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2012年7月エロパロ693: 新・川原泉作品をエロくしろ! (619)
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新・川原泉作品をエロくしろ!
- 1 :10/03/24 〜 最終レス :12/06/12
- 白泉社花とゆめコミックス、
ほのぼのな作風でお馴染みの川原泉作品をエロくするスレッドです。
- 2 :
- _人人人人人人人人人人人人人人人_
> ごらんの有様だよ!!! <
 ̄^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^
_______ _____ _______ ___ _____ _______
ヽ、 _,, '-´ ̄ ̄`-ゝ 、 ノ | _,, '-´ ̄ ̄`-ゝ 、 |
ヽ r ´ ヽ、ノ 'r ´ ヽ、ノ
´/==─- -─==ヽ /==─- -─==ヽ
/ / /! i、 iヽ、 ヽ ヽ / / /,人| iヽヽ、 ヽ, 、i
ノ / / /__,.!/ ヽ|、!__ヽ ヽヽ i ( ! / i ゝ、ヽ、! /_ルヽ、 、 ヽ
/ / /| /(ヒ_] ヒ_ン i、 Vヽ! ヽ\i (ヒ_] ヒ_ン ) イヽ、ヽ、_` 、
 ̄/ /iヽ,! '" ,___, "' i ヽ| /ii"" ,___, "" レ\ ヽ ヽ、
'´i | | ! ヽ _ン ,' | / 人. ヽ _ン | |´/ヽ! ̄
|/| | ||ヽ、 ,イ|| | // レヽ、 ,イ| |'V` '
'" '' `ー--一 ´'" '' ´ ル` ー--─ ´ レ" |
- 3 :
- 何という偶然
つい最近笑う大天使に再ハマリしていろいろググってたら
たまたまエロパロスレ保管庫にたどり着いて萌えまくってたとこだったんだ
感謝します
とはいえ続くのだろうか?
- 4 :
- いくらなんでもこれは無茶
- 5 :
- 柚子とロレンスが好きだ
あの微妙な関係がたまらない
- 6 :
- まさか再び かーらスレに遭遇するとは…!結構嬉しい
このところは銀のロマンティックが手放せません
- 7 :
- 和音と俊介も好きだ
- 8 :
- ふろいと1/2をこの前読んだな
- 9 :
- ○過去スレ
川原泉作品をエロくしろ!6
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1153839531/
川原泉作品をエロくしろ!5
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1149654230/
川原泉作品をエロくしろ!4
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1137226530/l50
川原泉作品をエロくしろ!3
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1109168712/l50
川原泉作品をエロくしろ!2
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1075465904/l50
川原泉作品をエロくしろ!
http://www2.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1039827496/l50
親スレ「まさかこのキャラをエロに使うか!?」
http://www2.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1027604556/l50
これまでに投下されたSSの保管場所
http://kawahara.h.fc2.com/
- 10 :
- >5
どのカップルもいいが私も柚子&ロレンスが一番好き
だけどロレンスはいつ柚子さんに手を出したんでしょうね
一応短大卒業までは我慢したのかな
- 11 :
- >>10
頭良いのに四大行かなかったということは
ロレンスが4年も我慢できないので短大をということを
うまーく口先三寸で丸め込んだ?
- 12 :
- おさげをほどいて妖艶になる柚子さん・・・
- 13 :
- わー新スレできたのね
エロく無いけどちょっと投下させてください
- 14 :
- 江藤くんには悩みがある。
クラス替えから一ヶ月余り、そろそろ級友達とのコミュニケーションも円滑になり始めるころになっても、
とある一女子からは未だ名前を覚えてもらえない。
剣道部主将という肩書、濃紺の詰襟に短髪、加えて仏頂面。
女子と話すのも実は苦手だ。
とっつきにくいであろうということには自覚がある。
だがしかし。
名前を覚えてもらえないということは小さなことだが、意外と心に引っかかるものだと
江藤英影(18)は思った。
うすらぼんやりと窓の外を見ている問題の女子、秋好杏子さんは相変わらず眠そうな顔をしている。
春にとある出来事があってから、二人の仲は急接近した、と江藤君は思っていた。
秋好さんは、ぼんやりとしているように見えて実は若竹のように柔軟で折れない心の芯を持っている、
尊敬すべきところのある女性だ。
その証拠に、女装して踊る自分を見ても動じず、受け入れてくれた。
一緒に踊った最後の夜、美しい色のリボンをくれた。
似合うと微笑んでくれた。月夜に輝くリボン、それは自分の宝物である。
そして、そんな秋好さんにいつからか級友以上の好意が芽生えたのだった。
それ以降、江藤君は秋好さんを毎朝迎えに行く。
えっちらおっちらと靴を履きながら
『おはよ〜ございます〜尾藤君』
という、毎日律儀に違う名前で呼ぶ秋好さんに、
『江藤だ、おはよう秋好』
毎朝律儀に訂正する。
わざとやってんじゃないのか…?と疑惑の目を向けるも、のほほんとした笑顔を見ていると
どうでもいいかなと流されそうにもなる。
それに彼は、そういう秋好さんが好きなのだ。
- 15 :
- 教室の窓際でぼ〜っと校庭の木をみている秋好さんに、江藤君は声を掛けた。
「秋好」
「…」
無言である。
聞こえなかったのかと思い、真後ろに立ってもう一度声を掛ける。
「秋好」
「…んあ?…あ〜加藤君。何?」
「江藤だ。何?じゃない。今日は部活がないので一緒に帰らないか、と朝言っただろう」
あ〜そうだね〜ごめんごめんと席にもどって帰宅準備を始めた彼女を横目で追い、
それから彼女が見ていたであろう校庭を眺める。
木の下には男女がいる。
秋好さんの妹とその彼だ。
彼は以前、秋好さんと交際していたが、いつしか妹のほうを好きになり、妹も彼を好きになってしまった。
秋好さんにも葛藤はあったろうが、潔く彼に別れを告げ、かつ妹の背中を押して今では公認の仲になっている。
そのいきさつにはからずも関わった江藤君は、二人の姿を見るとちょっとだけ複雑だ。
二人を見ていた秋好さんはぼ〜っとしているように見えて、悲しみに堪えていたのだろうか。
(秋好は今でもやっぱり……なのかな。)
だから俺は名前も覚えてもらえないのかな。
若干しょんぼりとした気持ちになる。
ええい、女々しいぞ俺。
江藤君は心に気合を入れ、秋好さんと共に教室を後にした。
「…おーい待ってくれ志藤くん」
はっと振り向くとやや呼吸を乱した秋好さんがえっちらおっちらとついて来ている。
「…すまん、というか江藤だ」
しまった気合入れすぎた。
彼女の歩調に合わせペースを落とす。
いつの間にか彼女の家の近所にまで来ている。
「ずっと黙ってるし、つかつか歩いていっちゃうし…なんか悩み事〜?」
のんびりとした口調だが、秋好さんはときに鋭い。
「いや、そういうわけでは…」
なんと言っていいやらもたもたと言葉を捜していると、彼女はニヤリと笑った。
「また、踊る〜?一緒に」
「え」
「お茶とお菓子持ってくよ〜?」
「あ」
「じゃあ天気もいいし今晩ね〜。例の公園で〜。ほんじゃお休み〜」
ばいばいと釣られて手を振った江藤君。
「俺の返事は聞かんのか…」
しばし呆然。
- 16 :
- そして夜。
秋好さんの言ったとおり良い天気で、明るい月夜だ。
先に公園に寄ったがまだ来ていなかったので、彼女の家まで歩いて迎えに行った。
寝ているならそれでもいいし、来るのなら夜道は危険だ。
家の門が見えると丁度玄関から秋好さんがそ〜っと出てきた。
「秋好」
小声で呼ぶと、秋好さんはにっこり笑って軽く手を振った。
片手にはお茶とお菓子?が入っていると思われるトートバッグを提げている。
白いTシャツにライトグレーのパーカーを羽織り、ひざ下くらいのデニムパンツという出で立ちだ。
うん、なかなかに可愛らしい。
「こんばんは〜佐藤君、今日はカーテンドレスじゃないの?」
「江藤だ。秋好こそ、パジャマじゃないのか」
「へへへ…」
秋好さんは前を向いたまま、笑った。
ふんわりした髪が揺れて、仄かにシャンプーだかリンスだかの香りがする。
その表情を斜め上横から見た江藤君はちょっとだけ頬が赤くなった。
公園のベンチに並んで腰掛けると、秋好さんはバッグから予想通り水筒とお菓子の包みを取り出した。
ぱかっと開けたタッパーの中に、カップケーキが綺麗に収まっている。
「これさ〜帰ってから焼いたんだけど〜食べてみてよ」
「おお…!これは」
噂に聞く手作り菓子!というものか!眩しさすら感じる…!
部活のとき、同級生や下級生の彼女たちが差し入れている光景を横目で見ては羨ましさと憧れでいっぱいだったものである。
江藤君は甘い香りと『手作り菓子』という言葉に心の中を感嘆符でいっぱいにして、カップケーキを手に取り一口齧る。
(よもや秋好にこんな女子らしい一面があるとは。男らしいとか思っててスマン!)
素朴にして深い味わい…とかなんとか色々思いついたものの言葉にはならず、アウトプットされたのはたった一言だった。
「美味い」
その一言に秋好さんは満足げに二カーと笑う。
もぎゅもぎゅと頬張る江藤君にお茶を差出し
「妹にも手伝ってもらったんだけどね〜あの子はこういうの器用なんだ〜」
私と違って、という言葉を飲み込んだような間が空き、外灯の影を見るその横顔には月明かりが届かず表情はわからない。
江藤君はそんな秋好さんの様子が気になるけれど、なぜか言葉がうまく出てこなくてもどかしい思いをしていた。
(悩みがあるのは俺じゃなくて、秋好のほうじゃないのか?)
カップケーキを一気に三個平らげお茶をずずずと飲み干すと、江藤君は意を決して秋好さんに向き直る。
「あ、秋好」
「ほぇ?」
月を眺めていた秋好さんが視線を江藤君に戻す。
「…あいつのこと、まだ好きなのか?」
(うわ!何言ってるんだ俺!直接表現が過ぎる!)
秋好さんはちょっと目を伏せ、伏せた睫毛が白っぽい頬に影を作った。
その様子に江藤君はがっかりと肩が落ちるような心地で自分のつま先を見た。
やっぱり、そうなのか…そりゃそうだよな。あいつは確かに格好が良いし。性格も満点だ。
こうして夜に会ったり、登下校を一緒に歩いたりしても自分は名前を覚えてもらうこともできない
ただのクラスメイトで、みっともない格好で踊るところも見られてるし、もしかしたらクラスメイト以下かも…
と、江藤君はマイナス思考に陥っていた。
「わかんない…」
秋好さんは月を見上げておもむろに口を開いた。
「わからないんだよ、須藤君」
遠くを見ている秋好さんは、夜のせいか月光のせいか儚げに見える。
ともすれば泣いているようにも見えた。
江藤君は訂正するのも忘れて秋好さんを見つめた。
「桃子と森君が一緒にいるのをみてももう別になんとも思わないし…むしろ微笑ましいというか…」
「…」
「確かに好きだったはずなのに、そんなに素早く気持ちは切り替わっていいのかと…」
「…」
「そういう、自分の気持ちがわからないんだよ…」
- 17 :
- わからない、という秋好さんの横顔はとても透明で、江藤君は思わず手を伸ばして彼女の頭を抱き寄せた。
秋好さんは少し硬直したが、黙ってそのまま江藤君に体を預けた。
夜は静かで、どこか遠くのほうの車の音が聞こえる。目を閉じると江藤君の心臓の音がシャツ越しに聞こえてくる。
それはなかなか心地よい音と温かさだったが、鼓動が少し早いので具合が悪いのではないかと秋好さんはちょっと心配になった。
「伊藤君…?」
見上げると江藤君はこわばった顔で秋好さんを見ていた。
頬に手を添えると、反射的に秋好さんは目を閉じた。
江藤君は2秒躊躇し、それから顔を近づけた。わずか3秒の接触だ。
それでもやわらかい唇を感じるには十分な時間だった。
「俺の名前は江藤だ…それから俺は…」
言うべきか言わざるべきか。ええい、ままよ。
「秋好のことが好きだ」
「え…」
身に振って沸いたキスと告白に驚いてぱちりと目を開く。
「わからなくても良いじゃないか」
江藤君は照れ隠しにぶっきらぼうに言った。
「俺だって、何で、その、好きになったのかとか、説明できないし」
(くはー何をわけのわからぬことを言っているんだ俺は!)
内心頭を抱えて、それでも何とか態勢を立て直す。
「そういうこともあるんだって思ってれば良いじゃないか」
やや頬を赤らめ、あらぬ方向をみる彼を見て、秋好さんはやっと自分の心の動きを自覚した。
そして何だか心がほっこりと温まるのを感じた。
「…そ〜か〜…そうだね〜」
秋好さんはつらかったとき、眠れなかった時のことを思い出した。
夜道を徘徊してるうちに江藤君に出会って、公園で踊る江藤君に付き合ううちに、
だんだんすごくつらい気持ちが少なくなっていったこと。
自分と森君と桃子の事に決着をつける手助けをしてくれたこと。
今、こうして一緒にいてくれること。
心配してくれていること。
江藤君はコワモテだけどなかなか優しい人なのだ。
そしてそんな江藤君のことをいつの間にか…。
秋好さんはあらためて江藤君を見て、名前をちゃんと覚えられなかったことを反省した。
「あのね、ずっと言おうと思ってたんだけど…毎朝、迎えに来てくれて、ありがとう。」
たくさん言わなくちゃいけない事があるんだけど、うまく言葉にならない。
「えっと…」
江藤君はまだ赤い顔のまま隣に座って正面を見ていて、えっと…の続きを待っている。
その肩や横顔はとても男の人らしく見えて、さっきのキスが急に気恥ずかしくなったのでつい、
「えっと……後藤君」
ベンチから盛大にずり落ちた江藤君に手を差し伸べて、秋好さんは満面の笑みで続けた。
「ありがとう、これからも、よろしく。…江藤君」
江藤君はにっこり、秋好さんもにっこり。
お月様もにっこり…
おしまい
- 18 :
- 自分がニヤニヤしたいがために書きました。
ご清読ありがとうございました。
- 19 :
- GJ!!!!!
江藤くんwww あれからまだ覚えて貰ってなかった悲哀がイイwwww
- 20 :
- うああwwwにらにらにらしたww
GJ!ありがとう!
- 21 :
- GJ!!
川原作品はどれもほんわかするよ
- 22 :
- 江藤おおお!
自分が一番好きな作品が……!
うれしかった GJ!!
- 23 :
- あの子の背中に羽がある より
保科さんちの聡真くん、このごろ少し変ね、どうしたのかな。
そんな替え歌を呟いた。
高校二年生になった遥は机に頬杖をついて、シャーペンをころりと転がした。
高校生になってから、ツインテールをやめて髪を下ろすようにしている。
ちょっとでも大人っぽく見せたいという乙女心である。
以前、聡真くんにお買い物に付き合ってもらったとき、ショーウィンドーに映った自分が
子供っぽくて、何だか聡真くんと釣り合ってない気がしたのだ。
お隣に住む聡真くんは、遥がここに引っ越してきたとき高校三年生で、
今はもう大学を卒業して、社会人になっている。
朝早く出勤して、夜遅く帰ってくる。
この頃はお休みの日だって、めったに会えない。
(聡真くんが学生のときは、いっぱい会えたのにな)
たまーに庭で顔をあわせても、嬉しくてたくさん話しかける遥に対し聡真くんは生返事ばかりで、
あんまり目も合わせずにすぐ家に入ってしまう。
(嫌われちゃったのかなぁ・・・)
でもそんな心当たりはちっともない。
小学6年生のとき、不審者に誘拐されそうになった遥を、聡真くんはそれは見事な一本背負いで
犯人を投げ飛ばして助けてくれた。
あの時からずっと聡真くんは遥のヒーローで、初恋の人。
「聡真くん・・・」
あの時は呼んだら、来てくれた。
でも今は、なんだかすごく遠いところにいる気がする。
(お隣なのにな)
遥は窓を開けて、隣の家を見た。
聡真くんの部屋は明かりがついていない。まだ帰ってないらしい。
遥はしばらく考えて、窓を閉め、それからそーっと家を抜け出した。
保科聡真はくたくただった。
社会人生活には順調に慣れたものの、毎日毎日残業だったりたまに飲み会だったり。
同僚にコンパなぞにも誘われる。
飲み会はともかくコンパは殆ど断っているが、彼女もいないのにコンパに行かないなんて
変だ、と同僚に言われ、変だと思われるのを恐れるあまり参加してしまった。
しかし楽しくない。
若く可愛いお嬢さん方が着飾ってウフフアハハと笑っているのに聡真くんは何にも感じない。
それどころかお隣のうちのお嬢さんを思い出してぼんやりする始末だ。
急用を思い出したと言い訳して、帰途に着いた。
家の前までくるとふと立ち止まり、隣の家を見上げた。
毎日それが日課になっている。
遥の部屋は暗い。
本当は会いたいが、この頃聡真くんは自信がない。
成長するにつれ遥はどんどん可愛くなっていく。
そういう可愛い女の子が、信頼とおそらく多分好意をもって自分を見ている。
好意は『親切で頼もしい隣の家のお兄ちゃん』程度だと思うが。
だけど『お隣んちの女の子』に対していつまでも『お兄ちゃん』でいられるか
自信がないのだ。
話しかけられても眩しくて、まともに目もあわせられない。
あの子の背中に羽がある。
聡真君だけに見える不思議な羽は一目ぼれの象徴で、まだ健在である。
それが見えるということは彼女は彼にとって特別なのである。
初めて会ったときからずっと。
「遥・・・」
小さな声で名前を呼ぶ。
- 24 :
- 「聡真くん!おかえり!」
ひょこっと門のかげから遥が飛び出す。
「うわっ!!」
思わず2、3歩後ずさる。
(びびびびっくりした・・・!)
「な・・・何してるんだ、こんな時間に」
「エヘヘ、びっくりした?」
さらっと肩口で髪の毛が揺れる。夜風に乗ってほんのりシャンプーだかリンスだかの香りがする。
重ね着のヒラヒラしたチュニックとその丈と同じくらいのショートパンツからすらりとした生足が覗いている。
聡真くんは動揺した。
「う、こんな夜中に危ないだろ・・・どうかしたのか?」
遥はちょっと憂い顔で聡真君を見る。
「うん・・・この頃聡真くんになかなか逢えないから、逢いに来たんだ」
「・・・」
かーわーいーいー
ちょっとぼーっとして二の句が継げなかった聡真くんを遥が上目遣いに覗き込む。
「聡真くん?元気ない?」
今すぐ抱き締めてキスしてむにゃむにゃむにゃ・・・したい衝動をぐっと耐える。
柔道で培った忍耐力だ。
今だって休みの日には朝から晩まで道場に通っている。煩悩を追い出すためだ。
「仕事とか忙しくてな、その、ちょっと疲れてるけど、元気だよ」
「ほんと?・・・じゃあ、じゃあさ」
遥の目が一瞬下を向いて、それからまたまっすぐに彼を見た。
「私、聡真くんに嫌われてない?」
どきゅーーん
と音がしたような気がした。
しかし聡真くんの理性はまだ耐えていた。
「そ・・・そんなわけないだろ、何言ってるんだ」
遥の顔がぱっと輝き、彼の手を取った。
「よかった!」
心底嬉しそうな笑顔に心を鷲掴みにされ、そのとき聡真くんの理性がぽーんとどこかへ飛んでいってしまった。
「遥」
手を引き寄せ、抱いた。
柔らかくて小さな体から香る甘い匂いを吸い込めば眩暈がするほど、全身の血が逆流する。
「えっ?そうま・・・くん」
その小さな桜色の唇に自分の唇を重ねる。
柔らかく、しっとりと温かい感触に触れた途端に、たまらなくなって何も言えずきつく抱き締める。
驚いた遥は、でも抵抗しないで彼の胸に抱かれていた。
(キス・・・聡真くんと・・・うわあ!)
ほっぺたがかーっと熱くなる。
ちょっと苦しかったけど、その腕の中はとても気持ちよかった。
(聡真くん、大人のにおいがする・・・それに・・・大きくて、あったかい・・・)
遥は胸を高鳴らせ、うっとりと目を閉じた。
- 25 :
- 切なそうな溜息が頭上から聞こえて、腕が緩んだ。
「ごめん」
聡真くんはとても後悔していた。
俺の理性はクッキー程度か。これほどまでに脆いとは。
(こんなことをして、俺はロリコンで変態で気持ち悪くて刑で・・・)
ずっと昔に、母たちの変態に対する見解を聞いたときの気持ちが蘇った。
もう、『お兄ちゃん』でいられない。
遥に嫌われてしまう。
一時の衝動で今までのことを全部ぶち壊してしまったような気がした。
でも、この腕の中の女の子をどうしても離したくない。
緩めた腕の中で遥が見上げる。
罵られるのだろうか、泣かれるのだろうか・・・嫌われる事には変わりない。
「・・・遥、ごめんな・・・俺は」
遥は一瞬、聡真くんが泣きそうな顔に見えて胸がぎゅっとなった。
「どうして謝るの?」
聡真くんの広い背中に手を廻して強く抱き締め、胸に額を押し付けた。
「私、聡真くんが好き。ほんとだよ。だから、とっても嬉しい!」
「はる・・・」
「聡真くんもおんなじだよね?」
少し潤んだ瞳がまっすぐに彼を見上げた。
心の中にすとん、と入ってくる。
今まで生きてきた中で一番素直に、心を打ち明けた。
「・・・うん・・・好きだ・・・大好きだ、遥」
あの子の背中に羽がある。
その羽ごともう一度抱き締めて、キスをした。
おしまい
- 26 :
- 自分がニヤニヤしたいがためn(ry
GJ頂いて調子に乗りました。えろくないのにごめんなさい。
ご清読ありがとうございました。
- 27 :
- ニヤニヤしてしまったじゃないかGJ!
甘酸っぱい話に転げ回るってのもいいもんなんだぜ。
- 28 :
- 真面目な人には裏があるより
塔宮拓斗と日夏晶はクラスメイトだった。
拓斗の兄がゲイで晶の兄と結婚(?)してしまったことによる不思議ななりゆきで今は彼氏彼女の『ふり』をしている。
彼の両親は兄の嗜好が弟にも伝染するのではないかと疑っていて、その疑いを払拭するためにたっくんはタラシになったのだが、
遊びまわるのに疲れたのか、今は晶と付き合っていることにして真面目な小市民生活を取り戻している。
晶は『ふり』ならいいか、と貸しを作ったつもりでいたが、拓斗と歩いていると見知らぬ女子から足を踏まれたり罵倒されたりする。
一度や二度ではない。
その度に拓斗は晶に謝るが、やっぱり理不尽な怒りがこみ上げる。
「自分の尻は自分で拭けよ」
「そういうなよ、悪かったって」
「いい迷惑だまったく・・・」
「今日家に来いよ、母さんがケーキ用意してるってさ」
拓斗の両親は晶をとても気に入っている。
晶のおかげで弟が改心して真面目に戻り、断絶していた兄との関係修復にも一役買ったことになっている。
一抹の罪悪感が胸をよぎった。
「・・・わかった」
「お邪魔します」
礼儀正しく挨拶して家に上がったが、拓斗の母は不在であった。
「急用で出かけたって」
拓斗はメモをひらひらさせながら、ネクタイを緩める。
「ま、座れよ、紅茶ぐらい淹れてやる。ケーキはあるから心配するな」
「・・・うん」
家に二人きりというのはちょっとまずいかな、と思ったけれど、ケーキに釣られて居間のソファに座った。
しばらくしてトレイにカップとケーキを乗せて拓斗がやってくる。
「チョコとフルーツタルトどっちがいい?」
「フルーツタルト」
紅茶を淹れるしぐさもなかなかに決まっている。
ナンパ成功率92%だけあって、見た目はかっこいい。
拓斗を見るとなぜか胸がざわめき落ち着かない。
手や肩が触れ合うとドキドキする。
この頃晶は自分が何か別のものに変化していくような、そんな気持ちをもてあましていた。
この気持ちが何なのか自己分析しなくても分かる。
だけど自分の気持ちの変化を認めたくなかった。
(タラシのたっくんめ)
晶は心の中で毒づいた。
「どーぞ」
「どーも」
しばらくケーキと紅茶に専念する二人。間が持たないなと思いながらケーキを間食してしまった。
紅茶を啜りながら隣に座った拓斗をちらりと見る。
目が合い、慌ててそらした。
「何?」
- 29 :
- 「おばさんいつ帰ってくるの?」
正面を向いてつぶやく。
拓斗はニヤリと笑って晶の三つ編みを引っ張り、よろけて肩をぶつけた晶の手からカップを取り上げテーブルに戻すと
腕の中に抱いた。そして素早くキスをする。
初めてのキスに一瞬、反応が遅れた。
「何をする!」
晶は赤くなって抵抗する。
「帰ってこないよ、急用で実家に泊まり」
ニヤニヤと笑いながら晶の三つ編みを解く。ゆるく波打つ髪が肩に広がり拓斗は隠れてしまった耳朶に口を寄せる。
「ちなみに親父も今日は出張」
耳に息を吹きかけるように囁かれ、晶はくすぐったさに首をすくめた。
「やめてってば!急に何を・・・!」
無理やり腕を解いてソファの端に逃げる。拓斗は髪留めのゴムを指でもてあそびながら、真面目な顔で晶を眺める。
「髪下ろしたほうがいいよ。可愛い」
「ば・・・!馬鹿!もう帰る!」
立ち上がる晶の手を拓斗は素早く掴み、脚の間に座らせるような形でもう一度腕の中へ抱き締めた。
「なあ日夏・・・もう『ふり』はやめようよ」
「ああ!もーやめる!別の子探せば!」
拓斗はちょっと傷ついた顔をして暴れる晶を抱き締める。
「そじゃなくて・・・ほんとに付き合おうってこと」
晶の抵抗がはたと止まった。
「はぁ〜?」
「・・・俺、日夏に本気なんだけど」
抵抗がないのをいいことに拓斗は後ろからぐっと抱きしめる。
耳の後ろに吐息があたり、ぞくりとして硬直した。
「・・・タラシの本気なんて信じらんねーよ・・・」
動悸がひどい、布越しに伝わってしまうのが嫌で晶は密着しないように腕で隙間を空けるのに必だ。
俯いて顔の赤さを隠した。
「じゃあ、信じさせてやる」
拓斗は晶を抱き上げ、自室へ向かった。
「わ!何、やめて、下ろして!」
見上げた拓斗の顔は怒っているようだった。
口を一文字に結んで晶を見もせずに階段を上り、ドアを器用に開けて閉めるとベッドの上にやや乱暴に下ろした。
「いて・・・!」
乱れたスカートが捲れ、白い太ももが覗く。
- 30 :
- 拓斗はすごい勢いで晶の制服を脱がしにかかる。
「ちょっと!やめて!やめて!嫌だ!」
晶は必で抵抗したが、片手で両腕を掴み脚の上に跨った拓斗は、タラシのたっくん本領発揮で、瞬く間に上着、
スカート、ネクタイ、ブラウスを剥ぎ取った。
実に器用な手際だったが、キャミソールのストラップに手が掛かったとき、晶はついに泣いてしまった。
「・・・嫌だ・・・」
掴まれた手が痛い。
涙がぼろぼろと目尻からこめかみに流れた。
嫌だ、こんなの、キャラ違うし。
掴んだ手が緩むと掌で目を覆って涙を隠した。
「泣いてもやめないぞ」
拓斗は手をどけて晶の目を見た。
真摯な眼差しが晶を射すくめ、身体がこわばって動けない。
「俺は日夏が好きなんだ・・・お前だってそうだろ?」
「ちが・・・!」
反論しようとした口を、唇が塞いだ。
舌が晶の口を犯す。犯すという文字がぴったりな、長く猥褻なキスだった。
やっと開放されたとき、唾液が糸を引くのが見え、下腹部がぞくりとざわめいた。
「は・・・」
熱い息を吐き出し、酸素を求めて喘いでいる間に、拓斗はさっきとは違う優しい手つきで残りの衣服を脱がせ、自分も脱いだ。
なぜか抵抗もせず、目を閉じて胸を隠した。手の下で心臓がはっきりとその場所を示している。
認めたくない、この胸の高鳴りを。
だけど私は確かに恋をしている。
晶は観念して、目を開けた。
男の身体がそこにある。引き締まった細身の身体の下のほうは視界に入れないようにして、言った。
「・・・認める。だから、せめて優しくしてくれよ」
精一杯強がったつもりだったが声が震えた。
この後どうなってしまうのか、怖かった。BL小説で知った知識ではあまり役に立たないような気がする。
- 31 :
- 「日夏」
拓斗の唇がまた降りてくる。
優しく唇を挟んで、合わせるだけのキス。
掌が晶の輪郭をなぞるように手を這わせ、小ぶりな乳房を柔らかく掴んだ。
「あっ・・・」
揉みながら手を滑らせ、その頂を指で挟む。
刺激を受けて固く尖っていくその場所を濡れた舌が包んだ。
転がすように舐めながら、もう片方の手が脇腹を撫でる。
肌が粟立つような感覚が全身を奔る。
「ん・・・あっ・・・」
(うわ、変な声がでる・・・)
あわてて口を手で塞いだ。
「くっ・・・んっ・・・ぅぅ・・・」
きゅっと強く乳首を吸われ、電流が走ったように晶は仰け反った。
「ぅあっ!やあっっ・・・!」
「声、聞かせて、可愛いよ・・・」
続けて乳首、その周りにきつく吸い付き、赤い花びらのように跡を残した。
その度にあられもない声をあげ、晶はびくびくと跳ねた。
やがて唇が臍の下へと降りていく。
晶は朦朧としながら膝を閉じ、身を捩る。
「あ・・・?だ、め・・・」
しかし拓斗はかまわず、薄い茂みに隠された花芽を舌先で突付く。
「ひ・・・!やあぁっ!!」
膝を割り、脚の間に顔を埋めると周りからゆっくりと舌でなぞっていった。
「だめ・・・だめ・・・!ああっ!」
濃いピンク色の襞を舐める。その奥からとろりとした液体がこぼれてくるのを啜りあげた。
なまめかしい水音に耳を塞ぎたくなる。
「すごい・・・溢れてくる」
「や・・・あぁっ!んんっ!!」
体験したことのない感覚に、意識が白く霞んでいく。
(なに・・・これ・・・?)
震えて跳ねる腰を押さえつけられ、どろどろと自分が溶けていくような錯覚に襲われた。
(きもち・・・いい・・・!)
「あぁぁっ・・・!!」
快感がびりびりと脳天をつきぬけ、すべてが遠くなる。
一瞬だったのか、長い時間だったのか、薄く目を開くと、拓斗の顔が目の前にあった。
「あ・・・」
脚の間に固くて熱い塊が押し当てられている。
「いいか」
「・・・うん」
身体を割るように塊がぐいぐいと押し入ってくる。
晶は痛みに身構え、固く目を閉じた。
「つかまってろ」
晶は素直に腕を拓斗の首に廻し、どちらともなく唇を合わせる。
押して、引きながら少しずつ先端が埋まっていく。
「は・・・」
息を吐いた瞬間に、一気に奥まで貫かれた。
「う・・・!っつっ!!はあぁっ!」
異物に押し開かれる痛みに晶は泣いた。
「痛い・・・痛いよ・・・塔宮くん・・・」
「日夏・・・」
拓斗はじっと動かず、晶が慣れるのを待った。
その間、何度もキスをする。晶はされるがまま、でもだんだんうっとりとした心地になって溜息をついた。
- 32 :
- 合わせた肌が温かい。指を滑らせ首筋と背中に触れてみた。
「・・・動くよ」
「う・・・!あ・・・」
激しい動きに振り落とされそうで、首に廻した手に力を込めてしがみつく。
拓斗は浮いた背中を抱き締め腰を深く挿した。
「ひぁっ!!」
(お腹が・・・破れる・・・!)
挿されるたび、痛みとは違う甘い痺れが下腹部から背筋へと伝わっていく。
拓斗は身体を起こし、晶を膝の上に乗せるように下から貫きながら乳房に吸い付くと、はしたない音を立てて舐めあげた。
「あぁあ!あん・・・っぁああ!」
「う・・・すげ・・・きつい・・・!!」
拓斗は苦しげに眉根を寄せ動きを早め、再び晶を横たえるとそのまま腰を引き寄せ、熱い肌を打ち付ける。
溶け出した蜜が繋がりからこぼれ、シーツに染みを作っていく。
晶は自分を貫く熱い塊が膨張していき、そこから波のようなうねりが押し寄せるのを感じ、拓斗にしがみつく。
「はぁっ・・・!ああぁ〜〜〜っ!」
「く・・・!日夏っ!!」
拓斗は2、3度がくがくと腰を揺さぶると深く挿し、荒ぶる熱を開放した。
身体の中の一番奥でその熱を感じながら、晶は覆いかぶさる男の重さを知った。
「・・・晶って呼んでいい?」
「・・・好きにすれば」
先に衣服を整えた晶はそっぽを向いて言った。
動くたびに身体の奥が痛くて、甘い。
(私は変わってしまったのかな)
まだ仄かに残る身体の熱が頬を赤くした。
拓斗はジーンズに、だらしなくシャツを羽織ってベッドに腰掛け、晶の手を引いて膝の上に座らせた。
「ちょっと・・・!」
「晶」
まだ赤い頬に唇をつけ、せっかく結った三つ編みをまた解く。
「やめてよ、もう!」
「こっちのほうがいいって、絶対」
「知るか!・・・あ」
「ん?」
「そういえば・・・!避妊は・・・」
晶は顔面蒼白になって拓斗を睨む。
「心配しなくても大丈夫、ちゃんとしたから」
避妊具の空袋をひらひらさせて、ゴミ箱に投げ捨てた。
空気が抜けるように脱力して、胸に倒れこむ。
拓斗はにっこり笑って晶を優しく受け止めた。
(タラシめ・・・)
腕の中は思ったよりずっと温かくて気持ちがいいので、まあいいか、と晶は目を閉じた。
おしまい
- 33 :
- 自分がn(ry
スレタイにふさわしいでしょうか?お粗末で申し訳ない。
「〜がある」シリーズの続きはいつでるのかなぁ
掲載時に見逃してしまったので単行本を待ってるんですが・・・。
- 34 :
- GJ!
なんつーか文体が川原作品に合ってるなー。
自分は本誌読んでないんで単行本になってない作品は知らないんだが、まだ単行本化されてないのもあるんだな。
人生の先の楽しみが増えたぜw
- 35 :
- GJ〜!エロい。エロいですよw
ぜひ、もっと他のお話でもご披露お願いします
- 36 :
- こんなところに天才が居た!gjgjgj!
- 37 :
- 規制が・・・
- 38 :
- 規制解除きた。投下します。
中国の壷より
とある夜、志姫は義理の兄の不審な様子を飛竜に相談していた。
「なー、最近変なんだよ、巧兄ちゃん」
壷から出てきた古代中国人は眠そうにあくびをする。
「また女装でも始めたのか?」
まったく興味のなさそうな相槌にちょっと腹を立てて志姫は言った。
「そじゃなくてだな・・・」
義理の兄、仁科巧はこの頃志姫を避けている。
同じ家に住んでいるのだから避けようもないのだが、以前は勉強をみたり
庭仕事を手伝ってくれたり、出張に行けば土産を買ってきてくれたりしたのに
この頃は、仕事仕事で休みの日まで仕事に行っている。
まるで家に居るのを避けるように。
たまに家で顔をあわせると、こわばった顔で白々しい挨拶なんかをして、すぐに部屋に篭ってしまうのだ。
さっきだって部屋をたずねても、仕事がとか疲れてるとか言ってすぐにドアが閉じられる。
そのくせ父や母とは普通に喋っているのだ。
「ふ〜ん・・・」
「な、変だろ?」
飛竜はあくびをかみして志姫の話を聞いていたが、一つ大きな伸びをして、志姫の頭をぽんぽんと叩いた。
「まあ巧は大人なんだから色々あるさ。お前のようなお気楽人間とは違うのだから」
「あんだと?」
「・・・でも、ま、気になるというのなら様子を見てこよう」
飛竜が壁をすいっとすり抜けていった後、志姫はしばらく考えた。
(人任せじゃなくて、やっぱり自分で聞いたほうがいいかな)
志姫は立ち上がって部屋を出た。
巧は部屋に閉じこもってぼーっとしていた。
ベッドに転がり天井の一点をぼんやり見ている。
突然天井からにゅっと人が出てくる。
「!うわあぁ!!」
「よう、巧」
巧は驚いて後ずさり、ベッドボードに頭をぶつけた。
「飛竜!そんなところから出てこないでくれ!心臓に悪い・・・」
「ははは、気にするな。たまには意外性も必要だろう?」
飛竜はニヤリと笑ってベッドに着地する。
体勢を立て直した巧は飛竜の隣に座って溜息をついた。
「どうしたんだ、急に。また壷に何かあったのか?」
飛竜は巧の顔を黙って見つめた。
「・・・な、何?」
「・・・志姫が」
巧の表情が曇る。思わず飛竜の両肩を掴んで揺さぶる。
「・・・志姫がどうかしたのか!?」
飛竜はまたニヤリと笑う。
「必だな」
「あ、いや・・・」
ぱっと手を離し視線を外す。
「志姫が、気にしていたぞ。お前の様子がおかしいとな」
「・・・」
「嫌われたんじゃないかと心を痛めていたぞ」
そんなことは言っていない。だが反応が面白いので適当なことをでっち上げた。
はっと飛竜を見る。
そして長々と嘆息した。
「・・・そうじゃないんだ・・・そうじゃなくて・・・」
額に手をあてて俯く巧の背中に飛竜はのしかかって言った。
「何か悩みでもあるのなら、同じ男同士、相談にのってやらんこともないぞ?」
巧はちらりと飛竜を見る。
ニヤニヤした表情に、あれは絶対面白がっている顔だと思ったが巧は観念して話し始めた。
- 39 :
- 「・・・実は一人暮らしを始めようかと思っていて」
「ほほう」
「志姫には悪いけどこの家で一緒に暮らすのはもう・・・耐えられない」
がちゃん
「え?」
いつの間にかドアが開いていて、そこに呆然と志姫が立ちすくんでいた。
足元にトレイと缶ビールとまっぷたつに割れたグラスが転がっている。
志姫はがっくりと肩を落としうなだれている。
「志姫!違うんだ!」
「・・・巧兄ちゃん、疲れてるからビールでもと思って・・・ごめんよ」
志姫はしゃがんで割れたグラスを素早くトレイに乗せ、静かにドアを閉めた。
「志姫・・・」
巧は呆然と閉まるドアを眺めた。
飛竜はいつの間にか消え、部屋には巧一人が残された。
志姫はベッドに突っ伏して微動だにしない。
泣いているのかと思ったがそうではなかった。
(巧兄ちゃんは私のことが嫌いだったのか)
心の中をざっくり斬られたような痛みが走った。
変な壷と共にこの家にやってきたのがいけなかったのか。
壷が壊れたとき色々迷惑かけちゃったからなのか。
(でもあの時、同じバイオリズムの巧兄ちゃんがいて本当に助かったんだ。
だけど、巧兄ちゃんは迷惑だったのか・・・)
「おい志姫」
「・・・」
飛竜は志姫の髪の毛を引っ張る。
「巧の話は途中だったぞ。話は最後まで聞くべきじゃないのか」
「・・・」
扉をノックする音が聞こえる。
「巧だぞ」
志姫は布団をかぶって潜り込んでしまった。
やれやれ、という顔で飛竜がドアを開けた。
青い顔の巧が立ち尽くしていた。
「志姫・・・」
飛竜は巧の背中を押すとベッドの脇まで連れてきた。
「さあ二人で話し合え」
ちらりと巧を見る。
「そうだな、俺は疲れたので今晩はもう壷で休むことにする。起こすなよ」
たちまち、飛竜は壷へ帰っていってしまった。
部屋には巧と志姫だけが残された。
「あの、さっきのことだけど・・・」
「・・・」
人の形に膨らんだ布団がもぞりと動いた。
巧は深呼吸して言った
「嫌いなわけじゃないんだ」
がばと志姫が布団をめくる。
「・・・え?」
赤い顔の巧をまじまじと見つめる。
「一緒にいると・・・色々我慢できなくなりそうで、辛くて家を出ようかと、思ったんだ」
「巧兄ちゃん・・・」
嫌われたわけではなくて志姫はホッとした。
「じゃあ、家出なんてしないんだね?」
「・・・お母さんに申し訳ない」
志姫はうーんと考えた。
お母さん??家を出たら母さんが気を悪くするってことか?
私は巧兄ちゃんはここにいて欲しい。でも我慢できなくなりそうだという。何がだろう?
「俺は、君のことが・・・好きなんだ、だから・・・」
- 40 :
- 巧の告白はタイミングが悪く、考え込んでいる志姫の耳には入らなかった。
「あ、そーか」
志姫は起き上がって巧の肩に手を置いた。
「我慢しなけりゃいいんだよ、そしたら兄ちゃんも出て行かなくてすむ。万事解決だ」
「し、志姫・・・」
ごくりと巧が喉を鳴らした。
「本当にいいのか・・・?」
ニカと笑って志姫は聞いた。
「で、巧兄ちゃんは何を我慢してる・・・」
言い終わる前に巧の唇で塞がれた。
(???)
口の中に舌が入り込んで、舌を絡め取られる。
(な、何するだ!?)
志姫は再び布団に押し倒される。
そのままもごもごと口の中をまさぐられる長いキスの途中で我に帰り、巧の身体を押し戻そうとしたが、重くて固くて動かない。
やっと唇が離れ、巧は志姫の耳元に顔を埋め囁いた。
「好きだ・・・志姫」
やめろ、とか待て、とか言うつもりだったが、息を整えるのがせいいいっぱいで、その切なげな熱い声に胸の奥が締め付けられた。
(ほ・・・ほんとかよ!?)
好きだ、という言葉は面映くもあるが、展開が急すぎて思考が追いつかない。
(で、何でこーなる?どうしよう・・・ひ、飛竜!)
真剣な巧の眼差しにどぎまぎと視線をそらし、飛竜に助けを求めるが志姫の位置からは壷は見えない。
それにこんなところを見られるのもちょっとどうだろう、と思っているうちに耳元から首筋に熱い唇が降りていく。
「うわっ!」
肩を掴んで力を込めたが、その腕ごとベッドに押し付けられ、鎖骨を吸われた。
「にーちゃん、待って・・・っんっ・・・!」
今まで体験したことのない感覚が背筋を上った。
性急で情熱的な愛撫に志姫は翻弄され、抵抗の力を失くしていく。
上着が捲り上げられ、白い胸元があらわになりそこにまた唇が降りていく。
控えめなまだ固い胸を覆うブラジャーを乱暴に外すと、その先端にぬるりとした感触が生き物のように這い、
くすぐったさに身を捩るとそこをきゅっと吸い上げられた。
「あ!うっ!!」
びくびくと身体が震え、痛みのような違うもののような刺激がそこから流れてくる。
唇と舌と手のひらで、志姫の乳房を存分に味わいながら巧の手は下半身へ伸びていった。
ジャージに手をかけ、一気にずらして引き抜く。
「え、まて!あっ」
白いショーツの上から指でその形を確かめる。
割れ目に沿って優しく撫でると志姫の口から小さく悲鳴が漏れた。
ショーツの脇から無骨な指が差し込まれ、柔らかな薄い茂みの奥の小さな突起に触れる。
「ひゃ・・・あぁっ」
びりびりと電流のような快感に思わず固く脚を閉じ、恥ずかしさに身体を折って背を向けた。
巧は後ろから抱きかかえるように手を廻し再び下着の中へ手を入れ、クリトリスとその向こうへ指を滑らせると、
そこは少しずつ潤んで指を受け入れ、包むように柔らかい。
跳ねる身体を押さえて胸を揉みながら、柔らかなそこを優しくさすっていくと、志姫の口から喘ぎ声が漏れた。
「ぁあ・・・は、ぅん・・・」
後ろから唇で耳朶を軽く挟み、囁く。
「志姫・・・気持ちいい?」
「あ・・・たく・・・兄ちゃ・・・もぅ・・や・・・」
目尻に涙を光らせ、汗と混ざってこめかみに吸い込まれていく。
巧は愛しさと凶暴な欲望に苛まれ、二本の指でクリトリスを挟み力を入れると志姫はのけぞって痙攣した。
「あっーー!!」
荒い息をつきがくりと力の抜けた身体を受け止め、それから巧は起き上がって服を脱いだ。
- 41 :
- 志姫の湿った下着を剥ぎ取ると脚の間に固く張った陰茎を擦りつけゆっくりと愛液をまぶす。
「う・・・あ・・・?」
(何・・・?熱い・・・)
先端を中心に押し当てた。
「・・・愛してる、志姫」
「ぁ・・・あ!」
身体を割って入ってくるその大きさに、痛みに志姫は悲鳴を上げそうになった。
「い・・・いたい・・・!あぁっ」
その口を再び巧が塞いだ。
「んーっ!んーっ!!」
狭まる壁を押しのけて一気に根元まで埋めると、巧は唇を離した。
「志姫・・・」
「ぅ・・・うう・・・」
ゆっくりと巧の腰が動き始める。
合わせた肌はだんだんと汗ばんで、摩擦抵抗が増している。
志姫は固く握ったシーツを離し、巧の背中に手を廻してぎゅっとしがみ付いた。
巧は志姫の肩口に額を当て腰の角度を変えながら奥まで突く。
「あっ・・・はぁっ・・・んうっ」
息遣いと水音が部屋に響く。
切なげに眉をよせた巧の顔から汗がぽたりと志姫の頬に落ちた。うっすら目を開け、目と目が合う。
少しだけ泣きそうなその顔に、志姫は胸の奥がまた締め付けられた。
(巧兄ちゃんは・・・そんなに私のことを)
痛みの中からほんの少しだけ快感が上ってくるのを志姫は感じた。
(知らなかった)
最初は小さな波のようなその気持ちがだんだん広がり、繋がったところから痛みと異物感とぞくぞくするような快感が駆け巡る。
自分から巧の唇を求め、巧がそれに応えた。心ごと熱くおし包むような口づけが切なく、身体が震える。
(愛してるとか分からないけど、こういうの・・・)
深く挿されるたびに嬌声がこぼれ、全身で巧にしがみ付いた。
(・・・いやじゃないよ、にーちゃん)
「あっ・・・あっ・・・あああっ!!」
「・・・くっ!」
だんだん動きが早くなり、やがてひときわ大きな波が押し寄せると同時に巧は腰を引き、志姫の白いお腹の上に精を放った。
(熱い・・・!)
ぐったりと身体を投げ出した志姫のお腹をティッシュで拭って始末すると、巧はぎゅっと志姫を抱き締めた。
喜びと後悔と罪悪感とない交ぜになった表情で巧が呟く。
「志姫・・・ごめん」
「謝るなら最初からやらなきゃ・・・うんにゃ」
(そーじゃなくて・・・)
志姫は背中に手を廻し抱き返すと、緩くぽんぽんと叩いて呟いた。
「好きだよ、巧兄ちゃん」
「えっ?」
「だからいーんだよ・・・」
触れ合った肌は温かくて居心地が良くて、志姫はそのままとろりとした眠気に身をゆだねた。
「おい巧」
つられてうとうとしていた巧は冷や水をかけられたように覚醒した。
恐る恐る振り向くと意地の悪い笑顔の飛竜が立っている。
「ひ・・・飛竜」
「まじめな男が思いつめると危ないねぇ・・・淫行だぞ?」
「み、見てたのか!」
青くなったり赤くなったり忙しい顔色を眺め、不遜な中国人はニヤリと笑う。
「まあ私にはこいつを見守るという役目があるからな・・・次からは見ないでおいてやる、何と言ったかな、武士の情けだ」
狼狽する巧を尻目に飛竜は壷の中に入っていった。
「手を出したからにはちゃーんと責任とれよ」
捨て台詞のような、だが笑いの滲んだ飛竜の言葉に、巧は腕の中で眠る志姫の頭をそっと撫でる。
「勿論、そのつもりだよ・・・」
おしまい
- 42 :
- 読んでくださって有難うございます。
私一人が書いててごめんなさい。
GJ頂いて嬉ションしそうな勢いです。
- 43 :
- GJ!
ちょうど中国の壺 読み返してたとこだったよ。
- 44 :
- hosyu
- 45 :
- 架空の森 より
かつての少年は大人になって私の前に現れた。
背も随分伸びて見知らぬ男のようだが、私に笑いかけるその顔に少年の面影が残っている。
怪獣の着ぐるみを着た私を呵呵と笑い飛ばした元少年を、清々しく思った。
男はこれくらい度量が広くあったほうがいい。
森へと行く道は昔と変わらぬ景色を残している。織人は私の後を少し遅れてついて来る。
寡黙であった。
もう昔のようにのべつまくなしには喋らない。大人になったのだなと私は感慨深く思った。
祖父母に会いたいというので、父と母、そして祖父母の眠る墓前に連れて行く。
「・・・そうですか、お二人とも・・・」
「ばーさまが亡くなって、その後じーさまも・・・最後まで仲の良い夫婦だったよ」
織人と並んで手を合わせる。
(じーさま、ばーさま、少年がこんなに立派に大きくなりましたよ)
神妙に手を合わせる織人を見て、もう少し長生きしてほしかった、と詮無きことを考えた。
森には白い花が咲いている。
空木(ウツギ)、卯の花だと祖母が教えてくれた。
散るその花を着ぐるみの手のひらに載せしばらく、もう会えぬ人達を偲ぶ。
「苑生さん」
頭上から呼ばれ、私は振り向いた。
被り物を捲られ、頬に手が添えられる。乾いていて温かい。
「…何だ?」
「泣いているのかと…」
織人は寂しげに微笑し私の頬を撫でた。
あまり気安く人に触れるものではない、と思ったがその仕草はあまりにも自然で、拒否する理由も暇もなかった。
「泣いてなどいない…」
私は頭を引いて手から離れ、また花を見た。風が木を揺らし花を散らす。
幼い少年が去った後も、祖父母が逝ってしまった後も、森は変わらず、花は咲いては散り、季節を繰り返す。
この花が散る度に、私はいつも取り残されたような気持ちになる。
どこにも行けず、どこにも行かず。
「…苑生さん」
「何だ」
「私と結婚してください」
風がびょうと吹き、花が幾つも巻き上げ飛ばされた。
私は驚いて答えに詰まる。
「何を…藪から棒に」
大きな手のひらが着ぐるみ越しに私の手を包んだ。
「私は最初から決めてましたよ、苑生さんをお嫁さんにすると」
織人は着ぐるみを着たこんな姿にも動じず、全く真面目に私を見つめている。端から見れば滑稽な、まるで架空の風景だろう。
「お前は…」
お喋りで頓狂な顔をした少年はいつの間にか凛々しく立派な大人になった。眩しいほどに。
「…私には勿体無い、もっと若くて美人の嫁を探せ」
「いいえ、私は苑生さんが良いんです」
織人は私の髪を撫でる。
「苑生さんは私のことが嫌いですか?」
「嫌ってなどいない」
「では、結婚しましょう」
織人はにっこりと笑い、私には断る理由が無くなった。
そして墓前に再び報告をした。
- 46 :
- 久々に一人ではない食事を取り、湯を遣った後、仄暗い部屋で布団の上に向かい合って座った。
織人に着せた祖父の浴衣は丈が足らず少し窮屈そうだった。
「苑生さん…」
織人の手は熱く私を抱いた。
生まれてこの方こんなにきつく、異性に抱かれた覚えはない。
これから起こること全て未知の世界だ。少し、怖い。
やがて熱い手が私の顎を捉えた。口づけをする…のであろう。
色事に疎い私にもそのあたりまではわかる。
織人は微苦笑を浮かべ私の額に口づけた。
「…こういうときは、目を閉じて下さい」
言われるまま目を閉じると、柔らかく唇が触れた。
唇を挟み、なぞるように包む。短くない間そうしてかたちを確かめ、それから舌が唇を割った。
差し込まれた舌は私の舌に絡み唾液が混ざり合い、それは甘く感じた。
私はどうしていいのか判らず、為されるがままであった。
ただ先程から背筋を上下する手のひらの動きが、ぞわぞわと私の内側を震わせた。
布団の上に横たわり、浴衣の合わせに手が差し込まれる。素肌に触れられ私は思わず身を硬くした。
「大丈夫ですよ…」
織人は耳元で低く囁く。
ああ本当に、見知らぬ男の声だ。お前は確かにあの少年なのか。
早鐘のような心臓が痛いほど私を打つ。
剥き出しの肌の上を滑る唇も手も止まることなく私を撫で、だんだん熱をもつ呼吸が苦しくなる。
いつのまにか解けた帯が、私と織人の間で絡み合っている。
「あっ…」
胸の先が甘く痺れる。ぬめる舌先で押され、吸われ、私はついぞ出したこともない声をあげてしまう。
「綺麗です…とても」
熱のこもった囁きも私の肌を刺激する。一度許してしまった淫らな声を止めることは出来なかった。
「んんっ…はぁっ」
腿の内側にむずむずと走る衝動に織人の手が触れる。
「や…」
閉じた脚の間に手を滑り込ませ撫でさすりながら中心へと近づいていく。
私は思わず織人の手を掴んだ。
- 47 :
- 「ま・・・待ってくれ」
「…待てません」
掴んだ手はあえなく外され、織人は再び私に口づけた。
「私は早く大人になりたかった…貴女より背が高くなって、貴女に相応しい男になって」
織人の瞳が私を映す。
「この時をずっと待ちわびていたんです・・・だからもう、待てません」
虹彩は息をのむほど美しく、私だけを見つめている。
「好きです、苑生さん」
私はその思いに足る人間であろうか?そう思わずにいられない。
だが確かに心が動いた。
私は喜怒哀楽が平坦で、表現に自信がない。
けれど、嬉しい。とても。
私は目を閉じ織人に身を任せ、手が中心に触れるのを感じた。
「あっ…!」
指が何かに触れ、その瞬間電気が走った。
指の動きは筆舌尽くしがたく、感電したようにびくびくと身体が跳ねてしまう。
そうしている間にも私の身体のあちこちに、唇でしるしをつけていく。何と器用なことだろうか。
「う…あぁっ…ん」
為す術もなく、身体は私の意思を離れて勝手に動き反応する。
身体の中心からとろりと何かが溶け出していくのを感じた。
「苑生さん…!」
覆い被さる身体が熱い。その熱に浮かされて、私は彼を抱き締めた。
「お…りと」
声がかすれて上手く名を呼べなかった。
織人は何度も口づけ、私の入り口に熱を押し付けた。
「…いいですか」
頷くかわりに彼に口づけ、それに応えた。
身体を割る熱が体温と混ざり私の温度を上げて行く。痛みに耐えかねしがみつき、背中に爪を立ててしまった。
「あ…ああ…」
どのくらいそうしていただろうか。時間の感覚が曖昧になり、世界に二人だけになったように感じた。
ぴったりと合わせた肌から鼓動を伝え合い、呼吸がひとつになり、充足する幸福感に包まれる。
私の中にいる織人が小さく震え、やがて動き出す。
初めは優しく、だんだん激しく私を掻き回し、ひとつになった呼吸は乱れ、身体が揺れた。
はしたない声をあげ獣のように絡み合い、痛みより強く彼を欲した。
繋がりから沸き上がるざわめきが全身を呑み込み、私を高みへと押し上げていく。
そして織人が私の一番奥へと深く沈む。何度も、何度も。
「…!!」
「あ…ああっ…あぁあっ!!」
震えと共に打ちつけられる熱い迸りを、私もまた震えながら受け止めた。
遠のいた静寂が戻ってくる。
私は泣いていた。
理由はわからない。心はこんなに安らかなのに、涙が止まらない。
織人は私を胸に抱き、子どもをあやすように髪を撫でていた。
「苑生さん」
「…何だ」
「私はずっと、苑生さんのそばにいます」
ふと、祖父母の仲睦まじい姿を思い出した。あんな風になれるだろうか。
そうなりたいと、私は思った。
「そうか・・・・・・そうしてくれ」
私は涙を拭き、笑った。
「よろしく頼む」
夜明けの鳥が鳴くまであと少し、私たちは抱きあって眠った。
おしまい
- 48 :
- 妄想が止まらず書いてしまいましたが、まとめにこのカップリングありました。
しかもあちらのほうが数万倍素敵。orz
とりあえず保守かわりに・・・。
- 49 :
- >>48 いえ、こちらもとっても素敵です^^ ありがとう
- 50 :
- hoshu
- 51 :
- 架空の森好きすぎます!もっともっとお話が読みたいな〜と思ってました。嬉しい!
- 52 :
- 殿様は空のお城に住んでいる より
お国許での一件も解決し、江戸に戻った殿様と鈴姫は、久々に奥向のご寝所で褥の上に向き合って座っておりました。
隣の間に控えている松島は、今夜こそ姫の「はい」が聞けるとそれは期待しておりました。
行灯の明かりは薄暗く、ぼんやりと二人を照らし、鈴姫はにこにこと、殿様ははにかみながら対面しています。
ぽんぽこ山で採れる巨大松茸のお蔭かどうか、はたまた内部の不正を正したからか、秋吉田藩はどうにか財政を立て直したのでございます。
「やっと子作りですね、殿様」
「う・・・まあ、その」
どうしてそうあからさまなんでしょう。殿様は赤面してむにゃむにゃと口ごもります。
「では、ふつつかですが宜しくお願いいたします」
鈴姫は三つ指をついて深々と殿様にお辞儀をしました。
面をあげると、殿様は鈴姫の手をお取りになり優しく引き寄せました。
されるがまま腕の中にもたれ、柔らかく抱き締められながら、鈴姫は婚儀の前に松島から見せてもらった巻物を思い出しました。
それは嫁入りの際の心得書のようなもので、いわゆる床入りの手順と心構えが書いてありました。
一つ、殿方のなさることに逆らわぬこと
一つ、つつしみをもって受け入れるべし
一つ、・・・えーとなんだっけ?
鈴姫はあまり興味がなかったので、流し読んだだけでまったく内容を覚えていませんでした。
しかも読んだのはずいぶん前、それまで殿様は奥向へお渡りになっても清く正しく眠るだけだったので、今宵が正真正銘、本当の初夜でございます。
(まあ、なんとかなるだろう、殿様だし)
なんら根拠のないことを姫が考えているとき、殿様は鈴姫の帯をそっと解きました。
緩んだ着物の合わせから真っ白な素肌がこぼれ、殿様の喉がごくりとお鳴りあそばしました。
その柔肌に触れる指先がちょっとだけ震えているのを鈴姫は感じました。
(殿様、緊張してるのかなぁ)
呑気に構えた鈴姫の身体を横たえ、殿様が覆いかぶさります。
鈴姫はちょっと重いなと感じながら、いつもと違う殿様の真剣な顔つきに、今更ながら胸が高鳴りはじめたのでございました。
「ふ・・・う・・・あ・・・」
殿様の大きな手が肩や背中を確かめるように撫でさすり、やがて控えめな乳房を揉みしだきますと、鈴姫は思わず声を上げてしまいます。
しかし次の間に控えている松島のことを思い出し、あわてて片手で口を塞ぎました。
(と、殿様!待って・・・!)
そんな鈴姫の気持ちなど斟酌せず、殿様はどんどんと先に進みます。
揉みしだきながら乳房の先を舐め、舌で転がすように突起をなぞると、そこは固くなり敏感に感度を上げていきます。
「あ・・・あっ」
塞いだ手の隙間からこらえきれずに声が漏れ、鈴姫は生まれて初めての感覚にその身を翻弄されたのでございます。
柔らかな褥に広がる黒髪が乱れ、全身が軽く汗ばみ身にまとっていた寝間着が纏わりつきます。
鈴姫はもう片方の手で強くそれを掴んでいました。何かを掴んでいないと自分がどこかへ行ってしまいそうだったのでございます。
- 53 :
- 蠢く舌が存分に、まだ幼さの残る身体を舐め尽すと、殿様の手が脚を割って滑らかな太腿をさすりました。
鈴姫は、今頃になって心得書と共に見せられた浮世絵を思い出しました。
それは世間では春画、枕絵と呼ばれる男女の睦合いの様子などを描いたものでございます。
現代でいうなれば、18禁画像と申せましょう。
(これから、殿様と、あのようなことを・・・)
あられもない格好で慎みもなく抱きあう男女の姿を、自分と殿様に重ねてみました。
さすがの鈴姫も恥ずかしく、頭に血が上ってくるようでございました。
さて、殿様の手はするりと秘所に辿り着き、おずおずとその裂け目に指を差し入れます。
「ひゃっ・・・」
思わず身を竦める鈴姫を片手で抱き締め、赤らんだ頬に口をお寄せになりました。
無骨な指が鈴姫の一番柔らかいところに侵入したのですから、驚きはごもっとも。
殿様は出来るだけ優しく、まずは指一本で秘裂にそって動かしました。
そこはまだ潤みが足らず、鈴姫は少し痛みを感じ眉を顰めてしまいました。
そんな様子をみて、殿様は指を抜き、口元へ持っていくとご自分の唾液で指を濡らし、再び秘所へと差し込んだのでございます。
「あ・・・」
ぬるり、とどぜうのように指が動き、花芯に触れ、びりりと刺激がはしりました。
「ひ・・・ああっ・・・と、のさま・・・!」
指はそのまま何度も何度もその場所を往復し、その度に魚のように跳ねる身体を殿様の胸にぶつけてしまいます。
声を抑えるのも忘れ、必で殿様にしがみつき、すがっていたのでございました。
秘所はいつしかとろとろと蜜を出し、殿様の指にまとわりつかせていました。
程なく、殿様は着物をお脱ぎになり、硬くそそり立つ逸物を蜜に濡れた花びらへと押し付けになったのです。
「姫、鈴姫・・・」
朦朧としていた鈴姫に殿様は唇を重ね、熱く吸いました。
そのひと時、鈴姫は殿様の気持ちが流れ込んできたように思いました。
それはとても温かく、熱く、鈴姫の心を包んだのでございます。
「殿様・・・」
ぐっと身体を押し開き、殿様自身が侵入して参ります。
鼻からまくわうり?それは出産のときだったか、と若干錯乱しつつとにかく痛みに耐え涙を滲ませながら鈴姫は、
今宵二度目となる、生まれて初めての感覚に翻弄されておりました。
しっかり掴んだ殿様の背に恐れ多くも爪を立ててしまいましたが、鈴姫は無我夢中でございました。
- 54 :
- (は、入った?)
ようやく動きが止まったものの、固い異物は鈴姫の中で脈打ち震えておりました。
薄目を開けて殿様を見ると、ほつれた鬢髪も悩ましく、眉根を寄せてしばし目を閉じておられました。
殿方も痛いのであろうか?と鈴姫は心配になり殿様の頬にそっと触れました。
「痛いのですか・・・?」
殿様は目をお開けになり、少しだけ微笑まれると
「いいえ、気持ちが良すぎて、我慢していたのです」
と仰せになり、おもむろに動き始めました。
最初は距離を測るように優しく、やがて肉襞を捲るように激しく、鈴姫の身体を貪ります。
「あっ・・・ああ・・・う・・・ああっ!」
肌と肌が打ち合い、ぺちぺちと響く音を聞きながら、激しい動きに振り落とされぬように殿様の広い胸にしがみつきました。
鈴姫にとってはこんなに大きなものが入る場所が、自身の中にあったなんて信じられないような気持ちでございました。
お腹の下のほうから淫らに這うようなざわめきが痛みを押しのけて広がっていきます。
ざわめきは緩い波のように身体を伝い、合わせた肌のすべてからまた別の波を広げあっていきました。
「・・・鈴!」
「ああ・・・!!」
大津波のような激しさに朦朧となった鈴姫の中で、熱を持った逸物がより大きく膨らんだようでした。
打ち付けるような腰の動きが早まり、身体ごと押し込むような一刺しが鈴姫の一番奥まで届き、瞼の裏が真っ白になりました。
痙攣のような動きと共にきつく抱き締められ、鈴姫は流れ込む熱を感じながら、気を失ってしまったのでございました。
ふと目覚めると、目の前に殿様のお顔がありました。
鈴姫に腕枕をし、すやすやと眠っておられます。
行灯の火は消され、障子越しの月明かりが淡く青白く部屋を染め、まだ夜更けのようでございました。
殿様のほつれた鬢髪をそーっと直して差し上げて、鈴姫は知らずに微笑んでおりました。
(こーしていると、私達もなかなかに夫婦らしくなったような気がする)
名実共に、夫婦になったというのに暢気なものでございました。
(松島は起きているだろうか?)
松島に「はい」と言おうと口を開いたが、健やかな寝息を聞くうちに殿様の邪魔をするのはやめようと思いなおし、口を閉じました。
だるい身体の奥の熾火のような名残の熱が心地よく、殿様の胸に額を預け、目を瞑ります。
すぐに寝息が重なり、鈴姫は程なく夢の世界へと旅立たれたのでございました。
おしまい
- 55 :
- ご清読ありがとうございました。
自分がニヤニヤ(ry)ですが、誰かに読んでいただけるのは幸いです。
嬉ションしながら書いてます。
- 56 :
- あいかわらずGJです!
職人さん、増えるといいね
- 57 :
- 萌えました。このカップルも好き♪
- 58 :
- 進駐軍(GHQ)に言うからね! より
おじさん、じゃなくて、志貴さん。
七緒さんはベッドに横たわる志貴さんを見下ろした。
ぐっすりと眠るその顔にそーっと触ってみた。
反応がないので、ぷにぷにしたり軽くつまんでみたりもした。
起きそうにはない。
七緒さんは黙ってベッドに潜り込んだ。
パジャマ越しの体温が暖かく、志貴さんの大きな肩に額をつけて目を閉じた。
今まで何度か、こうして勝手に進入して寝たが、志貴さんは目覚ましがなるまでまったく目を覚まさない。
七緒さんは早朝決まった時間に目覚め、志貴さんより早くベッドを出て行くため、ばれた事は無い。はずだ。
(ごめんね、志貴さん)
ちょっとその温かさを貸してください。
七緒さんは時々眠れなくなる。
いつも明るく前向きな七緒さんだが、そこは人の子、毎日365日いつもそうではいられない。
両親はとうに亡く、祖母も身罷ってしまった身の上の寂しさだろうかと七緒さんは分析する。
一人でいた頃は、なんともなかった。
きっと朝から晩までバイト三昧と食べるに事欠く生活のお蔭で、くたくただったからだと思う。
ここに来てから初めて、眠れなくなるほどの孤独感を知ってしまったのだ。
衣食足りて孤独を知る。などと戯れに言ってみたりする。
そんな時、ふとおじさんの部屋を覗いた。
もし起きてたら、話し相手になってもらおうと思っていた。
でも、ただただ静かに眠るその姿に誘われて、なぜかついふらふらと布団に入ってしまった。
誰かの体温がこんなにも安らかな気持ちにさせてくれることを、七緒さんは初めて知った。
妙齢の女子が男性と同衾するのは道徳的に如何なものかとは思うものの、志貴さんなら、もし万が一間違いが起こっても。
起こっても、いいのだ。
規則正しい呼吸の音を聞きながら、じっと眠くなるのを待つ。
ひとつ深い呼吸が聞こえ、志貴さんが寝返りをうって七緒さんの方へ向いた。
「…あの、七緒さん?」
七緒さんは驚いてぱちっと目を開ける。
「あ。」
目が合って、非常に恥ずかしい。
七緒さんは言い訳しようとして言葉に詰まった。
「どうしました?」
さすがおじさん、大人の余裕だ。小娘程度が一つ布団にいても動揺すらしない。
「あの、えーと」
寂しくて眠れないのです、などと言えるはずも無く。
「あの…」
「…」
何十秒かの沈黙が七緒さんに重くのしかかった。怒られるだろうか。
- 59 :
- 志貴さんはおもむろに口を開く。
「夜中にふと目覚めるとですね、君が隣に寝ている、ということが何度かありました」
志貴さんは低音の良い声でぼそぼそと喋った。
そうか気づかないはずなかったか。
「…すみません」
「謝らなくていいです、そりゃあびっくりはしましたけどね」
七緒さんの視界いっぱいの広い胸が、呼吸のたびに上下する。
男性の布団に潜り込むという大胆なことをしているくせに、今更その距離にドキドキと胸が高鳴った。
「ただ僕も男なので…何というか、危険です。できたらこういうことは止したほうがいい」
叱るでもなく、静かに言った。
「…眠れなくて」
そのまま黙ってしまった七緒さんを見て、志貴さんは小さく溜息をつくと、腕を伸ばして七緒さんの頭をのせた。
「…何かお話でもしましょうか。といっても、経済について語っても詰まらないでしょうし…おとぎ話という年齢でもないですし…」
そう言いながら、優しく頭を撫でた。
おじさんにとって私は全然子供で、きっと箸にも棒にも引っかからないんだろうなぁ。
それはちょっと悔しいような、気がする。
七緒さんは少しだけ、おじさんに意地悪をしたくなった。
「あの、志貴さん」
「何ですか?」
「私を、抱いてください」
志貴さんは絶句して、髪を撫でる手が硬直して止まる。
「な…」
「私、婚約者だし、いいですよね?」
志貴さんは固まって、それからガラガラと崩れた何かを必に立て直しているような表情をしていた。
「…こ、婚約といってもそれは世間を欺くための方便というやつじゃないですか」
「私のこと、嫌ですか?」
七緒さんはじっと目を見ながら、動悸の高鳴りを聞かれませんように、と思った。
何とか立て直しに成功したようで、志貴さんはいつもの表情に戻った。
志貴さんは七緒さんに対する気持ちをごまかして、せいいっぱい「落ち着いた大人」のように振舞おうといつも努力している。
そうしないと、咲き始めた花をポッキリ手折ってしまいそうになるからだ。
「…君はまだ若くて、これからいい出会いがあるかもしれないでしょう。自分は大切にしなくちゃいけません」
「答えになってませんよ」
よく見ると、志貴さんの瞳は動揺していた。それが急に可愛く思えて、七緒さんは息が掛かるほど近く、顔を寄せた。
「そ、それに、僕は君よりずいぶん年上で、おじさんです」
「それも答えになってません」
フットライトのわずかな明かりでも分かるほど、志貴さんの顔は赤らんで、まるで少年のようにうろたえている。
「う…」
ここが引き時だと分かっていた。冗談だよ、本気にした?って言えばいい。
志貴さんは怒るかもしれないけど、きっと黙って笑うだけで許してくれるだろう。
「私は好きです、志貴さん」
だけど七緒さんはするりと本心を言ってしまった。
- 60 :
- 志貴さんがどんな顔をしたのか分からない。目を閉じてしまったから。
そして、キスをした。
軽く、唇を合わせるだけのキス。
志貴さんの唇が少し開き、途中から息も出来ないほど強く、七緒さんの心ごとぎゅっと抱き締められた。
長い長い大人のキスの後、やっと息継ぎをする七緒さんの耳元で志貴さんが囁いた。
「大人を、からかっちゃいけませんよ」
少し掠れた、耳に掛かるその声にぞくりと甘く身体が震え、身を預けた。
パジャマの上から身体を撫でる手が熱く七緒さんの控えめな胸に触れたとき、思わず声が漏れた。
「あ…」
そのとたんに志貴さんは動きを止め手を離し、目を閉じ、それから七緒さんの額に口づけた。
「?」
志貴さんは嘆息し、身体を離す。
「もうちょっと…大事にしましょう」
「志貴さん…私は」
かまわない、という七緒さんの言葉をさえぎって、志貴さんは強い口調で言った。
「うん、わかってます。だけど、こんなふうに流されて君を抱いたら、きっと後悔する」
「…」
「大事にしたいんです、君の事を」
それは志貴さんの精一杯の告白だった。
七緒さんの頬を撫で、慈しむように見つめる。
大きな手は乾いていて、温かい。
志貴さんはやっぱり大人なんだな。
七緒さんは目を閉じ、自分の行動を恥ずかしく思った。
でも、もう少し傍にいたい。
「でも、じゃあ、今日はここで寝てもいいですか」
志貴さんはもう一度嘆息し、腕枕を差し出す。
「…眠れそうですか?」
優しい声が降りてきて、七緒さんは目蓋の奥がつーんと痛むような、熱いような感じがして額を胸に押し付けた。
「多分…」
少しだけ涙が出て、志貴さんのパジャマを濡らしてしまった。
志貴さんは子供をあやすような手つきで、七緒さんが泣き止むまで髪や背を撫でてくれていた。
「眠れないときは、羊を数えるといい」
真面目な志貴さんの口調に、思わず小さく吹き出した。
「ずいぶん古典的な…数えたことあるの?」
「数えることに集中しすぎて、夜が明けたことはあります」
たまらず、笑った。
「嘘!」
クスクスと笑う七緒さんに、ちょっと安堵の表情で志貴さんも笑った。
ぼそぼそとそうやって話しているうちに、七緒さんの目蓋が重くなり、やがて安らかな寝息が聞こえ始める。
それを確かめてから、志貴さんはそっと頬に触れる。
「おじさんは、今夜も眠れそうにありませんよ…」
それでも目を閉じて、同じ夢を見られるようにと願い、羊を数え始めた。
おしまい
- 61 :
- ご清読ありがとうございます。
この歳の差カップルに
妄想がとまらにゃいのでもう一本書いてしまいました。
エロです。
ええかげんしつこいですが、しばらく投下させてくださいませ。
- 62 :
- (志貴さんとこんなふうになってどれくらいだろう)
七緒は濃厚な口づけの最中にふと考えた。
おじさん、と自分のことを呼ぶけれど決して枯れてるわけではなくて。
むしろ激しく貪欲に七緒を求めている。
身体を求められるのは嫌ではない。繋がっているその間は、彼の総てが自分を向いている。
眼差しも吐息も身体の熱も全部自分のため、と感じるのは嬉しく思う。
ただどうして自分を抱くのか、それだけが聞けなかった。
理由を曖昧にしたまま身体を重ね、そして朝になれば二人とも何事もなかったように振る舞うのだ。
それはとても寂しい。
向き合って座し、七緒を深く貫いたまま、唇を侵す。
「ぅ…んんっ」
混ざり合って零れた唾液が顎を伝い喉を滑っていく。
乳房を握るように揉みしだくその指で赤い突起をきつく摘まれると、悲鳴をあげてのけぞった。
痛みと快感の狭間で身体が揺らぐ。
「あっ…ああっ!」
「くっ…!」
尻を掴んだ両手の指が食い込み激しく上下に揺さぶる。
そのたびに一番奥まで当たる尖端が衝撃と共に痺れる愉楽を送り込む。とめどなく洩れる嬌声が男の血を滾らせ、さらに強く彼女を求める。
下腹部を突き破られるような恐怖すら感じ、七緒は志貴の首にしがみついた。
絡む襞は彼女の意思とは関わりなく彼を捉え、痛いほどに締め付けながら頂点へと導いていく。
「志貴さん…もう…!」
止めて、なのか、駄目、なのか、七緒自身も分からない。髪を振り乱し、涙を流し、譫言のように名を呼びながら身体を擦り寄せた。
それに応えるように律動が早まり、強い衝撃が七緒を刺し貫いた。
「ひ…あああああっ…!!」
弓なりにのけぞった身体の奥がぎゅっと収縮し、迸る彼の精を搾り尽くす。
意識が真っ白に飛び、平衡感覚を無くした七緒はそのまま崩れ落ちた。
抱き止めた志貴は、汗と涙でぐしゃぐしゃになった顔に口づける。
荒ぶる欲望を出し切ってもなお七緒の中に自身を収めたまま、細く頼りない身体を抱き締めた。
「七緒さん…」
- 63 :
- 最初はこんな事になるつもりもなかった。
望まない結婚から逃れるための嘘が、いつの間に真に変わってしまったのだろう。
こんな暴虐を強いても彼女は黙ってそれを受け入れた。
天涯孤独となった七緒には、他に行き場がないと思っているのかもしれない。
そんな境遇に付け込んででも、総てを自分のものにしたかった。
「おじさんは卑怯者なんです…君が断れないと知っててこんな事をしている」
聞き取れないほどの低い呟きが静寂に消える。
心の中に秘めた本当の想いは伝えることができない。
歳の差がそうさせるのかもしれない。何より彼女の口からはっきりと拒絶を聞くのが怖いのだ。
理由も言わず、ただ身体を求める。
彼女の身体に深く刻みつけておきたい。自分なしではいられないほど、欲望と快楽で繋ぎ留めておきたい。
何度も抱いた身体はもう、彼の形を覚え、目覚めた女の体に変化している。
普段の飾らぬ振る舞いと、夜の淫らな姿態のギャップは彼の欲望を、夜毎激しく掻き立てる。
相手なしではいられないのは、果たしてどちらだろうか。
「う…」
七緒が小さく呻き、志貴の背に触れた。
「志貴さん…」
身体を動かすと熱を失った陰茎がずるりと抜けた。奥から混ざり合った体液が零れ、シーツに染みを作る。
七緒は力を込めて志貴を押し倒し、広い胸に凭れ耳をつけ、鼓動を聴いた。
志貴は逆らうでもなく、彼女を抱いたまま沈黙している。
(こうやって、人の気持ちが聞けたらいいのに)
胸は温かく、鼓動は規則正しい。
七緒は志貴の心が知りたかった。
- 64 :
- 「志貴さん…私はここに居たくて、いるんです」
「…どうしたんですか、急に」
「こういうことするのも自分の意志です」
「七緒さん…」
心臓が一瞬、大きく脈打つ。
「私は志貴さんが、好きです…だから」
七緒は顔を上げ志貴を真っ直ぐ捉えた。
張り詰めたような切ない表情が僅かに歪み泣き笑いのように変わる。
「おじさんは卑怯者なんかじゃないよ」
志貴は目を閉じ嘆息する。
(いや僕はやっぱり卑怯者だ…君にそんな顔をさせて)
「ごめん、七緒さん。僕は臆病で…ずっと言えなかった」
髪を撫でそれから頬に触れる。
「君のことが好きなんだ」
涙を溜めた瞳からひと粒が零れ、手の甲を伝う。
「…うん、そうだといいなって、思ってた」
七緒は目を覆い、掌で涙を拭いた。
「七緒さん…」
幼気な子供のような仕草に胸が詰まる。
「こんなおじさんで良かったら、ずっと…一緒にいてくれませんか」
コクリと頷き、また涙が零れた。
「還暦だって米寿だって祝ってあげるよ…だから、長生きしてね」
泣き笑いのその表情が清々しく美しい。
抱き締めた腕の温もりを互いに感じながら口づけた。
(やっと始まったんだね、わたしたち)
あの夜明けの寂しさを、もう感じなくて済む。
七緒は安心して目を閉じた。
おしまい
- 65 :
- 職人さん、GJ!私の好きな2人です・・ありがとう
- 66 :
- GJありがとうございます
ほかの職人さんもきてほしいなぁ
GHQでは佐藤君×玲子さんとかもつい妄想してしまった。
自分の変態ぶりに泣けます。
- 67 :
- ドングリにもほどがある より
ドングリ仲間(?)の亘理さんと友成君は今日も公園に木の実拾いに来ていた。
この秋は豊作なのか、ドングリや胡桃がたくさん採れる。亘理さんはホクホクであった。
「艶があって形の良い大きなものを選ぶんだ」
「うん」
友成君は亘理さんの指導のもと、せっせと木の実を拾う。
こういう単純作業の間、友成君は執筆中の小説について考えている。
現役高校生で新進気鋭の若手作家という二足のワラジを履いている友成君にとって、精神面のケアはとても大切だ。
執筆に行き詰まったときは木の実拾いに限る。正確には亘理さんに会うに限る。
彼女はクラスメートである。
特殊な精神構造をしているのか、非常に楽天的でユルくてヌルくて、例えて言うなら脱力系女子、精神的な軽業師。
そして、友成君のインスピレーションの素である。
彼女といると、いい具合に肩の力が抜けてリラックスでき、結果ポコポコとアイデアが湧いてくるのだ。
創作を生業とする人々にとってのこういう人を例えて『芸術の女神(ミューズ)』と呼ぶらしいが、言うと調子に乗るので決して言ったりはしない。
頭の中をフル回転させながら黙々と木の実を拾う友成君の頭にポツリと水滴が落ちる。
「あれ?」
空はいつの間にか雨雲に覆われていて、ポツポツと雨が降り出した。
「あー降ってきた、友成君傘持ってる?」
「持ってない、出るときは晴れてたし」
「天気予報で降るって言ってたよ、友成君がきっと傘持ってくると信じてたのに〜」
何だその他力本願。
友成君は呆れてものが言えなかった。
雨はだんだん強まってすぐには止みそうにない。
「とりあえず、あそこで雨宿りしよう」
二人は近くの東屋に駆け込んだ。
屋根と床だけで壁がないが、風が吹かなければ雨はしのげる。
ベンチに座り頭や服の水滴を払っていると、亘理さんがハンカチを差し出した。
「使いなよ、私二枚持ってるから」
「ありがとう…て、ハンカチは用意出来るのに何で傘は持ってこないんだ?」
亘理さんはヘラヘラと笑ってごまかした。
- 68 :
- 公園は人気がなく、しとしと降る雨の音で覆われている。
何となく黙って、小説のことなどを考えている彼の傍らで、亘理さんは拾った木の実のチェックに余念が無い。
「これは大きい、これはやや大きい…」
「何やってるんだ?」
「大好評のドングリ数珠のために選別してるんだ」
大好評じゃない。と思ったがあえて何も言わぬが花でしょう。
そのうち胡桃の殻でも数珠とか作りそうだな…
友成君はとりあえず無難に褒めておいた。
「意外に器用なんだな」
「そう!?やっぱりそう思う?私こういうの向いてるのかな〜ハンドクラフト作家とか良いかも」
いやそれにはセンスが致命的ではなかろうか、と思ったが黙っておいた。
(へんなやつ…)
友成君は横目で亘理さんを観察する。
真っ直ぐな栗色の髪が少し濡れて、しっとりと背中にかかる。
柔らかな輪郭を描く頬はなめらかで、小さなえくぼが浮かび、いつも上向きの口角は桜色の唇を形よく見せている。
(黙ってたら可愛い…よな?)
友成君は自信なさげに自分に同意を求めた。
「友成君、友成君!これ、超デカい!」
亘理さんが急に振り向いたので友成君はびっくりして焦った。
「あ、ああ、これは大きい…」
亘理さんが親指大のドングリを差し出し、動揺したせいだろうか受け取ろうとして手が滑った。
「あっ!!」
コンコンと軽い音がして床を転がるドングリを二人は慌てて追いかける。
ベンチの下に転がっていくドングリをつかまえようと立ち上がり、下を覗こうとした友成君と同じ動作をしていた亘理さんの頭が
ゴインとぶつかった。
「いてっ」
「いたた…も〜何やってんの」
お互いに額をさすりながら顔を見合わせる。
「ご、ごめん…」
思わぬ至近距離にドキッとする。
さ、桜色…
友成君は亘理さんの唇から目が離せない。
髪と同じ色の瞳がまばたき、彼を怪訝そうに見ていた。
すこし開いた艶やかな唇に、吸い寄せられるように顔を近づけて、それを重ねた。
ほんの一瞬、すべてが遠ざかる。
顔を離した後、二人は無言で立ち尽くしていた。
- 69 :
- やがて雨は小止みになり空が明るくなってくる。
「あ…ドングリ…」
ふいに亘理さんはしゃがんでベンチの下に手を伸ばし、ドングリを拾い上げた。
元通りにベンチに座り、木の実のザルを抱えて何事もなかったかのようにドングリの選別を続ける。
俯き加減の亘理さんの耳が赤い。
「わ、亘理」
名を呼んだものの、後の言葉が続かない。
何というべきか、いくつも浮かび上がって消える。作家生命の危機を感じるほどボキャブラリーが枯渇していた。
それでも友成君は頑張って何とか言葉を紡ぎ出す。
「…ごめん、つい、魔が差して…」
しかし選択した言葉はよろしくない。
亘理さんは無言である。
「(唇が)可愛いと思って…そうしたらなんかその勝手に体が」
「可愛い?」
亘理さんはピクリと反応し、たちまち明るいオーラがパァァと広がる。
「う、うん(唇が)」
「そーか〜」
亘理さんはにんまりと笑い顔を上げる。
「知らなかった…そんなこと誰にもいわれたことなかったし」
うふふと不気味に笑う彼女を見て、あ、何か余計な事言ったかも、と思ったが、泣いたり怒ったりされるよりはいいかと安堵する。
「それで友成君の劣情に火をつけてしまったわけだね?」
「劣情って…なんだよそれ…」
脱力して肩を落とす。
ボジティブシンキングにもほどがある。
「ま、いいよキスくらい。減るもんじゃなし」
(いいのかよ!)
ぽんと肩を叩かれ、ヘラヘラしている亘理さんを見て、泣いたり怒ったりのほうがマシだったかも、と友成君は思った。
しかし友成君は知る由もない。
髪に隠れた亘理さんの耳がまだ真っ赤なままだということに。
いつの間にか雨は止んでいた。
「雨、止んだみたい。今のうちに帰ろうかな」
「ドングリ拾いはいいのか?」
「濡れちゃってるし、また来週くればいいや。じゃ、また学校でね。あ、ハンカチはいつでもいいよ」
亘理さんは手を振りスタコラと行ってしまった。
その背中がだいぶ遠くなってから、小さく呟く。
「そりゃあ、減るもんじゃないけどさ…」
もーちょっと恥じらいとか、ドキドキする、とか無いんだろうか?
「らしいっちゃ、らしいけど」
柔らかかった唇の感触を思い出し、友成君の頬に血が上る。
(いや、雰囲気に流されただけだ、多分)
その考察には自信が無い。
ベンチの上に特大ドングリがポツンと一つ残されている。
今度は落とさないように手のひらに転がしながら、木の実の色みたいなくりりとした瞳を思い出す。
(…やっぱりちょっと可愛かったかも…いやいや)
その時、あたかも木の実が落ちてくるかのように、インスピレーションがころりと降ってくる。
ここのところずっと悩んでいた、新作のタイトルが決まった。
『ドングリにもほどがある』
うん、これでいこう。
ドングリを握り締め立ち上がる。
友成君はにっこりと口角を上げて、雨上がりの公園を歩き出した。
おしまい
- 70 :
- >67
初々しいカップルもいいですね。GJ!!
- 71 :
- いやっほう!どんぐりカップル大好きなんだぜ
GJ!
- 72 :
- ご清読ありがとうございます。
友成くんの見た目が結構好きです。
ブレーメンあたりから絵柄ちょっと変わりましたよね。
- 73 :
- GJ!!!職人さんありがとう!!!
- 74 :
- hoshu
- 75 :
- レナード現象には理由がある より
「蕨、お前もT大理Vを目指せ」
「えぇっ!?」
そう宣告された蕨さんの驚きは推して知るべしである。
「飛島君も知ってると思うけど…わたしの成績じゃちょっと…無理だと思う」
「俺が特訓してやる、大丈夫だ」
飛島君は懇切丁寧に猿でもわかるように教えてくれる。
彼は、超優秀な頭脳を持っている。おまけに運動神経抜群で、容姿端麗、大病院の一人息子ときたもんだ。
よーするに、なろうと思ったらたぶん何にでも、苦労せずになれる。
きっと教師になっても完璧なんだろうなぁ、と蕨さんは思った。
飛島君に勉強を見てもらうようになってから、蕨さんの成績は劇的に向上したからだ。
向上したのは、優秀な専属教師のおかげだけではなく、蕨さんのたゆまぬ努力の賜物でもあることを彼女自身は気づいていない。
そーしてとりあえず受験は終わった。
試験当日はコンディションも良く、できることは全てやったという充実感をもってやり遂げることが出来た。
後は発表まで、運を天に任せる、という心境である。
飛島君は涼しい顔をして、試験前も試験後も変わりない様子である。
そんなある日の放課後、飛島君のうちに来ないかと誘われ、蕨さんはやってきた。
今までも、勉強のために何度か来た事がある。
高級そうな家具が並ぶ、広くてすっきりとした部屋である。
「ほら、お茶」
「あ〜ありがとう…」
湯のみを両手で持ってずずずと啜り、は〜と溜息をつく。いつもいいお茶を淹れてくれる、とても美味しい。
「やっと受験が終わったね」
「ああ、もし浪人しても、また俺が勉強を見てやる」
「う…まあやれることはやったし…飛島君のおかげで頑張れたよ。ありがとう」
蕨さんは心から感謝して、ぺこりと頭を下げた。
顔を上げたとき、飛島君の表情がやや翳っているのを蕨さんは目ざとく見つけた。
「…どうかしたの?具合でも悪い?背中さすろうか?」
「…いや」
平凡な、と自負している蕨さんは『癒しの手』奇跡のヒーリングパワーの持ち主である。
具合の悪い人に手をかざすと、あーら不思議、痛みやストレスを癒してくれるのだ。
十分非凡だと飛島君は思っているが、本人はいたってのんきである。
飛島君曰く、蕨には医者の適性がある、と判断しての冒頭の宣告である。
- 76 :
- はっと蕨さんは不安そうな顔をしてつぶやく。
「もしかして、私が邪魔してたから試験が…?」
「そうじゃない、そんなことない。俺はいつも完璧です」
飛島君はぬけぬけと、且つはっきりと言い、蕨さんをじっと見た。
「そ、そう?ならよかった」
なんとなくその目つきに気圧されて、こわばった笑顔で答える。
「蕨、誰かと付き合ったことある?もしくは誰かと付き合ってる?」
突然の質問に驚いて、飛島君の顔をまじまじと見た。
「そ…そんなこと…なんで急に言い出すの??」
飛島君は真面目な顔で蕨さんの視線を受け止めた。
「八神と小此木、付き合ってるらしい」
「ええ!?あの二人が…そーかぁへぇ〜」
そういえばいつも一緒にいるなぁ、と気さくな友人達の顔を脳裏に浮かべ蕨さんはのんびり思った。
「で、さっきの質問だが」
「な…ないよ!そんなこと聞いてどうするのさ」
「…いや、単なる個人的興味」
「そ、そうですか」
妙な沈黙が二人を包む。
蕨さんはもぞもぞとクッションに座り直し、お茶を啜る。
「…蕨」
「はい」
「おれは童貞なんだ」
「はい?」
僕の前に道はない。僕の後ろに道は出来る。
「そっちじゃない」
思わず高村光太郎を暗唱した蕨さんに飛島君のツッコミが入る。
蕨さんは鞄から辞書を出しその言葉のページを読んだ。
どうてい【童貞】
(1)男性が、まだ女性と肉体的交渉の経験をもっていないこと。また、その男性。
「―を失う」
(2)カトリック教会における修道女。
(2)じゃないよな…と蕨さんは思い、そして顔を赤らめた。
- 77 :
- 「何を…言ってるんだ!へ、変だよ…どーしちゃったの?」
ずい、と飛島君が近づき、蕨さんの手を取る。
「俺は何をするにでもそれほど苦労なく出来てしまうんだ、だけどこれはまだやったことがない。相手がいないと出来ないから」
「そ、それは彼女でもつくってその人と行えばいいのでは…」
飛島君はちょっと泣きそうな顔をして、蕨さんを押し倒す。
「鈍感」
「うわっ」
「俺が、彼女にしたいのは、蕨だ」
真剣な顔が近づいてくる。
「ま…待って!ほら、私らまだ高校生だし、そういうことはまだ早いのではむgy」
喋っている最中に、唇を塞がれる。
もごもごと抵抗するが両腕も身体もがっちりと抑え込まれ身動きが取れない。
首を動かして、やっと唇から逃れると再び説得を試みる。
「そ、それに今の言い方だと、やりたいから彼女にしたい、みたいにしか聞こえないよ」
ちょっとだけ腕の力が緩む。
「…俺は恥をしのんで、童貞だと告白したのに…うまく出来なかったら悪いと思って」
あれ、口説いているつもりだったのか。それにしても順序が違う。
「出来がどうかなんて私だってわからないよ…いや、そうじゃなくて、それ以前にこういうことはお互いの同意がないと…」
「じゃあ、聞かせてくれ。俺は蕨が好きだ、お前と…したい」
(やっぱりやりたいんじゃないか)
飛島君は口をつぐみ、蕨さんを穴が開くほど見つめている。その眼差しに圧され目を逸らした。
動悸が痛いほど胸を打ち続けている。
(そんなこと、考えたこともなかった。お友達じゃないか、わたしたち。そりゃぁ嫌いじゃないけども)
ほんの少し躊躇して、おずおずと飛島君を見る。
「…好き、だと思うけど…それはともだちむgy」
再び熱い唇で塞がれたため、蕨さんは続きをさえぎられてしまった。
(同意したわけじゃない!話は最後まで聞けー!!)
- 78 :
- そんな心の叫びをよそに、飛島君は蕨さんの制服の下に手を入れ、ブラウスを引っ張り出すとブラジャーに手をかけた。
スポーツタイプのハーフトップなのでずり上げればすぐに胸があらわになる。
「!!」
塞がれたままの唇からくぐもった叫びがこぼれ、飛島君はやっとそれを離した。
「やっぱり…見た目より大きいな」
感慨深げに胸を揉みながら、柔らかい頬に吐息をかける。
「ずっとこうしたいって思ってた…」
「ば…馬鹿!やめて、うあっ」
(受験の大事なときに何考えてたんだ!)
触られるたび敏感に固くなっていく胸の先を、コリコリと指で刺激した。
「あっ…やぁっ!」
首筋を吸いながら刺激を続ける飛島君の指や唇の感触にびくびくと身体が震え、もうとっくに腕を開放されているのに抵抗を忘れて
絨毯に爪を立てている。
開かされた脚の間にある飛島君の腰の固いものが服の上から股間を押し、そこからきゅっと甘い何かがこみ上げてくる。
(なに…これ…?)
自分でもわけがわからない。触れられたとたんにぐにゃぐにゃと身体のコントロールが利かなくなってしまう。
「あぁっ」
ぞくぞくと湧き立つ何かが背筋を走り、掌が次にどこへ触れるのか、期待すらしている。
「すごく柔らかい」
耳朶を吸い唇で挟みながら囁く、その吐息も刺激になる。
「は…あぁっ」
制服はたくし上げられ、外気に晒された肌が粟立つ。
その素肌に熱く湿った掌が触れ、胸から腰をなぞり、スカートのホックに手をかけた。
唇で胸を愛撫しながら、器用にスカートを脱がすとショーツの上から指を当てる。
第一関節を曲げ、すこし力を入れると布が滑ってぐにゃりと割れ目へ飲まれた。
「だめっ…」
「濡れてる」
蕨さんは恥ずかしさに顔を覆った。
「いや…」
ぬるむ秘所の形をなぞるように、布ごと指を滑らせる。
「まだ何にもしてないのに」
ぎゅっと奥へ指を差し込む。布に阻まれてそれほど奥には入らないものの、その刺激はびりびりと身体を貫いた。
「ひ…やぁぁっ!!」
「感じ易いんだな…すごくいやらしい体なんだ」
「ち…ちが…ん、くぅっ!」
ショーツをずらして手を入れ、直接指を一本差し込む。
どろどろと溶けているにもかかわらず、そこは受け入れた指をきつく絡め離そうとしない。
「すごい…指を食われそうだ」
「やめ…変なこといわないで…あっああっ」
「なぁ、ほんとに初めて?」
指を二本に増やしてもう少し奥へと差し込むと、柔らかい肉壁が吸い付くように指にまとわりつく。
「あたりまえで…っやぁっ!わたしら、うっ…友達じゃないか!あぁっ、こんなこと、やめて…お願い」
その抵抗を愉しむように抜き差ししていると、息が荒くなり、鼻に掛かる声が甘く響いた。
- 79 :
- 「うぅっ…は、ああっ」
理性が快楽に侵食されて、ほろほろと崩れていく。
「やめていいの?こんなになってるのに」
「いや、だめ…んっ…あっ…あっ……ああぁっ!」
軽く痙攣するように身体を震わせると、蕨さんはぐったりと身を投げ出した。
顔を真っ赤に染め、荒い息をつく蕨さんにさっきまで彼女の中をかき回していた指を差し出す。
濡れて光る指をわざと見せ付けるように開いて、粘つくそれを唇へ押し込んだ。
「んっ」
「自分の味、どう?」
「ひや…」
(へんな…あじ…)
顔を背けようとするのを押さえ、指で口の中を犯した。
目を閉じた彼女の泣きそうな、でもどこか陶然とした表情と、指に触る柔らかな舌の感触にぞくぞくと嗜虐心をそそられる。
爆発しそうなほど高まる欲望をこらえられず、飛島君はズボンのファスナーを下ろし自身を取り出した。
蕨さんの腕を取って床に座らせると自分はベッドに腰掛け、朦朧としている蕨さんの目の前に熱く脈打つ自身を差し出す。
「こっちも、同じようにして」
とろりとした目つきがそれを捉え、もはや抵抗もなくゆっくりと彼女の小さな口が開く。
「ん…」
おずおずと咥えこんでいくその表情をみているだけで爆ぜてしまいそうになるのをこらえ、口の中の感触を味わった。
ぎこちない舌がちろちろと小さく茎を舐め、時々歯が当たった。
「う…」
意識と身体は熱に浮かされたようにふらふらと乖離していて、自分が今何をしているのかよくわからなかった。
ただ目の前に差し出されたものを咥え、飴でも舐めているかのように無心に舌を這わせる。
つるつるしたところや、ごつごつしたところや、くびれたところを舌で感じる。
口いっぱいに頬張ったそれは絶えず脈打っていて落ち着かない。
やがて喉の奥に当たる先端から何かがじわりと滲み、その苦味に眉を顰めたとき。
「うっ…!」
小さな呻き声を上げた飛島君の手が頭を掴み激しく前後に揺さぶると、身を折り曲げて小刻みに震え、頭を抱きかかえたまま喉の奥へと精を放った。
飛ぶように喉を打つ液体にむせ、驚いて口を離そうともがく蕨さんを押さえ、全てを出し尽くすとようやく頭を解放した。
「ぶ…げほっげほっ…ううっ」
大部分を飲み込んでしまったが、こみ上げる吐き気に口を押さえ、涙目になりながらむせる蕨さんにあわててティッシュを何枚も
差し出し口に当ててやる。
「げふっ…げほっ…うぅ…」
「わ、悪い…つい」
すっかり冷めたお茶を飲ませてやりながら、飛島君は謝った。
そして蕨さんを抱きかかえると、ベッドへ下ろす。
- 80 :
- 「な、なに…」
飛島君は服を脱ぎ捨て、蕨さんの脚に引っかかって残っていたショーツを抜き取ると、両膝を掴んで開き、その中心に顔を埋めた。
「ひゃ…!やぁっ!やだ…!」
まだ濡れそぼっているそこを丁寧に舐める。
薄い皮に包まれた肉芽を剥き、舌で転がすように舐めると、身体が跳ねて震えた。
脳が痺れるような快感に全身が支配され、蕨さんは再び身体のコントロールを失った。
「いや…あっ…ああっ!ああっ!!」
溢れ出す蜜を舐め尽すように啜りながら、肉芽を吸い上げる。
「あ…あぁんっ…あっ…やぁぁっ!!」
痙攣と共に大きく身体が跳ね、硬直し、弛緩する。
飛島君は枕元から小さな袋を取り出すとぴりりと破り、すばやく避妊具を装着した。
「蕨、入れるよ」
「う…あ…?」
舌ではないものが中心にあたっている。
唇は唇で塞がれ、舌が舌を捉える。
今ふたたびの甘い痺れが膜のように思考を覆う。
ず、ず、と侵攻してくる塊が、痛みと共に身体を引き裂いていく。
「は…あぁ…う…」
やがて全てを収めると飛島君は大きく息を吐いた。
「すごく締まって…気持ちいいよ…」
「い…いたい…」
ぎちぎちといっぱいに押し広げられた痛みの奥から、波立つようにさざめく快感にきつく目を閉じる。
(痛いのに…どうして)
動き始めた腰に合わせるように、自分の腰が揺れるのを止められなかった。
「あ…ああっ」
手を伸ばし、縋りつくように飛島君の頭を抱える。そのまま胸に押し付けると唇がきつく乳首を吸い上げ、熱い舌が愛撫する。
「ひ…ああっ!」
(気持ちいい、すごくいい、どうして)
突き上げる快楽にこぼれる嬌声を止められず、夢中で彼を求めて動いていた。
飛島君は挿入したまま蕨さんの片脚を持ちあげその身体をひっくり返すと、内臓が捩れるような感覚に悲鳴を上げる彼女を後ろから貫いた。
「ああぁっ!やだっ!」
「繋がってるところ、よく見える」
きつくシーツを握り締め、恥ずかしさに耐えながらも、心のどこかでうっとりとこの状況を愉しんでいる、そんな自分を感じていた。
獣のような格好で突かれるたび濡れた陰毛がにちゃにちゃと絡み、泡立って白濁した愛液が腿を伝ってシーツにこぼれる。
背中に密着した飛島君の熱い身体が彼女を包み、触れる場所から広がる快楽に白く途切れそうな意識を必で繋ぎとめている。
「ひっ…ああぁ…ああん…!!」
「熱くて…こんなに締め付けて…や…らしいな…蕨の…カラダ!」
「…!ばか…ああっ」
荒々しく打ち込まれる切っ先が一番奥まで届き、そのたびに電流が流れるように全身が痺れる。
何度も何度も角度を変えて執拗に責め抜かれ、息も絶え絶えになりながらもその全てを受け止めた。
「もう…出る…!」
「は…ああっ!あああっ!!やぁっ…!!」
一番深いところで射精の痙攣を感じながら、同時に絶頂を迎える。
お腹の奥がぎゅっと切なく震え、そのまま蕨さんは失神した。
- 81 :
- 「蕨、蕨、大丈夫か」
(体がだるい。ここはどこ。)
自分を呼ぶ声にうっすら目を開け、状況を思い出した。
体のどこかしこにまだ快楽の熱が残っている。
飛島君が心配そうに覗き込んでいる。
痴態を晒した恥ずかしさと、無理やりに近い行為に怒りがこみ上げる。
「飛島くんの…馬鹿、変態、これじゃまるで…ご、強姦じゃないか」
「ごめん」
いつもの俺様な態度は鳴りを潜め、殊勝に謝る飛島君の姿に蕨さんはちょっとだけ胸がすっとした。
「でも、好きなんだ、蕨のこと」
真剣な顔で見つめられると、蕨さんも心が動く。
汗で張り付いた額の髪をそっとかきあげる指が、とても優しい。
(飛島君は器用だけど、不器用なんだ)
「…うん」
「付き合おうよ、俺達」
「……うん」
蕨さんは頬を染めて頷く。
「でも、いきなりこういうのは、やだよ」
「わかった。気をつける……だけど気持ちよかっただろ?」
「…うん……あっ!違う!今のナシ!」
ニヤニヤと笑う飛島君に枕を投げつけ、蕨さんは急いで服を着た。
枕のあった場所に、一冊の本が置いてある。黒いカバーに黄色く【成年向け】と書かれた文庫サイズの本だ。
「…何?これ」
手に取ると、タイトルは【女子校生陵辱調教】と見るも猥褻な文字が並んでいる。蕨さんはうわっと放り投げる。
「テキストだよ。予習したんだ。なんせ初めてだったから」
「へ…変態…」
(つーかそのテキスト、何か色々間違ってる…)
飛島君は悪びれもせず、拾い上げ本棚へと仕舞った。よく見るとその手の本がずらっと並んでいた。
(おいおい、普通隠すもんなんじゃないのか?)
「でもやっぱりうまく出来たし、セックスは勉強とかと違って達成感があるなぁ」
飛島君はそう言うと爽やかに笑った。
蕨さんはがっくりと床に手を着く。
(こ、このひとは…。)
天才と何とかは紙一重という言葉が頭をよぎった。
「どうした、蕨」
「なんかめまいが…」
「ハンドパワーは自分自身には効かないのか?」
そういいながら抱き寄せ自分に凭れさせる。蕨さんは逆らわず身体を預けた。
(私の身体どーなっちゃってるんだろう?)
性的な意味で触ったことも触られたこともなかったので、自分の体がこんなに『感じ易い』なんて知らなかった。
さっきまでの自分の行為を反芻する。鳩尾のあたりがきゅんと切なく痺れた。
(気持ちよかった…)
飛島君の掌がするりとまだ熱い頬をすべり、指先で耳朶をなぞる。
「あ…」
ぞくぞくと背筋が震え、小さな溜息を漏らす。
飛島君はニヤリと笑い囁く。
「ところで蕨、次はどんな風が良い?」
蕨さんがなんと答えたかは、飛島君だけの秘密である。
おしまい
- 82 :
- ご清読ありがとうございました。
ムラムラして書いた、後悔はしていn(ry
川原先生ごめんなさい
- 83 :
- エロい高校生、好きです。笑
- 84 :
- 飛島くんのありえないぐらいテンパった様子がかわいい。でも乱暴はいくないですじょ
- 85 :
- 乱暴狼藉ごめんなさい保守
職人様どなたか降臨されないだろうか
- 86 :
- 全部書き上げてから投下予定でしたが、それでは保守代わりに投下します。
後編は2週間後ぐらいの予定です。
原作名:架空の森
カップル:織人×苑生
注意書き:エロなし
- 87 :
- 卯の花咲く中、異人さんがやって来た。ゴジラのお嫁さんを貰いにやって来た。
仏壇の前で線香を供え、織人が手を合わせている。
苑生は不思議な気持ちで、黙ってその所作を眺めていた。
「今、道場はどうなさってるんですか?」
仏壇から向き直り、出された茶を一口飲んでから織人が尋ねる。
苑生は何も言えず、その姿をぼーっと見ていた。
「?……苑生さん?」
「あ、ああ、すまぬ」
「どうしたんです?苑生さんらしくもない……」
じっと見つめられ恥ずかしくなり、あわてて茶を飲み込む。居心地が悪い。
折りに触れ、織人の事を思い出す事はあった。しかしその姿は記憶のまま、少年の姿に近かったのだ。まさかこんなに立派になっているとは。
あちらの牛肉をたらふく食べたせいなのか、それとも元々の体質なのか、織人は予想以上にすくすく育っていた。否、育ちすぎだ。
――――昔は守ってやれるくらい小さな子だったのに。
なぜだかそれが無性に悔しかった。
えーと、何の話をしていたのだっけ。
「道場は続けているぞ。じいさまの道場を、私の代で途絶えさせる訳にはいかぬし」
それに毎週やってくる子どもたちは、苑生の生活に彩りを与えてくれていた。
その中に、自分の幼い頃や、織人少年の面影を見ていたのかも知れぬ。
また遠い目になった苑生に、織人が切り出した。
「苑生さん。先程も言いましたが、僕のお嫁さんになって下さい」
「……冗談で言ったのだと思った」
呆然と織人の顔を見つめる。今日はエイプリールフールでは無かったはずだが。
「冗談を言うためだけに、わざわざ日本まで来ませんよ」
破顔一笑。
織人は大きく笑崩れた。苑生の手を取り、じっと見つめるその顔が真剣になる。
「今すぐ返事をくれとは言いませんが……考えていただけませんか?」
アメリカに渡り、御曹司としてなに不自由ない生活をして来た織人の周りには、財産目当ての女がわんさか寄ってきた。
でも織人には判っていた。
あの人達は、ラトレル家が無一文になった途端、僕の前から逃げ出すだろう。
苑生だったらそんな事はない、と信じていた。
今も目ざとい女なら素早くチェックする、時計や靴、仕立られたスーツの生地の良さなど、苑生はちっとも頓着していない。
ただ再開を喜び、立派になったと褒めるだけで、あからさまに媚びたりはして来ないのだ。
そんな苑生だからこそ、共に一生を歩んで欲しいと心から願う。
かたや、苑生の答えはもう出ていた。
ゴジラのまま玄関に出た時、織人が笑い飛ばしてくれた事で、心が決まったのだ。
「……わかった。嫁になる」
余りに早く答えを出したからか、織人が狼狽え出す。
「え?良いんですか、そんなに簡単に決めてしまって」
「簡単に決めた訳ではない……武士の誓詞 金鉄の如しと言うではないか。そんなにすぐ翻したりはせん」
そう、簡単に決めた訳ではない。
織人の心の中にずっと苑生が住んでいたように、苑生の心の中にもずっと織人が住んでいたのだから。
カッコ悪かろうが貧乏人だろうが、織人が織人のままなら、それで良かった。
- 88 :
- 「ただし、幾つか我儘を言わせて欲しい。その我儘を叶えてくれるなら、嫁ぐ」
「いいですとも!何でしょう?」
少しでも返事が遅れたら気が変わると思っているのか、織人は急いで尋ねた。
苑生が望むなら月さえ取って来そうな勢いだ。
「一つはこの家で仮祝言を上げたい……ここからお前の元に嫁いで行きたいんだ」
「わかりました、今すぐ手配します!」
そう言って電話をかけに行こうとする織人を、苑生は押しとどめた。
「いや、華々しくなくて良いんだ。幸い、羽織袴はじいさまのがあるし、ばあさまが嫁入りの時に着た着物もある。仏前で……じいさまとばあさまの前で誓うだけで良い」
「でも……」
織人の首が、ビクターの犬のように傾く。
女性と言うものは、結婚式を華やかにしたがるものではなかったか。
いや、相手は苑生さんだ。そんじょそこらの婦女子とは違う人だ。
だからこそ織人は苑生に惹かれたのだ。
あの頃、同級生も近所の人達も、皆が織人と母を動物園のパンダを見るように珍しがり、毎日のようにその噂で持ち切りだった。
そんな中で狩谷家の人たちだけがその輪に加わらず、色眼鏡抜きで織人たちの事を見ていてくれたのだから。
「心から喜んでくれたであろう じいさまばあさまに、一番に花嫁姿を見せたいんだ……」
わかって欲しい、と苑生の点目が訴えた。
「……もちろんですとも。ここで仮祝言を上げましょう」
――――もう、じいさまもばあさまもいないけれど。
ここで式を行う事で、きっと二人は喜んでくれる。そう思いたかった。
「あと……出来れば、なのだが……」
言葉を濁し、苑生はその先を言いよどんだ。
「何ですか?僕が出来る限りの事はします」
「……とても、言い出しにくいのだが…………」
中々切り出さない苑生に、織人の妄想がどんどん膨らんでいく。
『私の夫になるなら陣で100人斬り』か?『居合で唐竹割りを』とか?
もし……もしも、『北海道のヒグマを倒してこい!』とか言われたら。
そう考え、織人の顔が若干青ざめる。
――――いやいや、苑生さんをお嫁さんにするためだ……が、がんばろう。
「言って下さい。……何でも」
ごきゅっと唾を飲み込み、覚悟を決め重々しく尋ねる。
「もし出来れば…………一日で良い。私より、長生きしてはくれまいか」
小さく呟いた言葉に、思いがけず胸を突かれた。
苑生は小さい頃 両親を亡くし、育ててくれたばあさまじいさまにも先立たれ。
誰もいなくなったこの道場を、たった独りで守って来たのだ。
きっと誰に愚痴ひとつ零す事なく、凛と顔上げ歯を食いしばり、何事もなかったように笑って来たのだろう。頑張っていると言う素振りさえ見せずに。
思わずじかっ!と苑生を抱きしめ、織人は立板に水のごとく捲し立てた。
「わかりました。……大丈夫!元々 僕の方が年下なんです、苑生さんを置いて先立つなんて事はしませんよ。僕、普段の食事も日本食ですし、
剣道も続けてますし、健康に気を使ってます。共白髪になるまで添い遂げられますとも!添い遂げるといえば、やはり苑生さんのお祖父さんお祖母
さんがお手本ですよね。あんな風にいつまで経っても仲の良い夫婦になりましょう。そうそう、お祖父さんと言えば……」
腕の中で、苑生がくすくす笑い出す。
「良かった……織人だ」
「え?」
言葉の意味が掴めず、眉間がコイル巻きになった織人の顔を真っ直ぐに見返した。
「あんまり立派で無口になって、私の知ってた少年じゃないような気がしていた」
見上げたまま、苑生が微笑む。
二人の間で凍ったままの年月が解けた。そんな気がした。
- 89 :
- 夕方、準備が整い、二人だけの華燭の典が執り行われた。
裾や内揚げを出せるだけ出したが やはり少し寸が足らず、紋付袴が七部丈の新郎がお膳の前にしゃちほこばって座っている。
苑生の祖父の謡う「高砂」が、ラジカセから流れだした。
『いつか苑生の結婚式で謡うんだ』と練習していた録音テープが、残っていたのだ。
うつむいたまま片手を誰かに取られているように掲げ、祖母の婚礼衣装を纏った苑生がゆっくり仏間に入ってくる。
お頭付きの魚はシシャモ。三三九度用に用意した屠蘇器に入っているのは料理酒。
他にも苑生の心づくしの煮物や漬物など、新婦の望み通りの質素な膳が、向かい合わせに4つ並んでいた。
酒器を何度か傾け、盃を交わす。
この世に神様がおられるのなら、きっと、祝福のために祖父と祖母の魂をここに遣わして下さっている。
傍から見たら滑稽かもしれないが、二人ともその事を疑っていなかった。
織人が持参した婚約指輪は少しサイズが大きくて、指に嵌めてもらうと石の重みでクルリと回る。
そのまま苑生の手を握り、織人は仏壇に向かって誓った。
「お祖父さん、お祖母さん。そして、苑生さんのお父さん、お母さん。遠くに攫って行くのは申し訳ありませんが、きっと幸せにします。苑生さんを、僕に下さい」
深々と頭を下げるのを見、慌てて苑生も頭を下げた。目の前がぼやけて霞む。
そのおとがいを上向かせ、唇が優しく重なった。
新婦の頬に零れた涙をキスで吸い取ってから、壊れ物を扱うように静かに離す。
「……ありがとう」
万感の思いを込めた苑生の声が、震えて消えた。
「僕の方こそ……ありがとうございます、苑生さん」
「もう私はお前の妻なのだ、“さん”は要らぬ。苑生と呼ばんか」
「そっ……そ、のお……」
居心地悪そうに、少し赤くなって名を呼ぶ織人に釣られ、苑生の頬まで赤らんだ。
スピーカーから高砂に続き、べんせいしゅくしゅくぅ〜♪と「川中島」が流れ出す。
気まずさを救われ、二人は顔を見合わせて吹き出した。
ささやかな祝宴が終り、順番に入浴をすませた二人は、苑生の部屋で布団の上に向かい合った。
「あの……本当に良いんですか?」
落ち着き払った苑生とは対照的に、織人は夜中のハムスターよりも落ち着きを失っていた。
「かまわん。別に今更、やっぱり結婚するのや〜めた!などとは言い出さんだろうし」
「ええ、それはもちろん!決してそんな事は言いませんけど……」
なぜか心持ち赤くなった織人は、シーツの上にのの字を書き出す。
「大丈夫、覚悟は出来ておる。どこからでもかかってこんか」
果し合いか何かと勘違いしているのか、苑生の目が親の仇を見るように光る。
意を決して織人が肩を抱き寄せた。
「それでは……失礼しますっ!」
気のせいだろうか。旗を持った審判員の『始め!』という号令が掛かった気がした。
- 90 :
- 最初は、軽くついばむように何度か唇を合わせ。
苑生の下唇のラインを織人の舌がなぞる。
それでも抵抗がないのを見てとると、織人はにっこり笑ってキスを深め始めた。
下唇を軽く噛んでから強く吸い、強引に唇を開かせると、舌が口腔に潜り込んで来る。
――――ちょっと待て。
と叫びたくても、苑生に声を出す隙は無い。
そのまま織人の舌が苑生の歯列をなぞり、舌を絡ませ、吸い上げ、上顎の内側を擦る。
なんだかとっても、初心者向けを大きく逸脱しているような気が。
「……キスを返してください」
唇を離し、苑生の頬に掛かった髪の毛を耳にかけながら織人が頼んだ。
「かえs……むぐぐぐ……」
どうすれば良いのか判らず、苑生は必に織人のキスを真似た。
が、全然相手にならない。
苑生とて、キスとはどんなものか知識として知っているつもりだった。
しかし苑生が知識として知っているキスが三歳児のチャンバラだとすると、織人が仕掛けるキスは剣道の8段試験並み。格が違いすぎてお話にならない。
単に唇を重ねる、舌を絡ませるだけではない動きに、唇の中も外も犯されているようだ。
いつの間にか織人の膝に乗せられ、逃げないよう抱きすくめられている。
床に横たえられた頃には、どちらの息も上がっていた。
服の合わせ目を寛げようとしたので、苑生は慌てて手で押さえた。
「せ、せめて、電気は消してくれ……」
「僕、出来れば電気は付けたままが良いんですが」
「なっ!……私は初めてなんだ、恥ずかしいではないかっ!」
真っ赤になった苑生が、襟元をかき合わせ叫んだ。
こちらも赤くなった織人が、小さな声で説明する。
「あ〜……えっと、その……実は僕も初めてで……」
「嘘だぁぁぁっっ!!!!!!」
ネオンライトのように派手な声で苑生が叫ぶ。
「ならば、さっきのキスはなんなんだ!JAROに電話したくなるほど、初心者とは思えないじゃないか!!」
あ〜……嘘、大げさ、紛らわしいは、よろしくないれすね。
「いや、最後までした事はありませんが、危うく襲われかかった事が何度も……」
そうなのだ。
酔ってソファに座ってた所を馬乗りで襲いかかられたり、部屋に入ったとたん鍵をかけられ追い詰められたり、パーティー会場で暗がりに引きずり込まれ いきなり唇を奪われたり。
非道い時には残業中のオフィスで、振り向いたら、にっこり笑った個人秘書が裸で立っていた事もあったんである。
さすが肉食の国、アメリカ。
アメリカンドリームと言ったら聞こえは良いが、その実情は群雄割拠の下克上。
本気出して玉の輿狙ったら、やる事がパネエっす。
そこにはジャングルや北極よりも過酷な、弱肉強食の世界が広がっているのである。
全身に練り餌を付けたまま100匹のジョーズから逃げるような当時の状況を苑生に説明し、どれだけ頑張って最後の一線を守ったか力説する織人だった。
「……恐ろしいな、毛唐の国は。一体 何 考えてるんだろうか……」
あなたの知らない世界すぎて呆然とした苑生の顔に、縦線が走る。
「正直、僕も男なので、流されそうになった事もありました」
遠くを見つめ、枯葉を飛ばしながら白目の織人が邂逅していた。大変でした……とその背中が語っている。
「でも、やっぱりそーゆー事は、苑生さん以外とはしたくなくて……」
そこで振り返った織人は、苑生の肩をわしっ!と掴んで畳み掛けた。
「ですから……電気はつけたままにして貰わないと、どうすれば良いのかさっぱりなんですっ!良いですね?!」
気迫のこもった言葉に、苑生はただ頷くしか出来なかった。
(つづく)
- 91 :
- うわぁうわぁ!!ご光臨!!!
素敵GJ!!
つづきwktk!
全裸でまってます!!
- 92 :
- 私も全裸で待つ。織人の長年かけた純愛が泣かせるよ。
読みきりの中でも一番切なくて大好きな話なんで、また読めて嬉しい。
- 93 :
- 私も好きだ
保守
- 94 :
- 私もこの二人が一番好きだ。また読めて嬉しい…続き、待ってます。
- 95 :
- 保守
- 96 :
- hoshu
- 97 :
- 保守でございます
- 98 :
- ☆
- 99 :
- ☆
- 100read 1read
1read 100read
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