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2012年09月ニー速(pink)127: ハルヒ「ちょっと!かがみ!」☆ (263) TOP カテ一覧 スレ一覧 Pink元 削除依頼

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ハルヒ「ちょっと!かがみ!」☆


1 :2010/01/09 〜 最終レス :2012/09/02
「このスレは涼宮ハルヒの憂鬱とらき☆すたのクロスオーバーSSスレです。」
・初代スレはかが×キョン、今はカップリングは問わずに募集してますよ。 古泉
・これ以上作品をクロスさせるのはよしたほうがいいかなぁ〜。 つかさ
・荒らしには反応しないほうがいい……反応したら情報連結を解除する。 長門
・次スレを立てるときは避難所で確認しなさいよ!立てたら避難所で報告すること! かがみ
・ジャンルは問わないわ! この中にギャグ、シリアス、ラブストーリーが書ける人がいたらあたしのとこまで来なさい!ガチホモ、エッチなネタ、鬱ネタ、いじめ等、特殊なネタの場合は必ず注意書きを書きなさいよ!以上! ハルヒ
・作品は完成したらどんどん投下してくれ。、作品投稿がかぶらないように気をつけてな。あと、長編は書き溜めしてまとめて投下っていうのがいいな。長編投下以外ではコテトリをつけないでくれ。キョン
・作品投下中は静かに支援してあげてください・・・ みなみ
・わからへんことがあったら気軽にみんなに聞いてくれや〜 ななこ
・まぁまぁみんな気軽に投下してくれたまえ〜。まったりといこうヨ、ageないとおちちゃう時もあるから気をつけてネ、あたしもチェックしにくるヨ。 こなた
こちらがまとめです。
http://www36.atwiki.jp/kagakyon/
みゆき
こっ、こっちが避難所でしゅっ!
http://yy65.60.kg/harulaki/
みくる
これが携帯用だぜ!
http://same.u.la/test/p.so/yy55.60.kg/haruhitorakisuta/
谷口
・読みたくない文章があっても文句いっちゃだめにょろ〜 鶴屋さん
・AAを大量に使うのはやめてください・・・あきらさまが怒ってしまいますから…… 白石
・最後に、テンプレは常に最新版を確認して貼ってね☆ 間違えたら……わかってるわよね? あきら


2 :
たぶん前スレ
ハルヒ「ちょっと!かがみ!」part84
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/neet4pink/1246796810/l50
ずっと見てなかったからホントわかんないです!(><)
間違ってたら申し訳ない
再び活性化することを願って…
職人さんかむばっく!

3 :
うわ
ageてしまった
本当申し訳ない

4 :
久しぶりに来たのだが、文才の無い俺には
手助けは出来ないぜ…くやしいのぉ

5 :
こなた「この過疎具合…たまんねぇヨ」
キョン「今までロムに徹していたが…まさか書く時が来るとはな…」
こなた「キョンキョンよ、立ち上がろうではないか…どんな駄作でも構わないっ!」
こなた「ただっ!あの時の様に!みんなでホモ雑談してた時みたいにっ!」
キョン「止めてくれ、何か…痛い」
こなた「今更、遅いんじゃないカナ?」
キョン「やれやれ…」
こなた「ほ」
キョン「し」
こなた「の」
キョン「そこは空気を読んでくれ…」

6 :
あげ

7 :
どうも
長いこと顔を出しませんで、もしかしたらネタ等が被っているかもしれませんが
久しぶりに投下しようと思います。 よろしくどうぞ
あと、投下に時間がかかるかもしれませんが、文句はウチのPCに言ってください。

「またファミレスに」

8 :
「はぁ」
たとえば一人暮らしをする家に帰ってきた時。
たとえばお風呂から上がって、頭にタオルを巻いた状態で部屋に戻った時。
テレビを消して部屋がシーンと静まり返った時や、そろそろ寝ようとベッドに入った時。
それが僅かな時間であったとしても、たった一人きりになった時、決まって私は、
着信もメール受信も無く、マナーモードにする必要も、着信メロディや着うたを登録する必要も無く、
もっと言えば月々契約金を払ってまで所有する必要の無い携帯電話の画面を見ては、深い溜息を付く。
見たところで誰からも連絡が無いことくらい分かりきっているのに、
衣服と擦れてか、携帯が振動したような気がした時には急いで取り出して、
いつもと変わらぬ待ち受け画面が映し出されると、そっと閉じてポケットへ戻す。
そんな風に何度も何度も期待を裏切られ、とうとう私は携帯電話を携帯しなくなった。
それでも一週間くらいは、もしかしたら日中に連絡が入っていたかもしれないと、
帰宅すると急いで靴を脱いで、早々とテーブルの上に置いた携帯をチェックしていた。
だけど、それも無駄なんだということに気付かされて以来、私にとって携帯電話を開くことは、
自分がいかに孤独で、価値の無い人間なのかを痛感するだけの行為に過ぎなかった。
その液晶画面は、柊かがみという人間の真実の姿、暗い影の部分を映し出す鏡でしかなかった。
気付いた時には自分の姉妹とも疎遠になり、どんな顔をしていたのかすら忘れてしまった。
それだけじゃなく、こなたも、ハルヒも、みゆきも、朝比奈さんも、みんな忘れてしまった。
あんなに楽しかった日常がこんなに簡単に消えてしまうなんて信じられなかったし、なにより信じたくなかった。
どうしても現実を受け入れることが出来なかった。

こんな状況にもう慣れてしまったとはいえ、5.1億平方キロメートルという広い世界に
自分の居場所が何処にも無いような気がして、出来ることならこの世から音も無く消えてしまいたいと、
暗い部屋の片隅で一人身を縮めては、耳を塞ぎ目を瞑り、外界と自分とを遮断することもある。
そしていつの間にか眠ってしまった私は、必ず同じ夢……楽しかった高校時代の夢を見る。
夢の中の私はずっと笑顔で、息をする暇も無いほど友達と楽しく会話をしていて、
家に帰ってベッドに入って、こんな日が永遠に続きますように……そう願いながら目を瞑ったところで、夢から覚める。
それがいつも真夜中のことで、夢の中と違って現実があまりに暗すぎて、同じようにベッドに入ると、
込み上げる感情を抑えきれず、枕に顔を押し付けて、ベッドのシーツを掴んで大声で泣き叫んでしまう。
だから私の枕はいつも涙で濡れてヒンヤリと冷たく、シーツは両端が皺くちゃになっていた。
このころの私はもう限界に近づいていたんだと思う。
大学のこと、アルバイトのこと、将来のこと、他人のこと、自分のこと。
その全てがどうだっていい、どうなろうと知ったことではなかった。
巨大隕石でも、天変地異でも、核戦争でも、マヤの予言でも何でもいい、
宇宙人でも、未来人でも、異世界人でも、超能力者でも誰でもいいから、
私にとって何の価値もないこの世界を滅亡へと導いて欲しかった。
そうすれば過去に縋る必要も、未来に絶望する必要も無いのだから。
私の心は荒みきっていて、大学に進学し、みんなと離れてしまってから、
心の底から笑ったことなんてただの一度も無かった。
笑ってもぎこちないだけの“カタコトな笑顔”になってしまうだけだった。

9 :
>>8
そんな諦めを通り越してどうでもよくなった私の人生に、ようやく変化の兆しが見えてきた。
一生抜けることは無いと思っていた暗く長いトンネルの先に光が見え、
燃え盛る太陽の下、荒れ果てた大地にオアシスの蜃気楼が出現した。

それはいつものように泣き寝入りから覚め、目が充血し瞼が赤く腫れた朝のこと。
テレビによると、今日はお洗濯日和な天気で、私の運勢は最下位らしい。
簡単な朝食と簡単な身支度を終え、外へ飛び出す。
予報どおり太陽の光りが燦燦と降り注ぎ、電線にとまった二羽のスズメが会話していた。
今日は大学もバイトも休みで、必ずしなければならないことなどは何も無い。
だけど家に一人で居ると嫌なことばかりを考えて、悲しくなってしまうから、
最近はこうして、何も用事が無くても無理やり外出するよう心がけている。
大抵は電車に乗って、大きな本屋にまで足を運んで本を読み耽るくらいだけど、
それでも空想世界に没頭する間だけは、ほんの少しだけ気が紛れる。
もちろん本を閉じれば楽しいことなど何一つ無い現実世界へ引き戻され、
全く正反対な二つの世界を行き来する反動から、余計に辛く感じることもある。
それでも一切の外出を控えて殻に閉じ篭ってしまうよりは良いと思うし、
何より“自己保存本能に反する行為”が頭を過ぎることが無かった。
既にこの世に未練は無いけど、その選択肢だけは避けなければならない気がした。
だから今日もこうして駅までやって来ては、そこから本屋までの道のりを俯き気味に歩いている。
「キャッ! ごめんなさい!」
斜め下を向いたまま歩いていると、当然誰かに接触する可能性が高くなる。
私は前方から歩いてきた小太りのおばさんにぶつかってしまった。
挙句の果てに肩から外れた鞄の中から、昨日出し忘れたレポートや、財布、
マスクと化粧品を入れたポーチなどが飛び出し、半径1m以内に散らばった。
おばさんはブツブツと小声で文句を言いながら、こちらにジト目を向けて去っていき、
両膝を付いて落ちた物を拾う私を、道行く人が迷惑そうに避けていく。
駅の周辺は人でごった返していて、誰もが忙しそうな顔をして早足で歩いている。
自分の不注意で物を落とした人の為に、わざわざ足を止めて親切心を働かせるほど
善の塊だというような人や、暇を持て余した人などは何処にも居なかった。
そんなのは当然だと思っていた私は、目の前にハンカチが差し出されても、
それが私の物で、誰かが拾ってくれたんだということに気付くまでに随分と時間が掛かってしまい、
ボケッとした表情のまま、ジッとその手を見つめていた。
「ありがとうござ……あっ!」
無言で差し出されたハンカチから手、そして手から腕へと目線を上げ、
その顔を確認した私は、相手が無言だった理由が分かり、ハンカチを受け取りながら、
小柄なポーカーフェイスの女の子へ改めてお礼の言葉を述べた。
「ありがとう、長門さん」
私のハンカチを拾ってくれたのは、高校の時の同級生、長門有希さんだった。
だけど私はこの期に及んで、まさかこんなところで出会うはずが無いと、
本人を目の前にしても、もしかしたら人違いじゃないかとさえ思ってしまった。
ようやく実感がわいてきたのは、何も言わずに立ち去ろうとする彼女を何とか引きとめ、
半ば強引に連れて行った近くのファミレスで、テーブル席に向かい合わせに座った頃だった。

10 :
>>9
そのファミレスは休日だというのに客の入りがイマイチで、空いた席がわりと沢山あった。
店員の数もそう多くはなく、外に比べて時間が遅く流れているような感覚がした。
私達が座ったのは禁煙席で、入り口から見て一番奥のテーブル。
とりあえず「コーヒーで良い?」と尋ねるとコクリと頷いてくれたので、ホットコーヒーを二つ頼んだ。
コーヒーが運ばれてくるまでの間と、運ばれてきて、湯気を昇らせるマグカップの中に砂糖とミルクを入れる間、
二人ともただただ無言で、何も知らない人からすれば険悪なムードに見えたかもしれない。
でも長門さんは元からこういう感じで、それを知っているからこそ、別に気まずいとは思わなかった。
「長門さん」
とはいえ流石にこのまま黙っているわけにもいかず、この状況を打破する為、彼女に呼びかけてみた。
久しぶりに会ったわけだし、最初は近況などといった当たり障りの無い話題がいいのかも。
「……ゆき」
「へ?」
「私の名前……有希でいい」
長門さん改め有希はやっぱり無表情で、その透き通った瞳に吸い込まれそうになる。
昔は同じSOS団の一員として殆ど毎日顔を合わせていたけど、
多分こうして二人きりになるのは初めてのことだった。
苗字で呼んでいたことからも分かるように、少し距離のあった私達二人が、
今この瞬間に、ぐっと近づくことが出来たような気がする。
私が勝手にそう思い込んでいるだけで、一方的な考えなのかもしれないけれど。
「有希は今何してるの?」
「……何も」
「大学は?」
有希は無言で首を横に振ると、両手で持ったコーヒーカップを傾け、喉を動かした。
私も有希の真似をするかのように、コーヒーを一口飲む。
お互いがカップをテーブルに置いた後、有希は小さな声で語りだした。
「私は生み出されてから今まで、一部メガネの再構成の制限を除いて、
 ステータスの変更は一切行っていない。 時間の経過はあっても、
 私は貴方と今日再会するまでの間、何も変わっていない。
 だから貴方に言うことは何も無い。 それより、貴方について聞かせて欲しい」
「え、私?」
表情をまったく変えることなく、淡々とした口調で述べた後、
驚いてそう尋ねる私を前に、有希の首が今度は縦に振られた。
私のことを聞いたところで面白いことなんて何も無いのに……それでもいいのかな?
そう思った私の心の声が聞こえたのか、有希はもう一度頷いてみせた。
「えっと……私は今大学に行ってて、それで、その……」
こういう風に自分のことを他人に話す機会が極端に少なくなったのが原因なのか、
私は言いたいことを上手く言葉にすることが出来なかった。
また大学のこと以外で、特に話せるような内容が少ないということに気付かされた。
そんな私の面白くも何ともない話を、有希はただ黙って聞いてくれる。
元々おとなしい性格だからなのかもしれないけど、私はそれが嬉しかった。
それなのに、私の近況はというとネガティブの塊でしかなく、
話をする内に気持ちが落ち込んでしまい、声も小さくなってしまった。
「最近は、携帯に誰からの着信も無いから、携帯してないのよ。
 オカシイわよね、何の為の携帯電話なんだか……あはは……はは」

11 :
>>10
文句一つ言わない有希につい甘えてしまって、気が付けば愚痴ばかりが飛び出していた。
自虐的な笑いを通り越して、ただ空しく憐れなだけでしかないのは分かっていたけど、
私に残されているのは自分の不幸を笑うことだけだった。 もう笑わずにはいられなかった。
何もかもを笑い飛ばして、すっかり忘れてしまいたかった。
そんな私の乾ききった惨めな笑い声は、有希によって遮られることになる。
「……え?」
人形のように白い手が私の頭上までやってきて、そのまま頭に乗せられた。
キョトンとした顔で有希を見返していると、同じく人形のように変化の無い表情のまま、有希は私の頭を撫でてくれた。
言葉は無けれど、私のことを慰めてくれているようで、その手はとても暖かかった。
私の心に何か袋のようなものがあって、その中に辛いこととか悲しいこととか、
嫌なことを詰め込んでいたとしたら、有希の温もりを感じたこの瞬間に、それら全てが放たれた。
「有希……うぅ…有希ぃ……」
私は迷子になった子供のように、泣き喚くことしか出来なかった。
ここが公の場であり、いくら客が少ないとはいえ、周りから変な目で見られることに構っている余裕なんて無い。
これまで心の奥に押さえ込んできた感情が一気に放出され、涙が止め処なく流れた。
その間も有希はずっと私の頭を撫でてくれて、何度も何度も『ありがとう』と言おうとしたのに、
防ぎようの無い嗚咽としゃっくりの所為で言葉にならなかった。

一生分だと言えるほど涙を流し、ようやく落ち着きを取り戻すことが出来た頃には、
舌を火傷するくらい熱かったコーヒーはすっかり冷えきって、ここへ来た時よりも空席の数が増えていた。
「ありがとう……もう平気」
私がそう言うまで、有希は何も言わずにずっと頭を撫で続けてくれた。
泣き疲れはしたけど、私の心は雨上がりの空のようにハレ晴レとしている。
こんなにスッキリとした清涼感に満たされたのはしばらくぶりで、もう一生味わえないと思っていた。
ましてやそれを与えてくれたのが有希だなんて、まったく予想していなかった。
「あっそうだ、時間大丈夫?」
壁に掛かった時計を見てみると、分針が一周半くらい回っていた。
私が勝手に連れてきて、勝手に愚痴りだして、勝手に泣きじゃくって……。
有希にしてみればこれほど迷惑な話はない。
「ゴメンね、久しぶりに会えたってのに……」
「気にする必要は無い」
「そっか、ありがとう……さ、もう出よっか?」
「またお越しください」という店員の声と、自動ドアに取り付けられた、
客の出入りを知らせる鈴の音色を聞きながら、有希と共にファミレスを出る。
2、3歩進んだあたりで有希は急に立ち止まり、片手に持った分厚い本を開いた。
そして挟んであった栞を取り出すと、そこにスラスラと何かを書きはじめた。
どこまで読んでいたのか分からなくなってしまうのに……良かったのかな?
「ど、どうしたの?」
一体何を書いているのか気になって覗き込もうとすると、ちょうど書き終えた有希に栞を渡された。
そこに記されてあったのは、有希のものだと思わしきメールアドレスだった。

12 :
>>11
「これ、有希の?」
「……そう」
「わかった、帰ってからメールするわね」
私がそう言うや否や、有希は小さく頷いて、またトテトテと歩き出した。
ただ方向が私とは反対で、家に帰るのかまだ行くところがあるのか、とにかく私とはお別れみたい。
何となく名残惜しかったけど、これ以上私に付き合せるのも悪いし、
この栞のおかげでいつでも連絡できるようになったんだから、今生の別れではない。
今日は色々詰まった一日だったし、私も家に帰ってゆっくり過ごそう。
「今日はありがとう!」
少し小さくなった背中に向かって言葉を掛けるも、特に何のリアクションも無かった。
でもきっと有希の耳には届いているはずだし、気持ちも伝わってくれたはず。
しばらく後姿を見つめていると、ちょうど信号待ちに差し掛かったところで、
有希は一度だけこちらを振り返り、私の姿を確認したのか、すぐにまた背中を向けた。
さっきまであんなに泣いていたものだから、私のことを心配してくれたのかな?
そんな有希の心遣いに、私は今すぐにでも彼女の元に駆け寄って、抱き付きたい衝動に駆られた。
信号が青になって歩き始めたからそうしなかったけど、未だに信号が変わっていなかったなら、実行に移していたかもしれない。
有希はあまり感情を表に出すような性格ではなく、むしろまったく出さないと言ってもいい。
でもその突起の少ない彼女の心を読み取ることが出来るようになれば、彼女の魅力にすぐにでも気付くことが出来る。
とは言っても、他人の心の中を透視するなんてテレパシー染みたことが出来るわけが無い。
だから有希を見て「ロボットのように感情の無い奴だ」と、人は言うかもしれない。
正直高校生の頃は、私も有希に対してそれに近い印象を持っていた。
話しかけても「……そう」なんて一言で終わってしまうし、本から目を離すこともない。
まさに打てど響かぬといった様子で、ただ部室の隅のパイプ椅子に座って本を読んでいる姿を見て、
私だって「あまり他人に興味が無い人なのかな?」なんて勝手に思っていた。
だけど今の私には、その無機質な表情の裏側にある彼女の優しさがよく見える。
他人に興味を持っていなかったなら、私を慰めてくれるわけがない。
でも有希は間違いなく私を慰めるために頭を撫でてくれた。
それが自惚れでは無いと断言できるほど有希の手は暖かかく、感情を持たぬ金属の塊などではなかった。
こうして今日有希に再会することが出来たこと、また有希への誤解を解くことが出来たこと、
それは私にとってすごく喜ばしいことで、本当に……本当に良かったと思う。

少しずつではあるけれど、あれから私の生活が変わっていった。
たとえば一人暮らしをする家に帰ってきた時。
たとえばお風呂から上がって、頭にタオルを巻いた状態で部屋に戻った時。
テレビを消して部屋がシーンと静まり返った時や、そろそろ寝ようとベッドに入った時。
どんな時であろうと、携帯を肌身離さず持つようになった。
それは外出時であっても同じことで、やっと私の携帯も携帯電話らしくなってきた。
でもたまに今までの感覚で、テーブルの上に置いたまま出掛けてしまい、
家に帰り着いて急いで確認するなんてことも多々ある。
そんな時、案外連絡は来ていないもので、いつもの待ち受け画面しか表示されない。
でも、だからといって今までのように落ち込んでしまうことも無くなった。
あまり神経質にならずに、ありのままの自分を受け入れることが出来るようになった。
『またファミレスに』
そのきっかけをくれた一通のEメール。
彼女が私に送ってくれた一番最初のメールは今も保護扱いにしてある。
たった一行で、絵文字や顔文字も一切使用していない簡素な文章だけど、
落ち込んだときや辛いことがあったときに見返したりと、私にとってそれは既にお守りの域にまで達している。
この言葉のおかげで、私と一緒にファミレスに行きたいと言ってくれる人が居るんだって、
こんな私でも必要としてくれる人が居るんだって、そう思えるようになった。

13 :
>>12
彼女のメールにあったように、その後私達は「注文の少ない料理店」で待ち合わせをするようになり、
いつしかそれが二人の間での恒例行事となっていた。
もちろんお店の正式名称は「注文の……」ではなく、いつも休日だというのに客が少なく、
空席が目立つことから私が勝手にそう呼んでいるだけで、実際はただのファミレス。
いつも私が先に待ち合わせ時刻の約五分前に到着して、しばらく待っていると、
電波受信式の腕時計の時間ピッタリになって、有希が私の前に現れる。
「23秒のロス」
「いいわよ、そのくらい」
私達が座るテーブルは、あの日と同じ禁煙席の一番奥。
苦い思い出と素敵な思い出の二つを味わうことが出来る特別な席。
注文するのはもちろんホットコーヒーで、居酒屋でお酒を酌み交わすサラリーマンのように、
二人の話を肴にして、ミルクをたっぷり入れたコーヒーを飲む。
とは言うものの、有希は自分から話をするような子ではなく、
ほとんど私が一方的に話して、有希は専ら聞き役に徹するのがいつものパターンだった。
「かがみ」
「え、なに?」
だけどその日は珍しく有希から話しかけてきた。
多分ここに来るようになって……いや、出会ってから今までのことを考えても、
有希が話しかけてきたことを起点として会話するのは、多分初めてだと思う。
「貴方にとって良い知らせがある」
「良い知らせ? 今朝の運勢はあまり良い内容じゃなかったけど」
「……泉こなた」
「え?」
有希の口から発せられたのは、私にとって特別な存在だった人の名で、とても懐かしい響きだった。
でも疎遠になってから一度も連絡が無かったし、私も何だか怖くて連絡出来なかった。
このままじゃいけないと、思い切ってメールした頃にはもう遅く、
アドレスを変えてしまったのか、Mailer Daemonから返信が来る始末。
「彼女が貴方とのコンタクトを要請している」
「ホ、ホント!?」
あまりの驚きに、思わず身を乗り出し、声が裏返ってしまった。
それほど有希の口からこなたの名前が出てくるとは思っていなかったし、
まさかそのこなたが私と連絡を取りたがっているなんて、
ずっと待ち望んでいたことが現実になるなんて、にわかに信じられなかった。
「……許可を」
「もちろん、良いに決まってるじゃない!」
「伝えておく」
次回ここへ来るときには、こなたが増えていることを願おう。
今度は二人の前で泣くことになるかもしれないけど、その時は頭を撫でてもらおうかしら。
それともこなたは、子供のように泣きじゃくる私を見て笑ってしまうのかな?

14 :
>>13
今でも鮮明に蘇ってくるSOS団の思い出。
部室に入ればメイド服姿の朝比奈さんが微笑みかけてくれて、
古泉君とキョン君が真剣な眼差しで、見たことも無いボードゲームを挟んで座る。
そんな静かすぎる部室で、ハルヒは頬杖を付いて、退屈そうにパソコンの画面を見つめる。
何かネタを仕入れてきた時には、目を輝かせて一人盛り上がるハルヒと、
やれやれと気だるそうに溜息を付きながら肩を落とすキョン君が対照的で、
また、誰から見ても分かるほどキョン君のことを特別視しているのに、
どうしても素直になれなくてヤキモキしているハルヒを見るのが楽しかった。
休みの日になれば、駅前で待ち合わせて不思議探索を行う。
いつもキョン君が一番最後にやってきては、罰として朝食を奢らされ、
食べ終えた後のクジ引きでは、キョン君とペアになれなかったハルヒが、
あからさまに不機嫌そうな顔を浮かべたことに他の誰もが気が付いていたというのに、
キョン君だけは気付いていないようで、財布の中身ばかりを気にしていたっけ。
今思い返せば楽しかったことばかりで、喧嘩したことだってあったはずなのに、
何があったって、最後に残るのはやっぱりみんなの笑顔だった。
月日が経ち、みんな離れ離れになって、もう遠い思い出になってしまったけど、
いつの日にかまた、私と有希が再会できたように、SOS団が揃うと信じている。
その時にはまたみんなで集まって、クジを引いて、不思議探索に出かけよう。
トンネルの先にある光が強くなり、蜃気楼ではない本物のオアシスが見えた気がした。

また……またファミレスに

15 :
お粗末さまでした

やっぱり時間がかかったけど、この時間は誰も居ないからまぁ良いか
では、おやすみなさい ノシ

16 :
乙ッス!

17 :
やっほ
ずいぶん過疎ってるね

18 :
もうみんな禁書やレールガンに行ってしまったのかのぅ……

19 :
SSはもう書くのやめてるからなぁ

20 :
遅くなったけどおつおつ
俺もひとつ投下します
ハルヒ視点でちょい鬱っぽくなってますので注意

21 :
人をどこまで信用できるかって言うのは明確な数字では表せないと思う。
世の中、すべての確立を求めることが可能な時代ではあるけど。
まぁ結局それも曖昧な数字でしかないのね。
あたしはあたしの全てを信じてきたし、あたしの信じる全ては正しいものだと思ってた。
もちろんSOS団もそうね。
自分以外のものを信用できなかったあたしでもSOS団のみんなを信じることはできた。
みんなを信じることは正しい。
古泉君は、みくるちゃんは、有希は、キョンは――――。
あたしが信じるようにあたしを信じてくれている。
あたしにずっと、ずっとついて来てくれる。

そう思ってたのに。

ぜんぶあたしがまちがってた。
あたしが信じていたキョンがあたしを裏切った。
キョンは先週から泉さんと付き合っていたらしい。
何であたしに黙ってたの、と問い詰めたりもしたわ。
あいつ、なんていったと思う?
――なんで俺の恋愛をお前は縛らなくちゃいけないんだ?
笑えるわよね。
恋愛ごとに縛られまいとしていたあたしが恋愛に縛られてたの。
そして、キョンを巻き込んでしまった。
あたしが信じていたことが、あたしが信じていたキョンが。
あたしによって信じられなくなってしまった。
自分を本当に信じようとしなかったあたしがみんなに信じられていると思っていたなんて。
滑稽。滑稽すぎて笑えてきちゃう。
あたしは団長失格ね。

22 :
あら、古泉君。
え?バイトいくの?
…そう。いいのよ。今日は団活無しにしようと思ってたところだったから。
じゃあ、またね。
なんか変だったわ古泉君。
あせってるって言うか…取り乱してる感じ。
いつもは冷静なのに。あんなに青ざめちゃって。
バイト行って大丈夫だったのかしら。
そういえばあたしの気分が沈んでたり、不機嫌だったり、憂鬱なときに限って古泉君はバイトに行ってるきがする。
あたしが恨んでる人に復讐でもしに行ってくれてるのかしら?
…なんてね。
でもそれくらい思い通りになる世界があればいいのになぁ。
そうしたらキョンを好きすぎて…こんな悲しい思いをしなくてもすむのかしら?
ああ、そんな世界が本当にあるなら言ってみたいわ。
泉さんがいなくて、私とキョンが結ばれる世界。
そんな世界が…あればいいのにな。
…あれ?
今ちょっと揺れた気がした。
地震かしら。怖いわね。
そんな独り言を言っても答えてくれる人はいない。
キョンが、あたしの隣にいない。
急に、涙があふれてきた。
やだ、なんでかしら。これ…とまんない…。
キョン…寂しいよぉ。
あたしのそばにいて、あたしの隣にいて。
馬鹿やってるあたしにストッパーかけてよ。
いつもみたいに、笑って…。
苦しいの、キョン。
何で泉さんなの?
何であたしじゃないの?
何が…いけなかったの?
もう…嫌。

23 :






こんな世界滅んじゃえばいいのに






なみだはとまらなかった。

24 :
タイトル「願望」でした。
文とかぐちゃぐちゃですみません。
今度はキョンたち視点で執筆していこうと思ってます。
駄文でも何でもいいからみんなの妄想を形にしよう…!

25 :
良いねー、乙

26 :
ほっしんぐ

27 :
お久

28 :
おきゅう

29 :
乙。続き楽しみに待ってます

30 :
みさお「最近、出番が無いってヴァ」
あやの「もうぶっちゃけ背景は私だけとは言わせないわよ?」
みさお「ぶっちゃけもう一年くらい出番無いよな」
あやの「まぁまぁ、今や存続すら危機な訳だからね」
谷口「俺ですら1年の間に出番はあった」
みくる「わ、私もですぅ!」
みさお「……」
みさお「こうなったら誰か書けよなっ!絶対だかんねっ!」
キョン「自分で書けよ……」
ほし

31 :
お久しぶりです。男女7人秋冬物語を書いている者です。
忙しくて休んでいるうちにスレが落ちるわ、悪金の巻き添えは食うわ、病気で入院する羽目になるわで、
しばらく執筆の方が滞っていましたが、ホントに久しぶりながら、第13章「佐々木の憂鬱 2」を投下させて
いただきます。
それではいきます( ゚∀゚)
第13章 佐々木の憂鬱 その2
明晰夢と呼ばれる類の夢がある。
……そう、「これは夢だ」と夢の中ではっきり自覚できる夢のことだ。
夢の中では、どんな不条理なことが起きていようとも、なぜか深く考えずスルーしてしまうものだし
妙に理性やら自制心が緩くなっていることもあって、現実世界じゃ絶対に言ったりやったりしない
ことを言ったりやらかしてしまうものだ。皆の衆、覚えがあるだろう。
だから本来、今、目の前で起きている出来事についても、そう深く考える必要はないのだろうが、
なにせあまりに「不条理」なことなので、俺の中の理性が、それをはっきり夢だと自覚してしまった
ようだ。
「ふふっ、キョン。どうしたの、さっきからポカーンとしちゃって」
……佐々木は男の前で女言葉なんか使わねえ! しかもなんだ、この甘ったるい口調と声は!
古来から「夢はその人間の願望を具現化する」なんてことが言われるが、つまりなんだ、これは俺の
願望ってことなのか?
まあ……佐々木から異性として見てもらえず、異性として意識されることをやんわり拒絶された
過去を持つ俺としては、それをはっきりと否定できないのが悲しいところだ。
「なあ、佐々木……今日はその、どうしたんだ。いつもの男言葉はどうしたんだよ」
「あれはもう……やめることにするわ。そうしないとキョン、私のこと女の子だって意識して
くれないし、私もう疲れちゃった。意地張るの、止める」
そういって、組んだ腕に力を込めて引き寄せてくる佐々木。胸が……いよいよもってこりゃ完全に
夢の中だな。
まあ、夢ならそんなに構える必要もない。夢の中でまで気を使ってたら早にしちまう。
「そうか……ならいい。そういう佐々木も……可愛いと思うぞ」
「そう……よかった」
嬉しそうな顔で俺を見上げる佐々木。いや、こいつが美人なのは周知の事実だが、夢の中でも
見事に美人だ。いや当たり前か。何を浮かれてんだ俺は。
佐々木と俺はどうやら、街中をデートしている最中らしいのだが、街の風景はなにやら薄い靄が
かかっていて、太陽の光とも違う妙な明るさがある。町並みは辛うじて分かるが、すれ違う人や
車らしきものは、気配はするのだが、その細部まではよく分からない。
ただ、信号やネオンはきっちり光り、ちゃんとその存在を示している……変な風景、ま、夢だからな。
「ここ……でいいかしら、キョン。こういう場所って、あちこち歩いて探し回るようなものじゃ
ないと思うし、そんな時間ももったいないでしょ」
佐々木の声にふと我に帰って気づくと、正面にあったのは……紛れも無くラブホテルだった。
ええと、つまり……そういうことなのか。いやまて、そもそも俺とお前はいつからそんな関係に
なったんだ。俺には……
胸の奥から湧き上がってくる衝動を抑えつつ、俺は必に冷静さを装いつつ言った。
「な、佐々木、今日はそういう気分じゃなくてな……俺としてはおまえとゆっくり話がしたい」
「……女の子に恥をかかせる気?」
……覚えているやり取りはここまでだ。気づいたときには、ベッドからずり落ちそうになっていた。
なんて夢だ、やれやれ。
とまあ、ある夜に見たこの夢が、事の発端だった。

32 :
この日以来、俺は毎晩、靄のかかった妙な夢世界で、佐々木とデートしている夢を見続けている。
夢の中の佐々木は、それはまあ、しぐさも言葉も反則的に可愛く、毎回、デートの最中に必ず、
まあ、そういう雰囲気になるのだが、夢でしかありえないとはっきり分かる状況だけが辛うじて
俺の「理性」をつなぎとめていた。
そんな場合も佐々木は、無理強いに迫ったりすることは無く、ただ悲しそうな顔をしながら、
「私って……そんなに魅力ないかな?」
「……キョンは他に誰か、好きな女の子でもいるの?」
などと、こちらの目を見つめながら呟くのだった。それでも俺はなぜか、夢の中だと分かっていても、
佐々木に手を出す気にはなれなかった。
俺だって思春期真っ盛りの健全な男子高校生であるから、柄にも無く女の子とイチャイチャする夢を
見ることもあるし、それ以上の……まあ……エロい夢を見ることだってある。
だが、毎晩毎晩、同じ相手とデートして、図ったように最後は怪しい雰囲気になる夢など見たことは
ない。これはやはりおかしい。
なにかの非常事態か、あるいはハルヒか誰かの力が関わっているんじゃないのか?
これまでの高校生活で、ハルヒ絡みの珍騒動に散々付き合わされたこともあって、どうしてもそんな
考え方が抜けきらない。
……とはいえ、もしハルヒ絡みなら、古泉の奴が真っ先に気づいて動くなり、俺に注進したりするはず
だ。それがない以上、この夢にハルヒが絡んでいるということはまず無いはずだ。
誰かに相談するにしろ、古泉だとまた、あの忌々しいにやけ顔で、1ダースくらい嫌味を言いそう
だ。
おまけにこんな妙な話をして、佐々木も「ハーレム」に入れる気かと勘違いされ、要らぬ説教を
されるのも癪だ。
ハルヒやこなたたち、女性陣に話すのももっての外だろう。私たちだけじゃ満足できないのかと
ハルヒやかがみあたりに殴られたうえ、ヤリチンだのケダモノだのと罵られるのがオチだ。
後者は完全に否定できないのが悲しいところだが。
……とまあ、かくたる対処策も見つからず、というより見つける必要など感じられず、とりあえず俺は
この件については誰にも相談せず、何もしないことにした。
俺はフロイト先生のような精神分析家ではないが、まあ、俺の夢判断をあえて自己流にやってみれば、
受験も無事終わり、あとは結果待ちと卒業式を控えるだけの身になって、心理的抑圧が消えて、
彼女候補の女友達が出来、濃厚なお付き合いをすることで、中学時代の失恋トラウマも癒えたので、
こんなありもせぬ夢を見られるくらい、心理的に余裕が出来たのだ。
ってところか。ま、当たらずと言えども遠からずってところだろう。
明日は久々に、6人揃ってのお楽しみタイムだ。埒もない思索は程々にしてはやく休むとしよう。

33 :
夢の中のキョンはすごく優しい。
私もいつもみたいな男言葉じゃなく、自然と女言葉が口をついて出てくるし、躊躇することなく
キョンの腕を取ったり、身体をくっ付けたりして甘えることが出来る。
ただ……とてもいい雰囲気になって、その、そういうことになるのかな……という場面になると、
キョンはなぜか逡巡して、私に何もしてこようとしない。
その度に私は、胸の奥に痛みを感じながら、彼の「初心さ」をからかう振りをしながら、自分の
溢れる感情を押しすのだった。
毎晩見る、キョンとの幸せで、悲しい夢。
毎朝目覚めるたびに、かすかな陶酔感と、重く澱む沈痛感で、私の胸はいっぱいに満たされる。
あの予備校での冬期講習の日から、私はずっとキョンと、涼宮さんたちとのことを考えている。
端から見ても、今の私は何かに思い悩んでいるように見えるのだろう。
橘さんにはいろいろと心配をかけてしまった。
彼女はおそらく、私が何で悩んでいるのかを知っている。あえてそのことを問い詰めて来ないのが
彼女の優しさなのだろう。
2月に入って自主登校になってしまうと、私はますます内に篭るようになってしまった。
寝る前にキョンを思い浮かべて自分を慰め、毎晩、キョンの夢を見る。
あれ以来、キョンとはまともに話をしていない。
無事、受験を終えたという連絡はメールで貰ったが、そのキョンは今頃、なにをしているのだろう。
……考えるまでもないか。涼宮さんたちと、SOS団の人たちと、遊んだりデートしたりしているの
だろうね。
涼宮さんに釘を刺され、それでなくとも今更キョンときちんと向き合う勇気もない私は、こんな
夢を見ることでしか、自分を慰めることが出来ない。
今は考える時間が十分あることも、ただ、悲しい。

34 :
「ふっふ〜ん、それじゃ、まずはあんたらのロストバージンの話から聞かせてもらいましょうか?」
受験終了記念の打ち上げ、と称して集まったラブホテルの一室で、ハルヒの奴が第一声を挙げた。
キョン君はというと、お預けを食らった犬みたいに、ポカーンと面食らった顔をしている。
「おおハルにゃん。これはキョンに対する羞恥プレイの一環ですネ」
……いやこなた、これって、話す私らも恥ずかしいでしょうが!
「そうだね、恥ずかしいよね」
「そうですね」
ハルヒが私たち4人の「最後までしない」という約束を蹴散らして暴走してくれたお陰で、私たちも、
キョンと関係を持つ踏ん切りがついた。前提条件を同じにしないと勝負にならないし、原則、個人
攻撃は禁止なんだけど、その……初体験の時だけは、個々人でキョンを誘うことをオッケーにした。
私たちはその約束をしただけなんで、お互いがどんなシチュで、キョン君と初体験を済ませたのかは
知らないけど。
分かっているのは、私ら5人とも、その……キョン君が……はじめての相手、ってことだけで。
「女性経験7人、うち処女が5人。大きいのや中くらいのや小さいのや……はたまた姉妹丼まで!
いやはやキョンさん、大したご乱交ぶりですナ!」
「ホント、女には興味ないみたいな顔して、こんなドスケベ野郎だとは思わなかったわ!」
こなたとハルヒの連続攻撃に苦笑いのキョン君。でも、ドスケベって人の事言えないわよね。
現に私たち、今ここにこうして居る訳だし。ね、みゆき。
「確かに、ちょっと前までの私たちなら考えられませんよね」
「みゆきさんもキョンみたいな悪い男に惚れて、すっかり悪い子になっちゃったネ」
思い返せば去年の夏……か。半年しかたっていないのに、随分昔に感じるわね。
「ねー、お話しするなら、お風呂入りながらにしない」
珍しくつかさからの提案。ま、私もとりあえずは身体洗いたいし、文字通り裸になってあけっぴろげ
に話をするってことでいいんじゃない。
……ま、キョン君はすこし匂う方が興奮するみたいだけどね。つかさもこないだみたく、シャワー
浴びる前に襲われたりしたいんじゃない?
「あう……でも、ちょっと強引なキョン君ってのもいいかも」
「つかさ、こんど無理矢理あんなことされたら、遠慮なくキョンの顔にぶっかけてやりなさい!
キョンみたいな変態にはちょうどいいお仕置よ、あたしが許すわ!」
おいこらハルヒ。ぶっかけるとかいうんじゃないの。
つかさも人の顔にオシッコしたりするんじゃないわよ。
「ちょ……そんなことして、キョンが<禁則事項>に目覚めたりしたらどうするんだヨ、ハルにゃん。
私、用を足しているトコ見せるくらいがギリギリのラインだヨ、それ以上はちょっと……」
「キョン君って……そういうのがお好きなんですね。私、努力します……」
受験が終わってハイになっているのか、序盤から暴走気味の私たち。一方のキョン君は……
「なんだかいつも以上に、激しく責められている気がするのは俺の気のせいか?」
とぼやいている。キョン君、今からそんなんじゃ、身体もたないわよ!

35 :
「こなた……アンタ、学校でしたわけ?」
そうですヨかがみん。学校での制服エッチは学生の特権。卒業してからじゃただのコスプレだしネ。
でも迷ったのが場所なんだよネ。ベッドがあるところって言うと保健室なんだけど、ハルにゃんが
攻略済みだし、私がキョンとした日には保健の先生が中に居たしね。
……野外でってのも考えたんだけど、流石に冬は寒くてムリだったヨ。
「お外でエッチって……その……どうやって……」
物陰で立ったままとか、ベンチに座って上に乗ったりとか、いろいろやり方があるのだヨつかさ。
ま、それはさておき、結局さ、学内の運動部専用の宿泊部屋があるじゃん……そ、別館のね。
そこ見たら1室、鍵かけ忘れてる部屋があったんで、そーっと忍び込んで、二段ベッドの下の段を
使ってしましたヨ。
けど……あそこのベッド硬いんだネ。ちょっと身体痛かったヨ。あと汚さないよう気をつけてたん
だけど……ね……気が付いたら結構汚しちゃって、後始末が大変だったヨ。結局落ちなかったし。
「で……やっぱりこなたも痛かったわけ?」
そりゃ痛かったですヨ。私のサイズがちっちゃいってのもあるけど、キョンの大きいしね。
おかげで一戦交えた後は内股歩きですヨ。いやー、周りに気づかれないかって気が気じゃなかったよ。
「私もー、なんか挟まってる感じがして、普通に歩けないよね」
ホント、女の子って大変だよネ。嬉しかったけど。
「いや、俺もその、擦り剥けてけっこう痛かったりしたのだが」
「へー、男の子ってただ気持ち良いだけなのかと思ってたわ」
そんな感じで私たち4人、キョンとの初体験を暴露しあった。それにしても、つかさが私たちのいない
時にキョン君を家に上げていたとは思わなかった。みゆきがキョン君のご両親と妹ちゃんがいない
時に、キョン君の自宅に乗り込んだというのも意外だった。積極的ね、みゆき。
かく言う私はというと、あれこれ悩んだ挙句、結局はラブホを使うことにした。人目につかないという
ことを考えると、意外と場所って限られてくるし、音とかその……後の始末とか考えると、やっぱり
ラブホ使うのが一番便利だし。
そして……行きの電車の中では、混雑してたのをいい事に、キョン君と痴漢プレイで遊んだ。
知らない男の人に痴漢されるなんて絶対イヤだけど、キョン君なら……
すっごく興奮して面白かったよね。キョン君ったら、固いのお尻にグイグイ押し付けてくるし、
前だけじゃなくて後ろにも指入れてくるし、耳を舐めてくるし……くれぐれも他所で知らない女の子に
やっちゃダメよ。

36 :
最初こそ女性陣のテンションに押され気味だったが、熱気を浴びているうちに俺も調子が出てきて、
まあそうなればそこは男と女、いまさら恥ずかしがる仲でもなし、心ゆくまで5人との戯れを堪能し、
すっかり心も息子も満足した。
ホテルを出て5人と軽くファーストフードで食事をした後、そのままカラオケボックスに繰り出し、
先ほど繰り広げた戦いの疲れもなんのその、思う存分歌ってストレスを発散、帰路につく頃には、
時間は午後の9時を回っていた。
で、このままつつがなく終わってくれればいい1日だったのだが、災難という奴はこういうときにこそ
突然やってくるものだ。
そいつは俺の自宅の、すぐ前に居た。
「お久しぶりですね、キョンさん」
……こんな待ち伏せをするような知り合いといえば古泉くらいのものなのだが、その影が発した
声は紛れも無く女性のもので、しかもそいつとは面識がある程度で、さほど親しくもないとくれば、
ここで思わず身構えてしまったとしても、それを誰が責められよう。
「橘京子です。予備校の冬期講習で、佐々木さんと一緒にお会いしましたよね」
「ええっと……橘さん。ここでずっと待ってたのか」
「はい、折り入ってお話したいことがありまして」
……まさか告白じゃないだろうな、と一瞬思ったのは内緒だ。
「それで……なんの話だ?」
「佐々木さんのことです……というより、貴方が毎晩見ている夢について、と言った方が正確だと
思いますけど」
……その言葉を聞いた瞬間、ああ、俺はまた厄介ごとに巻き込まれるのだな、と本能的に悟って
しまったのが我ながら悲しい。
例の夢のことを知っているとなると、この橘ってのもおそらく、只者じゃあるまい。
未来人なのか超能力者なのか、はたまた宇宙人か異世界人なのか?
何を言うのか分からんが、おそらく事態は俺1人の手には余ることは間違いない。
とにかくこの場は穏便にやり過ごして、対処策を古泉や長門と相談すべきだろう。
動揺を悟られないよう、すばやく頭の中で思索を巡らせる。この辺りは経験もあって我ながら慣れた
ものだ。

37 :
私はこの人の事があまり好きではありません。
本当はこんな形で、彼を頼ることはしたくなかったです。
佐々木さんの情緒不安定の原因になっている人ですし、いかにも朴念仁と見せかけておいて、複数の
女の子と身体の関係を持っている人なんて、どう贔屓目に見ても、好意に値するとは思えません。
ただ、残念なことに佐々木さんは彼のことが好きなようですし、今の佐々木さんを立ち直らせることが
出来るのは彼だけでしょう。私の力ではどうすることも出来ません。
佐々木さんのことを考えたら、私の彼に対する個人的感情など微々たるものです。
「まず最初に言っておきますけど、キョンさん、あなたが毎晩見ている夢は厳密には夢ではないです」
黙ったまま私を見つめている彼。私は言葉を続けます。
「佐々木さんは一種の断絶した空間を作り出して、そこに毎晩、貴方を呼び込んでいるのです。
貴方が呼び込まれていることは分かっているのですが、どうも佐々木さん、第三者に邪魔されるのを
嫌がっているみたいで、貴方と佐々木さんの存在を、その空間内では補足することが出来ません」
この橘って子、まさか古泉と同じ超能力者なのか?
それに閉鎖空間……佐々木はハルヒと同じ力を持っていたのか。
思わず口に出そうな言葉を、俺は必に飲み込んだ。ここで動揺して橘さんに余計な情報を与えて
しまったらまずい。古泉やハルヒのことは伏せておくべきだ。
「キョンさん……私の言った事、信じられないという顔をしていますね」
動揺が顔に出ていたか。誤解して解釈してくれたのには感謝するが。
「まあ、それはいいのです。今晩、私は貴方の夢に出てきますから……そうすれば信じて貰える
と思います。それはさておいて、ですね……」
一旦言葉を区切ると、橘さんは決意したように口を開いた。
「お願いがあります。佐々木さんをきちんと振ってあげてください。
今の佐々木さんは、貴方のことを諦められずに苦しんでいます。
日に日に、佐々木さんの精神状態は悪くなっています。どうかキョンさんの手で佐々木さんの未練を
断ち切って、前に進めるようにしてあげてください」

38 :
「ちょっと待て、お前は何を言っているんだ」
「いきなりこんなことを言われて、混乱するのは分かります。ですけどこれは……」
いや、俺は橘さんの言うことを疑っているわけじゃない。俺の見ている夢の話を知っているという
ことは、まあ、そうなんだろうよ。
俺が言いたいのは、その言い方じゃ、佐々木が俺のことを好きだったみたいじゃないか?
俺は中学時代、佐々木に振られてるんだぞ。
「知っています……中学のときの話も、事の真相も……」
「……その話は本当なのか?」
「本当です。今夜、佐々木さんに聞いてみてください。夢の中でね」
……佐々木も俺のことが好きだった……のか。
ただ、橘さんから「事の真相」とやらを聞かされても、もう俺の心の中にはさしたる感慨はなかった。
今の俺の心の中にはもう、佐々木の姿はない。
俺は俺のことを好きだと言ってくれたハルヒ、こなた、かがみ、つかさ、みゆきの5人としっかり向き
合うと決めたんだ。だから、事ここに至って、佐々木の気持ちが俺にあるということが分かっても、
俺にはその気持ちに応える意思はない。
「安心しました。てっきり私は真実を知って、佐々木さんまで毒牙にかけるつもりなのかと」
……どうやら俺、この子には嫌われているみたいだな。
「この調子なら大丈夫そうですね。今夜、よろしくお願いします」
「送っていこうか」
「結構です。夜道を2人で歩いたら、何されるか分かりませんし」
やれやれ。

39 :
靄のかかった街に佐々木と2人。
毎晩毎晩同じ夢を見続けていれば、自然とそんな妙な状況にも慣れてしまう。耐性もあるしな。
正直、この空間の雰囲気は嫌いじゃない。ハルヒの出す閉鎖空間とは違って、心を落ち着かせる
効果があるみたいだ。この辺りが性格の違いという奴かね。よく出来てるもんだ。
とはいえ、今日はいつもとは勝手が違う。佐々木との逢瀬をぼんやりと楽しんでいる猶予はない。
どうやって話を切り出すべきか。愉快な話でない以上、どう切り出そうが同じことだな。
「キョン。今日はどうしたのかな。初デートの時みたいに固くなってるよ」
例のくつくつという笑い方ではなく、くすくすと女の子らしい笑い方で、佐々木が腕を絡めてこようと
する。その可愛さに一瞬負けそうになりながら、俺はやんわりと佐々木の伸ばした手を押し留めると、
佐々木と向かい合って口を開いた。
「聞いて欲しい話がある」
「佐々木、俺はお前の気持ちには応えられない」
キョン、いったい何を……そう言いかけた佐々木を制して、俺は言葉を続けた。一息で言ってしまわ
ないと、最後まで佐々木が聞いてくれなさそうな気がしたのだ。
「佐々木が俺のことをずっと好きでいてくれたのは、正直、嬉しい。
ただ、好きでいてくれたなら、素直に俺の想いを受け止めて欲しかった。
佐々木、気づいてたんだろ……中学のとき、俺もお前のことが好きだったって事。
俺が好意を見せると、やんわりとシャットアウトされるから、てっきり俺はお前に異性として見られて
いないと思ってた。
でも、佐々木、素直じゃないもんな。俺もそこで怖がらずに、押せば良かったのかもしれない。
けど今更、それを言っても仕方ないよな。あの時、そういう関係になれなかったのは必然なんだ。
情けない話だが、正直、傷ついたよ」
「キョン……僕は……」
「はは、やっといつもの口調に戻ったな。やっぱりそっちの方がお前らしいよ。
佐々木とのことがあってから、俺、すっかり自信なくしちまってな……もう恋愛なんか出来ないし、
したくもないと思ってた。
だから、俺に好意を持ってくれた相手に対しても、あやうく知らない振りをしてやり過ごそうと
するところだった」
「涼宮さんや……泉さんたちのことかな」
「そうだよ。あいつらが強引に俺の殻を破ってくれなかったら、俺はずっとダメージを引きずって
この先も女の子に好意を持ったり、恋愛なんかすることもなかっただろうな」
「……僕のことが憎いかい? 嫌いかい、キョン?」
正直憎いと思ったことはあったよ。我ながら狭量だと思うけどな。
でも、今はもう憎くもないし、佐々木のことを嫌ってもいない。もう、今、中学のときの真意を
知らされても、今の佐々木の気持ちを知らされても、俺の心は何も感じないんだ。
今こそ、何の衒いもなく、佐々木は俺の親友だって胸を張って言えるよ。
佐々木も、これからも俺のことを親友だと思ってくれると、俺も嬉しい。

40 :
君は優しい顔をして、とてもきついことを言うんだね、キョン……
面と向かって罵られるより、嫌いだといわれるより、こういう言葉の方がずっと心に堪えるんだよ。
「……これが俺の今の本当の気持ちさ」
だろうね。君がこんなとき、本心を偽るような人間でないことを、僕はよく知っているよ。
ふふ、まさか今になって、こんな大失恋をする羽目になるとは思わなかったよ。
正直、これほど手ひどく振られたら、すんなり立ち直れる自信はないよ。
「大丈夫さ、俺も立ち直った。たっぷり3年間かかったがな」
そうか……僕のせいで、すまなかったね、キョン。
それじゃ……いたたまれないから、僕はもう帰ることにするよ。
さよなら、キョン。
踵を返した途端、佐々木の姿は眼前からふっと消え失せた。
これで良かった……のかな。
「ありがとうございました。キョンさん」
感慨に浸っているところに、いきなり後ろから声を掛けられて、思わずのけぞってしまった。
「夢の中に出ますよ、ってあらかじめ言っておいたじゃないですか? やっぱり私の言ったこと、
信じていなかったんですね!
……ま、それはそれとして、ちょっとキョンさんのこと見直しました。只のスケコマシじゃ
なかったんですね」
……俺が出来るのはここまでだ。後は佐々木自身の問題だ。お前も佐々木の友達なら力になって
やってくれよ。
「言われなくても力になるのです。男なんか、私がこの身体で忘れさせてやるのです!」
なにやら不穏当な発言が聞こえた気がするが、生憎、そこは俺の領分じゃないんでノーコメントだ。
俺もお暇させて貰うよ。
この話には一応、後日談がある。
翌日、俺は佐々木に電話で駅前の喫茶店に呼び出され、告白され、そしてその告白を断わった。
佐々木がそのときに話した俺への気持ちや、中学卒業から再会までの経緯については、俺が昨夜
佐々木特製の閉鎖空間の中で、橘さんから聞いた話と大筋同じで、やはり昨夜のあれは夢ではなかった
ことを再確認することとなった。
そして俺も、閉鎖空間で佐々木に言ったことを、言葉とニュアンスを変えてもう一度伝えた。
いや、昨日の台詞を繰り返したって良いのだが、言葉や言い回しを変えるくらいの配慮はしないと、
佐々木が自分の力やら何やらに気づいてしまうと思ったからな。まあ、そこまで気を使う義務は
ないのかもしれんが、あの橘さんも人知れず、古泉みたいな苦労をしているのかと思うと、いささか
気の毒になった次第でな。
季節は冬から、春に変わろうとしていた。
そして、俺たちは無事、卒業して大学生になった。

41 :
と、ここまでです。
大逆転で佐々木のハーレム入りがあるかと思いきや、キョン君も流石にそこまで節操のない人では
なかったようです。
まあ、キョンのトラウマの原因ですし、閉鎖空間の中ですら強引に迫ることの出来ない佐々木さんの
弱さが、ハルヒたち5人との運命を分けたようです。
ま、ハーレムに入れられて佐々木が幸せになるかどうかは分かりませんし、しっかり失恋したことで、
佐々木さんも立ち直るでしょう……ということで。
そしてついに次回が最終章「男女7人春物語」となります。
ハーレムの受けの獣王、キョンは果たして誰を選ぶのでしょうか。
……ということで、それではまた。

42 :
おお久し振りww
しかしここも人が居なくなったもんだな…ハルヒはまた再燃してる感はあるがらきすたの方は……

43 :
乙です、
今から読みます。

44 :
乙です。

45 :
暇だ

46 :
こんばんわ。
……さて、男女7人秋冬物語もついに幕引きとなります。
キョン君は果たして、誰を彼女にしたのでしょうか。
そして恋に破れた乙女たちは何を思うか!
エピローグは白バージョン、黒バージョンの2つあります。
それではまず、白バージョンの方からいきます( ゚∀゚)

終章 エピローグ 白 ― 男女7人春物語
4月……
高校を卒業した俺たちは、晴れて大学生となった。
あまり感動というものを顔や態度に出さない低温体質な俺も、折々の節目やら新しい環境での生活には、
まあそれなりに胸躍らせたり、期待するものもあるわけだ。
ましてや、高2までの俺の成績では到底、合格など覚束なかったであろう第一志望の大学に、見事現役で
合格したのである。嬉しくないわけがなかろう。
心厳かな気持ちで入学式に臨み、学科のオリエンテーションなんぞにも参加し、各種サークルの勧誘合戦
にも巻き込まれながら、俺の大学生活はスタートした。
そして今日は、夜から学科主催の新観コンパとやらがあるらしい。
大学のクラスってのは便宜的なもので、始終顔を合わせるわけではないから、友人関係を作るにはこんな
イベントは外せないだろう。乗り損ねて、同じ学科に友人どころか知り合いも居ない、なんて事態は
避けたいからな。
一昔前までは大学に入ったら、未成年であっても酒もタバコも公認なんて風潮が一般的だったようだが、
今のご時世はいろいろと煩いらしく、学内の施設で、お茶会のような感じで顔合わせをするらしい。
……ま、酒では前に痛い目に遭っているしな。今後嗜むとしても、きちんと飲み方ってヤツを覚えて、
節度をもって楽しめるようにしたいものだ。
それよりも何よりも、人間関係を広げるのが先決だろう。俺も友人は欲しいしな。
「へー、○○君(キョンの本名)って陵桜学園なんだー。じゃ結構、私と近いんだね」
『仏頂面でとっつきにくそう』というのが、俺の周囲の人間が、俺に対して持つ第一印象のようで、それは
少しく俺にも自覚がある。
……となると、人から話しかけられるのを待たず、自分から話しかけようと、俺は隣の席に座った女の子に
珍しく自分の方から話しかけたのだが、これが結果として良かったようだ。
平沢唯、という人懐っこそうな笑みを浮かべたその女の子は、偶然にも同じ埼玉県下の桜が丘高校出身で、
出身中学もすぐ隣という、まさに一種のご近所さんだったのだ。
初対面同士、共通の話題ってのがあると、話というのは進みやすい。
「へー、平沢ってギター弾けるのか、意外だな」
「失礼なー! って、やっぱりそういう風には見えないのかな、えへへ」
「でも楽器って面白いよな。俺も高校の文化祭でバンドやるってんで、ベースをちょっとやったことが
あるんだけど……」
「えー、すごい、○○君ベース弾けるんだ!」
「いや、付け焼刃だから、そんなに上手くはないぞ。今はもうまともに弾けるかどうか……」
平沢が高校で軽音楽部に入っていた、という話題から、こんなお喋りを楽しんでいると、
「唯ー、おまえさっそく男漁りかー。私も混ぜろー! とりゃー!」
とけたたましく割り込んできたヤツがいる。
「み……峰岸?」
「りっちゃん、おいーっす!」
「おいーっす。あと、誰だよ峰岸って?」
……知り合いだ。気にしないでくれ。

47 :
「あー、私は田井中律。こいつと同じトコ出身だ」
……あー、お前が田井中か。今、平沢と話してたところだ。軽音部でドラムやってたんだってな。
「ねーねー、りっちゃん。○○君ってベース弾けるんだってー」
「おー、そんじゃ私ら3人いれば演奏できるじゃん」
「澪ちゃんとムギちゃんは別の大学に行っちゃったし、あずにゃんは今年受験だし……」
「少なくとも今年はメンバー揃わないよなぁ。腕鈍りそうだし、新しくメンツ集めてやるのもいいかもな」
「せっかく大学に来たんだから、○○く……じゃなくて男の子とも仲良くなりたいし……」
おいおい、勝手に話を進めるなよ。でも……音楽か。
これを機に、何か新しいことをはじめてみるのも良いかも知れないな。
そんなことを思いつつ、平沢と田井中のやりとりに相槌を入れていると、突然話を止めた田井中が、俺の
顔をじっと見つめている。
「どうした、俺の顔に何か付いてるか?」
「いや……実はさっきから、ちょーっと気になってたんだけどさ……」
そう言って首をかしげる田井中。なぜか一緒に平沢も首をかしげているのが、何か可笑しい。
「私どっかで、アンタと会った事ないか?」
……スマン、それは何のネタの前フリだ?
「りっちゃん……それって思いっきりベタやなー」
「つーか、唯もこいつの顔、どっかで見覚えないか?」
「ベタのベタ子さんー♪」
ああ、そりゃきっとアレだ田井中。たまたま高校が近かったなんてことが分かったモンだから、
ついついそんな気がして、アカの他人の顔を俺のと間違えたんだろうよ。
何せ当方、どこにでもある平凡顔だからな。
それに、お前ら女の子たちがよく行くようなところと、俺みたいな野郎との行動圏が重なるとは思えん。
「でもなあ……お前のその顔、妙に見覚えがある気がすんだよな。なんか変なトコで会ったのかな?」
変なトコってどこだよ。俺はそんな変なところには出入りせんぞ。
苦笑しつつ田井中の相手をしていると、そこにまたやかましいのが一人、割り込んできた。
「おおキョンや。私の見ている前で、他の女の子を口説くとはいい度胸だネ」

「わー、かわいー、ちっちゃーい。きみ何年生?」
「中学生?」
……いやいや、中学生がこんな所にいるはずないだろ。こいつもれっきとした、俺たちと同じ新入生だ。
「中学生とは失礼なー。泉こなたですヨ。こっちのキョンとは同じ高校出身ですヨ」
いやいやこなた、小学生に間違えられなかっただけ良かったと思え。それよりもお前、来てたんだな。
入学早々、アニメ研究会とかいうサークルに入り浸りで、こっちの方にはこないと思ってたが。
「いやいや、キョンは放し飼いにしておくと、すぐ女の子にちょっかい出すからネ。心配で心配で……」
誤解されるような言い方はやめてくれ! あと、初対面の人の前で、俺の妙なあだ名を広めるな。
俺だって、苗字や名前を普通に呼ばれる生活が送りたいんだ。ささやかな望みをぶち壊すな!
「それは叶わぬ夢ですヨ。どうせ伏字なんだし、読みにくいからキョンでいいじゃん、一生」
「ええっと、その……"キョン"ってのは、○○君のこと?」
「あんたらお互い名前呼び捨てかい。随分親しいんだな……って、まさかおまえら?」
……どうやら俺は大学でも、周囲の人間からはキョンと呼ばれる運命らしい。
え、まだそれは分からないだろうって。いや……このパターンだと必ずそうなるのさ。

48 :
「あー、キョンとやら、ちょっと待っててね。おいっ、唯、ちょっとこっちに来い!」
カチューシャの女の子が、キョンと話してた子を引っ張っていく。ふふ、大成功だネ。
「唯ー、おまえ彼女持ちの男に声掛けてどうすんだよ!」
「えー、でも結構カッコいいし、優しそうだしー、それにお友達からなら……」
「私ら大学デビュー組が、彼女持ちの男を落とせるかっての!」
「りっちゃん、いきなり彼氏なんてハードル高いよー、まずはお友達からだよ」
「おまえに言ってんだよ! それに、キョンだっけ、私の見るところ、あいつは間違いなく……
ロ リ コ ン だぞ!」
ちょ……いきなりなんてこと言うのさ! このオデコ!
「あの彼女みりゃ分かるだろ! キョンってのはそういう趣味のヤツなんだ! きっと変態だぞ!」
ちょっと待て、なんか平沢たちの間で、妙な話になってんぞ!
「ロリコンならぬロリキョンですか。これでもう、キョンのトコには女の子は近づいてこなくなるネ」
勘弁してくれ。近づいてこなくなるどころか、今後周りから避けられるじゃねえか。
「まー、お灸を据えるのもほどほどにしますかネ。おーい、キミたち、私はキョンの彼女じゃないヨ。
キョンには別の大学に行っている可愛い彼女が居るしネ」
「え? そうなの?」
「な……なんだよ、だったら最初からそう言えよな。私てっきり……」
「キョン、話ついでに2人に、キョンが売約済みっていう証拠見せたげなヨ。
携帯の待ち受け、みゆきさんの写真でしょ」
「みゆきちゃんって言うんだー。見る見るー、キョン君の彼女」
「私は人の持ちものなんかに興味ねー……けど、いちおー見ておくか」
とまあ、ちょいとばかし紛らわしい展開となったが、皆の衆。
俺は今、高良みゆきと付き合っている。

49 :
涼宮ハルヒ、泉こなた、柊かがみ、柊つかさ、そして高良みゆき。
俺のことを好きだと言ってくれた5人の女の子。
正直、迷った。誰を彼女にするのか。
これまでの俺なら、曖昧なまま逃げを打とうとしただろうが、真剣に俺にぶつかってきたこいつらに
俺も真剣に応えなければならない。それが出来ないなら、恋愛なんかする資格はない。
断わっておくが、みゆき以外の4人は、彼女として考えたらどうしてもダメだった、というわけではない。
ただ俺自身、このことを機に自分を変えたいと思っていたからなのだろう。同じように自分を変えようと
頑張って、俺に真剣に向かい合ってくれたみゆきの事が、どうしても頭から離れなかったのだ。
人一倍引っ込み思案でなかなか自分が出せなくて……だけどしっかりしていて、かと思うと意外と
おっちょこちょいで可愛らしいところがあったり。そして、一番最後まで、俺が名前で呼ぶことが
出来なかった女の子。
これからもお互い、支えあいながら変わって生きたい。みゆきの側に居たいし、側にいて欲しい。
SOS団の卒業旅行、みんなの前でみゆきに告白するとき、こんなことを口走った記憶がある。
この後、告白を聞いたみゆきがいきなり泣き出してしまって、いろいろ大変だったのもいい思い出だ。

「そっか……それがアンタの決めたことで、みゆきがキョンを受け入れるなら、あたしは何も言わないわ。
キョン、みゆきを大事にするのよ。ホント、アンタには過ぎた彼女だわ!
みゆき、こいつがイヤになったら、いつでも捨てていいわよ」
思いのほか真っ当な言葉で祝福してくれたハルヒ。
ありがとうな。お前の配慮が無かったら、今日のこの日はまず無かっただろう。
「おめでとう……くれぐれも、浮気はダメ」
例のごとく簡潔な意見をありがとうよ、長門。肝に銘じておくよ。
「信用できない……ケダモノ……」
俺の人格を否定する言葉が聞こえた気がするのは、気のせいだろうか。気のせいだ。そうに違いない。
「みゆきか……私は薄々、そうじゃないかって思ってたわ。思えばキョン君、みゆきの誕生会のあの
件から、その徴候ありありだったもんね。
悔しいけど仕方ない……かな。2人とも、仲良くするのよ。あとキョン君……みゆきを泣かせるような
真似したらぶっ飛ばすからね!」
言われてみれば、かがみの言う通りの気がする。その気もない相手に下着をプレゼントという芸当は
なかなか出来ないからな。意外とあの行動が、俺の本心を如実に表していたのかもしれん。
「キョン、やっぱり決め手はおっぱいなんだネ」
こなた……頼むから、こういう時くらい素直に祝福してくれ。そう言おうとして、俺は言葉を止めた。
「……そう言わなきゃやり切れない、私の気持ちも察しておくれヨ」
すまん、そんな悲しそうな顔をされたら、俺には何も言えん。
「みゆきさん、キョンの監視は任せておいてヨ。変な虫が付かないよう、私がしっかり見ててあげるから。
キョン……どうしても浮気がしたいなら、私としようネ」
「こ・な・た!」
かがみの一喝に、おお怖、と首をすくめておどけるこなた。やっぱりお前はそうしてる方がお前らしいよ。
「キョン君……本当に、私でいいんですか?」
ようやく落ち着きを取り戻して、それでも涙目のみゆきが俺を見上げる。
みゆきでいいんじゃない。
俺は、みゆきがいいんだ。
「はい……私も、キョン君がいい……です。キョン君じゃなきゃ……ダメです」
その後のやり取り? 
覚えてない。覚えてないといったら覚えてない!

50 :
「……」
「……」
キョンの携帯の待ち受け画面を覗いたまま固まっている2人。
いんやー、キミたちが今、何を考えてるのか私にはよく分かりますヨ、ふふふ。
「な、そろそろ携帯返してもらっていいか。人の彼女の写真なんか、見てて面白くもないだろ」
2人がプルプル震え出しているのもなんのその、暢気なキョン。さあ、そろそろ来るかなー
「こ……」
「こ……なんだ、田井中?」
「こいつはやっぱり私らの敵だー! このおっぱい星人めー!」
「……やっぱり大きい方が好きなんだね。ちょっと見損なっちゃったよキョン君!」
いきなり大声を上げた2人に反応して、周囲の目が一気にこちらに集まる。
「おまえら、いきなり何を言ってやがんだ!」
面食らったキョンの叫び声に、周囲から思わず笑いの声が起きる。
良かったネキョン、入学早々、学科の人気者ですナ。
さっそく周囲の学生からなにやら話しかけられてるキョンを尻目にニヤニヤしてると、田井中さんに
声を掛けられた。
「えーと、その、泉、だったっけ」
そだよ。さっき名乗ったじゃん。
「泉も私らの同志だ!」
「おー!」
……こっちもさっそく友達ゲット。楽しい大学生活になりそうだネ。

「古泉君、有希、これからもよろしくね」
「よろしく」
……こちらこそよろしくお願いします、涼宮さん、長門さん。
「今年の陵桜からは東大合格者が5人! うち2人は浪人で、現役合格者3人はSOS団が独占!
なかなかの快挙ね! SOS団を敵視してたアホ教師たちも、これで少しは認識を改めたでしょ!」
そうですね。それに我々だけじゃなく、団員はみんな第一志望の大学に合格しましたし、これはなかなかの
ものではないでしょうか。
「ま、団長のあたしと副団長の古泉君、エースの有希がすすんで範を示したから、団員にも自覚が
出来たのね。ま、一部団員に問題行動のあったヤツがいたけど……きちんと結果出したんだからまあ、
不問にしましょう!」
先頭を歩きながら胸を張る涼宮さん。失恋の痛みもまだ癒えていないでしょうに……本当に気丈と言うか、
意地っ張り、ですね。
「古泉一樹……」
涼宮さんを見やっていた僕に、長門さんが突然声をかけてきました。
「これからがチャンス……頑張って……」
チャンス……ですか?
「貴方は今まで、自分の気持ちを押しして、涼宮ハルヒと彼の中を取り持とうと努力してきた。
それにもかかわらず彼は、涼宮ハルヒではなく、高良みゆきを選んだ。
事が決した以上、貴方はもう彼を気にする必要も、縛られる必要もないはず。
貴方は涼宮ハルヒの一番の理解者。貴方は自分の想いを、もう形にしても良いはず」
ありがとうございます。長門さん。
でも僕は、今の状態の涼宮さんに対して、事を起こす気はありません。
僕にも男としてのプライドがあります。失恋した心の痛みに付け込むようなことはしたくないのです。
涼宮さんが望む限り、僕は彼女の側に居続けます。
居続けた所で、必ずしも想いが通じるかどうかは分かりません。
ただ、いつかきっと、彼女の心を捉えてみせます。
彼に……逃した魚は大きかった、ということを、いずれ思い知らせてあげたい気もしますしね。

51 :
大学に入ってちょっと心配だったのが、果たして友達が出来るか、ということだったりする。
でも、案ずるより生むがなんとやら。知り合うきっかけなんて些細なものでオッケーだ。
学部のガイダンスで、隣に座った子が筆記用具を持ち合わせていなかったので、貸してあげたのを
きっかけに私は、彼女 ― 秋山澪さんを学食に誘って、一緒にランチをとりながらおしゃべりをした。
聞けば彼女も、ここの大学に知り合いが居なくて、馴染めるかどうか不安だったみたい。
「へえ、秋山さんって、高校時代は軽音楽部でベースやってたんだ」
「うん。最初は文芸部に入るつもりだったんだけど、律……友達に無理矢理、廃部寸前の軽音部に
入れられちゃって」
あはは、それは災難だったわね。でも私も、部活入った経緯、似たような感じだったわよ。
友達の伝手で、半強制的に引っ張られちゃってね。
「ええと、柊さんは高校時代、何部だったの?」
……さて、何と答えるべきか。SOS団という集団を、第三者に分かるように説明するのはなかなか難しい。
とりあえず、宇宙人がどうたらたの、異世界人がなんやらという話は省いて説明したけど、なんか……
ただのお遊びサークルみたいな印象を持たれたかな?
「なんか高校の部活というより、大学のサークルに近いですよね。ふふ、楽しそう。
絶海の孤島に行ったり、雪山に行ったり、文化祭で映画を作ったり、文芸誌を出したり……」
良かった、なんとか変な先入観を持たれなくて済んだみたい。
「でも、男の子が2人で、女の子が7人って凄いですね……その……やっぱりそういう所だと……」
ん? 何か聞きたいことがあるなら、遠慮なく聞いて。
「その、れ、恋愛とか……カップルとか出来たりして、人間関係、大変じゃないですか?」
大変……だったかもしれないわね。楽しかったけど。
私の好きだった人は、結局……私の友達とくっついちゃったしね。
……このことを懐かしんで話せるようになるのには、まだちょっと、時間がかかるみたい。
「ごめん……余計なこと、聞いたね。私……女子高出身で、男の人も苦手で……そういうのって
なかったから……」
気にしない気にしない。もう、過ぎたことだしね。
大学生活はこれからじゃない。頑張って、私らもいい相手、見つけようね!

52 :
「朝比奈せんぱーい」
……うふふ、お久しぶりです、つかさちゃん。
「陵桜から今年、ここ受けたのって私だけみたいで不安だったんですけど、朝比奈先輩がいてくれて
助かりました。あと、えっと……いろいろと大学のこと、教えてもらったり、相談に乗ってもらって
ありがとうございました」
どういたしまして。つかさちゃんは食品科だっけ。私、児童科だから、食品科の専門科目のことなんかは
あまり相談には乗れないけど、教養科目や共通科目のことなら分かるから、遠慮なく聞いてね。
「はい、あの……さっそくなんですけど……」
鞄からシラバスや履修登録票を、あたふたしながら取り出そうとするつかさちゃん。やっぱりこの子、
端から見ていると放っておけませんよね。
なんだかんだ言って世話好きな彼とは、相性は良かったと思うんだけどなあ。
まあ……もしかすると、妹ちゃんと重なってしまって、その気になれなかったのかもしれませんけど。
「つかさちゃん……もう、大丈夫?」
余計なこととは知りつつも、どうしてもやっぱり気になるのがキョン君との件。
ダメだと思いつつ、つかさちゃんを見ていると、思わず口に出てしまいました。
「大丈夫です」
思いの他、気丈につかさちゃんは答えました。
「卒業旅行から帰った後、ちょっと落ち込んで夜、泣いちゃったりしましたけど……でも……」
「でも?」
「キョン君の告白を聞いたゆきちゃんが……とても嬉しそうな顔をして笑ってたから……これで
良かったんだって……そう考えたら、悲しいのがどっかに飛んでいっちゃいました」
つかさちゃんは本当にいい子ですよね。
キョン君、こんないい子を袖にして、後で後悔してもお姉さんは知りませんよ。

長門さんの話によれば、涼宮さんの様子も至って平穏みたいです。
いろいろありましたけど、結局、これで良かったと思います。
今だから言ってしまいますが、涼宮さんとキョン君が結ばれることは、規定事項ではありません。
涼宮さんは、私たちのいる未来と、現在のこことを繋ぐ、とある技術の発明者として歴史上にその名を
残すことになる人ですが、その技術の発見、確立と、涼宮さんがキョン君と一緒になることには何の
因果関係もありません。
ただ、キョン君とのことが後を引く形で、涼宮さんの人生に深く関わると、未来の先行きが怪しくなる
危険性があります。私の任務は、そのような事態を予見し、古泉君や長門さんたちと協力して、可能な
限り、その回避を図ることでした。
涼宮さんとキョン君を、結びつけるのが目的ではありませんでした。
私たちの目的は、これでおそらく果たせたと思います。
そして涼宮さんの力は、おそらく近いうちに消失します。
そうすれば私たちも、お役御免となるでしょう。
キョン君と一緒にならなかった涼宮さんは、この後、どんな人生を歩むのでしょうか。
結婚にも家庭にも目をくれず、研究者としての人生を全うすることになるのでしょうか。
ふふ、詳しいことは<禁則事項>です。
ただ一言……古泉君。
長門さんの言うように頑張ってみる価値は、あるかもしれませんよ、分かりませんけど。

53 :
人生は何が起こるかわからないね、本当に。
でもまあ、こうなってしまったものは仕方がない。前向きに受け入れることにしなくてはね。
心乱されまいと懸命に勉学に励んだつもりだったけど、私の心は、私が思っている以上に弱かったらしい。
東大を第一志望としていた私は、センター試験で思ったほど点が取れず、当初の目標を大幅に修正せざる
を得なかった。
「あのスケコマシの彼のせいなのですね! 私が呪いしてやるです!」
橘さんはひどく気立っていたけど、これは私の精神力の至らなさが問題であって、そんなことをして
貰うには及ばないよ。
ただ、志望校を変更するにしても、今からでは二次試験の対策が十分に取れない。
しばらく考えた末、私は二次試験に小論文を課している西日本の某国立大学を受験し、どうにかそこに
合格した。
当初の目的からはかなり下がってしまったけど、ここも国立大学では名門に数えられる1つだ。
それに、今の私は、首都圏の大学に通う気にはなれなかったし、過干渉な両親の下からも離れたかった。
両親の説得は大変だったが、いつもらしからぬ娘の強情さに手を焼き、結局は首を縦に振ってくれた。
……知己も無く、何のしがらみもないところで、私は大学生活を送ることに決めたのだ。
そのはずだったのだけど、ね。
「佐々木さん、私は来年、佐々木さんと同じ大学を受験します! 待っていてくださいね!」
どうしてなかなか、縁やしがらみというのは、なかなか切れないものなのだね。
キョン、キミの決め台詞を貸してもらうよ。
やれやれ、だ。

54 :
「待ったか、みゆき」
「いえ、私も着いたのは、10分くらい前ですから、気にしないで下さい」
みゆきと俺の通っている大学は近く、最寄り駅は僅か一駅違いだ。時間を合わせれば、割と簡単に
会うことが出来る。
平日昼間のデートなんて、まさに大学生の特権だ。
ただ、みゆきは医学部だ。1年のうちは教養科目が多いからいいものの、学年がすすめばびっしりと
専門科目や実習科目が入って、こうした平日のデートも難しくなるだろう。
だからこうして、時間があるうちにきっちりと楽しんでおくのさ。
「あのですね、キョン君……」
どうした、みゆき。
「実は来週の週末、父が久々に海外出張から戻ってくるんです。それでですね……その、父が是非一度、
キョン君に会ってご挨拶がしたい、ということなので、来週の土曜か日曜、家の方に来ていただけない
でしょうか?」
それはつまり、いわゆる一つの、彼女のお父さんにご対面……というやつか。
「ウチのみゆきに手を出したのは貴様か!」
なんて言われて、一発殴られたりしてな。
「大丈夫です。父はそんな事したりしません。母がとてもキョン君を褒めるので、キョン君に悪い
印象はもっていないと思います」
……期待して会ってみたらこの程度の男で、落胆させるなんて事にならなきゃいいがな。
ま、彼女を持てば誰しも一度は通る道か。みゆきの言葉を信じて、ご拝謁を賜ることに致しましょうか。
それはそうと、さ、この後どこに行こうか、みゆき。
さて。
キョンとみゆきがデートを楽しんでいるとき、東京田園調布の高良家では、一家の女主であるゆかりが、
一家の主である夫と、国際電話でこのようなことを話していた。
「うふふ、みゆきがそうと決めた以上、なるべく早く手を打っておく必要があるでしょう。
先方はご長男なわけですし、早めに話を通しておく方が良いに決まってます。
しっかり彼から言質を取ってくださいね、あなたが……みゆきの幸せのためです。
よろしくお願いしますね」
キョンとみゆきの未来は如何に。

55 :
4月から2期開始の某作品のあの人たちが、2度目のゲストで出ているのはまあ、ご愛嬌ということで。
とまあ、キョンは結局、みゆきさんとくっ付いたようです。
やっぱりおっぱいは正義なんですね( ゚∀゚)
……どうもみゆきさんは、本スレのSSでは冷遇されるきらいがあるので(私もネタにしたことがあります)
名誉挽回という意味も込めて……それに、不利な位置からよく頑張りましたしね。
最後、ちょっと不穏なことになっていますが、お2人とも末永くお幸せに。
そして続いて、黒バージョンの方行きます。
やはりこの展開だと、期待されるのは、いわゆる1つのハーレムエンドという奴でしょう(*´Д`)
キョン君の優柔不断な性格を考えると、こういう流れになるのはある意味自然で、実はこっちの方を
正エンドにしてもいいくらいです( ゚∀゚)
結局結論を引き延ばし、5人との爛れた関係を続けるキョン君。そんな彼らの日常と、彼らを取り巻く
人たちの思いは如何に!
それでは逝きます!

56 :
終章 エピローグ 黒 ― だめなひとたち

引越し当初は1人で住むには広すぎると感じた14畳のワンルームも、こうして見ると非常に使い勝手の
良い代物であると分かる。
そう……こうやって布団を繋げれば、悠々と5人並んで寝られるわけだからな。
……それにしても昨日はちと、ハメを外しすぎたな。身体が重い、そしてダルい……
台所から漂う匂いにつられ、朦朧としながら身体を起こすと、その気配に気づいたのか、隣で寝ていた
ハルヒが目を覚ましたようだ。
「んー、キョン……今何時?」
「10時半だな……なんだかんだで、6時間くらいは寝てたのか」
「そうね。そろそろみんな起こした方が良くない? つかさなんて起こさないといつまでも寝てるわよ」
そうだな……ってつかさ、お前下着のまま寝るなよ。風邪引くぞ。
「あと5分ー、お願いー」
「もうすぐ朝ごはんができますよ」
「朝ってより朝昼兼用ね。ごめんみゆき。1人で任せちゃって」
「かがみ、アンタ相変わらず寝癖凄すぎ」
「髪質なのかしらね……あんたも横、寝癖ってるわよ。シャワー借りるね。キョンも一緒に入る?」
5人で過ごした週末の朝は、いつもこんなもんだ。
どことなく緩んだこの雰囲気が、俺は好きだ。
……決して褒められたもんじゃないことは分かっているがな。
わざわざ説明するまでもなくこの状況を見てお分かりのように、結局俺は……この5人から1人を選ぶ
ことが出来なかった。
恋人同士にならないうちから、あまりに濃厚な時間を共有しすぎたせいで、誰か1人を選んで、その他
全員とは関係を切る、ということが考えられなくなってしまったのだ。
決断期限は「SOS団の卒業旅行の時まで」と決められてはいたが、いくら考えても、俺は自分を納得させる
答えを導き出すことはできなかった。
結局俺の出した結論は……
「考えに考えたが、現時点では誰と付き合うかは決められない。出来ればもっと時間が欲しい」
というものだった。

57 :
どうなるかはハルヒやこなたたち5人次第……情けないことに、結論を女性陣に委ねたのだ。
この答えを考えた時点で、俺は5人全員から愛想を尽かされ、絶交されるだろうと覚悟していた。
事実、卒業旅行最終日に皆の前で結論を迫られ、こう答えた時、朝比奈さんと鶴屋さんに責められたしな。
「キョン君は卑怯です。なんできちんと答えてあげないんですか。それでも男ですかっ!
ここで涼宮さんたちに問題を丸投げしてどうするんですかっ!」
「いやいやキョン君、優柔不断もここまで来ると立派な病気っさ! こんなのは優しさでも何でも
ないにょろよ」
長門は何も言わなかったが、目を見れば、俺を非難しているのは分かる。
そして古泉はというと、相変わらず表向きの表情からは真意が見えないが、さぞかし呆れていること
だろう。
が、この場でそんな、にこやかなスマイルを浮かべているというのも不自然だぞ。何か言ってくれ。
「朝比奈さんと鶴屋さんの仰ることも、よく分かります。
ですが、これは彼と涼宮さん、泉さん、かがみさん、つかささん、高良さんたち6人の問題です。
彼の意向が明らかになった今、最終的には彼女たちの判断に委ねるべき問題かと」
……彼の性格を考えれば、この答えは十分想定できるものではありますが、流石に積極的に擁護は
出来かねます。この程度が精一杯です。
ただ、彼の「何か言え」という視線を感じましたので、とりあえず一言、言ってはおきます。
正直、僕に振られても困るんですよ。特にこんな話題はね。
やはり当事者の意見が一番尊重されるべきでしょう。特に涼宮さんの……ね。
「選ぶだけなら、やろうと思えば今のキョンにだって出来るでしょ。どんな理由でもよければ、だけど。
ただ、今のキョンがどんな理由で誰を選んだところで、選ばれた子も、選ばれなかった子も、とても納得は
出来ないし、当のキョン自身も結局は、後悔する結果になるのは目に見えてるわ!
いいわよ、私は……キョンの言うように時間をあげてもね」
……意外でした。
僕は流石に今のキョン氏の言葉で涼宮さんは彼に愛想を尽かして、すっぱり訣別するかと思ったの
ですけどね。
「ん〜、私もハルにゃんに同意、かな。出来ればこの場でスパッと決めてもらいたいって気はあるけどね」
「私もキョン君に拙速な決断は求めません。選ばれるにしろ、選ばれないにせよ、きちんと納得したい
ですから」
泉さんと高良さんも、涼宮さんに同意ですか。
「……正直、今までの付き合いで、私ら5人の間に有意な差が出来たとは思えないわね。
ここで無理に決められると、私ら5人の間にも遺恨が残りそうだし、私もハルヒの意見に賛成」
「キョン君がそう言うなら、私はいいよ。選んでもらえるように頑張る」
柊姉妹もそれぞれ、涼宮さんの意見に追随します。
これはまた予想外の展開ですね。

58 :
「ただね、キョン。これだけは言っておくわ。
アンタが今日、この場で答えを出さなかった以上、結論には私たち自身の判断も入ることになるからね。
もし今日、アンタが私たち6人のうちから誰か1人を選んだら、選ばれなかった5人は有無を言わず身を引く
つもりだった。
それを引き伸ばそうって言うんなら、私たちの方からも、アンタを改めて選ぶかどうか考えさせて
貰うから!
……せいぜい、意中の子に愛想尽かされないうちに、結論を出しなさい!」
涼宮さんの一言で、こうして何ともすっきりしない展開のまま、SOS団卒業旅行は幕を閉じたのでした。
まあ、彼のこの結論を聞いたのが、旅行の終わりであったというのが、せめてもの慰めでしょう。
最初にこれをやられたら、せっかくの卒業旅行が気まずいものになったであろうことは、間違い
ありません。
現に帰りの列車内では、朝比奈さんも鶴屋さんも、そしてあの長門さんでさえも、明らかに分かるほど
憮然としていました。
キョン氏は今回の一件で、完全に彼女たちの株を下げてしまいましたね。

59 :
「5人揃ったのって久々よね。午後からみんなで、どっかに遊びに行かない?」
そうね。言われてみれば、5人揃ってお泊りってのは、ほぼ2ヶ月ぶりかしらね。
あたしはちょくちょくここに顔出したり、泊まったりしてるけど、みゆきは流石に医学部だけあって
忙しいみたいだし、つかさやかがみ、こなたは実家住まいで、そうそう外泊も出来ない。
「ハルヒ、あんたの家って、ホント放任主義なのね。こんな頻繁に外泊して、ご両親は何も言わないの?」
……うち、両親共働きで、海外に出ることも多い仕事なんで、年に半分は家空けてるからね。
連絡は携帯にしかこないし、かかって来た時ちゃんと出れば、それで元気だって安心するみたい。
「うちはおとーさんが結構うるさいからなー。いい加減子離れして欲しいヨ」
「まあ……あんたんとこは、男親1人で1人娘なんだから仕方ないわよ」
「私はお姉ちゃんと一緒だって言えば、お父さんもお母さんも安心するみたい」
「ま、その点便利ではあるわね。まさか2人で、同じ男の部屋に泊まっているとは思わないだろうし。
みゆきんちは大丈夫?」
「うちは特に何も言われませんね」
「心配してないんだろうな。ゆかりさん、なんだかんだでみゆきのこと、信頼してそうだし」
「……その親御さんの信頼を裏切って、娘を毒牙にかけている男が何を言うかネー、キョン」
こなたの一言にみんな思わず爆笑。当のキョンも釣られて苦笑している。
ま、その辺りはお互い、アリバイ作りで協力し合って、なるべく時間を作りましょう!
1日は短いの。有効に使いましょう。夜は夜で、ちょっと趣向を変えて楽しみましょう!
こうして、あたしたち6人の週末は過ぎていく。

「すみません、お待たせしてしまって……すみません、ホットを1つお願いします」
「大丈夫。私たちが約束の時間前にきただけ。気にすることはない」
「ごめんなさい、古泉君。私、実習が入ってて、週末は今日しかきちんと時間、取れそうも無くて」
月に1回の情報交換は、高校を卒業した後も、こうして続いています。
とくに朝比奈さんは、僕や長門さん、涼宮さんとは別の大学に進学されているため、涼宮さんと直接
接触する機会が激減しています。
さらにプライベートでは……なにせ涼宮さんが彼とあんな状態ですから、なおのことです。
今のところ、涼宮さんについて、僕らが憂慮すべきような事態は認められません。
ただ、これから先、その「憂慮する事態」が引き起こされる可能性は、実は結構高いのではないかと踏んで
います。
……彼がきちんと、お6方から1人を選んで、涼宮さんをきっちり振ってくれさえすれば、涼宮さんも
きっぱり彼のことを諦め、自分の足で歩き出すことが出来たでしょう。
そうすれば、僕たち3人も晴れてお役御免となった可能性は高いです。
それを考えると、彼に恨み節の1つ2つ唸りたくもなるのですが、なぜかそんな気にはなれません。
「……なんか、今が今の状況だけに、キョン君とも涼宮さんとも、連絡とか取り辛くて」
そういって俯く朝比奈さん。
「朝比奈みくる。貴女の気持ちは分かる。けど……任務に私情を交えては、ダメ」
労わるように長門さんが、朝比奈さんに声をかけます。
「まあ、今のところは彼も涼宮さんも、至極楽しく過ごしておられるようですし、朝比奈さんがそんなに
萎縮して、済まなそうにする必要もないとは思いますが……
キョン氏はともかくとして、涼宮さんとは一度、連絡を取ってみてはいかがです?
涼宮さん、たまに貴女の話をしますよ。『みくるちゃんは元気でやってるかしら』とね」

60 :
僕のこんな言葉など、さして慰めにもならないでしょうが、彼女みたいな人に悲しげな仕草をされると、
男としては何か、言わねばならぬという気持ちにもなるものです。
「今のような関係が、果たしてどこまで継続しうるものなのか、私には分かりかねる。
古泉一樹、貴方の意見を聞きたい」
そう言って、メロンソーダに口をつける長門さん。それに答えて僕も口を開きかけたとき、注文していた
ホットが届きました。
シュガーとミルクを入れて混ぜつつ、僕は改めて口を開きます。
「いつまで、と確たることは言えませんが、今のような関係が、未来永劫続くことなどないと思います。
どんな形であれ必ず、いずれは崩壊するでしょう」
「私は涼宮さんや泉さんたちも、いずれキョン君に愛想を尽かすんじゃないかな、と思います」
……そうですね、朝比奈さんのそのご意見、将来展望としては一番可能性が高いでしょう。
ありていに言えば、僕はそうなってくれるのが、一番良いと思います。
「そうすれば、流石に彼も反省して、目を覚ますから?」
それもありますが、そういう終わり方が一番、後腐れがない気がするからです。
彼の性格からして、自分から心が離れてしまった相手を、無理に追いかけて振り向かせようとは
しないでしょうしね。
僕が一番心配しているのは、「彼に他に好きな女性が出来て、5人との関係を解消しようとする」
というケースなのです。
「その可能性は?」
……ないとはいえません。事実、彼は大学でも結構、女性にモテるみたいですしね。
幸い、友人以上の関係の女性はいないようですが、今がそうでもこれから先、そのような関係になる
女性が出てこないとも限りません。
もし彼が、5人との関係を清算して、そのような方とお付き合いをするということになれば……
「涼宮ハルヒの力が暴走する危険が、一気に増すことになる」
そうです。それに、泉さんたちも黙っているわけはありません。泥沼になります。
そして実はもう1つ……心配といえば心配なことがありまして……
「それは何ですか? 古泉君」
それはですね……佐々木さんです。
えっと……佐々木さんって、確かキョン君に告白して、振られたって聞いたんですけど……
まさかキョン君、佐々木さんとよりを戻したんですかっ! うう浮気しているんですかっ!
「まあ、落ち着いてください朝比奈さん。彼は佐々木さんとはれっきとした友人同士です。当然、
身体の関係などはありません。ただ……結構学外で、頻繁に2人であったりしているようですが」
告白して振られた相手とすんなり友人関係に戻って、普通にお友達づきあい出来るものなのでしょうか?
「彼の方はもう、気にはしていないのでしょう。問題は佐々木さんですね。
これは僕の勘ですが、彼女はまだ、キョン氏のことを諦めていないのではないか、という気がします」
「具体的に彼女は、何をする気なのか?」
そうですよね。キョン君に取り入って、涼宮さんたちとの仲を割こうとか考えてませんよね。
「彼女は基本的に受け、待ちのタイプです。自分から積極的に物事を変えたり、関わっていこうとは
しないでしょう。
彼女はおそらく、待っているのですよ。時間と共に、彼と涼宮さんたちとの仲にヒビが入るのを、ね。
そして泥沼劇の末、ボロボロに疲れ果てた彼の一番近くに寄り添い続けて、結果的に彼を自分の所に
引き寄せよう……というのが狙いではないかと思います。
まあ、下種の勘繰りの類かもしれませんが、注意するに超したことはないでしょう」
……こういうお話を聞くと、私、キョン君って人がますます分からなくなります。
キョン君って基本、優しくて面倒見が良くて、とてもいい人なんだけれど、人として、男性として、
大切な何かが徹底して欠けていますよね。
だいたい、キョン君は極端すぎます。女の子の好意に全然気づかないニブチンさんかと思ってたら、
一転して自分のことを好きって言ってくれた女の子全員とエッ……とっ、とにかくキョン君は変ですっ!
長門さんも古泉君もそう思いますよね。
「同感」
「……」

61 :
 まあ、彼の行状は男としては褒められたものではないですが、僕はそれでも彼を嫌ったり憎んだり
する気にはなれないんですよ。
彼は口ではああだこうだと言いつつも、僕が涼宮さん絡みで困ったときには、必ず正しい解答を導き
出して、僕のことを助けてくれましたし、こんな僕を色眼鏡で見ず、友人として遇してくれた高校時代
唯一の"親友"ですしね。
「古泉君もやっぱり男の子なんですね。キョン君に甘いなぁ……
キョン君の今住んでるワンルーム、あれ、古泉君が口利きで提供してあげたんですよね。
きっと、今では女の子たちの溜まり場になってますよ。だいたい大学生の1人暮らしに、14畳のワンルーム
なんか必要ないじゃないですか! 
それも都内23区内ですよね。いったいお家賃いくらするんですかっ! 学生には不相応ですっ!」
いやはや、思わぬところでとばっちりを受けてしまいました。このツケは彼の方に回しておきましょうか。
あそこは機関関係の物件の1つです。僕のみならず、機関も彼には恩がありますし、その恩に対するホンの
お礼のつもりで提供したのです。家賃は同条件の物件相場の3分の1ということで……タダでも良かったの
ですが、それでは返って彼に気を使わせてしまいますしね。
彼もお父上の転勤が急で、当然一人暮らしの準備もしておらず、3月下旬では手ごろな物件も探すのが
難しいようで、とても困っていましたので、お手伝いして差し上げたまでです。
「私なんて……こっちに来てからずっと6畳ワンルームで、お洋服収納する場所にも困っているのに……」
「貴女は何に怒っているの? 彼? 自分の住まいの狭さ?」
こんなお2人のやり取りを微笑ましく見つめながら、ホットに口をつけます。とりあえず矛先が僕から
外れてくれたのがありがたいです。
「古泉君は正直、キョン君に愛想尽かしたくなることってないんですか?」
長門さんとのよく分からないやりとりを終えた朝比奈さんが、僕に向かって口を開きました。
どうしても朝比奈さんは、僕の口から、彼に対する非難の言葉を聞かないと気が済まないようですね。
僕も人間ですから、彼の態度や言動に、これまで腹が立つことは当然ありました。喧嘩もしました。
でも、愛想尽かして見放そうと思ったことは、一度もありません。
たとえばこの先、彼が別の女性を好きになって、涼宮さんたち5人からぬほど責められて助けを求めて
来たら、僕はきっと彼を叱るでしょうが、それでも自分の出来る限り、彼を庇うと思います。
……僕は何だかんだ言って、結局、彼のことが好きなのです。
「こ……古泉君?」
「……!!」
え……えっとですね、お二方。
出来れば今の言葉に対して、その反応はやめて貰えないでしょうか。
大変不本意ではあるのですが、そのようなタイミングで絶句されますと、貴女方が今ここで何を想像
したのか、知りたくなくても分かってしまいます。
「失礼。情報の受信に齟齬が発生した」
「そ……そうですよね。そんなはず……ありませんよね」
なんとも微妙な雰囲気を醸しだしつつ、僕たち3人の週末は過ぎていきます。
僕はノンケです。普通に女性が好きです。あらぬ疑いは勘弁してください。

62 :
「えっとハルにゃん、なにかな、この箱は」
週末の休日集団デートを楽しんだその日の夜、2日目のお泊り会、「趣向を変えて夜を楽しむ」と宣言
したハルヒが取り出したのは2つの箱。それを見て首をかしげるこなた。
「まあ、これってクジの箱みたいだから、引いて何かをするってのは分かるけど……」
「くじ引きでえっち?」
「つかさ、なかなかいい線いってるわね。それでは説明します」
えへん、と胸を張ったハルヒが、今回の趣向について説明を始めた。
「こっちの箱にはあんたらの名前を書いた紙を入れます。1人……そうね、とりあえず3枚ばかり入れて。
で、そっちの箱には、なんかエッチな内容を書いてね。ノーマルなのからマニアックなのまでバリエを
つけるのがコツよ」
ほうほう、それで分かったぞハルヒ。そして2つの箱から1つずつ引いて、当たったヤツに当たった行為を
すりゃいいんだな。
「具体的にはキョンが、当たった人に、当たった行為をするかしてもらうのよ!」
「ほうほう。これは面白い。それじゃお嫁にいけなくなるような恥ずかしいヤツを1つ……」
「こなちゃーん。痛いのとばっちいのはメッ! だよ」
「ええっと、えっちいのじゃなきゃダメ? 精神的にかなりクル奴とかは?」
「夢見るかがみんは、またな〜んかロマンティックなことでも考えてるのかナ、ぐふふ」
「うふふ、楽しいですね。こんなのはどうでしょう?」
「ゆ……ゆきちゃん、何か怖いよー」
俺も男の願望を書くとするか。これはお約束だな。
さて、それじゃ誰が最初に引く? キョン君?
「あたしが引くわ!」
……なんでも1番でないと済まない女、ハルヒが真っ先に手を挙げる。
でもねハルヒ、あんたが引いても、あんたが当たるとは限らないけどね。
「よっ……と。ふふ、喜びなさいかがみ、しょっぱなはアンタよ」
……いきなり来たか。ま、一番バッターのノリで、この手のお遊びの面白さは決まるからね。どんと来い!
「それじゃ次は私が引いて進ぜようかがみ。来い、アブノーマルプレイ!」
そういって2つ目の箱に手を突っ込むこなた。しばらく中でガサゴソ音がしてたが、意を決したように手を
引き抜く。そして……
「うわー、これはまた、最初から結構強烈なのが来たネ……『おしっこしてるところを見せる』だってサ」
げっ、いきなりルッキングプレイかよ! 誰よこんなこと書いたの。人としてどうかと思うわよ。
「すまん、書いたの多分俺だ……」
キョ……キョン君の変態、スケベーっ! ハルヒやつかさの見たことあるんでしょ。なんで私まで……
「拒否権はないわよ、かがみ、覚悟なさい!」
くっ……わわ分かったわよキョン君。一緒におトイレ行きましょ。
……うう、恥ずかしい。キョン君のバカ。
「かがみーん、ちゃんと指で広げて、中までキョンに見せながらするんだヨ!」

63 :
目の前で用を足してるかがみに、変態だのバカだの罵られて、不覚にもそのまま襲いたくなったのをこらえ
つつ、真っ赤なかがみを抱きかかえながら席へと戻る。
「おかえり。激しくお楽しみでしたナ。キョンを罵倒する声がここまで丸聞こえでしたヨ」
「夜半に大きな声、出して大丈夫でしょうか」
……ああ、このマンション、防音は万全なので大丈夫だ。隣の部屋の声はおろか、生活音もほとんど
聞こえないくらいだからな。
「次は私が引いてやる。こなた、覚悟なさい!」
照れ隠しか、こなたを睨みながら箱に手を伸ばすかがみ。さて、果たして誰が当たるのやら。
「来たーっ。こなた、あんた来たわよ」
「すごーい。本当にこなちゃん当てちゃった」
……いやいや、こりゃ面白くなってきたな。さっそく逆襲ってところか。
「じゃ、みゆき。2つ目の箱から1枚引いて……ふふ、何が当たるかしらね」
「それじゃ、引かせていただきますね。うふふ、泉さん、楽しみですね」
なにやら楽しげなハルヒに促され、箱に手を伸ばし、すっと紙を1枚抜くみゆき。
そしてそれを凝視したみゆきの表情が、なにやら笑いを必でこらえるものへと変化していく。
一体何を引いたんだ?
「ええとですね……その……お気の毒なのですが……」
みゆきがこんなになるのは珍しい。いったい何事か、と期待する面々の耳に聞こえた言葉とは……
「その……キョン君にパイズリをする、と、書いてあります」
「ぷっ……あははははは!」
隣にいたお姉ちゃんが笑い出したのをきっかけに、私も思わず噴き出しちゃった。ごめんねこなちゃん。
「いや、こなた。アンタ見事にやり返されたわね!」
ハルちゃんなんか、おなか抱えて転げまわっている。そこまで笑ったらちょっと可哀想だよー
「あんたの胸でどうやってキョン君の<禁則事項>を挟んで扱くのよ。洗濯板で無理矢理擦ったりしたら、
キョン君の擦り切れて、火でも付くんじゃない! あははは」
「かがみさん……それはちょっと……うふふ」
「うー、みんなして私をバカにしたなー。いいともさ、やってやりましょうさ!
キョンの<禁則事項>からたっぷり、火じゃなくて白いモノを噴火させてやるー。
さー、キョン、分かったらはやく股間の鉄棒を出せー」
半ば自棄になったこなたが、上に着ていたものを脱ぎ捨てると、キョンのズボンを脱がそうとする。
「いやいや、自分で脱ぐぞこなた。お手柔らかに頼む」
で、結局、キョン君のを約20分、無理矢理胸で擦ったものの何の反応も無くこなたがションボリしたり、
「ハルヒに熱い愛の言葉を囁く」なんてのを引いて、耳元でキョン君にそれをやられたハルヒが興奮して
鼻血を出したり、「みゆきがキョン君に言葉責めをしながら足コキをする」なんてレアな光景が見られ
たり(どSなみゆきに、キョン君はメチャクチャ興奮して、あっという間に出してた)、「つかさが
キョン君のオナニーのお手伝いをする」なんてのが出て、手コキでなかなかイカないキョン君に
つかさがキレて、私たちの目の前でいきなり服を脱いで、キョン君に顔面騎乗+手コキで対抗したりと
(みゆきの足責めで出したばかりで、結局出なかった)など、私たち6人は、夜遅くまでおバカな痴態を
繰り広げたのだった。

64 :
本当は今週末、キョンと会いたいと思っていたのだが、先約があるからと断わられてしまった。
先約ってのは涼宮さんたちだろう。土日両方ダメってことは、全員でキョンの部屋にお泊りかな。
結局キョンが、あの5人の中から1人を選ぶことをせずに結論を引き延ばした挙句、5人とも実質彼女状態、
と聞いたときには、正直、はらわたが煮えくり返りそうになったよ。
君はそんなに女性にだらしない男だったのかい、キョン。
それに……君から唯一、切り捨てられた僕の立場がないじゃないか。女としてのプライドはボロボロだよ。
正直、これを機に君と絶交しようと思った。けど、早まって君との縁を切ったりしなくて良かったよ。
そんな関係がいつまでも続くはずはない。君はいつか、涼宮さんたちに捨てられるだろう。
夢は甘ければ甘いほど、目覚めたときの虚しさも、また大きくなるものさ。
最後まで君の側に居続けられる女は、"友人"の僕だけなのさ、キョン。
それに、友人関係とはいえ、僕は女で、キミは男だ。
友人から恋人にシフトしたって、何ら不都合はないし、世の中にはそんな例は珍しくもないのだよ。
君が誰を好きになろうが、誰とセックスをしようが、僕はもうそんなことは気にしない。
最後に僕の横にキョン、君が立っていてくれれば、それでいい。
僕は短絡的に、自分の願望や欲望を見たそうなどと、愚かな事は考えない。
物事は長期的な視点から見なければ、ね。それが人間関係ならば、なおさらだよ。
待っててね、キョン。
終末の日は、近いのか?

65 :
タイトルを「5人の恋人」か「みんなのキョン」にするか迷った末、「だめなひとたち」にしました。
……キョン君がどっかの某誠君に重なる気がしますな( ゚∀゚)
キョンもハルヒも、こなたもかがみもみゆきもつかさも、ダメな人なのは論を待ちませんが(笑)、
そんなキョンに甘い古泉君も、憤りで任務を忘れる朝比奈さんも、怒るだけ怒って見放した鶴屋さんも、
いまいち事の重大性を理解できていない長門さんも、諦めの悪い佐々木さんも、みんな程度の差こそあれ、
「だめなひとたち」です。グダグダです( ゚∀゚)
この先、キョンたち7人はどうなるのでしょうか?
・煮え切らないキョンに愛想を尽かせたハルヒたちに捨てられ一人身に → キョンざまあ( ゚∀゚)
・誰1人キョンの下を離れずハーレム状態( ゚д゚)
・いつまでたっても自分のターンが来ない佐々木がキレて(ry → か〜な〜し〜みの〜 むこう〜へ〜と♪
・遅ればせながら誰か1人を選ぶキョン → 場合によっては血の雨が(((( ;゚Д゚)))
・あっさり他の女に乗り換え、5人+佐々木から(ry → Nice Boat
まあキョン君には、首から上だけ遠洋航海に出るような事態を招かないようお祈り申し上げます。
と、これにて「男女7人秋冬物語」完結となります。
途中、中断した時期もありましたが、読んでくれた皆さん、ありがとうございましたm(_ _)m
これだけの大長編を書いたのは初めてでしたが、いい経験になりました。
少し加筆修正して、いずれwikiの方にも上げたいと思います。
それでは、またいつか( ゚∀゚)ノシ

66 :
乙〜なんか新しい構想ができたらまた書いておくれ!

67 :

白ルートの佐々木さん……
多分ハルヒが自分本位なことしなけりゃ東大受かるくらいには精神保てたんじゃね?
あれのおかげでこのハルヒが苦手になってたのでみゆきさんエンドでホントに良かったです

68 :
おつです。新作思いついたらまた投下してください。

69 :
おつおつ、良かったよ

70 :
俺も書くか……
誰かお題くれ

71 :
こなぁぁぁぁぁきょんんんん ねえ
みたいな感じで

72 :
きのこの山、たけのこの里

73 :
よっこ
http://www.bannch.com/bs/bbs/254770

74 :
テスト

75 :
こなぁぁぁぁっぁぁぁぁ×ゆきぃぃぃぃぃぃぃぃがみたい

76 :
一日以内にレスがなかったら岩崎みなみは俺の嫁

77 :
そろそろ希望を打ち砕いておくか

78 :
一日レスがなかったら私はキョンキョンの嫁

79 :
私が嫁のようですね

80 :
だ、誰だ! 私のキョンキョンと添い遂げる夢を打ち砕いたのは!

81 :
その幻想をぶち壊す人だろ

82 :
キョン「…これぞ慕情し(フラグブレイカー)」

83 :
こなた「キョンキョンは自分が慕情し(フラグブレイカー)だという自覚はあるのかな……。まあそれはおいといて今度こそ……っと。」
一日レスが無ければ私はキョンキョンの嫁

84 :
a

85 :
喜緑「…はぁ、出番欲しい」
八坂こう「あれ、映画はどうだったの?」
喜緑「『消失』なのに?」
こう「いや、でも佐々木さんとか阪中さんとか」
喜緑「…ありませんよ。ところでスピンアウト作品をやるそうだけど…」
こう「…聞くな」
喜緑「…腹いせに今度『プリキュア』の映画見に行きませんか?」
こう「いいね。いこういこう」
生徒会長「お前ら、仕事しろ。ついでに愚痴るな」

86 :
こなた「ふんふーん♪」キョン「えらいご機嫌だな」
こなた「だって誰もいないんだよ?そりゃあ機嫌も良くなるよ」
キョン「何でだ?こなたは大勢といるときの方が楽しそうに見えるが……」
こなた「だって……」ダキッ
キョン「うおっ」
こなた「誰にも邪魔されずにこうやってキョンキョンとイチャイチャできるもん」
キョン「……やれやれだ」

87 :
かがみ「まーたあいつはキョンくんにベッタリして……バカップルもほどほどにしてほしいわ。」
谷口「だよな〜。人前でじゃれつくなっての。」
つかさ「谷口くんに後ろから抱きついてるお姉ちゃんが言えることじゃないと思うよ……。」

88 :
みさお「出番どころか、話題にすらでないってヴァよぅ。」
こなた「犠牲になったのだ……」
キョン「みさおェ……」
こなた「……それ、どうやって発音するのサ?」
キョン「みさおェ……」
みさお「………いや、そんな話題の出方はイヤだよぅー……。」

89 :
生徒会長「なんだ?この書類」
八坂こう「例のSOS団から取ってきた書類ですよ」
生徒会長「それはわかる。だが、なんだこの内容は」
喜緑「『本日3月28日から5月末までにSSが2作品以上投下されなければ、キョン(あだ名)を生徒会に差し上げます by泉こなた&涼宮ハルヒ』…正直いりませんが」
八坂「最初は『ハレハレのダンスで侍ファーストラップ踊れ』にしたかったんだけどね」
生徒会長「よりによって侍ファーストラップか。そりゃこんな条件でものむだろうな」
喜緑「今頃必で書いてるんでしょうかね」
八坂「どうなんだろ」

90 :
古「いやー、実は最近、面白い喫茶店を見つけましてねえ」
キ「喫茶店?」
古「ええ、ウェイトレスが、みなとても絢爛な格好をしているんです」
古「接客にも一工夫加えているらしく、例えば、あえて客に敬語を使わないウェイトレスがいましたが、それがかえって好印象なのか、客のほうもみなにこやかにそのやりとりを楽しんでいたようです」
キ「へえ、そりゃ確かに面白そうだな」
古「時間もいいですし、少し寄り道に、お茶をして帰りませんか?」
キ「近い近い近い!」
キ「…男なんかに誘われて嬉々として乗るヤツは変態だ!」
古「まあまあそう言わずに、おごりますので是非一緒に行きましょう」
キ「…まあ、美人ウェイトレスさんを見れば目の保養にもなるか」


91 :
古「ああ、着きました、ここです」
キ「ここって……」
古「ええ、いわゆるコスプレ喫茶というやつですね」
キ「わかってて連れてきたのか!」
古「まあまあ、せっかくここまで来たんですから、せめて何か飲んで行きませんか?」
キ「くっ、今回だけだからな」
ガチャ
カランカラン
こな「何グズグスしてんの!?さっさと入んなさ…い…」
キ「……」
古「ニヤニヤ」
こ「………」
キ「…………」

92 :
キ「………何してるんだ?」
こ「えーっと……バイト?っスかねー?」
キ「知らん!なぜ疑問系だ!いやいやいやいや、そんなことより!」
キ「なんで、お前が、あいつなんかの、真似をしている!?」
こ「真似なんかじゃないわ!コスプレって言って頂戴!」
キ「その口調やめろ!」
こ「えー、いいじゃん仕事なんだし」
古「そうですよ、元カノの声真似されたくらいで怒るなど、男として器が小さいと思われてしまいますよ?」
キ「お前は黙ってろ!つーかお前知ってたのか?知ってて連れて来たのか!?」
古「せめて、黙ってるのかしゃべるのかどっちかにしていただきたいのですが…」
キ「ぐぅ…」
こ「まーまー、私が二人分おごったげるからここは頭冷やして、お茶でもしていってくださいよ旦那ー」
キ「…はあ…わかったよ」
こ「うぃっす!」
こ「じゃ、席に案内するからさっさと着いて来なさい!グズグスしないで!」
キ「だからその口調はやめろ!」

93 :
キ「中は結構綺麗だな」
こ「いいからさっさとメニューを決めなさいよ!あんたたちなんかに構ってるほど私も暇じゃないの!」
キ「だったらなぜ客を入れる」
古「無粋なツッコミですね。あ、僕はアイスコーヒーを」
キ「じゃあ俺はメロンソ」
こ「あんたみたいなのに飲ませるジュースなんて、店内にはおいてございません!」
キ「…じゃあ俺もアイスコ」
こ「好きなモノがないからって他人に合わせるの?主体性のない男って最低よね!」
キ「お前、それはもはやキャラ作りじゃなくてただの暴言だろ…」
こ「で、でもそういうとこも嫌いじゃないけど」
キ「取って付けたようにデレるな。そして古泉、その鼻の下が伸びた気持ち悪い顔はやめろ」
古「…失礼しました。それにしてもこなたさん、今日はずいぶんとサービスがいいですね?」
キ「サービスなのか?」
こ「ふん、いつも来てるから営業スマイルを増やしてるだけよ。か、勘違いしないでよね!」
キ「ここに来てから一度もスマイルなんてみていない…ていうか古泉お前常連だったのkだからその顔はやめろ!」

94 :
こ「ヘイおまちー!」
キ「キャラ変わってるぞ」
こ「ネチネチ小さいことを言う男はこれだから」
キ「お願いだからキャラを変えてくれ」
古「ところで、今日はパティさんはいらっしゃらないんですか?」
キ「は?こんなトコに菓子職人なんているのか?酔狂なやつがいるもんだな」
古「………」
こ「………」
キ「ん?なんだその冷蔵庫の裏に詰まったゴキブリの体を見るような目は?」
こ「はあ……パティは今日はお休みよ。残念だったわね。何?私がご不満ってことかしら?」
古「いえいえ、そんなことは…」
キ「大有りだ。ったく、あんなヤツの格好なんてしても、似合ってないぞー。あいつのほうがまだ胸あったしな」
こ「……っ」

95 :
こ「…………」
キ「おわ!冷たっ!なにすんだお前。服が濡れちまったじゃねえか!」
こ「あんたみたいなヤツにはその格好がお似合いよ!ふんっ」
キ「ぐっ、それも接客態度のうちなのか!?」
古「今のはキョン君が悪かったと思いますがね」
キ「なんでだよ!ていうかキョン君いうな気持ち悪い!」
こ「わ、悪かったわよ、ちょっとやりすぎたわ。待ってなさい」
キ「おわっ!今度はなにを…おいバカ!そこはズボン…いいって、そんなとこ自分で拭く!」
古「おやおや、そう来ましたか」
ガチャ
カランカラン
別店員「お帰りなさいませお嬢様!」
つか「え…あ…えと」
かが「何やってんのよ。いちいち狼狽えない!」
つ「だ、だってなんだか恥ずかしくって…」
か「何度も来てるじゃない。いまさらここの店員の言動に振り回されてるようじゃ……」
こ「……」
キ「………」
か「…………」
つ「……………」

96 :
―――
キーンコーンカーンコーン
つ「今日もこなちゃんのバイト先に行くの?」
か「ええ、そのつもりだけど」
みゆ「あ、私は今日は用事があるので…」
か「用事って?」
み「はい、その……歯医者さんに……」
つ「えぇ?また?」
み「はい……」
か「また虫歯?」
み「いえ、そうではないんですが、定期検診で…」
つ「そっかー、また虫歯になったら嫌だもんねー。大変だなあ」
み「はい……」
か「じゃあせめて、いつものクレープ屋さんに寄ってから分かれましょう」
つ「あ、うん、さんせー」
み「はい。私も賛成です」

97 :
か「あれ?今日はいつもと店員さんが違うみたいね…」
つ「ええ?そうなの?お姉ちゃんよく見えるねー」
み「でも、いつもよりお客さんが多いみたいですね。ずいぶん並んでます」
か「行ってみましょう」

ハル「あれ?あんたたち…」
か「ハルヒじゃない!?」
つ「本当だあ」
み「何をしてらっしゃるんですか?」
ハ「何って…バイト?かしら?」
か「なんで疑問系なのよ!?」
ハ「うっさいわねー!別にあたしが何をしてようが勝手でしょ!」
か「そ、そりゃそうだけど…」
ハ「それで?何にするの?早く決めなさいよ後がつかえてるんだから」
か「まだ行ってないのにこなたのバイト先にいる錯覚が…」
ハ「食べないんならお客の邪魔だからどっかに行ってくれない?」
つ「あ、じゃあ私はバナナチョコで」
み「アーモンドクリームをお願いします」
か「じゃ、じゃあツナサラダ」
ハ「何それ?もしかしてアンタ、ダイエット?」
か「ち、違うわよ!」
つ「そうだよー。だって来たいって言ったのお姉ちゃんだもん」
か「うっ……」
ハ「ふふぅん……ま、いいわ。ぱぱっと作っちゃうからちょっと待ってなさい」

98 :
ハ「ヘイおまちー!」
か「キャラ変わってるわよ」
ハ「黙ってうけとりなさいよ。そして邪魔だからさっさと失せなさい」
か「むしろ性格を変えろ」
ハ「あ、そうそう。これ持ってって」
か「なにこれ?クレープ?」
ハ「サービスよサービス!」
か「勝手なことしていいの?」
ハ「なあに?私の厚意が受けられないっていうの?」
か「はいはい。わかったわよ」
ハ「キョンとこなたによろしくねー!」
つ「お姉ちゃんそれどうするの?」
か「食べきれないし、こなたにでも持っていってあげましょ」
み「あら、名案ですね!でも、お仕事中にお邪魔じゃないでしょうか?」
か「大丈夫でしょ。あいつのことだし!」
つ「お姉ちゃん優しいねー」
か「そ、そんなんじゃないわよ!」
み「それではまた」
か「ええ」
つ「ばいばーい」
み「………あっ!」
み「クレープ食べちゃった。今から歯医者さんなのに……」

99 :
か「今日も古泉君来てるのかしら?」
つ「どうかなー」
つ「たしか今日はパティちゃんがいないはずだからこないんじゃないかな」
か「そ、そうよね」
つ「?」
か「と、とにかく、早くこなたにこれ持っていってあげましょう」
つ「うん、あ、お姉ちゃん荷物持ってるから私が開けてあげるねー」

ガチャ
カランカラン
つ「……」
か「………」
キ「…………」
こ「……………」


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