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2012年7月エロパロ98: ■ 女が長身で男がチビのエロパロ! ■ (429)
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■ 女が長身で男がチビのエロパロ! ■
- 1 :06/12/13 〜 最終レス :12/07/02
- 女性の方が体が大きい場合のエロパロを書くスレです。
オリジナル主体ですが、版権も可能です。
- 2 :
- 2ゲット
- 3 :
- おらおら、WWF(World Wide Fund for Nature:世界自然保護基金)の
愛くるしいパンダ様が>>2ゲットだぜ! 頭が高いんだよ、ボケ!
. ,:::-、 __ >1 クソスレ建ててんじゃねーよ。ビンスみてーにで潰しちまうぞ。
,,r 〈:::::::::) ィ::::::ヽ >3 >>2ゲットも満足にできねーお前は、俺の着ぐるみ着てプラカード持ってろ(プ
〃 ,::::;r‐'´ ヽ::ノ >4 お前はカキフライのAAでも貼ってりゃいいんだよ、リア厨ヒッキー(プ
,'::;' /::/ __ >5 汗臭いキモヲタデブは2ちゃんと一緒に人生終了させろ、バーカ。
. l:::l l::::l /:::::) ,:::::、 ji >6 いまさら>>2ゲット狙ってんじゃねーよ、タコ。すっトロいんだよ。
|::::ヽ j::::l、ゝ‐′ ゙:;;:ノ ,j:l >7 ラッキーセブンついでに教えてやるが、俺はストーンコールドが好きだぜ。
}:::::::ヽ!::::::::ゝ、 <:::.ァ __ノ::;! >8 知性のねーカキコだが、お前の人生の中で精一杯の自己表現かもな(プ
. {::::::::::::::::::::::::::::`='=‐'´:::::::::/ >9 つーか、自作自演でこのスレ盛り上げて何が楽しいんだ?
';::::::::::::ト、::::::::::::::i^i::::::::::::/ >10-999 WWEなんか見てるヒマがあったら、俺に募金しろカスども。
. `ー--' ヽ:::::::::::l l;;;;::::ノ >1000 1000ゲットしたって、WWF時代の映像物に販売許可は出さねーよ。
`ー-"
- 4 :
- >>3
2ゲット失敗わろすw
- 5 :
- >>3 >>2ゲットも満足にできねーお前は、俺の着ぐるみ着てプラカード持ってろ(プ
- 6 :
- 女が初心者で男がテクニシャンだとこういうのいいね
- 7 :
- 女にいいようにやられるのもいいよ
ただそれだと他のスレと被るがね
- 8 :
- 身長 178cm その辺の男子を見下す視点。
バスト 88cm Fカップの谷間強調のバストに視線が集中。
ウエスト 57cm クビレが細すぎる完璧なウエスト。
ヒップ 84cm 小尻で上向きの極上ヒップ。
股下 88cm とんでもなく長い!
露出が多くて体に張りつくようなピッタリしたラインから谷間強調のFカップ。
そこから溜息が聞こえてきそうなぐらい、細く括れたウエスト。
それよりも何よりも、マイクロミニから伸びた股下88cmの細くて長〜い脚。
身長153cm、股下62cmのクラス1醜いチビ、デブ、短足女と並び、
これでもかという敗北感と屈辱を与え、身長で25cm、股下では26cm、
明らかな股の位置や腰の高さの違いをまざまざと見せ付ける。
「どう? 私の完璧なスタイルは?」みたいな優越感とスカした態度。
誰もが羨む極上のスタイルを際立たせ、どこにいても周囲の視線を浴び、
必ず「うわ〜すっごいスタイル! 脚、長〜い!」って声が聞こえてくる。
彼氏曰く「長身でスタイル抜群だからすごい目立つ。優越感がたまらない。
超スタイルいいから連れて歩くと優越感もこの上ない」。
- 9 :
- >クラス1醜いチビ、デブ、短足
それなんて俺?
- 10 :
- 「ばかぁっっっっ!!」
「うっせえっっっ!!」
少年と少女が、激しく睨み合う。
年の頃は十四〜五前後。
腰まで届く長い髪を項の辺りで留めているのは、黒の学生服に身を包む少年。
ベリーショートの赤毛をバンダナで纏めているのは、青いブレザーに身を包む少女。
「いつもいつも、ボクのことバカにして、そんなに面白いのG 何が男女よ、あんただってどう見たってオカマじゃない!!」
「偉そうに言うなよ! 手前ぇだって、人のことを女みたい、女みたいって、いちいちうっせんだよ!!」
バチバチと、火花が散る。
女性的な顔立ちの低身長の少年と、男性的な顔立ちの百七十aはある少女。
「何よ、まだ、ムケてないくせに偉そうに言わないでよね!」
「て、手前ぇ! 天下の往来で何トンでもねえ事言ってやがる! 手前ぇだってまだ生えてないくせによ!」
「い、言ったわね! もう知らない!!」
「うっせえ、バカ野郎!!」
互いに背中を向けて歩き出す少年と少女。
アーケード内は一瞬静まり返った物の、静かなざわめきに満たされていく。
町内一、騒がしいカップルの痴話喧嘩。
当人達が聞けば激怒しそうな見出しの話題が、町中に広がっていくのは時間の問題だった。
「うっ!」
慌ててティッシュをとり、ベトベトに汚れた手とそこを拭く少年。
その顔には、明らかな嫌悪感。
「……何やってんだよ、俺」
先程喧嘩した相手のことを思って、己を慰めている事実に、ただ怒りが込み上げてくる。
「……情けねえな」
本当は、少女と共にいられることが、少女を独占できていることが、少年にとって何よりの喜びだった。
なのに、顔を会わせれば口喧嘩。
感情を素直に表に出せない己に嫌気が差す。
「まあいいや」
無理矢理それを押しやり、もう一度深い溜め息を吐き出した。
「っ、くぅぅぅぅぅぅ!!!」
シーツの端を噛んで、嬌声を押さえる少女。
痙攣をつづけていた体から、ゆっくりと力が抜けベッドに長々と横たわった少女は、暫くして涙を澪し始める。
「……何やってんだろ、ボク」
幼い頃から隣にいた少年。
ただの幼馴染から、友達以上恋人未満になるのは分かり切ったことだった。
自分自身、少年を愛してしまったきっかけは覚えていないと言うのに、その思いはかき消せないほど強くなっている。
「バカだ……、ボク」
少年のことが好きなのに、一人で慰める時でも、いつも思う相手は少年だというのに、その少年の前に出ればいつも口喧嘩をするしかない自分。
「しょうが、ないのかな……」
少女の小さな呟きが、部屋の中に響いた。
- 11 :
- 「で、君は一体どうしたいんだい?」
少年は友人に相談を持ちかけていた。
淡い色彩の髪に、銀のフレームの伊達眼鏡、学生服よりはブレザーの方が似合いそうな知的な少年は、面白がる表情を浮かべている。
「どうしたいって……」
少年の困っている表情を友人は楽しげに見つめる。尤も、少年の保つ幾多の伝説を知っていて、なお、微笑みを浮かべられるのはこの友人くらいだ。
「言っておくと、彼女は非常に人気が高い。いい加減ここらで決めないと、横からかっさらわれることになるよ」
「……あいつが、それで幸せになれるんだったら、俺は別に構わない」
少年の言葉に友人は嘲りの笑みを浮かべる。
「やれやれ、偽善者ぶるのはやめておいた方がいいんじゃないかい」
自分でも自覚しているだけに、少年は反論できない。
「……いい方法を教えて上げるよ」
友人の言葉にすがるような視線を向ける少年。
少年の耳元に口を近づけ、小声で囁く。
「誰もいないところに連れ込んで、ヤればいいんだよ」
「なっっ!!!」
少年の驚きの声が響くが、教室内の人間は誰も視線を向けない。
正確に言えば、注意を向けているが視線を向けていないと言ったところか。
「何を言いやがるいきなり!」
小声で怒鳴る少年に、友人は微笑みながら語を繋ぐ。
「彼女が君のことを嫌いだったら何が何でも抵抗するし、その逆だったら、思い切り喜ぶはずだよ。まあ、いやがられたときに、すぐやめないといけないけどね」
「て、手前ぇなぁ……」
顔を真っ赤にする少年を見て、友人はただ微笑んだ。
「で、一体どうしたいんです?」
少女は、一番の親友に話しかけていた。
少年とほぼ同じ身長の親友は、亜麻色の長い髪を一本三つ編みにして、右肩から前に流していた。
「それを聞いてるの」
顔を真っ赤にして、そっぽを向く少女。
「キミはさ、彼とくっついた時って、どうだったの?」
親友の言葉を遮るように、慌てて言葉を放つ。
その言葉を聞いた親友の顔に、悪戯っぽい笑みが浮かんだことに少女は気付かない。
「えっと、ここの屋上に呼び出されたんです」
「えっ? たしか屋上って、一般生徒立入禁止じゃなかったっけ?」
少女の言葉に親友は肯く。
「彼は生徒会長だから。……それで、なにされたと思います?」
面白がっている親友に、少女は素直に首を振り、解らないと答える。
「えっと、襲われたんです」
「んなっG」
あまりにも予想外の言葉に、少女は驚きを露わにする。休み時間の校庭の端であるため、人目を引きはしない。
「さすがにびっくりしましたよ。後ろから抱きしめられて、いきなりキスされたときは」
親友は微笑みさえ浮かべて口を開く。
「けど、私も彼のこと好きでしたから、抵抗しなかったんです。そしたら、途中で動きを止めて、なんで抵抗しないんだって」
少女が思考停止に陥っていることに気付いて、親友は微笑みを浮かべる。
「まあ、それで私達はくっついたんですけど。まあそれはおいといて、彼とうまくいくかもしれない方法を教えて上げます」
「あるの?」
疑わしげな目つきを向ける少女に、親友は、……小悪魔の笑みを浮かべる。
「個室に連れ込んで、誘っちゃいましょう」
「ぶっ!」
とんでもない言葉に思わず吹き出す少女を無視して、親友は言葉を紡ぐ。
「もしそれで、真っ先に服を脱がしたり胸を揉んだりしてくるような人は、貴方のこと何とも思っていない人です。けれど、真っ先に唇を求めてくる人は、貴方のことを心から好きな人なんですよ」
「そそそそそ、そんなの無理に極まってるでしょ!」
予想通りな少女の言葉に、親友は微笑みを浮かべる。
「ま、とにかくがんばって下さいね。彼はかなり人気ありますから」
- 12 :
- 「あ、いたいた、探したよ」
友人の呼び止める声に、少年は反応して素直に後ろを向く。
「なんかようか?」
放課後。
すでに帰り支度をしていた少年に、友人は静かに鍵を渡す。
「すまないけど、生徒会室に行って来てくれないかい」
「……なんだ、また女と密会か? いい加減にしとけよ」
友人は、生徒会長でありながら、恋人と一緒の時間を過ごすために、少年に生徒会室の開放を頼むことが良くあった。だから、少年は特に不審に思わなかった。
歩き出す背中に向けて、友人は心底面白がる笑みを浮かべた。
「ちょっと待って下さい」
少女を呼び止めるのは親友。
HRがいつも以上に延びた上、教室の掃除までやらされているため、密かにかなり遅くなっていた。
「えっと、彼に言伝があるんで、生徒会室まで行って貰えませんか」
「はえ、なんで、ボクに?」
「いえ、ちょっと、とにかく、今日は先に帰りますって」
言伝を頼まれたこと自体にさほど違和感を抱かなかった少女は、静かに階段を上っていく。その背後で、親友は顔が綻ぶのを止めることが出来なかった。
「……失礼しまーす」
軽く声をかけて、少女が生徒会室の中に足を踏み入れる。次の瞬間、心臓が強く脈打った。
少年が、ソファに寝ころんでいた。暫く驚きで我を忘れていた少女は、そのあと、静かに少年を見つめる。
「綺麗……」
窓から漏れ込む光を浴びる少年の顔は、その一言で全てが表現されていた。
「どうしてなんだろ」
不思議だった。いつもは嫉妬の対象になる少年の美貌を、ただ素直に綺麗だと思える心が。そして、もう一度言葉を紡ごうとしたとき、
「う……」
少年がゆっくりと目を開く。あわてふためく少女を後目に、トロンとした目つきの少年は、ゆっくりと身を起こす。
「あれ、こんなところにいたんだぁ……。急にいなくなるから、心配したんだよぉ……」
寝惚けているのだろう、支離滅裂な言葉を口にして、少女のすぐそばにきた少年は、手を伸ばして少女の首筋を押さえる。
クイッと、少女を引っ張りながら、自分も背伸びをして、唇を押しつける。
「んっ!?」
「ん……」
キスされた瞬間、少女は我に返るが、少年は腕を解こうとはしない。抵抗しそうになった少女は、親友の言葉を思い出す。最初にキスするのは自分を好いていることの証。
だから、両腕を少年の肩に回して抱きしめ、唇を開いて少年を受け容れる。
少年も、それに合わせて舌を差し込み……、動きが止まる。
それまで、何処か寝惚けた感じの目が、これ以上はないと言うほどに大きく開かれる。
そのことに気付いても、少女は抱きしめた腕を放さずに、口内に入り込んできた舌を自分のそれで絡め取る。
「んぅ! んっ、んんぅぅ!!!」
暫く抵抗していた少年は、また、トロンとした目つきになる。そして、積極的に舌を動かし始めた。
- 13 :
- 「はぁはぁ」
「はぁぁぁぁぁ」
甘い吐息を吐き出しながら、少年と少女は静かに見つめ合う。
「……あのね」
「まった、先に言わせてくれ」
互いに言いたいことは解っている。その答えも。だから、少女は少年に先を譲る。
「なんか、成り行きみたいだけど、これだけは言っとく。俺は、お前のこと大好きだからな。空が落ちようが、大地が裂けようが、命尽きて記憶失おうが、それは永遠に変わらない真実だからな」
「は、ハズイ奴ぅ」
口ではつっこみながら、喜色満面と言った様子の少女は、衣服を一枚ずつ剥がしながら口を開く。
「ボクがね。全部を見せられるのは、心をさらけ出せるのは、巡る月よりも、照らす星よりも、灼ける太陽よりも、あたしのことを愛してくる人だけなんだからね」
「……お前も十分ハズイじゃねえかよ」
そう言いながら、少年は少女を抱きしめる。と言っても、殆ど少女の胸の中に顔を埋める格好になるが。
……生徒会室の前、一人の女生徒が顔を真っ赤にして座り込んでいた。
言うまでもなく少女の親友だ。
「どうしたんだい? 顔が赤いよ」
そう声をかけたのは、少年の友人。
「あ、いえ、その」
「彼らの睦み合いでも聞いて感じたのかい?」
微笑みながら紡がれた言葉に、慌てて頭を振る少女の親友。
「いえ、あの、それも、あるんですけど。あの、なんか、凄い甘いんです」
その言葉を聞いて、僅かに首を傾げる少年の友人。
「あの、メープルシロップをかけまくったグラニュー糖を茶碗一杯口にしたみたいに甘いんです、あの二人」
「まあ、彼らの場合、ずっと押さえていたからね。……、それじゃ、行くかい?」
微笑みながら言葉を紡ぎ、指を上に向ける。
それに応えて少女の親友はゆっくりと立ち上がった。
- 14 :
- 夕闇が迫り始める。
「はぁ……はぁ……」
「ふぅ〜〜」
ぐったりと、ソファに横たわる少女と、その上に折り重なる少年。
生徒会室の中は、気怠い雰囲気と、情事の後の匂いが、静かに漂う。
「なんだか、不思議」
少女が、小さく呟く。
少年はそれには答えず、少女の上から少しずれる。
「ボク、こんな日が来るなんて、思ってなかった。ボク、ボクね」
「……言う必要もないこと、言うんじゃねえよ。ちゃんと、そばにいてやるさ。……星が雲に隠れているときも、月が姿を現さないときも、太陽が大地を照らすときも、命尽きるまで、俺はずっとそばにいてやる」
「…………詩人だね」
「っせぇ」
照れているのだろう、顔を真っ赤にして、それでも、少年は少女から視線を外しはしない。
「ボクも、快晴の青空よりも、紺碧の大海よりも、新緑の樹林よりも、ずっと広く、貴方のこと愛してる」
微笑みながら言葉を紡ぐ少女。
互いに抱きしめあい、深く口づけをかわした。
- 15 :
- ……何となく投下してみた
- 16 :
- 素敵だぜ。
- 17 :
- >>14
GJ!!
もっともっと濃厚なエッチシーン追加で続ききぼん!
- 18 :
- 素敵だw
- 19 :
- ラブコンのエロキボン
- 20 :
- age
- 21 :
- >>8と>>10は繋がっていますか?
- 22 :
- 繋がってなさそう
- 23 :
- スレタイ見て真っ先にかぼちゃワイン思い出したw
- 24 :
- 自慰だけ、とかアリ?
- 25 :
- まだかよ
- 26 :
- >>24
大いにあり
- 27 :
- ほしゅ
- 28 :
- 前回に続いて、ひっそり投下。
……ってか、こういうのって普通スレ立て人が一番札を取るもんじゃないんすかね?
どうでも良いことはさておき。
『僕らのルール』、始めます。
- 29 :
- 『やだよ、やだよ〜〜、いっちゃやだよぉ』
『あ〜もう、いつまでも泣いてんじゃねぇ!』
『そんなんゆぅたって〜〜』
『……しゃぁねぇやろ。親父とお袋の仕事なんやから』
『ひーくんのお嫁さんになれんよぅなるやん〜〜〜〜』
『アホ、デカなったら迎え来たるわ。ちゃんとケッコンしたるから、泣かんでえぇ』
『…………ほんま?』
『ああ、ほんまや。けど、お前がええオンナになっとらんかったら、そんときは相手したらん』
『そんなぁ〜〜』
『メソメソ泣くようなんはええオンナちゃうわ。ええオンナが泣くんは嬉しいときや』
『あうぅ…………』
『やから、待っとれ。絶対迎えに来たるんやから』
『……うぅ……うん……待っとう。ウチ絶対待っとうから』
柔らかく暖かい物に顔をくるまれている感触と、とても懐かしい夢を見たような気がして、滝沢洋(たきざわ ひろし)はゆっくりと目を覚ました。
「……ぅん」
視界いっぱいがピンク色に占められていることに訝りながら、どこか惚けた頭でソレに顔をこすりつける。
柔らかな感触に頬が包まれるのがとても心地よかった。
「ひゃんっ…………す〜す〜」
だけど、頭の上から聞こえてきた声に、さぁっと血の気が引いた。
ゆっくりと体を起こそうとして、ぎゅっと抱きしめられていることに気づく洋。
「……おい」
怒りに震えながら背中に回されている手を外そうともがく。
だが、そんな洋を更に強く抱きしめてくる腕。
「ん〜〜、あかんよ〜〜」
どこか寝ぼけている声を聞いた瞬間、ぷちっとどこかが切れる音がした。
「何しとんじゃ、このど阿呆!」
思わず大声で叫びながら強引に腕を振り払い、素早くベッドから降りて立ち上がる。
どう見ても女の子の様な顔立ちを怒りで蒼くして、寝癖のある亜麻色の短い髪を素早く手櫛で整える。
のそっとした仕草で身を起こし、ベッドの上にちょこんと座った相手を、思い切りにらみつけた。
緩やかなウェーブを描く長い黒髪に、少し垂れ気味の大きな目、鼻筋もすっと通って唇も愛らしい形。
そんな、下手なアイドルを凌駕する間違う事無き美少女が、とろんと惚けた表情で洋を見詰めてくる。
上から二個目のボタンまでが外れているせいで、真っ白な肌と豊かすぎるふくらみ――93D――の谷間が見えた。
ソレに意識を向けないよう必で気を紛らせる洋。
「……ん……ん〜〜、ひー君、おはよぅ」
ふわぁと大きなあくびをして、ごしごしと目をこする少女の嬉しそうな笑顔に、こめかみがぴくりと動いたことを洋は自覚する。
「……おはようやないわ! 勝手に部屋に入ってくるなんて何考えとう!?」
幼馴染みにして同居人兼同級生、青間美鳥(あおま みとり)がほや〜〜っとした表情でこちらを見詰めてくる。
「何って、ひー君の部屋やとよぅ眠れるし〜」
「よう眠れるとか関係ねぇっ! とっとと、自分の部屋戻らんかい!」
「ふぁぁ……うん、わかったわ〜」
大きなあくびをしてから、ゆっくり立ち上がる美鳥。
慌てて、洋は目をそらした。
美鳥がパジャマの下をはいていないことに今更気づいたから。
上のパジャマの裾がかなり長めだったから、直接目には入っていない。
それでも、すらりと伸びた長い足は、まさしく生唾モノ。
特にふくよかさとしなやかさを表現するような太股が、露わになっているのがかなり危険だった。
「このど阿呆! 四条だけやのうて六条まで無視すんなっっ!!」
慌てて顔を上げて、頭一つ分上にある美鳥の顔をにらみつける。
自分でも顔が真っ赤にほてっている事だけは理解していた。
「ふぇ……、って、あ〜あ〜、ズボンはくん忘れとったわ……ん〜〜、ズボン?」
まだどこか惚けた表情を浮かべていた美鳥の顔が、少しだけ赤くなる。
「あ、あははは〜〜、ゴメンな〜〜!!」
慌てて部屋から飛び出る美鳥。
ちらりと白い布が見えた気がして、慌てて天井を見上げる洋。
……生理現象だったものが、その刺激のせいで本格的に堅くなった。
- 30 :
- 美鳥が滝沢家で暮らすようになって、もう半年が過ぎようとしている。
そもそもの原因は、滝沢家の両親と青間家の両親が親友同士だったこと。
生まれたときからずっと一緒に育ってきた洋と美鳥。
小学校の時に洋が転校することになって逢うこともなくなった美鳥が、洋と同じ高校を受験して合格したのだ。
下手に寮や下宿や一人暮らしをさせるよりはと、洋の両親達が部屋を貸して、美鳥が同居することになってしまった。
「……はぁ〜〜」
だけど、その先のことを思い出しながら、洋は軽くこめかみを押さえる。
一応は年頃の男子として、同い年の少女が同じ家に住むと言うことだけでも精神的にはきつい。
なのに、洋の両親達が美鳥が一緒に暮らすようになって、僅か一週間で長期出張に出かけていったのだ。
「ったく、馬鹿親共」
良い匂いのするキッチンの中、素早く朝食の用意をしながら深々と溜息をつく洋。
同時、リビングのドアが開いた。
「えと、ひー君おはよぅ」
えへへと半笑いを浮かべる美鳥は、既に古関高校の制服――今時珍しい紺色のセーラー服――を着ていた。
制服の上からでも解る大きな胸と引き締まったウエスト、お尻も大きくて、いわゆるモデル体型と言った美鳥の制服姿に、ほんの一瞬見とれてしまった。
ソレを隠すようにすぐに視線をそらす。
……もう、半年も見ているのに、まだ美鳥の制服姿になれない自分が少し恥ずかしかった。
「おはよう、美鳥。で、何か言うことは?」
困ったような笑顔を浮かべて視線をそらす美鳥を、洋は見上げながら睨む。
15センチの身長差がすこし恨めしい。
「……えと、ウチ悪いことしてへんやん」
「約束破る気? それならソレで構わないけど」
わざとらしく溜息をつきながら、洋はリビングのドアをびしっと指さす。
美鳥が閉めたそのドアにA3用紙に箇条書きで何かが書き込まれていた。
「同居生活条件表、第四条・不用意に抱きついたり、裸に近い格好で家の中を歩いたりしないこと。
第六条・お互いの部屋に断り無く入らないこと。そう書いているのは目の錯覚?」
わざとらしく笑みを浮かべて問いかけた瞬間、美鳥が冷や汗を浮かべる。
それでも口元に笑みを作って抗弁しようとするあたり、反省が見受けられない。
「あ、えと、あのそのそれはやな? その〜〜」
「父さん達が出て行くときに約束しただろ? もし、同居生活条件表が守れないなら、追い出すってさ。
なんなら僕が出て行っても良いんだけど?」
だから、苛立ちと共に吐き出した言葉に、しょんぼりと肩を落とす美鳥。
更にきつい一言を口にするべきだと心の中で想いながら、洋はもう一度溜息をついた。
「……で? 言いたいことは?」
「あぅ〜〜、ゴメンナサイ」
今にも泣き出しそうな表情を浮かべて見詰めてくる美鳥。
「ったく、今度やったら許さないからね」
「は〜〜い」
洋の言葉を聞いた瞬間、美鳥が笑顔を浮かべた。
泣いたカラスがもう笑うと言うのを地でいく美鳥の様子に、もう一度深い溜息を吐く。
「それじゃ、ご飯の用意手伝って。早めに食べてそろそろ出ないといけないんだから」
「うん、解っとる。ひー君、今日のご飯はナニ? ナニナニ?」
目をきらきらと輝かせた美鳥が、腰を屈めて上目遣いに見詰めてくる。
「昨夜のシチューを使ったドリア。良いから、とっとと用意する」
「は〜い♪ ご飯っご飯っ楽しいご飯っ♪」
……相変わらず子供っぽい美鳥に苦笑を浮かべた。
- 31 :
- 「そう言ぅたら」
食べ終わる頃合いを見計らって、美鳥が声をかけてくる。
最後の一掻きでドリアを平らげた洋は、言葉の続きを静かに待つ。
「ひー君、まだ着替えんでえーの?」
言われて、まだグレーのトレーナー姿だと言うことに気づいた。
……その上からかけているファンシーなエプロンに小さく溜息をつきながら。
「うん、解ってる。まあ、すぐに着替えられるから大丈夫」
「……でも、時間」
ぴしっと壁の時計を指さす美鳥。
時計の針は、七時半を指していて。
洋の額に汗が浮いた。
「って、まずいっ!! なんでこんななるまで言わんねん! すぐ着替えてくるさかい、外で待っとって!!」
「……ひー君が気づかんかったんが悪いんやん」
むすーっとむくれる美鳥に構うことなく、洋はどたばたと走りながらリビングを後にする。
どうも、今日は朝から調子が狂いっぱなしだ。
そんなことを想いながら自分の部屋に飛び込む洋。
同時、ふわりと甘い香りが漂った。
普段は全く感じられることのないソレは、美鳥の残した薫り。
とくんっと、胸の内側が変な音を立てて、慌ててソレを振り払う。
美鳥は幼馴染みで同居人。そして、洋にとって大切な存在。
だからこそ、女の子として意識するわけにはいかなかった。
……今の状況は歯止めが無さ過ぎる。
洋が悪気を起こせば、美鳥をひどい目にあわせることが出来るのだ。
「……ふぅ」
小さく溜息をついた後、慌ててトレーナーを脱ぎ捨てる。
タイトなサイズの学ランを素早く身につけて、胸ポケットに携帯を入れ……ようとして、時間を確認する。
「……慌てて損した」
デジタル時計はちょうど七時を指したところだったから。
それでも美鳥がもう表に待っているはずだから、カバンを持ち上げて洋は玄関に向かう。
今日もまた、騒がしい一日になりそうな予感を覚えて。
- 32 :
- やっぱエロが無いと短いですね。
とりあえず、コレもエロに行くまでかなり長いですが、お暇な人はおつきあい下さい。
一応長編なんで今回からコテ付きっす。
>16氏,18氏
レスサンクス。
>17氏
御免なさい。
かなり前に書いたのをスレ賑やかしに投下したんで、追加は難しいっす。
では、有り難うございました。
- 33 :
- >>32
良かよ良かよ〜。
要は萌えられりゃ良いんだから、エロがあろうが無かろうが、長編だろうが短編だろうが無問題アルヨ〜〜。
- 34 :
- gj
- 35 :
- 保守
- 36 :
- きたいあげ
- 37 :
- 圧縮回避保守
- 38 :
- これはもう駄目かもわからんね。
- 39 :
- で、身長差は最低何センチ必要なんだ?
174と163の11センチ差はありか?
他所でそういうの見かけたんだが
ちなみにエロはほとんど無しだったが
- 40 :
- 身長差そのものよりもそこから生まれる優劣・格差的なメンタリティが重要かと。
- 41 :
- って事で、前回の続きをこっそり投下。
お暇な方はおつきあい下さい。
- 42 :
- 古関高校の校門前で洋はいきなり背後から抱きつかれた。
「おはようございます、洋さん!」
「……おはよう、樋山さん」
そのまま、何事もなかったかのように挨拶をしてくる相手、樋山夕紀(ひやま ゆうき)に一応挨拶を返しながら、洋は内心溜息を吐いた。
「〜〜っ! 何ひっついとんねん! とっとと離れぇや!」
いつも通りに固まっていた美鳥が、思い切り叫ぶ。
その光景は端から見ればとても面白い見せ物で、登校中の生徒達がくすくす笑いながらこちらを見て通り過ぎていく事を感じ取っていた。
普通ならぐるりと取り囲まれて興味津々で成り行きを見守る所だろうが、流石に一週間も同じ事を繰り返していれば単なる光景として扱われるのだろう。
洋からすればそう思われることもたまったものではないのだが。
「別に私が何をどうしようが私の勝手でしょ? アンタに口出しされるいわれはないわよ」
「ひー君に軽々しぅ触れるな言ぅとんや! ソレにアンタ呼ばわりされる覚え無いわ!」
顔を真っ赤にした美鳥が、洋の首に掛かっている夕紀の腕を無理矢理引き離した。
そのまま、洋から引きはがすように手を伸ばして、そのまま一歩踏み出してくる。
当然、美鳥が洋に抱きつくような形になって、顔の下側に柔らかいモノが押し当てられる。
……普通の高校男子ならラッキーだと喜ぶ所だが、洋としては恥ずかしいだけ。
何しろ、周りには登校中の他の生徒達がたくさんいるのだから。
「うるさいわね! アンタこそ横から口出ししないでよ! 別に洋さんの恋人って訳でもないくせに」
「っっ、アンタかてそやないか! ソレにウチはひー君の幼馴染みや、アンタみたいなん認めるわけ無いやろ!」
「アンタに認められる必要なんてどこにもないんだけど? ソレに幼馴染みだから束縛していいなんて、そんなことあるわけ無いじゃない」
このまま放っておくとろくな事にならない。
ソレが解っているから、洋は内心深い溜息をつきながらまず顔を上げた。
真っ赤になって文句を言おうとする美鳥をじっと見詰める。
「美鳥、他の人の迷惑になるだろ。そんなに騒がない」
「ぅ……でも……」
「それと、樋山さん」
美鳥から少し離れるように身を反らして、洋は背後にいる夕紀に顔を向けた。
- 43 :
- ……右側に作った短いサイドポニーテールは茶色で、女顔の洋とは逆に美少年風の凛々しい顔立ちをした夕紀がこちらの顔を見上げていた。
背の低い洋からすれば、同い年の少女に見上げられるというのは新鮮な光景だが、今はそんなことを考えている場合でもない。
「朝から元気なのは良いけど、あまり抱きつかないで欲しいんだ。その、樋山さんに迷惑でしょ?」
夕紀はあごに人差し指を添えて小首をかしげてみせる。
「迷惑なんてこと、全くないですよ? ほら、私はもう洋さんの恋人な訳だし」
「なに訳わからんこと言ぅとうねん! ひー君がアンタみたいなん相手にするわけあらへんやろ!」
「……あのね」
そのまま派手な口げんかを始める二人に、思わずこめかみを押さえる洋。
結局、こちらの言葉に耳を傾けそうにない二人に溜息を吐きながら、洋は夕紀との出会いを思い出す。
それは、一月と少し前、夏休みも半ばを過ぎた頃の事だった。
暑いからと言って、素肌の上にタンクトップを着てホットパンツだけという姿や、特大Tシャツ一枚だけという出で立ちで部屋の中をうろつく美鳥に、洋は辟易していた。
……いくら何でも目に毒過ぎるのだ。
年齢不相応に発育の良い姿態なのに、子供のように無邪気にそんな姿をされては、正直押さえる方が辛い。
とは言え、そんな美鳥も三日前から実家に帰っている。
だから、緊張がほぐれリラックスしていても誰にも責められるいわれはない。
無いはずだと、言い訳をしながら何となく溜まっていた息を吐き出す。
そして、美鳥がいないおかげで炊事に手をかけなくても済むというのも、また開放感の理由だった。
掃除洗濯は美鳥、炊事は洋ときっちり分担しているのだが、少しでも手を抜くと美鳥がすぐすねるのだ。
一人でいるときくらいは、外で済ませても罰は当たらない。
だから、夕飯を行きつけの喫茶店でとった帰りがけ。
何となく気まぐれを起こして、普段通らない道を通ったときのことだった。
「……っざけんじゃないわよ! ドラマとかテレビの見過ぎで頭腐ってんの!? 何が指三本で『どう?』よ! アタシはアンタみたいなむさいオヤジには興味ないわよ」
路地の奥から聞こえてきたその罵声に、何となくいやな予感を覚えた。
- 44 :
- 関わり合いになりたいなどとは露とも思っていないけれど、そのまま無視したり警察を呼ぶのは何となく性に合わなくて。
周囲にほとんど人影がないことを確認して、洋はその声が聞こえてきた方向へ向かって歩き出していた。
「ふふっ、そんなこと言ってぇ、しょうがないなぁ。じゃぁこれで良いよね? おじさん一流会社の人間なんだよ? 欲しいならもっとたくさん出し」
ぱんっと、頬を張る音が聞こえて、少し慌てて洋は声の元に向かう。
「アンタ、何様のつもり! いい年こいて、自分の娘くらいの子供相手に買春しようなんて本物のアホ!? きゃぁっ!」
「このくそガキッ! エリートの俺様に向かって、なんて口をききやがる! 教育してやる! きやがれ!!」
「ちょっ、ちょっと! 離しなさいよ! 助けて犯さっっ!!」
ばちんっと派手な音が響くのと、洋がその光景を目撃するのはほぼ同時だった。
背広を着た中年のオヤジが、洋よりも小柄な少女の腕を掴んで思い切り顔に平手を浴びせていたのだ。
それだけで、洋の頭に血が上る。
普段、男装少女とか性別間違えてるだろとか言われることが多いからこそ、洋は女性に対していつも優しく接してきた。
女性にとって顔が命という言葉もかなりな部分、真実だと言うことも理解している。
だから、その中年が少女の顔を叩いた事が許せなかった。
「えぇ加減にせぇよ、おっさん!」
思い切り怒鳴りつけながら、中年のオヤジと少女の側に駆け寄る洋。
「クソガキが邪魔するんぎゃぁぁぁああああっっっっ!!」
振り向いてこちらをにらみつけてきた中年の股間を、問答無用で蹴り上げた。
股間を押さえて地面に倒れ込む中年を睨み付けて、少女に視線を向ける。
キャミソールとミニスカートに身を包み、大人びた化粧をしているけれど、どう見ても洋より少し年下に見える少女は、ぽかんと口を開けてこちらを見詰めていた。
「えと、顔大丈夫?」
赤くはれた頬に少し胸を痛めながら問いかける洋に、やっと我に返った様子の少女がこくんと大人しく頷く。
「あ〜、ところで、このおっさん警察に突き出したいんだけど、良いかな? 一応被害者が一緒じゃないといけないから、ソレがいやだったら放っておくけど」
「えと、あの、警察の相手なんてしたくないんですけど」
- 45 :
- さっき聞こえてきた快活さが嘘のような、もじもじとした様子の少女に小さく首をかしげ、洋は俯せになって痙攣している中年をけり転がして仰向けにさせる。
そのまま背広の内ポケットに手を突っ込んで、名刺入れを取り出した。
「ぐっ、な、何を」
「黙れ、クソオヤジ。……へぇ、四菱重工古関営業所支店長か。確かにエリートっぽいけど、この事実をばらすだけでクビだよね?」
洋の冷たい言葉に、びくっと怯えた表情を浮かべる中年。
そんな相手を無視して、洋は携帯を取り出して中年の顔写真を取る。
「えぇか、オッサン。此処は見逃してやるけど、顔も仕事先も押さえたんや。こんど同じ事してみぃ、社会から抹されるようし向けたるさかい、覚悟せえよ」
洋の女顔も声変わりをすませていないような高い声も、こういうときはかなり役に立つ。
一見、虫もさないように見える顔立ちだからこそ、その直前の情け容赦の欠片もない攻撃とのギャップが、相手の恐怖を煽るのだ。
「……さてと、じゃ僕は帰るけど、一言言わせてもらうよ。君もそんな格好でうろつくから、変な奴に絡まれるんだよ」
気づかれないよう溜息をつきながら、洋は少女に背中を向ける。
あまり関わり合いにはなりたくなかった。
なのに、いきなり服の裾をぎゅっと掴まれた。
首が絞まって、思わず洋は立ち止まってしまう。
「えと、あの名前を教えてください! お礼しますから!」
その真剣な表情に、イヤな汗が額に浮かんだことを自覚する。
「あ、いやその、ちょっと急いでるから!」
無理矢理腕を振り払って、慌てて逃げ出す洋。
「まってくださいっ!」
追いかけてくる気配を感じながら、それでも洋は何とか逃げ切った。
……そして、二学期の始業式当日。
古関高校の校門の前で見事に鉢合わせし、しかもその場で告白されたという笑い話にもならない状態だったのだ。
無論美鳥もその場にいて、二人は毎朝こんな喧嘩を繰り返している。
そんな事を思い出して、まだヒートアップを続ける二人に視線を向けた洋は深い溜息を吐く。
「大体、なんでアンタが毎朝毎朝洋さんと一緒に登校してるのよ! アタシには家の場所だって教えてくれないって言うのに!」
「ふん、そんなん決まっとうやろ! ウチは」「美鳥っ!」
慌てて、美鳥の口を手で塞いだ。
- 46 :
- 夕紀が驚いたような表情で見詰めてくるが、この際放っておく。
がしっと、美鳥の首の後ろに手を伸ばして、強引に引き寄せた。
「この阿呆! 第二条くらい護らんかい!」
……同居生活条件表第二条、二人が同居していることは絶対他人にはばらさないこと。
ただでさえいつも一緒にいる美鳥と洋が、同居していることが周りに知られれば、とんでもない揶揄の荒らしに巻き込まれる事になる。
「……ひー君、ごめん」
しゅんと肩を落とす美鳥に、仕方なく笑顔を向けて洋はその側から離れる。
「じゃ、早く教室に行こ、そろそろ予鈴のなる時間だしさ。……樋山さんも急いだ方が良いよ」
「うん、そやね」「はい、洋さん」
ほぼ同時に返事を返した二人が、またじろりとにらみ合う。
「何で、アンタが答えんねん!」「そっちこそ、黙ってなさいよ!」
……また噛み付き始めた美鳥と夕紀のやりとりに、思わずこめかみを押さえながら、洋は校舎に向かって歩き出す。
「あ、待って下さい、洋さん!」「ひー君、ちょいまってぇなー!」
慌てて後をついてくる二人に、洋は思う。
どうして、この二人が自分なんかに好意を向けてくれるのだろうかと。
こんなチビで女の子みたいな容姿の自分に向けられる、あまりにも純粋な好意が洋には理解できなかった。
- 47 :
- ってことで二話目投下完了。
……このペースだと、今年中に終われば良い方かも。
それまでにこのスレが持ちますように。
とりあえず、洋と美鳥のエロ話に持ってくまで頑張ります。
- 48 :
- お見事! GJです!
こういうシチュは結構好きなので次回も楽しみにしてます!
- 49 :
- >>47
GJ!
長期連載ドンと来い!だ!
これからドンドン人が増えれば短編も連載も増えるしな!(希望的観測)
- 50 :
- >>47
GJGJ。只、なんか方言に違和感が。関西弁なのか?
と、関西人じゃない俺が言ってみる。
- 51 :
- 保守
- 52 :
- 保守!
- 53 :
- バッチこいやぁぁぁぁぁ!!!!
- 54 :
- >>47
こういう設定好きだ
がんがれ
- 55 :
-
- 56 :
- >>50
関西人のオレから言わせもらうと
やっばり違和感が…
職人さんは女性?
- 57 :
- えと、えらいお久し振りです。
やっとこ、三回目仕上がったので、投下します。
- 58 :
- 一悶着はあったものの夕紀と何とか別れて、自分たちの教室に向かう途中。
「……ひー君、ゴメンな」
隣を歩く美鳥が声をかけてきた。
心底反省していることは、しょんぼりと肩を落としている様子でもわかるから。
「まぁ、無理矢理仲良くしろとまでは言わないけど、もう少し大人しく出来ないの?」
「…………そんなん言ぅたかて」
一瞬ふくれ面を浮かべて、すぐしょんぼりと肩を落とす美鳥。
そんな美鳥の様子を、黙ってみていることなんて洋には出来なくて。
「ま、反省してるんならいいよ。でもね、他の人に迷惑かけたりしないようにしないとね?」
呟きながら背伸びをして、ぽんぽんっと美鳥の頭を優しく撫でてやる。
それだけで、嬉しさと照れくささを混ぜたように、にへ〜〜っと笑う美鳥に、思わず苦笑が浮かんだ。
背伸びしないと格好が付かないことが、正直に言えば少し辛いけれど。
「ほら、早く教室行くよ」
「ん、そやね」
そう言いながら、歩く速度を上げる美鳥。
美鳥が三歩歩く間に、四歩踏み出してその隣に合わせる。
きっと周りから見たら滑稽だろうなと、そんなことを想いながら教室に向かった。
いつも通りにざわつく教室に入る洋。
美鳥が窓際の一番後ろに向かうのを見ながら、自分は教壇の真正面の席に腰を下ろす。
同時に、ぽんと肩を叩かれて洋は渋々振り返った。
座ってる時点で視線を上げないといけない事実に、いつも通りに悔しさを感じながら相手を見詰める。
がっしりとした体格に、立てば美鳥と同じくらいという高い身長の持ち主。
小学校からの腐れ縁の悪友、大林建昭(おおばやし たてあき)が、二枚目半の顔立ちにだらしない笑みを浮かべていた。
「よ、おそかったっぺの、洋どん」
「……ふぅ」
「おや、溜息をつからはるとは、よっぽどつかれとるじゃっど。そげんこつではあかんとよ? ま、気持ちはわからんでもなかけん、今日もえーもん、みせてもらったさかいの」
……まいどの事ながら怪しい言葉遣いを続ける建昭をじろりと睨み上げる洋。
「気持ちゃわかりゃぁで、溜息ばっかついちょったら、せっかくの美顔がわるぐぎゃっっ!!」
「なんか、言った?」
問答無用でみぞおちに一本拳を叩き込んだ洋は、不機嫌そうな表情を崩しもせずに建昭を睨み付ける。
- 59 :
- 「ぐっ…………軽い、冗談だってば」
机に伏せたまま、苦しそうに言葉を吐き出す建昭。
それが単なるゼスチャーだと解っているから、冷たい視線を向けてぼそりと呟く。
「……そう言った冗句は嫌いだって、いつも言ってるでしょ」
「いや、そりゃわかっとりゃーで」
「なら、わざとらしくそんなこと言わないでくれる?」
「ま、それが大林君らしい所だと思うんだがね」
建昭の背後から、少年が顔と口を出してくる。
亜麻色のショートカットに、洋とは違う意味で整った美貌をハーフリムのシルバーフレーム眼鏡で隠す少年が、皮肉気な笑みを浮かべた。
「むぅ、その言い方はなかろうに」
「実際、君は頭よりも口の方が回転が速い、言うなれば馬鹿の典型だと思うが。少しは落ち着いた言動が出来ないものかい?
ま、多少落ち着いたところで馬鹿を隠すことは出来ないがね」
少年――洋の悪友、後藤釆が、いつも通りの毒舌を披露する。
そんな釆に視線を向けた建昭が、なぜかすぐこちらに顔を向け直してきた。
何となくその先の光景が予想できて、洋は深い溜息を吐く。
「あー、ったくこれだから予言者さぎゃっっ!!」
ごずっ、と、耳慣れた音が響く。
建昭の脳天に、ものの見事に国語辞書が命中していた。
机に上半身を突っ伏して悶絶する建昭の姿に、洋は思わず苦笑を浮かべる。
理知的な顔立ちに冷たい笑みを浮かべて、釆が建昭の背中を見下ろしていた。
「……気持ちはわかるけどさ、いくら何でも辞書はやりすぎじゃない?」
「君が気にかける必要などない。壊れ掛けの機械の修理方法は衝撃を与えるって言うのが、世間の常識だ」
「……俺は機械か、おい」
ゆっくりと上半身を上げた建昭が、額に青筋を立てながら振り返る。
その様子にただ苦笑するしかできない。
「いや、壊れかけて制御の聞かない迷惑極まる機械未満だ。常々言ってあるはずだ、その例えだけは許せないと。
ソレを覚えられないような低能が機械に勝る筈がない」
「別にえーやにゃーで。親御さんらの期待、一身に背負っちょん、なまえやねんかぇら」
「……両親は両親、僕は僕だ。オカルトライターなんて嘘つきが身内にいるだけでも恥ずかしいのに、大先輩の名前を借りたなんて馬鹿な事を言われて腹が立たない訳がないだろうが」
……そのまま、いつも通りに陰険漫才をはじめる二人を見て、苦笑と共に視線を巡らした。
- 60 :
- 雑談を重ねたり本や携帯に集中しているクラスメイト達を軽く流し見て、それから何とはなしに美鳥の方を見詰めてしまう。
席に着いている美鳥の隣に、やけに大きな身振り手振りで話す赤茶のボブショート少女に、外見にはそぐわないたおやかな仕草を見せる金髪のツインテール少女が立っていた。
そんな二人と話をしている美鳥は楽しそうで。
ただそれだけのことが、洋にはとても嬉しかった。
不意に、美鳥と視線が合って、嬉しそうな笑顔を向けてくる。
同時に、美鳥の隣にいる少女達がこちらに視線をむけて来て、気恥ずかしさを感じてすぐに視線を逸らした。
視界の片隅で、美鳥がしょんぼりとするのが見えて、ちくんっと胸の奥が痛みを覚えた。
いつも通り、退屈そのもののHRに続けてはじまった授業を適当に聞き流す。
脳裏に浮かぶのは、神戸に住んでいた頃の、美鳥がいつも側にいた頃のこと。
美鳥の背は子供の時からかなり高くて、そのせいでいつもいじめられていた。
無論、背の高さばかりではなく、可愛らしい顔立ちと気の弱さが、いじめっ子達の気を引いたというのも理由の一つ。
そんな美鳥を助けるのは、いつも洋の役目で。
そのことで陰口をたたかれるのが、すこし辛かった。
公園の外れにある林の中、ただ一人だけでいる洋は溜息を吐いていた。
木々の間から友達がサッカーをしているのが見えるけど、。
本当は一緒に遊びたいけど、みんながみんな自分と仲良くしてくれるわけじゃないから。
あの中でみんなを集めている少年が、美鳥をいじめてる中心だと解っているから。
だから、あの環に入ることが出来ないだけ。
そんなことを考えてる洋に向かって、美鳥が駆け寄ってきた。
他に誰も来ないと知っているからか、嬉しそうな笑顔を浮かべている。
『ひー君、ひー君!』
すぐ側に来た美鳥が、洋の服の裾をぎゅっと掴んで見詰めてくる。
上から見下ろされるのはやっぱりすこし悔しくて、それでもその気持ちを隠して美鳥を見詰め返す。
『なんの用や、美鳥?』
『用って、用ないと、ひー君のそばおったあかんの?』
今にも泣き出しそうな表情で見詰めてくる美鳥に、洋はむすっとした表情を向ける。
ついさっき、美鳥の事でからかわれたばかりで、あまりいい気分じゃ無かったから。
- 61 :
- 『別にそんなわけないけど』
『ウチ、ひー君と一緒におりたいだけやもん』
だけど、上から上目遣いで見られると、その気分もすぐに消え去る。
この顔をされると、美鳥の言うことを聞いてやりたくなってしまうのだから。
だから、手を伸ばしてぽんぽんと美鳥の頭を撫でてやる。
『ったく、しょうがないやつやなぁ』
ただそれだけの仕草でにっこりと笑顔を浮かべる美鳥に、胸の奥がとくんっと跳ねた。
それがなんなのか解らなくて、すぐにそっぽを向く。
『えへへ、そない言ぅてもひー君ちゃんとおってくれるんやもん』
『はいはい』
両親達がそれぞれ親友同士で、しかも家も隣同士。
物心着いた頃から一緒にいるのが当たり前で、ずっと一緒にいるんだとお互いそう思っていた。
『でもさ、もしボクがおらんようなったらどないすんねん』
その言葉を口にした瞬間、美鳥の動きが完全に止まった。
口をぽかんと開けて、ただ呆然とこちらを見詰めてくる。
『ひー君が、おらんよなる?』
『ああ、そや。ボクかてずっとお前の側おられるとは限らんやろ』
一瞬、何が起きたのか解らなかった。ただ体中が温もりに包まれた事だけを理解して。
少し遅れて、美鳥が抱きついてきているのだと気づいた。
『ひー君、ウチなんかした? なんかひー君怒るようなことしたん? うちイヤや。ひー君おらんよなるなんて、思うんもイヤや』
ぎゅっとしがみついてくる美鳥。
その姿にただ笑うことしかできない。
洋だって美鳥とはなればなれになるなんて、考えたこともないのだから。
『アホ、怒っとうわけない。ボクだけやのうて、もっと他の奴と遊んだらどうや言うてんねん』
ただ、こうしてくっつかれるのは恥ずかしくて、そんな風にしか言えない。
途端に美鳥が更に強く抱きついてきた。
『ウチ、えーもん。ひー君おったら、ほか誰もいらんもん。ひー君はウチと一緒なんはいやなん?』
『そんなわけ、ないやろ。ボクだけやのうて、他の奴ともちょっとは仲良うしたどうや言うてんねん』
『ウチ、ひー君だけでえーもん』
その真っ直ぐな言葉に、嬉しさと気恥ずかしさが入り交じって顔が赤くなる。
美鳥がぎゅっと抱きついてくるのも恥ずかしさの一因で。
『アホ、二人だけやったらおもんないやん。お前やって、もっと友達つくったらえーやろ』
- 62 :
- そう言いながら、何とか美鳥から離れる。
こんな所を他の連中に見られたら、恥ずかしいし情けないから。
『でも〜〜』
今にも泣き出しそうな表情で見詰めてくる美鳥。
その気持ちがわかってしまうから、溜息を吐いてしまう。
『えぇか、美鳥。お前はやる気になったらなんでもできる。お前は宝石の原石や。磨けば思いっきり光れるんや。
友達だってたくさん出来るし、いじめられんようになれる。そやから、ボクと二人だけがえーなんて言ぅな』
ついこの間、先生にしかられるときに言われた言葉を、そっくりそのまま美鳥に投げかける。
きっと、納得してくれる。そう思ってた。
『でも〜〜』
それでも、美鳥が泣き出しそうな表情を浮かべて見詰めてくる。
だから、深い溜息を吐きながら見詰め返した。
『あんな美鳥』
『ん』
一瞬だけ、何か言いたげな表情を浮かべる美鳥に、洋は笑って見せる。
『ちゃんと、一緒にいたるから。ずっと一緒におったるから。やから、お前もがんばれんか?』
『ひー君?』
『美鳥が……、みーちゃんが怖い言うんやったら、ボクが守ったる。やから、みーちゃんもがんばってみーへんか?』
ぱちくりと目をしばたかせて、美鳥がじっと見詰めてくる。
それが気恥ずかしくて、そっぽを向くより早く、美鳥がまた抱きついてきた。
『ちょっ! みーちゃん!』
『ひー君、ウチがんばる! がんばるから、ちゃんとお嫁さんにしてくれるんよね!』
いきなり唐突に飛び出した言葉。
開いた口がふさがらず、呆然と美鳥を見詰めてから、はっと我に返った。
『って、なんでいきなりそうなんねん!』
『だって、ひー君ずっと一緒におってくれるんやろ? おかーさん達言ぅてたもん。お嫁さんになったら、ずっと一緒におれるって』
『いや、確かにそやけど』
『ひー君とやったらえーもん。ウチ、ひー君のお嫁さんになりたいもん。そやから、ウチ頑張るから、ひー君のお嫁さんにしてくれるよね』
すぐ近くに、嬉しそうな笑みを浮かべる美鳥の顔があって、きっと大きくなってもずっと一緒にいられると信じられて。
ずっと、一緒にいたいと願っていて。
『うん、えーで。大きなったら、ちゃんとケッコンしたる。約束や』
『うん、約束!』
- 63 :
- ふと気がつけば、授業時間も終わりに近づいていた。
かなり長い時間思い出に浸っていたことに、洋は内心で溜息を吐いた。
それもこれも、夕紀が絡んでくるようになって、美鳥が以前よりも更にきわどい行動をするようになったせい。
洋にだって、美鳥が迫ってくる理由も、その気持ちも解っている。
だけど、今はまだその気持ちに答えることが出来ない。
大事だから。
美鳥のことが誰よりも大事だから。
だから、もう一度内心で溜息を吐いた。
- 64 :
- ってことで、レス下さった皆様、有り難うございます。
本文で書きましたが、洋と美鳥のは広義の関西弁です。
正確に言うと神戸弁です、はい。
関西=大阪ではないと、こっそり言いたかったり。
次回はいつになるか解らないですが、出来れば早めにお送りしたいなぁと。
それでは、失礼。
- 65 :
- GJ!!!
- 66 :
- 保守
- 67 :
- こういうのいい!!
- 68 :
- これは期待だな
- 69 :
- バレー選手と中学生か、チビフリーターあたりと絡ませたいけど、
このスレって女側がSなの?Mなの?
- 70 :
- 特に決まってないと思う
ので、投下期待
- 71 :
- 長身の彼女
http://love6.2ch.net/test/read.cgi/lovesaloon/1180279217/
- 72 :
- 保守
- 73 :
- >>23
俺漏れも。幾つだおまいは
- 74 :
- 保守
- 75 :
- 保守
- 76 :
- ってことで、忘れられた頃にひっそり投下。
四話目です。
- 77 :
- 四時間目の授業が終わると同時に、洋は教室から飛び出した。
「ひー君!」
美鳥の声を聞きながして、洋は廊下を走る。
周囲にも同じ様に走ってる生徒達がいるが、いつものことだから相手にしない。
「美鳥! 席取りっ!」
「うんっ! ウチ、適当に定食な!」
「解った!」
美鳥の声に応えつつ、洋は走る。
学食に向かって。
古関高校の学食は味の良さと内容の非凡さで、近隣に名を轟かせていた。
校長個人の人脈らしいのだが、一流の料理人が監修する料理が出されているのだ。
冗談ではなく、学食目当てで古関高校を選んだ生徒もいる辺り、その質の高さも知れようと言うもの。
特に、先着五十人までのスペシャルランチは、学食で出されているとは信じられないほどの味とボリュームで、毎日こうして凄まじい争奪戦が繰り広げられている程だ。
身を屈めて、他の生徒達の間をかいくぐる。
こんな時にしか有利に働かない自分の小柄さに少しだけ苛立ちながら、洋は件の学食に一番手で飛び込んだ。
ファミレス並にきっちりした内装は、高校と言うよりは大学の有名カフェ提携学食を彷彿とさせ、漂う薫りは胃を強烈に刺激してくる。
そのまま券売機に駆け寄って、スペシャルランチと、ロールキャベツ定食の食券を手に入れて、ほっと一息つく洋。
後は食券を交換して美鳥が取っている席に行くだけ。
カウンターに向かう洋の目に、今日のスペシャルランチの見本が映る。
「今日のスペシャルは、極厚トンカツ定食……、ってまた無茶なメニューだよなぁ」
自身、料理好きでは人後に落ちない洋だからこそ、そのメニューの無茶苦茶さが理解できた。
5センチという非常識な厚さのトンカツなど、普通に作ろうとすれば生焼けか揚がりすぎて食べられたものではない。
低温と高温の油による二度揚げをしているのだろうが、きちんとしたトンカツ専門店ならまだしも、たかだか学食で出すにはあまりにも手間が掛かりすぎている。
今度、家でやってみようかな、とそんなことを考えながらカウンターに向かった洋は、背後で起きた悲鳴にただ苦笑した。
スペシャルランチを手に入れることが出来なかった悲鳴もまた、ここでは日常茶飯事なのだから。
……しかも、それが毎日必ず響く建昭の声ともなれば、苦笑しても当たり前と言うもの。
あそこまで間が悪いと、有る意味狙っているやっているんじゃないかと思うくらいだ。
スペシャルランチ用カウンターで食券を差し出す洋に、調理師――うら若い美人女性――が笑顔を向けてくる。
「スペシャル1、大和煮1、入りまーす。……でもまぁ、凄いね君。毎日、必ずスペシャルランチとってるのって、君くらいだよ?」
料理が出てくるまでの間、調理師が笑顔を浮かべて話しかけてくる。
洋も笑顔を浮かべながら答えを返す。
「まぁ、変わったメニューが多いですし、しかも安いですから。この内容で、五百円なんてホントにやっていけてるんですか?」
「あはは、五十食限定だからぎりぎりね。そうじゃなかったら、倍の値段は付けるわよ。何しろ、ちゃんとした職人さんレベルの料理技術が必要なんだもの」
「でしょうね。この間のステーキ定食なんて、オーストラリア産の赤身肉なのに、黒毛和牛レベルくらいに柔らかでしたし」
思った通りの事を口にした瞬間、調理師はクスリと笑ってみせる。
それから、少し真剣な表情で見詰め返してきた。
「あれ、赤身肉って気づいたの君くらいだよ。料理とか得意なのかな?」
「一応、それなりに」
「それじゃ、今度お姉さんと料理談義に花を咲かせてみない? 君みたいな可愛い子とおはなしするのって楽しそうだし」
「あー、いえ、謹んでご遠慮させて頂きます」
背後からの異様な圧力に気づいて、内心冷や汗を浮かべつつ洋は答えを返す。
……スペシャルランチの人気の中には、できあがるまでの間、気さくで若い女性調理師と話が出来る機会があるということも含まれているのだ。
「んー、それは残念。あ、料理出来たわね。それじゃ、又、明日ね」
「はい、失礼します」
- 78 :
- 調理師と笑顔を交わし合って、二枚のトレイを器用に持ち上げた洋は、美鳥の待っているいつもの席に向かって歩き出す。
「……流石、女同士。話が良くあって結構なこったな」
不意に背後で嫌味な呟きが聞こえた。
ぐっと奥歯を噛みしめる洋。
客観的に見て、自分が女に見えると言うことくらい自覚している。
いつも日本全国を飛び回っていた両親のせいで、身につけざるを得なかった料理の腕もそう見える事に拍車をかけていると解っていた。
例えばこれが、町中や人気の少ない場所なら問答無用でケンカを売り返すけれど、今は両手もふさがっているし学食の中だから、辛うじて我慢した。
「へっ。制服間違えてんじゃねえの? 女の子なら女の子らしく、スカートはいとけよ」
「おい、やめとけよ」
「だぁってろ。聞こえないふりかよ、この臆病者」
いらつきながらも、無視し歩き出そうとした瞬間。
聞き覚えのある声が響く。
「そう言うアンタの方が臆病者でしょ!」
振り返った洋の目に、特徴的なサイドポニーが飛び込んできて。
思わず、小さな溜息を吐いてしまった。
「なにが女同士よ、なにが制服間違えてるよ! 洋さんはアンタみたいな女の腐ったような奴とは違って、男らしい人なんだから」
「はぁ? あれのどこが男らしいって?」
夕紀が男子生徒の一人に噛み付いている。
相手は、身長おおよそ一九〇センチ弱の男子。
その顔と体型に見覚えがあった。
常に全国区でベスト4に入るバスケ部で、一年なのにレギュラーに抜擢された生徒だ。
「コタにはわかんないだけでしょ! 人のことえらそうに言えるほどまともでもない癖に、えらそうに言ってんじゃないわよ!」
「……お前に、何が解るってんだよ」
コタと呼ばれた生徒と夕紀の間に、火花が散る。
自分が発端なのに、無視するわけにも行かなくて。
「あー、樋山さん。僕は気にしてないからさ」
一応背後から声をかけるが、夕紀は振り向こうとすらしない。
「大体、昔から後先考えずつまんないこと口にして、アンタがまともな目に遭った事なんてない癖に! もうちょっと言葉遣いってのを考えたらどうなのよ!」
「るっせぇな。いつまで幼馴染みでいるつもりだよ。手前ぇの方が縁切りとか言ってたくせによ」
「アンタが余計なことばっかり言ってるからでしょ!」
「樋山さん、もう、いいから」
もう一度背後から声をかける洋。
「あーもう、ウルサいっ! この馬鹿をどうにか…………あ」
振り返りながら、びしっと鼻先に人差し指を突き付けてきた夕紀が、そのままフリーズする。
「僕は気にしてないからさ、早くご飯食べた方が良いよ。他の人の迷惑になるしね」
「あ、いえ、えと、御免なさい、洋さん」
慌てて頭を下げる夕紀に、ただ苦笑を浮かべる洋。
そのまま、美鳥のいる席に向かって歩き出す。
夕紀もソレに合わせて動こうとして。
「……へっ。二股かけるなんて非常識にしてる癖によ。手前ぇみたいのはでっかいのだけ相手にしてりゃ良いんだよ」
もう一度聞こえてきた声。
『でっかいの』……、美鳥のことをそう呼んだことが許せなかった。
例の相手が異常なまでに厳しい視線を向けてくる。
ソレに、少し訝りながらも、洋は笑みを浮かべて見せた。
その相手だけでなく、洋に視線を向けていた全ての生徒が同時に顔を引きつらせる程、凄みののある笑みを。
元々美少女顔と言われるほどに整っている顔立ちだからこそ、洋が浮かべる冷たい笑みは異常な迫力を持っているのだ。
ソレを知っているからこそ、洋はただ笑みを浮かべて見詰めただけで、直ぐにまた振り返る。
「洋さん?」
「いや、なんでもないよ」
夕紀の不思議そうな問いかけに普通の笑顔で返して、突き刺さるような視線を感じた。
その視線の元は、言うまでもなく美鳥。
そのふくれっ面に苦笑を浮かべながら、洋はそちらに向かった。
- 79 :
- 「……なんでそいつが一緒に来るん?」
「アンタにソイツ呼ばわりされたくないんだけど?」
美鳥と夕紀がいきなり噛み付き合う。
その様子に苦笑を浮かべながら、洋は美鳥の前に定食のプレートを置いて、自分はその隣に腰を下ろした。
夕紀も洋の正面に座りながら、それでも美鳥を睨み付ける。
「二人ともご飯の最中くらい仲良くしなよ」
苦笑混じりに呟いた洋に、渋々といった様子で二人が視線を逸らす。
今はソレが限度だと解ったから、内心溜息を吐きながら洋は定食に箸を付けた。
「……今日のスペシャルはまたごっついねぇ。いっつも思うんやけど、ひー君よぅそんだけ食べよぅなぁ」
「ま、おいしい物を沢山食べて、運動を沢山すれば健康間違いなしだしね」
美鳥の言葉に答えを返しながら、極厚カツにかぶりついた洋は、そのまま絶句した。
厚さとは裏腹に非常に柔らかで簡単に噛み切れて、たっぷりの肉汁が口の中にあふれ出す。
衣のサクサク感が、肉の柔らかさとジューシーさを更に引き立たせて、慌ててご飯に手を伸ばした。
ご飯との相性も抜群で、信じられない美味さに一人頷く。
「……ひー君、そんなに美味しいん?」
羨ましそうな表情でじっとこちらを見詰めてくる美鳥。
コクコクと頷きながらふた切れ目に箸を伸ばして、期待の眼差しでじっと見詰めてくる美鳥の口元に差し出す。
「あーん、あむ……もぐもぐ…………」
半分くらいを囓り取った美鳥が口を動かすのを見ながら、残った分を自分の口元に運んで、ご飯をいっしょに掻き込んだ。
暫しの間。
「……美味しいなぁ、コレ。なんだかんだ言ぅてやっぱスペシャルはごっついねぇ」
ほんわかした笑みを浮かべながら呟いた美鳥が、半分に切ったロールキャベツを差し出してくる。
「はい、ひー君にもお裾分け」
「ん、はぐ」
十分に染み込んだスープが、柔らかくなったキャベツと粗挽き肉に絡んで口の中に広がる。
相変わらず、学食レベルとは思えない美味さに唸りながら飲み込んだ。
「やっぱり、此処のは全部美味しいよね。今度再現してみたいな」
「ひー君やったら、簡単に出来るやろね。メッチャ楽しみや」
嬉しそうに笑う美鳥に頷き返しながら、じっと見詰められている事に気づいて、洋は視線を前に向ける。
夕紀が、決意の表情を浮かべていた。
「……えと、洋さん。良かったらどうですか?」
そう言いながら、カレーをすくったスプーンを差し出してくる夕紀。
一瞬、冷や汗を浮かべて、洋は考え込む。
美鳥とのおかずのやりとりはいつものことだけど、さほど親しくもない夕紀とそんなことをする気にはなれない。
そんな当たり前のことを、それでも出来るだけとげが無いように伝えるにはどうすればいいか、そんなことを考えて内心で溜息を吐いた。
「えと、夕紀さんに悪いからいいよ」
微笑みを浮かべて首を横に振る洋。
しゅんと肩を落とす夕紀に、少し悪いことをしたかなと思ってしまう。
- 80 :
- 「そんな親しいわけやないのに、そんなんするなんて恥ずい奴やね」
いきなり横から聞こえた声に、洋は思わず視線を美鳥の方に向けた。
美鳥が、暗い悦びを乗せて嗤っていて。
胸の奥がずきんっと痛んだ。
美鳥には笑っていてほしい。ヒマワリのような、太陽のような、朗らかで明るい笑顔でいてほしいから。
「美鳥」
だから、呼びかけが咎めるような物になってしまうのはしょうがないこと。
「……何、ひー君?」
こちらに視線を向けてきた美鳥の浮かべる、どこかすねたような表情にまた胸が痛む。
洋だって、美鳥が悪くないことは解っているけど、それでもどうしても放っておくことは出来なかった。
「そんな言い方しちゃダメだろ」
そのつもりは無かったけれど、言葉尻が強く響いて。
美鳥が傷ついたように項垂れる。
「…………もうえぇわ」
ポツリと呟いた美鳥が、そのまま定食を凄い勢いで食べ始める。
見る間に食べ終わった美鳥が、そのまますっと立ち上がった。
「ごちそうさま、ウチ、先戻っとうから」
「あ、美鳥!」
洋の呼びかけに応えようともせずに、美鳥がそのまま食器を返しに行く。
それを黙って見過ごすわけにはいかなくて。
「その、洋さん。よかったらこのまま一緒にお話……」「ごめん」
夕紀がおずおずと話しかけてくるのを、遮って洋も慌ててご飯を掻き込んでいく。
本当ならそのおいしさに舌鼓を打つところだが、今はそんなことに構っている暇はない。
立ち上がって背中を向けた美鳥。
その目が少しだけ潤んでいることを見て取っていたのだ。
放っておく訳にはいかない。
「ごちそうさま、ゴメン樋山さん。ちょっと用事があるから」
立ち上がった洋は、そのまま食器返還のカウンターに向かう。
「…………ですか…………なら」
背後で夕紀が何かを行っていたような気がして、それでも振り返るつもりにはなれなかった。
「美鳥!」
小走りで教室へと急いでいた洋は、途中の廊下で美鳥を見つけた。
呼びかけながら立ち止まって息を整える。
「……何、ひー君」
いつもは見ることのない、冷たい表情の美鳥。
美鳥がそんな表情を浮かべることが哀しくて、洋は一瞬言葉を続けることが出来なかった。
「用事無いんやったら、気安ぅよばんとってや。あいつんとこ行って、楽しぅ話しとったらえぇやん」
拗ねてるだけだと、きっとそうだと思ったから。
洋は一度深呼吸して、美鳥をじっと見詰めた。
「ねぇ、美鳥。美鳥はなんで樋山さんのことあんなに毛嫌いしてるの? 美鳥も樋山さんも、僕の友達なんだから、友達同士仲良くして欲しいって思うのはいけないのかな」
本当は、美鳥が友達だなんて、思っていない。
誰よりも大事で、何よりも大切な、自分の全てをかけても悔いは無いと、素直にそう思っている相手だからこそ、今は自分の気持ちをさらけ出すことは出来なくて。
「……そうやね。ウチは、ひー君の、友達やもんね」
だから、自分が言い間違えたことに、洋は気付けなかった。
美鳥がじっとこちらを見詰めてくる。
その冷めた瞳に、また何も言えなくなってしまう洋。
「ひー君にとってはあいつは友達かも知れんけど、ウチには友達でも何でもない。そんなんと仲良うせぇなんてそんなん無理や」
「でもさ」
「でもも何もない! ウチはあいつ嫌いや! 嫌いな奴と、嫌われてる奴と仲良うなるなんて、ウチには出来ん! そんなに仲良うしたい言ぅんやったら、ひー君だけがあいつと仲良うしとったらえーやんっ!!」
「美鳥っ!」
いきなり叫んだかと思うと、美鳥が全力で走りだした。
今すぐ追いかけてもきっときちんと話せないことだけは、何となく理解できたから。
洋は小さく溜息を吐いて、そのままとぼとぼと歩き出した。
周囲から聞こえてきたひそひそ声は、無視して。
- 81 :
- ってことで、久方振りです。
レス下さった方に感謝します。
いやまぁ、メインでやってる某スレではいろえろ書いてたんですが、なかなか筆が進まずに(ぉ
ってか、保管庫のお手伝いとかやってて、余計に書く暇が無くなったりしてるわけで。
えと、次回までこのスレが保ってることを祈りつつ、ではまた。
- 82 :
- >>81
忘れちゃおらんよGJ!
ハーレムルートを突っ走れ!!
- 83 :
- 保守
- 84 :
- 保守age
- 85 :
- こんな所があったのか
いや、素晴らしい場所を見つけた
>>81暗愚丸氏
全部見ました、GJ!
次回も楽しみにしてます、も一度GJ!
- 86 :
- >>85
情報室見てるとこういうスレの発掘が楽になるからオススメ。
圧縮が近付いたら自分の気に入ってるスレも守れるし。
- 87 :
- 一ヶ月
- 88 :
- ?
- 89 :
- 期待
- 90 :
- 中性的でシャイな男
90年代中頃でしたでしょうか、「フェミ男」などという言葉が流行りだした頃から、ちょっと中性的でシャイな男がモテるようになりました。
私自身は古い人間ですので、男はちょっと強引なくらいが好みです。
が、最近は特に、女性が年上のカップルも増え、可愛い男、シャイな男が好みだという御姉様方も多いようです。
シャイな男というのは、自ら果敢に攻めるということがないため、気が強くてちょっとわがままな女性や、しっかり者でリーダーシップのとれる年上の女性と付き合うことが多いようです。
ただし、私について来いと言わんばかりの強引なだけの女はNG。いくらシャイでも男は男ですから、弱さや可愛らしさという女の「隙」がなければ恋愛には発展しにくいものです。
俺様系の強引男
俺様系の強引男というのは、男としてのプライドが高く、どちらかと言えば女性を卑下する傾向も強いのが特徴です。
女に対しては綺麗でか弱いという幻想を抱いていることも少なくありませんですので、自分より有能そうなバリキャリの女性や、男勝りで女らしさに欠ける女性などは敬遠しがち。
しかし、じつは俺様系を前面に出している男性こそ、内面は意外と繊細で脆いものです。
弱い犬ほどよく吠える、というアレですね。人間関係で躓いたり、仕事で失敗した時などは、つべこべ言わず優しく側にいてくれる、癒し系の女性に惚れやすいでしょう。
普段は自分が主導権を握っていても、いざという時は女性に甘えるのが俺様系の強引男です。
- 91 :
- ……なにはともあれ、こっそり投下
今回ちょっと長いです
- 92 :
- ……気がつけば、五時間目の授業が終わっていた。
「……はぁ」
深い溜息を吐きながら、斜め後ろに視線を向ける。
自分の席に座っている美鳥と目が合って。
冷たい表情のまま視線を逸らされたことで、洋の胸の奥に痛みが走った。
いつもと同じ二人組と話し始める美鳥をこれ以上見ることが出来なくて、洋はそのままぐったりと机に上体を預けた。
ケンカ自体は美鳥が家に来てから何度かしたことはあった。
けれど、ソレはいつも美鳥のだらしなさや甘えすぎに洋が怒るだけのことで、大体なし崩し的に仲直りしていたから。
こんな風に本気のケンカなんてしたことがなくて。
どうすべきか解らなくて、洋は何も出来なかった。
今下手に声をかけても、何を話せばいいか解らない。
だけど、放っておいても解決なんてするはずがないことも理解している。
家に帰ればイヤでも顔をつきあわせることになるし、そんなときまでこんなもやもやした気分を引きずる訳にもいかない。
「洋殿、大丈夫でござるか?」
背後から建昭の声がかけられると同時。
「るっさい」「ごはっ!」
振り返りもせず無造作に放った裏拳に、見事な手応えが返ってきた。
……わざわざ体を前に傾けて話しかけていたのだろう。
そうでもなければ当たるはずのない一撃で、元々軽い威嚇のつもりでしかなかったのだ。
「ぐぬぅ……、いくらなんでも、声かけただけで、裏拳はなかろ」
悶絶中にもかかわらず声を投げかけてくる建昭を無視して、また机に突っ伏す。
何を言われても相手にする気にはなれないから。
「あらあら、不機嫌なんですね?」
不意に脇から優しい声をかけられて、渋々顔を上げる洋。
いつも美鳥と一緒にいる二人組の片割れ、金髪碧眼のツインテール少女が、にこやかな笑みを浮かべて立っていた。
どう見ても白人にしか見えない顔立ちで、諸々の仕草が典型的日本美人の様に落ち着いている姿は、色々な意味で人目を引くもの。
「河音(かわね)……、なんか用?」
両親共に白人だが、国籍上は立派な日本人という微妙にややこしい経歴の少女。
河音澄香(すみか)の姿に、洋は少しも不機嫌さを隠さずに視線を向ける。
澄香も、建昭と同じく、こちらに越してきた頃からの友人で、中学の時には一悶着あった相手だったから。
美鳥に向けるのと同じ、普通の言葉遣いで問いかける。
「いえ、美鳥ちゃんと何かあったみたいで心配になりましたの。お二人にはちゃんと仲良くして頂かないと」
にこにこと笑う澄香の言葉に、ぐうの音も出ずに洋は溜息を吐く。
渋々顔を上げて、左側に立っている澄香に視線を向けた。
ゲルマン系コーカソイドらしからぬ低い身長――洋よりも少し低い――に、年齢や身長からみると意外な程の豊かさを誇っている胸が、真っ先に洋の目に入ってくる。
それが恥ずかしくて視線を逸らすのと同時に、くすりと澄香の笑う声が聞こえた。
「それで、滝沢君はどうして美鳥ちゃんとケンカされているんですか?」
あまりにも直球な澄香の問いかけに、洋は応えることなく頭を腕に預ける。
「普段だったら、滝沢君が怒って美鳥ちゃんが肩を落とすのが普通だと思いますけど、今回はどうも逆みたいですし」
「……ん、まぁ、確かにそうだけど」
「ケンカしたときは直ぐに謝る、これが一番だと思います。私も彼とケンカしたときは、直ぐに謝りますし」
喜色を浮かべたその声に、何となく澄香の視線が後ろに向いてるのを何となく察知した。
澄香は、釆と付き合っているから。
「それは、そうだけどさ」
澄香の言いたいことは洋だって理解している。
だけど、今の美鳥はきっと洋の言葉をまともに聞いてくれない。
謝ってもどうして謝るのかと噛み付いてくるだろうし、結局そのまま口を閉ざしてしまう事も解っていたから。
「ふぅ……。このまま、終わってもよろしいんですか?」
不意に耳元で声が聞こえた。視線を向ければ、澄香が上半身をまげてこちらの耳元に唇を近づけている。
「もしかして、洋君は自分の気持ちを変えてしまったんですか?」
「…………そんなことは……ないけど」
自然、声を低めながら答えを返す洋。
澄香がこちらの呼び方を変えた理由に、見当がついてしまったから。
「それでしたら、いい加減告白したらいかがなんです? ……私にはその気持ちを告げているのに、当の本人には話さないなんて、本末転倒ではないんですか?」
澄香の声に苦笑の気配を感じて、洋は深い溜息を吐いた。
- 93 :
-
『私は、洋君のことが好きなんです』
中学の二年になって直ぐの頃。
校舎裏に澄香に呼びだされて聞かされたのは、そんな言葉だった。
『洋君がいてくれたから、私はイジメられることもなくて、友達だって出来ました』
『別に僕のせいじゃないと思うけど』
その時は確かにそう思った。
澄香にたくさんの友人が出来たのは、澄香自身が頑張ったから。
『でも、洋君がいたから、私はイジメから抜け出せたんです』
澄香がイジメられていたのは小学生の頃で、その姿が何となく美鳥とだぶったから助けただけ。
澄香のことは、大事な友達でそれ以上でも以下でもない。
そのことをどう告げるべきか、悩んだのは事実だった。
澄香は確かにかわいいし、イジメに負けずに明るくなってからは、クラスどころか学校でも一〜二を争う人気者になっていた。
きっと澄香に告白されたという話をしただけで、ケンカを売られてもしょうがないだろう。
『洋君は、私にとって道しるべなんです。私も洋君みたいに明るくなりたい、優しくなりたい。そう思ったから、あの時そう思えたから、今私はこうなっているんです』
その真剣な告白は、確かに胸を打つもの。
もし、それが最初だったら、きっと洋は何も考えずに受けて入れていただろう。
『ゴメン』
だけど、洋の心にはもう一人の女の子がいた。
澄香の気持ちは嬉しいけれど、洋にとってはその方が大切だったから。
『……謝らないで下さい。何となく、こうなるんじゃないかなって思ってましたから』
にこりと笑顔を作る澄香の頬を、つっと涙が伝い落ちた。
そんな寂しげな微笑が悔しくて、だけど言葉を探すことが出来なくて。
『それで……、洋君の好きな人は誰なんですか? 教えてくれますか?』
淡々とした言葉が澄香から向けられた。
それはちょうど良いタイミングだったのかも知れない。
その問いかけがなかったら、洋には自分の気持ちを口にすることなど出来なかったのだから。
『僕がこっちに来る前に住んでた神戸に、幼馴染みがいるんだ』
おずおずと口を開く洋に、澄香は何も応えずじっと見詰めてくる。
『青間美鳥っていうんだ。背が高いせいでいつもイジメられてて、人の周りにいるのがイヤで僕の後ろをずっと着いてきてた』
呟いて、その印象を思い出す。
身長がクラスで一番大きかった男子よりも高くて、洋がいるときはいつもヒマワリの様な笑顔を浮かべていた美鳥。
だけど、他の子に話しかけられると、直ぐにうつむいてぼそぼそと小さな声で話していた美鳥。
時々手紙やメールのやりとりをすることはあるけれど、直接顔を合わせる機会はあまり無くて。
それでも、大分明るくなっていることだけは、漏れ聞いていた。
『僕だけがいればいい。僕さえいれば他の誰もいらない。こっちに来る少し前にそんな風に言われてさ……。それが哀しくて、僕は誓ったんだ。美鳥の面倒を最後まで見るって』
『それって……』
『うん、いわゆる子供の遊びで良くやる結婚の約束ってやつだよね。でも、僕は本気なんだ。美鳥がどう思ってるか解らないけど、僕は美鳥を好きだから。美鳥を幸せにしたいって思ってる』
自分のことを好きになってくれた人だから、自分の気持ちを包み隠さず伝えたかった。
大事な友達だったから、これからも友達でいたかった。
だから洋は自分の気持ちを包み隠さず口にした。
『その青間さんっていう人は幸せですね、そこまで想ってもらえるなんて。……解りました、洋さんの隣に立つことは諦めますね。でも、友達ではいて下さいますよね?』
寂しげだった微笑みを、優しい苦笑に変えて見詰めてくる澄香に、顔を赤くして頷く洋。
こちらに越してきてから他の人に美鳥のことを話すのははじめてで、自分が抱いている決意を見つめ直したことがやっぱり恥ずかしかった。
- 94 :
-
「でも妬けちゃいますよね。六年越しの片想いを今でも大事にしているんですから」
にこにこと笑いながら澄香が話しかけてくる。
それには応えずに突っ伏した頭を組んだ両腕に押しつけた。
「いい加減、自分の気持ちに素直になるのはいかがです? 私の時にははっきりとおっしゃったんですから、最近まとわりついてるあの子にもはっきり言えばいいのに」
その夕紀を指す言葉に僅かな棘を感じて、洋は顔を上げる。
不機嫌そうな表情で澄香がこちらを見詰めていた。
「あの子を放っておくと、どこまでも無茶苦茶になりかねません。美鳥ちゃんと洋君の仲が壊れるのなんて、私は見たくないですから」
その言い方に、小首をかしげてしまう。
美鳥が夕紀を嫌うのは解らないでもないけれど、少し離れているはずの澄香さえそんなことを言い出すのが不思議だった。
澄香が他人に対してあからさまな敵意を向けることなど、洋は見たことがない。
イジメられていた頃でさえ、ただ泣くだけでいじめてきた相手を嫌っていなかったはずなのに。
「それに、もう良い機会だと想うんです。洋君も美鳥ちゃんもお互いを大事に想ってることは端から見てても解りますし。
だから、つまらない義務感や責任感で自分の気持ちを抑えるのはやめた方が良いと思います。私が言いたいのはそれだけですから」
すっと、澄香が歩き出す。
自然その後を追うように頭を巡らせて、美鳥の所にもどった澄香が美鳥に噛み付かれてるのを何となく眺めていた。
そんな澄香の残した言葉を考えていたせいか、気がつけば全ての授業が終わっていた。
美鳥に話しかけようと立ち上がるのと、ソレよりも早く席を立った美鳥がわざわざ後ろのドアに向かうのは同時で、洋はそれ以上追いかけることが出来なかった。
「……はぁ」
溜息を漏らしながら、何となく美鳥の挙動を目で追っていく洋。
いつもなら部活――新体操部――に向かう前に、洋の方に寄ってきて帰りに待っていて欲しいとか色々喋ってぎりぎりまでいる美鳥が、何も言わずに去っていったのが、少し辛かった。
けれど、それはしょうがないこと。
「やれやれ、全く君も救いようがないね」
自分の席から立ち上がった釆が、呆れたような表情で見詰めてくる。
その理由がわかっていても、洋には応えるつもりは毛頭無くて。
「まぁ、答えるつもりがないのなら、これ以上何も言う気はないがね。まぁなにはともあれ、そろそろ部活の時間だ。行かないのかい?」
「んー、解ってるけどさ」
……カップル揃ってのお節介に洋は小さく溜息を吐きながら立ち上がる。
なんだかんだ言って、二人が自分のことを心配してくれているのだと解っているから。
それでも、その気持ちに答えることが出来なくて。
「あ、滝沢君」
そんな中で、不意にドアの側にいたクラスメートに声をかけられた。
「ん、何?」
「お客さんだよ」
そう言いながら指さしたドアの向こうには、にこやかな笑顔を浮かべた夕紀が立っていた。
- 95 :
-
簡素な机と椅子がいくつか有り、人体模型や薬品とおぼしき物が詰め込まれた棚のある部屋に洋の姿はあった。
「……それで、何の用事なのかな?」
何度となく繰り返した言葉を口にして、洋は夕紀を見詰める。
夕紀に引っ張られるようにして、洋は理科準備室に連れてこられたのだ。
その間殆ど説明らしい説明がなくて、洋としても少し辟易としていたところだったから、夕紀の纏う微妙な雰囲気に気付けなかった。
「あ、ごめんなさい。どうしても洋さんとお話ししたいことがあったんです」
そう言いながら、奥まった机に向かった夕紀が、ポットからお湯を汲んだ。
その慣れた様子に、思わず小首をかしげてしまう。
「えと、それで何でこの部屋に」
「あ、ここうちの部室なんです。今日は休部なんでみんな帰ってるんですけどね」
理科部というのは何となく夕紀の印象にあっていなくて、小首をかしげつつ洋は笑顔を作る。
「あの、悪いんだけど、用事があるなら早く言ってくれないかな?」
「え、あ、ごめんなさい。少しだけ長引くから今お茶とお菓子用意します。だから、それまで待ってて下さい」
その言葉と夕紀の好意を無下にすることが出来なくて、洋はそのまま手近な椅子に腰を下ろした。
窓から差し込む光に照らされる夕紀の横顔はとても楽しそうで、何となく綺麗だなとそんなことを洋は思ってしまう。
洋の入ってるゲーム同好会は別に一日二日休んだところで、文句なんて欠片も言われないけれど、やっぱり顔くらいは出したかったから。
「あ、洋さんは、紅茶とコーヒーどっちが好きですか?」
「んと、僕はコーヒーかな」
答えながら、口元に笑みを浮かべる。
コーヒーの苦手な美鳥がミルク8対コーヒー2の割合でないと飲まないこととか、洋がブラックで飲んでいると脇に来て感心する様に笑う様を思い出したから。
「よかった〜。私もコーヒー好きなんです。洋さんはミルクとお砂糖どうします?」
ふにゃっとした愛くるしい笑顔を浮かべる夕紀に、優しい気持ちを覚える。
夕紀が自分に好意を向けてくれていることは解るけれど、美鳥とも笑いあって仲良くしてくれればいいのにと、そんな埒もないことを思ってしまう。
こぽこぽとコーヒーを入れる音が流れ、洋の前にコーヒーカップが差し出されて、その薫りが鼻腔をくすぐった。
「へぇ、ネスリのブレンドドリップだ。微妙に良いの使ってるね」
「はい、活動費から少し借りたんです。でも、薫りだけでそれだけ解るなんて凄いですね」
くすくすと笑う夕紀が、洋の対面に椅子を持ってきて腰を下ろした。
苦笑を返しながらコーヒーを口に含んだ洋は、体の中にすっと収まった薫りと苦みと酸味に、小さな違和感を覚えた。
「……あれ? これって、こんな味だったっけ?」
以前飲んだものよりほんの少し苦みと酸味が強くて、薫りが僅かに薄いような気がして洋が呟く。
「いつもと変わりませんよ? あ、コレもどうぞ。お昼休みの間に用意しておいたんです」
そう言いながら、スコーンを取り出してくる夕紀。
材料を混ぜ合わせて置けば焼くだけでできあがるスコーンは、それなりにお手軽なお菓子だ。
「でも、部室でお菓子を手作りって言うのも凄いね」
「あはは、私はこの同好会ではお菓子係なんです。さ、どうぞ食べて下さい」
言われるままに手を出して、一口囓る。
「あ、できたてなんだ」
思わず驚きを浮かべながら、またもう一口囓ってコーヒーを流し込む。
極端に美味いと言うわけではないけれど、手作り故のおいしさを感じながら頬が弛むのを抑えられない洋。
「……ふふっ、まだありますよ。あ、コーヒーの方、お代わりいかがですか?」
「あ、うん。頼んで良いか……な…………」
手を伸ばして来た夕紀にカップを渡そうとして、洋は言葉を止めた。
全身から力が抜けたような気がしたのだ。
そして、夕紀がカップを受け取るのと同時に、洋の体は椅子から転げ落ちる。
「な…………なん……これ…………君……は……」
凄まじいまでの眠気が襲ってきて、それでも洋は必で耐えながら夕紀を見上げる。
アングル的にスカートの中が見えてしまうが、そんなことはどうでもよかった。
「ふふっ……、洋さんが悪いんです。あんなのの事をいつまでも忘れようとしない洋さんが。大丈夫ですよ、ちゃんとあんなのの事なんて忘れさせてあげますから」
どこまでも優しい笑顔を浮かべたまま呟く夕紀。
返す言葉もないまま、洋は全身に襲いかかってくる気怠さと眠気に負けてしまう。
その寸前、夕紀の笑顔がやけに大写しになって見えた。
- 96 :
- ……暗い闇の中。
どこかぼやけた頭のまま、洋は所在なげに座っていた。
いや、確かに洋自身は座っているつもりだったが、闇が深すぎて本当に座っているのかどうかは全く解らない。
『……聞こえ…………ますか? ……聞こえ……たら…………頷いて……ください』
闇の向こう側――としか表現できない奇妙な位置から、声が聞こえてきて。
洋はこくんと頷いてみせる。
『それじゃ……今から…………質問します……。YESの時は頷いて……、NOの時は……首を横に振って……下さい。解りましたか……?』
問いかけの声に、こくんと頷く洋。
『貴方の名前は……滝沢洋さんですね?』
その言葉にも頷きながら、声が明瞭に聞こえはじめたことに気づいた。
『古関高校1年B組ですね?』
また頷きながら、小さな違和感を感じた。
どうして、こんな暗闇の中に自分がいるのか解らなくて。
『いま、貴方の前に一人の少女がいます』
そんな違和感を無視するように、声が響く。
その音が、僅かに不快だった。
同時に、声に応じたように闇の中に一人の少女の姿が浮かんだ。
『その少女の名前は?』
「……美鳥」
『フルネームで』
「青間……美鳥……」
それは言うまでもないこと。
洋にとって特別なのは美鳥だけ。
こんな訳のわからない状況で、真っ先に浮かぶのは美鳥意外にいるはずが無かった
『……あなたの目の前にいる少女は、貴方のことを嫌っています』
その声が聞こえた瞬間、洋は頭(かぶり)を振った。
確かにケンカはしたけれど、それでも美鳥が本気で自分を嫌いになるなんて信じられなかったから。
『っ……いいですか、少女は貴方を本気で嫌っているんです。あなたもその少女を本当は嫌いなんです』
その声に、体が頷きそうになって、洋は必でその言葉を否定する。
もし、もし本当に嫌われたとしても、洋が美鳥を嫌いになる事なんてあり得ないから。
『自分の気持ちに気づいていないんですね。貴方はその少女が嫌いなんです、二度と見たくないと思っているほど、記憶から全部消してしまいたいと思っているほど』
僅かに苛立ちの籠もった声。
必で首を横に振って、その言葉を否定する洋。
それだけの事が、どんどん難しくなってくる。
『解らない人ですね。ほら貴方の前の少女の姿が薄れていっています』
その声が聞こえると同時に、美鳥の姿が薄れはじめた。
『少女の姿が消えたとき、貴方の中から少女の記憶が消えます、良いですね?』
ただ首を振って、その言葉に抗う。
薄れそうになる美鳥の姿をそれでも必で思い描いた。
洋に甘えるように上から上目遣いで見詰めてくる美鳥。
にっこりと大輪の花のような笑顔を浮かべる美鳥。
少し頬をふくらませて拗ねている美鳥。
しょぼんとした様子で肩を落とす美鳥。
たくさんの美鳥の姿を思い出して、思い描いて、その言葉をただ忌避する。
- 97 :
- 『まだ、解らないんですか? ……その少女の隣に、もう一人少女が現れました』
どこかぼやけた靄のような人型が美鳥の隣に浮かび上がる。
『サイドポニーの少女です。その少女こそ、貴方が好きになるべき相手です』
美鳥の隣に現れたそれが、夕紀へと変わった。
その夕紀が微笑みながら迫ってくる。
『その少女を好きになるべきです。もう一人の少女は、貴方の中から消えています。もう、消えたんです』
徐々に近づいてくる夕紀。
薄れていく美鳥。
だんだん美鳥の姿が幼くなっていく。
「……い」
『もう、消えたんです。貴方の相手はサイドポニーの少女なんです』
今にも消えそうな弱々しい美鳥の像。
それは小学生の頃の姿で。
ぽろりと、その瞳から涙が零れるのが見えた。
大事な……とても大事な気持ちを壊されそうになっているのが悔しくて。
「いや……だ」
ソレが苦しくて、想いを言葉にした。
「僕の……好きなのは…………愛しているのは……美鳥なんだ」
『っ!!』
声が息を呑む気配が伝わってきた。
「僕は……美鳥のために…………美鳥と一緒にいる為に………………生きて、いるんだ。美鳥だけが……、僕の全てで……、僕の全ては……美鳥のために」『もう、貴方は喋ることが出来ません』
不意に声が聞こえて、喉が凍り付いた。
洋は言葉を吐き出すことすら出来なくなる。
けれど、想いが変わることはなくて。
いつの間にか、夕紀の姿が消えて、美鳥だけが立っていた。
『貴方はもう、動けません。動いてはいけないんです』
言葉がだんだんと体を縛ってくる。
それでも、洋は唇を震わせ続けた。
声が出なくても、想いを唇に乗せる。美鳥を愛していると、ただ美鳥だけを愛し続けていると。
『これから三つ数えたら、貴方は目を覚まします。ですが、私の声に逆らうことは出来ません。私の思いに逆らうことは出来ません。逆らおうと思うことすら出来ません。逆らう理由さえ存在しません。だから、私の言葉に必ず従います。良いですね』
あまりにも一方的な言葉。
答えを返すことが出来ない洋を嘲るように、その言葉が意志を縛り上げていく。
『一、二、三』
世界が変転した。
- 98 :
-
「あ、洋さん。目を覚ましたんですか?」
不意に声をかけられて、洋は周囲を見渡す。
そこは、さっきまでと変わらない理科準備室の中で。
だけど、さっきとは逆に玄関の方に体が向いている。
自分の身に何が起きていたのか理解できないまま、洋はぼうっと夕紀を見詰めた。
なにか、奇妙な夢を見ていた様な気がする。
「洋さん……、それ、すごいですね?」
その声が聞こえた瞬間、ぞくっと背筋が粟立った。
声を出すことも出来ないまま、ただ股間が固くなった事に気づく。
「もしかして、欲求不満なんですか? 私で良かったら、相手をしますよ?」
そんなのしなくて良いから。そう言ったつもりなのに、声が出なくて洋の背筋が凍り付いた。
音もなく近寄って来た夕紀が、洋の両太股に手を置いて大きく割り開く。
やめろと叫んだつもりで、それでも声が出せなくて。
「ふふっ、大丈夫気持ちよくしてあげますから。ちゃんと勉強したんですよ?」
ゆっくりとジッパーが下ろされるのを、ただ見ていることしかできなかった。
大きくふくらんだパンツをズリ下ろされて、ぶるんっと大きく震えながら洋の男根が飛び出した。
「……わ、おっきい」
頬を赤らめた夕紀が熱い視線を向けてくるのが、恥ずかしかった。
洋のそれは――体の小柄さとは裏腹に――二掴みしてもまだ先端が少し余るほどの長さを誇っているから。
自分の体や顔つきとは裏腹に立派すぎるソレは、洋のコンプレックスを増大こそすれ、少しも自信には繋がらなかった。
しかも、ソレを見ているのが、美鳥じゃないことが悔しかった。
洋はただ唇を噛みしめる。
今すぐ、立ち去りたかった。こんな事はされたくなかった。
けれど、体は言うことを聞かない。
「洋さん、凄いです」
はぁっと吐き出した息が洋の男根を掠めて、其処から頭の奥にまで一気に熱が奔った。
ぴくんっと、洋の意志を無視して陽物が震えた。
まるでそれは刺激を受けたがっているようで。
「ふふっ、可愛い」
呟いた夕紀が、洋の固くそそり立つ物を両手で優しく包み込んでくる。
細い指と柔らかな掌の感触、ほんの僅かヒンヤリとした冷たさを感じさせて、限界に達しそうな事を突き付けられた。
「気持ちいいですよね? ほら、ぴくぴく震えてますよ?」
どこか嬉しそうに、楽しそうに告げてくる夕紀。
その顔に浮かぶ優しい微笑みが、あまりにも気持ち悪くて洋は顔を背ける。
同時に、ぎゅっと強く握りしめられた。
「っ!」
思わず悲鳴を上げたのに、口から漏れ出すのは小さな吐息。
「洋さん、目を背けないで。私は、洋さんが苦しそうだから、してあげてるんですよ?」
その言葉に操られたかのように、洋の視線が勝手に夕紀の方へと向いてしまう。
そそり立つ醜魁な肉の棒を包み込む、真っ白な繊手。
それが、美鳥の物でないことに不快感しか感じられなくて。
夕紀の顔が徐々に其処に近づいてくることに、洋は今更気づく。
「……に……を」
やっとの思いで吐き出した言葉に、夕紀が驚いた表情を浮かべて見詰めてくる。
「すごいですね……。でも、ダメですよ? 洋さんは喋る必要なんて無いんですから」
くすくすと笑いながら夕紀が言葉を投げかけてきて、洋はまた声が出せなくなったことを自覚した。
そんな洋に、夕紀が微笑みかけてくる。
「大丈夫ですよ。洋さんのこと、全部解ってますから。だから何かも忘れて、私に身も心も委ねて下さい」
その言葉が、易々と心の中に入ってくる。
それが気持ち悪くて、抗おうと考えて。
だけど、そこから先に進めなかった。
- 99 :
- 「大丈夫、ですから。んぅ……」
夕紀の言葉に従う事に喜びを覚えてしまう自分がいた。
その理由がわからなくて、洋はただ自身の先端にキスをする夕紀を見詰める。
「ん……ちゅっ、ちゅっ」
小鳥のついばむような小刻みなキス。
ゾクゾクと背筋から心地よさがせり上がってきて。
ソレが気持ちいいと言うことを必で否定する洋。
マンガなどで多少の知識はあるけれど、美鳥としたいと思っていたから。
他人にされるなんて、想像すらしていなかったから。
「れろっ」
「っ!」
だけど、先端に舌を這わされた瞬間、息が漏れた。
気持ちいいのだと、体の方が先に理解してしまったのだ。
「れろ……れろ……ちゅっちゅっちゅぅ…………れろんっ」
洋の男根を激しく舐め上げ、舐め下ろして、幹や先端に唇を押しつけてくる夕紀。
時折、愛おしげにほおずりしてくる有様も、体は快楽と受け止めて。
心はただ不快感だけを覚えていた。
「ふふっ、洋さんのすごいです……あーん」
不意に上目遣いに見詰めてきた夕紀が大きく口を開けて、洋のそれをくわえ込んだ。
ぞくりと全身が総毛立った。
温かい口の中に、自分の一番弱い部分を銜えられている。
その事実が最初にあって、それから粘膜同士の接触が震えるほどの気持ちよさを突き付けてくる。
それが悔しくて、洋はただ唇を噛みしめることしかできない。
体が動けば、声が出せれば、拒否するのに。
ぬちゅぷちゅれろぴちゃちゅぽじゅぽ……
股間から響く卑猥な音が、洋の耳朶から心へと流し込まれてくる。
「んちゅ……ちゅっれろんっれろっ……じゅ……ん、きもち、いいですか?」
とろんとした瞳で、口元を嬉しそうにゆがめて、夕紀が言葉を投げかけてくる。
洋には言葉を返すことが出来ないから。だから、ただ夕紀を睨み付けた。
そんな洋に笑顔を向けてきた夕紀が、また洋のソレに顔を寄せる。
コンコンッ
その瞬間、ドアがノックされた。
「……ひー君?」
そして、今もっとも聞きたくなかった声が、部屋の外から響いてきた。
「わざわざ人使ぉて呼び出すなんて、なんの用なん? おるんやろ?」
いらだたしげな声が響く。
きっと、昼間の事でまだ怒っているはずで、今の状況を見られたらとんでもないことになる。
だから止めさせたくて。
だけど、夕紀は停まる気配すら見せなくて。
「……ひー君? 入るで」
からからと音を立ててドアが開く。
制服姿の美鳥が、不機嫌そうな表情のままで立っている。
「ほんまになんの……よう…………なん?」
その表情が、驚愕で凍り付くのが見えて、洋の胸の奥に痛みが走る。
……ただ夕紀が口と舌を動かす音だけが、響いていた。
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