2013年10エロパロ257: 百合カップルスレ@18禁創作板9 (337) TOP カテ一覧 スレ一覧 Pink元 削除依頼

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百合カップルスレ@18禁創作板9


1 :2012/12/23 〜 最終レス :2013/09/25
とにかく百合ならいけいけOK!というスレッドです。
創作パロディなんでもあり。
前スレ
百合カップルスレ@18禁創作板8
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1345098894/

2 :
しまっ…重複してしまいました。
容量のことを失念していたことと言い、本当に申し訳ないです…
わたしのですが、また容量を圧迫しかねないのでこちらにまとめてアップしました
本当にお騒がせしてすいません……
http://www.titleblank.com/page/50d6c1aae4b04f8c029d07e3

3 :
過去スレ
百合カプスレ@エロパロ板
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1059798364/
百合カプスレ・2 @エロパロ板
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1082138248/
百合カプスレ・2.5
http://pie.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1082384534/
百合カプスレ@エロパロ板 三度目の正直
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1087027859/
百合カプスレ@エロパロ板 4
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1108536012/
百合カップスレ@18禁文章創作板5
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1167898791/
百合カップルスレ@18禁創作板7
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1286194348/
作品保管サイト(ただし古いもののみ)
百合ちゃんねる
http://lilych.fairy.ne.jp/

4 :
鳥消し忘れたw
>>2
こちらで構いませんか?
投稿者はそちらなので、お譲りしても構いませんが……

5 :
こちらでおねがいします…すみませんでした
削除はどうすれば……

6 :
>>5
誰も書き込まなかったら即するだろ>あっち
改めて続きをこっちに投下したら?

7 :
>>5
削除依頼板のエロパロスレッド削除スレに行って、他の人と同じ形式で依頼すればOK

8 :
削除依頼を出しました
遅くなり申し訳ないです…

9 :
百合はいいものだ。
ダブルヒロインだったり、二人セットで登場する女性キャラを見かけるといつも期待してしまうよ…

10 :
>>2
このままも捨てがたいけど誰かの入れ知恵(メイド長のおば様とか)で下克上に成功するお嬢様とか見たいw

11 :
プロット的な妄想
「こんの・・・ばかんなぁ!」
「何よ!あほのか!」
今喧嘩しているのが木吉かんなと月島穂香、そして今説明してるのが2人の親友中井美香
2人からはなかみんと呼ばれている。
ちなみに2人ともしょっちゅう喧嘩ばかりしているが私と居る時なんかは
「はあ、なんでいっつもああなっちゃうんだろ・・・でも怒ってるかんな可愛いからなぁ」
「今日も喧嘩しちゃった、もっと素直になりたいなぁ、ただ、怒らせると可愛いのよねぇ」
この通りお互いにお互いのこと大好きやないかぁーい!っとツッコミを入れて良い感じなのである。
まあ、見てて面白いので言わないけど
なんやかんやあって仲直りしてエッチすることになり隙間から覗いてた美香が
見つかり3Pになるとこまで考えたけどエロ書けない(´・ω・`)

12 :
メリークリスマス!!くだんちゃんとネコさん、覚えて頂いてるでしょうか?
せっかくの聖夜なので、二人がイチャコラしてるだけのSS、投下させていただきます。
くだんちゃんcompilation!(2)「聖夜にイチャイチャ」7レス分です
※このSSはフィクションです。お酒は20歳になってから!

13 :
頭にケモ耳を持つ人達が暮らす世界の、クリスマスムードに湧くとある街。
とあるオシャレなレストランの前に、精いっぱい着飾った二人の少女がいます。
黒と白のドレスに身を包んだ、頭にツノのある少女、くだんちゃん。
黄色いドレスをまとい、ネコ耳にリボンをつけた少女、ネコさん。
一緒に迎える初めてのクリスマス、少女達はちょっと背伸びをしてみようというのです。
「ネ、ネコさん…私、なんだかどきどきするんだけど…」
「だーいじょうぶよ、くだんちゃん。バッチリ決まってる。可愛い!」
「あ、ありがと…ネコさんも、すっっっっっっっっ…ごく素敵」
ところが。
「え…?」
「申し訳ありませんが、ケモ耳の無いお客様のお食事はご遠慮いただいております」
レストランの前で。タキシードに身を包んだゾウさんが深々と頭を下げています。
私たちの世界にも例えば、刺青不可のプールとかサウナがありますよね?
どうやらこの世界ではケモ耳が無いと言う事は、反社会的行為の結果…
…という事になっているようなのです。ケモ耳=小指的な?そんな感じです。
「ど、どういう事よ!?くだんちゃんは、そんなんじゃ…!」
「ネ、ネコさん、ネコさん!」
「なによ!?あんた、こんな仕打ち受けてなんともないの?…って、え?」
振りかえったネコさんの眼に映ったのは…
「ほら、お揃い。似合う?」
くだんちゃんの頭には、ネコさんと同じネコ耳。つけ耳です。健気です。
「くだんちゃん、あんた…」
「あの、これでどうですか?私、生まれつきなんです。これでなんとか…」
「申し訳ございません」
取りつく島もなく、タキシード姿のゾウさんは、またも深々と頭を垂れます。
「そうですか…」
くだんちゃん、しゅん。
それを見たネコさんの頭に瞬間的に血が昇ります。
「もういい!行こう!」
「あ、で、でも…」
「いいから!」
「ネコさん…!?」
くだんちゃんは驚きます。
ネコさんの眼に、光るものを見つけたからです。

※※※

14 :
楽しげに恋人達が行き交う街角を、二人はしょんぼりと歩きます。
「ネコ、さん…?」
「悔しい、よ。悔しいんだもん…!」
「ネコさん…」
えぐえぐと、ネコさんはしゃくりあげるように嗚咽を漏らします。
「くだ、くだんちゃんの、ツノは、何度もあたしを助けてくれた、ステキなツノなのに…!」
二人が出会い、お付き合いをする切っ掛けとなった事件で。
二人が恋人宣言を全校に向けてする事になった事件で。
引込み思案のくだんちゃんでしたが、ネコさんがピンチに陥った時には、
精いっぱいの勇気を奮い起し、そのツノで苦難を切り開いて来たのです。
「ケモ耳が無くったって!くだんちゃんは…とても優しくて素敵な女の子、なのに…!」
ぼろぼろと涙を零すネコさん。
ネコさんのそんな涙を、くだんちゃんは初めて見たのです。
「ありがと、ネコさん」
「くだんちゃん…」
「私は大丈夫。ネコさんが、そんな風に言ってくれるから。だから…」
「くだん、ちゃん…」
ネコさんの手が、くだんちゃんのツノに伸びます。
さわさわと優しく、硬くて冷たいツノを撫でさすります。
「ん…ネコ、さん…」
髪を撫でられると、気持ちいいですよね。
髪自体に感覚神経はありませんが、髪は頭から生えてます。ツノも同じです。
だから好きな人に優しく撫でられた感覚は、ちゃんと伝わるのです。
「ネコさん…」
くだんちゃんの眼が、とろん、と蕩けて行きます。
ネコさんの手が、ツノを、髪を、くだんちゃんの頭を優しく愛撫し…
イルミネーションの灯りの中、二つのシルエットが重なります。
ムード満点の優しいキスに、くだんちゃんの表情はもうとろっとろ。
「レストランなんて、行かなくったっていい…」
「くだんちゃん?」
「ネコさんと一緒なら…どこだって、いいの…」
「お、おう…/////」
※※※
と、いう訳で。
二人はスーパーで食べ物やジュースを買いこんで、ネコさんのお部屋に向かいます。
一人暮らしのネコさんのお部屋で、二人きりのクリスマスパーティーという訳です。
※※※

15 :
二人だけの、楽しい楽しい一時。そのはずでした。が。
「にゃっ!?こ、これ…!!」
可愛いイチゴのイラストが書かれていたその缶は。
ジュースだと思ってカゴに放り込んだ缶の中身は。
「く、くだんちゃん!ちょっと待ったーーーーー!!」
「ふにゃ…?」
「お、遅かったか!?」
どうやらアルコール入りのカクテルだったようなのです。
「こりぇ、おいひい…なんらか、ぽかぽか、しゅりゅ…よ?」
「あちゃー」
思わず天を仰ぐネコさんなのでした。実にお約束な展開に為す術もありません。
「く、くだんちゃん大丈夫?」
くだんちゃんの肩に手を伸ばすネコさん、するとくだんちゃんは何を勘違いしたのか
「ん〜」
と、唇を突き出します。キスのおねだりです。
「えと、その…」
くだんちゃんは普段、こんなにあからさまなおねだりはしません。
思わぬ不意打ちに頬を染め、それでもついキスをしてしまうネコさん。
「ネコしゃん…しゅき…らいしゅき…」
「う、うん…あたしも、好き、だよ」
「うれし、ネコしゃん、ネコしゃん…」
「ちょ、な、なに!?こ、こら!!」
押し倒されました。
「だ、だめだってば!シャ、シャワーも浴びてないし…!」
「ネコしゃん、ネコしゃん、しゅきしゅき、らいしゅき…」
キスの雨あられ。くだんちゃん、暴走してます。
「ネコしゃんの、ネコ耳、かーいい。らいしゅき。ちゅっちゅっ」
「ふぁ…んん!だ、めぇ!息、吹きかけちゃ…んんっ!」
「ネコしゃんの、ほっぺ、らいしゅき…らいしゅき…」
「んん…っ!く、くすぐっ…んあぅ…ぅ…っ!」
「ネコしゃんの、おっぱい、らいしゅき、んちゅっ…」
「んく…っ!やぁ!そ、そんなとこ、だめぇええぇ!!」
「ネコしゃん…ネコしゃん…ネコしゃん…」
くだんちゃん、とろりとした視線でネコさんを見上げます。
その表情に…ネコさんの心拍数が急上昇。
うるうるとうるんだ瞳、上気した頬、アルコールで理性を麻痺させ、
ネコさんに対する欲望を曝け出したくだんちゃんの表情は…
とてもとてもとても…色っぽかったのです。
「く、くだんちゃん…!!」
「ふぁ?あ〜れ〜」

16 :
がばっと、身体を入れ替え、くだんちゃんに覆いかぶさるネコさん。
くだんちゃんに激しい激しいキスを贈ります。
「くだんちゃん…可愛い可愛い可愛い…!好き好き好き好き好き…っ!」
「ふぁ…うれひぃ…ネコしゃんに、しゅきっていわれりゅと…わらひ…」
くだんちゃん、しっかりと目線をネコさんに据えたまま。
「どきどきひひぇ…おみゃんこ、濡れてきひゃうの…」
(うわうわうわうわうわーーーーーーーーーーーーーーーー!!
と、ネコさん心の中で絶叫します。
精いっぱいのオシャレをして、ばっちりメイクも決めた、普段とはちょっと違う
アダルトなムードを醸し出した愛しい恋人の口から飛び出す淫語。
それはもう、アルコール以上のパワーでもって、ネコさんの理性を吹き飛ばすのです。
「そ、そうなの?じゃあ…見せて?」
「うん…わかっら…」
(うわわわわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!
ネコさん、またしても絶叫(心の中で)
くだんちゃんはゆらりと立ちあがるとドレスのスカートに手を突っ込みます。
ゆらゆらと揺れながらも器用にショーツをするすると降ろしてしまったのです。
「く、くだんちゃん?」
まさか恥ずかしがり屋のくだんちゃんが自ら脱ぐとは思わなかったネコさん、唖然呆然。
そしてショーツを脱いだくだんちゃんは、脚を開いて、自らスカートをまくりあげ…
「ネコしゃん…見えりゅ?わらひ…にゅれてりゅ、れひょ…?」
その言葉の通り、くだんちゃんのお股からはすでにつつーーっと、えっちなお汁が垂れ、
むっちりとした健康的なくだんちゃんの太腿に銀色の筋を作っていたのです。
「う、うん…すご…あ、溢れてる…」
その扇情的な光景に、思わずごくりと唾を呑むネコさん。
もちろん、そんな姿を見せられて黙っていられる訳もありません。
「ホント…どんどん溢れてくる。恥ずかしくないの?こんなに溢れさせて」
「えへぇ…ネコしゃんに、見られてりゅかりゃ…昂奮、しれきひゃう、にょ…」
(こ、この正直者!!
いつもならここで「や、やだぁ…は、恥ずかしいよぉ…!」などと身悶えするシーン。
ですがくだんちゃん、どうやらアルコールのせいで羞恥心が薄れているようです。
ならば、とネコさんは…
(羞恥心が薄れてるなら…いつもは恥ずかしがってやらない事をさせられるかも…
(く、くだんちゃんの、やらしい所、いっぱい見られるかも………!!!!
と、その邪な欲望を満足させるべく一計を案じるのです。

17 :
「そ、そう…そんなに、昂奮してるの?見られてるだけなのに?」
「うん。わらひ…どきどきひれ…おみゃんこ、ぬれひゃう…」
「じゃあ触りたい?えっちなお汁を溢れさせてるおまんこ、弄りたいんじゃない?」
「やらぁ…ネコさんに、してほひいよぉ…きもひよく、ひてほひい…」
「そ、そう…!じゃ、じゃあ…!!」
「うん…ひひぇ…おみゃんこ、ひひぇ…!」
いやらしくおねだりするくだんちゃんの姿に思わず前のめりになるネコさん、しかし。
(はっ!ダメダメダメ!流されちゃダメ!
「ダ、ダメよ!そんなに気持ちよくなりたいなら…」
「はみゃ?」
「じ、自分でしなさい。見ててあげるから」
そう、ネコさんの邪な欲望。かねてから見たいと思っていた恋人の痴態。
それはくだんちゃんがオナニーする所を見たい!!というものだったのです。
なかなかに悪趣味ですよね?
「う、うるさいうるさい!さ!くだんちゃん?見ててあげるから…自分でするの」
「自分れ…?オニャニーしゅりゅの?ネコしゃん、わらひのオニャニー、見らい?」
(ス、ストレートね…!羞恥心完全置き去り!?
「そ、そうよ。見せて。いやらしく喘いで気持ちよくなるとこ、私に見せて?」
「うん、わかっら…ネコしゃんが見らいなら…しゅりゅね?」
「お、おう…!」
「見れれ…わらひの、ひやらひいオニャニー、見れれくらしゃい…」
そう言うとくだんちゃんは、ぺたりとネコさんのベッドに座り込み、大きく脚を広げます。
蜜を溢れさせたアソコをネコさんに見せつけるようにぱっくり開いて、おもむろに…
「ん、んくぅ………んはぁぁぁあああ!!」
自身のアソコに人差し指と中指を突き立て、激しい自慰を始めるのです。
(う、うわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!
心の中で絶叫しつつ、食い入るようにその様子を見つめるネコさん。もう眼が離せません。
くだんちゃんのえっちなアソコからは指の動きにつれ、じゅぶじゅぶとお汁が溢れます。
ひくつく太腿と二本の指と、そして床まで濡らす勢いで零れるえっちなお汁。
「んひゃぁああ!あ!んひぃ!き、きもひ、きもひ、いい!いい!いいよぉおおお!!」
大きな声で喘ぎ、全身で悶え、激しい自慰を続けるくだんちゃん。
「ネ、ネコしゃ…んんんっ!きもひいい!きもひいい!きもひいいのぉぉぉ!!」
「う、うん…すごい…!すごく気持ち良さそう…すごくいやらしい…!」
「あはぁ、ネコしゃん、見れる?見れくれてりゅ?んん!わらひのいやらひい所…!」
「うん、見てる…!すごい…すごいすごいすごいすごい…!!」
くだんちゃんのいつもより激しい乱れ方に昂奮を越え、感動すら覚えるネコさん。
これは内緒ですが、ネコさんのアソコもすでに濡れ濡れのぐちゃぐちゃです。
はぁはぁと荒い息をつき、思わず太腿をもじもじと擦り合わせてしまう始末。
「もっと、もっと気持ちよくなっていいよ?もっといやらしくなって?」
「いいの?わらひ、もっろいやらひくなっれ、いい?」
「うん…!も、もちろん…!」
「わかっら…わらひ、もっろきもひよく、なるね…?」

18 :
と、くだんちゃんは空いていたもう一方の手も股間に伸ばし…
「んく………っ!ひぃあああああああああああああああああああ!!!!」
おもむろにクリトリスをつまみあげたのです。
「うわ、は、はげし…!」
「あひぁ!あ!んひぃぃああぁ!あ!あ!あ!んあぁあああぁぁあ!!」
激しい快感を逃がそうというのか、ツノを振り立て嬌声をあげながらも、
クリと膣内を責め立てる指の動きの激しさはまるで衰えないままに、
くだんちゃんは目尻に涙をため、涎を垂らしながら激しい自慰を続けます。
「すご…こんなの、魅せられたら…わ、私も…!!」
「ネ、ネコしゃんもドキドキしれる?ね、ネコしゃん…!」
はぁはぁと荒い息をつきながら、くだんちゃんは一旦、激しい自慰を中断します。
そして四つん這いになってネコさんににじり寄り、真正面から眼を見ていうのです。
「いっひょに、ネコしゃんもいっひょにしょ…?」
「バ、バカ…!そ、そんな…!!」
ネコさんとの相互オナニー鑑賞を希望するくだんちゃん、大胆です。
拒絶するネコさんですが、すでにアソコは濡れ濡れのぐちょぐちょ。
昂奮のあまりネコ耳はひくひく、それほど長く我慢できるものではありません。
「だって、そんな、は、恥ずかし…!」
「らいじょうぶ…!ほら…!」
「え…?ちょ、くだ…!?」
くだんちゃん、傍らにあった可愛いイチゴのイラストが書かれた缶を手にとり、
その中身をおもむろにぐびびびび…っ!と口に含んだのです。そして。
「んちゅ…っ」
「んむぅ…!!??」
ネコさんにキス…いえ、口移しでした。ごくごくと鳴るネコさんの喉。
アルコール度数9%、イチゴのカクテルがネコさんの体内で熱となります。
「ひやっ…!あ、熱…か、身体が…熱くなって…ヒック!!」
「あははぁ!ネコしゃんもエッチにな〜れ〜!!」
「バ、バカ!な、ならないわよ、そんな…ヒック!」
「ね…?ネコさん…いっひょに、しよ?」
「くだん、ちゃ…わ、わら、ひ…あ、あれ?」
ネコさんの呂律がだんだん怪しくなってきます。
普段はキリっとしてる表情がとろんと蕩けて行きます。
くだんちゃんはそんなネコさんに見せつけるように自慰を再開。
今度はドレスの胸元をはだけ、乳首を弄りつつクリを弄ります。
「ネコ、しゃ…んん!ネコしゃんも…ねぇ…!」
「くだんひゃん…わ、わらひ…わらひ…!あ、ありぇ?」
がくんとネコさんの身体が崩れ落ちます。ヨガで言うところのネコのポーズ。
背筋を伸ばしてお尻を突き出した四つん這いのポーズになったネコさんは、
「わらひもぉ…!もう、らめぇ!!」
ついに自身の股間に手を伸ばしてしまうのです。

19 :
「んくぅううう!あ!あ!わ、わらひ、もお…濡れて…!あ!あ!あ!」
「やらひい…!ネコしゃんもやらひいよ…!そんなの見ひぇられひゃら…!」
くだんちゃんは、床にお尻をペタンとつけ、M字開脚でアソコを曝け出し。
そして四つん這いになったネコさんは、つきだしたお尻を振り立てながら。
「やぁ!くだ、んひゃ…ん!んんーーーー!!んはぁああ!あ!ああああ!あ!ああ!」
「ネコしゃんネコしゃんネコしゃん…!きもひいい!きもひいい!きもひいいいい!」
お互いの痴態をオカズに、愛液を撒き散らす程の激しい自慰を続け、そして。
「やぁ!イク!いっちゃう!わらひ、わらひ、もう…!もう!」
「わらひ、も!イクの!いっちゃうの!気持ちよくて…もう!」
「い、いっひょに!いっひょにいこう?ね?いっひょが、いい…!」
「うん…!うんうんうんうん…!いっひょに、い、いく…いく、の…!」
お互いの眼をじっと見つめ合いながら、片手は自身の秘裂を愛撫しながら、
もう一方の手を伸ばし、堅くお互いの手を握りしめ、そして…
「や!あ!くだんちゃ…ん!くだんちゃんくだんちゃんくだんちゃん…!」
「んひぁああ!ネコしゃんネコしゃんネコしゃんネコしゃんネコしゃん…!」

「「い……くっ!…あああああああああああああああああああああああああ!!」」

※※※
「素敵なクリスマスになった?」
「う、うん…ネコさんは?」
「最高!くだんちゃんの…あんないやらしいとこも見れたし」
「や、やだ…う、ううう!は、はずか、しいよぉ…!!」
激しい自慰を見られた…という点ではネコさんも立場は同じ、なのですが。
やはり通常時はネコさんがタチでSで、くだんちゃんがネコでMで、
そんな関係が二人にはしっくりくるようです。
「そんなに気持ちよかったの?ん?」
「いやーーー!もう許してぇ!!」
「ああ、もお、だめ!くだんちゃん!!」
「きゃっ!?ネ、ネコさん!?」
ネコさん、くだんちゃんをがばっ!と抱きしめて。
「クリスマスは…まだ終わらないよ?」
「ふ、ふえ?」
「今夜は…寝かさないんだから…」
「ネ、ネコさん…!//////」
こうして、クリスマスの夜は過ぎて行きます。
恋人たちの秘め事を覆い隠すように雪が降ります。
もっとも、二人はその雪を見る事は出来ませんでしたけど。
なにしろ、お互いのことしか見えてないんですから、ね?

< MerryChristmas! >

20 :
以上、皆さん素敵なクリスマスをお過ごしください。
ではまたノシ

21 :
間にあって…ない!
Xmas過ぎちゃったが乙!
新参ながら楽しめました!
小さい箱の中に入れてずっと観察したい、そんな気持ちです

22 :
GJ!めちゃくちゃニヤニヤしましたw

それにしてもそのレストラン潰れろとは言わないが許せないから爆ぜろ

23 :
>>21
>小さい箱の中に入れてずっと観察したい、そんな気持ちです
ああ、このお言葉、なんかすごくうれしい。ありがとうございます。
>>22
ありがとうございます。多分、近日中に何か起こります、あの店w

24 :
妙なとこで途切れてると思ったら次スレできてたのか
>2
くっそかわええな
年下攻めはいいね
あと容量云々言い出したら投下できないぜ

25 :
俺に言わせれば年下攻めではなく、年上受けにこそ妙がある
攻められて悔しいッ、私の方が年上なのに……みたいなのに萌えるわけだからな

26 :
>>25
握手(AA省略)

27 :
みーちゃんはまだか

28 :
気持ちは分かるが前回は九時半過ぎからだったんだ、のんびり待とうよ

29 :
今更クリスマスネタ思い付いた…一週間早ければ

30 :
遅すぎるなんてことはない…

31 :
>>29
気になるならいっそ来年に持ち越すという手もある
干支娘を覚えてた俺等だ、来年の中旬にでも「そういや去年、クリスマスネタ書きそびれたとか言ってた奴がいたな」的な話をしてるだろうよw

32 :
>>31
そうだよな…みんな去年の干支娘覚えてたんだもんな
ちょっと今からは時期的にアレだから来年に持ち越すことにする
忘れてたら言ってくれ

33 :
ああん、もお、大晦日、時間がなさ過ぎますよー!
歳神娘の続きですー。

34 :
 さあ、いよいよ待ちに待った大晦日です。
 とっておきの藤色の訪問着を身に纏い、期待に胸を高鳴らせ、子宮を戦慄かせながら、
満面の笑みで歩いて行くみーちゃん。
 やがて、新年の入口が見えてきました。
 そこには先日うーぴょんに見せられた映像の通り、おぞましく蠢く全身タイツに体中を
卑猥に責め立てられているたっちゃんの姿がありました。壁に鎖で両手を繋がれてもたれ
かかり、涙・涎・鼻水にまみれて白目を剥いた極限のアヘ顔で弱々しくのたうちまわり、
舌をだらしなく垂らした半開きのままのお口で無言の悲鳴を上げ続けています。
「お、おお……」
 思わず声が出るみーちゃん。予め知ってはいたものの、実際に目にするとその破壊力は
また格別のものがありました。
 一年越しの寸止め焦らし責めの成果でしょうか、胸と股間の勃起は小指の先ほどにまで
肥大化してタイツを押し上げており、内側の微細触手に撫で回されている様子が、ぴった
りと張り付いた布地越しにはっきりと見てとれます。
 もちろん、責められているのはそこだけではありません。
 感じやすい首筋や控えめな胸の膨らみ、お腹、脇腹、背中、健康的な二の腕や肘先、手
や指、きゅっと引き締まった形の良いお尻、しなやかな太もも、意外と敏感な膝や膝裏、
力んで震えるふくらはぎ、くすぐったさを通り越してもうそこだけで達せそうな足裏、も
どかしい足の甲、足の指……。当然、前後二つの秘密のお穴、さらには小さなお漏らしの
穴にも細く長く伸びた触手が数本ずつ進入し、少女の肉体を内側からとろ火にかけます。
一本一本が極細の上、各触手が滑りやすい粘液を分泌しているため、処女膜を破らず、裂
傷も作らずに、隙間を縫って奥まで届いているのです。

35 :
 そしてとどめに、龍族最大の弱点たる逆鱗へ、膨らみきったクリちゃん以上に優しくか
つ執拗な愛撫を施しています。
 達してしまわないようリミッターが働いているのでしょう、タイツの動きが時々ぴたっ
と止まります。その度に、たっちゃんは腰を淫らに突き出して悩ましくくねらせ、最後の
一押しを一心不乱に求めます。が、それは決して与えられることはありません。やがて諦
めたようにたっちゃんの動きが止まる、その寸前に、再び触手達が全身を責め立て始めま
す。
 絶頂という名の天国への扉を目の前にちらつかされながら、地獄の快楽責めを絶え間な
く受け続けるたっちゃん。それでも意識を失わないでいられるのは、やはりタイツがぎり
ぎりの調整をしているからでしょう。――いえ、むしろ『意識を失う事さえ許してもらえ
ない』と言うべきでしょうか。
 その姿の一部始終が、側に置かれた可動式のカメラによって追いかけられています。撮
影された映像は、リアルタイムでうーぴょんの端末に送られているのでしょう。
(す、すごい……あのお姉さまがこんなに乱れておしまいになるなんて……っ! ああ、
悶える姿も可愛らしいですわ……これでさらに例のリモコンのスイッチをONにしたら、
いったいどうなってしまわれるのかしら……? ふ……ふふふ……)
 想像するだけで背筋にぞくぞくと嗜虐の悦びが走ります。痛いほど勃ち上がったお胸の
突起はさらしと擦れてびりびりと快感の電気を発し、すでにじんわりと濡れていたお股は
さらにじゅわっと湿り気を増しました。えっちなお汁がつーっと足首まで垂れ、火照った
体が発する汗でアンダーヘアーが襦袢ごと柔肌に張り付きます。
 思わず足を止めてしまうみーちゃん。熱にうなされたように顔を真っ赤に染め、愛しい
お姉さまの恥辱にまみれた姿を少し離れた場所からぼうっと見つめています。たっちゃん
は快楽の狭間でその影に気づいたらしく、虚ろなままの目をみーちゃんに向け、唇を小さ
く震わせました。
「ぅぁ……ぁぅぇ……ぇ……ぅぅ……」
「……まぁ!」
 こんな状態でも自分に気づき、必に声を出そうとしてくれるお姉さまに、みーちゃん
は深い感動を覚えました。
(ああ、やはりお姉さまはあんな駄うさぎなんぞよりも、わたくしの事を……!)
 みーちゃんは喜びと劣情を抱きながらたっちゃんの元へと駆け寄ります。たっちゃんは
そんなみーちゃんの方を焦点の合わない目で見つめながら、全く呂律の回らない口で無我
夢中に絶頂を懇願します。
「ぉ……ぉ……ぉぇぁぃ……ぅぇぇ……ぉぇ、ぁぃぃ……ィ、ィぁぇぇ……ぅ、ぁぁ……
ぉぇぁぃ、ィぁぇぇぇ……」

36 :
 おねがい、イかせて。
 それを聞いたみーちゃんは慈愛溢れる女神の笑みを浮かべ、しかし目だけはぎんぎんに
血走らせながら、たっちゃんの傍らに膝を着きました。そして頭に腕を回して優しく抱き
寄せると、うーぴょんに託されたスマホを取り出しリモコンアプリを起動しました。
「うふ、ふふふふ……安心してくださいお姉さま。今、お姉さまが待ちに待った絶頂を与
えて差し上げますからね……。このわたくしが。このわたくしが!」
 大事な事なので二度言いました。
 そしてみーちゃんは【ON/OFF】ボタンに親指をかけようとしました――が、たっ
ちゃんの次の言葉にその動きが止まってしまいます。
「ぉ……ぉぇぁぃ……ぅーょぅ……」
「なん……ですって……?」
 みーちゃんはたっちゃんから腕を離し、立ち上がって彼女を見下ろします。その表情は
昏く、目はどろりと濁りを帯びています。
「お姉さま……この期に及んで、あんな女の名前を……っ!」
 おねがい……うーぴょん。
 たっちゃんは確かにそう言ったように聞こえました。おそらく意識が朦朧としすぎて、
目の前にいるのが誰なのか判別できないのでしょう。しかし、そんな状況でうーぴょんの
名前が無意識に出る――というのは、つまりそういう事ですよね。
(お、お姉さま……こんな目に合わされて、まだあの女を呼ぶというのですかっ!?)
「そんなに……そんなにあの女が良いんですの……!?」
 思いつめた声でそう尋ねるみーちゃんでしたが、今の状態ではその言葉さえ届くはずも
なく、たっちゃんはすがるように絶頂を懇願し続けます。
「ぉぇぁぃ……ぅーょぅ……ぉぇぁぃ……ィぁぇぇ……」
「……ええ、いいでしょう。わかりましたわお姉さま。さあ、思う存分……おイきあそば
しませ!」
 みーちゃんはそう言って、スイッチをONにしました。
 ピピッ。
「!!!!」
 その途端、触手達は今まで以上に激しく蠢き出しました。そしてもう、リミッターは働
きません。たっちゃんは目と口を大きく開き、声にならない絶叫を上げ、体を限界まで仰
け反らせながら、ようやく待ち望んだ絶頂を迎える事ができました。両足をつま先までぴ
ーんっと伸ばして固まり、全身が力んで強張り、太ももがぷるぷると震えています。お潮
とお小水をぶしゃーっぶしゃーっと盛大に噴出し、触手達もそれを受け止めきれず、タイ
ツの股間部分にじゅわあ……と染みが広がります。が、それもすぐに吸収されてしまいま
した。

37 :
 あと数時間で、1年間。
 閏年ですから、366日。
 時間にすると、8780時間以上。
 たっちゃんにとっては終わりの見えない永遠の時を経て、ようやく訪れた解放です。脳
が焼ききれそうなほどに圧倒的な絶頂が押し寄せ、突き上げられるように高みへ押し上げ
られたまま、そこから降りる事も出来ません。しかし、その間もアプリからの命令信号に
より箍の外れた触手達によって、全力全開の快楽を与えられ続けます。
 ありえないほどの絶頂で、ありえないほどに敏感になった全身を、ありえないほどの技
巧で責め続けられ、たっちゃんはあっというまに限界を超え、気を失ってしまいました。
 ――が。
「お゛あ゛ーーっ!? あ゛あ゛ーーーっ!!!」
「大丈夫ですわお姉さま。気絶してしまっても、すぐにわたくしが目覚めさせて差し上げ
ますからね」
 蛇は再生や治癒の象徴です。
 みーちゃんはその権能を活かし、たっちゃんの意識を無理矢理回復させたのです。もち
ろん、触手タイツの絶頂スイッチはONのままです。
「んの゛お゛ーーーっ!! の゛あ゛ーーーっ!! びっ、びーじゃんっ!? なっ、な
んれーーーっ!? なんれこんにゃあ゛ーーーっ!!!」
 体力も回復して、たっちゃんはようやくみーちゃんの存在に気が付きました。叫び声も
しっかり出せるようになっています。四肢にも少し力が戻ってばったんばったんと暴れま
すが、それでも拘束を解くには至りません。
 その後も、襲い掛かる絶頂に何度も手放されようとするたっちゃんの意識でしたが、そ
の度にみーちゃんが回復させてしまいます。
「おほほほほ……お姉さま、イきたかったのでしょう? 良かったですわねぇ、このまま
ずーっと、絶頂し続けられますわよ?」
「あ゛っがぁぁっ!! ひ、く゛ぅぅぅっ!! まらひく゛ぅぅぅっ!! ぼう、ひぐの
やらぁぁぁっ!! お゛あ゛ーーっ!! あ゛ひぃぃっ!! いひっ、いひひひひひ……
ひゃひゃひゃひゃひゃ、てぃひひひひひ、うぇひひひひひ……っ!!」
 いつまでも続く絶頂に、とうとう正気を失いそうになるたっちゃんでしたが、
「んひぃぃぃぃっ!?」
「ふふ、ご安心くださいお姉さま。わたくしがいる限り、お姉さまを狂わせたりはいたし
ませんわよ?」
 それすらも、みーちゃんは回復させてしまいます。
「あ゛ーーっ!! あ゛ーーっ!!! じぬーーっ!! じんじゃうーーっ!! ぼう、
いっぞごろじでーーっ!!」
「まあひどい。愛するお姉さまをす事なんて、わたくしに出来ようはずもありませんで
しょう? 大好きなお姉さまをなせるなどというような事は、決してありませんわ」
「の゛ーーっ!!! お゛ーーーっ!!!」

38 :
 意識も失えず、気も狂えず、ぬ事も出来ない。
 逃げ道を完全に絶たれたたっちゃんは、絶望的な快楽の檻の中に閉じ込められたまま、
いつまでも絶頂し続けるしかありません。
「うぎあぁぁぁ……っ!! ゆっゆるじでぇぇぇっ!! ぼうゆるじでぇぇ……っ!!」
「許す? 何を許すというのですか? こんなにご褒美を差し上げてるというのに……。
それとも、これではまだ不足だとおっしゃるのですか? ふふふ、仕方のないお方……。
それでは、首から上にもご褒美を差し上げることにしましょう」
 そう言うとみーちゃんは和服の裾を上までからげて下半身を剥き出しにし、たっちゃん
を跨ぐと、少し膝を曲げて柔らかそうな形の良いお尻をお顔の前に突き出しました。下着
は履いていません。最近は和装ショーツなどもありますが、みーちゃんは履かない派なの
です。
「ああ……わたくしのいやらしいところ、お姉さまに見られてますわぁ……っ!」
 と言いながら、眉をきゅっと寄せるみーちゃん。そして次の瞬間、しゃあぁぁぁぁ……
という水音とともに、たっちゃんのお顔へ勢い良くお小水が浴びせかけられました。
「ん゛ぶぅぅぅっ!? ぷふぅぅぅ……っ! げほげほ……うぇぇぇ……えふ……けほっ
……ふぐうぅぅぅっ!? うぶうぅぅぅぅっ!! うぅぅぅぅぅぅぅ……っ!!」
 口と鼻に苦く芳しい聖水が流れ込み、息が出来ずにえづきむせ返るたっちゃん。しかし
今のたっちゃんには、その苦しささえも絶頂の糧になってしまいます。それが悔しくて、
悲しくて、けれどもその感情がまた、おぞましい快楽となって身を苛むのです。
「えほっ、けほっ……うあぁぁぁ……うええええ……こ、こん、にゃの、やらよおぉ……
もぉやらぁぁぁ……んおぉぉ……おぉぉぉ……なんれぇ……びーじゃん、なんれえぇぇぇ
……わ、わらひのころ、しゅきって、いってきゅれたや、にゃい……」
「ええ、お慕い申し上げておりますわ。だからこそです。わたくしがこんなに想っていま
すのに、応えてくださらないお姉さまが悪いのですわ……っ!」
 みーちゃんはそう言うと、そのままおまたをたっちゃんのお顔に押し付けてしまいまし
た。にちゅっという卑猥な音とともに、濡れそぼった女の子の部分がたっちゃんの呼吸を
塞ぎます。
「ん゛う゛ーーっ!? ん゛ーーっ!! ん゛ん゛ーーっ!!」
「あ、ん……っ! うふふ……お姉さま、わたくしの味は気に入りまして? あのうさぎ
のは、ああん……美味しそうに味わったそうではありませんか。わ、わたくしの味もしっ
かり味わっていただかなくては、ふあっ、不公平というものですわ……んぅっ!」
 そう言ってぐっぐっとリズミカルに腰を押し付け、にちゃにちゃと音を立てながら上下
にスライドさせるみーちゃん。大好きなお姉さまのお顔を凌辱する嗜虐の悦楽と、そのお
姉さまにお大事の味や匂いを知られる恥辱の快感に、すでに十分過ぎるほど高ぶっていた
彼女の体はあっという間に達してしまいました。
「ああ……お、お姉さまぁ……ああああああっ!!」
 仰け反って固まり、そのままふるふると震えていたみーちゃんでしたが、しばらくする
とゆっくり腰を離しました。たっちゃんのお顔とみーちゃんのお股の間に、何本ものねっ
とりとした糸が掛かります。

39 :
「ふー……ふー……ん、ふふふ、お姉さま、わたくしのお味はいかがでした?」
「あ゛ーーー……あ゛ーーー……あ゛お゛お゛……」
「あんな自堕落うさぎなんかの味よりも、よっぽど良かったでしょう?」
「うえぇ……うえぇぇぇぇぇぇ……あおぉぉぉぉ……」
 うっとりと満足顔で問いかけるみーちゃんでしたが、相変わらず休み無くイかされ続け
ているたっちゃんは、もう何を言っても反応できなくなってしまっています。
「んもう……いけずなお姉さまですこと」
 イけず1年、今はイきすぎなお姉さまです。
 みーちゃんは溜息を一つ吐くと、手元のスイッチをOFFにしました。ピー……という
電子音とともにタイツの動きが緩やかになります。たっちゃんはこれで、ようやっと連続
絶頂地獄から解放されました。
「ぐ、ああ……はーー……はーー……うえぇぇぇぇ……い、あぁぁぁぁ……」
 されましたが、それでも、たっちゃんの肉体がタイツから解放されたわけではありませ
ん。いつまでも終わらないと思われた絶頂がようやく一時停止しただけで、相変わらずタ
イツ触手達の快楽責めは止まらず、再び延々と焦らされ続けます。
「うああ……んう……ふうぅ……うーー……あーー……た、たしゅ、け……あおぉぉ……
おねあい、びーじゃん、ぼうやめれぇぇ……」
「やめて……? お姉さま、お願い事は、正確に言わねばなりませんわよ? どちらをや
めろと仰ってますの? こうして、寸止め責めされる事ですの? それとも……」
 みーちゃんはそう言って、身悶えながら懇願するたっちゃんを冷たい目で見下ろし、再
びスイッチをONにしました。
 ピピッ。
「んっぎぃぃぃぃ!! ふぎぃぃぃあああああああっ!!」
「それとも、こうして絶頂責めされるのをやめて欲しいんですの?」
 またもや絶頂地獄に落とされるたっちゃん。しかしみーちゃんはすぐにまたスイッチを
OFFにします。
 ピー。
「ふひぃぃぃ……はーー……はーー……はーー……」
 みーちゃんは無言でまたスイッチをONにします。ピピッ。
「んあおおおおおおおおっ!!! おごおおおおおおおおおおっ!!!」
 またOFFに。ピー。
「ああああ……はーーー……はーーー……はーーー……あおぉぉ……」
 ピピッ。
「ひぎぃぃぃぃあああああおぉぉぉぉ!!!」
 ピー。
「げはっ……ひーー……はひー……ひあぁぁ……」
 ピピッ。
「おおおっおおおおおおおっ!!! おーーーーーーっ!!!」
 ピー。
「はひっ、はひっ、ひぃぃぃ……んおぉぉぉ……ぉぉぉぉ……」
 絶頂ラインの彼岸と此岸を強引に行き来させられ、手足を暴れさせながら目を白黒させ
るたっちゃんの顎を、みーちゃんは掴み、上を向かせます。
「さあ、お姉さま、もう一度お願いとやらをお聞かせください。やめる――とは、どちら
の事ですの?」

40 :
「うあぁぁ……ううー……ろ、ろっちも、やぁらぁ……ろっちもやらよぉ……うえぇぇぇ
……ぼう、ゆるじでよぉ……ひぐっ、あ、ぐぅっ、ふぐっ……ぼうゆるじでぇぇぇ……」
「ふふふ……もう、仕方ありませんわねぇ」
 みーちゃんは、先ほどの裾上げで着崩れてしまった着物を押さえるように腕を組み、し
ばしの間思案すると、その酷薄な美貌に似合う悪魔的な笑みを浮かべて言いました。
「それではこういたしましょう。お姉さまが『みーちゃん大好き』と言う度に、スイッチ
を切り替えて差し上げますわ」
「あぁぁぁ……う、うえぇぇ……?」
「寸止めが耐えられなくなったら『みーちゃん大好き』と仰っしゃって下さいませ。その
言葉を合図に、スイッチを入れて差し上げます。そして絶頂が耐えられなくなったら、や
はり『みーちゃん大好き』でスイッチをOFFにして差し上げますわ。さあ、ちょっと練
習してみましょう」
 ピピッ。
「うあおぉぉぉぉっ!! んおぉぉぉぉっ!! やべでーーっ!! やべでーーっ!!」
「違いますでしょう? 『みーちゃん大好き』でしょう? さあ、ほら」
「の゛あ゛ーーーーっ!! びっ、びーじゃんらいしゅきぃぃぃっ!! びーじゃんらい
しゅきれしゅーーっ!!」
 ピー。
「はあ……はあ……あえぇぇぇぇ……うえぇぇぇぇ……」
「ふふふ、はい、良くできましたわお姉さま」
 そう言ったっきりみーちゃんは黙り込み、たっちゃんをじっと見つめています。
 タイツは再び絶頂責めから焦らし責めへとシフトし、たっちゃんはまたもや施される切
ない性感の炎にもどかしく炙られ、悶えます。かと言って絶頂地獄に戻りたくもなく、も
うどうして良いかわかりません。
 しかし混乱する心とは裏腹に、体の方は歯がゆい快楽をどんどんと溜め込み、凝りもせ
ずにまたさらなる高みを求め始めます。
 イきたくない、でもイきたい、なのにイけない……。
 自らの感情の哀切極まりない矛盾に、たっちゃんはもう心と体がばらばらになってしま
いそうです。
 そんなたっちゃんを、みーちゃんは何も言わずに、なにもせずに、ただじっと見つめ続
けます。
「う、ああ……あああ……み、みーひゃん……」
「……」
「お、おえ……あい……たひゅけれ……みーひゃん……おえあいぃぃ……」
「……」
 すでに何も考えられないたっちゃんの頭の中で、相反する欲求がぐるぐるぐるぐると回
り続けます。
(イきたくないイきたくない、イきたいイきたいイきたい、イきたくない、イきたい、イ
きたく……ない? イきたく……イき、たい? イく? イくの? イけない……イきた
い! イけない! イきたい! イきたい! イきたいイきたいイきたいぃ――っ!!)
 たっちゃんは、堕ちました。

41 :
「うあぁぁ……も、もう……らめぇ……み、みーひゃん……らいしゅ」
 ピピッ。
「きい゛あ゛お゛ーーーーーっ!!! お゛お゛っお゛お゛お゛お゛ーーっ!!! お゛
お゛ーーーーーっ!!! あ゛ーーーーっ!!! ぼういいぼういいーっ!! ぼうしゅ
きぃぃっ!! びーじゃゃんらいしゅきびーじゃゃんらいしゅきぃぃぃっ!!!」
 ピー。
「けはっ、けはっ……あああ、あああああ……うあぁ……ま、まら、おかひくなるぅ……
ああああああ……あああああああ……もお、やら、のにぃ……ふひぃ……ふひぃぃぃ……
ああ……うう……うううう……み……みーひゃんらいしゅき」
 ピピッ。
「んがあおおおおっ!!! おおおおおおおっおおおおおおおーーっ!!! おおおおお
あがあおおおーーっ!!! びーじゃんらいしゅきびーじゃんらいしゅきびーじゃんらい
しゅきぃぃぃっ!!!」
 ピー。
「はーーー……はーーー……はーーー……けはっ、えはっ、はーーー……はーーー……」
「ふふふ、素直でよろしいですわ。わたくしもお姉さまの事、だぁいすき! それでは、
素直なお姉さまに最後のチャンスを差し上げましょう」
 みーちゃんは、喘ぐたっちゃんに頬擦りしつつ囁きます。
「げほっ、えほっ……あ、あえぇぇ……?」
「うーぴょんを捨て、わたくしを選ぶのです。あの女は忘れ、わたくしだけを見、わたく
しだけを永遠に愛すると誓うのです。そうすれば、その汚らわしい責め具から解き放って
差し上げますわ」
 そう言いながら、ちらっとカメラの方を見やるみーちゃん。
(おほほほほ、こちらの声が聞こえていますかばかうさぎ。画面の前で、さぞや悔しい顔
をしている事でしょうね……くっくっく……策士、策に溺れる、ですわぁ!)
 その目は、敗者を見下す勝者のそれです。
「んあぁぁぁ……しょ、しょんあ、ころ……ひあぁっ、あぁぁぁぁ……」
「出来ません? まあ良いですわ。選ぶのはお姉さまですから」
 そんなやり取りの最中も、触手達は責める手を休めません。みーちゃんの最後の提案に
は流石に躊躇したたっちゃんですが、無理矢理火照らされて疼く体の欲求にはもう逆らえ
ず、おねだりの言葉を口にしてしまいます。
「ああああ……み、みーひゃん、らいしゅきぃ……」
「……」
 しかしみーちゃんはそのおねだりを黙します。
「う、ああああ……っ!? な、なんれ……み、みーひゃんらいしゅき……みーひゃんら
いしゅきぃぃっ!! おねあいみーひゃんイかへれイかへれぇぇっ!! らいしゅきらい
しゅきらいしゅきぃぃっ!!」
「ふふ、浅ましいですわね。そんなにイきたいのですか? では、先ほどの誓いを。そう
すれば、その地獄から絶頂とともに解放されますわよ?」
「しょ、んな……ふうぅ……ひ、あぁぁ……ぁぁ……みーひゃんらいしゅきみーひゃんら
いしゅきみーひゃんらいしゅきやからーーっ!!」
「では、わたくしのみを愛すると、わたくしのものになると、誓いますのね?」
「ふーーー……うーーー……ふーーー……あおぉぉぉ……おぉぉぉぉぉ……」
「誓いますのね?」
 たっちゃんの心は、さらなる深みへと堕ちていきました。
「あああああああもう誓うーっ! 誓いましゅうぅぅっ!! やからおねあいみーしゃん
らいしゅきぃぃぃっ!! いかへれーーっ!! はじゅしてぇぇ!!」
 みーちゃんは、禍々しいほどの満面の笑みを浮かべました。

42 :
「ふひひっ!! よ、よろしいんですのね!? 神同士の誓いですのよ!? 破る事は出
来ませんのよ!?」
「いいーーっ!! いいのーーっ!! いいかりゃイかへれぇぇぇっ!!」
「承りましたわー! さあ、最後に思いっきりおイきなさいませーーっ!」
 みーちゃんはそう叫びながらスイッチをONにしました。
 ピピッ。
「あ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛〜〜〜〜〜〜っ!!!」
 たちまちまた絶頂を迎えるたっちゃん。
(さあ、いよいよお姉さまをこの悪魔のようなタイツから解放し、わたくし自らの手で、
直接愛して差し上げられますわ……っ!)
 と、みーちゃんは喜びに打ち震えながらイジェクトボタンをタップしようとしました。
 しかし……。
「え、あ、あら……?」
 リモコンアプリはいつの間にか勝手に終了し、味気のない白い待ち受け画面に戻ってい
ました。
「な……!? ど、どういうことですの……!?」
 みーちゃんが慌ててもう一度アプリを起動しようとした瞬間、ピロピロピロ……と、や
はり味気のないデフォルトの着信音が鳴り響きました。
 画面に表示された発信者は、うーぴょんでした。
 非常に嫌な予感しかしません。みーちゃんは恐る恐る着信ボタンを押しました。
「もし……もし?」
『あ、みーちゃんおつかれー』
「お、おつかれじゃありませんわ!! 一体これはどういうことなのです!? リモコン
はどうなってしまったのですか!? 勝手に閉じてしまいましたわよ!?」
『うん。私が遠隔操作で強制終了させたから』
「……はぁっ!? な、なんで、そんな……」
『なんでもなにも、みーちゃんみたいな悪巧みっ娘に、そんなリモコンをなんの予防策も
なく貸すわけないでしょー? 案の定みーちゃん、思いっきりカメラの前でたっちゃん洗
脳しようとするしぃ。そりゃあ止めるよー。誰だってそーする。私もそーする』
「く……ぐうぅぅぅぅっ!!」
 心底悔しそうな顔で唇を噛むみーちゃん。その傍らでは、スイッチをONにされたまま
のたっちゃんが、絶頂を繰り返しながら絶叫しています。
「お゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!! あ゛っあ゛やぐーーっ!! びーじゃんあ
やぐたじゅけれーっ!!! ひぬーっ!!! ひんじゃうーーっ!!! びーじゃんらい
しゅきびーじゃんらいしゅきびーじゃんらいしゅきぃぃぃっ!!! あ゛お゛っおおおお
おおおおおおおっ!!!」
「お姉さま……っ! お、お待ちください、今お助けいたしますから!」
『あ、ちょっとみーちゃ』
 うーぴょんは電話の向こうでまだ何か言ってましたが、みーちゃんは構わず通話を切っ
てしまいました。そして再びアプリを起動しようとしましたが、何度アイコンを叩こうと
も、ぴくりとも動いてくれません。そこへ再びかかってくるうーぴょんからの電話。無視
したかったですが、このままでは埒が明きません。みーちゃんはしかたなく電話に出まし
た。

43 :
『もしもしー? あ、もー、みーちゃんいきなり切るなんてひどーい』
「いきなりアプリ切ったあなたに言われたくありませんわ! 全然反応しなくなっている
じゃありませんの! 早く起動させなさい!」
 こちらが条件を提示しておきながらこのまま報酬を与えられなければ、誓約は不成立に
なってしまいます。しかしうーぴょんの狙いはそこなのですから、当然応じるはずがあり
ません。それどころか、焦るみーちゃんにさらに追い討ちをかけます。
『っつーかさー、みーちゃん、一部始終をカメラで撮られてるって自覚、あるー?』
「もちろんですわ! どうせ今のあなたにはカメラ越しにお姉さまの痴態を眺める事しか
出来ないのですから、諦めてアプリを起動させなさい!」
 それを聞いたうーぴょんは、はぁ……とあきれたように溜息を吐きました。
『みーちゃんは、なんっつーか……交渉事、向かないねぇ』
「はぁっ!? 一体、何の話ですかっ!?」
『ま、そこがみーちゃんの良いとこかもしれないねー。とにかくさ、そこでのみーちゃん
の言動はぜーんぶ録画してあるからね? もし私がこの動画ファイルを、例えばたっちゃ
んのファンコミュとかに“うっかり間違えて”アップロードしちゃったりしたら、一体ど
うなっちゃうのかなぁ? なーんて』
「っ!? な……なん、ですって……?」
 何度も言うようですが、たっちゃんはそりゃあもう大人気のお姉さま、まさに女神達の
アイドルなのです。ファンは大勢いますし、その中にはかなり高位の女神だっています。
そんな熱狂的な女性のコミュニティを敵に回す事がどれだけ恐ろしいか、同類であるみー
ちゃんには良ーくわかります。
「あ、あなた、まさか……っ!」
『いやあ、まず“間違える”事なんかないと思うけどぉ、たっちゃんが望まぬ相手に望ま
ぬ誓約を無理矢理結ばされたりしたら、私もちょっと自分が何をするかわかんないなー』
「な、なんという……なんという卑劣な……っ!」
『えー、それをみーちゃんが言うー? 私だって、みーちゃんみたいなやり方でたっちゃ
んの心を支配しようとまではしないよぉ?』
「くぅぅ……ううううっ!」
 どうやら積んでしまったようです。たっちゃんを手に入れる最大のチャンス――と思い
きや、実は周到に仕組まれた罠だったなんて……。悔しくて悔しくて、スマホを握る指に
思わず力が入り、白く震えてしまいます。
「ううう……わ……わ……わたくしに、ど、どうせよと、仰るの……?」
 みーちゃんはそう言って、がくっと力尽きたようにへたり込んでしまうのでした。
 悲惨なのはたっちゃんです。
 ようやく、ようやく助かる……ようやく、この快楽地獄から抜け出せる……っ!
 そう希望を持たされ、そしてその前触れとなるはずだった絶頂のスイッチを入れられた
にもかかわらず、そのまま放置されてしまったのですから。期待が大きかった分、裏切ら
れたその絶望たるや想像するに余りあります。
「ぅぁぁぁぇぇぇぇぇぇぇぇぇぉぁぁぁぁぁぁぁぉぉぉぉぉぉぁぁぁぇぇぇぇぁぉぉぉ」
 恐怖を感じるほどの深く深く長い長い濃厚な絶頂から還って来られず、思考も麻痺し、
たっちゃんはもはやただひたすら快楽の呻き声を上げるだけの少女肉人形と化してしまい
ました。
『ああん……たっちゃんの素敵な啼き声が、電話越しに聞こえてくるよぉ……。ふふふ、
それじゃあみーちゃん、まずはたっちゃんとお話させてね』
「わ……わかりましたわ……」
 みーちゃんは渋々頷くと、虚ろな目で舌をだらんと垂らして小さく呻き続けるたっちゃ
んの耳に、スマホをあてがいました。

44 :
「ぇぇぇぇぇぁぁぁぁぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁ」
『たっちゃーん! ひさしぶりー! あなたの愛しいうーぴょんが助けに来たよー!』
「ぇぁぁぁ……ぅ、ぅーぉ……っ! ぅーぉぅっ! ぁぅぇぇーっ! ぁぅぇぇっ!!」
『うふふ……安心してね、たっちゃん。今、その快楽地獄から救い出してあげるからね。
この私が。この私が!』
 大事な事なので(ry。
 それにしても、なんというマッチポンプでしょうか。全身触手タイツを作ったのも、そ
れをたっちゃんに着せて放置したのも、リモコンを渡してみーちゃんを焚きつけたのも、
全部うーぴょんの仕業だと言うのに。
(この女……っ! このために、わたくしにリモコンを渡したと言うの……!? く……
この、この……女狐うさぎめ!!)
 忌々しいその女狐うさぎ(どっちやねん)に良いように使われてしまったみーちゃん。
歯軋りして悔しがりますが、しっかり弱みを握られてしまってはもう後の祭りです。
『じゃあ、いくよー。たっちゃん、解放〜!』
 次の瞬間、スマホからピピピピピピ……という電子音が鳴り、それを合図に全身タイツ
が今までとは違ううねり方をし始めました。その動きに合わせて、唯一の開口部である首
の部分が次第に緩み広がっていきます。そこからたっちゃんの体が、少しずつ少しずつ、
ずるずりずりずるるるるずるずり……と今にも大事件が起きそうな音を立てながら外へと
ひり出されていきました。まあ一年間責められ続けた快楽牢獄からの釈放は、たっちゃん
にとっては確かに大事件です。
 こうしてたっちゃんの均整の取れた美しいスレンダーボディは、一年ぶりに外気に晒さ
れました。触手の粘液に薄っすらとまみれて全身がてらてらとぬめっており、両足がだら
んと投げ出され、お大事が丸見えになってしまっています。タイツ越しでも確認できたほ
どに肥大化している乳首とクリトリスは、直に観るとその淫らさがさらに増します。手首
がまだ繋がれたままなのが、またなんとも扇情的です。
『……ちゃん? みーちゃん? 聞いてるー? ねー! みーちゃーん!』
 大好きなお姉さまの卑猥過ぎるヌードに目が釘付けになり、つい立ち尽くしてしまって
いたみーちゃんでしたが、手元のスマホから聞こえるうーぴょんの呼び声にはっと我に返
りました。仕方なく、のそのそと耳にあて、嫌々ながらに返事をします。
「な、なんですの……次は、何をしろと仰るんですの……?」
『ふふふ、まあそう嫌そうな声出さないで。じゃあ次は、たっちゃんの手錠、外してあげ
ようね。あ、ダイヤル式だから鍵はないよー。番号はねー……』
 みーちゃんは言われるままに手錠を外します。
 これで完全に解放されたたっちゃん。力が入らないのでしょう、床に手足をだらんと投
げ出し、もうぴくりとも動きません。目は開いていますがそこに光はなく、意識があるの
かないのか分かりません。半開きのお口からはたらたらと涎が垂れ、頬に細く筋を作って
床へと流れています。みーちゃんは、そんなたっちゃんを抱き締め愛撫して差し上げたい
と思いました。けれども伸ばしかけた手を途中で止め、躊躇しています。目線の先にはカ
メラ――その向こうのうーぴょんは、果たしてその行為を許してくれるかどうか……。弱
みを握られてしまった今、下手に機嫌を損ねてしまうと破滅させられかねませんからね。

45 :
『へへへー、みーちゃん、たっちゃんの事ぺろぺろしたいんでしょー?』
 その逡巡を見透かしたかのように、電話口でうーぴょんが煽ります。
「い、いえ、そんな、ぺろぺろまでは……粘液まみれですし……。むしろ、お拭きして差
し上げたいですわ」
『えー、良いのー? それ、口にしても無害なタイプのローションだよー?』
「そ、そういう問題では……」
『すべすべお肌がぬとぬとてらてらのたっちゃん、えろくて可愛いでしょー? 超敏感に
なってるその全身を、舌で愛撫しながら綺麗にしてあげたくないのー? きっとすっごく
素敵な声で鳴いてくれるよー?』
「う、うう……」
 そう言われると、その汚らわしいはずの粘液も、だんだんたっちゃんの体を味付ける高
級調味料のように思えてきました。そもそも大好きなお姉さまのお体、ぺろぺろできるも
のならそりゃしたいに決まってるみーちゃんです。うーぴょんの言葉に、その欲求を否応
無く高められてしまいます。
「い、良いんですの……? お姉さまの体、ぺろぺろ舐めて良いんですのね……? な、
舐めますわよ……?」
 意気込んで確認するみーちゃんに、しかしうーぴょんは
『え? ダメに決まってるじゃない』
「んな……っ!? な、なん……っ!」
『だって、たっちゃんは私の女だもん。他の女にぺろぺろさせるわけ、ないじゃーん?』
 散々その気にさせておいてこの仕打ちです。ドS少女の面目躍如――といったところで
しょうか。
 うーぴょんは続けます。
『でもでもぉ、私の言う条件を受け入れてくれるなら、たっちゃんの事、好きにしても良
いよー?』
「じょ、条件……? 何ですの、それは……?」
『あ、うん、えっとねー……えーっと……えへへ』
 何故か少し躊躇いがちに、はにかむように笑ってから、うーぴょんはその条件を提示し
ました。
『みーちゃん……私の女になってよ』
「……」
『……』
 お姉さまを舐める気満々で頭がすっかりぺろぺろモードになっていたみーちゃんは、多
少無理な条件でも飲むつもりでいました。が、これは流石に予想の斜め上をかっ飛んでい
ました。
「はあっ!?」
『ちょ! 今、言うの結構緊張したんだから、突然難聴にならないでよぉ!』
「聞こえなかったわけではありませんわっ! っていうか本当に難聴になったのか疑いた
いくらいですわっ! 何か、あなたの女になれ――とかなんとか言われたような気がする
のですけど!?」
『もう、何度も言わせないでよ恥ずかしい』
「何度も聞き返させるような事を言わないで下さいませんっ!? だいたい、あなたには
お姉さまがいるでしょう! それともなんです、やっぱりあなたは美人なら誰でも良いと
いうただの見境無しなのですか!?」
『あ、自分で自分の事、美人って言っちゃうんだ』
「話を逸らさない!」

46 :
『ああん、もう、みーちゃんってば……。いくら私だって、誰でも良いってわけじゃない
んだよ? みーちゃんだからだよ? 私は、そりゃあたっちゃんの事だぁい好きだけど、
みーちゃんの事も、同じくらいだぁい好き、なんだからね?』
「な、なん……」
 話のあまりの急展開に、みーちゃんは混乱してしまいます。それに、今までたっちゃん
好き好きばかりで自分に向けられる好意にはまるで無頓着でしたので、こうして面と向か
って(と言っても電話越しにですが)愛を告白されても、どうしていいかわからないので
す。
『あ、もし二股を気にしてるなら、それは問題ないよ? だって、私達は元々ポリガミー
じゃん? 歳神の元締めたる大歳神様だって、何人も孕ませてるんだから』
「そ、それは、そうかも、しれませんが……いえそうではなく! あなた、本当に、わ、
わたくしの事を……?」
『だーかーらー、何度もそう言ってるじゃない。たっちゃんとみーちゃん、私は二人の事
が、だぁい好きなの! ね? 良いでしょう? 別に、今すぐ私を好きになれって言って
るわけじゃないんだからさー。とりあえず、二人してたっちゃんを愛してあげようって感
じでさー。言うなれば、そう、≪たっちゃんらぶ同盟≫って事で。みーちゃんにとっても
悪い話じゃないと思うんだけどぉ?』
「な、なる、ほど……?」
 うーぴょんの言葉に、みーちゃんはなんだか言いくるめられ――もとい、納得してしま
いました。確かに、ここでうーぴょんの申し出を断っても得るところは何もありません。
それに、二人してたっちゃんを愛する、という提案も、かなり魅力的です。
「……わかりました。仰る通り、いますぐお姉さまと同じようにあなたを愛する事はでき
ませんけれど、あなたと一緒にお姉さまを愛するという意味において、あなたの申し出を
受け入れますわ」
『わぁい、やったぁっ! じゃあ、来年が終わってみーちゃんが解放されたら、三人一緒
にらぶらぶぺろぺろちゅっちゅしようねー』
「ええ、そうですわね」
 そこにお姉さまもいるのなら、まあそれも良いかもしれませんわ。そう思うみーちゃん
なのでした。
「で?」
『で?』
「今は、わたくしがお姉さまをぺろぺろしてもよろしいんですのね?」
『おっけー! 私の分も合わせて、めいっぱい舌で愛してあげて!』
 それを聞いた途端、みーちゃんは帯をしゅるっと素早く解き、すでに着崩れていた着物
をばばっと脱ぎ捨てて全裸になりました。さらしを取ったみーちゃんのお胸は、巨乳とは
いかないまでもなかなかに美乳ちゃんです。そしてたっちゃんに抱き着くと、自分の体に
も粘液を塗りたくるようにその形の良いお胸やお手入れされたおまたを擦り付けます。
「ああん、お姉さま、ぬるぬるでいやらしいですわぁ……」
 ぬちゅぬちゅぬちゅ……と卑猥な音をさせながらのローションプレイを一通り楽しんだ
後、ナチュラルスプリットタン――先が二股に分かれた長い蛇舌をれろっと伸ばし、たっ
ちゃんに見せ付けます。舐め舐めプレイの開始です。
「んっ、うふふふふ……さあ、きれいきれいしましょうねー」

47 :
 まずはお顔から。そこは粘液ではなく、みーちゃんのお小水や愛液で濡れていますが、
彼女は気にせずそれを舌で清めます。それから、全身の粘液を首から順に舐め取っていき
ます。
 ぺろぺろ……ぺろぺろ……ぺろぺろ……ぺろぺろ……。
 二股の分、表面積の大きいみーちゃんの舌は、効率よく粘液を舐め取っていきます。
「んっうぅ……ふあ、あぁぁぁ……あああああ……」
 ようやく快楽地獄から解放されたというのに、触手のねちっこい責めとはまた違う甲斐
甲斐しい蛇舌の動きに虐められ、たっちゃんは甘い声で鳴いてしまいます。
「うふふふふ……お姉さま、気持ち良いのですね……。このまま、体中きれいにして差し
上げますからねー」
 首筋、肩、腕、手、小さな胸の谷間、脇腹、お腹、おへそ、太もも、足先、そして裏返
して背中……。
 全身の粘液を一番大事な場所を残して舐め取り終えると、舌は背筋を伝い、腰まで降り
てきました。
「さあ、お姉さまのいやらしい部分も、一つずつしっかりねっとり丁寧にぺろぺろして差
し上げますわよー」
「あぁぁぁぁ、ら、めぇ……みーひゃんらめぇ……」
 弱々しく逃げようとするたっちゃんの腰を、みーちゃんはしっかり掴み、柔らかな双丘
をお口の粘膜タオルで拭いていきます。
「ふおぉぉぉ……んおぉぉぉぉ……」
 周りから円を描くように、次第に中心へと進んでいく舌。そのまま後ろの穴へと侵入す
るかに思えましたが、しかし途中で離れてしまいます。そして再びたっちゃんの体をひっ
くり返すと、足をがっと広げ、その中心で息づく立派なお豆ちゃんに吸い付きました。
「あひぃぃぃっ!」
 そしてそこにこびりついた粘液を丹念に擦り取り、ちゅばちゅばと音を立てて吸い取り
ます。
「あっおおおーっ! おおおお……っ!」
 さらに、すっかり開花した可愛らしい花弁の襞の一つ一つにも、丁寧に吸い付き、舐め
取っていきます。
「ふひっ、ひあああ、ああああ……っ!」
 そのまま秘密のお穴に侵入すると、舌の長さを駆使し、その中に溜まったいやらしいお
汁を、触手のものもお姉さまのものも、纏めて掻き出します。
「ふぅぅぅ……っ! ふあっうぅぅぅ……っ!」
 しつこくしつこく掻き出して、何度も何度もじゅるるる、じゅるるる……と音を立てて
啜ります。
「あーー……お、おーー……」
 それからまた口を離し、ひっくり返すと、今度こそお尻の穴のお掃除にかかりました。
舌を限界まで伸ばし、奥の奥から、襞の一つ一つから粘液をこそげ落とすように舌で舐め
擦っていきます。排泄物は触手がすっかり吸収していますので、こちらもえっちなお汁ば
かりで溢れています。
 みーちゃんの素晴らしい舌使いに、全身が性感帯になっている今のたっちゃんはたまら
ずまた何度も絶頂してしまいます。
「うひぃぃ……あああイくぅっ!! イっひゃうっ!! あああ……っ!! はーー……
はーー……はーー……あーーっ!! ああいやああーーっ!! いやあああっ!! まら
イくぅっ!! まらイっひゃうぅぅ……っ!!」

48 :
 可愛らしいお姉さまのイき声に、みーちゃんの体もどんどん火照ってまいりました。汗
と涎と愛液がだらだらと垂れ、乳首もクリも限界まで勃起し、体の奥からきゅんきゅんと
切ない震えが溢れてきます。
「ああ、わたくしも、もう、たまりませんわぁっ!」
 そう叫ぶと、たっちゃんの足の間に自分の体を割り込ませ、おまた同士をくっつけまし
た。所謂、貝合わせというやつです。
「お姉さまぁ……っ!! お姉さまぁ……っ!!」
「うあ、あああああああ、ああああああああ……」
 みーちゃんは欲望に任せてぐいんぐいんと腰を使い、あっという間に果ててしまいまし
た。しかし体の火照りはまだ治まりません。さらに激しく腰をグラインドさせ、続けざま
に二度、三度、四度……と絶頂を貪ります。たっちゃんも、強制的にイかされ続けます。
これでは、先ほどまでとあまり変わりませんね。
 それにしても、これだけ絶頂しても全然満足できないというのは、何かおかしいです。
流石のみーちゃんもそれに気が付きました。
(これは……ま、まさか……っ!)
 みーちゃんはたっちゃんに絡みついたまま手を伸ばし、うーぴょんと繋がったままのス
マホを掴みました。
「ちょ、あなたっ! これはどういうことなのですか!?」
『え、何の事ぉ? もしかして、触手粘膜に含まれてる強力媚薬のことかなぁ?』
「な、なん……ですって……?」
『たっちゃんを一年間欲情させ続けた媚薬だよー? それをあんなにいっぱい舐めちゃっ
たら、そりゃあいくらイっても満足できないよねー』
「な……な……そういう事は先に言いなさいよーっ!」
『えー、だって聞かれなかったしー』
 どう見ても未必の故意です。
『でも安心して! その火照りを解消する道具が、ほら、すぐそこにあるじゃない』
「道具……? 何を言って……あ、あなた、まさか……」
『そうそう、その全身タイツ。それ着てスイッチをONにしておけば、歳が明ける頃まで
には満足できるくらいイきまくれるよ』
「そ、そん、な……」
『アプリも、今、また使えるようにしたしー。大丈夫だよ、耐えられなくなったらイジェ
クトボタンを押せばいいんだからさ。それに……』
 と、うーぴょんはとどめの一言を口にします。
『その中の触手達は、たっちゃんのエキスをたっぷり吸ってるから、今分泌してる粘液の
ほとんどがたっちゃん由来の成分だよー? 大好きなお姉さまのエキスに浸かってみるの
も、良いんじゃないかな? かな?』
「う、うう……」
 みーちゃんには、だんだんその全身触手タイツが、ひどく魅力的なものに見えてきまし
た。たっちゃんから離れ、意を決して恐る恐るタイツの開口部、首のところに足の先を入
れると、そのままずるりと一気に飲み込まれてしまいました。即座に開始される焦らし責
め。
「うひぃぃぃ……っ!! こ、こんなのを、お姉さまは、い、一年も……っ!? ふああ
ああ……っ!! あああああ、あああああ……は、早く、スイッチ入れなきゃ、お、おか
ひくなっれひまいましゅわぁ……っ!」
 そして、スイッチ、ON。
「おひいぃぃぃぃぃぃっ!!! ひあおぉぉぉぉぉっ!!!」
『あはは、じゃあみーちゃん、歳明けまで頑張ってイきまくってねー!』
続く

49 :
※作品世界ではまだ歳明けてないと思いねえ!

遅くなってごめんなさい。
急いで帰ってきてまとめたので、また最初が改行おかしくなっちゃいました。
重ね重ねすみません……。
続きは後ほど。

50 :
すばらしい…!一年待った甲斐があろうというもの!続きも期待してます!!

51 :
続きです。

 あれから何時間たったでしょうか。
「あひぃぃぃっ!! ひぐうぅぅぅ!! ああああまっ、まらイぐっ!! まらイきまふ
うっ!! んおぉっ!! まらイぐまらイぐぅっ!! まらイっらいまひゅうぅっ!!」
 みーちゃんは全身触手タイツに身を任せ、ひたすら絶頂を味わい続けています。
 うーぴょんは『歳が明ける頃までには満足できる』なんて言ってましたが、考えてみれ
ば強力媚薬粘液は内側で分泌され続けているのですから、そう簡単に体の火照りが治まる
はずもありません。それでも、経口摂取よりは大分穏やかな効き目ですので、欲情の炎は
少しずつ少しずつ弱火になっていきました。……弱火になりはしても、決して消えてしま
わないところがミソだったりするのですが。
(あああああ、あああああ、い、いつまでも、こんな、もどかしい……っ!! も、もう
限界ですわぁっ!! あ、あと3回……いえ、あと5回……いえ6回……うううう、あ、
あと10回っ! あと10回イったらイジェクトしますわ……っ!!)
 そう決めたみーちゃんは、リモコンスマホを握り締め、イジェクトボタンに親指をかけ
ました。
 そして。
「ふああああっ!!」
 1回。
「あああーーーっ!!」
 2回。
「あおぉぉぉぉぉっ!!」
 3回。
「ぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
 4回。
「んおおおおおおおっ!! うひいぃぃぃぃぃっ!!」
 5回。6回。
「ひあおおおーっ!! あぐうぅぅぅぅっ!! うぅぅぅぅぅぅっ!!」
 7回。8回。9回。
「は、ひぐぅぅ……っ!!!」
 ……10回。
 その絶頂を迎えるとともに、イジェクトボタンを押すみーちゃん。
(あああ、ま、まだもどかしいですけど、でも、つ、続きは、自分の指で……)
 が、しかし。
(え、あ、れ……?)
 いつまでたってもタイツに変化はなく、相変わらず全身を責め苛み続けています。その
ままみーちゃんは、11回、12回、13回……と絶頂を迎えさせられます。
「おおおおおおおっ!! おおおおおおおっ!! うあおおおおおおっ!!?」
(な、なんでですのぉぉっ!? どうして排出されませんのぉぉっ!?)
 慌ててスマホを確認すると、そこには次のようなメッセージが表示されていました。

52 :
 このソフトウェアは2012/12/31 23:59でライセンスの有効期限が終了しました.
 有効期限を更新するには、アカウントとパスワードの入力が必要です.

53 :
「なーーーーっ!!!?」
 あまりといえばあまりな状況です。みーちゃんは連続絶頂で震える手を必に動かし、
うーぴょんに電話をかけました。
『あ、みーちゃん。どお、快楽責めをエンジョイしてるー?』
「ふひっ! あ、あな、た……っ! うあ、あああっ!! こ、これは、ひぃっ! い、
一体、ど、どういう……あおぉぉぉっ!! どういうころなんれしゅのおぉぉぉっ!!」
『え? ああ、もしかして、有効期限の事ぉ? いやぁ、見たまんまだけどぉ? ちなみ
にぃ、教えなかったのはぁ、聞かれなかったから!』
 うーぴょん、鬼ですね。
「んっくっ!! は、はやく、あ、きゃううう、あきゃうんろろ、ぱしゅわーろを、おひ
えなひゃああああっ!! あああーーっ!! もうやらぁぁっ!! はやぐ、ここかあ、
らひてー!!」
『えー。でも私、一応警告したよね? 歳明けまで時間ないよって』
「ひょんな、なんれ、ひあああああっ!! イきゅのやらぁぁっ!! もうイきゅのやれ
しゅわぁぁぁっ!!」
『ま、歳が明けたのにいつまでも快楽を貪ってたみーちゃんが悪いという事で。あと言っ
ておくけどそのタイツ、たっちゃんの全力ならともかく、みーちゃんじゃ自力で脱げない
から、無駄に足掻いても疲れるだけだよ? でも安心して、また歳が明けたら回収してあ
げるからね? じゃあ、もう一度言うけど、来年が終わってみーちゃんが解放されたら、
三人一緒にらぶらぶぺろぺろちゅっちゅしようねー。またねー』
「ひょ、ひょんな……ひょんなあっ!! ああ、ま、まっれぇっ!! まっれくらしゃい
まひぃっ!! あああああっ!! ああああああっ!! いやあああああああっ!!!」
 こうしてみーちゃんの、24時間4万回の奇跡の連続絶頂年が始まりました。

来年に続く?

54 :
今年は以上です。
映画「24時間4万回の奇跡」のタイトルの汎用性は異常。
まあ映画としてお勧めはしませんが。
前半が旧年内に間に合わなくて、本当、すみませんでした。
あと、待っててくれた皆様、心の底から感謝を。
特に前スレ460さん、そう言って頂けると感無量です。
こちらこそ、可愛らしい作風を毎度楽しみにさせていただいております。
あと、このシリーズ、続き物のくせに年一なんで、
去年のとあわせてそのうちどこかにまとめるかもしれません。
では。

55 :
GJ!今から大晦日が楽しみなんだがどう責任を取ってくれるwww

56 :
乙です!!1年分の期待を一切裏切らない展開!!来年も楽しみです!触手服万歳!

57 :
>>54
GJです!もう年末が待ち遠しいです。「つづく?」などとおっしゃらずぜひ続きをお願いします。
とりあえずウマのまーちゃん(仮名)がどんなコなのか妄想しながら今年一年を過ごしますw

58 :
>>55-57
みなさん、ありがとうございます。ご期待に沿えるよう、次も頑張ります。
午の歳神たるまーたんは物静かでクールな性格、とだけ申し上げておきますね。
あと、前スレも落ちてしまいましたし、前回の分も合わせてノクターンにまとめておきました。
どこにしようか色々考えたのですが、結局ノクタにしました。
リンク張るのもなんなんで、検索してくだされば嬉しくおもいます。
それから、新年の挨拶をすっかり忘れていました。
あらためまして、あけましておめでとうございます。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。
まあ、まだ松の内ということで……。

59 :
年末になってクリスマスネタを思いついた者です。
当初は今年のクリスマスでも良かったのですが、忘れるといけないので投下させて頂きます。
なにぶんやたらと長い上に季節外れなので下記のURLにアップさせて頂きました。
前後編になっており、前編は導入のみでエロ無し、後編の後半でエロパートとなっております。
面倒な方は前編は多少読み飛ばし気味でも大丈夫だと思われます。
カノジョとワタシとクリスマス【前編】
http://www.titleblank.com/page/50e9aa4fe4b06d4ee3ddc31b
カノジョとワタシとクリスマス【後編】
http://www.titleblank.com/page/50e9ab6be4b06d4ee3ddc31c
ホントに季節外れで申し訳ありません…

60 :
>>59
乙!

61 :
いい雰囲気だ

62 :
gj いいわあ

63 :
おう あまーい
ちょっとSっぽいとこが引きずり出されてるのもまたよし
描写も丁寧でいいね

64 :
魔王によってすべての男(モンスター含む)が失われた世界を旅するRPGとかどうやろか

65 :
魔王「女の子には男のような力は無いから私を倒す事は不可能。
   さらに女の子は可愛いし、RPGに必要な鍛冶や傭兵稼業は壊滅!
   まさに一石二鳥、おまけに女の子可愛いし」

66 :
魔王「せっかくですわ、女の子を集めて百合ハーレムを作りましょうか・・・」
考えてみたがこれ良ネタだな
魔王のハーレムプレイ
女勇者が友達を助け、らぶらぶえっち
勇者一行、旅の中で親密になり一線越え
雌魔獣に敗れ、レイプなケモ百合
とか色々書けそうだ

67 :
書いてくださいお願いします

68 :
配下の淫魔にトゲトゲした鎧を着た村娘になるまで力を吸われて
泣きじゃくりながらネチョネチョされる魔王かわいい

69 :
某作品と被る感はあるけどやっぱり魔王×勇者とか鉄板だと思うわけですよ

70 :
もう某作品に該当しそうなのが多すぎて…
まあ魔王に捕まってめちゃくちゃされる勇者とか王道やんな

71 :
神官騎士エリスか何か?

72 :
誤爆

73 :
世界の男を魔王に奪われ、自分の婚約者を失った女勇者
別にんだわけではないらしいので魔王を倒し婚期を逃すまいと奮闘する。
この世界の戦闘は剣ではなく相手を性技で堕とすのだ。自らの技を駆使してモンスター娘を堕としまくれ!


そして途中で女にハマり初心を忘れ、魔王はどんな娘なのか、はやく屈服させたい!となり、男なんてどうでもよくなってしまう

74 :
通ってる魔法学校の先生が魔王で手先で幹部だった

75 :
>>74
それなんてラノベ?

76 :
7レス、投下します。またくだんちゃんです。

77 :
頭にケモ耳を持つ人達が暮らす世界の、とある街の、とあるお宅の一室。
窓から爽やかな光が差し込む朝の一時…なのですが。
頭にツノを持つ一人の少女がベッドに突っ伏し、虚ろな眼を虚空に向けています。
「ネコさん…ネコさん…」
不意に、愛しい人の名を呟くツノの少女、くだんちゃん。心ここにあらず。
くだんちゃんの脳裏に浮かぶのは、別れ際のネコさんの笑顔、でした。
※※※
それはある日の事、教室でのたわいないお喋りの最中でした。
「え!?ご両親の所に?」
「そー。随分逢って無いからね、たまには来いって言うのよ」
ネコさんのご両親は、海外赴任の真っ最中。一体、なんの仕事をしているのでしょう?
ま、そのおかげでネコさんは愛しいくだんちゃんをおうちに連れ込み放題なんですけどね。
「そ、そっかぁ。何日くらい?」
「ん〜一週間くらいかなぁ?」
「いっしゅーかん!?そんなに!?」
思わず素っ頓狂な裏声をあげてしまうくだんちゃん。
はたと気付いて、お口を押さえて真っ赤になります。
その様子を見て、ネコさんがフッ…とクールな笑みを漏らします。
「たったの一週間よ?あっという間じゃない」
さらに周囲のクラスメイトまでが囃したてます。
「ネコさんがいないと寂しくってしょうがないよねー」
「いつも一緒でいちゃいちゃラブラブだもんねぇ」
真っ赤な顔のくだんちゃん。顔から湯気が出そうです。
「たった、一週間よ、くだんちゃん?」
「は、はい」
「いいコで待ってるのよ?お土産、楽しみにしてて」
と、そんな訳で、ネコさんはご両親の待つ海の向こうへ旅立ったのです。
「ネコさん、いってらっしゃ〜い!!」
と、くだんちゃん、精いっぱい明るく送りだしたモノの。モノの!!
※※※
「ううううう〜〜〜〜〜〜!!」
ごろごろごろ!!くだんちゃん、もんどりうちます。
「うぅ…やっぱり寂しいよぉ…ネコさんに逢いたいよぉ…!」
ひとりベッドでうだうだごろごろ。
何もやる気にならないくだんちゃんなのでした。

78 :
「ネコさん、いま何してるのかなぁ、あっちは夜かぁ、もう寝ちゃったかなぁ」
と、その時です。
『モ〜モ〜!モ〜モ〜!』
くだんちゃんの携帯電話に着信です。見た事もない番号、しかも海外からの電話でした。
「この番号って…ネコさん!?」
くだんちゃんに外国の知人はありません。ネコさん以外ありえません。
先程までの落ち込みっぷりがウソのそうに明るい笑顔で通話ボタンをON!
「も、もしもし!」
勢い込んで通話口に話しかけるくだんちゃん。すると。
『ぐ、ぐだん゙ぢゃあ゙あ゙あ゙あ゙、うえうえうえええええええ!!』
「ネ、ネコさん!?ど、どうしたの!ねぇ何があったの!?」
『ざ、ざびじい゙よ゙お゙お゙、ぐだん゙ぢゃん゙に゙あ゙い゙だい゙よ゙お゙お゙!!!!』
「ネ、ネコさん…」
出発前のクールな態度はどこへやら。
そう、普段クールぶってるネコさんですが、実は結構寂しがり屋の甘えん坊さんです。
いえ、その本性を押し隠すためのクールぶりっコ…なのかも知れませんね。
「ネ、ネコさん。私もネコさんいないと寂しいよ、電話くれて、嬉しい」
昼夜逆転、時差のかなりある国ですから、お互い気を使って電話は控えていたのです。
もっぱら、メールでのやりとりが主でした。一日せいぜい100通程度です。
『多いよ!』って?いやいや、らぶらぶいちゃいちゃカップルとしては普通でしょ?
ともあれ、メールでは異国を堪能している風だったネコさんの、この体たらく。
くだんちゃん、少し呆然。でも、それで呆れたり嫌いになったりする訳ありません。
(ネコさんも私と同じだった。嬉しい。
胸のあたりがぽかぽかと暖かくなります。
近況を報告しあって。少し落ち着いて来たネコさん。
が、寂しさのあまり、ネコさんはさらなるおねだりをするのです。
『くだんちゃんに、触りたい』
「も、もぉ//// か、帰ってきたら…ね??」
『なによーあんた、私に焦らしプレイする気?』
「そ、そういう訳じゃないけど…だって無理、だもん…」
『触れないなら、せめて…声、聞かせて』
「はい?」
『私を想って…してよ』
「は、はいいい!?」
『私もする、から…ね?』

テレフォンセックス。

それがネコさんのおねだり、でした。

79 :
「や…で、でも、だって…」
窓からは朝の陽ざし。ネコさんの方は深夜なのですが、くだんちゃんの方は朝なのです。
明るい日差しの中でのテレフォンセックス。これはもう、かなり恥ずかしいものでしょう。
『ね?お願い…しよ?』
「ネ、ネコさん…」
受話器からはネコさんの、愛しい恋人の艶っぽい声。
当然、くだんちゃんに拒絶しきれる訳がありませんでした。
※※※
『いまどんな恰好してる?』
「う、うちにいるから…部屋着だよ …ピンクの…」
『ああ、淡いピンクのやつ?可愛いよね、あれ 』
「ネ、ネコさんは? 」
『私?バスローブだよ、さっきシャワー浴びたまま。下着も着けてない 』
どくん!とくだんちゃんの心臓が跳ねます。
「そ、そうなんだ… 」
『そう…いまソファに座ってる…脚、開くね 」
くだんちゃんの脳裏にその情景がありありと浮かびます。
蠱惑的な笑みを浮かべたネコさんが、ゆっくりと脚を開き
その奥に息づく魅惑の花園が露わになっていく所が。
『くだんちゃんのこと考えて、声聞いて…そしたら、ほら。もう溢れて来ちゃった 』
ネコさんの薄い茂み、その下の少し下付のアソコ、ピンク色の綺麗な秘所。
蜜を湛えた膣口、昂奮によって膨れて包皮からちょこんと覗くクリトリス。
愛しい人の愛しいアソコを鮮明に思い浮かべてしまったくだんちゃん。
心臓が激しくダンスします。
『想像して興奮した?息、荒いよ 」
くすりと笑うネコさん、その言葉にくだんちゃんは、はっと息を飲みます。
くだんちゃんはいつの間にか夏場の犬のように荒い息を吐いていたのです。
「や、やぁ…は、恥ずかしいよ…」
『いいよ、くだんちゃん。もっと興奮して?えっちな声、聞かせて?』
「ネ、ネコさん…!」
『くだんちゃんも、脱いで…ううん、脱がせてあげる 』
そうしてネコさんは、愛を囁くような優しい声音で矢継ぎ早の指示を繰り出すのです。
『まずはパンツからね。ゆっくり降ろして…脚を抜いちゃダメ。足首の所で丸めて』
言われた通りにしていると。
なんだかホントにネコさんに脱がされているような気分になってきます。
ネコさんはこんな風にして、ゆっくり服を脱がせることがよくあります。
もったいをつけ、焦らして、くだんちゃんと…自分の興奮を煽るために。
(は、恥ずかしい…で、でも…
(ドキドキしちゃう。興奮、する…
『ショーツ行くよ?少し降ろして… 下の毛が見えるとこまで。よく見せて』

80 :
ネコさんよりは濃いめのくだんちゃんの柔らかな茂み。
いつもならそこをさわさわされるだけで感じてしまうくだんちゃん
でも、いまはネコさんの指はありません。 だから。
「んんっ…はぁ…!はぁはぁはぁ…!」
ショーツに掛けた指を少し動かし 自身でそっと愛撫を加えるのです。
『ちょっと!いま自分で触ったでしょ?ダメよ、まだ』
「ネ、ネコさん!?ど、どうして…」
『あんたの事ならなんだって解るの』
さすがネコさん、すべてお見通しという訳です。
『解った?言われた以外の事しちゃダメよ』
「は、はい…」
『ほら、お尻突き出して。 ぷりんとした可愛いお尻の方から、脱ぐよ 』
もう我慢ならないくだんちゃん、ショーツを脱ぐ手で、同時に少し少しだけ。
左手がお尻を通過する際に、ついでにお尻の表面を撫でるように愛撫します。
(んくぅ…も、もっと…もっと触りたい…のに…!
『そのままお尻突き出して…ねぇ、いやらしい恰好だね?
 ショーツも足首までね。 ほらどう?縛られてるみたいで昂奮する?
 ボタン、外すよ。一番上… 二つ目… ブラしてる?してないんだ。
 乳首、立ってるね…ウソツキ、もうびんびんでしょ?解るんだから。
 息、荒いし。そんなにはぁはぁ言っちゃって…やらしいんだから。
 ほら…胸はだけて、おっぱいよく見せて。
 やっぱりびんびんじゃない。どうしてほしいの?ねぇ?
 摘んでほしい?お口でしてほしい?ぴんってはじかれるのも好きだよね?
 どうしてほしいの?ほら、言ってごらん?
 いいよ、じゃあ、摘んであげる…
 …………んふふ
 なぁに?そのいやらしくって大きい声!乳首だけでそんなに感じちゃった?
 ほんといやらしくって…すっごく可愛い…!』
耳元で囁かれるネコさんの指示。それに従って自身を愛撫するくだんちゃん。
自分の指がネコさんに思えてきて、でもそれはホントはネコさんの手じゃなくて。
ネコさんにされてるようでいて、オナニーを除き見されてるような気分もして。
「あぅ…!あ、はぁ!あ!ネ、ネコさ…んんっ!んく…っ!んはぁぁぁあああ!!」
くりくりこねこねと乳首を捏ねあげながら、くだんちゃんはどんどん昂って行きます。
「やぁ!も、もう…だめぇ!あ、あそこ…あそこも…!!」
『アソコって?ちゃんと言ってくれなきゃ、わかんない』
「や、やぁ!ネ、ネコさん…!い、意地悪しちゃ、やぁ!」
『だって可愛いんだもん、ほら、教えて?アソコって?』
「や、やぁ…お、おま…んんんんっ!んはぁぁああ!あ!」
『ほぉら、よがってないでちゃんと言いなさいよ、早く』

81 :
「お、おま…おまんこぉ!おまんこ、してぇえええ!!」
『よく言えました。いいよ…おっぱい弄ったまま、アソコも弄ってごらん』
「そ、そんな…そんなの、無理…!!」
『無理?なんでよ』
「だ、だって…電話…!!」
『あんた、ハンズフリー機能くらい知らないの?』
「し、知らないよぉ!ど、どうすればいいの!?」
『えーっとね、メニュー画面から………』
くだんちゃん、軽くパニックです。
ネコさんの言うとおりにしないとアソコを弄れません。
早く蜜を溢れさせるアソコをぐちゃぐちゃにしたくて、
必になってハンズフリーモードにしようと四苦八苦。
「で、できたっ!ネ、ネコさんの声、き、聞こえる…!」
『よ、よくできました』
「い、いい?あ、あそこ…おまんこ、いい?」
『いいよ、おっぱい苛めながらアソコ、弄ってあげる…!』
エロは苦難を乗り切る原動力ってホントですね。
くだんちゃんはおっぱいとアソコを同時に責め立てます。
「んあっ!あ!ひんっ…!ネ、ネコさん…!き、気持ちいい、よぉ!!」
『はぁはぁ…く、くだんちゃん…!わ、私も…!私も、して…っ!』
「う、うん…えと、じゃ、じゃあ…!お、お口で…!」
『お、お口?』
「お口で、して、あげる…!ネ、ネコさんのおまんこ、ちゅっちゅして、あげる…!」
『う、うん…解った』
(口でっつったって、自分で自分のは出来ないからなぁ…
と、内心不満げなネコさんでした。
※※※
バスローブ姿でソファに座ったネコさんは少しだけ途方にくれていました。
『ネコさんネコさん…ちゅっちゅっちゅっ…』
電話の向こうでは。
くだんちゃんがネコさんのアソコをお口で愛撫している気分になってます。
(…指でするしかないよね
しかし、その時。
ネコさんの視界にあるものが飛び込んできたのです。来てしまったのです。
(………つ、使った事、ないけど
思わずごくりと喉を鳴らしてしまうネコさん。そっと手を伸ばした先にあったのは。
電動ハブラシ、でした。
シャワーの跡に歯を磨こうと、バスルームから持ってきていたのです。
スイッチを入れると、歯ブラシはヴゥウゥウウウ…ンと低く唸ります。
「くだんちゃ…ん…」
『ネコさん…ちゅっちゅっ…』

82 :
ネコさん、くだんちゃんの愛撫(のフリ)に合わせて、
歯ブラシの背をそ…っと自分のアソコにあてがいます。
すると。
「んひゃぅ…んん!!」
『あは…ネコさん、やらしい声…気持ち、いい?』
「ん、んん…!これ、いい…!」
歯ブラシの硬い背の部分が、小刻みな振動をネコさんのアソコに送り込みます。
初めての感覚に思わず背をのけぞらせて感じてしますネコさん。
『もっと、もっと、してあげる…ネコさん、ちゅっちゅっ…!』
「ん、はぁ!あ!あ!…んゃは、あぁぁあああああ!!」
くだんちゃんの「ちゅっちゅっ」に合わせ、クリトリスに歯ブラシの背をあてるネコさん。
「や、やら…!いい…んん!そんな、激し…!んくぅうううう!!」
『ふぁあ…ネコさんネコさん、んちゅっちゅっちゅっちゅちゅちゅ…!』
「あ!あ!やぁあ!あ!あ!あひぃ…うっ!んぁああああああああ!!」
※※※
もちろん、くだんちゃんからはネコさんが道具を使っている事など見えません。
だから単純に、自分の声でネコさんが昂奮してくれてるのだと思ってしまいます。
(あぁ…ネコさん、すごく感じてる。すごくいやらしい…!
そう思うと、くだんちゃんのアソコもどんどんエッチなお汁が溢れてしまいます。
ネコさんからの指示も無いまま、それでもぐちゅぐちゅと激しく指を使うくだんちゃん。
「ネ、ネコさ…んんっ!わ、私、もう…!」
『くだ、ん!ちゃ!わ、私、もぉ!!』
『「んはぁ…っ!あ、あ、あ…ああああああああああああああああああああ!!」』
※※※
遠く離れていても、心はひとつ。同時に絶頂を迎えた二人。
これでネコさんも大満足、寂しい夜を乗り越えられる事でしょう。
と、思いきや。
「やっぱだめだぁあぁああ!直接触れたいいぃいいぃ!!傍にいたいいぃぃぃい!」
…ですって。
どうやらテレフォンセックスが呼び水となってしまったようです。
くだんちゃんに逢いたい気持ちが余計に募ってしまったネコさんなのでした。
「ネ、ネコさん!?お、おち、おち、おちついて!!」
「帰る!いまから帰る!すぐ帰るから!!!!」
「ちょっとネコさん!?そっちはいま深夜…!」
ぷつっ!ぷーぷーぷー…………。
「ネ、ネコさん…」
※※※

83 :
もちろん、すぐって訳にはいきませんでしたが、翌日。
ネコさんは予定より5日も日程を繰り上げて帰ってきました。
「ご、ご両親、びっくりされたんじゃない?」
「えへへ、くだんちゃんだぁ、くだんちゃんだ、えへへ」
「も、もぉ…/// ちょ、やん…そ、そこ…んふぅ!」
「くだんちゃんくだんちゃんくだんちゃん、えへへうふふ」
「だ、だめだってばぁ!こ、こんな所でぇ!!」
「うん、帰ろ、すぐ帰ろ、いますぐ帰ろ」
「も、もぉ…///」
「帰ってしよ?すぐしよ?ね、いいよね?」
「そ、それは…その…………………う、うん ///」
「わーーーーい♪」

(もう、ネコさんってば。子供みたい。
(でもしょうがないよね、2日も逢えなかったんだもん

そう、たった2日。
昨夜の電話は、出発1日後の事でした。そして今日が、その翌日。
つまり、二人が離れていたのは…ほんの2日間だけの事だったのです。

(ほんと、しょうがないなぁ。こうなったら…
(ずっと、ずっと…ずーーーっと、一緒にいてあげなきゃ。

くだんちゃんってば、自分だってすっごく寂しくて何も手に付かなかったくせに、ねぇ?
「しーーーーーっ!それは内緒!!」
はいはい。


<おしまい>

84 :
以上です。
くだんちゃんはもう一篇くらいストックしてますので、完成したらまた来ます。

85 :
まったくどうしようもないバカップルですなwwwww
ごちそうさまですw

もう一話楽しみにしてます。


猫さんがとてつもなく無防備なくだんちゃんの母を目の前にして
その爆弾級おっぱいに目がくらみ、事故を装って転んでそのおっぱいを堪能
それがくだんちゃんにバレて嫉妬されるイメージが浮かんだ。
嫉妬するくだんちゃん絶対かわいい

86 :
ここに式場を建てよう
そうしないと爆発してほしくてたまらない気持ちで俺の寿命がm(ry

87 :
姉妹百合が見たいな

88 :
>>13
このレストランにたくさん耳が無い客が来たら面白そうw
鳥類全般とか爬虫類、イルカクジラ系の娘
猿はケモミミに含まれるか怪しいし

89 :
両生類「」
虫「」

90 :
>>89
両生類はともかく虫は流石に居ないだろ、獣じゃないし

91 :
リグル「…」

92 :
例は思いつかんが蝶とか綺麗じゃないですかね

93 :
蝶の擬人化?背中に羽が生えた人みたいな感じか、と考えてたらパピヨン思い出してしまった
みんなはググらないでくれ、犠牲者は俺だけで十分だ・・・

94 :
かわいいわんこの画像しか出てこないんだけど

95 :
>>93>>94
なんかワロタw

96 :
もうすぐバレンタインだなあ
最近は友チョコと銘打って女の子同士でもチョコを送り合うらしいけど

97 :
お姉ちゃんが媚薬チョコふざけてあげたら大変な目にあったの思い出した

98 :
マナりつ

99 :
>>97
何その二次元みたいな展開
詳細は

100 :
>>97
もったいぶらないで教えろください

101 :
面白半分、バレンタインに通販で媚薬チョコとかいうのを買う

とりあえず一番仲の良い娘が家に来てる時にあげる

効果があったらしく押し倒される

初めてだったのに・・・

102 :
その時親は居なかったけど、俺は居たから、ばっちり変な声が聞こえてた。
だから友達帰ったあとお姉ちゃん問いつめたら半泣きで抱きつきながら一線越えちゃったって
なんか色っぽかったから不覚にもドキドキしたw

103 :
>>101
そんな漫画みたいなことって存在するのか…。信じられない
媚薬なんて本当に効くものなんだな驚きだよ
結局その姉と友達はどうなったんだ
姉にはそんなことがあったのに>>101はこんなスレに出入りしているとは何の因果か

104 :
ウィキペディアを斜め読みした感じだと男と女では違う薬じゃないとダメっぽいし、姉が百合娘で影響を受けたのかもしれん
或いは逆にそれがキッカケで目覚めた説

105 :
幾ら媚薬入って興奮したからって普通同性にはいかないよな
お前ら、男友達と居る時に媚薬チョコ食ったからって♂のケツ掘りたいとか掘られたいと思うか?
つまり、その姉の友達は元々…

106 :
そもそも媚薬なんて入ってなかったに一票

107 :
このスレ的には俺も押し倒しておけば姉妹百合とかって言えたんかな・・・

あ、あのあとお姉ちゃんは友達と仲良くやってるみたいよ。
友達としてか恋人としてかはわからない

108 :
恋人としてなら俺ら得なんだがなぁ
女性の性欲は満腹時に強く発現するらしい

109 :
東方厨は苦手だが百合好きとして東方は宝の山
ジレンマだ…

110 :
2chのスレとかなら保管庫だけ見ればおk

ふと思ったんだけど、朝起きたら女の子になってて、幼なじみの女の子としちゃって…みたいな話はここと
朝おんスレどっちが適切なんだろうか

111 :
朝おん

112 :
そうだよな、考えてみれば中身が♂で百合というにはかなり無理がある気がした

113 :
えっ、今おなべネタで設定考えてたけどダメなんか…

114 :
全然アリ

115 :
>>109
そんな貴方に秘封倶楽部
東方だけどマイナーだから東方厨的な意味でも他のやつよりマシかと 百合多いし

116 :
>>114
よしわかったまかせろ
…別スレに投下した話の続きだけどよろしい?
ダメなら別にそれでも良いが

117 :
>>116
俺はそのスレ(或いは保管庫のその話)を紹介してからにしてほしい
投下自体は百合ならうぇるかむ

118 :
>>109
好きだけど7割くらいの確率でふたなりがからんでくるのが許せない

119 :
>>118
そうなの?じゃあ掘るの止めよっと
別にふた娘が嫌いじゃないけどなんか秋田

120 :
>>109
東方厨の何が苦手かを明確にしておいて、「自分はそうならねー」って自覚するんだ
それが終わったとき、何にも動じなくなっているはず。
媚薬のせいにして一線超えて「実は何も入ってなかった」

121 :
あれからまたお姉ちゃんの部屋覗いたら今度はお姉ちゃんから友達にキスしてた。
あれからナニがあったんだろ・・・

122 :
いいなぁ!いいなぁ!
うちははとこまできれーに男ばっかりだから兄弟に女がいるとか同世代の女の親族がいるとか裏山

123 :
一応言っておくけど姉妹だからな

124 :
姉妹百合大好物ですが。

125 :
友人だと思ったらまさかの妹という三角関係か…いけるな
そういうのって結構よくあるけどあんまり百合だと見ないような

126 :
まぁただでさえ百合って自体で複雑だしね
漏れの頭じゃ設定がこんがらがりそうだ
ところで>>121って女なん?>>123が合ってるとするとそういうことだよねぇ?

127 :
いい加減スレチだ
>>121は速やかに文章化する作業に入りなさい

128 :
>>127
誰か書いてくれないかと思ってさ・・・

129 :
>>126君!>>107の一行目を見よう!

130 :
投下がない・・・

131 :
姉の恋人に壁ドンされて押し倒される展開ですか分かりません

132 :
10レスほど投下したいと思います。
ちょうどこの時期くらいの姉妹とその友達についてのお話です。
け、決して今までの流れなんて影響されてないですからねっ

133 :
「お姉ちゃん久しぶりー」
 地元ではありえないくらいの人でごった返す駅は、毎回東京に来たという感じをまず最初に味わえることだ。
 改札を出ると、沢山の人の中で一人、見慣れた顔のお姉ちゃんが待っていてくれた。
「久しぶり、利奈。相変わらず背は大きくならないね」
「一言多いよ。ほら行こう」
 地方に住んでいる私は、東京で一人暮らしをするお姉ちゃんの家に泊まりに来ていた。
本当は大学見学をするために来ているけれど、東京見物もかねて長期の休みになるとほぼ毎回来ている。もうすぐ受験生になるから、この春休みで最後だとは思うけれど。今回だってお母さんに粘りに粘って手に入れた東京での五日間だ。
 そんなことは、さておき。
 何か、面白い出来事が起きることを予感して、雑踏の中を歩く私の足取りはとても軽かった。
 久しぶりに来たお姉ちゃんの家は、特に模様替えしたわけでも無いけれど何かが変わっていた。物が増えたというか、何がしかの雰囲気が変わった気がする。
 これは何かあったなと瞬時に感じ取った私は早速物色し始めた。
「人の家あんまりジロジロ見ないでよ」
「だってー夏に来たときとなんか違うんだもん。そういえばお姉ちゃんって彼氏出来た?」
「彼氏?いないよ」
 飄々とした口調から推測するとこれは本当のように聞こえる。
「えーそうなの。お正月帰ってこなかったからてっきり彼氏とラブラブしてたのかと思ったのになあ」
「変な期待しないの。ただ帰るのが面倒だっただけだから。ところで、こんな時期に遊びに来て勉強大丈夫なの?」
「うん。五日間だし、宿題は全部済ましてきたから。ちゃんと勉強道具だって持って来てるし」

134 :
相変わらずぬかりないなあ。ここでもちゃんと勉強しなよ。私もわかる範囲なら教えるから」
「私はそれよりお正月に家にも帰らずここでせこせこ何かしてたはずのお姉ちゃんの私生活を暴くことを最優先にしなきゃー。あっ」
 お姉ちゃんは、はあ、というため息を付いて、少しばつの悪そうな顔をしていたのを私は見逃さなかった。
 しばらくすると、私はおかしなものを見つけた。
「お姉ちゃん、ゲームなんてするの?」
 お姉ちゃんは昔からゲームには興味なんて微塵も無かった。私は好きだけれど、いつもそれを見て「そんなにやって何が面白いんだか」って言ってた立場だったのに、テレビの横には最新型の据え置きハードが存在感を主張していた。
「まあ、ね。ゲーム好きな友達が遊びに来た時にやりたいからって置いてった」
「こんな高いゲーム機を友達の家に置いてくなんてすごい『友達』だねー」
「変なこと考えないの。その子家がお金持ちだからここに置いておいてもいいんだって」
 私はへぇ、と相槌を打った。ただの友達でそこまでする?主婦の勘ならぬ妹の勘でこれには何かありそうだという気がした。これにはもっと調査が必要だ。
 
 私が台所へ行った時だった。
 ふと戸棚を見ると、いままで見たことない物を見つけた。
 それは、マグカップだった。デパートで見たことのある、いちご柄のお上品な感じのやつ。たぶん、それなりに値が張る品物のはず。
「ねえお姉ちゃーん。このいちごのマグカップ、お姉ちゃんの?」
「そんなものよく見つけるね…。ここによく来る友達が置いてったやつだよ。元は私のプレゼントだけど」
「また『友達』。そんなにお姉ちゃんと仲良いんだね」
「そうだね、よく家に来るよ。そういえば、お正月もその子とずっといたから帰らなかったんだった」

135 :
「ねえ、それってもしかして美夜さん?」
 去年の夏にここへ来た時、一緒に海に行ったお姉ちゃんの友達だ。人見知り気味だけど、色の白い、お姉ちゃんにはもったいないくらいかわいい人だった。
 一緒に海に行くくらいだから、確かに仲は良さそうだった。さっき物色したときに見つけたけれど部屋に二人で写った写真が飾ってあるくらいだし。
 なのに、お姉ちゃんはほんの少し、うろたえていた。
「う、うん。よく憶えてるね。あのゲーム機も美夜のものだよ」
「そっか。なーんだ、お姉ちゃんに男の影があるんじゃないかってちょっと疑ってたのにつまんないの。このカップどう見ても女物だし」
「ほら、わかったでしょ。だからもう変な勘ぐりしない」
 はーい、とは言ったものの、何か腑に落ちないところがあった。
 お姉ちゃんのうろたえた姿、お姉ちゃんの家にあるやたら気合入り過ぎなプレゼントのマグカップ…。ただ友達と仲が良いからという理由だけではないような気がしていた。
 そして、私はもう一つ不自然なものを見つけた。
 洗面所だった。普通、一人暮らしなら歯ブラシとコップは一つしか無いはずだけれど、何故か二つあった。
 普通なら、誰かと同棲でもしていなければ無いはず。
 でも、彼氏がいないはずのお姉ちゃんの家にこれがあって、つまりは誰かがお姉ちゃんの部屋によく泊まっているということになる。
 今の話の流れだと友達の美夜さんの物なのだろうけど何かおかしい気する。普通友達が友達の家に歯ブラシを置いてくのか。
「ねえお姉ちゃん、彼氏もいないのにどうして歯ブラシが二つあるけどこれも美夜さんの?」
「だからそう言ってるだろうが!いい加減にしろ利奈」
 お姉ちゃんは明らかに苛立ち、少し怒っていた。友達のものか聞いただけなのに私に都合が悪いことがこれらの裏には隠されている気がしてならなかった。
 まだまだ調査を続行せねば。私は妙な使命感にすら駆られていた。
 私は機嫌を悪くしたお姉ちゃんをなだめながらも、一体最後はどう転がるのかわくわくする気持ちを抑えることが出来なかった。

136 :
 ***
 翌日はお姉ちゃんと一緒に大学見学へ行ったけれど特にこれといったことは無し。
 あえていえば、頻繁に携帯をチェックしていること。画面をちょっと覗くと、いつもメールをしているのがわかった。
 その次の日。お姉ちゃん達と朝からテーマパークに遊びに行くことになっていた。
 また今回もお姉ちゃんは美夜さんを呼んでいて、一緒に行くことになった。以前と変わらず可愛らしい人で、私のことも憶えていてくれた。
 やっぱり美夜さんはお姉ちゃんとすごく仲が良さそうだった。それどころか、手を繋いでいたり、私が話しかけるのをためらうほど二人の世界に入り込んでいる場面も多々あった。
 その姿はさながら仲睦まじいカップルに見え…無くも無かった。
 乗り物を待っている時、私はお姉ちゃんに関することで一つの憶測が浮かんだ。
 『お姉ちゃんと美夜さんが付き合っているのではないか?』と。
 それなら今まで起こったことはお姉ちゃんの反応は全部納得出来る。むしろこの理由しか考えられなかった。
 私は思わずニヤリとした。普通ならお姉ちゃんが「そんな気持ち悪い顔してなんか変な
ことでも考えてるんでしょ?」とか言ってくれるはずだけれども、美夜さんにずっと構っていてそんな私の様子に気付きもしていなかった。
 でも、せっかく来たのにこれじゃ、ちょっと悲しいな。
 三人でご飯を食べている時は、私と美夜さんでゲームの話に花が咲いた。
 美夜さんは見た目とは裏腹にかなりのゲーマーで大分やりこんでいるらしく、色々なゲームのことをよく知っていた。
 周りにここまでの知識がある人がいなかったから純粋にすごいと思えた。
ついでにお姉ちゃんの部屋に置いてあるゲームも本当に美夜さんが持ってきた物だと確認することが出来た。
 話の間を突いて、私は美夜さんにこんなことを聞いてみた。

137 :
「美夜さんってお姉ちゃんとすごい仲いいですよねー。カップルみたいに見えますよ」
 そう言うと美夜さんは顔をすこし赤らめさせた。お姉ちゃんは飲んでいた飲み物を吹きだしそうになりむせて咳をしている。
 わかりやすい。わかりやす過ぎる。もう隠す気無いのかと思わせるほどだ。
 思い返してみると、お姉ちゃんは嘘を付くのが苦手で、すぐ私やお母さんにバレていた。おまけに鈍感で、他人の嘘はすぐ信じてしまっていた。
「日頃からよく一緒にいるからそれで慣れちゃってるんだよきっと。ねえ、奈緒ちゃん?」
と頑張って平生を装いながら私に話す。
「う、うん…」とお姉ちゃんは未だ咳をしながら苦しそうに相槌を打った。
「だから、あんまり変な勘ぐりするなって昨日も言ったでしょう。あんまり言うと帰らせるよ」
 やっと息を整えることの出来たお姉ちゃんが怖い顔をしながらそう言うと、美夜さんがそこまで言わなくてもと声をかけてお姉ちゃんはなんとか落ち着いた。
 これで、二人の仲は恋人にほぼ間違いないものだとわかった。
 でも、私の野次馬根性はまだ満足していなかったのである。
 この結果どうなってしまったかは、この時の私はまだ想像出来ていなかった――。
 ***
 次の日。午前中はお姉ちゃんのバイトで私は一人で家で勉強、夕方にお姉ちゃんが夕食の買い物をしてから美夜さんと一緒に帰ってきて、それからお姉ちゃんが美味しい夕食を作ってくれることになっている。
 私はお姉ちゃん達が帰ってくる少し前にちょっとした作戦を決行した。
 お姉ちゃんから帰宅するメールが来たら、私は『近くの本屋に行って参考書見てくる』という置き手紙を残し、玄関の鍵を閉めておく。そして私はお姉ちゃんのクローゼットに入って準備満タンだ。

138 :
 何がしたいかというと、お姉ちゃんと美夜さんを二人きりにさせて会話を盗み聞きしようとしたのだ。おまけに扉の隙間から覗き見もしちゃおう、ということだった。
 お姉ちゃんが美夜さんに好きだよとか言うのかなあ、それともキスでもするのかなあと変に期待を膨らませていた。
 顔の筋肉が変に緩んでいることが自分でもわかって少し自己嫌悪に陥った。
 ガチャリ、という玄関のドアが開く音がした。帰ってきたようだ。
「あれ、利奈がいない」
「本当だ。あ、机の上に何か置いてある」
「なになに…本屋行ってるの。料理の手伝いしてもらおうと思ったのに逃げたな」
「でもいいじゃない。久しぶりに二人きりになれて」
 キター。この展開を待ってた。
 私は二人を食い入るように見つめた。
 美夜さんは手を洗い、お姉ちゃんは買ってきた食材を冷蔵庫に入れながら会話を続けた。
「利奈が変なこと言っちゃってごめんね。あいつ無駄に勘が良いから、部屋の中見ただけで色々勘ぐってきて」
「すごいね利奈ちゃん。私鈍感だからそういうの羨ましい」
「羨ましがらなくていいの。あの野次馬根性へし折ってやりたい」
「そこまで言わなくっても…。でも昨日、ちょっと置いてけぼりにしちゃって申し訳なかったな」
「美夜は優しいなあ。そんな風に考えなくていいのに」
「多分、私達のことバレてるよね」
「どうなんだろう。でもその可能性は大いにあり得るなー」
 そう言ってお姉ちゃんは食材を入れ終えたのか、部屋で床に座っていた美夜さんの腰に手を回して抱き締めた。
「こういうのも久しぶりだね。寂しかった?」
「そういうこと言わないでよ。それに大して久しぶりでもないでしょう」

139 :
「私は寂しかったけどな。美夜のこの抱き心地が恋しかった」
「もう…」
 抱き締めていた腕を軽く体から解くと、見つめ合い、どちらともなく唇を触れあわせた。
多分十数秒くらいの間それが続くと、一旦離れてお互いを見つめ合うと、それからまた唇が触れあい、今度はお互いが貪るようにキスをしていた。
 くちゅくちゅと今にも音が聞こえて来そうだ。
 ………。
 身内のこういったことは見たくない気持ちもあるけれど、やっぱり気になって見てしまう。やっぱり覗き見はまずかったかな、という罪悪感にすら駆られてきた。でもこれから二人がすることに目を離すことは出来なかった。
 さっきよりも長い間キスをし、ようやく唇が離れると、お姉ちゃんはゆっくり美夜さんの体を倒し、上から覆い被さるような体勢になった。お姉ちゃんは美夜さんの首筋に唇を当ててちゅ、ちゅと音がするようにキスをした。
「だめ…利奈ちゃん、帰って来ちゃう…はぁ…んっ」
 美夜さんの表情はよく見えないものの肌が紅潮しているのが分かる。
「本当に駄目なの?」
 お姉ちゃんは美夜さんのブラウスのボタンを上から取り始めた。
「そんな意地悪なこと…聞かないで」
 美夜さんのキャミソールとブラを上にたくし上げると意外と大きい肉感的な胸がふるりと出てきた。お姉ちゃんはそれを弄ぶように頂点をうまく避けながらふにふにと揉んだり下から押し上げる。
「あっだめ…それ以上やったら歯止めが効かなくなる…はぁ、ああんっ」
 空いていた片方の手で今度は、美夜さんの真っ白なわき腹やお腹を絶妙なタッチで撫でるように手を滑らせていく。
「ここも好きだよね?」

140 :
 そう言うお姉ちゃんは意地悪そうな笑みを浮かべて楽しそうだ。まさかお姉ちゃんにこ
んなサディストな本性があったなんて。
 見てはいけないものを見てしまっていることに対する背徳感にぞくぞくしてしまう。そして体の疼きを感じ始めてきてしまっている自分がいた。
「いや…そこもだめ…よくなっちゃう…から…はぁっ」
 もう美夜さんは泣きそうな声でだめとかいやとかそういう言葉を言いながら気持ちよさそうな声しか上げていなかった。
 しばらく胸や腹の責めを続けていると、お姉ちゃんはぴたりとそれを止めてしまった。
「はい、おしまい。ほら、利奈もそろそろ帰ってきちゃう頃だろうし夕食の準備しようよ」
「えぇ!?そんな…」
 そんな残念そうな美夜さんの声はお姉ちゃんを動じさせることは無く、美夜さんの乱れた衣服をせっせと直し始めている。
「だって、嫌なんでしょう?それじゃ私はただのいじめっ子になっちゃうもの」
 そんなことを言いつつお姉ちゃんの顔は未だ意地悪そうな笑みを浮かべている。やっぱりさらさらそんなことは考えていないようだ。
「ここまでやったのは奈緒ちゃんなのに…あともうちょっとで…」
 美夜さんはおそらく泣きそうな顔をしているのだろう、か細い声でお姉ちゃんに訴える。
「あ、そうだ、じゃあさ、」
 そこまで言うと続きをお姉ちゃんは美夜さんの耳元で何かを囁いた。途端にまた美夜さんは赤くなる。
「そんなこと…恥ずかしいよ…」
「え、じゃあこのままでいいの?利奈がいるから今日中はもう無理だよ?ほら、決めて?時間無いから、3、2、1」
 
 お姉ちゃん鬼畜だ。心なしかこういった言葉責めにも慣れている様子さえ感じる。なにしろお姉ちゃんの体にはキス以外特に何もされていないのにすごく楽しそうなのがすごい。

141 :
 少し間を開けた後、美夜さんは泣きそうなか細い声で、
「私を…イかせてください…」と言った。(あまりよく聞こえなかったので推測)
 それを聞くとお姉ちゃんはにっこりとする。
「良くできました。いいよ。ご褒美をあげる」
 お姉ちゃんは一度直した衣服をまたさっきまでの状態に戻すと、美夜さんの今まで触られなかった一番敏感で固く尖った胸の頂点を強くつねり上げた。
「あ、あぁ、ああイっちゃうイっちゃうイっちゃうっ、だめ、あっ、あっ、あーーー」
 美夜さんは一際大きく高い声を上げた。
「はい、お疲れ様。胸とお腹くらいしか触ってないのにイくなんてよっぽど溜まってたんだね。美夜さんったらインランー」
「奈緒ちゃんがこういうことするから悪いんでしょう。大体、もし途中で利奈ちゃんが帰ってきたらどう説明するつもりだったの」
「うーん、あんまり考えてなかった、かな」
「もう奈緒ちゃんたら!!私知らない」
「そう怒らないでよ。キスしてたら美夜がかわいくなってきてつい…」
「ついじゃないでしょついじゃ!」
 そんな会話をしている二人はとても仲が良さそうだった。というか、同姓なのに恋人にしか見えなくなっていた。
 それから夕食の支度をし始めた二人の隙を見計らってなんとかクローゼットから抜け出しあたかも今帰ってきた風に装いながら言い訳をした。
お姉ちゃんは何かあったら危険だろうとか遅くなるなら先に言えとか
色々言ってきたけれど自分だってあの時帰ってきたら大分まずいことしてただろうと考えると笑いがこみ上げてきた。
 でも、二人のあんな所を見てしまった以上、気恥ずかしさが邪魔をしていつもの通り接することや、顔をまともに見ることさえ出来なくなっていた。様子がおかしいと指摘されても当然理由を説明出来る訳も無く、なんでもないで押し通すしか無かった。

142 :
 お姉ちゃん特製の美味しい夕食を食べた後は、私は美夜さんとゲームで対戦をした。いくつかやったけれど、どれも美夜さんは強くてほとんど勝つことが出来なかった。
 楽しかったけれど、二人の間に誰も他人は入ってはいけない、入ることは出来ないと今回一番感じたことだった。
 あと覗き見は軽い気持ちでしちゃいけないってことも。
 東京を離れる日。今度は美夜さんも一緒だった。翌日になってようやく二人の顔をまともに見ることが出来るようになった。
「色々勘ぐっちゃってごめんなさい。お姉ちゃんもうまくやってね」
 そして改札を入る一歩手前、昨日から絶対言おうとしていたことを言った。
「二人ともお幸せにねー!!私応援してるから!」
 そう言って改札に切符を滑り込ませると言い忘れていたことを思い出してくるりともう一度後ろを振り返った。
「お父さんとお母さんには言わないから安心してねー!大学入ってもお姉ちゃんの所にはお世話にならないから美夜さんと何しても大丈夫だよー!」
 手を大きく振りながらそう言うと、手を繋いだお姉ちゃんと美夜さんはぽかんとした顔をしていて手を振り返すことも忘れている様子だった。
 そんな二人の姿を背にして私は歩き出す。
 この先もずっと二人が一緒だったらいいな。
 小さな願いと共に私は東京を後にした。
【END】

143 :
以上です。
自分には上も下もいませんが、姉妹っていいよね!ってことで妄想150パーセントくらいで書き上げました。
とりあえずちゃんとそれっぽい時期に投下出来たことに満足です。
次がありましたらまたよろしくお願いします。

144 :
姉妹がいない、妄想150%・・・?ああ、そういうことね
GJ。今日言っても嘘くさい?気にすんな

145 :
この視点からってのは面白いね
よいよい

146 :
誰もおりませんわ……

147 :
かなり久しぶりに来ました。またちょこちょこ書きたいな…

148 :
てことで、4レス分ほどお借りします。

149 :
<Side-A:絵咲(えみ)>
美術室の窓からは、正面に図書室が見える。
窓辺には、いつもの席にいつものように静かに座し、
いつものように本に没頭する彼女の姿がある。
私はキャンバスを美術室の窓に対して直角に置き、キャンバスに向かって座る。
キャンバスには書きかけの裸婦像、横を向けば本を読みふける彼女の姿。
そう、私は彼女の裸体を勝手に想像してこんな絵を描いてる。彼女の承諾も得ずに。
絹のような長い黒髪が風になびく様を幻視する。眼鏡の奥の瞳を想像する。
本に向かう真剣なまなざしが、私に向けられた時、どんな色を宿すだろう。
制服に包まれたすらりとした肢体、窮屈そうな胸元、制服の奥に息づく乳房。
ほっそりとしたお腹の起伏、しなやかな脚のライン、滑らかな肌を想像する。
こんな想像してる事、それを絵にしてる事、彼女に知られたら軽蔑されちゃうかな…
でも私達は直接言葉を交わしたことも無い。彼女に知られる事は無い。きっと、永遠に。
ともあれ、私はふーっと息を吐き、私と彼女と絵の世界に没入する。
誰にも邪魔されない私たちだけの静かな時間が、今日も流れて行く。

※※※

<Side:B:文香(ふみか)>
私がちらと視線をあげると、窓の向こうでは、あの人が絵筆を手にする所でした。
私はいつも読みかけの本からそっと視線だけをあげ、あの人の様子を窺います。
彼女はいつも、短く切りそろえられた髪を、髪留めでアップしています。
恐らく、キャンバスを見据える視界に髪が掛る事を嫌っているのでしょう。
女性らしい柔らかな曲線を描く身体、垂れ目がちな優しい眼差しのあの人。
でも、キャンバスに向かうと雰囲気が一変します。
キャンバスに向かうあの人の真剣な眼差しを確認して、私は本の世界に戻ります。
私たちはこの3年間、ずっと一緒でした。ずっと一緒で、ずっと別々でした。
それはとても満ち足りて幸せな時間でしたが、同時に少し寂しい時間でした。
でも、仕方ありません。 あの人と私は言葉を交わした事すらもないのですから。
あの人と私は女の子同士です。こんな片思い、成就するわけ、ありませんから。
だから、私は窓辺からあの人の横顔を見ているだけで、
私とあの人は同じ時間を共有していると考えるだけで、
ただそれだけで満ち足りた気持ちでいられるのです。
それ以上を望むのはきっと贅沢、だから。
※※※

150 :
<Side-A:絵咲>
「せんぱーい、お先に失礼しまーす」
後輩から声を掛けられ、私はどもりながら応じる。
「あ、う、うん!お、お疲れ様…!」
気付けば空はオレンジ色に染まって、山の端には薄い闇。
図書室の灯りの中、彼女はまだ本に向かってはいるけれど、
そろそろ強制的に下校を余儀なくされる時間。
私たちの時間は、もうすぐ終わる。
「先輩、まだ描くんですか?」
「も、もう少しだけ…もう少しで、か、完成しそうだから…」
ぼそぼそと応じると、後輩は呆れた声で言い放つ。
「さすがは美術室の主ですね!頑張って下さいねー」
美術室にひとり取り残された私。美術室の主。
この3年間、私はずっとここにいる。なぜなら彼女が窓の向こうにいるからだ。
彼女を眺め続けた3年間。彼女を描き続けた3年間。想いを募らせ続けた3年間。
でも。
その時間も、もうすぐ終わる。終わってしまうのだ。

※※※

<Side:B:文香>
卒業を間近に控えた私は、あの人の事を考える時間が長くなっています。
近頃は大好きな本を前にしても、その世界に没入する事が難しくなっています。
もうすぐ逢えなくなる。あの人との時間が終わってしまう。
そのことを考えると、どうしても視線は窓の向こうに向かってしまいます。
「あ…」
その時、でした。
窓の向こうの美術室。あの人が立ちあがってこちらを見ていました。
私は慌てて視線を本に戻します。気付かれてしまったでしょうか?
私がずっと、あの人に熱い視線を向けていた事を。
私がいまも、あの人に熱い想いを向けている事を。
いいえ、私の視線を隠すこの分厚い眼鏡、世界と私を隔絶するこの眼鏡。
私の視線が何処に向いているかを、この距離で判別する事は難しいはずです。
でも。もし気付かれていたら?気付いてほしい。お願い、気付かないで。
私は一人、二律背反する気持ちを抱えたまま、閉館時間の迫る図書室の机で煩悶します。
※※※

151 :
<Side-A:絵咲>
彼女との時間が終わってしまう。そんなの、イヤだ。
でも私に何が出来る?何も出来やしない。そう思った。
でも。
彼女の視線が、こちらを向いている。眼と眼が合った…気が、した。
そうしたら矢も盾もたまらず、私は立ちあがっていた。彼女を見据えたまま。
彼女が慌てて視線を逸らす様子が見えた。
もし、万が一、とても低い確率だけど。
ありえない可能性かもしれないけど。でも。
もし、彼女が…私と同じ想いを抱えていたら?
そうだ。このままじゃ終わってしまう。彼女との時間。
どうせ終わるなら、万が一の可能性にかけてみよう。
そんな衝動が私の内に湧きおこる。そして私は駆けだした。
美術室を出て、廊下を走り、図書室へ。そして。
呆気にとられた様子の彼女の前へ、立つ。
「モ、モデルに…モデルになってくれない、かな…?」

※※※

<Side:B:文香>
「モ、モデルに…モデルになってくれない、かな…?」
あの人が、私の眼の前にいます。
廊下ですれ違った、遠くから視線を送った、窓越しの逢瀬を続けた、あの人が。
いま、私に向けられています。
恋焦がれたあの人の、キャンバスに向かっていたあの真剣な眼差しが。
「あの、あのそのあの…」
あまりの突発事態に身体が硬直し、言う事を聞きません。
元々、私は口下手な方です。緊張すると言葉を紡ぐことさえ難しくなります。
「私…その…」
せっかくあの人の方から声を掛けてくれたのに。私は動揺し、眼を伏せてしまいました。
気まずい沈黙が流れます。答えたい。話したい。あの人と視線を交わしたい。
なのに身体が動きません。何も喋れません。あの人の顔を見ることすらできません。

152 :
<Side-A:絵咲>
彼女は真っ赤になったまま、顔を俯けたまま、私の方を見てはくれない。
あまりに唐突過ぎたのだろう。私はコミニュケーションがうまくはない。
前置きも無い唐突なフリ。緊張するとどもってしまう事もしばしば。
自己紹介も何も無く、突然現れた女からのモデル依頼。私なら断る。
そんな当たり前の事に今更気付いて、私は動揺と羞恥のあまり真っ赤になってしまう。
「ち、違うの…!あ、あの…!わ、私…!」
何が違うと言うのだろう。私がなんだというのだろう。
とりとめなく、意味も無い言葉の羅列。
こんなんじゃダメだ。変なコだと思われる。嫌われちゃう。
どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう…
気持ちだけが焦って空回りする。冷たい汗が噴き出す。
ぱくぱくと酸素を求めるように唇が開閉するだけで、言葉は出ない。
勢い込んでここまで来たのに、何も出来ないなんて。何も言えないなんて。
どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう…!!

※※※

<Side:B:文香>
私があの人の筆で描かれる?その想像は私の心をかき乱します。
誰もいない美術室、向き合って過ごす二人きりの時間。
あの真剣なまなざしが私に、私だけに注がれる……?
あの人の顔は耳まで真っ赤です。眼が泳いでいます。冷や汗をかいているようです。
何か強い想いを持って、あの人はここに来てくれた。私をモデルにしたいという想い?
応えたい。その想いが…私を見てくれていたのなら、
あの人が私を見てくれるのなら…応えたい、そう思いました。
「私にモデルなんて、そんな…でも!!」
私は思わず叫ぶように言葉を紡いでいました。
「お話、もう少し…聞かせて頂けますか…?」
その私の言葉にあの人の眼が見開かれます。
思いがけない結果を得た時に人はあんな表情をするのでしょう。
※※※
こうして私たちの時間が、私たちだけの時間がはじまった。
※※※
そう、私たちは出逢うべくして出逢ったのだと、今は信じられるのです。

<つづく>

153 :
今のところ後5回分くらいの予定。また来ます。

ていうか、見てる人いるのかな…?

154 :
(・∀|

155 :
期待

156 :
文化系女子イイ!
楽しみにしてます

157 :
あ、いたw
前スレで「年開けたらモジモジオズオズみたいなの書きたいなぁ」と言ってたんですが半年近く経っちゃいました。
モジモジオズオズになるのか、いつの間にかいつもみたいなバカップルになってるかもしれませんが、よろしければしばしお付き合いください。

158 :
以前、美術部×文芸部という怪電波を垂れ流した犯人もここにいますよw
楽しみにしてる

159 :
>>158
前スレ358さん?
>353+2 :名無しさん@ピンキー [↓] :2012/12/02(日) 17:35:20.17 ID:0COwjU62
>おとなしい系ともっとおとなしい系のいちゃいちゃが見たい
>357 :名無しさん@ピンキー [↓] :2012/12/02(日) 21:49:57.88 ID:cGus1hyS (1/2)
>しかし、大人しい娘ともっと大人しい娘だとモーションかけにくくね?
>手を繋ぐだけで真っ赤になりそうなのを想像するのは萌えるが
>358+1 :名無しさん@ピンキー [↓] :2012/12/02(日) 22:48:46.72 ID:70GXoa+B
>文学部少女と美術部少女という電波を受信した
>359+3 :名無しさん@ピンキー [↓] :2012/12/02(日) 23:01:50.04 ID:cGus1hyS (2/2)
>「どこが気持ちいいの、文ちゃん?」
> 一人の少女が絵筆でもう一人の少女を撫でる。
>「やだ、そんなところっ……」
>
>こうですか分かりません
これらのレスが今回のイメージソースです。さぁ、筆プレイに辿り憑くのはいつの日か?w
そんな訳で第二話、9レス分、投下させていただきますm(_ _)m

160 :
<Side-A:絵咲(えみ)>  
どきどきそわそわ。
私は朝から落ち着かなかった。意味も無く美術室を端から端まで行ったり来たりして。
今日は日曜。美術室にいる美術部員は私だけ。いつも、大抵同じだ。
でも、今日は。私のための、私だけのモデルがやってくる。
美術室の、陽の当たる特等席。そこにひとつの椅子を置いた。彼女のための椅子。
その前にイーゼルを立て懸け、傍らにもうひとつの椅子を置いた。私のための椅子。
その距離はほんの2メートル。たったの。
窓越しの隣の校舎から見ていた時から比べれば、とんでもない近距離だ。
どきどきそわそわ。
その椅子たちを見ていたら、心臓が踊り出す。激しいステップ。
どきどきどきどきどき。
もうすぐ彼女がやってくる。あの椅子に座ってくれる。
※※※
からから…と小さな戸車の音が鳴る。
その小さな音に、私は激しく反応してしまう。
ぎくりと身体が震え、次いで硬直。来た。彼女が、来た。来てくれた。
「こんにちは…」
囁くようなか細く小さい声。でも、柔らかく優しい声。
昨日も思ったけど、彼女の声は、私の想像していた通りの声だった。
「こ、こここ、こん、こんにちは」
ええい、どもるな。緊張しすぎ。こんなんじゃ彼女を困らせるだけ。
「ごめんなさい、ちょっと早かったですね」
時計を見ると、約束の時間より30分も早かった。
私は2時間前には来てたけど。
「う、ううん。へ、へいき。だ、大丈夫よ。わ、私も、今、来た所…!」
「良かった。あの…入っていいですか?」
「も、ももも、もちろん!ど、どうぞ!」
彼女は…文香は、小さく微笑んで美術室に脚を踏みいれた。


ようこそ、文香。私の部屋へ、ようこそ。

161 :
※※※
「これ…油絵の具の匂い、ですか?」
眼を閉じて、文香がくんくんと鼻を鳴らす。
「う、うん…そう、かな?わ、私、慣れちゃって、よ、よく解らない」
「なんだか、落ち着きます。優しい匂い…」
眼鏡の奥、細めた眼を私に向けて優しく微笑む文香。
窓から差し込む、柔らかな冬の日差しを背中に受けて、絹のような長い黒髪に後光が差す。
光の輪郭をまとって浮かびあがる彼女の姿は。印象派の画家が描いた天使像を思わせた。
「あの…絵咲さん?あのぅ…」
「あ…!ご、ごめん!ご、ごめんなさい!」
思わず見とれてしまった。怪訝に思われた事だろう。恥ずかしい。頬が熱い。
「そ!そそそ、その椅子に!す、座ってくれる!?」
どもりながら、裏返った声で、少し大きめの声で言う。
「あ、はい」
文香は素直に私の指示に従った。ちょこんと椅子に腰かけてこちらを見る。
「…ま、窓の方を向いてもらえると」
「はい。こうですか?」
視線がそれた。私はほっと息を吐く。
二人っきりの部屋で、ずっと彼女に見つめられてたら…
きっと私、緊張と昂奮でどうにかなってしまう。
「は、はじめようか」
「はい」
※※※
クレパスを手に取ると、緊張が和らいだ。
眩しいのか、少し眼を細めて、窓の向こうの景色を見やる文香。
その柔らかな輪郭を、私はキャンバスに写し取って行く。
絹のような長い黒髪をまとった横顔、眼鏡のツルの向こうに覗く潤んだ瞳。
広めのオデコ、すっと通った鼻筋。少し赤くなった耳たぶ。
制服に包まれたすらりとした肢体、胸元は横からだとすごく起伏に富んでいる。
撫で肩の優しいライン、少し猫背気味の背中、スカートから伸びるほっそりとした脚…
いつしか私は、彼女をキャンバスに写し取る行為に夢中になっていった。
※※※
「ここから、見えるんですね」
「え?」
不意に彼女が呟く。
「図書室の、私の、指定席」

162 :
「う、うん」
「あそこからここも見えていましたから…当然なんですけど、なんだか不思議です」
不意にくすりと笑みを浮かべた横顔、視線は窓の向こうに固定したまま。
その表情に、私の手が止まる。見惚れてた。空白の時間、一瞬の。
「あの、もしかして…」
「ふぇ!?」
一瞬の空白の間に、彼女は、何かを言っていた。
聞きそびれた私は、思わず素っ頓狂な声をあげてしまう。
「いえ!なんでもないんです。ごめんなさい」
少し寂しそうな横顔。伏せた視線。彼女は何を言ったんだろう?
私は何を聞き逃したんだろう?とても…とても大事な事だったような気がする。
けれど、聞き返す事の出来ないまま、私は再びクレパスを走らせる。

※※※

163 :
<Side:B:文香(ふみか)>
シャッ、シャッ、シャッ。
リズミカルな音が美術室に響きます。私の鼓動に打ち消されてしまいそうなささやかな音。
でもこれは、キャンバスを走るクレパスの音は、あの人の息吹。
シャッ、シャッ、シャッ…
どくんどくんどくん…
クレパスの発する音と私の高鳴る鼓動が、調和していきます。
それは私の幻想にすぎないのでしょうけれど、私はあの人と…
絵咲さんと、密やかな会話を交わしているような気分になっていたのです。

夢のような時間。あの人と、同じ空間で、同じ空気を呼吸し、同じ時間を共有している。

永遠に続いて欲しい。終わってほしくない。そう思いました。

その時、ふと上げた私の視界に入ってきたのは、図書室のあの席。
いつも私が座っていた、この美術室を臨む事ができる指定席。
当然ながら、そこに私の姿はありません。
私は、なんだかその事実が不思議に思えて、ふと声を漏らしていました。
「ここから、見えるんですね」
「え?」
あの人が不思議そうな声をあげます。
「図書室、私の、指定席」
「う、うん」
「あそこからここも見えていましたから…当然なんですけど、なんだか不思議です」
思わずくすりと笑みが零れました。
あの人と同じ空間にいる不思議。ずっと見ていたあの人と、私はいま、すぐ近くにいる。
その事実が、私に勇気をくれました。
きっと、言える。今なら、言える。
あの人になんて思われるか、いまは気になりません。
だって、あの人から声を掛けてくれたんです。
だから。きっと。
「いつも、見えて…見てました。この部屋にいる…貴方を」
きっと、貴方も。ねぇ、そうなんでしょう?
耳の辺りで短く切りそろえた栗色の髪は、キャンバスが良く見えるようにでしょう、
さらにカチューシャで前髪を抑えているせいで可愛らしいおでこが全部見えます。
その下のくるりとした大きな瞳を更に大きく見開いて、あの人は私を見ています。
ぷるりとした唇がOの字に開いているのは、唐突な私の言葉のせいでしょうか?
突然、ごめんなさい。でも、ねぇ、絵咲さん…!

164 :
貴方も、ずっと私を見ていてくれたんじゃありませんか?
だから、声を掛けてくれたのでしょう?もうすぐ終わってしまうから。
私が貴方に向けた想いと同じ想いを、貴方も抱いてくださってるんじゃありませんか?

ねぇ、絵咲さん、貴方も…

「あの、もしかして…」
「ふぇ!?」
貴方も、私を見ていてくれたのじゃありませんか?
そう続けようとしました。でも、帰ってきたのは呆けたような生返事、でした。
急速に、勇気が萎えて行きます。私は思い込みが激しい所があります。
それは自覚しているのです。あの人が私と同じ想いを抱いてくれてる?
そんな都合の良い話が、そんな可能性があるでしょうか?
私も、あの人も、女の子です。
その事実は動かし難く、私の前に立ちふさがります。
やっぱり、ダメ。そんなはず、ありません、あの人が…私を、
私があの人を想うように、同じように想ってくださっているなんて。
「いえ!なんでもないんです。ごめんなさい」
私は一度、ぎゅっと瞼を閉じました。ふと目尻に熱い物を感じたからです。
唇をかみしめ、心をかき乱す嵐を堪えます。そしてしばしの静寂の後。
再びクレパスがキャンバスを走る音が響き始めました。
シャッ、シャッ、シャッ…
私は、言葉を返す事も出来ないまま、座り続けます。
シャッ、シャッ、シャッ…
あの人の言葉だけが、空を舞います。
返事をしたい、けど。
もう、出来ませんでした。

※※※

165 :
<Side-A:絵咲(えみ)>
どうしたんだろう。彼女の表情は曇ったまま。
でも私にはなんと言葉をかけていいか解らない。
聞き逃した言葉、一瞬の空白。
私は後悔に臍を咬む。そしてただ描きすすめることしかできなくて。
『ここから、見えるんですね…図書室、私の、指定席』
彼女の言葉を反芻する。何を言おうとしてた?
『あそこからここも見えていましたから…当然なんですけど、なんだか不思議です』
その後、何を言おうとした?ねぇ、文香。貴方は、何を言いたかったの?
彼女は伏し目がちのまま、もう何も言ってはくれない。
※※※
彼女の似姿を描くだけなら、実はモデルになってもらう必要なんて無い。
私は、ずっと彼女を見てきたのだから。ここから、図書室のあの席に座る文香を。
ずっと、ずっと、ずっと…彼女だけを見てきた。見ているだけだった。
そしてこっそり彼女を描いた。傍にいたくて、傍にいて欲しくて。
叶わない願いだと思っていたから、せめて彼女の似姿だけでも、と。
その夢にまで見た願望が、いま実現している。彼女が傍にいる。なのに。
なぜだか、彼女をとても遠くに感じる。

※※※

<Side:B:文香(ふみか)>
あの人は一心不乱にクレパスを走らせ続けています。
私を、私の似姿をキャンバスに焼きつけるべく。
それは夢にまで見た状況でした。
あの人の視線が私だけを捕え、私のことだけを考えてくれる事。
なのに今、私はあの人をとても遠くに感じます。
傍にいたかったのに。傍にいて欲しかったのに。
それが現実になっているのにも関わらず。
あの人はいま、“私”を見てくれているでしょうか?
いえ、自分の絵のために、ただモデルが欲しかっただけではないでしょうか。
たまたま私が、求めるモチーフに近い外見を有していた、ただそれだけなのでしょう。
誰でも良かったんです。“私”じゃなくても。
あの人が欲していたのは、“私”を構成する要素のほんの一部。
それはそうでしょう。
窓と窓を隔てた遠くから内面は見えません。
私の心も、届くはずがなかったのですから。

166 :
※※※

<Side-A:絵咲(えみ)>
私の気持ちは、彼女に届かない。当然だ。心は目に見えない。
だから、話さなきゃ。話をしたかった。なのに。
私はひたすら無言で、描き続けることしかできない。
なんて言えばいい?解らない。どうしよう。どうすればいいの?

その時、だった。

「…あ」

下校時間を告げるチャイムが鳴り響いたのは。このチャイムが鳴れば、THE END。
『部活中の生徒も、速やかに下校しましょう』の合図だ。

彼女との時間が終わる。終わってしまう。
私はまだ、何も彼女に告げていないのに。

※※※

<Side:B:文香(ふみか)>
それは夢のような時間、のはずでした。
昨夜、私は今日のこの時間をどう過ごすか想像して、なかなか寝付けなかったのです。
あの人と向かい合って座り、どんな事を話そう?
あの人の好きな絵のお話?どんな本を読むの?
好きな花は?好きな言葉は?そして…
好きな人は、いますか?
でも何も聞けず、何も言えないまま…
切ない想いだけを募らせた時間は終わろうとしています。
すべては私の先走った妄想に過ぎず、単なるモデルを務めただけで、です。
こなければよかった。そうすれば窓越しの逢瀬を続けられたのに。
(もしかしたらあの人も私の事を想ってくださっているかもしれない)
そんな想像を、幸せな夢を心に抱えたまま、卒業する事が出来たのに。
また、涙が零れそうになった、その時でした。
「ま、まだ!か、かかか、完成!してないから!」

※※※

167 :
<Side-A:絵咲(えみ)>
彼女との時間が終わる。終わってしまう。
私はまだ、何も彼女に告げていないのに。
そんなのはイヤだ。このまま終わるなんて、いやだ。
私は心で絶叫した。そして、思わず口に出した言葉。
「ま、まだ!か、かかか、完成!してないから!」
「…え?」
彼女が、きょとんとした表情で私を正面から見据える。
その視線が眩しくて、窓の方を向いてもらったのは私だけど、
でも今度はちゃんと視線を返す事が出来た。私、少しは、成長した?
「ま、まだ素描の段階、だから!こ、これから、ま、まだまだ、まだまだ掛るから!」
「…どれくらい、掛るんですか?」
「み…い、いや、い、いいい、一週間!一週間だけだから!だから!」
ごくりと喉が鳴る。言え、私。最初の勇気を思い出せ。
「一週間だけで、いいから…!そ、そ、傍に、いて。お、お願い、だから…!」
「え…」

※※※

<Side:B:文香(ふみか)>
「一週間だけで、いいから…!そ、そ、傍に、いて。お、お願い、だから…!」
傍にいて。
そう言った時のあの人の表情は、なんだかとても切実なものでした。
私に、傍にいて欲しい。そう言ってくれたのです。
その言葉ではなく、表情が、私を求めてくれる表情が、私の心に火を灯しました。
あの人は、モデルを失いたくないだけでしょうか?
自分の絵を完成させるために、そのためだけに私が必要なのでしょうか?
そうかもしれません。いえ、きっと…そうなのでしょう。
それは寂しい認識でした。でした、けれど、それでも。
それでも、いいじゃありませんか。
あの人が私に傍にいて欲しいと願っているのです。
私はずっとあの人の傍にいたいと願い続けていたのです。
その夢が現実になったのですから。それ以上を願うのは、きっと贅沢。
だから。
「はい…では、また明日」

※※※

168 :
<Side-A:絵咲(えみ)>
「はい…では、また明日」
そう言うと彼女はそっと手をあげた。
私は一瞬の戸惑いの後、その手を取った。
「あ、あああ、あり、ありがとう!あ、明日、また…!」
そっと握った彼女の手はとても華奢で繊細で、ほんのりと暖かかった。
私は耳と頬が熱くなるのを自覚する。熱い。胸も、とっても、熱い。

※※※

<Side:B:文香(ふみか)>
「あ、あああ、あり、ありがとう!あ、明日、また…!」
あの人はそう言うと私の手をそっととりました。
あの人の手は柔らかく暖かで、その熱で私の心までも温めてくれました。

そう、これで良かったんです。

たとえ彼女が私を想っていなくても、あの人の役に立てるなら、それだけで。
それだけでも、きっと私は幸せな気持ちになれるはずなのですから。

<つづく>

169 :
GJ!
甘酸っぱい!もどかしい!でもそこがとてつもなくイイ!!!
続き楽しみにしてます

170 :
359だったでござる・・・
拙い妄想をしただけだったorz
ともかく続き待ってる

171 :
ほんのちょっとの勇気があれば、簡単に解決する問題とか壁って結構あると思うんです。
でも、なかなかそういう訳にはいかなくて、当事者以外から見るとやきもきするっていうか。
そんなもどかしさを感じて頂ければ、なおかつそれを楽しんでいただければいいな、と。
では、ようやくちょいエロの第3話、4レス分、投下させていただきますm(_ _)m

172 :
<Side-A:絵咲(えみ)>
彼女との美術室での一時を終えた、その夜。
『はい…では、また明日』
絹のような長い黒髪を揺らし、眼鏡の奥でうるうるとまたたく瞳。
はにかむような笑顔で右手をあげた彼女が、目に焼き付いている。
私はパジャマ姿で自室のベッドに寝転がり、飽くことなく彼女の言葉を反芻する。
短く切りそろえた髪を左手でかきあげ、右手を高くあげ視界にかざす。
『はい…では、また明日』
そう言った彼女の、文香の手を握った、右手。
「ふみ、か…」
小さく唇を開いて彼女の名を呼んだ。そう言えば、まだ彼女の名を呼んでいない。
口下手でどもり症な私は、彼女と面と向かうとまともに話す事ができずにいる。
でも、きっと。
『はい…では、また明日』
そう、明日がある。明日も、彼女は来てくれる。
退屈で窮屈なモデルを、私のために勤めてくれる。
もしかして、もしかしたら。
『はい…では、また明日』
彼女も、私を…私の事を。私が彼女を想うように想ってくているのかも…?
『はい…では、また明日』
だから、明日も来てくれる…?まさか、でも。きっと、ううん。いや、きっと。
『はい…では、また明日』
その時、いつも本に向かっていた真剣なまなざしが、私に向けられていた。その至福。
『はい…では、また明日』
そう、明日は、明日こそ。
もっと彼女と話をしよう。そして、叶うならば、もっと彼女に…触れたい。
制服に包まれたすらりとした肢体、窮屈そうな胸元、制服の奥に息づく乳房。
ほっそりとしたお腹の起伏、しなやかな脚のライン、滑らかな肌を想像する。
『はい…では、また明日』
「ふみか…ふみちゃん、ふみ…!」
なんて呼ぼう。なんて呼ばれたい?
私にファーストネームで呼ばれる事、許してくれる?

※※※

173 :
<Side:B:文香(ふみか)>
「えみ、さん…」
私は湯船に漬かりながら、右手を掲げていました。
あの人の手に触れたこの右手を濡らしたくないな、と思ったのです。
ずっと手を洗わない訳にはいきません。そんな事は解っています。でも。
でも、もし、あの人に触れられたのが、あの時の一回だけで終わったら?
悲観的な考え方が癖になってしまっている私は、ついそんな風に思うのです。
「えみさん…えみさん、えみさん、えみさん」
あの人の名前を呟くだけで心が震えます。身体が熱くなります。
湯船に浸かっているから?いいえ、我が家はぬるめのお湯での半身浴が常態です。
長く浸かっていれば温かくなりますけれど、まだそんなに時間は経っていません。
「えみ、さん…」
自身の右手を、様々に向きを変え、色々な角度から眺めました。
すると右手の隣に、私の胸が並びました。
重くて邪魔な、胸。乳房。男性は大きい方を好むそうですが…
「女の子、は…?えみ、さんは…?」
………
一体、私はいま、何を考えたのでしょう。
あの人は、絵咲さんは。
私があの人を想うように、私の事を想って下さっている訳ではありません。
今日の様子を見ていれば察しはつきます。絵咲さんは、絵に夢中なのですから。
私をモデルとして見ているだけで、それ以上でも以下でもないのでしょう。
そもそも、あり得ないのです。女の子同士で、相思相愛だなんて。でも。
「えみ、さん…」
絵咲さんの手を握った右手。絵咲さんの手が。
「えみさ、ん…はぅ…っ!」
私の胸に、感じやすい尖端にそっと触れました。
「んはぁ…!あ…っ!んくぅ……」
もし万が一。百万が一。億万が一。絵咲さんが、私の事を…もし、もし、もし…!
『あ、あああ、あり、ありがとう!あ、明日、また…!』
そう言って私の手を取ってくれた、あの時の表情が。
あの時の切羽詰まった表情が、私に淡い期待を抱かせるのです。
「ん、あ…っ!ふぁあ!え、えみ、さ…んんっ!」
いつしか、私は無我夢中で自分自身を慰めていました。

174 :
※※※

<Side-A:絵咲(えみ)>
「ふ、ふみ…ふみ、ちゃ…んあっ…!」
彼女の手を握った右手。文香の手が。
「あ、そんな…!そこ…んんっ!」
パジャマのパンツに入り込み、熱く潤った股間をまさぐっていた。
「あ、あ、あ…あぅ…んくぅ!!」
こんなのいけない。いけないのに。女の子同士なのに。
でも、私は…私は、いつも、彼女を想って、自慰をしていた。
彼女の存在に、彼女への想いに、私自身の性癖に、気付いた時から、ずっと。
彼女だけ、これまでも、今も、ずっと彼女だけを想って、している。
「はぁ!あ!ん…はぁ!ふ、ふみ…ふみちゃぁあ…んんーーーーー!!」
いつしか右手だけじゃなく左手も突っ込んで、夢中で。でも声は出来るだけ押しして。
でも小さな声で彼女の名を呼ぶことはやめない。その方が…昂奮、する、から。
「ふみ…わ、わた、し…もう…!ん、んんん…っ!」
来る…来ちゃう…!!

※※※

<Side:B:文香(ふみか)>
「えみさんえみさんえみさんえみさん…わ、わた、わた、し…!んくぅ…!」
右手は股間の淫核を責め続けます。左手を口に当て、声を押しします。
家人に気付かれる訳にはいきません。こんなはしたなくもいやらしい事を。
でも、止まりません。止まらないんです。
止めたく、ないんです。
「あぅ…!えみさぁぁ…ん、あ、あ、あ!んふぅ…!!」
ちゃぷちゃぷと揺れる水面が、お風呂のお湯が、溢れる愛液を隠してくれます。
溢れているのが、解るんです。どんどんどんどん、尽きることなく。
あの人への想いと同様、たとえ受け入れてもらえなくても、それでも。
「それ、でも…!わ、わたし…!えみさんえみさん、えみさんが…!」
もう、我慢の限界でした。
「好きっ…すき、です…っ!えみさん…………ん、あ!あ!あ!」

175 :
※※※
「ふみ、ちゃ…ん!す、好き…好き!ふみちゃん、が、好き…っ!」
※※※
「えみさん!わ、わたし、イ、イイイ、イ、イク…!イッちゃい、ます…!」
※※※
「ふみちゃん…ねぇ一緒に…!イク…イクイクイクイク…わ、わたし、イ…っ!!!!」
※※※
「んくぅ…!一緒に!えみさ……んんんんんん〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜……!!!!」
※※※

「「んはっっっ!んくぅぅうううぅううううううぅうううううう〜〜〜……!!!!」」

※※※

<Side-A:絵咲(えみ)>
声を押しすため噛みしめていたパジャマの襟をぷっと吐き出す。
そして私は荒い息を吐き、ベッドに突っ伏した。
「は、はは…ははは」
自身のはしたない妄想に対する乾いた笑い。
私と彼女がそんな関係になれる、ですって?
「なれるといいけど、ね…やっぱ無理…よね」
再び大きな息を吐く。今度は、タメ息。

※※※

<Side:B:文香(ふみか)>
「こんなの…のぼせちゃい、ますよ…」
私は自分の痴態に呆れたような論評を下します。なにが「一緒に」、ですって?
妄想もほどほどにすべきでしょう。あの人が、絵咲さんが、私とそんな関係に?
「なれるはず、ありません…ありえません、から…」
湯船にたゆたうお湯にぐったりと身を任せ、私は大きなため息をつきました。


<つづく>

176 :
今日は以上。いまのところ、全8話になりそうです。では、またノシ

177 :
GJ
ファーストネームで呼ぶ時が今から楽しみだ

178 :
はじめて相手をファーストネームで呼ぶ時ってドキドキするよね。
甘酸っぱいなあ・・・

179 :
GJ
ラブラブじゃないかちくしょう…
こんな甘酸っぱい高校生活が送りたかった

180 :
二人の関係が少しだけ進展する第4話、10レス分、投下させていただきますm(_ _)m
しかし10レスも使っておきながら、この程度しかストーリと関係性が進まないなんて…!

181 :
<Side-A:絵咲(えみ)>
彼女と私が、今後どんな関係になれるのか。
ただの同窓生?それとも友達?親友になれる?それとも…それともそれともそれとも。
友達にはなれるかもしれない。でも、その先は。
無理かもしれない。無理だろう。きっと。でも。
それでも、一歩を踏み出さなきゃ、何も始まらないまま終わっちゃう。
彼女をモデルにした絵を描きあげる約束の日まで、残り6日。
時間は、無い。
私は短く切った髪をかきあげ、決意と共に大きく深呼吸をした。
キッと美術室のドアを挑むように睨みつける。
タレ目の私の視線じゃたいした迫力もないけれど。
あのドアをあけて、もうすぐ彼女がやってくる。
今日は、今日こそ…!!彼女の事を…!!
※※※

<Side:B:文香(ふみか)>
今日は2日目。あの人の絵のモデルを務める2日目。
何故、あの人は、絵咲さんは私をモデルに選んだのでしょう?
手入れも碌にしていない伸ばしっぱなしの長い髪。
分厚い眼鏡を掛けて、お世辞にも明るいとは言えない表情。
重くて邪魔な胸は、やせ細った体躯からアンバランスに浮いています。
いったいこんな私のどこに、絵にしたくなるような美を見出したのでしょう?
私には解りません。でも画家であるあの人には何か違ったものが見えているのでしょう。
ですから、私はただあの人のために、あの人の求めるままに、モデルを務めるのです。
それがあの人のためになるなら、きっとあの人の喜びが私の喜びになるのですから。
だって私は…あの人をお慕いしているのですから。私は絵咲さんが、好きなのですから。

たとえ、叶わぬ恋だと、永遠の片想いだとしても。それでも。

美術室のドア。あの人の部屋、あの人のいる部屋への扉。
私は私に出来る精いっぱいの笑顔を作って、そのドアを開けます。

「こんにちは」

182 :
<Side-A:絵咲(えみ)>
ドアが開いた。彼女が入ってきた。柔らかな笑みを浮かべ、そして。
「こんにちは」
さあ、いまだ。言うんだ。今日は、今日こそは。
でもいざとなると声が震える。脚に力が入らない。
頭から血の気が引き、冷や汗が流れる。
頑張れ、私。大きく深呼吸。気合を入れ直して…!

言えっ!!

「あ、あり、ありがとう、ふみ、ちゃん!今日も、来てくれて…!

…言えた!彼女の名前。呼べたんだ!彼女を、ファーストネームで!
安堵のため、全身から力が抜けていくようだった。でも、言えたんだ…!
そして、その、当のふみちゃんの反応は…?
「え…?」
ぽかん。そんな表現がぴったりな、表情だった。
呆気に取られて、彼女は立ちつくす。
その様に私の安堵は吹き飛んで、動揺に襲われる。
「ご…っ!ごごご、ごめん、い、いいい、いきなり名前で、よ、呼んじゃって…!」
「いえ…ごめんなさい、私の方こそ…失礼な反応をしてしまって…!」
彼女は私の謝罪に謝罪で返す。そして。
「でも、その、あの、えっと、あの…!」
見る見るうちに、彼女の顔が朱に染まって行く。
どんどんどんどん赤くなって、頭のてっぺんから湯気が出そう。
ど、どうしたの?もしかして、怒ってる?
もしそうなら…どうしよう!?

※※※

183 :
<Side:B:文香(ふみか)>
そう言えば昨日まで、あの人は、絵咲さんは私を名前で呼んでくれてはいませんでした。
「えみ、さん…!」
あの人をそう呼ぶと、心が躍り出します。
「ふ、ふみちゃん」
あの人にそう呼ばれると、身体がふわふわします。
ファーストネーム、自分自身を現す端的な記号に過ぎない、でも自分自身である呼び名。
単純かもしれません。でも、あの人との距離がぎゅっと近くなったように思えました。
昨日はあんなに遠く感じたのに。あの人の…絵咲さんのお陰です。
私は火照る頬を出来るだけ意識せず、平静を装ってこう言います。
「ありがとうございます、絵咲さん」
それは私の、素直な気持ちでした。

※※※

<Side-A:絵咲(えみ)>
「ど、どうして、お礼、なんて!お、お礼を言うのは私の、方で…!」
今日も彼女は来てくれた。私のモデルになるために。だからお礼を言うのは私の方。
彼女を名前で…ふみちゃんと呼ぶことを許してくれた。だから、お礼を言うのは私の方。
なのに…ううん、もしかして、彼女も?
『ありがとうございます、絵咲さん』
彼女も、私を名前で呼んでくれていた。とても…嬉しそうに。
彼女も、私を…私の事を…?私と同じ想いでいてくれている?
「あ、あの、ふ…ふみちゃ…そ、その…!」
貴方も同じ想いだったの?そう想ってもいいの?
「お礼を…言いたいなって思ったのは…その…」
真っ赤な表情のまま、彼女は言葉を紡ぐ。
「名前で呼び合うと距離が近く感じられて…!その!お友達…っぽい、なって…!」
「とも、だち…?
「そう!そうですよ!私たち…お友達、ですよね?お友達に…なってくれます、よ、ね…?」
「とも、だち…」
「え、えみさん、あの…?」
友達。そう、私たちは…友達だ。女の子同士、仲良しの。
うん。それ以上の関係?贅沢言うんじゃない、よね。まったく。

※※※

184 :
<Side:B:文香(ふみか)>
「も、もちろん!と、友達だよ!ふ、ふみちゃん、モデルになってくれてありがと!」
お友達じゃいやです。お友達以上になりたいです。私は、絵咲さんが好き…!
「お友達のためですもの!それくらい、当然です!」
バカ!私のバカ!バカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカ!!
私は自分を罵倒し続けていました。解っています。友達以上だなんて無理な事くらい。
でも、それでも、お礼を言いたかった気持ちを、その本当の理由を説明していたら…

絵咲さんが好きです。だから、名前で呼びあえるのが嬉しいんです。

もし、そう言っていたら…何かが変わっていたかもしれません。
いえ、今のこの状況を終わらせる事になった確率が高いのは解っています。
だから…私は、それが怖かったのでしょう。バカな私、弱虫な私。

でも。

私と絵咲さんは、これで正式にお友達になれたのです。
それは少なくとも、窓越しの逢瀬の頃に比べれば大きな前進。
他の人には小さな一歩かもしれません。
でも、私にとっては、それはそれは大きな一歩です。
あの人を、名前で呼べる。あの人に、名前で呼んでもらえる。
そして、いっぱいお話をしてもいいんです。
だって、私とあの人は、お友達なのですから。
頬が緩むのを止められません。
落ち込んだり、舞いあがったり。
我ながら忙しい子だと思います。

※※※

185 :
<Side-A:絵咲(えみ)>
折しも、学校はテスト期間。1、2年生は部活には来ない。
もともと美術部の部員は少ないし、3年で部活に来るのはもう私…“美術室のぬし”だけ。
だから、今日も、美術室には私と彼女の二人きり。
私たちだけの空間に、私たちだけの時間が流れる。
友達になった私と彼女…ふみちゃんはその日、色々な話をした。
「すごい!絵咲さん、美大に行くんですか?」
「す、すごくなんかないよ。わ、私、絵くらいしかやりたい事、なくて」
「すごいですよ!明確な夢があるなんて。私には何もないから…」
「ほ、本は?好きなんじゃないの?だったら…」
「ええ、ですから…大学で司書の資格を取ろうと思ってるんです」
「し、司書?む、むむむ、難しいんじゃないの、司書資格とるのって」
「うふふ、画家になるよりは簡単じゃないでしょうか?」
「い、いや、で、でも私、他にしたい事も出来る事もないし、だ、だから…」
卒業後の進路の事、夢、好きなモノ苦手なモノ…
「な、ななな、納豆だけはダメ!」
「え〜どうしてですか?おいしいですよ」
「ふ、ふみちゃん、平気なの?あの匂い!」
「いい匂いじゃないですか。じゃあ絵咲さん、何が好きなんですか?」
「く、果物、とか。りんご、バナナ…」
「わぁ、ぜんぶ静物画のモチーフですね。さすがです」
「い、いや、そういう訳じゃ…」
他愛もない話、取るに足らない雑談。でも少しずつ、お互いを知っていく。そして。
もっともっと、彼女が好きになっていく。
でも、判明した事実のひとつが、すこし重かった。
卒業後、私たちは別々の道を行く事になる。
恐らくそうなるのだろうと思ってはいたけれど。

※※※

<Side:B:文香(ふみか)>
好きなモノや苦手なモノが違っても、それが溝になる訳ではありません。
違う部分があるから、自分とは違う見方をする人だから。だから…
自分とは違う人だから、好ましく感じられるのだと、そう思えました。
絵咲さんの考え方、感じ方。好みや趣味が一致する部分、しない部分…
窓越しに離れていた時からイメージしていた通りだった部分、違っていた部分…
そのどれもが私には好ましく、お話をすればするほど、あの人を近くに感じられたのです。
どんどん、好きになっていきます。
なのに。
もうすぐ、お別れなのです。私たちは卒業後、別の道を歩むのですから。
それが少し…いいえ、とても悲しく切なく、私の胸をえぐるのです。

※※※

186 :
<Side-A:絵咲(えみ)>
楽しいおしゃべりに夢中で、この日はあっという間に時間が過ぎた。
絵の方もあまり進まなかったけれど、それはそれで構わない、だろう。
彼女にモデルになってほしかった事も私の本当の気持ちではあるけれど、
ふみちゃんに声を掛ける口実に過ぎなかった…とも言えるのだから。
「ごめんなさい、いっぱいお喋りしてしまいましたから…」
「う、ううん、いいの。わ、私も、た、たた、楽しかったから」
「はい…私も…とても楽しかったです。ありがとうございました」
「だ、だから!お、お礼なんて止めてってば!」
「うふふ。はい、そうですね」
ふみちゃんは朗らかな笑みを浮かべ、しかし次の瞬間、その表情に影がよぎった。
「楽しい時間は…あっという間に過ぎてしまうものですね」
「う、うん…でも、もう下校しなきゃ…」
「そう、ですね…」
けれど私も彼女も、そこを動き出す事は出来なかった。

※※※

<Side:B:文香(ふみか)>
いえ、動きたくなかったのです。この楽しかった時間を、終わらせたくなかったのです。
絵咲さんも同じ想いでいてくださるでしょうか。ならば、もう少し、もう少しだけ…
「絵咲さん!あの…」
「な、なに?」
「見せてもらえませんか?」
「え?」
「その絵…私がどんな風に描かれているのか」
私に絵の良し悪しなんて解りません。おまけに絵咲さんの絵は、まだ途中です。
絵咲さんが描いてくださる絵に何か意見を言うつもりも、言えるだけの素養もありません。
ですから、単純に…これは時間稼ぎです。
この幸せな時間を、もう少しだけ…

※※※
<Side-A:絵咲(えみ)>
この幸せな時間を、終わらせたくない。もう少し、もう少しだけ…
私はそう考えた。普通なら描きかけの絵を人に見せることはあまりないけれど。
もう少し。もう少しだけ、傍にいたい。このまま話をしたい。
それに彼女には、この絵を見る資格がある。モデルの彼女には。
「い、いいよ…どうぞ」
「ありがとうございます!では、失礼して…」

※※※

187 :
<Side:B:文香(ふみか)>
モデルとして座っていた椅子から立ちあがって、私は硬直しました。
描きかけの絵を見るためにはキャンバスの向こうに行く必要があります。
キャンバスのすぐ横には、当然、絵咲さんが立っています。
画家とモデルの距離。およそ2メートルの距離を介して私たちは向き合っていました。
キャンバスの絵を見に行くという事は、その距離を越える事になるのです。
それがどういう事かと言うと、つまり絵咲さんのすぐ傍まで行くと言う事なのです!
「ど、どうか、した?」
硬直した私を気遣うように絵咲さんが声を掛けてくれます。
「あ!ず、ずっと座ってたから、脚が痺れた?ご、ごめん気付かなくて…!」
そう言うと絵咲さんはキャンバスをこっちに向けてくれようとしました。
「い、いえ!大丈夫です!そ、そそそ、そちらに行きますから!!!!」
「え、あ、うん…!」
思わず大きな声が出ました。恥ずかしいです。

※※※

<Side-A:絵咲(えみ)>
穏やかなふみちゃんのあんな大きな声を聞いたのは初めて。どうしたんだろう?
彼女は顔を真っ赤にしてゆっくりと歩き始めた。こちらに向かってくる。
「…んぁ!?」
気付いた。私も、遅まきながら気付いたのだ。
彼女が描きかけの絵を見るためにはキャンバスのこちら側に来る必要がある。
もちろん、私はキャンバスのすぐ隣に立っている。
画家とモデルの距離。ほんの2メートル程の距離を介して私たちは向き合っていた。
彼女がキャンバスの絵を見に来るという事は、その距離を越える事になる訳で、
それがどういう事かと言うと、つまりふみちゃんがすぐ傍まで来ると言う事で…!!

※※※

<Side:B:文香(ふみか)>
「…んぁ!?」
と、いう声と共に絵咲さんの顔が一瞬で真っ赤になり、額から冷や汗が流れ出しました。
そして恐らくは、先程椅子から立ちあがった私が浮かべたのと同じ硬直した表情…!
私が歩を進めると、絵咲さんが、真っ赤な絵咲さんがどんどん近付きます。
その距離に比例するようにどんどんどんどん、鼓動が速くなって行きます。

188 :
※※※

<Side-A:絵咲(えみ)>
ふみちゃんが、真っ赤なふみちゃんがどんどん近付いてくる。もうこんなに近く。
ちょっと、待って、やだ。嬉しい。けど、怖い。胸のどきどきが止まらない。
どうしよう、どうしよう、どうしよう!!

※※※

<Side:B:文香(ふみか)>
絵咲さん絵咲さん絵咲さんが…!!どんどんどんどん近付きます。
恥ずかしいけど嬉しくて怖くてドキドキでも脚は止まらないもっと傍に行きたい…!
そう、もっともっともっともっと傍に…!!

※※※

<Side-A:絵咲(えみ)>
「ふ!ふみちゃ…!!!!」
ついにキャンバスを挟んで私たちは対峙した。
その距離、わずか50cm(キャンバスが12号だったから)
お互い真っ赤な顔のまま、思わず見つめ合う。
間近で見るとホントにきめ細やかな肌で眼鏡の奥のうるうるした瞳も良く見えるし、
身体の動きにつれてなびく長い黒髪はホントに綺麗で、む、むね…!やっぱり大きくて…!
そ、それに!ちょっと待ってよ、なんでそんなに赤いの、何が恥ずかしいの?私の…
私のすぐ傍まで来たから?だから、なの?私と同じ…なの?ふみちゃん…!

※※※

<Side:B:文香(ふみか)>
「えみ、さん…!!!」
うわ、うわ、うわ、近いです!近すぎます!絵咲さんがこんなに近く…!
大きな瞳、ぷるんとした唇、真っ赤なお顔…すごくすごく可愛らしい…!
でもどうして絵咲さんまでそんなに真っ赤なんですか?どうして?
私と…私とこんなに近くで向きあっているから?だから、なんですか?
私と同じように感じてくださっているんですか?絵咲さん…!

※※※

189 :
<Side-A:絵咲(えみ)>
もし、もし彼女が。私と同じ想いを抱いてくれているなら。
そうよね?だって、いま私たち、鏡に映ったみたいに同じ表情浮かべてる。
私はふみちゃんが、ふみちゃんの事が好き。
そしてふみちゃんも、きっと…!きっときっときっと…!!
「ふ、ふみちゃ…!」
「…これが、私、ですか?」
その時響いた彼女の怪訝そうな声に、一気に心が冷えて行く。
※※※

<Side:B:文香(ふみか)>
絵咲さんが、もし、もしも私と同じ想いを抱いてくださっているのなら…
そんな事、ありえるのでしょうか?まさか!そんな奇蹟、ありえるとは思えません。
でも、いま私たちは、まるで双子のように同じ表情を浮かべていることでしょう。
私は絵咲さんが、絵咲さんの事が好きです。そして絵咲さんも…?
絵咲さんが私にモデルになってほしいと言ったのは、私の事が…好きだったから?
この絵は絵咲さんの私への想い…?
私は視線をキャンバスに向けました。そして。
「…これが、私、ですか?」
思わず、そう声に出してしまったのです。

※※※

<Side-A:絵咲(えみ)>
どうしよう。気に入らなかったんだ。
私の描いた絵は、まだデッサン段階とは言え、うまくいっていた。
彼女の魅力を余すところなく表現できてる、そのつもりだった。
でも、彼女は…
「私…こんなに綺麗じゃありません…」
「…え?」
先程よりさらに赤みを増した表情で、ふみちゃんはそうぼそりと言った。
「え、絵が、気に入らないんじゃ、なくて?」
「す!すごく綺麗です!ステキです!でも!これ、私じゃありませんよ!」
彼女はぶるぶると顔を横に振り続ける。
「私こんなに綺麗じゃありません!いえ、絵は素敵です綺麗ですすごいです!でも!」

※※※

190 :
<Side:B:文香(ふみか)>
は、はずかしいです!すごくすごくはずかしいです!
絵はとても素敵でした。たおやかで清楚で繊細な、美しい女性の絵でした。
その女性は私と同じ髪型で私と同じ眼鏡を掛けて、私と同じ制服を着ています。
でも!この絵のモデルが私、だなんて!
「そんな事、とても…とてもおこがましくて…!」
そして、私が絵咲さんの方を見ると。
「えみ、さん…?」
何かを堪えるような表情、そして。なんと言うことでしょう。
「あは…!あはははは!あーっはっはは!」
絵咲さんは大きな声で笑いだしたのです。
「ひどいですよ!どうして笑うんですか!私は…!」
「だって!だって!これがふみちゃんなんだもん!私は!私にとってのふみちゃんは!」
「…え?」
絵咲さんは涙さえ浮かべて笑っています。
「ご、ごめんね、笑って。で、でも、なんだかおかしくって!」
「えみ、さん…あの…」
「これがふみちゃんなの。自分でも良く描けてると思う。
 私にはふみちゃんがこんな風に見えるの。ふみちゃんはすごく素敵なの。
 私は私が見たまんまに描いてるの。きっと誰もが納得してくれる。
 だってふみちゃんはとてもとてもとても、とっても綺麗なんだもん!!」

※※※

<Side-A:絵咲(えみ)>
真っ赤になって動揺するふみちゃん、その様がなんだかとても可愛くて、愛しくて。
必で自分はこんなに綺麗じゃないなんて否定するのが、可愛くて可愛くて可愛くて。
自分でも信じられない。こんなに立て板に水って感じで言葉が溢れるなんて。
でもふみちゃんの恥ずかしがる姿を見ていたら、溜まらず言葉が口をついて出たのだ。
ふみちゃんはすごく魅力的なんだって事、彼女自身にも解ってほしかった。
そして私は、そんな素敵なふみちゃんが…ふみちゃんだから…
好きになったんだって事を、解って…ほし…
その。
うん。
いつか、伝えられるといいな。

<つづく>

191 :
甘酸っぺえなチクショウ!

192 :
も、もどかしい…だがそれがいい
二人だけの閉鎖的な感じがいいね

193 :
なかなか関係が進展しないので私ももどかしいですw
第5話、6レス分、投下させていただきますm(_ _)m

194 :
<Side:B:文香(ふみか)>
絵咲さんの言葉が、蘇ります。何度も何度も何度も。
『私にはふみちゃんがこんな風に見えるの。ふみちゃんはすごく素敵なの。
 私は私が見たまんまに描いてるの。きっと誰もが納得してくれる。
 だってふみちゃんはとてもとてもとても、とっても綺麗なんだもん!!』
私が、素敵?私が綺麗?
解りません。信じられません。でもひとつ確かな事は。
絵咲さんは私の事を素敵だと、綺麗だと思ってくださっていると言う事…
「いやぁぁ!!」
恥ずかしい。すごくすごくすごく恥ずかしくて、顔から火が出そうです。
私は思わず、枕に顔を埋めます。ぼふっ!!と間の抜けた音が部屋に響きます。
絵咲さんに素敵と言われました。綺麗と言われました。
すごくすごくすごくすごく恥ずかしいのですが…ですが!
それ以上にとてもとてもとてもとてもとても…とても!嬉しいんです。
思わず頬が緩みます。ニヤニヤ笑いが浮かんでしまいます。
そして次の瞬間、また恥ずかしさがぶり返してしまい…
「ひああああああああ!!」
私はぶんぶんと首を振ります。恥ずかしさよ、飛んでけー!って気分なのです。
そうして私は一晩中、嬉しさと恥ずかしさを行きつ戻りつ…
ほとんど一睡も出来ないまま朝を迎えてしまったのです。

※※※

<Side-A:絵咲(えみ)>
「うわあああああああああああ!!」
言っちゃった!言っちゃったよ!勢い任せに!
私は自室のベッドをごろごろと転がった。反省と後悔が押し寄せる。
「どうしよう、変に思われたかな、やっぱり変だよね…うあああああ」
ふみちゃんの事を素敵だの綺麗だのと言ってしまった後、彼女は頬を染めて言った。
『ありがとうございます…絵咲さんにそんな風に言って頂けるなんて…
 嬉しいです!嬉しいですけど…やっぱりすごく恥ずかしいです!!』
その時のはにかんだ笑顔がとても可愛くて…思い出すと今度は頬が緩むのを感じる。
「で、でも…やっぱりすごく恥ずかしい事言っちゃったような…!!あああああ!!」
私はそんな事を一晩中繰り返して、結局その日はほとんど眠れないまま夜が明けた。

※※※

195 :
<Side:B:文香(ふみか)>
「ふ、ふみちゃん?いま、寝てた?」
「い、いえ!寝てません!寝てませんよ!?」
「む、無理しないで」
放課後、絵咲さんの絵のためのモデルを務めるのもこれで3日目になります。
ずっと椅子に座っている事も、、絵咲さんと一緒の部屋にいるという状況にも、
少しは慣れてきたせいもあるのでしょう。そこに睡眠不足も手伝って、思わずうとうと。
「大丈夫です!あの、その、え…!!」
「え?」
「え、絵咲さんの、ためですから…頑張ります…!」
おそらく途中からもごもごした小さな声になってしまった事でしょう。
絵咲さんには聞こえたでしょうか?聞かれたいような聞かれたくないような…
そんな想いでちらと絵咲さんの方を見上げました。すると…
※※※
<Side-A:絵咲(えみ)>
「えみ、さん?もしかして、いま…?」
「う、ううん!ね、寝てない!寝てないよ!?」
「あの…あまり無理をされては身体に毒ですよ」
寝不足が祟ったか、私もこの体たらく。なんて事だろう、
せっかくふみちゃんがモデルをしてくれてるのに。
せっかくふみちゃんと一緒の時間を過ごせるのに。
「へ、平気平気!む、無理なんてしてないよ。だ、だって…」
「はい?」
「せっかく、ふ、ふふふ、ふみ、ふ、ふみちゃんが…」
激しくどもってしまった上に、ほとんどかすれるような声。
でも伝えたい。届けたい。私の、言葉…私の、想い…
「せっかく、ふ、ふみちゃんが、いてくれるんだから…!」
「ふ、ふわあああああ〜〜〜」
※※※
<Side:B:文香(ふみか)>
は、はずかしいです!すごく大きな欠伸が出てしまいました。
「ごめんなさい!絵咲さん…いま何か仰いました?」
「う、ううん!な、なんでもない!なんでもないよ!」

※※※

196 :
<Side-A:絵咲(えみ)>
これは今日はダメだ。私はそう結論付けた。
そこでかねてから実施に移したいと思っていた計画を、今日こそ実行する事にした。
「ふ、ふみちゃん!お、おおお、お茶、しにいかない?」
ふみちゃんはきょとんとした表情を浮かべ、ついで頬を真っ赤に染めて、
そしてそれから、小さく小さく、コクンと頷いてくれた。
※※※
「絵咲さん、お砂糖は?」
「ひ、ひとつ。あ、ミ、ミルク…はい」
「あ、ありがとうございます」
テーブルには二杯のミルクティーが湯気をあげている。
窓の外に広がるのは、すこーんと抜けた冬の空。
「あの、その…」
「う、うん。えと…」
会話が続かない。
小さな喫茶店の窓際の席。
画家とモデルの距離より近くで、私たちは向かい合って座ってる。
緊張と寝不足により朦朧とした頭のせいだろうか、碌に言葉が紡げない。
伏せた視線をちらとあげると、彼女も…ふみちゃんも、俯いている。
ティースプーンでカップの中の紅茶をぐるぐるぐるぐるかき回してる。
ずっと夢見てた、彼女との…デートじみた状況。なのに。
※※※
<Side:B:文香(ふみか)>
何を話せばいいのでしょう?少し手を伸ばせば触れられそうなこの距離で、何を?
言いたい言葉はあるのです。
絵咲さんは昨日、私を綺麗だと言ってくれました。私も、言いたいんです。
絵咲さんもとても素敵で可愛くって、魅力的ですって、伝えたいんです。
でも口が開きません。言葉が出ません。
緊張に、睡眠不足が拍車をかけて、私の頭の中はこの紅茶みたいにぐるぐるぐるぐる…
………
……

※※※
<Side-A:絵咲(えみ)>
私たちは無言で向き合ったまま、そして。
………
……


197 :
※※※
<Side:B:文香(ふみか)>
「…あら?」
窓から差す光が、いつしか赤みを増していました。
首をめぐらせ、店内の時計を視界に入れます。
いつしか時計の針は、いつもの私たちの下校時間を少し過ぎていました。
私は喫茶店の椅子に腰かけたまま、眠ってしまっていたようです。
その事に気付いた瞬間、顔が熱くなりました。
え、えええ、絵咲さんに寝顔を見られてしまいました!!
は、恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい…!!
と、思ったのですが…
「絵咲、さん…?
そう、絵咲さんも私と同じように眠っていました。
大きなくるりとしたタレ目がちの目は、いまは閉じられています。
ぷるりとした唇は小さく開き、穏やかな寝息をこぼしています。
小首を傾げ、椅子の背に身体を預け、左手をだらりと垂らしています。
右手は、私の姿をキャンバスに描きうつしてくれるあの手は、テーブルの上。
「………」
絵咲さんは眠っています。
「……えみ、さん」
右手はテーブルの上。少し手を伸ばせば、届いてしまう…
「えみ、さん…絵咲さん?」
絵咲さんは、眠っているのです。
「………」
私は自身の右手をそっとあげ、そして…
絵咲さんの右手の指先に、そっと自身の指先を重ねました。
「絵咲さんの寝顔…とても可愛い、です」
ぼそりと呟いた自分の言葉に、思わず赤面してしまいます。
耳が、頬が、そして…胸の奥がとてもとてもとても…とても、熱くなっていました。

※※※

198 :
<Side-A:絵咲(えみ)>
それは夢か現か。そのはざまで、私は優しい声を聞いた。
「絵咲さんの寝顔…とても可愛い、です」
はにかむ笑顔が見える。指先がほんのり暖かい。
そして、胸の奥が熱を持つ。ふみちゃんの声、そのはにかむ笑顔が、私に熱を与える。
「ふみ、ちゃ…?」
朦朧とした意識が、急速に覚醒する。

※※※

<Side:B:文香(ふみか)>
「はい!?な、ななな、なんでしょうか!?」
突然、絵咲さんが眼を開け、声を発しました。
私は動揺して、絵咲さんみたいにどもってしまいます。
聞かれちゃいました?いえ、聞いてほしかったのです。でもやっぱり恥ずかしい…!
「…あ」
絵咲さんの視線が、下を向きます。重ねた指先と指先。それは私の、絵咲さんへの想い。
絵咲さんに近づきたい。絵咲さんに触れていたい。絵咲さんの…傍にいたい。
でも、その想いが絵咲さんに受け入れてもらえるものではないことは、解っています。
だから。
「ごめんなさい…!」
私は自身の手をひっこめようとしました。でも。

※※※

199 :
<Side-A:絵咲(えみ)>
そっと重ねられた指先。ほんのりとした暖かさが私を包み込む。
このままずっと触れあっていたい。傍にいてほしい。もっともっともっと…
「ごめんなさい…!」
だから、その温もりが消えてしまいそうになったその時、私は思わず声に出した。
「だめ…!」
そして、離れて行きかけた指先を掴む。繊細で華奢な指先を。
力を込めたら折れてしまいそうな、たおやかで優しい指先を。
「あ…………」
彼女は、ふみちゃんは一瞬、呆気にとられた表情を浮かべ、そして。
次の瞬間、頭のてっぺんから湯気が出そうなほど真っ赤になった。
夕日に照らされて、それでもなお赤いのが解る程、真っ赤に。
「絵咲さん…」
ふみちゃんは私の名を呼ぶと、私の指先をそっと握り返してくれた。
「…」
「…」
私たちは手を握り合い、お互い夕日よりも真っ赤になって、でもやっぱり無言のまま…

ううん。

もう、言葉はいらなかった。

<つづく>

200 :
今日は以上。残り2話+αの予定です。ではまた。

201 :
次が楽しみすぎて生きるのが辛いんだがどうしてくれる

202 :
>>201 生きてー
そんな訳で第6話、7レス分、投下させていただきますm(_ _)m

203 :
<Side-A:絵咲(えみ)>
胸がはずむ。心が躍る。ふみちゃんの想い、指先を通して伝わってきた気持ち。
重ねられ、握りしめ、握り返された。言葉なんてなくても、きっと伝わった。
私の想い、そして彼女の想い。
私はふみちゃんが好き。そして、きっとふみちゃんも、私の事を…
なんて素敵な奇蹟!
ふみちゃんが…好き。大好きだよ。
※※※
<Side:B:文香(ふみか)>
私は、絵咲さんが好きです。そして、絵咲さんも、私の事を…
そう告げた訳でも、告げられた訳でもありません。でも。
言葉は無くても、触れ合った指先を通して、想いが伝わる事もあるんですね。
私は、その事を初めて信じる事が出来ました。
絵咲さん…好きです。大好きです。
※※※
<Side-A:絵咲(えみ)>
きっとお互い自覚しあった、お互いの想い。
いや、でも。だからこそ。
「ふ、ふふふ、ふみちゃん、少し、首を右に…」
「ははは、はい!こ、こここ、こうです、か?」
いつもの定位置、モデルの位置で、ふみちゃんはぎくしゃくと首をめぐらせる。
「う、うん。オッケー。そ、そのまま、ね」
「ははは、はい!」
カチンコチンだ。全身に緊張が漲ってる。それは彼女だけじゃない。私も、だった。
※※※
<Side:B:文香(ふみか)>
何と言うことでしょう。絵咲さんの顔が見れません。
だって、まさかまさかまさか、絵咲さんが私の事を?
まさかまさかまさかまさか、両想いだった、なんて!?
もちろん言葉で確かめ合った訳じゃありません。でも、きっと間違いありません。
確かめたい気持ちもあります。好きですって言いたいです。でも、私の勘違いだったら?
いえ、そんなはずありません、間違いないはずですけどでもでもでもでも…!!
両想いに違いないという確信からくる嬉しさと、確認への恐怖と逡巡。
交錯する様々な感情が私の身体を拘束し、胸の鼓動を際限なく速めるのです。
※※※

204 :
<Side-A:絵咲(えみ)>
「…あ」
「下校、時間…ですね」
結局、絵だけは順調に描き進んでしまったモノの、
その日はほとんど会話らしい会話もないまま、時間を迎えた。
※※※
「じゃ、じゃあ…また明日」
「はい…また明日、ですね」
校門で私たちは踵を返す。彼女は右へ、私は左へ。後ろ髪を引かれる思いで。
どうしよう、このまま…終わるの?
せっかくお互いの気持ちに気付けた…そのはずなのに。
いざとなると勇気が出ない。言葉に出来ない。
好きなのに。大好きなのに。それはきっとお互い同じ想いのはずなのに。

※※※

でも、翌日も。その翌日も。
私も彼女も、ろくに会話を紡ぐことの出来ないまま、あっという間に時間は過ぎて。
いよいよ約束の一週間、最後の日を迎える。

※※※

今日は土曜日。あの日から一週間。
テスト期間である事も手伝って、美術室…どころか、校内にはほとんど人はいない。
人気の無い校内を、私は重い脚を引きずるように歩を進める。
どうしよう。今日も、何も言えないまま?さらに足取りが重くなる。
彼女に早く逢いたい。でも逢ってどうするの?何か言えるの?
好きだよって、ホントに言えるの?そんなの恥ずかしい。言えるわけない。
もし、拒絶されたら?私の勘違いだったら?そんなの立ち直れない。言えるわけない。
「どうしよう…どうしたらいいの…」
呟いてみたところで解決策などあるわけもない。
必要なのは、ほんの少しの勇気。ただそれだけなのに。

でもそれは、私には決定的に欠けているものなのだ。

※※※

205 :
<Side:B:文香(ふみか)>
「どうしましょう…どうすればいいんでしょう」
私は誰にともなく呟きました。答えは帰ってきません。
いいえ、答えは解っています。ただ、勇気を出せばいいだけ。
勇気を出して、一言。好きです、絵咲さん。
ただそれだけの事が、こんなにも難しいだなんて。
窓越しの逢瀬で、通いなれた美術室で、小さな喫茶店で、
私たちは想いを深めあい、確かめ合ったはずなのです。
怖がることなんてありません、そのはずなんです。なのに。
※※※
目の前に美術室のドアがあります。廊下には人気がありません。
さらに…美術室にも、人の気配は感じられませんでした。
「…?」
私は恐る恐るドアを開けました。
「絵咲さん…?」
絵咲さんはまだ来ていないようでした。
私はよほど緊張していたのでしょう、思わず大きなため息をつきました。
そして、美術室に入り、後ろ手にドアを閉めました。
「ここに来るのも、今日が最後…なのでしょうか…」
絵咲さんとの時間、二人だけの、私たちだけの時間は…もう終わってしまう?
いいえ、私にほんの少しの勇気があれば、そんな事態は回避できるかもしれません。
でも、やっぱり怖い。
もし私の勘違いだったら?絵咲さんに拒絶されたら?もう、立ち直れません。
私は美術室をぐるりと見渡しました。この部屋には絵咲さんが一杯です。
キャンバスに向かうあの人の真剣なまなざしが私は大好きなのです。
あの人の視線と情熱を注がれた絵画のいくつかが、この部屋にはあります。
私は、そっと室内を巡り始めました。
壁に掛けられた、あの人の分身たちを見るために。
※※※
キャンバスの隅っこに小さく、控え目に記された「Emi」のサイン。
私はそっと、油絵の具で描かれた、起伏に富んだそのサインに指先を沿わせます。
すると、まるで絵咲さんに触れているような気分になって頬が熱くなります。
ひとつは、山の風景でした。新緑を湛えた木々の萌えるような緑。
ひとつは、夕焼けの風景でした。真っ赤な太陽とシルエットになった街のコントラスト。
ひとつは、どこか遠い外国の…ヨーロッパでしょうか?石造りの町並みでした。
私はふと不思議に思いました。
「風景画だけ…なんでしょうか?」

206 :
絵咲さんはもともと風景画をメインにお描きになっているんでしょうか?
ではなぜ、私をモデルにしようと…人物画を描こうと思ったんでしょう?
「私が…好き、だから?」
その想像はとても幸せな気持ちを私に抱かせてくれます。
でもそれはともかく、絵咲さんはきっと人物画も描いているはずです。
私なんかがモデルであるにも関わらず、あんな素敵な絵が描けるんですもの。
「どんな人を描いていたんでしょう?」
誰か他の人をモデルに?
「…」
その想像は、私の心に暗い炎を灯します。嫉妬の炎…でしょうか。
私は、美術室の隅に重ねられたキャンバスたちに向かいます。
壁に掛けられていない、あのキャンバスの中に、あの人の人物画があるかも知れません。
※※※
腰をかがめて、重ねられたキャンバスを確認していきます。
捜すのは、小さく控え目な「Emi」のサイン…
「あ…」
ありました。
重なり合うキャンバスの中に、少しはみ出したキャンバスの一部に、
ちらと覗く肌色の曲線の脇に、あのサインが。
肌色で描かれていると言う事は…きっと人物画です。
私はそっと手を伸ばし、あの人の作品を、あの人の人物画を取り出しました。
そこに描かれていたのは…
「わた、し…?」
それは絵咲さんが私をモデルにして描きかけている人物画とそっくりでした。
数倍美化されていいるので、とてもそれが私だとは思えないのですが…でも。
それは確かに私で…しかも、はだか、でした。裸婦像…と言うのでしょうか。
「そんな…こ、こんな、は、はずかし…!!」
顔が熱くなります。私は絵咲さんに、は、ははは、はだかを見せた事はありません。
と言う事は、絵咲さんは当然、これを想像で描いたのでしょう。
私の裸を…生まれたままの姿を、絵咲さんが想像していた…?
その事実は、私を動揺させます。
私は、その事がイヤだったのでしょうか?確かに驚き、動揺してはいました。
でも、決してイヤな訳ではありませんでした。すごく恥ずかしいとは思いましたが。
「絵咲さんが…私の…絵咲さん…私も…」
そうです。私も。私自身も。
絵咲さんと、生まれたままの姿で愛しあう場面を想像していたじゃありませんか。

207 :
「絵咲さんも…私と…同じ、事を?」
私のあられもない姿を想像し…私と愛し合う場面を想像し…
そしてそして…!自慰に耽ったり…したのでしょうか?もし、もしそうならば…!!
「絵咲さん…と…愛し、あう…愛しあえる…?」
胸の奥からふつふつと、熱い熱い熱いマグマのような熱が沸き起こります。
「絵咲さん…!わ、私…私は…!」
その時、でした。

※※※

<Side-A:絵咲(えみ)>
結局、勇気を奮い起せないまま、美術室に辿りついてしまった。
大きくため息をついて、ドアを開ける。すると。
「え、絵咲さん!遅かった、ですね」
彼女が、ふみちゃんが先にきていた。
「あ、ご、ごめん…」
「いえ、大丈夫です!き、気にしないでください」
ふみちゃんの様子がおかしかった。
頬は上気して、眼鏡の奥の瞳がうるうると揺れている。なんだか…すごく色っぽい。
彼女は美術室の隅…無造作に重ねられたキャンバスの前に立って、こちらを見ている。
あそこには部員たちの習作や途中で放棄された絵が置いてあるのだが…
「!?あ、あの、ふみ、ちゃん!?」
あの中には…私が想像を膨らませて描いた、彼女の…
ふみちゃんの裸婦像が、潜ませてあるのだ…!!
「ど、どうしました?さぁ、はじめましょう?きょ、今日で完成させるんですよね?」
ふみちゃん、もしかして…あれを…見た?

※※※

<Side:B:文香(ふみか)>
間一髪、でした。
立てつけの悪い美術室のドアが開く、その最初の引っかかり。その音を聞いた瞬間。
私は手にしていた私の裸婦像が描かれたキャンバスを元の位置に戻しました。
振り返ったまさにその瞬間、絵咲さんが顔を伏せたまま、美術室に入ってきました。
絵咲さんが顔を上げたまま入ってきていたら、私の妙な挙動を見逃さなかったでしょう。
本当に間一髪、でした。

※※※

208 :
<Side-A:絵咲(えみ)>
見られた。見られちゃったんだ。私の、恥ずかしい妄想。
彼女の裸を勝手に想像して描いた、あの絵を。
軽蔑されちゃう。嫌われちゃう。引かれちゃう。
どうしようどうしようどうしようどうしよう………!!
言い訳、言い訳しなきゃ。なんて言い訳?
出来ない、そんなの。言い逃れの余地なんて、無い。ある訳ない。
どうしようどうしようどうしようどうしよう………!!
私は何も出来ず、何も言えず、ただその場に立ちつくす事しか出来なくて。
どうしようどうしようどうしようどうしよう………!!

※※※

<Side:B:文香(ふみか)>
絵咲さんの様子がおかしい事に、私は気付きました。
青ざめた表情で立ちすくみ、わなわなと震えています。
体調でも悪いのでしょうか?
「えみ、さん…?」
私は、絵咲さんの傍に行こうと、脚を踏みだしました。
すると、絵咲さんの身体がびくっと大きく震え、そして…!
「絵咲さん!?ど、どうしたんですか!?」
その見開かれた大きな目から、ぼろぼろと大粒の涙がこぼれ出したのです。
「絵咲さん!!」
私は思わず、絵咲さんに駆け寄ろうとしました。でも。
「い、いやぁぁぁああ!こ、来ないで!!」
それは拒絶の言葉。聞きたくなかった、拒絶の言葉。

※※※

209 :
<Side-A:絵咲(えみ)>
嫌われちゃう。あんなの…私の汚らわしい妄想を知られたら、絶対。
そう思ったら、怖かった。何もかもが、怖くて怖くて、仕方なかった。
「絵咲さん!?ど、どうしたんですか!?」
いつしか、私は滂沱の涙を流していた。
「絵咲さん!!」
彼女が、ふみちゃんが、こっちに来る。駆け寄ろうとしている。
私は、思わず叫んでいた。
「い、いやぁぁぁああ!こ、来ないで!!」
びくん!と震えて、ふみちゃんの身体が硬直する。驚愕、そして悲嘆の表情。
でも、彼女のそんな様子を斟酌する余裕なんて、その時の私には無かった。
怖い。彼女の言葉を聞くのが怖い。
彼女はあの絵を見て、でもその事を隠そうとした。
私の恥ずかしい秘密を見て見ないふりをしようとした。
そして…
そして、何も言わずモデルだけ務めて、私の前から消えるつもりに違いない。
今日は約束の最終日。これ以上、あんないやらしい想像をする私に付き合う義理は無い。
彼女に、ふみちゃんに嫌われた。私の前から、彼女がいなくなる。
そんな現実に、耐えられるとは思えない。だから。
「えみさん!えみさんえみさんえみさん!?」
彼女の声が私の背中を追い掛ける。でも振り返る事なんて出来なくて。
そう、私は逃げ出した。
この現実から、逃避したのだ。
夢のような一週間。彼女と過ごせた一週間。
それ以前の、想像の世界で彼女と過ごした、あの時に逃げ帰るために。



<つづく>

210 :
もどかしいなチクショウ!

211 :
第7話、最終回。5レス分、投下させていただきますm(_ _)m

212 :
<Side-A:絵咲(えみ)>
私は逃げ出した。でも、他に行く場所なんて無い。
翌日、私は美術室に舞い戻った。日曜日の、誰もいない美術室。
私は部屋の隅に無造作に重ねられたキャンバス群の前に立つ。
一番下の方に、目立たないように置いたはずなのに。
あの絵は一番上に、伏せて置かれていた。
ひっくり返すと、そこには彼女の穏やかな笑みと豊満な裸体。
私が想像の中で描いた、妄想のふみちゃんの、生まれたままの姿。
「やっぱり、見たんだ…」
改めて、その現実を思い知る。こんなの見たら、軽蔑、するよね。
彼女がこの美術室に来ることはもうないだろう。そして…
きっと、あの図書室の指定席にも。
私はふと顔をあげ、窓の外を見やる。彼女のいた、あの場所。
窓越しにずっと見つめ続けた彼女の姿。あの場所に、彼女はもう二度と…
「…え?」
幻を見た、そう思った。

※※※

<Side:B:文香(ふみか)>
やっぱり、あの人は来ました。来て、くれました。
私は二枚の窓を通して、あの人に視線を送ります。
私は図書室のこの場所から、貴方をずっと見ていたんですよ?
そんな想いを込めて、あの人を見つめます。
でも、何故か突然、あの人の姿がぼやけて行きます。
あら?おかしいですね。私、どうして泣いているんでしょう?
解っています。私が、あの人を傷つけた事が悲しかったから、です。
きっとあの絵を…私の裸婦像を描いた事を私に知られたくなかったのでしょう。
私はあの絵から、自分がしていた恥ずかしい行為を連想しました。
もし逆の立場だったら…私、恥ずかしくてんじゃうかもしれません。
一晩中考えました。あの人が、あの場から逃げ出した理由を。
そう、私は…あの人を、大好きな絵咲さんを傷つけていたのです。
ごめんなさい、絵咲さん。でも。でも、それでも、好きです。
絵咲さんが大好きなんです。離れたくない。傍にいたいんです。
もし、もし、貴方が許して下さるなら…

もう一度、私にチャンスをください…!

※※※

213 :
<Side-A:絵咲(えみ)>
彼女が、ふみちゃんがいつもの指定席に座る。
手には分厚いハードカバー。それは見なれた風景。
でも視線は本には向かず、こちらを見据えている。
彼女は、私にもう一度チャンスをくれようとしている。
逃げ出した私を、もう一度、受け入れようとしてくれている。
私は、どうする?どうすべき?解ってる。
私は駆けだした。逃げるためじゃなく、もう一度、立ち向かうために。
※※※
美術室を出て、廊下を走り、図書室へ。そして。
図書室のいつもの指定席に座った彼女の前へ、立つ。
「モ、モデルに…モデルになってくれない、かな…?」

※※※

<Side:B:文香>
「モ、モデルに…モデルになってくれない、かな…?」
あの人が、私の眼の前にいます。
美術室で一緒の時間を過ごしたあの人が、小さな喫茶店で気持ちを確かめ合ったあの人が。
「どうして私を…私なんかをモデルに?」
意地悪な質問でしょうか?でも、あの時、私はそう聞くべきだったのです。
言って。答えて、お願い。貴方が言って下さるなら…私は、私は…!!
「そ、そんなの、決まってるじゃない!」
その後に続くのは、私が聞きたくて、言いたくて、夢見続けた言葉…!
「ふみちゃんが、す、すすす、好きだから!大好きだから!傍にいて欲しいから!」

※※※

<Side-A:絵咲(えみ)>
言った。言えた。言っちゃった。好きって言葉、言えなかった、でも言いたかった言葉。
涙にぬれた彼女の顔、そこに花が開いたような笑みが広がる。満開の、大輪の、花。
「はい…お受けします…モデル、やります。やらせてください」
「ど、どうして…受けてくれたの?こんな、唐突な、お願い…」
ふみちゃんは一旦、眼を閉じて、そしてまなじりに決意を滲ませて、そして。
「ずっと貴方を見ていましたから。ずっと…好きでした。絵咲さんが…大好きだから…!」

※※※

214 :
人気の無い日曜日の図書室。
窓から差す朧で優しい冬の日差し。
向かい合う二つのシルエット。
「えへ…なんだか、て、照れくさい、ね」
「は、はい…恥ずかしい…です。でも…」
「うん。でも…すごく、う、嬉しい…」
「はい。それに…すごく、幸せ、です」
「ふみちゃん…」
「絵咲さん…」
二つのシルエットから同時に手が伸びて、そっと重なった。
「絵咲さん…好きです。ずっと好きでした。これからも…ずっと」
「私も、ふみちゃんをずっと見てた。好き。大好きなの」
「絵咲さん、お顔が…真っ赤ですよ」
「ふ、ふみちゃんこそ」
「うふふ…おんなじ、ですね」
「えへへ…おんなじ、だね」

ふたつのシルエットは、手と手を重ねたまま、その場に立ちつくしていた。
ただ触れ合っているだけで、ただそれだけで幸せなのだと言わんばかりに。

そして…

215 :
再び、美術室。
そこに、椅子に腰かけて微動だにしない長髪の少女の姿があった。
絹のような長い黒髪をまとい、黒縁の眼鏡を掛けた少女。
制服に包まれたすらりとした肢体の胸元は魅惑的に膨らんでいる。
スカートから覗くしなやかな脚のライン、その肌は陶磁器のように滑らかだ。
その少女から2メートル程の距離に、キャンバスに対峙するもう一人の少女。
短く切りそろえた栗色の髪、その前髪は髪留めで頭上にあげられている。
露わになったタレ目がちな大きな眼は、真剣な表情を湛えている。
少し厚めのぽってりとした唇は、キッと結ばれている。
モデルと画家。客観的に見れば二人の関係はそういう事になる。
だが二人の関係は、ただそれだけのものでは、もはや無かった。
※※※
「その絵…今日で完成、するんですか?」
「う、うん…そう、だね。このまま…下校時間まで描けば…」
「そうですか…う〜ん、なんだか残念な気がしちゃいますね」
「ど、どうして?」
「この夢みたいな時間が終わっちゃうのが…残念なんです」
「お、終わらないよ。また、モデルになってもらうんだから」
「絵咲さん…?」
キャンバスに向かう少女がごくりと唾を飲み込む。
「ふ、ふみちゃんには、ずっと、ずっと私の専属モデルをしてもらうんだから」
「はい…!ずっとずっと…絵咲さんのモデルをつとめます。いえ、やらせてください!」
二人とも、真っ赤に頬を染めている。
そして、その会話の後、二人は無言のまま。
静寂の中、ただ時間だけが過ぎて行った。
※※※
そして。夕日差す美術室に立つ、二人のシルエット。
「完成、したんですね」
キャンバスには制服をまとった、長い黒髪の天使のような少女が描かれている。
「うん。あとは…サインを入れて」
ショートカットの少女はキャンバスにEmi、続けて & の文字を描き入れた。
「絵咲さん?」
「こ、これは二人で…ふみちゃんと二人で描きあげた絵、だから…!」
「絵咲さん…」
長髪の少女は、ショートカットの少女からおずおずと絵筆を受け取る。
そして、&の文字に続けて、Fumikaと描きいれた。
「こ、これで、ホントに完成…!」
「はい…私たちの…絵です」
そして二人は、お互いの指先をそっと絡めた。
差しこむ夕日の赤よりも、もっともっともっと赤く頬を染めて。

216 :
<Side-A:絵咲(えみ)>
絡めあった指先から、彼女の熱が伝わる。私への想い。熱い想い。
その熱のせいで、私の身体も熱くなっていく。微動だに出来ず、私は立ちつくす。
「あ…下校時間」
夢の時間の終わりを告げる無粋なチャイムが鳴り響く。
忌々しいその音を聞き、私はぽつりとつぶやいた。
「帰りたく、ないな…」
「はい」
ふみちゃんが私の小さな呟きを聞き逃さず、かぶせるように応じた。
「ふみちゃん?」
「帰りたく、ありません」
耳まで真っ赤に染めて、絡めた指先に少しだけ力を込めて、俯いたまま彼女が呟く。
そうだ。
いま私たちの、想いは、ひとつだった。

※※※

<Side:B:文香(ふみか)>
ずっと一緒にいたい。離れたくない。そう思いました。
だって、お互いの気持ちを確かめ合ったばかりなんですもの。
もっと、好きって言ってほしいんです。もっと好きって言いたいんです。
「絵咲さんが…好き、です。ずっと傍にいたいです」
その言葉は、とても自然に素直に零れおちました。
小さく、消え入りそうな声だった事でしょうけれど。
でも絵咲さんは、ちゃんと答えてくれました。
「うん…ふ、ふみちゃんが、好き。ず、ずっと一緒にいたい」
真っ赤な顔で、つっかえながら、でもはっきりと、絵咲さんもそう言ってくれました。
そうです。
いま私たちの想いはひとつでした。
※※※

絡めあった指先が、お互いを引き寄せ合う。二つのシルエットが少し近づく。
おずおずと遠慮がちに、でも着実に二人の唇が近づき、そして、そっ…と重なった。

<おしまい>

217 :
これで本編?は、おしまい…ですが、もう一話だけ。
改めて後日談を投下させていただく予定です。

218 :
GJ!
ニヤニヤしながら読ませてもらったよ。

219 :
次は体育会系女子を

220 :
関西弁の娘っていいよね

221 :
関西弁はこんちゃんとゆっきぃ、体育会計はアンビバレンツな彼女という作品があったな

222 :
アンビバレンツも一方は関西弁

223 :
ゆっきぃって関西弁だったのか?
関西人だけど、どこの方言だろうと思いながら読んでた

224 :
本番の人じゃないと方言難しいからなぁ

それか関西弁でも兵庫風とか種類あるし

225 :
関西弁って難しいよね
でもいいよね関西弁の女の子
クラスメイトの内気な女の子の手を引っ張ってお好み焼き屋さんとかに連れてってほしいね

226 :
失恋して珍しく元気のなくなったとこをその娘がいただくとか

227 :
体育会系の男勝りな感じのコがふと見せる恥じらいとか萌えます。
絵咲と文香の後日談10レス分、いかせていただきます。

228 :
卒業して、1年が過ぎた。
私たちは各々、違う道を歩んでいます。
けど、その、なんだ、付き合ってる、よね。
はい。恋人同士…です。
そう。ふ、ふみちゃんは、私の…愛しい人。
絵咲さんは…私の大切な、大切な人なんです。
最低でも、週に一度は必ず逢ってる。
電話で毎日お話もしてます。でもホントは。
ホ、ホントは、ずっと、一緒にいたい。
ずっと、傍にいたいんです。
キ、キスして、触れ合って、いいい、一緒に、眠りたい。
それから、その、私…もっと…絵咲さんと…あ、あい、あ…!
ふみ、ちゃ…!!わ、私も!あ、あい、あいあいあい…!



貴方と、もっと、愛しあいたい…!!

229 :
<Side-A:絵咲(えみ)>
あれから一年が過ぎた。私と彼女は、一年ぶりにあの美術室にいる。
「懐かしい、ですね」
「う、うん。こ、ここで…」
「…はい、私たちは」
「は、初めての、キスを、した」
指先を絡め会い、そっと引き寄せ、優しい口づけを交わす。
「絵咲さん…」
「ふ、ふみ、ちゃん…」
こういうキスは何度もした。お互い、真っ赤になりながら。
でも、もうこんなんじゃ満足できない。我慢出来ない。

私は、貴方をもっと愛したい。

でも、そうする勇気がなかなか出なくて。
今日は、二人の記念日。そしてここは、二人の思い出の場所。
だから、きっと今日なら、ここでなら、あの日のような勇気が出せる。
この機を逃したら、きっとまた勇気が出せないから。

私は、貴方と、もっと愛し合いたい。

「ふ、ふふふ、ふみ、ちゃん!」
「はい?」
「も、ももも、もっと、しよ?して、いい?」
「えみ、さん…!」
返事を待たず、私は彼女を抱きよせた。
「ん…!んんっ…んふぅあ…!え、絵咲、さ…んん!」
ふみちゃんと再び唇を重ねる。今度は、舌まで絡めあう濃厚なキス。
「はふぅ…!や…は、恥ずかしい、です…!こんな、え、えみさ…んん…っ!」
だって。ふみちゃんがすごく可愛くて綺麗で愛しくて…!
「ご、ごめん…!ごめんね、で、でも…!」
「やっ…!あ、あやまらないで、くだ…さい…わ、私、だって…!」
これ以上赤くなれるのかと思われたふみちゃんの顔がさらに赤みを増す。
「わ、わたしだって…!う、ううう、うれ、うれしく、て!」
「ふみちゃん…!」
「は、恥ずかしいです!すごく恥ずかしいけど!でも!」
「ふみ、ちゃん…」
「絵咲さんとの…キス、嬉しくて…幸せ、なんです…!」
大好きな彼女が、私のキスで幸せになってくれてる。
もっと、したい。もっと、続きを。もっともっと…!
「んく…っ!あああ、ええええ、絵咲さん!?」

230 :
私はキスの雨を降らせながら、ふみちゃんの豊満な胸にそっと手を重ねた。
「うぁぁああ!は、はず、はずはずはず、はずかしい、です!!ふわわわわ!?」
「ご、ごめん!ごめんごめんごめん…!で、でもでもでもでも…!」
「だ、だから!あ、謝らないでくださいってば!わ、私も…………っ!」
恥ずかしさのあまり?目尻に涙をためたまま、ふみちゃんは唇をかみしめた。
その先の言葉はどうしても言えないらしい。その様子がとてもいじましく可愛くて。
「ふ、ふみちゃん…ふみちゃんも、したい?し、して、欲しい?」
「うわああああああ!な、ななな、何を言うんですか!い、言えません、そんな事!」
「う、うん…だ、だよね。ご、ごめん…!!」
「だから!謝らないでくださいいいいいい!!」
私はもう余計な言葉を発する事は無かった。そんな余裕も、無かった。
「ん、くぅ…んは…っ!あぅぅう…!」
ボタンを外し、窮屈そうな制服をはだけさせると、それが現れた。
白いブラに包まれた豊満な、ふみちゃんの…おっぱい。
「ふみ、ちゃん…ふみちゃんふみちゃんふみちゃん…!」
「は、はずか…し…です………!!」
ふみちゃんのブラはフロントフック。なんという僥倖。
指先を引っかけて、パチンとはじけば、大きな双丘がまろび出た。
「ひぁっ…!?」
この一年間…ううん、もっと前から夢見続けた、ふみちゃんの…胸。
豊かな乳房、ツンと尖ったピンク色の乳首、ほのかな乳輪。
その全てが、とても愛らしく、ふみちゃんらしくって、とても愛おしい。
私はふみちゃんに向き合って立ったまま、そっと彼女の乳房に指を沿わせた。
「あぅ…っ!ん…!!」
たまらず漏れる喘ぎを抑えようと言うのか、ふみちゃんは手で自分の口元を押さえた。
「ふみちゃん…!ふみちゃんふみちゃんふみちゃん…!」
歌うように愛しい彼女の名を呼び続けながら、胸を愛撫する。
「んん!んーーーーー!んっ!んふぅ…っ!!」
乳房全体を揉みあげ、乳首の周りをそっと撫でさする。
「んっく…!んくぅ…!ん!ん!んん…っ!」
人差し指の腹の部分で、そっと乳首の尖端に触れる。
続いて軽く摘んで、はじいて、転がして。
「んん!ん!ん!んんーーーーーー…っ!!んっ!!」
必で声を抑えるふみちゃん。その様が愛おしい。でも。
私が腰をかがめ、唇と舌で彼女の乳首を愛し始めると、ついに決壊。
「んはぁぁ!あ、熱い…熱い、です…!絵咲さん!わ、私…あ、熱くて!」

231 :
息が荒い。とても色っぽい。腰が痙攣するように震えている。
何かを待ちうけるように、何かの衝動を堪えるように。
解ってる。私には解ってる。同じ女の子だから。
彼女が求めてる事、彼女が期待してる事。
震える手を伸ばし、ふみちゃんのスカートのジッパーを降ろした。
ふみちゃんの身体がひくんっ!と震える。
私たちはまだ立ったままだったから、スカートは重力に抗うことなくすとんと落ちる。
ふみちゃんはぎゅっと唇をかみしめ、羞恥と、そしてある種の衝動に耐えている。
「ふ、ふみちゃん…さ、触る、よ」
どことは言わない。というか、言えない。恥ずかしくて、言葉に出来ない。
ふみちゃんも言葉で応じることなく、真っ赤な顔で、小さく、こくこくと頷くだけ。
純白のショーツに包まれた、ふみちゃんの大事な部分。私は初めて、そこに指を伸ばす。
「ん…んくうっ!!」
そこはすでに蜜を溢れさせ、ショーツをしとどに濡らしていた。
「す、すご…」
思わず口に出してしまう。ふみちゃんの身体がぴくっ!と強張る。
「な、なんですか?わ、私の、その………なにか、変…ですか!?」
「う、ううん!そうじゃなくて!あ、溢れて…ぬ、濡れ…!!」
「い、いやああ!え、絵咲さんのバカぁ!い、言っちゃだめですぅ!!」
「ご、ごめん!」
しとどに蜜を溢れさせた、ふみちゃんの大切な部分。
「んくぅ…!ふ…っ、んんっ…!」
そっと指を沿わせるたびに密やかな喘ぎが漏れる。
気持ち、いいんだ。ふみちゃんが、感じてくれてる。私の指で感じてくれてる。
もっと、もっと感じさせたい。もっと気持ちよくしてあげたい。直接、触りたい。
「え、えみさ…!そ、そんな…!」
私はふみちゃんのショーツをそっと降ろした。
淡い茂みが現れる。その奥には蜜を溢れさせる花弁。
その密やかな花弁の奥に指を潜り込ませ、直接触れた。その時。
「んく…っ!!」
それまでの喘ぎとは違う、少し苦痛を滲ませた声、だった。
「ご、ごめん!い、痛かった?」
「少し…。でも、大丈夫です!その…触れられたの…初めて、だから…!」
彼女の滑らかな指先と違って、私の指はテレピン油で荒れている。
がさついた指先での刺激は、彼女には強すぎたに違いない。
彼女にもっと触れたい。でも…もっと優しくしなきゃ。
そんな事、出来るだろうか、だって私、こんなに昂奮してる。
「あ…」
その時、私の視界に入ってきたのは。

232 :
「ふ、筆?」
近くのキャンバスから私が取りあげたものを見て、ふみちゃんが怪訝な声をあげる。
「こ、これなら…!や、優しく、できる、から…!」
「や、そんな…あの、その…それってなんだか…は、恥ずかしいですよっ!?」
私はふみちゃんの抗議の声を聞き流し…そっと筆先でふみちゃんの肌を撫でた。
「ひぁうっ!?や、それ…んんっ…!はぅあぅあ…っ!?」
ふみちゃん、眼を白黒。きっと恐らくは、初めての、未知の感覚。
それはそうだろう。感じる部分を筆で撫でられた経験なんて、あるはずない。
「ふみちゃん…これ、き、きもち、いい?」
「や、やだ…!な、なんだか…!んんっ!は、はずかしい、のに…っ!んんっ!!」
道具を使う事で、なんだかイケナイ事をしてるような気分になるのだろうか。
私も…きっと、ふみちゃんも。この“プレイ”に倒錯的な昂奮を覚えていた。
「あふぅ…!や、んぁ!そ、そんな…やっ!ひぅ…っ!」
私は出来るだけ優しいタッチで、円を描くようにふみちゃんの乳首を愛撫する。
「き、気持ちいい?こ、これ、気持ちいい?」
「い、いやぁ!こんな、こんなの…!ひぁうっ!んんっ!」
胸からお腹へ、太腿や、股間の大切な場所へ。
ゆっくり、そっと、優しく筆先を沿わせていく。
「こ、ここ?ここ、気持ちいい?」
「そ、そんな…んああああ!だ、だめ!だめ、です!いやぁ!は、はずかし…!!」
酸素を求めて喘ぐ金魚のように、ふみちゃんは息も絶え絶えといった態。
「どうして?か、可愛い。すごく、す、すてき…!」
「だ、だって…声!声、出ちゃいます!や、は、はずかし、声…!」
「い、いいよ…もっと、聞かせて。ふみちゃんの、声…好き」
「す、き?私の、声…絵咲さん、好き、です、か?」
「う、うん。す、すごく、か、かわいい、から…」
ふみちゃんのしとどに溢れた蜜を吸って少し硬さを得た筆先。
それをほんの少しだけ力を込めて、クリトリスに押し付ける。
「ん、んくぅう!あ、あ、あ…ひぁああああああ!!」
「声、出して、もっと…聞かせて」
「あ!あ!あ!で、出ちゃい、ます、声…が、我慢、で、できな…あああああ!!」
自らの愛液で濡れた筆先で、一番敏感な部分を愛撫されたふみちゃんは。
ついに堪え切れなくなったのか、あられもない嬌声をあげた。
「やあ!き、気持ちいい!気持ちいいです!え、絵咲さん!もっと!もっとぉ!」

233 :
ついに快感に負けたのか、ふみちゃんの口からいやらしいおねだりまでが飛び出す。
そのおねだりが、私の昂奮を煽る。だって、ふみちゃん、すごく…すごく可愛い…!
「う、うん…!感じてるふみちゃん、す、すごく可愛い…!」
「やぁ、は、はずかし…はずかしいです!で、でも…でも気持ちいい…ですっ!」
「か、感じて!い、いいよ!もっと、もっともっと感じて…気持ちよくなって!」
「ゃは…っ!た、立って、られま、せん…!もう、無理…!ムリムリムリ…!」
さらなる快感を得ようと言うのか、腰を突き出し、くねらせるふみちゃん。
「や、やらし…すごく、や、やらし…ふみちゃん…やらしいふみちゃん…可愛い…!」
「えみさぁん!えみさんえみさんえみさん…!もっと…もっとぉおおおおお!!」
その要求に応じて、私は筆を握る手にさらに少し力を加える。
「いやぁぁああ!い、イク…!わ、私、イク、イきます…もう…もう!!」
ふみちゃんの股間からくちゅくちゅといやらしい水音が立っていた。
ふみちゃんの脚がカクカクと震え、太腿に愛液の河が流れていた。
「だ、めぇええ!だめだめだめだめ…だめですううううううううううううう…!」
ガクン!と、ふみちゃんの身体が爆ぜた。そして。
「あ、あああああああああああああああああああああああ〜〜〜…………!!」
ひときわ高い嬌声と共に、ガクガクと全身を痙攣させ、ふみちゃんは絶頂に達した。
膝から崩れ落ち、床にぺたりと座りこむ。荒い息を吐き、私の脚に身体を預ける。
「だ、だだだ、大丈夫?」
「え、絵咲さんのばかぁ…わ、わたし…」
ぽろぽろと涙を零し、ふみちゃんが私を睨みつける。
「す、すごく!すごくすごくすごく!は、恥ずかしかったんですから!」
「ご、ごめん…!」
「だ、だから謝らないでください…!こ、今度は…!」
「え?」
「絵咲さんにも…恥ずかしい事、しちゃいますから…!」
「ふ、ふふふ、ふみちゃん!?」
「か、観念してくださいっ!」
ふ、ふみちゃんが!?あのおとなしいふみちゃんがキレた!?

※※※

234 :
<Side:B:文香(ふみか)>
とてもとてもとても恥ずかしかったです。でも、同時に。
とてもとてもとても気持ちよくて、とてもとてもとても幸せでした。
今度は私の番。
とてもとてもとても恥ずかしいけれど…
絵咲さんを、気持ちよくさせてあげたいんです。
絵咲さんにも、幸せになってもらいたいんです。
※※※
「ブラ、取りますね」
「あ、あぅ…ふ、ふみちゃ…じ、自分で…!」
「だめです。私が…するんです!」
ねぇ、絵咲さん脱がされるのって恥ずかしいでしょ?恥ずかしいけど、どきどきして…
昂奮、しますよね?絵咲さんも、ほら、真っ赤ですけど、すごく色っぽいですもの。
絵咲さんの息がどんどん荒くなっていくのが解ります。昂奮…してくれてるんですよね?
私はゆっくりと煽るように、絵咲さんの服を脱がせていきます。
ねぇ、絵咲さん。私だって、ずっとこんな風にしたかったんです。
でも、勇気が出なくて。絵咲さんと一緒にいるだけでも幸せだったから。
でも、やっぱり、もっと…貴方と愛し合いたいとずっと思ってました。
私、いやらしい子なんでしょうか?はしたない子でしょうか?
いいえ、そんな事ありませんよね。
大好きな人を愛してあげたい、愛されたい。
そう思う事は、きっと自然な事のはずですから。
※※※
そして。
「や!ふ、ふみちゃ…こ、こんな、恰好…!」
両肘を机について、お尻を突き出した格好の絵咲さんを、私は後ろから抱き締めます。
「えみさん…えみさんえみさんえみさん…すごく素敵です」
「は、はず、はずはず、はずか、しいよ…こんな、の…!」
「でも…えみ、さん…昂奮、する、でしょう?」
「そ、そんな事…!んっ!?んちゅぅ…んくぅ!」
絵咲さんの顔を無理矢理に斜め後ろに向かせ、唇を奪いました。
同時に、自分の胸を絵咲さんの背中に押し付けます。
腕を回し、絵咲さんの愛らしい乳房を両手で愛します。
「んはぁ!ふ、ふみちゃ…!んあ!あ!」
可愛らしい喘ぎ声をあげる絵咲さんの表情が見えにくいのが難点ですけれど。
こうして後ろから愛する事で、羞恥心を煽られた絵咲さんは、昂奮するはずなんです。
「絵咲さん、可愛い、です。お尻、ふるふる、してます」
「ん…!い、いやぁ!は、はずかし、から…!!」

235 :
誘うようにぷるぷると振られる、小さな、愛らしいお尻。
きっと絵咲さんの…その、女の子の部分は大変な事になっているに違いありません。
左手で絵咲さんの胸を愛撫しながら、右手をそっとお尻の割れ目に沿わせます。
「ひんっ!あ、や、そ、そんな、とこ…!」
「ここ…気持ちいい、ですか?」
「ふ、ふふふ、ふみ、ちゃ…あうぅうううう!!」
そのまますっと指先を前の方まで沿わせます。
溢れる蜜の奥に、絵咲さんの大切な場所がありました。
「それとも、ここ…ですか?」
「あ、や、ふみ、ちゃ…………!!」
指先でそっと撫でただけで、絵咲さんの背中がきゅーーーっと強張ります。
「や、ふみちゃ…んん!ふみちゃんふみちゃん…っ!」
「教えてください。どこが、気持ちいいんですか?」
「そ、そんな…あ!そこ、あ!」
「ここ?それとも、ここ…ですか?」
いやいやをするように頭を振る絵咲さん。
この後に訪れる未知の感覚を拒絶するかのようです。
でも、ダメです。
「んあ…っ!?」
ついに私の指先が、絵咲さんの一番敏感な部分を捕えていました。
「ここ…ですよね?」
淫核。クリトリス。そこをきゅっと優しく摘みました。すると。
「あ゙…っ!あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙―――――――っっっ!!!!」
びくんびくん!と全身が痙攣し、絵咲さんは一瞬のうちに絶頂に達したのです。
「え、絵咲さん…!?」
「あ゙、あぅ…あ…っ!はくぅ…!」
痙攣が止まりません。絶頂快感の余韻に、絵咲さんの全身が震え続けます。
「わ、わた、し、い、い、ちゃ、た…すご、こ、こん、な、の…すご、すぎ、て…!」
「絵咲さん…!!」
私は感動のあまり、涙がこぼれそうでした。
愛する人が、私の拙い愛撫でこんなにも感じてくれる。
ずっと我慢していたことがばかばかしくなりました。
もっと早くこうするべきでした。もっと早く絵咲さんを愛してあげるべきでした。
もっともっともっと、愛し合うべきだったんです。
「絵咲さん…すてき、です。とても、すてき…!好きです。絵咲さん…大好きです!」
もう恥ずかしさなんてほとんど感じませんんでした。
絵咲さんが好き。その想いが溢れだして止まりません。

236 :
これまでだって、大好きでした。でも、もっともっともっと好きになりました。
好きって気持ちに、上限はあるんでしょうか?私には無いように思えます。
一瞬ごとに、絵咲さんが好きになります。まるで際限がありません。
もっともっと、絵咲さんを愛してあげたくなります。愛されたくなります。
「絵咲さん…!絵咲さん絵咲さん絵咲さん絵咲さん…!」
「だ、だめ、いま、いちゃ、た、から、だ、だめぇ!!」
ぐったりと力の抜けた絵咲さんの全身にキスの雨を降らせます。
その度に、絵咲さんの身体がぴくんぴくんと震えます。
「ひぅ!あふぁ!あ!や、ら!あ!かんじ、ちゃ…!あぅ!あ!あ!あ!」
「絵咲さん…好きです。もっと感じてください、もっと気持ちよくなってください…!」
「きもち、い…!きもち、よすぎ、て…!くぁ!あ!あ!ら、らめぇ!」
「絵咲さん絵咲さん絵咲さん絵咲さん絵咲さん絵咲さん絵咲さん…!」
「ひやぁああ!お、おか、おかし、おかしく、なっひゃ…うああああああ!!」
キスの雨を降らせながら、絵咲さんの大切な部分をまさぐります。
「イ、ク!イクイク!また、イ、ク…!イ、イっちゃ、てる、から!あ!あ!あ!」
私の指の動きに合わせ、絵咲さんの全身がガクガクと震えます。
「と、ま…ない…ッ!イクの、とま、ら、な…あ!あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!」
その様が、愛しくて愛しくてたまりません。絵咲さんの全てが愛おしいんです。
「絵咲さん…愛してます…!!」
「あひっ…!!」
絵咲さんの大切な所からぶしゅっ!と音を立てて大量の蜜が溢れだしました。そして。
「ん…っ!あ゙ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっっ!」
まるで獣みたいな咆哮とともにひときわ大きく絵咲さんの身体が跳ねて。
ぐったりと力を失った絵咲さんの身体が、机に突っ伏しました。
「絵咲さん…?」
絵咲さんは連続する絶頂快感の中、意識を失ってしまったようでした。

※※※

237 :
<Side-A:絵咲(えみ)>
「ご、ごめんなさいっ!絵咲さん、ごめんなさい!!」
「あ、謝らなくていいってば…!」
あんなに激しく乱れちゃうなんて、想定外。
大人しいふみちゃんがあんなに激しく責めてくるなんて、さらに想定外。
でも。
激しい快感とともに、私の中でふみちゃんへの想いがさらに強くなるのを感じていた。
ふみちゃんが好き。大好き。だから、あんなに感じちゃう。だから、あんなに幸せ。
だから…
「ふみちゃん…また…もっと、愛し合おうね」

※※※
<Side-B:文香(ふみか)>
「はい…!絵咲さんと、もっと愛し合いたいです…!」
それはとても気持ちよくて、とても幸せな事。
お互いの気持ちを確かめ合い、高めあう行為。
肌を重ねる事で…もっと貴方を好きになっていきます。
「え、絵咲さん…真っ赤ですよ」
「ふ、ふふふ、ふみちゃんこそ…!」
そう、それは同時にとても恥ずかしくもありますけれど。
でもやっぱり、またしたいです。もっともっと、貴方を愛したいです。

※※※
そうして私たちの時間は、私たちだけの時間は続く。
※※※
私たちは出逢うべくして出逢ったのだと、確信できます。
※※※
そう。きっと、私たちは。
※※※
これからも、ずっと、ずっと、一緒です。




<The Day After………fin>

238 :
ふぅ・・・、GJ!盛大にGJ!

やはりラブラブゆりえっちは良いな

239 :
男相手に肉食な女の子が…
女の子に慕われてヘタレるお話が読みたい。

240 :
クレクレばっかり

241 :
俺らの妄想を拾ってもらい作品になるのがこねスレの定番パターンじゃないか

242 :
定番て言えるほどそんな事あったっけか

243 :
ssをクレクレする層とネタをクレクレする層、両方いたな
定番といえる頻度かは知らんが

244 :
>>242
多くはないけど少ないわけじゃないかんじ

245 :
クレクレも2,3人。職人も1,2人くらい?寂れたねえ・・・

246 :
>>245
職人が居るだけ全然良いやん!
職人が居なくて悲しいスレもあるんやで?

247 :
>>241-244
ならばもっと妄想雑談続けようぜ
>>239
それいいけど男の描写はいらないよね

248 :
最近のトレンドは生徒×先生

249 :
年上攻めか年下攻めか…

250 :
生徒 普段は弱気 二人きりになるとちょいS

先生 学校では強気美人 プライベートは甘え受け
………ふう

251 :
やはり年下攻め萌えるやん?

ただ、先生が攻めさせる感じ、大人の余裕ってのも良いよな

252 :
普段から攻めなのか、たまに攻めさせるかんじなのか

253 :
リードするのは先生がいいな

254 :
身体の凹凸はどうするか

先生ぺったんで、生徒が巨乳も中々。
その逆のスタイルで、ぺったん生徒が攻めまくるというのも……

255 :
「先生って子供っぽい下着付けておられるんですね…
もっと派手な大人向けな物を使用しているかと思ったのですが…」

256 :
ぺたんこが憎しみをこめてばいんばいんな胸を揉むのも萌えるよね?

257 :
定期的に本屋で百合漫画を買う少女A
バイト仲間から「女の子でも百合漫画買うんだなぁ」という話を聞きwktkする本屋でバイトしている少女B
遭遇する時は百合漫画じゃなくて真面目な親書とかなので何も言えない少女B
何も知らない少女A
そしてついに少女Bが百合漫画を買う少女Aのレジが当たる
「……私も(百合漫画が)好きです」
「は、はい!?」
「あっ!こ、このこと」
「なぁんだ…ってえっ?えっ?えっ?」
「私、あと1時間でバイト終わるんですけど…」
的な感じで百合百合する話を読みたい

258 :
キメ台詞は「この漫画みたいなことしない?」

259 :
生徒×先生、か。つまり貧乳×巨乳だな?書いてみようっと。

260 :
>>259
よし、先陣は任せた!

261 :
>>259
待ってるぞ!

262 :
>>先生×生徒
サモンナイト3のアティ先生が真っ先に出てきた
2だと狐耳のおかっぱ和服少女とデートして結婚の約束もできるぞ
クラフトソードだと女主人公限定でキス、求愛してくるパートナー(♀)もいる

263 :
 白鍵と黒鍵。80と幾つか並んだその上を、静かに指が滑っていく。左半
分は私の領域、右半分は彼女の領域。今年の合唱伴奏に2人は多い。でも
私に必要だったのは、左側の譜めくりではなく、右側のソプラノ、アルト
。彼女が私の隣に座ることは二度とないのだ。いつからか、遊びでも独奏
することに慣れてしまった。派手で雑なボレロにしても、妙にタメが深す
ぎる“あと一日”にしても、独奏ではできないのに。
 彼女の演奏を初めて聴いたのは去年5月のこと。部活を定めていない私
は運動部からのしつこい誘いからようやく解放されつつあった。吹奏楽部
の練習についていけないピアノ弾きが、バレー部で強肩剛肘なスパイクを
弾き返せるはずもない。
 全国でも珍しい複数の音楽室を備えた母校は、部員不足で閑古鳥が鳴い
た第2音楽室のピアノをある程度放置していた。鍵を借りるには好都合、
と思ったのは私だけでない。他にもう1人いることは既に私の知るところ
。自分の練習を見られる恥ずかしさは知っているので、相手に対してもそ
の礼儀を尽くそうと思ったのだ。私がうっかり鍵を返さず帰宅した時まで
、その会わない挨拶は続いた。
 はじめ視界に入ったのは茶髪の団子だった。彼女は茶色いネットキャッ
プを自分のシニョンに被せていた。しかし顔つきはどこまでも眠そう。登
校時刻としては顔つきに似合わず早いのに、欠伸の口元すら隠すのが億劫
そうだった。職員室の真ん中で教室のように立ちくつろいでいる。
「あ、来た来た」
「昨日はすみません、先生」
「いいえ、私も自分の受け持ちがあって確認していなかったから」
 隣に並ぶ2人の学生より小柄な妙齢の社会科教師は、廃部寸前の卓球部
で顧問をしている。担任でもないのに第2音楽室の鍵を持っている理由は
、我が校に吹奏楽部がないからだ。コンクールの名門校がご近所さんだと
、リクルートまで情け容赦がなかった。合唱部こと音楽部はそうでもない
。もっとも、私はそこにこそ入りたくないのだけれど。

264 :
「お待たせしてすみません」
「……いいえ、私は間借りの居候みたいなものですから」
眠りのお団子さんは頭脳が大人で体が子どもの人だったらしい。少し見
下ろした体格は女子の平均を上回っている。そして一聴しわかったことは、
彼女が合唱向きの声質でないことだ。私と同様に。
「上級生かと思ったら新入生だったんですね」職員室を出た後、自分と同
色のタイを見てお団子さんは言った。
「ええ、私も居候です」
「鍵を持ち歩くのは家主かと思っていましたが、管理が杜撰な気もします
」眠そうなお顔は職員に水を向けた。
 我が校の音楽教師は第二音楽室にあまり興味を示さなかった。場所が第
一音楽室の正反対であり、合唱部員を全員入れると枕の綿詰め、準備室に
器材はほとんど保管されていない、エアコンは一応あるものの、普段使わ
れない教室では冷えるのを待つと下校時刻になってしまう。猛暑でも居候
は1週間に1度しかエアコンを使えない。5月はまだ涼しいが、夏が近づけ
ば防音室はサウナ室に看板を換えるだろう。
「業務用のエアコンを持って来れませんかね」防音サウナを想像したのか
お団子さんは眉をひそめた。
「ファンの音で練習できないと思いますけど」
「いっそシャツをびろんと」無表情で何かを掴み開くまどろみさん。
「それ無駄に雄々しい蚊が寄ってくるじゃないですか」開けっ広げな同輩
に苦笑する。
「ノー、サンキュー……でもあなたしか来なさそうです」お団子さんは一
瞬うえぇっ……とした後、立ち止まってこっちを見た。
「いいんですか?」
「1ヶ月以上1人で弾いていると時折幽霊が」
「その幽霊バッハの顔してませんでした?」
「いえ、眼鏡かけておでこが甚大に広かったです」
「良いご友人とお近づきで」
「肖像画の偉人より生きてる同好の人がいいです」
「……1つ条件が」即答してもよかったが、すこし勿体つけた。
「何ですか?」
「余暇にまで慣れない敬い方はお互いしないこと。いいかな?」お団子さ
んは少し思案し、答える。
「わかった。あ」お団子さんは何かに気づいた。私も感づいた。
「名前聞いてなかった」お団子さんはユカリ、私はトモキとだけ名乗った


265 :
 上手かった。お団子さんことユカリは、伸び上がるように右手でソプラ
ノ、アルトの弦を指揮し、左手のテノール、バスはそれにひたすら引っ張
られた。にも関わらず、リズムそのものは破綻していない。私はお団子さ
んから“眠りの”を取り去ることにした。子犬のワルツを弾くその顔は耳
を垂れ下げてまどろんでいるのに、肩から先はシカの跳躍だった。いや、
違う。まどろんでいるんじゃない。酔っ払いが風呂でゆったりしてる顔つ
きだ。
 軽々しい拍手を贈る。酔っ払いは改めて眠気をたっぷり纏いながら、ブ
レザーのスカートを無表情につまんだ。
「人前で弾いたのは久しぶり」先ほど防音サウナの話をしたときより血色
が良い。眠気が取れても眠そうに見えるのはどうやらユカリの気質の問題
らしかった。
「緊張する?」「そうでもない。演ってる最中は視界に入らないし」
「枯れ木枯れ葉の扱いとは手厳しい」私は肩をすくめた。
「多分数万人の前で演るプロもそう見えてるよ」
「そう?」
「うん。別にプロ自身が観客と一問一答するわけじゃないから。それはロ
ックバンドのボーカルがやること」
「……ここには2人しかいない」吐き気のする言葉だった。
「正確には1人と1台だけど。弾く?」ユカリは無表情に申し出る。
「もう一曲聞かせてもらえる?」顔を元に戻して言う。
「弾ける曲なら弾くよ」
「じゃ、ジムノペディの1」
「りょーかい」最近のシカは物静かに歩けるらしい。
つづくない

266 :
なにこれ

267 :
続か…ないの?
ここから始まっていくんじゃないのか…
なんにせよGJでした

268 :
続くんですねわかります。

269 :
 ユカリと私が放課後、第2音楽室で居候するようになってから2週間が過ぎ
た。眠そうな顔は相変わらずで、やはりこれは本人の気質の問題なのだろう。
ユカリが第2音楽室へ来るのは週に2回ほど。特に下校のご相伴は決めてい
ないらしく、母校の南にある私の家と、東にあるユカリの家では行き先が一
致することもない。したがって、私が彼女とまともに会うのは音楽室だけだ。
アドレスを交換したところでピアノ以外に接点はなかった。
「どうかした?」少し遅めにトルコ行進曲を弾いていたユカリは、手を止め
てこっちを向いた。
「いや、最後の前に体育がさ」足が震えていることは自分でも分かる。横っ
首やうなじに毛先が纏わり付いて、動くたびに撫でられ気持ち悪い。
「走らされたわけだ。バスケ?」
「うん。文化系なのになんでパスが回ってくるんだろ」
「上背じゃない?」
「それはない。180超えてる人ならともかく」
「この学校だとバレー部の副部長さんくらい?」
 あの勧誘好きは公称174cmだが、同じクラスにいる175cmの男子より目線が
高いので、数cmはサバを読んでるとの噂が伝わっていた。そして173cmの私
より明らかに高かった。
「でも髪型は運動系だよね」
「よしてよ。背中にぶらついてるのは昔から苦手なんだよ」
「わかる。ブレザー越しでもイライラする」今日もユカリは、みたらし団子
を1つくっつけていた。
「でしょ? エクステつけてまでファサファサ増やす気持ちがわからない」
 髪の長さを気にする活動はお互いしていなかったが、単純に生理的な問題
が洒落っ気に勝っていた。
「私のは単に習慣だけど」ユカリは丸めて留めたお団子を触る。
「前から気になってたんだけど、その色元からなの?」
「うんまぁ。特に染める必要もないし基本のケアだけで放置」
「染める度髪が痛まないのは羨ましい」
「その代わり、着物着るともれなく新成人だけどね」ユカリは軽く笑った。
「そこまで色薄くないじゃない、綺麗」
「そりゃどうも」ユカリは鍵盤に視線を戻した。今度は、おでこが甚大な偉
人の“遺品”だった。

270 :
「ユカ、リ……」
 その日の帰り、校舎の廊下を一緒に歩いていると尻すぼみな声をかけられ
た。
「フミ」声をかけた彼女をユカリは知っているらしい。くせっ毛の黒髪をミ
ディアムに整えた同級生は、私とユカリとを見比べてツチノコかなにかと見
間違えていた。
「トモキは初めてだっけ、同じクラスのフミ」
「はじめまして、フミさん」
「はじめ、まして」フミは目を逸らしてユカリに視線を向けた。
「一緒に帰ろう」フミはユカリの手を取った。
「う、うん。それじゃあね」
「また」振り返りながら別れるユカリに私は片手を挙げた。
 2日後、ユカリのクラスメイト、フミは第2音楽室にユカリと連れ立って現
れた。
「こんにちは、フミさん、ユカリ」演奏席から片手を挙げる。
「こんちわ」今日も眠そうなユカリは片手を挙げた。
「こんにちは」3人目の居候は表情が硬かった。
「今日はゲストがいるの?」
「ま、秘密基地じゃないし」
「じゃ、早速ゲストに腕前を披露したら?」
「えっ!?」ゲストがうろたえて演者は呆れた。「席についてたのはトモキ
だよ」
「フミさんは私の腕前を見に来たんじゃないでしょ?」
「え、ええ……」ユカリはむぅ、として椅子に近づき、私は退く。
「そんじゃ、森の情景だっけ、最初だけでいいよね」フミはこっちを一瞥し
てうなづいた。トロイメライの方ではないから、弾きはせずとも好きなのだ
ろう。私は近くの椅子から2つ観客席を拝借した。
 演奏が始まるとフミは時折こっちを見ていたが、少しすればクラスメイト
の演奏に耳を傾けていた。最初だけと言いながら、予言の鳥を過ぎても演奏
は終わらない。シカの跳躍は続き、一打一鍵が狩りを歌っていく。狩人本人
は酔っ払っている。木陰に座ってキャップを開けて、ウイスキーをちびちび
嘗める。というより、露天風呂でお猪口をクィッとする感じではあったが。
「いやいやどーもどーも」フミの激しい拍手に無表情でスカートをつまむユ
カリ。眠気を身に纏う術はどこで覚えたのか知らないが、好演が顔つきで台
無しだった。
「やっぱユカリはすごいよっ。ぜんぶやってくれたしっ」
「気分が乗ったから止めんの忘れた」ユカリのてへへ顔初めて見た。
「演奏時間3倍に伸びてるんじゃない?」ちょっと意地悪を言ってみる。
「いんや5倍」「計画性がないな」「これなら大歓迎、ありがと」3人集まっ
ても烏合のまとまりだった。

271 :
「やっぱり、あの話もう1回考えてよ」
「却下」フミの提案はコンマ5秒くらいで棄却された。
「あの話?」「聞かなくていいよ」ユカリはわざとらしくドリアンを嗅ぎつ
けた顔だ。
「えっと、私今音楽部なんですけど、先生が誰か伴奏の人をって」
「そういうのって先生か先輩の担当でしょう? なんで新入生のユカリに?」
「うちは伝統的に指揮も伴奏も部員がやるんです。特に今年は実現すれば10
年連続だからと先生が息巻いていて」
「それで出場できなきゃ本末てんとー」ユカリはため息をついた。
「申し込みの締め切りとか大丈夫なの?」
「……実は2週間を切っていて」うわぁ。
「去年までは2年続けてある先輩がやってたんですけど、昨年度でご卒業な
さったそうで。何人かピアノやってる先輩もいるんですけど、自由曲はとも
かく課題曲が本番で不安だと」フミは上下唇を強く合わせた。
「先輩さんにできないなら大人が代わる。それが筋。音楽部は学生の部活で
社会人の集まりじゃない」ユカリはバッサリ切った。さらに続ける。
「フミ、先生はもう伴奏、自分か他の誰かに頼む気なんじゃないの?」
 フミの視線に、ユカリのまどろんだ目が合わさる。フミは嘘が下手だった。
「……ごめん、息巻いてるの私」フミはうつむいて自白する。
「先輩さんに思い当たる人がいないからダメもとであたったってこと?」フ
ミは黙って額を振り下ろした。
「喜び勇んで私が出て行って、本番前から部員に囲まれて恥かいて、挙句元
々いりませんでしたー、じゃ通らないよ」ユカリは話して否決を振り下ろし
た。
「恥なんて、かかないよ、ユカリは。今日はその確認に来たんだから」フミ
の額が持ち上がる。顔に血色が戻っていた。
「いや、かかせない。絶対。私が誘って巻き込んだ人に、泥ぶつけられてた
まるもんですか」あまりの顔つきにユカリが珍しくうろたえた。私はため息
をつくと、ユカリに言った。
「ユカリ、私はフミさんの案に賛成するよ」フミが瞬時にこっちを見た。
「……どして?」今までになかった声色だ。眠り姫は地を這い回る茨の長に
なっていた。
「理由は2つ。1つは、わざわざこの音楽室に来て“確認”して、その上で嘘
ついてまで気合入れて引き込もうとしたフミさんが、今から練習して本番で
弾けそうにない曲を、ユカリに勧めることはしないだろうから。逆に言えば、
ここで無茶な曲を勧めてきたら、ユカリは十二分に断れる。練習するのも
本番で弾くのもユカリだから。曲目は?」
「あっ」少し呆けていた提案者に振ると、慌てて鞄を開いていた。自由曲は
私も知ってる曲で、課題曲は今年3月に発表された新曲だった。
「どう?」ユカリは渋柿を噛み潰していた。
「……自由曲だけなら。やるやらないは別にして、8月頭の週、だったよね。
その大会に間に合わせられるのは自由曲だけ」
「ほんと!?」フミの顔に第九のラストがかかっていた。
「まだ早い。指揮は先輩がやるとして、課題曲は私がさっきまで知らなかっ
た新曲だから、先輩のが私よりずっと練習してるはず。だからどの道期待に
は沿えない」楽譜を突き返すユカリ。
「えっ? でも課題曲は不安だって」ひるんだフミにユカリは何度目かのた
め息をついた。
「フミは真に受けすぎ。気合入れて担当を探し回ってるフミの前で、“でき
る”、なんて言おうものなら、先生含め周りが寄ってたかって、立候補者へ
仕立て上げるに決まってる。それに、不安を感じられるくらい練習はしてる、
てこと。本気でダメなら不安じゃなくて『無理』だから」
「あっ……」思い当たる節があるのか、フミは断った先輩を思い出している
ようだった。
「私に嘘つく暇があったらふっかけた先輩さんに聞いてみなよ。両方押し付
けられそうだったから躊躇したんじゃないかって」フミは視線を逸らした。
やっぱりこの子は嘘が下手だった。

272 :
「でも私はそれだけじゃ引き受けられない。今年の1学期から卒業に備える
気はないけど、知っての通り私は人前に立つのが嫌い。人前で演奏するの
はもっと嫌い。だからトモキ、私はまだ2つ目の理由を聞いてないよ」
 ユカリは再度茨を声色に這わせる。今はもう茨というより、蔦になってい
たけれど。朝顔が開きたくないとつぼみを向けて願掛けしていた。
「2つ目の理由は」
 フミが固唾を呑んでこっちを見ている。ここで10年目の伝統とやらが決ま
るのだろう。
「舞台で躍るユカリが見たいんだ。3、40人の分厚い合唱隊に、たった2つの
手で立ち向かう、私の連れ合いが」
 ユカリはあっけに取られていた。フミは目を見開いていた。私変なこと言
っただろうか? いや、変か。単に舞台での演奏を聴かせろ、なんて理由で、
数ヶ月の特訓を強いる辺り、私も嘆かわしい無茶振りをしている。しかも、
私自身は部外者もいいとこだし。
 肝心のユカリはというと、視線を脇に漂わせた後、こっちを見ては視線を
逸らした。何と珍しい。蔦の長たる眠り姫は、私の珍妙な動機で目すら合
わせてくれない。こいつ最高にバカ、みたいな感じだろうか。提案者のフミ
はそれまでの緊張が打って変わって、しかめっ面を中途半端にしまいこん
だ末、ひたすら顔に「うわぁ」と書き続けていた。
 ユカリの視線がようやく安定し、フミの表情が呆れ顔に軽減した頃、ユカ
リは口を開く。
「わかった。フミ、私、伴奏引き受けるよ」

273 :
 事態は思ったよりも早くに進んだ。ユカリが合唱への参加を決めた翌日始
業前、フミとユカリは合唱部こと音楽部の顧問教師と部長たる先輩に、人選
を伝えに行った。その時は時間がなかったため、昼休みに部員を集めて伴奏
者のコンペティションを行うことになった。
 課題曲は始業前にフミが再度申し入れた、本番に不安のある先輩。自由曲
はフミが推薦したユカリと、仮決定していたもののその実、単に弾けるという
理由で合唱団から外された先輩。そして顧問である音楽教師が、両方のモ
デル演奏兼、相性や技術に不足があった場合の予備役としてコンペに名を連
ねた。
 混声合唱団“音楽部”は、ソプラノ13名、アルト8名、テノール7名、バス10名の
ドンシャリな顔触れだった。フミはソプラノで、名乗り出ているピアノ経験者は
8分の1に満たないという。例えば課題曲にフミ薦された先輩は、去年までピアノ歴
自体を明かしていなかった。楽器経験者は無闇に自分の経過時間を口にしない。
とはいえ進学した後も合唱を続けるだけあって、「真面目にやってよ!」などとわざ
わざ言われる部員は、新入生にすらいなかった。ただし、フミに言わせると「士気が
高いというより、手の抜き方を弁えている」らしい。
 昼休み、私とユカリとフミは一緒に第1音楽室に向かっていた。
「いよいよですね」フミは楽しみで仕方ないという風に自信を口にした。なお、
コンペに参加するのはユカリだ。
「そだね。受けた以上はやるよ。昨日久々にアレ弾いたし」
 ユカリは、言っている内容の割に間延びする口調だった。今日も眠気は絶
好調だ。
「一夜漬けで選定に参加するっていうのもどうかと思うけどね」
 始業前にフミが持ってきた話は、急も急だった。ユカリへは昨日のうちに
伝わっていたらしい。私が同伴しているのは、私がユカリの背を押したこと
と、フミに白い目で見られたこと、そして現役の合唱部員とユカリの合奏を
聴くためだった。
「どの道即戦力じゃないと意味ないし。2ヶ月かけて仕上げるのは合唱の方
で、伴奏じゃないから。自由曲で今決まってる先輩にしても、顧問の先生に
しても、たった今それで出場が決まってて、それを基礎に練習してる。課題
曲の先輩さんは大変そうだけど」
 技術的な意味ではなく気の持ち様で、とユカリは言わなかったようだ。入部
以来1年近く、伴奏できる経歴を気取られず、フミが本気で困ってユカリに
泣き付いたことは、先輩の伴奏に対する姿勢の一端を示していた。もしか
すると最初は歌唱の一員として出場するつもりだったのかもしれない。そう
考えれば、今回のコンペは何よりも残酷なもので、私たち3人はその元凶だ。
「でも、なるようにしかならないけどね、審査するのは若木であって、積もっ
た枯れ葉枯れ木じゃないし」
「ユカリ、まだそんなこと言ってる」
 フミはユカリの言い様が気に入らないらしい。枯れ木枯れ葉のない森など、
半年と保てず禿げ上がってしまう。しかし散歩者には木しか見えない。とは
いえ、私はその枯れ葉枯れ木が目的だ。

274 :
「ユカリ、ちょっとこっちに」第1音楽室の近くに差し掛かり、釈然としない
ユカリとフミを連れて脇の廊下に誘った。
「手を合わせてください」私は食事前のように合わせた。
「……お母さんもう食べたでしょ?」ユカリが寝ぼけ眼で茶化す。
「違う違う、真似て」ユカリは渋々手を合わせた。
 その上を両手で包み込む。
「……ーーーーーーー!!!」
 ユカリの眠気が木っ端微塵に爆砕した。珍しすぎて言葉が出ない。2人の
手を見て、目をむいて眉を吊り上げ、思いっきり上下唇を食み閉めるユカリ。
とりあえず考えていたことを話す。
「自由曲のテンポは?」
「っじっ、じゆっ、じよっ?」ユカリさん、私日本語しか分かりません。
「今日やる曲のBPMだよ。私うろ覚えだから」
「きょうやる……えっと……」何やらテンションが戻っていないものの、BPMは
聞き出せた。2人の手が震え、ユカリは辛抱たまらんと目を閉じる。
「えっと、これくらいだっけ」ユカリを包んだ両手の、人差し指同士で、トントン
とリズムを刻む。
 ピクッ、ピクッ、ピクッ、ピクッ。
「いや、上半身で返事しなくていいから、楽譜を思い出して」
 ユカリの目はさっきから閉じられている。思い出しているのかどうかわから
ないので、私も目を閉じてその曲を鼻歌で歌う。うろ覚えなのでパートも
移調も音程もめちゃくちゃだ。
 しばらくすると震えは止まり、ユカリの手の感触が周期的に伝わってくる。
途中までしか覚えていないので目を開くと、ユカリは私の顔を見ていた。
「思い出した?」「えっっ! 何を!?」たった今私の開眼に気づいたような
慌て振りだった。
「いや、今日コンペだから、指に何か触れてる方が思い出しやすいじゃない?」
「コンペ……そっか……」ユカリはどこか不満そうだったが、調子が戻ったらしく、
今一度目を閉じた。
 もう一度リズムを刻む。他人のリズムに合わせて自分の演奏をイメージする。
これだけだと何の効果もないが、指の動きと触覚の一切を塞がれ、何一つ
演奏していないだけ気を張らずに済む。少なくとも前に私がしてもらったときは
そうだった。
 そして、人体の構造上冷えた指はピアノに適さない。感覚が鋭い割に冷え
やすく、寒気冷気の感覚はフォームやタッチの感覚を鈍らせる。それは手首を
掴まれながら弾いているに等しい。暖房や温かいカップがないとき、手を動か
さずに温めるには、他人の体温が一番身近だ。
「ん……、ん……、ん……」
 刻む2回に1回はユカリの声が漏れていた。でもさっきよりは落ち着いている。
時間が経つにつれ2人の体温が混じり、私の掌とユカリの手の甲が汗ばんで、
2人で1つの“て”を共有しているように思えてくる。前は私が包まれていたけれど、
やはり何度やっても心地いい。
「……トモキ……?」刻みが止まっていたのか、ユカリが目を開けた。
「そろそろ行こうか」いつも通りのお目覚めに、やってよかったと思う。
「うん……」私が手を開き、ユカリがそのまま軽く握りこぶしを作る。
「ごめん、待たせ……」フミの方を振り返ると、そこには辟易とした顔があった。
気を取り直してユカリの手を引いていくと、すれ違いざま「わるい人」と聞こえた。
つづくない

275 :
いいね、いいね、こういうちょっとした百合っぽい描写大好きだよ
続くなら楽しみにしてる

276 :
これは良い百合
ぜひ、続くェてください

277 :
ここはガチレズ寄りな感じはダメなんかね?

278 :
>>277
つ 板名

279 :
エロメインだね
拘束して快楽漬けでも、ラブラブでもソフト百合でもウェルカム

280 :
 第1音楽室へ足を踏み入れると、一斉に瞳という瞳がこちらを向いた。合
唱団“音楽部”。9年連続で指揮と伴奏を部員が担当している、わが校の代
表団、総勢40名近く。コンペティションへの挑戦者を静かに値踏みする、大
舞台への志願兵たち。フミにも分かっているようだった。窮に瀕して援軍を
歓迎するムードではない。自分の服裾に泥水をひっかけられた、通行人たち
の風体。
「こんにちは、春日さん。今から葛葉さんが演奏するところよ」
 顧問教師に挨拶されたフミは、演奏席に座った部員の1人を見やる。自由
曲の現伴奏担当。半ば強引に歌唱メンバーから外された先輩だ。フミにして
みれば、この先輩を歌唱メンバーに戻したかったこともあるのだろう。
 ユカリは眠気を纏っているはずだ。到着した同じ部員に誰一人挨拶せず、
自分に視線が集中していることを察しているだろうか。先ほどは落ち着いて
いたが、今後ろの私からその表情は見えない。
 ピアノの隣には女子が3名、男子が3名並び、別の男子1人と向かい合って
いた。大会本番に近い配置で立っているのだろう。1人向かい合う男子は指
揮の先輩のようだ。
 合唱団から女子が一人進み出る。私と似通った体格に、腰まで伸ばした黒
い長髪。タイからすると1つ上の先輩。
「選出を始める前に、フミ、そちらはどなた?」
 私を見て聞く長髪の先輩。入室のノックで答えた人だ。部長は長髪でない
はずだから、フミと仲のいい先輩だろう。
「カシマキ先輩、私の知り合いで、トモキと言います。今日は友人が選出に
参加するのでその付き添いに」
「付き添い?」先輩の眉がつり上がった。「フミじゃなくて、その人の?」
「はい。こちらが応じてくれたユ……」「それはさっき聞いた」
 そうか、この人が課題曲の担当なんだ。
「はじめまして、カシマキ先輩。今日はユカリの付き添いで来ました」まず
一歩踏み込むと、先輩は露骨に顔をしかめた。フミが眉をひそめる。ユカリ
が振り返る。眠そうな顔だった。
「ユカリと言います。名字はトモキと同じでいりません。今日はおさそいあ
りがとうございます」
 部員全員が視線を向ける。懐中電灯を不躾に向け、当て照らして暗闇から
晒し挙げるような、感情のない視線。だが理由は?
「選出を始める前に、先生へお話があります」
 ユカリの自己紹介を無視して、カシマキ先輩が部員に向けて言った。フミ
がうろたえている。フミにも原因が分からないようだ。
「先ほど廊下で私はこちらの方を見かけ、今朝フミが言っていた方だと思い、
同じ伴奏担当候補として挨拶をしようと近づきました。しかし、こちらの方
はフミとトモキさん、2人にこう話していました。『2ヶ月かけて仕上げるの
は伴奏じゃない、なるようにしかならない、審査するのは若木であって、
積もった枯れ葉枯れ木じゃない』と」
 室内が一気に冷え込んだ。先輩はユカリの発言が気に入らなかったようだ。
恐らくこの空気の発端はカシマキ先輩で間違いなさそうだった。
「先輩、ユカリは悪い意味で言ったんじゃ」「フミ、貴女もたしなめていた
でしょう? 貴女のクラスメイトで申し出てくれたとはいえ、さすがに伴奏
を『枯れ木』なんて言われてはね」カシマキ先輩はわざとらしい大きなため
息をついた。
「ゆかりさん、私はあなたが来る前に聞いたのだけれど、本当にこう言った
の?」顧問の質問にユカリは黙ってうなずくだけだった。今は体を横に向け
て表情が見え、眠気は相変わらず。合唱団の面々が眉根を寄せる。顧問はた
め息をつくと、カシマキ先輩に向き直った。
「樫牧さん、言い方はともかく、大会で伴奏者の実力が評定されることはな
いよ」先生はユカリをチラチラ見ながら支持した。というか、わざわざ志願
してくれた相手を敵に回したくない、といった具合だ。
 合唱コンクールは合唱を評価するもので、伴奏者はその中に入らない、と
いう規定はあった。担当者は基本的に指揮を見ながら伴奏するが、間接的に
歌唱と影響を与え合うことはあっても、指揮ほどではない。さらに、無伴奏
曲なら伴奏自体がなくなる。その代わり、伴奏者には学校が認めた、外部の
人間が就くことも許されている。

281 :
「しかし、伴奏にも相応の仕上げが必要ですし、なるようになる、では最初
から演奏を投げているようではありませんか」カシマキ先輩は食い下がる。
 合唱コンクールは歌唱を総合的に評価する。すなわち、歌唱がどれだけ成
功し、どれだけ失敗しているかを見極める。しかし、伴奏はそもそも失敗の
概念が存在しない。仮に伴奏者が失敗し歌唱の演奏までが破綻すれば、それ
はその場に乱入者が出た場合と同じ類の失敗、つまり事故となる。実際には
伴奏者の努力や失敗があるにも関わらず、評価要件でないという理由で無視
される。
「その上『枯れ木』だなんて……」カシマキ先輩はそこが気に入らないようだ。
「先輩、ユカリは面倒だからって演奏やその努力を投げるような人間じゃあ
りません! ユカリが私に初めて演奏してくれたとき、ユカリは約束もせず
私の好きな曲を覚えてくれてて、20分以上もほとんど休まず全て弾ききって
くれたんです。猫踏みすら弾けない人間の無茶振りでも真正面から応えてく
れたんです!」フミが一気にまくし立てた。昨日一瞬見せた執念に近い顔つ
きが戻っている。まずい。
「じゃあなぜユカリさんはあんなことを言ったの? 演奏を投げて自分を枯
れ木だなんて切り捨てて」カシマキ先輩の表情が険しくなった。熱くなって
提案して先生に撥ね付けられ、その先生へ反発している先輩。そこに横から
殴りつけるようなことを言えば、刃を向け返すことしか浮かびようがない。
それに、フミは伴奏者じゃない。
「先輩」
 私は一歩進み出た。わざと先輩を見下ろす。
「なんですか、あなたには……」
「関係、ありますよ、そもそもフミにユカリを弾き手として勧めたのは、私
ですから」少しひるんでも返そうとしたカシマキ先輩は目を見開いた。
「トモ……」気勢を削がれたフミに口角を上げてみせる。
「貴女が、ですか?」
「ええ、フミが探している伴奏者に相応しい、自分の技術をひけらかさない
人を薦めたつもりですが」先輩の眉がピクリと動いた。
「その割に、なるようになる、などと言っているようですけど」
「それは当然です。何せ昨日薦めて一夜漬けでここに臨んでいるはずですか
ら。現担当者の葛葉先輩でしたか、練習を積んだその人より伴奏に向くとたっ
た今示さなければならないんです。投げやりのようでも無理ないでしょう?」
 笑いかけると先輩は呆れ果てた顔をした。
「フミ、また強引に進めたの」
「えっ、いや、つい善を急ごうとする癖がですね」急に振られて足元を掬わ
れていた。
「貴女が言うと紙の橋を踏み抜きながら走るように聞こえるのよ」ひどい言
われようだった。
「それで? 私もうそろそろ演奏を始めたいんだけど」脇へ振り返ると、葛葉
先輩が両手を頭に演奏席でくつろいでいた。
「すみません、先輩」それに応えたのは、ユカリだった。

282 :
 ユカリはカシマキ先輩に一礼する。
「私の発言によって伴奏に意欲が欠如していると思わせたのならお詫びしま
す。すみませんでした。口に出すべきではありませんでした。でも、私は自
分が志願した曲で、先輩をはじめとする皆さんの歌唱に泥を塗りたいわけで
はありません」
 ユカリの寝ぼけ眼はまっすぐ先輩を捉えていた。
「ただ、私は合唱部員でもなければ、皆さんと共に練習したことがあるわけ
でもない、紛れもない余所者です。本番で失敗しないなどとは言えませんし、
その意気が完全無欠にあるかと聞かれれば、間違いなくありません」
「しかし、私にも大会での目的があります。皆さんに比べれば大したことの
ない目的です。若木を見上げて皆さんの立ち姿を横目に、せっせと自分の
立つ周りを肥やして満足するのが精一杯です。でも、私は満足したいです。
一緒に大会へ行って、皆さんの横で、満足したいんです」
「私のやる気は皆さんとは違います。皆さんを利用して、自分が満足したい
だけです。ですから、皆さんも、私を利用してください。その方が、緊張せずに
済みますから」
 ユカリは再び一礼した。音楽室は静まりかえっていた。カシマキ先輩は、
俯いていた。やがて、1人が口を開いた。
「先に弾きな。あんたの横で、歌ってみたくなった」
 葛葉先輩が、座を譲った。
 結果を言えば、ユカリの演奏は荒かった。知っている曲とはいえ、ブランク
のある曲を初対面の部員と合わせつつ、その上で審査に出せるレベルの演
奏になど、当然のごとくならない。ユカリが指揮の下で弾いたことがあったか
は知らないものの、幾点かで部員を困らせていた。
 ユカリの演奏は、右手で左手を引っ張りつつ、ギリギリで収めるのが定石
だった。左手のテノール、バスを、右手のアルト、ソプラノが指揮する。御者
と馬車のような関係。しかし、合唱の伴奏で、手綱を握る御者は指揮の先
輩だ。ユカリは長柄や頸木といった、バラバラに動く歌唱を崩壊させず、黙々
と支え続ける後追い役。普通の合奏では相手もこちらに影響されるが、指
揮と伴奏では一方的、歌唱メンバーに至っては視界にすら入らない。ユカリ
も頑張ってはいたが、現時点ではここが限界だった。
 一度ユカリは私のほうを見た。私は何かを包もうと手を合わせた。一度ユ
カリの演奏が乱れた。アルト担当の同級生がそれを怪訝な目で見ていた。
 演奏が終わると、葛葉先輩が言った。
「先生、私伴奏オリるわ」
「え、ちょっ、葛葉さん!?」
 フミを置いてそのまま葛葉先輩は音楽室を出て行ってしまった。合唱に参
加したメンバーは先生に感想を伝えていく。
 曰く、「不思議、走ってるのに綺麗に収まる」。
 曰く、「ギリギリで突っ込んでくるからヒヤヒヤする」。
 曰く、「変なところですっ転ぶけど、あとは問題ない」。
 顧問曰く、「今はまだ危なっかしい」。

283 :
 歌唱にはカシマキ先輩も参加していた。演奏が終わった後から席の一つで、
ずっと渋柿を噛んでいる。隣の席を借りた。
「……トモキさん」
 最初カシマキ先輩の歌唱はユカリの暴れジカに戸惑っていたが、曲の後半
へ進むにつれリズムが馴染んでいた。参加部員では一番順応が早い。
「ユカリが演奏を投げるなんて、無理だと分かるでしょう? 同じ弾き手なら」
 カシマキ先輩はうなずいた。
「えぇ……。あんな弾き方、他人から指導を受けたら最初に矯正されてしまう。
本当に独りでコツコツやらないとああは仕上がらない」
「フミさんの好きな曲、知ってます?」
「森の情景でしょう? 私じゃ全ては無理だと断ったんだけど」
「私はフミさんにユカリが演奏した時、その場で聞いてたんですけど、何と
言うべきか、ユカリって弾くときに酔ってるんですよ」
「酔う?」先輩は頭に靄を吹き込まれたような顔をした。
「はい。その顔をしてるときだけ、すごく変なリズム感が表れてるみたいなんです」
「さっきも“酔っ”ていたの?」
「いえ、あの眠そうな顔のままでした。多分指揮の先輩さんに合わせてだと
思います」「ぶっ」
 カシマキ先輩は「眠そう」の所で吹き出した。
「……クックックッごめんなさい……クックッ……」どうやら急所に入ってしまった
らしい。
「先輩初対面でひどーい……あとトモキは腕立て100回ね」
「私文化系なんだけど」
「違うよ、ガッツポーズのまま校舎1周を100セット」
「悪化してるんだけど」
「10セットに1回は肩もみもみ」
「もみもみだけってコースは?」
「1発1万」
「乗った」 
「……やっぱやめ」
「トモキさん、ユカリ、先輩が呼吸困難になるからそろそろ止めて」
 フミから待ったが掛かった。
「先生、結局私は採用ですか? 不採用ですか?」
 ユカリとフミと私は顧問にコンペの結果を聞きに行った。コンペ結果は放課後
にと、3人やカシマキ先輩以外の部員はそれぞれのクラスに戻った。
「本来なら葛葉さん、と言いたいけど本人が辞退しちゃったから」消極的な
面子合わせだった。
「ゆかりさん、あなたを本年度の自由曲の伴奏者として申請します」
「やったぁ!」フミが全身で第九を再生した。
「でも条件があります」「何でしょう」
「さっきの演奏だけど、手を抜いていたでしょう?」
 ユカリの顔には眠気が浮かんでいた。
「……さすがにプロは違いますねー」
「どういうこと?」カシマキ先輩が気色ばんだ。
「正確には本気を出そうにも出せないです。私、アガリ性だから。たった2ヶ月
で人前に出て自己満足晒せるなら、私今音楽部員」ユカリは目を逸らした。
「さっき指揮の子が言ってたのよ。最初入ってきたときから、やる気あるか
わからない顔つきだったけれど、演奏中はチラチラこっちを窺うくせに、顔
つきがそれまでで一番酷かったって。まるで初めてバレエの発表会に出た
子どもだって」
「……女の子に言うことじゃない」ユカリはげんなりしていた。
「ていうか脇田先輩ってバレエやってたんだ……」フミは彼が厚化粧で舞台に
立っているところを想像したらしい。コラコラ先輩に失礼だよ、フミ。

284 :
「対策はあるの?」カシマキ先輩が話を戻した。
「そもそも人前で弾いたのが2年ぶりだし、昨日フミに説得されるまで出よう
とも思ってなかったので」よって、対策など考える必要はなかった。
「最後に弾いたのは?」
「……黙秘で」
「ユカリはゲン担ぎとかする?」ある予測があったので聞いてみる。
「神秘と奇跡は信じてない」
「そうじゃなくて、気合を入れたり気持ちを整えるためにすることとか」さっきの
みたいな、と含みを持たせる。
 ユカリは一度目を逸らし、その後私の手を見てねずみを見つけたように逆
へ逸らした。
「……あるにはある」ユカリはどうして私を見ると目が潰れるみたいな顔して
るんだろう。フミ、どうしてそんなに睨むの。
「ゆかりさん、それをやった上でもう一度演奏しない?」先生の提案を引き
出せた。ここでユカリに割り込ませずもう一息吹き込む。
「フミさん、ユカリの演奏に付き合ってあげてよ。先輩は何度か歌ってるから
お疲れでしょう」
「いいえ、私はまだ大丈夫。やっと貴女のリズムにも慣れてきた所だし」やっ
ぱり乗ってきた。
「え、ちょ……」うろたえるユカリの手を取る。
「ね、ユカリ、もう1回聞きたい。ダメ?」そして微笑む。
「……わかった。やる」ユカリは私の右手に意識を取られていた。
「あぁ、もう」フミは目も当てられないと両目を覆っていた。
「それでどうするの? 今からできること?」先輩はユカリの手合わせを知ら
ないが、あの眠気が吹き飛んだユカリを人目に晒すことははばかられた。
「先生、準備室を借りられますか?」
「ええ、でも何をするの?」
「特に何も。強いて言えばお祈りを」
 さっき、特に「準備室」辺りから眠気を失っているユカリの手を引いて、
準備室に向かう。
「私も、同伴しますっ!」フミがそれに続いた。
「え? 3人でお祈り?」
「多いほうが効果があるんですっ」準備室への扉が閉まった。

285 :
 第1音楽準備室は、現役の音楽室へ側仕えするにあたって十分な広さを備
えていたが、人通りはあまり考慮されていないのか狭苦しい場所だった。しかし
ユカリが、夜逃げし損ねた元事務所と評した居候先の従者部屋のように、
転がったドラムスティックでかろうじて音楽への関連を主張したり、数年前の
文化祭で使ったらしい埃まみれの看板がなぜか置かれていたりはしなかった。
 入り口近くに座面が広い椅子を見つける。演奏中の譜めくり担当が静かに
任を果たすためのものだ。
「ユカリ、これまたいで」
「またぐの?」
「うん」ユカリはドサッと座った。
「詰めて」
「う、うわっ」その後ろから同じように私もまたぐ。
「手を合わ……」「イッ」ユカリが震えた。うなじに息がかかってしまったらしい。
 ユカリはバシッと勢いよく手を合わせた。別に私は神社で祭られてたり
しないんだけど。目の前に茶髪のお団子があったので避け、両手を後ろから
回してアゴをユカリの右肩上にもっていく。
「え! あ! え!?」ユカリ、発声練習じゃないよ。
 ……意外と小さく感じた。座高の差は4、5cmくらいだろうか。とはいえ体と
体に余裕が空けられないのでちょっと密着中。あの時こんな感じだったの
かな。頭の左後ろにわさわさとユカリのお団子が当たっていた。
「ユカリ、シニョンが当たってる」
「……」返事がない。再度挑戦。
「ユカリ、髪が崩れるよ」
「……」返事がない。再々挑戦。
「ユカリ、ヒゲが生えてるよ」
「ヴゾッ」手を解いてアゴを確かめるユカリ。
「ウソ」
「トモキっ! ……」ユカリはこっちを向いて凍結した。口から口まで数cm。
目から目まで数cm。胸から背中まで0cm。昼ご飯は食べたのにお腹と背中
がくっついていた。ユカリの怒った顔、いいなぁ。私を見てそれが空中分解
するあたりも最高だ。
「なんで抱きついてるのかっていうと、ここで目を閉じたまま動くと準備室が
散らかるから。向き合えるほど座面広くないし。手を合わせてください」
 反応がない。私を見て固まっている。とりあえず両手をそれぞれ掴んで、
ってまた震えた。私から顔を逸らし、勢いよくシニョンが私にヒットする。
「大丈……ぶ……」またこっちを向いて言葉を失い、前を向くユカリ。
「うん。いいから手を合わせて」
「うん……」
 ユカリは深呼吸をしていた。気を落ち着かせているらしい。そういえば私が
前に、居候部屋に隠れていたときも深呼吸していたな。私のお祈りと似た
ようなもの? でも昨日森の情景弾いた時はこんなに何回もやってなかったし。
「いい?」手を合わせたのを見て聞く。
「おっけー」
 ユカリのお祈りに手を被せていく。本当は指を絡ませるくらいでもいいけれど、
それだとリズムが取れない。今必要なのは他人のリズムだ。
 トントンと指が指を叩く。ユカリの指は封じられ、小手先のイメージは塞が
れる。楽譜がユカリの頭を好き勝手に駆け回る。お腹と背中に体温が溜まり、
胸と肩甲骨に2つの鼓動が響く。今この時だけ、私とユカリは無音でデュエット
を組んでいる。1鍵も弾かず、連弾している。
「も、だいじょうぶ」ユカリの準備が終わった。
「外道」フミの不機嫌が始まった。

286 :
 演奏席に座るユカリ。私とフミは右手を差し出した。
「がんばって」
「うん」握手は堅かった。
「何をしたの?」カシマキ先輩は怪訝な目つきだ。「貴女の言っていたこと
はわかったけれど、ここまでとは思わなかった」
「アガリ性の人が囲まれたので、余計そうでしょうね」
「演奏が終わったら、頭を下げないとね」
「はい、我が自慢の人です。丁寧に歓迎してやってください」
「……わかった。いつか貴女の演奏も聴いてみたい」
「遠慮します」
 椅子も姿勢も整った。先生が両手を構えた。フミと先輩は先生を見据えた。
 ユカリの跳躍が、始まる。
 予鈴が鳴っていた。
「ありがとうございました」
 新入生たちが去っていく。机の1つには入部届。マネージャーにチェック。
とんだマネージャーがいたものだ。この部が名前通りだったなら、間違いなく
エースに違いない。
「あなたも急ぎなさい」先生が急かす。
「先生、ユカリさんを知っていましたね? それと、トモキさんも」先生を
見下ろして確認する。
「いいや、深くは知らないよ。ただ、珍しい子が頭の片隅に残っていたってだけ」
「珍しい?」
「それは本人が扱うべきこと。顧問がズカズカ踏み込む所じゃない。さ、早く
教室へ行きなさい」
「……わかりました」腰まで伸びた髪が、第1音楽室の敷居を越える。今年
の出場は、この瞬間から決定的に変わったのだと、私は思った。
「……」
 そして防音室と言えど、扉際に耳を抱えては、中の会話は筒抜けだった。
つづくない

287 :
とりあえずようやく一区切りといったところ、この後に関しては決めている部分が少なくて進み遅いです(頓挫フラグ)
ていうか他の人のが読みたいですカモォォォン
ピアノや合唱周りのネタは記憶が曖昧なのでやってる人が見ると地雷原(頓挫フラグ)
ここでアンケ、トモキとユカリに注力すべきか、他の面々にもスポットを当てるかで迷ってます
名前すら出てない面子がいるので分量の割に人多いかも、現時点で気になることあったらドゾー

288 :
>>287
先輩ちょっと気になる

とりあえず続き読みたい

289 :
 練習、練習、また練習。ユカリが音楽部で合唱コンクールの伴奏者に任ぜ
られてから3週間が経った。始業前、昼休み、放課後、まとまった時間があ
れば必ず音楽室へと足を運ぶユカリ。ユカリは自分のブランク、そして合唱団
や指揮との相性の両方で、練習を必要としていた。いや、全く合わせたこと
すらない部員たちと、審査にかける合唱をたった2ヶ月で創り上げていくために
は、特訓が必要だった。フミ、カシマキ先輩、葛葉先輩、そして指揮の脇田
先輩もまた、ユカリの跳躍に振り回されない練習が必要だった。時間が刻々
と経過していく。その日が迫っている。その日になれば、全く情け容赦のない
鉄槌が下る。
 我が母校が出場するコンクールは、県、地域、全国に分かれる。前の学校
でなら予選もあったが、進学しても続ける人間は少ない。数校のライバルから
ふるいにかけられる。地域へ進めるのは例年通りなら2校。そしてそのうち1校
には有力な候補がいる。昨年一昨年と2年連続で地域コンクールに出場し、
過去にも何度か全国へ進んでいる、女子校の合唱団。人数はこちらの半分
近く、県内の合唱継続を希望する女子が、まず最初に考える入学候補。
我が校限定のあだ名を“ヤマ”。理由は、顧問教師兼指揮の名字と容姿。
これを聞いたのは、フミとカシマキ先輩からだ。バレー部の副部長が聞けば、
すごくムッとしそうなネーミングセンスだった。
「うーん……」
 始業前の廊下、第1音楽室へ向かう道すがら、ユカリは唸っていた。普段
からユカリは顔に眠気とだるさを隠さない。朝に至ってそれはもうひどい。
「やっぱり疲れが出てるね」
「わかるぅ……?」男子が聞いたら大小様々な感想を抱えて、そのまま転倒
しそうな声色。さすがに音楽室へ着く頃にはいつもの調子に戻っているが、
その前ときたら寝起きとの違いは服装と化粧くらいだ。
「遅寝早起きだとやった分だけ後退するって言われない?」
「後退してもげんじょー維持はできてる」
 楽譜その他をはさんだファイルを危なっかしく揺らしながら、怪しい足取りで
廊下を進む。これが現状。
「ある程度手も休ませないと翌日に響くし」
「喉じゃないからそうやすやすと潰れないよぅ」
 ため息をつく。そして左手を取る。
「!?」両手で包んでさわさわ。
「!!??」手を洗うようにすりすり。
「!!!???」手相を見るように両親指でぐにぐに。
「ーーー!!」「目、覚めた?」こくこく。
「繋いでいく?」「遠慮します……」
 前に繋いで行こうとした時はそれはもう嫌がられた。私の手にねずみがしがみ
ついてると言わんばかりのすごい顔。こうして揉むときはいい顔してくれるのに。
「あのぅお2人さん、私がいること忘れてません?」フミが目の前にドブネズミを
見つけていた。

290 :
「私トモキさんと話があるから先行ってて」
「え? うん……」ユカリを先に向かわせると、フミは私を脇の廊下に誘った。
「ちょっと触りすぎじゃありませんか」フミはいつもながら不機嫌だった。
「自覚はあるよ」
「あるなら尚更です。ユカリはこういうの慣れてないんですからちょっとは
自重してください」睨む顔には諦めも取れた。
「そう言われてもね、ユカリったら手を取るたびにあんな顔してくれるんだ
もん。肩の力が抜けるし、反復したいよ」フミは眉端を下げる。
「反復って……。大体なんで練習見に来るんですか」
「ユカリを推薦したのは私だから」
「最初に誘ったのは私です!」
「嘘ついてね」
「それは、私だけじゃ音楽室で弾いてもらうことすらできないから……」
 フミは視線を床に向けた。
「アガリ性の子を引きずり出す大変さはフミさんの方が知っているでしょうに。
嘘つくのが1番ダメってことも」
「あなたに言われたくありません」ジッと見つめられる。
「どうして?」
「わかってるんですから。トモキさん、ユカリの前で1度もピアノ弾いてない
そうですね」
「第2音楽室を効率的に使うにはね、ピアノに二兎を追わせちゃダメなんだよ」
「私が初めて行った時は席に座ってたじゃないですか」
「居候仲間と来客が連れ立って来たのに、座って挨拶はないでしょう」
「ユカリを説得したとき、自分が候補になることなんて一片たりとも考えてない
言い草でしたよ」
「あの時も言ったけれど、ユカリのピアノを大舞台で聞きたかっただけだよ」
 フミはため息をついた。
「ユカリを音楽部に入れて、カシマキ先輩や葛葉先輩とピアノの話ができる人
なのに、合唱伴奏なんて少しも興味なさそうな顔を当然のようにするんです
よね、ただ『ユカリの演奏が聞きたい』ってだけで」
「そうだよ。フミさん、ピアノだけじゃなくあなたまで二兎を追ってるよ?」
「どういう意味ですか」キッと横目に睨まれる。
「ユカリに触られたくないことと、ユカリを音楽部へ押し付けてるように見え
てること、ごっちゃにしすぎてわけわかんな……」
「どっちもあなたのユカリに対する扱いです! これじゃまるで……」
 そこでフミは言葉を切る。
「まるで……何?」フミの瞳が潤んでいた。唇をギュッと食み締め、ただ喉元
の言葉に耐えている。そのまま何も言わなくなる。
「……フミさん、あなたはユカリに言ったよね、自分が誘って巻き込んだ人に
泥なんてぶつけさせないって」
「言いました。それは今も変わりありません」
「私もだよ。自分から絡んでる人を崖から突き落とすような真似はしない。
私が自分の行動に対して、これだけは誓える」
「あなたの認識が間違っていたとしても、ですか。何一つ知らず、知識もなく、
自覚もなければ準備期間すらない、そんなまっさらな状態でも、そう言い
切れますか」
「むしろそれは前提だよ。フミさん、私はユカリに対して何一つ確たることを
知らないんだ。ユカリが私に手を取られるくらいで合唱と向き合えるとしても、
ユカリは何一つ私に話してはくれないからさ。だから私は、今か今かと待ち
構えるくらいしかできないよ」
「待ち構えて、受け止めきれるんですか。とんだ傲慢です。それに、ユカリ
だってあなたのことを知りません」お話にならない、とフミは顔を下げた。
「さっきも言ったけれど、それも含めて待ち構えてるんだよ」
「……ひどい人……!」
 フミは去っていく。自分の責務を全うするために。
 そして、そこに私は本来要らない。でも私はユカリに頼んだから。私を舞台
に連れて行ってと、そう頼んだから。私は自分が絡んだ人間から手を離し
たりしない。最後まで私は手を繋いでいなければならないんだ。

291 :
 第1音楽室に着くと、ちょうど1曲終わったところだった。
「ともきさん、久しぶりね」顧問教師が出迎える。
「一週間くらいでしょうか、今朝もよろしくお願いします」
「お辞儀なんてしなくていいよ。こちらとしても聴き手がいると身が引き締まる
だろうから。そうでしょう?」
 はいっ! と一斉に宣言され、目を見開く。フミが一瞬こっちを見た後
目を逸らした。
「じゃあ早速聴いて貰おうか。樫牧さん、ピアノに。ともきさんとゆかりさんは
観客席にどうぞ」
「はい」
 カシマキ先輩が演奏席に座り、ユカリが私の座る観客席こと、音楽室の
ありふれた椅子に来る。
「さっき何の話してたの?」
「私がなぜフミさんの手に触らないのかって話」
「フミ触られたかったの?」
「いや、違うみたい。始まるよ」
 脇田先輩が構え、リズムを取り始める。カシマキ先輩がピアノを奏で、
ソプラノ、アルト、テノール、バスがそれぞれの歌を歌い始める。明瞭に、
正確に、声を用いて、歌詞の解釈と豊かな感情とを、存分に口から発していく。
声は重なり交じり合い、1つの差し迫る波塊として私に届く。潜めた声、語る声、
呻く声、叫ぶ声、あらゆる声種がたった2本の腕に指揮され、たった2つの手で
支えられて、私の体を包んでいく。
 曲が終わると、私は無意識に両手を掲げ、それをぶつけ合う。それは賞賛の
ものでなく、披露したことそのものへの感謝。合唱は本来競うことができない
ものだ。人が集まり一緒に歌うだけで成立する合唱に、統一された採点基準や
相互比較の概念は矛盾する。人の声が統一できず、比較しようにも各々の
声はそれぞれが規範となる。各々の歌いたい気持ちを統制し、わざわざ競争に
かけることはない。
 しかし、競わないものは発展せず、競うためには披露しなければならない。
歌わない人々に対して、判断を仰がねばならない。判断するためには、統一
した指向性が必要になる。つまり、上手な、合唱だ。曲を解釈し、感情を乗せ、
正確に発音し、明瞭に発声する。発声方法は統一され、各部各小節のバランス
は細密に構成される。そこから減点し、審査する上で参考にする。
 審査は審査員の投票だ。各審査員の二分された合否が、合唱団の次会進出、
進出終了を決める。県、地域、全国、審査員の違いはあっても、判断方法は
同じ。よって、県と全国に差はない。あるとすれば、自団とライバルの歌唱の差だけ。
県でも全国でも、曲も指揮も伴奏も歌唱人員も、全て同じ。県のコンクールに
出ている最中、相手にしているのは県内の他校だけではない。県外の全国
コンクール出場校までをも相手にしている。県のコンクールでできないことを
全国の場でならできる、ということはほとんどない。出場コンクールの時期によって
仕上がりに違いはあるが、それなら開催日が突然変更になっても同じこと。
歌唱の最高点を開催日に合わせられるか否か。
 すなわち、我が校の合唱団では、県コンクールまでの残り1ヶ月と少しで、
全国コンクールへの出場可否が、6、7割決まってしまう。

292 :
「正直助かったよ。マキは大変だけど、少なくとも私は歌に専念できるからね」
 葛葉先輩ことホノカさんは言った。彼女はアルトで、私の2つ上の先輩だ。
今ユカリが担当している自由曲の前任伴奏者でもある。
「先輩、1つ質問いいですか。どちらかというと答えにくい方の」
 ユカリは質問がある時あまり物怖じしない。考慮と考察が面倒くさいわけ
ではないようだが、受け応えがいちいちイレギュラーな私でさえド直球が恐ろ
しいこともある。
「答えられるなら」
「先輩は伴奏したくなかったんですか?」直球どころか衝突だった。
「……んー、難しい質問だな。別にやりたくなかったわけじゃないんだ。ただ、
私は合唱で歌がやりたくて部に入ったから、どうも指揮や伴奏はしっくり来なくて
ね。だから脇田さんが、今年も両方に他薦されて断らなかったときは、指揮の
方がやりたかったんだな、と思ったし、マキがピアノ弾けなさそうな顔してたのも、
何となくわかるんだよ」
 ホノカさんは顧問や弾けない後輩たちから押し切られる形で自由曲の担当
になった、とフミから聞いている。ユカリを勧誘しているとき強引だったのは、
そのせいもあったのかもしれない。もしカシマキ先輩のピアノ歴が発覚していな
ければ、彼女は2曲とも歌唱で出場できなかった可能性もある。
「フミさんから聞きましたが、昨年度卒業した先輩に、2年続けて伴奏を
やっている人がいましたよね。それも課題自由両方」
 伴奏は無伴奏曲を選べば不要なように、現役部員の担当としては煙たが
られることもなくはない。私には合唱団に入ったその先輩が、自ら両方志願
した理由がわからなかった。
「それは私にもちょっと意外だったんだ。新入生の頃はソプラノでやってて、
それにしか興味なかったらしいから」
「そうなんですか?」ホノカさんはうなずいた。
「なのに翌年から伴奏を受け持ってて。1度理由を聞いたけど、『もし部員
全員と練習できる役割があるとすれば、伴奏しかないんだ』って言ってた。
最初はその意味がわからなかったけど、今ならちょっとはわかる気がする」
「全員と練習できる……ですか」ユカリは何か考えているようだった。
「それであの人が卒業する前、私が去年も伴奏をやってたからだろうけど、
頼まれたんだよ。音楽部の皆と一緒に練習してほしいって。『周りが下手
だろうが、自分が下手だろうが、団の一員だから。伴奏をサボりにかかってたら、
それを皆が真似するから』って。それが妙に頭に残っててさ」
 ホノカさんはその先輩を思い出しているのだろう。その目に酔狂な人など
見る様子はない。
「それで今年も、とりあえず伴奏自体はできるようにしておいたんだ。技術が
ないから、課題曲は4ヶ月やそこらで出来ないけど、去年のうちに決まってた
自由曲ならって。志願したわけじゃないけど、弾こうとする人がいなかったから、
そのいない人の分まで一緒に皆とやりたいな、と思ってさ」
「だから、私が弾いた後即、伴奏をオリたんですか」
「まぁね。顔つきにやる気がなさそうだったとしても、弾き方聞いてれば地道に
やる人だってわかったから。どの道私は代打のつもりだったし、任せられるなら
それでもいいって。これで心配するほど下手なら譲れないけど、そうではなかった。
理由になってるかな?」
「はい、十分です」ユカリは口元から笑みをこぼしていた。
「ならいいけど。ま、できればフミちゃんが引っ張ってきてくれた人にわざわざ
頼むんじゃなくて、私のポジションにマキを充てたかったけど、本人が厭そう
だからいいかなって。マキは私よりずっと上手だから」
「でもいいんですか、半年か9ヶ月か、伴奏の練習、してたんですよね」
 ユカリはホノカさんの演奏席を奪ったように思っているらしい。
「私は歌を歌いに部へ入ったんだよ。音楽部へピアノを弾きに入ったんじゃない。
だから、私はそれでいいんだよ?」ホノカさんは笑いかけた。
「……、ありがとうございます」ユカリは深々とお辞儀をした。
「そんな仰々しくしないで。本番で私の伴奏がトチったらすごい目立つんだから」
 ホノカさんは眉端を落としてユカリを見つめていた。
「ゆかりさん、次お願い」
「あ、はいっ。それじゃ」
「うん、やろうか、ユカリさん」
 顧問に応えたユカリの顔は、かつて見なかった程にほころんでいた。

293 :
 県のコンクール本番まで1ヶ月を切った。梅雨らしい雨もほとんどないまま
夏へと突進する我が校では、既に各教室に備えられたエアコンのファンが
全力で、活動燃料を部屋の住人たちへと供給していた。ニュースではダムの
貯水率が少ないと稲作農家が嘆き、食堂には自販機のアイスクリームを横目に、
おにぎり定食を苦渋の表情で注文するフミの姿があった。
 温度がマイナス域の食べ物は喉の天敵だ。運良く風邪を母なる大地から贈られ
た暁には、数日の練習時間を削ぎ落とされた挙句、治療後に自分の歌唱全体を
再構築するという後悔の尽きない作業を強いられる。人も塵芥も垂れ汗も多い
夏フェス、熱すぎるお味噌汁、お風呂上りの扇風機、熱すぎるジャンクストアの
コーヒー、冷えきった店内で食べるブルーハワイ、咳や悪寒を呼び込むものは
合唱団の仇敵となる。
 歌唱の敵は真夏の友、と宣言した音楽部の顧問は、名前だけヨーロピアンな
御高い氷菓に舌鼓を打っていた。カシマキ先輩はフミに緘口令を発した。
ホノカさんは水色とこげ茶色が賛否両論の台座付き3段氷菓に、危うく現実逃避
しかけていた。私はユカリと、冷奴や納豆に器がそっくりなシャリシャリクリームを、
一緒に掬い食べた。ユカリの口を苦心して開けさせていると、偶然居合わせた
フミの眉間にシワが召喚された。冷凍庫とエアコンはもっと信仰されるべきだ。
「トモキ、1つ聞いていいかな」
 今日は珍しく昼休みに音楽部の練習がなかった。そこで第2音楽室の天使、
エアコンに週1限定の施しを受け、ユカリと2人前のランチサンドを摂っている。
「何? 改まって」タマゴサンドをつまみ上げたところで私は止まる。
「あ、食べてて食べてて。それで最近、ナツヤギさんから、よく睨まれる」ユカリは
眠そうにハムサンドを手にしていた。
「ナツヤギさんて私のクラスの?」
「うん。アルトの」
 ナツヤギさんはフミと同じく部活勧誘時に加入した新入生だった。特に親しく
はないが、ユカリ加入の際に名前を覚えられているので、会えば適当に話をする。
「ナツヤギさんが睨んできて、どうして私に?」
「ナツヤギさん、トモキが来ると喜んでるから」ぶつくさと愚痴るような言い方だった。
「私が? 特に行って喜ぶような仲ではないけど」
「トモキが気づかなくても、ナツヤギさんは何かお腹に持ってるみたい」
 不満なのはわかるけど、それじゃ腹に据えかねているのか根に持っているのか
わからないよ、ユカリ。
「そんなジーンズにちっさいリボルバー挿し隠してる、みたいなこと言われてもね」
「ナツヤギさん粋がって転んでアソコ吹っ飛ばすチンピラじゃないよ?」そこまで言うか。
「ユカリは邪魔そうだね」ユカリは黙り込んだ。少しして話し始める。
「……そうじゃないけど、トモキと毎日会ってるのに、なんで来たら喜ぶのかなって」
 サンドの進みは止まっている。
「うーん、ナツヤギさんとはそんなに話さないからね。私メンバーじゃないし」
 というか私が会ってまともに話す合唱メンバーは、フミ、カシマキ先輩、ホノカさん、
そしてユカリくらいだ。
「視界には入ってる」
「それなら早々に何か私へ言ってくるはずだけど。ユカリを推したことでナツヤギさん
が不機嫌になるなら、いつまでもただ見てるだけって意図がわからない」
「……けでいいのに」「え? 何?」「何でもないっ」
 ユカリはハムサンドを思いっきり詰め込んだ。そしてそれは多すぎた。
「はい、お茶」呼びかけている名前の緑茶を飲み干すユカリ。
「ぷは、失敗失敗」

294 :
「それで、私には原因が思いつかないから、カシマキ先輩に相談したら?」
「先輩?」
「最初にユカリを拒んだのって先輩でしょう。もし私がユカリを推したことで
腹に据えかねてるなら、表立ってユカリの申し出を断ろうとした先輩に話し
てるかも」
「でもナツヤギさん、先輩とそんなに話さないよ?」ユカリはフルーツサンドを
手にした。
「ユカリを睨んでるのに、わざわざユカリの前でコソコソ喋ったりしないでしょう」
「それはそうだけど……」ユカリは腑に落ちない様子だった。
「でも、ユカリが恨まれる理由はないと思うよ。私が行くと喜ぶって意味は
わからないけど、ユカリはもう1ヶ月以上も音楽部の一員なんだからさ。
今更って感じがする」
「眠そうって言ってたくせに……」
「音楽部員が顔で伴奏者を選んでるならそれまでだよ。今ユカリの演奏は
音楽部に欲しがられてるんだから。演奏までダメなら早々に10年連続なんて
諦めてるさ。そんな甘い覚悟でコンクールなんて出ないよ。顔で決まるのは
合唱じゃなくてミスコン」
「……私の顔は求められてないってこと?」ユカリが眉根を寄せた。
「ユカリは音楽部でモテたいの?」
「そうじゃないっ」
「ならいいじゃない。私は眠そうなユカリの顔が好きだよ」
「!!!!!!!!!!!!」
「……あれ? ユカリ?」
 フルーツサンドを手にしたままユカリは固まっていた。
「キウイが落ちるよ」
 微動だにしない。キウイとミカンが1切れずつスカートに落ちる。
「ユカリ、ちょっと大丈夫?」
「えっ、そうだねっ!!!」
「そうだねじゃなくて、落ちてるよ、中身」
「え……」ユカリは自身のスカートを見下ろすと、目を見開く。
「ごめっ、先戻るっ!」
「え、ちょ、ユカリ?」
 ユカリは慌しくスカートの2切れをサンドの包みに投げ込むと、そのまま
まとめて出て行ってしまった。
「もう……なんなのよ」残された私は残ったサンド2つを手早く紅茶で流し
込み、せっかくの居候を終えた。

「やっぱり」人気がないとはいえ、全く居ないわけではなかった。

295 :
「ナツヤギさん」
「トモキさん。話すのは久しぶりですね」
「そうですね」
 次の休み時間、私は探りを入れてみることにした。ユカリの初演奏の際は
怪訝な顔をされてしまったが、今までは特に嫌われている様子がない。
「合唱の調子はどうですか?」
「今のところは順調です。ヨレ気味だったソプラノの同級生たちも今はまとまって
いますし、脇田先輩の出身だけあって指揮とバスの相性が良いみたいで」
 ナツヤギさんは前の学校よりも昔から合唱を続けているメンバーで、同い年
ということもあって新しく入ったソプラノの世話人になっていた。今のパートは
アルトだが、前の学校で声域が低くなりすぎたため転向している。
「それは良かった。なまじ小さく関わったので気になってしまって」
「わかります。トモキさんならいつでも歓迎しますよ。今日は試聴にいらっしゃい
ますか?」ユカリに軽く触れても眉1つ動かさない。となると……。
「いえいえ、いくら張りが出ると言われても、そう何度も足を運んでは邪魔に
なりますから」
「邪魔だなんてそんな、トモキさんなら先輩たちも喜びますよ」
「先輩方が? 最初はカシマキ先輩に睨まれてしまいましたが」
「きっかけはともかく、今は仲が良いではありませんか。あなたもピアノを弾く
のでしょう?」
「いえ、現役の部員さんに自己紹介するようなものではありませんよ」
「カシマキ先輩が演奏、聞きたがっていましたよ?」
 やはり眉を動かさない。ユカリが睨んでくると言っていたけど、顔に出るほど
悪く思ってはいないってことかな。あるいはカシマキ先輩か誰かがガス抜き
してくれているのか。ちょっと踏み込もう。
「あはは、ユカリの演奏で十二分ですよ。最近は先輩方とも合ってるみたい
ですし」
 顔が強張った。やっぱり癪に障る所があるんだろうか。
「ユカリさんには本当に助けられました。良い人を薦めてもらって、ありがとう
ございます」
 社交辞令にしては仰々しい言い方だ。ユカリは即戦力というわけではなかった
し、練習中も何度かナツヤギさんは戸惑っていたはずだ。
「いえいえ、強引に引きずり出してしまったようなものですから。大舞台のユカリが
見たくてつい口が滑ってしまって」
「友達が活躍できるならそれを見たいと思うのは当然のことですよ。会場でも
歓迎しますから」
 ここまでかな。勇み足を入れると的になるのはユカリだ。
「それはどうも。楽しみにしています」

296 :
 その日の放課後、私は第2音楽室で人を待っていた。暑い日が続くとはいえ、
西日が入らずエアコンが1度稼動している教室は、猛暑と言えるほどでもない。
「来ていただいてありがとうございます、カシマキ先輩」
「いいえ、今日は先生が出張でいらっしゃらないから。それで、何のお話?」
「ユカリとナツヤギさんのことです。ユカリから、ナツヤギさんが時々私を睨むと
相談を受けまして」
 カシマキ先輩は不可解だと顔に出した。
「ナツヤギさんからは特にユカリさんに関して聞いていないけれど、いつからなの?」
「特に時期は聞いていませんが、入部してすぐというわけでもなさそうです。
もう入部して2ヶ月近く経っていますから、練習を共にしていくうち、何かナツヤギ
さんに睨ませるようなことがあったのではないかと」
「ひょっとして、私が最初糾弾したから呼んだの?」カシマキ先輩は心外そうに
言った。
「いいえ、ただナツヤギさんがユカリの加入に関して文句や愚痴を言う相手が
いるとしたら……」
「先立ってユカリさんを追い出そうとした私、ということね」先輩はため息をついた。
「……初日に謝った時は見ていたと思うけれど、あれからユカリさんにはもう1度
謝ったのよ。自分だけの印象に捕らわれて、ユカリさんの志願してくれた気持ちを
考えていなかったって」
「あの時はユカリの言い回しも悪かったですよ。枯れ落ちたものから自分なりに
肥やす、なんてこと普通は思いませんから」
「正直に言えば、ひどく堪えた。ユカリさんが言ったことで、私は自分が伴奏を
どう考えていたか丸裸にされたから。その上部員で囲って追い出そうなんて」
 悔しそうな顔だった。私が改まって呼び出したため、悄気返ってしまったらしい。
「フミさんも多分言っていると思いますが、囲んだのはともかく、先輩がユカリの
姿勢を疑ったことは間違ってません。一夜漬けだと知らなかったなら、たとえ
見た目だけでもあんな言い方で志願されては嬉しくなかったでしょう」
「よくわかるのね。そうして私は見た目で演奏者を判断したの。音楽に携わる
人間が絶対にやってはいけない事をね」先輩は自分の目耳に節穴と名付けて
嘲っていた。
「見た目を整えずに志願しても心証を好くすることはできませんよ。単にその結果
生まれる個々人の相性の問題です。合唱では相手の鍛え上げた歌声が自分と
合わない、なんていちいち深く嘆かないでしょう?」
「真っ先に出て行って真っ先に嘆いていたら、呆れ顔の矛先になるだけじゃない」
「先輩が最初に言わなくても、誰かが言っていたと思いますよ。ナツヤギさんが
そうかもしれませんし。ユカリは顔つきで誤解を受けやすいから」
 カシマキ先輩は少し迷った後、話し始める。
「言い訳するわけではないけれど、私はホノカさんが伴奏の席に据えられた時、
真っ先に止められなかったの」
「顧問や先輩方が寄ってたかって“説得”し続けたそうですね」……あ。
「あの時私が申し出ていなければ、ホノカさんはアルトとして舞台に立てなかった。
でも、歌えるのは課題の新作1曲だけ。あの自由曲はホノカさんが『自分でも
何とか仕上げられる』と保証したから決まったの」
「歌唱ではなく、伴奏で決めたんですか!?」
「おかしいでしょう? 私は無伴奏の曲を候補へ挙げ続けたのに、皆ホノカさん
に全部投げちゃった。一昨年昨年と無伴奏曲のヤマと正面から争って、
地域コンクールに進めそうな曲が難しいからって。現役部員の選曲指揮伴奏
が10年目ってことで、皆気負っちゃったのね。私も皆と1度コンクールに出ては
いるけれど、まだ1年目だったから、うまく立ち回れずに皆を説得することが
できなかったの。あ、これフミやユカリさんには黙っておいてね」
 何もかもが逆転していた。結果としての10年目が前提に、結果としての地域
進出が目標に、結果としての伴奏ありが圧力に。

297 :
 ホノカさんが演奏できる曲を基準に選べば、伴奏付きという枷が、そのまま曲の
選択範囲を狭める。それを理由にして、高難度な曲を候補からわざと切り落と
していく。地域進出を狙える平易さを誤魔化して、ホノカさん“のせい”にした。
 フミやユカリはとんでもない年に入ってしまっていたんだ。
「唯一の救いは、昨年ご卒業なさった伴奏の先輩が、ホノカさんに裁量を与えて
くれたこと。あの先生もそこだけは保証してくれたし、先輩に至っては、『ホノカさんが
決めた曲に文句を言ったら、卒業した後でも校舎まで怒鳴り込む』なんて脅しを
かけていたから」
「それでユカリが来た時あんなに辛辣だったんですか」
「ええ、これは聞き流してほしいのだけれど、ピアノの合奏経験すら疑っていたの。
今思えば、ユカリさんの態度がホノカさんの気持ちを踏みつけている気がしていた
のかも」
「まったく、そんなことで熱くなってたの?」
 2人同時に向いた。第2音楽室の入り口、教室後方ホワイトボードの側に、
ホノカさんがいた。
「ホノカさん、これは、あのっ」
 歩いてくるホノカさんにカシマキ先輩はすっかり取り乱していた。
「とりあえずマキは1度息を整えなさい。喉と肺に関しちゃ私たちがテダレなんだから」
 いつの間にか音楽部員が手足りた刺客になっていた。
「お久しぶりです、オノカさん」
「久しぶり、それと私はホノカだよ。私フランス人じゃないから」
「あれ、フランス語習ってませんでした?」
「蒸し返さないでよ、わかったわかった、Je voulais manger de la glace!」
 街で出くわしたホノカさんが、3段氷菓でお腹いっぱい危機の言い訳に、
斜め向かいのフランス語教室を指し示したときは驚いたものだ。
「あはは、県コンクールが終わったらちょっとだけ食べに行きましょうね」
「いやいや地域のに出るなら初っ端気が抜けることしちゃダメでしょ」
「それもそうですね。ところで、落ち着きましたか?」
「え? ええ……」カシマキ先輩はまた悄気返っていた。
「というか、見えていたなら言ってくれてもいいじゃない」いや、これは拗ねている
の間違いだ。
「人差し指を唇に当てられましたし、途中からホノカさんの話に釘付けでしたから」
 そう言ってホノカさんを見る。
「そうだね。あの選曲は皆が不必要にやたら気合を入れていたから、私が演奏
できるんですか、って突っかかっちゃってたし。去年の伴奏には志願していたから、
ある意味自業自得だ」
「そんなことありません! 無理だってホノカさんが言っているのに、まだ発表すら
されていない課題曲を押し付けようとしていたのは、自分で弾かない人たちなん
ですよ!?」
「弾けないからこそだよ。この話は11月に終わったと思ってたけど?」
「ホノカさんが言っちゃった私に呆れて打ち切ったのが最後です」
「よく覚えてるね。確かにアレはひどかった。弾けるってわかった途端、マキが
怒ってたの放っぽりだして、マキが挙げてた中で伴奏付きの難曲候補、
押し付ける前提で急に引っ張り戻して考え始めるんだもん。先生は口出さないし
もう尻軽もいいとこ……トモキ?」
「私は部外者ですので」
「メルシー。それで結局、忙しい先輩がわざわざ音楽室へ怒鳴りつけに来てくれたよね」
 カシマキ先輩は思い出したのかため息をついていた。
「あ、脅しじゃなかったんですね」
「部活をやっていてOBに怒鳴られるって、不名誉どころじゃないもの。現役のうち
ならまだマシ」カシマキ先輩はスパッと両断した。
「私にはE#とFくらいしか差を感じませんが」
「それもそうね」
「いやまったく」
 3年並んで3票の共通見解が得られた。

298 :
「それにしても、マキがそこまで真剣に考えてたなんてね」
「当然です。弾き手に弾けって命令することがどれだけ失礼か皆わかって
なかったんですから」
「吹奏楽部で打の人を楽そうって言うようなものだし、気持ちはわからなくも
ないけど、私はマキがもっと早く申し出てくれればな、と今更後悔してる」
「……っ、すみません」カシマキ先輩は腰を曲げた。
「だからそんな仰々しくしないでよ。11月にその話は済ませたでしょ。そうじゃ
なくて、私は一度伴奏に連弾で出たかった、と思ってね」
「連弾……ですか?」カシマキ先輩には全く覚えがなかったようだ。
「うん、伴奏の形は歌唱の聴き取りを邪魔しなければ自由だから。どこもピアノ
1人から変えないだけでね。先生に1度聞いてみたけど、申し入れて楽譜を
提出すれば通るみたいだよ?」
「それではユカリさんと……?」カシマキ先輩は目に見えて落ち込んだ。
「何言ってるの、マキに決まってるじゃん」カシマキ先輩は目に見えて背筋が
伸びた。
「えっ、でもそれでは課題曲の伴奏が」
「……10年目の伝統とか、2年とちょっとしか部にいない私には、どうだって
いいんだよ。そんなことより、マキと一緒に歌う方が大事」
 ホノカさんがマキ先輩の方へ向かう。
「ユカリさんが来てくれた時、私は腕にかまけて、なんてもったいないチャンス
を逃したんだろうって、そう思ったよ」
 ホノカさんが、マキさんの前に踏み出す。
「少なくとも私を出汁に、ユカリさんを追い出そうとしてたとは思わなかった
けどね」
 ホノカさんは苦笑した。
「……申し訳ありません! 私勝手にこじつけてフミとトモキさんが連れて
きてくれた人にひどいこと……え?」
 ホノカさんの少し小さな背が、マキさんの側に寄る。ユカリより少し低い肩が、
マキさんの胸を覆う。マキさんの左肩に、ホノカさんの額があてがわれる。
 ホノカさん、葛葉穂乃香さんは、マキさん、樫牧真紀さんの背中を、
両手で柔らかく引き寄せる。
「真紀、ごめんね、私がもっとピアノ上手だったら、真紀が伴奏弾くこと
なかったのに」
「穂乃香さん……いいえ、私っ……弾けるって言ったこと……後悔して
いませんから……」
「あの人ら相手に、うまく立ち回る、なんて、入って半年だった人が、言う
ことじゃないよ。9ヶ月も秘密にして、片方歌えなくなったんだよ? 真紀は
もっと、怒ってい……」
「やめてください! ユカリさんが来るまでの私なら、少しはそういう気持ちが、
あったかもしれません。私は貴女と同じく、歌うために、入りましたから。
でも、私は私で、満足したいこと、できましたっ。このコンクールで、私は、
穂乃香さんの歌を、支えたいんですっ。穂乃香さんが、自分の腕と天秤に
かけて、それでもなお、好きなように選んだ曲を、一緒に、合唱したいんですっ。
我が音楽部は、全員揃って、合唱団ですから!」
「……ありがとう……!」
 穂乃香さん、真紀さん、2人はすぐそばにいた。ピアノのそばで、ずっとお互いを
支えていた。コンクールまで、1ヶ月を切っている。2人にとってのコンクール。
伴奏と、歌唱。2人の合唱は、今ここに始まった。

299 :
「付き合わせちゃってごめんなさい」
「ナツヤギさんについては任せて」
 ホノカさんとマキさんはそう言うと、第1音楽室へ戻っていった。既に
いつもの練習終了時刻に近かったが、そのまま帰宅では礼儀を欠く。
「弾けるって言ったこと、後悔してません、か……」
 第2音楽室。西日こそ差し込まないが、外は既にオレンジ色。
 演奏席に座る。蓋を開く。当て布を脇に置く。
 座面を下げる。椅子を動かす。足をペダルに。
 構える。
「……」

 走る。
 捕まえる。振り向かせる。
「あなた、誰?」
 茶色のポニーテールが、揺れていた。

つづくない

300 :
おつあげ。

>>299
長めなのでこれからゆっくり読ませてもらいます。

301 :


青春だなぁ
ちなみにガチで百合になる予定あるの?このままソフト百合な感じでも全然良いけど

302 :
ユカリ視点というかちょっとしたスキンシップされるユカリ視点が見てみたい

303 :
 走っている。
『ユカリ、ちょっと大丈夫?』
 いいや、ぜんぜん。
『ユカリは音楽部でモテたいの?』
 考えたこともなかった。
『私は眠そうなユカリの顔が好きだよ』
 走る。振り切る。
 彼女の笑顔を、彼女の振る舞いを、彼女の一挙手一投足を、振り切る。
「なんで……」
 昼休み、立ちんぼ学生の間を走り抜けて。
「なんでぇ!?」
 言葉を洩らす。
 自分の鼓動に、怯えながら。

 彼女の物語
 Dal "Drunken Doe"

 おっきい。
 最初に彼女を見かけたのは、小雨の降る入学試験。筆記の教室分けで並ぶ、シ
ート敷きの体育館、その列でのこと。受験票を列分け担当の先生に見せ、列後方
から最後尾に並んだ。その場に少しだけ異質な姿。
 制服じゃない。フォーマルな姿。うなじまでのショートに、黒いパンツスーツ。
襟の色からして、下のブラウスは薄めの青だろうか。体を傾ければ、黒いローヒ
ールのパンプスが見えた。左肩にはキャメルのショルダーバッグ。上様と書かれ
た領収書が入ってそう。
 先生か試験スタッフのはずが、彼女は列に並んでいる。いくらなんでも就職の
面接先を学校と間違えるだろうか。今日は学生の受験日であって、先生の採用試
験はなかったと思うけれど。私と同じ列で、たぶん同じ教室。同じ部屋で受験す
る、学生。受験にパンツスーツで来る、私と同い年。
 6人ほど挟んでも私の視界は遮られず、彼女の後ろ姿を見つめ続けることがで
きる。私の4つ前に立つ受験生が、斜めに体を傾けて前の列番看板を確認してい
る。たぶん、ここにいる全女子学生の誰よりも、背が高い。
「すみません、貴女は今回受験する方ですか?」
「はい、そうですが」
「受験票を見せていただけますか」
「こちらでよろしいでしょうか?」
「はい、……確認しました。失礼しました」
「いいえ、自分でも紛らわしいと思いますから」
 私の並ぶ列の担当教員が、わざわざ彼女に確認していた。声は少し低めだけど、
それ以上は遠くてわからない。先生からも見間違われるなんてよっぽどだ。来る
途中で制服に泥でも撥ねかけられたのかな。
「それでは5番の列に並ぶ皆さん、ついて来てください。」

304 :
「では奥の列から順に詰めて着席してください」
 教室に着き、前方2列目の中ほどに座る。鞄を横に置き、筆記用具と受験票を
机の端に置く。ふと斜め前を見ると、1列目に彼女が座っている。パンツスーツ
の彼女が、受験票を机に置くところだった。私と同じ作業をしている。たっぷり
と要点をメモしたノートを眺めたり、色々書き殴った暗ペを唇だけで読み直した
り、彼女は私と同じく、紛れもない受験生だった。
 脚が長い。ヒールの高さはどうあれ、モデル体型にパンプスは反則だ。長髪ま
で伸ばしてスカートを穿いて、ブラウスを白に換えて4cm高のスクエアヒールを
履けば、そのままスーツのCMに出てきそう。いや、本当にモデルとしてやってな
いかな。
「あの、すみません」
 横から囁き声がした。
「その、消しゴムを貸していただけませんか」
 黒のくせっ毛を後ろで縛ったその人は、私の机に並ぶ3つの消しゴムを見つけ
ていた。
 その後、貸しのある彼女は、合格発表の会場で、春日フミと名乗った。
 結局パンツスーツの彼女からは、あの職員室で再会するまで、名前を聞き出す
ことができなかった。
 噂ならあった。常時スーツ、モデル、アスリート、教室警備員、学校で事務員
のバイトやってる苦学生、役作り中の女優、実はサバ読み、実は背伸びした年下、
中には制服アレルギーなんて説まであった。しかし、ブレザー姿の彼女と話した
人が言うには、特に変わった経歴はないと言っているらしい。出身校は遠方との
こと。モデルや女優、アスリートなんて評判は、彼女の容姿にしか出所がないの
だろう。
 目立つ人はそれだけで話題にされる。バレー部副部長、先ごろ進級して1つ上
になった、アキノ先輩もその1人。バレー部は去年の戦績から、部員の平均身長
が足りずに悩んでいるようで、バレー以外の運動部経験者はもちろんのこと、目
測で体格のある新入生に声をかけては断られていた。
 その目下最高身長のターゲットが、あのパンツスーツの人。彼女が面接でどう
話したのかは知らないけど、彼女は合格し、私とは違うクラスに在籍している。
そして、登校日4日間ごとに訪問するアキノ副部長を、素気無く追い返していた。
今日で3回目。
「申し訳ありませんが、やはり遠慮させていただきます」
「考え直してくれませんか?」
「自分の適性がバレーにないことは、自分でも理解しているつもりです」
「適性なんて始めた後にしかわかりませんよ、あなたにやる気さえあれば……」
「そのやる気の点で私には適性がありません。前の学校で吹奏楽部の練習につい
ていけませんでしたし」
「楽器の演奏とバレーではまったく違うでしょう」
「脚力や膂力は使いませんが、呼吸や体力が基礎になる点は同じです。もうそろ
そろ諦めてはもらえませんか?」
「……今日はここまでにします。気が変わったら遠慮なく言ってくださいね」
「それはないと思いますが。では失礼します」
「お邪魔しました」
 こんなやり取りを今回で3度も繰り返しているらしい。すでに新年度4月の名物
と目されている。バレー部に新入生が寄り付かなくなっていないか、心配になっ
た。

305 :
「御精が出ますねぇ」
 廊下でフミが話しかけた。出身校が同じらしく、顔見知りだという。
「あっはは、それほどでも。困ったよ」
 私が見上げる先輩は、スーツの彼女より明らかに背が高い。公称174cm。
でも、私より10cmは上回っていると思う。その上、先輩は肩幅まで広い。
「本人にやる気がないなら、入っても腕を腐らせるだけだと思いますけど」当た
りを強めに言う。
「いや、慣れてくるとね、やってる分だけ、自分の腕前が気になりだすんだよ」
 それはやっていて少しでも楽しい人だけじゃないのかな。本人は非体育会系
を自認しているし。
「私たちには勧誘をかけないんですか」
「え!? 入ってくれるの!?」その上これだ。本人が気づいていることを切に
願う。
「いえいえ、私はもう音楽部で申請出しましたし、ユカリは本気で運動苦手み
たいですから」
 あのフミに苦笑いされてる。受験日に消しゴム忘れたおっちょこちょいに。こ
れでバレーの腕前は部のトップ3に入るのだから、人間ってわからない。しかも、
練習漬けというわけでもないそうだ。
「アキノさん、こんなところで油売ってたんですか」
 小柄な体に茶色のポニーテールが揺れている。たしかバレー部の新入生で、
ナナオさんだったかな。
「ナナちゃん聞いてよ」
「また断られたんですね」
「さすが」
「もう3回目ですから」ナナオさんはため息をついた。
「それでは、アキノさん」「うん、またね」
 軽く会釈してその場を立ち去る。
「でもよくめげないよね、アキノさん」フミは先輩のスーツ女子通いに半分呆れ
ていた。もちろんあの人の登校はブレザー姿だけど。
「バレー部、去年ご近所さんとの試合で散々叩き込まれたらしいから」クラスメ
イト歴10数日の隣席から聞いた話を持ち出す。
「そんなにひどかったの?」
「あっちの前衛に170超えの人がずらっと並んでたんだって」
「こっちは?」
「『副部長の一点長身主義』『歩兵団が一騎を狙ってて、騎兵団が一歩兵を
狙ってる状態』『副部長が徹底マークされて、それがわかってたのに手が出なか
った』『相手からは障害物競走もいいとこ』とか酷評だったみたい」
「うわぁ……それは厳しいね」訊いたフミは眉端を落とした。
「皆それがわかってるから咎めないんだよ。だからって体格で部活決めなくてい
いと思うけど」ため息が出た。
「ユカリはそこそこあるもんね。例のスーツの人ほどじゃないとしても」
「中途半端に体格あっても、モデル体型以外は男女ともに人気薄いっス」少し
“潜り”ながら言う。
「モデル体型を視野に入れられる人から言われてもなぁ」フミはわざと軽くかがん
で、私を見上げて言った。
「運動苦手な人間にモデル目指そうとか言っちゃダメ」
「なんで?」
「モデルの仕事は1割がモデル、4割が営業、5割が体型維持だから」
「体型維持って仕事に数えるの?」
「ロコツにポッコリ出てるモデル、見たことある?」
「ないね」
 溜まりに溜まった乳酸の結果こそ美貌の麗人だった。

306 :
「もう1人いる。会ってみる?」
 ほとんど使われていない第2音楽室の話を聞き、早速職員室で社会科のせん
せーに訊けば、逆に同好の人と会うか訊かれてしまった。
「私の知り合いですか?」
「それはわからないけれど、入学試験でスーツ着てきたって、新入生が噂してる
子よ」
「あの私より背の高い人ですか」
「ええ、その子だと思う。どうする?」
 思わぬ接点だった。私と同じ発想に至ったピアノ弾き。音楽部に入部せず、
あの音楽教師に媚を売らず、わざわざ遠方の居候先へと出向く、話したことの
ない人。それがあのスーツの人。モデル体型の人は文化系だった。それもピンポ
イントに、私と同じ趣向の。
「いえ、遠慮しておきます」
「どうして?」
「知らない人に弾くところを見られるのは、恥ずかしいから。自分の腕を曝け出す
のは、誰でも怖いです」
「そう。会わないなら日にちをずらして鍵を渡すよ。週何回くらい?」
 予定を決めていく。お互いの領分を守るために。先生はいないけれど、レッスン
の予約を入れる。もちろん、相手にはそれを知らせる。
 ピアノは1人で弾くものだ。
 合奏なんて、特に合唱伴奏なんて、絶対やるべきじゃない。
 5月、彼女の噂は収束していた。遠方から入学した学生で、特に変わった経歴
も持たない。強いて特徴を挙げるなら、モデル体型にショートヘア。音楽好きだが
楽器はやっていない、私が知っているものを除けば。あと、よく知らない人には素っ
気無く、自分から知り合いを増やす人ではない。
 私は体育で中の下ぶりを晒した後、お昼に自習室でベーグルエッグサンドを食べ
ている。名前は自習室でも、実態は各部屋前横を仕切られた、2人掛けの隠れ家
的食堂だった。衝立に無駄な高さがあるためか、放課後には男女の先輩方が、20
日間に1〜3組程度はキスを目撃されているという。
 教室に戻るのが面倒くさい。なんで体育は選択授業じゃないんだろう。夏でない
とはいえ食事前に走る身にもなってほしい。もう少しすれば体力測定が始まる。
今年は中の下とただの下、どっちに入るかな。
「いつにも増してヘトヘトだねぇ」
 フミには体育で苦を感じない程度の体力があった。その体力と意気は合唱の伴
奏者探しでも発揮されるみたいだけど、芳しい成果は聞かない。
「ご飯前に走らせるなんてセンスのかけらもない時間割」
「いや正解でしょ。動いて食べてすぐ休むって」
「食べて休んでまた休むがいい」
「ちょっとは動かないと服のサイズ増えるよ?」
「フミは何でそんなに元気なの」フミは眉端を落として答えた。
「私の体格だと肥えたらすぐ明るみに出るから」

307 :
「肥えてもフミなら相手いるでしょ」
「相手は今のとこいらないかなぁ」
「どして?」
「いやぁ、とりあえず部活に専念しないと先輩方に睨まれますんで」
「フミは男ウケもいいんだからさっさと合唱団で見つけちゃいな」
「いいなぁ、ユカリは」
「なんでそこでうらやむの?」
「ガールズバンド組んで中で恋愛すると、なぜか演奏の質下がるの知らないんだぁ」
「こじれたりケンカしたりで感情が歌に乗るんじゃないの」
「いいこと風に言ってるけど居合わせる身としては堪ったもんじゃないです」
「ご経験が?」
「当事者じゃないけどね。だから団の中ではちょっと無理かも」
「男女比半々な部活でダメって見つけるのしんどそう」
「それに私にはカシマキ先輩って心に決めた人が」
「オンナじゃないっすかー」
「オンナだからっすよー。ていうかユカリはどうなの」
「フミの相手見つけて口笛吹くバイト」
「古ッ、てか報酬付きな辺りが地味に嫌だ」
「1人1万」
「高ッ、ユカリの相手紹介して、1000円弁当奢るから」
「10万ディナーでウソ教えるよ」
「キャバクラ遊びじゃダメ?」
「ホステスフミじゃん」
「ユカリもちょぉっとお水飲めば相手の名前がポロッと」
「度数のあるお水は遠慮します」
「おさわりOK」
「それ絶対お店違う。歌リクは?」
「デュエット限定で」
「フミテノールパートね」
「下に1オクターブ足らないよ」
「喉だけホルモン追加で。上ミノもあるよ」
「首だけ肥えろって意味?」
「歌には肥えてた方がいいんじゃない?」
「ほとんどのボーカル、細・身だから。大体それ肥える方じゃなくて骨とか内臓
とか全体の話じゃん。カシマキ先輩だって細いし」
「……伴奏兼ねてる人だっけ」乗るとフミは目を輝かせた。

308 :
「そう、すっごい上手いの。去年の文化祭見に行ったときホノカさん……あ、2コ
上の先輩なんだけど、その人ピアノボーカルで、カシマキ先輩がリードボーカル
担当でユニット組んでて、軽音部のイベントに出てたし。人前で弾き語りやっても
大丈夫、とかそれどころじゃなかった」
「弾きながら歌うのって普通に歌うのとぜんぜん違うよ?」
「そうなんだろうけどやっぱりもう1度聴いてみた……」そこでフミが一瞬止まった。
「どうしてユカリがそれ知ってるの」マズった。
「いや、考えてみただけ」ダメだ、潜れない。
「それだと『違うと思う』でしょ」
「知ったかしちゃった」てへへ。
「ユカリがヘトヘトの顔してない」
「食べてるうちに休めたから」
「ユカリは回復してもそこまで変わんないでしょ、私ならともかく」
 目を逸らした。それが策の尽き。
「やってたの?」
「やってない」
「多分水掛けになるね」
「そだね」
 フミは少し迷ってから言った。
「……第2音楽室」
「!!」潜れてない、ダメだ。
「やっぱり」
「尾けてたの」
「ユカリ、放課後用もなさそうなのに、時々正門から離れようとしてたから」
「こじつけです」
「尾けてた方がよかった?」
 黙りこむ。私は態度を決めかねていた。
 伴奏者。フミは、期日の迫る申請締切に焦っていた。
 合唱コンクールについては調べもついていた。この学校から出場するコンクールは、
間違いなくあの県コンクールだ。辻元さんも、ヨウちゃんも、あの女子校に合格した
と言っていた。出場メンバーなら、今年も出てくるはず。だからフミが音楽部に入る
と言った時、私は自分のピアノ歴を7月まで隠し通すと決めた。それなのにこれだ。
「黙ってるつもりはあった」
「なんで? 私ユカリに聞いたよね。すっごい困ってるって」
「できないものはないのと一緒」
「だからって隠すことないじゃない。断るならそれでいいんだし」
「合唱の伴奏者なんて大事な役、あんな必で探し回られたら、断りきれるかわ
からなかったから」
 フミは無表情に言う。
「ユカリ、自覚ある?」
「何の?」
「断りきれるか考えるってことは、やったことあるんだよね」
 ここでも、なのか。今まで私がどんな気持ちで合唱から離れたか。それを一言
で自分から崩すなんて。私はどれだけ馬鹿なんだ。
「ユカリ、私自分がうっかり者で、おっちょこちょいの自覚、あるよ。でも、ユカリに
だけは迷惑かけまいと思ってたんだ。試験の日、ユカリに助けられたから」

309 :
 フミは私を見据えて言った。
「ユカリ、私、知らない間に何かした?」
「してないよ。フミは何もしてないし、私もフミに何もしてない。だから、助け
られたとかそういうの……」
「それじゃダメなんだよ……。私今すっごい楽しいんだ。カシマキ先輩も、
ホノカさんも、ナツヤギさんも優しくしてくれるし、ユカリだっている。もしここ
受からなかったら、私今とぜんぜん違う暮らししてたよ? 忘れ物で目つけ
られて落とされたら、ユカリともあれっきりだったんだよ? だからユカリが嫌な
こと絶対したくないし、それこそ恩がえ……」
「違う、そうじゃない! フミはそんなこと考えなくていい。黙ってたのだって、
私の都合なんだから。フミが何かしたとか、そんなのないから。したのなら、
それは私の隣からフミを追い出したりしないようなことばかりだから。私だって、
フミがいなかったら話せなかった人がたくさんいる」
「私の顔つきとかノリとか、面倒くさいのと最初に付き合ってくれたのは、フミ
なんだよ。自分でもわからないとこは、フミに言われないとわからないから。
それでも、私の好き嫌いに全部正面から付き合う必要なんてない」
「だから、恩返しとか絶対止めて。特に合唱伴奏のことだけは、フミに変な
遠慮させたくなかった。だから言わなかった。私にはフミへ言えないことがある
から。私1人の都合でフミに気を遣わせたら、私が辛いんだ」
 なんでこんなことになったんだろう。どうして私の両手はいつまでもいつまでも
私を追いかけてくるんだろう。1人で弾けさえすれば、十分なのに。フミとは音楽
以外のことで、繋がっていたいのに。それすらダメなの?
 スーツの人を思い出す。あの人はどんな気持ちで第2音楽室を選んだろう。
なんで音楽部に入っていないんだろう。なんで、私に会おうとしないんだろう。
 フミ、なんでそんなに目が潤んでるの? そこまで思いつめることなかったのに。
そもそも、なんでこの学校がそんなに嬉しいの? フミ、私フミのこと何も知ら
ないよ?
「ごめん、ユカリ。私勝手に勘違いして突っ走っちゃって」
「いや、私が黙ってただけだから、謝んなくていい。それに……私は今回伴奏で
参加できないから。だから……ごめん」
 私は無意識に頭を下げていた。最悪だ。自分が可愛くて黙ってて、結局フミ
の頼みを断って、そのうえ気を遣わせるなんて。
「頭下げないで。私の頼みが勝手だったんだから。ユカリに甘えちゃってた。でも、
本当に……ダメ? 私、ユカリのピアノで歌えるなら、とっても嬉しいよ?」
 フミは甘えてなんかないよ。去年のことがなかったら、私は喜んで志願してた。
でも、まともにやってた頃ならともかく、今のあんな演奏でフミに歌ってほしくない。
「フミ、私には言えないことがあるから」
 私はあの舞台を目指していた。県でも、地域でも。でも私の隣には、誰もいな
かったんだ。いたけれど、自分で追い払った。去年の8月に、誓いを立てて。
 だから、私には一緒に合奏したい人も、聴いてほしい人も、本当にはいない。
フミに頼まれて弾くことはできる。でも、フミが本気でやってることに、私が泥を
塗ってしまうから。私のやる気は、枯れ落ちて、水底に潜り続けていて、もう
ずいぶん前から錆びついてる。フミのパーティーに、私の錆びたお皿を使わせたく
ない。私は、自分の枯れ木に縋りつくことを、止められないんだ。
「そっか……気が向いたら言って」
 その日が終わるまで、フミとは一言も話さなかった。

310 :
 あのお昼から、フミとはあまり話をしなくなった。私の秘密、フミの願い。片方
しか叶えられない。私は自分が可愛い。全部フミに押し付けた。どうしようもない。
最悪だ。あの8月と向き合うには、私はあまりに拙かった。合奏してくれる人、
聴いてくれる人。私にはどっちもいない。フミの依頼を受けるために必要なこと
は、2つある。そのままの私とあの舞台に立ってくれる人。そのままの私を聴いて
くれる人。
 でも、合唱伴奏でそれはできない。合唱伴奏は、私そのままでは破綻してしまう。
豪放磊落に任せ、怪力乱神に頼って暴れまわる右手。足首を縛られ、市中を引き
ずり回される左手。そんな伴奏があってたまるか。ピアノコンチェルトで、オーケストラ
の演奏を破綻させるソリストなど聞いたことがない。
 フミの依頼を考えるためには、2人の支えが必要だった。フミは私の演奏をどう思う
だろうか。あるいは、もう1人。私の演奏を忌憚なく聴いてくれるとしたら。
 それは――。
 始業前の職員室。私はあの人を待っていた。正確には、あの人が返し忘れた、第2
音楽室の鍵を待っていた。全く予想していなかったこと。綿密に組まれた居候先の宿
泊スケジュールは、1度の失敗で翌日の私に影響を及ぼした。
 パンツスーツの彼女。もっとも、ブレザー姿がもう定着してはいるけれど、やっぱり私に
はあの姿が1番頭に残っている。ショルダーバッグから筆記用具を取り出す、受験前の
彼女。面接では自分の格好についてどう話したんだろう。遠方とはどこから来たんだろう、
前の学校ではどんな人だったんだろう。
 ……彼女のピアノは、どんな響きがするんだろう。
「あ、来た来た」
 先生が姿を見つけ、私も振り向く。そして、目を見開く。
「昨日はすみません、先生」
 私は、この人の正面に立ったことがなかった。私より少し高い上背、整った目鼻立ち。
ショートヘア。丸みを帯びつつも太さを感じない出で立ち。
 ―― きれいなひと。――
 紛れもなくそう。私が今まで見たこともない、きれいなひと。女優、ファッションモデル、
歌手、アイドル、タレント。私が今まで、写真なり映像なりを通じて接してきた人々。
あるいはさほど多くないけれど、前の学校までに私が直接対面してきた同性たち。
 その誰とも違う、きれいなひと。
「お待たせしてすみません」
 おかしい。わからない。この人が、なぜこんなにきれいなのか。この人の声が、なんで
私の耳に強く響いてるのか。この人の口調が、なんで私の奥深くで反響してるのか。
私の目の前に立ってる人、その人自体が音楽だった。私の装った顔の下から、感覚
を無理やり引きずり出している。この感覚が気づかれないよう、強く装う。引きずり出す。
さらに強く。それを延々と続ける。やがて私は、今までに1度しかできなかった域へと潜る。
 眠りの顔つきに。
「……いいえ、私は間借りの居候みたいなものですから」
 装えてるかな。今までで一番深く“潜って”いる気がする。いつもなら誰も意識して
いないと簡単にここまで潜れる。でも人を目の前にすると、途端に潜りが浅くなる。
話せばさらに浅く。歩きながらなら潜ることも難しくなる。
 でも、私は廊下を歩き、パンツスーツの人と話している。普段なら潜ることすら難し
い。顔つきを装えない。私はそこまで上手じゃない。でも、この人を目の前にすると、
潜らないといけなくなる。深く、深く、さらに深く。顔つきを装う。そうしなければ。そう
しないと、どうなる?
「いっそシャツをびろんと」初対面の話題じゃない。どこの野生人だ。半裸族は家で
の嗜みだろうに。潜る。潜る。まだ浅い。恥ずかしい。ほら、この人だって笑ってるじゃ
ないか。
 これじゃダメだ。この人は、私の目の前に立つだけで、感覚を引きずり出す。ダメだ。
潜って顔つきを隠す。私が前の学校で覚えた、数少ない拙い手。全部吹き飛ばさ
れる。この人の語り口、声色、口元の位置、視線、歩み、動いていく体。なにもか
もが、私の顔つきを引きずり出そうとする。人に見せてはいけない。本当の顔を見せ
てはいけない。私の顔には、やる気のない表情しかいらない。喜怒哀楽なんてもって
のほか。

311 :
 去年の8月、私は最後の年に、務めを果たせなかった。合唱部の、自由曲伴奏。理由
は、事故。演奏の失敗じゃない。知らないおばさんの運転ミス。本番3日前、左太ももの
骨折。完治するまで3日は短い。
 手術の麻酔が切れると、私の喉は呻き声を発した。別に痛みのせいじゃない。ただ、
観てしまったんだ。録画された、私の代わり。呻いた。呻いて呻いて、看護師さんや先生に
本気で心配された。
 親は2人とも激怒していた。はっきり言って、滑稽だった。私がいなくても審査には影響
しない。私の代わりは、私が習っていた先生。私に3年間伴奏の稽古をつけてくれた、
お師匠様。
 先生の伴奏で、私が一緒に練習してきた合唱団は。

 あの学校で初めて、地域への出場を決めた。

 私はお見舞いを出迎えた。病室で必に練習した。顔から、表情を削ぎ落とす練習。
みんな凄かった。本番の合唱。一緒に練習してきたから、録音越しでもわかる。私の同級
生の、3年越しの集大成。出場できるたった2校の枠に、皆は入れた。私は入れなかった。
だって、先生は私より上手だった。当たり前。弟子より下手な師匠がいるものか。
 圧倒された。圧迫された。
 私は地域コンクールで一緒に出た。目立つ失敗はあった。みんなにあれだけ迷惑かけて、
その上あんな失敗なんてしたら、合わせる顔がない。いや、ずいぶん前から顔なんか合わせ
てなかった。みんなが見ていた私の顔は、装った顔だったから。
 コンクールの結果は、銅賞。3校の1校。次には進めなかった。
 後で公開された審査員の評価。
『……の途中までは歌詞の情緒に囚われたのかリズムが乱れていましたが、
 そこからは良くなりました。指揮の人にはより一層の努力を期待します……』
 潜る、潜る、潜る。伴奏は審査に入らない。そんなの、どうでもいい。
 同級生はなぜか満足げ。年下の部員たちも。そんなの、どうでもよくなった。
 だって、地域での合唱は、県のより気が抜けていたから。
 録音越しで観たから、勝手に美化していたのかもしれない。私が呻いた分、みんなに
期待しすぎていたのかもしれない。でも、私は気が抜けた合唱を、とても聴いていられ
なかった。私の同級生は、もっと上手だったはずなのに。浮き足立って、練習のときより
ひどかった。一番浮き足立った指揮の後輩が、無茶を散々やっていた。こんなラフで、
全国なんて無理。
 私は、みんなが気合を入れて出場したコンクールの本番中、怒ってしまった。気が抜け
ていたから、勝手に怒りをぶつけたんだ。演奏中、私の演奏は本来のものへと戻っていく。
みんなに合わせて、3年もかけて矯正してきたリズムの拘束具が、3年間みんなを守って
きた防護盾が、一気に凶器へと変わる。
 指揮の後輩が真っ青になっていた。一番私に近いソプラノの辻元さんとヨウちゃんが、
最初にこっちを見た。その瞬間まで、私の友達だった2人。合唱は崩壊していない。
みんな一瞬指揮を追おうとして、そして諦める。こんな演奏は練習になかった。私は
指揮の後輩よりもリズムに正確で、そして合唱団の誰よりも冷たいリズムの持ち主だった。
みんな誰一人、もう指揮を見ていなかった。私の伴奏は、怪力乱神をもって正確に煽導
した。みんなの歌唱は、喉笛を掴まれて引きずりまわされた。

312 :
 本番前、私から言えるわけがなかった。
 出られなかったのは、私だから。
 私は、歌うメンバーじゃないから。
 私は顔を装う。隠すわけじゃない。ただひたすら削ぎ落とす。潜る。
 そうしなければ、耐えられなかった。
 わざわざお見舞いに来てくれたとき、私はこう言った。眠りの顔つきで。
 みんな、地域出場、おめでとう。

 だから、練習する必要がある。この人のそばにいて。
 私の手段を守るために、私は1年前、あの8月の誓いを破る。
 最後に誰か『と』人前で、本気で弾いたのは、2年前。やっぱり8月。
 フミは私の暴れぶりを耳にしてもなお歌ってくれるだろうか。
 この人は私の暴れぶりをそのまま聴いてくれるだろうか。
 今までにいなかった人。きれいなひと。
 私が合唱伴奏をしていたと、知らない人。
 私が合唱伴奏をし損ねたと、知らない人。
 この人の前でなら、私はまたあの椅子に座れるかもしれない。
 フミの前でなら、私はまたあの鍵盤に向き合えるかもしれない。
 ピアノは1人で弾くべきだ。でも、聴く人まで1人に限る必要はない。
 だから。
 まずこの人にだけは、私が潜っていることを伝えよう。
 練習に、付き合ってもらおう。
 聴けば1度でわかる。だから誰の前でも弾けなかった。
 でも、この人は立っているだけで、私に弾かせようとするんだ。
 私の両手から、私の顔つきから、表情と演奏とを引きずり出そうとするんだ。
 私は、この人のピアノが聴きたい。
 潜らずに、この人へ弾いてくれた感謝を伝えたい。
 でも、それには私が潜っていると、伝えなければ。
 装っていると、伝えなければ。
 だから、私はこの人に。
 トモキに、私のピアノを、聴いてほしいんだ。


つづくない

313 :
長くなってきたのでおさらい
トモキ
 第2音楽室でユカリと居候している新入生。ユカリを音楽部へ送り出す。
 173cmの長身にショートヘア。文化系のお祈り好き。パンツスーツの女。
ユカリ
 第2音楽室でトモキと居候している新入生。眠りのお団子さん。生まれつきの茶髪。
 音楽部の混声合唱団で自由曲伴奏を担当。弾くと酔っ払う。シカの右手を持つ女。
フミ
 ユカリのクラスメイトで音楽部合唱団のソプラノ。黒髪のくせっ毛。
 紙の橋を踏み抜いて走るおっちょこちょい。ユカリに伴奏を依頼する。
カシマキ先輩
 トモキの1つ上で合唱団のソプラノ、兼課題曲の伴奏担当。ホノカさんっ。
 トモキと似た体格の黒長髪。最初はピアノ歴を隠していた。ユカリを追い返そうとした。
ホノカさん
 トモキの2つ上で合唱団のアルト。元自由曲伴奏担当。名字は葛葉。
 以前課題自由両方の伴奏担当にされかけた。仏語は習っていない。
アキノさん
 ユカリの1つ上でバレー部副部長。トモキを部に強く勧誘するが断られる。
 公称174cmの長身でサバ読みの噂あり。バレーに秀でるが鈍感。フミと顔見知り。
ナツヤギさん 合唱団のアルトで新入生。ユカリを時々睨む。
ナナオさん 新入生でバレー部。茶髪のポニーテール。アキノと親しい。
脇田先輩 混声合唱団の指揮者で男性。出身はバス。バレエ経験者。
体格……アキノ>トモキ>カシマキ>ユカリ>ホノカ>ナナオ>フミ
制服はブレザーで学年によりタイの色が違う。食堂や自習室(食堂状態)がある。
>>301
ガチな人はいます
スレを開いて自分のレスが並んでると大変恥ずかしいので
誰か差し込んでくださいおねがいしますはい

314 :
>>313
投下乙

ガチな人ってだれやろかw
楽しみ

315 :
超久々に書いたので投下します。

316 :
ttp://www.titleblank.com/page/52385a68e4b06018d864c09a
上のアドレスからどうぞ。女の子を買う話です。R-18ですが実用には耐えません

317 :
いやいやいいじゃないか
もの悲しくて

318 :
>>316
GJ

319 :
不甲斐ない僕は空を見た
を思い出した。読みやすくて結構興奮した

320 :
 件の場所、第2音楽室へたどり着く。渡されたカギを開け、部屋の主を見据え
る。これから、私は彼女とピアノの2人と向き合う。“潜り”の調子は悪い。彼女
を職員室で目の前にしてからはずっとこうだ。顔を装える限界はもうとっくの昔
に振り切っている。彼女を見やる。
「お先にどうぞ」
 少し見上げた上背にはショートヘア。私と同じ発想に至った、パンツスーツ改
めブレザーの人。先輩は冗談としても、タイの色を知らなければ錯覚する。体格
だけでは越えられない壁を、彼女は簡単に越えて立つ。私とは格が違う。彼女
ほどの身長がなくとも、大女などと言い出す人間はいる。私はモデル体型以外
の「大女」とやらがどんな扱いを受けるか知っている。でも彼女へ向けられた噂に、
聞き心地の悪いものは少なかった。人付き合いが良いとは言えないにも関わら
ず、だ。
 彼女のことを考えても仕方がない。蓋を上げるのは私、椅子の高さは私基準、
座るのは私、構えるのは私。ここには1人と1台しかいない。正確には2人と1台。
 今日は彼女に、トモキに私のピアノを聴いてもらう。あのおぞましい両手の。みん
なの合唱を正確に泥溜まりへ突き落とし、みんなに銅を押し付けた、私の演奏を。
一切の潜り削ぎなく、ありのまま奏で始める。
 選曲は子犬のワルツ。私の演奏を一番炙り出す曲。私が弾くときは、左手で
しっかり首輪をはめないと、右手がフリスビーを追いかけてどこまでも暴走する。
 右手が暴走し、慌てて左手で楔を打ち直す癖。先生すら投げ出したそれは、
伴奏で参加している間ずっと悩みの種で、ずっとコンプレックスだった。
 2分か3分かの演奏。私の暴走。3年ぶり、あるいは9ヶ月ぶりに私は弾いている。
一切の潜り隠しのない、ありのままの、私のピアノ。もしこれがただの邪道と一笑に
付されるなら、フミの依頼は受けられない。伴奏に参加するなんて、もうできない。
 音が聞こえる。ピアノの残響じゃない。手と手の、打音。彼女を見る。
 笑ってる。笑って、拍手してる。私のピアノを聴いて、手を叩いてる。
 私の喉が動く。心臓が震える。お腹が膨らみ、足元がぐずつく。何か、何かし
ないと。私は手を叩かれてるんだ。今までにもこんなことはあった。発表会、手を
叩く音、笑顔の両親。これは違う。これは、すごく、すっごく……恥ずかしい。
 立ち上がって、スカートをつまんでみせる。それしかできない。あの時は笑いを
取れた。彼女は、微笑むだけ。ああもっ! もっと、恥ずかしくなったじゃないかっ!
 潜り、装い、削ぎ落とす。顔を、乱すな。無理。トモキはどうして私を潜らせて
くれないんだろう。演奏直後も変な顔はしてなかった。邪道ではなかったのかな。
私の演奏、ちゃんと子犬のワルツだったよね。まさかとは思うけど猛犬のパンクだっ
たりしないよね。フミの頼みには言い訳できないのに、したくなるのはなんで?
「緊張する?」うああ!?
「そうでもない。演ってる最中は視界に入らないし」
「枯れ木枯れ葉の扱いとは手厳しい」いやいや枯れ木は私の方でしょ。若木
無視して暴走してた枯れ木が言うのも違うと思うけど。
「多分数万人の前で演るプロもそう見えてるよ」実際は演ってる側も周り見てる
けどね。トモキがこっち見てるとわかってたから見なかっただけで。
「そう?」
「うん。別にプロ自身が観客と一問一答するわけじゃないから。それはロックバンド
のボーカルがやること」目と目の合図はフロントマンの特権であって、私はトモキと
目を合わせたくない。演奏が滞る。
「……ここには2人しかいない」ん、やっぱ2人で居候って変かな?
「正確には1人と1台だけど。弾く?」
「もう一曲聞かせてもらえる?」
 その日結局トモキは一度も弾こうとしなかった。

321 :
 私がトモキと居候することになり、明らかに私の演奏は変化していた。常に突っ
走っていた右手には、段階が付けられるようになった。演奏中に私がトモキのこと
を思いつくと、演奏が緩むからだ。左手まで緩むのは難点だったけど、もともと
右手に追いつこうと必だったから、少しは落ち着いて対応できるようになった。
トモキのことを考えるだけで、右手がふわりと止まってしまう。左手が急ブレーキを
かけて、また歩き出す。走ろうとするたび、私のそばにはトモキがいる。人がいて
緊張してペースを乱すことは、褒められることじゃない。でも、緊張するかといえば
常にそうだった。私はピアノに向かうたび、あの地域コンクールを思い出していたから。
 でも、気がかりが一つ。
「トモキは弾かないの?」
「どうぞご自由に」
 トモキは私が来ている日に1度も弾いたことがない。理由はわからないけど、
私の前でピアノを弾くことを嫌がっている。
「私ばっか練習しても仕方ないよぅ」
「私はユカリが来ない日に弾いてるからいいよ。ユカリが弾いてるのを眺められたら
それでいい。せっかく来た日にヒトの演奏聴いてどうするの?」
「それ、そっくりそのままお返しします」棚上げにも程があった。
「ユカリのピアノは面白いから」えー。
「面白いって、下手ってことすか」
「いや、右手は飛び跳ねてるのに、キープはうまくいってるからさ」
「さっきの曲とか私の弾くような曲で跳ねちゃダメでしょ」月光ソナタで跳ねる
ピアニストを私は知らない。
「そういう意味じゃなくて、片方がどっしり構えてないのに、もう片方が器用に
落とし所を見つけてくるんだよ。ユカリがどんな練習したか知らないけど、時々
片手ずつ別人が弾いてるようにも聞こえる」
 片手ずつ別々に練習した時間は他の人より長いと思うけど、それだけでそうは
ならないと思う。両手どっちも摺り寄せる気がないのに、弾くときになって慌てて
合わせるから、よくそんな風になる。破綻はしないけど何度も何度もそうなるから、
結局片方が追いかけるようになる。浮き足立ったまま、ズルズルと暴走し続け、
片方が追いついたころには、またもう片方が暴走を始める。左右で同じリズムが
取れていないのに、破綻だけはしない。崩壊しないギリギリをおっかなびっくり
突っ走っている。線のギリギリを蛇行しながら突っ走る、スピード違反の暴走車。
「練習ったって、トモキが教室とかで言われたこととそんなに変わらないと思うけど」
 トモキが目を逸らした。
「その……先生とかにはあんまり習ってないんだよね」
「え? じゃ私と一緒?」
「いや、ユカリはちゃんと習ってる人の弾き方だよ。人に倣わないとその弾き方は
できないから」
「私よりサボってたの?」
「どうかな。ユカリがどのくらい練習してきたか知らないし」
「そこまで聞くと聴きたくなってくるのが人情」
「練習サボらないの。ある程度同じ所をやり続けないと身につかないんだから」
「ちょっとくらいはいいでしょ?」
「ダーメっ。第一今日は楽譜ないし」うぅぅ。
「なんで来てるの?」
「ユカリの練習を見に来てるだけだよ」
 またそれだ。私はトモキのピアノが聴きたいのに。私が行く時に限ってトモキもよく
来るから、予定が先生から筒抜けなのはわかる。でも、トモキも先生もトモキの
予定を教えたがらない。
 それに、楽譜は持ってきてるはず。今朝や昼休みは来てないのに椅子の高さが
変わってたから。トモキと私以外で椅子の高さを変える人間なんて、今日びこの
学校では知らない。こんな立地の悪い居候先に通いつめる物好きは……って私が
ものすごい変人みたいだからやめよ。
「8月までには聴かせてね」
「保証はできない」
 ……私間違ってたかな。

322 :
「私のは単に習慣だけど」
 シニョンに触る。数日後、トルコ行進曲を弾く途中から、トモキと髪の話になった。
「前から気になってたんだけど、その色元からなの?」
「うんまぁ。特に染める必要もないし基本のケアだけで放置」
 この髪色は母譲りだ。昔だったら少しは揶揄われただろうから、いい時代に
なったね、とは母さんの弁。もっともその時、私は身長でからかわれていたんだけど。
せっかく長く伸ばしているので切りたくはない、かといって背中の感触は好きじゃない。
まだ小さいころ初めて結ってもらったときは衝撃だった。あの動きやすさと背中の
爽快さときたら! その日のうちに公園を走り回って、途中で解けて驚いて、
背中から転んで砂だらけにしてしまった話は今でも母さんが口にする。結い方を
変えれば着る服もあまり選ばないし。
「染める度髪が痛まないのは羨ましい」
「その代わり、着物着るともれなく新成人だけどね」
「そこまで色薄くないじゃない、綺麗」
 社交辞令でもこの人に言われるとすごく微妙。いや、私の根性が曲がってるのか。
ショートってスタイル抜群の人がやるとなんでこんなにきれいなんだろう。ロングとは
違う意味で体つきに自信がないと躊躇する。
「そりゃどうも」
 その帰り、トモキと一緒に廊下を歩いていると、フミに出くわした。
「ユカ、リ……」
 私とトモキを見てギョッとするフミ。この前の詫び入れからフミとはちょっと気まずい。
ぜんぜん話さないとかそういうことはないけど、フミが音楽部のことをまったく話さなく
なって会話がぎこちない。フミの伴奏者探しはうまくいっていないらしく、課題曲の
担当も一度断られたらしい。
 自分の失策が悔しい。いっそ最初から言って断っていれば、とも思う。人前で
ピアノに触れることから、私は気持ち悪さばかりを抜き出していた。他人の演奏
を侵食して食い千切る感覚。もしフミがあんな横暴な伴奏を知ったら、フミが私
を誘ってくれるかわからない。あの舞台でフミの喉笛が自分の伴奏に掴まれる姿
を想像し、あまりのおぞましさに震えてしまう。
 でも、そのせいでフミと疎遠へ向かうなんて真っ平御免だ。それに、今の私には
ちゃんと聴いてくれる人がいる。弾いてはくれないけど。
「フミ」
 第2音楽室のことは知られている。でも話題になっていた人が私の知り合いだと
フミは知らないはず。トモキはフミを静かに見下ろしている。
「トモキは初めてだっけ、同じクラスのフミ」
「はじめまして、フミさん」
「はじめ、まして」
 フミはトモキを見上げて恐る恐るって感じで挨拶を返す。すぐフミに私の右手を
取られた。
「一緒に帰ろう」フミは強く手を引いていく。特にこのあと用もないので従う。
「う、うん。それじゃあね」
 トモキは片手を挙げて、私とフミを静かに見つめていた。

323 :
「フミ……?」
 声をかけても、私の手を繋いだまま返事をしないフミ。そのまま廊下を進んでいく。
私の手を引く左手は柔らかく握られている。でも私からその顔は見えない。
 校舎から中庭の一角に移動し、ようやくフミは話し始めた。
「ね、いつからスーツの人と知り合いになったの?」
 軽い笑顔。私と話す時の定型作法。でも今はなんだかぎこちない。ぎこちないと
言えば最近ずっとそうだけど、それとはなんだか違う。よくわからない。
「トモキとは同じピアノを共用してる」フミの眉がピクつく。
「第2音楽室で? 他には」
「他って?」
「誰か他にいないの」
「いや、2人だけ。時々私が弾くとき見に来る」またピクつく。
「トモキさんは弾かないの?」
「トモキはなんか嫌がってる。楽譜持ってきてないとか理由つけて。でも私がいない
時は弾いてるみたい」
「そう……なんだ……」
 フミは顔を俯かせた。右手はフミに握られたまま。フミの手は、少し震えている。
「フミはトモキのこと気になるの?」
「噂になってた人がいきなりユカリといたから。理由は聞いた?」
「トモキはなんでか私と同じことを思いついてた。最初は会ってもなかったけど、
たまたま鍵の引渡しで会って、それから時々私のを見に来るんだ」
 フミは顔を伏せったまま訊いた。
「ユカリ、まだひとつ聞いていいかな」
「何?」
「ユカリ、伴奏は無理って言ってたよね。私、てっきり人前に出るのが怖くなったんだと
思ってた。でも、トモキさんの前では弾いたんだよね」
 私には必要だった。ただありのままに聴いてくれる人が。
「うん、トモキは私を見てるのがいいって言ってた。どこが面白いのかわからないけど」
「ははは……」乾いた笑いをこぼしてフミは顔を上げた。また軽い笑顔。
「それと、人前が怖いのは本当。自分の椅子に視線を向けられるとダメ。1人2人
ならともかく、ホールでってなると無理」
「それが私に言えないこと?」
「いや、それはまた別。絡んではいるけど」
 衆目と合唱伴奏の経験。これでフミには伝わるはず。伴奏者を探しているフミが
この理由を想定しないはずはない。本番での失敗を。
「ユカリ、私と一緒に弾くの、怖い?」
「たぶん、フミの歌を壊してしまうから」
「ユカリのピアノで壊れるわけないっ」
「フミは……聴いたことないじゃん」
「私に聴かれるのそんなに嫌!?」
 フミが声を荒げるのは初めてだった。口を食み閉めて私を一瞬睨みつけた後、
その勢いを失って目を逸らす。
「ご、ごめん」
「……違うよ。ただ、今まで他の誰かと一緒に歌ってきたフミに、一瞬でも顔を
しかめられたら、自信の何もかもが無くなっちゃうから」
 フミの方をまともに見られない。言い訳も言い訳だ。ぐずついてふらついて、
フミを怒らせて。どれだけしがみつけば気が済むんだ。私のピアノは私にしか弾け
ないのに。フミの我慢に、自分の両手にしがみついて。
 観る。思う。考える。フミが、音楽部の人たちが、舞台を目にする観衆が、審査の
人が。辻元さんが、ヨウちゃんが、先生が、トモキが。やっぱりダメだ。私があの舞台に
立とうなんておこがましかったんだ。合奏を引きずり回す猛獣。やっぱりトモキが聴いて
くれたのは猛犬のパンクだったんだ。やめよう。ここで断ろう。そうすれば。
「ユカリ、ひとつ頼みがあるんだ。伴奏とは別の」
 フミは私の顔を上げさせた。一瞬ひるんで、右の親指で両頬を拭ってくれた。
「な、に……?」
「ピアノ、弾いてくれない?」
 フミは軽く笑っていた。

324 :
 2日後、私はフミに連れられて第2音楽室へ向かっていた。フミを連れて行くと
は、知らせていない。
 これから、フミに私の演奏を聴いてもらう。私の暴走を。トモキは笑ってくれた。
私の見る限り、顔をしかめたことはない。右手が突っ走り始めても、左手が
必こいて追いついても、トモキの顔は変わらない。潜らないまま演奏したのは、
あの猛犬のパンクが3年ぶり。あれから少しだけ、私のタッチが変わった実感はある。
ほんの少し、右手の暴れに収めを付けられる。今までにこんなことはなかった。
私が制御できたのは左手だけ。ひたすら暴走する右手に、ひたすら追いつく方法
しか探れなかった。でも今は、少しだけ右手が私の思う動きをしてくれる。
私の右手は、今ほんの少しだけ、応えてくれる。トモキがそばで聴いてくれる、
ただそれだけで。
「ユカリ、無理はしないでいいから」
「うん、でも引かないでね」
「引いたりしないよ。私が頼んだんだから」
 第2音楽室が近づく。これから、私はフミに自分を見せる。フミはあの猛獣を
知らない。私を心配してくれるフミ。私と一緒にいてくれるフミ。私を信じてくれたフミ。
そのフミに向けて、私は猛獣を放つ。フミは現役の音楽部員で、伴奏者を探して
いる。私の演奏が伴奏者に向いているか、これで判断を付けるはず。顔をしかめたら、
その時点で私はクビ。退役を志願して、それは快く受諾される。その時、私の両手は
崩れ去る。こんなに振り回してフミを失望させたら、もう第2音楽室へは行けない。
もう、トモキとも会えない。そしてまた、私はピアノソロに戻るんだ。
「こんちわ」
 片手を挙げたトモキに、私は挨拶を返した。
 トモキがいる。フミがいる。私は弾く。
 座面を下げる。椅子を動かす。足をペダルに。
 息を吸い込む。胸に溜め込み、また吐き出す。
 構える。
 私は歩く。分け入る。奥へ奥へ。木立を抜け、枝をくぐり、さらに奥へ。
 牙があった。大きな躯体。睨みつける眼光、逆立つ毛並み。
 疾駆する巨体。深く太いうなり声。その牙はまっすぐに、私を捉える。
 弱々しい足取り。滴る血潮。地の花弁は赤く染まっていく。
 奥へ、奥へ、また奥へ。奥深くには、何があるのかわからない。
 そこは静かで、何一つ煌いていない。地面に伏せる私を、嘲笑いもしない。
 あるのは花だけ。青白い花。赤い赤い花。やがて、それは黒くなる。
 揺さぶられる。背負われている。匂い、包帯、当て木。髪が揺れる。
 暖かな暖炉。揺れる椅子。背負われた後、寝転がされいる。
 揺れる飲み物。温かなスープ。深い深い吐息。
 夜、啼いている鳥。絞められた首。叫ぶような嘆き。
 朝、人を呼ぶ声。夜明けの知らせ。動く人々。荷物の擦れ音。
 昼、太い声。うなり声、荒い息、牙の擦れ音。足早な折り音。
 疾駆する人々。嘆きの叫び。その刃はまっすぐに。獣を捉える。
 揺さぶる。背負う。匂い、縛り紐、吊り木。毛並みが揺れる。
 閉じる扉。離れる家屋。訪れた後、新しい道筋を戻る。
 奥から手前へ。そこが私の場所。枝をくぐった先が、私の家。
 フミの顔が見えた。手を揺り動かすフミ。笑っているフミ。
 トモキの顔が見えた。息をつくトモキ。呆れているトモキ。
 私は踏み出す。トモキ、フミ、聴いてくれた2人に。
 猛獣狩りに付き合ってくれた、私の、大切な2人に。
「いやいやどーもどーも」
 恥ずかしすぎて、それしか言えなかった。

325 :
「やっぱり、あの話もう1回考えてよ」
「却下」フミの提案をコンマ2秒くらいで棄却した。
 やっぱりフミは話を戻した。トモキの心配通り、もう申請締め切りまで2週間を
切っている。ここまでフミが焦っているのに、顧問が何もしないはずはない。
たとえそれが10年目とかでも、出場そのものが危ぶまれたんじゃ話にならない。
「先輩さんにできないなら大人が代わる。それが筋。音楽部は学生の部活で社会人
の集まりじゃない」
 それに、顧問が学生の腕前を下回ることはない。音楽教師にピアノの腕前は必須で、
何年何十年にも渡って、音楽素人な学生たちの合唱伴奏を授業で担当する。
突然任せていた相手が出場できなくなっても、それを上回れるくらいの度量と実力がある。
「フミ、先生はもう伴奏、自分か他の誰かに頼む気なんじゃないの?」
 フミは私を見ている。でも、私を見返せてないよ。
「喜び勇んで私が出て行って、本番前から部員に囲まれて恥かいて、挙句元々いりま
せんでしたー、じゃ通らないよ」
 自白したフミに、私は情け容赦をしなかった。さっきは恥ずかしくてたまらなかったのに。
フミは私の理由をほとんど知らない。でも、代役の巨木をへし折って、枯れ木同然の
噛まれ木で柱を用立てるなんて、現役部員がすることじゃない。私はフミから視線を
外した。
「……恥なんて、かかないよ、ユカリは」
 太く、うなるような鳴き声がする。フミの眼光が、私に向いていた。
「いや、かかせないっ。絶対」
 一頭の獣がいる。私の目の前で、毛を逆立てている。
「私が誘って巻き込んだ人に、泥ぶつけられてたまるもんですか」
 誘われてるのが私で、泥ぶつけてるのは私じゃないよ、フミ。
 合唱伴奏に必要なのは合唱の補助。いくらピアノソロがフミにとって大丈夫でも、
今年の曲目とは関わりがない。いくら私が両手を御せたとしても、私より上手な先生が
弾くのに比べれば当然雲泥の差がある。
 私が念押しで断ろうとしたとき、トモキが割り込んだ。
「ユカリ、私はフミさんの案に賛成するよ」
 潜る、なんで、潜る、どうして、潜る、そんなこと言うの。トモキ、私を見るだけで
よかったんじゃなかったの。楽譜持って来てないなんて嘘ついて、それで私の演奏を
聴いてきたトモキが、どうしてフミの案に賛成するの。トモキは私の演奏を聴いて
何も感じてなかったの。
「……どして?」
 自分で言って驚いた。私こんな声出たんだ。
「理由は2つ」
 トモキはフミに楽譜を出させた。見るのは今回が3度目だ。前の2度は、フミが私の
ピアノ経験を知らなかったとき、そして、知られた後ナツヤギさんに頼んで見せて
もらったとき。
「どう?」
 答えは見ずともわかってる。課題曲は無理。でも自由曲は、なんとか仕上げられる。
ちゃんと弾けるか2度も眺めて、借りた楽譜を家で試してしまった自分が恨めしい。
フミから聞いた解釈だと、この伴奏は私に向いていない。さっきの『森の情景』で
うまくいったのはまぐれもいいところ。本番で右手を御せなかったら、あっと言う間に
突っ走ってしまう。あの地域コンクールの二の舞だ。
 さらに、課題曲は先生かフミが言っていた先輩にやってもらうしかない。こればっかりは
期間も経験も不足してる。ていうかこれ、明らかに先生かその学部行ってる人用でしょ。
何考えて部員に丸投げしてるんだろう。先輩、顧問に練習押し付けられてるのかな。
まだ決まったわけじゃないとか言われて。

326 :
 で、トモキ。「私はまだ2つ目の理由を聞いてないよ」
 私はトモキを見つめる。さっきの『森の情景』で、私は右手の暴れ方をある程度
収めることが出来た。結局全編弾いてしまったけど、それに見合う見通しは立て
られた。本番の伴奏で出来れば……たぶん、あの時怒りに任せて、みんなの合唱を
壊した私を、ちゃんと出迎えられる、と思う。
 でも、これはただの自己満足だ。フミをはじめ、音楽部の合唱団を余所者の埋葬に
付き合わせるわけにはいかない。失敗すれば間違いなく私はフミを失う。そして、
トモキも。自分の両手に、大切な2人を食い荒らされる。
「2つ目の理由は」
 トモキ、私はずっと怖かったんだ。トモキに、自分のやってきたことを訊かれるのが。
私がタブーを踏み破って合唱をぶち壊しにしたことを。音楽に携わってるトモキが
気持ち悪く思わないか、ずっと考えてきた。初めて第2音楽室の居候仲間と知った
ときから、初めてあの「子犬のワルツ」を聴いてくれたときから。ずっと、ずっと、私は
自分の両手を、自分で泥に浸してたって、わかってたんだ。私のピアノは私にしか
弾けない。どんなに下手でも、どんなに乱暴でも、私の両手は私を見上げて、
じっと見つめ続けてたんだ。私が自分の両手をどれだけ高く見積もってきたか、
どれだけ甘えてきたか。どれだけ壮大で、どれだけ仰々しく考えてきたか。トモキは
それを、たった一度の拍手で晒し者にしたんだよ?
 あの場所、あの舞台、あの観衆の前で。トモキ、もし私がそこで、ちゃんと最後まで
合唱伴奏を弾き通せたら。その時は、その時は。

 そこで私のありのままを、見ていてくれる?
「舞台で躍る、ユカリが見たいんだ」
 
 眉が浮く。頬が緩んで、喉が動く。
 足下は揺らぎ、腰は震え、胸が鳴り響く。
 何これ。これ何。トモキは、私の、何。
 体も、顔も、何もかもが熱い。
 息が続かない。トモキを見られない。
 何これ。これ何。これ、知らないよ。
 トモキは、私にとって、何。
「わかった。フミ、私、伴奏引き受けるよ」
 私に言えたことは、それだけだった。

327 :
「え!? 明日ぁ!!?」
 私は自宅で受けたフミからの一報に、肝を沸騰させていた。
「ご、ごめん。まさか先生があんなに早く話進めるとは思ってなくて」
「ちょっと待って、私楽譜見たばっかりだよ? それでいきなり選抜コンペって、
無茶にもほどが……」
「申請のこともそうだけど、私が早いうちにって言っちゃったせいで、部のみんなが
早くユカリのを聴きたいって連絡回してて、私今からホノカさんと延期の連絡回す
けど、明日までに全員は無理かも」一気にフミは言った。
「〜〜〜、わかった、昼休み! 昼休みまでに仕上げるからっ! もっと延期
できたらまた知らせて!」
「あ、え、ユカリ!?」
 電話を切る。とんでもないことになった。日付が変わるまであと4時間足らず。
電ピに向かう。蓋開ける。ヘッドホン装着。構える。いざっ!
「あんまり鳴らさないでね、弾く音だけでも結構大きいから」
「わかってるっ!」
 ごめんなさい、お隣さん。緊急事態なんです。
 ベッドに入ったのは、日付が変わって1時間を過ぎてからだった。
「いよいよですね」
「そだね。受けた以上はやるよ。昨日久々にアレ弾いたし」
「一夜漬けで選定に参加するっていうのもどうかと思うけどね」
 トモキが笑ってる、眠い。フミは楽しそう、眠い。私、眠い。
 結局朝早くに登校し、第2音楽室を朝一で貸しきって練習した。カフェインは
ずいぶん前に効かなくなっていた。奏者としてはどんな状態でも演奏できれば最高だ。
私はラリって舞台に立つロックスターの気分を味わっていた。今私を動かしているのは、
2本の脚で立ち歩いている骨揺らしの刺激と、お昼ご飯を消化しようともがくハラワタの
懸命な働きぶりが全てだった。コンペに備えて授業に黙祷し、休み時間はうつ伏せで
人を断った。仮病で保健室を仮眠所にして、起こしに来たフミが楽譜を手渡したところ
から、私の記憶は始まっていた。
『あの、ユカリ、やっぱり今日は止めたほうが……』
『なに?』
『いえ、なんでもないです……』
 睡眠時間は計6時間ほど。フミに連れられ貧血その他を装って、あまり使いたくない
手を使った。先生は見抜いていたに違いない。ああ、これ来年の保健委員決定かな。
 でも音楽部の人たちはそんなこと考えてくれない。どの道私が選抜にかけられるのは
伴奏だ。伴奏に失敗の概念はない。合唱の補助。それが本分。楽譜上の解釈は
全て合唱団から伝えられ、その通りに演奏する。そこに努力の姿はない。努力を評価
されるのは合唱団で、伴奏者じゃない。

328 :
 コンペに参加するもう2人を思う。フミが去年の文化祭で見た2人、カシマキ先輩と、
ホノカさん。ホノカさんは、去年のコンクールでも伴奏を担当した。カシマキ先輩は、
昨年度の暮れまでピアノ歴を明かしてすらいなかった。私と同じように隠し、その上で
歌唱に参加していた。
 先輩はたぶん私と逆だ。合唱伴奏では合唱に全ての解釈を委ねる。審査の対象
にはならない。みんなで気合を入れて1度の本番に臨む。失敗すれば私と同じく
晒し挙げの上ガン無視。歌唱メンバーと二択なら割に合わない。先輩が歌いたくて
入ったのなら尚更。
 私の暴走癖にとって合唱の伴奏は願ってもない課題だった。少なくとも他人の
譜面解釈に従いながら、ピアノで舞台に立てる部活は合唱部しかなかった。それと
暴走するしないに関わらず、昔から一兵仁王立ちは私に向かない。入って最初の
2年はうまくいっていた。
 カシマキ先輩がなんで年度ギリギリになって申し出たのかは分からない。私に考え
られる原因は、1つしかない。そして、それが私の志願した理由の1つでもある。
「審査するのは若木であって、積もった枯れ葉枯れ木じゃないし」
 合唱の歌唱メンバーとして参加すること。
 伴奏の審査対象外として参加すること。
 そこに先後は当然なく、ただ当人の志向だけが反映される。
 カシマキ先輩は、たぶん、弾きたくなかったんだ。
 ホノカさんが歌えなくなるから、申し出ただけで。
 私が伴奏として志願した理由の1つ。
 私は、音楽部の顧問が大嫌いだ。

329 :
「ユカリ、ちょっとこっちに」
 知らず知らずしかめっ面になっていた。トモキに脇の廊下へ誘われる。
「手を合わせてください」トモキが空腹を訴えていた。
「……お母さんもう食べたでしょ?」
「違う違う、真似て」
 できれば立ち止まりたくないんだけど。眠気に追いつかれる。
 トモキが見つめてくる。手を合わせる。
 ふわっ。
 かんしょく。てのこう、ゆびのせ。
 はさまれ、つつまれ、ぺたり。
 え?
 えええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!????
 ちょ、こ、え、な、な、お、え、う、ト、わ、て、さ、えっ!!!!
「じゆ……きょ……てん……は?」
 え、なに、じゆ、じゆう!? じゆうをっ!?
「きょうやる……びーぴーえむ……よ?」
 きょうやる!? 今日!? Beeぴー円!? BPM?
 えっとたしか、えっとたしか、あっ、これだよね! きっとそう!
 うわ、トモキ、さわった。わたしのて、さわってる。
 かお、め、はな、くち、ほお、かみ、ふわ、ふわ、ふわ、わわわ……。
 むりっ!!!
 ……。……。……。
 トン。っ。トン。っ。トン。っ。トン。っ。
「……でへんじしなくていいから。楽譜をおもいだして」
 楽譜? きょうやる? BPM? 手? ふわ? ふわふわ……。
「ん〜、んん〜、んんっん〜」
 これ、トモキ? トモキが、歌ってる?
 目を開く。
 トモキの、顔。
 のどが動く。あしもとが震える。こしが揺らいで、むねが締まる。
 トモキの、とじため。
 まっすぐな、はな。
 くちびる。
 くちびる。
 トモキの、くちびる。
「思い出した?」えっ! なにを!?
「いや、今日コンペだから、指に何か触れてる方が思い出しやすいじゃない?」
 コンペ。ああ、そっか。楽譜、BPM、トントン、思い出す。
 そうだね。弾かないと。
 トモキと、一緒に。
 トン。トン。トン。トン。
 トモキのリズム、私の手指。
 トモキの息、私の息。
 トモキの両手、私の両手。
 ふたりの手。
 むねが動く。
 トク。トク。トク。トク。
 ふわふわ、ペターっ。
 ふわふわ、ペターっ。 
 ひとつの手。

330 :
「……トモキ……?」
 目を覚ます。
 あぁ、トモキがいた。
「そろそろ行こうか」
「うん」
 トモキの手が離れる。そのまま握って、トモキを手に包む。
 トモキはその上から、包んでくれる。
 私の手で、弾かせてくれた。
 トモキ、ありがと。
 今度は、私が弾くね。
 第1音楽室。音楽部。
 ダメ。ムリ。
 愛想よくできない。観られてる。そっくり。
 私がバスに乗ったとき。帰りのバスに乗ったとき。
 コンクールから戻って、その足で退部を伝えたとき。
 脚が震える。腰が引ける。
 あんなにあったかかったのに。私の手は一瞬で冷え切った。
「それはさっき聞いた」
 一言で竦みあがる。トモキと似た体格。フミが言ってた、カシマキ先輩。
 この人なんだ。後ろの部員に私を睨ませているのは、私と同任の人。
 この人なら私と話せると思ってたのに。どうして。
「はじめまして、カシマキ先輩。今日はユカリの付き添いで来ました」
 後ろからの、声。私の、大切な人。
 私の隣に並んでくれる、私の大切な人。
 隣に並ぶとき、トモキの手が腕に当たった。
「ユカリと言います。名字はトモキと同じでいりません。今日はおさそいありがとう
ございます」
 何とか口にする。脚はまだ震えている。でも、腕にはトモキの感触がある。
 観られてるけど、大丈夫。

 先輩の進言。私の失言。
 私が弁明することはできる。でもそれを言い出すと、私はカシマキ先輩の逆鱗に
触れてしまう。この部で1番の難物は顧問だ。そもそも志願していない部員同士で、
伴奏を押し付け合わせるなんておかしい。カシマキ先輩は秘密にしていたんだ。
その上で先輩は伴奏を引き受けようとしてるんだ。私が申し出たことで設けられた、
この場で。カシマキ先輩に課題曲を歌わせないことが、決まってしまうんだ。
 若木と枯れ木。枯れ木は私。若木はカシマキ先輩。私は合唱部員じゃないから。
私が参加するのは自己満足のため。でも伴奏として加わること自体に傷を付けられ
た先輩へ、私と部員を線引きすることを言っても聞いてもらえない。3月の新曲をたった
1、2ヶ月で、伴奏として軌道に乗せる腕前。部での練習量含め、どう考えても私を
上回ってる。演奏での説得は難しい。
 えっと、演奏席に座ってるのがホノカさんかな。カシマキ先輩を見てため息ついてる。
あ、こっち見た。苦笑いしてる。ごめんなさい。
 フミがヒートアップする。これじゃ先輩を怒らせちゃうよ。どうしよう、下手に私が口出す
と余計に怒らせる。でもこのままじゃ、フミが私を思って炎に油缶を投げ込み続ける。
言い方が悪かったと一礼する? 怒った相手に伏せっても踏み潰されるだけ。禍根が
残る。接客バイトの帰るまでの我慢とはぜんぜん違う。辞退してもフミの顔を潰しっぱ
なしになる。

331 :
 どうしよう。私は弾きたい。音楽部で弾きたい。みんなの隣で。
 たとえ解りあえなかったとしても、
 音楽部の全員と、あの舞台に立ちたい。
 ――これだ。
 口を開こうとしたとき、トモキが腕を軽く掴み離した。
「先輩」
 え? トモキ、何でそんな声?
「なんですか、あなたには……」
「関係、ありますよ」
 トモキ、もしかして怒ってる? そんな睨みつけたら先輩もっと怒るからやめ
……あれ?
「ええ、フミが探している伴奏者に相応しい、自分の技術をひけらかさない人を
薦めたつもりですが」
 声が戻った。さっきのは見せかけ? でも手を開いて閉じてしてた。
「投げやりのようでも無理ないでしょう?」
 笑って見せてるけど、いつものじゃない。あ、ため息ついた。
 カシマキ先輩が一瞬私を見て、それからフミに言う。
「フミ、また強引に進めたの」
 うわぁ、フミ本当に昼休みとしか言ってなかったんだ。
 どうしよ。もう謝っていいのかな。カシマキ先輩も落ち着いたみたいだし、
いいよね?
「それで? 私もうそろそろ演奏を始めたいんだけど」
 ホノカさんがウインクしてくれた。
「すみません、先輩」お手数おかけしました。お詫びとお礼はまたの機会に。
 今は、私を入部志願させてください。
 顧問に。

 ホノカさんに席を譲られる。すれ違いさま囁かれる。
「意外とお茶目だね」
「どうも」
 椅子の高さを変え、座って位置を調整する。合唱団からは、計8人。カシマキ
先輩、ホノカさんが入っていた。そして、指揮の先輩。フミに聞いた部分を思い
出しつつ、入りやその他の指示を受けた。
 トモキを見る。笑ってくれた。よし。
 曲は、自由曲。先輩が構える。私も構える。
 腕が、振るわれた。
 最後の一鍵を弾き、演奏を終える。
 厳しい。初めてのメンバーとはいえ、やっぱり私が走ってしまう。この曲はタイトルに
ピアノのためと明記され、実際に全編弾き続ける曲だ。最初に弾くリズムを基礎と
して、それを繰り返しながら展開していく。最初は多分ホノカさんが課題曲と両方
やる予定だったはず。カシマキ先輩が申し出なければ、ホノカさんはこの曲を歌った
上で、あの先生向きの課題曲伴奏をやらないといけなかった。
 カシマキ先輩は素早く合わせてくれた。ホノカさんはその次に。残りの6人も、
後から追いついてくれた。本番でこれじゃダメだ。破綻はしなかった。でもフラついて
しまった。合わせてもらって、その上小細工入れなきゃ合わせられないんじゃ、話に
ならない。あとトモキ、お願いだからその仕草やめて。両手どころか腰まで浮きかけ
たから。
 ホノカさんが近づいてくる。
「言ってくれてありがと」
 笑うホノカさん。そして言い放つ。
「先生、私伴奏オリるわ」
 え?
「え、ちょっ」「葛葉さん!?」
 うろたえるフミと先生の声が遠くに聞こえる。去っていくホノカさん。
 え? 私、決定? 今年の自由曲? フラついたのに? なんで?
 カシマキ先輩がこっち見てた。うわ、気が抜けた顔。たぶん私と同じ。
 トモキを見る。笑み。うそ、私、出場決まっちゃってる!?

332 :
 そのようなことはなかった。早とちりもいいとこだ。その上トモキにすんごい
マヌケな顔見られてしまった。いや、わかってはいたけど私が鼻ちょうちんでピアノ
弾いてる、みたいなことは言わないでほしい。いつかほっぺもみもみして変な顔
させてやる。……トモキに触るのか。ダメ。よし、肩にしよ。
「もみもみだけってコースは?」
「1発1万」
「乗った」
「……やっぱやめ」
 考えてたらいつの間にかわきの下に入れてた。ろっこつもいいな、とか思っちゃっ
てた。ダメ! やっぱ触るのなし!
「先生、結局私は採用ですか? 不採用ですか?」
「本来なら葛葉さん、と言いたいけど本人が辞退しちゃったから。ゆかりさん、
あなたを本年度の自由曲の伴奏者として申請します」
 ええぇ!? 穴埋めで決めんの!? いや、私走ってたし、フラついてたし。
いや、フミそこ喜ぶとこじゃないから! 
「でも条件があります」
 ほらね、やっぱり出来次第で先生が代わるとかそんなとこでしょ。いくら最後まで
止められなくったって、小細工した弾き方じゃあねぇ?
「さっきの演奏だけど、手を抜いていたでしょう?」
 さすがにバレるよね。全部右手丸出しで弾いたら絶対途中で崩壊してたし。
合唱団を右手に見立てて、両手を楔の左手として、何ヶ所か弾いた。要するに
人頼み。破綻はしないけど細かいタッチが荒くなるから、フミに言われた解釈はある
程度無視せざるをえない。
 去年まではダメそうになると使っていた手だ。ピアノの伴奏が審査に入らないから
できることで、ピアノ入りの多重奏や協奏曲じゃ絶対にやっちゃいけない。わざと
下手に弾くから、続けすぎると本当に下手になる。初心者が必ず1人で練習させ
られる理由。参考で流してる他パートの上手さに聴き入ってしまうから、耳が鈍く
なってしまう。
 でもカシマキ先輩、先輩なら私が小細工しなくても合わせてもらえるかもしれません。
あなたとホノカさんは真っ先に追いついてくれましたから。
「正確には本気を出そうにも出せないです。私、アガリ性だから。たった2ヶ月で人前に
出て自己満足晒せるなら、私今音楽部員」
 私は合唱団の伴奏に志願した。カシマキ先輩やホノカさんのソロに、伴奏で参加
するわけじゃない。だから私が採りうる選択肢に、小細工が入らないとは言いきれない。
最後に人前で弾いたとき、私の右手は一度合唱を叩き壊してしまった。志願するから
には、出来ることと出来ないことを明確に伝えないといけないから。でも顔がひどいは
ないと思うな。
「ユカリはゲン担ぎとかする?」トモキが訊いてきた。
「神秘と奇跡は信じてない」怪力乱神はもう信じてないから。
「そうじゃなくて、気合を入れたり気持ちを整えるためにすることとか」
 うー……、トモキはまたアレやる気なんだ。くせになりそうだからできれば避けたいん
だけど。でもトモキの手は気持ちいい、かといって弾くたび手を合わせてたんじゃあ
1人で弾いてるのか2人で弾いてるのかわからなくなる。あ、でもやっぱりトモキの手は
あったかい。あー、でも私が志願したのに1人で弾けないすんごいダメな子に思われる。
「あるにはある」手管に屈した。1コンマ7秒くらい。ああ、私絶対ダイエットできない。
夏まで2ヶ月ちょっとしかないのに。海は諦めて夏祭りの浴衣だけにしとこう。でも
わざわざ弾かなくたって……てあれ、ちょっ。
「ね、ユカリ、もう1回聞きたい。ダメ?」
 お願いだから笑わないでぇぇ! これ以上マヌケなとこ引きずり出さないでぇぇ!!
あといきなりさわらないでぇぇぇぇ!!!
「先生、準備室を借りられますか?」
 先生、ざんげしつを借りられますか。悔い改めますからお願いですから狭い場所は
やめてください。おててつないだ私とトモキをこれ以上近づかせないでください。
トモキ、キレイなヒト。ワタシ、フワフワ。フタリで、ペターっ。オゥ……。

333 :
 せ・ま・か・っ・た・!
 え、なにこれちょっとまって。普通に向き合って、手、合わせたら、肘、くっつき
そうじゃん? ちょっとこれ、ダメじゃん? さっきは顔から顔まで40cmかそこら
だったのに、20cmくらいになるじゃん? ダメっしょ、ムリ。20cmとかイミわかん
ない。200mmとかヤバい。198mmだともっとヤバい。196mmだとマジでヤバい。
ダメだ、チャラくなってる。しかもかなり前のヤツだ。落ち着いてぇー、落ち着いてっ。
「ユカリ、これまたいで」
 そうですよね。椅子に座れば60cmくらいにはなりますよね。ぜんぜん気が付き
ませんでしたよ、ええ。でも何でまたぐの?
 ドサリと座った。
「詰めて」
 え?
 せなか。けはい。ごそごそ。うしろ。
「てをあわ」ヒッ!!
 バチッ!!! 両手を叩きつける。
 でも、い、いきってことは……。
 トモキ、うしろ。
 これで、手を合わせる。
 トモキの手で、包む。
 トモキの、腕で。
 ごそごそ。せなか。
 ふわっ。ぺたっ。
 っ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
 …………ーーーーーー〜〜〜〜〜っっっっっっっっ!!!!
 ひっ、つっ、てっ!
 わ、わ、わ、わ!
 トっ、キっ、抱っ、締っ!
 ……………………。
 うわぁぁぁぁぁぁっ!
 トモキがっ! 私にっ!
 うわ、うわ、うわ、うわ!
 〜〜〜〜〜っっ!!
 …………。
「リ、シニョンが」
「カリ、髪が崩れ」
「ユカリ、ヒゲが生えてるよ」
「嘘っ!」
 え、ひげなんかうぶげ以外なかったのに、うわ、トモキにみられたっ!
 トモキにヒゲみられたっっ!!! うわぁぁぁ!!!!
「ウソ」
 …………。

334 :
 トモキぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!!!
 ふりむいた。
 ふりむいちゃった。
 トモキの、め。
 トモキの、まつげ。
 トモキの、はな。
 トモキの、くち。
「なんで……きついて……」
 トモキの、あご。
 トモキの、うで。
 トモキの、むね。
 トモキの、おなか。
 …………。
 トモキの手、さわっ。
 ふんっっっっ!!!
 ドッ。
 うわっ、頭に髪ぶつけたっ!
「大丈っ……夫……」
 トモキの、かお。
 〜〜〜〜っ!!
 …………。
 ごめ、ぶつけて、ごめ、わたし、ばか……。
「うん。いいから手を合わせて」
「うん……」
 息を吸い込む。背中が擦れる。息を吐き出す。背中が擦れる。
 トモキに、抱きつかれてる。トモキが、抱きついてる。
 ああ、これトモキの太ももだ。ああ、これがトモキのお腹なんだ。
 トモキの胸があって。トモキのあごが右肩にあって。
 トモキは服何枚着てるのかな。
 何枚か越すと、そこにトモキの体温があるんだ。 
 私の体温があって。トモキの体温があって。
 服越しに、トモキの体格を感じる。トモキに包まれてる。
 服越しに、トモキは私を感じてる。私は包まれてる。
 トモキの頭。触れる髪。たまに耳がかすってる。
 なんだろ、これ。すっごく、気持ちいい。
 トモキの手がふわふわしてるんじゃなくて。
 わたしがふわふわしてる。
 手を合わせてください。ぺたっ。
 おっけー。いいよ。
 もっと、つつんで。

                                      .

335 :
 椅子に座ったとき、なんて冷たい背もたれなんだろう、なんて硬い背もたれなん
だろう、って思ってしまった。なんでか不機嫌なフミと、わたしのたいせつなひとと
握手した。
 椅子は私に合わせられていた。先輩が合わせてくれたのかな。さっき背もたれに
文句言ってごめんなさい。でも、あれはこの椅子じゃ絶対にむりなんです。わたし
のたいせつなひとは、こんなに硬くて冷たくないんです。
 曲は、自由曲。命を慈しみ、それを何度も何度も繰り返し歌う、という曲。
 せなかも、おなかも、こしも、むねも、みぎても、ひだりても。
 こんなに、あたたかいから。
 うん、ちゃんとひけるよ、トモキ。


 演奏が終わったとき、みんながこっちを見ていた。
 トモキ、フミ、カシマキ先輩、顧問。
 聴客、ソプラノ、ソプラノ、指揮、伴奏。
 たった5人の合唱団。
 そのうち4人が、私を見てる。
「すごい、すごいよっ! ユカリ!!」フミが手をつなぎに来た。
「どうしてそれをさっきやらなかったの?」カシマキ先輩は目を見開いていた。
「これは、とんだ掘り出し物ね」顧問は苦笑いしていた。
 見やる。わたしのたいせつなひとを。
「ユカリ、入部おめでとう」
 ありがとう、トモキ。
 わたし、トモキのために弾くね。

 彼女の物語
 Drunken Doe   ...fine.
 Dal "The Mercenary Wants Nothing in Return"

336 :
>>320-335
16レスも使って全く話が進んでいないだと……? と今更驚く
リクのあったユカリ視点、一区切りですが、トモキ視点を読んでないと流れがわからないと思います
あと合唱の曲目には元ネタあります、>>324のは「森の情景」からのユカリの想起です
エロパロ板なのにエの字も出てきてませんが大問題です
書き起こすとユカリがこんな変人になるとは思ってなかった……
不明な点やエロ関連他気になることがあればドゾー

337 :2013/09/25
>>336
いや、すっごい萌えたんで無問題ですw
もしエロ入れるなら甘くてラブラブなのをお願いしますw
まあ、無くても自分は全然良いです、ちょっとイチャコラするだけで萌えますから
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