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2013年09月エロゲネタ386: 恋姫†無双〜ドキッ☆乙女だらけの外史演義〜 25 (504) TOP カテ一覧 スレ一覧 Pink元 削除依頼

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恋姫†無双〜ドキッ☆乙女だらけの外史演義〜 25


1 :2011/04/14 〜 最終レス :2013/07/14
諸葛亮 曰く
「は、はわわ、ご主人様、次スレは>>980前後の人か480KBを越えたら宣言してから挑戦してください」
外史より生まれ落つる外史。その無限に広がる可能性を書き綴る場です。
幾たび終端を迎えようとも、それは千代に八千代に続く恋の物語。
■投稿ガイドライン(さるに関しては>>2参照)
1.SSはある程度書き溜めてから1レス分の最大行数32行&最大バイト数2048バイト以内に収まるように分割する。
2.分割して20レス以上になった場合は投下直前ではなく早めに告知してくれると支援され易いし他の書き手と被らない。
3.陵辱・オリキャラ・クロスオーバー等特殊ジャンルの場合はSSを書き込む前に告知する。
4.投下予定レス数は投下前に告知するか、もしくはSSを書き込む際に名前欄に 「1/10」「2/10」…「10/10」のように投下状況を記載してくれると解り易い。
5.分割したSSをひとつずつメ欄sageで投下していく。支援や時間帯にもよるが、1分以下間隔では規制されやすいのでご注意を。3〜5分間隔くらいがオススメ。
6.投下先には避難所(関連スレ参照)も使えます。議論したい人も避難所へどうぞ。
■関連サイト
BaseSon               ttp://baseson.nexton-net.jp/
BaseSon暫定ミラーサイト     ttp://www.no-mad.jp/basesonmirror/
真・ぷち姫†無双(携帯向け)   ttp://nexton-net.jp/sinputihime/
真・ぷち姫†萌将伝(携帯向け)  ttp://nexton-net.jp/putimoe/
まとめサイト&専用UP板     ttp://koihime.x0.com/
■前スレ
恋姫†無双〜ドキッ☆乙女だらけの外史演義〜 24
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/erog/1282666144/
■関連スレ
恋姫†無双 シリーズ 総合スレ 239
http://kilauea.bbspink.com/test/read.cgi/hgame2/1302004748/
恋姫†無双〜ドキッ☆乙女だらけの避難所〜 23
http://koihime.x0.com/test/read.cgi/koihime/1301759758/

2 :
さるに関する考察コピペ
 さるについてな
 支援がてら、最近報告の多いバイさるについての個人的考察を。
 バイさるは、
 『一つのスレに ある時間(H)内に 最近の投稿(N)のうち 沢山投稿(M回)したら「バイバイさるさん」になる』
 と言われている。
 H,N,Mは可変らしいが、VIPに於いては一時間の間で10回連投するとほぼ確実にさるさんとなる。投下間隔は実はあまり関係ない(連投規制は別)。
 さるになったら次回の00分になるまで待つしかない。00分を挟む事によりリセットされる。
 既定時間内に10レス以上投下するには支援が必要。支援により上記Nが増え、Nに対するMが減るためである。
 経験的に1投下1支援で20くらい可能。恐らく既定時間内で半分以上自分のレスで埋めなければさるは発生しないと思われる。可変のため確実とは言えないが。
 また、一時間というのは00分から次の00分までであり、初書き込みから一時間の間ではない。だから00分を跨ぐように投下すれば、一人でも最大20レスが可能。
 その他のさる回避としては、株主優待の利用、IPの切替えがある。
 投下する方、目安にしてください。
 異論や間違いの指摘も受け付けます。

3 :
>>1おつ

4 :
>>1
                 ((  ) z
              ____( )) z
      ∧_∧   /__ o、 |、    お湯を沸かしているけれど
     ( ´・ω・)   | ・ \ノ      べ、別に>>1の為じゃ・・・     
     旦  o)    | ・  |
     ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                                           ,.- 、
                       (⌒ヾ::))   ((⌒:::Y⌒::⌒::Y⌒'::))⌒´ ⌒)、_
                     _ノ ::: ) ))   (( ::;ノ ::人 :ノ::   ::⌒) ((_,: `))
                 ((__ノ( ::: )::)   (⌒ー--‐'^ー' "ー〜'⌒)Y⌒  :_)'⌒
          (  ::: ))    (  ))   __)           _,(⌒  `ソ´
                    (  )ニ〜'            _ノ(  :::ノー'    (  ⌒)
   (  ⌒)             (⌒:::)⌒   ー'⌒)   ((⌒::: `ー ))
            ー--ニニニ( ⌒))           (⌒こノ  :::)´         _ノ
                    (  ))       ,(⌒Y´`  :rー' ̄        ノ(
       (  :::)         (::  ))     ノ  :::ノ  _ノ         ((´  ))
                    _ノ⌒:::))、_   (     ((−、_,.〜^ー-、(⌒'  Y⌒)
              ____(⌒:::::⌒ ⌒:))  `ー-(  :::(⌒    :::ー'   :::: _ノ
      ∧_∧   /__ o、 |、ー-‐'⌒ー'   -ー'  ´ー〜'⌒ー-、_)-ー'⌒ー'´
     ( *・ω・)   | ・ \ノ
     旦  o)    | ・  |         (  :::)

5 :
専用板へSSをUP致しましたので告知をさせて頂きます。
これまでは牛歩気味だった話が今回で少し動き始めてます。
一刀と魏、西涼の物語がどうなるかはまだまだこれからです。
無じる真√N:64話
(警告)
・アブノーマルな描写が入ることもあります。
・18歳以上向けのシーンも時折あります。
・資料を元に独自な考えで書いています。
(当方へのご意見、ご指摘など)
・URL欄のメールフォーム
・メール
・専用UP板
・投下先のスレ
ご意見、ご感想などはこれらのどこからでも構いません。
※善し悪し関係なく、一通りのご意見・ご感想、ご指摘は受け付けております。
なるべく活かしていきますが力量次第なのでその辺りのご理解の程よろしくお願いします。
あと、久しぶりに質問を頂きましたのでこちらで返答をさせて頂きます。
質問:最近、一刀さんがエロくなってきてませんか?
答え:エロスさんは元から一刀の塊です。忘れてませんか?

URL:ttp://koihime.x0.com/bbs/ecobbs.cgi?dl=0639
楽しんで頂ければ嬉しいです。
そして、>>1乙です。

6 :
おっつー

7 :
>>5
乙−!
渋いぜアニキ!男の友情ってやつかな
ところで夏侯淵の機動力ってそんなに凄いの?三国無双しか知らんからわからん

8 :
三国志的には夏侯淵はがーっと行ってがんがん戦う人。
逆に落ち着いて地域全体の軍を指揮したりするのには向いてない。おかげで定軍山で討ち取られる。
>>5
乙。これから読んでくる。

9 :
惇が猛進・淵が沈着な創作は多いけど実際は逆だよな

10 :
>>5
投下乙
星がわかってて普通さんがわかってないことが気になったな
一体何のことを言ってたのか…

11 :
>>8-9
割と驚きだったけど確かに三国無双でも惇が結構落ち着いた感じだわ
三国無双の感じもあながちキャラ付けでああだったわけじゃなかったとは知らなんだ
>>10
ああ、それは気になった
その二人は知っているはずで雛里は微妙っぽかったのがまたヒントっぽいけど
まさか普通の剣?!・・・違うかw

12 :
清涼剤氏おつです!

13 :
清涼剤氏おつ
詠のは野宿してたわけだしご愁傷様としか;
だけど引くのでなく拭くかと聞く辺りは流石一刀さんだわw

14 :
恋姫のSSだからなぁ
三國志とか興味ない俺みたいなのもいる

15 :
読んだ限りだと別段三国志知識必須って程でもないと思うんだけどなぁ…
あくまで知識があるとより楽しめるかもって程度の書き方だし
やっぱり人それぞれなのかな

16 :
投下おつー
新スレだからかまったりしてるなw
前スレラストみたいに十三号氏もまた投下してくれんかなぁ

17 :
>>5
個人的にはもっと燃え要素か萌え要素が欲しいところかも。
起伏がなくて平坦な感じだから山谷を作ったほうが話が盛り上がると思う。

18 :
半頃から直投下します。
タイトルは『翠の墓参り』です。
6レス程度の予定です。

19 :
 桃香、華琳、雪蓮という三人の英傑が中心となることで大陸は大分落ち着いた。
 いろいろなことがあったけど、今はもう啀み合うことも騙しあうこともない世界。
 俺たちの求めるものがようやく手に入ったんだ。そう思えることが当たり前になったある日のこと。
 事の始まりはそう――
「ちょっと、涼州に戻ろうと思うんだ」
 翠のその一言だった。
 俺は政務のために動かしていた手をとめて翠の方を向いて聞き返す。
「それは、またどうして?」
「母さんのところへ行ってこようと思ってさ。ほら、ようやく平和になったことだしそろそろ顔を見せようかなってね」
「うんうん、みんな頑張ってくれてるから天下太平って感じだもんね」
「もちろん、桃香の頑張りもあってだな」
 桃香は手を合わせてニコニコとしている。
 この大陸で生きる人々が平穏な日々を送れるようになったことが本当に嬉しいんだな。
「なあ、どうかな?」
「構わないと思いますよ。最近は若手の方々にも仕事を回していますので大分余裕もできましたし」
「朱里ちゃんがそう言うならいいんじゃないかな」
「それじゃあ」
「うん、行ってきなよ。お墓参り」
「ありがとう、桃香さま」
「偶には骨休めでゆっくりしてきてください」
「朱里もありがとな」
「……俺には?」
 非常に嬉しそうなのはいいことなのだが、なんで俺だけスルーされているのだろう。
「ご主人様には一緒に来てもらおうと思ってるんだ。だから、ご主人様への礼はその後にするよ」
「俺もって……それは流石にまずいんじゃないか?」
 吃驚して桃香たちを見るが、別段驚いた様子はない。
 それどころか、頷きながら同意してる。
「それじゃあ、日時はおって伝えるから準備しといてくれよな、ご主人様」
 そう言うと、翠は政務室を飛び出していった。

20 :
 翠が去った後も唖然としたままの俺は二人の方へと振り返る。
「えっと、なんて俺までなんだろ?」
「もう! それくらい察してあげられないとダメだよ、ご主人様」
「なんのことだ?」
「……はぁ」
 どうして二人は溜息混じりに頭を抱えているのだろうか。
 結局、俺はその疑問の答えを最後まで知ることなく、翠たちと共に蜀を発つことになった。
 涼州へとついた俺たちは宿泊先へと向かっていた。
 久しぶりの風景に蒲公英も翠もずっとどこか嬉々としている。
 時々、翠が調子悪そうにしているのが気になったが、すぐに快復していたので問題という問題もなかった。
 俺は帰郷を喜ぶ二人を見て微笑ましく思いつつ、これまでとは違う環境にしきりに感心していた。
 気になることを頻繁に質問をする俺を面白そうに見ていた蒲公英だったがふと思い出したいう風に話題を変えた。
「そういえば、最近のお姉様ってば凄い食欲なんだよね」
「そうなのか?」
 元々結構な量を平らげるから特に変化には気がつかなかったな。
 ふと見ると、翠は腹をさすりながら首を傾げている。
「なんか、最近無性に腹が減るんだよなぁ」
「へえ……あれ? 翠、気のせいか少し顔赤くないか」
「え? そうかなぁ、ちょっと身体が重いような気はしてたんだけど」
 どこか元気のない表情を見て、心配になり翠をすぐに休ませるべきかと考える。
 宿へと向かう足取りを急がせるが、その間にも翠の調子は悪くなっているようだった。
「ずっと体調が優れてなかったんじゃないのか?」
「……実は、出発まえから変な感じはあったんだ」
「おいおい、それなら先送りにしても良かったんじゃないのか?」
 肩を貸しながらそう言うものの、出立前に気付かなかった俺にも咎はあるから強くは言えない。
 宿泊先までの距離はまだ結構あるのを確認して俺は蒲公英の方を見る。
「仕方ない、蒲公英は先に行っててくれ。俺は翠を医者のところに連れて行く」
「はーい。それじゃあご主人様、お姉様のことよろしくね」
「あたしは別に大丈夫だよ、これくらい」
「何があるかわからないんだから駄目だ」

21 :
 無理して一人で歩こうとする翠を半ば強引に抱き寄せると俺は行き先を変える。
 街の人に道を聞いて医者の元へとつくやいなや翠を診てもらうよう頼み、俺は一人隣の部屋で待つことにした。
「あまり酷い容体じゃなければいいんだけど……」
 座りこんだままこめかみを指圧する。
 長旅と心配のしすぎで偏頭痛が先ほどから起きていた。
 しばらく生あくびを繰り返していると、どこか呆然とした様子の翠が戻ってきた。
 俺が口を開きかけると、それよりも早く翠が切り出してくる。
「……妊娠してた」
「へ?」
「だから、あたし妊娠してるらしい」
 うつろな表情で答える翠の言い方はどこか他人じみているように感じる。
 実感がないのかもしれない。
 だが、俺にはそれよりも気になったことがあった。
「本当か? ち、父親は!」
「ご主人様以外にいるわけないだろ! だって他の男としたいなんてこれっぽっちも思ったこともないし、思わないし……」
 顔を赤くして、両人差し指の先をつんつんと突きあいながら答える翠を俺は抱きしめずにはいられなかった。
 自然と腕に力がこもり彼女は少し苦しそうにする。
「ななな、なにするんだよ急に」
「よくやった、翠……本当によくやった」
「……ご主人様」
 抱きしめたまま顔を見合わせると、翠はようやく冷静になり始めたのか瞳は生気を取り戻している。
 しかし、すぐにうるうると瞳を潤ませて俺の背に手を回してくる。
「やったな。これで、翠もお母さんだな」
「あ、あたし、母親になるのか? あたしが……あたし、あたしが……ふ、ふわぁぁん」
 ようやく事態を飲み込めたのかと思ったけど、今度は火が付いたようにわんわんと泣き出す翠。
 ぼろぼろと涙をこぼす翠を抱く力を緩めつつ、俺は子供をあやすように彼女の頭を撫でる。
「何も泣かなくても」
「うぅ……だって、嬉しいじゃないか。このあたしがご主人様の子供を授かるなんて……えぐっ」
 嗚咽混じりに俺を見つめる翠の瞳は喜色に満ちている。
 その反応が嬉しくて、愛おしくてたまらない。

22 :
投下大支援

23 :
「翠、愛してるぞぉ!」
「な、何を急に! じょ、冗談なんか言うなよ、あたしなんて……っていつもなら言うところだけど、あたしも愛してるよ、あなた」
 耳元で囁く翠の『あなた』に体温が上昇するのを感じる。
 俺の顔は一瞬で赤く染まったことだろう。
 それから翠は暫くの間、ほうっと頬を染めてイヤイヤと顔を振ったり、喜びが蘇ったのか泣きじゃくったりを繰り返していた。
「なんかもう、あたしは胸がいっぱいだよ」
「俺も幸福感で一杯だ」
「本当にあたしのお腹にご主人様の子がいるんだよな?」
 何度目かになる質問に破顔しそうになるのを堪えつつ俺は答える。
「まあ、あれだけやってればな」
「雰囲気を台無しにするなよな、馬鹿」
「ごめんごめん。でも、俺が翠を愛した成果なんだって実感できるだろ」
 その言葉で白目を延々と向けてくる翠を連れて俺たちは寄り添うようにして宿泊先へと戻るのだった。

 泣き疲れもあったのか、到着するやいなやぐっすりと眠ってしまった翠をそのままにして俺は一人近くの酒屋へと赴いた。
 月光りを浴びながら店へと入ると、すぐに酒を頼み静かに嗜む。
「翠も母親になるのか……」
 普段、彼女が蒲公英としているやり取りを思い描き、俺はくすりと笑う。
「きっと子供に手を焼かされててんてこ舞いになるんだろうな」
「あと、お姉様のことだから何か無茶なことをしそうで心配だよねぇ」
「そうそう。幼いうちから鍛えてやるんだなんて言い出しかねない……って、蒲公英」
 感傷に浸りながらちびちび呑んでいたため正面に蒲公英が座っていることに気がつかなかった。
 椅子に腰掛けたまま足をぷらぷらとさせる蒲公英は珍しく静かな顔をしている。
「どうした?」
「いや、なんだか不思議だなって」
 いつの間にか杯を手にしている蒲公英に酒を注いでやる。
「昨日まではお姉様のことをまだまだ子供っぽいところあるなぁ、なんて思ってたはずなのに親になるって聞いたら急に大人に見えるんだもん」
「俺も翠が母親っていうのがすぐに思い浮かばないよ」
「でも、なるんだよね。あのお姉様が」
「なるんだよなあ、あの翠が」
 そう言うと、どちらからともなく吹き出し二人して大笑いをする。

24 :
支援

25 :
「それにしてもめでたい! いや、ホントめでたい!」
「ご主人様、ちゃんと子供のことを守ってあげないとダメだよ」
「ああ、どんな敵からだって守るさ」
「そうじゃなくて、お姉様から」
 ち、ちと指を振る蒲公英の言葉に俺は椅子からずり落ちそうになる。
「お姉様の犠牲は蒲公英だけでいいもの……」
「いや、いくらなんでもそれは翠に失礼だろ」
 顔に影の差した蒲公英に同情しそうになるのを堪えて俺はそう答える。
 蒲公英は口先を尖らせると、杯から酒を流し込みこちらをぎろりと睨み付けてくる。
「それよりも、蒲公英もご主人様の子供を孕みたいー!」
「バカっ!? 大声でそんなことを言うなよ」
「だってぇ、蒲公英の方がお姉様より積極的にご主人様の子種をもらいにいってるのにお姉様の方が先だなんて納得いかなーい」
「いやいや、翠とだって結構してるぞ」
「むう、なら今夜は蒲公英を孕ませるくらいにたっぷり愛してよ」
「もう少し父親になる気分を味わっていたいんだけど」
「それなら、蒲公英のときにさせてあげるから、ね?」
 これじゃあ、ち●こ呼ばわりされても仕方ないな……などと思いながら俺は蒲公英に連れられるままに酒屋を後にした。
 子供が出来たことによって気分が昂ぶっていたのもあってか長時間試合を繰り広げた。
 翌朝、蒲公英とのことがばれて半泣きの翠に思い切りしばかれた俺は今、馬騰さんの眠る墓を前にしていた。
 別に翠にぼこぼこにされたとどめで埋められるわけじゃないぞ。
「母さん。随分時間がかかったけど……ただいま」
 墓を見ながら帰郷の言葉を告げる翠の顔はどこか哀愁を帯びている。
 未だに彼女の中に当時のことが残っているのだろう。
 俺は黙って彼女の言葉に耳を傾け続ける。
「ようやく平和になって、あたしたちものんびりやれるようになったよ」
「蒲公英も元気にやってる。後でくると思うから確認してくれ」
「今日は顔見せと、この女にだらしのないやつを紹介しにきたんだけど、それよりも報告することができたんだ」
「あたし……母親になる」
 優しい瞳でそう告げる翠を包みこむように暖かい風が吹き抜ける。
 馬騰さんが翠を抱きしめているのかもしれない。そんな感想が自然と浮かんだ。

26 :
「お姉様ー! お酒とお供えの肉もってきたよ」
「おう、ご苦労様」
 駆け寄ってくる蒲公英の方へ振り返る翠を余所に俺は手を合わせると、墓へ報告をする。
「翠の子供……父親は俺です。絶対に翠も子供も幸せにします。約束します」
 俺の呟きに応える用にどこからともなく撫でるような風が巻き起こり肩を叩く。
 その中に女性の声を聞いたような気がした。
『あたしの娘とその子供のこと、よろしく頼むよ。少年』
 やはり、馬騰さんは翠たちを見守っているのだろう。
 そう思い自然と喜色満面の表情を浮かべていると、翠が不思議そうな顔をする。
「なんか、嬉しそうだな。ご主人様」
「翠と俺の愛の結晶について考えてたら、つい」
「なっ、あ、あああ愛の結晶って、恥ずかしいこと言うなよ」
「なんだよ、昨日は愛してるって言い合ったじゃないか」
「それとこれとは別だ! ほんと、ご主人様みたいにならないようにしないとな」
「まあ、翠に似れば美男か美女になるのは間違いないもんな」
 翠自身が綺麗だし、なんて付け加えたけど、彼女はいつものように動揺したりしなかった。
 ただ頬を染めて嬉しそうに笑っている。
「翠、すごく綺麗だ」
「もう、やめてくれよ。恥ずかしい」
 はにかみながらそう答えた翠は本当に美しく淑やかに見えた。
「なあ、翠」
「ん?」
 俺はなんとなく、言いたくなったことばを彼女に捧げる。
「俺を好きになってくれてありがとう」
 そう言うと、翠は眼を白黒させた後、俺の肩に顔を埋めてぼそりと呟いた。
「ずっとずっと……ご主人様を好きでいる、絶対だ」
 赤くなった顔を見せまいとする彼女に口元を緩めつつ、俺は心の中で密かな決意を固めていた。
 絶対にまた来よう、今度は子供と一緒に。


27 :
以上となります。総数が少ないからと油断していました。
内容はタイトルの割にお墓参りのシーンが少なかったですかねw
でも、翠って無印から萌将伝までの総Hシーンって結構あると思うんですよ。
描かれてない分もあるだろうし彼女が妊娠しないはずがない!
……なんて思ったのがいけませんでしたね。反省です。
それにしてもネタって必要とするときは出てこないのに不意に顔を覗かせますね。
ツンデレもいい加減にして欲しいものです。
また、何か思い浮かんだら勢い任せに投下すると思います。
それではおやすみなさい。

お付き合い頂いた方、どうもありがとうございました。

28 :
清涼剤氏乙。
いや〜“先越された!”と思ってたら2で解って…良いほうで斜め上を行く方だと実感しました。

29 :
清涼剤氏乙でした。
翠はかわええなぁ〜ホント良い感じに堪能しました。

30 :
おっつ〜

31 :
乙、これはいいね、すごくいい
ただ馬騰さんは俺の中では無印での父親という印象が強いから
母親だとどうしてもちょっと違和感があるな、些細な話だが

32 :
今夜辺り、無じる真√65話を専用板にUPが可能でしたら行います。
他の用事次第となるので時刻までは明言できず申し訳ありません。
遅くとも日付変わる辺りには出来ればと思っております。
それでは長々と失礼しました。また夜にお会いできたらいいですね。

33 :
お待たせして申し訳ありません。30分後あたりに投下します。

34 :
専用板へ投稿いたしましたので告知をさせていただきます。
さて、今回も西涼の戦と北郷一刀の独自活動の同時進行です。
それと、とうとうあの人が話に絡んできます。
無じる真√N:65話
(警告)
・アブノーマルな描写が入ることもあります。
・18歳以上向けのシーンも時折あります。
・資料を元に独自な考えで書いています。
・話の流れも同様で資料を元にアレンジを加えています。
(当方へのご意見、ご指摘など)
・URL欄のメールフォーム・メール
・専用UP板・投下先のスレなど
ご意見、ご感想などはこれらのどこからでも可能です。
※善し悪し関係なく、一通りのご意見・ご感想、ご指摘は受け付けております。
なるべく活かしていきますが力量次第となりますのでその辺りのご理解の程よろしくお願いします。
URL:ttp://koihime.x0.com/bbs/ecobbs.cgi?dl=0641
お暇なときにでもお読み下さい。

35 :
おっつー

36 :
清涼剤氏乙です
最後のはフラグですね…解ります

37 :
>>34
清涼剤氏乙でした
ここのところずっと華雄と詠のターンでメインヒロイン誰だっけ状態w

38 :


39 :
清涼剤氏乙
>>36
ジョジョを読んだばかりだった俺には左慈が某スタンド使いに見えたぜ!
「勝った!無じる真完!」

40 :
本当にこれで完結だったらウケるなw

41 :
夢を見ました。更なる恋姫†無双シリーズの夢を。
その夢の中で無印風ED美羽バージョンが流れていました。
この感動を少しでも伝えられればと思い投下させて頂きます。
慌てて書いたので多少雑かもしれません。
あと、拙作のまとめへの掲載は修正などをしたら
改めてお願いすると思うので、管理人さんには
それまで掲載をお待ち頂けると幸いです。
7分割ほどいきます。

42 :
 その時、俺は……
  皆の事を思い浮かべた
  七乃の事を思い浮かべた
 >美羽の事を思い浮かべた
 淡い光を放ち始める鏡。
 その光はこの物語の突端に放たれた光。
 白色の光に包まれながら、俺はこの世界との別離を悟る。
 自分という存在を形作る想念。
 その想念が薄れていく事を感じながら、それでも俺は心の中に愛しき人を思い描く。
 美羽――――。
 ずっと傍に居てくれたとても純粋な少女。
 この戦いの物語の中、俺を支え、時には励ましてくれた大切な半身。
 その少女との別離の刻が迫ってくる。
 このまま……もう美羽と蜂蜜入りのお茶を飲むこともできなくなってしまうのか?
 もうあの笑顔を見ることはできないのか……。
 自分という存在の境界線があやふやになっていく恐怖の中、俺はただ愛しき人のことだけを強く思う。
 ただ……笑った顔が見たい。
 俺を癒してくれたあの笑顔が……みたい。
 寸刻の間だけで良い、俺に満面の笑みを――――――。
 俺のささやかな願いに応じるように耳朶を叩く愛おしい少女の声。
「ぬしさまー! ぬしさまぁー!」
 この世界から切り離されていく中、動かなくなりつつある手を俺は一生懸命に愛おしい人へ向けて伸ばす。
 ただ、傍に居たい。彼女の笑顔を見たいと願う一心で。
 白光が俺を包んでいく、俺という存在が滅されていく。
 美羽を置いて消えるなんて……絶対にしたくない。
 心を引き裂かれるようほどの痛み。
 逃げることの出来ないその光に飲み込まれながら、俺は必に手を差し出す。

43 :
「み……う」
「ぬしさまぁ……妾を置いて行くなんて許さないのじゃ!」
 意識すらも薄れゆく中、俺はたった一つの感情だけを爆発させてより強く手を伸ばす。
 なのに力なく腕は垂れ下がる。
 離れたくない――――。
 美羽と離れたくない――――。
 美羽をもっとたくさん感じたい――――。
 その言葉は口からは出ずにただいたずらに悲哀をかき立てる。
「……いつもみたいに、妾をぎゅってして安心させてたも! 主様ぁっ!」
 今すぐにでも抱きしめたい彼女との日々が脳裏を過ぎる。
 共に笑った記憶。
 共に泣いた思い出。
 そして今まで抱いていた想いが消えていく。
 そんなことは絶対に嫌だ……。
「俺は……美羽との思い出を無くしたくない」
 自分の存在が消え去る運命だとしても。
 俺が美羽を愛し、そして美羽が俺を愛してくれたという事実は厳然としてあるのだから……!
 例えそれが決められた物語であったとしても。
 今、俺の心の中に渦巻くこの感情が、仕組まれたものだとは思わない。
 何よりも大切な少女の想いを欲し、俺は己の存在全てを賭けて声を絞り出した。
「み……う、みう、美羽!」

44 :
支援

45 :
――
――――
「主様! ぬしさまー!」
 まだ世の中というものを考えていなかった妾を導いてくれた人。
 楽しかった日々を一層素敵なものにしてくれた人。
 そんな大好きな主様が消えていこうとしている。
 妾の前から消え去ってしまう……はじめからいなかったかのように。
 悟ってしまったその事実は、妾の心にギリギリと爪をたてる。
「……そんなのは嫌じゃっ!」
 愛しい主様――――。
 全ての者を見下していた妾が初めて全てを捧げ尽くそうと思えた人。
 頭を撫でる優しい手のひらが好きで。
 慈しむような朗らかな笑みが好きで。
 凄く大好きで、大好きで、大好きで――――。
「いやじゃあっ! 妾はこんなのいやなのじゃー!」
 こんなとき、早く動かぬ脚がもどかしい。
 その悔しさも力に変えて妾は走る。
「妾にとって主様がいなくなるなんて……認めぬ……認めぬぞっ!」
 がむしゃらに走る。
 逃げるとき以外でこれ程力を込めて走った覚えはない。
「ふん、無駄なことを。ここでぬがいい!」
「お嬢さまの邪魔はさせませんよー」
 ちらりと背後を見れば左慈を相手に七乃が戦っている。
「雑魚のくせにしゃしゃり出てくるか!」
「きゃっ!?」
 七乃がよろめき、妾は足を止めそうになる。
 だけど、七乃は妾に目配せすると左慈をきっと睨み付けた。
 構えた剣はまるで七乃の意思を表しているかのように一切の揺れがない。
「すみませんね。……お嬢さまが初めて大切な方へ素直に想いをぶつける大事なところなんです……それを台無しになんてさせられません!」

46 :
支援

47 :
 七乃が戦っている。
 どんなときも安全を重視していた七乃が強敵を相手取って必に食らいついている。
 その姿は悲しみに打ちのめされそうな妾の心を勇気づけてくれる。
「七乃……すまぬのじゃ!」
 七乃から顔を背けると、妾は主様へ向けて一心不乱に走る。
 妾も戦わねばならない。大切な人と離れないよう運命と戦うのじゃ!
 乱れる息、もつれそうになる足。
 全てを無視して限界を超えて全身を動かす。
「ぬしさ……まぁ、ぜったいにはなしたくないのじゃ!」
 白い光が主さまを覆い、その姿をかき消そうとしている。
「み……う」
「だめ、だめじゃ! きえないでたもー!」
 意味はないかもしれない、それでも……妾は主様へと腕を伸ばす────。!

 ――
 ――――
「み……う、みう……美羽!」
「ぬしさまぁ……ぬ、しさま……主様!」
 少女は自然とあふれ出る涙を拭い去り、その腕を賢明に伸ばし届かぬはずの少年へつかまろうとする。
 少年は悲痛な叫び声を上げる少女の顔が願ったものでないと知り、いつものように撫でようと腕を伸ばす。
 互いの中にあるのは素晴らしく輝いていた日々。
 何もかもが楽しかった。
 互いの好意を伝えあった瞬間が今も胸に残っている。

48 :
「主様――――!」
「美羽――――!」
 離れまいとする二人の思いは永遠ともいえる距離を縮めていく。
 砕けるはずのない運命の壁にひびが入る。
 ただただ、欲しいと求めるだけの感情。
 どこまでも純粋な二人の心は一つになっていく。
 そして――――――。
 ついに絆は強く頑丈な鎖となり結ばれた――――――。
 ――
 ――――
 白い光が消えていくのを感じながら薄れていた俺の意識が戻り始めていく。
「ん、んん……」
「主様……主様……っ!」
 うっすらと開く瞳には美しい長髪と可愛らしい顔。
 俺が全身全霊をかけて存在を望んだ少女がそこにいる。
「……み……う……?」
「うう……よかったのじゃ。主様、ご無事かや?」
「あ、ああ……ここは一体?」
 へたりこんで俺に身体をまかせている美羽の肩を抱きながら辺りを見る。
「分からぬのじゃ……おそらくは、あの貂蝉とかいうのが言っておった別の世界かもしれんのう」
 首を捻りながらそう答える美羽。それも仕方ないだろう、俺だって何が何だかわかっていないわけだし。
 それでも美羽の顔に悲観の色は見られない。
「どうしたのじゃ?」
「いや、なんでもないよ……あれ?」
 美羽の言葉に曖昧に頷きながら周囲を観察してみると、見覚えがあることに気がついた。
 よく見慣れた風景。それは懐かしさすら覚える。

49 :
紫苑

50 :
「どうしたのじゃ……主様?」
「ここは……聖フランチェスカ?」
「む? なんなのじゃ、その『せいふらんちぇすか』というのは」
 きょろきょろと辺りを見回した美羽が、興味深げに俺を見上げてくる。
「俺が以前いた学校だよ」
「なんとっ!? では、ここはもしや天の世界なのかや!」
「俺にもよくわからない」
 首を振りながら俺は貂蝉の言葉を思い出す。
『新しい外史の扉が開かれる』
 きっと、ここは俺の知る外史でも美羽と出会った外史でもない。
 ――――そう、ここは
「新しい外史?」
「それは要するに七乃のおらぬせかいってことなのじゃな……」
「多分ね……もしかして」
 俺の中にはもう一つ、考えていることがあった。
「のう、主様。もしかして、妾たち以外の皆は……消えてしまったなんてことは?」
 落胆しきった様子で潤む瞳を向けてくる美羽の頭をそっと撫でる。
「きっと、消えてはいないと思うよ」
 新しい世界に俺たちが来られたんだから、七乃たちが別の外史に存在してる確率だってあるはずだ。
「うむ。確かにそうなのじゃ。七乃のことじゃからな、以外としぶとくやっておるかもしれんのう」
「ああ、そうだな。きっと、美羽を求めて走り回っているかもな」
 外史の垣根を越えて美羽を捜す七乃の姿を思い浮かべて俺は吹き出す。
 美羽も同じ想像をしたらしく少しだけ笑顔が戻っている。
 美羽にはやっぱり笑っていて欲しいというのが俺の望みなのだろう。

51 :
「にしても、これからどうしようかな」
 二人だけになってしまった今、まず何をすればいいのか。
 考えながら辺りを見渡して俺はあることを思いつく。
「そうだ、帰ろう。もし、ここが俺の知る世界と似ているなら、きっと俺の家もあるはずなんだ」
「かまわぬのじゃ、妾は主様以外頼れる相手はもうおらぬからのう」
 そう言ってすり寄る美羽に微笑みかけると、俺たちは立ち上がり寄り添うようにして歩き出す。
「七乃もきっと俺たちに追いつく」
「それまで、二人で頑張っていくのじゃー!」
 もっとも無に等しい可能性を信じて俺たちは歩き出す。
 今にも七乃たちが追いかけてくるような気がする。
 もしかしたらそれは直ぐにでも実現するという虫の知らせかもしれない。

 仲間たちと別れた悲しさを乗り越えて俺たちは新たな道を歩き始める。
 美羽の笑顔があれがいつだって笑っていられるのだから――――。

52 :
以上となります。
勢い任せで申し訳ありません。
無性に書きたくなったので……ホント馬鹿ですみません。
もし楽しんで頂ける方がいましたら幸いです。
また、この程度でも投下していいのなら挑戦してみようかな?
なんて思って頂けたら更に幸いに思います。
それにしても連続投稿にひっかかり安くて朝は辛いですね。
まあ、待ち時間で出掛ける準備などいろいろ出来たのでいいですけど。
では、これにて失礼します。

53 :

左慈の名前を見るのが久し振りすぎて、素で忘れてたわw
あと、美羽可愛い

54 :

過沿ってるな・・・

55 :
だってつまんねんだもん。
清涼剤の面白いと思って読んでるヤツいるの?

56 :
清涼剤氏乙であります
美羽は可愛い、でも麗羽様のほうがもっと可愛いと思う
というわけで誰か書いてくれてもいいのじゃよ<チラ

57 :
ξξ*゚∇゚)ξξ

58 :
>55
ツンデレ、ツンデレ♪

59 :
 ノ
(´・ω・`)
 ( (乙
 <⌒ヽ

60 :
次回の無じる真は直投下にしようと思っております。
予定は金曜夜。時間はおってお知らせいたします。
気が向いたらで構いませんので
ほんのちょっとでもスレを覗きに来て頂けたら幸いです。

61 :
>>56
俺も読んでみたいな麗羽様エンド
すっげぇ化ける気がするんだよな麗羽様の場合
期待で胸が張り裂けそうだ……誰か書いてくれんかのう?[壁]д・)チラ
>>60
可能だったら支援しに来るわ

62 :
バカ猫です、ついさっき無事に水道が止まりました(笑)
携帯も時間の問題ですし、今日の家賃マジ払えません(笑)
ので社会的抹消(笑)の確率が著しく高いですから先に失踪宣言 (笑)しときます。
まあ、ネタは有るのですがタマが無い状態なので……万が一に復帰?したら、そん時はよろしくにゃー♪

63 :
水道が止まるってかーなーり瀬戸際だぞ
最悪生活保護受けなさい
復帰を祈っておきます
何しているかは知りませんが、お大事に

64 :
>>62
一刀十三号氏はどうやら結構な状況になっているのですね……。
ここのところ、投下後の書き込みで急いでいるような描写(?)
があった理由がようやくわかりました。
まだ投下を予定されているとのことですので今はその作品を楽しみにさせて頂きます。
もちろん、復帰もお待ちしておりますよ。
それとずうずうしくて申し訳ないのですが投下予告のほうも一緒にさせて頂きます。
金曜の投下は早ければ21時、遅ければ22時頃開始になると思います。
量は現段階だと20レス分(ただし推敲次第で増減あり)といったところです。

65 :
マジキュー四巻の相沢の話
どっかでみたと思ったら、
SSの恋春蘭だった。

66 :
うっしゃ!恋春蘭読み直してこよっと

67 :
やっぱり帰宅=時間ぎりぎりでしたw
さて、22時から『無じる真√N65』の投下を開始します。35分割になる予定です。

68 :
 少女の悲鳴と少年の嘲笑が入り交じっていた室内が急に沈黙に包まれる。
 彼女の主、北郷一刀が矢を受けて仰向けに倒れていた。
 それをどこか爽快感すらあるかのような表情で見下ろしている少年、左慈。
 少年の笑い声は賈駆の中の憤怒の炎を焚きつけていた。
「あんた、よくも……月だけじゃなく……」
「ふん。英傑と同様のに方ができるのだ、こいつも文句を言うこともあるまい」
「ふざけるんじゃないわよ! ボクの大切な人たちを傷つけて、あんたなんか絶対に」
 賈駆の叫びを遮るように左慈が彼女の腕を掴む。
 左慈は賈駆を引き寄せながら侮蔑の感情を表に出し、じろりと彼女を睨み付ける。
「倒せるとでも思っているのか?」
「離しなさいよ!」
「なんだと?」
 怪訝そうな表情で顔をのぞき込んでくる左慈に思いっきり嫌悪の感情を込めた言葉を投げつける。
「あんたごときに触れられたくないのよ! 離せ!」
「ごときだと? 木偶が舐めた口を――」
 左慈は怒気を含めた言葉を言い切る前に硬直した。何故なら、その脇腹に刀が深々と突き刺さっていたからだ。
 賈駆は驚愕に満ちた表情を浮かべる左慈に蔑むような視線を向ける。
「馬鹿ねえ……このボクが何も考えずに挑発するとでも?」
「なんだと? いや! それよりも貴様、先程の矢で確実に心の臓腑を……」
 左慈の脇には小刀を両手で握った北郷一刀がいた。
 彼は左慈に対して不適な笑みを見せる。
「どうも俺は誓いってやつをきちっと守らなきゃいけないみたいでな」
 賈駆に目配せをした一刀は刀を引き抜くと、左慈から飛び退いて彼女の方へと転がるように逃げてくる。
 一刀はその際に拾い上げた張遼の羽織の下にある何かの欠片を乱雑に回収していた。
「態々拾ったようだけど、なんなの?」
「ちょっとした願掛けで持ち歩くことにしてたものさ」
「ふうん、深い意味がありそうね」
「ああ、そうだ。そして、俺を守ってくれたってわけなんだよなぁ、これが」
 そう言った一刀の表情はこの緊迫した中にありながらどこか穏和なものとなっていた。
(きっと大切な約束をした記念の品ってことなのね……)
 自分の知らない一面を見て内心、約束を交わした誰かが羨ましくもあった賈駆だったが、それを表に出すのは悔しいので黙っていることにした。

69 :
「さ、行きましょ。予定外の事があったせいで、計画は変更よ」
「どうするんだよ? 下?(ヒ)を放置してどこに行くつもりなんだ」
「もちろん。?(タン)よ」
 廊下に配備された白装束の群れの中を二人は駆け抜けていく。
 捕まりそうになる度に一刀が庇い、刀で応戦して守ってくれていた。
「本気か? 華雄と行き違いになったりしたらそれこそやばいだろ」
 一刀が苦みの増した表情でそう言うが、賈駆は取り合わない。
「大丈夫じゃないかしら? なんだかんだでやってくれるわよ、華雄なら」
「いや、そういうことじゃなくて、華雄は引くことを余り選ばないぞ」
「それはあながち否定できないわね」
 安易に想像が可能な光景に賈駆は口元を引き攣らせる。
 角を曲がると、そこを狙って挟み込むようにして白装束が襲い来る。一刀が敵に体当たりして強引に突破し、賈駆もそれに続いていく。
 それでも逃亡劇は長く続かず、前も後ろも道をふさがれてしまう。
「やばいかもな……」
 一刀の頬を汗が伝う。彼の身体が緊張のあまり強張っているのが伝わってくる。
 賈駆はそんな彼を安心させるように首を振る。
「いえ、まだよ。ここで終わりになんてならないわ」
 その言葉を裏付けるかのように白一色にそまりつつある前方に異変が生じた。
 中流にある岩が川を分断するように白装束の群れが真ん中から強引に裂かれていく。
「賈駆殿! 北郷さま!」
「みんな!」
 それは街中へ配備しておいた兵たちだった。
 一定の時間が経過しても戻らぬ場合、邸宅の中を窺うよう指示してあったのだ。
「お二人に変事ありきとお見受けしたため手配通り馳せ参じました!」
「すまん、助かった!」
 駆けつけた兵たちに囲まれた一刀が賈駆の手を握りしめて再び走り出す。
 賈駆は力強く引かれているために腕が少し痛かったがそれ以上に一刀に頼りがいを感じていた。
(こいつの背中ってこんなに大きかったかしら?)
 場に似合わぬことを思い浮かべる脳漿に賈駆は恥ずかしさを覚える。
「詠、もっと走れ! ここで無駄に戦力を失うわけにはいかないんだぞ」
「……わ、わかってるわよ、あんたこそ足手まといになるんじゃないわよ!」
 二人は一層固く手を結び走り出す。

70 :
 邸宅を後にして街中へと出るが、そこには異様な光景が広がっていた。
「人が……いない?」
「それがですね。実は、ある時を境に急に何かに促されるようにして皆、室内へとこもってしまったのです」
 先導する兵士が首を捻りながら答える。
「これも左慈のやったことなのか……それとも、もう一人のあいつの仕業か?」
 兵士の言葉に一刀が何やら考えを巡らせ始める。
 賈駆はその背中をばしっと叩くと彼の思考を中断させた。
「考えるのは後。今はさっさと逃げるべきでしょ」
「それもそうだな。とにかく城門まで行くぞ」
 背後に迫りつつある白装束の集団。皆、顔を布で半分以上隠しおり、その表情からは全く感情が感じられない。
 それが既に人としての尊厳のない存在であることを仄めかしているようで賈駆は寒気すら覚え、思わず一刀の手を強く握りしめる。
 手のひらを通して伝わる温もりが賈駆の心を覆っていく。
 不思議な安心感に身を委ねうつつあったが、それも束の間のことだった。
「城門だ! よし、もうすぐ脱出――」
 一刀の言葉を遮るように城門が開かれる。そこには白装束が群れを成してずらりと立ち塞がっていた。
「ここまできて……まさか向こうからも来るなんてな」
 開かれた門からぞろぞろと行進してくる白装束たちに一刀が唇を噛みしめている。
 賈駆はその間にも兵たちに指示を出す。
「あと少しなのよ……仕方ないわ、あんたは中心にいなさい。他の連中は方円陣を組んで互いに支え合いながら切り抜けるわよ。頭の中は突破のことだけを考えなさい!」
 兵たちは一切の無駄を省いた動きで陣形を整えていく。
「こうなったら一か八かだ」
「残念だが、もう貴様らは詰みだ」
 その声に二人は振り返る。
 左慈が憎悪と敵意に満ちた表情で一刀を睨み付けていた。
 いや、左慈だけではない。邸宅から追ってきた白装束も追いついている。
「完全に囲まれたって事か……」
「どうやらそのようね」
 辺りを埋め尽くす、白、白、白。
 先ほど一刀から受けた一太刀など実際には無かったかのように綽然としている左慈だが、その怒声が事実であることを物語っている。
「北郷一刀! 貴様だけはこの俺自身の手で屠ってくれる!」
「詠、離れてろ!」
「嫌よ、今度はボクがあんたを守らないと」

71 :
 一刀の前に出て盾になろうとする賈駆。
 放たれた矢のように素早く突っ込んできた左慈が蹴りを放ってくる。
 賈駆は衝撃に備えて思わず眼を瞑ってしまう。
 次の瞬間、鈍い金属音が辺りに響き渡った。
「ぐ……この衝撃、北郷一刀。貴様、英傑を引き連れてきたな!」
 忌々しげな左慈の声に瞼を上げると、そこには左慈の蹴りを受け止めている女性の姿があった。
 胸回りのみを隠している服、切れ込みの入った腰布に短めの藤紫色の髪。
 それは大望の味方だった。
「一撃の重みがこれほどとは……貴様、呂布か!」
「この戯け! 誰が、呂布だ」
 金剛爆斧によって強引に押し込まれた左慈が後方へと飛ぶ。
 女性はそこへの追撃はせず、己が得物である身の丈ほどはある戦斧を構える。
「我が名は華雄。北郷が一の家臣!」
「華雄? どこかで聞いた気もするが所詮は価値のない木偶。その木偶ごときがどこまでも俺の邪魔をしやがって」
「私が来た以上、北郷には指一本触れられると思うな!」
 ゆらゆらとただならぬ瘴気を立ちこめさせる左慈に華雄が身構える。
 その姿は勇ましく、そして同姓の賈駆ですら感じる不思議な美しさがあった。
「華雄。間に合ったのか……?(タン)城は?」
「あの程度の城、容易く落とせるに決まっているではないか」
「……え? 下?(下ヒ)からの増援はどうしたんだよ」
「は? そんなものは知らんぞ」
「いやいや、だってなあ?」
 華雄の返答に困惑気味の一刀を余所に賈駆の脳裏にはようやく事態の形が出来上がりつつあった。
 本来の領主に成り代わった左慈。
 膨大な数の白装束。
 想像以上に早く駆けつけた華雄。
 それらが、賈駆の頭の中で道筋を作り上げていく。
「ふふっ、……そういうことね」
「詠、何かわかったのなら、俺にも教えてくれると嬉しいんだが」
「下?(下ヒ)に増援なんていかなかったのよ」
「……ああ、そういうことか!」

72 :
「おい、私にもわかるように教えろ」
 手を打って納得の表情を浮かべる一刀を余所に眉を顰めた華雄が詰め寄ってくる。
「いいのよ。あんたはわからなくて」
 賈駆は手を振りながらそう答える。
「いや、しかしだな。事態の把握くらいはしておかねば」
「ちぃっ! 俺を無視しやがって、かかれ木偶ども!」
「ほら、敵来たわよ」
「絶対、後で教えろ。絶対だぞ!」
 その言葉を残して、華雄が白装束の群衆へと相対する。
 †
 徐州でギリギリの戦いをしている一刀たち。
 その一方で、冀州では置いてきぼりを受け、物語の中心から逸れつつあった少女がいた。
 その少女は?城にて忙しなく仕事に追われる日々を送っていた。
 北郷一刀が無言で去ってからの日々は彼女にとって過酷なものだった。
 これまで彼と分担していた政務が山のように押し寄せ、一刀の抜けた穴に代役を立てることもしなければならなかった。
 ただ、これまで支援してくれていた者たちが変わらずといった様子だったことだけが救いだった。
「にしても、あいつがいなくなっただけでこれか……」
 度々、一刀がこの地から離れることもあったがそれは飽くまで仕事上のこと。
 この軍のこと、公孫賛のことを置いて姿をくらましたのは初めてのことだった。
 公孫賛は廊下を歩きながら懐に入れておいた物を取り出した。
「星がいってたのってこれだよな……」
 すっかり忘れていたことを気まずく思いつつ、杯を見つめる。
 これといって特徴があるわけでもないどこにでもあるような杯。でも、公孫賛には価値ある杯。
 大切な思い出と共にあるのだ。
「確かに一刀の部屋にはなかったな……」
 かつて、公孫賛がまだ幽州にいた頃、彼女の下で働いていた劉備が独立のために出立する前日に交わした誓い。
 そのときに用いた杯がこれだった。
 直ぐに杯に気がついたあたり、趙雲も大事にとっておいてあるのだろう。
「くしゅん!」
 鼻をすすりながら公孫賛は辺りを見回す、廊下には人一人おらず目撃者はいないようだ。

73 :
「……あいつが不機嫌になるのも当然だよな」
「何が当然なのですかな?」
「うわっ! 出たぁ!」
「人を妖の類のように言わないでいただけますかな」
「……すまん。というか、さっきまで誰もいなかったと思うんだが」
 いつの間にか背後に寄り添っていた趙雲に謝りつつ公孫賛は杯を見せる。
「これのことだったんだな。随分昔のような気がするよ、あの頃のことが」
「ええ。あれから随分と遠くまで来たものですな」
「ホントだよな。あの時は私の傍に居たのは一刀と星だけだったのに、今じゃ大所帯だ」
「皆、頼もしい限りで良いことです」
 昔に浸っていると、廊下に風が吹き込み公孫賛は再びくしゃみをする。
「ん……なんか変だな」
「体調でも崩されたか?」
「かもしれんな……ま、いつまでもここにいるのもなんだし、そろそろ行くとするさ」
「そうですか。くれぐれも身体を大事になされよ」
 趙雲と別れると、公孫賛はなおも昔を思い出していた。その中でも印象深い袁紹軍との戦の頃に至ると感慨深げに嘆息した。
「あのときも、あいつのせいで体調不良になったんだっけな……」
 一刀が消えるという話を耳にして悩み続けたときは本当に生きた心地がしなかった。
「結局、一刀から詳しい事情まで聞き出せずにずるずると来てしまったんだな」
 自分の行動力の無さにうんざりする公孫賛は忘れかけていたことを思い出した。
(そういえばあの時、一刀の事情を知っていそうなやつがいたな)
 思い立ったら吉日とばかりに公孫賛は行動を起こす。
 普段の彼女にはない動きだった。
(やはり、少し熱でもあるのか?)
 余りしたことのない勢い任せな自分に苦笑しつつ、公孫賛は街中でも割と豪勢な邸宅の前へとやってきた。
 中へ入ろうと扉に手を伸ばしたところで公孫賛は深呼吸をする。
 吸って吸って吸って吸って……。
「は、吐き出すのを忘れてた」
 気を取り直し、公孫賛はその敷地へと足を踏み入れる。
 扉を開くと、すぐ近くに少女の姿を確認することができた。公孫賛は平常心を装って声を掛ける。
「あっと、その……ちょっといいか?」

74 :
支援

75 :
孫伯符

76 :
「あら、貴方がここへ足を運ぶなんて珍しいわね。どうかしたの?」
 出迎えてくれたのは三姉妹の末女、張梁だった。
「ちょっと、用があってきたんだ。お前たちがいるってことはあいつもいるはずなんだが……」
「あ、白蓮さん。いらっしゃーい」
「ねえ、何かお土産はないの?」
 中へ入っていくと、張角と張宝も公孫賛に気がついて声を掛けてくる。
 もっとも、内容が内容だけに公孫賛からは乾いた笑みしか出てこない。
「わ、悪いな。急に思い立ってそのまま来たもんだから手ぶらでな……」
「なによ、気が利かないわね」
「うーん、残念。白蓮さんならお金もあるし、何か持ってきてくれると思ったんだけどなぁ」
「仕方ないわよ。一刀さんとは違うんだから」
「何も持たずに来ただけでこの言われようか……」
 一体、彼女たちの世話役を務めていた少年がどれだけの苦労をしていたのかと思ったが、想像も及ばない程だろうということに気がついて考えるのを止めた。
 張角が若干不機嫌そうにむくれて頬杖をつく。
「だって、わたしたちだって結構頑張ってるんだし偶にはご褒美が欲しいの」
「その気持ちはまあ、わからなくはないが」
 公孫賛も人知れず自分へのご褒美なんてことをやってたりするので彼女たちの気持ちはわかる。
「だから、一刀の代わりに……白蓮さんが、ね?」
「いや、その……そういうのは私は……」
「…………」
「はぁ……わかったよ。後で飯でもおごってやるから、それで手を打ってくれ」
 じっと口を閉ざしたままの二人に公孫賛はがくりと肩を落とす。
「やったー! 一刀がいなくなってからご褒美も減ってたし久しぶりー!」
「じゃんじゃん、食べちゃおっと」
「お店はやっぱり、あの角に出来たばかりのとこよね」
「うんうん、ああ今から楽しみだなー」
 二人が言っている店に公孫賛は覚えがあった。
(確か一品一品が結構な額だったような……富裕層ですら時折訪れる程度だったはずだぞ)
 公孫賛は目的のためにとんでもない代償を支払うことを予感して冷や汗を掻く。
「……もう少し、あいつに渡す給金も見直した方がいいかな」
 そのあいつのことを考えると、これも等価交換として妥当なのかもしれないと公孫賛は思った。

77 :
「で、要件なんだが貂蝉はどこにいるか知らないか?」
「多分、知り合いの務めてる酒家にでも行ってるんじゃないかしら」
「それじゃ、その店を覗いてみるか。場所はわかるか?」
「ええ。確か場所は――」
 公孫賛は三姉妹から酒家の場所を訊くと、すぐに向かおうととば口に立つ。
「あのさ、一刀はいつ戻ってくるのかな?」
 公孫賛は張角の質問を聞こえなかったことにして数え役萬☆姉妹の事務所から立ち去った。
 胸に僅かな罪悪感を抱いたまま公孫賛は酒家へと向かったが、そこに貂蝉の姿はなかった。
「で、代わりにお前らか……」
「なにを一人でぶつぶつと仰ってるんですの?」
「さあ? それより斗詩ぃ! 注文した料理まだー?」
「お、お客様。もう少しお待ち頂けますか?」
 前掛けをした顔良が引き攣った笑み浮かべて応える。
「あんまり待たせるようなら……その身体でこの餓えを癒して貰おうか!」
「いやーっ!」
「何してんだこいつら……」
「ただじゃれあってるだけですわ。それより、何か用があったのではありませんの?」
「貂蝉を知らないか?」
「ああ、そういえばつい先程まではおりましたわね」
「どこに行ったかわかるか?」
 袁紹は少しだけ考え込む素振りを見せると公孫賛の質問に答えた。
「確か屋台街へ行くとかおっしゃってましたわね」
「屋台街か……」
 公孫賛は早速向かってみようと足を外へと向ける。
 しかし、一歩を踏み出すよりも先に袁紹に引き留められてしまう。
「それよりも、ちょっとよろしいかしら白蓮さん?」
 机に肘を突き、組んだ手に顎を乗せながら袁紹が公孫賛の方へと眼を向ける。
「な、なんだ、そんな怖い顔して」
「一刀さんは、まだ帰ってきませんの?」
 半ば凄むような感じで迫る袁紹に公孫賛は言葉を詰まらせる。
「い、いや……それは」

78 :
「すみません、白蓮さま。実は麗羽さま、ご主人様と行きたいところがあったそうなんです。だけど、誘う前に長期の遠征に出てしまったじゃないですか。それで、ちょっと機嫌の方が良くないんですよ」
 申し訳なさそうに謝る顔良に公孫賛の胸がちくりと痛む。
 彼女たちを騙し続けていることへのすまなさ、一刀が彼女たちの中で大きい存在であることを改めて実感したこと。その二つの針が彼女の胸をちくちくと刺し続けている。
「ま、そのせいであたいらはこうして姫のやけ酒に付き合わされることになってるんだよなぁ」
「猪々子! 斗詩さんも余計な事を言わないでくださります?」
「す、すみません」
「てかさ、斗詩だって時折頬杖突きながら溜め息零してんじゃん」
「み、見てたの文ちゃん!」
「あたいはいつでも斗詩を見守ってるぞ」
「なんですの? それでは、斗詩さんも人の事言えないではありませんの……」
「もう、麗羽さままでー!」
 わいわいと盛り上がる三人を尻目に公孫賛はこっそりと店を後にする。
 逃げ出したその足で公孫賛は屋台街へと向かった。
 夕刻となり辺りも赤みを帯び始めており、屋台からは良い匂いが鼻腔をくすぐり空腹感を誘う。
「貂蝉はどこにいるんだよ?」
 若干、空腹も相まって苛立つ公孫賛はきょろきょろと顔を動かしながら歩いていく。
 暫く道を進んでいくと、前方に人だかりを見つける。
 公孫賛は何事かと人を掻き分けて顔を覗かせる。
「……もぐもぐ。おいしい」
「さ、さ、これもどうぞ食べてくだされ、恋殿」
「……ん、ほくほくしてる」
「おお、これは面白いのじゃ! よし、次は妾のを食してたもれ」
「それじゃ、お嬢さまには私が……はい、あーん」
 人の輪の中心には仲良く食事を取っている呂布と陳宮、張勲に袁術の四人がいた。
 よく観察してみると、彼女たちを見ている野次馬は皆、ほっこりとした顔をしている。
「なるほど。だけど、これは全然関係ないな」
「……白蓮」
 背を向ける公孫賛だったがまたしても足止めを喰らうことになってしまった。
 再度呂布の方へと振り返ると、彼女は公孫賛に向けて手招きをしている。
「…………折角だから一緒に食べる」

79 :
支援

80 :
「おお、それは名案じゃな! ほれ、ここへ座るのじゃ」
「私はちょっと人捜しをしていてだな」
 断ろうとする公孫賛だったが、周囲の雰囲気がそれを許してくれない気がして渋々同席することにした。
 既に卓には多くの料理が並べられ四人は舌鼓を打っている。
「でも、良かったのか? 私まで一緒にさせてもらって」
「…………少しでも多くの人とたべるとおいしい」
「そうですなぁ」
 呂布の言葉にもっともとばかりに陳宮が頷く。
「でも……ご主人様と一緒ならもっとおいしい」
「それはどうでしょうなぁ」
「…………」
「れ、恋殿?」
「…………ご主人様がいると、おいしいよ?」
「その通りかもしれんのう……主様」
「美羽さま……寂しいんですか?」
 手にした肉まんを見下ろしてしんみりする袁術の肩を張勲がそっと抱く。
 気がつけばこの一席だけが異様に暗くなっていた。
「……あのさ、さっきも言ったが今人を捜して急いでるんだが」
「誰を捜してるんです?」
 箸の泊まった袁術の頭をよしよしと撫でながら張勲が訊ねてくる。
「貂蝉だ。一足違いで見つけられなくてな」
「ああ、それならあっちの方へ……あら? あれはなんですかね」
 張勲が額に手を添えながら少し離れた位置にある屋台を見てそう呟く。
 公孫賛もそれに釣られるようにしてそちらへ視線を向けると、何やら赤々とした灯りが見える。
「あれって、火事じゃないのか!」
 急いで席を立つと公孫賛は駆け出そうとする。
「いってらしゃーい」
「お前らも来いよ!」
 尚も席に居残ろうとする少女たちを連れて公孫賛は現場へと向かう。
 野次馬やがっくりと項垂れた店の店主と思しき人物、逃げ惑う客と人でごった返している。
「おい! ぼけっとしてないで井戸から水を汲んでこい! それから、警邏への連絡も忘れずにするんだ! あとそれから……くっ」

81 :
「どうかなさいました?」
 ふらついた公孫賛を案じる張勲たちに彼女は顔の前で手を振って応じる。
「すまんが、七乃、ねね。後の指示はお前らに任せる……」
 燃え盛る炎へと近づいてから公孫賛は気分が悪くなっていた。
 尋常じゃないほどの脂汗が額に浮かび、頭は巨大な金槌で殴られたかのように痛む。
 火元の近くにいるからか全身が火あぶりにされたかのように全身が熱く燃え盛っている。
「……な、なんだ……この感じ」
 ゆらゆらと揺れながら公孫賛は裏通りへと転がるようにしてなだれ込む。
 視界は徐々に白い靄のようなものに覆われていく。
 代わりに、見覚えのない光景が頭を過ぎる。そう、丁度袁紹との戦を終えた夜に見た夢のように。
(また……城が燃えて……私は……ぬ)
 皮膚が焼けただれ、肉が焦げていく感覚が身体中を走り公孫賛は悶絶する。
「ぐあっ……つ、うぅ……」
 痛みを身体が勝手に受け入れていく。まるで、新しい記憶を体験した感覚込みで付け加えられるようだった。
 地面に膝を突き四つん這いになるが、記憶の追加は着々と行われていく。
「なんだ……これは……黄巾に星? それに……北郷軍……ほん、ごう?」
 あらゆる事項に関する記憶が脳に刻まれたところで、公孫賛の視界は開けてきた。
 気付かぬうちに滝のようにかいた汗が地面に溢れ土を湿らせている。
「そうか、そういうことだったんだな……うっ」
 身体に残る拒絶反応にも近い嫌悪感によって胃液が逆流し、胃の内容物を吐き出してしまう。
「う……ぐ……っ、んっ……はぁ、あっ」
 公孫賛は先程食べたばかりの料理をげえげえと口から流れ出させる。
 吐瀉物が詰まりそうになり咳き込んだり、涙と鼻水がだらだらと流れ出たりと公孫賛は盛大に苦しむ。
 ついには胃の中が空っぽになり胃液のみしか出てこなくなった。
「……はぁ、はぁ。な、なんなんだこれは」
 口元を拭うと、公孫賛は壁に手を突きながら立ち上がる。
 そして、顔を上げ本日の探し人が目の前にいることに気がついた。
「……貂蝉」
「どうやら、白蓮ちゃんもついに知ってしまったのね」
「お前、このことを……存知していたのか? まさか、一刀も!」
 公孫賛は膝が震えている脚を動かし貂蝉へと詰め寄る。

82 :
「ええ、その通りよ」
 貂蝉は眼を伏せて静かに頷いた。
「そうか。あいつは私の時のように誰かのために動こうと……」
「恐らく、そうでしょうね」
 よろめく公孫賛の肩を支えながら貂蝉が頷く。
「あいつ……どうして、私には何も話してくれなかったんだ」
「ご主人様は記憶≠フない娘には一切教えていないわ」
「なんでだよ。自分が知っていても相手は分からない。だから、何も言わず一人でって……辛くないのか?」
「苦悩していたわよ、ご主人様も。でもね、それ以上に貴女たちが大切なのよ」
 貂蝉のどこか悲しげな瞳が一刀の真意を物語っているように公孫賛には感じられた。
「数人だけを誘って動いたのも……」
「そうよ。白蓮ちゃんに迷惑を掛けたくないという感情から」
「あいつはどこまで馬鹿なんだ……馬鹿で、お人好しで……」
 先程以上に瞳を潤ませながら公孫賛は鼻を啜る。
「でも……そんなあいつだから、好きで……共にいたくて……」
「……白蓮ちゃん」
「一刀に会いたい……あいつの隣にいたい……」
 熱い雫は留まることをしらず何時までも流れ続け公孫賛の頬を濡らし尽くす。
 胸に宿る一刀への想いが強くなる。
「……ダメだな私は。曹操や孫策のように私情を公のことに持ち込まないなんてできそうにない」
 目元をごしごしと擦ると、公孫賛は微笑を浮かべる。彼女はいつの間にか力の戻っている足でしっかりと立つと、拳を強く握りしめて自分の中にある気持ちを奮い起こす。
「そもそもあいつが悪い。そうだ、そうなんだよな。うん」
 自分に言い聞かせながら公孫賛が屋台街へ戻ると、炎はすっかり沈下された後で野次馬も徐々に減り始めていた。
 燃え跡を横目に見ながら火事現場を通り過ぎる公孫賛。その胸にある火焔は未だ消えておらず、尚も激しく燃え盛っている。
 そして、公孫賛は勢いを削ぐことなく城へと戻るやいなや諸将を集め一つの命を下すのだった。
 †
 華雄は方円陣の外縁の一部を務め、敵の指導者と思しき導士と向かい合うように仁王立ちしていた。
 先ほど、金剛爆斧から伝わってきた手応えに反して導士が損傷を受けているようには見えない。
 ただならぬ相手と悟った華雄は柄を握る両手を前腕に血管が浮かび上がるほどに力ませる。

83 :
 正面の敵が先陣を切って襲いかかってくる。
 それぞれが手にする刀と槍、そのどちらも届かぬうちに華雄は上段からの一撃で斬り捨てた。
 敵の血糊を受け、大地に突き刺さった金剛爆斧をそのままにして敵の落とした槍を拾い上げる。
 即座に、左方から飛び掛からんとしている白装束の腹部へ石突をたたき込む。
 怯んだところに円を描くような斬撃を喰らわせる。
 倒れゆく屍の影から飛び出てきた白装束が小太刀を両手に襲いかかってくる。
 それを冷めた瞳で見据えると、華雄は直線上に入った瞬間を狙い槍で貫く。
 白装束の手から溢れ落ちる小太刀を華雄は掴みとる。
「でやあああああああっ!」
 気合いのこもった叫びと共に白装束をぶらさげたまま後に続く他の白装束たちも刺し貫いていく。
 串焼きのようになった槍を華雄は天高く突き上げる。
 相当な重量を腕に感じながらも華雄はその槍を横凪に振り払い、そのまま投げ捨てる。
 軌道上、そして放り投げた先の敵を次々と巻き込みながら槍が飛んでいく。
「何をしている。くそ、こちらの方が多勢だというのに……つかえん木偶どもめ」
 苛立たしげにそう吐き捨てた左慈が白装束の頭を踏み台にして、一刀の元へと直接向かう。
 華雄は荒くなる呼吸を一瞬だけとめ、上空へ向けて小太刀を投げる。
 左慈が眼を向けることなく小太刀を払いのけたが、その一瞬で十分だった。
 華雄は金剛爆斧を拾い直し、左慈の着地を狙う。
「言ったはずだ! この私がいる以上、その男には手を出させぬとな!」
「ちぃっ、邪魔立てを!」
 左慈が華雄の気を察知して咄嗟に避ける。
 華雄もそれを追い、距離を詰める。
「ちょっと、華雄! 陣形が!」
「敵の頭を取れば全てが終わる! それまではお前の頭脳でどうにかしておけ!」
 咎めの言葉も今は意味をなさない。
 左慈を逃せば、一刀が危うい。それを感じ取った本能が何としても倒せと訴えかけている。
 心臓は緊張と興奮で高鳴り続ける。
「いい加減にうんざりだ。まずは貴様から葬ってくれるわ!」
「来い、インチキ導士が!」
 逃げをやめ反撃に出てくる左慈が一瞬で懐へ飛び込んでくる。
 華雄は放たれた拳を責金部分で受ける。
 柄を通して両手に衝撃が走り、軽い痺れを感じる。

84 :
支援

85 :
「ふ、これはまた重い一撃ではないか。やるな、貴様」
「ちぃっ! 仕留め損なったか……まあいい。すぐにこの外史からも抹消してくれる!」
 疾風のごとき蹴りが放たれる。
 金剛爆斧で対処していくが徐々に蹴りの速さは増し、逆に華雄の動きは鈍くなる。
 呼吸が乱れ、衝撃を幾度も受けたことで金剛爆斧を持つ手が震え始めている。
『速さが足りひん』
 その一言が脳裏を掠める。
「わかっている!」
 誰にともなく叫ぶと華雄は金剛爆斧を白装束の群れへと投げる。
 回転しながら飛び交う金剛爆斧によって倒れていく白い塊。
 それを視界の隅に捉えながら華雄は目の前の導士へと駆け寄る。
 重しとなっていた得物を手放したことで華雄の動きは速力を増していく。
「素手だと? 愚かな! あの化け物でもないかぎり俺に素手で挑むなど」
「細かいことはどうでもよいわ!」
 ごちゃごちゃと口やかましいことを宣っている顔に拳を抉り込ませる。
 左慈の整った顔が歪み、振り抜いた華雄の一撃によって後方へと吹き飛ぶ。
「問答無用でぶっ飛ばしたな……華雄」
「私は意味の分からん話は嫌いなんだ! あれこれ言われると頭痛がしてくるからな。やはり、話は率直が一番だ」
 華雄は手にじんわりと浮かび上がる汗を拭い去りながら一刀の声に答える。
「いや、だからって拳で語るなよ……」
「こ、こいつ、ただの馬鹿か!」
 驚愕の表情を浮かべた左慈が大地を蹴り飛ばして慣性を無視するように勢いよく突っ込んでくる。
 張遼や趙雲が得物で行うよりも素早い突き。
 一撃一撃の衝撃が呂布のそれをも超えている蹴り。
 華雄はその全てを紙一重のところで防御していたが、攻撃を受けた箇所はじんじんと痛み、徐々に該当箇所も増えていっている。
「ねぃっ!」
 踏み込んだ回し蹴りを狙ってくる左慈。
 その足を半ば強引に捉え、華雄は握力の限りをつくし逃がすまいとする。
「は、離しやがれ!」
「でりゃああああああああっ!」
 叫ぶことで全身の力を滞りなく発揮させる。

86 :
 腕の筋肉を膨張させ、肩にありったけの力を注ぐ。
 そうして左慈を大地に叩きつけるように真っ直ぐ振り下ろす。
 しかし、衝撃が華雄の腕に伝わる事はなく拳の中の感触も消え去った。
「よもや、これ程までに力を付けているとはな……たかが端役の木偶風情が……」
 息を切らせた左慈が、いつの間にか華雄から離れるように距離を取っていた。
「なんのことか知らんが、妙な術を使いおって……導士か貴様は!」
「本当に愚劣なのだな、貴様は」
「ふん! そのような誹謗など日常的に詠から罵詈雑言を浴びせられている我らからすればどうということはないわ!」
「人を悪人みたいに言わないでくれるかしら!」
「てか、我らってもしかして俺も含まれてるんじゃないだろうな!」
 それぞれ兵を上手く操っている賈駆と一刀が華雄の言葉に反応して声を上げる。
 華雄はそれらを無視して、左慈だけをじっと見つめながら趙雲のように不敵に笑う。
「さあ、どうした……まだまだ、これからだろう?」
「く……っ、木偶が調子づきやがって……」
 互いに肩で息をしている華雄と左慈は敵愾心を露わにして視線を交わらせる。
 そこへ、喚声と共に多くの兵が城外から突入してきた。
「華雄将軍! お待たせいたしました!」
「遅いぞ、貴様ら!」
「ちいっ、増援だと……ここに来て面倒な!」
 人数での差は縮まり、北郷軍の士気は勢いよく高まっていく。
「今よ! 戦力を前方に集中、城門の敵を挟撃! 華雄は殿を頼むわよ!」
「ああ、わかった。さあ、来るがいい! そこの導士のようになりたければ幾らでも相手をしてやるぞ!」
 刹那の間に敵を吹き飛ばしつつ華雄は拾い上げた金剛爆斧を構える。
 白装束たちは恐怖やその他一切の感情を全てなくしているのか、何の躊躇いもなく襲いかかってくる。
 華雄はそれを一太刀の元に平伏させる。
 そうして、前後共に白装束の撃退を続けていくうちに敵の囲いが薄くなる。
「これ以上は無理か……あの豪傑さえいなければいけたのだが、仕方ない」
 その言葉を残して左慈の姿が一瞬でどこかへと消えていった。
 同時に、白装束たちの攻勢も弱まり圧倒的な戦力差で北郷軍は旧知を脱することに成功した。

87 :
 好機に乗じて下?(下ヒ)を制圧するのとほとんど同時に民衆もわらわらと姿を見せ始めていた。
「急に雰囲気も変わった感じだな……」
「まあ、いいじゃないの。とにかく下?(下ヒ)もようやく落ちたって事よ」
「そういうことだな」
 痛みと披露でボロボロの身体を引きずりながら華雄は二人も元へと歩み寄る。
「そういえば、お前たち。先ほどしていた、下?(下ヒ)の援軍がどうのという話について今度こそ訊かせてもらおうか」
「別に知ったって面白くないわよ? ねえ」
「だよな、華雄も興味沸かないだろ?」
 顔を見合わせる二人の言葉に華雄は咳払いを何度もしながら応える。
「…………わ、私だけ仲間外れはないだろ」
「え? なんだって?」
「だから、私だけ仲間はずれにするなと言っている!」
「なんだ。それなら仕方ないなぁ」
「にやけながら言うな……」
 すっかり破顔している一刀の視線に華雄は顔が熱くなる。
「華雄もすっかりこいつに毒されたわね……」
「うるさい! ほれ、さっさと話さんか」
「はは、そうだな。さっきの白装束が多分、ここの兵士だったんだよ」
「まさか、あのような得体の知れない導士に従っていたというのか?」
「俺は実際に術で操られてる兵士ってのを見たことがあるからな。それで、左慈の奴はそっくり下?(下ヒ)の戦力を奪ったんだろう。元々は何か理由があったようだけど、その兵を俺たちに差し向けてきたってことだ」
「なるほど。それで、下?(下ヒ)から?(タン)への増援がなかったというわけだな」
 わかってみると非常に単純な話だった。
「増援が無ければ、あんたがこっちに来るのも自然と短時間で可能になる」
「つまり、左慈がここを利用しようとした時点で俺たちは結構有になってたんだな」
 腕組みした一刀が嬉しそうに笑っている。華雄もその顔を見ているだけで不思議と気分が良くなる。
「でも、あんたはにかけたけどね」
「あ、あはは……あれは本気で焦ったよ。今でもちょっと冷や汗が出る」
「……危なかったな」
「ああ、本当にな。……実は城門まで来たときもやばかったんだよ。あそこで華雄が現れてよかった。ありがとな」

88 :
「む。気にするな、私は自分の役目を全うしただけだからな」
 大切な主人を守るという何よりも優先されるべき役目。
 華雄はそれを破らずにすんだことに対する幸福感を胸の内に治めるのだった。
 †
 西涼連合との正面からの衝突を乗り切った曹操軍は更に軍を進めていた。
 涼州の中頃まで既に軍は食い込み陣を敷いていた。
 全軍の士気を衰えさせないよう、各将に命じたところへ、夏侯淵らが合流を果たした。
 そのまま追撃に出ると武官たちが思うのに反し、曹操は全軍を停止させ、文官たちはそれに異論を挟まなかった。
 暫くの間、韓遂軍に対するようにしかれた陣の中では食事は普通に振る舞われ、乗馬や射撃の訓練に明け暮れる日々が続いた。
 武官たちも初めは理由もわからぬまま従っていたが、兵たちの戦意が高揚するにつれて落ち着きを無くしつつあった。
 中でも夏侯惇は部下の思いもわかるが故に一層身体を持て余していた。
「一体、華琳さまは何をお考えなのだろうか……なあ、秋蘭はわかるか?」
「私か? まあ、今はもう予測も付いているが姉者に伝えられていないということはまだ知る必要がないのだろう」
「教えてくれてもよいではないか」
「もうすぐわかるさ」
 弓箭の訓練を終えたばかりなのに夏侯淵は汗を全然かいておらず涼しげな顔すら浮かべている。
 そのまま夏侯惇がうんうん唸りながら歩いていると、許緒がやってきた。
「春蘭さま、軍議があるから来るようにって」
「わかった。すぐに行くぞ。秋蘭」
「どうやら、疑問の答えもでるようだぞ、姉者」
「そうか。ま、まあ、別に気になどしていなかったからな。あれくらいわからなくとも別段問題ないわけだからな」
 そう答えながらも自然と歩幅が大きくなり、歩調も速まっていることに夏侯惇は気付いていなかった。
 幕舎へと足を運んだ夏侯惇にようやく事情が伝えられることとなった。
「恐らく、もう予測できてる者もいるでしょうけど、頃合いを見て兵を動かすわ」
「とうとうですか。待ちくたびれましたよ」
「ふふっ、それなら春蘭には思い切り暴れて貰いましょうかね」
「お任せください」
 曹操の期待に満ちた言葉を受けて夏侯惇は胸がいっぱいになる。
「それで、今後の流れですが……」

89 :
4円

90 :
「あのう……」
 咳払いをして発言を始める郭嘉におずおずと許緒が手を上げる。
 郭嘉は説明を中断すると、許緒の方を見る。
「どうかしましたか?」
「これからもいいんですけど、これまでは一体なんだったのかなって」
「ああ、そうでしたね。こちらだけで話を進めていましたので説明が足りませんでしたね。すみません」
「季衣にもわかりやすく説明してあげなさい。風」
「え? 風がするのですか? 別に構いませんが……ええと、皆さんよろしいですか?」
「おう!」
「おやおや、春蘭さまのお返事が一番元気がよいですねー」
「む? そうだったか」
「ああ、姉者らしい良い返事だぞ」
「なんだか照れるな」
 頭を掻きながら照れ笑いを浮かべながら夏侯惇は程cの説明に耳を傾ける。
「風と秋蘭さまで奇襲を掛けて西涼連合の戦力を削ぎ、同時に糧食も絶しました。これにより、涼州兵の多くは韓遂さんの軍へ逃げ込みました」
「それは確実なのか?」
「はいー、追いかけて確認したので間違いありません」
「うむ、それは私も保証しよう」
 夏侯淵が捕捉するようにそう言った。
 程cはそれに対して軽くお辞儀をすると、説明を続けていく。
「普通の軍でしたら、逃げ帰ってきた部隊を回収して撤退なら撤退ですたこらさっさと逃げられますよね?」
「うん、そうだよね」
「ですが、西涼連合は連合と銘打つだけあって少々統制するには難しい人たちなんですね」
「気難しい奴というのは真に迷惑だな……む? どうして私を見ておるのだ」
「いや、別になんでもないですよ。ねえ、秋蘭さま」
「そうだな。気難しいところがあった方が姉者はよい」
 許緒と夏侯淵の会話内容の意味が把握できないことを気にしつつも夏侯惇は程cの説明へと意識を戻す。
「そこで、こちらも人馬に休憩を取らすという名目で足を止めることにしたんですね」
「そっか、追い込みすぎると必になるから逃げられちゃうけど、余裕があれば少し休むんだ!」
「おおっ! 季衣ちゃん、正解ですよー。ぱちぱち」
「えへへ……」

91 :
清涼剤氏、N65ではなくN66ではないか?
65話は23日にうpされてるよ

92 :
「き、季衣」
 拍手する程cに照れている許緒の服を夏侯惇はこっそりと引っ張る。
「なんですか、春蘭さま?」
「ど、どういう意味なのか説明してくれんか?」
「姉者……後で補足説明くらいなら私の方でやるから風の話を聞いてはどうだ?」
「む、それもそうだな。すまんな、季衣」
 許緒から離れると、丁度程cの説明の続きを始めるところだった。
「兵の統制を取るために制止した韓遂さんたちですが今はこちらの動きを見ているはずです。そこで陣内にこもり続け、情報統制も行い進軍の意思がないように装いました」
「なんでまた、そのような面倒なことを?」
「そうすることで、少しでも長く留まらせ、なおかつ油断を誘うという魂胆なのです」
 ぬっふっふと笑いながら答えた程cの笑みは夏侯惇には若干悪人ぽく見えた。
「丁度、今頃統制が取れていることでしょうねー」
「それでよいのか? 逆に討ちにくい状態になってしまっているのではないか?」
「そうでもないのですよ。ここからは稟ちゃんの説明に繋がるのでそちらでどうぞー」
 そう言うと程cはふう、と息を吐いて眼を細めてまったりとし始めた。
 郭嘉がそんな程cを見てこめかみに手を添えつつ説明を引き継ぐ。
「つまり、韓遂軍には多くの兵が残っており、彼らの士気を乱れさせないために食糧も均等に配らざるを得ない状況が継続中ということになります。糧食も尽きつつあるでしょう」
「だが、それでも本国から輸送されてくるのではないか?」
「ええ、それは至極当然のことでしょう。ですから、その輸送が届く前に仕掛けるのです」
「輸送隊が韓遂の陣へと向かっているという報告も既に入っていたからな」
 夏侯淵が郭嘉の説明に頷く。
「まず、周辺の民族を雇い農夫として牧畜を行わせていたのでその者たちに放牧をさせます」
「放牧ってどういうこと? 向こうにみすみす食糧を渡しちゃうんじゃないですか?」
「季衣。流れを見ていなさい。さすれば、何を考え動くのかがわかるはずよ」
 許緒の質問に答えたのは曹操だった。
 実のところ、夏侯惇も許緒と同じ疑問を抱いていたのだがこれでは言うに言えなくなってしまった。

93 :
紫煙

94 :
支援

95 :
「さて、涼州軍はどのような顔をするかしらね」
 曹操は不敵な笑みを浮かべる。それは夏侯惇が好きな曹操らしい表情。
「いや、まあどのような表情でも華琳さまは素晴らしいのだが……」
 †
 大陸の西方、涼州。
 砂丘や荒野が多い土地だが、愛馬紫燕の背に乗っているときはとても心地よい風を感じられる。
 乗馬など訓練をしてきた馬超が城へ戻ろうとしていると、前方から砂塵を巻き上げて駆けてくる者がいた。
「お姉様ー!」
「蒲公英」
 従妹の馬岱だった。
 彼女が来たと言うことは馬超に対して報告すべきことがあるということ。
 馬超は隣に馬岱が並ぶのを待ってから馬を歩かせる。
「奇襲はどうだった?」
「うん、ばっちりだったよ」
「そうか、あんま好きじゃないやりかただけど成功したってのは良いことだ」
「ただね……」
 少々暗くなる馬岱に馬超は首を傾げる。
 何かよからぬ報せがあるのだろうか、そう思い馬超は自然と唾を飲み込んだ。
「韓遂さんの軍が散々な状態になって戻ってきたの」
「なんだって?」
 韓遂といえば、母、馬騰と共に西涼連合の中心となっていた勇将だった。
 その韓遂を曹操軍が敗走せしめたというのは馬超にとってにわかには信じ難い。
「一体、何があったっていうんだよ」
「それが兵たちが喧嘩始めたらしくて……」
「おいおい、いくらなんでもそれはないだろ? あの軍は結構統率がとれてたはずだぞ」
 ますます胡散臭いものへとなる報告に馬超は自然と険しい顔つきになっていく。
「それが、急襲されて糧食の殆どを焼かれたり陣を奪われた軍の人たちが原因らしいんだよね。そうして、荒れたところで曹操軍が家畜を解き放って」
「飯にありつくために勝手に;……ってことだよな」
「うん。そのせいで、完全に韓遂軍はバラバラ……そこを突かれながらもなんとか逃げ延びてきたんだって」

96 :
 馬超は仲間が完全に敵の策にはまったことを痛感し、頭を抱える。
 通りで馬岱も普段ほどの元気がなかったのだと今更のように思った。
「元々、母さんの元に集まった羌兵も多かったからな」
「みんな、凄く強いけど統率がね……」
 元々自由気ままな気風のある羌族がぶらさげられた餌を前にして静止しきれるわけはなかったのだ。
 そして、曹操はその特性を容赦なく利用してきた。
「確か、曹操と面識があるって話だったんだけどな……」
 韓遂はかつて都にいたころ、曹操と顔を合わせたことがあるという話だった。
 可能ならば交馬語にて話を付けられるかもなどとも韓遂は言っていた。
「曹操ってやつは噂以上にめちゃくちゃやりやがるな」
 知己である者であろうとなかろうと容赦なく策謀にかける。
 ますます自分には合わない相手だと馬超は思った。
 城へと戻った馬超たちは、直ぐに韓遂らと合流し防衛戦をしかけることを決断した。
 城内の民を巻き込まずに相手をするということだが、勝敗はどうなるかなどわかりはしない。
 ただ一つ、負けたくないという思いだけが馬超の中でじわじわと大きくなっていた。
「……曹操軍は今どれだけの戦力なんだ」
「お姉様、少し落ち着いたら?」
「うーん、いや、わかってはいるんだけどな。あたしが名代となるんだって思ってたらなんだか落ち着かなくてな」
 母、馬騰は現在病床に伏していた。もう、そう長くはないという話でありこうして馬超が代理を務めるに至っていた。
 大役を思い緊張する一方で、馬超の中には言いしれぬ不安が大きくなりつつあった。
 曹操が近づいてきていると思うだけで不思議なことに喪失感を思い出すのだ。
「曹操に勝たせちゃダメだ……絶対に」
「ホント、どうしちゃったの? ちょっと、お姉様らしくないよ。もっと、こう……腕ずくでも平伏させてやるー! くらい言ってよ」
「お前の中のあたしの印象ってそういう感じなのか」
 指で両目を吊り上げている馬岱を馬超は半眼で睨む。
 何か一言をと思っている折、曹操軍が到着したという連絡が入った。

97 :
しえん

98 :
 馬超と馬岱は共に得物を手にし、愛馬を駆って城を飛び出し、決戦の地へと赴いた。
 そこには、大勢の歩騎が居並ぶ軍勢の姿があった。僅かに強めに吹く風に煽られてはためく旗には曹の文字。
 その先頭から、一人出てくる人影がある。
「お姉様、曹操だよ」
「わかってる。それじゃ、ちょっと行ってくる」
 曹操と馬超を交互に見ている馬岱へそう告げると素早く駆けていく。
 向こう側も騎乗した曹操一人だけが前進してくる。
「お前が曹操か」
「ええ、目は四つ無いし、口も二つ無いけれどね。それで貴方は? てっきり、馬騰が出てくるものだとばかり思っていたのだけれど」
「あたしは馬超! 馬騰の名代として、この軍の指揮を取る者だ!」
「ああ、そう。馬超ね。そういえば連合の時にも見た顔ね……」
 本気で興味のなさそうな顔をする曹操に馬超は頭から湯気が出そうなほど熱くなる。
「な……なんだその反応はっ! もっとこう、あるだろうが! この侵略者め!」
「名将と名高い馬騰と相見えるのを楽しみにしてきたのだもの。その代わりが貴方では……ねぇ」
「あたしらを舐めるなよ! この地を再びお前らに侵略させてたまるもんか!」
「…………」
「あれ? 今、あたし何て……」
 馬超は自分の発言に眼を丸くして驚くが、直ぐにぼっと顔が吹き始めた風を浴びても冷めない程に熱くなる。
(や、やば! あたし、完全に変な奴じゃん!)
 嫌味な曹操のこと、きっと自分の痴態を見て嘲っているに違いない。そう思いながら恐る恐る見る。
「……そう。ならば、この曹孟徳を止めるため全力を尽くしなさい」
「え? ……いやいや! お、おうとも! 後で吠え面かくなよ!」
 まったく茶化すことなく静かに去った曹操の様子に首を捻っていた馬超だったが、馬岱の呼ぶ声に慌てて自軍へと戻るのだった。
「おかえりなさーい。姉様、なんか様子が変だよ?」
「なあ、蒲公英……あたし、おかしくなったかもしれない。なのに、あいつ……」
「姉様? どうしたの? これから大事な一戦なんだよ! しっかりしてよ」
「わかってるって!」
 揺さぶってくる馬岱の手を振り払うと馬超は両頬を張って気合いを入れる。
「うっしゃ! 連中を一気に叩き潰す!  総員、突撃ーっ!」

99 :
 ほとんど同時に両軍は動き始めた。
 これが涼州を駆けた最終決戦となると信じて互いの力の限りを尽くしぶつかり合う。
 だが、その両者を遮るように風が強まり、砂が舞い上がり視界を遮る。
「くっ、こんなときに砂嵐かよ」
「姉様、どうするの! 敵が見えないよ、これじゃあ」
 手で目元を守りながら訊ねる馬岱の声を遮るような大声が前方から聞こえてくる。
「全軍、退却! この土地に適した涼州兵相手にこれは不味い!」
「退け! 退くんだ!」
「さっさとするの! わかったのか、ウジ虫ども!」
「さー! いえっさー!」
 一部聞き慣れないやり取りが混じっていたものの、曹操軍が退却しようとしているというのは察する事ができた。
「敵は怯んでいる! 今こそ、あたしらの力を見せつけてやるんだ! 追撃ー!」
「お姉様! 深追いしすぎはよくないよ!」
「大丈夫だ、それに逃すわけにはいかない……あいつだけは」
 曹操は全力で来いとのたまったのだ。ならば、力を尽くすしかない。
 幸い、涼州で生きる者ならばまだなんとか前を見て進める程度には砂嵐が弱まっている。
 羌族と涼州に住む漢族らが混じり合った騎馬が何千と掛ける姿は壮観だった。
 しかし、その雄大な光景も長くは続かない。
 先頭の数百騎が姿を消したのを始めに続々と騎馬が姿をくらましていく。
 三分の一ほどの騎兵を失ったところで、ようやく全軍が止まり、砂嵐が去っていく。
「なんだ、こりゃ……」
「やられたってことだよね」
 そこには巨大な穴が広がっていた。
「ふふん、ウチら工作部隊の手にかかればこんなもん朝飯前ってもんや! とはいえ、ウチの螺旋、こないな使い方しとうなかったんやけどな」
「お前! いつの間に」
 螺旋状の穂先の得物を手にした曹操軍の将、李典を前にして馬超はぎょっとする。
「油断大敵ではないか?」
「か、夏侯淵!」
「ほう、存じて貰えていたとは光栄だな」
 李典、夏侯淵だけではなかった。
 改めて見れば、曹操軍は退却などせず、穴のすぐ傍に大勢の歩兵が伏せていた。

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