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2012年7月エロパロ151: 【田村くん】竹宮ゆゆこ 35皿目【とらドラ!】 (747) TOP カテ一覧 スレ一覧 Pink元 削除依頼

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【田村くん】竹宮ゆゆこ 35皿目【とらドラ!】


1 :11/08/21 〜 最終レス :12/07/01
竹宮ゆゆこ作品のエロパロ小説のスレです。
◆エロパロスレなので18歳未満の方は速やかにスレを閉じてください。
◆ネタバレはライトノベル板のローカルルールに準じて発売日翌日の0時から。
◆480KBに近づいたら、次スレの準備を。
まとめサイト3
ttp://wiki.livedoor.jp/text_filing/
まとめサイト2
ttp://yuyupo.dousetsu.com/index.htm
まとめサイト1
ttp://yuyupo.web.fc2.com/index.html
エロパロ&文章創作板ガイド
ttp://www9.atwiki.jp/eroparo/
前スレ
【田村くん】竹宮ゆゆこ 34皿目【とらドラ!】
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1295782102/
過去スレ
[田村くん]竹宮ゆゆこ総合スレ[とらドラ]
http://sakuratan.ddo.jp/uploader/source/date70578.htm
竹宮ゆゆこ作品でエロパロ 2皿目
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1180631467/
3皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1205076914/
4皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1225801455/
5皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1227622336/
6皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1229178334/
7皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1230800781/
8皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1232123432/
9皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1232901605/
10皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1234467038/
11皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1235805194/
12皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1236667320/
13皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1238275938/
14皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1239456129/
15皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1241402077/
16皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1242571375/
17皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1243145281/
18皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1244548067/
19皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1246284729/
20皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1247779543/
21皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1249303889/
22皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1250612425/
23皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1253544282/
24皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1255043678/
25皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1257220313/
26皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1259513408/
27皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1260805784/
28皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1263136144/
29皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1266155715/
30皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1268646327/
31皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1270109423/
32皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1274222739/
33皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1285397615/

2 :
Q投下したSSは基本的に保管庫に転載されるの?
A「基本的にはそうだな。無論、自己申告があれば転載はしない手筈になってるな」
Q次スレのタイミングは?
A「470KBを越えたあたりで一度聞け。投下中なら切りのいいところまでとりあえず投下して、続きは次スレだ」
Q新刊ネタはいつから書いていい?
A「最低でも公式発売日の24時まで待て。私はネタばれが蛇とタマのちいせぇ男の次に嫌いなんだ」
Q1レスあたりに投稿できる容量の最大と目安は?
A「容量は4096Bytes、一行字数は全角で最大120字くらい、最大60行だそうだ。心して書き込みやがれ」
Q見たいキャラのSSが無いんだけど…
A「あぁん? てめぇは自分から書くって事は考えねぇのか?」
Q続き希望orリクエストしていい?
A「節度をもってな。節度の意味が分からん馬鹿は義務教育からやり直して来い」
QこのQ&A普通すぎません?
A「うるせぇ! だいたい北村、テメェ人にこんな役押し付けといて、その言い草は何だ?」
Qいやぁ、こんな役会長にしか任せられません
A「オチもねぇじゃねぇか、てめぇ後で覚えてやがれ・・・」

3 :
813 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2009/01/14(水) 20:10:38 ID:CvZf8rTv
荒れないためにその1
本当はもっと書きたいんだがとりあえず基本だけ箇条書きにしてみた
※以下はそうするのが好ましいというだけで、決して強制するものではありません
・読む人
書き込む前にリロード
過剰な催促はしない
好みに合わない場合は叩く前にスルー
変なのは相手しないでスルー マジレスカッコワルイ
噛み付く前にあぼーん
特定の作品(作者)をマンセーしない
特に理由がなければsageる
・書く人
書きながら投下しない (一度メモ帳などに書いてからコピペするとよい)
連載形式の場合は一区切り分まとめて投下する
投下前に投下宣言、投下後に終了宣言
誘い受けしない (○○って需要ある?的なレスは避ける)
初心者を言い訳にしない
内容が一般的ではないと思われる場合には注意書きを付ける (NGワードを指定して名前欄やメ欄入れておくのもあり)
感想に対してレスを返さない
投下時以外はコテを外す
あまり自分語りしない
特に理由がなければsageる

4 :
逢坂さんはとても未練がましそうにその包みを抱きしめると、それを高々と掲げる。
櫛枝さんと川嶋さんの挙動がぎこちなくなって、なにやらわたわたとしだす。
なんなの、いったい。
私の方からはあちらが丸見えだが、何を話しているのかまでは聞きとりきれない。
興味本位も手伝い、それまで閉じられていた窓を全開にする。
開け放した窓からは澄んだ空気が入ってきて、暖房に当たりすぎた体には心地よかった。
「お、落ち着いて話し合おうよ、大河、ね? ほら、あーみんも」
「ぐ……あ、亜美ちゃんもね、さっき髪引っ張ったの、あれ謝るわよ」
「私もちょっちしつこすぎたよ。ごめん」
「あ、あと、弾みでよ? あくまで弾みでだけどガチでビンタしたのも、まあ、悪かったわね」
「うんうん、あーみんなおっとなだな〜。大河もここは落ち着いた大人レデーになったつもりでさ、ね? ね? だから」
「あんたが高須くんに変な入れ知恵したのも、亜美ちゃんにマジ蹴り入れてきたのも今日のとこは特別に水に流してあげるから。
 ここは一先ずお互い様ってことで」
「もうっ、うるっさあい!」
やかましく鼓膜を叩く怒鳴り声が爽快さなんて打ち消してしまったけど。
固唾を呑んで見守っていると、あれはどうやら、何かをやめるように説得しているみたいで、だけど逢坂さんは頑として聞き入れない構えのよう。
おもむろに深く息を吸い込み、そうして、お腹から搾り出すように絶叫。
「ああーっ! あんなとこに竜児の手作りマシュマロがー!」
わざとらしいことこの上ない棒読みだった。
それも今の今、そのマシュマロの入った包みを放り投げようとしているのは、他ならぬ逢坂さん。
あの包みを囮にして逃げる時間を稼ごうという腹づもりは、誰がどう見ても明白だった。
そんなこと百も承知で、それでも反応せずにいられない人たちが。
「ええっ!? どこどこ!? どこいった!?」
「なんてことすんのよてめえ!?」
あんな幼稚な手によくまああれだけ真剣に引っかかってあげられるものだと、逆に感心してしまう。
流れ星でも降ろうものなら一秒間に十回は願い事を唱えられそうな勢いで、二人は血眼になって宙を見つめている。
北村くんから聞いた限りでは既にそれぞれ貰っているはずなのに、にも関わらずこの調子。
マシュマロ、恐るべしだわ。
いえ、真に恐いのは手作りという言葉の魅力かもしれない。
かくいう私だって、正直その魅力に目が眩みそう。
それはそうと、櫛枝さんも川嶋さんも、自分たちが見当違いの方向へ目を配らせていることにまだ気づかないのだろうか。
いくら待っても投げられた包みが彼女たちの頭上に降ってくることはない。
何故なら、こんな場面で逢坂さんは包みを手放す瞬間に足を滑らせてしまい、大暴投をしてしまっていた。
つるんと踏み込んだ足が滑り、体制を崩した拍子にくるりと反転。
逢坂さんが倒れるのと時を同じくして、手にしていた包みが空へ飛び立つ。
見た目どおりに軽そうなそれは、むしろ軽すぎたためかけっこうな高さまで上がっていく。
二階の廊下、その窓辺から見ていた私の目線よりも高かったのだから相当なもの。
しかも気のせいか、風に乗ってこちらの方へと落ち始めているような。
思わず窓から身を乗り出して手を伸ばす。
ないない、そんな上手くいくわけない。話ができすぎている。
そうは思いつつ構えていること数秒。
ぽすっと見た目どおりの軽い音を立てて、面白いぐらい簡単に、その包みは私の手の平に落っこちた。
かつてこんなに都合の良かったことが私の人生にあっただろうか。
ないわよ。え、ないわよ?
断言できてしまう自分にへこみそうだけど、そんなことよりもこれ、勝手に貰っちゃってもいいのかしら。
どうしよう。
「あっ!? ひょっとして大河、捨てたふりしてまだ持ってんじゃ!?」
起きたことがにわかには信じられないでいる私が硬直している一方で、櫛枝さんがしまったというように振り返った。
「はあぁ!? ちっくしょ、亜美ちゃんをハメるなんてあんにゃろういい度胸してんじゃ……なにしてんの」
はっとし、つられて振り返った川嶋さんの鬼のような顔が見る間に怪訝そうになる。

5 :
その視線はずっと下、俯けになり大の字になって地面で寝ている逢坂さんに注がれている。
声をかけられた逢坂さんが力なさ気によろよろ起き上がった。
「うう〜……つちたべちゃった……」
制服に付いた埃を払い落としながら、ぺっぺと口に混じった砂利を吐き出す逢坂さん。
顔も袖でぐしぐし拭って、そこで不思議そうに両手を眺める。
握って開いて数回繰り返してから、彼女は仰け反りそうな勢いで天を仰いだ。
「なあぁぁぁああああぁぁああぁあい!?」
校外にまで響き渡るような、今日一番の大絶叫。
耳を塞ぐひまもなく、間近で耳にした櫛枝さんと川嶋さんがしかめっ面になる。
離れていた私でさえも軽く耳鳴りがしているくらいだから、二人なんて相当なものに違いない。
そんな櫛枝さんたちに、逢坂さんが押し倒さんばかりに食いついた。
「どこ!」
いろいろと簡潔すぎるけどそこはそれ、言いたいことはきちんと伝わったようだ。
呻り声までもらす逢坂さんに、しかし別段怯むでもなしに、二人がジト目を返す。
「そんなの私が聞きたいよ。大河が持ってたんじゃん、でしょ?」
「仮に知ってたとしても、あたしがあんたに教えてやるとでも?」
もっともな指摘を冷ややかに言い放たれ、早くも逢坂さんの気勢が削がれる。
今朝発覚した逢坂さんの暗躍に端を発して生まれた確執。
加えてひたすら続いた追いかけっこ。
彼女たちもそれなりに我慢の限界にきているのだろう、その上言いがかりまでつけられようものならどうなるか。
それがわからないわけじゃあないみたいで、そうなると強い態度を維持することも難しい。
逢坂さんはぐぅの音も出なくなってしまったらしく、口を噤んでしまう。
「さあてっと。そんじゃ大河、もう鬼ごっこはお終いにしよっか」
「ふぇ? ……はうっ!?」
いやに良い笑顔をした櫛枝さんが口調だけは穏やかに話しかける。
呆けたような声を出した逢坂さんが、それが終了を意味するのではなく、お仕置きの執行を意味することを悟ると目を見開く。
下手に出る理由がなくなったのだからそうなるのも必然だ。
「み、みのりん、待っ、きゃあっ」
一歩後ずさる逢坂さんが背後にいた誰かとぶつかった。
振り返る間もなしに脇の下から腕を差し込まれ、そのまま胴を抱きしめられる。
傍からは仲の良い友達同士のスキンシップに見えるかもしれないけど、顔色を悪くさせる逢坂さんからはとてもそういう風には感じられない。
「さっき今日のことは水に流してあげるって言ったわね。あれは嘘よ」
「な、ななななによ、ばかちーの方からお互い様だって言ったんじゃない! 言ったのに! 嘘つき!」
何か言い繕う隙を与えさせないよう、川嶋さんが間髪入れずに言う。
目に見えて逢坂さんの狼狽ぶりが濃くなった。
抜け出そうともがくものの川嶋さんに上半身を、そして櫛枝さんに下半身を持たれてしまって、正しく手も足も出ない状態に。
ほとんど丸太かなにかのような扱いだ。
「や、やだ、降ろしてっ! やだってば! あ、だめ、待って待ってほんとに待って、み……見えちゃってるからあ……ぐす……」
スカートが捲りあがって下着が露わになってしまっても自分で直すこともできない逢坂さんはもはや半泣きだった。
幸いにも他に人の気配はしないけれど、そんな問題じゃない。
なんとも恥ずかしい格好にされ必に訴える逢坂さんを無視して、櫛枝さんと川嶋さんが行き先について検討し始めているようだ。
人気のない場所に連れて行かれたらそれこそ何をされるんだかわかったものではない。
なりもふりも構わず、逢坂さんが手当たり次第に体をくねらせる。
それに合わせて頭も右に左に忙しなく揺れまくる。
と、そうかと思えば、逢坂さんが突然ピタリと動きをとめた。
偶然見つけてしまった人影──私に視線を固定したまま……。
いきなり大人しくなった逢坂さんを訝しんでいた櫛枝さんと川嶋さん。
彼女たちが何かあったのかと尋ねる前に、「あれ」と逢坂さんが抑揚のない声で促す。
揃ってこちらに首を巡らせた彼女らは、滅多にお目にかかれないような無表情を貼り付けていた。

6 :
「ほほーう」と何故だか頷きつつの櫛枝さん。
「ふうん」とこれまた何かを含ませている川嶋さん。
担がれていたままの逢坂さんのと合わせて三人分の視線が痛いぐらいに突き刺さる。
正確には私と、間抜けなポーズで持ったままでいた包みを、それはもう穴でも空けそうなほど凝視している。
唇がすっかり乾ききっている。冷たい汗がとまらない。とうとう膝が笑いだした。
何か、なんでもいいから何か言って、加速の一途を辿る彼女たちの誤解というか、いえまあ誤解じゃないんだろうけど、とにかく負の感情に歯止めをかけなければ。
逢坂さんたちを宥められるような上手いことを、早く、早く、早く。
「あ、あの、違うのよ。これは落し物というか、棚ぼたというか、その……ごめんなさい」
蚊が鳴いたようなか細い声が届いたとは考えづらい。
でも、言い終えると、妖しく目を光らせた逢坂さんは櫛枝さんたちの拘束を力尽くで振りほどき、どこかへと走り去ってしまった。
櫛枝さんと川嶋さんもその後を追う。
どこかであるところ、つまりここまで来るのに、あれならものの一分もかからない。
まったく、なんて一日なんだろう。
都合よく手の平に降ってきた小さな幸運をため息と共にその場に置いていき、鉢合わせないことを切に、切に願いつつ、私は職員室へと早足で歩き出した。
「いたっ! ちょっと待ちなさあいっ!」
願いも虚しく、全速力で疾走してくる逢坂さんにあっさり発見され、昼休み中追いかけられる目になったのは言うまでもない。
そうして結局、学校にいる間、私が高須くんから何かを貰うということはなかった。
……ほんとう、なんて一日。
                    ***
放課後になる頃には日も沈みかけ、辺りはすっかり暗がりを濃くしていた。
大盛況とはいかずとも、そこそこ賑わいをみせる商店街には、まだ制服のままの生徒がちらほら。
そんな中、向こうから声をかけられれば遅くならない内に帰るように一言添えたりしながら、私は商店街を歩いていた。
別段当てがあるわけでもないのに。
用がないのならまっすぐ帰ればいいものを、自然と足が向いていたのだ。
いつからか日課と呼べるものになっていたそれが、今日に限っては、少し憎かった。
終業式もそう遠くないこの時期。
片付けておきたい仕事もないことはなかったし、職員会議だってあったのだけど、どうにも押し寄せる疲労感に体が持ちそうになかった。
思い返してみるとただでさえ寝不足が続いていたのに、昨夜にいたってはほとんど寝てない上、食事すら満足に摂っていない。
そういった状態でありながら、昼間のあれで底に尽きかけた体力を使い切ってしまったのが原因だろう。
眠気と空腹に加えて疲労感が留まるところを知らない。体調なんてもう最悪。正直、いま鏡の前には立ちたくない。
気分がすぐれないという理由ですんなり会議を欠席できたのは、そういったような、生気が抜けきった顔をしていたからだろう。
だから、そのことが、その時だけはありがたかった。
あくまでもその時だけは。
「こ、こんばんは……高須くん」
会釈を交えつつ反対側から歩いてくるのは、よりにもよって高須くんだった。
声をかけると私の前で歩みをとめる。
「こんばんは。買い物ですか、先生も」
「え? え、ええ、そう。お夕飯、どうしようかなあって。高須くんも?」
「はい」
トートバッグを提げ、制服から私服に着替えている。
いつものように買い物の最中だというのは一目でわかった。
ただ、いつもと違うところもある。
「……ところで、逢坂さんは一緒じゃないの?」
珍しいことに隣に逢坂さんはおらず、高須くん一人で買い物をしている。
しかし物陰からいきなり飛び出してこないとも言い切れないので、私は内心穏やかではいられない。
なにせ昼間の追いかけっこでは、幸か不幸か逢坂さんからギリギリで逃げ切ってしまったのだ。

7 :
そうでなくても櫛枝さんや川嶋さんと相当ギスギスしていた逢坂さんだ。
捌け口を失ったフラストレーションが全て私に向けられていることだろうから、できることなら、ほとぼりが冷めるまでは可能な限り彼女の目につきたくはなかった。
「大河なら、用事があるとかで櫛枝たちとどっか行きましたけど」
「そ、そう。そうなの」
よかった。少なくともこの場で顔合わせになることはなさそう。
ほっと一安心するのも束の間、私は挙動不審にきょろきょろ泳がせていた目を、頭ごと下向きにさせた。
なんだってこんな、見られたくないような顔してるときに。
「先生? どうかしたんですか」
「な、なんでもないのよ。なんでもないから、どうか気にしないで」
「いや、でも」
怪訝に思われるのも無理はない。
それを差し引いてもこんな有様を、こんな間近でなんて。
第一、面と向かっているとどうしても意識してしまいそうになって、そんな姿、なおさら見られたくない。
今日のこととか、逢坂さんたちが揉めていた原因であるあれのこととか、要らないことを聞いて惨めな思いをするのも御免だった。
でも他になにを話していいかわからないから、何かボロを出してしまわぬよう、このまま俯いてやり過ごそう。
高須くんだってよっぽど暇でなければ、押し黙る私に付き合って、いつまでも油を売ったりなんていうことはしないはず。
だからあとは、せいぜい二言三言交わして、当たり障りのない挨拶をして、お終い。
それで、今日が終わる。
ぐううぅぅぅ〜。
そう思っていた矢先、「ぐううぅぅぅ〜」といったようなそれはそれは大きな音が鳴る。
地響きのようなその音は雑踏が犇く往来であっても掻き消されることなくはっきりと聞こえた。
大急ぎで両手でお腹を押さえつけるも時すでに遅く、一拍置いてから、くぅ……と微かに鳴いたのを最後に、お腹の虫が静かになる。
「あ、う……」
今度という今度こそ、ほとほと自分の間の悪さに嫌気が差した。
最高に最悪で最低。
首まで赤く染まっている私は言い訳もろくにできないほど混乱して、ただただ恥ずかしいやらみっともないやら、そんなことばかりでまともに思考が働かない。
なんにも考えられないから、後悔の度合いが増していっても、どうする手立ても思い浮かばない。
道草なんてくわずにさっさと帰ってればこんなことにならなかったのに。
いいえ、それよりも、いい歳にもなってやれホワイトデーだなんだって、そんなのに浮かれていたのがそもそもの間違いだったのよ。
変に期待して、その末路がこれだ。
ばかみたい。
「え……?」
過ぎたことを嘆いて自己嫌悪しての私の手を誰かがとった。
軽く面食らっている私をよそに、なんの説明もなしに勝手に商店街の出口方面へと進み始めた。
疎らになりがちな歩調もなんのその、力強い歩みに引っ張られ、私の足も動きをとめることはない。
おずおず視線だけを上げてみれば、手を引いているのは高須くんで、その背中が見える。
想定外のこともここまでくると不意打ちだ。
何故こんなことになっているの? 高須くんの意図はなに? どうして私はされるがままで、この手を振りほどこうとしないんだろう?
疑問の種は尽きることなく芽を出していく。
高須くんは尋ねればちゃんと答えてくれるかもしれないけど、口を開くと繋いだ手がほどけそうで、そうするのが憚られた。
手を握られた程度でドキドキしてしまいそれどころじゃなかったのも、なきにしもあらずだった。
商店街を抜けてからしばらくして、あまり馴染みのない住宅地に入る。
さらにしばらく行き、奥まった路地を歩いた。
日も暮れきった頃合で、どこの家々からも明かりがもれ出ていて、街灯に手伝い道路を照らしている。
気温が下がり始めたようで、吐息がだんだんと白みを帯びている。
肌にかかる風が、漂う沈黙と同じくらいに冷たくなってきたところで、よどむことなく歩を進めていた高須くんがやっと立ち止まる。
重なっていた手がすっと離れていった。
しばし所在なさげにそこにあった手も、それまであった温もりが冷めていくのがもったいなく感じられて引っ込めた。

8 :
辿り着いたのは木造二階建ての古びたアパートだった。
隣接する大きくて真新しいマンションとの対比がすごくて、一瞬戸惑うほど。
どうやらここが自宅のようで、高須くんは階段を上ると玄関を開いてくれた。
あがれと受け取っていいんでしょうけど、でも突然お邪魔してもいいのかしら。
お家の方だっていらっしゃるだろうし。
と、玄関先で遠慮がちになり固まっている私に、高須くんが言う。
「こんなとこじゃ何なんで、どうぞ」
「は、はい。あの、じゃあ、お邪魔しますね」
こうしていても埒が明かないし、体は冷える一方だし、そろそろ失礼にもあたるだろう。
ちょっと緊張しつつ、私は高須くんの自宅へ足を踏み入れた。
促されるまま居間に通され、立ち尽くしているのもまた余計な気を遣わせてしまいそうなので適当に腰を落ち着ける。
いくらもせずに高須くんが盆に急須と湯飲みを乗せてやってきた。
対面に座ると、お茶を淹れた湯飲みを私の前に置いて、ぺこりとお辞儀。
「すいませんでした。大河が、なんか迷惑かけたみたいで」
昼休みでのことを、逢坂さんに代わって高須くんが謝る。
そりゃあ学校中を所狭しと走り回っていたのだし、知らないわけがないだろう。
でも、そのことで高須くんが頭を下げる必要はないのに。
やけに雰囲気が重々しいというか、真剣すぎるのも気になるところだ。
「いいのよ、もう。それに高須くんが気にやむことじゃ」
「そういうわけにもいかないですよ」
私の言葉を遮るようにきっぱり言って、高須くんは深いため息。
「あいつ、この一ヶ月くらい機嫌悪くて」
一ヶ月というと、バレンタインが過ぎてからずっとということになる。
確かに私も例えようのない圧力を逢坂さんから感じていたけど、高須くん相手にも当り散らしていたのだろうか。
さすがに私に対してのそれよりかは、まだヤキモチらしいものだったとは想像がつくけど。
「それも先生のこととなると特に荒れるんですよ」
昼休みでのあのしつこさは櫛枝さんたちとのこともさることながら、積もり積もったものからも来ていたみたいだ。
憂さが晴れるまで、逢坂さんの荒れ模様はまだまだ続きそう。
それを思うと恐々となる私に、精一杯眦を下げた高須くんが、申し訳なさそうに続ける。
「それでその、今日、先生が大河にちょっかいかけられてるって春田に聞いたんです」
「春田くんに?」
意外といえば意外な人物の名前が出てくる。
聞き返すと、高須くんが頷く。
「ええ。かなり参ってる様子だったから、なんかしてやった方が絶対良いとか、そんなことも言ってて」
「そう」
「で、まあ、だからっていうんじゃないですけど」
「うん」
目線は微妙に外し、少し言いづらそうにしながら、高須くんは小声で言う。
「晩飯、食ってきませんか?」
こんなことしかできなくてだの、逢坂さんのせいで昼もとれてないんじゃないのかだの、その逢坂さんも帰りが遅いらしいからせっかく買ってきた材料が余って困るだのと、ごにょごにょ後付していく。
突飛ではあるが現金な話、冗談じゃなく意識がたまに飛びかけるほど空きっ腹を抱えている私には願ったり叶ったりの申し出だった。
私はぽかんと口を開けたまま、内心では高須くんにこうまで言わしめた春田くんに舌を巻いていた。
昨日言っていた応援とは、ひょっとしてこのことなのだろうか?
さすがに考えすぎかしらね、それは。
まさか春田くんもこうなるなんて思ってなかったでしょうし、でも、もしこうなるようにと目論んでいたなら私は彼への評価を改める必要がある。
にしても、能天気でお調子者、しかも大雑把な春田くんだけに、誇張や脚色も相当だったのだろう。
何をどう煽りを交えながら言ったのか定かじゃないけれど、どうりで深刻な表情をしていたわけだわ。

9 :
いろいろと責任を感じているのだろう、それも勝手に、やりすぎた逢坂さんの肩代わりをしてあげるほど。
そんなことしなくったってあの逢坂さんに何かするなんてことあるわけないのに。
あんまりにも損な性格してる高須くんがいっそ笑えるぐらい可笑しくって、けど、きっと私の表情は柔らかいものではなかったと思う。
高須くんの唐突で強引な行動も、そのわけも、やっとわかったから。
私を自宅に招いたのも、食事をごちそうしてくれるというのも、なんてことない、全部逢坂さんのためにしてること。
ただそれだけ。
だってそうでしょう? 逢坂さんのことがなければ、そのことを知らなければ、高須くんがわざわざ私を自宅に連れてくるなんてこともなかった。
夕飯だって、逢坂さんのおかげで昼食を食べそびれた私が、無様にお腹を鳴らせたのを聞いたものだから、親切心とそれに同情も手伝って勧めてくれているに過ぎない。
だから、ただそれだけ。
それだけだというのに、肩透かしだって嫌ってほど慣れてるのに、なんだって私はこんなに落胆してんのだろう。
どうしてここまで、認めたくなんてないのに、嫉妬心が湧き上がってくるんだろう。
なにがそんなに、悲しいんだろう。
無性に虚しくって、いたたまれなくなってきた。
胸がつっかえて息苦しくてしょうがない。耳の奥でしてる轟々といったような音がとても騒々しい。お腹なんてもう引き攣りそうで、眩暈までしてくる始末だ。
もう、帰ろうかな。
そんなことを考え始めた矢先、
「それに今日ってホワイトデーじゃないですか。お返しさせてくださいよ、こないだの」
「お、おかえしって……私に……?」
ビックリして、私は俯いていた顔を上げた。
ホワイトデー、お返し。
ホワイトデー、お返し。
ホワイトデー、お返し。
高須くんの言葉を口の中で反芻してると、当の彼は困ったような面持ちになる。
「用意はちゃんとしてたんですよ。ただ、あれ、あんまり喜ばれるものでもなさそうだったっていうか。
 それに知らない間に失くなっちまってたんだよなあ、確かにカバンに入れといたのに」
探してもどこにも見当たらないし、家に忘れたわけでもなかったしと、変なことが起こったものだと疑問符を浮かべる高須くん。
けれど、何故だか私にはその用意されていたというものに、貰ってもないのに身に覚えがあったりした。
今朝から昼間にかけての出来事を思い出す。
喜ばれるものじゃなかったというのは、手作りしたマシュマロのことだと見て間違いないはず。
櫛枝さんと川嶋さんの受け取ったときの微妙なリアクションから、チョイスに失敗したのだと思ったのだろう。
そしてそうするように仕向けたのは、他の誰でもない逢坂さん。
高須くんからそのことを聞き出して怒涛のように怒りを燃やす二人に、自業自得とはいえ逢坂さんはしつこく追いかけ回されていた。
その彼女が持っていて、一度は私の手に廻ってきたもう一つの包み。
あれは、本来なら私に渡されるものだったのだ。
裏から手を回すだけじゃ飽き足らず、高須くんの目を盗んで渡しそびれていた包みまで取っていくだなんて、逢坂さんの暗躍ぶりといったら凄まじすぎて、それ以上に呆れてしまい物も言えない。
しかし呆れるといえば私も私だ。
知らなかったとはいえ、逢坂さんらの迫力に屈したとはいえ、なんて間抜けでもったいないことをしちゃっていたのよ私は。
せっかく手に入れたプレゼントを廊下なんて寒々しいところに放っぽりだして、あのまま貰っていても誰にも文句を言われる筋合いなんてなかったのに、あれじゃあ自分から捨てたも同じことじゃない。
しかも逢坂さんには休み時間中追い回されて、もう踏んだり蹴ったり、散々にもほどがある。
頭を抱えて気の済むまで掻き毟りたい衝動に駆られたが、高須くんのいる手前なんとか堪える。
恥の上塗りはもう充分重ねたけど、重ねないようにできるならそれに越したことはない。

10 :
「……けど、お返しなんてそんな……だって、あれは」
口止め料という形で贈ってもらったのだ、そういう類のものにお返しもなにもないだろう。
でも、私が言い切る前に、高須くんが被せて言う。
「貰いっぱなしも嫌なんですよ」
「で、でも、逢坂さんが……」
咄嗟に口をついて出たのはこの場にいない逢坂さんの名前だった。
うしろめたさからではなく、大概の例にもれず、私もずるい大人だから。
期待を滲ませた瞳は前髪で隠し、さり気なく上目遣いをする。
真正面からしっかりと私を見据え、高須くんは言い切った。
「大河は関係ないですよ。俺がそうしたいからそうするんです」
言葉以上の意味はないってわかってる。
言わせるように誘導じみたことをしている自覚もあった。
でも、言葉自体に意味がないわけじゃなくて、言ってくれるだけで、そんな僅かな虚無感も一つまみ分の罪悪感もどうでもよくなって、もう何もかもがだめになる。
逢坂さんのことは、少なくとも今だけは、関係ない。
高須くんがそうしてくれるのは、他の誰かじゃなくて、私のため。
それだけでもう、だめ。
「……ほんとうに、いいの?」
最後確認はゆっくりと慎重に、慎ましく。控えめなのも忘れずに。
逸る気持ちは押し留めて、早打つ鼓動を胸の上から撫で付けて、はしたない様を見せないようにしながら待つ。
「あのチョコ、うまかったですよ、すごく。ありがとうございました」
「うん」
「だから、そのお礼なんです。よかったら、受け取ってください」
背すじを伸ばして佇まいを正すと、私は高須くんにしっかりと向き直った。
「はい」
心もち柔和な表情になった高須くんが鷹揚に頷いた。
前言撤回ならぬ、前考撤回だ。
帰るなんてとんでもない。
ああ言ってしまった以上、ご馳走になるまでは梃子でも動かない所存で、高須くんのご厚意に全力で甘えさせてもらうことにしましょう。
それに逢坂さんにもやられっぱなしで、このまますごすご引き返せない。
……こんな機会、もう来年には来ないかもしれないもの。
「それじゃ、ちょっと待っててください。腕によりかけて、すぐ作ってくるんで」
普段よりもずっと機嫌の良さそうな空気を放つ高須くんが、台所へと入っていく。
エプロン姿も実に板についた様子で、所帯じみているというか家庭的というか、ともかくこれが高須くんの日常の生活といった感じがする。
これはこれで、最近の悩みの種である夢で見たような光景、けれど夢では到底出せない現実味に、幸福感が鰻登りの青天井だ。
が、ただ眺めているだけというのもちょっと肩身が狭い。
「高須くん、私もなにか──」
お手伝いしましょうか。
言いかけた言葉は声になることはなかった。
視界が電気を点けたり消したりしたように急激に明滅する。ぐにゃりと大きく像が歪む。
一瞬強烈な耳鳴りがしたかと思うや否や三半規管がまったく働くなってしまっていて、上と下の区別もつかなくなる。
意思の糸が切れた体が前のめりに倒れこんでいるのだと悟ったときには、もう浮遊感が終わりかけていた。
貧血だろうか、それとも過労か、はたまた寝不足か、あるいはそれら全部故か、立ち上がった拍子に立ち眩みを起こしてしまったみたい。
そのことがわかったのは、がだあんという近所迷惑な音が響き、自分が俯けに寝そべっているのを把握した後だった。
でも、どういうわけだか、思っていたような衝撃も、打ちつけたような鈍痛も一向に感じない。
胸の辺りに、蠢くような、くすぐったいような不自然な圧迫感があるだけだ。
ぎゅうっと瞑っていた瞼をおそるおそる開く。

11 :
「むぐ、ぐ、う、ぶはっ」
「あ、ん……はあぁ……」
胸の間から黒々とした髪の毛が跳ね出て、左右に揺れるその動きに合わせて、くすぐられるようなむず痒い感触も増減する。
時折苦しそうな、呻き声ともつかない荒く湿った呼吸に、知らずこちらも変な声が出てしまう。
視線を下へと移すと、床と私との間に何かが挟まりクッションの代わりになっている。
高須くんだ。
私が倒れきる寸前に受け止めようとしてくれていたみたいで、けど勢いのついてしまった私はそのまま高須くんを押し倒してしまったらしい。
ご丁寧に、彼の頭を離さないようガッチリかき抱いて、胸に埋めさせている。
と、胸に伝わる感触が一際強いものになる。
ずりずりと這い登ってくるような動きに、腰の奥が痺れを訴えわなないた。
「ふあ、ん……高須く、んぅ……くすぐったい」
ひょっこりと頭を出した高須くんが乱れた息をついている。
三白眼を殊更に鋭くさせて、これまで顔を覆っていたものがなんだったのかを、ぼんやりとしながら見つめている。
自分の置かれている状況を理解していくにつれ、その表情はかちこちに強張っていった。
かなり混乱しているみたい。
「えっと、怪我は……」
それでもまずはこちらに大事がないかを確認してくれる。
腰の奥に走る痺れが、だんだん疼きに変化していって、いつ腰砕けになってもおかしくない。
「あの、とりあえず離れませ、ん、うお……」
怪我らしい怪我はしていないようで、なのに不穏な沈黙を保ちつつじっと自分を見下ろす私に、動揺の色が見え隠れしている。
いろいろと不都合がでてくるこの体勢に、高須くんがたじろぐ。
このまま離れてしまうのが嫌で、さっきのそれよりももっとキツク抱きしめた。
肌に当たる熱くて湿り気を孕んだ吐息に、たった数センチ先で暴れている心臓が、痙攣したかのように一段と不規則に跳ね上がった。
「だいじょうぶ。だいじょうぶだったから──」
──だからもう少し、このままで。
そんなささやかな願いも、いくらもかからず無残に砕け散る。
「ぐっ、ひっぐ、ただいま……ねえ、聞いてよ竜児。あのね、みのりんとばかちーがね、二人して私のこと悪者みたいに言ってね、ひどいこといっぱ、い……」
鍵がかかっていたはずの玄関を開け、べそをかいた逢坂さんが入ってきた。
ボロボロになっているところから察するに、酷いことをされたというのは疑う余地はない。
反撃に打って出たかどうかは、逢坂さんと、それに櫛枝さんと川嶋さんのみが知るところだけど。
ぐしぐし袖で目元を擦るその小学生チックな動きも、台所で重なり合っている私と高須くんを見ると石像のように微動だにしなくなる。
まだ手にしていた合鍵が、カチャリと小さな音を立てて土間に落ちる。
「もぉ〜、さっきっからなぁにぃ? やっちゃんもちょっと寝たいのにぃ……はれぇ? だぁれ? 竜ちゃんになにしてるの?」
襖の向こうからしょぼしょぼとした顔を覗かせた女性は、間延びした子供っぽい口調とは不釣合いな、とてつもなく強烈な色気を振り撒いていた。
ジャージの胸元が下から盛り上がっているなんてよほどのことだ。
家庭事情はいくらか聞き及んでいたので、おそらくあの厭味のするほど艶っぽい方が、高須くんのお母様なのだろう。
だいぶお若いようだけど、いくつぐらいなのかしら。
年下ということはないでしょうが、それほど年齢に開きがあるとも思いづらい。
「インコちゃ〜ん、竜ちゃんが知らない女の人にてごめにされちゃう〜。そんなのやっちゃんやぁだぁ、ねえどうしよぉ」
「イ、イイッイ、イイ、イ、イイィーッ!」
「いくないよぉ、ぜんぜんいくないよぉ」

12 :
その高須くんのお母様が、ふらふらと居間の奥へと歩いていき、窓際にかかっていた置物からシートを取り払う。
置物は鳥かごで、中にはいたのは、あれはインコなのだろうか? そのまんまインコちゃんと呼ばれていたし。
不気味な、じゃない、ちょっと個性的な感じの容姿をしたインコちゃん相手に、高須くんのお母様はけっこう過激なことを交えつつ相談している。
けれども奇声を上げたインコちゃんの、言葉とも思えない言葉に、お母様はいたくご不満そうだ。
チラチラとこちら、私と、私が抱きしめている高須くんに目をやっては、どうしようどうしようと、忙しなく家中を動き回っている。
「……なにやってるのかしら」
背後から、石化から解けたらしき逢坂さんが、ぼそり。
泣き腫らした顔が別の理由でみるみる赤みを増してゆく。
手足が錆びついたようにぎこちない動きをしているのは、渾身の一撃を見舞うために溜めを作ってるからだろうか。
「あ、れ、だ、け、私がわからせてあげたっていうのに、それなのに、いったい、ひとん家でなにやってるのかしら」
みしみしと床板が悲鳴を上げて軋んでいる。
この場の誰よりも体重が軽いはずなのに、逢坂さんの立っている辺りが今にも陥没でもしそうな、耳障りな音を立てている。
「いま私、すんごく機嫌悪いの。そんでもってドアの前に立ってるわ。あんたたちに逃げ場はないし、絶対逃がさないわよ」
逢坂さんの言うとおり、外に繋がるほぼ唯一の出入り口は、彼女が背にしている。
ここは二階なのでその気になれば飛び降りれないこともないけど、きっとその直前、背中を見せた時点で待っているものは決まっている。
かといって、このままこうしていたところで事態が好転する兆しもない。ジリ貧だ。
どの道逢坂さんから無事に逃げられないなら、だったもう、やりたいようにしてみよう。
私にだって、意地はあるもの。
「さっ、竜児? まだ間に合うかもしれないわよ? ちゃあんと事情を話して、それからそこのをどっかその辺にぽいしてくれば、私だって鬼じゃないもん。
 だからまずは私のとこに来てよ来なさいって大丈夫もう怒ってないからほら来てってば早く来てって言ってるでしょねえちょっとなんで来てくれないの!
 そんなにぶっ飛ばされたいの!? ……そんなにそっちのがいいって言うの? 私より? そうなの? ねえ、竜児ぃ……」
「た、大河? おまえ何言って……せ、先生?」
無理やり立ち上がろうとした高須くんを、無理やり引き止めた。
何か言っているようだけど、胸に顔を挟み込ませると静かになる。
それを目の当たりにしていた逢坂さんは、髪の毛を逆立てそうなほど激怒した。
「あああもうっ、邪魔しないで! だいたい、いつまでそうしてんのよ! いい加減竜児から離れなさい! 離れて!」
まったく、良いところまで行っていたのに、逢坂さんが帰ってきた途端これだ。
この分じゃ、高須くんのお返しも、また貰い損なってしまうかもしれない。
それは嫌。
そんなのは一度でたくさんよ。一度この手にしたものを、もう諦めたりなんてしたくない。
そうよ、もう手にしてるんだもの。前へ進むなら、今しかないじゃない。
私は腕に力を込めて、足まで絡めあわせて、精一杯強く、強く高須くんを抱きしめた。
そうして、夢の中であてつけがましく言われた台詞を、今度はそっくりそのまま言い返す。
「渡さないんだから。なにがあったって、絶対」
でも、ただマネをするだけじゃ芸がない。
目を瞑る瞬間、人差し指を伸ばした逢坂さんがどもったりつっかえたりしながら何事か喚き散らしているのがチラリと見える。
知ったことじゃない。もう戻る気なんて更々ない。後のことなんてどうにでもなれ。
周りのことなんて一切構わずに、私は高須くんの「お返し」を、心行くまで存分に堪能させてもらった。
離れ際、名残惜しさを表すように架かった透明な橋を余さず舌ですくい取り、そして耳元で囁く。
「ごちそうさま」
真っ赤になった高須くんの唇は、マシュマロのような甘い味がした。
                              〜おわり〜

13 :
おしまい

14 :
ゆりちゃんキター!!
GJ!!

15 :
>>13の174さんGJ
久しぶりに長いのが来たので端末に入れてお風呂でぼんやり読んでたが
最後に暗黒と対峙して欲しいものを掴んだゆりちゃん先生がかっこよかった。
まさに正ヒロインと言える、が寸止め(´;ω;`)
この世界の亜美ちゃん様はともかくみのりんの動きがよくわからん。
大河のいたずらに腹を立てて茶巾絞りにするのけ?

16 :
>内容が一般的ではないと思われる場合には注意書きを付ける (NGワードを指定して名前欄やメ欄入れておくのもあり)
胸糞悪い

17 :
最近、ゆりちゃん好きなんすね。
いや、読めない展開でした。GJ

18 :
ゆりちゃんかい、GJ過ぎる。

19 :
GJ!けどお願いだから改行して。

20 :
さあ出番だぞ保管庫

21 :
正直この人、もう筆折ったとばかり思ってたから投下きてて凄いビックリしたわ
何はともあれGJ

22 :
しかし補完庫ももう半年も更新してないんだな
まあ投下も無いし人もあんまりいないようだから仕方ないのかもしれないが

23 :
(・ω<)

24 :
>>22
みんな更新できるのに他人まかせのやつしか居ないだけ

25 :
小ネタSS投下
「あふたーだーくあなざー」

26 :

二月十四日、バレンタインデー当日の夜のこと。
点けっぱなしのテレビをぼんやり眺めていると、階段を上る足音が聞こえてくる。
立ち上がりざまに時計を見れば、もう七時を軽く回っていた。
ちょっと買い物をしてくるからって家を出て行ったのは二時間も前。
たいして時間はかからないって、出掛けにそう言ってたのに、すっかり待ちくたびれちゃったじゃない。
顔を見たら文句の一つでも言ってやろうかしら、もう。
「おかえり、竜児」
ドアが開くのと同時に言うと、ノブに手をかけたまま、竜児が目を丸くした。
普段はすごいツンツンに吊りあがっているからか、私はこういう角がとれたような感じの目が可愛く思えて好きだった。
「なんだ、大河、そんなに腹へってたのかよ」
出迎えた私がよっぽどお腹を空かせているように映ったみたいで、竜児がプッと噴出す。
少しむっとしたけど、実際お腹は減っていただけに言い返せない。
「わるいわるい、すぐ飯にするから」と竜児はむくれている私の横を素通りする。
なによ、人のことこんなに待たせといて。二時間よ、二時間。そりゃお腹だって空くわよ、誰だってそうでしょう。
自己主張の激しいお腹の虫も、同意権だと頷くようにぐうと鳴ってみせた。
と、そんなとき。
「あれ? それなに、竜児?」
シンクに置かれたスーパーの袋から手早く引き抜かれた、見慣れない包装をした小さな包み。
明らかに晩御飯のおかずに使うようなものじゃない、けっこう値段の張りそうなそれを、まるで私から隠そうとするみたいに後ろ手に持ったまま、竜児がそそくさと自室へ入っていこうとした。
呼び止めると、ビクッと肩が跳ねる。
あやしい、あからさまにあやしい。
「……ねえ、ずいぶん遅かったみたいだけど、どこ行ってたの」
ケータイには何度も何度もかけたけど出てくれなかったし、メールもいっぱい送ったのに一通も返信してくれなかったし。
だいたいちょっと買い物に行くくらいで、何だってこんなに時間かかってたのよ。
スーパーの袋は商店街にある店のやつだから、そんなに遠くまで出かけていたとは考えにくい。
荷物だって、どう贔屓目に見たって片手で足りるような量。
何かあったって思うじゃない、普通は。
「どこって、べつにただ買い物してただけだぞ。ほら、いつものスーパーで」
そのことは疑いようがないけど、しっかり目を合わせようとしないし、やっぱり竜児はどことなく変。
嘘は言ってないと思うけど、本当のことを全部言っているようにも思えない。
「そっ。買い物だったんだ」
「おう」
「じゃあ、そのチョコも買ったの?」
「お、おう。まあな」
自分を落ち着けるために深く深呼吸をする。
そうでもしないと、まだ決定的な核心に触れていない内に、はぐらかそうとしている竜児をぶん殴ってしまいそうだったから。

27 :

「へえ、やっぱりチョコだったのね、それ」
「は? え、あ、いや」
途端に竜児の歯切れが悪くなった。
カマをかけてみたら案の定、私の目から遠ざけようとしていたものの正体はチョコだった。
この時点で、買ってきたものだなんて真っ赤な嘘だってわかった。
沸々とお腹の底から熱いなにかが込み上げてくる。
これが他の何でもない日だったらまだ納得できないでもなかったけど、なんていったって今日はバレンタインデーなのよ?
そんな日に自分でチョコ買ってくるなんてさもしくって虚しいこと、竜児がするなんてとても思えない。
絶対誰かから貰ってきたはず。いったい誰なのよ、人に断りもなくそんなことするのは。
「だれ。誰から貰ったのよ。言いなさい、竜児」
語気を強めにして言う。顔を逸らされた。
一歩前に出れば一歩後ろへ下がられて、お互いの距離は変わらない。
なんか、もっとムカついた。
「しらばっくれてもわかるんだから。素直に白状しないと後が恐いわよ」
凄んでみても、おどかしてみても、竜児は口を割ろうとしない。
もう一歩前へ出れば、もう一歩下がった竜児が襖にぶつかる。
私はさらにもう一歩踏み込んで竜児との距離を完全に潰した。
見上げると、そこにはツンツンとも違う、角が取れてもいない、形容しがたい竜児の目が見下ろしてくる。
なのに、その目に私は映ってないように思えてしまって、腹立たしさが加速していく。
このままお見合いしててもきっと竜児は答えようとしない。
そういうやつだってわかってるから、だから私は、とりあえず当てずっぽうを言ってみた。
「みのりん?」
まずありえそうなところを挙げてみる。
すると竜児は妙な否定の仕方をした。
「いや、櫛枝からのは」
あっと声に出して、そこで口を両手で覆うけどもう遅い。
みのりんからのは? 今みのりんからはって言った? 言ったわよね、みのりんからのはって、そう確かに。
みのりんからはって言ったってことはつまり、竜児が持ってるそれ以外のでならみのりんから貰ったやつがあるってことよね。
いつの間にそんなことを。みのりん、バレンタインデーなんてすっかり忘れてたくらいだよって言ってたのに。
「違う、大河、今のはそういうんじゃなくてだな」
竜児が慌てて取り繕おうとする。
失言に少なからずショックを受けつつ、と同時に嫌な予感もしたので、一応確認のためにもう一人頭に浮かんだいけ好かない名前を言ってみた。
「なら、ばかちー?」
横一文字に口を引き結んでいた竜児はあさっての方へ目を逸らした。
否定も肯定もしない、ただただ逃げの姿勢。その反応だけでも充分だったかもしれないけど、今ひとつ腑に落ちない。
理由はうまく言えないんだけど、なんか勘が騒ぐのよね。
あ、こいつまだ隠し事してるな、って。
その勘に従って、私はもう一度カマをかけてみることにした。
ふうっと少しばかり気勢を和らげてみせ、余裕があるように演じてみる。

28 :

「なわけないわよね。その時のは私、この目で見てたんだし」
すると、竜児の顔色ががらりと変わった。
信じられないというように目を見開いて、半ば呆然としている。
「おまえ、どっから見てたんだ」
「気づかなかったの? すぐ近くにいたのに」
「すぐ近くって、自販機のとこで気づかないわけ……はっ!?」
自販機の置いてある踊り場、ね。ずいぶんと大胆なところでやってくれんじゃないのあのばかばかちー。
再度のカマにそれはそれは見事にあっさり引っかかった竜児に、冷ややかな視線を叩きつけてやった。
だらだらと大汗を掻きだしたその顔は、青かったり白かったりたまに土気色してたりでこっちまで気分が悪くなってきそう。
かくいう私の顔色といえば、竜児とは正反対の真っ赤っかだっただろうけど。
甘かった。目を光らせていたつもりだったのに。
しかし過ぎてしまったことをとやかく言っていてもしょうがない。
没収するのはさすがに気が引けたし、そんなことをすれば竜児に本気で怒られそうなので取り上げるようなことはしなかった。
その代わりに、あの二人には今度必ず何らかのお返しをしようと、そう固く心で決意した。
でも、こうなるといよいよわからないのは、今竜児が背中に隠しているチョコの存在。
あれは誰があげたのよ?
私の思いつく限りではみのりんとばかちーくらいなものだったので、それ以外の相手となると推測のしようもなくなってしまう。
ぱっと見たとこあんまり安っぽくはないし、ちゃんとしたお店で買ったような感じがする。
手がかりといえばその程度で、他には、そう、におい。
「な、なんだよ」
訝しがる竜児を無視してお腹の辺りにおもいっきり顔を埋めた。
さっきまで外にいたおかげで心もち冷たくって、その奥はほんのりあったかい。
鼻先をぴったりくっつけて、そうして深く息を吸い込んだ。
「やっぱり」
聞かれないようぼそりと呟く。
微かだけど、竜児のとも、私のとも違うにおいが鼻腔をくすぐる。
香水みたいだったから最初はやっちゃんのかとも思ったけど、やっちゃんが使ってるような、あんまり強い香りのするタイプじゃあないみたい。
少なくともこの家にいる誰のものとも違うにおいなのに、それにしてはどっかで嗅いだような覚えがあるような気もする。
どこだったっけ。
ここじゃないとすれば他に可能性があるのは学校しかないし、たぶんそれは合ってると思うんだけど、肝心なところではっきりと思い出せない。
残り香を頼りに記憶の糸を手繰り寄せてることに躍起になっていると、時間が経ちすぎたためか次第にその残り香が薄まっていってしまう。
もうちょっと濃いものだったならまだしも、なにぶん染み付いたそれは本当に微かなものだったし、だんだんと竜児のにおいの方が強まってきた。
少し汗が混じった、男の人のにおい。竜児のにおい。
そのまま顔を埋めたままでいるとなんだか頭がくらくらしてきて、息ができないわけでもないのに息苦しい。
呼吸の仕方を忘れてしまったみたいで、ひたすら空気を吸い込んでばかりいた肺が破裂しそうだった。

29 :

「なあ、いい加減にしてくれよ。いつまでそうしてんだ、大河」
「ふみゅ」
ふいに息苦しさから開放される。それと共に、温もりも遠のいていく。
ぷはあと堪らず肺いっぱいの空気を吐き出すと、靄が晴れていくように徐々に思考が鮮明になっていく。
誰かのにおいを追っていたはずが、いつしか竜児のにおいに夢中になってしまっていた私を、気味悪そうな顔した竜児が引き剥がした。
思い返してみると我ながら恥ずかしげのないことをしちゃったけど、我を忘れてしまっていたんだからどうしようもないじゃない。
それに、そうよ、これは竜児のせい。
いいにおいのする竜児のせいなんだから、そんな顔されるいわれなんてないもん。
ううん、それにしても。
「むうー。あとちょっとで誰だったかわかりそうだったのに」
薄ぼんやりとして特定まではできなかったけど、確かにあれは私たちのごくごく身近にいる誰かのにおいだった。それは断言できる。
続けざまに二度もカマに引っかかり、失言に次ぐ失言でただでさえ立場のない竜児が、私の言葉で明らかに狼狽した様子を見せた。
それを悟らせまいと、ごほんとわざとらしい咳払いをひとつ。
「だから、これは買ってきたもんだって言ってるだろ。何がそんなに気になるんだ」
「自分で買うのにラッピングする? 冗談でしょ。そもそも竜児、みのりんとばかちーから貰ったのだって私に内緒にしてたじゃない」
「それは……とにかく、このことはもう聞くなよな」
ぴしゃっと乾いた音を立てて襖が閉じられる。
これ以上の追及はごめんだという風に、私が何か言う前に竜児は自室に篭ってしまった。
不機嫌さも滲ませていたあの様子じゃあ、これ以上しつこく尋ねるのはやめておいた方がいいかもしれない。
不満は残るけれど、それで竜児とケンカしてしまうのは本望じゃないもの。
特に今日は、そんなこと絶対したくないんだから。
険悪な雰囲気の中で一緒にいて、ギクシャクしたまま過ごすだなんて、そんなのそれこそ望んでない。
ぺらぺらな紙と木でできた薄い襖の向こう側にいる竜児に、渡さなきゃいけないものがある。
一旦台所へ行き、冷蔵庫に入れておいた小箱を取って戻ってくる。
意を決すると、私はそこに居るだろう竜児に語りかけた。
「ねえ、竜児」
本当は一番に渡したかった。
なかなか上手にできなくって、何度も失敗しちゃって、結局こんなに遅くなっちゃった。
出来栄えだって思ってたようにはぜんぜんなってくれなくって、味も自信ないし、胸をはれるようなものじゃないけれど。

30 :

「出てきて。渡したいものがあるの」
しばらくそこで待っていると、むすっと仏頂面を提げた竜児が顔を出した。
なんだよとでも言いたげな、ツンツンを通り越して刺さりそうな目も、差し出されているそれを見て角がとれていく。
「竜児がそうしろっていうんなら、今日はもうなんにも聞かない。だから、ね? これで仲直りしよ?」
さっき竜児が持っていたそれと比べたら手抜きと言われてもしょうがない簡単な包装を解いていく。
上蓋を開けると、中には少しだけ歪な形をしたハートが、箱の大きさに比べたらややこじんまりと収められている。
こんなのしか作れなくて、呆れられたらどうしよう。笑われたりしたら、やだな。
でも、竜児に喜んでもらえたなら、それはなによりも嬉しいと思うから。
「あのね、そのね……ハッピーバレンタイン、竜児」
緊張してどもってしまわないよう、唇に震えが走っているのを我慢して、精一杯の笑顔でそう言った。
竜児は私と、私が手にしているチョコとを交互に見て、たっぷり時間を置いてから口を開いた。
「貰っていいのか、これ」
遠慮がちな竜児からは戸惑いの色が浮かんでいる。
つい五分ほど前までとは打って変わった私の態度に、何か裏があるのかもって思ってるのかもしれない。
もう、変な心配なんかしてないでこんなときぐらい余計なこと言わずに受け取りなさいよ、ばか。
しげしげとこっちを眺めているに留まっている竜児に、私はふて腐れたように頬を膨らませた。
「なによ。べつに、いらないんだったらそれでも」
「おい、待てよ。誰もいらねえなんて言ってないだろうが」
「ムリしなくっていいわよ。どうせ私のなんて欲しくないんでしょ」
と、引っ込めかけた私の手を竜児が掴む。
力が入りすぎていて、掴まれた部分が痛いぐらいだった。
見上げれば、射抜くように鋭い目から、目が離せなくなる。
「……貰ってくれる?」
おずおず尋ねると、真剣な顔をした竜児が言う。
「おう」
「……うれしい?」
「当たり前だろ」
それなら、いい。
言いたいことがないわけじゃないけど、そんなのどうでもよくなった。
貰ってくれて、うれしいって言葉にしてくれたんだから、それでいい。
できるだけ穏やかに、そして明るい声色で「それじゃ、仕切り直しね」と私が告げる。
それから笑顔でもう一度。
「ハッピーバレンタイン、竜児」
                              〜おわり〜

31 :
おしまい

32 :
>>31
GJです。
落ち着いた後の大河が怖いです。

33 :
GJ!
かわいいじゃん、やきもちタイガー。

34 :
まさかとらドラでくんかくんかを見るとはな(´▽`*)くんかタイガーかわえぇぇ

35 :
大河視点だとまだ可愛い嫉妬で話が終わってるけど、
この後の大河って竜児が独身チョコを食べてるのを目撃しちゃうんだよな…

36 :
>>35
174さんSSの独身のヒロイン力は異常だから仕方ない
独身、俺がもらってやりたいぜ
でも貰っちゃうと、独身じゃなくなって魅力半減だから、やっぱいらない

37 :
>>36
独身本人は結婚したくてたまらないのに、なんて皮肉な話なんだ…
まあこの独身はその内自力で竜児をモノにしそうだよな
最後に濃厚なキスかましたし、大河に負けじとアタックかけてる内に余裕で一線越えそう

38 :
うぷ

39 :
小ネタSS投下
「夜のコール」

40 :

最後のお客さんを見送ってから、もうだいぶ時間が経った。
活気に欠けたお店には、素面のままで退屈を持て余すはめになったやっちゃんだけ。
それもまあ、仕方ない。
昼となく夜となく、ここのところひっきりなしに降り続いた長雨でただでさえお客さんの足も遠のいていたし、それにつけても特に今夜の荒れ模様は酷いったらない。
ニュースでしきりに台風がどうのって言っていた。
バケツをひっくり返したような土砂降りだったり、かと思えばひたすら風が吹き荒れてたり、静かになったと思いきや、ピカッとどこかの空が光る。
傘なんて使い物にならないほどの風雨が、夜がふけても弱まることなく、絶える間もなしに降りしきっている。
おかげで通りに立て掛けていたお店の看板が危うく吹き飛んでっちゃうところだった。
今だって、大粒の雨が窓を叩く音がしている。
今度のは大きい上にゆっくりゆっくりのんびりと進んでいくそうだから、この分じゃあ晴れてくれるまでにはまだまだかかりそう。
他の子たちは早めに帰してあげてよかった。なにかあったら大変だ。
これで後の心配事といえば、ただひとつ。
「はふぅ……どうしよ」
やっちゃんは、これからどうしたもんだろう。
傘なんてない。
来るときに使っていた、コンビニで五百円もしたマイビニール傘は、置き去りにしていた傘や忘れ物の傘と一緒にお客さんやお店の子たちに貸してあげた。
あってもあんまり意味がないし、まあ、しょうがないや。
自力で帰れないならタクシーを呼んじゃおうとも考えて、寒い財布と熱ーく相談した結果、あえなく断念。
深夜料金で割り増しになってるだろうなあと思うと、なおさらだ。
無駄遣いするなよってあれだけ口すっぱく言われていたのが今さらながらに身に沁みる。
帰りがけにプリンとか買ってくの、明日からは控えようかな。
「うん、そうしよ。えっへんやっちゃん節約のできる二十三歳〜。アハハ、ハハ……はぁ」
遅まきの後悔と、どうせ守れないに違いない決意を、手慰みにむにむにと柔めな感じで固めていたときのこと。
ドン、ドン、ドン。お店のドアがノックされる。
ノブを回して、鍵がかかってるとわかると、さっきよりも少し強めにドンドンと、大きな音を立ててドアが叩かれた。
看板もしまっていて、外の明かりは消してある。明かりが点いているのはカウンターの中だけだ。
店じまいに気づかないほどへべれけなお客さんが、雨宿り代わりに来たのかもしれない。
こんな酷い天気で雨ざらしのままじゃ可哀想だし、このまま知らんぷりしてるのも気が引けて、とりあえずは居れてあげようと腰を上げかけたら、タイミングよくケータイが着信音を鳴らした。
手にとって、そうしてる間にもドアを叩く音は重く響くように強くなる。
心なしか雨足も激しくなってきたようだった。
まだ鳴り続けるケータイを持ったまま、万が一のためにチェーンはしてから鍵を解く。
その瞬間、嫌な金属音がした。
ドアがすごい勢いで引っ張られて、かけたばかりのチェーンが悲鳴を上げた。
ガチャ、ガチャガチャンって、不安を煽るような甲高い悲鳴。
やっちゃんはといえば辛うじて悲鳴は上げなかったものの「ひっ」と息を飲んで、ドアの前で硬直していた。
まさか。そんな嫌な予感が駆け巡るのに、時間はたいしてかからなかった。
いくらなんでも考えが足りなさすぎたかもしれない。無用心にドアを開けてしまったことを後悔する。
どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。
怖い。怖い。怖い。
こういうお仕事してたらそりゃあ恐そうな人たちだってお客さんとして迎えてきたけど、そういう人たちにはもう慣れてたし、深く関わろうとさえしなければべつに向こうだって変なことはしてこなかった。
たまにあしらえない人もいるにはいて、そんな時はお酒の席で絡まれるのは避けては通れないしって我慢してきた。
ちょっと体とか触られたりしたって、嫌だけど、ぐっと堪えた。

41 :
その甲斐あってこれまで大きなトラブルが起きたことはなくて、だから、いつものことだったらどうにでもなるって思ってたのかもしれない。
特に根拠なんてないのに、そんなことありえないって頭から決めつけて。
でも、いまは、そんなことないって言える自信がない。
外は滅多にないほどの台風のおかげですごい暴風雨、しかも深夜だから人通りもろくにない。
お店の中だって、やっちゃん一人しかいない。
もし、本当にもしも、なにかあったら……。
「怖いよぅ……竜ちゃん……」
脳裏を過ぎる想像に、知らず知らず震えていた。
泣きそうになって竜ちゃんの名前を呟いて、その声に被さって、鳴りっぱなしの着信音を耳が拾う。
あんまり動揺していてすっかり頭から存在が抜けていた。
悴んだようにうまく動かない指で開くと、画面には思いがけない名前が浮かんでいる。
竜ちゃん──電話をかけてきていたのは竜ちゃんだった。
途端に安心感が湧き上がる。それまで、あれだけ不安に押し潰されそうだったのが嘘のように一変する。
こんな時間にどうしてと不思議に思うよりも、その時はもう、ただただ声が聞きたくなってたまらなかった。
「りゅ、竜ちゃん、竜ちゃん竜ちゃん、あのぉ、あのぉ……竜ちゃあん、助けてぇ」
順序だてる以前に、考えることもぜんぜんできない。
突発的な言葉が口をついて出ていくのが、どこか現実味がなくて、自分が言ってるはずなのに何を言っているのかよくわからない。
とにかくスピーカーをめいっぱいくっつけて、竜ちゃんの名前を何度も呼んで、その第一声を待つ。
だけど聞こえてくるのはザーザーっていうような水音や、ゴウゴウと吹き抜けるような雑音ばかり。
さすがに不信に思い始めた頃。
「助けてやるからまずはここ開けてくれよ」
ドアの向こうからそう言われてすぐ『助けてやるからまずはここ開けてくれよ』と、通話先からもまったく同じことを言われた。
呆れたような、ぶすっとしたようなその声は、紛れもなく竜ちゃんのだ。
いくら雑音が酷くったって、やっちゃんが間違えるわけないよ。
ケータイも、通話中の相手の名前は竜ちゃんのまま。
なにより、中途半端に開いているドアの隙間からこっちを覗き見るその目つき。
あんなに吊り上がった三白眼をしてるのなんてこの辺じゃあ竜ちゃんぐらいなもの。
となると、もう疑う余地はない。
一旦ドアを閉めさせてもらってからすぐにチェーンを外す。
「ちょっと待っててね、いまタオル持ってくるね」
「いいよ、すぐ帰るんだから。どうせ濡れちまうんだし」
天気の崩れ具合をありありと物語るように頭のてっぺんから爪先まで、まるで泳いできたようにずぶ濡れの竜ちゃん。
ぴったり肌に張り付いたシャツをぱんぱんと叩いて、その度滲み出て粒になった水が滴り落ちている。
風邪でもひいたら大変だよって、そう言って心配するやっちゃんを無視して、竜ちゃんは店内をぐるりと見渡す。
残っているのがやっちゃんだけなのを確認すると、なんだか複雑そうな顔をした。
「ずっと一人だったのか」
「え? う〜んと、途中まではね、お客さんとかもいたんだけど、その後はそうだよ。やっちゃんだけ」
「どのくらいだよ」
「ええっとぉ、よくわかんない。たぶん、三時間くらいかなぁ」
だんだん顔を顰めさせていく竜ちゃんがはあと深いため息をこぼす。
それから力なさげに手招きをして、なんだろうって近づいてきたやっちゃんのほっぺにおもむろに触れる。
ひんやりと冷たくなっていて、まだ濡れている指先がつうっと肌を滑るのがこそばゆくって、なんだかドキリとした。
「あ」とか、「んぅ」とか、そんな声にならない声がもれそうになって、それも束の間。

42 :

「いひゃ、いひゃい、いひゃひゃひゃひゃ。りゅうひゃんいひゃいよ〜ひゃめへ〜」
抓りあげられたほっぺたが焼けたように痛い。
たまらず竜ちゃんの手を払いのけて、抓られてひりひりする部分をさすりつつ上目遣いで睨んだ。
「なにするのぉ?」
赤くなったほっぺたを膨らませたやっちゃんの抗議に、竜ちゃんがジト目で返す。
「あのなあ、台風だぞ台風。もう客なんてこねえだろ。それだってのにおまえ、三時間もなにしてんだよ」
叱るような口調の竜ちゃんは、つまり何でさっさと帰ってこなかったのかって、それが気に食わなかったみたい。
その言い分だってわからなくはないし、どころか、もっともだって思った。
できることならやっちゃんだって早く帰りたかった。なにも好き好んで三時間もぼけっと座ってたわけじゃない。
理由は竜ちゃんも言ったけど、台風が酷かったから。
一人で帰るには躊躇しちゃうこの荒れ模様のせいで、帰るに帰れなかった。
せめて出歩けるぐらいには天気が穏やかになるのを待っていて、そうしたら、いつしかこんな時間になっていた。
それなのに、やっちゃんにだって事情とかあるのに、いきなりほっぺた抓られて、しかもそんな頭ごなしに怒られたら、いくらなんでもちょっと理不尽だとも思う。
でも、それを表に出しちゃうのはできないよ。
「たく、人がどんだけ心配したと思ってんだ。だいたい泰子、いつも言ってんだろ、なんかあったら連絡の一つでもよこせって。
 一人で帰れねえなら帰れねえでもっと早く言ってりゃあこんな時間になる前にだな、って。おい、聞いてんのか泰子?」
ぷりぷり小言を並べる竜ちゃん。
冷め切っていた手の、その感触を思い出すと胸が絞めつけられる思いがした。
「うん……ごめんね、竜ちゃん。心配させちゃって」
心配かけちゃった上に、こんな遅くに台風の中、こうして迎えにまできてくれた竜ちゃんに向かって、そんな釈然としない気持ちをぶつけるのは、筋違いも甚だしい。
それにこういうときは何を言っても言い訳がましく聞こえてしまいそうで、ここは素直に謝った。
竜ちゃんは後頭部をぽりぽり掻く。
「あー、いや、おう。まあ、わかればいいんだけどさ」
と、そこでこほんと一つ咳払い。
目線を外してあらぬ方を見つめる竜ちゃんが、やたらと神妙な感じで言う。
「助けてとか言うもんだから、一瞬何事かと思ったんだからな」
要らない心配まで余計にかけていたみたいで、不機嫌さの理由はこれにも関係ありそうだった。
ちゃんと経緯を話とかないと、変な誤解を招きそう。

43 :

「あれはね、そのね、早とちりっていうかね」
「なんだそりゃ」
きょとんしている竜ちゃんに、さっきのはこれこれこういうことだったんだよと説明する。
手振りも交えて、それにあのとき、どれだけやっちゃんが怖い思いをしたのか。
それを話している間、真剣に耳を傾けていた竜ちゃんは、話し終えると同時にプッと噴出して、それから堰を切ったように笑い出した。
なんで笑われるんだろうって不思議がっているやっちゃんに、竜ちゃんが「心配して損した」だって。
なんだかやっちゃんばっかりがおかしいみたいで、それがやっちゃんにはぜんぜん可笑しくなくって、笑わないでって言ってもクスクスなんていう含み笑いはなかなかとまらない。
ひとしきり笑って、そうして何事もなかったように帰り支度を始めた竜ちゃんの背中にこう言った。
「でも、竜ちゃんが来てくれて、やっちゃんすごくほっとしたんだぁ。今だってね、心配してくれてて、うれしい」
聞いているんだからいないんだか。背を向け続ける竜ちゃんからは、そのことすらもわからない。
それでも、照れてるのかなって、なんとなくそんな気がしたのは、無言で繋いできた手がほんのりと温かみを持っていたから。
最後に記憶にあるときより、また少し大きくなっている。
そのことが実感できて誇らしくって、この手がまた冷めてしまわないよう、簡単に離しちゃわないよう、ぎゅっと握り返した──。
「うおっと。大丈夫か? 足元、滑るから気をつけろよ」
戸締りをしてお店を後にすると、いくらも進まない内に突風と横殴りの雨に見舞われた。
折れそうな勢いで木がしなって、電線がたわんで、看板や標識、信号までが大きく揺れている様子は、普段の見慣れた街並みとはぜんぜん違い、さながら別世界のようだった。
とはいえまともに目なんて開けていられない有様で、水溜りも同然、むしろ浅い川のようになっている道路で足を滑らせたところを、隣を歩く竜ちゃんに抱きとめられて事なきを得る。
「うん。それにしても、ほんとにすごいねぇ」
「おう。台風、今度のは相当でかいらしいからな。また洗濯物が溜まっちまうよ。あとカビも手強くなるしよ」
「ううん、違うの、そうじゃなくってぇ」

44 :

傘を差しながら、転びそうになったやっちゃんを軽々と抱きとめて、そのままぐいぐい先を進んでいく竜ちゃんがすごい。
そう言おうとするよりも早く、どんよりとした靄が目に見せそうなほどのため息を竜ちゃんがした。
「はあ。とりあえず、さっさと帰んねえとだな。ああ、ちょうどいいからそのまま掴まってろよ、泰子」
「あっ、りゅ、竜ちゃん? やっちゃん一人で歩けるよ? ……それに、ちょっとはずかしい」
「どうせ見てるやつなんて誰もいねえし、こっちの方が早えだろ?」
実際それは本当だった。
竜ちゃんのペースに合わせようとどんなにやっちゃんががんばっても、向かい風や水溜りに足を取られてどうにもこうにもうまく進めない。
だからって、甘えちゃってもいいのかな。
本音を言うと甘えちゃいたいのはやまやまで、正直かなり迷ってしまう。
「……いいの? やっちゃん、重かったりしない?」
どうするか決めあぐねた末に、これも竜ちゃんに丸投げ。
「いいよ。べつに重かったりもしねえから、気にすんな」
「……うん……じゃあ、おねがい」
事もなげにしている竜ちゃんに、やっちゃんはもう文字通りのおんぶに抱っこの状態だった。
しかも傘まで持ってもらってる。こんなに至れり尽くせりでいいのかな。
竜ちゃんは出掛けに傘を二本用意していたらしい。
でも、お店まで来る途中で、それまで差していた傘が一際強い横風を受けて裏返ってしまい、壊れて使い物にならなくなってしまったそう。
残った方の傘を、ないよりはマシだろうって竜ちゃんにやっちゃんに差し出してくれた。
それはいいんだけど、やっちゃんが差してても、ちょっとした風ででもすぐ傘が飛んでいっちゃいそうになる。
結局それも竜ちゃんに差してもらって、挙句に抱っこなんていうこの体たらく。
お母さんの面目丸つぶれだ、これじゃ。
「ふふ」
「なんだよ」
「なんでもな〜い」
でも、そんなことも、もうどうでもいっか。
なにも今に始まったことじゃないし、つぶれるような面目があったのかさえ疑わしいし、それに竜ちゃんがいいって言ったもん。
だからもう面目とか、そんなのどうでもいい。
こうしているのが思ってたよりもずっと心地いいから。
「ねえ、竜ちゃん」
「ん?」
こんな酷い雨の日も、たまにだったら意外と悪くないのかもって、そう思った。
「だいすき」
こんな酷い雨の日だから、雨音で掻き消されたりしないように。
唇が触れるまで顔を近づけて、そっと囁いた。
                              〜おわり〜

45 :
おしまい

46 :
あなたが、貴方が神か・・・!

47 :
GJ!!!

48 :
やべえ何これ
やっちゃん可愛すぎるでしょこれ
もっとやれいややって下さいお願いします

49 :
174さんの三十路以上のキャラが魅力的で困る

50 :
>>49
この人、三十路組のこと大好きだよな
ゆりちゃんは元よりやっちゃんまでめちゃくちゃヒロインしてるし

51 :
ごめん間違えてageてしまった

52 :
174 ◆TNwhNl8TZYの名前を見て、「お、独身か!」と思ったら母だったでござる
しかもこれまたほのぼのした良作・・・乙である

53 :
174さんの名前を見ると真っ先にハーレム物が思い浮かぶな
性別が♀ならモブからインコちゃんまでもっていう徹底ぶりが印象強い
というかインコちゃんが騒動の元凶だったっていう話が強烈すぎてそれが未だに頭に残ってる

54 :
竜児が記憶喪失で妊娠させまくる話かw
あれは傑作だったwww

55 :
ゴールデンタイムの SS はまだかね?

56 :
どっかで既視感あると思ったらうさぎドロップ(アニメ)の主人公大吉が竜児だ。一度そう思ったらもうそれにしかみえない。

57 :
独身のままおっさんになるぐらいなら、
そその前に亜美ちゃんや独神を嫁にもらえばいいのに

58 :
結婚できず、子供を作るでもなく、独身のままおばさんになってしまったゆりちゃんにも色んな意味で辛いアニメだな

59 :
>>54
しかしこの説明だけだと竜児が凄い鬼畜に見えるな

60 :
小ネタSS投下
「N.G.S」

61 :

なんでも行き当たりばったりで、何事も先延ばしにしてしまうような性格を恨めしく思うのはこれで何度目になるんだろう。
特に考えもせずその場のノリで決めてしまったのが二週間前。
まだまだ余裕あるから後に回しても大丈夫って気楽に構えてたのがちょうど一週間前。
さすがにヤバイと本気で焦りだしたのは、提出日のたった三日前のこと。
いくらなんでも遅い、遅すぎる。そこから挽回するのだって、大変なことは充分わかっていた。
少なくとも、そのつもりだった。
それだってのにとうとう明日が期限だというところまで日々を無駄に浪費してしまったのは、ひとえに自分の責任だ。
もし時間が巻き戻せるんなら、あたしは二週間前のあたしを絶対引っ叩いてやる。
泣いて謝ったって許してやらないんだから。
こんな穴だらけの指になりたくなかったらもっと楽にできて、かつすぐ終わらせられるようなもんにしときなさいよねって、おもっくそ嫌味ったらしく言ってやる。
「痛っ」
まただ。余計なこと考えてるからそうなるのよ、それ見たことかって、心の中で自嘲気味に呟く。
人差し指に走った痛みにいい加減辟易する。刺さってしまった針先を慎重に引き抜くと、遅れて傷口から薄っすらと血が染み出す。
隣に座っていた、それはそれは目つきのおっかない男子が、すかさず絆創膏を貼ってくれた。
「ああもうっ。もう嫌、やってらんないわよこんなの」
「落ち着けって。さっきまでと比べりゃだいぶ上達してるぞ」
高須くんはそう言うけど、あたしにはとてもそうは思えない。
度重なるミスのおかげで左手はとっくに絆創膏まみれになっている。
今の今増えたのも合わせると、自分自身に針を刺してしまった回数は片手じゃ数えられない。
始めてからもう一時間。それだけ費やしてこの有様だ。
経験値に直したら少しはレベルが上がっていていいはずだってのに、まるで立体感のない、ぺちゃんこのクマだか狸だか判然としない形の布切れからは、上達のじょの字も感じられない。
「やめてよ、お世辞とか。なんか、逆にムカつく」
一向に終わる気配がしてこない、苦痛まで伴う地道な作業の繰り返しに、あたしはもうすっかり嫌気が差していた。
こんなもの放り出して帰りたいのに、けどそうもいかなくて、やらなくちゃいけないのもわかってるし、でもやりたくない物はやりたくないんだもん、しょうがないじゃん。
それにもう、どうせ間に合いっこないよ。
勝手に八つ当たりして、勝手に諦めムードを漂わせていると、高須くんがはあとため息。
「そんなんじゃねえよ。ほら、木原、まっすぐ縫えるようになってきてるだろ。ちゃんと上手くなってるよ」
「なってないってば。だってさ、こんなにやったのに、ちっとも高須くんみたいに上手にできないし。きっと才能ないんだよ、あたし」
始める前、一通り高須くんに実演してもらったのを思い出す。
淀むことなく綺麗に繕うその様子をお手本にしていたのに、いざ自分が針を持つと勝手が違って、まったくお手本どおりにならない。
あれだけ要点とか注意とかを教えてもらったのにもかかわらず、最初の方に縫ったのなんか糸がよれよれで蛇行しまくりだ。
それでも何度か練習して、やっと本番に取りかかって、なのにずっとこの調子。
自信があったわけじゃないけど、こうも上手くいかないんじゃあ気落ちするなっていうのも無理な話でしょ。
そうやってうなだれているあたしに、高須くんがフォローを入れた。

62 :

「才能なんて関係あるか。誰だって始めたばっかじゃこんなもんだ。俺だってそうだ」
「でも」
あたしは高須くんとは違うから、高須くんみたいにできないよ。
そう続けようとした言葉を遮られる。
遮ったのはもちろん高須くんだ。
「わからなけりゃ何回だって教えてやるし、難しいとこは手伝ってやるよ。だから木原も、もうちょっと続けてみないか」
そうまで言われて、ううん、言わせちゃって、これで諦めて帰るだなんてこと、できるわけない。
それでなくったって頼み込んで手を貸してもらっているんだから、一方的なわがままで終わらせるのって、高須くんにすごく悪い上に失礼だ。
いくらか冷静さが戻ってきたのもあって、高須くんの説得により、止めようという気持ちはだんだん霞んでいった。
それでも引っ込みをつけるのが苦手なあたしはそっぽを向き、
「わかったわよ。やればいいんでしょ、やれば」
と、可愛らしさの欠片もないふて腐れた返事をする。
他の人だったら愛想をつかされててもおかしくないのに、高須くんは「おう」とだけ言って、何事もなかったようにしている。
自分でもさすがにあれはないんじゃない? と思っただけに、あっさりとしすぎる高須くんの反応が意外で、肩透かしを食らったようにさえ思える。
まあ、あれだけ素直じゃないタイガーを相手にしてるから、慣れちゃってるってのもあるのかな。
それが一番ありえそう、それだけいつも一緒にいるんだろうなって、そう思った次の瞬間。
「痛っ」
チクリ。今度の針は、今までのよりほんの少し深く刺さった。
「なあ、慌てなくていいんだからな」
「うん」
絆創膏が、また一枚。
気を取り直して再開させた、その矢先にこれなんだから。
先が思いやられるなあ、もう。
そもそもこんなに難しいと知っていたなら家庭科の裁縫課題、適当に雑巾とか、そういう簡単そうなのにでもしとくんだった。
亜美ちゃんに奈々子、それにほとんどみんなが「可愛いからこれにしよ」って盛り上がってるとこに、ノリで便乗しちゃったのが最初にして最大の間違いだ。
ぬいぐるみなんて可愛らしくって複雑なもの、どうせあたしにできっこないってのにさ。
まったく、何やってんだか。
「あーあ、男子はいいよね。こんなめんどいことしなくっていいんだから」
あっちはあっちでレポートの課題がある。
といってもたいしたことはなく、ただ教科書の内容を丸写しにして出せばいいだけ。
それに引き換え、女子にはこういう実技課題が出されているんだから、やっぱ不公平だ。
同じ家庭科だってのにこの違いはなんなのよ、男女平等社会じゃねえのかよ。
裁縫なんて、そんなのが得意な女子高生なんて今どきいるわけないでしょ。
もしいるんだったらここまで連れてきてみろってえの、たく。
だいたいさあ、こんなぬいぐるみもどきを作れたとして、それが将来なにかの役に立ちそうってわけでもないし、ほんと、何の意味があるんだかわかりゃしない。
ちくちくちくちく危ない手つきで縫いつけながらのあたしの、その投げやりな気持ちがめいっぱい込められたぼやきに、隣で見守る高須くんが首をかしげた。

63 :

「そうか? 俺はそっちの方がいいけどな」
今どきの男の子がいくら大人しいったって、ここまで女々しいというか、所帯じみてもいないでしょうよ。
少なくともあたしの身近に高須くんほど家庭的という言葉が似合う男子は思い当たらない。
女子をひっくるめても辛うじて奈々子ぐらいなものかな、当てはまるの。
つくづく見てくれとのギャップが激しい高須くん。
そのことに何ら驚きもしなくなっている自分を悟られるのがなんだか恥ずかしいことのように感じられて、そうならないよう冗談めかして言う。
「なら、いっそ代わる? でさでさ、あたしがやったげるよ、高須くんのレポート。ね、そうしよ」
「ああ、名案だなそれ。だけど生憎ともう書き終わってるんだ、レポート。気を遣わせたみたいで悪いな、木原」
そっか。それじゃあ残念。
体よく押し付けようとするあたしをひらりとかわした高須くん。
さすがにそこまで甘やかしてはくれないか。
でもまあ、それも当たり前だよね。ていうか、そうでなくちゃあ都合がよすぎるってものだもん。
ただ優しいだけの男よりもよっぽど好感が持てる。そういう男はつまらない。
何故だかそんなことを考えている自分を見つけて、不思議なことにその理由もわからず、あたしはあたし自身に対して首を捻る。
「手、止まってるぞ」
目ざとく指摘されて、あたしはぎこちなく指を動かした。
が、ものの数針縫ったところで、すぐまたピタリと止まってしまう。
「どうしたんだ」
「え、あ、その。ちょっとここの部分、むずいかなあって」
咄嗟に思い浮かんだことをそのまま言う。
高須くんは平然としているけど、実はさっきからたまに落ち着かない時があった。
場所は放課後の教室。窓から差す夕焼けが眩しくて、居残ってる生徒は誰もいない。
あたしと高須くんの二人きり。
意識しまいとしていたのに、変なことに気がいったからか返ってそのことをより強く意識してしまい、あたしはいまいち集中しきれずにいた。
まるで告白か何かのようなシチュエーションもそれに拍車をかけている。
おかしいな、べつにあたし、高須くんのこと何とも思ってないのに。
「そこか。よし、任しとけ」
そうだ、あたしは高須くんのことをどうこう思ってるわけじゃない。
ぜんぜん、まったく、これっぽっちも意識なんてしていない。
いたって普通の友達関係、それ以上でも以下でもない。
これまでだって、これからだって。
「た、た、た、高須くん!? ちょっと!?」
でも、だからって、こんなことされていつもどおりにしているなんてできないわよ!?
「いいから。少しの間じっとしててくれよ」
いいも悪いもない。動くなって言われたって、微動だにできやしない。
ひょっとしてこいつわざとやってんじゃないの。
そう疑ってしまうのは、何もあたしが自意識過剰だからじゃない。
誰だって背中から抱きすくめられたら似たり寄ったりな反応をするはずだ。
「でな、そうしたら、次はここをこうやっていって、と」

64 :

いや、抱きすくめられてってのはいささか御幣があるかもしれない。
高須くんはたんにあたしの背後から腕を伸ばして、布と針を握るあたしの手に自分の手を重ねて、難しいと言った箇所を縫ってくれてるだけ。
ただそれだけで、そんなのは充分理解してるのに、どうにも動揺を隠せない。
自分の手をすっぽり覆う高須くんの硬い手の感触に、目の逸らしようがないぐらい、これが異性の手なのだということを実感させられてしまう。
椅子に腰を下ろしているあたしに合わせて腰を屈めている格好のため、密着度合いはそこまでではないものの、コツやら何やらを解説するたびに首筋にかかる吐息がむず痒くってしょうがない。
「あとは玉止めにしてやれば、ここの部分は出来上がりだ。他もこんな感じでやってけば、っておい、木原」
「ふぁ」
肩を揺すられて我に返る。変な声が出てしまったのは、この際気にしてもいられない。
あたしは振り返り、ちゃんと聞いてたのかよみたいなことでも言いたげな視線を寄越す高須くんを力の限り睨みつけてやった。
こっちの取り乱しようなんてちっともわかっていないだろう訝しげな顔が益々憎らしい。
いったいぜんたいどういうつもりなのよ、いきなり、あ、あんなことしてきて。
冗談にせよそうでないにせよ、たち悪いってば。
不覚にも、その、ドキドキしちゃったじゃないのよ、くそぅ。
言いたいことは山ほどあったのに、いざ高須くんを目の前にすると口だけがパクパク動くのみ。
そんなあたしの言葉にならない言葉が伝わったのかはさて置いて、高須くんが言った。
「わかり辛かったんなら今のとこ、もう一回やってみるか?」
少しくらいはって、そんな期待に微塵も応えない朴念仁ぶりを発揮されて、人のことをなんにもわかってくれない高須くんにほとほと呆れかえる。
しかも完全に素のままもう一回、だって。
いくらなんでもあんな心臓に悪いのをそう何度もやられたんじゃ、向こうはともかくこちらの身がもちそうにない。
でも、先に言わせてもらうけど、断じてあたしは物覚えが悪いわけでも、バカでも、ましてや裏口入学疑惑のかかるようなアホじゃあない。
どこにでもいる模範的な今どきの女子高生で、ただ、他の人よりちょびっとだけ手先が不器用なためにこんなことになっているのだ。
差し迫った提出期限まで、もういくらも猶予が残されていないってのもある。
上手な人に教えてもらえるというのなら、それに越したことはないじゃない。
その上教え方が懇切丁寧ならなおさらのこと。その申し出を突っぱねる理由もない。
そうそう、だからあくまで、あくまでこれは仕方なくなんだから。
「それじゃ、あんまり動かないでくれよな」
「高須くんこそ。針、刺したりしないでよね。けっこう痛いんだから」
「おう」
しばらく逡巡したそぶりを見せてから頷くと、高須くんの腕が肩越しに伸びてくる。
大きくて硬い手にされるがまま、クマだか狸だか判然としないぬいぐるみもどきに針を入れつつ、チラリと窓の向こうに目をやった。
せめて、あの夕日が落ちきるまでには、完成させないと。
「痛っ」
言ったそばから指先にチクリとした痛みを感じたけど、よそ見をしていたあたしの注意が足りなかったんだから、これは不可抗力だ。
「もうっ、刺しちゃやだって言ったのに」
だけど、敢えてそれを口にすることはしなかった。
最後までそうだとは気づかなかった高須くんの平謝りを聞き流しつつ、また増えた針傷に絆創膏を貼ってもらった。
                    ***
翌日の昼休みのこと。
「そう。大変だったのね、麻耶」
「ほんとだよ。おかげでこんなになっちゃった」

65 :

隙間もないほど絆創膏で埋め尽くされた、変わり果てた姿になってしまった左手をひらひら翳してみせる。
奈々子が痛々しさに眉根を寄せた。
だけどもこれ、大げさなわりにもう痛みも引いてるし、自分の不器用ぶりをわざわざ自慢して歩いているみたいで少し恥ずかしくもある。
たった一箇所を除けば全部自分のせいだからそれも仕方のないことなんだけど、逆に考えればこれって努力の証なんだし、頑張ったからこそって思えばそこまで嫌なものでもないかな。
「でもよかったわね。課題、ちゃんと間に合ったんでしょう」
「まあね」
でなけりゃこうしてのんびりお昼ごはんなんか食べてらんないわよ。
だから本当、高須くんには感謝しなくっちゃ。
ぬいぐるみもどきから、ようやくぬいぐるみとして及第点をあげられるくらいになったあのクマも、手元に帰ってきたら記念に飾っておこう。
「奈々子もありがとね」
「どういたしまして。といっても何もしてないんだけどね、あたしは」
とんでもない、奈々子の言葉がなかったら、あたしは今頃針と糸相手にまだ悪戦苦闘していたはず。
昨日、提出期限直前になっても右往左往していたあたしに「高須くんにお願いしてみたら?」と勧めてくれたのが奈々子だった。
はじめあたしは奈々子に泣きついたんだけど、間の悪いことに昨日はどうしても都合がつかなかった。
他力本願なことこの上ないけどいよいよヤバくなった時は頼ろうと決めていた頼みの綱は、いとも容易く千切れてしまった。
こんなことならもっと早く相談していれば、ううん、それよりもちゃんと自分でやってきていれば。
そうして途方に暮れていた時だ、見かねた奈々子が助け舟を出してくれたのは。
その奈々子の勧めに一も二もなく飛びつき、藁にも縋る思いで事情を説明すると、高須くんは嫌な顔一つ見せず、むしろどことなく乗り気な体で快諾してくれた。
得意なことで頼られたのが案外嬉しかったらしいのは、熱心に付き合ってくれていたあの様子を見ていればわかる。
ただ、高須くんに頼ることに問題がなかったわけでもなくて。
「それにしても昨日のタイガー、ずいぶん大人しかったけど。何も言ってこないのも、なんだか怖いなあ」
心底意外そうな奈々子の言うとおりだ。
たしかにあたしが平身低頭にお願いしていたその時、高須くんの横では、機嫌の悪さをありありと滲ませるタイガーがいた。
「それなんだけどさ、あたし聞いてみたんだよね、高須くんに」
「そうなの? それで高須くん、なんて?」
あんまり大きな声で喋っていると本人の耳に入ってしまうかもしれない。
高須くんとタイガーの二人は少し離れたところで机を並べて、櫛枝と、まるおと、それに亜美ちゃんも交えてお弁当を広げているんだから。
あたしは小さく手招きをし、心もち身を乗り出した奈々子に耳打ち。
「なあんだ、そういうこと」
奈々子が納得がいったという表情を浮かべる。
そりゃああれだけ大雑把で、しかもドジを踏みやすいタイガーだもん。
一人で針仕事なんてさせたらどうなることやら。
なんてことはない、タイガーとあたしは同じ穴の狢ってだけだった。
だからあたしにもしていたような、その、背中から抱くようなあれは、元々はタイガー相手にしていたんだと思う。
ああして教えてあげれば針が指に刺さるようなことも少ないし、口で説明するよりかはまだわかりやすいだろうって、たぶんそんな風に考えたんだろうね、高須くんは。
本当のとこはどうだか知りようがないけど、事実として、あの方法は思いのほか捗る。
ぶっちゃけ高須くんがやってくれてるようなもんだしね。
とまあ、そういった具合に高須くんにかなりの手助けをしてもらったから、タイガーも取り立てて何も言わずにいてくれているっぽい。
こっちとしてもそれは同じで、だからこういうのもお互い様、ってところなのかな。
「それだったら、楽しそうだから麻耶と一緒にあたしも教えてもらえばよかったかも。ふふ」
種がわかって、奈々子がくすくす笑って茶化してくる。
そつなく課題を終わらせておいてよく言う。
でも、人のことをとやかく言えないあたしは、とりあえずパックのジュースを啜って聞いていないフリをした。

66 :

「でも麻耶、意外と気が多いのね。北村くんにも、高須くんにも、なんて」
「ぶっ。けほ、こほ」
おもいっきり咽た。
咳き込むあたしを、何が面白いのか、腹黒い考えなんて欠片もなさそうでいてその実ありまくりの笑顔をした奈々子が見つめている。
なにを言い出すのよやぶから棒に。
「どうしてそうなんのよ。まるお、今の話と関係ないじゃん」
「べつに。ただ高須くんとのこと、ずいぶん嬉しそうに喋ってたからなんとなく。違うの?」
小首をかしげる仕草が可愛らしくて小憎らしい。
それがめちゃくちゃこっちの癪に障るは神経逆撫でするはって、わかっててやってるんだから、ほんと奈々子っていい性格してるわよ、マジで。
「違うっつーの。誤解しないでよ、もう」
「じゃあ高須くんのことは何とも思ってないのね」
性悪ぶりを全開にさせる奈々子はすんごく鼻持ちならなくて、だけどその口から出てくるのは、昨日のあたしの気持ちだった。
あたしは高須くんのことをどうこう思ってるわけじゃない。
ぜんぜん、まったく、これっぽっちも意識なんてしていない。
いたって普通の友達関係、それ以上でも以下でもない。
これまでだって、これからだって。
何が起ころうとそのはずで、なのに。
「い、良い人だとは思ってるよ? だってほら、課題、手伝ってくれたし。話してみると、見かけよりずっと普通だし」
思わず言い返していたのは、きっと今のあたしの気持ちだと思う。
いまいち確証が持ちきれないというか煮え切らないというか、そういう類のはみんな奈々子のせいだ。
底意地の悪いことばかりする、奈々子のせい。そうに違いない。
「そう。良い人なんだ、高須くん」
とうの奈々子はというと、いやらしい笑みを深めるばかり。
居心地の悪さに縮こまるあたしをにやにやと見ている。
その内コウモリみたいな真っ黒な羽でも生やして、お尻からも矢印のように尖った尻尾が出てくるんじゃないの。
小悪魔系ってよりもずばり悪魔そのものだ。
「で、麻耶はどっちにするのかしら」
「な、なにがよ。意味わかんないんですけど」
「もぅ、ほんとはわかってるくせに」
いやらしい悪魔が興味津々と尋ねてくるのをひたすら知らん振り。のらりくらりと受け流す。
意地でもわかってやらないんだから。そりゃ、何を言いたいのかなんてわかってるけど、絶対わからないで通してやる。
いくら奈々子だって、なんでもかんでも本音を教えてしまうとか、そんなのたまったものじゃない。
一方的にというのもずるい。せめて奈々子の秘密と交換じゃないと割に合わない。
まあそれでも、奈々子が聞きたがっていることを打ち明けるというのは、まずありえない。
曖昧で定まらない、捉えどころだってないその気持ちをはっきりとした言葉にすることなんて土台できない話なんだから。
「わかんないわよ、ばか」
だからせめて、それが何なのかってはっきりするまでは。
回答は、先延ばし。
                              〜おわり〜

67 :
おしまい

68 :
GJ!!
まやドラなんてめずらしいカプでにやにやさせやがって
で、続くんですよね?ありがとうございます
>>50
174さんはもともとやすドラ!?っていうのが初投下作だからね
やすこ大好きなのは間違いないよ
もし未読ならお勧めだよ

69 :
よし続けたまへ

70 :
あいかわらずの安定感(´▽`*)
人が減ってるだけに定期的に、しかも短編を投下してくれるのは
読むという意味でも、また新しい人が来てくれないかな、って期待する意味でもありがたや

71 :
放課後の教室で背中から抱きしめるとかそれ絶対告白より更に上のシチュだろ
これはもう今どきの女子高生も意識せざるを得ないね
そしてこれからがすごく気になるね、GJ!
>>68
なるほどそうだったのか、教えてくれてありがとう
補完庫にはないみたいなんでちょっと探してみる

72 :
          ゴロゴロゴロゴロ
 〃∩ _, ,_    /)    〃∩ _, ,_    /)
⊂⌒( `Д´)ミ( ⌒ヽつ⊂⌒( `Д´)ミ( ⌒ヽつ 麻耶キタ━━━━━━━━!!!!!!
 `ヽ._つ⊂ノ⊂( ,∀、)つ.`ヽ._つ⊂ノ⊂( ,∀、)つ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|     ミ
                            |    〃 ∩  。
                            |   ⊂⌒从ヽ从゜o ザバーン
                            | 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
                            |
ヒッヒッフーヒッヒッフー!!

73 :
すげーな。スレの流れが活発で嬉しい

74 :
いい流れぢゃないか。

75 :
荒ぶる174氏

76 :
もっと荒ぶってくれてもいいのよ

77 :
BD-BOXの発売日がやっと決まったみたいだな
この一ヶ月コンスタントに投下があるし、良いことって続くんだなってわりとマジで思った

78 :
↑激しく同意

79 :
そういえばアニメ化してからもうまる三年にもなるのか
ちょっとビックリだな

80 :
【必見&拡散】 絶句JAPAN!!【中野剛志】
http://www.youtube.com/watch?v=Z1UOqFfOnBo

81 :
補完庫更新されてたんだな
管理人さんお疲れ様です

82 :
本当だ
まとめ管理人も乙

83 :
今週は174さん来ないのか…

84 :
さすがに毎週あの量をってのは無理でしょw
でも期待

85 :
亜美ちゃんSSマダー?

86 :
大河SS新しく投下されないものか

87 :
さすがにもう新規職人さんの食指は動かないのかねぇ…

88 :
翼を下さいの続きが読みたい…

89 :
活気が出てきたと思ったらまたこういう流れかよ

90 :
ゴールデンタイムのry

91 :
保管庫、更新したはいいけど保管漏れ多くね?

92 :
>>91
どのへん?

93 :
日記。。徒然に。1〜20ってもう読めないの

94 :
>>93
元の目的は保管庫の補完だから基本的には1が保管していたものは保管していないんだよなあ。

95 :
>>91
みんな更新できるから気付いた人がやるといい

96 :
>>92
前スレ
>>209>>245-253>>298-301>>319-321>>367-382>>404-415>>420-428>>516-543
現スレ
>>39-45
GT展開予想やある程度文章になってるものも含めて、
ざっと見た限り保管庫に入ってないのはこのあたり

97 :
ななこいと我が家の腹黒様の続き読みたいな…

98 :
>>97  同意

99 :
>>97
同じく

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