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2012年5月エロパロ198: 男主人・女従者の主従エロ小説 第五章 (352) TOP カテ一覧 スレ一覧 Pink元 削除依頼

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男主人・女従者の主従エロ小説 第五章


1 :11/07/30 〜 最終レス :12/04/27
男主人・女従者の主従関係ものを扱うスレです。
・英明な王に公私共に仕える美貌の女宰相
・ぼんくら閣下と美人の副官
・屋敷の坊ちゃまとイケナイ関係になる女家庭教師(ガヴァネス)
などなど身分の違いから階級による違い、雇用関係など主従なら何でもあり。
純愛鬼畜陵辱ハーレムなんでも可。エロなしSSでも主従萌えできるなら全然おけ。
“妖魔と主従の契り”とか“俺様魔法使いとドジッ娘使い魔”とか人外ものもドンと来い。
ちなみに一番オーソドックスと思われる“ご主人様とメイドさん”はこっちでもいいけど
専用スレあるので投下は好きなほうにドゾー。
主従SS投下と主従萌え雑談でマターリ楽しくやっていきましょうや。
◇過去スレ◇
男主人・女従者の主従エロ小説 第四章
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1293630054/
男主人・女従者の主従エロ小説 第三章
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1222710811/
男主人・女従者の主従エロ小説 第二章
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1185629493/
男主人・女従者の主従エロ小説
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1164197419/
◇保管庫◇
http://wiki.livedoor.jp/slavematome/d/

2 :
◇姉妹スレ◇
【従者】 主従でエロ小説 第七章 【お嬢様】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1263220316/
↑こちらは女が主人で男が従者(時と場合により女従者)の主従を扱うスレです。
双子のようなもんで、そっくりですが性質は全く違います。
仲良く棲みわけましょー。
◇その他関連スレ◇
【ご主人様】メイドさんでSS Part10【旦那様】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1283425249/
男装少女萌え【11】
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1296266561/
◆ファンタジー世界の戦う女(女兵士)総合スレ 7◆
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1292249974/
古代・中世ファンタジー・オリジナルエロパロスレ5
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1284381359/

3 :
>>1 乙です

4 :
>>1乙!

5 :
いちおつ

6 :
>>1乙!

7 :
ありがとう!いちおつ

8 :
午後11時。厨房。
メイベルは、主がいつも使っていたティーカップを、探していた。
どれだけ探してもみつからないそれに、彼女は正体の知れない不安を抱く。
―ベティが、屋敷を出た。
使用人たちがそれを知ったのは今朝のことだった。
誘導犬を失った牧羊たちのように、彼らは激しく混乱した。
屋敷のことを知り尽くし、ある意味で屋敷そのもののようであったベティ。
そしてそれを何よりも誇りに思っていた彼女。
彼女がいなくなる。それは、彼らにとってこれまで想像すらしたことのない事態であった。
メイベルは彼らの間で飛び交う噂を、静かに聞いていた。
―まさか、ベティ様がお辞めになるなんて。
―それもきっとみんな、あの子が。
―どんな手を使って取り入ったのかしら。
―興味のないふりをしていたくせに。汚い女。
別荘から戻って2日の間。
メイベルと口を聞いてくれるものはただの一人もいなかった。

9 :
自分は構わない。
代わりのティーカップを温め、紅茶の準備をしながら彼女はそう思う。
疎まれ、無視され、物を盗まれ、中傷されることが、けして辛くない訳ではない。
しかしこうなることは、ずっと前からわかっていたし、
実際、興味のないふりをしていたのも、主と関係を持ったのも本当のことだ。
そんなことよりも、彼女が心配しているのは主のこと。
―半分、母親みたいなものかもしれない。
ベティの事を話すとき、感情をあまり表に出さない彼の顔に、
わずかに親愛の色が浮かぶのを、彼女は確かに認めた。
クリフはベティのことを大切に思っていたはずだ。
それなのに、なぜ彼女は屋敷を出なければならなくなったのだろう?
彼女にはわからなかった。
一つだけはっきりとわかっていることは、明らかに、自分が関係しているということだけ。
長い間、互いにかけがえのない筈であった二人。主従関係を超えたつながり。
それを自分が、引き裂いた。
鉛のように重く暗い罪の意識に、彼女の胸は潰れた。

10 :
ベティに、屋敷に戻ってすぐに、主との関係が彼女に感づかれたことを、メイベルは悟った。
しかし、不思議なことに、ベティは何も言ってはこなかった。
そして昨日の夜。
―お前はもうお下がり。
この厨房で、彼女はティーポットをメイベルの手から奪った。
―今日の給仕はあたしがやる。
口調はいつものぞんざいな調子であったが、様子は明らかにいつもと違った。
いつもは無遠慮なくらいな視線を向けてくるはずのベティの眼は
彼女を通り越してずっと遠くを見ていたし、
その横顔には今までにないような焦燥が見て取れた。
―何をじろじろ見ているんだい。
ベティがそう言ってこちらを向くと、彼女の心臓は縮みあがる。
しかし強い罪悪感と恐怖を感じながらも、メイベルは不思議でならなかった。
なぜ彼女が何も言わないのか。言及することも、怒鳴りつけることも、しないのか。
すると、彼女は独り言のように呟いた。
―愚図だよお前は。だから気をつけろと言ったのに。
その時、ようやくメイベルは、彼女がずっと前から
自分たちの関係を察していたことに気がついたのだった。
言葉に詰まるメイベルに、ベティは不気味なほど静かに言った。
―お前は何にも知らない。でもあたしは、あの方のことをようく知ってる。
ポットの蒸気の向こうで、彼女は決意を固めるように唇をかんだ。
―あたしは、お前が生まれるよりも前から、あの方のことを見てきたんだ。
屋敷の長く、暗い廊下。
ワゴンを押して歩きながら、彼女は不安を感じる。
なにかがおかしい。
ベティのいない空っぽの屋敷。大きな歪んだ変化。
自分の知らないところで、何かが起きている。
少しずつ、ズレのように。
日常に入り込んだ悪意のような不純物が、じりじりと、隠れたところで膨らんでゆき。
取り返しのつかない大きなものとなっていくような、違和感。
しかし、不安に囚われている場合ではない、と自分を奮い立たせる。
主と話をしなくては。
彼女がここにまた戻ってきてくれるように。
クリフには間違いなく彼女が必要なのだから。
―そのためなら、どんなことでもする。
彼女は息を吸い込んで、ノックをする。
ノックは、決まって2回。

11 :

「失礼いたします」
重い扉の奥に足を踏み入れると、机に向かっている主が顔を上げた。
「もうそんな時間?」
彼が笑いかける。
優しい声、穏やかな表情。
メイベルは仄暗い違和感を覚える。
ベティを失ったにも関わらず、彼が、
いつもと何ら変わらない微笑を浮かべていることに。
「今日は何?」
彼女の不吉な予感は、主の顔を見ても消えることはなかった。
鼓動が少しずつ早まるのを感じながら、努めて静かに答える。
「ディンブラでございます」
紅茶を主に差し出した。
「いい香りだね」
クリフが紅茶に口をつけると、彼女は時を待たずに言った。
「旦那様、ご質問がございます」
彼が静かにカップを置いた。
「どうしてベティ様は…お辞めになったのですか?」
鼓動が胸を刺すように冷たく波打つ。
静かな暗い室内で、ランプ中の橙色が揺らぐ。
彼は、少しの間の後、口元から笑いを消し、静かに口を開いた。
「彼女は、使用人として許されないことをした」
そして付け足すように言った。
「僕としても、とても残念だったんだけど」
許されないことをした、ということは。と彼女は思う。
屋敷を出たのは、ベティの意志ではなかったのだ。
メイベルは、血の気が引くような感覚を覚えた。
―彼がベティを解雇したのだ。
「でも、どうして…ベティ様が…」
クリフは、はっきりと言った。
「それを君に話す義務はない」
「私の、せいですか?」
メイベルは動揺し、主の言葉を遮るように口を開いた。
「私のことで、何か、ベティ様が…」
「それは少し違う」
メイベルの声が震えていることを、彼は気づきもしないかのように答える。
「これは、あくまで彼女と僕の問題だから」

12 :
「でも、そんなの、おかしいです!!どう考えても、私のせいで…!!」
思わず、彼女は声を上げた。
激しい罪悪感と動揺が、胸の中を駆け巡る。
「ベティ様がいなくては、このお屋敷は回りません!旦那様だってご存じの筈です!
それに、旦那様は、ベティ様を…大事になさっていたのではありませんか?!」
「…メイベル」
彼は、遮るように、諭すように、彼女の名を呼ぶ。
しかし、興奮した彼女はそれを振り切り、早口に言葉を紡ぎ続ける。
「私のせいで、ベティ様が辞めるなんて変です!
ご迷惑をおかけしたのは私の方です!それならば…」
「メイベル」
「私が辞めさせられるのが、本来なのではありませんか!?」
彼女は詰め寄り、喰ってかかるようにして、叫んだ。
その声の余韻が室内に染み込み、静寂が訪れるまでクリフは言葉を発しない。
彼は眉ひとつ動かさず、彼女の瞳を覗き込むように見ると、確認した。
「それ、どういう意味?」
そのとき、彼の眼からは一切の表情が消えていた。
しかし、平常心を失ったメイベルはそれに気がつかない。
「代わりに、私を首になさって下さい」
メイベルは怯まずに、彼をまっすぐに見つめた。
「そんなことを僕が認めると思う?」
「ベティ様をお辞めさせになるのなら」
それはメイベルを突き動かしてきた信念の問題であった。
勢いだけで言っているわけではない。
ただの一使用人の自分が。
個人的な問題のために屋敷の秩序をかき乱した上、
他人を、それもメイド長を、犠牲にするなどということは、
自分にとっては絶対に受け入れられないことであった。
それが、たとえ。
―愛する彼と、二度と会えなくなることであろうと。
メイベルははっきりと口にした。
「私が出ていきます」
そして、その時。
メイベルはようやく、異変に気がついた。
―彼が。笑っている。

13 :
「わかってないね」
彼は笑っていた。
くすくすと、さも可笑しそうに。彼女をからかって笑う時と、全く同じ顔で。
蛆のように、足元から這い上がる不吉な感覚。
彼女がそれを知覚するのとほぼ同時に、彼は言った。
「ロベルタ」
メイベルは、耳を疑う。
さあっと体中を寒気が走り抜け、彼女は思考のバランスを失う。
名前。
懐かしく。
恐ろしく暗い響き。
それは。
今まで人には話してこなかった、名前。
―わたしの、本名。
「メイリーン・ロベルタ・ジャレット」
彼は、まるで歌の歌詞を諳んじてみせるように、すらすらとそれを口にした。
「生まれは貧しいスラム街。母親はろくでもない娼婦、父親は不明。
酒浸りの母親に、毎日のように殴られながら育ってきた」
状況が理解できない。
彼女の理性は、それを受け入れることを拒否していた。
膝だけが、がくがくと嘲笑うように震えていた。
―これは。
彼女の脳は軋む。
―夢?
「13歳の時に売春宿に売られ、客を取らされる一歩手前で逃げた。
そこをたまたま運よく、通りがかったアルバート家の令嬢に拾われた。
…あそこの一人娘はもの好きで変わり者でよくモノを拾うって、とても有名だ」
主ののんびりとした声はどこまでも、滑らかに続く。
多くの話を彼女に話して聞かせてくれた、それと同じように。
―しかしこの聞き覚えのある、物語は。
「だけどそのお嬢様も程なく家出…行方知れずになってしまうと、
それ以上そこに居られなくなって、あっさりと追い出された。
だけどその屋敷で、血のにじむような努力をして、優秀なメイドになっていたから―」
彼の言葉は呪文のように、彼女の自由を奪う。
「その働きを買われてこの屋敷に来た。それが3年前。つまり」
彼はとびきりの笑顔を作ってみせた。
「16歳の時の、君」

14 :
確かにそれは、彼女が長い間焦がれ、憧れ続けた、その笑顔。
目の前にいるのは、間違いなく、彼女が愛してやまなかった。
自分の主人。
「もう一度、よく考えてごらん」
顔を少し傾け、彼は極めて優しくメイベルの言葉を促した。
「…僕から、逃げられると思う?」
彼女は思わずよろめき、ワゴンに手をつく。
茶器ががちゃん、と粗雑な音をたてた。
しかしその音も、うまく耳には届かない。
「…ど…どう、して…」
「使用人の素性を調べるのは、雇用主としては当然だと思うけど」
喉からようやく絞り出した彼女の言葉を、クリフはあっさり受け流す。
「屋敷に変な鼠が、紛れていると困るから」
そして、彼は立ち上がる。
ランプの光に照らされ、ほっそりとした長身が、壁に影を映す。
得体のしれないその黒い塊。喉の奥に走る、冷たい感覚。
知っているはずの、知らないはずの。端正な彼の顔。
その顔は、紙のように白く、まるで、人のそれのような、色。
「…こ、…ないで…」
恐怖に駆られ、言葉が思わず彼女の口をついた。
「来ないで?」
その時。
それまで変化のなかった彼の表情が、見たことのない形に歪んだ。
「誰に向かって口を利いてるの?」

15 :
そして。
背中に大きな衝撃が走り、彼女は自分が床に引き倒されたことに気がついた。
クリフは覆いかぶさり、彼女の唇を塞いだ。
驚くほど冷たい舌に、口の中を犯されながら、メイベルは混乱する。
どういうことなんだろう。
主がなぜこんなことをするのだろう。
いつも優しかった主。宝物を扱うみたいに、大切にしてくれた彼。
これは悪い冗談なのだろうか。
いつもの意地悪で、私のことをからかっているだけで。本当は、ぜんぶ、嘘で―
しかし、何をいくら考えても、彼女の体の震えは止まらない。
クリフの手が引き裂くようにして乱暴に、彼女の衣服の前を開く。
息が詰まるほど愛しく感じたその大きな手が、その広い肩が。
彼女に数え切れないほど多くのものを与えてくれた瞳が。
見たことのないような、悪意に染まっている。
「…あ…っ!」
―なに?
恐怖と混乱に支配されながらも、メイベルは自分の体に触れられた瞬間、
火のつくような快感が走ることに、驚愕した。
―なに、これ。体が。
次の瞬間、抗いがたい程の快感が、わずかに残された思考さえを奪おうとする。
「あ、あっ…!」
心はそれを拒否しているにも関わらず、
肉体はコントロールを失ったように狂おしいほどに彼を求める。
自分の体が、別の意志を持っているように、彼に服従している。
欲望に呑まれることを、望んでいる。
「君は僕のものだよ」
耳からぞっとするような声が、メイベルの思考に、割り入ってくる。
「い、や…っ!」
絶望。恐怖。愛情。混乱。絶望。悲しみ。快感。衝撃。嫌悪。
まとまりのないさまざまな感情に手足を引っ張られ、彼女はどうすることもできない。
「ねえ、わかる?」
彼は耳元で囁き続ける。
「君はもう、僕なしではいられないってこと」
「ん…んんんっ…!」
「本当に君は。どうしてこんなに可愛いんだろう」
―いや。
彼は、烙印を押すようにして、言った。
「絶対に、逃がして、あげない」

16 :
略奪されるように、捕食されるように。
彼女の体は犯される。
「あ…ああ、いや…っ…あああ!」
呼吸が早まり、彼の冷たい指が、膚が、ぐちゅぐちゅと絡みつく。
彼女は解剖される蛙のように、体を開かれ、されるがままに嬲られる。
擦られ、かき回され、舐られ、まるで玩具のように扱われて。
凍りつくほど不快なのに、信じられないくらいに気持ちがよくて。
愛してやまないのに、心の底から恐ろしくて。
「はぁ…、ん、ぁ…ああっ…」
―こんなの、いや。こんなの、おかしい。こんなの。
彼女の理性が、重力を失い、ばらばらに飛び散りそうになる。
―もうやめて…
叫びは声にならない。
―やめて…
彼女の声は、どこにも届かない。
―やめて。
ぶつり。
その時、何かが切れるような奇妙な音がした。
快楽が体から蒸発するように消えてゆく。
気がつけば、彼女は現実から隔離され、不思議な程、落ち着いていた。
メイベルは思い出す。
これまでにも、こうした体験をしてきたことを。
母親に、酒瓶で一晩中殴られ続けたときも、
空腹のあまり盗みを働き、骨が折れるまで蹴られたときも、
前の屋敷で、他の使用人の気に障り、何時間も打たれたときも。
こうすれば、大丈夫だった。
体の感覚が切り離されれば、彼女はどこまでも安全で、守られた。
平気だ。なんのことはない。
彼女は思う。
いつだってこうして耐えてきた。ひとりで。
どんなにつらいことでも。
どんなに苦しいことでも。
どんなに悲しいことでも。
たったひとりで。
彼女は、ぼんやりと、自分に覆いかぶさっている男の姿を眺める。
底の見えない飢えに取り憑かれた男。
その肩越しに、窓の外がゆっくりと白んでいくのが見える。
樹が風に揺れ、鳥が鳴き、夜明けが来ることを彼女は知る。
―はやく、どけてくれないかしら。
メイベルは醒めた目で男を見る。
じきに朝が来るというのに、いつまでもこんなことをしている暇はない。
―わたしは
彼女は思う。
―寝起きの悪いあの人を、起こしに行かなければならないのに。

17 :
おおう…!! 急展開が続く!!
旦那様がいよいよ黒旦那様に!!

18 :
防波堤だったベティがいなくなるとは…。
メイベルには幸せになってほしいけど、どうなっちゃうんだ!
投下サイクルが速くて嬉しいです!

19 :
GJです。
しかし初めのうちは割とほのぼのしていて可愛らしい二人だったのに怒涛の急展開。
メイベルにそんな過去があったとは。
クリフの謎も気になるし恐いよ。メイベルをどうしたいんだ。心配だ。

20 :
前スレ>>535に以下レスしようとしたらもう書けないんですね
なのでこちらに
>>535
続きずーっと待ってましたupthxGJ!!
「渇いた愛」の裏でアーネの心情はどうだったのか気になっていました
これからも心待ちにさせていただきます

21 :
アーネの作者さんもGJ。
本当に産みたかったのか。
中絶は人。そんな罪は犯せない。
だからしたくない>産みたいだと思っていた。
話が進む程にアーネに違和感を感じてきていたけど、レイプが精神的人
というのはこういう事なんだよな。
まともな思考ではないけれど、そもそも状況がまともではないからか。
なんだか子供が希望みたいに思えてきてしまっていたとか本当にアーネが不憫
でならない。
司祭様も子供が支えというなら生きていてくれるように励ますしかないよな。
完全に精神崩壊する前に助け出されると良いけど先が見えない感じだ…。
しっかし旦那様はアーネの行動は当然監視していて相変わらずのキモさウザさ。
これで子供が無事に産まれていたらますます付け上がるだろうからよかったよ。

22 :
アーネGJ
これって話的には子供が息子の子供なのかって疑ってたあたりかな?
続き楽しみです

23 :
今でも鮮明に思い出す。
1年ほど前、夜中に目を覚まし、たまたま、廊下から中庭に目をやった時に、
そこにいるメイベルを見つけた時のことを。
草花に囲まれ、制服でないぼろぼろの服を着た、長い髪の幼い娘。
しばらく見なければ彼女とはわからない程、別人のような彼女の姿。
彼女は真夜中の庭に腰をおろし、空を見上げ、所在なく手足を投げ出していた。
呆けたような、なにもかもから解放されたような、のびやかな表情。
目を閉じ、頬に受ける風を感じているその横顔。
その豊かな表情に、クリフは思わず息をのんだ。
―本当は、どんな子なんだろう?
―メイベル・ジャレットと申します。
3年前、彼女が初めて屋敷に現れたとき。
特に珍しくもないような、どこにでもいるような、若いメイド。
第一印象はそうだった。
しかし、その日から少しずつ、屋敷には
注意しなければ気がつかないようなわずかな変化がもたらされていった。
たとえば、それは、目立たないところにそっと飾られた花であったり、
タオルに少しだけ振りかけられている香油のよい香りであったり、
ぴかぴかに磨かれていた書斎の古びた掛時計であったり、
驚くほど鮮やかな風味の紅茶であった。
担当の名を尋ねると、その答えはいつもメイベルだった。
なかなか出来ることではない。
彼は思う。
若い使用人たちの多くは、自分たちの不遇さを嘆き、
毎日を生きてゆくためにただ与えられた仕事を表面的にこなし、
そして、隙あらば何かを得ようとした。
つまみ食いをしたり、手を抜いたり、時としてそれは盗みの形をとることもあった。
メイベルはその中で、異質だった。
徹底的な、あるいはそれ以上の仕事をしながらも
それをけして人目に触れさせようとはしなかった。
褒められても嬉しそうなそぶりひとつ見せなかった。
しかし、彼女の仕事には必ず誠意と真心があった。
彼女は意識的に隠しているのだ、とクリフは思った。
―自分に似ている。
メイベルは黒子のような使用人を完璧に"演じている"のだ、と。

24 :
そして今、クリフはメイベルの膚を撫でながら考える。
―果たして彼女は自分に似ていただろうか?
暗い書斎。
メイベルの体の曲線が、ランプの光を浴びて、闇に浮かびあがる。
荒い呼吸が、静寂をかき乱す。
ビクビクと痙攣するように彼女の体は反応する。
メイベルの体を愛撫しながら、彼は思いだす。
彼女の顔。
動揺して口ごもるときの、慌てた表情。
不安に囚われ、涙をにじませる、頼りなげな表情。
見つめたとき、恥ずかしそうに顔を背ける表情。
自分の考えを述べるときの、真剣な表情。
快感にうっとりと乱れる甘い表情。
彼女が見せてくれた様々な、
―そしてあれ以来、失なわれてしまった表情。
固い石の床で、机で、ソファの上で。
クリフはこうして毎夜のように、彼女の体を犯した。
メイベルは何の抵抗もせず、されるがままに抱かれた。
彼女の体は反応した。
しかし顔は、抜け殻のように何の表情も浮かべていなかった。
―どうしてこんな風になってしまったんだろう?
彼は、いまだに現実感を失ったまま考える。
失ってしまうくらいなら、いっそのこと閉じ込めてしまいたい。
逃げられないように、自分だけのものにしてしまいたい。
それは叶ったはずだった。
しかし。
彼は、腕の中で力を失っている彼女の体を眺める。
あの娘を囲うつもりか、とベティは言った。
そんなつもりはなかったのに、と彼は思う。
なのに今、現実に、自分は彼女をそうしている。
彼女を奴隷の身に貶めている。
―俺がしたかったのは、果たしてこんなことだったんだろうか?

25 :

彼は、焦燥と混乱に焼かれながら、奇妙な冷たさを感じる。
メイベルのことを、愛していただけなのに。
彼女を大切にしたいと思っていたはずなのに。
今も自分は恐怖に駆られ、彼女をこうして傷つけつづけている。
こんな風に彼女を抱きたくはない。
しかし、それ以外に、彼女をつなぎとめる方法が彼には、わからない。
彼女の心を、粉々にしてしまったとしても。
―身動きができない。
どうすればよかったんだろう?
体を寄せているのに感じる、この絶望的な孤独感は。
愛しているはずなのに、こんなにも恐ろしいのは。
体をつたう、凍りつくほど冷たい汗は。
これは悪い夢なんだろうか?
いたいけな小さな女の子。
驚くほどプロ意識が高く、不器用で自信がなく、
思い込みが強くてすぐ不安になる、愛しい娘。
その全てを自分は確かに愛したはずなのに。
なのに。

26 :
「ねえ、メイベル」
細い腰を引き寄せ、彼は彼女の名を呼ぶ。
「メイベル」
顎に指をかけ、こちらを向かせる。
「こっちを見て」
メイベルは、はい、と短く答え、その瞳をクリフに向ける。
空っぽの瞳。
クリフはぞっとする。
その瞳は、
人形のように乾ききり。
何の感情もなく、知らない人間を見るような目。
彼は悟る。
ここには、もう彼女はいない。
彼女は、もう、
失われてしまったのだ、と。
彼女の心を壊したのは、自分。
そして。
その眼の奥にいるのは。
―昔の自分。
恐怖で叫びだしそうになるのを彼は必に呑みこみ、彼女の体を突きあげる。
俺は。
今、どこにいるんだろう。
何をしているんだろう。
家族を失って。
自分を失って。
ベティを失って。
そして、今。
メイベルを失って。
俺は。
―お前は。
ベティの冷たい声が聞こえる。
―人も、同然だ。

27 :

「手紙を書いてあげる」
行為の後、仰向けに体を横たえたままのメイベルに、クリフは言った。
「新しい勤め先への紹介状」
その時、ぼんやりと天井を眺めていた彼女の顔が、わずかに動いた。
彼は顔を背ける。彼女の表情を覗き込む資格は、自分にはもはやない。
「自由にしてあげる」
彼は自分に命じる。
―さあ、笑え。
「君にはもう、飽きちゃったから」
彼は振り向く。
自分にできる最も美しい、笑顔を浮かべて。

28 :
すいません、連投します。
次、11話です。

29 :
深夜。
メイベルは中庭で、膝を抱えていた。
大きな月。建物に囲まれた限られた面積の緑。
何かあったとき、彼女は、人目を忍び、真夜中の庭でこうして過ごした。
ここで風に当たると、不思議と心が落ち着いた。
3年と少し。その生活が、今、終わろうとしている。
メイベルは手のなかの手紙に目をやる。
そこに書かれているのは彼女の、次の行き先。
―君にはもう、飽きちゃったから。
彼の冷たい声の色。
不思議とショックは受けなかった。
きっと、受け止めたら耐えきれないからだ、と彼女は冷静に分析する。
この現実を。
彼が自分を、棄ててしまったことを。
意識は霧に包まれたように、ぼんやりとする。
冷たい風が吹く。
関節が痛み、体の奥がひりひりした。
繰り返されてきた凌辱に、彼女の体は摩耗していた。
しかし心は奇妙に落ち着いており、神経はどこまでも醒めている。
彼の冷たい眼、歪んだ空気、そして、乱暴な行為。
メイベルは、夢を見ているような気分で思い返す。
どこからどこまでが、自分の身に起こっていることなのだろう。
旦那様は初めからこうするつもりだったのだろうか。
みんなみんな、本気じゃなかったのだろうか。
たくさんの話をして、お茶を飲んだことも。
時には怒られて、叱られたことも。
優しく褒めてくれたことも。
からかわれて、笑われたことも。
抱きしめて、キスをしてくれたことも。
一緒に食事をして、お風呂に入ったことも。
そして何度も、やさしく抱いてくれたことも。

30 :
みんな、みんな、嘘だったんだろうか?
鼻の奥が、つん、と痛む。
いけない、泣いてはいけない。
そう自分を律しかけて、そして彼女ははっとする。
―何を言っているんだろう、わたしは。
彼女は我に返る。
―泣かないと誓ったあの人は。
もう、わたしのことなんて必要としていないのに。
それを合図にするように、ぼろぼろと涙が目から溢れだした。
だめだ。
糸が切れたように、彼女の心はあっけなく崩れる。
だめ。
もうこんなに彼が、自分の中に染み込んでいる。
彼の言葉は、一緒に過ごした時間は、
すっかりわたしを変えてしまって、もう、もとに戻すことができない。
あんな風に優しくされて、そして、ぐちゃぐちゃに傷つけられて。
それでも。
嫌いになれないなんて。好きだなんて。そばに置いてほしいだなんて。
使用人のくせに。
ばかみたい。
彼女は声を上げ、幼い子供のように大声で泣いた。

31 :

どれくらい時間がたったかはわからない。
泣き疲れて、もう声もまともに出なくなったころ、
やがて、手紙を涙で濡らしてしまっていたことに、彼女は気がついた。
―いけない、これを汚してしまっては。
封筒の中の手紙を取りだす。まだ目を通していなかった彼女の、新しい、行く先。
―こんなものもう、どうだって、いいのに。
それでも本能は、生き抜くため、これが自分にとって必要なことを知っており、
彼女の手は、意志とは無関係に手紙を開く。
行き先を見て、彼女は、驚いた。
そこにあるのは、有名な篤志家の名前と、住所であった。
孤児院をいくつも持っている、人格者として有名な老婦人の小さな邸宅だった。
わがままな主に振り回されることが多い使用人たちの誰もが、
広い屋敷の手入れに苦慮することの多い使用人たちの誰もが、
希望するような理想的な仕え先。
そこにメイベルは、確かに。
―彼の愛情を、感じた。
彼女は酷く混乱する。
旦那様は、なぜこんなところに手を回してくれたんだろう。
慎ましい生活を好むというあの老婦人は、使用人もほとんど使っていないと聞く。
まして新たな使用人など必要としていないはずだった。
頼み込んでくれたのだろうか?
この僅かな期間で?
あの忙しい彼が?
彼女は、クリフの費やした労力を考え、気が遠くなる。
飽きたなら、そのまま捨てればいい。
使用人の新しい勤め先なんて、わざわざ世話する必要はない。
メイベルは、メイドが性的に搾取されるのは珍しい話ではないことを知っていた。
その多くのメイドたちはいいように扱われた末、不要になればそのまま放り出されていた。
―でも、旦那様は、違う。
彼女は思う。
現実に彼はメイベルのために、これまで、多くのものを費やしている。
最初から、遊ぶつもりであれば、けしてこんなことはしない。
頭のいい彼ならば、その気になれば、もっと効率的にできたはずだ。

32 :
―なにか、事情があるのだ。
途端。
彼女の眼は醒めた。
泣いている場合ではない。
感傷に流されて、自分のことだけ考えている場合ではない。
逃げないと決めたのではなかったのか。
最初から許されない相手を好きになり、
その道行きが辛いことくらい、わかっていたことではなかったか。
それでも、彼のことを愛したのではなかったか。
―逃げるな、ロベルタ。
メイベルは自分に言い聞かせる。
もし、主が。
もし、自分のことを、まだ、愛してくれているなら、
事情が合って自分を遠ざけようとしているのなら、
彼は辛い気持ちでいるのに違いない。
自分だって、まだ、こんなに彼のことを思っている。
なのに、それを放り出して、
言われるままに、逃げるのか?
彼女は激しく左右に首を振る。
逃げてはいけない。
どんなに辛くても、痛くても。
遮断してはいけない。自分の体で受け止めなくてはいけない。
取り返しのつかないようなことが、起きたとしても。
―事情があるとすれば、何だろう。
彼が自分に言わない、言えない事情。
自分に何か、隠している、事。
ここ数日の彼の様子を思い出す。
彼女を抱いている時、彼はけして愉しそうではなかった。
むしろ、何かから逃げているような、溺れているような。
それが本当ならば。彼が辛い思いをしているのなら。
彼女は思う。
―何としても、彼を、助けなくては。

33 :
彼の様子が明らかにおかしくなったのは、いつからだろう。
彼女はベティが出て行った時のことに思い至る。
"使用人として許されないことをした"と彼は言った。
あのベティが、自分が話すことが主の気に障るかどうかくらいのことを、
見極められないはずはない。
ということは、彼女は、追い出されることを覚悟の上で彼に何かを言った。
前夜に会ったベティの様子を思い出す。
いつもと違うベティの強張った顔、なぜかメイベルをろくに怒ることもなく、
決心をしたような顔で主のもとへ向かった彼女。
ベティは何かを知っていたのだ。
そして、怒っていた。メイベルではなく、彼のしたことに。
なぜだろう?
そして彼女は言った。
―あたしは、お前が生まれるよりも前から、あの方のことを見てきたんだ。
彼女はその言葉に、はっとする。
以前に違和感を覚えたが、すぐに忘れてしまっていた、彼の言葉。
―仕えてもらってもう…今年で、そうだね、ちょうど16年。
メイベルは今年で19歳―つまり、19年以上前からベティは彼を知っていたという。
しかし、仕えたのは16年前から。
メイベルは、喉の奥に、奇妙な冷たさを覚え、ぞっとする。
―勘定が、合わない。
そして。
ベティがよく口にしていた"屋敷に仕えて20数年来"という言葉。
彼らの言葉がどれも正確だとするならば。
ベティは20年以上前から屋敷におり、16年前からクリフに仕え始めた。
つまり。
その以前に。彼女は。この屋敷で。
別な主に仕えていた。

34 :
―どういうことだろう?
開けてはいけない箱を手にしているという感覚に、メイベルの心臓が高鳴る。
しかし、もう、引き返すことはできない。
ベティの前の主人について、彼女は考える。
使用人が、同じ屋敷で別の当主に仕えるということ。
一般的に考えれば、前の主は彼の父親だという可能性が高い。
父親がいなくなった後にクリフが当主になった―
つまりベティは2代にわたってクリフの家族に仕えたというのが、
もっとも有り得る話であった。
しかし、使用人は普通、当主の家族全てに仕えるものであり、
彼の父に仕えていたならば、その間、彼女はずっとクリフにも仕えていたことになる。
そうなれば彼の"自分に仕えてもらって16年"という表現はおかしい。
つまり。
可能性として高いのは。
―16年前までは、彼と血縁関係にない者がこの屋敷の当主だった。
16年前。
現在33歳の彼が、17歳の時。
17歳?
その若さで、当主になるとは、どういうことなのだろう。
前当主が彼の父でないとすれば、家の資産を引き継いだというわけではなさそうだ。
家族はいない、と彼は言った。
いないというのは、どういう意味だろう。
なのに、なぜ彼がここの主となったのだろう。
前の主はどうなったのか。何者なのか。
そして、そもそも―
ベティはなぜ、彼が当主になる以前から、彼のことを知っていたのだろう?

35 :
メイベルは思い出す。
時折、主の様子がおかしかったことを。
装うのが上手な彼は、めったにほころびを見せることはないが、
それでも、違和感を感じることが時にあった。
個人的な話。そして、家族の話。
―君がなってくれるっていうなら、別だけどね
今思うと、彼はあの時、明らかに話を逸らした。
彼女にそれ以上、話したくなかったということ。
そして、話したくないということすら、彼女に悟られたくなかったのだ。
メイベルは注意深く記憶をたどる。
クリフは唐突に何かをすることが多かった。
突然キスをしたり、抱きしめたり、驚くような言葉を言ったり。
自分に動揺を与え、その反応を楽しんでいるのとばかり思っていたが、
その裏に、彼は巧妙に何かを隠していた。
―わたしは、何も知らなかった。
メイベルは今になって痛感する。
彼を見ているつもりで、何にも見ていなかった。
いつも自分の気持ばかりに振り回されて。
彼の考えてることにきちんと注意を向けていれば。
でも、今は後悔をしている暇はない。

36 :
思い出せ。
メイベルは呪文のように強く自分に言う。
なんでもいいから、思い出せ。なにか、おかしなこと。
―この手のカギはね、ちょっとしたコツがあるんだよ。
そうだ。
使用人室の鍵をなぜ彼は開けることができたのだろう。
豪奢で丁寧な作りの鍵と違い、内側から板を挟むだけの簡単なもの。
普段は使う機会など、全くないはずのそれを、彼は開けた。
思えば。
使用人たちの事情に、彼は驚くほど詳しかった。
日中ほとんど屋敷を開けているにもかかわらず、彼らの生活、仕事の内容。
そして使用人たちが隠れてつまみ食いをしていることまで。
そんな裏方のことを、他の屋敷の主人は、果たして知っているだろうか?
―まさか。
ぐらりと、視界が震える。
メイベルは動揺する。
自分の導き出した結論が、あまりに信じられない突飛なものであることに。
―でも。
メイベルは、思う。
主が、屋敷を空けてあちこちの地方に行くことが多いことも、考えてみれば珍しい。
屋敷を持つような特殊な階級の人間は、自分から動くようなことはあまりしない。
人を使って行かせるか、相手を自分の屋敷に招くかがほとんどであった。
しかし、彼はそれをしない。
それができない理由があった。自ら行かなくてはいけないような、理由。
それは、彼女の導いた答えと一致する。
行かなくては。
メイベルは、裾についた草を払って立ち上がる。
涙を吹く。腫れた瞼の感触がしたが、構わない。
綺麗に手紙を畳み直してポケットに入れる。
―今度こそ、泣いたりはしない。
前の主のことを調べよう。
そして、行くのだ。
もう一度。
―愛しいあの人のところへ。

37 :
>>36
暗黒展開は急ピッチで終わってくれそうな予感!!
メイベル頑張れ!! 旦那様をなんか幸せにしてやってくれ!!
それと、前スレのアーネの作者さんも、後1レス分投下がまだなので、待ってます
前スレがもう容量いっぱいで間もなく落ちると思うので、前スレ追えてない人もいるだろうし
保管のこともあるので、こちらにはじめから投下しなおしてくださいお願いします

38 :
うおおお、何だか明るい兆しが見えてきて嬉しい!メイベルに惚れそうです

39 :
GJですぅ〜

40 :
そして、彼は地面に膝をつき、嘔吐を繰り返していた。
喉の奥が酸と嫌悪感で焼けつく。
胃の中はとうに空っぽだった。吐き出せるものはもう何もないはずなのに、
体の奥を何度も不快感がせり上がり、彼は咳き込む。
酷い匂いだ、と彼は思う。
品のない香水と体液の匂い。そして猫の体のような腐臭。
―耐えろ。
彼は、自分に命じる。
―もう少しだけ。あと少し、我慢すれば。
猛獣を宥めるように、自分の感情を押さえつける。
彼には、抑え込まれた不快感が自分を中心から確実にすり減らしてゆくことも、
その空洞が取り返しのつかないほどに広がってゆくことも、十分にわかっていた。
しかし、それでも、耐える必要が彼にはあった。
ふと、そのとき地面に影が落ちる。
顔を上げるとそこには、見慣れた顔がある。
彼女はそっと、彼の隣に水差しを置く。
いつもどおりの不機嫌そうなその顔には、侮蔑も哀れみも同情も浮かんでいない。
他の使用人たちが遠巻きに見ている中で。
彼女だけは。
そうやって。黙って近くに、いてくれた。
―こうして昔のことばかり、思い出す。
クリフは思う。
どれも、何年もかけて奥底にしまい込んできた、見たくもないものばかり。
書斎で、ぼんやりと歪むランプの灯を眺めていた。
夜の闇を湛えた窓が、彼の姿を鏡のように映し出す。
彼は自分の顔が嫌いだった。
人に取り入るには便利な顔。しかし血の気のない人のようなその眼を、
彼は直視することができず、こうしていつも目を背ける。

41 :
彼は絶望していた。
ブレーキの壊れた乗り物のように、自分が制御を失ってしまったことを。
自分の感情の箍が外れ、中から驚くような醜いものばかりが溢れでることを。
彼女の手足をもぐようにして、彼女の心を粉々にしたことを。
そして。
自分には、まともな形で人を愛することなど、出来ないということを。
―自由にしてあげる。
それは彼に残された、最後の良心だった。
彼女をこれ以上壊さないように。
自分と同じような目に遭わせないように。
なんとか正気を保っていられるそのうちに。
いや。
しかしそれはただの綺麗事にすぎないのかもしれない。
本当は。
彼女の中にいるもう一人の自分に、出会うのが怖いだけなのかもしれない。
彼女が自分のせいで壊れていくことから、目を背けたいだけのかもしれない。
別人のように変わってしまった彼女に価値を感じなくなっただけなのかもしれない。
もう彼には、どれが本当のことなのかはわからなかった。
自分の考えも現実に起こっていることも、正しく理解することができなかった。
それでも、一つだけはっきりしていることは。
―自分に彼女を幸せにすることはできない。
ノックの音が聞こえて、彼は振り返る。
こんなに時間に自分を訪ねてくるものは、
もう、ひとりしかいない。
―メイベルだ。
雑音は止まない。薄ら寒い恐怖。胸は、張り裂けそうに痛む。
しかし、ドアが開くその時、彼はすぐに表情を作ることができた。
こんなときですら、嘘をつくことはたやすい。
彼は思う。
ずっと自分は、こうして嘘をついてきたのだから。

42 :
「失礼します」
彼女は、ドアのところで深々と頭を下げた。
メイベルは制服ではなく、
彼が贈ったワンピースを身に着けていた。
「何しにきたの?」
彼は出来るだけ冷たい口調で言った。
出ていくことを言い渡したあの日から、数日。
彼は一切メイベルを書斎に呼ばなかった。
紅茶の給仕も別な使用人にさせ、彼は徹底してメイベルを遠ざけた。
自分の気が、変わらないように。彼女に、悟られないように。
「どうしてもお話したいことがあって参りました」
メイベルは真っ直ぐに彼を見つめる。
クリフは、言葉を失う。
久々に見るその眼は亡骸のような、あの目では、ない。
「そんなもの、僕にはない」
「覚えていらっしゃいますか、旦那様」
彼の言葉が聞こえていないかのように、メイベルは静かに言った。
「わたしは前に、ここで、あなたに怒られました。
君は、思ってることを言わないで不安を隠して、うわべだけ繕うって。
人の言葉を信じようともしない って」
綺麗に梳かされ、整えられた髪。果実のように赤い、小さな唇。
クリフは驚く。
今なお彼女の美しさが損なわれていないことに。
そして、自分が彼女を求めてやまないことに。
「お話しくださいませんか?何を隠していらっしゃるのか」
「隠す?」
「クリフ様が急に人が変わったようになられたことに、何の理由もないとは思えません」
彼女は、目を逸らさずにはっきりと口にすると、頭を下げた。
「…ごめんなさい」
仕事の時の完璧な形のお辞儀とはまるで違う、不器用な謝り方だった。
「わたしはいつも自分のことばかり考えて、
クリフ様がお辛い気持ちでいらっしゃったことに、気がつきませんでした」
じり、と奇妙な感情が胸を刺すのをクリフは感じる。
勘づかれてしまったことへの焦燥、そして、苛立ち。
今更になって。彼は思う。
メイベルはなぜこんなことを言い出すのだろう?

43 :
「ずいぶんおめでたいんだね、君は」
自分の声がひどく不愉快そうな響きを帯びているのに気がつき
その時、ようやく彼は、自分が彼女を憎んでいることを理解した。
「仮にも主人の僕が君を相手にすると、本気で思ってたの?」
自分は確かに、何もかもを隠しおおせようとしているその一方で、
そのことに彼女が全く気がつかずにいたことをどこかで憎み、
豹変した彼に抵抗すらしなかったことをどこかで―
身勝手に恨んでいた。
「僕は君の反応が面白かっただけ。でもそれももう、おしまい」
しかし、メイベルは、全く怯まなかった。
「それでも私は…あなたを信じます」
「残念だけど君の戯言に付き合ってる暇はない」
心臓が煩いくらいに高鳴る。しかし、彼は侮蔑するように冷たく笑う。
「出て行ってくれる?」
その時。
メイベルははっきりと、言った。
「それはできません」
クリフは驚く。
どこまでも従順だったメイベルが、はっきりと主の命を拒否した。
強い意志を宿した瞳。ベティと同じようなその目。
そして、メイベルの次の言葉に。
彼は耳を疑った。
「クリフ様は、16年前にこのお屋敷の主人になられましたね」
脊髄を引っ掻かれるような強烈な悪寒がした。
やめろ。と彼は思う。
まさか。お前は。
何を、知っている?
「わたし…調べました、このお屋敷の昔のこと」
彼は、言葉を失い、立ち尽くす。
自分の体の奥に眠っていた蟲のような不快感が、いっせいに騒ぎだす。
がさがさと蠢く、醜い羽音とけたたましい鳴き声。
「前のご当主のお名前はシャルロット・モンテーニュ」
血管の中身が沸騰する。
混濁した意識の中で、激しい嫌悪感が、体中をかきむしる。
―クリフ。
また、あの声がする。
―もっと近くで、顔を見せてちょうだい。

44 :
「そして、その前のご当主が…」
かっと、閃光のような衝撃が走り、考えるより先に、彼の体は動いた。
気がつけば。
彼は、彼女に馬乗りになり。
首を絞めていた。
―おいで、クリフ。
何が現実なのかは分からない。
声も、雑音も、メイベルがここにいることも。
「黙れ」
どこからどこまでが現実なのか。
どうしたらこの酷い眩暈は治まるのか。
どうすれば彼女を憎まずに愛することができるのか。
どうやってこの悪夢から逃れたらよいのか。
クリフは手に力を込めたまま、彼女の体をがくがくと揺する。
「それ以上、口を利くな…!!」
メイベルは顔を歪め、彼の両手を指で引きはがそうとする。
柔らかで華奢な彼女の首。何度となく愛でた、美しい首筋。
―クリフ。そう、とっても上手よ。
そして、
彼女の眼が再び彼を捕える。
そこに、怯えはない。
「やめません」
その声でクリフの手がわずかに緩む。
「わたしは絶対に逃げません!」
彼女は叫ぶ。
「あなたが思い出したくないと思っていらっしゃることはわかります!
でも、そんなに苦しいことを、閉じ込めつづけたって、何にもなりません!!
目を背けてもなかったことにはなりません!」
「うるさい…」
メイベルの声がビリビリと体に響く。
その小さな体から出る、驚くほど強いエネルギー。
「だから…お話しください!なにがあったんですか?!
何がそんなにあなたを苦しめているのですか…?!」
「うるさい…!俺は…!!」
そして。
彼女は。
唐突にクリフの首に両手を巻きつけて引き寄せ、
キスを、した。

45 :
思考が真っ白に塗りつぶされる。
クリフはそれ以上何も考えることができなくなった。
その唇の温度。
柔らかなその優しい感触。
彼女の首を絞めたままの手が緩み。
体の力が抜けていく。
全ての音が失われるその中で、
彼女の声だけが、はっきりと聞こえた。
「嫌いになんてなりませんから」
紅茶の葉っぱと洗濯糊の清潔な匂い。さらさらとした髪。
メイベルにきつく抱きしめられながら。
しばらくの間、彼は茫然とそれを受け止める。
自分に注がれている、無償のもの。
―絶対的な、愛情。
彼は、いつのまにか、自分の目から、涙が流れていることに気がつく。
音もなく、静かに、ただ容れ物から溢れるようにどくどくと。
それが自分の体から出ていくのを、クリフは認め、驚いた。
長い沈黙。
「涙なんて」
彼はメイベルの腕の中で、他人事のように呟いた。
「もう、出ないと思ってた」
体に力が入らなかった。
あれほどまでに彼を苛んでいた、どろどろに煮詰った感情の姿は、
今は、不思議とどこにも見当たらなかった。
メイベルは何も言わずに、そのまま彼を抱きしめ続ける。
彼が彼女にキスをし、多くの話をし、そして傷つけたこの場所で。
その腕は強く、彼を包む。
ここにいるのは、確かに彼の愛したメイベルの姿だった。

46 :
―旦那様。
彼は思い返す。
メイベルのたくさんの言葉を。
―旦那様の、お顔立ちが、その、素敵でいらっしゃるので…
―どうして私のような者に興味をお持ちになられたのでしょうか?
―旦那様でなければ、困ります。
―あまり意地悪を、おっしゃらないでください。
―旦那様のお陰で、変わらなくちゃ、って。
―さしあげます、クリフ様に、みんな。
そして。
彼女の照れた、しかし、幸せそうなその顔を彼は、はっきりと思い出す。
―旦那様のことなら、どんなことでも、教えて頂きたい、ですから。
「君の言った通り…俺がこの屋敷を手に入れたのは16年前のこと」
どれくらい時間が経ったのかわからないほどの静けさの後
彼の口は、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「それまで」
自分の心の揺れが止まったのを感じ、
彼は、静かに覚悟を決める。
「俺はここで使用人をしていた」

47 :
ついに旦那様が真実を語る時が…!
激しくGJです続きも猛烈に楽しみにしてます!

48 :
おもしろい
しかしそれ以前に読みやすい
すごいと思った

49 :
前の主人のほかに、その前もいるのか。
旦那様も黒モードを抜けた!!
二人がどこへ行き着くのか、今後が楽しみ!!

50 :
思い返せば、主は何度も言っていた。
―突然こんなことしちゃったけど、どうしよう。君に嫌われたかもしれない。
―嫌いになっちゃった?
―どうかな。何か聞いて、僕のことを嫌いになっちゃうかもしれないよ。
自分がもう少しよく見ていれば、とメイベルは思う。
冗談めかしたその言葉の響きの中に、怯えが含まれていたことに
気づくことができたのだろうか。
今ではわかる。
気まぐれや意地悪も、加虐的な言葉も。
きっと、不安の裏返しだったのだろう、と。
彼は演ずるのが上手なだけで、本当は誰よりも不器用なのだ、とメイベルは思う。
不安を表に出すことができない。
人を信じることができない。
気持ちを素直に言うことができない。
わがままで臆病で。
でも。
とてもとても、可愛い人。
―君が新しい人?
3年前、彼女が屋敷に来た時のこと。
主人に挨拶に行った彼女は、たちまち、視線を奪われた。
絵画のような美しい顔立ち。洗練された所作。そして、優しい声。
彼はそんなことには気がつかないように、にっこりと笑った。
―慣れるまで大変かもしれないけど、頑張って。
彼は主人にしては珍しいタイプの人間だった。
大きな屋敷を持っているにもかかわらず、
ほとんどの時間を書斎に籠って過ごし、
豪華なものや派手なものにはまるで興味を示さず、
屋敷に人を招くこともなかった。
質のいい服を着ているのも、大勢の使用人を使っているのも
彼に言わせれば、仕事をする上で便利だから、というだけの理由であった。
使用人たちにほとんど声はかけず、
しかし彼らと接するときには主はいつも穏やかであった。
若いメイドたちは、みな彼に憧れ、いつも彼の事を噂していた。
―おいしいね、君の紅茶は。
初めて彼が自分に話しかけてきたとき、彼女は酷く動揺したものだった。
―どうやって淹れてるの?
緊張を押し込めて淡々と説明をするメイベルの言葉を、
彼は注意深く、うんうん、と頷くようにして聞いた。
その瞳に自分を写されることを、申し訳なく思ってしまうくらいの端正な顔。
メイベルは思った。
―この人は、どうしてこんなに優しく笑うんだろう?

51 :
そして今、クリフの顔からは微笑みが剥がれ落ちていた。
「前の当主はシャルロット、その前の当主は…俺の、父親」
彼は言いながら、ゆっくりと椅子に腰かけ、眼鏡を外して机に置いた。
メイベルは初めて見る彼の表情に不思議な感情を覚える。
無防備な、迷子になったことに気が付いた子供のような、所在のない表情。
「もともと、ここは俺の父親の屋敷だったんだ。
俺はここで生まれて、家族と暮らしていた」
彼は、思いを馳せるように、遠くを見る。
しかし、その語り口は驚くほど軽かった。
「でも、俺が10歳かそこらの時かな。父親が騙されて、多額の借金を負ってね。
途端に親戚なんかにも、絶縁されてしまって。
誰も助けてくれる人はいなかったし、どうすることもできなかった。
それで父親が、家族で心中しようって言い出したんだ」
メイベルは、床に座り込んだまま、話し続ける彼の姿をただ見ていた。
「だけど、父親も、母親も、兄も、妹も。
家族はみんなねたのに、俺だけはに損なってしまった」
クリフは、まるで自分とは関係のない出来事のように話し続ける。
「あの時は困ったな。
もう一度しようにも、もう自分一人ではできなかった。
よくわからない薬を飲まされたんだけどね、すごく辛いんだよ、あれ。
何の薬だったんだろう。喉が焼けるみたいに痛いし。
家族もずいぶんぬまで時間がかかってて苦しそうだったし。
ぬにしても、方法ってものを選ばないと駄目だね」
彼は、おかしそうに笑った。
その過酷な内容と乖離した彼の話し方に、メイベルは強い既視感を覚える。
ベティがいなくなったときにも、自分が出ていくと言ったときにも。
彼は怒るでも悲しむでもなく、こうして笑っていた。
メイベルは気がつく。
こうして恐怖や不安を笑みの奥に押し込めることで、
彼はなんとか自分を保ってきたのだと。
「でも生き残ってると、父親の借金を背負わなくちゃならなくなるから。
その時屋敷にいた乳母がね、不憫に思って、
身元を隠して使用人として働くようにって、いろいろ手配してくれたんだ。
それで彼女は、自分だって仕事がなくなって大変な時に、俺の働き口を探してくれたわけ。
使用人は孤児だとか棄てられただとか、そういう身元が怪しい人間も多いから、
一人くらい俺みたいなのを紛れさせるのも多分そんなに難しくなかったんだろうね。
そして、俺は全然知らない他人の屋敷で、使用人として働くようになった。
住んでいた屋敷や資産はみんな、借金のかたにとられてしまった。
家族もいないし、贅沢な暮しもできなくなって、何が何だかわからなかった。
まあ、お屋敷で育った、甘ったれた子供だったからね、余計に大変だったよ。
それでも何とかやった。少しずつ色々なことを覚えてね。
でも屈辱だった。家族はいなくなったけど、せめて、絶対にあの家に戻ってやるって。
こんな目に自分を遭わせたやつに復讐してやるって。
そのことをずうっと考えてた」
彼はそこで、言葉を継いだ。
「すると、ある日突然、驚くような話が来た」
クリフは、一切メイベルの方を見なかった。
ただぼんやりと虚空を見つめて、淡々と、彼は語り続ける。
まるで何かの記録のように、ひとりごとのように。
「15歳の時。
この屋敷で…俺が生まれたこの屋敷で、使用人が不足してるって話があって。
それで、ここで働くようにって声がかかって、俺はすぐにここに連れてこられた。」

52 :
彼は額に手をあて、顔を僅かに傾けて可笑しそうに笑った。
「そりゃ、確かにね、俺はずっと屋敷に戻りたいって考えてはきたけど。
生まれた家に使用人として戻るなんてあんまり酷い話だと思わない?、
でも、もしかしたら、屋敷を取り返せるかもしれないって思った。
そして、親の敵に復讐するチャンスもあるかもしれないってね」
親の、敵?
その言葉の聞き覚えのある響きに、彼女ははっとした。
―いつもこっそり僕をじいっと、睨んでるみたいに見える。親の敵みたいに。
初めてキスを交わしたあの日。
この場所で。
彼が確かにそう言ったことを思い出す。
親の敵。
こんな経歴のある彼が、無意識的にそんな言葉を使えるはずがない。
彼は意識的にああ言ったのだ。
メイベルはぞわりと、背筋が寒くなるのを感じた。
なぜ、あんなときに、彼は?
どうしてそんなことを言ったんだろう。
どんな気持ちで言ったんだろう?
それが一種の皮肉のようなものだったのか
どういう意味を持つのかは、彼女にはわからない。
しかしそこにメイベルは強い異常性を感じ、立ち竦む。
―まともではいられなかったんだ。
彼女は思う。
平静を装うことに彼があまりに長けていたから。
誰もそれに気がつかなかっただけで。
今日までずっと。
おそらくは、今この瞬間も。
気の遠くなるほど長い間、この人は。
―異常な、精神状態のまま、だったのだ。
「それで、その時主だったのが、さっき君が言ってたシャルロット」
メイベルが凍りついていることにも気がついていない様子で、彼は言う。
そして、その時からここのメイド長だったのが…ベティ」
彼の話は、おおむねメイベルの予想の通りであった。
なのに、その一つ一つの単語は、
そしてそれ以上に、あまりに自然な彼の様子が、
容赦なくメイベルの心を押しつぶしていく。
「ねえ、メイベル」
クリフは話を中断し、突然、彼女に話しかける。
「どうやって調べたの?前の主なんて」
彼の顔には、憑き物の落ちたような、奇妙な晴れやかさがあった。

53 :
「…このあたりの事情に詳しいお年寄りを探して、その…聞きました」
「どうやって?」
「近くの家を訪ねて…」
「家なんて、このあたりにあった?」
屋敷は市街地から離れた場所にあり、近くに建物はほとんどない。
「それぞれ5〜6キロくらい、離れてはいますが…」
「それを、一軒一軒?」
「はい」
彼は驚く。
「凄いね、それ。まさか君がそこまでするなんて」
「あの…ご、ごめんなさい」
「いいや」
クリフは笑う。
「ありがとう」
メイベルはその美しさにどきりとした。
そのほほ笑みは、いつもよりもずっと柔らかく、見たことのないほど素直なものだった。
「それで?」
彼は目を細めて、先を促す。
「え?」
「その人たちは、何か、言ってた?シャルロットのこと」
メイベルが口ごもり、言葉を選んでいると、
彼はメイベルの顔を覗き込むようにして、上品に笑った。
「やっぱり。色々聞いたみたいだね。
あの女を良く言う人間なんてこの世に一人だっていないよ。
シャルロットは独り身で、親の残した財産で生活していたんだけど、
かなり問題のある女でね。
癇癪持ちで、底意地が悪くて、気まぐれで、醜くて。
たとえばね、気に入らないことがあると、使用人に物を投げるんだ。
フォークでも、皿でも、ランプでも、近くにあるものを何でも。
それを避けると余計に怒るから、使用人はきちんとそれに、当たらなければいけない。
中にはそれで、失明した者もいた」
彼は天井を見上げて、ため息をついた。
「そういうことが日常的にあるから、使用人がひっきりなしに変わるわけ。
あの女に首にされたり、怪我させられたり、あるいは使用人が逃げたりしてね。
使用人が足りないって俺が呼ばれたのもそういう理由だってすぐにわかった。
ベティも毎日苦労してた。彼女もずいぶん酷い目に遭ってたよ」
そして、彼はまた遠い目をして、自分の物語にひとり、沈んでいく。
「シャルロットはその時、確かにここに住んでいたけれど、
実際に父親を騙したのがあの女だったのかはわからなかった。
この屋敷が売りに出されたのを買っただけなのかもしれないし、
人を騙せるほど頭がよさそうにも見えなかったし。
父親の一件に関係してるのかも判然としなかった。
当時は俺も15,6の子供だったし、それ以上調べる手立てもなくてね。
でも毎日、辛かったよ。
自分が住んでいた家で、性根の腐った女の召使いをして、惨めな思いをした。
でもね。今思えばあの時なんて、俺の人生の中ではずうっと良いほうだった」
彼は小さくため息を吐く。
「それからしばらくして―」

54 :
主はそこで、言葉を奪われてしまったように、唐突に黙った。
部屋を沈黙が支配する。
クリフは窓の方を向き、メイベルからはその表情が見えなくなる。
メイベルは、その沈黙に不吉な予感を感じ取る。
なにか、決定的なものが。
とても太刀打ちのできないような大きなものの、気配。
彼は静かに言った。
「毎晩のようにあの女の相手をさせられるようになった」

55 :

メイベルはすぐに、彼の言葉を理解することができなかった。
ただ彼女の眼は、主の手が僅かに震えているのを、無感動に捉えていた。
「初めは何が起こったのか分からなかったなあ。
俺の顔が、大層お気に召したらしくてね。
年端もいかないような子供相手に、あの女は―」
彼は言葉を飲み込むと、
感情を排するようにして言った。
「逃げられないように、他の使用人に監視されて。
ほとんど軟禁状態みたいなものだから、逃げることもできなかった。
わざと他の使用人たちにも分かるように、大声で俺の名前を呼ぶんだ、あの女は。
他の使用人たちが遠巻きに俺を見るんだ、汚いものを見るような目で。
それで、夜になるとまたあの女が俺を呼びつける。
気が狂いそうだった」
彼の声は乾いていた。
「でもベティだけは俺を特別扱いしなかったなあ。
優しい言葉一つ言わないけど、心配してくれてたんだと思う。
俺がこっそり吐いてると、いつも水を持ってきてくれたよ。
まあ、普段は厳しかったし、容赦なかったけどね」
彼はそこで、少し黙った。
その沈黙は永遠のように長く、
メイベルは強い衝撃に全身を打たれ、
磔にされたように身動きができなかった。
想像を絶するような彼の話を、まともに受け止めることすらできず、
彼女は自分の膝がわなわなと震えていることに気がついた。
それは果てのない無力感と、憎しみに似た激しい疑問だった。
どうして。
なぜ。
こんなに優しくて。
こんなに繊細なこの人が。
ここまで追いつめられて
ここまでに恐ろしく、
ここまで苦しい思いをさせられる必要が。 
一体どこにあったと、いうのだろう?
「酷い生活だった」
クリフは、ゆっくりと言葉を継いだ。
「自分の人生を呪ったよ。見張られて、自すらできないし。
あの時、最初に、家族とんでいればよかったのかって何度も思った。
何がいけなかったのか、何をどうすればよかったのか、俺にはわからなかった。
それでも、生き延びるためにどうしたらいいか。
考えたらもう一つしか、なかった。
あの女に取り入って、油断させて、隙を伺うこと」

56 :
自嘲するように彼が笑った。
「あの女に玩具にされながら、
俺は機嫌を取りつづけたわけだ。
ベティに尻尾振りって呼ばれてたくらいだからね、
それはもう、ぞっとするくらい上手かったんだと思うよ。
そうして、2年」
彼は指先で、とん、と机を叩いた。
まるで、機械の調整をするように。
自分の意識を、引き戻すように。
「…長かったよ。
気が遠くなるほど長かった。
ようやく、あの女が俺を、養子にしたいと言い出した。
自分がんだら財産はみんな俺にくれるってね」
彼は、平坦な声で言った。
「そこからは案外簡単に事が進んだよ。
養子縁組をして。そして、財産についての文書に、ちょっとだけ細工をして。
頭の悪い女だったから大して苦労はしなかった。
全ての資産を奪い、そしてあの女を無一文で屋敷から放り出した」
クリフはようやく、顔をメイベルの方に向けた。
「そして、めでたく俺はここを取り戻したという、わけ」
彼はにっこりと微笑んだ。
しかし、その笑顔が作りものであることくらい、彼女にはわかっていた。

57 :
>>56
続きお待ちしております

58 :
伏線張りすごいな
最初から読み直してきます

59 :
すげえ面白い。こんなに面白い物語が読めて嬉しい。
続き楽しみにしてます。

60 :
な、なんだこれは
と私の脳内がどよめいているでござる

61 :
すごく惹き込まれる文章を書かれるよね
毎回次は何が起こるんだろう、どんな展開が待っているんだろう、とドキドキしながら読んでます
投下も勿論嬉しいんだけど投下されるのを待ってるのも楽しくて、最近ちょっと幸せ

62 :
「ねえ、クリフ」
名前を呼ばれても彼は振り向かない。
簡単に振り向かない方が"それ"が悦ぶことを、彼は知っているからだ。
「クリフ、こっちを向いて」
寒気のする猫なで声。
クリフはゆっくりとその声する先を向く。
きつい香水と、酒の匂い。
目の下の醜い皺。何度見ても慣れることのない、下品な顔。
しかし、彼はけして眉をひそめたりはしない。
「顔をみせてちょうだい」
広いベッド。
ぐちゃぐちゃと絡まって床に落ちているのは、シーツと趣味の悪い衣服。
こぶのように宝石が巻きついている指が、彼の顎を撫でる。
そして"それ"は、醜い舌で、彼の顔を舐めまわす。
―ひどい匂いがする。
喉の奥にこみ上げるおぞましさをおくびにも出さず、
彼は無邪気な笑みを浮かべて言う。
「やめて。くすぐったいよ」
しかし"それ"は貪欲に、彼の顔を愛で続ける。
「あなたの顔は本当に綺麗」
自分よりもはるかに年下の、幼い彼を相手に、"それ"は甘えたように繰り返す。
彼は身を捩り、その舌から顔を引き離す。
突然の彼の拒否に、一瞬で、"それ"の顔色が不快感で歪む。
"それ"は、なにか気に入らないことがあると、簡単に癇癪を起こした。
「クリフ、どうしたの?」
別人のように不機嫌そうな、高圧的な声。
それを合図に、クリフは伏せていた顔を上げる。
「ねえ、シャルロット様」
とっておきの悲しい顔をしてみせると、
"それ"の歪んだ表情が、途端に驚きに変わる。
「シャルロット様が好きなのは、僕の、顔だけ?」

63 :
上目づかいで。棄てられた猫のように。彼は言う。
途端に、"それ"の瞳には、えも言われぬ興奮の色が浮かぶ。
―化け物。
彼は胸の中で吐き捨てながらも、目に涙を溜めて唇を尖らせる。
「シャルロット様は、僕のことなんて全然見てくれない」
甘えるように、懇願するように。
「ねえお願い、僕のことを、見て。
顔だけじゃなくて、中も、みんな。
もっともっと、僕のことを」
彼は未成熟な、まだ少女のように細い首を、誘うように傾ける。
ぐらり、と頭が揺れ、彼は自分の体が、"それ"に押し倒されてゆくのを感じる。
彼は自分に、強く命じる。
―耐えろ。
「ああ、クリフ」
生臭い息。象のようながさがさの皮膚。熱。湿度。
彼は祈りの言葉のようにそれを繰り返す。
―耐えろ。
"それ"は、声を震わせて、彼の体にむしゃぶりつく。
「なんて可愛いの」
―耐えろ。耐えろ。耐えろ。
"それ"が息を荒くして、彼の体を奪ってゆく。
「クリフ」
"それ"は大声を彼の名を呼ぶ。
どこまでも執拗に。屋敷中に響く大声で。彼の名は呼ばれる。
感覚を遮断しようとしても、それは、紙から水が染み出すように、彼を浸食する。
生理的な不快感。暗いおぞましさ。
手足が、奪われる。
体が、ばらばらにされる。
心が、頭が、統制を失う。

64 :
―耐えろ。
たえるって?
彼の中の、まだ幼い部分が、訊きかえす。
なにを、たえるの?
「クリフ」
―耐えろ。
いきのびて、それがなんになるの?
―耐えろ。
ひとりぼっちの、ぼくが。
「クリフ、もっと、してちょうだい」
―耐えろ。
いきていたところで、なにか、いいことがあるの?
―耐えろ。
こわいよ、もう、いやだよ。
「上手ね、本当に、いい子」
―耐えろ。
きもちわるい、くるしい。かえりたい。
―耐えろ。
もうかえりたい。おうちに、かえりたい。
―耐えろ。
おうち?そう、おうちは…ここ。
―耐えろ。
ここを、このおやしきを、とりかえしたら。
―耐えろ。
「いいわ、クリフ。すごく、いい」
そうしたら、きっとまた、しあわせにくらせる。
―耐えろ。
おとうさまも、おかあさまも、きっと、戻ってきてくれる。
―耐えろ。
あのころみたいに。また、みんなで。
―耐えろ。
こわいこともなくなる。きっと、わかる。ぜんぶゆめだったって。
だから。
だから。
だから?
「好きよ、クリフ」
「うん、僕も」
だから―
「僕も、シャルロット様が、大好き」
彼は、"それ"の皮膚を舐めながら、焼きつけるように強く思う。
―そのためなら、どんなことだって、する。

65 :
そして今、クリフは微笑みを顔に張り付けたまま、静かに息を吐いた。
見慣れた、静かな書斎。
この屋敷で、唯一、彼が安らげる、場所。
あの女が足を踏み入れることのなかった場所。
仕事をする父親の姿のあった場所。
兄弟たちとかくれんぼをして、怒られたこの場所。
しかし。
今はその、どの影もない。
それらはどれも幻に過ぎず、今、目の前にあるのは。
床に座り込んだまま動かないメイベルの姿だった。
彼の長い話を、彼女は身じろぎもせずに聞いていた。
彼女に、全てを知られてしまうこと。
何よりも恐れていたこの瞬間を、彼は驚くほどあっけなく、
そして、静かな気持ちで受け入れていた、
あんなにもまとまりのなかった気持ちや感情は、
口に出そうと試みた途端に、美しく整列し、すらすらと彼の口をついて出た。
誰かに伝えられるその時を、まるで待っていたかのように。
「もう少し話を続けようか」
メイベルは、凍りついた表情のまま、食い入るように彼を見つめていた。
「そのあとすぐ、使用人はみんな辞めさせた。
せっかく屋敷を取り戻したのに顔なんて合わせたくなかったし、
彼らも俺なんかに仕えるのは嫌だったろうしね。
でもね…ベティだけは残りたいって、言ったんだ」
空っぽの誰もいない屋敷で、ぼんやりと一人、
座り込んでいるクリフに、彼女は雑務を言いつけるように言った。
―尻尾振り。私を雇うつもりはないかい?
彼は思わず、クスクスと笑う。
「あの言い方ったら、なかったな。
今思い出しても、とても、人にものを頼んでるとは思えないような、ね。
まあ、ベティらしいといえばそうなんだけど」
でも、とクリフが口ごもると、彼女は叱りつけるように、言った。
―お前は、そんなんで、これから生きていけるのかい?
 どうやって暮す?飯は?買い物は?掃除は誰がする?
 いくら金があったってね、生きていくことはできないんだよ。
 生活をしていくつもりがなきゃ、人間は、生きていけないんだ。
 お前のその腑抜けた面じゃ、あっという間にのたれぬよ。
クリフがぽかんと口を開けると、ベティは不機嫌そうにまくしたてる。
―役に立たなければすぐ首にすればいい。雇う決心がつくまでは金もいらない。
彼女は啖呵を切るように言った。 
―だから、あたしを、ここに、置きな。

66 :
「それで彼女にはここに残ってもらったわけ。
実際、ベティは長くここにいて、屋敷の勝手をよくわかってたし、
とても優秀なメイドだったからね、すごく助かったよ。
資産家らしい振る舞いっていうのも俺は全く分からなかったけど、
思えば、そういうものもみんな、ベティが教えてくれた。
彼女は本当によくやってくれたよ」
彼女がいなければ自分は生きていけなかっただろう、と彼は思う。
ベティは。
口うるさく、彼を怒鳴りつけ、叩き起こし。
短気で、尊大で、偏屈で。
そして使用人とは思えない程の態度で。
いつも、彼を、見守っていてくれた。
「そして、少しして俺は仕事を始めた」
―旦那様のような、いい年の主人が、屋敷に籠っているとは何事ですか。
彼は、ぼんやりと毎日を過ごす自分に、ベティが言った一言を、思い出す。
―日が出ている間は、仕事をするものですよ。人間ならね。
「まあ、仕事をしててもね、大変だったよ。
上流階級っていうのは本当に狭い世界で、
あそこの人たちは家柄とか体面とかそういうものに、ものすごくこだわるんだ。
俺の家系は一度父親の代でつぶれてるわけだし、
どうしても胡散臭い目で見られちゃうから、
話を聞いてもらうだけでも凄く大変でね。
それでいまだに、俺は、あちこちに飛び回ってるわけ。
まあ、その方が、良かったのかもしれない。忙しい方が、気は紛れるのは確かだし」
彼はそこで言葉を切った。
「でもね」
自分がひどく滑稽に思えて、彼は歪んだ笑いを浮かべた。
「前みたいにここに住めるようになっても。
仕事をしても、時間がたっても、駄目だった。
俺の大部分はもう、それまでにとっくにんでしまったんだろうね。
食べても食べても、腹はいっぱいにならないし、
どんなに体を洗っても、べっとりと染み付いた匂いが取れない。
なんていうのかな、何もかも、響いてこないんだ、中に」
そう。二度と戻らない。

67 :
彼はよく知っている。
取り返しのつかないことが、確かにこの世界に存在することを。
「屋敷から出てしまおうかと思ったこともある。
こんなところにいるからいけないんだってね。
でもね、どうしても出られなかった。
縛られたみたいに、出られないんだよ」
自分の声が早口になっていく。
感情の高ぶりに、その回転に、少しずつ、巻き込まれるような感覚。
「ねえ、わかる?
ぬ思いで取り返した、この場所が。
あの女に嬲られて、家族が自して、そして君がやってきたこの場所が、
この世で唯一、俺が帰ることのできる場所なんだ。
どうかしてることくらいわかってる。
でも、どうすることもできないんだ。
そんな風にしか生きていけない人間なんだよ、俺は」
メイベルは目を見開いて彼を見た。
「そして挙句の果てに、俺は」
クリフは言った。
「君を、餌食にした」
メイベルの顔色が、さっと変わる。
「君の自由を奪って。他の使用人から孤立させて。そして、君の体を」
「違います…!」
メイベルの大声が、不快な音となり耳を裂く。
彼の心に、そのとき確かに怒りが湧いた。
「何も違わないよ」
彼女の気持ちは確かに、真剣なものだろう。
しかし。
「ベティにも言われた。俺は、あの女と同じだって」
彼女に同情されるのだけは嫌だった。
自分の過去を聞いたからと言って、
自分のしたことのなにもかもを許すような。
愛情の形をした哀れみならば。彼は思う。
―そんなものはいらない。
「それは…!」
「君を抱くときだって」
風のない日の湖面のようにあんなにも静かだった心が。
再び、吹き荒れるようにかき乱されていく。
行き場の失った感情たちが、かつて押し込められてきた悲鳴たちが、
刃となって、容赦なく彼女に切っ先を向ける。
「みんな、あの女に仕込まれたとおりにしてただけ」

68 :
メイベルが、はっと息をのむ。
「だって、そうすることしかできない。俺は、それ以外知らないんだから」
どうしてだろう。
彼は絶望する。
どうして、こうなってしまうんだろう。
彼女はこんなにも自分のことを受け止めようとしてくれているのに。
まるで当たり散らすような真似をして、今も自分は彼女を傷つけつづける。
好きで好きで。こんなにも好きになっていったのに。
しかし、彼女のことを愛すれば愛するほどに。
不安が憎しみが、限りなく膨れ上がっていった。
「君の気持ちはとっても嬉しかった。
こんな話を聞いてくれて、感謝してる。
でもね、君といると、時々、どうしようもなく辛くなる。
自分の醜さに、愚かさに、吐き気がして、気が狂いそうになる」
そうだ。
俺はいつも脅かされていた。
彼女の心が離れていく不安。
どこまでも純粋でひたむきなその心への嫉妬。
そして何より、彼女の愛情は、眩しすぎて、目が潰れてしまいそうになる。
「他人をどうやって大事にしたらいいかもわからない。
大切にするとか、愛するとか、そういうのは俺には分からない。
まともに誰かを思うなんてこと俺には、できない」
ぱしん。
その時。
空気が、破裂するような音がした。
渇いた痛みの後から、思考がついてきて。
彼はようやく。
メイベルに。
頬を、叩かれたのだと知った。

69 :
なんだかもう
ただ見守っておりまする

70 :
>>68
つ…続きを早くっ!
お待ちしております!!

71 :
超おもしれえ・・・
続き待ってます

72 :
メイベル、強くなったなあ

73 :
子クリフとベティに萌えた

74 :
早く幸せになあれ!とも思うし、もっと続いて欲しいとも思うし。
ただただ、楽しみだ。
クリフとメイベルの行く末を見守りたい。

75 :
文章が丁寧だし、情景や状況もわかりやすいし、伏線をそれとわからないように張って、でもきっちりスッキリ回収して、エロはちゃんとエロいし、切なかったり笑えたり……
とにかく続きが楽しみでしょうがない!!

76 :
―メイベル。
あのひとの、声がする。優しい声。
大人の男の人の匂い。どこか甘くてくすぐったいような匂い。
―どうしたの、ぼんやりして。
あの人の腕は長いから、わたしの体なんてすぐ絡め取られてしまって、
ぎゅうっと抱きしめられると、胸が苦しくなって、
もう、何も考えられなくなってしまう。
―何を考えてるの?
そんなの決まっている。
あなたの、こと。
あなたは。
いつも、わたしのことをたくさん言葉にしてくれる。
その言葉で、わたしは自分の形を知ることができる。
誰にも必要とされてこなかったわたしの存在が、
価値のないと思っていたわたしの人生が、
機械のように繰り返されるだけだったわたしの日々が、
あなたの温度に満たされる。
そして、わたしは知る。
毎日が、こんなに、美しいこと。
生きていくことが、こんなに、楽しいこと。
誰かを愛することが、こんなに、豊かだということ。
好きな人に抱きしめられることが、こんなに、幸せだということ。
あなたが喜んでくれるなら、わたしは、どんなことだってする。
あなたを守るために、わたしは、もっともっと、強くなる。
だって。
だって、わたしは―

77 :

「そうやって、ずっと逃げるんですか?」
気がつくと、メイベルは叫んでいた。
「自分にはできないって…。誰とも心を通わせることができないって!」
何が起こったのか理解できない様子で、主は茫然と自分を見ている。
真っ白な表情。
彼の頬を打った手が痺れる。
でもそれは、痛みのせいでは、ない。
「じゃあ、あなたはどうなるの?
このまま、ずっとずっと、ひとりぼっちでいるの?」
だめ。
メイベルは思う。
こんな言葉じゃ、駄目。
「そうやって、平気な振りを、続けていくの?」
違う。
責めたいんじゃない。怒りたいわけじゃない。
この人の心が少しでも救われるような。
この人の苦しみが少しでも減るような。
そんな言葉を言ってあげたいのに。
「んだみたいに生きていくの?」
なのに。
なにも浮かばない。
この人の深い苦しみを。凍りついたままの、長い時間を。
闇に取り込まれたままの、この人の手を。
強く引きあげられるような言葉が。
ない。
見つからない。
「そんなの…」
それ以上は続かなかった。
無力感に苛まれ、彼女が言葉に詰まった途端、ひとりでに涙が溢れていった。
ぼろぼろと、大粒の涙が後から後からこみあげては、雨の滴のように冷たい床を打つ。

78 :
―泣かないと、決めたのに。
自分の声が嗚咽に紛れてゆく。
なんて、弱いんだろう。
なんて、無力なんだろう。
この人がこんなに苦しんでいるのに。
強くならなくちゃいけないのに。
なんにも、してあげられない。
今度こそ泣かないと決めたのに。
あんな小さな誓いすら、わたしは守れない。
こんなに強く思っているのに。
―何ひとつ、言葉にすることができない。
だけど。
だけど。
身が焼きつくされるような悔しさに、彼女は必に流されまいとする。
クリフは彼女をただ、信じられないもののように、見つめている。
迷子のような眼。その無表情の奥に潜む、大きな空洞。
メイベルは、涙に呑まれながら、両足で自分の体を支えて立ちつづける。
逃げちゃだめ。
目を逸らしてはだめ。
どんなに無力でもこれが、わたし。
そして。
このひどく傷ついた弱い人が、わたしが愛してやまない人、姿。
どんなにみっともなくても。届かなかったとしても。傷ついたとしても。
それでも。
―わたしはこの人の手を、絶対に離さない。
そして、メイベルは、喉から言葉を絞り出した。
「愛してくれました」
その時。
静止していた彼の顔が。
固まっていた瞳が、彼女をとらえた。
「あなたは、わたしを愛してくれました」
自分のものと思えないくらい、静かに、はっきりと。言葉が、続いていく。
「ちゃんと愛してくれました。たくさん、いっぱい、あふれるくらい。
わたしにはわかります…あなたが、どれだけ、わたしを大切にしてくれたか」

79 :
彼女は思い出す。
彼が教えてくれたたくさんのこと。
いくつもの物語、フォークとナイフの使い方、身綺麗にすることへの喜び。
愛情の受け止めかた、注ぎかた。
そして。
―メイドとしてじゃなくて、ただの、君の言葉が。
―きちんと、話してごらん。
―また君の悪い癖。
―きちんと自分の意志で決めてほしかったんだ。
―二人でいるときは、僕は君のことを使用人とは思ってない。
君もそうしてくれると嬉しいんだけど。
いつだって、彼は歩み寄り、メイベルを導き、そして待ってくれた。
主としてではく、対等な人間として。
彼女が答えを出すまで。
自分で考えることができるように、なるまで。
「あなたは人を愛せないわけじゃない。
ただ、自分を責めているだけ」
彼が目を見開く。
そう。
目を覚まして。
彼女は思う。
この、悪い夢から。
終わってしまったことから。
失ってしまったものから。
「自分が許せなくてただ自分が辛い道を選んでいるだけ。
自分が幸せにならないようにしてるだけ」
ただ、苦しみを与えるために、
自分を閉じ込めて、痛めつけてきた。
あなたは優しすぎただけで。
人より少し賢すぎただけで。
あなたが辛いのは、あなたのせいでは、ない。
あなたの人生はまだ、終わってはいない。
過去に閉じ込もっていないで、見て。
未来を、その先を、自分の幸せを。
「穏やかでいることなんて、ないんです。
傷ついたり傷つけられたりしてもいいんです。
辛かったら大声で泣いて、
楽しいことがあれば大声で笑って、
そうやって暮らせばいいんです」
メイベルは、両手で彼の頬を挟み、自分の方を向かせる。
その頬は、わずかに温かい。
んでいない。
彼女は思う。
この人はまだ、確かに。
生きている。

80 :
「わたしはあなたが好き」
メイベルは、我を忘れて、叫ぶ。
「どんなあなたも、好き。
弱くても、意地悪でも、寝起きが悪くても。
今のあなたが、いちばん好き」
息が、苦しい。
喉が詰まって、声が出なくなる。
瞳が溶けてしまいそうになる。
「だから、お願いです…」
メイベルは思い返す。
主の、穏やかな、美しい笑顔。
つくりものの、よくできた上手な笑顔。
―そして、めでたく俺はここを取り戻したという、わけ。
いままで見たことの、ないような。
悲しい顔。
「もう、あんな顔で笑ったり…しないで…」
彼女はそれ以上何も言えなくなり、俯いて目を閉じる。
瞼を閉ざしてもだらだらと、目から流れ落ち続ける涙。
苦しくて、愛しくて、頭に血がのぼる。
そして。
彼女は。
自分の体がクリフに、きつく抱きしめられたのを、感じた。
涙の熱が体にこもる。
時間が止まったような沈黙。
この世に二人きりになってしまったみたいな、静けさ。
気の遠くなるような、愛しさ。
「君は」
掠れた声が聞こえる。
「俺の為に、泣いてくれるんだね」
うわごとのような、たどたどしい言葉。
縋りつくような、弱い声。
体の温度。匂い。
体が折れてしまいそうなくらい強い、その腕の力。
「あなたが泣けないのなら…わたしが、代わりに泣きます」
メイベルは、彼の肩に、頭を押し付ける。
「あなたが、泣けるようになるまで」

81 :
彼は何も言わなかった。
しかし、彼のその肩が次第に震えてゆくのを、彼女は体で受け止めながら、理解する。
―彼がようやく、苦しみを吐きだすことを、自分に許したということに。
クリフの呼吸が乱れてゆく。
体を押しつけるように、激痛に耐えるように、
メイベルの体を彼はきつく抱きしめる。
「大丈夫です」
メイベルもまた、彼の首に腕を巻きつけ、力を込める。
愛しい人の頭を引き寄せて、包み込む。
そして。
何かが崩れおち、決壊していくように。
彼が声をあげ、子供のように泣くのを、
メイベルはどこか安らぎを持って、受け止めた。
「大丈夫ですから」
彼の傷が癒えることはないだろう。
彼女は思う。
不安も痛みも彼の中の大きな空白も埋まることはなく、
これからも、苦しみは永く続くに違いない。
でも。
苦しみを吐きだすことができれば。
そこに寄り添うことができれば。
きっと、ほんの少しは、楽になる。
それが眼に見えないほど、ごく小さなものであったとしても。
一瞬の気休めに過ぎないものであったとしても。
そのためになら、わたしは。
何だって、差し出すことができる。
「わたしが、ずっと、おそばにいます」
泣きじゃくる主の耳元で、メイベルは囁く。
だって、わたしは―
「あなたを、愛しているから」

82 :
GJ一番槍!

83 :
GJ!!

84 :
職場にいるけど泣いた GJ!

85 :
旦那様泣けてよかったな…メイベルがいるからもう大丈夫だね

86 :
GJ!!
っていうか、休日出勤だろうけど、職場でピンク板なんか見るなw
とはいえ俺も携帯で色んなとこから見てるけどな!

87 :
他にも投下来ないかなー

88 :
GJ!!
すごくいいカップルだ

89 :
のぼうの城の殿様みたいな普段は役立たずで
いざとならないとすごいコイツなご主人様と
コイツ私が居ないとだめだなぁって世話やきな従者
とかのカップリングとかいいなぁと妄想した……。

90 :
「本当に、よろしいのですか?旦那様」
メイベルは心配そうに、彼の顔を覗き込む。
「うん。買い手がついたから」
「だからって、そんな、簡単に―」
彼女は言った。
「ここを…お離れになるだなんて」
―屋敷を、手放そう。
あの日。メイベルに全てを打ち明けた次の朝。
目覚めた瞬間に、彼はそう思った。
あれだけ執着していたこの屋敷。
ここを離れる決断を、自分がいとも簡単にできたことに
クリフは今でも驚きを覚えていた。
上手くできるかはわからないけれど。
彼はこれまでにないほど澄みきった頭で考えた。
きちんとした形で、自分の生活を始めてみよう、と。
そして、今。
彼は長い時間を過ごしてきたこの書斎で、彼女にそれを告げた。
ここから、出ていくことにしたから、と。
「案外とんとん進むものだね。もっと早くこうしていればよかった」
「でも、大切なお屋敷だったのでは、ないですか?」
あまりに不安げなその顔を見て、彼は可笑しくなる。
メイベルが動揺する様子を見るのは、彼の密かな楽しみの一つであった。
「君は、反対?」
「そんなことはないですが、その、あまりに急ですし…」
彼女は言いにくそうに続けた。
「あの…ご無理をなさっているの、では…と」
メイベルの優しさを感じ、彼は少し思考を立ち止まらせる。
「もしかすると、そうなのかも知れない」
クリフは小さく息を吐いた。
「でも気が変わらないうちにと思って。ここにいたら、いつまでたっても…ね」
彼はメイベルのほうに向き直ると、言った。
「君のおかげ」
すぐ近くにある、メイベルの顔を彼は見つめる。
あどけなさの残る、幼い顔をした娘。
しかし彼女は、全身全霊で、自分を赦し、そして救おうとしてくれた。
メイベルはすこし黙った後、頬を染めながら小さな声で、はい、と答えた。

91 :
「とはいえ」
「はい」
「これからちょっと大変だなあ」
彼は他人事のようにあっさりと言った。
「荷造りもしなきゃいけないし、住む場所も探さなくちゃいけないし」
そして苦笑して続けた。
「ベティのところにももうちょっと通わなくちゃいけないみたいだし」
「まだ、会ってくださらないのですか?」
メイベルの言葉に、彼は肯く。
あれから、一月ほどが経った今。
彼は、ベティに謝るため、彼女の自宅に何度となく足を運んでいたが、
彼女はいまだに顔すら出してくれなかった。
「頑固だからね。こうなると時間がかかるんだよ、ベティは」
困ったようにクリフは笑った。
「でも、大丈夫。ちゃんと、分かってくれると思う」
冷静になった今では、ベティが火のように怒った理由を理解することができた。
きっと、自分のことを、誰よりも。
本気で心配してくれていたからなのだと。
「それに」
彼は意識を切り替える。
「ここで働いてくれてる人たちの、新しい勤め先も探さなくちゃいけない」
彼が言うと、彼女はきょとんとした表情を浮かべる。
「使用人を…お連れにならないの、ですか?」
「必要ないと思う。もうそんなに大きなところに住むつもりはないし」
「そう、ですか…」
彼女は少し不安げに答える。
「だから、君の仕事もおしまい」
メイベルの顔に戸惑いが浮かぶ。
「これからは」
彼女の困惑を打ち消すように彼は言った。
「メイドとしてじゃなくて。ただ一緒にいてもらえない?」

92 :
彼が言うと、メイベルは表情を失い、ぽかんと彼の顔を見返した。
純情なメイベルは、想像を超えたことがあるたびに、
すぐにこうして固まってしまう。
クリフは感慨のようなものを、覚える。
いつからだろう。
愛想のなかった彼女がこんな風に、くるくると表情を変えるようになったのは。
「言ってる意味、わかる?」
指を伸ばし、彼女の柔らかな頬に触れ、意識を自分の方に向けさせる。
「わ、わかります…」
不安定に揺れたメイベルの眼が彼を捉える。愛おしい瞳。
「今まで君にはたくさん酷いことをしてしまったし。
俺はこんなだから、君をきちんと幸せにしてあげられるかはわからないけど」
クリフは彼女の眼をまっすぐに見る。
困った顔。
頼りなげなその姿からは想像できないほど、彼女は強かった。
クリフは思う。
自分のことなんて、どうだってよいのだ。
失ったものや、じくじくと痛み続ける傷口を眺め続けるよりも。
これからは、この娘のためのことを。
彼女を幸せにするためのことを。
―考えていけるように、なれたら。
かつての自分からはおよそ考えられないような、
その想いに彼の胸は満たされてゆく。
そして。
彼はメイベルの手をとると片膝をつき、言った。
「結婚して、いただけませんか?」

93 :
クリフは静かに返事を待った。
彼は自分の鼓動が速まるのを感じて、驚く。
沈黙がこんなに恐ろしいとは、と彼は思う。
不安になったり悩んだり迷ったり泣いたり。
彼女といるときの自分はあまりに見苦しく、何よりも人間らしい。
水をうったような静けさに耐えかね、
そっと彼女を見上げると、
メイベルは、顔を真っ赤にしたまま。
ぼんやりと、夢を見ているように茫然と、彼を見ていた。
「メイベル」
クリフは困り、彼女の名を呼ぶ。
「何か言って」
「あの…旦那様」
「ん?」
「けっこん、と言うのは…」
メイベルは初めて聞いた単語のように、それを繰り返した。
「知らない?」
「知ってます、でも…わたしの知ってるものは、あの、
旦那様が、おっしゃっている、ものと…違うかも、しれません、し…」
メイベルは、彼が予想した以上に混乱していた。
「君に奥さんになってもらいたいってこと」
みるみるうちにメイベルの顔色が変わる。
その素直な反応を見て、彼は自然と笑いがこみ上げてくるのを感じた。
「君が思ってたものと違ってた?」
メイベルはもはや言葉も出ない様子で俯くと、黙ったまま首を左右に振る。
確かに驚くのも無理はない、と彼は思う。
本来であれば、もう少し長く時間をかけて言うべきことなのだろう。
それ以前に、自分に言う資格のある言葉ではないのかもしれない。
だけど。
自分の気持ちに素直になったとき。
一番に。
彼女と家族になりたい、と彼は思ったのだった。
「君のことを愛してる」
彼は精一杯の気持ちを込めて、言った。
「返事を聞かせてくれる?」

94 :
メイベルは。
しばらく俯き、黙っていたが、
やがて、覚悟を決めたように顔を上げた。
動揺と混乱を必に、押さえつけながら。
ごく小さな声で、しかし、しっかりと彼の目を見て。
メイベルは言った。
「…はい」
クリフは自分が感動していることを、驚きをもって受け止めた。
人が、負の感情ばかりでなく、陽の感情にもつき動かされるということを、
頭で理解する前に、彼はメイベルの体を引き寄せていた。
そして、口を塞ぐように、強引にキスをした。
「…んっ!」
メイベルが驚き、抵抗するように声を漏らす。
困ったな、と彼は思った。
愛しくて愛しくて、胸が苦しくなるほど。
こんなに誰かのことを、好きになってしまうなんて。
過去を反芻し形だけ生きているだけのような日々の中で、現れたメイドの娘。
そして、誰のことも信じることができなかった自分が。
愛情などというものに救われるなんて。
―彼女なしでは生きられなくなってしまうなんて。
ゆっくりと腕の力を緩め、顔を離すと。
メイベルのその眼は潤み、唇は拗ねたように尖っていた。
「旦那様は、ずるい、です…」
彼女にしては珍しいその恨めしそうな表情に、クリフは苦笑する。
「何が?」
「いつも突然で、急で。そうやって…ご自分のしたいように、なさってばかり」
確かに彼女の言うとおりだ、とクリフは思う。
返す言葉もない。
「ごめん」
「反省…してます?」
「うん」
「じゃあ誠意を見せて頂かないと」
聞き覚えのある台詞に、彼の記憶がくすぐられる。
あれは、いつだったか―
「もっと…言ってください」
その甘い声に、彼の思考が分断された。
「愛してるって、言って」
かつて聞いたことのないような彼女の声に、彼は頭の芯が痺れるような感覚を覚える。
何度も何度もキスをしながら、クリフはその言葉を繰り返し囁く。
指を絡ませて、優しく。
まるで、どこにでもいる恋人同士のように。
二人は長い間、キスを続ける。

95 :
彼は祈るように考える。
もう二度と、彼女の顔を曇らせることがないように。
もう二度と、悲しい思いをさせることがないように。
―いや、違う。
そこまで考えると、彼は思った。
二度と、なんていう誓いには意味がない。
きっとこれからも、彼女を悲しませたりすることがある。
きっと傷つけてしまうことも、ある。
でも、不安にのまれても。
見失うことがあっても。
何度でも立ち上がって進んでいこうという意志を持たなくては。
そう、彼女のように。
―幸せから逃げないで、生きていけるように。
ふと気がつくと、メイベルは、その瞳からぽろぽろと涙をこぼしていた。
真っ赤な顔。無防備な瞳。その熱。
「泣いてる」
そっと指先で拭ってやると、彼女は初めてそれに気がついたように、驚く。
「あ…わたし…」
メイベルの髪を撫で、彼は笑う。
「君はよく泣くね」
「…はい…だめですね…ほんとうに…」
メイベルは泣きながら、困ったように笑った。
「あんなに泣かないって…約束したのに」
「約束って…」
彼はきょとんとして、尋ねる。
「…誰と?」
メイベルは一瞬目を丸くした後、
可笑しそうにクスクスと笑い始めた。
その顔は、柔らかくどこまでも幸せに満ちている。
不思議そうな表情を浮かべ続ける彼に向かって、
メイベルは泣きながら笑い、そして、答えた。
「秘密です」

96 :
これで、ようやく終わりです。
長々とすいませんでした。
拙い文章でしたが、読んでいただいた方、
本当にありがとうございました。
後半ちょっとエロい成分が足らなかった感じがあるので、
もし需要があるのであれば
おまけ的な物を一本書いて
それで終わりにしようかな、と思ってます。
ありがとうございました。

97 :
完結お疲れ様でした
そして超GJ!
おまけもお待ちしております

98 :
あぁ、よかった。大円満でよかったよ!
終わってしまうのは寂しいけれど、お疲れ様でした。
おまけも待ってますw

99 :
お疲れさまでした〜面白かった!!
おまけも楽しみです。

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