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ヤンデレの小説を書こう!Part52


1 :2012/10/20 〜 最終レス :2013/09/27
ここは、ヤンデレの小説を書いて投稿するためのスレッドです。
○小説以外にも、ヤンデレ系のネタなら大歓迎。(プロット投下、ニュースネタなど)
○ぶつ切りでの作品投下もアリ。
☆現在ssの投下場所としてこのスレでなく、以下の避難所を推奨しています
【書き込みの際には必ずローカルルールを遵守してください!】
 ヤンデレの小説を書こう! 避難所
 http://jbbs.livedoor.jp/internet/12068/
■ヤンデレとは?
 ・主人公が好きだが(デレ)、愛するあまりに心を病んでしまった(ヤン)状態、またその状態のヒロインの事をさします。
  →(別名:黒化、黒姫化など)
 ・転じて、病ん(ヤン)だ愛情表現(デレ)、またそれを行うヒロイン全般も含みます。
■関連サイト
ヤンデレの小説を書こう!SS保管庫 @ ウィキ
http://www42.atwiki.jp/i_am_a_yandere/
■前スレ
ヤンデレの小説を書こう!Part51
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1324357113/
■お約束
 ・sage進行でお願いします。
 ・荒らしはスルーしましょう。
  削除対象ですが、もし反応した場合削除人に「荒らしにかまっている」と判断され、
  削除されない場合があります。必ずスルーでお願いします。
 ・趣味嗜好に合わない作品は読み飛ばすようにしてください。
 ・作者さんへの意見は実になるものを。罵倒、バッシングはお門違いです。議論にならないよう、控えめに。
■投稿のお約束
 ・名前欄にはなるべく作品タイトルを。
 ・長編になる場合は見分けやすくするためトリップ使用推奨。
 ・投稿の前後には、「投稿します」「投稿終わりです」の一言をお願いします。(投稿への割り込み防止のため)
 ・苦手な人がいるかな、と思うような表現がある場合は、投稿のはじめに宣言してください。お願いします。
 ・作品はできるだけ完結させるようにしてください。
 ・二次創作は元ネタ分からなくても読めれば構いません。
  投下SSの二次創作については作者様の許可を取ってください。
 ・男のヤンデレは基本的にNGです、男の娘も専スレがあるのでそちらへ。

2 :
落ちてたんで立てた
即判定に引っかかったか?

3 :
スレ立て乙

4 :
>>2
乙です。風見がにますように

5 :
男「じゃあ行ってくるよ。…ん?何だその顔は?ハハハ、なあに大丈夫だ。こんだけ重武装なんだ、あんな狂ったしつこいだけの女にやられたりしないさ」

6 :
保守

7 :
そろそろ本スレにも職人が戻ってきてくれないかな

8 :
大丈夫?

9 :
http://www.jp.playstation.com/software/title/jp0018npjh00125_00kanoyan120120913.html
ヤンデレゲーがPSPででたけど・・・どう?

10 :
保守

11 :
保守

12 :
保守

13 :
ヤンデレの書き方がわからない。
とりあえず、対象を痛めつけてるのに「好き」とか「愛してる」とか言わせればいいの?
ボコデレをもっと酷くした感じ?

14 :
風見のような糞駄作じゃなければ何でも良いよ

15 :
>>14
なにそれ?

16 :
>>15
その話が始まるとまた変な人が湧いてくるので放っておいてください

17 :
>>16
ハイハイ、風見本人乙乙

18 :
でっ、実際なんなの?

19 :
ウンコです

20 :
>>18
とりあえず保管所にあるSSテキトーに二桁は読んでこいや
話はそこからだ

21 :
風見は半年に渡って、ヤンデレスレなのに寝取られものを投下し続けた荒らし。

22 :
ヤンデレが寝取られるの?

23 :
>>22
そうそう、しかも内容がぬほどつまらない

24 :
保守

25 :
避難所にチョロチョロ出てきたが、すぐにお持ち帰りされやんのwwwwやーいやーい!!w

26 :
>>25
ハイハイ、風見本人乙乙

27 :
もはやテンプレすぎる返し

28 :
ヤンスレで、チンカス共が夢のあと
おまえら俺にデレ過ぎなんだよ!!

29 :
>>28
ハイハイ、風見本人乙乙

30 :
保守

31 :
保守

32 :
ヤン「私は初めてなのに、男くんが初めてじゃないってズルいよね……」
男「ヒエ〜ッ、童貞厨wwww」

33 :
カオスなスレだな…
叩かれてる暇があるならどんどん新しいの作って経験値を貯めなさいよ

34 :
完全にんでらぁ

35 :
まだ終わらんよ

36 :
もう普通に終わってるよ
未だに風見風見言ってるクズ共のせいもあるけど、避難所の投下もクソみたいな厨二ssばっかりじゃねーか
昔みたいな質のいい職人は消えたよ
乙ばっかで皆ほとんどgjしねーし

37 :
GJ

38 :
GJGJGJGJ
おら!!

39 :
>>36
されどワイヤードを超える糞中二は存在しないだろ

40 :
最近のは本当に酷い
中二とか以前に文章力皆無だったりタイトルも語呂悪いし微妙なの多すぎ
でも最近の中で「一度だけ」はまぁまぁだったな。彼女が「一度だけだから」と言ってキスやらなにやらごり押ししてくるのは素晴らしかった
オチがよくわからんし微妙なのを除けば良作かな
ワイヤードは中二だがなんだかんだおもしろかった気がする。途中で知らない格ゲーネタ出てきて萎えたが
それよりもSSも書いていて自称ヤンデレスレの糞コテだっていう奴の作品が良かったな。最近投下ないがどうしてるのだろうか
あとぽけ黒とドラファンの更新来ないな。楽しみにしてるんだが

41 :
カチカチ山の続きが読みたい

42 :
カチカチ山短いがあれもいいな。続きが来ればいいんだが……
兎の嫉妬が素晴らしいね

43 :
兎と言えば兎里だろw

44 :
初心者な自分にはメンヘラと区別がつかなくて困っちゃう。
彼氏に対して猟奇的なのがヤンデレで、自傷癖はメンヘラ?
ヤンデレはメンヘラの一種?

45 :
相手のことが大好きで病んだのがヤンデレ
自分のことが大好きで病んでるのがメンヘラ
だった筈 誰かにそう聞いた

46 :
相手が好きすぎておかしいのがヤンデレ
かまってちゃんがメンヘラ

47 :
ふんふん。

48 :
なるほど。
「もともとおかしい子」ってのは、また違うカテゴリになるみたいだね。
レスありがとう。

49 :
なんか保管庫にある奴ヤンデレっていうよりメンヘラの割合高い気がする
保管庫で何かオススメとかない?

50 :
ぽけもん黒とヤンデレ家族が読みやすいね
ヤンデレにエロ成分はあまり必要ない

51 :
俺の解釈だが、根底として
ヤンデレ←独占欲・執着心・束縛欲
メンヘラ←ナルシスト・かまってちゃん
って関係なんではないかと思う
中学の時あまりにもかまってちゃんな彼女に嫌気がさして別れたら
俺の一番嫌いなクラスメイトと付き合いだしたな…
俺を陥れるでっちあげの噂を流したあたりせめて爪痕でもと思う人間の怖さにビビったな…
ヤンデレではないがある程度通じる部分あるんじゃなかろうか

52 :
何だかんだ言っても完結させた作品が一番だろ。結局完結させなきゃ読む価値なし。
そういう点ではヤンぼうの作者とか、最近だと嘘と真実の作者とか、後はいたか?
まあ完結させる力がある作者が少な過ぎるのかもしれんが。

53 :
ありがと
読んでみるわー
ちなみに個人的には私を離さないで だかが印象に残ってる

54 :
未完でもいいやつはあるよ。読む価値なしは言い過ぎ
俺も未完ってだけで読む気にならないことが多いけど。それでも中には良作もあるよ
ことのはぐるま、ほトトギす、和菓子と洋菓子、ぽけ黒とかオススメ
黒い陽だまりは未完で短いけど文章力高いし
あとなぜか話題にあがらないけど天使の分け前、悪魔の取り分の作者も完結してる長編、短編多めでおすすめ
みんなも自分の好きな作品の話をしようよ
せっかくヤンデレが好きな人達があつまっているんだからさ

55 :
過去作の話は新作投下の邪魔だろ
書き手を萎縮させるだけ

56 :
今年も病んだ年になるぜ

57 :
>>55
まるで男との思い出に浸るヤンデレのようだな

58 :
道満晴明の『ぱらいぞ』に出る呪田さんとか大好物なんだけと、これはメンヘラ行き?

59 :
P「伊織がヤンデレ化してこわい…」
ってssはヤンデレを誤解してない感じでたのしめた

60 :
スレは相変わらずだけど避難所で盛り返してきたね
イイヨーイイヨー

61 :


62 :
あげ

63 :


64 :
風見がにますように

65 :
でも風見がんでも根本的な解決にはなりませんよね?

66 :
ワイヤードの続編まだですか

67 :
風見ネタはもういいよ。あきた。
あいつのSSも性格も糞だが居なくなったヤツを叩いてもしょうがないだろ
けどまあ、狂宴だけは消して欲しいわな
保管庫の汚れだろあれは
ちなみに未来日記のアニメって面白いの?

68 :
風見のSS自体全部消せば良いのになぁ、駄作しかないし

69 :
早く保管庫から風見のSS消してくれ

70 :
>>67
面白かったよ
あんまり映らないけど由乃とユッキーのセクロスがあるよ

71 :


72 :


73 :
誰かssかくやついないのかwww

74 :
2011年頃に書かれてたssの題名が思い出せない
かなりの長編で主人公が硫酸だかなんだを目にかけられちゃう奴
あとヒロインが後ろから後ろからフォークで突きそうとしたり
ヒロインは確か主人公の姉二人なんだけどどっちかが義理の姉って判明してしまうの
田舎からヒロインの妹(?)がやってくるところまでしかわからぬい
もしよければ教えて頂きたく

75 :
見つかりましたスレ違いでしたごめんなさい。。。

76 :
神様が自分がつくった男に恋をして圧倒的な力で男を追いつめるネタは
浮かんだんだけど俺には書けないから誰か書いてくれないかな

77 :
>>75
興味わいたからおしえてくれ ー

78 :
>>76
そのアイディアいいな!お題を付けて書いてもらうのはいい考えだと思うぜ!
それ通りじゃなくてもキッカケにもなりやすいし!プロットやエッセンスだけ言って託すのもアリだと思う。

79 :
>>78
なるほど
ヤンデレのSSは普通のSSと違ってラノベっぽい感じだから
読んでない俺には難しいんだよね……

80 :
風見がねば万事解決

81 :
神様、ねえ……。

82 :
風見のクソは自分の事を「小説家の神」とか言ってたなぁ

83 :
お前ら引きずり過ぎろWWW俺なんてどんなキャラだったか忘れちまったわWWW

84 :
>>80>>82
お前らこの流れでなにわけわかんねえこと言ってんの?
いい加減にしろよ馬鹿共が

85 :
>>84
おっ?久しぶりに風見御本人が降臨したぞ!

86 :
>>83
おや?負け犬が悔しくて帰ってきた^_^
避難所からアク禁食らったせいで駄作投下できない
臆病者が帰って来た^_^

87 :
そういう糞つまんないのもういいから。
お前らみたいなゴミ共のせいでまともな人たちが避難所に流れていったって理解できないのか?
最早どっちが荒らしなんだよ・・・

88 :
>>87
おっ?風見御本人登場だ

89 :
>>87
おっ?風見御本人登場だ

90 :
aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa

91 :
>>83
おや?避難所からアク禁されて駄作投下出来なくなって逃げた臆病者帰って来た

92 :
お前ら・・・只純粋にかわいそうとしか思えんな

93 :
>>92
おや?駄作の投下まだですかぁ?
避難所からアク禁食らって怖くて投下出来ないんですか?

94 :
風見いいね

95 :
>>94
はいはい、自己宣伝乙

96 :
嘘と真実よかった
誰かのエピローグは物語の後の話かな
それとも没設定?

97 :
それと似た「嘘と秘密」は最低だったがな。しかも書いてるのが二代目風見

98 :
風見最高!!

99 :
>>98
はいはい、自己宣伝乙

100 :
>>40
「一度だけ」はネタとしては確かに面白かったよね。でも何の前触れなしかつ
行空けしないで主人公視点からヒロイン視点に変わるってどう?
急に視点が変わるものだから、あれ?主人公ってこんなこと思ってるのか?
って理解するのに時間かかったよ。
そういう書き方ってなんか意味あるのかな。んまあでも、こんなに胸がドキドキ
したのは久しぶりかな。面白かったよ

101 :
風見の駄作が保管庫から消えますように

102 :
避難所最近はレベル低いな……
ヤンデレじゃなくて男をただ痛めつけるだけのメンヘラが跋扈してる
なんなんだろアレは
みんなそのメンヘラ投下喜んでんの
幾ら投下ないからっていかんだろ
M男の集うスレかと思ってしまった

103 :
ここに書けばいいの?なんかいくつかあるよな

104 :
age

105 :
ハードルを上げるとガクブルして書き手がつかず、かといってハードルを低くすれば文になっているかもわからんものが跳梁跋扈する……よし、ならば中道だな。
ただ一個、これさえ出来ていれば大丈夫だよという指標のようなものはないのか?

106 :
ンなもんあったら誰も苦労せんわ

107 :
デスヨネー。

108 :
避難所ようやく面白いの来たな
誰かと思ったら天使の分け前の作者さんか
この人上手いな……

109 :
     ||
   ∧||∧
  ( / ⌒ヽ
   | |   |
   ∪ / ノ
    | ||
    ∪∪   ____________ 
         |※危険!近づくな!!   |
:           |>>1の自の練習中!! |
   :::::::::::::::   |_________________________________|
  :::::::::::::::::::::::         ||
   ::::::::::           ||

110 :
>>105
本来は大量生産の中に名作が含まれてるってのが理想(可能な範囲の理想)だと思うんだが
あとは名作になるように書き手を誘導するとか(ストーリー自体じゃなくて)

111 :
いまさらだけど、主人公がじょじょにやんでいくssとかどうよ?
もうあったら教えて欲しい

112 :
>>111
お前がすでに病んでいる
日記をつけてそれを読み返すといい

113 :
ぽけもん黒がblogに載ってたな
むちゃくちゃ無断転載臭かったが

114 :
誰に許可とればいいんだよw

115 :
いや、許可取るとらんの以前にまとめwikiと持ってたら作者自身のブログなりサイトなり以外で上げちゃアカンだろ

116 :


117 :
もう人いないの?

118 :
いるけどなにか用か?

119 :
いるわよ

120 :
いますよ

121 :
いい加減諦めろよ
このスレは終わった

122 :
あと879レスor479KBもあるんですがそれは

123 :
2008ぐらいがピークだったなあ

124 :
そもそも初代スレが荒れまくりだったのになにを今更

125 :
久し振りに来たけど完璧んでるなここ…

126 :
まあ、避難所のほうで作品が出てるしまだ大丈夫でしょ

127 :
たまには誘導しとこうか
ヤンデレの小説を書こう!@避難所 Part05
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/12068/1349020310/

128 :
ho

129 :


130 :
ヤンデレの小説を書こう!@避難所 Part05
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/12068/1349020310/

131 :
俺が高校時代から温めたネタを投下してやろう
その名も、いない君といる誰かプロトタイプだ

132 :
たまに少年ぽい口調になる普通の高校生サラサ・キサラギが俺っ娘ランサーに股間のふたなり槍でダイナマイトされそうになったところをセイバー(真名護国炎虎)が助けるゲームだよ!!
買え!!

133 :
>>131
あれ…?どこかで聞いた事ある

134 :
第十話、投稿します。

135 :
 田中キリエの回想(一)
 足を引っ掛けられて、私は転んでしまいました。
 妙な浮遊感と共に迫ってくる地面に対して、咄嗟に手が出たのは僥倖だったと思います。前みたいに顔から倒れたりしたら、また眼鏡を割ってしまいますから。
「うぐっ」
 しかし、枯れ枝のように細い私の腕では転倒の勢いを完全にせません。私はしたたかに身体を打ち付けてしまって、苦悶の声を漏らします。
 そして、間髪入れずに次が来ました。
 突如、背中にかかった強い圧力。唐突な負荷によって、肺にたまっていた空気が一気に抜け出しました。苦しい。どうやら誰かに足で踏まれているみたいです。
「あー、ごめんね。葛籠木さん」
 頭上から降ってくる声には、言動とは裏腹に謝罪の念が全く感じられません。現に、踏みつけている足をどかす気配もなく、むしろぐりぐりと力を込めていました。
 やめてください、と私は懇願を申し入れようとしたのですが、背中を踏まれているので上手く発声が出来ませんでした。
 結局、出たのは踏まれた蛙のような奇妙な声で、「何を言っているの?」と馬鹿にした声が上から降ってきます。それは一人二人ではなくって、沢山の声でした。
 くすくすくすくすくすくす。
 せせら笑いが四方から降ってきます。私の視界には先程から床しかうつっていないのですが、教室内の様子は容易に想像出来ました。
 クラスメイト全員が、私を見て笑っているのです。恐ろしいことに、憐憫や同情の想いは全く感じられない、冷たい目をして。
 おそらく、当然のことだと考えられているのだとおもいます。私、葛籠木キリエがイジメられるのは正当な行為であると捉えているのでしょう。
 毛虫や蛾を無条件に気持ち悪がるのと同様に、そこにさしたるバックボーンはない気がします。
 ただイジメたいからイジメる。それだけなのです。
 じわり、と視界が水気を帯び始めます。私は、どうしようもなく悲しくなってしまいました。
「……やめてください」
 今度は、きちんと発音できました。そのせいかは知りませんが、背中にかかっていた圧力がフッと消えて、楽になります。どうやら、足をどけてくれたみたいです。
 私は両腕に力を込めて立ち上がろうとしたのですが、再び背中を強く踏まれて、地面に伏せてしまいます。
 瞬間、眉間に鋭い痛みが走りました。「ああ、やってしまったな」と、思った時には遅かったのです。
 地面に伏した私の側には、フレームの歪んだ眼鏡が転がっていました。どうやら、眼鏡は壊してしまったみたいです。
「葛籠木って、なんかウザい」
 次は頭を蹴られていました。
 眼前に白い閃光が爆ぜ、一瞬、思考が止まります。
 口の中にピリッとした痛みが走りました。口内を切ったのでしょうか。
 次いで、コーヒーカップに乗った時のような酩酊感がじわじわと襲いかかってきました。油断すれば、そのまま嘔吐してしまいそうです。
 私は耐えられなくなって、防御に備えるために身体を丸くしました。それを見て取ったのか、雨のように蹴りが降ってきます。
 私は亀のようにして、ひたすら耐えました。
 すんでのところで堪えていた激情が決壊して、ボロボロと涙が零れます。
 それでも、嗚咽だけは押ししました。それが、私、葛籠木キリエの最後の矜持だったのでしょう。

136 :
 私への攻撃は、次の授業の開始を告げるチャイムによって止まりました。
 今だ。
 私は素早く立ち上がると、脱兎の如く駆け出します。くらくらと再び嘔吐感が襲ってきましたが、それに耐えつつ、無我夢中で走りました。
 背後から上がる嘲笑。逃げ出した私を蔑む声。
 それを聞きたくなくって、私は両手で耳を塞いだ不格好な姿勢で走りました。
「あ」
 しばらく廊下を走っていると、曲がり角のところで担任の教師と出くわしました。
 定年間際の初老である彼は、最初こそ廊下を走る私を諌めようとしましたが、その生徒が私、葛籠木キリエであるとわかると途端に閉口しました。
 担任は無言で、そそくさと横を通り過ぎます。次の授業が始まろうとしているのですが、担任は何も言いません。私が授業に参加しようかしまいが、あまり関係ないようです。
 私は走るのを止めて、遠ざかっていく担任の背中を、教室に入るまでじっと見つめていた。
 目元に溜まった涙を拭ってから、私は考え始めます。
 これから、どうしましょうか。
 今更、ノコノコと教室に戻る気にはなれませんでした。かといって、校内をうろついていても他の教師に咎められてしまうでしょうし……。
 ウーム、としばらく悩んだ末に、私は屋上に向かうことにしました。
 屋上は、平時なら閉鎖されていて重い錠がかかっているのですが、最近は卒業生のアルバム作成に使用しているらしく、その錠が取り除かれているのです。
 それでも、屋上に立ち入るのはいけないことです。
 朝のホームルームでも先生が言っていました。「絶対に屋上には入るなよ」と。もし屋上に侵入したのがバレたら、私はこっぴどく叱られてしまうでしょう。
 でも、構うもんか。
 珍しく、今の私はやけっぱちになっているようです。バレたところでかまやしないさ、と破れかぶれな心境でした。
 私は他のクラスの授業を邪魔しないように、こそこそと忍び足で歩きながら、密かに屋上を目指します。
 道すがら、脳内にリフレインするのは先程の光景でした。
 どうして、こんなことになったのでしょうか。
 胸を占める想いは、それだけでした。
 少し前までは、こんな風ではなかったのです。私はクラスでもあまり目立たないほうで、いつも教室の隅っこで読書をしている暗い子でした。
 それでも、決してイジメられたりはしなかったのです。それどころか、少なくはあったけれど、友人と呼べる者さえいたのです。
 けれど、ある日突然、何かが違ってしまいました。
 今思えば、兆候はあったのです。
 最初は、クラスメイトの何人かの言動に小さな棘を感じるくらいでした。それがどんどん肥大していって、今ではこの有様です。
 言葉の暴力だけなら、まだマシなのです。なんとか耐えることが出来ます。しかし、肉体への暴力はキツイです。
 心の傷のほうが肉体の傷よりも重い、という風潮が世間にはありますが、それは間違っていると思います。やっぱり、殴る蹴るなどのプリミティブな暴力が最も恐ろしいです。
 心への攻撃なら、まだ耐えられます。確かに、心を強くするのは難しいですが、心を麻痺させるのは比較的容易いからです。
 徹底的に我をし、自分自身を俯瞰するような視点を持てばいいのです。
 当事者だけど、他人事。それを金科玉条にしていれば、まだ耐えられるのです。自分をせるのです。
 しかし、肉体のほうはどうしようもありません。身体を強くするといっても、細身で病弱な私にはやはり限界があります。やり返す気概だって持ち合わせていません。

137 :
 そもそも、私は暴力の類はてんで苦手なのです。
 仮に、彼等に対し自由にやり返してもよいという状況が生まれたとしても、きっと私は黙って俯いてしまうでしょう。
 暴力は恐ろしいのです。現在進行形でイジメられている私だからこそ、多少の説得力があると思います。
 でも、私が最も恐ろしいのは暴力じゃない。
 いい機会ですから、私は件のイジメについてとても恥ずかしい告白をしようと思います。もし誰かが聞いていたら、失笑を禁じ得ないような、とても恥ずかしい告白です。
 その告白とは、以下のことです。
 “私がクラスメイト全員にイジメているという事実”です。
 嗚呼、ダメです、ダメです。考えただけで、赤面してしまいます。きっと今の告白を誰かが聞いていたりしたら、きっとこう言うでしょう。
「被害妄想も大概にしろよ。クラスメイト全員が、お前をイジメているはずがないだろ。被害者意識が大きすぎる」と。
 ええ、ええ。全く以ってその通りです。世に遍在する通常のイジメであれば、加害者はせいぜい四、五人。クラス規模のイジメでは、その人数が限界なのです。
 そもそも、一クラス単位の人間が、皆同じように、たった一人の人間に対し悪意を抱くなど不可能なのです。人の気持ちは十人十色、文字通りバラバラなのですから。
 イジメに達するほどまで人を嫌うには、それなりのプロセスがあります。降って湧いたように、自然発生的にイジメが生まれるはずがないのです。
 はい、はい、言いたいことはわかります。声の大きなオピニオンリーダーに従わざるをえず、不本意ながらイジメに加担するというケースだってあるだろうと言いたいのでしょう。
 だけど、それならそういう空気を発するものなのです。自分は本当はこんなことしたくないんだ、という空気がどうしても漏れ出てしまうのです。
 そして、イジメを受ける張本人がそれに気づかないはずがありません。ああ、この人はそんなに乗り気ではないんだな、と加害者の心の機微を感じ取れるのは自明です。
 ――嗚呼、もう、いいです。ヤケクソです。羞恥心なんかはあさっての方向にでも投げて、私はあえてもう一度いいましょう。
 “私、葛籠木キリエはクラスメイト全員から、等しく悪意を持って、等しくイジメられている。そこに強制の気配は皆無である。彼等はあくまで自発的に、自らが進んでイジメを行なっている”

 屋上に着きました。
 人が入ることを想定されていないためでしょう、屋上にフェンスの類はありません。背の低い縁が周囲を囲っているだけでした。
 私は顔を上に向けます。空模様は、生憎よろしくありませんでした。梅雨時というのもあるのでしょうが、厚い雲が空を覆っていて太陽の姿すら視認できません。
 でも、気分は悪くありませんでした。曇天模様の空が、現在の私の心境を現しているようで、なんとなく嬉しくなったからです。
 空という非生物的な存在ではありますが、やはり自分に同調してくれるというのは嬉しいものです。
 私は屋上の中心まで歩いていき、その場に腰を下ろしました。
 六月の生温い風が、髪を揺らします。グラウンドからは下級生と思しき幼い声が、元気に発せられています。気の早いアブラゼミが、控え目にミンミンと鳴いています。
 心地のよい時間です。久しぶりに訪れた平穏でした。
 そのためでしょうか。私の心はいい塩梅に緩んでしまって、気づかぬ間にハラハラと落涙していたのです。
 最近は、改めて意識することがありませんでしたが、私は、葛籠木キリエは、とても、辛かったのです。
 正直に申し上げますと、私はクラスの人たちを恨んでいませんでした。
 別に聖人君子を気取っているわけじゃありません。これは偽りのない、本心からの言葉です。
 原因は全くわからないけれど、私はたぶん彼等を不快にさせるような行いをしてしまったのでしょう。でなければ、そもそもイジメなどが起こるはずがありません。
 なら、仕方がないのです。そのような結果が生じるようなことをしたのは紛れもなく私なのですから。それでクラスメイトを憎んでいい道理にならないでしょう。そこだけは決して履き違えてはなりません。
 だけど、ただ教えて欲しかったのです。私の何がいけなかったのかを。何が悪かったのかを。
 実際に、彼等に問うたこともありました。が、クラスメイト達は侮蔑の表情を私に向けるだけで、何も教えてはくれなかったのです。
 問題点がわからなければ、それを正すことは出来ません。
 私はそれからも必にイジメの原因を探っていますが、未だにそれは見つかっていません。
 私は、どうしてイジメられるようになったのでしょうか――?
 そんなことを考えながら、鳥のさえずりに耳を傾け、瞼を下ろしました。

138 :
 いつの間にか、眠っていたみたいです。
 空はすっかり紫色を帯びて、夜を迎えようとしています。校内の喧騒も、もう聞こえて来ません。完全下校時刻を過ぎてしまってるのでしょう。
 こんなに長く授業をサボタージュしたのは初めてでした。破れかぶれな心境も鳴りを潜めていたので、さすがに罪悪感がわきます。
 ですが、今日はもうイジメを受けることがないという事実にもホッとしました。
 今日も、なんとか乗り越えることが出来た。
 そんな小さな達成感に、私は安堵の息を漏らしてしまうのです。
 その時でした。異変を感じ取ったのは。
 先の集団暴力で眼鏡を壊してしまったので、私の視界は依然ボヤケています。必然、鮮明に物を見ることが出来ません。
 しかし、その朧気な視界の中でも、しっかりと捉えることが出来たのです。
 屋上の縁に立つ、男子生徒の姿は。
 息を呑みました。
 脳裏にチラつくのは自の二文字です。彼はもしかして、今からのうとしているのでは――。
 そう思い立った途端、ダメだ、と強く思いました。
 私自身、イジメを受けているとにたくなることがあります。
 暴力に身を曝されている時、「このままんでしまえたら、どれだけ楽なのだろう」と、絶望に身を委ねかけてしまうこともあります。
 けど、ダメなのです。ぬのは、ダメなのです。
 どうしてダメなのかを、論理的に説明することは出来ません。が、自だけは絶対にダメなのです。人は、生きるのを諦めてはいけません。
 もしかしたら、その道のほんのさきに幸福が転がっているかもしれないじゃないですか。この先には絶望しか有りえないと、誰が証明出来ましょうか。
 だから、イジメを受けている私だからこそ、男子生徒を止めなくてはならないと思い立ちました。
 そうとなれば行動に移しましょう。
 本当は今すぐにでも声をかけたかったのですが、そうしたら彼は驚いてしまって、それで転落してしまうかもしれません。
 だから私は、自分の存在を誇示するためにわざと大きく足を鳴らして、男子生徒に近づいていきました。
 距離が縮まるにつれ、男子生徒の姿も鮮明になってきます。
 男子生徒は私に背を向けるようにして立っているので、表情は伺えません。私に見えるのは、わりかし細い彼の背中だけです。
「……!」
 だけど、その後ろ姿だけで十分でした。彼の発する不安定な雰囲気を察するのには。
 私は足を止めました。なんといいますか、よくわからなくなったのです。
 男子生徒がぬ気でないのは、すぐにわかりました。
 彼からは自者特有の(私自身もよく発してしまうのですが)厭世感のようなものが感じられませんでした。
 どうやら自云々については、私の思い違いだったみたいです。
 だけど。
 男子生徒は、とにかく危うかったのです。
 下手な喩えで申し訳ないのですが、歩き始めたばかりの子供に交通量の多い道路を横断させるのを強制的に見せつけられるような、しかもその道路には信号すら備え付けられていなくって、そのうえ、走行するのは大型の車ばかりで……。
 ああ、いけません。我ながら支離滅裂ですね。
 不思議なことに、彼を見ているとどうしても思考が固まらないのです。思考が散漫になって、不安定になってしまう。
 不安定。そう、彼はとにかく不安定でした。
 私は、当初の目的すら忘れて硬直していました。
 すると、背後にいる人物の気配に気づいたのでしょう。男子生徒はやおら振り向きました。
「あっ……」
 そこで私はようやく、目の前の男子生徒が自分と同じクラスメイトということを知ったのです。

139 :
「鳥島くん……」
 鳥島タロウくん。
 彼は私と同じクラスで、いえ、クラスだけじゃなくって、この市立N小学校で一位二位を争う有名人でした。
 鳥島くんはとても明るくて、男女の区別や学年の差異などもお構いなしに、誰にでも話しかける太陽のような人なのです。
 N小学校の誰もが彼のことを慕っていて、それこそ教師さえも含めて、頼りにしているのです。
 ――いえ、この場合は「でした」と言い換えたほうがよいのかもしれませんね。
 振り向いた鳥島くんの表情は想定通り無機質で、目は虚と見間違えるほどに虚ろでした。
「…………」
 鳥島くんの無言に、私はアッと乾いた息を漏らしてしまいます。
 やはり、鳥島くんを見ていると心がざわつくのです。彼に気圧されてしまい、訳の分からない焦燥感に駆られました。
 とにかく何か話さなくてはと思い、
「あ、の、こんなところで、どうしているんですか?」
 当たり障りのない質問を投げかけましたが、返ってきた反応は無でした。
 彼は私をチラリと見やっただけで、興味も湧かないのか、そのままフラフラと不安定な足取りで屋上を出ていきました。
 ギイィバタン、と金属が軋む音と共にドアが閉まりました。
 それと同時に、私は溜め込んでいた空気を一気に吐き出します。額には、じんわりと脂汗が滲み出ていました。
「こわかった……」
 思わず、声に出してしまいます。それほど、さっきの鳥島くんの視線は怖かったのです。
 上手く、言葉では言い表せないかもしれません。
 鳥島くんの視線は、一言でいえば徹底的な黙。ひたすら私を見ないようにしているようでした。
 それだけなら、只のシカトで済むのですが、彼の場合は違いました。シカトなんて生易しいレベルではありません。まるで人を人と捉えていないみたいな、病的なまでの無視でした。少なくとも同じ人間に向ける視線ではないでしょう。
 あのような視線をぶつけられて動揺しない人間がいましょうか? 間違いなくいないと断言できます。それほどまでに、彼の視線は異常だったのです。
 しかしながら、不思議です。
 確かに、先程の鳥島くんは非常に機械的で非人間的な様相を成していましたが、瞳だけは少し違っていたのです。
 向ける視線こそは別格でしたが、その根源にある瞳は、何故かとても人間らしかったのです。
 そして、ソレは私もよく知っているもので、よく慣れ親しんでいる感情なのでした。
 だけど、ソレが何かがいまいちピンときません。喉に小骨が刺さったようなもどかしさに、私は苛まれてしまいます。
 ――鳥島くんは何を思って、あのような視線を人に向けるのだろう?
 と、私が思考を更に展開させようとした、その時でした。
 私はボヤケた視界の中で、ある物を見つけます。
 手帳です。
 量販店ならどこにでも置いてありそうな安っぽい手帳が、縁の近くに落ちていたのです。位置からして、どうやら鳥島くんが落としていった物みたいでした。
 私は恐る恐る縁まで近づいて、手帳を拾い上げます。
 それなりに使い込まれているようでしたが、それ以外にはなんの変哲もない手帳でした。
 しかし、そのなんの変哲もない手帳が、どうしようもなく私の好奇心をくすぐるのです。
 ――ある日、突然豹変してしまった鳥島くん。その謎が、ここにあるのではないかしら?
 私はゴクリと喉を鳴らしてから、辺りを見回します。
 当然、自分以外に誰もいません。屋上にいるのは、正真正銘私一人です。
 悪いと思う気持ちはありました。ですけど、それ以上にこの手帳が気になってしまったのです。
 私はしばらく逡巡した後に、思い切ってエイッと手帳を開きました。
 私が鳥島くんの謎を解明してみせよう、そう息巻きながら開帳したのですが……
「全然、読めないよ……」
 結論からいえば、手帳を読むことは出来ませんでした。
 ページを満たしている文字の全部がとても癖が強く、どう頑張っても解読が出来なかったからです。
 自分さえ理解出来れば構わないといった感じの、他人が読むことを全く想定していないような文字。
 鳥島くんはいつもこんな字を書いているのか、と少し新鮮な気持ちになりました。

140 :
 でも、もしかしたら――。
 と、私は少し見解の幅を広げてみます。
 これは、もしかして“あえて”こういう文字にしているのではないのだろうか、と私は推察したのです。
 たとえば、こうやって“誰かに拾われたとしても中身を読まれないように”と。
「……さすがに穿ち過ぎかしら」
 自分の極端な推理に呆れて、私は肩をすくめてしまいます。
 それからも、パラパラと惰性でページを捲っていたのです、最後の書き込みがしてあるところで手を止めました。
「ここ、読めるかも……」
 ページの下部にある書き殴り。そこだけは唯一、辛うじて理解出来る文字列を成していました。
 私は必にそこだけを注視し、声に出しながら解読を試みます。
「そろそ、ろ……か、んさつを……さい、かいす、るべき……だろう……?」
『そろそろ観察を再開するべきだろう』
 ページには、そう書いてあったのです。
「?」
 しかし、文字は読めても事情の読めない私には、何が何だかわかりません。
 結局、この手帳を呼んで得たものは鳥島くんに対する罪悪感だけで、彼に関することは何もわからなかったのです。
「手帳、明日ちゃんと返してあげなくちゃな……。それと、勝手に中を見たこともキチンと謝ろう」
 私は手帳のシンプルな表紙をぼんやりと眺めながら、明日の予定を決めました。
「それにしても、鳥島くんか……」
 私は彼の不安定な姿を思い出し、若干の身震いをします。
 鳥島くんは、変わってしまいました。
 彼は、昔はこうじゃありませんでした。絶対に、あんな怖い視線を向けるような人じゃなかったのです。
 鳥島くんはある日突然、己の有していた幅広い交友関係を全て断ち切りました。そして、自ら進んで独りになったのです。
 最初こそは、親しい友人たちも鳥島くんを心配して、彼に積極的に関わろうとしていました。
 が、誰もが彼の普通でない様子に恐れをなして、誰もが離れていきました。
 今では、誰も鳥島くんに話しかけたりしません。彼は、恐怖の対象なのです。
 それに、鳥島くんは己が意図してそうしているのかはわからないのですが、存在感がとても希薄なのです。気をつけて観察していても、何処にいるのかわからなくなる時があるほどです。
 さっきだって、幽霊のようにいつの間にか屋上に居ましたし……。こういう言い方をすると、悪口みたいになってあまり好かないのですが……私は以前の彼ならまだしも、今の彼はどうしても好きになれませんでした。
 鳥島くんは、とても怖い人なのです。
「あ……」
 しかしその時、私はある重要な事に気がついて、瞳を目一杯に広げたのです。それは非常に大きなショックを伴っていて、思わずよろけてしまいます。
 どうして、どうして私は今まで、こんな大事なことに気が付かなかったのでしょう。
 灯台下暗し、とは正にこのようなことを言うのだと殊更に実感しました。
 だって、こんな事実を見落としていいはずがない。

141 :
 ――彼は、鳥島くんだけは、
「鳥島くんだけは、私をイジメない……」
 恥の上塗りだとは重々承知しているのですが、前述したように私は現在“クラスメイト全員にイジメられています”。
 しかし、鳥島くんだけは違ったのです。
 勿論、彼自身が腫れ物扱いされているというのもあるのでしょうが、鳥島くんだけは私をイジメたことが只の一度もありません。
 ナイフのように冷たい暴言を吐いたことも、私の身体に青アザをつけたことも無かったのです。
 その事実に気づいた時、フッと心が軽くなりました。
 まるで重荷を一つ置いていったような、縛る鎖が一つ無くなったような、そんな開放感に包まれたのです。
 尤も、鳥島くんが私を助けてくれた訳でもありません。それこそ、同情さえもしたことがないでしょう。
 彼からすれば、私の存在など路傍の石に過ぎないのです。それどころか、彼の無関心さを考えれば、私がクラスでイジメられているという事実さえ知りえないかもしれません。
 だけど、
「それでも、やっぱり嬉しいな……」
 私の顔は、自然と綻んでしまうのです。
 闇に差し込む、ほんのちょっと光明。それが、私にとっての鳥島くんなのかもしれません。自分の置かれている立場が完全な闇でないというのがわかるだけでも、私にとっては大きな救いに成り得るのです。
 それが、嬉しかった。
 私の中にある鳥島くんに対する恐怖は相変わらず消えませんが、それでも感謝の念だけは湧きました。
 私は大きく伸びをして、空を見上げます。
 空は、本格的に夜を向かい入れようとしていました。夕日は隅に追いやられ、光る星はあちこちに散在しています。
 普段よりも、幾らかマシな気分でした。イジメによる傷の重い痛みも、今はあまりきになりません。
 明日もまた頑張ろう、素直にそう思えました。
 ――けど、本当にそれだけだったのです。
 今日は鳥島タロウくんという微かな光を再確認しただけで、私の周囲は真実、何も変わっていませんでした。
 現在、晴れやかになっている私は、鎮痛剤によって一時的な逃避をしているだけに過ぎません。
 私、葛籠木キリエの現状はこれっぽっちも、どうしようもないほどに、これっぽっちも変わっていなかったのです。
 それは、そう遠くない未来に、すぐに思い知ることになりました。

142 :

支援必要かな

143 :
投稿、終わります。

144 :
>>143
GJ
っていうか懐かしいわ、本スレに投下来ると思わなかったわで驚いた

145 :
gj

146 :
GJ

147 :
乙です。

148 :
かなり前の作品になりますが、第二話、投稿します。

149 :
 突然だが、道路の上で干からびているミミズを想像してもらいたい。夏、特に太陽がさんさんと照りつける猛暑に見られるあの光景をだ。
 誰もが一度は見たことがあるであろう、あの枯れた骸。それを見て、誰もがこう思ったはずだ。
 あいつら、阿呆じゃなかろうか。
 土の中で大人しくしていればいいものを、どうして地表へと這い出て、あまつさえ焼けたコンクリートに身を投げるのか。はっきり言って、訳がわからない。気が狂っているとしか思えない奇行である。
 さて、ここで疑問なのだが、何故ミミズはそのような投身自めいた真似をするのか。
 確かに、ミミズは知能面においては他の生物に比べ著しく劣っているだろう。だが、ミミズには知性が無くとも本能があるではないか。
 仮に誤って真夏の道路へと接近してしまっても、
「おい待てよ、ここらへんちょっと熱くねえか。もしかして、これ以上進んだらヤベェんじゃねえか。俺、干からびてんじまうんじゃねえか」
 と、生まれ持った本能が慌てて警鐘を鳴らし、一命を取り留めるはずなのだ。
 我々人類はあまりに知性が発達しているため忘れがちなのだが、地球上に生きとし生けるものは皆、本能の命によって動いている。
 そうでなければ、生物たちはもっと阿呆な行動をとっているだろうし、生態系なぞとうの昔に崩壊を迎えている。我々は皆、例に違わず本能の奴隷なのだ。
 それでは、もう少し視界を広げてみよう。
 以上の説を敷衍すると、生物はそう簡単に本能を喪失しないことがわかる。当然だ。生物にとって本能はまさに生命線と成り得るのだから。
 なのに、何故ミミズたちは愚行へと走ってしまうのか。何故ハンバーガーの包み紙のごとく自らの命をポイ捨てしてしまうのか。
 フッフッフッフ。
 人類が長らく抱えてきたこの難問を、本日僕が解き明かしてしまったというわけだ。
 いやぁ、ねぇ。まったく、自分の才能が恐ろしいよ。隠された真理を容易く暴いてしまうこの才能がね。もしかしなくても、僕は科学者や探偵に向いているのかもしれない。
 さて。
 いきなりだが、この世紀の大発見とも言っても差し支えのない秘密を、今、僕は惜しみなく世に喧伝しようと思う。
 え? なんだって? 複雑怪奇極まるミミズの謎を、そんな簡単に公表してしまってもいいのかって?
 ははは。なあに、もったいないとは思わないさ。ぜんぜん思わないよ。知識の共有は、人類に与えられた共通の使命なのだから。僕も一人の知識人として、奉仕の精神くらい持ち合わせている。
 えー、ゴホン。
 それでは、公表じゃないか。真夏のコンクリートの上で、ミミズが干からびてしまう理由を。あ、ドラムロールの準備はしといてくれよ。今、一番大事なところなんだから。
 ダラダラダラダラダラダラ、と軽快なドラムロールが響き渡る。スポットライトは四方に揺れ、やがて一点、すなわち僕のところで停止した。
 観客は息をのんでいる。ゴクリ、と生唾を飲み込む音さえ聞こえてきそうな静謐な空間の中、僕はじわじわゆっくり開口する。
 ――その真相とは、
「暑いからだよ!」
 僕は勢いよくソファから立ち上がると、天に向かって咆哮した。しかし、すぐさま熱気と湿気のダブルパンチにのされてしまい、ヘナヘナとフローリングの床に倒れ込む。床はひんやりしていて気持ちよい。
 何故ミミズは焼けぬのか。答えなど考えるまでもなかった。
 ミミズがおかしくなるのは暑いからだ。そして、暑気の影響を受けるのは人間も同じだった。人間だってあまりに暑いと思考が鈍り、全部がどうでもよくなり、やがて本能は陽炎のように立ち消えていく……。
「そんでんでしまうのよね……」
 冷たい床にほっぺたをくっつけ、ひとりごちる。

150 :
 夏休みに入ってから、かれこれ一週間が過ぎていた。
 その間、僕といえば級友たちと共に野球に興じたり、川釣りに出かけたり、自転車で隣町まで行ったりと順調にサマーバケーションをエンジョイしていた。
 そして、今日はたまたま何の遊びの予定も入っていおらず暇だったので、アイスキャンディーを舐めながら夏に放映される懐かしアニメを視聴していたのだが……。
 悲劇はいつも、突然訪れる。
「うんともすんともいわないわね……」
 脚立に登って、しばらくクーラーをいじっていた母さんが遂に諦念を吐き出した。
 少し前までは異音を発しながらも健気に起動していたクーラーは、既に呼吸を止めている。そのためリビングにじわじわと熱気の魔の手が伸び始め、僕の額にもポツポツと汗の粒が浮かび始めていた。
 必然、声にも焦りが生まれるというものだ。
「どうにかならないのか、母さん」
「厳しいわね。今まではゴルフクラブで叩いたりすればすぐに治ったのに、今回はピクリとも動かない。いい加減、寿命だったのかしらん」
 脚立を片付けた後、母さんはクーラーを見上げてしみじみと呟く。
「思い返せば、随分と長く使ってきたからねぇ……」
 母さんは過ぎ去りしクーラーとの日々に郷愁を感じているようだが、僕はそんな悠長な真似できやしない。こちとら活問題なのだ。
「ほ、本当に、本当にどうにもならないのかよ母さん。家族の一員といっても差し支えのない、大切なクーラーくんじゃないか」
「うん。駄目ね。コイツ、完全亡」
 しかし、母さんはむべもなく淡々とクーラーの絶命を宣言した。
「そ、そんな、嘘だ……嘘だよ……」
 僕はフラフラと、それこそいつか見たカツオブシのようにフラフラと、クーラーの下へと歩み寄った。
 膝から崩れ落ち、床に手をつく。胸には、冷え冷えとした風が去来していた。部屋は暑いのに冷え冷えとはこれいかに。
 確かに、このクーラーは長年戦ってくれた。時折不調な気配を見せつつも、それでも殊勝に働き続けてくれた。喩えるのなら、最低限試合をつくってくれるベテランの先発投手である。
 そのクーラー選手の、突然の電撃引退だった。燃費の悪さを黙しつつ我慢を重ねて起用してきた十年目のベテラン選手は、こうも呆気なく終わってしまった。
「くっ……」
 目頭が熱くなった。油断すれば、そのまま落涙しかねないほどの深い悲しみか襲い来る。
 改めて見るクーラーは、確かにオンボロだった。プラスチックの外装は黄ばんでいるし、ところどころひび割れているし、今まで持ったのが奇跡だったのだろう。母さんも、ゴルフクラブで殴打したとか宣ってたし。
 その姿を見て、僕は思い直す。
 これ以上、このクーラーに働けというのは、些か残酷ではないのか。彼は見ての通り、耐年数以上によく働いてくれた。そんな功労者に、僕は更に鞭を打とうというのか。
 ――いや、そんな非道は出来ない。
 水っぽくなった目元を拭い、僕は立ち上がる。
 いい加減、彼を引退させてやろうと決意した。
 人は、いつまでも過去に囚われていてはいけないのだ。それでは、一生前に進めなくなる。同じ地点に留まってしまう。流れる水は腐らないが、溜めた水は腐るだろう?
 ああ、そうさ。確かに、僕だって辛いさ。後ろ髪を引かれるさ。このままずっと、クーラーとの楽しかった記憶を抱いて、永遠に眠り続けていたいさ。
 だけど、それじゃあクーラーは喜ばないだろう。もし彼が生きていたら、きっと僕にこう言うはずさ。さっさと新しい一歩を踏み出せってね。
 だから、僕は未来へと進み出す。
 もう蘇ることのない老兵に無言で敬礼した。心中では簡素な悼みの言葉を送りつつ。
 これで、もう十分だろう。これ以上、過去を引きずるのは野暮ってもんだぜ。
「今までありがとよ……」
 最後に呟き、僕は完全にクーラーと決別した。

151 :
 そして痛ましい表情のまま振り返り、母さんに尋ねる。
「で、新しいクーラーどうしよっか」
「買わないわよ」
「はあああああああああああああああ!?」
 絶叫する。絶叫してしまう。僕は母さんに詰め寄り、非難の声を上げた。
「ななんなな、何を考えているんだ母さん! この類まれなる猛暑を記録している今夏を、クーラー無しにどうやって乗り越えようというんだ」
「はぁ、これだから現代っ子は……。あのねぇ、母さんが子供の頃はクーラーなんかなかったのよ。それでもみんな不平を言わなかったし、暑いなりに頑張って過ごしてた」
「はぁ? いつの時代の話だよそれ。昭和の事情なんて僕にゃあ知ったこっちゃないよ! こちとら平成生まれなんだよ。へ・い・せ・い。ドゥーユーアンダースアンド? 
 それにねぇ、母さん。今と昔とじゃ地球の環境が全く違うってのをちゃんと理解してる? ねえ、地球温暖化って知ってる? 毎年、熱中症でどれくらいの子供が亡くなっているのか知ってる? ねえねえ知ってる? 母さん知ってる?」
「ああ、もう、うるさい!」
 母さんは僕を突き飛ばすと、親の敵にでも相対したかのように睨みつけてくる。ふえぇ……実の息子に向ける視線じゃないよぅ……。
「○○もグダグダと屁理屈こねくり回すんじゃありません! 今最もナウいトレンドは節電でしょうが! ○○も今を生きる現代人なら、もっと地球に優しい高尚な考えを持ちなさい!」
「あ、僕そのスローガン嫌いだな。その地球に優しくってやつ。テレビでもよく云うけどさ、あれほど人間本位な言葉はないよね。そもそも地球の環境はマクロな視点で見れば絶えず変化しているのであり、」
「ほら、また屁理屈こねる!」
 我慢できなくなったのか、遂に母さんはぽかりと僕の頭にゲンコツを食らわせてきた。さり気なく中指を立てたりしてるあたりが実に鬼畜だ。ほんと息子に容赦ないなこの人!
「とにかく、今年の夏はクーラー無しだから! もうこれは決定事項です! 再考の予知はありません! ○○も世俗の辛さを身をもって知るいい機会になるでしょうしね」
「ぐぬぬ……」
 僕は頭を擦りつつ、母さんを睨みつける。が、もう覆す気はないのだろう。母さんはどこ吹く風で口笛なんぞ吹いている。
 しかも、その後すぐにトンデモナイ台詞を吐きやがった。
「じゃあ、母さんは三丁目の後藤さんと近くの洋食レストランでお昼ご飯食べてくるから、○○はお留守番宜しく」
「なんたる生!」
 と、まあこんなやりとりがあったのである。
 そして現在、僕はボイルされたカニのように顔を真っ赤にして、母さんの言付けを守り、健気にも留守番をしているというわけだ。
「あつい……」
 窓を全開にしても、風がちっとも吹かないので室内の温度は全く下がらなかった。生命の危機を感じつつある。真夏の太陽の度を越したイタズラにも限界だった。もうマジで消滅しろよ太陽。
「あ……」
 と、遂に頼みの綱だったアイスキャンディー舐め終えてしまった。
 駄目だ。唯一の清涼材を失った今、このままでは僕は正気を失うだろう。そして、干涸らびかけたミミズのように阿呆な行動へと走り、数多くの黒歴史をつくりあげるのだ。
 いかんいかん。それだけはなんとしても避けなくてはならぬ。
 とはいっても、誰が見ても絶体絶命の状況なのだ。どうやって窮地を抜け出そうというのか。きっと、大半の人はここで諦めてしまうだろう。ミミズの運命を受け入れてしまうに違いない。
 だがしかし、
「僕には奥の手がある……!」
 にやり、と意味深な笑みを浮かべて立ち上がる。
 そう、僕には救世主がいた。地獄にたれこむ蜘蛛の糸のような、最高の救世主が!
 僕は汗水を垂らしつつ、リビングを出て玄関へ向かった。
 救世主のもとに行くのに、さほど時間はかからない。なぜなら、そいつは我が家のお隣に住んでいるからだ。
 僕はサンダルをつっかけると、救世主、もといAの元へと向かったのだった。

152 :
「涼しい!」
 Aの部屋のドアを開けると、室内に溜まった冷気が僕を包み込んだ。身体に蓄積していた熱が一気に抜け、思わず歓喜の声を上げる。
「あー、地上の楽園とはまさに此処のことだな」
 クーラーの下を陣取り、両手を広げて冷気を浴びる。いやー、たまりませんなー。失楽園を通り越して地獄と化してるし我が家とは大違いである。
 けど、少し贅沢を言わせてもらうと室内の温度は僕の火照った身体には少しぬるかった。でも、そこは我慢しよう。この温度にも時期慣れてくるだろうし、我が家の惨状を思えば文句は言えまい。
 と、僕が文明の利器の偉大さに感動していると、背後からのんびりとした声。
「それにしても、○○ちゃんも大変だったね。家のクーラーが壊れちゃうなんて」
 振り向くと、麦茶の入ったグラスを持ったAが相変わらずのニコニコ顔で立っていた。今日は薄いピンク色のワンピースを着ていて、長い髪をアップにまとめていた。
「そうそう、そうなんだよ。しかも母さんはクーラーを新調しないなんて馬鹿げたこと言うしさ。僕、もう少しでミミズみたいになるとこだったんだからな!」
「ミミズ?」
 ミミズという脈絡のない単語にAは首を傾げていたが、すぐに気を取り直し、冷えたグラスを僕に差し出す。
「ありがたい」
 それを受け取って、中を満たしている液体を一気に煽った。冷水が食道から胃に流れていく感覚に、くーっと声が漏れる。夏はやはり麦茶に限るよね。
「それにしてもAはいいよなー。自分の部屋にクーラーがあるなんて」
 と、一息ついてクーラーを見上げた。込み上げるのは、幼馴染みに対する純粋な羨望であった。
「だけどさぁ、ちょっと恵まれすぎじゃないか。Aみたいな現代っ子が多いから、僕達子供は大人にゆとり世代だと揶揄されるんだよ。そこんとこ、ちゃんとわかってる?」
 僕の訳のわからない批判に対し、Aはゴメンナサイと真面目に謝罪していた。
 しかし溜飲の下がらない僕は空になったグラスを突き出しつつ、
「あーあ。もういっそ夏休みの間はこの部屋で暮らそうかな。僕の家と違ってクーラーもあるわけだし」
「そうしなよ」
 唐突な無茶苦茶にも、Aは穏やかな笑みを浮かべて即座に了承した。
 まあ、今のは彼女なりの冗談なのであろうが、あまり魅力的な冗談は言わないで貰いたかった。ほら、僕も本気にしちゃうからさ。冷房の効いた楽園は、僕を留ませるのに十分すぎる魅力があった。
「ま、前向きに検討しておこう」
 それでもなんとか自制心を働かせ、己の出した提案を引っ込める。完全にお釈迦に出来ないあたりが、非常に僕らしかった。
 そっかー、とAはなんともいえない様子で相槌を打っていた。が、彼女は直ぐにいつものニコニコ顔に戻って、
「ところで、○○ちゃん。夏休みの宿題はちゃんとやってる?」
「なつやすみの、しゅくだい……?」
「そんな初めて聞く言葉みたいな反応をされても……」
 夏休みの宿題、ねぇ……。もちろん、そんなのやっていない。
 だけどさ、それも仕方のないことだろうさ。そろそろ終わりを告げるとはいえ、暦は未だ七月なのだ。七月に宿題をやるなんて酔狂な真似、誰が出来よう。いや、誰も出来まい。反語。
「私はやってるけどなぁ……」
 Aはぽつりと漏らす。
 夏休みの宿題進行スキームというものには、性格がよくあらわれる。Aは一日にやる分量を決めてさっさと終わらせてしまうタイプであり、僕は追い込まれるまでは徹底的に行動に移さないタイプであった。
 前者のほうがマイノリティなのは言うまでもあるまい。そして僕は『赤信号、皆で渡れば怖くない』の精神にのっとり、夏休みに入ってから宿題を視界にすら入れていなかった。うーむ、我ながら模範的小学生である。
 長い付き合いのAには、そんなの想定済みだったのだろう。彼女は当然のように僕に提案した。
「なら、夏休みの宿題、一緒にやらない? 早めに終わらせたほうが、夏休みも禍根なく、これまで以上に楽しく過ごせると思うな」
「えー」
 だが、僕は明らかな不満を見せる。
 休息日の労働をキリスト教が禁じているのと同じく、七月に宿題をやるなんて愚行は、もはや神への冒涜に近いと思う。そんな不届きな行い、清廉潔白な僕に出来ようか。いや、出来まい。再び反語。

153 :
 と、そのような屁理屈をこねてみたのだが、
「うーん……」
 Aは困ったように笑ってるだけだった。諌める言葉の一つや二つあってもいいだろうに。
 彼女はいつだって僕に甘いのだ。たしなめる程度のことはするが、説教したり非難したりすることは決してない。
 今だって、それこそさっきの母さんのように「つべこべ言わずに早く宿題をやりなさい」と一喝すればいいのに、Aはあくまで勧めるだけ。
 彼女は、僕を不快にさせることを徹底的にしなかった。それは僕にとって、とても都合のよいことであり、それと同じくらい悲しいことでもあった。
 彼女が折れるのは時間の問題だろう。後一言、不平不満を投げかけてやれば、先の発言は直ぐに撤回するに違いない。
 でも、それでいいのかしらん。
 僕は考える。
 ここで突っぱねるのは簡単だった。しかし、それだと僕は去年と同じように宿題をやらない気がした。楽なほうに流れるのは容易だ。けれど、たまには自分に鞭打つ必要もあるのではなかろうか。
「わかったよ。それじゃあ宿題とってくる」
 そして僕は結局、宿題を決行することにした。
 珍しく僕が殊勝な態度を見せたからだろう、Aは嬉しそうに両手を重ねマアと驚いていた。
「○○ちゃんは偉いね」
 と、Aが僕の頭を撫でるために手を伸ばしてきたので、あわてて身を引いた。同年代の、しかも女子に子ども扱いされるなんて、プライド高い僕としては誠に遺憾なことである。
「頭とか撫でようとすんなって。それじゃあ宿題とってくるから」
 そう言って、僕は憮然とAの部屋を出たのだった。
 灼熱と化した自宅から宿題一式を持ち出し、再びAの部屋へと舞い戻る。
「宿題、全部持ってきちゃったの?」
「うん。どうせ家じゃやらないしな」
 僕の腕には、大量のドリルとプリント類、つまり夏休みの宿題の全てがあった。
 それらを机の上に置いて、ふぅと一息つく。中々の重量であったので、結構な量の汗をかいていた。すると、Aが用意していたタオルで僕の額を拭った。こういう心遣いは、素直にありがたいと思えた。
 僕はクッションの上に腰を下ろすと、にやりと悪どい笑みを浮かべた。
 さてさて。
 話は変わるが、僕は小悪党である。担任の先生も頭を抱えるほどの悪ガキで、悪友と共によくイタズラをしては叱られていた。
 なので、誰かに「キミは真っ当に夏休みの宿題をやる生徒なのか?」と問われれば、僕はニッコリと笑って首を横に振るだろう。
 だから、僕はAにこんなお願いをした。
「それではA。終わってる分の宿題、全部写させてくれない?」
 ケッケッケ。生憎、正々堂々と宿題に臨む性分は持ち合わせちゃいない。最初から頭にあったのはAの宿題を写すことのみ!
「頼むよ。この通ーり」
 と、僕は拝むようにしてお願いしたのだが、
「それは、あまりよくないと思うな」
 いつもならノンストップで了承するAが、珍しく煮え切らない態度をとった。根が真面目な奴なので、宿題を写すという反則行為には大きな抵抗があるのだろう。
「○○ちゃん」
 諭すような口調で、Aは続ける。
「宿題をうつすだけじゃ、○○ちゃんのためにならないよ。確かにこの量の宿題をこなすのはとても大変なことだけど、その分、自力で成し遂げた時の達成感は何にも換え難いものだよ。だから、私は○○ちゃんのためにもきちんと宿題をやったほうが――」
「ああ、そういうのはいいから」
 が、僕はさっさと袖にする。そのての美辞麗句は、僕みたいな悪ガキにとっちゃ逆効果にしかならない。
「うー……」
 それでもAは辛抱強く諭そうとする。
「じゃあ、ほら、わからないところは私がちゃんと教えてあげるから」
「だから、いいって。マジでいいって。宿題見せろって」
「えーと。それなら、一緒に宿題を進めていこう? 二人三脚みたいな感じで。二人で一緒に解いてけば、さして疲れないよ」
「ああはいはいそっすねー。けど僕はいいや。遠慮しとくよ。ほら早く宿題プリーズ」
「うー……」
 Aは己の良心と激しい戦いを繰り広げているようで、頭を抱えてうーうーと唸っている。
 が、勝負は決まってるようなもんだ、と僕は楽観視。
 一見すると悩んでいるように見えるが、僕から言わせりゃ結果なんて火を見るより明らかだった。なぜなら彼女は、絶対に僕に対してNOを言わないからだ。
「……わかったよ。宿題、見せてあげる。でも、今回だけだからね」
 案の定、Aの出した答えはYESだった。
「ありがたき幸せ」
 と、僕はわざとらしいほど恭しく宿題を受け取ったのだった。

154 :
 それからは、二人で黙々と宿題をこなした。といっても、僕のほうは単に写しているだけだったけど。
 しばらくぶりに握る鉛筆の感触に違和感を抱きながら、ひたすら宿題を書き写していく。
 一見すると楽なこの作業。しかし、ことのほか骨が折れた。
 なぜなら、僕にはAの宿題を一字一句写してはならないというハンデがあるからだ。
 Aの高い学力を考慮すれば、今やってる数学のドリルはほとんど正解だろう。それを、残念学力の僕が全て書き写したらどうなるか。間違いなく、先生には反則行為を疑われる。そのため、僕は適度に答えを間違える必要に迫られた。
 なんつーか、それが疲れる。自分だったらこの問題は間違えるだろうなー、とか設問ごとにいちいち考えるのがとても億劫だった。
 たとえば、今やってる算数のドリルだったら、答えだけでなく途中式も誤ねばならない。そして、その途中式を考えるのは自分自身なのであり、必然と脳のリソースを割く必要がある。
 ですからね、その……
「ぜんぜん意味ねーじゃん!」
 僕は鉛筆を投げ出した。
 いくら答えがあるといっても、結局は自分で考えているのだから意味がない。これならいっそ自分でやったほうが楽かもしれぬ。
「休憩、休憩! 休憩しようぜ!」
 ついに脳はオーバーヒート。僕は駄々っ子みたいに喚きながら、床に寝っ転がった。
「うん、そうしようか」
 Aも同調して、規則よく動かしていたシャーペンを手放す。時計を見ると、実際、休憩するには程よい時間だった。
 それからは、まったりとした時が流れた。
 僕はクーラーの駆動音を聞きながらぼんやりと天井を眺めていて、向かいに座るAはどうやら僕の顔を見ているようだった。互いに見飽きた顔だろうに。今さら注視して何があるというのか。
 シャワシャワと、窓の向こうで蝉が騒ぎ立てている。それを聞いて、そういえば今年はまだ虫取りをしていなかったなと思い出す。明日辺り、友人を誘って近くの小山にでも行こうかしらん。
「Aは夏休みどっか行った?」
「うん。クラスの友達と海に行ったり、山でキャンプしたかなあ」
「おいおい、僕より充実した夏休みおくってんなぁ……」
 今日はたまたま家に居たAだが、彼女は僕と違って交友関係もたいへん広いので、夏休みも何かと忙しいのだろう。しかも話を聞く限り遊びのバラエティも富んでいるようで実に羨ましい。
(まあ、Aは僕と違って人望あるし、それに美人だしな)
 僕は身体を起こして、Aの顔を見つめた。必然と見つめ合う形になり、Aは不思議そうに小首をかしげている。が、僕は構わず彼女の顔をじろじろと見回した。
 清楚さを堂々と示す長い黒髪。照りつける太陽をものともしない、白雪のような肌。そして温厚そうな柔らかい笑み。
 たしかに、彼女は綺麗なのだろう。その事は、他でもない僕がよく知っていた。数多くの男子がAの色香にのまれ、そして打ち砕かれていくのを、彼女の横で飽きるほど見てきたのだから。
 ――お前って、Aさんとどういう関係なんだよ。
 耳にタコどころかイカでも出来るんじゃないかというくらいに訊ねられてきた質問。
 ただの幼馴染みだよ、という定型文と化した返答をするのが常だった。その度に彼等は胡乱な目で睨みつけてきたが、こちらとしてはこうとしか答えようがない。Aと僕の関係を一番適切に示す表現は幼馴染みしかないのだ。
(コイツのどこがいいのだろう……)
 僕はAを見ながら、ほとほと思った。
 たしかに、Aはイイヤツである。そこに関しちゃあ僕だって全面的に同意する。しかし異性としてはどうかと問われたら、首を傾げてしまう。
 先述したように、Aは美人だ。けど、僕にはその魅力がどうにも理解できなかった。たしかに顔は整っている。けど、だからどうしたって感じ。美人は三日で飽きる、というのにもまた違った気がした。
 とどのつまり、アレだ。僕はAを自分の家族として捉えているのだ。僕にとってのAは面倒みのいい姉というか、いや、むしろ母親に近しいのかも。
 姉でも妹でもなく、母。他人と考えるのが、最も難しい立ち位置にいる存在。それが、僕にとってのAなのだろう。
 ――ねぇ、Aは僕のことをどう思っているの?
 喉元まで迫り上がった質問を、慌てて飲み込んだ。
 危ない危ない。危うく、ヘンテコな問いをしてしまうところだった。彼女が僕のことをどう思っているかなんて聞くまでもないじゃないか。Aだってきっと、僕と同じに決まっている。

155 :
 なので結局、持て余した質問は、
「宿題、多くないか?」
 という、上澄みめいた世間話に変換することにした。
 Aはキョトンと宿題の山を見つめて、
「そうかな。去年よりは少ないと思うけど」
「いやいやいやいや多いって」
 おいおい、これを少ないとか正気の沙汰じゃねーよ。真偽眼が狂っているとしか思えない。
「漢字ドリルに算数ドリル、課題図書の読書感想文にエコを題材にした水彩画に加え、地域振興がテーマの作文まで書くってんだぜ! うちの学校の教師陣はおかしいよ! スパルタ教育という名の児童虐待だよ!」
「そんな、大袈裟だよ……」
「いいや。百歩、いや万歩譲って宿題がこれだけならまだいいよ。けど、そうじゃないだろう? これに加えて自由研究なるものまであるんだぜ。ああ、ヤダヤダ。本当に嫌になるね。そんなハードタスク、僕にゃあこなせる気が――」
 と、今のやりとりの中、ひいては自分の発言に何やら引っかかる単語があった。僕はその単語を抽出し、ぼそりと口に出す。
「自由研究……」
 そうだ。僕には自由研究があったじゃないか。学校の宿題とは関係がない、個人的な夏休みの宿題が、あったじゃないか。
 僕はさっと立ち上がると、
「ねえ、A。ちょっとお願いがあるんだけど、いいかな?」
「いいよ」
 相変わらずの即答。相変わらずのYES。なるほど、やはり彼女はNOを言わないわけか。
 ようし。それなら、早速始めようじゃないか。宿題の休憩がてらには、ちょうどいいだろう。
 ――それでは、これより実証を開始。
 命題・Aに『NO』と言わせるのは可能であるか。
 僕は少しのあいだ思案を練り込み、
「そんじゃあ、A。三回まわってワンって言ってみてくれる?」
 まずは小手調べ。ボクシングでいうなら牽制のジャブといったところ。付き合いのいい友人ならふざけて承諾してくれるかもしれないという微妙なラインのお願い。
 もっと別種のお願いをされると思っていたのだろう。唐突な、しかも意味のわからない僕のお願いに、Aは疑問符を浮かべている。
「三回まわって、ワン?」
「そうそう。やってくれるかな?」
「うん、いいよ」
 けれど、Aの出した答えはYES。
 彼女はすくりと立ち上がると、その場で三回まわって、
「ワン」
 と言った。
 僕は目を丸くして、お願いを遂行するAを見た。
 ……おお。本当にやりやがった。こんな無意味で訳の分からない阿呆な行いを。なんの躊躇いもなく。なんのおふざけもなく、わりかし真剣な様子で。
 しかしながら、さすがのAも恥ずかしかったようで、赤面しつつ照れ笑いした。
「これで、いいかな?」
「ああ……うん。まあ、オッケーかな」
 しかしなぁ……先の行為の必要性を聞かずに即座にYESと言って、しかも早々にやってのけるとは。フヌン。これはどうして強敵かもしれんぞい。
「A、こっちに来てくれ」
「うん」
 お行儀よく頷き返し、トテトテと僕の近くまで歩いてくると、そのまま腰を下ろす。
 ところで、自由研究の根底を翻してしまう発言になってしまうが、実のところAにNOと言わす方法は既にあったりする。それは、人間の限界を突くお願いだった。
 A、空を飛んでみてくれ。
 一言そう言ってしまえば終わる。言うまでもなく、人間は空を飛べないからだ。さしもの彼女だって、これにはNOと言わざるを得ない。本人がどう思おうか関係なしに、だ。
 しかし、それではつまらないだろう。試合に勝ったが勝負に負けたというやつだ。

156 :
 僕はだね、あくまで正々堂々に、面と向かってAにNOと言わせたいのだ。なので、今の内に宣言しておくが、この実証はスポーツマンシップの精神に則て行うことにする。
 では。
 先の失敗を乗り越え、僕は次の手を打つことにする。
「僕がいいって言うまで、絶対に笑うなよ」
「うん、わかった」
「はっはーん。なぁ、A。うん、って今たしかに言ったな? お前、了承したな?」
「え……たしかに言ったけど、それがどうかしたのかな?」
「いやいや、別にいいんだよ。どうせAはYESっていうと思ってたしね」
 ひっひっっひ。Aは当然のようにYESといったが、果たしてその承諾はいつまで効力を持つかな?
 僕はそろそろと両手を動かし、彼女の脇腹に位置づけると。
 コショコショコショコショコショコショコショコショ。
 全力でくすぐった。
 再び話は変わるが、僕はくすぐりには一家言ある、いわばくすぐりのプロだった。
『ラフ・エンフォースメント』それが小学校での僕の通り名だ。縦横無尽に脇腹を駆け抜ける指捌き、その笑いの衝動から逃れられた者は過去に一人だっていない。まさに必勝ならぬ必笑の技。
 これには微笑みポーカーフェイスのAも耐えられまい。すかさず了承した願いを撤回するはずだ。
 フッ、と僕は勝利を確信し、不敵に笑って彼女を見たのだが、
 ニコニコニコニコ。
 Aの鉄仮面はこれっぽっちも剥がれていなかった。
「なん……だと……」
 戦慄した。これを喰らってもなお、表情筋をピクリとも動かさないなんて……。え、ちょ、お前マジどうなってんの? 感覚中枢んでるの?
「……なぁ、A。くすぐったくないか?」
「スゴクくすぐったいよ」
「なら、なんで笑わないんだ?」
「? 私、笑っていると思うけど」
 うん、たしかに笑っちゃいるよ。でもさぁ……それは僕の求める笑いとはかなり違うんだよね。全然違う。僕が欲しいのは微笑ではなく爆笑なのに……。
「く、くすぐりはもう終わりだ……」
「うん。それで○○ちゃん。他に、何かして欲しいことはあるかな?」
 Aはのんびりと訊いてきたが、こっちはそれどころでなかった。ハッキリいって、絶望に打ちひしがれていた。
 伝家の宝刀であるくすぐりが効かなかったのだ。これ以上何をしろというのか。どうすれば彼女にNOを言わせられるというのか。
 あーあ。もう駄目だ。徐々に自信がなくなってきた。実証を開始してからまだ十分も経ってないってのに……。
 けれども、僕は自分でも気づかぬほど意固地になっていた。なにがなんでもAにNOを言わせたくなっていた。
 ……仕方あるまい。
 正直、あまり気は進まないが禁じ手を使うことにしよう。
「じゃあ、お願いしてもいいかな?」
「うん、いいよ」
「僕、今すごくイライラしているんだ。だから、Aのこと殴らせてくれよ」
 今までにない、剣呑なお願いだった。ピシリと心に軋みが走る。そこそこの小悪党を自認している僕であっても、さすがに言ってて気分が悪くなった。
 勿論、こんな願いは嘘である。ただAにNOを言わせるためだけの脅しだった。生憎と、女子を殴るのに喜びを見い出したりするような特殊な性癖は持ち合わせちゃいない。僕だって、そこまで堕ちちゃいない。
 ――だけど。
 絶対に、AはNOと言うだろう。僕は確信していた。
 誰だって殴られるのは嫌に決まっている。しかも、暴力の理由が僕の満足心のためという非常に理不尽なものだ。
(NOどころか、激怒する可能性だってあるな……)
 僕は内心ヒヤヒヤしつつも、自由研究の成功を確信していた。当たり前だが、こんな馬鹿げた願いにYESという輩はいまい。

157 :
 ――なのに、だ。
 なのに、対面に座るAは、いつもの柔らかい笑みを浮かべたまま、
「いいよ」
 と、了承したのだった。
「は?」
 時間が止まった。聞き間違いだと思った。けど、やっぱりAはニコニコ笑っていて、やっぱりYESと言ったのだ。
 ゾクリと、僕の背筋に明確な怖気が走った。口をあんぐりと開け、呆けたように彼女を見つめる。
「な、なあ。僕、今殴るって言ったんだぞ」
「うん、言ったね」
「Aは、な、殴られるのとか嫌だろ?」
「うん、嫌かな。でも、○○ちゃんがそうしたいのなら、平気だよ。私は、構わない」
「……」
 絶句。ただただ絶句。
 なんというか、Aがすごく恐ろしくなった。なぜなら、彼女はずっと笑顔だったからだ。少しくらい顔をしかめたっていいだろうに、彼女は人形のように笑っている。笑い続けている。
(いやいや落ち着けって……僕は何を怖がっているんだ)
 相手は、あのAだぞ? 今まで、それこそ生まれてからの付き合いである幼馴染みだぞ? 
 ――僕が、Aに恐怖を抱くわけがない。
「ま、まあ嘘だけどね」
 声が上擦っているのを無視して、続ける。
「Aだって、いまのを本気に受け取ったわけじゃないだろ? それを見通してYESって言ったんだろ? なあ、そうだろ? はははは」
 茶化すようにして訊いてみたが、彼女はニコニコと笑うだけで、何も言わなかった。まるで、自分はどう転んでも構わないとでも言うかのように――。
「…………」
 場の空気が、重くなっていた。というか、僕が勝手に重くしていた。自由研究が思わぬ方向に進み出し、うまく舵をとれずにいる。
(どうすればAはNOと言うのだろうか。阿呆な願いにもYES、暴力的な願いにもYES、これでは成す術がない……)
 もう、自由研究なんてやめてしまおうかしらん。こんなことしたって一文の得にもならないし、さっさと夏休みの宿題を再開させたほうがよいのかもしれん。
 そんな、投げやりになりつつある思考の中で、不意に閃いた。神からの啓示であるかのような、まさに天啓。逆転の一手。
 ――そうだよ、これならさしものAだって……。
「なあ、A」
「なに?」
「最後のお願い、いいか」
「最後? 別に最後じゃなくても、いくらでもお願いはきくよ?」
「いいや、これで最後だ」
 僕は首を横に振る。今から言う願いはまさに乾坤一擲だ。逃げ道を塞ぐためにも、これ以上の願いは必要ない。全部、終わりにしてやるのだ!
 僕は今日で一番真剣な表情をつくった。機敏なAはすぐに悟ったのだろう、いつものような笑みをうかべているものの、どこか引き締まった感じがした。
 そんな張り詰めた空気の中、僕は――
「下着を見せてくれないか」
 ――と、言い放った。
「え」
 Aは目を丸くして、
「え、えええええぇぇぇぇええぇ」
 と、瞬時に顔を赤くした。そのまま尻餅をついて、ずりずりと後ろに後ずさる。
 クリティカルヒット。僕は内心、ガッツポーズをしていた。思えば今日どころか、生涯で初めて見るかもしれない微笑以外の彼女の表情であった。
 僕の下した最終作戦は、願いのベクトルを一気に変えることだった。徒労と暴力が駄目だときたら最後は恥辱。Aだってもう舌足らずな童女ではないのだ。うら若き女子にとって、これは耐え難いはず。
 こちらの予想通り、Aは口元をわななかせ、ひたすら驚いていた。前例に無い願いだったからだろう。それだけに、効果は抜群だった。
 しかし、この作戦には思わぬ副作用があったりする。こちらにもダメージが跳ね返ってくることだ。
 僕は、Aとこの手のいやらしい話をしたことが一度もなかった。なので僕自身、結構抵抗があったりする。だが今は自由研究のため私心は捨てるべきだ。

158 :
「うー……」
 Aは顔を赤らめて、小さく呻いている。それでもお願いを聞こうという意志はあるのだろう。震える手でワンピースの裾を掴んでいた。
 部屋の空気が変異していた。
 色で喩えるなら、先ほどまでは暖色系、そして今は過激色。小学生にはあまり吸い慣れない、息の詰まりそうな空気であった。
 もう、ここらで止めておこう。素直にそう思った。Aの反応を鑑みるに、どうせ彼女はYESと言うまい。自由研究は、無事終了したのだ。それに、なにより僕自身がキツかった。
 だからAにお願いの取り消しを申し上げようとしたのだが、
「……○○ちゃんは、私のなんかを見たいの?」
 蚊の鳴くような声で、Aが尋ねてきた。
「え?」
 まさか彼女がNOと言わずに話を進めるとは思っていなかった。先のお願いが決定打だと思っていたので、僕は面食らってしまった。頭の中は絡まった糸のようにグチャグチャしていて、正常な判断が下せない。
 いや、別に見たかねーよ。
 一言。たった一言そういえばよかったのに。僕は頭がおかしくなっていたのだ。
 だから、僕は脳の処理が追いつかぬ内に、とりあえず頷いてしまった。
「……」
 そして、Aは幾らか逡巡した後、勿論彼女自身にそんな気はないのだろうが、焦らすようにじわじわと、ワンピースをたくし上げていく。
「これで、いい……?」
 何度も述べた通り、僕は小悪党なのである。なので、スカートめくりなぞは朝飯前と豪語できる。
 だが、Aに対してはスカートめくりを一度だってしたことがなかった。それは、幼馴染みからくる特有の親愛というか、僕はAをそういう対象に見れないからだ。なので、彼女の下着を見るのはこれが初めてになる。
 白をベースにしたシンプルなデザイン。しかし細かいところに意匠を凝らしているようで、よく見ると精巧な模様が縫われているのが見て取れた。同年代の女子よりは、少し大人びた下着だ。
「…………!」
 瞬間、僕の内奥から途方もない嫌悪感が湧き上がる。親族に対して異性を感じたことによる嫌悪感なのだろうか。とにかく、なんというか、ものすっごく――気持ち悪い。
「もういいから」
 自分でも驚くくらいに、酷薄な声が出た。Aから目を逸らし、舌打ちをひとつ交える。
 この瞬間、僕とAはどうしようもないほど違ってしまった気がした。今までの、気の置けない幼馴染みという枠組みから外れてしまった気がしたのだ。
 我ながら身勝手ではあるが、こんなお願いしなきゃよかったと、今さら後悔の念に襲われた。
「あの、○○ちゃん……?」
 指先を弄りながら、モジモジとした様子でAが訊いてくる。そのいじらしい態度すら、今は煩わしい。
「○○ちゃんは、なんで私の下着なんて見たいと思ったの?」
「んだよ。どうして、そんなこと訊くんだよ」
「えっと、その……だって、○○ちゃん、今までそういう類のこと、言わなかったから」
「いいから。別に見たくなかったから。さっきのだって、ただの冗談だから。なんだかAは真に受けちゃったみたいだけど」
 これ以上、彼女と会話をしたくなかった。今は一刻でも早く、この場から去りたかった。

159 :
「僕、もう行くから」
 そう言って立ち上がり、ドアに向かって歩き出す。しかしAは「待って」と慌てた様子で僕を引き止めた。
「しゅ、宿題は?」
「次回に持ち越しだ」
「家、クーラー壊れてて暑いんじゃないの? 日が落ちて涼しくなるまで、私の部屋にいたほうがいいよ」
「別に家に帰るわけじゃない。これから繁華街のほうをブラブラするつもりだから」
「そ、それなら、私も一緒に……」
「一人で行きたいんだよ。察しろよ」
「…………」
 重い空気。深海にでも放り込められたような……。うわ、なんだ此処。気圧がおかしいって。すごい息苦しい。あー。早くこっから出たい。
「……っ……」
 Aがボソボソと何か言っていたが、うまく聞き取れない。だから訊いた。
「なんだよ」
「ごめんなさい」
 突然、Aは謝った。身体を九十度に曲げて、礼儀正しく。
「どうして謝る」
「だって、私、○○ちゃんを怒らせちゃったみたいだから」
 身を起こしたAは、見ていて可哀相になるほど落ち込んでいた。瞳に涙を溜めて、震える唇を引き結んでいる。
 いつもの僕なら、きっと冗談でもいって彼女を笑かしていただろう。その沈んだ雰囲気を文字通り雲散霧消させていただろう。そして、いつもの幼馴染みの関係に戻っていたはずだ。
 ――だけど、今の僕は、そんなAを気持ち悪いとしか感じなかった。
「じゃあ、僕、本当に行くから。また――」
 ――また今度、とは結局いえずに、僕は黙って彼女の部屋を出たのだった。自己嫌悪と、Aへの嫌悪感を抱えながら。

160 :
投下、終わります。
次回はもっと早く投下するようにしますので、これからもお付き合いいただければ幸いです。

161 :
>>160
うおおおお!
この作品一話だけだったけど大好きなんだ!
すげえ感動して泣きそうw

162 :
もう更新されないだろうなって思ってた作品の
続きがくると嬉しいわw

163 :
おおおおおおお待ってたぞ!!!
一話の時めっちゃ面白くて続き気になってたんだけど、荒らしに自演がどーのこーので絡まれて投下が途絶えちゃったんだよな...
復活GJ!!

164 :
グッジョブです

165 :
ずっと待ってた

166 :
相変わらず主人公がクズやの

167 :
小学生でここまで冷静なクズ思考してる奴いねーよwwwww

168 :
避難所新スレできたよ
やったねたえちゃん
ヤンデレの小説を書こう!@避難所 Part06
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/12068/1378701637

169 :
これ小学生だったのかよ!www怖ww

170 :
書いてる作者が小学生って意味だと真剣に思ってた
俺もそう思う出来映えだから

171 :
風見のクソが復活しそうな感じがするな、避難所

172 :
蠖シ螂ウ縺ォno縺ィ險繧上○繧区婿豕輔ュ縺縲
縺薙l髱「逋ス縺縺ェ窶ヲ縲
縺薙ョ螂ウ縺ョ蟄舌′逞繧薙〒繧九s縺繧搾シ溘a縺。繧縺上■繧譛鬮倥d繧薙¢縲
蝓コ譛ャ蜊倡匱縺ョ荳隧ア縺縺代ョ繧縺、縺ッ隱ュ繧豌励↑縺九▲縺溘°繧芽ヲ矩縺励※縺溘↑縺

173 :
>>160
これ面白いな…。
この女の子が病むんだろ?(もう病んでるのかw
めちゃくちゃ最高じゃねーか!
基本単発の1話だけのやつは読む気なかったから見逃してたなあ

174 :
ヤンデレな姉が好き
すごく好き

175 :2013/09/27
>>174
キモ姉&キモウトの小説を書こうスレ どうぞ
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