッと我に返ると、ノロノロと立ち上がろうとした。
だが、美鈴がドアを開けるよりも早く……というより、ノックからほぼノータイムでドアは勝手に開いた。

「美鈴ちゃん、もう起きてるかな?」

そして、美鈴よりは幾分年上に見える女性が、美鈴の部屋に足を踏み入れた。彼女の名は香坂彩。この香坂家の長女である。つまり、美鈴の姉ということでもあり。

「あ、おねえたん」

少しほっとした表情を見せた美鈴だったが、言葉を発した瞬間、パッと口元を手で押さえた。そんな妹を、優しく、そして何処か面白そうに見守っている彩。

「おはよう。よくねんね出来たかな?」
「とっと!なにいってゆの!?」

彩の、まるで幼い子供に問いかけるような口調に、美鈴は反論しようとした。しかし口から出てくるのは先程と同じ、まるで舌が回っていないような言葉ばかり。

「なんだかご機嫌斜めねぇ……。そういえば、おしっこは大丈夫だったかな?」
「へ?」

彩はベッドのそばまで来ると、美鈴に向かって両腕を伸ばした。なんだか嫌な予感がして、後ずさりする美鈴であったが、ここでも身体は自由に動いてはくれず、簡単に胴を捕まえられてしまう。

「なにすゆの!やめて!」
「ほらほら、美鈴ちゃんはいい子でしょ?すぐ終わるからね」

じたばたと美鈴は抵抗するのだが、あまり功を奏しているとは言い難い。そうこうしているうちに、妹を膝の上に乗せた綾が、片手で美鈴のズボンを器用に脱がせていく。

「は……?」
「あらら、今日もダメだったかー」

現れた自身の下着を目にして、美鈴は心臓が凍りついたかと思った。
いつも穿いているようなショーツではあり得ない、モコモコとしたシルエット。デフォルメされた動物柄にギャザー付きの裾。
穿いていた頃の記憶が無くとも、これが何かは分かる。だから、美鈴の頬は朱で彩られた。

「なんで……おむちゅなんて」
「どうしたの?いつも穿いているじゃない」

ショックで抵抗すら忘れてしまった美鈴。そんな彼女の足を、彩が脱がせた紙おむつが滑っていく。中は全体的に薄黄色に染まっていて、美鈴が汚してしまった事実を如実に示していた。

227 :
>>226
>>222の続きです。分かりにくくて申し訳ない。
名前欄に何かいれるかな……

228 :
美鈴ちゃんに何が起きているのか!? ・・・楽しみです
名前欄は作品のタイトル入れてはいかがでしょう?

229 :
もう少しだ、もう少しで、待ち望んだアノ時間がやってくる。
胸の鼓動が高鳴る。
息が荒くなる。
知らず知らずの内にアレに手を伸ばす。まだだ、もう少しガマンしろ。
時間割を確認。
そこには四つの文字列がある。今日の日直の男子の乱れた字で書かれたそれは、身体測定、と読めた。
身体測定。
それは普通の生徒にとってはなんの変哲もない、むしろちょっと面倒な部類に入るイベントだ。
男子・女子共に、露出の多い体操服へと着替え、お調子者の男子が女子の胸をからかい、それを見た女子が男子サイテー、と非難する。そんな何の変哲もないイベント。
でも私にとっては違う。少なくとも、今日の私にとっては。
椅子に座りながら、自分のアソコに手を伸ばす、もふん、と普通ではありえない感触がした。
その理由は分かる、アレのせいだ。自分の顔がかぁっと熱くなるのがわかる。
きっと私は異常なんだと思う。そう、おむつを履いて学校へ登校し、あまつさえそれを皆の前で披露しようだなんて・・・

230 :
昼休み終了十分前。普段ならまだカードゲームをやっていたり、そこらへんをバカみたいに走り回っている筈の男子共が、遊び道具を片付け、教室を出て行く。
始まったのだ。もう後戻りは出来ない。
男子が全員教室から出るのを確認した、女子クラス委員の幹さんが教卓の前に立つ。
「身体測定十分前だから体操服に着替てくださ〜い。着替えたら出席番号順に教室前に待機ですよ〜」
幹さんのやたらはきはきした声を合図に皆が着替え始める。
でも、私は動かない。席に座ったまま、動揺した振りをしながら、辺りを見回す。
周りの女子はそんな私を不思議そうに見ながら、しかし遅れたら大変とばかりに着替え始める。
着替え終わった女子達が教室から出て行き、しだいに教室の人口が減り始める。当然着替えていない私は目立つ。
「ナナさん。どうしたの?どこか具合でも悪いの?」
異常をさとった幹さんが声をかけて来る。
「え、えと。そういうんじゃ、ないですけど・・・」
私はしどろもどろになって(もちろん演技だけど)答える。
「じゃあ、早く着替えてね。時間厳守だから。」
「う、うん・・・」
そう言いつつも、私は着替えない。本当は早くスカートを脱いで、皆におむつを見せたい。
でも、自分から脱いだら意味ないのだ。あくまでも「身体測定だと知らずに、いつもどおりおむつを履いてきてしまった」という風を装わなくては・・・
「ナナさん。早く着替えてって言ったよね?遅れたら私が怒られるんだけど?」
だがなおも私はおろおろしている演技を続ける。
「ちょっと!いい加減にしてよね!一人で着替えられないの!?」
幹さんが声を張り上げる。周りの、まだ残っていた皆が何事かとこちらに顔を向ける。
「何か言いなさいよ!」
怒りが頂点に達したのか、幹さんは私のスカートを強引に引っ張る。あらかじめ、少し力を入れただけでずり下がるようにしていたスカートは、目論見どおり、すんなりとずり下がり、私のはいている下着をあらわにした。
『・・・え?』
二人分の「え?」が重なる。意味合いはだいぶ違うけど。
「え?そ、それって・・・おむつ?よ、ね?」
幹さんが戸惑った声を上げる。周りの女子達も私のはいている下着の正体に気づいたのか、ざわざわひそひそとなにかを言い合っている。
「ち、ちがっ!これは履くタイプの生理用品で・・・」
苦し紛れの言い訳、でもそんな言い訳はすぐに見破られる。
「でも、それ、お、おしっこの色がついてるよ・・・」
私は身体測定までの間に水分をたくさん摂取し、二、三度ほどおむつを使っていた。そのせいで、おむつは黄色く染まっていて、どう見ても使用済みだった。
もはや言い逃れは出来ない。
「い、いや・・・いやぁぁぁぁぁ!!」
私は悲鳴を上げて、床に崩れ落ちる、そして。
ぴちゃ・・・ぴちゃ・・・
極めつけのおもらし。二、三回の使用で既に限界だったおむつは、その機能を放棄し、私のおしっこを、床に垂れ流しはじめた。
「え、やだ、ちょっと。おもらし・・・」
「き、汚い・・・」
「わたし、先生呼んでくる!」
何が起こったのかわからず立ち尽くす者、私を蔑んだ目で見る者、とにかく教室を出ようとする者・・・・・・
教室内はちょっとした混乱に見舞われた。
やがて、先生が現れる。生徒の一人に連れられた担任の先生は、おしっこの水溜りの上で、おむつを丸出しにして泣いている私を見つけると、保健室に連れて行こうとしたのか、私の手をひっぱり、教室の外に無理やり連れ出す。
当然、私はおむつ丸出しである。しかも自分のおしっこでびしょびしょになったおむつである。
教室の外で待機していたクラスの男子と女子、それに下級生達に見られながら、私は保健室に連れられていく。
皆に見られ、驚かれ、蔑まれた私は、おむつの中をおしっことは違う液体で満たしていく・・・
そして保健室についたと同時、私の体は、何かを解き放つように、ビクンッっと跳ねる。
よだれをたらした顔で、先生の何か汚いものを見るような目を見たとき。
私はさらなる興奮を覚え。
そして、自分の青春が音をたてて崩れ去るのを実感した。
終わり
小説とか初めて書いたけど、どうでしょうか。

231 :
いいわー
人生崩壊してでもおむつの快感を得る、そんな末期の女の子にプロポーズしたい
「こんな変態女に彼氏なんかできるわけない」と思ってる娘に告白して嬉し泣きと嬉ションを同時にさせてあげたい

232 :
>>230
たまらん

233 :
ありがとうございます。
気が向いたら、もしかしたら続きを書くかも知れません。

234 :
つーか上手いよ。もっと長いのが読みたいなー。プロローグ的なのも。
この子がどうしてこうなるに至ったのかを。

235 :
なんとなくモチベあがったんで、投下します。
勢いで書いたので低クオリティですが・・・
異常児更正施設「ひかり」
なんらかの事情により、まともな生活をおくる事が困難とされた小〜中学生までの児童が通う施設である。

プロローグ
異常な光景だった。
電車の中、一人の女の子が席に座る。○学五年生くらいだろうか。
そこまでは別におかしな光景ではない、だが問題は、その女の子の格好だ。
女の子は、下腹部にパンツのようなものと、そのパンツのようなものに安全ピンで止められた名札。それ以外は身に着けていなかった。
つまりはほぼ全裸である。
そして良く見れば、そのパンツのようなものは、その女の子よりもっと下の年代がつけるべきもの。紙おむつだという事がわかる。
警察に通報されても文句は言えない格好だが、乗客達は通報しようとはしない。
携帯電話を出して通報しようとするものもいたが、何かに気づくとすぐにそれをやめた。それは紙おむつにピンで止められている名札だった。
名札には、こう書かれていた。
「異常児更正施設 2-B 皆川 ナナ」

236 :
20XX年
とどまる所をしらない、未成年による性的・暴力的な犯罪に辟易した政府は、「異常児更正施設」という施設を設置した。
そこには、未成年犯罪者、もしくは、未成年による性的異常者のなかでも特に症状が重い、取り返しのつかないとされた子供達が集められた。
つまり、目の届かない所に置いて、おいたをされるよりは、そんな子供達を集め、管理してしまおうという算段である。
ちなみに、更正施設と銘打ってはいるが、子供達を更正させるような事は行っていない。
ここに集められるような子供達は既にたいていの更正カリキュラムは受けていて、それでもどうしようもない、と判断された子供達だからだ。つまりは見捨てられた訳だ。
施設を設置するにあたり、未成年者の人権が〜などと言う人間もいたが、少数派であった。それほどまでに未成年者による犯罪が増加しているのである。
ともあれ、この女の子は名札を見る限り、施設の生徒だ。そんな人間がなぜこんな所に居るのかは分からないが、関わらないに限る。乗客達はナナを極力見ないようにし、黙する事に決めたようだ。
皆川ナナは、正式にはまだ施設の生徒ではない。まだ、というだけであって、これから施設の生徒になる訳だが。
ナナは過去におこしたとある事件の所為で、異常児の烙印を押され、更正カリキュラムを受けさせられる事となった。
だが、カリキュラムを受けてもナナの性癖は改善されず、三回目のカリキュラム不合格で、家族からも見放され、施設行きとなった。
施設に送り出されるとき、ナナは全裸におむつ+名札、という格好になり、今まで迷惑をかけました、と謝罪した。
父親は目も合わせてくれなかった。
母親は虚ろな瞳で涙だけを流していた。
ゴメンね、パパ、ママ・・・私、おかしいんだ。
感傷的になりながらも、下腹部にあてられた、分厚いおむつを触る。すでに何回か失禁していた。
体の力を抜く。すぐにおしっこがアソコから溢れてくる。
おむつはもう限界だったようだ。おしっこがおむつから流れ出し、足をつたい、水溜りを作る。乗客のどよめく声。
その声を聞き、ナナはおむつを触る手を早めていった。すぐに体のほうも限界が来た。
体の制御がきかなくなる。足がガクガク震える。よだれが止まらない。
そして開放感。
と、同時に電車の扉が開く音。新たに乗車してきた客がナナを見て何事かと驚く。
その乗客達を少し冷静になった体でかき分け、電車から降りる。ホームにいる人達の視線。また少し熱くなる体を、わずかに残った理性でおさえ、駅を出る。
施設への地図を出し、ナナは思う。
どうして、こうなってしまったのだろうか、と。
ナナは自分の異常さに絶望しながらも、裸におむつという格好で歩き出す。
新しい生活を始めるために。
ただ、その新しい生活が、必ずしも希望に満ちたものでないという事は、ナナにもうすうす分かっていた。
プロローグ 終
とりあえず、シリーズっぽい感じにしようかと思います。
続くかどうかはモチベ次第という事で。

237 :
職人さん来てたー
>>235-236
年齢もシチュエーションも大好きな所で続きが待ち遠しい!
ぜひ長編化してくれー

238 :
かなり中途半端だけど、一章完成がいつになるか分からないのであげときます。
異常児更正施設「ひかり」
なんらかの事情により、まともな生活をおくる事が困難とされた小〜中学生までの児童が通う施設である。
第1章
「皆川ナナさん。異常度レベル2のBクラス。間違いない?」
「はい、そうです」
施設に着いたナナを迎えた若い女性を見てナナは少し面食らった。異常児更正施設、という恐ろしげな名前からしてもっとコワモテな職員を想像していたからだ。
「ええと、プロフィールによると・・・過去に、とある事件をおこしてから、失禁や紙おむつについて異常な興味を示すようになった。更正カリキュラムも効果が無かったため、施設に入る事になった、と」
「は、はい・・・」
淡々と、ナナの情報を読み上げる女性。その声色には感情というものが伺えない。
やっぱり、怖い人なんだ・・・
「ふむふむ、まああんたが異常だっていうのは見れば分かるわ。家からその格好で来たの?」
「・・・はい」
機械のような声で問う女性職員。
ナナはすっかり萎縮していた。職員が女の人でよかった、という気持ちはとうに失せていた。この人も施設の職員、優しい訳が無いのだ。
「ふうん、まあ、あんたみたいな変態はこの施設にはたくさんいるから、安心していいわよ」
どこが安心だというのだろう。
「さて、これからあんたはこの異常児更正施設。通称ひかりに入学する事になるわ。ご入学、おめでとう」
「どうも・・・」
その皮肉たっぷりの台詞に反応する余裕は、ナナには無かった。
「私はこの施設の・・・まあ、門番みたいなもんよ。変態に名前なんて教えたくないから、何か用があるときは門番さんでいいわよ」
「分かり、ました」
どうも、この女性、門番さん?は定期的にナナを侮辱しないと気がすまないようだ。
でも、門番さんに対し、何か文句を言う気にはなれない。自分が変態で異常者だというのは紛れも無い事実であるし、門番さんに侮蔑の言葉をぶつけられ、興奮してしまっている自分がいるからだ。
ホント、私って・・・
こんな時でも、性欲優先の自分に嫌気がさしてくる。
「どうしたの?うつむいちゃって、怖がらせちゃったかしら?」
「え?い、いえ。大丈夫です」
知らない内にうつむいてしまったナナを心配するように(相変わらず声には感情が無いが)門番さんが顔を覗き込んでくる。
怖がらせているという自覚は無かったんだろうか。さっきの変態だの異常だのという言葉は、私を怖がらせるためだと思ってたけど。もしかして天然さん?
最初は怖い人だと思ったけど、悪い人では無いのかな。
ちょっと、緊張がほぐれた、かも。
続く
エロシーンは無しです(しいて言うなら門番さんの言葉責め?)
次は荷物検査があります。
ナナちゃんのお家から届いた私物からあんなものやこんなものが出てきます。

239 :
1日3回も投下があるなんて素晴らし過ぎる
このシチュでエロシーンはさめそうだから不用だよね!
次の投下をwktkしときます

240 :
ただのgjだった

241 :
GJ

242 :
(何か変だよ……。これじゃまるで、あたしが小さい子供みたいじゃん……)

起きた時から30分も経っていない筈なのに、次々と押し寄せる理解し難い現実に、美鈴の心は既に疲れ切っていた。
昨日まで、この部屋は誰を招いても恥ずかしくない部屋であったし、姉の態度だって、対等な者に対するそれであった筈だ。それに当然、おむつなんて物心ついてから穿いた記憶などない。
全てがおかしい。けれども、その異変をどう解決するかは全く分からない美鈴だった。

「さ、お着替えして下に行こっか。朝ごはん作ったからさ」
「……ママは?」

濡れた股間を拭いてもらって、新しいおむつを穿かされた美鈴は、クローゼットに向かう姉に質問した。もしかして母親なら、この異変に気づいてくれるかもしれない、と期待を込めて。

「忘れちゃったの?」
「え?」
「お母さん達、こないだから海外出張中でしょ?一緒にお見送りしたじゃない」

あ、と美鈴は思い出した。気が動転していて失念していたが、両親は今同時に国外で仕事をしているのだ。たしか帰ってくるのは、今から2週間ほど後だっただろうか。

「大丈夫だよ。お姉ちゃんもなるべく家にいれるようにするし、夏休みだけど何人か残ってくれたから」

クローゼットから洋服一式を取り出して、彩は美鈴の元へ戻ってきた。そして美鈴のパジャマを脱がそうと手を伸ばす。

「……じぶんでやう」
「あ、本当?それじゃあ、お姉ちゃんお部屋に戻ってるから、何かあったらすぐに呼んでね」

彩は手に持った洋服を美鈴に手渡すと、頭を優しく一撫でして、美鈴の部屋から出ていった。
残された美鈴は洋服を床に置いて、クローゼットへと駆け寄る。そして上から順に引き出しを開けて、中を覗いていく。

「うしょだ……こんなの」

下に行くに連れて、美鈴の表情はどんどん硬くなっていく。だがそれも当然だろう。クローゼットに詰め込まれていたのは、およそ彼女の年齢に似つかわしくないものばかりだったのだから。

243 :
一方、隣の部屋では。

(そろそろ泣きついてくる頃かな〜)

ベッドに腰掛けて携帯を弄りながら、彩はクスッと笑いを漏らす。今のところ、彼女の想定内で事は進んでいた。
そう、想定内で。

「彩様。佐々木ですが」
「あら、どうぞ入って?」

不意にノックされたドア。その先にいる人物が執事の佐々木康介だと分かると、彩は部屋に入ってくるよう促した。

「失礼します。あの、美鈴様は……」
「自分で着替えるって言うから、任せたわ。まああの子に、ボタンが留められるかは分からないけど」

しっかりとドアを閉めると、康介は声を潜めてそう聞いた。それに対する彩の答えは、語尾に僅かな笑いを含んでいた。

「まあ今のところ、問題は無いでしょう。思ったより抵抗も激しくないしね〜」
「では、美鈴様への対応は」
「予定通り、よ。まだまだおむつ離れ出来ない、ちっちゃい子供として扱ってあげて?」

彼女達は手短に確認を済ませると、それぞれのすべき事を果たすために行動を始める。

美鈴にとってはわけの分からないこの状況だが、事実はシンプル。
全て、姉である彩の企みだった。その狙いは2つ。
1つは、彩というより、執事やメイドを含めた香坂家で暮らす者全ての為だ。
高校生になってから、美鈴の他人に対する対応は、あまり褒められたものではなくなってきた。それまで反抗期らしいものが無かった彼女にとっては、遅れてきた反抗期だったのかもしれない。
それでも、特にメイド達に対しての苛立ち紛れの仕打ちは、度を越していたと言っても過言でない。
結果として職を辞するメイドが続出したので、香坂家は対応を迫られることとなった。しかしその時点では、未だ効果的な対応を考えられずにいたのである。
そんな状況を打破したのが、もう1つの狙いーー大学院での研究を進める為に、ある大それた実験を考えた彩その人であった。
実験のテーマは、『周りの状況の変化と、それに伴う心の動き』である。要するに、日常からかけ離れた環境に置かれた人間に、どのような心理的変化が起こるのかを観察しようというのだ。
そして、その被験者として彩が選んだのが、妹である美鈴だった。
美鈴を、あたかも幼い子供の如く扱うことで、その心の動きを追う。そんな計画を、彩は両親が出発するまで心の内に秘めていた。
大事な仕事を控えた彼らに、余計な心配をかけてはいけないと考えたのが理由だ。そして両親が家を後にしてすぐに、まずは執事である康介に事情を説明。
とあるルートから手に入れた精神安定剤を眠る美鈴に2日間投与し続け、部屋の改装を進めた後、今日という日を迎えたのである。

コンコン、と何処か控えめな印象を受けるノックに、彩は携帯に向けていた視線を上げた。

244 :
ドアを開ければ予想通り、Tシャツのみを着た状態の美鈴が立っていた。デニム生地のスカートを胸元に抱えて。

「あれ?スカート穿いてないじゃない」
「らって!……らって、できないんらもん!」
「あ、ボタンかあ。いいよ、お姉ちゃんに任せて?」

ボタンが留められず、自分に助けを求めるであろうことは予想していた彩だったが、そんな素振りは見せずに、美鈴からスカートを受け取る。
そして、今や誰かを頼らなければ着替えも出来ない妹の姿に、胸が高鳴るのを禁じ得なかった。

美鈴の身体の自由が制限されているのも、舌っ足らずなのも、おむつが必要なのも全て、彩の仕業だった。前述した精神安定剤の投与の際、彼女は続けて特殊な筋弛緩剤も投与していたのである。この『特殊な環境』を、よりリアルに近づけるために。
それによって手足の筋肉には力が伝わりにくくなり、舌も回らなくなった。今の美鈴には、小さな子供ほどの運動能力しか残されておらず、括約筋にまで薬が作用しているために、僅かな尿意に対しても、我慢の効かない身体になってしまっているのだ。
だが、そんな事を美鈴が知っているわけもない。だから、スカートのボタンを留めてもらいながら、美鈴は不満で口を尖らせる。

「ねえ、ぱんちゅないの?」
「パンツ?まあ無いわけじゃないけど……」
「みす……あたし、もうこーこーせーなんらよ?おむちゅなんていやない!」

自由にならない舌で、それでも美鈴は必に主張する。もう私は高校生なんだ、おむつなんて要らないんだ、と。
そうでもしなければ、まるっきり変わってしまった周囲の環境に、呑み込まれてしまいそうだった。

「そっかー、高校生のお姉さんになった夢でも見たのかな?
でも、まだパンツは早いってお姉ちゃんは思うんだけどな」

だが、必の主張も彩には通じなかった。薄い笑みを顔に浮かべて、彩はその細い指で、美鈴の髪の毛をゆっくりと梳いていく。

「さ、早く行かないと朝ごはん冷めちゃうよ。パンツがいいなら、まずはおもらししないように頑張りなさい」
「むー……」

ほら、と差し出された手を、美鈴は渋々といった様子で掴む。なんだか次第に、彩のペースに逆らえなくなっている気がする美鈴だった。

245 :
1階に降りてダイニングへと連れて行かれた美鈴は、用意されている食事……というより食器も変化していることに気付いた。
「こえ……」
「ん?もしかしてりんごジュースの方がよかった?」
「そうじゃなふわぁ!?」
不意に後ろから抱き上げられて、美鈴は言葉を途中で飲み込んだ。首だけで振り向くと、いつの間に背後にいたのか、恰幅の良い女性が微笑んでいた。彼女が美鈴を抱き上げたようだ。
「ほらほら、美鈴様。今日の朝ごはんはお姉様が作って下さったんですから、きっと美味しいですよ」
「れ、れーこさん!?」
れーこ改め家政婦の高松玲子は、椅子の上に美鈴を座らせる。その椅子も普段の物とは異なり、少し高めに作られている子供用の椅子だった。
確かに平均をかなり下回る程の身長しかない美鈴にとって、普通の椅子では低く感じるとこは多々あったが、こんな椅子を使用していた記憶はない。
「あ、玲子さん。美鈴ちゃんのエプロン忘れてたわ。お願いできる?」
「承知しました。少しお待ち下さいね」
作るわけでもないのに、何故エプロンが必要なのだろう。そんなことを考えていた美鈴だったが、キッチンから戻ってきた玲子の手にある物を見て、唐突にその真意を理解した。
「やあ!そんなのいやない!」
「ダメよ。お洋服汚したらどうするの?ーー玲子さん、着けてあげて」
美鈴の反抗も気にせず、彩の指示が玲子に飛ぶ。
「さ、美鈴様、ちょっとだけおとなしくしていましょうね」
エプロンを持った玲子の手が、美鈴の首元に迫る。なんとかその手を阻もうとする美鈴だが、玲子は特に意に介さず、紐の両端を美鈴の首に緩く巻きつけて後ろで結んだ。
赤ちゃんの涎掛けのように、美鈴の胸元を大きく覆うエプロン。可愛らしいキャラクターが刺繍されたそれは、機能も涎掛けと同じだった。
「これでお洋服が汚れる心配も無くなったし、食べよっか。お腹空いたでしょ?」
「……」
憮然といった表情の美鈴から、返事は来なかった。ここまでの勝手な展開に対する、美鈴のささやかな抵抗だった。
「朝からご機嫌斜めねぇ」
「……ふんだ」
とにかく、さっさと朝ごはんを済ませてしまおうと、目の前に置かれたフォークに手を伸ばす。
(これもちっちゃい子が使うようなデザイン……。ホントにどうなってるの?)
改めて自分が使う食器を見る。パンの置かれた皿も、目玉焼きやソーセージの乗ったトレーも、オレンジジュースの入ったカップも、何もかもが自身の年齢に似つかわしくない、幼いデザインの物ばかり。

246 :
(た、食べにくい……)
気を取り直して食事を始めた美鈴は、自分が考えていた以上に、身体の自由度が下がっていることを痛感することになった。
まず、普通にフォークを3本の指で挟むことが出来ない。フォークを挟んで支えるだけの握力が失われているのだ。
なので美鈴は、握りこぶしを作る時のように、全ての指でフォークを持たなければならなかった。まだ食器を上手に扱えない子供と同じように。
さらに、慣れない持ち方をしているせいか、食べ物を突き刺して口元に持ってくるのも一苦労だった。
「あっ」
「あらあら、やっぱりエプロンしておいてよかったみたいね」
結局、朝食の時間に何度、食べ物を取り落としたり、汁を跳ねさせてしまったことだろう。ようやく食べ終わる頃には、美鈴の口元やエプロンは幾つかのシミで彩られていた。
「ごちそうさまでした、は?」
「……ごちとーたまでちた」
最後にエプロンの端で口を拭ってもらい、羞恥に満ちた朝食の時間は終わりを告げた。エプロンを外され、椅子から降ろされると、美鈴は小さくため息をついた。
「さてと、お姉ちゃんはちょっとやる事があるから……」
「あたちもへやにもどゆ」
「そっか。お姉ちゃんもお部屋にいるから、何かあったら呼ぶのよ?」
姉に手を引かれて部屋に向かう中、美鈴は自分の周りで何が起こっているのかを考えていた。
(初めはお姉ちゃんが変なのかと思ってたけど、どうもそうじゃないみたい)
部屋に着いた後も、彼女の考察は続く。
(玲子さんも今までと対応が全然違ったし、何より……)
顔を上げて、部屋の中を見回す。
(この部屋も、さっきの食器も。まるで前からこれが当たり前だったみたいな感じがする)
部屋の隅に置かれている箱。その中に詰め込まれているぬいぐるみの内、1体を抜き出した。よく観察すると、ぬいぐるみの足の裏にはマジックで『こうさか みすず』と自分の名前が書かれている。
何だか、急に怖くなってきた。
もしかしたら、これまでの記憶は夢で、本当の自分はまだおむつも外れていない子供なんじゃないか。もしくは、パラレルワールドにでも来てしまったんじゃないか。そんな不安が押し寄せる。
(ううん、そんな事はないはず。だってあたし、高校生だもん。そりゃ、身体はちっちゃいけど、さ)
美鈴は頭をブルブルと振って、ベッドに腰掛けた。気分転換に何かをしょうと思い立った彼女は、では何をしようかと視線を彷徨わせる。
(そうだ!そういえばあの時……)
ーー『パンツ?まあ無いわけじゃないけど……』ーー

パンツがいい、と主張した時の彩の返事を思い出す。確かにあの時の姉の答えは、どこかにパンツがあるというニュアンスのものだった。

247 :
(さっきはショックが大きすぎて、あんまりよく見たりはしなかったけど……)
勢いよくベッドから立ち上がった美鈴は、先程も中を確認したクローゼットに再び手を掛ける。意を決して引き出しを開ければ、ついさっき見た時と同じで、幼いデザインのTシャツやブラウスで溢れかえっていた。
(この段には無い、かな)
次々と、しかし今回はじっくりと詰め込まれた服を観察しながら、引き出しを開けていく。そうして、1番下の段を引き出した時だった。
「あっちゃ!」
思わず、美鈴の口から声が出る。布の塊を掴み出して広げると、それは確かにパンツだった。
ーーパンツではあったのだが。
(やけに厚ぼったいパンツね)
もう柄に関しては、大方予想が付いていたので特に驚きは無い。だが、全体的にモコモコと厚ぼったく作られているのは予想外だった。
実は彩の言う『パンツ』は、普通のショーツではなく、トイレトレーニング中の幼児が使うようなトレーニングパンツを指していたりするのだが、一高校生の美鈴にそんな事が分かるはずもない。
だから美鈴は、すぐさま今まで穿いていた紙おむつを脱ぐと、取り出したトレーニングパンツに足を通した。そしてそのまま腰まで引き上げる。
(何か変な感じ……)
妙に肌触りのよい内側の感触や、ヘソのすぐ下までを覆うモコモコとした感触に、未だ違和感を拭えない美鈴ではあったが、おむつを脱ぐ事でようやく、自身の意思で物事を進められたような気がしていた。
……ほんの少しだけ、起きた際に脱がされたおむつの、黄色く染まった内側の光景が頭をよぎったが、その記憶を美鈴は強引に押しした。
そうして、何とか心に余裕を持てた美鈴は、改めて部屋にある物に目を向けた。
ふと、本棚が目に留まった。何か面白い本でも無いかと、美鈴は背表紙を目で追い始める。
(なんだ、絵本ばっかり)
美鈴の期待は、すぐに消えてしまった。本棚にあるのはほとんどが絵本で、その他に幼児向けアニメのDVDやそのキャラクターブックがあるだけだったのだから。
とはいえ、他に暇を潰せそうな物は無い。たまには新鮮でいいか、と美鈴は絵本を1冊本棚から抜き取った。


それから、10分程後のこと。
「ど、どーしよ……」
美鈴は呆然とした様子で、小さく呟いた。視線の先には、先程まで自分が座って本を読んでいたベッドがある。

248 :
よく見ると、まさに美鈴が腰掛けていた辺りが、水でも零したような染みで黒ずんでいた。
(何で……?)
突然の出来事だった。
(……全然、我慢できなかった)
初めは、僅かに尿意を覚えただけだ。別に、危機感を覚えるまでもない程の。
ーーそのはずだったのに。自分の意思に関係なく下腹部に妙な温かさを感じたのは、それからすぐのことだった。
慌てて立ち上がった時には既に遅く、トレーニングパンツのみならず、そこから漏れ出したおしっこで座っていたベッドまで濡らしてしまっていた。
(こんなところ見られたら……)
「美鈴様ーー?」
「!!?」
不意のノックに、美鈴の心臓が跳ね上がった。遅れて聞こえてきたのは、まだ若い家政婦の声。
「お休み中すみません。お布団とシーツを干してしまおうと思うのですが、入ってもよろしいでしょうか?」
「え、あ、あの」
突然の事で、咄嗟に言葉が出てこない。頭の中が真っ白になる。
「美鈴様ー?……失礼します」
一向に返事が来ないのを不審に思ったのだろう。遠慮がちな家政婦の声に続いて、ドアを開けるガチャリという音が美鈴の耳に届いた。
その音でようやく我に返った美鈴だが、ドアを止めるまでには至らない。
「美鈴様、いらっしゃったんですね」
「あ、えと、らめ!らめなの!」
「? 何がですか?」
美鈴の声に首を傾げながら、シーツを取ってしまおうとベッドに目を向けた家政婦。当然、美鈴の失敗の跡が彼女の目にも留まってしまう。
「……美鈴様?ちょっとこちらに来ていただけますか?」
「……いや」
「じゃあ動かないでくださいね」
「やあってばぁ!」
ふぅ、と1つため息をついて、家政婦は美鈴の前で座り込んだ。逃げようとする美鈴だったが、能力の落ちた脚ではそれも叶わない。
家政婦はそんな美鈴の両脇に手を差し入れて、自分の膝に座らせる。そして美鈴のスカートをパッと捲り上げた。
「あら、今日はパンツのお姉さんなんですね。ーーいや、勝手に穿いたんですか」
「……」
家政婦は美鈴がパンツを穿いているのを不思議に思っているようだったが、部屋の隅に脱ぎ捨てられた紙おむつを見て、納得顔になった。
「気持ち悪かったでしょう?すぐきれいにしてしまいますからね」
「じぶんでやう!」
「いえ、私は彩様から、ご本人が手を離せない際の美鈴様のお世話を仰せつかっております。お任せくださいね」
家政婦はそう言ってニッコリと笑うと、美鈴のぐっしょりと濡れたトレーニングパンツに手を掛け、クルクルと丸めるようにして脱がせていく。
おむつの時よりもはっきりと、おしっこの色が残るパンツのクロッチを目にして、美鈴の頬がカッと赤くなる。

249 :
「トレーニングパンツはあんまり沢山しちゃうと、漏れちゃいますから。全部出る前にトイレに行けるようになるまでは、おむつにしましょう?」
「……とえーにんぐぱんちゅ?」
身を焼くような羞恥で顔を伏せていた美鈴は、聞き慣れない単語に、僅かに顔を上げた。
「はい。もう少しお姉さんになれたら、穿かせてあげますよ。今回のようにいっぱい出ちゃったら漏れてしまいますけど、おちびり位ならおむつみたいに吸収してくれますから」
「じ、じゃあふちゅうのぱんちゅは?」
恐る恐るといった様子で、美鈴が尋ねる。それに対する答えは、直ぐに返ってきた。
「ありませんよ?美鈴様にはまだまだ必要無い物のようですから」
どこか嘲るような雰囲気を乗せて、若い家政婦は言い聞かせる。
その言葉が悔しくて、恥ずかしくて。
「ふじゃけないでよ!!あたしはもうこーこーせーなの!おむちゅなんていやないんらからぁ!!」
「み、美鈴様!?」
美鈴がここまで声を荒げるとは予想していなかったのだろう、家政婦は目を丸くして言葉を飲み込んでしまう。
「いっく……!なんれ……なんれよ……!!うわあぁぁぁぁん!!!」
「み、美鈴様、落ち着いて……」
家政婦に言葉をぶつけているうちに、いつしか美鈴の目には大粒の涙が浮かんでいた。今日が始まってから抱いてきた、不安や不満といった感情が、堰を切ったように溢れ出したのだ。
(ど、どうしよう……)
そんな美鈴を前にして、家政婦は困惑の色を隠せなかった。
たしかに、彩からはこの実験の説明を受けていたし、美鈴の心がどう転がるかはわからないとも言われていた。しかし、ここまで美鈴が感情を爆発させるとは予想していなかった。
ーー美鈴が直情的な人物であることは、身に染みて分かっていたはずなのに。
「あらあら、騒がしいと思ったら……」
「あ、彩様!」
そんな状況に助け舟を出したのが、姉である彩だった。美鈴の泣き喚く声を聞きつけて、やって来たらしい。
「美鈴ちゃん、どうしたのかな?」
「うえええええ……!!ヒック、ぐす……」
「ごめんね、北條さん。美鈴ちゃんは私が見てるから、洗い物お願いできる?」
「は、はい!」
ちょっとやそっとでは泣き止みそうにないと判断して、彩は傍らの家政婦ーー北條尚美に布団など洗濯物を持っていくよう指示を出した。その指示の裏に、一度この部屋から離れろという真意があることを読み取って、尚美は慌てて部屋を後にする。

250 :
それから、どうやって宥めたのか。

「入っていいわよ?」
「は、はい。失礼します」

数十分ほどして、尚美が再び美鈴の部屋を訪れた時には、彩の腕の中で美鈴は既に安らかな寝息をたてていた。その寝顔からは、先程のような激情は見受けられない。

「きっと泣き疲れたんでしょうね。あの後もずっと泣いてたんだけど、おとなしくなったと思ったらすぐに寝ちゃったわ」
「……申し訳ありませんでした」

薄く笑いながら妹を見下ろす彩に、尚美は頭を下げた。

「いいのよ。あなたがこの子にどんな感情を抱いているのか、わからないわけじゃないし。
ただ、必要以上に美鈴を辱めるのはダメ。私の実験に支障が出ちゃうからね」
「は、はい!」

尚美の返事に満足げなひょうじょうを浮かべて、彩の視線は再び美鈴に注がれる。

「よいしょっ……と。この時間だし、またすぐに目を覚ますでしょう」

寝ている人間というのはそれだけで、脱力しているため重たくなる。彩から美鈴の身体を預けられた尚美は、その重みに何故か心臓がドクン、と高鳴るのを感じた。

「その後はお願いね、北條さん?」
「え、あ、はい……」

しどろもどろになりながらも応える尚美の様子に、彩はくすっと笑いをこぼした。


(環境の変化が、心をどう変化させるか、か……)

美鈴の部屋を後にして、自室へと戻る間に頭をよぎるのは、この実験のメインテーマ。

(……被験者は、1人に絞らない方がいいのかもね)

ふと浮かんだアイデアを、彩は歓迎する。多少の誤差も、突然湧いて出る可能性も、今ならマイナスにはならない。
だって実験はまだ、始まったばかりなのだから。

251 :
お久しぶりです。>>222を書いた者です。
今回続きをアップするとともに、名前欄にタイトルも入れてみました。
とりあえずこれで第一部は終了です。お目汚し失礼しました。

252 :
>>251
素晴らしいおむ汚し、ご苦労さまでした!
次回も凄まじいおむ汚し期待してますよ

253 :
( ・∀・)イイ!!
第2部に期待がかかる!

254 :
Very G・J!サンクス(・∀・)ノ
*>243の執事と彩さんの会話のは、こうした方が読みやすいのではないでしょうか?
「失礼します。あの、美鈴様は……」
しっかりとドアを閉めると、康介は声を潜めてそう聞いた。
「自分で着替えるって言うから、任せたわ。まああの子に、ボタンが留められるかは分からないけど」
それに対する彩の答えは、語尾に僅かな笑いを含んでいた。

255 :
今後に期待
胸が熱くなるなー

256 :2013/04/26
保守揚げ
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