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2012年7月エロパロ180: 【ドラマ】鍵のかかった部屋でエロパロ Room#3 (197) TOP カテ一覧 スレ一覧 Pink元 削除依頼

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【ドラマ】鍵のかかった部屋でエロパロ Room#3


1 :12/06/25 〜 最終レス :12/07/06
前スレ
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1338986200/l50
512k超えの為立てました。

2 :
立てついでに即回避と口実を付けて投下。
エロ描写拙い部分は脳内補完のご協力をお願いします。
遠藤からお茶を出され微笑みながら会釈する彼女。
背筋をピンと伸ばして綺麗に正座しているその所作は、とても美しい。
と思って気付かれぬよう眺めていたら
「榎本さん、何か喋って下さい」
先程までの落ち着いた物腰とは打って変わって落ち着きが無い。
「…何かって?」
「何でもいいです」
何でも、と言われても僕から振れる話題などある訳が無い。
「ここに来てからちょっと落ち着かないんですよ」
何か話せと言っておいて、彼女は僕の言葉を待たずに喋りだす。
「何か空気が重たいっていうか…冷たいっていうか…感じません?」
冷たい。
確かに古い住宅ならではのひんやりとした空気を感じなくも無い。
だがそれはあくまでこの手の建物には良くある雰囲気ではないのだろうか。
とは思いながらも、取り合えず辺りを見回してみた。
小さな悪戯心が芽生える。
「何…何見てるんですか?」
一点を凝視する俺に、彼女が怯えながら尋ねる。
「いえ…何となく気配を感じたもので」
嘘だった。
しかし彼女の顔色はみるみる青ざめていく。
”ガタン”
追討ちをかけるように物音がする。
これもまた建物特有の物だろう。
「い…今、何か聞こえましたよね?」
耐え切れない、と言わんばかりだ。
眉が完全に八の字を描いている。
「風じゃないですか?」
そう切り返しても彼女の眉は下がったまま。
口からはいつものような切れのいい答えは出てこなかった。

3 :
…また、か。
倉庫で榎本はあの事件の前に手に入れた珍しい錠前を一人観察していた。
いつもならある程度外観を確認した後はとりあえず器具を刺し込んで探ってみるのだが
手が一向に動かない。
興味が削がれた訳ではないはずだった。
―落ち着かない。
訳も無く日常を過ごす事が出来ない。
この状態を持て余している感覚だけが把握できる。
錠前を目の前にして開ける方法より手に入れた後に起こった出来事ばかりが頭を過ぎる。
鍵を使わずに錠を開ける。難解な密室の謎を解き明かす。
難しければ難しい程、心の奥底から湧き上がる快感がが全身を支配する。
それが一番で唯一の興味の湧く事だった筈なのに。
錠前を置き、席を立つ。
くるりと体を反転させ歩き出すと、自然と右手が上がり人差し指が忙しなく動く。
いつも散乱している物事を纏める時のクセだ。
数歩進んで歩みを止めると瞼を閉じた。
関係者に事情を聞く時は、弁護士の顔。
先生と呼ばれる職業でありながらも、決して高圧的になる訳でもなく、
どこか暖かく相手に不快感を与えない対応が出来ている。
そして自らが悪と感じたものを見逃す事が出来ない真っ直ぐな所。
とても自分に釣り合うとは思えない。
なのに用も無いのに菓子を持ってここに来ては他愛も無い話をしたり、
ありもしない怪奇現象に怯えたりするのは、幼すぎる。
何よりこんなつまらない自分に何故、用も無いのに会いに来るんだ。
来た所で気の効いた相槌など打った記憶もない。
彼女はそんな女性が喜びそうにない僕の相槌に喜び、僕に笑顔を向けてくる。
何故。
…いや。
彼女がここに来る理由等がそもそも自分の今の状態に関係がある訳ではない。
また結論とは違う方向に逸れていく。
何故僕がこうも今まで通りが成り立たないのかを考えて…
ぴたり、と指の動きが止まり軽く捻ると閉じていた目が開く。
「そうか、そうだったのか」

4 :
「あれ?何か密室抱えてましたっけ?」
声のした方向へ振り返ると純子が居る。
「いえ…」
本当は心臓が飛び出る程驚いていたが、動揺を表に出すことなく純子を見つめる。
「何か…事件でも?」
あくまで平静を装いながら純子に問いを投げ、先程放り投げた錠前を置いたデスクに向かう。
「事件では無いですけど…」
「けど?」
いつもより強めの語気。
純子はおずおずと右手に下げた袋を差し出す。
「会社の近所にケーキ屋さんが出来たので良かったら一緒にと思って買ってきただけなんですけど
お邪魔でしたか?」
榎本に対し常にフラットな印象が強い分、ちょっとした変化があると怒らせてしまったのかとつい勘ぐってしまう。
得体の知れない存在だった榎本から、感情が見えるようになったのは何時からだったろう。
ただ…感情を察する事は出来ても、それがどういう経緯でそうなったのかはまだ解らないが。
「いえ…邪魔ではないです。というか何時からいらしてたんですか」
榎本は椅子に座ると古びた錠前に手を伸ばす。
口調がいつものトーンに戻り純子は内心安堵しながらいつもの席に向かう。
「いつものようにこう…されている所でした」
純子はポーズを真似て微笑む。
が、純子に向かって背を向けている榎本の視界には入っていない。
「お茶頂きますね」
慣れた手つきでお茶を淹れ自分の席と今は空いている榎本の所定の位置に置いた。
自ら箱を空け目当てのケーキを取り出す。本来ならば失礼な行為だ。
とはいえ作業中の榎本の注意をこちらに向けてまでケーキを選ばせる方がもっと失礼だと純子は思う。
「榎本さん」
ケーキを食べ終えた純子が、作業中の猫背に向かい声をかける。
「何でしょう」
返事はあるが振り返りもしない。
「男性から可愛い、って言われたらどう返せばいいんでしょう」
ガタン。
少し乱暴に榎本が立ち上がる。
「あ、私ショートケーキ頂いちゃいましたけど、まだまだありますよ〜」
作業に区切りがついたのだと思い榎本へケーキを勧める純子。
荒々しい動作に気付かず、再び話を戻す。
「この前犬山さんにお話を聞いていた時、そう言われたんです
でも私、そんな事思った事無いですしデレデレするのもおかしいじゃないですか」
純子は話を続けるが榎本の頭には半分位しか言葉として入ってこない。
ただ嬉しそうに話しているという事と、胸の奥から込み上げて来るどす黒い感情だけが解る。
「お世辞なのは解ってるんですよ。でもほら、良く言われますぅ〜とか言うのも変ですし
だからといって適当に流すのも失礼ですし」
少しクリームの残るフォークを指先で弄んでいる。
照れているのか口調はいつもよりハッキリしない。
榎本の中で何かが、弾けた。
「男性ってよく解らないんですよね。変に答えて誤解…」
「青砥さんは可愛いですよ」
「…へっ?」
一瞬、心臓が止まった気がした。
いや、心臓が止まったらんでしまうのでそんな事は無いと思い改める。
顔を上げ、言葉の主の方を見るが背を向けたままだ。
これは練習かしらと思い、的確な言葉を探したが頭が真っ白になっていて上手く言葉が出てこない。
「あの…ええと…」
顔が熱い。
振り返った榎本の顔を見たが、榎本の居る場所には明かりが届かず暗くて
どんな顔をしているのか見えない。

5 :
きっと自分は真っ赤になっている。
そしてそれを榎本は見ている。
こちらから相手の様子を知る事が出来ず、自分の動揺は榎本に見透かされているような気がした。
「あのっ…」
焦りから意味も無く純子は席を立つ。
榎本は返事もせずに純子に近付く。
明かりの下に現れた榎本の表情は何故か怒っているように見える。
自分に向けられる視線が痛い。
(またやっちゃった…)
以前犬について話していただけなのに怒ったようになってしまった事も有った。
特に榎本に対して悪い事を言ったつもりは無かったのだが。
気まずい空気に耐えられず、視線逸らしそろそろと鞄に手を伸ばす。
撤収…という言葉が一番的確だろう。
「好きなんですか?」
鞄に届く寸前に手首を掴まれる。
「え?」
「犬山さんが好きなんですか?」
純子の手首を掴む手に力が籠もる。
「いえ…全然…。ていうか何で…」
「嬉しそうに見えたので」
やはり怒っているようだ。純子はそう確信した。
しかし何故榎本が怒る必要があるのだろう。
解らない。解らないが誤解されるのは困る。
「別に嬉しくないですよっ。す、好きでもないし」
対応に困った事は確かだ。ドキドキもした。でもそれはそういう物とは違う。
正確に言えば違う事を思い知らされた。
同じ台詞でも言う人が違うだけなのに、こんなにも動揺してしまう。
いつも気付かないフリをしていた。
榎本と過ごしている時間が長くなるほど湧き上がってくる感情。
増えるだけ増えてもう溢れてしまいそうなのに、純子はそれでも目を背けようとする。
「何か…良く解らないですけど、怒らせてしまったようなので今日はこれで…」
―失礼します。
その言葉は音にならなかった。
榎本の唇がその発生源を塞いでしまったから。

6 :
どこをどう歩いたのか覚えていない。
恐らく体にしみついた家路を忠実にたどってきたのだろう。
気づけば純子は着替える事も忘れて、自宅のテーブルに突っ伏していた。
目を閉じるとあの時の事が鮮明に蘇る。
『好きみたいです。青砥さんの事』
ほぼ触れるだけのキスの後、視線を合わせる事無くボソリと榎本が呟いた。
どうしたらいいのか解らなくなって、純子は手首にかかる圧力が若干緩んだ瞬間に
そっと拘束から逃れ、鞄を手にして逃げるように倉庫を出た。
何故?
彼は、私にキスをした。
どうして?
怒っていたのに。
大体「好きみたい」って何なのだろう。
誰が?
榎本さんが?
そしてその好きは、どういう好きなのだろう。
「あ゛〜〜」
声にならない声を上げ、乱暴に頭を掻いてもモヤモヤは消えない。
こんなに堂々巡りをする位なら、その場で聞けばいいのに。と出来ない自分に苛々する。
友達、とは少し違う。
仲間として持つ好意だと思っていた。
でも違う。
仲間という言葉で誤魔化していたんだ。
自分は榎本を好きだ。
でも、榎本の事何も知らない。
今まで知識の豊富さと、手際の良さでいくつも事件を解決してきた。
余りにも怪しすぎて、最初は本職は泥棒なのではないかと疑った位だ。
でも…
もし、そうだったとしたら?
恐ろしい憶測を必で否定する。
幾つもの密室事件に出合い、共に解決してきた。
時間と問題を共有する程、その疑惑は薄れてきたはずだった。
きっと自分と同じ気持ちのはず。
でも…

怖い。
それが2人の共通の感情だった。
相手を恐れる事で生まれる恐怖ではない。
未知なるものに対する恐怖と
それに冷静に対処出来ない、自分が一番怖いのだ。

7 :
『順調に弁護士になれた貴女に解る訳ないでしょ?』
来栖菜穂子にそう詰られ、返す言葉も無く項垂れる彼女。
『貴女はそうじゃないって言えるの?』
桑島美香に問われ、自分もそうなのかもしれないと悩む彼女。
自分の存在もまた、彼女達と同様に純子を苦しめる物なのかもしれない。
自分の純子へ向ける感情に気付いてしまったからこそ、余計にそう思う。
頭では充分過ぎるほど理解している。
だが、制御出来ない。
気付かれぬようにしている成果が、皮肉にも裏目に出ている。
純子や芹沢と出会わなければ。
この薄暗い空間に息を潜め、錠を開ける事で満たされるだけの日々を送っていれば
感情などという愚かな物に振り回されずに過ごす事が出来たのに。
…出会わなければ、良かった
自ら達した結論が強烈に胸を締め付ける。
息苦しさに胸に手をやり、握り締めても柔らぐ事のない痛み。
辛い、苦しい。
しかしこれを僕だけの中に留める事で、純子が苦しまないのならば
…いつか失うかもしれないなら、いっそ
悲しい決意を踏みとどまらせるかのように、電話が鳴った。

「ありがとうございました。榎本さん」
電話を掛けてきたのは純子だった。
切羽詰まった声で助けを求められ、必で純子の家に向かった。
「…いえ、別に」
廊下でしゃがみこみ、震える純子を確認した時は怒りで全身の血が沸きあがる思いだった。

「以前も居て…その時は芹沢さんに来てもらったんですけど、今日は最終便で出張に行っちゃってて…
どうしたら完全に排除出来るんでしょうかね」
何の事はない。部屋にゴキブリが出たのだ。
「芹沢さんもここに・・・?」
純子の問いかけには答えず、虫剤の缶をテーブルに置くと全身を脱力感が襲うのを感じた。
同時にこの部屋に理由はどうあれ芹沢が一人で来た事がある事実を知り、
また制御不能な感情がじわじわと広がる。
「ええ、まぁ・・・」
恐怖の対象が始末され、少しずつ動揺が消えてくると
榎本を咄嗟に呼んでしまった事に後悔の波が押し寄せて来た。
とはいえこのまま帰すのも失礼だと思い、純子は珈琲を淹れた。
「すいませんでした、榎本さん。こんな遅くに」
立ち尽くす榎本に座るよう促しながら、純子はテーブルに珈琲を置く。
怖い。
欲しいものが手の届く位置にある。
今、この手で掴む事で彼女を傷つける事は解っている。
この感情は自らをも切りつける諸刃の剣だ。
でも…

8 :
「青砥さん」
カップを運んできた盆を戻そうとダイニングへ向かう純子に声を掛ける。
「はい?」
振り返る純子の表情はどこかぎこちない。
「貴女は故意にこのような行動をされるんですか?
大体こんな時間に僕のような男を自宅に上げていますが、何かを期待しているのでしょうか?」
逃げようとする純子の視線を捕らえ、一歩一歩距離を詰める。
鍵について語る時より大きな威圧感を感じ、純子は後ずさりした。
「そういう訳では…」
緊急事態だったから、などという理由付けも白々しくすら思えて、言葉が続かない。
「ではどういうつもりなんですか?つい数時間前に僕は貴女に酷い事をした人間ですよ」
怖い。
何も知らないこの人に対してこんなも強く惹かれている自分が怖い。
悪い人なのかも知れないのに。
憶測が的中して傷つくかもしれないのに、目を逸らす事が出来ない。
踵がドアの存在を知る。後ろ手でノブを回して逃れる事も出来るのに手を伸ばす事もしない。
触れるか触れないかの距離で榎本の歩みが止まった。
「貴女の気持ちを無視して、僕は…」
ふと、事件が解決した時に見せる瞳が記憶の中から鮮明に蘇る。
射抜くような鋭さの中に、別の感情が見えた。

9 :
それが悲しみだと理解する前に、純子の頬を涙が一筋伝う。
その姿に榎本は吐きかけた更なる自虐の言葉を飲み込んだ。
「榎本さんを…拒む事…が出来たら…こんなに辛くありません」
言葉の切れ目にまた一つ、涙が零れる。
「でも怖くて、素直に受け入れる事も出来ません。もうどうしたらいいのか解らないんです。
苦しいです。逃げたいです。でも逃げる所なんて無いんです…」
振り絞るような純子の言葉。榎本の耳には悲鳴として届いた。
純子の頬をそっと撫で、涙の跡を拭い去る。
拭っても、また一つ二つと涙は溢れ出て止め処無く頬を濡らす。
「…助けて…下さい」
縋る眼差しに応えるように、榎本はそっと純子の額に口付けた。
こんな事は応急処置にもならない。
愚かな行為であり、優しさでもなんでもない事は承知している。
だが、幾ら予防線を張っても無駄だった。
溢れでてくる物を抑え込み、想いをす事で傷口が広がり続けるのだからもう解き放ってしまおう。
瞼に唇を落とすと濡れた睫毛が冷たい。
目頭に溜まっている涙をそっと吸い上げると純子の体に緊張が走った。
榎本の指が純子の顎のラインをなぞる。
瞼への口付けから開放され、榎本の顔を見つめると今度は唇を奪われた。
触れるだけのキスは数秒で終わり、妨げとなる眼鏡を外すと榎本は純子を強く抱きしめ深く口付ける。
純子の身体がガラス戸に押し付けられているのを衝撃音で確認すると、腰に左腕を回して崩れ落ちそうな身体を支えた。
榎本の初めて見せる激しさに眩暈がする。
息苦しくて咄嗟に唇を離そうにも、後頭部から抱え込むように回された榎本の右手に阻れる。
潜り込んで来た舌に応えようにも、慣れないせいかどこかぎこちない。
冷たい指先が、首筋を這う。
欲しい。
その想いが自らの首を絞める。
苦しさに幾らもがいても抗いきれない。
指がなぞった感触が消えぬ間に、呼吸を妨げていた唇がその後を追う。
くすぐっい感触に純子が身をよじると、ガラス戸に軽く頭部が触れる。
「・・・っ・・・」
立っている事が辛そうな純子の身体を腰に回した腕でベッドまで導く。
そっと横たえると視線がぶつかった。
純子の浮かべる恥じらいと困惑の表情に、押し込めた筈の躊躇いが榎本の中に芽生える。
「今だけは、忘れてください」
自らに言い聞かせる意味を含む榎本の言葉を理解出来ない所為か、純子の表情は困惑の色を増す。
「このまま騙し騙し貴女と過ごすのはもう、限界です」

10 :
きっちりと閉められたブラウスのボタンをするすると外され、露わになった胸元に強く吸い付かれた。
想いが増す程に湧き上がる反証を打ち消すように、白い肌に紅い印が刻まれる。
ブラのホックが器用に外され圧迫感から開放されると、榎本の舌が控えめな丘を上がりその頂きを軽く吸い上げる。
「ひ…ぁ…」
硬度を増してゆく先端を舌先で弄ばれ、腰が甘く蕩けていく。
恥ずかしさの余りに目は閉じたまま榎本に身を委ねていると、下半身を包む着衣も次々と剥がされる。
「電気…」
言いかけて、純子は息を呑む。
敏感な花芯に榎本の指が触れ、消して欲しいと言い終える事も許されない。
自分の身体が、どれだけ求めていたのかと思い知らされる。
「お願い…消し…」
榎本の指先から水音が聞こえる。
花弁を割り進入した指が、内壁をやわやわと刺激しながらゆっくりと出入りを繰り返している。
「…ん…は…っ…」
純子の反応を確認し最も声の上がった場所を探り当て、執拗に刺激を与えてきた。
故意なのか、それともそれだけ淫らに身体が反応しているのか解らない。
ただ静かな部屋に卑猥の色を濃くした水音と純子の甘い鳴き声が響く。
溢れ出る蜜を絡めた指が花芯へ触れ、どうしようもない刺激が純子を追い詰める。
『今だけは、忘れてください』
言葉の意味を理解すると同時に、純子は意識を手放した。
四肢をぐったりさせ肩で息をする純子の白い肌は、達したばかりの所為か赤みを帯びていて
ぼんやりと開かれた瞳は焦点が定まっておらず、潤んでいた。
あまりに官能的なその姿に榎本は部屋の明かりを消し、着衣を脱ぎ捨てる。
手探りでベッドサイドにあるスタンドライトに明かりを灯した。
眉間に皺を寄せ、目を閉じたままの純子を見つめる。
モノクロだった世界に突然やってきて、純子は色をつけてしまった。
それがどういう事なのか、解っているのだろうか。
頬に張り付いた髪をそっと払い、労るようなキスをする。
唇を離すと、閉ざされた瞳が開いた。
「え…のもと…さ…」
愛しい。この感情もきっと純子がくれた。
「私も…榎本さんの事…す…」
―好き。
純子の口からそう言われる資格は、今の自分にはない。
指先で純子の言葉を止めると力の入らない純子の下肢を押し開き、貫いた。
苦しげでどこか甘美な声が純子の口から漏れた。
この一時しか純子の苦しみを紛らわす事しか出来ない。
今は…まだ。

11 :
以上、お目汚し失礼致しました。
ROMに戻ります。

12 :
純子はベッドの上で激しく体を動かしている。
彼女は榎本の腰をまたぐように上に乗っていて、その身には何もまとってはいない。
二人の下半身が密着する場所からは、淫らな粘液の音が途切れなく聞こえてくる。
純子の小ぶりの乳房は、彼女の動きに合わせ……それなりに揺れていた。
とはいえ、榎本にとっては充分なほど淫らな光景であった。
「あっ! ああっ……」
焦点の合わぬ瞳のまま中空を向き、あえぎ声を漏らしている純子。
しかしそれだけではなく、彼女のひだのひとつひとつが、
まるで独立した生き物のように榎本のものにからみつき始めていた。
これまでに味わったことのない快感に、自らを抑えることも出来ず、
榎本は彼女の腰を両手でつかみ、激しく下から突き上げる。
なすすべもなく純子はそのまま一気に絶頂へとおしあげられ、
声も無くがくがくと体を震わせながら、激しく体内の榎本をさらに締め付ける。
そんな刺激に抗うことなど不可能で、榎本もまた射精をはじめる。
遮るものなど装着していないため、榎本の胸へと倒れこんだ純子を両腕で抱えたまま、
脈動は純子の奥へと注ぎ込まれてゆく。いくども、繰り返し。

13 :
二人の呼吸がおだやかなものへと変わった頃、榎本は体の位置を入れ替える。
キスをし、かなり長い間むさぼりあったあと、二人は名残惜しそうに唇を離す。
目の前の榎本の顔を見上げながら、純子は言う。
「赤ちゃん、できるといいな。私、好きだから、赤ちゃん」
「避妊をしない場合、一年で85%程度のカップルが妊娠するというデータがあります」
「あ〜っ、いまこの状態でそれをさらっと口にするんですか?
 ふふっ、榎本さん、全然かわってないんですね〜」
「……いえ、それを言うなら、かわってないのは純子さんのほうだと思いますが?」
「え? わたしのどこが?」
「夫である僕に対して『榎本さん』と呼ぶのは、現時点では誤り…だと」
「あっ…… ハハ、それはそうかも」
榎本は何も言わず純子を見つめている。
逃げ切れないその場の雰囲気をひしひしと感じて、純子は覚悟を決めた。
「け、け、径さん」
純子の口からその言葉が出た瞬間、
予測していたはずの榎本の視線が、明らかに定まらなくなり、
挙動不審となったあげく、頬まで染め、困ったようにあらぬ方角を見る始末。
そこには普段のポーカーフェイスを失った男がいた。
純子は心の中で叫んだ。
可愛い!! なにこれ?!
思わずぎゅっと抱きつく。唇を重ねる。激しく吸う。
その瞬間、彼女の中に残っていた榎本の分身が、再び力を盛り返した。
「あっ!」
「ごめんなさい、純子さん。もう、とめられない!」
野獣と化した榎本は、その晩ずっと、純子の体を離そうとはしなかった……
Fin

14 :
スレ立て乙!
以下ドラマ感想
ドラマ終わったね青砥さんに電話あったのはいいけど
最後の表情で妄想打ち砕かれた・・・よ・・・。

15 :
ちょっ……
最終回ラスト10分までは超面白くてわくわくしながら見てたんだけど
最後がちょっと……
ってか、まさかここまで見事に榎本×青砥フラグがぶっつぶされて何の進展もないまま終わるとは……

16 :
前スレ約束です。
結局、ネタばれになってしまってましたね。
まさか海外逃亡まで被ると思いませんでしたが…
今後は妄想を公にするのは控えようと思いました。
失礼しました。

17 :
ドラマ終わっちゃったね、まさかの海外高飛びENDだったけど面白かった
しかし榎本青砥のフラグはボッキリ折れてしまったな・・・
せめて最後、電話切る時一瞬だけでも榎本が躊躇うとか、
青砥が泣いて感情的になるとかあれば良かったのに
まぁ、そういう演出をしないのがこのドラマの良い所なんだろうなw
今となっては中盤の榎本DT疑惑は何だったのかw

18 :
別に妄想を形にするのはいいんじゃないか
>今日の昼に、ドラマは榎本が失踪して終わるらしいという噂を聞き
とか言う文章で絡まれただけなんだし。
某所の噂で浮かんだネタですぐらいの控えめな説明にすればw
それにしても前スレの約束はこの後にあっても全く違和感なかったよGJ

19 :
スレ立て&投下乙です!
>>15 恋愛要素なくなってたね。 最後の電話で何かしらあるかと思ったのに

20 :
順番前後しちゃったけど、スレ立て乙!>>1
そして書き手の皆さん作品投下ありがとう
1スレから過去作品遡って全部読むよ!
書き手の皆さんの素晴らしい作品のおかげで
このドラマにどっぷりハマることが出来て幸せな3ヶ月でした
>>16
気にすることないよ!ネタバレとは違う
これからも良かったら榎本青砥を書いてほしい

21 :
純子の携帯番号を榎本が覚えていた
芹沢ではなく純子に電話した
これだけで満足
この作品に出合えて嬉しく思う!
本編は終わっちゃったけど毎日ここに通うよ

22 :
>>21
なるほど!>携帯番号を覚えてた&青砥に電話した
今最終回リピから戻ってきたけど、あちこち青砥が可愛すぎるw

23 :
最終話、最後のブラック榎本にやられて思いついた話
時系列は考えてませんが榎本が高跳びする前なのは確かです。
続編来い! スペシャル来い! という祈りもこめつつ

24 :
「ごめんなさい榎本さんっ! 本当にすいませんっ!」
「…………」
 90度に腰を折って謝罪する純子を、榎本は無視。
 いや、恐らく意識はしているのだろうが。人を寄せ付けない無表情、何を考えているのかさっぱり読めない無の空気が、無駄に緊迫感を煽っている。
 そんな榎本を前に、純子は今にも泣きそうな顔で「すいません」「ごめんなさい」を繰り返した。というよりも、それしかできることはなかった。
 二人の間に転がっているのは、見事に真っ二つに割れた古い錠。
 冷え冷えとした空気が漂う中。純子は、何故こんなことになったのか……を思い返していた。
 その日、純子は上機嫌で榎本の職場「東京総合セキュリティ」に訪れた。
 特に用事はない。今日は、アフターに用事が入っていたが、その待ち合わせまで中途半端に時間が空いたので、ちょうど通り道にあるから顔を出した……というだけのこと。
「榎本さん、こんばんはっ!」
「こんばんは、青砥さん」
 美味しい、と評判のケーキを片手に地下備品倉庫を覗けば、開錠作業に没頭する榎本が、無愛想に挨拶を返してきたのもいつも通り。
 ただ、一つ違ったのは……
「…………」
「え、どうしました、榎本さん?」
「いえ」
 ぼすん、と目の前に座った純子を見て、榎本がわずかな時間、固まった。
 それは本当に微かな変化でしかなかったが。数ヶ月もの間、毎日のように顔を合わせていれば。無表情の中にもわずかな違いがあるのだとわかってくる。
「いえ、じゃないですよ。何か言いたいことがあるのなら言ってください! 気になるじゃないですか」
「……今日は、どのようなご用件ですか」
「あ、すいません。別に用事はないんですよ。ただ、この後、この近くで合コンがあるんです。中途半端に時間が空いちゃったので、来ちゃいました」
 うふふ、と含み笑いと共に答えると、榎本の表情がぴくりと動いた。
「合コン、ですか?」
「ええ。学生時代の友人に誘われて。何だか一流企業の社員さんがいらっしゃるそうです」
「……今日は、お仕事はお休みだったんですか?」
「いいえ? 普通にありましたよ。飲み会があるから定時で退社させてもらいましたけど」
「…………」
 榎本は無言。だが、それは、言いたいことはあるが、どう言葉にすればいいのかわからない、という類の無言。
 ちらちらと視線が往復する。その目の動きを追って、純子は「ああ」と声を上げた。
「着替えたんですよ。さすがに、合コンであのスーツはちょっと堅苦しいかな、と思いまして。わたし、ああいう席は初めてなんですけど。こんな格好で大丈夫でしょうか」
 立ち上がる。いつもの地味なパンツスーツとは違う、女性らしい華やかな色合いのブラウスとフレアースカートという姿で、くるりと一周。
「似合いますか? こういう格好、あんまりしないので。実はちょっと不安だったんです」
「…………」
「えーのーもーとーさーん!」
「……すいません。僕は、女性の服装には詳しくないので。コメントを求められても困ります」
「もう、堅苦しいですねえ! そんなの、榎本さんの主観でいいんですよ! 似合うか似合わないか、って、それだけでいいんです!」
「…………」

25 :
 純子の催促を、榎本は無視。そのまま開錠作業に没頭する彼を見て、ふう、とため息をつく。
(まあ、榎本さんには聞くだけ無駄よね。それにしても、似合いますよ、の一言くらい、言ってくれてもいいのに)
 わずかに膨れながら、持ってきたケーキを皿の上に乗せる。
「榎本さん。ケーキ、どっちがいいですか? モンブランとザッハトルテがあるんですけど」
「どちらでも。青砥さんがお好きな方を取ってください」
「ええー! どっちも美味しそうですっごく迷ってるんです。だから、榎本さんが先に選んでください」
「……では、モンブランで」
 榎本は「ザッハトルテ」というケーキを知っていたんだろうか、と失礼な疑問を抱きながら、モンブランを慎重に差し出す。
 ついでに手元を覗き込むと、これまで見た錠の中でも、とてつもなく年季の入った錠が目に飛び込んできた。
「随分、熱心ですね。その錠は?」
「これは、室町時代に使われていたとされる錠の一種です。アンティークの類に入るので苦労したのですが、先日、ようやく持ち主の方と交渉が成立しまして」
「へええええ……室町時代ってすごいですねえ! そんな時代から、錠ってあったんですね?」
「日本でも最古のものの一つでしょうね。手に入れることができて幸運でした」
「すごいっ……榎本さん、わたしも、ちょっと見せてもらっていいですか? あ、榎本さんはケーキ食べちゃってください。お茶も入れましたよ。冷めないうちにどうぞ」
「構いませんが。古い錠なので、非常に作りが脆いです。取扱いには気を付けてください」
 ああ本当に、自分は何て馬鹿でドジなのだろうか。この手のトラブルを何回引き起こせば気が済むのか。
 大体、何で見せてもらおうなんて思ったのだ。鍵や錠になんて何の興味もない癖に。ただ、榎本があまりにも楽しそうに見えたので、ついつい自分も見てみたくなったのだ。それが、それが……
 持ち上げたりひっくり返したりしてじっくり錠を見ている最中、落として壊した。
 一言で説明すれば、そういうことになる。
 これがどこにもである鍵だというのなら、「弁償しますっ!」と言えばいい。だが、これは違う。値段の問題ではない。ものすごく貴重な古い錠で、滅多に手に入らない希少価値のある、そういうものなのだ。
 おそるおそる顔を上げる。榎本は純子の顔も壊れた錠も見ていなかったが。せわしなくすりあわされている指の動きを見ると、相当に動揺しているのは明らかだった。
 ああ、どうしようどうしようどうしよう……
「え、榎本さん、すみませんっ。すみません……謝ってすむことじゃないってわかってますけどっ! 謝ることしかできないんです。本当にすみませんっ……」
「…………」
「あの、わたし何でもします。お詫びに何でも言うこと聞きますから! その、だからっ……」
 許して下さい、と言いかけて、口をつぐむ。
 許してもらえるわけがない。榎本がどれほど鍵や錠に愛着を持っているかを、自分はよく知っている。大切なコレクションを壊されたのだ。二度と来るな、顔も見たくない、出て行け――と言われても仕方がない。
 どんな罵声も甘んじて受けようと、純子がギュっと目を閉じて待っていると――
「……何でも?」
 微かな、本当に微かな声が、響いた。
 顔を上げる。指をすりあわせる動作はそのままに、榎本が視線を向けていた。
 その表情は相変わらずの「無」だが……何故だろう。純子の背中に、ぞくりとした寒気が走った。
「何でも、言うことを聞くと、おっしゃられましたか」
「……は、はい」
「そうですか」
 何だろう。榎本は何を言い出す気だ?
 自分から言い出しておきながら、今更「嫌です」などと言えるわけがない。
 何を言い出すつもりなのか。戦々恐々しながらうつむいていると。すっ――と、音もなく立ち上がった榎本は、流れるような動作で、備品倉庫の入り口に向かい「がちゃん」と音を立てて施錠した。
 再び足音もなく戻って来る。黙って純子の目の前に座ると、そのまま、しばらく沈黙の時間が流れた。
 あまりにいたたまれない空気に純子が顔を上げると。恐ろしいまでの無表情で自分を見つめている榎本と視線がぶつかり、思わず息を呑んだ。

26 :
 な、何だろう。この表情――
「あ、あの、榎本さん?」
「青砥さん」
 たまらず声をあげる純子を制するように。榎本は、淡々と言った。
「では、一つ、ゲームに付き合っていただけますか」
「げ、ゲーム?」
「はい。簡単なゲームです。それに付き合っていただけたら、今回のこの錠は諦めます」
「……そ、そんなことで、いいんですか?」
「はい。壊れたものはどうしようもありませんから」
 そんな風に言われると、返す言葉がなくなる。
 ゲーム。鍵や錠にしか興味を示さない榎本の口から出たとは思えない単語だが、同じ錠を探して来いと言われるよりはずっとマシだ。二度と来るな、顔を出すな、と言われることを思えば、それくらい何でもない。
「はい、わかりました! 本当にすみません。榎本さんの気が済むまでお付き合いしますからっ! ゲームって、どんなゲームですか?」
「簡単なゲームです。青砥さん、その椅子をここに持ってきてもらえますか――そう、それです。では、そこに座っていただけますか」
「? はい」
 純子が勢い込んで立ち上がると、榎本は、すっ――と、美しい動作で部屋の隅に置かれた椅子を指差した。
 基本的に、この備品倉庫の椅子は、どれも背もたれのない丸椅子と呼ばれる椅子ばかりだが。その椅子だけは、背もたれのついた少し立派な椅子だった。
 普段は使われていないらしいその椅子を引きずって来て、榎本が指差した場所――部屋の中央に持ってくると、言われるがままに腰を下ろす。
 何をするつもりなのか――と、視線を巡らせていると。
「!? 痛っ!」
 いつの間にか背後に立っていた榎本が、純子の手首をねじりあげた。
 華奢な体格からは想像もつかない力に、思わず悲鳴をあげるが。榎本は、それには一切構わず、見事な手際で純子の両手首を背もたれの後ろに回し――
 がちゃんっ! と、硬質な音が響いた。
「え、榎本さん――?」
 手首をゆする。がちゃがちゃ、という音と、冷たい金属の感触が、手首に伝わってきた。
 思い切り引っ張るが、手首に痛みが走ってすぐに力を抜く。指先でまさぐると、じゃらり――と、鎖らしき手触りが返ってきた。
「あの、これは――」
「手錠です」
「て、手錠!?」
「そして、これがこの手錠の鍵です」
 すっ、と目の前に差し出されたのは、小さな鍵だった。
 それをじっくりと見せられた後、そっと手渡される。慎重に指で受け取ると、榎本は「落とさないようにして下さい」とだけつぶやいた。
 そして――
「ひっ!? ちょ、ちょっと榎本さん! 何を!」
「静かにしてください。ゲームです」
「げ、ゲームって……やっ! ちょっと、ちょっと待って!」
 不意に、視界が陰った。
 ぐるり、と純子の目を覆ったのは、どうやらタオルらしい。目隠しをされた、ということに気付いたのは、完全に視界を覆われた後。
 何も見えない。どれだけ首を振っても、もがいても、タオルは緩む気配もない。
 ついで、触れられたのは足首。さすがに抵抗したが、榎本の動きは巧みだった。どれだけ足をばたつかせても、彼はそれに頓着する様子はなく、瞬く間に、純子の両足首は椅子の脚に縛り付けられた。
 わずかに股を開く格好で、椅子に完全に拘束された――そうと悟った瞬間、ぞっとするような恐怖が走り抜けた。

27 :
「では、ゲームを始めましょうか」
 耳元で囁かれる榎本の声は、実に平静に聞こえた。
「簡単なゲームです。青砥さんのクリア条件は、今、手に持ってらっしゃる鍵を使って、手錠を外すこと。僕は、これから様々な手を使ってあなたの動きを妨害します。制限時間は――そうですね。青砥さんは、そう言えばこの後、合コンでしたね。何時に集合予定なんですか?」
「っ……は、八時、ですけど」
「後一時間ですか。待ち合わせ場所に向かう時間も必要ですから、制限時間は三十分としましょうか。三十分以内に手錠を外してみてください。成功したら、あなたの勝ちです。壊れた錠のことは、諦めます」
「っ……あ、あの、わたしが、負けたら……?」
「そうですね。考えていませんでした。あの程度の鍵でしたら、まず負けることはないと思いますが――もし負けたら――ゲームには付き合っていただけたんですから、錠のことはお約束通り諦めますが。僕の言うことを一つ聞いてもらう、という形でも取りましょうか?」
「……な、何を言うつもり、なんですか?」
「さあ」
 ふっ、と、耳元で微かな笑い声が響いたような気がした。
 目隠しをされているせいで、純子には、榎本の表情はわからないが。
「それは、これから考えるとします。では――始めましょうか:
 冷酷な言葉に、純子は、慌てて指先で手錠をまさぐった。
 じたばたあがいても仕方がない。ゲームは始まってしまった――何としても、この手錠は外さないと。
「っ――きゃあっ!?」
 ふいに、胸元が涼しくなった。
 視界を塞がれているので、何をされているのかは想像するしかない――が、首筋、胸元に微かに触れるこの感触は――
「え、榎本さん、何してらっしゃるんですか!?」
「言いませんでしたか? 妨害しています」
「ぼ、妨害って!!」
「急いだ方がいいですよ。もう、五分経ちました」
「!!!!」
 榎本の言葉に、慌てて開錠作業を再開する。といっても、後ろ手に指先だけで手錠の鍵を開ける――口で言うほど簡単な作業ではない。
 しかも――
「ひっ!」
 ぶつぶつっ! という音と共に、涼しい空気が忍び寄ってきた。
 榎本の指が、首筋をくすぐって。そのまま、ブラウスのボタンを全開にした。
 多分、そうだろう――と思うのだが。見えない、ということが、こんなにも不安を煽るものだとは思わなかった。
「いやっ! やめっ……ひっ!」
 つつつっ――と、指先が鎖骨、胸元を辿って、下へ、下へと降りてきた。
 脇腹に温もりが触れる。あっ――と思ったときには、榎本の両手が背もたれとのわずかな隙間に入り込んで。そのまま、下着のホックをぱちりと外した。
 思わず全身を揺さぶって逃げようと試みるが。両手・両足を封じられては、大した抵抗はできない。
 事実、榎本は片手でやすやすと純子の肩を押さえ込んで。もう片方の手で、ぐいっ! と下着をたくしあげた。
 今、榎本の眼前に自分の胸がさらけ出されている――全身から冷や汗が噴き出すのを感じながら、必で見えない視界を巡らせた。
「え、榎本、さん……何を、するつもりですか?」
「…………」
「お願い、やめて……ひゃっ!」
 ぴちゃり、という微かな音。鎖骨に感じる、ちくりとした感触。
 何をされているのかは想像に頼るしかないが。ぬるりとした感触が、胸元を伝わっていった瞬間、ぞくぞくした悪寒が背筋を駆け巡った。
 もがく。とても手錠に集中などできない。ちゃりんっ! という小さな音と共に、鍵が床に落ちたが。拾ってくれ、などと言えるはずもない。

28 :
「やっ……え、榎本さん……ひっ!」
 かりっ、という小さな音。胸の頂を走り抜ける、微かな痛み。
 ちろちろと生暖かい舌でなぶられる感触に、じわり――と、内部から熱がにじみ出るのがわかった。
 初めて、というわけではない。学生時代までさかのぼれば、何度かそういう経験はあった。
 けれど、それはお互いの合意の元、何にも拘束されない場所――平たく言えばベッドの上で――行われた行為であり。こんな特殊なシチュエーションは、もちろん初めてのことで――頭の芯が、ぼうっとするのがわかった。
(ど、どうしようっ……ひいっ!)
 しつこく胸をいたぶられながら、同時に、衣擦れの音が耳についた。
 榎本が――? と一瞬考えたが、違う。同時に感じたのは、太ももに触れる冷たい空気。
 スカートをたくしあげられた、ということに気付いて、文字通りの意味で血の気が引いた。
「やだっ! もう嫌っ……お願い、これ以上は……榎本さん!」
「…………」
「えのもと、さん……」
 するすると、太ももを伝ってきた指が、下着に触れた。
 椅子に座っている状態で、下着を脱がせるのは無理だろう――と、どこか呑気なことを考えていると。下着の隙間からダイレクトに指が忍び寄ってくるのを感じて、悲鳴が漏れた。
「ひゃっ! あ、あ、やっ……」
「……開錠作業は、進んでいますか」
「え……」
「制限時間まで、後十分ですが」
「っ…………!!」
 進んでいるわけがない。そもそも、鍵などとっくに取り落としている。そんなこと、榎本は当然気づいているはずなのに――
「も、もうやめてください。わたしの負けです。後十分でなんて無理です。お願いですから……」
「諦めないでください。鍵をうまく鍵穴に差し込むことができれば、開錠までものの数秒とはかかりません。ぎりぎりまで頑張ってください」
「だからっ……ひゃっ!」
 くちゅり、と。湿った音が、恥ずかしくなるほど大きく響いた。
 胸への愛撫で既に潤い始めていた秘所に、榎本の指が、容赦なく潜り込んできた。
 これまで、いかなる鍵でも開錠してみせた器用な指先が、純子の内部を蹂躙する。
 ぐちゅ、ぐちゃという音が響く中、必に歯を食いしばって声をこらえようとしたが。その唇から嬌声が漏れるのに、数秒とはかからなかった。
「やっ……あ、あ、あ……え、榎本さん、榎本さんっ……やめっ……」
「やめて欲しいんですか」
「っ…………」
「ここは、随分正直に訴えてるように見えますけど?」
 するり、と指を引き抜かれた瞬間、悶えるほどの熱情が内部から溢れて来た。
 嘘だ。自分はやめて欲しいなんて思っていない。むしろ……
「んっ……!」
 唇の間に、何かが押し込まれた。
 それが榎本の指である、ということに気付いたのが数秒後。そして、その指が、それまでどこに触れていたのか――に気付いて、必に振りほどこうとしたのは、さらに数秒後。
「んっ、んっ、ん――っ!!」
 容赦なく指が押し込まれる。かみついてやろうか、と考えて、それを必に堪える。
 榎本の指を傷つけるわけにはいかない。鍵と錠を趣味にしている彼にとって、その指はまさに命そのものなのだ。
 大切な錠を破壊した自分が、この上彼の指を奪うことなど、できるはずがないっ――

29 :
「わかりますか。僕の指をこれだけ汚したものが何なのか」
「っ…………」
「何なら、なめてみますか? なかなか、自分で味わうことはないでしょうから」
「…………」
 ぽろぽろと、タオルの奥で涙が溢れるのがわかった。
 辛い、怖い、悲しい――という気持ちは、もちろんある。けれど、それ以上に――
 熱いっ……
 無意識に太ももをすりあわせようとして、足首に食い込むタオルが、その動きを阻む。
 もっと触れて欲しかった。もっと奥深くまで来てほしかった。もっと――
 ――榎本に来て欲しいっ!!
「え、え、榎本、さん……」
「何ですか」
「わ、わたしっ……」
「後五分ですね。いかがですか、開錠作業は」
「…………」
 ずるり、と、唇から指がひきぬかれる。溢れる唾液が顎を伝って、滴り落ちるのがわかった。
 わかってしまった。榎本は決してこれ以上は動いてくれない。自分からは動く気はない。後五分。彼のことだから、純子が何も言わなければ、いつもの無表情で純子の痴態を観察し、そして何事もなかったかのように解放するつもりなのだろう。
 ゲームは僕の勝ちですね、とか何とか言って?
 ――嫌だっ――
「や、やめないで」
「青砥さん?」
「やめないで。お願い、榎本さん。もっと……」
「…………」
「お願い。榎本さんが欲しいんですっ……」
「…………」
 ゲームは僕の勝ちですね、と、まさに純子の想像した通りの台詞を囁かれた。
 再び潜り込んできた指が、中途半端にくすぶっていた純子の熱情を一気に昇華し、爆発させた。
 あられもない声をあげて、不自由な体制で背をのけぞらせる。
 倒れそうになる椅子を支えたのは、榎本なのか。唇に微かに触れた柔らかな感触は、何だったのか?
 疑問に答えを得られないまま、純子は、脱力して全身を椅子に預けた。

30 :
 気が付いたとき、純子の身体は解放され、小さなベッドに寝かされていた。
 身を起こすと。傍らには、いつもと変わらない、無表情の榎本が立っていた。
「榎本さん?」
「気が付かれましたか」
「ここは……」
「倉庫の中二階です。仮眠用のベッドがあるので、運ばせてもらいました」
「あ……」
 身を起こして視界を巡らせる。いつもより近い天井。細々とした用具に囲まれた狭い場所。たまに榎本が上がるのを見たことがある、あの備品倉庫の階段の上か――
「どうしますか」
「え?」
「合コンの時間が迫っていると思うのですが」
「…………」
 言われるがままに、腕時計に視線を落とす。今すぐにここをとびだしても、間に合うかどうかという微妙な時間――
「榎本さん」
「行くんですか、合コンに」
「…………」
「ゲームは、僕の勝ちですよね」
 淡々とつむがれる言葉に、純子は力なく頷いた。
 あの妨害行為は卑怯だ、と言ってもよかったが。例え榎本が何もしなかったとしても、自分では、三十分以内に手錠を開錠することはできなかっただろう。
「僕が勝ったら、錠のことは忘れるついでに僕のお願いを一つ聞いてもらえる――そういう約束でしたよね」
「――はい」
 これ以上、何を言い出すつもりだろうか。
 いまだに熱が残る身体を抱えて、ぼんやりと榎本を見上げると。
「行かないでください」
「……はい?」
「行かないでください。合コンに」
「…………」
「そういうお願いは、ありですか?」
 榎本の言葉が、脳に伝わり、意味を理解するまでに、少しばかり時間が必要だった。
 これはどういうことだろうか。榎本は何を言いたいんだろうか。まさか――
「ゲームに負けたのは、わたしですから。それがお願いだって言うのなら、もちろんお聞きしますけど」
「…………」
「それだけで、いいんですか?」
 備品倉庫は施錠されていて、誰も邪魔する者はいない。
 自分はベッドに横たえられていて、傍には榎本がいる。この状況で、お願いがそんなことでいいのか?
「榎本さん?」
 身体に残る熱情は、まだ消えてはいない。中心部はまだまだ熱くうずいていて、目の前の男を……榎本を欲しい、と、そう訴えている。
 潤んだ目で見上げると、その意味を悟ったのか。ぎしり、という音と共に、榎本の身体が、のしかかってきた。
 押し倒される。固いマットレスを背中に感じながら、純子は、目の前の身体を思いきり抱きしめた。
〜〜END〜〜

31 :
終わりです。
ドラマは終わっちゃいましたがこのスレが今後も続いていくことを祈っています。

32 :
もう3スレ目に突入なんてすごい!
じゃあ、写真撮りまーすw
ドラマ終わってしまってさみしいけど、このスレのおかげで救われてます。
職人さまGJです。

33 :
>>31
乙です!
ブラックどS榎本最高でした〜!
チーム榎本好きな自分としてはラスト若干寂しかったけど、
続編やってくれるって信じてる!!

34 :
>>31
GJ!
榎本はやっぱりドSが似合うな、攻め方がまたエロい
最終回を観るまではと書き控えていたシリアスネタやおバカネタが幾つかあったけど、
ラストの榎本の黒いニヤリで全飛びしたわw

35 :
昨日の最終回はあれこれと妄想したな
ふと佐藤こと椎名が自首する前に青砥を睡眠薬入りコーヒーで眠らせ
いやらしい事をしようとするのを榎本が阻止したりするとかさ

36 :
最終回、きれいにまとめたとは思うけど榎青萌えチーム榎本好き的にはショックだった…
榎本さんドライ過ぎるよおおおせっかく仲良くなれたと思ったのに
今まで原作よりもラブ描写あったのに最後の最後は原作と真逆じゃないか…
せめてエスケープ前に少し名残惜しそうな素振りを見せてくれたらなあ
色々感想見て自由でいるためにこれ以上情が移るのを避けようとして離れたって補完したけど
続編つくって原作のような関係で腹さぐりあったり駆け引きしながらイチャイチャして欲しい
ほんとショックでずっと落ち込んでるわ…w

37 :
同じだよ喪失感ハンパない、今のとこリピする気も起きない。
録画全消ししそうな勢いだわ…思いとどまってるけど。
せめて最後のニヤリ無かったら。
書きかけのSSも書く気しないわ。
妄想して幸せだったころに戻りたい。

38 :
>>31最高です!やっぱ手錠プレイは榎本の醍醐味www
>>36>>37自分もあの最終回を見て、芹沢青砥を切り捨てた榎本を見た後では
過去回の榎青萌えシーンなんてもう見る気がしないよ。
ここの住人以外にはあのラスト好評みたいだけどね…
でも自分はこのスレにはまだまだ期待してるよ!
もともとパロディだし最終回を見た後でも文章で読めばあの2人が蘇ってくる。
しばらく皆さんショックでしょうが、落ち着いたらまた投下して下さい。
楽しみに待ってます。

39 :
>>36>>37
同じく魂抜けたみたいになってるけど
自分は全然関係ないジャンルのサイトを運営してて
この数ヶ月は鍵部屋にはまりすぎてサイトの方でも萌えを叫んだりSS紹介したら
自分のSS読んで鍵部屋に興味持った、ドラマ見た、榎青最高みたいなコメント結構もらえた
そうやってファンを開拓したら、DVDの売上とかフジテレビに要望到とかで、続編とかに希望が出るかも
公式サイト見てると、榎本の過去が明らかになる予定とか榎本と純子がお互い惹かれあってく予定とか、明らかに最終回にそぐわないコメントが並んでたし、あのラストは続編に繋げるために変えられたのかも……と前向きに考えてみる。
まあ何が言いたいのかと言うとこれからもSSで萌えを満たしながら榎本が帰ってくるの待とうよ、ということです。
長文ごめん

40 :
前スレ『約束』を書いた者です。
自分としては、あのラストは楽しめましたが、
あまりにも身も蓋も無いようにも思えたので
最終話後半の脚本をリライトしてみました。
よかったら、読んで下さい。
・・・・・・・・・・
径は、部屋を出る前に、何かやり残したことはないかと振り返った。
築三十年以上になるだろう解体寸前の木造アパートの一室は、
足を踏み入れた時と同じ既視感をたたえて、静かに径を見返している。
ベランダの無い小さな窓から、吹き込むすきま風。
木の節を模した天井を一層みすぼらしくさせる雨漏りの跡。
彼は、雨風をしのぐにも心もとないこの棲家で、
あのオフィス街の密閉容器を夢見たのか。
径は、これから会おうとしている男のことを思った。
今目の前にある、ひと蹴りで穴が開きそうなこのドアと、
防弾ガラスで出来た重い扉と…。
その先に明日という日が続いていることを信じてドアノブを回した男の
その思いつめた表情は、自分に似てると、ふと思った。

41 :
アリーナの通路は暗く、男の表情からはなんの感情も読み取れない。
小柄で痩せぎす。自分と同い年の筈なのに、一回りは年下に見える。
そんな、どちらかと繊細で気弱そうな風貌に似合わない冷静さと大胆さ。
やはり榎本という男のことは侮らない方がいい。
自分の直感は正しかったと、改めて思う。
だが、通報したのは失策だった。
あの一件で、榎本は俺がしかけた盗聴器に気がついたに違いない。
そもそも、社長のを通報する必要もなかったのだ。
わざわざ自分の視界から這い出てくれていたものを
もしやし損なったのではないかという狼狽から
第一発見者になるという安易な道を選んでしまった。
椎名章は絶望にうちひしがれながら、榎本の無表情な瞳の奥の感情に
一縷の望みを込めて尋ねた。
「君にならわかるだろ・・・?俺の気持ちが」

42 :
「俺の気持ち?」
径は声には出さずに、心の中で章の言葉を反芻した。
金さえ手に入れば、人生をやり直せる?
金が無ければ手が届かない女とも付き合える?
不意に径の胸に、青砥の香りが立ちのぼった。
彼女を近くに感じる度、確かに自分も同じ事を考えたかもしれない。
あの人と共に生きる、という人生を。
だが…
径は頭の中の残像を振り切ると、章の質問には答えずに、逆に訊き返した。
「それで・・・ガラスは超えられたんですか?復讐を果たし、ダイヤを手に入れて、
それであなたは開放されたんですか?…僕にはそうは見えません」
章の瞳に、すがるような色が宿った。
「君にはどう見える?」
「前後左右、それから上下まで、ガラスに囲まれているように見えます」
径の言葉に思い当たる節があるのか、章の表情が曇った。
径はそれには構わず言葉を続けた。
「ぼくは・・・ガラスの箱に閉じ込められるのはごめんです。
例え向こう側に行けないとしても・・・」
続く言葉は、章に言ったものではなかった。
径は今や章を説得する形を借りて、自分自身に言い聞かせた。
「…自由でいたいんです」

43 :
章は観念した。
あっという間に全てが急転したことが、まだ信じられなかった。
本当に何もかも失ってしまったのか?
ダイヤモンドも復讐の悦びも、…そして、未来も。
「そう言えば、ダイヤモンドの一部が
イミテーションにすり替えられていましたね」
榎本の声の調子が、一変した。
章は意味が判らず、目の前にいる正体不明な男の顔を見る。
榎本はそれには構わず、夢見るような視線を
アリーナのホールに続く扉の向こうに投げかけながら喋り続ける。
「どうやらあの強欲な社長も、更に強欲な業者に騙されていたんでしょう。
洗濯槽の中に隠されていたダイヤを確認しましたが、そのうちの一億円相当が
ホワイトジルコニア。つまりイミテーションでした」
「そんな…まさか…嘘だ」
章には信じられなかった。
社長はあの部屋で、毎日のようにダイヤを鑑定していたのだ。
イミテーションが混じっていたら、気がつかないわけがない。
「嘘じゃありませんよ。今あなたのアパートの洗濯槽の中で眠っている
ダイヤモンド達の一部は間違いなく偽物です」
章は、榎本が嘘をついているのだと気がついた。
いや、一部がイミテーションにすり替わっているのは事実だろう。
だが、そのすり替えが可能な人間は、どう考えても…
「君は一体…何を言いたいんだ?」
章は喘ぐように言った。
「取引ですか?黙っていてやるから、分け前をよこせ…と?」
榎本はそんな章に一瞥をくれた。
「僕はそんなに強欲じゃありません。その半分で充分です」
ますます、なんのことか判らない。
「あなただって、人生をやり直す為なら5億も必要じゃないでしょう。
寧ろ、罪も償わず、まるで卵を守るタガメのように四六時中ダイヤに寄り添い
これから一生、警察や泥棒の影に怯え続けなければならない」
章には、榎本の真意が計りかねた。
榎本の視線が再び遠くなった。
「あなたの生い立ちと社長との因縁を考えれば、情状酌量の余地は充分有ります。
仮に無期懲役の判決となったとしても、刑務所内での素行が模範的であれば
数年で仮出所することも可能だと思います。
その時、五千万という資金があれば、あなたは人生をやり直せるかもしれない。
そのチャンスに、かけてみる気はありませんか?」
章はごくりと唾を飲んだ。
「君を信じてもいいのか?」
目の前にいる摩訶不思議な男は、相変わらず自分を通り越して、
ステージに続く重い扉を見ている。
しばらくの沈黙ののち、榎本はゆっくりと口を開いた。
「信じ合えなければ、あなたも僕も、ここで終わりなんです」

44 :
空港の公衆電話を前に、径はためらっていた。
架けるべきではないのは判っている。
だが自分が何も言わずに去ったなら、青砥はどんなに戸惑うだろう?
ホワイトジルコンにすり替えられたダイヤの話は
きっともう鴻野を通じて、芹沢や青砥の耳に入っているに違いない。
そしてそんな状況でも、きっと青砥は希望をかき集め
径の無実を信じ、無事を案じているに違いない。
青砥に、そんな思いをさせたくなかった。
青砥には、陽の当たる道を歩いて欲しかった。
断ち切らなければ…全てを。
径はポケットの小銭を掴んだ。
日本円は、しばらく無用な生活が始まるのだ。
公衆電話の重い受話器を取り上げ、見慣れた番号を押す。
「はい。もしもし!?」
3回目の呼出音の後に続いたのは、既に懐かしい青砥の声だ。
「…すみません、連絡が遅くなりました」
第一声を振り絞る。
「どこに行ってたんですか!?」
青砥の声は怒っていたが
「心配してたんですよ?」
すぐに涙声が混じる。
「榎本か?」
やはり芹沢も近くにいるらしかった。
彼の時計を盗んだのは、やはり悪戯が過ぎたかと今更思う。
「ちょっと事情がありまして…」
言いよどむと、芹沢が畳み掛ける。
「榎本、どこにいるんだ、榎本?」
一瞬返事に詰まったが、正直に答えることにした。
「空港です」
「空港?旅行にでも行くんですか?」
訊き返したのは青砥だった。

45 :
「ええ。臨時収入があったもので…」
胸にこみ上げる感情を押しして、出来るだけ淡々と返事をする。
自分はこういう男なのだ。
あなたの信頼に応えられる人間じゃない。
耳障りな雑音が聞こえた。
どうやら、芹沢が青砥から携帯をもぎ取ったらしい。
最後のコインが落ちて、今までの全てがカウントダウンを始める。
「おい、榎本。聞きたいことがあるんだ。
警察が佐藤学の部屋から押収した六億相当のダイヤのうち
ほぼ一億相当分が、ホワイトジルコン…つまり偽物だったんだそうだ。
…お前、まさか…」
まさかこのタイミングで訊かれるとは…
径は、自分に落ち着けと言い聞かせた。
「…なんのことでしょう?社長が業者に騙されたんじゃないですか?」
携帯を通して、芹沢の失望感が伝わってきた。
それでいい。
今は崖から突き落とされたような気分でも、いずれそのうち
早々に自分と縁が切れたことに安堵するようになるだろう。
だが、青砥はなおも食い下がってきた。
「旅行って、どこに行くんですか?」
答えられるわけが無い。
「…さぁ」
「いつ、帰って来るんですか?」
「さぁ」
機械的に答えながら、径は気抜くと口からついてでそうな
二つの言葉を飲み込むと、その代わりに、言うべき言葉を口にした。
「フライトの時間なので、もう行きます」
受話器を置く手がにぶるのが我ながら滑稽だ、と径は思う。
心にこだまする全ての感情に耳を塞ぐように真新しいイヤホンを装着する。
『ありがとう』も、『ごめんなさい』も、そして…
全ての感情を、今はここに置いて行こう。
青砥に出会う前の、本来の自分を取り戻そう。
「馴染んだ孤独にいつまでしがみついてるんだ」
ふいに、もう一人の自分がつぶやく声が聞こえた気がした。
径は、自分の中に残る僅かな純情を嘲笑するように笑を浮かべ
背筋を伸ばして歩き出した。

46 :
以上です。
5つの場面で区切るつもりが、投稿規制で1つ付け足しになってしまいました。
毎度お見苦しくて申し訳ありません。
それではまたロムに戻ります。

47 :
エロの無いエロパロは要らない

48 :
それは失礼しました。

49 :
いや、こういう補正もたまにはいいよ。
少し癒された。

50 :
>>46
GJです!補完ありがとう

51 :
こういうテイストで終わってほしかった。
ドラマ的にはあれで正解なんだろうけど。

52 :
>>45 GJです!
ドラマもこんなラストだったらよかったのに

53 :
ダイヤ換金しに海外飛んで、ほとぼり冷めたらひょっこり帰ってくるんじゃない?
自分はこれで一生さよならとは思ってないから、切り捨てとは受け取らなかった。
帰ってきたら密室事件でチーム榎本再開。
原作みたく疑心抱きつつも、より本当の榎本に近づける関係に変化していく・・・そんな妄想をしているw
続編あるといいな

54 :
書き手の皆さん素晴らしい作品の数々、乙です
ドラマが終わってからはもうこのスレが心の拠り所ですw
ドラマの終わり方に不満はない、むしろ素晴らしかったと思う
でも寂しさが半端ないよ
恋愛ドラマじゃないから過度な甘い展開はもともと期待してなかったけど
でも榎本が帰ってくる可能性を残して終わってくれて良かったと思う
限りなくクロに近いグレー、ってことだよね、今のところ
映画とかもう1クールとかじゃなくていいからSPで1回やってほしいな
その時もまた最後姿消しちゃっても、そのうち帰ってくるさって思えるからw

55 :
最終回のあのラストのニヤリはどんな風でも想像させるものがあって、それだからこそ
それまでの青砥との可愛くて微笑ましい関係をブツ切りしてしまったから、一気に魂ごと
持ってかれた気がした
ドラマとしてはあの黒いニヤリがあったから見事に物語が締まったんだけどね
でも去り際、青砥にわざわざ電話してきたことに期待を繋げてみる
こうであって欲しいという気持ちを込めて半年後設定で書いてみた

56 :
風が乾いた冬の匂いを運んでくる季節が巡っていた。
このところ、仕事が終わって帰って来るとひどく疲れていて何もしたくない。
それが続いて次第に自堕落になってしまうのが嫌で、無理やり気分を奮い立たせいててもどこかに
空しさが残っている。
そのせいもあって青砥は最近犬を飼い始めた。住んでいるところは特にペット可を明記していなかった
ものの、事前にきちんと相談したせいもあるのか大家は黙認という形で許可してくれた。
ペットショップで一目惚れをして買った犬は三ヶ月の柴犬の牡でとても賢く、凛とした眼差しは決して
忘れられない誰かにとても似ていた。
そう、半年前に突如として姿を消した愛しい人に。
その電話がかかってきたのは、犬を買ってから半月ほどしてようやく一人と一匹との生活に慣れて
きた頃のこと。
入浴後に冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを出そうとしている時、突然テーブルの上に置いて
いた携帯が鳴った。見知らぬ番号ではあったがその時は特に気にはなっていなかった。
予感はあったのかも知れない。
「はい、青砥です」
とことこと側に寄って来た犬もきょとんと耳を立てている。
『こんばんは』
決して忘れない、懐かしい声だった。
驚きで携帯を取り落としそうになったが、必でその名を呼んだ。
「…榎本さん!」
『お久し振りです』
「お久し振り、じゃないですよもう!今どこにいるんですか?」
『それは答えかねます』
「いきなりいなくなって、どんなに心配したと思ってるんですか…私も芹沢さんもあれからどんなに
探したか分かりませんよ、なのに」
『すみません』
榎本からの言葉は相変わらず完結過ぎるほどに短い。聞きたいことは山ほどあったが、今は何とか
この会話が途切れないように繋ぐことしか考えられなかった。遊んで欲しそうに膝の上でじゃれている
犬の頭を撫でながら、青砥は懐かしい声を懸命に追う。
「榎本さん、あなたが何者であっても私は」
『僕は何者でもありません』
「…結局のところ、ダイヤモンドが最初から全て本物だったのかどうかは何も証拠がなく、榎本さんが
関与していたかについては警察でも実証出来ませんでした」
『そうですか』

57 :
携帯から聞こえる声は聞き馴染みのある、静かで淡々としたもので全く波がない。動揺ひとつない
のは一切関わりがなかったからなのか、それとも単に都合良くしらばっくれているのか。それすら何も
分からない。
ただ、一つだけ言えることはある。
ごくり、と唾を呑み込んではっきりと青砥は告げた。
「私は、榎本さんを信じています。芹沢さんもです。ですからいつか帰」
『それでいいと思います』
「え?」
話している途中で被ってきた榎本の声は、その先を言わせまいとしているようだった。
『人の印象は第三者からの視点でたやすく変わります。僕がこうと思う僕の実像と、青砥さんが思う
僕は恐らく若干の違いがあるでしょう。誰もがそうなのです。ですから』
一旦途切れた言葉は、やや間を置いてから続いた。
『見えているものが見えないとしても、他の誰かが僕について何を言っても、青砥さんが思う姿の僕で
あるなら、そこに本当の僕はいます』
「何を仰っているのか、良く分かりません」
榎本はやはり何もかも曖昧なままにするつもりのようだ。言葉を選んで、あくまでも青砥の知りたい
ことの核心には決して触れない。それでも、いつも顔を合わせていた頃の榎本を思い出して懐かし
かった。
なのに榎本はそれを嘲笑するように棘を刺してくる。
『青砥さんの知りたいことについてですが、僕は恐らく今も疑われている最中でしょうね。それに関して
僕が無関係であると言ったとして、あなたはどちらを信じますか?真実がどこにあるかではなく、あくま
でも心情的には、です』
「ですからそれはもちろん、榎本さんの方を私は」
『人はいつも嘘をつきます。僕も嘘をつきます。けれど本当のことしか言わない面もあります。さて…
僕の本心はどこにあるのでしょう。青砥さんが見てきた僕も全て虚像だったりするかも知れません、
それでも?』
「それでも、です。私が見ているものはいつも一つだけです。その先にいる榎本さんであるなら、私は
一途に盲信します」
『…あなたらしいですね、とても』
榎本の口調がわずかに柔らかくなったように感じた。それだけは決して誤魔化せない本心なのだろうと
切ないまでに確信する。
そして、気になることがもう一つ。

58 :
「榎本さん、どうして突然私に電話を?」
久し振りの電話を雑談で終わらせて、これで二度と声すら聞けないとしても諦めはついている。ただ、
心の底をいつも見せなかった榎本の本心をわずかでも見出したかった。
『先程、青砥さんを思い出したからです』
やはり答えはあっさりとしたものに留まっている。しかしそれでも嬉しかった。少しであったとしても
榎本の記憶の中に存在していたのであれば。
「…私はあれからずっと榎本さんのことばかり考えていました」
『僕があなたを忘れる筈がないでしょう、純子さん』
「…っ」
二人きりで過ごしていた時の呼び方を突然されて、青砥は言葉を失ってしまった。榎本が一体何を
思っているのか分からないが、こうして会えない、触れ合えない状況で囁かれるのは正直ずるい、と
どうしても感じてしまう。
嘘の言葉でも全然構わなかった。
「そんな風に呼ばれたら、私は…」
余計なことなど何も考えずにいられてとても幸せだったあの頃を思い出すと感極まってしまい、涙が
後から後から溢れてくる。
『泣かないで下さい』
「榎本さん…会いたいです」
『僕を困らせないで下さい、純子さん』
「……会いたい」
駄々っ子のように泣きじゃくる青砥に閉口したのか、微かな溜息が聞こえた。
『本当に、困った人ですね。相変わらず』
その言葉を最後に、携帯はぷつりと切れた。かかって来た時と同様の唐突さに青砥は携帯を握り
締めたまま子供のようにわあわあと泣き続ける。犬が心配をしてくれているのかぐるぐると周囲を
歩き回っていた。
「…大丈夫、大丈夫だから、ごめんね…径」
榎本と同じ名前をつけた犬は青砥を見上げてくんくんと鼻を鳴らし、宥めるように小さく鳴き続けて
いたが、すぐにぴんと耳を立てて玄関の方角に向いた。
「何?」
威嚇するように姿勢を低くして唸る犬を不安な気持ちで眺めていると、程なくして玄関のチャイムが
鳴った。


59 :
うっそ。前スレが終わってたの気づかなくてずっと更新ボタン押してた。
自分涙目。
これから読む。

60 :
>>58
GJ! 泣いた。

61 :
きゃーきゃーきゃー!
すごい禿げ萌えの嵐が!!!
書き手さんたちGJ×3つだったっけ。
数えてないけど、全部好き。
ありがとう。

62 :
前スレが512k超えてるのに気付かなくて最終回後突然書き込みなくなったから
榎青ファンがあの最終回に落ち込んで離れていったのかと一人寂しく思ってた
なんだ、新スレがあったんだね!よかったー

63 :
あ、ごめんなさい。いろいろかぶってるかもだけど
最終回の後、どうしても榎本と純子には再会していてほしい、という祈りをこめて
五年後の二人を書いてみました。
多分みんなが気にしてるだろう
「携帯電話解約=純子&芹沢切り捨て?」と「ラストシーンのにやりは何だ?」に
自分なりの希望的見解を付け加えています。
エロシーンまで持ち込もうと頑張ったのですが長くなりすぎたので割愛していまいました……
それは本当に申し訳ありません。
では、今から投下します。

64 :
「エノモト。これはお前のことじゃないのか?」
「……人違いでしょう」
「そうか? この写真、おまえによく似てるぞ。探してる、会いたい、だそうだ。熱烈なラブレターじゃないか」
「人違いです」
「どれどれ……ジャパンからか。やっぱりお前のことだろう?」
「違います」
 たまたま同じホテルに居合わせた、というだけの白人男性のしつこい追及に、榎本はため息をついて目を伏せた。
 排他的な日本人とは違い、欧米人はよく言えば友好的で悪く言えば馴れ馴れしい。
 例えば、インターネットの片隅に転がっている、怪しげな人探し掲示板の情報を、わざわざ確認しに来る程には。
 こういったことは初めてではない。声をかけてくる人種に違いはあれど、数ヶ月に一度の割合で、同じようなやり取りを繰り返してきた。
 インターネットは世界中と繋がっている。どこの国に行っても、完全に逃れることは不可能だ……ということはわかっていたつもりだが。まさか、彼らが五年も経った今でも、情報発信を続けているとは思わなかった。
「…………」
 榎本をからかうのにも飽きた男性が去って行った後、こっそりと彼が使っていた端末に歩み寄った。
 インターネットの閲覧履歴から、男性が先ほどまで見ていたページを探り当てる。よくある、「この人を探しています」系のHPで、そこには、五年前の榎本の写真と名前や外見的特徴が、日本語、英語、中国語など様々な言語で書き連ねられていた。
 情報更新日はほんの数日前。更新が新しいものほど、情報が上に……つまりは人目につくような作りになっているらしく。新しい情報など無いにも関わらず、彼らは頻繁にこのサイトにアクセスしては、更新を繰り返しているらしい。
 すぐに諦めると思っていた。
 最初にこの手のサイトを見つけたのは四年以上前……榎本が日本を脱出した、数ヶ月後のことだったか。
 放っておけばすぐに忘れるに違いない、と思い、何のアクションも起こさずにここまで来たが。さすがに、そろそろ潮時かもしれない。
「……本当に、あなたは困った人です、青砥さん」
 仕事が終わって、帰宅した後。すぐにパソコンを立ち上げるのは、この五年の間にできた純子の日課だった。
 行きつけのHPにアクセスし、メールをチェックし。そして、今日も特に何の情報も無いことにため息をついて、パソコンを閉じる。
 同じことを毎日繰り返しているが、決して飽きることはない。飽きてやめてしまえば、それこそ、彼を見つけることは叶わなくなってしまうのだから。
「……どこにいるんですか、榎本さん」
 パソコンの電源を落とし、ベッドに転がる。眠る前に携帯をにらみつけるのも、日課の一つだった。
 五年の間に、純子も弁護士として、それなりに成長してきた……と思う。
 あの頃は、ただ芹沢の後をついて歩くだけのことが多かったが。今は、それなりに重要な案件を任されるようにもなってきたし、それに伴い、自分で仕事の調整……つまりは、時間を自分の采配でやりくりできるようになってきた。
 近々、芹沢に長期休暇の申し出をしてみるつもりだ。きっと、芹沢は渋い顔をするだろうが。目的を聞けば、彼も嫌とは言わないに違いない。
 一口に外国と言っても広い。そう簡単に見つかるとは思っていないが、手はなくもない。伊達に、五年もの間、情報収集を続けてきたわけではないのだから。
「わたしは、絶対に諦めません」
 五年前、芹沢に向かってそう啖呵を切った。その決意は、今も揺らいでいない。
 ため息と共に携帯を枕元に置き、明りを消す。どんなに仕事が忙しいときでも、どんなに疲れているときでも、決して携帯の電源は切らない。いつ何時、彼から連絡が来るかわからないから。
 真夜中でも明け方でも構わない。純子から連絡を取ることができないのなら、待つしかない。
「おやすみなさい、榎本さん」
 そして、今日も。返事のない携帯に挨拶をして。純子は、眠りについた。

65 :
 ――異変に気付いたきっかけは、不自然にきしむ、ベッドのスプリング音だった。
「……ん……んんっ……?」
 暗闇の中で、純子はうっすらと目を開けた。まだ完全に目が覚めていないせいか、頭がぼんやりする。
「なに……」
 無意識のうちに布団から這い出ようとして、異様な空気に、動きを止める。
 何の物音もしなかったが。そこに、確かに誰かがいた。それはわずかな呼吸の音かもしれないし、微かに伝わってくる体温かもしれない。何かはわからないが――とにかく、誰かの気配が、あった。
「!!」
 とびおきる。悲鳴を上げようとして――大きな手に口を塞がれて、恐怖で背筋が凍りついた。
(誰っ……)
「――相変わらず、あなたは無防備な人ですね、青砥さん」
「!!?」
 耳元で囁かれた声に、全身が、強張った。
 忘れるわけがない。この声。この響き。闇の中でもわかる、細くすんなりと伸びた指、お世辞にも大柄とは言えない、華奢な体躯。
 腕を振り回す。ベッド脇のスタンドをつかみ、手探りで、明りをつけた。
 ぼんやりと浮かぶ光の中で。五年前とあまり変わらない――けれど、確かに五年の歳月を経た彼が、そこに居た。
「…………!!」
「大声を出さないでいただけますか。このマンションの防音設備はあまりよくありません。悲鳴を聞かれて、通報でもされたら面倒ですので」
「…………」
 必に頷くと、そっと手を外された。
 大きく息を吸い込む。恐怖などどこかに吹き飛んでいた。今、胸に宿るのは――
「榎本さんっ……」
「お久しぶりですね、青砥さん」
「ど、どうしてっ……!?」
 驚愕。そして喜び。
 五年前、電話一本で姿を消した彼が、今、再び目の前にいる。夢ではないか、と頬をつねってみたが、しっかりと痛かった。
「どうして、ここに……」
「本当にあなたは無防備な人です。五年も経っているのに同じマンションに暮らしているとは思いませんでした」
「わたしっ……鍵、かけて。チェーンロックも……」
 純子の言葉に、榎本はふっ……と鼻で笑った。
「こんなの、余裕です」
 懐かしい、その自信満々な表情。
 ああ、そうだ。全くの愚問だった。彼にとって、鍵だのチェーンだのは何の意味もない。純子のマンション程度の鍵など、彼にかかればものの数秒とは持たなかっただろう。
 だから。聞くとするなら。
「どうして、ここに……榎本さん。今まで、どこに……」
「…………」
 今更だが、自分はパジャマ姿だった。当たり前だが、こんなことになるとは思っていなかったから部屋の掃除もしていない。
 羞恥心がこみあげてきたが、まさか出て行けと言うわけにもいかない。
 あの頃と同じような、ニットにネクタイという定番スタイルの榎本から目をそらし、もじもじと視線を彷徨わせていると。
「――警告にあがりました」
「え?」
「わかったでしょう、青砥さん」
 どすん、と。榎本らしくもない、乱暴な仕草で、ベッドに腰掛けた。
 スプリングがきしむ。不安定に揺れる身体に純子が戸惑っていると。榎本は、すっ――と手を伸ばして、純子の肩を、つかんだ。

66 :
「僕にとって、戸締りなど何の意味もない。その気になれば、いつだってこんな風にあなたの家に侵入することができます」
「…………」
「その気になれば、この場であなたを襲うことだってできる……僕は、そういう男なんです」
「……何を、言っているんですか? 榎本さん」
「わかりませんか」
 そう言って、榎本はうっすらと笑みを浮かべた。
「迷惑だ――と言っているのです。いい加減に、僕を探し回るのは、やめて下さい。世界中、どこへ行ってもあなたの出している尋ね人情報につきまとわれて困っています」
「…………」
「会いたい、とのことでしたね。ですから、会いに来ました。これっきりにして下さい、というつもりで」
「榎本さん」
「わかるでしょう。僕とあなたでは、住む世界が違うんです。五年前のあのとき、思い知ったでしょう」
 五年前。
 鴻野警部、そして芹沢が言っていた。榎本には、裏の顔があるのではないか、と。
 あのとき、椎名が盗み出したダイヤモンドは、一億円相当が偽物とすり替えられていた。また、同時期、美術館等で窃盗が多発していた。被害にあった館内の監視カメラを確認したところ、どのカメラにも榎本の姿が写りこんでいた――
 これといった証拠はない。だから、警察に手出しをすることはできない。けれど、無関係だ、と断じるには、あまりにもタイミングが良すぎる、と――
「青砥さん」
「…………」
「青砥さん、聞いていますか」
 顔を上げる。目の前にある、榎本の顔。この五年の間、会いたい、会いたいと願い続けて来た男――
「青砥さん?」
 腕を振り上げ、翻した。手のひらをその頬に叩きつけるまで、数秒とはかからなかった。
 ぱあんっ! という高い音に、確実に、時が止まった。
「…………」
「何を、言っているんですか、榎本さん」
 自然と身体が震えた。恐怖や悲しみではない。これは武者震いであり……怒りだ。
「何を言っているんですか、あなたは。わたしが……何故、あなたに会いたいと願っていたか。五年の間、探し続けてきたか。あなたにはわからないんですかっ……」
「青砥さん?」
「文句を言うためですよっ!」
 もう一度、腕を振り上げる。予測していたのか、その攻撃は榎本の腕に阻まれた。
 至近距離で見つめあう。一瞬たりと目をそらすまい、と誓って。純子は、この五年の間、胸に秘めていた怒りを一気にぶちまけた。
「本当にあなたは何を言っているんですか! 何を勝手な! あのとき約束したじゃないですか。
 明日、何もかも話すって。それなのに、あなたはその日のうちに携帯電話を解約してわたし達の前から姿を消した! いきなり犯人が自首して来て、わたし達がどれだけ困惑したか、あなた、わかってるんですか!?」
「…………」
「その後は三日も連絡をよこさず、仕事もやめて! 倉庫も片付けて! やっと連絡が来たと思ったらいきなり外国に行くって言い出して!
 そしてさようならですよ!? あなたのせいで、密室専門弁護士とか持ち上げられた芹沢さんが、その後どれだけ苦労したと思ってるんですかっ……!!」
「――いえ、それは……」
「わかってますよ! 八つ当たりだってわかってます。でも、しょうがないじゃないですか! 本当にびっくりして……ショックで、悲しくて……怒りでもしなきゃやってられませんよ! 榎本さんは何もわかってない!
 あなたはっ……あなたにとっては、わたし達なんて、急にいなくなってもどうでもいい存在かもしれない。でも、わたし達にとっての榎本さんは違うんですよっ……」

67 :
 ぼろぼろと、自然に涙が溢れだすのが悔しかった。
 五年前のあのとき、誓ったはずなのに。例え榎本を見つけることができたとしても、決して泣くまい、と。
 泣いたところで、榎本がそれにほだされることなどありえないのだから。ならば、せめて弱みは見せないようにしよう、と。
 でも、駄目だ。無理だ。わたしは――
「――会いたかった」
「…………」
「会いたかったんですよ、榎本さんっ……」
 ――忘れたことなんか、なかった。五年の間、一日だって。
 何度か、親から見合いの話を持ち込まれた。同世代の友人たちはどんどんいい相手を見つけて家庭を築いて、それを羨ましく思いながらも自分から前に進む気にはなれなかった。
「榎本さんっ!」
 捕まれた腕を振り払って、その胸に身を投げ出した。
 抱擁など最初から期待していない。だから、自分からすがりついた。
 榎本が、今日、ここを訪れたのは、本当に純子の行為が迷惑だったからかもしれない。今度こそ本当に決別するつもりで、やって来たのかもしれない。
 それでもよかった。やっと言うことができる。今、目の前に榎本がいる。それだけで十分だから。
「……いつでも部屋に侵入して、襲うことができるって、そう言いましたよね?」
「…………」
「じゃあ、襲っちゃってくださいよ」
 笑みになったかどうか自信はなかったが、それでも笑ってみせた。
 怯えたりなどしない。怯える必要などどこにもない。それを、榎本に見せつけるために。
「いいですよ。榎本さんなら大歓迎です。わたしのこと、無防備だって言いましたね? 榎本さんにとっては鍵なんて何の意味もないって。
 当たり前じゃないですか。何で、榎本さんを警戒する必要があるんですかっ……いつ、榎本さんが戻って来られてもいいように、あえて引っ越ししなかったんです。何で、わからないんですかっ……」
「――青砥さん」
「五年前……」
 榎本の胸元を握りしめて、言葉を絞り出す。
 その結論に達するまでには、相応に時間がかかった。芹沢とも何度も言葉を重ねた。それは所詮憶測の域に過ぎないのだけれど――しかも、多分に希望的観測に過ぎないのだけれど。
 それでも、あのときの榎本の行動を合理的に説明するとしたら、この解釈が一番納得できる、と。そうやって導き出した結論。
「榎本さんが姿を消したのは、わたしと、芹沢さんのためですか……」
「…………」
「あの時点で、あの窓拭きの彼を……椎名さんを容疑者として数えるのは無理がありました。彼を逮捕するには証拠が必要だったけれど、決定的な証拠は彼が盗んだダイヤモンドだけ。
 屋上の給水タンクに隠されたボーリングの球ですら、決定的証拠とは言えません。水に濡れて、指紋は取れなかったでしょうから――
 そして、彼はそのダイヤモンドを恐らく自室のどこかに隠し持っていたのだろうけれど……あの時点で、自室の強制捜索は恐らく無理だったでしょう」
「…………」
「榎本さんが、調べて下さったんですね。きっと、椎名さんの家に忍び込んで」
 強固なセキュリティに守られた社長室にさえ、余裕で侵入できると宣言した彼のことだ。
 あんな古い木造アパートの一室など、彼にとっては開放空間に等しかっただろう。
 不法侵入。いくら犯罪捜査のためとは言え、決して一般人に許されることではない。例えそれで事件が解決したとしても、榎本が罪に問われるのは間違いのないことだった。
 そして、それに芹沢や純子が関わることは、弁護士としてキャリアに致命的な傷を残すことになるであろうことも――

68 :
「事件を解決するためには法を犯すしかなかった。それにわたし達を巻き込まないために――」
「――それは買いかぶりというものです」
 純子の言葉を遮って、榎本は、冷え冷えとした言葉を返した。
「僕は、ただ、これ以上あなた達と一緒にいたくなかっただけです」
「――どうして」
「法律に守られた範囲でしか動けないあなた方は、地位、名誉、金銭――あらゆる全てに恵まれているのでしょうが。僕から見れば、全面ガラスの檻に囚われているようにしか見えなかった。
 僕は、自由でいたかったんです。あなた達にも、警察にも囚われず、自由気ままに生きていたかった。だから、あなた達を切り捨てたんです」
「切り捨てた。わたしと、芹沢さんを」
「そうです」
「――でも、榎本さんは、外国に飛び立つ前、わたしに電話をくれました。携帯電話を解約されて、そのまま黙って姿を消されても何の支障もなかったでしょうに」
「…………」
「榎本さん」
 違っていたらごめんなさい、と前置きして。
「携帯電話を解約されたのは――わたし達から連絡を取れないようにしたのは――待ちたくなかったからじゃないですか?」
「…………」
「法を犯すしか、解決する道が見つからなくて。わたし達の前から姿を消すことを決意して――
 切り捨てたのはわたし達ではなく、あなたの未練ではないですか? 携帯電話をそのままにしていたら、わたし達の電話を待ってしまうかもしれない。それが嫌で――」
「何を言っているんですか、あなたは。そんなわけが――」
「わかりますよっ! だって……わたしは、毎日のように、思っていましたっ……」
 ぐっ、と、枕元の携帯を握りしめる。
 そうだ。信じる、諦めない――とどれほど固く誓っても。それでも五年は長かった。
 いっこうに鳴らない携帯電話を見るにつけ、いっそ番号を変えてしまおうか、と。そう思ったことは一度や二度ではない。
 変えてしまえば諦めがつく。榎本は新しい番号を知らないのだからかかってこなくても仕方がない――そう、自分に言い聞かせることができる。
 それでもできなかった。一縷の望みにすがりたかった。榎本はこの携帯の番号を知っている。覚えていてくれている。だったらかけてきてくれるかもしれない。いつか、いつか――
 その微かな望みだけを胸に、この五年、耐えて来たのだから。
「榎本さん。わたしを見てください」
「…………」
「わたしの言葉が的外れだって言うのなら! わたしの目を見てください!」
「…………」
「――榎本さん」
 榎本は、顔をあげなかった。決して、純子の顔を見ようとはしなかった。
 五年前のあのときからそうだった。彼は、滅多なことでは純子と目を合わせてはくれなかった。あのときは、単にコミュニケーションを取るのが苦手な人なのだ、と。そう思っていたが――
「住む世界が違ったら、どうしていけないんですか……?」
「…………」
「違う世界だって、いいじゃないですか。同じ世界に住んでいたって、わかりあえない人はいます。なら、違う世界に住んでいても、わかりあえることだって、あるかもしれないじゃないですか」
「青砥、さん」
「榎本さん」
 わたしを抱いてくださいよ――と。心の奥底からの本音は、思ったよりもすんなりと出た。
 わたしを襲うことだってできるんだって。そう豪語されたんですから。だったらできるって証明してくださいよ――と、挑発的な言葉まで付け足してしまった。
 こんな夜中に、わざわざ家まで忍んで来て下さったんだから。相応に期待しちゃいますよ。榎本さんが悪いんですよ――と、半ば八つ当たりに近い言葉まで吐いた。
 どう思われてもよかった。今更、見栄やプライドや羞恥心など何の意味もない。そんなものは、榎本がいなくなることに比べたら大したことではないのだと――五年前に、十分に思い知っていたのだから。
「榎本さんがわたしをどう思っているのかは、わたしにはわかりません――でも、わたしは榎本さんが好きです。違う世界の人だって構わないって、そう思えるくらいに」
「…………」
「榎本さんは、どうですか?」
「…………」
 純子の言葉に、榎本は微かに唇を開いて――

69 :
 ――五年前。
 臨時収入も手に入れて、身辺整理も終えて、いざ、日本を飛び出そうとした瞬間。榎本の足を阻んだのは、純子の笑顔だった。
 このまま何も言わずに姿を消したら、純子はきっと悲しむだろう。ひょっとしたら、犯人の手にかかったのでは――と、いらぬ心配をかけるかもしれない。
 そう思ったとき、自然と足は公衆電話に向いていた。
 携帯電話を処分したとき、メモも何も残していなかったのに、それでも自然に指が動いた。この数ヶ月の間、毎日のように発着信を繰り返していた純子の番号を、いつの間にか諳んじていたのだと――そのことに、自分が一番驚いた。
 けれど、いざ、コールが始まった瞬間、急に怖くなった。
 椎名が約束を守っていれば、事件は既に解決しているはずだ。既に、あの二人には、ダイヤモンドの一部が偽物とすり替えられていたことも、耳に入っているかもしれない。
 ひょっとしたら、電話をかけた瞬間、罵声を浴びせられるのかもしれない――それなら、それでも構わないのだが――
 五回、コールしても繋がらなかったら、諦めて切ろうと思っていたが。電話は、あっさりと繋がった。
 驚いた。二人は本当に自分を心配していた。どこに行くのか、いつ戻って来るのかと問われた。
 ダイヤモンドの件を知らなかったから、ではない。知っていたのに、それでも、自分のことを案じてくれていた――
「では」
 これ以上、通話を続けていることができなくて。物言いたげな純子の声を強引に断ち切って、電話を切った。
 受話器から、なかなか手を放すことができなかった。
 住む世界が違う人間だ、ということは、純子も芹沢も薄々気づいていただろうに――それでも、二人は、自分を受け入れようとしてくれていた。
 頭から信じていたのではない。疑いを持ちつつも、受け入れようとしてくれた。榎本という存在を、自らの理想で歪めるのではなく、丸ごと受け入れようとしてくれた――
 未練を断ち切り、受話器から手を放した。
 ああ。もう十分だ、と。そう思ったとき、自然と笑みがこぼれた。
 この数ヶ月の日々は、自分にとって無駄ではなかった。それは素晴らしく幸せで、有意義な日々だった――そう素直に認めることができて、とても、とても嬉しかった――
「……本当に、あなたは困った人です」
 五年前の思い出を振り払って、榎本は、つぶやいた。
「どうせ僕のことなんかすぐに忘れるだろうと思っていたのに――忘れてはくれませんでした」
「……忘れるわけがありません」
「あなた達のことなんか、すぐに忘れることができる、とそう思っていたのに――忘れられませんでした」
「…………」
「――会いたかった」
 それこそが、榎本の本心だった。
 認めることが怖くて、目をそらし続けて来た――日の当たらない場所に立つ自分にとって、まぶしすぎる存在なのだと自分を戒めようとして――けれど、できなかった。
「僕も、ずっと会いたかったですよ、青砥さん」
 なら、何でさっさと来てくれないんですかっ! ――という罵声を受け止めて。
 榎本は、純子の身体を押し倒した。
 今後のことなど考えていない。今更戻って来たところで、この国に榎本の居場所があるかどうかはわからない。
 だが――そんなことは、きっとささいな問題だ。
 居場所がなければ作ってしまえばいい。離したくない人がいる。諦めたくない人がいる。それで十分だ。
 五年前と変わらない、華奢な身体を抱きしめて。
 その耳元で、榎本は本音を囁いた――
〜〜END〜〜

70 :
終わりです
長々と失礼しました。

71 :
素敵だ。

72 :
>>70
すごい!GJ。

73 :
>>63
素晴らしいです。GJ!
皆さん、あのラストからきれいにラブ方向に持って行ってお上手です。
ぜひとも、もっと読みたいです。
原作の榎本が純子を食事に誘うくだりが最終回に来ることを期待してたので、
そうなるようにラストを改変したものを投下します。エロはあっさりめです。ごめんなさい。

74 :
「あのっ、旅行って、どこに行くんですか?」
『…さあ。』
「いつ…帰ってくるんですか?」
『さあ。』
純子の問いかけに榎本からはそっけない言葉しか返ってこない。
さすがに不安になり、思い切って尋ねた。
「さあって榎本さん…まさか…帰ってこないつもりじゃないですよね?」
暫しの沈黙。
『…青砥さん。』
「はい?」
『帰ってきたら…食事でも一緒にどうですか?』
「…えっ?」
『無理に、とは言いませんが。」
「いえっ、えっと、い、行きます。で、でもっ…。」
『フライトの時間なので、もう行きます。』
「あっ。ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいっ。」
『では。また、連絡します。』
そう言ってあっけなく電話は切れた。
呆然と携帯電話を見つめる純子。
「何だって?」急かすように芹沢が聞く。
「…さあ…?」
純子にも全く訳が分からなかった。確かなのは食事に誘われたことだけだ。
それもいつになるのかわからない約束を。
電話を切った後、しばらく榎本はその場で佇んでいた。
なぜ、あんな約束をしたのか。食事の約束などする予定ではなかったのだ。
純子に別れを告げた後、さっさと電話を切るつもりだったはずなのに。
帰ってこないつもりではないかという問いに核心を突かれたような気がして、実は一瞬ドキリとした。
その狼狽ぶりを悟られないために、咄嗟にあんな言葉が口を突いて出てしまった。いや、それだけではない。
本当に純子に会えなくなってしまうことに抵抗を感じたからではないか。
我ながら情けないと思う。いつから自分は己の感情に簡単に流されるようになってしまったのだろう。
――きっとあの屈託のない笑顔に出会った時からだ。
彼女の笑顔は僕を混乱させる。彼女に笑いかけられる度に思考回路にがたつきが生じるのだ。落ち着け。冷静を保つんだ。
こんなことでは次の“仕事”に支障が出るかもしれない。
榎本は自分に言い聞かせる。そして、パスポートを掴み、イヤホンを耳に差し込むと、搭乗口に向かって歩き出した。

75 :
そして4か月が経った。
ジメジメした熱気を感じさせていた季節はいつのまにか肌寒さを感じさせるようになっていた。
あれから全く連絡はない。
鳴らない携帯電話を見つめながら純子はため息をついた。
その様子を見た芹沢が声をかける。
「榎本からまだ連絡はないのか。」
「はい…。」
「全く…どこ行っちゃったんだろうなぁ〜、アイツ。」
心なしか芹沢も寂しそうだった。
「そうですね…。」
「なあ、青砥。」
「はい?」
「アイツさー、やっぱり泥棒だったんじゃないか?ほら、空き巣の友達だっていたしさー、椎名章のダイヤのことも俺は疑わしいと思ってるんだよ。ひょっとしたら俺の時計も…」
「芹沢さん!何、言ってるんですか!榎本さんはそんなことするような人じゃありませんっ!そんなこと芹沢さんも知ってるじゃないですか!」
純子の剣幕に芹沢は目を見張り、それ以上続けられなかった。
「そ、そうだな。でもなー…」呟きながらも何やらブツブツ言っている。
ホント、どこ行っちゃたんだろう…
純子は悔しい位に真っ青な空を窓から見上げた。
どこかで榎本もこの空を見上げているのだろうか。
かと言って、こちらから連絡する術も見当たらない。待つことしかできない自分のこの歯痒さ。純子は深く長いため息をついた。
19時を少し過ぎた頃、仕事を終えた純子はいつものように帰路に着こうとする。
しかし、当然のことながら帰っても何もすることもない。
今日もコンビニに寄って何か適当な夕飯でも買って帰ろうと考えていた矢先、携帯電話が鳴る。
見ると公衆電話からだった。
榎本に違いない。
そう直感した純子の鼓動が早まる。
「もしもしっ!?榎本さんですか?榎本さんですよね?」
『…はい。榎本です。良くわかりましたね。』
電話から聞こえてくる懐かしい声に純子は心が躍った。
「そりゃ、わかりますよ。今時、公衆電話からかけてくるなんて、榎本さん位しかいません。いつ帰ってきたんですか?」
『今です。』
道理でがやがやと人のにぎやかな声に交じってアナウンスらしき声が聞こえてくるはずだ。今、空港で到着したと同時に電話をくれたのかと思うと嬉しくなった。
『食事の件なんですが…』
「あっ、そうですねー。いつにしましょうか?榎本さんも帰国したばかりで疲れてるだろうから…」
純子はパラパラとスケジュール帳をめくる。
『…今からはどうでしょう?』
「へ?」
『では、○○ホテルの××号室で待ってます。』
純子の返事を待つことなく電話は切れた。
え?今から?
純子は戸惑いながら、今日も着ているいつものグレーのスーツを見る。
食事って言っても、こんな恰好でいいのかしら…
しかし、久々に榎本に会える喜びに勝てず、純子は早々と事務所を後にした。

76 :
指定された部屋の前まで来ると、純子はまず、髪型やスーツに乱れがないかチェックした。
気持ちを落ち着けるために、深呼吸を一回して、呼び鈴を押す。
暫しの間があった後、ドアチェーンを外す音がし、ドアが開いた。
純子の体は緊張で強張る。
――そこには待ち焦がれた榎本がいた。
4か月前より若干痩せているように見えたが、黒縁の眼鏡、シャツにネクタイ、フレッドペリーの薄手のセーターという出で立ちに変わりなかった。
「榎本さん!お元気そうですね!」
純子の顔から大きな笑みがこぼれる。
「どうぞ。」
榎本に招き入れられ、素直に部屋に入ったものの、あれ?食事に行くんじゃないの?と疑問に思う。
しかし、部屋のテーブルの上に並べられた豪華な食事を見て、その疑問は吹き飛んだ。
「食事って…ルームサービスなんですか?」
「はい。気に入りませんか?」
「いえ…そういうわけではないんですけど…。」
もしかしたら外で食事ができない理由があるのではないかと純子は考えた。
人の目を気にしてる?やっぱり…何かあるのかしら?
少し緊張している純子を解きほぐすように、榎本は椅子に座るよう促した。
純子は椅子に座りながら無駄に広い室内を見回す。
「この部屋って…スイートですよね?」
「正確にはセミスイートですが。」
「すごいですね…。臨時収入が結構あったんですか?」
「まあ、そんなところです。」
多額の臨時収入…ひょっとしたらあのダイヤを…
純子の疑念は深まるばかりだ。
どうしよう…聞いてみたいけど…聞くに聞けない。
「そういえば、どこに行かれてたんですか?」
思い悩んだ純子はあたりさわりの無い質問をする。
「フランスです。」
「フランス?」
榎本は芸術にも造詣が深かったのだろうか。何となくフランスは似つかわしくない気がした。
「パリにはリベラル・ブリュアン館という建造物があって、その地下に昔の錠が展示されているんです。」
「ははぁ。なるほど。」
それなら榎本らしい選択だと思った。と同時に数日前にフランスの美術館で、有名な絵画が盗まれたというニュースを思い出した。
そこは最新の警備システムを備えていたらしい。
…まさか。いくら榎本さんでもそこまでねぇ…。
頭に浮かぶダークな考えを必に振り払う。
「それで、フランスに4か月間も。」
「はい。」
「へぇ…。」
4か月間も滞在するなんて、結構な費用になるだろう。東京総合セキュリティの退職金はそんなにいいのだろうか。
そもそも7、8年程度しか勤めていないような社員にそんなに出す景気のいい会社があるのか。
すり替えられていたダイヤは確か1億…。
それを滞在費に充て、4か月近く美術館の下調べを重ねたうえ、絵画を盗んだ…なんてこと…ないよね?
色んな疑惑が頭の中をぐるぐるとまわる。
ダメだ。何を聞いても勘ぐってしまう。
純子は我慢が出来なくなった。このまま無難な会話を続けるよりは白黒はっきりさせた方がいいと思ったからだ。

77 :
「私…榎本さんに聞きたいことがあるんです。」
「何でしょう?」
「榎本さんって…その…やっぱり…あの…ど、泥棒、なんですか…?あのダイヤの件とか…気になっちゃって。も、もちろん私は違うって信じてるんですけど。」
「――もし、仮に、そうだったとしたら、青砥さんは僕を軽蔑しますか?」
榎本は眼鏡を外し、純子を見た。
蛇のように絡み付く視線が純子を捕える。
軽蔑?榎本のことを?
そんなこと考えてもみなかった。
私は榎本さんを軽蔑するために真実を知りたかったのだろうか。
違う。
「け、軽蔑だなんてそんな!わ、私はただ…」
そう言いかけて口をつぐむ。
私は一体何を言いたいのだろう。
明らかにしたいのは榎本が泥棒か否かという問題ではない。
言葉を探しながら、自分の頬を冷たく濡らすものの存在に気付き、純子ははっとする。
自分の頬を一筋の涙が伝っていた。
榎本もその姿を見てぎょっとしたような表情を浮かべる。
その瞬間、純子の口からずっと伝えたかった言葉が溢れだした。
「ごめんなさい。こんなことが聞きたかったわけではないんです。それどころか…榎本さんが何者かなんて、私にとってはどうでもいいことなんです。それより…私は…ずっと…榎本さんに会いたかったんです。」
榎本は何も言わない。
感情が高ぶった純子の言葉を待っているようだった。
「そうなんです。私は榎本さんに会いたかったんです。会えなくて、ずっと寂しかったんです。榎本さんはそうではないだろうけど、私は…会いたかったんです…。」
純子は涙をぼろぼろ流しながら捲し立てた。
私は何を言っているのだろう。
これではまるで告白ではないか。
純子は頭の片隅でそんなことを考えながらも、とめどなく溢れる感情は止められなかった。
普段からは考えられない純子の様子に驚きながらも、榎本はこれまでの思いが脳裏をよぎる。
――会いたかったのは僕も同じだ。
この4か月間、純子のことを思わない日はなかった。
何度忘れようとしたことか。だが、そう思えば思うほど純子の笑顔がちらつき、心の中を深くえぐる。その度に榎本の心は悲鳴を上げた。
苦しみに耐えかね、榎本は決心をする。今、すべきことが終わったら、日本に戻ろうと。
青砥さんはもう自分のことなど待っていないかもしれない。
証拠はなかったとしても、ダイヤの件で僕のことを軽蔑し、二度と会ってくれないかもしれない。
それでもいい。
異国の地でずっと生しの状態でいるよりは、例え受け入れられなくとも純子の側にいることを選んだ。
ただ…、本当のことを言えば拒絶されるのが怖かった。
だから、電話での嬉しそうな純子の声を聴いた瞬間に救われた心地がした。
そんな彼女が拒絶どころではなく、自分に会いたかったのだと今、目の前で涙を流している。
榎本は自分の愚かさに辟易した。
そして、ゆっくりと椅子から立ち上がり、純子に歩み寄る。
「僕もですよ。青砥さん。」
今までに聞いたことのない優しい声だった。
必で涙をこらえながらも大粒の涙を流す純子を抱きすくめた。
「僕だってずっと会いたかった…」
榎本が唇で純子の涙を拭う。
「え、榎本さ…」
呼びかける純子の唇を榎本のそれで塞ぐ。
涙の味がした。

78 :
そして抱き合ったまま、ベッドに倒れ込む。
荒く深く口づけられながら、純子は震える手でスーツの上着を脱いだ。
榎本にホテルの部屋に呼ばれた瞬間から、こうなることを予想していたわけではないが、全く期待していなかったと言えば嘘になる。
初心な自分を淫らにさせるほど、榎本との4ヶ月の別離は強烈だった。
もどかしいとでも言うように榎本のセーターに手をかけ、脱がせた後、シャツのボタンに手をかけ、お互いに脱がせあった。
生まれたままの姿になるまでにそう時間はかからなかった。
全裸になった純子のそこかしこに榎本は口づけを落とす。
まるで空白の時間を埋めるかのように。
唇の柔らかく生温かい刺激に純子の体は震えた。
白く華奢な体は榎本の手と唇でいやらしく苛まれ、うっすら朱に染まり、火照ってくる。
榎本は両足を軽く開かせると、眼前にある白い太腿の間に滑り込んだ。
もうそこはすでに潤いを湛え、榎本を誘っているかのように思えた。
「僕を待っていてくれたのですね。」
そう言って榎本は秘部に口づける。
「…ひゃ…あ!」
突然の刺激に純子は大きく喘いだ。
その後も容赦なく榎本は舌で攻め続ける。純子の内部を煽情的に掻き乱し、蜜を吸い、花芽を擦る。
「ぁん…は…ぅん…」
妖しく濡れた唇から零れ落ちる嬌声が甘さを増す度、榎本の舌も激しさを増した。
あっという間に純子は頂点に達する。得も言われぬ快感に体が麻痺したように動かない。
「青砥さん。」耳元で囁く榎本の甘い声。
「…はい。」麻痺した唇から必に声を絞り出した。
「僕はまだ満足してません。」
その言葉とともに、純子は思い切り腰を引き寄せられる。
さらに足を開かされると、十分な固さを持った榎本が純子の内部に押し込められていった。
「ああっ!」
榎本のモノが純子の膣壁を擦り上げる。
「は…あぁ…」
先程オーガズムを迎えたばかりだというのに、新たな快楽が体を突き抜けた。
二人の激しい息遣いと律動に合わせた淫靡な水音が広い部屋の中で響く。
激しく絡み合う二人の間を隔てるものは何もなかった。4ヶ月という月日も、純子の頭の中を占拠していた密かな疑念も。
膣の内部が収縮し、小さく痙攣を始めると、榎本は閉ざしていた自分自身を解放するかのように欲望を放出した。
純子の体が大きく仰け反り、榎本の背中に爪の跡を残す。
それは榎本に振り回され続けた純子のささやかな抵抗のようでもあった…。

79 :
小さな衣擦れの音で純子は目が覚める。
榎本からの連絡を待ち続けて、連日寝不足になっていた上に2回も絶頂を迎えたせいですっかり眠ってしまっていたようだ。
薄明かりの中で目を凝らすと、榎本が服を整えている。
「すいません。起こしてしまいましたか。」
「…もう…行ってしまうんですか?」
「いろいろと準備しなければいけないことがありますので。」
いつも含みを持った言い方をする榎本が憎らしい。でも、そんな榎本を軽蔑することも嫌いになることもできない自分の負けだと純子は思った。
「…榎本さん、もうどこにも行きませんよね?」
ドアノブに手をかけた榎本はフッと背中で笑う。
「また、連絡します。」
そう言うと、ドアの向こうに消えた。
純子の問い掛けに対する返事はまたも得られなかった。だけど、今度こそはずっと側にいてくれるような気がした。
何の根拠もないのだけれど。
純子はそっと榎本の温もりが残るシーツに触れる。
間違いない。榎本さんはここにいた。
昨日までの不安な思いはもうどこにもなかった。
数日後、純子のもとに、とあるセキュリティショップがオープンする旨のダイレクトメールが届く。ともすれば見落としてしまいそうな葉書の隅に手書きで書き加えられた11ケタの数字。
純子は携帯電話を取り出すと、逸る心を押さえながら、その数字をダイヤルした。
ちょうどその頃、榎本は開店前のショップで、デスクに向かい、フランスで入手した古めかしい錠を開ける作業に熱中していた。傍らに置いてあった携帯の着信音が鳴る。
画面を見るとあの愛しい人の番号だった。いつまで経っても純子の番号を暗記している自分に苦笑する。開錠作業を続けながらハンズフリーのボタンを押した。
『もしもし。誰だかわかりますか?』
いたずらっぽく笑いを含んだ純子の声。
「わかりますよ。青砥さんでしょう。」
『そうです。良くわかりましたね。』
数日前にも似たような会話をしたなと榎本は思う。
「わかりますよ。第一、この番号は青砥さんにしか教えていません。」
『あはは。そうだったんですか。…ところで榎本さん、今夜空いてます?』
「今夜ですか?空いてますけど。どういった用件でしょう?」
『お食事でもしませんか。お店がオープンした記念に。」
「…それはいい提案ですね。」
『じゃあ、19時にそちらに伺います。』
カチリという鍵の開く音とともに純子からの電話は切れた。
榎本は目を閉じ、息急き切ってここに駆けてくる笑顔の姿の純子を想像する。
全く…どんなに最新で難攻不落なセキュリティよりも自分の心を魅了してやまないものがこの世の中にあるなんて。
榎本は目の前の錠を見つめながら小さく微笑んだ。

80 :
以上です。
お目汚し大変失礼致しました。

81 :
Five Years After
禿げ萌えた!何コレ幸せ!
another epilogue
豪華な食事は食べられないままだったのか気になるw
榎本はホテルに入るまではきっと成瀬仕様かなにかで、部屋の中で榎本仕様に着替えたに違いないと信じてる。
しかし4ヵ月後って・・・10月ならセーターもありか。
お店を開いた榎本は眼鏡セーターは封印していてカジュアルに違いない。
きっと歩き方も姿勢も変えてるに違いない。

82 :
ここでも成瀬…
魔王族自重して

83 :
前スレ書き込めなくなってたの知らなくて、スレが止まったままだったから
みんな最終回見て燃え尽きちゃったんだと思ってたw
新スレ立っててよかった。1&職人さん乙です!

84 :
まあ確かに、あのラストで頭真っ白になった視聴者は多かろう
だけどこのスレの勢いはまだまだ続くようで嬉しい
職人さんたちの愛によって作品クオリティもハンパないことになってるから、
これからも楽しめるのが何よりも有り難いよ

85 :
あのラストだからこその萌え話がいっぱいあって嬉しい
青砥(の涙)に負けて己の中のルールを破っちゃう榎本ってイイ!
リスク覚悟?で青砥に会いに来る、らしくない行動をする榎本が好きすぎる

86 :
職人さんたちGJ!
あのラストを見た時その後の再会なんてとても想像できなくてもう終わりだとおもったんだ。
でもここの作品見てたら全然繋がるじゃん!未来期待できるじゃん!なんてちょっとウキウキしてるw
SPでも何でもいいからセキュリティショップオープンでもう一度見たいな。
そしてそこへ毎日愚痴りに来る青砥w

87 :
職人さんたち、神作品ありがとー!
どれもこれも、その続きが読みたいーってところで終わってて、
おかげで余韻にどっぷりがっつり浸ってる
ドラマ終わって寂しかったけど、このスレのおかけで救われてるよ

88 :
凄いなあ、職人さん達ありがとう!
原作も読んでみたけど、こっちは大人な2人だね。
微妙な関係って感じが何だかいいかも。

89 :
素敵な萌え作品をありがとう!
榎青はやっぱり(・∀・)イイ!!

90 :
ラストをフォローしてくれる作品がたくさん投下されてて嬉しい…!
あの終わり方ショックだったけどやっぱりまだまだ榎青好きだから今後もこのスレ続くといいな
あ、もし次スレ立てるときがきたらスレタイの【ドラマ】取ってほしい
原作設定も大好きだから話しやすい&投下されやすいように…

91 :
こんなネタ思いついたので投下
注意:寸前まで行ったのですがエロ本番に持ち込めず……申し訳ありません
××××××××
 最近、毎日のように顔を出していた純子が、今日は珍しく来なかった。
 榎本がそのことに気付いたのは、仕事も開錠作業も一段落し、そろそろ帰宅しようか……と考えた、午後8時過ぎのことだった。
 携帯に目をやるが、特に連絡のようなものはない。まあ、来るときだって大抵は何の前触れもなく現れるので、不思議なことではないが。
 これから、純子がここに来る可能性はあるだろうか? と一瞬考え、苦笑する。
 会おう、と約束しているわけではない。いちいち、「もう帰ります」などと連絡を入れる必要も、ましてやいつ来るか……どころか来るかどうかもわからない相手を、待つ必要などないだろう。
 結局、いつもより心持ちゆっくりと後片付けをし、職場を辞したときは、夜9時になろうとしていた。
 その連絡が来たのは9時15分。ちょうど、職場の最寄駅に到着し、電車に乗ろうとしていたときだった。
 不意に鳴りだした電話。取り出してみれば、着信相手はつい先ほど脳裏を過ぎった相手。
 今から顔を出しても大丈夫か、という連絡だろうか。その場合、自分はどう答えるべきなのだろうか?
「はい、もしもし」
 そんなことを考えながら、電話に出ると……
『ぐすっ……ひっく……ぐすっ……』
「……青砥さん?」
『ううっ……ひっく……ううう……』
「青砥さん? どうされました?」
 改札手前でユーターンし、喧騒溢れる駅構内から一歩外に出る。
 瞬間。
『うわああああああああああああああああん!!』
 電話越しでも耳が痛くなるような、すさまじい泣き声が飛び出してきた。
「青砥さん? 青砥さん、どうされました?」
『ううう……助けて……助けてください……』
「青砥さん? 助けてとはどういう……今、どちらですか?」
『いま……いま……いま、わたしがいるのは……』
 どうやら、純子は泣いている上に酔っているらしい。
 要領を得ない電話に焦りながら、何とか現在地を聞き出す。幸い……と言うべきか。純子の現在地は、近所……つまりは、榎本の職場の近くだった。
 やはり、自分のところに顔を出すつもりだったのか? そこで、何があった?
 謎は尽きなかったが。榎本とて、泣いて助けを求める純子を見捨てるほど、非人道的な人間ではないつもりだ。
 すぐに向かいます、と答えると。安心したのか、電話は切れた。
 酔ってはいても、純子の説明は正確だった。
 言われた通りの住所に向かう。繁華街……居酒屋から洒落たバーまで、酒を出す店が一通り揃った界隈の片隅で、純子はうずくまっていた。
 酔漢に絡まれていなかったのは最大級の幸運だろうと思いながら、肩を叩く。
「青砥さん」
「…………」
「青砥さん、大丈夫ですか」
「…………」

92 :
 のろのろと視線をあげる純子の顔は、明らかに真っ赤で、吐息どころか全身から酒の匂いが漂っていた。
 その目は全く焦点があっておらず、手を引いた瞬間、よろめいてしゃがみこんでしまった。
 どうやら、完全に酔い潰れているらしい。
「青砥さん。ご自宅までお送りします。肩につかまって下さい」
「…………」
 ぐすん、としゃくりあげる声。こんなところで泣いてくれるな……と内心祈りながら、純子の脇の下に腕をまわし、強引に立ち上がらせる。
「青砥さん。何があったんですか」
「……たすけてください」
「僕で助けられることでしたら、助けますが。何があったんですか」
「…………」
 ずるずると、純子の身体をひきずるようにして大通りに出る。幸いなことに、電話で呼ぶまでもなく、タクシーが通りがかった。
 何とか車内に純子を押し込み、ついで自分も乗り込む。純子の住所を告げると、運転手からは非難と軽蔑の眼差しを向けられた。
(……僕が飲ませたわけではないのですが)
 まさか、これから前後不覚の純子を手籠めにするとでも疑われているのか。だとしたら非常に心外なのだが。
 運転手と目を合わせないようにしながら、そっとため息をつく。肩にもたれかかってくる純子の重みが、妙に胸を騒がせる。
(タクシー代は……僕が立て替えるしかないんでしょうね)
 痛い出費になりそうだ、と頭を抱え。早く目的地についてくれと、それだけを祈り続けた。
 以前に一度訪れた純子の家。
 この程度の鍵を開けることなど、榎本にとっては造作もないが。住民に見られたら何事かと思われるだろう。
 さて、どうしたものか……と悩んでいると。榎本にもたれかかるようにして立っていた純子が、ごそごそと鞄を探り鍵を取り出した。
 どうやら、酔ってはいても日頃の習慣は抜けないものらしい。
 鍵を開けて部屋の中へ。以前に入室したときよりやや雑然とした印象の室内に足を踏み入れ、純子の身体をソファに横たえると。
「……ぐすっ」
「青砥さん?」
「ぐすっ……何で……何でなんですかあ……芹沢さん……」
「…………」
 あんまりと言えばあんまりな呼びかけに、さすがの榎本も眉間にしわが寄った。
「何でなんですかあ……あんまりです……芹沢さあん……」
「僕は芹沢さんではありませんが」
「失恋しちゃいました」
 ぴきっ! と。空気が凍りつく気配を感じた。
「失恋しちゃいましたあ……わたし……あんまりだと思いませんかあ……そりゃ、そりゃ、ずーっと黙ってたわたしも悪いですよお……でも、毎日顔あわせてるんですよ……普通、気づくでしょう? そうですよねえ……?」
「…………」
 大体、原因はわかった。それに何故自分がまきこまれるのかは理解できないが。
 純子が芹沢に。なるほど。大分年は離れているが、ああ見えて、芹沢は弁護士として非常に優秀らしいし、男の目から見ても、外見もいい。……やや、年はいっているが。
(……一体何を言ったんですか、芹沢さん)
 それにしても、この純子の荒れようはどうだ。一体どんなひどい台詞を吐いたのか。
 榎本の目から見ても、芹沢の女性関係は派手そうだ。自分とは違って。
 きっと、日頃遊び慣れた女性に対するのと同じような態度を純子にも取ったのだろう。この真面目な純子が、そんな扱いをされてどれほど傷ついたか――

93 :
 何故か苛立ちが募って来た。自分が怒る筋合いなどどこにもない……いや、今、現在進行形で迷惑をかけられているのだから、関係なくはないが……が、それにしても、純子のこの荒れようは尋常ではない。
「痛いんです……」
 そんな榎本の怒りなどどこ吹く風で。純子は、ひたすら涙と愚痴をこぼし続けた。
「痛いんです。心がとっても痛いんです……失恋って、こんなに辛いものだとは思いませんでした……ひどい、あんまりです……」
「青砥さん」
「助けて……」
 伸ばされた手を反射的に握ると、ぎゅっと指に力がこめられた。
「助けてください……」
「…………」
 潤んだ瞳で見つめられ、ぐらり、と理性が揺れたが、何とかこらえる。
 何を求められているか、がわからないほど鈍くはないつもりだが。それに乗るほど、自分の人間性は腐っていないと思いたい。
 こんな状況で手を出すなど、純子に対する最低の裏切りだ。傷ついて、助けを求めて来た。きっと、自分は純子から相応に信頼を得ていたのだ。そう思いたい。
 ならば、その信頼に応えたい。
「駄目ですよ、青砥さん」
 やんわりと手を振り払って、自前のハンカチで純子の涙を拭う。
「それは、駄目です。そんなことをしても、あなたの傷ついた心は癒えません」
「…………」
 榎本の言葉が、通じたのか、通じなかったのか。
 やがて、純子の唇から静かな寝息が漏れ始めて。榎本は、安堵の息をついた。
 そのまま帰宅してもよかったが。この状態の純子を一人放っておくことはできなかった。
 と言って、家主が眠っている中、一人ただ待つというのも居心地が悪い。
 自分もお節介になったものだ……と苦笑を漏らしながら、携帯を取り出す。
 電話をするには非常識な時間だが、こんな状況なら許されるだろう。
 もう寝ているか……という不安は杞憂に終わり。コール三回ほどで、通話は繋がった。
『もしもしーえのもっちゃん? 何だ、こんな時間に?』
「こんばんは、芹沢さん」
『仕事の話……じゃないよなあ? 何? 何か用?』
「はい」
 きっぱりと頷いて、ちらりと純子に視線を向ける。
 こんなことをしても、純子を悲しませるだけかもしれないが。巻き込まれた人間として、どうしても一言告げてやりたかった。
 娘でも通じるほどに年の離れた女性に何をやっているんですか芹沢さん。
「今、青砥さんの家にいるのですが」
『はあっ!?』
「申し訳ありません。青砥さん本人は、今、ちょっとお休みになられていますが」
『待て待て。何? 用って、もしかしてそういうこと? お前ら、ついにそういう関係に? 何、榎本、青砥とやっちゃったの?』
 いきなり下劣な話題を振られて、眉間のしわが深くなるのがわかった。何故そうなるのだ。自分が何をしたのか、もう忘れたとでも言うのか。

94 :
『何だ何だ、そうだったのか。いやいや、青砥におめでとうって伝えてくれ。榎本、うちの青砥をよろしく頼むぞ』
「違います。よろしく頼まれても困ります」
『はあ?』
「青砥さんに助けを求められました」
『助けえ? また家にゴキちゃんが出たのか?』
「そんな助けだったらよかったのですが。青砥さんは泣いて酔い潰れておられました」
『はいいい? 待て榎本、ちゃんと説明してくれ。意味がわからん』
「芹沢さんに振られたのが辛くて悲しい、と泣いておられます」
『…………』
 榎本の言葉に、電話から長い沈黙が返ってきた。
『……なあ、榎本。俺、ついに耳がおかしくなったのか?』
「正常に機能していると思われます」
『誰が、誰に振られたって?』
「青砥さんが、芹沢さんに振られた……とお伺いしました」
『はあっ!? 何それ!? 何の話!?』
 あくまでもとぼけるつもりか。あるいは……もしや、芹沢には、「振った」という感覚すらなかったというのか。
 ありうる話だ。女性からの誘いなど、それこそ毎日のように受けているであろう、芹沢のこと。純子の必の誘いを、冗談とみなして軽く流した……そんな様がリアルに想像できて、榎本にとっては久しく覚えがない、「激怒」と呼ばれる感情がこみあげてくるのがわかった。
「芹沢さん。あなた、彼女に何を言ったんですか」
『な、何も言ってないよ!? 何、えのもっちゃん!? 何か怒ってる!?』
「はい、どうやらそのようです。僕に口出しする権利は無いとわかっていますが、彼女に助けを求められた人間として、芹沢さんのことがどうにも不愉快です」
『だから何の話! 何で俺、身に覚えのないことでこんなに責められなきゃいけないの!?』
「とぼけるおつもりですか? 青砥さん、ずっと泣いておられたみたいですよ」
『だから、俺は知らないって! 別に、今日は仕事以外の話はしてないぞ!? 帰るときだって、普通に笑顔でさよならって手を振ってたぞ!? 大体、今日、青砥は定時で退社してお前のところに向かったはずだぞ!?』
「……はい?」
『間違いない! 昼休みに行列のできる店で有名なスイーツが買えたとか自慢してたからな。帰りにお前のところに差し入れに行くんだって浮かれてたぞ!? いや本当だって!』
「…………」
『なあ、榎本。本当に青砥はそう言ったのか? 俺に振られた、って? 何かの聞き間違いじゃないのか?』
「…………」
 芹沢の必の問いかけには答えず、榎本は無意識のうちに指をすりあわせていた。
 芹沢の言葉に、嘘はないように聞こえる。その話が本当だとしたら、確かに状況はいささか不可解だ。
 定時で職場を出たのなら、いつもなら、純子は夕方の6時過ぎには榎本のところに顔を出していたはずだ。だが、来なかった。
 そして、その3時間後、酔い潰れた純子から電話がかかってきた。
 純子が飲んでいた場所は、榎本の職場の近くだった――
「…………」
『榎本? なあえのもっちゃん? 本当だって、信じてくれよ? 大体、俺と青砥がいくつ年が離れてると思ってんだ? いくら何でも手を出したりしてないって! えのもっちゃ――』
「すいません、芹沢さん。また後ほど、かけ直します」

95 :
 必に弁明する芹沢を無視して、通話を強制終了。そのまま携帯の電源を落として、再び指をすりあわせる。
 夕方の6時過ぎ。その頃、自分は何をしていただろうか?
 ――と考えて。よみがえった記憶に、冷や汗が伝うのがわかった。
 まさか、そういうことなのだろうか。いや、いくら何でも自意識過剰だろう。あの純子がまさか――
 しかし、芹沢に振られた、と考えるよりは、その方が余程自然な話にならないか?
 そもそも、純子が「芹沢さん」の名前を出したタイミングを考えると――
「――――きゃあっ!?」
 不意に、背後から響いた悲鳴に、榎本はびくっ! と背中をひきつらせた。
 振り向く。いつの間に目を覚ましたのか――ソファから身を起こした純子が、こぼれんばかりに目を見開いていた。
「え、榎本さん!? 何で!? 何でここにっ……ここ、わたしの家ですよねっ!? 何でっ!!?」
「青砥さん……」
 覚えてらっしゃらないのですか、と言いかけて、口をつぐむ。本当に忘れているのだとしたら、きっと、その方がいい。お互いに。
 が、純子は、どうやら酔って記憶をなくすタイプではなかったらしい。その顔から血の気が引いていくのに、数秒とはかからなかった。
 震える手が携帯を探り当て、すさまじいスピードで画面を操る。恐らく、電話の発信履歴を探っているのだろう。両手で顔を覆って、「やっちゃった……」とうめき声を漏らした。
 その言葉が、全て教えてくれた。恐らく、榎本の想像は当たっていたのだろう、と。
「すいません、僕で」
「……何で榎本さんが謝るんですか」
「本当に助けを求めたかったのは、芹沢さんなんでしょう?」
「…………」
 榎本の問いに、純子は無言。けれど、否定しないことが、答えのようなものだろう。
 ゴキブリ事件のときもそうだった。困ったとき、助けを求めるとき、純子が頼る相手はいつも芹沢だ。
 だから、今回も。「振られた」と思ったとき。痛くて、辛くて、苦しくて、どうしても一人ではいたくなくて、芹沢に助けを求めたつもりで、間違えて榎本に電話をかけてきたのだろう。
 正直、間違えてくれて助かった。芹沢だったのなら、あの潤んだ目で助けを求められたとき、嬉々としてその誘いに応じたのではないかと思えてならない。
「青砥さん」
「……はい」
「的外れなことを言っていると思われたら聞き流して下さい。本日6時頃、備品倉庫に居た女性はうちの社員です」
「……はい?」
 榎本の言葉に、純子は、非常に間の抜けた返事をよこしてきた。
 あえてそれに返答せず、淡々と言葉をつむぐ。
「なお、彼女は先日結婚されたばかりです。新居に引っ越す予定だが、ホームセキュリティはどのようなものを入れたらいいのか、といった相談を受けました。もちろん、言うまでもないことですが、彼女の夫は僕ではありません」
「…………」
「おわかりいただけましたか」
 榎本の言葉に、純子の身体からへなへなと力が抜けた。

96 :
「……榎本さんが結婚されるわけじゃなかったんですね」
「違います。そんな予定はありません。というより、そんな相手はいません」
「なんだ……なあんだ……そうだったのか……」
 まだ酒が残っているのか、赤みの残る顔で。
 純子は、笑顔を浮かべて涙をこぼした。
「よかった……」
「…………」
「よかったあ……」
 その笑顔を見ているうちに、不意に、以前、雑談の折に出た会話を思い出した。
 ――ねえ、榎本さん。榎本さんは、どんな女性が好みなんですか――
 ――わたしですか? わたしはですねえ、対等な立場で話してくれる男性がいいかなあって思います――
 ――女は弱い者、守る者って、そういう男性じゃなくて。わたしと対等にしゃべってくれる男性がいいんです――
 ――もちろん、いざとなるときは助けてくれる人がいいですよ? でも、変にかばってやらなきゃ、守ってやらなきゃ……って男性は、嫌ですね。甘えちゃいそうだし――
 ――わたしは、彼氏には甘えたくないんですよ。昔からそうでした。友達とか彼氏には助けてもらいたくないんです。助けを求める相手は、いつも両親でした。それでかな――
「榎本さん……」
「はい、何ですか」
「本当に、本当にご迷惑をおかけしました……タクシー代、いくらでしたか。お支払します。……今日、帰りの分も含めて」
「……これが領収書になります」
 差し出された金額に眩暈を感じたのか、純子はしばらく「わたしの馬鹿馬鹿」とつぶやいていたが。気を取り直したのか、深々と頭を下げた。
「今回の件については、後日、改めて謝罪させてください――榎本さん」
「はい」
「そのときに……お話したいことがあります。聞いて、もらえますか?」
「…………」
 その話の内容は、薄々想像がついたが。それは、きっと自分の口からは言わない方がいいのだろう。
「はい、喜んで」
 その言葉に、純子は、笑みを返した。
 今日のところは引き上げよう。自分はまだ、純子の家に泊めてくれと言えるような関係ではない。
 今は、まだ。
「それでは、失礼します。おやすみなさい、青砥さん」
「はい。おやすみなさい、榎本さん」
 ――とりあえず。
 あらぬ疑いをかけた芹沢に、何と言って謝罪すべきか。当面は、そちらの方が問題だった。
××××××××
おしまい
本当は電話を間違えずにかけたパターンで芹沢×純子に持ち込もうかとも思ったのですが
どう考えてもアンハッピーエンドな結末になりそうだったので却下しました
おそまつさまでした

97 :
わーい、新作だ、職人さんGJです
ドラマ終わった寂しさを埋めてくれるのはこのスレだ
あとはドラマをひたすらリピってる
「玄関脇の〜」ってところ、何度見てもゾクッとする

98 :
ハッピーエンドに続きそうな終わり方でうれしいお♪

99 :
明日は月曜日だけどもう放送ないんだよなぁ、寂しい
遅れてこのドラマにハマったので、
1スレからこのスレまでまとめ読み出来て幸せだった
書き手さんたち、どうもありがとう!

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