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2013年01月エロパロ659: 【精霊の守り人】上橋菜穂子総合3冊目【獣の奏者】 (303) TOP カテ一覧 スレ一覧 Pink元 削除依頼

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【精霊の守り人】上橋菜穂子総合3冊目【獣の奏者】


1 :2010/09/04 〜 最終レス :2012/10/18
『獣の奏者 外伝 刹那』 2010年9月発売

上橋菜穂子総合SS保管庫
http://www.moribito.h.fc2.com/

精霊の守り人
http://www.moribito.com/
http://www.kaiseisha.co.jp/moribito/
獣の奏者エリン
http://www3.nhk.or.jp/anime/erin/
http://shop.kodansha.jp/bc/books/topics/kemono/
精霊の守り人キャプ画像集
http://ysk.orz.hm/picture/seirei/

守り人シリーズ
ttp://ja.wikipedia.org/wiki/守り人シリーズ
獣の奏者
ttp://ja.wikipedia.org/wiki/獣の奏者

◆関連スレ◆
【精霊の守人】上橋菜穂子総合6冊目【獣の奏者】
http://kamome.2ch.net/test/read.cgi/juvenile/1258038609/
【獣の奏者】イアルとエリン【夫婦】
http://kamome.2ch.net/test/read.cgi/bookall/1258508629/
精霊の守り人 30突き目
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/anime2/1266161078/
獣の奏者 エリン 39
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/anime2/1271663672/
●● 獣の奏者 エリン ●● 3話目
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/charaneta/1258125741/
精霊の守り人のバルサは三十路カワイイ
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1230373043/

◆過去ログ◆
◆ ◆精霊の守り人 で エロパロ◆ ◆
http://mimizun.com/log/2ch/eroparo/1172746578/
【精霊の守り人】上橋菜穂子総合【獣の奏者エリン】
http://mimizun.com/log/2ch/eroparo/1231493914/
【精霊の守り人】上橋菜穂子総合2枚目【獣の奏者】
http://mimizun.com/log/2ch/eroparo/1255092539/

2 :
◆関連スレ◆
〜「獣の奏者」漫画版〜
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1225882100/

3 :
いちおつ!

4 :
保守

5 :
獣外伝だが
うちの地元では
大手チェーン店の本店と
そこの大きめの支店にしか入ってないようだ
(ネットで在庫わかる)
前の職場には入ってない
何やってんだよーーー!

>>1乙です

6 :
5ですが、
その後、ネット検索で在庫があった
ちょっと遠い書店で外伝を入手
読んでる最中に現職場から何度も
問い合わせの電話が鳴って中断
(日曜休むのは半年ぶりなんだけど)
頼むから感動に浸らせてーーー!

保守ってどんな頻度でするとよいのでしょう?

7 :
>>1
保管庫
http://www.moribito.h.fc2.com/
じゃなくて
http://moribito.h.fc2.com/

www. 付いてると見れねーんだ

8 :
保守は圧縮のときに削除されるのを防ぐためだよね?
相対的に上から9割程度までの更新頻度なら大丈夫だと思ってるけど・・・
かなり過疎なスレでも落ちずに存在してるし
ただ即回避は別
さっき某所で聞いてみたら、一週間以内に30レスかな?って言われた
立ってから一定期間以内にそれなりのレスのつかないスレは、
不要と判断されて落ちますよ
とはいえ俺も新刊読んだらカキコもうとしてるんだが、本屋行ったら「刹那」は明日入荷ですって言われた
東京では3日に並んでたという話なのに地域差あるなw

9 :
あ、さっき30とか言われてそのまま書いたけど、常駐ではそれ以下でも生き残ってるとこあったわ
結局いくつだろう・・・

10 :
あ〜
いい加減に解除こいよ…

11 :
って解除来てたー!!
au書けるよみんな!
自分はついさっき刹那を読んだが萌えすぎて禿げそうなんだがどうしてくれるんだw
とりあえずイアル△
あとエサル□

12 :
日本海側だけど先週入荷してた>外伝

↓↓バレ↓↓






イアルの方からだったのか
いい感じで予想を外れた

13 :
即回避は20レス越えてたら問題無し
即と言っても一ヶ月位は残ってるけど

14 :
刹那萌えたなー
この勢いで神降臨してくれんものか

15 :
イアルさんが思ったよりヘタレじゃなかったw
キメるべきとこはキメるイアルさんカッコヨス

16 :
ああいうことがないと
一線を越えられない二人なんだなぁ、と
とっても説得力がありました

17 :
ちょっとネタバレなんで注意↓↓





どうしよう…
祭りから帰った後 激情にまかせて木材を叩き折りまくって、その後
部屋中に散らばった木片をきちんと掃いて一ヶ所に纏めてるイアルさんの
後ろ姿を想像すると可愛すぎて激萌えなんですがw

18 :
「刹那」発売で久方ぶりにここを覗いてみたならば、思わぬ超大作が…!
≫前スレ667 さん
読み応えあるイアエリをありがとう‼
武人として生きていくには繊細すぎたイアルの苦悩が、エリンとの日々で癒されていく。
その変え難い情愛が、終章で集約されてました。
年月を経て尚思い続けるイアルに、涙なくしてはいられない…!
原作エピローグの補完をさせてもらいました、ありがとう!
このスレの神作品たちはエロでなく官能小説で、とても読んでいてドキドキします。
原作の溢れる官能さがよく写し出されていて、本当に良スレです。
今回の「刹那」でまた神の降臨あれ〜‼

しかし、今だに「獣の奏者」を児童文学いう人がいるんだね。
初出が講談社の一般書籍なのに。
あとがきにまで児童文学ではないと書かれてるのはよっぽどかと。
エサル先生の話なんてもう…
hosyuがてらの長文失礼しました。


19 :
神降臨してもいいのよ

20 :
今回の外伝は、それ自体が本編で描写しきれなかった部分を補完してくれるもの
だったせいか、行間ほじくり返して読むタイプの自分は逆にこれだけで
満足してしまった。さすが最大手にして唯一神w
あえて読みたいとすれば、奈落でカイルさんがいかに手でこねくり
回されて髪が突っ立ったかっていう過程だろうかw

21 :
ところで、保管庫につながらない?と思ったら、アドレスはwwwなしで
精霊の守り人SS保管庫
http://moribito.h.fc2.com/
じゃないかな? 
>>1 でつながらなかった人は試してくれ

22 :
>>21
>>7参照

23 :
スマン既出だった
>>22 教えてくれてありがとう

24 :
>>20
激しく同意!!
髪突っ立ったカイルさんの愛らしい様子が目に浮かぶ…
それでも友人のためにすぐ出てきてくれる情の深さに萌え
カイル、テクニシャンっぽいから詳しく描写するとなると
かなりエロくなりそう

25 :
昨日のラジオ深夜便に出てたな。聞いてた奴いる?

26 :
聞いた。
未読者に配慮してか、たいして目新しい話はなかったけど。

27 :
なんか文化人類学者として色々と話してたけど、そっち方面での評価はどうなんよ?
本も出してたみたいだけど絶版になってるしなぁ

28 :
ネタバレ注意↓


寒いからって背中くっつけて座る2人に激萌え

29 :
>>27
復刊したよつい最近

30 :
>>18
自分小学校図書館の司書なんだですが
読んでみて刹那だけはうちの学校に入れるのを断念しました
完全にR指定だろこれwww

31 :
ダメかなあw
今って性教育やってるんでしょ?
5・6年あたりの女の子ならいけそうだが…
でもまあ、自分で買うのとは違うもんな。
アレは児童文学ではないってことで、
「先生どーして入れてくれないの?」
と聞かれたら
「コレはこっそり楽しむ本だ」
とでも答えるか?

32 :
「先生どーして入れてくれないの?」と聞かれたら
「小学生には難しいから」でいいとオモタ
事実恋愛描写は小学生にはちと難しいと作者も言ってるし。
「刹那」も親が読んであげれば…とかラジオで言ってたが、
説明できるかああああ!
でも中学校の図書館ならいけそう
中学校にある文学全集にはけっこうエロい描写もアリ
その他偉い賞とってるからって、かなりきつい描写の入った本も
俺の行った中学校には置かれてた
高校は一般書ならほぼ自己責任だったな

33 :
今の小学生の性知識や購読している創作物の性描写の水準考えたらたいした事無いしな。
まあ刹那自体が完全に作者自身によって描かれた公認微エロパロSSだけど。
せいぜい、奈落とか高級娼婦とか生臭い部分がさわるくらい?

34 :
小学生高学年にとっての性描写は
夫婦またはそれに準ずる社会の規範に沿ったものならばOKで
不倫など規範から外れているとNGなのではないだろうか
小学4年生の保健体育の授業参観で
「お父さんの精子がお母さんのおなかに入って子供ができます」
って紙芝居でグループ発表した児童がいたし

35 :
可愛いWW

36 :
>>34
微笑ましいな

37 :
女子小学生の口から「せいし」って言葉言わせることがかよ(笑)

38 :
女子児童で脳内変換したのか
とっても内気な相方のために
照れる間もなくものすごい早口で発表した漢だったぞ

39 :
ショタが発表したのか
それはそれで危なくて萌えw(*´Д`)ハァハァ

40 :
ところで。
エロさで言えば、「刹那」より「秘め事」のほうが、エロくありません?
はじめは、なんか、いけないこと聞いちゃった…な気がしましたが、だんだん、ユアンが気に
なってきて…。
というわけで、ユアンでひとつ、書いてみた。
ダ・ヴィンチのインタビューで、ユアンは「底の見えない人」「(「秘め事」の恋は)破滅型恋愛」
とのコメントがあったので、そのイメージで。
破滅型の恋愛する人って、どんな人…を中心に、妄想してみた。
あと、エサルは自分で思うよりは愛されてたと思うし、ユアンも喋ればいい奴だよ、
上橋キャラなんだから! とオモタ
皆さん解釈は色々あると思いますが、上記のことをご了承の上、ドゾー。
あと前編は非エロですので、その辺もご了承ください。
ユアン×エサル 前編  です。

41 :

先日の雨が上がって、また少し風が冷たくなったようだ。
ぼくは窓際に立って、外を眺めながら、そう思った。
ここはタムユアンの東棟にある医術科の資料室だ。医術の専門書が集められていて、
学童の出入りは自由だが、読み物は少ないせいで、室内はいつもしんとしていた。
たまに、専門書を探しにくる人たちも、目的の本を見つけると手早く手続きをして
退出してしまう。
この医術科のある東棟は、王都でも屈指の高さを誇る建築物であり、王都のはずれで、
人々にその威容を見せ付ける様にそびえ立っている。最上階にあるこの窓からは、
王都の街並みと、遠くの王宮を取り囲む深い緑さえ眺望できた。
そして眼下の石畳では、書物を抱えた学童たちがちらほらと歩いている。
ぼくはこの窓際からの眺めが気に入っていた。
そして、時折、訳もなく気分が塞ぐことがあって、そんなときはよくここへ来て、
外を眺めるのだ。
「──ユアン、ここにいたのか。」
聞き慣れた声に振り返ると、親友のひとり、ジョウンが立っていた。
僕はわずかに微笑を作って応える。
「次の授業は史学だから、一緒に行こうと思って、呼びに来た。」
彼は少し低い声で、ごく明るそして何でもなさそうに言った。
「わざわざ、医術科まで?」
人の良さそうなこの友人は、学年にすれば三つも下だが、同じ講義は毎年は
行われないので、一緒の講義をとっていることも、よくある。
「何だよ、来ちゃ悪いか?」
「いや──悪くない」
そう、悪くない。こんな風に、気遣ってくれる友人がいるというのも。
彼は鈍いように見えて存外に人の心の動きには聡く、僕の気分がなんとなく塞ぐ
ときにはこうして何かと気を遣ってくる。
おそらく、授業の後も、ここへ行こうとか、あそこへ行こうとか、夕食は一緒に
食べようとか言って、さりげなく僕を独りきりにさせないようにするのだろう。
事実、こんな風に気分が塞いで息が詰まりそうなときは、独りで窓の外を眺めたり
するより、気の合う友人たちと一緒に居たほうがよほど気が紛れるということを、
ぼくはこのジョウンと知り合ってから、初めて知った。
少なくとも、ぼくの友人だけは、ぼく自身が選んだものなのだから。
 
     ※    ※    ※   
医術師になることは、生まれる前から決まっていた。
父にしてもそうだったし、ぼくの兄弟も含めて、オキマの家でそのことに疑問を
持つものは居なかった。
父は厳格で、息子達には医術師になるべく高い学業成績を要求したが、家庭生活に
ついては冷淡だった。
社交的な集まり以外で、父母とともに家族で仲良くどこかへ出かけたことなど、ない。
父は仕事で多忙を極める上に、外に妾を囲っていて、休日にはそちらに行ってしまう
ことのほうが多かった。父の妾というその人は、元高級娼婦で、高い教養を身に
つけており、父はことあるごとに彼女と比べて母の教養の無さをなじった。
そして夫婦関係は冷え切っているのに、社交の場では二人とも完璧な笑顔を作って
夫婦を演じた。彼らの顔に貼りついた作り笑いを見るたび、貴族の体面にかける執念の
ようなものには、畏れ入ったものだ。
そんな母は、子供たちの養育は自分の使命とばかりに誇りと意地をかけて取り組んだ。
ぼくたち兄弟も、自分たちの成績が元で家庭内にいらぬ波風が起こるのを避けるように、
常に勉学には勤しんだ。

42 :

でも、そこに自分の希みも楽しみもあるはずは無く。
むしろこのタムユアンに入舎するころには、自分がどんな人間で、何が好きで、どんな
ことがしたいのかなんて、分からなくなっていた。
ただ、与えられた筋書きで、与えられた役割をこなす人形のようなぼく。
この学舎の椅子に座っているだけで、いずれは決められた通りに、医術師になってゆくの
だろう。
そのことを考えると、息苦しくて仕方が無い。
いつも王都を眺望するあの窓枠を踏み越えれば、この息苦しさからも開放されるのだろうか。
この身を砕いてしまえば、その中からぼくをぼく自身たらしめている何かが見つかるだろうか。
それとも、そんなものは、始めからありはしないのだろうか。
あの窓のそばに立つとき、窓のこちら側に留まっている自分に、いつも少し安堵して。
──そして少しだけ、失望する。
ああ、ジョウンの言うとおりだ。
こんな風に考えてしまうときは、きっと独りで居ないほうがいいのだろう。
 
     ※    ※    ※  
教室に入ると、エサルはとっくに席について、教本に目を落としていた。ぼくたちが
挨拶すると、こちらを一瞥して挨拶を返し、もう授業が始まるわよとでも言いたげに、
すぐに教本に目を戻してしまう。
エサルは少し、風変わりな娘だった。
女学校であるリオラン学舎から中途編入してきたというだけでも前代未聞で、ほとんど
男ばかりのタムユアンでは、ちょっとした有名人だった。彼女の家は、心の臓の病の薬の
原料であるマキオリの栽培を手がけており、薬草学科に編入して、ゆくゆくはマキオリの
改良に従事するのだという。
そして彼女はどれだけ周囲の視線を集めていても、臆することなく背筋を伸ばして前を
見つめていた。
彼女には少し、感謝している。
ぼくもジョウンという『年上の後輩』のことは知っていたが、彼がどんな人物かは、
知ろうとも思わなかった。
ただ、いつかの古詩の授業の後、彼らが講義で出てきた古詩について議論を戦わせて
いるのを聞いて、興味を引かれた。年下とは思えないほど──事実、片方はかろうじて
年上なのだが──深い思索と、それを裏打ちする、深い孤独を感じさせた。
青年期の孤独は悪いことではない、といつか読んだ本に書いてあった。むしろ孤独を
知らないものは、考えを深めることもできない、と。
普通の貴族の子女として生きることを拒否して、タムユアンへ来たエサル。
人懐こい性格ながらも胸の病で入舎を四年も延ばさざるを得なかったジョウン。
そしてぼく。
ぼくたちは、一緒に居ると、どこか響きあった。
きっとぼくたちは、自分の周りの世界について深く考えるに足るだけの孤独を、その身の
うちに持っていたのだろう。
ぼくはエサルが居たおかげで、二人の友人を得ることができたのだ。

43 :

エサルの風変わりぶりは、それだけには留まらなかった。
このタムユアンに来る前に、自分の婚約者を妹に譲り渡してきたというから驚きだ。
貴族も高級職能者階級も、学童になるころにはとっくになにかしら縁組は決まっているから、
相手の居ない女の子、というだけでともかく男子学童たちはざわついた。
口の悪い奴らは、
「手綱のついていないというより、乗り手のいない牝馬。そもそも牝馬に見えない」
などとはやし立てたが、自ら心の中がざわついていることを告白してしまっている。
男にわざわざ「女に見えない」などと当然のことを言う奴は、いない。あえて
「女に見えない」というようなことを言うのは、どこか女の子としてのエサルが気になっている
証拠だ。その方向性が、はっきりとした恋情でなくとも。
そもそもエサルは、派手な顔立ちではないし、特別に美しいわけでもなかったけれど、
別に醜くはなく、愛嬌のある顔立ちだった。容姿の美醜など、所詮皮一枚のこと、さほど
気にする必要もないと思うのだけど、エサルも女の子としては気になるもののようで、
はやし立てられると、いつもひそかに眉根を寄せていた。
気になるか、と聞くと、
「気にならない…こともないわね。」
と、答えた。
強がってはいるのだけど、その言い方が、なんだかひどく女の子らしい気がして、
可愛らしいな、と思った。
そしてエサルが彼らに媚びたりするような娘でないことを、少しだけ嬉しく感じた。
 
     ※    ※    ※  
エサル、ぼくたちに転機が訪れたのは、ぼくたちが卒舎を控えた、春のことだったね。
王獣に夢中になった君のために、ふたりでホクリ師の館を訪ねた。それまでほとんど
三人で一緒にいたのに、そのときは、ふたりで。
きみは侍女を呼ばずに外出できるなんてはじめてだと、嬉しそうにしていた。きみは
少しそわそわしていたけれど、きっとホクリ師は、きみのことを気に入ると思っていた。
ぼくは慣れないふたりでの外出に緊張していることを悟られないよう、ずっと
本を読んでいた。
結果は予想通り、いや、予想以上だった。
ホクリ師はきみの父上のことをすでにご存知で、師との会話はほとんどきみの話を
中心に進んだ。
きみの存在は、いつも不思議だ。
自分のことだけを懸命にこなしているようで、その実、不思議な影響力で、周囲の
ものたちを巻き込んで、変えてしまう。
いままでにぼくが師のもとを訪れたどのときよりも、そのときの師の語りは生き生きと
していたし、何より新しい発見に満ちていた。
ぼくたちは、来るまでに考えていたことなどどこかに忘れ去って、新しく聞いたこと、
新しく自分の心に浮かんだことに夢中になって語り合った。
ぼくは興奮していたし、高揚していた。そして、きみもそうだった。
ぼくたちは、師のお宅を辞したあとも、夢中で語り合った。
ぼくが研究学舎を受ける理由を人に話したのもはじめてだったし、それを理解して
貰ったのもはじめてだった。
いや、ぼくが希んでいることを、理解されたことも、理解しようと努力してもらった
ことさえ、はじめてのような、気がした。
ぼくの言葉にきみが、きみの言葉にぼくが応えて、次々と新しい何かが溢れて、
止まらなかった。
声を上げて笑ったのも、久しぶりだった。
あのあと、きみがぼくと同じように研究学舎を受けて、しかもホクリ師に師事する
つもりだと聞いたとき、どんなにぼくが嬉しかったか、きみにわかるかい?


44 :

ぼくが心底惹かれたホクリ師の独特さ──狭い専門に囚われず、広い視野でこの世の
すべてをひとつながりとして見ること──は、位の高い医師たちの間では、あまり
認められていなかった。
父はそんなホクリ師に師事することに、決してよい顔はしなかったが、研究学舎を
出ること自体は、経歴に箔がつくという理由で、何とか許してもらった。
ぼくたちは師について山野を巡り、野に伏せて、獣を、植物を、昆虫を、その他
森の生命を形造るさまざまなものを観察した。森は、山は、それ自体で一つの生命の
ように息づき、その驚くほどの精緻さの前で、ぼくたちはほんとうにちっぽけな存在だった。
どれだけ頭を働かせ、いくら力を尽くしても、ぼくたちに捉えられるのは全体のうちの
ほんの断片にすぎない。それどころか、ぼくたちが書きとめた事実から、なんらかの真実を
浮かび上がらせられるかどうかも、計画の緻密さよりも運によるところが大きかった。
森の大きさの前では、ぼくが貴族の家に生まれたことも、ここにいられるのが医術師に
なる前のほんの短い期間であることも、ごく些細なことだった。ぼくたちは、その神々しさの
前に、ただ頭を垂れるしかなかった。
ただ、エサルにとっては、少しだけ事情が違ったようだ。
共に野に伏せているある日、エサルが妙に眉をしかめて苦しそうにしていた。
「どこか悪いのか」
ぼくが心配して聞くと、きみは眉をしかめたまま首を横に振った。
「平気なようには、見えないけど。」
よく見ると、顔色が悪く、額には脂汗が浮いていた。
「いいから、わたしのことは放っておいて。」
そう言ってきみは少し離れたところに行ってしまった。それでいて、山小屋に戻ると、
倒れ込むように横になって、そのまま翌朝までほとんど動かずにいた。
翌日にはいつも通り元気そうにしていたから、ぼくは医術科に属するものでありながら、
その理由に気づいたのは翌月のことだった。
山入りの前の日にはいつも通り一緒に準備をしていたのに、エサルだけ二日遅れて山に
入るというから何事かと思っていたら、エサルが席をはずしたときに、師がそっとこう言った。
「山の神に、障らぬためじゃよ。あまり、言い募るな。」
それでやっと、ちょうどひと月前のあの不調も、今回も、月のものなのだと、思い至った。
そう、エサルは、女の子なのだから。
屈強な男たちが次々と脱落し、ぼくもまた自分の限界に挑戦し続けなければならない師との
山歩きに弱音ひとつこぼさずについて来ているとはいえ、エサルが女の子である以上、
月に一度は痛みと貧血に耐えねばならなかったのだ。
そしてつらければつらいほど、そんなことを、軽々しく男のぼくに言える筈もなく。
それからエサルは月に数日ずつ、山入りの予定をはずしていたが、エサルがいないときほど、
その存在感は募った。いつもいる場所にいない、というそのことが、雄弁に、彼女が女である
ことを語っていた。
きみは、大事にされている「マキオリのお嬢さん」だった。師は、きみがいないときには、
盛んにそういっていた。男なら怪我をしても自分の責任で済むが、お嬢さんはそうはいかん、と。
師は、ぼくには近い場所ならひとりで観察に行かせたが、エサルには決してそんなことは許さなかった。
エサルは男より少し細い肩と、少し細い手足で、いつもなんでもないような顔をして、過酷な
山道を共に駆けた。
でもその実、女であることは山では確実にきみを縛っていて、いまも山に入れない不自由さに
歯噛みしていることだろう。
それでも、数日経つと何事も無かったように追いついてくるきみは、ひどく意地っ張りのようでも
あり、健気なようでもあり、そんなきみを見ていると、何だかなんともいえない気持ちになって
しまうのだ。
それでもエサルは長い間、ぼくにとっては山の中でも頼りになる相棒であり続けた。
ぼくたちは共に容赦の無い風雨にさらされながら、獣を追って森を駆け、野に平伏する謙虚なる
観察者だった。

45 :

     ※    ※    ※  
あるときエサルが
「気になることがある」
と、ぼくに話してくれたことがあった。
舌に黄疸の症状の出ているムチカが、特定の木の皮を噛んでいたというのだ。ぼくは、
このところエサルが何かに取りつかれたように見ているものは、これだったのかと、やっと
合点がいった。
もしも、何かの病の治癒行動としてムチカが薬効のある植物を利用しているなら大発見だし、
その植物の薬効は、ほかの動物にも──人間にさえ、効くかもしれない。
エサルは躊躇したが、師にそのことを打ち明けると、思ったとおり、師も強烈に興味を
惹かれたようだった。師はすぐにその気を見に行かれて、ぼくたちにムチカとその木の
観察を許してくださった。
それからしばらくは、ぼくとエサルはふたりでその木につきっきりになった。
──異界の帳、押し開かれ、我、神を見たり。
なにかに夢中になっているエサルを見ていると、この一節を思い出す。古詩の講義は
ぼくたちが出会うきっかけとなった講義で、ぼくの中では特別な位置を占めている。
エサルがはじめて王獣を見たときもそうだった。
同じ場所にいて、同じ空気を吸っていても、エサルだけが異界に誘われたように、
何かを見つけてしまう。全身全霊をかけられるような、なにかを。
いつも誰かの用意した筋書き通りに生きるしかできないぼくとは、対照的だった。
森を見ているときも、ぼくは師の書いた研究の筋道のひとつを、預かってそつなく
履行しているに過ぎない。
それでもきみと一緒にムチカを観察していると、きみの中にある、きみを突き動かす
熱気のようなものが、ぼくの中の冷たいうつろを満たすような気がした。きみの熱の中に、
ぼくもいた。
そう、幸せだった。
ぼくたちが一番幸せだったのは、あの時かもしれない。

幸せは、長くは続かなかった。
あの日──日が暮れても師が戻らなかった、あの日。
ぼくたちが小屋に帰るころにはもう、いやな予感がしていた。
日が暮れるにしたがって、腹の底が冷えて行くような気がした。
真っ黒な闇のなかを、小さな灯りを頼りに、ぼくたちは師を求めて彷徨った。
結果は最悪──に、近いものだった。
それでも、師は、一命をとりとめた。
けれど、ぼくたちはもう、ふたりで山には入れなかった。
山歩きに慣れているホクリ師ですら重大な事故にあったということが、きみを山から遠ざけた。
きみは、師と父親から山入りを禁じられ、タムユアンに戻った。
ぼくも、いままでの観察記録をまとめて論文にする時期にさしかかっていた。
ぼくのほうは、あといくつかの補足調査をすればまとめに入ることができたが、きみの
観察のほうは、何がしかの結果を得るには、まだ圧倒的に観察数が足りなかった。
きみは無力感と焦燥感に歯噛みしながら、書物の頁をめくり続けていた。
ぼくにとって、師と共に山に入る暮らしの終了は、医師としての人生の前倒しを意味していた。
ぼくはたびたび実家に呼び戻されるようになり、父は様々な関係者を招いては、ぼくの卒舎後の
ことについて、盛んに根回しをし始めた。
ぼくは、短い猶予期間が、急速に終わっていくのを感じていた。

46 :

シリアとも、たびたび会うようになった。
シリアは、幼いときから決まっている、ぼくの許嫁だ。卒舎してしばらくすれば婚姻ノ儀を
挙げることになるから、その打ち合わせも兼ねて我が家を訪れるのだ。婚姻ノ儀の細かなことは、
ぼくにはよく分からないから、きみの好きなように決めるといいよ、と言うと、花のような笑顔で
笑った。
シリアは、できた娘だ。気立てもよく、美しくて優しく、みんなから好かれる娘だ。だからこそ、
身を苛む深い孤独など、知りようも無かったけれど。
彼女は自分に分からない話に図々しく割り込んだりはせず、上手に一歩退いて話が終わるのを
待っている。だからぼくは、彼女にタムユアンでの話など、ほとんどしたことがなかった。まして
研究学舎での話など。
父のように妻に冷たく当たる男になりたくはなかったから、彼女にはできるだけ優しくした。
年若い女性というものはそういうことを好むらしいから、誕生日には花を贈った。
シリアはできた娘だから、大して心のこもらないぼくのそういった行為にも、
ちゃんと喜んで見せた。
愛情とは、どういうものだろう。
ぼくの育った家庭に、それは無かった。
物語などを読んでみても、どこか絵空事のようで。
妻を娶れば、自然に分かると言う人もいた。そういうものか。
美しくて、優しく、気立てのよいシリア。彼女と暮らせば、きっとぼくの心にも、愛というものが
芽生えるのだろう。
 
     ※    ※    ※  
そんなとき、タムユアンの学舎で、偶然──ほんとうに偶然に、ロム師と行き交った。エサルの
師事する教導師だ。エサルが、ホクリ師のことで動揺し、体調を崩したので、実家に戻って
休養するらしい、と心配そうに話されていた。
そんなはずはない。きみは、そんな娘じゃない。
山に入るのを禁じられたせいで不満が募って、体調を崩すならともかく。
そう思った瞬間、きみの考えが、分かった。
ああ、そうだね。ぼくがきみでも、そうする。
誰にも相談せず、誰にも頼らず、師の怒りを買うことすら承知で、きみはひとりであの木を
調べるつもりなのだろう。
身体の中を突き抜けるような歓びが走った。
嬉しい、嬉しい、うれしい。あんなに血の凍るような事故のあった後でも、きみが
きみのままでいてくれて、嬉しい。
きみが次にすることは、分かっていた。


           ――続く――


47 :
いっこ名前欄ミスった…。
後編に続きます。

48 :
>>47
GJ !!
待ってました、外伝からの派生SS。
脇役キャラの掘り下げがうまいですね。
後編期待してます。
エサルはあの中で、「ユアンはいつも自分が幸せを感じられるように気をつかいながら
抱いてくれた」みたいなこと言ってたけど、ぶっちゃけそれって「イかせてくれた」って
ことだよね...?
あのエサルが毎度毎度どんだけ乱れたのかと思うと...ぜひエロエロなのキボンヌ。

49 :
>>47
いい感じ!
思いっきりエサルに同一化してるので、とにかく優しく幸せに感じさせてあげてください!

50 :
>>47
外伝スタイルに合わせた一人称、「秘め事―ボーイズサイド―」とも言えるSS、
大変GJです!
続き楽しみにしています!

51 :
児童書スレ復活してた!
【精霊の守り人】上橋菜穂子総合7冊目【獣の奏者】
http://kamome.2ch.net/test/read.cgi/juvenile/1284975472/

52 :
>>18 さま
遅ればせながら、ありがとうございます。お楽しみいただけたようで、嬉しいです。
>>40 さまの後編を待っているあいだの口寂しさを紛らわせていただけるかな?
蔵していた掌編を投下します。エロなし。

53 :
 黎明の東の空に、三日月が昇ってきた。まもなく、あとを追うように日が昇り、いつも
どおりの朝が、この都市に訪れる。
 隊商都市ホザでの最後の夜を、おれは、見張り櫓の夜番で明かした。
 アマスルの悲劇から、八年。真王国と周辺国との国境付近での小競り合いも全体として
みればかなり沈静化してきてはいるが、このあたりはまだまだ、油断のならぬ地域だった。
 半年あまり駐屯したここを同時に去る闘蛇乗りは、おれを含めて十数名ほど。
 昨夜はささやかな送別の宴が催されていたのだが、おれは宴の半ばで中座すると、この
見張り櫓で、ひとり夜明かしすることを隊長に願い出た。
 櫓の夜番などは蒼鎧のすべきことではないのは自明だったが、隊長も直属の部下も、何
も言わずに解放してくれた。──闘蛇乗りの誰もが知っていたからだ。今日が、おれにと
ってどんな日であるかということを。
 一年前の今日は、ウラムに駐屯中だった。二年前も、三年前も──。あれから七度のこ
の日の朝をおれは、どこにいても、たった一人で迎えてきた。
(……エリン)
 今でも時々、夢に見る。おまえが、灰色の天から墜ちてくる光景を。
 おれは、その夢の中でいつも、墜ちてくるおまえに向かって駆けている。
 鉛の靴を履いているかのごとく大地から離れようとしない足を引きずり、喉の奥にひっ
かかった叫びを咽ぶようにして押しだしながら。
 そして、目ざめるたびに思う。
──いつか、おまえをこの腕に受けとめて目ざめることができたなら……。
 叶うべくもない願いを、おれはいまも抱きつづけている。
 その願いにすがらねば、同じ夢をまた見てしまうかもしれぬことが──ひいては、眠り
に落ちることすら──恐ろしいという時期すら、あったのだ。
 闘蛇乗りになってからの六年間、おれは、おまえにとって、よい夫ではなかったかもし
れない。
 正直なところ、遠いあの日に共に暮らしはじめてからいままで、よい夫だったと言い切
れる確かな期間があったのかどうかさえ、いまとなってはさだかではないのだ。
 常にまっすぐにおれに愛情を向けつづけてくれていたおまえに、おれは、同じことをし
てやれていたのだろうか。
──遠い地で、おまえの愛しい面影を何千回抱きしめていたか。
  帰郷のたびに、どれほどその笑顔に癒されていたか。
  おまえに求められるたびにどれほど、生きて在ることの至福を感じていたか。
 それらをきちんと伝える術すら持たぬまま、おまえという心地よい日だまりの中でまど
ろんでいただけなのかもしれない。

 出発の日。──その夜明けまで、時を惜しんで互いの身体を絡ませ合った。
 ジェシのことすら、忘れていた。いまこの世に在るのは、おれたちただ二人だけだと。
 そしてつかのま、夢想した。
 
──まだ知らぬ高みに至ることができれば……。
  狂熱の坩堝のなかで、あとかたもなく溶けあってしまえれば……。
 二人はただひとつの完璧ななにか──そう、きっと深く澄んだ美しい緑の結晶に──生
まれ変わることができるのではないか、と。
 かつてないほど鮮烈な悦びに包まれて意識を手放す刹那、おれは、それを本気で信じた。
 けれど、声を忍んで咽ぶおまえの気配で目ざめたとき、おれたちはやっぱり、二人のま
まで…………。

54 :
 湧きおこった激しい落胆を、おれは努めて表情から切り離して夜具を抜けだし、衣をま
とって外に出ると、井戸の冷えた水で、長い時間をかけて顔を洗った。
「笑って送りだしてやれよ」とジェシに言った手前、おまえが瞼に焼きつけるおれの最後
の顔に、涙の痕跡を残したくなかった。
 互いを得てしまったが故の、いつか失うその日への畏れ。覚悟のうえで背負ったはずだ
ったのに──。
 カザルムを離れる馬車の中、その時が刻々と近づく予感に、身体のふるえがとまらなか
った。かすかに残るおまえの残り香をすべてこの肌の内側に取りこみたくて、ただじっと、
己の身体を抱きしめつづけた。
 そしてあの日、おまえは、天から墜ちた。おまえの半身のごとき、神々しい獣とともに。

 次第に弱っていくおまえの呼吸を聞き逃すまいとして、ジェシとともに枕元に顔を寄せ
たとき、ふいに、握り合う手にこめられた力が強さを増したことに気づくと、すこしだけ
腫れがひいた瞼を懸命に開き、おまえはおれたちを見つめ、口を開いた。
「あなた、ジェシ……」
 二人して瞬きもせず、固唾をのんで、次の言葉を待った。
「あなた……お願い、ジェシのこと……」
「──わかっている」
 やっとのことでそう答えるおれの顔を見つめていたおまえの目に、次の瞬間、哀しいほ
どに強い意志が浮かんだ。
「あなた、あのときの約束……」
 見つめられながら、自分の顔がみるみるこわばっていくのを感じた。

 顔も手も冷えきったころ、虚ろな足取りで寝間にもどると、身支度を整えたおまえはあ
けはなった窓に寄り添い、額にかかっている髪を秋風に踊らせながら、静かに外の景色を
ながめていた。
 手まねきをするおまえのもとに近寄っていくと、おまえはついと外の庭木を指さした。
 促されて視線を移した先の梢にあったのは、細い枝を集めて作られたような、こんもり
とした塊だった。
 今年初めて、渡り鳥が巣をかけて子育てをしたのだと、嬉しそうにおまえは笑った。葉
が茂っている夏のあいだは巣の場所が知れなかったが、ここ数日で落葉がすすんだおかげ
で、今やっと、それが見つかったのだと。
「また来年、ここに来てくれますように」
 胸の前で手を軽く組んで睫毛を伏せ、祈るように、おまえはつぶやいた。
 そして、目を開けてこちらに向き直ると、つかのまなにか考えこんでいたが、やがて静
かに言った。
「ね、もしも……よ」
「なんだ?」
「わたしが戦場からもどらなかったら……」
 胸に、叩かれたような衝撃を受け、おれはおまえを見つめた。
「あなたの人生は、このさきも続くわ。だから、しあわせでいつづけてほしい。そう在る
ことを、あきらめないでほしいの……」
「──なにを、言うんだ……」
 穏やかな笑みをたたえたまま、おまえは言葉をついだ。
「もしあなたがいつか、しあわせにできると思える誰かに出会ったら、その右手で、その
人の手をとるのをためらわないで」
「ばかなことを、エリン……」
 ぎゅっと目をつぶり、激しくかぶりをふった。噛み締めた奥歯が軋む音が、頭の内側に
響いた。
 おまえの言わんとすることは、頭の片隅では理解できた。おれだって、おまえを残して
逝かねばならぬときが来れば、同じことを言おうとしただろう。
 だが、戦場の混沌の中で訪れる〈そのとき〉に、互いがそばにいられるとは限らない。
確実に伝えておきたいなら、残されたときは、このいましかない。
 けれど、おまえのほうからさきに口にされて、それがいかに残酷な願いか、思い知った。

55 :
「人は、一人では生きていけない。一人は、寂しいわ……。いくつになっても、よ」
 ふいに口をつぐんで黙りこんだおまえはやがて、あたかも自分自身に言い聞かせるよう
に、つぶやいた。
「わたしは……あなたの音無し笛には、なりたくない……。
 ジェシは、大丈夫。きっといつか理解するわ。──だか……」
 強い力で肩を抱え寄せると、唇を押しつけ、つづく言葉をさえぎっていた。
 驚きにみはったおまえの瞳が、降参の意を示すようにゆっくりと閉じていく。息継ぎす
ら許さずに貪りつくしてから、唇を離し、
「──そんな女は、現れん」
とかすれ声でうめくと、おまえは微笑みながらかぶりをふった。
「わからないわ。カザルムで出会ったあのときの私たちに、この十六年のことが想像でき
た?」
 反論しようとしたが、真っ白になった頭の中に、言葉はなにひとつすらも、浮かんでこ
なかった。
「よかった。このことを、あなたにちゃんと伝えることができて。
 昨夜からずっと、心残りだったの。あなたは、律儀で生真面目すぎる人だから……」
 瞳に張った水の膜をふるわせながら必に笑みを保とうとしているおまえを前に、哀し
みと怒りがないまぜになった感情がふつふつと湧きあがるのを、抑えることができなかっ
た。
「エリン、おまえは……」
(あのとき、おれの腕の中で、そんなことを考えていたのか……?)
 だからおれたちは、ひとつになってしまえなかったんだろうか──。
 そんな奇跡があるはずもない。頭ではわかっている。わかっているのに……。
「無理に忘れようとしないで、いいの……」
 ささやくような声で、最後に、おまえは言った。
「──ただ、あなたの心に正直に、生きて……」
 やせた身体を小刻みにふるわせながら胸に頭を押しつけてきたおまえを、渾身の力で抱
きしめた。
 麦藁色の髪に鼻先をうずめ深呼吸して、匂いを、胸の奥深くまで取りこむ。
 ふっと、おまえからおれの匂いがしたような気がした。
 もはや分ちがたいほどに混じり合った匂いという柔らかな殻の中で、いまこの時だけは、
二人はひとつの存在だった──。

「お願い……約束、して──」
 氷の塊がつかえたように、喉もとから胃の腑のあたりまでも固くこわばったままで、か
すかに開いた唇からは、声はついに出なかった。
──心を、閉ざさないで。ヨハルさんにとってのクリウさんのような誰かを、あなたも
……。
 おまえの懇願の意味も知らず、おれをじっと見つめるジェシの前で、うなずく以外にお
れにいったい、何ができたというのだろう。
 おまえは、深い安堵の吐息を漏らして、睫毛を伏せた。
 かけがえのない時が指のあいだからすべり落ちていく、さらさらという虚しい音が、耳
の底に響いていた。

56 :
 いまでもときおり、考えることがある。
──おまえ以外の誰かを愛することなど、できない。
  安心して逝かせたりなどしてやらぬ、だから、逝くな……。
 もしもあのときそんな無茶を言っていたら、おまえのその緑の瞳は、閉じられることが
なかったのだろうか、と。
(そうか……)
 あの肝心なときにおれは、自分の心に正直になれなかったんだな──。
 一陣の砂嵐が荒野を渡っていくと、東の地平にかすかにのぞく山並みのあいだから、稜
線の輪郭をにじませながら、日が昇りはじめた。
(エリン、すまない……)
 約束は、守れないかもしれない。
 もしも──おまえさえよければ、好きなだけおれの心にいてくれないか?
 ふり仰いだ天に、小さなふたつの鳥影が浮かんだ。渡りの群れからはぐれたのか、強い
風にあおられながらも必に寄り添い、高い空を南に渡っていく。
 砂塵をまとった風をやり過ごしてその鳥たちを見送ると、細く高い声が彼方にこだまし
た。
 まもなく到着する兵士に番を譲って宿舎に戻ると、馴染んだ蒼鎧を脱いで、北への帰路
につくことになる。
 おれたちの故郷《カザルム》で、おれは、おまえの忘れ形見と生きていく。

57 :
以上です。お目汚し失礼いたしました。

58 :
超GJ
せつないなー
是非他の部分も補完を笑

59 :
GJ!!!
「刹那」の後だからこそ、エリンを失ったイアルさんの悲しみが
一層心に響きます。
どこまでも愛妻家なイアルさんに萌え。

60 :
>>59
神GJ
刹那読み終わった後の全俺が泣いた。・゚・(ノД`)・゚・。

61 :
GJ!!
本当、刹那読んだ後だとすごくくる。泣けた。

62 :
GJ(ゴッズジョブ)過ぎる!!
朝っぱらから涙腺崩壊
イアルさんの不器用さとエリンへの愛が素晴らし過ぎる
よしもう一度刹那を読んでから読み返そう。

63 :
他部分補完計画待機保守

64 :
エサルは、若いときも年取ってからも、「女に見えない」「男性かと思った」とか言われてますね。
自分の知り合いで、フツーに男に間違われるような女の子って、不細工な人はいません。
どちらかというと整った顔立ちで、でも顔も体型もあと服装も中性的…って人が多いです。
エサルは「男みたいに見られる」ことで自分は不美人だと思っていますが、実は結構、
飾れば可愛いのでは…ジョウンもそんなこと言ってるし。
おっと漫画版3巻に1コマ若エサルが…。
……。
やっぱ美人じゃん!!!
漫画版は、老エサルもカコイイ。
ユアンは、「子供ができたら絶対に自分と添い遂げようとする」ってエサルに確信されてるのって
…誠実なのでは。
そしてエロシーンも頑張ってみたんですが、ユアンはエロいのに、ギラギラ感が全くない(笑)ので、
どうもこんな感じに。
ユアン×エサル 後編です。

65 :

山に入るのなら、師のお宅に置いてある装備を使わせて頂く他はない。
ぼくたちはふたりとも、合鍵を持たされていた。
夜になって、街から離れたホクリ師のお宅を訪ねると、確かに誰かが入った形跡と、人の
気配がした。
多分、間違いはないはずだ。きみは、その日のうちに行動を起こすに違いないのだから、
とは思ったが、すべてがぼくの思い違いで、他の人間である可能性も、捨て切れなかった。
だから、居間の扉を開けた途端、青い顔をした君が火掻き棒を握りしめているのを見た
ときには、嬉しくて笑いがこみ上げるのを抑え切れなかった。
ごく自然に、ぼくは手伝いを申し出た。あの木のことは、既にぼくにも関わりのある
ことだったから。
ぼくにはあまり、時間が残されていなかった。医院の実習はまもなく始まろうとしているし、
卒舎のための論文も、まとめに入らなければならなかった。
けれどきみと一緒に、検証の手順を話し合っていると、わくわくした。
それは誰かに与えられた仕事ではなかった。誰かの書いた、筋書きでもなかった。
むしろ師に背き、学舎を欺いても成し遂げたい、ふたりだけの秘密の冒険だった。
きみは確かに誰かの助けが必要だったし、それにはいまのところ、ぼくが最適だった。

翌日から、ぼくたちはふたりで、山に入った。初秋の息づかいを見せる森に、ふたりだけで。
いずれはその結果を取りまとめて発表することになるのだろうけれど、いまここにぼくたちが
いるのを知るのは、ぼくたちふたりだけだった。
残された時間は少ないのだから、観察に集中しなければならないのに、自分でも気づかない
うちに、何故だかきみを見ていることがあった。
きみのほうも、ぼくを見ていることがあった。何度かそんなことがあって、気のせいではない
ことが分かると、次第に、ぼくときみの間に、奇妙な熱が生まれているのを感じていた。
じりじりと、皮膚を焦がすような、静かで、それでいて強い熱。
きみを見ていないときでも、強烈に、君の存在を感じていた。
夜になると、その存在感は一層濃密になった。
手を伸ばせば触れられる距離、互いの息づかいが感じられる距離にいながら、ぼくたちは
互いに少し離れて、何もないような振りをして過ごした。
そう、あの夜までは。
あの夜──ぼくが山を下りる前の夜は、しんと冷たい秋の宵なのに、体の中の熱が身を
焦がして、吐息すら熱く染めていた。
いつもきみと話していると、次々に新しい考えが浮かんで話が尽きないのに、あの夜は
何も思い浮かばなかった。
ぼくたちは互いに何かを感じていて、けれどそれには触れないように、淡々と作業をこなした。
やることがなくなってしまって、灯りを消して横になれば、闇が息苦しいほどだった。
冷たいようで熱い闇の中、ぼくはきみの吐息を感じていた。
君が眠りについていないことも、わかっていた。
ふたりともが眠れないようなら、起きて話でもしていればいいのに、そのときは、何の
言葉も出てこなかった。
ふいにきみが寝返りを打って、ぼくのほうを見た。
わずかな暖炉の明かりの中、きみの輪郭を確かめるように目を凝らしていたぼくと、
目が合った。
──ああ。
どうすればいいか、今わかった。
それでもそれは少しだけ怖くて、目を合わせたまま逡巡した。
「……来るか」
喉から押し出すようにそうつぶやくと、きみは頷いて、ぼくが持ち上げた夜具の中へと、
飛び込んできた。

66 :

その瞬間が、至高だった。
後で何度思い返しても、そのときのことを思うと、胸が熱くなる。
ぼくが呼んで、きみが応えた。
あのとき、ぼくたちの心は、分かちがたくひとつだった。
そしてあのとき、ぼくは初めて、恋というものを知ったのだ。
自分の全身全霊で、相手の心を請うる気持ち。
応えてもらったときの、体の隅々までが沸き立つような、あの感覚。
ぼくは少しだけ、シリアのことを思った。
ねえシリア、貴族の社会と言うのは、不条理だね。
シリアのように美しく、気立てもよく、優しい娘でさえ、よい夫に恵まれるとは限らない。
これが恋ならば、ぼくはシリアに恋することはないだろう。多分、これからもずっと。
それでもシリアは、できた娘だから、そつなく、うまくやってゆくのだろうけれど。
抱きしめたエサルの身体は、どこもかしこも女の子だった。いつも精一杯強がっている
けれど、ぼくの三つも年下なのだ。肩も腕も腰も、ぼくよりずっと華奢で、柔らかだった。
そして、全く、けがれを知らなかった。
誰にも触れられたことのないきみは、どこに触っても、緊張に身を硬くして、ふるえた。
ぼくは特別に難しい試験の問題に取り組むような気持ちで、慎重に、きみに触れた。
何もかも初めてのきみが、痛みに失望してしまわぬよう、ゆっくりと、優しく
解きほぐしてあげる必要があった。
きみがすっかりぼくに身体を委ねてしまう気になるまで、ぼくは互いの熱を移しあうように
きみの体を抱いて、その髪をなぜていた。
そしてときおり、額に、頬に、くちづけを落とした。君が顔をこちらに向けて、どちらから
ともなく唇を重ねるまで、長くはかからなかった。
ぼくはひどく高揚した気持ちで、きみと唇を重ねあった。
あきれるほど、長い間。
きみの唇が少し開くと、ぼくは舌を差し入れ、きみの口腔内を味わった。
きみの唇にも、舌にも、いつまでたっても飽きることはなかった。
むしろ触れれば触れるほど、こんなにも飢(かつ)えていたのだと、思い知ることになった。
いつからか。ふたりでこの山に入ったときか。一緒に、あの木を見つけたときか。
それともはじめてふたりで出掛けて、ぼくたちの師と出会い、夢中で会話を重ねたあのときか。
いつかのぼくたちは、確かに、親友だったはずなのに。
唇と舌を味わい尽くすころ、きみの身体はゆったりとぼくにあずけられていた。
ぼくは耳もとに、首筋に、胸元に、それから身体中にくちづけを落として、小さな小屋の中に
きみのひそやかな声が響くようになるまで、丹念にきみの身体を愛撫した。
きみは充分に潤っていたが、さすがに秘所の奥に触れられるようになると、痛みにおののいて
小さな悲鳴をあげた。
ぼくはここでやめておくことも提案したが、きみはその先を望んだ。
ゆっくりと準備に時間をかけて、なるべく君の負担にならないように、慎重にきみの身体を
開いていった。きみは何度もぼくの名を呼び、そのたびにぼくもきみの名を呼んだ。
きみは破瓜の痛みにふるえながらも、やさしく揺らしてあげると、繋がった歓びに溜息を
漏らした。
ぼくは終始はらはらしていたけれど、すべてが終わった後のきみは、幸せそうに甘く笑んで
いたから、『難しい試験』にはとりあえず及第点がもらえたみたいだった。
初秋の山の夜の、しんとした寒さの中で知った人の肌の暖かさは、ぼくを泣きたくなるほど
幸せにした。
狭い小屋の中では、少し距離をとっているより、寄り添っているほうが、よほど簡単で自然だった。
翌朝、きみと別れて山を下りるときには自分の運命を呪ったけれど、六日後にはまた遭える
という約束だけが心を暖めた。

67 :

次に山に入るときには、きみの好きだった焼き菓子を買っていった。
何もかもが一時の夢で、ぼくときみの間には、ただ冷たい沈黙が横たわるのではないかという、
一抹の不安を抱えながら。
きみは満面の笑みで、ぼくを迎えてくれたね。
ぼくたちは熱いお茶を淹れて、ふたり並んで、菓子を頬張った。ぼくはお茶を淹れているときも、
焼き菓子を食べているときも、それどころか小屋についてからずっと、きみから目を離すことが
出来なかった。
なんだか、きみの一挙手一頭足が可愛くて可愛くて、勿体なくて目を離せないのだ。
焼き菓子を食べているとき、さすがにきみは、居心地悪そうに
「わたしの顔に、なにかついてる?」
と訊いた。
きみがきみであるだけで、目が離せないのだ──ということを説明する言葉を、ぼくは
持たなかった。
かわりに、こう答えた。
「──砂糖が。」
どこに、と訊くきみの問いを無視して、ぼくはゆっくりと顔を近づけて舌先できみの頬を
ちろりと舐めて、感想を述べた。
「…甘いね。」
みるみる間にきみは耳たぶまでを朱に染めた。
「ねえエサル、そんな表情を、ほかの男に見せたりしちゃだめだよ。」
きみのことが気になっている奴らなら、他にもいるのだ。いつも強気なきみが、そんな表情も
出来ることを知ったら、奴らはすっかりきみに参ってしまうだろう。
「…わたし、そんなに変な顔してる?」
きみの純真さに、ぼくはつい笑ってしまった。そしてきみのあごを捉えてぼくの方を向かせ、
指先で唇の端をつつく。
「砂糖が、ここにも、ついてる。」
きみとのくちづけは、甘い焼き菓子の味がした。

なんと言えばいいのだろう。
ぼくはいつも、何かを探して、もがいていた。
探して、探して、どこにも見つからなくて、自分がどこにいるのかも、自分が何者なのかも、
見失っていた。
けれど、きみと一緒に居るときだけは、もう何も探す必要はなかった。
ずっと昔、男と女はひとつの完全な生き物だったのだ、と言った古(いにしえ)の賢者がいた。
あるとき、神の怒りに触れて男と女に引き裂かれてしまい、もとの完全な姿に戻りたくて互いに
求め合うのだと。
魂の半身に出会ったら、離れてはいられなくなる。共に過ごし、かたときも離れず、かつての
完全な姿のように寄り添うこと。それが愛の究極の目的なのだと、彼は言った。
魂の半身。ぼくたちも、まさにそんな感じだった。

きみの衣を一枚ずつ剥がすたびに、ぼくの心は歓びに打ち震える。
ああ──きみも、そうだったんだね?
ひかれて、惹かれて──それはただの友人として、仲間として、相棒としてなのだと自分に
言い聞かせても、どうしようもなく心が揺れた。そしてきみも、同じように思っていたんだね?
だって、ぼくの指先が触れるだけで、こんなにも肌が染まって。
泣きじゃくるような、甘い声を上げて。
きみのすべての感覚が、ぼくに向いているのが分かる。
もっと、その瞳に、ぼくを映して。
もっと、ぼくを感じて。きみのすべてで。
もっと、ぼくの名を呼んで。甘く、そして切なく、きみのその声で。
そして、きみの中に、ぼくを受け入れてほしい。
熱く、激しい、その熱の中に。

68 :

     ※    ※    ※   
「ねえ…もし、もしもよ。気をつけていても、子どもができてしまったら…」
きみは、ためらいがちにそう口にした。
暖かく抱き合っている間の、明るい話題のついでのようでいて、その声はふるえ、
瞳は揺れていた。
「そうなったら、裏町で、もぐりの医術師の夫婦にでもなって、暮らせばいいさ」
ぼくは、こんなときでも咄嗟に『医術師』という言葉が出てくる自分に、少し驚いた。
医術師であることに、自分の意思は何も働いていない、とずっと思ってきた。
ただ、ぼくが今、使える技能は、それしかないから。きっとそれだけだ。
「そう…。」
きみは物憂げに頷いた。
きみは賢い娘だ。一時の激情に流されたりしない。
そういう意味では、ぼくのほうが溺れていたのだろう。
子どもができてしまったら…そのことを時折、甘い気持ちで考えるようになっていた
のだから。
でも、いまはだめだ。大切な研究の途中なのだ。
そうでなければ、わざと『失敗』することもありえたけれど。

もしも、子どもができてしまったら。
そうなれば、女であるエサルは、この関係を秘密にしておくことができない。
きっと、ぼくと一緒に逃げるしかなくなるね?
なにもかも捨てて──貴族の身分も、家も、学歴も、この身に纏わりついてぼくたちを
息苦しく締め付けるすべてのものを、かなぐり捨てて。
こんなことを言ったら、世間知らずだと、きみは笑うだろうか。
どんなに貧しくてもかまわない。魂の半身のように愛する人と寄り添って、小さな家を愛で
満たして、生きていけたら。
その考えは、いつも、甘くぼくの心を酔わせた。
ぼくが姿を消したら、オキマ家の人々は、どうするだろう。何より体面を重んじる、
あの人たちは。おそらくは、なにもかも隠蔽されるだろう。ぼくとエサルは、んだことに
でもされるのかも知れない。
シリアは、弟が娶ることになるだろう。弟にも許嫁はいるが、まだ年若く、別の相手を探す
余裕もある。
シリアにとっては、そのほうがいいのかも知れない。表面上だけはそつなく振舞っても、
一皮剥けばどこまでも冷たい闇しかない、ぼくのような男の妻になるよりは。
でも──あれだけは捨てては駄目だ。
いまぼくが実験し、エサルがひとり山に残って観察を続けている、あの薬に関することだけは。
あれはエサルが、不思議ななにかに導かれるようにして見つけたものだ。
ほかの誰でもなく、きみだけが、あれを見つけた。
そして、ぼくもそこにいた。
もしいま放り出してしまっても、実験と検証だけは、いつか誰かが引き継ぐだろう。
けれど、ぼくのほうの実験でも、明らかに、あの木の皮を与えたパミには変化があらわれ
始めていた。
あの木の皮には、症状の緩和だけでなく、明らかに治癒効果があるのだ。
この研究が、すばらしい成果を生むだろうという予感は、すでにあった。
これほどの題材を前にして捨ててしまえる者は、そもそも研究学舎にまで進んだりしない。
そして、ぼくもエサルも、研究学舎の人間だった。

69 :

結果として、ぼくはエサルに何も言えはしなかったけれど、エサルのことは、好きで、好きで
どうしようもなかった。
きみを抱くときにはいつも、その心が欲しくて、心のありかを探して体中をくまなく愛撫した。
きみはいつも甘い声を上げて、熱く濡れた身体にぼくを迎え入れてくれたけど、心のありかは
分からなかった。
ぼくたちは何度も、あきれるくらいに深く繋がりながら、どこか距離を置いていた。
ぼくも、ひどく夢中になっていながら、拒絶されるのが怖くて、強くはせまれないでいた。
なにしろ、ぼくは愛されたことなんてなかったから、自分が愛されるに値する人間かどうかも
知らなかったし、好きな娘に拒絶されたりしたら、それこそもう生きていけないような
気がしたのだ。

     ※    ※    ※   
三ヶ月ほどが経って、ぼくの実験にも一応の区切りがついた。
実際に薬としての効果を証明するには、この結果をもとにして、詳細でより規模の大きい
実験計画を組まなければならないが、その結果を含めた、あの木の有用性を予想するには
充分過ぎるほどの明らかな成果が上がっていた。
ぼくは歓喜した。
きみにこの結果を見せれば、それが指し示すものを、きみは瞬時に理解するだろう。
きっとその先の展望をきみは語り、ぼくも語って、身体を繋げるのとはまた違った、
あのすばらしい一体感を、味わうのだろう。
ぼくはじりじりする気持ちを抱えながら次の休暇を待ち、医院の実習時間が終わるとすぐに、
馬を駆ってきみのいる小屋へと急いだ。
すっかり興奮していて、なんの疲れも、感じなかった。
きみの名を呼びながら小屋の扉を開けると──嗅ぎ慣れない異臭が、鼻をついた。
なにかの、薬草のにおい──腹痛や風邪のような、一般的な不調のときに使う薬草とは
明らかに違う、どこか特殊な場所で嗅いだことのある、嫌なにおい。
そのにおいのもとは、小さな小屋の中で、すぐに知れた。
小鍋の蓋を取って、その中にある木の根と、煎じ汁の色を見たとき、さっと全身の血の気が引いた。
──ウロクだ。
「……なぜ」
ウロクは、劇物だ。その煎じ汁を服用すると、のぼせ、発熱、吐き気、虚脱状態で立って
いられなくなる。そして、女性がこれを服用すると、多くの場合、子どもを宿す器官に
変化が起きる。しばらく月のものは止まり、その間は妊娠することがない。
「訊くまでもないでしょう」
きみはため息をついて、平坦な声でそう言った。
「子どもができたら、大変だもの」
たしかに、高級娼婦などの、今後も妊娠の必要性がない女性たちは、この薬を避妊薬として
使うこともある。だが、悪くすると器官そのものが損なわれてしまって、子どもを産めない
体になることもあった。
だから、一般の、特に若い女性にウロクを処方することは、医術師の倫理規定で禁じられていた。
薬草学科であるエサルは、この薬の危険性を熟知しているはずだった。軽々しく、一時の
行為のために飲むものではない。
それでも、自分の身体を損なってまで、痕跡を残すまいとしているのだ。この関係を、
一時の過ちで終わらせるために。
「子どもができたら、産めばいい。…そう言っただろう。」
ぼくはかすれた声で、ようやくそれだけを喉から押し出した。
狭い小屋で向かい合って座っていても、きみがひどく遠い気がした。

70 :

「シリアを裏切って…彼女の未来を踏みにじって、あなたも医術師になれなくて、
そんなことになっても、あなたはかまわないの?」
いままで気づかない振りをしていた。
ぼくはオキマ家に、諾々と従ってきた。常にそれを、厭いながら。
でもきみはきみの家族と真摯に向き合って、自分の気持ちを伝え、説得して変えてきたのだ。
きみは家族に受け入れられ、きみにとっての家とは、受け入れられたもの、恩のあるもの、
決して裏切ってはならないものだったのだ。
そしてぼくにとってのオキマ家も、同じものだと思っているのだろう。
「かまうさ。そんなことになったら、ひどくつらいだろう、お互いに。
だけど、そうなる可能性は頭の中にあって、それでも抱き合ってきたんだろう。」
そして、その可能性、子どもができてぼくと添い遂げる、なんて可能性は、きみにとって
決して受け容れられないものだったのだ。
自分で、ウロクを、用意するほどに。
「あんなものは飲むなよ。子どもができたら、そのときは、そのときだ。その運命を
受け入れればいい。」
きみは、なにも言わなかった。ぼくももう、なにも言えなかった。
ぱちぱちと爆ぜる暖炉の炎を見つめながら、なにかが終わってゆく絶望感に、打ちひしがれていた。

その夜も、ぼくの腕の中に来ることをきみは拒まなかったけれど、きみの身体は、
もう熱く濡れることはなかった。
愛している、誰よりも。
きみがいれば、他になにもいらない。
魂の半身のように、互いに求めて、寄り添いあって生きられないのなら、なにもかも、
終わらせたほうがましだ。
ねえ、ぼくを選んでくれないか、きみの他のすべてのものより。
──そう言えていたら、どうなっていただろう。
それでもきみは、別れを選んでいたような気がする。
きみは、愛されていた。守られていた。受け入れられていた。
なにもかもかなぐり捨てて、壊してしまいたい衝動など、きみの中にはなかった。
ただ従うのではなく、理不尽に立ち向かって、きみの力で居場所を作れる娘だった。
その強さにも、惹かれたのだろうか。
きみに、分かって欲しかった。
ぼくのつらさを、ぼくの希みを、ぼくの闇を、きみに洗いざらい、ぶちまけたかった。
そして、味方になって欲しかった。
ふたりなら大丈夫、と言って欲しかった。
きみのその強さで、ぼくも変えて欲しかった。
でも、ぼくは臆病だった。
愛されたこともなく、愛し方も知らず、愛される自信もなかった。
好きな娘に、自分の汚い部分など、見せたくもなかった。
なにも言わなくても、きみのそのあたたかさとやわらかさに触れて、きみに受け入れられる
たびに満たされる、それが、すべてだと思っていた。
それが、すべてでよかった。
ぼくの腕の中で、もう肌をあかく染めることもなく、快感に身をくねらせることもなく、
静かに息をしているきみは、決然と、ふたりの関係を終わらせようとしていた。
ただ一時のあやまちとして。

71 :

ああ、そうだね。
きみは正しい。
まだぼくの腕の中にいるきみを見ていると、なりふりかまわずなにかを懇願して
しまいそうになったけれど、それはしてはならない気がした。
きみには、きみの場所がある。
大切なものも、大切にしたい人たちもいる。
終わるなら、ぼくひとりで終わればいい。
そう思いながら、きみの肌のあたたかさを失うことを、悼んでいた。
あのとききみも、哀しんでくれていたのだろうか。
いまとなっては、もうきみに、確かめるすべもないけれど。

ぼくの行っていた実験の結果が出て、あの木に関する研究は新しい局面を迎えていた。
実験の結果を受けて、次の実験を計画する段階に来ていた。
そして、ぼくにはもう時間は残されていなくて、次の実験を担うのは、きみだった。
三ヶ月に渡るきみの努力の結果、森での観察記録も、充分な量に達していた。
ぼくたちは、小屋を閉じ、山を下りた。
静かに山道を下りながら、きみの背中を見ていた。ぼくを拒絶する、きみの背中を。
ふたりとも、なにも話さなかった。
師のお宅に荷物をおさめた後も、言葉を交わすことなく別れた。
そうして、ぼくたちふたりの関係は、終わりを告げた。

     ※    ※    ※   
貴族は、みだりに感情を表に出してはならない。
それがぼくたちの、幼いころからの習慣だった。大きな声で笑うことも、まして泣く
ことなんて、してはならなかった。
だからぼくは、山から下りた後も、なにもかわりなく振る舞い続けた。
心と体が、ばらばらになっているにもかかわらず。
与えられた仕事は、言われたとおりにこなした。幸いなことに、研修中であるぼくには、
やるべき単純作業はいくらでもあった。
心が、悲鳴をあげていた。
けれど、それを誰にも言わなかったし、言う相手もいなかった。
同僚とは、適当に談笑した。
ひとりになっても、涙を流すことすらできなかった。
かわりに、夜の闇の冷たさが、無数の刃のように、この身を苛んだ。
あのときが、ぼくの人生で一番、危うい時期だったかもしれない。
高く下界を見下ろす窓辺に立てば、ぼくはもう、窓のこちら側に留まっている自信はなかった。
息苦しく決まってゆく未来にも、医術師の仕事にも、オキマ家にも、美しい許嫁にすら、
何の未練も感じられなかった。
ただ、あの研究の行く末だけは、どうしても見たかった。
結果を見届けてから、そのとき、どうしても先を生きる気にならなければ、そのときだ、と思った。
人の心というのは不思議なもので、そう決めてしまえば心が定まって、少し楽になるものなのだ。
検証には、少し時間がかかるだろう。
それまで、この闇の中で、孤独と苦しみを友として、静かに待とう。

72 :

凍てつく冬を越え、寒さが緩んで午後の日差しが暖かくなって来たころ、ホクリ師と会って、
きみの消息を知った。
きみは、カザルム王獣保護場に、王獣の世話をしに行っていた。
なんて、きみらしい。
そうだ、ぼくたちが初めてふたりで師のお宅を訪ねたのは、きみが王獣の話を聞きたがった
からだったね。
きみはいつも、きみの見つけた道を、不思議なほど強い力で進んでゆくのだ。
師はそして、あの薬の検証の結果も、事細かに教えてくださった。
きみはあの後も、驚くほどたくさんの実験と検証を繰り返していた。緻密に、丁寧に、根気強く。
きみはまた、薬効成分の抽出にも、既に成功していた。
まもなく論文としてまとめられるだろうし、薬として実用化できる日も、思ったより早く
訪れるようだ。
ホクリ師はぼくに、医術師になる前に、早くも人の命を救う仕事をしたな、と言った。
そうだろうか。
ぼくは、医術師としての未来が確定してしまう前に、もっと広い視野で、いろんなものを見ておきたいだ
けだった。
人の命を救うとか、そんな大げさなことを考えたつもりもなかった。
でも確かに、森の中にいるときも、ぼくが使っていた知識は、医術師になるために学んだもので、
きみと一緒にあの木の研究をしているときも、ぼくの意見はもっぱら、人体への薬効という
観点からだった。
ぼくは、医術科の研究生として、あの森にいた。獣の医術師でもなく、薬草学科でもなく。
それは、それなりに、悪くなかった。
いつか、ぼくが医術師であることも、オキマ=ユアンとして生まれたことも、あんな風に悪くない、
と思えるだろうか。
エサル、きみは、どう思っていた?
そしてきみがそんな風に力強く歩き出したのなら、ぼくだけがいつまでも、立ち止まって
いるわけにもいかないね?

季節は過ぎ、夏にはぼくは、タムユアンの研究学舎を卒舎して、王宮つきの見習い医術師となった。
あわただしい新任の生活の中、ずっと待っていたきみの論文が届いた。
短い挨拶文とともに。
『ムチカライの薬効について』──の題名の後に、研究者の名前が続く。
コルマ=エサル、そしてそのあとに、オキマ=ユアン。
さらにホクリ師とロム師の名が連なっていた。
そして頁をめくると、そこに、あのときの、ぼくたちがいた。
発見の経緯に続く観察記録、無機質な数字と記録の叙述のあいだに、すべての思い出が
凝縮されて、詰まっていた。
師とぼくときみとで、ムチカの群れをやり過ごすあいだに、きみがあの木に夢中になった。
だれよりも先に、ぼくに打ち明けてくれた。
きみと一緒に、あの木の観察を許されたこと。師に降りかかった災難のために、観察の
中断を余儀なくされたこと。師が戻らなかった夜の、足元の揺らぐ不安。
そして、きみがひとりで山入りを決行すると知ったときの、あの歓び。
ふたりで野に伏せて、きみがムチカを観察する横顔を、ぼくがそっと見ていた。
あの夜、ぼくの懐に、きみが飛び込んできてくれた、あのときの温もり。
濃密な森の香りの中、ぼくたちは愛し合った。
それからしばらく続いた、甘くて熱い日々。
ぼくは、自分が泣いていることにさえ、しばらく気づかなかった。

73 :

かつて、男と女は完全なひとつの生き物だったのだ、と言った賢者に続けて、もうひとつの
話をした賢者がいた。前者の特異さに比べて、こちらのほうは意外と知られていないけれど。
愛はずっとただ寄り添うだけで、満足するものだろうか。それでは師弟愛、学問への愛、
わが子への愛などが説明できない、と。
彼は言った。愛とはなにかを産み出すためにあるのだ。
男女の愛は、子孫を。師弟の愛は、優れた弟子を。学問への愛は、新しい知見を。わが子への
愛は、立派な大人を。
愛は神の怒りに触れた結果ではなく、なにかを産み出すために与えられた、神からの贈り物
なのだと。
ぼくたちの愛も、なにかを産み出すことができたのだろうか。ふたりと、ふたりに関わる
人達に苦痛をもたらすものではなく、なにかを産み出すものであり得たのだろうか。
ぼくは何度も、きみの書いた文章を読んだ。きみの論述は正確で、無駄がなかった。
そして同時に、学問への愛に溢れていた。
きみがあのあと、どんな風に生きてきたか、そこに書いてあった。
きっときみは寝食を忘れて、研究に打ち込んだ。短期間に、物凄い密度の検証が繰り返された
ことが、結果の数字から読み取れた。
残念ながら、きみが王獣に対して行った投薬実験のことは、卒舎のための論文にして
タムユアンに提出してしまったそうだから、今度タムユアンに行く機会があったときに、
資料室を閲覧させてもらおう。
そしてぼくは、恋文を書き始めるような気持ちで、筆を取った。

     ※    ※    ※   
ぼくは、あの論文を本に仕立てた。
驚くほどの成果を上げたきみに対して、ぼくにもなにかできるというところを、見せたかった
のかも知れない。それとも、ただ、なにかを産み出したかったのかもしれない。
忙しい見習い医術師の仕事の合間を縫って、挿画を人に頼み、印刷と製本を手配するのは、
意外にに楽しかった。
論文という形では、収蔵する場所も限られるし、読む人間も限定される。だが、本にして
しまえば、それはいろんな図書室に収蔵されることになる。カザルムにも、タムユアンにも、
王都を見下ろすあの医術科の資料室にも、ぼくたちの業績を記したこの本は置かれることに
なるだろう。
この本が出るまでのあいだに、以前から決められていた通り、シリアと結婚した。
燃え上がるような恋を知った後だから分かるが、物心もつかぬうちから自分の意思とは
関係なしに決められ、自分の人生に組み込まれていた相手に対して、あんなに激しい感情を
持つことは、余程の幸運が重ならなければ、ありえない。
ぼくが研究学舎にいるあいだに次々と結婚していたタムユアンでの友人たちにしてみても
それは同じようで、だから貴族の親たちは、惑いやすいごく若いうちに婚約者と結婚させて
しまうのではなく、高級娼婦をあてがって、いろんな面で欲を散らしておくのだろう。
それでも、一緒になった相手を、日々を共にし、人生を共にする家族として、互いに
思いやることはできる。
それは、ぼくよりもシリアのほうが、ずっとよくわきまえているようだった。
女というのは、年下でも、華奢で弱々しくても、男よりずっと現実に聡くて、
逞しいところがある。
あの日のエサルも、きっとそうだった。ぼくたちの恋がどこにも行き着かないことを、
きみはきっとぼくよりも、はっきりと知っていたよね。
どこへも行き着かないとしても、ぼくはそれでも良かったし、それでもきみに、
恋したのだけど。

74 :
  
そしてようやく、ぼくは父の気持ちが、少しだけ分かった。
母とは別の女性を愛し、母には愛情を向けようとしなかった父。
父も、かつてはぼくと同じようにもがき苦しみ、なにかを探していたのだろうか。
なにかに傷つき、誰かを求めたのだろうか。
父は、愛した女性との間に、なにかを見つけられたのだろうか。どんな風に、
その女性を愛していたのだろう。
願わくば、父の心に、そして母の心にも、幸(さいわい)と、平安のあらんことを。

エサルはその後、カザルムで教導師になったという話だった。
エサルはきっと、獣を愛し、学童を愛し、カザルムのすべてを愛し、彼女の愛で
育まれた学童たちを、毎年、世に送り出してゆくのだろう。
ぼくは、いつも少しだけエサルのことがうらやましい。
そして、そんな気持ちになるときは、あの本の装丁を眺めるのだ。
あのとき、ぼくはきみを愛していた。
きみも、ぼくを愛していた。
そして、なにかを産み出した。
そのことが、ぼくのこれからの人生に、光を与え続けるだろう。
そして、そんな人生も悪くない。
ねえ、エサル──
もしも、この先ずっと、きみと会うことすら、無いとしても。
ふたりが出遭い、ともに時間を過ごした証は、残ってゆく。
ぼくたちが見出したあの薬も、これからたくさんの人と獣の病を救って
ゆくことだろう。
きっと、ぼくたちの人生よりも、長い間。
それはとても素敵なことだと、思わないかい?
ぼくにはもう、きみになにかを告げる権利すら、残されていないと思うけど。
遠くから、祈っているよ。そう、あの本を、眺めるときはいつも。
きみに、幸あれ。


           ――終――

75 :
毎度なんかミスってますが、其の六と七を間違えてしまったw
以上です。

途中、『饗宴』みたいなことを言ってる昔の賢者さんが出てきますが、獣世界では、
こちらとそっくりな研究してる方がよくいらっしゃるので、きっと同じようなこと
言った人もいるだろう…みたいな感じで。

76 :
ありがとう。
ひとつだけ、貴族なのはエサルだけで、ユアンとジョウンは高等職能階級。
エサルとユアンとは許嫁うんぬん以前に身分違いの恋だったらしいよ。

77 :
>>64 さま
待ってました。お疲れさまです。
何度か読み返してからまた感想を書かせていただきますが、ユアンの人物像に厚みがありますね。
>>76 さま
その記述ってどのへんでしたっけ?
単純に、職業を持っているのは貴族じゃないってこと?
自分は、「刹那」が出るまでは、「姓(家の名)」がある=貴族と思っていたくらいなので、まだなにか見落としているのかな。

78 :
おお…
いくら読んでも『貴族』『高級職能者階級』についての説明が無いから、
『名門で姓があり、、高い教養と特権と財力を持ち、階級と名誉にこだわる』ユアンやジョウンは、
てっきり貴族だと思ってましたよ…
エサルが「貴族の職業」として教導師を考えてたのもあって。
でも、領地持ちが貴族、職業持ちが高級職能者階級だとすると、ルキンが身分にこだわって「やさしい男」なのも、
そのほかの部分も辻褄あいますね。
でも、『名門で姓があり、、高い教養と特権と財力を持ち、階級と名誉にこだわる』
が貴族だと思ってましたので、内容的にはあんまり影響ないですね。作中の『貴族』のとこは
『名門』あたりにそっと脳内変換でお願いします。
『同格での結婚』は『親が野心家であれば別』と書かれていますから、物凄いタブーって感じはないですね。
どっちみち駆け落ちになるんだろうし。

79 :
>>76
お疲れ様&GJです!
秘め事読んだ時には、ユアンっていまいち掴み所がわからない
キャラだったんですが、76氏の肉付けでなるほど納得です。
結局やっぱりお互い離れたくなかったんじゃないかー!、と読んでて
切なくなりましたw

80 :
>>77、78
ユアンは医者(上級貴族を診る)の家系、ジョウンは教導師の家系 両家とも高等職能階級
エサルの家は領主。
ユアンの息子が提出した議題は、タムユアンにおいて、貴族と高等職能階級の子弟を分けて学ばせよう、ということ。
エサルの想像では、ユアンの息子は貴族の子弟と一緒に学ぶことで「嫌な思い」をしたのだろう、とのこと。
階級違いの結婚があったかどうかはねえ、、。
現実世界の各国の歴史を見れば普通はアリなんだけど、エサルいわく。
「学童の時期をすぎてしまえば、異なる階層の者が気安く語り合える機会などない」
「身分を越えて触れあえる、あの時期の大切さを」
だそうだから。
個人的な考えでは、
アリ:貴族の息子&高等職能階級の娘(orまれに豪商の娘)
ナシ:高等職能階級の息子&貴族の娘
なんではないかと、、、。
とはいえ、私も下級貴族と上級貴族の違いはいまいちわかんないんだけどね、、
カザルム公だのトサリエル公だのは上級だと思う。
エサル父は「コルマ公」ではないだろうから、、。
大名と旗本くらいの感じなのかしらん、、、。

81 :
>>80 さま
>エサルの想像では、ユアンの息子は貴族の子弟と一緒に学ぶことで「嫌な
思い」をしたのだろう、とのこと。
そこも自分、読み違ってたのかな。
貴族であるユアンの息子のほうが、がさつな高等職能階級の連中と肌が合わず
(むしろお高くとまりやがって的にひやかされたりして?)、それを「嫌な思い」と
言っているのではないかと思ってた。
ユアンの息子が多少トラウマ持ちだとしてもそんな嫌なやつだとは思いたく
はないが、たいてい、身分が上の人間のほうが、下の人間を隔離・駆逐しよう
とする傾向が強い気がして。
それに、ユアンと結ばれないと思っていたエサルの心理のなかに、「身分違い
だから」っていうこだわりはなかった気がした。ただ単純に、「出会ったときに
はもうユアンに許婚がいて、それを覆すことはできない」というだけで。
まあただ、貴族が「医術師」なんて「労働」をするわけがないと言われればそれ
までか。

82 :
>81
上の者(貴族)が下(高等職能階級)を除こうとする傾向があるのは正しいみたい。
ユアン息子は自分がそういう扱いを受けたからこそ、後輩たちを守るために提案をしようとしたらしいよ。
「学童がのびのびと学業に専念できるよう、身分によって学ぶ場を訳ようという提案らしい。〜学童のことを思いやる生真面目でやさしい男なのだろう」だってさ。
あと、二つの身分については
「いずれ高級官僚となる者(高級職能階級)たちと、この国の領土を管理する者(貴族)たち」と定義してある
あと、タムユアンにいるのはあくまで「下級」貴族の子弟であって上級貴族の子弟はいないらしい。(家庭教師なんでしょうね)
身分違いってエサル最初から言っているよ
「自分たちの年齢、身分や科がばらばらであることを気にしなかった」って。
ユアンの家は「代々上級貴族を見る医術師を輩出している名家」なんだから、自分が貴族ってことはないでしょう。
婚約者も高級官僚の娘だし。

83 :
あ、ごめん間違えた
身分違いではあるけれど、それがユアンと結ばれることがNGな主要因ではないって意味だったのね。
確かに、たまたまユアンにも婚約者がいなければ、不釣り合いではあるけれど、ありえないほどの組み合わせではないかもね。
跡取りでもない売れ残り娘と名家の医術師ならね。
周囲がOKすれば、駆け落ちってほどではないと私も思う。

84 :
婚約者についても…
貴族も、高級職能者も、生まれたときから将来の配偶者はだいたい決まっている、ってなってるけど、
エサルがミカリにサイランを譲るときも、「ミカリの婚約者の人生はー?!」とは、誰も突っ込まないんだよね。
たとえ何か後で手を打つにしても、「あぶれた人の人生がめちゃくちゃに」な悲壮感は無い。
若いうちは充分組み替え可能か、次女のミカリには「まだいなかった」んじゃないかと。
エサル、ユアン、ジョウンはみんな跡取りだからエサル一人称では「だいたい決まっている」なのかな。
「みんな決まっている」じゃないし。
封建社会の常識からいうと、次男、三男まで配偶者が早いうちに決まってる場合って少ないよね…。

85 :
高級職能者階級と貴族の記述については
>>80->>83 に同意
というか、おお、そうだったのかー、って感じ。
そうすると、自分の中では高級職能者階級と貴族をまとめて支配者階級って認識?
高級官僚ってあくまで事務方ってことかな? 「要は国家T種でしょ?」って思ってるんだけど…
高級官僚が事務方で貴族が政治家レベルってことかなあ?
あれ、でも封建社会だし?
リョザの政治システムに悩む…
貴族が戦争をしてない社会で、ひとつ下の階級に高等知識の権利があるって、よくあることだっけ??
中世あたりに神学・医学・法学くらいで大学ができた頃ってどうだったんだろ。
その頃の入学の権利とか、知識者階級の扱われ方とか、そういえば詳しく知らないや。
でもあの頃の支配者階級の主な仕事って、戦争だったりするし。
リョザの貴族は、何をもって高等知識を持つ高級職能者階級を完全に支配下に置いてたのか、
とか考えると、頭が痛い…
勿論貴族は領地経営と中央政治をになってるはずだから、更に高等な知的レベルを持ってる可能性も
あるんだけど、ただの官吏じゃなくて高級官僚だと相当な政治知識があるイメージ。
え、貴族が持ってる圧倒的な権力ってまさか、『清らかさ』デスカー。
ここはヲトナの皆様が多いから、この辺のお国事情を参考にしてると思うよ! な心当たりがあれば
ぜひ詳細キボンヌ。

上橋菜穂子作品は、主にアジアを主題にしてるとは思うけど、リョザの真王領はちょっと西洋風だし、
カザルムやタムユアンは、寺子屋じゃなくヨーロッパ系の学校を参考に、
というより、これ現代を参考にしてるよね?! なことも多いんですが。
支配者階級が戦争をしない、だと当然浮かぶのが日本の平安時代とか。
貴族は官僚で、他と比べて圧倒的な知識レベルを誇ってたな、でなんか違うんですが。
さらにアジアで考えようとすると医師がこんなに何年も学校に行かないといけないのってごく近代だから
そもそも違うしなあ。
獣医師に至ってはごく近代まで存在してなかったって話だし。
あ、エロと関係ないこと無いよ!二次書きにとって世界観って重要だからね!!!


86 :
真王領が西欧風なのはアニメの世界の一部だけだよ。
アニメですら王宮には畳とふすまがあったりしてる。
日本だと平安時代か、あるいは江戸時代の京都周辺が真王領で、その他の地域が大公領と考えると近いのかもね。
実質支配しているのは武士だけど、京都の公家たちは狭い世界の中で自分が偉いと思ってて、天皇家そのものは本当に全国から崇拝されているみたいな。

87 :
貴族ってものの存在を今の日本人が理解するのは難しいよ。
イギリスだと、オックスブリッジ卒で大学教授やっているような人が、
「上流階級の知人なんか一人もいない」って言うくらい雲の上の存在らしい。
同じ場で学んだり働いたりはしていても、顔見知りでしかないんだろうね。

88 :
何かエロパロ板っぽくないねW

89 :
貴族かそうでないかの違いは
荘園を持ってるかどうかくらいにしか
思ってなかったわ

90 :
「貴族が持ってる圧倒的な権力」って財力じゃないかしら。
領地があるから労働しなくても生活できるのが貴族。
高等職能階級はそうではない、ジョウンとかタカランみたいに罷免されたらおしまい。
罷免&任命権をもっているのは支配者である貴族。

91 :
>>75
遅ればせながら、超GJ!!
自分は原作ではユアンというキャラがよく掴めなくて
モヤモヤが残ってしまったんだけど、
これを読んでスッとおさまりました。
いい作品をありがとうございました。

92 :
>>75
自分と大分ユアンの解釈が違うなぁと思ったけど、
作品として凄く良かったですGJ
個人的に、ユアンは素で怪物みたいな人だと思ってるw
でも確かに想いはあったんだと思う。
階級については、
貴族はエサルのとこみたいに下級でも土地持ちらしいので、
職を追われて遁生できたジョウンは高等職能階級では。
(貴族の長男だったら土地管理の義務があるから山に引っ込めない筈?)
ユアンも土地より職を持ってるみたいな感じから高等職能階級かな…
一番分からないのがシリアの親みたいな「高級官僚」にあたる人たちの身分。
権力はあるらしいけど、身分では貴族と職能階級、どちらに属するのか…
普通に考えれば貴族?

93 :
>>86,>>87,>>89,>>90
ヲトナの皆様、ありがとうございました!
やはり真王─貴族─大公─兵士は
日本の天皇─公家─将軍─武士で理解すればよく、
名門校─高級職能者階級─貴族の関係は
西洋風に解釈すれば良さそうですね!
その際、西洋風の貴族の貴族たる所以は、剣を持って王から賜った所領を敵から守ること
じゃなかったっけ…と思ったらわけわかんなくなって。
>>90様のいうように任免権、財力、所有権をがっちり抑えておけばいけそうですね。
そうすると探求編のはじめの方で、外国との貿易で既得権が脅かされることに対しての
貴族の反応も納得いきます。既得権だけでもってるような感じなので。
学校はオックスブリッジ系を連想しますね。
ぐぐったらオックスフォードが1096年あたり、ケンブリッジが1209年設立とか。

個人的には、王宮の祝宴で引き出された、屈していない幼獣→エサル、
何の表情も読み取れない成獣→ユアン の隠喩と解釈して色々広げたりしました。
苦しいも辛いも好きも、ほぼ感情を見せることなく、生との境の薄明の野にひとり、佇んでいるような男。
そんな男と付き合うと、女の子はマジ大変。二股だったりすると余計に。
その解釈だと、あらゆる微妙な兆候から王獣の痛みを読み取ろうとする老エサルと、
相手の心も自分の心も分からないままの若エサルの二重写しは切ないなー、とか。
とはいえ、エサルは自分が思うより愛されてたと思うし、山小屋の暖炉の前で、エサルがユアンを
「とても恐ろしく見えた」とき、彼の方は心中も辞さない気持ちだったと、思っています。
原作者は、ユアンを「底の見えない男」と言っていらっしゃるので、色々な解釈も可能。そこが面白いです。

94 :
>>75
ずっと書き込めませんで…今頃ですがお疲れ様でした。GJ!
ユアンのキャラクターに関して、
自分の考えてるものとは実はかなり異なっていて、意外でした。
でも、達者な方なので、読みすすめるうちそれもまた逆に新鮮だったというか、
楽しませてもらいました。
オックスブリッジ系、イメージとしてうかぶのは、自分もまさにそれです。
階級制度や権利のおよぶ範囲まで詳しく考察されていて、
作品に厚みがあるのが、これまた大変GJです。




95 :
ユアンてきくとどうしてもアニメの干し柿売りのおばさんを
思い出していまいち入れ込めないw

96 :
外伝読んだ!ヤバい萌えたイアルさんテライケメン
無我夢中でキスしてる所妄想したらみなぎってきた!!
こういう精神状況のメチャクチャしたい…でも…てのが良い
しかし子供が出来たらと心配しつつ中出ししてたんかぁ…
エリンは初めてだったと思うけど内容から想像するにイアルさんは童貞ではなかったのか…

97 :
エリンの流れぶった斬るみたいで申し訳無い!「バルサ×タンダ」前スレの反省も踏まえつつ、極力横文字を控えて書いてみた(爆
※「いつ?」とか「どの時代背景?」とかあんま突っ込まないで下さいW
※雰囲気重視。若干キャラ崩れしてますW
※誤字脱字…目ぇ瞑ってつかぁさい
※あんまエロくない…エロパロなのにW
※スルーは「バルサ×タンダ」
では、どうぞ……

98 :
―……春時雨れ……静かで優しい雨音と、良い香りに誘われるようにバルサは目覚めた。
「……おっ!起きたか?」
「……あぁ…」
何時の間にか掛けられたシルヤという寝具を手繰り寄せ、小さな窓の外に目をやる。昨日の事は夢だったのだろうか……?タンダと唇を重ね、奴のモノを口に含んで、ゆらゆらと揺れる囲炉裏の炎を見つめて……それから……それから………
ずっと張り詰めてきていた緊張の糸がぷつりと切れるように深い深い眠りに落ちていた。木洩れ日のように暖かくえらく優しい繭に包まれるように……
「……今、飯出来るからな。」
タンダも昨夜の事は何事も無かったかのように使い古した杓文字で鍋をかき混ぜている。昨日の残りの山菜汁に冷えた麦飯を入れたおじやだろう。これも又、山菜汁とは違った美味しさでバルサにとって翌日の楽しみの一つとなっていた。
静かで優しい春の雨音を聞きながら二人しておじやを啜る。こんな穏やかな気持ちは何年……いや、何十年振りだろう……バルサはまだ夢の続きを見ているようだった。
「…今日、どうするんだ?」
おじやを啜るタンダがちらりとバルサを見た。
「……ん?……そうだねぇ……あんたは?」
バルサはタンダに視線を合わせる事無く聞き返す。
「俺は、今日頼まれてた薬を街に持ってくんだけど………良かったら一緒に行かないか?たまにはトーヤとサヤに顔くらい見せてやれよ」
そう言うとタンダは箸を置き小さく微笑んだ。そう言えば二人には久しく会っていなかった。チャグムとの逃亡生活でも何かと世話になったトーヤとサヤ……今頃、何をしているのだろう………
「…そうだね……たまには顔くらい出しに行ってみようか」
バルサは椀から顔を上げると空になった底を見つめたまま微笑んだ。
朝食の片付けをし、荷物を纏め家を出る頃にはさっきまでの雨が嘘のようにすっきりと晴れ渡っていた。青霧山脈から伸びる白い光が幾重にも織られた光の薄衣のように雨露で濡れた草花をきらきらと光り輝かせている。

99 :
何気に、妊娠わかるまでひとつ布団で寝てたのか

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