2013年10エロパロ595: おんなのこでも感じるえっちな小説11 (419) TOP カテ一覧 スレ一覧 Pink元 削除依頼

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おんなのこでも感じるえっちな小説11


1 :2010/02/06 〜 最終レス :2013/10/04

このスレッドは女の子でも感じるえっちな小説を投稿する場所です。
男×女・オリジナル限定。二次創作・百合・801は該当他スレへ。
なお、血縁のある近親相姦はアウトです。
 なんか「おま○こ!」とか直接ドーンと言ってるのも冷めるけど、
 「秘密の果実」とかとおまわしすぎるのもかなりわらっちゃう(笑)
 オトコノヒトにちょっとSっ気があるとなお萌えvv(笑)
              (スレ1の1さん=ナナさん発言より抜粋)
■注意事項
 自薦他薦を問わず、他スレ・HP・書籍等の小説紹介はご遠慮下さい。
 ただし、投稿された方がHPをお持ちで縮刷版からのリンクがOKな場合は、
 縮刷版管理人までメール下さい。
 また、当スレ投下と同じ登場人物で他スレに投下されている小説に関して、
 「コテトリ付きでご本人様からスレ上で紹介」して頂くのは全く問題なく、
 この場合は、住人一同、とても喜びます。
 なお、(緊急避難用スレを除く)他スレやHPからの転載投稿は不可、
 あくまでネット初出限定です。
■前スレ
 http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1250127662/
■過去スレ一覧
 http://www2.gol.com/users/kyr01354/bbsstory/kako.html
■おな感縮刷版(まとめサイト)
 http://www2.gol.com/users/kyr01354/bbsstory/

2 :
          _人人人人人人人人人人人人人人人_
         >      ごらんの有様だよ!!!  <
           ̄^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^
_______  _____  _______    ___  _____  _______
ヽ、     _,, '-´ ̄ ̄`-ゝ 、   ノ    | _,, '-´ ̄ ̄`-ゝ  、  |
  ヽ  r ´           ヽ、ノ     'r ´           ヽ、ノ
   ´/==─-      -─==ヽ   /==─-      -─==ヽ
   /   /   /! i、 iヽ、 ヽ  ヽ / / /,人|  iヽヽ、   ヽ,  、i
  ノ / /   /__,.!/ ヽ|、!__ヽ ヽヽ i ( ! / i ゝ、ヽ、! /_ルヽ、  、 ヽ
/ / /| /(ヒ_]     ヒ_ン i、 Vヽ! ヽ\i (ヒ_]     ヒ_ン ) イヽ、ヽ、_` 、
 ̄/ /iヽ,! '"   ,___,  "' i ヽ|     /ii""  ,___,   "" レ\ ヽ ヽ、
  '´i | |  !    ヽ _ン    ,' |     / 人.   ヽ _ン    | |´/ヽ! ̄
   |/| | ||ヽ、       ,イ|| |    // レヽ、       ,イ| |'V` '
    '"  ''  `ー--一 ´'"  ''   ´    ル` ー--─ ´ レ" |

3 :
>>1
乙です

4 :
            _   ヵ、     ,.へ
         _∠  ,メ、 `ー――'   ヽ
    ___r-'´   、  `└-------ァ  /
  ∠ -ァ l      \    ヽ \ / /
   /  〉、、     ヽ弋  /レ'´/  /
  ./ /   | \l\X   \Y | /  /      |\
 /ノ|  ト|-   ̄  \   !_/ノ |  {         j  ヽ   こ、これは>>1乙じゃなくて
 '′| l l、!    、_入 |t j   ',  `ー――‐"  ノ    ポニーテールなんだから
    l ト | ハ-‐′   ̄  Yー'   ` ----------‐´    変な勘違いしないでよね!
   V ヽ! .}〃' r‐'>""ィ)、
        `ー‐ ̄ィチ ///「 ̄ト、
        rΤ「|Y// |   ! \

5 :
>>1
お疲れ様

6 :
>>1 乙です

7 :
>>1さん
乙です!!

8 :
すみません。
手違いで、前スレにSS投下しました OTL
(512KB表示で気がついた……)
 854 名前:精一とユキの話 2[sage] 投稿日:2010/02/12(金) 00:43:30 ID:RqUjbYwC
 >>1さん、乙です
 即回避に……
 エロ(あっさり目)有
 ユキは出てきません。
 暗いです。
 すみません
 今さらですが、
 NGワードは タイトルか、IDで
 本文投下は 9レス です
…………
2レス分投下しましたが、
新スレ即回避用に、
最初からもう一度投下します。
ごめんなさい

では、最初から。。。

9 :
                         
カナダへ短期留学に行ったユキが帰国するまで、あと半月。
ユキが出発の前日切ってくれた髪は、すぐに伸びた。
仕方なく昔オヤジに連れられて行った床屋に久しぶりに行ってきた。
結果――しばらく帽子が手放せなくなってしまった。
今は伸びてきて、寝癖がつきやすくて困るものの、帽子はかぶらずにすむようになったんだが。
ユキに会ったら、思い切り笑われるだろうなあ。
あと半月の辛抱なんだが……。
ちょっとした約束をした所為で、思っていた以上にこの3カ月を長く感じるハメになった。
『俺のことは忘れろ』
この話をした時、ユキは初めのうちは意味がわからない、と泣いてあげくにケンカのようになった。
――電話もかけてくるな。
――手紙もいらない。
俺とのことは無かったことにして、あっちでの生活に集中しろ、と。
学生のユキに、できるだけたくさんの経験をさせてやりたいと思ったからだ。
俺とユキとは16の歳の差がある。
俺は大学生活も会社勤めも恋愛も一通り、まあ平凡にそれなりの経験をしてきた。
けれどユキのほうは、これからなのだ。
俺の存在が、それを取り上げてしまうようなことはしたくない。
俺とのことで、あいつの大切な時間を潰したくなかった。
ユキを離したくない。でも、束縛したくはない。
だから、日本での煩わしいことから切り離して、思い切り楽しんで来てほしかった。
学生としての時間を謳歌する時に、思考の中から「俺」という項目を外させたかったんだ。
けれど、実際ユキがいなくなって堪えたのは、待つ身になった俺の方だった――。
会えないからなのか、最近は、何故かよくユキの小さい頃のことを思い出すようになっている。
5歳から1年生の頃は、遊んで欲しいと、よく俺の部屋のドアからそっと顔を覗かせていたこと。
しょっちゅう俺のオヤジの晩酌に付き合っていたこととか。
オヤジは自営だったから、晩酌を始める時間が早く、ユキのおやっさんは会社勤めで帰宅は遅かった。
だからユキは、寂しくていつもウチに入り浸っていたんだろうな。
ユキがオヤジの胡坐にちょこんと座った様子は、まるで親子のようだった。
中学生になる頃には、挨拶すらもぎこちなくなった。
思春期なんだ、ってそう思っていた。
そのころには結婚を考えていた相手がいたから、俺の方はユキのことは、
可愛い妹としか思っていなかったからなあ。
それでもユキは、月に一回は、必ず俺の髪を切りに来てくれていた。
母が亡くなってからも。
それが、アイツの、唯一の気持ちを伝える手段だと、その頃からわかってはいた。
けれど、ユキにとって俺はただの隣のお兄ちゃん(現に小学生まではそう呼ばれていた)で、
しいて言えば憧れられてるだけだと思ってた。
高校生になった頃も、ユキが俺を男として見てんのかが、わからなかった
彼女と別れて、次の年母が亡くなって……ひとりでもいいと思っていたし。
もう、何も、誰もいなくていい、と思っていたからだ。

今日は、4年前に亡くなった大学の恩師の墓参りに来た。
車で片道3時間もかかるが、葬儀以来ずっと来ることができなかったから、
どうしても今日の命日に行こうと思い立った。

10 :
                      
午後に自宅を出たのは、墓参の親類縁者に顔を会わさずに済むと思ってのことだ。
秋の陽の傾く中、4年ぶりに恩師である辻先生の墓前に手を合わせることができ、まずほっとした。
淡く朱色を刷いたような秋独特の夕焼け空を、鳥が2羽横切っていく。
もうすぐユキが帰ってくるんだな。
墓地を抜けたばかりの寂しい場所でさえも、不謹慎だが空を仰げば胸が弾んだ。
空を仰いでみるようになったのは、ユキがカナダに行ってから。
カナダの空も日本の空も、続いていて、同じだからだ。
この3ヶ月、空を仰いでみては、ユキを想っていた。
ユキの存在をリアルタイムで感じられる気がする。
「精一」
いつのまにか彼女がすぐ傍に立っていることに、全く気づかなかった。
聞き覚えのある、少し高めの落ち着いた声に、頭にあったユキの存在が一気に消し飛んだ。
その代わりに血が昇った。
「精一……よね?」
俺は黙ったまま、ゆっくり声のほうを振り返った。
「…………うれしい。来てくれたのね」
「みやこ……」
恩師の妹の美夜子が、俺の腕に華奢な手のひらを添わせてきた。
俺より2歳年上の美夜子は、かつて結婚を考えていた人だ。
卒業した後も、時々ゼミの仲間と先生宅で集まっていて、当時、
先生と同居していた彼女とそのたびに顔を会わせていた。
そうするうちに、俺と美夜子は、付き合い始めた。
「やっと来たんだ……葬儀以来……だよ」
「兄さん、よろこんでるわ」
微笑した美夜子の顔は、前より少しやつれたように見えた。
「美夜子は、これから帰るの?」
「え……ええ。今日はこちらで泊まって、明日自分の家に帰るわ」
美夜子が旅行鞄を持っているのに気付いた。
俺と同じように、ここに着いてあまり時間がたっていない、ということか。
美夜子の実家は、ここから歩いて20分程かかるところだったことを思い出した。
「送っていくよ。もうすぐ日が暮れるし」
「…………え……え。お願いしようかな」
「じゃ、車、乗ってよ」
できれば会いたくなかった、というより、会うのが怖かったひとだ。
会ってしまったら、自分が美夜子に対して冷静でいられるか自信がなかった。
けれど、意外にお互い穏やかに話ができた。
だから、実家まで送り届けるつもりになった。
実家なら、車で10分もかからないはずだし。
けれど、美夜子は実家ではなく、隣町にある温泉街のある旅館の名を、俺に告げた。
急に、後ろ暗いような不安な気持ちが、胸を過る。
同時に、最後に会った日のことが、蓋をしておいた記憶の底から蘇ってきた。
4年前のあの日、辻先生の葬儀が終わって、俺が帰宅する朝のことだった。
***

11 :
                          
あの日。
突然の訃報を知らせに美夜子がやってきて、急いで俺は実家のあるこの街へ彼女を乗せて、車を飛ばした。
車で3時間の、山間の温泉街の隣町が先生と彼女の生まれ育ったところだ。
ついた日は通夜で、翌日は告別式だった。
早すぎる突然のを、先生の家族は受け止めきれていなかっただろう。
俺も母親を亡くして本当に独り身になり、3年経ったところだった。
だから、残された先生の家族の気持ちを思うと、身内の不幸ほどにやりきれなかった。
俺の家に知らせに来た時は取り乱していた美夜子は、高速を走る頃には落ち着きを取り戻していた。
車の中で、俺と別れてからの4年弱のことを簡単に話した。
彼女は今、服飾関係の仕事で独立する準備をしている、と言った。
それと、子どもを一人かかえて1年前に離婚していた。
その子どもが4歳になることも。
俺と別れる前には、すでに妊娠していたと聞かされ、高速道路でブレーキを踏みそうになった。
……煮え切らない俺にさっさと見切りをつけて、他の男とできていた――下世話な言い方をすれば
そういうことなんだが。
それはそれで、少なからずショックだった。二股かけられてた訳だから。
……美夜子は悪びれるふうもなく、時々笑いながらそんな話をした。
告別式の翌朝、俺の泊まっていた温泉宿に彼女が尋ねてきた。
朝食も済ませて帰り支度をしていた俺は、部屋に彼女を入れた。
布団は部屋の隅に二つに折って、片付けたように見えるし、帰り支度で雑然としてはいたが、
拒む理由もなかった。
「美夜子に会うのは、昨日が最後だと思っていたよ」
できるだけ明るく言葉をかけた。
彼女が俺に目を合わさないようにしていたからだ。
「もう会ってくれないだろうと思っていたから」
と彼女は伏し目がちに言った。
「今さらなのに、ここまで乗せて来てくれて葬儀にも……」
「美夜子のほうこそ。大変だったのに」
「わたしは……」
「知らせてくれて感謝してる。先生にお別れできたし」
「……」
「……美夜子にも会えた」
心からそう思っていた。
もう、会うことはないと思っていたから。
奔放な彼女に振り回され気味に付き合いを重ねてきて、ぷっつり糸が切れた。
少なくとも俺にとって、美夜子との終わりはそんなふうに突然だった。
ある日「結婚したい好きな人がいる」と告げられて、俺は別れを受け入れた。
母の介護のことが頭にあったからだ。
奔放な美夜子に、俺の事情を背負わせて一緒になることは無理だと……もともと
無理な話だと心の奥では思っていた。
だから、自由に自分をさらけ出して生きている美夜子に、惹かれていながら、
いつも欲と嫉妬に苛まれていた。
俺にはできない生き方が羨ましかったんだ。
そういうひとと繋がっていることが、その頃の俺にとって無くてはならないことだった。
そしてその繋がりが不毛なことも、歪な精神状態のままではいつかこの関係が終わるだろうことも、
予想していた。
気づきたくはなかっただけだ。

12 :
                          
「……嬉しかった」
「うそ」
「ほんとうだよ。不謹慎だけど嬉しかった」
初めて顔を上げて俺を見つめた瞳が、濡れたように光っていた。
なんども体を重ねていたあの頃の彼女とだぶって見えた。
背中がゾクリとして、慌てて目を逸らすしかなかった。
あらかた荷物が片付いて、窓のレースのカーテンを閉めた時だ。
不意に美夜子が立って、俺に抱きついてきた。
「抱いて」
「みっ…………だめだよ。美夜子……もう、俺たちは」
「寂しくて……兄さんがいなくなって、寂しくて堪らないの」
「美夜子……でも」
「慰めて欲しい」
「美夜子…………美夜子は、先生を……」
そこまで言った時、美夜子が俺の唇に人差し指を縦に押し当て、言葉を遮った。
触れた指先の熱が唇に生々しく伝わってくる。
「それに……精一には……悪いことしたわ、わたし」
「いいんだ。それより、今、美夜子には……」
「今、カレシなんていないわ。離婚してからね、オトコには懲りたの」
「……そんなひとが、『抱いて』とか言わねえよなー」
わざとおどけ気味に言うと、美夜子は凄艶に微笑んだ。
汗ばみ始めた俺の首に、ひんやりとした腕が絡みついてきた。
「だから、これきり。面倒はかけないわ。ね……お願い」
お願い、の言葉が美夜子らしくない、弱々しい声で吐きだされた。
軽い体の重みを俺に預けてくる。
喉に息がかかって、背中が震えた。
「面倒って……」
「精一こそ、彼女、いるんでしょ。でも、一度だけよ、慰めて欲しいの。ね?」
彼女――。
瞬間、頭に制服姿ユキの姿が過っていった。
バカな。ただのお隣さん、それも妹のような存在なんだぜ?
頭を振って、ユキの残像をキレイに追い払った。
そして目の前の女に、挑むように視線を合わせた。
体中の血が、一箇所に集中し始める。
子どもを産んだとはいえ、以前と変わらない、細い腰を抱きよせた。
美夜子がくたくたとくずおれて、俺ももつれ合うようにその体を押し倒していった。
それから後は、ただ無言だった。
チェックアウトまでの短い時間、ただ貪るように美夜子を抱いた。
若草色のワンピースを捲りあげ、手をもぐり込ませ、乳房を鷲掴みした。
ブラをずらし、こりこりと尖った両方の蕾を指できつく摘まんで捩ると、美夜子が
鋭く抑えた叫び声をあげた。
ショーツはすぐにずりおろして、俺は自分のジーパンの前をくつろげた。
いきりたったモノは、弾むように下着から飛び出してきた。
それを待っていたように美夜子は膝立ちして、胡坐になった俺の上に腰を落とそうとした。
こんなにすぐ、いいのか、と言おうとした時、
「いいの。入れて……もう欲しくて……どうにかなりそうなの」

13 :
                          
泣きそうな顔で、美夜子が哀願した。
俺から視線を逸らさず見つめたまま、美夜子が腰を揺らす。
すかさず手で自分のモノを掴んで、美夜子のそこに先を擦りつけた。
接したところから、粘り気のある湿った音がして、美夜子の眉根がぎゅっと寄った。
「はああ……ああ―――」
俺の目を見つめる瞳がうつろになっていく。
前戯もなく男を迎え入れる美夜子の体に、背筋がぞくぞくとする。
恐ろしく熱い柔肉に飲み込まれていく感覚に、我を忘れる。
「精一……ああ……精一なのね……」
目を閉じて揺れながら、美夜子がうっとりとした顔をして呟いた。
服も脱がず、向かい合い座ったまま、お互いの体が繋がっていく。
深く包まれるほど、何重にもなった襞が蠢いて、繋がりから腰に強烈な痺れが走った。
美夜子が喉を仰け反らせた。
「あ―――っ」
記憶の中にあった、快感に酔った嬌声が目の前の女の声と重なった。
同時に美夜子の中が、びくびくと収縮を繰り返す。
美夜子を抱く腕に力を入れて、力任せに揺すり上げた。
背中の、美夜子の爪が食い込んでいく痛みまでが、快感に変わっていく。
やけに懐かしい嬌声の中で、俺の欲望は簡単に弾けてしまった。
今にして思えば、服の乱れやシワをできるだけつけたくなかったのだろう。
俺がすぐにもう一度美夜子を畳に押し倒した時、その体が起き上がって
四つん這いになった。
我を忘れて行為に夢中になってしまっていた俺と比べて、美夜子の冷静さに
今頃苦笑してしまう。
「精一、もっと、して」
美夜子が艶のある声で囁き、ねだるように腰を振った。
目の前に突きだされた円やかなラインの尻を、迷わず掴んでいた。
あっという間に力を取り戻したモノをなんの躊躇いもなく、そこへ押しつけた。
今放ったばかりの白濁した液体が、のめり込ませるたび押し出されて滴っていく。
「優しくしないで……精一……わたしなんかに」
そんな余裕なんか無かった。
美夜子を気遣う余裕など……それよりも、欲望に負けていた。
「あ……ああっ、ひどく……ひどくして……ね? お願いよ」
美夜子は自分から腰を突き出して、俺を飲み込んだ。
「してっ……してよ、せいいちっ」
ぐちゅぐちゅと音が部屋に響く中、美夜子が苛立つように声をあげる。
まだ気だるさにぼんやりしていた俺は、我に返って一気に美夜子を深く貫いた。
パンと肌の打ちあわされる音がして、愛液と精液の混じった飛沫が飛ぶのが見えた。
浅黒い美夜子のしなやかな体に覆いかぶさるようにして、後ろから胸を掴んで律動した。
「もっと! 突いて……突いて!」

14 :
                  
ばさばさと明るいブラウンのショートヘアを振り乱して、美夜子が叫ぶ。
俺はもう、誰を抱いているのかなんてどうでもよくなっていて、ただ快楽の渦に
飛び込んでいこうとしていた。
目の前に差し出されたエサを貪るただのオスになって、美夜子を犯しているだけだ。
「もっと……もっと奥を……突いてよぉ!……」
啜り泣きのような嬌声が聞こえてくる。
それを耳にしながら、ひたすら奥へと抽送を繰り返した。
獣のように吠えながら――俺は2度目の欲望を放っていた。
欲の塊を吐きだしきった後、自分が空っぽになった気がした。
美夜子の中から離れながら、別れた時の喪失感と虚しさを思い出していた。
誰でもよかったのかもしれない。
そうだ。美夜子が恋人だと思っていた頃から。
誰かに、傍にいて欲しかった。
父親という大きな存在が不意に無くなって、母を支えることも生活していくことも、
あの頃の俺には重過ぎて、受け入れられずにいた。
必にやっているつもりで、本当は空回りしていた。
不安で堪らなかった。
誰かに甘える代わりに、温もりに溺れていただけだ。
弱い自分をごまかしてくれる相手がいれば、それでよかったんだ。
……美夜子も、同じだったのかもしれない。
「美夜子……ごめん」
恋していたのは本当だ。
美夜子は、縋りつこうとすると逃げていく、そういう女だった。
恋焦がれて……俺が一方的に繋ぎとめようとしていた。
「いいの……精一、ありがとう」
美夜子が衣服を整えていた手を止めて、俺の頬にその手を当てた。
視線は、俺じゃなく、たぶん他の誰かを見ているんだろう。
うつろな眼の色が、底の知れない深い穴のように思えた。
だからゆっくり近づいてくる唇に気づいた時、思わずそれを押しとどめていた。
キスなんて、今さらできない気がした。
どうして、という表情になった後、すぐ何か悟ったように美夜子は体を離した。
また衣服や髪に手をやり、何事も無かったように立ち上がった。
これで、終わりだ。
「時間……」
「ああ」
俺も身なりを整え終えて、立ち上がった。
部屋の出入り口に向かった美夜子は、振り返って言った。
「先に、行くわね」
そして艶やかに微笑んだ。
けれど、美夜子の笑顔は以前の彼女の笑顔と、かけ離れたものだった。
もっと屈託のないものだったのに。
「元気で」
「美夜子も」

15 :
                       
……それが4年前のことだ。
だからあの日、夕方帰った自分の部屋のベッドでユキを見つけた時は、かなり狼狽した。
ユキには、離婚していたこと以外は、ウソはついてはいないつもりだ。
確かに曖昧にして本当のことは言わなかった。
けれど、言う必要は無かったと思っている。
あやまちではなく、まして関係が再燃したわけでなく『若気の至り』ってやつだった。
いつか、話す時が来るかもしれないが、できれば話したくない。
俺自身が、思い出したくもないことだから。

車は、辻先生と美夜子が生まれ育った町を過ぎて、隣の温泉街に入った。
「わたし、勘当されたのよ」
まるで他人事のように、美夜子は言った。
子どもは今、離婚した人の元で育てられていて、美夜子には親権はないと言った。
そう言った横顔は、寂しさや悲しさを隠しているように見えた。
彼女や会えない子のことを思って、胸が痛んだ。
先生と美夜子は、親にとって自慢の兄妹だっただろうと思う。
だから余計に、美夜子の奔放な生き方は、親たちの目には放埓な振る舞いにしか
映らなかったんだろう。
それでも、離婚した後も、美夜子は次々恋愛をしてきたんだろうな。
そう言ったら、なんでわかるの、と返された。
美夜子らしいな……苦い笑いしかでてこない。
所々湯の蒸気があがる温泉街のメインストリートを通り過ぎて、山側の風情のある旅館へ到着した。
同時に今、車を下りて、彼女がひとりで泊まるという部屋に向かっていることに、後悔し始めていた。
荷物を持って、美夜子が今晩泊まるという離れの玄関前に来たところで、入るのを躊躇った。
案内してきた仲居さんは、美夜子に何か頼まれて、玄関前ですぐ引き返して行ってしまった。
夕暮れ時、目の前の、木立の中にある瀟洒な建物が、黒く蹲っているように見える。
「すごい……贅沢だなー。離れ、かあ」
「奮発しちゃった。久々の一人旅だもの」
はしゃぐようにしていた美夜子は、急に俯いて言った。
「兄さんと、一緒にいたいと思って……」
「先生と……?」
「そう。せめて今日はね」
玄関の敷居の前に立った時に、急にユキの顔が頭に浮かんだ。
『引き返した方がいい』――迷っているうちに、美夜子の声に急かされて、
部屋に促されるまま上がってしまった。
躊躇いながらも、部屋の中を進んで行き、美夜子の荷物を隅に置いた。
玄関を入って正面は、一面窓、という造りだった。
窓の外の眺望は、半分が向かいの山に覆われて、半分は視界が開けている。
斜面に建てられたこの離れは、少し高い位置にあるんだな。
すぐ下に渓谷が見えて、暗い夕焼けの中で川面が光っている。
部屋を出て、木立の中の下り道を行けば、そこへ辿りつけるようになっていた。

16 :
                                         
「精一も、夕食、付き合わない?」
「…………いや。いいよ、今から帰らないと」
「…………」
不意に美夜子の爪先が畳を蹴ってしなやかに体が弾んだ、と思ったら、
俺の体に美夜子が飛び込んできた。
「帰らないで」
言うなり、肩や背中にきつく腕が回された。
唐突過ぎて、しばらく俺は動けなかった。
艶めかしい匂いや美夜子の体の質感に、俺の体温が徐々に上がっていく。
美夜子は俺の背中からうなじへ手を這わせ、腰のあたりへゆっくり下した。
男だから、こういうことになれば、どうしたって体が反応し始める。
気が焦って、美夜子にやめるように言おうと、顎を上げた。
目の前の窓の外は、山と空のあわいが、同じ黒い色に染まって曖昧になってきていた。
空が――窓の外が夜空に変わっていこうとしているのにようやく気がついた。
急に冷たい水を浴びせられたように、頭がすっと冴えた。
――なにをやってるんだ、俺は。
しがみつかれた体を、ぐい、と引き剥がすようにして押しやった。
そして、あらためて窓の外に見える空を見上げた。
今夜は、新月だったんだな。
爪で引っ掻いた傷のような月が、まだ明るさの残る空に白く浮かんでいる。
そのすぐ下に星が一つ、強い光を放っていた。
いつものように「精さん」とユキの声が聞こえてくる気がした。
ユキ。
この時間、同じ空を見ているだろうか。
「大バカ者だ」
バカか、俺は。
こうなるかもしれないって、わかってただろう?
軽率だった。
ごめん、ユキ。
「精一……」
背を向けた俺に、美夜子がなにか言ったが、聞こえなかった。
「美夜子、俺、帰るよ」
「精一、待って」
「帰る……美夜子、俺たちはもう終わってるんだ」
向き合って、彼女の顔をまっすぐに見た。
彼女は、ひどく疲れた顔をしていた。
「もう、会わないよ……」
そう言って、また美夜子に背を向け、振り向かずに玄関を出た。
「せいいちっ」
後ろからかけられた声が、知らない女の声に聞こえた。

17 :
                  
ひと月後、美夜子が駆け落ち同然に、同業の若い男と海外に行ってしまったことを、
人づてに聞いた。
美夜子は、誰かをずっと追いかけていたのかもしれない。
決して追いつくことのできない、誰かを。

俺のベッドの中のユキを見たあの時、はっきりわかったことがある。
ユキが俺にとってかけがえのない存在になっていたということだ。
あの時は、まっすぐなユキの想いを、欲に汚れた俺なんかが受けとめることは
できなかった。
ユキに触れるのさえ、躊躇うほどだった。
まぶしくて、大切で、絶対に汚してはならない。心からそう思った。

高速のパーキングで一息ついて、紺色の混ざった黒い空を仰いだ。
自分の街で見るよりたくさんの星が瞬いている。
もうすぐ帰ってくるんだな……。
澄んだ夜空は、静謐で、心に染みるようだった。
同じ空を、ユキが俺と同じように仰いでいるのを想像した。
キレイだな、ユキ。
今日のことを話したら、ユキはバカな俺を許してくれるだろうか?
いや、許してくれるまで謝らなきゃだめだな。
空の下で、ユキが笑って手を振っているのが目に浮かんできた。


===終===

18 :

前スレ埋まりました……OTL
ああもう……

ありがとうございました
誤字脱字すみません

19 :
前スレ梅、乙で〜w
美夜子さん、色っぽいな。
グッと堪えた精さん、GJ!!
投下ありがとでした!

20 :
GJ!!早くユキちゃん帰っておいで〜

21 :
>>18
乙ですー!同じくユキちゃん帰ってきてーーな気分w
精さんってば若気の至りとはいえ濃いいw

22 :
>>18
GJです!!
精さんのオトナなエピもイイ!
純粋なだけじゃないよな、オトナは。
だがそこがいい
前スレ埋めも乙ですよ。

23 :
GJ さすがオトナの男だけある過去な感じだたw

24 :
もう一回、即回避に。
これで30レス以上!に。
圧縮対策にはならないかも、ですが。
本文投下は 13レス です
投下します。

25 :
                  
長かった――。
10月半ばになろうという今日、ユキは帰国する。
留学、といっても夏休みを利用した、3ヶ月の語学短期留学なのだが。
短期間でも、きっと得がたい経験をたくさんしてきたに違いない。
海を越えて友人もできたかもしれない。
出発時のユキから、一回りぐらいは成長しているのではないか。
……などと、親のような気持ちになってしまう。
しかし、長かった。
そう思えてしまう自分が、我ながら情けない。
長いと感じさせるようなことを、ふたりの間に課したのは俺のほうなのに。
『俺のことは忘れて、あっちの生活に集中してこい』
そう言って、電話も手紙ももちろんメールのやりとりさえも、止めることにした。
泣いて嫌がったユキは、留学の前にしたその約束を、ちゃんと守り通した。
***
到着ロビーでユキが出てくるのを待っているが、ずいぶんと長く待たされている気がする。
あ――。
「ユキ!」
柄にもなく手を大きく振ったしまった。
駆け出しそうになるのを辛うじて踏みとどまる。
「精さんっ」
耳慣れたユキの声が、それまでの俺の周りの雑音を一瞬のうちに消した。
俺を見つけたユキが、ぱあっと花が咲いたように笑って、走り出した。
胸が熱くなる。
駆け寄ってくるユキを抱きしめたい、という衝動を慌てて押さえ込む。
「精さん、ただいま!」
「おかえり」
ドラマなんかじゃ、ここでハグして、キス……なんだろうけど、俺にはムリだ。
妙に気恥かしくて、ユキの頭をくしゃくしゃと撫でるしかなかった。
「元気そうで、安心した」
「精さんも」
ユキの様子にどこも変わりないようで、まずはほっとした。
肌が白くて、日焼けも度が過ぎると火傷にみたいになってしまうユキが、
薄く日焼けしていた。
見るからに健康そうだ。
やっぱり、ユキも照れているのか、頬がうっすら赤くなっていた。
「んくっ……ぶっふふふ!」
「な、なんだよー」
「……髪の毛……ふふふっ。明日、すぐ切ろうか?」
「……おねがいします。ぜひ。てか、そんな笑うなよー」
「ご、ごめ……」
「ったく……さあ、行くぞ。おやっさんとおばさんが家で待ってる」
「うん」


26 :
                           
薄闇に残照を浴びた空港の駐車場から、車で走り出す。
「疲れただろ、家に着くまで30分……ラッシュ時だから50分か。寝ていけよ」
「ううん。ぜーんぜん眠くない。久しぶりに精さんとふたりきりなのに、寝られますか」
少しおどけた調子で言うユキの言葉を、俺は妙に意識してしまった。
……いやいや。寄り道はしないぞ。何考えてんだ、俺。
おやっさんは今日仕事だから、帰宅は7時頃だ。
それまでにはユキを送り届けなければ。
ただ、帰宅したら、今日はもうユキとふたりでゆっくりする時間は無い。
家族で無事の帰宅を祝うんだろうから。
ユキの言うとおり、この車の中の時間だけが、唯一ふたりだけの時間になるわけだ。
「じゃあ、なんか話せよ。聞くぞー。お前の土産話楽しみにしてたんだ」
「うーん、そうだなあ。それじゃあ……」
ユキの声がすぐ傍で聞こえる。
写真だけはおばさんが見せてくれたから、元気な姿は何度か確かめた。
一度、遠慮する俺に、おばさんが電話をむりやり代わってくれたことがあったな。
ユキの声は、あの時以来だ。
耳がくすぐったいような感じがする。
聞きなれた声が、体に染みていく。
「……ねえ、精さん」
急にユキの声の調子が低くなった。
「このまま、帰りたくない」
「は?」
「……どこかで……家に帰る前に……」
体温が、上がる。
ユキが何を言おうとしているのか、すぐ理解した。
本当は、俺だって同じ気持ちなんだが……。
運転に集中しようと、思わずハンドルを握りなおした。
「おばさん待ってるぞー。早く元気な顔を見せてやらなきゃな。だから寄り道は無し」
「……嫌だ。精さん、出かける前も忙しすぎて、キスとハグだけだったじゃん」
「ま、まあな。でもそれで充分だろ。これからいつでも、嫌でも会えるわけだし」
「私たち、それがなかなか難しいんだから。いつも会っててもふたりきりにはなれない」
いっそ自宅を出て、どちらかがアパートなんかを借りてれば、こんな悩みも無かったかもな。
家が隣同士で、ユキは家族と同居。
ユキの両親は俺の親も同然で、俺とユキが付き合ってるのは了解済みだ。
だから、いいかげんなことはできない。
親のそのまた親の代から住んでいるから、近所の目もある。
ユキが、一人暮らしの俺の家で夜を過ごしたり、夜分に長いこと俺の家にいるのも
やっぱりマズくて、気を使う。
そんなんだから、赤ん坊の頃からの付き合いの隣同士という関係は、いいようで、
なんだかもどかしいものだった。
とにかく、だ。
不誠実なことはしたくない、と俺はいつも思っている。
それは、頑固な父をもったユキも同じだった。

27 :
                           
最後にユキとふたりきりでゆっくり過ごしたのは、出発する半月ほど前だったか。
忙しくて、そういう時間を作るのが難しかったのと、
良いのか悪いのか俺が自制したためだ。
ユキが、留学のことだけに集中できるようにしたかったからだ。
「ドイツ人のルームメイトがね……彼が会いに来た日……彼女は丸2日、帰らなかったの」
「うん」
「ステイ先のパパやママには嘘をついておいてあげたんだから……私、すごく寂しかった」
「……」
「……精さんとの約束、ちゃんと守ったんだから」
「うん」
最後の方は、泣くのを堪えて声が震えているみたいだ。
泣かせるつもりはなかった。胸がチクチクする。
それに、無事に帰って来たユキを泣かせたくなかった。
「……じゃあ」
家に帰るのには、まっすぐ行って国道へ出るんだが…………
俺は、ハンドルを切った。
30分くらいは時間の余裕がある。
下心じゃねえぞ、と自分で自分に言い聞かせる。
だが、こんなに近くにいて、指一本触れずに帰してしまうほど、俺は紳士じゃない。
3か月ぶりに会えたんだ。
抱きしめて、久しぶりのユキの体の温かさを確かめたい。
「空港の滑走路が見えるところがあるんだ。
 飛行機が離陸していくのが見えるところ」
「え……?」
「それを、見ていこう」
「……?」
何言ってるんだろう? って顔をこちらに向けて、ユキが俺を見つめている。
「…………ちゅーぐらいはできるぞ」
「っ……ちゅー、って……もー!」
おどけて言う俺の左腕を、ユキがぽん、と叩いた。
キスだけだ。それだけなら帰宅するのに差し支えないだろう。
「精さん……それ、オヤジ感まるだしだって」
「どうせオヤジですよ。爺さんよりはましだろー」
「あんまりかわんないよ」
「ひっでえー」
隣ですばやく涙を拭いたのがわかった。
ユキは怒ったような声で聞いてくる。
「……ちゅーだけ?」
「ちゅー、だけ。いや、ハグもあり」
「……その、先は?」
「また今度」
「えー! またキスとハグだけぇ?」
抗議の声があがるが、それはやっぱりおどけた調子だ。
その後から、くすくす笑う声がしてきた。
ユキの声だ。それを聞けば、いつも幸せな気持ちになる。
まわりの空気が柔らかなものに変わって、俺を包み込んでくれる。

28 :
              
浮ついた気持ちを運転に引き戻し、アクセルを少し踏み込んで、ゆるい斜面を登っていく。
「すごい……」
少し傾斜した場所を超えれば、すぐ目の前が開けてくる。
空港の敷地とこちらを区切るフェンスの向こうに、夕闇に点々と光が散っている。
その空き地の隅の、フェンスの間際に、車を着けた。
空き地には、反対側の隅にもう1台先客が停まっているだけだった。
フェンスの向こうは、コンクリートの断崖絶壁だ。
見えている滑走路は遠く感じるが、空き地が空港よりも高い位置にあるので、
かなり見渡せる。
見物には程良い距離だった。
紫色の仄明るさの中、ちょうど、小型の飛行機が離陸していくところが見える。
ジャンボジェット機ではないが、会話も聞こえないほどの騒音が
滑走路の誘導灯も震わせるようだった。
窓を閉めて、エンジンを切る。
日没だし10月だから、暑くは無い。それより轟音がすごい。
ユキは、飛行機の大きな後ろ姿を、首を傾けてじっと見入っている。
そんな仕草がいつもより、たまらなく愛おしく感じる。
自分がこんなにユキの帰りを待ちわびていたのかと、驚くほどに。
「おもしろいだろー」
「うん」
「小さいころ、おやじがドライブがてらよく連れて来てくれた所なんだ」
「ふうん……おじさんは私を連れて来てくれなかったな」
「俺と親父だけの思い出の場所だもんなー」
「ふたりで、私には内緒にしてたの?」
おやじは実の娘みたいにユキを可愛がってた。息子の俺より溺愛してたか。
口を尖らせて、ユキが拗ねたようにそっぽを向いた。
そういうしぐさは、小さなころから変わってないよな。
「ユキ」
呼びかけると素直にこちらを向いた。
メガネを外して、ダッシュボードの上に置いた。
なんとなく照れくさくて、ハンドルに片手をかけたまま、助手席に体を傾けた。
目を閉じたユキの頬に手を添えて、唇を重ねる。
初めてした時のように、体を甘い痺れのようなものが走っていった。
少し頭を傾け、唇を吸うように少し深く交差させた。
久しぶりの柔らかな感触に、我を忘れそうになる。
我慢が出来るうちに、終わらせなくてはいけない。
ちゅ……と音をたてて、ユキから離れた。
「今日はここまで」
ため息がでそうになるのを悟られないように、さっさとシートに体を戻そうとした。
「やだっ」
助手席のシートを倒しざま、ユキが腕を引いたので、俺はその上に引っ張られ、
倒れ込んだ。

29 :
                      
「ユキッ、危ないだろーが」
間近にあるユキの顔に向かって、真面目に言ってみたが、
その表情は俺以上に真剣だった。
俺は仕方なくシートからユキの傍に下りた。
俺の車は、シートとシートの間にはブレーキがなく、床はフラットだ。。
運転席と助手席の間に屈みこみ、覗き込むように俺は、瞳の潤みかけた顔に聞いた。
「キス、足りない?」
「キスだけじゃ、やだ」
「……これ以上は、だめだ」
「なんで? ここでいいから、もっと……」
「おやっさんたちが待ってる……だから、おしまいにしよう」
「嫌っ」
俺だって、ずっとこうしていたい。
本意じゃないんだから。
そんなに言うな、挫けそうだよ、ユキ。
「……キスなら、もう一度いいぞ。これが最後な?」
笑顔をつくって、泣き出しそうな顔にもう一度頷いてみてから、口を塞ぐように重ねた。
ユキが誘うように口を緩めた。
頭の奥が、キーンと疼く。
だめだ。これでやめなければ。
……ユキを帰さないと。
離そうとすると、ユキの腕が俺の首にまわされ、ぎゅっと引き寄せられた。
ユキが必になって唇を割って、舌を滑り込ませてきた。
ぬる……と口中に柔らかな塊が満ちる。
一生懸命に舌を絡めてくるその様子が、可愛くて、愛おしくて、
ついに自分からユキの舌を吸い上げた。
いつの間にか、ユキの髪に片方の手をもぐらせ、もう片方で華奢な肩を
シートに押しつけていた。
頭の中で、やめとけ、お終いにしろ、と叫び声がし続けているのに、止められない。
「っう……ふ……はうっ……ん」
ユキの漏らす声と唾液の絡む音が次第に大きくなり、頭の中の警鐘を打ち消していく。
ユキが口を大きく開けて、喘ぐように空気を吸う。
苦しかったのかと慌てて唇をはずすと、ユキの艶を帯びた声が
途切れがちに車内に響いた。
「っは……ここで……して!……」
我に返って、動きを止めた。
すでに俺は、上気した桃色の首筋を唇でたどって、襟の隙間に
鼻先を突っこんでいた。
それにいつの間にか、ユキの体をシートに押さえつけるようにして、
上半身を重ねていた。
押しつぶしている胸ふくらみの弾力に今頃気付いて、どく……と脈が大きく跳ねる。
慌てて、頭を上げて、ユキの顔を覗き込む。
「お……おねがい」
「…………いや……だめだ」

30 :
◎◎◎◎
紫煙いるかしら

31 :
                    
危ね……突っ走ってしまうところだった。
深呼吸して、息を整えてみる。
「時間がないだろ……帰ろう」
理性をかき集めて、冷静さを装ってみる……下半身が窮屈になっているのを、
忘れようと努める。
ユキの顔を見ると、涙を一杯溜めて今にも泣きだしそうな様子で、
肩を震わせていた。
今さらだが『約束』が、お互いにとって、思いのほか重かったか。
俺だって、限界だ。
……そう思えたら、体が、自然に動いていた。
俺はユキの体を抱き上げて、自分の体へ押しつけていた。
「ユキ」
動悸が激しい。
ユキが俺の腕の中で、もがくように体を捩ったのが、抑えていたものをさらに煽った。
柔らかく温かな体と、ユキの匂い。
この匂いと体温に溶けてしまいたい。
ユキが欲しい。
気が狂いそうなほど欲望の波が次々やってくるのを、必で押しとどめる。
頭に血が昇って、まともな思考ができない。
深く息を吸い込み、はあっと吐きだすようにしながら、言葉を探した。
もう、大人げない、と言われても仕方がない。
「ユキ、約束、俺がやぶって……いい?」
「……え」
こんな唐突じゃ、なんの事かわからないだろうな。
ユキが守った今回の約束じゃなくて、いつものふたりの間で決めていた事を
言ってるんだから。
「悪いけど、今夜……俺の部屋へ来てくれる?」
「……精さん」
「疲れてるだろうが……頼む、少しだけでも……」
腕の中のユキの体が強張った。
それでも相変わらず俺の頭はのぼせたようなままだ。
「隠れてコソコソするようなことは止めよう、って約束したけど……」
「うん」
「……だめか?」
「ううん……ううん!」
ユキは腕の中で俺を見上げて、目尻に涙を溜めたまま、にっこりと笑った。
さっきから聞こえるジェット機のエンジン音が大きくなった。
滑走路を進み始めた音に、自分の発する声すら聞こえないくらいだ。
ユキの耳に唇をつけて、囁くより少し大きめな声で直接的な言葉を伝えた。
「ユキを……」
ジェット機が離陸する轟音で、窓が震えた。
言い終わると、ユキの耳や頬が、見る間に赤く染まっていった。
*****

32 :
           
いつも始めはくすぐったがるユキが、今日は触れるとすぐ俺にしがみついてきた。
ほどなく声が甘い泣き声に変わった。
首筋も、背中も肩も、どこに触れてもユキはため息を漏らし、ぴくんと体を揺らした。
1年前の頃は痛がって辛そうだったよな……。
中でいく……とは毎回とはいかないものの、今は確実にそこで感じるようになってきている。
ユキのそこは、下着を脱がそうとした時にはもう、布までがずくずくと濡れてしまっていた。
おもわず「車の時から、ずっと感じてた?」と意地悪く聞いてみた。
ユキはむくれて、口を尖らせた。
「お風呂ちゃんと入ってきたよ。なのに……んあっ」
最後まで言葉を聞かず、最近女らしくふっくらしてきた内股を押し広げて、
潤みきったそこに唇を押しつけた。
愛液を啜り上げて飲み込むと、ユキの女の匂いが、鼻と口から流れ込んでくる。
ユキの手が頭に触れて、乱暴に俺の髪の毛を掴んだりかき回したりし始めた。
ユキとこういう関係になって1年半ほどか。
抱き合って、ゆっくり過ごすふたりきりの時間を持つのは、ひと月に2〜3回ぐらいなんだが。
それでもこんなに長い期間、お互いの体に触れないということは無かった。
といっても、たった4カ月足らずのことなのに、俺は飢えたオオカミのようになってしまっている。
お互いの部屋への『夜這い』をしない、と約束したにもかかわらず、それを反故にさせてまで、
自分の部屋でこうしてユキを抱きしめている。
「せ……せいさん、ねがい……なめて…………」
「…………」
いまだに恥ずかしそうにするユキを、寄り添って言葉をかけながら、
ゆっくり確かめるようにするのがいつも、なのに。
それに、ユキからこんな露骨な『お願い』をされることなんて、あまり無い。
「どこを?」と聞こうとしたけど、濡れた襞の間から花芽が可愛らしくのぞいていて、
誘われるように俺はそこにも舌を滑らせた。
俺も今日は、ユキの体を全部確かめたくて、最初から落ち着かなかった。
舌の動きに嬌声をあげて体を捩ったユキを、うつ伏せにして、腰を上げさせる。
猫の背伸びのような格好のユキが、「嫌!」と叫ぶ。
ユキは後ろからされるのに慣れない。恥ずかしいから嫌だという。
最初にした時は、かなり嫌がって断念したんだよな……。
それからも何度か誘って、やっと許してもらえたんだが。
ここまでくるのに、俺も相当な努力をしたもんだとしみじみ思う。
俺の努力のたまものか、ユキは口では嫌と言いながら、おとなしくしている。
気が変わらないうちに……後ろから、足を広げさせて、そこを露わにした。
しっとり濡れた薄い繁みを掻きわけて、人差し指と中指で襞を左右に開く。
ぬち……とかすかな音をさせて開かれたそこは、鮮やかなピンク色だ。
わずかに見える襞の重なりのその奥から、透明の滴が湧きだしていた。
誘われるように、口をつけた。
「ああんっ」
ユキが腰を揺らす。
そのまましばらくユキの股間に顔を突っ込んで、存分に舐めてやった。
次に襞に沿って上へと移動し、その上のすぼまりを舌先で軽くつつく。

33 :
                      
「それだめぇっ、やめて!」
「やめない」
「汚いから……」
「フロ入って来たんだろ? 大丈夫、綺麗だよ……マーキングすんの」
「マーキングって……あ、いやっ」
「体中、全部。俺のもんだ、ていう」
できれば、会えなかった時間を埋めてしまうくらい。
勝手な言い分だよな。
誰かに触れられてやしないか、なんてくだらない嫉妬もしている。
ユキの腕が伸びてきて、俺の頭に届いた。
やっぱり、無防備な格好が不安なんだろうな。
その手を片手で封じて、指を絡めあい繋いだ。
すぼまりのまわりを舌先で触れる程度に舐め、焦れてきたところで、
ぺろりと舐め上げた。
ユキが悲鳴をあげる。
もう片方の手を濡れたそこにあてがって、中指と薬指をぬかるみの中に差し入れた。
2本の指が難なく飲み込まれていく。
尖ったクリトリスを緩く弾きながら、ユキの中にもぐらせた指をぐちゅぐちゅと音をたて、
抜き差した。
今日はなんだか、余裕がない。久しぶりだからか。
もう少し、じっくりとユキに触れていたいんだが……。
ユキの様子を見ると、顔をシーツに擦りつけて、うわ言のように「やめて」と繰り返している。
口ではそう言いながら、自分から腰を揺らし「もっと」というように俺に押しつけてくる。
手もぎゅっとシーツを握り締めていて、どんどん昇りつめていっているようだ。
繋いだ手を放し、胸の膨らみをやんわり揉んだ。
胸の愛撫を硬く起った乳首に集中すると、ユキが顔を上げて高い声で鳴いた。
小さな実のような尖りが、手の中でころころと転がる。
愛液が溢れ出してくるその奥で、指が、柔らかな肉の壁にきゅうっと締め付けられる。
ユキが腕を突っ張り、上半身を起こして、背を反らせた。
「…………もう、イったの?」
顔を拭いながら、はあはあと喘ぐユキの顔に目を向けた。
うつ伏せのまま顔を横に向けて、ぐったりとしている。
汗に濡れ上気した顔に髪が張り付き、涙の滲んだ目元が、ピンクに色づいている。
いつもより、ユキはずっと感じやすくなってる……。
自分だって、いつもより貪欲になっているのは自覚しているが。
ひっぱられて乱れたシーツの上に、力尽きたように横たわる姿を見て、
俺は妙に満足していた。
でも、こんなに素直に反応されると、我慢するのもそろそろ辛い。
声もかけずに、まだ力の入らないユキの膝裏を掴んで、足を開いた。
「やっ、あ、まっ……て、待って!」
ユキがそれを閉じようと手を伸ばしてくる。
わずかな抵抗が、さらに俺を煽って意味もなく焦らせる。
何かに急かされるように、ユキの腰を抱えて、自分のモノをユキの中に押し込んだ。

34 :
                           
「ああ―――っ」
ユキの喉が仰け反って、背中が反る。
まるで毛を逆立てて鳴く猫のようだ。
「っキッつ……」
「や……あん!」
久しぶりのユキの体の中は、侵入を拒んで、驚くほど頑なだった。
かき混ぜられて白濁した愛液が、内股を伝って滴り、シーツに染みを作るほどなのに、
まるで最初の頃のような抵抗をされる。
もちろんユキの意思と関係ないが、抵抗は、俺の征服欲を充分煽った。
乱暴にしないようにするだけで、精いっぱいだ。
ユキとの初めての時を思い出し、腰が震えた。
それを抑えながら、ユキの背中を見下ろして、上から体重をのせていく。
ベッドに猫のように這うユキが、また叫び声をあげた。
ユキの中に隙間なく埋めて、しばらく射精感をやり過ごす。
少し落ち着いた後、すぐ腰を浅く前後に動かした。
馴染ませるというより、じっとしていられなかったからだ。
ユキの様子を確かめる余裕がない。
痛いとか、辛いとか。
熱くて、溶かされそうになる感覚だけに支配されていく。
頑ななくせに、ユキは引き込むように蠢いて、奥へと誘ってくる。
もう、堪え切れなかった。
「ユキ……!」
離れないようにしながら大きく腰を引いて、一気に奥へ挿入した。
「やッ……ああああ」
ユキの泣くような声が聞こえた。
俺が動くたび、ユキの体が押し上げられている。
すぐにユキに覆いかぶさるようにして、体を抱きすくめた。
「ユキ?……ごめん、ユキ」
声をかけたが、それが精いっぱいで、動きは止められなかった。
ほっそりした腕が頼りなく後ろへ伸びてきて、空を掴んで落ちていった。
ユキのぎゅっと瞑った目尻から涙がこぼれていく。
「精さん……せいさ……ん」
こちらへ顔を向けて、ユキが泣きながら俺を呼ぶ。
そんな声で呼ばれたら……。
俺は、一旦ユキから離れて、力の無い体を仰向けにした。
足の間に腰を入れて、両腕でユキを抱きしめる。
余裕のない動きに、勢い、奥深く貫いてしまい、ユキがびくっと跳ねた。
「はっ……ああっ」
「……苦しい? ユキ……どこか、痛い?」
やっと、掠れた声で聞くと、ユキが首をゆるゆると左右に振った。

35 :
         
                  
「わた……おかしくなっ……」
荒い息をしながら、ユキが切なそうに潤ませた目を、俺に向けた。
「もっと……ぎゅっと、して……」
いつの間にこんなカオをするようになったんだろう。
ユキと繋がった場所から、カアッと熱いものが湧いて体中に広がっていく。
それまで、かろうじて同じリズムで動いていたのに。
久しぶりだから、もう少しユキをイかせてやりたいのに。
情けないが、どうにも自制が利かなくなってる。
体から湧いてくる快感に押されて、抽送を早く強くしていく。
ごめん、と言えたかどうかもわからない。
ユキがしがみついてくるのを、もう一度強く抱きしめ直して、深く貫く。
とたんに悲鳴をあげて、ユキがいつものように、いやいやと頭を振り始めた。
密着した体が汗ばんで、お互いの体温が同じになっていく。
限界に近づいたユキが、俺の名前を呼びながら、背中を浮かして体を突っ張った。
弾けそうな俺のモノを包んでいたユキが、柔らかく収縮する。
奥へ奥へと引き込み、逃すまいと締め付けるように。
ユキの甘い悲鳴を聞きながら、すぐに目の前が真っ白になった。
絶頂を迎えたユキ続いて、俺も、堪えていたものを思い切り吐き出した。

「ごめんな……」
ユキの体をベッドに返して、体を起こした。
ぐったりしてユキは動かなかったが、呼吸は落ち着き始めている。
会えない間に、男の処理的なことも、一切しないでいよう、と決めていた。
一応、守り通したんだが。
結果、ユキに全部ぶつけてしまった。
「ごめん」
「なんで……謝るの?」
「ユキのペース無視して……」
ふふ……とユキが気だるそうに笑った。
事後、男は急降下で元に戻るんだが、女はゆっくり冷めていくらしい。
ユキは緩慢な動きでケットを手繰り、いつものように体を胎児のように丸めた。
まだ瞳が熱を帯びて、とろんとしている。
「え……と。たくさん、ぎゅっとしてもらったよ」
「……後ろから、どうだった? 嫌だった?」
「もー。そんな、どうだったかなんて……教えなーい」
軽く握った掌を口に当てて、ゴミ箱にゴムを捨てる俺を見ながら、くすくす笑う。
なんだか気恥かしくなってきた。
「あ、おしまいのキスがまだ」
「あー、そうだった」
「ふふっ。精さん、忘れてる」
「……久しぶりだからなー」

36 :
               
ユキの体を跨いで四つん這いになり、体を屈めた。
ユキが顔だけこちらへ向ける。
3か月前より伸びた髪が、シーツの上に広がっている。
汗で髪が張り付いたうなじが、白く浮き上がって見えた。
音が出るように軽くキスして、しばらくユキの顔を見つめた。
4カ月ぶりなんだよな……胸が、ジン、として、少し苦しい。
「あったかい」
ユキが、俺の唇に指で触れながら、呟いた。
すると急に腕が伸びてきてきて、頭を抱えられた。
ユキが頬と頬をくっつけて、ぐっと抱きしめてきた。
頬ずりしながら「精さん」と小さく呼ぶ声が、何度も聞こえる。
頭が何度も撫でられる。
ふと、幼いユキに、こうして抱きしめられたことを思い出した。
鼻の奥が鈍く疼く。
ユキが愛おしくて、だけど、切なくて胸が苦しくなる。
こんな、穏やかな温もりを感じられる幸せが、ずっと続くことを、望んでもいいだろうか。
ぐっと、喉の奥に込み上がってきたものを慌てて飲み下す。
涙もろくなってるか?
たった3か月のことなのにな。
伝えたいことも、手放したくないという想いも、前よりずっと固くなってる。
それはユキと離れてみて、さらに俺の中で揺るがないものになった。
溺れちゃダメだ、といつも自制してきたのが、とてつもなく無駄な抵抗に思えてきた。
ひとりでいい、なんて強がりは、ユキの前ではいつも頼りなくなってしまう。
そのくせ、「傍にいてくれ」の一言をいつも飲み込んでいた。
溺れてもいい。
飛び込んでみるか。
でも……その時ユキは、俺を受け止めてくれるだろうか。
ユキの腕の力が緩んでから、俺は上半身を起こし、ユキを見下ろした。
涙が目尻から耳の方に流れている。
上から落とすように、両方の目尻にキスをした。
それからもう一度、ユキの上唇と下唇を交互に啄ばんで、それを食むようにキスをした。
泣き顔も可愛いけどなあ……でも。
「ユキだって、車の中で……」
「わ、言わないで!」と慌てて、手で俺の口を塞いできた。
涙の残る顔が、もう真っ赤だ。そういう顔も、ユキらしくていい。
頭を撫でると、照れ笑いを浮かべて、おずおずと手を引っ込めた。
「俺も、久しぶりで、コントロールできなかったからなー」
「……そう、みたい……だね」
ユキが意味ありげに視線を泳がせた。
「なんだよー」
「精さん……また」
「また、ってなに?」
「だって、お尻に……あたってるもん」
「あ……あ」

37 :
    
         
ユキの顔がまた赤くなった。
高校生か、俺は。
俺も、照れて顔が熱くなった。
普段2度目はほとんどしないんだが……。
「あのさ……お終いって言ったけど」
「……うん」
「いい?」
「ええと……大丈夫?」
「……心配すんな。ゴムは、たくさんある」
「ぶっ、もう、なにそれ……くふっふふふ!」
ユキの顔が更に赤くなった。
帰国したばかりのユキに悪いと思いつつ……。
背中から抱きしめて、もう一度。
うなじへのキスに「くすぐったい!」と悲鳴をあげるのは、
すっかり体が落ち着いたということか。
「おねだりされたからなー。たくさん舐めてやるか」
「ぎゃああ! 恥ずかしいこと言わないでっ」
「ほれ、色気のある声、出せよー」
「なっ……もう、エロオヤジ! や……あっ」
「聞かせろよ……ユキの」
繰り返しうなじから肩、背中と唇を押し当て、
舌を使うとユキの声が鼻にかかった甘えたものに変わった。
「たくさん感じて、たくさん、鳴けよ」
……今度はできるだけ、ユキに確かめながらするつもりだ。
***
「おはようございます」
「あ、おはよう、精一さん」
1時間ほど遅い起床だった。
かなり規則正しい生活をしているおかげか、年の所為か?
いつものように、自転車で30分ほど走ってこないと落ち着かなくて。
ユキをベッドに残して、日課の『朝練』に行ってきた。
「おやっさんは、もう?」
「そうよ。今日は仕事」
「おばさんも、今から?」
「ええ。今日は忙しくなりそうなのよ。だから早めに出るの」
おばさんは、近くの介護施設でヘルパーのパートをしている。
「精一さん、今帰って来たのよね?」
「はい」
「じゃあ、雪を遅くても10時には起こしてね」
「……え、あ、はい」

38 :
                  
俺はユキの家のカギは一応預かってはいるが。
まだ、俺の部屋で眠りこけているだろう。
ユキはゆうべ裸足で俺の家に忍びこむようにやってきた。
両親には気づかれずに来た、と言っていた。
「大学は昼からだって言ってたから……」
「そう言ってました」
「ふたりで一緒に、ウチで朝ごはん食べなさいね」
「……はい」
「お父さんは、気づいてないから」
「っ…………すみません!」
咄嗟に頭を下げた。
血が逆流するような気がして、さっきとは違った汗が噴き出してくる。
「困った子よねえ」と苦笑いして、おばさんは「行ってきます」と歩き出した。
俺は軽いめまいがして、しばらくその場で、動けなくなっていた。


===終===

39 :
            
ありがとうございました
次で終了します
ながながとすみません。

支援レス、ありがとうございました!

40 :
乙!いよいよ最終回か〜。
楽しみにしてます。

41 :
GJ!  かわいいよ〜

42 :
GJ!!!
精さんがオヤジっぽいエロさを出してきてとても・・・イイですね!

43 :


44 :


45 :
保守

46 :
ずいぶんと間をあけてしまってすみません。
本文投下は13レスです
NGはタイトルかIDで
圧縮対策に、と思っていたのに、落とそうと思ったら圧縮後だった……
・・・投下します

47 :
                       
3月に入ったし、もうすぐ、春だなあ。
とはいっても、まだ寒い日があったり。
まだ時々雪がちらついたりもする。
けれど確実に季節は巡って……卒業も、もうすぐか。
チョキ……。
鋏の先が耳に当たって、ビクっと体が竦んだ。
怖ええ。
「ユキ、今、少し痛かった」
「そう? 動かないでいてね」
「……はい」
散髪中のいつもの会話だ。
だいぶ上手くなったと思うが、毎回一度はどこか突かれて、怖い思いをする。
……まあ、もう慣れたけど。
それより……。
「ユキ」
「ん――?」
「俺の髪だけど」
「うん。あ、ちょっと左向いてて」
「ああ」
今、言おう。
「ユキ……俺の髪、これからもずっと切ってくれるか?」
「いいよ」
「う……」
…………あっさりかよ。
ていうか、ちゃんと聞いてないだろ。
俺は、ユキの手を肩越しに握ろうとした。
「ユキ、あのさ……」
「さ、もういいよ。切ったヤツ払うから、立って、頭振って」
「……」
「精さん、私、友達と約束あるから、早く!」
「……はい」
上げかけた手は、素直に下すことにした。
ユキが手早く俺の体をはたき終ったから、立ち上がった。
「はい、お辞儀して」
ユキの前に頭を下げる格好をして、ばさばさと頭を払ってもらう。
「はい、おしまい。私、行くね」
よほど急いでるらしく、今日はさっさと庭の枝折戸を押して、隣の自宅に走って帰ってしまった。
スルーされたか。
嶋岡にはいつも、「さりげないのがいいと思ってたら、大きな間違い」と言われてる。
押しが弱いのも自覚してるさ。
こうして付き合っていても、ホントはユキの気持ちに変化が出てきてたらどうしよう、
とか思っていたりする。
いざとなると、生まれた時から見守ってきたという強みよりも、年の差の壁に竦んでしまう。

48 :
                      
ユキは4月から、市役所勤めが始まる。
バイトしてた、建築事務所からも声が掛かっていたにもかかわらず。
志望してた内装のデザイン関係の道も選ばず。
市役所の建築関係の部署に内定している。
去年、公務員試験を受けたのだ。
その選択を聞いて、俺は動揺した。
それって、俺のため?
俺が、自営業だから?
『自分が安定したところに就職しよう』と考えたのか。
それは、つまり……俺との、この先のことを考えてのことだと?
ユキの覚悟みたいなものを突きつけられた気がして、俺は激しく動揺した。
ユキは自分の気持ちも考えも、何も言わなかった。
「受かった」と俺の前で子どもみたいに飛び跳ねて、喜んでいただけだ。
そんなユキが健気で、心底愛おしいと思ったが、その時も俺は
何も言えなかった。

スーツの上着を脱いで、一息ついた。
小さく質素な作りの仏壇に、ほほ笑んだふたりの遺影が並ぶ。
仲が良かった。
おやじがんだ後、お袋は本当はすぐにでも逝きたかったのかもしれない。
体の弱かったお袋は、おやじのいない生活を続け、5年後に亡くなった。
息子の俺がいたとはいえ、つれあいのいない人生はどんなに寂しいものなのか。
大学を卒業する月だから、3月は月命日に俺の両親に挨拶に行く、とユキが言いだした。
俺と秋山家3人とで、墓参り等々一通り終えた。
予約しておいた店で昼食をとり、さっき帰って来たところだった。
暖かだった午後の日差しが弱くなって、そろそろ部屋の奥へ届きそうな頃だ。
足を投げ出して座り、両腕を後ろへついて天井を見上げた。
ぐるりと頭を回して、首と肩をほぐした。
ここ最近着なれない物を着て、肩が凝ってる。
俺、38なんだよな。秋がくれば39だ。
ああ、おっさんだよ、まったく。
「精さん、いる?」
玄関の閉まる音がして、ユキが戻ってきた。
おやっさんたちは、家に帰ったのだろう。
ユキの足音を聞きながら、おやじの葬式の日を思い出した。
突然のおやじのがショックだったが、喪主である俺がしっかりやらねば、と必だった。
おやじを偲んでいる間もなく、泣くこともできず、これからのことで頭がいっぱいだったからだ。
葬式が全て終わって、帰宅して、この仏間でぼんやりしていた時だ。
ユキが入ってきて、黙って俺の胡坐の上に乗っかてきた。
ユキはおやじの胡坐の上に座るのが大好きだった。
まるでそれが定位置であるかのように。
おやじも実の娘のように可愛がっていた。きっと息子以上に。
突然この世を去ったおやじのことを、小学3年生だったユキは、どう受けとめていたんだろう。

49 :
               
前を向いたままじっとしている、おかっぱ頭をそっと撫でてやった。
ユキは、暗くなっていく部屋の隅を見たまま、黙っていた。
急に、まるで、この世の中にふたりきりで取り残されたような心細さを感じた。
ふいに、胸の奥から吐き気のように込み上げてきたものがあった。
呻いていたのかもしれない。
奥歯を噛みしめても、どうしようもなく喉の奥から塊が突き上げてくる気がした。
今もそれをはっきり覚えている。
その時の、スローモーションのようなユキの動きも。
ユキは俺の顔を覗き込んで、そして、ゆっくり細い両手を伸ばしてきた。
俺の頭が、小さな体に抱え込まれた。
その時の、ユキの、『子どもの匂い』が蘇る。
片手が背中に伸ばされていき、優しく撫でられた。
抱きしめられて、俺はせきが切れたように声を抑え、泣いた。
ユキは、俺が落ち着くまでずっと抱きしめ、小さな手で背中をさすり続けてくれた――。
姉のようでもあり、母親のようでもあり、昔からの恋人のような、
そんな不思議な感覚だったのを覚えている。
小さな存在が頼もしく、愛しい、と思った。

「精さん、部屋暗いよ。電気点けよっか?」
「いや、いい。…………ユキ」
「なあに?」
「おいで」
大きくなったユキの影が、仏間に伸びた。
畳を踏みしめる軽い足音がして、膝の上に柔らかな体がのぼってきた。
あのときのように、俺の胡坐の上にユキが座り込む。
俺は左手を、背中を向けて座るユキの体に回して、そっと抱いた。
前を向いたままのユキの右耳に顔を寄せて、声をかけた。
「覚えてんのか」
「精さんが泣いたのを」
「……忘れろ」
「……ふふ」
ユキが顔をこちらに向けて、微笑した。
「もう、泣かないの?」
「今は、もう……。だいぶたったからなー」
「なんだ、慰めてあげたのに」
「……ユキがいてくれるから、もういいんだ」
体を捩って横に向いたユキが、にっこりして俺を見上げる。
その笑って薄く開いた唇に、そっと唇で触れた。
「ちょっと……もう、不謹慎でしょうが」
顔を赤くして抗議する。
子どもっぽいしぐさだが、今は違う。
うす暗くなった部屋の中でも、その頬に朱色が差したのがわかる。
薄く化粧をした顔に、ほんのり女の色気が漂って、どく……と鼓動が強くなった。
いつの間にか、大人の女になっていた。

50 :
                       
「ユキ」
「ん?」
「あのさ、ずっと……」
「ずっと?」
「ずっと俺の傍にいてくれる?」
ごく自然に、言った。
ユキは俺を見つめていた目を大きく開いて、そのまま押し黙った。
視線は真剣だけど、黙ったまま動かなくなった。
俺も視線ははずさなかった。
「結婚してくれ、って言ってんの」
そう言った瞬間に、ユキの目に涙が盛り上がってきて、
あっという間にこぼれ出した。
「ゆ……ユキ?」
慌てて、ハンカチを取り出して、頬に当てる。
「……だめ?」
言った後から、吐き気がするくらい緊張してきた。
汗が噴き出してくる。
ユキ、なんか言ってくれ。
「……」
ユキが目を一度閉じて、ゆっくり開けた。
堪った涙が、またぽろぽろこぼれていく。
ゆっくり唇が開いて、ぱくぱくと二度ほど動いた。
ユキの体は震えていた。
「………………も……もういちど、言って」
こんなに近くても聞こえないくらいの、声にならない声がやっと聞こえた。
「わかった」
息を深く吸い込んで、気持ちを落ち着かせる。
「結婚してくれ。ずっと俺の傍にいてくれ。散髪も剥げるまで頼む」
俺が言ったとたん、きょとんとした顔になり、次の瞬間「ぶっ」とユキが俯いて吹き出した。
体を折り曲げて、肩を揺らしてくすくす笑ってる。
俺は、焦ってユキを覗き込んだ。
「おい、今のは聞こえただろー? ユキ」
くっくと笑って、頬ををハンカチで押さえながら顔を上げた。
「お化粧、崩れちゃったかな」
「おけしょ……大丈夫だよ。てか、ユキはすっぴんでもキレイだから」
「男の人って、みんなそういうよね」
「……ユキは誰に言われたんだ」
こんな時に他の男の話をするなよな。

51 :
                      
「一般論です。精さん、怖い顔しないで」
「お……怖い顔してるか……ごめん」
「ううん。そういう精さんも、好き」
ユキがぱあっと笑った。
花が開くように。
その、笑った顔を見ていたいんだ、ずっと。
「この間の……髪の毛切った時……」
「ああ、あの時……」
「ごめんね」
「わかってたのか!」
「えへへ。びっくりして」
「そうかー」
俺だけが緊張してたんじゃなかったのか……。
「……私……ずっと夢見てたの」
「うん……?」
「精さんの、お嫁さんになるの」
「……うん」
「小さい頃はよく周りに言ってたけど、大きくなって、難しいのかもと思えて」
「うん」
「でも、夢が叶う可能性が私にも出てきて……ね、彼女になれた」
「……うん」
「でね、その先をずっと待ってたの。待ってるだけじゃなくて、
 努力はしたよ、私なりに」
「わかってるよ」
一生懸命追いかけてくれた。
けれど俺は、振り返りもせず、ずっと遠回りしてきた。
それをユキは、後からずっとついてきてくれたんだよな。
途中からは俺がおいてきぼりを食いそうで、焦ったけど。
見守られていたのは、俺の方かもしれない。
「わかってるから、ユキ、返事をちゃんと聞かせてくれないか」
深呼吸して、ユキの返事を待った。
ユキは俺の膝の上に乗ったまま、俺の左手を取って、両手で握った。
「はい」
「はい、って……」
「もうっ。だから『はい』。よろしくお願いします、ってことなのっ」
「ああ……ごめん」
ユキがにっと笑った。
俺もつられて、というか照れ隠しに、にっと笑い返した。
ムード無いじゃないか。ま、それもいいな。
「おやじたちにも、見ててもらったからなー。『やめる』とか言うなよ」
「精さんも、浮気したら、ぜったい許さないから」
ユキが手でチョキをつくり、鋏で俺の首のところを切る真似をした。
いつもの痛いのを思い出して、首を竦めた。
ユキが今度は柔らかく笑った。
穏やかで温かい笑顔だ。
いつまでもこの腕の中に閉じ込めておきたい。

52 :
                      
「ユキ……」
唇を食んだ。
ここも、柔らかく温かい。
ユキの体は全部こうなんだ、と思わせて、少し体が疼いた。
「ちょ……っ、おじさんとおばさんに見られてるってば」
「大丈夫。ユキとこんなに仲がいいよ、っておやじたちに見せてんの」
「なーにそれっ、恥ずかしいから、やめてよ」
「やめない」
ぷい、と前を向いたユキの顎に手をかけ、こちらを向かせる。
少し強引に、唇を重ねた。
体を半分こちらに向けて、ユキの手が俺の胸のところのシャツを
ぎゅっと掴んだようだった。
舌で口の中をくるりと探る。
舌と舌が絡み合い、しんと静まった部屋で、唾液の音がやけに耳につく。
ユキが密かな声を漏らす。
腰にまわした手を上へずらせて、背中から肩へ、うなじから髪へと這わせた。
髪留を外すと、昔からの悩みの猫っ毛がさらさら落ちていく。
急にぐっと胸を押された。
ユキがすぐ俯いて、やっとのように呟いた。
「……だ……め」
うなじがうっすら桃色に染まって、さらさら流れる髪の間から見え隠れする。
紺のワンピースを着ているからか、同じ薄桃色の肌がくっきりとして、
裾からしどけなく伸びた足を際立たせていた。
「……そうだな。刺激が強すぎて、おやじたち出てきたりして」
「もうっ……」
ぽん、と俺の胸が軽く叩かれて、線香の残り香とユキの匂いが混ざりあい、ふわりと漂う。
体温が上がってゆく。
首を傾け、その耳に唇を軽く当てて、冷たくなった耳朶の温度を確かめながら聞いた。
「続き、部屋行って……いい?」
ユキは下を向いたまま、黙ってこくんと頷いた。
俺の胸に添わせたままの手が、小さく震えているのがわかった。
まだ、自制は利いている。
だが、これ以上は我慢する自信がない。仏間で、なんてさすがに不謹慎か。
華奢な肩と膝裏に腕をまわして、耳まで赤くなって俯いたままのユキを抱きあげた。
***
ベッドに、ユキを後ろから抱きしめて腰かけ、すぐに唇を重ねた。。
立ったまま、お互いの着ているものを、もどかしく脱ぎ捨てたばかりだ。
「俺でいいの?」
さっききっぱり言ったものの、つい聞かずにはいられなかった。
ユキの耳たぶを軽く噛みながら、そっと胸の膨らみに手を伸ばした。
「……初めての時も……聞かれた……」

53 :
                
そうだ。
あの時、一線を越えてゆく怖さより、俺は自信無さと、あの状況に戸惑ってた。
「変わらないよ……んっ……私、変わらないの……い……いいの!」
早くも切羽詰まった声をあげて、ユキが俺の肩へ後頭部を擦りつけてくる。
首をまわして、キスをせがむ。
さっきしおらしく拒んだのがウソのように、激しく求めてくる。
開いた唇の間にのぞく舌の紅色が、口紅の色よりずっと艶めいて見えた。
まだ、だめ。もう少し。
言葉を交わさなくても、耳の奥で、ユキの囁く声がしてる。
見下ろし観賞していた体の線から視線をはずして、ユキの唇を深く覆った。
あの舌を追って、口内の奥へと舌を忍び込ませる。
捕まえて絡めとる。
目を閉じて、さっき見たユキの舌の残像を浮かべて、吸うように深くした。
「んっ……ふ……あふっ」
いつになく積極的なユキだ。
今日一日、慎ましく振る舞ってきたことの反動か?
俺も、もう少し。
……ユキが自分から、というところが見たくなった。
ベッドに腰掛けたまま、脚をそろそろと動かした。
膝をゆっくり左右に開いていく。
ユキは俺の膝に腰掛けるようにして、背中を預けている格好だ。
キスで体を捩っているから、斜めに向いたユキの体を俺が抱くような形になっているが。
汗ばんできた肌が滑らかさを増して、密着したところがとけるような熱さを感じている。
その温かな両脚の合わせ目を、引き離すように動かした。
ユキの膝頭が左右に離れていく。
内股にひんやりとした感じを覚え、俺の脚の上にも愛液が垂れていたのを知った。
深いキスに夢中になっていたユキが、俺に空いていた右手を捕まえられてやっと、唇を離した。
左手は俺の左腕に巻きつけるように絡めて、体を支えていたようだ。
「な……にする……の」
ぼんやりしたままで、ユキが息を吐き出すように言った。
すぐ、自分の状況に気付いて、俺の手を振り払おうとする。
待ってました。
「鏡、なんてあるとよかったなー」
「やっ……閉じるっ」
思いっきり脚を開いたから、丸見えだよな。
「すっげえ格好。隣の部屋に姿見あったのに……しまったなあ」
残念だ。
「まあ……また今度。それより……」
閉じようとし始めたから、慌てて掴んだユキの手を、開かれた中心へあてがう。
すばやく柔らかい繁みを分けて、そこにユキの指先を添わせた。
「やっ、やだ!」

54 :
           
左足に膝裏から手をまわし、閉じないように捕まえておく。
ユキの中指に自分の中指を添えると、2指ともが今にも潤いに飲み込まれそうになる。
ユキが指を動かして抵抗するから、この状態を保つのがなかなか難しい。
「自分で、入れてみて」
「嫌……やだ」
俺の胸に左の頬を擦りつけるようにして、小さく頭を振る。
中指をくい、と押してみると、ぷちゅ……と粘液の押し出されたような音がした。
そのままユキの指を押しこむようにして、中へ侵入していった。
「やあぁっ」
「ナカの感じ、自分で、知ってるよな」
細い指に添わせるようにしながら、中でぐるぐると回してみる。
淡く色づいた体が、びくびくと揺れる。
「ああっ……や……だめえ……抜いてっ」
「だめ。まだ、もう少し」
「おねが……やめて……やっあっ」
「ユキはこうするといつも……」
ユキの一番感じるところに指を触れさせて、くっと曲げさせ、くいくいと擦らせる。
ユキの指が、だんだん俺の意とは違う動きになっていく。
「ユキ……自分でしてる…………気持ちいい?」
「……言わないで……!」
自分で、快感の強くなる場所を擦りながら、昇り詰めていく。
俺の指はもう、ユキの補助にまわって、力をわずかに加えるだけだった。
顔を真っ赤にしたユキが、羞恥からか、唇を噛みつくように重ねてくる。
ほどなく、ユキがびくんと跳ねて、背中を反らせた。
「はあああっ」
甘い悲鳴をあげて……ぐったりと体が俺の胸へ崩れてきた。
荒く喘ぐ体を、ベッドに横たえた。
ユキが、顔を隠すように片手の甲を頬にあてがっている。
「すご……俺の手が……」
「やだ! 言ったらダメ!」
「……そんな、怒るなよ……」
「…………ひどい……」
「ごめんな」
「もう……」
「ごめん」
ユキの耳に唇を押し当てた。あまり反省はしていない。
一応もう一度「ごめん」と言って、耳たぶを唇で挟んで軽く引っ張る。
ユキがまた鼻にかかった声をあげた。
「……ユキの中、入りたい」
「…………ん」
顔を隠したまま、同意の頷きを返してきた。

55 :
                 
じゃあ。
ゴムを取ろうとベッドサイドに腕を伸ばそうとした時。
その腕をユキがやんわり制した。
「…………着けないで」
「……え?」
「このままで……」
「ユキ……それは」
今までに、着けずに、というのは無いわけじゃない。
でも、この時期に、それは俺にはできないことだ。
4月からユキには新しい生活が始まるのに。
俺はゴムの入った引き出しに手を掛けた。
ユキの声が「あっ」と聞こえたが、聞こえないふりをした。
「……無い」
無い。
ベッドサイドにある小さな収納棚のあるべき場所に、それは一つも無かった。
ユキに顔を向けると、訴えるような眼をして俺をじっと見つめていた。
「ユキがやったのか……」
「お願い……無しでして欲しいの」
「危険……だろ……」
「安全日、だから。……精さん……そのままで、きて」
潤んだ目で見上げて、腕を俺の背中にまわしてきた。
「ユキ。しばらくはちゃんとしよう。それに」
さっきプロポーズしたばかりだろ。
ここで、不誠実なことってのは、やっぱマズイ気がする。
「…………精さんの赤ちゃん、欲しい」
「安全日じゃないのか?…………てか、俺はまだ……」
ユキが急に表情を曇らせた。
目が赤くなっていく。
「精さんは、嫌なの?」
「だ、だからあのさ……今は、これ以上望んじゃいけないと思ってて」
「望んじゃいけない、って、どういう……」
「ユキと一緒になれる、っていう望みが叶ったばかりだから……」
ユキの目からとうとう涙がこぼれだした。
今日はよく泣いてるよな……。
「ゆっ、ユキ、だからさ、あの……欲張るとダメな気がしてるんだ」
「…………」
「今まで……いろんなものをなくしてきたから……」
「……だから……?」
「満たされすぎると、怖い」
「…………怖く、ないよ?」
「……怖いんだ」

56 :
                   
ユキが両手を伸ばしてきて、俺を包むように抱きしめた。
本当に、包むように、優しく。
あの時のように、背中をゆっくり細い腕が上から下、下から上と往復する。
耳元に、ユキの息がかかって、囁くような声が響いた。
「怖くないよ」
幼いユキの温かな体を思い出して、胸が切なくなる。
同時に体が熱くなってくる。
熱いけど、性的な興奮とは違う、静かな、あの時も感じたとても静かな感情はなんというんだろうか。
「どこへも行かないから……ね?」
ユキを女性として意識してからというもの、失うのが怖くてなってしまった。
成長していくのを間近で見ながら、飛び立っていってしまうのを、おそれていた。
どこへも行って欲しくなかった。
「怖かった……今も……」
「精さんの……傍にいるから。大丈夫」
「…………大丈夫、か」
「大丈夫」
自分が震えているのに気がついた。
「カッコ悪りぃな、俺」
「ふふっ……精さん、泣いた」
「なっ……泣いてねーよ」
体を離し、顔を見ると、ユキは泣きながら笑っていた。
俺は……やっぱり、泣いてんのかもなあ。
また、ユキが腕を伸ばして、俺を引き寄せた。
唇が重なる。
熱くて柔らかくて、とけそうな感触だ。
ユキが上唇や下唇を交互に軽く食み、舐め、また覆うように重ねてくる。
それはもう一度、冷えた体を昂らせようとしているみたいに、丁寧な動きで繰り返された。
侵入はしてこず、焦らせて、俺から貪るようにと、誘い込む。
少女の頃のユキとは、もう違う、と思い知らされる。
俺が、そう望んだから、か。
ユキが抱きついてくる。
自分から膝を開いて、腰を揺らし、俺を迎えようとしている。
いつになく積極的に。
さっきのユキの悪戯も、無性に可愛いものに思えてきて、俺からも口づけた。
お返しのつもりで、舌を絡めながら、蜜の溢れ返ったそこに指で触れた。
「ああん!」
体が跳ねて、ユキが叫んだ。
「しないで……! 指は……いやなの……」
「……欲しい?……その……着けずに?」
「ん……」

57 :
                  
ダメだ、とか偉そうに言っておきながら……我ながらあきれる。
膝に手を掛け、ユキの体を開いた。
ユキの『おねがい』や『おねだり』に弱いのを自覚しつつ、ユキの片脚を持ち上げて、
すぐ自分のモノをゆっくり押し入れた。
「あ――――!」
とろとろに溶けたそこは、俺を簡単に受け入れてゆく。
少しずつ、温かくて柔らかい襞に覆われていく。
「んっあ……ああっ」
「う……」
直接の感覚は、強すぎて、気持ちよすぎて。
ユキの中は、たくさんの肉の襞が俺を包んで動いている。
めまいがしそうだ。
俺は、ユキの片脚を自分の肩に掛け、ゆっくり深く回しながら抽送を始めた。
ユキの背中が浮いた。
ひくひくと中が蠢いて、引き込むように締め付けてくれる。
一度動きを止める。
わずかな動きでも、俺のモノは直に感じて、びくびくと震えた。
それがまたユキの快感を誘うらしい。
「精さん、うご……いて……」
恥ずかしそうに小さな声で、けれど堪え切れない、というように。
ユキがぐっと腰を上げて、自分から回すように動き始めた。
細い腕が首や背中に絡みつくようにまわされる。
強くしがみつかれて、苦しい。
「ユキ、苦し……」
「ん……あ……やだ……せい……さ……あぁんっ」
ユキが俺を舐るように、ゆっくり上下に動く。
息苦しい俺は、そんなことお構いなしなユキに、耳たぶを甘噛みされ、舐られる。
「あ……ユキ」
「せいさ……ん」
首筋を舌で舐めながら下りてきて、肩に噛みつかれた。
「……ユキっ」
猫みたいだな。
必らしく、爪が食い込んで、背中が少し痛い。
「精さ……ん……あんっ……また……やぁ……あ、はあっ……」
自分の限界が近づく。
きっと、次の時にゴム着けるのが嫌になるな。
「……言って……っしてるって……精……さっ……やあぁっ」
「ん?」
手加減は止めだ。
奥まで一気に貫いて、ぎりぎりまで引き抜く。

58 :
   
                   
「だめ……離れちゃ、やだ……ああっ……ぁん……も……と」
言われた通り、打ち付けるように、突き込んだ。
「んやああああっ」
「さっき……っ……なんて言っ……?」
「あっやっ……あ……あい……てる、て言って……ね?……ん、ああっ」
それも『おねだり』するのかよ。
そんなに安売りしないぞ……と思いながら……やっぱり弱い。
ユキの耳に口を付けて、わざとごく小さく囁いておいた。
「聞こえた?」と問うまでもなく……。
「っユキ! そ……んな、締めるなっ……っ」
「せいさ……っ」
強く反応して、ユキが一気に昇り詰めていく。
ユキは俺に合わせてなのか、快感に酔ってるのか。
自分から揺れて、締めつけてあっという間に最後の所までもっていかれる。
「腰、砕けそ……」
「せっ……あ……は……!」
ユキがふるふると震えて、体を強張らせていく。
熱く蠢くようなユキのナカに、ぐいぐいと引き込まれる。
隔てる物が何もないことを、生々しく感じながら、奥へと突き込んだ。
腰から頭の先へと電流みたいなものがはしっていく。
同時に、それ以上進めない、奥深いところで、俺は弾けた。
……初めてユキの中に吐きだした。
ユキが、強くしがみついてきた。

59 :
                       

「ユキ、聞こえる?」
声を掛けても、荒い息で、ぼんやりしている。
「ユキ」
こんな、こっぱずかしい言葉、そうそう言えたもんじゃない。
だから、「愛してる」って言うのは、しばらくユキだけに言いたい。
そういう相手が増えるのは、もうしばらくユキを独占してからにしたいんだ。
……寄り添って、そう言おう。
子どもみたいだ、と言われるだろうか。
「しあわせ」
ユキが呟くのを聞きながら、その隣にもぐりこみ、華奢な背中に寄り添った。
「幸せ」
俺も同じように呟くと、ユキが振り向いた。
指を絡ませて手を繋ぐ。
どちらからともなく、唇を重ねた。
「ユキ……」
「アイシテル」
俺より先に照れながら言って、ユキは花が開くように笑った。
――もう、春なんだな。



===終===

60 :
誤字脱字、ごめんなさい
オヤジの話とか、ながながとすみませんでした
これでお終いです。
どうもありがとうございました。

61 :
>>60
これで終わりとか寂しいけど、いい話だった!
心からのGJを贈ります。 というか、もうGJ しかでてこない。
いつもすっごく楽しみにしてました。
これからの精さんとユキに幸あれ!

62 :
夜中リアルタイムに遭遇したのに寝落ちしてできなかったがGJ!!!!!
本当に終わるの寂しいよ。楽しみにしてたシリーズだから……
気が向いたら番外編でもあると嬉しいけど……これが美しい終わり方かなあ。
本当にお疲れ様でした!
精さんとユキの幸せが続きますように
精さんとユキの幸せが続きますように

63 :
投下ありがとう!
心が暖かくなった
終わっちゃうのは寂しいけどいいラストでした
いつも規制ばかりでロム専だったけどようやくgj言えた

64 :
>>60
gj!!良かったです!!!

65 :
終わるのいやだぁぁぁぁぁぁぁあ

ともあれGJ!

66 :
いい流れのところ、お邪魔します。
5レスほど借ります。
下手くそです。
女が変人なので良識ある普通のカップル物が好きな方は読み飛ばしてください。

67 :
トントントンと階段を上る小気味のよい足音が近づいてくる。
それすら好ましく感じてしまうのはやっぱりそうなんだろうか。
迫ってくる足音を頭の中で数える。
3・2・1・・・ドアが開く直前に私は筆を置いた。
「メシ行きませんか、カナメさん」
「階下(した)の奴らは」
「あー、部長たちは牛丼行ってくるって」
「ザシは行かなかったのか?」
「オレ、朝昼パンだったんで、夜は野菜食べないと」
こいつのこういうマメというかキッチリした考え方は好きだ。
ちゃんとした家庭で育ったという感じが。
「カナメさんは学食でいいですか? 一緒に行きましょうよ」
「そんな時間なんだな」
「そうですよ。急がないと」
アトリエの戸締りをして電気を消した。心もち足早に学食へ急ぐ。
隣にぴったりと貼り付いて同じ歩調で歩いているのが見なくても気配でわかった。
券売機でザシがA定食のボタンを押したのを確認してから自分は天ぷらうどんのボタンを押した。
トレイに食事を受け取って、テレビから少し離れた場所に座席をとる。
後から来たザシは当たり前のように二人分のお茶をトレイに乗せて持ってきてくれていた。
「今日のメインは肉じゃがだーっ」
子どものように嬉しそうな顔を見ているこっちまで良い気分になってくる。
「これ」
まだサクサクしているであろう海老の天ぷらをザシのご飯の上に置いてやる。
「いいんですか、折角の天ぷらうどんなのに」
「海老、あんまり好きじゃないから」
これは半分本当だ。海老はあんまり好きじゃない。だけど天ぷらうどんを頼んでしまうのは。
やっぱり私はこいつの喜ぶ顔が見たいのか。
「天丼天丼嬉しいな♪」
「食事中は歌うな、行儀悪いぞ」
「はーい」
なんでこいつなんだろう。こんな年下の、子どもっぽい男。

68 :
食後は紅茶と自分で決めているので、まっすぐアトリエには帰らずに部室へ行く。
外へ食べに行った奴らはまだ帰ってきていない。おおかたゲームセンターにでも寄っているのだろう。帰りはきっと遅い。
半ば自分専用の荷物置き場と化している広報部用の棚から自分用のティーポットと紅茶の缶を出しているあいだに給湯室にザシはお湯を汲みに行ってしまった。本当に自然にだったので一瞬なんの違和感も感じなかった。
「今日は二人前か……」
冷蔵庫に牛乳が残っているのを確認してからティーポットにミルクティー用の茶葉を二人分セットする。
そして、自分だけのお楽しみの瓶も冷蔵庫から出した。
パタタタ……走らなくていいのに、ザシは急いで帰ってきた。
「お湯持ってるんだから走らない走らない。危ないじゃないか」
「大丈夫っす!ヨユーで!」
この笑顔の源は何だろう。少し分けてほしいぐらいに明るい声。
私は受け取った魔法瓶からティーポットにお湯を入れて、砂時計をひっくり返した。
「ねえ、カナメさん」
「何だ?」
「その瓶、何なんですか。いつも紅茶に入れてますけど」
その視線は私の手元に置かれた『カナメ専用 触った奴はす』と書いてある瓶にやられていた。
「シロップだよ」
「シロップ?」
「そう、イチゴのね。とても高価い奴」
まあ、間違いではないかもしれない。私にとってはそんなものだ。
「ねえ、マグカップ取ってくれる」
話題を逸らしたい、と無意識のうちに思ったのかもしれない。あるいは時間稼ぎ。
ザシは私のと自分用のカップを戸棚から見つけて持ってくる。
砂が落ちた。
並べた二つのカップに交互に紅茶を入れて。ミルクと砂糖は各自好きな量を自分で入れる。
――私は砂糖は入れない。ザシはスティック半分――そして私は自分用のカップだけにあの液体を入れる。なみなみと。
ティースプーンで三回転半混ぜたところで、くん、と鼻を鳴らしてザシの顔が近付いてきた。
「いい匂いですね」
「イチゴだからな」
「少し、下さい」
「駄目だよ」
「一口だけでいいですから」
どうしようかしら。
考えている間にその沈黙はYESのサインだと思ったらしい。
パッとカップは奪われて、ザシの口元に運ばれていく。
ゴクゴク……ゴクン。
「――!! !!」
声にならない叫び声とその変な顔に私は思わず笑ってしまった。
「ちょ、カナメさんこれ絶対にイチゴシロップじゃないでしょう!!」
バレたか。っていうか部員なら誰でも知っていると思ったんだけど、本当に知らなかったのかこいつは。
「ウォッカだよ。イチゴを漬けた」
「ど…」
どうして、と唇が動いているが、声にならないらしい。
そりゃそうだ、ザシは普段の飲み会でもほとんど酒らしい酒を飲まない下戸なのだ。紅茶割とはいえウォッカの刺激は強すぎたのだろう、顔が真っ赤になっている。

69 :
「校内で飲酒だなんて……じゃあ、僕が」

「飲んであげますよっ!」
どうしてそういう話になったのかよくわからないがザシは私の飲酒を止めたいようだ。
ゴクゴクと勢いをつけて全部飲みほしてしまった。
あーあ。私のイチゴウォッカ。
「カナメさん、僕は……ずっと言いたかったんですけど」
ダメ。聞きたくない。私はザシの分の紅茶にイチゴウォッカを入れて飲み(砂糖が元々入っているのだからそれはそれは甘かった)視線をそらす。
「僕は、貴女のそばに居たいです。できればずっと」
「永遠なんてないと思うけどね」
「そんな悲しいこと言わないで下さいよ、人が決の勢いで告白してるのに」
「好きということ?」
「そんなストレートに…… まあ、そうです」
「性的な意味で?」
「そんなの……無いとは言いませんけど。どっちかっていうと精神的な意味合いで」
「私はね、他人に愛される資格もないし他人を愛する資格がないんだよ」
え。とザシの口が小さく動いた。
「そんなの……資格とかそんなのないでしょう」
「自分を愛せない人間は他人を愛する資格がない」
「じゃあ、僕が」
「僕が?」
「僕が責任を持ってカナメさんのこと愛します」
なんだそれ。
「愛しますってば!」
「嘘ばっかり」
――男なんて。みんな同じだ。野蛮で。獣よりも醜い。
「嘘じゃないです」
「じゃあ、しよう」
「?」
「確認させてあげる」
「?」
――欲望におぼれた男なんてみんな同じだ。
私は倉庫の鍵を持って手招きした。
――さあ、本音を曝け出せ。

70 :
「……っ! カナメさんっ。こんなこと、駄目ですってば!」
「安心しろ、誰も来ないから」
「そういうハナシじゃなくてっ」
ザシはコンクリートの壁に背中を押しつけるようにして立っていた。
その前に私は膝立ちの状態でかしずく。
――男なんて。
――男なんてアレの最中にはそのことしか考えられない生き物のくせに。
私はザシのズボンを膝まで下ろし、下着の上からそれを握る。
「駄目ですって! どうしてこんな」
「こんな? こんなに大きくして?」
布ごしに緩い刺激を与えたそれはもう大きくなっている。
ギュッと握ると充分に硬くなっていることがわかったので残っていた下着も下ろす。
口中に唾液を溜めてから私はそれに口づけた。
「こうして欲しかった?」
「カナメさ…んっ」
「んむっ……」
一息に飲みこむようにして口中に迎え入れる。
雄の匂い。雄の味。
これが彼の味。私を好きだという男の。

最初はソフトに、アイスキャンディを舐めるように舐めあげる。
そして深く、早くなるにつれて加える圧力も増してゆく。
手の動きもつけてやるとザシは顔をゆがめた。
「カナメさん、それやられると」
動きを止めてやろうか。このまま達させてしまおうか。
逡巡しながら私は行為を中断してザシの顔を見上げた。
「それ……反則です」
「何が」
「瞳。すっげーキレイで。」
「バカ」
私はまたそれを銜えた。今度は手の動きにあわせて顔を深く上下し動かす。
――早く。
――早く達してしまえ。
それだけを考えて動く。それだけがただひとつの光であるように。
切なげに漏れるザシの吐息。
口腔内に苦味を感じた思った瞬間
「ごめんなさい!!!!」
ザシはそう叫ぶと私の頭を自分の身体から引き剥がした。

「だって、飲ませるとかありえないですよ」
ティッシュペーパーで後処理をしながらザシは言った。
「私は飲んでもよかったんだけど」
「だ、駄目です、そんなこと」


71 :

「それよりどうして、あんなことしたんです?」
「私のこと、軽蔑しただろ」
「ビックリはしましたけど。」
「まだ私のこと好きとか言えるか?」
「好きですよ」
「じゃあ、言葉をくれ」
「?」
「永遠じゃなくてもいいから」
「僕はずっとずっとカナメさんのこと好きですよ。本当に」
こいつは本当の馬鹿かもしれない。
あんな暴力にさらされてなお私のことを好きだというなんて。
だけど、本気かもしれない。
今だけでもいい。永遠なんてなくていい。
こいつがくれる気持ちだけ、今は受け取ってみよう。


「ありがとう」
小声でつぶやく。
「なんですか?」
「独り言だよ」

そして私は紅茶を二人分淹れる。
イチゴシロップ抜きで。

72 :
>>66
gj!こういう組み合わせのカップル大好きだ!!
続きあると嬉しいです

73 :
乙!
淡々とした感じが好みでした

74 :
≫66さん gj! 続く?
規制がまたキツくなる中、投下嬉しい!
≫60タンと同じIDのSSを他スレで見かけたんだが、規制対策?同じ日に投下してる
規制ですぐレスできないかもしれないけど、書き手さん待ってますw

75 :
保守

76 :
こんばんは、お久しぶりです。『Baby Baby』の続き投下しに来ました。
まさかの一年近く……こんなに遅くなってしまってすみませんorz
また、PCクラッシュした為トリップが変わっていますが、NGは『◆oE/6SBcxv2』か『Baby Baby』で。
前編は縮刷版からどうぞ。
10レスあります。

77 :
 衝動的に叫んで後悔した。
 ……最低だ。一番避けたかった事態に、自ら飛び込んでどうするの。
 本当に嫌なら、ベッドへと場所を変える時にでも言うべきだった。それなのに、タイミング悪すぎる。
散々いろんなこと許しておいて、今更じゃないか。
 面倒くさい。
 本当に面倒くさい女だ。 
「すみません」
 しばらくの沈黙のあと、陽介の体が離れた。
 なんで謝るの。謝るのはこっちじゃないか。
 だって傷つけた。陽介の、そんな表情見たくなかった。そうさせたのは私だ。
 本当に、最低だ。
「やっぱり、俺がっついてましたよね」
 違う。
 そうじゃない。
 やだ。
 やだ、やだ。
 そんな顔しないで。
 ――嫌いにならないで。
「違うよ、陽介のせいじゃない!」
 身を起こして、陽介に飛びついた。
 だけど、顔が見れない。見るのが怖い。腕をつかんだまま、ずっと下を向いていた。
「わ……私、訳わかんなくなっちゃって。怖くて……っ」
 あ、やだ。涙出てきた。
 陽介に顔は見えないだろうけど、声が涙声になってる。
 泣いてどうにかするつもりなのかって思われるかな。
 でも、その涙は、自分がつまらない人間だとつくづく思ったからだ。
「ほんと、26にもなって恥ずかしいんだけど、私、その、あのさ」
 怖い。言うのが。
 引かれるだろうな。重いって思われるかな。
 だけど、もう言わなきゃ。
 唇が震える。
「……し、たことなくて……付き合うのだって、陽介が」
 うわ。
「……初めてで」
 面倒だ。
 自分で言ってて、つくづく面倒な女だ。
 26で処女なのも、それがコンプレックスなことも、陽介に嫌われるかなってぐるぐる考えてることも。
 全部全部、面倒だ。
 こんなことも、こんな悩みも、今の年齢で経験することじゃない。私以外の人は、もっと前に終わらせてる。
だけど私は26歳で、四捨五入すれば30歳だ。もう、そういう年齢な訳で。
 人並みの人生、送れてないんだなぁ……。
 情けない。
 そう思ったら、一気に涙がこぼれた。

78 :
「どうしていいのか、全然わかんなくて」
 ぶっつりと切れたみたいに、涙が止まらない。
 陽介はずっと背中を撫でてくれた。……なんでこんなに優しいんだろう。
 ある程度、私が落ち着いたところで陽介が口を開いた。
「なんとなく……すごい恥ずかしがりなのかなー可愛いなーって思ってましたけど……」
「ま、まさか初めてだとは思わないよね……ほんと、ないよね……」
「いや、なくはないです」
 そう言って、陽介は私の顔を上に向かせた。
 可愛く泣けるタイプでもないし、涙でぐしゃぐしゃで酷い顔を見られたくなかったのに。
 何より、陽介の顔を見るのが怖かった。
「ゃ……ごめ、んなさい……」
 怖くて、また涙が溢れた。
「謝らないで」
 そっと涙をぬぐってくれる。
 なんで陽介、そんな優しい顔するの。
 なんで私みたいな女に優しくしてくれるの。
 そんな価値、ないのに。
「……嫌なの、全部、自分が。陽介に重いって思われるかなとか、嫌われるかなとか思っちゃうのも、
 す……するのが怖いのも、全部全部、自分のことしか考えてない……」
 だめだってわかってるのに、たまらなくなって少しずつ吐き出した。

 何かで読んだ。セックスは、お互いの一番弱いところを見せ合うものだって。今の私には、それは
無理だ。つまんない意地やコンプレックス、陽介には知られたくなかった。
 陽介に嫌われたくなかったから。
 陽介が離れていってしまうのが怖かったから。
 だって、誰かに好きになってもらえるなんて、この先ないと思ってた。
 大学時代だって、社会人になってからだって、恋しなかった訳じゃない。だけど、その人が私を選んで
くれたことはなかった。その度に自分ってなんなんだろうって考えた。家族仲はいいし、友達だっている。
仕事は面白いし、職場の人間関係もいい。自分は「いらない子」なんかじゃない、幸せだってわかってる
のに、自分の価値がわからなくなっていった。
 誰も私のことなんか、可愛いって思わないんだろうなぁって。
 別に酷いことされたり言われたりしてきた訳じゃないけど、男の人にとってどうでもいい女なんだろう
と思った。恋愛市場じゃ価値がない女なんだろうなぁって。だけど同時に、恋愛が全てじゃないとも考えてた。
恋愛以外じゃ人生楽しめてるんだから、たった一要素で悲観的になるのはおかしい。今もそう思ってる。
『おひとりさまの老後』を読んで貯金を始めたのも、どっちかっていうとポジティブな気持ちからだったはずだ。
 大丈夫。わかってる。
 わかってるのに。
 少しのさみしさを認めたつもりだった。だけど、結局は見ないようにしてただけだった。いつだって
胸が痛かった。ふとした時に、ああ自分は一人なんだなって思ってさみしかった。そう思う度に、
おかしい、そんなはずないって思うようにしてた。だって周りに人はいるのに。大切な人たちがいるのに。
 
 陽介に告白されて嬉しかったけど、付き合ううちにどんどん怖くなっていった。
 陽介が優しくしてくれたり、好きだって、可愛いって言われる度、すごく嬉しいのに身構えてしまう
自分がいた。自分にブレーキをかけるようにしてた。

79 :
 今までの分、全部陽介にぶつけてしまいそうで怖かった。
 可愛いって思われたい、手繋ぎたい、抱きしめられたい、甘えたい、キスしたい。そういう願望を
ぶつけたくなくて気を付けていたけど、見透かされてしまったらと考えると怖くてたまらなかった。
 だって、こんなの身の程もわきまえない、ただの欲張りじゃないか。
 そんな価値もない女のくせに。

 ……重い。これは重い。
 涙も収まってきて、ずいぶん冷静になってきた頭で思う。
 ていうか、何を話しているんだ! 私は!
 さぁっと血の気が引いた。ような気がする。
 何、不幸自慢のつもりか。ない。これはない。こんなこと、いきなり言うのだって、陽介のこと考えて
ないことになる。どこまで私は自分のことしか考えてないんだ。フェードアウトされてもしょうがない。むしろ
直接はっきりと別れましょうと言われてもおかしくない。だって重い上に面倒だもの、この女。ストーキングは
しないので安心してほしい。あー、あー、なんだか捨て鉢になってきたぞ。
 だけど。
 正直言って、まだ信じられないけど。
 陽介が私のこと好きだって言ってくれたの、すごく嬉しかったんだよなぁ……。
 もうその思い出だけで生きられるなぁと思っていたら、陽介は私の頭を撫で始めた。それされるの、
好きだからやめてほしい。どきどきするからやめてほしい。
「……俺、今ほっとしてるって言ったら嫌いになりますか?」
「え……」
「蛍子さんのこと、今まで俺全然わからなかったんです」
 その言葉もよくわからなくて、きょとんとしてしまった。
 陽介は代わりになる言葉を探しているようだった。
「いや、えっと。んー……わからないっていうか、不安ていうか悔しいっていうか」
 その言葉もよくわからなくて、陽介が話し出すのを待った。
 不安? 悔しい?
「俺から告白したし……やっと大学出て働き始めたところだし。蛍子さんから見たら、子ども
 なんだろうなって思ってて。でも年なんて絶対埋められるものじゃないし。
 嫌われてはないんだろうけど、必だなって思われてたら恥ずかしいなぁとか考えてました」
 実際蛍子さんのこと好きすぎて必ですけどね、と陽介は苦笑して言った。
「ごめんなさい、正直言って一線引かれてるって感じてたんです。
 一旦考え出したらよくないことばかり思いつくんですよね。
 俺ばっかり好きになってて、蛍子さんはそうでもないんだろうなとか」
 ひやりとした。
 まさにその通りだったから。私、わかりやすいのかな。だったら陽介はとっくに私の願望なんか、
見透かしちゃってるのかもしれない。
「でも、嫌われてないならいいか。あのさ、蛍子さん」
 私の体をすっぽりと抱え込むようにしながら、陽介が言った。さっきより近くなる。
「知らないところ、いっぱいあるよ。これからどうなるとか、まだ全然わからないよ。
 だけど、蛍子さんと話すの好きだし、もっと一緒にいたいって思えたから告白したんです。
 ……自分のことしか考えてないのは、俺も同じ」
 違うって言いたかったけど、うまく声が出なくて代わりに首を横に振った。

80 :
「残念ながら、そんなもんなんですよ」
「でも陽介……」
 声を出したら、やっぱり少し裏返った。
「私と違って線引いたりしないじゃない」
「だって好きなんだから近づきたいよ」
 心とかだけじゃなくて体も全部。
 好きなんだから近づきたい。
 それって、すごく勇気のいることだ。私は線を引いて逃げた。陽介は逃げなかった。
「そりゃあ怖いですよ、今でも。それでも蛍子さんのこと知りたいんです」
 確かに付き合い始めてから、陽介のこと少しずつ知るようになった。
 出会いこそ5年近く前だけど、私は陽介のことほとんど知らなかった。再会して皆で遊ぶように
なってから、知ることは多かった。付き合いだしたら、もっと増えた。こういう表情するんだ、ああいうの
好きなんだ、こういう癖あるんだなぁ――なんて。
 私、本当はわかってた。
 いろんな面、知る度に陽介をどんどん好きになっていったこと。
 すごく好きな訳じゃないけど嫌いな訳じゃないし、なんて考えてたけど、正直もうどうでもよくなってた。
会う度にもっと一緒にいたい、離れたくないって思うし、キスする度にもっとしたいって思った。唇が離れる
のがさみしいなって、いつも思ってた。
 そうなんだ。
 好きだから。
 好きだから、嫌われたくなかった。
 だけど、好きだからって線を引いて逃げてしまうのは違う。私はもういい加減、踏み込む勇気を持つ頃だ。
今やらないで、いつやるんだ。好きなんだから、向き合いたい。
「私も」
「うん」
「私も陽介のこともっと知りたい。本当、私、怖がりだけど……」
 キスするのかなって思ったら、陽介は私のおでこにおでこをくっつけてきた。
「怖がり同士でいいじゃないですか」
「でも、私今まで怖いからって逃げてて」
「今まではいいから、これから」
「これから……」
「無理しなくていいんです。ちょっとずつでいいんです。
 蛍子さんとは長くじっくり付き合いたいなぁって思うし。だから」
 
 陽介は顔を離して、まっすぐに私を見てきた。
 一瞬目を伏せそうになった。怖いけど、目を合わせるのは怖いけど、でも。私もちゃんと見つめ返す。
 陽介がふわって笑う。
「もう少し、お互いを知ってからしましょう?」
 してから知ることも多いけど、って陽介は続けた。
 あ、なんだろ。
 胸がじわっとあったかくなって、泣きそうで、たまんない。どうしようもない。陽介のことが好きで、
好きでたまらなくなってしまった。
 触れたいなぁ。
 そう思った時には、とっくに手が出て、私は陽介にぎゅうっと抱きついていた。
 陽介の背は低くないけど、すごく高い訳でもない。陽介を見るときはやっぱり見上げてしまう
けど、細身ということと後輩ということで、あまり大きいイメージは持ってなかった。でもやっぱり
大きいなぁ。男の人だなぁ。

81 :
 あー、こういうふうに陽介の体を感じるの、すごく幸せだ……。
 少し体を離して陽介の顔を見ると、ちょっと驚いたような顔してた。あ、なんか可愛い。
「ごめんね、なんかすごく嬉しくって」
「いや、謝らないでくださいってば」
「……うん。ありがとう」
 泣きそうになってしまったから顔が見えないように、また抱きついた。
 でも、さっきみたいな泣きたい気持ちじゃない。あったかい気持ちだ。ちょっと浮かれてるかもしれない。
普段なら、絶対こんなことしない。しないっていうか、出来ない。
「好き」
 別に今までが不幸だとも思わないけど、陽介と会えて本当によかった。
 陽介みたいな良い子が私のこと好きでいてくれて、私も陽介のこと好きだってはっきり言える
ようになれて、嬉しい。好き同士、になれるなんて気の遠くなるような確率だと思ってたけど。
 こうしてるだけで、あたたかい気持ちになれるって本当に幸せだ。
 ちょっと浸っていると、突然陽介が私の体を離した。
 え。
 な、なんで? 私、何かした? どうしよう、嫌だった?
 軽くパニックになってると、陽介の顔が赤いことに気付いた。
「……そういう不意打ちは困る…」
「え、何が……、――っ!」
 手を掴まれて、足の付け根に誘導される。
 うわ。
 うわわわわ。
 もちろん、そんなところを触るのは初めてで、一瞬よくわからなかった。だけどスウェットだから、
余計感触がわかりやすいというか。陽介がどういう状態なのかわかってしまって、こっちも顔が
赤くなる。
 ああでも、そういうことなんですよね。
 私が怖い怖いなんて言うからやめてくれただけで、本当は。
「やっぱり、その、し、したいよね……」
「しませんよ」
 でも、と言いかけると、陽介がばつの悪そうな、というか苦虫を潰したような、まぁそういう
微妙な顔してさえぎった。
「すみません、言わせてもらいますけど、今すっごく我慢してるんですよ俺。
 諸々脱いだ格好で抱きつかれて、好きな人に好きだって言われて、どうにかならない訳がないでしょ。
 大体、蛍子さんが好きって言ってくれるの、さっきのが初めてだし。ああもう!」
 そういえば、確かに色々脱げてて酷い格好だった。寝巻きは上しか着てないし、それもボタン
外して前全開になってるし。下着は上下着けてるといっても、ブラのホックは外れちゃってるし。
冷静に考えると、すごい格好だな……。今更恥ずかしくなって、上着の前をかき集めた。
 まぁ、それはそれとして。
 えっと。
 そうか、私今まで陽介に好きって言ったことなかったんだ。
 なんとなく、ごまかしてきてたと思う。だって、『付き合う』ってもっとこう激しいというか情熱的なもの
だと思ってた。いや、性的な話じゃなくて。
 お互いのこと、好きで好きでしょうがない人同士が『付き合う』ものだと思ってた。
 とりあえずで付き合っちゃう人たちがいるのも知ってるけど、自分には遠い世界の話だと思ってた。
 だって私、最初から陽介のことすごく好きって訳じゃなかった。最低なことに少しの打算的な考えが
あった。嫌いな訳じゃないけど。むしろ好きだったけど。ただ、恋愛方面の好きっていう感じじゃなかった。
でも、キスされたの嫌じゃなかったんだから、やっぱり初めからそういう好きだったのかな。どうなんだろう。
体触られるのだって嫌じゃないし。

82 :
「だけど、絶対今日はしないって決めましたから。今日だけじゃなくて、もうしばらくは。
 蛍子さんが俺を欲しいって思うまでは、絶対」
 ……。
 なんか結構露骨なことを言われてるような気がしないでもない。というか、もっと他の言い方が
あるだろうと突っ込みたかったけど、今は気付かないふりをする。
 なのに陽介は、気が付かないふりをしたのに、無意味な努力となるような反応をしてくれた。
「まぁ、そのうち一緒にお風呂入ったり、俺の上に乗ってもらったりしてもらうつもりなんで」
「――なっ……!? いや、ちょっと、……ええっ!?」
「あはは、だって好きな人のいろんな姿って見たいじゃないですか」
 さわやかに笑顔で言わないでほしい。
 どうしよう、ぐるぐる考えてたら、また真面目な顔をして陽介が言った。
「今日はしません。けど、……もうちょっと触ってもいいですか」
 陽介の声が低く掠れて、心臓がどきんと飛び跳ねる感じがした。
 嫌じゃない、怖くない、この感じ。
「触られるのも、怖い?」
「……怖くない……」
 そう答えるとキスしそうな距離に近づいて、やめても大丈夫ですからね、と囁かれた。ち、近い……。
 のどが渇いた感じがする。
 言わなきゃ。
 そりゃ最後までは怖いけど、陽介に触ってもらうのは多分好きだ。嫌じゃない、じゃなくて好きだと思う。
私だって、もう少し触ってほしい。……恥ずかしいけど、でも言わなきゃ伝わらない。
「もっと触って……、…ん、んぅ…!」
 
 答えた途端、唇が触れる。
 唇だけじゃなくて、舌も。
 さっきした時はされるがままだったけど、今は違った。多分、というか絶対下手なんだろうけど、もっと
陽介のこと知りたくて、頑張って舌をのばす。すると、陽介は私の耳をさすったり軽く中に指を入れたり
してきた。指、優しいのが嬉しい。なんだろ……。キスしながらだと、やたら感じてしまう。耳でこんなに
感じるだなんて思わなかった。
 息が苦しいと思った頃に、陽介は離れた。
 ぼうっとしてしまっていたら、陽介は、私が飲みきれずに口の端に溜めてしまった唾液を舐め取った。
 なんか、そういうの……。
 あ、やばい……自分の中から、とろりと落ちる感覚がした。なんていうか、その。興奮っていうか、
むしろ発情っていうか。どうしよう。もっと触ってほしくなる。
 腰の辺りを撫で回されて、腰が震えた。
 撫でてるだけなのに。なんで、こんなに気持ちいいんだろう。もっと、もっと、って思ってしまうんだろう。
 そんなことを考えていると、ふと陽介と目が合ってしまった。やだ、私間抜けな顔してたよね今。
うわうわうわ、急に恥ずかしくなってきた!
「あの……電気もう少し、暗くしてもらってもいい……?」
「だめ、蛍子さんの顔とか体、ちゃんと見たい」
「た、大したものじゃないですから! 胸ないし! 本当に!」
「……なんでそういうこと言うかな。俺好きですよ、蛍子さんの体」
「…んっ……!」
 太ももから腰、胸までのラインを優しく撫で上げられて、思わず声が出てしまった。
「肌気持ちいいし、胸可愛いし」

83 :
 小さいっていうのを可愛いって言い方してくれる辺り、本当にいい子だなぁ。なんて思ってたら、
陽介の手がのびて胸を揉みしだかれた。時々乳首をこすられると、背中の辺りから自分の中心まで
ぞくぞくして、切なくなる。なのに、耳にキスしてくるから余計に感じてしまう。
「今までがどうだろうと、蛍子さんは可愛いです。……自信持ってよ」
 だめ、耳元で囁いちゃだめ。ずるい。反則だ。
 言われてることはすごく嬉しいのに、今はひたすら気持ちよくなってしまう。息も荒くなってる。あ、だめだ、
頭ぼーっとしてきた……。
 胸を触っていた手がお腹に下りていったかと思うと、ショーツの上からあそこをそっと撫でられてしまった。
反射的に足を閉じたけど、そんなことじゃ指の動きは止まってくれなかった。
「う、ぇ、あの、待って、そこはだめ」
「嫌ですか? ……今日はもうやめましょうか」
「そうじゃなくて、心の準備が!」
 途端、陽介はきょとんとした顔をして、それから吹き出した。
 え、なんで。変なこと言った!? 
 だって嫌じゃないよ! 確かに触ってほしいよ! でも同時に恥じらいもあるんだってば! 興味はある。
性欲もそれなりにある。陽介の触り方好き。だけど、今私は恥ずかしさでねるほどなんです。本当に申
し訳ないけど、心の準備しないとちょっと無理なんです。花も恥らう乙女って年頃でもないけど、恥ずかしい
のは恥ずかしいんです。
「そういうところ好き」
 言いながら、おでこやほっぺにキスしてきた。なんか小さな子をあやすみたいだ。子供扱いか。そうか。
そうだよなぁ。うう……。いいんです、これから覚えていくから。
 そんなことをぐるぐる考えていたら、準備出来ました?と聞かれて、うなずいた。うなずいたけど、私、
心の準備出来てるのか……?
 さっきよりもしっかりとなぞられていくと、自分がどれだけ濡れていたのかがわかってしまった。え……
おかしくない? だって、一人でしてた時だって、こんなに濡れたことなかったし。
 うわ、どうしよう。どうしよう。だってこんなの。
 一人で少し混乱していたら、ショーツの上からかき回すみたいにいじられて、くちゅっという音がした。
 ……もう、無理……。
「見、ちゃやぁ……」
 陽介の指がどう動くのか見てられなかったし、顔も見られたくなくて、陽介の胸に抱きついて顔を隠した。
限界です……。だけど、目をつぶってしまったら、音が余計に聞こえる気がした。私の荒い呼吸と、恥ずか
しい水音。それから、陽介の心臓の音。
「でも触るのはいいんですよね」
 そう言って、陽介はショーツの脇から指を入れてきた。普通に脱いで触られるより、絶対そっちの方が
やらしい気がする……。
 指で往復するような動きに、体がふわふわしてくる。さっきよりも水音が粘っこい。
「とろとろだ」
「や、だ……っ 言わないでよぅ……」
「俺としては嬉しいんで」
 自分でもわかる。きっとそこは熱くて、柔らかくなってるんだと思う。でも言われるのは別なのに。
好きな人にそういうこと言われるの、恥ずかしくて仕方がない。

84 :
「――ひぅ……っ!」
 いきなりだった。少し、そこに触れられただけなのに、体が跳ねた。体中に電流みたいなのが走っていく
感覚。頭がしびれていくみたいな。だめ、そこすごく好きだから。陽介のTシャツをつかんで快感をやりすご
そうとしたけど無理だ。敏感なそこを転がすように指を動かされる。
「ぁは、ふ、ぁ……っ」
 うまく呼吸が出来ない。
 転がしたり、強めに押し付けるように指を動かしたり、かと思ったら優しく触れてきたり、そういじられている
と体だけじゃなくて腰も動いてしまった。一人でしてることバレちゃうかななんて一瞬考えたけど、もうどうでも
よくなった。気持ちいいのを追いかけるのに必だった。
「…ぁ、あ……っ、は、んんっ……っ」
 息荒い。私。時々、声が出そうになる。ふと背中に陽介の手のひらを感じた。もう片方の指は意地悪なのに、
背中を撫でる手はひどく優しい。
 ぬるぬるしたのを、そこにまぶしてはいじくられた。
 つるんとすべりそうなそこを、陽介の指がしっかりと捕まえてる。
 だめ。やめて。いいの。すごく気持ちいの。だめ。やめないで。だめ。だめ。
「ふ…ぁ…、ようすけぇ……」
 どうしようもなくなって、陽介の名前を呼んだら全然予想もしない、甘えるような声が出て恥ずかしくなった。
だって、普段こんな声出さない。甘い女の子って感じの鼻にかかった声は、自分とは遠いものだ。恥ずかしい
のに。なのに、もっと甘えたくなる。
「……もっと、呼んで」
 うわ、そんな熱っぽい声で囁かれたら。今、お腹の奥がきゅんっとしたの、わかった。
 でも陽介は全然手を止めてくれる訳なんてなくて、二本の指でそこをしごきだした。頭の中白くなってきて、
うわごとみたいに陽介の名前を繰り返す。
 あ、耳……陽介の舌でねぶられてる。舌、熱い。やだ、一緒にいじられたら、私、だめ、もう、やだ、だめ、
「――――、……っ…!」
 ――声にならなかった。
 上り詰める感覚の後、頭の中が白くはじけた。心臓が壊れそうなくらい。
 びくんびくんと体が跳ねて、だらしなく体から力が抜けた。やっと呼吸が出来たのはその後だ。
……なんだか空気がおいしい気がする。
 甘い余韻が残る体を、陽介はぎゅうっと抱きしめてくれた。ほっとする。あちこちにキスされてから、
やっと唇にキスがきた。
 大好き。
 徐々にクリアになっていく頭の中で思う。さっきよりももっと、陽介が好き。好きなんだ。

 諸々の処理をして、身支度をして、一緒にベッドの中に入った。
 陽介は、まるで当たり前みたいに腕枕をしてくれた。……本当に自分でもベタだと思うんだけど、
ていうかバカだなぁって思うんだけど、やっぱり腕枕もちょっと憧れていたのです。まさかとは思う
けど、全部陽介に読まれちゃってるのかな。は、恥ずかしすぎる……。少女マンガの読みすぎって
いうのはわかってる! りぼん派です。わかってる。わかってる。だけど、嬉しいです。はい。
 でも陽介、腕しびれちゃわないかな。
 これ、結構男の子が頑張らなきゃいけない体勢のような気がする。
 そう思って言ってみると、首の辺りに腕がくるようにしてくれた。これなら大丈夫かな。

85 :
 ただ、そうすると、さっきよりも陽介が近くになるもので……。いや、もうね、そろそろ慣れなきゃ
いけないと自分でも思うんだけど! もっとすごいこと、さっきまでしてたくせに! いや、すごいこと
って表現はどうなんだ。中学生か! まぁ、それとは別ということで……。誰かの心臓に近い位置に
いるって、本当にどきどきしてねる。だけど、陽介が柔らかく笑ってくれたから、ちょっと落ち着けた。
 少しずつ、いろんなことを話した。
「俺ねぇ、本当に今日浮かれてたんですよ」
「ずっと、どうやって家に誘おうか悩んでて。そしたら思いがけず、今日は蛍子さん来てくれて」
「悩んでたんだ……」
「悩みますよ。そういうことが一番の目的だって思われたら嫌だし。
 でも家でゆっくりするのも好きだしなぁって思ってたんです」
 見透かされたみたいで、びっくりした。ごめん、思っちゃってごめん!
 だって陽介、早生まれでまだ誕生日来てないから22歳なんだよ。20代前半なんて健全な
男子だったら、そういうこといっぱいしたくなるもんじゃないのかって考えるし。実際さっきだって、
あそこ硬くしてたし。特に若くもない、あんまり健全でもない私だって、その……一人でして
しまうくらいには悶々としてるし。いや、だからといって、いつもいつもそういうことばっかり考え
てる訳じゃないけど! ……それは陽介もだろう。ですよね、はい。
「でも、結局我慢できずにいろいろしちゃったので、だめですよね」
 陽介が、ちょっと苦い顔して笑う。
「……だめじゃないよ」
 そんなの、私だってちょっと期待してた。期待っていう言い方が正しいのかはわからないけど。
「だって私も、その、するのかな……って。しちゃうのかなって、どうしようってずっと考えてた。
 初めては痛いとかいうから覚悟決めなきゃとか考えてたし」
 ああ、やっぱり期待かな。緊張して、ぐるぐる考えてしまって、過剰反応して、どきどきして、
だけど陽介が好きだって言ってくれるならいいかなって思った。今から思えば好奇心もあった
んだろうけど。
「でも、結局全然覚悟出来てないし、泣きわめくし、みっともないとこ見せたし」
 最初は陽介を傷つけた。私が臆病だったせいで。結局は誰にも言わなかったことを陽介に
打ち明けてしまった。今でもちょっと怖い。私なんかがそんなこと口にしていいのかって思わ
なくもない。でも打ち明けないままだったら、近いうちにすれ違っていたと思う。早々に別れてた
と思う。
 私は一人で、自分のことばっかり考えていたんだ。
「多分ね、陽介だから見せることが出来たんだと思う」
 私より経験があるからじゃなくて、ちゃんと思ってることを口にしてくれる陽介だから出来たんだ。
私たちはお互いのこと、もっと知っていくべきなのに、私が拒否してばっかりで。陽介はちゃんと
知ろうとしてくれた。私だって、していきたい。知っていかなきゃ。
「俺もわりとみっともないところ見せたかと思いますけど、まぁ……
 蛍子さんの可愛いところいっぱい見れたんでいいです」
「ぇえ!? そっち!?」
「見せてくれて嬉しいです」
「や、それはあの、別に……」
「ゆっくりいろんなことやっていきましょうね」
「え、あ、ええ!? うん、いやあの」

86 :
 混乱する私を放っておいて、楽しそうに笑う陽介。ひどい。そんなの。いや、嫌じゃないんだけど。
 頭を撫でてくれながら、陽介が口を開いた。
「蛍子さん、明日予定ある?」
 明日は日曜日で、久々に何の予定もない休日だ。強いて言えば、ちょっと溜まりつつある
家事をこなさなきゃってぐらいで。
 そう答えると、ちょっと言いにくそうにしながら陽介が言った。
「……少しでいいから、うちにいてくれませんか」
 もうちょっと一緒にいたいんです、と視線をそらした。
 ……わ。
 可愛い。可愛いっていうか愛おしい。
 陽介がそんなふうに甘えてくるのは初めてな気がした。思えば、私もどうすればいいのか
わからなくて甘えるようなことは出来なかったけど、陽介が甘えてくるってことはなかったような
気がする。頑張ってたのかなぁ……。仮にも先輩なのに、たくさん我慢させているんだろうかと
考えると、情けないやら申し訳ないやら。
 『恋は二人でするものだ』なんて、よくある表現だと思ってたけど本当なんだろうな。
 どっちかが我慢してたら、二人でいる意味がない。まるで一人だ。
 あ、そうか。そういうことか。だめだなぁ……私、陽介にいっぱいしてあげたいことあったのに。
してもらいたいことじゃなくて、してあげたいこと。私はしてもらいたいことを知られてしまうのが
怖かったけど、そのせいで陽介にしてあげたいことを出来てなかった。どこまで自分のことしか
考えてないのか! そう考えると本当に本当に反省。
 いっぱいしたいな。いろんなこと。これから、少しずつ。
 そんなお願い、いくらでも言ってほしいよ。これから、いっぱい。
「陽介がいいなら、私ももっと一緒にいたい」
「本当!? やった、すっげえ嬉しい」
 溶けそうな、心底嬉しそうな笑顔で、朝ごはん何がいいですか?なんて聞いてくる。
 ……ずるい。この笑顔を見るためなら、なんでもしてしまうじゃないか。これが惚れた弱みって
やつなのかなぁ。いいよ、幸せですよ、ええ。
 陽介の胸に手を添える。ちょっと、っていうかかなり勇気を出してキスをした。

                                          【終】

87 :

以上です
ありがとうございました!

88 :
一番槍GJ!!
もうYou達同棲しちゃいなYO! ってくらいにいちゃついてましたな
……いいもんだなぁ

89 :
GJ!!
>だめ、耳元で囁いちゃだめ。
萌えた かわええです。
お幸せにw


90 :
GJ!!!!
このカップルめちゃくちゃかわいいな
続きがあるならぜひ期待したい……!

91 :
GJ
良かったよ〜

92 :
GJ!
萌えた!!
実は待ってました
さらなる続きを期待してます

93 :
GJ!!ずっと待ってました。読めてよかった。

94 :
りぼん派ですワロタww

私もりぼん派です!

95 :


96 :


97 :


98 :
保守age

99 :
職人さん
カムバック。

100 :
今だ!100ゲットォォォォ!!
 ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
     ∩ ∩
   〜| ∪ |         (´´
   ヘノ  ノ       (´⌒(´
  ((つ ノ⊃≡≡≡(´⌒;;;≡≡≡
   ̄ ̄ ̄(´⌒(´⌒;;
   ズズズズズ

101 :
>100
カオだいじょぶ?

102 :
いたそーw

103 :
なんなんだこの弛緩した空気はw

104 :
ゆるゆる

105 :
まんこ

106 :
最近更新無いなあ。
ゆるんでる!

107 :
しめしめ( ̄ー ̄)

108 :
                    //;:;:/
                     //;:;:/
                    ヘ-∞ヘ
         ヽ/\     /ミ・。.・*ミ
        /  ×     !、.ノ⊂ )
        く  /_ \  // し'し'
  /\        ''"   ゙′ 
 | \/、/          
 |\ /|\ ̄
   \

109 :
タイトルかトリNGでお願いします

* * *
 今月、結婚する事になった。
 別にジューン・ブライドに憧れたというわけではないんだが、結果的にそうなってしまった。
 理由は色々ある。まず、あたし達は何もかもをすっ飛ばした状態で同棲に突入、それから互いの両親に結婚前提の旨を伝え話を
纏めた。
 が、それから式を挙げるには何かと早急過ぎて、年が明け、相手の仕事の都合上少し落ち着くこの時期になるまで待ったのだ。
 教師という職は、年度末から新年度に掛けてが一番忙しい。それに、地元に帰って式を挙げるとなると皆が帰省するに合わせて
夏休み――それもお盆前後――はいくら何でもそれはそれで忙しいし。
 というわけで、期末試験前の少し落ち着いたこの時期に、創立記念日を利用して休みを取ると、帰省する友人達の事を考えて
週末に式を行うように決めた。
 幼小中、下手すりゃ高まで――そんなクラス全員が幼なじみと呼べてしまうような中で育ってきたあたし達2人が再会して
そういう関係になったのがちょうど1年前の話。
 区切りとしても良い時期なんだろう。
 間に合わせに慌てて選んだアパートは意外に住み心地が良かったので、暫くはここに住み続けるという事にして、互いに持ち寄って
使っていたちぐはぐな超安物の家具は処分した。
 それらしく形を整えられてきた部屋で、帰省の為の2人ぶんの荷物を纏めながら考える。
 結婚とは、一生を懸けた契約だ。
 その中でも、結婚式というものは特に女にとってはその全てを懸けてもいい位の晴れ舞台だという。
 そんな一大イベントを前に
『あんたホントに結婚前の女か?』
と幼稚園以来の親友に心配される程あたしは浮かれていない。
 式で着る打掛と引き出物は、春休みに忙しい彼を残して1人田舎に帰り、電話や写メをやり取りしつつ決めた。
 新しく揃えた家具や家電もほぼあたしに決定権があり、不服に思う事はない――筈。
 なのに、これから自分が進んで行く予定の道の先には靄がかかり、まるで見当もつかない未来への不安ばかりが身を包む。
 あたしの行く先にあるのは落ちてゆくのみの道の無い断崖絶壁なのか、それとも。
 どちらにしろ、戻る術は無いのだ。

110 :
* * *
 木曜日の朝一で車を走らせ故郷に帰った。
 何故今住んでいる所ではなく、わざわざそんなにまでして式を挙げるのか。それは彼の実家にあった。
 地元ではなかなかの名士と言われた家で、彼はその長男坊である。
 いずれこちらで教採試験を受け直し、戻って来るつもりもある。
 代替わりはまだまだ先の話だが、田舎の『家』に対する考え方はまだまだ根強いものがあり、冠婚葬祭は親戚一同の顔合わせの
場という役割もある。
 過疎化の進む田舎町に若い衆が、それも地元民とはいえ嫁付きで戻る気があるのだ。ちょっとした祭りだ。
 ましてや、まだまだ結婚が半数以上未知のものであるあたし達の年齢(27)にとっては、友達の結婚式はイベントそのもの。
 土曜日の式にあわせて前ノリで帰ってきてくれた友人達が皆浮かれるのも無理はない。
「ちょっとした同窓会だもんねえ」
 そう言って昔話を懐かしむ夕子の薬指には、3年前に見たプラチナの指輪が変わらず光る。
 幼稚園以来の親友の彼女とは、高校卒業後初めて離ればなれになった。
 子供を親に見せてやるという名目の里帰りも、旦那の親との兼ね合いもありなかなか難しいらしい。他の友人達も似たような
もので、盆や正月の長期休暇でもなければ帰郷してくるのはなかなか大変なものなのだ。
 だからこうして会って話せるのも正月以来だが、まだましな方かもしれない。
 あたしや夕子だけに限らず、クラス全員そういう関係と言い切っても過言ではない。そんな小さな学校の繋がり。
 招待状を出すにあたって彼と散々悩んで決めたのだが、実際えらい事になった。
 ――つまり、共通の人間が多すぎる。
 それぞれ親しい友達だけをと考えても、誰を呼べば誰を呼ばないわけにもいかなくなるとそのうち人数が増えていき、同級生の
大半がリストに並び、そうすると今度は一部だけ声を掛けずにおくわけにはいかないと結局全員に招待状を送るハメになった。
 まあ、地元から離れた人間も数多くいるため、最終的には絞られてくるだろうとあまり深く考えないでいた。

111 :
うっかりトリとタイトルを入れ間違え…
投下途中で気が付いたorz
すみません今レスからお願いします

------------------

 が、欠席の旨を寄越したのはほんの4、5人ばかりで、30人弱のそれに高校時代の数人をプラスしてみると最終的には友人だけで
かなりの数を占めてしまった。
 それに田舎の結婚式というのは、親戚以外にも地元の繋がりの集まりの場でもあるらしい。特に今回の新郎の立場なら今時の
地味婚などとてもじゃないが言い出せない――という雰囲気がある。勿論資金はちゃんと出してくれるみたいだけど。
 ああ、色々といずれにしても面倒臭いものなんだな、結婚って。
 本来なら浮かれて頬を染めつつ、のろけの一つも聞かせるのが普通の話なんだろうけど。
「で、どうしてお前等が結婚しようなんてでかい冗談やらかすような話になったわけ?」
 こんなふうに晒し者にされるのも避けて通る事が出来ない辛い現実。
 式前日の金曜日。真っ昼間から前祝いのランチと称して、早めに帰ってきてくれた同級生数人に2人して取り囲まれるハメになった。
 本来ならあたしは輪の中心にあるべき人間じゃないのだ。
 なのに本日の主役だからと囲まれて、質問攻め写真攻めの波に呑まれ揉まれてくたくたの乾燥ワカメになった。
 ああ、自分で言っててわけがわからん。普段壁の花と化すのが常であり居心地のいいあたしにはちと辛い状態である。
「しかし……同級生と結婚しようなんて思う奴は勇者だな。お前は立派だよ、志郎。あ、いや違う、秋穂がどうってわけじゃ
 ないぞ、うん」
 ……フォローになってない気がする。まあ、いいけど。
 そんなあたしの隣でソツなく受け答えして、際どい質問も軽く受け流している旦那――になるオトコ。
 さすがは当時の生徒会長様だわ。
 なんか、気が付いたら無理やり押し付けられた生徒会で数字嫌いの会計だったあたしとは、大違いだわ。
 まあでも、鼻たれ小僧の頃から知ってる相手――しかもクラス中がそう――と恋愛しようなんて考え、実際はマンガかエロゲ
(した事ないけど)しか想像できないもんなのよね。現実は厳しい。

112 :
 そう考えると、うちの2歳下の弟カップルは――というよりその彼女のミナちゃんはまさに女勇者だわ。
 近所のお兄ちゃんだったただのアホ男子をずっと想い続けていたらしい。どこがいいのかわからん。ここらじゃちょっとした
純愛美談になっているらしいし。
 弟達は5歳の年の差を考えても世代のズレがあるからかもしれないけど、そういうものを飛び越えて、何の迷いも無く一気に
関係が変わってしまった珍しいパターンだし。そりゃもう見てて恥ずかしくなる位に。
 でもそんなのは稀だ。高校生位で付き合ってみる者もあったみたいだが、大概は家族みたいなもんで、変な照れや今更感が
邪魔をして結局は長続きしなかったケースが多い。そのかわり、友達に戻れるのも早いし後腐れも無い。それが良い所だと思う。
 そんなだから、同級生同士での恋愛なんか、まして結婚なんか考えられやしないのが普通なのだ。
 しかも。
「どっちが先に惚れたの?」
「さあなぁ。言った事無いしな俺ら」
「互いにどこが良かったの?つうか志郎、秋穂のどこがいい?」
「うん……はっきりとはわからん」
「は!?じゃ、じゃあ秋穂は?志郎のど」
「さあ」
「えっ……ちょ、おま」
「あ、ああ、じゃあプロポーズの言葉って何?」
「あっそれあたしもききたーい」
 きゃっきゃ言いながら年頃の男女が6人――正確にはうち3人程だが――店の隅で愉しげに恋愛談議に花を咲かせているように
傍目には見える事だろう。
「無い」
「えっ?」
「ちょ、だから、プロポーズの言葉だよ。結婚すんだもん、無いわけないだろ」
「だよねぇ」
「無いんだから仕方ないだろが」
「……は?」
 みんなの顔が一瞬にして同じになった。ハニワみたいな。いや、サボテ○ダーのが近いかも。マニアックだな。
「……なんで結婚しようと思ったんだお前ら」
 そりゃそうだ。そうなっちゃうよねぇ。
 当事者のあたしだってそれ通り越して能面みたいになっちゃいそうだもの。
 それを誤魔化す術が見当たらない。
 苦し紛れにトイレと言い訳して席を立った。

113 :

 トイレでひたすら泣いていた。
 追っかけてきた夕子によしよしとされながら、小学生の時スカーフ捲られパンツの色をバラされた時もこんなだったなぁと
思いながら。
「まだこれからなんだもの。ゆっくり解り合っていけばいいと思うよ?」
「そうかもしれないけど……志郎……って本当にわけわかんない奴なんだよ。あたし多分、一生、理解できない」
「うーん……けど、私から見るとあんた結構大事にされてる気がするんだけどな」
 確かに、打掛の柄も家具もドレスも好きな物を、予算内という条件さえ満たせば全てあたしの好きにさせてくれたし、文句は
言わなかった。
 それは見方によれば「優しい」とか「包容力がある」と好意的な印象を与えるのかもしれないが、逆に「興味が無い」「だから
どうでも良い」「面倒臭いから好きにしろ」とも取れるのではないだろうか。
「考え過ぎだよ、秋穂は」
 元々朴訥で無愛想な男だ。それをクールで格好良いと言う女の子もいるだろうが、人の心に入り込むのも入り込まれるのも
苦手なあたしには合わないんじゃないだろうか。
 あたしには、ミナちゃんが弟にするように好きスキ光線全開で甘えたり、怒ったりする事が出来ない。
 出来たとしても、志郎がそれをすんなり受け止めてくれるのか、流され無視されるのか、それでも放置か――全く想像が
つかないんだもの。
「完っ全にマリッジ・ブルーだね」
 夕子はあたしの涙を自分のハンカチで拭くと、手を引いて席へ戻らせた。
「明日に備えて2人はもう帰ったら?新婦は前日が肝心だからね」
 志郎はそれを聞くと伝票を手に立ち上がる。
「ああ、いいよ。今日は俺が。……明日楽しみにしてるからな」
 シンちゃんがそれをぱっと立ち上がって奪うと、あたしの頭を撫でなでわしわしとする。
 昔、スカートを捲られてビンタを喰らわした。
 クラスの悪戯小僧に夕子よりも力強く撫でられて乱れた頭を整えながら店を後にする。
「さて。これで3対1のハーレムになったわけだが」
 背後から聞こえる明るく軽い笑い声とは裏腹に見上げて盗み見た志郎の顔は、険しい目をして遠くを見ているような気がした。

114 :
 車に乗り込んで涙の跡を拭う。
 志郎はそんなあたしを横目で見る事もせずに、ただ前を向いて車を走らせていた。
 やっぱりどうでもいいんだろうな、あたしの事なんて。
 無言でムスッとしてるから機嫌がよろしくないのは解る。
 なによ、言いたい事があるならはっきりしろよ。
 友達の前で泣いたりしたから面倒臭くなったのか、せっかくの集まりを追い立てられてしまったからか。何に対して腹を立てて
いるのかは理解出来ないのが苛々してくる。
 それとも、男にもあるのか――マリッジ・ブルー。
「秋穂」
「……はい」
 急に声を掛けられて心臓がきゅんとなった。平気な振りして返した声が不自然に裏返りそうになるのを、一瞬のうちに堪えて
息が詰まる。
「夕飯までには送るから」
 志郎の家には一応挨拶には伺った。が、あたしは実家に泊まっており、文字通り明日は家から嫁に行く事になる。

 ――まっすぐ家に帰されるとは思っていなかったけど、こういう所に連れ込まれるとは考えが及ばなかった。
 主要道路から少し外れた場所にぽつんと建っている、この辺りののどかな景色には不自然な色合いの派手な壁の建物。
 遠目に見るだけで縁の無かった――いや、無いだろうと近寄る事すらなかったそれの暖簾をくぐり、薄暗い駐車場に車を停めた。
「え……と」
「ここなら邪魔が入らんからな」
 他に数える程の車が数台あるものの、空いてるとはいえ客はいるというわけで。ていうか今平日だよ?しかも昼間だよ!?
「こんな機会は滅多にないだろうしな」
「はあ、まあそりゃ……」
 そうだろうけど。
「おい、キョロキョロすんな。置いてくぞ」
「えっ!?マジで入るの?」
 うわ、ちょっと、ホントに行っちゃったよ。やだ、こんな所に置いてかれても困る。
 わあ、メルヘンチックなお部屋がいっぱいだこと。こんなキラキラした部屋じゃ、目がチカチカして寝られないんじゃないだろうか。
「寝かすか、馬鹿」
 どういう意味で?とは恐くて聞けない。

115 :

 最近の部屋は普通のと違わない、むしろオシャレって聞いたのに。まあなんというか、オーソドックスというのかレトロと呼ぶ
べきか。派手なベッドカバーにガラス張りの風呂、眩しすぎる照明に、か、鏡張りの天井って……。
「初めてか?」
「はあ……」
 テレビは新しいな。地デジ化は済みとみた。
「あの、こういう所って時間でお金払うんだよね?だったら勿体ないから早く出」
「フリータイムというのがあってだな。気にせんでいい」
「……詳しいね」
 ああそう。悪かったね知らなくて。ていうか、ふーん。へーえ。
「何が言いたい」
「別に」
 せっかくだからあれこれ見ておこうと部屋をうろうろしていたら、痺れを切らしたらしい獣に羽交い締めにされてベッドに
放り投げられた。
「落ち着けお前は。子供か」
「しょーがないでしょ初めてなんだから。どうせ、どうせ……っ」
 あれれ?視界が歪む。鼻が痛い。
「またか……」
 大きな影が被さってきて唇が塞がれる。
 甘いコーヒーの味と香りに息が乱れる。
「妬いてるのか」
「だっ誰が!」
 ぷい、と背けた顔を無理やり元にもどされる。
「首、首痛い!それやめてっ」
 明日文金高島田被るんだから。長時間だと結構きつそうなんだからね、あれ。
「違うならハッキリ言え。じゃなきゃ解らんと言っとるだろうが。何が不満だ、言え」
「だから別に」
「嘘つけ。お前はすぐに腹に溜め込む。それで限界値まで放っておいてキレるんだ。決壊したダムだな、言わば」
 解ってるじゃん!何こいつ。そんな事夕子にしか言われたこと無い。
 ちっ、と小さく聞こえた。出たよ、柄悪っ。礼儀正しい好青年(注:母談)が聞いて呆れるわ。大体昼間からラブホに連れ込んだり
するあたりが。
「教育者にあるまじき行為だと思います、先生」
「女房を連れ込んで何が悪い」
 確かにそうじゃなきゃ大問題だな、違う意味で。
「それが原因で拗ねてるわけじゃあるまい」
 逸らそうにもがっちり捕まえられて、真っ直ぐ見上げるしか出来ない瞳はまたすぐに閉じられ、息をする唇はそれを止めさせられる。

116 :
「話せ」
 鼻をくっつけたまま、唇も微かに触れたりこすれたりしつつぼそぼそと言葉がもれる。
 すっかり慣れてしまった体の重みと温もりに、しがみついてこのまま眠ってしまえたらと思う。けど、そうはいかないみたい。
「気に入らない事があるなら」
 首筋に顔を埋め髪を弄りつつ聞いてくる。
「仕事辞めさせた事か?式の内容か?家具か、指輪か、それとも……」
 体を起こすと、ぐいっとあたしの腕を引っ張り上げて膝に跨らせる。
「……俺か」
 その一言だけが消えるように続くと、ぎゅっと強く腰を抱いた。しっかりと押さえ込むように。
「……離さないと言ったつもりだったんだがな」
 それに応えるつもりで広い背中に腕を廻す。
 くしゅっと掴んだシャツの匂いと硬い襟元に混じる志郎の匂いを、すうっと吸い込み身を任せる。
 それだけで泣けてくる。
 普段からあまりラフな服装はしない。ネクタイこそ締めないが、シャツを着る事が多いし、Tシャツを着てもパーカーより
ジャケットを羽織る。パンツもジーンズはほとんど履かない。
 だから自然とあたしもそれに合わせていくうちに女らしい服装を選ぶようになった。書店員のパートはジーンズの方が都合が
良かったけど、普段はそれだとバランスが悪い気がして、今まであまり持ってなかったスカートやワンピを着るようになった。
 でもそういうのは嫌じゃないみたい。志郎とこうなってから変わっていく自分は新鮮で、染まっていくのが嬉しくもある。
だから、少しくらいなら縛られてもいいとさえ思う。
「どうでもいいのかと思って……」
「何がだ」
「色々」
 はぁ?と眉を下げて覗き込む志郎の顔を俯きながらこっそりと見上げる。
 あー、困ってるよ。いつもは静かに熱く射るようにあたしを見下ろす細い吊り目が、泳ぎながら眉と一緒に下がりつつある。
 そんなつもりはないんだけどな。
 狙ってやってるわけじゃ――むしろ避けたい位なのに――あたしを泣かせるのが一番堪えて辛いらしい。俺様ワガママ坊やのくせに。

117 :
「いきなり一緒に住む事も、部屋も、けっ、結婚する事だってあっという間にさっさと決めて」
 有無を言わせない勢いでそれらをやっておいたくせに。
「なのに、いざとなったら全部あたしに丸投げにしたじゃない」
「俺が忙しかったからだ。だからお前の決めた事に文句言わなかっただろうが」
「何それ。言わなきゃ良いって……そういう問題じゃない!納得いかなきゃ同じ事でしょ?そんな」
 腹の中に隠すような真似されて表向きだけ整えられても、裏にある本心が解らない限り心からそれらを楽しむなんて出来ない。
「だったら相談したら良いだろう。お前1人で帰省して決めた事は写メで確認したし、家具だって式の曲や指輪の
 デザインもお前の好きにさせた方が良いと思っただけだ。それの何が気に入らん」
「あたしだけが使うもんじゃない」
 家具はいずれこっちに戻った時に家を建ててからも使い続けられて、尚且つ今のアパートでも使えそうな物を数点買った。
 ドレスも打掛も、志郎が気に入った物を自分の意見も出しつつ選びたかったし、指輪も。
 他のカップルみたいに、いちゃいちゃ……とまでいかなくても二人で納得いくまで悩んで話し合って決めたかった。
 ――喧嘩になったっていいから。
「……俺は、そういうもんはよくわからん。男だからか余り興味ないんでな」
「あ……そう」
 じゃあやっぱりどうでもいいんじゃん。
「だが、どうでも良かったわけじゃない」
 唇がまたくっつきそうになる程顔を近付けて、鼻を擦り合わせて目を伏せる。睫毛長いな……こんな時に。羨ましい。
「既婚の同僚……というかまあ先輩方がだな、結婚式、ことに衣装は勿論、インテリアなんかは嫁さんの望みをできる限り
 聞いてやれと言うんだ。後からまあ、恨み言言われんようにとな。それに女が主役なようなもんだから、お前の良いようにして
 やりたかったんだが……」
 それがまずかったか、とごく小さく溜め息をついて肩を落とした。
「俺が見たいのは、お前のそんなしけたツラなんかじゃないんだ」
 悪かったねしけたツラで。
「お前ってやつは本当に……」
「な、何よ」
 ――ぽすん、と音を立てて背中が布団に沈んだ。

118 :
 あっという間の出来事だった。
 目の前に髪をばっさりと広げたあたしと志郎の背中。てか、前じゃなくて上じゃん。天井、鏡張りですけど!?
「ちょ、まっ、待ってえぇ!?」
 よく考えりゃこの状況えらいことだ。
「何だ今更。ここまできてヤらずに帰れるか」
「はぁー!?元々そんなつもりじゃ無かったんでしょうが」
 さっさと胸元のボタンに伸ばしてそれをはだけてゆく志郎の手を掴もうとして、逆に頭の上にしっかりと押さえられてしまった。
「話はまだ……」
「俺は納得してる」
「あたしはしてないっ」
 またそうやってうやむやにする。
「俺はお前の決めた事に納得してると言ってるんだ。気に食わんかったもんは無かった。だからお前が良ければいいんだ、俺は」
 ふっと弛んだ志郎の力に、腕を振り上げて精一杯突っぱねれば逃げられたかもしれないのに。
「そうやって俺を不安にさせるなよ」
 柄になくしおらしいご主人様の弱音に力が抜けて、体を投げ出したまま天井を見上げる。
 武骨な精神がそのまま宿ったような妙に無駄な力の入った動きでぐしぐしと撫で回された頭は、シンちゃんの仲間を慰め元気づける
のともお母さんになった夕子の子供を慈しむそれとも違う、不器用ないっぱいいっぱいの志郎なりの優しさでむちゃくちゃだった。
 式の為に伸ばしてた髪、終わったら切ろうかな。これじゃサダコさんじゃん。
 鏡に映る肩まではだけた格好に半分笑えてきながら、自由になった両手で志郎の頬を挟んで見上げた。
「ばか」
「お前がな」
 解れよ、って言っても無理だからね。多分あんたのわかり難い愛情は、あたしみたいな鈍感には一生懸かっても解りっこない。
 だから言ってよ。
「……秋穂」
 あたしのこと。
「今更、無理だからな」
 志郎のココロを。
「逃がすもんか」
 一度でいいから。
「……お前が……」
 ――最後まで聞き取れぬままに、塞がれた唇と共に暗闇に包まれた視界。
 閉じた瞼の裏側に、しゅるりと音を立てて躰から剥かれてゆくワンピースの裾の刺繍の柄が浮かんで翻った。

119 :
 背中を軽く起こされた後お尻を上げさせられ、お腹までボタンを外したワンピを足下から引き抜くようにして脱がされた。
「うわあぁ!?」
 鏡に映る自分のとんでもない姿に我に返る。
「縮むな!ダンゴ虫かお前は」
「何とでも言って!嫌!見ないで。見るな!!」
 願い虚しく、あっという間に下着一枚の格好になった志郎に跨られ、腕や脚を絡まされ乗っかられた重みに負けて押さえ込まれる。
「へ、蛇男っ!!」
「間違いじゃないな。俺は執念深いんだ」
 ほんとに。獲物を捕らえたそれのように、きゅうきゅうとあたしを締め付けて離さない。躰も――心も。
 苦笑いしながら慣れた手付きでブラとショーツを脱がしていく。
「婆くせぇな、おい」
 飾りも柄もほとんど無いベージュの地味なやつ。ああ、だからやだって言ったのに。白いワンピだから、透け防止に着てたんだもん。
 仕方ないじゃん!!……まさか、こんな所に連れ込まれるとは思わんわ、バカ!!
「すいませんね。お気に召さないようで」
 ふんだ。あたしは着心地良いから好きなんだよーだ。
「別に。お前に期待などせん」
「……あっそ」
 なら全部これにしたろか。
「脱がしゃ同じだ」
「何だっ……てえぇ!?……きゃっ」
 いきなり両脚を広げてそこを探られた。
「嫌々言う割りに濡れてるみたいだな」
 意地悪く薄笑いを浮かべて耳元に唇を寄せる。ぼそぼそと小さな声で話すのはわざとだ。だって誰も居ない、二人きり。アパートじゃ
ないから隣だって気にしなくていい。なのに。
「……はぁっ」
 首筋がぞわっとする。仰け反って唸ると汗に貼りついた髪を掻き上げながら生え際に舌を這わしてくる。
 弱いの、そこ。
 特に今は、真っ先に触れられた躰の中心を裂け目に沿って撫で回す指の腹の感触と重なって、どちらに注意を向けても集中力が
途切れて頭が働かない。
「すっかり、俺のだ」
 志郎にほんの少し何かされただけでとろんとろんになる程、あたしは骨を抜かれてしまったらしい。
 これじゃあどっちが蛇だかわからない。

120 :
 あたしは志郎以外に男をよく知らない。
 よく、というのは、経験が1度しか無かったからだ。それもかなり前の話で、付き合った期間も短くて、志郎と再会した時の
あたしの躰は全くそれを憶えてはいなかった。
 事実はともかく、あたしはこの男との行為でしか女を実感させられた事はない。
 脇から掬い上げるように揉みあげられる胸の先に感じる舌の熱さや、休まず脚の付け根をさわさわと焦らしながら撫でる多少の
くすぐったさに似た焦れったさに爪先まで使ってじたばたさせる。
 ちゃんと触ってって言えればいいのに。
 汗ともあれとも区別のつかない何かがお尻の方までつっと流れて降りる。
 そこまできても頭の一部が何とか冷静さを保とうとして、その行為に没頭させることを許さない。
 唇をぐっと噛み締め、目を瞑って堪えていると、邪魔する志郎の舌が口の中に割り込んできてそれが出来なくなり力が抜ける。
「秋穂」
「な……に、んんっ」
 一瞬だけ離した唇であたしを呼ぶとまた舌をねじ込み、口内をいたぶる。
「んっ……んふ、むっ……」
 ぴちゃぴちゃと舐め回す動きであたしの舌を転がしながら、片手で胸を揉みつつ、一方であそこを撫で回す。
「嫌なのか?」
 小さく素早く首を縦に振る。
「……俺にヤられるのがそんなに嫌か」
 胸の上の手が包んだままの形で止まる。
 ふう、と息を吐いて首筋に顔を埋めたせいで志郎の顔が見えない。けど、脚の間の手はそのままゆっくりそこをなぞる。
「嫌か」
「……や、じゃないけど、ちょっと……」
「じゃ何がだ」
 ぬるぬるとただそこを濡らしていただけの指が、くりっと尖らせた粒の先を摘む。
「っひ……!?」
「俺に触られるのは?」
「や……じゃない」
「キスは?」
「……全然」
 目尻が微かに下がり、軽く触れるだけのキスをする。
 疼いて仕方の無かったそれは、ほんの少しの力で擦られただけで腰が砕けそうになる程痺れて感じて気持ちいい……。
 ああ、躰は正直なんだな。
 こんな事うっかり言っちゃったりしたら
『可愛いのは下の口だけか』
なんてオヤジ臭い言葉でやらしく笑うに違いない。

121 :
「なら、俺を見ろ」
 小刻みに指を動かしながら低い声で囁き見下ろす。
「……っやあ、あぁぁ……いや、やだ」
「お前は俺の女房だろが」
「それとこれとは……っ」
「違わない」
 鎖骨に吸い付き、少しずつ躰を曲げてずらして胸を舐める。
「ちゃんと俺だけを見ろ。お前を見る俺を」
 薄目を開ける。でもまたそのあんまりな格好にぎゅっと目を閉じ首を横に振った。
「?……ああ、そうか」
 不審なあたしの動作に気が付いたのか、少々不機嫌になりつつあった顔がほっと緩み、次第に口元に笑みが浮かび始めた。やばい!
「あの、し――きゃあぁ!?」
 一瞬のことだった。
 ぱっと視界が広くなったと思うと、寝そべってきた志郎に横向にされた躰を背中から羽交い締めにされた。またか!蛇男。
「よっ……と」
 勢いをつけるとまたごろんと転がり、今度は仰向けに戻される。が、さっきと違うのは、背中――つまりあたしの下に志郎の体が。
「重てぇ。お前また肥えた?」
「余計なお世話っ!ていうか離せ!離してっ!!」
 だったらどけ!
「贅沢だな。こんな良い肉布団ないぞ」
「どこが!?硬いしうるさいし」
 つうか肉なんて無駄なもんほとんどないじゃん。嫌みだな、おい。
「すぐ良くなる」
 両手で鷲掴みにした胸を揉み始める。
 中指の腹で乳首の先を押し込んだり、転がすように擦られたりしながら、必に目線のやり場を作る。
 乗っかってた志郎が下に潜り込んだせいで、さっきまではそれを盾に誤魔化し続けた視界にダイレクトに天井が映り込む
ようになった。
 脇に流れても寄せられて持ち上げられた胸の肉がふわふわと揺れる様を見せられて、それに弄られる敏感な頂点の刺激が上乗せ
され、余りの仕打ちに声をあげるのも憚られた。
「……っく、うう……」
 首筋に絡みつく髪をなでるように唇が動く。
「見ろ」
「いやっ……あ、あぁ……ふっ……ぁ」
 志郎の口元から熱い息が零れる。
「俺が見てるお前の姿だ」
 低く響く声と指の動きに背筋を通して震えが体中に走る。
 くすぐったくてもぞもぞして、熱くて喉がからからになるのに呻く事しか出来ない。

122 :
 我慢していたつもりの声は、あっさりと引き出されてしまった。
 決して美しい裸体とは言えない自分のものを正視など出来るわけがない。
 なのに、志郎はそこから目を逸らす事を許してくれない。
「秋穂」
「いやっ!」
 ぐいと引き寄せるように太ももを広げられ、またそこに手が伸びる。
 じわじわと溢れる蜜を確かめるように撫でると、窄みの周りをゆっくりと円を描くように指を差し込みかけては止める。
「欲しいか?」
「あ……や……んっ」
 まだ達していない躰がもっと触れてほしいと疼いて、腰がびくびくと跳ねる。
「だったらちゃんと見るんだ」
「なんで……やあぁぁっ!?」
 ずるんと数本の指で待ち望んだ快感の中心を擦り上げられる。
「うぁ――あ――あああああっっ!!」
 じいんと内股から腰、背中へと言葉にならない痺れが伝う。熱く濡れて、頬が真っ赤に染まっていくのが見なくても解るくらい。
「やらしいな。こんなに脚開いて、全部丸見えだぞ」
「やめっ……言わ……」
「だったら止めちまうぞ。望み通りに」
 音を鳴らしてかき混ぜていた指を離して、脚の付け根をなぞる。
 中途半端に弄ばれたそこはいきなり途中で放り出されて、有り余る余韻に浸りながら疼き残る波を持て余す。
「酷っ……」
「なら、ちゃんと見てくれ」
 言葉はきつくても、声は穏やかで優しい。
 また焦らして意地悪くなぞる指も、ゆっくりと胸を包む手のひらも、暖かくて優しい。
 こういうとこ、ずるい。
 言葉通り強引に乱暴で滅茶苦茶にされてたならば、思い切りぶん殴ってでも刃向かうのに。
 恐々と開けた目に、鏡の中のあたしが映る。ああ、やっぱり真っ赤な頬して、涙と汗で髪もぐしゃぐしゃだ。これは酷い。
「これを俺は見てるわけだが」
 ひええっ!!酷い、これは酷い。普段なら多分すっぴん……。うーん、剥げたメイクもそれはそれで目を背けたくなるような
有り様だが……。
 百年の恋も冷めるよこれじゃ。
 セックスしてる女ってなんて滑稽なんだろう。

123 :
 またそこに指が這わされ、脚が跳ねる。
 目を逸らして、脚を閉じようと頑張った。だけど、擦りあげられる度に力が抜けていくうちに、気づけば志郎の曲げた膝の上で
同じ様に脚を広げて霰もない格好を晒していた。
「エロいだろ」
「は……ずかしっ……あ……んっ」
 突き出た胸を揺さぶられる様が、滑稽でこの上無く恥ずかしい。
「こんな真似余所で出来るか?」
「出来ない……」
 無理。
 やっと志郎とするのにも慣れてきた所だと思ったのに、こんなんだったとは……。
 客観的に見ると、物凄くはしたない。エロビデオのヒトって……凄い。
「だったら覚えとけ。これを見て良いのは俺だ。俺だけだ。だから俺から逃げようなんて思うな」
「何を……」
「俺は蛇よりしつこいぞ」
 秘裂を押し広げられる感覚がして、思わず眉をひそめた。外気に触れて丸見えのそれが鏡に映るよう腰を高く上げられる。
 流石にまともには見えないけど、そんな格好させられてるのがあんまりだと思って抗議した。
「ちょっと!いい加減にし……」
「そのつもりだが」
 言い終わらないうちに、志郎の指が中に入ってくる。
「……く、あ……っ」
 ぐちゅぐちゅとお尻まで濡らしながら、出し入れされる。大股開きで映し出される自分の痴態に眩暈がしそうになった。
「お前を逃がしたくなかった。だから先に捕まえて、離れられなくしてからでも良かったんだ。お前を完全に振り向かせるのは」
 何もかもすっ飛ばして、形ばかりを先に作ってきてしまったあたし達。
 気持ちはこれからでも追いつく事が出来るのだろうか。
 でも。
「志郎……」
「何だ」
「……こんな真似……相当勇気のいる事って……解ってる?」
「……解るよ……馬鹿が」
 引き抜いた指を速く強く動かして、突起を包んで撫で擦る。
「――ああっ、ああっ、あ――ああああっ……」
 振り向いたから捕まったの。
「お前はもう、完全に俺のものでいいのか?」
「いい……んっ、あっ、ふ、んん、あ……あ……っ」
 解り合えるまでにはまだ時間はたっぷりとある。
 一生掛けてそうなれば良い。

124 :
 限界が近付いてきた。下半身だけが酔ってるみたいに、ふわふわして力が入らない。
 引っかくような志郎の指の動きに一点が熱く震えて抑えが利かない。
 あれだけ嫌がった喘ぎ声も、今は堪える術なく弛んだ口元から絶え間なく押し出される。
 それを見て悦ぶ鏡の中の志郎に怒る気力も湧いてなど来ないし。
 ころんと横に倒されてまた戻されると、今度は志郎に見下ろされる。
 下着に手を掛けて下ろし、器用に足を使いながら脱ぎつつ訊いてくる。
「俺が欲しいか?」
「ん……あぅっ」
 また少し弄り始めながら声を掛ける。触れられて敏感さを増したそこがまた痺れて疼き出す。
「俺が要るか?」
 脱ぎかけの下半身に目をやる。お腹にくっつく勢いでその気になってるそれに触れてやると、
「ばっ……」
と小さく呻いて腰を引いた。
「志郎は?あたしが要る?あたしの事……」
 ――どう思ってるの?
 訊いたらきっとこう答えるだろう。
『解れよ、馬鹿』
 ほんとは訊かなくても解るよ。不器用な優しさも、横暴なアプローチも、それらに隠されたあんたの気持ちも。
 でもそれだけじゃ満足出来ないのが女なんだよ。
 だから不安になる。
『言葉だけじゃなくて態度で示して欲しい』なんてよく言うけど、あたしは鈍感だからそういうのだとよく解らない。自信がない。
 だからはっきりとそれを伝えて欲しいと思う時があるのだ。
 あんたがそんな事出来る男だとは思わないよ。寧ろ諦めてる。けど、一度くらいは言ってくれてもいいじゃない。
「……また嫌われるのは……辛い」
 ぼそっとこれ以上なくか弱く小さな声で呟くと、あたしの手を自分のモノから離し、
「そういうの、無理しなくていい」
と押し返した。
 そういやこいつ、強引我が儘俺様野郎のくせに、あたしにあれを強要した事は無い。てっきり頭を押さえつけてでも――とか、いや、
勝手な想像だけど。あってもおかしくないんだよね。
「お前が本気で嫌がる事なら出来ん……」
 悪いと思ってるのか。
 ずるいよ。これじゃ逃げられっこないな、と肩の力が抜けた。
 あほらしい。拘ってる自分の方が、なんか悪いみたいじゃない。

125 :
「そろそろ突っ込みたいんだが」
「ちょっと!」
 しおらしいと思ったらこれだよ。
 足首まで落っこちてた下着をぽんとそのままベッドの縁に蹴落として、ぬるぬると滑る躰の真ん中に擦りつけてくる。
「う……ぁ……んっ」
 あったかくて気持ちいい。志郎の先であたしのちっちゃなそれをツンツンと突いて来る。少しの刺激でも腰にきそう。
 位置を変えて入ってきた。
 するりと何の抵抗も無くそれを受け入れる。あたしの躰はもうすっかり志郎を覚えてしまった。最初の日が嘘みたいだ。だって
ナマだったのに痛くて。
 ……。
 ナマ?
「ナマ、なま、ちょっと生!?」
 今、何もせず挿れたよね?ゴム、持ってないよね!?持ち歩く習慣ないもん。
「仕方ないだろ。良いじゃないか、問題はない」
「良くない!」
 だってこんな……中出しなんて今されたら、後が大変だろうが。あたしはこの後自分の実家に帰るのよ!?ごそごそやってたら
親にだって何て言い訳すんのよ。風呂だってそう簡単に入りにくいんだからね!?
 枕元にゴムはあるけど、それは嫌だという。
「悪戯されてるとこも多いからな」
「よくご存知で」
 あたしだって知ってるよ。ていうか聞いた事くらいある、そんなの。
 でも、いかにも知ってるふうに言うことないじゃない。
 ……何回くらいあるんだろう?
 頭の中をふっとそんなのが掠めた。ああやだ、これじゃ妬いてるみたいじゃん!そりゃ何人かは彼女、いたみたいだし。
 慣れてんのかな……。
「何だ急に」
「え?べっつにぃ……」
「気に食わん事は言え」
 ぎろりと睨まれた。出た、柄の悪い目つき。よそじゃ絶対やんないけどね。
「……知らない」
 知らない。あたしやっぱり志郎の事知らない。
 幼なじみで、一緒に暮らして、結婚だってする。
 けど、ちゃんと好きになって、デートとかして、それからそういう関係に……なんて段階をみんなすっ飛ばしたから、まだ
浅いと思う。あたし達。
 志郎にしたら、あたしをどうにかしようと食事に誘い続けてきた(本人曰く『餌付け』)がデートのつもりだったらしいけど。

126 :
「言っとくが俺はそんなに詳しいわけじゃない。そりゃまあ、それなりに無い事もないが数える程だ。マジだ」
 あれ?てっきり逆切れされるものと思いきや予想外。びっくり。
「あまり長続きしなかった」
「……蛇よりしつこいから?」
「いや。執着する前に逃げられたからな。でも追いかける程の気力は俺には無かった。――今まではな」
 そう言うと、いつの間にか一旦抜いていたそれを再び中に納めてくる。
「だからお前はそうならないように先に捕まえた。逃げられたら適わんからな」
「何そ……あっ、ああんっ」
 腕を伸ばして見下ろしながら腰を揺らしてくる。
 浅く、ゆっくりと微かに感触を楽しむような軽い動きに、多少の焦れったさを覚えて腰を浮かす。
「どうにかしたいのはお前だけだから、安心しろ。解れ」
「じゃ、もっと……」
「もっと?こうか」
「んやっ……違っ……あああっ!」
 それまでソフトだった動きがいきなり深く激しくなった。
 ずんずんと奥まで届くように、目一杯突いてくる。
 これ、ゴムあったら痛い位かもしれない。
「い、色んな事……もっと、したいの」
「ほう」
 脚をがばっと開くと、足首を掴んで角度を変えた。さっきとは違った部分が擦れてうずうずする。
「こっちのが良いか?」
「……っ」
 もしかして意味はき違えてません?
「そうじゃなく……っ」
 ぐじゅぐじゅと色んなものが絡む音がしながら視界が揺れる。
 さっきよりも躰を起こした志郎のせいで、あたしの腰から上は勿論、所謂結合部までが揺れ動く彼の頭に見え隠れする。
 ほんと、目のやり場に困る。
「それ、や、だめ……」
 嫌がる事はしないって。
「嘘だな」
 ずいっと腰を引き出すと、またその勢いで奥までつつき腰を捻る。
「ひぁ……あ……っ!」
 背中が浮いた。ベッドの上で跳ね回ろうともがくあたしは、陸に揚げられた魚のようだ。
「本気で嫌がってるか位解るぞ」
 意地悪く笑いながら額の汗を拭っている。

127 :
 目一杯突かれてぐったりと力尽きたあたしの中から、まだ元気なそれを引き抜く。また変えるのか。
「そうじゃないんだけどなー」
 くたびれて多少口調も投げやりになる。
「あ?何がだ」
 背中の下に手を入れようとしながら聞いてくる。今度は返されるのか?
「……あたし達って何も想い出とかなくない?」
「想い出?」
「どっこも行ってないし、何にも残ってない」
 ご飯は食べに行くし、お酒も飲みに行ったりは今もたまにする。けど、休みの日に車で出掛けるのは専ら買い物ばかりだし、
ふらっとドライブでも……とか、レジャーなんてのも無い。
 映画はレンタルで充分だし、ライブも。旅行は帰省に忙しくてそれどころじゃなかったから仕方ないけど。
 正確なプロポーズもよく解らないし。
「ちょっと淋しい……かな」
 他の女の子とはホテルに入った事もあるんでしょ?
 だったらデートくらいこなしたっておかしくないじゃない。
 バカみたいだけど、ちょっと……。
 ――悔しいから言わないけどさ。
「……馬鹿が」
 あーそうですよ。つまんない事で拗ねてごめんね。
 って言おうとしていきなりうつ伏せにひっくり返された。
 振り向こうとして頭を押さえられた。なにこれ。まさに寝技。
 頭に「?」が飛び交ってる間にぐいと持ち上げられたお尻に何か当たってる。
「く……う……うあぁっ……ん」
 ぐにゅっと呑み込む感じであれが侵入してくる。深くて苦しくて、中が一杯きゅうきゅうに満たされる。動かされるとお腹を
圧されてるみたい。
「ちょ……し……」
 振り向こうとした途端もの凄い速さで腰を打ちつけられる。
 パン!と乾いた音がしてお尻の潰れる軽い痛みに背中が反った。
「あっ――う、やぁ、ふぁ、く……うあぁっ……ううっ――んん」
 目を瞑り歯を食いしばって堪える。後ろから突き飛ばされるような勢いで押されては、ぐいと腰を掴んだ両腕に引き戻されて
内壁を擦る位置にあわせて自分のお尻も勝手に浮いたり沈もうとしたり。
「エロい尻しやがって」
 もう反抗する気力もありません。

128 :
 刃向かう間も与えじというかの様に執拗に腰を振る。
 深く挿しながら指先で芽を探りあて引っかくように擦られて、膝を震わせながら叫びに近い声をあげた。
「いやぁ、あっ、やぁ、はぁっ、ああっ――ぅ」
 頭をぶんぶん振る。首や肩に貼り付いて絡む髪を鬱陶しく思うより、呼吸を整えるために必に開く口が渇いて苦しいのが気になる。
けど、悲鳴のような声は止まらない。
「や、もう、赦し――」
 ぐりぐりと目一杯押し込まれて中が満たされる。暫くして震えが治まると共に膝が崩れ、力の抜けた躰が重なったままマットに
沈んで跳ねた。
「ふ……はぁ……」
 やっとの思いで唾を飲み込み、ゆっくり空気を吸い吐きして呼吸を整える。心臓のバクバクが耳に響いてうるさいくらい。
「……それ、取ってくれ」
「え……ああ」
 枕元のティッシュを指されて、気怠いのを我慢して腕を伸ばし、振り向かずに箱を振り落とす。
「痛てっ!!……てめぇ」
「ごめん」
 あ、軽く怒った。だって動くに動けないんだもの。重いし、あんたこそ早く抜いてよ。
 僅かに腰を浮かされ、抜かれた後にどろどろと生温かいものが内股に流れ落ちていく。うええ、ちょっと気持ち悪い。ていうかこれ。
「お前生理いつだ?」
「えーと、来週中かな」
 なら外れそう……かな?
「という事は当分ペア行動だな」
「えっ?」
「俺としては3人になってからでも良かったんだが」
 何を言っとるのかと振り向こうとして
「だからこっち見んな!」
と前を向かされる。だから首、首っ!
「とりあえず、休み取れるよう考えて……どっか連れてくから待て」
「休み?旅行でもする気」
「でもいいし、ドライブだろうが動物園だろうが……とにかく、だ」
 お尻のぬるぬるを拭かれるのは恥ずかしいけど、自由が利かない身では我慢するしかない。うう、ある意味屈辱的。
「だからだな……気が利かなくて……その」
「了解」
 さっき振り向きかけて一瞬だけ目にした真っ赤な顔は、情事後の余韻か必の照れ隠しなのかは敢えて考えまい。
 まあ、良しとしよう。と呑み込んだ一言を勝手に脳みそに補完させて貰うことにした。

129 :
 落ち着いたところで、首筋にキスをされる。
 そのままうつ伏せの背中に乗っかったままの志郎の躰が少しずつ下へと下りてゆく。
「いっ……!」
 背中にチクッと軽い痛みが走った。
「何!?なに、ねえ、しろ……あっ」
 背筋をすうっと指先で撫で下ろされ、ぞくっとして力がまた抜けていく。
 気を抜いたところでまたちゅうちゅうと、時に軽く歯の当たる感触がして呻きかけてはお尻や背筋をさすられて脱力の繰り返し。
 転々と移動する痛みを伴うキスが終わる頃には、色んな意味でグッタリとなった。
「風呂入るか」
「え……ちょっと待って、何したの!?ていうか動けないんだけど」
 どいてよ。背中じんじんするし。
「仕方ねえな……ほれ」
 起こされて手を引かれる。
「えっ、あの」
「時間の短縮だ」
 もしもーし。
「やだ!別々に入るっ」
 少し動くと残ってるのがドロッと出てくる。いくら何でもこんなトコ洗うの見られたくない!
「そのまま帰ってもいいが、どうするんだ?パンツ穿けんのかお前」
 横目で時計を見る。
 くそう。明日の事を考えるとそろそろ帰んなきゃならない。
「……見ないでよ!絶対後ろ向いててよ!?」
 ふらつく足腰を支えられるようにしてバスルームに向かった。
 ――数分後、違う意味でのぼせさせられてしまったあたしは、元凶の志郎に介抱という名目でまたいたぶられる羽目になる……。

* * *
「危なっかしいな。ほれ、しっかりしろ」
「あのね……」
 誰のせいだ!
 洗った躰をもう一度洗い直す事になったのは誰の。
 湯あたりしてのぼせたあたしが動けないのを良いことに、ちょいちょいセクハラかましたくせに!
 そのせいで夕べは疲れてろくに家風呂には入れず。挙式前日の花嫁ならではの感傷など吹っ飛んでしまったわ。
「ぐっすり眠れて良かったじゃないか。寝不足のブスな顔で写真撮らずに済んで」
「そりゃあんたはスッキリしたでしょうよ」
 搾り取られた筈のあんたが艶々して、なんで精を吸い尽くしたであろうあたしがこんなやつれてるんだ。
 まあ周りはそのお陰で「緊張してるのね。初々しくてウフフ♪」なんて勝手に微笑ましく勘違いしてくれてるらしいが。

130 :
 オヤジはねちっこいのが好きって言うけど本当かもしれないな。いちいち言う事する事がとてもじゃないが若者とは思えない。
「1つ良いか」
「1つだけならね。……何よ?」
「唯一、強いて言えばこれだけが気に食わない」
 吊ったドレスのスカート部分をぺしぺし軽く叩きながら呟く。
「……はあぁぁ〜!?」
 やっと式を終えて、二次会の準備のために会場の控え室入った。今になってそんな事を言い出すなんて何考えてんだ。何べんも
メールで確認したじゃないか!
 時間等の都合で(注:うちの地元の結婚式=別名親戚の飲み会&カラオケ大会)お色直しは極力減らし、ドレスは二次会のみ
着る事にした。だから割と地味目のシンプルな物にしておいたんだけど、文句なんか言わなかったじゃない。
「似合わないならそう言ってくれれば……」
「あのな。気に食わないイコールマイナスな考えは止めろ。応用する事をいい加減覚えたらどうだ」
「わけわかんないし」
 時間は迫る。
 髪は式場を出る時にセットして貰ったから、後は着替えるだけだ。
 ブラウスを脱いでドレスを身に着け始めると、鏡越しにじっと眺める志郎と目が合う。
「見んなっ!」
 自分はスーツ着てるからってずるい。
「お前は俺の何だ?」
「えっ……よ、嫁……」
「そうだ。だから視姦位自由にさせろ」
「ど、どあほっ!!」
 ファスナーを閉めようと鏡に背を映そうとして、背中から抱き締められる。
「お前は俺の女房だ。それを忘れるな。その為に灸を据えておいたんだからな」
「え……」
 首を傾げるあたしをニヤけ半分忌々しさ半分の複雑な人相を混ぜ睨む。
 入籍は帰省して来る時のその足で済ませてしまっていた。だから披露という形式も整え滞り無く終えた今、何の躊躇いも憚りも
なくあたしは志郎の妻になったと言える。
 けど、灸って?
「それは皆にも解っておいて貰う」
 耳打ちついでに唇に触れられた首筋がびりっと電流を走らせて、軽く鳥肌が立った。
「今日だけは我慢しといてやる」
 面白くなさそうに舌打ちしつつも、ファスナーを上げ、ネックレスも着けてはくれた。

131 :
 時間が来たと幹事役の子が呼びに来て部屋を出ようとしたその時、あたし達の後ろについて出た彼女のただならぬ様子に、嫌な
予感がした。
「何?なんかついてる?」
「えっ……いや、あの……」
 彼女がちらりと困惑した顔で志郎を盗み見て、また視線をあたしに戻す。
 その先を辿ってぴんときて、背にしていた鏡を振り返る。
 ( ゚Д゚)……。
 なに、これ。なんかついてるなんてレベルじゃない!
 声にならない悲鳴をあげ、ムンクのような顔で立ち尽くすあたしの肩をぽんぽんと叩きながら
「夕子やシンちゃんから聞いててさ、みんな色々心配してたのよ。けどその様子じゃあ……」
と気の毒なような、なんか痛いモノを見たような複雑な表情を浮かべて笑っていた。
 でも式場の着付けの人は何も……プロだからか?
「……とりあえずご馳走様とだけ言っておくね」
 背中一面に付けられた赤黒い数々の斑点は、紛れもなく昨日の……。
「どーすんのコレ!?」
「背中開きすぎだ、馬鹿」
「わざと!?」
 昨日やたらと風呂に一緒に入りたがったのも、今だって手伝うふりして体で隠して視界を遮るような真似して、自分で確認する
のを避けさせるためだったわけ!?
 確かに背中は開いてるデザインだ。ノースリーブだけど丈はあるし普通だと思う。
「それ位の露出でガタガタ言ったら、すげえ小せえ男だろうが」
「嫌なら言えばいいじゃん!!こんな事する位なら」
 どんな嫌がらせだよ!
「俺のもんをジロジロ見られてたまるか。つか……解れよ馬」
「ばかっ!!」
 先に言ってやった。
 会場の入り口で手を取り、嵌めた指輪を弄ってくる志郎を睨めば、ばつの悪そうな顔をして耳まで赤くしてやがる。
「俺のもんに気安く触れたりジロジロ見られる位なら、他の野郎にしっかり解らせてやる」
 なにこの独占欲。つうか昨日の頭撫でなでに対してか?それ。周りもポカーンとしてるよ、おい。
「言えば済むじゃん」
「知るか馬鹿」
 ああくそう、面倒な男だなやっぱり!
「だがぬまで逃がさんからな」
「このドS蛇男!」
 蛇らしく抜け殻にしてやろうかと思ったけど。
「今夜寝れると思うなよ」
 ……抜け殻になるのはこっちかもしれない。
 ――そう人生を諦めた――河本秋穂27歳の初夏。

---------
色々ポカしとるorz
弟の大地の畑に埋まってきます…

132 :
G―――J!!
じーん……。(言葉なし)

133 :
秋穂キタァ!!!
ニヤニヤ。志郎視点を一度読んでみたいものですw
なんてGJ!
大地の畑に埋まってくるということは、そちらの話も近日投k…楽しみにしております。

134 :
描写がいいなあ。
こういうのが読みたかったんだー!という気持ち。
GJでした。

135 :
GJ思わず前話も読み返した

136 :
てす

137 :
GJ!
志郎の相変わらずな不器用さに萌えました〜

138 :
GJ!
規制でずっとGJ書けなかった
まとめサイトまで
見に行っちゃいましたよ

139 :
保守

140 :
結局無断リンク修正したの?

141 :
無断リンクはすぐ外した方がいい
縁もゆかりもない見ず知らずの個人サイトで
自分のSSが再利用されていたら、作者はどう思う?
マナー守ろうよ

142 :
test

143 :
はじめまして。このスレ用にSSなど書いてみました
男の子が少し気弱ですが、楽しんでいただければ幸いです
--------------------------------
 軽い冗談のつもりだった。
 付き合い始めてから二年にもなると言うのに、私達の間にはキスのひとつもなかった。良い雰囲気になることは
幾度もあるのだけれど、いつもその時になるとアイツは、決まってきつく瞳を閉じて顔を逸らせてしまうのだ。
 そんな態度は私をいらつかせる半面またそこが可愛くもあったからつい私も、いつしかそんなアイツの甲斐性無しを
ジョークにしてからかうようになっていた。
 そう……今回のそれだって、そんな毎度のジョークの筈だったのだ。
 いつものようにデートをして、そしていつものように帰り間際のキスを躊躇するアイツに、私もいつものように
こんなジョークをひとつ言った。
『このまま私をモノに出来ないんだったら、他の男になびいちゃうからね』
 そして今、私達はラブホテルの前にいる。……まさか、よりにもよってこのタイミングで根性を出してくるとは。
「……本当に、入るんだ」
 いざその瞬間を前に躊躇してしまう私。これから先に行われるであろう事の重大性を前に、どうにも足が竦んで
しまう。
 今にして思えば、今日までのプラトニックな関係とて互い17歳という未熟で幼稚な私達には丈相応のもので
あったのかもしれない。アイツの甲斐性無しをからかう反面、自分もまた臆病な処女(こども)であることに、
今になって私は気付かされたのであった。
 ともあれそんな私を前にアイツも大げさに振り返ったかと思うと、
「するよ! ずっと馬鹿にされてきたけど、俺だって本気でお前のことが好きだったんだ」
 私以上に顔を赤くしたアイツは、そんな告白とともにきつく目をつむるいつもの表情を見せる。
 そして強引に顔を近づけて私の額にキスをしたかと思うと、あとはあっけにとられるばかりの私の手を引いて
ホテルの中へ入っていくのだった。
 思えばこれが私達のファーストキスだった。……ファーストキスか?
 ともあれそんなアイツの滑稽さとそして勇気は、初体験を前にこわばっていた私の恐怖と緊張とを僅かに解かして
くれたのだった。
 そうなってくると途端にワクワクしてくる。
 いけない事をしようとしている罪悪感はむしろ、まるでジェットコースターに乗る前の緊張感のように、今では
私の心を弾ませてやまないのであった。
 ホテルに入り、すぐ正面にある空き部屋確認のパネルを二人で見上げる。
 どの部屋に入ろうかと悩む私の一方で、隣のアイツはというとそのシステムすら理解してない様子で、しきりに
そこと支払いのカウンターとを見比べている。
 そんなアイツを尻目に、私は部屋選びに余念がない。
 思い出を作るのならキレイな部屋がいいに決まってる。私は写真パネルの見栄えが一番豪華だった部屋を選択した。
見るからに高そうな部屋ではあるが、どうせ金を払うのはアイツだ。いい想いのひとつもさせてやるのだから、高くは
なかろう。
 パネル下にあるボタンを押すと、今まで無人だったカウンターそこに従業員と思しき制服姿のおばちゃんが顔を
のぞかせる。

144 :
「お部屋、決まりましたか?」
 おそらくは初めてココを利用するであろう私達を慮ってか、おばちゃんは丁寧にそんな言葉を投げかけてくる。
「はい、ココの部屋で」
「じゃあまずお代からね。休憩でしょ? 1万8千円になりますね」
「はーい♪ ……ほら」
 しかしながらいい金額だ。今日の私達のデート代の総額よりも遙かに高い。しかしアイツも緊張しているもんだから、
そんな金額の高さになど疑問ももたずに支払いを済ませてくれる。
「はいはい、ありがとうございます。じゃあお部屋は3階の、エレベーターを出て突き当りの部屋になりますね。
ごゆっくりどうぞ」
 そうして部屋のキーをカウンターの上に差し出すおばちゃん。それを前にただ呆然自失といった感のアイツを
横目に身を乗り出すと、私はそんなおばちゃんに笑顔でひとつ会釈をしてそれを受け取った。
「ほら、早く行くよ。いつまでここじゃ恥ずかしいでしょ」
 私に腕を取られて、ようやく我に返り動き出す。それでもしかし、緊張から動きのぎこちなくなっているアイツは
何ともモタモタとした足つきでエレベータに乗りこむのだった。
 二人で乗り込むのが精いっぱいの狭さのせいか、エレベータ内での移動時間は若干長く感じられた。
 その空間の中で、
「ねぇ? 今日はさ、どんなことしてくれるのさ?」
 私は甘えるような声を出してアイツの腕を抱きしめる。
 ラブホテルの中というシチュエーションも相なってか、私自身もかなり馬鹿になってきている。抱きしめた肘を
胸に挟むように、さらには手の甲がジーンズの股間にぴったりと触れるように私はアイツの右腕を抱きしめ、見上げる
のだった。
 そんな右腕を包み込む私の感触に、その一瞬アイツは丸く目を剥いたかと思うと、次にはきつく閉じたあの表情で
あうあうと何か口ごもる。
 恥ずかしい話、そんなアイツのしぐさに激しく欲情した。
 ラブホテルの中、さらにはエレベータの中というその非日性に私は完全に発情して熱しあげられてしまったのだ。
 そして先ほど以上に強くその右腕を抱きしめて身を擦り寄せると、私はアイツの頬へとキスをした。吸いつける
ようにして強く、私はたっぷりと愛情をこめて唇を押しつける。
 唇が離れると同時にエレベータの扉が開く。それを前に私は、テレ隠しも含めて飛び出すように一人先に出た。
 そこから振り返れば呆然自失としたアイツが立ちつくしているばかり。もはや完全に抜け殻と化しているその姿に
私もため息をひとつ。こんなことぐらいでこの様じゃ、これから先なんて勤まらんぞ。
 そのままエレベータの扉が閉まろうとしてもアイツは出てこなかった。その様子に急いで手を伸ばすと、私は
アイツをそこから引きずり出す。
「ほらほらぁ、しっかりしてよー。そんなんで大丈夫なの?」
「あの……あのさぁ。これから、何するの?」
 私に手を引かれながら部屋までの通路を進む私達。そんな私の問いかけに、すでにアイツは泣きそうな表情で
訊ねてくる。
「もー、エッチするんでしょ? 『無理やりヤッちゃうから』って私をこんな所に連れ込んだのはアンタじゃない」
「そ、そんなこと言ったっけ……?」
 この期に及んですっかりヘタレと化してしまっているアイツ。そこが可愛くもあるのだが、この記念すべき瞬間を
そんな弱気で台無しにされてはたまらない。ここは私がリードするしかないのだと、改めて自分を奮い立たせる! 
……というか、今のこの瞬間が楽しくてたまらない。

145 :
 言われた通り、突き当りの部屋に私達は到着する。
 そこのドアにはめ込まれたルームナンバーのプレートとキーの番号とを確認して、私はそのドアノブに手をかけた。
「ん? カギかかってる。あ、そうか。これをこのカギで開けるんだね」
「…………」
「ん〜っしょ、と。開いた開いた♪ ほら、入るよ」
「う……うん」
 開いたドアの向こうへ誘う私に対してどこか俯き加減のアイツ。
 敷居をまたぐとすぐに玄関と思しき段差。タイル張りの入口から、そこを境に絨毯張りにされた通路とその脇に
そろえられたスリッパに私はここで靴を脱ぐのだと悟る。
「へぇー、靴のままじゃないんだ。さっすがいい部屋だねぇ♪ うわー、絨毯もふかふかー♪」
 スリッパも履かずに足の裏の感触を楽しむ私とは対照的に、アイツはそそくさとスリッパを履く。
 もはやそんな細かいことに気など回らなくなっている私。そんな素足のまま部屋の中を進んでいく。
 通路を抜けるとすぐにリビングと思しき部屋に出た。
 茶を基調にした木目のシックな内装とリビングテーブルを前においた革張りのソファー。そしてその正面には
見たこともないくらいに大きなプラズマテレビが一台、壁にかかっている。
「すっごーい。……でも、あれ? ベッドは?」
 そんな内装に感動するもつかの間、ラブホの本体とも言うべきベッドが無いことに気付いて私は視線を巡らせた。
そうして室内をぐるりと見渡せば、そこのリビングのさらに奥にもう一部屋を発見。
 そこまで歩を進め、ようやくそこに私は待望のベッドを発見したのであった。
 室内の色調に合わせ茶のベットカバーが被せられたそれに、照明の操作をする為であろうボタン・ダイヤルの
配置されたウッドデッキ。質素な造りながら、なんとも豪製ではある。しかし何よりも私の目を惹いたのはその巨大さ。
 6畳ほどはあろうと思われる室内をほぼ埋めつくす、そのキングサイズの壮観(ベッド)に私は息をのんだ。
 そしてそれを前にして私が取るべき行動はきまっていた。
 天井が高いことを充分に確認すると一躍、私はそこからジャンプ一番ベットの上へと飛び込むのであった。
 背中から着地する私を受け止めて、大きく弾ませてくれるスプリングにさらに感動する。想像通りの……否、
想像以上に柔らかくて弾力のある素晴らしいベットだった。
「すっごーい、こんなの初めてー♪ ステキー♪ すごいよコレー」
 その感触が楽しくて何度もベットの上で弾んでは枕を抱きしめて笑い転げる私。
 と、ふと我に返ると、
「うきゃー♪ ――ん? どしたの?」
 そのベットルームの外で呆然とそんな私を見つめているアイツに気づいて私は声をかける。
 眉間にしわを寄せ、必に私の奇行を理解しようとしているであろうその表情に、私は自分の醜態を見られた
恥ずかしさよりも、アイツのその表情の方がおかしくなってさらに笑い転げるのだった。
「何その顔、ウケるー♪ なに真面目になっちゃってるのよ?」
「え? あぁ……うん」
 そんな私の声に表情を緩ませるアイツ。私もベットから降りると、その傍へと寄り添う。
「ありがとね、こんな素敵な部屋に招待してくれて」
「そ、そう? ううん、別に」
 見上げるように見つめながら送る私の視線に、アイツもそれを受け止めかねて視線を宙に泳がせる。

146 :
 一方の私もさらに積極的に出る。今まで以上に体を擦り寄せると、内股にアイツの腿を挟みこんで、より密着する
ように体を擦り寄せた。
「ほら……ドキドキしてるの分かる?」
「よ、よく判んないけど……」
「ふふ♪ アンタの方がドキドキしてるね。胸からさ、すごく聞こえてくる」
 ふと頬を寄せたアイツの胸板から、太鼓の重低音のようにその鼓動が体温と共に熱く耳へ伝わってくる。
 今までこんなに体を密着させたことなんてなかったから気付かなかったけど、こうして実際に触れてみるとコイツも
結構いい体をしているのが判る。
 引き締まった胸板は肉厚で、堅さの中にも熱い弾力がある。そっと触れてみる二の腕も然りだ。見た目以上に筋肉の
詰め込まれた両腕は、この体で包み込まれたらどんな感触がするのだろうと、ますます想像する私を興奮させて
しまうのだった。
「ねぇ、そろそろキスしてよ」
 自然とそんな言葉が出る。体が求めているのだ。
 そんな私の言葉にアイツもその一瞬混乱したようであったが、見上げる私の瞳に視線を絡ませると、すぐにそれを
理解して私を抱き直した。
『目力』とでも言うのだろうか。いよいよ以て発情したそんな私の気配は、その視線を通じてアイツの脳にも感染した
ようであった。そうなるともはや、頭で考えるまでもなく体が反応する。
 それが初めてとは思えぬ自然さで首をかしげると、アイツは静かに私の唇を奪った。
 そっと触れ合う程度で離れるそれ。
 そこからいったん額を離し見つめ合うと、再度私達はキスを交わす。
 先ほどの触れる程度のものではなく、互いの唇を取り込むようにして交わされる濃厚なキス。口唇を通じて行き来する
体温と唾液、そして舌先のぬめりとに私は自分の体が頭から溶けていくかのような錯覚を覚える。
 しばしそんなキスを交わして唇が離れると、すっかりそれに中てられた私は情けなく脱力してアイツの胸元に
もたれかかるのだった。
「だ、大丈夫? 具合とか悪い?」
 一方の訪ねてくるアイツはと言えば、緊張こそしているものの私を気遣うまでの余裕。この部屋に入る前までは
私の方がリードしていたというのに、今ではこのキスひとつですっかり私がへばってしまっている。
 それでも見つめてくるアイツの顔が愛しくてそして嬉しくて、その視線に溶された私は、ついには足腰すら
まともに立てなくなってしまうだった。
 完全に力を失いもたれかかってくる私にアイツも混乱したようだった。
 とりあえずそんな私を抱き直すと、アイツは優しく私をベットに横たわらせてくれる。
 私を抱きかかえて横たわらせる姿勢上、自然とアイツが私を組み敷く形になった。そうして私をベットに寝かせて
立ち上がろうとするアイツを――しかし私は逃さない。
 すぐさまにそこから両腕を伸ばしてアイツの首を抱きしめると、私は再びその唇を奪う。
「ん、んん? ん〜ッ」
 突然のそれにアイツもくぐもった声を上げる。そんな私の抱擁から逃れようと身をよじらせるも、私は放さない。
 むしろ抵抗すればするほどに抱きしめた両腕に力をこめ、そして伸ばした舌先をアイツの口中に侵入させ、存分に
互いの唾液とを味わう。
 そんなキスを続けているうちにアイツからも抵抗する力が消えた。

147 :
 それを察して私も両腕の力を解き、ようやくアイツを解放する。
「……強引すぎるよ?」
 そこから仕方がないといった表情で見降ろしてくる視線に、
「これくらいやんないとスイッチ入らないでしょ?」
 私も笑顔を返してやる。
 そんな私の笑みを受けてアイツも苦笑いに口元を緩める。そうしてすっかりリラックスすると、示し合わせた
ようにもう一度キスを交わす。
 唇同士を触れ合わせる程度のそれを続けながらアイツの掌が私の体に触れた。
 右の肩口にそっと置かれた手の感触と温度にその一瞬、私はぴくりと震えて反応する
 その様はまるで臆病な子猫だ。そしてそんな子猫をいたわってくれるかのよう、アイツの手の平は優しく私の体を
撫ぜて移動してくるのであった。
 肩口におかれた手の平は袈裟に移動して乳房の丘陵を登りなぞる。やがて掌の中央が頂点について手の平全体で
乳房を包み込める位置に置かれると、指々は夕に斃れる花弁のように窄んで、私の乳房を包み込んでくるのだった。
 ただ置かれていた時とはまるで違う体温の伝わりとその熱に、私の鼓動と興奮はさらに大きくなっていく。
 これから先、何をされるのだろうか?
 胸を揉まれるだけでもこれほどまでに昂ってしまっているのだ。もしアイツの手が直に素肌に触れようものなら
……そして互いの体温を素肌で感じあってしまったのならば……その瞬間に、ちっぽけな私など微塵も残さずに
溶けてしまうのではないか?
 比喩や冗談ではなく私はそう思った。それほどまでに興奮している。
 そんな事を考えているうちに、私の乳房を包み込んでいるアイツの手の動きは徐々に強さを増していった。
 最初は確かめる程度に力を込めていた手の平も、今となってその弾力を楽しむかのよう私の乳房それを揉み
しだいている。
 昂る体と、そして依然として口付けによって呼吸器を塞がれている酸欠とに、私の頭は風呂窯のように熱せられ
その蒸気に意識を白くさせていった。
 そんな息苦しさとも取れない感覚ではあるのになぜか――私はそれを心地良いと思った。
 苦しみも快楽もその根は同じものであるのだと実感する。ならば、いっそその苦しみでしてほしいとさえ私は
願っていた。
 それほどまでに今のこの瞬間は幸せに私を満たしていてくれていたからだ。この幸せの中でねるのならば――
この瞬間をあなたと共に永遠に出来るのならば、ぬことだって怖くはない。
 いや――むしろ、私はこの為に生きてきたのだ。
 あなたと共にこの瞬間を迎える為、この瞬間の為に今日までの私があったのだ。
 そんな考えが取りとめもなく頭の中を回って、やがては私の境界は消えていった。
 意識も、体の輪郭さえも、全ては曖昧糢糊に白ずむ意識の果てに溶けて……
 
 いつしか私は、自分を見失うのだった。

    ★    ★    ★    


148 :
 目が覚める。
 リズム良く上下に弾むその揺れを私は最初、理解できなかった。
 やがては天地を確認し、うっすらと開ける視界に流れる夜景の遠い景色が確認できた頃――ようやく私は、自分が
誰かに背負われていることに気付くのだった。
「んあッ!? なに? どこ、ここッ?」
 そうして意識と肉体とが完全にリンクを果たすと、私は跳ね上がらせるように頭を上げて体を起こしたのであった。
 そんな突然の私の動きに、それを背にしていたアイツが驚きに情けない声を上げる。……どうやらアイツに
背負われていたようだ。
「目、覚めた? 大丈夫?」
 そして何事もなかったかのよう、いつもの能天気な口調で訊ねてくるアイツとは対照的に、
「なに? 何があったの? マジで訳わかんないんだけどッ?」
 私は赤兎馬を駆る呂布のよう、アイツの背中から大げさに首を回して周囲を見渡すのであった。
 どうやらどこか公園の中を歩いているようだった。しかしながらそれを確認すると、余計に私の混乱はその度合いを
増した。
 ついさっきの瞬間までホテルでコイツと乳繰り合っていたはずなのに、気がつけば公園にいるのだ。我が事ながら、
それも仕方がないように思えた。
 そんな私の反応に一方のアイツは小さくため息をついたかと思うと、まるで子守が寝る子をあやすかのよう事の
顛末を語って聞かせてくれるのだった。
「ホテルでキスしてさ、その……ちょっと胸に触ったあの後、おまえ気絶しちゃったんだよ?」
「気絶ぅ? なんでよ? 別にあたし何ともないわよ」
「知らないよそんなの。とにかく、こっちの問いかけにも反応しなくなっちゃって、すごく慌てたんだから」
 その後は濡れタオルで私を看病するなどして、3時間・1万8千円の休憩タイムは終わりを迎えたそうな。
 とりあえず寝ている以外に異常のないことを確認したアイツはそんな私を背負い、今に至っているという訳で
あった。
「おまえ背負ってホテル出るの、すごい恥ずかしかったんだからね」
 そう言っておそらくは頬をふくらませているであろうアイツの顔を背中から想像して、私はため息と一緒に苦笑いを
浮かべる。
 そうして気分が落ち着いてくると、冷静に自分が気絶してしまった瞬間のことも振り返ることが出来た。
 あの一室でキスとペッティングを交わした私は、その興奮から逆上せてしまったようだった。緊張で左右が
分らなくなっていたコイツ以上に私の方がテンパっていた訳だ。……我ながら恥ずかしいくらいに若い。

149 :
「あ〜、うん。もう大丈夫だよ、降ろして」
 ようやく昂る心も火照った体も沈静すると、私はそこから呼びかけて奴の背中から降りた。
 そして両足を地に付けると大きく伸びをひとつ。
 そんな私を見守りながらため息のアイツ。かくして……
 私達の初体験は、見事なまでに『失敗』してしまったのだった。
 
 それでも、
「ねぇ、ちょっと……」
 それでも私は、なぜか満足していた。
「ん? なぁに?」
 呼びかけ私に顔を上げて応える、すっかり疲弊しきった表情のアイツ。
「なんだかんだあったけど、今日は楽しかったね♪」
 その言葉にウソはなかった。それどころか私の心はまるで子供にでも戻れたかのよう、晴々と楽しげな余韻に
浸れている。
「今度はさ、フリータイムの所見つけて朝から入ろうよ」
「えー? いいよぉ、もうしばらくは」
 この次にまたコイツとラブホに入った時、今度こそ私達は目的を成就することが出来るだろうか? それとも
また私が、もしくはコイツが蹴躓いて失敗に終わるのだろうか?
 そんな未来のことは解らないけれど、だけどそんなコイツとのこれからを考える私はどこまでも楽しくてそして
幸せな気分になれるのだった。
「もう一回さ、キスしよ。とりあえず次回の約束に」
 私のそんな要求にアイツはあからさまに表情を曇らせて困惑した顔を見せる。
 その顔と反応はなんとも腹立たしくもあったのだけれど、でもそんなアイツは今、抱きしめたくなるほど愛しく
私の眼には映るのであった。
「いまさら出来ないわけないでしょー? さっきのラブホじゃ、さんざんベロベロ舐めてたくせに」
 過去のそれを話題に持ち出されるのがよほど恥ずかしいのか、やがてはしぶしぶアイツも私のおねだりに応じる。
 きつく瞳を閉じて体を硬直させるその表情は、私が良く知るいつものアイツだった。
「……本当に今更だけど、大好きだからね」
 顔を近づけて、その耳元で呟くようにそんな告白をする。
 それに驚いて、アイツがその表情を緩ませたその瞬間――私はその唇をついばむように奪うのだった。
 強く両腕を首に回して体重を預ける私に、アイツもそれに倒れまいと踏みとどまって抱き止めてくれる。
 そんなアイツの体温を感じながら私は思う。
 今日までの私は、きっとあなたとこの瞬間を迎えるために在ったのだ、と。
 そして、
 今のこの瞬間をあなたと共に永遠に出来るのならば、ぬことだって怖くはない――まんざらでもなく、そう思えた。

【 おしまい 】
------------------------------------
以上になります。長らくスレ占拠してしまって申し訳ありませんでした。
自宅PCが規制中ゆえ、もしレスがつきましてもお返事遅れてしまうかもしれませんが、そのときは申し訳ございません。
つたないSSですが、どうか楽しんでいただければ幸いです。


150 :
久々の投下乙&GJ!!
可愛いSSでございました(/ω\)(゚ε^ )チュ

151 :
何これ、スッゲー!
メチャクチャ面白かった!!
お疲れ様でございました

152 :
test

153 :
gj!!
甘酸っぱくて見ていてキュンキュンしました

154 :
無愛想で独占欲強い男の子が自分になつく子犬みたいな女の子をひたすらいじめる話が読みたいです。

155 :
つ 性コミ

156 :
弓道の先生ものかエジプト奴隷ものが読みたい

157 :
ピンポイントだなw

158 :
無愛想で独占欲強い女の子が自分になつくハスキー犬みたいな男の子をひたすら愛でる話が読みたいです。

159 :
シェルティみたいなツンデレ少年がたまに甘えるのがイイんじゃないか
あと弓道の先生はできれば神職希望

160 :
保守

161 :
投下待ち。

162 :
TEST

163 :
カタコトの外国人留学生とのイチャコラが読みたいです先生!
言葉はカタコトでも、することは凄い!みたいな…
伊達なイタ〜リア野郎も良いし
モムチャンな韓国男子も良いし
ムキムキマッチョな黒人アフリカンも良いな…

164 :
もう黒澤君の続編の投下はないのだろうか…

165 :
白痴

166 :
>>165
そっちじゃないれす

167 :
>163
最近そういうスレ建ったような
しかしあのスレタイだと攻めが外国人限定になってしまうのが問題ではある

168 :
投下先を迷って、許容範囲が広い、こちらへ来ました。
・四十路の男(職場の先輩)と20代前半のOL(約20歳差)
・酔ってる状態
・一応女性向け
・よくあるハナシ

お気に召さない向きは、タイトルかIDで回避願います。
(投下終了は>>181あたりの予定)

169 :
           
40も過ぎれば、見合いの一つでもしてみるか、という気にもなり――。
実家からの帰り、夕時の混み合う国道から逸れ、見なれた交差点で緩やかにブレーキをかけた。
外に目を向けると、傘を手にしている人がちらほらいるのに気付いた。
夜になって雨、の予報だったな――。
曇天の所為で、普段よりもあたりが暗くなるのが早い。
視線を前に戻し、信号からなるべく目を離さずに、虎之助は盛大にあくびをした。
「うおぉぉっ」
体の筋肉も、気分もやっと解れてきた。今まで、緊張していたらしい。
緊張というより、退屈な昼間の宴席を思い出して、自嘲した。
2度目の見合いも、流れるだろう。
相手は、29歳“家事手伝い”、父親は地元企業の役員だそうだ。
四十路のバツイチ男には、もったいない縁談だった。
しかし端から乗り気ではなく、親や親類の顔を立てるためだけに臨んだ見合いだった。
親には帰り際に即答しておいたから、適当に日を置いてから「倅にはもったいない方で」とかなんとか言って、破談になるのだろう。
もっとも、先方から先に断られるのは目に見えている。
小野虎之助、42歳、男、現在独身。
名前負けしてる、と思われそうだが、剣道好きの父親によって有無を言わさず習わされた武道系の稽古事は様々。
父親ゆずりの剣道だけが、唯一大学まで続いたものだった。
体も180センチには届かないが、がっしり体系と姿勢の良さで、冴えない風貌の割にスーツはきちんと着こなして、見てくれは良かった。
「お……?」
携帯の着信らしく、四角い塊がセカンドバッグの中で振動しているのが見えた。
マナーモードにしていたから、聞き慣れた電子音ではない。
メールか、それとも電話か。
「……江崎か。なんだ、こんな時間に」
しかも、今日は虎之助が休みだと知っている筈だ。
――一緒に外回りをしている、同じ会社の江崎紅葉からのメールだった。
携帯には“モミジ”と登録しているが、名前は「えさきくれは」である。
『飲むの付き合ってください。今日8時、主任が連れてってくれる、いつものやっすい飲み屋で待ってます』
それを読み終わると、目の前の信号が青になっていた。
スポーツ用品会社の営業職の虎之助は、江崎紅葉と組んで、主にリハビリ機器販売の担当をしている。
『主任』とは偉そうな肩書だが、役職手当などは付かない。
しいて言えば、次の出世を保障されているにすぎない。
そんな主任の虎之助は、新規開拓、という会社の方針で、数年前から新入社員とコンビを組まされるようになった。
紅葉とは、この春からだ。
虎之助の“ドサ周り”手腕を見こまれてのことと、若い女を同伴すれば相手にもソフトに受け入れられる、という会社の目論見だった。
それに新人教育も兼ねていた。
「時間ねーなー」

170 :
                
自宅はもうすぐ、である。
最後の交差点を曲がった時、フロントガラスに雨粒が落ちてきた。
ラジオからはちょうど天気予報が流れてきている。
『今夜夜半から雨――』
                 
「何を言ってやがんだ、もう降ってきたぜ……ん?」
ラジオからの続きの予報を聞いて、虎之助はにんまり笑った。
今晩帰宅してから、車に積んだ荷物を下ろすことにするつもりだったが。
酔って面倒なら、明日でもいい。
明日は日曜だ。
「車だけ置いて、すぐ行くか」
見合いという堅苦しいイベントを終えた後の解放感と、明日は休みという気楽さが、虎之助の気持ちを最近味わったことが無いくらい、軽くさせていた。
新人らしい、仕事の悩みを聞いてやるのは嫌いではない。
励ましてやれば必ず立ち直る紅葉は、意外に逞しいとわかってきた。
たまに二人で飲みつつ、最近は仕事の愚痴めいたものを虎之助が口にすることもあった。
紅葉を相手に、飲んで、見合いのことも忘れてしまいたかった。
虎之助は友人から誘われた時のような気軽さで、久しぶりに飲みたい、という気分になっていた。

***

「お前、もう出来上がってんじゃんか」
チェーン店のだだっ広い店内の、入ってすぐのカウンターに、小さなおかっぱ頭を見つけた。
週末の夜のことで客がそこそこ入っていたが、江崎紅葉はちゃんと虎之助の席を隣に確保していた。
チューハイかよく飲む梅酒なのか、すでにグラス2杯分飲み終わっている。
しかもかなり酔いが回っている様子だ。
虎之助は、こんなに飲むヤツだったか? と若干不安を覚えつつ横に腰掛けた。
「主任がくるまで、びーる飲まないようにしたんですぅ」
「はぁ?」
「えさきくれは、振られた記念! 主任と共に祝杯を上げたいとおもいましてぇ〜」
「あ、お兄さん注文いいかい?……ナマ中。ふたつ、おねがい」
熱いおしぼりで手を拭きながら、ついでに料理らしいものも注文する。
なにか温かい物が欲しかった。腹は減っている。
虎之助は紅葉のカラミに適当に応えつつ、様子を観察する。
今までそういう類の話をしたことのない紅葉に戸惑いながらも、まずは耳を傾けた。
紅葉は、大学進学とともに実家から遠く離れたこの街にやってきて、就職後もずっと同じアパートで独り暮らしをしている。
大学の先輩だというカレシは、同じ街で就職して、紅葉の卒業後も変わらない関係だった。
紅葉のほうは、その彼との将来も考えていた。
だから実家に帰らず、先輩が就職した街で、会社は違うけれど同じように就職した。
彼と離れたくなかったからだ。
それが、突然、来月地元に帰る、と言いだした。
仕事も紅葉の知らないうちに辞めていた。
半月前に、「別れよう」と切り出されて――今日、答えを出してきた――。

171 :
              
                
「好きだから、別れてきました」
ぼーっと遠い眼をして紅葉が呟いたところで、注文した物が運ばれてきた。
「じゃー、あたしの恋の終わりに、かんぱーいっ」
「かっ……」
カウンターにそれらが置かれると同時に、虎之助のことなど構わず、紅葉はジョッキを高々と上げると、すぐに喉に流し込み始めた。
「お、おいおい……江崎! 一気飲み、やめろ」
「ぷはぁ。なんだぁ主任、まだ口つけてないじゃないですかぁっ、ほら、ぐいっと空けて! ぐいっとー!」
虎之助も紅葉に強引に促され、ジョッキを傾ける。
自分のペースを邪魔されたのが気に食わないが、いつもどおり最初の一口はこの上なくうまい、と感じる。
虎之助は、喉を鳴らして一気にそれを空けた。
「なんですか、人にイッキすんな、って言っといてぇ」
紅葉は相当酔っているようだ。
「ちゃんと腹に食いモン入れておかんと、悪酔いすっぞ」
「ちゃんと、食べてますぅ。あたしの食べかけの、食べます?」
「いや、いいから。江崎こそ、これ。揚げだし豆腐も食え、ほれ」
「おトーフ好きです、あたしー。好き……すき。好きだったの、主任〜」
「んああ?」
「……ほんっと、好きだったのにぃ……大学のときからぁ……」
「そうか」
ヒョロリとした細い体を折り曲げカウンターに突っ伏して、小動物のような目で下から虎之助を見つめてくる。
その目は座っていて、すっかりとろんと潤んでいた。
長引きそうだな――虎之助は腹を決めて、追加の注文をすることにした。

***

その後、紅葉のペースに巻き込まれ、虎之助は彼女の自宅へ送り届けるハメになった。
タクシーを降り、紅葉を負ぶってアパートの階段を昇ると、一番奥、と小さな声が耳元でする。
酒臭い、生温かい息が耳や首筋にかかってくすぐったい。
それに紅葉の体の重みが丁度よく、柔らかく虎之助の背中が覆われている。
密着した布越しの女性らしい起伏と肌の温もりに、虎之助は落ち着きを失くしていた。
「……スミマセンね〜雨なのにい。濡れちゃいましたね〜」
「……な、なんだ、江崎起きてんのか。なら自分で歩け」
「へへ。バレましたぁ?」
激しくなった雨の所為で、少し歩いただけでも、着ている物に雨がかかってしまっている。
背負った紅葉にかぶせた上着のほうは、しっかり濡れているだろう。
去年、見合い用に新調したのを思い出して、かぶせてやったことを虎之助は後悔していた。
ここです、という扉の前で背中から下ろした途端、紅葉がやはり足をもつれさせた。
思わず薄い肩を抱いてしまい、慌てて手を放す。
紅葉は気にも留めず、バッグの中から取りだした鍵をカギ穴に刺し、くるりと回した。
カチャンと金属音がして、ドアが開けられた。

172 :
          
                   
「ははは、ダイジョウブですから〜。それより、雨宿り、してってくださいね〜。はい、ドウゾー」
「おい、俺はこれで……こんな時間に」
「まだ飲みますよぉ、ハイ! 入って入って」
以外にも力強い紅葉に背中を突き飛ばされて、大柄な体が玄関に転がり込んだ。
ガチャン! 金属の重い音が響いた。

……結局、紅葉の部屋に上がらされて、虎之助はまた絡み酒に付き合わされているところだ。
とはいえ虎之助もすでに立つのもやっと、になっている。
床に座った二人の周りには、ビールや土産物のウイスキーの小瓶、よく知られた銘柄の日本酒の瓶もが転がっている。
「お天気も……あたしの気分どおりの雨なんてぇ」
「……止まない雨はないんだ」
「こんなに降ってたらぁ、ゼッタイ明日も雨ですよぅ……」
濡れた上着は、紅葉が足をもつれさせながら、部屋の隅に掛けてくれていた。
短時間では乾かないだろうが、皺になるよりマシだろう。
「いつもニュースと天気予報は見とけと言ってるだろーが」
「……これからは、見ます見ますぅ……だってもう、まいにちヒマだもん〜」
ワインを一口、ボトルからラッパ飲みした紅葉の目が潤み始めた。
また泣かれると、ヤバイし、面倒だ。
「……晴れるぞ」
「気休めで、デマカセ言わないでくださいー。晴れる訳ないしっ」
「晴れたら……気分も晴れるのかよ」
紅葉は、いつも「朝から天気が良い日は、良いことが必ずある」という、ポジティブな独自のジンクスを信じている。
毎日晴れなら毎日良いことだらけだ、と虎之助は突っ込みたくなるのだが。
「こんな雨でも……絶対晴れるから心配すんな」
「天気予報士でもないのに、主任は〜」
雨もこれだけ降っていると、明日が晴れだとは誰も思わないだろう。
……そうだとしても、紅葉のためにも晴れて欲しいと願いたくなる。
「神様は見てるんですぅ。明日もたっぷり落ち込めーって……だから、雨です。きっとぉ。もうダメですぅ……」
何がダメなんだか……今は何を言っても無駄のようだ。
「晴れたら、元気にはなれそうなのになぁ……」
馴れ馴れしくタメ口をきいているが、普段は分相応、ちゃんと立場をわきまえて振る舞える奴だと虎之助は評価している。
今にも酔い潰れてしまいそうな様子でしゃべり続けるのは、それだけショックとダメージが大きいからだろう。
俯き加減になった紅葉は、今度はワインをグラスに注いでから、それを一気にあおった。
また、堂々巡りの話を話し始める。
「……別れよおって簡単に言うのはぁ、男がそういうモンだからですかぁっ」
「うーん……そーかもなあ。うん。そうだなあ。で、オンナも同じだ」
虎之助も紅葉も、目が半分閉じかかっている。

173 :
                     
                       
「へ? そーお? そうかなぁ。あたしは今でも好きですよぉ。先輩のこと大好きなのにぃ」
「早く……そうだ。早く忘れるこったなあ。新しい男でもつくってよ」
虎之助の手から、空っぽになったビールの缶がころころと転がった。
「ワスレル……そうだね。忘れる。忘れたい……」
紅葉は呟くように言って、唇を噛んだ。
ワイングラスをテーブルに置いて、虎之助の肩に頭を持たせかけた。
無遠慮かと思えば、そうでもない。
肩の端に頭を置いて、でもそれ以上もたれてこない。
顎が上向いて、虎之助の眼に、白い喉が眩しく映る。
虎之助の頬から顎にかかる髪の毛が、くすぐったい。
堪らず首を揺らすと、今度は紅葉の髪の香りがふわりとたった。
若い女の部屋にこんな時間に二人きりというのは、マズイしすぐに退散すべきだったと酔った頭で考えるも、うまく思考が回らない。
紅葉はもちろん、虎之助も、相当酔っているのだ。
「シュニンはぁ、忘れたいこと、ありますかぁ?」
「……ある。山ほど」
「えー? 女の人のことでぇ?」
「……俺、バツイチだからなあ」
「へぇえ……元オクサンの他にも、女性ヘンレキがイッパイかぁ?」
「遍歴……誰が! んなもン、この俺にあるわけねーだろがあ」
「……忘れたいこと……かぁ。エヘヘ……同じだぁ」
「おまえー、相当……ヨってるだろ?」
お互いに呂律も回っていない。
「ヤなこと、思い出させるぜ、江崎は」
10年前の離婚。
元妻とは10年近い付き合いだったにもかかわらず、結婚生活は3年持たなかった。
その後それなりに、いろいろあったりしたのだが。
――めんどうになっちまった。そういうことが。
「忘れたいんだ、シュニンも……」
「そうだぞ、俺だって……忘れたいことが、あるんだからな」
紅葉が、もそもそと四つん這いになった。
虎之助の正面に顔を寄せ、じっと見つめる。
「……ねえ、主任……」
「……なんだよ」
「忘れよ……いっしょに」
「ああ?」
日に焼けた強張った頬に、紅葉の手が添えられ――近づいてきたふっくらした唇が、少し厚めの唇に重なった。
虎之助の体は一瞬固まったが、紅葉のキスは止まなかった。
自然に、虎之助も体から力を抜いて、それを静かに受け止めていた。
やがてどちらともなく、舌を絡ませ合いながら、お互いに唇を交合わせ始めた。
くちゃくちゃと音を立て合いながら、紅葉は虎之助の股間に、虎之助は紅葉の胸に、手を伸ばしていた。

174 :
                   
                    
「ひどく……ふぁっ……して、くれますか?」
「ちょっ、ベルト……ヒドイって、どのくらい」
「んぁ、メチャクチャ……いっぱい。んはあっ……」
「おまっ、いてぇ」
「あんっ……足、開いてくださいよぅ」
「…………」
紅葉にズボンを脱がされ、強引に下着までずり下された。
あまりのことに抵抗する間もなく、気付けばワイシャツもあと少しで全開だ。
「酷いことして?」
「ばっ……うん?! やめろ、口に入れんな……っ」
酔っているとはいえ、虎之助の逸物はそれなりに元気よく飛び出て、股間に這いつくばった紅葉の頬を軽く打った。
「俺に酷いことを、すんなっ」
「イヤなんですかぁ?……ぁむ」
「うは! う……イヤとかそういんじゃ」
「こへ、ヒホイほと? ふは、主任はキライ?」
「…………う」
尖った舌先が蠢きながら、虎之助の根元から徐々に舐め上がっていく。
傘の部分をぺろぺろと動きまわり、尖端に吸いつかれる。
「んむ……も……おっきい……気持ちよくなりたいですかぁ、しゅにん」
「ぐ……」
「おしる出てます……あ、かわいー」
「…………だから……あぁもう、めんどくせぇんだ」
「ふ……きゃ!」
虎之助はいうなり、紅葉の体をベッドに放りあげた。
紅葉の細い体の上に――ベッドの上にのっそり上がって、虎之助はランニングシャツを脱いだ。
紅葉も仰向けで、背中の下に手を入れてブラジャーをはずしている。
下着がまだあるし、ブラは緩んでいるが胸の上に乗っている状態の紅葉。
虎之助は全裸になったところだ。
紅葉の躰の両側に両手をついて、跨いで、四つん這いで見下ろした。
「……どーなっても、しらねぇぞ」
「はい……もーすきに、やっちゃってくださ……」
酔った赤ら顔で、ひらひらと掌を振っている紅葉が言い終わらないうちに、虎之助がその開いた唇を塞いだ。
動きまわる舌を絡め取り、唾液を啜りあげる。
互いに頭を何度も交差させ、より深く激しく唇を求め合った。
「っは……主任、おもい〜」
「主任って言うな……」
「えっと……おの、さん。ぁあ!」
乱暴に虎之助の手が、紅葉の股間をまさぐる。
――痛い。
虎之助の指が、下着の上から強く窪みを擦っていく。
時々、押しつけるように指を回す。
アルコールの所為で感覚が鈍いから、お互い体の反応は緩やからしい。
しかし紅葉が顔をしかめたのに気付いて、虎之助は動きを止めた。

175 :
                     
 
「痛かったか……悪ぃ」
股間に添えた指を、今度は優しく撫でるように上下させていく。
けれど紅葉は、虎之助に「乱暴にして」と懇願した。
「いいですからぁ、ねぇ……ヒドクくして? お願い。わすれたいの……」
虎之助を見上げた眼に涙が浮かんでいる。
「優しくされたら……わすれられなくなるの」
「おまえな……泣かれたら、萎えるだろ? 俺だって忘れたい事あるよ」
虎之助は動きを止めて、困ったような声で言った。
それを聞いた紅葉は、シーツを掴んでいた手を瞼の上にあてて涙を拭いた。
「一緒に、わすれてくださいよぅ。今夜だけだから、ね? 主任」
「先に泣くな。泣くなら、せめてイク時に泣け……それから、主任て呼ぶな」
「じゃ……おのさん……とらのすけさん?」
「……今夜だけだからな」
また唇が重なる。
虎之助は唇はそのままに、紅葉の胸に手を添えて、乱暴に捏ね始めた。
股間にあった片方の手は、下着内側に指を忍び込ませて、恥毛の中を探りながら、温かな肌に触れていく。
「濡れてない……」
虎之助は顔を上げて呟くと、紅葉の下着を膝まで脱がし、両足首あたりを掴み上げた。
脚を両肩に掛け、その付け根の間に顔を寄せ、繁みを分けて奥の割れ目を指で開いた。
「イヤっ」
容赦なくもぐってくる舌の感触が、紅葉を悶えさせる。
膝裏を掴む腕に触れてくる片手を握ってシーツに留め、指も使ってなおも紅葉を責め立てた。
少しづつ湿り気のある音が、水気の音へと変わっていく。
「はっ……指……じゃなくて、もぉ……」
「なんだよ……?」
濡れたような目で虎之助を少し見つめて、紅葉は突然体を起こし、同時に虎之助の肩を勢いよく押した。
「うわっ」
紅葉の潤んだ目を見て、多少はひるんだ。
紅葉がそんな眼をするなんて、思ったこともなかったからだ。
彼女のことを、今まで、女とは思っていなかった。
いや、虎之助は、紅葉に女を意識しないようにしてきた。
そんな虎之助の一瞬の逡巡を知る由もなく、紅葉は起き上がろうとする大きな体を、今度は押さえつけるように圧し掛かった。
突然のことで、不意打ちをくらったように虎之助はベッドに沈んだ。
「おま……なにやっ……」
虎之助が体勢を崩してじたばたしている間に、今度は紅葉が、もそもそと仰向けの虎之助の体を跨ぐ。
形勢逆転だ。

176 :
                
「もぉ、ぐずぐずしないで」
「誰がだよ……」
「だってー、欲しいんだもん」
とたんに、虎之助の硬くなったモノを紅葉の手が掴んだ。
ぴちゅ……と空気を含んだような音をさせて、紅葉が自分の股間にソレを導いていく。
亀頭はすでに蜜に濡れ始めている。
掌の温かさとは違う、生ぬるい温もりが尖端に触れている。
「かたぁい」
妙に明るい声で言いながら、紅葉は尖端を自分に擦りつけ、腰を落としていく。
「ん……あ――――あっ」
紅葉は、自分の重みで貫かれていくことに、自らそうしておきながら、戸惑うように体を震わせた。
一転して声が切迫さを帯びていく。
「イヤ、やだっ……んああっ」
先ほどまでの積極的な振る舞いと、今の羞恥の表情のギャップが虎之助を煽っていく。
「ダメ……だめぇ……っ」
「自分から……したくせに……」
「だっ……はずかし……すごく大き……くていっぱいで……あんんっ」
次の言葉を待たずに、虎之助は動きだす。
酔ってるから、手加減などという気遣いはしないし、できない。
繋がってしまえばもう後戻りできないと、残った理性でブレーキをかけることもできなかった。
快感に誘われるまま、腰を突き上げる。
「っやああ!」
紅葉も酔ってるから、頭の先まで突き上げられるような感覚に、先ほどまでの羞恥も吹き飛んでしまう。
下から緩やかに突き上げる動きに合わせて、ナカを擦り合わせていく。
虎之助の胸板に手をついて、腰を回し浮かせ、沈ませ……自分で勝手に昇り詰めていく。
腹の上でくねる体に、虎之助は手を伸ばし、想像通りの小ぶりな形のよい乳房を鷲掴んだ。
揺れに合わせてそれを捏ねまわし、つぶれた膨らみのピンクの尖端を、時折指の間で絞るように軽く引っ張る。
そうすると、紅葉は眉間に皺を寄せて、悶えるように上体を揺らがせた。
「あぁ……いいよぅ……とらのすけ……」
我慢できなくなったのか、紅葉は体を前へ倒し、虎之助に胸も腰も擦り付けるように折り重なった。
喜悦の声を漏らしながら縋りつく紅葉を、虎之助は腕を回して抱きしめていた。

177 :
        
 
 
       
――めんどうだ――新人を教育するのは初めてじゃない。
けれど、今回は女だ。嗚呼、めんどくせ――。
最初出逢った時の感想はこれだった。
                     
ここ数年オンナっ気無しの虎之助には、一日の大半を、この20も年下の娘と一緒にすごさなければならないことが、最初は苦痛だった。
男子とは違った気遣いも山ほどしなけらばならない。
とはいえ、最近のオトコどもは、自分の新人の頃とは様子が違い、軟弱な奴らが多いとは感じていた。
現に、紅葉の前の新人は、理系の草食系男子で、頭の回転は速いが行動が遅い。
頭より先に体が動く虎之助とはウマが合わなかった。
入社から1年間の“教育”を終えると、社内異動があってそいつは企画系の部署へ換わっていった。
比べて紅葉は、不器用で頭の回転はそれほど良くない。
ついでに言えば美人でもない。
痩せぎす、という言葉がぴったりの、まだまだヒヨっこみたいな外見だ。
だから取引先では、小娘とバカにされたり、ナメられたりすることもある。
悩んだり、ヘコんだり、時には悔し泣きしたりしながら、それでも紅葉は少しづつ成長してきた。
そんな紅葉を虎之助はハラハラしながらも、最近はやっと距離を置いて見守るようになってきていた。
『根性だ!』という、古臭い虎之助の指導の賜物、ともいえるかもしれないが、紅葉の素直で意外に粘り強い性格によるところが大きいのだともいえる。
虎之助が『主任』だから上下の差はあるし、先輩後輩でもあるのだが。
最近紅葉も仕事に慣れ、自信もついてきた。
少しづつ、一緒になって泣いたり笑ったりできる“同志”になりつつあるのを、実感できるようになってきている。
今では、同僚であり、仕事上のパートナーだと思えるようになっていた。
途中入社で15年目のベテランと1年目のヒヨっこだが、ふたりの関係は良好だった。


紅葉の中へ激しく突き上げてきた虎之助が、ずるずると下がっていく。
しっかりしがみ付いていた紅葉は、それに気づいて慌てて体を離した。
「まだ、終わらないで!」
虎之助は、ぼんやりした頭を軽く振った。
このまま、吐精後の気だるさの中に漂っていたい気がする。
酔いだってほとんど醒めてはいない。
けれど紅葉はおかまいなしに、柔らかくなり始めた虎之助のモノを手で包み込んで、擦り始めた。
「おねがい……まだ……」
虎之助の横に体を寄り添わせ、脚を脚に絡めてくる。
手の動きは止まらず、時折根元から股間の奥の奥へと手を滑らせたり、傘を軽く弾きながら尖端を指先で撫でたりする。
「終わっちゃ、ダメ……」
紅葉は虎之助の耳元で囁いて、軽く耳たぶを噛んだ。
虎之助は、徐々に体が熱を取り戻すのを感じつつ、横を向いて紅葉を抱き寄せた。
首筋から肩、鎖骨の窪みへと舌を這わせ、唇を押しつける。

178 :
                 
紅葉を仰向けにして、腕をそれぞれ掴みベッドに留めて、胸の先端に舌をつけた。
紅葉は上から施される愛撫に甘えた声で応じ、すっかり虎之助に身を委ねている。
                   
頭に『理性』という言葉が浮かんでは、紅葉の哀願の声にかき消される。
すでに己の欲望の方が何倍も勝っている。
本当ならキスの時点で、お互い、とどまるはずだった。
いや、酔っていても、突き飛ばしてでもたしなめ、止めるべきだった筈だ。
――壊したくはない。
仕事のこととか、良好な関係とか。
今になって、強く強くそう思えてきてしまう。
そんなことを今さら思ってみても仕方がない。
越えてしまったのだ。
今は腕の中で泣く紅葉をただ、請われるまま抱いていたいと思うだけだった。
紅葉の気が済むならそれでいい、と思えた。
それに、虎之助の体にはまた力が戻ってきていて、自分でも止めることができなかった。
「もっとぉ」
だるさを残した体で、紅葉を四つん這いで跨ぎ、上を向いた膨らみを先端から飲み込むように吸った。
「噛んでよぉ、おねがい!」
紅葉がイヤイヤと首を振り、懇願する。
「噛んで。痛くして、酷くして? おねがい……わたしなんか、もう」
次第に紅葉の声が弱々しくなっていく。
虎之助は言われた通り、硬く尖ったそれを、交互にキリリ、と噛んでやった。
何度も噛んで、少しづつ強くしていき、最後にいたわるように口に含んでやさしく舐った。
「やさしくしないで……。わがまま言ってますか、あたし……?」
「俺がこうしたいだけだ」
「ごめんなさい……ごめ……」
「謝るな。萎えるっていっただろう……」
「泣いて、ごめんなさい。甘えてごめんなさい」
「だから……」
硬さを取り戻したモノを、虎之助は紅葉にあてがった。
「俺が、こうしたいんだ。それだけだ……」
それ以上の言葉を、虎之助は飲み込んだ。
下腹部に滾り始めた熱が、紅葉の中へ押し入っていく。
紅葉が激しく喘いで、背中を浮かせるのをベッドに押しつけ、両膝を曲げさせた。
尻を浮かせ、曲げた両膝を揃えて紅葉の顎の下まで持ち上げて、ゆっくり腰を打ち付ける。

179 :
            
      
「やっ、はあぁっ、とら……のすけぇっ」
粘性の水音に、時々気体の弾けるような音をさせながら、紅葉の充血したそこに、剛直な虎之助のモノが出入りする。
体中の血が集中してくるのを感じながら、虎之助はそこから目が離せなかった。
普段の頼りないヒヨッコと、虎之助を咥えて舐るような女の部分を持つ目の前の紅葉に、昂りを抑えることができない。
          
「あ――っ」
びくびくと紅葉が腰を震わせたのは、虎之助が陰唇を探り、膨らんだ芽を弄ったからだ。
できるだけ緩やかな動きに終始し、紅葉が自分を求める声を何度もあげさせる。
「も、もっとっ」
肩で息をしているのは、虎之助を咥えながら軽く達した証拠だ。
柔らかい肉の襞が収縮を繰り返すのをやり過ごし、まだ虎之助は紅葉の中にいる。
虎之助は一息つくと、今度は紅葉をうつ伏せにしベッドに這わせ、無言で再度貫いた。
「うっあっ……あああ!」
虎之助は変わって、激しい動きで抽送を始めた。
這いつくばってそれを受けとめる細い体は、虎之助が腰を叩きつけるたび、激しく揺れた。
肌のぶつかる乾いた音と、対照的なぬちゃぬちゃという湿った水音が響く中、紅葉は何度も嬌声をあげた。
「あっはぁ……もっとぉっ…………ぐちゃぐちゃに……!」
後ろから肩を押さえつけられ。
そのまま、起こされ、座って膝を抱きかかえられて、上下に揺さぶられて。
向い合せになり、虎之助の膝上で跳ねるように揺らされながら――。
広い背中に爪を立て、何度かの絶頂のたび、紅葉は虎之助の肌を噛んだ。
「いいっ……もっと! とらのすけっ、いいの、痛いのがいいの!」
お互いに、勢いで傷つけあった肌の痛みは、酔った体に心地いいとさえ感じた。


虎之助は、目を開けた。
ゆっくりだが、ここが何処だか、思い出してきた。
「………………ああ」
頭が重く、二日酔い特有の痛みが、軽くだがガン……と響いてくる。
腕の中の小さな頭に目を移し、もう一度状況を思い出し確認した。
ため息のような声が、小さく漏れた。
「あぁ……」

180 :
            
寝ボケた頭で、早く出なければ、と思った。
だが、素肌同士の、温もりがたまらなく心地いい。
そして、その生々しい感触が、虎之助をはっきり覚醒させる。
隣で眠る体に、目覚めないでくれと祈りながら、なんとかそっとベッドを抜けだした。
肌蹴て露わになった紅葉の裸身を、軽い掛布で覆ってやる。
虎之助はそこここに散らばった衣服を一つづつ身につけ、立ち上がった。
羽織った上着がほぼ乾いている。
それが、一晩ここで過ごしたことをあらためて実感させた。
バツの悪さに、転がった空き缶や瓶を部屋の隅に一応まとめておく。
ゴミ箱の中に使用済みのゴム製品を見つけ、慌てて傍にあったコンビニ袋に、ゴミもろとも詰め込んで口をきつく縛っておいた。
ざっと片付けを終え、ベッドを見下ろしながら、上着の内ポケットに手を伸ばしかけて気付いた。
「何年も経ってるのに。こんなこと、覚えてんだなぁ……」
5年ほど前にやめたはずの、タバコに手を伸ばしていた。もちろんポケットにそれがあろうはずもない。
――ご無沙汰もなにも、5年以上って、男としてどうよ。
誰かと過ごしたこんな朝は、部屋を出る前、必ずタバコを一本だけ吸った。
気持ちをリセットする意味もあっての、一服だった。
すっかりオンナっ気も無くなった自分が、情事のあとの気まずさを紛らす一服を、今さらしっかり覚えていた。
とはいえ、酔いも醒めて明らかにマズイ事になっているというのに、妙に落ち着いてもいる。
ある意味、非常に無防備、というか。
それがなんなのか、虎之助はこれ以上考えるのを止めておいた。
それより、紅葉の甘やかな喘ぎや哀願の言葉、縋りつく腕の力を、次に会った時にはきれいに忘れられているか、虎之助は自問した。
「俺が、ちゃんとしなくちゃ、いかんだろ」
頭を左右に振りながら、窓に近づきカーテンを思い切り開ける。
シャッと派手な音とともに、部屋に朝日が差し込んだ。
「いつも言ってんだろ……天気予報とかニュースとか。ちゃんと見とけ」
眩しい光が、乱れた部屋を明るく照らしているが、それでも紅葉は起きないようだ。
「予報通りの、快晴になるぞ――江崎」
窓に目を向け、差し込む朝日の眩しさに、慌てて俯いた。
そのまま、もう一度ベッドで眠る紅葉の顔を覗き込む。
赤ん坊のように丸まって眠るあどけない寝顔に胸がツキン……と疼いた。
「……少しは元気、出しとけよ」
虎之助は小さくため息をついた後、静かに傍を離れた。

おわり

181 :
以上投下終了。
失礼します

182 :
お〜。大人のおっさんGJ
江崎サイドの続編など読んでみたいです

183 :
GJ
この後の二人の状態変化が気になりますねぇ

184 :
すごい読みやすかった

185 :
GJ!!
見合いの結果も気になるなー

186 :
GJ
この先が気になりますねー

187 :
大地と秋穂に関連する姉の春果の話で数年遡ります

※避妊描写についての注意
不成功及びその後の受胎要素あり

* * *
 クリスマスだから彼氏位作れ。
 そう言われても、私はピンと来なかった。
 ただ、短大に入学して初めて故郷を離れたことで、今年は家族で賑やかにその夜を過ごすというのが出来なくなる。それは、
寂しかった。
 だからと言ってそこを理由に彼氏を作るというのも違う気がする。
 恋は見つけるもので、探すものではない。
 そう考えていた私は、まるで『白馬の王子様を待つお姫様』のようだと散々言われ続けてきたのだけれど。
 それでも、我が身が震える程の感動を憶えることができるのなら、私はそれを知りたいと思うのだ。
 そしてそれは突然にやってきた。
 きっかけはよくある合コンでの出会い。
 数合わせにと拝み倒されてしぶしぶ着いたその席で、私と同じ様に明らかに場違いな雰囲気を醸し出している男の人がいた。
 何となく、余った者同士で意気投合し、気がつけばメール交換を機にしょっちゅう会うようになっていた。

 それから2ヶ月余り経ってから。
 いつも待ち合わせしている駅ビルの前で彼の姿を探した。
 彼の通う大学はこの沿線にあり、私のアパートまでの道のりからすると一番落ち合いやすい場所だからだ。
 まだ明るいこの時間帯には、中高生の数も多い。前は何度か変な男の人に声を掛けられたりして凄く困ったりもした。
「ねえか〜のじょ。良かったら僕と付き合わない?」
 今のように、ひとりでポツンと立っていると物欲しそうに見えるのだろうか?
「あの、結構です。彼氏を……待ってるので」
 きっぱり(のつもりで)言い放つと、肩から緊張感が抜けていく。そんな時に彼の存在を感じることができるのが、
ちょっと嬉しくて誇らしい。と同時に少し不安にもなるんだけど……。しつこい人の場合もあるし。
 なんて考えてたら、
「春果ちゃん!」
という待ち望んだ声と、
「お前ふざけんなよっ」
という言葉が同じ口から続けざまに放たれた。

188 :
「やけにしつこく待ち合わせ場所聞いてくると思ったら……人の彼女ナンパするな!」
「ちぇっ、せっかくの運命の出会いを」
「何がだ!……ごめんね。春果ちゃん、こいつの事覚えてる?俺の友達なんだけど、悪い奴じゃないから」
暫く呆然とそのやり取りを眺めつつ、懸命に記憶の糸を辿ってはみるけれど、どうしても思い出す事ができないでいた。
「……ごめんなさい」
「えぇ!?ショックだなあ。まあ、お酒入ってたもんなぁ」
 はい、と笑ってごまかした。本当はお酒飲んでないし。というか私未成年だ。多分、成人してもあまり飲めないかもしれない。
うちの田舎は皆酒のみなんて言われてるけど、余所からお嫁に来たお母さんは下戸だから多分。
 中学生の弟と高校生の妹(!)は解禁になったら凄いかもしれないんだけど。
 改めて自己紹介してくれた人を今度こそちゃんとインプットしながら、今更ながら彼のことばかり気にしていた事実に
1人で勝手に顔を赤くした。
「しかし良かったなぁ。お前、こんな可愛い娘ゲットしちゃってさ。春果ちゃんあの時一番人気だったんだから。それをみんなが
 お前に譲ったんだから大事にしろよ。なんせあの飲み会はイブに向けて可哀想なおま……」
「ああもうっ!うるさい!!早く行けよもう」
「お前こそ、モウモウうるさいぞ。じゃあな海牛」
「内海(うちうみ)だ!いちいち下らないんだよお前は……春果ちゃんごめん、気にしないでね。本当調子良いんだこいつ」
「ううん。私なら大丈夫……」
騒々しく引っ掻き回して行った彼の友達が去るのを見送ると、
「じゃあ、行こうか」
とはにかみながら差し出してきた手をそっと繋ぐ。頬や鼻が赤らんで見えるのは、冷え込んできた夜の空気のせいかしら。
 ぱっと点った明かりの眩しさに見上げた広場の中央のツリーは、私達を見下ろしながらきらきらと輝く。
 それを見上げて目を細めながら呟いた。
「春果ちゃん……あの……」
 それに続く言葉に、私はどこか迷いを残しながらも、黙って頷くことを選んだ。

189 :
* * *

 何度か入れ替わり立ち替わり、私の側に男の人が座っては色々と質問や誘いの言葉をかけてくる。中にはメアドを聞いてくる
人もいたけれど、教える気にはなれなかった。
「それくらいいいじゃない。そんなの挨拶みたいなもんよ」
 洗面所の鏡の前でメイクを直しながら、他にも彼女には
「深く考え過ぎなのよ。春果は可愛いのに、ガードが固すぎるんだな」
とあれこれとダメ出しを受けた。
 確かに私は皆と比べると、真面目を通り越して面白みのない人間かもしれない。だけど簡単に人に心の中に踏み込まれるような
真似をされるのは嫌なのだ。
 田舎町から出て来て短大に入学して半年。初めはなかなか新しい暮らしに馴染めなかった私を、仲良くなった同じ学校の娘達が
あれこれ世話を焼いてくれた。
 地味で余所者丸出しの言葉を遣うのが恥ずかしくてお喋りもままならなかった私に、メイクや服やら一から指導を施された
お陰でやっとここでの生活にも慣れて生活を楽しむ余裕もできたけれど、それからは別の意味で頭を悩ませる事が続いた。
 その頃からバイト先で、通学途中の電車の中で、友達とのお茶の途中で、知らない男の人に声を掛けられる事が多くなった。
 気軽にメアドを教えていた友達の真似で何も考えず同じようにしたら、しつこく送られてきて困ってしまった(無視とか
拒否とか考えもつかなかった)。
 それ以来、怖くて無闇に男の人と話すのも避けるようになってしまった。
 半年前は街で声を掛けられる事なんかなかったのに、少し格好を変えただけであれこれ言われるようになったのもあって。
「あんたは元がいいんだから、少し手を加えると変わるんだよ。それだけ可愛いんだから自信もっていいんだってば」
「……でも、結局見た目だけで判断してるって事でしょう?」
 実際、今回の飲み会だって、初めは愛想良く近寄ってきた男の人もすぐ話が続かなくて他に移っていく。田舎娘の私とでは
話題にも事欠き、つまらないということなのだろう。ノリが悪いって言うんだろうな。それを『ガードが固い』と皆は言う。
褒められれば確かに悪い気はしないけど。

190 :
 先に戻ると友達が出て行った後のドアの閉まる音を背に、少し暑い空調に乱れた髪を直しながら、トイレの鏡の中の自分を
見て溜め息をつく。
『どうしてもあと1人足りないのよ!春果がそういうの苦手なのわかってるんだけど。いてくれるだけでいいから、ね?』
 今日の昼になっていきなりこれだもの。
 仲良くしているグループの1人の彼氏の友達に誰か紹介してやりたいという話らしい。数日前から声を掛けられてはいたけど、
興味がないと断っていた。
『いい人なんだよ。これから年末年始イベントづくしじゃん?春果なんかオススメなのになぁ』
 心配してくれるのは有り難いけど、私は理由づけして恋人を「作る」のは違うんじゃないかって気がする。それが悪いって
わけじゃないけど、恋愛のための恋愛という気がしてどうしても気乗りがしなかった。
 そんなある意味ノリの悪い白けた空気がにじみ出ているのかもしれない。それはわかってるんだけど、自分に嘘をついてまで
という変な意地が働いてしまう。
 結局私はこういう事に向かない体質なんだろうなぁと、皆に悪く思いながらも早く帰ってひとりになりたいと願ってしまう。
 それでもいつまでもぐずぐずできない、とトイレのドアを開けた。
「わっ!」
「きゃっ!?」
 思い切り開けたドアが軽く何かにぶつかる音がして、バランスを崩した勢いでバッグを落とした。
「あ、ごめんなさい。大丈夫ですか?」
「いや、こっちこそ……ああ、バッグが」
 足元に落ちたバッグを慌てて拾いに屈むと、今度は彼のポケットから携帯が落ちた。
「すいません!今度から気をつけますから」
「いえ。ここ狭いし、外開きだから。ていうかこんなとこでぼうっとしてた自分が悪いから……」
 携帯をポケットにしまいながらバッグを渡してくれる。
「ありがとうございます」
 方々の個室から洩れて聞こえてくるカラオケの音に気が重くなりながら何となく壁にもたれると、彼も同じ様に少し離れて
壁を背に並んだ。
 改めてその顔を見て、互いに少し気まずそうに苦笑いする。
「戻らなくていいんですか……?」
 彼こそが、今回の主役だった筈だ。

191 :
「……まあ、そうなんだけどね。でもどうしてもこういうのに慣れなくて……だからなかなか彼女が出来なくて、みんなが色々
 仕切ってはくれるんだけどさ。結局はダシになっちゃうんだよなぁ」
 私と同じかも、と何となくほっとした。妙な親近感のようなものが湧いてきて、足がその場に留まろうとする気持ちに素直に
従う事にした。
「あ、愚痴っぽくなっちゃってごめん。こんなだからつまんないんだろうな、俺。だから避難してきちゃった」
「いいえ。私も似たようなもんだから。……あの、ご一緒してもいいですか?邪魔しないようにしますから」
「いいよ。ていうか似た者同士だったりする?」
「そうかも」
 そこから何となく話が弾み始めて、気がついたらみんなが二次会の相談を始めるまで二人でずっと話し込んでいた。
 彼も私と同じで地方から出てきたそうで、学年は友達の彼氏と同じ1歳上のハタチ。
 少しお酒が入ってはいたけれど、こんなふうに女の子と気兼ねなく話せたのは初めてだと言っていた。
 それまで二次会なんて行ったことなかった私だったけど、彼が行くなら……という気持ちが頭をよぎったものの、『行かない』
という言葉に正直がっかり。結局行かないと決めてみんなとは逆方向に歩いた。
 最寄り駅まで一緒して、改札前で別れるものと思っていたら、
「少しだけ時間をくれませんか」
と誘われた。
「君ともっと話がしたいと思って」
 後々にこれは抜け出したという事になるのではとも考えたけど。
 ファミレスで互いの田舎の話や、好きな映画やバイトの話など、たわいのない内容の話ばかりで過ぎていく時間が、生まれて
初めて惜しいと思った。
 そしてもっとこの人を知りたいと思えたのも初めてだった。

* * *
 そんな僅か2ヶ月前の出来事が、遥か昔の事のように思える。
『クリスマスに1人じゃなくなるの初めてなんだ』
 ツリーを見上げながらそう呟いた彼。
 イブに寂しく過ごさなくて済むのは私も同じだけど。
『……一緒に過ごせて良かった』
 それはもしかしたら私ではなくても?
 こんな気持ちを抱えてその日を迎えることになるなんて。

192 :
* * *
 金曜日の夜は長い。そして今夜は特に、眠りにつくのは容易ではないだろう。
 買い物袋を提げて、白い息とともに浮かれた街とは裏腹な溜め息を吐く。
「どうかした?」
「ううん」
 寒さにかじかんだ手を大きな両手が挟み、ぎゅっぎゅと包み込むように握った。
「綺麗だね」
「ん?……あ、うん」
 視線の先を追えば、遥か高く輝くツリーが私達を見下ろしていた。
 今日までに何度も目にしていた物なのに、特別な日というだけでまた違った気持ちが私の中に入り込んでくるような気がした。
現金なものだ。
「春果ちゃんだからかな」
「なにが?」
「いつも普通に見てたのに、今日は何だか凄く眩しく見えるんだ。そりゃひとりで見ても綺麗なのは一緒だけど、春果ちゃん
 といると……」
 誰かがいてくれるだけで、どんなものも一層輝いて見えることがある。
 何でもないような日が、特別な記念日になるように、またその逆もあるのではないのだろうか。
 彼が同じ気持ちでいた事を嬉しく思うに対し、その反対側にある真逆の結果を想定してしまう素直に喜べない気持ちには
苛立ちが募る。
 友達から始まって彼氏彼女の関係になってから、私達はまだ何も進んではいなかった。
『イヴの日は一緒に過ごせる?』
 それが一体何を意味しているのかなど改めて問うほどではないけれど、言葉に従うままに頷きながらも本心では確かめたくて
仕方がなかった。
 私でいいの?
 それが私でなければ意味のない事なの?
 所詮はきっかけにすぎない。けれどこの日でなければならないという理由もさりとて見つからない。
 遠ざかるツリーを振り返りながら眺めた。
 人工的に作られた派手な彩りたちが、ここにいる皆の幸せに浮かれた気持ちを煽る度に、私の心だけがぽつんと取り残されて
置き去りにされた気がする。
 そんなのは言い訳で、ただ怖いだけかもしれない。
 何か得ることで何かを失う。そのために得られる物が一体どういうものなのか、もしかしたらそれとも――。
 今、この手を離したくはない。それは確かな気持ち。
「春果ちゃん?」
 思わずぎゅっと力をこめた手に戸惑った顔をしたけれど、次の瞬間には更に強い力で握り返される。
 それが答えだと思ってしまって良いのだろうか。

193 :
* * *
 ひとり暮らしの彼のアパートにお邪魔したことは何度かあった。
 お茶を飲みながらDVDを観たり、ご飯を一緒に食べたこともある。
 だから今日だってそんな感じで、特別な事をするつもりではなかった。
 ただ、クリスマスだからケーキは買ったし、シャンパンも買った(但しそれは彼用で、私はお子様用のシャンメリーだけど)
から、それを考えるとご飯に肉じゃがなんていうわけにもいかず、予約してあったチキンに簡単なサラダを作り、彼が好きだと
言っていたのを思い出し、グラタンに挑戦してみた。
「あんまり洋食は得意じゃなくて……ごめんね」
「ううん。美味しいよ」
 少しダマになって焦げたソースを嬉しそうにふうふうして食べてくれる。
「また作って」
「え……無理しなくていいのよ?」
「してないよ。春果ちゃんの作るものなら何でも嬉しい。だから、嫌じゃなきゃまた何か作ってほしいな」
「私は……じゃあ、何がいいか考えておいてね」
「やった。嬉しいな」
 へへ、と普段よりテンションが高めに見えるのは、アルコールのせいかしら。もしかしたら、部屋の隅に置いた小さなツリー
の点滅する明かりに浮かされてるのかもしれないと思う。案外、雰囲気に呑まれやすいとこがあるのかも。
 今日になって一緒にホームセンターで半額で買ってきた残り物の小さめのツリー。
 多少の無理やり感は否めないものの、そうやって嬉しいなと言ってくれる人に対して悪い気は起こらないものだ。
 私だってその点では、至極単純で呑まれやすいといえるのだろう。
 後片付けをしている間に、先にお風呂に入って貰った。
 べったりとチーズの焦げがこびり付いたグラタン皿と格闘していると、部屋の電話が鳴りだした。でも、私出られない。携帯
よりある意味重要だし。泡だらけの手じゃどのみちどうしようもないけど、無視するのは忍びない。
 出られない呼び出し音は余計に耳に長く届くように感じて、結局はそれを気にする余り洗い物に集中する事は叶わず、
手を拭いて風呂場に向かう。

194 :
「あの、ごめん。電話が……」
 磨り硝子の向こうに動く肌色の影にどぎまぎしながら声をかけると、じき応える気配がして慌てて台所に戻る。
 流しに向かって再び作業に戻っていると、暫くして背後にほんわりと湯気が立ち、シャンプーの香りが漂う。
「もしもし。今風呂場に……うん、元気」
 履歴を見てかけ直したのか、悩むことなく会話に応じているところをみると、相当親しいようだ。友達か、もしかしたら家族
からかもしれない。
 背を向けているとはいえ、立ち聞きしているような状態になってしまって困ってしまったものの、傍に人の気配を悟らせる
のはまずい事もあるのでは、と気を回したつもりで一連の動きを止めてしまったので、今更閉めてしまった水道を捻るのも
躊躇われる。
 所在なげにじっと息をしていると、うんうんそれで、と会話しながら小さなメモを渡された。
 それに従って、静かに風呂場へと向かった。
 なるべく音を立てないようにしていたせいで、洗面所にいてもワンルームの部屋では会話が聞こえてきてしまう。
『……ん、うん。彼女?……今は……いいだろ別に。……うん』
 服を脱ぎかけていた手が止まる。
『見合い?結婚か……そりゃ反対はしないけど……へえ、美人なんだ。うん……わかった。正月には帰るから。楽しみにしてるよ』
 ドクン、と心臓の跳ねる音が喉元を伝わって耳に響く。
 互いに地方から進学のために移り住んできた身だ。年の瀬に帰省するであろう事情はわざわざ言わなくとも想像のつくものだ。
 一旦そちらへ帰ってしまえば、今あるこっちの暮らしなど忘れてしまうのではないのか。
 私は少なくとも、そのつもりだった。短大進学という選択肢がなければ、住み慣れた地を離れるなど考えもしなかったかも
しれない。
 あくまでも帰るのは田舎の地で、ここは仮の住処であるという意識がどこかにあった。
 本当の生活はここには無いのだ。
 電話が切られる前に急いで風呂に入り、湿ってきた気持ちを洗い流そうとした。

195 :

 できるだけゆっくりと髪と身体を洗ったものの、いざ出ようとして気がついた。
 何もない!
 追い立てられる(実際は“逃げるように”だと思うけど)ようにシャワーを浴びに来て、パジャマどころか下着の替えすら
持ってこなかった。タオルすら、どこにあるのかわからない。
「あの……」
 電話が終わっているのを確認した上で呼んでみる。すぐに顔を出してきた彼を見て慌てて開けかけていた扉を閉めた。
「あ!ごめん。見てないから!!」
「え……あ、ごめん。私こそ。あの……タオルを」
「ああごめんね。ここ置いとくから」
 ぱたぱたと出て行く音がして、すぐに戻ってまた出て行く。
 こそっと覗き見して居なくなったのを確認してから風呂場を出て、洗濯機の上のタオルで身体を拭った。
 髪を拭き、暫く悩んだものの、それを巻き付けた格好で部屋に戻る。
 案の定それを見て、彼は目を見開いた。それから、飲みかけていたビールの缶を落としかけて、慌てて体勢を整え背中を向けた。
 まさか替えの下着を彼に取らせるわけにはいかない。かといってこんな格好でいるのも誘ってるみたいではしたない気がする。
 彼が背を向けているうちにとバッグをごそごそしていると、屈んだ身体を背後から抱き締められた。
「……っ!?」
 首筋にぴちゃりと濡れた柔らかいものが吸い付く。
「ひっ……」
と小さく呻いて首を竦めると、今度は肩にそれが当たる。
 どうしよう、どうすれば?
 素肌剥き出しの背中に当たるスウェットの擦れる感触に、腕まで包み込まれてしまって身動きが取れない。
「ごめんもう……待てない……」
 耳元で囁かれる声が妙に熱くて、頬がカッと火照る。
 恐る恐る振り向くと、逃げる間もなく唇が塞がれる。
 ――冷たくて苦い、初めて味わうキスという行為の味。
 思わず目を閉じた瞬間に身体中の力という力が全て抜け落ちて、されるがままに床の上に崩れ落ちた。

196 :
「いい?」
 聞かれて、「いや」とも「はい」とも言えなかった。ただ目を伏せただけの私は肯定的に見えたのだろう。彼はそのまま首筋に
顔を埋め、大きく息を吐いた。
「春果ちゃん……春……」
 何かに浮かされたように呼ばれ続けて、私の中でも何かが引きずられるように行為の波に呑まれていった。
 多分缶で冷たくなってしまったのだろう彼の指先が鎖骨に触れてきて、小さな悲鳴をあげる。そこにかわりに濡れた唇が
押し当てられて私の口からは今度は吐息だけが零れた。
 仰向けになった躰の上にある温もりはやがて厚手の布地越しから薄いタオル越しになり、彼が腕を伸ばして見下ろしている
のを確認できた時には、肌を晒したその上半身をただぼうっと眺めているだけだった。
 ごくんと唾を飲む彼の喉元の動きにはっと目が覚め、解かれかけた胸元の結び目を必に押さえる。
「やっ……!?」
 いきなり得体の知れない恐怖に襲われ、同時にそんな自分の心の揺れの中に潜む悲しみがこみ上げてきて、気づけばポロポロと
涙を流して泣いていた。
「!?……ごめん、春果ちゃん。ごめん、ごめんね!」
 今まで見たことのないような表情で私の躰を押さえ込んでいたひとは、一瞬にしてよく見知った顔の男の人に戻った。
「いや、だよね、急にこんな……襲ったりするような真似……最低だ。俺」
「ちが……違うの。そんなんじゃ……ない」
「え?でも……」
 本当に嫌ではなかった。思い描いた未知の行為がいきなり現実となって、頭がついて行かなかっただけ。少し時間が経てば、
ちょっとしたパニック状態に陥ってしまったのだと解る。そういう覚悟はできてるもの。でなければわざわざこんな日に、一晩中
入り浸るような無防備な真似はできないだろう。
 こんな日、だからこそ。
「……なの」
「え?」
 身体を起こされながら、床に座り直して体勢を整えると同時に支えてくれる彼の腕にしがみつく。
「それだけで終わるのは……嫌なの……」
 溢れてきた涙を我慢する事も忘れて、目の前にある彼の胸に顔を埋め、しがみついた。

197 :
「特別な日だから、一緒にいたいって気持ちはあるし、わかるの。でも、そのために嘘をつくのは嫌なの。終わりの見える恋なんて
 悲しすぎるもの……」
「へっ!?終わ……?」
 彼は自身の言葉が終わらないうちに私を身体から引き剥がした。胸元に残る涙の跡が辛くて俯いた私の顎に手をかけ、
ぐいと上を向かせる。抵抗しようにも、厳しい目で見詰められて身が竦んだまま動けない。彼にしては珍しく強引な気がした。
「春果ちゃん。俺と……別れたいの?」
「わ、私……は」
「嫌なら、もう何もしないから。謝るから。だからそんな事言わないで」
 厳しく見据えていた目つきが徐々に弱々しく緩み、さっきまでのピンと張り詰めた空気が、今度は違う冷たさにしんとする。
「ごめんなさい。俺、酔った勢いでとんでもない事するつもりでした。言い訳するのもアレだけど、ほんっとごめ」
「それだけなの?」
「えっ……いやあの、気が済まないなら済むまであやま」
「勢い、なんだ……」
 そのつもりでいたのは自分だけだったのかと、シャワーに打たれながら必に決めてきた筈の覚悟が空振りだった現実に
気が抜けて、また涙が出てきた。
「その、こんな事でもなきゃ、俺ヘタレだし先に進めないと思ってしまって。正直、便乗したみたいでどうかとは悩んだんだ
 けど。春果ちゃんの事、本当に好きだから……だから大事にする。ごめん」
「私の事……好きなの?」
「うん。すごく、すごく好き」
 赤らんだ顔は、どっちのせいかしら。それでもそのはっきりとした言葉は嬉しかった。
 顎をのせていた手は私の両頬を挟み、今度は至って落ち着いたキスをした。
 少しお酒臭くても、そこに何となく独特な彼の唇の味のようなものを感じるような気がして不思議な気分になる。
 キスに酔っちゃったのかな?
 永くながく感じた時間が終わると、離れた彼の唇から吐き出された吐息に頭がぼうっとしてくらくらする。

198 :
「イベントだからって、無理にどうこうするこたないよな……」
 向かいあってぺたんと床にお尻をつけて座りながら、互いの握り合った手を眺めて呟いた。
「でも……そういうのってあるんでしょう?」
「何が?」
「だって……イヴまでに恋人がどうとかって」
「えっ!?何それ。俺そんなつもりないよ!そりゃ、春果ちゃんのお陰で今年は寂しく過ごさなくて良くなったのは確かだけど」
「でも」
「何、俺がそんなつもりでいたと思ってるの?それだけのために彼女が欲しいと思った事なんかないよ。春果ちゃんはそうだったの?」
「違う!私は……」
 特別な日だからこそ、誰か大切な人と過ごしたい。
 だけどそれは、その人がいるからこそ、そう思えるのだと言えるようにありたいと願った。
 誰かにとって普通の何でもない日が、ある人によっては何かしらの記念日になる時があるように、皆にとって特別な日が
自分達には穏やかに流れていく当たり前の生活の一つであればいいと思っていた。
 そして、共にそれを分かち合えるひとを見つけたいと、まだ見ぬ誰かを待ち続けた。
 そんな私は、やっぱり夢見る女の子だ。歳を重ねたところで何ら変われないのかもしれない。
「私は、今日が終わってもあなたといたい。何でもない当たり前の事を一緒に見て、感じて、分かり合えるようになりたい」
「それは、これからも一緒にいていいって事?」
「……でも……無理なんでしょう?」
「どうして?」
「だって、お見合い……結婚って」
「はい!?」
「だからいずれは、私の事は」
「ちよ、ちょっと待っ、冷静に話そう、うん。ていうか何のこと?」
「私は大丈夫です。でも、いずれわかる事ならはっきり……ごめんなさい。聞くつもりなかったんだけど」
「……!もしかして、電話?」
 頷くと、強ばっていた顔が一気に緩んで、次の瞬間には大きな口を開けて笑っていた。
「あ、あの!?」
「も〜。あれは兄貴からなんだけど、ほら、うち旅館やってるって言ったでしょ?跡取りだからそういう話もあるんだよ。
 この前見合いして、うまくまとまりそうなんだって、そういう話。俺もいずれは手伝うかもしれないけど、まだ先の話だから」
「そ……うなんだ」

199 :
「でも彼女がどうとか」
「今うちにいるって言ったら絶対親まで筒抜けんなるから。早く連れてこいとか」
 何だか馬鹿みたい。
 そんな的外れな勘違いで、ひとりで悩んで落ち込んで。恥ずかしいったらありゃしない!
 まだお腹を抱えて笑い転げてる彼に背を向けて、さっさとバッグを漁る。
 我に返ったところで、自分の置かれている状況を見て一気に冷静になってしまった。とりあえず服を着よう、風邪引くし。
「!!」
 パジャマを出した手を背後から掴まれて、振り返るなり強い力に包まれる。
「着ちゃうの?」
「えっ……」
 握りしめたチェックの布が、はらはらと膝に落ちた。
「だって、こんな格好……」
「このままじゃ……だめ?」
 まだ上半身裸のままの彼の背中の向こう側に、いつの間にかぼんやりと天井が見える。
「この日をきっかけに何とか、と思ったのは確かだけど、それが目的だったわけじゃないんだ。けど、俺、春果ちゃんと……」
 私はこの人と。
 背中に感じる床の冷たさは、火照り始めた肌にはひんやりと気持ちが良かった。
「合コンするって言われた時にさー、“もうすぐクリスマスもあるしっ”て話もあったのは確かだよ。でもそれっていわゆる
 枕詞みたいなもんだろうし」
「私もそれ、言われた」
 それに限らず、夏休みに彼氏と旅行とか、誕生日は友達より好きな人に祝って貰わなきゃ、とかとか。
「だろ?そりゃ、春果ちゃんと色々出来たら楽しいだろうなとか想像したりしたけど、俺、彼女が欲しかったんじゃないから」
 その言葉をきいてはっとした。
「……狙ってどうこうしたみたいで、本当は迷ってた。けど、そういうの関係なしに、俺は……春果ちゃんと……」
 私は、彼氏が欲しかったわけじゃない。
 待ち望んでいたのは、誰かが言うところの王子様な存在かもしれなかったけど、それだって、手を差し伸べてくれたひとが
全く居なかったわけではなかった。
 自分から近づきたいと思った。そして、この手を差し出す日を待っていた。
 好きになってしまったから、もっと知りたいと願ってしまったから。
 黙って彼の肩に手をかける。
 答えは言葉ではなく、触れた唇によって返された。

200 :
 タオル越しに大きな手のひらの重みを受け、人肌によって包まれる温もりに身震いがした。
「寒い?」
 少しだけ鳥肌が立っていた胸元に鼻を押し当てられて、ううんと首を振る。
「大丈夫……けど、できたら……電気」
「あ……うん」
 むっくりと起き上がると、明かりを落としにいき、暖房の温度を弄る。
「ちょっと待って……よいしょ」
 布団を引っ張り出して、ぽんぽんと叩き手招きされる。
「ムードなくてごめんね」
 ぷっと吹き出して、言われた通りにそこへ寝転がった。何だか今ので少し気が楽になったみたい。
「あ、お皿……」
「洗っといた」
 こびり付いたグラタン皿は流しのカゴに伏せてあった。
「ありがとう……。あ、暖かい」
「ほんと?……干しといて良かった」
 その言葉が彼らしくてまた笑えた。狙ってるんじゃなく、多分ほんとに思ってるんだとおもう。
 まっすぐな事しか言えない人なんだもの、きっと。
「……本当にいい?」
「うん」
 だから好きになったんだもの。
 オレンジ色のぼんやりとした灯りの下、影を浮かび上がらせながら私の上で彼が蠢く。
 今度はあっさりと取り払われたタオルは床の上に飛ばされ、剥き出しになった胸に無数の指と温かく柔らかな舌が這わされていく。
 ぞわぞわとミントの香りのする髪が鎖骨を掠め、少しばかりのくすぐったさを感じるまもなく、膨らみの先にぴりぴりとした
電流が走る。
 見れば、ぴんと勃ったそれを、熱い息を吹きかけつつ、半開きの唇から覗く舌がコロコロと転がしている。
 それを不思議なような、でもたまらなく恥ずかしいと思いながら眺めると、反対側のそれを包んで揉みしだく手のひらの刺激に
思わず目を閉じて唸る。
「……っ」
 時折、指のどこかにそちらの先にあるものがぶつかり、舌で弄られるのとは違った何かに躰が捩れてしまう。それを
押しとどめるつもりではなく、かといってどうすれば良いのか得体の知れない初めての感覚に戸惑うばかりに、やわやわと
動く手の上に自分の手を重ねた。

201 :
「やっぱり、嫌……?」
「じゃ、ないけど……なんか……わかんなくて怖い……かも」
「……大丈夫だよ」
 躰を起こして、ゆっくりと唇を合わせる。
 先程までの合わさるだけのものから、少しずつ角度を変え、彼の唇が私の上唇を、それから下唇を交互に挟み込むように
くわえ、隙間から覗く舌先がその中身へと入り込もうとする。
 息継ぎするつもりで開いた唇は、ぬるりと収まってきたものに塞がれて、ただ翻弄されて押し開かれる。
 けれどそれは嫌ではなかった。
 初めて自分の身体に入り込んだ他人の一部を、逆にもっと取り込んでしまいたいとさえ思えてしまう。
 自分のものか、相手のものなのかもはや区別がつかぬ程に絡み合って押し当てた唇が離れると、細く引いた糸を切って
再度胸へと降りてゆく。
 今度は予測のつく動きに少しは心構えがあったものの、あれこれと弄られると喉の奥から変な声が押し出されてきて、困る。
 じくじくとむず痒いような痺れの途中で、ぎゅっと鷲掴みにされる感触がするとともに軽い痛みが走った。
「たっ……!?」
「えっ!?痛かった?ごめんっ」
「あ……えっと、あの、大丈夫よ、ごめんなさい」
 ぱっと引っ込めた手を眺める彼の困ったような顔を見て、悪い事をしてしまったような気がした。
「何で春果ちゃんが謝るの。……加減がわからなくて……だから言ってくれた方が良いよ」
「そうなんだ」
「そりゃ、気持ち良い方がいいじゃない」
「えぇ!?そっ……」
「あのさ……痛かったのって今だけ?」
 頷くと、ヨカッタって小さく呟くのが聞こえて、立ち上がると穿いていたジャージを脱いで脇に寄せた。
 一枚残っているものの真ん中につい目がいって、それを気付かれそうになって慌てて枕に顔を埋めた。
 そのせいで捻れた躰を捕まえられて、また仰向けに戻され、脚の間に彼自身がねじ込まれる。

202 :
 風呂上がり、裸のままタオルを巻いていただけの格好だった私は、今更ながら何も身につけていなかった事を思い出す。
 剥き出しになっている私のその部分に、熱く堅い何かが押し当てられている。それがずりずりと動く度擦れて変な感じがする。
 もしかして、と思っても口には出せなくて、彼が腰を押し付けて揺する度に自然とため息に似た呻き声が漏れてしまう。
 ていうか、私いま凄い格好してると思う。こんなに脚を開かなきゃならないなんて……というより、まだ先があるんだよね?
 どうなっちゃうんだろう?私。
「春果ちゃん……触っていい?」
「え……あっ」
 腰を引かれて圧迫感が無くなると同時に、身体の中心目掛けて電流が走った。
 じんと痺れるような、それでいて熱いような、腰から下が砕けて力が入らなくなってしまった。
「はぁっ……やっ……んっ!?」
 先程胸の先を弄ばれた時のような動きがそこを襲う。
 声を我慢しようと呑み込んで口を閉じる。けれど、ついついと圧し滑らせる指の動きに沿って息が乱れ、吐き出そうとする
とどうしても出てしまう。
「あっ――いやぁ……やぁんっ……や……やっ」
「こういうの、嫌?」
 指の腹を押し当てたまま動きを止めて私の顔を覗き込む。
 ぶんぶんと首を振る。うん、嫌じゃない。けど……恥ずかし過ぎる。それが困る。
「だったら良かった」
「でも私、変……な、あっ」
 くちゅって聞こえた。やだ、これ、って。
「さっきから出てる。そういう声……初めてだから、嬉しい」
「い……やそん……な」
「可愛い」
 覆い被さった躰にしがみついて、襲ってくる何かから自分の意識を守ろうとしたけれど、首筋に滑る舌と唇に震えながらまた
仰け反って鳴く。
 ぴちゃぴちゃと下半身が音を立てながら捩れ、それにつれて突き出した胸を同時に降りていった頭を撫でながら苛められる。
 肩に、首筋に、髪に、背中に。
 彼の躰の至る所にと、私の手のひらが行き場を求めて這わされる。

203 :
 喉がからからになってきた。そろそろ苦しくなってきて、意識が朦朧とする中、既に力が入らなくてされるがままの私を
見下ろしながら彼の指が一旦そこから離れた。
 ぼうっとしながら薄目で見ると、俯きながらごそごそと下の辺りを弄っている。何してるんだろう、と首をもたげかけて
やめた。
 かわりに目を閉じて深呼吸する。自分の心臓のどきどきが耳に痛いくらい流れ込んでくるのに思わず耳を塞ぎたくなる。
 胸のあたりがきゅんと痛くなってきて、手のひらを乗せた。そこへ彼の手が重ねられて、
「あの……そろそろ」
と遠慮がちに訪ねてくる。
 いよいよか、と頷いてはみたものの、腰から内腿へと撫でられるもう一方の手がそこを探りだすと脚に余分な力が入る
らしく、何度も
「力抜いて」
とお願いされてしまう。
 わかってる。わかってるんだけど、自分じゃどうにもならない。
 人前でこんなに脚を開かせられた事なんて無い。ましてやそれを誰かに――それも一番好きな人に見られるなんて。
 裂け目の中心に沿って、指よりももっと太い何かが、ぬるぬると上下に滑るように擦り合わされる。これって、あの?あれ?
 膝を押し上げられて、伸ばしていた脚を曲げてみる。本当にとんでもない姿だ。こんなにまでしなきゃいけないものなの!?
「もっと開けない?」
「そんな……無理……」
 やだ、泣きそう。首を横に振る。
「でも、入らないし……ていうかつっかえるし」
 少し先のほう?がそこに押し込まれかける度に怖くて痛くて膝を閉じると、それが邪魔をして彼の躰を遮り押し戻してしまう。
「すっごい濡れてると思ったんだけどな……」
 覗き込むようにそこへ視線を落として、指先を差し込む。
「あっ!?……」
 鈍い痛みと異物感に甲高い声が出た。
「痛い?」
「すこし……」
 心なしか、彼の息遣いが荒くなったような。

204 :
 抜かれた指がまた一点を捕らえる。
「動いちゃダメ」
 もがき捩れた腰を押さえられ、甲高い悲鳴をあげた。
「あっ――んあっ……んっ」
 やだ、こんな声聞かれたくない。慌てて口を噤んでまた堪えきれず唇を開く。
「もう、無理、ほんと無理。いくね?」
「う……」
 再び何度か裂け目にあてがわれて滑り、指先でそこを探られる。場所を確認されて頷くと、ぴったりと押し付けたそれが
ゆっくりと進んでくる。
 ――引き裂かれそうな衝撃が襲った。
 彼の宥める声も、言い聞かせるように頭の中でも繰り返す『リラックス』の言葉も、呪文のように唱えては行為を続けようと
動きを再開する度にどこかへ置いていってしまう。
 もう限界だ。やめたい!
 そう思った時、何かの拍子にぐいっと一気に奥までそれが入り込んでしまった。
「も……少し、だから。我慢……して?」
 突き放そうと彼の胸板に当てていた手を首に回す。
 終わるんだ。
 正直ほっとした。あとすこしの我慢だ。――彼には悪いけど。
 彼が動く度激痛が走る。 
 ぴったりと触れ合った肌と肌の密着感は心地良く安心できるのに、僅かな痛みの波の隙間を縫ってでしかそれを感じる事が
できない。
 腰がぶつかると眉間にシワが寄るのがわかる。こういう時、『痛いんだけど!』って叫べたらその分楽(になったよう)な
気持ちになるのかなぁ?と思うんだけど、思うだけでまさか言えるわけない。
 だって今更『やめて』なんて言えないもの。
 先程から、荒い息遣いの中に僅かな呻き声のようなものを混じらせて私の上で躰を揺する影に、もうそれは叶わないところまで
きているのだと感じていた。
「あ……だめかも……」
「えっ?――ふあぁっ!?」
 動きと呼吸が一段と激しくなる。何度か深く繋がったところがぶつかっては擦れるのに合わせてお尻が潰れてずりずりとずれる。
 ひやりとする背中の温度と硬さに微かに顔を向ければ、布団からはみ出た躰の半分が床の上に落ちていた。
「あ……あっ」
 体勢を整えようにも、必に行為を続ける彼に翻弄されてそれどころではない。

205 :
 うっと小さく呻いて、一層強く腰を落とし込むと、私の胸の上に頭を預けて倒れてしまった。
 お、重いんだけど。
 ってこれも言えない……。
「あーごめんね。すぐ、すぐ起きるから」
「大丈夫」
 ちょっとだけ背中の骨がゴリゴリとするので直そうとして身を捩り、彼の重みも手伝ってうまくいかずに失敗。
「痛っ!」
「!?――ごめん。ほんとごめん!すぐどくからっ」
 がばっと起き上がったと思うと今度は
「あっ」
と言いつつあの辺りをごそごそと弄る。
「えぇ!?あの、な……」
「動かないで!」
 明るい所で見ればさぞ青い顔をしてるんだろうといった顔で、慎重に作業をしているといった感じ。
 鈍い痛みは残るものの、彼自身が押し込まれていた硬い違和感は無くなっていた。だが、ずるずると『何か』を引っ張り
出される気持ちの悪さがあり、更にお尻のほうにトロリと流れ落ちる温もりを感じる。
 それが何かは見当はつく。
「う……そ」
 無言でティッシュの束をつくりそこを拭われる。自分でと申し出たかったのは山々だけど、下手には動けない。
 全部終わってから彼に手を引いて起こされ、布団の上に座ると毛布で身体をくるまれる。
「背中、痛くなかった?」
「うん大丈夫」
「他にもごめんね。俺気が回らなくて……ほんとごめん」
「だから大丈夫だってば」
「さっきからそればっかだよね。その……初めてなんだろ?痛いの我慢してるって顔してたじゃない。それだけじゃなくて、
 色々嫌な思いさせてるだろ?絶対。俺も慣れてない……からうまくいかない事ばっかで、その、ごめ」
「そっちもじゃない?」
「えっ?」
「さっきから謝ってばかりだってば」
「え、ああ、ご」
「だから……」
 思わずため息が出た。俯いた頭を起こすと向こうも同じことをして、顔を上げた拍子にばっちり目が合った。
 何だかなぁ。
 なんとなく、笑いたくなった。
 それで、笑うしかなかった。

206 :
「あのね」
 素早くトランクスだけ身に着けると、私の前に正座するので、つられて私もかしこまる。
「はい」
「俺、時期的に春果ちゃんとこうなるのが重なっちゃったりはしたけど、決してそんなつもりで付き合ってきたわけじゃないから。
 もし今日じゃなくても、いずれはそうなれたら良いなって……いや、それだけが目的ってわけじゃなく。それも踏まえて、
 これからも色々乗り越えていきたいと思ってるわけ」
「そう……なんだ」
 真面目に付き合ってくれてるとは思ってたけど、そういう風に考えてたなんて。
「だから……至らない所はちゃんと伝えて欲しいんだ。我慢は必要だけど、無理なことを黙って呑み込んでしまうのは違うと
 思うし、嫌なんだ。だから言って?俺、春果ちゃんの控え目なところ好きだけど、もっと……」
「……うん」
 真剣な眼差しで言葉を待つその目を覗き込んで言った。
「じゃあ」
「うん」
「もっと……抱き締めて」
「へっ?」
 恐る恐る巻き付けた毛布をめくると、初めは呆気にとられていた顔が徐々に綻んで、一つの温もりの中に二つの身体が包まれた。
 暖かい。
 床の上で冷えた身体が解れていく。
 痛みから逃れるために身体ごとそれから遠ざかろうと身を捩ったせいで、事が終わると上半身は布団の上には乗っかって
いなかった。
 どれだけ夢中だったんだよ、と自分にげんこつをかます彼。同時に私の頭を撫でながら、ぴったりと寄せ合って暖をとる。
 人肌で暖め合う、って本当なんだな。安心できて、心までとろけていきそうな心地よさにうとうととしてきた。
「……から」
 おでこに触れた唇から零れる声が、低く、重く、優しくて……。
「絶対、幸せに……から。だから……ごめ……ね」
 ――謝っちゃいやだって言ったのに。
 起きたらそう言ってやらなきゃ。
 重くなってゆく瞼には逆らえず、ゆっくりと目を閉じた――。

207 :
* * *
 玄関のカタンという音で目が覚めた。遠ざかり、階段を降りる足音が聞こえる。もう朝刊が配られるような時間か、と窓を
見ればまだ外は暗い。
 背中に感じる大きな温もりの塊に腕を回され、私はその中にいた。
 身体を丸めて眠る癖のある私のことを『猫みたい』と、よく妹が言っていたのを思い出す。
 17の彼女と、年が明ければ受験の弟の無邪気だった頃の姿を頭に思い浮かべては、数日後に顔を合わせる彼らの目には自分の
姿がどう映るのだろうかと考えていた。
 見た目には何の変化もないだろう。髪が伸びたことと、少しばかり化粧が上手くなったこと以外は。
 それでももう、あの頃の私に戻る術などはもう無いのだ。
 もう一度眠りにつこうとして毛布を首まで引っ張ると、背中の向こう側がもぞもぞと動く。
「あ、起こしちゃった?……ごめん」
「いや……寒くない?」
 寝ぼけ眼でぐいと私を引き寄せ、毛布と掛布団を整えてくるみ直す。
 猫の私を同じく丸まって包む彼は親猫のようで、その姿を頭に描いては妙に和んで笑みが零れる。
「?」
 丸めた背中に被さる彼の身体から、つんつんと私をつつくものがある。
「……だって裸だし」
「えっ!?ああ、やだ……」
 じたばたともがく私を
「今更」
と諦めを促して首筋に顔を埋めてくる。
「耳真っ赤」
 ぺろっと耳たぶをつつく舌の感触に首筋がぞくぞくとする。
 赤、という言葉に、一昨日学校近くのショップに飾ってあった真っ赤な上下セットのランジェリー、やっぱり買わなくて
良かったと思ってしまった。みんなは買っちゃえって騒いでたけど、下手に特別感が見え見えで却って恥ずかしい。何より
私らしくないというか。
「こういうことがもっと普通にできるようになるといいな」
「こういう?」
「そう」
 振り向いて目が合った私の耳を真っ赤と言った筈のひとは、それこそ頬が負けないくらいに染まってて、それを指摘する
前にくるりと身体を倒される。
 下着くらいつけて眠ればヨカッタ?――普通のだけど。
 瞳に映った天井と共に思考はその姿によってすぐに遮られる。
 間もなく私は、抱かれる子猫から抱く親猫へとかわるのだけれど――。

** 終わり **

208 :
GJ!!
投下お疲れ様です&ありがとう!
春果かわいいです

209 :
ひゃっほう!
大地や秋穂の人からクリスマスプレゼントだw
GJなんだぜ
これはオチと言うか、確定の瞬間や挨拶などのコバナシがぜひ読みたくなる!!

210 :
GJ。こうやって見るとシロウの鬼畜ぶりが顕著過ぎて笑えるw

211 :
GJっす
正直この人の作品では素朴男子の方が好きだ

212 :
私はSっ気ある方が好きだなぁ

213 :
年越しはどうしましょうか

214 :
大地と実苗の話
とりあえずきりのいいとこまで
NGはトリップかタイトル『甘い鎖』で

***
「ミナぁ、まだ〜?」
「はいはい。もうすぐ出来るから待ってて」
 こら、スプーンで皿を叩くんじゃない。
 さっきから周りをチョロチョロされて危ないと叱っておいたら、今度はテーブルに顎を乗っけてぶつぶつと。
「なあ、もうそっち行っていい?」
「ん〜……もう大丈夫かな。おっけー」
 暫く寝かせておくとしよう。お鍋の火を止めると僅か数歩の距離をもの凄いスピードでこっちへやって来る。
「捕獲!」
 いや、逃げませんから。
「ちょっとー、苦しいよぉ大ちゃん」
「だってこの頃忙しかったからなかなかゆっくり会えなかったじゃん?」
 むぎゅっと背中から抱え込まれて苦しいと口をパクパクさせアピールすると、少しだけ腕の力が緩んだ。それに合わせてお玉を
置いた手をそっと絡ませる。
 胸のあたりにある日焼けした大ちゃんの腕は、見る度に逞しさを増していくような気がして、身を預ける事の安心度もそれに
比例して伸びていく。愛情もまた然り。
「……今日は、いい?」
「え?あ……うん……」
 聞かなくてもわかってるくせに。だって、あたしの体のリズムはいつも把握してるじゃない。重く鈍いその日のお腹を、労るように
その大きな手のひらでくるくると撫でて温めてくれる。今とおんなじようにぽんぽんと軽く良い子良い子、って。
「んじゃ先に飯食うべ。メインは後でっつう事で」
「ばかっ……」
 んっと突き出した唇に振り向きながらキスしたら首が痛くなった。
 ちゅっちゅと小鳥のような挨拶をして離れると炊飯器の蓋を開ける。
 炊きたてご飯の匂いににんまりとする腹ペコ小僧の笑顔に自分もつられて笑いながら、漂う湯気の中に幸せを感じた。
「美味い。俺ミナの飯好き」
「ほんと?良かった。いっぱい作っといたから明後日までは保つと思うよ」
「マジ?助かる。あ、おかわりしていい?」
「もちろん!いっぱい食べて貰おうと思って頑張ったんだから」
 カレーのおかわりをよそうと嬉しそうに口に運ぶ。やんちゃ坊主みたいなその顔を眺めながら、あたしもお揃いのお皿で
ご飯をいただく。

215 :

 先日、大ちゃんの2人目のお姉ちゃんである秋姉ちゃんが結婚した。お相手は同級生で幼なじみの志郎さん。あたしとは7つも
違うから面識は無いけど、結婚前に何度か会った。大ちゃんは2つ違いだから遊んだりした事もあるみたいだけど、印象としては
朴訥でクールなひとだった。
「秋姉ちゃん、元気かなぁ。綺麗だったね」
「式の後片付けは落ち着いたみたいだけどな。でもあれはマジ凄かった。伝説じゃね?」
「うーん……確かに」
 後輩で新婦の弟、という事で同級生有志の二次会のパーティーに大ちゃんが呼ばれた。その嫁(予定)のあたしも一緒にお招き
頂いたその席で見た秋姉ちゃんは、背中に無数のキスマークを付けて現れ、周囲の度肝を抜いた。
 誰もが首を捻った(らしい)水と油の組み合わせだった秋姉ちゃん夫婦は、この件で一気に超熱愛バカップルの名を『手にして
“しまった”(秋姉ちゃん:談)』らしい。
 要するに、志郎さんなりのベタ惚れアピールだったみたいなんだけどね。素直じゃないなぁ、もう。
「このお皿、可愛いね」
「うん。ちょうど良かったな」
 今使ってるカレー皿はその時の引き出物。あたしが貰ったのを大ちゃんちに持ってきたのだ。
 というのは、大ちゃんが家を出て独り暮らしを始めたから。
 秋姉ちゃんの式が終わってすぐ、この辺り一帯に最近建った数軒の借家の中から家を借りて住み始めた。
 本来なら新婚さんや余所から来た人用にとの目的で建てられた物らしいのだが、独り者の大ちゃんが堂々と住めるのは、持ち主が
親戚なのも無関係ではないだろうけど、多分先を見越しての事も控えているからだと思う。
 いずれあたしもここに住む事になるだろうから――そういう理由なんだろう――と告げられてはいないものの確信して通っている。
 自然と物を持ち寄ったり購入してきたり、当たり前にあたし専用のものも増えてゆき、以前の離れの時と比べると、
『大ちゃんの部屋』というよりも『大ちゃんとあたしの』になりつつあると言っても過言ではないと思う。

216 :
「なんか新婚さんみたいだね」
 浮かれてついそんなことを漏らしてしまった。途端に静かになった食器の音と大ちゃんの声にはっとする。
 これっていわゆる圧力かもしれない。
「ごめん……」
「なんで?」
「だって」
 25になる大ちゃんが、そういう事を考えてあたしと付き合ってるのはちゃんとわかってる。何せそうなったその日のうちに
両家の親にそれを約束してしまった人だから。
 そのお陰で堂々と男の部屋に出入りなどできるのだ。ここいらじゃ噂が広まるのはあっという間で、嫁入り前の娘が……と
眉を顰める年寄りも少なくはない。けれどいずれ『嫁になる』と決まっているようなもんだから、皆そうして扱ってくれる。
 いずれ、というだけできっちり正式に婚約を交わしたわけではないけれど、秋姉ちゃんの結婚式には親族である大ちゃんの
隣にあたしを座らせてくれた。だからそこには自信を持っていい所だとは考えてる。けど、せっつくような真似はしては
いけないと決めた。
 なのについポロッとやってしまった浅はかな決意に自分を責める。
「どした?ミナ」
 スプーンを置いて黙ったあたしに気づいた様子。
「……ごめんね」
 図々しい。女房気取りであれこれ動いて、大きな顔して、当然のように家の中弄り倒して。
 大ちゃんのパンツや靴下どころか、季節はずれの夏物のしまい場所や洗剤のストックの位置までわかる。ていうかあたしが
好きなの買ってきて置いてある。替えのシーツやカーテンも、一緒に買いに行ったのをいい事に選んだのもあたしだし。
「なんか、窮屈じゃない?」
 既に縛りつけてるみたいで気が引ける。
 だって大ちゃんは『あたしの“もの”』じゃない。サヨウナラと言われればそれで終いだ。まだそれだけの関係なのだ。
「変なの」
 ちょっと怒ったような拗ねた声してあたしを睨む。
「んな事最初からわかってるじゃん。お前俺の嫁さんになるんだから同じことだろ?」
「そうだけど」

217 :
「俺、言っとくけど好きな事しかしてないぞ。家業継ぐのも長男だからってだけじゃないし、そのために嫁貰うのも、っていうか
 お前をそうしたいと思ってんのもお前が好きだから!そんだけっ!!」
「そ……う?なの!?」
「んだ。けど好きだけじゃやってけない。何するんでも制約はある。多少の不自由あってこその自由だろ?」
「じゃあ……大ちゃんもあたしの事縛る?」
「縛られたい?」
「うーん……」
 誰が見ても大ちゃん一色のあたしだから、例え縛ろうとしたところであんまり意味はないような。
「妬いたりするコトなんかある?」
「ない」
 だろうなぁ。そもそもあたしはモテやしないし。ていうかこれだけ大っぴらに付き合ってたら誰も声なんか掛けてこないっての。
「ミナの事信じてるもん」
 それは、あたしだって同じなんだけど。
「でも縛って欲しいってんなら考える」
 がーっと2杯目をかき込んで皿を空にすると、やっと1杯目を食べ終えたあたしの分まで流しに持って行く。速っ。
 洗い物を終えてコタツに座ろうとしたら、呼ばれて立たされた。
「なーに?……あっ」
「はい、脱いで脱いで」
 チュニックを捲られ、促されるままにバンザイすると、それに続いてタートルまで脱がされる。
「これも取っちゃって」
 ブラを外すと、今度は下まで全部脱ぐよう言われる。
「ちょ、恥ずかしいって、いきなりそんな……」
「なに、脱がせて欲しいの?」
 だっていつもは頼まなくても脱がせてくるじゃん!
「しょうがないなぁ」
 口振りとは裏腹に嬉しげな声でデニムのスカートを下ろしにかかる。腰をかがめながら足下にそれを下ろしていき、途中で
わざと乳首にキスしてふざけたりする。
「エロ男!」
「いやいや、これからですよ」
 ショーツを足首から引き抜きながら
「いい眺めだ」
と見上げてくる。やめれ!

218 :
 裸のあたしの背中から腰へと撫で回す手が下りていき、そこから太ももをじらすようにさする。
「あぁっ……や、んっ……」
 唇を噛むように軽くくわえ、舌を突き出してねっとりと押してくる。
 あたしの方からそれを迎えにいくと、互いの口内を往き来しながら絡み合う。
 すっと繁みを擦っていた指が開くように秘裂を押し上げ、真ん中を探るように入り込んでくる。
 ぬるっとした感触と共にじんわりと熱が広がり力が抜けそうになった躰を、片方の腕がしっかりと抱きかかえた腰によって
支えていた。
「もう?まだほとんどしてないのに〜」
「や……やっ」
 ぬるみを帯びた指先が、くちゅくちゅと小さな芽の先を擦る。びくびくと膝が震えて、崩れないように必に彼にしがみついた。
「大ちゃ……大……ああぁっ」
 じゅっ、と奥から雫の溢れる感覚がした。
「辛い?」
 うんうんと何度も頭を縦に振る。
 そこで指が離され、支えられながら畳の上に横たえられた。
 煌々とした灯りの下、裸のままじゃ寒いわ恥ずかしいわで、大ちゃんが服を脱いでいる間にコタツにもそもそと逃げ込む。
 丸まって顔だけ出して見ていると、寝室にしている隣の部屋へと入っていく。多分、コンドームを取りに行ったんだろう。
 一軒家で新築、借家といえども二階もある。今はまだ独り暮らしじゃ必要なくてほとんど使っていないと言うけれど、何かと
面倒臭いってのもあるんじゃないかってのが本音だと思う。
 ……ていうか、あたしがあっち行った方が早くね?とか何とか思ってるうちに戻ってきた。
「そっち行こうとしてたのに」
「布団まだ敷いてない。いいじゃんここでも」
「まあ、そうなんだけどぉ……」
 引っ越すとき、ベッド処分しちゃったんだよね。シングルのパイプベッドじゃ狭いし頼りないし、って。――まあ、そのうち
ダブルベッド買うか、二組の布団を新調する事になるんだし。
 暖房の側に誘導されてコタツから出ても、灯りを落とす気配は無い。

219 :
「消してよぉ」
「今のうちだけだって。そのうちそんなの関係なくなるんだから、どうせ」
 そっちはいいよ、パンツ穿いてるじゃん!あたしは全裸だ!!仕方無く膝を立てて出来るだけ身体を丸くする。
 素面で真っ裸は辛いですよやっぱり。
 そんなあたしの僅かな?恥じらいなどお構いなしで、目の前に両手を差し出して何やら選択を迫ってくる。
「左右どっち?」
「は?」
「ま、同じかどっちでも」
 体育座りでしっかと身体を抱え込むあたしの真正面にて差し出すのは、2本のネクタイ。
 同じ目線まで身を落としてしゃがみ込むと、あたしの右手を右足に付け、手首足首をぐるりと巻き付ける。
「ええええぇ!?ちょ、ちょっ」
「きつい?痛くない?」
「いやそれは」
「ミナは柔らかいほうだもんな」
「まあ体操は得……じゃなく!なにこれ……」
「縛るの嫌とは言わなかっただろ?」
 意味がちがーう!!
 反対側も同じように手足首を縛られて、ぱたんと後ろに倒される。
 やばい、何これ。寝転がると背中とか腰にくる。ていうか、お、お尻があぁぁ!!
 でもそっちを気遣って脚を下ろそうとすると、縛られてるせいか体勢がうまく整わない。楽しようとすると、脚が自然と開き
気味になる。
 どっちにしろ向こうには――
「やだこんなカッコ……見ちゃやだっ!!」
「もう遅いよ。みんな丸見え」
 いとも簡単に膝を割られて覗き込まれる。
 するりとそこを撫でる指の滑らかな動きに、溢れるものの多さが想像できてしまう。
 裂け目にそって二、三ゆっくりとさすると、その上にあるポイントを確実に捉えて、微妙な強さで擦りあげる。
 じゅわっとまた溢れた。
 灯りが眩しくて目を閉じると、目元に唇の感触がした。軽く触れると息を吐きながら耳たぶを啄み、首筋を滑り、胸の膨らみに
と下りていく。
 舌の先がちょろちょろとつつき転がすそれは、硬くしっかりと勃ちあがってしまっているのは言われなくても見なくても解る。
寒いから、なんて言い訳は多分通じない。

220 :
 思う存分頬張るように口に含んだ胸の先を舌や唇で味わい吸い尽くす。
 おっぱい好きだもんねえ。こういう時の大ちゃんは、何だかあたしより子供に見えて可愛い。
 そっと薄目を開けてみる。目を閉じて顔を埋めるのが見えて、いつもならよしよしと撫でてやる頭に触れられないのを思い出す。
 やだ、なんかちょっと淋しい。ぎゅうっとしがみつきたい。
 だけどそれは叶わない。
「どうした?」
 躰を起こして見下ろす彼に、何でもないと首を振る。
「こんな格好だと好きにし放題だよな、俺」
 確かに。今のあたしじゃ何されても抵抗できない。逃げるどころかその躰にしがみつく事すらも。
「怖い?」
「ううん……」
 大ちゃんなら何されても嫌じゃない。あたしを傷付けるような真似はしないし、たまに暴走しちゃう時もあるけど大丈夫。
大事にされてると思う。
 ちぇっ、と頭を掻きかきパンツを脱ぐ。
「そんなふうに言われると悪いコトできないじゃん」
「悪いコト?」
 胸を左右から掬いあげるようにして揉みながら覆い被さってってくる。
 大ちゃんはおっぱいが好きだ。ていうかおっぱい星人だ。いわゆる無理な日でも、ダメだからって諦めるような事はしない。
そういう時は胸だけでもと散々触って味わって、あたしにも可愛がらせて満足する(おかげでこっちは不完全燃焼ぎみに
なるんだけど)。
 肉を寄せてできた谷間に鼻を埋めて息を吸い込む。すりすりと頬を擦り付けて感触を楽しんでおいて、時折肌に口付ける。
「これこれ。これがないとね」
「そういう言い方やめてよ……やっ、あんっ」
「ん……だって……んむっ……三度の飯より好物なの、これが。ミナの乳はおれの乳」
「ちょ……なにそれ……ふぁ、あ、ぁあん」
 ぐっと押し上げ高々と膨らんだ胸の頂のものをしっかりと舌を絡み付かせてくわえながら、のし掛かられてしっかりと開脚
させられた躰の中心をたっぷりと潤った指であたしに解らせるよう音を立てながら動く。

221 :
 コロコロと舌に絡まれ転がされる乳首の疼きに悶えて、背中がむずむずする。
 動きたい。いつもならしがみついて爪を立て、たまに『痛い』と顔をしかめられる背中や肩はおろか、声を抑えるために
口元に導くための自分の手すらも自由にならないのは辛い。
 仕方無く唇を噛むも、喉の奥から絞り出される声は、鼻を伝って呼吸と共に押し出される。
「我慢すんなよ〜。たまには出しちゃえって。大丈夫、聞こえないから」
 はむはむと乳首を甘噛みしながら、高々と掲げるように転がされた両脚の間に差し込んだ指を忙しなく動かす。
 お尻のほうにつうっと何かが流れ落ちた気がした。冷たくて心細くて恥ずかしい。
「んふぁっ……んむっ……ん……はぁっ」
 とうとう堪えきれずに仰け反って声を出した。我慢してたぶんのものを纏めて吐き出したような深くて大きく緩やかな呼吸と共に。
 満足そうに大ちゃんが頭をぽんぽんと撫で笑う。ずるい。これじゃ怒りたくても怒れない。
 それから更に弄り倒されて、次々襲ってくる背中を突き抜けるような痺れの連続に我を忘れて悶えまくった。
「んぁ……やぁ、……く、だめ、だめ、いや、ん、や、……ぁあ、あ……ああああ……!!」
 全身の血が逆流するような息苦しい感覚。本当に息が詰まってどうにかなりそうだった。
「大ちゃ……大ちゃん!大ちゃん!!」
 逞しいその躰を掴んでしがみついて噛みつきたい。出来ることなら捕らえて抱え込んでしまいたい。何があっても離れないように。
 それが出来ない今の状況がもどかしくて苛立たしい。
「ミナ?大丈夫?」
「ふっ……」
 開きっ放しでからからの筈の唇の端から首筋にかけてひんやりと何かが流れる。それを恥じる余裕も拭う術も持たないあたしは
ただ大ちゃんのされるがままに安いティッシュのごわついた感触を味わい、労いのような愛情表現である長く優しげな深い
キスを受ける。
 下半身にぬるぬるとまともに擦り付けられるモノの動きにも、ただぼうっとその温もりを感じる事だけしか出来ずに
身を投げ出していた。

222 :
「なぁ……このまま挿れたらどうする?」
「え!?……あ、だめ!」
 蜜を溢れさせた秘裂の深みに沿って堅い棒の側面を滑らせてる。
「責任取るつもりだけど?つうかちょっと早まるだけだべ」
「そりゃ……そ……だけど……」
 いずれはと頭に思い描いてはいた。けどそれがいきなり現実になるとどう受け入れれば良いのか悩む。勿論、嫌ではない。
嫌ではないんだけど。
「ちょっと急で……」
「わかってるよ。やるわけないじゃん」
 ――言ってみただけ。
 冗談にしちゃ重いよ、大ちゃん。
 もそもそとあたしの脚の間でそれを『防止する帽子(大ちゃん:談)』を被せる。
 残念ながらそれを突破する勇気はまだない。元々全て事が済んでからと決めたのも暗黙の了解の筈。今時珍しい事ではない
とはいえ、正式に形を整えたわけではないし、あくまでもまだあたし達は反対こそされはしないが、当人同士の口約束に
過ぎないのだから。
 するりとネクタイが解かれる。
 ほっとしてゆっくり伸ばしてみるも、暫く固まっていた脚は強張っていきなり楽になったとは言い難かった。
「おお……いい眺めだ」
 またかい。
「何を見……いやっ」
 膝の後ろに腕を回して、ぐいと押し上げ繋がったところに目をやる。ついさっきまでとっていた姿勢に比べるとまだマシ
なのか大して辛くはない。
「大ちゃん?」
 ゆるゆると腰を動かしながら何かを思い出すような瞳をする。
「ん……大きくなったな、って」
「なにそれ………んあっ」
「昔はあんなにちびっこかったのに。もうお前なしじゃ生きていけない」
「えっ?」
 ちょっとどきっとした。腰の動きはそのままに、片手が胸の上に置かれる。
「いや、ほんっと大きくなったよなぁ。ああ〜いやほんと、でかくなった。ああああ、柔らけえぇ〜」
 右手で掴めるだけ掴むといった感じでゆさゆさ揉みもみ、涎の出そうな幸せな顔しちゃって。大きくなったなって……そっちかよ!!

223 :
「あああ、もう出そう。こっちもすぐでっかくなっちゃうからもう……けしからん乳だな……まったく……」
 知らんがな。ていうか年中発情期のくせして何言うか。
 両手を脇について腰をゆっくりと引きまた戻す。単調な動きはやがて小刻みに速くなり、じわじわと躰の芯に眠る熱を呼び覚ます。
「あっ……んあん……ぁあ……ひゃ、そこ、やぁっ」
 ぐりぐりと押し付けた腰を回す。あそこが擦れて、互いの肌のぶつかるのがたまらなく気持ちいい。
 大ちゃんのお尻のあたりを両手のひらで覆うよう掴んで、曲げた膝を思い切り使って繋がった下半身を締め付ける。
 まるでぶら下がるようにしがみついたあたしに背を丸めてキスをし、深く舌を差し込んで揺さぶりをかける。
 ふあっと声を交えた呼吸とともに唇が離れると、全身をフルに使ったような揺れ方で最後の仕上げをする。
 吹っ飛ばされそうな勢いで突き上げる彼の躰を逃がさないよう捕まえたつもりが、ふっと遠くから戻ってきたような気持ちが
後から湧いてきたのは、先に達してしまったのがあたしだったからなのだと鼻息荒くのしかかる彼の重さに抱かれて気づいて
からだった。

* * *
 大ちゃんの友達が結婚した。地元を離れて知り合った人だそうで、以前連れて帰ってきた時に報告がてら紹介して貰った
みたいだけど、ほとんどの人は今日初めて御披露目になるらしい。
 家にもよるみたいだけど、わざわざこちらで式を挙げるのも珍しくはないみたい。大ちゃんとこも、一番上の春果姉ちゃん
の時そうだったし、更に相手の都合であちらの地元でも披露宴をしなきゃならなかったと聞いている。親戚が絡むと大変だ。
 その点うちはそのようなしがらみは抱えてはいないし、気楽だ。地元同士の秋姉ちゃんとこでさえ、相手が所謂“いいとこの子”
だったために結構面倒だったらしいし、堅苦しいのが苦手!な秋姉ちゃんは後で『まさに疲労宴』とぼやいていたっけか。
 秋姉ちゃんの時程ではないにしろ、久しぶりに同級生が集まるのを楽しみにしていた。あたしの周りはまだそういう話は
ほとんどないけど、そういう話が次々舞い込んでくるようになるのもそう遠い話ではないのだろう。

224 :
 いつもは職場まで迎えにきて貰うあたしが、今日は大ちゃんを迎えにいくために車を走らせる。
 最近やっと免許を取った。なにせほら、田舎は交通手段が少ないし、人によっては18歳の誕生日が来ると早々と取りにいく。
 車は必需品だから、最早足代わりで庭に空きさえあれば人数分の車がある、なんて家もある。
 あたしもいずれ買い出しや子供の送迎なんかをするようになるので、皆に勧められるのもあって頑張って取得した。勿論
大ちゃんというエロ教官に散々色んな意味で指導を受けながら、ですが。
 その甲斐あって今こうして酔っ払い亭主を迎えに買ったばかりの愛車を走らせている。
 とりあえず乗れればいいわけで、初めてという事もあり、中古の軽を貯金をはたいて買った。大ちゃんの友達が勤めている
店だったから、質のいいわりと新しいのを紹介して貰えて良かったと気に入っている。
「ミナ、こっちこっち」
 式場の駐車場で辺りを見回していると、手を振りながらてくてくと歩いてくる影がある。
 酔っているにしてはしっかりとした足取りで、いつもみたいな騒々しさが見られない。
 おやぁ?と思って見ていたら、後ろから誰かついてきてる。
「ミナ、悪いけどこいつらも乗っけてやってくんない?後の奴らみんなでこれから飲みに行くんだって」
「えっ?いいけど……」
 大ちゃんから少し遅れて女性が2人歩いて来て頭を下げる。
「こんばんは。ごめんなさいね。私達明日早いから帰らなくちゃいけなくって……」
「はじめまして。……お嫁さん?あ、まだか。頑張んなきゃあんた」
 大ちゃんどつかれる。
「るせっ!」
 大ちゃんの同級生か。てことは25歳。なる程、大人のお姉さん達って感じ。しかも晴れの日だからか相当気合い入ってます。
「あたしはいいけど……大ちゃん行かなくていいの?」
 あんたが行かなきゃ盛り上がらんのじゃないかい?
「いいの。ほれ早く乗った乗った!」
 急かされるようドアを開けられて、仕方無く乗り込んだ。

225 :
 大ちゃんはいつも助手席に乗ると、運転するあたしに気を遣ってあまりあれこれ喋ったりはしない。
 それは今夜も同じで、特に夜道だからかもしれないけどえらく静かだ。せっかく同級生と一緒なのに勿体なくない?積もる
話もあるだろうにと何気にバックミラーを覗いてみて、1人と目が合ってしまった。
「ええと……明日早いって仰ってましたけど、遠くに行かれてるんですか?」
「ええ、まあ。朝一番で戻らないと、明後日からの仕事に差し支えるから」
「休みがもう少しとれるか、いっそ自分で運転できればいいんだけど、やっぱり長距離はね……」
 そんなに遠いのかと今居る場所を訊いて驚いた。選んだ大学によっては近場では無理という場合もあるし、そのまま卒業後
残る場合も多いというから、当然といえば当然だけど。
「大地は元々戻るつもりだったからなぁ。いいなぁ。やっぱり落ち着くよね」
「だったらお前もUターンすれば?」
 当たり前のように呼び捨てにして、それで普通に返す大ちゃんの姿に頬が引きつった。
 そりゃうちの地元の小さな学校じゃ、皆幼なじみどころか下手すりゃ兄妹みたいなもんで、恋愛対象になるなんざ稀の稀
(だから秋姉ちゃんの同級生夫婦は例外に等しい)な男女関係で、ましてや5歳違うあたしには全くの世代別で、仕方ない
もんだってわかってるんだけど。
 そこにはあたしの立ち入れない世界があるんだって思ったら、何だかぽつんと取り残されて、ずうっと向こうの方にいる
大ちゃんを爪先立ちで眺めているような気分になった。
「彼女?は、ハタチだっけ。じゃあリタイア組ではないんだね」
 あたしは短大も大学も行かずに(ん?誰か行けないって言いました?)残って働いてるから、Uターン組ではない。リタイア組
と言われたのは、高校卒業後他県に進学やら就職で出ていってもすぐ馴染めず挫折したなどで戻ってくる人間も少なくはないからだ。

226 :
「ここに残ろうって思ったのって、やっぱり大地のせい?」
「えっ?あ、まあ、そう……ですかね」
「せいって。お前は人聞きの悪い」
 間に割って入った大ちゃんが後ろを見ながら『めっ』をする。姪っ子達にする時のような軽い叱り方は妙に可愛くて、何だか
それを向けられたどちらかの乗客に軽い苛立ちが募る。
「いいなぁ。そういう引き留める“何か”があるって。私もそういうのがあれば、わざわざ親元を離れるなんて事しなかったかも」
「ん〜、そうねぇ。何となく出てって何となく今の生活があるって感じ」
「そうかぁ?だったらお前らもそろそろ戻れば?」
「うーん……でもそう言いながら今の生活を捨てるのも、って気持ちがあるんだよね」
「ならそれはそれでいいんじゃね?嫌ならいつでも戻って来れるんだし、惜しいって気持ちがあるんならそこの暮らしも悪くは
 ないって事なんだろうさ」
 ネクタイを緩めながらオーディオのスイッチをオンにする。
「……当たり前に思ってたものが実はすごーく貴重なもんだったって、手元を離れてからわかるもんなんだよね。出てったから
 わかるのかもしれない、ここの良さって」
「ま、たまには帰って来りゃいいじゃん。こうやってその都度垢抜けたお前ら見るのも結構楽しみよ、俺ら地元組は」
 あはは、と短い笑いが起こったのを最後に、皆流れてくる曲に耳を傾ける。お喋り好きの大ちゃんが大人しくなったのを
みると、『話はここで終わり』のサインだったのだろう。
 それぞれの家の近所で車から降ろし、どちらもにこやかに挨拶をして別れたから印象自体は悪くはなかった筈だったのに、
大ちゃんと二人きりになれてもあたしの心にかかった雲谷は晴れることはなかった。
 くすくすと彼に耳打ちしながら親しげに腕や肩に触れる。
 決して下心など見受けられない些細なやり取りにさえ、取り残された気がして面白くないと考えてしまう自分がまた面白く
なくて嫌んなる。

227 :
「ちょ、寄ってかないの!?」
 大ちゃん家の前に車を停めて降ろし、そのままカースペースに入れずに発進しようとしたら慌てて引き留められる。
「うん。もう遅いから」
「え、コーヒーくらい淹れるし、何なら後で送ってくし」
「酔っ払いが何言ってんの。ていうかそれじゃあたしが車出した意味無いじゃん。早くお風呂入って寝てね」
 本当ならこんなふうに言われて嬉しくないわけがない。いつも時間が迫ってくると『まだ帰りたくない』って思うもの。
 だけどそれは大ちゃんを困らせるし、ひいては彼に対するうちの親たちの信頼度を下げてしまう事にもなりかねない。
 ある程度の節度を守っているからこそ、あたしは“大事にされている”と思われているのだから。
 それがわかっているから、どちらかと言えば普段は帰そうとする大ちゃんが今日はやけに駄々っ子に見える。
「親父さんには電話するし、ちょっとくらいだめ?イチャイチャしてえ〜」
 お酒に酔ってるからなのか?それとも結婚式のふいん(ryにあてられたか。
「はあぁ、捕まえちゃおかな」
 解いたネクタイを弄びながらしょんぼりとうなだれる。つうかそれ、この間の……。
「大丈夫。恥ずかしい染みとか付いてないから」
 ぎゃあああ!?そんなの聞いてない!って他に無かったのか!?んなもの絞めて行ったのか!?
 クローゼットにあった筈のほぼ出番なしの2本は全く違う用途をこなしてしまったのかと、ネクタイに申し訳なくなった。
今度プレゼントしよう。いや、させて下さい是非に!!
「なんか今日の大ちゃん、変」
「え?そうか?俺はいつでも変だけど」
 つまりいつもと同じだと言いたいわけね。つかそういう自覚があったのか。そっちに驚きだわ。てかそんなんいらんし。
「今日は楽しかった?」
「ん、まあ。しばらく会ってなかったのもいっぱいいたから盛り上がってんじゃない?今頃」
 秋姉ちゃんの時の様子からも、それは容易に想像がつく。

228 :
「あたしなら呼び出してくれれば何時だって構わなかったのに」
「ばか。そんな真似させられっか。大体おじさん達がそんなの許すかよ。それに」
 運転席側の窓から手を突っ込み、あたしの首に回しかけたネクタイを掴んで身体を屈めて顔を寄せて車内を覗き込む。
「……もうじきまた会えるんだからいいの。つうかそう言われてるし」
「だ……」
 お酒の匂いがする。
 ネクタイの手綱で引き寄せられたあたしの唇にそれを移される。
 どういう意味なんだろう。
 結婚式で何かあった?
「……結構昔と変わってたりする?」
 綺麗に着飾った、あなたと同い年のお姉さん達。
「ああ、まあな。見た目はもうオヤジ入ってるのもいるからな。俺は変わってないって言われたけど、喜んでいいのかねぇ?」
「うーん」
 変わってないと思うよ。少なくとも『あたしの目から見ただけの大ちゃん』なら。
「女子はそれなりに垢抜けてるのが多くて、目の色変えてたのも居たけどな。出てった奴は違うんかな、やっぱ」
 そうかもしれないね。ここから出てった友達も沢山いるけど、たまに帰省して会うと、やっぱりどこか洗練されてて違うなぁ
と感じる事がある。それは少し淋しかったり、羨ましいとも思ったり。
「俺はミナがいるからな。そんなんこれっぽっちも起こさないからな、な」
「わかってるよ」
 信じてますとも。大体、二股かけたり、例え一度きりの悪さでもしようもんなら絶対すぐバレると思うよ。なにしろ、義兄に
なったばかりの志郎さんお墨付きのバカ正直だから。
 ほとんど部屋着に近い格好のままコートだけ羽織ってきた自分の格好が、余計に劣等感のようなものを生むのかもしれない。
 せめてもう少しましな服着てくれば良かった。
「都会に出ると違うのかな……」
「行きたいの?」
 はっと何気に口に出してしまった心中の戯言で、大ちゃんの伏し目がちな寂しげな顔を目にしてしまった。
「えっ……んなんじゃ」
 しゅるりと滑り抜かれたネクタイの音が耳を掠め、それを巻き取る手元を見つめる。
「さて、帰るわ。たまには夜這いに来い」
 いつもの軽口の後だけに、その後に続いた言葉は重たかった。
「俺、縛らないから」

―― 続 ――

229 :
ひゃぁぁぁぁ!!!
なんかもういろいろGJです!!!
後編楽しみにしてます!!!

230 :
GJまさかまた読めるとは思ってなかった

231 :
すみませんあげてしまいました

232 :
とても いい

233 :
* * *
 あれから大ちゃんとは顔を合わせていない。正確には『合わせられない』だけど。
 年末にかけて仕事が猛烈に忙しかった。会社ではタチの悪い風邪が流行り、業務に支障をきたした。そのためその穴埋めに
残業が続き、やっと周囲が落ち着いた頃に遅れてあたしはそれにやられた。
 同じ頃大ちゃんも体調を崩し、本当なら看病に行かなきゃならないあたしもそんな有り様だったから、互いの連絡は専ら
メールや電話で安否確認するほか無かった。
 ばたばたとその後も業務に追われるあたしと同様に、天候により左右される大ちゃんの仕事もそれに振り回されて、どちらも
疲労により自分の事に精一杯だったように思う。
 会いに行きたくても、のしかかる疲れの重さがそれを許さない。せっかくの土日も布団から出ることすら億劫になるくらい
あたしの身体は蝕まれていた。それは大ちゃんも同じで、色恋にかまけている余裕は無いのだという厳しい現実が減っていく
メールの回数によって思い知らされた。
 せっかくのクリスマスイヴも、金曜日の夜だというのに、会社の忘年会で埋められてしまったおかげでパアになってしまった。
よりによってそんな日にしか押さえられなかったらしい……。
 さすがにそれには大ちゃんも
『空気読めよ!』
って言ってたけど、仕事なんだから仕方無いとそこは大人として引くしか無かったわけで、青年団の飲み会に誘われて行って
来たらしい。それはそれで楽しかったんじゃないかと密かに思ってたり。
 それから正月休みに入るまで逢瀬は諦めることにした。それぞれ抱える事情があまりにも重すぎて、自分達の感情だけでは
どうにもならないものが多すぎる。
 子供のうちは大人の都合に振り回されて、自由にならない事に苛立ちを感じることが多々あった。だが、いざ世間に出てみれば
みたでその大人の都合に未だ――というより更に縛られて思うようにならないもどかしさに、疲れた心身を引きずりながら
ため息をつく。

234 :
 一応大掃除という名の部屋の片付けをする。年賀状を出すために昨年の年賀状を整理しながらコタツでのろのろ筆を進める。
 勤務先関係は兎も角、どうせ元旦に届かなくて良いものが大半だ。中学も高校も友達のほとんどは帰省してくるため、向こうの
住所に宛てたものは、正月休みを過ぎてあちらへ戻ってから目にする子が多い筈だ。
 今年は成人式に出る予定があるから、同級生は皆余程のことがない限り帰ってくるだろう。
 うちの地元では、そういう事情を踏まえて毎年2日に式を行う。それから同窓会にとなだれ込むのが定例で、あたしもそれに
参加することが決まっている。
 久しぶりに会う子も多いから、どんなふうになっているのか、どういう生活を送っているのか報告が聞けるのが今から楽しみだ。
 特にずっとここに残っているあたしには、余所の暮らしぶりは興味深い。
 一緒に学校に通っていた頃は皆同じようなものだったのに、余所に出て行った途端皆垢抜けて綺麗になって戻ってくる。
 服や靴もこの辺りじゃあまり着ている人を見かける機会がないような流行りのものを身に着けて、メイクも上手くなったから
本当に可愛くなったねって見とれてしまうこともあるくらい。
 それこそ、大ちゃんがあの同級生のお姉さん達に言ってたみたいな反応だけど、その通りなんだよね。
 通販を利用すれば結構物自体は手に入るけど、悲しいかなそれを着ていくような場所はあまり無い。その前に、最近の若い者は
と露出の多い服装に眉をひそめる人達もいたりするし。髪少し染めただけで……ねえ。
 わかってるんだ、ほんとは。
 あたしひとりが焦っていじけてじたばたしてる。
 あたしだけがずっと同じ場所にいて、学校が仕事という内容に変わっただけの以前とはそれ以外変化のない生活をして、
――なにも、変われなくて。
 誰もあたしをそんな目で見る事など無いのに、自分ひとり取り残された気がして。

235 :
 何も変わらない。変われない。
 大ちゃんだって、昔の大ちゃんのままだ。大人になっても、小さなあたしがあぜ道を全力で走って追いかけては、その都度
振り返って立ち止まって待っててくれた大ちゃんのままだ。
 そんな彼が、どんなに呼んでも叫んでもその歩を緩めてくれなかった事がある。
 あたしが中2の時、地方の大学に行ってしまったあの時だ。
 高3になって帰ってくるまでの4年間は、夏休みや正月休み以外の長い期間は、どこをどう歩いてもその姿を目にする事は
叶わなかった。
 帰省してきても、当然ながら友達や家族と過ごすことのほうが当たり前で、あたしはその輪に入ることは出来ない。会いに
行けば笑顔で迎えてくれたし、がしがしと大きな手で頭を撫でてバカ話を聞かせてくれたけど、それは皆、あたしの知らない
余所での暮らしの中で経験してきたものばかりで、そこに――あたしは居なくて。
 だから手紙を書いた。携帯なんか持たせて貰えなかったから、それしか大ちゃんと繋がる術が無かった。
 返事なんか貰えるとは思ってなんかいなくて、それでもいいととりとめのない出来事をつらつらと書き綴っては、せっせと
送り続けた。それで、たまに返事がくれば飛び上がって喜んでまた書いた。
 今になってみれば、ほぼ一方的でしかない拙い子供とのやり取りによく付き合ってくれたものだと思う。
 バイトや学校で忙しい日々だったろうに、筆まめとは言えない大ちゃんが3度に1度くらいのペースでくれた短い手紙は、
何度も何度も読み返して折り目や皺だらけになった。
 日々の何気ない出来事を彼なりの言葉で綴っただけの何てことない文章に、この地に暮らしていた頃の姿を重ね見て、新しい
地での生活を頭に描きながら彼を想った。
 でもそれだけだった。
 あたしはあの4年間、そこにあるだけの大ちゃんしか知らない。彼がどんなふうに日々を過ごし、何を考え、何を――誰を
想い――暮らしていたのかは、知らない。
 見た目には何も変わらないと思っている彼が、果たして昔のままの彼で居続けられたのか、あたしには知る由もない。

236 :
* * *
 大晦日になって、あたしは家で1人ソバをすすってふて寝していた。
 今夜からあたしを除く家族4人、親戚の家で年越しだそうだ。久しぶりに帰郷してきた親父様のいとこだかなんだかが来る
そうで、弟やら妹やらもついてった。まあ、お年玉貰えるしね。
 あたしはというと、年末からの疲れがどうの、とか何とか言ってパスさせて貰った。明後日は成人式だし、お年玉だって取られる
だけだから(ああ、うまく逃げたさ)。
 それだけじゃなくて、本当はずっと待ってたんだけど……。
 渡しそびれたクリスマスプレゼントはまだ部屋の机の上にある。年が明けても、このままなんて事、ないよね?
 ちょっとした諍いが起こると、あたし達はいつも頭を冷やすために連絡を断つことがある。そうすることでお互いの存在が
いかに大切かがよくわかるものだから。――まあ、大体が大ちゃんが2日もあけずにやってきて、あたしも禁断症状を起こす前に
丸く治まるわけ。
 それが、今回は一向に事が進まない。例の飲み会から連絡が途絶えたままになった。羽目を外してぶっ倒れてるのかも、と
一応遠慮しておいたのだけれど、それで様子見しているうちに最後の追い込みで忙しくなって、一昨日休みに入るまでの間に
きっかけを失ってしまった。
 本当なら、あたしらしくないとこだろう。これまでだったら押し掛け女房よろしく大ちゃん家に上がり込んであれこれやって
いるうちに、なにもかも元通りになっていたに違いない。
 けれど今回はそうはいかない。うやむやに押し流してしまうには時間が長すぎた。会えない事で、会わない生活が現実になって、
それに徐々に慣れてきてしまっている。あの4年間の生活がまた蘇ってきて、その頃の麻痺した感覚に押し戻されかけていた。
 会えなくても平気なわけじゃない。
 でも、会えなくても生きていけないというわけでもない。
 そんな自分に慣れていくのは――怖い。

237 :
 部屋に戻り暖房を入れて、昼間引っ張り出して久々に読み返してみた大ちゃんからの手紙を手に布団の上に横になる。
『卵をパックごと冷蔵庫から出そうとして落とした。ブショウせんと卵ポケットに入れときゃヨカッタ(泣)。しばらくは卵焼きで
 頑張るべ』
 お前は某国民的海産物アニメの主婦か。
『大学の友達と祭りに行ったけど、すげー人が多くて驚いた。うちらの夏祭りみたいなのがあちこちであるんだから。ミナの
 好きなりんごアメも何軒も出てたから、いたら買ってやったのに』
 貧乏のくせに、って返事書いたら
『それくらいの稼ぎあるわい』
って返ってきたな。で、帰省してきた時の夏祭りで友達といる所にばったり。本当にりんご飴買ってくれた。
『バイト先の友達に赤ちゃんが産まれた。可愛かった。俺も欲しくなった』
 相手はいるの?――そう書いてどきどきしながら返事を待った。でもそれに対する答えはなくて、もうそれ以上問いただす
なんて出来なかった。だから考えないようにした。
 というか、怖かった、本当は。
 もしかしたら言わないだけで、彼女くらいはいたのかもしれない。いずれこちらへ戻る事は決まっていたから、もしかしたら
それが原因で……とか。
 あたしの知らない大ちゃんがいる。4年間の空白、それは同じだけど、あたしが経験することの無かったものを経験したで
あろう事は確かで、あたしはそれらを知らないままここで生きてんでいく。
 それじゃ何も変われない。変わらないままのあたしが変わらないまま歳だけ取って、どんどん周囲から置き去りにされていく。
 秋姉ちゃんだって、志郎さんは『成長してな』いと言うけれど、やっぱり大人になって、綺麗にというか可愛くなったと思う。
それには愛(と言い切っていいのか)の偉大なる力が大きいと思われるが、それだけ得たものがあった筈だ(だから照れ隠し
にああ言ったんだろうあの人は)。
 大ちゃんは高校生活を終えようとするあたしにそれを感じただろうか。
 女としての眩しさや、新しい魅力を見出すことがあったんだろうか。

238 :
 本当はわかってるんだ。そんなの言い訳で、あたしの言ってることは皆、単なる嫉妬に過ぎない。
 当たり前のように傍にいて、いつでも同じ空気を吸って日々過ごしている自分より、たまに顔を見せる女の子達が新鮮に
映るのはそれこそ当たり前のこと。それが面白くない。いい気はしない、それだけの事、わかってる。単純すぎる我が儘。
 大ちゃんがそんな事でふらふらとするような不実な男じゃないってわかってても、自分がつまらない女に思えて情けなかった。
そんな自分が情けなくてまた堪らない。
 もしかしたら本当に愛想尽かされたのかもしれない。だって、いくらなんでも子供すぎるだろ、あたし。
 羨ましいな、って素直に口に出したらもっと簡単に終わった事なのかもしれなかった。いいなあ、憧れちゃうなって。
妬むなんてみっともないって。
 大ちゃんにも、そんなふうにさらりと聞けたら良かったのかな。普通に過去の話とか、気になる事ってあったりするよね?
誰にでも。
 大ちゃんはあたしの事で知らないことなんてほとんどない筈だ。だってここから出たことないもの。どういう暮らしを送って
きたか、想像はつくだろう。逆に、大ちゃんの事はわからなかった。知りたかったから手紙を書いた。でも、待つ以外に出来る
事はなくて、ただひたすら切なかった。
 会いたかった。会いたくて仕方なかった。
 でも、14、5の女の子だったあたしにはそこまでの力はなくて、ただ想うしか出来ずにいた。
 会いたい。
「会いたい……な」
 最後に触れたのはいつだろう。
 あの結婚式の前のあの夜。
 冗談めかして言ったこと、本気にしてしまえば良かった?
 縛ってくれても構わなかった。好きにしたいだけして、捕まえて欲しかった。
 もう遅い?
 ほんの少し荒れてかさかさになった柔らかな唇を想う。
 陽に焼けたまま褪めない肌を、逞しく優しい手のひらの温もりを、触れられる感触と重みを、想いながら肌を自らの指で撫でる。

239 :
 目を閉じて、パジャマのボタンを1つ2つ外すと間から差し込んだ手のひらで膨らみを包む。
 むにむにと揉んでみて、大ちゃんのする様子を思い出しながら揺さぶるように肉を寄せ上げてみる。
 大ちゃんだったらそれだけじゃ済まなくて、いつも谷間に鼻を埋めてはもふもふと枕のように顔を擦り付けて堪能してたっけか。
 自分のじゃ感じない。
 大ちゃんに触られたい。
 こそこそと乳首の先を弄ってみる。大ちゃんだったらどう動かす?
 冷たい指先に鳥肌が立つ。そのせいかきゅんと堅くつぼんだ先が痛いくらいに反応して、触るのが怖くなって、温めるつもりで
胸全体を両の手で包んだ。
 ――抱かれたい。触れられて壊されたい。
 大ちゃんのぶつけられる腰の硬さを思い出して、腿の奥がきゅうっとなった。
 妙に切ないその感触に恐る恐るパジャマの上から触れてみて、それから思い切ってその下のショーツの更に下へと手を差し込んだ。
 ぬるりと指が滑り、びくんと膝が震える。そのまま自分の一番感じるとわかる場所に自ら触れて、その痺れに身を任せる。
『ミナ』
 甘ったるい声であたしを呼ぶ。
『可愛いな』
 天然そのものの笑顔をふりまくその瞳は、その時だけは本能剥き出しの熱を持った眼差しであたしを射る。
 容赦なく追い詰める指の強さを真似て自分で自分を追い詰めてみる。
「……っあっ……」
 躰の芯から熱くなる。涼を求めて空いた手で胸元を弄り肌を晒させる。はだけた胸のふくらみがひんやりした空気にあてられて
少し楽になる。でもそれはまたすぐに下半身の疼きに引きずられて、誤魔化すために掴んだ手のひらに揉みしだかれて悶えて
形を変える。
 自分の躰なのに、始めてしまったらもうどうにもならない。感じるがままに駆使した中指に翻弄されて、果ててしまうまで
身を捩ってすすり泣いた。
 小刻みに震えて脱力した躰が徐々に力を取り戻すと、どうしようもない罪悪感と淋しさに襲われる。やばい。
「大ちゃん……」
 待ってるだけじゃ駄目だよね。告った時のあの勢いはどうした、あたし。
 パジャマを脱ごうと立ち上がり、何気に窓に視線を向けた。

240 :
「ひゃあああぁぁぁ!?」
 窓の外に居るはずの無い何かがこちらを……。
 腰を抜かして?砕けて?とにかく足に力が入らず、布団の上にひっくり返った。あわわ。
 コンコンと窓を叩く音に再び悲鳴を上げるも、そこにある見知った輪郭にふと我に返る。
 寒さを訴える声がガラス越しにもわかり、半分ガクブルする膝を必に起こして窓を開けると
「さ……さぶがっだぁぁ……」
と冷え切った身体をどさりと布団の上に転がし、捲り上げた毛布の中にすっぽりくるまる。
「あの……もしもし?」
「ああ、一緒に入る?つか暖めて。寒いの」
「ああ、はいはい……っておい!冷たああぁい!!」
「おお、ぬくぬく」
 布団の中に半ば引きずり込まれるように潜り込むと、全身を氷の塊かと言いたくなるような図体に抱きつかれて、思わず
蹴り出してしまいそうになったけど、ぴたぴたと剃りたての髭の跡の残るほっぺをすりすりと擦り付けられて、一瞬にして蘇った
愛しい感触にそれを忘れてぎゅうっとしがみついた。
「急にどうしたの?こんな時間に……」
「ん。遅れたけど年越しちゃうと意味ないし。つうわけでメリー大晦日」
 被っていた帽子の中からひょいと包みを取り出す。
「あ、ありがと……何?」
「首輪」
「……」
 受け取りながら
「だからって……んなとこから来る?普通。びっくりするじゃん!電話ちょうだいよ」
「遅いから迷惑だろ?おじさんに睨まれてもなんだし」
「今日いないよ。言っといたでしょ?だから玄関から入ってくればちゃんと……」
「あ、そだっけ。ま、いいじゃん」
「良くない!こんなに冷え……」
「だって夜這いに来たんだもん俺」
「はぁ!?よば……」
「ミナがなかなか来ないから、溜まりすぎて我慢出来んくなった」
 このエロサンタ!とふりあげかけたげんこつは力が抜けて、またあたしは大ちゃんのカイロになった。
「……ばか」
 それから、ごめんなさい。
 鼻を啜りながら絞り出した言葉に大ちゃん、黙って頷いて見せながら、冷たくなったサンタの帽子をあたしに被せて頭を撫でた。

241 :
「……結局さ、羨ましかったんだよね。そんで寂しかったんだ。明後日会える友達は、もうあたしが覚えてる頃の友達じゃない
 かもしれない。きっとみんなが驚くくらい変わってて、大人になって。でもあたしは……って。あたし、帰ってきた大ちゃんを
 見て喜んだの。今にして思えば、変わらないって感じたのが嬉しかったんだろうな。本当は知らない人みたいになったらって
 不安で、怖かった。あたしの事忘れちゃってるんじゃないかって」
 見た目には変化は無くとも、中身まではわからない。それを考えるのは怖くて、踏み込めずに逃げてた。それが今回よく
わかった気がする。
「忘れてなんかなかったよ。寧ろ、ミナが俺を覚えてくれたのが嬉しかったし。逆に都会へ出たところで大してでかくもなれなくて
 がっかりさせるかと思ったもん。けど、お前は……待ってて、お帰りって迎えてくれたろ?そういう意味では、変わらなくて
 嬉しかったし」
「がっかりしないの?そういうの」
「全然」
 正直嬉しい反面ちょっとがっくし。
「大きくなったな、とは思ったけど」
 そこは『綺麗になった』と言われたいものなんだけどな。
「うん、大きくなった。こんなに良い抱き枕になるとは」
 もふもふと剥き出しのおっぱいにほっぺをすりすりして1人うっとりしとる。またそこかい!
「……大ちゃん。いつからいたの?」
 こんなに冷え切るまで。
「そんな長い時間じゃないと思うぞ。つうか忍び込みやすくて助かる、この部屋」
「そりゃどうも」
「だからってカーテン位は閉めれ。誰が見てるかわからんぞ」
 元々二階にあった部屋は今年受験生の弟に取られた。今の部屋は一階で裏山に面しているので、夏は網戸さえ閉めれば窓は
開けっ放しでも平気だ。
「誰、って……」
「おかげで良いもん見せて貰ったけど」
 冷たさのまだ残る指に撫でられた肌にぞわっと鳥肌が立つ。
「いつ……から」
「ミナがこういう事し始めた時?かな」
 布団から出した顔を意地悪くにやつかせて、むぎゅっと鷲掴みにされた胸に軽く痛みが走る。

242 :
 そんなに前から。
「おどかそうと思ったのに、こっちがびっくりした」
 いや、あたしも十分驚きましたから。つうか、サンタ帽はともかく……。
「……寒かったでしょ?そのカッコ」
「忍びは軽装でなくてはならぬ故」
 たしかに動きやすさではこれが一番でしょうよ。しかし、まだあったんかいそれ。高校の校章入りのジャージ姿はどう見ても
トウのたった芸人の学生コントにしか見えん。
 いや、大ちゃんは童顔ではなくとも可愛い方だと思うのよ?けど現役の弟が間近にいるとどうもねえ……。
「……あたしの事嫌いになる?」
「何で?」
「だってあんな……」
「あんな、何?」
「それは……」
 言えるわけないじゃない。誰に見られる事が無くとも、全く虚しい気持ちが起こらない時ばかりではない。そんな行為を
恋人に見られて平静を装えるほど開き直る勇気はない。
「こういうコト?」
「きゃっ!?――あっ……ぅ」
 ひんやりとした指先が、パジャマのパンツの中に滑り込む。
「いつもこんな事してる?」
「し……ない……んっ」
「ふうん。たまたま?」
「……んっ……」
 さっきの名残の潤いが絡んだ指を下着の中でくちゃくちゃと動かす。
「なんで?」
 会えなかったから。
 大好きだから。
 本当は愛されたかったから。――こんなふうに。
 ちょっと意地悪な質問をしておきながらのしかかり、首筋に顔を埋めてくる。その躰にぎゅっとしがみついて耳元に唇を寄せ呟く。
「ごめ……さい」
 パンツから指を抜き、腕を伸ばして跨がると、被せてあった帽子と包みとを脇に置き、あたしのおでこに掛かる前髪をちょいと弄る。
「何が」
「だってさすがに怒ってる……」
「別に。俺だってやりたかった事した上で今があるんだし、ミナだってそういうのに憧れたり興味持ったりすんの当然だし、
 仕方無いと思うんだわ。今からでも……したい事が見つかったってんなら、それもいいと思ってる」
「別れるの!?」
 やだ、そんなのやだ!
「違うよ。けど、ミナが後々後悔しないため。今ならまだそういうの間に合うからな」

243 :
「どうしてそう思うのよ」
「春姉が結婚した時の事覚えてる?」
 一番上の春果姉ちゃんは、あたしが小学生の時お嫁に行ったから詳しい事情はあまりわからなかったけど、短大に行くために
地方に行って、そこで知り合った人と学生結婚した。結局姉ちゃんは学校をやめて、相手の人の卒業を待ってあちらの田舎に
帰り、おうちの旅館を手伝ってると聞いてる。
 すぐに赤ちゃんが生まれた筈だったから、今思えばあれはいわゆる出来婚だったんだろう。
「あの頃、爺ちゃんが亡くなったり、春姉が結婚して子供産むのに帰ってきたり。色々あって、秋姉がそのしわ寄せを受けて
 進学どころか就職活動もままならなくてさ。俺が受験生だったから秋姉が母ちゃんの代わりに家の事手伝ってるうちに、
 よそに出るにはやっと見つけた会社に勤めるしかなくて。結果的に二人とも思い通りにはならなくても、いいひと見つけて
 幸せにはなったけど」
 二人とも、生まれ育った地を離れてみた事で新しい人生を見つけたということなのかな。
「いずれ戻るにしても、一度は別の世界を知るって事も大事だと思うんだ。だからもしミナが後々後悔しないですむように、
 やりたい事やり残さないようにしてやりたい。俺は好きで出てって戻ってきた身だから、きょうだいでも一番恵まれてると
 思ってるし、その分ミナにも我慢させたくない」
「あたしを……手放すの?離れちゃってもいいってこと?嫌いにな……」
「ならないよ、ばあか。俺、縛らないって言っただろ」
「捕まえて……くれないの?」
「俺ミナの事信じてるもん。だから、縛らない。お前だって、ずっと俺の事待っててくれたわけじゃん?……寂しくないわけじゃ
 ないけど……俺、縛らないって言ったけど、絶対離さないから覚悟しろとも言っただろ?」
 行くな、離れるなって言わないんだ、引き止めて貰えないんだ――そう思った。
「……なさい。大ちゃん、離れない。だから嫌いにならないで。あたし大ちゃんといたい。だから……ごめ……」
「それでいいの?お前」
 頷くかわりに、思い切り抱き付いてキスをした。

244 :
「今だって、お互いの生活によれば案外会えない時もあったりするし。それでも一時我慢すればこうしてまた色々できる」
「平気だった?大ちゃんは」
「じゃないからこうして来てる」
 意外と堅い所のある大ちゃんがこんな真似をするんだから、あたしが思う以上に我慢してくれてたのかもしれない。なんか
結局はあたしが我が儘で振り回してるような。
 やっぱり大ちゃんは大人だ。時々こんな突拍子もない事をやらかすけど、ここぞという時には一歩引いて見守ってくれる。
感情に任せて突っ走るのはいつもあたしの方なんだよね。
「でもまじカーテン位は閉めような。いつ俺みたいのが覗きに来るかわかんないぞ」
「……他でもやった事あんの?」
 恥ずかしさから一瞬頭が沸騰するかと思ったけど、2人のお姉ちゃん達の話から連想せずにはいられなかった。
 大ちゃんにだって、あちらで誰かいたことあるかもしれない。それを匂わされた事など一度もないけど、だとしたら、何故。
「ねえ、あたしがずっと大ちゃんだけ好きだったと思う?」
「お前そう言っただろ」
「……信じてるんだ。なんで疑わないの?」
「俺お前に嘘ついてないもん。だからお前の事も信じられるよ」
 ――負けた。
 どうしても大ちゃんには叶わない。なぜこの人はどこまで行ってもまっすぐ過ぎる男なんだろう。
「向こうで一度も彼女いなかったの?」
「いなかったねぇ。つうか戻ってくんのわかってたし、ついて来るか別れるかしかなくなっちゃうだろうしなぁ」
 そういう事考えちゃうんだ。まあ、見合いしてでも嫁探ししようとしてた位だからな。しかもかなり本気で。
「好きなひとくらい……だって綺麗な娘いっぱいいたんでしょ?」
「友達はいたけど、もうその娘結婚しちゃってたんだぜ?俺より年下なのに。凄く好き同士みたいで羨ましかったな。一途で
 ちょっと怒りっぽくてしょっちゅう夫婦喧嘩してたみたいだけど、今は子供もいるし。あ、年賀状はやり取りしてるしたまに
 野菜送ったりしてるんだ。ミナにも見せてやるからな」
 しちゃってた――て事は、少しは。

245 :
「ミナに似てると思ってたな。俺結構向こうで寂しかった時もあんのよ。楽しいこともあったけど、いずれ帰るんだしな……って。
 けど住み慣れた地を完全に離れて向こうに住み着く決心もつかなくて。地味に凹んだ気分のときにミナの手紙読み返して、
 あーこいつは俺の事覚えてくれてる、少なくとも“今は”俺を待っててくれるんだなって。それって結構嬉しかったし、だから
 俺もお前を待っても良いと思った」
「……今も、だよ。変わらないよあたしは。大ちゃんが好きだもん。だからずっと待ってる」
 戻ってきた今も、あたしはただ待ってた。大ちゃんが広げた両腕を伸ばして待っててくれるのをどこかでわかっている筈なのに、
勝手に躓いて立ち止まって、振り返ってくれてもここまで迎えに来てその手を差し出してくれるのを。
「……抱いて」
「そのつもり」
 待ち望んだその腕の中に、飛び込みたくて仕方がなかった。
 閉じた瞳を拭って濡れた指が、頬を撫でつつむにむにと摘む。
「もうっ!」
 憎たらしいけど、それ以上に好きで堪らない。それがわかっているだけにまた泣きたくなる。
「いい子だからちょっと待ちな」
 躰を起こしてジャージを脱ぐと、パンツ一丁になって素早くこちらを脱がしにかかる。
「子供じゃないって……」
 むっと膨れて睨むと
「わかってるって」
と宥めてくるものの、触ってくるのは必ずそこ。
「だから大きくなったなってゆってるじゃん」
 だからって何かというとおっぱいまっしぐらってどうかと思うのよ。
 脱がせたパジャマと脱いだジャージをポイッと投げ捨て、ぱっと布団を被って潜り込むと、顔だけ出したあたしの首から下の
掛け布団を膨らませてもぞもぞと蠢いている。
 素肌に擦れる毛布と髪の毛の 感触がこそばゆくて身を捩るけど、しっかと両胸を鷲掴んだ手のひらに押さえつけられては、
裸の躰をただじっと彼の意思に任せて漂わせるしかない。
「ほんとに……女らしくなっちゃって。……戻ってきたら結構可愛くなっちゃってるんだもの、お前」
「えっ……あっ!?」
 籠もりがちな声を拾おうと聞き返したかったのに、その前に揺さぶられていた乳房に吸い付く舌の濡れた温もりに意識が
もっていかれた。

246 :
 最初はいつものように“大好きな”おっぱいに顔を埋めたり揉んだりと、ソフトに楽しんでるだけなんだと気を抜いてしまって
いたから、急に強く吸いつかれて思わず声が出た。
「……――っあっ!!……んっ」
 慌てて呑み込んでから気が付く。今日、誰もいないんだっけ。
 その途端こんな大胆なことをしている自分が急にとんでもなく後ろめたい気がして、そんな考えをごまかすつもりでぎゅっと
布団を摘んで顔を埋めた。
「みっ……ミナ!んっ!!」
 ぱたぱたともがく侵入者の抵抗に布団を捲ると、真っ赤な顔して息を吐きながら顔を上げて見下ろしてくる。
「ちょ……布団、押さえられると苦しいんだけど」
「あ……ごめん」
「まあ……乳上なら本望だが」
 何をキリッと。つうか吸いすぎなんだよ!おっぱいより酸素吸え!!そんな因、男としてどうよ。
 大ちゃんの舌でやわやわにふやけた乳首を多分その指に転がされながら、じりじりと一点から広がりつつある感覚に悶える。
「本気で……好いてくれるとは思ってなかった」
「何を……はっ……ん……っ」
 答えるより先にまた反対側に唇を押し当て、存分に含んだ胸の一部を丁寧に味わっていく。時々強く吸っては持ち上げて、
離されたそれが冷たい外気に晒されて鳥肌をたてながらふるんと揺れて広がる。
 それをまた押し上げて作る柔らかな頂に鼻先を擦り付けて、熱い息を吹きかけながら、渇いてきた唇を滑らせて、時には
朱い花の跡を残してその上で眠りにつこうとする。
「安心するんだよ、こうしてると。……お前、随分と年下だった筈なんだけどな。だからそのうち俺なんか忘れて、同い年位の
 奴とか好きになるんだろーなと思ってたよ」
「……子供の戯言だと思った?」
「正直、な。でも嬉しかったよ。たとえそうだったとしても。けど、あの時――本気だってわかってからは、一気に見る目が
 変わったよ。お前は女なんだって。可愛い妹から、モノにしたい女になった。変かもしんないけど、あれも一種の一目惚れだ」
 畑のど真ん中の告白が?
 ふとした出来事で、人生が一変するものなんだ。

247 :
「じゃあ、お見合いの阻止して良かった?」
「ん?……うん。だって嫁さん見つかったし」
 じゃあ婚活は成功したわけだ。良かった。
「だから……今度からはちゃんと呼べよ。それか、襲いに来い。待っててやるから、全裸で」
「おそ……なに考え」
「こういうこと」
 するりと下着の上から秘部の線をなぞられる。
「自分でするほうがイイ?」
 脇から何かが入り込む。多分指、それも何本か。
「気持ち良かった?イったよな?お前」
「――あ、やっ――お願……」
 言わないで、って首を振る。
「だって見ちゃったし」
「いや……や……ごめ……」
 嫌わないで。
「俺でいい?……イかせたい」「だ……ちゃんがいい……して……」
 途端にどくっと何かが流れ出る。その瞬間そこが疼き始めて、触れられたらカアッと熱く痺れて堪らなくなった。
「……は……ぁ……気持……ち……い……っ」
「ほんと?」
 いつもなら恥ずかしくてなかなか言えないこんなことも、今なら何とか言えてしまう。
 躰が悦んでる。
 自分で探し当てる快感と違い、ほんの少しもどかしさを含んだ焦れったい愛撫の中に、大好きなひとをもっと取り込みたい
という欲望が果てしなく湧いてくる。
 じいんと爪先まで走る衝動に、立てた膝を投げ出そうとして大ちゃんを蹴飛ばした。
「いてっ!」
「あんっ……ごめ……だって」「許さん」
 お尻を持ち上げて下着を引っ張る。脱がされるのがわかっててそのまま脚を投げ出して、だらんと力を抜いていた。その間に
割って入った躰をそのまま足下へとおろしていく。
「大ちゃ……やっ!?ひっ……!いや……ぅ……ぁ」
 毛布まで蹴飛ばされて全部が丸見えになったところで、開いた脚の真ん中に顔を埋めて音を立て始める。
 さっきまでそこにあった筈の指はしっかりとあたしの太ももを掴み、代わりに熱い息遣いとぬるぬるした柔らかな肉の一部が
そこをじわりと攻め立てていく。
「気持ち良いならイイって言いな。色々してやるから……」
「やだぁ……やぁ……ぁあん、あ、あ、ぅぁ、ん、んっ」
 恥ずかしいよう。でも、イイって言えるわけないじゃない、ばか。

248 :
 お尻の方までぴりぴりと感じて、腰が軽く跳ねた。
「おっ?」
 ぱっと顔が離れて、大ちゃんの目があたしを見上げた。脚の間から上気した頬を見せ、同時に唇をぺろりと舐めた。
「エロっ。ミナの尻。ドロドロなのがもうね」
「言わないでっ!!」
 ああもう、顔から火がっ!!ああこら、脱がせたぱんつを眺めるんじゃない。
「もうこれ穿けないな。……俺も替え持ってくりゃ良かった。ほれ」
 誘導されて触れてみた大ちゃんの下着の膨らみが、しっとりとした熱を持って堅くあたしの指先に押し当てられてくる。
 躰を起こし、立て膝の姿勢で待ってる彼の下着を腿までずり下ろしてあげる途中でそれが引っ掛かるのが可笑しくて笑うと
膨れっ面ででこぴんされた。
「いたっ!」
「しょうがないだろー。元気余ってんだから」
「あっ……こら……もうっ」
 元気過ぎ。そんなもんでほっぺつつくな!
「いつまで見てんの!!」
 大ちゃんの下着を脱がせて、ついでに自分のも取り上げると脇に放った。
 脱がせるときに途中で尻餅をついたままの格好の大ちゃんのそれに顔を寄せる。
「可愛いがってあげよっか?」
「やって♪」
 嬉しそうに、まあ。
 両脚の間に跪いて頭を下げると、肘で支えながら躰を屈めた。
 あたしのと違って大ちゃんの……というか剥き出しの男のひとのモノ。最初はなんというかまあ……コメントに困る代物という
印象だったけど、慣れっていうのは凄い。何の抵抗もなく頂けてしまう。
 爆発しそうな程かちかちに張り詰めた先を口に含むだけで、ぴくりと震えて暴れようとする。ちょっと大人しくして貰わなきゃ
困るんだよねぇ。舌を絡め出来る限り呑み込んで口内を満たしながら、暴れん棒さんを宥めるように可愛がる。
「ミナ、こっち」
「ん?」
 くわえたまま目だけで見上げて口を窄める。
「……うわぁ……その角度エロい……絶対よそでやるなよお前」
 やるか!!
 勝手な心配するんじゃない。もごもごと口一杯に頬張って喋ろうとしたせいで、唇の端から涎が零れた。

249 :
 一端抜いて口を拭った。もう一度始めようとしたところでストップを掛けられる。
「はいそのまま。よし……オッケー」
「ちょ、なに……んやぁっ!大ちゃん!?」
 四つん這いの躰の後ろに廻ると、お尻の肉を掻き分けて中心を覗き込もうとする。
「やあだ!何するのよぉ……やぁ……ぁ……く……ぅ」
「みっけ。もう……すっごいとろけてるよ?」
 指で真ん中を押し開かれて、ひんやりと外気に当たらされてきゅんと心無しか縮まるような思いがする。無抵抗な姿勢で自分を
差し出しているような格好がケダモノみたいで、何だかいたぶられてる気分。
 カァッとじわじわ火照るそこをくるくると撫でて転がされると、突き出たお尻が膝ごと震えて、反った背中を支える腕にも
力が入らなくなる。
 猫が伸びをするように腕を伸ばして躰を沈めると、ぬるぬると愛液を塗り込められた秘裂の奥へと指をゆっくり進めて来ながら
背中を滑る半開きの唇の動きに首を竦めて悶えた。
 がくりと倒れ込んだあたしの中心を尚も抜き差ししつつ、少しばかりの重みをかけてぴったりと自らの躰を被せながら、耳元で
ぼそりと呟いた。
「カラダ、起こせない?」
「え?……んっ」
 くちゅりと音を立てて抜かれた指をティッシュで拭くと、脇から手を入れてきて起こされる。
「よいしょ。はい、そのままお座り」
「お兄ちゃんか!あの、あたしはお子様じゃなく……」
「わかってるからすんの。……ほれ」
 膝を広げて座る大ちゃんの脚の間に膝を立てて座らされ、顎をしゃくる先を見て声を失った。
 枕元にある姿見。
 いつもは引っかけてある布が捲れたままになって、両脚を広げた霰もない姿の自分が映し出されてる。
「や!恥ずかしいよ、やめよ?ね!?……あっ」
「なんで?……いっぺんやってみたかったんだけど。ホテルとか行った事ないし……おお、すげぇ。見てみ?」
「だ……めぇ……やぁ……」
 片手で持ち上げた胸をぐいぐいと揉みながら、もう片方は忙しなく晒された茂みの奥を探って小刻みに動いてる。

250 :
 脚、閉じればいいだけなんだけどな。やだって言ったら、自分の脚をあたしの膝下からねじ込んできた。片脚でもこれじゃ
結局は動けない。
「な、見て?」
 んなこと言われても。首を振りながら俯いて目を瞑る。
「できるわけ……っう」
「可愛いってば、ほら」
 たぷたぷと重さを楽しんでいた方の手がきゅっと乳首をつまんで擦る。いきなりの刺激にビクッととして、仰け反りかけた
瞬間に閉じていた目を開けてしまった。
「……あ……」
 とろんとした目をして、いつもとは違う乱れ方をした髪を振り乱したあたしがいる。普段、この中に居るのとは全然違う。
見たことのないあたし。
「女の子だなあ。すべすべでやーらけぇ。俺とは大違いだわ」「だ……大ちゃん……焼けてるか……らだよ」
 外で働く大ちゃんはどうしても日焼けし易い。だからかあたしは妙に肌が白く映って見えた。
「いや、つうか昔はさあ、お前もおんなじ位真っ黒くなるまで遊んだもんなのになって思ってさ」
「んん……ああっ」
 濡れた音が止んで、今度は脇腹から脚の付け根までさわさわとくすぐったさに似た快感が走る。
「……中身はずっと“近所のミナちゃん”のままだったのに……見た目はすっかり女の子になってんだもんなぁ」
「え……う……そ」
「ほんと。マジ。秋姉のおさがりのセーラー服着てさ、短いスカートでちょろちょろとするとこだけは変わんなくて。そんなのが
 俺の事好きだっつって泣くんだもんな。ちっこい時とは違った意味で、俺について来ようとして泣くんだもんな。そりゃ、
 意識もするわ。いっぺんに見る目が変わった」
「それが……一目惚れ?」
 首筋から肩にちゅっちゅっとキスされるのがくすぐったいけど、尖らせた唇が可愛くて嬉しくなる。
「ん。もう、ぶっちゃけ押し倒すまでにどれだけ……とりあえずその晩はスカートが捲れた時を思い出してヌい」
「ほんとやめて……」
 そんなカミングアウトいらん。
 ……まあ、悪い気はしない。

251 :
「お前いい女になったんだぞ。俺がこんなふうにしたくなる位。な?」
「……んっ」
 後ろから両胸を掴んで揺さぶりを掛けながら肩に顎を乗せ囁く大ちゃんに、鏡越しに返事する。
 大ちゃんの行くとこはどこにでもついてった。
 6年生の大ちゃんの足に追い付こうと必で走って、すっ転んで大泣きして、それを引き返して引いてくれる手を強く握って
立ち上がる。
 1年生のあたしには重いランドセルを担ぎ直してまた走る。今ある背中の重みはそれとは違い、あの時差し出された手には
別の意味で泣かされ、支えられる。だけど姿形は変わっても、想う心だけはずっと一つだけだ。
「だ……いちゃん、そろそろ……」
「えっ?……まだ……」
「欲しいの」
 あなたが欲しい。
 追い掛けて追い付いてやっと差し伸べて貰えた手を、今度はあたしが掴んで引き寄せて抱き締めたい。
「あたしに……還ってきて?」
「……俺、帰って来れたんだ。お前が居てくれて良かったな」
 待ってて良かった。
 だから、ここに。
 ぱたんと枕に頭を乗せて倒れ込むと、座って待ちの姿勢にいたあたしをちょいちょいと手招きする。
「たまには襲って?」
「えっ……あ……でも」
 ゴムのお帽子を被った息子さんに跨がらさせながらも、先にある姿見が気になって仕方がない。
「あの、あれ仕舞っちゃだめ?」
「だぁめ」
 ぐいっと下から頭を突き上げて押し込んでくる。
「欲しいって、これが?」
「ふ……ぅあ、ん」
「言わなくてもわかるよな?なんか、もう」
「うん」
 がくがくと頭が壊れそうなくらい振って頷く。ほんの少しだけ、日にちが開いた分受け入れるのに戸惑っただけで、後は
ずぶずぶと溢れる密に絡み付かれたそれがぴったりと鞘のように収まっていく。
「俺専用だからな。ぬまでこれ一本でよろしく……」
「いっぽ……そっか……そうだよね……ん」
 知らないんだよね。大ちゃん以外のひと。
「お互い様なんだけどな」
 口元を歪めつつ跨がった躰をしっかりと支えながら腰を揺らして呻いてる。

252 :
「うっそ」
「言わなかったっけ?」
 彼女がいなかったとは聞いたけど、そういうコトはそれとはまた別の話かと。けど、大ちゃん
ならありなのかなぁ?
「だって……あっちゅー間に手出されたし」
「嫁にするって決めたとこだったから。それにさぁ……こんな良いもん目の前にして餓すんのは辛いぜ」
 手を伸ばしてきたのに応えて前屈みにすると、支えるように出した手はしっかり胸の膨らみを押さえる。
「……触れなくて辛かった?」
「そりゃもう。まあすぐ取り戻すから」
「簡単に言う……んっ……あ……」
「がっつく程美味いんだから仕方ないし」
 下から突かれる動きに合わせて腰を前後させると、大ちゃんの手のひらに押し当てられた胸の肉が圧迫されて潰れて、腰を
引けばまた緩んで戻る。
 擦れる肌と肌の摩擦にあそこまでじんと痺れが伝わって、堪らずに背中を反らして天井を仰ぐ。
 目を瞑っても、ぐじゅぐじゅと滴る淫らな音がそれを連想させる。
 うっすらと開けて見る目には、鏡の中の痴態が映る。
 惜しげもなく広げきった脚の付け根から赤黒い彼の一部が抜き差しされる様子が、これ以上なくしっかりと見える。
 いつもなら組み敷かれて貫かれる自分の躰が、今は反対に呑み込んでいる。
 漠然と憧れとして想い描いていた結婚生活というものが少しずつ現実に近づきつつある現在、更に無知であったあの頃の自分が
この様な営みを目にすればどう感じるんだろうか。
 見下ろすその想い人は、喉を殊更に大きくうねらせ切なげに眉を寄せる。
「……大ちゃん、イく?いいよ……イっても」
「うっ……んっ……けど……まだお前……」
 いいって言ってんのに。下半身に力を入れて、より激しく腰を振る。
 荒い鼻息とともに小さく呻いて背筋を伸ばして震え出す躰を眺めて、押し出される膜越しの躍動に満足感を得た。
『戻ったら彼女になってあげよっか?』
 それもまた、発つ前の淋しさを誤魔化すための精一杯の告白のつもりだった。
『ミナが待ってられたらな』
 子供の戯れと取られたであろうそれを、守り続けて良かったと思えた。

253 :
* * *
「はーあ。ミナの生ケツ拝みたい……」
「ぶっ!?――何をいきなり!!」
 昨夜散々拝んだだろうが!
 味見途中で吹き出しかけたお雑煮の出汁をようやく飲み込んでから睨みを利かす。
「裸エプロンやってよ。後ろから乳揉んだり突っ込んだりしたい」
「あのね、現実問題として危ないから無理かと。刃物とか火とか」
「……ミナにしか頼めないのに?」
 そう来る!?
「んもう……今度。大ちゃん家でなら……ちょっとだけよ?ちょっとだけだからねっ!」
 しょんぼりと落とした筈の肩がもう思いっ切り立ち直り、しっかりと胸張って某芸人ばりに。一生一本て言われたら、
そりゃ断れないよね。過剰な変態プレイは断固拒否するけども。ええ。
 朝ご飯に急いで作ってみたお雑煮と、お母さんが置いてったおせちの残りを摘む。
「食ったら初詣行く?」
「うん」
 昼過ぎに皆が戻るはずだけど、あたしも出るかもって言ってあるから、戸締まりさえしとけば平気。
「お正月って感じだねぇ」
「ん。ミナとこういうの初めてかもな」
 そうだね。一応お互い実家住まいだし、二人でこんなふうに過ごした事なんか無かった。
「終わったらまた仕事に精出さなきゃ。春になったら畑も忙しくなるし、今のうちに決めときたいんだけど。……ミナ」
「ん?おかわり?」
 お雑煮をよそってあげる。
「また作って」
「いいよ。こんなんで良かったら大ちゃん家でまた作る」
「うん。つうか、来年もな」
「ん……うん」
「今度は除夜の鐘と共に年越しすっか。でもってそのまま姫初めに……」
「いや、それもう今年やったし」
「だから来年もやるの」
 お陰で年の頭から腰が痛いというのに。
「お前明日同窓会あるだろ?」
「うん。夕方から」
 とん、と薬指をつついて咳払いをした後早口でまくし立てる。
「年内にもう一回開こうぜ」
「へ?」
「次の正月はずっと一緒な」
 次も、その次もずっと?
「大ちゃ……」
「あと夜の畑仕事も大事だな。そのためにはしっかりと種付けを……あででで!!」
 無言で片足を伸ばし、電気あんま喰らわしてやった。

254 :
「ひでぇ。俺の耕運機になんて事」
「人をキャベツ畑みたいに言うな!」
 ある意味間違いではないけど。
「もうお婿に行けない」
「行く宛あるんかい!!」
「お前が言うなら」
「……婿になんか来ちゃだめ。あたしが行くの」
「……おいで」
 コタツの向かい側に移動して、広げた両手の中にもぞもぞと入り込む。
「一生大事にすっから。大丈夫、お前くらい食わせていける」
「その言葉忘れないでね」
 鼻声になってしまって、他にもっと気の利いた返事がしたかったのに言えなかった。かわりに首に腕を廻して引き寄せた
大ちゃんの唇に吸い……付こう……とした……ところで。
「ただいまー。実苗いるのー?」
 マッハの速さにて元の位置へ。ってどーゆー事!?
「あ、お母さんお帰り。まだ十時だよ?早かったね」
「お昼に約束があるって言うからー。昨夜寝る前になって思い出すんだもの。あ、今トイレ」
 お父さんめ……。後ろから弟達がひょっこり顔を出して来て、大ちゃんに気付いて挨拶する。
 あたしを迎えに来てそのまま朝ご飯まで食べていく事も珍しくはないので、今更誰も驚かない。ていうか大ちゃんがお年玉を
ちゃんと用意してあった方が驚いた。きゃぴきゃぴする妹はともかく、
「どうも」
とだけ無愛想な弟の態度はどうよ。
「いいよ。あいつの気持ちはわからんでもないから」
 春果姉ちゃんの時だろうか?ちょうどそれ位だった筈。複雑な男心はあたしにはわからない。
「じゃ、今晩お邪魔しますんで」
「いいわよ。あ、大ちゃん。お帰りはあちら。今度は玄関から来てね」
 (; ゚Д゚)……。
 部屋の外にあった筈の靴がそこに。
「父さんが出る前に行きなさい」
 母、恐るべし。

* * *
「ね、似合う?」
「……悪代官ごっこしたい……ヴェッ!?」
「感想がそれか!!」
 振袖だから迎えを頼んだらこれだ。
「せっかく俺もスーツ着てきたのに……その使い方やめれっ」
 クリスマスに贈ったネクタイを手綱代わりに車に乗り込む。
「同窓会も終わったら電話しろ」
「うん」
 これくらいなら縛られても良いかな?
 ――貰ったネックレス、着けていこう。

―― 終わり ――

255 :
よかった。カコ出てくると思わなかった。ねーちゃんたちのその後とかも見てぇな…なんちて。

256 :
GJまたきがむいたら投下してほしい

257 :
GJ!オープンエロに磨きがかかったな〜
ミナのツッコミも冴えざるを得ないっていうかw
やっぱりいいなぁこのバカップル。周りも賑やかだし。ゴチです

258 :
GJ!

259 :
ほぁ

260 :
たぶん、M

261 :


262 :
投下待ち
もうすぐバレンタインだよねっ

263 :
>>261
たしか萌えコピのやつ

264 :
>>263
そうなんだ
>>260
もしそうならもう書き込まない方が良いよ

265 :
ほしゅ

266 :
ほーしゅ!

267 :
保守

268 :
今でも黒澤くんを待ってます

269 :
未完のものは、いつまでも続きが気になるよな

270 :
保守

271 :
保守

272 :
黒澤君のようなS男が好き

273 :
しつけえw

274 :
裏切り者藤林丈司

275 :
藤林丈司

276 :
黒澤くん懐かしいw
投下されたのって、もう4年くらい前だっけ?

277 :
ここの住人は狸のように執念深いから

278 :
タヌキって執念深いか?

279 :
冷静なツッコミにふいたw

280 :
動物のお医者さんネタだろ>執念深い狸

281 :
ちょびとひよちゃん

282 :


283 :
ホシュ

284 :
※志郎視点の話


 一度目を留めてしまえば、そこから視線を外せなくなってしまうのが解っていたから。
 だから逸らした。関わらないようにつとめた。
 それが決して正しい選択ではなかった事、ただ逃げていただけだったのだという事に気づいてしまった時には、
 それをそう認め呼ぶのには遅すぎた。

* * *
 昨夜はここのところ続いていた激務を終えて出た疲れのためか、いつもより早く床についた。そのせいかもしれない、と
普段なら押すことの無い目覚ましのボタンに触れながら隣で寝息を立てる塊に目をやり、また布団の感触の上に逆戻りする。
 あの頃、誰が想像出来たか。
 会話どころか、日常の挨拶すらまともに行う事の無いに等しかった相手が、こうして寝食を共にし果ては一生涯の伴侶と
成り得るなどと。
 まだ薄暗いカーテンの向こう側から聞こえてくる微かなバイクの音を聞きながら、瞼に残る心地良い重さに逆らわず目を閉じた。

* * *

『付き合って欲しいんだけど』
 ほんの冗談だった。
 何言ってんのバカ、とか、なにそれウケる、とか笑いながら返してくれればそれでこちらもそれなりの切り返しをすれば
済んだ話だったのだ。
 それが向こうの斜め上を行く行動によって、事態は重くなる。
 仲間達が離れた場所から覗いていたのを良いことに、適当に先程のような所謂予想通りの反応であった、と一連の下らない
悪戯の結果報告をしてそれらは終わりを迎えた。
 ――という事にしておいて、実は密かに続きが存在してあったのだ。
 言われた通りに3日待った。
『本気にとるとは驚いた。そんなわけないだろうが、馬鹿かお前』
 一言「冗談だ、すまない」と打ち明けていたら、もう少し違ったのだろうか。自分でも何故そこまで、と思う程酷い言葉を
浴びせた。
『あぁ、やっぱりぃ?だよね。やだ、あたしがあんたなんかに靡くわけないじゃん。そっちこそ残念でしたっ!!』
 絞り出すように喉の奥からぶつけてきた精一杯の強がりに、あいつは気づかれていないと思っていたのだろうか。

285 :
 
 そんなやり取りがあった数時間後の事だった。滅多に人の来ない倉庫の側の階段下で泣いている影を見たのは。
 震える身体を丸めながら、顔を突っ伏し声をして泣いていた。
 一見しただけでははっきり誰それと確信するのは容易ではなかっただろう。だが、その張本人である自分には誤魔化され様
が無かった。
 何も見なかった事にしてその場を立ち去れば、先に着替えを済ませてグラウンドへ向かう仲間達の姿が目に入る。
 練習前の和やかな談笑中の奴らの中には、今回の事件に密かに関わった者達の姿もあった。
 それを知っているのはそいつらだけだ。
 だが、それ以降そしてそれ以外を知っているのは俺だけだ。
 放課後の図書室の窓から時折、野球部の練習を覗き見していた存在。その視線が何を追っていたのかも知っていた。
 そして、知っていたからわざとコントローラーを滑らせて、さも悔しげに拳を握って見せた。
 結果、泥を被った。
『ごめん』でも『悪かった』でも言うべき言葉はあった筈だった。
 なのにその時俺は、自分にも解らないいら立ちに苛まれ、目の前の罪無く傷付けられ笑い物にされかけた人間に更に塩を
投げかけた。
 それを平然とした顔で払いのけながら、腹の中では崩れたプライドの瓦礫の中に震える両脚で踏ん張っている当の人間の
溢れ出した辛さを、否応無しに知らされて無視を決め込む事が出来なくなった。
 表面上は他の女子ともさほど接触のある方では無かったので、中でも特に「反りが合わない」という理由で避ける。
 HRでは「意見が合わない」と女子代表の看板を背負わされやすい奴と、議長として対立する事で馬の合わなさを見せつける。
 自分の意見というものを持っていて、人情に厚く頼りにされる。言い換えれば、人が好すぎる。考えすぎて逆に流される。
 だから、家庭の苦労も後々背負いこむことになる。
『秋姉には頭が上がんない』
 俺の前で頭を下げて見せた義弟の言わんとする意味が嫌という程身に染みている。

286 :
 姉の春果さんは、初孫という事で無条件に可愛いがられる立場にあった。そのためかおっとりとした性格で、柔らかな物腰と
地味目だが良く見ればなかなかの美人顔で、密かに憧れた奴らも少なくは無かった。
 弟の大地は待望の長男坊だ。親の掛ける期待もあったせいなのか、末っ子特有の我が儘さはさほど見られないが、大事に
手を掛け育てられたのだろうと、そののびのびとした性格から、人に好かれ、奴もまた人を好み和を成す様子から窺える。
 そんな中育ってきた真ん中の子供は、次女であるが故に多少の落胆と、過度すぎない期待の中、適度な干渉と放任とを
与えられ影薄く成長を遂げていた。
 そんな中で、家長である祖父のや姉の結婚が相次ぎ、過労が祟った母親に代わって嫌でも表舞台に立たなくてはならなく
なってしまう。
 表といっても、結局は家事雑用を切り盛りするというのは所詮裏方に過ぎない地味な役割なのだろうが、それを一手に
引き受ける者がいなければ、遅かれ早かれそこの家庭は崩壊してしまう筈で、それを食い止める為の重要なものだった。
 それら全てを引き受けたのだ。
 祖父の様態が思わしくないと介護にかかりっきりになった母親の代わりにそれが出来たのは、受験生の弟と年老いた祖母
を除けば自分しか居ないではないか、と。
 本来頼りになる筈の姉は、進学により地方に出てしまった。その上予想外の懐妊による帰郷を果たし、祖父の没後は介護等
の疲れによる母親の不調によりそれらの負担は増す一方である中で、当の本人の身の振り方を考える時間さえ持てずにいた。
 姉も弟も、それぞれが自分の事で手一杯の時に彼女ひとりを犠牲にしてしまったと思っている。
『秋姉を大事にしてやってほしい』
 人懐こい犬ころのような義弟が、一つも笑いを覗かせぬ真摯な瞳で俺に挑んだ。それを破ればたとえ俺でも許しはしない
だろうという覚悟を含んだ頼み事に対し
『努力はする』
とだけ応えて終わった。
『志郎兄がそういうなら』
 俺にしては上等な挨拶だったようだ。
 真一文字に結んだ唇が一気にくしゃくしゃに崩れていく。
 元々の弟はいるが、新しいのは泣いたり笑ったり忙しい野郎だ。

287 :
 その義弟や早々と自分の道を見つけていた義姉の他にも、彼女を密かに見ていた者を知っている。
 当人はそれを上手く隠しきっていると思っていたようだが、生憎俺は気付いてしまっていたから、知らぬふりをするのに
苦労した。
 そいつに彼女が向けてきていた熱のこもった眼差しにも。
 だから俺は、ちょっと本気を出せば楽につける事の出来た点差を埋めるために手を滑らせ、実は両想いだった筈のそいつら
が互いに無益な傷付け合いをせずに済むように泥を被る決意をした。
 大事な友人を守る為とかいうようなそんな立派なもんじゃない。
 だったら最初からそんな下らない賭けなぞ乗らなければ良かっただけなのだ。それをしなかったのは、場を白けさせる事や、
そんな事で腰抜け扱いされる方がその頃の自分にとっては耐え難い屈辱だったからなのだろう。
 若さと勢いだけに任せた馬鹿な選択だったと思う。人を傷付けるという事の重さがまるで解っていなかったのだ。
 口では皆に優しい言葉を掛けてはいても、その実、最も残酷な方法で他人を突き落とした。偽善もいい所だ。
 野球部の土埃にまみれた練習の最中に、図書室の窓からちらちらとこちらを窺う女子の姿を見つけた。
 その視線の先が俺の傍の人間に向けられていた物であったというのも、解るまではそれ程間が無かっただろう。
 授業中の何気ない視線だったり、休み時間、教室移動の時や課外活動でも、すれ違いざまにそいつが居れば慌てて顔を伏せた。
 日頃のくそ生意気ないけ好かない態度とは違った仕草に、いつの間にかこちらの方が気持ちをかき乱されるようになった。
 奥手で大人しい俺の友人はそいつ以上に不器用で、これまた同じように目を逸らし、顔を合わせても話すどころか声すら
掛けられなかった。
 いつも大抵横にいて、大の男が耳を赤くして俯いている。気付かぬ振りをするのも面倒になりそうな程、そんな両者の
やり取りを歯痒い気持ちで眺めた。

288 :
 周囲に気を遣い、自分をし、結局は面倒ごとを起こしたり巻き込まれるのが嫌であったのだろう。今なら俺も解る。
同じようなもんだったのだ、俺もあいつも。
 何もかも筒抜けになりがちな田舎の空気の中にあって、たとえ家の中だったとしても、本当の意味で独りになる事は難しく、
泣く場所すら無かったのだろう。
 わざわざあんな場所に身を潜めて、搾り出すような声を手の甲に押し当てて堪えながら震える身体を、手すりの角を音を
立てないよう掴んで眺めた。
 あんなふうに思い切り傷付けられる程、真剣に誰かの事を考え、思いやれる人間に、俺は負けたと思った。適わないと
感じた。同時に、そんな者を浅い気紛れにあわせて傷付けてしまった事実を思い知り、初めて自分の犯した過ちを後悔した。
 それから暫くして、放課後の窓辺の影は現れる事が無くなった。
 時期的に、部活動の引退に伴ってというのもあったのだろうが、多分それだけではないのだろう。
 事実を知っている俺だけが、そのことに勝手に胸を痛めた。
 時は流れ、それぞれ別々のバスに乗り、これまでとは違う場所に通学するようになっても、元クラスメイト達は変わらず
軽口を叩き合って笑顔でじゃれ合っているのに、和やかなバス停の風景の中で、俺達だけは相変わらず互いを蚊帳の外に
置いているようだった。
 雨のバス停で偶然一緒になったあの日も、居心地の悪さだけが互いの空気を共通にしていた。
 単純な事だったのに、プライドが邪魔をした。それがいかに愚かな人間であると自分に思い知らされたのは、それから僅か
数日後の出来事だった。
 学校帰りに立ち寄ったのだろう、鞄の他にスーパーの袋を幾つか抱えた彼女の腕からそれを受け持ってやる俺の知らない
男を見た。
 傘どころか、この手すら差し出す事が出来ぬまま、俺のくすぶる気持ちはそのまま息絶えた。
 初恋は普通、幼い頃の誰かへの単純な好意を指すものが多い。
 だから、それをそう認め呼ぶのには遅過ぎた。
 だが、砂を噛むようなどうしようもない苦しみの中、本当の恋の痛みという物を知ったのは、それが多分初めてだ。
 だからそれは間違いではなかったのだろう。

289 :
* * *
「うわあああぁぁぁ!?やっば!どうしよどうしよ〜!?」
 キッチンの方から聞こえてくる。2人暮らしの朝とは思えんような騒々しさだ。
 ほっといてまた布団に潜ろうとしたが、時計を目にして考えを変えた。
「五月蝿いぞ」
「っ!?……ああ、ごめん。……おは……よう……ござります」
「イヤに丁寧だな」
 それに妙にしおらしい。普段なら急に話しかけるなだの脅かすなだの(お前と違って無駄な物音を立てないだけだ)と、
新婚の嫁とは思えない程可愛げの欠片も見付からん奴だが、なんだこの大人しさは?却って気持ち悪い。
「狙いは何だ」
「あるかそんなの!!……あ、いや……あの……」
 もう少し静かにさせてやるか。
「……今何時だ」
「みっ見りゃわかるでしょ」
「目が泳いでるぞ」
 やっぱりな。普段の威勢の良さが見る影もなく引っ込んで、顔面蒼白とまではいかないが、店先にこんな切り身が並んで
あったら例え値引きしてても買う気は失せるような活きの悪さだ。
「言い訳を聞こうか」
「目覚まし……止まってて。寝過ごしたみたい。あの……」
「ああ、もういい。今日は休むから」
 郵便受けから抜き取った新聞を手に食卓に着くと、困り顔で俺の様子を見ながら、まだ何も乗っていないまな板を手持ち
無沙汰に撫で俯いている。
「……行かないの?仕事」
 俺の言ったことが信じられないのだろう。まあ、当然だ。今日は月曜日だし、週の始めは何かと雑用が重なり忙しい。
 まして俺の仕事は、滅多な事がない限りやたらと穴を開けるわけにはいかない。どんな職業でもそれは言える事なのだろうが、
教師という仕事柄、特に模範を心掛けている俺が簡単にそれを覆す真似をするとは思いもよらなかったのだろう。
「……怒ってる……の?」
「あ?」
「だってそりゃ……」
 当然だろうと言いたいのだろう。自分のせいで労働意欲を損ない、仏頂面の男が目の前に陣取っているのだ。だが生憎、
俺は職務は真面目に全うするし、面は元々こんなだ。

290 :
 床を擦るスリッパの音も控え目に目の前に立つと、ぼそぼそと頭上から何ぞ語りかけてくる。
「何だ?」
 何となく嫌な予感がして、足元のオレンジのふわふわから伸びている脚から目を外すことがならなかった。と、微かなずずっ
と啜る音に混じってぽとりと染みるものがある。
「ご……めん……」
 ――ああ、まただ。そんなつもりじゃなかったのに。何度繰り返せば解るんだろう、俺は、――お前は。
 一番嫌いなんだ、その顔がな。何より、武器として手段として持ち出すでなく、本当の本心から絞り出すようなその痛さが。
「やめろ。らしくねえ」
「だって!」
 ふーっと腹の底から息を吐く。この深い記憶の奥から這い出して来そうな鈍い苦しみの辛さからまともにダメージを
喰らわずに済むように。
「お前のせいじゃない」
「けど、あたしがちゃんと起こせなかったからだし。今からでも急いで、じゃないと……」
「大丈夫だ、クビにはならん」
「そんなのわかんないでしょうがっ!!」
 だん!とテーブルを叩く。もう戻ったか。早いな。
「もう恐妻に逆戻りか」
「誰がだ!ああもう、あんたが居ないと困る人いっぱいいるんじゃないの?今日授業ある曜日じゃないの!?……怒ってるなら
 何べんだって謝るから……」
「機嫌取ってくれるわけか」
 しまった!と言わんばかりの表情を固めて顔を赤らめる。そーっと腰を引き気味に後退りそのまま逃走――といきたい所
だろうが。
「残念だったな」
「うっ!?――はな、や、ちょっとおぉぉ!!」
 単純なんだよ、お前は。面倒事を背負い込んで隠すのは得意なくせして、そこから逃げるのはてんで下手くそだ。簡単に
罠に嵌って捕まりやがる。疑い深いが情にも深い。素直な奴だと考えればそうとれなくも無いんだが。
「馬鹿なんだろうな、やはり」
「何ぃっ!?」
 沸騰するのも早いが、この顔は嫌いじゃない。
 泣くお前が嫌いなんじゃない、泣いた顔が駄目なんだ。それ以上にそんな事をやっちまう俺自身が俺は一番嫌いなんだ。

291 :
「何してんのばかっ!そ、んな、ひま、あるな……ら、早く学こ……い……けっ……んっ」
「怒るか感じるかどっちかにしろ」
「ば……かぁ……誰のせ……」
「機嫌取るんだろ、俺の」
膝の上に抱きかかえた秋穂の唇を塞ぎながらエプロンの上から当たりをつけて指を動かせば、面白いくらいに正確にその
位置を知らせてくれる。だが、離すとすぐこれだ。もう少し大人しくして貰うか。今は、な。
「ん……んっ」
深く呑み込むように押し当て差し込んだ舌は、スムーズにその中に入り込み向こうの物と絡み合う。何だかんだ言ったって、
本気で拒絶された事は、無い。
 その証拠に、初めは強張った躰が特有の柔らかなふわふわとした温もりに戻っていく。それを感じ取ると同時に、捕まえた
俺の腕の力も緩む。逆に、しがみつく秋穂の指先から伝わる痺れるような震えはどんどん増してゆく。
 こうなりゃこっちのもんだ。
 パジャマの裾を手繰り上げ、下から上へ向かって肌に指を這わせる。
 重なるエプロンの裾が邪魔だが強引に捲り上げ、もう何度も見た中身を頭に思い浮かべながら触り慣れた躰の線をなぞる。
「やっ。こんなところで……」
「ベッドなら良いのか?」
 ヤるのは否定しないんだな、と言うのは何とか堪える事が出来た。いらん事で気を削がれても困る。
 しっかり反応してしまった下半身に、またもや困った顔で居心地悪げにごそごそと腰を動かす。
「おい、やめろ。 痛え」
「えっ!?ああごめ……だったら降ろしてよ!」
「終わればな」
 中途半端に腰掛けた秋穂の脚を開かせ、向かい合わせに膝に跨がらせて体制を整える。嫌がる顔を見るのは好きじゃないが
、それが嫌悪をもっての物か否かは、その赤々しく膨れた頬を見れば一目瞭然だ。
「邪魔だな」
「……もうっ」
 背中のボタンを外してやると、片手で俺に掴まりながらエプロンを空いた手で持ち上げ頭から引き抜こうとする。真似して
片手で抱きながら空いた手を貸して引っ張り上げてやり、秋穂を振り落とさぬよう注意しつつエプロンだけをそこらへ投げる。
 なかなか面倒だな、これは。

292 :
「ねえ、これ、キツいんだけど」
「また太ったか」
「またとは何だ!……ったく一言多いんだよね。肝心なコトは言わないくせして……」
 ぶつぶつと呟きながら俺の首に腕を回してぎゅっとしがみつく。
「落ち着かないの、これ」
「たまには悪くはないと思うが」
 ズボンの中に突っ込んだ手をさらにその下の布地の内へと忍ばせる。丸みに沿って尻を撫でると、耳元で小さな悲鳴が上がる。
 首筋に顔を埋め、俺の襟を噛んだ。我慢するつもりらしいがそうはいくか。
「んくっ!?んっ……ふ……ぁっ……んーっ」
 尻にあった手を強引に互いの躰の間にねじ込み生地の上から胸元を弄る。
 びくりと一瞬反らせた喉元を見逃さず、顎を押しつけ隙をみて首筋にかぶりついた。
 軽く半開きの口から覗かせた舌を這わせれば、ぶるっと震えて首を竦めて逃れようとする。
 それをさせないために腰を抱いた腕に力を込めながらずらせた唇で互いの声を塞ぎ合う。
 濃密なキスとはこういうものかと、こいつと一緒になってから度々思わせられる。
 これまでにだって恋人と呼べる相手が居なかった訳ではない。それ程モテたという自覚は無いものの、自ら行動を起こした
のは秋穂が初めてだ。だから、どの様にして女性を口説けば上手くいくのか全く想像がつかなかった。
 少しでも自分に好意があると思えればまだしも、かなりの率でそれとは逆の意識しか向けてはくれないであろう相手に、
必で振り向いて欲しいとアピールしたつもりだった。
 だが、俺の方が場数を踏んでいるに違いないというのに、完全に負けていた。これまでだって自分なりに相手に対しては
誠実でいたつもりだ。浮気などした事もないし、時間も作って会う努力もした。
 だが、それは全て相手の要求に流されるまま従っていただけに過ぎなかった。いつしかそんな受け身だけの姿勢に向こうの
方が先に嫌気が差し、ふられる。始まりが相手なら終わりもいつも同じ様に相手によって訪れる。
 それが今ではどうだ。追い掛け捕まえるまでは良いが、更にそいつに囚われるとは。

293 :
「知らないだろうな、お前は」
「う……ん?」
「いや、いい」
 密着した躰の中心がいよいよ疼き出す。俺のそれに乗っかるように跨がった秋穂に向けてわざと腰を突いてやる。
「んっ……
 あの日――やっと巡ってきた絶好の機会に、俺がどれだけ心を躍らせたか。
 数年振りの再会と、数年越しの苦い記憶が、どれだけお前への歯痒い苛立ちにも似た想いを再認識する事になったのか。
 ――甘さなど、微塵も感じられないものだった。苦くて酸っぱいだけの出来損ないの蜜柑のような。
 実らないというそれを、俺はどうしても手に入れてしまいたかった。遠くから眺めていただけの青く未熟な果実は熟れて
色づき、慌てて手を伸ばした。どこかの奴にもぎ取られる前にと、懐へ隠してしまい込んだ。
 焦る気持ちを必に隠して。
 ――体や年齢だけが大人になっても、中身だけはまるっきり思春期の餓鬼の頃と何ら変わりは無かったのだ、俺は。
 いい歳をしてまともに女一人口説き落とす事すら叶わないなんて、格好悪すぎて言えやしねえ。
 にしても、そろそろ毒だな、この体勢。
 密着するのは良いが、動きにくいわ、触りにくいのも程がある。何より、ブツに当たりっぱなしの秋穂の躰の熱がさっさと
それにぶち込みたい気持ちに駆り立てられる(口に出すとこいつは怒る)。
「布団入るか」
「えぇ!?朝っぱらからぁ!?」
「ならこのままやるか」
 秋穂の躰を膝から下ろし、ズボンのゴムを引っ張り下ろそうとするが、腹をくの字に曲げたり手で払われて拒否される。
「やだバカ!何考えてんのよ。ていうかそんなコトしてる場合じゃな……」
「仕事なら心配ない」
「はぁ?それってどういう……」
 説明すんのも面倒臭くなってきた。
「後でな」
 一刻も早く事に及びたくなった俺はさっさと寝室に戻り、ベッドに腰掛けた。暫くして、諦めて肩を落とした秋穂が大袈裟
に溜め息をつきながら頭を掻きかき後を追ってやって来る。こうなりゃ俺が引かないというのを解っているから、諦めの心境
なのだろう。もしくは呆れているのかもしれないが、んな事ぁどうだっていい。
 本気で拒否られなけりゃ良いだけの話だ。

294 :
 まだ遮光カーテンを引きっぱなしの寝室は昼間でも薄暗い。それも寝坊の理由になると思う、とぶつくさ文句を言っている。
「だからって言い訳するわけじゃないけどさ……」
「解ってる」
 それは俺がよーく解ってるから気にするな。
 ベッドに乗っかってきた秋穂の腕を引き、少々乱暴に転がしてのしかかる。
「や……んっ……んん」
 五月蝿い口は塞ぐに限る。強く押し当てた唇をほんの少し引くと、秋穂は開き気味にした口元から小さく声を漏らす。
 それについては残念だが、それ以上にこの先を楽しみたい俺は、塞ぎすぎない程度に合わせた唇から舌を覗かせてあっちの
口内へと侵入を試みる。
 絡ませた舌の感触を味わいながらパジャマの上から胸を弄ると、仰向けに広がり気味の膨らみの一部にあたる堅い突起を
探り当て、ボタンを外すような指先の悪戯な動きに合わせて躰を跳ねさせもぞもぞと悶えては捻る。
 鼻に掛かったような甘ったるいとでも言うのか、通常の姿からは想像のつかない声が唇の隙間から息継ぎするのと一緒に
漏れてくる。
「ひゃ……ぁぁぁっ!?いや、んぁ……っ」
 キスするのを止めて首筋に息を吹きかけると、びくびくと仰け反って震える。
 ――もう出来上がってきたか。事に持ち込むまではムードもへったくれも無いもんだが、一旦その気になると驚く程豹変する。
 普段はどちらかと言えばツンツンと無愛想な可愛げの無い(と面と向かって言えば『どっちが!』と返って来るだろう)
女だが、
「ちょ……っだめぇっ……」
「無理言うな」
ボタンを外して晒そうとした胸を覆い隠そうとする。今更何だ。こんな時になってしおらしくなっても遅えんだよ。
 当然の事ながら聞こえない振り(無視とも言う)でぷっくりと勃ち上がったピンク色の乳首を摘むように指先で弄んでやる。
 はだけた肩から耳元にかけて唇を這わせながらつんつんとつつき回して転がすと、
「んんん――っ」
と耳まで朱くして顔を背けて上半身を反らす。
 きゅうっとシーツを握り締めた手に俺の手を重ねてやると、びくっと身を震わせこっちを見るが、耳朶を噛んでやると、
へなへなと力が抜ける。面白ぇ。

295 :
 鎖骨からゆっくりその下の膨らみかけの肌に唇を落とすと、少しずつ吸い付く力をこめてキスする。
「――!!いた……っ」
 柔らかな丸みに盛り上がりかけた裾野との境目に狙いを定め、ほんの少しのつもりで立てた歯に顔をしかめ睨みを利かせる
秋穂の顔を上目遣いに確認する。
 腕を伸ばして見下ろした肌にくっきりと浮かぶ朱い跡を認めてから、残りのボタンを全て外していき、自分のものも脱ぎ
捨てる。
「すぐそういう事する!!」
「お約束だろ」
 痕を付けたがる俺をこいつはすぐ変態呼ばわりしやがる。自分のもんに印を付けて何が悪い。
 文句を言いつつも、脱がし易いよう身体を起こし、ズボンに手を掛けると、なかなかのタイミングで尻を浮かせてくる辺り
意外に協力的だとは思っていたが、
「……人の事スキモノ呼ばわりするには説得力に欠けるんじゃないのか、おい」
「なにが……?……あっ」
膝まで引き下げたズボンの下にある物に注目する俺に気付いたのか、にわかに焦りだす。
「やってくれるじゃねえか」
「違うの、えと、それはっ……」
「どう違うんだ」
 さっさと剥ぎ取って投げ捨てたパジャマの下から現れたのは、薄紫のショーツ一枚。
 両脚の間に躰を割り込ませ、中心のつるりとした生地を中身の筋に合わせて指の腹でなぞってやる。
「俺を誘う気まんまんじゃねえか」
「んなわけっ……ない……でしょっ」
「じゃあ誰に見せんだ」
 だったらあの色気のねえパンツはどうした?
 週末や休み前日になると、かなりの確率で俺はこいつを押し倒す。それがわかってるからか、結婚祝いと称した悪ふざけで
女子どもがプレゼントしてきた大量の勝負パンツとやらで迎え撃って来やがるようになった。
 亭主を喜ばせるような殊勝な女と言うよりは、かかってこいと言った感じなんだろう。本当の意味での勝負下着か。
 その証拠に、たまに平日の気まぐれで押し倒してみると、間違い無く安物の機能性重視のパンツなんか穿いてやがる。
本来の姿なんぞそんなもんだ。まあ、脱がしゃ一緒だから関係無いがな。

296 :
「……っひ」
 ビクンと一瞬だけ大きく跳ねて、後はその躰を小刻みに震わせながら悶える。
「や……ん……あっ」
 頭の上から後ろにかけて、くしゃくしゃと髪を撫でる秋穂の手の重みがする。
 俺の舌の動かし方に合わせてそれは同じ様に変化する。
 息遣いと、時に押さえつける様な秋穂の指の力と、徐々に甲高く降り注ぐ声とが乱れ方を解らせる。
 冷静にその流れを眺めていたつもりの自分が今度はそれにはまり込んで、目にするもの触れる所全て味わって堪能する事に
夢中になっていく。
 男だから、女という生き物を征服したいのは本能からくる当然の欲望なんだろうが、それ以上に秋穂の感情身体含めた全て
を手に入れていたいと願う気持ちは俺個人の下らない独占欲の塊の成れの果てなのだろう。
 俺の知らなかった空白の時間、向けて貰えなかった眼差し――それらを取り戻すべく、何度躰を繋げてでも埋め尽くし
たい。
 俺ではない人間に与えられたこれまでの何もかもを、削ってえぐり取って、全部塗り替えて。
「秋穂」
 既にされるがまま身体中撫で回されでへろへろになった秋穂を見下ろしながら、レースの縁をなぞりつつそろそろこれも
脱がしてしまおうかと思案し声を掛ける。
「ん……」
 ふいに両手を伸ばして俺の首に回そうとする素振りをした。
「何だ?」
「う……んっ」
 むうっとむくれて突き出した唇に、頭の中の何かがぷちっと弾けた気がした。
 こいつはっ……!!
 腕を曲げると、秋穂に掴まられるように引き寄せられ、その唇を塞いでやる。
 布越しにぶつかり合う下半身の熱さが耳から脳天まで突き抜けそうな気がした。
 まさかだろ!?思春期の餓鬼じゃあるまいし、たかが――口づけ一つ強請られた位で。
 顔を上げ、躰を起こすと迷い無く薄紫の布地を剥ぎ取る。
「ちょっ、志郎!?……っ!!いやぁっ――やぁあぁっ!?」
 今日聞いた中で一番の泣き声がした。

297 :
 確かめるまでもなく既にトロトロになってしまっていた筈の場所に差し入れた舌は、潤いすぎた秘部を更にぐちゃぐちゃに
掻き回すべく忙しなく裂に沿って滑りゆく。
「ひぁっ……ふっ……ああっ……やあんっ……いいっ」
 どこのエロ女優だと訊きたくなる位の勢いで身を捩らせて喘ぎまくる。
 これをたった一度でも見たかもしれない奴が居るのが腹立たしい。
「秋穂」
「な……に?」
 気怠く絶え絶えの掠れた声に頭を上げると
「んなとこから覗くな……もうっ」
と文句を付けられ躰を起こす。
 秋穂の両脚を掴んで広げたまま折り曲げ中心に収まる。
「俺を見ろ」
 剥き出しになり濡れそぼったそれにまだ下着越しの俺のモノをあてがって擦り付ける。
「み……てるじゃん」
「どこをだ?」
「どこって……」
「これが要るんじゃないのか、そろそろ」
 硬さに任せてぐいぐいと押し付けると、荒い息遣いに紛れた小さな悲鳴のようなものが混じる。
「何言い出すのかと思えば……っ」
 羞恥の中に入り交じる怒りを軽く覗かせて、ふうっと溜め息のような呼吸をした後また俺を睨んだ。
「答えてみろ」
「やだ!」
 むっと湧き上がる気持ちを抑えられず、強く擦り付けて躰を押さえつける。
「やっ……何!?いやっ……志」
「欲しいなら言え」
 押し当てて湿り気を帯びた自分の下着をとり、秋穂の股に当てた手を動かす。
 クチュクチュと指に絡みつく愛液を充血した突起に塗りたくってやると、目を瞑りながらいやいやと髪を振り乱して叫ぶ。
「イっても良いんだぞ」
「ばかっ!!―――きゃあっ――ぁ」
 だから秋穂。
「俺を見ろ」
 しっかりとその眼で。お前を喰らって犯す男の面を。
「み……てるじゃ」
「あ?」
「あんた……こそどこみてっ……ああっ!!」
 ぬるりと滑り込ませた指でついついと壁をつつくと、その腰を引きつつ脚に力が加わっていく。
 引っ掛けたままの薄紫のくしゃくしゃの布きれごと掴んでいた足首を手放し、そっと指を抜いた。

298 :
 ぼんやりと泳がせていた眼をこっちに向けると、にわかに睨み付けて大袈裟に息を吐く。
「怒ってんのか」
「……呆れてんの。つうかもうそんな気力ない」
「ああ?」
「言われなくたって見てるわよ!」
 汗を浮かべた額に引っ付いた前髪を鬱陶しそうにかき上げながらぼそりと呟いた。
「あたしあんたの嫁だけどっ!?」
 本当に――やってくれるじゃねえか、こいつはよ。
 色々言いたい事は他にだってありそうだが、その溜まった鬱憤を全部吐き出して貰っても凹まないで居られるであろう位の
自信を俺に付けさせる程に、膨れっ面の潤んだその真っ直ぐな瞳には、はっきりと、住み込んで居る自分の顔がある。
 これが欲しかったんだ、俺は。
 揺るぎない、一途で迷い無く返してくれるその――不器用で輝かしい眼差しが。
「秋穂。……いいか」
「いちいち訊く?」
 だよな。らしくねえ。
「……しい」
「あ?」
「志郎が欲しいって言ってんの……言わせる?ばかっ」
 なん……だ……と?
 それというのも、秋穂、お前のせいだ。
 何だってお前という奴は、良い具合に俺の期待を裏切り、予想を外してくれやがるんだ。
「――はぅっ……く……ぁ」
 ぴたりと押し当てた場所へと入り込んでいくモノは、初めの苦労が嘘のようにすんなりと奥の奥までくわえ込まれていく。
「やぁ……あん……ぁ」
 確実な箇所を探って押し引きする腰に合わせて、自らの躰を捩らせ脚を絡ませて捕まえようとして来る。
 いつからこんなエロい女になったんだお前は。最初の日は泣きながら抜いてくれと懇願してきやがった癖に。
「や……抜かないでぇ……しろぉ……」
 抜かねえよ!というか何だお前は。
 ぐいぐいと深く抜き差ししながら、見ているだけだった根性無しの馬鹿な自分を思い出す。
 あの頃下らない自尊心をかなぐり捨ててお前に挑んでいれば、誰より先にこうしてお前を“泣かせる”事が出来たんだろうか。
 ひいひい泣きながら俺を呼ぶ秋穂を見下ろしながら、俺はつくづくこいつのこういう泣き顔は好きなんだな――と
 戻らない時間を埋め尽くすべく
 思い切り秋穂を抱き締めた。

299 :
 あ、やべえ……。
 ほんの一瞬素に戻った頭を働かせ、サイドボードの引き出しからコンドームを取り出すべきだったのを思い出した。
 いつ孕ませても構わないと思いつつ、安全と思われる日には避妊を怠る時もあった。子供が早く欲しいという気持ちも
あるにはあったが、何より秋穂を繋ぎ止めたいからだというのが第一の理由だったからに過ぎない。現にこれまで別の相手と
そういう機会があっても、そんなやり方に踏み切った事など一度も無かった。考えに及んだ事すら無かったのだから。
 けれど、やっと手に入れた所謂恋女房――とでも呼ぶのか――との誰彼憚る事無い生活を手にする事が叶ったのだ。あと
もう少しだけ、それを楽しんでも良いのではないかという余裕らしき物が心の奥に湧き上がりつつある。
 なのにこのテンパり振りは何だ。これじゃ、童貞丸出しの高校男子だろうがまるで!!
「志郎?
 肩を上下させ息も絶え絶えに俺の姿を捕らえる眼を見下ろす。
「……お前は、俺の事を」
「そんなの言わせない!解りなさいよ……バカ。そっちこそ」
「うるせえっ」
 言わせんな。
 解れよ、馬鹿。

* * *
「うわあぁぁぁ〜〜〜〜!?」
 今度は何だ。
 ぼんやりした頭をもたげて枕元の時計を覗き見て納得した。
「どうしよどうしよ……もう昼じゃん!!うわぁぁ〜何で朝っぱらからヤっちゃったんだろうあたしのバカ、志郎の大バカ!!」
 おい、何で俺だけ大が付くんだてめぇ。
「今更ジタバタすんな。大丈夫だと言った筈だが」
「!?……っ、な、何がよぉ、む、無断欠勤で良いわけないでしょうが!このご時世只でさえ風当たりのきつい商売に、んな
 呑気に構えてる場合かぁ!?大体のんびり寝てる場合じゃ」
「一緒に二度寝しといて言う台詞か」
 あ、黙りやがった。仕方無いが事実だからな。それにしてもこのままじゃ落ち着かねえ。そろそろ許してやるか。
「秋穂」
 あわあわと裸を布団で隠しながら(だから今更と言うのに)パジャマをかき集めようと必になってる奴を力一杯抱き寄せた。

300 :
紫煙

301 :
「んな?なに?」
「今日は良いんだよ、仕事は」
「は?何言ってんのあんたは!良いわけないでしょ!?ちょ……離せ、も、もう今日はシないんだからっ……」
「代休を貰った」
 腕の中でもがいていた秋穂がぴたりと動きを止め、ぽかんとした面で見上げてくる。
「……なん……だって?」
「俺に休みを与えないつもりか?」
 呆けた顔が徐々に目をつり上げ、まるっきり別人の如くその形相を変える。
「今日は休むと言ったろうが」
 日曜返上で行事に参加したんだ。翌日は代休を与えられる場合が多い。
 悔しいんだろう。真っ赤な顔で鼻息荒くぷるぷる震えてやがる。全く色気の無い。闘牛の牛だなまるで。
「この鬼畜!ペテン師!!ドS野郎がぁ!!」
「いや、案外Mかもしれんぞ」
「どの口が!?」
 お前を悲しませて泣かすのは好きじゃない。
「そう言うな。晩飯、予約したから食いに連れてってやる。」
「食べ物で釣る気かぁ!?」
「お前、今日何の日か忘れてんのかまさか」
「まさか!……何よ肝心な事はいつも……」
 だが、そうやって膨れて拗ねてみせるお前の怒り顔を見るのは嫌いじゃないからなんだ。
「そうと決まれば、もう一戦交えてもまだ余裕はあるな」
「うっ――嘘でしょお!?」
「ここんとこ忙しくてお預けだったんだ。その分ヤり溜めさせろ」
「やだ何その表現!あたし聞いてないっ」
 逃がすか。昨日の夜も疲れてそのまま寝ちまったんだ。そっちの分も取り戻してやる。
「げ……元気過ぎない?」
「当たり前だ。まだ現役だぞ俺は」
 何でだろうな。秋穂を見ると餓鬼に逆戻りする。頭が煩悩だらけの頃と同じ仕様になってしまう。だからもしこいつで
ヤれなくなったとしたら、俺の男としての役目は終わりという事になるのかもしれん。
「やぁ……だめっ……もぉ……無理ぃ」
「安心しろ、また好きなだけ泣かせてやる」
 初めてこいつをモノにした日が、俺達の始まりの日でもあったというわけだ。
 アテにならないものもこの世にはあるものだとつくづく実感した。

 ――初恋は、実りの無い恋だというから。

――終――


302 :


303 :
いいねえ。GJ!

304 :
わぁぁぁずっとまってたよ!!!
相変わらず素直になれない正直者の志郎GJw
やっぱ秋穂志郎良いなぁ…

305 :
GJっした!
この二人好きだなあ

306 :


307 :
ほしゅ

308 :
再開から志郎が秋穂を餌付けして、初めて事に及ぶまでが読みたいです。

309 :
再開じゃなくて、
再会でした…。

310 :
なんて良スレ

311 :
天才の俺のSSを投下するぜ!!なんせ天才だからな!!
 狂宴高校の怪
 四年前・・・俺は家にいた。その時のノマルは異常なんてなかった・・・。何であんな感じになったんだ?
 いや・・・うっすら思い出した!ノマルがおかしくなった日、俺はとある人に会ったんだ!
 中学校に通う途中、その人は俺の前を歩いていた。
 ・・・妙に筋肉質だな・・・。その人は後ろの俺に気づくと、道を譲ってくれた。
 何だ、優しい人じゃないか。筋肉質な人は悪いなんて考えはやめようかな。
 そして俺はその人の前を通った。すると・・・。

「道を譲ると思っていたのか!?」

 グサッ!

 空が真っ赤に染まった。あぁ、左目を切られたのか?顔が真っ赤になっているのが見ないでもわかる。あぁ・・・俺、どうなるのかな・・・?

「お兄ちゃん!お兄ちゃん!」
 手術室に行くまでの道で、ノマルの声が聞こえた。あぁそうか・・・。愛する兄を傷つけられたこの瞬間にノマルはおかしくなったんだ・・・。くそ・・・。俺は妹を・・・。


「という夢を見ていたんだよ!」
 誰もいない部屋で俺は一人、PCに自作物語を書いていた。
 友達なんかいない。たった一人の妹は俺の顔に包丁で傷をつけ去っていった。
 理由は簡単、俺がいたら俺の幼馴染みであるシドウと一緒になれない。
 だから妹は部屋のドアを接着剤で固定して、足を砕き、顔を切り裂いて、家を出ていった。
 そんな俺の過去を面白おかしく書いてみたが、単なる自己満足で終わってしまった。
 やれやれ、そろそろ寝ようかな・・・。
 書き込みボタンを押して、俺は眠りについた。贅肉が邪魔で眠りにくいな・・・。

 夢を見た。荒野に一人立っていた俺は空を見た。
 見えるのは光の球体みたいな物。それはゆっくりと俺に近づいてきた。
 光に包まれる瞬間、声が聞こえた。
「俺は悪魔だ。」
\デデーン/


312 :
天才あらわる

313 :

\デデーン/
腰が砕けた 全文読んでないwww 

314 :
>>308
それ、存在しますぜ。
ここがヨソを紹介していいのかわからないから、取りあえずあるということだけ書き置く。

315 :
私は震えていた。初めてではないのに、子供が生まれて忙しない毎日の中で、欲求さえも忘れかけていた日々の中で。
罪悪感だからだろうか。そう、私は悪いことをしている。でも許して、このほんの一瞬を。
私は利己的になって杭に貫かれる罰を受け入れる。彼は私を透明できれいな少女のようにしてくれるから。

なんて繊細な仕草なんだろう。ブラウスの袖口をほどきながら、彼は手首の筋を唇で追う。指先をなぞりながら薬指、小指。紛れもなく今までと同じ、記憶に刷り込まれている男性のかたさを感じながら、でも、彼は違っていた。
なんていうか、やさしい。まるで、大切な調度品を愛でるかのように、私を覆う飾り物を剥がしていく。
貴方のために似合わないおしゃれをしたよ。いい歳をして、笑っちゃうよね。
でも、彼は笑わなかった。目を合わせると微笑んで、唇を重ねた。熱い粘膜から流れ出す愛液が混ざっても、やっぱり彼はやさしかった。そっと手を握り、耳元を撫で、ゆっくりと精一杯私と交じり合おうとする。
胸が高鳴って、頭の芯がしびれて、私は恥ずかしさを失い一心不乱になった。まるで、それだけで達することを望んでいるかのように、どこまでも、いつまでも、彼を受け入れて、彼もまた私を受け入れた。

316 :
彼は私の顎にキスした。彼は私の頬っぺたにキスした。彼は私のまぶたにキスした。
こんなにも性欲に溺れたのはいつ以来だろう。
息を荒げ、みっともない声を出さないように、懸命に彼の動きに合わせる。現実の遠退いていく感覚の中で胸が痛んだ。雨に打たれた木枯らしの中で、大切な宝物をなくした子供のように。
私は泣いていたのかもしれない。
彼はそっと私を包み込んで、耳元に囁いた。
すきだよ。だいすきだよ。
きみの笑ってる顔が、ぼくのおひさまだよ。
彼ともう一度目が合うと、やっぱり彼は微笑んでいた。今度は私から彼をせいいっぱい愛した。今は交わることだけでいい。彼と泥のように求め合って、溶ける。

(続く?)

317 :
その「続く?」の打ち方・・・
もしや?

318 :
>>314
ここの板の違反?
このスレの違反?
このスレでの違反なのか分かりませんでした。
迷惑でなければ、知りたいのですが捜索のヒントを教えていただけないでしょうか?

319 :
解決しました!見つかりました。
>>314教えていただき本当にありがとうございました。

320 :
>>315
なんか続きが気になるな
続くの?
続いてほしい

321 :
「今日は特別な日なんですか?」
「え?」
「なんとなく。窓の景色を眺めてる雰囲気がそうかなって」
「ええ・・まあ・・・・」
「桜ももう終わりですね」
「そうですね。本当に儚くて」
「でも、こんなに記憶に残る花はないと思います。それを見ている人たちの顔も」
「鉢植えですか?」
「そう。うっかり置く場所もないのに買い過ぎちゃって」
「では、いただきます。ちょうどその窓の側に。ふふ、やっぱり花が好きなんですね。あなたはこういうときとってもやさしい顔をする」
「・・・べ、べつに・・・そんなでもないです・・・・・・」
熱くてからからだった喉は、いまはねっとりとした唾液にあふれている。
身体に触れられながら、ひたすらに舌を絡ませてしびれるような前儀に没頭する。まるで昔に還ったようだった。でも、あの頃にこんなに気遣ってくれるやさしさは感じなかった。私は地味で華のないオンナ。好きだと言ってくれるだけで、それだけで全身で応えようとした。
でも、彼は違うようだった。私の気持ちをむしろ、いいから、大丈夫だからと言わんばかりに柔らかに押し留める。
彼は急がない。私はまるで処女だった。肩や首元や、鎖骨やうなじ、背中や腰や足の指先まで。すべての場所を唇で愛され、その度に身体を大きくビクつかせた。
最後の。最初で最後の行為だから、私は真っ白になる。精一杯彼を求めて、これまでの想いをすべて無に返そう。

322 :
草花に水をやる。太陽が、青空がこんなに気持ちよかったなんてずっと忘れていた。
「いつの間にか鉢植えが増えてしまいましたね。こんなに素敵な店構えになるなんて、思いもしませんでした。さ、休憩ですよ。中へどうぞ」
「今日はなんのコーヒーですか?」
「それは内緒のスペシャルブレンド。またの名をコーヒーの発展のために新たな可能性を発見しようの実験室」
「くすっ。失敗ばかりですね、先生」
「はい。でもこんなにふたりで楽しく話せるのは、きっと不思議な力でも宿っているのかな? 今度確かめてみましょうか」
「確かめるって、次はどんな実験ですか?」
「それはそのう・・・・。・・・まあ、よく考えておきます」
目を逸らした彼の仕草で、私は急に恥かしくなった。もしかしておかしな事を言ってしまったかも。余りにも考えなしに彼を見つめてしまっていた? 変に意識させて、もう何を喋ったらいいか分からない。
地味で冴えない自分が何を勘違いしているの。化粧だってやめてしまって、簡素なブラウス一枚で済ませてしまう家庭のオンナ。ずっと夢心地で思い上がっていた。
でも、彼は静かにコーヒーカップを揃えると、カウンターに置いて私の髪を見つめた。
「葉っぱ。ぜんぜん、気にならなかったの?」
彼の繊細な手つきに、私のこころは少女のように花咲いた。
「ええ。好きだから」
あなたが・・・。

323 :
部屋に入るまで彼と手を繋いだ。むしろ、そういうことに臆病だった私はおずおずと手を差し出しながら彼の微笑みに応えた。
あ、指輪・・・・
私が反射的に手を引っ込めようとすると、彼がそれを制した。
「いいんだよ。分かってるから」
まるで初めての男女のように身の置き所がないような様子で、ぎこちなくふたりで部屋を見回した。静かで音のない空間。ここだけはこの一瞬だけは現実とは繋がらない想像の世界であることを願った。私は勇気を出して彼に言った。
「シャワー、浴びてくるね」
カバンを置いてバスルームに向かう手を彼が引きとめた。
「行かなくていいよ。ありのままの君を教えて」
彼に抱き寄せられると、私は吸い寄せられるように唇を差し出した。

好き。好き。もっと愛して。あなたの身体を感じたい。熱くなって泥のように濡れて、快感が高まるほど胸が痛む。
あなたの髪はやわらかくて短い。あなたの唇はちょっとカサついて荒れた跡がある。あなたの顎はすべすべしてきれい。あなたの胸はあまり肉付きがなくて、あなたの肩幅は広くて骨ばってる。忘れさせないで。深く刻み込んで。もうこれ以上、あなたと会えないから。

324 :

雨の日にカサを差して泣きながら叫んだ。
「もうやめて! やめてったら! 私がバカだから笑ってるんでしょ。子供いるくせに、ちょっと褒められたらのぼせ上って、デートまがいのことして。適当にあしらって、あわよくば肉体だけの関係になりたいってこと!?」
めちゃくちゃになって、自分にはありえないドラマみたいなことを口にした。でも、彼はぜんぶ分かっていて、だからこそ悲しそうに傷ついた顔をして黙ったままだった。
彼に喚いたのは、私の作り上げたでっちあげ。彼がこのとおりの酷い人間ならどんなに楽だっただろうか。私は夫にこの店でのことを問い詰められ、正気に返らされた。あの無関心の夫が、珍しく私と口論した。
「うん。もうやめよう・・・」
彼が応えると私は泣き崩れた。
「ごめんなさい。好きなの・・・・」

325 :

彼はどこまでも優しく、私の反応に気づいてくれた。息遣いの乱れ、唇のわななき、睫の揺れ、腰と指先の動き。
今、この歳になって、新たな快感の部位を知るとは思わなかった。彼は興奮に息を荒げながら、でも決して乱暴にならず、私をオンナとして深めていく。それは、普段の彼そのもの。
唇が股間に近づいてきてゆっくりとその中へ潜り込むと、わたしは鞭に打たれたように足を突っ張った。汚らしい恥部を見せたくなかったがもう遅い。たっぷりと愛撫された私の身体は、汗に交じってだらしない愛液を垂らしている。
一瞬、猛烈な恥ずかしさに襲われるが、すぐさま襲い来る快感に頭のネジがおかしくなったみたいだった。這わされた舌と唇の感触に脳髄が痺れる。私は足を開いて、もっと、もっと、とおねだりしていた。

326 :
インランっていうのはこんなのかなって思った。でも、彼が望むのならいやらしいオンナでもいいと思った。
私は起き上がって、彼のものを口に含んだ。自分からそうしたのは初めて。どうしたら気持ちいいのかはよく分からないけど、彼のしてくれたことと同じようにすればいいと思った。
丁寧に彼の息遣いを感じながら、舌と唇を使う。その最中でも、彼は髪を撫でながら、やんわりと胸を背中を刺激した。
じわじわと血が上っていくような興奮に、私は没頭した。記憶の中でもほとんどしたことのない行為なのに、彼のためにたくさんの時間をかけて感じさせてあげたい。愛するって、こんなふうに狂おしくなること?

327 :
再びキスをして舌をからませる。私はキスが好き。顔を近づけてお互いにやわらかく求め合うと、心の繋がりを強く感じる。彼の唇はそのまま首筋から胸の先、手首へと伝い、彼はそっと薬指の指輪を外した。
抗わずに彼の行為に任せる。許されないけど、それでもこの瞬間だけ、ひとつになろう。
彼が私の中に入ってくる。熱くて煮えたぎった泥の中に。肉体が、すべての穴が開いて、彼自身を受け入れる。
「ああっ」
息が上がり、声が漏れる。挿れられただけで、これほど満たされたのはいつ以来だろうか。彼は私を気遣いながら、ゆっくりと動き始めた。やさしくて、暖かくて、この時に至っても普段の彼そのもの。
ねえ、このまま指輪が消えて無くなれば、私は言い訳しないよ。ヒトデナシ、最低のオンナだって糾弾されても、あなたの元へ行くよ。
汗にまみれ、すべてをさらけ出して溺れる意識の中で永遠を願う。ぐちゃぐちゃに熱くなって彼を受け入れるほどに、どこか遠くでもうひとりの私が泣いている。
彼にキスをする。彼は私を抱き締める。呼んで。私を呼んで。遠くへ行かなくてはならないから、離さないように。
息が苦しい。世界が白い。耳元で私の名が聞こえる。何度も。何度も。彼の声。
「愛してるよ――」
私はすべてに解放されたような声をあげて、絶頂に身体を波打たせた。

328 :
私は雨の中、水溜りを見ていた。
花びらが落ちて、無残にばらばらとなっても、それでも輝き続ける美しい欠片。
もうあと数日で、花の盛りは終わり。眩しい陽射しに彩られた日々も幻となる。
私は指輪の位置を確かめると、歩き始めた。
(終わり)

329 :
プリンは勘弁
反吐が出るわ

330 :
なんでもいいけど、注意書きはしてほしいし、書きながらの投下もうざい

331 :
数日掛けてスレ占領ってありえない投下すぎて読む気にもならん
ルールぐらい守ってやれ

332 :
間接的な表現や、心理描写寄りの行為の表現等、全編に優しい空気が漂ってて
すごく好きです。
私もこういう文章が書けるようになりたい。。。

333 :
これは素晴らしいスレですね。

334 :
久しぶりに見に来たら、おおもう('A`)

335 :
ほしゅ

336 :
もうすぐクリスマスだよ!


337 :
ミナと大ちゃんは元気かなぁ〜w

338 :
縮刷版管理の方、いつもご苦労様です!
ところで縮刷版・377さんのページ、「一徳編1・2」と「年上の好きな人」が文字化けやページ違い状態になってるようです。
お忙しいところお手数ですが、修正いただけますと幸いですー。

339 :
peleサーバ落ちてたけど、どうやら無事に復活した様子。

340 :
ジュンと濡れ濡れ

341 :
・全4話位の予定。
・トリップNGで
・エロは最後
・今回軽い痴漢描写あり。
------------------------------
 いつもと同じ朝だった。
 同じ時刻に同じ場所、同じ道、ひと。
 それが少しずつずれて狂って絡まって、今現在のこの状況に至る。

* * *
「もしかして付き合ってんの?」
 午前中も半分授業を終えた休み時間、鞄の中身を机に移し替えながらそれに答える。
「まさか」
 それからそう聞かれるに至った理由について簡単に述べるものの、今度はそれについて納得のいかない彼女達にあれこれ
聞かれるままに淡々と答える。
 脚色する理由も、ましてや隠し立てしたりごまかしたりする理由のある筈もない私の態度に、次の授業のチャイムが鳴るのを
合図のようにしてようやく皆引き下がる。
 しかし授業の始まるまでの僅かなざわめきの中、私と同じく準備に追われている彼への興味深い視線は遠慮なく向けられ、
首を捻る者まで出ている。

「無理もないんじゃない?」
 二時間遅れで登校して来た私には、まだ早いのではと思えるランチタイム。
 だが、目の前で頬張る弁当の唐揚げの匂いにお腹のサイレンが鳴った。身体は正直だ。
 まあ、実際それだけの時間が経っているのは事実だし、ここは素直に胃袋さんの要求に応える事にした。
「昼飯かっ喰らいに来たみたい」
「まあまあ。ところでさ、さっきの話、もちょっと詳しく教えてよ」
「いいよ」
 ああ、やっぱり片寄ってる。潰れたおかずを箸で寄せヨせしながら順繰りに今朝の出来事を思い出し始める。

* * *
 私は高校生になってから、電車通学するようになった。
 毎日、通勤通学で乗り物を利用する人なら覚えがあるかもしれないが、何時何分のに乗り込むかに始まり、どの車両のどの
ドアから乗り込めばよりスムーズに動線を描けるかというものが、何度も繰り返される事により自ずと定まってくるものである。
 今朝の私も、入学時より染み付いたお決まりの行動パターンに身を任せて、毎日同じく通り過ぎてゆく窓の外の風景を見ていた。
 ぼんやりと揺れに合わせてガタンゴトンと響く規則正しい電車の音に、そのうち退屈して、下手すると眠くなる。

342 :
 これから各々が戦場に繰り出してゆく朝のラッシュで、『座る』という選択が許されるのはごく一部だし。
 終点の数駅手前で人波をかき分けて乗り込まねばならない私には、夢のようなお話だ。
 のんびりと文庫本など読んでいるOLらしきお姉さんが素直に羨ましいと思いつつ、とりあえず停車時にひっくり返らずすむ
よう空いた吊革に掴まり損ねないようするのが精一杯だったりする。
 特に今日は蒸すなあ……。
 雨が降るかもしれないからか。出掛けに母に無理やり折り畳み傘を詰め込まれた鞄は、多少バランス悪く膨らんでしまった。
 今日は運良くドアの手摺りを陣取る事ができたから、まだ寄りかかれるだけマシだ。邪魔な鞄を身体の前にくるよう持ち、
手摺りに寄りかかってホッとした。
 だがしかし、今日はついてるかも――と呑気に看板など眺めていられたのも、それまで、だった。
 カーブのせいで電車が大きく揺れて、ゆらりと足元が不安定に傾いた(気がした)拍子に、押された身体がドアにべったり
と張り付いた。
 うえっ!痛いなぁ、もう。
 毎度の事だが、ここはいつも苦手だ。今日はまだいいが、吊革でも必に掴んでないと吹っ飛ぶかと思うときがある。
 これでも大分慣れてきて、ここぞと思う位置でしっかり両脚を踏ん張っていれば何とか堪えられるくらいにはなった筈だ。
 初めの頃は、知らない人に掴まってしまった事もあったもの。
 そんなだから、暫くは背中に重く密着する息苦しさにも、ある種の諦めのようなものが働いていて、全くと言って良い程
警戒なんかしていなかった。
 カーブを過ぎれば少しは楽になる筈の不快さが、今日はいつまでも続いている。そればかりか、それはどんどん大きくなって
背中に悪寒が走り始めた。
 明らかに肌を何かが這い回る感触、耳に届く荒い息遣い。
 不自然にスカートの後ろがずり上げられる感覚に、まさか、という思いが確信に変わった。
 ――痴漢だ!
 どうしよう。
 話には聞いた事はあっても、身をもってそれを知る由もなかった私が、まさか――自分がそんな目に、と思った私は、一瞬に
して混乱状態に陥ってしまった。

343 :
 どうしよう、どうしよう!?
 気のせいだと思いたくても、捩る身体を執拗に追いかけてくるものの気持ち悪さに気づいてしまった。
 途端に身体が硬く、全身の血が全て流れを止めて冷え切ってゆくような気がした。
 頭が真っ白になる。
 以前なら、
『痴漢なんてサイテー。思いっ切り腕ねじ上げて、おっきな声出してやりゃいいのよ!!』
などと思っていたのに、それがこれほどまでに困難を要する勇気のいる行動であるとは、思いがけない恐怖に私の脳は完全に
支配されていた。
『誰か――助けて……』
 スカートの生地の上からお尻を撫で、離れた、と思ったらまた同じ動きの繰り返し。ずっと触れているわけではないらしい。
 一瞬なら『混んでたから触れただけ』と言い訳されても仕方のない、ギリギリのラインのような気もするし。
 腕を掴んで――そう思っても、鞄を持った片手は勿論、もう片方の手は手摺りを握っているので精一杯だった。離すとすぐ
他の人にもってかれる。吊革と同じ様に、これだって奪い合いだ。
 まさか自分がそんな目に遭うなんて思いもしなかった。
 咄嗟の時は大声を、などというけれど、本当に怖いと感じたら実際は何も出来ないものなんだ。自分は無力だ、と悔しさと
恥ずかしさから涙が出そうになる。
 勘違いだと言われれば――と押し切る自信はどんどん無くなってくるし、顔も見えない、どの位置にいるのか、どの人間なのか
見当もつかない。
 何より、下手に騒いだりしたら、注目されて晒されることになる。
 確信がもてないまま俯き、身体を強ばらせてただ堪える。
 そのうち、調子に乗ったのだろう。私が黙っているからか、段々と長く触れるようになり、スカートの裾を押し上げながら
太ももを撫でられた。
「――っ!?」
 もう限界だった。思い切って振り向き睨み付け――その視線の先にいたのは――。
「……やめてくださ」
「小松原さん?」
 同時に電車がゆらりと揺れて、ざわめき立つ人波にかき消された声とともに不快な腕は消え去り、後には――
「……ちか……っ」
「……!?……うえっ?……いや、ちょっ」
「ちかんがっ……うぁっ……うっ」
 泣きじゃくる私と、ほぼ無関係の彼が――残った。

344 :
* * *
「それで、同伴なわけだ」
「まて。私はキャバ嬢じゃないから」
 いや、知らないけど。
「ま、そんなに仲良さげにも見えないしね。ラブラブですぅ♪って顔じゃないもんねありゃ」
「わかってるじゃん」
 そこなんだよね。
 遅刻の原因を作ったのは私。そして――多分機嫌を損ねてしまったのであろう原因だって、まぎれもなくこの私。
 同じクラスだけど、会話した事なんてまるで記憶にないくらい疎遠な男子。
 でもあの時、知ってる顔にばったり出会って、思がけないアクシデントに心細く恐怖に震えていた私は、ちょっとした安堵感と、
もしかしたらどこの誰とも知らない人間に弄ばれていた羞恥を覚られてしまったのではという気まずさから、抑えようのない
緊張感の途切れから次々と溢れてくる涙をどうする事も出来なかった。
 おまけに、頭が混乱状態だったせいで、やたら「ちかんが、ちかんが」とそればっかりを声に出してあわあわしていたせいで、
こともあろうにひきつりながらその場に立ち尽くすしかなかったであろう彼に、痛々しい視線が向けられてしまった。
 ろくに説明も出来ないような状態のまま二人して駅員に連れて行かれてしまって、そこで暫くしてやっと平静を取り戻した
私がやっと――彼が無関係である事を話し、何とかあらぬ疑いをかけずには済んだ、と思う。
「悪い事しちゃった……」
「仕方ないよ、ゲス田だもん」
「ゲス……でも、迷惑かけたわけだし」
「そりゃそうだけど、あれじゃあぱっと見、疑いたくもなるでしょうよ」
 そうかなぁ……と肩越しにちらりと振り向き見れば、細い目がぎろりとこちらを睨んだような気がした。
 慌てて目を逸らし、何もなかったように装ってみるけど……恐っ!
「ね?……あれでマスクしてみ?コンビニ入れないよ、絶対」
「失礼だよアンタ」
 親友の早紀の毒舌を諌めつつも、それを否定できない私もどうなのか。

345 :
「でも何であの人、ゲスだなんて言われてんの?」
「ゲスだ、じゃなくてゲス田ね。よくわかんないけど、いい呼び名じゃないのは確かよね。ごめんよくは解らない」
「あっそう」
 私も良くわからない。イントネーションの違いからして既に。
「……彼女とかいるのかな?」
 何となく呟いた独り言のつもりだったそれは、早紀の牛乳を飲む動きに支障をきたしたようだ。
「――ぶほっ!……ごほごほっ……ちょっ、あん、たっ」
「なによぅ〜?大丈夫?」
「だいじょばないっ!ていうかあんたが変な事言うから!!正気?」
「へん、て、別に……他意はないんだけど」
「ならいいけど」
 いいのか。
 辛うじて飲み下した牛乳がうまくお腹に落ち着くのを待って、パンの袋を破り始めたのだろうと思えるところで、私も箸を。
「あ、でも。やりチンて噂は聞いたことあるわ」
 今度は私が米粒を吹きかけた。
「や、やりっ……」
 言えない。最後の二文字は絶対に言えない。というか言うまい。
「なんか、らしいよ。女といる目撃談はよくあるらしいんだけど、どうも度々相手が替わってるって話。ほら、誰だったかなぁ、
 たしか中学一緒の子から小耳に」
「へ、へえ〜……。意外、というか何というか、モテるんだね」
「危険なふいんき?フンイキだっけ?あれ?ま〜いいや。とにかくそういうのが好きな女の子って多いじゃない。だからじゃ
 ないの?……けど続かないって事はやっぱ何かあるんでしょ。ゲス呼ばわりされるだけの事はあるんでしょうよ。冷たいとか」
「そういうもんかしら」
 冷たいのか。でも、そんな人が私を助けてくれようとしたのなら、それはないんじゃ。
 助けて……。
 ……くれようとしたのかしら?
 でも気に掛けてくれたのは事実だし。
「やっぱりちゃんとお礼しないと」
「えぇ?物好きねぇ……まあ、仕方ないか。あんたどうせこのままじゃ気が済まないんでしょ?」
 苦笑いする早紀に頷いてみせる私。
 一度気になると、素通りできない性格だから。

346 :
 授業が終わるのを待って、教室に人が少なくなってきた頃を見計らって近付いた。やっぱり人目があると、今朝の事もあるし。
「あの〜、ちょっと……」
 恐るおそる声を掛けてみると、机の中を覗いていた顔を目だけ向けるような形で私を見上げ
「え?俺?」
とちょっと低めの声を返す。
「あ、ごめんなさい」
「何が?」
「えっと、い、色々」
 呼び止めたのが迷惑だったのか。早く帰りたかったのかな。そりゃそうだ、私だっていつもは何もなければさっさとそうしたい。
「それだけ?」
「えっと、ちゃんとお礼言いたくて。……っ、増田くんがいてくれて助かったし」
「……別になんもしてないと思うけど」
「そう……かもしれないんだけど、あ、えっと、いや、でも、あの時安心したのは事実だし、迷惑掛けちゃったからお詫びとか
 とにかく何かお返ししたくて」
 うっかりあだ名が出そうになって慌てて取り繕ったけど、ばれては無さそうでほっとした。
 と同時に初めてまともに彼と会話らしきものを交わしてみて、それ程嫌な奴という印象を受けていないことに気づき、あだ名
の意味に疑問を抱く。
「物好きだね、あんた」
「そうかな?別に普通だと思ってるんだけど……」
 確かに庇ってくれたとか、声を上げて変態退治をしてくれたわけではないけれど、別にあの時、私をスルーする事だって出来た
筈だ。なのに、そうはしなかったし、それで私は何とかショックな気持ちを抑えられた。
「……まあ、まさか前科持ちになるとこだったとは予測しなかったけど」
「――っ、それは……ほんとに……すまないと思って」
 私が取り乱したためにうまく言葉が繋がらなくて、あの場にいたこの人がこともあろうに『痴漢の犯人』だと勘違いされた。
 わけわからないまま駅長室だかに連れてかれて、私がやっと事情を話せるよう落ち着くまで、学校に来れずに付き合わせて
しまったのだ。
 誤解は解けたけど、迷惑掛けまくったのは本当だし、心底申し訳ないと思っている。

347 :
「とにかく、お礼でもお詫びでも何かさせて欲しいと思って」
「……わかった」
 拒否されなくてほっとした。別に『いらない』と言われればそれだけなんだけど、逆に素直に受け取ってくれるというのなら、
多分そこまで気分を害してはいないという事でもあると思うからだ。
 誠意の通じる人なのだろう。良かった。
「じゃあ、今からでも?」
「あ、うん、いいよ。私は早い方が」
「――そうなの?」
 帰り支度をすべて終えると、少し驚きの混じった意外そうな表情を浮かべて立ち上がった。
「え、うん。そういうもんじゃないのかなぁ」
 何かおかしい事でも言ったかな?
 足早に教室を出て行こうとする増田くんの後を慌てて追い、距離を詰めながら彼より数歩下がった位置を歩く。
「見かけによらないんだな……」
「はい?」
 私が?ですか。普段どんなイメージ持たれてるんだろう。というより、何を。
「そう言えば、増田くんと話するのって初めて?だよね」
「ん、そうだな」
 考えてみれば、同じクラスになったのは二年生になってからだし、班を組む機会でもなければ席も離れてるから、雑談はおろか
挨拶すらまともに交わした覚えがない。
「いつもあの電車に乗ってるの?」
「そうだけど」
「へえ、私も入学してからずっと同じなんたけど、知らなかった。あの路線だと大体うちの学校の人はあまり見かけないから、
 すぐ目につくと思ってたんだけど」
「……たまたま。いつも始発駅から乗ってて、座ってるからだと思う。ほんとは隣の車両だけど今日は乗り遅れそうになって、
 普段の手前に飛び込んだから」
「そうなんだ!いいなあ、私座った事ないよ。羨ましい……」
 だったら痴漢に遭うこともなかったろうにと思うと、ちょっとばかり悔しいやら、思い出して腹も立つやら。
「あ、あれ?」
 下足箱を通り過ぎてスタスタと先を行ってしまう。

348 :
「増田くん?」
 学校出るんじゃないの?
 本当は帰る前に済まさなければならない用事でもあったんだろうか。だったら今度にして貰えば良かったのかもしれないか
とか考えていると、渡り廊下を突っ切って校舎裏の自販機の前で止まった。
「ここでいいか」
 増田くんは独り言みたいに呟くと、辺りを見回し鞄を置いた。
「ここ?」
 並んだ紙パックの100円と書かれたパネルの文字と、彼の顔を交互に見つめる。
 確かにあまり裕福なお財布事情の私ではないが、駅前のコーヒーショップで奢る位のお金は入ってたはず、だ。今月はまだ
手をつけてないもんね。
「気を遣わなくて大丈夫だよ?」
 それ位するつもりでいたんだから。
「見られても平気なタイプ?」
「え〜……別に、考えたことなんかないけど」
 はた、と気が付く。そうか、増田くんは困るのかもしれない。今朝の事もあるし。
「ごめんね、私は平気だけど……増田くんは見られると困るよね」
「いや、そっちがいいなら別に」
「そう」
 財布を出そうと鞄を置いて、
「じゃあ何しよっ……」
と振り向いたら、身体がぐらりと傾いて、背中にばん!と衝撃が走った。
 痛いとか一体何がとか考える暇も無く、唇を何かに塞がれて息が出来なくなった。
 あまりの勢いにぎゅっと目を瞑ると、ぐいぐいと身体全体を壁に押し付けられて逃げ場を失うと同時に、声と酸素を同時に
奪っているものの正体を理解する。
 ――キス、されてるんだ、私。
 少しずつ状況を把握するにつれ、冷静に頭の中が整理されてくる。
 えっと、私は今、クラスメートに唇を奪われていて、それで、ここは学校で、で、どうしてこうなってるのかというと……。
「いっ――いやあああぁぁぁっ!?」
 ありったけの力を振り絞って、彼の胸元を思いっきり両腕で押し戻した。

349 :
「な、ななな何……を」
 離れた途端、目に飛び込んできた増田くんの唇に釘付けになりかけて声を上げそうになった。
 い、今、キスした?私、したよね?この人と。
 ていうか、誰か。誰かいませんか!?見てないよね?見られてないよね!!
「気にしないって言ったから」
 キョロキョロと高速で首を振りまくる私に反して落ち着き払って頭なんて掻いている。
「誰も見てないよ、多分。滅多にここに来る奴はいないんじゃないの?」
「そっ、そういう意味じゃない!!」
 ここはかなり玄関から奥だし、学食が閉まっている今は人なんか確かに滅多に来ないだろう。運動部の部室は逆方向だし。
「見られたいタイプかと思った」
「どこをどうすればそんなっ……!?大体いきなり何を」
「誘ってきたんじゃなかったの?」
 信じられない一言に、私の頭は一瞬にして真っ白になり――一瞬にしてめらめらと何かが燃え上がった。
「そんなわけないでしょー!?どこをどーすりゃそういう意味になるのっ!!」
「あ、違うんだ」
「当たり前でしょー!?大体何でよく、知りもしない……人にそういう真似……できるわけっ」
「……あ、おい……」
 この人としちやったんだ、私。今日初めてまともに口聞いただけの相手で、別に付き合ってるとかそういうのでもなくて、
友達にさえまだなれるかどうかっていうところのクラスメート。
「……初めてだったのにっ……」
 好きだとか言われたわけでも、勿論私が好きだって言ったわけでもなくて。
「ふぁ、ファーストキス……だったのにっ……」
 うわあ、どうしよう。事実がはっきり突きつけられるにつれ、段々腹が立ってきた。と同時に、悲しくて悲しくて、後から
ぽろぽろと涙がこぼれてくる。
 流石にそれで悪いと思ったのだろう。
 チャリチャリとポケットから小銭の音を鳴らしながら、自販機のボタンを探っている。
 ゴトンと落ちてきた紙パックを無言で差し出すと、私の手にそれを握らせた。

350 :
「……ごめん」
 ひんやりとした紙の包みを、瞑った瞼に押し当てた。
 もう一回ゴトンという音がして、上履きがコンクリートの床をジャリジャリ擦る。
 しゃがみ込んだ私の向かいに同じようにして目線を合わせてきて、ふうと溜め息をつく。
「意外だと思ったんだよね。大人しそうに見えて大胆な事するなーって。お礼だっていうから、てっきり」
「てっきりって……普通そんな考え方はしないかと……」
 どういう思考回路してるのか。
「俺そんなんばっかだからさ」
「はあ!?」
 思わず顔を上げた。
 細い目で視線を彷徨わせながら眉間に皺を寄せている。なんのことはない、飲んでるものが冷たいのに堪えているのだ。
その証拠に口からストローを離すとほっとした様子を見せた。
 こんな時に呑気なもんだわ。
「そんなにショックなもんなの?減るもんじゃないと思うけど」
「そういう問題じゃない」
「……もしかして初めては好きな人と〜ってやつ?」
「悪い?」
「別に」
「……増田くんはどうして?」「誘われたのかと思って。俺来るもの拒まずだから」
「!……へ、へえ、もてるんだ」
「さあね」
「……彼女いないの?」
 今更だけど一応ね。
「いない」
「そう」
 それならいいけど。やっぱり、後味悪いよ。私が彼女だったら嫌だ。彼女じゃなくても、どうかと思うけど。
 ――なんか、最低。
 確かにゲスかもこいつ(たった今からそう呼ぶ位置におく事に決めた)。
「小松原さん、だっけ。初めてが俺みたいので悪かったな」
 初めて名前をまともに呼ばれた。けど、それはぼんやりとした記号のような音でしかないように聞こえる。
 私のキスはこんなものなのか。
 手の中に残る紙パックをしばし眺め、てくてくと去っていく背中を見送りながら、思い切りゴミ箱に放り込んだ。

351 :
書き忘れましたすみません
以上です
続きます

352 :
イイヨイイヨ

353 :
 ――また今日も同じ目に遭ったら――。
 電車を待ちながら昨日の出来事を頭の中で反芻すればする程、気分が暗ーく沈んでく。
 周囲に自分の気持ちをわかるよう表現できるとしたら、私の周りはきっと今どんよりとした灰色の空気が渦巻いているのに
違いない。
 漫画で言えば雨雲しょっちゃってます、みたいな。どのみち辛気臭いことこの上ない。
 溜め息ばかりが零れる唇をそっと撫でてみる。
 生まれて初めて知った他人の唇の感触は、思い描いたような甘くふわふわした幸せなドキドキなんか産み出すことなどなく、
ただ失望や現実の残酷さを思い知らされただけだった。
 それすらもう夢であるかのように何の跡形も残さず朝は来る。
 いつもと何も変わらない、筈――の通学風景。
 ホームへと滑り込んできた車両の窓に、その姿を見つけてしまうまでは。
 振り向きながら背中越しに窓の外を気にしている風だった。
 一つ隣の車両にいる彼に気付いていながら、全くそんな素振りを見せないつもりになって、いつものドアから電車に乗り込む。
 これまで以上に気合いを入れて足を踏ん張り、しっかりと辺りを警戒しつつ吊革を握りしめる。
 つけ込まれてたまるか、こんな時に。
 昨日はあれからかなり落ち込んだけど、考えてみれば、あんな男の一人や二人に振り回されてる自分が情けなくなるにつれ、
段々腹が立ってきた。
 あれは事故のようなものだ。
 勝手な勘違いによる思い込みで突っ走られて良い迷惑だと思う。
 人のお尻を無断で触って不快な気持ちにさせた何処の誰とも知れない奴だってそうだ。
 犬に噛まれたと思って忘れてしまおう。いつまでも引きずるなんてバカバカしいにも程がある。
 ――ただ、一言謝ってくれただけでもあっちの方がましかもしれない。
 同じにしたらさすがに悪いかしら。

354 :
* * *
「そんなん、同じよ、同じ!許せん。あんた軽く見られすぎ!そこは怒っていいんだからね?」
「そうですか」
 いいなあ、この性格。どっちかというと優柔不断になりがちな私と違って、竹をぶった切ったような早紀は本当に男前だ。
 私が女なら惚れる。――あ、女だっけ。
「女なら何でもいいのか。だからって見境なさすぎるんだよね。よりによってあんたなんかに何でまたそんな気起こすかな」
「それどういう意味?」
「あら。誉めてんのよ」
「どこがだー」
「あたしが男なら、お尻の重そうなあんたみたいな女こそほっとかないって事よん」
「そりゃどうも」
 一見それ程似通ってもいない早紀と私の友情の理由は、こういう所に共通項があるんだろうと思う。
 駅に降り立った時、人波に揉まれる中から抜け出すのに精一杯で、一緒に降りた筈のゲス男にかち合う事はなかった。
 もっとも、これまでにもバッタリ顔を合わせた覚えもなかったので、不思議はない。
 しかし、朝の私は周囲をちょっと見回す程の余裕も無いのか。自分を客観的に見られる機会はそうあるものではないので、
それにはちと反省。
 休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴り、席へ戻る早紀に手をふりつつ振り返ると、ふいに視界に飛び込んだ人間に目を
奪われた。
 これまで気にも留めた事のなかった男の一挙一動を何気に眺めてみる。
 長めの前髪が気になるのか、肘をついて上目遣いにそれを摘んだり引っ張ったりして弄っている。
 邪魔なら切りゃーいいのに。
 細い目がこっちに向いて、私の視線とばっちりぶつかる。
 なぜか焦る私。何でだ。
 でもこっちが素知らぬ顔を決め込むより先に、向こうの方がぱっと目を逸らして俯いた。
 そのくせ、二、三回目をぱちくりさせては上目遣いと目を伏せたりとを繰り返す。
 ――何よ?
 もしかして、またなんか勘違いされてるんじゃ。
 冗談じゃない。私はもう関わる気なんか無いんだから。

355 :
* * *
「小松原さん、ちょっと」
 昼休みが終わる前にトイレに行こうとして教室を出た時だった。
「私……ですか?」
「そう。ちょっといいかな?あ、友達も一緒で良いです。すぐ済むんで」
 丁寧な物言いに、嫌です、とも言えず早紀とアイコンタクトをとり、頷く。
 ていうかあなた誰ですか。
 ちょっとこっち、と人気の少ない廊下の端まで手招きされ、しぶしぶついて行く。
「あ、俺、外山(とやま)って言います。隣のクラスのもんなんだけど、知ってる?」
「ああ、見たことなら」
「ですよねー。そんなもんだよ」
 昨年も別のクラスだった人で、今言ったようにこれまで接触のなかった人だ。
 そんな人が何を。
「小松原さん、下の名前は何て言うの?」
「は?」
「あ、えっといきなりごめん。びっくりするよね。色々聞きたいことがあって。差し支えなければケータイとメアドを……」
「あたし消えよっか?」
 早紀が居辛そうに外山くんとやらの顔を見る。
「いや、気にしないでいいですから」
「あたしが気にするんだってば」
「待ってえぇっ!」
 そう言って既に歩き出そうとしている早紀の腕をしっかと掴んで、綱引きのような体勢でずるずると引き戻した。
 嫌だ!一人にしないでえぇぇ!?
「だって告白の現場に居合わせてどーゆー顔しろっちゅーの」
「こっ!?」
 こくはく?
「誰によ?」
「はぁ?あんた本気で言ってる?鈍いのもホドがあるわ」
「にぶ……どうせそうですよ」
 とは言え、いくら私でもさすがにこの状況では理解せざるを得ないようだ。
「ん〜まあ、間違ってはないんだけどね」
「えっ?」
 ここにきて初めてまじまじと外山くんとやらを眺めてみる。
 この人が?
「俺じゃないんだよね〜」
 勘違いしかけてる事に気付いてか、苦笑いしながら否定する。
 人の好さそうな丸っこい顔に、思わず私もつられて笑いそうになる。不思議な人だ。

356 :
「じゃあ誰?もし差し支えなかったら教えてくれない?」
 すかさず早紀が突っ込む。
「や、それは、まあ……」
「だって気になるじゃない。それとも一方的に聞いておいて逃げるわけ?それってズルくない?やーよ、どこの誰ともわかんない
 奴に大事な友達狙われるなんて。つうかキモイ」
「キモ……それは参ったなー」
 私の前に立ちはだかって仁王立ちの早紀の迫力に負けたのか、しょうがなく白状するよと外山くんは溜め息をついた。
 ああ、頼りになるわあ。
「で?誰」
「ん〜……引かない?」
「相手による」
「ですよねー」
 とりあえず私の存在を思い出して欲しい。さっきから二人だけで話が進んでませんか?
「俺ね、お宅のクラスにいる奴と幼なじみでね、そいつがえらくその……小松原さんを気にしてるみたいなんすよ。で、
 ちょっと一肌脱ごうと思ったわけ」
「うちのクラスぅ!?益々聞き出さずにはいられなくてよ」
 ね?と血走った目の迫力に頷かずにはいられぬ私。ていうか早紀コワイ。
 なんでそんなに必になるのか。
 心配してくれるのは嬉しいけど、これは人一倍強い好奇心が勝っているに違いない。
「実は……増田、なんだけど」
 私より先に早紀の方が『げっ』と小さく潰れたような声を発した。そのため当人である筈の自分は反応に困っているわけだが。
「ゲス……」
「早紀っ!」
 いくらなんでも友達の前でそれは無いって。
「いや、まあそうなるよね」
 あ、そこはわかってるんだ。
「だったら断る。あいつ何?友達使ってどーしよーっての!?」
「どうもこうも、本人だと多分、相手してもらえないって言うから。俺が、」
 あなた達……本人の意思は一体。
「何でそこまでするの?」
外山くんの声を遮って、さっきからある疑問をぶつけてみる。
「もしかして面白がってるんじゃない?……悪いけど、私、あんまりあの人にはいい印象持てない」
「そんなつもりは!……まあ多少楽しんでる感はあるかもしんないけど」
「やっぱり」
 早紀の手を引き、行こうと促す。

357 :
「あ、待ってほんとに。マジな話、からかうとかそんなつもり、ないから。いや、育実が自分から女の子の話するなんてなくて。
 あいつあれで結構奥手……なんだな、と」
 いくみくん、て言うんだ。下の名前で呼ぶくらいだから本当に親しいんだろな。けど、それでも知らなかった友達の一面を
発見して『面白がってる』、ってのは間違いなく確かだ。――悪い意味では無く。
 でも奥手ってのはどうかと思うよ。
「……わかった。けど、やっぱりよく知らない人にあれこれ聞かれてもちょっと困る。用事があるなら自分から、って言っといて
 くれる?ごめんね」
「え………うん、わかった。そう言っとく」
 本当はもう、あまり関わりたくない。
 嫌な役回りさせるみたいで外山くんには悪いけど、とりあえずそっからでも悟ってくれれば。
「いこ、早紀」
「あ、うん。いーの?」
「何が?」
「口挟んどいて何だけど、気になったりしない?奴の考えてる事とか……あんたのことだし」
「……いいや別に」
 気にしたって仕方無い。――今更、私のファーストキスが戻るわけじゃなし。
「早くトイレ行こ。時間なくなる」
「あっホントだ、やばっ!――千代、ハンカチかして」
「いいよ〜」
 距離が少し進んだところで、ふと振り返ると、外山くんが軽く手を振ってきた。
 何となく振り返すと、また人なつこい笑顔を見せてから背中を向けて去っていった。
「なんであの人、あんなんと仲良いのかな?」
 早紀の言うことも確かに頷けるけど。
「ん〜……幼なじみって言ってたし、それなりに色々解ってるんじゃない?」
 私だって最初はそんなに嫌な感じしなかったんだから。

 思った通り、次の授業が始まるギリギリになって教室に駆け込む羽目になった。
 出席取ってる途中だったから、席の周りや入り口周辺の一部からとは言え注目浴びるあびる。
 その中には、痛いという程強く感じる誰かの視線があったと思うのは、私の思い上がりだろうか。

358 :
* * *
 雨、ちょっとやばいかな?
 昨日は結局降られる事はなかったけど、その分ずれ込まれたみたい。
 早紀と門を出た所で別れ、薄暗く泣き出しそうな空を見上げて、駅まで急ごうと駆け足になる。
 鞄に折りたたみ傘があったのを確認しにちょっと立ち止まったところで、ぱらぱらと足下に水玉が広がっていくのを見て、
脇の本屋の軒下に飛び込んだ。
「あ」
「……おっ」
 どちらともなく小さく零れた声に顔を見合わせ、その先が見つからず飲み込む。
 狭い入り口のスペースに先客があるとなっては、私としても居辛いわけで。
 用もないのにわざわざ店に入ると、適当にその辺にあった雑誌を手にとってみたりする。
 雨足は少しずつ強まってきて、表を行き来する人たちの動きも何だか忙しない。
 それなのに、こちらに背中を向けたままあいつは微動だにしない。
 早く帰りゃいいのに、と少しの間私も店内を意味なくぶらつく。
 暫くして運良く?欲しい本を手に入れ店を出ると、まだそこに居た。
「……帰らないの?」
「あ……友達待ってて」
「そう」
 思い切って声掛けてみたら、ちょっと驚いた様子。
 ――なんだ、帰れないのかと思った。
 私のと同じビニール袋を小脇に抱えて立ち尽くす、雨降りの軒下に。
「友達って、外山くん?」
「!……知ってんの?」
「まあね」
 あちゃ〜って小さく聞こえた。眉間にシワが寄って、細長い目がきゅっと鋭く見える。
「仲いいんだね。なんか色々、心配?とか、してたし?」
「ん〜、ああ、まあ」
 あれ?何だか耳まで赤くないですか?
 もしや触れてはいけない何かに触れてしまったわけじゃあるまいか、私。
「あの……」
「なにか」
「あいつ、なんか言った?」
「……知りたい?」
 ああ、まあ、とぶつぶつ呟きながら、本の袋をガサガサ言わせて俯き加減にこっちに目をやってくる。
 ふうん、気になるんだ。

359 :
「教えない」
 ずるっとスニーカーの滑る音がして、肩が斜めに下がった。人間ほんとにこけるんだな。漫画みたい。(※あ、本当に
ずるんっていったわけじゃないですよ。だって雨ですよ。例えですよ?大惨事じゃないですか)
「お……ちょっ」
「話したのは外山くんとだから」
「……」
 ちょっとイヤミだったかな。
 横目でそーっと見ると、険しい目で足下を見つめたまま動かない。
 怒ってる?ひええっ――恐っ!その目で睨まないでぇっ!!
 ……睨んでは来ない、か。
 よーく見ると、目つきは相変わらず鋭いけれど、微妙に眉毛がハの字な感じ?
 もしかして。
「……外山くんて面白いね」
 結構この人、ややこしいのかもしれない。
「ああいうの好みなんだ?」
「別に嫌いじゃないけど」
 とっつきにくそうな、何考えてるかわかんないような。
「でも、いきなり知らない人にメアドとか教えたりするのは抵抗あるんだ、私」
「へー……」
「でも、仲良くしてくれたら嬉しいかなと思う。自分からってそういうの、言いにくいし」
 そんなのって、自分だけだと思ってたんだよね。でも、そうでなくて、相手もそうだったりするんじゃないか、とか。
「……あんた、小松原さん、てさ、ケータイある?」
「……あるけど」
 だけど、それがどこまで本気なのかは、解らないから、少しだけ最後まで。
「……やっぱりいいわ」
「あっそう」
 ――迷いは、残る。
「じゃ、私行くね」
 ちょこっと頭を下げて見せた増田くんを残して本屋を後にした。
 すぐ背中で外山くんの賑やかな笑い声が軽い悲鳴のようなものに変わったのを聞いたけど、知らないフリして駅までを急いだ。
 私は何を期待していたのだろう。
 電車に飛び乗った後の軽い失望感に、それを気付かせられて首を振る。
 濡れた傘を見て、お礼だって入れてやっても良かったのかもと考えたけど。
「でも外山くんいたし」
 何がこんなに揺らぐのだろう。

360 :
* * *
 次の日もその次の日も、ホームに滑り込んで来る電車の中に彼の姿を見た。
 そのたびに必ず窓から振り向き背中越しに外を見る目つきの悪さに一瞬びびり、さっさと隣の車両に駆け込むという日々。
 相も変わらずぎゅうぎゅうと押し合いへし合いする中で、自分の身をいかに守り抜くかを考えながら目的地に着く事だけを
頭に思い浮かべてやり過ごす。
 そうした中、連結の窓越しに俯く横顔が覗くのを何気に見つけて、暫くの間ぼーっと眺めた。
 こうしてまじまじと増田くんという人を見てみた事なんかなかった。いや、彼に限ったことじゃないけれど、誰かのことを
気にしたり、考え続けたりしたなんていままでにあまりない。
 あまり、というのは、私にはそうした経験が、まあ、皆無と言っても良いからなので、それはいわゆる――。
 いわゆ……る?
 あれ?なんか悪寒が。
 と同時にあり?熱が?
 妙な胸のもやもやを抱えつつ、目的地へ到着する。
 ぽん、と肩を叩かれて振り向くと、驚くほど至近距離であの目に射竦められ、改札に急ぐ人の波に逆らえず立ち止まる羽目に
なった。
「な、なにか?」
「あの、明日は――」
「あ、いたいたっ!」
 最後まで聞き取る事は出来ずに、彼の声も姿も割り込んできた甲高い声とサラサラの髪に遮られた。
 同じ駅利用の女子校の生徒が二、三人増田くんを囲んで何か言ってるようだけど、私には関係ない話、だから。
「小松原――さ――」
 途切れ途切れに呼ばれたような気がした私の名前に、一度だけ足を止めたけど。
「待っ……うわっ!?」
 すれ違った人にぶつかったのか、鞄が弾き飛ばされこっちまで滑ってきて仕方なく拾い上げる。
 飛び出た中身を何気に手にし、見なかった事にしてみて鞄に突っ込み無言で突っ返すと、後は振り向かず一気に走り出した。
 追っかけて来るなんて思いはしなかったけど、来るもの拒まずは本当なんだな――と、囲まれた女の子達に埋もれたままの
あいつを苦々しく思う。
 やっぱりああいうとこが最低なのかも、と。

――続く――

361 :
初々しくていいね

362 :
>>353-360
GJ!
続き気になる!

363 :
まってるよー!GJ!

364 :
* * *
 「何が最低ってさ、あんなもん学校持ってくる、ってのがさ、もー信じらんないよ!まじでっ」
 早紀の顔を見るなり今朝の鬱憤を晴らすかの如く、これまでになく畳み掛けるようにまくし立てる。
 鞄からぶちまけられた物は速攻押し込んで突っ返してやったけど、しっかりと脳裏に焼き付いてしまってどうしてくれようか、
とこんなものばかり記憶してしまう頭を恨めしく思うやら情けないやら。
 ああいう系DVD(おそらく)やら、やたら肌色の多かった破れた袋綴じのページが目立つ雑誌……。
 堅いシンプルなデザインの教科書に紛れてカラフルなデザインは異様に目立って見えた。
「誰かに貸すつもりだったとか」
「借りたもんかもしれないじゃん!」
 貸すつもりでも学校なんかに持ってくるな!ていうかそれだったらやっぱりそういう物を持っているというわけで、借りた
としたらそれを見……うわああぁ!
「来るもの拒まずだって、本当みたいだし、頭の中身そればっかみたい。本当にゲスなんだね」
「ゲ……まあ、でも男ってそんなもんみたいよ?」
「……早紀、あいつの味方してない?さっきからなんか引っかかるんだけど」
「え?そんなことないけど」
「そうかなー?なんかさ、ぼろくそ言ってたワリに今日はやけに物分かり良いような」
 昨日までの早紀なら絶対一緒になって顔しかめてると思うんだけど。
「……だってさぁ」
「だって?」
「あんた、本当に嫌ってる?」
「……!当たり前でしょうが」
「だったらゲス田が何しようが関係なくない?」
「なっ」
「あんたさ、本当に嫌な人間って関わらないんだよね?悪口言ったりするより、見ないようにするよね?」
「あ……」
 私は合わないと思ったら、黙って離れるようにしている。
 陰でこそこそやるのはあまり好きじゃないし、それは結局相手に関心があるという事になるから。

365 :
 滅多にあるわけではないが、我慢して悪口を吐き出しそれが回り回って耳に入り互いに嫌な思いをすることになる位なら、
最初から関わらないようにするのが一番良いと思ったからだ。
「あんたも不器用なとこあるからね。内気なくせにお節介で、かと思うと強情だし」
 ぐっ、とつまる。そんなことないよと返したいところだが、早紀の妙に柔軟な正直さが私には無い魅力で真似できないのは
確かだから。だから逆らえない。
「だーから妬いちゃってるんだ?」
「はあ?妬く?」
「だって面白くなかったんでしょ。どうでもいい男がエロ本読もうが女に騒がれようが、それこそどうでも良くない?」
 むう、と何だかむくれた返事しか出来なくなって、それから今朝の一連の自分の行動や感情の流れを思い出してみるうちに、
一瞬だけ見たような気がするちょっと困った増田くんの顔が浮かんできて困った。
「そっ、それを言ったらば、さ、早紀だって、ていうか早紀のほうが案外、気になってんじゃないの?ほら、庇ってるのが
 バレたらやだから話逸らそうとして」
「ちがーう!私はどっちかってーとと……」
 段々とヒートアップして大きくなりつつあった声を、両手で口を塞いで押し込めた。
「……早紀」
「な………なによぉ」
「鼻息荒いよん」
 しまったーって書いてありますよ。触るとしゅうしゅう湯気があがりそう。
「……いつ?」
「昨日、あんたと別れてから。追っかけてきて、ケータイ聞かれて、夜掛かってきて……」
 早い。早いというより速すぎる。ていうかそのために昨日あそこで待たされてたのか、あの人。
「……先の事なんてさ、誰もわかんないんだよ」
 早紀の言葉に、この間までの平穏かつ退屈な自分の日常を頭の中に思い浮かべてみる。
 ここ数日、色んな事がありすぎて、何かがその分動き出している。
「ま、人の気持ちなんか一瞬で変わっちゃうって事なんだよね」
 とりあえず、話聞こうじゃない。
 今度は私が。

366 :
 昼休みに今度は私が向こうを呼び出した。
「はいはい、聞きますよ。話しますよ」
「お願いします」
 よいしょ、と目の前でコンビニ袋からペットボトルを取り出し飲み始める彼を眺めつつ、自分もお弁当を広げる。
 屋上に二人っきり――なんてことはなく隣には早紀もいて、“彼”と私が言ったのは
「あの、ま、増田くん」
――ではなく。
「……とは仲良いの?外山くんて」
「うん。昨日も言ったけど幼なじみで」
 今日は私が外山くんを呼び出しだのだ。もちろん早紀にも付き合って貰って。
「家が近いからね。俺んとこ、小中学校ずっと一緒だから周りもそうなんだけど、特に育実は昔からよく知ってる。あいつの
 妹ともよく遊んでたくらいだから」
「ふーん。妹さんいるんだ」
「お姉ちゃんもいるよ、結婚して家出たけど。だから俺羨ましくてさ、男兄弟ばっかだから」
「三兄弟の長男だっけ?」
「そうなんだよね。潤いが無いっての?」
 良く知ってるね、早紀ちゃん。
 やっちまったな状態に気付かず二人ともすっとぼけてる様なので、私もそこは大人になって耳に栓をしておく事として、と。
「あのー、増田くんがさ、私に一体何がしたかったのか知ってる?」
「知ってるっちゃ知ってるけど、え、何、聞いてないの!?」
「だからわかんないんで外山くんに」
 何その反応。
「んだよあいつ。マジ駄目ダメじゃんか……何してんだ」
 ふわーっと大袈裟とも言える溜め息を吐いて頭をばりばり掻きだした。ごめんねーとか、あのバカがとか。いや、あのなにも
そんなに責めなくても。
「増田くんていつもああなの?」
「ああって?」
「なんかこう、話辛い……あ、えと、あんまりしゃべるの苦手なのかなって。女子と。男子とは普通に話してるよね?」
「え?あいつ女の子とも普通に話すよ。ほら女きょうだいに囲まれてて慣れてるし」
 ああ、そうだっけ。
「女の子にも囲まれてたわ、そう言えば」

367 :
 思い出したらまた何かムカムカしてきた。
「ああ、育実は昔からあれで案外もてるから」
「そーみたいね」
「ほら、女の子って危険な男って好きだって言うじゃない?あいつ結構イケメンだし、あの鋭い目つきがカッコいいって思う
 娘がいるみたいでさあ、ほら、小松原さんとかもそういうの……」
「人によるんじゃない?」
「……あのさあ」
「なんでしょう」
「もしかして、面白くないとか思ってる?」
「!!……なにがっ?べ、別にっ。私には関係ないしー」
「そぼろになってるよ」
「……」
 いつの間にか荒くなった箸使いのため、弁当箱の卵焼きが姿を変えていた。
 外山くんまでそういう事を言うとは。
 それを見て早紀はさっきからお腹を抱えてひーひーと呼吸困難を起こしている。早く言え!
「小松原さんて端から見るとすっげー解りやすい人だったんだね。素直じゃないけど」
「なっ!?」
「でしょー?この娘はそこが面白いんだー」
 早紀……やっぱり私、耳栓を外すことにするよ。
「育実もそうなんだよ。あいつ変にもてるから、逆に女慣れっていうか女に対してスれちゃったんだよね。向こうもそういう
 慣れた娘が寄ってくるから」
「私も……スレてる?」
 もててもないし、男慣れもしてませんが。
「いやそーじゃなく!ごめん言い方悪かった。何つーか既に諦めモードみたくなってんのよ。あいつ中身は大してワルでもクール
 でもないし、勝手にそういうの期待して近付いて来ては、つまんないって去ってかれる。……ま、たまたまそういう女の子
 ばかりに当たって運が悪かったんだろうけど、それが続いたから半分やけっぱちっての?女はみんな同じと思ってんだよね」
「それこそ、一括りにされたら迷惑」
 拒まずという割には好きじゃないのか、女の子。
「だよね。だから小松原さんは違うと思ったみたいなんだよ」
「へ?なんで私?」
「ちょ、ここまで鈍いとは……わざとじゃないよね?」
「あ、この子天然」
 すかさず突っ込んでくる早紀の天然発言になるほどなーと頷いてみせる外山くん。
 な、なによう。
 なんか二人だけでわかってるみたいな雰囲気ずるい。

368 :
「とにかくさ、あいつ寄って来られるのはあってもその逆ってなくて」
「来るものは拒まずって聞いたけど?」
「それは……でもかなりダメージ喰らってるみたいなんだよね」
「……そのわりに『痴漢ビデオ』とか……(ボソッ)」
「そっ!……ああ、それはまあ、仕方ないっつーか何というか」
 凄い。一気に夏が来たみたい。
「早紀、外山くんにハンカチ貸したげたら?」
「ちょ、なんでわたっ」
「……小松原さんてツンデレぽいかと思ったら結構Sっスね」
 そうなの?初めて言われた。早紀の顔見たら「うんうん」って、おい。
「あいつ、本当は妹想いだったりいい奴で、見た目ああだから誤解されやすい上に、女関係で捻くれちゃって。だから小松原さん
 みたいな娘がビシッとシメてくれたら俺としても安心なんだよね」
 そんな事勝手に期待されても。
 困る、私困る。
 だってなにも解ってないのに。
 増田くんの気持ちだって知らないし、何より私、自分がわからない。
「もし今度あいつが何か言いたそうにしてたら、小松原さんからそれとなく相手してやってくれない?」
「なんで私が。そんなの自分で――」
 はっと胸を突かれて言葉を呑んだ。
 私だって今、外山くんを相手にここに居ない増田くんと話をしてるようなものだ。
 直接聞けば、確かめれば良いようなものを、わざわざ本人ではない誰かから引き出しておいて、それを知ったような気に
なろうとしてる。
 それは、ほら、関わりたくないし。
 ――なら、放っておけばいいだけなのに。
 そういう性格だから、仕方ないから、では説明がつかない。とことん嫌いであろうとするなら、それこそとことん排除する。
それが私だった筈だから。
「そういえば……外山くんて電車乗ってないの?」
「うん。俺は学校近くに従兄弟んちがあるから下宿。男ばっかなんだそこも。――そういえば、小松原さんてあいつのお姉ちゃん
 に似てるかも」
「えっ!?」
 まさかシスコン?
「容赦ないツッコミ具合が」
 どんな人だろう。
「なにそれ……別にいいけど。それより……」
 関わりついでにお願いをして、残りの休み時間を無駄話に費やした。

369 :
* * *
 いつもの時間、いつもの電車。
 でも乗り込むのは隣の車両だ。
 なんとか人を掻き分けて、目的の位置へと身体をねじ込む。皆様ごめんなさい。
「……お、おはよう」
「う、うん」
 ためらいがちに見下ろしながら挨拶すると、向こうも少し照れ臭げに頷いて目線を上げる。
 窓越しに見つけた顔は、昨日と同じ様に細長い目で私を射抜いた。と同時に少しだけ口角を上げたのを私は見逃さなかった。
 気のせいだったら、それは仕方がないことだけど、これまた細めの整えられた眉が言葉を交わした瞬間に心持ち緩んだ。
 だから多分それは間違いではない筈。
「本当に乗っかってきた」
「約束したから」
 外山くんとだけどね。
 ガタゴトと激しくなる音と揺れに、身体ががくんっと揺れて前につんのめった。
「ひゃっ!ご、ごめ」
 伸ばした腕と放り出した鞄は増田くんの膝に落ちる。
「だ、大丈夫?」
「いや、いい」
 間近で見た顔はやはり痛かった(重かった?)のだろうか、しかめっ面で、事情を知らなかったらちょっと怖かったかも。
 じっくり眺めてる暇などあるわけもなく、慌てて身体を起こして吊革を探ろうと伸ばした腕をぐいと掴まれた。
「こっち」
「えっ!?」
「いいから」
 あっという間に立ち上がり、私と自分の位置を入れ替えてしまった。
 驚いたのは私ばかりではない。周りも何事かと目を丸くする。そりゃそうか、別に具合が悪そうというわけでなし、この混雑時
にわざわざ他人に席を譲るなんて奇特な真似をすれば目立ってしまうのも尤もだと思う。
「増田くん……か、鞄もつよ」
「あ、うん」
 だからと言って今更立つこともできず、二人分の鞄を膝に乗せて到着までの多少気まずい時間を過ごすこととなってしまった。

370 :
 駅に着いてから鞄を渡し、そのまま何となく並んで通学路を歩く。
「あのー」
「うん」
「ああいうのちょっと困る。……あ、楽だし嬉しいんだけど、みんな見るし、混んでると迷惑かかる……かなって」
「あっ」
 小さく呟いて俯いたあと、ごめんって聞こえた。
「ううん、せっかく気つかってくれたのに、悪いんだけど」
「……て」
「えっ?」
「座れりゃ安全かな、とか思って」
 揺れにこけかけた今朝の自分の格好を思い出してはっとした。
「ます……」
「実際は想像通りにはいかないもんだよな」
 はあ?と突然わけのわからない事を言い出すのでこちらはお礼を言いそびれた。
「知らない野郎に何ぞされりゃキモイだけなんだな、やっぱ」
 えーっと、それは。
 やけに肌色の多かったパッケージのタイトルを思い出して、みるみるうちに頭に血が昇っていくのがわかった。
「あ、あんたねっ……!」
「えらく縮こまって、下手すりゃ泣きそうだったから、やっぱり放っておくのは忍びなくてさ」
 ってことはあれ?もしかして、場合によってはあれを楽しむ方向にいってたかもしれないってか?傍観するだけならまだしも、
「さいってー……」
リアルでそんな事ありえるか、バカ!!
「わかってるよ。まあ、んなもん観ちまった後だからつっても、実際酷いと思ったし。犯人はよくわかんなかったけど、現実は
 あんなん有り得ないってよーくわかった」
「だからって言って良いことが」
「それも、気をつけるし。そういうの隠すのも何か面倒だったからゲス野郎よばわりされんのも知ってて開き直って。けど、
 さすがに堪えた」
 知ってたのか。わかっててその上でそれをあえてやって見せてたわけだこの人は。
「だから……明日もできれば」
 学校が見えてきて、見慣れた顔もちらほら追い抜いたり追い越されたり、中にはあれ?なんて顔して見て行った者もいる。
「俺に守らせて欲しい」
 人間、嘘を見抜くなら目を見ろとよく言う。だけど、長めの前髪に被された彼の細い目はよく見えなくて、かわりに赤くなった
耳たぶに委ねることにする。

371 :
* * *
 約束したわけじゃなかったけど、前日と同じ様に隣の車両の窓に増田くんの姿を探してみた。
 いない。
 休んだのかもしれない。
 もしかして遅刻したのか。
 連絡とる事だってできない。だって知らないもん。
 迷ってる暇などあるわけもなく、仕方無くそこから電車に乗りこむ。
「……あ」
 うまく滑り込んで反対側の手すりに掴まりほっとしたところで、乗客の間を縫うようにしてすり抜けてくる姿がある。
「よくわかったね」
「まあ。乗るとこ見えたから」
「今日は座らなかったんだ」
「うん」
「もったいない」
 せっかく空いてる駅から乗れるのに。
「昨日……約束したし。一方的だけど」
 手すりを握った私の手のすぐ上の部分を持った増田くんのまっすぐだった腕が、ぐらりと揺れた拍子に緩んで曲がって、その
分だけ向かい合った身体の距離がぐっと縮まった。
「あ、悪い」
「ううん。だ、大丈夫。混んでるし」
「……この方がちゃんと見張れるから」
 本気、だったんだ。守る、ってこういう事?
「俺より変態のほうがましだってんなら別だけど」
「んなわけないし」
「お陰であれ、嘘臭さが先にきて全然楽しめねーの」
 知るか!そんなの。AVなんか所詮は作り物でしょうが。……観たことないけど。
「あんたがもし目の前でまたあんな目に遭ったらかなりキツいわ、俺」
 実際キツいのは私の方だと言い返してやろうと思った。だけど次の停車時の揺れに傾いた身体を受け止めるように支えてくれた
胸板の思わぬ硬さと広さにそんな言い返しさえ飲み込んでしまう。なに、これ。
「そのままでいなよ」
 うっかり掴んでしまった彼の胸元の手を離すなと言われた。手すりから離してしまった手はどのみち行き場がなくて、それに
甘えておく事にする。
「俺のここは空けとくことにしたから」
「なにそれ」
 どこかの漫才師のセリフか。
「……誰でも良いわけじゃなかったんだ」
 どうしよう。聞こえないふりしたってよかったのに。
「――あんたのメアド聞いていい?」
 私、うまく嘘はつけないみたい。
「ここ、空けといてくれるならね」

372 :
* * *
「小松原さん、一つ聞いていい?」
 普段はあまり絡む事のない仕切り屋の女子に肩を叩かれる。
「二つまでなら」
「増田とデキてる?」
 数秒の沈黙の後、女子更衣室はあちこちで二種類の悲鳴があがった。
「うっわー!やられたっ」
「ふふん。帰りよろしく」
「あたしバナナチョコね」
 どうやらクラスの女子達が、学校前のクレープ屋の奢りを賭けの商品にしていたらしい。
「ね、もう一つ良い?」
「え?まだあるの」
「……どこまで行って……ちょ!二つまでって言ったじゃない」
「はいはい、こっから先はプライベート。質問のある人は私を通して〜」
「けちっ」
 無遠慮とも言える切り込みを早紀が素早く制した。助かったけど、あなた私のマネージャーでしたか。
 それにしても、いっつも私が口挟む間もなく事が進むなあ……もう慣れたけど。
「いいよもう、本人に聞くからっ!……て聞くまでもないか」
 私を上から下まで眺めておいてつまらなそうに言う。
「色気づいた跡がなさすぎる……」
 し、失敬な。
「なに、何なの?」
「だってうそ……まさかヤっちゃった!?」
 まさかって?――まさかっ!!
 さっきは縦に振った首を横に振る。
「えー、それこそまさかでしょ!?」
「なんで」
「だって、あのゲス田が手出さないわけないじゃん!!」
 数人がウンウンと頷く中、早紀が耳元で
「ほら、あいつヤリなんとかだって言ってたから」
と囁いてくる。
 そうか、そういえばそうだったっけ。
 でも、私あの事故以来キスどころか、手さえまだ握られてない。
「人の噂なんかアテになんないんだね」
 誰かがそう言うと、なーんだって言いながら皆つまらなそうにバラけて着替えに戻る。何よ、今までラグビーのスクラム状態
だったくせに。ていうか面白いのかしら、人の心配するより自分の……。
 あ、これ以上はやめておこう。なんかやな奴みたいだ私。

373 :
 彼氏が出来るってこういう事なのか。何だか急に周りがよそよそしくなった感じがするんだけど。
 もしかして態度が悪くなったとか、本当に嫌な性格になっちゃったのかな、私。
「あんた本気で言ってる?」
 授業が終わってさあ帰ろうと靴を履きかけて振り返ると、早紀が呆れ顔で腕組みしていた。
「だって、最近男子が話しかけてくれなくなった気がするんだよね。呼び止められても何か言いかけてやめちゃうし、ねえ、
 私って話しかけ辛い?」
「う〜ん。まあ、話し辛いっちゃあ話し辛い、かな?……特に今は鉄壁の守りがついてるから」
「え〜早紀のこと?最近はあんまり居てくれないじゃん」
「……あのねえ……っとに天然ちゃんの鈍感なんだよね、こういう所がブツブツ」
「何か言った?」
 言ってる意味が良くわかんないんだけど。
「増田に同情するよ」
「え?何でよ!」
 近頃あれだけ嫌ってた筈の増田くんに対してかなり態度が軟化したらしい。というよりむしろ味方っぽい。外山くんの影響か?
 言ってる間に一緒に居てくれない原因が来たよ。
「あ、小松原さんいたんだ」
 いたんだ、って。悪かったわねえ。あー早紀の事しか見えてないんだろうな。早紀は早紀であらこんにちはーとか言いつつ
お顔がトマトですよ。
「なによ」
「べっつにぃ〜。……あ、早紀ってドラ○もん好きだよね。後くまの○ーさんとか」
 こっそり耳打ちしてやったら、どーゆー意味だってこっそり足踏まれました。酷い。
「小松……あれっ?お前いたんだ」
 後ろから見覚えのある顔がぬーっと出てきた。
「外山くんならずっといたじゃない。何言ってんの」
「あんた探してたから」
 そうあっさりと言い切られても。な、何よう……何で私が焦らなきゃなんないのよう。 
 呆気に取られる丸い人とクールビューティーを残して、私の彼氏という人はその場からさっさと私を連れ去ってしまう。
 ていうか、手、手!
「……なんか、あんたしか目に入らんくなった」
 冗談なのか本気なのか。わからないまま握られ引かれる手が汗ばんでいく。

374 :
「あの、あんたあんたって言うのなんか気になるんだけど。私にも名前があるんだし。私は増田くんて呼んでるでしょ?」
 いきなり親密になったってわけでもないど、苗字で呼ばれてた時より他人行儀だなあと感じる事がある。
「えっ、俺そう呼んでる?」
「うん」
「そうか……うっかりお前呼ばわりするよりマシかと思ったんだけど。あん……小松原さんそう言うの煩そうだし」
「えっ、そうかなあ」
「うん、怒られそう」
 酷いなあ。私はそこまで怖くないと思うけど。失礼だな。
「下の名前は?」
「う……いいけど。私教えたっけ」
「友達が呼んでるの聞いた。嫌そうだな」
「だって古臭いし、堅そうじゃない?」
「似合ってると思ってるんだけど。あ、褒めてるから」
「……ありがと」
 話しながら歩いていたら、いつの間にか校舎裏の自販機前に来ていた。
 のどが渇いたからと増田くんがジュースを一つ買って、その後また百円玉を入れた。
 買ってくれるというので、せっかくだからとボタンに手を伸ばす。
「……代」
「えっ?」
 聞き取れなかった呼びかけに振り向きかけて、伸ばした指先はそのままに、中途半端に捻れた身体を抱き寄せられるように
引っ張られる。
 その衝撃に思わず目を瞑ると、暗くなった視界と同時に一度味わった事のある感触が一瞬にして蘇った。
 ああ、こんなふうだったのか。
 あの時は全く余裕なく味わうことの出来なかったそれを、ゆっくり受け止める。
 ゴトンと紙パックの落ちる音が頭の隅に響くも、閉ざされた視界の中では唇に移る柔らかく甘いコーヒーの味と匂い、腰に
ある彼の手の温もり。
「やり直し」
 言われて頬が熱くなる。
 壁にもたれ横並びに身体をくっつけて、後の気まずさを誤魔化すようパックを口にした。
「よりによって牛乳は……マズいだろ」
「んん?牛乳嫌い?」
「じゃなく……んじゃ、口の端から垂らしてみ」
「……ヤだ」
 却下した私は多分正しかった。
 誰かさんが言うように私がシメるしかないのだろうか。――この男なんとかしないと。

――続く――
※あと1話で終了

375 :
かわいいー

376 :
イイよイイよ〜

377 :
* * *
 たまたまその日は一人で電車に乗った。
 寝坊したから一本遅れるとメールを貰ったので、先に改札を出て待つ事にした。
 コンビニの前で立っていると、他校の女子が数人こちらを遠巻きに見てこそこそとやっている。なんか気分悪いなあと知らん
ぷりして携帯を見るふりをしていたら、あっという間にその娘達に囲まれてしまった。
「ねえ、あんたS高の増田の今のカノジョ?」
「……何か?」
 上からともいえる無遠慮な物言いに少しカチンときたけど、こちらは一人。分が悪いし関わりたくない。
 ふーん、と値踏みをするような目つきで上から下まで視線を往復させると
「意味わかんない」
と吐き捨てるように言って駅を出て行った。
『今の』がやたら強調されていたことにかなり動揺しているらしい。
 胸のあたりがきゅうっとなった気がして、なんとなくそこを押さえてみる。
 こんな事して楽になれるわけなんてないのに。
 数分後、改札の向こうに増田くんの姿が見えた。
「ごめん。間に合う?」
「速歩きすれば大丈夫」
 少し寝癖の残る頭を気にしながら触る顎に、見慣れないものが見える。
「ヒゲ剃ってる暇なかった」
「えっ!?」
「そんな驚く事かよ」
 もっと大人になってからだと思ってた。
「だらしないのは、嫌かな……やっぱり」
「仕方ないよ。時間無かったんでしょ」
「女にだらしないのはやめたから勘弁して――あ、3分だけ待って、パン買う」
 休み時間に食べる朝食を買いにコンビニに入る。
 来るもの拒まずの男だ。さっきの女の子達だってそう思ったから近づいてきたのかもしれない。
 だけどそうはいかなかった。思惑通りにならなかったからこそ、私にあのような言葉を浴びせていったのだろう。
 私が気に病む事など無いのだ。
「これ払ってきてくれる?」
「え、自分で払いなよ」
 千円札と一緒に商品を数点渡される。
「これ何?お菓子?」
「ゴ……」
 無言でそれらを押し付け店を出てやる。
「恥じらう千代に買わせるのがいいのに」
 知るか!エロゲス。

378 :
* * *
 そういえばデートなどというものをまだしていない。
 学校の行き帰りを一緒にするのみで、どこか満足していた私と違い、向こうはそれが不満らしかった。
 早紀には呆れられ、
「そりゃそうでしょうよ。増田可哀想」
とまで言われた。曰く、これまで来る者拒まずで自然と不自由する事の無かった男にとってはそりゃあ苦痛だろうとまで。
 変われば変わるもんだ、あれだけ嫌ってた筈の人間に対して。
 それは彼氏(今の所お友達から状態らしいけど、時間の問題だと思っている)の友人であるからというだけでなく、親友である
私を見てるとわかるのだそうだ。
「明日の事なんて何が起こるかわからないじゃない?まして人の心なんて尚更。――ああ、好きだなあ、って自然にでしょ?
 なろうと頑張ってそうなるもんじゃないじゃない」
 目から鱗、ってこの事かしら。
 頭で感じるものではなく、心に素直に湧き出る気持ちが、きっと自分自身の従うべきものなのだろうと思う。

「家にでも来る?」
 特に悩むこともなく、週末の予定が決まった。
 特に行きたい場所もあるわけじゃなし。海とか行けなくもない距離ではあるんだけど、そんな気分でもない。
 何よりも少しの好奇心が後押しをした。男の子の家なんてそうそう行ける機会はないから。
 初めての駅で降り立ってからきょろきょろしてたら、前からやたら目つきの悪い恐いお兄さんがやってきた。他人のフリ、
というわけにもいかず片手を上げて応える。
「ちょっと風邪ひいたかもしんね」
「大丈夫?」
 大きなマスクで隠れた顔から細い目が長い前髪からちらちらと覗く様は、お世辞にも良い人相とは言い難い。
「さっき中学の同級生に会って、放火魔か切り裂き魔みたいってゆわれた」
 そうねーともそんなーとも反応し難い事を言われて、愛想笑いを浮かべながらバスに乗り込んだ。
「おう、増田んちの育坊か。なんだバスジャックか」
 田舎町ののどかな風景と言って良いのだろうか。運転手のおじさんの挨拶ギャグはどうも日常茶飯事らしい。

379 :
* * *
「おじゃましまーす」
 誰にともなく玄関で声を出しつつ靴を脱ぐ。
「気遣わなくていい。留守だし」
 そう、と言ってから、一瞬ほっとするものの、すぐに別の緊張がやってくる。
 ここまで来て『じゃあまたの機会に』ってのも変だし。
「怖じ気づいた?」
「誰がっ」
 そもそも何を考えてそんな発言をするのか。下手に家族がいて挨拶やら何やらで神経をすり減らすより全然楽じゃないか。
 増田くんの後に付いて階段を昇ろうとしたところで脇の襖が開いた。
「うわっ!……あれ、お兄ちゃんか」
「なんだお前まだ居たのかよ」
「今から出んの!あ、もしかして彼女さん?」
「こ、こんにちは」
 ふ〜ん、と私を確かめるように見るが、その目つきはこの前の女の子達とは明らかに違った。前者はどこか挑戦的な値踏みに
相応しい不快な何かを醸し出していたが、きらきらと澱みの無い素直なそれは逆にこちらがたじろいでしまいそうな程だ。
「やればできんじゃん」
 ぽーんと兄の背中を叩き、
「ふつつかな兄ですが。どうぞごゆっくり〜」
と賑やかに妹は去っていく。
「いてえなあいつ。後で覚えとけよ」
 玄関を睨みながら顎で階段へと再び促される。
「妹さんいくつ?可愛いね」
「うるさいだけだ。今中3」
 二階の奥の部屋に通されると、勧められるまま床に落ち着く。
「ケーキ買ってきた。うちの近所のだけど一応何種類か選んできたから、後で妹さんにも」
 一応数種類あるのだが、うまく好みに合うだろうか。
「成実(なるみ)の……あ、妹なんだけど。あんなのに勿体無い」
 そう言いつつも私達が二人で食べる分を確保している時、選んだケーキのうち一つを余分に持ってきたらしい皿に移していた。
 その間にペットボトルの飲み物をコップに移してから一息ついて、何気に部屋のあちこちに目をやってみる。

380 :
 本箱の隅に見覚えのある小箱があったのを見つけ、何とはなしに手に取ってみる。
「!――あ、それはっ」
「……なに、これ」
 私の記憶が正しければ、これは先日私にレジに持っていかせようとしたのと同じ物だ。ていうか多分あれだ。
 今更だけど、男の部屋に入るというのは、既に色々なあれこれを了承しているといった事に当たるのだろうか。
「そんなんじゃないけど」
 私の手にあるそれを一旦取り上げたものの、思い直したようにまたゆっくり手のひらに乗せられる。
「中身見てみる?」
「ばっ――まさかっ!!」
 ほんの一片でも頭の中にその考えが無かったなどとは正直言い難い。けれどはっきりと言われてしまうと、素知らぬ顔して
押し込めておいた下心を見透かされてしまった恥ずかしさをうまくあしらう事ができない。
「俺のこと言えないじゃん」
「一緒にしないで!」
 投げつけてやろうと振り上げた手を掴まれ、引き寄せられるとあっと言う間もなく互いの距離が無くなっていた。
 制服のカッターシャツとは違う、頬に当たるTシャツの感触と柔らかさに眩暈がした。
 いつもの日常とはまた違う時間にいるのだという違和感と新鮮な気持ちに、もう少し身を委ねても良いとまで思えてしまう。
 何も聞かずに唇を塞ぎ、体重を掛けてくる彼を押し戻すことも忘れた。
 背中に敷いてあったラグのごわつきを感じても、吐息混じりに被せられる唇の暖かさを受けるのに夢中になっていった。
「風邪移さないようしなきゃな……」
 呟きとは裏腹に、指先は私のチュニックの裾を摘んで捲ろうと動く。
「ちょっ、言ってる事とやってるこ……」
 さっきよりも体重が掛けられたせいか、合わすというよりも塞ぐと言った方がしっくりくるような、力の籠もる重たいキス
をされた。
 コトンと小さく床に転がる小箱を横目で見て、すぐ視線を私の上下する胸の膨らみに落とす。
 それを覆う布地の下にするりと手を滑り込ませ、ごそごそと形を確かめるように手のひららしき温もりが、中に着込んだキャミ
のカップを包み込んでいるのがわかる。

381 :
 ブラ部分のカップを軽く引き下げた感触と同じくして、胸の先辺りを擦り当てられ身を縮めて目を瞑った。
「正解?」
 やだって横を向いてみても、小刻みに転がされる乳首のピリピリとした妙な刺激に、呑み込んだ声とも溜め息ともつかない
喉の奥から来る何かを必にごくりとする。
「そういう顔するから、シたくなるんだって」
 恐る恐る上を見ると、細い目を吊り上げて意地悪く薄笑いを浮かべた。
 ごそごそと盛り上がって形を変える服の中身で何をしてるのか、服を着てるのに、目に出来ない動きが弄られる胸に感じて
るせいで自分が凄くイラヤシイと思えてしまう。
 動きを止めて裾から出てきた手が、ほっと息をついた間に今度はスカートの裾から引っ張り出したキャミを強引に捲り上げ
ると、胸の引っ掛かりからカップを持ち上げる。
 首の下まで押し上げられたしわくちゃになったキャミの下は、どんななのかは容易に想像がつく。
 不意に、ニヤリと不適な笑みを浮かべた。
「なに?……なによ……」
「え?なにが?なんもないけど」
 嘘だ。ほんの一瞬ではあったが、口角が上がったのを見逃しはしなかった。
「こんな時に……余裕だな」
 剥き出しになった胸に直に下りてきた手が、包み込むようにゆっくりと膨らみを揉み始める。
「ちがっ……!そんっ」
 こんな時だからこそ、増田くんの気持ちや考えが知りたくて、少しの動きにも反応してしまうのだと思う。
 初めは片方だけだったのが、身体を支えていた方の腕を空いてるほうの胸にまわし、一度に両胸を撫で回す。
 そのためか、さっきより彼の重みを強く感じる。
 思い切って私も腕を伸ばして、そっと首から肩に向けて触れてみる。
 ――不安、なんだもの。
 胸に向けられていた目がこっちに向いてきて閉じられ、今日だけで何回目かのキスをした。
 決して不真面目とは思えない言動でさっきから身体を求めているのだけはわかるけど、私がどのように映されているのかまでは
理解できないから。

382 :
 何回かキスするうちに、段々息苦しくなってきた。
 数本の指で摘み擦られる胸の痺れるような気持ち良さが襲ってきて、どっちにも集中できずに呼吸だけが荒くなる。
「――んっ!?」
 塞がれた唇から洩れ損ねて鼻先から抜ける声が予想外に甲高くて、一瞬だけ我に返った。
「いや……あのっ――んぁっ!」
 強く押された胸の中心を小刻みにつつかれる。
「いい声出すじゃん」
 やっと唇を離したかと思えば、そんな。
 膝の間に割り入ってきた身体が再びのしかかってきて、両手を顔の両側にそれぞれ押さえつけられる。
 何してんだろう、私は。
「い……や」
 首から下はまともに見られるような状態ではなかったが、見られたとしても直視はできない、したくないような格好で、初めて
来た、それも人の部屋で、はしたない声をあげている。
 首筋に軽く息を吹きかけながら
「嘘つき」
と低い声が責めてくる。
「だっ……あの。ほら、いきなりだし」
「ダメなの?」
 そう訊いておきながら、またすぐ唇を塞ぐ。
 返事聞く気なんかないじゃない。
 目を開けると見下ろしてくる顔がある。その瞳に映ってるのは紛れもなく今の私で。
「……きなんだけど」
「は?」
「なんかすっごい好きなんだけど」
 だから。
「だからする……の?」
「うん」
「や……だって言ったら?」
「……俺の事、好き?」
「うん」
「えらく簡単に言うな」
「だって本当だし」
「じゃ、なんで嫌がんの」
「恥ずかしいもん」
「……」
 しなきゃ、信じてもらえないのかな?
 ゆっくりと倒れ込むように身体を重ねてきて、首筋に再び顔を埋めてくると、ふっと息を吐く音がして、同時に広い肩幅が
上下に揺れた。
「そんだけ?」
「?……ん、まあ、そう」
 後はまだ早いよとか、やっぱり怖いよ――とか色々無いこともないんだけれど、ね。
「なら全然大丈夫だな」
 鼻先を突き合わせて来ながら、不敵な笑みをまた浮かべる。

383 :
「どうせすぐ関係なくなるし」
「ちょっ――あっ!?」
 急に視界から消えた、と思ったら、彼の頭は私の胸の位置に。
 さっきは指先で弄んでいたそこを今度は唇で軽く挟み、時折なにか動く――多分舌で――。
「っや……やぁ……」
 なま暖かい濡れた柔らかさが包み込んでは転がし、つつき、吸い上げられて疼く。
 背中が軽く仰け反って震えた拍子に両手首が自由になった。
 その手は自分を押さえつける塊を跳ね除ける事はなく、夢中になって身体を貪るその頭に抱き締めるよう乗せる。
 整髪料の香りと、それのせいか少しごわごわとした黒い髪の毛が軽く肌に刺さるように擦れるのが、なんだか変な感じ。
 反対側の胸先へと唇を移し替えて、片方の手はスカートを捲り上げ、太ももをさすり出す。
 ショーツのゴムを指で引っ掛け浮かす。
「尻あげて」
「あ……うん……え?――やだ、や、ちょっと、だめっ!」
 いくら何でもそれは、それは。
「何で。脱がなきゃ」
「だってそんな事したら……」
「したら?」
 そんな事聞く!?
「じゃあこのままでもいいけど、困るのはそっちだと思う」
「困るってな……」
 おへその上に置いた手を、するっと下着の中へと滑り込ませる。
「いやっ!――やっ」
 そんな所を何の躊躇いもなく触ろうとするなんて!!
 脚を閉じて抵抗しようと思ったら、それより先に彼の曲げた膝の押し戻す力が強くて間に合わない。
 何本かの指がアノ辺りを探っては耳を覆いたくなるような湿った音を立て始めた。
 同時にまた胸に顔を埋め、さっきのように吸いついてくる。
 指先がすーっと這って、何かを探し当てた。
「――っぁあっ――」
 触れた瞬間、腰が抜けたかと思うような衝撃が走る。喉の奥から今まで出した事のないであろう声が、意思とは無関係に押し
出される。
「んっ!いや、いやぁ、やぁぁンッ」
 胸とあそこと一度に弄られ、もうわけがわからない。

384 :
「嫌だって言ってるくせに」
「なにっ……ぁ――!?」
 じわりと身体の奥から何かが溢れ出すのがわかった。
「濡れてんだよ」
 ほら、と指を下着から抜き出し、目の前に翳される。
「だから嘘つきだっつってんの」
 耳元で息を吹きかけながら、またその指を私のそこに戻す。
「どうする?このままじゃ濡れたパンツ穿いて帰んなきゃだけど。それとも」
 意地悪く見下ろしながら、口元に薄く笑みを浮かべた。
「いっそ穿かずに帰る?」
 ゆっくりと指で押し開くようにそこを探り、再びぬるぬる動き出す。
 どこをつつかれれば気持ち良いのか、さっきので解ってしまった私の身体からの要求が、力の抜けたほぼ無抵抗になった開きっ
ぱなしの両脚の中心に熱をもって流れ出ている。
「んな事できないっ」
「させねえって」
 もう一度言われる。
「だからお尻をあげて下さい」
「……丁寧に言われても」
「俺以外に見られていいんだ?これじゃあのAVみたく……いでっ!」
「ばか!やだもうっ!!」
 こんな時に何を思い出すんだ。
 下着に掛かる手をぱちんと叩いてはねのけた。それから、キャミを直そうとしてその手を握られる。
「冗談。ごめんって」
「デリカシー無さ過ぎ」
 本当どうなの?そういうトコ。明け透けというよりやっぱゲスい!
「でも俺男だし」
「知ってる」
「頭の中はそういうもんよ?」
「そうかもしれないけど……」
「今だってもう、何つうか、限界なんだけど」
「はい?」
 そういうゲ……増田くんの視線を辿ると、私の全身を、それこそな……舐め回……すというか。
「いやあぁぁっ!?」
 捲り上げられたチュニックとブラトップを直そうと暴れて、その手は頭の上に押さえられる。
「今更何言ってんの?」
「だってこんな、みっともな……」
「今までアンアン言ってたくせに」
「っく……」
 さっきより少し乱暴に下着の中に手がねじ込まれる。
「身体は正直なんだよ?」
「……ぁ」
 湿りを帯びた指が容赦なく攻めてきて、どくどくと全身の血が駆け巡る。つま先や背中まで不思議な痺れが伝わってくる。

385 :
「見る?」
 そう言って私を押さえていた手を離した。
 強い快感から解放され半ば朦朧としながら目をやると、ジーパンのファスナーを下ろしている。
 あの手が今私の両腕を動けなくする程の力を出すのだ。それも自分では細いと自慢するには気が引ける両の手首を一度に、
片手で。
 あの指が、私の――。
 ――あ、また、じゅ、って。
 やっぱり、マズいかも。
「これ」
 それだけ言って、私の右手を盛り上がったボクサーへと導いた。
「硬いだろ?」
「うん」
「普段はやわらけーの。でも、今はこんな」
「へ、へぇー」
 知らんがな!平静を装ってるけど、心の中はバクバク色んな何かが大騒ぎを起こしてる。だってどうすりゃいいわけ!?
「だから身体は正直だってわけ」
「は?」
「嫌よ嫌よもとか言うじゃん?」
「な!何よそれー!!」
 言う?そういうこと言う?
「エッ……エロいの観すぎなんじゃないのっ!?」
「いや、最近飽きた」
 もーやだー……。
「そうは言ってもここはこんなだし」
 私に自分のを触れさせたまま身体を沈めてショーツの上から縦に指を滑らせる。
「嫌なんて言いながら、何でこんなに濡れ」
「言わないで!」
 その引っかかる感じから見なくてもわかる。ていうか意地悪い?このひと。
「勃ってる」
「見ればわかるよ」
「違う、そうじゃなくて。……おっぱい」
「えっ……あ」
 見慣れてる筈のふくらみの上にあるぽっちが、ぴんとまあるく硬くなって乗っていた。
 それをぱくっとくわえてちろちろと舐め始めた。
 ――あ、気持ち、イイ。
 最初より転がされる感じがはっきりとして、それがじんわりと下半身にまで広がっていく。
 私が声を洩らす度に、彼のそれがピクピク震えて、熱く、布地の下でぬめりを帯びて湿ってゆくのが指の腹に伝わってくる。
「……ねがい」
「ん?」
 ゆっくり口を開けてくわえていたモノを離して顔を上げる。
「やっぱり……脱がせて」
 言っておいて恥ずかしくて顔を背けた。

386 :
 素直にお尻を浮かせてショーツを脱がせて貰うと、ベッドに掛けてあったスポーツタオルを下に敷かれた。
「あ、もう我慢できない。俺、まじ無理」
 脱がしきらないでふくらはぎに白い布を引っかからせたまま、腕を伸ばして何かを探している。
 やっと取りあげたのは、さっき私が見つけた――言わばこんな状態に突入してしまった原因。
「これも取ろう」
 スカートも脱がされ、半裸状態で寝転がっている私のそばで彼もボトムだけを取り去る。
 ぴんと勢い良く飛び出したそれは、思っていたのより奇妙に色形で、何とも形容しがたいという感想。
 こんなのが、と思ってるうちに薄い膜が被せられ、再びのしかかってくる。
「俺は違うんだけどさ」
 わかってたけど、ちょっとずきんときた。
「貰うね」
「んっ……!っあ――はあっ!」
 くちゃくちゃとさっきより少し大きく聞こえた後、悪戯していた指がそれよりももっと逞しいモノに替えられて、これまで
何にも赦したことのない場所に入り込んでくる。
 初めては痛い。それは常識だ。知らないけど皆がそう言うから。
 文字通り逃げ腰になる私を彼の身体も追い掛ける。
 言われるように深呼吸して力を抜くよう努力する。
 どこかで無理やり何かをこじ開ける音がするような、そんな幻聴まで起こりかけた。
 腰を僅かに沈めつつ、胸の先を指の腹でつつきながらキスしてきて、ふっと息を吐いた拍子に中が奥まで広げられた気がした。
 私を見て小さく頷くと、小刻みに腰を動かし始める。
 擦れる痛みに唇を噛み締めると、軽くキスされた。
 動きが進むにつれ痛みにも慣れてくる。私の口元が緩むと同時にまた動きが強く速くなり、段々と腰の振りが大きくなる。
「ああっ――!」
 肌のぶつかる弾けるような乾いた音がして、反するように膝の裏側から腿につうっと汗が流れ落ちた。
「……きだ」
「増……」
「好き……んだ――千代、がっ!」
「あっ――私――」
 ぐっと今までの中で一番強く腰を突き出してきて、大きく震えて息を吐き出した。
「……いく……み……くん」
 ジンジンと痺れる痛みに繋がったままの身体を抱き寄せて、強くしがみついた。

387 :
* * *
「ばか!スケベ!エロゲスっ」 吹っ飛ばされた下着を拾ったのに返さず、鑑賞し始めた男をノーパンのまま罵った。
「スカート先にはくから」
「近くにあったんだもん!」
 コトが終わってしまってから、徐々に意識がはっきりし、素っ裸の下半身を思い出すと一気に現実に引き戻された。
 手慣れた様子でさっさと身仕度を整える増田くんを尻目にもたもたとキャミを引き下ろし、足下にあったスカートを見つけて
慌てて穿いた。
「千代は、スケベじゃないんだ?」
「ないっ」
「ふーん」
「何よ。何が言いたいわけ?」
「確か新品だったよな……下着」
「なっ!!」
 確かに、ブラキャミも下もおろしたてだけど。ていうかそんなのがわかるのって……どうなの?
「男の部屋に来るのに、何も期待しなかったとでも?」
「それは、そうした方が良いって言ったから……」
 早紀に今日の予定を話したら、どこも気を抜いちゃだめよって言うから。
「間に受けたわけね?」
「そうかも……」
 そりゃあ少しも考えなかったって言えば嘘になるけど、こんなに進むとは予定外だったとも言えないこともない。まあ、結果
なるようになったわけだけども。
 やっと返して貰ったショーツを身に着ける。汚しちゃったかな、ちょっとやだな。でも替えなんて持ってないし。次は最初
に脱いじゃった方が良いのかしら――って、次って!!
「何考えてんの?」
「ひゃっ!?」
 後ろから抱き締められて、下着の上からお尻をなでられる。
「やっぱりエッチな妄想してない?耳朱くなってる」
「してなっ……やっ」
「……もっと濡らしちゃおうか?」
「何考えてんの!だめっ」
「濡れちゃうってわかってんのな」
「違うもん!やだ触るな」
「余所ではしないから」
 それは困る。当たり前でしょ!って言いたいけど、元々そうしたモラルに欠けた所があった男にそれって通用するんだろうか。
「……誘われたら?」
「そういうのやめたっつったでしょ。だから千代で満足させて」
 そんな事言われても、それはそれで困る。

388 :
「ます……」
 ――ダンダンダンダンダンッ!!
「育実いるかー?」
 激しい階段を駆け上る音と威勢の良い声に驚いて、彼は後ろに、私は前に吹っ飛ぶように離れた。
「育実また雑誌やるわ――あ、あれっ?お客さん?」
「あ、お、お邪魔してます」
「いらっしゃい。俺こそ邪魔してごめんねー」
「何だよ!勝手に開けんな」
「あれ成実の靴だと思ったんだよ。あ、俺こいつの兄ちゃんです」
「小松原です」
「育実の事ヨロシクね。優しい奴だから。――あ、じゃこれお前いらんな?友達にやれや」
 紙袋を床に置くとき、じーっと部屋の隅を見つめる。その先を辿ってみると、私があっと思った瞬間増田くんが落ちてた物を
引ったくった。
「あー……兄ちゃんなんも見てないから」
「うるさい!早く帰れっ」
「増田くん、そんな言い方」
「いいからいいから。……あ、無くなったらうちから持って来」
「いらねえってば!」
 ニヤニヤと笑うお兄さんと真っ赤になってムキになる彼。
 あれ?増田くんてこんな人だったっけ?
 お兄さんが帰ってからは、嘘みたいに静かな家に戻った。嵐の去った後のよう。
「鍵掛けてないの?」
「留守じゃなきゃな。この辺じゃ普通」
 平和なんだな。ちょっと離れると違うもんだ。
「な、なんか面白いお兄さんだね」
「うるさいだけだよ。バカがつく程明るいとも言うけど」
「そんな……何かほら、持ってきてくれたんじゃないの?」
 私が指した紙袋を複雑な目で見て溜め息をつく。
「いらん気遣い過ぎなんだよ」
「なんで?優しいじゃない」
「中身見てみ?」
 何をそんなに嫌がるのか。不思議に思って中身を覗いてみてやっとそれを理解した。
「引いた?」
「あ……あはは」
 多分私、今、顔にタテ線入ってる。
 見た目はマンガや週刊誌のようだけど、所々それ系の記事が目に付くわ、何となくだけど、袋とじまで破ってそうだわ。
「そうやって俺やら外山に回してくれんのよ。自分が苦労したから俺らにはそんな事させたくない、らしい」
 や、優しさなのかそれは。

389 :
「弟思いのいいお兄さんじゃない?」
「弟思いねえ……」
 精一杯フォローしたつもりだったが、どうも納得いかない様子。
「彼女いるのにそーゆーもん持ってくるか普通」
「それは私が居るとは思わないからじゃ」
「いや、あの人にはそうした恥じらいとか気遣いとかはまるで無い。さすがに成実――妹には言わないけど」
「仲悪いの?悪気はないと思うんだけど」
「悪くはないけど……よくわからん。義理の兄貴だから。――姉貴の旦那なの、あの人」
 そうなんだ。ああ、そう言えば女きょうだいだけなんだっけ。
「可愛がられてるんじゃない?」
「そうかあ?……そりゃ、向こうも女ばっかの三人姉弟だから立場は同じなんだろけど」
「だったら尚更そうだよ。男の子同士だから仲良くしたくてたまらなそうじゃない」
『育実』と彼を呼ぶ声と、私に彼をよろしくと言った笑顔の中に残る真摯な眼差しが思い違いでないのなら――いや、きっと
そうだ。
 あの人の愛する妻の血を引く彼を、愛おしく想わない筈はないだろうから。
「あの人にはどうしたって勝てない。姉ちゃ……姉貴を人目もはばからず嫁が嫁がってのろけてすげー大事にするし、俺や成実も
 自分のきょうだいみたく守ろうとしやがる。バカのくせにくそ真面目だし嫁に見つかって怒られてもエロ本読んで勉強だとか
 ゆーし。つうか隠せよ」
 勉強って……。まあ、何だか一度会っただけだけど、取り繕った感じがしなくて、妙にすっきりとする。
 ていうか多分素直すぎてあんまりは怒れないよね、奥さん。
「許されるんだよ何もかも」
 しょぼんと丸まった背中にらしくないと思いながら、私は何となくそれに気が付いてしまった。
「……増田く……育実くんは育実くんでいればいいと思うよ」
 細っこい目を少しだけ丸くして、首を伸ばして私をまじまじ見る。
「なりたい人になろうとするんじゃなくて、今の自分を大事にして欲しいと思う」
 無理して明け透けな自分を作ろうとして、多分予想と少しずつずれてしまったのだ。現実はそううまくゆくものじゃない。

390 :
「だから。私の前だけでも」
 本当は臆病なひとなのかもしれない。
 男だから誰かを守りたいって気持ちがあって、誰かに――愛されたいって願いもあって。
 それを隠すためには強くありたい。私だってそう。
 そのために、自分の瞳にそう映る誰かになろうと鏡の中の自分を造り上げようとしてたんだ。
 私にとってはそれがどんな人間なのかよくわからないでいる。でも彼には居たんだ。近付きたいと思える誰かが。
「育実くんには育実くんの良さがあるよ。多分不器用なんだと思う。けど」
 あの人とは違う。
 自分をどんなにさらけ出してるようでも何かを無理してるから、どこかちぐはぐして時に誤解を生む事もあったのかもしれない。
「私は……育実くんが好きだよ」
 そうじゃなきゃいくらなんでも、あんな真似できるわけないじゃん。
「幻滅とかしないの?つまんねーちいせー男だって」
「最初にしたからもういい」
「……あんまりアレも上手くないし」
「?――知らないよっ!!」
「今更隠しても仕方ないから」
 別にどうでもいいんだけど。知りたいわけでもないんですけど。
「自分から押し倒したの、初めてだわ」
「……あ、そう」
 もしかしたら喜ぶとこかな?ここは。
「私わかんないもん」
 ――でも、嫌じゃなかった。 そう小さく呟いてみたら、ちゃんと聞こえたみたいで、今までで一番優しく肩を抱かれてキスされた。
「じゃ、二度目ある?」
「……私以外、拒んでくれたらね」
 ぎゅっと抱く腕の力が強さを増した。
「ずっと、いくみくん、て呼んでいい?」
「うん。――千代」
「なに?……育実くん」
「いっぺん電車で尻さわ……いてっ!!」
 背中に回していた手で思いっきり肉を摘んでやった。
「痴漢と一緒じゃん変態!」
「じゃ、今なら?」
 これは犯罪じゃないとばかりにお尻を揉んでくるし。
 ――結局、男の本性ってこうなわけ?
「風邪移したら看病してあげるからさ」
「ばかっ」
 あんまり裏も表も実は変わらないんじゃ?と不安が募る私だった。

――終――
長々ありがとうございました

391 :
ゲス田くん可愛いなー。
いきなり千代ちゃんの初体験とは読むまで思わなかった。
面白かったけどちょっと展開早いかなーって思った。でもこれは自分の感覚でわってことだけどね。
お友達の話も読んで見たいと思うような、ほんわかで良い人物設定と思います。
楽しみに読ませていただきました。GJっす!

392 :
確かに後半の展開がちょっと駆け足だった気もするけど、
楽しく読ませていただきました。ありがとう!

393 :


394 :
hosyu

395 :
誰か投下しなさい!

396 :
では、書き込ませてもらいます。
このスレ見てるともやもやしてきて、何故か男の俺様としては風俗店に行きたくなります。
さりとて資金的に余裕は無く、妄想や萌えに浸りたい俺様は風俗遊びも儘ならず。
激安って無いかなあと、妄想に耽り探していると。
いま凄い流行の即プレイの風俗にすぐ辿り着けました。
激安で流行りの風俗、即プレイ?
本当かと池袋などに出かけてみましたが情報は正確でした。
特に池袋は激戦区らしく、激安なのに嬢のレベルが高い高い。
それなのにホテルは安い。

397 :
プレイ時間によってはAFが無料とか、
潮吹きなんか基本プレイの中に当然含まれてたり。
先日は池袋サンシャイン側のある店で着エロのアイドルと遭遇。
そこはAV嬢の在籍も多く、それに激安。
お金に余裕が有れば渋谷とか、新宿に行きたいのですが。
新大久保も安いと思ったら、割と高く、
嬢レベルも高く激安は池袋かな?
大塚もお奨めかもです。

398 :
女向けソープはねーのか
女向けソープは
建ってもすぐ潰れるんだよなあ
男の体力が持たないから

399 :
復帰

400 :
過疎

401 :
保守

402 :
保守

403 :
まだあ?

404 :
まだあ?

405 :
まだあ?

406 :
保守

407 :
ほしゅ

408 :
そろそろ…

409 :
このスレ二次創作は禁止なのか

410 :
>>409
>>1

411 :
ほしゅ

412 :
ほしゅ

413 :
保守

414 :
ここの>>1はワガママだなー
条件多すぎるだろ

415 :


416 :
しゅ

417 :
おっさんのケツ振りダンスを見たい

418 :
職人さんを待ちつつ保守

419 :2013/10/04
昔ここでオススメしてた「雨の様に聞こえる」
この続きが読みたい
サイトの更新がストップしたまんま(泣)
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