2013年07月お絵描き・創作410: いい加減暇だから、小説書いてみた。 (70) TOP カテ一覧 スレ一覧 Pink元 削除依頼

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いい加減暇だから、小説書いてみた。


1 :2010/10/30 〜 最終レス :2012/07/19
ツンデレ、書いてみた。
できれば批評して欲しい。

2 :

少女は、羽を広げた。
向かう先は天高くそびえる塔。
塔はなめらかなフォルムで、
掴まるような突起物はない。
塔の先は見えない。
雲ひとつ無い空に、塔は一筋に伸びていく。
少女は飛びたつ。空の彼方へ。
青空にどこまでも続く、塔の先、その先へ。
少女は上昇を重ねる。
既に地上へは数百メートルを数えるだろうか。
もう、後戻りはできない。
後は、体力が無くなるか、塔の先まで上昇するか。
それだけだった。

3 :
 ある日、少年は落下した天使を見つけた。金髪のツインテールの非常に美しい少女だった。肌は透き通るほどに白く、青色の目。年のころは12、3か。少年とほとんど同じ年頃だ。羽は血にまみれ、天使というには不釣合いな、妙に生々しい姿だった。
少女は気を失っていた。
 少年の街では、天使は高く売れる。金持ちの歪んだ性欲を満たすことが主用途だ。少年は喜んだ。これで、これから先数年の家計を気にしないで済むと。
小遣い稼ぎで冬の森に狩に出たが、非常に幸運だった。天然の天使なぞ、数十年に一度出あうかいなかの幸運だ。
「ん……」
 少女は気がついたようだ。
 捕獲用の縄を用意した少年を少女の視線が射抜く。
 想定外の少女の復活に、少年は狼狽した。
 天使は、大体の場合において、少年の村から、天気の良い日には見える地平線に垂直に立つ細い棒のようなもの。聞いた話であれば、それは巨大な高い塔らしい。その塔の上にあるという、大地から不慮の事故により落下する、というのが常だ。
 彼女達は落下を避ける行動をとるが、ギリギリのラインで運よく落下を回避するもの。又は落下のダメージで、羽にダメージを負う者に別れる。
 彼女は後者のようで、片翼をしこたま落下の際に、落下地点の木に打ち付けられたようだ。近くには、折れた木の枝が見える。
「まあ、悪いようにはしない。痛い目にはあいたくないだろう。」
 と、少年は悪びれた。肩は、わずかに震えていた。少年にとっては、
初めての大捕り物だ。

「まあ、縄を持ってるだけで、あんたの気持ちは分かったわ。
 要するに、私をとっ捕まえて売り飛ばそうって算段でしょ?これだから下界の人間は・・・」
 少年は腰帯びた短刀を出した。
「まあ、そういうことだ、残念だったな」
 精一杯の虚勢を張ったが、少女が笑う。
「あんた、刃の向け方、無茶苦茶よ?」
 みると、短刀の刃のついた部分は少年に向けられている。


4 :
「まあ、縄を持ってるだけで、あんたの気持ちは分かったわ。
 要するに、私をとっ捕まえて売り飛ばそうって算段でしょ?これだから下界の人間は・・・」
少年は腰帯びた短刀を出した。
「まあ、そういうことだ、残念だったな」
精一杯の虚勢を張ったが、少女が笑う。
「あんた、刃の向け方、無茶苦茶よ?」
みると、短刀の刃のついた部分は少年に向けられている。
あわてて、少年は短刀を持ち直す。
「おまえ、それ以上笑うと、ぶちすぞ?」
少女は肩をすくめた。
「下界の下賎の民が、私を何とかしようなんざ、100年早いのよ。」
そういうと、突然、周りの藪がガサガサという音を立てた。
突然の血の臭いで、目を覚ました冬眠中の熊であろうか。
冬眠中の熊の脇腹は脂肪分を費消しており、
胴体部分は熊のイメージから離れ、ほっそりとしていた。
起き掛けに強烈な空腹を覚えた熊の眼前には、久しぶりの獲物が2体も転がっている。
熊の顔がにやけたように見え、数瞬後、
よだれを垂れ流した熊の口が開かれ、叫び声があげられた。
「グオオオオオオオオオオ」
森全体がゆれるような轟音。びりびりと大気が震える。
少年は動かない、否、動けなかった。

5 :
この時期は熊は冬眠中という祖父の話をまともに鵜呑みした自分が悪かったと考えていた。
身がすくみ、動けない。
少女は自分の羽をゆっくりと動かし、左右、ある程度の自由が利くこと
を理解すると、少年に問いかける。
「あんた、助けて欲しい?一個だけ、条件があるけど。」
「何言ってんだよ!俺はお前を狩るんだ!」
「そ、じゃあね!」
そういって、少女は羽を2,3回羽ばたかせると、宙に舞った。
少女という獲物を逃した熊は、少年に向かって突進する。
「待て待て、俺が悪かった、ストップ、助けて!」
少年が叫び声をあげる。
「その代わり、しばらくの間、あんたは、私の奴隷よ?」と、少女が問う。
「もうなんでもいい、早く、助けて!」
少年は駆ける。
熊から逃れようと。
熊の速度は人間の比ではない。
当初あった数十メートルという距離は瞬時に縮まり、熊の爪が少年を襲う。
少年は、つんのめりになって転がり、それが幸いし、何とか爪をかいくぐった。
その時、少女は少年の体を中空からさらった。

6 :
少年の住む街には、クラッチ教という信仰が主に信じられている。
クラッチ教の伝承によると、人間は、遠い昔、楽園。つまりは塔の上に広がると言われる大地に住んでいた。
当時は人間にも天使と同じように羽が生えていたということだ。
怠惰と享楽を繰り返す人間に怒りを感じた神は、楽園に厄災を振りまいた。
その時、楽園の政治機構の上層部が、多数の人間を楽園から追放し、人柱として神にささげ、、
神に許しを請い、要求は受諾された。
楽園を追放された人間達は、神の祝福から見放され、羽を失い、地上に降りた。
野生動物と飢餓が蔓延する地上に。
そして、いつか、楽園に戻り、自分達の祖先を裏切った天使に取ってかわる。
そのために、再度、神の寵愛を受けるため、神に祈りを捧げるようになった。
そういった宗教観から、天使という存在を自分達の打ち倒すべき生命体と解釈していたため、
運悪く地上に降りた天使は虐待を受けることが常だった。
また、天使には言霊を支配する能力があると考えられており、。
一度、天使と約束をしてしまえば後に、地上よりも更に下層の不毛の地に転生すると考えられている。
「困ったことになったな・・・」
少年の祖父は暖炉に薪をくべながら、苦虫を噛み潰すような顔で言う。
「ごめん、じいちゃん・・・俺、天使と約束しちゃった。」
少年は泣きそうな顔で祖父に答える。

話題にあがってる当の少女は、ものすごい勢いで備蓄用の食糧をむさぼっている。

7 :
「しょぼい家ねえ、ワインの一本もないなんて。」
そう言いながら、鹿の燻製を大口で噛み千切り、麦を発酵させたアルコール濃度の低い酒を流し込む。
少年の家は裕福な家庭ではない。狩人である祖父と少年だけの家庭である。
冬用の備蓄もそろそろ底をつきかけている厳しい少年の家庭の台所事情等おかまいなしで、
少女は食料を胃にかきこむ。既に、この食事だけで3日分の食料はやられていた。
「不味い食べ物だけど、空腹は満たしたわ。今度はもっとまもとな物を用意しなさい。レント、命令よ?」
少女は腹をさすりながら、少年に言う。
「まだ、冬は終わっていない。まともな食料なんてあるわけないよ。サーシャ」
と、レントと言われた少年が口を開いた瞬間、レントにサーシャと言われた少女の肘鉄が飛ぶ。
「サーシャ様でしょ?あんた、自分の立場、分かってるの?奴隷よ、奴隷。」
肘鉄を受けたレントがサーシャを睨み、何か言いかけたところで、レントの祖父が口を挟んだ。
「孫があんたと約束してしまったからには、言うことは聞く。孫をみすみす地獄行きにするわけにもいかんでな。
 しかし、あいにく、ウチの家は裕福ではない。
 それが嫌なら、ワシとしては、出て行ってもらった方がありがたいんだが。」
サーシャは家の中を見渡す。
家は木と石をつなぎあわせ、それを土で塗り固めただけの簡素な掘っ立て小屋で、
かなりの老朽化が進んでいる。
つぎはぎだらけのボロ布のような衣服をまとった二人。
「まあ、私も、贅沢は言えない立場みたいね。奴隷は生かさずさずってのが
鉄則だし。しばらくは我慢しましょう。」
サーシャがレントに要求したものは、当面の食料と寝床だった。
羽は動くものの、まだ、本調子とは言えない。
傷が癒えた後、塔の上の大地に戻るのだという。

8 :
レントのいる地域では、通例、男は14歳から本格的な狩猟者となる。
レントはまだ12歳であるため、狩りの真似事のような遊びはしたことはあったが、
本格的に森や山に入ったことは無かった。
まだ、雪の深い森をレントは弓を持ち獲物を探す。
冬の森では、獲物は見つからないだろうが、野草やきのこ程度なら、
雪を掘り返せば発見できるかもしれない。
運がよければ、ウサギ程度なら仕留めることができるかもしれない。
ただでさえ少ない備蓄が予期せぬ来訪者により、食い荒らされている。
祖父も老体をムチ打って山に入るが、状況は芳しくないようだ。
「ねー、レントー、お腹減ったー」
少女は、中空に浮かび、羽をバサバサとゆっくり動かす。
「お前のために、今、狩りにでかけてるんだろ、この、クソ天使が。」
「サーシャ様って言ってるでしょ。この、馬鹿レント」
そういうと、少女は体を一回転させ、レントの頭に勢いのついたかかとを振り落とす。
かなりの勢いがついたかかとがレントの脳天を打ち抜いた。
「痛てえ……今に見とけよ。で、サーシャ様、何故に私めのような下賎の者にご同行なされているのでございますか?」
「あんた一人で狩りなんてできるわけじゃないの。おじいさんの許可ももらってないんでしょ?
 また熊に襲われて、なれたりしても困るからねえ。」
そう、少女は意地悪そうな顔でニヤリと笑う。

9 :
絶対、嘘だ。
サーシャについて、気がついたことがある。
この少女は、暇が非常にキライなようだ。
と、いうよりも、じっとできないタチのようだ。
小屋の中で暇をもてあますと、思いつきの遊びでレントを虐待する。
この間は、落ちた干し肉を手を使わずに口のみで拾って食べろと言われた。
その様をみて、この少女は腹を抱えて笑っていた。
羽が完治するまでの、暇つぶしなのだろうか、レントは完全におもちゃにされていた。
遊び道具が森に入り、手持ち無沙汰になる時間が嫌なんだろうことは、容易に推測できた。
ゆらゆらと空中を漂い、器用に木を避けながらレントについていたサーシャは
大きな木を指差した。
「よし、レント、あの木に登りなさい。命令よ。」
秋には果実をつける木だが、この季節、実が残っている訳も無い。
「何で、木に登る必然性があるんだ。そろそろ食料も尽きるんだぞ。」
「私が暇だから。馬鹿と煙は高いところが好きなんでしょ?さあ、登りなさい。」
ああ、理不尽だ。そう思いながらレントは木に登る。
この行為に何の意味があるというんだ。
小さいころから森で遊んでいたレントは木登りが不得手というわけでもない。
十分程の後、木の頂上部分にたどり着く。
ここらあたりで一番高い木だったため、見晴らしがいい。
サーシャはレントの周りを迂回しながら、そのさまをニヤニヤひながら見つめている。
レントがあたりを見回していると、近くの川で鹿の親子が水を飲んでいるところを見つけた。

10 :
「おい、サーシャ、鹿肉食いたくないか?」
「んーキライじゃないけど、そろそろ、干し肉とか燻製は勘弁してもらいたいわね。いい加減、飽きた。」
「あれ、見ろ。仕留めれば、10日分の食料にはなる。」
レントが鹿の親子を指差す。
「あら、かわいらしい小鹿さんだこと。」
「で、熊から逃げたときにやったみたいに、俺をあそこの近くに運ぶことはできるか?
 空の上から弓を放てば、多分、仕留められる。」
「私に重労働させるつもり?」
少女はつまらなそうにレントに答える。
「サーシャに頼んだ俺が馬鹿だったよ。」
「ま、私も久しぶりに新鮮な肉が食べてみたいしね。サービスで木の下までは
 運んであげる。感謝なさい。あと、サーシャ様と呼びなさい。」
木の下に降りたレントは、川に向かって走っていった。
「働かざるもの、食うべからずってね。」
そうつぶやくと、少女はレントに続いた。

11 :
川辺には鹿の姿は無かったが、レントも狩人の孫だ。
足跡を発見すると、獲物の追跡に入った。
少女の姿はかなり上空に見えた。
狩りの現場は彼女にとって暇つぶしの対象とはならなかったのだろう。
つまらなそうに宙を泳いでいる。
レントは疲労につつまれていた。足が雪道にからみ、重く感じる。
既に追跡を開始してから
6時間は経過している。
レントは細心の注意を払い、獲物を追う。
におい、物音、ささいな事でも獲物は捕食者を察知し、逃亡する。
森の中で鹿に気づかれたら、仕留めることは不可能に近い。

12 :
「やっと、見つけた。」
鹿は、雪を掘り起こし、その下の草を食んでいた。
レントは親鹿に弓の狙いを定める。
その時、風の向きが変わった。
臭いが鹿のほうに流れる。
親鹿の後、一瞬送れて小鹿が同方向に駆け出す。
レントが弓を構えていることを確認した親鹿が、きびすを返し、逃亡の方向を変えた。
狙いのつけやすい障害物がない場所に親鹿が現れたと同時、
レントの弓が放たれ、親鹿の首に突き刺さり、ドスンっという音と共に倒れこんだ。
「子供を、庇ったのか?」
そう、レントがつぶやいた。
「ほんとう、鹿だけに、馬鹿ね。こんなことをしても、子供だけで生きていけるわけないのにね。」
後ろに少女がたっていた。悲しそうな顔をしていた。
透き通るような青い瞳と、ツインテールの金髪、
白い羽の少女のその姿に、レントは美しい。と思った。

13 :

「うわー、グロイわね、これは。」
サーシャが言った。
鹿を木と縄で宙刷りにし、ナイフで胴体部分に切り込みをいれたレントは鹿の腸を引きずり出していた。
「グロイって言い方はないだろ。これで、俺達は飯食ってるんだ。」
黙々と少年は解体を行う。
腸と内臓と持ちきれない肉は雪の中にうめておく。
天然の冷蔵庫の役割を果たし、2,3日は腐らないだろう。
後日、祖父と共に、回収に来るつもりだ。
「そういえば、天使は、ねば、どうなるの?」
ナイフを動かしながらレントは尋ねた。
「俺達は、別の時代のこの土地に生まれ変わるってことになってるけど。」
「ほんとうにあんた達の宗教って、馬鹿なくだらない宗教ね。
 天使は、んだら、光になるのよ。そして、この世界と一体となる。」
どこの御伽噺だよと、思ったが、
よくよく考えてみるとサーシャの存在自体が、御伽噺だ。
サーシャが光になる姿は、なんとなく、綺麗だろうな、と思った。
作業開始から3時間ほどがかかり、ひと区切りついた。これ以上の解体は、
時間的に無理だ。
雪に包まれた森で夜になれば、凍えぬ可能性がある。

14 :
二人は家路に着いた。
「そういえば、礼を言ってなったな。」
レントの口が開いた。
「んー?なんのことー?」
少女は空中を回転しながら答える。
「鹿、獲物の場所、教えてくれるために、木に登らせたんだろ?」
「勘違いしないでね。アンタの為じゃない。新鮮なお肉がお腹一杯食べたかっただけよ。」
つっけんどんに少女がレントに返した。
「まあ、そういうことだろうとは思ってたけどさ。ほんと、可愛げがねー女だな。」
「少しは口の利き方に気をつけてもらえる?私は、あなたの、ご主人様なんだからね!」
そういうと、サーシャはレントの横っ腹に胴まわし回転蹴りを入れようとする。
サーシャの足が宙を蹴り、バランスが崩れる。
空中でのバランスの維持は難しいようで、羽がばたばたと忙しく動く。
「そう、何度も同じような手を食らうか、ばーか!」
「レントのくせに、生意気ね!一度、お仕置きをする必要があるわね!」
そう言い合いながら、じゃれあう二人は笑顔だった。

15 :
サーシャがものすごい勢いで鹿肉を平らげる。
初めて解体現場を見たとき、レントはしばらく肉が喉を通らなかったが、サーシャにそういう概念は存在しないらしい。
ほとんど焼いていないレアな状態の肉を次々に口に放り込み、麦を発酵させた酒で流し込む。
「やっぱ、肉は、レアね、レア。」
そういいながら、サーシャはご満悦の様子だった。
祖父と、レントはそんなサーシャを見ながら苦笑いしていた。
一緒に暮らし始めた当初は、横柄な態度に辟易していた。
態度と口は悪かったが、実際には、
家事を手伝ったり、革製品の加工を手伝ったり、以外に働き者のようなところもあった。
何より、食卓がにぎやかになったことで、新しい家族が増えたようで、祖父は多少の喜びすら感じていた。
天使と人間の宗教的な世界観から生じる軋轢は、別として。

16 :

日差しに温かみがおびるようになった頃。
そろそろ森の雪も溶け出し、春の到来を感じさせる季節。
冬眠に入っていた動物も次々に目を覚まし、木々は新芽を噴出す準備を完了していた。
「ところで、サーシャ。羽の具合はどうだい?」
「んー、そろそろ、かな。多分、春になれば、本調子に戻ると思う。
 いいかげん、こんなカビ臭い小屋には辟易してたところだから、丁度いいわ。」
そんな祖父とサーシャのやりとりを見ながら、レントは少しの寂しさを覚えた。
レントの村には、同年代の女の子はいない。同年代の同居者に、ほのかな恋心を抱いていた。
健全な12歳男子の反応だった。
祖父との話がひと段落してことを確認すると、
レントは、かねてからの疑問をサーシャにぶつけた。
「そういえば、なんで、羽の調子が悪かったら、帰れないんだ?」
「んー、羽の無い奴には分からないでしょうけど、
 結構、ある程度以上の高度では、空気って薄いもんなのよ。
 だから、羽が叩きつける空気が軽くなる。
 要するに、羽の回転数をあげないと、飛べなくなるのよ。」
説明がよく分からなかったが、適当にレントは相槌を打った。
「それで、回転数をあげると、体に無理が生じるの。
 紫の斑点が出たり、地が噴出したりね。
 高いところに大地はあるから、途中でやっぱり辞めた。とかそういうことはできない。
 辞めたら落下するしかないからね。」

17 :
ふーん、お前も苦労してるんだな。」
「お前じゃなくて、サーシャ様よ。この馬鹿レント。」
レントは拳骨を食らった。

行商人の一団が村に到着していた。
冬の物流はほとんどないため、多少レートが割高だが、
行商人が現れた際には村の広場には賑わう。
レントと祖父は先日仕留めた鹿の毛皮と交換で、当面の生活物資を得ようと
広場に向かっている際に、村には似合わない、黒いコートを着込んだ男が立っていた。
男は腰に長剣を刺し、弓を背中にかけていた。
「失礼、ご老体。」
「何かようですかな?」
「先日、このあたりに、天使が出没するという狩人からの情報がありましてね。
何かお心当たりがあれば、情報を提供していただきたい。無論、それなりの報酬は支払いますが。」
きた、とレントは思った。
天使は、数年間は遊んで暮らせるほどの高値で市場に卸す事ができるほどに価値が高い。
レントと祖父以外の誰かに見つかれば、こうなるのは道理だった。

18 :
サーシャの姿は良く目立つ。
レントの家が村から外れているため、村民との接触を避けることはできていたが、いつまでも隠し通せるものでもない。
レントが狩りに行く際、他の狩人に姿を目撃されたのだろう。
捕獲の暁には、情報量だけで、それなりの額が支払われるはずだ。
「天使?はてさて、そのような噂を聞いたこともありませんが。」
祖父はとぼけているが、顔が引きつっている。
「そうですか、できるだけ手荒な真似はしたくなかったのですが、
 強制的に協力していただきましょうか。」
男は祖父の手をひねり上げ、後ろに回った。完全に関節が極まっている。
「な、何をなさるんですかな?」
「ご老体。あなたの家で天使をかくまっている事は先刻承知なのですよ。
 こちらも生活がかかってましてね。・・・・ぶちすぞこのジジイが。」
「じっちゃんに何すんだ、この野郎!」
レントは男に殴りかかるが、男の蹴りで吹き飛ばされ、気を失った。
「さあ、家まで案内してもらいましょうか。」


19 :

レントは、通りかかった中年の男性に起こされた。
祖父と男は既に、その場にはいない。
起き上がると、家に向かって走った。
頭の中を妄想がかける。
昔、聞いたことがある。
掴まった天使の顛末を。
大体のパターンは金持ちの玩具にされ、さんざんもてあそびつくした後、
性的興味を失った金持ちは、天使の虐待を始める。
生きたまま、手足を少しずつもぎとられ、食われる。
クラッチ教の伝承を曲解した民間伝承だが、
天使の肉を食すると、寿命が大幅に伸びる。
「嫌だ。」
レントは走る。
短い期間ではあるが、口は悪いがあいつは悪い奴じゃない。
「嫌だ。」
レントは走る。
いつのころからか、レントはサーシャを意識している。
彼女のことが好きだった。
他の男に、いいようにされるなど、考えただけで、寝覚めが悪い。
ましてや、生きたまま食われるなどと。


20 :
家に着いたとき、レントの眼前には酷い光景が広がっていた。
祖父はさるぐつわをかまされ、後ろでに縛られ床に転がっていた。
サーシャが、服を剥ぎ取られ、裸体をさらしていた。
首に輪がまかれ、輪には鎖がつながっている。
腕と足を縄で拘束され、2翼の羽も縄で縛られていた。
サーシャは泣いていた。
頭の中が真っ白になり、護身用のナイフを両手でもち、男に突進する。
「これから、市場に引き渡す前に味見をしようと思ってたところなんだがな、せっかちなガキだ。」
そういうと、男は腰の長剣を抜く。
長剣が、レントの腹を貫く。
致命傷だ。
「勝った。」と男が思ったとき。腹を貫かれたままレントは更に前進する。
男の顔が驚愕にまみれたとき、レントの右手が動き、護身用のナイフが男の首を薙いだ。

21 :
ナイフは動脈をねこそぎもっていった。
こちらも、致命傷。
血が盛大にお互いの体をから吹き出る。
レントは
最初から、勝つ事は考えていない。
相打ちのみを狙っていた。
縄から抜け出した祖父は、レントの手当てをしようとしたが、
傷口をみて、残念そうに首を振り、レントの首にナイフをあてる。
「ちょっと、おじいさん、何をする気?」
裸体を毛布でつつんだサーシャが叫んだ。
「この傷じゃあ、助からん。せめて、楽にしてやるのが、優しさだよ。」
「ちょっと待って!」
ん?と、祖父がサーシャを見る。
「私が、助ける!」

22 :
天使の住まう土地には、どんな傷も完治させる草がいたるところに生えている。
神の祝福から見放されていないその土地では、ただの、雑草にすら、そのような効力がある。
「サーシャ、その話が本当としても、塔の上では時間的に無理じゃないのか?
 レントは、すぐにぬ。」
「できるだけ急ぐ。おじいさんは、何とか、レントを持たせてて!」
少女は空に向かって飛び立ち、大空を両の翼で駆けた。

少女は、羽を広げた。
向かう先は天高くそびえる塔。
塔はなめらかなフォルムで、
掴まるような突起物はない。
塔の先は見えない。
雲ひとつ無い空に、塔は一筋に伸びていく。
少女は飛びたつ。空の彼方へ。
青空にどこまでも続く、塔の先、その先へ。
少女は上昇を重ねる。
既に地上へは数百メートルを数えるだろうか。
もう、後戻りはできない。
後は、体力が無くなるか、塔の先まで上昇するか。
それだけだった。

23 :
既に何十分上昇を続けているか分からない。
全力で動く羽が重い。
肺が酸素を全力で取り込むが、需要量に供給量が追いついていない。
全身の筋肉が悲鳴を上げる。
少女は手を見つめる。
白い透き通っているはずの肌に淡い紫色の斑点が広がる。
限界が、近い。
肺の一部の血管が破裂し、気管を通し、血が口に広がる。
少女は上昇を続ける。
急激な気圧の変化にも体はついていけない。
だるさ、痛み、眩暈。
「あの、馬鹿、奴隷のくせに。」
少女は思う。
「あの馬鹿、奴隷のくせに。命令もしてないのに、なんで、体を張っちゃうかな?」
少女は思う。
「あの馬鹿、レントのくせに、なんで、ちょっとかっこいいこと、しちゃうかな。
 全部、全部、私のせいなのに。あの男に素直に私を引き渡してたら、
 ぬことはなかったのに。」
少女は叫んだ。
「レントは、私が、なせない。」
少女はなおも上昇を続ける。
空気を切り裂く弾丸のように。
意識が飛びかけたとき、眼前に何かの塊が見えた。
塔の上に位置する。天使の大地だった。

24 :
12
レントはベッドの上で目を覚ました。
祖父の顔が見える。
自分はんだはずじゃ……とねぼけ眼でぼんやり考えている時、部屋の一室の隅が、ぼんやりと光っていた。
サーシャは光を放っていた。
無数の淡く輝く小さく丸い光がサーシャの右足と、右の羽の断面から、湧き上がっていた。
サーシャの片方の翼と、右足の半ばほどが既に光に変換されていた。
「天使ってんだら、どうなるの?俺達は、別の時代のこの土地に生まれ変わるってことになってるけど。」
「多分、転生とかはないと思うけど。ほんとうに馬鹿なくだらない宗教ね。
 天使は、んだら、光になるのよ。そして、この世界と一体となる。」
サーシャとそんな話をしていたことを思い出した。
体の半分ほどがなくなった天使が口を開く。
「レント・・良かった。」
「わけわかんないよ。なんで、俺が生きてて、お前がんでるんだよ。」
「まあ、説明はおじいさんから、聞いて。」
「なあ、いきなり、消えてなくなるとか、酷くないか?
 俺は、俺は・・お前が、好きなんだよ。」
一瞬、サーシャが目を点にしたが、かすかにほほえみ、言った。
「お前じゃなくて、サーシャって、ちゃんと名前で呼びなさい?」
ぶわっと光の粒子がふきあがったかと思うと、光に一面が包まれ、
サーシャは消えていた。

25 :
13 エピローグ
レントは14歳になり、正式に狩人として認められた。
いまだに、大物を仕留めた事は無いが、多少は家計の役に立つ程度の稼ぎは得ていた。
見晴らしの良い高台で、木の切り株に腰かけ、地平の向こうに、垂直に見える線を見る。
少し、涙を流し、何かを考えていたようだが、気を取り直し、立ち上がる。
ボトっという音と共に、レントの目の前に、りんごが落ちてきた。
「さあ、レント、拾って食べなさい。命令よ。」
レントが見上げると、金髪のツインテール。白い羽。青色の目に白い肌の少女が宙に浮いていた。
「ちょっ、お前!」
「天使がぬと、すぐに生まれ変わるのよ。2年かかったけどね。」
「あと、お前じゃなくて、サーシャってちゃんと名前を呼びなさい。馬鹿レント」
そういうと、サーシャは体を回転させ、勢いをつけると、水平に飛んできた。
シャイニングウィザード、光り輝く魔術師。少女がそう名づけている技は、
ただの、高速とび蹴りだった。
もろに顔面に蹴りを受け、後ろに綺麗に倒れた。

26 :
後ろに倒れ、サーシャを見上げる格好。下からレントは少女を見上げる。
やはり、この少女が空を飛ぶさまは美しい。
「あとね、あんた、私の事好きっていってたけど、私があんたを助けたからって勘違いするんじゃないわよ?」

そういえば、サーシャが消える前に、世迷言を口走ったような気がした。
「ま、あの時、助けてくれたときは、少しかっこよかったから、
 奴隷から、少しは昇格させてあげてもいいけどね。」
サーシャは中空を舞いながら、笑顔でそう言った。




27 :
ってことで終わりです。
空気読まずに、いきなりスレ立てすいません。
もしも、批評を下さる奇特な方がいれば、批評くだされば幸いです。
2週間まえから本気で物語ろうと思い、
それから数えて3回目です。
板汚し、すんませんでした。

28 :
一気に読んでしまいました
荒削りではありますが素直な文章で好感をもちます。
ラストも救いがあっていいです。後味がいい。
正直、作中に暗いトーンがずっとあったので、よくあるバッドエンド系かなと勝手に想像してました。すみません。
主人公の天使への苛立ちは、もう少し描いても良いんじゃないかなって事と、
天使が鹿を見つけさせるシーン、ここはもう少し工夫が欲しいかもです。
なんだ、天使良い奴だなと、ここでもっと驚きと共に感じさせれば、読者も天使に惚れます。
なのでそこまでの間にもうすこし主人公を苛立たせる。
かつ、木に登るシーンの前後で読み手を惑わせる何か…工夫、仕掛けがあればもっと楽しい。
親鹿の最期は分かりにくかったです。比喩としてってのも分かるんですが、情景が浮かび辛かった。
セリフが無ければ「??」となったままだったと思います。
全体的には非常に綺麗で素直ないいお話で、読めて嬉しかったです。
これはきっと忘れないと思います。
最後にひとつだけ、サーシャは金髪ツインテールでなきゃだめですか?w
ツンデレ、金髪、ツインテールってのはちょっと分かりやすすぎる、というかベタ過ぎません?w
これは趣味の範囲ですが、ちょっとあざといなーと一番最初に感じてしまいました。
でも作中に溢れる素直さから言えば王道上等!という事なのでしょうか?
とにかく楽しかったです。夜中起きててよかった。これからも頑張ってください。

29 :
俺もこんな風になれたらなぁ…(´ω`)
http://www.lolichannel.info/kenken.html

30 :
>>28サマ
まずは、貴重な時間を使って読んでくれて、ありがとうございます。
今まで文章作成の経験が職場の報告書だけしかないので、
そのせいで、素直な文章になってるんだろうかと思います。
本当はもう少し凝った表現を書きたいんですけどね。
内容の話ですが、自分でも弱いなあ(と、いうよりも、書こうとしても
美味い表現が思い浮かばなかった)と思ってた
部分を見事に指摘していただいてるので、
やっぱり、妥協しちゃあいかんなあと思った次第です。
今後は詰まっても
もう少し頭のCPUをフル稼働しようかと思います。
最後に一つだけ。
サーシャは金髪ツインテールの更に言うとツルペタじゃないとダメですw
なぜなら、それが、俺のジャスティスだからですw


31 :
最期ww

32 :
エロが欲しい。

33 :
オカ板では書けないエロいホラーを書いてみようと思う
とりあえず放置スレっぽいので利用させてもらう

34 :
小説 ジャンル/カルトホラー・アブノーマル・エロス
タイトル無し 
小さい頃、お化けなんていないと言っていた。
所謂、怖がりの精一杯の虚勢というやつだ。見栄っ張り。
その性格が俺を周囲から遠ざけた。疲れるやつの相手はしない。賢いやり方だ。
俺は、期待と現実のギャップを受け入れられずに、内向的になっていった気がする。

大学に進学し、一年を三回やった。
ようやく進級出来ることになった時、郷里の両親が大学に呼び出された。
「一年を三回やるような人はとてもではないが在学期間中に卒業はできない」
大学学長は、自主退学を両親に薦めた。
或いは、休学して、勉学に本腰が入れられる精神状態になるまで休め、と。
理由は簡単だ。私が講義を自主欠席ばかりしていたからだ。
大学に通ったことのある人なら、少なからず憶えがあるかもしれない。
サークル等の出席率は高いが、講義時間にすらバイトを入れている人。
私もこれだった。
大学では友達を作りたいという思いが、持ち前のコミュニケーション下手で不審に終わり。
ちょうど仕送りが少ないのではじめたバイトに逃げ込んだ。
大学に通いながら、二つのバイトを掛け持ちして、21万程稼いでいた。
食費は、スーパーのバイトで、廃棄の惣菜や弁当をもらっていたのでゼロ。
金は主に遊びに消えた。金を使えば、仕事中の人は興味をもってくれる。
パソコン系のサークルでは、どのパーツを買ったとか、どのゲームをやったとか
金で解決できる話題が主だったので、ゲームにものめり込んでいた。

35 :
両親は私の試験結果を見て愕然としていた。悪くはなかったのだ。
規定があるから、棒線一本で評価がつかない科目が多いが。
出席日数さえ足りていれば、可ないし良はついていたものが殆どだ。
父は激怒した。
「講義に出ずに、テキストだけ読み込んでこれなら。
 きちんと出席していたら、どれだけの事が出来たんだ。
 俺は不真面目なやつのために、大枚はたいているわけではない」
父は退学させる気でいた。
母は甘かった。休学にしましょう、と父を説得していた。
休学中、東京の親戚を頼って母も上京し、どうにか立ち直らせてみせる、と。
休学でも、少しは金がかかるので、激怒した父は金は出さんと言った。
学長は、とりあえず、学内カウンセラーに診てもらうのが一番だ、と言った。
母は、母方の親戚に頼み込んで、休学中の費用を借りた。
責任として、その頼み込む場についていき、最終的には土下座する母の背中を見た。
私は、この時に固く決意した。オタク卒業します。
母の訪問前に、私はオタクグッズの処分に乗り出した。
一部を譲渡することを条件に、サークル仲間に手伝ってもらい。
積み上がったエロゲーの山を中古買取に出した。エロ本や、漫画等も同様に処した。
フィギュアやガレキは、どうしても手放せなかった山本五十六を除き、
ワンフェスや他の即売会で知り合った仲間に引き取ってもらった。
自主改造品が大半だったので、店に下取りしてもらうのは難しかったのだ。
特典などの細々したものは、アニメグッズショップで買い取ってもらった。
一連の処分の間何度も思いとどまろうとした。
だが、その度に私の見栄っ張りが私を助けた。
両親に、毎日エロゲーやってオナニーばかりしている生活だったことを、悟られたくない。

36 :
すっきりした部屋を見て、オタクでなくなった自分の価値を知った。
パソコン一台と着替えが少々。後はベッドが一つ。本棚はテキストが横倒しに倒れている。
たった一列すらも実用書で埋まってはいない本棚を見て、涙が出た。
ポスターをはがした後に残るテープの粘着剤の痕。
こんな薄っぺらいのが、私の三年間だったのかとおもって、その日は咽び泣いた。
あんなに、楽しかったのに、気づくと空虚だ。
カウンセラーとの面談を進めていく中で、
前述のような、見栄っ張りな性格が解き明かされていった。
他の人に認めてほしい、という渇望が度が過ぎていたと理解した。
だが、会話下手な私には、上手く交友関係を築く事が出来ない。
抑圧を受けた性格が、他に代用を求め、人生を狂わせていったのだ。
特に、上京する際に、地元の数少ない友達とも疎遠になったのが、
大幅に道を間違える原因になっただろうと、カウンセラーは締め括った。
地元の友達の中で、一番仲が良かった者に久しぶりに連絡した。
全然連絡を寄越さないで心配させるなと怒られた。元気かと言われた。
喪失感の最中、連絡先の伝達すら忘れていた事に気がついた。
私にとっての上京とは、混乱だったのだ。孤独にもなる筈だ。
地元の交友関係も、どちらかといえばオタクだった。
私は近況として、オタクを卒業したといった。
すると向こうは、浪人して近場の大学受ける予定だったが。
バイト先で正社員に来ないかと誘われ、結局高卒就職して、
どっぷりオタク趣味を満喫していると言った。少し羨ましかった。
勿論正社員に誘ってくれるほどに、彼が勝ち得た信頼だ。
【初回更新はここまで】

37 :
サークルを退会して、私の身辺整理は一区切りがついた。
私は、学校にいく楽しみをつくるようにカウンセラーに言われていた。
丁度新歓の時期が近づいていた。
私は、大学に残る意思を固めて、提出を求められていた感想文を学長に渡した。
その場で、学長は静かにそれを読んで、少ししんみりとした。
「休学中、君が部活動やサークル活動に励むのは黙認しよう。
 ちょっと思い出したよ。私も上京組でね。そうだな。寂しかったよ。
 たまに顔を出しなさい。忙しいが数分なら悩みを聞くから」
いきなりまともな部活動を探そうというのも難しい話だ。
新歓に参加し、興味を持ったいくつかの部活もあったのだが、迷惑そうにされた。
留年ばかりしていると、顔見知りは多く、あいつはヤバい奴だと見做されるのだ。
途方に暮れている時、私の肩を叩く人がいた。
「君、武道に興味ない?」武道錬成部と大きく筆の文字が踊るチラシ。
高梨と名乗った相手は、身長がやたら高い。
私の許容量を超えて喋りまくった。三年らしい。
普通の会話でも結構厳しいが、彼は凄く声が大きい上に早口だった。
私が答えられずにいると、体格の良いのが左右を固め、背後には女子がついた。四面楚歌。
女子に背中を押され
「はいはいどいてどいて」
高梨が先導して私は実にスムーズに拉致された。

38 :
各部活やサークルの出し物の端っこの地味なテーブルに連れて行かれ。説明を受ける。
潰れたのと潰れかけの武道系団体が合併してできた部。
単独だと、どうしても学内の施設を借りにくいので、協力して借りやすいようにしたそうだ。
理解のある武道団体を除き、団体への登録を認めてもらえなかったそうで。
大会やら対外試合といったものには、あまり積極的には取り組めない。
本気の部員は、道場との掛け持ちしてこちらは気楽にやっているという。
ちょっとかじりたい程度から入部OKと敷居も低いそうだ。
これは良いなと思った。
K1とかは苦手だが、剣道とかには興味を持った時期もある。
脈ありと見られたらしく。
それぞれの部活が持っていた備品があるから、あれこれやるのもOKと畳み掛けられる。
ダイエットにもなるよと、女子が言った。
この頃私の体重は136kgあった。痩せていた頃しょうゆ顔だった私の顔は無残な有様だ。
運動系の部活はつらそうだとかいう偏見があったが、それも含めて断る理由が虱潰しにされた。
入らない手はないと、その場で入部届を書いた。
辛くないと思っていたら、そんなことは無かった。
デブ症で出不精。体も硬い私は単なるストレッチから悲鳴を上げた。
高梨さんは自分の鍛錬の最中にちょくちょく気をつかってくれて。
股を割ったりなんなりと、硬い私の体を解すために手を貸してくれた。
ちょっとしたことで悲鳴を上げる私を煩く思う人も多かったようだが。
練習日は欠かさずでようと決めて実行していると、少し話せる理解者が出てきた。
もう、あの虚しい日々には戻れない。今のところ、これしかない。
一ヶ月くらいすると120度が限界だった開脚が140度は楽になり、無理すれば150度までいけた。
つま先につかなかった指先が、腹がつかえて痛むがどうにかつくようになった。
それをみた高梨さんが、頑張ったねと言いながら。
廃棄処分する予定だった自転車タイプのトレーニングマシンを御褒美としてくれると言った。
部費で処分するよりは、押し付けた方が良いという理由だったらしいが、私はそうとは知らずに喜んだ。

39 :
我が家にトレーニングマシンが届いた。
私は訓練を少しでも楽しくするために、巨乳グラドルの等身大ポスターをその前に貼りだした。
二次元オタクというものが、三次元に興味がないとするむきもあるが、それは違う。
三次元に否定されて、二次元に逃げ込んだのが大半で、私もそうだった。
とにかく必にこなした。膝を痛めるといけないからとランニングをメニューから外されていた分。
自宅の中で、のろのろでも少しづつこのマシーンで訓練をした。
最初の一ヶ月が過ぎた頃、我が家にあった100kgまで計測可能の体重計に99.7という表示が出た。
びっくりして、大学構内の保健室にいって計らせてもらうと101kgだった。
これを高梨部長に報告するなり、ダイエット一ヶ月成功祝いとしてコンパが開かれた。
私のことを煙たがっていた部員すら、おめでとうとジュースを注ぎにきてくれた。
凄くストレートに、こんなヤツはすぐ来なくなると思って賭けてたんだよという人もいた。
二ヶ月目、私の体重は82kgになっていた。
体がものすごく軽く感じて、ランニングも息が上がるのは早いが速度はかなりだった。
息が上がりにくい自宅ではかなりトレーニングマシンの走行距離を稼げるようになった。
もっとも表示が30kmとかでていても、計測機能は故障しているらしいから、実際の距離は不明。
段々、体を動かす楽しさを憶えた頃。親父から唐突に電話が来た。
「どうだ、辞める決心はついたか」
からはじまって、大学を辞めろと何度も言われた。
母さんをこれ以上困らせるな。どうせお前はまた行かないんだ、と。
それを何度も否定していると、唐突に電話がガチャッと切れた。
母は、これを土日に我が家に来た時に聞くなり、ちょっと実家に行ってくると憤慨して出ていった。
それっきり、アパートに母が来ることはなかった。
その夜に親父から電話が入った。
「俺が昔居合やってた頃の道具が納屋にあった。
 ちょうどいいゴミ捨て場があるなら放り込むつもりなんだが、どこかいいところ知らないか」
「僕の家の玄関の扉が涎垂らして待ってるよ、パパ」
「ガチャッ」

40 :
居合道具がこの四日後には一式届いた。
名義を変更しないとまずい書類などもあって。どうすれば良いのか箇条書きで書いてあった。
刀剣の手入れの仕方などの、真新しい本と共に、真新しい稽古着が一着。
お古で良かったのに、私は泣いた。
母からは、もう大丈夫そうだから、お父さんの所にいるね、と電話で告げられた。
道具はあっても師匠なし。
取り敢えず大学で稽古着を着るようになると、剣道をやっている部員からよく声がかかるようになった。
居合をやってみたいと告げると、誰もやってないという残念な答えが返ってきたが。
それなら、形をやってみたらどうかと言われ、日本剣道形を一緒にやるようになった。
相変わらずそれ以外は基礎的な鍛錬だった。
ついに4ヶ月目に、私は179cm68kgという体型に大改造された。
皮膚のたるみや肉割れの跡が酷かったが、部員全員から本気で祝福してもらった。
これが、私の転機となった。
私の見栄っ張りは、自身のなさの裏返しなのだとカウンセラーが言った。
しかし、大きなダイエットをやり遂げた事で、今が転機になっているとも。
復学を考える時期が来たのよ、と言われたと写真とともに親父にメールをしてみた。
「お前の為に学費を出すなんて反吐が出る」
という返信があった後、口座に学費が振り込まれ。止まっていた仕送りが再開された。
バイト先でも、評価が著しく変わった。あいつはいつものろまだと言われていた。
パソコンが得意なので、どうにか置いてもらっていたのだが。
巨体を支えていた筋量が残ったまま大幅減量に成功した体は軽く。
客前に出ても見苦しくないからか、他にも色々任され、時給もあげてもらえた。

41 :
夏を乗り切り、後期から復学した。後期は地獄のスケジュールだった。
スムーズに進級するために、最低限必要だと指示された単位を確保するため補講が多く。
バイトを削りながら臨んだが、幸い浪費がなくなった事でバイトを削っても問題はなかった。
私は優や良の多い結果を手にして、学長に更生を祝ってもらい。三年になることができた。
学内での私の扱いは大分変わった。口下手だがけっこうやる奴と見做されていた。
特に、恐ろしい勢いでダイエットを成功させ、体重を67kg前後で維持している辺りが魅力。
ダイエットの秘訣を知りたいと女子が近づいてくる事も多く。経験値を貯める機会に恵まれた。
自分に自信がないから見栄っ張りになっていたというのは本当だった。
自信がついて、変な見栄を張ろうとしなくなると、不思議と口下手なりに喋れた。
三年の6月。梅雨に入ってじめじめとしていた。
朝練の為に早く道場に来た私は、まだ誰も来ていない暗い道場を見渡して更衣室に入った。
開けて、中を見て、おっぱい丸出しの女子がいたので、その場で硬直した。
向こうは挨拶を使用と開いた口から、代わりに悲鳴を上げた。
ばたんと扉を閉めて、更衣室の扉の前のプレートが男子であることを確認する。
痴漢と連呼する中に男子更衣室だといっても、錯乱状態の相手は理解してくれない。
やがて悲鳴を聞きつけて正義感あふれる他部の部員達が武道場に乗り込んできた。
ああ、終わりだ、と思いながらも私は男子更衣室と書いてあるプレートを指さした。
変態めといった対応になってもおかしくないと思ったが、そうはならなかった。
「謝りませんから」
七条伽夜と名乗った相手は、稽古着に身を包んだ姿で居直った。
他部の面々は、災難だとは思うが、男子更衣室を使っていたのがまずいと言った。
私は、よくよく考えて整理し
「申し訳ない」
謝った。こっちは眼福、向こうは見せ損なのだ。こうするのが一番のように思えた。
赤い顔をした伽夜はふいと顔を背けた。不謹慎にもとても素敵だと思った。
他の部員達もやってきて、どうしたのと聞くと、伽夜はなんでもありませんと言った。
【第二回更新ここまで】

42 :
その日の練習には余り身が入らなかった。
黙想が多かったのは、立ち上がるとまずい種類の、生理現象対策の為だ。
伽夜の周りにはすぐに人だかりが出来ていた。概ね男子。これには助けられた。
黒髪に黒目で、化粧っ気も薄いのに美人。それに稽古着の胸元は結構膨らんでいる。
既に他をライバル視している状態の奴も多く、漂う不穏な空気。
伽夜が迷惑そうにしていたので、一度は高梨さんが解散させたが、
結局、入れ替わり立ち代わり、ひっきりなしに誰か男子がついていた。
一方、黙々と黙想をしていた私はといえば、女子部員からの評価が何故か上がったような気がした。
おそらく気のせいではなく、こちらをとあちらをみながら、表情が変わるのでまず間違いない。
その私が、いの一番に伽夜に魅了されていたわけである。世の中なんとも滑稽だ。
伽夜はスポーツチャンバラで小太刀二振り扱うのだそうだ。
うちの大学ではスポーツチャンバラをやっている人間など聞いた事も無かった。
それで、近からず遠からずの剣道をやりに、この部に遅れて入部したとのことだ。
歓迎会の時の自己紹介の後、やはり男子が伽夜を取り巻いていた。
私は黙々とウィスキーを空け、飲み放題パック料金の元を取る作業に従事していたと思う。
コミュニケーション下手で輪に入らないところは、あまり変わってはおらず。
特に意中になりかけの異性を囲む輪に飛び込んだら、あがり症の虫が疼きそうだ。
時折カラオケステージが空いていると、気まぐれ、楽曲リストを開き。
Top of the world やsingといったフォークから、一転して、鈴木雅之を歌い。
カウンター席の60代超えのマダムからのリクエストに答え、カクテル「ラブコール」などをご馳走になっていた。
アニソンを心ゆくまで歌いたい。

伽夜が真っ先に懐いた男子は高梨さんだ。その光景は兄妹のように微笑ましかった。
高梨さんも私と同じで伽夜に纏わりつかず。来れば拒まずに相手をしていた。少し羨ましかったが不思議と嫉みはなかった。
暫くして、高梨さんが伽夜に交際を申し込んだらしいが、伽夜はきっぱりとこれを断ったそうだ。
高梨さんがヤケ酒を煽る席で、そういえば伽夜が結構お前のこと気にしてたぞと言った。
「まさか」
この一言で笑い飛ばすと、他の面々もそうだそうだと言った。
裸を見られた相手がどんな人物か位気にするのは当たり前だと思う。

43 :
8月上旬。前期の単位は全て良以上で取れていたので母が二万程口座に振り込んでくれていた。
それを送り返しても、浪費がなくなった私の口座には三十万弱の預金があった。
合宿の話が出た時は、肉割れの残る気持ち悪い体を見られたくないので断ったのだが。
幹事をやっている田ノ上が、十人以上になると割り引きが大きくなると懇願してきたので。
参加者の一覧を聞いて、行くことにした。
伽夜がいたのだ。いなければやっぱり断っていただろう。
私は、基本伽夜に纏わり付きはしなかったが、目で追う事は多かった。
余り迷惑をかけまいと、意識して視線を逸らすようには、心がけていたものの。
実直な性格で、さっぱりした性格で、やっかみもすくなく女子受けが良い所が凄く気に入っていた。
容姿が素敵なのは言うまでもないが、鼻にかけない、媚びない、品があると。
洒落た話が出来れば声をかけにいっていたが、自分が参加できる話題の時にも気後れしていた。
合宿中に彼女が交際相手を決めてしまったら、きっと後悔するような気がした。
駄目なら駄目で、駄目になる前に当って砕けたい。
場所はとある島。田ノ上の実家があるそうだ。
田ノ上という名前にしては珍しく、彼の実家は神主の一族らしい。
自慢話を聞く限り。島唯一の神社ではあるが
さして観光地として人気があるわけではなさそうだった。
フェリーで近くの島まで行ってから、人口の少ない島々を巡る連絡船に乗り換えた。
この最中、伽夜が船酔いで他の乗客に吐きかけそうになるというトラブルに見舞われたが、
咄嗟にベストを脱いだ私がそれを伽夜の口元にかざして防いだ。
オタクをやっている時に、女の子にゲロを吐かせる本を売っていた人がいたなと思い出し。
彼ならこのベストをどうするのだろう、と思いながら、船員さんに捨ててくれと預けた。
女子で180cm超の身長を誇る、喜納さんと左右から抱え、伽夜を船室まで運んだ。

44 :
島につくと、白い布に○○大学武錬部ご一行様歓迎という幟を翻す一団がいた。
自己紹介する彼らが田ノ上と名乗ったので、少しびっくりした。
てっきり民宿か何かに連れて行かれるとおもいきや。
連れて行かれたのは、島で唯一の学校だった場所だ。
今は役場の管理の元、たまーに来る観光客向けに、体裁ばかりの宿泊施設として提供されるとのこと。
個室はないわけではないが、元科学準備室とかのプレートが掛かっていた。
人体標本とかが並んでいる場所で安眠しろというのは些か無理ではなかろうか。
私は、高梨さんと、田ノ上と共に、一年A組の住人となった。
その隣が二年A組というのは如何なものかと思う。
人口過小の島の現実というものをLED越しに見る事はあったが、
現実として直面するとその侘しさは生半可ではない。
コルクボードに貼りだされたままの、廃校となる直前の生徒たちが描いた絵が黄ばんでいた。
この宿舎、冷房はなかったが非常に快適だった。
島の村よりかなり高い場所にあって、学校だっただけに開放感のあるつくり。
窓という窓を開けると、海からの潮風が絶え間なく肌を撫でて、暑さを連れて行く。
潮焼けはたまらないが、熱射に苦しむよりはかなり良い。
そも、運動系の部活動なのだから、夏のちょっと苦しい環境はお誂え向きだ。
体育館も南の方の島ならではの風通しを考えたつくりで、意外にも過しやすい。
ただ、体育館を周回するランニングだけは、凄くきつかった。
いつもは、声出せ声ー声出せ声出せと掛け声かける高梨さんも寡黙だ。
「体育館の影ー 声出せ声 声出せ」「もうやだ! もうやだ!」
体育館の影に入る度にこんな具合に口を開くが日の当たる場所に出た途端黙る。
男子のこんな姿を見ながら、早々と体育館内で走り込みすると逃げた女子は笑っていた。
【第三回更新分終わり】

45 :
私のように、未だ道場も決めていない、ライトな者を除き。
所属道場で参加する大会が決まっていた者が多く。
追い込みをかける人達の掛け声は、朝昼三時間づつきっちりと体育館に響き渡った。
私は、体を作る運動は他よりもしっかりと取り組んで肉体に悲鳴をあげさせたが。
その他は、剣道形の他に、ネットで調べてプリントアウトした他流派の形なぞに取り組んでいただけ。
一人、隅の方で黙々と窓硝子に映した自分を見ながら、そればかりやっていた。
そんな私に、不意に声がかかった。
「せんぱーい。ちょっと、良いですか?」
余り話したことの無い後輩。その後ろには伽夜もいる。
「何だ?」
「何をやってるのかなーって」
「形だ」
「いや、それは分かるんですけど。前にやってたのと違うなって……伽夜が」
「剣道形の他に他の形もはじめた」
「へえー、どこか入門でもなさったんですか?」
「インターネット直伝だ」
「インターネット…直伝…ぷっ ご、ごめなさあっはっはっは」
愛嬌のある顔がたちまち笑みに彩られた。
練習に励んでいた田ノ上や高梨さんがその手を止めた。
「本格的にはなさらないんですか?」
伽夜だった。独特な得物に稽古着という姿。
「どれをやろうか悩んでいる」
「宜しかったら、スポーツチャンバラなさいませんか?」
「え?」
はいタッチ、とばかりに会話する相手が入れ替わる。
ぽんと、伽夜の背中を叩いて、もう一人が行ってしまった。
途端に緊張感が走る。普通の相手と普通に会話するのは良いのだが。
心の中に占める割合の高い相手とのタイマンはまだ厳しい。

46 :
「あ、あぁ。いや、しかし」
「無理にとは申しません。もし宜しかったら」
本音を言えば直ぐに頷きたかった。
未だ残る劣等感が、実に十年近く振りの三次元での恋を、下心のように下卑たものと感じさせた。
そんな迷いが機会を逃させてしまった。後悔が募ったが致し方のないことだ。
ふいっと向きを変えて行ってしまう伽夜の背中を見送って、私はもとのように形をはじめた。
心此処に非ずの酷い出来栄えだった。
合宿は四日目までまたたく間にすぎていった。
稽古着から覗く素肌の部分は浅く日焼けしてヒリヒリする。
五日目から七日目までは、朝練以外は自由行動が多い。
島唯一の遊泳可能な浜辺にいくと、沖合に流されないためのブイが浮いていた。
私は水着に着替えていたが、海に入ることはなかった。
考えても見て欲しい、デブは浮力が強い。その泳法は持ち前の浮力、脂肪頼りだ。
それに長い間慣れた後で、スリムに変身を遂げたのだ。泳げなくなっても仕方ないではないか。
まあもっとも、ビキニに着替えた伽夜を一目見た時から、私の体の一部の血の巡りがフィーバー。
立ち上がる事も出来ない状態であったので、泳げない事は素晴らしい誘いを断る理由となった。
ただ、伽夜の周りに男子が群がるのを見るだけというのは、少々寂しいものもあった。
パラソルの下を定位置とした私の横に、高梨さんが来た。

47 :
「伽夜ちゃん凄いな。いやあ、凄い」
高梨さんは私の彼女に対する視線が恋するものだと見ぬいたのかもしれない。
伽夜を見る目が此方に向けられると、揶揄するようににやりと笑う。
私は、目を即座に逸らしてしまった。
「グラビアアイドルに直ぐにでもなれるんじゃないか。
 ああいう娘と付き合えたら幸せなんだろうな。まあ、俺は振られたけど」
「あの性格が他に代え難いです。媚びないから一層素敵になる」
「…そのまんっま言えばいいのに…。あの、さ。お前。結構脈あると思うぜ?」
「まさか…見て下さいよ。この太腿の筋。肉割れの痕です。こんな醜いの相手にされません」
「ネガティブだなあ。いいじゃないかそれ。厳しいダイエット乗り切った勲章だろ」
「そうですかね」
「そういや、誘われたんだって?スポチャン。やってみたら?」
「ええ」
「それって、興味あるって事じゃないか。一緒に過ごす時間増やしたいんだよ。
 部に二人しかやってる奴いなけりゃ、自然とお前が一緒にいられるんだぞ?最高じゃないか
 そいや…フェリーのあれ、カッコ良かったぞ」
「あれ?」
「ほら、ゲロ。中々あそこまではできないよ。今なんか心底惚れぬいてるんだなって見え見え過ぎ」
俺は赤くなった。高梨さんは凄くかっこいい人だ。年下だけど、凄く尊敬している。
その人に評価されると、照れる。熱い。顔が熱い。耳まできた。
「お前さ、割りと純粋だよ。似合うんじゃないかと思うんだがなあ」
「止めて下さい。私は」
「なんか手のかかる弟みたいな奴だよ。さーってと、体育座りしたほうがいいぞ。
 でっかいなあ」
最後に真っ赤になるアドバイスを残して高梨さんは伽夜の元に走っていった。
ビーチバレーが始まった。私は益々立ち上がれなくなった。
水着のズレを何度もなおす伽夜は素敵を通り越して無敵。

48 :
合宿や修学旅行の華といえば夜の怪談話だ。
それと、メンツにもよるが、覗きもある。
この宿舎に風呂は無く、昔民宿をしていたという家の風呂を借りていた。
そういうわけで後者は企む者が出てもどうにか回避された。
だが、前者は実行された。
本当に嫌がった者を除いて六名が集い、怪談話がはじまった。
都市伝説中の聞いたことのある話が四つ続いた。
ネット徘徊癖で変な話には精通した私は、怖がれもしなかった。
伽夜はある寺の話をした。
『御父様から聞いた話です。
 その寺は、辿り着く道がないにポツンと建っているのだとか。
 時折遭難した方がたどり着いては、縋るようにお祈りなさるんですって。
 「私は遭難者なんです。仏様、どうか無事に下山できますように!」
 一生懸命なお祈りに
 「そうなんじゃー」
 と本堂の奥から返事が返って来るとか。
 不思議とこの寺に辿り着いた人は、ちゃんと下山出来るんですって』
静まり返る四名、一人、腹を押さえて笑い出した。私だ。愛想笑いが私の大笑いの後に続いた。
ひーひー言いながら、どうにか息を整えた。私の番になっていた。
『島に来るというので、島の怖い話を、来る前に調べてきた。
 昔、流刑っていう刑罰があったって知っているだろう。
 えんとうって聞いたことはあるのではないかな。遠いに島と書く。
 比較的本州に近い小さな島というのは、昔は流刑地にされていたことが多かったそうだ。
 群島だと、どれかが看守やその家族が暮らす島で、そこを基地に、他の流刑の島を監視していた。

49 :
 ところが、維新やらで世情が混乱すると、流刑地の事は後回しにされた。
 干物や工芸品を納品して、食料を持ち帰る船が、明治政府軍によってものだけ奪われ。
 帰りの船には、食料などは積み込まれなかった。それどころか船すら返ってこなかった。
 塩と魚があればどうにか暮らせるだろうが、心の方は限度がある。
 米や味噌や醤油等の配給が途絶え、罪人達は身に憶えがあるだけに恐怖した。俺たちをすつもりかと。
 看守は、罪人より圧倒的に数が少なく。本土の支援を失った事がばれると事が起こった。
 ついに反乱じみた事が起こり、流刑の島から、畑を持っていた看守の島へ幾艘もの筏が着いた。
 夜半、火の手があがり、看守達は武器を手にしたが、最悪なことに武器庫が暴かれた。
 火薬や何丁もの鉄砲を手にした罪人達は、看守達をしてはさらに武器を奪った。
 男は全員され、女は罪人達のものとなった。
 暫くして、この反乱があったと気づかずに、明治政府の船が来た。
 罪人達は、自分達を見過ごすならば、これからも干物と工芸品を献上すると言った。
 看守の妻達は、どうか助けてくれ、仇をとってくれと懇願した。
 このあたりを平らげる事を命じられていた役人は、その仕事を早く終える為に、見逃すことにした。
 要は、支配者が入れ替わっただけだ。年貢、税さえ払えるなら問題はないと決めた。
 このことが発覚したのは罪人の殆どがその刑期を終えた後。
 明治政府は、自分たちの反乱の後世からの評価を高める為に腐心していたので、結局握りつぶした。
 かくして、無法の島が明治政府の成立前後に多数生まれたが、今では知る人もなし。
 こうした反乱の起きた島には、大抵どこかにその子孫が築いた、女たちを祀る社があるらしい。
 割りと、出る、と有名な場所が多いそうだよ。男は、とても危ないとさ』
これも都市伝説だ。女性の前で言うにはまずいかと思ったのだが。
意外と受けが良かった。この島はどうなんだろうと高梨さんが言うと田ノ上が眉を潜めた。
「そういう差別的な話は好きじゃねーな」
「気を悪くして済まなかった。別にこの島をどうこう言う気はない」
「お前はいつも他人を見下しているんだよ。俺の事も犯罪者の子孫だと思っているんじゃないかあ」
田ノ上が妙につっかかってきた。高梨さんがその位にしておけと言った。
【第四回更新分終わり】

50 :
ここまでの登場人物まとめ
小浦久信 ─ 主人公の一人。元エロゲオタ。二留男。
         物語冒頭、見栄を張る為、長いオタ生活から脱する。
         変人と自認し、ややネガティブさを残す。
高梨義秋 ─ 主人公の一人。武道錬成部部長。
         オタを脱して生き甲斐を失った久信を入部させる。
         面倒見が良い性格で、距離感を見誤らない二枚目。
七条伽夜 ─ ヒロインの一人。
         競技人口の少ないスポーツチャンバラを好む。
         才色兼備で女性受けの良いこざっぱりした性格。
         上品な立ち振る舞いが板につき、躾の良さをうかがわせる。
         男運が最悪で、男を見る目もない苦労人。
喜納撫子 ─ 武道錬成部きっての猛将。
         180cm級の体格で打ち下ろす竹刀は凶器。
         男子からはよくからかわれ、試合でお灸を据えることがあり。
         ついたあだ名がメールキラー。尚、童顔である。
         剣道二段、空手初段、柔道初段。

51 :
hage

52 :
翌日は島の観光がてら村を回った。
田ノ上は実家に顔を出すと言って朝方出ていったっきりだ。
田ノ上、または田之上、田上の表札が出てる家が大半だ。この島は田ノ上一族がかなり強いようだ。
島には珍しい苗字だということに気がついた。
こういう名前は田園が多い場所で生まれたものだが、ここは漁業の島だ。
田ノ上というからには田んぼより上に住んでいるとかいった具合でつけられた名のはず。
島の中心部にかけて山が聳えて、田畑は段々畑がほんの少々、家庭菜園程度を見かけただけだ。
他に島村や島崎と、島のつく苗字もあったが、少数派だった。
私は、高梨さんと高梨さんにくっついて歩く伽夜と一緒に歩きながら、色々な家を訪ねて歩いた。
昼は、食って行きなさい、といったご老人の家で物凄く匂う干物を食べた。
臭気はともかく、味は絶品だった。
「あんた食べ方堂にいってるね。
 背筋がピンと張ってるし、箸の使い方もんまあ綺麗じゃないかい。
 あたしがあと40わかけりゃほうっとかないんだけどねえ。うぇっへっへ」
どういうわけか、私は60代以上にはモテた。
足取りは確かだが、見るからに80は超えてそうな方だった。
夕方になり、田ノ上が肝試しをやろうと言い出した。
合宿といえば定番だし、皆賛成した。手回しがよくコースは選定済み。
絶対に嫌だと怖がる三人が辞退して参加者は七名。
はずれは一人でコースを巡る最恐コース。
仕事を終えた駐在さんがついてくれるという心強い援軍もいた。
田ノ上は手回しよく箱を用意してきて、籤になった。
順繰りと引いていき、私の番になる。底をあさってみると、紙がひとつしかない気がした。
引いたのは7。最恐コースだ。右隣の高梨さんが憮然としていた。
次に田ノ上自身が引いた。2だ。最後に伽夜が引いた。1だ。
「籤、俺が引いた時は籤が二つしかなかったぞ」
高梨さんが言うと、田ノ上はにっこりと笑った。
「そんなわけないじゃないっすか。一つだけだったか?小浦」
俺に問う田ノ上。俺は首を振った。
「さあ、気にしてなかった」

53 :
田ノ上もしつこく伽夜につきまとっている一人だ。
案外実家に行っていたのもこういう下準備をするためかもしれない。
自室にこもり。袖にでも隠した番号札を箱から札をとるように見せかけ、
仕込む練習をしている様を想像すると、なかなかの面白さだ。
出発前に田ノ上に地図を渡されてそれを読み込んでいる際。
高梨さんが横に来た。
「おい、あれでいいのか」
「告白でもする気なんでしょう」
「お前…本当にわかってないのか?伽夜ちゃんな…」
大学生にもなって、やっていい事と悪い事の区別がつかない奴はそういない。
伽夜を見ると、高梨さんとのペアになった喜納に番号を交換して欲しい、と相談している所だ。
そこに田ノ上がいって、ズルはダメと言った。少し不安はある。
カチンと来たらしい高梨さんが、ズルはお前だと言うが、田ノ上はどこ吹く風だ。
伽夜が困ったように俯き、ちらりとこっちを見た。
今からでも辞退すれば、と高梨さんにアドバイスされていたが、結局行くことにしたらしい。
12、34、56、7という順に十分置きに市場の前から出発することになった。
コースは島を半周。ほぼ反対側にある廃村となった隣村から一度表参道に入り。
神社を経由して、その裏参道から、遊歩道をたどって村に戻る。
駐在さんが、自分の携帯番号を教えてくれた。
何かあったらすぐに連絡すれば、ご自慢の足で自転車をかっ飛ばすそうだ。
危険な動物とかは、海中に毒のある魚がいるくらいだから、問題ないとか。
午後七時半。俺の番。駐在さんが「GO」と言った。
ヘッドバンドつきの懐中電灯と、ベルトつきの懐中電灯の二つで前後を照らす。
こういう島でもたまに夜中に車を出す人がいるから両方つけておいたほうがいいそうだ。
私達が肝試しをやることは島の皆が知っているので、危ない事はないとか。
それでも最後尾ということで、念には念を入れた。冒頭に書いたが私は怖がりだ。

54 :
左側から、潮騒が聞こえる。村はずれからは、かなり不気味な雰囲気が漂っていた。
私は早足だったと思う。前の組のライトの灯りが見えるまでは急ごうとしていた。
しかし、十分という間隔はなかなかそれを許しはしない。
風が首筋を撫でる度にぞくっとして後ろを振り向いた。
廃村について、私の恐怖はいや増しに増した。
左側に小さな漁港。右側に立ち並ぶ建物の列。
一つ一つの窓を照らし、顔が見えないかとかいった妄想をこみ上げさせながら、よせば良いのに確認をする。
恐怖を紛らわすために、頻繁にペットボトルを口にして、立ちションをするはめになった。
携帯ラジオのスイッチを入れ忘れていたのに気がついたのはこの頃だ。
ザァァァァ。雑音しか聞こえない。しかし、人間由来の音で少し平静を取り戻した。
少しして、二番手で出た高梨さんから電話が入った。
かなり音質が悪化していてびっくりした。高梨さんは怖くないかと聞いてきた。
素直に怖いというと、元気だせよと自慢の喉を披露してくれる。
残念ながら、リズム感がトンチンカンなのだ。この人の歌は。
しかし、その絶妙なまでの外れっぷりに、私は陽気な気分になった。
神社に差し掛かった頃に三番手に追いついた。
同行の女子が震え上がって立ち竦んでしまったようだ。
私は駐在さんに連絡して、迎えに来てもらうように提案して先に進んだ。
神社は、確かに恐ろしい。支柱が折れて傾いて潰れた状態になっていた。
祟りがあるんですよ、と稲で始まる誰かさんが言ったら、まず間違いなく私はそれを信じる。
もし、伊集院ピカリンとか、そんな感じの人が笑いながら、ここ幽霊出るって有名でね、と言っても信じる。
立ち竦むなんて、よくそんな恐い事ができる。さっさと通り過ぎた方が余程ましではないか。

55 :
裏参道は両側を林に囲まれながら上り坂が続いた。
きちんと片側にロープが張られていて、わかりやすく道も外れない。
暫く歩いていた時、携帯電話が鳴った。高梨さんが出た。
「小浦、そっちはどうだ」
「今遊歩道です。パンパースの宅配はありませんか。
 贅沢は言いません。布オムツでもこの際我慢します」
妙に緊張感のある声がして、ちょっと巫山戯た。
「こっちはもう終わったんだが、田ノ上組が出発地点にいない」
「宿舎に帰ったのでは?」
「そうかもしれないな。ところで駐在さんはどうした。いないようだが」
「前の組が震え上がって動けなくなったので、連絡するように言っておきました」
「そういう時は俺にも連絡しろ。部長なんだ。責任があるんだよ」
「すみません」
「次から直してくれればいい。そんなショゲるな」
電話が切れて十分ほどしてまた電話がかかってきた。
「宿舎にも戻ってなかった。田ノ上にも繋がらない。
 今な、喜納と一緒で、市場の前に戻った」
「…妙ですね」
「お前今どこにいる?」
「神社のあたりです」
「…なんで…ってきくまでもないか…。とりあえずそこで…」
「地図を見る限り、廃村から海岸沿いに進んだ先に、大型建築物が一軒。
 神社からは、さらに山を登る道があり。その先に何軒か建物があるようです」
「あ、ああ、ほんとだ…。ひょっとして…さっきの電話の後から考えてたのか?」
「はい。ホテルはお任せします」
「……とりあえず、近くで自転車借りて飛ばしとく」
「裏参道と偽り、連れて行きやすいのはこちらです。手が足りなくなるかも知れません」
「そうだな。…宿舎に戻って、居残り組全員に頼んで、そっちに向かわせる」
「お願いします」

56 :
実の所、電話を受けた時にはもうその道を登る最中だった。
暫く進んでいくと、最初の建物が見えた。山の静けさが私の心とは対照的だ。
不気味さなんて感じる余裕がない。耳に鼓動が聞こえる程、私は興奮状態。
物音一つしないが、潜まれているとまずいと思い、近づいた。
プレハブみたいな建物で、窓から中を覗きこむと、完全に廃墟だ一部屋しかない。
道に戻ろうとしたら地面がえぐれて剥き出しになったパイプを踏んだ。ベコッと割れた。
次を目指す。五分少々上がっていくと見えてきた。
次は二階建ての、多分、家。扉が開けたままになっていた。
入り口から足元を少しライトで確認すると、積もった埃の中に足あとが残っていた。
運動靴かなにかの模様と、ぺったりとしたサンダルの痕。
行きの分は歩調が一定。帰りの分は、サンダルのものがずるりと滑るような急ぎ足。
運動靴のものもかなり歩幅が広い。
中に何があるのかと奥にいくと、ファスナーが壊れたウィンドパーカーが床に捨てられていた。
袖が半分千切れているあたりで無理矢理脱がせようとした情景が浮かんでくる。
伽夜は確かウィンドパーカーに洒落たモノキニといった格好だったはずだ。
そのポケットを漁るが、携帯はでてこない。ひょっとして、手にもってはいまいか。
これまで、携帯の番号の交換を申し込めないでいた事を悔いた。
合宿のしおりには、それぞれの無料メールアドレスが記載されていたが。
伽夜のそれを登録することすら、怖気づいていて、連絡のとりようがない。
だが、もし、逃げている最中なら、タイミング悪く鳴る事で、最悪の結果を招く事もあると思い直す。
はっとして、携帯電話をとって、高梨さんにかけた。

57 :
「高梨さんですか?伽夜のケータイ鳴らしたりはしませんでしたか」
「お前に最初にかけてすぐと、その次の電話の後にもかけたぞ」
「出ましたか」
「最初は途中できられた。次は…」
「電波が届かない場所…ですか」
「……何か、あったか」
「増援を止めて貰うことにもなるかもしれません」
「…それ…どういう意味だ」
「伽夜のウィンドパーカーが落ちていました。袖が千切れかかっています…」
「…あんのっ糞野郎! 籤の事、もっと追求しとくんだった」
「高梨さんを止めたのは…私だ」
「ノブ…落ち着け…大丈夫か?お前、声…やばいぞ。
 お前だけのせいじゃない。思いつめてないか?」
「心配は御無用」
そう言いながら俺は廃屋を漁る、かなり古びた杖が一本あった。
手近な場所に打ち付けてみると、結構頑丈だ。
「おい、何の音だ今の!」
「杖です。手頃な武器になりそうだ」
「わかってるとは思うが…バカなこと考えるんじゃないぞ!」
「元々馬鹿です」
「冷静にだぞ。冷静に…」
煩いので切った。
次の建物は扉が板を打ち付けられて封鎖されていた。普通の精神状態だったら怯えきっていたろう。
ライトを向けて、二階の窓などに照射し、しばらく気配を読んで、その場を後にした。

58 :
次の建物は扉が板を打ち付けられて封鎖されていた。普通の精神状態だったら怯えきっていたろう。
ライトを向けて、二階の窓などに照射し、しばらく気配を読んで、その場を後にした。
その次の建物は、すぐ裏に鉄塔が立ちアンテナみたいなものが沢山ついていた。
建物自体は小さく。扉には鍵がかかっている。
ガチャガチャとやってみても開かない。何度か体当たりをして扉を壊した。
中は、結構整頓されていた。計器のランプ等が明滅していて、いまでも利用されている施設と分かる。
壊した扉の表札を遅れて確認してみると、島内電波塔管理室と書かれていた。
地図をあらためてみるが、この先には道もない。叫び声などもしない。
山に入られたのなら、もう探しようもない。
埃の上なら素人にも足跡が見えるが。全てそう都合よくいくわけはないのだ。
涙が零れそうになった。無力だ。
ふと、嫌な感覚がした。後ろを振り返るが扉の外には何もない。
何か、すごく悪寒がした。勘働きというやつだ。必に考えた。
その正体に気づいて、私は走りだした。
一つ手前の建物、窓はチェックし忘れた。
冷静に、冷静に振舞っていたつもりだったのに。気が逸っていたんだ。
駆け足で戻るなり、建物の外周を回る。
窓があった。しかも窓ガラスは内側に硝子を散乱させて割られている。
その上に埃が積もっていたので、結構前らしい。廊下に出ると開かれた扉が見えた。
中に入ると、モノキニのトップ部分が千切れて落ちていた。階段を上がった所に、残りの部分。
私が通りかかった時、何故物音がしなかったのか。捕まっていたからだ。
脅されて、助けも求められなかったのではないか。自分が許せそうにない。
二階に上がって手近な扉を開ける、二番目もそうする。いない。
三番目は鍵がかかっていた。
「伽夜?伽夜!」
扉をがんがんと叩く。
「小浦…先輩?」
「そうだ」

59 :
【今回の更新は↑まで】
専ブラクラッシュでトリップ喪失して入れ替えたスマソ

60 :
「よかっ…た」
カチャ、と鍵が開く音がする。後ろを警戒したが、誰も来はしなかった。
背後から抱きつかれる。すぐに振り向こうとして。
「見ないで下さい。今…」
「すま…」
全裸なんだと背中の感触で思い出した。
腰の懐中電灯のベルトにひっかけてもってきていた、無残なウィンドパーカーを肩越しに差し出した。
背中の感触が失せる。こんな時にそれを惜しむ気持ちが、なんとも恥ずかしい。
待てど一向にファスナーを閉める音はしない。やはり壊れている。
聞かん棒が暴れた時に困ることになりそうだが、意を決し、シャツも脱いでそれも渡した。
しばらく衣擦れの音が繰り返され、落ち着いたのか、ため息が聞こえた。
「…田ノ上はどうした」
「さっき部屋にライトが差し込んだ時に、逃げていきました」
「どうして助けを求めずに」
「あの時はまだ…脅されていて…怖くて」
携帯が鳴った。宿舎残留組の後輩からだ。
「どうした」
「いま、田ノ上さんとすれ違ったんすけど。
 伽夜ちゃん一緒じゃなかったっすよ。
 どうします、先輩。追いかけますか?」
「そうか…今は良い。ありがとう」
どうせ帰りには顔を合わせる事になるのだ。逃げおおせられるものか。
電話を切って、振り向く。
「ここでの事、なかった事にして頂けませんか」
「え?」
「…口外されて困るような事までは、されていません。
 ですから、訴えても直ぐに出てくるのではと…。私…」
「泣き寝入りではまたいつ…」
「お願いします」
「服装がこんなでは…皆納得しない。隠しようがない事だ」
「…本当は何かあったんじゃないかって、噂になったりするのが恐ろしいのです」
「……」

61 :
疑心があるという意味では、私も伽夜の想像の中の周囲と大して変わらない。
一方的な思いを寄せ、自らの軽率さが悪化させた事態に際して、操云々を気にする自分が嫌になる。
籤の一件然り、道々見てきた強姦しようとしてきた証拠の数々然り、材料が揃っている分根深い。
「御心配…なんです、ね。
 分かり…ました。ご存分に」
「…なに?」
「どうぞ、小浦先輩」
伽夜はウィンドパーカーを左右に避けて、シャツのボタンを外し、はだけた。
力づくで掴まれていたらしい乳房に痛々しい鬱血の跡が残る。
下肢の付け根がうっすら濡れていた。相当危ないところだったようだ。…雄の青臭はせずだが。
肩が、震えている。瞑目して俯く。
「籤の不正を糾弾すべきだった。悔やみきれん」
「そんな!…高梨さんが仰っていたのは私も耳に致しました。
 あの時、不気味と思わなくも…。結局ついていくことを選んだのは…私自身です。
 どうか、お気に病まないで下さい」
そういいながら後ろを向いて、伽夜は服装を整えはじめる。
「強い、な」
「話を変えませんか…。お伺いしても宜しいですか?どうしてここがお分かりに」
「必に考えた。地図を片手にな」
「…必に?」
「ん。ああ…」
「嬉しい」
「…」
「…こうしてお伝えするのは心苦しいのですが。
 お慕い致しております」
「…………」
お慕い?おしたい?何かの聞き間違いだ。
思わず、自分の下半身を見た。
腕を見た、肩越しに振り返った。

62 :
「あの、どうかなさいましたか?」
「おー失態致しておりますではないのか…?どこだ?」
伽夜がつま先立ちになって、私のおとがいを唇で吸った。
「これで…もうお間違いにはならないかと」
はにかんで唇を手で隠す。軽く開いた指の合間から桜色の唇が持ち上がっているのが見える。
不謹慎にも、嬉し涙。生涯初の両思い。そんな馬鹿な。あり得ない。
「…何故に」
伽夜は、茫然自失に陥りかけている私を見上げ、悪戯に微笑んでいる。
しかし、その明るさは少しでなりを潜めた。未だ田ノ上の恐怖は去ってはいないのだから当然だ。
「根も葉もない噂に苦しみたくは御座いません。どうか、なかった事に…」
…口が軽いタイプの部員もいる。それに伽夜の思う通りにしてやりたい。ためらいがちに頷いた。
編み目の粗めの麻のシャツ一枚。その上にぼろぼろのウィンドパーカー。
そんな姿を晒させては、と。増援には神社で待機して貰った。
高梨さんに連絡をして、神社の手前で待つこと二十分弱。喜納がやってきた。
私の腕に縋る伽夜の格好を見るなり、みるみるうちに童顔に皺を寄らせ、体格に見合う形相となる。
「おまえなあ!」
私の首が片手で掴まれた。喉仏が押されて苦しい。
「待って…小浦先輩では」
「伽夜、そうじゃないんだよ。…部長が指摘した時さ。
 お前が否定しなけりゃ良かったんじゃないのか。
 え?どうなんだよ。答えろよ」
「そうだ」
「…わかってるんなら…良い。田ノ上は、ぶちのめす」
「その件は、小浦先輩だけのせいではありません。
 あの場にいた皆が高梨先輩の発言は聞いていた筈です。
 田ノ上さんにも、何もなさらないで下さい。追い詰めたら何をされるか」
「……そりゃ、まあ。分かっているさ。あたしも悪いんだろ!? けどっ…
 って…泣き寝入りする気か?…なあ、嘘だろ?…あたし…納得できない」
伽夜の格好を眺めた喜納が手近な石にあたる。
がさ、と茂みに石が飛び入る音がした。

63 :
私と伽夜、後方には喜納の順で歩く。伽夜は喜納にもなついている様子。
慣れない相手がいる上に、先程の衝撃が蘇っている私は寡黙となっていた。
喜納は神社のメンバーに帰るように連絡をとった後、伽夜とどう言い訳をつけるか相談していた。
口裏を合わせようにも、田ノ上の携帯に何度電話しても無感情なガイドが流れるだけ。
苛立つ喜納のアルトがより低く、唸り声のようになるのを聞いていた。
「悪い事ばかりでは、やっと告げる事ができましたし
 撫子先輩にも、高梨先輩にも随分お世話になりました」
どういうことだ?首を捻っていると。喜納がこっちを軽く見下ろしがちに見る。
「趣味悪いよ。…こんなのとかさ。高梨にしときゃよかったのに。
 あいつも人が良いよね。振られた相手の恋愛相談なんかほいほい受けちゃって」
こんなの、には同意。思わず首肯。そして、はたと気がついた。
高梨さんがなぜ発破をかけてくれていたのか。
喜納が口端を持ち上げながら此方を見ていた。
「そんな事は御座いません」
「恋は盲目とは言うが…」
私の言葉に喜納が大きく頷いていた。
喜納は入部以来私に厳しい目を向けていた一人だが、仲良くなれそうな気がした。
「…あ。お返事は頂けておりませんでした」
急に伽夜が立ち止まる。
「え?」
喜納が驚いた後、前に出て此方を睨みはじめた。男らしくない、とつぶやく声が聞こえる。
そういえば、そういう状況ではなかった。告白シーンが再現されるなり、顔が熱くなってきた。
照れ切ってしまうと喉奥がきゅっと窄まって、声がでない。
伽夜の目が此方をじっと見つめるので、益々紅潮がひどくなって、耳に熱がのぼってきた。
「……わっかりやす。嬉しすぎて声が出ないってかんじ」
喜納が呆れたような顔をしながら笑った。
「よろしくお願いします」
はにかみながら、伽夜が絡めた腕にぎゅっと力を込めた。
まずい、股間がエネルギッシュになってしまいそうだ。
頭の中で服部半蔵と愉快な仲間たちっぽい時代劇のテーマを再生して必に気を逸らした。
「スポーツチャンバラ…教えてくれるか」

64 :
宿舎に帰った後、喜納と私と高梨さんと伽夜で集まった。
その場には田ノ上がいるべきだったが、田ノ上は宿舎には戻っていない。
メールを入れても返事が無く、一同憤慨した。
就寝時間を過ぎるまで、色々と話し合った結果。
田ノ上が伽夜とはぐれた上においていったという事にするという結論に達した。
これもメールしたものの、何の返事もない。
喜納に先行してもらって、伽夜の服をとってきてもらいはしたが。
行きと帰りで服が違うのは疑念を呼ぶ、とは皆分かっていた。だが、他に何が出来るだろう。
いっそ、服の件は小浦のせいにしちゃおうか、と高梨さんが言ったが、採用見送りとなった。
鍵が内側からかけられる科学準備室に伽夜はいた。
伽夜がそうして欲しいと言うので、私も付き添っている。
布団を敷いて、伽夜はそこで仰向けに横たわっていた。
随分、無理をしていたらしい。つきそいの私の手を伽夜がぎゅっと強く握って離さない。
目は瞑っていても、寝れてはいなさそうだ。どれだけ怖かったのだろうと思うと。
胸が、痛くて、痛くて、痛くて。腹いせに、田ノ上をどうにかしてやりたくなる。
伽夜は、奇跡的に私の負の部分を見なかったからこそ、勘違いで好きと錯覚したに違いない。
それでも、その幸運に縋りたいのが私の本音だ。幸せをくれた相手をこんなにされて、黙っていられるか。
変わりたいという強い気持ちで、イメージチェンジを試みた。
僕から私へ、声も低く抑えて出すようにした。LEDの向こうの、憧れの強い男にならって、口調も変えた。
けれども内面なんてものは、簡単には変わらない。弱いままなのだ。
すぐに伽夜は私を見ぬいて立ち去ってしまうだろう。
籤の時の私が何を考えていたのか、憶えてはいない。だが、容易く想像がつく。
きっと、田ノ上の強い語気に押し負けて、言うべきことを言えなかったのだ。
デブデブとからかわれながらも、強い食欲を抑えられずに太っていった頃の自分が思い出される。
弱い自分に腹が立つ。伽夜がこんなに怯えるのは、矢張り私のせいなのだ。
高梨さんと私、二人が声を揃えていたら、きっと周りもやり直し位は要求していた筈だ。
或いは、伽夜が試みていた、喜納との交換を支持していたのかもしれない。
そうであれば、今頃きっと、伽夜は喜納や同室の者たちと仲良くお喋り出来ていたに違いない。
私くらいしか縋れる相手がいない場所で、あんな気の迷いを起こさないで済んだのだ。
……気分が沈む。

65 :
「お顔、険しいです」
目を瞑って考え事をしている最中。霞んだ声が聞こえた。
目を開けると、伽夜が心配そうに見上げている。
伽夜の方は、大分落ち着いた表情だ。見下ろしながら、胡座をかく足を組み替える。
「早く眠れ」
「…心配だったから、お呼びしたのです」
「…何?」
「私はもう平気です。負けません。でも先輩は…」
「大丈夫だ」
「いいえ、とてもそうは見えません。無理をなさっています」
「……」
「御自分のせいだと思っていらっしゃるのでは?でしたらそれは…」
「いいから寝ろ」
「お断りします。大事な事です」
伽夜の目が、きっ、と此方を見据える。こういう力強い目も良い、と不謹慎にも思う。
「最終的に、一緒に行くと決めたのは私です」
優しく、諭すように言う。それでも気分は晴れないのだ。
こんな優しい女になんて真似を、ドロドロとした怒りが込み上げる。
「信用しておりました。…裏切られてしまいましたけれど」
「……」
「辛いですよね。小浦先輩も、高梨先輩も、私も、信頼を裏切られたんです。
 誰も、あんな人だとは、思えなくて当たり前です」
「…確かに、そうだ」
ちょっと強引に告白する位なら有り得たとしても、あんな真似をするだなんて今でも思えない。
大体、あいつは私の怪談にあんなに怒っていたじゃないか。やっていることは何だ。
狂いかけていた心の歯車が、伽夜のお陰で正常に戻った気がした。
…強くなろう。後ろ向きな思考がやっと、前向きな結論に達した。
伽夜とずっと一緒にいたい。

66 :
「あの…私の、どこがお好きかお伺いしても?」
「細かく言うと切りがない。
 …まあ、その…素敵を通り越して無敵だ、等と思っては…いたな」
「………」
伽夜は何か言おうと口を開いたらしいが。両手で口元を抑えて恥じらってしまった。
私は、伽夜の私に対する思いの源泉に、興味と恐怖を抱えた。
「ゆっくりお休み」
「……御父様に似ていらっしゃるんです」
聞きたくないからと話を切ろうとしたが、結局聞かされることになった。
褒め言葉だろうか。多分そうなんだろう。
「気取り屋か?」
「はい。三枚目です。見てて可笑しい位」
面白い人がタイプということだろうか。だとしたら、私より…。
リラックスしたらしい伽夜が寝息を立てると、緩んだ手をそっと離させた。
この場にいたら私の中の獣が目覚めかねない。
寝顔を許されるというのは、凄く、凄く、凄くすごくスゴク来るものがある。
外に出て、鍵を差し込んで回す。携帯を取り出して時刻を確認すると深夜二時。
一年A組に戻ろうとしたところで、玄関から話し声が聞こえた。
見に行ってみると駐在さんと高梨さんが立ち話をしている。
近づいてみると、この島の電波塔の管理室の扉が破壊されていた件のようだ。
「私です。済みませんでした」
「君が?…そういう事をするようには見えないが」
駐在さんはとても意外そうに言った。高梨さんはフォローに苦慮している。
何も無かったということになっている以上、緊急性の高い理由もない。
どうしたら助けてやれるだろうと、知恵を絞りすぎて、顔を顰めている。
「メンバーの中で、ちょっと連絡がつかなくなっちゃった奴がいて。
 こいつ、心配して凄く焦ってて。普段は良識あるやつなんです。
 ちゃんと弁償させますんで、どうにか、勘弁してやってもらえないですか」
「誰かいなくなっていたのか?
 …そういう話なら、もっと早くしてくれてしかるべきだ」

67 :
駐在さんは少し怒った様子だ。私は高梨さんの肩を叩いた。
変に庇おうとして作り話ではないか怪しまれたりしたら事だ。
私は駐在さんに息をかけて等いくつか言われてそのようにした。
飲酒しているかどうかなど、確認したかったのだろう。
「…まあ、肝試しの最中で、慣れない道を使っていたら、そういうこともあるか。
 ただ…変だよねえ。建物の中に強引に押し入る…っていうのはさ。
 まるで、誰かにその子が誘拐でもされて、助けようとしたかのようじゃないか…」
駐在さんの詮索に、私は鉄面皮を繕ったが、あからさまに高梨さんが動揺した。
虐められていた時に培った無表情もたまには役に立つ。が、台なしだ。
駐在さんは高梨さんを見て得心がいった様子で細めていた眼を普通にした。
田ノ上、と呟いて、高梨さんが目を逸らす。それも駐在さんの眼に確と捉えられている。
「とりあえず、君の連絡先と、出来ればご両親の連絡先も預からせてもらえるかい?
 示談で済むように取り計らう。役場から、後日連絡が行けば良し。
 そうじゃない時は、悪いが力不足で、被害届をせざるをえなかった、と思って欲しい。
 …その娘の事については何も聞かないが、勇気を持って訴えるべきだと諭してやってくれ。
 あと、君とその娘さんは、身辺に気をつけたほうが良いかもしれない」
駐在さんは何かを知っている様子だ。
私が口を開こうとすると、高梨さんが肩を掴んで止めた。
「…服務規程に抵触するようなことを、本官は言えない」
何を聞こうとしたのかは察していたようだ。
 田ノ上は最終日の朝にやっと宿舎に帰ってきた。
 はぐれた上において帰ったという話で他の部員から糾弾されると
 田ノ上は咄嗟に思いついたのか、実家に戻って捜索の人を出していたと弁明した。
 この期に及んで良い人を気取ろうとするさまを見ながら、私は奥歯を噛み締めた。
 皆、レイプ未遂までやらかすやつとは思っていない。そうだったのかと話を合わせている。
 事情を知る四人だけで、田ノ上の動向を東京に帰るまで注視し。
 伽夜の自宅へは、私が送った。酷い合宿は、こうして終わった。
【ここまでで半分程。トリップ使い下手ですまん】

68 :
コピペ面倒になったんでpdf
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org3057041.pdf.html
sage

次宇宙物のファンタジー書いてくる

69 :
>>68
今来ていっぺんに読んだ。
続きが気になるので再うpお願いできんか。

70 :2012/07/19
2ちゃんねるに投稿されたエロ小説を「違法情報」として埼玉県警が捜査、アクセスログを請求
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/poverty/1342680412/
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