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2012年5月エロパロ37: おんなのこでも感じるえっちな小説11 (393) TOP カテ一覧 スレ一覧 Pink元 削除依頼

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おんなのこでも感じるえっちな小説11


1 :10/02/06 〜 最終レス :12/05/04

このスレッドは女の子でも感じるえっちな小説を投稿する場所です。
男×女・オリジナル限定。二次創作・百合・801は該当他スレへ。
なお、血縁のある近親相姦はアウトです。
 なんか「おま○こ!」とか直接ドーンと言ってるのも冷めるけど、
 「秘密の果実」とかとおまわしすぎるのもかなりわらっちゃう(笑)
 オトコノヒトにちょっとSっ気があるとなお萌えvv(笑)
              (スレ1の1さん=ナナさん発言より抜粋)
■注意事項
 自薦他薦を問わず、他スレ・HP・書籍等の小説紹介はご遠慮下さい。
 ただし、投稿された方がHPをお持ちで縮刷版からのリンクがOKな場合は、
 縮刷版管理人までメール下さい。
 また、当スレ投下と同じ登場人物で他スレに投下されている小説に関して、
 「コテトリ付きでご本人様からスレ上で紹介」して頂くのは全く問題なく、
 この場合は、住人一同、とても喜びます。
 なお、(緊急避難用スレを除く)他スレやHPからの転載投稿は不可、
 あくまでネット初出限定です。
■前スレ
 http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1250127662/
■過去スレ一覧
 http://www2.gol.com/users/kyr01354/bbsstory/kako.html
■おな感縮刷版(まとめサイト)
 http://www2.gol.com/users/kyr01354/bbsstory/

2 :
          _人人人人人人人人人人人人人人人_
         >      ごらんの有様だよ!!!  <
           ̄^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^
_______  _____  _______    ___  _____  _______
ヽ、     _,, '-´ ̄ ̄`-ゝ 、   ノ    | _,, '-´ ̄ ̄`-ゝ  、  |
  ヽ  r ´           ヽ、ノ     'r ´           ヽ、ノ
   ´/==─-      -─==ヽ   /==─-      -─==ヽ
   /   /   /! i、 iヽ、 ヽ  ヽ / / /,人|  iヽヽ、   ヽ,  、i
  ノ / /   /__,.!/ ヽ|、!__ヽ ヽヽ i ( ! / i ゝ、ヽ、! /_ルヽ、  、 ヽ
/ / /| /(ヒ_]     ヒ_ン i、 Vヽ! ヽ\i (ヒ_]     ヒ_ン ) イヽ、ヽ、_` 、
 ̄/ /iヽ,! '"   ,___,  "' i ヽ|     /ii""  ,___,   "" レ\ ヽ ヽ、
  '´i | |  !    ヽ _ン    ,' |     / 人.   ヽ _ン    | |´/ヽ! ̄
   |/| | ||ヽ、       ,イ|| |    // レヽ、       ,イ| |'V` '
    '"  ''  `ー--一 ´'"  ''   ´    ル` ー--─ ´ レ" |

3 :
>>1
乙です

4 :
            _   ヵ、     ,.へ
         _∠  ,メ、 `ー――'   ヽ
    ___r-'´   、  `└-------ァ  /
  ∠ -ァ l      \    ヽ \ / /
   /  〉、、     ヽ弋  /レ'´/  /
  ./ /   | \l\X   \Y | /  /      |\
 /ノ|  ト|-   ̄  \   !_/ノ |  {         j  ヽ   こ、これは>>1乙じゃなくて
 '′| l l、!    、_入 |t j   ',  `ー――‐"  ノ    ポニーテールなんだから
    l ト | ハ-‐′   ̄  Yー'   ` ----------‐´    変な勘違いしないでよね!
   V ヽ! .}〃' r‐'>""ィ)、
        `ー‐ ̄ィチ ///「 ̄ト、
        rΤ「|Y// |   ! \

5 :
>>1
お疲れ様

6 :
>>1 乙です

7 :
>>1さん
乙です!!

8 :
すみません。
手違いで、前スレにSS投下しました OTL
(512KB表示で気がついた……)
 854 名前:精一とユキの話 2[sage] 投稿日:2010/02/12(金) 00:43:30 ID:RqUjbYwC
 >>1さん、乙です
 即回避に……
 エロ(あっさり目)有
 ユキは出てきません。
 暗いです。
 すみません
 今さらですが、
 NGワードは タイトルか、IDで
 本文投下は 9レス です
…………
2レス分投下しましたが、
新スレ即回避用に、
最初からもう一度投下します。
ごめんなさい
では、最初から。。。

9 :
                         
カナダへ短期留学に行ったユキが帰国するまで、あと半月。
ユキが出発の前日切ってくれた髪は、すぐに伸びた。
仕方なく昔オヤジに連れられて行った床屋に久しぶりに行ってきた。
結果――しばらく帽子が手放せなくなってしまった。
今は伸びてきて、寝癖がつきやすくて困るものの、帽子はかぶらずにすむようになったんだが。
ユキに会ったら、思い切り笑われるだろうなあ。
あと半月の辛抱なんだが……。
ちょっとした約束をした所為で、思っていた以上にこの3カ月を長く感じるハメになった。
『俺のことは忘れろ』
この話をした時、ユキは初めのうちは意味がわからない、と泣いてあげくにケンカのようになった。
――電話もかけてくるな。
――手紙もいらない。
俺とのことは無かったことにして、あっちでの生活に集中しろ、と。
学生のユキに、できるだけたくさんの経験をさせてやりたいと思ったからだ。
俺とユキとは16の歳の差がある。
俺は大学生活も会社勤めも恋愛も一通り、まあ平凡にそれなりの経験をしてきた。
けれどユキのほうは、これからなのだ。
俺の存在が、それを取り上げてしまうようなことはしたくない。
俺とのことで、あいつの大切な時間を潰したくなかった。
ユキを離したくない。でも、束縛したくはない。
だから、日本での煩わしいことから切り離して、思い切り楽しんで来てほしかった。
学生としての時間を謳歌する時に、思考の中から「俺」という項目を外させたかったんだ。
けれど、実際ユキがいなくなって堪えたのは、待つ身になった俺の方だった――。
会えないからなのか、最近は、何故かよくユキの小さい頃のことを思い出すようになっている。
5歳から1年生の頃は、遊んで欲しいと、よく俺の部屋のドアからそっと顔を覗かせていたこと。
しょっちゅう俺のオヤジの晩酌に付き合っていたこととか。
オヤジは自営だったから、晩酌を始める時間が早く、ユキのおやっさんは会社勤めで帰宅は遅かった。
だからユキは、寂しくていつもウチに入り浸っていたんだろうな。
ユキがオヤジの胡坐にちょこんと座った様子は、まるで親子のようだった。
中学生になる頃には、挨拶すらもぎこちなくなった。
思春期なんだ、ってそう思っていた。
そのころには結婚を考えていた相手がいたから、俺の方はユキのことは、
可愛い妹としか思っていなかったからなあ。
それでもユキは、月に一回は、必ず俺の髪を切りに来てくれていた。
母が亡くなってからも。
それが、アイツの、唯一の気持ちを伝える手段だと、その頃からわかってはいた。
けれど、ユキにとって俺はただの隣のお兄ちゃん(現に小学生まではそう呼ばれていた)で、
しいて言えば憧れられてるだけだと思ってた。
高校生になった頃も、ユキが俺を男として見てんのかが、わからなかった
彼女と別れて、次の年母が亡くなって……ひとりでもいいと思っていたし。
もう、何も、誰もいなくていい、と思っていたからだ。

今日は、4年前に亡くなった大学の恩師の墓参りに来た。
車で片道3時間もかかるが、葬儀以来ずっと来ることができなかったから、
どうしても今日の命日に行こうと思い立った。

10 :
                      
午後に自宅を出たのは、墓参の親類縁者に顔を会わさずに済むと思ってのことだ。
秋の陽の傾く中、4年ぶりに恩師である辻先生の墓前に手を合わせることができ、まずほっとした。
淡く朱色を刷いたような秋独特の夕焼け空を、鳥が2羽横切っていく。
もうすぐユキが帰ってくるんだな。
墓地を抜けたばかりの寂しい場所でさえも、不謹慎だが空を仰げば胸が弾んだ。
空を仰いでみるようになったのは、ユキがカナダに行ってから。
カナダの空も日本の空も、続いていて、同じだからだ。
この3ヶ月、空を仰いでみては、ユキを想っていた。
ユキの存在をリアルタイムで感じられる気がする。
「精一」
いつのまにか彼女がすぐ傍に立っていることに、全く気づかなかった。
聞き覚えのある、少し高めの落ち着いた声に、頭にあったユキの存在が一気に消し飛んだ。
その代わりに血が昇った。
「精一……よね?」
俺は黙ったまま、ゆっくり声のほうを振り返った。
「…………うれしい。来てくれたのね」
「みやこ……」
恩師の妹の美夜子が、俺の腕に華奢な手のひらを添わせてきた。
俺より2歳年上の美夜子は、かつて結婚を考えていた人だ。
卒業した後も、時々ゼミの仲間と先生宅で集まっていて、当時、
先生と同居していた彼女とそのたびに顔を会わせていた。
そうするうちに、俺と美夜子は、付き合い始めた。
「やっと来たんだ……葬儀以来……だよ」
「兄さん、よろこんでるわ」
微笑した美夜子の顔は、前より少しやつれたように見えた。
「美夜子は、これから帰るの?」
「え……ええ。今日はこちらで泊まって、明日自分の家に帰るわ」
美夜子が旅行鞄を持っているのに気付いた。
俺と同じように、ここに着いてあまり時間がたっていない、ということか。
美夜子の実家は、ここから歩いて20分程かかるところだったことを思い出した。
「送っていくよ。もうすぐ日が暮れるし」
「…………え……え。お願いしようかな」
「じゃ、車、乗ってよ」
できれば会いたくなかった、というより、会うのが怖かったひとだ。
会ってしまったら、自分が美夜子に対して冷静でいられるか自信がなかった。
けれど、意外にお互い穏やかに話ができた。
だから、実家まで送り届けるつもりになった。
実家なら、車で10分もかからないはずだし。
けれど、美夜子は実家ではなく、隣町にある温泉街のある旅館の名を、俺に告げた。
急に、後ろ暗いような不安な気持ちが、胸を過る。
同時に、最後に会った日のことが、蓋をしておいた記憶の底から蘇ってきた。
4年前のあの日、辻先生の葬儀が終わって、俺が帰宅する朝のことだった。
***

11 :
                          
あの日。
突然の訃報を知らせに美夜子がやってきて、急いで俺は実家のあるこの街へ彼女を乗せて、車を飛ばした。
車で3時間の、山間の温泉街の隣町が先生と彼女の生まれ育ったところだ。
ついた日は通夜で、翌日は告別式だった。
早すぎる突然のを、先生の家族は受け止めきれていなかっただろう。
俺も母親を亡くして本当に独り身になり、3年経ったところだった。
だから、残された先生の家族の気持ちを思うと、身内の不幸ほどにやりきれなかった。
俺の家に知らせに来た時は取り乱していた美夜子は、高速を走る頃には落ち着きを取り戻していた。
車の中で、俺と別れてからの4年弱のことを簡単に話した。
彼女は今、服飾関係の仕事で独立する準備をしている、と言った。
それと、子どもを一人かかえて1年前に離婚していた。
その子どもが4歳になることも。
俺と別れる前には、すでに妊娠していたと聞かされ、高速道路でブレーキを踏みそうになった。
……煮え切らない俺にさっさと見切りをつけて、他の男とできていた――下世話な言い方をすれば
そういうことなんだが。
それはそれで、少なからずショックだった。二股かけられてた訳だから。
……美夜子は悪びれるふうもなく、時々笑いながらそんな話をした。
告別式の翌朝、俺の泊まっていた温泉宿に彼女が尋ねてきた。
朝食も済ませて帰り支度をしていた俺は、部屋に彼女を入れた。
布団は部屋の隅に二つに折って、片付けたように見えるし、帰り支度で雑然としてはいたが、
拒む理由もなかった。
「美夜子に会うのは、昨日が最後だと思っていたよ」
できるだけ明るく言葉をかけた。
彼女が俺に目を合わさないようにしていたからだ。
「もう会ってくれないだろうと思っていたから」
と彼女は伏し目がちに言った。
「今さらなのに、ここまで乗せて来てくれて葬儀にも……」
「美夜子のほうこそ。大変だったのに」
「わたしは……」
「知らせてくれて感謝してる。先生にお別れできたし」
「……」
「……美夜子にも会えた」
心からそう思っていた。
もう、会うことはないと思っていたから。
奔放な彼女に振り回され気味に付き合いを重ねてきて、ぷっつり糸が切れた。
少なくとも俺にとって、美夜子との終わりはそんなふうに突然だった。
ある日「結婚したい好きな人がいる」と告げられて、俺は別れを受け入れた。
母の介護のことが頭にあったからだ。
奔放な美夜子に、俺の事情を背負わせて一緒になることは無理だと……もともと
無理な話だと心の奥では思っていた。
だから、自由に自分をさらけ出して生きている美夜子に、惹かれていながら、
いつも欲と嫉妬に苛まれていた。
俺にはできない生き方が羨ましかったんだ。
そういうひとと繋がっていることが、その頃の俺にとって無くてはならないことだった。
そしてその繋がりが不毛なことも、歪な精神状態のままではいつかこの関係が終わるだろうことも、
予想していた。
気づきたくはなかっただけだ。

12 :
                          
「……嬉しかった」
「うそ」
「ほんとうだよ。不謹慎だけど嬉しかった」
初めて顔を上げて俺を見つめた瞳が、濡れたように光っていた。
なんども体を重ねていたあの頃の彼女とだぶって見えた。
背中がゾクリとして、慌てて目を逸らすしかなかった。
あらかた荷物が片付いて、窓のレースのカーテンを閉めた時だ。
不意に美夜子が立って、俺に抱きついてきた。
「抱いて」
「みっ…………だめだよ。美夜子……もう、俺たちは」
「寂しくて……兄さんがいなくなって、寂しくて堪らないの」
「美夜子……でも」
「慰めて欲しい」
「美夜子…………美夜子は、先生を……」
そこまで言った時、美夜子が俺の唇に人差し指を縦に押し当て、言葉を遮った。
触れた指先の熱が唇に生々しく伝わってくる。
「それに……精一には……悪いことしたわ、わたし」
「いいんだ。それより、今、美夜子には……」
「今、カレシなんていないわ。離婚してからね、オトコには懲りたの」
「……そんなひとが、『抱いて』とか言わねえよなー」
わざとおどけ気味に言うと、美夜子は凄艶に微笑んだ。
汗ばみ始めた俺の首に、ひんやりとした腕が絡みついてきた。
「だから、これきり。面倒はかけないわ。ね……お願い」
お願い、の言葉が美夜子らしくない、弱々しい声で吐きだされた。
軽い体の重みを俺に預けてくる。
喉に息がかかって、背中が震えた。
「面倒って……」
「精一こそ、彼女、いるんでしょ。でも、一度だけよ、慰めて欲しいの。ね?」
彼女――。
瞬間、頭に制服姿ユキの姿が過っていった。
バカな。ただのお隣さん、それも妹のような存在なんだぜ?
頭を振って、ユキの残像をキレイに追い払った。
そして目の前の女に、挑むように視線を合わせた。
体中の血が、一箇所に集中し始める。
子どもを産んだとはいえ、以前と変わらない、細い腰を抱きよせた。
美夜子がくたくたとくずおれて、俺ももつれ合うようにその体を押し倒していった。
それから後は、ただ無言だった。
チェックアウトまでの短い時間、ただ貪るように美夜子を抱いた。
若草色のワンピースを捲りあげ、手をもぐり込ませ、乳房を鷲掴みした。
ブラをずらし、こりこりと尖った両方の蕾を指できつく摘まんで捩ると、美夜子が
鋭く抑えた叫び声をあげた。
ショーツはすぐにずりおろして、俺は自分のジーパンの前をくつろげた。
いきりたったモノは、弾むように下着から飛び出してきた。
それを待っていたように美夜子は膝立ちして、胡坐になった俺の上に腰を落とそうとした。
こんなにすぐ、いいのか、と言おうとした時、
「いいの。入れて……もう欲しくて……どうにかなりそうなの」

13 :
                          
泣きそうな顔で、美夜子が哀願した。
俺から視線を逸らさず見つめたまま、美夜子が腰を揺らす。
すかさず手で自分のモノを掴んで、美夜子のそこに先を擦りつけた。
接したところから、粘り気のある湿った音がして、美夜子の眉根がぎゅっと寄った。
「はああ……ああ―――」
俺の目を見つめる瞳がうつろになっていく。
前戯もなく男を迎え入れる美夜子の体に、背筋がぞくぞくとする。
恐ろしく熱い柔肉に飲み込まれていく感覚に、我を忘れる。
「精一……ああ……精一なのね……」
目を閉じて揺れながら、美夜子がうっとりとした顔をして呟いた。
服も脱がず、向かい合い座ったまま、お互いの体が繋がっていく。
深く包まれるほど、何重にもなった襞が蠢いて、繋がりから腰に強烈な痺れが走った。
美夜子が喉を仰け反らせた。
「あ―――っ」
記憶の中にあった、快感に酔った嬌声が目の前の女の声と重なった。
同時に美夜子の中が、びくびくと収縮を繰り返す。
美夜子を抱く腕に力を入れて、力任せに揺すり上げた。
背中の、美夜子の爪が食い込んでいく痛みまでが、快感に変わっていく。
やけに懐かしい嬌声の中で、俺の欲望は簡単に弾けてしまった。
今にして思えば、服の乱れやシワをできるだけつけたくなかったのだろう。
俺がすぐにもう一度美夜子を畳に押し倒した時、その体が起き上がって
四つん這いになった。
我を忘れて行為に夢中になってしまっていた俺と比べて、美夜子の冷静さに
今頃苦笑してしまう。
「精一、もっと、して」
美夜子が艶のある声で囁き、ねだるように腰を振った。
目の前に突きだされた円やかなラインの尻を、迷わず掴んでいた。
あっという間に力を取り戻したモノをなんの躊躇いもなく、そこへ押しつけた。
今放ったばかりの白濁した液体が、のめり込ませるたび押し出されて滴っていく。
「優しくしないで……精一……わたしなんかに」
そんな余裕なんか無かった。
美夜子を気遣う余裕など……それよりも、欲望に負けていた。
「あ……ああっ、ひどく……ひどくして……ね? お願いよ」
美夜子は自分から腰を突き出して、俺を飲み込んだ。
「してっ……してよ、せいいちっ」
ぐちゅぐちゅと音が部屋に響く中、美夜子が苛立つように声をあげる。
まだ気だるさにぼんやりしていた俺は、我に返って一気に美夜子を深く貫いた。
パンと肌の打ちあわされる音がして、愛液と精液の混じった飛沫が飛ぶのが見えた。
浅黒い美夜子のしなやかな体に覆いかぶさるようにして、後ろから胸を掴んで律動した。
「もっと! 突いて……突いて!」

14 :
                  
ばさばさと明るいブラウンのショートヘアを振り乱して、美夜子が叫ぶ。
俺はもう、誰を抱いているのかなんてどうでもよくなっていて、ただ快楽の渦に
飛び込んでいこうとしていた。
目の前に差し出されたエサを貪るただのオスになって、美夜子を犯しているだけだ。
「もっと……もっと奥を……突いてよぉ!……」
啜り泣きのような嬌声が聞こえてくる。
それを耳にしながら、ひたすら奥へと抽送を繰り返した。
獣のように吠えながら――俺は2度目の欲望を放っていた。
欲の塊を吐きだしきった後、自分が空っぽになった気がした。
美夜子の中から離れながら、別れた時の喪失感と虚しさを思い出していた。
誰でもよかったのかもしれない。
そうだ。美夜子が恋人だと思っていた頃から。
誰かに、傍にいて欲しかった。
父親という大きな存在が不意に無くなって、母を支えることも生活していくことも、
あの頃の俺には重過ぎて、受け入れられずにいた。
必にやっているつもりで、本当は空回りしていた。
不安で堪らなかった。
誰かに甘える代わりに、温もりに溺れていただけだ。
弱い自分をごまかしてくれる相手がいれば、それでよかったんだ。
……美夜子も、同じだったのかもしれない。
「美夜子……ごめん」
恋していたのは本当だ。
美夜子は、縋りつこうとすると逃げていく、そういう女だった。
恋焦がれて……俺が一方的に繋ぎとめようとしていた。
「いいの……精一、ありがとう」
美夜子が衣服を整えていた手を止めて、俺の頬にその手を当てた。
視線は、俺じゃなく、たぶん他の誰かを見ているんだろう。
うつろな眼の色が、底の知れない深い穴のように思えた。
だからゆっくり近づいてくる唇に気づいた時、思わずそれを押しとどめていた。
キスなんて、今さらできない気がした。
どうして、という表情になった後、すぐ何か悟ったように美夜子は体を離した。
また衣服や髪に手をやり、何事も無かったように立ち上がった。
これで、終わりだ。
「時間……」
「ああ」
俺も身なりを整え終えて、立ち上がった。
部屋の出入り口に向かった美夜子は、振り返って言った。
「先に、行くわね」
そして艶やかに微笑んだ。
けれど、美夜子の笑顔は以前の彼女の笑顔と、かけ離れたものだった。
もっと屈託のないものだったのに。
「元気で」
「美夜子も」

15 :
                       
……それが4年前のことだ。
だからあの日、夕方帰った自分の部屋のベッドでユキを見つけた時は、かなり狼狽した。
ユキには、離婚していたこと以外は、ウソはついてはいないつもりだ。
確かに曖昧にして本当のことは言わなかった。
けれど、言う必要は無かったと思っている。
あやまちではなく、まして関係が再燃したわけでなく『若気の至り』ってやつだった。
いつか、話す時が来るかもしれないが、できれば話したくない。
俺自身が、思い出したくもないことだから。

車は、辻先生と美夜子が生まれ育った町を過ぎて、隣の温泉街に入った。
「わたし、勘当されたのよ」
まるで他人事のように、美夜子は言った。
子どもは今、離婚した人の元で育てられていて、美夜子には親権はないと言った。
そう言った横顔は、寂しさや悲しさを隠しているように見えた。
彼女や会えない子のことを思って、胸が痛んだ。
先生と美夜子は、親にとって自慢の兄妹だっただろうと思う。
だから余計に、美夜子の奔放な生き方は、親たちの目には放埓な振る舞いにしか
映らなかったんだろう。
それでも、離婚した後も、美夜子は次々恋愛をしてきたんだろうな。
そう言ったら、なんでわかるの、と返された。
美夜子らしいな……苦い笑いしかでてこない。
所々湯の蒸気があがる温泉街のメインストリートを通り過ぎて、山側の風情のある旅館へ到着した。
同時に今、車を下りて、彼女がひとりで泊まるという部屋に向かっていることに、後悔し始めていた。
荷物を持って、美夜子が今晩泊まるという離れの玄関前に来たところで、入るのを躊躇った。
案内してきた仲居さんは、美夜子に何か頼まれて、玄関前ですぐ引き返して行ってしまった。
夕暮れ時、目の前の、木立の中にある瀟洒な建物が、黒く蹲っているように見える。
「すごい……贅沢だなー。離れ、かあ」
「奮発しちゃった。久々の一人旅だもの」
はしゃぐようにしていた美夜子は、急に俯いて言った。
「兄さんと、一緒にいたいと思って……」
「先生と……?」
「そう。せめて今日はね」
玄関の敷居の前に立った時に、急にユキの顔が頭に浮かんだ。
『引き返した方がいい』――迷っているうちに、美夜子の声に急かされて、
部屋に促されるまま上がってしまった。
躊躇いながらも、部屋の中を進んで行き、美夜子の荷物を隅に置いた。
玄関を入って正面は、一面窓、という造りだった。
窓の外の眺望は、半分が向かいの山に覆われて、半分は視界が開けている。
斜面に建てられたこの離れは、少し高い位置にあるんだな。
すぐ下に渓谷が見えて、暗い夕焼けの中で川面が光っている。
部屋を出て、木立の中の下り道を行けば、そこへ辿りつけるようになっていた。

16 :
                                         
「精一も、夕食、付き合わない?」
「…………いや。いいよ、今から帰らないと」
「…………」
不意に美夜子の爪先が畳を蹴ってしなやかに体が弾んだ、と思ったら、
俺の体に美夜子が飛び込んできた。
「帰らないで」
言うなり、肩や背中にきつく腕が回された。
唐突過ぎて、しばらく俺は動けなかった。
艶めかしい匂いや美夜子の体の質感に、俺の体温が徐々に上がっていく。
美夜子は俺の背中からうなじへ手を這わせ、腰のあたりへゆっくり下した。
男だから、こういうことになれば、どうしたって体が反応し始める。
気が焦って、美夜子にやめるように言おうと、顎を上げた。
目の前の窓の外は、山と空のあわいが、同じ黒い色に染まって曖昧になってきていた。
空が――窓の外が夜空に変わっていこうとしているのにようやく気がついた。
急に冷たい水を浴びせられたように、頭がすっと冴えた。
――なにをやってるんだ、俺は。
しがみつかれた体を、ぐい、と引き剥がすようにして押しやった。
そして、あらためて窓の外に見える空を見上げた。
今夜は、新月だったんだな。
爪で引っ掻いた傷のような月が、まだ明るさの残る空に白く浮かんでいる。
そのすぐ下に星が一つ、強い光を放っていた。
いつものように「精さん」とユキの声が聞こえてくる気がした。
ユキ。
この時間、同じ空を見ているだろうか。
「大バカ者だ」
バカか、俺は。
こうなるかもしれないって、わかってただろう?
軽率だった。
ごめん、ユキ。
「精一……」
背を向けた俺に、美夜子がなにか言ったが、聞こえなかった。
「美夜子、俺、帰るよ」
「精一、待って」
「帰る……美夜子、俺たちはもう終わってるんだ」
向き合って、彼女の顔をまっすぐに見た。
彼女は、ひどく疲れた顔をしていた。
「もう、会わないよ……」
そう言って、また美夜子に背を向け、振り向かずに玄関を出た。
「せいいちっ」
後ろからかけられた声が、知らない女の声に聞こえた。

17 :
                  
ひと月後、美夜子が駆け落ち同然に、同業の若い男と海外に行ってしまったことを、
人づてに聞いた。
美夜子は、誰かをずっと追いかけていたのかもしれない。
決して追いつくことのできない、誰かを。

俺のベッドの中のユキを見たあの時、はっきりわかったことがある。
ユキが俺にとってかけがえのない存在になっていたということだ。
あの時は、まっすぐなユキの想いを、欲に汚れた俺なんかが受けとめることは
できなかった。
ユキに触れるのさえ、躊躇うほどだった。
まぶしくて、大切で、絶対に汚してはならない。心からそう思った。
高速のパーキングで一息ついて、紺色の混ざった黒い空を仰いだ。
自分の街で見るよりたくさんの星が瞬いている。
もうすぐ帰ってくるんだな……。
澄んだ夜空は、静謐で、心に染みるようだった。
同じ空を、ユキが俺と同じように仰いでいるのを想像した。
キレイだな、ユキ。
今日のことを話したら、ユキはバカな俺を許してくれるだろうか?
いや、許してくれるまで謝らなきゃだめだな。
空の下で、ユキが笑って手を振っているのが目に浮かんできた。
===終===

18 :

前スレ埋まりました……OTL
ああもう……
ありがとうございました
誤字脱字すみません

19 :
前スレ梅、乙で〜w
美夜子さん、色っぽいな。
グッと堪えた精さん、GJ!!
投下ありがとでした!

20 :
GJ!!早くユキちゃん帰っておいで〜

21 :
>>18
乙ですー!同じくユキちゃん帰ってきてーーな気分w
精さんってば若気の至りとはいえ濃いいw

22 :
>>18
GJです!!
精さんのオトナなエピもイイ!
純粋なだけじゃないよな、オトナは。
だがそこがいい
前スレ埋めも乙ですよ。

23 :
GJ さすがオトナの男だけある過去な感じだたw

24 :
もう一回、即回避に。
これで30レス以上!に。
圧縮対策にはならないかも、ですが。
本文投下は 13レス です
投下します。

25 :
                  
長かった――。
10月半ばになろうという今日、ユキは帰国する。
留学、といっても夏休みを利用した、3ヶ月の語学短期留学なのだが。
短期間でも、きっと得がたい経験をたくさんしてきたに違いない。
海を越えて友人もできたかもしれない。
出発時のユキから、一回りぐらいは成長しているのではないか。
……などと、親のような気持ちになってしまう。
しかし、長かった。
そう思えてしまう自分が、我ながら情けない。
長いと感じさせるようなことを、ふたりの間に課したのは俺のほうなのに。
『俺のことは忘れて、あっちの生活に集中してこい』
そう言って、電話も手紙ももちろんメールのやりとりさえも、止めることにした。
泣いて嫌がったユキは、留学の前にしたその約束を、ちゃんと守り通した。
***
到着ロビーでユキが出てくるのを待っているが、ずいぶんと長く待たされている気がする。
あ――。
「ユキ!」
柄にもなく手を大きく振ったしまった。
駆け出しそうになるのを辛うじて踏みとどまる。
「精さんっ」
耳慣れたユキの声が、それまでの俺の周りの雑音を一瞬のうちに消した。
俺を見つけたユキが、ぱあっと花が咲いたように笑って、走り出した。
胸が熱くなる。
駆け寄ってくるユキを抱きしめたい、という衝動を慌てて押さえ込む。
「精さん、ただいま!」
「おかえり」
ドラマなんかじゃ、ここでハグして、キス……なんだろうけど、俺にはムリだ。
妙に気恥かしくて、ユキの頭をくしゃくしゃと撫でるしかなかった。
「元気そうで、安心した」
「精さんも」
ユキの様子にどこも変わりないようで、まずはほっとした。
肌が白くて、日焼けも度が過ぎると火傷にみたいになってしまうユキが、
薄く日焼けしていた。
見るからに健康そうだ。
やっぱり、ユキも照れているのか、頬がうっすら赤くなっていた。
「んくっ……ぶっふふふ!」
「な、なんだよー」
「……髪の毛……ふふふっ。明日、すぐ切ろうか?」
「……おねがいします。ぜひ。てか、そんな笑うなよー」
「ご、ごめ……」
「ったく……さあ、行くぞ。おやっさんとおばさんが家で待ってる」
「うん」


26 :
                           
薄闇に残照を浴びた空港の駐車場から、車で走り出す。
「疲れただろ、家に着くまで30分……ラッシュ時だから50分か。寝ていけよ」
「ううん。ぜーんぜん眠くない。久しぶりに精さんとふたりきりなのに、寝られますか」
少しおどけた調子で言うユキの言葉を、俺は妙に意識してしまった。
……いやいや。寄り道はしないぞ。何考えてんだ、俺。
おやっさんは今日仕事だから、帰宅は7時頃だ。
それまでにはユキを送り届けなければ。
ただ、帰宅したら、今日はもうユキとふたりでゆっくりする時間は無い。
家族で無事の帰宅を祝うんだろうから。
ユキの言うとおり、この車の中の時間だけが、唯一ふたりだけの時間になるわけだ。
「じゃあ、なんか話せよ。聞くぞー。お前の土産話楽しみにしてたんだ」
「うーん、そうだなあ。それじゃあ……」
ユキの声がすぐ傍で聞こえる。
写真だけはおばさんが見せてくれたから、元気な姿は何度か確かめた。
一度、遠慮する俺に、おばさんが電話をむりやり代わってくれたことがあったな。
ユキの声は、あの時以来だ。
耳がくすぐったいような感じがする。
聞きなれた声が、体に染みていく。
「……ねえ、精さん」
急にユキの声の調子が低くなった。
「このまま、帰りたくない」
「は?」
「……どこかで……家に帰る前に……」
体温が、上がる。
ユキが何を言おうとしているのか、すぐ理解した。
本当は、俺だって同じ気持ちなんだが……。
運転に集中しようと、思わずハンドルを握りなおした。
「おばさん待ってるぞー。早く元気な顔を見せてやらなきゃな。だから寄り道は無し」
「……嫌だ。精さん、出かける前も忙しすぎて、キスとハグだけだったじゃん」
「ま、まあな。でもそれで充分だろ。これからいつでも、嫌でも会えるわけだし」
「私たち、それがなかなか難しいんだから。いつも会っててもふたりきりにはなれない」
いっそ自宅を出て、どちらかがアパートなんかを借りてれば、こんな悩みも無かったかもな。
家が隣同士で、ユキは家族と同居。
ユキの両親は俺の親も同然で、俺とユキが付き合ってるのは了解済みだ。
だから、いいかげんなことはできない。
親のそのまた親の代から住んでいるから、近所の目もある。
ユキが、一人暮らしの俺の家で夜を過ごしたり、夜分に長いこと俺の家にいるのも
やっぱりマズくて、気を使う。
そんなんだから、赤ん坊の頃からの付き合いの隣同士という関係は、いいようで、
なんだかもどかしいものだった。
とにかく、だ。
不誠実なことはしたくない、と俺はいつも思っている。
それは、頑固な父をもったユキも同じだった。

27 :
                           
最後にユキとふたりきりでゆっくり過ごしたのは、出発する半月ほど前だったか。
忙しくて、そういう時間を作るのが難しかったのと、
良いのか悪いのか俺が自制したためだ。
ユキが、留学のことだけに集中できるようにしたかったからだ。
「ドイツ人のルームメイトがね……彼が会いに来た日……彼女は丸2日、帰らなかったの」
「うん」
「ステイ先のパパやママには嘘をついておいてあげたんだから……私、すごく寂しかった」
「……」
「……精さんとの約束、ちゃんと守ったんだから」
「うん」
最後の方は、泣くのを堪えて声が震えているみたいだ。
泣かせるつもりはなかった。胸がチクチクする。
それに、無事に帰って来たユキを泣かせたくなかった。
「……じゃあ」
家に帰るのには、まっすぐ行って国道へ出るんだが…………
俺は、ハンドルを切った。
30分くらいは時間の余裕がある。
下心じゃねえぞ、と自分で自分に言い聞かせる。
だが、こんなに近くにいて、指一本触れずに帰してしまうほど、俺は紳士じゃない。
3か月ぶりに会えたんだ。
抱きしめて、久しぶりのユキの体の温かさを確かめたい。
「空港の滑走路が見えるところがあるんだ。
 飛行機が離陸していくのが見えるところ」
「え……?」
「それを、見ていこう」
「……?」
何言ってるんだろう? って顔をこちらに向けて、ユキが俺を見つめている。
「…………ちゅーぐらいはできるぞ」
「っ……ちゅー、って……もー!」
おどけて言う俺の左腕を、ユキがぽん、と叩いた。
キスだけだ。それだけなら帰宅するのに差し支えないだろう。
「精さん……それ、オヤジ感まるだしだって」
「どうせオヤジですよ。爺さんよりはましだろー」
「あんまりかわんないよ」
「ひっでえー」
隣ですばやく涙を拭いたのがわかった。
ユキは怒ったような声で聞いてくる。
「……ちゅーだけ?」
「ちゅー、だけ。いや、ハグもあり」
「……その、先は?」
「また今度」
「えー! またキスとハグだけぇ?」
抗議の声があがるが、それはやっぱりおどけた調子だ。
その後から、くすくす笑う声がしてきた。
ユキの声だ。それを聞けば、いつも幸せな気持ちになる。
まわりの空気が柔らかなものに変わって、俺を包み込んでくれる。

28 :
              
浮ついた気持ちを運転に引き戻し、アクセルを少し踏み込んで、ゆるい斜面を登っていく。
「すごい……」
少し傾斜した場所を超えれば、すぐ目の前が開けてくる。
空港の敷地とこちらを区切るフェンスの向こうに、夕闇に点々と光が散っている。
その空き地の隅の、フェンスの間際に、車を着けた。
空き地には、反対側の隅にもう1台先客が停まっているだけだった。
フェンスの向こうは、コンクリートの断崖絶壁だ。
見えている滑走路は遠く感じるが、空き地が空港よりも高い位置にあるので、
かなり見渡せる。
見物には程良い距離だった。
紫色の仄明るさの中、ちょうど、小型の飛行機が離陸していくところが見える。
ジャンボジェット機ではないが、会話も聞こえないほどの騒音が
滑走路の誘導灯も震わせるようだった。
窓を閉めて、エンジンを切る。
日没だし10月だから、暑くは無い。それより轟音がすごい。
ユキは、飛行機の大きな後ろ姿を、首を傾けてじっと見入っている。
そんな仕草がいつもより、たまらなく愛おしく感じる。
自分がこんなにユキの帰りを待ちわびていたのかと、驚くほどに。
「おもしろいだろー」
「うん」
「小さいころ、おやじがドライブがてらよく連れて来てくれた所なんだ」
「ふうん……おじさんは私を連れて来てくれなかったな」
「俺と親父だけの思い出の場所だもんなー」
「ふたりで、私には内緒にしてたの?」
おやじは実の娘みたいにユキを可愛がってた。息子の俺より溺愛してたか。
口を尖らせて、ユキが拗ねたようにそっぽを向いた。
そういうしぐさは、小さなころから変わってないよな。
「ユキ」
呼びかけると素直にこちらを向いた。
メガネを外して、ダッシュボードの上に置いた。
なんとなく照れくさくて、ハンドルに片手をかけたまま、助手席に体を傾けた。
目を閉じたユキの頬に手を添えて、唇を重ねる。
初めてした時のように、体を甘い痺れのようなものが走っていった。
少し頭を傾け、唇を吸うように少し深く交差させた。
久しぶりの柔らかな感触に、我を忘れそうになる。
我慢が出来るうちに、終わらせなくてはいけない。
ちゅ……と音をたてて、ユキから離れた。
「今日はここまで」
ため息がでそうになるのを悟られないように、さっさとシートに体を戻そうとした。
「やだっ」
助手席のシートを倒しざま、ユキが腕を引いたので、俺はその上に引っ張られ、
倒れ込んだ。

29 :
                      
「ユキッ、危ないだろーが」
間近にあるユキの顔に向かって、真面目に言ってみたが、
その表情は俺以上に真剣だった。
俺は仕方なくシートからユキの傍に下りた。
俺の車は、シートとシートの間にはブレーキがなく、床はフラットだ。。
運転席と助手席の間に屈みこみ、覗き込むように俺は、瞳の潤みかけた顔に聞いた。
「キス、足りない?」
「キスだけじゃ、やだ」
「……これ以上は、だめだ」
「なんで? ここでいいから、もっと……」
「おやっさんたちが待ってる……だから、おしまいにしよう」
「嫌っ」
俺だって、ずっとこうしていたい。
本意じゃないんだから。
そんなに言うな、挫けそうだよ、ユキ。
「……キスなら、もう一度いいぞ。これが最後な?」
笑顔をつくって、泣き出しそうな顔にもう一度頷いてみてから、口を塞ぐように重ねた。
ユキが誘うように口を緩めた。
頭の奥が、キーンと疼く。
だめだ。これでやめなければ。
……ユキを帰さないと。
離そうとすると、ユキの腕が俺の首にまわされ、ぎゅっと引き寄せられた。
ユキが必になって唇を割って、舌を滑り込ませてきた。
ぬる……と口中に柔らかな塊が満ちる。
一生懸命に舌を絡めてくるその様子が、可愛くて、愛おしくて、
ついに自分からユキの舌を吸い上げた。
いつの間にか、ユキの髪に片方の手をもぐらせ、もう片方で華奢な肩を
シートに押しつけていた。
頭の中で、やめとけ、お終いにしろ、と叫び声がし続けているのに、止められない。
「っう……ふ……はうっ……ん」
ユキの漏らす声と唾液の絡む音が次第に大きくなり、頭の中の警鐘を打ち消していく。
ユキが口を大きく開けて、喘ぐように空気を吸う。
苦しかったのかと慌てて唇をはずすと、ユキの艶を帯びた声が
途切れがちに車内に響いた。
「っは……ここで……して!……」
我に返って、動きを止めた。
すでに俺は、上気した桃色の首筋を唇でたどって、襟の隙間に
鼻先を突っこんでいた。
それにいつの間にか、ユキの体をシートに押さえつけるようにして、
上半身を重ねていた。
押しつぶしている胸ふくらみの弾力に今頃気付いて、どく……と脈が大きく跳ねる。
慌てて、頭を上げて、ユキの顔を覗き込む。
「お……おねがい」
「…………いや……だめだ」

30 :
◎◎◎◎
紫煙いるかしら

31 :
                    
危ね……突っ走ってしまうところだった。
深呼吸して、息を整えてみる。
「時間がないだろ……帰ろう」
理性をかき集めて、冷静さを装ってみる……下半身が窮屈になっているのを、
忘れようと努める。
ユキの顔を見ると、涙を一杯溜めて今にも泣きだしそうな様子で、
肩を震わせていた。
今さらだが『約束』が、お互いにとって、思いのほか重かったか。
俺だって、限界だ。
……そう思えたら、体が、自然に動いていた。
俺はユキの体を抱き上げて、自分の体へ押しつけていた。
「ユキ」
動悸が激しい。
ユキが俺の腕の中で、もがくように体を捩ったのが、抑えていたものをさらに煽った。
柔らかく温かな体と、ユキの匂い。
この匂いと体温に溶けてしまいたい。
ユキが欲しい。
気が狂いそうなほど欲望の波が次々やってくるのを、必で押しとどめる。
頭に血が昇って、まともな思考ができない。
深く息を吸い込み、はあっと吐きだすようにしながら、言葉を探した。
もう、大人げない、と言われても仕方がない。
「ユキ、約束、俺がやぶって……いい?」
「……え」
こんな唐突じゃ、なんの事かわからないだろうな。
ユキが守った今回の約束じゃなくて、いつものふたりの間で決めていた事を
言ってるんだから。
「悪いけど、今夜……俺の部屋へ来てくれる?」
「……精さん」
「疲れてるだろうが……頼む、少しだけでも……」
腕の中のユキの体が強張った。
それでも相変わらず俺の頭はのぼせたようなままだ。
「隠れてコソコソするようなことは止めよう、って約束したけど……」
「うん」
「……だめか?」
「ううん……ううん!」
ユキは腕の中で俺を見上げて、目尻に涙を溜めたまま、にっこりと笑った。
さっきから聞こえるジェット機のエンジン音が大きくなった。
滑走路を進み始めた音に、自分の発する声すら聞こえないくらいだ。
ユキの耳に唇をつけて、囁くより少し大きめな声で直接的な言葉を伝えた。
「ユキを……」
ジェット機が離陸する轟音で、窓が震えた。
言い終わると、ユキの耳や頬が、見る間に赤く染まっていった。
*****

32 :
           
いつも始めはくすぐったがるユキが、今日は触れるとすぐ俺にしがみついてきた。
ほどなく声が甘い泣き声に変わった。
首筋も、背中も肩も、どこに触れてもユキはため息を漏らし、ぴくんと体を揺らした。
1年前の頃は痛がって辛そうだったよな……。
中でいく……とは毎回とはいかないものの、今は確実にそこで感じるようになってきている。
ユキのそこは、下着を脱がそうとした時にはもう、布までがずくずくと濡れてしまっていた。
おもわず「車の時から、ずっと感じてた?」と意地悪く聞いてみた。
ユキはむくれて、口を尖らせた。
「お風呂ちゃんと入ってきたよ。なのに……んあっ」
最後まで言葉を聞かず、最近女らしくふっくらしてきた内股を押し広げて、
潤みきったそこに唇を押しつけた。
愛液を啜り上げて飲み込むと、ユキの女の匂いが、鼻と口から流れ込んでくる。
ユキの手が頭に触れて、乱暴に俺の髪の毛を掴んだりかき回したりし始めた。
ユキとこういう関係になって1年半ほどか。
抱き合って、ゆっくり過ごすふたりきりの時間を持つのは、ひと月に2〜3回ぐらいなんだが。
それでもこんなに長い期間、お互いの体に触れないということは無かった。
といっても、たった4カ月足らずのことなのに、俺は飢えたオオカミのようになってしまっている。
お互いの部屋への『夜這い』をしない、と約束したにもかかわらず、それを反故にさせてまで、
自分の部屋でこうしてユキを抱きしめている。
「せ……せいさん、ねがい……なめて…………」
「…………」
いまだに恥ずかしそうにするユキを、寄り添って言葉をかけながら、
ゆっくり確かめるようにするのがいつも、なのに。
それに、ユキからこんな露骨な『お願い』をされることなんて、あまり無い。
「どこを?」と聞こうとしたけど、濡れた襞の間から花芽が可愛らしくのぞいていて、
誘われるように俺はそこにも舌を滑らせた。
俺も今日は、ユキの体を全部確かめたくて、最初から落ち着かなかった。
舌の動きに嬌声をあげて体を捩ったユキを、うつ伏せにして、腰を上げさせる。
猫の背伸びのような格好のユキが、「嫌!」と叫ぶ。
ユキは後ろからされるのに慣れない。恥ずかしいから嫌だという。
最初にした時は、かなり嫌がって断念したんだよな……。
それからも何度か誘って、やっと許してもらえたんだが。
ここまでくるのに、俺も相当な努力をしたもんだとしみじみ思う。
俺の努力のたまものか、ユキは口では嫌と言いながら、おとなしくしている。
気が変わらないうちに……後ろから、足を広げさせて、そこを露わにした。
しっとり濡れた薄い繁みを掻きわけて、人差し指と中指で襞を左右に開く。
ぬち……とかすかな音をさせて開かれたそこは、鮮やかなピンク色だ。
わずかに見える襞の重なりのその奥から、透明の滴が湧きだしていた。
誘われるように、口をつけた。
「ああんっ」
ユキが腰を揺らす。
そのまましばらくユキの股間に顔を突っ込んで、存分に舐めてやった。
次に襞に沿って上へと移動し、その上のすぼまりを舌先で軽くつつく。

33 :
                      
「それだめぇっ、やめて!」
「やめない」
「汚いから……」
「フロ入って来たんだろ? 大丈夫、綺麗だよ……マーキングすんの」
「マーキングって……あ、いやっ」
「体中、全部。俺のもんだ、ていう」
できれば、会えなかった時間を埋めてしまうくらい。
勝手な言い分だよな。
誰かに触れられてやしないか、なんてくだらない嫉妬もしている。
ユキの腕が伸びてきて、俺の頭に届いた。
やっぱり、無防備な格好が不安なんだろうな。
その手を片手で封じて、指を絡めあい繋いだ。
すぼまりのまわりを舌先で触れる程度に舐め、焦れてきたところで、
ぺろりと舐め上げた。
ユキが悲鳴をあげる。
もう片方の手を濡れたそこにあてがって、中指と薬指をぬかるみの中に差し入れた。
2本の指が難なく飲み込まれていく。
尖ったクリトリスを緩く弾きながら、ユキの中にもぐらせた指をぐちゅぐちゅと音をたて、
抜き差した。
今日はなんだか、余裕がない。久しぶりだからか。
もう少し、じっくりとユキに触れていたいんだが……。
ユキの様子を見ると、顔をシーツに擦りつけて、うわ言のように「やめて」と繰り返している。
口ではそう言いながら、自分から腰を揺らし「もっと」というように俺に押しつけてくる。
手もぎゅっとシーツを握り締めていて、どんどん昇りつめていっているようだ。
繋いだ手を放し、胸の膨らみをやんわり揉んだ。
胸の愛撫を硬く起った乳首に集中すると、ユキが顔を上げて高い声で鳴いた。
小さな実のような尖りが、手の中でころころと転がる。
愛液が溢れ出してくるその奥で、指が、柔らかな肉の壁にきゅうっと締め付けられる。
ユキが腕を突っ張り、上半身を起こして、背を反らせた。
「…………もう、イったの?」
顔を拭いながら、はあはあと喘ぐユキの顔に目を向けた。
うつ伏せのまま顔を横に向けて、ぐったりとしている。
汗に濡れ上気した顔に髪が張り付き、涙の滲んだ目元が、ピンクに色づいている。
いつもより、ユキはずっと感じやすくなってる……。
自分だって、いつもより貪欲になっているのは自覚しているが。
ひっぱられて乱れたシーツの上に、力尽きたように横たわる姿を見て、
俺は妙に満足していた。
でも、こんなに素直に反応されると、我慢するのもそろそろ辛い。
声もかけずに、まだ力の入らないユキの膝裏を掴んで、足を開いた。
「やっ、あ、まっ……て、待って!」
ユキがそれを閉じようと手を伸ばしてくる。
わずかな抵抗が、さらに俺を煽って意味もなく焦らせる。
何かに急かされるように、ユキの腰を抱えて、自分のモノをユキの中に押し込んだ。

34 :
                           
「ああ―――っ」
ユキの喉が仰け反って、背中が反る。
まるで毛を逆立てて鳴く猫のようだ。
「っキッつ……」
「や……あん!」
久しぶりのユキの体の中は、侵入を拒んで、驚くほど頑なだった。
かき混ぜられて白濁した愛液が、内股を伝って滴り、シーツに染みを作るほどなのに、
まるで最初の頃のような抵抗をされる。
もちろんユキの意思と関係ないが、抵抗は、俺の征服欲を充分煽った。
乱暴にしないようにするだけで、精いっぱいだ。
ユキとの初めての時を思い出し、腰が震えた。
それを抑えながら、ユキの背中を見下ろして、上から体重をのせていく。
ベッドに猫のように這うユキが、また叫び声をあげた。
ユキの中に隙間なく埋めて、しばらく射精感をやり過ごす。
少し落ち着いた後、すぐ腰を浅く前後に動かした。
馴染ませるというより、じっとしていられなかったからだ。
ユキの様子を確かめる余裕がない。
痛いとか、辛いとか。
熱くて、溶かされそうになる感覚だけに支配されていく。
頑ななくせに、ユキは引き込むように蠢いて、奥へと誘ってくる。
もう、堪え切れなかった。
「ユキ……!」
離れないようにしながら大きく腰を引いて、一気に奥へ挿入した。
「やッ……ああああ」
ユキの泣くような声が聞こえた。
俺が動くたび、ユキの体が押し上げられている。
すぐにユキに覆いかぶさるようにして、体を抱きすくめた。
「ユキ?……ごめん、ユキ」
声をかけたが、それが精いっぱいで、動きは止められなかった。
ほっそりした腕が頼りなく後ろへ伸びてきて、空を掴んで落ちていった。
ユキのぎゅっと瞑った目尻から涙がこぼれていく。
「精さん……せいさ……ん」
こちらへ顔を向けて、ユキが泣きながら俺を呼ぶ。
そんな声で呼ばれたら……。
俺は、一旦ユキから離れて、力の無い体を仰向けにした。
足の間に腰を入れて、両腕でユキを抱きしめる。
余裕のない動きに、勢い、奥深く貫いてしまい、ユキがびくっと跳ねた。
「はっ……ああっ」
「……苦しい? ユキ……どこか、痛い?」
やっと、掠れた声で聞くと、ユキが首をゆるゆると左右に振った。

35 :
         
                  
「わた……おかしくなっ……」
荒い息をしながら、ユキが切なそうに潤ませた目を、俺に向けた。
「もっと……ぎゅっと、して……」
いつの間にこんなカオをするようになったんだろう。
ユキと繋がった場所から、カアッと熱いものが湧いて体中に広がっていく。
それまで、かろうじて同じリズムで動いていたのに。
久しぶりだから、もう少しユキをイかせてやりたいのに。
情けないが、どうにも自制が利かなくなってる。
体から湧いてくる快感に押されて、抽送を早く強くしていく。
ごめん、と言えたかどうかもわからない。
ユキがしがみついてくるのを、もう一度強く抱きしめ直して、深く貫く。
とたんに悲鳴をあげて、ユキがいつものように、いやいやと頭を振り始めた。
密着した体が汗ばんで、お互いの体温が同じになっていく。
限界に近づいたユキが、俺の名前を呼びながら、背中を浮かして体を突っ張った。
弾けそうな俺のモノを包んでいたユキが、柔らかく収縮する。
奥へ奥へと引き込み、逃すまいと締め付けるように。
ユキの甘い悲鳴を聞きながら、すぐに目の前が真っ白になった。
絶頂を迎えたユキ続いて、俺も、堪えていたものを思い切り吐き出した。

「ごめんな……」
ユキの体をベッドに返して、体を起こした。
ぐったりしてユキは動かなかったが、呼吸は落ち着き始めている。
会えない間に、男の処理的なことも、一切しないでいよう、と決めていた。
一応、守り通したんだが。
結果、ユキに全部ぶつけてしまった。
「ごめん」
「なんで……謝るの?」
「ユキのペース無視して……」
ふふ……とユキが気だるそうに笑った。
事後、男は急降下で元に戻るんだが、女はゆっくり冷めていくらしい。
ユキは緩慢な動きでケットを手繰り、いつものように体を胎児のように丸めた。
まだ瞳が熱を帯びて、とろんとしている。
「え……と。たくさん、ぎゅっとしてもらったよ」
「……後ろから、どうだった? 嫌だった?」
「もー。そんな、どうだったかなんて……教えなーい」
軽く握った掌を口に当てて、ゴミ箱にゴムを捨てる俺を見ながら、くすくす笑う。
なんだか気恥かしくなってきた。
「あ、おしまいのキスがまだ」
「あー、そうだった」
「ふふっ。精さん、忘れてる」
「……久しぶりだからなー」

36 :
               
ユキの体を跨いで四つん這いになり、体を屈めた。
ユキが顔だけこちらへ向ける。
3か月前より伸びた髪が、シーツの上に広がっている。
汗で髪が張り付いたうなじが、白く浮き上がって見えた。
音が出るように軽くキスして、しばらくユキの顔を見つめた。
4カ月ぶりなんだよな……胸が、ジン、として、少し苦しい。
「あったかい」
ユキが、俺の唇に指で触れながら、呟いた。
すると急に腕が伸びてきてきて、頭を抱えられた。
ユキが頬と頬をくっつけて、ぐっと抱きしめてきた。
頬ずりしながら「精さん」と小さく呼ぶ声が、何度も聞こえる。
頭が何度も撫でられる。
ふと、幼いユキに、こうして抱きしめられたことを思い出した。
鼻の奥が鈍く疼く。
ユキが愛おしくて、だけど、切なくて胸が苦しくなる。
こんな、穏やかな温もりを感じられる幸せが、ずっと続くことを、望んでもいいだろうか。
ぐっと、喉の奥に込み上がってきたものを慌てて飲み下す。
涙もろくなってるか?
たった3か月のことなのにな。
伝えたいことも、手放したくないという想いも、前よりずっと固くなってる。
それはユキと離れてみて、さらに俺の中で揺るがないものになった。
溺れちゃダメだ、といつも自制してきたのが、とてつもなく無駄な抵抗に思えてきた。
ひとりでいい、なんて強がりは、ユキの前ではいつも頼りなくなってしまう。
そのくせ、「傍にいてくれ」の一言をいつも飲み込んでいた。
溺れてもいい。
飛び込んでみるか。
でも……その時ユキは、俺を受け止めてくれるだろうか。
ユキの腕の力が緩んでから、俺は上半身を起こし、ユキを見下ろした。
涙が目尻から耳の方に流れている。
上から落とすように、両方の目尻にキスをした。
それからもう一度、ユキの上唇と下唇を交互に啄ばんで、それを食むようにキスをした。
泣き顔も可愛いけどなあ……でも。
「ユキだって、車の中で……」
「わ、言わないで!」と慌てて、手で俺の口を塞いできた。
涙の残る顔が、もう真っ赤だ。そういう顔も、ユキらしくていい。
頭を撫でると、照れ笑いを浮かべて、おずおずと手を引っ込めた。
「俺も、久しぶりで、コントロールできなかったからなー」
「……そう、みたい……だね」
ユキが意味ありげに視線を泳がせた。
「なんだよー」
「精さん……また」
「また、ってなに?」
「だって、お尻に……あたってるもん」
「あ……あ」

37 :
    
         
ユキの顔がまた赤くなった。
高校生か、俺は。
俺も、照れて顔が熱くなった。
普段2度目はほとんどしないんだが……。
「あのさ……お終いって言ったけど」
「……うん」
「いい?」
「ええと……大丈夫?」
「……心配すんな。ゴムは、たくさんある」
「ぶっ、もう、なにそれ……くふっふふふ!」
ユキの顔が更に赤くなった。
帰国したばかりのユキに悪いと思いつつ……。
背中から抱きしめて、もう一度。
うなじへのキスに「くすぐったい!」と悲鳴をあげるのは、
すっかり体が落ち着いたということか。
「おねだりされたからなー。たくさん舐めてやるか」
「ぎゃああ! 恥ずかしいこと言わないでっ」
「ほれ、色気のある声、出せよー」
「なっ……もう、エロオヤジ! や……あっ」
「聞かせろよ……ユキの」
繰り返しうなじから肩、背中と唇を押し当て、
舌を使うとユキの声が鼻にかかった甘えたものに変わった。
「たくさん感じて、たくさん、鳴けよ」
……今度はできるだけ、ユキに確かめながらするつもりだ。
***
「おはようございます」
「あ、おはよう、精一さん」
1時間ほど遅い起床だった。
かなり規則正しい生活をしているおかげか、年の所為か?
いつものように、自転車で30分ほど走ってこないと落ち着かなくて。
ユキをベッドに残して、日課の『朝練』に行ってきた。
「おやっさんは、もう?」
「そうよ。今日は仕事」
「おばさんも、今から?」
「ええ。今日は忙しくなりそうなのよ。だから早めに出るの」
おばさんは、近くの介護施設でヘルパーのパートをしている。
「精一さん、今帰って来たのよね?」
「はい」
「じゃあ、雪を遅くても10時には起こしてね」
「……え、あ、はい」

38 :
                  
俺はユキの家のカギは一応預かってはいるが。
まだ、俺の部屋で眠りこけているだろう。
ユキはゆうべ裸足で俺の家に忍びこむようにやってきた。
両親には気づかれずに来た、と言っていた。
「大学は昼からだって言ってたから……」
「そう言ってました」
「ふたりで一緒に、ウチで朝ごはん食べなさいね」
「……はい」
「お父さんは、気づいてないから」
「っ…………すみません!」
咄嗟に頭を下げた。
血が逆流するような気がして、さっきとは違った汗が噴き出してくる。
「困った子よねえ」と苦笑いして、おばさんは「行ってきます」と歩き出した。
俺は軽いめまいがして、しばらくその場で、動けなくなっていた。
===終===

39 :
            
ありがとうございました
次で終了します
ながながとすみません。
支援レス、ありがとうございました!

40 :
乙!いよいよ最終回か〜。
楽しみにしてます。

41 :
GJ!  かわいいよ〜

42 :
GJ!!!
精さんがオヤジっぽいエロさを出してきてとても・・・イイですね!

43 :


44 :


45 :
保守

46 :
ずいぶんと間をあけてしまってすみません。
本文投下は13レスです
NGはタイトルかIDで
圧縮対策に、と思っていたのに、落とそうと思ったら圧縮後だった……
・・・投下します

47 :
                       
3月に入ったし、もうすぐ、春だなあ。
とはいっても、まだ寒い日があったり。
まだ時々雪がちらついたりもする。
けれど確実に季節は巡って……卒業も、もうすぐか。
チョキ……。
鋏の先が耳に当たって、ビクっと体が竦んだ。
怖ええ。
「ユキ、今、少し痛かった」
「そう? 動かないでいてね」
「……はい」
散髪中のいつもの会話だ。
だいぶ上手くなったと思うが、毎回一度はどこか突かれて、怖い思いをする。
……まあ、もう慣れたけど。
それより……。
「ユキ」
「ん――?」
「俺の髪だけど」
「うん。あ、ちょっと左向いてて」
「ああ」
今、言おう。
「ユキ……俺の髪、これからもずっと切ってくれるか?」
「いいよ」
「う……」
…………あっさりかよ。
ていうか、ちゃんと聞いてないだろ。
俺は、ユキの手を肩越しに握ろうとした。
「ユキ、あのさ……」
「さ、もういいよ。切ったヤツ払うから、立って、頭振って」
「……」
「精さん、私、友達と約束あるから、早く!」
「……はい」
上げかけた手は、素直に下すことにした。
ユキが手早く俺の体をはたき終ったから、立ち上がった。
「はい、お辞儀して」
ユキの前に頭を下げる格好をして、ばさばさと頭を払ってもらう。
「はい、おしまい。私、行くね」
よほど急いでるらしく、今日はさっさと庭の枝折戸を押して、隣の自宅に走って帰ってしまった。
スルーされたか。
嶋岡にはいつも、「さりげないのがいいと思ってたら、大きな間違い」と言われてる。
押しが弱いのも自覚してるさ。
こうして付き合っていても、ホントはユキの気持ちに変化が出てきてたらどうしよう、
とか思っていたりする。
いざとなると、生まれた時から見守ってきたという強みよりも、年の差の壁に竦んでしまう。

48 :
                      
ユキは4月から、市役所勤めが始まる。
バイトしてた、建築事務所からも声が掛かっていたにもかかわらず。
志望してた内装のデザイン関係の道も選ばず。
市役所の建築関係の部署に内定している。
去年、公務員試験を受けたのだ。
その選択を聞いて、俺は動揺した。
それって、俺のため?
俺が、自営業だから?
『自分が安定したところに就職しよう』と考えたのか。
それは、つまり……俺との、この先のことを考えてのことだと?
ユキの覚悟みたいなものを突きつけられた気がして、俺は激しく動揺した。
ユキは自分の気持ちも考えも、何も言わなかった。
「受かった」と俺の前で子どもみたいに飛び跳ねて、喜んでいただけだ。
そんなユキが健気で、心底愛おしいと思ったが、その時も俺は
何も言えなかった。

スーツの上着を脱いで、一息ついた。
小さく質素な作りの仏壇に、ほほ笑んだふたりの遺影が並ぶ。
仲が良かった。
おやじがんだ後、お袋は本当はすぐにでも逝きたかったのかもしれない。
体の弱かったお袋は、おやじのいない生活を続け、5年後に亡くなった。
息子の俺がいたとはいえ、つれあいのいない人生はどんなに寂しいものなのか。
大学を卒業する月だから、3月は月命日に俺の両親に挨拶に行く、とユキが言いだした。
俺と秋山家3人とで、墓参り等々一通り終えた。
予約しておいた店で昼食をとり、さっき帰って来たところだった。
暖かだった午後の日差しが弱くなって、そろそろ部屋の奥へ届きそうな頃だ。
足を投げ出して座り、両腕を後ろへついて天井を見上げた。
ぐるりと頭を回して、首と肩をほぐした。
ここ最近着なれない物を着て、肩が凝ってる。
俺、38なんだよな。秋がくれば39だ。
ああ、おっさんだよ、まったく。
「精さん、いる?」
玄関の閉まる音がして、ユキが戻ってきた。
おやっさんたちは、家に帰ったのだろう。
ユキの足音を聞きながら、おやじの葬式の日を思い出した。
突然のおやじのがショックだったが、喪主である俺がしっかりやらねば、と必だった。
おやじを偲んでいる間もなく、泣くこともできず、これからのことで頭がいっぱいだったからだ。
葬式が全て終わって、帰宅して、この仏間でぼんやりしていた時だ。
ユキが入ってきて、黙って俺の胡坐の上に乗っかてきた。
ユキはおやじの胡坐の上に座るのが大好きだった。
まるでそれが定位置であるかのように。
おやじも実の娘のように可愛がっていた。きっと息子以上に。
突然この世を去ったおやじのことを、小学3年生だったユキは、どう受けとめていたんだろう。

49 :
               
前を向いたままじっとしている、おかっぱ頭をそっと撫でてやった。
ユキは、暗くなっていく部屋の隅を見たまま、黙っていた。
急に、まるで、この世の中にふたりきりで取り残されたような心細さを感じた。
ふいに、胸の奥から吐き気のように込み上げてきたものがあった。
呻いていたのかもしれない。
奥歯を噛みしめても、どうしようもなく喉の奥から塊が突き上げてくる気がした。
今もそれをはっきり覚えている。
その時の、スローモーションのようなユキの動きも。
ユキは俺の顔を覗き込んで、そして、ゆっくり細い両手を伸ばしてきた。
俺の頭が、小さな体に抱え込まれた。
その時の、ユキの、『子どもの匂い』が蘇る。
片手が背中に伸ばされていき、優しく撫でられた。
抱きしめられて、俺はせきが切れたように声を抑え、泣いた。
ユキは、俺が落ち着くまでずっと抱きしめ、小さな手で背中をさすり続けてくれた――。
姉のようでもあり、母親のようでもあり、昔からの恋人のような、
そんな不思議な感覚だったのを覚えている。
小さな存在が頼もしく、愛しい、と思った。
「精さん、部屋暗いよ。電気点けよっか?」
「いや、いい。…………ユキ」
「なあに?」
「おいで」
大きくなったユキの影が、仏間に伸びた。
畳を踏みしめる軽い足音がして、膝の上に柔らかな体がのぼってきた。
あのときのように、俺の胡坐の上にユキが座り込む。
俺は左手を、背中を向けて座るユキの体に回して、そっと抱いた。
前を向いたままのユキの右耳に顔を寄せて、声をかけた。
「覚えてんのか」
「精さんが泣いたのを」
「……忘れろ」
「……ふふ」
ユキが顔をこちらに向けて、微笑した。
「もう、泣かないの?」
「今は、もう……。だいぶたったからなー」
「なんだ、慰めてあげたのに」
「……ユキがいてくれるから、もういいんだ」
体を捩って横に向いたユキが、にっこりして俺を見上げる。
その笑って薄く開いた唇に、そっと唇で触れた。
「ちょっと……もう、不謹慎でしょうが」
顔を赤くして抗議する。
子どもっぽいしぐさだが、今は違う。
うす暗くなった部屋の中でも、その頬に朱色が差したのがわかる。
薄く化粧をした顔に、ほんのり女の色気が漂って、どく……と鼓動が強くなった。
いつの間にか、大人の女になっていた。

50 :
                       
「ユキ」
「ん?」
「あのさ、ずっと……」
「ずっと?」
「ずっと俺の傍にいてくれる?」
ごく自然に、言った。
ユキは俺を見つめていた目を大きく開いて、そのまま押し黙った。
視線は真剣だけど、黙ったまま動かなくなった。
俺も視線ははずさなかった。
「結婚してくれ、って言ってんの」
そう言った瞬間に、ユキの目に涙が盛り上がってきて、
あっという間にこぼれ出した。
「ゆ……ユキ?」
慌てて、ハンカチを取り出して、頬に当てる。
「……だめ?」
言った後から、吐き気がするくらい緊張してきた。
汗が噴き出してくる。
ユキ、なんか言ってくれ。
「……」
ユキが目を一度閉じて、ゆっくり開けた。
堪った涙が、またぽろぽろこぼれていく。
ゆっくり唇が開いて、ぱくぱくと二度ほど動いた。
ユキの体は震えていた。
「………………も……もういちど、言って」
こんなに近くても聞こえないくらいの、声にならない声がやっと聞こえた。
「わかった」
息を深く吸い込んで、気持ちを落ち着かせる。
「結婚してくれ。ずっと俺の傍にいてくれ。散髪も剥げるまで頼む」
俺が言ったとたん、きょとんとした顔になり、次の瞬間「ぶっ」とユキが俯いて吹き出した。
体を折り曲げて、肩を揺らしてくすくす笑ってる。
俺は、焦ってユキを覗き込んだ。
「おい、今のは聞こえただろー? ユキ」
くっくと笑って、頬ををハンカチで押さえながら顔を上げた。
「お化粧、崩れちゃったかな」
「おけしょ……大丈夫だよ。てか、ユキはすっぴんでもキレイだから」
「男の人って、みんなそういうよね」
「……ユキは誰に言われたんだ」
こんな時に他の男の話をするなよな。

51 :
                      
「一般論です。精さん、怖い顔しないで」
「お……怖い顔してるか……ごめん」
「ううん。そういう精さんも、好き」
ユキがぱあっと笑った。
花が開くように。
その、笑った顔を見ていたいんだ、ずっと。
「この間の……髪の毛切った時……」
「ああ、あの時……」
「ごめんね」
「わかってたのか!」
「えへへ。びっくりして」
「そうかー」
俺だけが緊張してたんじゃなかったのか……。
「……私……ずっと夢見てたの」
「うん……?」
「精さんの、お嫁さんになるの」
「……うん」
「小さい頃はよく周りに言ってたけど、大きくなって、難しいのかもと思えて」
「うん」
「でも、夢が叶う可能性が私にも出てきて……ね、彼女になれた」
「……うん」
「でね、その先をずっと待ってたの。待ってるだけじゃなくて、
 努力はしたよ、私なりに」
「わかってるよ」
一生懸命追いかけてくれた。
けれど俺は、振り返りもせず、ずっと遠回りしてきた。
それをユキは、後からずっとついてきてくれたんだよな。
途中からは俺がおいてきぼりを食いそうで、焦ったけど。
見守られていたのは、俺の方かもしれない。
「わかってるから、ユキ、返事をちゃんと聞かせてくれないか」
深呼吸して、ユキの返事を待った。
ユキは俺の膝の上に乗ったまま、俺の左手を取って、両手で握った。
「はい」
「はい、って……」
「もうっ。だから『はい』。よろしくお願いします、ってことなのっ」
「ああ……ごめん」
ユキがにっと笑った。
俺もつられて、というか照れ隠しに、にっと笑い返した。
ムード無いじゃないか。ま、それもいいな。
「おやじたちにも、見ててもらったからなー。『やめる』とか言うなよ」
「精さんも、浮気したら、ぜったい許さないから」
ユキが手でチョキをつくり、鋏で俺の首のところを切る真似をした。
いつもの痛いのを思い出して、首を竦めた。
ユキが今度は柔らかく笑った。
穏やかで温かい笑顔だ。
いつまでもこの腕の中に閉じ込めておきたい。

52 :
                      
「ユキ……」
唇を食んだ。
ここも、柔らかく温かい。
ユキの体は全部こうなんだ、と思わせて、少し体が疼いた。
「ちょ……っ、おじさんとおばさんに見られてるってば」
「大丈夫。ユキとこんなに仲がいいよ、っておやじたちに見せてんの」
「なーにそれっ、恥ずかしいから、やめてよ」
「やめない」
ぷい、と前を向いたユキの顎に手をかけ、こちらを向かせる。
少し強引に、唇を重ねた。
体を半分こちらに向けて、ユキの手が俺の胸のところのシャツを
ぎゅっと掴んだようだった。
舌で口の中をくるりと探る。
舌と舌が絡み合い、しんと静まった部屋で、唾液の音がやけに耳につく。
ユキが密かな声を漏らす。
腰にまわした手を上へずらせて、背中から肩へ、うなじから髪へと這わせた。
髪留を外すと、昔からの悩みの猫っ毛がさらさら落ちていく。
急にぐっと胸を押された。
ユキがすぐ俯いて、やっとのように呟いた。
「……だ……め」
うなじがうっすら桃色に染まって、さらさら流れる髪の間から見え隠れする。
紺のワンピースを着ているからか、同じ薄桃色の肌がくっきりとして、
裾からしどけなく伸びた足を際立たせていた。
「……そうだな。刺激が強すぎて、おやじたち出てきたりして」
「もうっ……」
ぽん、と俺の胸が軽く叩かれて、線香の残り香とユキの匂いが混ざりあい、ふわりと漂う。
体温が上がってゆく。
首を傾け、その耳に唇を軽く当てて、冷たくなった耳朶の温度を確かめながら聞いた。
「続き、部屋行って……いい?」
ユキは下を向いたまま、黙ってこくんと頷いた。
俺の胸に添わせたままの手が、小さく震えているのがわかった。
まだ、自制は利いている。
だが、これ以上は我慢する自信がない。仏間で、なんてさすがに不謹慎か。
華奢な肩と膝裏に腕をまわして、耳まで赤くなって俯いたままのユキを抱きあげた。
***
ベッドに、ユキを後ろから抱きしめて腰かけ、すぐに唇を重ねた。。
立ったまま、お互いの着ているものを、もどかしく脱ぎ捨てたばかりだ。
「俺でいいの?」
さっききっぱり言ったものの、つい聞かずにはいられなかった。
ユキの耳たぶを軽く噛みながら、そっと胸の膨らみに手を伸ばした。
「……初めての時も……聞かれた……」

53 :
                
そうだ。
あの時、一線を越えてゆく怖さより、俺は自信無さと、あの状況に戸惑ってた。
「変わらないよ……んっ……私、変わらないの……い……いいの!」
早くも切羽詰まった声をあげて、ユキが俺の肩へ後頭部を擦りつけてくる。
首をまわして、キスをせがむ。
さっきしおらしく拒んだのがウソのように、激しく求めてくる。
開いた唇の間にのぞく舌の紅色が、口紅の色よりずっと艶めいて見えた。
まだ、だめ。もう少し。
言葉を交わさなくても、耳の奥で、ユキの囁く声がしてる。
見下ろし観賞していた体の線から視線をはずして、ユキの唇を深く覆った。
あの舌を追って、口内の奥へと舌を忍び込ませる。
捕まえて絡めとる。
目を閉じて、さっき見たユキの舌の残像を浮かべて、吸うように深くした。
「んっ……ふ……あふっ」
いつになく積極的なユキだ。
今日一日、慎ましく振る舞ってきたことの反動か?
俺も、もう少し。
……ユキが自分から、というところが見たくなった。
ベッドに腰掛けたまま、脚をそろそろと動かした。
膝をゆっくり左右に開いていく。
ユキは俺の膝に腰掛けるようにして、背中を預けている格好だ。
キスで体を捩っているから、斜めに向いたユキの体を俺が抱くような形になっているが。
汗ばんできた肌が滑らかさを増して、密着したところがとけるような熱さを感じている。
その温かな両脚の合わせ目を、引き離すように動かした。
ユキの膝頭が左右に離れていく。
内股にひんやりとした感じを覚え、俺の脚の上にも愛液が垂れていたのを知った。
深いキスに夢中になっていたユキが、俺に空いていた右手を捕まえられてやっと、唇を離した。
左手は俺の左腕に巻きつけるように絡めて、体を支えていたようだ。
「な……にする……の」
ぼんやりしたままで、ユキが息を吐き出すように言った。
すぐ、自分の状況に気付いて、俺の手を振り払おうとする。
待ってました。
「鏡、なんてあるとよかったなー」
「やっ……閉じるっ」
思いっきり脚を開いたから、丸見えだよな。
「すっげえ格好。隣の部屋に姿見あったのに……しまったなあ」
残念だ。
「まあ……また今度。それより……」
閉じようとし始めたから、慌てて掴んだユキの手を、開かれた中心へあてがう。
すばやく柔らかい繁みを分けて、そこにユキの指先を添わせた。
「やっ、やだ!」

54 :
           
左足に膝裏から手をまわし、閉じないように捕まえておく。
ユキの中指に自分の中指を添えると、2指ともが今にも潤いに飲み込まれそうになる。
ユキが指を動かして抵抗するから、この状態を保つのがなかなか難しい。
「自分で、入れてみて」
「嫌……やだ」
俺の胸に左の頬を擦りつけるようにして、小さく頭を振る。
中指をくい、と押してみると、ぷちゅ……と粘液の押し出されたような音がした。
そのままユキの指を押しこむようにして、中へ侵入していった。
「やあぁっ」
「ナカの感じ、自分で、知ってるよな」
細い指に添わせるようにしながら、中でぐるぐると回してみる。
淡く色づいた体が、びくびくと揺れる。
「ああっ……や……だめえ……抜いてっ」
「だめ。まだ、もう少し」
「おねが……やめて……やっあっ」
「ユキはこうするといつも……」
ユキの一番感じるところに指を触れさせて、くっと曲げさせ、くいくいと擦らせる。
ユキの指が、だんだん俺の意とは違う動きになっていく。
「ユキ……自分でしてる…………気持ちいい?」
「……言わないで……!」
自分で、快感の強くなる場所を擦りながら、昇り詰めていく。
俺の指はもう、ユキの補助にまわって、力をわずかに加えるだけだった。
顔を真っ赤にしたユキが、羞恥からか、唇を噛みつくように重ねてくる。
ほどなく、ユキがびくんと跳ねて、背中を反らせた。
「はあああっ」
甘い悲鳴をあげて……ぐったりと体が俺の胸へ崩れてきた。
荒く喘ぐ体を、ベッドに横たえた。
ユキが、顔を隠すように片手の甲を頬にあてがっている。
「すご……俺の手が……」
「やだ! 言ったらダメ!」
「……そんな、怒るなよ……」
「…………ひどい……」
「ごめんな」
「もう……」
「ごめん」
ユキの耳に唇を押し当てた。あまり反省はしていない。
一応もう一度「ごめん」と言って、耳たぶを唇で挟んで軽く引っ張る。
ユキがまた鼻にかかった声をあげた。
「……ユキの中、入りたい」
「…………ん」
顔を隠したまま、同意の頷きを返してきた。

55 :
                 
じゃあ。
ゴムを取ろうとベッドサイドに腕を伸ばそうとした時。
その腕をユキがやんわり制した。
「…………着けないで」
「……え?」
「このままで……」
「ユキ……それは」
今までに、着けずに、というのは無いわけじゃない。
でも、この時期に、それは俺にはできないことだ。
4月からユキには新しい生活が始まるのに。
俺はゴムの入った引き出しに手を掛けた。
ユキの声が「あっ」と聞こえたが、聞こえないふりをした。
「……無い」
無い。
ベッドサイドにある小さな収納棚のあるべき場所に、それは一つも無かった。
ユキに顔を向けると、訴えるような眼をして俺をじっと見つめていた。
「ユキがやったのか……」
「お願い……無しでして欲しいの」
「危険……だろ……」
「安全日、だから。……精さん……そのままで、きて」
潤んだ目で見上げて、腕を俺の背中にまわしてきた。
「ユキ。しばらくはちゃんとしよう。それに」
さっきプロポーズしたばかりだろ。
ここで、不誠実なことってのは、やっぱマズイ気がする。
「…………精さんの赤ちゃん、欲しい」
「安全日じゃないのか?…………てか、俺はまだ……」
ユキが急に表情を曇らせた。
目が赤くなっていく。
「精さんは、嫌なの?」
「だ、だからあのさ……今は、これ以上望んじゃいけないと思ってて」
「望んじゃいけない、って、どういう……」
「ユキと一緒になれる、っていう望みが叶ったばかりだから……」
ユキの目からとうとう涙がこぼれだした。
今日はよく泣いてるよな……。
「ゆっ、ユキ、だからさ、あの……欲張るとダメな気がしてるんだ」
「…………」
「今まで……いろんなものをなくしてきたから……」
「……だから……?」
「満たされすぎると、怖い」
「…………怖く、ないよ?」
「……怖いんだ」

56 :
                   
ユキが両手を伸ばしてきて、俺を包むように抱きしめた。
本当に、包むように、優しく。
あの時のように、背中をゆっくり細い腕が上から下、下から上と往復する。
耳元に、ユキの息がかかって、囁くような声が響いた。
「怖くないよ」
幼いユキの温かな体を思い出して、胸が切なくなる。
同時に体が熱くなってくる。
熱いけど、性的な興奮とは違う、静かな、あの時も感じたとても静かな感情はなんというんだろうか。
「どこへも行かないから……ね?」
ユキを女性として意識してからというもの、失うのが怖くてなってしまった。
成長していくのを間近で見ながら、飛び立っていってしまうのを、おそれていた。
どこへも行って欲しくなかった。
「怖かった……今も……」
「精さんの……傍にいるから。大丈夫」
「…………大丈夫、か」
「大丈夫」
自分が震えているのに気がついた。
「カッコ悪りぃな、俺」
「ふふっ……精さん、泣いた」
「なっ……泣いてねーよ」
体を離し、顔を見ると、ユキは泣きながら笑っていた。
俺は……やっぱり、泣いてんのかもなあ。
また、ユキが腕を伸ばして、俺を引き寄せた。
唇が重なる。
熱くて柔らかくて、とけそうな感触だ。
ユキが上唇や下唇を交互に軽く食み、舐め、また覆うように重ねてくる。
それはもう一度、冷えた体を昂らせようとしているみたいに、丁寧な動きで繰り返された。
侵入はしてこず、焦らせて、俺から貪るようにと、誘い込む。
少女の頃のユキとは、もう違う、と思い知らされる。
俺が、そう望んだから、か。
ユキが抱きついてくる。
自分から膝を開いて、腰を揺らし、俺を迎えようとしている。
いつになく積極的に。
さっきのユキの悪戯も、無性に可愛いものに思えてきて、俺からも口づけた。
お返しのつもりで、舌を絡めながら、蜜の溢れ返ったそこに指で触れた。
「ああん!」
体が跳ねて、ユキが叫んだ。
「しないで……! 指は……いやなの……」
「……欲しい?……その……着けずに?」
「ん……」

57 :
                  
ダメだ、とか偉そうに言っておきながら……我ながらあきれる。
膝に手を掛け、ユキの体を開いた。
ユキの『おねがい』や『おねだり』に弱いのを自覚しつつ、ユキの片脚を持ち上げて、
すぐ自分のモノをゆっくり押し入れた。
「あ――――!」
とろとろに溶けたそこは、俺を簡単に受け入れてゆく。
少しずつ、温かくて柔らかい襞に覆われていく。
「んっあ……ああっ」
「う……」
直接の感覚は、強すぎて、気持ちよすぎて。
ユキの中は、たくさんの肉の襞が俺を包んで動いている。
めまいがしそうだ。
俺は、ユキの片脚を自分の肩に掛け、ゆっくり深く回しながら抽送を始めた。
ユキの背中が浮いた。
ひくひくと中が蠢いて、引き込むように締め付けてくれる。
一度動きを止める。
わずかな動きでも、俺のモノは直に感じて、びくびくと震えた。
それがまたユキの快感を誘うらしい。
「精さん、うご……いて……」
恥ずかしそうに小さな声で、けれど堪え切れない、というように。
ユキがぐっと腰を上げて、自分から回すように動き始めた。
細い腕が首や背中に絡みつくようにまわされる。
強くしがみつかれて、苦しい。
「ユキ、苦し……」
「ん……あ……やだ……せい……さ……あぁんっ」
ユキが俺を舐るように、ゆっくり上下に動く。
息苦しい俺は、そんなことお構いなしなユキに、耳たぶを甘噛みされ、舐られる。
「あ……ユキ」
「せいさ……ん」
首筋を舌で舐めながら下りてきて、肩に噛みつかれた。
「……ユキっ」
猫みたいだな。
必らしく、爪が食い込んで、背中が少し痛い。
「精さ……ん……あんっ……また……やぁ……あ、はあっ……」
自分の限界が近づく。
きっと、次の時にゴム着けるのが嫌になるな。
「……言って……っしてるって……精……さっ……やあぁっ」
「ん?」
手加減は止めだ。
奥まで一気に貫いて、ぎりぎりまで引き抜く。

58 :
   
                   
「だめ……離れちゃ、やだ……ああっ……ぁん……も……と」
言われた通り、打ち付けるように、突き込んだ。
「んやああああっ」
「さっき……っ……なんて言っ……?」
「あっやっ……あ……あい……てる、て言って……ね?……ん、ああっ」
それも『おねだり』するのかよ。
そんなに安売りしないぞ……と思いながら……やっぱり弱い。
ユキの耳に口を付けて、わざとごく小さく囁いておいた。
「聞こえた?」と問うまでもなく……。
「っユキ! そ……んな、締めるなっ……っ」
「せいさ……っ」
強く反応して、ユキが一気に昇り詰めていく。
ユキは俺に合わせてなのか、快感に酔ってるのか。
自分から揺れて、締めつけてあっという間に最後の所までもっていかれる。
「腰、砕けそ……」
「せっ……あ……は……!」
ユキがふるふると震えて、体を強張らせていく。
熱く蠢くようなユキのナカに、ぐいぐいと引き込まれる。
隔てる物が何もないことを、生々しく感じながら、奥へと突き込んだ。
腰から頭の先へと電流みたいなものがはしっていく。
同時に、それ以上進めない、奥深いところで、俺は弾けた。
……初めてユキの中に吐きだした。
ユキが、強くしがみついてきた。

59 :
                       
「ユキ、聞こえる?」
声を掛けても、荒い息で、ぼんやりしている。
「ユキ」
こんな、こっぱずかしい言葉、そうそう言えたもんじゃない。
だから、「愛してる」って言うのは、しばらくユキだけに言いたい。
そういう相手が増えるのは、もうしばらくユキを独占してからにしたいんだ。
……寄り添って、そう言おう。
子どもみたいだ、と言われるだろうか。
「しあわせ」
ユキが呟くのを聞きながら、その隣にもぐりこみ、華奢な背中に寄り添った。
「幸せ」
俺も同じように呟くと、ユキが振り向いた。
指を絡ませて手を繋ぐ。
どちらからともなく、唇を重ねた。
「ユキ……」
「アイシテル」
俺より先に照れながら言って、ユキは花が開くように笑った。
――もう、春なんだな。
===終===

60 :
誤字脱字、ごめんなさい
オヤジの話とか、ながながとすみませんでした
これでお終いです。
どうもありがとうございました。

61 :
>>60
これで終わりとか寂しいけど、いい話だった!
心からのGJを贈ります。 というか、もうGJ しかでてこない。
いつもすっごく楽しみにしてました。
これからの精さんとユキに幸あれ!

62 :
夜中リアルタイムに遭遇したのに寝落ちしてできなかったがGJ!!!!!
本当に終わるの寂しいよ。楽しみにしてたシリーズだから……
気が向いたら番外編でもあると嬉しいけど……これが美しい終わり方かなあ。
本当にお疲れ様でした!
精さんとユキの幸せが続きますように
精さんとユキの幸せが続きますように

63 :
投下ありがとう!
心が暖かくなった
終わっちゃうのは寂しいけどいいラストでした
いつも規制ばかりでロム専だったけどようやくgj言えた

64 :
>>60
gj!!良かったです!!!

65 :
終わるのいやだぁぁぁぁぁぁぁあ
ともあれGJ!

66 :
いい流れのところ、お邪魔します。
5レスほど借ります。
下手くそです。
女が変人なので良識ある普通のカップル物が好きな方は読み飛ばしてください。

67 :
トントントンと階段を上る小気味のよい足音が近づいてくる。
それすら好ましく感じてしまうのはやっぱりそうなんだろうか。
迫ってくる足音を頭の中で数える。
3・2・1・・・ドアが開く直前に私は筆を置いた。
「メシ行きませんか、カナメさん」
「階下(した)の奴らは」
「あー、部長たちは牛丼行ってくるって」
「ザシは行かなかったのか?」
「オレ、朝昼パンだったんで、夜は野菜食べないと」
こいつのこういうマメというかキッチリした考え方は好きだ。
ちゃんとした家庭で育ったという感じが。
「カナメさんは学食でいいですか? 一緒に行きましょうよ」
「そんな時間なんだな」
「そうですよ。急がないと」
アトリエの戸締りをして電気を消した。心もち足早に学食へ急ぐ。
隣にぴったりと貼り付いて同じ歩調で歩いているのが見なくても気配でわかった。
券売機でザシがA定食のボタンを押したのを確認してから自分は天ぷらうどんのボタンを押した。
トレイに食事を受け取って、テレビから少し離れた場所に座席をとる。
後から来たザシは当たり前のように二人分のお茶をトレイに乗せて持ってきてくれていた。
「今日のメインは肉じゃがだーっ」
子どものように嬉しそうな顔を見ているこっちまで良い気分になってくる。
「これ」
まだサクサクしているであろう海老の天ぷらをザシのご飯の上に置いてやる。
「いいんですか、折角の天ぷらうどんなのに」
「海老、あんまり好きじゃないから」
これは半分本当だ。海老はあんまり好きじゃない。だけど天ぷらうどんを頼んでしまうのは。
やっぱり私はこいつの喜ぶ顔が見たいのか。
「天丼天丼嬉しいな♪」
「食事中は歌うな、行儀悪いぞ」
「はーい」
なんでこいつなんだろう。こんな年下の、子どもっぽい男。

68 :
食後は紅茶と自分で決めているので、まっすぐアトリエには帰らずに部室へ行く。
外へ食べに行った奴らはまだ帰ってきていない。おおかたゲームセンターにでも寄っているのだろう。帰りはきっと遅い。
半ば自分専用の荷物置き場と化している広報部用の棚から自分用のティーポットと紅茶の缶を出しているあいだに給湯室にザシはお湯を汲みに行ってしまった。本当に自然にだったので一瞬なんの違和感も感じなかった。
「今日は二人前か……」
冷蔵庫に牛乳が残っているのを確認してからティーポットにミルクティー用の茶葉を二人分セットする。
そして、自分だけのお楽しみの瓶も冷蔵庫から出した。
パタタタ……走らなくていいのに、ザシは急いで帰ってきた。
「お湯持ってるんだから走らない走らない。危ないじゃないか」
「大丈夫っす!ヨユーで!」
この笑顔の源は何だろう。少し分けてほしいぐらいに明るい声。
私は受け取った魔法瓶からティーポットにお湯を入れて、砂時計をひっくり返した。
「ねえ、カナメさん」
「何だ?」
「その瓶、何なんですか。いつも紅茶に入れてますけど」
その視線は私の手元に置かれた『カナメ専用 触った奴はす』と書いてある瓶にやられていた。
「シロップだよ」
「シロップ?」
「そう、イチゴのね。とても高価い奴」
まあ、間違いではないかもしれない。私にとってはそんなものだ。
「ねえ、マグカップ取ってくれる」
話題を逸らしたい、と無意識のうちに思ったのかもしれない。あるいは時間稼ぎ。
ザシは私のと自分用のカップを戸棚から見つけて持ってくる。
砂が落ちた。
並べた二つのカップに交互に紅茶を入れて。ミルクと砂糖は各自好きな量を自分で入れる。
――私は砂糖は入れない。ザシはスティック半分――そして私は自分用のカップだけにあの液体を入れる。なみなみと。
ティースプーンで三回転半混ぜたところで、くん、と鼻を鳴らしてザシの顔が近付いてきた。
「いい匂いですね」
「イチゴだからな」
「少し、下さい」
「駄目だよ」
「一口だけでいいですから」
どうしようかしら。
考えている間にその沈黙はYESのサインだと思ったらしい。
パッとカップは奪われて、ザシの口元に運ばれていく。
ゴクゴク……ゴクン。
「――!! !!」
声にならない叫び声とその変な顔に私は思わず笑ってしまった。
「ちょ、カナメさんこれ絶対にイチゴシロップじゃないでしょう!!」
バレたか。っていうか部員なら誰でも知っていると思ったんだけど、本当に知らなかったのかこいつは。
「ウォッカだよ。イチゴを漬けた」
「ど…」
どうして、と唇が動いているが、声にならないらしい。
そりゃそうだ、ザシは普段の飲み会でもほとんど酒らしい酒を飲まない下戸なのだ。紅茶割とはいえウォッカの刺激は強すぎたのだろう、顔が真っ赤になっている。

69 :
「校内で飲酒だなんて……じゃあ、僕が」

「飲んであげますよっ!」
どうしてそういう話になったのかよくわからないがザシは私の飲酒を止めたいようだ。
ゴクゴクと勢いをつけて全部飲みほしてしまった。
あーあ。私のイチゴウォッカ。
「カナメさん、僕は……ずっと言いたかったんですけど」
ダメ。聞きたくない。私はザシの分の紅茶にイチゴウォッカを入れて飲み(砂糖が元々入っているのだからそれはそれは甘かった)視線をそらす。
「僕は、貴女のそばに居たいです。できればずっと」
「永遠なんてないと思うけどね」
「そんな悲しいこと言わないで下さいよ、人が決の勢いで告白してるのに」
「好きということ?」
「そんなストレートに…… まあ、そうです」
「性的な意味で?」
「そんなの……無いとは言いませんけど。どっちかっていうと精神的な意味合いで」
「私はね、他人に愛される資格もないし他人を愛する資格がないんだよ」
え。とザシの口が小さく動いた。
「そんなの……資格とかそんなのないでしょう」
「自分を愛せない人間は他人を愛する資格がない」
「じゃあ、僕が」
「僕が?」
「僕が責任を持ってカナメさんのこと愛します」
なんだそれ。
「愛しますってば!」
「嘘ばっかり」
――男なんて。みんな同じだ。野蛮で。獣よりも醜い。
「嘘じゃないです」
「じゃあ、しよう」
「?」
「確認させてあげる」
「?」
――欲望におぼれた男なんてみんな同じだ。
私は倉庫の鍵を持って手招きした。
――さあ、本音を曝け出せ。

70 :
「……っ! カナメさんっ。こんなこと、駄目ですってば!」
「安心しろ、誰も来ないから」
「そういうハナシじゃなくてっ」
ザシはコンクリートの壁に背中を押しつけるようにして立っていた。
その前に私は膝立ちの状態でかしずく。
――男なんて。
――男なんてアレの最中にはそのことしか考えられない生き物のくせに。
私はザシのズボンを膝まで下ろし、下着の上からそれを握る。
「駄目ですって! どうしてこんな」
「こんな? こんなに大きくして?」
布ごしに緩い刺激を与えたそれはもう大きくなっている。
ギュッと握ると充分に硬くなっていることがわかったので残っていた下着も下ろす。
口中に唾液を溜めてから私はそれに口づけた。
「こうして欲しかった?」
「カナメさ…んっ」
「んむっ……」
一息に飲みこむようにして口中に迎え入れる。
雄の匂い。雄の味。
これが彼の味。私を好きだという男の。
最初はソフトに、アイスキャンディを舐めるように舐めあげる。
そして深く、早くなるにつれて加える圧力も増してゆく。
手の動きもつけてやるとザシは顔をゆがめた。
「カナメさん、それやられると」
動きを止めてやろうか。このまま達させてしまおうか。
逡巡しながら私は行為を中断してザシの顔を見上げた。
「それ……反則です」
「何が」
「瞳。すっげーキレイで。」
「バカ」
私はまたそれを銜えた。今度は手の動きにあわせて顔を深く上下し動かす。
――早く。
――早く達してしまえ。
それだけを考えて動く。それだけがただひとつの光であるように。
切なげに漏れるザシの吐息。
口腔内に苦味を感じた思った瞬間
「ごめんなさい!!!!」
ザシはそう叫ぶと私の頭を自分の身体から引き剥がした。
「だって、飲ませるとかありえないですよ」
ティッシュペーパーで後処理をしながらザシは言った。
「私は飲んでもよかったんだけど」
「だ、駄目です、そんなこと」

71 :

「それよりどうして、あんなことしたんです?」
「私のこと、軽蔑しただろ」
「ビックリはしましたけど。」
「まだ私のこと好きとか言えるか?」
「好きですよ」
「じゃあ、言葉をくれ」
「?」
「永遠じゃなくてもいいから」
「僕はずっとずっとカナメさんのこと好きですよ。本当に」
こいつは本当の馬鹿かもしれない。
あんな暴力にさらされてなお私のことを好きだというなんて。
だけど、本気かもしれない。
今だけでもいい。永遠なんてなくていい。
こいつがくれる気持ちだけ、今は受け取ってみよう。
「ありがとう」
小声でつぶやく。
「なんですか?」
「独り言だよ」
そして私は紅茶を二人分淹れる。
イチゴシロップ抜きで。

72 :
>>66
gj!こういう組み合わせのカップル大好きだ!!
続きあると嬉しいです

73 :
乙!
淡々とした感じが好みでした

74 :
≫66さん gj! 続く?
規制がまたキツくなる中、投下嬉しい!
≫60タンと同じIDのSSを他スレで見かけたんだが、規制対策?同じ日に投下してる
規制ですぐレスできないかもしれないけど、書き手さん待ってますw

75 :
保守

76 :
こんばんは、お久しぶりです。『Baby Baby』の続き投下しに来ました。
まさかの一年近く……こんなに遅くなってしまってすみませんorz
また、PCクラッシュした為トリップが変わっていますが、NGは『◆oE/6SBcxv2』か『Baby Baby』で。
前編は縮刷版からどうぞ。
10レスあります。

77 :
 衝動的に叫んで後悔した。
 ……最低だ。一番避けたかった事態に、自ら飛び込んでどうするの。
 本当に嫌なら、ベッドへと場所を変える時にでも言うべきだった。それなのに、タイミング悪すぎる。
散々いろんなこと許しておいて、今更じゃないか。
 面倒くさい。
 本当に面倒くさい女だ。 
「すみません」
 しばらくの沈黙のあと、陽介の体が離れた。
 なんで謝るの。謝るのはこっちじゃないか。
 だって傷つけた。陽介の、そんな表情見たくなかった。そうさせたのは私だ。
 本当に、最低だ。
「やっぱり、俺がっついてましたよね」
 違う。
 そうじゃない。
 やだ。
 やだ、やだ。
 そんな顔しないで。
 ――嫌いにならないで。
「違うよ、陽介のせいじゃない!」
 身を起こして、陽介に飛びついた。
 だけど、顔が見れない。見るのが怖い。腕をつかんだまま、ずっと下を向いていた。
「わ……私、訳わかんなくなっちゃって。怖くて……っ」
 あ、やだ。涙出てきた。
 陽介に顔は見えないだろうけど、声が涙声になってる。
 泣いてどうにかするつもりなのかって思われるかな。
 でも、その涙は、自分がつまらない人間だとつくづく思ったからだ。
「ほんと、26にもなって恥ずかしいんだけど、私、その、あのさ」
 怖い。言うのが。
 引かれるだろうな。重いって思われるかな。
 だけど、もう言わなきゃ。
 唇が震える。
「……し、たことなくて……付き合うのだって、陽介が」
 うわ。
「……初めてで」
 面倒だ。
 自分で言ってて、つくづく面倒な女だ。
 26で処女なのも、それがコンプレックスなことも、陽介に嫌われるかなってぐるぐる考えてることも。
 全部全部、面倒だ。
 こんなことも、こんな悩みも、今の年齢で経験することじゃない。私以外の人は、もっと前に終わらせてる。
だけど私は26歳で、四捨五入すれば30歳だ。もう、そういう年齢な訳で。
 人並みの人生、送れてないんだなぁ……。
 情けない。
 そう思ったら、一気に涙がこぼれた。

78 :
「どうしていいのか、全然わかんなくて」
 ぶっつりと切れたみたいに、涙が止まらない。
 陽介はずっと背中を撫でてくれた。……なんでこんなに優しいんだろう。
 ある程度、私が落ち着いたところで陽介が口を開いた。
「なんとなく……すごい恥ずかしがりなのかなー可愛いなーって思ってましたけど……」
「ま、まさか初めてだとは思わないよね……ほんと、ないよね……」
「いや、なくはないです」
 そう言って、陽介は私の顔を上に向かせた。
 可愛く泣けるタイプでもないし、涙でぐしゃぐしゃで酷い顔を見られたくなかったのに。
 何より、陽介の顔を見るのが怖かった。
「ゃ……ごめ、んなさい……」
 怖くて、また涙が溢れた。
「謝らないで」
 そっと涙をぬぐってくれる。
 なんで陽介、そんな優しい顔するの。
 なんで私みたいな女に優しくしてくれるの。
 そんな価値、ないのに。
「……嫌なの、全部、自分が。陽介に重いって思われるかなとか、嫌われるかなとか思っちゃうのも、
 す……するのが怖いのも、全部全部、自分のことしか考えてない……」
 だめだってわかってるのに、たまらなくなって少しずつ吐き出した。
 何かで読んだ。セックスは、お互いの一番弱いところを見せ合うものだって。今の私には、それは
無理だ。つまんない意地やコンプレックス、陽介には知られたくなかった。
 陽介に嫌われたくなかったから。
 陽介が離れていってしまうのが怖かったから。
 だって、誰かに好きになってもらえるなんて、この先ないと思ってた。
 大学時代だって、社会人になってからだって、恋しなかった訳じゃない。だけど、その人が私を選んで
くれたことはなかった。その度に自分ってなんなんだろうって考えた。家族仲はいいし、友達だっている。
仕事は面白いし、職場の人間関係もいい。自分は「いらない子」なんかじゃない、幸せだってわかってる
のに、自分の価値がわからなくなっていった。
 誰も私のことなんか、可愛いって思わないんだろうなぁって。
 別に酷いことされたり言われたりしてきた訳じゃないけど、男の人にとってどうでもいい女なんだろう
と思った。恋愛市場じゃ価値がない女なんだろうなぁって。だけど同時に、恋愛が全てじゃないとも考えてた。
恋愛以外じゃ人生楽しめてるんだから、たった一要素で悲観的になるのはおかしい。今もそう思ってる。
『おひとりさまの老後』を読んで貯金を始めたのも、どっちかっていうとポジティブな気持ちからだったはずだ。
 大丈夫。わかってる。
 わかってるのに。
 少しのさみしさを認めたつもりだった。だけど、結局は見ないようにしてただけだった。いつだって
胸が痛かった。ふとした時に、ああ自分は一人なんだなって思ってさみしかった。そう思う度に、
おかしい、そんなはずないって思うようにしてた。だって周りに人はいるのに。大切な人たちがいるのに。
 
 陽介に告白されて嬉しかったけど、付き合ううちにどんどん怖くなっていった。
 陽介が優しくしてくれたり、好きだって、可愛いって言われる度、すごく嬉しいのに身構えてしまう
自分がいた。自分にブレーキをかけるようにしてた。

79 :
 今までの分、全部陽介にぶつけてしまいそうで怖かった。
 可愛いって思われたい、手繋ぎたい、抱きしめられたい、甘えたい、キスしたい。そういう願望を
ぶつけたくなくて気を付けていたけど、見透かされてしまったらと考えると怖くてたまらなかった。
 だって、こんなの身の程もわきまえない、ただの欲張りじゃないか。
 そんな価値もない女のくせに。
 ……重い。これは重い。
 涙も収まってきて、ずいぶん冷静になってきた頭で思う。
 ていうか、何を話しているんだ! 私は!
 さぁっと血の気が引いた。ような気がする。
 何、不幸自慢のつもりか。ない。これはない。こんなこと、いきなり言うのだって、陽介のこと考えて
ないことになる。どこまで私は自分のことしか考えてないんだ。フェードアウトされてもしょうがない。むしろ
直接はっきりと別れましょうと言われてもおかしくない。だって重い上に面倒だもの、この女。ストーキングは
しないので安心してほしい。あー、あー、なんだか捨て鉢になってきたぞ。
 だけど。
 正直言って、まだ信じられないけど。
 陽介が私のこと好きだって言ってくれたの、すごく嬉しかったんだよなぁ……。
 もうその思い出だけで生きられるなぁと思っていたら、陽介は私の頭を撫で始めた。それされるの、
好きだからやめてほしい。どきどきするからやめてほしい。
「……俺、今ほっとしてるって言ったら嫌いになりますか?」
「え……」
「蛍子さんのこと、今まで俺全然わからなかったんです」
 その言葉もよくわからなくて、きょとんとしてしまった。
 陽介は代わりになる言葉を探しているようだった。
「いや、えっと。んー……わからないっていうか、不安ていうか悔しいっていうか」
 その言葉もよくわからなくて、陽介が話し出すのを待った。
 不安? 悔しい?
「俺から告白したし……やっと大学出て働き始めたところだし。蛍子さんから見たら、子ども
 なんだろうなって思ってて。でも年なんて絶対埋められるものじゃないし。
 嫌われてはないんだろうけど、必だなって思われてたら恥ずかしいなぁとか考えてました」
 実際蛍子さんのこと好きすぎて必ですけどね、と陽介は苦笑して言った。
「ごめんなさい、正直言って一線引かれてるって感じてたんです。
 一旦考え出したらよくないことばかり思いつくんですよね。
 俺ばっかり好きになってて、蛍子さんはそうでもないんだろうなとか」
 ひやりとした。
 まさにその通りだったから。私、わかりやすいのかな。だったら陽介はとっくに私の願望なんか、
見透かしちゃってるのかもしれない。
「でも、嫌われてないならいいか。あのさ、蛍子さん」
 私の体をすっぽりと抱え込むようにしながら、陽介が言った。さっきより近くなる。
「知らないところ、いっぱいあるよ。これからどうなるとか、まだ全然わからないよ。
 だけど、蛍子さんと話すの好きだし、もっと一緒にいたいって思えたから告白したんです。
 ……自分のことしか考えてないのは、俺も同じ」
 違うって言いたかったけど、うまく声が出なくて代わりに首を横に振った。

80 :
「残念ながら、そんなもんなんですよ」
「でも陽介……」
 声を出したら、やっぱり少し裏返った。
「私と違って線引いたりしないじゃない」
「だって好きなんだから近づきたいよ」
 心とかだけじゃなくて体も全部。
 好きなんだから近づきたい。
 それって、すごく勇気のいることだ。私は線を引いて逃げた。陽介は逃げなかった。
「そりゃあ怖いですよ、今でも。それでも蛍子さんのこと知りたいんです」
 確かに付き合い始めてから、陽介のこと少しずつ知るようになった。
 出会いこそ5年近く前だけど、私は陽介のことほとんど知らなかった。再会して皆で遊ぶように
なってから、知ることは多かった。付き合いだしたら、もっと増えた。こういう表情するんだ、ああいうの
好きなんだ、こういう癖あるんだなぁ――なんて。
 私、本当はわかってた。
 いろんな面、知る度に陽介をどんどん好きになっていったこと。
 すごく好きな訳じゃないけど嫌いな訳じゃないし、なんて考えてたけど、正直もうどうでもよくなってた。
会う度にもっと一緒にいたい、離れたくないって思うし、キスする度にもっとしたいって思った。唇が離れる
のがさみしいなって、いつも思ってた。
 そうなんだ。
 好きだから。
 好きだから、嫌われたくなかった。
 だけど、好きだからって線を引いて逃げてしまうのは違う。私はもういい加減、踏み込む勇気を持つ頃だ。
今やらないで、いつやるんだ。好きなんだから、向き合いたい。
「私も」
「うん」
「私も陽介のこともっと知りたい。本当、私、怖がりだけど……」
 キスするのかなって思ったら、陽介は私のおでこにおでこをくっつけてきた。
「怖がり同士でいいじゃないですか」
「でも、私今まで怖いからって逃げてて」
「今まではいいから、これから」
「これから……」
「無理しなくていいんです。ちょっとずつでいいんです。
 蛍子さんとは長くじっくり付き合いたいなぁって思うし。だから」
 
 陽介は顔を離して、まっすぐに私を見てきた。
 一瞬目を伏せそうになった。怖いけど、目を合わせるのは怖いけど、でも。私もちゃんと見つめ返す。
 陽介がふわって笑う。
「もう少し、お互いを知ってからしましょう?」
 してから知ることも多いけど、って陽介は続けた。
 あ、なんだろ。
 胸がじわっとあったかくなって、泣きそうで、たまんない。どうしようもない。陽介のことが好きで、
好きでたまらなくなってしまった。
 触れたいなぁ。
 そう思った時には、とっくに手が出て、私は陽介にぎゅうっと抱きついていた。
 陽介の背は低くないけど、すごく高い訳でもない。陽介を見るときはやっぱり見上げてしまう
けど、細身ということと後輩ということで、あまり大きいイメージは持ってなかった。でもやっぱり
大きいなぁ。男の人だなぁ。

81 :
 あー、こういうふうに陽介の体を感じるの、すごく幸せだ……。
 少し体を離して陽介の顔を見ると、ちょっと驚いたような顔してた。あ、なんか可愛い。
「ごめんね、なんかすごく嬉しくって」
「いや、謝らないでくださいってば」
「……うん。ありがとう」
 泣きそうになってしまったから顔が見えないように、また抱きついた。
 でも、さっきみたいな泣きたい気持ちじゃない。あったかい気持ちだ。ちょっと浮かれてるかもしれない。
普段なら、絶対こんなことしない。しないっていうか、出来ない。
「好き」
 別に今までが不幸だとも思わないけど、陽介と会えて本当によかった。
 陽介みたいな良い子が私のこと好きでいてくれて、私も陽介のこと好きだってはっきり言える
ようになれて、嬉しい。好き同士、になれるなんて気の遠くなるような確率だと思ってたけど。
 こうしてるだけで、あたたかい気持ちになれるって本当に幸せだ。
 ちょっと浸っていると、突然陽介が私の体を離した。
 え。
 な、なんで? 私、何かした? どうしよう、嫌だった?
 軽くパニックになってると、陽介の顔が赤いことに気付いた。
「……そういう不意打ちは困る…」
「え、何が……、――っ!」
 手を掴まれて、足の付け根に誘導される。
 うわ。
 うわわわわ。
 もちろん、そんなところを触るのは初めてで、一瞬よくわからなかった。だけどスウェットだから、
余計感触がわかりやすいというか。陽介がどういう状態なのかわかってしまって、こっちも顔が
赤くなる。
 ああでも、そういうことなんですよね。
 私が怖い怖いなんて言うからやめてくれただけで、本当は。
「やっぱり、その、し、したいよね……」
「しませんよ」
 でも、と言いかけると、陽介がばつの悪そうな、というか苦虫を潰したような、まぁそういう
微妙な顔してさえぎった。
「すみません、言わせてもらいますけど、今すっごく我慢してるんですよ俺。
 諸々脱いだ格好で抱きつかれて、好きな人に好きだって言われて、どうにかならない訳がないでしょ。
 大体、蛍子さんが好きって言ってくれるの、さっきのが初めてだし。ああもう!」
 そういえば、確かに色々脱げてて酷い格好だった。寝巻きは上しか着てないし、それもボタン
外して前全開になってるし。下着は上下着けてるといっても、ブラのホックは外れちゃってるし。
冷静に考えると、すごい格好だな……。今更恥ずかしくなって、上着の前をかき集めた。
 まぁ、それはそれとして。
 えっと。
 そうか、私今まで陽介に好きって言ったことなかったんだ。
 なんとなく、ごまかしてきてたと思う。だって、『付き合う』ってもっとこう激しいというか情熱的なもの
だと思ってた。いや、性的な話じゃなくて。
 お互いのこと、好きで好きでしょうがない人同士が『付き合う』ものだと思ってた。
 とりあえずで付き合っちゃう人たちがいるのも知ってるけど、自分には遠い世界の話だと思ってた。
 だって私、最初から陽介のことすごく好きって訳じゃなかった。最低なことに少しの打算的な考えが
あった。嫌いな訳じゃないけど。むしろ好きだったけど。ただ、恋愛方面の好きっていう感じじゃなかった。
でも、キスされたの嫌じゃなかったんだから、やっぱり初めからそういう好きだったのかな。どうなんだろう。
体触られるのだって嫌じゃないし。

82 :
「だけど、絶対今日はしないって決めましたから。今日だけじゃなくて、もうしばらくは。
 蛍子さんが俺を欲しいって思うまでは、絶対」
 ……。
 なんか結構露骨なことを言われてるような気がしないでもない。というか、もっと他の言い方が
あるだろうと突っ込みたかったけど、今は気付かないふりをする。
 なのに陽介は、気が付かないふりをしたのに、無意味な努力となるような反応をしてくれた。
「まぁ、そのうち一緒にお風呂入ったり、俺の上に乗ってもらったりしてもらうつもりなんで」
「――なっ……!? いや、ちょっと、……ええっ!?」
「あはは、だって好きな人のいろんな姿って見たいじゃないですか」
 さわやかに笑顔で言わないでほしい。
 どうしよう、ぐるぐる考えてたら、また真面目な顔をして陽介が言った。
「今日はしません。けど、……もうちょっと触ってもいいですか」
 陽介の声が低く掠れて、心臓がどきんと飛び跳ねる感じがした。
 嫌じゃない、怖くない、この感じ。
「触られるのも、怖い?」
「……怖くない……」
 そう答えるとキスしそうな距離に近づいて、やめても大丈夫ですからね、と囁かれた。ち、近い……。
 のどが渇いた感じがする。
 言わなきゃ。
 そりゃ最後までは怖いけど、陽介に触ってもらうのは多分好きだ。嫌じゃない、じゃなくて好きだと思う。
私だって、もう少し触ってほしい。……恥ずかしいけど、でも言わなきゃ伝わらない。
「もっと触って……、…ん、んぅ…!」
 
 答えた途端、唇が触れる。
 唇だけじゃなくて、舌も。
 さっきした時はされるがままだったけど、今は違った。多分、というか絶対下手なんだろうけど、もっと
陽介のこと知りたくて、頑張って舌をのばす。すると、陽介は私の耳をさすったり軽く中に指を入れたり
してきた。指、優しいのが嬉しい。なんだろ……。キスしながらだと、やたら感じてしまう。耳でこんなに
感じるだなんて思わなかった。
 息が苦しいと思った頃に、陽介は離れた。
 ぼうっとしてしまっていたら、陽介は、私が飲みきれずに口の端に溜めてしまった唾液を舐め取った。
 なんか、そういうの……。
 あ、やばい……自分の中から、とろりと落ちる感覚がした。なんていうか、その。興奮っていうか、
むしろ発情っていうか。どうしよう。もっと触ってほしくなる。
 腰の辺りを撫で回されて、腰が震えた。
 撫でてるだけなのに。なんで、こんなに気持ちいいんだろう。もっと、もっと、って思ってしまうんだろう。
 そんなことを考えていると、ふと陽介と目が合ってしまった。やだ、私間抜けな顔してたよね今。
うわうわうわ、急に恥ずかしくなってきた!
「あの……電気もう少し、暗くしてもらってもいい……?」
「だめ、蛍子さんの顔とか体、ちゃんと見たい」
「た、大したものじゃないですから! 胸ないし! 本当に!」
「……なんでそういうこと言うかな。俺好きですよ、蛍子さんの体」
「…んっ……!」
 太ももから腰、胸までのラインを優しく撫で上げられて、思わず声が出てしまった。
「肌気持ちいいし、胸可愛いし」

83 :
 小さいっていうのを可愛いって言い方してくれる辺り、本当にいい子だなぁ。なんて思ってたら、
陽介の手がのびて胸を揉みしだかれた。時々乳首をこすられると、背中の辺りから自分の中心まで
ぞくぞくして、切なくなる。なのに、耳にキスしてくるから余計に感じてしまう。
「今までがどうだろうと、蛍子さんは可愛いです。……自信持ってよ」
 だめ、耳元で囁いちゃだめ。ずるい。反則だ。
 言われてることはすごく嬉しいのに、今はひたすら気持ちよくなってしまう。息も荒くなってる。あ、だめだ、
頭ぼーっとしてきた……。
 胸を触っていた手がお腹に下りていったかと思うと、ショーツの上からあそこをそっと撫でられてしまった。
反射的に足を閉じたけど、そんなことじゃ指の動きは止まってくれなかった。
「う、ぇ、あの、待って、そこはだめ」
「嫌ですか? ……今日はもうやめましょうか」
「そうじゃなくて、心の準備が!」
 途端、陽介はきょとんとした顔をして、それから吹き出した。
 え、なんで。変なこと言った!? 
 だって嫌じゃないよ! 確かに触ってほしいよ! でも同時に恥じらいもあるんだってば! 興味はある。
性欲もそれなりにある。陽介の触り方好き。だけど、今私は恥ずかしさでねるほどなんです。本当に申
し訳ないけど、心の準備しないとちょっと無理なんです。花も恥らう乙女って年頃でもないけど、恥ずかしい
のは恥ずかしいんです。
「そういうところ好き」
 言いながら、おでこやほっぺにキスしてきた。なんか小さな子をあやすみたいだ。子供扱いか。そうか。
そうだよなぁ。うう……。いいんです、これから覚えていくから。
 そんなことをぐるぐる考えていたら、準備出来ました?と聞かれて、うなずいた。うなずいたけど、私、
心の準備出来てるのか……?
 さっきよりもしっかりとなぞられていくと、自分がどれだけ濡れていたのかがわかってしまった。え……
おかしくない? だって、一人でしてた時だって、こんなに濡れたことなかったし。
 うわ、どうしよう。どうしよう。だってこんなの。
 一人で少し混乱していたら、ショーツの上からかき回すみたいにいじられて、くちゅっという音がした。
 ……もう、無理……。
「見、ちゃやぁ……」
 陽介の指がどう動くのか見てられなかったし、顔も見られたくなくて、陽介の胸に抱きついて顔を隠した。
限界です……。だけど、目をつぶってしまったら、音が余計に聞こえる気がした。私の荒い呼吸と、恥ずか
しい水音。それから、陽介の心臓の音。
「でも触るのはいいんですよね」
 そう言って、陽介はショーツの脇から指を入れてきた。普通に脱いで触られるより、絶対そっちの方が
やらしい気がする……。
 指で往復するような動きに、体がふわふわしてくる。さっきよりも水音が粘っこい。
「とろとろだ」
「や、だ……っ 言わないでよぅ……」
「俺としては嬉しいんで」
 自分でもわかる。きっとそこは熱くて、柔らかくなってるんだと思う。でも言われるのは別なのに。
好きな人にそういうこと言われるの、恥ずかしくて仕方がない。

84 :
「――ひぅ……っ!」
 いきなりだった。少し、そこに触れられただけなのに、体が跳ねた。体中に電流みたいなのが走っていく
感覚。頭がしびれていくみたいな。だめ、そこすごく好きだから。陽介のTシャツをつかんで快感をやりすご
そうとしたけど無理だ。敏感なそこを転がすように指を動かされる。
「ぁは、ふ、ぁ……っ」
 うまく呼吸が出来ない。
 転がしたり、強めに押し付けるように指を動かしたり、かと思ったら優しく触れてきたり、そういじられている
と体だけじゃなくて腰も動いてしまった。一人でしてることバレちゃうかななんて一瞬考えたけど、もうどうでも
よくなった。気持ちいいのを追いかけるのに必だった。
「…ぁ、あ……っ、は、んんっ……っ」
 息荒い。私。時々、声が出そうになる。ふと背中に陽介の手のひらを感じた。もう片方の指は意地悪なのに、
背中を撫でる手はひどく優しい。
 ぬるぬるしたのを、そこにまぶしてはいじくられた。
 つるんとすべりそうなそこを、陽介の指がしっかりと捕まえてる。
 だめ。やめて。いいの。すごく気持ちいの。だめ。やめないで。だめ。だめ。
「ふ…ぁ…、ようすけぇ……」
 どうしようもなくなって、陽介の名前を呼んだら全然予想もしない、甘えるような声が出て恥ずかしくなった。
だって、普段こんな声出さない。甘い女の子って感じの鼻にかかった声は、自分とは遠いものだ。恥ずかしい
のに。なのに、もっと甘えたくなる。
「……もっと、呼んで」
 うわ、そんな熱っぽい声で囁かれたら。今、お腹の奥がきゅんっとしたの、わかった。
 でも陽介は全然手を止めてくれる訳なんてなくて、二本の指でそこをしごきだした。頭の中白くなってきて、
うわごとみたいに陽介の名前を繰り返す。
 あ、耳……陽介の舌でねぶられてる。舌、熱い。やだ、一緒にいじられたら、私、だめ、もう、やだ、だめ、
「――――、……っ…!」
 ――声にならなかった。
 上り詰める感覚の後、頭の中が白くはじけた。心臓が壊れそうなくらい。
 びくんびくんと体が跳ねて、だらしなく体から力が抜けた。やっと呼吸が出来たのはその後だ。
……なんだか空気がおいしい気がする。
 甘い余韻が残る体を、陽介はぎゅうっと抱きしめてくれた。ほっとする。あちこちにキスされてから、
やっと唇にキスがきた。
 大好き。
 徐々にクリアになっていく頭の中で思う。さっきよりももっと、陽介が好き。好きなんだ。
 諸々の処理をして、身支度をして、一緒にベッドの中に入った。
 陽介は、まるで当たり前みたいに腕枕をしてくれた。……本当に自分でもベタだと思うんだけど、
ていうかバカだなぁって思うんだけど、やっぱり腕枕もちょっと憧れていたのです。まさかとは思う
けど、全部陽介に読まれちゃってるのかな。は、恥ずかしすぎる……。少女マンガの読みすぎって
いうのはわかってる! りぼん派です。わかってる。わかってる。だけど、嬉しいです。はい。
 でも陽介、腕しびれちゃわないかな。
 これ、結構男の子が頑張らなきゃいけない体勢のような気がする。
 そう思って言ってみると、首の辺りに腕がくるようにしてくれた。これなら大丈夫かな。

85 :
 ただ、そうすると、さっきよりも陽介が近くになるもので……。いや、もうね、そろそろ慣れなきゃ
いけないと自分でも思うんだけど! もっとすごいこと、さっきまでしてたくせに! いや、すごいこと
って表現はどうなんだ。中学生か! まぁ、それとは別ということで……。誰かの心臓に近い位置に
いるって、本当にどきどきしてねる。だけど、陽介が柔らかく笑ってくれたから、ちょっと落ち着けた。
 少しずつ、いろんなことを話した。
「俺ねぇ、本当に今日浮かれてたんですよ」
「ずっと、どうやって家に誘おうか悩んでて。そしたら思いがけず、今日は蛍子さん来てくれて」
「悩んでたんだ……」
「悩みますよ。そういうことが一番の目的だって思われたら嫌だし。
 でも家でゆっくりするのも好きだしなぁって思ってたんです」
 見透かされたみたいで、びっくりした。ごめん、思っちゃってごめん!
 だって陽介、早生まれでまだ誕生日来てないから22歳なんだよ。20代前半なんて健全な
男子だったら、そういうこといっぱいしたくなるもんじゃないのかって考えるし。実際さっきだって、
あそこ硬くしてたし。特に若くもない、あんまり健全でもない私だって、その……一人でして
しまうくらいには悶々としてるし。いや、だからといって、いつもいつもそういうことばっかり考え
てる訳じゃないけど! ……それは陽介もだろう。ですよね、はい。
「でも、結局我慢できずにいろいろしちゃったので、だめですよね」
 陽介が、ちょっと苦い顔して笑う。
「……だめじゃないよ」
 そんなの、私だってちょっと期待してた。期待っていう言い方が正しいのかはわからないけど。
「だって私も、その、するのかな……って。しちゃうのかなって、どうしようってずっと考えてた。
 初めては痛いとかいうから覚悟決めなきゃとか考えてたし」
 ああ、やっぱり期待かな。緊張して、ぐるぐる考えてしまって、過剰反応して、どきどきして、
だけど陽介が好きだって言ってくれるならいいかなって思った。今から思えば好奇心もあった
んだろうけど。
「でも、結局全然覚悟出来てないし、泣きわめくし、みっともないとこ見せたし」
 最初は陽介を傷つけた。私が臆病だったせいで。結局は誰にも言わなかったことを陽介に
打ち明けてしまった。今でもちょっと怖い。私なんかがそんなこと口にしていいのかって思わ
なくもない。でも打ち明けないままだったら、近いうちにすれ違っていたと思う。早々に別れてた
と思う。
 私は一人で、自分のことばっかり考えていたんだ。
「多分ね、陽介だから見せることが出来たんだと思う」
 私より経験があるからじゃなくて、ちゃんと思ってることを口にしてくれる陽介だから出来たんだ。
私たちはお互いのこと、もっと知っていくべきなのに、私が拒否してばっかりで。陽介はちゃんと
知ろうとしてくれた。私だって、していきたい。知っていかなきゃ。
「俺もわりとみっともないところ見せたかと思いますけど、まぁ……
 蛍子さんの可愛いところいっぱい見れたんでいいです」
「ぇえ!? そっち!?」
「見せてくれて嬉しいです」
「や、それはあの、別に……」
「ゆっくりいろんなことやっていきましょうね」
「え、あ、ええ!? うん、いやあの」

86 :
 混乱する私を放っておいて、楽しそうに笑う陽介。ひどい。そんなの。いや、嫌じゃないんだけど。
 頭を撫でてくれながら、陽介が口を開いた。
「蛍子さん、明日予定ある?」
 明日は日曜日で、久々に何の予定もない休日だ。強いて言えば、ちょっと溜まりつつある
家事をこなさなきゃってぐらいで。
 そう答えると、ちょっと言いにくそうにしながら陽介が言った。
「……少しでいいから、うちにいてくれませんか」
 もうちょっと一緒にいたいんです、と視線をそらした。
 ……わ。
 可愛い。可愛いっていうか愛おしい。
 陽介がそんなふうに甘えてくるのは初めてな気がした。思えば、私もどうすればいいのか
わからなくて甘えるようなことは出来なかったけど、陽介が甘えてくるってことはなかったような
気がする。頑張ってたのかなぁ……。仮にも先輩なのに、たくさん我慢させているんだろうかと
考えると、情けないやら申し訳ないやら。
 『恋は二人でするものだ』なんて、よくある表現だと思ってたけど本当なんだろうな。
 どっちかが我慢してたら、二人でいる意味がない。まるで一人だ。
 あ、そうか。そういうことか。だめだなぁ……私、陽介にいっぱいしてあげたいことあったのに。
してもらいたいことじゃなくて、してあげたいこと。私はしてもらいたいことを知られてしまうのが
怖かったけど、そのせいで陽介にしてあげたいことを出来てなかった。どこまで自分のことしか
考えてないのか! そう考えると本当に本当に反省。
 いっぱいしたいな。いろんなこと。これから、少しずつ。
 そんなお願い、いくらでも言ってほしいよ。これから、いっぱい。
「陽介がいいなら、私ももっと一緒にいたい」
「本当!? やった、すっげえ嬉しい」
 溶けそうな、心底嬉しそうな笑顔で、朝ごはん何がいいですか?なんて聞いてくる。
 ……ずるい。この笑顔を見るためなら、なんでもしてしまうじゃないか。これが惚れた弱みって
やつなのかなぁ。いいよ、幸せですよ、ええ。
 陽介の胸に手を添える。ちょっと、っていうかかなり勇気を出してキスをした。
                                          【終】

87 :

以上です
ありがとうございました!

88 :
一番槍GJ!!
もうYou達同棲しちゃいなYO! ってくらいにいちゃついてましたな
……いいもんだなぁ

89 :
GJ!!
>だめ、耳元で囁いちゃだめ。
萌えた かわええです。
お幸せにw

90 :
GJ!!!!
このカップルめちゃくちゃかわいいな
続きがあるならぜひ期待したい……!

91 :
GJ
良かったよ〜

92 :
GJ!
萌えた!!
実は待ってました
さらなる続きを期待してます

93 :
GJ!!ずっと待ってました。読めてよかった。

94 :
りぼん派ですワロタww
私もりぼん派です!

95 :


96 :


97 :


98 :
保守age

99 :
職人さん
カムバック。

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