2013年10エロパロ558: 【精霊の守り人】上橋菜穂子総合3冊目【獣の奏者】 (314) TOP カテ一覧 スレ一覧 Pink元 削除依頼

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【精霊の守り人】上橋菜穂子総合3冊目【獣の奏者】


1 :2010/09/04 〜 最終レス :2013/08/11
『獣の奏者 外伝 刹那』 2010年9月発売

上橋菜穂子総合SS保管庫
http://www.moribito.h.fc2.com/

精霊の守り人
http://www.moribito.com/
http://www.kaiseisha.co.jp/moribito/
獣の奏者エリン
http://www3.nhk.or.jp/anime/erin/
http://shop.kodansha.jp/bc/books/topics/kemono/
精霊の守り人キャプ画像集
http://ysk.orz.hm/picture/seirei/

守り人シリーズ
ttp://ja.wikipedia.org/wiki/守り人シリーズ
獣の奏者
ttp://ja.wikipedia.org/wiki/獣の奏者

◆関連スレ◆
【精霊の守人】上橋菜穂子総合6冊目【獣の奏者】
http://kamome.2ch.net/test/read.cgi/juvenile/1258038609/
【獣の奏者】イアルとエリン【夫婦】
http://kamome.2ch.net/test/read.cgi/bookall/1258508629/
精霊の守り人 30突き目
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/anime2/1266161078/
獣の奏者 エリン 39
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/anime2/1271663672/
●● 獣の奏者 エリン ●● 3話目
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/charaneta/1258125741/
精霊の守り人のバルサは三十路カワイイ
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1230373043/

◆過去ログ◆
◆ ◆精霊の守り人 で エロパロ◆ ◆
http://mimizun.com/log/2ch/eroparo/1172746578/
【精霊の守り人】上橋菜穂子総合【獣の奏者エリン】
http://mimizun.com/log/2ch/eroparo/1231493914/
【精霊の守り人】上橋菜穂子総合2枚目【獣の奏者】
http://mimizun.com/log/2ch/eroparo/1255092539/

2 :
◆関連スレ◆
〜「獣の奏者」漫画版〜
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1225882100/

3 :
いちおつ!

4 :
保守

5 :
獣外伝だが
うちの地元では
大手チェーン店の本店と
そこの大きめの支店にしか入ってないようだ
(ネットで在庫わかる)
前の職場には入ってない
何やってんだよーーー!

>>1乙です

6 :
5ですが、
その後、ネット検索で在庫があった
ちょっと遠い書店で外伝を入手
読んでる最中に現職場から何度も
問い合わせの電話が鳴って中断
(日曜休むのは半年ぶりなんだけど)
頼むから感動に浸らせてーーー!

保守ってどんな頻度でするとよいのでしょう?

7 :
>>1
保管庫
http://www.moribito.h.fc2.com/
じゃなくて
http://moribito.h.fc2.com/

www. 付いてると見れねーんだ

8 :
保守は圧縮のときに削除されるのを防ぐためだよね?
相対的に上から9割程度までの更新頻度なら大丈夫だと思ってるけど・・・
かなり過疎なスレでも落ちずに存在してるし
ただ即回避は別
さっき某所で聞いてみたら、一週間以内に30レスかな?って言われた
立ってから一定期間以内にそれなりのレスのつかないスレは、
不要と判断されて落ちますよ
とはいえ俺も新刊読んだらカキコもうとしてるんだが、本屋行ったら「刹那」は明日入荷ですって言われた
東京では3日に並んでたという話なのに地域差あるなw

9 :
あ、さっき30とか言われてそのまま書いたけど、常駐ではそれ以下でも生き残ってるとこあったわ
結局いくつだろう・・・

10 :
あ〜
いい加減に解除こいよ…

11 :
って解除来てたー!!
au書けるよみんな!
自分はついさっき刹那を読んだが萌えすぎて禿げそうなんだがどうしてくれるんだw
とりあえずイアル△
あとエサル□

12 :
日本海側だけど先週入荷してた>外伝

↓↓バレ↓↓






イアルの方からだったのか
いい感じで予想を外れた

13 :
即回避は20レス越えてたら問題無し
即と言っても一ヶ月位は残ってるけど

14 :
刹那萌えたなー
この勢いで神降臨してくれんものか

15 :
イアルさんが思ったよりヘタレじゃなかったw
キメるべきとこはキメるイアルさんカッコヨス

16 :
ああいうことがないと
一線を越えられない二人なんだなぁ、と
とっても説得力がありました

17 :
ちょっとネタバレなんで注意↓↓





どうしよう…
祭りから帰った後 激情にまかせて木材を叩き折りまくって、その後
部屋中に散らばった木片をきちんと掃いて一ヶ所に纏めてるイアルさんの
後ろ姿を想像すると可愛すぎて激萌えなんですがw

18 :
「刹那」発売で久方ぶりにここを覗いてみたならば、思わぬ超大作が…!
≫前スレ667 さん
読み応えあるイアエリをありがとう‼
武人として生きていくには繊細すぎたイアルの苦悩が、エリンとの日々で癒されていく。
その変え難い情愛が、終章で集約されてました。
年月を経て尚思い続けるイアルに、涙なくしてはいられない…!
原作エピローグの補完をさせてもらいました、ありがとう!
このスレの神作品たちはエロでなく官能小説で、とても読んでいてドキドキします。
原作の溢れる官能さがよく写し出されていて、本当に良スレです。
今回の「刹那」でまた神の降臨あれ〜‼

しかし、今だに「獣の奏者」を児童文学いう人がいるんだね。
初出が講談社の一般書籍なのに。
あとがきにまで児童文学ではないと書かれてるのはよっぽどかと。
エサル先生の話なんてもう…
hosyuがてらの長文失礼しました。


19 :
神降臨してもいいのよ

20 :
今回の外伝は、それ自体が本編で描写しきれなかった部分を補完してくれるもの
だったせいか、行間ほじくり返して読むタイプの自分は逆にこれだけで
満足してしまった。さすが最大手にして唯一神w
あえて読みたいとすれば、奈落でカイルさんがいかに手でこねくり
回されて髪が突っ立ったかっていう過程だろうかw

21 :
ところで、保管庫につながらない?と思ったら、アドレスはwwwなしで
精霊の守り人SS保管庫
http://moribito.h.fc2.com/
じゃないかな? 
>>1 でつながらなかった人は試してくれ

22 :
>>21
>>7参照

23 :
スマン既出だった
>>22 教えてくれてありがとう

24 :
>>20
激しく同意!!
髪突っ立ったカイルさんの愛らしい様子が目に浮かぶ…
それでも友人のためにすぐ出てきてくれる情の深さに萌え
カイル、テクニシャンっぽいから詳しく描写するとなると
かなりエロくなりそう

25 :
昨日のラジオ深夜便に出てたな。聞いてた奴いる?

26 :
聞いた。
未読者に配慮してか、たいして目新しい話はなかったけど。

27 :
なんか文化人類学者として色々と話してたけど、そっち方面での評価はどうなんよ?
本も出してたみたいだけど絶版になってるしなぁ

28 :
ネタバレ注意↓


寒いからって背中くっつけて座る2人に激萌え

29 :
>>27
復刊したよつい最近

30 :
>>18
自分小学校図書館の司書なんだですが
読んでみて刹那だけはうちの学校に入れるのを断念しました
完全にR指定だろこれwww

31 :
ダメかなあw
今って性教育やってるんでしょ?
5・6年あたりの女の子ならいけそうだが…
でもまあ、自分で買うのとは違うもんな。
アレは児童文学ではないってことで、
「先生どーして入れてくれないの?」
と聞かれたら
「コレはこっそり楽しむ本だ」
とでも答えるか?

32 :
「先生どーして入れてくれないの?」と聞かれたら
「小学生には難しいから」でいいとオモタ
事実恋愛描写は小学生にはちと難しいと作者も言ってるし。
「刹那」も親が読んであげれば…とかラジオで言ってたが、
説明できるかああああ!
でも中学校の図書館ならいけそう
中学校にある文学全集にはけっこうエロい描写もアリ
その他偉い賞とってるからって、かなりきつい描写の入った本も
俺の行った中学校には置かれてた
高校は一般書ならほぼ自己責任だったな

33 :
今の小学生の性知識や購読している創作物の性描写の水準考えたらたいした事無いしな。
まあ刹那自体が完全に作者自身によって描かれた公認微エロパロSSだけど。
せいぜい、奈落とか高級娼婦とか生臭い部分がさわるくらい?

34 :
小学生高学年にとっての性描写は
夫婦またはそれに準ずる社会の規範に沿ったものならばOKで
不倫など規範から外れているとNGなのではないだろうか
小学4年生の保健体育の授業参観で
「お父さんの精子がお母さんのおなかに入って子供ができます」
って紙芝居でグループ発表した児童がいたし

35 :
可愛いWW

36 :
>>34
微笑ましいな

37 :
女子小学生の口から「せいし」って言葉言わせることがかよ(笑)

38 :
女子児童で脳内変換したのか
とっても内気な相方のために
照れる間もなくものすごい早口で発表した漢だったぞ

39 :
ショタが発表したのか
それはそれで危なくて萌えw(*´Д`)ハァハァ

40 :
ところで。
エロさで言えば、「刹那」より「秘め事」のほうが、エロくありません?
はじめは、なんか、いけないこと聞いちゃった…な気がしましたが、だんだん、ユアンが気に
なってきて…。
というわけで、ユアンでひとつ、書いてみた。
ダ・ヴィンチのインタビューで、ユアンは「底の見えない人」「(「秘め事」の恋は)破滅型恋愛」
とのコメントがあったので、そのイメージで。
破滅型の恋愛する人って、どんな人…を中心に、妄想してみた。
あと、エサルは自分で思うよりは愛されてたと思うし、ユアンも喋ればいい奴だよ、
上橋キャラなんだから! とオモタ
皆さん解釈は色々あると思いますが、上記のことをご了承の上、ドゾー。
あと前編は非エロですので、その辺もご了承ください。
ユアン×エサル 前編  です。

41 :

先日の雨が上がって、また少し風が冷たくなったようだ。
ぼくは窓際に立って、外を眺めながら、そう思った。
ここはタムユアンの東棟にある医術科の資料室だ。医術の専門書が集められていて、
学童の出入りは自由だが、読み物は少ないせいで、室内はいつもしんとしていた。
たまに、専門書を探しにくる人たちも、目的の本を見つけると手早く手続きをして
退出してしまう。
この医術科のある東棟は、王都でも屈指の高さを誇る建築物であり、王都のはずれで、
人々にその威容を見せ付ける様にそびえ立っている。最上階にあるこの窓からは、
王都の街並みと、遠くの王宮を取り囲む深い緑さえ眺望できた。
そして眼下の石畳では、書物を抱えた学童たちがちらほらと歩いている。
ぼくはこの窓際からの眺めが気に入っていた。
そして、時折、訳もなく気分が塞ぐことがあって、そんなときはよくここへ来て、
外を眺めるのだ。
「──ユアン、ここにいたのか。」
聞き慣れた声に振り返ると、親友のひとり、ジョウンが立っていた。
僕はわずかに微笑を作って応える。
「次の授業は史学だから、一緒に行こうと思って、呼びに来た。」
彼は少し低い声で、ごく明るそして何でもなさそうに言った。
「わざわざ、医術科まで?」
人の良さそうなこの友人は、学年にすれば三つも下だが、同じ講義は毎年は
行われないので、一緒の講義をとっていることも、よくある。
「何だよ、来ちゃ悪いか?」
「いや──悪くない」
そう、悪くない。こんな風に、気遣ってくれる友人がいるというのも。
彼は鈍いように見えて存外に人の心の動きには聡く、僕の気分がなんとなく塞ぐ
ときにはこうして何かと気を遣ってくる。
おそらく、授業の後も、ここへ行こうとか、あそこへ行こうとか、夕食は一緒に
食べようとか言って、さりげなく僕を独りきりにさせないようにするのだろう。
事実、こんな風に気分が塞いで息が詰まりそうなときは、独りで窓の外を眺めたり
するより、気の合う友人たちと一緒に居たほうがよほど気が紛れるということを、
ぼくはこのジョウンと知り合ってから、初めて知った。
少なくとも、ぼくの友人だけは、ぼく自身が選んだものなのだから。
 
     ※    ※    ※   
医術師になることは、生まれる前から決まっていた。
父にしてもそうだったし、ぼくの兄弟も含めて、オキマの家でそのことに疑問を
持つものは居なかった。
父は厳格で、息子達には医術師になるべく高い学業成績を要求したが、家庭生活に
ついては冷淡だった。
社交的な集まり以外で、父母とともに家族で仲良くどこかへ出かけたことなど、ない。
父は仕事で多忙を極める上に、外に妾を囲っていて、休日にはそちらに行ってしまう
ことのほうが多かった。父の妾というその人は、元高級娼婦で、高い教養を身に
つけており、父はことあるごとに彼女と比べて母の教養の無さをなじった。
そして夫婦関係は冷え切っているのに、社交の場では二人とも完璧な笑顔を作って
夫婦を演じた。彼らの顔に貼りついた作り笑いを見るたび、貴族の体面にかける執念の
ようなものには、畏れ入ったものだ。
そんな母は、子供たちの養育は自分の使命とばかりに誇りと意地をかけて取り組んだ。
ぼくたち兄弟も、自分たちの成績が元で家庭内にいらぬ波風が起こるのを避けるように、
常に勉学には勤しんだ。

42 :

でも、そこに自分の希みも楽しみもあるはずは無く。
むしろこのタムユアンに入舎するころには、自分がどんな人間で、何が好きで、どんな
ことがしたいのかなんて、分からなくなっていた。
ただ、与えられた筋書きで、与えられた役割をこなす人形のようなぼく。
この学舎の椅子に座っているだけで、いずれは決められた通りに、医術師になってゆくの
だろう。
そのことを考えると、息苦しくて仕方が無い。
いつも王都を眺望するあの窓枠を踏み越えれば、この息苦しさからも開放されるのだろうか。
この身を砕いてしまえば、その中からぼくをぼく自身たらしめている何かが見つかるだろうか。
それとも、そんなものは、始めからありはしないのだろうか。
あの窓のそばに立つとき、窓のこちら側に留まっている自分に、いつも少し安堵して。
──そして少しだけ、失望する。
ああ、ジョウンの言うとおりだ。
こんな風に考えてしまうときは、きっと独りで居ないほうがいいのだろう。
 
     ※    ※    ※  
教室に入ると、エサルはとっくに席について、教本に目を落としていた。ぼくたちが
挨拶すると、こちらを一瞥して挨拶を返し、もう授業が始まるわよとでも言いたげに、
すぐに教本に目を戻してしまう。
エサルは少し、風変わりな娘だった。
女学校であるリオラン学舎から中途編入してきたというだけでも前代未聞で、ほとんど
男ばかりのタムユアンでは、ちょっとした有名人だった。彼女の家は、心の臓の病の薬の
原料であるマキオリの栽培を手がけており、薬草学科に編入して、ゆくゆくはマキオリの
改良に従事するのだという。
そして彼女はどれだけ周囲の視線を集めていても、臆することなく背筋を伸ばして前を
見つめていた。
彼女には少し、感謝している。
ぼくもジョウンという『年上の後輩』のことは知っていたが、彼がどんな人物かは、
知ろうとも思わなかった。
ただ、いつかの古詩の授業の後、彼らが講義で出てきた古詩について議論を戦わせて
いるのを聞いて、興味を引かれた。年下とは思えないほど──事実、片方はかろうじて
年上なのだが──深い思索と、それを裏打ちする、深い孤独を感じさせた。
青年期の孤独は悪いことではない、といつか読んだ本に書いてあった。むしろ孤独を
知らないものは、考えを深めることもできない、と。
普通の貴族の子女として生きることを拒否して、タムユアンへ来たエサル。
人懐こい性格ながらも胸の病で入舎を四年も延ばさざるを得なかったジョウン。
そしてぼく。
ぼくたちは、一緒に居ると、どこか響きあった。
きっとぼくたちは、自分の周りの世界について深く考えるに足るだけの孤独を、その身の
うちに持っていたのだろう。
ぼくはエサルが居たおかげで、二人の友人を得ることができたのだ。

43 :

エサルの風変わりぶりは、それだけには留まらなかった。
このタムユアンに来る前に、自分の婚約者を妹に譲り渡してきたというから驚きだ。
貴族も高級職能者階級も、学童になるころにはとっくになにかしら縁組は決まっているから、
相手の居ない女の子、というだけでともかく男子学童たちはざわついた。
口の悪い奴らは、
「手綱のついていないというより、乗り手のいない牝馬。そもそも牝馬に見えない」
などとはやし立てたが、自ら心の中がざわついていることを告白してしまっている。
男にわざわざ「女に見えない」などと当然のことを言う奴は、いない。あえて
「女に見えない」というようなことを言うのは、どこか女の子としてのエサルが気になっている
証拠だ。その方向性が、はっきりとした恋情でなくとも。
そもそもエサルは、派手な顔立ちではないし、特別に美しいわけでもなかったけれど、
別に醜くはなく、愛嬌のある顔立ちだった。容姿の美醜など、所詮皮一枚のこと、さほど
気にする必要もないと思うのだけど、エサルも女の子としては気になるもののようで、
はやし立てられると、いつもひそかに眉根を寄せていた。
気になるか、と聞くと、
「気にならない…こともないわね。」
と、答えた。
強がってはいるのだけど、その言い方が、なんだかひどく女の子らしい気がして、
可愛らしいな、と思った。
そしてエサルが彼らに媚びたりするような娘でないことを、少しだけ嬉しく感じた。
 
     ※    ※    ※  
エサル、ぼくたちに転機が訪れたのは、ぼくたちが卒舎を控えた、春のことだったね。
王獣に夢中になった君のために、ふたりでホクリ師の館を訪ねた。それまでほとんど
三人で一緒にいたのに、そのときは、ふたりで。
きみは侍女を呼ばずに外出できるなんてはじめてだと、嬉しそうにしていた。きみは
少しそわそわしていたけれど、きっとホクリ師は、きみのことを気に入ると思っていた。
ぼくは慣れないふたりでの外出に緊張していることを悟られないよう、ずっと
本を読んでいた。
結果は予想通り、いや、予想以上だった。
ホクリ師はきみの父上のことをすでにご存知で、師との会話はほとんどきみの話を
中心に進んだ。
きみの存在は、いつも不思議だ。
自分のことだけを懸命にこなしているようで、その実、不思議な影響力で、周囲の
ものたちを巻き込んで、変えてしまう。
いままでにぼくが師のもとを訪れたどのときよりも、そのときの師の語りは生き生きと
していたし、何より新しい発見に満ちていた。
ぼくたちは、来るまでに考えていたことなどどこかに忘れ去って、新しく聞いたこと、
新しく自分の心に浮かんだことに夢中になって語り合った。
ぼくは興奮していたし、高揚していた。そして、きみもそうだった。
ぼくたちは、師のお宅を辞したあとも、夢中で語り合った。
ぼくが研究学舎を受ける理由を人に話したのもはじめてだったし、それを理解して
貰ったのもはじめてだった。
いや、ぼくが希んでいることを、理解されたことも、理解しようと努力してもらった
ことさえ、はじめてのような、気がした。
ぼくの言葉にきみが、きみの言葉にぼくが応えて、次々と新しい何かが溢れて、
止まらなかった。
声を上げて笑ったのも、久しぶりだった。
あのあと、きみがぼくと同じように研究学舎を受けて、しかもホクリ師に師事する
つもりだと聞いたとき、どんなにぼくが嬉しかったか、きみにわかるかい?


44 :

ぼくが心底惹かれたホクリ師の独特さ──狭い専門に囚われず、広い視野でこの世の
すべてをひとつながりとして見ること──は、位の高い医師たちの間では、あまり
認められていなかった。
父はそんなホクリ師に師事することに、決してよい顔はしなかったが、研究学舎を
出ること自体は、経歴に箔がつくという理由で、何とか許してもらった。
ぼくたちは師について山野を巡り、野に伏せて、獣を、植物を、昆虫を、その他
森の生命を形造るさまざまなものを観察した。森は、山は、それ自体で一つの生命の
ように息づき、その驚くほどの精緻さの前で、ぼくたちはほんとうにちっぽけな存在だった。
どれだけ頭を働かせ、いくら力を尽くしても、ぼくたちに捉えられるのは全体のうちの
ほんの断片にすぎない。それどころか、ぼくたちが書きとめた事実から、なんらかの真実を
浮かび上がらせられるかどうかも、計画の緻密さよりも運によるところが大きかった。
森の大きさの前では、ぼくが貴族の家に生まれたことも、ここにいられるのが医術師に
なる前のほんの短い期間であることも、ごく些細なことだった。ぼくたちは、その神々しさの
前に、ただ頭を垂れるしかなかった。
ただ、エサルにとっては、少しだけ事情が違ったようだ。
共に野に伏せているある日、エサルが妙に眉をしかめて苦しそうにしていた。
「どこか悪いのか」
ぼくが心配して聞くと、きみは眉をしかめたまま首を横に振った。
「平気なようには、見えないけど。」
よく見ると、顔色が悪く、額には脂汗が浮いていた。
「いいから、わたしのことは放っておいて。」
そう言ってきみは少し離れたところに行ってしまった。それでいて、山小屋に戻ると、
倒れ込むように横になって、そのまま翌朝までほとんど動かずにいた。
翌日にはいつも通り元気そうにしていたから、ぼくは医術科に属するものでありながら、
その理由に気づいたのは翌月のことだった。
山入りの前の日にはいつも通り一緒に準備をしていたのに、エサルだけ二日遅れて山に
入るというから何事かと思っていたら、エサルが席をはずしたときに、師がそっとこう言った。
「山の神に、障らぬためじゃよ。あまり、言い募るな。」
それでやっと、ちょうどひと月前のあの不調も、今回も、月のものなのだと、思い至った。
そう、エサルは、女の子なのだから。
屈強な男たちが次々と脱落し、ぼくもまた自分の限界に挑戦し続けなければならない師との
山歩きに弱音ひとつこぼさずについて来ているとはいえ、エサルが女の子である以上、
月に一度は痛みと貧血に耐えねばならなかったのだ。
そしてつらければつらいほど、そんなことを、軽々しく男のぼくに言える筈もなく。
それからエサルは月に数日ずつ、山入りの予定をはずしていたが、エサルがいないときほど、
その存在感は募った。いつもいる場所にいない、というそのことが、雄弁に、彼女が女である
ことを語っていた。
きみは、大事にされている「マキオリのお嬢さん」だった。師は、きみがいないときには、
盛んにそういっていた。男なら怪我をしても自分の責任で済むが、お嬢さんはそうはいかん、と。
師は、ぼくには近い場所ならひとりで観察に行かせたが、エサルには決してそんなことは許さなかった。
エサルは男より少し細い肩と、少し細い手足で、いつもなんでもないような顔をして、過酷な
山道を共に駆けた。
でもその実、女であることは山では確実にきみを縛っていて、いまも山に入れない不自由さに
歯噛みしていることだろう。
それでも、数日経つと何事も無かったように追いついてくるきみは、ひどく意地っ張りのようでも
あり、健気なようでもあり、そんなきみを見ていると、何だかなんともいえない気持ちになって
しまうのだ。
それでもエサルは長い間、ぼくにとっては山の中でも頼りになる相棒であり続けた。
ぼくたちは共に容赦の無い風雨にさらされながら、獣を追って森を駆け、野に平伏する謙虚なる
観察者だった。

45 :

     ※    ※    ※  
あるときエサルが
「気になることがある」
と、ぼくに話してくれたことがあった。
舌に黄疸の症状の出ているムチカが、特定の木の皮を噛んでいたというのだ。ぼくは、
このところエサルが何かに取りつかれたように見ているものは、これだったのかと、やっと
合点がいった。
もしも、何かの病の治癒行動としてムチカが薬効のある植物を利用しているなら大発見だし、
その植物の薬効は、ほかの動物にも──人間にさえ、効くかもしれない。
エサルは躊躇したが、師にそのことを打ち明けると、思ったとおり、師も強烈に興味を
惹かれたようだった。師はすぐにその気を見に行かれて、ぼくたちにムチカとその木の
観察を許してくださった。
それからしばらくは、ぼくとエサルはふたりでその木につきっきりになった。
──異界の帳、押し開かれ、我、神を見たり。
なにかに夢中になっているエサルを見ていると、この一節を思い出す。古詩の講義は
ぼくたちが出会うきっかけとなった講義で、ぼくの中では特別な位置を占めている。
エサルがはじめて王獣を見たときもそうだった。
同じ場所にいて、同じ空気を吸っていても、エサルだけが異界に誘われたように、
何かを見つけてしまう。全身全霊をかけられるような、なにかを。
いつも誰かの用意した筋書き通りに生きるしかできないぼくとは、対照的だった。
森を見ているときも、ぼくは師の書いた研究の筋道のひとつを、預かってそつなく
履行しているに過ぎない。
それでもきみと一緒にムチカを観察していると、きみの中にある、きみを突き動かす
熱気のようなものが、ぼくの中の冷たいうつろを満たすような気がした。きみの熱の中に、
ぼくもいた。
そう、幸せだった。
ぼくたちが一番幸せだったのは、あの時かもしれない。

幸せは、長くは続かなかった。
あの日──日が暮れても師が戻らなかった、あの日。
ぼくたちが小屋に帰るころにはもう、いやな予感がしていた。
日が暮れるにしたがって、腹の底が冷えて行くような気がした。
真っ黒な闇のなかを、小さな灯りを頼りに、ぼくたちは師を求めて彷徨った。
結果は最悪──に、近いものだった。
それでも、師は、一命をとりとめた。
けれど、ぼくたちはもう、ふたりで山には入れなかった。
山歩きに慣れているホクリ師ですら重大な事故にあったということが、きみを山から遠ざけた。
きみは、師と父親から山入りを禁じられ、タムユアンに戻った。
ぼくも、いままでの観察記録をまとめて論文にする時期にさしかかっていた。
ぼくのほうは、あといくつかの補足調査をすればまとめに入ることができたが、きみの
観察のほうは、何がしかの結果を得るには、まだ圧倒的に観察数が足りなかった。
きみは無力感と焦燥感に歯噛みしながら、書物の頁をめくり続けていた。
ぼくにとって、師と共に山に入る暮らしの終了は、医師としての人生の前倒しを意味していた。
ぼくはたびたび実家に呼び戻されるようになり、父は様々な関係者を招いては、ぼくの卒舎後の
ことについて、盛んに根回しをし始めた。
ぼくは、短い猶予期間が、急速に終わっていくのを感じていた。

46 :

シリアとも、たびたび会うようになった。
シリアは、幼いときから決まっている、ぼくの許嫁だ。卒舎してしばらくすれば婚姻ノ儀を
挙げることになるから、その打ち合わせも兼ねて我が家を訪れるのだ。婚姻ノ儀の細かなことは、
ぼくにはよく分からないから、きみの好きなように決めるといいよ、と言うと、花のような笑顔で
笑った。
シリアは、できた娘だ。気立てもよく、美しくて優しく、みんなから好かれる娘だ。だからこそ、
身を苛む深い孤独など、知りようも無かったけれど。
彼女は自分に分からない話に図々しく割り込んだりはせず、上手に一歩退いて話が終わるのを
待っている。だからぼくは、彼女にタムユアンでの話など、ほとんどしたことがなかった。まして
研究学舎での話など。
父のように妻に冷たく当たる男になりたくはなかったから、彼女にはできるだけ優しくした。
年若い女性というものはそういうことを好むらしいから、誕生日には花を贈った。
シリアはできた娘だから、大して心のこもらないぼくのそういった行為にも、
ちゃんと喜んで見せた。
愛情とは、どういうものだろう。
ぼくの育った家庭に、それは無かった。
物語などを読んでみても、どこか絵空事のようで。
妻を娶れば、自然に分かると言う人もいた。そういうものか。
美しくて、優しく、気立てのよいシリア。彼女と暮らせば、きっとぼくの心にも、愛というものが
芽生えるのだろう。
 
     ※    ※    ※  
そんなとき、タムユアンの学舎で、偶然──ほんとうに偶然に、ロム師と行き交った。エサルの
師事する教導師だ。エサルが、ホクリ師のことで動揺し、体調を崩したので、実家に戻って
休養するらしい、と心配そうに話されていた。
そんなはずはない。きみは、そんな娘じゃない。
山に入るのを禁じられたせいで不満が募って、体調を崩すならともかく。
そう思った瞬間、きみの考えが、分かった。
ああ、そうだね。ぼくがきみでも、そうする。
誰にも相談せず、誰にも頼らず、師の怒りを買うことすら承知で、きみはひとりであの木を
調べるつもりなのだろう。
身体の中を突き抜けるような歓びが走った。
嬉しい、嬉しい、うれしい。あんなに血の凍るような事故のあった後でも、きみが
きみのままでいてくれて、嬉しい。
きみが次にすることは、分かっていた。


           ――続く――


47 :
いっこ名前欄ミスった…。
後編に続きます。

48 :
>>47
GJ !!
待ってました、外伝からの派生SS。
脇役キャラの掘り下げがうまいですね。
後編期待してます。
エサルはあの中で、「ユアンはいつも自分が幸せを感じられるように気をつかいながら
抱いてくれた」みたいなこと言ってたけど、ぶっちゃけそれって「イかせてくれた」って
ことだよね...?
あのエサルが毎度毎度どんだけ乱れたのかと思うと...ぜひエロエロなのキボンヌ。

49 :
>>47
いい感じ!
思いっきりエサルに同一化してるので、とにかく優しく幸せに感じさせてあげてください!

50 :
>>47
外伝スタイルに合わせた一人称、「秘め事―ボーイズサイド―」とも言えるSS、
大変GJです!
続き楽しみにしています!

51 :
児童書スレ復活してた!
【精霊の守り人】上橋菜穂子総合7冊目【獣の奏者】
http://kamome.2ch.net/test/read.cgi/juvenile/1284975472/

52 :
>>18 さま
遅ればせながら、ありがとうございます。お楽しみいただけたようで、嬉しいです。
>>40 さまの後編を待っているあいだの口寂しさを紛らわせていただけるかな?
蔵していた掌編を投下します。エロなし。

53 :
 黎明の東の空に、三日月が昇ってきた。まもなく、あとを追うように日が昇り、いつも
どおりの朝が、この都市に訪れる。
 隊商都市ホザでの最後の夜を、おれは、見張り櫓の夜番で明かした。
 アマスルの悲劇から、八年。真王国と周辺国との国境付近での小競り合いも全体として
みればかなり沈静化してきてはいるが、このあたりはまだまだ、油断のならぬ地域だった。
 半年あまり駐屯したここを同時に去る闘蛇乗りは、おれを含めて十数名ほど。
 昨夜はささやかな送別の宴が催されていたのだが、おれは宴の半ばで中座すると、この
見張り櫓で、ひとり夜明かしすることを隊長に願い出た。
 櫓の夜番などは蒼鎧のすべきことではないのは自明だったが、隊長も直属の部下も、何
も言わずに解放してくれた。──闘蛇乗りの誰もが知っていたからだ。今日が、おれにと
ってどんな日であるかということを。
 一年前の今日は、ウラムに駐屯中だった。二年前も、三年前も──。あれから七度のこ
の日の朝をおれは、どこにいても、たった一人で迎えてきた。
(……エリン)
 今でも時々、夢に見る。おまえが、灰色の天から墜ちてくる光景を。
 おれは、その夢の中でいつも、墜ちてくるおまえに向かって駆けている。
 鉛の靴を履いているかのごとく大地から離れようとしない足を引きずり、喉の奥にひっ
かかった叫びを咽ぶようにして押しだしながら。
 そして、目ざめるたびに思う。
──いつか、おまえをこの腕に受けとめて目ざめることができたなら……。
 叶うべくもない願いを、おれはいまも抱きつづけている。
 その願いにすがらねば、同じ夢をまた見てしまうかもしれぬことが──ひいては、眠り
に落ちることすら──恐ろしいという時期すら、あったのだ。
 闘蛇乗りになってからの六年間、おれは、おまえにとって、よい夫ではなかったかもし
れない。
 正直なところ、遠いあの日に共に暮らしはじめてからいままで、よい夫だったと言い切
れる確かな期間があったのかどうかさえ、いまとなってはさだかではないのだ。
 常にまっすぐにおれに愛情を向けつづけてくれていたおまえに、おれは、同じことをし
てやれていたのだろうか。
──遠い地で、おまえの愛しい面影を何千回抱きしめていたか。
  帰郷のたびに、どれほどその笑顔に癒されていたか。
  おまえに求められるたびにどれほど、生きて在ることの至福を感じていたか。
 それらをきちんと伝える術すら持たぬまま、おまえという心地よい日だまりの中でまど
ろんでいただけなのかもしれない。

 出発の日。──その夜明けまで、時を惜しんで互いの身体を絡ませ合った。
 ジェシのことすら、忘れていた。いまこの世に在るのは、おれたちただ二人だけだと。
 そしてつかのま、夢想した。
 
──まだ知らぬ高みに至ることができれば……。
  狂熱の坩堝のなかで、あとかたもなく溶けあってしまえれば……。
 二人はただひとつの完璧ななにか──そう、きっと深く澄んだ美しい緑の結晶に──生
まれ変わることができるのではないか、と。
 かつてないほど鮮烈な悦びに包まれて意識を手放す刹那、おれは、それを本気で信じた。
 けれど、声を忍んで咽ぶおまえの気配で目ざめたとき、おれたちはやっぱり、二人のま
まで…………。

54 :
 湧きおこった激しい落胆を、おれは努めて表情から切り離して夜具を抜けだし、衣をま
とって外に出ると、井戸の冷えた水で、長い時間をかけて顔を洗った。
「笑って送りだしてやれよ」とジェシに言った手前、おまえが瞼に焼きつけるおれの最後
の顔に、涙の痕跡を残したくなかった。
 互いを得てしまったが故の、いつか失うその日への畏れ。覚悟のうえで背負ったはずだ
ったのに──。
 カザルムを離れる馬車の中、その時が刻々と近づく予感に、身体のふるえがとまらなか
った。かすかに残るおまえの残り香をすべてこの肌の内側に取りこみたくて、ただじっと、
己の身体を抱きしめつづけた。
 そしてあの日、おまえは、天から墜ちた。おまえの半身のごとき、神々しい獣とともに。

 次第に弱っていくおまえの呼吸を聞き逃すまいとして、ジェシとともに枕元に顔を寄せ
たとき、ふいに、握り合う手にこめられた力が強さを増したことに気づくと、すこしだけ
腫れがひいた瞼を懸命に開き、おまえはおれたちを見つめ、口を開いた。
「あなた、ジェシ……」
 二人して瞬きもせず、固唾をのんで、次の言葉を待った。
「あなた……お願い、ジェシのこと……」
「──わかっている」
 やっとのことでそう答えるおれの顔を見つめていたおまえの目に、次の瞬間、哀しいほ
どに強い意志が浮かんだ。
「あなた、あのときの約束……」
 見つめられながら、自分の顔がみるみるこわばっていくのを感じた。

 顔も手も冷えきったころ、虚ろな足取りで寝間にもどると、身支度を整えたおまえはあ
けはなった窓に寄り添い、額にかかっている髪を秋風に踊らせながら、静かに外の景色を
ながめていた。
 手まねきをするおまえのもとに近寄っていくと、おまえはついと外の庭木を指さした。
 促されて視線を移した先の梢にあったのは、細い枝を集めて作られたような、こんもり
とした塊だった。
 今年初めて、渡り鳥が巣をかけて子育てをしたのだと、嬉しそうにおまえは笑った。葉
が茂っている夏のあいだは巣の場所が知れなかったが、ここ数日で落葉がすすんだおかげ
で、今やっと、それが見つかったのだと。
「また来年、ここに来てくれますように」
 胸の前で手を軽く組んで睫毛を伏せ、祈るように、おまえはつぶやいた。
 そして、目を開けてこちらに向き直ると、つかのまなにか考えこんでいたが、やがて静
かに言った。
「ね、もしも……よ」
「なんだ?」
「わたしが戦場からもどらなかったら……」
 胸に、叩かれたような衝撃を受け、おれはおまえを見つめた。
「あなたの人生は、このさきも続くわ。だから、しあわせでいつづけてほしい。そう在る
ことを、あきらめないでほしいの……」
「──なにを、言うんだ……」
 穏やかな笑みをたたえたまま、おまえは言葉をついだ。
「もしあなたがいつか、しあわせにできると思える誰かに出会ったら、その右手で、その
人の手をとるのをためらわないで」
「ばかなことを、エリン……」
 ぎゅっと目をつぶり、激しくかぶりをふった。噛み締めた奥歯が軋む音が、頭の内側に
響いた。
 おまえの言わんとすることは、頭の片隅では理解できた。おれだって、おまえを残して
逝かねばならぬときが来れば、同じことを言おうとしただろう。
 だが、戦場の混沌の中で訪れる〈そのとき〉に、互いがそばにいられるとは限らない。
確実に伝えておきたいなら、残されたときは、このいましかない。
 けれど、おまえのほうからさきに口にされて、それがいかに残酷な願いか、思い知った。

55 :
「人は、一人では生きていけない。一人は、寂しいわ……。いくつになっても、よ」
 ふいに口をつぐんで黙りこんだおまえはやがて、あたかも自分自身に言い聞かせるよう
に、つぶやいた。
「わたしは……あなたの音無し笛には、なりたくない……。
 ジェシは、大丈夫。きっといつか理解するわ。──だか……」
 強い力で肩を抱え寄せると、唇を押しつけ、つづく言葉をさえぎっていた。
 驚きにみはったおまえの瞳が、降参の意を示すようにゆっくりと閉じていく。息継ぎす
ら許さずに貪りつくしてから、唇を離し、
「──そんな女は、現れん」
とかすれ声でうめくと、おまえは微笑みながらかぶりをふった。
「わからないわ。カザルムで出会ったあのときの私たちに、この十六年のことが想像でき
た?」
 反論しようとしたが、真っ白になった頭の中に、言葉はなにひとつすらも、浮かんでこ
なかった。
「よかった。このことを、あなたにちゃんと伝えることができて。
 昨夜からずっと、心残りだったの。あなたは、律儀で生真面目すぎる人だから……」
 瞳に張った水の膜をふるわせながら必に笑みを保とうとしているおまえを前に、哀し
みと怒りがないまぜになった感情がふつふつと湧きあがるのを、抑えることができなかっ
た。
「エリン、おまえは……」
(あのとき、おれの腕の中で、そんなことを考えていたのか……?)
 だからおれたちは、ひとつになってしまえなかったんだろうか──。
 そんな奇跡があるはずもない。頭ではわかっている。わかっているのに……。
「無理に忘れようとしないで、いいの……」
 ささやくような声で、最後に、おまえは言った。
「──ただ、あなたの心に正直に、生きて……」
 やせた身体を小刻みにふるわせながら胸に頭を押しつけてきたおまえを、渾身の力で抱
きしめた。
 麦藁色の髪に鼻先をうずめ深呼吸して、匂いを、胸の奥深くまで取りこむ。
 ふっと、おまえからおれの匂いがしたような気がした。
 もはや分ちがたいほどに混じり合った匂いという柔らかな殻の中で、いまこの時だけは、
二人はひとつの存在だった──。

「お願い……約束、して──」
 氷の塊がつかえたように、喉もとから胃の腑のあたりまでも固くこわばったままで、か
すかに開いた唇からは、声はついに出なかった。
──心を、閉ざさないで。ヨハルさんにとってのクリウさんのような誰かを、あなたも
……。
 おまえの懇願の意味も知らず、おれをじっと見つめるジェシの前で、うなずく以外にお
れにいったい、何ができたというのだろう。
 おまえは、深い安堵の吐息を漏らして、睫毛を伏せた。
 かけがえのない時が指のあいだからすべり落ちていく、さらさらという虚しい音が、耳
の底に響いていた。

56 :
 いまでもときおり、考えることがある。
──おまえ以外の誰かを愛することなど、できない。
  安心して逝かせたりなどしてやらぬ、だから、逝くな……。
 もしもあのときそんな無茶を言っていたら、おまえのその緑の瞳は、閉じられることが
なかったのだろうか、と。
(そうか……)
 あの肝心なときにおれは、自分の心に正直になれなかったんだな──。
 一陣の砂嵐が荒野を渡っていくと、東の地平にかすかにのぞく山並みのあいだから、稜
線の輪郭をにじませながら、日が昇りはじめた。
(エリン、すまない……)
 約束は、守れないかもしれない。
 もしも──おまえさえよければ、好きなだけおれの心にいてくれないか?
 ふり仰いだ天に、小さなふたつの鳥影が浮かんだ。渡りの群れからはぐれたのか、強い
風にあおられながらも必に寄り添い、高い空を南に渡っていく。
 砂塵をまとった風をやり過ごしてその鳥たちを見送ると、細く高い声が彼方にこだまし
た。
 まもなく到着する兵士に番を譲って宿舎に戻ると、馴染んだ蒼鎧を脱いで、北への帰路
につくことになる。
 おれたちの故郷《カザルム》で、おれは、おまえの忘れ形見と生きていく。

57 :
以上です。お目汚し失礼いたしました。

58 :
超GJ
せつないなー
是非他の部分も補完を笑

59 :
GJ!!!
「刹那」の後だからこそ、エリンを失ったイアルさんの悲しみが
一層心に響きます。
どこまでも愛妻家なイアルさんに萌え。

60 :
>>59
神GJ
刹那読み終わった後の全俺が泣いた。・゚・(ノД`)・゚・。

61 :
GJ!!
本当、刹那読んだ後だとすごくくる。泣けた。

62 :
GJ(ゴッズジョブ)過ぎる!!
朝っぱらから涙腺崩壊
イアルさんの不器用さとエリンへの愛が素晴らし過ぎる
よしもう一度刹那を読んでから読み返そう。

63 :
他部分補完計画待機保守

64 :
エサルは、若いときも年取ってからも、「女に見えない」「男性かと思った」とか言われてますね。
自分の知り合いで、フツーに男に間違われるような女の子って、不細工な人はいません。
どちらかというと整った顔立ちで、でも顔も体型もあと服装も中性的…って人が多いです。
エサルは「男みたいに見られる」ことで自分は不美人だと思っていますが、実は結構、
飾れば可愛いのでは…ジョウンもそんなこと言ってるし。
おっと漫画版3巻に1コマ若エサルが…。
……。
やっぱ美人じゃん!!!
漫画版は、老エサルもカコイイ。
ユアンは、「子供ができたら絶対に自分と添い遂げようとする」ってエサルに確信されてるのって
…誠実なのでは。
そしてエロシーンも頑張ってみたんですが、ユアンはエロいのに、ギラギラ感が全くない(笑)ので、
どうもこんな感じに。
ユアン×エサル 後編です。

65 :

山に入るのなら、師のお宅に置いてある装備を使わせて頂く他はない。
ぼくたちはふたりとも、合鍵を持たされていた。
夜になって、街から離れたホクリ師のお宅を訪ねると、確かに誰かが入った形跡と、人の
気配がした。
多分、間違いはないはずだ。きみは、その日のうちに行動を起こすに違いないのだから、
とは思ったが、すべてがぼくの思い違いで、他の人間である可能性も、捨て切れなかった。
だから、居間の扉を開けた途端、青い顔をした君が火掻き棒を握りしめているのを見た
ときには、嬉しくて笑いがこみ上げるのを抑え切れなかった。
ごく自然に、ぼくは手伝いを申し出た。あの木のことは、既にぼくにも関わりのある
ことだったから。
ぼくにはあまり、時間が残されていなかった。医院の実習はまもなく始まろうとしているし、
卒舎のための論文も、まとめに入らなければならなかった。
けれどきみと一緒に、検証の手順を話し合っていると、わくわくした。
それは誰かに与えられた仕事ではなかった。誰かの書いた、筋書きでもなかった。
むしろ師に背き、学舎を欺いても成し遂げたい、ふたりだけの秘密の冒険だった。
きみは確かに誰かの助けが必要だったし、それにはいまのところ、ぼくが最適だった。

翌日から、ぼくたちはふたりで、山に入った。初秋の息づかいを見せる森に、ふたりだけで。
いずれはその結果を取りまとめて発表することになるのだろうけれど、いまここにぼくたちが
いるのを知るのは、ぼくたちふたりだけだった。
残された時間は少ないのだから、観察に集中しなければならないのに、自分でも気づかない
うちに、何故だかきみを見ていることがあった。
きみのほうも、ぼくを見ていることがあった。何度かそんなことがあって、気のせいではない
ことが分かると、次第に、ぼくときみの間に、奇妙な熱が生まれているのを感じていた。
じりじりと、皮膚を焦がすような、静かで、それでいて強い熱。
きみを見ていないときでも、強烈に、君の存在を感じていた。
夜になると、その存在感は一層濃密になった。
手を伸ばせば触れられる距離、互いの息づかいが感じられる距離にいながら、ぼくたちは
互いに少し離れて、何もないような振りをして過ごした。
そう、あの夜までは。
あの夜──ぼくが山を下りる前の夜は、しんと冷たい秋の宵なのに、体の中の熱が身を
焦がして、吐息すら熱く染めていた。
いつもきみと話していると、次々に新しい考えが浮かんで話が尽きないのに、あの夜は
何も思い浮かばなかった。
ぼくたちは互いに何かを感じていて、けれどそれには触れないように、淡々と作業をこなした。
やることがなくなってしまって、灯りを消して横になれば、闇が息苦しいほどだった。
冷たいようで熱い闇の中、ぼくはきみの吐息を感じていた。
君が眠りについていないことも、わかっていた。
ふたりともが眠れないようなら、起きて話でもしていればいいのに、そのときは、何の
言葉も出てこなかった。
ふいにきみが寝返りを打って、ぼくのほうを見た。
わずかな暖炉の明かりの中、きみの輪郭を確かめるように目を凝らしていたぼくと、
目が合った。
──ああ。
どうすればいいか、今わかった。
それでもそれは少しだけ怖くて、目を合わせたまま逡巡した。
「……来るか」
喉から押し出すようにそうつぶやくと、きみは頷いて、ぼくが持ち上げた夜具の中へと、
飛び込んできた。

66 :

その瞬間が、至高だった。
後で何度思い返しても、そのときのことを思うと、胸が熱くなる。
ぼくが呼んで、きみが応えた。
あのとき、ぼくたちの心は、分かちがたくひとつだった。
そしてあのとき、ぼくは初めて、恋というものを知ったのだ。
自分の全身全霊で、相手の心を請うる気持ち。
応えてもらったときの、体の隅々までが沸き立つような、あの感覚。
ぼくは少しだけ、シリアのことを思った。
ねえシリア、貴族の社会と言うのは、不条理だね。
シリアのように美しく、気立てもよく、優しい娘でさえ、よい夫に恵まれるとは限らない。
これが恋ならば、ぼくはシリアに恋することはないだろう。多分、これからもずっと。
それでもシリアは、できた娘だから、そつなく、うまくやってゆくのだろうけれど。
抱きしめたエサルの身体は、どこもかしこも女の子だった。いつも精一杯強がっている
けれど、ぼくの三つも年下なのだ。肩も腕も腰も、ぼくよりずっと華奢で、柔らかだった。
そして、全く、けがれを知らなかった。
誰にも触れられたことのないきみは、どこに触っても、緊張に身を硬くして、ふるえた。
ぼくは特別に難しい試験の問題に取り組むような気持ちで、慎重に、きみに触れた。
何もかも初めてのきみが、痛みに失望してしまわぬよう、ゆっくりと、優しく
解きほぐしてあげる必要があった。
きみがすっかりぼくに身体を委ねてしまう気になるまで、ぼくは互いの熱を移しあうように
きみの体を抱いて、その髪をなぜていた。
そしてときおり、額に、頬に、くちづけを落とした。君が顔をこちらに向けて、どちらから
ともなく唇を重ねるまで、長くはかからなかった。
ぼくはひどく高揚した気持ちで、きみと唇を重ねあった。
あきれるほど、長い間。
きみの唇が少し開くと、ぼくは舌を差し入れ、きみの口腔内を味わった。
きみの唇にも、舌にも、いつまでたっても飽きることはなかった。
むしろ触れれば触れるほど、こんなにも飢(かつ)えていたのだと、思い知ることになった。
いつからか。ふたりでこの山に入ったときか。一緒に、あの木を見つけたときか。
それともはじめてふたりで出掛けて、ぼくたちの師と出会い、夢中で会話を重ねたあのときか。
いつかのぼくたちは、確かに、親友だったはずなのに。
唇と舌を味わい尽くすころ、きみの身体はゆったりとぼくにあずけられていた。
ぼくは耳もとに、首筋に、胸元に、それから身体中にくちづけを落として、小さな小屋の中に
きみのひそやかな声が響くようになるまで、丹念にきみの身体を愛撫した。
きみは充分に潤っていたが、さすがに秘所の奥に触れられるようになると、痛みにおののいて
小さな悲鳴をあげた。
ぼくはここでやめておくことも提案したが、きみはその先を望んだ。
ゆっくりと準備に時間をかけて、なるべく君の負担にならないように、慎重にきみの身体を
開いていった。きみは何度もぼくの名を呼び、そのたびにぼくもきみの名を呼んだ。
きみは破瓜の痛みにふるえながらも、やさしく揺らしてあげると、繋がった歓びに溜息を
漏らした。
ぼくは終始はらはらしていたけれど、すべてが終わった後のきみは、幸せそうに甘く笑んで
いたから、『難しい試験』にはとりあえず及第点がもらえたみたいだった。
初秋の山の夜の、しんとした寒さの中で知った人の肌の暖かさは、ぼくを泣きたくなるほど
幸せにした。
狭い小屋の中では、少し距離をとっているより、寄り添っているほうが、よほど簡単で自然だった。
翌朝、きみと別れて山を下りるときには自分の運命を呪ったけれど、六日後にはまた遭える
という約束だけが心を暖めた。

67 :

次に山に入るときには、きみの好きだった焼き菓子を買っていった。
何もかもが一時の夢で、ぼくときみの間には、ただ冷たい沈黙が横たわるのではないかという、
一抹の不安を抱えながら。
きみは満面の笑みで、ぼくを迎えてくれたね。
ぼくたちは熱いお茶を淹れて、ふたり並んで、菓子を頬張った。ぼくはお茶を淹れているときも、
焼き菓子を食べているときも、それどころか小屋についてからずっと、きみから目を離すことが
出来なかった。
なんだか、きみの一挙手一頭足が可愛くて可愛くて、勿体なくて目を離せないのだ。
焼き菓子を食べているとき、さすがにきみは、居心地悪そうに
「わたしの顔に、なにかついてる?」
と訊いた。
きみがきみであるだけで、目が離せないのだ──ということを説明する言葉を、ぼくは
持たなかった。
かわりに、こう答えた。
「──砂糖が。」
どこに、と訊くきみの問いを無視して、ぼくはゆっくりと顔を近づけて舌先できみの頬を
ちろりと舐めて、感想を述べた。
「…甘いね。」
みるみる間にきみは耳たぶまでを朱に染めた。
「ねえエサル、そんな表情を、ほかの男に見せたりしちゃだめだよ。」
きみのことが気になっている奴らなら、他にもいるのだ。いつも強気なきみが、そんな表情も
出来ることを知ったら、奴らはすっかりきみに参ってしまうだろう。
「…わたし、そんなに変な顔してる?」
きみの純真さに、ぼくはつい笑ってしまった。そしてきみのあごを捉えてぼくの方を向かせ、
指先で唇の端をつつく。
「砂糖が、ここにも、ついてる。」
きみとのくちづけは、甘い焼き菓子の味がした。

なんと言えばいいのだろう。
ぼくはいつも、何かを探して、もがいていた。
探して、探して、どこにも見つからなくて、自分がどこにいるのかも、自分が何者なのかも、
見失っていた。
けれど、きみと一緒に居るときだけは、もう何も探す必要はなかった。
ずっと昔、男と女はひとつの完全な生き物だったのだ、と言った古(いにしえ)の賢者がいた。
あるとき、神の怒りに触れて男と女に引き裂かれてしまい、もとの完全な姿に戻りたくて互いに
求め合うのだと。
魂の半身に出会ったら、離れてはいられなくなる。共に過ごし、かたときも離れず、かつての
完全な姿のように寄り添うこと。それが愛の究極の目的なのだと、彼は言った。
魂の半身。ぼくたちも、まさにそんな感じだった。

きみの衣を一枚ずつ剥がすたびに、ぼくの心は歓びに打ち震える。
ああ──きみも、そうだったんだね?
ひかれて、惹かれて──それはただの友人として、仲間として、相棒としてなのだと自分に
言い聞かせても、どうしようもなく心が揺れた。そしてきみも、同じように思っていたんだね?
だって、ぼくの指先が触れるだけで、こんなにも肌が染まって。
泣きじゃくるような、甘い声を上げて。
きみのすべての感覚が、ぼくに向いているのが分かる。
もっと、その瞳に、ぼくを映して。
もっと、ぼくを感じて。きみのすべてで。
もっと、ぼくの名を呼んで。甘く、そして切なく、きみのその声で。
そして、きみの中に、ぼくを受け入れてほしい。
熱く、激しい、その熱の中に。

68 :

     ※    ※    ※   
「ねえ…もし、もしもよ。気をつけていても、子どもができてしまったら…」
きみは、ためらいがちにそう口にした。
暖かく抱き合っている間の、明るい話題のついでのようでいて、その声はふるえ、
瞳は揺れていた。
「そうなったら、裏町で、もぐりの医術師の夫婦にでもなって、暮らせばいいさ」
ぼくは、こんなときでも咄嗟に『医術師』という言葉が出てくる自分に、少し驚いた。
医術師であることに、自分の意思は何も働いていない、とずっと思ってきた。
ただ、ぼくが今、使える技能は、それしかないから。きっとそれだけだ。
「そう…。」
きみは物憂げに頷いた。
きみは賢い娘だ。一時の激情に流されたりしない。
そういう意味では、ぼくのほうが溺れていたのだろう。
子どもができてしまったら…そのことを時折、甘い気持ちで考えるようになっていた
のだから。
でも、いまはだめだ。大切な研究の途中なのだ。
そうでなければ、わざと『失敗』することもありえたけれど。

もしも、子どもができてしまったら。
そうなれば、女であるエサルは、この関係を秘密にしておくことができない。
きっと、ぼくと一緒に逃げるしかなくなるね?
なにもかも捨てて──貴族の身分も、家も、学歴も、この身に纏わりついてぼくたちを
息苦しく締め付けるすべてのものを、かなぐり捨てて。
こんなことを言ったら、世間知らずだと、きみは笑うだろうか。
どんなに貧しくてもかまわない。魂の半身のように愛する人と寄り添って、小さな家を愛で
満たして、生きていけたら。
その考えは、いつも、甘くぼくの心を酔わせた。
ぼくが姿を消したら、オキマ家の人々は、どうするだろう。何より体面を重んじる、
あの人たちは。おそらくは、なにもかも隠蔽されるだろう。ぼくとエサルは、んだことに
でもされるのかも知れない。
シリアは、弟が娶ることになるだろう。弟にも許嫁はいるが、まだ年若く、別の相手を探す
余裕もある。
シリアにとっては、そのほうがいいのかも知れない。表面上だけはそつなく振舞っても、
一皮剥けばどこまでも冷たい闇しかない、ぼくのような男の妻になるよりは。
でも──あれだけは捨てては駄目だ。
いまぼくが実験し、エサルがひとり山に残って観察を続けている、あの薬に関することだけは。
あれはエサルが、不思議ななにかに導かれるようにして見つけたものだ。
ほかの誰でもなく、きみだけが、あれを見つけた。
そして、ぼくもそこにいた。
もしいま放り出してしまっても、実験と検証だけは、いつか誰かが引き継ぐだろう。
けれど、ぼくのほうの実験でも、明らかに、あの木の皮を与えたパミには変化があらわれ
始めていた。
あの木の皮には、症状の緩和だけでなく、明らかに治癒効果があるのだ。
この研究が、すばらしい成果を生むだろうという予感は、すでにあった。
これほどの題材を前にして捨ててしまえる者は、そもそも研究学舎にまで進んだりしない。
そして、ぼくもエサルも、研究学舎の人間だった。

69 :

結果として、ぼくはエサルに何も言えはしなかったけれど、エサルのことは、好きで、好きで
どうしようもなかった。
きみを抱くときにはいつも、その心が欲しくて、心のありかを探して体中をくまなく愛撫した。
きみはいつも甘い声を上げて、熱く濡れた身体にぼくを迎え入れてくれたけど、心のありかは
分からなかった。
ぼくたちは何度も、あきれるくらいに深く繋がりながら、どこか距離を置いていた。
ぼくも、ひどく夢中になっていながら、拒絶されるのが怖くて、強くはせまれないでいた。
なにしろ、ぼくは愛されたことなんてなかったから、自分が愛されるに値する人間かどうかも
知らなかったし、好きな娘に拒絶されたりしたら、それこそもう生きていけないような
気がしたのだ。

     ※    ※    ※   
三ヶ月ほどが経って、ぼくの実験にも一応の区切りがついた。
実際に薬としての効果を証明するには、この結果をもとにして、詳細でより規模の大きい
実験計画を組まなければならないが、その結果を含めた、あの木の有用性を予想するには
充分過ぎるほどの明らかな成果が上がっていた。
ぼくは歓喜した。
きみにこの結果を見せれば、それが指し示すものを、きみは瞬時に理解するだろう。
きっとその先の展望をきみは語り、ぼくも語って、身体を繋げるのとはまた違った、
あのすばらしい一体感を、味わうのだろう。
ぼくはじりじりする気持ちを抱えながら次の休暇を待ち、医院の実習時間が終わるとすぐに、
馬を駆ってきみのいる小屋へと急いだ。
すっかり興奮していて、なんの疲れも、感じなかった。
きみの名を呼びながら小屋の扉を開けると──嗅ぎ慣れない異臭が、鼻をついた。
なにかの、薬草のにおい──腹痛や風邪のような、一般的な不調のときに使う薬草とは
明らかに違う、どこか特殊な場所で嗅いだことのある、嫌なにおい。
そのにおいのもとは、小さな小屋の中で、すぐに知れた。
小鍋の蓋を取って、その中にある木の根と、煎じ汁の色を見たとき、さっと全身の血の気が引いた。
──ウロクだ。
「……なぜ」
ウロクは、劇物だ。その煎じ汁を服用すると、のぼせ、発熱、吐き気、虚脱状態で立って
いられなくなる。そして、女性がこれを服用すると、多くの場合、子どもを宿す器官に
変化が起きる。しばらく月のものは止まり、その間は妊娠することがない。
「訊くまでもないでしょう」
きみはため息をついて、平坦な声でそう言った。
「子どもができたら、大変だもの」
たしかに、高級娼婦などの、今後も妊娠の必要性がない女性たちは、この薬を避妊薬として
使うこともある。だが、悪くすると器官そのものが損なわれてしまって、子どもを産めない
体になることもあった。
だから、一般の、特に若い女性にウロクを処方することは、医術師の倫理規定で禁じられていた。
薬草学科であるエサルは、この薬の危険性を熟知しているはずだった。軽々しく、一時の
行為のために飲むものではない。
それでも、自分の身体を損なってまで、痕跡を残すまいとしているのだ。この関係を、
一時の過ちで終わらせるために。
「子どもができたら、産めばいい。…そう言っただろう。」
ぼくはかすれた声で、ようやくそれだけを喉から押し出した。
狭い小屋で向かい合って座っていても、きみがひどく遠い気がした。

70 :

「シリアを裏切って…彼女の未来を踏みにじって、あなたも医術師になれなくて、
そんなことになっても、あなたはかまわないの?」
いままで気づかない振りをしていた。
ぼくはオキマ家に、諾々と従ってきた。常にそれを、厭いながら。
でもきみはきみの家族と真摯に向き合って、自分の気持ちを伝え、説得して変えてきたのだ。
きみは家族に受け入れられ、きみにとっての家とは、受け入れられたもの、恩のあるもの、
決して裏切ってはならないものだったのだ。
そしてぼくにとってのオキマ家も、同じものだと思っているのだろう。
「かまうさ。そんなことになったら、ひどくつらいだろう、お互いに。
だけど、そうなる可能性は頭の中にあって、それでも抱き合ってきたんだろう。」
そして、その可能性、子どもができてぼくと添い遂げる、なんて可能性は、きみにとって
決して受け容れられないものだったのだ。
自分で、ウロクを、用意するほどに。
「あんなものは飲むなよ。子どもができたら、そのときは、そのときだ。その運命を
受け入れればいい。」
きみは、なにも言わなかった。ぼくももう、なにも言えなかった。
ぱちぱちと爆ぜる暖炉の炎を見つめながら、なにかが終わってゆく絶望感に、打ちひしがれていた。

その夜も、ぼくの腕の中に来ることをきみは拒まなかったけれど、きみの身体は、
もう熱く濡れることはなかった。
愛している、誰よりも。
きみがいれば、他になにもいらない。
魂の半身のように、互いに求めて、寄り添いあって生きられないのなら、なにもかも、
終わらせたほうがましだ。
ねえ、ぼくを選んでくれないか、きみの他のすべてのものより。
──そう言えていたら、どうなっていただろう。
それでもきみは、別れを選んでいたような気がする。
きみは、愛されていた。守られていた。受け入れられていた。
なにもかもかなぐり捨てて、壊してしまいたい衝動など、きみの中にはなかった。
ただ従うのではなく、理不尽に立ち向かって、きみの力で居場所を作れる娘だった。
その強さにも、惹かれたのだろうか。
きみに、分かって欲しかった。
ぼくのつらさを、ぼくの希みを、ぼくの闇を、きみに洗いざらい、ぶちまけたかった。
そして、味方になって欲しかった。
ふたりなら大丈夫、と言って欲しかった。
きみのその強さで、ぼくも変えて欲しかった。
でも、ぼくは臆病だった。
愛されたこともなく、愛し方も知らず、愛される自信もなかった。
好きな娘に、自分の汚い部分など、見せたくもなかった。
なにも言わなくても、きみのそのあたたかさとやわらかさに触れて、きみに受け入れられる
たびに満たされる、それが、すべてだと思っていた。
それが、すべてでよかった。
ぼくの腕の中で、もう肌をあかく染めることもなく、快感に身をくねらせることもなく、
静かに息をしているきみは、決然と、ふたりの関係を終わらせようとしていた。
ただ一時のあやまちとして。

71 :

ああ、そうだね。
きみは正しい。
まだぼくの腕の中にいるきみを見ていると、なりふりかまわずなにかを懇願して
しまいそうになったけれど、それはしてはならない気がした。
きみには、きみの場所がある。
大切なものも、大切にしたい人たちもいる。
終わるなら、ぼくひとりで終わればいい。
そう思いながら、きみの肌のあたたかさを失うことを、悼んでいた。
あのとききみも、哀しんでくれていたのだろうか。
いまとなっては、もうきみに、確かめるすべもないけれど。

ぼくの行っていた実験の結果が出て、あの木に関する研究は新しい局面を迎えていた。
実験の結果を受けて、次の実験を計画する段階に来ていた。
そして、ぼくにはもう時間は残されていなくて、次の実験を担うのは、きみだった。
三ヶ月に渡るきみの努力の結果、森での観察記録も、充分な量に達していた。
ぼくたちは、小屋を閉じ、山を下りた。
静かに山道を下りながら、きみの背中を見ていた。ぼくを拒絶する、きみの背中を。
ふたりとも、なにも話さなかった。
師のお宅に荷物をおさめた後も、言葉を交わすことなく別れた。
そうして、ぼくたちふたりの関係は、終わりを告げた。

     ※    ※    ※   
貴族は、みだりに感情を表に出してはならない。
それがぼくたちの、幼いころからの習慣だった。大きな声で笑うことも、まして泣く
ことなんて、してはならなかった。
だからぼくは、山から下りた後も、なにもかわりなく振る舞い続けた。
心と体が、ばらばらになっているにもかかわらず。
与えられた仕事は、言われたとおりにこなした。幸いなことに、研修中であるぼくには、
やるべき単純作業はいくらでもあった。
心が、悲鳴をあげていた。
けれど、それを誰にも言わなかったし、言う相手もいなかった。
同僚とは、適当に談笑した。
ひとりになっても、涙を流すことすらできなかった。
かわりに、夜の闇の冷たさが、無数の刃のように、この身を苛んだ。
あのときが、ぼくの人生で一番、危うい時期だったかもしれない。
高く下界を見下ろす窓辺に立てば、ぼくはもう、窓のこちら側に留まっている自信はなかった。
息苦しく決まってゆく未来にも、医術師の仕事にも、オキマ家にも、美しい許嫁にすら、
何の未練も感じられなかった。
ただ、あの研究の行く末だけは、どうしても見たかった。
結果を見届けてから、そのとき、どうしても先を生きる気にならなければ、そのときだ、と思った。
人の心というのは不思議なもので、そう決めてしまえば心が定まって、少し楽になるものなのだ。
検証には、少し時間がかかるだろう。
それまで、この闇の中で、孤独と苦しみを友として、静かに待とう。

72 :

凍てつく冬を越え、寒さが緩んで午後の日差しが暖かくなって来たころ、ホクリ師と会って、
きみの消息を知った。
きみは、カザルム王獣保護場に、王獣の世話をしに行っていた。
なんて、きみらしい。
そうだ、ぼくたちが初めてふたりで師のお宅を訪ねたのは、きみが王獣の話を聞きたがった
からだったね。
きみはいつも、きみの見つけた道を、不思議なほど強い力で進んでゆくのだ。
師はそして、あの薬の検証の結果も、事細かに教えてくださった。
きみはあの後も、驚くほどたくさんの実験と検証を繰り返していた。緻密に、丁寧に、根気強く。
きみはまた、薬効成分の抽出にも、既に成功していた。
まもなく論文としてまとめられるだろうし、薬として実用化できる日も、思ったより早く
訪れるようだ。
ホクリ師はぼくに、医術師になる前に、早くも人の命を救う仕事をしたな、と言った。
そうだろうか。
ぼくは、医術師としての未来が確定してしまう前に、もっと広い視野で、いろんなものを見ておきたいだ
けだった。
人の命を救うとか、そんな大げさなことを考えたつもりもなかった。
でも確かに、森の中にいるときも、ぼくが使っていた知識は、医術師になるために学んだもので、
きみと一緒にあの木の研究をしているときも、ぼくの意見はもっぱら、人体への薬効という
観点からだった。
ぼくは、医術科の研究生として、あの森にいた。獣の医術師でもなく、薬草学科でもなく。
それは、それなりに、悪くなかった。
いつか、ぼくが医術師であることも、オキマ=ユアンとして生まれたことも、あんな風に悪くない、
と思えるだろうか。
エサル、きみは、どう思っていた?
そしてきみがそんな風に力強く歩き出したのなら、ぼくだけがいつまでも、立ち止まって
いるわけにもいかないね?

季節は過ぎ、夏にはぼくは、タムユアンの研究学舎を卒舎して、王宮つきの見習い医術師となった。
あわただしい新任の生活の中、ずっと待っていたきみの論文が届いた。
短い挨拶文とともに。
『ムチカライの薬効について』──の題名の後に、研究者の名前が続く。
コルマ=エサル、そしてそのあとに、オキマ=ユアン。
さらにホクリ師とロム師の名が連なっていた。
そして頁をめくると、そこに、あのときの、ぼくたちがいた。
発見の経緯に続く観察記録、無機質な数字と記録の叙述のあいだに、すべての思い出が
凝縮されて、詰まっていた。
師とぼくときみとで、ムチカの群れをやり過ごすあいだに、きみがあの木に夢中になった。
だれよりも先に、ぼくに打ち明けてくれた。
きみと一緒に、あの木の観察を許されたこと。師に降りかかった災難のために、観察の
中断を余儀なくされたこと。師が戻らなかった夜の、足元の揺らぐ不安。
そして、きみがひとりで山入りを決行すると知ったときの、あの歓び。
ふたりで野に伏せて、きみがムチカを観察する横顔を、ぼくがそっと見ていた。
あの夜、ぼくの懐に、きみが飛び込んできてくれた、あのときの温もり。
濃密な森の香りの中、ぼくたちは愛し合った。
それからしばらく続いた、甘くて熱い日々。
ぼくは、自分が泣いていることにさえ、しばらく気づかなかった。

73 :

かつて、男と女は完全なひとつの生き物だったのだ、と言った賢者に続けて、もうひとつの
話をした賢者がいた。前者の特異さに比べて、こちらのほうは意外と知られていないけれど。
愛はずっとただ寄り添うだけで、満足するものだろうか。それでは師弟愛、学問への愛、
わが子への愛などが説明できない、と。
彼は言った。愛とはなにかを産み出すためにあるのだ。
男女の愛は、子孫を。師弟の愛は、優れた弟子を。学問への愛は、新しい知見を。わが子への
愛は、立派な大人を。
愛は神の怒りに触れた結果ではなく、なにかを産み出すために与えられた、神からの贈り物
なのだと。
ぼくたちの愛も、なにかを産み出すことができたのだろうか。ふたりと、ふたりに関わる
人達に苦痛をもたらすものではなく、なにかを産み出すものであり得たのだろうか。
ぼくは何度も、きみの書いた文章を読んだ。きみの論述は正確で、無駄がなかった。
そして同時に、学問への愛に溢れていた。
きみがあのあと、どんな風に生きてきたか、そこに書いてあった。
きっときみは寝食を忘れて、研究に打ち込んだ。短期間に、物凄い密度の検証が繰り返された
ことが、結果の数字から読み取れた。
残念ながら、きみが王獣に対して行った投薬実験のことは、卒舎のための論文にして
タムユアンに提出してしまったそうだから、今度タムユアンに行く機会があったときに、
資料室を閲覧させてもらおう。
そしてぼくは、恋文を書き始めるような気持ちで、筆を取った。

     ※    ※    ※   
ぼくは、あの論文を本に仕立てた。
驚くほどの成果を上げたきみに対して、ぼくにもなにかできるというところを、見せたかった
のかも知れない。それとも、ただ、なにかを産み出したかったのかもしれない。
忙しい見習い医術師の仕事の合間を縫って、挿画を人に頼み、印刷と製本を手配するのは、
意外にに楽しかった。
論文という形では、収蔵する場所も限られるし、読む人間も限定される。だが、本にして
しまえば、それはいろんな図書室に収蔵されることになる。カザルムにも、タムユアンにも、
王都を見下ろすあの医術科の資料室にも、ぼくたちの業績を記したこの本は置かれることに
なるだろう。
この本が出るまでのあいだに、以前から決められていた通り、シリアと結婚した。
燃え上がるような恋を知った後だから分かるが、物心もつかぬうちから自分の意思とは
関係なしに決められ、自分の人生に組み込まれていた相手に対して、あんなに激しい感情を
持つことは、余程の幸運が重ならなければ、ありえない。
ぼくが研究学舎にいるあいだに次々と結婚していたタムユアンでの友人たちにしてみても
それは同じようで、だから貴族の親たちは、惑いやすいごく若いうちに婚約者と結婚させて
しまうのではなく、高級娼婦をあてがって、いろんな面で欲を散らしておくのだろう。
それでも、一緒になった相手を、日々を共にし、人生を共にする家族として、互いに
思いやることはできる。
それは、ぼくよりもシリアのほうが、ずっとよくわきまえているようだった。
女というのは、年下でも、華奢で弱々しくても、男よりずっと現実に聡くて、
逞しいところがある。
あの日のエサルも、きっとそうだった。ぼくたちの恋がどこにも行き着かないことを、
きみはきっとぼくよりも、はっきりと知っていたよね。
どこへも行き着かないとしても、ぼくはそれでも良かったし、それでもきみに、
恋したのだけど。

74 :
  
そしてようやく、ぼくは父の気持ちが、少しだけ分かった。
母とは別の女性を愛し、母には愛情を向けようとしなかった父。
父も、かつてはぼくと同じようにもがき苦しみ、なにかを探していたのだろうか。
なにかに傷つき、誰かを求めたのだろうか。
父は、愛した女性との間に、なにかを見つけられたのだろうか。どんな風に、
その女性を愛していたのだろう。
願わくば、父の心に、そして母の心にも、幸(さいわい)と、平安のあらんことを。

エサルはその後、カザルムで教導師になったという話だった。
エサルはきっと、獣を愛し、学童を愛し、カザルムのすべてを愛し、彼女の愛で
育まれた学童たちを、毎年、世に送り出してゆくのだろう。
ぼくは、いつも少しだけエサルのことがうらやましい。
そして、そんな気持ちになるときは、あの本の装丁を眺めるのだ。
あのとき、ぼくはきみを愛していた。
きみも、ぼくを愛していた。
そして、なにかを産み出した。
そのことが、ぼくのこれからの人生に、光を与え続けるだろう。
そして、そんな人生も悪くない。
ねえ、エサル──
もしも、この先ずっと、きみと会うことすら、無いとしても。
ふたりが出遭い、ともに時間を過ごした証は、残ってゆく。
ぼくたちが見出したあの薬も、これからたくさんの人と獣の病を救って
ゆくことだろう。
きっと、ぼくたちの人生よりも、長い間。
それはとても素敵なことだと、思わないかい?
ぼくにはもう、きみになにかを告げる権利すら、残されていないと思うけど。
遠くから、祈っているよ。そう、あの本を、眺めるときはいつも。
きみに、幸あれ。


           ――終――

75 :
毎度なんかミスってますが、其の六と七を間違えてしまったw
以上です。

途中、『饗宴』みたいなことを言ってる昔の賢者さんが出てきますが、獣世界では、
こちらとそっくりな研究してる方がよくいらっしゃるので、きっと同じようなこと
言った人もいるだろう…みたいな感じで。

76 :
ありがとう。
ひとつだけ、貴族なのはエサルだけで、ユアンとジョウンは高等職能階級。
エサルとユアンとは許嫁うんぬん以前に身分違いの恋だったらしいよ。

77 :
>>64 さま
待ってました。お疲れさまです。
何度か読み返してからまた感想を書かせていただきますが、ユアンの人物像に厚みがありますね。
>>76 さま
その記述ってどのへんでしたっけ?
単純に、職業を持っているのは貴族じゃないってこと?
自分は、「刹那」が出るまでは、「姓(家の名)」がある=貴族と思っていたくらいなので、まだなにか見落としているのかな。

78 :
おお…
いくら読んでも『貴族』『高級職能者階級』についての説明が無いから、
『名門で姓があり、、高い教養と特権と財力を持ち、階級と名誉にこだわる』ユアンやジョウンは、
てっきり貴族だと思ってましたよ…
エサルが「貴族の職業」として教導師を考えてたのもあって。
でも、領地持ちが貴族、職業持ちが高級職能者階級だとすると、ルキンが身分にこだわって「やさしい男」なのも、
そのほかの部分も辻褄あいますね。
でも、『名門で姓があり、、高い教養と特権と財力を持ち、階級と名誉にこだわる』
が貴族だと思ってましたので、内容的にはあんまり影響ないですね。作中の『貴族』のとこは
『名門』あたりにそっと脳内変換でお願いします。
『同格での結婚』は『親が野心家であれば別』と書かれていますから、物凄いタブーって感じはないですね。
どっちみち駆け落ちになるんだろうし。

79 :
>>76
お疲れ様&GJです!
秘め事読んだ時には、ユアンっていまいち掴み所がわからない
キャラだったんですが、76氏の肉付けでなるほど納得です。
結局やっぱりお互い離れたくなかったんじゃないかー!、と読んでて
切なくなりましたw

80 :
>>77、78
ユアンは医者(上級貴族を診る)の家系、ジョウンは教導師の家系 両家とも高等職能階級
エサルの家は領主。
ユアンの息子が提出した議題は、タムユアンにおいて、貴族と高等職能階級の子弟を分けて学ばせよう、ということ。
エサルの想像では、ユアンの息子は貴族の子弟と一緒に学ぶことで「嫌な思い」をしたのだろう、とのこと。
階級違いの結婚があったかどうかはねえ、、。
現実世界の各国の歴史を見れば普通はアリなんだけど、エサルいわく。
「学童の時期をすぎてしまえば、異なる階層の者が気安く語り合える機会などない」
「身分を越えて触れあえる、あの時期の大切さを」
だそうだから。
個人的な考えでは、
アリ:貴族の息子&高等職能階級の娘(orまれに豪商の娘)
ナシ:高等職能階級の息子&貴族の娘
なんではないかと、、、。
とはいえ、私も下級貴族と上級貴族の違いはいまいちわかんないんだけどね、、
カザルム公だのトサリエル公だのは上級だと思う。
エサル父は「コルマ公」ではないだろうから、、。
大名と旗本くらいの感じなのかしらん、、、。

81 :
>>80 さま
>エサルの想像では、ユアンの息子は貴族の子弟と一緒に学ぶことで「嫌な
思い」をしたのだろう、とのこと。
そこも自分、読み違ってたのかな。
貴族であるユアンの息子のほうが、がさつな高等職能階級の連中と肌が合わず
(むしろお高くとまりやがって的にひやかされたりして?)、それを「嫌な思い」と
言っているのではないかと思ってた。
ユアンの息子が多少トラウマ持ちだとしてもそんな嫌なやつだとは思いたく
はないが、たいてい、身分が上の人間のほうが、下の人間を隔離・駆逐しよう
とする傾向が強い気がして。
それに、ユアンと結ばれないと思っていたエサルの心理のなかに、「身分違い
だから」っていうこだわりはなかった気がした。ただ単純に、「出会ったときに
はもうユアンに許婚がいて、それを覆すことはできない」というだけで。
まあただ、貴族が「医術師」なんて「労働」をするわけがないと言われればそれ
までか。

82 :
>81
上の者(貴族)が下(高等職能階級)を除こうとする傾向があるのは正しいみたい。
ユアン息子は自分がそういう扱いを受けたからこそ、後輩たちを守るために提案をしようとしたらしいよ。
「学童がのびのびと学業に専念できるよう、身分によって学ぶ場を訳ようという提案らしい。〜学童のことを思いやる生真面目でやさしい男なのだろう」だってさ。
あと、二つの身分については
「いずれ高級官僚となる者(高級職能階級)たちと、この国の領土を管理する者(貴族)たち」と定義してある
あと、タムユアンにいるのはあくまで「下級」貴族の子弟であって上級貴族の子弟はいないらしい。(家庭教師なんでしょうね)
身分違いってエサル最初から言っているよ
「自分たちの年齢、身分や科がばらばらであることを気にしなかった」って。
ユアンの家は「代々上級貴族を見る医術師を輩出している名家」なんだから、自分が貴族ってことはないでしょう。
婚約者も高級官僚の娘だし。

83 :
あ、ごめん間違えた
身分違いではあるけれど、それがユアンと結ばれることがNGな主要因ではないって意味だったのね。
確かに、たまたまユアンにも婚約者がいなければ、不釣り合いではあるけれど、ありえないほどの組み合わせではないかもね。
跡取りでもない売れ残り娘と名家の医術師ならね。
周囲がOKすれば、駆け落ちってほどではないと私も思う。

84 :
婚約者についても…
貴族も、高級職能者も、生まれたときから将来の配偶者はだいたい決まっている、ってなってるけど、
エサルがミカリにサイランを譲るときも、「ミカリの婚約者の人生はー?!」とは、誰も突っ込まないんだよね。
たとえ何か後で手を打つにしても、「あぶれた人の人生がめちゃくちゃに」な悲壮感は無い。
若いうちは充分組み替え可能か、次女のミカリには「まだいなかった」んじゃないかと。
エサル、ユアン、ジョウンはみんな跡取りだからエサル一人称では「だいたい決まっている」なのかな。
「みんな決まっている」じゃないし。
封建社会の常識からいうと、次男、三男まで配偶者が早いうちに決まってる場合って少ないよね…。

85 :
高級職能者階級と貴族の記述については
>>80->>83 に同意
というか、おお、そうだったのかー、って感じ。
そうすると、自分の中では高級職能者階級と貴族をまとめて支配者階級って認識?
高級官僚ってあくまで事務方ってことかな? 「要は国家T種でしょ?」って思ってるんだけど…
高級官僚が事務方で貴族が政治家レベルってことかなあ?
あれ、でも封建社会だし?
リョザの政治システムに悩む…
貴族が戦争をしてない社会で、ひとつ下の階級に高等知識の権利があるって、よくあることだっけ??
中世あたりに神学・医学・法学くらいで大学ができた頃ってどうだったんだろ。
その頃の入学の権利とか、知識者階級の扱われ方とか、そういえば詳しく知らないや。
でもあの頃の支配者階級の主な仕事って、戦争だったりするし。
リョザの貴族は、何をもって高等知識を持つ高級職能者階級を完全に支配下に置いてたのか、
とか考えると、頭が痛い…
勿論貴族は領地経営と中央政治をになってるはずだから、更に高等な知的レベルを持ってる可能性も
あるんだけど、ただの官吏じゃなくて高級官僚だと相当な政治知識があるイメージ。
え、貴族が持ってる圧倒的な権力ってまさか、『清らかさ』デスカー。
ここはヲトナの皆様が多いから、この辺のお国事情を参考にしてると思うよ! な心当たりがあれば
ぜひ詳細キボンヌ。

上橋菜穂子作品は、主にアジアを主題にしてるとは思うけど、リョザの真王領はちょっと西洋風だし、
カザルムやタムユアンは、寺子屋じゃなくヨーロッパ系の学校を参考に、
というより、これ現代を参考にしてるよね?! なことも多いんですが。
支配者階級が戦争をしない、だと当然浮かぶのが日本の平安時代とか。
貴族は官僚で、他と比べて圧倒的な知識レベルを誇ってたな、でなんか違うんですが。
さらにアジアで考えようとすると医師がこんなに何年も学校に行かないといけないのってごく近代だから
そもそも違うしなあ。
獣医師に至ってはごく近代まで存在してなかったって話だし。
あ、エロと関係ないこと無いよ!二次書きにとって世界観って重要だからね!!!


86 :
真王領が西欧風なのはアニメの世界の一部だけだよ。
アニメですら王宮には畳とふすまがあったりしてる。
日本だと平安時代か、あるいは江戸時代の京都周辺が真王領で、その他の地域が大公領と考えると近いのかもね。
実質支配しているのは武士だけど、京都の公家たちは狭い世界の中で自分が偉いと思ってて、天皇家そのものは本当に全国から崇拝されているみたいな。

87 :
貴族ってものの存在を今の日本人が理解するのは難しいよ。
イギリスだと、オックスブリッジ卒で大学教授やっているような人が、
「上流階級の知人なんか一人もいない」って言うくらい雲の上の存在らしい。
同じ場で学んだり働いたりはしていても、顔見知りでしかないんだろうね。

88 :
何かエロパロ板っぽくないねW

89 :
貴族かそうでないかの違いは
荘園を持ってるかどうかくらいにしか
思ってなかったわ

90 :
「貴族が持ってる圧倒的な権力」って財力じゃないかしら。
領地があるから労働しなくても生活できるのが貴族。
高等職能階級はそうではない、ジョウンとかタカランみたいに罷免されたらおしまい。
罷免&任命権をもっているのは支配者である貴族。

91 :
>>75
遅ればせながら、超GJ!!
自分は原作ではユアンというキャラがよく掴めなくて
モヤモヤが残ってしまったんだけど、
これを読んでスッとおさまりました。
いい作品をありがとうございました。

92 :
>>75
自分と大分ユアンの解釈が違うなぁと思ったけど、
作品として凄く良かったですGJ
個人的に、ユアンは素で怪物みたいな人だと思ってるw
でも確かに想いはあったんだと思う。
階級については、
貴族はエサルのとこみたいに下級でも土地持ちらしいので、
職を追われて遁生できたジョウンは高等職能階級では。
(貴族の長男だったら土地管理の義務があるから山に引っ込めない筈?)
ユアンも土地より職を持ってるみたいな感じから高等職能階級かな…
一番分からないのがシリアの親みたいな「高級官僚」にあたる人たちの身分。
権力はあるらしいけど、身分では貴族と職能階級、どちらに属するのか…
普通に考えれば貴族?

93 :
>>86,>>87,>>89,>>90
ヲトナの皆様、ありがとうございました!
やはり真王─貴族─大公─兵士は
日本の天皇─公家─将軍─武士で理解すればよく、
名門校─高級職能者階級─貴族の関係は
西洋風に解釈すれば良さそうですね!
その際、西洋風の貴族の貴族たる所以は、剣を持って王から賜った所領を敵から守ること
じゃなかったっけ…と思ったらわけわかんなくなって。
>>90様のいうように任免権、財力、所有権をがっちり抑えておけばいけそうですね。
そうすると探求編のはじめの方で、外国との貿易で既得権が脅かされることに対しての
貴族の反応も納得いきます。既得権だけでもってるような感じなので。
学校はオックスブリッジ系を連想しますね。
ぐぐったらオックスフォードが1096年あたり、ケンブリッジが1209年設立とか。

個人的には、王宮の祝宴で引き出された、屈していない幼獣→エサル、
何の表情も読み取れない成獣→ユアン の隠喩と解釈して色々広げたりしました。
苦しいも辛いも好きも、ほぼ感情を見せることなく、生との境の薄明の野にひとり、佇んでいるような男。
そんな男と付き合うと、女の子はマジ大変。二股だったりすると余計に。
その解釈だと、あらゆる微妙な兆候から王獣の痛みを読み取ろうとする老エサルと、
相手の心も自分の心も分からないままの若エサルの二重写しは切ないなー、とか。
とはいえ、エサルは自分が思うより愛されてたと思うし、山小屋の暖炉の前で、エサルがユアンを
「とても恐ろしく見えた」とき、彼の方は心中も辞さない気持ちだったと、思っています。
原作者は、ユアンを「底の見えない男」と言っていらっしゃるので、色々な解釈も可能。そこが面白いです。

94 :
>>75
ずっと書き込めませんで…今頃ですがお疲れ様でした。GJ!
ユアンのキャラクターに関して、
自分の考えてるものとは実はかなり異なっていて、意外でした。
でも、達者な方なので、読みすすめるうちそれもまた逆に新鮮だったというか、
楽しませてもらいました。
オックスブリッジ系、イメージとしてうかぶのは、自分もまさにそれです。
階級制度や権利のおよぶ範囲まで詳しく考察されていて、
作品に厚みがあるのが、これまた大変GJです。




95 :
ユアンてきくとどうしてもアニメの干し柿売りのおばさんを
思い出していまいち入れ込めないw

96 :
外伝読んだ!ヤバい萌えたイアルさんテライケメン
無我夢中でキスしてる所妄想したらみなぎってきた!!
こういう精神状況のメチャクチャしたい…でも…てのが良い
しかし子供が出来たらと心配しつつ中出ししてたんかぁ…
エリンは初めてだったと思うけど内容から想像するにイアルさんは童貞ではなかったのか…

97 :
エリンの流れぶった斬るみたいで申し訳無い!「バルサ×タンダ」前スレの反省も踏まえつつ、極力横文字を控えて書いてみた(爆
※「いつ?」とか「どの時代背景?」とかあんま突っ込まないで下さいW
※雰囲気重視。若干キャラ崩れしてますW
※誤字脱字…目ぇ瞑ってつかぁさい
※あんまエロくない…エロパロなのにW
※スルーは「バルサ×タンダ」
では、どうぞ……

98 :
―……春時雨れ……静かで優しい雨音と、良い香りに誘われるようにバルサは目覚めた。
「……おっ!起きたか?」
「……あぁ…」
何時の間にか掛けられたシルヤという寝具を手繰り寄せ、小さな窓の外に目をやる。昨日の事は夢だったのだろうか……?タンダと唇を重ね、奴のモノを口に含んで、ゆらゆらと揺れる囲炉裏の炎を見つめて……それから……それから………
ずっと張り詰めてきていた緊張の糸がぷつりと切れるように深い深い眠りに落ちていた。木洩れ日のように暖かくえらく優しい繭に包まれるように……
「……今、飯出来るからな。」
タンダも昨夜の事は何事も無かったかのように使い古した杓文字で鍋をかき混ぜている。昨日の残りの山菜汁に冷えた麦飯を入れたおじやだろう。これも又、山菜汁とは違った美味しさでバルサにとって翌日の楽しみの一つとなっていた。
静かで優しい春の雨音を聞きながら二人しておじやを啜る。こんな穏やかな気持ちは何年……いや、何十年振りだろう……バルサはまだ夢の続きを見ているようだった。
「…今日、どうするんだ?」
おじやを啜るタンダがちらりとバルサを見た。
「……ん?……そうだねぇ……あんたは?」
バルサはタンダに視線を合わせる事無く聞き返す。
「俺は、今日頼まれてた薬を街に持ってくんだけど………良かったら一緒に行かないか?たまにはトーヤとサヤに顔くらい見せてやれよ」
そう言うとタンダは箸を置き小さく微笑んだ。そう言えば二人には久しく会っていなかった。チャグムとの逃亡生活でも何かと世話になったトーヤとサヤ……今頃、何をしているのだろう………
「…そうだね……たまには顔くらい出しに行ってみようか」
バルサは椀から顔を上げると空になった底を見つめたまま微笑んだ。
朝食の片付けをし、荷物を纏め家を出る頃にはさっきまでの雨が嘘のようにすっきりと晴れ渡っていた。青霧山脈から伸びる白い光が幾重にも織られた光の薄衣のように雨露で濡れた草花をきらきらと光り輝かせている。

99 :
何気に、妊娠わかるまでひとつ布団で寝てたのか

100 :
バルサは必要な物だけを持ち短槍は置いてきていた。そう……今日はあくまでも街に親しい知人を訪ねに行くのだ。仕事の途中でも無ければ、逃亡中でも無い。タンダの連れだ。
「……よしっ!っと……行くか」
隣りで、籠の中に収めた薬を確認していたタンダが言う。
「あぁ」
二人は天から伸びる光に導かれるように清々しい朝霧の中並んで歩き出した。
新ヨゴ皇国―ヨゴの街はタンダの住む青霧山脈からは歩いて一時間程の距離にある。ここら辺りでは一番栄えている華やかな街だ。食料品から雑貨、武器、娯楽施設から人身売買まで……良し悪しは別としてありとあらゆる物が揃っている。
その中で小さいながらもなかなかの品物を揃えていると評判の店があった。「なんでも屋」という看板を掲げたトーヤとサヤの店だ。その名の通り扱う物はなんでもありで、その場にない時は店主のトーヤ自ら街中を走り回って希望の品を見つけ出してくる。
それはさしずめ手品の様でもあり、トーヤの人脈の広さを伺わせた。
ヨゴの街に着いた二人は真っ先にトーヤの営む店に向かった。バルサにとっては毎回の事だが、「次、何時来る」などという約束などしていないし出来ない為、朝の早いうちでなければ二人一緒の顔が見れないと思ったのだ。
常に忙しいトーヤの事だ……ゆっくり店番などはしていないだろう。
「……俺は薬の配達がてらあいつらに結構会ってたりするけど……お前に会うのは本当、久しぶりだろ?二人共びっくりするだろうな〜」
「そうかねぇ…いきなり訪ねるのも毎度の事だと案外しれっとしてたりね!」
などと軽口を叩きながらもクスッと含み笑いをするバルサ。そんなバルサを時折熱を帯びた瞳で見つめるタンダ。
そうこうしているうちに荷揚げ水路脇にある小さな一軒の店に着いた。まだ暖簾などは出ていないので開店前なのだろう。二人は裏に回り戸口を叩いた。しばらくすると中から忙しそうにも溌剌とした若い女の声が聞こえてきた。
「はいっ!…どちら様でしょうか?」
「わたっ……!!?」
バルサが答えようとした時だ。
(…しっ!)
隣りにいたタンダが唇に手をあてバルサの言葉を制した。

101 :
バルサも又、タンダの意図が分かったのか、ふっと微笑むとタンダの影に隠れるように一歩下がった。タンダはそれを確認するように一呼吸おいた後、不安気の漂い始めた戸口に向かって答えた。
「…サヤ?……俺だ。タンダ」
「……タンダ……?」
「うん」
そう言うと少しずつ戸口が開くと同時に中にいるサヤの目が大きく見開き輝き始めた。
「……バ…ルサ」
「……よう!久しぶりだね……元気にしてたかい?」
サヤは輝く瞳でうん!と大きく首を縦にふると、早くトーヤを呼んできたい興奮を抑えつつ、先ずは中に入るよう促した。戸口が閉められると奥からこれ又、久しぶりに聞く気っ風の良い声が聞こえてきた。
「お〜い!さや、お客さんか?」
そう言いながら奥の居間から現れたトーヤ。手にした帳簿をめくる手が止まる。
「…姐ぇさん……バルサ姐ぇさん!どうしたんですか!?」
サヤと同じように目を輝かせ矢継ぎ早に話し出したトーヤだったが、ふっと一瞬我に返ったかのように真顔になった。
「……あのっ……今日、ここに来た理由ってぇのは……?」
いつも、急に現れては危険な仕事を請け負ってくるバルサの事だ。今回も又、何らかの仕事を頼みに来たのだろうとトーヤは思ったのだ。無理は無いとばかりに苦笑いを浮かべるバルサとタンダ。ふーと肩で息をついた後、バルサが悪戯な笑みを浮かべて言う。
「……お前達の新婚生活をちょいと冷やかしに……と思ってね!」
そう言うとやっと安心したのか、トーヤはいつもの屈託の無い笑顔を向けた。それから、午前中いっぱい二人の家でゆっくりとし、昼食はサヤの手料理を食べた。料理の腕も上がっていたサヤはすっかりいい奥さんだ。
旨そうにおかずを頬張りながらトーヤがちらりとバルサを見て言う。
「……そう言えば、バルサ姐ぇさん……雰囲気変わったような……なっ?サヤもそう思わないか?」
そう聞かれたサヤもニコッと微笑んだ後小さくコクリと頷いた。
「……ん?…何だい?それはいい意味で言ってくれてるのかい?」

102 :
タンダの視線も同時に感じる。自分でも、何となく心当たりのあるバルサは少しだけ頬が紅潮するのを隠すように目を伏せた。
「う〜ん……何っつうか、こう、まるくなったっつーか、柔らかくなったっつーか……」
「……女らしくなった……?」
ぴったりの言葉が浮かんでこないトーヤにタンダが口を挟む。
「そう!それっ!!」
行儀悪く箸で指差したトーヤ。バルサだけが気付くであろう甘く揺れたタンダの黒い瞳。
「なっ…何言ってるんだい!」
そう言って、顔を隠すようにご飯をかき込むバルサ。久しぶりに四人で賑やかな昼食を取った。その後、トーヤは何やらお得意様に頼まれていた物を配達すると言って身支度を始め、それと同時にお茶を啜っていたタンダも腰をあげた。
「…俺もそろそろ行くかな……お前はどうする?もう少しゆっくりしてくか?何なら帰りに迎えに来るけど……」
「…ん…あぁ、いいよ。私も一緒に行く」
そう言って立ち上がるバルサを見て、ニヤッと顔を見合わせるトーヤとサヤ。
誰よりも信頼しあい、お互い惹かれ合ってこれほどにも強い絆で結ばれているのにどこかもどかしいこの二人。外に出ると昼下がりの柔らかい春の日差しが皆を包み込み、トーヤとサヤはそんな二人の背中が見えなくなるまで手を振っていた。
バルサはタンダの一歩後ろを歩いていた。トーヤとサヤを見ていたからなのか、それとも無意識でなのか……それは彼女自身も分からない事だがタンダの後ろは妙に心地良く穏やかな気持ちにさせられる。
「……あっ、そうだ、これ……」
「……?」
後ろ手に渡されたタンダの手の中には、螺鈿で作られた小さな髪留めが入っていた。
「……これ……って……」
「……あぁ、さっきトーヤの店で買ったんだ。……お前にと思って……」
それは、控え目ながら質の良さが伺える何ともタンダらしい贈り物だった。
「……ありがとう」
バルサはそう言うとまだタンダの温もりの残る髪留めを受け取った。光の角度によってキラキラと輝きを変える螺鈿細工はバルサにとって全くもって実用的で無い代物だが、逆にそのような物を贈ってくれた事が嬉しかった。

103 :
今日向かう薬屋は橋を渡った先にある。ヨゴ商人達の中でも橋を渡った先は富裕層が多い地域で心なしか雰囲気も違って思える。僅かな距離をあけて、しかし同じ歩調で歩く二人は端から見たら充分夫婦に見えるだろう。
しばらく行くと目的の薬屋が見えてきた。タンダは重みのある戸を引きながら声を掛ける。
「ごめんくださーい !」
黒光りする重厚な柱が鎮座する吹き抜け風に作られた広い土間にタンダの声がこだまする。しばらくすると二階からパタパタと廊下を走る音と若い女の声が聞こえてきた。
「……はーい!…タンダさ……」
歳の頃は十六〜七だろうか。この薬屋の娘と思われる女は階段を降りながらタンダの後ろにちらりと見えた見知らぬ女の姿を確認すると一瞬だが表情を強張らせ言葉を詰まらせた。
「こんにちは!ご主人はいるかな?」
タンダの言葉に娘はハッとするように、作られた笑みを浮かべた。
「こっ…こんにちは!えっ、えぇ…居るわ。今呼んでくるわね」
そう言って再びバルサの方にちらりと向けられた娘の視線は明らかに女特有のもので、まるで獲物を前にした蛇のように粘り気を帯びたものだった。
バルサは一瞬にしてこの娘はタンダに好意を寄せていて、自分は敵と見なされた事を悟った。そうとも知らずタンダは土間の一段高い所に腰掛けバルサにも隣が空いてると席を勧める。バルサは静かに首を振り
「……あたしは、表で待ってるよ」
そう言うと少し苦味のある微笑みを浮かべ踵を返した。 表に出たバルサは何をするわけでもなく、ただぼーっと行き交う人々を見ていた。するとしばらくして店の中から先ほどの娘の声とここの主人と思われる低く恰幅の良い笑い声が聞こえてきた。
何やら楽しそうに「娘」やら「結婚」「年頃」だの言葉が飛び交っている。それを苦い思いで聞くバルサ。聞くつもりも無いのに無遠慮に耳に入ってくるバルサの知らない華やかな会話達……

104 :
少し歩こうとふと見上げた空は先ほどとは打って変わってどんよりと重く、今にも雨が降り出してきそうだった。春の天気は変わりやすく、まるでバルサの心そのものだ。
(……ったく、どうしたもんかね……)
少し自重気味に鼻で笑うとポツンと冷たいものが鼻先に当たった。
(…とうとう降り出した……)
そう思ったものの、雨宿りをさせて欲しいと屋敷の中に入ろうともせず、じっと天を仰いでいるバルサ。ポツポツとした雨音は間も無くザーッと水瓶をひっくり返したような激しい雨音に変わった。それでもバルサはじっと動かずただ雨に打たれている。
髪はしなだれ、衣は下衣まで透けるほど水を吸い形の良い胸やら腰、尻をなぞるようにピタリと張り付いている。
激しい雨音に慌てて表に出てきたタンダは一瞬その姿に息を呑んだ。 雨に打たれたまま静かに振り返ったバルサの姿が余りにも美しく妖艶だったからだ。
「…バ…ルサ……?」
「……用は済んだかい?」
雨のせいだろうか……それとも……涙……?下睫毛を濡らす雫が頬を伝いもの悲しそうな表情を浮かべるバルサ。そして、それだけタンダに問いかけるとくるりと背を向け歩き出した。
「…ちょっ!!…おい!待てよ!」
「………」
咄嗟にタンダはバルサの腕を掴むとぐいっと力いっぱい彼女を引き寄せた。バルサも特に抵抗の様子など見せずじっとタンダを見つめている。
タンダはそのまま屋敷と屋敷の間にある細い小路に入って行った。人がすれ違うのがやっと出来る程の小路でちょうど屋敷の軒下が重なり合い雨を凌ぐのには都合が良い場所だ。
「どうしたんだよ!…ったく、こんなに濡れて……風邪でもひいた…ら……」
そう言いかけた瞬間、まるで長い間帰りを待っていた子供のようにタンダの胸に飛び込んだバルサ。長い両腕はしっかり背に回され、額を胸に押し付けている。
「…バッ……」
(バルサ…)…タンダはそう言いかけて口を噤んだ。
そして静かに彼女の身体を包み込むように抱きしめた。互いの鼓動が手に取るようにわかる。五感全てに温かな水が流れて行くように身体の隅々まで満たされていく感覚……

105 :
どの位抱きあっていたのだろうか……聞こえてくるのは激しい雨音と、急いで家路につこうと足早に通り去る数人の足音のみだ。
「……タ…ンダ……もう……」
いつの間にかタンダにきつく抱きしめられていたバルサが放してくれと少し遠慮がちに言う。何時もだったらハッとした様子ですぐに手を離すタンダだが、今日の彼はどこか違っていた。
「……嫌だ。…離さない……」
タンダはバルサの耳元でそう小さく呟くとそのまま彼女の顎をくいと上げ唇を重ねた。
「!!!!…………んっ……」
始めはビックリした様子のバルサだったがすぐにタンダの舌を招き入れるように薄く唇を開くと、舌と舌をねっとりと絡ませはじめた。
「…ん……むっ………はぁ……はぁ……」
息つく間も惜しいとばかりに夢中で互いの唇を貪り合う二人。激しい口付けをしながらタンダはバルサをきつく抱き寄せたまま屋敷の壁にピタリとつけた。ガタッという物音はすぐに雨の音に掻き消され、二人の間に僅かな静寂が流れる。
タンダはじっとバルサを見つめた後、びしょびしょに濡れた彼女の衣の合わせに手をかけた。
「…なっ!!?…ちょっ…」
「………」
バルサがそう言いかけた瞬間、下衣もろとも一気に引き剥がされた。上半身が露わになったバルサは一瞬、目を丸くしたがすぐに真っ直ぐにタンダを見つめ、少しだけ不機嫌そうに睨みつける。まさか、街中で…ましてやタンダにこんな事をされると思っても見なかったのだろう。
傷だらけの身体に、胸下に幾重にも巻かれた麻紐……普通の女とはかけ離れた風貌が衣を脱ぐ事で逆に際立って見える。タンダにとってバルサとは……女とはこういうもので、愛しい人……愛する身体とはまさにに今、目の前にあるバルサそのものなのだ。
タンダは再びバルサの唇を奪うとそのまま彼女を壁に押し付け、露わになった胸に手をあてゆっくりと揉みしだきはじめた。
「…っ!!…ちょっ……タ…ンダ……止めっ……」
止め……止め……辞め……?御免…下手くそで……とりあえず此処まで

106 :
>>99
イアルとエリンだよね? 私もそうだと思ったヨ

107 :
勢いで結ばれた夜より、冷静になった二日目の夜のほうが緊張するよな

108 :
>>97
GJ!!!
ずいぶん雰囲気良くなった! バルサ×タンダのカプ好きだから嬉しい。
ちゃんと腹に麻縄巻いてるバルサに萌えw
続きも期待して待ってる

109 :
>>99,106
単純に、夜具が一組しかなかったんじゃないかな?
そして、買い足す必要性を、微塵も感じていなかったのだとwww
転居のときの荷を増やしたくないというのはあくまでも建前で。
流産しかけたときにトキにいろいろ言われてもう一組買い足したんだと思った。

110 :
ひとつ布団で寝てたら
毎晩むらむらだろうに
とりあえず
イアルさんはうなじと
匂いフェチだという事が分かった
抱かれてる時ずっと
イアルさんの背中に
しがみついてたエリンちゃんに
禿萌したー

111 :
>>110
完結編でも、うなじに触れたイアルさんにエリンが抱きついてきたことからして、
うなじへのアクセスが、二人のあいだの欲情したときのサインとして機能して
いるのでしょう。

112 :
夫婦だけにわかる合図ってやつですねw

113 :
>>96
セザンだし何回かはカイルに誘われていったんじゃね?
でも性に合わずいかなくなったら堅物扱いされてた的な…
それにしても
カイルとか極力ばれないようにしてんのに
セザンの女遊び事情に詳しいダミヤって
一体なんなんだ!!
あれが初めてだったとするとイアルさん、30近くで童貞卒業ということになってしまうぞ
悪くはないけどさw

114 :
あの程度の事って誰でも知ってることじゃないのか
貴族や良家の子息が早いうちに高級娼館行くのと同じで

115 :
>>97-105
おう続き待ってるよ〜

116 :
>>99>>106>>110
イアルさんも人の子。覚えたてのころはサルのように…

117 :
>>111
うなじへのアクセスw
カザルムに帰った晩に
エリンが風呂に誘ったのに
断ったイアルに全力で腹がたった
あれは明らか一緒に入ろうよという
美味しい誘いだったのに
カザルムはたぶん男女交代式風呂で分かれてないのだろうし…


118 :
>>117
あのささやかなシーンをどこまでも深読みしてスルメのように味わい尽くす、
ここの住人が大好きだ。

119 :
>>117
せっかくの新鮮なプレイの機会を蹴るなんて勿体ないよなあ・・・
つか教師でありながら学校風呂プレイに誘うエリンもエリンかw
そしてその十数年後に王獣舎でことに及ぶことになろうとは・・・
でも女教導師エリンの甘い誘惑・学校風呂編も見てみたかったかもw

120 :
いや、妊婦だし、学童、教導師もいるし居候の身でそれはできないだろ
「わたしが至らなかったのです」じゃすまんw

121 :
>>113
ダミヤの息のかかったのがセザンの中にいたのよ。

122 :
>>120
禁忌で背徳的な状況だからこそ燃えるんじゃないかw
自分の友達、Hして一番燃えた場所は学校の保健室だったって言ってたぞ

123 :
>>97
久しぶりに来てみたらタンバルが投稿されているという嬉しさww
GJです!
続き読みたいけど、タンダどうしちゃったんだ?! 笑
やっぱ熟女は良いでつね
アニメに出てきた眼帯のおっさんもなかなかお似合いだったけどね>バルサ

124 :
原作者も、原作でのジグロとバルサは父と子なんでないけど
アニメのジグロとバルサ、モンとバルサはありみたいな発言してたよね。

125 :
>>124
何ィ?! そんな美味しい発言あったのか
原作者、どこまでも侮れん・・・!
じゃあ、着流し眼帯もアリかな?

126 :
「青い手」だっけ?「青の手」だっけ?人身売買のロン毛眼帯の事? テレビのは皆イケメンばかりでバルサ困っちゃ〜うW

127 :
最初のスレの、モン×10話の姐さんの心はバルサに行ってる話好きだった。
青い手との奴も大人の駆け引きがあって良かった。
原作のならヒュウゴ×バルサ、ジン×バルサとかも萌えるけど、文が書けない。

128 :
>>127
ヒュウゴ萌える
相手はバルサでなくともいい
炎路出て欲しい

129 :
>>120
> 「わたしが至らなかったのです」じゃすまんw
もはや開き直って
「私が誘ったのです」で
いいじゃないか爆

130 :
ヲトナの皆様、GJ及び貴族制度の考察、大変感謝です。
イアエリも書いたので置いていきます。
筆遅い人なんで随分経ってしまいましたが。
イアル×エリン、『祭りの夜』です。
『刹那』のイアエリは難しいですね。やりつくされたようでもあり、新しい解釈が
できるようでもあり…と思っていたら、エリンさんの独白が長めに。
ところでエリンさんはいつイアルさん→イアルに呼び方変更したのかなー、と思って
読み返してみると、断固として名前呼びしてないんですね。「あなたは…」とか言ってる。
よっぽど恥ずかしいのかなw>名前呼び
探求編・完結編も三人称の地の分でイアル呼びだっただけで、台詞ではほぼ「あなた…」
だったかな?
詳しく確認はしてませんが。
「はじめての…」の一人称では夫婦になってざっと四年? なんで地の文で「イアル」
呼びしてますが、ひとまずここ(刹那)の一人称の地の文では「イアルさん」と呼ばせることに
してます。

131 :

ポツリ、ポツリと肌の上に雨の雫が落ち始めた。
泣かないで、どうか泣かないでと、祈るような気持ちで暗く曇った夜の空に両腕を差し伸べた。
あの人も──イアルさんも、今頃、泣いているのだろうか。この、夜の闇の底で。
あの、痛いほどに何もなく、ひんやりと暗い、部屋の片隅で。
あるいは、涙など流さずに、ただ、心の中でだけ泣くのだろうか。
あたりには、祭りの龕灯を燃した煙の臭いが漂い、祭りの終わりを飲み明かして締めくくろうと
する人達の喧騒が、遠くに聞こえていた。
夜の道を走ったせいか、鼓動は速く、胸は苦しかった。
心の中のあの人は、決してこちらを振り向きはしなかったけれど。
それでも、急いだ。ただひたすらに。あの人の元へ。

──おれの父は、腕のよい指物師だった。父が、地震で倒壊した建物の下敷きになって
ななければ、母はおれを売ったりしなかっただろう…。
あの人が私にそう語ったのは、遠い昔のようでもあり、ほんの最近のようでもあり。
あのときから、一年ほどしか時は過ぎていないはずなのに、いくつもの大きな事件があって、
様々なことが変わってしまった。
けれど、あのときのことは、不思議なほど強く心に刻まれて、鮮烈に記憶に残っている。
リランとエクとアルがラザルの王獣舎にいて、私もそこにいて、血濡れのあの人が、
わたしに助けを求めて。
家族のことを語るときのあの人の、優しく懐かしげな声も、あの、暖かなまなざしも。
あの人は、決して情もなく冷たく売られたのではない、おれの家族は簡単に子供を売る
ような人達ではなかったと、きっといつもそう思って、必に心を暖めていた。
清らかさを至上とする真王陛下の下で、いくども刺客を討ち、その身を罪と穢れに染めながら。
──兄は八つで奉公に出てすぐにんでしまいましてね。わたしはまだ赤ん坊だったから、
顔も知らないのだけれど……。
イアルという名の兄がいたと語ったあの女人は、おそらく本当に彼の妹だったのだろう。
少しだけ、面影に似たところがあった。
んだ兄。
その言葉を聞いたときから、彼の顔の表情がすべり落ちてしまった。おそらくは、
彼もまた、知らなかったのだ。
んだことにされていたなんて。
なにか──なにか言って慰めてあげたかったけれど、気の利いた言葉など、なにひとつ、
浮かばなかった。
深い沈黙と重たい心をふたりで抱えたまま、王都の道を、ただ歩き続けた。
ありがとう、といって別れた。
ひとりになって、いつも寝起きしている王獣舎へ向かう道で、もう最後になるかも
しれないのに、と思った。
今日を最後の思い出にするつもりでいた。
わたしひとりの力など、本当にわずかだ。
なにかを変える力がある、などと、思い上がってはいけない。
もしかして、変えられるのではないかと──変えられそうだと思った結果、なせて
しまった。ミラムとカナを。
あの二頭の王獣が老齢でも、もともと体が丈夫ではなかったとしても、わたしの実験に
つき合わされたりしなければもっと健やかに生きられたはずだ。
だから、イアルさんにも、もうなにも言うつもりはなかった。
あの人のほうも、いつもわたしと、距離を置こうとしていた。
きっと、それが正しいのだろう。あのひとの目は、いつも冷徹に本質を捉える。
あのひとの身にも、わたしの身にも纏わりつく柵(しがらみ)は、互いを縛り、傷つけるだろう。

132 :

──だけど。
しんとした闇に身をひたして、明日にはここを発つのだと考えたとき、急に恐ろしくなった。
あの人の心が、傷ついている。傷ついて、血を流している。
いつか、血濡れの姿であの王獣舎の戸口に立ったときのように。
心の傷は、体の傷のようには他人に見えない。自分にも、見えない。
心から血を流したままのあの人を闇の中に置き去りにしたままカザルムに帰ってしまえば、
きっとあの人の心は、だれにも手当てされることもなく、闇の中にすべり落ちてしまう。
二度と、手の届かないところまで。
だめ。そんなの、許せない。
それは、突き上げるような衝動だった。
あの人を絡めとるのが別の暖かさではなく、ただの闇ならば、わたしは、一歩も退いたりしない。
そう思ったときには、駆け出していた。
もう、今夜しかないのだ。あの人とわたしの間には。
何ができるという確証もなかった。
ただ、せめてもう一目、逢いたい。
逢って──伝えたい。わたしが、あなたの身を、その心を、案じているということを。
あなたを、大切に思っていることを。
だから、どうか、ひとりで闇に沈んでもいいなんて、思わないでと。

雨粒の落ちる間隔が次第に短くなって、ざぁ…と降り出したころ、やっと、あの人の家の
そばまで辿りついた。
灯りは、落とされていた。
門をそっと開けて軒下に入っても、物音ひとつ聞こえなかった。
ただ…壁に背を当てて様子を探ると、かすかに、人の気配があった。
この向こうに、あの人がいる。
眠っているのなら、今はいい。夜が明けてからでも、遅くはない。
ただ、いまは、この壁の向こうから、あの人が悪夢に悩まされていないことを、祈るだけ。
結局は、わたしたちの間柄は、こういう距離が似合いなのかもしれない。
わたしはそっと苦笑して、中の気配を感じるように、壁にぴったりと背中を預けて、
乱れた息を整えた。
雨には少し濡れたけれど、ひどく走った後で体か火照っていて、さほど気にならなかった。
緊張がほぐれてくると、猛烈な眠気に襲われた。
こんなところで眠るのはよくない、と思っても、ひとまず楽な姿勢を取ろうと座り込むのは
やめられなかった。壁にもたれたままずるずると下にすべり落ち、背中の壁越しに、静かに
息づく気配を感じているうちに、いつしか意識は遠のいていった。

闇の中に、ひとすじの赤い色が浮かび上がっている。
血だ。誰かが、血を流している。
血の筋は闇の中に細く長く伸びて、その中にうずくまる人影に続いている。
あの人が、血を流している。流し続けているのだ。
イアルさんが。
近づいて、そっとその傷を診ようとすると、びくり、とわずかに身を退いた。
いつも、そうするように。
手負いの、獣のように。
右の胸から血を流していたが、それは、新しい傷ではなかった。
左の鎖骨から胸を通って、体の上を大きく長く続く古傷が、じくじくと膿んで、血を流していた。
その傷のあまりの凄惨さに、いっとき手が止まる。

133 :

縫えば済むような、傷でもなかった。
こんな傷で。
おそらくは、手当てもされずに。
いままで、よく生きてこれた。
よく、生きていてくれた。
わたしが、きっと直してあげる。
わたしの、すべての力を使って。
存在の、すべてを使って。
だからお願い、その傷を、診せて。その傷に、触れさせて。
わたしを、恐れないで。

かたり、となにか音がした気がして、目を覚ました。
雨はまだ降っていて、しっとりと濡れた衣が肌に貼りついて、身体を冷やしていた。
「…エリン」
深く響くような声で、名を呼ばれた。
ぼんやりとした頭でそちらを見ると、あの人が立っていた。
こんなところでうたた寝をしてしまったせいで、あちこち身体が軋ませながら、壁に手を
ついて立ち上がった。
「わたしを、恐れないで…」
つかの間、夢なのか現(うつつ)なのか分からずに、つぶやきが漏れてしまう。言ってから、
まだ寝ぼけているのかと、自分でも苦笑してしまった。
でも、それも不思議と合っている気がした。
彼は、いつもわたしを恐れているかのように、ふとした拍子に身を退いた。
わたしも、彼を傷つけないように、退くしかなかった。
けれど、彼が本当に恐れているのは、わたしを傷つけること。
この、強くて強くて、そして優しい人にとっては、自分が傷つくより、自分のせいで
他人が傷つくことのほうが、はるかに痛いのだ。
わたしは、どれだけ傷ついても、いいのに。
「エリン、なんと言った…」
彼はわたしの戯言が聞こえなかったらしく、聞き返してきた。
わたしは首を振って、どうでもいいことだと示すと、そっと彼の肩に額をつけた。
そこに本当に、血を流す傷がないか確かめるように。
できることなら、少しでも癒したい。あなたの心の中にある傷を。
突然、強い力で抱きしめられた。
何が起こったのかわからなかったけれど、混乱した一瞬が過ぎると、泣きそうに
なりながら夢中でわたしも彼の背を抱いた。
彼が、わたしに手を伸ばしてくれた。
怯えて縮こまるのをやめて、わたしの、手を取ってくれたのだ。
全身に、震えるような歓びが突き抜けた。
すぐに、唇が寄せられて、口づけられた。
男の人にこんな風に抱きしめられることも、まして口づけられることもはじめて
だったけれど、そう思う間もなく、何度も口づけられた。
ぐい、と引かれて、抱き合ったまま家の中へと引き入れられた。
戸を閉めるのさえもどかしげに、わたしたちは立ったまま互いの身体を抱き合った。
わたしの身体を壁に押さえつける、男の人の身体の大きさと重さ、力強さにわずかに
恐怖を感じながら、再び離れてしまわないよう、必に抱きついていた。
けれど、彼の大きな手がわたしの帯にかかったとき、ふとその手が、凍りついたように止まった。
「こんなことをしては、だめだ…」
少しかすれた深い声で、彼はうめくように言った。
決していま、手を離してはならない──わたしはそう感じて、彼の首に廻した手を、
ひたすらぎゅっと握っていた。
「おれたちの子は、初めから、惨い運命を背負うことになる…」

134 :

はっとした。
この人は、そこまでのことを考えていたのだ、とそのとき知った。
ただ一時の行為としてではなく、長く添うことを。
これからの人生を、ともに連れ添って、子を成し、新たな家族を作ってゆくことを。
今まで考えたこともなかったその光景が、急に心の中に浮かんできて、胸が熱くなり、涙がにじんだ。
それは切ないほどに、幸福な光景に思えた。
わたしも彼も、幼いうちに家族を失った。
失ったものは戻らなくとも、もう一度だれかと新しくつくり出してゆけるのなら、それはなんと
幸せなことだろう。
そして、それが幸福であればあるほど、この人を縛るのだ。
大切なものを自分のせいで傷つけることを恐れて、この人は何者にも手を伸ばさずに、
ひとりで闇に沈んでゆこうとしている。
わたしは、傷つくことなど、構わないのに。
わたしに、わたしたちに子どもができたとしたら、わたし達のことを恨むだろうか?
生まれて、こなければよかったと。
わたしがそこに生まれたとしたら、どう思う──?
「わたしは…生まれてこなければよかったなんて、思わない。
──たとえ、生まれるまえから、こんな人生を生きるのだと知っていたとしても」
わたしの生まれた境遇も、決して容易いものではなかった。
霧の民の母と、闘蛇衆の父。生まれたとき既に父は無く、人目を引く緑の目は、いつも好奇と
差別の対象だった。
でも、生まれてこなければよかったなんて思ったことは、一度もない。
「……生き物は、誕生を選べないわ。どんな生き物も、生まれ落ちた場所で生きていくしかない」
あなたは──?
あなたは、生まれてこなければよかったと、そう思うときがあるの?
それほどに、あなたの傷は深くて、あなたを苛むの?
どんなにつらいことがあっても、生きていてよかったと思えるような輝く瞬間は、
あなたの過去にはなかったの?
「──あなたは、自分の生に、後悔しかないの…?」
そうなのかも、しれない。
少なくとも、いまは。
いま、あなたの中にある記憶は真っ暗で、ただひとつ、心の中にしまってあった家族との絆も、
傷つけられ、否定されて。
「…あなたは、人生をあきらめてしまうの?」
くやしい。
あなたがあなたの人生を、否定していることが。
誰の手も取らずに闇に沈んでいくことを、よしとしていることが。
きり、と歯噛みした。
いつのまにか、涙が零れ落ちていた。きっと、いまのわたしは涙でぐしゃぐしゃのひどい顔を
しているのだろう。
「八歳のときにんだことにされて、そのまま、本当にんだような人生を過ごしていくの?
…なんで? たった八歳で無理やり押し付けられた理不尽を、なぜ、受け入れてしまうの?」
わたしが、あなたをあきらめて。
あなたが、あなたをあきらめて。
どうしてそれでいいと思ってしまうの。
どうしてそんなに──優しすぎるの。
自分が傷つくことより、他人が傷つくことのほうが痛い、こんなに優しい人が、なぜ、
人の血を浴び続ける、過酷な人生を歩まねばならなかったの。

135 :

「わたしは……あきらめたくない」
たとえあなたを、ひどく傷つけてしまうとしても。
傷つけることがあったとしても、かわりにたくさん、愛するから。
きっと、生まれてきてよかったと思わせてみせるから。
あなたにも、いつか生まれる、わたしたちの子にも。
「こんな人生だけど、あきらめてしまいたくない。…お願い、あきらめないで…!」
触れ合った彼の身体はずっと、震えていた。
額を胸につけると、力強い拍動を感じた。
あなたも、本当は、あきらめたくなんかない。
わたしと添って、子を成してともに生きてゆくことを考えていたのだと、さっきわたしに
言ったでしょう?
震えた手が、わたしを突き放すのか、抱きしめるのか──わたしはただ、待っていた。
きっとそれはほんの少しの間だったのだろうけど、永遠のように長く感じた。
たとえ突き放されるのだとしても、絶対に、手を離してはいけない。何度でも、
掴まえ続けなければいけない、そう心に決めながら。
ふいに、耳許に口づけられた。熱く濡れた、口づけだった。
その感触に、全身の肌が粟立つ。
わたしを抱きこむようにしてうなじに、それから襟口に、続けて口づけを落とされた。
「ああ…」
それは安堵か、歓喜か、それとも早くも官能に彩られたものか。
わたしはため息を漏らしながら、彼の背中を必に抱きしめていた。
彼の手は、もう迷うことなくわたしの帯を解いた。
雨に濡れて固く締まった帯をものともせず、シュ、と音を立てて解いてゆく。
解き終わった帯を板間に投げ打つと、彼はもういちどわたしに唇を寄せてきた。
それは、深い口づけだった。
はじめのうちは、さっきと同じように、唇同士を触れ合わせるだけの口づけをして、
何度か唇を合わせたあと、唇のあいだから彼の舌が侵入してきた。
彼の舌はわたしの舌を誘うようにつつき、それからゆっくりとさするように舐めまわした。
かと思うと、舌の根までを絡め取って、強い力で吸いたてられた。
口づけられるだけで、唇と唇を触れ合うだけで、舌を絡ませあうだけで、こんなに気が遠く
なるほど幸せな気持ちになるなんて、知らなかった。
ときに優しく、ときに激しく、寄せては返す波のように繰り返されるその行為のあいだに、
彼の手は器用に、わたしの衣の紐を、下帯を解いていった。
わたしはどうしていいか分からずに、背を壁に預け、膝を揺らしながら、ただ、なすがままに
されていた。
背中と、膝裏に腕を入れられて横抱きにされるまで、自分の足腰が立たなくなっている
ことにも気がつかなかった。
ぎゅっとその首に手を廻してしがみつくと、草鞋を脱がせてから、彼は軽々とわたしを
抱え上げて板間へと上がった。
「随分と、無茶をする。──いつも」
さきほどまで彼が寝ていたのであろう、延べられた布団の脇にわたしを下ろすと、
彼はそう言った。
「夏場とは言えど朝には冷えるのに、濡れた衣のままで、あんなところで……」
それほど濡れたつもりもなかったが、衣に沁み込んだ雨は下着までをしっとりと
湿らせていて、肌はひどく冷えていた。合わせ襟を割って、肩の後ろの肌を包むように、
さすり上げるように入り込んだ手のひらの熱さで、そのことを知る。
「こんな夜更けに、王都の街を抜けて、女ひとりで男の──おれの家を、訊ねることも」
分かっている。
ばかなことをして、と笑われるのかもしれない。
それでも、どうしても、あきらめることはできなかった。
「本当に、いいのか?」
心の奥に、確信があった。決して、後悔することはないと。
「……いいわ」
それ以上の言葉は、もう必要なかった。

136 :

わたしは、既に肌蹴られている上衣を、下着ごと肩からすべり落とした。女袴も、
自分から脱いだ。
すぐに布団に引き入れられて、熱くて大きくて力強い身体に包まれた。
肩も腕も胸も、身体のすべてが狂おしいほどの愛撫を受けて、冷えていたことが
嘘のような熱に染まった。
素肌が融けるような、初めての熱に浮かされながら、わたしは、いつかの交合飛翔の
ときに、体毛を真紅に染めたリランのことを思い出していた。
リランは、何日か前からうす赤く染まっていた体毛を、エクと翔ぶ直前に
目のさめるような真紅に染めた。
人と獣の感情を重ね合わすことなど愚かなことだと分かっているけれど、リランにも、
こんな気持ちであって欲しかった。
熱くて、甘やかで、激しくて。この一瞬のために生まれてきてよかったと思えるような、
こんな気持ちで。
思い出したように彼の夜着の帯に手をかけると、彼は自分でそれを解いた。
薄物の夜着は易々と肌蹴て、傷だらけの、鍛え上げられた体があらわになった。
ああ、彼はこんな風に生きてきたのだ。
たった八歳でその身と命を真王陛下に捧げて、常に厳しく自分を律して、
何度もその身に刃を受けて。
わたしは、いとおしむようにひとつひとつの傷に指を這わせ、唇でその形をさぐった。
よく、ここまで生きていてくれた。
そしてよく、わたしの手を取ってくれた。
わたしの手はちっぽけで、何ほどのことができるというわけでもないけれど、
それでも、あなたのために、できる限りのことをしてあげる。
この、わたしの手で、できることはすべて。
「あぁ…っ…!」
突然、下肢に引きつれるような痛みを感じて、声を上げてしまった。
彼の指が、下肢の茂みを掻き分けていた。
「──痛むのか」
指を抜いて、彼が訊いた。
「だ、大丈夫」
とっさに、わたしは答えた。獣よりも、人の女性のはじめてというのが痛みを
伴うものだということは知っているが、それも太古の昔より続いている自然の営みなのだ。
痛みがあるだけで、必要以上に恐れる必要はない。
けれど、彼が次にしたことは、わたしを驚愕させた。
わたしの脚を広げさせ、そのあいだに自分の顔をうずめたのだ。
「そ…そんなことまで、しなくていい…っ…」
慣れていないから、ほぐしたほうがいいことは分かっている。
でも、よりにもよって舌などを使う必要はないではないか。
そんな恥ずかしいところに、顔なんか近づけないで欲しい。
「力を抜いて」
なのに、彼のほうはそんなわたしの言葉など、聞いていないように振舞った。
彼の力で押さえられれば、わたしの力では、抗いようもない。
「あぁぁ…っ…!!」
恥ずかしくて、やめて欲しくて仕方がないのに、彼の熱くぬめった舌が動くたびに、
わたしの腰は跳ね、甲高い声を上げ続けた。
どれくらい、そうして翻弄されていたか、分からない。
ただ、彼が袴と下穿きを脱いで、いよいよそれが始まるのだと思った。
彼の、そそり立つそれは、怖かった。
でも、彼もまた恐怖を感じているのだ。
未知のものへの一時的な恐怖などではなく、つながりを深めることへの恐怖を。
その、優しさゆえに。

137 :

わたしは自分から、彼の首に腕を絡めた。
「…来て」
恐れないで、わたしを。
わたしを、傷つけることを。
あなたの苦しみも、痛みも、穢れも、後悔も。
すべて、受け止めてあげるから。
「……エリン。」
彼は呻くように、わたしの名を呼んだ。
彼の身体の重みが、一層強くなる。
わたしは、彼の背に廻した手に力を込めて、ぎゅっと歯を食いしばって身体を貫かれる痛みに耐えた。
彼はゆっくりと、慎重に、わたしの中に入ってきた。
痛みは、思ったよりは強かった。
でも、耐えられないほどではない。
「エリン、痛むか…?」
彼の大きな手のひらが、わたしの額に汗で貼りついた髪をゆっくりと払った。
「…平気よ」
多分、一番の痛みはもう過ぎた。奥まで彼と繋がった感覚が、わたしを満たしていた。
「おれは、おそらくひどく頼りなく見えているのだろうが──」
彼は躊躇いがちに、乱れる息の間から言葉を絞り出した。彼の指が、何度もわたしの
髪を掻き分け、額の、頬の線をなぞった。
「──どうか、ひとりでなにもかも、背負い込んでしまわないでくれ。これからは、おれもいる──」
わたしは、喉元がぐっと、熱くなるのを感じた。
なんてことを言うのだろう、こんなときに。
何だか、泣きそうだ。幸せすぎて。
「……はい。」
それ以外に、なんと答えられるというのだろう。
そのあとはもう、自分の身体が自分のものではなくなってしまったようだった。
ただ、否応なく高められて、あられもなく声を上げた。
頭の中は朦朧として、何が何だか分からなかった。
最後に彼が、一層はげしく動いて、わたしは壊れてしまうのではないかと思った。
彼が身を震わせると、わたしの奥に暖かなものが満ちて、不思議な充足感があった。

後の始末をつけてから、もういちど身を寄せ合った。闇の中で、ふたりの心音が重なり合うのを
聞いていた。
多分、わたしたちは、ともに手を取り合って、なにかを乗り越えた。
ふたりの間にはもう確かな絆があって、容易く離れることはない。
そう、信じることができる。
それで、充分だった。
抱き合ったまま、ほんの少しうとうとすると、すぐに夜が明け始めた。
雨は、もうやんでいた。
あわただしく身支度をし、帰ることを告げようと彼の枕元に座った。
彼は、ゆっくりと目を開けて、わたしを見上げた。動かないでいるから眠っているのかと
思ったが、目は覚めているようだった。
彼は横たわったままぎこちなく手を動かしてわたしの手に触れ、指と指を絡めた。
「……もう、行くのか」
彼は、かすれた声でそうつぶやくと、まだどこかまどろんでいるような目で、じっと
こちらを見ている。
「行くわ。でも、また来るわ。」
わたしは少し微笑んで、そう応えた。
「ラザルに滞在するのは今日までだから…そのあとは、ここに来るわ。来て、いいんでしょう?」
彼はそのまましばらくわたしを見上げていた。

138 :

「…待っている」
彼に見つめ続けられるのも何だか恥ずかしくなって、絡めていた指をそっとはずして
立ち上がった。
早く、帰らねば。ラザルの人達にわたしの不在が知れると、いろいろと面倒だ。
草履を履いて戸口に立ち、もう一度だけ振り返った。
彼は、まだこちらを見ていた。
少しだけ迷って、こう口にする。
「──行ってくるわ」
そのまま夜明けのしんとした空気の中に飛び出した。
来るときはひどく重苦しい気持ちだったのに、いまはふわふわと雲の上を歩いている
ようだ。足元も、ふわふわとおぼつかない。
こんなことで、大丈夫だろうか。
こんなにも、彼のことを好きで。
雨が上がって夜が明けてゆく街は、ひどく美しかった。
家の屋根も、道端の石ころも、生い茂る木々の葉のいちまいいちまいも、空気さえもが、
雨に洗われて新しく息づいていた。
うす青い薄明から茜色の朝焼けへと美しく色づいてゆく風景の中を歩きながら、わたしは
息が詰まるほど幸せだった。

その日、わたしのラザルでの日々は終わり、代わりにあの家で、わたしと彼のふたりの
暮らしが始まった。


           ――終――

139 :
以上です。
色々と重く考えがちなイアルさんに対して、突っ走っても(反省はするけど)後悔はしない
エリンさんは、翌日はすっきり爽やかな感じだったんじゃないかと思いました。
部屋の片隅には、昨晩イアルさんが叩き割った角材の残骸が掃き集められたままのはずですが、
そこは生暖かくスルーしてあげるエリンさん。
そんな優しいエリンさんが好き。

140 :
>>75
またまた素晴らしい作品をありがとう!!
エリンが傷を想像するところとか、すごく良いです。
個人的好みなんだけど、〜135までで十分です。

141 :
>>130-139
グーーーーッジョーーーーブ!!!
待ってました。
ありがとうございます。こんなのがずっと読みたかった。
私は139まであってよいと思いました。あくまで好みの問題ですが。

142 :
GJ
イアルさんはやはり
うなじ>>>>>>胸
なんだろうな
でも
はじめての…で
覗き込んだってことは
まんざらでもないのだろか
ジェシの後にイアルがおっぱいを吸うry

143 :
うわああああ最高です!!
もう刹那の続きを読んでるみたいな!すごい!もうもう超満足しました・・・・!!ありがとう!

144 :
test

145 :
>>130-139
GJぅぅぅぅ!!!!!!!!!!!!!!!!!。・゚・(ノД`)・゚・。
もうこのスレをエロパロとは呼ばせねえw

146 :
>>145
禿同
官能二次創作小説、とかしこまりたくなるくらいのクオリティーだもんな

147 :
神降臨待機保守

148 :
保守

149 :
完結編読み返していたら、上級貴族の定義が書いてあったのを発見。
上級貴族は真王の縁者なのだとか。
エサルは貴族の娘でも真王に目通りできるような立場ではなさそうだったけど、
(アニメで)カザルム公は真王とお茶してたからその辺の違いなんでしょうね。
ジェの旦那ってどんな人だったんだろ、、。

150 :
↑ 完結編じゃなくて探求編でした タウロカ訪問あたり

151 :
うわあああ
久々に来たら神が降臨してるじゃないかああ
>>130-139
心の底からGJ!!
母性と愛に満ち溢れたエリンさん素敵だった!
ほんとここはクオリティ高杉だろ…

152 :
>>149
上級貴族は真王の縁者か。大公領でも貴族は大公の縁者(そしてトガミリョの血が入ってる)が
多いのかな。
ジェの旦那は、ジェがリョザに来たとき独身だったとしたら、地元有力者と婚姻関係を結んで
足場固めるのが一般的かな。
前の王朝がぐだぐだになってて、禅譲に近い形で政権取ったんだよね。

153 :
>>152
独身だったんじゃないかな。
子供連れて王獣に乗って来たとは思えないし、、、。
でも、となると子孫が金髪を保てたことが不思議だったりして。
旦那と子供連れだと旦那が王になりそうだし、
旦那なしで子供だけ複数連れてきたとすると、血筋も守りやすそうだけど、、でも、二人載せて飛んできたってことはあり得ないし、、
なんて考え出すと止まらない〜

154 :
1:金髪は黒髪に対して劣性遺伝なので子供は何人いても黒髪
2:たまたまジェの孫同士で婚姻したら金髪の子供誕生
3:ジェの再来、と後継ぎに
4:血族結婚を繰り返しジェと同じ髪、瞳の色の子量産

2できょうだい婚とか考えたりしたけどさすがにタブーだな
海外ではいとこ婚もタブーなとこあるらしいが


155 :
古代エジプトでは王家は兄妹婚だったし、
日本でも大和朝廷では異母兄妹ならOKだったらしいけどね。
でも、ま、154さんの推測っぽいかな。
ただ、オファロン王との出会いから追放されるまで10年たっているんだよね。
出会いの時に「若い祭司の娘」で17くらいだとしても27くらいになっている。
そこから異郷に降り立って民をまとめながら夫を得て複数子を産み、、、って相当大変だよね。

156 :
リョザの民の髪色は、全部黒だと思ってないか?
確かに漫画版は黒にしてるけど、探求編以降エリンの髪色について
触れられてないはずだけど、エリンの髪も「麦わら色」だよね?
そして、「緑色の目」は目立つけど、髪の色が目立つとはかかれていない
ということはリョザにも茶色や栗色や麦わら色の髪の人が普通にいるって設定だったのでは
そういう色と、ジェの金髪(多分ブロンド)の優勢劣勢関係は分からないけど、
かなり優勢であることにしないと、確かに辻褄合わないな
トガミリョの血を大公の血族に混血させていったように、真王領の上級貴族にも
金髪金の目の血を入れていくとかしないと

157 :
自分も、リョザには普通に色んな髪や目の色を持った人がいるんじゃないかと思ってた…。
金髪の人とかもいて、ただジェの金髪はそれらより明るい色でさらに目も金色だったから神々しく映ったんじゃないかなあ。
王獣も連れてたし。
それに、黒髪と金髪なら子供は大抵黒髪だろうけど、茶髪と金髪とかなら金髪が生まれてもおかしくないかと。色は多少濃くなるかもしれんけど。

158 :
ユイミヤが「茶色の瞳」と言われていたから(めずらしくもない平凡なってニュアンスだよね)
茶色が大多数なんだと思う。
イアルみたいに黒髪はあえて言及されているから、
(欧米で「ブルネット」て表現される感じかと)
言及されていない人たちは平凡に髪も目も茶色なんじゃないかしら。

159 :
イアルの黒髪黒目はジェシの髪と目が父親ゆずりということを
言いたいだけの描写なんじゃない?
王獣編では髪や目の色なんて特にいわれてなかったし

160 :
「緑色のこの目をくりぬきでもしないかぎり」とエリンは思っているのだから、
麦藁色の髪も黒髪も逃避行の障害にはならないほどありふれている。
だとすると、かなりバラエティーに富んだ人種構成ですよね。
だけど、金と緑の目だけは、否応なく特定の血筋を表してしまう。

161 :
>>156
漫画版だって黒だけじゃなくいろんな髪色いるぞ
サマンとかユーヤンはトーン髪だしシュナンやイアルを診てた医者は白髪頭だ
ダミヤはオシャレ染めしてるらしいがw

162 :
このスレの真面目に考察とかする雰囲気が大好きだ
いつぞやのパンツ談義を思い出すな…

163 :
ふと思ったが、セ・ザンと蒼鎧では褒賞金どっちが多いんだろう
セ・ザンの時は返納したけど、蒼鎧は引退しても返金する理由はないから
けっこう裕福な老後だったんだろうな

164 :
>>163
ていうかエリンさんをに至らしめたことに対しての弔慰金が、
真王と大公の共同責任のもとに相当な額あっただろうが、
それもイアルさんは辞退してしまっただろうな。

165 :
自分ではなくジェシのために受け取ったんじゃないかな、と思う。
んで、ジェシはたぶん学舎のために使ったかと。

166 :
報奨金はセザン>蒼鎧だったと思う。
人数全然違うだろうし。
セザンと黒鎧が同じくらいじゃないかしら。
ま、蒼鎧の年金とか退職金だけでも相当だとは思うけど、領地が得られるほどではないでしょう。

167 :
でも豊かさでいえば大公領>真王領だから
ワジャクの一般兵だって多額の褒賞だったみたいだし
(それでも抑えきれぬほどの不満がたかまってたが)
一人ならともかく今度はジェシのために下賜されたものは全部
受け取って引退したんだろうな

168 :
ワジャクの一般兵って薄給なんじゃなかったかしら?
イアルを襲ってた元弓兵のことを
「辺境に配備されている弓兵の棒給なんぞ、わずかなものです」って言ってるよ。

169 :
給料はさすがにセ・ザンの方が上だったんじゃないかなー。
リョザでは真王>大公という構図が基本だし、闘蛇乗りは穢れを負った者だと民衆は教えられてるんだから、神の子孫である(と教えられてる)真王の護衛士より給料が高かったら、一般人が不審に思うかもしれないし。
ただまあ、あからさまに大公軍の方が待遇が悪かったらどんどん不満が溜まるだろうから、給料と一緒に米とか肉とか織物とかを渡して満足させてたんじゃないかね。大公領は豊かだし。

170 :
倉庫なくなってないか?

171 :
>>170
>>1のリンクから見に行ってる?
>>7が正解 wwwヌキでないと辿り着けないよ

172 :
保守

173 :
イアルの布団が
どれだけでかかったか知らないけど
ひとつ布団で2人寝るって
結構せまいよな-
愛の力すごいなー

174 :
腕枕なら一畳くらいでも二人余裕

175 :
イアルの腕枕はかたそう

176 :
アニメの二の腕ならたくましくも気持ちよさそうw

177 :
>>176
46話ですね。わかりますw

178 :
>>177
>>176
46話懐かしいっすね
ふにってなりましたよね
抱き締めたときw

179 :
とゆうか
タハイアゼ前の王獣舎でも
一つ布団で2人で寝てたから
慣れたものだったのでしょうw

180 :
>>173-179のネタで
神様降臨しないかなぁ

181 :
>>180
エリン視点でイアルの腕枕の感想ねwktk

182 :
保守

183 :
結局エリンはいつイアルの手記をみたのかな?
同棲後間もなくってとこだろうか?

184 :
これで終わりかもしれないって思うくらいだしまだ
心情的に不安定ぽいから同棲始めて日は浅いだろう

185 :
>>183
>>184
流産しかけた夜に、うなされていたイアルさんにエリンさんがした話がヒントかなと思う。
手記を読んでいたからこそ、あの話ができたんじゃないかな。
妊娠前か後かどうかは微妙だけど。
必になって謝るエリンさん
意に介さないイアルさん、エリンさんを黙らせようとして口を塞ぐ
そのまま夜の営みに突入
いつになく燃える
めでたく男子妊娠
という夢を見たwww

186 :
妊娠した後なら
これでお終いとは
エリンも考えないだろう
同棲後妊娠前だね、おそらく
手記読んだ日の夜か…
さぞ燃えたことだろうw

187 :
それも気になるが、エリンのことだからイアルからの手紙も手記も
ずっと大事にとっておいてるんだろうけど、自分のことが書いてある
続きはその後読んだんだろうかw
イアルさん職業柄無意識にエリンのことを事細かく観察してそうだw
「こ・・・こんなことまで知られてたの?」みたいな

188 :
考えてみたら、ジェシは見事に父母それぞれから受け継いでいるものがあるな
イアルさんからは、怒りからくる破壊衝動
 イアルさん=角材、ジェシ=茶碗(未遂、4巻7章)
エリンさんからは、盗み読み
 エリンさん=ジョウンの本、イアルの手記 ジェシ=エリンさんの書物
上橋さん、どこまで狙ってのことかわからないけど、「性格」じゃなくて「性癖」
でここまで共通項を持った親子って設定は、今さらながらよくできてると感心した

189 :
>>186
>同棲後妊娠前
そうだね。今考えたら、なんかいろいろ腑に落ちることがあった。
手記を読んで、エリンさんはイアルさんが楯を辞した経緯を知った。
結ばれた真王と大公のそれぞれのとりまきから、イアルさんは別々の
思惑によって担ぎ上げられかねない状況になっていたということ。
せっかくその柵から逃れたくて辞めたのに、エリンさんと夫婦になれ
ば、またイアルさんは苦しむことになる。
王宮に気づかれないためには、婚姻ノ儀なんかとてもできない、って
んで、エサルへのあの手紙(まだ考えられない)になったわけだろう。
「これで終わりかもしれない」とエリンさんが考えたのは、信頼関係
を損ねたと感じたのもあるんだろうけど、二人の婚姻がどういう意味
を持つのか、イアルさんがエリンさんにはっきりとは打ち明けられて
いなかったことを、期せずしてエリンさんが知ってしまったので、
「これでわかったろう、だからおれたちはやっぱり別れたほうがいい」
って言い出されてしまうのではないかと怯えていたせいなのかも。
そうすると、4巻18頁の後ろのほうの
「あのとき彼はどうして...(中略)...いくつもあった」ってくだりが凄く
気になる。
「いくつも」て!?
ああ、外伝2が出てほしいよ orz...

190 :
>>189
外伝2禿同
獣はもっと長編にしてほしかった
省かれた部分が貴重すぎる

191 :
>>190
外伝2は出てほしいが、正直なとこ、2年くらいは間をおいてほしい。
もうしばらく妄想を楽しみたいんだよ...
"正解"(妄想消化剤)が降ってくるたびにおいら(二次書き)は悲鳴を上げる
それでも読みたいのは読みたいんだがwww
マゾだな、まったく... orz

192 :
それはあなただけが読まなければいいだけでは?
外伝2出してくれるものなら今すぐ読みたい

193 :
>>192
ずいぶんと冷淡なレスをありがとう。
ちなみにそれって、書き手としてのコメント? このスレの読者としてのコメント?

194 :
>>187
>エリンのことを事細かく観察してそうだw 「こ・・・こんなことまで知られてたの?」みたいな
指の細さとか頬の滑らかさとか髪の香りとかうなじの美しさとか?
ただの変態手記じゃないかw!!
エリン読まなくて正解だったかもしれないw

195 :
>>190
> 省かれた部分が貴重すぎる
11年もkwsk読みたいけど
イアルが闘蛇乗りになってからの6年の
2人のやり取りとかも需要があると思うよ
上橋女史ー!!!
全部正解がでちゃうのも
寂しい気がするけどねー

196 :
>>193
1原作ファンとしては自分の二次創作のために本家原作を
出さないでほしいというのは自己中な意見だと思うよ
原作は原作、二次は二次でみんなわりきって楽しんでるしね

197 :
>>196,192?
>自己中
そんなの百も承知で自虐的に書いたネタなのに(苦笑)...
>みんなわりきって楽しんでる
自分だって出れば、結局読まずにはいられないよ。
ただ、物語って読む順番はもちろんだけど、間隔も結構重要だと
思って。自分はまだ刹那を消化どころかまだ咀嚼の最中なんで、
もう次作を受け入れられるまでに消化してるのなら、>>192
羨ましいとしか言いようがない。
とはいえ、外伝2なんてありえない仮定に基づいた願望に対して
>192みたいな返しをもらうと、ほんとに今すぐ外伝2が出た日
にゃあ、ああそうですよねそうします、ネタバレ見たくないから、
もう上橋関連スレ金輪際見に来ません投下もしません、さようなら
...っていう気持ちになるだろうな。
そうして自分の心ないレスで書き手駆逐して、閑散としたスレを
のぞきにくるのが楽しいんなら、どうぞご自由に。

198 :
>>197
すごい自信でワロタw
原作<自分の二次創作だとでも思ってるのか?
そのまま、さようならしてくださいw
普通の神職人は心よりお待ちしておりますが
変な書き手はイラネ

199 :
外伝2という仮定すぐる仮定において
そこまで喧嘩?しなくても…


200 :
まあ、もちつけw
>>191 は、言い方悪かったな。
原作大好きなんだろうけど、普通に読むと原作否定に読めてしまうよ

まだ書かれていない他のエピだって原作者の頭の中には入ってるだろうが、
TVやラジオのインタビューの口振りからすると、
作品として世に出すためには、やはり『何かが降りて』こないとだめなんだろうな
『刹那』だってエピソードは探求編・完結編書いたときからあったんだろうが、作品になるには、
『明け方にひぐらしの哀歌を聞くイアルさん』が降りてくるまで待たなきゃいけなかったんだろう
このスレの住人が見たいのは、「○○は××で…」みたいなネタバレじゃなく、心に届く作品だと思う
原作者様に新しい何かが降りてくることを願いつつ…
省かれて書かれなかった部分が読みたいなら、妄想すればいいじゃないか
新作が出たら、それをネタに妄想すればいいじゃないか
書き手も読み手もね

201 :
じゃあ、投下します。
ちゅーだけのつもりだったのに、何となく始まっちゃうことって、ありますよね…?
特に、若いうちとか、付き合いはじめとか。
今回は、回想だけであとは非エロにしようかなあ、と思い悩んでいたのですが、
書いてみたら、何となく流れで始まってました。
「初めて肌をあわせた日の夜明け」にもひぐらしの声を哀歌として聞いてしまう、
ちょっと暗い感じのイアルさん。
まあ、今回は、そんな感じで。
イアル×エリンで、祭りの翌日です。

202 :

板間にあたる日差しが少しずつ座っているところまで伸びてきて、昼過ぎになっているのだと
知った。
朝から手がけているはずの細工物は驚くほど進んでおらず、どれほど上の空でいたのかと
自分でも苦笑する。晴れ渡った空からは、残暑厳しい夏の日差しが降り注いでいた。
夢を、見ているようだった。
あまりに、自分に都合のよい夢を。
むしろ、はじめからそうだったかもしれない。エリンが、おれの家を訪ねてくるようになった
ときから。
ずっと、夢ならば早く醒めてくれと願っていた。
長引けば長引くほど、目覚めが辛くなる。
だが、いまは違う。
夢ならば、どうか醒めないで欲しい。
どうか、少しでも、長く。
おまえがおれと共にいる、この得難い時間を、ほんの少しでも、長く。
全身全霊をかけて願う。
この夢が終わるときが、どんなに辛くなっても、かまわないから。

     ※    ※    ※  
──どうして。
昨夜、雨の降る軒下にその姿を見たときには、にわかには信じられなかった。
何度も、心の中でその輪郭をなぞり続けて想い描き続けたために、ついに幻さえも見るように
なったのかとさえ、思ったほどだ。
どうして、雨のそぼ降る闇の中を、ここまで歩いてきたのか。
どうして、いまここに。
なぜ、知っているのだろう。己ですら掴みかねている、おれの心の内を。
どうしようもなく、逢いたかったのだと。
どうしようもなく、いま、おまえを欲しているのだと。
触れたその身体は幻ではなく、はっきりとした存在感とぬくもりを持っていた。
一度触れてしまえば、どうしていままで触れずにいられたのだろうと思ってしまうような、
包み込むように優しいぬくもり。
だからこそ、触れてはならなかったのだ。
「──あなたは、自分の生に、後悔しかないの……?」
そうなのかも、しれない。
たった八歳で父親を亡くした不遇。残された母と妹のために、堅き楯としてこの国の王に
この身を捧げねばならなかった不遇。数え切れぬほどの命を奪い、血を浴び続けてきたために、
大切なものをそばに置くことのできぬ不遇。
それらすべての不遇を恨み、呪いながらも、なおかつ生を手放すことすらできぬ己の欲深さも
また、憎んでいる。
なにもかもをなかったことにして、生まれる前に戻してしまえるのなら…おれは、生まれて
こないことを、願うのかもしれない。
「わたしは…生まれてこなければよかったなんて、思わない。
──たとえ、生まれるまえから、こんな人生を生きるのだと知っていたとしても」
だから余計に、おまえのその強さに、惹かれるのだろうか。
いつか聞いたおまえの生い立ちも、けして生易しいものでは、なかった。
愛しくて、愛しくて、護ってやりたくて、だがそのためには、おれの因縁に巻き込まない
ことが最上だと、わかっていたはずなのに。
わかっていても、止められなかった。
エリンも、手を離さなかった。
まるで、おれにそれが必要だと、知っているかのように。

203 :

ながいあいだ飢えていた子供のように、おれはそのぬくもりを貪った。
息苦しいほどの愛しさに身をまかせると、ぬくもりは官能的な熱へと変わっていった。
なにもかもを、洗い流すような熱へと。
我を忘れて、その熱の中へ、溺れこんだ。
柔らかくつややかなその肌を愛撫すると、エリンは控えめに声を上げた。
その身体のすべての部分も、愛撫に応えるように繰り返される熱い吐息も、時折漏れる
甘く高い声も、おれの背を離すまいとする細い腕も、痛みに耐える表情さえも、エリンを
形作るすべての要素が、ひどくおれを掻き立てた。
相手は男を知らない身体なのだから、優しくせねばならないと思いながらも、はやる気持ちを
抑え切れなかった。
すべてを吐き出してしまってから、流れる血の痛々しさに慄いたが、エリンは少し笑って
「大丈夫よ」と言った。
どうしてこんなに、優しくできるのだろう。
夜のあいだじゅう、その細い腕に包まれながら、考えていた。
──あの娘は、ふつうの、街の、幸せな娘じゃねぇ。
──だから、おまえの家を、教えたんだ。
そうだな、カイル。
エリンはふつうの、幸せな娘ではない。
身にあまる悲しみも、苦しみも、柵に囚われ続けるやりきれなさも知っている。
だからなのか。だから、エリンの言葉は、こんなにも、心に深く刺さるのか。
抱きとめられれば、こんなにも、心が満たされるのか。
なにも知らずに、ただ、手を差し伸べたのではない。
むしろ、触れた肌から、おまえの中にも、深い哀しみと孤独があるのを感じる。
おまえがこれまでを生きてきた中で、受けた哀しみ。
おまえのこれからを、息苦しく縛ってゆく哀しみ。
その哀しみを抱えてなお、人に優しくできるのか。
決然と顔を上げて、生まれてきてよかったと、決してあきらめないと、言ってしまえるのか。
おれにもまた、そうしろと──そうして、いいのだと。
大切に、大切にしてやりたい。
痛切に、そう思った。
その身に穿たれた深い哀しみも孤独も、消えるものではない。──おれが、そうであるように。
それでも、その痛みを減らすことはできるのだと。
同じように深い痛みを持つからこそ、優しくしてやれるのだと、心を響かせあって、共にいて
やれるのだと、おまえが、教えてくれた。
このさきに、どんなことが待っていようとも。
幸せな夢から、醒めてしまう予感に怯えながらも。
それでも、いつか醒めてしまう夢だからこそ、ひとつひとつの時間を大切にして。
おまえにもらった優しさを、すこしずつ、返していきたい。
おまえにも、そしていつかできる、おれたちの子にも。

     ※    ※    ※  

204 :
    
夕刻になって、ようやく戸が鳴った。
──この世の中に。
これほど、心躍らせる音が、あるとは思わなかった。
はやる心とは裏腹に、ゆるゆるとしか動かぬ体で、戸口に立った。
戸を開けて、エリンが浮かべる表情を見たときの感覚を、なんと言えばいいのだろう。
そこにあるのはもう、哀しみでも、孤独でも、不安でも、痛みでもなかった。
それらすべてを飲み込んで、内側に抱えながらも、明るく、軽やかに、それでいて大きく
包み込むように微笑んでいた。
重たげな、荷物を抱えながらも。
なぜだか、その笑顔を見た途端、暗くこじれた心が解きほぐされていくような気がした。
許されていた。受け入れられていた。
おれの罪も、穢れも、幼さも、醜さも。
なにかを言わなくてはならないと、ずっと考えていた。昨夜の性急さの中で、言いそびれた言葉を。
けれど、もう、なにも必要なかった。なんの言い訳も、贖罪も。
ただ瞳を見交わすだけで、おれたちの間には、なにかが始まっていた。
エリンの持ってきた荷物を板間に置いてやると、どちらからともなく抱き合った。
腕の中にその細い身体を納めて、ひどく安心していることに気づく。
ずっと、触れたいと思っていた。エリンがこの家に来るようになってからは、特に。
そして、触れてはいけないと思っていた。
けれどもう、許されている。なにもかも。
ごく、自然に。
そのまましばらく、まだ汗ばむほどの季節なのに、人肌のぬくもりだけはひどく心地よいのを、
不思議に感じていた。
身じろぎしてエリンの顎をとらえ、上向かせてもう一度その瞳を覗き込むと、その双眸はひどく
艶めいて、情欲に濡れて光っていた。
その光に誘われるように、少し開いた唇にくちづけると、エリンはおずおずと応えた。
くちづけは、すぐに深くなった。
柔らかな唇の感触を確かめるように幾度か触れ、それから薄く開いた唇をこじ開けるようにして
奥へと進んだ。
どこか甘いような舌を夢中で吸いたてながら、きつくその身体を抱き寄せた。
もう一方の手はうなじのあたりの髪に何度も梳き入れ、つややかな髪の感触を味わった。
浅く上唇と、それから下唇を順についばむように吸いながら、また深みを求めて下を深く絡ませ
あったとき、背中に廻された腕が一瞬、きゅっと食い込むように締め付けられ、エリンの身体
全体が震えた。
もう、止まらなかった。
もどかしく合わせ襟を緩めながら、首筋に、うなじに、胸元に、耳元に、くちづけを落とした。
女の肌というのは薄くて柔らかくて、少し強く吸いたてただけで破れてしまいそうだ。
そのなめらかで薄い膜を傷つけないように、しかしくまなく、くちづけを落とす。
彼女の肌は、変化に富んでいた。
同じ一枚の皮膚のようでいて、くちづける部分によっては、鋭く身体を震わせた。
反応のあった場所にしばらくして戻ると、はじめより少しだけ強く身体を震わせる。
木材に丹念に鉋をかけ、鑢をかけてその癖を調べるように、少しづつその肌の癖を調べていった。
力のなくなったエリンを上がり框に腰掛けさせ、足元にひざまづいてきつく結ばれた草鞋の紐を
解いてやる。草鞋を脱がすと、まだ拭いてないから、という声を無視してそのまま足元から
愛撫を始めた。
つま先、足指、足の甲。踝の下は特に弱いようだった。
くすぐったがるところを、足首を掴んでゆっくりと責めると、すぐに甘い声を上げ出した。
遠くに、夕暮れの喧騒が聞こえていた。家路を急ぐ人々のざわめき、誰かを呼ぶ子供の声、
夕餉の支度をする女たちの気配。夕闇の迫る茜色の光の中、おれたちは愛し合った。

205 :

女袴をたくし上げて膝までを愛撫したとき、このままの場所では嫌だと小さく呟くのを聞いて、
布団を延べた。
帯を解いて上着と袴を脱がせ、下着の薄布だけになった体を抱き締める。控えめなふくらみを
手のひらに納めその頂を薄布越しに口に含むと、エリンは全身をのけぞらせて声を上げた。
不思議なものだ。
この行為は長い間、欲望を吐き出すためのものだと思っていた。
堅き楯の男たちもまた、常にと隣り合わせの生活の中で、生にしがみつくように、女を
抱いていた。
媚態の裏に哀しみを押し隠す女たちには、空しさと悲しさしか感じなかったはずなのに、
いま、重い荷物を抱えたまま明るく微笑うエリンには、底なしの愛しさを感じて。
愛しい女を抱くというこの行為も、欲望の発露でありながらも愛情の表現でも、絆を深める
手段ですら、あるのだと知った。
男が触れて、女が応えて。
その繰り返しの中に、人はどれほどの感情を織り込んできたのだろう。
いまも、言葉にできない、しようもないほどの気持ちを、この触れる指先に載せて。
薄布の下着を剥ぎながらエリンの全身を調べつくして、最後に腰布に手をかけた。
その中は、昨夜よりはるかに、潤っていた。
豊かに湧き出る蜜が、指の根元までを簡単に濡らした。
「エリン、痛むか…?」
そこが血を流していたのは、ほんの半日前のことだ。
いまはもう血は混じっていないが、まだそこには傷があるはずだ。
だが、エリンはなにも言わず首を振って、誘うように、受け入れるようにおれの胸に頬を寄せた。
──帰りたい、還りたい。
突き上げるような衝動が、沸きあがる。
まだ一度しか繋がっていないのに、その密やかな場所は、おれのための場所であるような気が
していた。
なにも分からぬままとはいえ、一度は楯として誓いを立てた以上、ずっと帰る場所を持たぬまま、
刹那の中に命を落としてゆくのだと、思っていた。
楯を辞してからも、自分の居場所を生の中にもの中にも、見つけられずにいた。
確かめたい、何度でも。
おまえの元に、帰ればいいのだと。
おれが帰るべきなのは、他のどこでもなく、ただ、おまえの元なのだと。
衣を脱ぎ捨てて、みなぎったそれをエリンの秘所に押し当てた。
エリンは、昨夜の硬さが嘘のように、柔らかくおれを迎え入れた。
そこから先は、余裕など消え失せた。
優しくしたい、と思っていたはずなのに、また我を忘れてのめり込んだ。
欲望とも愛情ともつかぬなにかに、激しく駆り立てられた。いつも心の隅に押さえ込んでいた、
なにかに。
おまえは、なにも拒まず、すべてを受け入れて、そして咲かせてくれた。
「……エリン。」
責め立てる間も、おれだけを見て欲しくて、切なくその名を呼ぶ。
エリンはおれの背に爪先を食い込ませ、身体をしならせて短く声を放った。
「あぁ…っ…」
そして弓なりに背中をしならせたまま、びくびくと全身を震わせる。
おれも、もう限界だった。
たたきつけるように何度か腰を振ると、せりあがった快感が大きく爆ぜるのを感じた。

     ※    ※    ※ 

206 :

「…まだ、明るいうちなのに」
身体を拭いながら、エリンは少し拗ねたように、どこか恥ずかしげに口を尖らせた。
「おまえが、誘ったんだろう」
笑ってそういうと、顔を赤らめて、驚いたように言い返す。
「…さ、誘ってなんか…!」
「あんな目で見られたら、誰だって我慢できなくなる。」
「目?! 目って、なに?!」
いつも大人びているエリンも、少しからかうと、年相応に娘らしい表情を見せる。
思わず出そうになる笑いをかみしながら、訊いた。
「先に飯を食いに行くか、湯屋にするか」
「そうね…お腹もすいたけど、随分汗もかいちゃった…。」
「じゃあ、先に湯屋にするか。今日は、祝いもしてやらなければならんだろうし」
ふと思いついてそう口にすると、エリンは不思議そうに首をかしげた。
「お祝い? って何の? 一緒に暮らし始めるから?」
「それもあるが、今日はおまえの、仕事納めの日だろう?」
昨日までの、思いつめたような表情のエリンにならこんなことは言わなかったのかもしれないが、
今日の明るく何かを吹っ切ったようなエリンには、そういうことをしてやるのが似つかわしい
気がした。
「仕事納め…それは、そうだけど……」
エリンはそういって躊躇いがちに目を伏せた。
「でも、わたし…大きな失敗もしたし…」
「失敗なしに何かを成し遂げられる人間など、いない」
エリンは目を伏せたまま、少し前方の床をぼんやりと見ていた。
「おまえは人より失敗が少ないのかもしれないが、試行錯誤のうちには大きな失敗もあるだろう。
だが失敗があったからといって、いままでおまえが成した努力と成果が帳消しになるわけではない。
おまえが誰よりも王獣のことを考えて親身に尽くしてきたことを、おれは知っている。
祝うというのが似つかわしくないなら、慰労でもいい」
戸惑うような顔をしてうつむくエリンをよそに、おれはさっさと二人分の支度を整えた。
「昨日の夜は贅沢をしてしまったから、ささやかなものに、なると思うが」
エリンはうつむいたまま小さな声で、恥らうように答えた。
「ささやかで、いいわ…」
そしてゆっくりと、視線を上げた。わずかに、微笑んで。
着衣を整えたエリンに手を差し出すと、おれの手より一回り小さく、ほっそりとした手をおずおずと
重ねてきた。
手を繋いで外に出ると、日はすっかり暮れていて、薄闇の中を涼やかな風が吹き始めていた。
おれたちはその中を、並んで歩き始めた。

傍にいる。いつかこの幸せな時間(とき)が終わる、そのときまで。
これがどれほど、儚い夢だとしても。
おまえと一緒に、一歩ずつ、歩いていこう。
この儚い夢が終わる、最後のその瞬間まで。


           ――終――


207 :
以上です。
今回は独白ばっかりで、長くかかったけど割と短いw

208 :
GJ!!!!!!!!!

209 :
gj!
これで明日も元気に仕事に行けるよ!

210 :
GJ!!!
雰囲気がいいなあ

211 :
久しぶりに来てみたら新作が!
激しくGJです!

212 :
超GJ!!!!!!!!!!(;´Д`)ハァハァ/lァ/lァ/ヽァ/ヽァ ノ \ア ノ \ア
あの万年新婚夫婦カップルなら蜜月はこれくらいやりかねないwww

213 :
GJGJGJ!!!
なんという萌えるイアエリ!この時期は美味しすぎて妄想が止まりませんな!
あの二人は普段冷静で淡白なだけにこういうアツアツなの読むと動悸が止まらないよ…ハァハァいいぞもっとやれ
素敵な作品ありがとう!!

214 :
保管庫の管理人様
お願いどおりユアン×エサルは修正版で補完していただけたようで、ありがとうございます。
結局、身分に関する記述をちょっといじっただけでしたが。
ひとまず安心です。御礼が毎度遅くなって申し訳ありませんです。


215 :
お久しぶりです。
もう書けないだろうと思っていたのに、なぜかまた思いついてしまい...。
『刹那』の、カザルムに引っ越してイアルさんだけ新居で暮らしはじめて、
ヤントクからの手紙がエリンさんに届くよりは前という時間設定です。
この先起こる母のと、エリンさんが生の淵に直面する難産のことを予想だに
せず、切迫流産未遂の記憶は多少薄れていたであろうこの時期、ほんのつかのま
のことにせよ、イアルさんにとっては、心弾む日々だったのではと。
そのころの二人にこんな一日があったらいいのに...っていう願望に、『刹那』
を読んでも明らかにならなかったことへの自分なりの考察を含めてみました。
注:エロなしです。

216 :
 カザルム学舎が夏の長い休暇に入ってしばらくたったころ、エリンがとうとう産み月を
迎えた。
 引っ越してきてから結局、エリンは学舎の寮にずっと留まったままで、エサルやカリサ
に見守られ、来るべき日を心待ちにしながら過ごしていた。
 例年、学童が消えた夏の学舎にぽつんといると、抗いがたいほどの物寂しさにおそわれ
ることがあるのだと、エリンはいつか言っていたが、今年はきっとそれどころではないだ
ろう。「もう充分でしょうに」と笑うエサルやカリサの呆れ顔を尻目に、今日もせっせと
産着を仕立てつづけているに違いなかった。
――ねえあなた、ちょっと見てほしいのだけど……。
――これ、男の子じゃないとおかしいと思う?
 すこし甘えたような妻の声色が耳の奥によみがえり、イアルは思わず苦笑した。
 まだ見ぬわが子にどの色や柄が似合うのかが気になってしかたがないのだろう。学舎を
訪ねるたびに、エリンは寮の部屋の床いっぱいに、丹精こめて縫いあげた産着を並べては、
イアルが答えようのない問いを口にする。
(おれが衣に頓着せぬことなど、とうに知っているだろうに……)
 どちらでもいいじゃないか、浮いた産着はトムラ師のところに譲ればよいのだし、と答
えはしても、次第に心が沸き立つのを、イアル自身、このごろでは抑えられなくなりつつ
あるのだ。
 そうとなればイアルも、身二つでもどってくる――いや、初めて我が家を訪れる妻とわ
が子のために、暮らしに必要なあれこれを整えておかねばならない。
 エリンから託された必需品の目録をもとに、トムラの妻やその伯父である大家にも助言
を乞いつつ、食器や鍋釜から布団にいたるまで、せわしく買いそろえる日々がつづいた。
 赤子の沐浴用の大きな盥を買ってきたその日は、前日までとは打って変わったよい天気
になった。針葉樹特有のすがすがしい芳香を放つ盥を抱えながら、強い日射しが照りつけ
る路地を家々の陰を渡り歩くようにして家にもどると、まだ昼前だというのに、屋内には
むっとした空気の淀みができていた。
 王都の家でいつもそうしていた妻の姿を浮かべ、急いで玄関の戸と窓をあけはなつと、
イアルは窓を背にして立ち、板の間をしばしながめた。
(沐浴をさせるとしたら……)
 窓からの日が射しこむこのあたりだろう、と位置を見定めて板の間に盥を据えると、そ
の前に胡座をかいて座った。
 だがそれもつかのま、盥の内側に手のひらをあててつうっと一周させるやいなや、イア
ルは顔をしかめ、急いで仕事場から紙やすりと布きれを持ち出すと、盥の内と外に磨きを
かけはじめた。
 わが子の身体にも妻の手にも傷ひとつこさえぬよう、目をつぶって指の腹を盥の縁に滑
らせ、些細なささくれも丁寧に削りおとしながら、イアルはふと、感慨にひたった。
(ほんとうにこのおれが、もうすぐわが子を腕に抱けるのか……)
 目の奥に妻の腹を浮かべても、大きなチャミ幾つ分と教えられても、どんな赤子がこの
盥に収まるものか、どうにもぴんとこない。それでいて、犬や山羊に対してならば気にも
とめぬことなのに、わが子の重みを瓜に喩えるエリンたちをけしからん、と思ってしまう
自分もどこか、滑稽に思われてしまうのだ。
 苦笑まじりの吐息で木屑を吹きはらい、仕上げの乾拭きをしおえると、イアルは立ちあ
がり、額にふつふつとにじんだ汗を、衣の袖でぬぐった。
 わが子が生まれるまでに必ず、と、エリンから念を押されていた用件はこれで、最後の
ひとつを残すのみとなった。もう幾度となく催促されているその大切な務めのことを思っ
たとき、ふいに、痛みにも似た息苦しさが、イアルの胸にこみあげた。

217 :
(このまま……)
 おだやかに暮らしていけるのだろうか。
 この盥が窮屈になり、小さな匙の扱いを覚え、蜂蜜をうまく掬えるようになって。
 自分の拵えた玩具をその手に握りしめ、はちきれんばかりの笑顔で駆け回る……そんな
刹那の積み重ねを、かたわらのエリンとともに見守りつづけて。
 そうして、長い時の果てにいつか、わが子が――。
(愛する誰かと新たな命を育む、はるか未来まで……)
 イアルは、窓の外の高い空をふり仰いだ。
 路地に迷いこんできた風に気高い獣たちが遊ぶ緑の野の匂いを探し、イアルは長いこと
窓辺に佇んでいた。
 水を汲みに井戸へと出かけたところで予定を変え、イアルはカザルム学舎に向かうこと
にした。これまでで一番長い、十日ぶりの妻との再会になる。
 門扉の鐘を鳴らしてしばらく待っていると、応対に出てきたのはエサルだった。たまた
ま野外にいてそばを通りかかったのだろう、イアルが軽く会釈をすると、前掛けの裾で手
の泥をぬぐいながら、エサルが言った。
「いらっしゃい。こんな時間にめずらしいわね」
 気のいい貸し馬車屋の主人の顔を浮かべながら、イアルは答えた。
「はい。近所でヨシさんと出くわしましたところ、たまたま今日明日と、借り手がなくて
遊ばせているのが一頭いるからと、こいつを貸してくださったのです」
 経緯を話すうち、気のいい貸し馬車屋の主人の顔が浮かんだ。
 カザルムの住民の気風は、王都の人間のそれとはやはりどこか違うな、と感じる。ここ
には自分の過去を知るものがいない。その安心感からくる錯覚にすぎぬのだろうか。
 エサルはうなずくと、門扉の脇の馬留めを指差して、馬を繋ぐよう促しながら訊いた。
「どう? 新居の住み心地は」
「おかげさまで、やっと身の回りのものがひととおりそろえられました」
 そう答え、鞍に結びつけていたわずかな手荷物を解いていると、
「それはよかったこと。――あなたが今日来ることを、エリンは知っているの?」
と、エサルがふたたび問うた。
 顔をあげ、いいえ、と首をふると、エサルは、
「いまの時分、エリンはまだカリサの手伝いをしているのよ。しばらくわたしの部屋にい
らっしゃいな。喉が渇いたでしょう。ご一緒にお茶はいかが?」
と言って、すたすたと玄関に向かって歩いていく。
「ありがとうございます」
 繋いだ馬の鬣をひとなでして、イアルはエサルの後を追った。

「今夜は泊まるおつもりよね? どうぞ、座って」
 教導師長室に入るなり、エサルは、天井からさがっている房つきの紐をひいた。
「はい、そうさせていただきます」
 慣れた手つきで土瓶の湯を急須に注ぐエサルを横目に、イアルは炉端に腰をおろした。
 カザルムに移ってから何度目かの教導師長室だが、エリン抜きでエサルとここにいるの
は初めてのことだ。
 亡きハルミヤ陛下とそう変わらぬ歳のころと聞いていたが、あらためて見ると、エリン
よりも小柄で細身のその姿はむしろ、遠い記憶の中の女人の面影と重なり、そのたびにイ
アルは、かすかに苦いものを喉の奥に感じる。
「どうぞ。――熱いわよ、気をつけてね」
 エサルは湯飲みをイアルに手渡すと、イアルの向かい側に座った。
「仕事はもう、お始めになられて?」
 イアルは、小さくかぶりをふった。
「……いえ、ほんの小さなものに手をつけたばかりで、まだ落ち着かずに過ごしておりま
す」
 実際のところ、連の顔役に教えられた商店から注文を取りつけるにも、自分の腕を示す
ための品物を見せねば話にならない。この十日間、イアルは夜ごと、その見本の簞笥づく
りに没頭していたのだ。

218 :
 苦笑しながら事情を説明すると、エサルもふっと笑みを返した。
「そう。……でもかえってそのほうがいいかもしれないわね。エリンが身二つになるまで
は、大がかりなものを作りはじめずにいられるのが」
「たしかに、おっしゃるとおりですね」
 イアルはうなずき、湯飲みの縁にそっと口をつけ、茶をすすった。
 ややあって、パタパタとせわしない足音が近づいてきて、女人の甲高い声が廊下に響い
た。
「カリサでございますが、お呼びですか、教導師長さま?」
「カリサ、入って」
 足を一歩踏み入れ、炉端にイアルの姿をみとめるや、カリサは満面の笑みを浮かべた。
「あら、イアルさん。お久しぶりですねえ。新居はどう……」
「カリサ」
 この気立てのいい寮母が話を始めると長くなると思ったのだろう、エサルが機先を制す
るように口を挟んだ。
「用務係に、イアルさんが乗ってきた馬の世話を頼んでおいて。――それから」
「エリンさんですね。ええ、すぐによこしますよ」
 カリサが踵を返そうとするのを見て、イアルはすかさず声をかけた。
「いえ、ちゃんと仕事を終えてから来るようにお伝えください」
 それを聞いたとたん、カリサとエサルは顔を見合わせ、ぷっとふきだした。
「わかりました。それじゃあイアルさん、あと一トはかかりますから、それまでゆっくり
なさっててくださいな」
 笑顔でそう言い残し、カリサは部屋を出ていった。
 カリサの足音が間遠になると、エサルは静かな声で言った。
「門につくまえから、あなたの姿は見えていたの。うちの者たちもみな馬を使うけれど、
やっぱりあなたが馬に乗っている姿はとてもさまになるわね」
「…………」
 どう答えたものか逡巡するイアルに、エサルはちょっと眉をあげ、言葉をついだ。
「安心なさい。その格好も、なかなか板についてきたわよ」
「……だったらよいのですが」
 イアルは、手の中の湯飲みに目を落とした。
 エリンの夫として初めて挨拶をしたときから、ずっと気になっているのだ。
 学問の師、人生の師として、また、母同然の存在としてエリンを見守ってきたのであろ
う彼女は、エリンが選んだ自分をどう思っているのだろう。そして、このような身の上に
ありながら、自分たちが子をもうけることを――。
(おれたちは……)
 誰に言われるまでもなく、わかっている。
 自分たちはおのおのに柵を抱えながら、婚姻によってその重さも高さも、何倍にも増し
てしまったのだ。
 わかっていて、それでも抗うことができなかった。惹かれ合うままに結ばれ、その証を
残したいという、生き物ゆえの望みに。
 いつかこの学舎にすら、自分たちの累が及ぶことがあるのかもしれない。そのときどう
すべきかは、王都を出る前からエリンと幾度となく話し合っているが、答えはまだ定まら
ぬままだった。
「――もうすぐね」
 エサルのおだやかな声で、イアルはつかのまの物思いからさめた。
「名前はもう、決めていて?」
 苦笑を目に浮かべ、イアルはかぶりをふった。
「あれにもたびたびせかされていますが……考えあぐねております。――息子か娘かわか
らぬうちにというのは、存外に難しいもので」
「無理もないわね。でも、悩む時間も幸せのうちというものだわ。あと半月ちょっとある
のだから、じっくり考えなさい。――きっといい名前を思いつくでしょう」
「ありがとうございます」
 イアルは立ちあがって窓際に歩み寄ると、海原のように波うつ緑の丘陵を見渡した。細
くあけた窓から室内に滑りこんでくる草いきれがつかのま、胸に満ちた。

219 :
 背後で、かすかに物音がした。
 遠くの戸を開け閉めする音につづいて、大きくて重い、大切な宝物を抱えているかのご
とく慎重な足取りで、ゆっくりと近づいてくる、室内履きの足音。
 入り口を凝視したまま微動だにせぬイアルに気づき、エサルもそちらに顔を向けた。し
ばらく耳をすましていたが、やがて呆れたような顔になった。
「あなたときたら、遠耳も鈍っていないのねえ。――入りなさい、エリン」
 エサルが呼びかけるやいなや、くぐもった挨拶の声が聞こえ、がらっと引き戸が引かれ
た。
 戸口に妻の顔がのぞくと、イアルはちらっと視線を交わし、その腹へと目を移そうとし
て、息をのんだ。
 その瞬間、立ちつくすイアルの背を、風がさすった。衣の上からくすぐられるようなそ
の感覚が呼び水となり、よみがえった言葉が耳の奥に響いた。
――幸せになりますように。
――こういうのは、願いだから。
 いま思えば照れ隠しだったのだろう、〈お祓い葉〉をやけに大きくふりまわして歩いて
いた姿が目の前の妻に重なり、イアルは胸の内で苦笑した。
「あらエリン、今日はそんな色の上衣を着ていたかしら?」
 エサルが問うと、エリンはぱっと顔を赤らめた。
「あの、夕食の下拵えで……お芋を洗っていたら、袖と裾を汚してしまったので、いま着
替えたばかりなんです」
 早口に言いつくろうエリンの様子からなにを感じとったか、エサルは、目尻のしわをひ
ときわ深くして、イアルのほうに向き直った。
「――まあ、そういうことにしておきましょうかしらね。
 夕食までは時間があるわ。二人で散歩でもしていらっしゃいな」
「――だそうだが」
 イアルは眉をあげ、エリンを見た。
「……行くか? エリン」
 エリンがうなずくより早く、イアルは、耳たぶまで紅に染めた妻の肩を軽く叩き、外へ
とうながした。

 玄関から一歩足を踏み出すと、エリンは待ちかねたように、夫の腕に自分の腕を触れ合
わせた。
「――おれも今年、それを着たおまえを見るのは初めてだな」
 のぞきこむようにして、イアルが言った。その声に面白がるような色が混じっているの
を感じ、エリンはかすかに口を尖らせた。
 去年、ともに暮らしはじめてからも、秋の終わりまでのあいだ、エリンはその衣をよく
着ていたのだ。けれどもこの夏はたしかに、王獣の世話を禁じられ、汚す心配もたいして
ないにもかかわらず、この黄色い上衣を着た姿をエリンはイアルに見せていなかった。
「だって、あんまり着ると傷んじゃうし……」
 王都では手持ちの衣の数が限られていたから、と言葉を濁すと、夫は、
「――そういうことにしておくか」
と、エサルの言い回しをまねてささやき、口の端を持ちあげた。
 エリンはちょっとむくれて鼻を鳴らしたが、ふと、いままで自分が案内したことのない
はずの場所へ向かっていることに気づき、あわてて夫に尋ねた。
「ねえ、どこへ行くの?」
「いいから……行けばわかるさ」
 身重のエリンに合わせた夫の歩みは緩やかだが、しかし、迷いのない足取りで放牧場を
横切り、森に近づいていった。
 通せんぼをするかのような大木が立ちふさがる小道に、イアルは突き出た横枝の下をひ
ょいとくぐって足を踏み入れた。人の往来が絶えて久しいのだろう、ほとんど草に覆われ、
その存在を知らなければ見過ごしてしまうような道だ。
 夫は逡巡するエリンをふり返って手を伸ばし、かがむ身体を支えてくれ、くぐり抜けた
あともその手を離さずに歩いていく。
 よい香りがする灌木のあいだを抜けると、とたんに視界がひらけ、二人は渓流のほとり
に出た。

220 :
「うわぁ……」
 エリンは思わず、感嘆の声を漏らしていた。
 十年ちかくもこの地で暮らすエリンだが、大きく蛇行した川の内側に広がるその砂洲の
存在は知らなかった。
「あんな場所から、この川のほとりに通じる道筋に入れるなんて、知らなかった……」
 学童のころユーヤンたちと泳いだのは、このすこし上流のあたりだった。ただし、ここ
までのあいだには小さな滝があったはずだ。川遊びはその手前までと、学童仲間のあいだ
でなんとなくきまっていたので、下流がどうなっているのかを知らなかったのだ。
 もしかすると、男の学童たちだけが知っている秘密の場所なのかもしれない――そんな
ことが、エリンの心にぽつんと浮かんだ。
 初夏から秋口にかけて、広大な丘陵に散在して草を食んでいる山羊や牛の鳴き声もここ
までは届かず、聞こえるのは木々の擦れ合う音と水のせせらぎ、それにときおり加わる虫
たちの声だけだ。
 自分のために足場を選んでくれているのだろう、イアルはあたりを注意ぶかく見回しな
がら川原に下りると、日当たりのよい場所に平らで大きな岩を物色しはじめた。
 すぐに、ゆうに二人が座れるほどの岩を見つけ、手のひらで岩肌の温みと感触を確かめ
てから、夫はエリンを招いた。
「どうして、こんな場所を知っていたの……?」
 ゆったりと並んで腰をおろし、遅い午後の光をはじく川面を目を細めて見つめながら、
エリンは訊ねた。
「行幸のときから――」
 言いかけて、イアルは足もとの小石をいくつかつかんで立ちあがると、川岸に数歩近づ
いた。
「――ここの地形は頭に入っているからな」
 ひゅっ、と、目にもとまらぬ速さで弧を描いた腕から放たれた小石が、逆光の彼方にす
いこまれるように消えていく。ややあって、川面を刻む小気味よい音が、耳に届いた。
「おれが刺客として潜むならば、どこが適当か――そう考えながらこの保護場の地図を眺
めていて、気がついた」
 イアルは、目の上に手をかざし、往く川の流れを見ていた。
「――来たのは、今日が初めてだが」
 夫の視線の先に頭をめぐらすと、川面に踊る光のあまりのまぶしさに、エリンは思わず
目を閉じた。
 ふいに、瞼の裏に残る夫の残像がゆらめき、エリンをつかのまのまどろみに誘った。
 木立を騒がせていた風がやむと、あたりは虫たちの声とせせらぎで満ちた。いつのまに
か夏蝉の調べに混じりはじめた蜩が、夏の盛りを過ぎつつあることを告げている。
 手の中の小石をすべて投げおえてイアルがふり返ると、妻は腹の子を守るように両手を
添えたまま、かたわらの張り出した岩に肩を預け、目を閉じていた。
 かすかな寝息とともにゆっくりと上下している胸もとに気づき、いよいよ増したその膨
らみに心ならずも目を奪われ、苦笑が漏れる。
 起こさぬよう、イアルはそっと隣に腰をおろし、妻の背後に腕をついた。
(あれからもう、一年か……)
 祭りの宵の、少女のようにあどけない寝顔はそのままに、母としての身体をそなえたエ
リンの姿を見るたび、イアルはいまだに奇妙な感覚に襲われてしまう。
 触れるか触れぬかの力加減でその背を支えながら、ふと思った。
(あの夜……もしも、エリンの気配に気づかなかったら……?)
 エリンはおそらく、夜明けとともにひっそりとラザルにもどってしまっただろう。
 そして――二人は結ばれることなくそのまま、別れていたのかもしれない。
 そんな考えが浮かんだとたん、暗く湿った孤独の淵がイアルの足もとに口をあけた。
 かつて馴染みの場所だったはずのそこを見下ろすと、腸がせりあがるような寒気が這い
あがり、思わず、ぎゅっと目をつぶった。

221 :
(どうして、おれは)
 あんなところで一生を過ごせると思っていたのだろう。
 もう二度と、あそこにはもどれない。
 愛しい者と自分の身体のすべてを使って高め合う悦びを知ってしまった、今となっては。
 濡れそぼった互いの身体の凹凸をうまく噛み合わせる要領を得、エリンの熱く沸き立つ
そこに身を沈めるにつけ、互いの皮膚の境界すらさだかでなくなるほどの一体感を、もう
幾度となく味わってきた。
 そんなとき、イアルは信じずにはいられなかった。裂けていた傷口が癒えてふさがるよ
うに、つながったその形こそが自分という生き物の本来在るべき姿なのだと。
 妻の腹のように目に見えはしないが、この一年は自分にとっても、後もどりのできぬ変
化を身体に刻みつづけた日々だったのだ。
 こみあげてくるものをこらえ、イアルは大きく息をついた。
(エリンはおれを、信じてくれた)
 祭りの余韻も薄れ、夜灯りもまばらな雨の街を抜けて、自分のもとにもどってきてくれ
た。
 まさか、まさかそんなはずは……と思いながらあけた戸口にエリンを見た、あの瞬間の
気持ちを、どう言葉にすればよいのだろう。身体の芯からすべての指の先へと駆け抜けた、
痛みとも痺れともつかぬ感覚を……。
 自分をあきらめないでいてくれた。――イアルが、自分自身をあきらめないことを、エ
リンは信じてくれた。
 それが……。
(どんなにうれしかったか、わかっているか?)
 ゆっくりと目をあけると、にじむ光の中に、眠りつづける妻が徐々に浮かびあがった。
 光に透ける髪、細くしなやかな指、華奢な肩……妻の輪郭を、イアルは視線でなぞって
みる。花の図案を板の上に写しとるときのように、慎重に、息をして。
 髪の麦藁色よりもやや淡い印象がある眉から鼻筋にかけてを辿り、閉じた瞼の奥の美し
い緑の目を描きながら、ふと、他愛なくも幸せな雑念が脳裏をよぎる。――わが子はいっ
たい、どちらに似ているのだろうか、と。
 いくら眺めても飽き足らぬ妻の寝顔なのに、形のよい唇に到達すると、その感触をいま
すぐ味わいたいという、矛盾する衝動にも駆られてしまう。
 頭上の木立の樹冠を、ふたたび風が掻き乱したのだろう、妻のなめらかな頬の上で、木
漏れ日がちらりちらりと、踊る……。
 突然の蝉時雨がエリンの睫毛をふるわせ、イアルはおとがいに伸ばしかけた手をとめた。
「いやだ。……寝ちゃったのね、わたし」
 目をさましたとたん、エリンは面映ゆそうに顔をゆがめた。
「疲れさせたか? それとも、眠りが足りてないのか?」
 気遣うイアルの声色に、エリンは苦笑して、小さくかぶりをふった。
「たいしたことじゃないの。ここ数日、明け方、夢を……ね。――それで、すこしだけ早
く目がさめてしまってただけ」
「夢? ……どんな?」
 かすかに眉をくもらせ、問いを重ねると、妻は腹にあてた自分の手を見つめ、言葉を選
ぶように一瞬黙りこんでから、口を開いた。
「こんなに離れていたのは初めてじゃない? そのせいだと思うんだけど……ラザルにい
たころの不安な気持ちを、思いだしてしまったみたい」
 目を伏せて、半ば独り言のように、エリンは続けた。
「……ミラムとカナの亡骸を運び出したあとのからっぽの王獣舎が、まるでわたし自身の
檻みたいに感じられて――あなたの顔を見たくてたまらなかったのに、どうしても足が動
かなくて……」
 言いよどむ妻の言葉を引き受けるように、イアルは口を開いた。
「……あれは、蒸し暑いが、月のきれいな夜だったな……」
「?」
 驚きに目を瞬かせる妻からついと視線をそらし、イアルは、きらめく川面を見るともな
しに見ながら、低い声で打ち明けた。
「忍びこんだんだよ、おれもラザルに。――だが、王獣舎の中で泣いているお前が見えて、
おれは……」
 ふいに声がかすれ、次の言葉を切りだすまで、長くかかった。
「……このおれではおまえを幸せにしてやれないのだと思って、入っていけなかった……」

222 :
 言いおえると、イアルは膝のあいだで組んだ自分の手をじっと見つめ、黙りこんだ。
 もう、過去の断片にすぎぬこと。……そう思おうとしても、そのころ抱いていたもの―
―イアルを踏みとどまらせた、あの恐れにも似たなにか――は、完全にぬぐい去ることの
できぬまま、胸の奥底にいまもある。
 息苦しいような沈黙ののち、ぽつんと、エリンがつぶやいた。
「ほんとうに、似た者同士なのかもしれないね」
 イアルは妻に視線をもどした。
「また来てほしいと言えずにいたあなたと、ずっとそばにいたいと言えなかったわたし
……」
「……そうだな」
 つかのま顔を見合わせて微苦笑を交わし、エリンの肩を抱え寄せると、妻はイアルの肩
に額をつけて目を閉じ、安心したように大きく深呼吸した。
 近づく夕暮れをまえに、木漏れ日はすでに輝くような蜜色に変わっていたが、日が西の
空に傾き、木立が作る影に川面がおおわれてしまうと、あたりはたちまち薄暗くなった。
 襟もとや袖口から忍びこんだ夕風は、汗がひいた肌に涼しさを通り越した感覚をもたら
す。
「そろそろもどろうか、エリン」
 イアルは立ちあがり、うなずく妻にそっと手を差し伸べた。

 日が暮れ落ちると、がらんとした食堂では、数人の教導師ら大人たちだけの夕餉のひと
ときが、和気藹々と過ぎていく。
 学期のあいだは、場をともにする学童たちの手前、大人の側もかしこまって食事せざる
を得ないのだが、長い休みのこういう時期にならば、食堂の中央に白木の食卓を寄せて、
くだけた雰囲気で食事ができるのだ。そのうえ、食べおえても長く留まって歓談を楽しみ、
互いの親睦を深め合えるよい機会でもある。
 だが、今夜は誰ともなく気を遣い合ってか、居残りの教導師たちは早々と寮の自室にひ
きあげ、エリンも、食卓に残された空の器を手早く積み重ねると、カリサの後片付けを手
伝うために厨房の奥に消えていってしまった。
 それが居候としての日課であるという以前に、エリンは学童のときから、親友のユーヤ
ンともども貴重な女手として、可能な限りカリサの仕事を手伝ってきていた。指の欠けた
手で大量の器を扱うことはおろか、大きくせり出した腹も、いまさらたいした苦にもなら
ぬようで、なにを話しているやら、厨房からは、水音や触れ合った食器がたてる軽やかな
音とともに、妻とカリサの楽しげな笑い声が途切れ途切れに響いてくる。
「……イアルさん」
 エリンを待つ自分が所在なさげに映ったのか、めずらしく最後まで食堂に残っていたエ
サルに、声をかけられた。
「エリンがもどるまで、お茶でもどう?」
「ありがとうございます」
 エサルはいったん厨房の入り口へ近寄り、なにごとか告げてからもどってきた。
 イアルはエサルについて廊下を歩き、教導師長室に足を踏み入れた。
 エサルが持ってきた手燭の火を部屋の大きな燭台に移してまわると、窓の外の闇と同化
していた室内が、光る箱のようにぼんやりとした輪郭を現した。
 炉端に腰をおろしたとき、きらりと光るものが格子窓に映って見え、イアルは、身体を
ちょっとねじって背後の書棚に視線をめぐらせた。
 学舎の古びた外観に似合わず、この教導師長室の造作は隅々まで手入れが行き届いてい
る。とりわけ、廊下と接する北側の壁に作りつけられている書棚は、けっして瀟洒な調度
品というわけではないが、くるいのないその堅牢さや、時を経て増した木肌の風合いから
感じられる材選びの確かさからも、相当な腕利きの職人が手がけたと思わせる見事なもの
だ。
 そして、部屋の主の人柄を表すように、書物はきちんと分類され、整頓されているよう
に見えた。
 夜の薄暗がりの中、燭台のゆらめく灯りに照らされると、木目の飴色はいっそう艶やか
さを増した。見とれているうち、ふと、さっき光ったものの正体が、書物の背表紙に押さ
れた金箔であることに、イアルは気づいた。
 天に瞬く星をまとったかのような書物たちの中の、見慣れぬ飾り文字をあしらわれた一
冊に目がとまり、イアルの脳裏にある考えがひらめいた。

223 :
「――エサル師」
 イアルが声をかけると、エサルは茶の支度をする手をとめて、目をあげた。
「ひとつ、教えていただきたいのですが」
 イアルは、胸に秘めていたその言葉を、静かに口にした。
「……我が国の古い言葉で、この単語を何というか、ご存じでしょうか」
 すると、エサルはつかのま宙に視線を漂わせ、やがて、目もとにかすかに笑みを浮かべ
た。
「少し……待ってちょうだい」
 湯が沸くのを待つだけの状態に茶の支度を整えてから、エサルは書棚に歩み寄った。
 イアルが目にとめていたその分厚い書物を手にとっておもむろに開き、ほんの二、三度
頁を繰ると、指先で文字の列をなぞって、
「ここね……」
と、エサルはつぶやいた。
「ごらんなさい」
 イアルにその書物を手渡すと踵を返し、今度は足早に部屋の奥へと歩いていく。
 受けとった書物は案の定、かなりの星霜を経たとおぼしき辞書で、開かれた頁の粉っぽ
い紙の手触りは、やすりをかけたばかりの木肌のようだった。だが、表紙に張られた革の
独特の臭いと質感は、かつての記憶を唐突に、それでいて鮮やかに、イアルに思い起こさ
せた。
 
 武装一式の手入れは、楯のころの欠かせぬ日課だった。
 刺客を仕留めた日の晩には、ちょうどこのようなゆれる灯りのもとで、血糊でべとつく
短剣の柄巻き革を解いて、新しいものに巻き替えたものだ。
――次の命を、奪うために。
 金臭い血の臭いが、抗う間もなく鼻の奥によみがえってくる。
 部屋の片隅にわだかまっている影が見慣れた形を成しはじめると、イアルは思わず目を
つぶった。
 息をつめるイアルの耳に、ジジジ……という、蠟燭の芯が燃える音がやけに大きく聞こ
え、はっとふり返った。
 背後から、強い光が近づいてくる。――エサルが、壁際の大きな燭台を運んできてくれ
たのだった。
 エサルは燭台をイアルの目の前におろし、老眼鏡を鼻にかけると、イアルの手の中の辞
書をのぞきこみながら、教導師らしい厳かな声で、その項を読んでくれた。
「ジェシ〈希望〉――名詞。古語。
 一・あることの実現をのぞみ願うこと。また、その願い。望み。
 二・将来に対する期待、また、明るい見通し……」
 いったん言葉を切り、イアルのかたわらを離れると、エサルは自分の座り机の引き出し
からなにかをとりだして、もどってきた。
「これはね、わたしが学童のころにタムユアンで使っていたものなの」
 目の前に示されたものは、古語でしたためられた詩集のようだった。
 見たことのない文字でつづられている短文詩の脇に、エサルのものなのだろう、細かな
傍注が書きこまれている。若々しさをにじませながらも達者な、いかにも彼女らしい筆跡
だった。
 エサルは顔をあげ、窓の外の漆黒の虚空を見つめながら、その詩を諳んじはじめた。歌
うような抑揚の中に、その言葉が三度ほど聞きとれた。
 耳に快いそのなめらかな節回しは、かつて、亡きハルミヤさまが宴の折に奏上された祝
詞に、どこか似ている気がした。四季折々の行事のたびに宮の高い天井に響く、気高き老
女の円みをおびた声が、イアルは好きだった。
 いつのまにか諳誦が終わっていたことに、イアルはエサルの足音で気づいた。
「この詩集は、王祖ジェが家臣に命じて編纂させたものだといわれているわ」
 エサルは、とうに湯気が立ちはじめていた土瓶の湯を急須に注ぎ入れながら、静かに語
りはじめた。
「彼女は、この地の人々に請われて荒廃しきったこの国を統べることを決意したとき、こ
こにもともとあった文化の根を絶やさぬようにと、いにしえからの語り物・民謡・諺など、
数多の伝承を収集していったのだけれど、口伝でしか歌い継がれていないものも少なくな
かった――」

224 :
 急須に蓋をすると、エサルは、柱時計の薄暗い文字板を、目をすがめてちらりと見やっ
た。
「ジェはそれらを聞き集めさせ、新王国の公用文字でひとつひとつ書き記していったの。
 その中でもこれは、国を二分していた戦渦の最中に、深い絶望の淵から一縷の光を渇望
した民人の詩でね。
 いま聞いてのとおり、この詩の中には〈ジェシ〉という単語が三度使われている。〈リ
ラン〉や〈エク〉と同様に、時代の変遷とともに使われなくなってしまった言葉なのだけ
れど、のちの研究者が解釈を進めていくにつれて、これは極めて多義性を持った言葉だっ
たということがわかったのよ……」
 エサルは、急須の蓋をちょっとずらし、茶の葉が充分に開いたことを確かめると、ふた
つの湯飲みに注ぎわけ、そのひとつをイアルの前においた。
 軽く一礼して湯飲みをとりあげ、イアルは熱い茶をすすった。
 低く落ち着いた声で、エサルは言葉をついだ。
「――類義語は〈夢〉。派生語は〈未来〉。
 当時のこの国の人々にとって、それらの指し示すものは同じひとつの言葉に収斂するも
のだったの。なのにわたしたちはいつのまにか、わざわざ別々の言葉に意味を分け与えて
しまっていたのね。
 〈幸福〉の同義語なのよ。これらはみんな」
 エサルはふたたび詩集を手にすると、言った。
「しかも、この詩の中で、〈ジェシ〉という単語は、ある対象への比喩として用いられて
いるの。――なんだと思う?」
 目をあげて、エサルは問うた。
 ほのかな予感を胸に抱いたけれど、イアルは答えず、ただじっとエサルを見つめた。
 エサルは、静かな表情でイアルを見つめ返し、口を開いた。
「〈子ども〉――わが子≠諱Bこの詩はね、子を授かった喜びを歌った、名もない父親
の生命への讃歌なのよ」
 それを聞いたとたん、刺されたような鋭い痛みとともに熱いものが胸の底にこみあげ、
イアルは思わず奥歯を噛み締めた。
 つかのま、エサルはイアルを見つめていたが、今度は、現在の平易なリョザ語でその詩
を朗読した。そして、締めくくりにもう一度、原文の最後の一節を吟じてくれた。
 三百年有余の時を越え、いまふたたび音に還されたその詩の、わが子を待望する父のほ
とばしるような歓喜の叫びが、イアルの鼓膜を力強く打ちふるわせた。
 吟じおえると、エサルは詩集を閉じて炉の端におき、はずした老眼鏡をその脇においた。
 「ジェがこの詩を後世に遺そうとした気持ちが、よくわかるのよ。
 わたしもずいぶんたくさんの古詩を学んだけれど、これほど深いわが子への愛情を歌っ
たものをほかに知らないわ」
 そして、ふっと、ここではないどこかを見ているような、遠い目をした。
「身分も地位も、教養も、財のあるなしも関係ない。――人が生まれ、ぬまでのあいだ
に、己の身ひとつだけで果たしうるのは、愛する相手と身体を結んで子を生すことだけ。
それだけがたったひとつ、あらゆる生き物に分け隔てなく与えられた能力なのだから。
 だからこそ、子は希望であり、夢であり、未来であり、幸福の象徴でありつづけねばな
らない。子というものは、その親にとってだけではなく、生きとし生ける人間誰しもにと
って、かけがえのない宝物ですもの」
 ひと呼吸おくと最後に、エサルは、つぶやくように言った。
「――国の礎は真王の神聖さなどにではなく、民人一人一人の生命の営みこそにあるのだ
と、彼女は骨の髄まで感じていたのでしょうね……」
 じりじりと、目頭が熱を帯びてくるのを、イアルは感じた。
 視界の中の文字がぼんやりとにじみ、頁を押さえている指先すら、やがて見えなくなっ
た。
「ジェシ……。男の子にも女の子にも合う響きね。――いい名前だと思うわ」
 こらえていた嗚咽が、喉の奥からかすかに漏れた。
 エサルは、小刻みにふるえているイアルの肩にそっと手をおき、低い声でささやいた。
「自分を赦すことは、他人を赦すよりも、あなたにははるかに難しいことでしょうけれど
……。
 でもね、赦しておあげなさい。そして、あの子と二人――いえ、三人でどうか、幸せに
なってちょうだい」
 イアルは、静かにうなずいた。

225 :
 カリサの手伝いを終えてもどってきたエリンとともに、イアルは教導師長室をあとにし
た。
 寮の部屋へとつづく廊下を歩きながら、水仕事で冷えたエリンの手をとり、いたわるよ
うにそっと包むと、妻はイアルを見上げ、思い出したように口を開いた。
「王都はそろそろ、龕灯祭りよね」
「ああ。今年はヤントクを手伝えなかったが、腕のいいのが連に入ってきてたはずだ。奴
なら大丈夫だろう」
 晴れやかな夫の横顔を見上げ、エリンは片手で、慈しむように腹をさすった。
「いつか、この子にも見せたいね。〈お祓い葉〉を買って、あのお餅と飲み物をいただい
て……。三階のお座敷は、ちょっと無理かもしれないけど」
 エリンはそう言うと、ちらっと舌を出して、いたずらっぽく笑った。
 イアルの瞼の裏につかのま、流れる赤い光の河が浮かんだ。それを見下ろしたときの、
甘ずっぱいような、物哀しいような感情も……。
 すっと息をすい、イアルは口を開いた。
「そうだな。チビすけを肩車して、龕灯行列について街を練り歩いてもいい。
 それまで、大事にしろよ、その上衣」
 一瞬大きく目を見開き、はにかみながらうなずく妻を見つめ、心の中でつぶやく。
(今度はおれがちゃんと、三人分の〈お祓い葉〉を買わなくちゃな……)
 つないでいたエリンの手がふいに離れ、後ろをふり向くと、妻は立ちどまって、イアル
をじっと見つめた。
「……ねえ」
 妻は、両手で上衣の襟の合わせのあたりをつまみ、小首をかしげた。
 その何気ない仕草が思いがけぬほど艶めいて見え、イアルは目を瞬かせた。
「……なんだ?」
 エリンが、ためらいがちに問いかけてきた。
「この上衣の色、ほんとうはどう思ってるの? ……やっぱりちょっと派手……だったかな
?」
 イアルは、くすりと笑って眉をあげた。
「そういえば、まだ答えてなかったな。――聞きたいか?」
 微笑んで見つめながら問いを返すと、エリンは一瞬だけ思案顔をしたが、すぐに笑みを
返し、
「……ううん、いいわ」
と首をふった。
 イアルは、妻に真っすぐに向き直って大きく一歩近づくと、その顔にそっと手を伸ばし
た。
 すべらかな頬の感触を楽しんだ指先が耳たぶに届くと、そこはたちまちカッと熱を帯び
る。こんなときの妻の花恥ずかしさは、あれから一年という時を経たいまでも、すこしも
変わることがない。
「あの……ね、あなた。……その……そういうことは、部屋に入ってから……」
 目をそらし、消え入るような声でつぶやく妻の耳もとに口を寄せ、イアルはささやいた。
「もう充分我慢したさ」
「え……!」
 驚いて目を丸くしたエリンは、けれど次の瞬間、かすかに鼻を鳴らし、ゆっくりと睫毛
を伏せた。
 近づく秋を感じさせるひんやりと乾いた夜気から互いを守るように、二人はそのまま長
いこと、抱擁を交わし合っていた。

226 :
以上です。
では、またいつか。

227 :
...と、思ったのに。
超巨大な推敲ミスが見つかった orz...
鬱だのう...

228 :
GJ!!!!
語源に独自の解釈があるけど、じんわりといい話になってる。
イアルさんもエリンも皆に愛されてるな
>>227
どこのことかは分からないけど、まあ、イ`

229 :
>>227
差し支えなければ修正版とか期待してるのでヨロ (^-^)/

230 :
GJすぎる!!!
このスレ、レベルたけーなww

231 :
アニメ終わって一年か…

232 :
再放送とかないんかね
ハイビジョンでみたい

233 :
守人はともかく、奏者の方は時間差と特番と総集編が
同時期に集中してただけだから
そろそろという気もするんだけどな・・再放送。

234 :
藻前らまとめてアニメスレ池
構ってもらえるぞ

235 :
アッソヨン書いた方いません?
イアエリ級に禁断の恋ですよねー
てか、どこでエリン作ったんだろ?
おそらくじいちゃんの発言からしてできちゃった婚だよね?
手当てしてる最中に洞窟とかで事に及んだのか!?

236 :
>>235
さすがに数回の逢瀬を経てくらいだと思うけど。>営み
もしくは、出会って何日かつきっきりで手当てしてて、アッソンが帰れるまで
回復していざお別れって時にそうなっちゃったのかな。
まあ、アウトドアでしたといえば、したのかも。
もしも、妊娠してなかったら別れてたかも、となると、少なくとも妊娠発覚
するまでは、最低でも交合後半月程度は会っていたことになるんだね。

ソヨンは、原作では、あとで出てくる日誌以外での内面の描写が殆どないので、
どうもいまだにキャラがつかみきれない。
アニメでは、ソヨン自身、霧の民よりはアケ村の方がなんぼかマシと思っていた
という印象がある。
戒律がうざかったのか、よほどナソンが嫌だった(結構な歳の差婚だし)のか...
とにかくナソンと愛を育む気だけは皆無だったという感じだけどな。

237 :
自己レス。
>最低でも交合後半月程度は会っていた
妊娠がわかって、「責任とってよ」ってソヨンがアッソンに押しかける
ってのは、ちょっと考えにくいのでw
もしくは、霧の民の住処? にもどってから妊娠がわかって、ほとんど追放
同然でアケ村に来るか。
霧の民の閉鎖性については、知人ともちょっと話したことがあるんだけど、
レゾンデートルからしてよくわからない。
ソヨンが一時の過ちを悔いて私生児抱えてもどりたいと言ったら迎え
入れてくれるような寛容な集団ではなくて、厳格な血統主義なんだろうな
と、とりあえずは思っているんだけど、むしろソヨンのほうがもどりたく
なかっただけなんだろうか。

238 :
>>236
ナソン哀れ

239 :
霧の民は謎。
完結編でも、最後までどういう思想を持つ民族か、判然としなかった
ソヨンの考えていたらしきことも、霧の民の思想なのか、霧の民に反発した
ソヨンの思想なのか分からなかったし。
どう考えても効率悪いやり方しかしてないし(霧の民)。
じいちゃんの「身篭っておらねば」発言は、アッソン亡時のことじゃないかな
エリンが生まれる前にアッソンがんだから、腹に子供がいなければ追い返したのに、みたいな。
アニメを最初に見たので、「この薄幸そうなお母さん、このアケ村より霧の民の方が嫌だったんだな…」
と、自分も普通に思ってた。
でも、見直してみると決定的な台詞は言ってなかった。
ソヨンのに方についても、霧の民は哀れんでんのか、秘密を漏らしたことを大罪と怒ってんのか
いまいちはっきりしないよね、ソヨンのお母さんも。
それはそれとして、アッソヨンいいな

240 :
アッソヨンいいな
ところで
完結編てイアルは10日休暇もらったけど
カザルムには3日しかいなかったんだね
今更だけど…。
それでもエリンが長い休みって言ってるって
どないなっとるorz
一年に一度の休暇はそれより短かったのか…?
この夫婦はどんだけ短時間で愛を育まなければならなかったんだ…
と、思ったがうなじに触ったときにエリンが驚いたってことはこの二人セックスレスだったのかな?


241 :
>>240
>それでもエリンが長い休みって
そーなのよ。かわいそうだよね、二人とも、男盛り女盛りなのにさ。
でも賞味十日の休暇(延べ16日?)っていうとさすがに長いかなとも思うし。
多分、イアルさんは、それ以前の休暇は、取ろうと思えば取れたんだと思う。
ただ、来るべき日に後悔しないようにするには、休暇を惜しんで鬪蛇の改良に
全力をそそぐしかなかったんだろうな。
なのに結果としてああなっちゃったのが、ほんとうに皮肉で気の毒すぐる。orz...

242 :
賞味十日は片道3日の旅程込みだと解釈した。
「長い」といっているのは、この程度の軽い怪我の療養として与えられるには、って意味だとも思う。
年に一回帰ってくる休暇も(勤務場所からの距離によって滞在可能期間は変わってくるだろうけれど)同じくらいあったと思います。
ただし、ジェシの入舎式だけはそうとう遠いところから来たらしいので、もしかしたら一泊で帰っちゃったかもね。

243 :
ごめんなさい。ミスった。
「賞味十日は」→「賞味十日ではなく述べ十日で」

244 :
うなじに触れられて驚いたのは「こんな場所で!?」だったからかと。
でも、家だとたとえジェシが寮にいてくれていても見張りの兵士がいるので、声をして、になっちゃうし、
ここなら、、とすぐに思い当って、腕をのばしたんじゃないのかな、、。
まあ、会えばやってたと思うのでレスとは言わないんだろうけれど、一年に一回しか会えなければ実質レスっちゃそうかもね、、。

245 :
でもさ
王獣舎いってそのまま朝帰りってことで
兵士の方々はなんとなく
エッチしたんだろうって
分かっちゃうよねw
ふとん一つしかないわけだしw

246 :
>>245
ヲトナは黙ってスルーでしょw
自分らだって休暇で家に帰れば妻と...ねえ。
イアエリにとってここが家なんだからしょうがない。
むしろ衆人環視で気の毒だと思ってるだろうよ。

...しかし、p.220で若い兵士が赤面したのは...?
と、ちょっと想像すると面白いけどねwww

247 :
今更だけど、ちょうどネタになっているので。
完結編で、イアルさんが王獣舎へ行った後の兵士の会話。
兵士A「あ〜、オガルうまかった。」
兵士B「旦那さん、戻ってこねえなぁ。あっ、そろそろ見回りの時間じゃねえか。」
兵士A「おう、ちょっくら行ってくるわ。」
兵士A「あれ、王獣舎の方から、何か聞こえるぞ。
    王獣が旦那さん見て、興奮して暴れてんのかなぁ。」
兵士A「・・・ち、違う!エリンさんの声だ・・・・」
兵士A「早く立ち去らなきゃ・・・あ、足が動かない!?」
兵士A「すげぇ・・・・・・・・」
兵士B「どうした、遅かったな?」
兵士A「・・・・・・・・・・・」
失礼いたしました。

248 :
4月から再放送か

249 :
エリンもいいけど守り人再放送してほしいな〜
久しぶりに蒼路読んでチャグムにキュンキュンしたところだから

250 :
>>248
まじか
wktk

251 :
3月28日(月) 19:25〜 NHKで再放送
貴重なゴールデンアニメだなw

252 :
ゅしほ

253 :
1冊前のスレで続きはサイトで読むってSSあったじゃないですか?
そのサイトのユーザー名とパス忘れたからどなたか教えて

254 :
>>253
サイトまでたどり着いてるんだったらフォームで問い合わせすれば?
ここに書き込むのはどうかと。

255 :
基本認証しないと
フォームにもたどり着けないんですよね…

256 :
>>255
フォームはサイト主のブログの方にあるよ
ページの上端のリンクから

257 :
どうでもいいけどサイトでエロみられんのが嫌なら最初からこっちに
投下すりゃいいのにな

258 :
パスワード制は子供とうるさいPTAよけだし
スレ容量を埋め尽くすほどの長編は別所に落として誘導が板マナーだし
その後の普通の長さのSSはこっちに落としに来てたし
別に普通だと思う


259 :
2で個人サイトの晒しは感心しない

260 :
では空気も需要も読まずに投下します。
ヨハル×クリウです。
原作では記述が少ないので色々と独自設定を入れてます。苦手な方は、スルーでお願いします。
イミィルは円柱の神殿があるということで、古いシルクロードの都市、パルミラを参考にしました。
古代ローマとペルシアの均衡の上に乗って自立を保ってた都市です。
そのほかの習俗もシルクロード方面のものを参考にしました。
完結編でロランが「二十年以上も前の話」と語ったあの出来事から始まります。
そのときヨハルはイミィルに黒鎧として赴任していたわけで、クリウは現役示道者だったわけで、
ふたりはその頃どうだったんだ?! と妄想していたものの、探求編・完結編が出た頃は力量が足りなくて
手が出せず。
いまならちょっと書けるかな、と試しに書いてみました。
多分ふたりとも四十代前半くらい(?)なんですけど、ヨハルから見たクリウは、いま女盛りってイメージです。

青い鳥文庫探求編発売を祝して。
武本糸絵さんのキャラデザと挿絵が超楽しみです!!
特にクリウは、六十超えてるのに美人で口ひげのように見える刺青があってでも美人で…と難しい要素
てんこ盛りですが、どう表現してくれるのかwktk

1と2をなるべく続けて投下します。
1は非エロ、かつ自サイトにいったん上げたものの再掲になりますが、
前置きがないとその後の話も色々困るのでご了承ください。
1は4レスです。

261 :
夕暮れの中で、その子を抱き上げたとき、遠い昔に亡くした息子が、時を越えて
この腕の中に戻ってきたような錯覚を覚えた。肌の色も、目の色さえ違って、
似ているのは年の頃だけだというのに。
あの子はたったの九つで、この世から去った。
まさかあんな流行り病で、あっけなく逝ってしまうとは思わなかったわたしは、
仕事にかまけ、あの子のに目にすら、会えなかった。
──おとうさん、くるしい。
──おとうさん、たすけて。
苦しむその手すら、取ってやれなかった。
そのときからずっと、私の心の中で、息子は九つの姿のままで泣き続けていたのだ。
その子はまるで心の中の息子がいつもそうしているように、神殿の奥まった隅のほうで、
身体を丸めて泣いていた。 
「誰だ? そこにいるのは。子供か?」
振り返ったその顔は、涙と泥でぐしゃぐしゃだった。
軽いその身体を抱き上げると、必でしがみついてきた。
「少年、おまえの連れは?」
そう訊くと、ぶんぶんと首を横に振った。
「……んだのか。」
今度は一度だけ、だがはっきりと、首を縦に振った。
抱き上げたまま広場へ向かおうと神殿から出る途中で、少年は円柱の一つを指差して、
こう言った。
「…おじいちゃん。」
見ると、その円柱の下にもひとつ、倒れている体があった。
「──そうか。」
そこに限らず、街中に、体が溢れていた。
街のいたるところに、灰と焼け跡のにおい、焦げた肉のにおいと、そして血のにおいが
立ちこめていた。
それでも、広場に行けば、今日は誰でも、食べ物にありつける筈だった。
この子にはひとまず、何か食べるものと、それから毛布が必要だ。まもなく、日が暮れる。
「……すまなかった。」
それは、その子に言ったのか、それとも、あてもなく誰かに言ったのか。
「イミィルを護っていたのは、わたしだ。おまえの祖父を護りきれなかったのも、わたしだ。」
その日は、わたしがイミィルに赴任してきてから、最も多くの血が流された日だった。
誰に言っても、仕方のないことだった。だから、小さなこの子に言ったのかもしれない。
「わたしは、ヨハル。おまえの名は?」
その子は、か細い声で答えた。
「…ロラン。」

262 :

     ※    ※    ※   
草原の隊商都市であるイミィルは、年に数回、その神殿の神を祭るための盛大な祭りを催す。
祭りにあわせて市が立ち、祭りに参加するもの、祭りを見に来るものだけでなく、行商人や
仲介商人も集まり、この街を賑やかで雑多な色に彩っていた。
多様な肌の色、瞳の色、髪を持つ人々がいて、みなこのイミィルの豊かさを享受するために
やってきた。
前日祭、後日祭を含めて幾日も続くイミィルの祭りに、旅芸人や踊り子が花を添え、商人達が
遠い異国からもたらす珍品や逸品の数々に人々は目を見張る。
特に、美しい音を好むといわれるイミィルの神に、音楽や楽器を捧げるため、たくさんの楽師が
この街を訪れ、大通りのそこここで美しい音を奏でては人垣を作っていた。
たくさんの屋台も軒を連ね、異国の酒、異国の料理が人々を魅了した。
だが、そうして人々がごった返すのも、日没までだ。
日没になれば、草原に面した東門、河に面した橋の門はともに閉じられ、宿泊証のないものは
街の内側に留まることはできない。そして周壁の内側に残った者も、門の外の者も、多くは
野営をして過ごす。
昼には灼けつくような日差しが容赦なく降り注ぐこの街も、陽が落ちると日中の日差しが
嘘のように冷え込んでしまう。
人々は、夜露を避けるように幕屋に入り、焚き火をして歌を歌いながら過ごす。
その夜も、イミィルの大通りで、広場で、あるいは周壁の外で、たくさんの人々が歌いながら
過ごしていた。
平和な、光景だった。
だが、そのとき、毒はすでにひそんでいたのだ。平和に歌う人々の中に。

古い歴史を持ち、草原の中にあって富と人が集積するこのイミィルは、何度も侵略と略奪の危機に
さらされて来た。だが、イミィルが独自に持ちうる軍事力には、限りがある。
だから、イミィルをはじめとする隊商都市はみな、草原を支配する大きな国を頼り、護ってもらう
ことでその存在を保ってきた。
いまは、リョザがその役目を負っている。わたしも黒鎧として、リョザの闘蛇軍と騎馬軍を統括する
責任者として、一年余り前にこの地に赴任した。
わたしの使命は、この街を敵から護ること、そして、この一帯の交通の要衝でもあるこの街と、
良好な関係を保つこと。
リョザの東に広がる草原地帯はあまりにも広く、そこには様々な部族がそれぞれの権利を主張
しながら互いに争っていた。
だが、わたしたちには闘蛇軍がある。
いかに草原の民が騎馬の扱いに長けていようと、騎馬では闘蛇に敵いはしない。
──そう思うが故の、慢心があったのだろうか。
それとも、異国の香りの溢れる祭りの雰囲気に、浮かれてでもいたのだろうか。
どれだけ後悔しても、戦によって失われたものは、二度と戻りはしないのだが。

263 :

はじまりは、西の空が、わずかに明るくなったことだった。
夕日が少し戻ってきたようなその空の明るさは、見る間に禍々しく、大きく膨れ上がり、立ち上る炎さえ、
見えるようになった。
敵襲だった。
このあたりの部族は遊牧民がほとんどで、騎馬での戦に自信と誇りを持っている。
当然、われわれは草原に面した東門の警戒は強めていたのだが、このとき彼らは騎馬での戦法を捨て、
夜の闇に紛れて河をくだり、橋の門からこの街に侵入した。
あとで分かったことだが、彼らの先兵は、強奪したか、偽造した宿泊証を持ち、祭りの人ごみの中に
紛れてイミィルの街の内部に入り込んでいた。
そしておそらくは、薬を盛り──橋の門の警護に当たっていた兵士を、すべて害した。
侵入者たちは、騎馬での侵入はあきらめたが、無策なわけではなかった。
手当たり次第に燃えるものに火をつけ、野営の幕屋を破壊し、人々を剣で追い立て、混乱する人の波
を作り出した。
イミィルの街は、混迷を極めた。
大通りは逃げ惑う人々でごった返し、巻き上がる砂塵と、荒れ狂う人の波に、馬もまた平静さを失った。
侵入者達は破壊と戮を繰り返しながら、われわれの強みである闘蛇のみならず騎馬も封じて見せた。
だが、幸い──彼らは、おそらく最大の目的であったはずの、クリウの確保には失敗した。
この街に奇襲をかける敵の目的は、大体において示道者なのだと、クリウは取り乱した風もなく
言った。そのため、示道者のための公邸には、隠し部屋や抜け道などの仕掛けが昔から数限りなく
作られてきたのだと。
そのうちのひとつを使って、今回クリウはからくも脱出し、リョザの軍隊の保護下に入った。
そして結局はそれが、勝敗を決した。
彼らはクリウを捕らえ損ねたことで、押さえるべき拠点を見失った。
いかに奇策を講じようと、闇に紛れた侵入者よりもわが軍のほうが、数の上で勝る。
人の波と火の手さえ落ち着かせてしまえば、所詮はわが軍の敵ではなかった。
決着は、夜明け前についた。

     ※    ※    ※   
「──それにしても、驚いたわ。いきなり子供を連れてきて、預かって欲しいなんて」
クリウは長椅子に腰掛け、柔らかな声でそういった。
「突然、無理を言って、済まなかった。」
ロランという少年に出会ったあと、食事にありつくため広場まで行ったのだが、つく頃には、
彼はわたしに抱き上げられたまま、寝息を立てていた。よほど疲れていたのだろう、呼んでも
揺すっても起きないので、わたしはロランの為に今夜の宿を探してやることにした。
誰かに託し、広場に置いて去ることもできたはずだが、身寄りのない子供をひとり置いて去るには、
イミィルの夜空は冷たすぎた。そして、イミィルでわたしが暮らしている兵舎もまた、子供のいる
ところではなく、あの子は少しでも温かみのある場所に、置いてやりたかった。
わたしがあの子を連れてきたとき、クリウは人に囲まれて指示を出している最中だった。それでも
わたしの頼みを聞き入れ、あの子を客人として遇するよう手配してくれた。
「闘蛇軍の黒鎧のヨハルではなく、わたくしの友人としての頼みなら、断れないわね。」
戦で孤児になったのはあの子だけではない。それは分かっている。
だが、何か不思議な縁のようなものを感じて、あの子の手を離すことは、なぜかできなかったのだ。

264 :

「クリウ殿──ひとはなぜ、争うのだろうな」
クリウはふっと笑んだ。
「武人らしからぬ問いね」
そう言われることも、分かっていた。それでもいま、問わずにはいられなかった。
昨日のこの街は活気に溢れ、人々はみな歌っていた。
だが今日のこの街は、敵と、味方と、ただの市民や旅人たちが、物言わぬ屍となって、風に吹かれていた。
「人を傷つけ、財を損ない、自らの命さえ、失って──彼らは、なにを求めてそこまでするのだろう?
争うたびに、双方が失ってゆくだけではないのか。」
生き残った者達も、あのロランという少年のように、多くのものを失ってゆくだけではないのか。
「あなたは…
あなたの領土がもし充分に広ければ、あなたの領民に、戦を禁じたりなさる?
戦を、穢れであるとして」
わたしは首を振った。
「それでは戦は、無くならぬ。
あなたはわたしの心がそれと対極にあることを知っているはずなのに、なぜそんなことを問うのか」
「そうね……、まるで、いまのあなたは、それを求めているように、見えたから。」
彼女はわたしをじっと見て、それから口を開いた。
「いまここで、わたしたちと彼らが戦になにを見ているかを、論じることもできる。
でも、おそらく、あなたに必要なのは、休養。
昨日から、寝ていないのでしょう?」
その言葉で、やっとわたしは、もう立ち上がるのも億劫なほど自分が疲れていることを知った。
彼女の言うとおり、昨日から寝ていないだけでなく、ほとんど腰を落ち着けることもなかった。
戦とは、そういうものだ。
「少し、休むといいわ。
戦はもう、終わったのだから。あなたのおかげでね。」
クリウの声は不思議だ。
聴衆の前に立って演説するときは、朗々と草原の彼方まで響いてゆくような力強い声なのに、
こうして囁くようにかけられるときは、心の奥まで沁みとおるようだ。
「あなたは、よくやった。
昨日のあなたは、常に冷静で、敵の陽動に惑わされず、大局を見誤らない、よい将だったわ。
あなたは、わたしと、わたし達の同胞の、たくさんの命を救った。」
彼女は立ち上がり、疲れているのなら休んでいくといい、部屋を用意させるから、と言った。
そしてゆったりとした衣をたなびかせながら私の横を通り過ぎ、一瞬だけ、ほんの一瞬だけ、
わたしの髪を撫ぜた。
「あとはわたしと、周りの者に任せるといいわ。
草原の草はね、何度馬の蹄に踏まれても、立ち上がる力を持っているものよ。」
この隊商都市イミィルの、示道者たるクリウ。
その唇のうえに刻まれた古い文字は、示道者の言葉に力を与えるまじないだという。
だからだろうか、彼女が言葉を発すれば、そのとおりに世界が定まっていくような気がするときがある。
緊張が解けて疲労感と眠気に襲われている自分に苦笑しながら、彼女の姿が広間に消えて
ゆくのを見送った。


           ――続く――

265 :
続いてヨハル×クリウ2です。
ヨハル、クリウともに現状配偶者なし、という設定になってます。
ヨハルは肌の色の違う子供を、「息子がんだのと同じ年だった」というだけで拾ってきちゃうので、
既に次の子供がまず望めない状態だったと推測。
探求編では奥様とっくにお亡くなりな状態なので、この頃にはもう亡くなっていたという設定。
クリウは、イミィルが闘蛇軍を常駐させても侵攻されるような攻防の激しい都市であるので、
示道者と妻を両立できる気が全くしなくて、「女性示道者は独身か寡婦に限る」という設定にしました。
でも多分主に男性がやっているのでしょうけど。
はじめに探求編を読んだときは結婚歴ありかなと思ったのですが、示道者を「甥に譲って」いるので
結婚歴の必要はありませんでしたね。
という感じで他にもオリジナル設定ありますので、苦手な方はスルーでお願いします。
以下6レスです。

266 :
──見て。これが、イミィルで最も価値のある宝よ。
クリウはいつも、執務室の天井までを埋め尽くす書棚を前に、誇らしげに言う。
イミィルを繁栄させているのは、先人達が集積した知恵と知識。人の流れを読み、天候の流れを読み、
各国の政治の流れを読むための経験が、歴代の示道者によって記され、書物として蓄積されてきた。
そしてその他にも、示道者たる者が修めておくべき膨大な知識と論理もまた、そこにある書物に
よっているのだという。
イミィルの示道者というのは、記録を読みこなし、歴史を我が物としてこの街の未来を語る、
知恵の結晶のような存在だ。
歴代の示道者たちもまた、その蔵書をイミィルの宝として大切に次代に伝えてきた。
だが、わたしはクリウとは少し違う感想を持っている。
人が信じるのは、その目に見えるものだ。
イミィルに住む者、商いのためにやってくる者、この街に立ち寄る旅人は、書物など
目にするはずもない。
彼らの目に映るのは、白の街と呼ばれるこの街の美しいたたずまいと、示道者として
民の前で語る、クリウの姿だ。
彼らにとってイミィルの知恵とは、それを語るクリウその人だ。
彼らはクリウの知恵を信じ、語る言葉を信じ、クリウの手腕を讃えているのだ。
クリウはここ数代の示道者のなかでも傑出した人物と言われている。
五つの言葉を自在に操り、まるで予言と言われるほどの先読みを行う。
彼女の言葉を聞いてから取引を決めようとする商人たちも多くいて、彼らは必ず
イミィルに立ち寄り、ためにこの街は常にたくさんの人と交易品で溢れかえっていた。

そんな彼女にとって、わたしの言葉の端々に潜む、真王への反感を読み取ることは、
そう難しくはなかったのだろうと思う。
ただ、所詮は辺境の小さな街の政治家に過ぎない、と彼女を侮っていたわたしにとっては、
いきなり心ノ臓を掴まれたような衝撃だった。
それはわたしがこの街に赴任していくらもたたないころだった。
「…ヨハル殿はまるで、リョザの国の王を憎んでいらっしゃるかのようね?」
ふとした会話の折、クリウはだしぬけにそう聞いた。
会話しているのは二人だけだったとはいえ、周囲にはたくさんの下働きの者達が働いていて、
そのうちの誰が耳をそばだてているかもわからないのに、クリウはあっさりと、リョザで最も
神聖とされている存在に対して、憎む、という表現を使った。
「……そう、だろうか?」
わたしは動揺を隠すように、つとめて平静に答えた。
「ええ、あなたの国には、そういう思想を持つ組織もあるそうですわね。名前は、たしか、
『血と穢れ』」
平静を保って、軽く笑ってやり過ごそうとした。が、あまりにも突然に核心を突かれて、
顔は強張り、いっとき言葉に詰まった。
クリウの瞳には、はっきりとした確信が満ちていて、こゆるぎもせずにわたしを見ていた。
いつ訊かれてしまうか分からないこんな場所で、重大な秘密に触れられてしまったわたしは、
自身の迂闊さを呪った。
大公領では、真王への反感を口にしたとしても、いちいち指摘されるようなことはない。
それは、多かれ少なかれ、大公領に暮らすすべての民が心の底に持っている感情だからだ。
いっぽうで、大公城に上がれば、何事も悟られないように口をつぐむ。
それだけで、いままでは大公殿下の目からも真王からも簡単に隠しおおせることができた。
他の保護領下の都市では、それほどリョザの内情に詳しい者がそもそもいない。
だが、ここはイミィルだ。リョザに程近く、近隣諸国の事情に精通する示道者がいて、
しかもクリウは非常に勘の鋭い女性のようだ。
もっと、注意深くあるべきだった。自分の置かれた状況というものに。少なくとも彼女の前では、
もっと口をつぐんでおくべきだったのだ。

267 :

大公殿下は、どれほどこの国のために血を流して戦っていようとも、ご自身が真王殿下の
臣下であるという姿勢を崩しておらず、『血と穢れ』の理想もまた受け入れては下さらない。
わたし達の理想は、真王を排除し、この国を支えているまことの王、大公殿下を擁すること
であるのに。
大公殿下は、『血と穢れ』の構成員は、見つけ次第捕らえて処刑すると宣言なさっている。
もしもクリウが確信を持ってわたしを大公殿下にしたなら、わたしは捕らえられるだろう。
その場合には、証拠は処分される手はずになってはいるが、ほんのわずかでも何かが見つかれば、
致命的にまずいことになる。なにしろ、いまはわたしが、『血と穢れ』の首領を務めているのだから。
してもしなくても、彼女はいま、わたしの最大の弱みを握ったのだ。
「そんなに難しい顔を、なさらないで。」
クリウは少し困ったように肩をすくめて、柔らかく笑んだ。
「あなたの秘密を暴いても、わたしやイミィルに何の益もないわ。
…ただ、訊いてみただけなの。」
彼女はわたしの心を見透かしたように言った。
「訊いて、みただけ?」
「そう。言うなれば、好奇心ね。」
彼女は少しいたずらっぽい顔をした。それはいつもの理知的な示道者の顔ではなく、少女のように
若々しく輝いた魅力的な表情だった。
「あなたに興味があると、いうことよ。」
わたしがクリウという人物を本当に知りたいと思ったのは、このときからだ。

クリウはそのときから今に至るまで、『血と穢れ』の思想について、是非を述べたことはない。
かわりに、次に会ったとき、ひとりの男の話をしてくれた。
ある国に、王がいた。
戦をして国を広げ、街道を整備し、運河を掘り、壮麗な城を建てた。
彼は国のために働いた。だが、戦はいたずらに人の命を奪い、戦費を消費した。
大規模な土木工事は動員された民を苦しめ、疫病や過労で命を落とすものが相次いだ。
次第に国は傾き、怨嗟の声が満ち始める。幾人もの予言者が、国の崩壊を予言した。
王は、国を立て直すどころか、むしろ目も耳も塞い城に篭り、酒色に溺れ始めた。
怨嗟の声はいくつもの反乱軍を生み、王権を脅かし始めた。王は、ますます民の声を聞くことを
拒み、扉を閉ざして城の奥深くに篭った。
男は、王の傍にいた。常に王の影にいて、王を助けた。
男は国を憂い、何度も王を諌めた。民をいたわり、国を助けて欲しいと。
だが王がますます耳を塞ぎ、諫言した者から処刑するまでになると、男は絶望した。
深い絶望のままにひそかに同調者を募り、手勢を集め──反乱軍が四方から都を取り囲む中、
ついに王を捕らえ、その手で弑した。
男は国を救った英雄として、讃えられただろうか?
数日後、城を落とした反乱軍に、男は捕らえられ、反逆者として処刑された。
国家において、──たとえどれだけ国が乱れていようとも、弑逆は厳然として、重罪だった。
男は、王しの罪を負い、容赦なく断罪された。


268 :

クリウはそのあとも、いくつかの歴史の話をした。
このリョザの前にあった国、遠い異国、草原と砂漠の中に点在する隊商都市。
彼女は大小さまざまな国の歴史を驚くほどよく知っていた。
主君の暴虐ぶりに耐えかね、してその座を得ようとした臣下は、わずか数日でその主君を信奉する
別の臣下に討たれた。
権力を握り、王の首をすげ替えるために毒を行った奸臣は、まもなく他の者に追い落とされた。
どの国のどの話でも、弑逆によって権力を得た者たちは、その権力を長く保つことができなかった。
どれほど高い理想の元でも、またどれほど周到な用意の元でも。
そのまま王座に別の力あるものがつかなければ、国は乱れた。
リョザの前の王朝もまた、王族同士の権力争いの果てにし合い、互いに疲弊し、大きく国を乱す
ことになったのだった。
いくつかの過去の話が終わったとき、クリウの言わんとするところが見えてきた。
「これが──あなたの世界の読み方なのか」
わたしは問うた。
「過去の歴史に学び、未来を読む──いまの話が、わたしに対する、あなたの予言か?」
クリウはその顔に、どこか嬉しげな笑みを浮かべた。
「わたくしは、イミィルの、クリウ。イミィルの未来については語るけれど……、
あなたの国のことは、ご自身で、お考えになることだわ。」
知りたい。それは不意に湧き上がった、渇望だった。
クリウという女を知りたい。彼女の見ている世界を知りたい。
彼女がリョザをどう見ているのか。リョザという国のあり方をどう見ているのか。
彼女の目に映るリョザの未来とはどういうものなのか。
そして、この国とこのイミィルに関わるわたしのことを、『血と穢れ』の思想を、どう思っているのか。

     ※    ※    ※   
──された、された。そして奪われた。命より、大切なものを。
祖先の、記憶を。
わたしの曽祖父は、八歳のときに父親を真王にされた。
少なくとも、彼はかたくそう信じていた。
もう少し大人になれば彼が伝えてもらったはずの、わたし達の祖先の残した記憶は、永遠に聞くことが
できないまま、闇の中へ滑り落ちてしまった。曽祖父の命と共に。
その暗い恨みが、『血と穢れ』を創った。
そして、報復として、した。
そのときの真王はからくも逃したが、その跡継ぎを。
真王は、その際の怪我がもとで、数年後に没した。
真王位は、五歳の孫姫が継ぐことになった。
おそらくは、彼女らの伝えてきた記憶もまた、奪ったはずだった。
だが、復讐の炎はそれだけでは治まらなかった。この国を護るための戦いに、親も、兄弟も、
自分自身の命さえ捧げながら、真王領の人間にはワジャクとして蔑まれる大公領の幾多の人々。
彼らの嘆きや悲しみも、既にこの国に満ちているのだ。
もう、清らかさなどたくさんだ。
清らかさなど、国を護るのになんの役に立とう。
どれほど清らかであろうと、いや、それがゆえに、この国は絶えず他国から狙われなければならないのだ。
この国を護っているのは、戦に命を捧げる我々大公領の民だ。
ホロンの連中は、我らに護られてぬくぬくと暮らしながら、なにゆえ我らを蔑むのか。
我らとて、好きこのんで戦を求めているわけではない。
この国を保つためには、異国の侵攻を阻むために戦うものたちが必要なのだ。
いつか、それを思い知らせてやりたい。
我らに護られながらも、その恩を省みることのないホロンの者たちと、それを統べる、空虚な真王に。

269 :

人々の憎しみが、『血と穢れ』に、真王を暗し、大公をこの国の王にするという新たな理想を
掲げさせたのだ。
曽祖父の作った組織を、その血筋によって、わたしも継いだ。
しかし──
リョザという国の枠に嵌って、その中でしか物事を考えられないようになると、見えるはずのものも、
見えなくなる。
わたしははじめて、クリウからそれを教えられた。
いままで辺境に赴任したことはあっても、そこはリョザの保護領としてしか、見ていなかった。
隊商都市にはそれぞれ独自の文化、考え方、歴史があり、その上で利害によってリョザの支配下に
入っているのだということを、彼女を通してはじめて知った。
クリウは、真王に対する信仰からも、完全に自由だった。
彼女の生観には、神々の安らぐ世(アフォン・アルマ)も地獄(ヒカラ)もありはしなかった。
ただ、人は人の中から生まれ、天と地の間で生き、ねば天に還る。
その中では、争いも、穢れも、違った意味を持つ。
天と地の間で、人も獣も、力の限り生きる──この広大な草原と砂漠のうえで。
そして、わたしが赴任したイミィルという街は、その草原と砂漠の中に生まれ、奇跡のように
輝く白の街だった。

     ※    ※    ※   
わたしは、クリウの話を聞くため、たびたび彼女の元を訪れるようになった。
彼女の語る世界は、いつでも不思議で魅力に満ちていた。
わたし自身も、何かを知りたくて自ら書物を紐解くようになった。
昼間は忙しく執務をこなす彼女に合わせて、訪問の時間はだんだんと遅くなっていき──
夜の訪問はどこか甘やかで、闇の中に揺らめく灯りは、女の肌を一層艶めいて見せた。
妻を亡くしてから、随分経っていたせいもあるのかもしれない。
あるいはあのとき、妻が存命だったら、わたし達の関係はまた違ったものになったのだろうか。
それほど不自由を感じていたつもりもないのに、クリウを見ていると、女の肌の温かみがひどく
懐かしく感じられた。
そして示道者であるクリウにも、夫はなかった。
イミィルでは女性も示道者になることができる。ただしそれは、独身か寡婦に限られるという話だった。
いつからか、彼女の語る話よりも、彼女の語る声、揺れる睫、よく動くつややかな唇に、心を奪われていた。
彼女と共に過ごす時間が待ち遠しくて、陽が翳るまでの時間がいつも長かった。
ある夜、本棚の前に立つクリウの後ろに寄り添って、震える声で、厳かに愛を告げた。
年甲斐もなく、心ノ臓が早鐘を打つのを、長い間聞いていたような気がした。
ぎこちなく伸ばしたわたしの手を、彼女は、拒まなかった。
後ろからその身体を抱きすくめると、ほっそりとした肢体は簡単にわたしの腕の中に納まった。
ゆったりとした衣に隠された肌は、ひどく官能的だ。
わたしはその肌に恭しく何度もくちづけを落とし、彼女への信心を示した。
「……愛している…」
どうか、どうか…と懇願を囁きながら、その肌に指を這わせた。
美しい、美しいクリウ。
まるでわたしは、長く草原と砂漠の大地を旅してきた旅人だ。
この渇きを癒せるのは、きみだけだ。
どうかわたしに、慈悲と、恵みを。

270 :

まじない文字の刻まれた唇から漏れる吐息とあえかな声は、魔術のようにわたしの心を絡め取った。
視線を合わせると、その深い色に吸い込まれるようだ。
誘われるままにくちづけると、彼女のほっそりとした腕が伸びてわたしの背に廻った。
息の止まりそうな至福感に満たされながら、わたしは彼女を抱いた。
クリウの身体は、わたしを翻弄するように、熱くしなやかに濡れていた。

     ※    ※    ※   
「……示道者は」
美しい声が、本の間に響く。
「この街以外のなにものにも、仕えてはならないということよ。イミィルでは、妻は夫に仕えるものだから」
互いに溶け合うような情事のあと、長椅子に身を起こしてクリウはみずからの立場をそう語った。
禁忌というよりは、戒め。自分を過信し、なにもかもを手に入れることができる、そう思い上がっては
ならないと、過去の女性示道者がみずからに課した独身の戒めを、それ以降に示道者となった女性達は
みな踏襲しているのだと。
「だからこれは……秘密」
そう言った彼女の表情は、見とれるほどに豊かに艶めいていた。
「秘密を守れるなら、次もあると?」
その肌を離してしまうのが惜しくて、包み込むように寄り添う。
「そうね…それは、あなた次第」
寄り添うわたしを押し返したりはせず、彼女はゆったりと身体をあずけてきた。
「美しく、知性豊かなきみには、秘密のお相手が他にもいるのでは?」
はじめて触れたクリウの身体は、甘く妖しく揺れて、まるで極上の遊姫のようだった。少なくとも、
碌に男を知らぬというわけではないだろう。
「──御想像に、お任せするわ。」
そして、そう応える言葉もしぐさも、男の扱いを知り尽くした女のそれだった。
「いまも?」
「…さあ、どうかしら?」
クリウは、不敵な目をして微笑った。
「きみは、男を誘うのがお上手だ。」
黒々とした感情が心の中に渦巻いて、その心のままに彼女をふたたび長椅子に引き倒した。首筋に、
肩に、胸元に、狂ったようにくちづけてその肌を味わう。胸のふくらみに手を伸ばしてその先端を
摘むと、クリウは声を上げて身をくねらせた。
「わたしのものだ…いまだけは」
こうして、この腕に抱いているときだけは。イミィルのものでなく、民のものでなく、ましてや他の
男のものでもない。
「……愛している、クリウ……」
わたしは激情のままに彼女を組み敷き、もう一度その身体を開いて責め立てた。
いつもひどく理知的な女が、高い声を放って乱れる姿は、この上もなく扇情的だ。
「もっと乱れてくれ…わたしで」
わたしは彼女の腰を掴み、奥へ奥へと欲望をぶつけた。
動かすたびに、媚肉が絡みつき、水音が響く。
限界は、ふたりほぼ同時におとずれた。

271 :

     ※    ※    ※   
イミィルに駐屯する闘蛇軍を統べるわたしと、イミィルの示道者であるクリウとの関係は、その後も
密やかに続いた。
示道者である彼女は、リョザの総督であるわたしと、良好な関係を築く義務を負っている。
あの夜、伸ばしたわたしの手を受け入れた彼女には、他の選択肢はなかったのではないか
──時折、そう思うこともある。
それでも──
彼女の心に、嘘があっても構わない。わたしを、受け入れてくれるのなら。
それほどに、わたしはクリウという女のすべてに、溺れていた。


           ――続く――

272 :
以上です。
一応続きますが、筆が遅い上にこの話は長くかかっているので、
忘れた頃にまた来ます。

273 :
書き忘れ
>>266の名前欄思い切りミスった…

274 :
あんま需要ないんじゃない・・・

275 :
アニメエリンのオリキャラ・ワダン×ソヨンを読んでみたい

276 :
>>1 のSS倉庫がなくなってた・・・・・orz
ひさびさに読み返したかったのに

277 :
>>276
>7嫁

278 :
>>277
おぉぅdクス

279 :
昔、天と地でチャグム×バルサを考えてみたことがあったなあ。

280 :
チャグム×セナがいい

281 :
チャグムは恋愛の上で妃を迎えたいかも知れんが即位しちゃったからには
現実的ではないな。外交的な意味でも相性的にもサルーナ姫がベストじゃないか

282 :
保守

283 :
保守ついでに
リランとエクのアナルセックス書いてくれないか?

284 :
リラン「ちょっと!どこに入れてるのよ!そこはお尻の穴よ!」
エク「え?ごめんごめんw間違えたわ」

285 :
バルサ×タンダキボンヌ

286 :
7のURLクリックしてもエラーなんですが
読めないんかな?

287 :
>>286
いや エラーなんか出ないけど?

288 :
ジョウン×エサルで

289 :
http://iup.2ch-library.com/i/i0443302-1318244081.jpg

290 :
保守

291 :
マルチポストスマソ。
12月らしいよ。
http://kitekesain.com/evtdisp.php?id=3797

292 :
バルサとタンダの濃いのが読みたいです

293 :
保守〜♪

294 :
あけおめさん

295 :
保守

296 :
エリンギ

297 :
ほしゅあげ

298 :
保守

299 :
バルサとチャグムの濃イイのが見たいです。
水車小屋の辺で、毛が生えてきたチャグムを筆おろし、みたいなの。

300 :
奏者

301 :
>>299
筆おろしも何も、バルサ自身が処女かもよ?

302 :
自分もあの時点では処女だと思うが二次創作ならそのあたりは妄想で多少お遊びしてもいいんじゃないか

303 :
バルサ×チャグム

304 :
ヒュウゴ×バルサ

305 :
http://www.sokuani.tv/
画質結構よくてジュルリだったぞ

306 :
>>304
これ読みたい

307 :
保守ついでのアニメ版バルサ小ネタ
「タンダ……ん、ああ、シ……ハァ……Oh!YES!YES!
 I loveyou! YES! Come、on!! Let's……ああん」

308 :
www

309 :
シハナ×タンダ(童貞) NTR
猛烈に読みたい

310 :
あくまでもタンダは押し倒される側ですねw

311 :
保守

312 :
いわゆる肉食系女子と草食系男子というやつかw

313 :
バルサとタンダのしっとりしたのが読みたい

314 :2013/08/11
そこへヒュウゴも絡めて
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