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2012年5月レズ・百合萌え76: 【MEIKO・ミク】VOCALOIDで百合5【リン・ルカ】 (825)
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【MEIKO・ミク】VOCALOIDで百合5【リン・ルカ】
- 1 :11/04/01 〜 最終レス :12/05/04
- VOCALOIDの百合で萌えるスレです。
亜種やUTAUもOK。
雑談、SS、画像、曲紹介等も大歓迎です。
投下の際は注意書きをお忘れなく。
自作絵をうpする場合は自作と明記する、または保管庫に上げてそのURLを貼るようお願いします。
次スレは480KBか980で立ててください。
保管庫
ttp://wiki.livedoor.jp/lilyvocaloid/
前スレ
【MEIKO・ミク】VOCALOIDで百合4【リン・ルカ】
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/lesbian/1284960781/
過去スレ
【ミク】VOCALOIDで百合【MEIKO・リン】
http://babiru.bbspink.com/test/read.cgi/lesbian/1199576044/
【MEIKO・ミク】VOCALOIDで百合2【リン・ルカ】
http://babiru.bbspink.com/test/read.cgi/lesbian/1236774365/
【MEIKO・ミク】VOCALOIDで百合3【リン・ルカ】
http://babiru.bbspink.com/test/read.cgi/lesbian/1261018575/
- 2 :
- いちおつー!
- 3 :
- いち乙
- 4 :
- いち乙
- 5 :
- >>1
乙!
- 6 :
- ハク姉まだー?
- 7 :
- http://info.2ch.net/wiki/index.php?%C7%A6%CB%A1%C4%A1%B4%AC%CA%AA#content_1_11
忍法帖が適用されるかた、レスの容量制限がめんどいことになっとります。
SS投下時はご注意を。
- 8 :
- それにしても投稿が無い……
- 9 :
- >>8
前スレが残ってるし。
落ちるまでは向こうを使いきろうぜ。
- 10 :
- >>9
把握。てか残り5KBでまだ埋まってなかったのかよ……
短編も投稿出来ないレベルの容量だし早く埋めようぜ
- 11 :
- こっちはこっちで、レス少なくて落ちそうで恐いw
- 12 :
- 前スレ埋め終了
- 13 :
- ほしゅ
- 14 :
- ミクとメイコがにゃんにゃんとじゃれあってる夢を見たんだ…
目覚まし時計をあれほど恨んだ事はない
- 15 :
- >>14
続きをここで補完してもいいのよ。
- 16 :
- >>14
すぐに内容を書く作業に戻るんだ
なお猫耳だと俺得
- 17 :
- >>14
正座のしすぎで足が痺れないうちに続きをだな
- 18 :
- いつも飢饉と豊作の差が激しいスレだが最近は特にすごいなw
自家菜園(妄想)では対処しきれない
- 19 :
- >>18
その菜園の収穫、出荷しませんか?
- 20 :
- >>19
妄想するんと書くんとでは全く別の作業やから無茶ゆうたらあかんで
…書く書く詐欺の俺は本当に、早く書かなきゃならんけどな。頑張る。
- 21 :
- >>20
無理はするなよ。待ってる。
- 22 :
- 前スレ埋め乙です
忙しくて随分間が開いてしまいましたが、
前スレで言ってたSSをいい加減投下しようと思いますw
飽きもせずマスハク、タイトルは「SEPARATE」です
暫しのお付き合いをば、よろしくお願いしますm(__)m
- 23 :
- 「4月…か」
3月のカレンダーを破きながら、思わずそんな言葉をこぼすと、
「もう今年も四半年過ぎましたね」
湯気の立ち上るマグカップを持ったハク姉が応えてくれた。
あたしはそのマグカップの一つを受け取ってソファーに座ると、これまた一人言のように呟く。
「早いなぁ、ホントに」
「1日がすごく長く思うことはありますけど、1年って早いですよね」
「それもそうだね…しかし4月…」
「どうかしました?」
「…ね、桜もいい感じに咲いてる頃だろうし、花見行かない?」
突然すぎる提案を聞いたハク姉は目を丸くしていたが、やがてそれをキラキラさせると
「花見酒ですか?」
「いや、酒はないけど…ってかあたし、花見名義のどんちゃん騒ぎは嫌いなんだよ」
ハク姉の表情が少し沈んだ気がするけど、あたしは敢えて続けた。
- 24 :
-
「『花見』ってんだから、大人しく桜眺めてろよって思うんだよね…ま、『花より団子』っちゃよく言ったモンだ」
「ま、まぁ、外じゃ落ち着いて飲めないでしょうしね…」
「どうする?行く?」
「せっかくだし行きましょうよ♪
私、本物の桜って見たことないですし」
「な、え…ま、マジで?!」
驚愕の事実が、あたしの行動力エンジンに火を点けた。
「マジですよ、大マジです」
「よぅしならすぐ行こう今行こう早く行こう!」
「え、あ、ちょっ…マスターさん?!」
「桜が散ったら意味ないし、善は急げって言うしね!さー、行くでよーっ♪」
「ひええぇえぇえ?!」
ハク姉を半ば無理矢理引っ張って外に出る。
―――――――
「わぁ……!」
「これが桜…だよ」
あたしたちは、家の近所のこぢんまりとした神社にやってきた。
立派な桜が咲き誇っているのに、花見客はあんまりいない、言うなれば穴場的な場所。
ハク姉は桜に見とれて、ただ感嘆の溜息をこぼしている。
あたしは、舞い散る桜の花びらを眺めながら、不意にハク姉の前に歩み出る。
…そう。
ここにハク姉を連れてきたのには、もう一つの理由がある。
あたしには、ハク姉に伝えたいことがあるんだ。
「ねぇ…ハク姉?」
「? なんですか?」
あたしは意を決して、ハク姉に振り返る。
- 25 :
-
「…ハク姉はさ、今まであたしと一緒にいて…どうだった?」
「え?」
「後悔したこととか、ないかなって」
マスターさんの質問の意味を一瞬理解しかねた。
どうしてそんなこと聞くんだろう。
「そ、そんなことありませんよ?マスターさんは…確かにちょっとたまに困りますけど、いい人だと、思います」
「……そっか」
私の答えに、マスターさんは悲しそうに笑って呟いた。
初めて見る表情に、戸惑いと不安が隠せない。
「ま、マスターさんはっ」
「ん?」
「そういうマスターさんは、どうなんですか…?」
「あたしが後悔なんてするワケないよ、ハク姉と一緒にいられて、すごく楽しかった」
過去形にしてしまうその言葉尻を問い質そうとしたけど、マスターさんが目を伏せてしまったのを見て、思わず飲み込む。
「ハク姉がいなきゃ、クリスマスもバレンタインも未だに無縁だっただろうし、何より毎日誰かと一緒にいるってことが嬉しくて」
苦笑い。
そしてまた、悲しそうに笑う。
「…でもね」
不意に風が強く吹いて、桜を多く散らした。
- 26 :
- 猿よけ
- 27 :
-
…なんだか長くなりそうなので一旦ここで切ります
続きはあした投下します
- 28 :
- >>27
なんという生し…!
季節感あるのいいね。続き気になりすぎる待機!
- 29 :
- >>27
楽しみにしてますよー!
自分も書かなくては・・・
- 30 :
- >>27
くっ…続きが気になる
今夜楽しみにしてるよ
- 31 :
- wktk
- 32 :
- 皆さんありがとうございますm(__)m
それでは昨日の宣言通り続きを投下しますので、
暫しのお付き合いをばよろしくお願いします
次から行きます
- 33 :
- 【>>25続き】
その中に佇むマスターさんの背中は、今にも消えそうで。
耐えきれないくらいの不安に、内心で焦っていると、マスターさんは続けた。
「やっぱり…あたしと一緒にいちゃダメなんじゃないかなって…気付いたんだ」
「……え?」
心のどこかで、なんとなくこうなるんじゃないかって予測していたそれが的中してしまった。
「ど、どうしてそんなこと…」
だけど。
後戻りできないくらいに私も、マスターさんに惹かれていたんだ。
だからこそ引き留めたい。
しかしそれには言葉が足りないもどかしさに苛まれる。
そうこうしているうちに、マスターさんは離れてしまう。
「あたしほら、今までハク姉をちゃんと歌わせてあげたことなんて一度もないでしょ?
いや、『そんなん、あんたが努力しねぇからだろ』って言われたら…それまでなんだけどさ」
「そんなこと思ったこと、一度もありませんよ…!」
「そっか…ハク姉は優しいね」
どこか諦めを含んだ言葉に、次の言葉を探しても見つからず
「最後まであたしのワガママでゴメン……でも」
「…やだ…」
「もう、やめよう…ハク姉はハク姉のいた所に戻るんだ」
- 34 :
-
「イヤだ!!」
私、こんな大きな声出せたんだ。
自分でもそう思うくらいの叫び声。
「どうしてですか?!どうしてそんなこと言うんですか!」
「申し訳ないんだよ…ハク姉にはいろいろお世話になってるのに、自分は何もしてあげられてないってのが」
「だから別にそんなこと…!」
「しかも、あたしの努力次第でどうにかなるところを疎かにしてるんだ…マスター失格だよ…
まぁそもそも、何もマスターしてないんだから『マスター』なんて呼ばれる筋合いも、ホントはないんだけど」
そこまで言うと、マスターさんは至って真剣な顔でこちらを向いた。
「だからハク姉、もう戻るんだ…戻ったら、あたしにまつわる記憶を消してもらうことも、忘れずにね」
「なんで…そんな…」
「…じゃあ、あたしはもう行くね…最後まで無責任でワガママでゴメン…でも、」
「ハク姉と一緒に過ごせた間、すごく楽しかったよ、ありがとう」
マスターさんの笑顔は、例え記憶を消してしまってもいつまでも忘れられなくなるような、屈託のない笑顔。
思わず引き止めるのも忘れてしまっていて、気付いたときにはマスターさんは、そこにはいなかった。
- 35 :
-
「ま、マスターさん…?」
力なく言葉が漏れる。
「ねぇ、マスターさん、どこに…いるの?」
さっきまで目の前にいたマスターさんは、辺りにはもういない。
「マスター、さん…マスターさん…」
こんな開けた場所。
隠れられるような場所もないし、本当にいなくなってしまったんだろう。
そしてマスターさんの言葉が本当だとするなら、もうマスターさんとは会えない。
「置いていかないで…ねぇ、マスターさん…いるんですよね、マスターさん…」
もちろん返事はない。
ああ、これが「お別れ」なんだなって認識してしまうと、
「マスターさん、マスターさん、ま、すっ」
もう、自分を抑えることはできなかった。
ただただ、立ち尽くして声を上げて泣いた。
マスターさんを止めることができなかった悔しさと不甲斐なさ、また、独りになってしまった寂しさ。
色々なものが心の中でぐちゃぐちゃになって、涙として溢れてくる。
そして思い出がそれに拍車を掛けて、涙は止まることを知らなかった。
…あの時、初めてマスターさんと出会った時。
マスターさんが私を養ってくれるなんて何かの間違いだと、帰ろうとして抱き留められたあの温もり。
あの時のマスターさんの言葉。
まるで昨日のように鮮明に覚えていて。
- 36 :
-
クリスマスになんか暴走しだしたことも、
一緒に家で湯豆腐を食べながら他愛もない話をしたことも、
バレンタインに、たまにはとサプライズを仕掛けてみたら割と上手く行ったことも、
「ホワイトデーはハク姉の日だ!」なんて閃いてたことも、
マスターさんと過ごしてきた日々を忘れることはできない。
でももう、マスターさんと過ごすことも出来ないんだ。
その現実が何より辛くて、しかしどうすることもできずに、ただ泣き続けていた。
「……ってゆーのはふーふーふーん♪」
ふと、聞き覚えのあるメロディが耳に届いてすぐに、私の背中をよく知った温もりが包んだ。
「っ、ま、マスター、さん…?」
「さてハク姉、今日は何月何日でしょう?」
「ふえっ?え、えーと」
予想外の質問に頭が混乱する。
「え…っと、4月1日…?」
「That's right♪ と、言うことは…?」
前にも聞いたことのある、滑らかな発音の英語に混乱が加速して
「え?と、言うことは…? うーん…あっ」
しかし、恐らく正解であろう答えを見つけた私は、恐る恐るそれを口にした。
- 37 :
- 支援
- 38 :
-
「あ、あの…まさか…エイプリルフール…?」
「と、言うことは?」
「今までのは…全部、ウソ…?」
「だーいせーいかーい♪よくできましたー♪」
そこでマスターさんの手が離れる。
振り返れば、心底嬉しそうなマスターさんの笑顔。
「むふー♪なかなか迫真の演技だったっしょ?」
「ッ!」
「べふっ」
思わず言い返すより先に手が動いた。
振り抜かれた右の平手はマスターさんの頬へ。
「なんで…なんであんなウソ…っ!」
「ああ…それだけど…あの…なんてーか、他にいいウソが思いつかなかったってーか」
申し訳なさそうに頬を掻くマスターさんを見て心底思う。
私のマスターさんはバカだ。
誰にも負けないくらい大バカだ。
でもそれが何故か愛しくて、私はマスターさんに抱きついていた。
「バカ…っ、マスターさんのバカ…!」
「ゴメン…来年はもっと、ハク姉が傷付かないウソをもっとちゃんと考えるよ」
頭を撫でてくれるマスターさんの肩口に頭を預ける。
「とにもかくにも、あたしはハク姉に見放されない限り、ハク姉を捨てたりしないから。
それだけは、約束」
意を決したように、マスターさんの腕に力が籠る。
ちょっと苦しい、けれど心地良い。
- 39 :
-
「ハク姉…落ち着いた?」
「……」
腕の中のハク姉は一向に顔を上げてはくれない。
「大丈夫?」
「マスターさんのっ、せい、です…」
「う……ご、ごめん」
まさかこんなに泣かれるなんて。
確かに想定外だけどその反面、ちょっと嬉しかったりもする。
それくらいにあたしのことを想ってくれてるんだと思うと。
…自意識過剰じゃないよね?
若干の不安を感じつつも、それを掻き消すようにハク姉を抱く腕に力を込めると
「ます…さ…」
「ハク姉…?」
「もう…マスターさんが、嫌だって、言っても…絶対離れませんから…!」
「!」
不意打ちで、ハク姉からキスをされた。
少ししょっぱい、涙の味のするキスを。
触れるだけの唇が離れて、ハク姉が愛しくてたまらなくなったあたしは、念を押すように、心のもっと深いところに届くように
「ごめんね…大好き」
そう囁いてハク姉の頭を抱き寄せた。
程なくして家に戻ったあたし達。
あの桜の木にまつわるジンクス―桜の木の下で二人が誓った愛には永遠が宿る―を知るのは、まだ先のこと…―
- 40 :
-
…以上です
我ながら長かった…!w
まさかの今さらエイプリルフールネタでしたが、お楽しみ頂けたなら幸いです
それでは失礼しますー
- 41 :
- >>40
GJ!!!
もう二人は結婚しちゃえばいいよ!
- 42 :
- >>40
待ってましたGJ!
途中すげーハラハラしたけど幸せそうでなにより。ハク姉かわいいな
- 43 :
- >>40
GJでした!
もうなんだこれかわいい
- 44 :
- GJ!
しかし、幸せになれるであろうことは疑いないが
このマスターさんでは、この先もハク姉の苦労は絶えそうもないですねぇ
- 45 :
- うわあああ前話から一月以上経ってるう・・・
というわけで、前スレ>>781の続きを投稿します
今回で終わりかな、と思ったのですが、現実は厳しかったです
いつものに比べてさらにgdgd感が増してますが、最終話に向けた通り道だと思っていただければ・・・
次レスからお願いします
- 46 :
- 好きなものから逃げること。
それは、嫌いなものから逃げることよりも辛いことだった。
定例ライブで歌うデュエット曲をインストールしてから、1週間が経過したある日。
わたしたちは初めてのスタジオ練習をしていた。
「ダメね。全く形になってないじゃない」
一度通しで歌った所、メイコさんから厳しい言葉をもらってしまった。
当然のことだ。自分自身、この歌を『歌っている』実感が無いのだから。
「・・・休憩にしましょう。30分後に再開するわ」
返す言葉もなくしばらく沈黙していると、メイコさんは一つため息をついてそう言い残し、部屋を後にした。
「・・・」
わたしも、隣にいるミクも、黙って立ち尽くすだけであった。
「・・・」
漂う空気は重たく、居心地が悪い。
好きな人の隣にいるのに、ちっとも幸せを感じない。
「あ、あの」
「ごめんねっ・・・」
「あっ、ミク・・・!?」
いたたまれなくなって声をかけようとしたが、ミクは謝罪して弾かれるように部屋から出て行ってしまった。
・・・失望させてしまったのだろうか。
思えば、ミクはこのデュエットを楽しみにしていた。あのときの笑顔は今でも思い出せる。
なのに、こんな有様だから・・・。
一人になってしまった部屋の空気は、さっきよりも重く、苦しい。
- 47 :
- ※ ※ ※
走る。逃げるように走る。
いったい何から逃げているんだろう。
「―――っ!」
足が痛みを訴える。たまらず、わたしはその場で立ち止まった。
息はかなり上がっていて、苦しい。
「な・・・んで」
壁に手をつき、息を整えながら、独り言をつぶやく。
それは誰もいないスタジオの廊下に空しく吸い込まれていく。
「せっかく・・・ルカ・・・デュエット・・・」
言葉が上手く出てこない。気づけば、自分は涙を流していた。
せっかくルカとデュエットできると思ったのに。
わたしはあの有様で。
ルカを失望させてしまったかと思うと、余計に涙があふれてきてしまった。
「う・・・うぅ・・・」
支離滅裂な言葉はやがて、ただの嗚咽に変わってしまう。
その場にしゃがみこんで、ひたすら涙を流すばかりだった。
「ミク!?」
メイコ姉の声と、こちらに駆け寄ってくる音が聞こえる。
「ミク、大丈夫?」
しゃがんだメイコ姉と、少しだけ顔を上げたわたしの視線がぶつかる。
さっきはすっごく怖かったメイコ姉だけど、やっぱりメイコ姉は大好きなお姉ちゃんで。
「めいこねえぇぇぇぇぇぇ!!!」
わたしは何もかもを投げ出して、メイコ姉に縋り泣いた。
もうどうしていいか分からない。
メイコ姉は黙って受け止めてくれた。
頭を撫でる手、背中をポンポンと叩く手。彼女の優しさ、温かさを感じる。
結局、メイコ姉はわたしが泣き止むまで側にいてくれた。
- 48 :
- ※ ※ ※
飛び出していったミクを追いかけようとも思った。
しかし、彼女を追いかけて、捕まえて、一体何を言えばいいのか。
今のわたしには、何も言う資格など無いだろう。
そう思った途端、追いかけることができなくなってしまった。
いや、追いかけるどころか、むしろわたしは逃げているのかもしれない。
何となくだが、そう思えてしまう。
いったい、何から逃げているのだろうか。
・・・思考は暗く沈んでいく。
息苦しさがさっきから消えてくれない。
ふと気づけば、練習を再開する時間になっていた。ミクが戻ってきていない。
やはり探しに出たほうがよいだろうか。
そう思って手をかけた扉が、なぜか勝手に開いた。
「おっと、びっくりした・・・!」
扉の向こうにはメイコさんが立っていた。
いきなり目の前に現れるので、こちらも驚いて一歩下がる。
そうだ、ミクがいなくなってしまったことを伝えなければ。
「メイコさ・・・」
「今日の練習、中止にしたから」
「えっ?」
言いかけた瞬間、メイコさんの口から少し強い言葉が発せられる。
思わず自分の言葉を飲み込んでしまう。
「ミクがね、ちょっと調子悪いみたいだから」
「・・・」
少し困ったような顔。
でも、よかった。ミクはメイコさんと一緒にいたようだ。
- 49 :
- 「まあ、まだ本番までは時間あるしね。今無理させたら本末転倒だわ。ミクも、そしてルカちゃんも」
「わたしも?」
「そ、あなたも」
メイコさんがぴっ、と指差ししてくる。わたしは無理をしていたのだろうか。
「あなたに必要なのは考える時間かしらね」
「考える・・・?」
「そう。ちょっとだけ・・・そうね、一歩だけでもいいから、引いた視点で考えてみなさい」
メイコさんの言っていることは、分かるような分からないような。
それでも、とても大切な話をしている。それだけは分かる。
「・・・二人は相性バッチリって冗談っぽく言っちゃったけど」
メイコさんの言葉を噛み砕こうと、必に頭を働かせているところに、メイコさんがもう一言付ける。
わたしたちにデュエットするよう告げた、あの食卓での会話のことだろう。
「わたしは、本気でそう思ってるわ」
「え・・・?」
「何となく。何となくだけど、貴女たち二人の間には、特別な絆を感じる」
特別な・・・絆。
「だから、きっと大丈夫よ、貴女たちは。今は、ちょっと上手くいってないけど、二人ならちゃんと考えて向き合えるはず」
メイコさんの言葉がわたしの心に深く浸透していくようだった。
考える。それは言葉通り、今のわたしたちについて考えなくちゃいけないってことなんだ。
わたしたちが、また向き合って歩んでいけるように。
「メイコさん」
わたしは決意のまなざしでメイコさんを見据えた。
「必ず、答えを出します・・・!」
「ふふ。良い顔だわ。ルカ」
メイコさんは満足げに肯く。
・・・『ルカ』って初めて呼び捨てにされた。
「頑張ってちょうだいね、ステージ企画者のわたしの顔を立てるためにも」
―――そして、何よりミクのためにも。
- 50 :
- 以上です!
ルカミクっていうより、メイコ姉の独り舞台といったほうが正しいでしょうねw
頼れるお姉さんキャラが好きなのですが、そんな感じが出せているでしょうか
次回、或いは次々回が最終話になると思います
よろしければ温かい目で見守ってやっていてください・・・・
- 51 :
- >>50
GJ!
最終話に向けてwktk展開だなあw
ルカミク可愛いし、凛としつつ優しいメイコ姉さんも萌えた
- 52 :
- >>50
GJ!戸惑うミクとルカが可愛いな。
頼れるお姉さんメイコがとてもいい。そして続きが激しく気になる
- 53 :
- >>50
GJでした。
最終話に向けて高まってきますなぁ。
こういうメイコ姉さん大好きだ。
- 54 :
- 書いてるSSが大変な長さに
- 55 :
- >>54
あるあるw
俺も今書いてるのが纏まらなくて大変な長さになってるよ…
- 56 :
- >>55
纏まらなくて長いまんま投稿しちゃうダメ人間がここにいますよー・・・
- 57 :
- 最近の豊作の流れに乗りたい!
というわけで、大変な長さになった3スレ864の続きが出来ました。
ルカ×ミク+ちょっとだけリリィ×グミ
誤字脱字は生暖かい目でお願いします。
次から投下します。忍法帖との兼ね合いで少し時間がかかるかもしれません。
- 58 :
- 『涙の雨がやむ頃に』
ドアにかけられたミクの名前が綴られたプレートを、ただ一心に見つめる。追いかけなよ、と言ったボーカロイドの事を考えた。そしてミクの涙の意味を。
深呼吸をしてノックをしようと右手を上げ、けれどもノックをしないまま右手を下ろす。一つため息をついて。代わりに左手でノックをする。こ、こん。硬い音がひどく鋭利に響く。
ミク、と声をかける前にがちゃりとドアが開いた。わたしは小さく息を呑んで、目の前に現れた鮮やかな色の髪と空色の瞳を凝視する。いつかのように揺れたりはしない。ぴったりとわたしを見据えている。
目尻にはかすかに涙の名残りがあった。きゅっと寄せられた眉と、まっすぐに引き結ばれたくちびる。
「グミが好きなの?」
薄いくちびるから零れた声は、少しかすれて震えていた。
「グミの事が、好きになったの? 私が好きって言ったのは嘘だったの?」
重ねて問いかける、強さを増した声。どこか咎めるような。
「……いいえ」
わたしは吐息のような頼りなさで答えて、揺れない空色から逃げるように目を伏せた。あの日のように瞳を揺らしているのはわたしのほうで、けれど指の先から体温が下がっていく。あの日と同じように。
その指を、暖かな手のひらが包んだ。そのまま強く引かれて、わたしは少しよろめきながらミクの部屋の中に踏み込んだ。
「なら」
ぎゅっとわたしの指をミクが強く握る。わたしの左手を、ミクの右手が。痛いほどに。
「私にもしてよ。グミにしたこと全部して。私が好きなら、まだ好きなら、私にもして。私にも、してよ!」
最後はほとんど悲鳴に近かった。搾り出すような声音。わたしの左手を痛いほどに握るミクの右手は小刻みに震えている。
「……本気で言ってるの?」
「冗談でこんな事言ってると思うの」
展開についていけないわたしがようやく呟くと、とげとげしい声で噛み付くようにミクが答えた。華奢な手は、まだ震えている。
「そうね、ごめんなさい」
「ルカ」
ぴったりと見据えてくる空色は、誤魔化そうとするわたしを許さない。左手のかすかな痛みも。
「分かったわ。……今すぐに?」
「今すぐに」
迷い無く返された言葉に、わたしは深く長い息を吐いた。ふやけてしまいそうなほどに濡れていた右手の中指と薬指はとっくに乾いていて、でもありありとグミが残っている。手のひらにも。くちびるにも。舌にも。しがみつかれた背中にも。
揺るがない空色の中に、彼女の決意を感じ取る。それに胸が震えた。そうさせるのは、いつだってミクだった。ミクだけが、こんな風にわたしの感情を揺らす。
「シャワー浴びるから三十分待って。このまま抱くなんて失礼なこと出来ないわ。……グミがここに残ってる」
乾いてぱりぱりになった右手をひらひらと振って見せれば、言葉の意味に気づいたミクがさっと顔を曇らせた。その表情に呼び起こされた罪悪感が、ちりちりと背筋を刺す。それでも彼女を抱けるのだと思うと鼓動が逸って、そんな自分に罪悪感が増した。
「分かった、待ってる。……待ってる、から」
繰り返す声は少し震えている。そこに滲んでいるのは不安だろか。期待だろうか。それとも、もっと別の何かだろうか。抱いてくれなんて言い出した理由は、わたしの予想から外れているだろうか。当たっていて欲しい、と願う。
ミクに背中を向けてドアノブに手をかける。開ける前に、背中を向けたままゆっくり口を開く。
「わたしはね、ミク」
言っておかなければいけないことが、ある。シャワーを浴びて、わたしが戻ってきた時にミクが拒むなら、それでもいい。
「あなたが好きよ。ずっと。今でも。そうでなかったことは一度もないわ」
ミクは答えない。わたしはドアを開けて廊下に出る。ドアを閉める。ぱたん。長く息を吐く。そうして浴室に足を向ける。
できれば身勝手な劣情で汚れた下着を換えたいけれど、それは無理だろう。きっとわたしの部屋の私のベッドで、わたしの毛布に包まったグミがまだ泣いている。
ちくり、と胸が痛む。その傷みも身勝手だと思った。グミに優しい言葉をかけるのはわたしじゃない。その髪を撫でるのはわたしじゃない。傷つけたことに傷つくなんて、そんな都合の良い失礼極まりない行いを、グミにできない。
今わたしに許されているのは多分、ミクに向き合うことだ。真摯に誠実に、彼女とわたしの関係を扱うことだ。ミクが、それを許してくれるのなら。
- 59 :
-
脱衣所の棚に自分のバスタオルがあることを確かめて、乱雑に服を脱ぎ捨てる。どうせまたすぐに着るのだし、既に皺がついてしまっているので今更気にしない。
浴室に足を踏み入れて、給湯器のスイッチを入れる。コックをひねってシャワーヘッドから落ちる四十二度のお湯を全身で浴びた。
ぱりぱりに乾いていた右手の中指と薬指は水分を得て、擦り合わせればぬるりと滑る。それを丹念にお湯で洗い流す。
シャンプーのポンプを二度、三度と押して軽く泡立ててから髪に広げる。わたしは懸命に、いつもの入浴の工程をなぞった。シャンプーをすすぎ、コンディショナーを馴染ませて落し、長い髪を一つにまとめて身体を洗う。
足の間を探った指が滑るのは、おそらくボディソープのせいだけではなくて、わたしはもう何度目か分からないため息をつく。
何をしているんだろうと、思った。グミを抱いた。その事実は消せなくて、ミクが好きなのに、もうずっとずっと好きで好きでどうしようもないくらいに好きで、グミに触れている間ですら思い浮かべて。
切ない声で喘いだのはグミで、ミクではなくて、けれどわたしだって、はしたなく濡れていた。
涙が出そうだ。でも、それはグミに対する侮辱だと分かっている。泣くのなら、ミクのために泣かないと。心の底から、ただミク一人のためだけに。真摯に誠実に、ミクとの関係を扱う。真摯に、誠実に、ミクを。
そのためにわたしはシャワーを浴びていて、頭のてっぺんから足の先まで丁寧に洗う。今のわたしに出来る、精一杯の綺麗な身体でミクに触れるために。
三十分を少し過ぎてしまうかもしれない、とコックをひねってシャワーを止めてから考えた。わたしの長い髪は、ミクほどではないにしろ乾かすのに時間がかかる。
それでも多分、ミクは自室で待っているんだろう。ベッドの端に座って。ミクのそういうところにも、わたしは惹かれたのだ。
歯ブラシに歯磨き粉を乗せて口に入れる。口の中をミントの匂いが支配する。しゃこしゃこと念入りに磨いて、口をゆすぐ。
定位置のコップへ歯ブラシを戻してから、ドライヤーのコンセントを差し込んでスイッチを入れる。ぽたぽたと雫を落す髪にドライヤーからの温風を当てながら、わたしはミクのことだけを考えた。
- 60 :
-
ドアにかけられたミクの名前が綴られたプレートをちらりと見て、右手でノックをする。こ、こん。返事を待たずに開けると、ベッドの端に腰掛けたミクが居た。
一度こちらを振り仰いで、すぐに俯く。いつもより一回り小さく見える華奢な身体。
部屋に一歩踏み込んで、後ろ手にドアを閉めた。左手に持った、冷蔵庫から出してきたばかりのミネラルウォーターがやけに重く感じる。
ミクは俯いたきり、動く気配もない。
「気が変わったなら変わったと言っていいのよ」
「鍵閉めて」
迷うそぶりもなく返ってきた小さな声に、わたしは手探りでドアの鍵を閉める。ゆっくりと確かめるように床のラグを踏んで、ミクまでのわずかな距離を歩く。
すぐ目の前までわたしが歩み寄ったところで、ミクがゆるりと顔を上げた。揺るがない空色がまっすぐに見つめてくる。それを見つめ返しながら、わたしは無意識にこくり、と喉を鳴らした。
「……ミク」
名前を呼ぶと、ミクはそろりと目を伏せて待つ。わたしはミネラルウォータのボトルを床に転がして、白い頬にそうっと触れる。指はもしかすると震えていたかもしれない。
ミクはぴくりとかすかに身体を震わせて、けれど目を伏せたまま静かに待っている。わたしはぎこちなく身体を屈めてゆく。ミクの薄いくちびるに自分のくちびるが触れる直前にためらった。本当にいいんだろうか、と。
「ルカ」
けれど音の乗らない、吐息だけの囁きに咎められて、わたしはついにそのくちびるに触れる。
重ねたくちびるは柔らかく、くらりと眩暈さえした。一度離して、また触れる。くちびるは柔らかいのに、微動だにしない身体は硬く強張って震える。
舌を伸ばしてくちびるをなぞる。薄く開いた隙間から舌をミクの口内へ入れれば、びくりと華奢な身体が震えた。
ゆるゆると歯列を舐め、その先にある暖かな舌に触れる。
「っ、ん……」
静かだったミクが息を零す。そこに甘さはない。くちびるを離して、細い両肩に手を乗せてじわりと体重を乗せる。
白いシーツの海に落ちていく華奢な身体と深い湖の色をした長い髪。わたしを見上げる空色の瞳。キスの余韻が残る薄いくちびる。ミクの全てが胸をざわつかせる。
顔の横に右手を突いて、首にくちびるを落して這わせる。震える肌。上着の裾から左手を滑り込ませて、なめらかなわき腹の素肌を撫でる。硬く強張ったままの、細いミクの身体。
下着をずりあげて控えめな、けれどもふにゃりと柔らかな胸に触れた。
「ふっ、は……」
ミクがかすれた頼りない声を上げて震える。身体を強張らせたまま。やわやわと撫で、その頂を人差し指の腹で探る。そこが少しも硬さを帯びてこないと知って、わたしはミクの上着から手を引き抜いた。
「……ルカ?」
怪訝そうな声が上がる。空色の双眸と視線を合わせれば、かすかに不安の色が滲む。
わたしは返事をしないまま、太ももの内側へ手を滑らせた。スカートの中に入れば痛々しいほどに震えて、身体を緊張させる。
指先が辿りついた、ミクの足の付け根。触れたのは、さらりとした布地の感触。かすかな湿り気もない。
「る、ルカ」
硬く強張った華奢な身体。震える肌と細い声。不安を滲ませた空色の双眸。
ざわつくわたしの胸にあった劣情の兆しが急速に溶けて消えてゆくのが分かる。だというのに胸のざわつきは増して吐き気がした。
深く長い息を吐いて、ミクの上から身体を離して起き上がる。
「……やめないで」
ベッドの端に座ったわたしの右手を、身体を起こしたミクの右手が握った。小刻みに震える右手が。
- 61 :
- 「できないわ」
「私が相手じゃ嫌?」
弱々しく呟いたわたしの言葉にミクが不安を隠そうとしない声音で訊く。
「そうじゃない」
「なら続けてよ。――それともグミのほうがいい?」
「そうじゃないったら。そんな理由じゃないわ」
食い下がるミクに否定を重ねる。そうじゃない。あれほど緊張に強張った身体を、不安に竦む身体をわたしは抱けない。
「じゃあどうして!」
「あなたが好きだからよ!」
ミクの強い声音につられて叩きつけるように言葉を返す。触れたミクの右手がびくりと竦んだ。自己嫌悪。
ゆっくりと深呼吸をしてから、口を開く。ミクの右手のぬくもりが痛い。
「あなたが好きだから、できないの。そんなに緊張して怯えてるのにできるわけないじゃない。あなたが好きなの。大切なの。怖い思いや痛い思いなんて、させたくないのよ……」
零れ落ちた自分の声と言葉が、空気に溶けていく。わたしの左手に右手を重ねたまま、ミクはぴくりとも動かない。
カーテンの隙間から淡く光が差している。窓の向こう側で、名前を知らない鳥が鳴いていた。居心地の悪い空気が肩にのしかかってくる。
言葉と声は空気に溶けて、ついに消えてしまっただろうかと思った頃、透明なソプラノを鼓膜が拾った。
「ルカを、とられたと思った」
きゅ、とわたしの右手を重ねていただけの華奢な右手が握る。俯いたミクの表情は、前髪に隠れて窺えない。
「グミにルカをとられたと思ったの。私のものじゃないのに。――好きって言ってもらって、私のものだって勘違いしてたのかも。あの時はびっくりしちゃって、うやむやになっちゃったけど、でも私色々考えて……。
前みたいに一緒に雑誌眺めたり頭撫でてもらったりとか、ルカが笑ってるところが見たくて。最近、あんまり笑わないし。そういうこと考えてたら、グミが来て、それであのとき、嫌だって思ったの。
ルカをとられたくないの。渡したくない。とられたくなくて、とられたって思ったら馬鹿みたいに悲しくて! だからお願い、最後までして。ちゃんと、全部してよ。怖くてもいいから。痛くても、いいから」
頼りなく、ぐらぐらと不安げに揺れるソプラノ。順序立てなんて全く出来ていない言葉。わたしの右手を握る右手は力を増して、まるで責めているようだった。
「グミにとられたままなんてやだ。私、ルカが、好きだよ……」
消え入りそうなほど小さい、震えるかすれた声。ぽたた、と左手の上に落下した透明な雫の発生源は、きっと前髪に隠れた空色の瞳だろう。顎の先からあとからあとから伝っては落ちる。
「ミク」
まっすぐに、頭のてっぺんからミクの言葉に貫かれたような気がした。声が震える。呼応するように身体も。
「今、好きだと言った?」
確かめずにはいられなかった。本当に? 本当に? 本当に? もしかしたら、幻聴ではないだろうか。そうであったらと、無様に期待をし続けたわたしの。
けれどミクが小さく頷いて、深い湖の色をした長い髪がさらさらと揺れる。意を決したように顔を上げた、その頬と空色の瞳は涙で濡れてきらきらと光った。
「ごめんね、自分勝手だよね。グミがルカのこと好きなの、気がついてた。でも、やっぱりグミとルカがそういうことしたの、嫌で」
「……わたしのほうが、よっぽど自分勝手でひどいわよ。いいの?」
こくりと頷くミクの姿に、胸が震える。焦がれていた。ずっと、ずっとずっと。その視線がわたしに注がれるのを。甘い言葉を囁かれるのを。
触れようと空いている左手を上げると、ミクがはっと構える。一瞬の緊張。それを見て取って、わたしは自分に苦笑するほかない。
「抱きしめてもいい?」
「え、あ、うん」
ミクがぎこちなく頷いて、わたしの右手を解放する。わたしはできるだけそっと、華奢な身体に両腕を回して抱き寄せた。
腕の中で、緊張に強張る身体。それが徐々に解けていくのを待つ。辛抱強く。回した腕を動かさずに。
- 62 :
- 「怖い?」
「大丈夫……どきどき、はするけど」
耳元で問いかければ、肩に額を乗せたミクが小さく囁き返す。本当なら、まだ早い。早すぎる。
思いを伝えて通じ合って、どこか一緒に買い物へ行って映画でも観て。こっそり手を繋いでみたりして。抱きしめて、触れるだけのキスをする。
相手を想う夜があって、おはようの言葉が嬉しい朝があって、おやすみが寂しい。本当なら、そういう積み重ねがなければいけなかった。
そういう積み重ねで、お互いの肌の感触に体温に身体のかたちに少しずつ慣れていかなければいけなかった。
でも、多分ミクは待ってはくれない。だから慎重すぎるくらい慎重に。積み重ねたものがなくても怯えないように。
「ん、じゃあ横になって」
言いながら、自分が先にシーツの上に身体を横たえる。その隣に、ミクがおずおずと続く。
「こ、こう?」
仰向けに横になったミクが自信なく訊く。その身体に再び腕を回して身体をくっつける。
「背中向けて……そう。で、頭ちょっと上げて」
浮いた頭とシーツの間に左腕を滑り込ませて腕枕。細い背中にぴったりと密着して、右手で毛布を肩まで引っ張り上げる。
ミクのお腹に服の上から右手を乗せると、やはりぴくりと身体を緊張させた。
「大丈夫? 怖くない?」
「うん、平気。背中がその、ちょっとなんか、えーっと、意識しちゃうけど」
押し当てる格好になった胸のことだろう。ミクの言葉に少し笑う。腕の中の身体から力が抜けるのを待って、ゆるゆるとお腹を撫でる。
一瞬緊張して、けれどもすぐに解ける。今のところは、大丈夫。
「ふぇっ」
目の前でむき出しになっていたうなじに口付けを落す。触れる。離す。触れる。頬を摺り寄せる。何度も何度も。
右手はまだ薄く脂肪のついたお腹を撫でている。服の上から。うなじに口付けを落すたびにいちいち強張っていた身体が、次第にくちびるが触れても緊張しなくなる。
「触ってもいい?」
「う、うん」
お腹からじりじりと上の方へ移動させた指で、胸のぎりぎり下の辺りを撫でながら訪ねると、小さく肯定が返ってきた。
ネクタイを解いて、丁寧に上着の前を開けていく。優しく、ゆっくりと。ミクが怖がらないように。怯えたりしないように。
「嫌だと思ったり怖いと思ったらすぐに言って。絶対よ」
噛んで含めるように言い聞かせる。きっとこのくらい念を押してあげなければ、ミクは嫌だとも怖いとも言ってくれないだろう。
上着の中に右手を滑り込ませて、肋骨のくぼみの一つ一つや平らなお腹や鎖骨に時間をかけて手を滑らせた。
そうして、下着の上から控えめな胸を手のひらで包む。形を確かめるようにそっと撫でる。今更のように鼓動が速度を上げてゆく。触れる素肌はあたたかくなめらかで、鼻先を埋めたうなじが甘く香る。
「がっかりした……?」
不意にミクが口を開いて、そんなことを訊いた。
「うん?」
一体何に対してがっかりされたと思っているのか分からなくて訊き返す。ミクは少し身じろいで、やがて消えそうなほどに小さな声で答えた。
「私、ほら……胸ちっちゃいし」
その言葉に、わたしはぱちぱちと瞬きをして、それから微笑んだ。髪の間から覗く耳たぶに口付けて囁く。
「がっかりなんて少しもしてないわ。嬉しくてどうにかなりそう。――可愛い」
「ん、ぁ」
ちゅ、ちゅと口付けを繰り返すと、ミクが初めて鼻にかかる甘い吐息を漏らした。少しずつ、けれども確実に触れた肌が熱を帯びてゆく。
「下着、外すわよ」
返事はない。身体が強張る様子もない。それを肯定と受け取って、右手でミクの細い背中を探る。ぷちん、とホックを外し、開放された胸のふくらみを直接手のひらで包む。指に力は入れない。先ほどまでと同じように、ゆっくりと撫でる。
- 63 :
- 「平気?」
触れた瞬間に身体を緊張させたので、念のために確認する。かすかに頷いた気配に、わたしは安堵して、そっと指に力を入れた。
「っん、ふぁ」
ふにふにと、あくまでも優しく触れる。は、と零れた自分の吐息に熱が篭っているのを自覚した。
「んぅっ……っ」
少し前にしたように胸の頂を人差し指の腹で探ると、甘い声が上がった。本人はそれに驚いたのか、慌てて両手で口元を覆う。
「声、我慢しなくていいから。でも我慢したいなら、して。無理に我慢することもないし、無理に出さなくてもいいから」
放っておけば自分の手を噛んで我慢しそうで、わたしは先回りして釘を刺す。指の腹で撫でるそこは、徐々に硬さを増してゆく。
親指と人差し指で挟んで擦ると、華奢な身体がぴくんと震える。
「ぁ、っふ、ルカっ」
「ん?」
口から手を離したミクが、どこか切実な声音でわたしを呼ぶ。手を止めてうなじに頬を摺り寄せ、ミクの言葉を待つ。
「顔が見えないと、ちょっと怖い」
「こっち向く?」
ミクが身体を動かしやすいように右手を上げると、もそもそとこちらを向いて擦り寄ってくる。ああ、なんて可愛いんだろう。
空色の瞳がわたしを捉えて、ぱちぱちと瞬く。少し上気した頬を軽く撫でて、くちびるを寄せる。華奢な身体は、緊張しない。
「ん……」
重ねた感触は、前よりもずっと柔らかい。舌先でくすぐるとくちびるが薄く開く。その中へ舌を入れると、ぴくんと反応して身体を震わせる。少し待ってから、そっと舌を伸ばした。
「ん、んん」
丁寧に慎重に、ミクの口内を探る。くちびるの裏側。歯列。そして、甘い舌。腕の中で華奢な身体が緊張と弛緩を繰り返す。恐怖にではなく。
「はっ……」
零れた吐息がどちらのものなのかは分からない。二人分なのかもしれなかった。
右手を上気した頬から首筋へ滑らせる。そのまま鎖骨へ、そして再び胸元へ。尖ったままの先端に触れて、わたしは空色の瞳と視線を絡ませる。
「続けて大丈夫?」
「だい、じょうぶ、だと思う……。自分の声じゃないみたいで恥ずかしいし、なんか、変な感じ、だけど。でも、嫌じゃないから」
言いながらミクはわたしの胸元に額を擦り付けて、でもやっぱり恥ずかしい、と小さく呻く。身体の下敷きになっていた左手を引き抜いて頭を撫でる。
二つに結んだ長い髪をさらさらと揺らして、久しぶりに触れる感触を噛み締めた。
「好きよ、ミク。可愛い。大好き」
囁けば髪の間から覗いた耳がじわじわと赤くなる。可愛い、ともう一度繰り返して、わたしは身体を下へ移動させた。
「ふぁっ」
ぴん、と張り詰めた胸の先端に口付けて、含む。弾力を持った特有の舌触りに、下腹部が熱を持って痺れた。
「ぁ、ぅあ、あっ」
舌先でつついて、ゆっくり擦り上げる。軽く吸って、歯は立てずにくちびるで挟む。もう片方を右手の人差し指と親指で、くにくにとこねる。
頭上から降る声は確実に甘さを増してゆき、わたしの背筋を震わせて抜けていった。その声がもっと聞きたい。もっと。もっと。もっと。わたしにだけ、聞かせて欲しい。
「……ここ、触っていい? 怖いなら、やめるわ」
くちびるを離して見上げる格好で尋ねると、ミクは少しためらうように空色の瞳を揺らした。右手を太ももにするすると這わせ、上下に行き来させる。かすかに緊張する身体。
「グミにしたこと、全部、して」
ミクの声は少し震えていて、けれども揺るがない意志が滲んでいた。わたしは自分の身体をミクにぴったりとくっつけて、左手を細い首の下に差し入れて背中を撫でる。少しでも不安が和らげばいい。
「痛かったりしたらすぐに言って」
何度も繰り返した言葉を口にして、下着の上からそっと指を触れさせる。ぴくんと太ももが一度だけ震えた。ゆるゆると探ったそこは、下着の上からでも分かるほどに湿り気を帯びている。
「んん、ん、は、ぁっ……」
「怖い?」
「こわくない、けど、変な感じ……」
ミクの吐く息は熱く湿っぽい。多分、わたしも同じだろう。下着の中へ指を潜り込ませれば、くちっと水音が立って指先が濡れる。
ぬるぬると滑る指で合わせ目をなぞって、ミクの身体に尋ねる。大丈夫? 入れても、いい?
- 64 :
- 「っ、ぅ、ふっ……!」
うわずった甘い声と吐息。震える熱を帯びた肌。けれど、指で探るそこはまだ硬い。
「っ……!」
つぷ、とほんの少し中指を沈ませると、華奢な身体が跳ねる。
「……ミク」
「いい、からっ、続けて」
痛いとも、怖いとも言わず、ミクが食い下がる。それは強がりだ。分かっていても、わたしはここで終わらせることは出来ない。ミクが許さないから。
「一人でしたことある? あ、腰、ちょっと上げて」
ゆっくりと身体を起こしながらわたしは問いかけた。ミクを仰向けにして、その腰の横へ膝をつく。スカートの中へ両手を潜り込ませて下着に手をかける。
「……えっ?」
「こういうこと、一人で。――可愛いのはいてたのね」
重ねて訊いて、すらりと伸びた両足からフリルのあしらわれた下着を抜き取る。淡いピンクと白の組み合わせを選ぶところがミクらしい。
隠そうと閉じる膝をやんわりと押しとどめて、足の間に身体を収める。
「えっ、えっと、胸、触るくらいなら……」
その言葉に納得した。ああ、だからこの華奢な身体はこんなにも不慣れですぐに緊張して、そして驚いて震えるのだ。
わたしの視線に晒されたミクのそこは、かすかにひくついててらりと光る。
「る、ルカ」
くちびるを寄せようとすると、慌てた声で名前を呼ばれる。顔を上げて視線を合わせると、戸惑いの滲む表情。
「グミにもそれ、したの?」
「いいえ。嫌?」
「で、でも、きたない、よ」
勝手に頬が緩むのはどうしようもない。だって、こんな可愛いことを言われたら。
「全然。綺麗だし、可愛い」
「うぅ……」
諦めたように小さく呻くのを聞いて、わたしは今度こそくちびるを寄せる。
「ひ、ぁっあ、んぁあっ」
甘い声を聞きながら舌を伸ばして舐める。丁寧に、丹念に。独特の味と匂いがいやおうなくわたしを昂ぶらせて、次第に呼吸が荒くなるのを自覚する。
とろりと溢れる雫を舌先で掬って、ぷっくらと膨らむ突起に塗りつける。おそらく初めてであろう感覚に、戸惑いの混ざる声でミクが喘ぐ。わたしの顔を挟む太ももは時折切なげに震えた。跳ね回る声を伴って。
ちゅる、と音を立てて突起を吸いながら、合わせ目に中指をあてがって滑らせる。第一間接までをちゅくちゅくと浅く沈めたり引き抜いたりして、ゆっくりとミクの身体にわたしの指を馴染ませた。
- 65 :
- 「……いい?」
足の間から窺うと、涙を滲ませた空色の瞳と視線が絡まる。幾度か瞬きをしてから、細い右腕がゆらりと上がった。
「ルカ、そばにいて――お願い」
伸ばされた手を自分の左手で捕まえる。震える指に指を絡めてきつく握ると、頼りない力で引き寄せられた。
引かれるまま身体をミクの真上に移動させ、絡めた指を解く。顔の横に肘を突いて上体を支える格好になったわたしの首に、ぎこちなくミクが両腕を回した。
「いい、よ」
耳元で囁かれた言葉に、胸が締め付けられる思いがした。きつく押しつぶされるような痛み。ああ、なんて甘い。
「愛しているわ」
自然と零れた自分の声は信じられないほどに柔らかい。頬にくちびるを寄せて、あてがった中指をゆっくりと慎重に沈めてゆく。
「っ、あ、ぅ、ふぅっ……!」
回された腕の力が増して、両手がぎゅっと服を握りこむ。爪を立てたのか、うなじのあたりが鈍く痛んだ。
あたたかく濡れた、けれどきつく狭いミクの中にじりじりと指が飲み込まれていく。はっ、はっ、とミクが耳元で荒い呼吸を繰り返してはかすかに呻く。
「はぁっ、は……る、ルカ」
「痛い?」
どうにか根元まで沈めた指は、きちきちと締め付けられている。もちろん快感にではなく。
「ちょっと、だけ。でも、思ってた、よりは、痛くない」
切れ切れにミクが言葉をつむいで、深く呼吸をする。ゆっくりと華奢な身体から余計な力が抜けていくのを感じて、安堵の息を吐く。
「よかった」
少しだけ身体を浮かせて正面から空色の瞳を見つめる。きつく狭いミクの中はあたたかい。いま、ミクの一番深いところに触れている。
この胸に迫る感情は何だろうか。到底言葉では表せないような。ミク。――ミク。
「……ミク?」
不意に見つめた空色の瞳から、透明な雫が溢れて零れ、わたしはぎくりとした。まさか、本当は泣くほど痛かったの?
「え、あれっ?」
けれどもすぐに疑問の声が上がって、わたしはまた安堵に息を吐く。まったく心臓に悪い。
「あれ、なんでだろ、ごめっ、わかんない、止まんないの、ルカ」
あとからあとから溢れ出す涙は止まる兆しもなく、次第に嗚咽を伴ってゆく。きっと今、わたしとミクは同じものを抱えて震えているんじゃないだろうか。胸に迫るあの感情。何故か確信を持って、そう思った。
「ルカ、ルカ……るか、ぁ……」
わたしの首をかき抱いて、額を擦り付けて繰り返しミクが呼ぶ。切実な響きで。その度にミク、と耳元でわたしは応えた。
傷つけてしまわないよう、ゆっくりゆっくり沈めていた中指を引き抜いて華奢な身体を抱く。ついにミクは喉を震わせて声を上げながら本格的に泣き始めた。
わたしの分まで、泣いてくれているような気がした。
- 66 :
-
腕の中の身体が震えなくなって嗚咽と鼻を啜る音が聞こえなくなり、規則的な呼吸に変わった頃、わたしは背中を撫でる手を止めた。
背中に回した腕と、ぴったりと密着させていた身体を離して上体を起こす。ミクに背を向けてヘッドの端から床を覗き込もうとして、かくんと止まった。
振り向くとやはりというかなんというか、ミクがわたしの服をきゅっと握っている。少し不安げな表情で。赤く泣き腫らした目をして。
「大丈夫、どこかへ行ったりしないから」
ゆるく微笑んでそう言うと、ミクはほうっと息を零して指を離した。わたしはベッドの端から床を覗き込んで、転がっていたミネラルウォーターのボトルを拾い上げる。
「飲む?」
「うん」
すっかりぬるくなってしまったそれを揺らして尋ねると、がさがさに掠れた声でミクが答えた。伸ばされた手を取って、身体を起こすのを手伝う。引き寄せた華奢な身体は恐ろしく軽い。
キャップを開けて手渡すと、白く細い指が受け取った。口をつけてボトルを傾け、目を伏せる横顔。晒された白い喉が、ミネラルウォーターを嚥下して動く。こぽぽぽ、とボトルに空気が流れ込んでいく音。
その一つ一つを、わたしはつぶさに観察した。ひどく静かな気持ちで。まだ信じられないのかもしれない。この手でミクに触れたことが。
「ありがとう」
中身を三分の一ほど減らしたミクが、わたしに向けてボトルを差し出す。それを受け取って、わたしも中身を少し減らした。ぬるいミネラルウォーターが喉を滑る。
キャップを閉めてボトルを床に置くと、やけに真剣な眼差しで空色の瞳がわたしをじいっと見つめていた。
「……なあに?」
尋ねるとミクは少しためらう様なそぶりを見せたあと、右手を伸ばしてわたしの頬に指の先で触れた。その手がぎこちなく降りて、首の飾りにたどり着く。
「こう?」
探るような動きに、わたしは自分で飾りを外し、シーツの上に置く。すると今度は上着のファスナーに指が触れた。ちゃりっと弾いて、長く細く息を吐く。
「グミに、見せた?」
囁くほどの声でミクが訊いた。真剣さを失わない、涙の後が残る空色の瞳を見つめ返して、わたしはゆるゆると首を横に振る。
「いいえ」
「……私には見せてくれる?」
重ねられた言葉に、わたしは返事の代わりに微笑んだ。さっきミクが指先で弾いたファスナーを自分で下ろそうとすると、細い指がわたしの指を掴んで止める。自分で脱いでしまうのは駄目らしい。
わたしが手をどかすとミクがゆっくりとファスナーを下ろしてゆく。ちちちち、と金具がかすかに鳴った。
ぎこちなく服を脱がせてゆくミクを、わたしは少し身体を傾けたり、分かりにくいスカートのベルトを外したりして手伝う。
華奢な両手が背中に回って、何度目かに下着のホックを外すことに成功する。ストラップか両肩から落とされて、下着もそのままシーツに落ちた。
ちらちらとわたしの身体に視線を送るミクの頬は少し赤くて、それが嬉しい。意識してくれているのだと思うと。
腰になめらかな手が触れ、わたしは膝立ちになってミクの細い両肩に手を置いて下着が下ろされるのを待った。膝まで下ろされたところで片足ずつ引き抜いて、そしてわたしは身に着けていたものを全て失う。
不思議と高揚感はなくて、ただ静かに穏やかにあたたかな感情がひたひたと満ちてくるようだった。
- 67 :
- 「触ってもいい?」
「ええ。好きなだけ」
しばらくわたしの裸体を眺めていたミクが今更のように訊く。わたしが微笑んで頷くと、おずおずと指の先が胸の側面に触れる。わたしが嫌がったりしないのを確かめて、手のひらをそっと押し付けて滑らせた。
肩。首筋。二の腕。胸。肋骨の上。腹。背中。愛撫とは呼べない拙さで、ミクがゆっくりと肌を撫でてゆく。わたしは目を瞑って、その手のひらの感触をできるだけ強く感じようとする。暖かくなめらかな、ミクの手。
「……濡れてる」
足の間に手を滑り込ませたミクが、ぽつりと呟いた。それで、ああわたしはミクを抱いたんだと確かな重さで実感する。不完全な形ではあったけれど、この手でその肌に触れてくちびるを落して舌を這わせ、指を沈めた。
「ミクが可愛かったからよ」
そう返すとミクは少し恥ずかしそうに微笑んで、わたしの鎖骨の下に額を押し付ける。さらりと肌をくすぐる髪の感触が愛しい。
「私、ルカとあんなことになってもやっぱりグミのこと好きで、嫌いになれなくて……」
額を押し付けたまま、小さな声で話し始めるミクの細い背中に腕を回してそっと引き寄せる。応えるようにわたしの背中にも腕が回される。ミクの声には、自己嫌悪の苦い響きが混ざっていた。
「仲良くしたいって思うんだけど、でもルカだけは譲れない。嫌われてもいい。恨まれてもいい。ルカだけは、渡したくない」
震える、けれどもはっきりと強い声でわたしにだけ宣言する。
「辛い思いをさせて、ごめんなさい」
他にどんな言葉で答えればいいのか分からなくて、わたしはきつく愛しい身体を抱きしめた。ミクは腕の中で軽く首を振って、ぎゅっと腕に力を込める。
「私がいつまでもはっきりしなかったから、ルカも辛かったよね。ごめんね」
「いいの。もう、忘れたわ」
隠しようもないほど震える声と、胸元を伝ってゆくぬるい雫で、ミクが泣いているのが分かる。わたしなんかのために、どれだけ泣いてくれるつもりなんだろう。
「私もルカも、きっとグミのことすごく傷つけて、でも私たちに出来ることって多分なんにもないんだよね。でもいつか、グミもこんな風に抱きしめてもらえたらいいと思うんだよ。自分勝手、かなあ」
搾り出すようにミクが言う。言葉と一緒に涙も零れてわたしの胸を濡らしてゆく。わたしは胸元にあるミクの頭に額をこすりつけて、グミのことを考えた。夕日のような赤い瞳を。新緑の髪を。追いかけなよ、と言った声を。
「そうだとしても、わたしにはそう願うことくらいしか出来ないわ」
いつか、彼女も見つけるだろうか。こんな風に抱き合う誰かを。わたしではなく。
見つけて欲しい、と心の底から願った。それが自分勝手だとしても、傲慢だとしても、願わずにはいられない。
足元から満ちてくるような幸福感の中で泣ける日が、彼女にも訪れますように。
- 68 :
- ***
ぱしゃっ、と顔めがけてお湯をかけられて、わたしは向き合って湯船に浸かる犯人に向けて眉を顰めた。
「何するのよ」
「今、やらしーこと考えてたでしょ」
少しも堪えた様子もなく空色の瞳が視線を合わせてくる。どちらかというと当たっていたので、隠さないで教えることにする。
「初めてした時のことを思い出してたの」
わたしの答えに、ミクはちょっと驚いた顔をした。それから諦めたような深いため息をつく。
「あの時はあんなに優しかったのに、それが今じゃ……信じられない!」
さりげなく失礼な物言いに少し笑って、お湯に浸かったミクの身体へ手を伸ばす。控えめな胸の、その頂を探ればすぐに反応して硬さを帯びて尖った。
「優しくてして欲しい?」
「っ、ちょ、こらっ! ……たまには」
「ふふっ」
抗議の後に消えそうな声で付け足された言葉に笑うと、不満そうに睨まれる。
それが照れ隠しであることは、随分前に承知済み。次はあの時のように優しくしようか、などと考えているとミクの指が左頬に触れた。
「っ……」
「で、これどうしたの? 後で説明するって言ったよね?」
鈍い痛みに息を詰めると、ミクが本当に不満を滲ませた表情と心配そうな声音で尋ねた。
夕食の後、赤く跡の残った左頬を見るなり駆け寄ってきたミクに、後で説明すると言ったのは確かだ。
わたしは苦笑を漏らして、ひらひらとミクを手招く。ミクは怪訝そうな顔をしながらも、湯船の中でわたしに身を寄せてくるりと背を向けた。
足の間にすっぽりと納まった華奢な身体に腕を回して細い肩に顎を乗せる。ミクの身体は、いつかのように緊張したりはしない。
「リリィから平手打ちを一発」
「……何したの?」
短い説明に、もっともな疑問が返ってくる。
台所に響いた乾いた音と、鈍い痛み。ぎりぎりとわたしを睨みつけた蒼い瞳と、揺れる金の髪。それらを思い出して、くすりと笑みを零す。
「グミを抱いたわよって言ったの」
「ああ……」
ミクが心底納得した声を零して、そこに不快や嫌悪がないことに少しほっとした。わたしがグミにしたことを、ミクはきっと上手く消化してくれたんだろう。わたしが今日そうしたように。
わたしはしばらく何も言わないまま、ぬるめのお湯に浸かって腕の中の身体と体温を分け合った。ミクもやはり何も言わずに、わたしに軽くもたれてぬるめのお湯に浸かる。
時折どちらかが身じろいで、ちゃぷっと湯船の壁で小さな波が跳ねた。
「さっきさ、パンツ忘れて取りに行ったとき」
「うん?」
思い出したようにミクが口を開いて、天井を見上げるようにして顔をわたしの肩に押し付ける。濡れた長い髪は、ひんやりと冷たい。
「リリィがグミを部屋に連れ込むのを見たよ」
「……そう」
「グミってさ、リリィのこと好きだよね」
「そう、かしら」
なんのためらいもなく放たれた言葉を、わたしは簡単に信じることが出来なかった。そうだったらいいと思うのは、そうであって欲しいというわたしの勝手な願望でもあるから。
「時々、前にルカを見るのと同じ目をしてグミはリリィを見てるよ。あの頃はどうしても気になっちゃってグミのことずっと見てたから分かる」
そんなわたしに、耳元でミクが言葉を重ねていく。まるで諭すように。どこか、嬉しそうな声で。
「こんな時間にリリィと一緒に部屋に入ってったってことは、きっとそういうことだよね」
「……リリィは会ったときからグミ一筋だったわね」
わたしはミクの身体に回した腕の力を少し強くして、隙間なくその肌に自分の肌をくっつける。平手打ちを謹んで受けた甲斐はあっただろうか。
- 69 :
- 「うん」
「リリィは、ああ見えてグミに対しては優しくて真面目だからきっと大事にするわよね」
あそこでリリィの平手を受けるくらいしか、わたしにはグミとリリィに手を貸す方法が思い浮かばなかった。
そもそも手を貸そうと考えるのはおこがましいのかも知れなかったけれど、それでも小さなきっかけになれたのなら。
「うん、ルカをひっぱたくくらいだしね。……ルカ、泣いてるの?」
「雨でも降ってるんじゃない」
細い肩に額を擦り付けて、我ながら可愛げのない抵抗をする。
グミはリリィの腕に抱かれているだろうか。それともリリィがグミの腕に抱かれているのだろうか。幸せそうに笑いあう二人をわたしは想像する。
「ずいぶんしょっぱい雨だね」
ミクが苦笑して、仕方ないからやむまで待ってあげる、と優しい声で付け足す。
「……ミク」
震える声で囁く名前。それを口にするときの、甘い感覚をグミは、リリィは、知っただろうか。ベッドの中で。
「うん?」
「好きよ」
わたしは柔らかな体温を抱いて、今やっと自分を許すことを許して細い肩を雨で濡らし続けた。
***
「あんたさあ、そんなおっぱいお化けのどこがいいわけ? 理解に苦しむ」
「はぁっ!? 何それ嫉妬? 自分が貧乳だからって嫉妬してんの? まーリリィにはルカの良さは一生分からないと思うけどね!」
「貧乳が人に向かって貧乳とかマジうけるわー。ていうかルカの良さなんて分かりたくもないね!」
喧嘩するほど仲がいい、というのはこういうのを言うのだろうか。最初こそハラハラしたものの、とにかくミクとリリィは毎日こんな感じなのでいい加減に慣れてしまった。
それにしても朝から元気なのはいいけれど、早く食べないと朝ごはん冷めるわよ。
「仲良いよね、あの二人」
向かいの席で、まるで漫才のように言葉を浴びせあう様を眺めていたグミがぽつりと言って小さく笑みを零す。リリィへ向けられた視線は柔らかくあたたかい。
「愛されてるわね」
その表情があんまり幸せそうだったので、わたしは少しからかうように、けれども本心からそう返す。
「はっ?」
「ふふふっ」
ひっくり返った声を上げたグミの顔はみるみる赤くなってゆく。わたしはこらえ切れずに声を上げて笑い、それからグミの前に置かれたカップをちらりと見た。中身はからっぽだ。
「おかわりは?」
「あっこら! そこのおっぱいお化け! グミを誘惑しない!」
「ていうかその失礼すぎる呼び方やめなさいよ!」
グミが返事をする前にリリィがわたしに向かって噛み付いて、そんなリリィにミクが噛み付く。おっぱいお化け呼ばわりは不本意だけれど、二人のやり取りは見ていて微笑ましい。
グミもそんな二人にちょっと苦笑して、窓の外に広がる新緑と同じ色の髪を軽やかに揺らした。それからわたしにカップを差し出す。
「うん、もらう。ありがとう」
曇りのない笑顔と一緒に。
- 70 :
- 以上です。これで3スレ864から書いてきた話は完結になります。長すぎワロタ。すみません。
読んでくださった皆様、GJくれた皆様本当にありがとうございました。
そして何より全ての始まりになった3スレ854さんありがとう。読みたかった話と違う形になっていたら申し訳ないです。
以下お知らせ
ここへの投下はこれで最後にします。
このシリーズはこのスレのおかげで出来た話なので、ここで終わらせることにしました。
スレの職人さん達いつも素晴らしい萌えをありがとう。いつも保管してくれた方、本当にありがとう。
心からGJ!
- 71 :
- >>70
GJ!!
これで終わりなんてもったいない。
あなたが書いた作品でネギトロにハマったというのに。
ここじゃなくてもいいけれど、どこかで続きか別シリーズかをずっと書き続けてくれるなら嬉しいです。
- 72 :
- >>70
GJ!!!
ネギトロ美味しいです!
作中の二人みたいに、感極まる思いで読んでました・・・!
自分にもこういうSSが書けたらいいのに・・・
- 73 :
- >>70
本当に今までありがとうございました
初めて見たときからずっと貴方の作品が好きでした。
もう見れなくなると思うと残念ですが、これからも頑張って下さい。
- 74 :
- 大作おつかれ!
丸く収まってよかった
- 75 :
- >>70
これだけしっかり書けるのだから、いつかどこかでまた読めると嬉しいな
百合を置いておいても良いssでした
GJ!
…ついでにリリィ×グミにも萌えてしまったんだが、どうすればいいんだ……!
- 76 :
- >>70
GJ!あんた神だ。
ネギトロおいしいです
そしてリリグミにはまった
- 77 :
- 新スレにミクリンを
http://pita.st/n/top/show/?guid=ON&tid=ilqrz056&
流れぶった切ってすいません
百合曲じゃないけど
【初音ミク】Baby I Love You【オリジナル曲】http://www.nicovideo.jp/watch/sm14310146
聴いて無性に。
どもお邪魔しました。
- 78 :
- >>77
おお、アペ×アペいいですな!
照れてるリンちゃんの表情がとってもグッド!
- 79 :
- >>77
GJ!これは可愛いw
アペ衣装のミクリン萌え
- 80 :
- >>77
GJ!可愛すぎる
- 81 :
- HabnVn75氏がもう投下しないってんでショボンとしてたら、氏のサイトみっけ
- 82 :
- SS、イラストともに豊作ですねぇ
皆さんGJです!
ところで、ふと電波が舞い降りたので、ちょっと短めのSSを投下しようと思います
相変わらずマスハクですが、今までのマスター及びハク姉とは別人のお話です。
あと、軽くグロい?かもしれません。
苦手な方にはごめんなさいorz
では次から投下します
暫しのお付き合いをばお願いします
あっ あと今回タイトルはないですorz
- 83 :
- とある廃墟に独りぼっちの貴女は
とても不完全で、それ故に美しく
あたしの心を揺るがすには充分すぎた。
「…!」
「…、……?」
ぼさぼさの白髪。
黒い布に覆われたその両の眼窩にはきっと眼球は宿らない。
座り込んでいた彼女はそれでも確かにあたしを見つめると、まるで何か動物のように首を傾げた。
『君は、誰?』
そう尋ねる声が聞こえた気がした。
けれど彼女に声帯はない。
弱々しく動かされた唇はすぐに諦めたように閉ざされた。
だらんと力を抜かれたその両腕は偽物で、よくよく見れば右の脚にだって体温はない。
鼓動を奏でる心の臓だってあるかどうか。
しかし、それほどまでに朽ちてしまった貴女はとても美しく…―
気付けばあたしは、その冷たい頬に触れていた。
「っ!」
触れられる、という初めての感触に驚き、跳ねる身体。
思わず手を引っ込める。
「あ、ああ、ご、ごめん」
「………」
言葉尻の震える謝辞も耳の無い貴女には届かないのか、怯えたようにあたしを見上げる。
「大丈夫、怖くないよ?」
伝わらないと分かっていても、いつか伝わるような気がしてあたしは、そう断りを入れてからその細い身体を抱きしめた。
(あ…ちゃんとあったかい…)
胸。腹。背中。
そこにはちゃんと体温があって、生きている証拠―つまりは、鼓動―もそこにあった。
「っ…ぅ……」
苦しそうにしかし柔らかく抵抗するその冷たい腕ごと抱きしめると、やがて彼女は抵抗しなくなった。
一定のリズムを保ち、耳をくすぐる吐息。
「大丈夫…もう、独りじゃないから」
「………」
聴覚を通さなくても届くようにと、ぎゅう、と抱きしめて
「あたしが、ずっと一緒にいてあげるから…ハク…」
無意識のうちに、あたしの心を揺るがせた彼女の、朽ち果てた歌姫の名を呼んでいた。
- 84 :
- …以上ですw
届いたねんぷちハク姉の下半身が逆になっていたのに気付いた瞬間に舞い降りたモノがコレでしたw
ちなみに続きませんのでご了承ください
それでは失礼しますー
- 85 :
- >>84
GJ!!
いつもの甘いのも大好きだけど今回はすごく儚げで感動しました。
というかインスピレーションの元がww不良品からもSSを作っちゃうとかすごい
- 86 :
- >>84
GJ
毎度思うがあんたの発想力すげえよ
- 87 :
- 次のボーマスでリンミクアンソロとルカメイルカアンソロが発売されるらしいな
- 88 :
- もしここでリレー小説書きたいっていったら参加したい・参加シテヤンヨって人いる?いたら名乗り出てくれ。
- 89 :
- >>87
なんですとーっ!そいつぁ素敵やん!
>>88
おこがましい事申し上げますが…
リレーって前文読んで『書きたい』って気持ちとインスピレーションが浮かんで成り立つものですからいきなり募るのは如何なものか…
とりあえず自分は遅筆なので無理ですな
- 90 :
- >>88
喪前が用意した土台による
- 91 :
- ミクとグミはお互いミクちゃんグミちゃんと呼びあってくれれば萌える
- 92 :
- お姉ちゃんリンちゃんルカちゃんネルちゃんハクちゃんグミちゃんミキちゃんユキちゃんいろはちゃんリリィちゃん…
ミクさんは大体ちゃん付けな感じがする ハクさんがマスターな場合はそりゃマスターって呼ぶと思うけど
- 93 :
- そこで恋人だけに呼び捨てですよ
- 94 :
- 忍法帖リセットされたか。投下しづらくなるな。
それ以前に、さっぱり筆が進まないんだけどさ。
- 95 :
- 忍法帖ってなんだい?
- 96 :
- 知らないってことは対象じゃないんだな。うらやましい。
忍法帖のレベルが低いと、連投間隔が制限されたり、レス容量が制限されたり、スレたて出来なかったりする。
http://info.2ch.net/wiki/index.php?%C7%A6%CB%A1%C4%A1%B4%AC%CA%AA
- 97 :
- >>96
なるほど、こういうことなのか。わざわざありがとう。
昔はちょろちょろ書いてたけど、最近は読む時間すらとれない私には
あんまり関係がないことだなあ。
ゆっくりできる時間が欲しいお・・・
- 98 :
- グミクは正義。
- 99 :
- いやリリグミだ。
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