2013年10エロパロ159: バーバパパでエロパロ (239) TOP カテ一覧 スレ一覧 Pink元 削除依頼

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バーバパパでエロパロ


1 :2011/09/27 〜 最終レス :2013/09/26
このCM見てよ
http://www.sekisuihouse.co.jp/cm/movies/flash/109/index.html
そう、この眼鏡かけたオレンジの女だよ
どっからどう見てもバイブだろコレ!
何にでも変形できるバーバ一家ってエロすぎる
というわけで職人さんお願いします

2 :
期待を込めてあげておく

3 :
しかも飼い犬はロリータw

4 :
職人かもーん!

5 :
何を書きゃいいんだよww

6 :
すげえw
書けた人を尊敬するかもしれん
楽しみー

7 :
切れ目を入れたコンニャクを相手に、官能小説を書けとw

8 :
とりあえずインスピレーションのためにバーバ動画置いてく
http://www.youtube.com/results?search_query=%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%90%E3%83%91%E3%83%91&aq=f

バーバたちにヤられちゃう人間の女の子でもいいし
変態バーバパパにいいようにされるバーバママでもいい
誰か・・・!

9 :
こいつら元がなんでもアリだからどんなプレイでもできるんだよな。書いてくれる勇者に期待。

10 :
どこが性器なんだよ

11 :
バーバモジャってえろくね?
黒いし毛だらけ
しかも画家
えろーい!

12 :
>>11
それよりバーバララだろう。音楽が趣味らしいがきっと良いヨガリ声を出すに違いない

13 :
出落ちすぎるw

14 :
期待あげ

15 :
>>10
全身に決まってる
何にでも形を変えられるから
触手状になって腕・足縛った上でクンニしながら
チンコ型になって挿入とか
すっごく細くなって子宮内侵入→出産とか
こんなハードなのじゃなくてもいい
作中のネタ程度で家具に変身
女の子が座ったら拘束してイタズラとかその程度でもいい
スケベイスに変身したパパが座ったママをペロペロとかでもいい
つかこれを文章に出来る才能をくれ、今すぐにだ

16 :
バーバズー:自然科学に詳しく、動物大好き
→ 動物をけしかけ獣姦させるS野郎
バーバピカリ:科学、天体物理学などの理数系の知識が深く、発明好き
→ 催淫剤・媚薬作りもお手の物。シャブセク好き
バーバリブ:物知りで、兄弟で一番のしっかり者。本が好き
→ 耳年増・目年増な処女。エロ本片手に毎日オナニーに耽る淫乱

17 :
あれは私が中学生になって最初の夏休みのときでした。
当時私の家には、近所の大学に通う従兄弟の直也さんが同居していて
私と4歳年上の姉は優しいお兄ちゃんのような直也さんの事が大好きでした。
そのせいで、夏休みに私たち姉妹が直也さんの実家に遊びに行った時には
私たちは互いをライバル視するようになっていました。
直也さんの両親に挨拶をすました私たちは、直也さんと三人で近くの海に遊びに行きました。
海で水着に着替えてみると16歳の姉はスタイルも良く、ビキニの水着がとてもよく似合ってます。
それに比べ、私は幼児体型で水着も黒のスクール水着で色気もなにもありません。
自信の現れなのか姉は直也さんに積極的にアプローチして
二人でどこかに行ってしまい、私は鄙びた海水浴場に一人取り残されてしまいました。
『つまらない』
鄙びた海水浴場には私たち以外は家族連れが二組いるだけ、海の家も閉まっていて
隙を持て余した私は直也さんと姉があるいていった岩場の方に行ってみました。
岩場に行ってみると岩陰から直也さんと姉の話し声が聞こえてきたので
岩陰を覗いた私は衝撃のあまり動けなくなってしまいました。
直也さんは水着を脱いで全裸になっていて、その隣で水着のトップスを外して胸を露にした姉が
直也さんの逞しい胸に舌を這わし、やがて舌は直也さんのお腹に下って行き
そして、姉は直也さんのオチンチンを口に含むと音を立てて吸い始めました。
直也さんの方も、姉の水着のボトムの中に手を入れ股間を撫で上げると
姉の身体がピクリと動くのが分かりました。
気がつくと私は水着の上から胸を刺激し、股間の割れ目の上を指で撫でる行為
いわゆるオナニーをしていました。
情けないと思いながらも、身体に電気が走るような感覚に声が出そうになり、慌てて声を噛みしました。
その時です、突然私の後ろから手が延びてきて、私の胸をわしづかみしたと思うと股間を撫で始めました。
驚いた私が声を上げるより先に私の口は大きな黒い手に塞がれ
そのまま身体を反転させられた私が見たのは、バーバパパでした。

18 :
>>17 まwwwwじwwwwかwwww

19 :
支援あげ!!!!

20 :
俺もあげる!!

21 :
上げるぜ!

22 :
あああん

23 :
黒い手だから、ママかモジャだと思ってたのに

24 :
そうか、ママのお万個は真っ黒か

25 :
とりあえず、そのまま押し倒してレ●プ希望。んで言わない代わりに肉便所…やべ、よくあるパターンだ

26 :
バーバモジャに犯されていると思ってたら、
スティンキーでした><

27 :
あげ

28 :
なんてひどいスレだwww

29 :
保守

30 :
おとさない

31 :
バーバモジャに全身くるまれてモサモサされたい
きっと筆責めのもっとすごい世界が待ってる・・・!

32 :
保守

33 :
保守代わりに
「イマジナリーフレンドって言って解る?」
彼女の問いに僕は記憶の底をさらった。
「確か、想像上の友達、という意味だよね。
子供が自分の空想で造る友達の事」
「そう。あなたには居た?」
「……どうだろう。憶えてないって事は居ない、のかな」
「私には居たわ。
私のイマジナリーフレンドは“バーバパパ”だったの」
「“バーバパパ”ってあのピンクの、スライムみたいな奴?」
「『スライムみたいな』って何だか嫌ね。やらしい響き」
彼女が膨れっ面をする。
確かに子供の頃の大切な思い出に対して、ちょっと遠慮が無かったかもしれない。
「でも、最初私はその人が“バーバパパ”だって知らなかったの。
図書館の絵本で見て、初めて名前を知ったのよ」
「じゃあ、どこで最初に見たの?」
「家のお風呂」
「お風呂?」
「そう。“バーバパパ”はお風呂に居る人だったわ」
「お風呂で遊ぶおもちゃだったって事?
水に浮かべたり、濡れても平気みたいな」
違うわ、と彼女が苛立った事に僕は怯える。
彼女は基本的には物静かだが、怒った時の容赦がない態度に未だに慣れる事が出来ない。
「“バーバパパ”はおもちゃじゃなくて友達だったの。
最初からそう言っているでしょう。聞いてなかったの?」
「ごめん。じゃあ、その……“バーバパパ”はお風呂に住んでいる友達、だったんだね」
「そうねえ」彼女は少し考え込んだ。
「出会ったときはお風呂に居たし、お風呂で遊ぶ事が殆どだったけど、
時々私についてきて外で遊ぶ事もあったわ」
彼女は懐かしげにふっと笑う。

34 :
「初めて出会った時はびっくりしたわ。
誰もいないと思っていたお風呂場に“バーバパパ”がいたんだもの。
でも居たと知っていたら恥ずかしくてあんな事出来なかったわね」
「あんな事って?」
彼女はちょっと顔を赤らめた。
「おしっこしようとしてたのよ。
だって、ずっと我慢していたんだもの。
私が住んでいた家はトイレ付きのユニットバスとかじゃなかったの。
仕方ないでしょ」
「トイレに行けば良かったんじゃない?」
「だってお風呂場から出るなって言われたんもの。
子供としてはそれに従うしかないわ」
なんとなく引っかかったが彼女は言葉を続けた。
「抵抗が無かったわけじゃない。
私ももう小学校に上がっていた頃で、こんな事したら叱られるし、
トイレ以外でおしっこするなんて赤ちゃんみたいですごく恥ずかしい事だって理解していたわ。
でもその日は朝ご飯を食べてすぐお風呂場に行って、
それからお昼を過ぎてもずっと出してもらえなかったんだもの。限界にもなるでしょ。
それで、パンツだけ脱いでしゃがみこんだの。
トイレならパンツを下ろすだけで普通に出来たけど、
何の目印も無いお風呂でパンツを汚さずにおしっこ出来る自信が無かったから。
半日位居たお風呂場だったけど、靴下に湿気が染み込んですごく気持ちが悪かったのをおぼえてる。
もし靴下も汚しちゃったら、そんな事にならないように脱がなきゃって思ったけど、
気持ち悪くてどうしても脱げなかったの。
洗い場は正面に鏡があって、私の姿が良く見えた。
お風呂場なのに普通にセーターとスカートを着て、
でも下半身を丸出しにしてしゃがんでいる自分が見えて凄く変な感じだった。

35 :
男の人は思わない事かもしれないけど、
女はトイレ以外の場所でおしっこする事なんて下手したら一生ないじゃない。
だから、いざしようと思っても出ないのよ。
さっきまで、パンツを脱ぐまで出したくて出したくてどうしても我慢できなかったのに、
洗い場の上にしゃがんだらどうしても出なくなっちゃったの。
おなかに力を込めていきんでも、おなかを押しても出ない。
どうしよう、って思ったわ。
もしもこんな事をしている所に親が来たら、きっと凄く叱られる。
もうお風呂場から出してもらえないかもしれない。
だから、どうしても早くおしっこしなくちゃいけないのに、出ない。
おしっこの出る場所はむずむずする感じなのに、あと一歩が足りないの。
だから、おしっこの場所を触るしかない、って思ったわ。
本当は汚い場所だから、絶対触っちゃ駄目って知っていたけど。
左手の人差し指でちょん、とつついてみた。
それだけじゃ足りないような感じがして、とんとん、とノックをするような感じに。
身体の芯までノックが響くような、これまで味わった事のない感覚だった。
もっと、もっと、ノックすれば、おしっこが出る。
おしっこの場所がだんだん柔らかくふにゃふにゃしてきて、透明なねばねばした汁が出てきたのに、
でも足りない。おしっこが出ない。
『おしっこ、でないよ、だして、でてぇ』
気持ちばかり焦って、そう声まで出してしまったのに、どうしても出てくれない。
しゃがんだ足ががくがくして、お尻をついてしまいそうなのに、
もうノックだけじゃ足りなくて指の腹でごしごしこすっているくらいなのに。
その時“バーバパパ”が言ってくれたのよ。大丈夫だよ、僕にまかせてごらんって。

36 :
私の家のお風呂って正直あんまりきれいなものじゃなかったわ。古い家だったしね。
でもその時鏡の向こうに見えたお風呂は違った。
黴の生えたタイルやどうしても滑りのとれない床が、そんな風な見かけを装っていただけだって解ったの。
黒ずんだタイルや床がどんどんつやつやしたした綺麗なピンク色に変わっていく。
床も冷たくて固かったはずなのに、暖かくてトランポリンみたいにぽよぽよと弾む材質に変わってしまった。
バランスを崩してしりもちをついたけど、全然痛くなくて柔らかく身体を受け止めてくれる。
倒れた身体を背中から誰かが押し上げて支えてくれた。
鏡の中には大きく足を広げておしっこの場所を丸見えにした私と、
それを抱き上げている“バーバパパ”が見えた」
「あの……その“バーバパパ”は絵本のと同じ姿なの?」
「そうね。大まかには同じかしら。あ、もちろん顔はもっと人間らしい顔よ。
絵本の顔はデフォルメされているのね。
ピンク色の大きくて柔らかな身体、目が二つに鼻一つに口一つ、二本の手。
下半身に足は無かったわ。絵本と同じね。
この時、下半身は大きく広がって“私の家のお風呂場”になってた。
床も壁も湯船も、全部“バーバパパ”が私の家のお風呂場に似せて作ったものになっていたわ。
似ているのは形だけで、色は綺麗なピンクだし、ふわふわと柔らかくて暖かいけど。
“バーバパパ”はおしっこを出す為には身体全体の力を抜かなきゃいけないと言ったわ。
どうしたらいいの、って訊いたら、足を大きく広げて横になるようにと言われた。
元々のお風呂場だったら横になるのなんて絶対嫌だったけど、
“バーバパパ”の上なら全然抵抗無かったわ。
“バーバパパ”は私の膝を立てて広げ、足首を押さえた。
首の後ろに枕のような膨らみをあてがってくれたので、ちょっと首を下げれば足の間を見る事が出来たわ。
“バーバパパ”はもう二本手を生やして、スカートを捲り上げた。
白いおなかが丸見えで、急に何も履いていないのが心細くなった。
“バーバパパ”は大丈夫だよ、という風に身体の一部を伸ばしておなかを隠してくれた。
ピンク色の腹巻を巻いているような感じ。
その時はなんとも思わなかったけど、もう少し齢がいってからは腹巻が何となく恥ずかしくて辛い気持ちになったわ。
“バーバパパ”には、そんな事言っても君は腹巻が大好きじゃないかって笑われたけど。

37 :
じゃあやるからね、と“バーバパパ”に言われても、私は何の事か解らなかった。
だから“腹巻”の内側にびっしり“バーバパパ”の指が生えて、
ぶるぶるとおなかをくすぐり始めた時、心の準備が全然出来てなかったの。
『く、くすぐったい! やめて、くすぐんないでぇっ』
そんな風に言えたのは最初だけで、すぐに言葉なんて浮かばなくなった。
“バーバパパ”の腹巻はおなかからセーターの中に入り込んで、
背中も、おっぱいも柔らかく揉み解していく。
初めはくすぐったくて笑いが止まらなかったけど、その内息苦しさが別のものに変わってきた。
おしっこの場所からはとろとろした透明な汁がだらだら垂れていく。
お漏らししたのかなと思ったけど、いつまでもいつまでも止める事が出来ない。
『おもらし、とまんない……どうしよう』
“バーバパパ”は心配ないよ、と言ってくれた。
もっともっと、好きなだけお漏らししていいんだよって。
セーターの中に入り込んだ“腹巻”は最終的にはおっぱいを覆うような形になり、
中でもにゅもにゅ蠢いた。
おっぱいが大人みたいに大きくなって、勝手に動いているような変な感じ。
おっぱいの先の乳首は指でいじいじされたり、ちゅばちゅば吸われたり、柔らかく噛まれたりしてる。
自分でセーターの上から触ってみるともちもちした柔らかさで、すごく気持ちいい。
指が、掌が気持ちいいものを触っているって解るの。
触っているのは“バーバパパ”なのに、自分のおっぱいも融けてしまう。
セーターを捲り上げて、直接“バーバパパ”をいじり始めた頃、
“バーバパパ”は私の太股を覆い始めてた。
内側でパパの指がびっしり蠢くタイツを履かされたような感じ。
おしっこの場所だけがむきだしだから、いつおしっこが出ても平気だね、と“バーバパパ”は言う。
身体の奥から何かが出てきそうで、あっあっと声を出しながら腰を振ってしまう。
おしっこの場所がぶるぶる震える。汁でもう“バーバパパ”はびしょびしょだ。
でも、もしかしたら僕がいじった方がおしっこが出るかなあ、と言われた。
どうしようか、いじる?
『いじって……おしっこのばしょ、いじって、おしっこ、ださせて』

38 :
私がそう言うと、“バーバパパ”は私の股の間に顔を持ってきた。
直接顔を合わせると、やっぱり恥ずかしい。
きみのおしっこの場所はとても綺麗だね、と言われた。
お漏らしでぐちゃぐちゃしていて、何が綺麗なのかよく解らなかったけど、
私のその場所は“バーバパパ”と同じピンクでぬるぬるしていて、
だから“バーバパパ”から見て綺麗なのかなと思った。
“バーバパパ”の口が私のおしっこの場所にあてがわれる。
汚い場所だから駄目だよ、と言おうと思ったけど、パパがずるずると啜ったらもう言葉が作れなくなった。
口からあっとかふぁっとか、そんな意味のない音しか出ないの。
楽器になっちゃったんだ、と思った。
パパが吹いたり吸ったり、弾いたりすると音が出る、楽器。
最初はパパの舌がおしっこの場所にあてがわれていたけど、だんだん違うものになった。
ざらざらした舌が、細かい毛の生えたぷるぷるしたものに変わって奥に差し込まれて、
最初はちょっと痛かったけど、生ぬるい水をそこから流し込まれたら痛みが消えてぽかぽかと熱くなって、でもその代わりにずきずきと、もっともっと触って欲しくなって、
どうしよう、助けてって言ったら太くていぼいぼがたくさんついたもので中をかき回してくれた。
同じものを口にも入れてくれて、苦いはずなのに甘い甘いものをどんどん飲ませてくれるの。
最期にパパのいぼいぼがびゅっびゅっとたくさんおしっこをしたら、
釣られて私もおしっこをお漏らししてしまった。
それまでの人生で一番長いおしっこで、いつまでもいつまでも終らない。
最期にはもう腰から下の感覚が無くなって、体中をぶるぶる震わせていた。
声を出すつもりは無かったのに、いつまでも肺から声が絞り出されて、ピンク色の壁や天井に響いたわ。
おしりにも太ももにもお腹にも、私とパパのお漏らしがついてびしょびしょだった。
しばらく“バーバパパ”にもたれて荒い息をついていたら、こう言われた。
お漏らしで汚れちゃったね。綺麗にしてあげるから、服を脱いでお風呂に入ろう。
私はぐちゃぐちゃになったセーターとスカートを脱いで、
ピンク色の蓋を開けて、ピンク色の湯船を覗き込んだ。
湯船の底には“バーバパパ”の顔があったわ。
周りからはパパの指と舌といぼいぼが数え切れない位生えて、ぴくぴく動いていた。
湯船に足を入れるとき、靴下を脱ぎ忘れた事に気付いたけど、私は構わずに湯船に身を沈めた」

39 :
僕がしばらく黙っていると、彼女は優しく微笑んだ。
「何を考えているか、大体解るわ。
当時、私の母と義理の父は色々なトラブルを抱えていた。
小学校に上がったばかりの子供を一日風呂場に閉じ込めるくらい、日常茶飯事だったわ。
後に二人は離婚するけど、義父は再婚相手の子供に性行為を強要して新聞に載る羽目になった。
私の想像上の友達について、カウンセラーが言う事はいつも同じ」
彼女は僕の胸を撫でる。
「でも、私は今のままで何も困っていないわ。
“バーバパパ”は私の大切な人。
彼は私の望む事をなんでもしてくれるし、私は彼の望む事を何でもしてあげたい」
僕は溜息をついて、彼女に尋ねた。
「さっきから僕を拘束して、肛門を揉みほぐしているのが“バーバパパ”なのかい?」
「いいえ、彼女は“バーバママ”よ。“バーバパパ”の奥さんね」

40 :
きたあああああああ!!!!
gjすごくイイ!!!
優しい態度の鬼畜っていいよねパパいいよ

41 :
ママw
まさかこんなまともな作品が投下されるとは思わなかったよw

42 :
まさかのきれいな話だな

43 :
なぜもっと評価されないんだ?

44 :
バーバリブ×ショタです。濡れ場は10辺りから。
彼女と出会ったのは図書館だった。
同じ本を取ろうとして手が触れ合うという、少女マンガのような出会い。
一通り互いに譲り合った後、その本の著者の話になり、好きな本の話になり、
周囲に咳払いをされるまで夢中で話し込んだ。
赤面した彼女に喫茶店に誘われて、僕はどきどきしながらついていった。
僕は親以外の人と喫茶店に入るのは初めてだった。
小腹が空いている時はいつもファーストフードだ。
高くておしゃれな喫茶店になど入りたいと思った事もなかった。
彼女が“腰を落ち着けたいとき入る”という喫茶店は、柔らかな照明と重厚な木のテーブルが印象的だった。
メニューに並ぶいろんな名前のコーヒーに目を白黒させていると
彼女は“本当はわたし、コーヒーの味の区別つかないの”とこっそり教えてくれた。
彼女は紅茶を、僕はホットココアを頼んだ。
最初は店の雰囲気に気圧されていたが、話を再開するとそんな事は忘れた。
流れる外国の歌が案外かっこいい事に気付いたり、
喫茶店の人がサービスだよと言ってクッキーを一皿つけてくれたりする内、あっという間に夕方になった。
その時になって初めて、僕は青くなった。
財布の中身が彼女におごるどころか、自分の分にすら足りない事に気付いたのだ。
彼女は自分が誘ったのだからおごると言ってくれたが、それは恥ずかしすぎる事に思えた。
必ず返すから、また明日図書館で待ち合わせよう、
そう言うと彼女は眼鏡の下の目をぱちくりさせた後、頷いてくれた。
それが初めてのデートだった。

45 :
次の日、学校が終わると図書館に走った。
財布の中には彼女に返すお金以外にも、貯金箱をひっくり返した全財産が入っていた。
今度こそ、彼女とあのお店に入っても大丈夫だ、たぶん。
彼女は図書館のロビーで僕を待っていた。
手には読みかけの本、傍らにはバスケット。
彼女はさっき来たばかりだと言ったが、本はだいぶ読み進められていて、
待たせてしまったのかも知れないと申し訳なく思った。
それにお金を返したら、もう彼女は僕に用がない。
もう彼女に、会えないのだ。
彼女は立ち上がると、バスケットを手にした腕を後ろに組む。
“ね、ねえ、ケーキ好き?”
唐突な彼女の問いに、僕はよく解らないながら頷いた。
“ちゃんとしたケーキ屋さんのケーキじゃなくて、ただのカップケーキだけど好き?”
“う、うん”
“具がね、バナナしかないの。材料とか買いに行ければ良かったんだけど、昨日の夜思いついたから。
ね、ねえ、バナナは好き?”
“す、すきだよ”
彼女はバスケットを差し出し、ふたを開けた。バターとバナナの匂い。
“て、てて天気がいいから、外で食べない?”
僕は今、頬を真っ赤にしてそう言う彼女と同じ顔をしているんだろうなと思った。
公園のベンチに並んでカップケーキを食べる。
彼女は、お菓子作りが余り得意ではなかったので、ママや姉妹に手伝ってもらったのだと打ち明けた。
聞けば彼女は両親と二人の姉妹と四人の兄弟と一匹の犬と暮らしているのだという。
“ほかの家族の人も本好きなの?”
“あんまり読まないかも。わたしの次に読むのは実験好きの子だけど、
学術書しか読まないから趣味が合わないし”
彼女はずり落ちそうになった眼鏡の弦を押し上げた。
“だから、こんな風に本が好きな人と話した事って、初めてなの。あ、あのね、もしよかったら”
“明日も会おうよ。また、図書館で”
彼女の言葉が終わる前に、その言葉は僕の口から飛び出していた。
僕たちは最後の一個のカップケーキをどちらが食べるか押し問答したあげく、
双方が引っ張りあって半分こにする事に決めた。
互いに触れ合う指は、昨日一冊の本と一緒に触れた指よりも、もっともっと熱く感じられた。

46 :
僕たちはしばらくそんな風にして過ごした。
彼女の手作りお菓子のバリエーションはだんだん増えていき、
一方で僕は彼女にジャンクフードのおいしさを教え込んだ。
僕が買ってきたフライドポテトを彼女は脂っこすぎると言いながらも、
癖になる味だと気に入ったようだった。
出会って二週間ほどしたある日、彼女は思い詰めた顔をして黙ったままでいた。
十分位経ってやっと彼女は、もしも、もしも嫌ではなかったら自分の家に遊びに来て欲しいと言う。
これは決して特別な意味はなく、もし自分の家族に会うのが嫌ならこの話はなかった事にして欲しい、
そう真っ赤な顔で言う彼女に僕は一も二もなく頷いた。
もちろん不安がない訳ではなかった。
彼女は変わり者揃いの一家に僕が引くのではと思っていたようだが、
僕は僕で、何の取り柄もない奴がボーイフレンド面をしていると不愉快に思われるのではと不安だった。
これはどちらも杞憂で、僕と彼女の家族はすぐに仲良くなった。
まあ確かに彼女の兄弟はいたずら好きで、かなりびっくりするような目に何度も合わされたけれど。
こうして思い返してみると、僕と彼女は順調に交際を進めた、ごくありふれたカップルだったのだなあと思う。
彼女が、バーバリブである事をのぞいては。

47 :
「……でね、兄貴がそんなの子供っぽいって言うんだ。そんな事ないよね?」
「……」
「リブ?」
呼びかけると彼女は我に返ったように目をぱちぱちさせる。
「え、ええ。そんな事ないと思うわ」
「……今日、調子悪いの?」
「な、なんでもないわ、大丈夫」
今日の彼女はずっとこんな調子だった。
頬が赤く、ぼんやりと潤んだ瞳はどこか遠くを見ているようだ。
「熱があるんじゃない?」
「……そうかもしれないわ」
「無理しないで、帰って休んだ方がいいよ」
「……ごめんなさい」
彼女と手を振って別れてから、僕は溜息をつく。
実はここ最近、彼女はずっとこうだ。
最初は体調が悪いのかなと思っていたけど、こう何日も続くと流石に違うだろうと思う。
目を合わせると逸らされるし、手を握るとびくっと震える。
何かを言おうとしては口篭って、聞き返すと“なんでもない”と言う。
どうしてそんな風なのか、何か悩みでもあるのかと聞いても、何もないの一点張りだ。
確かに、僕なんかに悩みを言ってもどうにもならないかも知れないけど。
胸が重くなった。
僕は、彼女より年下だ。
初めてのデートのお店に入れるような大人ではない。
頭もあまりよくない。彼女の方がずっと沢山本を読んでて、いろんな事を教えてくれる。
一緒にいても、面白くないのかもしれない。
彼女がずっと言おうとして言えずにいるのは、“そういうこと”なのかもしれない。

48 :
翌日の授業はずっと上の空だった。
もしも彼女が“もう会いたくない”と言ったら、僕はどうしたらいいんだろう。
女の子と付き合うのは初めてなので、もちろんそんな経験は無い。
笑顔で“今までつき合わせて悪かった、終わりにしよう”とか言わなくちゃいけないんだろうか。
そんな事、出来そうにない。
嫌だ。
リブともう会えないなんて嫌だ。
リブが僕といても楽しくない事は解ってる。
それでも、嫌だ。
我がままだけど、会いたいし話したい。
悪い時に悪い事は重なるものだ。自業自得かもしれないけど。
僕は宿題を忘れた為に居残り補習を命じられた。
やっとの事で課題を終らせると、クラスメイトに呼び止められる。
最近付き合いが悪いというのだ。
無理矢理バスケに付き合わされて、抜けられた時は約束の時間を一時間半も過ぎていた。
待ち合わせの図書館のロビーに彼女はいなかった。
いつも見かけるお年寄りたちが世間話をしているだけだ。
以前、待ち合わせに遅れたときは待っていてくれたのに、と理不尽な不満をおぼえる。
こんな風に学校の用事で遅れたとき、
謝る僕に“本に夢中で時間に気づかなかったわ、ごめんなさい”なんて言ってくれたのだ。
もう、僕を待つのも嫌になっちゃったんだ。
そう思うと他の場所に行くのも面倒くさくなり、僕はロビーの椅子に座り込んだ。
おばあさんが声をかけてきたのはその時だ。
「あんた、あのオレンジ色の娘と付き合ってる子だろ?」
「……まあ、付き合っている、というか」
本当は彼女の事を“オレンジ色の娘”なんて言われるのは嫌だ。
確かに彼女の身体の色は僕たちと違うけど、そんな言い方だと彼女が人間扱いされていないような気がする。
「あの娘、さっきまでいたよ。十分くらい前かな。追いかければ間に合うんじゃないかねえ」
「ほんとですか!?」
おばあさんは顔をしかめる。
「まったく。女を待たせるなんていい男失格だよ。ちゃんと追いかけて謝るんだね」
図書館を走って飛び出すと、後からお年寄り達の口笛が追いかけてきた。

49 :
一時間後、僕は彼女の家の前に立っていた。
もうそろそろ日が暮れようとする時間帯だ。
結局、彼女を見つけることが出来ず、彼女が寄り道しそうな書店などをのぞきながら辿りついてしまった。
着いたものの、どうしたらよいか判らない。
家まで押しかけてきて、と嫌な顔をされるかもしれない。
彼女のご両親や兄弟に会っても何を言ったらいいか判らないし、やっぱり帰ろう。
僕は尻尾をふる彼女の愛犬に手をべろべろ舐められながら、そう決心を固めた。
「……リータ! 大人しくして! さっきご飯食べたでしょう」
次の瞬間、愛犬の名を呼びながら彼女がドアを開け、僕と目が合う。
「あ、あの」「え、えと」二人ともしどろもどろで、言葉をつまらせた。
「ごめん!」「ごめんなさい!」謝ったのも、二人ほぼ同時だ。
「さ、先に帰っちゃってごめんなさい」「僕の方こそ、遅くなって、ごめん……」
謝ったところで、次に何を言ったらいいのかが判らない。
真っ赤な顔で見つめあう僕らを、犬は不思議そうに眺めていた。
正直、彼女になんと言って家に迎えられたのかよく憶えていない。
僕も彼女もあーとかうーとか、ほとんど意味のある言葉を話せなかった気さえする。
リビングでお茶を一口飲むまで、家に彼女以外誰もいないことに気付かなかった位だ。
「あ、あのお父さんやお母さんは?」
「みんなで旅行に行ってるの。明日には帰るわ」
僕の顔を見て彼女は目を伏せる。
「嘘ついちゃった。頭が痛いから留守番するって言っちゃったの」
「ど、どうして?」
「だって……」
彼女は顔を真っ赤にして言う。
「あ、会う約束しちゃってたから。会いたかったから」
呆ける僕に気付かないまま彼女は言葉を続ける。
「わ、私といても、つまらないかも知れないけど、会いたかったの」

50 :
「そ、そんな訳ないだろ!」
自分が出した声は思っていたより大きかった。彼女がびくりと肩を震わせる。
「……ごめん、大きい声だしちゃって」
彼女はちょっと涙ぐんだ目で首を振った。
「僕の、方こそ、そう思ってた。
僕って別に取り得もないし、つまんない奴だから……リブに飽きられちゃっても仕方ないって」
「そんな事ない!」
今度は僕がびっくりする番だった。
リブがこんなに大きな声を、それも泣きながら出すところなんて想像した事もなかった。
「わ、私が、全部わるいの。私が、変な事ばっかり、考えちゃったから」
しゃくりあげながら声を絞り出す彼女をおろおろと見つめながら、
僕はやはり子供なんだなと絶望した。
僕が大人なら、彼女をこんな風に泣かせたりしないし、
もしこうなってもどうしたらいいのか判るのに。
だから、僕に出来るのはこれくらいだった。
「リブ」
彼女の手を握る。
「僕、リブの事好きだよ。だ、だから泣かないで。なんでもするから」
そんな、芸のない言葉しか出てこないのだ。
僕はもっと、真面目に本を読んでおくべきだったのかもしれない。
世の中には恋愛を扱った本が星の数ほどあって、
そこではこんな時、もっとずっとましな言葉が使われているはずなのだ。
こんな言葉では到底泣き止んでくれない彼女の涙を止められる、美しい言葉があるはずなのに。

51 :
「リブ、お茶飲む?」
「……うん」
リブの隣で彼女が泣き疲れるのを待つのは人生で一番長い時間だったと思う。
そう思っていたはずなのに、こうして彼女が僕の肩に身体を預けてぼんやりしていると、
何故か胸の中がくすぐったくなるような気持ちが湧き上がってきた。
いつもは落ち着いたお姉さんの彼女が、子供みたいに泣いて僕に身体をくっつけている。
リブって本当は子供だったのかも知れない、と僕は気付いた。
たまたま僕の方が年下だったから、無理してお姉さんらしく振舞っていたのかもしれない。
僕は、彼女に甘えていたのだ。

「ねえ、リブ。僕はさ、子供で頭も悪いけど、リブの為なら頑張るよ。
だから、悩みがあるなら、聞かせて。
そういう事って、話すだけでもずっと楽になるんだよ」
彼女はぎゅっと目をつぶり、首を振る。
「い、言えない。絶対、言えない」
「僕のこと、信じてくれないの?」
「そ、そうじゃないけど」彼女はまた泣きそうな顔になる。
「す、すごく、くだらないことなの。聞いたら、きっと私のことを嫌いになるようなこと」
「そんな訳ないよ」
リブがこんなに悩んで人にも言えないと思うような事なのだ。
「どんな事を聞いても、くだらないなんて思わないよ。リブと一緒に、どうしたらいいか考える」
「じゃあ、じゃあ最初から、話すけど」
リブはずり落ちた眼鏡を直しながら口を開いた。
「私のパパと、ママの話ね」

52 :
リブのパパは生まれたとき、一人ぼっちだった。
両親もなく、土の中から突然生まれたのだ。
リブのパパは自分と同じものを探し、世界中を旅した。
でも、いくら探しても見つからない。
リブのパパは疲れ果て、生まれ故郷に戻ってきた。
そこで、自分が生まれた土の中で、リブのママを見つけたのだ。
「パパとママは結婚して、私たちが生まれたの」
「……ママが見つかってよかったね」
僕は心の底からそう思った。
あのおっとりした彼女のご両親にそんな重い過去があったなんて。
世界中のどこにも自分と同じものがいない、ひとりぼっちの境遇を想像すると胸がつまるようだ。
「……うん」
彼女はうつむいたまま答える。
「パパがこの話をしてくれたのは、私が子供の頃。
すてきな話だと思ったわ。
世界中回って運命の人と出会えたんだもの。
でも今はこう思うの。
世界中回っても、私の同族はいない。
それはもうパパが証明しちゃったんだって」
なんと言ったらいいか判らない僕を置き去りにして、彼女は話を続ける。
「これまでは、そんなに気にしていた訳ではないの。
姿が違ってもみんな仲良くしてくれるし、関係ないって思ってた。
で、でも将来の事とか、考えたら」
彼女がまた顔をくしゃっとさせたので、僕はあわてる。
「そうだよ! 僕は、ずっと仲良くする。
リブが人間じゃなくても、関係ないよ」
口にした途端、間違えたと気付いた。
彼女の顔は奇妙なくらい静かに凍り付く。
「じゃあ、もしあなたに、
可愛い、人間の、恋人が出来たら、
その娘と結婚したら、
それでも私と仲良くしてくれる?」
その言葉と共に彼女に目から涙があふれ出した。
「ご、ごめん、なさい、
こんなこと、いいたく、なかった。
きっと、きらわれるって、わかってた。
わたしは、バーバリブで、
にんげんの、おんなのこみたいに、みてもらえるわけ、ないのに」

53 :
僕は涙が流れる彼女の頬を見つめた。
眼鏡の下の、涙で腫れてしまった瞼を、
彼女が気にするほどには低くないと思う小さな鼻を、
黄色いさくらんぼのような唇をじっと見つめた。
その時の行動が正しかったのか、今も判らない。
もっと言うべき言葉があったんじゃないか、
もっと乱暴ではない手段があったんじゃないかとも思う。
でも、その時の僕はもう限界だった。
あまり頭のよくないただの子供には、それ以上の事は出来なかったのだ。
「リブ」
視界がぼやけて、彼女がオレンジ色の花のように見える。
抱きしめると本当に花の匂いがしてびっくりした。
ゼリーのように、柔らかくて弾力のある彼女の中に僕の身体が沈む。
「好きだ」
僕の右腕は肘まで彼女の身体に飲み込まれていた。
彼女をこんな風に触るのは初めてだった。
温かな泥のような身体をかき回して、ぐちゃぐちゃにする。
彼女がかすれた声であえぐのが可愛くて、心臓が止まりそうになる。
本当はこんな事しちゃいけないと解っているのに、
くにゃくにゃとした触り心地が気持ちよくて止められない。
彼女のほっぺたに、自分の頬をくっつけた。
彼女と僕の涙が混ざり合う。
「すきだよ、へんなことしかいえなくて、ひどいことしかできなくてごめん」
ぎゅっと目をつぶり、彼女の唇に突進する。
ああ、彼女の身体にも硬い部分があるんだなあ、と思ったのは、前歯を押さえてのた打ち回った後の事だった。

54 :
「……大丈夫?」彼女が僕のあごに手をかけて覗き込んでいる。
「……リブは、平気?」
「わ、わたしは、へいき」彼女はちょっと眉を吊り上げる。
「あ、あんなことされるとは、思わなかったけど」
「……ごめん」返す言葉もない。
「あんな、あんなこと無理矢理するの、駄目だよ。犯罪だよ」
「……ごめんなさい」彼女のもう片方の手が僕の頬にかかる。
「せ、性欲を押さえられないとか、けだものだよ、人間以下だよ」
そう言いながら、彼女の手はむにゅむにゅと僕の頬を弄ぶ。
「ふ、ふつうは、無理矢理愛撫されても、快感とかは生じないものなの。
痴漢とかレイプとかで、か、感じてる描写は、フィクション、なの」
彼女が何の話をしているのかは、全く解らなかった。
だが、彼女の顔が目の前にあって、彼女の手が僕の顔を撫で回して、
彼女の身体が僕の身体にぴったりくっついているのが気持ちよくて、何も考えられない。
「だ、だから、あ、あんなふうにさわられても、ぜんぜん、
ほんと、に、ぜんぜん、きもちよくなかったし」
彼女の身体がとろとろと水のように僕のシャツの中に流れ込む。
「あ、ああいうこと、するのが悪いんだから! 
わ、わたしに、なにされても、しかたないんだからね!」
彼女の唇がふんわりと僕の唇を奪ったとき、僕が思ったのは、
なんだやっぱり彼女には柔らかいところしかないんじゃないか、という事だった。
身体中が柔らかくて、温かくて、いい匂いがするなんてすごい。
口の中に何だか甘くてとろとろしたものを流し込まれて、何だろうと思ったら彼女の舌でびっくりする。
ちゅうっと吸うと僕の上で彼女の身体が跳ねた。
同時に僕の乳首がきゅっと握りしめられ、僕は声を上げてしまった。
何だろう。痛いと思ったのに、声が女の子の悲鳴みたいに高くて、痛いはずなのに、もっと握って欲しい。
「や、やらしい、声、でるんだ。きもちいいの?」
「わ、わかんないよ。いたい、のに、も、もっかいやってみて、そしたら、わかる、から」
リブは僕を意地悪な目で見て、かぷっと僕の首筋にかみつく。
「そういう、いやらしいこと、おねだりしちゃ、だめなんだよ。
そんな、こと、いったら」
シャツのボタンがぷつん、と取れた。服の中で彼女の身体が膨れ上がったからだ。
「もっと、もっと、はずかしいこと、させちゃうんだから」

55 :
僕は全裸だけど、全裸じゃない、という状態だった。
服はさっきボタンが飛んだのをのぞけば丁寧に脱がされて、ソファの隅に置かれている。
その上にちょこんとリブの眼鏡が乗せられているのが、とてもくすぐったく感じるられる。
僕の格好はオレンジ色のレオタード。
足はちょっと薄いオレンジ色のタイツに包まれていて、腰の周りには小さなチュチュまでついている。
「やっぱり、女の子の格好、似合う」
彼女の声が首筋にかかって、僕はびくりと震えた。
「は、はずかしい、よ」
「かわいいよ、ほら、窓に映ってる」
窓の外はもうすっかり暗くて、鏡のように僕の姿を映す。
真っ赤な顔をして、女の子のような大きなおっぱいで、
でもレオタード越しにもペニスをがちがちに硬くしている僕を。
そのおっぱいが見えない手に揉まれるようにもにゅっと蠢く。
「リ、リブ、も、もう、胸、やめて、へんに、なっちゃう」
「そう? おちんちんはびくんびくんって、なってるよ。隠しても解っちゃうんだから」
リブの声がするのは、そのおっぱいの中からだ。
「リブの、い、いじわる、え、えろまじん」
「わたし、意地悪だもん。エロ魔人だし」
僕はまた乳首を吸われる感覚に悶えた。
「ほ、ほんとは、いっしょにいるとき、ずっと、やらしいことしか、かんがえてなかったもん。
きみが、年下なのに、わたしのことそういうふうにみてないって、わかってるのに、
毎日、そんなこと考えて、ば、ばれちゃったらどうしようって」
胸だけではなく、わき腹を、お尻を、太ももを、無数の彼女の手が撫で回していく。
「だ、だって、せ、せかいじゅうに、わたしとおなじひとは、だれもいなくて、
じゃあ、わたしって、一生、けっこんできないのかな、とか、処女なのかな、とか、かんがえちゃって、
そんなときに、きみにあって、す、すきになっちゃったから」
尻肉を押し広げられ、布地のような“彼女”が僕の尻に食い込んだ。
お尻の穴に温かくて柔らかなものがぴちゃっと貼りつき、僕は獣のような声をあげる。

56 :
お尻を彼女の舌でねぶりまわされながら、僕はおっぱいをもみまくった。
とろとろで指がめりこむようなおっぱいから、彼女のはあはあいう息遣いが漏れてくる。
「ぼ、ぼくも、ぼくだって、リブで、いやらしいことかんがえて、でも、だめだって、おもって、
だ、だいたいリブ、いつもはだかじゃん、それで、やらしいこと、かんがえない、とか、むり」
そんな事をいいながら、僕は自分の身体を覆う彼女をめちゃくちゃに撫で回す。
まったく、彼女は僕がどれだけ、彼女の細い腰や、まるいお尻や、
薄いけれど女の子らしいふくらみのある胸から目を逸らし続けたと思っているのだろう。
彼女の手と僕の手が争うようにペニスを扱きあって、押し付けられた窓ガラスに僕たちの汁が白い跡を残した。
それを彼女の愛犬が不思議そうな顔で眺め、ガラス越しにぺろぺろ舐める。
「や、やあっ、見ちゃだめえっ」
「りぃ、りぶ、ひぃまごろ、はずかしいの?」
彼女の弱点を見逃すはずもなく、僕は回らない舌の出来る範囲で意地悪そうに返す。
「だ、だって、みられる、のは、だめだよ」
「こん、なにしたの、りぶ、だよ。みせて、あげれば、いいじゃん」
愛犬は窓に残る汁をミルクだと思っているのか、尻尾を振って立ち上がっている。
「まど、あけて、いれてあげちゃおう、か」
そう言いながら窓に思い切り身体を押し付ける。
自分を覆う彼女がきゅうっと身体を震わせ、締め付けるのが解った。
「き、きみだって、え、えろまじん、じゃない、か、
じゅーかん、とか、やらし、すぎ」
じゅーかんって何だろうと思いつつも、彼女の締め付けにもうまともに頭が働かない。
「き、きゅうきゅうしないでぇっ、で、でちゃう、よ」
僕の手の中で、窓ガラスの間で、僕と彼女の身体がこすれあってぐちゅぐちゅと音を立てる。
レオタード状の彼女の身体の間から、白く泡立った汁が太ももへと流れ落ちた。
「あ、ああ、びくびくしてるぅ、わた、わたしのなかで、おちんちんがびくびくしてるぅ、
ね、ねぇ、だ、だして、せーえき、だして」
僕の胸の間から、彼女が顔を出した。
今はもう、レオタードの形ではない。
人型をした彼女が、僕の腰に足を巻きつけて、身体を揺すっている。
真っ赤な、泣きそう顔で、口からだらだら涎を流しながら、僕を真っ直ぐに見つめている。
「せーえき、ほしい。きみの、あかちゃんが、ほしいよ
できないって、わかってる。でも、ほしいの」
僕は腰をがくがくと揺すりながら必で言葉を紡ぐ。
「ぼ、ぼくも、ぼくと、りぶのあかちゃんが、ほしい。
りぶに、あかちゃん、あげたい、
りぃ、りぶに、ぜったいあかちゃんあげう、あげうからぁぁっ」
射精感にびくびくと身体を震わせながらも、僕は腰の動きを止めなかった。
もっと、もっと、彼女の身体の奥まで、なすりつけるように。
彼女が、もう世界中で一人なんだと思ったりしないように。
傍から見れば滑稽だとは解っていたけど、僕は祈るように腰を打ちつけ続けていた。

57 :
二人で絡みあったまま、しばらくぼうっとする。
いつのまにか彼女はソファのような形になって僕をもたれさせてくれていた。
「重くない?」
「全然。わたしたちって、結構力強いから」
「そういえば、君の兄弟に椅子のふりをされた事があったけど」
あの時は本当にびっくりした、などと思い出していると、彼女は頬を膨らませている。
「どうしたの?」
「あの時、君が帰ってから大喧嘩になったの。
だって、私は手も繋いでないのに、か、身体に密着するなんて」
思わず吹き出すと、彼女は更に顔を赤くした。
「今日は、私の上で寝て」
毛布のように、彼女の身体が僕を包み込む。
「お、お風呂も私の中で入って。服も、私を着て、ほ、ほかの服を着たら、許さないんだから!」
早くも僕の下半身で彼女がもこもこと蠢きだし、僕はよだれと嬌声を彼女の上にこぼし始めた。

半年後。
僕の前で、彼女は半年前と同じように泣きべそをかいている。
「……わたしが、わるいの」
「リブが悪いんじゃないよ! だって、こんな風になるなんて誰も知らなかったんだし!」
「せ、責任、とるね。わたしだけで、だいじょうぶ。も、もう大人だもん」
「駄目だよ、そんなの! 僕の責任だよ」
「で、でも、無理、でしょ」
「い、今は。でも、ちゃんと、出来るだけ早く、自活できるよう頑張るから!」
今、僕の腕の中には、卵がある。
彼女の身体の中から出てきた卵だ。
彼女のご両親になんて言ったらいいのだろうと悩みながら、僕は腕の中の重みを心地よく感じていた。

58 :
僕と彼女が“そういうこと”になった三日ほど後の事。
僕を迎え入れた彼女はとてもしょんぼりしていて、何か悪い話があるのだと容易に推測できた。
「バーバブラボーにばれたの」
彼女の兄弟の中では一番しっかりしてそうな彼なら、僕たちの関係に気付く事もあるだろう。
「怒られたわ。パパとママには黙っていてくれるって言ったけど……」
「リブが悪いんじゃないよ、僕が謝るから」
「ううん」彼女はぐすっと鼻をすすりあげる。
「初プレイでそんなマニアックな事するな、トラウマになったらどうするって」
“そっちかよ!”というツッコミを僕はかろうじて飲み込む事が出来た。
「トラウマに、なった?」「や、いや、そんなことないよ」
「本当にごめんなさい」彼女はぎゅっと僕の手を握ってきっぱり言う。
「これからは“普通”にするわ」
そんな訳なので、以降僕たちのプレイはごく普通のものになり、特筆する事でもないと思う。
「ねえ、リブ。僕余りやった事がないから、普通ってよく解らなくて……」
「う、うーん、この本とか、この漫画は、普通、かしら? あ、駄目ね、こっちはマニア向けだわ」
「すごい! リブたくさん持ってるんだね!」
「た、たくさん、じゃないわ! こ、これくらい、誰でも持ってるのよ!」
とか
「……ねえ、リブ。僕、いつものリブが好きだな」
「え、だ、駄目、かな? だって男の子は80%が巨乳派だって」
「立った状態で地面に付くサイズはちょっと……元に戻って」
とか
「この筒みたいなもの、なに?」
「え、男の子がオナニーするときに使うものだって……持ってないの?」
「ないけど……あの、何故リブがそんなものを?」
「だ、だって、私、人間の女の子みたいなもの、ついてないから、参考になるかと思って」
とか
「ねえ、女の子にはクリトリスというすごく気持ちよくなる場所があるってきいた事があるけど、
リブにはないの?」
「私、人間と身体の作りが違うから……似せた形のものは作れるけど」
「……大きすぎない?」「そうかも……これくらいかな?」
「うん、きっと、足の親指くらいの大きさだよ」
とか言う事もあったけど。
二人で、くたくたになった後、一枚のシーツにくるまってキスをしたり、
互いの汗が溶け合うようで、このまま身体も何もかも混ざり合えばいいのに、なんて思うことも、
きっと、どのカップルにもある、ありふれた事なのだろう。

59 :
うひょ!!
大作ありがとう&お疲れさまでした
耳年増のリブかわゆいなぁ
卵から孵るのはどんな子なんだろうw

60 :
何だこれ素敵
確か小さい頃絵本読んで、バーバパパはバーバママ見つけて良かったなあって思ったけど、
子供たちの恋愛について考えた事無かったな……
リブも相手の男の子も可愛すぎる
恋人着て過ごすってエロい

61 :
リブ、いつもはだかじゃん
フイタ

62 :
期待age!
職人さんお願いします

63 :
バーバモジャ:
体色は黒で、毛が生えている鬼っ子。絵や彫刻など、美術系の特技を持っており、特に絵が好き。
他の家族が働く中一人だけ絵ばかり描いていたこともあるが、
その内容はそこでの仕事の経過記録だった。(Wikipediaより抜粋)
とか言うせいで、自分の中のバーバモジャは
「他の姉妹をモデルにしてエロ漫画家デビュー。それが何故かバーバリブにばれてキレられる」
というイメージしか沸かないんだが、どうしたらいいですか?

64 :
いつも自分の書き込みで、その上長くて本当にごめんなさい……
とりあえず、保守代わりに置いておきますね。濡れ場は12〜14ら辺です。
職人さん、マジで来てくれーっ
**
僕は第六感というものを信じている。
ファンタジーとかSFの話ではなく、湿度や温度、意識しない程の視覚や聴覚の変化から
予感のようなものがもたらされるんじゃないか、という意味だ。
渡り鳥が飛ぶ方向を正しく見定められたり、地に眠る蛙が雨を予知して地上に出てくるように
人間のように言葉に頼って生きていない動物たちは、自然にその感覚を使いこなす。
だから人間ではない僕、バーバズーは、人間よりもずっとその感覚が鋭いんじゃないか、
と思っているのだ。
その夜はずっと、予感があった。
胸の奥に、どきどき脈打つような予感。
こういうときは、僕の部屋に新たな住人が増えるんだよな、と考える。
鳥のオオハシくんが来たときも、拾った猫たちがきたときも、こう。
いつかのクリスマスプレゼントで南国の鳥たちをプレゼントされたときの予感に一番近いかもしれない。
僕は、ちょっと嫌な予感かもしれないと眉をひそめる。
あのクリスマスプレゼントの時は、家族全員を巻き込んだ大騒ぎになってしまったのだ。
あのときのような、大騒ぎの予感。
僕は予感を押さえつけて眠るのをあきらめ、窓から外に抜け出した。
すかさず飼い犬のロリータが駆け寄ってくる。
静かにしてたら散歩につれてってあげる、と言っても、もちろん通じる訳はないので、
僕はロリータの頭を撫でて一緒に家を出る。
鳴き声で家族が起きてないといいんだけど。
いつもの散歩コースを回りながら、予感が大きくなっていくのを感じた。
ざわざわと、胸が苦しくなっていく。
やっぱり帰ろうかな、という気になってきた。
これは良い予感じゃない。
例えば猫を拾うにしても、車に轢かれて瀕になっている猫を拾う予感だ。
でも、もうすぐんでしまう猫が最後の救いを求めて横たわっているかもしれないと思うと、
尚更帰る事は出来ない。
そんな風に、すっかり猫を拾う気になっていたので、僕は目の前にあるものが何なのかよくわからなかった。
ゴミ捨て場の金属箱の中に横たわっている、
黒くつるつるした生地につつまれて、
白い乳房と白いお尻と、
猿ぐつわのかまされた真っ赤な唇だけは剥き出しになっている生き物を見ても、
何が何だか解らなかったのだ。

65 :
「だ、大丈夫?」
呼びかけても、当然返事はない。
胸が上下しているので生きてはいるみたいだが、これで大丈夫とはとても言えないだろう。
僕はゴミ箱の中から彼女を掬い上げる。
人間の手ではない、とろとろした柔らかなものが身体の下に滑り込み、そのまま持ち上げられた事に、
彼女はとても驚いたみたいで、口からくぐもった叫びと涎が漏れた。
申し訳ないが、緊急事態なので勘弁して欲しい。
「あー、あの、目隠しとるけど、びっくりしないでね」
そう言いながら、彼女の頭をぴっちり締め付けるマスクに手をかける。
頭の後ろにジッパーがある事に気付くまで少し時間がかかってしまった。
自分の身体の前に、むきだしのおっぱいがあるという状況に何が何だか解らなくなってしまったからだ。
ようやくジッパーを引き上げると、ふんわりとした髪の毛が広がった。
街灯の光に、きらきらと輝く黄金の髪。
そのままマスクを取ると、ぱっちりした瞳が僕を捕らえた。
大きく見開かれる。
「あ、あの、びっくりしたと思うけど、怪しいものじゃないから!」
言いながら、これが怪しくなくてなんだと言うのかと思う。
黄色い不定形の身体に、人間の顔。
両手はあるが、両足はない。
バーバ一家の平均的な体型だが、これが世界の平均じゃない事は僕だって解っている。
「あ、あの、バーバ一家って聞いた事ない?
僕はその一人で、バーバズーって言うんだけど……」
この街では僕たちは有名人だ。
僕の兄弟くらいは見かけた事があるのではないか、と期待する。
「あ、ごめん、口の、外すね」
僕が猿ぐつわを外しても、彼女はぼんやりと僕を見つめるままだ。
きっと、とても恐ろしい目にあったんだ、と僕は胸が痛くなる。
「す、すぐ警察を呼ぶからね」
と言ったものの、僕は携帯電話なんて持っていない。
それどころか、財布も持っていないので、公衆電話も使えない。
「ど、どこかの家を起こして、警察を呼んでもらうから、ちょっと、待ってて」
そう言って立ち上がる僕の手を、彼女が掴む。
「待って、ください」
彼女の唇から、ちょっとハスキーな声が漏れる。
「わたしを、ひろってください」

66 :
「え?」
目を白黒させる僕の前で、彼女は背を向けて、お尻を大きく持ち上げた。
尻肉には、黒々と下手な字で書かれている。
”ひろってください →”
矢印は彼女の身体の中心を向いていた。
「拾ってください」
そう言って、彼女は自分の首についたリードを、僕に差し出す。
そのリードを思わず手にとってから、これはクリスマスに送られた大量の南国の鳥よりも、
厄介な事になりそうだと僕は溜息をついた。

僕の手の中にリードが二本。
一本は僕の愛犬ロリータ。
もう一本は謎の女性。
謎の女性のリードは革製で、ロリータに使っているものと比べてかなり高級そうだ。
ちょっと複雑な気分になる。
ロリータに人間らしい遠慮など求めるべくもなく、女性の尻の匂いをふんふんと嗅いでいる。
「こ、こら、ロリータ、やめなさい」
「ロリータ?」
女性が首を傾げる。
「あ、この子の名前だよ。ロリータ、ご挨拶」
ロリータにお座りをさせると、女性もその前に座り、頭を下げる。
「これから、よろしくお願いします」
異常に丁寧なお辞儀だ。
「そんなに、かしこまらなくても」
「ロリータさんは先輩ですから」
先輩なんだ。
いや、そんなことより
「あの、拾うって……」
「これから、どうなさいますか?」
僕の疑問を彼女の質問が打ち消す。
「どうって、家に帰るけど?」
「かしこまりました」
そう言って、彼女は四つん這いになる。
「いや、その、僕、そろそろ帰らなきゃ」
「どうぞ、お進みください」
そう言いながら、彼女は這い進み始める。
「……あの、その姿勢のままで?」
彼女が進む度に、白いお尻が、胸がたぷたぷ揺れる。
「はい」
「いや、家、結構遠いんだけど」
「では、急ぎますね」
「膝とか、怪我しちゃうよ」
「大丈夫です」
「……いや、本当に遠いんで、立って歩いてもらえない?」
「かしこまりました」

67 :
街灯の下、犬と、大事なところが丸だしの美女と、不定形の僕。
誰かに見られたら間違いなく警察を呼ばれる状況だ。
本当は彼女に何か着せてあげられればいいのだが、
あいにくバーバ一家である僕は何も着るものを持っていない。
何も着せてあげられなくてごめんね、と言ったら彼女は
「わたしは家畜ですから、服は必要ありませんし」
と言う。
そのまましばらく黙って歩いた後、彼女はぽつりと口を開いた。
「あの、質問することをお許しください」
「な、なに?」
「あの……ご主人さまは、いつも裸ですか?」
「……ご主人さまって、僕?」
「はい」
ご主人さま。
何だろうこの背徳的な響き。
この立場を早く否定して、まともな関係に立ち戻らなければいけない、
と思いつつも、上手い言葉が見つからず僕は彼女の質問に答える。
「だいたい、いつも裸かな。すごく寒いときは別だけど。
両親も、他の兄弟もこうだから恥ずかしいと思った事もないけど……やっぱり変だよね」
「素敵です」
間髪入れずに返される。
「あの、気、つかわなくてもいいよ」
「いいえ」
彼女はじっと僕を見つめる。
「何もかくすところがなくて、堂々として、素敵です」
こんな風に女の人に見つめられるのは初めてだった。
少し潤んだ瞳。上気した頬。
どきどきして、すごく良い気分だ。
これが“いつも裸なところが素敵”という褒められ方でなければ、だが。
「実は、ご主人さまのご兄弟にならお会いしたことがあります。
憶えてはいらっしゃらないでしょうけど」
「そうなの?」
「はい。女性の方でしたが」
僕には姉妹が三人いる。その誰かなのだろう。
「いつも、素敵だなって、憧れていました。
あんな、ぷるぷるしたお体を下世話な視線に晒して、
あと、髪飾りだけは付けているってところが、とても背徳的で」
「……もし僕の姉妹に会っても、絶対にそれは言わないでね」
「? はい」
僕は深い溜息をついた。
あの三人に“変態の視線を集めているから服を着てくれ”と言ったら、
やっぱり傷つくかなあと憂鬱になる。

68 :
「……君は、余り恥ずかしくないみたいだね」
「何がでしょうか?」
「裸でも、って事」
僕はちょっと意地悪な口調になっていた。
いい加減この女性のマイペースさにイライラしていたというのもある。
考えて見れば、僕が彼女を拾わなければいけない理由はどこにもない。
放置してしまっても構わないのだ。
いや、そうしてしまおうか。
この格好で放置してしまうのは正直かなり心配だが、
もしかして彼女は“そういうのが好きな人”で、結果危険な目にあっても望むところなのかもしれない。
「……恥ずかしいです」
「え」
僕は思わず彼女の顔を見る。ばら色に上気した彼女の頬と、震える唇を。
「本当は、すごくはずかしい。
太ってるし、乳も尻もたれてるし、変態にしか見えない格好だし、
それで興奮してしまうような、変態だし」
「そ、そうなんだ」
言うほど垂れてないと思うけど、と僕はぷるぷる揺れるお尻を眺める。
前方から響く足音に、僕たちは凍りついた。
どうしよう。
「ご主人さま」
「な、なに」
「私を置いて、逃げてください」
「でも」
「ご迷惑になりますから」
「君は、どうするの」
彼女は柔らかく微笑む。
「通報されるの、慣れてますから」
慣れてるのかよ、と突っ込むのを忘れるくらい、美しい笑顔だった。
前から歩いてきたのは、ウォーキング中らしい老人だった。
柄の悪い相手だったらどうしようと思っていたので、ちょっとほっとする。
老人は僕たちを不審そうな顔で見たものの、そのまま通り過ぎる。
「気付かれなくて、よかったね」
「……はい」
「? どこか、具合悪いの?」
彼女の息遣いが荒い。体温も高く熱があるのかもしれない。
考えて見れば、夏とはいえ深夜にこんな格好をしていたら風邪を引いてもおかしくない。
「だ、大丈夫、です、けど」
「寒いの?」
僕は彼女の身体により密着する。
「あ、あの、ごしゅ、ご主人さまの身体に、わ、わたしのきたない身体が、くっついて、いて、
は、はずかしくて、だ、だめ、です」
「え? あ、あの、ごめん」
僕は今、彼女と密着している。
傍目には、彼女は黄色いレインコートを着ているように見えるだろう。
とっさに思い浮かんだ服がそんなものだったので、ファッション性もへったくれもない。
こんな美人がだっさいレインコートを着て夜道に立っていたら、かなり目立つだろうなあと思う。

69 :
そのだっさいレインコートに姿を変えた僕は、彼女から離れるべきか迷っていた。
「……大変申し訳ないんだけど」
「……はい」
「このまま、僕の家まで行ってくれない?
また、他の人とすれ違うかもしれないし」
「ふぇっ」
彼女は奇声を上げた後、ぷるぷる震える。
「あ、あの、わたし、くさい、ですよね」
「……正直に言えば、そうだけど、大丈夫だよ」
正直に言ってはいけないと思うのだが、かなり生ごみ臭い。
「そ、それに、わたし、き、きたない汁がでますから」
「虫じゃないんだから」
「ほ、ほんとにでます! ぜんしんのあなから、びゅーびゅーと!」
「いや、解ったから、ほら、早く」
彼女の尻を押して促す。
僕としても、彼女のおっぱいとかお尻を意識して、かなり恥ずかしくなってきた。
生ごみの臭いの向こうに、ちょっと甘酸っぱい汗の匂いを感じ始めたので余計に。
「……命令してください」
彼女がぽつりと言う。
「命令だって、言ってくれたら、何でもできます。がんばれます」
今、僕はレインコートとなって彼女を覆っている。
だから、彼女の心臓がすごくどきどきしている事も、耳が真っ赤になっている事も、
目尻に涙が浮かんでいる事も、容易に感じ取れる。
「じゃあ、命令する、ね」
僕の声に、彼女の耳が震えた。
「僕を着たまま、僕の家まで行って。道順は指示するから」
はあっと、大きな息が吐き出される。
彼女の口と、僕の口からだ。
「はい、ご主人さま」

帰り道は行きの三倍くらい時間がかかった。
ロリータはかなり退屈そうな様子で、たびたび僕たちを振り返っており申し訳ない気分になる。
彼女は荒い息をつき、がくがくと震える足を進めていたが、
たびたび塀や街灯にもたれて休まなければならないような状態だった。
途中から彼女は朦朧として意識もなく、僕はツナギのような形になって、無理矢理彼女を歩かせる。
黄色いツナギの人物はかなり目立ち、夜道でずいぶん色々な人が僕たちを振り返って見た。
こんな時はモジャの黒やベルの紫がうらやましい。僕も目立たない体色なら良かったのに。
家族の誰も起こさずに自室にたどり着けたのは奇跡としか思えない。
そのままベッドに倒れ込んでから、これって女の子と初めて一緒に寝るって事だよな、
と考えたところで意識が途絶えた。

70 :
僕は生き物を飼うのが好きだ。
日々変化していく彼らを見るのは飽きないし、彼らと生きる事で何かを学べるような気がする。
だが、この趣味に一つ欠点があるとするなら、
否応なく規則正しい生活を送らざるを得なくなってしまうという事だ。
猫たちの声で目覚めたのは、眠りについてからさほど時間が経っていない時間帯だった。
眠い。起きたくない。
すごく暖かくて、気持ちよくて、いつまでもここで溶けていたい。
いつもは遠慮なくベッドの上に飛び乗ってくる猫たちが、
珍しく近づいてこないなと思いながら寝返りをうつ。
ふわふわだ。でもちょっと臭い。
生ゴミっぽい臭いがする。
でも、触り心地がすごく良いから、まあいいかな。
何だろこれ。猫のおなかみたいにぽよぽよで、でも毛は生えていないし
「ぁ、ん」
今の声、何?
鷲掴みにしているのが女性のおっぱいである事に気付くまで、しばらくかかった。
あわてて、飛び退いたベッドの上には、白い肌と黄金色のふわふわした髪の女性が転がっている。
秀でた額や長いまつげ、ピンク色の唇の上にきらきらと朝陽が散り、
まるで夢の中から現れた妖精みたいだった。
生ごみ臭くて、黒いボンテージを着ているけど大事なところは丸だしで、
お尻にマジックで文字が書いていなければ、であるが。
それに、よく見れば白い肌のあちこちには赤い蚯蚓腫れが走っていて、いかにも痛そうだ。
これは、そういう“プレイ”の痕なのだろうか?
そんな事でどう気持ちよくなるのか、想像もつかないけど。
それにしても臭い、と思ったところで、
僕はその臭いに生ゴミではない、馴染みのある臭いが混ざっている事に気づく。
それに、彼女の下腹のあたりは何だか白くて、ネバネバしていて
あれ?
僕、やっちゃったの、か?

71 :
いやいやいや記憶にない、と頭をひっくり返したところで、
ちょっと前まですごく気持ちのいい夢を見ていたなあと思い当たる。
あれって、やってた?
慌てて彼女の身体ににじり寄り、下腹部に注目する。
これって、やってるやってないに関わらず、彼女が目覚めたら言い訳できないな、と思いながらも、
彼女の両足を掴み、広げた。
紅色の器官が、別の生き物のようにくぱっと口を開ける。
いや、見ても、やってるかどうかなんて判らないな。
大体、寝ている女の子に精液をぶっかけているという時点で、何をしてももうオシマイじゃないか。
僕は部屋を眺めまわした。
猫たちとオオハシくんが、こいつは何をやっているのかという目で僕を見ている。
僕が刑務所に入ったら、この子たちの面倒は誰が見てくれるんだろう。
「おはようございます」
声をかけられて、僕は思わず紅色の器官の方に顔を向けてしまった。
もちろん、声がでているのは、そのずっと上の器官からだ。
「お、おは、おはよう」
僕に両足を広げられていても、彼女の挨拶は全く揺るぎないものだった。
「なにか、ご奉仕した方が、よろしいですか?」
「ご奉仕?」
それより僕に足を吊り下げられているのに、苦しくないのかな、と考える。
「はい。フェラチオでも手コキでもパイ擦りでも、何でもいたします。おっしゃってください」
……そうか、彼女は起き抜けに精液臭くても気にならない人か。
心配して物凄く損した気分だ。
「……じゃあ、猫たちにご飯をやるまで、ちょっと待ってて」
「はい」

72 :
扉を開けたところでベルと顔を合わせて心臓が止まりそうになった。
「おはよ。なに? すごい臭いだけど」
「あ、あー、昨日ロリータと散歩に行ったら、生ゴミに突っ込んでいっちゃってさ。
そ、その臭いじゃない?」
「お風呂、ちゃんと入りなさいよ。何か臭いが移りそう」
ベルは鼻にしわを寄せ、髪をかき上げる。
のぞいた耳に小さなピアスが輝いた。
ピアスと、首飾りと、髪留め、あとは指輪がいくつか。
ベルが身につけているものは、それだけだ。
普段はそんな事、気にしない。
気にしない、が
「あー、あの、ベル」
「何?」
「その、さ、ベルは普通の人みたいに、服を着ようと思った事、ある?」
ベルはちょっと首を傾げる。
「いや、着てるけど」
「そうなの!?」
「だって、せっかく世の中にはカワイイ服があるのに、着ないとかもったいないじゃん」
家の中だと面倒だから着ないけどねー、と続ける。
「どうしたの、急に?」
「い、いや、それが、これは、ぼくが、じゃなくて、ともだち、からだけど、
ベルたちとか、いつも裸っぽいのを、やらしい目でみてる奴がいるみたいだって」
そう言うとベルはふっと笑う。
「そんな事いちいち気にしてたらきりがないもん。
それに」
彼女はちょっと前かがみになり、僕を見上げる。紫の胸がぷにゅっと潰れた。
「ちょっと、狙ってるところ、あるしね」
もう二度と、女の子の事なんか心配しない、と心に誓う僕にひらひらと手を振ってベルは背を向けた。
「心配してくれて、ありがとね。ララとリブには言っとくから。
あと、ちゃんとお風呂入ってよ」
台所で猫たちにご飯をやって自室に戻ると、女性は床に正座していた。
「その辺に座って待っていてくれれば良かったのに」
「いいえ。私の事は人間扱いしないでください。動物だとでも思ってください」
「動物……」
僕たちの目の前で、猫たちは我が物顔で机に上ったり、壁で爪を研いだりしている。
「あ、あのご主人さま」
「うん」
「失言でした。動物より下、ゴミとでも思ってください」
「……うん、まあ」
僕は彼女にふしゃーと声を荒らげる猫たちを追い払って口を開く。
「とりあえず、お風呂入らない?」

73 :
「……これ、本当にしないと駄目ですか?」
「だって、家に親も兄弟もいるし、ばれる訳にはいかないよ」
彼女はまた、僕の身体の中。
今度は身体を丸めて、出来るだけ小さくなってもらっている。
「苦しいと思うけど、お風呂場まで我慢して」
「くる、しくは、ない、です」
身体の中に彼女の声がこもって、すごく変な感じ。
「よく、ビニールに詰められたり、目隠しされて緊縛されて、ますから」
僕の身体の中に、柔らかな女性の身体があって、抱きしめている。
「でも、あたたかくて、おふとんにくるまれてるみたいで」
身体が触れ合っているだけで、すごく気持ちよくて、また射精したらどうしようと、心配になってきた。
「きもちいいのが、こわくて、すごく、わるい、ことしてる、きぶん」
とろん、と僕の中に、温かなものが流れる。
今の僕ってお菓子みたいだな、と考える。
柔らかな生地の中に、とろとろに甘いチョコレートが入っているお菓子だ。
「ご、ごめんなさい、わた、わたし」
「もっと、汚しても、いいよ」
僕は、自分の身体の中をぎゅっと絞る。
彼女が、かぼそい声を上げてびくびく震えた。
「だ、だめ、ごしゅ、ごしゅじんさまぁっ、
きたなっ、だめ、ですぅ」
ああもう。
あんなに面倒くさい、トラブルの塊みたいな女なのに、
こうして泣きそうな声を出しているときは、本当にかわいい。
「お風呂まで、我慢して。静かにしてたら、ちゃんと洗ってあげるから」
お風呂場に行くまでの間、すれ違ったのはモジャだけだった。
「なんか、拾ったの?」
ぎくりとして飛び上がる。
「べ、別に! なんでそんな事言うのさ」
「いや、さあ」
モジャは毛だらけの顔でにやりと笑う。
「すごく、うきうきしてるからさ。まあ、ママにばれないようにしなよ」

74 :
お風呂場のドアを閉めて鍵をかけた時には、寿命が十年は縮んだ気分だった。
「ご、ごめん、大丈夫?」
僕の中から彼女が転がり出る。
汗にまみれた髪はしんなりして、卵から孵ったばかりの雛みたいだ。
ぱくぱくと口を開けて胸を上下させているのを見ると、罪悪感が大きくなってきた。
僕は、彼女を邪険に扱い過ぎたかもしれない。
確かに初対面の男の家に転がり込むような女性とはいえ、僕は彼女に何もしてあげていない。
お茶の一杯も出していないし、それこそ彼女の名前も訊いていないのだ。
シャワーからぬるま湯が、彼女の上に降り注ぐ。
お湯の粒が彼女の胸を転がり落ちていくのを眺めるのは飽きなかったが、
頭を切り替えてボディソープとスポンジを用意した。
「あ、あの、ご主人さま」
やっと、彼女は我に返ってお風呂場を見回す。
「わたし、自分で洗えますから」
ちょっと悪戯心が芽生える。
「あのさ、僕はご主人さまで、君は……まあ、ペットみたいなものでしょ」
「はい」
「じゃあ、ペットの身体を主人が洗うのは普通だよね?」
「……はい」
「僕が洗うから、君は何もしないってのは、どう?」
彼女はべそをかいたような顔で俯く。
「ご、ご命令なら、どうぞ」
そう言って四つん這いになり、お尻を僕に突き上げる。
僕はそれに手をかけようとして、はたと気付く。実に気まずい。
「……ごめん、そのボンテージだけ脱いで。脱がし方がよく解らない」
「は、はい。脱ぎ、ます」
ほとんど裸のようなものなのに、服を脱ぐ姿はどうして、こんなにもどきどきさせられるのか、
と僕は真っ赤な顔をした彼女を眺めていた。

75 :
さんざん身体の中で揉み回したのに、明るいところで見る彼女の身体は発見が一杯だった。
硬く尖った木苺色の乳首も、水棲生物のようにぱくぱく蠢く秘部も、つつくと嬌声と共にひくつく
お尻の穴も、どれも興味深く、美しくみえる。
地面に埋まった石をひっくり返したような感じ。
誰でも一度はやった事があるであろう、あれ。
もちろん、大半の人にとってそれは気持ち悪く、トラウマになるような体験だろう。
でも、僕にとってそれは、今まで見過ごしていたところに、
未知の営みがあるのだという事を知った驚異体験だった。
ちょっと、怖くて
ちょっと、おぞましくて
でも、魅力的で、
触ってみたくなるような
彼女の中には、そんな未知の虫が蠢いていて、僕が触れば触るほど蜜と共に流れだしてくる。
「ふぁ、あ、ああっ、ごしゅじんさまぁっ、おね、おねがい、わたしに、ごしゅじんさま、の、
ごほうしさせて、こ、このままじゃ、わたし、なにもできなくて、いっちゃう、いっぢゃうううぅっっ」
僕の方も、何がなんだか解らなくなってきた。
何度も泡立てて洗って、ゴミの臭いを落としたら、甘酸っぱい香りだけが残って、むらむらしてしょうがない。
僕の身体の奥から、欲望が形をとって固まる。
のしかかっている彼女の背中を貫くかのように押しつけて、身体を動かしてしまう。
「あ、あぁっ、おね、がいです、ごしゅじんさまの、ごしゅじんさまの、おちんぽを、
わわだしの、おまんごにいれて、ください。いれ、いれてえっ、が、がまんできないんですぅっ」
「わ、わかった、いれる、よ」
「お、おねがいぃ、わた、わたしのこと」
彼女が苦しそうに首を曲げ、僕を見る。
「ぶたって、よんでぐださいぃ、きたならじぃ、けつふりぶたっで、よん、で」

76 :
正直に言えば、彼女の言う事なんて聞いてなかった。
僕は彼女の割れ目にちんぽをねじ込む事で、頭が一杯だったのだ。
目の前の、おいしそうなものの事しか考えてなかった。
彼女の汁まみれのおまんこと、涎をたらりと流した唇、涙を浮かべた瞳。
僕はそれらの”美味しそうなもの”に向かって口を伸ばす。
「あっ、ふぁっ、らめえぇ、わた、わたし、ぶた、だから、きす、しちゃ、らめ、なん、れすぅっ、
きす、きす、らめぇ」
彼女の言っている事の意味なんて、全く考えずに唇をむさぼった。
唾液を吸い上げる度に、彼女の中はきゅっと締まり僕のものを飲み込もうとする。
首を長く伸ばし、人間にはあり得ないフォルムになっている僕はかなり不気味なんじゃないか、
とも思ったが、気持ちが良すぎて止められない。
「らめ、ぶ、ぶたにぃ、きす、しないでぇっ、ごしゅ、ごしゅじん、さま、らめ、れすぅっ」
首を振って逃れようとするのが腹立たしい。
「う、うるさいな。ぼく、が、ごしゅじん、さま、なんだか、ら、きす、させろよ、
もっと、ぼくの、した、じゅぽじゅぽ、しろ」
「ひぃぃいやぁっ、らめぇぇっ、ぶた、ぶただからぁっ」
拒まれて、頭の中に妙なスイッチが入る。
「じゃあ、じゃあ、ぼくだって、ぶた、だよ。
ぶたが、ぶたにきすして、なにがわるいってんだ!」
身体が大きく膨れ上がり、彼女を押しつぶす。
ぶよぶよとした肉の塊が、何段にも彼女の背にだまを作る。
押さえつけていた手は短く縮んで、掌が小さな蹄に変わる。
鼻面は長く伸び、上を向いてふがふがと音を立てる。
口から、だらしなく涎を流しているのは同じ。
ただし、口は鼻の後ろに引っ込んでしまった。

77 :
しまった、この口じゃ前よりキスし辛いな、と考えるより前に腰を動かす。
頭が動物の姿に引きずられるように、もう気持ちのいいまんこの事しか考えられない。
きもちいい、まんこきもちいい
こしをじゅぽじゅぽするの、ちょうきもちいい。
あーもう、ほんとは、おっぱいをもみもみしたいのに、うまくできないのが、もどかしい。
でも、まんこきもちいい。
もう、ぶひぃぃってこえしかだせないの、はずかしいし、かのじょもさすがにひいてるよなあ、
っておもうけど、まんこきもちいい。
まんこきもちいい。
まんこきもちいい。
ちょうきもちいい。
彼女が首をねじ曲げて、僕を見る。
目尻に涙が浮かんでいて、それを見ると胸が締め付けられるような気持ちになった。
でもまんこきもちいい。
彼女が涎まみれの口を開く。
「ごしゅ、じんさま」
首を伸ばし、僕の鼻に口を付ける。
「すてき、すてきです、ご、ごしゅじんさまが、すてき、すぎて、わた、わたし、おか、おかしく、
なっちゃう、あ、ふぁ」
また、きゅっと彼女の膣内が締まって、ぼくはぶひぃと鳴く。
「きす、きすしてぇ、ぶ、ぶた、だけど、ぶたのごしゅじんさまの、きすが、ほしいんれすぅぅっ」
僕が彼女の口にだばだばと涎を流し込むのと、とぷんとぷんと精液を放出するのは、ほぼ同じだったと思う。
そして、長い長い放出が終わるまで、僕たちはずっと、口を合わせていた。

78 :
人間は、どんな異常な状況にも慣れてしまうものだ。
その適応の高さが、現在の人間の繁栄の原動力なのかもしれない。
そして僕は、自分の部屋に自称豚の金髪美人を住まわせるという異常事態に、すっかり慣れてしまっている。
そう、未だに名前さえ判明していないのだ。
尋ねると彼女はちょっと目を伏せて
“普段は『雌犬』と呼ばれていますけど”
と言う。
“でも、どうか『雌豚』とお呼びください”
と言う彼女の言葉に従って、今は“雌豚”もしくは“豚”と呼んでいる。
本名を追求しても仕方のない事だし、
『雌犬』
彼女は普段“誰に”そう呼ばれているんだろう、なんて事が頭に引っかかってしまったからだ。
その『雌豚』は、床に置いた皿からコーンフレークを直食いしている。
着ているのは僕がスーパーで買ってきたTシャツとジャージ。
とはいえ何故か捲りあげられて、おっぱいは丸見えだ。
これは彼女のポリシーらしく“家畜である私に服は必要ありません”という事らしい。
“これはペットに服を着せる的な意味なのだ”と納得させるのに1時間くらいかかった。
味もそっけもないはずのジャージは、むちむちした肉体の美女に半脱ぎにされる事により、
恐ろしく扇状的な衣装になってしまった。
あのスーパーで買われたジャージの中で、もっともエロい着こなしをされている一着だと思う。
もちろん食べ物に関しても一悶着あった。
彼女の希望は“残飯もしくはペットフード”だったのだが、
残飯を自室に持ち込むのは普通の食事を持ち込む以上に目立ってしまうし
……正直ペットフードは余り安くないのだ。
僕は“コーンフレークと牛乳が一番リーズナブルなのだ”と説得し、今はそれを食べてもらっている。
そんな風にして三日が過ぎた。
僕は一心にコーンフレークをほおばる彼女を見つめる。
「……なんでしょう? ご主人さま」
「い、いや、なんでもないよ」
「フェラチオですか?」
「そ、それはさっき、もうしたから!」
すっかり爛れた関係になってしまった。
正直な話、僕はその、セックスとかいうのにもう夢中だ。
ペット達の餌やりやロリータの散歩以外は部屋にこもりきりになってしまっている。
家族にも怪しまれているので“今、とても珍しい虫の卵が孵るのを待っているのだ”と嘘をついている始末だ。
ちょっと良心が痛むが、虫と言えばママや姉妹はまず僕の部屋に近寄らないだろう。

79 :
「僕、ロリータの散歩に行ってくるからさ」
「はい。ちゃんと隠れていますね」
そう言ってベッドの下にごそごそ這い潜っていく。逆回転したホラー映画みたいな絵面だ。
「ついでに買い物するから、ちょっと遅くなるかも」
「いってらっしゃいませ」
部屋を出るとき、ちくりと胸が痛んだ。嘘は言っていない。言っていないのだが。
僕がロリータと共に足を運んだのは、彼女を拾ったゴミ捨て場だった。
夕暮れの住宅街は人通りもあまりない。
ゴミ捨て場の周りには、誰もいなかった。
判る訳はなかったのだ、と溜息をつく。
ここに来たからといって、彼女を“捨てた”のが誰か、なんて。
あのゴミ箱は中から閉められる構造じゃなかった。
誰かが彼女を入れて、蓋を閉めたのだ。
もしかしたら、彼女を『雌犬』と呼ぶ、誰かが。
ぼんやりゴミ箱を眺めていると、汚らしい中年男が蓋を開け、中身を漁り始めた。
ぞおっとする。
彼女を見つけるのが、あんな男だった可能性もあるのだ。
小学生くらいの男の子たちが、僕とすれ違って走っていく。
「今日はゴミ女いるかな、エロ女」
「ああいうの、マゾっていうらしいぜ。兄ちゃんが言ってた」
子供たちの言葉にくらくらする。
僕のペットは想像以上に有名人だったらしい。
「こらあ! そんなばばっちいもんにさわんなあっ!」
中年男の一喝に子供たちはきゃあきゃあと逃げていく。
いや、ゴミ漁ってる人にばばっちいと言われても、と思いつつも、僕はふと気になって声をかける。
黄色い不定形の怪物に声をかけられて、彼はかなり驚いたみたいだったが、
何とか、時折ゴミ箱の中にボンテージ美人が入っている、という証言を得る事が出来た。
「さっきばばっちいって言ったの、そのゴミ箱の女の事なんですか?」
「ああ」中年男はひげをいじりながら答える。
「だって、馬鹿にした話だろう?
どうもカップルでそういう遊びをしてるらしいけどさ。
ようするに、俺みたいな最低な奴に無茶苦茶にされたいって事だろ。
ああ、どうせ最低だよって認めるのもムカつくし、いつも見つけたらスルーしてるよ。
時々、馬鹿な奴が拾っていっちゃうみたいだけどね」
中年男は溜息をつく。
「そいつらは、女がいなくなってから、また拾おうと思ってここにやってくる。
そして、俺に声をかけるって訳だ。
まあ、さすがに歩くプリンに声をかけられたのは初めてだけど、さ」

80 :
僕はロリータを店先に繋ぎ、スーパーを物色していた。コーンフレークの箱を手にとってから、
もう必要ない、という事に気付く。
そうすると、買うべきものは何もなかった。
帰りたくない。
帰って、彼女がいなかったらと考えるのも嫌だし、いても、どうしたらいいか解らない。
頭の隅では、ずっと考えていた事だった。
彼女は酷い目に合うのが大好きなマゾだ。
その彼女が僕の事を素敵だと言うのは、僕がものすごく気持ちの悪い怪物だからではないのか?
それに、彼女にはきっと恋人が、いや“ご主人さま”がいるのだ。
その人の命令なら、たとえ豚とでも寝れる、というようなご主人さまが。
店を出ようとしたところで、ロリータの前に誰かが屈み込んでいる事に気付く。
簡素なTシャツとジャージに、豪奢な金髪とボディライン。
すぐに彼女だと解る。さすがにおっぱいはしまってあるので安心した。
「ロリータさんはいいなあ」
彼女は柔らかな笑顔で、ロリータの頭をなでている。
「きれいで、かわいくて。ロリータさんみたいな、ご主人さまの雌犬になりたいな」
ロリータはもちろん彼女の言う事に答えたりせず、鼻をぴすぴす鳴らした。
「ロリータさん、私、帰らなきゃいけないんだ。
私は汚い豚だから、ご主人さまのペットにはなれないの。本当は」
ロリータは突然自分の首を抱く彼女に困惑して、鼻を鳴らす。
「ずっと、いたい。ご主人さまのペットになりたい。でも、だめ。
私はペットじゃなくて奴隷だから、ご主人さまに優しくしてもらう資格がないの」
彼女は立ち上がってロリータの頭を撫でた。
「じゃあね。ロリータさん。ご主人さまと仲良くね」
僕は彼女の背が遠ざかるのを見つめ、店から出た。
ロリータは物言いたげに僕を見上げる。
僕は一時、その黒く澄んだ瞳と目を合わせた。
「ごめん、ロリータ。ちょっと待ってて」

81 :
女性の跡をつけるのは初めてだった。
よくばれなかったものだと思う。黄昏時という時間も幸いしたのだろうし、
彼女が振り返ったりせず足早に目的地に向かっていたのも良かったのだろう。
彼女はあのゴミ箱を通り過ぎ、アパートの階段を上った。
インターホンを押し、やがて開いた扉の中に消える。
僕は扉の前で、どうしたものか考えた。
勢い任せで来てしまったものの、まさかドアを蹴破る訳にもいかない。
じゃあ待つのかと言えば、こんな狭い場所に立っている訳にもいかない。
僕の両親はあまり厳しい方ではないが、それでも一つだけ繰り返し言われた事がある。
それは“僕たちの能力を、決して悪用しない”という事だ。
ただでさえ人と見た目が違う僕たちが、その教えを破ったとしたら、
もうこの世界に居場所はなくなってしまう。
でも
僕は換気扇の隙間から、部屋の中をのぞき込んだ。
今、僕の身体は細い蛇となり、するすると台所を伝っている。
洗っていない食器で一杯の台所になんて足を踏み入れるのも嫌だ。
不法侵入して言う事ではないけれど。そして、足なんてないけれども。
「今回はずいぶん長かったよな。三日とか新記録じゃない?」
若い男の声だ。
「そんなに良かったの?」
男を見て、僕はちょっと拍子抜けする。
なんというか、普通だ。茶髪で無精ひげを生やした、二十代前半の男。
ものすごくイケメンだとか、逆にものすごく醜いとか、強烈なカリスマ性を持つ男かと思っていたのに。
「……よかった、です」
彼女はぼそりと口を開く。
僕からは背を向けているので顔は見えない。
だが、その服が捲りあげられて、胸が丸出しの“僕の部屋の格好”になっている事にちょっとショックを受ける。
「いやマジで、まさかスライムに拾われるとは思わなかったよ。触手プレイとかしたの?」
「……しました」
「具体的にはどんなの? 逆さ吊りとか緊縛とか、あと何本くらい入れた?」
そんな事する訳ないだろ、と言いたかったが、ちょっと身体を伸ばしたりはしたので……
あれも触手プレイだろうか?
痛くするような事はしなかったけど、彼女と色々したのが事実である以上、
結局僕はあの男が想像するいやらしい怪物なのだろうと、憂鬱な気分になる。
「いつもほど激しくはしませんでした」
「あーそうだ慣れちゃってるもんね。スライムぐらいじゃ刺激になんねーか」
そう言って背中をぼりぼり掻いていた男が、おもむろに彼女を蹴り倒す。

82 :
何の前触れもない暴力に驚いて、危うく声を上げるところだった。
「ノリ悪くない? ちょっとは俺の事、思いやってくれてもいいんじゃない?」
男は倒れた彼女の顎を蹴り上げる。
「俺はさあ、おまえを寝取られたわけよ。ネトラレよネトラレ、解る?
おまえが男とよろしくやってたのを、悔しいな〜寂しいな〜と思いながら待ってたわけ。
ごめんなさいとか、ないの?」
「……ごめんなさい」
ぼそりと呟く彼女の脇腹に男が爪先を食い込ませる。
「これだよ。言われた事しか出来ないんだから。うちの新人と同じじゃん。
自分の頭で考えて行動しないと、さあ」
あの時、僕がどんな姿をしていたのか正確に思い出すことは出来ない。
少なくともピューマの牙、グリズリーの爪、オランウータンの腕、大王イカの触腕、カマキリの顎、
カタツムリの歯舌を併せ持った生き物だった事は確かだ。
僕の中の攻撃性が、憎悪が、意が、一つずつ牙になり爪になり、身体の表面に吹き出す。
そこまで来ると不思議と憎しみは消えてしまい、なんかもういいかという気分になる。
とりあえず、このウザい生き物を潰しちゃえばいいか、という気分。
まあでも、向こうがこっちに気付いてからでもいいかな。
全然怖さや痛さを感じないままなんて、つまらないし。
うん、もうすぐ気付く。
顔を上げて、彼女から視線を外したら。
もうすぐ
「じゃあ、わたし、あなたとわかれますね」
ぽつりと彼女が口を開き、男はその顔を凝視する。
「なんか、意味わかんないんだけど」
男の口元はにやついているが、目はすぅっと細められる。
「元はさ、おまえだよね。俺とわかれたくないって言ったの。
何でもするから、金だっていくらでも出すからって、言ったよね?」
「はい」彼女の声は水のように静かだった。
「わたし、あなたと付き合うの、好きでした。
あなたにいじめられるのも好きだったし、どんなひどいことも、あなたのせいに出来た
他の人と寝るのも、その人にあなただけが好きですと嘘をつくのも、それを踏みにじるのも、
あなたの命令のせいにしてきた」
彼女はゆっくりと身を起こす。
「でも、そういうの、もう止めようかなって。
私が最低なのは、私だけのせいだから。もうあなたは、私とは無関係です」

83 :
男が殴りかかろうとしたのを、僕は今度こそ我慢ができなかった。
思わず腕の一本を伸ばして、止める。
僕も、彼女も、男も、凍り付いたようだった。
何か言わなきゃ。
“彼女に手を上げるなんて許さない”とか。
そう思ったときには、男はけたたましい悲鳴を上げていた。
こんなにすごい悲鳴、絶叫マシンでも聞いた事ないな、と逆に感心してしまう。
けいれんして失禁を始めた男を見下ろして、救急車を呼んだ方がいいのかなと悩む僕の手を彼女が引く。
「あの、とりあえず出ませんか?」
「……そうだね」
それから僕の姿を見て、頬を染める。
「その格好、すごく怖くて、気持ち悪くて、素敵ですけど、外に出たら通報されちゃうかも」
「……元に戻るよ」
しばらく黙ったまま二人で歩き、口を開いたのは、奇しくもあのゴミ捨て場の前だった。
「さっきの話、大体聞かれてしまいましたか?」
「……ごめん」
俯くと、街灯の下に二人の影が見えた。
ほっそりした影と、ぐにゃぐにゃした影の二つ。
「あの、ストーカーみたいな事して、本当ごめん」
そう言うと、彼女の方がくすっと笑う。
「私の方が、ずっと酷いことしてましたから」
街灯の光が金髪の上で弾け、僕は改めて彼女はとても綺麗なんだなあと思う。
「私ね」
彼女の目が、まっすぐに僕を見つめる。
「自分をさらって、遠い国につれていって、
滅茶苦茶にして食べてしまうような人があこがれだったんです。
でも、そんな人、いるわけないと思ってました。」
彼女は僕からつい、と目を反らして、上を向いた。
「そして、そんな人に出会ってから気付いたんです。
私は臭くて汚くて、とてもその人に食べてもらえるような人間じゃないって事に」
彼女の目尻がきらきら光る。そこにあるものをこぼさない為に上を向いたのだ、
という事に僕は気付く。
「もしその人に、好きです、私の事を滅茶苦茶にしてください、
なんて言っても、とても信じてもらえないでしょう。
自分でも、信じられないです。
今まで何人もの男に同じ事を言って、裏切ってきたんだから」
「じゃあ」
そのときの僕の声はとても静かだった。
僕ではない、もっと大きくて恐ろしい怪物が、身体の奥から静かに語りかけてきているような気がした。
「きみは、どうするの?
このまま、逃げてしまうの?」

84 :
彼女がひくっとしゃくりあげる。
「わか、らない。
にげ、なきゃいけないんです。
だって、こんな、の、しんじて、もらえるわけ、ないし、
きっと、怒り、ます。
だって、からだ、だけ、なんです、よ、
あなたの、きもちいいところがすき、とか、
いつもはやさしいのに、けもののようにらんぼうなところがすき、とか、
みためがすごくこわかったりするのがすきで、でもつるんとしたいつものかっこうもかわいい、とか、
そんな、こと、いったら、きっと怒られる」
彼女は息を整えて、まっすぐに僕を見上げた。
「私、ただ、あなたの、性欲のはけ口になりたかった。
でも、一緒にいると、もっと好きになってほしい、っておもってしまうんです。
だから、命令してください。
おまえなんて、精液便所としかおもってない、思い上がるな、か
消えろ、二度と近寄るな、って」
僕は少し考えてから、口を開く。
「あのさ、僕のところの猫たちの話だけど」
彼女はきょとんとした顔で僕を見つめた。
「僕はあの子たちが好きで、あの子たちも僕に懐いているけど、時々こんな風にも思うんだ。
あいつらは餌をくれるから僕にくっついているのであって、本当に僕の事が好きって訳じゃないんだな、って」
小雨がぱらつき始めた。
僕は体を伸ばし、彼女の上に屋根を作る。
屋根から抜け出そうとする彼女を抱きとめた。
「でも、僕があいつらの事が好きなのは本当だし、もしあいつらが人間の言葉をしゃべれるようになって、
実は餌をもらえるから媚びを売ってましたって言われても、気持ちは変わらないと思うよ。
君に対しても、同じだ」
僕は、彼女の頬に手を当てた。
「君が僕の事をどう思っていても、僕は君の事、好きだ。
まあいやらしい意味でだったり、
それ抜きでも、ご飯を食べてるところとかが、かわいいなあって思ってるし、
あんな男に殴られたりしてたら、むかつくよ。
だから、まあ」
彼女の目からこぼれた涙を、拭う。
「僕の、ペットにならない?」

85 :
彼女に口づけながら、僕は恋人って言うべきだったかな、と今更ながら後悔していた。
でも、こんな可愛くて、ふわふわした生き物を部屋でこっそり飼う事を考えるだけで幸せで、
今はとりあえず、ペットという事にしておこうと自分を納得させた。

それで、彼女は今もこの部屋にいるのです、と終われば綺麗なのだが、現実はそうもいかない。

何しろ、彼女はキスをしたら逃げてしまったのだ。
口を離した後、真っ赤になった彼女は“こんな、こんなすてきなこと、ぜったいだめです!”
と叫ぶなり走り去ってしまい、入り組んだ住宅地の奥に消えてしまった。
しばらくは探していたのだが、八時を過ぎた辺りで、
スーパーの入り口にロリータを繋ぎっ放しにしていた事を思いだし、今度はそっちに慌てて走る事になる。
ロリータは閉まった店先でうずくまり、くんくん鳴いていた。
ロリータ、本当にごめん。
その後、あのゴミ捨て場に行こうかと考えなくもなかったのだが、
行っても彼女があそこにいる訳ではないと考えて止めた。
彼女はもう、自分をゴミ箱に捨てたりはしない。
ただ、あの男の件だけは心配で、こっそり様子を見に行ったりした。
アパートの管理人によると、大騒ぎの末に警察を呼ばれ、部屋から麻薬の類が発見されたのだとか。
物騒よねえ、と言う管理人に相づちを打ちながら、ちょっと冷や汗をかいた。
僕のせいじゃないよね?
そんな風にして、平穏に日々は過ぎていった。

86 :
その日は予感があった。
どきどきして、なにか大変なものを拾ってしまうような予感が。
僕は期待を胸に押さえつけ、何でもないのだという顔をして、ロリータと共に散歩に行く。
公園でボール遊びをし、野良猫にちょっかい出そうとするのを引きずり、
スーパーの店先につないで、一息つく。
店先の掲示板を眺めた。
時々、迷子の犬や猫を捜すポスターが貼ってあるのが気になるのだ。
今日は幸い、そういうのは無いけど、代わりに「ハムスターの飼い主募集」のポスターが貼られている。
一匹くらい飼うのもいいかな。
でも、部屋は狭いし、もっと別のものを飼うかもしれない。
「あの」
そう、ハムスターよりもっと場所をとって、もっとお金がかかって、もっともっと面倒くさい生き物を
「もしも、あなたが、まだ」
飼ったら、もっと色んな服を着せてみよう。
僕はペットには服を着せない派だけど、あれだけは別。
あと、食べてる姿が可愛いから、手料理とか食べさせてみたい
「全然かわいくなくて、きたない、豚みたいな生き物を飼ってみたかったら」
一緒に、色んな場所に行ってみたい。
犬にだってドッグランがあるのだ。
豚的な生き物と遊びに行っても、なにもおかしくはない、と説得しよう。
「ひろって、くれませんか?」
僕はふりむいて、今度は決して逃がしたりしないように抱きしめて、キスをする。

87 :
「ねえ、相談があるんだけど」
僕がそう言うと、彼女は正座して僕を見上げた。
「相談なんて必要ありません。どうか命令してください」
そういう彼女の目は、散歩に誘ったときの犬並にきらきら輝いている。
命令=嬉しい。彼女の頭の中は実にシンプルだ。
「じゃあ、さ」
ちょっと迷ったが、本人がいい、と言うのならいいか。
「ぶーちゃんって、呼んでいい?」
笑顔が固まる。
「え? だ、駄目?」
「そ、そんな、もちろん、ご主人さまのお好きなようにお呼びください。
ぶーちゃんでもぶーたろうでもガリ勉ブタでも、好きなようにお呼びくださいっ」
半泣きだ。
「……もしかして、昔、そう呼ばれてた?」
「……」
「ふ、太ってないよ! 
ただいつも”豚”とか”雌豚”だと、僕にネーミングセンスがないみたいだし」
「太る予定だから、いいです。私、運動しないとすぐ太る体質だし、高校の頃は本当に太ってたし、
両親ともにメタボ健診に引っかかってるから、そのうち太ります」
どんよりした様子の彼女を見て、僕はあわてて頭を回転させる。
「あ、あー、豚、よりも、淫乱であることがすぐ判るあだ名の方が、いいかもしれない、なー。
何か、いいの、ないかなー」
こう、淫乱なことをイメージさせて、人前で呼んでもいいような……
淫乱のシンボルみたいな……
「エマニュエル」
「え?」
「エマニュエル夫人のエマニュエルだよ。略してエマね」
件の夫人がどの程度エロいのかは知らないが、僕でさえ名前だけでも知っているのだ。
きっとエロのシンボルなのだろう。
「エマ」
そう言って額にキスをする。
「や、ちょっと、それは」
「嫌なの?」
赤くなった顔もかわいいなあ、と彼女の頬を舐める。
「わ、わたしには過ぎた名前、というか、メ、メイドさんみたいで申し訳ない、というか」
「そう?」
実際、家事のかわりにHな事をしてくれるメイドさんみたいな存在だけどなぁ、
と僕はまたキスをする。
「エマはかわいいなあ」
「か、かわいくないです。そのうち、ぶくぶくにふとりますから」
「んー」
僕はちょっとぽよぽよしたお腹を抱きしめる。
「でも僕、太ってるおなかも好きだから、エマも太っていいよ?」
何故女の子はそんなにも太る事に嫌悪感があるのか、未だによくわからない。
ちょっとしょんぼりした様子のエマが帰った後、
姉妹にそんな話をして罵詈雑言を浴びせかけられても、僕は首を傾げていた。

88 :
神作品乙!
可愛いしエロいし、話の筋もしっかりしてるしエロいし元々のキャラ活かしてるしエロいし
バーバパパでエロパロとか、スレタイ見かけてもみんなネタスレだと思ってんだろうな
これ読まないとか勿体ねえな……

89 :
GJ!!
他の兄弟たちにもどんな出会い(とプレイ)があるのか楽しみだ!

90 :
イイ!

91 :
なんて恐ろしいスレだ…実にいいぞぉ!

92 :
保守

93 :
>>64
いつもありがとうございます
あなたは立派な職人さんですよ!
心情描写とか素晴らしいです

94 :
>>93
ありがとうございます。精進します。
バーバファミリーって面白くて書きやすい題材だと思うんですけどね。
ネタ探しの為に図書館の児童書コーナーに凸してきて、思ったんだけど
「バーバパパのいえさがし」
古い家に引っ越したバーバ一家。
残された古本やらアクセサリにキャッキャするリブとベル、
ママと掃除をしているバーバララ。
「バーバパパのがっきやさん」
一家で楽器を作ってみようという事になった。
早々に飽きて外に遊びに行っちゃう兄弟を他所に、コツコツ楽器を作るバーバララ。
……この娘は、もっとワガママになってもいいんじゃね?
と思ったので、今回はバーバララの話です。
濡れ場は12〜16辺り。

95 :
高い笛のような調べに顔を上げた。
はるか頭上で、鳶が緩やかに円を描いている。
真似して口笛を吹いてみたが、もちろん、鳶に変化はない。
舞い降りてきて、自分を掴んで飛んでくれたらいいのにな、とメルヘンな事を考えてしまう。
それくらい暑い。それに疲れた。
自分より背が高い雑草をかき分けかき分け、もう随分歩いている。
前がよく見えないから、同じ所をぐるぐる回っているんじゃないか、という気さえする。
“音”が近づいているから、そんな事はないはずだけど。
草むらをすぽん、と抜け、わたしは目的地にたどり着いた。
照りつける太陽を遮るコンクリートの天井。
それを支える太い橋脚。
濁った空気を、轟々と車の走行音が震わせる。
わたしは注意深く周囲を見回した。
高架下には誰もいない、みたいだ。
一人でこんなところに行くなんて知られたら、きっと反対されただろう。
物騒だとか、女の子なのだからもっと注意深くしなさい、とか。
でも“女の子だから”なんて笑い話にしか聞こえない。
わたしを襲う変質者は、完全に人間離れした趣味を持った本当の意味での変態だろう。
しばらく身体を伸ばし、水筒に入れたレモン水を一口飲んでから、演奏を始める。
生温い空気の中を、私の音が走り抜けていく。
耳障りだと思っていた走行音が消え、代わりに私の音を彩る波に、風に、叫び声に姿を変える。
周りの景色、頭上を覆う灰色の天井も、目に突き刺さるほど青い雑草も、
その向こうに広がる夏空も、全て遠ざかった。
わたしは遠く遠く、ちっぽけな身体も心も捨てて流される。
曲を終えると、もう何も考えたくなくなり、わたしは地面に寝ころんだ。
おなかに当たる砂利が痛いが、動きたくない。
ああ、でも疲れたな。喉乾いた。
その辺りに置いたはずの水筒を求めて、手を伸ばす。
「はい」
手渡された水筒に口をつけてから気付く。
いまの、誰?

96 :
わたしは自分の隣にしゃがみ込んでいる人物をまじまじと見る。
もじゃもじゃの髪に、伸ばし放題の髭。頬骨が目立つ痩せた顔の中で、目だけがらんらんと輝いている。
わたしは悲鳴を上げ跳び退いたが、その動きは彼にも悲鳴を上げさせるのに十分だったみたいだ。
高架下に、二種類の非音楽的な叫びがこだまする。
「う、うわ、怖えぇ、おばけ超怖えぇ」
意識を回復させたのはもじゃもじゃの方が先だった。
彼の言葉にかちんと来たおかげで、わたしも冷静さを取り戻す。
「おば、おばけって、失礼な事言わないでください!」
「いやおばけじゃん。良くてスライムだよ。悪く言えば」
そう言ってから彼は言葉を探すかのようにわたしを眺め、口を開く。
「どろどろに溶けたピアノの霊、とか? しかも緑色のピアノ。シュールすぎるだろ」
うん、まあ。
確かに緑色のグランドピアノが、半分溶けた姿で地面にのびていたり、
悲鳴を上げて跳び退いたりしたら、それはおばけと言われても文句は言えないな、と
わたし、バーバララも認めざるを得ない訳で。

「で、あんた何なの? 人に弾かれなくて腐ったピアノの霊?」
「違います」
身体をいつもの人型に戻す。
人型と言っても、肌は緑色だし、上半身は人と同じだけど足はない。
これで人型と言ったら人間に怒られるかも知れない。
「ああ、スライム一家ね」
「バーバ一家です。わたしはバーバララ」
名乗ってから、こんなに得体の知れない相手に素性を明かしてよいのか心配になった。
でも、わたしの能力を使えばこの男から逃げるのは簡単、なはずだ。
とりあえず、毅然に対応しよう。
「それで、何のご用ですか?」
「不法侵入だよな」
あっと言う間に毅然とした気持ちがしぼむ。
はい、そうです。不法侵入しました。
すいません、演奏するのに丁度良さそうだったので……
「俺もだけど」
反省して損した。
こんな不審な人が管理人さんな訳ないって、どうして気付かなかったんだろう。

97 :
もじゃ男は傍らに置いてあったものを取り上げる。バイオリンケースだ。
「あなたも、演奏する人?」
「ああ。前からこの場所は目をつけてたんだ。だからここは、俺の場所」
公用地なのだから彼の場所ではないはずだが、そう言われたらどうしようもない。
大人しく帰るしかないか、とわたしは荷物を拾い上げる。
「じゃあ、お邪魔しました」
「待て」
「まだ、何か」
あー、あのさあ、と言いながら男は頭をがりがり掻く。
飛び散った頭皮にわたしは顔をしかめた。
「聞いてて思ったんだけど」
「はい」
「あんた、演奏へた」
がん、と頭を殴られたような気がした。
ちょっと涙ぐんだかも知れない。
次に男が口にした言葉が追い打ちをかける。
「俺の方が絶対、あんたより巧くあんたを演奏できる」

ショックでしばし呆然としていたわたしは、顔を殴られたような悪臭で我に返った。
男がわたしの目の前に立っている。
どうしよう、怖い。
何日も洗ってなさそうな髪も、不機嫌そうにしかめられた眉も、
ちょびちょびと鼻の下に生えたひげも、あんがいに綺麗で大きな手も、気持ち悪くて怖い。
逃げなきゃいけないのに、身体が動かない。
男が無造作にわたしの肩に触れ、わたしはひぃっと悲鳴を上げてしまった。
男は首を傾げる。
「ピアノ」
「ふぇ?」
「あんた、何やったらさっきのピアノになるんだ? どっかにスイッチでもあるのか?」
男に言われるままにピアノの姿になってしまってから、
わたしはどうやら全く頭が働いていないらしいと気付いた。
大体、“座る場所が欲しい”なんて言う男の注文に応えて、身体の一部を伸ばして椅子まで作ったのだ。
「さすがに鍵盤は白と黒なんだな」
と言いながら、男の指がそっと鍵盤を撫でる。
どうしよう。触られた。気持ち悪い。
そう考えつつも身体は動かない。
とん、と男の指が鍵盤を押し、音色がコンクリートに反響する。
「ふむ」
男は鼻を鳴らして、また別の鍵盤に指を乗せた。
わたしの身体の中に造られたハンマーが、わたしの身体の中に造られた弦を叩き、
ピアノの音を響かせる。
「やっぱり」何が“やっぱり”なんだろう。
それを尋ねる前に男の指が鍵盤を滑り、音階を駈け上がる。一番下から、一番上まで。
次の瞬間大きな両手が、私の身体を奏で始める。

98 :
もう日が陰り、ひぐらしが鳴き始めた。
耳に入るのはその声と、頭上を通り抜けていく車の音、
それからピアノの音色。
決して大きな音ではないはずのピアノはゆっくりとわたしの身体の中で響き、染み込んでいく。
そっと、囁くような指づかい。
柔らかな音色に溶けてしまいたくなる。
次の瞬間転調し、指が鍵盤に叩きつけられた。
私の身体から噴き出した音が、散弾のように周囲に撃ち込まれ反射する。
音がわたしを切り刻み、粉々にし、どこまでも高いところへと噴き上げていく。
登りつめて、何もかも消えてしまいたい、と思った所でまた、転調する。
始めの、柔らかく溶ける響き。
そして、そのままゆっくりと、残響が消えていく。
「またシュールな絵画みたくなっているが、大丈夫か?」
「……大丈夫じゃないです」
またピアノの姿のままへたりこんでいるわたしに男が声をかける。
「つーかタフネス足りないんじゃね? 
二時間弾いたらへたるピアノとか、製造元に文句言えるレベルだわ」
「あ、あなたはピアノの大変さを知らないんです! 
二時間ずっと叩かれ続ける気持ちが解らないんですか!」
「そう考えたら楽器演奏できねえな。俺ドMじゃねえし」
へっと笑う男が不愉快だ。
汗臭い匂いも脂っこい髪も毛の生えた指も全部全部むかつく。
何よりむかつくのは、この男はわたしより、
いや今まで知っている誰よりもピアノが巧い、という事だ。
わたしはずるずると身体を人型に戻した。
戻ってから、目から涙が流れている事に気付き、慌てて拭う。
恥ずかしい。見られなかっただろうか。
「帰るのか」
「……はい。もうここには来ません」
あんな演奏をされたら、とてもここでピアノを弾く気にはなれない。
いや、ここでなくても、家でもどこでも弾けないかもしれない。
久々に演奏なんて止めてしまおうか、という気分にまで落ち込んでいる。
「ちょっと待て」
男はそんなわたしの気持ちに気付いた様子もなく声をかけた。
「明日も、同じ時間にここに来い。今日の続きを弾きたい」

99 :
開いた口が塞がらないわたしを無視して、男は言葉を続ける。
「おまえ自分では気付かないかも知れないけど、最高のピアノだぞ。
はっきり言って宝の持ち腐れだ。俺が弾いてやるから、明日来い」
誉めている、のだろうか。全然嬉しくない。むしろむかつく。
もう怒り過ぎて逆に何て言ったらいいのか解らない。
「あの、あなたバイオリンは?」
そんな見当違いの事まで尋ねてしまう。
「バイオリンはバイオリンだ。とりあえずおまえを弾きたい」
「な、なんで、わたしがあなたの言う事聞かなきゃいけないんですか!」
「俺がピアニストで、おまえがピアノだからだ」
「し、知りません! ピ、ピアノじゃないし、あなたの言う事きく義務はありませんから!」
「じゃあ」
男はぼそりと言う。
「俺が、何故おまえのピアノが俺より下手なのか教えてやる、と言ってもか?」
迷ってから、何を迷ったのかと考える。
何故も何も、彼の方が圧倒的に巧いからに決まっているじゃないか。
もう、彼のピアノは聞きたくない。
惨めな気分になるだけだ。
……
わたしは黙って背を向けて草むらに踏み込んでいった。
背後からは車の音と、やがてバイオリンの音色が追いかけてきていた。

翌日。
わたしは昨日より一時間ほど早く高架下にたどり着いた。
来てしまってから、やっぱり帰ろうかという気分になる。
何で来ちゃったんだろう。
でも、家で練習していてもうるさくて迷惑をかけてしまうし、
それに行かなければ彼に嫉妬しているのを認める事になってしまう。
そんな大人げない事、嫌だ。
いざピアノの姿に変わってから、指が動かない事に気付く。
弾くのが怖い。
弾いても、どうせ彼のレベルに達していない事が怖い。
立ち尽くしたまま、一時間が過ぎる。
そして、また一時間。
彼は来ない。

100 :
信じられない。わたしには同じ時間に来いなんて言っておいて。
このまま何もせずに帰るのも馬鹿馬鹿しくて、わたしはとりあえず一曲弾き始めた。
いらいらを鍵盤にぶつけながら二曲目にさしかかった頃、曲にバイオリンが加わった。
だんだん近づいてくる。
やがて草をがさがさかき分けて、バイオリンを弾くひげもじゃの男が現れる。
よくまあ、草をかきわけながら弾けるものだと感心するが、それを態度に出さず曲に集中する。
こんな奴無視だ。
それに、正直に言えば彼のバイオリンはピアノほどには巧くなくてほっとする。
これでバイオリンも巧かったら、わたしはもう演奏を止めてしまったかもしれない。
「ちゃんと練習してるみたいだな。感心だ」
「遅れてきた事に対する言い訳とかないんですか」
「仕事だった、以上だ」
仕事なら仕方ないかな、でもごめんとか一言くらい言ってくれても、
と考えるわたしを余所に彼の指は鍵盤を叩き始める。
彼の為に椅子を造ってから、わたしはお人好しなのかなあと考えた。
その日の演奏は昨日より早く終わった。
彼は一時間ほど弾くと突然演奏を止め、“次の仕事がある”と言って走り去ってしまったのだ。
本当に信じられない。
結局最後まで遅れてきた事に対する謝罪もなしだ。社会人としてどうかと思う。
それに、とわたしは考える。
今回は、次は何日に何時、という約束はしなかった。
もう、この場所に来なくていいのだ。
大体、彼は昨日言っていた事など忘れ去ったように何も言わなかった。
きっと、大した意味もなかったのだろう。
もう忘れよう。そして、別の練習場所を捜す。それで良いはずだ。
翌日。
わたしはお弁当を詰め、高架下に向かった。
最初は家で練習しようかな、と思っていたのだ。
でも弾き始めると自分が出す音がうるさいように感じられて、全然集中できない。
これは駄目だ、と部屋を出てのびをする。

101 :
しばらくぼんやりしていると、わたしの兄弟の一人、ピカリが通りかかった。
「なんだララ、練習は終わり?」
「うん、まあ。ごめんね、うるさかった?」
「楽器は音が出るものだし、しょうがないんじゃない」
うるさかったという事か。
この子はオブラートにくるむとか気持ちを斟酌する事は出来ない子だ。
溜息をつくわたしを余所に、ピカリは自室に入り、すぐによく解らない機械を抱えて戻ってくる。
「その機械、何?」
「ああ、こっちは脳波計だよ。こっちは筋肉の動きを見る為のもの。
それからこれは、視点がどこにあるかが解る機械だ」
「……その、何でそんなものを」
ピカリはじっとわたしを見つめる。
「この二日くらいに、何か変わった事、あった?」
「な、無いよ! 全然なんにもない! ちょっと外で良い練習場所を見つけただけだし」
「じゃあ、そのせいかな」
「な、何が」
ピカリはうーんと首をひねる。
「この二日くらいの演奏が、今までのと何だか違うような気がするんだよ。
僕は演奏の善し悪しとか解らないから、とりあえず脳波と筋肉の記録をとらせてくれない?
そうすれば、今後更に変化が起きた時解りやすいしさ」
ここに来たのは、ピカリの人体実験から逃れる為であって、それ以外の意図はないのだ。
わたしは水筒に口をつけた後、演奏を始める。
どこが、今までと違うんだろう。
その“違う”は良い方に違うんだろうか。
もしかして悪い方なのか。
だんだん、悪い方に変わったような気がしてきた。
この数日怒ったり落ち込んだりしてばかりのような気がする。
そのせいで音に乱れが生じているのかも知れない。
「おう、今日も下手くそだな」
そんな事を言う奴もいるし。
「……今日は早いんですね」
「仕事が休みだから、弾き倒そうと思って」
そして当然のように、わたしに手を伸ばす。
椅子を造りながら、わたしは何をやっているのだろうと考えた。
二時間くらいして彼は昼休憩を宣言し、自分の荷物を取り出した。
中から出てきたのはパンの耳と、ジャムの瓶。
「……それがお昼ですか?」
「そうだが。やっぱり甘いものが無いともたなくてなあ。
ちょっと贅沢してジャムも食べるようにしているよ」
何故このメニューで“健康にも気を使っています”という顔が出来るのか。
わたしのお弁当だってありあわせのサンドイッチだが、
とてもこれを一人で食べる気にはなれなくなってきた。

102 :
「あの、つまみます? わたしのお弁当」
彼はしばらくわたしのお弁当箱を眺める。
「これ、きゅうりって入ってるか?」
「? こっちと、こっちのには入ってますけど」
「じゃあそれ以外で。俺キュウリ食べられないんだ」
何てわがままなんだろう。
「好き嫌いしちゃ駄目ですよ」
「無理なものは無理だ」
結局キュウリが入っていないサンドイッチと、彼のパンの耳の半分ほどを交換する。
もそもそしたパンの耳も案外においしい。
そう言うと“たまに食べるとそうだな”と言われた。
彼から見れば、わたしは苦労知らずの子供なのかもしれない。
昼食の後また二時間ほど練習した後の事。
「雨が降りそうだな」
そう言って彼が手を止める。
見れば、あんなに青かった空は暗い雲に覆われている。
「傘、持ってきてます?」
「ない。おまえは?」
「折りたたみなら」
そう言っている内に、ぽつぽつと滴が地に落ち、あっというまに激しく降り始めた。
辺りが雨の音に包まれる。
「わたしの傘、使ってください。バイオリン、濡らす訳にはいかないでしょう」
「おまえは?」彼は不機嫌そうに眉をひそめる。
「わたしは、まあ、濡れても平気だし」
こういう時、服を着ていないのは便利だ。
「駄目だ!」
彼の声が橋脚に反響し、わたしは飛び上がるところだった。
「何考えてる。
ピアノのくせに濡れても平気な訳ないだろう! もっと自覚しろ」

気付いたときには、彼を突き倒して人型に戻っていた。
わたしも彼も、何故こんな事になっているのか、という顔をしていたと思う。
「ピアノじゃ」
口からこぼれた声が、しゃっくりに邪魔されて止まる。
しゃっくりを飲み込むと、言葉はすんなり吐き出された。
「ピアノじゃありません。どうせわたしは人間じゃないけど、あなたのピアノじゃありませんから!」
そのまま、わたしは草と雨のカーテンの中に突っ込む。
後ろで何か言われたようだったが、雨音が耳を塞いでくれる。
家に帰り着く頃にはびしょ濡れだったが、おかげで顔が雨以外のもので濡れているのは気付かれずに済んだ。

103 :
一週間が過ぎて、わたしが再び高架下に向かったのは彼に会う為でも練習する為でもなかった。
むしろ、彼は絶対にそこにいないだろうと考えたから出かけたのだ。
あの後、わたしは彼が何者なのか調べてみた。
あれほどの技術があるなら、きっとプロの演奏者だろう。
調べて見ればあっという間だった。
彼は最近高名なコンクールで優勝し、売り出し中のピアニスト兼作曲家だ。
この街にはコンサートの為にやってきていた。
調べて見れば、彼が仕事で遅れたり早く帰った日は、まさにそのコンサートの当日だった。
そんな時に、わざわざ抜けてきたのだ。
わたしはコンサートの経験なんてないが、それが非常識な事だとは解る。
やっぱり社会人失格な人だ。最低だ。
なんで、そんなことしたんだろう。
そして、わたしは、なぜあの人が気になるんだろう。
人間扱いされない事なんて、今更怒る事でも悲しむ事でもないはずなのに。

考えても仕方ない。どちらにせよ、彼はもう別の街に移ってしまったはずだ。
もうあの場所は、わたしだけのものだ。公用地だけど。
そう考えながら草むらを抜けたわたしは、高架下に彼が倒れているのを見て悲鳴を上げてしまった。
どうしよう。警察? 救急車?
ここから一番近い公衆電話って、どこ?
「い、今、警察呼びますから、ちょっと待ってて!」
「待て、警察は呼ぶな」
良かった、意識はあるのか。
「どこが、どこが痛いんですか?」
「いや、どこも」
彼を抱き上げる。細い身体はみっしりと筋肉がついていて硬い。
「おなかが、空いてるとか」
「まあ、腹は減ってる」
彼は溜息をつく。
「確かに、ピアノに、それも誰にも弾かれないピアノになるって辛いな。
身体の節々が痛いし、泣きそうな気分になる」

104 :
ごすんと彼を取り落とすと抗議の声を上げられた。
「痛いじゃないか」
「わ、わたしがどれほど心配したと思うんですか!
もう、もう知りません!」
「こっちだって心配した。風邪引かなかったか」
彼の機嫌悪げな顔にどきりとする。
何故どきりとしたんだろう。どうせこの人は楽器のコンディションを気にしているだけなのに。
「あなたには、関係ありません」
彼はまた、ごろりと地面に転がりながら言う。
「まあいい。今日は俺の方がピアノをやる。おまえ、弾け」
「馬鹿にしてるんですか」
「違う」
わたしの手首を、彼の大きな手が掴む。
「解らないからだ。教えて欲しい」
「教えるって、何を?」
あのなあ、と彼は頭をがりがり掻く。
「おまえは自分の身体だけで奏でられる世界唯一のピアニストなんだぞ。
その感覚というかどんな感じなのかとか」
ああもう、と彼はまたふけを飛ばした。
「つまりピアノ扱いされて何が嫌なのか解らんし、俺だってなれるものならなりたいし、
何で怒ってるのかが解らん。教えろ」
「な、何でって」
そんな事を、じっと見つめられて言われても、困る。
「え、えと、物扱いされて喜ぶ訳ないでしょ」
「物扱いじゃない。楽器扱いだ」
「同じです」
「全然違う。例えるなら、火事の中に取り残された人間とピアノどっちを持ち出すかと言ったら」
「それは人として駄目です。ちゃんと人間の方を助けてください」
えー、とか言っている。この人はやっぱり駄目な人なんだ。
「でもピアノとおまえだったらおまえを助ける」
「それは、わたしがあなたにとって、都合がいいピアノだからでしょう」
「違う」
彼はまっすぐにわたしを見つめる。
「おまえは、俺の理想のピアノだ。それで理想のピアニストで理想の女だ」

105 :
わたしの顔は緑色だが、この時だけは真っ赤になっていたんじゃないかと思う。
「な、何言ってるん、ですか」
「い、いや、だって」彼は彼でひげの下の顔を赤くしている。
「楽器で、しかも女って最高じゃないか。
今まで楽器と結婚出来るならしたいって思ってたくらいなのに」
「あ、あなたは変態ですか?」
「そうかも」
どうしよう。世の中に変態って本当にいたんだ。
そんな変態に手を掴まれてるのに、すごくどきどきする。
本当なら逃げなきゃいけないはずなのに。
「大体、演奏するなんて、身体触るための言い訳に決まってるだろう。
嫌がらないからOKなのかな、と思うに決まってるじゃないか!」
「そ、そんなこと、言われても困ります!」
「嫌なのか」
ものすごくしょんぼりした様子の彼に慌てる。
「それは、その」
口をぱくぱくしながら彼を見下ろした。
もじゃもじゃの髪の下にのぞく黒目がちの目を、大きな手を、ごつごつした喉仏を見つめる。
「もう、俺に弾かれるの嫌なのか。余所のピアノに浮気したから? で、でもあれは仕事で」
じわっと彼の目尻に涙が浮かんでくる。
「わ、訳の解らないこと言いながら泣かないでください! 
そういうわたしの事、女だと思ってない所がいやなんです!」
自分も何か変な事を言っている気がする。
「本当に、わたしの事、好きなんですか? ピアノって部分抜きで」
「当たり前だ」
「じゃあ、キスできますか」
「余裕だ。というか、おまえはどうなんだ?」
わたし、それは、ええと
考えている間に、彼の手はわたしの手首を引き、わたしは彼の身体の上に倒れ込む。
もう片方の手がわたしの後頭部をがっと掴んで固定した。
顔全体が髭でちくちくする。ぬるぬるしたものがわたしの顔を這い、
唇に辿り着くと貼り付いて、吸われる。
ぺちゃぺちゃと、水音が顔の前でしているのが変な感じ。
キスしちゃった。どうしよう。
さすがにレモンの味がするとまで思ってはいなかったけど、すごく臭い。
こんな臭いが前方からしてきたら、間違いなく回り右して逃げる臭さだ。
なのに、何だか

106 :
「あ、う、むぅっ」
わずかに開いた口の隙間から、彼の舌が侵入してきた。
口の中、入られちゃった。
初めてなのに、いいのかな。
と、いうか、入れるなら入れるで、“入れるキスをしますよ”って言うべきなんじゃないかな。
あたたかくて、ぬるぬるして動くものが、口の中にある。
彼の手が柔らかくわたしの耳を覆う。そのままごそごそと指が耳の中にねじ込まれた。
何も聞こえない。
耳の中をさぐる彼の指と、わたしの口の中でぴちゃぴちゃと響く水音と、
ずきんずきんと響く身体の中の音以外、何も聞こえない。
息が苦しい。
身体の芯をきりきりと絞り上げられるみたいで、苦しい。
もう
もうこれ以上されたら、きれちゃう
彼の手が緩み、わたしは力無く彼の上に倒れこんだ。
ぱくぱくと開く口は酸素を求めているはずなのに、
急に温もりから引き離されたようで、わたしは尚も彼の唇を求めてしまう。
彼のひげがわたしの涎でべたべたになって、もしかしたら怒っているのかな、
とちょっと不安になった。
彼の手が、わたしの頬を包む。
「おまえ、キス初めてか?」
「う、うん」
やっぱり、とても下手だったのだろうか。
こんなに辺りを涎まみれにしてはいけなかったのかもしれない。
「初めてなのに、無茶してすまん」
「へ、平気です」
彼の指がわたしの顎を伝う涎を拭った。
「び、びちゃびちゃにして、ごめんなさい」
そう言うと何故か彼の顔は赤らむ。
「ま、まあ、それは生理現象だから、仕方ないな」
「?」生理現象ってなんだろう。
「ちょっと、見てみてもいいか。いや、どうしても嫌ならいいんだが」
「あの、見るって、なにを……」
そう言っている間にも、彼の手がわたしの身体をゆっくりと持ち上げる。
暑くて汗臭いはずなのに、身体が離されると心細くてちょっと泣きそうになる。
とろりとした何かが糸を引いた。
「……見事なまでにとろとろだな」
「な、なにが?」
彼の視線を追うと、わたしの下腹部からとろりと透明な汁が流れ出し、
彼のTシャツを汚している。

107 :
「やっ、な、なにこれ、ごめんなさい」
「い、いや、大丈夫だから、全然気にならないし!」
彼はそう言うがわたしは泣きそうな気分だった。
キスしたら漏らすなんて、ものすごく恥ずかしい。
「ば、馬鹿泣くな! 本当に気にしてないから! 大体、それを言うなら、俺だって」
彼の視線が、天井の辺りをさまよう。
「た、勃ってる、し」
赤い顔している彼の言葉の意味が解らず、首を傾げる。
「あの、たってる、って何ですか?」
「勃ってるは勃ってるだ……本当に、解らないのか?」
彼がぐいと腰を押し上げると、身体に電流が走った。
びっくりして口から漏れる声は妙に高い。
何だろう今の。
同時に、わたしの身体を突き上げたのが、彼の股間から生えている硬くて熱いものだと解る。
こんなもの、生えてたっけ?
いや、いやいや、いくらわたしだって、人間の男女は股間をくっつける事で赤ちゃんが出来るという事くらい知っている。
見たことは、なかったけど。
これが、そうなんだ。
じゃあ、今わたしの下腹部にぽっかりあいた穴が、人間の女の人の、それ?
「どうしよう」
穴が、ふさがらない。
とろとろした汁が流れ出て、ひくひくして、力が全然入らない。
指で閉じようとしても、触るだけで声を上げて身体が跳ねてしまう。
「とろとろしてるの、とまんない。どうしたらいいの?」
「俺も、その」
彼の指がわたしの背を滑り、それだけで変な声が出てしまった。
「わるい、我慢できない。最後までやらせてくれ」
やらせるって、何を?
そう尋ねようとした口が、再び彼の口でふさがれる。

108 :
わたしは姿を変える時、細かく考えているわけじゃない。
例えばピアノに姿を変える時、弦の長さや太さみたいな細かいところまで意識はしない。
ただ、一番いい音が出る形に、無意識に変わる。
それと同じ事が今、わたしの身体に起ころうとしている。
一番気持ちよくなれて、一番気持ちよく出来る身体へと、変わる。
彼の指が私の穴を両側から押し広げたとき、ついに大きな声を出してしまった。
「いたい、か?」
「いたく、な、あっ、ない、けど、へん、びくびく、するぅ」
彼の指が二本、三本とわたしの中をうごめく。
「あーっ、あ、そこ、だめぇ、こ、こしゅんないでえぇっ」
ろれつが回らない。裏返った声がすごく恥ずかしくて泣きそうになる。
「変じゃない」
彼のちくちくしたひげに囲まれた口がわたしの胸の先端を吸い、わたしはまた鳴いた。
いつもはつるんとしたわたしの胸に、ぽつんと乳首が生えてきている。
赤ちゃんにミルクを与える以外何の役にも立たない器官のはずなのに、
何でこんなもの生えちゃったんだろう。
それに触られたり、舐められたり、吸われたりすると頭が真っ白になるほど気持ちよくて、
どうしたらいいのか解らなくなる。
「あっ、だめぇ、すぅ、すいながら、なかで、うごかしゃないでぇっ、
へんな、へんなこえ、でしゃうう」
「もっと、出せ」
そう言って、ぺちゃっと舌を当てる。
「おまえの声、いい。すごく、いやらしくて、かわいい」
もっと、と言って彼はまたわたしの乳首をこりこりといじり始める。
ラジオのチューニングみたい。
口から漏れている雑音が、どんどん高く、気持ちよさのチャンネルに向かって合わせられていく。
それよりも、もっとふさわしい例えがあるような、と思いながらも、
わたしは膣口にあてがわれた物に怯えた。
こんなの、本当に入るのかな。
怖いのに、互いの濡れた部分が触れ合うのが気持ちよくて、ぐちゅぐちゅと動かしてしまう。

109 :
「くそ、じっと、してろ、入らん」
彼の手が腰にあてがわれて、力がこめられる。
次の瞬間、鈍い衝撃が下腹を襲った。
ずうんと、体中を痺れが走り抜けた後、裂けるような痛みに悲鳴をあげる。
「ちょ、ちょっと力、ぬけ」
「いぃいだいぃ、むりぃ」
「だ、大丈夫だから、な、わるかった」
痛くて痛くてしょうがないのに、自分の身体の下でおろおろしている彼が何だか可愛いな、
と思ってしまった。
脂汗まみれで、歯を食いしばっている彼が可愛くて、愛おしい。
相変わらず裂けるような痛みは続いていたけど、わたしは涙を拭って、笑顔を作る。
「た、たぶん、もう、平気。だから、ゆっくり、して」
「あ、ああ。じゃあ、ゆっくり、な」
痛い。痛い痛い熱いにそう。
彼は彼で目をぎゅっとつぶって顔をしかめている。
「ね、ねえ」
「なんだ」
「いまは、あなたって、きもち、いいの?」
彼はしばらくはあはあと息を整えた後、口を開く。
「締め付けが、きつくて、いたい」
「ご、ごめんなさい」
「あと、熱くて、やけそう」
「それは、わたしも、そう」
彼がまた、ずいと腰を進めたので悲鳴を上げてしまう。
「でも、おまえのなかが、すごく気持ちよくて、めちゃくちゃに、するかもしれない」
彼の手が優しく尻をなで上げた。
痛みの中に、何か違う感じが混ざったような気がする。
「いや、先に言っておく。おまえを、めちゃくちゃにする。
後で怒ってもいいし、責任はとるから」
彼のちくちくした唇が、またわたしの顔に押し当てられる。
「めちゃくちゃに、するぞ」
彼に下から突き上げられながら、わたしは探していた答えを見つけた。
彼が、わたしにしていた事の、もっとふさわしい例え。
わたしは、彼に調律されちゃったんだ。
そして、演奏されている。

110 :
打楽器のように叩かれて、
弦楽器のように擦られて、
管楽器のように吸われて、
鍵盤楽器のように撫でられて、
私の中からありとあらゆる声と音と快楽が吐き出される。
肉と肉がぶつかり合う音や、
じゅぽじゅぽと湿った音や、
お互いの口の中に吐き出される荒い息や、
背中を撫で上げられるだけで出てしまう高い声が、辺り一面に響く。
コンクリートを越えて、上を走る人々に聞こえたらどうしようと、変な心配までしてしまう。
すごく、はずかしい。
はずかしい、けど
「もう、いたく、ないのか」
「うん、んっ、んうっ、なれた、のかな」
今でも痛みはあるけど、それよりもずっとぴりぴりした気持ちよさで変になりそうだ。
「そう、か、おまえが、やらしいからだで、よかった、処女なのに、ぬれぬれだもんな」
この人は酷い事を言うと思った。
私を、こんないやらしくしたのは、この人なのに。
その不満が顔に現れていたのか、彼は笑う。
「いやらしい、おまえが、すきだ。
おまえの、いやらしいこえを、もっともっとださせたい、
からだの、おくのおくまで、こえを、ひびかせてやりたい。
せかいじゅうに、きこえるくらいに」
そう言って彼はまた、腰を動かし始める。
世界中に聞こえるなんて嫌だな、ともちろん思ったのだが、
もう声を止める事も出来ず腰を押しつけるだけだった。

111 :
「……背中、痛くないですか?」
「痛くないと言いたいが、結構痛いな」
高架下は砂利が敷かれていて、わたしは小一時間ほどそこに横たわる彼の上で弾んでいた事になる。
初めてで何がなんだか解らなくなっていたとはいえ、悪い事しちゃったな。
「今度から、途中でわたし、代わります」
「そんなこと出来るか馬鹿。女はそういうの気にしなくていいの」
むくれる彼を見て、この人はとても古いタイプの人なのかもしれないな、と思う。
そういう人に思うべき事ではないのかもしれないが、とても可愛い。
「大体、次はもっといい、ちゃんとした場所でするし」
そう言って彼は、わたしの顔をじっと見つめる。
「次の事、考えていいんだよな?」
「う、うん」
「あ、あと」
彼は顔を赤くする。
「こういう事、以外の事も、していいんだよな? また、おまえの事、弾きたい」
わたしはちょっとむくれてみせる。
「前は、そんな了承取らず勝手に弾いたじゃないですか」
「そ、それはまあ、あのときは、押しの一手かな、と思ったし、我慢できなかった、というのもあるし」
「あなたって我慢するの下手ですよね。さっきだって」
「仕方ないじゃないか! なんだよ、おまえだってあんあん言ってた癖に!」
「言わせたのはあなたです!」
不毛な言い争いだ。
しょぼくれた彼の上から立ち上がり、身体を伸ばした。
そのまま足を三本にし、鍵盤を造り、ペダルを造り、弦を造り、ハンマーを造った。
最後に椅子を造る。
「ちょっとなら、弾いていいですよ。疲れてるから、ちょっとですけど」
彼はぱあっと花のような笑顔で椅子にまたがる。
やっぱりこの人はすごく現金で、わたしの身体だけが目当てなんじゃないかという気がする。
それが嫌じゃない、わたしにも問題があるかもしれない。
「なあ、椅子に俺のザーメンが付いてる」
「文句があるなら下りてください」
ぶつぶつ言いながらも、彼はそっと、わたしの鍵盤に手を伸ばす。

112 :
「初めて会った日さ、
おまえに、何でおまえの演奏が下手なのか教えてやるって言ったの、覚えてるか?」
「……忘れる訳ありません」
彼の指が鍵盤を撫でて、わたしは身体の震えを押さえるのに苦労した。
「誰にも聞かれたくないって音楽だったからだ。
「テクニックも悪くないし、音色もめちゃくちゃ俺好みなのに、
恥ずかしくて誰にも聞いて欲しくないって思っている音楽だったからだ」
そんなこと、考えていただろうか。
ここで弾くのはただの息抜きで、自己満足。
好きなように弾いたら、うるさくて周りに迷惑かけちゃうから。
ここでだけは、自分の好きなように、わがままに奏でたい。
そんなことを考えていたような気がする。
「もっと、世界中に聞こえるくらいに弾けばいいのにさ、とか思っちゃったんだよ」
「でも、わたし」
「巧くないとかはいいの。どうせ練習すれば巧くなるんだから」
彼は笑って、鍵盤から指を下ろす。
「やっぱり疲れたから弾けない。代わりに何か、好きな奴を弾いてくれ」
わたしは深呼吸し、腕を伸ばす。
「じゃあ、聞いていて下さいね」
弾きながら思うけど、わたしはやっぱりあまり巧くはないかもしれない。
一生練習しても、彼の域に達しないかもしれない。
でも、それでも彼がわたしのピアノを聞きたいと思ってくれたなら、
それでもいいかな、と考えた。
彼が好きだと言ってくれた時を、私が彼を好きになった時を忘れなければ、
わたしは、誰の前でも、どんなに下手くそでも胸を張って演奏できる。
ずっと、この曲が終わらなければいいのに、と思った。

113 :
「……もう終わりにしましょうか」
わたしの声音は人生で最も低いものだった。
残暑にさしかかった時期だが、まだまだ暑い。
青い空と、緑の草。
目の前には、土下座している彼。
「本当に、悪かった、って」
「別に、いいですよ。
みんなに言ってるんですよね、俺だけが君を演奏できるんだー、とか」
「いや、その、それは仕事で組む相手とはさ、そんな感じの事を、言うことも、ある、けど」
「でも、その人とも、したんですよね?」
彼ががばと顔を上げ、潤んだ目でわたしを見上げる。
無視だ。
髭を剃ったらかなりの童顔で、チワワっぽい可愛さもあるけど無視だ。
「だ、だって、失恋で落ち込んでとても演奏出来ないとか言われて、
慰めてたらいつのまにかそんな事になってて」
「あなたって、いつもいつの間にかなってますよね。わたしの時もそうだったし」
「で、でも、抵抗はしたよ。
そ、それに、前はおまえのものだと思ったから、後ろ以外は駄目だって言ったし! 
う、後ろの処女はおまえの為に捧げたようなもんだよ?」
「そういう問題じゃありません。相手が男の人だからいいと思ってるんですか?」
「お、思ってないけどさあ」
ぎゃんぎゃんと響くわたし達の不協和音に、蝉と車たちが声を重ねていく。
その遥か上で、鳶が高い笛を吹いていった。

114 :
「じゃあ、それで別れちゃったの?」
姉妹の一人、バーバリブの視線に、わたしは気まずげに目をそらす。
「別れては、いない、けど」
「喧嘩中?」
「うーん」
もう一人の姉妹、バーバベルが鼻で笑う。
「どうせ仲直りHで解決でしょう? はいはい痴話喧嘩乙」
図星だ。
「大丈夫なの? 私、ララはその人に押し切られてるような気がするんだけど」
「その男、絶対全ての問題を下半身で解決するタイプよ。
いつも、ごめん愛してるとか言われて押し倒されてない?」
「だ、大丈夫! 今回はわたしの方が押し倒したから!」
姉妹の目が冷たい。
気まずい沈黙の後、リブが口を開く。
「その、具体的には、どんな感じで?」
はっと気が付いたように顔を赤くし、慌てて付け加える。
「こ、これは興味とかじゃなくて、ちょっと心配というか、
気になるというか、普通のカップルはどんなことするのかな、というか」
「あたしは素直に興味あるって言うわよ」
ベルはじと目でリブを眺めた後、ふふんと笑う。
「どんなことしたのか、お姉さんに教えてちょうだいな」
いや、言えない。言える訳がない。
グランドピアノの姿のまま押し倒してというか押し潰して、無理矢理挿入させて、
“ちょっ、(ピアノに)中出しらめぇ、(ピアノが)こわれちゃうぅ”
とか言ってる彼の声と精液が身体の中に反響しているのが気持ちよかったとか、
絶対言えない。
しかし、人間型の自分に対するより、ピアノ型の自分に対しての方が明らかに扱いがデリケートで、
思い出したら腹が立ってきた。
「……また、やろうかな」
「何を!? どんなことを!?」
「気になるな〜。写真とかないの?」
そんなかしましさと共に、女子会の夜は更けてゆく。

115 :
GJ
超絶良スレ

116 :
ありがてぇ…ありがてぇ…!

117 :
投下乙!
素晴らしいです

118 :
GJ

119 :
ピアノ姦なんて普通絶対出てこねえ!! 天才か! いや、変態か!!

120 :
新作希望

121 :
保守

122 :
そろそろ期待あげ

123 :
ネタスレだと思って開いたけど完成度半端なかった…
新作に期待します!

124 :
・長くてすいません。前後編です。後編は明日投下します。
・前編の濡れ場は7〜8辺り

125 :
口を開けると息が白く凍った。
ぶるっと震えた後、身体をほぐす為に軽く跳び跳ねる。
時刻は朝六時少し前。まだ辺りは暗い。
腕を上げて大きく反ってから、脚を作ってアキレス腱を延ばす。
通り掛かったウォーキング中の主婦が、愕然とした顔で俺を、つまり、
赤いゴムボールに手足が生えた姿のバーバブラボーを見ながら歩き去っていった。
まあ、いつものことだ。我ながらキモい体型だなあとは思うし。
俺はちょっと伸びをして、道の先を眺める。
待ち合わせ場所である川辺のジョギングコースはやや蛇行していて、
生い茂る木が入口を半分ほど隠していた。
物理的に首を長くしてのぞき見たいけど、我慢。
一度やってしまった時、気持ち悪がられるかと思ったら
“そんなになるまで待たせてごめんね”とものすごく恐縮されたからだ。
彼女にまたそんな思いをさせる訳にはいかない。
でもアイツ、俺が待っている間に首が伸びていく生き物だと思ってるのかな。
アイツは結構天然というか、純粋培養だから、本当にそう思ってそうだ。
純粋培養のアスリート、だった。
俺が出会った時はもう脚を壊して、俺がいたサッカーチームのマネージャーを務めていたけれど。
今思うと彼女でもっていたチームだった。
監督は日和見キャプテンは利己的、俺も……人の事は言えない。
言い訳させてもらうと、最初はそんなじゃなかった。
子供の頃からスポーツは大好きでもっと上手くなりたいと思ってたし、
皆と一緒に強くなっていくのも楽しかった。
チームメイトからも頼りにされていたと思う。
公式試合に出られなくなる前、もっとはっきり言えば
“化け物のいるチームと試合は出来ない”と相手チームから言われるまでは、
上手く行っていたと思うのだ。
それでもしばらくは、努力した。
パンクを直していない自転車で、無理矢理走るようなものだったけど。
他のチームメイトの練習を手助けしたり、マネージャーを手伝ったり。
そう、彼女と親しくなったのはその頃だ。

126 :
ひどい話だが、それまではおっぱいのでかい地味な女子という印象しかなかった。
良く見ればかわいい顔をしていたのに、化粧気もなくいつもジャージ姿で忙しく立ち働いていた彼女が、
決して走ることがない、いや走ることが出来ないということにも気付いていなかった。
その上、監督がさも自分が考えたような顔をしている練習メニューを、
彼女がこつこつ作っていたなんて考えた事もなかったのだ。
俺がそう言って謝ると、彼女は少しきょとんとした後、にっこり笑う。
「そんなの気にする事ないよ。だって練習するのはブラボーくんで、私は考えるだけでしょ。
料理するとき、このレシピは誰が作ったかなんて考えないし、料理を食べる人には関係ないじゃない」
「そういうもんでもないよ」
「そう?」
「適当に作ったレシピと、自分の為に一生懸命考えてくれた人のレシピだったら、全然違う」
俺がそう言うと、彼女はちょっと赤い顔をして「そうかなあ」と笑っていた。
何であの時、俺は彼女と付き合わなかったんだろう。
まあもちろん、彼女がOKしたとは限らない。
彼女は誰にでも分け隔てなく接していたし、だから勘違いしてはいけないと肝に命じたりもした。
でも、あの時、自分の気持ちを正直に伝えていたら、あんな大騒ぎにはならなかったはずだ。

しばらくして、俺のロッカーに色んなことの書かれた手紙が届いた。
“エロ触手”“変態スライム”“全裸”
そして、赤ペンで描き加えられた、顔のあるちんぽが胸を揉んでいるように見える、彼女の写真。
身体が沸騰する程の怒りに襲われ、気付いたら身体が五倍くらいの大きさに膨れ上がり、
天井に頭をぶつけて我に返った。
チームメイトはロッカー室の外まで避難して恐々と俺を眺めている。
俺が顔を向けると、彼らは目を逸らして去っていった。
本当は怒りの視線を向けたいと思ったのに、俺は捨てられた犬のような顔しか出来なかった。

127 :
監督に呼び出され、しばらくチームに顔を出すなと言われたのは、その後だ。
「みんな君を怖がっているんだよ。かっとして何をしでかすか分からないと」
俺は監督が望むように、しおらしい顔で頷いたりしなかった。
悪いのはどっちだ。何故俺だけが我慢しなければいけないんだ。
出る所に出てもいい、俺は何も悪い事をしてないんだから。
俺がそう言うと、それまで監督の後ろにいたキャプテンがずいと出てくる。
「そんな事をしてマネージャーに迷惑がかかるとは思わないのか。
ただでさえ、君と噂されて傷ついてるのに」

身体の大きさを変えるのは我慢出来たけど、口を開くのは我慢出来なかった。
例の写真を叩きつけて叫ぶ。
「噂されて迷惑したのはこっちだ。
ああ、悪かったよあんたたちのオナペットとは何の関係もないから安心しろよ!」
全く、俺はどうして余計なことしか言えないんだろう。
それを聞いて彼女がどう思うとか、それを言った瞬間彼女がドアを開けるかもとか、
何故想像しなかったのだろうか。

次の日、俺は練習に行かなかった。正確には次の日から、であるが。
練習をしないとなると行く場所もなく、部屋に居てもやる事もなく、いつもの癖で筋トレを始め、
いつものメニューを半分ほどこなしてから、そんな事をしても何の意味もないと気付いた。
こうして筋肉を作っていると、ナルシストのボディビルダーみたいだな、と考える。
いや、ボディビルダー以下だ。
彼らは毎日苦心して、理想の身体を造り上げる。
でも俺はと言えば、ちょっと想像するだけで磨き上げた筋肉を身に纏えるのだ。
チームにいた時から、考えない訳じゃなかった。
俺は、自分の身体をどんな形にも変えられる。
相手チームは俺が好き勝手に身体を伸ばしてシュートを決めれるんじゃないか、と揶揄し、
その時はそんな事する訳ないと反論したが、
本当に、絶対していないのかと言われると確信が持てないのだ。
数ミリでボールに届くという時、俺は本当に身体を伸ばしていないのか?
スタミナが尽きようとするのを堪えた時、
俺は本当に自分の身体を“疲れる前の身体”に変えていないのか?
俺はベッドに寝転んだ。
チームメイトに嫌われても、無理ないなと溜息をつく。
自分たちの苦労を尻目に、好き勝手してるように見えたかもしれない。
それでも
納得いかない
裏方でもいい、ただチームにいられればよかったのに。

128 :
彼女の汚された写真を思い出し、俺は頭を振って打ち消す。
ふと、キャプテンの軽薄な笑顔がうかんだ。
そういえば、あいつがマネージャーにふられたという話があった。
今はチアガールか何かと付き合っているが、以前は彼女に粉をかけていたはずだ。
本人達から直接聞いた訳じゃないが、彼女が“チーム内で恋愛すると和が乱れるから”と
ばっさり断ったという噂は聞いた。彼女らしい話だ。
もしも、あいつがそれを根に持って、俺のついでに彼女も貶めたなら?
証拠なんて何もない。全くの八つ当たりだった。
でもそのときは、他のことが全く考えられなくなってしまったのだ。
言い訳させてもらうと、俺はそこまで本気ではなかった。
上手くいったら良い気味、位だったのだ。
まあ、下準備はした。
兄弟たちにも真意は隠したものの協力してもらった。
ベルにはそういう層が何を好むのかレクチャーしてもらったし、
リブには色々資料を貸してもらった。
本棚の裏に隠されていた“資料”を無断で借りた事がばれてぶん殴られた。
男兄弟達は全く役に立たず、この子たちは健全なのだなあと微笑ましくなった。
ララには心配された。
「何か、嫌な事があったの?」と眉を寄せる彼女に、俺は単なる気分転換なのだと言い訳した。
隣にいたベルは、その言い訳を全て見抜いているように笑っていた。
「まあ、飽きるまでやってみたら? 転ぶのもまた、青春って奴よ」
うちの兄弟姉妹はそれほど歳の差がないはずだが、あいつだけサバを読んでいる気がする。

そんな準備を経て、俺はあるクラブに辿り着いた。
「えーと、スライムくん、だっけ? どうしたの?」
声をかけてきた女子、キャプテンの恋人に何と答えたのかはよく覚えていない。
もちろん彼女が俺の標的であり、
彼女が出入りするする店や彼女が好みそうな話題を下調べしてきたのだが、
心の準備は足りなかったみたいだ。
何と答えたのかは思いだせないが、彼女はげらげら笑っていた。

129 :
二時間後。
彼女は俺の身体にもたれかかっていた。
「スライムくんって抱き枕みたい。うちに一匹欲しい」
「俺はきみが欲しいな。俺の上で寝て欲しい」
やだースライムくんったら、と笑い転げる彼女が、ぐにゃぐにゃと俺の身体をこねまわす。
その内に二人とも、顔が赤く、息が荒くなってきた。
「スライムくん、やらしいとこ触ってない?」
俺はちょっと目を逸らし、ちょっとわざとらしいかなと思いつつも恥じらった声を出す。
「いや、そっちこそ、今触ってるの、俺のそういう所だよ」
彼女はぱっと手を離す。
ここで、彼女が嫌悪に顔を歪めたら、そこで止めようと思っていた。
でも彼女は上目づかいの、とろけたような笑顔で言う。
「へえ、スライムくんにもそういうの、あるんだ。どんな感じなの?」
「いや、それはちょっと」
俺は股間……に見えそうな所を押さえて、少しあとずさる。
えーやだスライムくんカワイイーと笑う彼女は俺の身体をぺたぺた触ってきた。
別にそれで気持ちいいという事もないのだが、上ずった声を出してみせる。
「そ、それに、みんな見てる、し」
横目で眺めると、彼女の連れの女の子達は連れの男と腕や足を絡めて囁きあっている。
本来なら、彼女も恋人であるキャプテンとそうしていただろう。
ただ、試合直前でさすがにそんな事をする余裕はなく、
彼女はここに遊び相手を物色する為にやってきている。それも、調査済みだ。
「もー、恥ずかしがり屋なんだから」
彼女は俺の身体をまさぐるのを止めない。
その目はきらきらと輝いている。
自分より弱いものを、珍獣をいじめるのが楽しくて仕方がない、という顔。
なんだ、ひけ目に思う事もなかったな。
この女なら、何やってもいいや。
俺は、彼女の鼻先にぶるんとそれを突き出す。
「へ、へぇ〜、け、結構大きいんだ」
「そうかな」
リブの部屋で見つけた“資料”の中で一番大きいのを参考にしてみた。
あいつ、何であんな物持ってるんだろう。

130 :
「……見られるの、結構恥ずかしいよ。しまっていい?」
「う、うん」
そう言いつつ、俺は“それ”のラインがくっきり見えるよう気を使って、薄く隠す。
彼女の視線は“それ”に注がれたままだった。
俺は彼女の顔から目を離さない。視線を気付くかれた彼女の狼狽を見守る為だ。
彼女が俺に見られてるのに気付き、照れ笑いを浮かべた段階で席を立つ。
「どこ行く、の?」
「ちょっと、トイレ」
この店のトイレは案外に広く、それなりにおしゃれなデザインである。
だけど、男女兼用だ。
つまりは“そういう事に使って下さい”という場所で、
俺が入った時、既にそういう先客達の声がしていた。
かなりげっそりした気分になる。
自分のやろうとした事が、ものすごく馬鹿馬鹿しく思えてきた。
追い掛けてきた彼女が、俺の手を引いて個室に入ったから、尚更。
「ど、どうしたの」狼狽した声を出してみせる俺に、彼女は捕食者の笑みを浮かべる。
「スライムくん、オナニーするつもりだったでしょ」
俺は図星を刺されて戸惑った、というような溜めを作った後、口を開く。
「……ごめん」
彼女はぷっと吹き出す。本当に俺が恥じていたら、彼女の笑みに傷ついただろう。
でも、何とも思わない。
「わたしの身体で、コーフンするんだ」
「そ、それは、するよ、当たり前だよ」
確かに、興奮するだろう身体だった。
たわわな胸に、むちむちしていても引き締まったふともも。
“あんな彼女がいたら毎日が楽しいだろうな”と妄想するような女だ。
あくまで、見た目だけなら。
「スライムくんって、童貞?」
普通聞くか。かなりイラッとしたが、それを押し隠して恥じらった声を出す。
「……うん」
やだカワイーとか言われた。意が芽生える。
「女の子に興味、ないの?」
「そ、そんな訳ないよ!」
「じゃあ、さあ」
彼女は上目づかいに俺を見つめる。
「スライムくんの童貞、捨てさせてあげようか?」

131 :
一瞬、嫌だなと思わなくもなかった。
俺だって、夢にみない訳でもなかったのだ。
大好きな女の子とデートして、キスをして、ロマンチックな場所で、そうする事を。
間違っても、公衆便所みたいな場所で、公衆便所みたいな女としたいとは思っていなかった。
でも自分にそんな機会が訪れる訳もないし、まあ全く、捨てるのにぴったりの場所と相手じゃないか!
それから更に、数十分後。
「あ゙ぁーっ、あぅあっ、いぃっ、ずごぐぅ、ずごぐいいいいからぁっっ」
「声、大きいよ、聞こえちゃう」
俺は獣のような声を上げ続ける彼女の口をそっと塞いだ。
もう片方の手は裾から入って彼女の胸を揉みしだいている。
更にもう片方の手は彼女の尻を持ち上げ、もう一本の手は彼女の花びらを押し広げ、
指をくちゅくちゅと出しいれしていた。
首筋を軽く噛む。
同時に彼女の右乳首と左腋の下と右脇腹と左ふとももの裏と陰核に当てられた俺の口も、
肉を噛んだ。
「いぅやぁぁぅいっ、か、かみかみしないでぇっっ」
「声大きいって」
顎から垂れるよだれは放置したが、局部から垂れる愛液は床を汚しそうだったので、
俺はトイレットペーパーをからからと引っ張り、
幼子に用を足させる姿をさせた彼女の足の間にあてがう。
「ごめんね、痛かった? もう、この辺にしておこうか」
そう言って指を抜くと、彼女は悲鳴のような声を上げた。
「やっやぁっだめっ、ぬ、ぬかないでぇっ」
「んー、でも」
俺は彼女のふとももを揉み回しながら言いよどむ。
濁った絞り汁がぐぽっと流れ落ち、股間のトイレットペーパーを湿らせた。
「やっぱり、友達の彼女とこんな事、気まずいよ。それに、さ」
彼女の胸の谷間から生え出たように、俺のちんぽが顔を出す。
彼女の鼻息がこそばゆい。
「俺みたいな、気持ち悪い、ねばねばどろどろ生物のちんぽなんていらないでしょう?」
「ほしぃぃ、ほじいよう、おねがぃぃ」

132 :
すっかり子供みたいな舌ったらずな喋り方になり、涎と涙と鼻水を垂れ流している。
最初の頃の
“スライムくん、女の子の身体って触ったことないでしょ?
わたしがちゃんと、女の子が気持ちよくなる場所を教えてあげるから、勉強してね(笑)”
という余裕は完全に吹っ飛んでしまった。
ちゃんと彼女の希望通り“女の子の気持ちよくなる場所”を攻めて舐めて齧って吸ってあげたのに。
「ちんぽぉっ、すらいむくんのちんぽ欲しいぃぃっ、
あたしのまんこにいれてじゅぼじゅぼしてくださぃぃっ」
別に、いやらしい言葉でおねだりしなさいとか言ってないんだけど。
もしかしていつも言ってるのかな。
彼女の叫び声をすっかり冷めた気持ちで聞きながら俺は挿入し、
表面に生やした無数の小指で内を掻き回し始めた。
それから、一週間ほど後。
俺の前にキャプテンが立っていた。
場所は例の店だ。
「久しぶり、試合、残念だったな」
嫌味ではない。
その時には本当に、“元所属していたチームが勝てなくて残念”という気持ちになっていたのだ。
そんな気持ちが通じる訳もなく、キャプテンは真っ赤に膨れ上がる。
まるで、赤い身体の俺みたいだ。
「それで、俺になにか?」
そう尋ねると胸ぐらを掴まれた。
喚き散らすキャプテンを眺めていると、どんどん冷めた気分になっていった。
俺は目的を達したし、こうなる事を期待していたはずだ。
なのに、ざまあみろという気分は余り持続しなかった。
まさか本気で彼女がキャプテンと別れるとは思わなかったので、かえって罪悪感が酷い。
それでも、彼女に悪いことしたかな、とは思っても、目の前のキャプテンはやっぱりむかつくので、
俺は軽薄な笑いを引っ込めなかった。

133 :
「そんな事言われても。俺、別に彼女と付き合ってる訳でもないし」
「嘘を、つくな」
キャプテンは掴んだ胸ぐらを引き上げているが、
俺の身体の肉を引っ張って伸ばしているだけ、という事に気付いていない。
もちろん、俺は痛くも痒くもなかった。
サッカーの時と同じだ。自分の頭で考えないから負けるんだよ。
「まあ、したか、と聞かれたら、したと答えるけど」
キャプテンの爪が食い込んで、さすがに痛くなった。
俺はキャプテンの手の中の肉を膨らませて痛みを和らげる。
キャプテンは自分の握力を跳ね返す俺を恐怖の目で見つめた。
俺はそれに気付かない振りで言葉を続ける。
「それに、俺は彼女にちゃんと言ったよ。
友人の彼女を寝取るなんて、後味が悪いから嫌だ、だから、これきりにしようって。
まあ、俺かおまえか、選ぶならどちらかにしろって言い方をしたけど、ね。
別に俺を選べと言った訳でもないし、普通、俺なんて選ばないだろう?
それで彼女が俺を選んだって事は、余程嫌いだったんだな、おまえのこと。
気持ち悪い、べとべとの、エロ触手スライム以下、か」
奇声を上げて殴りかかってきたキャプテンの拳を、俺は避けなかった。
五発ほど殴らせて、ぼこぼこと穴があいた頃、俺は扉が開いた気配に振り返った。
扉前に立っているのは、キャプテンの恋人……ではなく、その友達の女の子だ。
似たようなメイクと髪型のせいで一瞬ごっちゃになったが、
もちろんそんな事をおくびに出さず声をかける。
彼女は大きく膨らんだ俺の身体の影にいるキャプテンに気付かず、世間話を始めた。
それでちょーおこってるんだって、へえ、へーじゃないよやばくない?関係ないよ
そんなやり取りを少しして、
ようやく彼女は俺を殴り疲れて息を切らしているキャプテンに気付き、気まずそうな顔をする。
憎悪の視線を向けるキャプテンに俺は肩をすくめた。
「仕方ないじゃないか。
俺はお前らの思っていた通りの、エロくて凶暴な怪物なんだから、さ」

134 :
言い捨てて店を出た。
これで全て終わった、と思う。
もっと、少しくらいスカっとした気分になってもいいのにな、と溜息をついた。
結局、キャプテンに言った通り、自分はそういう怪物なのかもしれない。
物思いは、店の外にいた、キャプテンの恋人(元恋人、か)の声で破られる。
その夜は結局、別の店で彼女と彼女の女友達と飲んだり騒いだりして、
その後に色々したり、三人一度に相手出来る自分のポテンシャルに驚いたりしながら過ぎた。
それから、更にしばらく後。
俺はクラブで待ち合わせをしていた。
相手はキャプテンの恋人でもないし、その友達でもない。
どういう経路で知り合ったのか忘れてしまったが、まあ、そういう事をする女友達だ。
「お前、本当モテるよなあ」
顔見知りになったクラブの常連にそう笑いかけられ、俺はそんな事ないよと返した。
そう、驚いた事に、俺には世間話をする同性の友達すらいた。
自分でも信じられなかった。
チームでのいきさつや、ここでの派手な女遊びを考えると、
とても好意を持って貰えるとは思えない。
彼らが馴れ馴れしく肩を叩いてきたり、俺をテーブルに引き止めるのは
罠なのかと思っていたくらいだ。
少し観察して、俺は彼らの行動の意図が分かった。
まず、彼らの間でキャプテンが大きく株を落としてしまった、という事。
ああいう目立つ人間というのは、味方と同じくらい敵もいるもので、
弱みを見せたらここぞとばかりに叩かれるものだ。
俺を持ち上げる事によって、彼らはキャプテンを指をさして笑っている、というのが一つ。
もう一つは、彼らがとても見えっぱりな人種だという事だ。
こういう店にたむろしてる彼らにとって最も嫌なのは、舐められる事、
臆病だと思われる事だ。
例え、エロ触手スライムをどんなに気持ち悪く思い、嫌っていても、
「あいつを追い出そう」とは言えないのだ。
言えば、そのスライムを恐がる臆病者になってしまうから。
全く、世知辛い話だ。
そして、女の子たちにしても、と俺はひそかに溜息をつく。
例えば、世の中のかなりの女の子達がバイブなり、ローターなりを使っていると思うけど、
「バイブはモテてる」とか「ローターは人気がある」なんて言ったりはしない。
俺のモテもつまり、そういう事だ。

135 :
馬鹿馬鹿しい、と思いつつも俺はここでの付き合いを止められなかった。
止めたところで、どうするのか。
一人黙々と筋トレする以外、俺はするべき事を思いつかなかった。
だったら、ここで遊んでいた方がまだマシだ。
それなりに喜ばれているみたいだし、みんなの役に立つ、という点では、
チームにいた頃よりもずっといい。
「ブラボーくん」
名前を呼ばれた事に、まず驚いた。
ここでは“スライム”としか呼ばれた事がなかったからだ。
そして、次に声の主に驚き、まさかと思いながら振り返る。
彼女が、俺がかつていたチームのマネージャーが立っていた。
彼女は男の子みたいなショートカットに、垢抜けないジャージ姿だ。
そして、この店にいる女子の中で、唯一化粧をしていなかった。
いつもの練習の時とまるで変わらない。
一瞬、この店に通っていた時間は夢で、本当はグラウンドにいるような気さえした。
もちろんそんな事はなく、彼女は客達の好奇と嘲笑の視線を浴びて立っている。
「何か、用」
緊張してぶっきらぼうな言い方になってしまった。
「ブラボーくんに、謝りにきたの」
彼女はまっすぐに俺を見つめて言う。
「謝るって、何に」
俺は目を逸らした。
彼女に謝られるような事、何かあっただろうか。逆の事なら、いくらでも思い当たるのに。
「ブラボーくんに、ひどい事したから」
彼女がちょっと顔を伏せた。
その上に周囲からヤジや口笛が浴びせられ、いたたまれない気持ちになる。

136 :
「本当はあの時、すぐに怒らなきゃいけないはずだった。
悪いのはみんなで、ブラボーくんは何も悪くなかったのに。
私がもっと怒って、ちゃんとみんなでブラボーくんに謝らなきゃいけなかったのに」
「もう、そんな事、どうでもいいから」
またぶっきらぼうな言い方になってしまった。
いいから、早く帰って欲しい。こんな奴らの視線に曝したくない。
「ブラボーくん、帰ってきて」
彼女の言葉に周囲から口笛が浴びせられた。
こいつらが想像するような意味じゃないのに。
「今更、チームに帰ったって、どうしようもないだろ」
“チーム”という所を強調する。
帰ったらさぞ酷い事になるだろうな、と俺はキャプテンの憎悪に満ちた視線を思い返した。
彼女は首を横に振る。
「ちがう。
帰ってきて欲しいのは、あんな所じゃない。
ブラボーくんが本当に楽しんで、好きな事が出来る所に、帰ってきて」
「そんなところ、ある訳ないじゃないか」
俺の声は、予想していたよりずっと尖ったものになってしまった。
「俺はこっちで、上手くやってる。
チームも辞めて、もうあんたとは赤の他人だ。
ほっといてくれないか、マネージャー」
“マネージャー”という所に力を入れて発音し、彼女を見下ろした。
俺の体で押し潰されそうなほど小さく見えるのに、彼女は視線をそらさない。
「わたし、ブラボーくんがチームを辞めるのは反対しない。
サッカーを止めたいなら、それでもいい。
でも……」
彼女は初めて目をそらした。
「……全然楽しそうじゃないし、気持ちよくなさそう、だった、から」
一瞬、彼女が何を言ったのか、よくわからなかった。

137 :
彼女は頭を下げる。
「ごめんなさい。わたし、ブラボーくんと女の子がそういうこと、してるとこ、見ちゃった」
髪がかかる彼女の耳を見て、俺の身体と同じ位の赤さだなあと思う。
彼女はきっと顔を上げ、俺を睨んだ。
「で、でも、わざとじゃないし!
そもそも、公衆トイレとか、どうしてそういう場所でするの! 信じられないよ!」
正論である。
だが周囲は笑い転げている。
「この子、スライムのストーカーなんじゃないの? 」
「スライムより俺の方がいい男だろ?」
いたたまれない。
俺は彼女が現れた時からずっとそう感じているが、彼女はやっと、それを感じ始めたらしい。
赤い顔のまま、俯く。
「わたし、ストーカーかも」
何を言い出すのか。
「ブラボーくんがいなくなってから、ずっと気になって。
お家にも行ってみたけど、何て言ったらいいか分からなくて、あとをつけたりして」
彼女はまた、俺をまっすぐ見る。
「ごめんなさい。
ストーカーした事も、庇ってあげられなかった事も、嫌な思いさせてる事も、全部」
ミラーボールの光が、きらきらと彼女の髪にかかる。
これまで毒々しく馬鹿っぽいとしか思わなかった照明が、初めて美しく見えた。
そして、目の前に立つ女の子は、この店の中で一番きれいな子なんだな、と思った。
俺は彼女の頬に思わず手を当てていた。
彼女はきょとんとした、子供のような顔で俺を見上げている。
周囲の口笛に我に返り赤面したが、元の体色のせいで誰にも気付かれなかったみたいだ。
「送ってく」
俺は彼女の肩を抱き、身体を包み込むようにして歩きだした。
拒絶されるかと思ったが、彼女は人懐こい子猫のような警戒心のない顔で俺を見上げている。
俺じゃなくても誰でも、
肩を抱かれたらどこにでもついて行ってしまうんじゃないかと心配になった。
そんなことのないよう、他の誰にも盗られないように、ぎゅっと抱く。
店を出るとき、常連に肩をばしっと叩かれ、「爆発しろ!」と笑われた。
何を勘違いしたのやら。
それとも素直に、爆発するくらい不愉快だぜ、という意味か。

138 :
二人で繁華街を抜け、住宅街に入る。
会話は、ない。
よく考えたら、俺は彼女の家を知らない。反対方向だったら、どうしよう。
「あの」「えっと」
二人同時に口を開き、気まずい顔を見合わせる。
「あ、あの、わたしは後で」
「俺も後でいいよ」
彼女はしばらく考えた後、ぎゅうっと俺の身体に腕を回した。
なんだこれ、どういう事だそういう事?
いやいや俺が勘違いするような事をするのは止めて欲しい。
彼女はきっと顔を上げて俺を睨む。
「やっぱり、ブラボーくん、太った」
「え?」
「触り心地もぷにぷにしてるし、反応も鈍いし、すごく太った。
ちゃんとトレーニングしてる?」
エエー
俺、なんで怒られてるの?
ていうか、怒るポイント、そこ?
「い、いや、太るとか、太らないとか、関係ないだろ?
す、すぐ痩せるし、ほら」
俺は身体を引き締め、体脂肪の少ない身体に変わる。
だが彼女の不機嫌顔は変わらない。
「前はいつも、意識しなくても、そうだった。
意識しないと出来ないって事は、太ったって事だよ。
それに気を抜いたら戻るかもしれないでしょ。試合中に戻ったらどうするの?」
試合って。
「試合とか、関係ないだろ。もうチーム止めたのに」
「チームは関係ないでしょ!」
怒られた。
ああ、俺って女の子に対するスキル、全然なかったんだな、と改めて思い知る。
女の子と色々やって、天狗になっていたけど、本当は全然解ってなかった。
今まで上手くやれてると思っていたのは、
相手をどうでもいいと、嫌われても別にいいと思っていたからだった。
こうして、俺が本当に好きで、かわいいと思っている女の子が泣き怒っていたら、
どうしたらいいのか解らないのだ。

139 :
「悪かった、謝る、だから泣かないでくれ」
他の女の子だったら躊躇いなく肩を抱いていたのだが、
俺の手は彼女の肩の上1cmで静止していた。
「な、ないでないし! 安易に、謝るとか、言わないで」
「じゃあ、どうしたらいいんだよ」
情けない。
今まで、どんな時も冷静にやってこれたのに、こんな甘ったれた事を言ってるなんて。
彼女は涙と鼻水を拭ってから、俺を睨みつける。
「わたしの言う事、聞く?」
「うん、聞く。聞きます」
「明日、6時にランニングね」
「う、うん」
かつては毎日していたが、しばらくサボっていたのでちょっと辛い。
「今後のトレーニングメニューは、どの程度動けるかを見てから、わたしが決めるから」
「う、うん」
鬼コーチという言葉が頭に浮かぶ。
「それから」
彼女はじっと、静かな熱を帯びた瞳で、俺を見つける。
「ブラボーくんが、好きに、自由に動ける場所をわたしが作るから、やけにならないで。
わたし、ブラボーくんの、きみだけのマネージャーになる」
俺は、まっすぐな瞳でそう言いきる彼女を見つめた。
彼女は少し頬を膨らませる。
「ちょっとは考えてくれてもいいと思うよ。
好きで、カッコイイなあと思っていた男の子が、
やけになって、ケンカとかしてグレて、
女の子たちとイチャイチャして、
その上ぶくぶく太ったのを見てた私の気持ちとか、さ」
そう言ってから彼女は赤い顔をして口を押さえた。
「ごめん、言わないつもりだったんだけど。聞かなかった事にして」
「な、なんで」
俺はちょっと涙ぐんでいたかも知れない。
ああ判った“好き”というのは過去形の“好き”でもう俺には愛想が尽きちゃったって事だなははは
と乾いた笑いが頭の中を回る。
彼女は俺の内面に気付く訳もなく、上目使いに睨んだ。
「だって、卑怯でしょ、こういうの」
また頬を膨らませる。
いつも思っていた事だが、ぷくぷくした頬がかわいい、つつきたい。
「きみの落ち込みに付け込んで、彼女になるなんて。
早く立ち直ってくれないと困るんだよ、告白出来ないから」
ああもう! どっちが卑怯だよ!
そもそも、可愛くて性格もよくておっぱいも割りと大きくて本当は俺が好きとか、
どんだけ卑怯なんだよ!

140 :
それらの事がどこまで伝わったかはわからない。
気付いた時には彼女を無理矢理抱きしめていたからだ。
俺は女の子は甘ったるい匂いがするものだと思っていた。
俺がこれまで付き合ってきた子たちは、みんな化粧品のそういう匂いをまとわせていたからだ。
でも彼女の身体からは甘酸っぱい汗の匂いしかしなくて、
なんだかうちで飼っている犬を思いださせた。
きれいな毛並みと温かな身体のうちの犬。
子供の頃、愛犬と草原を転げ回って抱きしめていた頃の事を思いながら、
彼女の髪に顔を埋める。
熱く燃える耳を、ぴんと伸びた引き締まった背を撫でた。
“うちの犬を思い出す”なんて言ったら、いくら彼女でも怒るだろうなとか、
今後うちの犬を見る度に彼女を思い出してニマニマしそうだとか、くだらない事も考えた。
すぐ我に返る。
俺、何やってるんだ?
「あ、あああああっ、ごめん、本当ごめん!」
跳び退きバックステップ土下座を華麗に決める俺はもう頭を上げる事が出来なかった。
おしまいだ、今度こそおしまいだ。ああもう生まれてこなければよかった今すぐ卵に戻って
地面に埋まりたい、いや埋まる前に地面にぶつけて割るべきだな割れろ!俺!
そうして地面に叩きつけようとした頭は、柔らかなふとももに跳ね返される。
「なんでこう、君はバカなの」
頭上からちょっと不機嫌そうな声が降り、そうっと頭が撫でられた。
「そんなにバカだと、悪女に騙されて身ぐるみ剥がされちゃうよ、わたしみたいな。
もう我慢出来ないから、君の弱みにつけこむけど、反論は許さないから」
そう言って、彼女は俺の顔を上げさせ、口づける。

唇も、俺の頬を触れる手もひどく熱い。
唇で唇を撫でるだけの、臆病なキスに彼女もこんなことに慣れている訳ではないのだと思った。
何が“悪女”だ、と吹き出しそうになる。
互いに、ついばみ合うように唇を何度も合わせる時間は、ひどく長いような短いような気もした。

141 :
彼女が身体を離し、ちょっと泣きそうな顔で言う。
「あ、あの、正直に言うね」
「う、うん」
「わたし、キ」
一瞬詰まった後、顔を真っ赤にした。
「キス、を、その恋人のキス、というか、舌を入れるキス、をしたことがない、の」
「うん」
恋人じゃないキスはしたことがあるのか、とつっこみたかったが、もちろん口には出さなかった。
「や、やりかたが、よく、わかんなくて」
「じゃあ」言いながら、彼女の濡れた唇を見つめる。
「俺から、していい?」
「うん、おねがい」
赤い軟体生物が女の子を頭から捕食していると勘違いした通行人に悲鳴をあげられるまで、
俺たちは、そのままでいた。
(後編に続く)

142 :
新作来てた!!
相変わらずバーバたちが軽快に体形変化させてて読んでて楽しい
ティーンズ向けバーバパパシリーズがあってもおかしくないんじゃないかと思っちゃった
にしてもブラボーの肉体マネージメント出来るマネージャーちゃんすげえ

143 :
感想ありがとうございます。
後編の濡れ場は2〜3、9〜11ら辺です。
**
さてその後のこととなると……正直俺はちょっと口が重い。
彼女にとって、人生でもっとも思い出に残る初体験であるべきなのに、
俺にとっては、黒歴史だ。
まあ、まず場所がちょっとアレだった、というのもある。
通行人から逃げ出した後、俺たちは互いを見つめてもじもじしていた。
彼女は上気した顔で俺を見つめ、俺はといえばもう続きをすることしか考えられなかった。
しかしどうしよう。
他の女の子だったら、それこそ公衆トイレでさえやっていたが、
彼女をそんな場所に連れ込むのは嫌だ。
かといって、ホテルに連れ込むのも気が引ける。
大体、俺はその気でも彼女はそんなところまで期待していないかもしれない。
でも、このまま別れるなんて論外だ。
そう沸騰するような頭で考えていた俺は、思いついた言葉をぽろっと口に出した。
「あのさ、俺の家、来る?」
「……うん」
彼女は一瞬考え込んだ後、奥歯を噛み締めた顔で頷いた。
知っている人もいるかもしれないが、俺の家、
すなわちバーバファミリーの家は、各部屋が独立したブロックの組み合わせで構成されている。
父がこの家を作るときは想定してはいなかったと思うが、
この構造はこっそり自室を出入りするのに、実に好都合だった。
そして、彼女を連れ込んでから気付いたのだが、自室で多少騒いでも他の部屋には伝わらないらしい。
これじゃあ、こっそり部屋に女の子を住まわせてもばれないよなあ。
他の兄弟がそんな悪事を働かないといいんだけど。
自室の窓からこっそり出入りする前、彼女はちょっとわくわくした顔で
「一度入ってみたかったんだ、ブラボーくんの家」と言ってくれていた。
丸っこいフォルムのかわいい家だと思っていたのだとか。
そして、入った後。
彼女はじと目だ。
「外で見たときは、メルヘンなイメージだったんだけど」
「仕方ない、だろ、男の部屋なんだし」
「それにしても、さあ」
うん、そうですね。すいませんでした。
あわてて洗濯物を部屋の隅に寄せたが、彼女が座れそうな場所はベッドの上しかない。
彼女はちょっと気まずそうな顔をしながら、ベッドに浅く腰掛けて縮こまる。
ない。これはやっぱりないな、と思いながらも俺は彼女の隣に腰掛けた。
「な、なんか飲む?」
「大丈夫、だよ。の、のどかわいてないから」
沈黙が落ちる。

144 :
口火を切ったのは彼女の方だった。
「お、おふろ」
「え? 入りたいの?」
無理だ。流石に家族に見つかる。
「ち、ちがくて、こういうとき、おふろに入った方が、いいんだろうけど、はいれないから」
彼女は身体を押し付けるように、俺にもたれかかった。
「く、くさいかもしれないけど、がまんしてね」
我慢できなかった。
いや、匂いのことではない。俺の理性の話だ。
そして、また思い出す度に地面を転がりまわりたくなる。
俺はそれまでテクニックには自信があると思っていた。
世の中の大体の女をイキ狂わせられると、そしてどんな時も冷静に判断して対応できると思っていた。
全然駄目だった。
彼女が俺のセックスを盗み見て“気持ちよくなさそう”と言ったのは真実だ。
俺は大して興奮もせず、ただ女の子たちをいじり回していただけなのだから。
射精もしてはいたけど“こんな女オナホと同じだ”という意識があった。
オナホ扱いしてはいけない、本当に好きでかわいい女の子が目の前にいたら、
どうしたらいいのか全くわからなかった。
「ごめん、本当にごめん」
「へ、へいきだよ」
「……痛い?」
「……うん」
俺の下で、彼女は身体を強張らせている。
顔は涙とよだれと鼻水と、俺の精液でべちゃべちゃだ。
顔以外の、全身もそんなかんじ。
腕の力が抜け、俺はまた、彼女に身体を押し付けてしまった。
その拍子にまた、ぶびゅっと濁った汁が彼女に降りかかる。
これで、十本目だ。
「あ、あの、ほんとに大丈夫? 男の子って射精し続けると辛いんでしょう?」
「う、うごかないで、身体がすれると、また、で、でそうで」
情けない。情けなさ過ぎる。
そもそも、処女だった彼女を気遣わなければならないはずの俺が、
どうして気遣われているのかと言えば

145 :
「そ、その、ごめんね。わたし、初めてだから、その、それは一本しか入れられないし」
「いや、それが普通だから」
俺の身体は今、無数の怒張したちんぽが生えている状態だ。
彼女から見たらイソギンチャクみたいな触手の怪物に見えているだろう。
もちろん、わざとじゃない。
彼女にキスし、彼女の匂いを嗅ぎ、彼女の汗を舐め、おっぱいをもみ、乳首を吸い、
興奮して発情して欲情していたら、いつのまにかどんどん生え出して止まらなくなっていた。
彼女はそれを見て泣きそうな顔をし、俺に言ったものだ。
“そんなの入らない”と。
うん、当然ですね当たり前ですね。
俺は歯を食いしばり、彼女の胸に顔を押し付けた。
「だ、だいじょうぶ? 我慢しないで出して」
「で、でも」
「わたしも、その、すごく痛いから、もう挿入るのはむりだよ。
でも、できるだけ、お、おちんちんを触ってださせてあげるから」
彼女の言葉で、俺はまた一回、射精してしまった。
汚い汁が彼女の顔にとぶ。
「ごめん、俺、全然うまくできなくて、痛くてきたないことしかできなくて、ほんと、ごめん」
「そ、そんなの、わたしだって、うまくできなくて、よくわからなかったし、ごめんなさい」
「あやまんなくていいよ! 俺がわるいんだから!」
「ちがうよ」
彼女の手が、俺の頭を撫でる。
「ふたりでするの、はじめてなんだから、うまくできないのは当たり前だよ。
これから、練習しようよ、ふたりで、きもちよくなるための、練習」
やっぱり我慢できなかった。
俺は彼女の上でびくんびくん跳びはねる。
同時に俺の無数の息子たちが彼女の全身を穿つように貫き、汁を吐き出していく。
頭の中が何度も真っ白になって、獣のような声を出し続けている。
あっ駄目だ俺また彼女に挿入しちゃってるじゃないか痛がって身をよじっててだから余計気持ちよくて、
やっぱ俺氏ね! 卵に戻って割れろ!
俺が意識を失う直前に考えていたことは、そんなことだった。

146 :
翌日、目を覚ました時には午前十時を過ぎていた。
彼女はいない。
この齢になって久々に三十分ほどマジ泣きしてからやっと、枕元にメモが置いてあることに気付く。
“たんすの中の服を借りました。
今日のランニングは免除してあげます。
明日は6時に河川敷のジョギングコースに来なさい。
P.S.
怒ってないといったら嘘になるけど、寝顔がかわいかったので許してあげます”
そんなメモ一枚で、またしても俺の息子たちは元気になり、やっぱり俺氏ねと思った。

そして、現在。
俺は身体をほぐしながら、彼女が来るのを待っている。
このランニングを始めてからもう随分経ち、早起きを辛いと思うこともなくなった。
身体の動きも大分前に戻ってきたと思う。
それに、俺の身辺にはいくつか変化があった。
一つは、俺が女遊びから足を洗ったということだ。
別に自然消滅させればいいだろうと思ったのだが、彼女は顔を合わせてすっぱり別れるべきだと言う。
そんなもんかな、と思いつつ連絡を取った。
大多数は“ふーん、そうなんだ”で済んだのだが、
何人か(キャプテンの元恋人を含む)は、口では無関心を装いながら傷ついているのが解った。
俺がしていたのは酷いことだったのだと、改めて思った。
もう一つは、今の俺にはチームメイトがいる、ということだ。
一人はあの店の常連で、俺がそういう遊びを止めた後も仲が続いた一人だった。
彼は上下関係のいざこざでサッカーを止めたことがあり、似た境遇の俺に親近感をもったらしい。
どうせだからフットサルでもやろう、と言い始めたのが彼だった。
俺が相手チームに嫌われて試合に出られなくなった事を話すと、彼はそれを売りにすればいいのだ、と言う。
かくして、俺のチームは“最強最悪の悪魔が率いる凶悪チーム”ということになり、
日々悪魔に対する挑戦者がやってくるようになってしまった。
相手チームは、俺がもっと滅茶苦茶な体型でプレイしてくれればいいのに、と思ってるらしい。
するかそんな事。プロレスじゃないんだから。
そうは言っても、誰かとボールを蹴るのは楽しいし、観客に見られるのも気合が入って嬉しい。

147 :
もう一人のチームメイトは、俺が元いたサッカーチームの後輩だった。
俺の元に、謝りにきたのだ。
先輩に強要されていやがらせの手紙を作ったけど、
マネージャーと仲良くしているのに嫉妬していた気持ちもあったと思う、
と言う彼を俺は軽くぶん殴り、彼女にもきちんと謝ったら、ちゃらにしようと言った。
以来、彼はちょくちょく俺のフットサルチームに顔を出し、いつのまにかメンバーになっている。
あの店に出入りしていた面子を中心にしているチームなので、
きちんとした運動経験がある彼はとても心強い。
そんな風にして、俺はなくしたものを取り戻しつつあった。
時々、上手く行き過ぎて怖いような気もする。
俺がそう言うと、彼女は真面目な顔をして答えた。
“自棄にならずに、ちゃんとやっていれば、結構上手くいくもんなんだと思うよ”
そう言ってから、ちょっと照笑いをする。
“本当言うとね、わたし、足が治らないって解ったとき、ブラボーくんみたいに自棄になっちゃった。
まあ、男の子と遊んだりはしなかったけどね、モテなかったから”
どうやって立ち直ったのかと尋ねると、彼女は少し考え込んだ。
“わかんない。わたし、考えるの苦手なんだよね。
でもとりあえず、誰か頑張っている、きらきらしている人の近くに居たいって思ったの。
結局はその人の輝きのおこぼれを貰ってるだけなのかも知れないけど”
違う、おまえが居るから輝けるんだ、俺の方がお前の輝きのおこぼれを貰っているのに。
彼女の為に、なにかをしたいと思った。
“それ”を思いついたときは、ただの自己満足で彼女を傷つけるだけかもしれない、とも考えた。
実際、彼女も当初は乗り気ではなかった。
今更、そんなこともういいよ、別に気にしていない、と彼女は寂しそうに笑う。
でも我を通したのは、彼女のそんな顔を見たからだ。
今でも、彼女には未練がある。
それに、俺は彼女がもっと輝くところを見てみたかったのだ。
俺がそう言うと、彼女の心は動いた。
今日は“それ”を実地で試す初日だ。
本当はかなり怖い。
彼女の心だけでなく肉体的にも傷つけてしまうのではと、俺は気が気じゃなかった。
でも、俺が怖がっているのが判れば、彼女は止めてしまうだろう。
気取られてはいけない。

148 :
「ブラボーくん」
彼女が現れて手を振った。ゆっくり歩いて近づいてくる。
本当は走ることが全く出来ない訳でもないのだ、と彼女は言う。
“でも、怪我をした時のことを身体が覚えていて、無意識にストップをかけてしまうの。
不思議だね。あれほど走るのが好きな身体だったのに、出来なくなってしまうなんて”
「ごめんね、遅くなって」
「大丈夫だって」
俺は軽く息を吸い込んで言う。
「それより、やっても大丈夫かな?」
彼女も、俺と同じように息を整えてから答えた。
「うん。おねがい」
俺は彼女の身体を抱きしめた。
そのまま彼女のジャージの中に入り込む。
一瞬彼女の匂いに酔いそうになるが我慢して、彼女の身体をぴったり覆う。
「靴も脱いで。足をカバーするから」
「わかった」
俺の身体が彼女のふくらはぎを、くるぶしを、かかとを、つま先を包んだ。
自分では出来上がった姿を見れない為、少し心配だ。
「ちょ、ちょっと、恥ずかしいね」
「ごめん」
多分、今の姿は真っ赤なスポーツウェアを着ているように見えるはずだ。
かっこ悪いかなあ、やっぱり。
「なんか、気合の入った格好というか、試合のときみたい」
「デザインは、要改良かな」
「ううん、かっこいいよ」
「それで」
俺は一番気になることを聞いてみた。
「足は、どう?」
彼女は俺の身体越しにふくらはぎをもみ、爪先で地面をノックする。
「なんか、変な感じだね。自分の身体なのに自分の身体じゃない、というか」
彼女は膝を屈伸させた。
「でも、嫌な感じじゃない。包みこまれている感じ」
「じゃあ、やってみる?」
「うん」

149 :
ヒントをくれたのは、俺の兄弟のピカリだった。
あいつが“パワードスーツ”なるものをガチャガチャ作り始めたからだ。
“これは着た人間の力を何倍にも増幅するんだ”というピカリに、
“そんなもの着なくても俺たちは十分強いじゃないか”と返すと、こう答えられた。
“僕たちが着るためじゃないよ。介護分野とかで使うんだ。力が弱い人のためにね”
ピカリのパワードスーツは、どう見ても銃を持って戦いそうなデザインだったが、
それを見た俺の中に、一つの考えが生まれていた。
彼女は元々着ていたジャージをバックパックにしまい、ストレッチを始めた。
身体を覆う俺は、彼女の筋肉をほぐすのに協力する。
よこしまな事を考えなかったか、と言われると……うん、考えた。
何も言わずに我慢したけれど、耳まで真っ赤になっていた彼女も同じ事を考えながら我慢していたのだろう。
「行くか」
「うん、行こう」
彼女が、ゆっくりと走り始める。
彼女の筋肉の動きが俺に伝わり、俺はその通りに、彼女を包んだ自分の身体を動かす。
彼女の腱や関節にかかる衝撃を和らげ、地面を蹴った。
「うわー、やっぱ変なかんじ」
彼女の声は浮き立つような響きだった。
「水の中を、温かなプールの中を走っているかんじなのに、
身体は軽くて、風は顔に当たるし、
すごく、すごく」
彼女は言葉を止め、代わりに足に入れる力を増す。
彼女が冷たい空気を胸いっぱいに吸い込み、心臓をどきどきと高鳴らせていることを、
俺の身体は感じていた。
横を流れる川面が、きらきらと朝日に輝きはじめる。
彼女の足が力強く地面を蹴り、どこまでも遠く、俺を連れて行ってくれるような気がした。

150 :
実際にはそれほどの距離を走ったわけではない。
俺たちはジョギングコースを1往復し、元の場所に戻っていた。
互いに無言のままストレッチを終えると、彼女は川べりの草地に寝転んだ。
「あのね」
「何?」
「ありがとう」
まだ肌寒い季節だが、火照った身体には風も心地よく感じられた。
「ブラボーくんと一緒なら、どこまでも走っていけるような感じだった」
「俺も。もっと一緒に、もっと遠くまで行きたいと思った。
……また、これからもやらないか。一緒に走るの」
「うん」
そう頷いてから、彼女はくすりと笑う。
「なに?」
「いや、二人でマラソン大会に出たら面白いなあって。
二人で登録して、一見わたしだけ走っているように見えるけど、本当は二人なの」
「……それ、ルール上オッケーなのか?」
「わかんない。今までそんな人いないしね。
目が見えない人が走るときに、一緒に走ってガイドする人がいるんだけど、それが近いかな。
でも、出来たら楽しいなって」
「そうだな、調べてみるか」
「あのね」
「うん」
「わたし、やっぱりブラボーくんのこと、好きだよ」
彼女が、自分の身体を、自分の身体を包む俺を、抱きしめる。
「俺も、俺もだ。愛してる」
彼女の身体を、抱きしめた。

「……あのさ」
「うん」
「さっきから、わたしの……おしりの辺りに、なんか硬くて熱いものが当たってるんだけど」
「うん」
「うん、じゃなくて!」
俺は溜息をついた。その息が首筋に当たった彼女がびくん、と震える。
「仕方ないじゃないか」
俺が少し身体を締め付けると、彼女がふあっと、鼻にかかった声を出した。
「なんていうか、もう限界なんだよ。お前がかわいくて」

151 :
背中に、首筋に、脇の下に吹き出した汗を、俺の無数の舌が舐め取っていく。
内腿に流れているのは、ずっと前から汗以外の分泌液だった。
それこそ、二人で走っていた時から、だ。
そんな状態で今まで我慢していたんだから、褒めてくれてもいいんじゃないだろうか。
ショートパンツの股が濡れてよじれるくらいになっているものを押し付けられ続けて、
我慢できる男なんていない。
彼女は襟……それも俺の身体だが……を噛んで声をしている。
もう明るくなり、通行人の数も多くなってきた。
川面に反射する光が、悶絶する彼女をきらきらと照らしている。
「んうっ」
近くを走る自転車の音に彼女は大きく身体を震わせ、俺を深く噛み締めた。
その痛みさえ気持ちよく思えて、俺は自分の張り詰めたものを彼女の股間に押し付ける。
外から見れば、彼女の股間にもっこりと膨らみが出来ているように見えたかもしれない。
幸い彼女は身体を丸めているので、その部分を見られることはないし、
ジョギングコースに背を向けているから、顔だって隠れている。
……なんて事が慰めにもならないと、わかっているのだけど。
「あたっ、てるよ」
彼女が息を吐くように囁きかける。
「きみの、いやらしいとこ、わたしの、そういうとこに、ぐちゃぐちゃって」
「うん」
「みられ、ちゃうよ」
「俺が、ちゃんと隠してあげるから」
そう言いながら彼女の両乳首を絞った。
元からぴんと勃っていた乳首がさらに硬く絞られて、彼女は背をのけぞらせる。
その背後を通学中の小学生が走っていった。
「ば、ばかあ、みられちゃったよ」
「大丈夫だって」
頭の片方では、大丈夫じゃねーよお前変態だろ最低だろという声が聞こえているのだが、止められない。
「足、開いて、うつぶせになって。前屈姿勢なら、ストレッチしてるようにみえるから」
「そん、なの、しても、ばれるし、からだ、うごかせない、よ」
言葉の間に、はっはっと犬のような息が混じる。
「俺が、手伝ってあげる、ほら」

152 :
俺はゆるゆると彼女の足を割り開き、同時に後ろから彼女を押し倒す。
彼女の内腿を掴み、両側に引っ張るとくぱぁっと濡れた口が開いた感触がした。
彼女があぁぁと小さく声を上げる。
「あひっ、ひろげ、ひろげられたらぁ」
ぷるぷると首を横に振る。
俺はそのまま指をあてがい、彼女の足の間をさらにくちゅっと伸ばす。
「ごめん」
謝っても許してはもらえないよなあ、と思いながらも俺は指を止められなかった。
「できるだけ、早く済ますから、我慢して」
濡れそぼり、大きく開いたそこを、一気に貫く。
襟から手を伸ばし口を塞いだので、彼女の声が外に漏れることはなかった。
そうしなければ、甲高い声が河川敷一面に響きわたっていただろう。
震える彼女の背を撫でながら、俺は彼女の中で動き始める。
通行人たちは痙攣するような彼女の動きを、ストレッチの苦痛のためだと思っていたかもしれない。
たしかに、肉をほぐす苦痛と快楽、と考えれば同じなのかもしれないけど。
彼女を後ろから押し倒す感覚と、俺の上で彼女がうねる感覚が同時にあって、何だか変な感じだ。
もちろん彼女はそんな事を感じる余裕はなく、絶え間なく痙攣しながら呟きとよだれを俺の口に零している。
「ブラボー、くん、や、やぁっ、ブラボーくん、の、変態、ばかぁ、
すごく、見られてる、わたしのなか、ごりごりしてるの、見られてるよぉっ」
「大丈夫、だ」
実際は彼女が思っているほど通行量は多くないし、彼女を注視している人もいないのだが、
そんなの気休めにもならないだろう。
だから、俺はピストンを速く、強くする。
「無理ぃ、そんなの、むり、あっ、あっ、おしり動いちゃう、
中に入っててずこずこしてるって、ばれちゃううぅぅっっ」
彼女の尻が地面を叩き、枯れ草をかさかさ鳴らした。
口から垂れる唾液が地面に水溜りをつくる。
だけど、それ以外は全て、俺の中に飲み込まれていく。
かすれた喘ぎ声も、全身を濡らす汗も、結合部から零れる互いの汁も、全て俺の中。
二人で尻を揺らす度に、底に溜まったものがちゃぷちゃぷと音を立てる。

153 :
彼女の手が自分の太股を、自分の太股を覆う俺を撫で回した。
彼女に触られている、というだけで昂ぶってしまい、また一本二本とちんぽが生え始める。
「そ、それ、だめぇぇっ、おちんちん、いっぽんしか、むりぃぃぃっ、
おちんちんにこすられたら、身体中おまんこになっぢゃうううぅっっ」
「ごめ、ごめん、ほんと、ほんとすぐ、出すから!」
最低だ。俺最低だ。
彼女の膣内をほじくりながら、背中と胸の間とおなかと両腿にちんぽをこすりつける俺、最低だ。
「いっ、いがせて、はやぐ、いがせてえぇぇっっ
こ、このままだとお、きみのおちんちん、ぜんぶ欲じくなっぢゃうからああっっっ」
膣内に握りしめられるようにして俺は射精し、彼女の身体を白濁汁に漬け込む。
彼女の手が、身体中にある俺のちんぽを、服の上からだきしめた。
「いっぱいに、なるぅ、わたしのなか、が、ブラボーくんで、いっぱいになっちゃうぅ、
もう、もう、ブラボーくんの匂いとれないよう」
膣内に吐き出した後も、断続的に俺のちんぽ達は彼女の身体に吐き出し続けた。
彼女にぶっかけるという事は、その身体を覆っている俺にもぶっかけるという事で、
自分の精液の臭いにちょっと吐きそうになっている。
本当に臭いがとれなかったらどうしよう。
自業自得だが、自分のイカ臭さと一生付き合う辛い運命が待っているのか。
そう思いながらも自分の汁によって温まった彼女の肌に、俺はいつまでもこすりつけ続けていた。
で、
「ブラボーくん」
「はい」
「さっき言ったこと、取り消すから」
「……ごめんなさい」
「ごめんじゃないよ! 最低だよ!」
「本当にごめんなさい」
傍目には草原に赤いスポーツウェアの少女が寝転んでいるだけに見えるだろう。
だが、今ここは修羅場の只中だった。

154 :
「と、言うか、今すぐ離れて! 精液臭くて冷たいから!」
「い、いや、離れたら、周りにザーメンまみれなのばれちゃうよ!」
「誰のせいだと思ってるの!」
「ごめんなさい」
「なんでそんなに、バカでスケベなの!
わたしの中で、君と一緒に表彰台に上るイメージが、
表彰台の上でアヘ顔ダブルピースするイメージに変わっちゃったよ!
どうしてくれるの!」
「……よくそんな言葉知ってたなあ」
「ブラボーくんの部屋の、たんすの裏にあった漫画で読んだ」
「ちょっ、読まないでくれよ隠してあるんだから!」
「そんな事、言えた立場!?」
ああ、もし仮に、俺の兄弟の誰かが恋人といい雰囲気になったとしたら、
絶対にアブノーマルなことはせず普通にやれ、と言い聞かせる事にしよう、
と現実逃避めいたことまで考えてしまう。
「……きもち、よくないわけじゃなかったけど、多少はわたしも乗ったところはあるけど、
でも、それとこれとは別だよ!」
「ごめんなさい」
川べりで罵り合う俺と彼女を、通行人が不審そうな顔で眺めていく。
「ああもう!」
彼女はぱっと立ち上がり、再びジョギングコースを走り始めた。
ペースも何もない、全力疾走だ。
「ちょ、ちょっと、待てって!」
「もうなんか、わかんないから走る! そういうときは走るの!」
景色が飛ぶように通り過ぎていく。
「ブラボーくん!」
「う、うん?」
「いいから、ついてきて!」
俺は返事の代わりに、彼女の身体をぎゅっと抱きしめた。
風はまだ冷たいが、どこからか春の薫りを運んでくるような気がする。
その風を切って、俺たちはどこまでも走っていった。
こうして、俺と彼女の、共に走る練習の日々が始まる。

155 :
グレート!
つまり、リブの話よりちょっと前なのねwww

156 :
GJ!!
絵面を考えると触手物みたいなエラいことになってるのに
リア充め!爆発しろ! な様子がステキ

157 :
>>155
余談ですが、時間軸は
ブラボー 2月→ リブ 5〜6月→ ズー 7月→ ララ 8月、という感じです。
仕事が忙しくなって執筆速度が超遅くなったけど、ファミリー全員分書き上げるまで頑張りたいです。

158 :
すごくイイ!!!
こんな触手うちにも欲しい
いつもありがとうございます
こんな素敵な純愛書いてくださるなんて感動です

159 :


160 :
ついに関東も梅雨入りですね
雨の日が続いても水をはじくブラボースーツなら
毎日ロードトレーニングができますね

161 :
モジャ以外全員耐水性ありそうだしねえ……うらやましい

162 :
バーバパパでエロパロwww

163 :
新作待ってます

164 :
本職児童書書きさんですか?
そうとしか思えない

165 :
新作期待してます

166 :
し、新境地

167 :


168 :
あげ

169 :
VIPからきま☆すた

170 :
力作ぞろいでワロタ
もっと読みたい

171 :
あげ

172 :
規制解けた記念あげ

173 :
age

174 :
やめろおおおおおおお 

175 :
あげ

176 :
新作できました。待っててくれた人もいたみたいで、遅くて申し訳ないです。
・今回は百合です。苦手な人は「バーバベルの試着室」でNGしてください。
・濡れ場は15〜21あたり
**
わたしは周りから進んでるとか遊んでるとか思われることが多い。
それが嫌というわけじゃない。実際に、いろいろしていたりもする。
だが、何でも知っているとか、何聞いても大丈夫と思われるのは困る。
たとえば、こんなときだ。
「ねえ、ベルはどんな下着つけてるの?」
セクハラか。
「あっ、へ、変な意味じゃないよ」
そんなことを言って眼鏡の下の頬を赤らめるのは、わたしの姉妹の一人、バーバリブだ。
絶対変な意味だろう、この娘の場合。
「だ、だって、下着つけたことないから、どういうの選んだらいいのかなって」
まるでノーパン主義みたいなことを言っている。
一応弁護すると、わたしの家族、バーバファミリーは全員そうだ。
全員ぱんつはいてないと言うと変な人が食いつきそうだが、事実である。
わたしたち、バーバファミリーは人間ではない。
顔や上半身は人間に似ているが、下半身に足はなく丸まっている。
体の構造が違うため、服を着る習慣もない。
だからわたしの姉妹が生まれてこのかたぱんつをはいたことがなくても、おかしいところは何もない。
ないのだが。
最初はもう少し牽制球、といった質問だった。
「ベルはさ、よく普通の人が着る服、着てるじゃない」
というところから始まって
「ぱ……ズボンとかも、はいてるよね? あれってどんな感じ? 二本足で歩くのって疲れない?」
と続き
「ふ、普通の人が着る服を着てる、わけだけど、その、その下ってどうなってるの?」
となり
「だ、だってほら、スカートだと、見えちゃうかもしれないじゃない?
い、いや、いつもまるだしだけど、スカートの下に何もはいてなかったら逆に恥ずかしいというか」
と聞いていないのに勝手に照れ始め、冒頭の質問に至ったのだ。

177 :
「ほんとに、ほんとに変な意味じゃないよ。これはマナーの話だよ。
普通の服を着るときは、下着をつける、キモノのときは下着をつけない、的な話題だよ」
ぱんつはきたいのかはきたくないのか。
まあでも、はきたいってことだよなあ、とあたしは助け船を出すことにする。
「気になるなら、オススメのお店、教えてあげよっか?」
「ほんと? ありがとう!」
だが喜んだあと、リブはちょっと眉をくもらせる。
「で、でも、下着ってむずかしくないかな?
ほら、サイズがあってないのをつけると崩れちゃうんでしょう?」
そういうことは知ってるのかとちょっと感心する。
が、実は無用の心配だ。

「それはさ、下着の方に身体を合わせればいいの」
「あ、そっか。気づかなかった」
そう、わたしたちバーバファミリーは自分の身体を好きな形に変えられる。
グラビアアイドルの胸とバレリーナの腰を持ち合わせないと着ることが不可能な服も、簡単に着れる。
だからわたしのワードローブにかかる服のサイズは、結構ばらばらだ。
サイズを気にせず好きな服が着れるという特権を、わたしは享受することにしている。
「それに、どういうの選んだらいいか、よくわかんなくて。
派手なのとか、きわどいの選んだら変だと思われないかな」
「大丈夫大丈夫、向こうも慣れてるから」
この娘絶対“普段着の下着”じゃなくて“勝負下着”を求めてるよなあ。
どんなのにするつもりだろう。気になる。
「ついてってあげようか?」
「……う、うーん、それは、はずかしいからいいよ」
そんな今さら。
しかし許せないのは、リブがそのあとに続けた一言だ。
「それに、ベルと一緒に行くとセクハラされるもん。すぐ胸とか揉んでくるし」
誰がセクハラ親父だゴルァ!
あんたに、男兄弟よりもエロ本の蔵書数が多いあんたにだけは言われたくないよ!

178 :
**
「何怒ってるんすか、ベルさん」
思いだし怒りが顔に出ていたのか、後輩が不審な目をわたしに向けた。
いけない、笑顔笑顔。
「いや、別に怒ってないよ」
「そーすか?」
それより、とわたしはちょっとまじめ顔で後輩をにらむ。
「言葉遣い、ちゃんとしなさい」
はーい、と返事した口でこんなことを言う。
「お客さん当分来ないし、いいんじゃないすか?」
全くもう。
てきぱきと働くし、よく気もつくし、おまけに美少女なのに、言葉遣いだけは直る様子がない。
これさえなければ、どこに出しても恥ずかしくないのになあ、とわたしは時々残念に思う。
そしてまた、客が当分来ないのも、残念ながら事実だ。
わたしと後輩が勤める店は、大きな女子校のすぐ側にある。
もちろんメインターゲットは彼女たちで、学生でも手が届く程度の雑貨やアクセサリ、服などを扱っている。
つまり、彼女たちがまじめに授業を受けている時間帯はどうにもひまなのだ。
「ねーベルさん」
後輩は退屈そうな視線を店外に向けながら言う。
「ベルさんはなんで裸じゃないっすか?」
セクハラか。またセクハラなのか。
わたしにならみんな何を言ってもいいと思っているのか。
「あ、変な意味じゃないっすよ」
「……変な意味じゃなきゃなんだっつうのよ……」
「まじめな話っす」
その言葉からどう『まじめな話』に発展させるのか、とても気になる。
「つまり、なんで服を着るのかって話っす。だって、他のご家族は着てないんでしょう?」
「いや、可愛いから着てるだけなんだけど。
せっかく可愛いものがあるのに、着ないなんてもったいないじゃない」
あたしは顔に不機嫌が現れていないかな、と内心気にしていた。
そう、実はこの質問が一番いやなのだ。
『なんで服を着るの?』『他の家族は着てないのに?』
『着る必要なんてないのに? 着てなくても風邪もひかないし逮捕もされないのに?』
『人間じゃないのに、おしゃれする意味ってあるの?』

179 :
訊く側は深く考えていないのだろうけど、結局はそこに行き着いてしまう質問。
もう100万回もされた質問に、いい加減うんざりだった。
後輩のことは好きだし、いい子だと思ってるけど、その質問はするんだなあ、とちょっと冷める。
だが後輩はわたしの内面には気づかず、なぜか目を輝かせた。
「そう、それっすよ!」
「どれ?」
「可愛いってとこです」
可愛いってなにが? あっわたしが可愛いってことかー
というのはともかくとして、後輩はきらきらした瞳をあたしに向けている。
ちょっと勘違いしそうになるから困る。そんな目で見ないで。
「ベルさんは服着なくても大丈夫じゃないですか。
でも可愛いものを着たいってだけで、すごいおしゃれしてるでしょう。
そういう、おしゃれするモチベーションみたいなのが知りたいんです」
あれ、なんか予想とは違う方向に話が向かってるな。
首をかしげるわたしを後輩はまっすぐ見つめて言う。
「あたしに、可愛いって何か、教えてほしいんです」
わたしはまじまじと後輩を眺める。
ぱっちりとした目、長いまつげ、
ややあひる口な唇、
きゃしゃな感じもする、細い身体、
だが出るところは出ている、特に胸が。
「……鏡見ろ」
「え?」
「ごめんなんでもない」
思わずドスのきいた声を出してしまった。
危ない危ない。

180 :
「つまり、おしゃれしたいっていうモチベーションがないのね?」
「そうなんすよ」
そう言う彼女は無地のTシャツにジーンズと、実にシンプルな服装をしている。
ユニク○のCMモデルみたいだ。
「服は着れればいい、みたいな」
「着れて、安ければいい、みたいに思ってたっす」
もったいない。これほどの逸材なのに。
しかし、だとしたらなぜ“うち”のバイトなのだろう。
うちの店にあふれる可愛いものに彼女は何の興味もない、ということになる。
そういえば店長が連れてきたんだったな、と彼女が来たいきさつを思い出した。
一月ほど前「道で可愛い子を見つけたから拾ってきたの」
と犯罪のようなことをのたまう店長の後ろで、彼女は硬い表情をしていた。
そのときは緊張しているのかと思っていたが、今思うとこの店を居心地悪く感じていたのかもしれない。
そう尋ねてみると彼女は「そんなことないっすよ」と答える。
「なんか、あまりに自分と無縁な世界で、ここにいていいのかなって思ってたぐらいっす」
それを世間では居心地悪いと言うんじゃないだろうか。
「いや、ほんと、うちの店は好きっすよ。でもそれと自分がいまだに結びつかないっていうか」
そう言ってから彼女はしょんぼりした顔になる。
「今まで、黙っててすんませんでした。
その……あたしに全然センスがないこと知ったら、ベルさんは怒るんじゃないかなって思ってて」
「そんな、怒るわけないじゃない」
この子がこんなにへこむの初めて見る。
ちょっとがさつだけど、いつも明るくて笑顔を絶やさない子なのに。
むしろ、気づいてあげられなかった自分の方に問題がある。
「じゃあさ、わたしが絶対可愛くしてあげるから」
彼女の潤んだ瞳を見つめて断言する。
「だいたい、現時点でこんなに可愛いんだから、もう勝ったようなもんだよ」
「そ、そうっすか」
「そうだよ」
後輩は「よ、よろしくお願いしますっす!」と大幅に間違った敬語とともに頭を下げた。
注意するべきだと思ったが、耳まで赤くなっているのがとても可愛かったので勘弁してあげることにした。

181 :
それから一週間が過ぎた、が。
その後行った様々な特訓の効果が本当にあったのか、と言われるとちょっと確信が持てないのだ。
わたしは彼女に様々なアドバイスをし、彼女は律儀にメモをとり実践した。
あまり自分の好みに偏ってもいけないと思って尋ねてもみた。
「今まで、かわいいって思ったもの、一つもないの?」
「ないわけじゃないっすよ。でも」
なぜか彼女は赤い顔をする。
「その、それは全然参考にならないので、無しで。聞かないで欲しいっす」
気になる。というか照れ顔がすごくかわいい。
だが余りにかわいくていじめ過ぎてしまうような気がして、
わたしはあえて追求しないことにした。
また、自分の服の中から彼女に似合いそうなものを見繕い、着せてみたりもした。
彼女は似合わない気がすると照れていたが、わたしは自分の目の確かさに内心胸を張っていた。
やっぱり可愛いなあ、この娘。
服はそのまま彼女に進呈した。
彼女は「こんな高いもの、もらえないっす!」と首を振ったが、
このままタンスの肥やしになるかフリマで投げ売りするだけなのだ、と説得した。
元から可愛かった彼女だが、「よく見れば可愛い」から
「誰もが振り向くほど可愛い」にレベルアップし、
最近はショーウィンドウの前で立ち止まって彼女を眺める人まで出てきたくらいだ。
店長も「可愛い女の子見ると寿命が延びるわー」と犯罪者のような目で凝視していた。
あの人なんで逮捕されないんだろう。
でも、何かが違うような気がする。
「違うってなにが?」
独り言を口に出してしまい、店長がけげんな目を向ける。
内心舌打ちするが、まだ後輩のいない場だっただけましかもしれない。
今日はもう彼女は上がってしまい、店はわたしと店長の二人だけだ。
向かいの居酒屋の看板に明かりが入るのを見て、日が短くなったなと思う。
呼び込みのバイトは若い男で、やる気がなさそうな様子で通りを眺めていた。
前のバイトの子の方がよかったな。わたしが言う筋合いでもないけど。
ごまかしてもややこしくなりそうなので、わたしは後輩の特訓を説明した。
そして、なにか間違えている、ということも。
「ベルちゃんは、どう間違えてると思ってるのかな? 
あの子は可愛くなったし、何の問題もないみたいだけど」
「そうなんですけど……」

182 :
店長はにへらと笑う。
「本当可愛くなったよねえ。お人形さんみたい。ガラスケースにしまっておきたい」
笑っているけど目が本気だ。
だが、その言葉で自分の感じていたしこりがはっきりした。
「わたし、あの子を着せかえ人形にしている気がして」
そうなのだ。
後輩が求めているのは“可愛くなること”ではなく、
“可愛くなるためのモチベーションを得ること”のはずだった。
今、確かに彼女は以前よりずっと身の回りに気を使っているが、それはわたしと接しているからだ。
わたしと無縁のときは、かつてのような無造作な格好ではないだろうか。
それが悪いわけじゃない、けど、少し寂しい。
彼女のためになにも出来ていないようで、情けない。
「別にいいんじゃないの〜」
わたしの悩みに店長は脳天気な声を返す。
「可愛いって言われること自体が、おしゃれしようと思うモチベーションになるじゃない。
実際、今あの子の中ではかなり熱が高まっていると思うけど」
「そうですか?」
自分も人に見て欲しいからおしゃれをしていので、店長の言うことも解るけど、
あの子もそうなんだろうか?
そう首をひねっていると、店長は店の外にあごをしゃくる。
「来てるわよ。あなたの“妹ちゃん”」
ショーウィンドウの外に白を基調にしたロリータファッションに巻き髪の少女が立っている。
もちろんわたしの実妹ではなく、常連客でわたしを“お姉さま”と呼んでいる女の子だ。
目をやるとぴょんと飛び跳ねて手を振った。首の傾げ方も完璧だ。
同性をイラっとさせること請け合いのぶりっこぶりだが、わたしは嫌いじゃない。
「迎えも来たことだし、今日は上がっていいよ」
店長は“妹”が気に入らないらしく、あの娘が店に来ると微妙に機嫌が悪い。
可愛い女の子に性的な意味で目がない彼女が、なぜあの“妹”だけ気に入らないのか、
一度訊いてみたことがある。
「あの娘、服を大事に着なそうなんだもん。脱いだら脱ぎっぱなしにしそう」
「イメージじゃないですか。それに、そんなことありませんでした」
「見たんだ」
「……それは、まあ」
わたしの失言につっこむことなく、店長は軽くため息をつく。
「でも、何でそんなイメージなのかは、解るでしょう?」
もちろん解る。
でも、別にそれでもいい。
わたしは腕を組んでくる“妹”の甘い香水を胸一杯に吸い込んだ。

183 :
**
「ベルさん、最近疲れてないっすか?」
後輩の声で、自分がぼんやりしていたことに気づく。
「え、別にそんなことないよ?」
「そうっすか? なんかずっと顔色悪い気がするっすけど」
「顔色なんて、判るわけないでしょ」
わたしの肌の色は紫色だ。酒を一気飲みしようが、熱い夜を過ごそうが、顔色なんて変わらない。
ときどき、黄色い肌やオレンジ色の肌の兄弟たちが羨ましくなる。
自分の肌の色が、もっと明るい色だったら良かったのに、と。
「奥で休んでても大丈夫っすよ。まだお客さんが多い時間でもないし」
「うるさい、本当に平気だから」
声が尖ってしまった。わたしは本当に疲れているらしい。
叱られた子犬のような目をした後輩に慌てて笑顔を向ける。
「ごめん。ちょっと風邪気味みたい。でも、ちゃんと仕事はするからさ」
「……無理しないでくださいね」
すっかりきまずい雰囲気になってしまった。
せめて店長がいてくれればセクハラ発言で空気を変えてくれるだろうけど、あいにく休憩中だ。
この雰囲気を変えなければ、とわたしは無理矢理言葉をひねりだした。
「そういえば、可愛いって何か、わかった?」
「え?」
唐突な質問に考え込んだあと、彼女は眉を寄せた。
「ごめんなさい、まだです。せっかくベルさんがいろいろしてくれたのに」
「いや、わたしこそ、余計なことばかりしたみたいで」
「でも、楽しいってのは、解った気します。ベルさんと服を見るのは、すごく楽しくて」
彼女は今着ているパステルピンクのブラウスを見下ろす。
元々はわたしが買ったものだが、着てみたら自分の肌色の暗さを強調している気がして、
タンスにしまったままにしていたものだ。
「あたし友達いないから、こんなに楽しいことがあるって知らなくて。
クラスメイトの女の子たちがなんでおしゃれの話ばかりしてたのか、解ったっす。
好きなひとと、一緒にきれいになるって楽しいことなんすね」

184 :
さきほど、わたしの顔色は決して変わらないと言ったばかりだけど、
彼女にそう言われた瞬間は紫から赤紫になっていたような気がする。
まったく、こう勘違いしたくなるようなことばかり言うから困るのだ。
「でも」
彼女はきゅっと顔を引き締めた。
「あとは、あたし一人でがんばるっす。ベルさんに頼ってたら、だめっすよね」
すとん、と突き落とされたような気分になる自分にとまどう。
彼女はわたしのとまどいに気づかぬまま言葉を重ねた。
「それから、彼女さんと仲直りして欲しいっす」
「知ってた、の?」
失礼な話だが、後輩はそういうことには鈍くて気づいていないと思っていた。
わたしと恋人が女同士のカップルだったから、なおさら。
「それは、まあ。前は、毎日お店に来てたし」
文句を言う筋合いではないはずなのに、急に居心地が悪い気分になった。
なんで、知らないでいて欲しかった、なんて考えちゃったんだろう。
「あたしとベルさんが一緒にいることが多いから、勘違いしちゃったかも、ですね。
ごめんなさい」
「違うわ。そういうのじゃなくて、ただ別れただけだから」
わたしは彼女から目をそらした。
彼女の潤んだ瞳にまっすぐ見つめられるのが辛かったのだ。
「でも、ベルさんずっと落ち込んでるし、ちゃんと話し合い、したっすか?」
「関係ないでしょ」
自分の声が硬く、ひび割れるのが解った。
「関係なく、ないっす。あたしは、ベルさんの同僚っすよ。
一緒に仕事をする人がへろへろになってたら、困るっす」
後で考えると、わたしはやっぱり正常な状態ではなかったのだと思う。
彼女と別れてから何日も寝不足で、頭の沸点はかなり低くなっていた。
だから、あのことを口に出してしまったのだ。

185 :
「わたしのこと、卒業するって。
もうロリータファッションとか、お姉さまと妹の関係とか、わたしとかから卒業するって、言われたの」
言ってから、なぜ目の前の後輩が真っ白な顔をしているのかと疑問に思う。
「ショックじゃないって言ったら嘘になるけど、こうなるだろうとは思ってたし、
まあ、割り切るよ。すぐに立ち直るから」
「そんな、ひどいこと言われたのに、ですか」
ぽつりと呟く後輩に笑顔を返す。
きっと、ひどく歪んだ笑顔だろうな、と自分でも判った。
「そもそも、わたしとまともに付き合う人なんていないしね。しょうがないでしょ」
「そんなこと、言ってほしくないっす!」
後輩の声で、棚のガラス器や吊られたピアスがぴりぴり震えた。
「かっこわるいこと、言わないでください! そんなの、ベルさんらしくないっす!」
わたし、らしい?
一番嫌いな言葉に、沸点を超えた頭がさらに煮え上がる。
「あんたに、わたしらしさなんて言われる筋あいない! どうしてみんな勝手に……」
勝手に“わたしらしさ”を決めるのか、と言おうとしていたのだ。
だが、睡眠と栄養不足の身体は、わたしの感情についていけなかった。
それまで二本足を保っていた身体が崩れて、ぐにゃりとゆがむ。
その動きについていけなかったジーンズがびりっと破けた。
しまったお気に入りだったのに、と思うときには、身体は床に溶けて流れ、
紫色の水溜まりになってしまっている。
だめだ、とけちゃ、だめだ。
自分の上で後輩が泣きそうな顔をしている。
ホラー映画で物体Xに遭遇したような気分だろうな、と思う。
こっちが泣きたい気分だ。

186 :
「ベルさん! ベルさんしっかりして! なないで!」
うるさい、なないから。
頭の上から降ってくる後輩の声に眉をしかめる。
すぐに、もとにもどる。
もどらなきゃ、いけないのに。
わからない。
わたし、ふだんはどうやって“にんげん”になっていたんだろう
「すぐに、救急車を」
どうしよう、わたし、“にんげん”じゃないところ、見られちゃった。
これまでも“にんげん”じゃなかったけど、もっと“にんげん”じゃないって、ばれちゃった。
このこには、ばれたくなかった、しられたくなかったのに
「みないで!」
かろうじて作った口で叫ぶ。
「いいから! もう、ほうっておいて!」
みられたくない、かくれなきゃ、どこか、どこか、かくれるばしょに
駆け込む、というより足のない身体ですべりこむように逃げ込んで、鍵をかける。
目の前にあるものに、自分は一体なにをやっているのだろうと一層情けなくなった。
わたしが逃げ込んだのは、この店の試着室だ。
そして目の前にあるのは、鏡に映る紫色の怪物だった。
「……さん、ベルさん」
彼女の呼びかけに気づいたのは、自分のすすり泣きが一段落ついたころだった。
「開けてください、ベルさん」
「いや。ぜったいあけない」
自分でもなにを言っているのかと思う。
もうすぐ客が来る時間帯だし、一生試着室の中にいるわけにもいかないのに。
でも、わたしの身体はどろどろに溶けたままだ。
いくらがんばっても、わたしは二本の足と二本の手を取り戻すことが出来ずにいた。
「……あたしが、へんなこと言ったから、怒ってるんすか?」
「そうだよ」
そうだ。元はと言えば、全部この娘が悪い。
明るくて可愛くて無神経で、
長い手足と白い肌、わたしの欲しいものを全部持っているこの娘が悪いのだ。
醜い嫉妬だと、わかってはいる。
それでもわたしがこの娘のような、人間の身体を持っていたら、と考えずにはいられない。

187 :
初めて好きになった相手には『そういう対象には見れない』と断られた。
もっと酷い言葉で断られたり、陰で嘲られていたことを知ったりもした。
だから、初めて思いを受け入れてくれた人が出来たとき、わたしは有頂天になった。
その相手は少し年上の男の子だったが、最初のデートの日、木陰でキスをした後こう言った。
『じゃあ、これからどうしようか。
夢みたいだよ、君みたいな人間じゃない娘と色々できるなんて!』
わたしは押し倒してきた彼の下から慌てて逃げ出し、
自分はちょっと運が悪かっただけなのだと思いこもうとした。
でも少し考えれば解ることだ。
わたしのことを好きになるのは、色物好きの変態だけだってことに。
相手が男ではなくて女だったら、と期待して何人か付き合ってみたけど、結果は同じ。
わたしと付き合ってくれるのは、刺激的なプレイと後腐れのない関係を求める人間だけだ。
わたしが本当に好きな人は、わたしを好きになったりしない。
「もう、ほっといて。いっしょにいるとあんたのこと妬んじゃうし、
にんげんじゃなくなっちゃうし」
言っていることの女々しさに吐き気がする。
落ち込んで身体を丸めても、紫色のゼリーの小山が出来るだけだ。
わたしって本当、吐き捨てられたげろの塊みたい、と一層自虐的な気分になる。
「自分がきもちわるくて、もうやだ。きえたい」
ばん、と大きな音が店全体を震わせる。
とっさになにが起きたのか判らず、わたしは周囲を見回してしまった。
また、大きな音。
わたしが寄りかかる試着室の扉に叩きつけられる音だ。
「……ばかいわないでほしい、っす」
音の向こうから、彼女の声が聞こえる。
扉に叩きつけられる衝撃波がわたしの身体に伝わる。
まるで、顔をはたかれたようだ
「嫉妬なら、ずっとずっと、あたしのほうがしてたっす。
ベルさんきれいだし、おしゃれだし、すごくきらきらしてて、
そばにいるのが、もうしわけないみたいで」
きれいなのも、きらきらしているのも彼女の方なのに、と思う。
だが、扉に叩きつけられる音は止まらない。

188 :
「あたし、あやまらないっすからね。
ベルさんはきれいでかっこよくて、ひどいこと言う奴なんて笑い飛ばしていい人っす。
ベルさんが自分はそうじゃないって思ってても、本当はそうなんすからね。
だから、きえたい、なんて」
わたしも彼女も、もうちょっと考えておいてもよかったと思う。
試着室の扉はそれほど耐久性があるものではない、ということを。
鍵が壊れた扉は、彼女の勢いに耐えかねて開き、わたしは倒れ込んできた彼女の下敷きになる。
温かな身体が、わたしの上で弾んだ。
きょとんとした顔がわたしをのぞきこんでいる。
「ちょ、見ない」で、と言う前に、彼女がまたわたしの上で弾み、身体をわしづかむ。
「すごい! ウォーターベッドみたいっす!」
「言うことそれ!?」
なんなのこの娘? さっきまでわたしを慰めようとしてたんじゃないの?
「ふおおすげえ。ふかふかっす〜ぷにぷにっす〜。あーもーベルさんの上でねたい」
「うっさいばかぁ。重たいからどけ」
「えー? いやっす気持ちいいから」
そう言って顔をわたしに埋める。顔だけじゃなく、胸も。
改めて身体が密着していることを意識して恥ずかしくなる。
どうしよう。裸を見られて、裸なのに触られちゃっているんだ。
向こうはそんなこと絶対考えていないというのが尚更くやしくて、泣きたくなる。
「あーあの、ベルさん」
「なに」
彼女は埋めていた顔を上げ、わたしをじっと見つめる。
「あたしは、ベルさんのこと、きもいとか思わないっすよ。今のベルさんもかわいいっす」
「……かわいくない」
「かわいいっす。あたしが人生で初めてかわいいと思った相手は、ベルさんっすよ。だから間違いないっす」
彼女の手がわたしの上を撫でた。日頃のがさつさと裏腹な、柔らかい触感にどきっとする。

189 :
「ベルさんは気づいてないみたいっすけど、あたし、前は向かいの居酒屋でバイトしてたっす。
呼び込みしながら、ずっとショーウィンドウの中のベルさんを見てて、きらきらして、
自分には手が届かない人なんだな、って思ってました。
……ベルさん、いつもきれいなでおしゃれな人と付き合ってたし。
相手が女の子なのが、余計に自分みたいな女じゃダメなんだと思って悔しくて。
だけど、ここの店長が声かけてきて、ベルさんのことが好きなら、同じ店で働かないかって。
最初は断ったっすよ。だってベルさんにはつり合わないし、ストーカーみたいでキモがられるかもって。
その頃のあたし、ベルさんと会った頃よりずっとださかったんすよ。
でも店長はしつこくて、髪型とかメイクとか最低限だけ教えてくれて、
あとはベルさんに教えてもらいなさいって」
「その頃って、髪の毛が長くて後ろで結んでなかった? 
それで居酒屋の黄色のジャンパー着てて」
「あ、そうです。……覚えてられるの、恥ずかしいっすね。忘れてください」
思い出した。
店の外に目をやるとよく目が合って、そうすると恥ずかしそうに持っている立て看板に顔を隠してしまう娘だ。
わたしは結局その娘の顔をきちんと見たことがなかった。
見れないと思うと余計気になって、いつも店の外にその娘の姿を探した。
なに見てるの〜と問う店長に、説明した記憶さえある。
“その娘、タイプなの?”
“ち、ちがいますよ。なんとなく、かわいいなあって思うくらいです。こう、自分とは無縁で、汚しちゃいけないようなタイプだなあって”
“……ふうん”
そんなやりとりをした記憶さえある。
わたしがそんなことを言ったせいで、店長が面白半分に連れてきてしまったのだろうか。

190 :
「す、すいません。あたし、きもかったですよね。も、もう、ベルさんのこと、見ないっすから」
赤い顔で目をそらす彼女の頬に触れる。
熱くてすべすべした頬を、紫のぐちゃぐちゃしたわたしの身体が汚していくような気がする。
そんなのだめだ、と思うのに身体は勝手に彼女の顔をつかみ、正面を向かせた。
「……みて、ほしい。いやじゃなかったら、ずっとみて」
彼女の頬が、もっと熱くなる。
「じゃあ、もっと、さわっても、いいっすか」
「うん」
「い、いきおいで、こう、さわっちゃだめなところ、さわっちゃうかもしれないけど、いいすか」
「うん」
「じゃ、じゃあ」
彼女がぎゅっと目をつぶる。身体の中で、彼女が小さく震えているのが解った。
「き、キスとかして、いいすか」
「うん」

彼女が勢い任せに顔をつっこんできたので、ちょっとびっくりする。
わたしが普通の身体だったら、歯と歯がぶつかり合う惨事に発展していたかもしれない。
幸い、ゼリー状になったわたしの身体は柔らかく彼女を跳ね返す。
彼女のかたちのよい額や、弾むようなほっぺたや、細かく震えるまぶたを味わった後、くちびるを吸った。
イチゴの香りのリップクリームのせいで、本当に果物に口をつけたような気分になる。
彼女の舌がわたしの身体を割って入ってきたので驚いた。
うーん、思ってたより、キス巧くない?
微妙な嫉妬に動きを鈍らせたわたしの中を、彼女の舌がさりさりと舐めていく。
「んぅっ、あう」
危ない。なにか、キスを到底ねだれないような器官を作ってしまうところだった。
わたしは彼女の舌をまねるように自分の舌を造り、絡める。
彼女のくちびるに合わさるようにくちびるを造り、彼女の手が触れるところにあごを、頬を、耳を造る。
そこまではなんとか出来た。
でも互いに、言葉にならない声を口に吹き込んでいる状態では、集中して身体を造り治せない。
だらだらと口の端から流れるよだれが恥ずかしくて、ちょっと泣いてしまう。
その拍子に目と鼻が出来たけど、身体の大半は溶けたゼリーのままだ。

191 :
「ふぁ、あ、ベルさん、かおがあるっす!」
まぶたを開けた彼女がうれしそうに言う。
「いつものベルさんもかわいいっすねー。キスしたら戻るとか、お姫さまみたいっす」
「お、お姫さまじゃないから!」
そんな柄じゃないんだけど、と思うわたしを無視して、彼女はまた顔を近づける。
「もっとキスしたら、もっと戻るっすか?」
「も、もどらない、よ。もどったの、口とか、顔とかさわられたせいだから」
もっとキスしたら、という言葉が頭を回る。
もっともっと、これ以上キスしたら、今度は逆に身体が溶けてしまうかもしれない。
今だって身体はまったく力が入らず、ぷるぷると震えるだけだ。
「んー、さわったらもどるんだ。じゃあ、ほかのところもさわりますね」
まるでなんでもないように言ったあと、彼女はわたしの耳の下にくちびるをつける。
「んっ」
「このへんが首ですよねー。ベルさんの首、細くてきれいだから、ちゃんと気をつけて造るっす」
そう言いながら、ぺちゃっと舌があてられ、丹念によだれをすりこまれた。
彼女の舌がすごく熱くて、ひりひりと痛いような、もっと舐めて欲しいような気持ちになる。
「はぁ、あたひ、なんで、ベルさんをなめてるんしゅか?」
そんなこと訊かれてもと思うが、わたしも口から荒い息とよだれを垂れ流すだけだ。
「れも、ベルしゃん、しゅごくおいしそうで、ぷるぷるして、ぶどうあじ、がしゅるっす」
そんな味はついていない。この娘は食欲的な意味でわたしを好きなんじゃないだろうか。
「しゅいません、あたひ、きもくて」
「それは、わたしも、だから」
わたしはこみあげるよだれを飲み込もうとして失敗した。
口から垂れたよだれは彼女の髪に付着し、きらきらと輝く。
「わたしも、あんたのこと、おいしそうだと、おもってる、し。もっと、もっと、したい、
なめたいし、さわりたい、よ」

192 :
そう言葉を吐くたびによだれが、汗が、あとなにか別のものがこみあげるのに、わたしは身をよじることしか出来なかった。
腕も足も、自由に動かせる部位が作り出せないのだ。
かろうじて上半身だけは作れたけれど、肩から先や腰から先はとろけたままで、まるでトルソーのようだ。
なんで腕より先に胸なんか造っちゃったんだろう。それも、乳首まで。
答えは決まっている。触って欲しいからだ。
彼女の手でもみしだいて、こねまわして、口に含んで、吸って欲しいから。
恥ずかしい。
だいたい、こんなになすすべなく、受け身のままでいるという経験自体初めてだ。
いつも“経験豊富な”わたしがリードする側、そうすることを求められてきたのに。
「ベルさんがさわれないぶん、あたし、さわりますね、ふ、服も、ちゃんとぬぎますから」
彼女は荒い息をついてボタンを外し、ブラウスを肩から落とそうとしたところで動きを止める。
「どうしたの?」
平静を装った声を出しながらも、わたしは気が気でなかった。
彼女は我に返ってしまったのかもしれない。
いくらなんでも、わたしといきなり一線を超えるというのは変だ。
冷静になって、この試着室から出ていってしまうのかもしれない。
「え、ええと」
彼女は真っ赤になりながら、ボタンのはずれたブラウスで胸を隠しながら言う。
「あの、ベルさん、お願いがあるんすけど」
「う、うん、なに?」
「そ、その、あたし、はずかしくて」
「や、やっぱり、わたしとこういうのするの、いや?」
「ち、ちがくて」
彼女はわたしの肩をつかんだまま、ぷるぷると震えている。
「や、やっぱりはずかしいから、場所を変わってほしいっす!」
え?
疑問の答えを出す前に、彼女はわたしの身体をぐるんと回転させた。
わたしの視界に、鏡に映る手足のないわたしと、その背中にかじりついている彼女が飛び込んでくる。
目の当たりにすれば、彼女が何を嫌がっていたかは判る。判るのだが
「あの、わたしも鏡でじぶんのを見ながら、ってのはちょっと」
鏡の中で、わたしの乳房は彼女の手でもてあそばれ始めている。
「あ、あー、すいません。でも鏡に映さないとよく見えないし」
じゃあ見るなよ! と言えないのが辛い。
「ちゃんと、よく見て触って、いつものベルさんに戻しちゃいますからね」

193 :
彼女の手のひらがわたしの胸を覆った。指の又に乳首をはさんだままゆっくりと動き出す。
鏡の中で、別の生き物のように動き回るわたしの胸から目を離せない。
首筋を吸う彼女のくちびるや、背中に押しつけられる乳房がもっと欲しくて、もどかしくて身体を揺らす自分が恥ずかしくて、泣きたくなる。
「あっ、う、うごかないで、くださっ、あ」
彼女は高い声をあげて、わたしの乳房を握りしめた。その痛みも甘く感じられて、わたしは高い声を彼女に重ねる。
「べ、ベルさんのせなか、で、む、むねが、すれて、あっ、な、なんか、へん、へんになっちゃ、あ、あぁっ」
背中はいつもの何倍も過敏になっていて、彼女の乳首がぽっちりと硬くなっているのが判る。
「ずるい、ベルさんずるい、っす。せなかが、とろとろで、きもちよくて、
このまま、だと、せなかで、いやらしいこと、しひゃう」
もう彼女は手を動かすのがだいぶお留守になり、荒い息をつきながらわたしの背中に胸をこすりつけている。
まだ“にんげん”になりきっていない背中はとろけたゼリーのままで、もちもちと彼女の乳首を吸っては離し、吸っては離ししている。
今わたしの背中を鏡でみたら、くっきりと彼女の乳拓が残っているに違いない。
ぜひ見てみたい、がわたしは未だ彼女の腕の中で、動かせるのは口くらいだ。
その口は今も、かすれたあえぎとよだれを垂れ流しているが、
彼女の愛撫がゆるんだことで、若干理性が戻ってきた。
あれ、わたしのこえって、この試着室の外にも聞こえちゃってるよね?
いや、そもそも、真っ昼間の店の試着室で、なんでこんなに気持ちいいことになってるんだっけ?
さあっと顔から血の気が引いていくのにも、背後の彼女は気づいていない。
「ね、ねえ、ちょっと」
「ふぁ?」
「ふぁじゃなくて! その、はやくしないと」
休憩中だった店長も戻ってくる。客が多い時間帯にもなる。いや、既にこの店の中にお客さんだっているかもしれない。
そう続けようとした言葉を察したのか、鏡の中の彼女はうなずく。
「わかりましたー」
ほっとしたわたしの胸から手を離し、腰のあたりに腕を回す。
「ほかのところもさわりますねー」
解ってなかった。ああこの娘は見た目はかわいいし仕事も出来るのに、肝心なところはバカなんだ。
ああもうかわいくてバカとか人生得し過ぎだけど! ずるくない?
そんなわたしの憤りを無視して、彼女は腰をこねまわし始める。

194 :
わたしの腰骨が、腹筋が、臀部がはっきりと形をとる。
身体の中心に造られたものから目をそらした。
最初は一本の筋だったものが、縦になったくちびるのように膨らみ、開き、だらだらとよだれをこぼす。
鏡の前で、ぱっくりと開いた自分のものと対面するなんて納得いかない。
いつもは自分が相手にそういうポーズをとらせる側なのに。
何より腹立たしいのは、彼女がそれに全く気づかず、
わたしのふとももから先を形造ることに熱中していることだ。
「ほかのところもさわる」って、普通、今ぐちゅぐちゅになっているところを触るってことじゃないのか。
背骨の一節一節にキスしたり、お尻を撫でさすって好みの太さにしようとすることじゃないはずだ、たぶん。
「ベル、さん、お尻おおきいのとちいさいの、どっちが好きっすか? 
あたしはおおきいのっすけど、ベルさんが嫌ならちいさくするっす」
そう言いながらわたしの背に熱いよだれを垂らすこの娘はまごうことなき変態で、
わたしはそのよだれをどうにかして身体の中にとりこめないかと考える変態だ。
「そ、そんなん、より、前」
「まえ?」
彼女が両尻肉の当てた手を動かし、その拍子にわたしの中が大きく開かれる。
その刺激で熱い汁がぐぽっと音を立てて流れ出すのを、どうすることも出来ない。
ただかすれた声を上げながら身体を震わせるだけだ。
我に返ると、彼女は興味津々でわたしの下腹部をのぞきこんでいた。
見てないで早く触って、という言葉を飲み込む。いくらなんでもがっつき過ぎて情けない。
彼女は指を伸ばして、触るかどうか迷っているようだった。
腰を浮かせて指にこすりつけるのを、じっとこらえる。
「べ、ベルさんのあそこを、見ちゃうことになるとは、思わなかったっす」
「わ、わたしだって、見られることに、なるなんて、思ってなかった」
もういい、もうなんでもいいからぐちゅぐちゅして。
指でひろげて、中に挿入れて、外側をふにふにして、膣内のひだをこすって、淫豆を軽くつついて
もう頭の中もあそこの中も、欲望でいっぱいであふれだしそうになっている。
「あ、あたし、あんまり他人のみたことないからわからないっすけど、すごくきれいでかわいいっす!」
彼女はさまよわせた指を、わたしの腹の上に置きののじを描く。この娘わたしをす気なのか。
「あの」
「なに?」ああもうはやく、はやくめちゃくちゃにして
「毛、生えてないんすね」
「ふ、ふだんは生えてるもん!」

195 :
怒りのあまり声が裏返る。
「い、いや、別に生えてなくてもいいっすよ? だってかわいいし」
「ふだんは、生やしてるもん、ヘアとか、ちゃんと造ってるし! 
多すぎず少なすぎずな感じに整えてるもん」
「な、泣かないでくださいよ」
「泣いてない!」
叫びながら目からだらだら涙が流れていることに気づく。
ああもう、なんでこんなくだらないことで泣かなきゃいけないのか。
それもこれも、この娘がものすごくバカなせいだ。
「責任とって、ちゃんと毛生やすから泣きやんでくださいっす」とか言いながら、
わたしの本当に触ってほしいところの上あたりをこねくりまわすくらいバカだからだ。
そうやって生やした縮れ毛がじっとり湿っているのだから、なにをして欲しいのか言わなくてもわかるはずなのに。
「う、ちょっとぼうぼうにしすぎたっすか?」
「べつに。生えてないより、生えてるほうがいいし。
剃ってる変態だって思われるより、ずっといいし」
指が縮れ毛をくるくると巻き、ひきつった刺激を身体の中心に伝える。
「ど、どうせ、使いこんでる色なのに、生えてないとか、へんだし」
陰毛を強く引っ張られ、わたしは小さく悲鳴をあげる。
「あたしは」
耳にかかる彼女の息は、ひどく熱かった。
「そんなこと、思わないっすから」
無理矢理首を曲げて、彼女と目を合わせる。彼女は怒ったような目でわたしを見つめていた。
「じゃあ」
くちびるはよだれで濡れているのに、かさかさに乾いてこわばっているように感じられる。
そのくちびるを、無理やりうごかした。
「じゃあ、ぐちゃぐちゃに、して。わたしのなか、ぜんぶ、さわって、きもちよく、してよ」

196 :
彼女は確かに“はい”と言ったと思う。
でもそれは自分が上げた声にかき消されて聞こえなかった。
彼女はわたしの中の形を確かめるように、わたしは彼女の指の形を確かめるように、互いに身体をうごめかす。
冷たかった鏡面は押しつけられたわたしの身体でぬくめられ、汗とよだれでとろけていた。
目の前に、見たこともないほどだらしのない顔があって、こんなに醜い、気持ち悪い顔なのにと思いながらもなぜか口元が緩む。
背中から押されて、だらだらとよだれを垂れ流すその口にくちびるをつけてしまう。
冷たい感触に少し震えた。
本当はこいつよりもっと、キスしたい相手がいるんだけどな、と考えながらも舌を動かす。
ぺちゃぺちゃという音と、ばかみたいなことをしているという思いで気持ちが高ぶって、
後ろから顔を寄せてきた彼女にくちづけられただけで頭が真っ白になった。
自分と、彼女と、鏡の中の自分と彼女が溶け合い、狭い試着室に満たされた自分の身体に溺れるような気がした。


197 :
**
「でさあ、彼女の具合はどう? うまくいってるかな?」
「具合って言うのやめてください」
卑猥なジェスチャーと共に満面の笑みを浮かべる店長にため息をつく。
「つめたーい。従業員同士が試着室でイチャイチャしていても壁ドンせず
気を利かせて店を準備中にしてあげた雇用主に対してつめたーい」
「すいませんでした」
返す言葉がない。わたしと彼女の社会人生命が今も続いているのはこの人のおかげだ。
「まあかわいい女の子同士がイチャイチャしてるのを見るだけで寿命が五十年は延びるからねー。大目に見てあげます。それにさあ」
店長は上目づかいに笑う。
「あの娘はあたしの見立て通り、ベルに似合うと思ってたんだけどなー、どうよ、その辺」
「やっぱり」
「おやー、すべてあたしの計画通り! だったことが気に入らないのかな?」
「怒ってないと言ったら嘘になりますけど」
わたしは試着室の扉を眺める。
今は「カギ故障中のため使用禁止」の注意書きが貼られていた。
「でも、わたしがあの娘を好きなのは、本当ですから」
「正直になったじゃない」
「そうですか?」
店長は手元のワンピースを広げ、わたしに合わせる。
「職業病、みたいなものだけどさ、人がいかにも似合わない服着てると気になるわけよ。
本当は他に似合う服があるのに、似合わないと思いこんで嫌いな服をわざわざ着てるのとかね」
店長は首を傾げて笑った。
「でも、これはあんたには似合わないかな」
「わたしもそう思います」
繊細な白のレースのワンピースだ。ちょっと柄じゃない。
「でも、他の誰かさんには似合うかも。どう思う?」
「そうですね……」
わたしは外の掃除から戻ってきた彼女をさし招いた。
「ちょっとこれ、試着してきてよ。あそこで」
白いレースを抱えて赤面していた彼女が、試着室から出てくるのを、わたしは今か今かと待っている。
(終)

198 :
(おまけ)
さてあの日、わたしと後輩がお互いに一通りいろいろした後、試着室から脱出するのに二十五分を要した。
その脱出プロセスをおおまかに見てみよう。
「その、どうやって出たらいいか、というか、服が、ぐちゃぐちゃなんすけど……」
そう、あの後完全に頭に血が上ってしまったわたしたちは、気づいたら服がしわだらけ愛液まみれという危機に直面してしまったのだ。
その格好で出れば事後であるのは一目瞭然、良識ある人ならば警察に通報するかもしれない。
この試着室を出れば、売るほど服があるというのに、今ここに服がないという危機。
「わ、わたし、外からなんか取ってくるね。ほ、ほら、わたしは裸でも別に問題ないし!
 家族とかみんな裸族だし、ね!」
ようやく動けるだけの肉体を取り戻したわたしの手首を、後輩が握る。
「え、や、やだ。ベルさんの裸、みんなに見られるの、いやっす……」
そんなこと潤んだ目で言わないで欲しい。
意識して、乳首とか勃ってきちゃったじゃないか。全年齢向きディテール省略の裸だったのに。
あーもー、つくづくわたしの家族の羞恥心の無さがうらやましい。
いや、まてよ。家族……?
「たしか、わたしの兄弟で似たような危機を脱出した子がいたんだけど」
「どうやったんすか?」
「レインコートに変形して、彼女さんに着てもらったんだって」
「すごい! その人天才っすか!」
「変態なんだと思う」
そもそも、なぜレインコートになって恋人の裸を隠すような事態に陥ったのかとても気になるが、ちょっと怖くて訊けずにいる。
疑問は棚上げして、実践してみた。
「わーすごい、ちゃんとレインコートに見えるっすよ」
「……ちょっと背中も見せて」
「こうっすか」
「……やっぱり、ラインがだぼついて見える」
「そうっすかね」
「これじゃ、実際より太って見える。もっと絞ってみるね。あと、すそをふんわりした感じにしてみる」
「……あの、あたし、今のままでも」
「あんまりすそが長くても、色のせいで重く見えちゃう。
じゃあ短くしたら……だめだな、ももに汁がついてるのが見えちゃう。
うーん下に何か履いてたら……」
「あの、ベルさん、聞いてます?」
二十五分後、キレた後輩が「もーいいから裸で出るっす!」と飛び出すまで、この問答は続くことになった。

199 :
宣伝で申し訳ないですが、個人保管庫作ってみました。
このスレや他スレに投下したものなどを入れてあります。
ttp://momozawashima.blog.fc2.com/

200 :
待ってました!しえん

201 :
素敵です!
後輩が「・・・ッス」て口調なんで百合ってことがすっかり抜けてもうたw

202 :
こんなん見つけたったwww
http://rule34-data-003.paheal.net/_images/cae54cdd11ba409b02a8f7a48ae43ea1/814791%20-%20Barbabeau%20Barbabelle%20Barbabravo%20Barbabright%20Barbalala%20Barbalib%20Barbamama%20Barbapapa%20Barbazoo.jpg

203 :
ベル可愛かった!
こんな百合も良いなあ ドロドロになった恋人の形を取り戻していくなんてロマンチックだ

204 :
新作乙です
よかったです

205 :
うぎゃあああああ新作きてたああああああ
乙であります!
百合新鮮だなあええなあ
がさつな女の子のッス口調ええなあ

206 :
個人的にバーバモジャ作品に期待してます

207 :
>>176-198
良かったGJ

208 :
初めてこの読みましたこのスレ 
面白かった!

209 :


210 :


211 :
age

212 :
良スレほしゅ

213 :
こんな当初はネタスレ扱いされてたような糞スレを
本気で本心から立てたバカな>>1だけど
素敵な職人さんが現れて愛してくれる人もいっぱい来てくれるスレになってて
本当に嬉しい
バーバになりたい

214 :


215 :
あげ

216 :
・ほかのバーバファミリーと世界観つながってますが、特に気にしなくておk
・濡れ場は9〜14あたり。
・放尿シーンあります。苦手な人は「バーバモジャのヌードモデル」でNGしてください。
「最近、うちの兄弟たちに発情期がきたんだよ」
彼は私の顔を見ず、そんなことを言う。
「発情期がくるとどうなるんですか?」
私も彼の顔を見ず、そう応じる。
彼は手を動かしながら説明を始めた。
「まあ、まず恋人ができるな」
「恋人……どうやって」
「それぞれだね。だいたいは身近にいた相手だけど、落ちてるのを拾った、というのもいるし」
「道に落ちてるんですか」
「落ちてるもんだね。ああ、ちょっと足を開いて」
「こうですか」
「うん」
この姿勢辛いんだけどと思いながら私は彼に従う。
「順序が逆のような気がするんですけど……普通は発情期が来て相手を探すのでは?」
「そう言えばそうだな」
視界の外なので見えないが、彼が首を傾げる気配がする。
「でも割りにみんな、相手を見つけてからおかしくなってるね」
「おかしく?」
背後でため息が聞こえる。
「馬鹿なんだよね、みんな。すぐぐだぐだ悩むしさあ。それも、悩んでもしかたないことを」
ため息に乗って飛ばされてきたのか、彼の黒い毛が私の乳房に舞い降りる。
気になるが手を動かして払う訳にはいかないし、視線も動かせない。
「しかたないこと、というか普通のことだと思いますけど」
「そう?」
「好きな人ができたら悩むのが普通ですよ」
「でも、無駄なことに労力使ってる気がしてね。もっと力を抜いて生きればいいのに
……君は力抜かないで、背中が丸くなってる」
「はいはい」

217 :
私は背筋を伸ばし、視線をまっすぐ伸ばした。
その先にある窓を眺める。すでに日は落ち、外の景色は見えない。
代わりに見えるのは天井から下がる白熱灯、板張りの床、
石油ストーブとその上で湯気を立てるヤカン、パイプ椅子、そこに裸で座る私。
私はじっと鏡のようになった窓を、いや、私の背後に映る黒い影を見つめている。
まるでホラー映画のような構図だ。私の視界の外側でうごめくもの、
わさわさと毛を逆立てる黒い野獣、もしくは大量の繊毛をもつ異形の蟲、
もしくはジャパニーズホラーによくある長い黒髪の――
「そろそろ、休憩しよう」
私の背後で、黒い毛に覆われた長い腕が伸び上がる。
背骨のない、毛の生えたゴム鞠のような身体から伸びる、オランウータンのような不自然な長さの腕。
髭まみれの顔の中に輝く二つの瞳。
私と目が合うと、目はぱちぱちと瞬きし、どこかうろんな色を帯びる。
「……なんか、失礼なこと考えてない?」
「別に、モジャさんはホラー映画でたとえたらどのモンスターなのかな、とかくらい」
「本当に失礼だなあ」
そう言ってばりばりと頭をかく彼はバーバモジャ。
この世界唯一の不思議な一族、バーバ一家の末っ子だ。
私は立ち上がり、大きく身体をのばす。
「寒くない?」
「平気ですよ」
答えながら、彼が手渡してくれたコートに袖を通す。
素肌にコート、なんとなく背徳的な気分になるが、
これは私たち二人ともガウンなんて気の利いたものを持っていなかったせいだ。
「モジャさんこそ、暑くないですか」
「別に」
言いながら彼はペットボトルの水をがぶがぶ飲んでいる。
裸の私に合わせてストーブを焚いているので、彼には暑いんじゃないかなと思うが、
口に出さないことにする。
見ているとつられて、私も持ってきたペットボトルに口をつけた。
「絵、見てもいいですか」
「どうぞ」
彼が身体をずらした横にかがみ、イーゼルにかけられた絵を見つめる。
題材だけみれば、それほどおもしろくない絵だろう。木炭で描かれた裸体デッサンだ。
長い黒髪の女が背中を向けて座っている。
女(つまり私だ)は本職のモデルというわけではないし、スタイルがいいわけでもない。
だけど、彼が描く絵には迫力があった。
女が、手の届く範囲内にいて、今にも振り向くのではないかという迫力。
その背に、髪に、尻に、今にも誰かが触れようとしているかのような緊張感。

218 :
「そんなにおもしろい?」
彼は横目で私を眺めていた。
私はちょっと照れ隠しに笑う。
「だって、自分の背中を見ることって、あんまりないじゃないですか」
「まあ、それはそうかな」
言いながら彼はくるっと首を回して自分の背中を眺める。
首は人間の限界を超え180度回っているが、苦しげな様子はない。
「見てもそんなにおもしろいものじゃないね」
「モジャさん、それじゃだめですよ」
「だめ?」
「だってそれじゃ、自分の後頭部は見えてないじゃないですか」
彼は少し考えて首を戻し、今度は目がだんだんと飛び出してくる。
「もしかして、目を伸ばすことも出来るんですか」
「たぶん。やったことはないけど」
「それ、絵に描いてもいいですか?」
そう言うと、彼の目はしゅっと元に戻る。
「やだよ、そんな変なところ。もっと普通にしているところじゃないとだめだ」
「わがままですねえ」
こっちは裸でがんばっているのに。
「だいたい、お互いをモデルに描くって約束なのに、君、出来た絵を見せてくれたことないじゃないか」
「未完成のものを見せるの、嫌なんです。
モジャさんだってデッサンばかりで、全然先に進んでないでしょう」
互いに口をへの字にして睨らみ合う。
彼のモデルになってから一月が経つ。
そもそもは私が、モデルになってほしいと彼に頼みこんだのがきっかけだ。
彼は今のように口をへの字にして、こう返した。
「君が僕のモデルになってくれるならいいよ。当然、ヌードモデルだ。
僕の方は裸なんだし、それが公平ってもんだろ」
なるほど、それもそうかと思ったので了承すると、彼はとても微妙そうな顔をしていた。
後から考えると、あの申し出はモデルを断るための口実だったのかもしれない。
一学生に過ぎない私のモデルを引き受けても得はないし、彼は外見のせいで好奇の視線を浴び続けてきた。
美術学校で優秀な成績をおさめていても、「バーバ家の一員」ということの方が先にたってしまう。
やっかみを受けることも多かっただろう。
その上彼は大変落ち着きがなく、一分間同じポーズを保つのも難しいのだ。
気づいたら骨格自体まったく違う形になっていたことさえあった。
最悪のモデルだ、と言いたいこともある。
それでも私は彼を描いてみたかった。
彼を絵の形にして所有したい、それが私の望みだ。

219 :
「それで、今度は僕の番?」
「はい、お願いします」
私は自分のイーゼルに陣取り、彼はあからさまなため息をついて私が座っていた椅子に腰掛ける。
「今日はどうする?」
「自然にしてていいですよ」
適当に答えると、彼は椅子から垂れ下がるように身体を溶かした。
そのまま描くだけで、シュールリアリズム絵画になる状況だ。
おそらくうけ狙いでとったポーズなのだろうが、無視して鉛筆を走らせる。
次に目を上げたとき、椅子の横にはサモトラケのニケ像が鎮座していた。
「……」
これはさすがに気になるな、と私は立ち上がり、別の角度から眺めてみる。
頭のない女性の身体、左右に広げた翼。
本物のニケ像より小さいが、写真やレプリカにあるのと寸分違わぬ姿だ。
全身を覆う細かな黒い毛以外は完璧、
いや、その要素のおかげでポップアートとして確立していると言ってもいい。
このまま売ればいい値がつくかもしれない。
私は椅子の上に乗り、立ち上がった。
大鴉を思わせる黒い翼が私を包み込む。
私は両手を大きく広げ、像に腕を回した。
「うひょあわっ」
像は美麗な外見にそぐわない声をあげて、びくんと飛び上がる。
「なんだ、やわらかいんですね」
私は像の胸をもみながら応じた。
石膏の硬さを予想していたのだが、手が沈みこむような柔らかさだ。
ふわふわの黒毛に覆われていることもあって、いつまでももみ続けたいほど気持ちいい。
「な、ふ、普通もむか? 目の前にニケ像があって普通もむか?」
「明らかにつっこみ待ちだったじゃないですか」
私はちょっと呆れつつ像の、いや彼の胸をもみ続ける。
ぴんぴんに立った黒い毛やばさばさと震える翼がおもしろいからだ。
「て、いうか、あきらかにセクハラだろ」
「え、でも本物の胸って訳でもないし、別に平気でしょう?」
「そっち、じゃなくて」
「?」
首をかしげる私の手が、すかっと宙を切った。
彼の身体がニケ像から丸まった黒毛玉になったことに気づけなかった私はバランスを崩し、
前のめりに椅子から落ちる。
思わず目をつぶってしまった私の身体を、ふんわりしたものが受け止めた。
目を開けても視界は真っ黒いままだ。真っ黒な、ふかふかした闇。
「あ、ありがとうございます」
もちろん、彼が受け止めてくれたのだということはわかった。
だが彼は布団のように平たくなったまま身動きせず、言葉を返さない。
「? どうしたんですか?」

220 :
私が降りると、彼は身体を丸める。依然黙ったままだ。
「……?」
どこか痛いのだろうか、それとも悪のりが過ぎて機嫌を損ねてしまったのか。
「……あー、その、すいませんでした」
「コート」
「え?」
「ボタン、外れてる」
彼の言葉に自分の身体を見下ろした。
コートのボタンが外れ、その下の裸がむき出しになっている。
「あ、ほんとだ」
「……」
ボタンをはめなおしても、彼はウニのように丸まったままだ。
「もしかして、裸で抱きついたの、気にしてます?」
「別に。毎日見てるし」
噛みつくように声が返ってきた。尖った毛が声と共にふるふると揺れる。
「……元に戻ってもらえませんか?」
「……このまま描けばいいだろう。僕がどんな形をしていても変わりないんだから」
ウニのような姿とウニのような刺々しさ。本格的に機嫌を損ねてしまったらしい。
「どうしたら元に戻ってくれますか」
「戻らない。だいたい君、いつもポーズを変えるなって言うじゃないか。
今日はこのままで行く」
「……怒っているところは描きたくないです」
「怒ってない。普通だ」
らちがあかない。怒りというのは伝染するもので、私もちょっといらいらし始めた。
スケッチブックの新しいページを開き、太い線で彼のフォルムを殴り描きする。
何枚かそうして描いたあと、私は深呼吸し、細く尖らせた鉛筆を手に取った。
今度は彼の毛一本一本を紙の上に写し取る気持ちで、線を重ねていく。
彼は何度か、もの言いたげに毛を揺らしたが、私が視線を向けるとぴたりと止まり、元の棘の塊に戻った。
「ねえ、モジャさん。さっき話していたことですけど」
私は返事を期待せず、口を開く。
「モジャさんにも発情期ってあるんですか?」
「そんなもの、ない。くだらない」
ぴしり、と凍り付いたように彼の棘が鋭さを増す。

221 :
私はそれに気づかない風に言葉を重ねた。
「発情期って、生き物ならあっても自然なものですよね。
人間だって、時期ははっきりしないけど似たようなものはあるし」
席を立ってしまうのでは、と密かに危惧したが、彼は元の姿勢のまま毛を逆立たせている。
だが、触れられたくない話題にぴりぴりしているのは明らかだった。
「それにモジャさんのご兄姉だって、普通に発情期、というか恋愛してるんでしょう? 
くだらないなんて言ったらかわいそうです」
私は密かに深呼吸し、くるかもしれない衝撃に備えながら口を開く。
「ひがみ、みたいに聞こえます、それ」
その瞬間、彼の身体は大きくふくれあがり、まるで爆発したようにみえた。
すぐに元の大きさに戻ったが、天井には棘がひっかいた跡が残る。
「ひがみ、じゃない。本当にくだらないと思っているんだ」
彼の声は低く、ゆっくりとしていて、その底に押さえつけた感情を容易に見て取ることができた。
「なぜなのか、教えてもらえますか」
つられて私の声も低く、ゆっくりとなる。
「だって、どうがんばっても僕らが人間じゃない事実は変えられないじゃないか。
子供もできないし、そもそも相手に恋愛対象と見てもらえてるか怪しい。
僕の兄姉は僕に似て思いこみが激しいからね」
彼はへっと笑い声をもらす。
「いくらなんでも、全員が思いこんでいたり、だまされたりはしていないんじゃないですか?」
「……だとしても、僕はあんな馬鹿騒ぎに付き合うのはごめんだ。
恋愛とか冗談じゃないね。どうせ人間じゃないなら人間と子供を作る義務もないし」
彼はうーんと身体を伸ばし、いつもの姿に戻る。
この話は終わり、というつもりのようだ。
「……なんだよ」
「嘘ついてるなあ、って」
「嘘なんて」
「モジャさん」
私は黒い毛の奥にある彼の目をじっと見つめる。
「裸だと、嘘ってすぐばれちゃうと思いません?」
コートを脱ぎ捨てて、床に落とす。
「なんで、脱ぐ」
彼はかすかに震えて後ずさる。
「モジャさんの、本当のことが知りたいから。私も正直でいたいから、裸になります」

222 :
彼の毛は一瞬逆立ち、しんなりと力なく垂れた。
「……嘘ってわけじゃない。僕は、本当に恋愛とか意識するの嫌なんだよ。
ひがみが1パーセントも含まれていないって言ったら、嘘になるけど。だいたい、さあ」
彼は手を作りだし、頭(に見える箇所)をがりがりと掻く。
「こっちは四六時中裸でいるのに、相手はそれを意識してもいなくて、
こっちに裸を見せても相手はまるで恥ずかしくもなんとも思わない、
という状況でひがみっぽくなるな、っていう方が無理だよ。つまり、そういうこと」
そう言って彼は完璧な球体になった。毛もぺったり伏せて遠目にはつるつるの硬い材質に見える。
「あなたが、さらけ出してくれたので私も言いますけど」
私は立ち上がり、彼に近づいた。一歩、二歩、あと少し、手を伸ばせば届く距離で立ち止まる。
「私も、誰にも、あなたにも言わなかったことがあります。
きっと、言ったら嫌われるようなこと」
彼は動かない。触れば冷たいかもしれないような質感で、ただそこに在る。
「私は、あなたを人間だと思ったことはありません。人間ではない、あなたが好きです」
沈黙は長かった。
「……君は、僕を人間ではないと、思っている」
「そうです」
「ペットとか、置物みたいな意味で僕が好きだと?」
彼の声に紙ヤスリのような細かい棘が混じっているのがわかる。
「そういう、ひがみっぽいことを言われそうだったから嫌だったんです」
私の言葉に打たれたように、彼の身体に波紋が広がる。
「それに、否定もできませんし。
私、あなたの毛に思いっきり全身を埋めてみたいし、
寝るときも起きたときもご飯を食べるときも一緒にいて欲しいし、
自分の所有物にしたいと思ってますから」
私は、なにか言いたげな様子の彼を遮る。
「もちろん、セックスもしたいと思ってますよ」
毛が生えた風船のようにぶわぶわ揺れる彼を後目に私は言葉を続けた。
「だいたい、好きでもない相手の前で裸になる訳ないでしょう。
モジャさんって鈍いんじゃないですか?」

223 :
彼は二、三度大きく膨れ上がったあと、空気が抜けたようにぺたりと潰れる。
「……モジャさん、聞いてます?」
「いや、なんというか」
彼はがばっと起き上がり私に顔を向けた。
久しぶりに顔を見たなあと感慨深い。
「わかるだけないだろ! だ、だって君、どんなときも平気そうな顔してるじゃないか!」
「だって、モジャさんは特別扱いされるの嫌なんでしょう? 
だったら、私だって、なんでもないって顔するしかないじゃないですか」
自分の声が震えているのに気づき、私は動揺する。
「好きだって言っても、どうせ憐れんでるんだろうとか物珍しいだけだろうとか言うんでしょう。
モジャさんなんてやっぱ嫌いです。
その無駄にもさもさな可愛さがなかったら、ただのうざったいナルシストなくせに」
「ナル……、き、君に言われたくないよ! 
君なんか僕より超面倒くさい性格最悪女で、その上僕みたいな相手が好きな変態のくせに!」
「ほらやっぱり変態とか卑屈なこと言う」
「僕のこと抜きでも絶対変態だよ! 
だいたい君の絵っていつもぐちゃぐちゃした欲望がほとばしっているような絵じゃないか」
「きれいな上っ面の下に欲望がぎとぎと脂ぎっているような絵を描くような人に言われたくありません」
「君、僕の絵をそんな風に思ってたのか?」
「お互い様じゃないですか。それに」
私は自分が過去手がけた作品を思いだし、かすかに赤面する。
「……私の絵、覚えていてくれたとは思いませんでした」
「……それは、まあ普通見たら忘れない絵だし、それに」
彼はまたもさもさと丸まりながら言う。
「君の、絵は好みだ」
「絵は、ですか」
「絵は、だ」
二人の間にしばらく沈黙が広がる。それを破ったのは私のくしゃみだった。
「やっばり、ちょっと寒いです」
「当たり前だろ。服を着ろよ」
私が動かずにいると彼はかすかに身じろぎし、低い声を出す。
「まさか、温めてくれ、とか言わないよな」
「馬鹿にしないでください」
私は早くなった動悸を押ししながら、口を開く。
「素直に、抱きしめてくれ、と言います」

224 :
彼の身体がゆっくりと膨れ上がり、天井に届くほどの高さになる。
どこまで大きくなるんだろうと見上げた私の視界は、一気に真っ黒な毛に覆われた。
顔も、胸も、腰も、ふかふかと柔らかく暖かなものに締め付けられる。
人間に抱きしめられたなら、相手の腕や胸の筋肉を感じ、
それによってたとえ視界がふさがれていても相手の体格を察することができただろう。
だが、私に巻き付く彼の身体はゴムのような伸縮性でぴったりとはりつき、
全身を均等に締め付けている。
私は自分の身体を覆う、黒いもこもこした着ぐるみを想像した。
幼児番組のマスコットキャラクターみたいで、ちょっとまぬけだ。
彼単体ならどうとも思わないが、その中に自分が入っていると考えると気恥ずかしい。
「モジャさん、ちょっと、息が苦しくて……」
本音を言えば「息が苦しい」以外にもいろいろ言いたいことはあった。
口に毛が入ってきてざりざりするとか、目に毛が入ってきてちくちくするとか、
鼻に毛が入ってむずむずするとか、あとは、結構くさいとか。
汗くさいというか獣くさい臭いがする。
しかし、それを言ったら自分も自信がない。
こうして相手もくさいと思っていたらいやだな、と心配になる。
しかし、なにも見えないし、身体も動かせないというのは困る。
彼は彼でなにも言ってくれないし、なんだか不安になってきた。
こういうときは、行動あるのみだ。
私は今動かすことができる数少ない器官、つまり舌を懸命に伸ばし、前方をさぐる。
毛が舌に絡む不快感のあとに、ふにっとした感触のものを舐めることができた。
「なっ」
彼のあわてる声がすぐそばで響く。
「なんで舐める」
「だって、手持ちぶさたで」
「す、少しくらい、待てよ」
顔に熱い息が当たり、今度は彼の舌が私の唇を舐める。
軽く開いた口を割るように、舌がねじ込まれた。
これまで彼の内側に浮かんでいた私が、彼と接続される。
つまり口を介して私と彼はつながっている訳で、口という身体の内側から彼の外側につながり、
彼の外側は私の身体を覆っているので、彼の口は私の身体の外側ともつながっている、
ということで、いいんだっけ?
口の中をかき回されている状況では、頭が回らない。
明らかに酸素が足りていないのに頭をシェイクされて、
ものすごく単純なことしか考えられなくなっている。
彼が、欲しい。もっともっと、気持ちいいことだけしてほしい。

225 :
彼の口が離れたとき、私は薄く瞼を開いてみた。
真っ黒な視界は変わらない。
だがその奥に、きらきらと光る星のようなものが二つ、あることに気づいた。
彼の瞳だ。
互いにしばし、目を合わせたあと、私の瞼は無理矢理引き下ろされる。
「気まずいから、つぶっててくれ」
もっと見ていたいのに、と抗議する間もなく再び私の口は彼の口で塞がれる。
キスされるだけで、結構人は、というか私は舞い上がってしまうものなんだな。
もう少し、冷静さを取り戻せればいいんだけど。
そう考えたところで、もちろん無駄だった。
彼の内側が、やわやわと私の身体を締めつけ始めたからだ。
それまで私の身体は、まったく身動きがとれない強さで束縛されていた。
いわば満員電車で四方八方から押しつぶされていたような状態だ。
それがわずかにゆるみ、胸や腹、太ももなどの周りに隙間ができる。
締め付けられていたときにはあまり意識していなかった毛のやわらかな感触が、乳首をくすぐりむずがゆさを引き起こす。
ちょっとくすぐったい、と言おうと思った。
だが彼の唇が離れ、私の顔によだれをぼたぼたと垂らしていったとき、そんな余裕は残されていなかった。
「ひゃ、や、あ」
乳首が、乳輪が、脇の下が、脇腹が、へそが、内ももが、尾てい骨が、ももの間にある私の中心が、
彼の毛によってまんべんなく撫でられ、まさぐられ、くすぐられる。
私の身体は彼の身体の中でびくびくと跳ねたが、その衝撃は彼の中で跳ね返ってより大きな振動となった。
その振動で、また悶える。
「モジャ、さん、こ、これ、だ」
駄目だと、言おうとした口からは獣のような息づかいがもれる。
いつのまにか私の腰は持ち上げられ、大きく両足を開いた形で固定されていた。
いつもなら、そのあからさまなポーズに軽口を叩いて彼を赤面させる自信がある、あるのだが
「あの、なん、な」
「なに?」
「なんで」
もつれる舌を必に動かして言葉を紡ぐ。
「なんで、あそこだ、け、そとに、でてるんですか」
そう、私の身体の中心、股間にぱっくり開いた部分だけが彼の身体の外に出て、わずかに冷たい外気に触れているのだ。
外から見たら大きな黒い毛玉に、ぽっちりと女性器が生えたおばけまんこに見えるだろうなと、
変なことを考えてしまう。
もし外に誰かがいて、そんな意味不明なものを見つけたとする。
それで、指一本触れずにがまんすることができるだろうか?

226 :
そう考えただけで、ずきりとあそこに地が通った。
どうしよう、外に誰かいたら。すぐそばに顔を近づけて、垂れる汁の臭いに顔をしかめていたら。
指を近づけて、ふるふる揺れる唇に触れようとしていたら。
「なんで、って言われてもさあ」
私の焦りと反比例するかのように、彼はすっかり落ち着いた口調になっている。
「このままだと漏らしたら足下にたまっちゃうし。外に出した方がいいでしょ」
漏らす?
言葉の意味が頭に染み込む前に、彼の身体が大きく動き始める。
太くて先の丸い筆のような毛が下腹部に当てられた。
一本だけではない。二本、三本、四本、五本、と増えて、そのすぐ上におなじ数の毛筆が配置される。
ややごわごわした毛のそれらは、ゆるやかに丸を描いた。
私のおなかに描かれる、十個の丸。
ちりちりとしたかゆみが皮膚の上から筋肉へ、さらにその下の器官へと染み渡っていく。
「ま、ぁ」
待って、という声は言葉にならなかった。
びっしりと生えた細かい毛が、私の内股をくすぐり始めたからだ。
薄い皮膚に化粧をほどこすように、やわらかく、そしてゆっくりと動かされる無数の面相筆。
それに対し私は獣のような声をあげながら、身体を跳ね回させている。
せめて、もっと毛の動きが激しければ、まだ楽なはずなのに!
身体が自由なら、ももをもみしだき、今すぐどこかにある彼のものにむしゃぶりつくのに!
そう思っても私の身体はもどかしいほどゆっくりと舐め回されるばかりだ。
太い毛は力強く私の皮膚をかきまわすが、本当にかきまわして欲しい場所にはない。
内臓に直接挿しこんでごしゅごしゅこすられているかのように思うのに、
それによって私の先端になにかが溜まり、あふれるのを待つばかりとなっているのに、
「モジャ、さ」
「なに?」
いかにも愉快そうな彼の声で、私は哀願を喉の奥にしまいこんだ。
むかつく。
本当は臆病なヘタレで、人の裸もまっすぐに見れない野郎なのに、こういうときは強気でむかつく。
そういうところが可愛いとか、気持ちいい気持ちいい変になっちゃういかせていかせて、
とかは置いといてむかつく。
きっと今頭の中でぐるぐるしていうようなことをあんあん言って欲しいんだろうけど、
むかつくから嫌だ。

227 :
「なに?」
「いや、そ、そろそろもらすと、お、おもいますけど、ぁ、モジャさんは、へいき、ですか? たぶ、たぶん、毛に、ついちゃう」
「……余裕だね」
「よゆ、う、ですよ。ほ、ほうにょうがみたいんだったら、いひっ、いってくれたら、
よはったのに。こ、こんど、かいてくらさいよ」
全く舌が回っていないが、唇をゆがめてそう言い切ると、まだまだ余裕があるような気がしてきた。
一方で、本当に次のモデルで放尿シーンを要求されたらどうしようと考え始める。
まさか野外じゃないよね。いや、この室内でも十分きつい。
それを絵に描いて残されて、しかもその絵を同期の学生や教授に見られて、
画商に売れてギャラリーに飾られて、
最終的に美術館に買われて一番いいところに置かれ小学生の団体とかに見られたらどうしよう。
「……きみはなに考えてんの」
「らって、美術の教科書にのっひゃったら」
考えていたことが口から漏れていたらしい。
「ばーかばーか、そんなもん見せるわけないだろ」
彼の方は余裕ありげなのがまたむかつく。
「い、いままでのだって、だれにも見せてないよ。僕専用のずりネタなんだから。僕がぬまで、だれにも見せない」
彼の唇が私の首筋に触れ、柔らかく吸われた。
身体に張りつめていた最後の力が抜ける。
「あ、あぁ、ああっ」
声と共に生温かい汁が流れ落ちた。
あそこ以外をすべて彼に覆われているせいで聞こえづらいが、確かになにかの上に落ちてぱたたたたと軽い音を立てているのがわかる。
「モジャさんの、ばか、へんたい」
止めようと思っても、筋肉はほどけてゆるみ力が入らない。
「変態だってことくらい、ずっと前から知ってるよ」
首筋に当たる彼の息はひどく熱かった。
私の身体をなでまわす動きも荒く、おおまかになってきている。
「家にある、君の絵。ぜんぶ君がセックスしてるときの絵になってるんだぜ、でも」
顔にぺちゃぺちゃと濡れたものが当たる。
毛がぺたぺたと私の顔に液体を塗り付けているのだ。
「顔が、うまく描けない。
君が恥ずかしがっている顔、とか、泣いたり怒ったり、よがったりしている顔が想像できない。
だから、ずっと顔が見えない角度で描いてた。後背位とか」
顔の上にどろどろ流れるものは青臭さと磯臭さと小便臭さを合わせた、
本当に吐きそうな臭いのものなのに、触れられるたびに嬉しくて口元がゆがんだ。

228 :
「じゃあ」
きっと、ひどい顔をしているんだろうなと思う。鼻にしわがよって、口がだらしなく開いて、目の焦点もあってない、快楽をむさぼる豚のような顔だ。
しかも、小便を垂れ流したままで。
いつまでも膀胱が空にならなければいい、
この恥ずかしいのにクリトリスが勃起しつづけるような状態がずっと続けばいい、
と思っているような女の顔だ。
「わたしのかお、ちゃんと、見て」
目の前に彼のきらきら光る瞳があった。
視界のすべてが彼で埋め尽くされて、独り占めにしているような気分で、とても幸せだった。
膀胱が空になると、さっきまでの多幸感はどこへやら、とても悲しい気持ちになった。
まさしく自分の中が空っぽになったような気分だ。
「そんな泣くなよ」
相変わらず私の身体は彼に覆われていて見えないが、丁寧にティッシュで拭かれているがわかる。
薄い紙一枚を隔てて、自分以外の指に触られていると思うとそこに血が通った。
「泣いて、いる、わけではなくて」
「泣いてるじゃないか」
指は乱暴に私の滴を拭う。
「もっと、気持ちよくして、ほしくて」
「……そう」
左右に開かれた。
「動くなよ! 入んないだろ!」
体中を彼によって拘束されているのだから、動くというほど動いていないと思いながら、
私は身体の内側を震わせる。
もう疲れて力も入らないと思っていたのに、中に彼が入ってくるだけで、
びくびくとひきつるように身体が跳ねた。
こんどは、あそこで私と彼はつながって、一つになっているんだ。
「下の口」なんて言うけど、キスしているような気分。
でも一つの口じゃなくて、無数の口で彼のものにキスの雨を降らせ、舐め、ねぶり、噛みついて絶対に離したくないような感じ。

229 :
顔の上に、彼のよだれが落ちた。
「君んなか、ぐちゃぐちゃしすぎ、すごい、からむんだけど」
私は顔にからみつく彼の無数の毛を払いながら返す。
「モジャさんに、言われたくないです」
頭を振り、毛をかき分けながら彼の唇を探す。
べちゃべちゃの毛に包まれた彼の口に舌を伸ばすと、向こうからむしゃぶりついてくれた。
口も鼻もふさがれて息が詰まりそうなのに、身体の奥から幸せがこみあげてきて、私は彼の舌を、よだれを、無数の毛をすすり上げる。
それにしても、だ。
いま私は彼の身体に包まれているわけだけど、それって「彼の身体に挿入されている」ってことになるんだろうか?
まあ彼の性格は男性的だし、いま私の中に性器を突っ込んで暴れ回らせてもいる。
でもだからといって、彼が「=男性」ということにはならないのではないか。
だって、人間ではないわけだし。
それで、ぬめぬめとした汁にまみれて私を締め付けているわけだし。
ああでも、彼のことだから
「いま突っ込まれてるのはモジャさんの女性器ですか」って訊いたら怒るだろうな。
怒ったところはかわいいけど、それで止められちゃったら困るしな。
言わないでおこう。
でも
彼が男の部分も女の部分も、全部私を使って気持ちよくなっていたら最高なのになあ
そんなことを考えられていたのはごくわずかな時間で、
私はすぐに身体の外も中も、彼によって気持ちよくなることしか考えられなくなっていった。

230 :
私の上から彼の身体がはがれると、急激に冷たい外気にさらされたような気がした。
寒さと心細さでちょっと泣きそうな気さえする。
それをごまかして起きあがろうとした私は頭を強く引っ張られた。
「ちょっと」
「痛い、痛いって」
二人そろって声を上げる。
「どうなってるんですか」
「絡まってるみたいだ」
よく見れば、私の黒髪と彼の黒い毛がすっかりもつれて結びつけられている。
美容院代をけちって伸ばしたままにしていたが、まさかこんなところで困ったことになるとは。
「あの、切っちゃってもいいですよ」
二人の毛をほどこうと悪戦苦闘している彼に声をかける。
「そういう訳にもいかないだろ。終わるまで寝てて」
ぐいと髪を引っ張られて倒される。
抗議しようかとも思ったが、柔らかな枕に頭を埋めたような感触しかなかったので黙ったままでいた。
髪の先を摘まれてやわらかくほぐされるのは、安らぎと、相反する胸の奥がむずむずする気持ちを感じさせた。
「帰り、さ、ホテル寄らない?」
あらかた髪がほどけた頃、むすっとした彼の声が私のすぐ下から響く。
「別に、もう一回したいとかじゃなくて、シャワー浴びないと帰れないだろ」
私は首を曲げて彼の顔を探す。私の斜め上にあった彼の目は、目を合わせると視界から逃げ去ってしまった。ちょっとむっとする。
「モジャさんは、もうしたくないんですね」
「ち、違」
びくっと彼の身体とその上にある私の身体が跳ねる。
「止まらなく、なりそうだから」
「ふうん」
私は彼の上で寝返りを打った。彼の顔と向かい合う。また逃げそうになったので唇を塞いだ。この構図、彼を押し倒しているみたいだな、とちょっと興奮する。
「君はなに、肉食系ってやつ?」
「そうかも」

231 :
頬をふくらませている風情の彼にほおずりする。
「ホテルじゃなくて、私の部屋に来てくださいよ。一人暮らしだし、狭いけどお風呂もあるし」
「う、ううん」
「来てくれなかったら、いままで私が描きためたモジャさんのあられもない姿をばらまきます」
「な、なにそれ!」
「いままで私がスケッチしたモジャさんの姿から想像した、
色々なことをしたりされたりしているモジャさん像です」
「そんなもん描きためてたの!」
「モジャさんだって、人のこと言えないじゃないですか」
身体の下で、ふくらんだりしぼんだりしている彼に畳みかける。
「私の絵はモジャさんが描いたものと違って、一見普通の前衛絵画に見えるでしょうね。
もこもこした毛玉がぷるぷるしたりびくんびくんしたりしているだけなんですから。
ほかの人が見てもなんだかわかんないんじゃないかな。でも」
私は湿った毛の一束をねじりながら言葉を続けた。
「きっと、モジャさんにはわかっちゃいますよね、自分がどういうところをしている絵か」
また彼の身体がぽんと跳ね、その上で私も弾む。
ベッドの上で飛び跳ねていた子供の頃を思い出して懐かしい気分になった。
私と彼の体液でべたべたのベッドだけど。
「き、君はなんでこう……やっぱり僕のこと、馬鹿にしてるだけなんだろう!」
「ええ馬鹿にしてますとも。この期に及んでヘタレのモジャさんを大いに馬鹿にしてます!」
さて、なんやかんやの後、私たちは「お互いをモデルにした絵を交換する」という協定を結んだ。
自分のヌードなんてもらってもなあ、と思いつつも、
彼の目から見た自分の痴態はなんとなく胸を浮き立たせるものがあった。
彼の方も”毛玉の絵なんてもらっても仕方ないよ”と言いつつ挙動不審だったことから、
似たようなことを考えていたらしい。
実は、一枚だけ、彼に返していない絵がある。
その絵は厚く油絵具を塗り重ね、でこぼこした黒い塊のような絵だ。
そのでこぼこの間から、青白く丸い光が二つ覗いている。
絵の具を塗りすぎてなかなか乾かないため部屋に放置してある絵を、彼は微妙な目つきで眺めた。
「これ、何の絵?」
「……何に見えます?」
「……星が出ている夜、ということにしてもいいよ。君がその絵にキスとかしないならだけど」
そう言って、彼は私に口づける。

232 :
私と彼が、初めて関係を結んだその夜のこと。
全身に水を浴びずぶぬれの犬のような有様の彼をタオルでくるみながら、
私はドライヤーをどこにしまったか思いだそうとしていた。
残念ながら、私には髪を洗った後ドライヤーを使うという女子力がないのだ。
「べつに、自分で拭けるから」
「辺り一面びしょびしょにしている人に言われたくないですねえ」
「だからホテルにしようと言ったんだ……くっつくなよ。その、君も濡れるだろ」
「平気ですよ。裸だから」
「風邪引くからなんか着なよ」
「モジャさんを拭いたら着ますよ」
むくれる彼をもふもふしながら、顔を埋める。
ほのかに熱が残る濡れた毛からシャンプーの香りがした。
いつも自分で使っているシャンプーだが、こんないい香りだったかなと不思議に思う。
「ねえモジャさん」
「なんだい?」
「そういえば、モジャさんの性器って、見せてもらってないんですけど」
「な、なに言ってるんだよ!」
「なにって、セックスしたのに性器は見てないって、変だなと思って」
そう言うと彼はうっと詰まり、全身の毛をさわさわさせている。
「それに、私のは見たのに」
このまま彼を焦らせていれば、効率よく乾かせるかもしれない。
おかげで辺りは飛び散った滴で水浸しだが。
「私は放尿まで見せたのに、モジャさんは性器を見せるのも嫌なんですね」
「い、嫌とかでは、なくて」
彼は身体の前方をタオルで覆い、小さく縮こまってから、やっと口を開いた。
「あ、改まると、恥ずかしくて」
いらっとして、思わずタオルをめくった。
タオルの下には、標準的な男性についてそうなものがある。
だが、標準的な男性と少し違うのは、それが短くて黒い毛に覆われていたことだ。
ぱっと見は黒いブラシ、というところだろうか。
「で、モジャさん」
私はしょぼくれた彼をねめつける。
「これ、絶対違いますよね? 毛なんて生えてなかったでしょ!」
「い、いや? 僕のはいつもこうだよ? き、記憶違いなんじゃないの?」
「どんだけ往生際悪いんですか!」
そのまま全部引っこ抜いてやる(毛を)と息巻いて彼のものをいじり回したり、
逆ぎれした彼に襲われたりしていたので、翌日二人とも風邪を引いた。

233 :
キターーーーーーーー
どうもありがとう神様
モジャなんなのこのツン鬼畜
たまらんage

234 :
おおおっ、乙です。モジャいいっ。

235 :
新作キテター
GJ

236 :
規制解けたage!

237 :
あげ

238 :
なんという良スレ
ピアノ姦とか斬新すぎるwww
新作に期待

239 :2013/09/26
このスレ見てから、バーバママの目付きに色気を感じるようになってしまった…
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